吹雪「アフターデイズ」【艦これ】 (58)

その日、戦争が終結し――

――一人の少女が命を落とした。



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夕立「今? 帰り道だよー。もうっ、睦月ちゃん心配しすぎっぽい。確かに暗いけど、人通りがないってわけじゃないし、いざとなったら夕立がやっつけちゃうっぽい!」

夕立「あはは、いまの吹雪ちゃんに似てた?」

夕立「うん、うん。気をつけて帰るっぽい。っぽいじゃダメって夕立に言われても仕方ないっぽい―」

夕立「あ、今日は寮のみんなでパジャマパーティーだったっぽい!? 夕立もすぐに帰るー!」

夕立「お土産いる? わかったー」

pi

夕立「もー、睦月ちゃん心配性っぽいんだから」

チャキ

夕立「一応暴漢が来ても平気なようにジム行ってるもんね。シュッシュ」

夕立「早く帰らないと、みんなにお菓子全部食べられちゃう」

シュパッ

夕立「――っっ、あれ?」

夕立「なんで、なにこれ……」

夕立「おなか、痛いっぽい……」

夕立「赤、赤い……これ、血っぽい……?」

スタスタスタ

夕立「……ぁ、ちゃ……ん」

チャキ

夕立「なん、で……」

夕立「……そ、っかぁ。ご、めんねぇ」

シュパッ シュパッ シュパッ

夕立「――――」

スタタタタッタタタタッ




夕立ちゃんが殺された。
その連絡を受けたのは、睦月ちゃんが夕立ちゃんと通話していた三時間後のことでした。
翌日、夕立ちゃんのお葬式が開かれ、学校が休みになりました。



ザァァァァァァ ゴォッ ビュゥゥウウウッ

?「……」

?「誰が殺した。何のために、なぜ今になって……」

キキィー プァーッ!

?「今行く。……すまない、夕立」

スタスタ ガチャ ドタン

ブオーーン




夕立ちゃんが日常からいなくなり、私たちの日々の明るさは消えていました。
警察は暴漢の仕業と言っていましたが、私はそうは思いません。
これは、何かの意図があると思っています。
何か、凶悪で、湿り腐った何者かの憎悪による犯行だと睨んでいます。



睦月「……」

ガチャ

吹雪「睦月ちゃん……みんな集まってるよ」

睦月「……行きたくない」

吹雪「睦月ちゃんのせいじゃないよ。睦月ちゃんは悪くない」

睦月「じゃあ、誰が悪いの?」

吹雪「それは……」

ストッ トストストス

睦月「ごめんね……ちょっとお手洗いに行ってくるね」

吹雪「……」




校長は私たちに極力の外出を禁じました。
なぜ夕立ちゃんが狙われたのか、それはわからないけれど、私たちにも関係があるようです。
犯人の目的はいまだ不明で、この事件は終わっているのかどうかすら判りません。


ザァァァァ

叢雲「時雨、いつまで窓の外見てるの? 早く部屋の掃除をしなきゃ」

時雨「……ねぇ、叢雲」

叢雲「なに? この私に手伝わせてるんだから、私ばっかり働かせないでよね」

時雨「昔、前にもこんなことがなかったかな?」

時雨「こんな、雨の日に、こんな風に掃除するんだ」

叢雲「……? 何を言ってるの。そう何度もこんな嫌な掃除があってたまるわけないでしょ」

時雨「……」

叢雲「ほら、早く。夕立の大事なものは、あんたが一番よく知ってるでしょ」

時雨「止まない雨はない……か」



時雨「でも、晴れの日が何日も続くとは限らない……だよね」






何か、嫌な予感がします。

自分の身に、何か危険が迫っているんじゃないかって。

頭の隅に冷たい気を放つ触りたくもない醜い何かが住み着いている気がして、夜も満足に寝られなくなりました。
不思議なことに、そのことを考えるといつも酷い頭痛が発生します。



