杏「きらりがハピハピって言わなくなったから」 (130)



『働きたくない』


それは労働という責務を強いられたこの世の中で、確かな自由を与える魔法の言葉。
そうだー! 働きたい人が働けばいいんだー!

そんな杏の足掻きは、この世界には通用することもなく。杏は働かなければならなかった。
アイドルになって、夢の印税生活が待っていたはずなのに……。ど、どうしてこうなった……。

そうだ! どうしてっ! どうして、働かなければいけないんだー!
働くことが素晴らしいなんて、そんなことは思わないぞー!


め、メーデー! ここに非労働者の墓を建ててやるー!


……なーんて。
男女共同参画社会が生んだ弊害を一身に受けた杏は、働くことを強いられたわけなのだ。いも。



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あ、そうだ。

杏のことを知らない人もいるかもしれないから、ちょっとだけ昔話をしよっか。

むかーしむかし。
双葉家に産まれた双葉杏は、「不労所得万歳!」という言葉と共にこの世に生を受けました。
その時、母は「お父さん、保有株の株価が上がってるわ!」と喜び、父は「これで我が家も貯蓄に困らなくて済むな!」と返したそうな。
日経新聞は大慌てで杏のことを取り上げて、「日本に舞い降りたアダム・スミスだ!」と騒ぎ立てた。
ついでに、杏の銀行口座には大量のお金が舞い降りた。
めでたしめでたし。



――まあ、そんなわけもなく。
双葉杏は、どこにでもいる平凡な女の子だったそうな。




……ん? 本当にそうだったっけ?

む、昔話かあ。
うーん、思い出してみてもあんまり楽しいことはなかった気がするなあ……。

そもそもさ。杏は昔からめんどくさがりを理由に色んなことを言われることが多かったんだよね。
思い出せばたくさんあるけど、クラスの友達にもよく言われたセリフがこれ。


「双葉さんって、どうしてそんなにやる気ないの?」


あー、ごめんごめん。やるやる、やりますよ~。
っていうのが、いつものパターンだったっけ。



そんな小言を言われつつ、窓から外を眺めたらさ。
学校の外にはいつも部活動で走り込みしてる陸上部だったり、必死になって同じフレーズを練習してる吹奏楽部の子がいたわけ。

他にも、学校行事に精を出して夜まで残ったり、校舎の裏で一生懸命先輩に告白したりしてる子がいたり。


学校ってそういう子で溢れてた。


そんな子たちを見る度に、杏には無縁の世界だなあって、ひしひしと感じながら食べる飴玉はいつもよりほろ苦かったんだよね……。

ただのコーヒー牛乳味の飴玉だっただけなんだけどさ。
うーん、雪印……。



「やればできるのに、本当に双葉さんはもったいないね」


……っていうのは担任の先生の言葉。

やればできる子って、それ生きているうちに何回言われたか分かんないよねー。

言われるたびに、はい次は頑張りますー。
って返したら、まだ言い足りないぞって顔しててさ。
その顔見る度に、家に帰ったら何のソフトで遊ぼっかなあって考えてた。



まあ、詰まる所。


杏は「頑張る」ってことを頑張らなかったわけ。




そんな杏にも、ようやく頑張ると言う気持ちが芽生えたのは17歳のころ。

な、な、なんと。
杏はアイドル事務所からスカウトされたんだ。

杏が食いついたのは、アイドルっていう仕事じゃなくて、『印税』と言う言葉だったんだけど。

印税、それは不労所得を得るための栄光の架橋……。
瞳の奥でキラキラと輝く幾千ものお金。

二つ返事で返したものの、すぐには決まるわけもなく。
名刺を差し出してきたプロデューサーという男の話を詳しく聞くために、向かった先がアイドルのオーディションだった。


い、印税について詳しく聞かせてもらおうか……。
という意気込みでいたのは、あの中では恐らく杏だけだったはず。



……オーディション。そんなこともあったなあ。



たしか、あのとき初めて――きらりに会ったんだっけ。



きらり、と言えば『諸星きらり』という女の子のことなんだけど。
きらりは、まず第一印象からものすごかった。

喋り方もズレてるし、は、ハピハピ? なんじゃそりゃ……ってなったもんね。
それに、そうやって振る舞ってるのに身長が大きいんだよ。


大きいって、言っても普通サイズじゃないよ? 
で、デカくない……? って聞き返したくなるくらい大きかったんだからね?




まあ、そんなインパクトも背丈もデカかったきらりだったけど、話してみたら実は普通の女の子でさ。


大きな体に似合わず、結構緊張したりするし、小心者みたいなところもあったんだよね。


杏はこんなんだから、小さい体を不思議そうな目で見られたこともあったけど、きらりはきらりで大きい体を気にしてて。



――そんな二人だったから、どこか馬が合ったのかもね。なーんて。





で、ここからが大事な話。

それはいつも通り、杏が事務所でダラダラしてたときのこと。
ポチポチって新作のゲームで遊んでたら、事務所の扉が開いてさ。すぐに扉の向こうからきらりが現れたんだ。


「お~、きらり。やっほー」


ひらひらときらりに向かって杏が手を振ったとき、ちょっとした違和感を感じたんだ。
……あれー? きらりが「にょわー! 杏ちゃーん!」って言ってこないなあって。


「……きらり?」


やっていたゲームを置いて、きらりの方を眺めると、きらりは俯き加減で立ち尽くしてて。
これは、何かヤバい予感がする……って杏の第六感が感じ取ったんだ。



「き、きらり……。どうしかしたの?」


三度目の呼びかけにも、きらりは反応しなかった。
ただ何も言わずに、その場に立っていた。



……。



「杏ちゃん……」


いつもより、低いトーンでようやくきらりが声を出した時、杏はきらりの前まで足を運んでいた。
気分悪いのかなとか、もしかして女の子の日? とかいろいろ考えてた矢先。


「うっきゃー!」

「わっ!」


落ち込んでいたと思ったきらりは、突然ふるふると体を揺らし始めた。

な、何事だ? と若干反応に困っていた杏だったけど、しばらくするとまたすぐにきらりは俯いていた。
情緒不安定だな……やっぱりあの日なのかな? と憶測を結論へと近づけていた杏であった。

……いやいや、そうじゃなくて。



「どうしたんだよ、きらり。なんか今日変だぞー」


その言葉に反応して、またピクリときらりが肩を動かす。
それから、ズリズリと大きな体をソファのところまでその足で持って行くと、ドサリと腰を下ろした。


あ、杏ちゃ~ん……。とモジモジと杏の名前を呼ぶきらり。
な、なんだよ……。とうろたえる杏。


そして、一言。




「……す、好きな人出来ちゃった」




へ? って杏の口からそんな声が出た。

書きだめ、ここまでです。
時間見つけて更新していきます。

こんなん期待するしかないやろ

きらりには幸せになってもらいたいなあ

おお 期待

おっつおっつ
期待

フレ鬱の人? ともかく期待

はよはよ



およそ三秒ほどの沈黙が流れた。
杏は、ぽかーんと口を開いたまま、きらりの方を眺めていた。

きらりはと言うと、恥ずかしそうにソファに置いていたクッションに顔を埋め、杏の方を見ないようにしていた。


けらけらと杏が大声で笑ったのは、きらりの言葉の意味を理解した後だった。
ひーひーとお腹を抱えて杏が笑ったのが気に障ったのか、きらりは頬を膨らませていた。


「もう杏ちゃん……! あんまり、笑わないで欲しいにぃ……」


語尾が下がっていくきらりは、そのまま顔を俯かせた。
その顔はリンゴ飴みたいに真っ赤だった。

そんなきらりにゴメンゴメンと謝ると、杏はぽけーっときらりの顔を見つめていた。




へー、そっかあ。あのきらりがねえ。
なんだか感慨深いようで、未だあまり理解できずにいた杏であった。


……って違う違う。ぽけっとしてる場合じゃなくて。


「で、その好きな人って?」

ぽりぽりと頭を掻きながら飛び出してきたのは、そんな問いかけだった。

いやあ、好きっていうんだったらさ。
やっぱり気になるよねー。


普段はこんなこと首を突っ込む柄でもないんだけど、きらりが相手ってなるとそういうわけにもいかないでしょ?



