不思議の国のサシャ(132)

不思議の国のミーナ  
ssmatomesokuho.com/thread/read?id=219457

本作品は上記の続編になります。

※キャラ崩壊の可能性があります。

※このSSは場合により複数のクロスが発生します。

※今回は進撃×スプリガンのSSになります。

※スプリガンは本編終了後。都合によりキャラクター能力の独自解釈、また本編では死亡したキャラクターが出る場合もあり、ifの要素が含まれています。

※本作品単体でも楽しめるよう努力しますが、上記の件がお気に召さない場合、他に投稿されたSSにてお楽しみ下さい。

霧の様な靄が立ち込める薄暗いトンネルの中を、遠くに見える出口らしき白い明かりを目指して私達は歩く。

この不思議なトンネルを進むのはこれで二度目・・・何でこんな事になったんでしょうか? 

私ことサシャ・ブラウスは隣で肩を並べて歩くミーナ・カロライナの手をギュッと握りながら、事の始まりを振り返ってみた。

始まりは・・・そう、夜間にやらされた兵站行進でした。しかも通常の倍の距離。

夜に!しかも通常の倍の距離!つまる所、朝まで歩き通せってお達しです。

しかしながら不肖サシャ・ブラウス、体力と持久力には自信があります!それはもう訓練兵団に入ってからは特に持久力が、ハイ!

訓練当日、普段は寝ている深夜に行動するとあって、私は妙にテンションが上がっていました。

夜間の兵站行進に愚痴をこぼす同期達が多い中、私は元気一杯に出発進行!・・・とまあ、行きはヨイヨイでした。

しかし何て言うか、行きはヨイヨイ・・・帰りはコワイになってしまいまして・・・

深夜の兵站行進に、雨は振りだすわ霧が出るわ、その霧は数メートル先も見えない濃霧になるわ・・・。

そしてあろう事か、最後には手持ちの携帯食料までもが尽きる・・・って、コレは折り返し地点の小休止の時には早々に食べ尽くしていたんですけどね、アハハ。

とまあ、そんなこんなで濃霧の中、兵舎に帰る途中は足元も覚束ない状態でした。主に空腹と濃霧と空腹と空腹で。

五時間も歩いていると体力的にはまだしも、お腹が空くんですよ・・・お腹が空いてフラついて来るんですよ・・・で、コケました。

行進中の小道から足を踏み外して、雨で濡れた斜面を転がり落ちました。

普段から狩猟民族と大見得切っていただけに、山道から転がり落ちた事で痛みを感じるよりも、先に恥ずかしさを感じました。久しぶりの感覚でしたね。

そしてこの後、不思議な出来事が起こりました。いえ、正確には転がり落ちた時点で私は不思議な世界に足を踏み入れていたんです。

そこは見渡す限り灰色の世界、灰色の森の中でした。

その不気味な灰色の森には命の存在が全く感じられなくて、私はその世界で一人っきり。

何時間も森の中をさ迷って、怖くて、不安になって、悲しくなってきて、泣き出しそうになった時、私と同じ様にして森に迷いこんだミーナと出会うことが出来ました。

もう、二人で抱き合ってお互い大号泣ですよ。本当に嬉しかったです、ミーナがいてくれて。

それから二人で兵舎に帰る術を探しました。でもこれがなかなか見つからなくて・・・食料も尽き、ギリギリの状況下になって、漸く私達は帰る術を見つけました。

その術って言うのが、白い兎。

彼?は自身の事をラプラスの魔と名乗りました・・・名乗ったんです、喋ったんですよ兎が!本当に不思議な事ばかりです。

ちなみにこの兎、私は最初、狩って食べるつもりでした・・・結局は逃げられましたが。

そうそうこの兎、実はとんでもなく根性悪いです。ミーナ曰く、性悪ウサギです。

この性悪ウサギ曰く、私達が迷いこんだあの灰色の世界は、零の世界?らしいです。

何か兎のクセに小難しい事をペラペラと喋ってましたねえ、そういえば。

言葉の意味がよく解らなかったのは、きっとウサギ語だったからだと思います。

それでもミーナがウサギ語を翻訳してくれて、私達は元の世界に帰る事になったんですけど・・・

ここで性悪ウサギの本領発揮!帰りたかったら暇潰しに付き合えと抜かしやがりました。

ミーナと二人で削いでやろうとしましたが、ここでもまた小難しいウサギ語を連発され、ラプラスの魔の協力がなければ元の世界に帰る術も無いらしく・・・

結果的に私達は、性悪ウサギの暇潰しに付き合わざるを得なくなりました。

ラプラスの魔の暇潰しは、私達が帰る術に直結していました。

私達二人の前に示された8つの扉。その一つだけが私達のいた世界に繋がっていて、残りは全くの別世界に繋がってるそうです。

アタリの扉を開けばそこでお仕舞い。ハズレの扉を開いたら、見知らぬ世界で罰ゲーム・・・

その罰ゲームは、ラプラスの魔が送り込んでくる巨人10体を倒せって事なんですけど・・・たった二人で巨人10体も倒せるワケあるかゴラッ!!

・・・ってゴネたら現地人の協力可って事になりました。

で、前回くぐった扉の先は、言わば剣と魔法の世界。

ミーナと二人で死にそうな目に遭ったり、ミーナが大怪我したり、ミーナが黒い剣士に一目惚れしたり、化物に襲われたミーナの貞操が危うくなったり、惚れた弱味で黒い剣士の為にミーナがまた死にそうになったり・・・

ダイハード・ミーナを地で行った挙げ句、何とか罰ゲームをこなして、現在二回目のチャレンジと相成ったわけです。

靄なのか煙なのか霧なのか、よく分からない霞がかったトンネルが、漸く終わりを迎えました。

サシャ「やっとトンネルを抜けますねぇ」

ミーナ「あ~、やっと霧とおさらば出来るわ・・・」

色々あって正直、私達は二人とも霧に対して良い印象が持てなくなってる今日この頃です。

狭いトンネルの行き着く先は、出口を覆う様に、白い光がまるでカーテンみたいに掛かっています。

私とミーナは繋いだ手にお互い力を込めると、意を決して足を踏み出しました。

サシャ「・・・」

ミーナ「・・・」

白い光のカーテンを抜けた先は・・・ある意味で私の良く知る場所。

腐葉土の湿った臭い、苔の香り、枝葉の擦れる音、野鳥の鳴き声。そこは深い深い、森の中でした。

ミーナ「森の中、か・・・サシャはどう思う?」

サシャ「う~ん・・・アタリかハズレか、まだ何とも」

ミーナ「ま、そりゃそうだね」

私の返事に、ミーナが嘆息混じりで苦笑を洩らした。

ミーナ「でもまあ森の中だし、またサシャには色々と頼らせてもらうよ」

サシャ「ええ、まあ・・・」

普段なら即座に、狩猟民族ですから!と大見得を切れるのに、何故だか今に限ってはその言葉がポンと出てこなかった。

・・・何だろう?何かこの感じ・・・?

サシャ「・・・まあ、任せてください」

サシャ「見た感じ日の入りまでもう少し時間がありそうですから、取り敢えずこの森を抜けましょう」

サシャ「あの扉がアタリかハズレか、森を抜けない事には判断がつきませんから」

ミーナ「おっけ!じゃあ移動しよっか」

サシャ「ハイ!行きましょう!」

私が元気良く声をかけると、ミーナが笑顔で応える。

妙な世界に紛れ込んで以来、私達は運命共同体と言える存在。強い絆で結ばれた、お互い無くてはならない存在になっています。

私的には既に義理の姉妹と言っても過言ではないし、ミーナも多分そんな感じのはず・・・だと思う。

どっちが姉で、どっちが妹か分からないけど、頼りにされたからには不肖サシャ・ブラウス、全力で期待に応えて見せましょう!

私はミーナに満面の笑みを返した後、護身の為にブレードを引き抜き、意気揚々と歩き始めた。

【不思議の国のサシャ  ~帰らずの森編~】



インド古代叙事詩「ラーマーヤナ」より


その昔・・・国を追われ、この森で生活していた英雄ラーマとその最愛の妻、シータがいました。

しかし、それが魔王ラーヴァナに見つかり・・・

ラーマが目を離した隙に、シータだけが連れ去られてしまったのです。

ラーマは嘆き悲しみました・・・

そしてその事を彼に知らせようともしなかった、森の全ての精霊たちにラーマは言いました。


『この森の全てよ・・・呪われてしまえッ!!』

出発した私達は、進路を北にとる事に決めました。

理由は、この鬱蒼とした森を闇雲に歩き回っても迷うだけなので、進路となる目印が欲しかったからです。

陽の光があまり射し込まない森の中でも、苔は北側に密集して生えますからね。

大きめの岩や大木に生える苔の量を目安に、一路北を目指します。

その上、私には渡り鳥並みの方向感覚が備わっていて、ちょっとした目安があれば後は迷う事なく真っ直ぐに進めるのが私の密かな自慢です。

なので、今まで一度も森の中で迷った事なんて無かったんですが・・・

サシャ「あ、あれぇ・・・?」

ミーナ「どうしたの?」

サシャ「それが・・・すいません、また知らない内に西に向かってたみたいです」

目の前にある大岩の右側には、びっしりと苔が生えている。コレはどう見ても自分たちが西に向かって歩いている証拠だわ。

ミーナ「いいよいいよ、こうやって気付いたワケだしさ」

サシャ「すいません、何度も間違えちゃって・・・」

そう、問題なのは私が何度も方向を間違えてる事なんです。

しかも一度や二度じゃなく、この二時間の間に両手では足りないくらい繰り返し間違えちゃってる・・・

まるで吸い寄せられる様に西へ西へと、気が付くと歩いていました。

ミーナ「仕方ないよ、だいぶ陽も落ちてきたし。それに・・・風景が変わんないせいか、同じトコぐるぐる廻ってる感じって言うか・・・」

ミーナ「何か時々、変な感じになるからねぇ、この森」

サシャ「ミーナもそう感じますか!?」

実の所、出発前から何となく違和感がありました。

はっきりコレだ!っと言える原因こそ解りませんでしたけど、漠然と嫌な感じがしたんです。

歩いている途中も違和感を感じる瞬間があったし・・・

もしかすると、あの違和感の度に方向感覚がズレてた・・・のかな?

眉間にシワを寄せて考え込む私を、ミーナがじっと見つめてきます。

次の瞬間、グルルルルルッ!っと大きな唸り声が響きました。

ミーナ「」

サシャ「・・・ミーナ、お腹空いたんですか?」

ミーナ「アンタよアンタ!」

ミーナ「真剣な表情で、どんだけおっきいお腹の音鳴らしてんのよ!」

ミーナ「サシャのお腹の中、絶対に得たいの知れない生き物が棲んでるでしょ‼」

サシャ「・・・だから私は人一倍お腹が減るんです」

ミーナ「・・・そっかぁ・・・だからかぁ」

ミーナは呆れた様にそう言うと、背負っていた装具を肩掛けにしました。

因みに私達の装具の中身は、ラプラスの魔の塒から調達した水と食料でパツンパツンです。

ミーナ「陽が落ちてからの移動は危ないでしょ?」

ミーナ「今日はもう寝床の確保をして、ちょっと早いけど夕食にしよっか?」

ミーナ「地面に穴掘って、そこで枯れ木燃やしてさぁ・・・」

ミーナ「こんがり炙ったハムをパンに挟んで・・ってヨダレを拭きなさいヨダレを」

サシャ「はっ、はひっ!」

我知らずタラタラと流れ始めた涎を慌てて袖口で拭き取り、私は急いで周囲を見渡しました。

サシャ「・・・!ミーナあそこっ、あそこで食べましょう!」

ミーナ「そんな慌てなくても・・・」

サシャ「善は急げですッ!!」

ミーナ「善・・・か?私ら今、迷ってんじゃないコレ?」

サシャ「食事はいつ如何なる時も圧倒的な善!絶対正義デスヨッ!!」

私はミーナの片手をグイグイ引っ張りながら、目星をつけた場所に移動を始めました。

サシャ「それに善とお膳って字も同じ様なもんやし!」

ミーナ「それ意味チガウ」

サシャ「パァァァン!ハムゥゥゥゥゥゥッ!!」

ミーナ「分かったから落ち着けっつーの!」

椅子代わりにはなるだろう倒れた朽ち木の元に駆け寄った私は、食料がパンパンに詰まった装具を地面に置くと、バリバリと地面を掘り始めました。

ミーナ「ったくもう・・・じゃあ私、枯れ木集めるわ」

サシャ「お願いします!穴を掘り終わったら私も手伝いますから、多目に集めましょう」

焚き火の準備を終えると、次いで寝床用の枯れ葉を二人がかりで集め、それも終るといよいよ夕食に取りかかりました。

お互い装具からそれぞれパンやハムを取り出し、ナイフで適当な大きさに切り分け、事前にナイフで削った枝にハムを刺し、焦げ付かないよう焚き火で炙り始めます。

暫くしてハムからチリチリと肉汁?や脂肪分が溢れ出してきました。

私はもう、お肉から目が離せない状態です。

ミーナ「あ~これマジで美味しそうだわ・・・」

サシャ「・・・」

ミーナ「あ、そう言えば食料調達して貰った立場でナンだけど・・・私の装具の食料、パンやお肉ばっかりで野菜っ気がまるで無いんだけど?」

サシャ「・・・リンゴが幾つか入ってるハズです」

ミーナ「リンゴは野菜に入りますか?」

サシャ「この世界がアタリであれハズレであれ、食料は数日分あれば十分なハズです」

サシャ「数日野菜を食べなくても、体を壊したりはしませんよ」

サシャ「一日一個のリンゴで問題無しです」

ミーナ「リンゴは・・・三つか。て事はコレ、三日分の食料!?」

サシャ「それが何か?」

ミーナ「私、一週間分かと思ったよ・・・」

サシャ「三日分ですが、何か?」

どう見ても三日分の食料しか詰めてないのに、ミーナってば何を言ってるんでしょうか?