足柄「こんなことが起きるなんて……」

武蔵「子供たちにはなんて話す。あのことを想起させるのか?」

足柄「言えるわけないでしょ! いまさら……いまさらあの場所について言えると思う?」

武蔵「……」

榛名「いったい誰がこんなことを……私たちに何の恨みがあって」

武蔵「深海棲艦か?」

霧島「それは、ありえないでしょう。目撃情報で、あの辺り一帯に深海棲艦を見たなんて人はいませんでした」

足柄「じゃあ……誰が?」




それから一週間。
新しい事件が起きることはありませんでしたが、みなの沈んだ雰囲気が元に戻ることはありませんでした。

寮内は照明の暗さと嗚咽に支配され、闇の静けさが漂っています。



ドタドタ

吹雪「睦月ちゃん!」

吹雪「遅かった……」

吹雪「…………これ」

睦月
『吹雪ちゃんへ

これを見ても、決して誰にも明かさないでください。
そして、私の跡を追うことはしないでください。
すべて思い出しました。
でも、これは想起してはいけない記憶。
幸せなことなんて何一つない、呪われた記憶。
それでも、私は思い出しました。
だから、ここを出ていきます。
もう絶対に、悲劇を繰り返さないように。

追伸
冷蔵庫に三つプリンがあるので、吹雪ちゃんの自由にしてください』

吹雪「……どうして、何の相談もなく」

吹雪「うぅ、うぁぁぁぁぁぁ……」




世界は、その闇の形を変え、肥大化します。
逃れる術はありません。
なぜなら、もう。

私たちはその一部なのだから。



溜めおしまい

なろうで連載している小説が投下され次第、また投下するかもしれません。

少しばかりお付き合いくださいませ。


ワー ワー

加賀「……こちら加賀、異常なし」

赤城「暇ですね。私たちの武装許可まで出す必要なかったんじゃないですか?」

加賀「備えあれば患いなし、よ。重役の要人警護、しかも向こう側は深海棲艦。何が起こるか分かったものじゃないわ。そこ、ぼーっとしない」

赤城「相変わらず厳しいですね」

加賀「普通です」

赤城「……聞きました? 例の」

加賀「えぇ。今、艦娘、しかも駆逐艦が殺されたとなって軍、そして政界が危機感を露わにしています。ここで問題を起こしたとなってはあれだけの犠牲を注いだ平和条約が水泡に帰してしまう」

加賀「それだけは、避けないと」

赤城「私たちも、あちら側も、失ったものが多すぎる。そして、その勝敗を決したのは、あれだけ忌み嫌っていたもの、なのですから」

『全班、もうじき首相がお見えになる。警戒を怠るな』

加賀「了解。赤城さん、もうすぐ時間です」

赤城「はい。摩耶さん」

摩耶「あぁ、うん、うん。わかってる」

赤城「摩耶さん? 通話中ですか……」

摩耶「じゃあ、時間通りに――っと、悪い赤城さん。なんだって?」

赤城「首相がお見えになるそうです。気合を入れてください」

摩耶「了解。しっかし、艦装なんて久しぶりだよな。今でも主砲当てられるか自信ねーよ」

加賀「そうならないことを祈るばかりですよ」

摩耶「違いない」

赤城「見えましたね。あれは……海軍のお偉いさんの車ですね」

摩耶「……? 待て、様子が変だ」

キキィー!!!!

加賀「!? 本部! 応答してください!」

ザーザー

加賀「通信妨害……!?」

赤城「摩耶さん!」

摩耶「あいよ!! 艦装展開!!」

摩耶「止まれえええええええええ!!!」

ズンッ! ズガガガガガガガ

赤城「中は……!?」

加賀「そんな……赤城さん! 周辺を洗い出して!」




夕立が死んだ三日後。
平和条約を結んだ人類と深海棲艦の間で、条約一年記念祭の打ち合わせが開催された。首相、そして海軍の上役数名が出席する大規模なものになっていた。