ソファまで足を運ぶと、杏はじーっときらりを眺めた。

きらりはと言うと、もじもじと人差し指を合わせながら、ちらちらとこっちを見つめていた。



「なんだよー。言えよー」



肘でうりうりときらりを突っつくと、きらりは蚊の鳴くような声でぼそぼそと話し始めた。




……ふむふむ。
相手は、同じ学校の男の子かあ。
思ってたよりありがちだな……。

きっかけはなんかあったの?
んー。困ってたところを助けてくれたんだ。
へえ、それで気になっちゃったと。

それで? その子、どんな子なの?
ほー、同い年。あ、でもクラスは違うんだ。
髪型は? ふーん、普通。
身長は? はあ、普通。
頭いいの? え? 普通?


なんか、すごく普通な子だなあ……。


「で、でもでも! すっごくいい人なんだよ?」


きらりが言うなら、まあいい人なのかもしれないけどさ。
なーんか、イマイチ、ピンと来ないよね。

頭で、その男の子のイメージ図を思い浮かべてみる。
……。いや、めちゃくちゃ普通だ。そりゃそうか。



「ふーん。ま、いいんじゃない? きらりが良いんならさ」


ぶっきらぼうにそう言うと、きらりは黙ったまま頬を赤らめていた。
……でもさ。


「杏たち、仮にもアイドルじゃん? それって大丈夫なのかな」


そうだ。杏も、きらりも、アイドルっていう仕事をやってるわけで。
杏はいつ辞めちゃってもいいんだけど。まあ、印税貰うまでは辞めはしないけどさ。
でも、アイドルって仕事はファンの人たちと二人三脚でやっていかないとダメじゃん?


そのファンをないがしろにして、きらりは大丈夫なの?


……そんな杏の問いかけに、きらりはやっぱり押し黙ってしまった。
あちゃー、言いすぎちゃったかな。そう思いながら、視線に困った杏は辺りを見渡す。

二人だけの事務所は、やけに静かに思えた。




「……そ、そうだよにぃ。やっぱり、きらり、そんなの……」


きらりは揺れていた。
きっと、初めて……かどうかは知らないけど。
自分の中に芽生えた気持ちをどうすればいいか分かってないんだろう。


……何かいいアドバイスできればいいんだけどね。
まあ、杏に求めるのが間違ってるよ。そんなの。


だって、杏の頭の中にあるのはいつだって『楽をする!』ってことだけだから!
はっはっは~! 目指せ、高等遊民!

って、そんなこと言ってる場合じゃないか。




「……ま、よーく考えた方がいいと思うよ。何にしても」


杏がそう言うと、きらりは小さくうなずいていた。
……。なんだよー、湿っぽいなあ。
ほらほら、もう仕事だから行かないとプロデューサーに怒られちゃうよ。

って、なんで杏が仕事行きたがってるみたいになってるんだよー! おかしいだろー!
のそのそときらりを立ち上がらせると、腕を掴んで扉の方まで引っ張っていく。


いつもとは違うきらりに、戸惑いながら、杏もちょっとだけ思い浮かべていた。


……好き、か。


きっと、どこかへ置いてきたその気持ちを、杏は理解することが出来なかった。
なんだよ、そんなの。杏が知るわけないだろー?
なんて、自分自身に言い聞かせながら。

書きだめつきました…。
明日、また続きかきます。

あんきらわっほい!


待ってる



なんだかんだで今日の仕事が終わり。杏はぐでーっと疲れ果てていた。

いやあ、今日の仕事はいつにもましてハードだった。
営業モード入ると表情筋が攣りそうになるよねえ。

ワライダケとか食べたら、幾分マシになるのかな。なんて。
あれって、顔がマヒするんだっけ。えー、そんなの杏イヤだなあ。


「……」


で、今はとある子とスターバックスコーヒーで話でもと思って一緒に来てるんだけど。
さっきから、その子、何も話そうともせずにカランコロンと氷をかきまわしてるんだよね。

杏はと言うと、フラペチーノを食べながら行きかうお客さんをぼんやりと眺めてた。
はー、さっきの人、一人であんだけ食べるんだ。
ちょっと、カロリー気にした方がいいんじゃない? え? 杏はいつもポテチばっか食べて不健康じゃんって? 
まあ、杏のことはちょっと置いといて……。




「きらりー、なんか話そうよー」

ストローを口に咥えて、もがもがと杏がきらりに声をかける。
きらりは、目の前の甘そうなレモンクリームパイにフォークを差し込んでは抜き、差し込んでは抜き、を繰り返していた。

杏はそんなめった刺しになっていくパイに合掌する。南無南無。
来世は、ベイクドチーズケーキに生まれ変わってくれ。あれ結構固いからさ。
防御力のパラメーターに能力値振ってそうじゃん。


「……うーん」


それにしても、こりゃあ重症だ。杏はホームズばりの推理力できらりを観察する。
いや、別にシャーロキアンでもないんだけど。
あれかな、さっきの仕事中に上の空でいたから、プロデューサーに後で怒られたこととか。
もしかしたら、ダンスの振り付け間違えたこととか。あ、歌いだしを間違えたことかな?


――ん、まあ十中八九、さっき話していたことを悩んでるんだろうけど。




「杏ちゃーん……」

「ほんと……大丈夫?」


ぼそりと呟いたきらりに向けて心配そうな声をかける。


「きらりね、ずーっとさっきから考えてたんだけど……」


うんうん。


「やっぱり……、きらり、アイドルだから……」


ほうほう。それで?


「恋、とか……しちゃダメなのかなーって……」


うーん。まあ、そうなるよね。やっぱり。



プロデューサーにも迷惑かかっちゃう可能性もあるしさ。
杏たち、今はそんなに有名なアイドルでもないけど、いつかは有名になって。
それで、CDとかバンバン出して。その辺のポスターとかに一面飾るわけだもんね。
売れてから週間なんとか、みたいな雑誌に『諸星きらりは過去に付き合っていた男がいた!?』みたいなこと書かれるかもしれないし。

そういう噂立つリスク考えたら、今そういうことするのは止めといた方がいいかもね。

なんて。杏はそんなことを言おうとした、はずだった。



「きらりは、それで納得できるの?」



でも、そんな思いとは裏腹に、口から飛び出してきたのは全然違う言葉だった。
あれ、なんで杏こんなこと言ってるんだろう?