ミーナ「・・・うん、もうそれでいいや」

サシャ「それよりミーナの意見を聞きたいんですけど・・・」

ミーナ「何?明日の事?あ、それとも夜中の焚き火の番かな?」

サシャ「いえ、この腸詰めウインナーは幾つくらい火で炙ったら良いですかね?」

ミーナ「・・・うん、好きなだけ焼いたらいいよ」

サシャ「じゃあ・・・5・・・いや7やな」

連なったウインナーの両端に枝を刺して、ブラリとぶら下がった7本のウインナーを火にかざします。

ミーナが『全部かよ』と、ボソリと呟いたけど気にしない気にしない。

サシャ「ミーナ、食べ切れない食材があったら言って下さい。私が責任を取って処理しますから」

ミーナ「・・・この世界がハズレで、尚且つ性悪ウサギの塒に無事に帰れたら渡すわ」

性悪ウサギの塒に帰ったら、か・・・

この世界がハズレだった場合、罰ゲームをクリアしてまたラプラスの魔の塒・・・零の世界に戻り、再度八つの扉から私達のいた世界を目指さないといけません。

それまで数日かぁ・・・

サシャ「・・・何ならミーナの荷物も私が背負いますよ?」

ミーナ「ああ・・・気にしないでいいよ、私の事は」

ミーナ「それよりハムが良い具合だよ?私の事は取り敢えず忘れといて、とっとと食べよっ?」

サシャ「待ってました!」

ミーナに促された私は、さっそく炙ったハムを横に切り分けた丸パンに挟んだ。

肉厚のハムと丸パンに、思い切りカブリつく・・・

適度な塩分と胡椒の効いたハムは、火で炙った事で香ばしさがより際立ってます。

あまりの美味しさに、私は思わず足をバタつかせてしまいました。

サシャ「ん~~ッ!!夢のような美味しさです!」

ミーナ「だねっ!」

訓練兵の私達に支給される食料は、ハッキリ言えば粗食の部類です。今食べている上等なハムとか、まず口にする事なんて出来ません。

しかもこんな分厚く切ったハムなんて・・・ハムなんて・・・

何かもう感動しすぎて、コニーに見せびらかしてやりたいくらいやわ!

この食料の点にかけては性悪ウサ、いやラプラスの魔様々に感謝致しておりますです、ハイ!

その後、ウインナー7本とパン二つを胃に収めた私は、腹ごなしに枯れ木を集める事にしました。

今夜は一晩中火を絶やさないつもりだから、枯れ木は幾ら集めても多いなんて事はありません。

人間もそうだけど、大抵の動物は火を恐れます。夜の森だし、この森にどんな動物が棲んでるか分からないから、今夜は火を絶やさないのが正解でしょう。

両手に枝を抱え、火の番をしているミーナの元に帰っていると、いい加減暗くなった足下に不安を感じます。

この森は只でさえ薄暗かったから、太陽が完全に沈んだら本当に真っ暗になるだろうなぁ・・・

そう考えた時、遠くで何か声がした様な気がしました。

サシャ「ん?・・・・・・遠吠えかな?」

山犬?狼?・・・にしては遠吠えが低かったような・・・

少し気にはなったけど、かなり距離はある気がする。

ミーナの元に行って、火を絶やさなければ近付いては来ないだろう。

そう考えた私は、転ばない様に足下に注意を払いながらミーナの元に急ぎました。

ミーナ「お帰り~っ」

サシャ「ただいまです」

サシャ「そうだミーナ。この森、山犬か狼がいるかも知れませんね。さっき遠吠えが聞こえましたから」

ミーナ「ホントに?やだなぁ・・・」

サシャ「火を絶やさなければ近くには寄って来ないから、問題ありませんよ」

あからさまに嫌そうな顔を浮かべるミーナに私がそう答えると、彼女は安心した様に笑顔を浮かべました。

ミーナ「いやぁ、本当にサシャが一緒で良かったわ」

ミーナ「普段の訓練の五割増しで頼りになるもん、森の中だと」

サシャ「もっと誉めてくれても良いんですよ?」

ミーナ「サシャ様々です、森の中だと」

サシャ「森の中限定ですか・・・」

ミーナ「同期で一番罰則を受けてるサシャを、森の中以外でどう誉めろってのよ?」

サシャ「私、黙ってるか寝てる時は美人だって評判ですよ?」

ミーナ「それ、誉められてないから・・・」

サシャ「やっ!だって美人って評価は明らかに誉め言葉でしょ?」

ミーナ「私の知る限り、サシャは残念な美人って評価が一般的だよ」

サシャ「そんなっ!だって私、スタイルだって同期の中じゃ良い方じゃないですか?」

サシャ「コニーだって以前、顔とスタイルだけならミーナより抜群に上だって言ってました!」

ミーナ「張っ倒すわよ?」

サシャ「全く、コニーは失礼な奴です!」

ミーナ「アンタも十分失礼だってーの!」

パチパチと弾ける焚き火の音を聞きながら、ほのぼのとした時が過ぎて行きました。

その後とりとめの無いお喋りや、焚き火の番の順番、この世界がハズレだった場合、襲って来るであろう10体の巨人の対策を話し込んでいると、また何処からともなくさっき耳にした遠吠えが聞こえてきました。

山犬とかの遠吠えなら気にもしないんですが・・・これは・・・

サシャ「・・・ミーナ、今の聞こえましたか?」

ミーナ「えっ?何が?」

サシャ「さっき遠吠えを聞いたって、私言ったじゃないですか」

サシャ「多分、それと同じヤツだと思うんですけど・・・」

ミーナ「ああ、山犬だか狼だか言ってたヤツ?」

ミーナ「でもそれ、火を絶やさなかったら大丈夫だって言ってなかった?」

サシャ「ええ、犬とかの類いなら・・・でも今のは」

山犬や狼なら確かに火を焚いていればいい。それに超硬質のブレードだって私達にはある。

仮に山犬の類いに出くわしても、火のついた薪とブレードを両手に持っていれば、恐らく無傷で撃退できるはず・・・犬であれば。

けどさっきの声は、犬のそれとは違った気がした。山犬よりむしろ・・・

サシャ「熊に近かったような・・・」

ミーナ「嘘ッ!!ちょ、ヤメてよ本当に?」

私はミーナの質問を片手で制して、口の前に人差し指を押し当てて見せると、目を瞑り耳をすませました。

集中して聴覚に神経を集中させます。この森の静けさなら、本気でかかれば山犬の遠吠えと熊の唸り声くらいは聞き分けられる自信があります!

サシャ「・・・」

ミーナ「・・・」

サシャ「・・・」

・・・・・・オオオオオ・・・オオオオ・・・オオオ・・・

サシャ「!?」

聞こえた!けど・・・コレは?

・・・オオオオ・・・ヴオオ、オオオ!

サシャ「??」

ミーナ「ッ!!私にも何か聞こえたよ!」

今度こそハッキリと聞こえました!

山犬や狼じゃない、それは断言できます。

どちらかと言えば熊に近い気はするけど、熊にしては・・・

・・オオ、オオオ!
        ・・ヴオオオ、オオオオオ・・・
    ・・オオオ、オオオ・・・
・ヴオオオ、オオオオオッ!!

熊にしては数が多い!それに近付いて来てるっ‼

サシャ「ミーナ、装具からランタンを出して下さい!」

サシャ「ランタンに火を灯して、兎に角ココから移動しましょう」

ミーナ「えっ?ええっ?」

サシャ「何かヤバイです!荷物をまとめて、急いで!」

ミーナ「分かった・・・けど、何?何がいるの?」

サシャ「分かりません・・・分からないからヤバイです」

枕代わりに出していた雨具を装具に押し込み、引っ張り出したランタンに火を灯すと、立ち上がった私達は装具を慌ただしく背負いました。

サシャ「声の質的には熊に近いんですけど・・・」


ヴ・オ・オ・オ・オ・オ・オッ・・・


ミーナ「」

サシャ「」

違うな・・・多分、熊じゃない。巨人でもないとは思うけど・・・

サシャ「と、兎に角そっと・・・静かにこの場を離れましょう」

サシャ「なるだけ音を立てん様にして下さいね?」

ミーナ「」

私の呼び掛けに、ミーナが無言でコクコクと頷いた。ちょっと表情が引き吊ってます。多分、私の顔も似たようなモノやろうけど。

私はもう一度、耳を澄ませた。今度は、なるだけ声がしない方向を探すために。

サシャ「・・・・・・うん、コッチ。行きましょうミーナ」

ミーナ「了解」

返事をしたミーナに頷き返すと、私は出来るだけ足音を立てない様にして移動を始めた。

抜き足、差し足・・・踏んだ枝がパキリと音を立てるだけでドキッと鼓動が高くなる。

背後の方からは例の唸り声が、私達の後を追う様に聞こえて来る・・・


ヴ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オッ・・・


抜き足・・・差し足・・・忍び足・・・抜き足・・差し足・・忍び足・・抜き足・差し足・忍び足・抜き足、差し足、忍び足、抜き足差し足忍び足抜き足差し足忍び足抜き足差し足忍び足

そ~っとした足の運びが徐々に徐々に早くなり、最後には小走り変わる・・・だって素でおっとろしいんやもの!

暫く小走りでいると、背後から声が上がった。

ミーナ「待って!待って!置いてかないでっ!」

ミーナの声で我に返った私は、立ち止まって振り返るとランタンを掲げた。

ミーナ「早いよサシャ。こんな暗がりの中じゃ転んじゃうよ、私」

サシャ「ご、ご免なさい」

自分の臆病さを恥じ入りながら、私はミーナに謝った。

サシャ「と、兎に角・・行きましょうか」

ミーナ「うん、そうだね」

ミーナの返事を聞いて、ランタンを掲げた私は先頭になって歩き始めました。

ミーナ「・・・寝る場所、どうしよう?」

サシャ「そうですね・・・一晩中歩きっぱなしってワケにもいきませんし」

サシャ「・・・でも・・・」

陽は完全に暮れてしまって、既に森の中は真っ暗闇。

只でさえ良くない状態なのに、この森は・・・何か・・・変だ。

むやみやたらと走り回り、今ドコに向かってるのかさえ分からないけど、確実に感じる事がある。

それは、悪寒。言い様の無い嫌な感じ。

さっきの唸り声だけが理由ってワケや無いけど、森の中に蠢く何かを私は感じ始めていた。

・・・それから、どれくらいの距離を歩いたんやろう?