しかし、その海軍数名を乗せた車は謎の暴走を起こす。
摩耶がそれを止めるも、上院はすべて射殺されていた。

車の天井部分に複数の穴が発見される。何者かの遠距離射撃による殺害としてこの事件は、駆逐艦夕立の殺害と何らかの関連があるとみて捜査が進められている。


「……何者かが、我々を狩っている、と」

?「はい。その可能性は十二分にあるかと」

「ふぅむ。誰か見当はついているかね」

?「おそらくあの戦争によるものでしょう」

「ははは。つまり多すぎて絞り込めない、と」

?「申し訳ありません。ですか単独犯ではないことは明らかです」

「構わん」

?「は……?」

「もう永くない命、誰に差し出しても構わぬ。私は恨みを買いすぎた。それに」

?「……」

「……いや、いい。下がり給え。警備の数を増やす」

?「了解しました」



「来るのは鬼か、それとも……」





夕立はともかく、海軍殺しの目的は見当が着いている。
客を迎えるとしよう。



曙「漣ー」

漣「おや?ぼのタンどしたの」

曙「ぼのタン言うな。あんた進路調査票出してないでしょ。先生から聞いたわ」

漣「そだっけ」

曙「そうよ。いいから、ほら今書いて出しなさい」

漣「ぼのタンやっさしー! でも、もうちょっと待って」

曙「なんで?」

漣「なーんーでーもー。ほらほら、もうすぐ夕方アニメがあるんだから、談話室いこ」

曙「あ、こらちょっと待って!」




睦月ちゃんが一週間過ぎても帰ってこない。
夕立ちゃんがいなくなってからもう大分経つ。
みなは頑張って以前の活気を取り戻そうとしている。少し複雑だけれど、でもいつまでも嘆いてはいられないのはわかっていた。

テレビでは日本がおかしくなっているのをいつも報道している。
混沌とし始めた世の中に、私は一人怯えているしかなかった。

ふと、窓の外を見る。

いまだに、空は青くならなかった。


ダダダダダダダダ!!

島風「叢雲ー!」

叢雲「なによ。廊下走ってんじゃないわよ」

島風「緊急だからー。吹雪が、今日は風邪で休むんだって」

叢雲「へぇ、珍しいわね。あの吹雪が。で?」

島風「え?」

叢雲「なんで私に言うのよ。白雪とかに言えばいいじゃない」

島風「今から走ってくるから代わりに伝えといて! んじゃ!!」

叢雲「あちょ! ……ったく、便利扱いして」

叢雲「あとでお見舞いにでも行ってやるかね」




夕立ちゃんが殺された場所に足を運んでみる。
すでにすべての現場調査は終わっており、後始末も済んでいた。もとの通路である。
人通りはなく、曇りだからか少し暗い。

「夕立ちゃん……」

彼女がどんな思いで殺されたのか、私には想像もつかない。

痛かったのだろうか。
憎かっただろうか。
怖かっただろうか。

それとも――?

遠くで足音が聞こえる。
すぐさま現実に引き戻され、私は勢いよく振り向いた。



暁「電、響、準備できた?」

電「はいなのです」

響「一番遅いのは暁だよ」

暁「うそっ!?」

電「暁ちゃん、スカートめくれあがってるのです」

響「しかも後ろ少し跳ねてる。ちゃんと櫛通した?」

暁「なによ! ちょっと急いじゃっただけじゃない!」

響「レディーは優雅たれ、って言ったのは誰だっけ」

暁「それは……!」

電「ふふ、早く準備しないと遅刻しちゃうのですよ」

ブーッ ブーッ

暁「あら、私じゃないわよ」

響「私でもないね」

電「私なのです。……すみません二人とも、先に行っていおいてほしいのです」

タタタッ

暁「誰からかしら」

響「……彼氏かもね」

暁「マジ!? 先越されちゃったの!?」

響「心配しなくても、暁より先に彼氏なんて作る気はないよ。危なっかしい」

暁「どーゆー意味よそれぇっ!!」




そこには、深く帽子をかぶった長身の男が立っていた。
その目は鋭く私を見据えていて、私は何故だかわからないけれど、ひどく狼狽した。
うまく声が出ない。怖い。
体が震えて、身じろぎすらも取ることができない。