「え……?」

「きらりはさ。今、女子高生なわけじゃん?」

「う、うん。そうだにぃ」

「その辺にいる女子高生って、ほんと。いつも恋愛がどうとか、そんな話ばっかりしてるもんね」

「……」

「きらりだって、外見はアレだけど。中身は普通の女の子なんだからさ。そういうのに憧れちゃうの、まあなんとなくわかるよ」

「が、外見とか言っちゃダメー!」

「あはは。ま、アイドルって仕事を選んだ以上、そういうリスクを天秤にかけるのは必要なことだと、杏は思うけど」


でもさ。


「今しかできないことを、今やるっていうのも、大事なことだと思うよ」


そう告げると、杏は最後に残ったフラペチーノを口にかきこんだ。
コレ、結構美味しいな。



「じゃ、じゃあ。きらり、どうすればいい……?」

「それは、きらりが決めること。杏はどっちも大事って言っただけだよ」


そう。最後に決めるのは、きらり自身のこと。
杏には、それを決めることは出来ない。


「ほら、もう帰ろう?」


そう言って立ち上がると、いつの間にか無くなっていた皿の上のパイに目が行く。
……なんだ。ちょっとは元気になったじゃん。


ふふ、と笑うと杏ときらりは店を後にした。


一旦、休憩。
あとでまた続き書きに来ます。

>>32 訂正

週間なんとか→週刊なんとか

ですね。失礼しました。

期待してる

きらりが可愛い
杏もかわいい

後でとは 乙



帰り道。

薄暗くなった路地を並んで歩く、杏ときらり。
ガタンゴトンってフェンス越しに電車が通り過ぎて。夕暮れに空が真っ赤に染まっていた。

すぐそばを小学生達が、早く帰らないと怒られるー! って言いながら自転車を走らせていく。
おいおい、そんなに走るとコケるぞーって思いながら、何だかその子たちを見て笑いそうになった。



……はあ。

で、杏はと言うと。

何にも話さない、きらりの方を向くと、溜息を一つ吐いたのであった。




「明日も仕事イヤだなあ。あーあ、突然休みが入ったりしないかなあ」


誰に語り掛けるでもなく、それはただの独り言だった。
……。何か反応しろよー。おーい、きらりー。
ぐいぐいときらりの袖を引っ張る杏。

すると、きらりがじっと杏の顔を見つめてきて。
な、なんだ……。そんな、見つめろとは言ってないんだけど……。
って、思いながら、杏はそっぽを向く。


「あのね」


それは、どこか決意したような声だった。
ふいに杏はきらりの方に顔を向ける。
そしたら、きらりは、遠く向こうに飛んでいく飛行機を見つめていて。
そのふわふわの髪を揺らして、少しだけ笑っていて。
そんな横顔は、何に例えることも出来ないくらいに綺麗だった。


――デート、誘ってみようかなあって。


ぽつり、ときらりはそう呟いた。




ほんの一瞬だけ。
杏の中の時計が止まった。
カンカンカンって踏切の降りる音が遠く向こうから聞こえてきた。
それが耳鳴りみたいに、ずっと頭に残ってて。


……そっか。


だからかな。杏の口からは、そんな言葉しか出てこなかった。
他に何か話そうと思って、ぐるぐると頭で言葉を整理しようとして、やっぱり止めた。


肩の力を抜いてさ。
杏もきらりと同じように、夕焼けの空を眺めたんだ。

そしたら、まるで、世界が温かい何かで満たされていくように見えて。
ああ、女の子が恋をしたら、こんなふうになるんだなって。


杏は、うまれて初めてそう思った。




きらりはちゃんと自分の気持ちを決めたんだ。
それじゃあ、杏に出来ることは、ひとつしかないよね。

たったった、と足早にきらりの数メートル先まで走る。
くるっと回って、ちょっと驚いたようなきらりの顔に笑いかけた。


「よーし! そんなら、きらりの恋を杏が応援しよう!」


杏は手を大きく広げてみせる。
まるで自分があの飛行機になったみたいに。
どこまでも、きらりを乗せて、あの空の向こうまで飛んでいきたいなって杏は思ったんだ。


だって、杏はきらりの一番の友達だからさ。


……なーんて、照れるなコレ。




杏がそう言って見せたものだから、きらりは、もうめちゃくちゃに笑ってきて。
なんだよー、笑うことないだろー。なんて、文句を言ったらさ。
ううんそうじゃないにぃ。って首を振ったんだ。


でも、結局笑った理由は教えてくれなくて。


くそー、バカにしやがってー!
なんて思いながら、そっぽむいたらさ。
きらりが後ろから杏のことを追ってきて、ぎゅって手を握ってきたんだ。


もう、急に手握るなよー。って言ったけど、きらりは離してくれなくて。
やいややいや言ってたら、その辺を歩いていた人に笑われちゃって。
結局、満足そうにしてるきらりと二人で手を繋いで帰ったんだ。


尽きました…。
書きだめしてきます。

>>44 訂正と追加(すいません)


杏がそう言って見せたものだから、きらりは、もうめちゃくちゃに笑ってきて。
なんだよー、笑うことないだろー。なんて、文句を言ったらさ。
ううんそうじゃないにぃ。って首を振ったんだ。


でも、結局笑った理由は教えてくれなくて。


くそー、バカにしやがってー!
なんて思いながら、そっぽむいたらさ。
きらりが後ろから杏のことを追ってきて、ぎゅって手を握ってきたんだ。


もう、急に手握るなよー。って言ったけど、きらりは離してくれなくて。
やいややいや言ってたら、その辺を歩いていた人に笑われちゃって。
仕方ないから、満足そうにしてるきらりと二人で手を繋いで帰ったんだ。


どこか、照れくさかったけど――こういうのも悪くないなって思った。




――――


あのさ。
もしも、幸せってものに色があったとしたら。
きらりにはどんな風に見える?


杏はさ。
そんなもの、全然見えないけど。
きらりには、もしかしたら見えてるんじゃないかなって思うんだ。


何でって言われても全然わかんないけど。
ただ、なんとなく、そう思っただけ。


……いつか。
杏にも見えるようになるかなあ。
ねえ、きらり。


――――



「で、あれからどうなった?」


それは、杏が自宅でくつろいでいたときのこと。
ゴロゴロとオフを満喫していたときのこと。
ゲームの対戦相手に中々勝てずに、もやもやしていたときのこと。

いやー、この相手ものすっごく強くてさ。
いくら杏がゲーム人間だって言っても、勝てない人くらいこの世の中に溢れているんだなあって実感したもんね。

なんだろうなあ、なんか必勝法とか編み出したい気分になるよね。
あ、でも必ず勝てるとか、それはそれでゲームとして面白くないか。
うーん、なんというジレンマ……。ゲームってよく出来てるなあ。


……え? そんなのいいから話進めろって?
もー、仕方ないなあ。



そうそう。
まあ、いつもどおりオフをくつろいでたんだけど。

ゲームにも飽きちゃって、暇だなあって思って寝ようとしてたらさ。
ちょうど誰かから着信が来て、んー、誰だ? オフの杏に電話をかけてくるのは。
とか思いながら、枕もとに置いていたスマホを鷲掴みすると、その画面には、きらりの文字が。
ふむふむ。何かあったのかな。なんて、思いながらとりあえず出たんだ。


もしもしー、みたいなテンプレから始まって。

まあ、最近あった他愛もない話をうんうんって聞いていたんだけど、どうにもその話が全部ふわふわしてるように聞こえてさ。

あ、これ何か話したいことあるやつだ。って感づいた杏は、さっき言ったことを尋ねたんだよね。




そしたら、わたわたって電話越しにきらりの慌てる声が流れてきたもんだから、ほれほれ早く言っちゃいなよって、すかさず追撃。
そのまま辛抱強く待ってたら、またぼそぼそってきらりが呟いたんだ。