時おり上がる例の唸り声と、得たいの知れない気配に怯えつつ、ブレードで藪を払いながら山の中をさ迷ってると・・・

不意に、フワッと微かな腐臭が鼻をついた。

動物の死骸かな?肉の腐った、特有の臭い・・・意図せず私の眉が寄る。

あまり気にしない様にして足を進めていると、徐々に腐敗臭の臭いが強くなってきました。

続きは明日

ミーナ「ん?何この臭い?」

サシャ「近くに死骸でもあるみたいですねぇ」

ミーナに返事をした辺りで、ちょうど藪を抜けたらしい。

藪を抜けた先でランタンを掲げると、どうやらこの辺は杉の木が多く生えているらしく、真っ直ぐにそびえる木が間隔を開けて生い茂っていた。

藪の中でマムシとか踏みでもしたらどうしようと思ってたから、無事に藪を抜けた事に内心ホッと胸を撫で下ろす。

ブレードを鞘に納めて、少し気を緩めながら歩き出そうとした時、ランタンの照らし出す明かりの境界線に、何かがチラッと見えた気がした。

サシャ「ん?」

ミーナ「どうしたの?」

サシャ「いえ、今・・・」

ランタンを持ち上げて、明かりの範囲を広げてみる・・・地面に、大きめのブーツと迷彩柄のズボン。人らしき足が、地面に横たわっているのが見えた。

サシャ「・・人が」

ミーナ「えっ」

物凄く嫌な予感、背筋が急速に冷えていくのを感じながら、ランタンを高く掲げたまま数歩足を踏み出す・・・そこには、三人の人がいた。

一人は仰向けに横たわったままだった。そして男性らしき二人の人がお腹の辺りと頭ら辺で、ぎこちない動きで覆い被さったまま何かをしていた。

三人は、同じ様な迷彩服を着てた。

咄嗟に思い付いたのは、倒れたまま動く様子の見えない人を、残りの二人が治療でもしてる・・・だって三人とも血塗れやもん。

サシャ「・・・」

ミーナ「・・・」

ランタンの明かりに照らし出され、固唾を飲んで見守る私達に気が付いたのか、覆い被さる二人が緩慢な動きで膝立ちになり、私達に顔を向けた。

サシャ「」

ミーナ「」

白く濁った眼、削げ落ちでもしたのか無くなっている鼻、半分無くなっている唇と頬、血がこびり付いている齒、生気が無いって言うより明らかに腐りかけた顔の皮膚・・・

にちゃぁ、と音がする様に口を大きく開くと・・・

『ヴ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オッ!!』

元は人だったと思えるその化け物は、森中で耳にした遠吠えを上げた。

サシャ「ひぎゃあああああああああっ!」

ミーナ「キャアアアアアアアアアアッ!」

ミーナと二人ほぼ同時に絶叫を上げて、私達は走り出した。

私はもう半泣き!何あれ何アレ!?巨人?えっコレ罰ゲーム!?今回これが罰ゲーム!?

えっでもアレ巨人やないやんな?巨人チガウやん何アレ!?

ワケわからん状態で暗い森の中を走っとったら、何かに思いっきりぶつかって尻餅をついた。

ミーナ「サシャ!」

涙声のミーナが背後から駆け寄ってきて、尻餅をついたままの私を助け起こしてくれた。

サシャ「ありがどう、ミーナ!」

ミーナ「おいでがないでよう!」

サシャ「ごべんなざいぃぃ!」

最早、私もミーナもマジ泣きに近い。

起き上がった私は手足を振って、怪我をしていないか素早く確かめた。

・・幸い足も挫いてないし、酷い痛みはドコにも感じない。

木か何かにぶつかった割にはラッキーや、はよう逃げんと!

ミーナの手を引っ掴み、コレばっかりはコケても離さんかったランタンを掲げていざ走り出そう・・・とした時、何かが私の足首を掴んだ。

・・・そう言えば私、何にぶつかったん?

また泣き出しそうになりながら、視線を足下に落とす・・・

ソコには、腐ってパンパンに膨らんだ手が私の左足首を掴み、這い寄りながら大口を開けて噛みつこうとしている人らしき頭があった。

サシャ「あああああああああああああっ!」

絶叫を上げながら這い寄る頭を右足で思いっきり蹴り上げると、鈍い音を立ててその頭は闇の中に飛んでいった・・・

それやのに、足首を掴む手は離れんやんかっ!

サシャ「いやあああああああああああっ!」

全身に鳥肌を立てながら、踏んで蹴って踏んで蹴ってを繰り返して、漸く掴まれた足首の手を引き剥がす。

気が狂いそうになりながらもミーナの手を引いて走り出そうとしたら、グッ!とミーナから引き戻された。

サシャ「へっ?」

ミーナ「サシャ・・・周り・・・」

サシャ「えっ!?」

ランタンを掲げ周囲を窺うミーナに気付いて、私もランタンを持ち上げて周囲を窺う。

・・・ぐるりと化け物たちに囲まれてきてる。

ミーナ「・・どうしよう。ねえ、どうしたら・・・」

サシャ「そんな・・・」

そんなん私が教えて欲しい!

二人で寄り添いながらランタンを掲げ、ハツカネズミみたいにその場をくるくる回りながら、逃げ出せそうな方向を探す。

唸り声を上げながら両手を私達に突き出し、ぎこちない足取りでジワジワと近寄って来る化け物達を見ていると、呼吸をする事さえ忘れてしまう。

我慢の限界を超えて叫び出しそうになった時、脆くなっていたのか私に蹴られて頭を失っていた化け物が、足下からムクリと起き上がった。

サシャ「ッ!!」

持ち上げ始めた両手の内、右手は私に踏み砕かれてボロボロになってる。

もう片方の左手は何かを握ったまま、腕を真っ直ぐ私へと伸ばしてきた。

サシャ「へ!?」

ミーナ「サシャ!」

飛び出したミーナが、咄嗟に化け物の左手を払い除ける。その一瞬後に化け物の左手に持ってる物から、火線と同時に連続する破裂音が上がった。

パパパパパパパンッ!

乾いた様な連続音と、火線が収まった後に広がる火薬臭。

火線が延びた方向にいた化け物が、勢いに押される様に後ろ向きに倒れる・・・

これって・・・まさか

ミーナ「伏せてッ!!」

叫び声と同時に、私はミーナに押し倒された。

そのすぐ後で辺り一帯に一斉に鳴り響く、連続した銃声。一面に広がる硝煙の臭い。

バタリバタリと倒れる音・・・多分コレ、同士討ち?になった化け物やな。

にしても化け物のクセに銃持ってるんかや?しかもこんな連射式の?

相討ちとかクソマヌケやけど、コイツら銃で撃たれたぐらいで死ぬんか?

頭のうなっても動きよったのに?

ミーナ「逃げなきゃ・・・」

ミーナ「でも、どうやったら・・・」

私に覆い被さったミーナの呟きを聞いて、私はハッと我に返った。

んな呑気に考えてる場合やなかったわ!

それにランタンの火!こんなん的になってしまうやろ‼

散発的に上がる銃声に肝を冷やしながら、身を低くする様にして起き上がると、私は頭上に注意しながら周囲に目をやった。

火線・・・頭上を飛び交う銃弾はかなり散発的で、明後日の方向に弾が飛んでってる。

どうやら同士討ちになった化け物が、倒れたままロクに私達を狙いもせずに銃を撃ってるかららしい。

正直バカで助かる。いっそ、そのままでいるか弾切れになればええのに・・・

でも倒れた化け物達が起き上がってくれば、今度こそ逃げ道が無くなる。

走って逃げようにも、この暗闇じゃ何処に化け物が居るか分からないし、杉の木も邪魔・・杉の木!

サシャ「ミーナ、今がチャンスです。立体機動で逃げましょう!」

ミーナ「こんな真っ暗な中で!?」

サシャ「確かに危険です。下手すれば死ぬかも知れません」

サシャ「けど、このままじゃ銃で撃たれて死にます。いえ、撃たれて死ぬならまだマシかも知れません・・・」

サシャ「あの化け物達に、生きたまま喰われて死ぬよりは」

ミーナ「・・・」

サシャ「私は死ぬ覚悟で、暗闇の中を立体機動で逃げる方が断然いいです!」

ミーナ「・・・だね。覚悟決めたよ」

頷きあった私達は唸り声が響く中、即座に行動に移った。

サシャ「先に私がランタンを投げます。ランタンの明かりに照らし出された杉の木に、アンカーを射ち出して飛びますよ!」

ミーナ「・・外れなきゃいいけど」

サシャ「もう躊躇してる暇はありません!」

サシャ「ミーナのランタンは、一発目の移動中に投げてください」

ミーナ「もし失敗したらごめんね?」

ミーナの不安な気持ちは、分からないでもない。

でも、周囲で倒れていた化け物達が起き上がって来てるのが分かる。

もう本当に時間が無い!

サシャ「大丈夫ですって!開き直って行きますよッ!!」

私は叫び終ると同時に立ち上がり、その勢いも借りてランタンを思い切り放り投げた。

弧を描いて飛んでいったランタンが、周囲の杉の木を照らし出した。

サシャ「今ッ!!」

私は掛け声と同時に、左腰のアンカーを射ち出した。

パシュ!という発射音の後、射ち出したアンカーが杉の木に刺さった感触を腰に伝える。

その瞬間にガスを噴出させながら、一気にワイヤーを巻き上げた。

巻き上がる左腰のワイヤー、その対角線になる右足に強烈なGがかかる。

飛び上がった私には、案の定、化け物達が容赦なく銃弾を撃ち込んできた。

背後から前方に向かって、銃弾の突き抜けていく音が私の背筋を凍らせる。

でも、そっちに気を取られてる場合やない!

このまま真っ直ぐに飛んだら、ワイヤーの刺さった杉の木にぶつかる。急激な浮遊感の中、私は右腰のガスを吹かして、杉の木の左側をすり抜ける行動を取った。

杉と杉の生えている間隔を考えると、大きな回避行動は取れない。せいぜい1メートル程度を山勘で抜ける・・・良かったぶつからない!

次はミーナが投げるランタンを待つ・・・そうだミーナは!?

そう考えた矢先に、右後方から前に向かってランタンが飛んでいった。

良かった!ミーナも付いてきてるっ!

咄嗟に思い付くと同時に、振り子の最大幅直前で刺さっていた左のアンカーを切り戻し、暗闇の中、脳裏に焼き付けた杉の木に向かって右腰のアンカーを射出した。

サシャ「当たれええええええええっ!」

僅かな自由飛翔の後、右腰にアンカーの刺さった感触が来た!!

今度は杉の木の右側を抜ける様に、山勘で左腰のガスを吹か・・あっ、この後!?

これ以降の事を考えてなかったし、ミーナと相談してる暇も無かった。でも立体機動中に躊躇してる暇なんか無い・・ええい飛んだらぁ!

右腰のアンカーを切り戻し、自由飛翔中に左腰のアンカーを射ち出す。コレばかりは本当に山勘の当てずっぽう!頼むから当たるか巻き付くかしてっ!!

サシャ「当たれええええええええっ!」

冷や汗をかきながら叫んでると、左腰にアンカーの刺さった感触が来たぁ!

サシャ「よっしゃあああああああっ!」

物凄い安堵感を感じながら右のアンカーを巻き戻していると、ちょうど振り子の半分を過ぎた辺り、つまり低い位置を移動中・・・

どうやら背の低い木が群生していたらしく、私は生い茂る枝の中に突っ込んでしまったらしい。

何本もの枝を身体中でヘシ折りながら立体機動の勢いを殺され、ワイヤーが枝と私自身に絡まり付いた事で、私の身体は宙吊り状態で漸くストップした。

サシャ「はぐ・・・ぐふ・・・」

身体中が痛い・・・頭を打ったのかクラクラする・・・何より、くの字になるほど枝でお腹を打ったせいか、吐き気が止まらない。

揉んどり打ちながら、やっとの思いで絡まっていた右のアンカーを全て巻き戻し、左のワイヤーを少しずつ伸ばしながら地面に降りていく。

漸く地面に両足がつくと、私は胡座をかいて座り込み、背負っていた装具を地面に下ろした。

右手で身体中をサスリながら、引き抜いた左のアンカーを全て巻き戻す。

ココは安全なんやろうか?あの化け物、追って来てないんかな?

鈍く痛むお腹をさすりながら膝立ちになった時、私は漸く大切な仲間の事に思い至った。

サシャ「ミーナ・・・?」

サシャ「ミーナッ!」

サシャ「ミーナーーーーーーッ!!」

・・・・・・返事が無い!はぐれた!?

痛む身体を無視する様にして立ち上がり、周囲を見渡す・・・

ダメ、暗くてよう分からん‼こうなるとランタンを投げたんがイタイ。

マッチの灯り程度じゃどうにもならんし・・・

それよりミーナ、二発目のアンカーは刺さったんやろうか・・・もし外れてたりしたら・・・・・・。

次々に悪い考えが頭に浮かんでくる。最悪の事態を思い浮かべる前に、私は考える事を止めて、ミーナを探し出す事にした。

装具を片手で掴み、歩き出そうとした足がフラつく。ダメやわコレ、まだ膝が笑ってる・・・

知覚できないダメージが有るのか、それとも急な出来事に体が怯えているのか、私は自分の身体を思う様に動かす事が出来なかった。

それでも足を引き摺りながら、飛んできた方向に向かって引き返す。

恐怖心が無いわけやない。むしろ、あんな化け物がいる方へ引き返すなんて、怖くて怖くて堪らない。

でも、ミーナを置き去りになんて出来ない!出来っこない!!

だって私ら二人で一緒に、絶対もとの世界に帰るって約束したんやから!

ジワジワ涙の溢れ出す目を擦りながら歩き出すと、突然横からドーンと押し倒された。

サシャ「ミー」

ミーナの名前を呼ぼうとして、私の顔に生臭い腐臭の息がかかった。

全身が強ばり、反射的に突き放そうとする私を、ソレは唸り声を上げながら押さえ付けてきた。

『ヴ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オッ!!』

多分、私の顔の間近で叫んでるんだろう・・・鼻が曲がる様な腐敗臭がする。

こんなんに!こんな所で!喰い殺されて堪るかぁ!