こいつか? 夕立ちゃんを殺したのは。

いや、“違う”――

無意識に何かが否定をする。
この人は違うと訴えかけている。

「……あなたは、誰ですか?」

「……ここにはもう何もない。すべて忘れて、元の日常に帰るといい」

「っ……あなたは! 誰なんですか!!」

「……知る必要はない。良いことなんて一つもないぞ」

そう言って、男は去って行く。
男が見えなくなるまで、私は動くことができなかった。



投下第二弾おしまい
溜め次第投下します

仮眠

ガチャ

叢雲「……なによ、いないじゃない吹雪。病人のくせにどこ行ったのかしら」

叢雲「ん? なにかしらこれ。手紙? ……睦月から」

叢雲「……すべてを思い出した、呪われし記憶、悲劇」

叢雲「意味わかんないわね。何よ呪われたって」

叢雲「……」

叢雲「あーもう!頭痛いのよ!!」

初春「なんじゃ騒々しい。何を他人の部屋で騒いでおる」

叢雲「吹雪の見舞いよ。といっても、本人は不在だけどね」

初春「ふぅん? 不思議なこともあったものじゃな。ま、大方、風邪薬でも買いに行っておるんじゃろうて。声量を程々にしておけよ、叢雲」

叢雲「うるさい。悪かったわよ」

初春「しかし良かったのか? 外出禁止令はまだ続いてるというのに。見つかったら処分も重いじゃろ」

叢雲「そうね……私ちょっと探してくるわ。初春、いちおうフォローお願い」

初春「仕方ないの、任されよう。気を付けるんじゃぞ」

叢雲「はいはい」




頭が痛い。
何かが飛び出してきそうだ。
目元が霞む。
足がふらつく。
帰り道がわからなくなっていく。

音。
音が鼓膜を震わせる。
爆発音。旋風音。撃鉄音。
地割れのように、足元を崩す。

「――って! ここは、私が――から。これは命令よ」

淀んだ視界に、綺麗な黒が映る。

「待って! 一緒に――」

その声は、たぶん私の声。
でも、叫んだ覚えはない。
こんな景色にも、見覚えはない。

「――はぁ、空は、こんなにも青いから」

「いやぁあああああああ!!!!」

泣き叫ぶ。
仲間が私の腕を引っ張る。

「今日は幸運。仲間を守れる。死ぬにはいい日」

黒が視界を埋め尽くす。

「――――扶桑さん!!」

振り返った彼女の笑みは、とても幸せそうで。
とても、強い瞳をしていた。



吹雪「扶桑さん!!」

叢雲「うわっ!?」

吹雪「はぁっ、はぁっ、ひゅう、げほっげほ。こ、こは」

叢雲「酷くうなされてたわよ、吹雪。どうしたの?」

吹雪「ここ、私の部屋?」

叢雲「そうよ。まったく、道に倒れてた時はどうしようかと思ったわ」

吹雪「たお、れてた――?」

叢雲「そうよ。あんた、ちょっと太ったんじゃない? ここまで運ぶのにとても苦労したわ」

吹雪「……」

叢雲「……冗談よ。それで? 聞きたいことは山ほどあるのだけど」

吹雪「今日は、ちょっと」

叢雲「わかってるわよ。その調子、風邪じゃないわね。仮病で病欠なんてあなたらしくないわ」

吹雪「……」

叢雲「はいはい、もう聞かないわよ。でも、いい? 動かないで。今日はもう寝て。明日も大事を取って休ませるってするけど部屋を抜け出さないように。いいわね?」

吹雪「……うん」

叢雲「よろしい。じゃあ、もう行くわね。晩御飯は?」

吹雪「……いらない」

叢雲「あらそう。じゃあおやすみ」

キィ ガチャ

吹雪「……」

吹雪「扶桑さんって、誰だろう」




カランコロンと、軽い鈴の音が鳴る。
このバーは知る人ぞ知る秘境の店だ。当然、秘密の話をするのにも最適ともいえる。

「いらっしゃいませ」

「……知り合いが先に来ているはずだ」

「あぁ、あちらに」

バーテンダーが指した方に、懐かしい顔が見えた。
その女性は私の顔を見ると、優しく微笑む。

「……やぁ、金剛」

「Long time no see. 提督」

冗談めかした言い草で、彼女は私にそう言うのだった。



これにて本日分の投下は終了です

お付き合いくださりありがとうございました。

質問はネタバレにならない範囲で受け付けます。
感想があると作者のモチベが急上昇します。

それでは、おやすみなさい。

なにかとのクロスだったりする?
だとしたら元作品の方も知りたいから教えてくれると助かる

>>39
クロスではありませんが、ある映画を見てそういう雰囲気が出せたらなとイメージはしています。
まぁわかる人にはわかるんじゃないかなレベルなので、完全オリジナルと捉えて問題ありません

映画か、こういうのはウォッチメンかな?