「……で、デートに誘っちゃったにぃ」


がばって飛び起きたのは、まあ当然のことだった。
ついでにその勢いのまま、小指をベッドの角にぶつけちゃって。
うぎゃあ~! ってその痛みに悶え苦しむ杏を心配する声が電話口から聞こえてきた。

だ、大丈夫……。こ、こっちの話だから。
眉を顰めながらも、なんとか息を整える。


おーけーおーけー。大丈夫、痛みは引いた、はず……。




「こ、行動力あるなあ……」

なんとか絞り出せたのはそんな言葉だった。
ぜえぜえ言う杏をよそに、きらりはにぃにぃ悶えてて。
いや、悶え声か、それ。って思わずツッコミたくなった。


「それで。これは、デートに誘ったっていう報告?」


にやにやしながらそんなことを杏は口走る。
ち、違うよぉ……、なんて弱弱しい声が返ってくると、思わずふふって笑ってしまう。


「じゃあ、なんだよー」


そう言ってきらりを急かすと、寝そべった体をゴロゴロと揺り動かした。


「杏ちゃんに……デートの計画、一緒に考えて欲しいなぁって……」


ガツン、とまたもや杏はベッドの角にぶつける。
ぬぅお~! またかよ~! って杏はゴロゴロと痛みに悶え苦しむ。
きらりは、そんな杏の声を聞いて不思議そうにしていた。



で、デートの計画だって……?

ちょっとした都市伝説にも聞こえるその言葉に、思わず困惑してしまう。
おいおい、この杏にそんな計画できると思ってるのか。
そりゃあ、あの日手伝うとは言ったけども。
だからって杏に出来ることっていったら、せいぜいその子の好きなゲーム貸すくらいしか思いつかなかったんだけど?


そもそも。デートにさ、計画なんて面倒くさくない?

ほら、あれだよ。

その子も男の子なんだし、適当にアクション映画とか見に行って、「わあ、さっきのどこどこのシーンかっこよかったね」なんて終わってから映画の感想漏らしつつ、「ラブシーンは……ちょっと照れくさかったけど」とか恥ずかしがっといて距離感縮めたら、高校生にしては背伸びした高い喫茶店に連れて行こうとするのを止めて、「オシャレなところもいいけど、たまにはラーメンでも食べてみたいなあ」なんて言って、前もって調べてた美味しいラーメン屋さんにでも足を運んで、「あちちっ、あ、ごめん、私けっこう猫舌なんだよね」とかぼやいて、実は気遣って選んだんだよみたいなアクション起こしといてから、別れ際に「こういうデートも楽しいね。また行こうね?」とか言われたら、もうパーフェクトコミュニケーションでしょ。


……とか言えたらなあ。なんて、杏は思ってしまうわけなのだ。
あー、飴食べたい。

>>52 訂正

あー、飴食べたい→あー、飴舐めたい



とりあえず、ここまでで。
また書きだめしてきます。


杏才能あるやんけ!


読んでて楽しい

>>34 訂正1(すいません)

そう。最後に決めるのは、きらり自身のこと。 → そう。最後に決めるのは、きらり自身だもん。
杏には、それを決めることは出来ない。  → 杏に、それを決めることは出来ないよね。


>>52 訂正2

別れ際に「こういうデートも楽しいね。また行こうね?」とか言われたら →別れ際に「こういうデートも楽しいね。また行こうね?」とか言ったら



「デートの計画って、どういうこと?」


何はともあれ、きらりの話を聞かないことには進まないよなあ。
なんて思いながら、きらりに問いかける。

そしたら、きらりは、もちゃもちゃと色んなことを言ってきたから、一旦落ち着いてくれ……って思わずたしなめた。
うん。言いたいことは、分かった。


――つまり。杏は、きらりの考えたデートプランに付き合えばいい、ってことなんだろう。


まあ、別にいいけどさあ。
それ、いつやるの?


へ? 


今日?


ま、マジかよ……。



がくっとうなだれると、完全に休日モードだった体をのっそりと起こす。
くそう、杏の平穏な休日が丸つぶれだ~!


下手なこと言うんじゃなかった、と杏はこのとき思った。
今後の教訓にしよう。うん。




待ち合わせは、とある都心の駅前だった。

ガヤガヤと人が溢れかえってる街中に、かなり適当な恰好で外に飛び出した杏。

詳しく説明すれば、その辺の量販店で買ったサイズの合ってない2枚組1000円のシャツと、さらに量販店で買った1000円のズボン。

は~い、今日の、双葉杏ちゃんのオシャレpointは、なんといってもシャツにプリントされた『働かざる者も食べさせろ』だよ~。
ラッキーアイテムは3DSの入ったポシェット! 新作ゲームは乙女のたしなみ!


……いや、テンション無理やり上げてみたけどさ、これは無理。


はあ、と大きく溜息をついた。




「杏ちゃ~ん!」


なんてことを考えてたら、どこからともなく、いつもの声が。
声の方に振り返ると、そこにはきらりの姿。


「ん、やっほー」


きらりはいつものお手製のふわふわなスカートに、水玉のカラフルなシャツで。
それから、縞々のニーソに身を包んでいた。

……今日も今日とて、きらりはきらりらしいな。

なんて、思わずしみじみとそれを眺めてしまう。


「それで、どこ行くの?」


ぱたぱたとシャツの襟を動かしながらきらりに尋ねかける。
できたら、クーラーとかガンガンにかかった涼しい部屋で、まったりジュースでも飲みながら、だらだら漫画とか読みたいなあ。

なんて杏の言うことをきらりが聞くはずもなく。

きらりはすぐに目的地まで案内するために、杏を引き連れて歩き出した。
それにぽてぽてと杏はついていく。


あー、やれやれ。今日はどんな一日になるんだろう。


若干気落ちしながらも、どこか弾む気持ちを杏は隠せないでいた。


……なんだよ、悪いかよ。なんて自分自身に悪態をつきながら。



で、まず最初に連れていかれた目的地は――。


「ぺ、ペットショップ……?」


わんわん、と杏に向かって吠えたてる犬たち。
お、おい、ちょっと待て。ケージから裾を噛むんじゃない。
っていうか、きゃんきゃんうるさいぞ! ちょっとは静かに――お、おい。や、やめろー! 足を舐めるなー! 杏の足は飴じゃないぞ~! 


てんやわんやと対応に困る杏をよそに、きらりはペットショップの店長と楽し気に会話していた。

き、きらり! た、助けてくれぇ! と、杏は思わずきらりに手を差し伸べる。




「杏ちゃん、すっごく懐かれてるにぃ!」

「ちっ、違う! そうじゃないだろ! は、はやく! こ、こいつらをどっかに――」



ぎゃあ~!