サシャ「離せっ!離さんかいっ!!」

必死で化け物の首辺りを掴み、全力で押し返す。

化け物の喉を掴んでる右手がやけに冷たく、ヌメリを感じる。

腐った皮膚はズルリとズリ剥け、指先が容易く腐った首筋に沈み込んでいった。

それなのにこの化け物は、やたらと力がある。

以前、格闘の訓練で一度だけライナーと組んで貰った事があったけど、暴漢役をやる私を押さえ付けるライナーが、ちょうどこの位の力強さだった。

つまり余程無理をしないと、この化け物からは逃れられそうにない。

だからといって、諦めてコイツの胃袋に収まるなんて真っ平や!

全力で抵抗する私の目前で、食い付く事を待ちきれない化け物の歯が、ガチガチと鳴る。

必死で抵抗はしてるけど、如何せん体勢が悪すぎる!

徐々に近寄って来る化け物の口から、顔を背けて必死で耐えてると・・・

ボキャ!と鈍い音が上がって、同時に何かが私達の頭上を通りすぎた。

直後、私を押さえつける化け物の力が極端に落ちる。

サシャ「だあああああっ!」

力を振り絞って横に振り倒し、寝転んだまま蹴り飛ばして、転がりながら距離をとる。

尻餅をついた状態から立ち上がろうとしたら、今度は背後から右肩を掴まれた。

サシャ「わあッ!!」

まだ他にもいやがったチクショウ!

咄嗟に掴まれた肩の反対方向、左側に飛びながら右手で左腰のブレードを掴み、鞘から引き抜く勢いをそのままにして、身体を反転させながら斬りつけた。

咄嗟の反応にしては上出来だし、ブレードを振るスピードと互いの距離を考えたら、まず避けられるハズはない!

なのに私の手に斬撃の手応えは伝わって来ず、どうやら空振りに終わった私は、勢い余って地面を転げ回った。

???「あっぶね」

避けられたんか?今の距離で!?

サシャ「このッ!!」

即座に体勢を立て直した私は、今度は両手にブレードを持って突っ込んだ。

また力勝負になったら不利になる、一気に片付けてミーナを助けに行くんや‼

???「チッ!」

闇夜にはもう目も慣れた!少なくとも人型の輪郭なら分かる‼

捉えた!そう思って振り抜いたブレードは、また空を切った。

目の前にいたヤツが、突然視界から消えた。同時におぞけが背中を走る。

身を投げ出すよう前に飛び込むのと、銃声が鳴ったのは同時だった。

そうだ、コイツら銃を持ってるんだった。

???「避けやがっただと!」

サシャ「こんのおっ!」

声で方向を判断し、全速で変則的な動きを取りつつ距離を詰め、左手のブレードを投げつける。

???「チッ」

今のが避けられるのは承知の上!勝負は避けた方向の運頼み!

サシャ「コッチや!!」

???「喰らえ!」

読みはドンピシャ!後は当てたモン勝ちじゃ!!

振り上げたブレードに力を入れた刹那、鳩尾に物凄い打撃を食らって、私の両足が地面から一瞬離れた。

私は膝から地面に倒れ込んで、地面の上をのた打ちながら、もがき苦しむ・・・

息が・・・出来ない・・・

やっとの思いで少量の空気を肺に吸い込んだ時、私の顔にシューっと何かが吹き付けられた。

???「・・・チッ、邪魔してんじゃねえよ」

??「バカ、殺してどうすんだ?それに今、お前だって完全に間合いに入られてたじゃねえか」

???「間合いに入られた所で、この俺がどうこうされるかよ」

??「ハイハイ。純粋にスピードとパワーならお前が世界一だろうよ」

???「そうそう、良くわかってるねえ。素直になってきたなぁ、お前も」

??「つってもまあ、朧と戦っても勝てねーだろうけどな」

???「・・・オメーが人の事を言えんのかよ?」

??「朧は俺の師匠だぜ?その内、追い抜いてやるよ」

???「へっ、言ってろ!」

???「・・つーか、ソイツどうする気だ?」

もう一人・・おったんか・・コイツら・・・何モンや・・あ、あれ?・・・だんだん意識が・・・・・・

??「アー・・のベー・・・ンプに・・・行く」

??「どうや・・・帰らずの森で、唯一・・・・りらしいからな」

???「フン。仕・・・か」

??「ああ。それじゃ・・・・・・・・・・・・」

・・・・ああ・・・・・・もう・・・

・・・・・ミーナ・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・

続きは明日の深夜

気が付くと、私は森の中に放置されたままでした。

森の中で重い身体を引き摺る様にして立ち上がり、周囲に目を凝らします。

夜明けが近いのか、ぼんやりと辺りは明るくなっていて、地形も理解する事が出来ました。

そこで私は初めて、自分の立体機動一式、ブレードまでもが奪われている事に気が付きました。

・・・不覚!一生の不覚っ!食料の詰まった装具まで盗られてるやんか!

泣くほど悔しい・・・けどこうなったら余計に、一刻も早くミーナと合流しないといけません。

胃袋と身の安全の為にも、私は行動を開始しました。

時おり聞こえる化け物の唸り声に怯えながら、私はミーナの名前を叫びつつ、森の中を足早に移動します。

暫く森をさ迷っていると、化け物の存在やミーナを探す事に気を取られていたせいか、足下の注意が散漫になっていた私は、木の根に足を取られてスッ転んでしまいました。

・・大丈夫、大丈夫です。痛くないし恥ずかしくない!

景気良く立ち上がり泥を払い落としていると、すぐ目の前が崖になっている事に気が付きました。

・・・あっぶなぁ・・・

ちょっとヒヤリとした後で崖に近寄ってみると、崖の向こうにも森が広がっていました。

崖を挟んだ森と森の距離は、僅か10メートル前後。

あー、成る程。ちゃんと前を見てないと見落とすわ、この崖。

幅10メートルかぁ。立体機動があれば一っ飛びだけど、自力じゃちょっと・・・それにこの崖、やたらと底が深い。

底が深くて見えないなんて、どんだけ深いんやこれ?

試しに手近な拳大の石を拾い上げて、崖底を目掛けて放り投げてみました。

耳に手をあてて、耳を澄ませる・・・・・・・・・・・・・・石の落ちた音がちいともしない。

試しにもう一度、今度は更に一回り大きな石でチャレンジ。目を瞑り、両手を押し当てた耳に、全神経を集中させます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK、この崖を降りるのは諦めよう。

軽い溜め息を吐く私の耳に、唐突に聞き慣れた声が飛び込んで来た。

ミーナ「サシャ!」

サシャ「・・・ミーナッ!!」

反対側の崖に、はぐれてしまった親友の姿・・・

サシャ「ミーナ!ミーナッ!!良かったミーナ!無事やったんや‼」

思いのほか元気な様子で、笑顔と共に右手を大きく振るミーナ。

そんな彼女に、私は何度もジャンプしながら両手を大きく振って見せました。

サシャ「ミーナ!私、立体機動装置もブレードも無くしちゃって、そっちに飛べないんですよ!だからミーナがこっちに飛んでください!」

ミーナ「ちょ!何があったのよ!?」

サシャ「それが酷い目にあったんですよ!」

サシャ「食料の入った装具まで盗られちゃうし!」

ミーナ「げっ」

サシャ「ミーナの顔を見たら、安心してお腹が減ってきました!さあっ!早くこっちに飛んで来て下さい!!」

ミーナ「え、えぇ~・・・」

何だか顔色を悪くするミーナに、私は喜色満面の笑みを浮かべて手を振り続けました。

ミーナ「もう、仕方ないなぁ・・・」

溜め息を一つ吐いたミーナは、私の頭上やその周囲に目をやりました。立体機動をするには、それなりの木や岩、アンカーを固定させる目標物が必要ですからね。

周囲を見渡すミーナを上機嫌に待つ私。その私の笑顔が、一瞬で凍りつくのを自覚しました。

ミーナの背後にぞろりと蠢く人影。それが何なのかを正確に判断する前に、私は咄嗟に叫びました。

サシャ「飛んでッ!!ミーナ!早くッ!!」

ミーナ「へっ?」

サシャ「急いでッ!!早く飛んでッ!!ミーナ!」

ミーナ「何よ急に?」

サシャ「急いでミーナッ!!後ろッ!!早く飛んでッ!!」

ミーナ「うしキャッ!」

ミーナは後ろを振り返ろうとして、それより早く引き倒されました。

人肉を喰らう化け物が数体、倒されたミーナに折り重なるよう躍りかかります。

直ぐにミーナから、苦痛混じりの絶叫が上がりました。

ミーナ「痛いッ!!痛いッ!!止めてッ!!助けてえッ!!」

『ヴオオオオオッ』『ガフッヴォオオッ』『ヴォオオッ!!ガフッ!』

ミーナ「サシャ!だずげて、サシャぁぁ!!」

サシャ「ミーナッ!!ミーナァッ!!」

まるで砂糖に蟻が集る様にして、何体もの化け物が、倒されたミーナに喰らいついていきます。

ミーナ「いだい!いやっ!じにだぐない!」

サシャ「ミーナッ!!ミーナッ!!ミーナッ!!」

今すぐにもあの場に飛び込んで、化け物を蹴散らしてやりたい!ミーナを助けたいっ!!

なのにたった10メートルの距離が、この崖が、私を完全な無力の存在にしていました。

ミーナ「だずげて、サジャ!じにだぐない!サジャ!サジャ!サ」

私の名前を連呼していたミーナ。その声が、唐突に途切れました。

助けを求める様に突き上げられていたミーナの腕が、糸が切れたみたいに、化け物達の中に消え落ちて・・・

サシャ「ミッ!ミー・・・ナ?」

サシャ「・・・嘘やろ?だって、そんな・・・」

サシャ「嘘やん・・・こんなん・・・嘘・・・」

化け物達が集る場所から、邪魔な物がはじかれる様にして、黒い物が崖側にゴロリと転がり出て来ました。

ソレがミーナの頭だと理解が及ぶのに、数秒の時間が掛かりました。

苦しそうな、辛そうな、悔しそうな表情。その顔、頭部は4分の1程かじり取られています。

サシャ「ぁぁっぁあああアアアアアアッ!!」

私が絶叫を上げていると、一体の化け物がこちらへと顔を向け、転がっているミーナの頭に視線を向けました。

ぎこちない動作と緩慢な動きで這い寄り、ミーナの頭を持ち上げます。

噛み破られて穴の空いた側頭部から手を差し入れ、ミーナの脳を掻き出し、それを口へと運んだ瞬間、私は過去に記憶が無いくらいキレれた。

手近にあった拳大の石を拾い上げ、全力で投げつける。石は化け物の顔に当たって、化け物がバランスを崩してたたらを踏み、そのはずみで化け物はミーナの頭をとり落とした。

これ以上死者を冒涜するな!私の仲間を冒涜するな!私の親友を辱しめるなっ!!

サシャ「この死に損ないどもが!よぅもミーナを殺しよったな?私の友達を殺しよったなッ!!」

サシャ「殺したるッ!ぶっ殺したるッ!!一匹残らず駆逐したるッ!!」

私は助走をつける為に、30メートルほど後ろに走った。たった10メートルの距離が飛べないで、ミーナの仇が討てる筈がない。

それにたかが10メートル、今の私なら絶対に飛び越えて見せたる!

軽く屈伸運動をして足をほぐした私は、怒りに任せて弾ける様に駆け出した。

あそこに突っ込んだら、ミーナのブレードを使って滅多切りにしてやる!ミーナの弔い合戦や!

どんどんと崖の距離が迫ってくる。崖が目前に迫った時、不意にミーナの顔が思い出されて、不覚にも視界が涙で滲んだ。

サシャ「うわああああああああああああっ!」

私はスピードを落とさず、崖ギリギリで左足を踏みきった。

サシャ「ああああああああああああああッ!!」

・・・・・・

・・・・

・・

めちゃ短いけど今夜はココまでです。
約二年ぶりの続編なので、このssに需要があるのか甚だ疑問ですね。

・・・・

・・

サシャ「ぁぁああっ」

全身を叩く様な自分の激しい鼓動と、今まさに全力疾走したばかりの様な激しい呼吸。

強張った身体で目を見開き、見知らぬ天井の一点を暫く見つめた後で、私は全身の緊張を解きました。

寝汗が酷い・・・寝汗?夢やったんか?今のが?