キィ カコン

提督「そっちはどうだ? 平和の日常というのは」

金剛「問題ないデース。……と、言いたいデスが」

提督「夕立の件と、海軍への攻撃、か」

金剛「……えぇ。どちらも未だに犯人が特定できていません」

提督「随分と日本に馴染んだ言葉遣いになったな」

金剛「こっちの方がcharmingデースか?」

提督「話しやすい方でいい……いや、緊張感なくなるからまじめに頼む」

金剛「はい、提督。それで、提督は今までどこに?」

提督「……君は、いま警視庁勤めだったか?」

金剛「えぇ。それが?」

提督「じゃあ、キミは私を本来逮捕しなければいけない。そういう立場に今私は立たされている」

金剛「What?」

提督「お尋ね者ってことさ。あの鎮守府が解散し、私は今政府から追われている。だからずっと隠れて生きてきたんだ」

金剛「……」

提督「本当は君に提督と呼んでもらう資格はもうなくてね。この場に来たのも、少し賭けだった。罠かと何度疑ったか」

金剛「私は、提督にウソなんて……」

提督「君が知らなくても、餌にされていることなんてよくある。政府は無我夢中で私を探しているだろうさ。政府の汚点を知る、私をね」

金剛「……教えてください。あの鎮守府で、あなたに何があったのかを、そして、そのあとに何があったのかを」

提督「長い話になるが、酒でも呑もうじゃないか。提督の任についているときは、そんな余裕なかったからな」

提督「本当は……軽空母組とずっと、酒を呑み交わしたいと思っていた。今じゃ、そんな夢は一生叶わないがね」

金剛「提督は確かにあの子たちにとっては悪夢でした。しかし……!」

提督「いいんだ。私は過去の悪夢で構わない。もう現れない方がいい」

提督「さて、どこから話したものかな――まずは、あの日からかな」



提督「鎮守府のすべてが変わってしまった、あの日のことから」




コンコンと、扉がノックされる音で私は目が覚めた。
返事をしてやらないでいると、ガチャリと音がして誰かが入ってくる。

「……吹雪。起きてる?」

「…………初雪」

「うん。元気?」

「元気じゃ、ないかな」

そう答えると、初雪が少し笑った気がした。

「どうかしたの?」

「……ねぇ、吹雪――深雪って、覚えてる?」

「……深雪?」

知らない名前だ。雪がついているけれど、親戚の名前と照らし合わせても深雪なんて人物に心当たりはない。

「知らない。誰?」

「……ううん、誰でもない。ごめん、ゲームと混合してたみたい」

そう言って、初雪は部屋から出ていこうとする。

「待って、初雪」

「なに?」

「扶桑って、人、知ってる?」

「……覚えてない」

そう答えて、初雪は部屋から出て行った。

「……覚えてない、か」

嘘だ、と思った。
確証はない。それでも、あの態度と受け答え、何か知っている気がする。

「頭、痛い」

私は頭を抑えながら、また眠りについた。


提督「最初は普通の鎮守府だったんだ。金剛、君がうちに着任したのは2013年春の大規模作戦の時だったよな?」

金剛「はい。姉妹の中で一番遅かったですね、私は」

提督「何時までたっても第四艦隊が解放されないから焦ったよ。まぁ、その時からはもうあの空気だっただろうけど」

金剛「……えぇ。あの鎮守府は、俗にいうブラック鎮守府でした。効率重視の、私たちを数で計算し、使い捨ての駒のように使い、まるで……まるで本物の戦争のように、毎日のように誰かが沈んでいた、あの頃」

提督「今思えば、よくあの時誰かに撃たれなかったものだと思う。いっそ、撃たれてしまえばよかったんだ」

金剛「……あの鎮守府の影響で、駆逐艦、潜水艦、軽巡の任意の者にPTSD対策にと記憶操作が行われました。だからこそ、わかりません。何故、夕立ちゃんが殺されたのか……」

提督「そうだね……。とにかく、あそこは最悪の鎮守府だった。自他ともに認める酷い指揮官だった。しかし――」

金剛「それには事情があった、と?」

提督「そう、だね。言い訳には十分なる、くらいのね」

金剛「……何が提督をそこまで変えてしまったんです?」

提督「…………私にはね、妻と娘がいたんだ。妻は戦時中に病気亡くなったけど、娘は都内の学校の寮に預けていた」

金剛「……」

提督「あの大規模作戦の前日、それほど前線でなかった私は特にやる気もなかった。最低限の仕事さえしていれば、みな傷つくこともなく終わると思っていた」

提督「大本営から、メールが届いたんだ」




提督「娘を人質に取った、写真がね」




あの時のことは今でも覚えている。
大本営に内密に直談判した、あの夜も。

「なぜ、なぜそんな、戦況は優勢です。こんな真似をしなくても!」

「……それは君の見解だ。大局を見れば、そんなことは言えまい。私もこんなことはしたくないがね」

「ならば、私には無理です! 代えてください」

「それはダメだ。私は君を買っている。君の指揮官としての素質をね。なら、それをもっと有効活用させたいというのは、当然のことではないかね」

「私に、あの子たちを道具のように使えと?」

「本来は、そういう用途だ。技術班の馬鹿どもが、感情など着けるから君のような情深い聖人がそう激昂することになる。まぁ、それによって軍に対する印象操作にも役に立ったわけだが」