それは大層な断末魔だったと後の双葉杏は語る。
……って、死んだみたいに言うなよ。


結局、子犬と子猫とその他もろもろに遊び道具にされた杏は、ぼろぼろになった体を養うために一人、外のベンチで真っ白になったのであった……。
燃えたよ……。燃え尽きたよ……。ああ、真っ白にな……。



それからしばらくして。


「杏ちゃん、大丈夫ぅ?」


きらりが心配そうな顔をみせて、杏の元にやってきた。

その声色とは正反対に、本人はやけに気分が良いみたいでさ。
こんなグロッキーな杏を見て、どうしてなんだろう、って不思議そうに首を傾げていた。

きらり、ペットショップはさ。あれだよ。好みとかあるから、聞いといた方が……いいんじゃない?
なるべくやんわりと抗議してみる。

うーん、そっかぁ……残念だにぃ。ときらりは唸っていた。



……。
うん、じゃあ、もう今日はこれで。


「それじゃあ、次の所に行くよぉ!」


と、言いかけてすぐに腕を掴まれる。
くそう、まるで杏の行動ぜんぶ見透かされてるみたいじゃん!


「お、おー……」


とりあえず、適当に返事をしてみる。
でも、やっぱり……気乗りはしなかった。
世の男子、諸君。我々は選ばれし者であーる。がくっ。


デートは、まだ、始まったばかりだ――はあ、おうち帰りたい……。




あれから、杏ときらりは色んなお店を回った。

雑貨屋さんに始まり、ファンシーな雰囲気の喫茶店を巡ってさ、途中で見つけたかわいいお菓子のお店に入ったらショーケースから中々離れないきらりを引き離
すのは大変だったなあ……。

そこを出たら、ウィンドウショッピングの時間。

あれやこれやと可愛い服を見せられ、着せられて。い、イヤだそんなの! と嫌がる杏に無理やりスモックを着せたきらりを一生恨んでやる……と杏は諸星家を末代までの呪うことを誓ったわけであった。まる。



と、まあ。デートの予行演習はこんな感じで過ぎ去ったんだ。

うーん、総合点を点けるとしたら、友達加算点込みでも三点だね。あ、三点満点中ね。

……補正がなかったら、どうだろう。



――今日のデート。本当に楽しんでもらえるのかな。





「はあ……」


疲れた。


心の底から疲れ切った杏は、もう真剣に何もしたくないと思い始めていた。
街はもうすっかり暗くなっていて、ちらほらとお店の灯りが道を照らしていて。
杏はベンチに深く腰掛けて、そんな風景を眺めていた。

……帰って、寝たい。いや、もうほんと眠たい。

そんな杏に、はいこれ! と嬉しそうにきらりはクレープを渡してきた。
んー、ありがとー。とそれを受け取ると、もがもがと口に頬張る。
ほお、コレは中々いけるなあ。
バナナと苺にたっぷりの生クリームとアイスが挟み込まれたクレープは、疲れた体に効くね……なんてことを考えながら、しみじみとそれを味わう。



「……」


ふと、隣を眺める。
きらりは、手にクレープを握りしめたまま、それを食べようとしなかった。


それ、食べないの?


杏がそう尋ねると、ふるふると首を横に振る。
んー? ときらりの様子がおかしいことに首を傾げる。


「……どうかしたの?」


クレープから口を離すと、杏はそう口にする。
喧騒が、辺りを埋め尽くしていて。


――きらりは、どこか遠くを見つめていた。


思わず、きらりの見ていた方を眺める。
すると、そこには学校帰りの女子高生が三人並んで話していた。なにやら、楽しそうに盛り上がっているみたいだ。
別にその光景自体が、特に珍しいものに思えなかった杏は、やっぱり首を傾げた。



きらりはずっと遠くを見つめていて。
ずっと、ずっと。その子たちを焦がれるように見つめていたんだ。
そしたら、ぼうって光が街の明かりが靡いてさ。
そんな光景が凄く、切なくて。
杏はぐっと息をのんだんだ。


……きらりね。


そう前置きを入れると、きらりは何かを思い出したかのように話し始めた。


「……身長が、ちょっとおっきいから。昔から、みんなに怖がられちゃって」


うん。


「だから……、喋り方をもっと、もーっとかわいくしようって思ったんだにぃ」


……知ってるよ。


「そしたらね。みんなきらりと一緒にハピハピってしてくれて……毎日がすーっごくあったかくなったんだぁ」


……杏は何も言わないで、ただじっときらりの言葉を聞いていた。
きらりの一言、一言を飲み込むみたいに。




「でも、きらりも、いつまでもこんな喋り方……出来ないって、思って……」


きらりは杏の方を見ないで、ずっと自分に話しかけるかのように呟いていた。


少しずつ。
少しずつ、声が小さくなっていく。


「普通って……、むずかしいね……」


きらりが最後にそう声を絞り出した時。
もう、目の前にはさっきの女子高生はいなくてさ。

だから。
だから、杏は、なんども、なんどもきらりの言葉を頭で繰り返したんだ。

百合スレはくたばれ



……そっか。

だから、きらりは。
さっきの子たちのこと、ずっと見てたんだ。


ずっと普通になりたくて。
でも、生まれ持ったものがそれを邪魔をしてきたから。
だから、殻を被って、自分を閉じ込めた。


きらりは、いま、それを脱ごうともがいてるんだ。


――好きな人に、自分のいちばんを見せたくて。



だったら。
きらりがそう言うんだったら、杏にも考えがあるよ。


「……カエダーマ大作戦だね」

「え?」


突然、杏がそんなことを言ったもんだから、きらりは素っ頓狂な声を上げた。
もがもがと最後までクレープを口に詰め込むと、がたりとベンチから立ち上がる。


「諸星きらり、カエダーマ大作戦だよ!」

「カエ、ダーマ?」


……まあ、作戦名はこっちの話として。



「デートまであと何週間あるの?」

「え、っと……。デートは2週間後、だよ?」

「それじゃあさ――」


手伝うよ、最後まで。と、杏は頷く。
杏の言葉をはじめは理解していなかったきらりだったけど、杏の真剣さが伝わったのか、ぐっと唇を強く噛んでいた。


「杏ちゃんには、いっつも助けられてばっかだだにぃ……」


なんだよ、そんな顔するなよー。
杏がきらりの頭を撫でると、きらりは嬉しそうに笑った。
大丈夫。きっとうまくいくよ。
だって、きらりは、きらりだもん。

なんて、杏もつられて笑った。



別れ際。
それじゃあまたね。ってきらりに手を振って、杏が帰路につこうとしたとき。
後ろからきらりが、杏の名前を叫んだ。
なんだなんだと振り向くと、きらりは手を口元に当てて、こう一言付け足した。


――きらり、今日からハピハピって言うのやめゆー!


きらりは、杏に向かってそう言ってのけた。


だから、杏は、もうブンブンって腕が千切れるんじゃないかってくらい、思いっきり手を振り返して。
きらりの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってた。


きらりー、頑張れー! って。そんなの口では言わないけどさ。


きらりが見えなくなったとき。
杏は、振り返した手が少し鈍くなっていくのを感じた。
でも……それがなんでかは分からなかった。

残りを書いてきます。
あと2,3回で終わるはずです…。

楽しみだ~

普通の口調のきらりって中々想像できない
「もやし(低音)」とか言いそう

ユベw最強!!!