・・・タチの悪い夢や。でも、ホントに夢で良かった。

サシャ「ふぅ」

溜め息を一つ吐いた私は、額に流れる汗を拭こうとして、思わず驚きの声を上げました。

サシャ「あれっ!」

右手が上がらない。いや、右手どころか左手も。それ以前に毛布の中の上半身が異常にガッチリと固定されてる事に、やっと私は気が付きました。

サシャ「なんじゃこら!?」

???「おはよう。目は覚めたみたいね?」

サシャ「いっ!?」

驚いて声のした方に顔を捻ると、ワリとすぐ近くで白衣の女の人が椅子に座っていました。

多分、この女の人が私に声を掛けたんだろうと思うけど、その女性は机の上に置いてある薄い箱状の物から視線を離そうとしません。

その女性は暫く机の上の何かを、カチャカチャ音を立てて指先で弄くり続け、私がいい加減失礼な人やなぁ・・と考え始めた頃、やっと体ごと私の方に向き直りました。

???「悪かったわね。キリの良い所までやりたかったから」

サシャ「はあ・・・」

???「さてと。こういった事は慣れてないから、まず何から話そうかしら・・」

???「そうねえ、先ずは自己紹介しましょう。私はマーガレットよ。貴女は?」

サシャ「・・・サシャです。サシャ・ブラウス」

マーガレット「サシャ?そう、素敵なお名前ね」

その女性はニコリと、如何にもって感じの知的な笑みを浮かべると、片手でまた机の上にある物を指先でカチャカチャと叩きました。

・・・正直、ワケが分かりません。って言うか、私に被せてある毛布の中がどうなってるのか気になって仕方ありません。

足は自由に動くみたいだけど、上半身がビクともしないんですけど?何コレ?

マーガレット「じゃあ次は」

サシャ「あのっ!ちょっ、ちょっと待ってください!」

マーガレット「・・・何かしら?」

サシャ「これ一体何なんですか?って言うか、ココは?いやそれより私、何か全然動けないんですけど?」

マーガレット「ん~・・・順に答えると、これは尋問。ココはアーカムのベースキャンプ。動けないのは拘束してるから。解って頂けた?」

サシャ「尋問?拘束?はあっ?意味が解りません!」

サシャ「さっさと解放して下さい!」

???「んなコト出来るか、バーカ」

私の正当な言い分に、誰かがカンに障る返事をしました。

声は私の足下の方向からします。私は首を持ち上げて足下の方向、ベッドから少し離れた壁際を見ました。

そこには壁に寄りかかり、長い金髪を一纏めにした若い男の人が立っていました。

ダボダボに大きいカーキ色のズボンを膝下まであるロングブーツに突っ込み、濃紺色のジャンパーを羽織った彼の肩には、かなり大きいライフル?みたいな銃を肩掛けにしています。

顔付きは少し幼さを残してる感じですが、かなりの美形。所謂ハンサム。この手のハンサムは、きっと母親に似たのでしょう。エレンなんかも母親似らしいですから。

???「良いからとっとと喋るもん喋っちまいな」

金髪ロン毛のハンサムさんは顔に似合わず毒舌な物言いをすると・・・

???「痛い目に遭ってからじゃあ色々と損するぜ?」

肩掛けにしていた大型銃を右手で掴み直し、銃口を私へと向けました。

痛い目って・・マジかや?つか本気なんか、このロン毛?

って言うか何で私、起き抜けでこんなピンチになってるんやろう?

困惑する私が唖然としていると、入り口らしきドアがスラッと横に開き、誰かが室内に入って来ました。

??「よう。もう目を覚ましたか?」

???「ああ、さっきな。さっそく尋問中だ」

??「・・って尋問に銃なんか使うなよ、この野蛮人が」

???「ああ?要領が良いって言え、このお人好しが」

??「お人好しの何が悪いってんだ、この野蛮人。ああ、そういや獣人だったなお前って」

???「・・表に出るか?この際、どっちが上か白黒はっきりつけてやろうじゃねえか」

??「上等だぜ」

マーガレット「ジャン、ユウ、二人ともいい加減にしなさい」

マーガレット「顔を会わせる度に喧嘩してたんじゃ周りが迷惑するわ」

うんざりした表情のマーガレットさんの言葉に、黒髪の男の子が眉をややひそめました。

革製っぽい黒いズボンに、こちらも膝下まであるロングブーツ。タイトな肌着っぽい黒服の上に、やたらと立体感のある厚いベストを着た男の子。見た感じ私との年の差は、あんまり無い感じがします。

あとこの子・・・もしかするとミカサと同じ東洋系ってやつ?顔付きもそうだけど、雰囲気が同じ様に感じられました。

ユウ「喧嘩するなって言うけどさあ・・」

ユウ「人手が足りないから本職じゃないってのは分かってるけど、マーガレット女史が一緒にいて、何でジャンのやってる事を止めないんだよ?」

マーガレット「止めようとした所でユウが入って来たのよ」

ユウ「やっぱしオメーが悪いんじゃねえか」

ジャン「何だとコラ?」

マーガレット「ストップ!仕事が進まないわ。帰らずの森の調査・封印もあるんだから、この件は早めに済ませましょう」

ジャン「・・・了解」

ユウ「こっちも了解だ」

どうやら話のケリは付いたみたいですが・・現状、私の立場は変わりません。

ただ三人の会話を聞いていて、黒髪の男の子が幾らか私に好意的・友好的であるのは分かりました。

そこに活路、希望を見いだした私は、黒髪の男の子に話し掛ける事にしました。

サシャ「正直ワケが分からない状態ですけど、私に聞きたい事があるなら何でも答えます」

サシャ「でもその前に、私の質問に二つだけ答えて下さい」

ジャン「お前、自分の立場解ってんのか?」

サシャ「ロン毛には聞いてません」

ユウ「ぶっ!」

ジャン「・・コイツ」

私の即答に黒髪の男の子が吹き出し、ロン毛が目を吊り上げました。

ジャン「度胸は一人前だな?それとも馬鹿なのか?」

マーガレット「ジャン、任務優先よ」

ジャン「・・・了解っ!」

ユウ「クククッ・・・面白いな、アンタ。気に入ったよ」

黒髪の男の子は楽しそうに笑うと、手近な椅子を片手に持ち上げ、私の傍へと近寄って来ました。

ユウ「確かに状況把握は大事だ。アンタが正直に答えてくれるってんなら、先に質問に答えてやるよ」

サシャ「ありがとう御座います!」

ユウ「ふーん、素直で良い返事するじゃん」

ユウ「で、質問は二つでいいのか?」

サシャ「はい、それだけで十分です」

サシャ「ただその前に・・・この状態ですけど、何とかなりませんか?寝汗が酷かったんでアチコチ痒いし、私まだ顔も洗って無いんですけど?」

ユウ「・・・ま、そうだよな。年頃の女の子相手に、こりゃねえか」

ユウ「・・・いいぜ。腹わって話すなら、お互いの信頼関係は大事だ」

ユウ「マーガレット女史、拘束帯と拘束衣の鍵は?」

ジャン「おい、何するつもりだ御神苗?」

マーガレット「・・・」

ユウ「この娘の拘束衣を外したからって、この部屋にはスプリガンが二人。俺とジャンがいて、この娘に何か出来ると思うか?」

ジャン「・・・責任はお前が取れよ。何かあっても、俺は何もしねーからな」

マーガレット「まあ大丈夫でしょう。はい、コレが鍵よ」

ユウ「サンキュー!あと洗面器に水とタオルをヨロシク」

マーガレット「持って来させるわ。洗顔クリームと歯ブラシもセットでね」

ジャン「ハァ・・二人ともお優しいこった」

その後、ユウと呼ばれる男の子の手で、すぐに拘束帯と拘束衣が外されました。

暫くベッドに座ったままで居ると寝汗が乾き、不快感が取れる頃に洗面用の一式が届きました。やっと顔が洗えます。

ホントは濡れたタオルで身体も拭きたかったんですけど・・敢えてソレはガマン。

洗顔クリームとやらで顔を洗い、スベスベ肌にちょっと感動しながら最後に歯磨き。

この世界の歯磨きは、とっても美味しかったです。

そして朝食を要求するか否かで悩んでいると、非常に残念な事に尋問が再開されてしまいました。

ユウ「さて、それじゃ約束通り話を始めようか」

ユウ「っと、その前に自己紹介が先だな?俺は御神苗 優。ユウって呼んでくれていい」

サシャ「私はサシャ・ブラウスです。サシャって呼んで下さい」

ユウ「分かった。宜しくな、サシャ?」

サシャ「はい」

ユウ「で、後ろの女性は」

サシャ「マーガレットさんですよね?最初に自己紹介しました」

ユウ「そっか。なら後は」

サシャ「早速お話を進めましょうか」

ジャン「オイ・・・いやいいけどよ」

ユウ「ぶっ!クククッ・・・」

私の即答に、ユウさんがまた吹き出します。ロン毛は憮然とした表情のまま。

ハッキリ言います。幾らハンサムでも、身動きも取れない人間に武器を突き付け、恫喝するような奴なんて好感が持てる筈もありません。

口も悪いし、ハッキリと嫌いなタイプですよ、あのロン毛は!

ユウ「ふぅ、笑った笑った。あ~、アイツの名前はジャン・ジャックモンドだ。まあヨロシクやってくれ」

ジャン「勝手に教えんな!ったく、気分悪いぜ」

サシャ「・・教えないで下さい、耳が悪くなりそうですから!」

カチンと来たので、そっぽを向いてそう言い放ってやりました。

よくよく考えてみれば、私、こんな風に悪し様に言われる覚えが無いんですよ!

只でさえ夢見が悪くて寝覚めは最悪だし、ミーナの事が気掛かりでイライラしてるのに・・・っとに何なんや、コイツ!

ジャン「大人しくしてりゃあ調子に乗りやがって、このガキ!」

サシャ「フン!」

マーガレット「ジャン・・・任務中よ。仕事を進めましょう」

ユウ「そうそう、俺に任せとけって」

ジャン「・・・チッ」

ロン毛は舌打ちを打つと、不服顔のままドンッと音を立てて壁に寄りかかりました。

イライラしてるのが手に取る様に分かります。ザマーミロ!

ユウ「・・さて、今度こそ話を始めようか」

サシャ「・・はい」

ユウ「じゃあまず、サシャからの質問だったな?聞きたい事があるって?」

サシャ「はい」

私の質問は二つ。でもその二つは質問ってよりも、殆んど最後の確認のつもりでした。

サシャ「一つ目は、森にいた化け物です。人間を食べてる所を見ましたし、私も襲われました。あれは一体何なんですか?」

ユウ「・・・まずサシャは、あの森がどんな森か、何て呼ばれてる森か知ってるかい?」

サシャ「いえ・・・私達は、気が付いたらあの森の中に居ましたから」

ユウ「私・・達?気が付いたら、ねえ・・・」

ユウ「・・あの一帯は今また『帰らずの森』って呼ばれる場所になった」

ユウ「あの森は、強力な呪いが掛かった森だ。人間の方向感覚を狂わせ、生き物の生態系を狂わせ、ありとあらゆる魔物を発生させる」

ユウ「サシャを襲った化け物は、あの森で命を落とした兵士だ。あの森の中で命を落とした人間は食人鬼、所謂グールになっちまう」

サシャ「食人鬼・・グールですか・・・」

ユウ「ああ。一度あの森に足を踏み入れたら命を落として帰れなくなる。だからあの森は昔から、帰らずの森って呼ばれてるのさ」

ああ、コレでほぼ間違いなくこの世界はハズレやなぁ。それにしても、そんな危険な森やったんか・・・そんな所にミーナがまだ・・・

サシャ「・・今すぐ、私を解放して貰えませんか?」

ユウ「そいつは・・流石にちょっと無理だな」

サシャ「あの森に、私の友達がまだ残ってるんですッ!」

ユウ「あ~・・・」

マーガレット「・・・」

ジャン「おい、御神苗。変な里心出すんじゃねーぞ」

ジャン「今はコイツの尋問が最優先だ。どの道、今、森に入った所でそう簡単には見つからねえよ」

こ、この人非人があ・・・

あまりの腹立たしさに目の前がクラクラします。

涙が滲みそうになるのをグッと堪えてロン毛を睨み付けてやると、ロン毛はまるで堪えた風もなく、軽く肩をすくめて見せました。

ジャン「あの森は人間の方向感覚を狂わせるからな。あそこでまともに動けるのは御神苗か俺だけだ」

ジャン「他のアーカムの隊員は帰らずの森には入れねえし、何よりその許可も出てねえ」

サシャ「誰も手伝ってくれなんて言ってません!私を解放してくれれば良いだけです!」

ジャン「そうして欲しけりゃ身の潔白をサッサと証明しな」

ジャン「お前の友達とやらが運良く朝日を拝めてりゃあ、日の入りまでは無事だろうからよ」

サシャ「・・どういう事ですか?そのグールって、日がな1日中うろついているんじゃ?」

ユウ「いや、グールや悪霊が活動するのは太陽が沈んでからだ」

そう言えば、昨日もグールが出たのは陽が沈んでからでした。

ユウさんの話が確かなら、ミーナが生きてる可能性はグッと上がります。

昨日の夜を生き抜いてさえいてくれれば・・・

あとどうやら、私の即時解放は無理っぽいです。このロン毛のせいで。身の潔白を証明したら、絶対に仕返ししたるからな?