「……どうしても、私に指揮をさせると?」

「あぁ。不躾な言い方だが、娘の無事を祈るならば、この戦争を確実に勝てるように努力をしろ。どんな手を使ってもだ」

「……」

「犠牲のない戦争などあるはずがない。そんな夢物語を許容するには、この戦争は肥大化しすぎた。少しでも劣勢になってみろ。アメリカ、そして日本の市民が許さないだろう」

「……娘の安否は、保証されるのですね」

「約束する。私の目の黒いうちは、私が保護しよう」

「――――……了解、しました。元帥」

こうして出来上がった、私の鎮守府は。

娘の命と引き換えにして、私は部下たちの命を奪っていったのだ。



時間が余ったので続き。もう寝ます

>>41
大正解です。私あの映画大好きなんですよ。漫画も買いました。

金剛「そんな……許せないデース! あのファッキン海軍!」

提督「口調」

金剛「うぐ……はい。ですがしかし! あの戦争はそのおかげで勝利しました。それなら提督の娘さんは帰ってきたのでは?」

提督「……そうはならなかったから、海軍は私を始末しようとしてるんだよ」

金剛「……まさか」

提督「戦争終結の決め手となった大規模作戦の数日後に、海軍の方から連絡があった。娘を返してやる、と。そして、迎えに行ったその小屋には、何者かに殺された娘の遺体があった」

金剛「……」

提督「私も、海軍も、今でも真実は解明されていない。だからこそ、海軍はその汚点を知る私を消したがっている。私の娘が無事でない以上、私という爆弾を抱え込んでいるわけだからね」

金剛「このことは世間に?」

提督「……いや、いいんだ。これは私への罰だと思っている。君たちを見殺しにしていった、私への罰だとね。ただ」

金剛「ただ?」

提督「知りたいんだ。あの日、何があったのか。知らなければならないんだ」

金剛「提督……」

提督「別に復讐なんて、もう考えちゃいない。そんな時代だったんだ。でも、その悲劇があの鎮守府にあるというのなら、知る責任がある」

金剛「……私も協力します。この件は内密に?」

提督「あぁ、頼む。ありがとう。……どうして、君は私の味方をしてくれるんだ?」

金剛「TopSecretネー。強いて言うなら、提督の本音を見ちゃったからデース」

提督「……はは、それも秘密にしておいてくれ。じゃあ、もう出よう。あんまり私と長い間一緒にいるべきじゃあない」

金剛「まだ話したいことが山ほどあるデース……でも、私が提督が外に出ても安心できる状態にして見せるネー!」

提督「期待しておくよ。お先に失礼する」

スタスタ カランコロン




外では相変わらず雨が降っていた。

あの日も、確かこんな風に雨が降っていた夜だった。
着任したての頃、あまりの悲痛な状況に私は一人、提督に直談判をしようとした。

わずかに開いた扉。
その隙間から、一人窓の外を眺めている提督の姿が見えて、私は息をのんだ。



泣いていたのだ。ただただ、小さな背中になって。


「あんなの、責められるわけないデース……」

私が見てしまったあの人の本音。
そして、その姿を見ても、何も行動しなかった自分の不甲斐なさ。

これは、多分償いなのだ。

知っていたのに、何もしなかった私の罪による償い。

「あの子たちは、許してくれるかな」

ふいに出た言葉は、雨の音にかき消された。

こんな雨、すぐに止めばいいのにと――そう願うしかなかったのだ。


『昨日未明、女性が歩行中に後ろから車にはねられ死亡する事件が発生しました』

?「…………」

『犯人は女性を引いた後逃走しており、警察側は故意による可能性を指摘。調べによりますと、その女性は警視庁に勤めており、恨みによる犯行ではないかとその女性が関わった人物を中心に捜査を進めていく方針です』ピッ

?「……止めないと」

?「これ以上、悲しいことが起きないように」

久しぶりの更新

仕事がな、忙しかってん。

あとデッドプール見てたんや。仕方ないんや……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年06月26日 (日) 06:58:57   ID: EI6cUhtt

ウォッチメンが元ネタってことは黒幕は仲間の誰かってことか?

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