――カエダーマ大作戦は、その次の日から実行された。


例えば、普段の会話の中で。
ハピハピすゆ~、とか言ってるきらりをつっついたり。


例えば、仕事終わりの車の中で。
プロデューサーの横に座って、なにやら楽しげに話すきらりに対して、おーい、きらり。また戻ってるぞー。と杏が注意したり。


そのたびに、きらりははっと気づいたように顔を赤らめていた。
口癖とか、そういうのってさ。ふつう、そんな数日とかそこらで直せるもんじゃないよ?
でも、きらりは本当に頑張ってたんだよ。そんな自分を見つめ直そうとしてたんだ。


そんな日が、数日ほど続き……。


程なくして、きらりは少しずつ『きらり』から遠ざかっていった。
杏の知ってるきらりから、少しずつ――。


……。




それは、デートの数日前のはなし。

カエダーマ大作戦の効果があったのか、きらりは見るからにあの喋り方をしなくなった。
仕事では、アイドルとしてのイメージがあるから、いつも通り振る舞ってはいたけれど。
それでも、日常会話ではまるで普通の女の子みたいに話してて。

周りの皆もそれに驚いたりもしたけど、きらりのことを良く知ってるから、何も怖がらないで傍にいてくれてた。
少し大人っぽくなったね、なんて年長組の人から言われると、きらりは少し照れくさそうに笑ってさ。
年少組からは……、前の方が可愛かったけど、今のきらりちゃんも可愛いね、なんて言われて、またまた照れくさそうにして。


……そんなきらりを見て、杏はどこかふわふわとした気持ちでいたんだ。



うん、これで良かったんだよね。

きらり自身が、変わるきっかけを作れてさ。
それで、デートも成功したりしたら。


……もうほんと、こっちまでハピハピじゃん。


ふふ、と笑ってから、杏はまたポチポチとゲームを続ける。
そんな杏に、誰かが声をかけてきた。



――杏ちゃん?


良く聞き覚えのある声だ。
なんだよー、いまいいところなんだぞ。っていうと、その子は困ったように眉を下げた。
……なに。なんか、用事?
そう付け加えると、きらりはいつも通り、話し始めて。


でも、そこには、いつもの『きらり』はいなかった。


――杏ちゃん、聞いてる?


そう言われて、はっと我に返る。


――もう、ちゃんと聞いてよね。


はは、ごめんごめん。
なんてそんな乾いた言葉を返す。


――デートね。お店とかいろいろ調べて、たくさんいいところ調べたんだ。


そうなんだ……まあ、そのほうが良かったかもね。
前のお店は、結構好み激しいだろうし。


――うん。いつも、ありがとう。


そんなこんなで会話をして。
ひとしきり用事を話し終えると、きらりはどこかへ行ってしまった。




気づいたら、画面にはゲームオーバーの文字列が。
ああ、またもっかいやりなおしかあ……。

そう思ってやり直しても。何度やり直しても、クリアできなくて。
いつもなら間違えることのないミスを連発してしまった杏は、そっとゲーム機を机の上に置く。


……。

ぼんやりと宙を見つめる。


そう、あれは紛れもなくきらりだった。

だけど、そうじゃなくて。

カエダーマ大作戦は、思いのほか成功したんだ。
でも。それはいつの間にか、杏にズシンと重く圧し掛かっていた。

自分で言ったはずなのに、どうしてなんだろう。
なんてそんなことを思うのだ。



そんな杏の元に、どこからともなく『だらだら妖精』が現れる。


なんだよ。
幻覚なんてよしてくれよ……。


そうぼやく杏に向かって、その妖精はこう言い放つんだ。



「キミは――いつまでもそのままでいいの?」



なんて、そんなことを。




……。




その日の夜。
杏はどこかそわそわと高ぶる気持ちが邪魔をして、思うように眠れずにいた。


……いよいよ、明日か。


そう。きらりは、明日デートに行く。
待ち合わせ場所は、あの日、杏と待ち合わせた駅の前。


う、う~ん。


「って、なんで杏が眠れなくなってるんだよー!」


がばぁっと布団から飛び起きると、そんなことを叫び散らかした。
はあ、と溜息を吐くと、再びもぞもぞと布団に入る。



まったく……。と不満げに声を漏らすと、杏は目を閉じる。
カチカチと時計の針が揺れる音が鳴る。


――杏ちゃん。


そしたらすぐに、きらりの声が聞こえてきた。


……きらりはさ。
明日のデート成功させるために、頑張ったよね。
慣れないことしたりして、見てるこっちがハラハラしたけどさ。
でも、頑張ったんだもん。きらりはほんとに良く頑張ったよ。
だからきっとうまくいくよ、明日のデート。


そうだよ、うまくいくよ。
だって、きらりは十分、魅力的な女の子だもん。
男の子なんて、そんなのイチコロだよ。



カエダーマ大作戦のおかげで、きらりはずっと、普通の女の子になった。
それは傍で見てきた杏がいちばんよく知ってる。

普通に憧れてたんだもん。
たぶん、これがいちばん良かったんだよね。
きらりのためにもさ。


カチカチ、と針は進む。


あの日、オーディション会場で会ったとき。
きらりは普通じゃなくて。だけど、杏だってそんなに普通じゃないから、二人とも仲良くなってさ。
きらりのいいところも、わるいところも、杏のいいところも、わるいところも。これまで全部、埋め合ってきたよね。


……でも。


でも、きらりが変わっちゃったから。
そんなきらりを見て、一歩先を歩いていくきらりを見て。
杏は、どこか心の中で焦っちゃってたんだ。


きらりがハピハピって言わなくなったから――杏も変わらなくちゃ、ってそう思ったんだ。




だって、きらりは、もうあの時の『きらり』じゃないから。
年相応に恋をして、もう、普通の女の子になったから。


だけど、杏は変われずにあのときのままでいてさ。
ずーっと、なんにも頑張れないままで。そんな杏のままでさ。


だから、変わっちゃったきらりを見て、羨ましく思っちゃったんだ。


……ねえ、きらり。
きらりは今でも、幸せの色が見える?



――杏は……まだ、見えないままだよ。


一旦区切らせてください。
すぐに戻ってきます。


>>65 訂正

途中で見つけたかわいいお菓子のお店に入ったらショーケースから中々離れないきらりを引き離すのは大変だったなあ……。 → 途中で見つけたかわいいお菓子のお店に入ったときはショーケースから中々離れないきらりを引き離すの大変だったなあ……。



……。
ジリリ、という目覚ましの音がどこからか鳴り響いてきた。
小鳥の囀りが、窓の外から聞こえてきたとき。
ガンガンと頭痛がする最悪な朝の目覚めに、思わず頭を掻いた。


そっか、昨日はあのまま寝ちゃったんだ……。


なんだか楽しくない記憶がぼんやりと蘇る。

うう、まあいいや……。ええと、今の時間は――。
時計の針を眺めると、それはちょうど正午を指していた。

寝つきが悪かったからか、いつもより眠れなかったなあ……。

なんてことを思いながら、のそのそとベッドから起き上がる。
……さて。どうしよう。



今日は仕事もなく、やることは何もなかった。
まあ、ないわけでもないんだけどさ。
ゲームとか、漫画とか、ふふ、楽しめるものはたくさんあるぞ。


そう思った矢先、ふと壁に掛けたカレンダーに目が行く。


『きらり、デートの日』


とだけ、その日付の下に汚い字で書かれてあった。
おいおい、これ書いたの誰だよ! って思ったら、それは杏で。
あー、これ眠かった時に書いたんだっけってことを思い出す。



そっか。今日は、きらりの。


それを思いだして、杏はぎゅっと拳を握りしめる。
……大丈夫かな。きらり。


すぐに、心配になる杏が居た。いやいや、ちょっと過保護すぎない?
いやあ、でもさあ。娘の晴れ舞台を見に行かない親なんているもんかね?