それとは別に、今、ユウさんのセリフで聞き捨てならない言葉があったような?

サシャ「・・・悪霊!オバケが出るんですか!?」

ユウ「お化けって・・まあそうだな。言ったろ、あの森は本当に呪われてるんだよ」

ユウ「それでも帰らずの森は、前に一度、俺が呪いを封印して自然の森に戻したんだけどな」

サシャ「えっ?自然の森に戻した?だったら何でまた・・・」

・・・って、そもそも彼らは何者なんでしょうか?

ユウ「前回は不老不死の霊薬、まあ別件であの森に入って、結果的に森に掛かってた呪いを封印したんだけど・・」

ユウ「それが最近になって帰らずの森が復活しちまって、そのせいでまた不老不死の霊薬の件でキナ臭い騒ぎになっちまったんだ」

ユウ「各国の諜報機関や工作員が入り乱れての乱戦。お陰様で、グールの大増殖さ。俺達アーカムにとっちゃあ迷惑極まりない話だぜ」

サシャ「アーカム?」

ユウ「アーカムってのは、世界中に点在する危険とおぼしき遺跡を全て探しだし、調査・封印する事を使命とする私的機関だ」

ユウ「このアーカムって財団を創始したのが、齢三百歳を超える魔女だって言ったら・・サシャは信じるかい?」

サシャ「三百歳を超える魔女ですか・・・でもグールが居るくらいですし、魔女がいたって不思議ではありませんよねえ」

ユウ「・・へえ、良く信じられる気になったな?」

サシャ「私も実際、色々と経験しましたし苦労もしてますから」

事実、現在進行形でミーナと二人難儀な旅をしてる途中ですし、前回行った世界で幼い見かけながらも本物の魔女と出会いました。

だからもう不思議な出来事や、あり得ない存在に驚く事は少ないし、信じられない様な事でも素直に受け入れる事が出来る様になりましたよ、私とミーナは。

ユウ「ふ~ん・・・まあ、実際にティアに会ったら驚くぜ。少し前にまたアーカムの会長に再任したし、三百超えてんのに、ちっともシワクチャのバーサンじゃないからなっ」

サシャ「そうなんですか?」

三百歳を超えてるって言うから、てっきり絵本で見るような魔法使いのお婆さんを予想したんですけど、違うんでしょうか?

ユウ「パッと見た感じ、マーガレット女史くらいかな?」

サシャ「二十・・・半ば位ですか?」

ユウ「そうそう。実際は魔力で皺とか色々隠してんだろうけどな」

ジャン「わ、知らねーぞ馬鹿」

マーガレット「失言ね。それに迂闊だわ」

ユウ「・・・あっ」

???『聞こえたわよ』

不意に室内に女性の声が響きました。私達四人以外、誰もいない室内にです。

その瞬間、ユウさんの顔が強張りました。

ユウ「」

ユウ「ティア、今のは」

ティア『流石に聞き捨てならないわ。でも安心して。アーカムの会長として、今の件で何か罰則を与えるなんてしないから』

ユウ「・・ふう」

ティア『ただ単に、ティア・フラット・アーカムとしては、お仕置きを与えるつもりだけれどね』

ユウ「」

ティア『直ぐにそっちに行くから、逃げないで待ってなさい』

ティア『ああ、別に逃げても結構よ。まず無駄でしょうけどね』

ティア『仕事を終えたら直ぐ遊びに行くわ、数時間後に会いましょう。では後ほど』

ユウ「」

ジャン「今、ティアって南米支部だったよな?地球の裏側からご苦労なこった」

マーガレット「馬鹿ね、ユウ。空間の魔女に陰口なんて。本人が居なくても、面と向かって悪口言ってるのと同じじゃない」

マーガレット「日本だとこの場合、ご愁傷さまって言葉で合ってるのかしら?」

ジャン「ティアにとって物理的な距離は無いに等しいからな」

ジャン「用件を済ませ次第、それこそ唐突に現れるだろうよ。空間と空間を繋いで、な」

ジャン「世界の全てを見渡し、世界の全てを耳にする空間の魔女相手に、逃げ場なんてねーよ」

ジャン「たっぷりとお仕置きしてもらいな。なあ御神苗?」

ユウ「・・・油断した」

ユウさんはそう呟くと暫く頭を抱えてしまいました。

その魔女、ティアさんって人がよっぱど怖いのでしょうか・・・もしかすると、私にとってのキース教官?そんな感じかもしれません。

少しの間をおいて深い溜め息を吐いたユウさんは、漸く顔を上げました。

ユウ「・・話を戻すと、いま声だけ聞こえただろうけど、あれがアーカムの会長だ」

ユウ「で、俺やジャンが実際に遺跡を封印したり調査する工作員」

ユウ「俺達は遺跡の番人である妖精、スプリガンってコードネームで呼ばれてる」

サシャ「スプリガン、ですか」

ユウ「ああ。それで俺達は昨日、帰らずの森に潜入調査してる途中で、サシャが襲われてる所に出くわしたワケだ」

サシャ「・・・あっ、もしかして、あの時の二人組って?」

あっちゃー・・・生き延びるのに必死だったから、てっきりグールだとばかり思い込んでましたけど・・・

ユウ「ああ、俺とジャンだよ」

ユウ「悪いと思ったけど、当て身を食らわせて催眠スプレーをかけたのは俺なんだ」

ユウ「ジャンとやりあってる時点では、サシャの事を何処かの工作員だと思ってたからな」

ユウ「俺達スプリガンは、敵対する組織は徹底的に叩きのめす」

ユウ「アーカムに手出しするのは割りに合わない。そう思わせる為に、情け容赦無く叩き潰す」

ユウ「じゃないと、遺跡を発掘したり調査するアーカムの一般職員や、考古学者達の身の安全が保証できないからな」

ああ、それで拘束されてこの尋問って事か・・・って、えっ?あの腹パンはユウさんの仕業?

アレ、ものすんごい痛くて苦しかったんですけど?

あと、ロン毛が私を敵視してるのは、私の事を敵対組織の一員だと思ってるから?

ジャン「まだどっかの工作員の疑いが晴れたワケじゃねえ。その為に今、尋問してんだ」

ユウ「確かにそうだけどよ、可能性は低いだろ?見るからに?」

ユウ「どう見たって中学生か高校生くらいだろ、この娘?」

ジャン「お前だって高校生の分際でスプリガンになっただろうが」

ユウ「・・・俺の場合、育ちが特殊だったからな」

ユウ「サシャが俺みたいに、特殊な訓練を受けて、特別に身体能力が優れてるとは思えない」

ジャン「だったらコイツの武装はどう説明するんだ?」

言われてハタと気が付いたけど、そう言えば私の立体機動装置やブレード、更に大切な装具が有りません!

冗談抜きに死活問題ですよ、これはっ!

サシャ「あのっ!」

サシャ「私の立体機動装置やブレードは?返して貰えるんですよねえ?」

サシャ「装具だって絶対に返して貰わないと、本当に困るんですよ!」

ジャン「お前が武装してた物は、メイゼルの爺さんが興味津々で調べてる所だ」

ジャン「ブレードの造りにしても、変な装置にしても、初めて見るっつって興奮してたな」

ジャン「今頃はバラされてるんじゃねえか?」

ユウ「あー、あり得るなぁソレ」

サシャ「ちょっ‼」

サシャ「装具はっ!?中身に何が幾つ入ってたか、私ちゃんと覚えてますからね!一つ残らず絶対に返して下さいよっ!」

ジャン「あの中身、食いもんばっかじゃねえか。そんな目の色変えて騒ぐ事かよ?」

サシャ「ああんっ?食いもん粗末に考えとったら泣かしたんぞ、このロン毛!」

私が噛みつく勢いでそう叫ぶと、さしものロン毛も一瞬だけ怯んだ様子を見せました。

重ねて食料の重要性を一節ぶってやろうと口を開けた瞬間・・・

『グルルルルルルルッ!』

・・っと、私のお腹の中に棲む得たいの知れない生物が、盛大に唸り声を上げました。

場が凍ると言うか、一瞬静まり返ります。

最初に遠慮がちに口を開いたのは、ユウさんでした。

ユウ「は、腹減ったよなあ・・そういや俺、朝飯まだだし」

サシャ「・・・」

ジャン「今の腹の音か?俺は一瞬グールか何かの唸り声かと思って銃を抜きそうになったぞ?」

サシャ「お、お腹が鳴るのは健康な証!生理現象ですよ!」

ジャン「限度ってのがあるだろ?ちったぁ慎みを知れよ?恥じらいとか無いのかお前?」

サシャ「う、煩いです!」

普段、お腹が鳴った位では何とも思いませんが、このロン毛にチクチク言われるのは何故だかカンに障ります。

こうなったらヤケですよ。私は大声で叫びました。

サシャ「朝食を要求します!食べさせてくれなかったら、もうこれ以上話しません!」

ジャン「・・本気で立場ってのを理解してねーな、このガキ」

ユウ「まあ飯くらい良いだろ、真っ当な要求だし」

マーガレット「確かにユウの言う通りね。私も迂闊だったわ、朝食を出すのを忘れるなんて」

マーガレット「ごめんなさいね、サシャ。私、朝食は滅多に食べないから気が回らなかったわ」

マーガレット「直ぐに持って来させるから、少し待ってくれる?」

サシャ「え、朝食を食べない人って居るんですか?」

マーガレット「私、基本的に1日2食だから、朝はコーヒーだけよ」

サシャ「」

1日・・・2食・・・やと?

マジかや?そんなんで体を動かせるんか?

あ、もしかしてこの世界って私らん所より食糧難なんか?

ユウ「あ、俺の朝飯も持って来て貰ってよ」

マーガレット「ジャンは?」

ジャン「俺は済ませてるから要らねえよ」

マーガレット「じゃあ二人分ね?直ぐに持ってきて貰うわ」

マーガレットさんはそう言うと、ポケットから手のひらサイズの黒くて長方形の板を取り出し、『至急、二人分の朝食を3号ベースにお願い』と呟きました。

・・・何してるんでしょうか?あんな小さな板切れに話し掛けて、連絡がつくとでも?

この世界の連絡手段が今一、理解できません。あ、もしかして魔法?魔法の道具か何か?

一瞬、興味が湧きましたけど、私はそれ以上にここの食料事情が心配になってたのでそれ所じゃありません。

だって、もし食糧難だとすると、私の装具の食料が奪われてしまうかも知れないからです。

食料の件でヤキモキしていると、程なくして入り口のドアがスラッと横に開き、お待ちかねの朝食が届きました。

簡易テーブルがベッドに横付けされ、テーブルの上に朝食の乗ったトレイが置かれます。

ユウさんは届けられた朝食をさっさと食べ始めましたが、私はトレイに乗った朝食の内容を見て、思わず固まってしまいました。

サシャ「」

取り敢えず、皿の上に乗った三つのパンをそれぞれつついてみます・・・や、柔らかい。

次に、カップに入った薄い黄金色の液体・・スープかな?ソレの臭いを嗅いでみます・・・な、何か香ばしい感じの良い匂いがする!

サシャ「」

マーガレット「・・サシャ、食べないの?」

ジャン「何してんだ、コイツ?」

ユウ「ん、どうした?」

サシャ「あの、この柔らかいパンは・・何てパンですか?何で出来てるんですか?」

マーガレット「え?」

ユウ「何って・・確かこの手のパンは、バターロールってパンだろ?」

サシャ「バターロール・・・」

サシャ「この金色の液体は?スープですよねっ!?」

ジャン「お前・・匂いで解るだろ、普通?コンソメだよ、コンソメスープ」

サシャ「こ、こんそめすーぷ・・・」

おおお、何だコレ?こんそめすーぷ?匂い嗅ぐだけで余計にハラ減るやんかっ!

サシャ「あとコレ、目玉焼きですよね・・しかも2個も・・・」

マーガレット「ええ、その通りだけど・・・?」

サシャ「しかも目玉焼きと一緒に乗ってるの、コレ、ベーコンってヤツですか?」

ユウ「いや、サシャ・・ちょっと落ち着け」

サシャ「えっ?朝からベーコン!?マジかや?朝からベーコン!?ええっ!?こんなん食っていいの?朝から!?」

サシャ「しかもサラダ付き?コレ何?コレ何なんや‼」

ジャン「ただのポテトサラダだろ」

サシャ「ポテトサラダ!って芋のサラダなんかコレ!?だってコレ・・ハムやろ?ハムまで隠れて入ってるやろ!それに何か黄色いやんかコレッ!!」

マーガレット「・・・多分、ゆで玉子の黄身だと」

サシャ「嘘・・・」

嘘やろ?何て贅沢な真似してるんや・・・

ジャン「・・いいから食えよ、お前。うるせーよ」

そ、そうや。まずは食べてみん事には・・・ひょっとすると不味い可能性もあるし。

どれから食べたものか、かなり目移りしたけど・・取り敢えず一番贅沢そうなこのポテトサラダから、私は口に運んでみた。

サシャ「」

ユウ「・・・」

ジャン「・・・」

マーガレット「・・・」

サシャ「う」

ジャン「・・う?」

サシャ「うんまああああああああああああっ!」

何やコレ!?ちょっと酸味があるけど甘くもあるやん!美味いやん!

サシャ「何コレ?何で?芋のサラダが何でこんな旨味になるん!?調味料何コレ?何か酸っぱい感じがする!でも甘い!美味しい‼」

ユウ「・・マヨネーズ、の事か?」

サシャ「まよねえず!旨味まよねえず!!まよねえず万歳ッ!!」

ジャン「コイツうるせー・・・」

マーガレット「何かしら?私、さっきからこの子に違和感を感じるんだけど?」

ユウ「今時、マヨネーズ知らねえ奴なんているのか?」

ジャン「さあな。ジャングルの奥地の原住民なら知らねえかもしんねーけどよ」

サシャ「そうだスープ!えっと、めんそーれすーぷ!」

サシャ「」

サシャ「めんそーれすーぷ最っ高ッ!!マジか?マジかや!?めんそーれ激ウマッ!!」

ジャン「・・まあ、語呂は似てるかなぁ」

ユウ「俺、サシャは諜報員や工作員じゃないと思う」

マーガレット「私も」

ジャン「・・・」

サシャ「良いんですか、コレ全部食べちゃって!?本当に食べちゃって良いんですよねコレ!?」

サシャ「食べますよ私!今さら返せとか言われても無理ですよ!!そんなコト言ったら泣きますよ?暴れますからねッ!!」

ジャン「誰も取りゃしねーよ。いいから好きなだけ食え」

サシャ「え・・・もしかして・・・それってまさか、お代わりしても?」

ジャン「ああ、たらふく食いな。その代わり、食ったら全部話せよ?」

サシャ「神ぃぃぃいいいいいいいいいっ!」

私はこのロン、いやジャン、いいえジャン様のご好意に甘えて、満腹になるまで朝食を食べる事にしました。

食べ始めて小一時間たった頃でしょうか?

この神様はクリスタと違って少し心が狭いらしく、たらふく食べて良いと言ったクセに、7回目のお代わりの際にキレやがりました。

全く、どっちの世界のジャンも度量が狭くていけません。

食卓上で銃を突き付ける神様に、口一杯にポテトサラダを詰め込んだ私が中指を立てて突き付け返すと、それを見たユウさんは暫くお腹を抱えて笑い転げていました。

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・

需要があるか分かりませんが続きます

腹八分目で朝食を終えた私は、ユウさん達と話を再開する事になりました。

残された私からの質問はただ一つ、巨人の有無についてです。

とは言ってもコレは、もう最終確認にすぎません。グールみたいな化け物の存在から考えて、この世界が私やミーナのいた世界と違うのは、ほぼ解りきっていましたから。

サシャ「じゃあ後1つ質問をさせて下さい」

ユウ「ああ、いいぜ」

サシャ「この世界に、巨人は存在しますか?」

ジャン「・・・巨人?」

マーガレット「・・確か・・北欧の何処かの国で巨人?か解らないけど、巨大な人骨の化石が出土した話なら聞いた事があるわ」

サシャ「いえ・・生きている巨人です」

ユウ「もしかして、ロードス島の青銅巨人の事か?」

ジャン「ああ、南極でやり合ったアレか」

えっ!いるの巨人!?じゃあココって・・・や、でも私達の世界の食料事情があんなに良いワケないし、だいいちユウさん達と私達とでは武装が根本的に違います。

それに私達の世界でグールの存在なんか、今まで聞いた事もありませんでしたからね。

それでもやっぱり、ユウさんの言った巨人の存在が気になりました。

サシャ「あの、その巨人ってどんな巨人ですか?」

ユウ「そのまんまさ。青銅みたいな体をもった巨人だよ」

サシャ「青銅の・・体?」

ユウ「そう、金属の体を持ってたんだ。確か7~8メートル位の身長だったな」

ユウ「何でもオリハルコンと、現代じゃあ存在しない金属を合成して作られた体らしい」

ユウ「こいつがまた、硬い体でなぁ・・オリハルコンのナイフでやっと傷をつける事が出来た程度で、従来の銃器じゃロクに通用しなかったんだよ」

ユウ「それにやっとこさ傷つけても、あっさり自動修復したからなぁ・・」

ジャン「おまけにあの青銅巨人、あの巨体で俺のスピードに余裕でついて来やがった」

ユウ「正直、何度か心が折れそうになった」

ジャン「ああ、出来れば二度とやり合いたくねえ」

サシャ「・・それって、結局は倒せたんですか?」

ユウ「いや、色々あって勝手に消滅しちまったよ」

ユウ「あの青銅巨人は俺達スプリガンと、ある意味で同じ。遺跡の番人なんだ」

ユウ「多分、今もどこかで遺跡の番人でもしてるんだろうな、アイツは・・・」

サシャ「・・・そうですか」

どうやらユウさんの言っている巨人は、私達の世界の巨人とは違うみたいです。

この世界もなかなか不思議な世界やなぁ、と考えてたら、今度はユウさんが私に質問してきました。

ユウ「さて、それじゃそろそろ此方の質問に答えて貰おうかな?」

サシャ「はい、約束ですからねっ」

ユウ「ああ、協力的な返事で助かるよ」

ユウ「じゃあまず、サシャは何処から来たのか?あと所属先を教えてくれ」

サシャ「所属先?」

ユウ「今更だけどサシャは武装してただろ?つまり何らかの武装集団に居たんじゃないのか?」

ああ、そういう意味か・・・

でも、これから説明する事を信じて貰えるんやろうか?

・・・まあ、嘘つくワケじゃないですし、信じて貰うより他ありません。

私は少し考えて、言葉を選びながらユウさんに説明する事にしました。

サシャ「えっとですね、先ず私は、ユウさんの言葉を信じました」

サシャ「ユウさんの組織の会長さんが、三百歳を超える魔女だって事も本気で信じています」

ユウ「・・ああ、嘘じゃないぜ?」

サシャ「はい。ですから、これから私が話す事も信じて欲しいんです」

ユウ「・・なるほどね。つまりは常識的には信じ難い話になるって事だな?」

サシャ「はい、にわかには信じられないと思います。でも私は、嘘は付きませんから」

ユウ「解ったよ。なぁに、俺達はこんな生業してるからな。奇跡や神秘、不思議な出来事には慣れっこだ」

ユウ「頭ごなしに否定はしないから、安心していいぜ?」

サシャ「有難うございます、ユウさん」

ユウ「マーガレット女史、録音と同時に記録をお願い。俺は聞き出しに専念するから」

マーガレット「了解・・・・・・良いわ、始めて」

マーガレットさんは掌に収まる機材を私の傍の簡易テーブルに置くと、本人は机に戻って机上の薄い箱みたいな機材に向かい、手元の板の様な装置を指先でカチャカチャと弄り始めました。

ユウ「さあサシャ、頼む」

サシャ「はい。それではまず最初に・・私は、この世界の人間じゃありません」

マーガレット「!?・・・」

ジャン「・・・」

ユウ「・・なら君は、何処から来たんだ?」

サシャ「何処からと言われると・・・まず最初に私とミーナ、友人は、元々いた世界から、不思議な世界に迷い込んだんです」

私はこういった事を説明するのに、正直、向いている方とはいえません。

なので、あの深夜の兵站行進訓練から起こった出来事を、包み隠さず全て喋りました。

包み隠さず全て喋った上でユウさんからの質問にも、出来るだけ上手く説明した・・つもりなんですけど、私達の世界の事を、私が全て説明出来るほど知り尽くしていたワケでもないので、説明に要領を得ない場合が多々あります。

上手く説明出来ない都度に、せめてミーナがこの場に居てくれたらと・・もどかしい事この上ありません。

特に私達の天敵、巨人についての説明は元より巨人の不明点が多すぎて、説明に苦労しました。


一通り説明を終えると、ユウさん達三人が、揃って難しい顔付きで考え込んでいます。

どうにも私の説明では信じ切れないのか、口々に疑問な点を上げ始めました。

ユウ「領地奪還に2割の人間が巨人に喰われた?今、サシャの世界の人口って、全体でどれ位なんだ?」

サシャ「多分ですけど、二百五十万人から二百六十万人?位じゃないかと思います」

マーガレット「全世界の人口で?たったの二百五十万人?」

サシャ「(たったの?)はい。えっと、ここの世界ではどれ位の人間が居るんですか?」

マーガレット「・・全世界の人口で、六十億人を超えてるわ」

サシャ「」

何やソレ・・・お、億?そんだけ人間がおって、飯は足りるんかや?

ジャン「お前、訓練兵っつってたな?」

サシャ「・・・え?あ、はい。104期の訓練兵団に所属してます」

ジャン「ソコを卒業したヤツの大半は、何処に所属するんだ?所属先は三つあるっつってたけど?」

サシャ「ん~、大半は駐屯兵団ですかね?憲兵兵団に行けるのは極僅かですし、調査兵団は正直、巨人に喰われる可能性が高いので、皆進んでは行きたがりません」

ジャン「俺に言わせりゃ、その調査兵団に行かねえって意味が解らねえよ」

ジャン「とっとと巨人の調査を終わらせて、全部ブッ殺しちまえばいいじゃねーか?」

ジャン「一応だが弱点も解ってんだろ?」

ユウ「それは仕方なくねえか?俺達とは科学にしても兵器にしても、近代化が進んでないみたいだしな」

ユウ「殆んど生身で戦ってんのと同じじゃ、やれる事だって限度があるだろうし」

ジャン「足りてねえんだよ、度胸と覚悟が」

ユウ「人類の殆んどが、ジャンと同じ身体能力を持ってるワケじゃねえっつーの」

ユウ「つってもその巨人ってーのがなぁ・・・イマイチわかんねえ」

ユウ「人間っぽい巨大な人型生物・・って解釈で良いんだろ、サシャ?」

サシャ「はい。人間っぽいけど、色々とアンバランスなんですよ。頭が極端に大きかったりとか、胴体が異常に大きいとか・・色んなのがいるみたいです」

マーガレット「私としては、鎧の巨人に興味が引かれるわね?その一体だけしか確認されてないんでしょう?」

サシャ「はい」

ジャン「・・・あとは何だ?五十メートル超えの巨人だったか?」

ジャン「マジかよ?って話だな」

コイツ・・・今、鼻で笑った?鼻で笑いよったんか、このロン毛!

アンタが信じられんでも、あの超大型巨人のせいで、どんだけの人間が死んだと思ってるんや!

思わずカッとなった私は、無意識の内にロン毛を睨み付け、声を荒らげてしまいました。

サシャ「私はあまり頭が良くないので、上手く説明出来なかったかもしれません!」

サシャ「その事で、私が笑われるのは仕方ないと思います・・・」

サシャ「でもっ!その五十メートル超えの超大型巨人のせいで何十万の人間が死にました!」

サシャ「ウォール・マリアの扉を超大型巨人が蹴り破った事で、入り込んだ巨人に喰われたんです!」

サシャ「男も、女も!大人も、子供もッ!」

サシャ「・・・私の事を笑うのは構いません。でも、巨人の事を鼻にかけて笑うのだけは止めて下さい」

サシャ「幾ら何でも不謹慎だし、不愉快です」

ユウ「・・・」

マーガレット「・・・ジャン」

ジャン「ああ・・」

ジャン「悪かった。確かに不謹慎だったな」

サシャ「えっ?」

予想外でした・・・正直、こんなに素直に謝るだなんて思いませんでしたから。

ジャン「何万、何十万人って被害だ。当然、女や子供だって喰われてる筈だ・・・」

ジャン「お前みたいに女で、しかも子供が兵士にならなきゃなんねえって世界なんだからな」

サシャ「・・・」

ジャン「確かに俺が悪かった。正式に謝る」

サシャ「えっと・・はい。謝って貰えるなら、それで良いです」

思いの外、神妙な面持ちと誠意のこもった謝罪に、私は思わず許しの言葉をかけていました。

粗暴で悪口、心も狭く性格も悪いと決めつけていたので、素直で誠意のある謝罪の言葉に、コッチがたじろいでしまいます。

呆気に取られてロン毛の顔を眺めていると、神妙な面持ちだった彼の顔が、サッと変化しました。

端正な顔、その眉間に皺が入り、左手が肩掛けにしていた銃に伸びます。

ジャンが壁の小窓に走り出すのと、ユウさんが立ち上がるのは同時でした。

ユウ「ジャン、そっから見えるか?」

ジャン「いや、騒いでる声だけだ。何だ?何が起こってる!?」

少し緊迫した表情で二人が声を掛け合っていると、奇妙な音を立てる机上の器材を取り上げたマーガレットさんが、ソレを耳に押し当て、小声で会話らしき事を始めました。

そうこうする間に、今度は私にもハッキリ分かる破裂音が外から聞こえてきました。

昨夜、森の中で襲われた時に聞いた、あの乾いた連射音です。

ユウ「銃声!襲撃か?」

ジャン「チッ、らしいな。行くぞ御神苗!」

ユウ「アーカムのベースキャンプを襲撃とは、大した度胸だぜ!」

部屋から飛び出そうとする二人を、マーガレットさんが咄嗟に大声で呼び止めました。

マーガレット「待って二人とも!」

ジャン「何だよ!?」

ユウ「悠長にしてる暇は無いんだぜ!?」

マーガレットさんは二人から目を離し、視線だけでチラリと私を見ます。

でも次には視線を二人に戻したマーガレットさんは、一度息を飲んだ後、躊躇いがちに口を開きました。

マーガレット「ジャン、ユウ。今連絡が入ったけど、襲撃者は・・巨大な人、だそうよ」

私用の為つづきは三週間後になります

ジャン「巨大な、人だと?」

ユウ「・・・」

ジャンが訝しげな声を上げると、ユウさんと二人、揃って私に視線を向けました。

さっきまでの話の流れで、巨人が頭に浮かんだんでしょう。

マーガレットさんの話を聞く限り、私も巨人が現れたんだと思いましたから。

サシャ「私も連れていって下さい!」

ジャン「ダメだ」

ユウ「そいつは・・ちょっと無理だな」

私の申し出は即却下されましたが、ココで引くわけにはいきません!