そう思い立ったが先、杏はいそいそと支度を始めた。


――ま、ちょっと見に行くだけだから。


なんて言い訳がましく自分をごまかして。




駅前に着いた時、休日だからかガヤガヤと前来た時と同じく、そこは人で賑わっていた。
そんな中で、今日も杏はいつもの自分らしい格好に身を包んでいた。
は~い、今日の双葉杏ちゃんの……って、もうこれはいいか。
キョロキョロと広場に群がる人の中から、お目当ての人物を探す。


う~ん、どこだあ?


目を細めて、チラチラとまるで探偵にでもなったかのように、杏はくまなく辺りを見渡す。


そして。


「いた……」


きらりは、木陰のベンチに腰掛けていた。
その恰好は、前に杏と一緒に来たときとは違ってて。

落ち着いた色合いのカーディガンと、足先まで伸びた淡い色のロングスカートなんて着ちゃってさ。

前までのきらりを知っていたら、いや~もっとど派手なポップカラーに身を包んでいたよね、君? とでも言ってしまいたくなるくらいに、傍から見るとそれはまるで別人だった。



きらりは、チラチラと腕時計に目を配せていた。
そわそわと自分の恰好を気にする素振りを見せると、空を眺めていた。


もうすぐ。
きらりの誘った子が来るんだ。


……ああ、なんだかこっちまでドキドキしてきたんだけど。


いつの間にか手にかいた汗が滲む。
ふぅ……よし、戦略的撤退をしよう。
って、いやいや。なに逃げようとしてるんだよ! ダメだダメだ!
ここまで来たんだから、せめて最後まで見届けないと。
そうだ。二人が、出会うところまで――。


そして、時計の針は待ち合わせの時間を指した。


今日中に完結できそうな予感がしています。
また後ほど。

きらりを曇らせてぇなぁ

嫌な予感がビンビンするのは気のせいかな……

確かにどっちに転んでもおかしくないな

デートOK貰えたのかってとこでもう驚いてる



……おかしい。
何かがおかしい。いや、もしかするとさ。杏の持ってきた時計壊れてるのかな? ん? って、スマホの時間と一緒じゃん! 合ってるじゃん!
一人身悶えながら、何度も時計の時間を眺める。そう、時間はあってる。待ち合わせの時間も聞き逃してないはず。きらりもあそこにいるし。
 

じゃあどうして。


「なんで、来ないんだ……」


そう。
待ち合わせの時間過ぎても、きらりの誘った男の子は現れなかった。


10分、20分……。時間だけが流れていって、杏はたらたらと汗をかいていた。


きらりは、連絡をしようともせず、ただじっとその場で待っていた。
おいおい……。向こうの電話番号とか知らないの? もしかして、事故に遭ったりしてるのかもしれないじゃん。ほら、電車でダイヤ乱れたとか!


と、後ろを振り返ると、ちょうど通常通り運行してる電車が過ぎ去っていくところだった。


じゃ、じゃあ……どうして。




そこまで、自分に尋ねかけて――ひとつの推測が浮かぶ。
でも、そんなのあまりにも、ひどすぎる。
そんな、そんなはずはない。


時計を眺めると、もう約束の時間はゆうに超えていた。
焦る気持ちが、さっき浮かんだ推測を結論へと導こうとする。


でも、だって。そんな。
ベンチで待つきらりを眺める。


こんなの、あんまりだ……。
だって、あんなきらりに向かって。


――約束をすっぽかされたなんて、誰が言えるっていうんだよ。




1時間以上の時間が過ぎた時、杏はもう駅前から遠ざかっていた。
これ以上、あんなきらりを見てられないって。そう思ったから。
もう、ずいぶんと歩いてきた。いま、どの辺りにいるのかも分からない。


本当は、きらりに声をかけてあげたらよかったのかもしれない。
約束、すっぽかされちゃったんだ、まあ杏が慰めてあげようって。
そう、言ってあげたらよかったのかもしれない。

だけど。そんなの、杏には出来ないよ。


……だって、杏がいちばんきらりが頑張ったことを知ってるんだから。


とぼとぼと一人で歩く帰り道は、少しだけやるせなくて、少しだけ苦しかった。



今度、きらりにどんな顔をして会えばいいだろう。
きらりに何て言えばいいだろう。


そっと、地面に落ちていた石ころを蹴り飛ばす。
コロコロと、小石は杏の見えない所へ転がっていく。


杏にはわからない。
そう、わかるわけもない。

誰かのために頑張った、その努力を無下にされたことなんて杏にはないんだから。
頑張らない杏に、そんなきらりの気持ちが分かるわけないよ。

だから。そうだ、今度会ったら「この前の、どうだった?」って何も知らない顔して聞けばいいじゃん。
そしたら、きらりはきっとフラれちゃったんだ、って明るく返してくれるはずだもん。

それでぜんぶ終わり。
またいつもの毎日がやってくる。




……それが、本当に正しい?




ぴたり、と杏の足が勝手に止まった。


「――そんなの」


気がついたら、杏の足はもと来た道を辿っていた。
歩くくらいの足取りが、どんどんと速くなっていく。

景色が、ぐんぐんと移り変わっていく。

すぐに息が苦しくなる。
肺が軋むように、酸素を求めてくる。

だけど、足は止まろうとしない。
ただ、前に、前に進もうとする。

息が、苦しい。
呼吸が、辛く、なる。



『双葉さんって、どうしてそんなにやる気ないの?』


なんだよ、やる気なかったら悪いのか!
みんながみんな、やる気あるわけじゃないんだよ!


『やればできるのに、本当に双葉さんはもったいないね』


杏がどんだけだらけてても、それは杏のせいだろ! 
頑張らなくて何が悪いんだ!



――息が詰まりそうになる。足も、腕も、ちぎれそうになる。



もういいだろ! 杏は頑張らないんだ!
頑張らない杏のことなんて、もう、どうだって良いんだよ!


だけど――。
だけど、頑張ってる子が報われないなんて、そんなの……。



……そんなの、良いわけないだろ!





そのとき、もつれあった足が絡み合うと、杏の体はそのまま宙に投げ出された。


どてっ、という音と共に、杏は地面に向かってうつ伏せに倒れ込む。


ぜえ、ぜえ。と息が切れた杏は、その姿勢のまま動くことが出来なかった。




愛も、夢も、そんなのは全部、キラキラってしてるからさ。
誰もが憧れちゃうから、誰もが欲しがってて。
でも、それを手に入れられる人は限られてるんだ。


それを手に入れるために頑張る人がいる。
でも。杏はそんなもののために頑張らない。
頑張りたくない。


……違う、そうじゃない。


杏は、そんなのいらないんだ!

それを本当に欲しがってるあの子の元に、届けばいいって思ってるから!



むくり、と体を起き上がらせる。
じんじんと膝小僧が赤くなっていて。気づいたら、靴紐もほどけてた。
すぐに屈んで、靴紐をもう一度結び直すと、どこか気分は晴れ渡っていた。

息を一つ整えると、真っ直ぐとその先を見つめる。


よーし……全力ダッシュだー!


――駆け出した足はもう、止まらなかった。




「きらりぃぃぃ――ッ!」

杏の叫び声は、やけに大きく響いた。
ぜえぜえと息を切らして、不格好に服を乱して。
そんな杏を見て、きらりは驚いたように目を丸くしていた。


――杏ちゃん、どうしてここに?


なんてそんなことを言うもんだから、杏も何を言い返すか本当に困った。
たしかに、たしかにそうだよ。なんで、杏はこんなところで息を切らせているんだろう。


そう気づいたら、もう、途端に顔が真っ赤に火照って来て。
そうじゃん。まだ男の子が来るかもしれないのに。なんで、こんな早とちりしちゃったんだろう。
ぐるぐると、頭が沸騰していく。

……ああ、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ! 
杏の心が勝手にそう叫んだ。




――もしかして、気になって見に来てくれてたの?

……うん。


もう杏には、きらりの問いかけに頷くしかできなかった。
う~、恥ずかしい。なんて思ってたらそんな杏を見て、きらりはもうホントに嬉しそうに笑ってきてさ。
なんだよ、笑うことないだろー、ってせめてもの抗議をしてみせたんだ。


でも、きらりはやっぱり笑うことをやめなくて。


そうやって、ずっと笑っていたらさ。
きらりの瞳から、スーって一筋の涙が流れたんだ。


――あれ、なんでだろう? おかしいな……。


そしたら、すぐに止めどなく涙が溢れてきて。
きらりは必死になって、何度も何度もそれを拭うんだ。


そんなきらりをぎゅって抱きしめることしか、いまの杏には出来なかった。
もう、きらりってホント体おっきいなあ。


……こんなちっぽけな杏の腕じゃ収まりきらないよ。


なんて、そんなことを思いながら。



それからのことは、よーく覚えてる。
泣いちゃったきらりを励ますために、杏はそりゃあもう奔走したんだよ。
とりあえず美味しいスイーツ店に入って、今日は食べるぞ! やけ食いだー! なんて無茶苦茶言いながら、バカみたいにケーキを頬張ってたらさ、それを見てたきらりもいつしかもの凄い早さでケーキを食べだして、結局二人で何皿食べたかも分かんなくなっちゃって。


可愛いプリクラを二人で撮って、カラオケで思いっきり歌を歌って、あの時みたスモックを買って。


それで、すっかり暗くなった街に繰り出したら、さっきはいなかった場所にギターを弾き語りしてるお姉さんが居てさ。その人が弾き終わってから、いいぞー! なんてハイになった杏が思わずヤジを飛ばしたら、お姉さんは笑って、よーし今日はキミたちのリクエスト曲を弾こうかな、なんて言うんだもんね。


それじゃあ、杏、きらりのうたを歌いまーす。


なんてことを返したら、お姉さんは、なんだそれーって笑ってたけど、きらりは恥ずかしそうにしてて。それで杏はもうがむしゃらに、きらりのうたを歌ったんだ。


歌は、きらり可愛い! 最高! 愛してる! 飴頂戴! だったんだけど、そんなんでもきらり大号泣しちゃってさ。
へっへっへ、また泣かしてやったって思ってたら、気づいたら杏も泣いちゃってて。二人して、泣いてたらお姉さんもつられて泣いて。
なんだよ、みんなして、なんでこんなに泣いてるんだよ。って泣きながら、杏は笑ってた。


……そんな、そんな何でもないひと時が、杏はすごく愛おしかった。




帰り道。
なんだか、今日は一日フワフワしてた気分だった杏は、ぼーっと空を眺めてた。
杏はなんにも言わなかったけど、きらりから突然口を開いて、こう告げたんだ。


――今日ね、杏ちゃんが来てくれるちょっと前にね。


ずっと気になってたこと。
なんで、待ち合わせに男の子が来なかったのかっていうこと。
それは聞こうと思って、ずっと聞けずにいて、それで今日が終わるんだと思ってた。

でも、きらりは思い出す様に、うーんって唸って。
それから、一言一言を、一生懸命言葉にしていた。


――誰かから電話がかかってきてね。誰だろうって、そう思って出てみたら、その子の声がしてね。

――きっと、色んな人に聞いて、やっと電話くれたんだって思ったから、何も言わずに聞いてて。

――電話の向こうで、本当に申し訳なさそうにしててさ。

――諸星さんはアイドルだから。きっと、いつか迷惑かかっちゃうから。ずっと迷っていたんだけど、やっぱり今日は行けない。連絡遅れて、本当にごめん。

――って、そう言われちゃって。


きらりは話をしてる間、ずっと空を眺めていた。



……そっか。そうだったんだ。
どうやらソイツはきらりが言ってたみたいに思ってたよりも良い奴で、思ったよりもバカだった。
断りもなく、約束をほっぽりだすなんて、男の風上にも置けないけど、だけど、きらりのことをすごく考えてくれていて。


もしかすると、それは行かないための口実だったのかもしれないけど。
でも……。それでもこんな夜は、そんなことを疑いたくもなかった。


そう思って空を眺めたら、都会の空に少しだけ星が輝いていた。
それがなんだかいつもよりも綺麗に見えて、だけど、すごく切なく見えたんだ。


キラキラ、キラキラってさ。




――あれから日は過ぎて。


「……働きたくない」


杏は再び、事務所でグータラしていたのだった。フカフカの布団に包まれて、なんて、なんて最高なんだ……と打ち震える自分の体を止めれなかった。
実は今日はかねがね予約をしていた新作ゲームが解禁されたんだよねー。よーし、今日はこれをするから仕事なんてサボって……。


「にょわ~! 杏ちゃ~ん!」


なんて思ってたら、どこからともなくいつもの声が。
ちょっ、ぱ、パッケージ剥がしてるからさあ。ん? 仕事? 杏は今日、このゲームをやるから、仕事なんてサボって――え? 飴くれるの? やった~! ……って騙されないぞ、こんなの!



あの日から。
杏にはまた、ハピハピって言ってくれる友達が出来た。

それは嬉しいことだったのかもしれないし、はたまた、悲しいことだったのかもしれない。

でも。それでも。
愛も夢も全部、この布団の中と、あとはちょっとだけあの子に詰まってるからさ。
だから、そんななんでもない毎日がまたやって来てくれて、なぜだか安心してしまう杏がいたんだ。

だって、杏はきっとそんな毎日が好きだからさ。


「杏ちゃん?」


……いつか。
いつか、杏にもきらりにも好きな人が出来て、その人と一緒に歩いていくのかな。
だったら。
今だけは、なんでもない日々が、このまま続きますように。
おやつは飴玉で。隣にはきらり。……なーんて。



……。

それじゃあ最後に、最近、杏が見た夢の話でもしよっかな。
なんだよー。ちょっとくらい話してもいいだろー?


その夢の中ではさ、杏は誰かの膝の上で眠ってるんだ。
それで、そよそよ~って風が窓辺から吹いてきたから、ゆっくり目を覚ましてさ。首を横に向けたら、その窓の向こうには飛行機が遠く向こうの彼方まで飛んでいくんだ。

そんな杏を見て、誰かが嬉しそうに笑ってて。髪をその人に撫でられて。杏は、またゆっくりと目を閉じて眠る。



……ねえ、きらり。

やっと、杏にも見えたよ。幸せの色。

せかいじゅうで、杏にしか見えない色がさ。



おわり



書き口が凄く杏っぽくて凄い
そしてきらりのために全力になれる杏が素晴らしい

乙でした

おっつおっつ
非常によかった

おつ

あんきらの歴史がまた1ページ……
すごく良かったです、乙

想像した最悪の結末じゃなくて良かった……
本当に良かった乙!

ただただ良かった

すばらしい

おっつおっ...乙

やっぱりあんきらは至高やな

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