私は立ち上がると、両手を広げながら懸命に訴えました。

サシャ「私をこんな所に一人で残すつもりですか?武器も持たさず⁉丸腰のままで⁉」

サシャ「それはつまり巨人に喰われて死ねって意味ですか?」

サシャ「さっき説明したハズです!今、襲って来てる巨人は私やミーナに向けられた罰ゲームだって‼」

サシャ「好きで受けてるワケじゃないし理不尽極まりない罰ゲームですけど、アレを全部倒さないと私達は元の世界に帰れないんです!」

サシャ「こんな所で丸腰のまま、戦う事も出来ずに喰い殺されるワケにはいかないんですよッ!!」

マーガレット「・・・」

ジャン「チッ」

ユウ「・・とにかく今はココで言い争ってる暇は無いぜ」

ユウ「襲撃者を撃退するのが先決だ」

ジャン「俺は先に行くぜ」

ジャンはそう言うと、ドアを開けて外に飛び出しました。

後に続こうとするユウさん。その腕を私が咄嗟に掴むと、別人の様に精悍な顔つきになったユウさんが、鋭い目で私を見据えました。

ユウ「俺達を信じて、待つ気は無いのか?」

サシャ「失礼かもしれませんが、ソコまでの信頼関係はお互いに無いと思います」

サシャ「丸腰のまま残されて、ココが巨人に襲われたら・・私は死ぬに死にきれません」

ユウ「ココから外に出た方が、遥かに死ぬ可能性は高いんだぜ?」

ユウ「戦う覚悟と、戦う術は身に付けてるのか?」

サシャ「はいッ!逃げ惑って死ぬくらいなら、戦って死にますッ!」

ユウ「・・上等だ」

ユウさんは短く答えて小さく笑うと、私の手を引いて外に飛び出しました。

背後からマーガレットさんの声が聞こえたけど、私達は構わず3号ベースから走り去ります。

ふと自分の捕らわれていた建物が気になり、走りながら視線を向けると、良く解らない材質で造られた平屋の四角い建築物が、集合するよう幾つもくっついていました。

まるで普通の部屋、四角いソレを家の中から抜き取って、幾つも並べてる感じ。

箱形の建物は、家としては石造りの古い町で目にする感じの造りだけど、森の盆地に忽然と存在するその姿には、少し異質さを感じます。

銃声に次いで悲鳴が響いて来る中で、目の前を走るユウさんに、私は大声で問い掛けました。

サシャ「私の武器!ブレードや立体機動装置はドコに有るんですか!?」

ユウ「武器の類いは2号ベースだ!そこでメイゼル博士がサシャの装備品を調べてたハズだ!」

ユウ「ショートカットだ、2号ベースに近道するぞサシャ!」

ユウさんはそう叫ぶと、道と呼ぶにはあまりに粗末なデコボコ道から、藪の切れ間に飛び込みました。

私も躊躇わずに、ユウさんの後を追って藪の切れ間に飛び込みます。

藪を適当に切り開いて作ったらしい、申し訳程度の粗雑な小道を走り、林立する木々の群れを抜けた所で、ユウさんと私は走る足を強制的に停止させました。

ユウ「なん、だこりゃあ・・・!」

サシャ「き、巨人が・・・」

3号ベースと同様の建物が、既に半数近く潰れています。

目視できる巨人の数は7体。全て7~8m級です。

絶え間なく響き渡る銃声。引き吊った悲鳴。胴体まで喰い付かれ、絶望的な絶叫を上げる声。半狂乱的な怒号。

阿鼻叫喚。地獄の釜の蓋を開けた様な世界が、目の前に広がっていました。

『銃が、銃が効いてねえ!』
『畜生、畜生ッ!』
『衛生兵!衛生兵!早く来てくれッ!!』
『足が!畜生、俺の足があッ!』

恐慌状態に陥りながらも、兵士と思われる人達は必死の反撃を試みているようですが、巨人には全く効いている素振りがありません。

それもその筈です。弱点である項に全く攻撃がされていないし、兵士の皆さんには巨人の弱点など知りようがありませんから。

幾ら銃撃を重ねても、被弾箇所から復活の蒸気と共に傷が塞がり、運良く頭を吹き飛ばしても見る間に元の姿に復元していくなんて、理由を知らない兵士の皆さんからしたら悪夢でしかありません。

ユウ「クソッタレ・・・」

ユウさんが呻く様に呟くのと同時に、私達の目の前に、ドンッと人が降って来ました。

ジャン「ボサッとしてんな御神苗!サッサと手伝え!!」

私達の前に降って来たのは、両脇に人を抱えたジャンでした。

右脇には眼鏡で白髪、マーガレットさんと同じく白衣を着たお爺さん。

左脇には、気を失ってるらしい女性の兵士。彼女の左腕は・・肩の付け根辺りから無くなっていました。応急処置で巻いたらしい包帯が、血でジュクジュクに湿っています。これ以上処置が遅れれば、まず助からないだろう事は私にも解りました。

ジャン「あの巨人共、項が弱点って聞いちゃいたが、身長差が面倒な相手だ」

ジャンが端正な顔を歪めて、忌々しそうに吐き捨てました。

ジャン「ただ、スピードは大してねえ。ノロマな木偶の坊だ。俺が帰って来るまで、御神苗。お前が何とかしてろ」

ジャン「俺は負傷兵とメイゼル博士を3号ベースに避難させてくる。お前はこれ以上、アーカムの隊員に犠牲者を出させるんじゃねえぞ?」

ユウ「んなこた分かってるよッ‼」

メイゼル「ユウ・・・」

お爺さん、多分この人がメイゼル博士って人でしょう。そのお爺さんが、血の流れる額をハンカチで押さえ、2号ベースの一角を指差しました。

メイゼル「ユウ、5号棟に汎用型AMS(アーマード・マッスル・スーツ)の試作品が置いてある」

ユウ「AMSが!?」

メイゼル「S級エージェントのスプリガン用じゃなく、A級エージェント用にあつらえた装甲強化服じゃ」

メイゼル「出力、性能はユウ専用AMSの3分の1、つまり使用者の十倍しかパワーを発揮できんが・・今はそれでも無いよりはマシじゃろう」

メイゼル「ユウ・・これ以上、アーカムの隊員を無駄死にさせんでくれ」

ユウ「ああ、分かってる」

ユウさんは力強く応えると、メイゼル博士が指差した5号棟に向かって走り出しました。

私もその後に続こうとすると・・・

ジャン「付いて来ちまったのかよ」

サシャ「・・あれは私の敵ですから」

ジャン「ったく御神苗の野郎・・・お前、丸腰でやりあう気かよ?」

サシャ「あっ!私のブレード!それに立体機動装置も!ドコに有るんですか!?」

私が慌ててメイゼル博士に問い掛けると、博士は俯き加減で首を横に振りました。

メイゼル「すまんのう。お前さんの武装一式は、潰された1号棟の中じゃ。瓦礫の中に埋まってしもうとる」

サシャ「なっ!?」

メイゼル「言いづらい事じゃが、丁度ブレードの強度を調べておる所で襲われたからのう・・・折れてしもうとるかもしれん」

サシャ「はああああああああっ!?」

メイゼル「あと・・・」

サシャ「今度は何ですかッ!!」

メイゼル「あのワイヤーを使った装置、調べておる内にガスが全部抜けてしまいおった」

サシャ「」

・・・・・・このジジイ、殴ったろうかな?いや殴ってええよね?

ボケ老人の発言に誇張でもなんでもなく目眩を引き起こし、涙目になりつつ二の句も告げられずにいると・・・

ジャン「・・博士達と一緒に避難しとくか?」

サシャ「何でもええから武器よこさんかいッ!!」

ここまで来て今さら逃げられるかって話ですよ!

いや、今ココでどうにかしないと巨人に一人残らず喰い殺される!!

私が怒鳴り付ける様に叫ぶとジャンは小さく舌打ちを打って、肩がけにしていた大型銃?さっきまで持っていたのとは違う銃を私に手渡しました。

ジャン「ドラムロール式のグレネードランチャーだ」

サシャ「どら?・・使い方は?」

ジャン「ソコのセーフティを外したら、後は狙いをつけて引き金を引くだけだ」

サシャ「これ?」

ジャン「ああ。撃つ時は気を付けろよ?反動がでかいからヘタすると肩が抜けるぞ」

サシャ「・・気合いで何とかします」

ジャン「あと、総弾数は6発〰」

説明中のジャンの顔が、跳ねる様に別方向に向きました。

私も釣られてジャンの向いた方に目をやると、7体の巨人の内、1体の巨人が私達に向かって全力疾走してくるのが見えます。

私が慌てて銃を構えようとすると、それより先に、ジャンが巨人に向かって猛然と駆け出しました。

サシャ「ばっ!し」

死ぬ気なんかッ!!って叫んで止めようとしたら、ジャンが巨人に向かってジャンプしました。

ジャンプした際、地面から爆破された様なボン!って音がして、ジャンの体が砲弾か?って勢いでスッ飛んでいきます・・・ホンの一瞬で、です。

巨人の鳩尾あたりにジャンの両足を揃えたキックが炸裂すると、巨人はまるで壊れた操り人形が投げ捨てられた様な感じで宙を舞い、地面に落下すると派手に土埃を上げながら転がり続け、走ってきた方向に吹っ飛んでいきました。

確か座学で、巨人はその体長に比べると、遥かに体重が軽いと習った記憶はありますけど・・・いやこれは・・・流石に今のは・・・

巨人をアッサリとあしらい、悠々と私達の元に帰って来たジャンに、私は呆れ顔のまま問い掛けました。

サシャ「あんたホントに人間なん?」

ジャン「・・半分はな」

サシャ「半分?」

ジャン「今はそれ所じゃねえだろ?俺はもう博士達を3号ベースに連れて行くからな」

ジャン「そのグレネードランチャーは弾が6発しかねえ。全弾外れましたとか間抜けなマネだけはしてくれるなよ?」

サシャ「ぜ、善処します」

ジャン「ま、お前は御神苗が来るまで他の隊員のバックアップでもしてろ。御神苗は今、必死でAMSを着込んでるハズだからな」

サシャ「はいッ!」

そのAMSとやらが何の事だかサッパリですが、自分のやるべき事を理解した私は、気合いを入れて返事をしました。

巨人との戦闘や命を懸けた荒事は、前回旅した世界で既に経験済みです!

ジャン「・・すぐに戻る、死ぬなよ」

ジャンはボソリと私に声を掛けると、メイゼル博士と負傷した女性兵士をそれぞれ両脇に抱えて、3号ベースに向かって走り去りました。

ホンの少しの間だけジャンを見送った後で、私は視線を2号ベースへと向けました。

最早、十人にも満たない兵士達が5号棟を守る様に、襲い掛かる巨人に応戦しています。

残る兵士達は威力の強い銃器を使っているのか、小さめの大砲の様な爆音が辺りに響いていました。

『RPGなら幾らか効くぞ!ありったけのRPGを持ってこいッ‼』
『戦争に来たワケじゃねえ、もうストックがねえよ!』
『ならグレネードでも手榴弾でもいい、火力の高いヤツからブッぱなせ!』
『ユウの準備が終わるまで意地でも5号棟を死守しろッ!!』

兵士の皆さんは巨人の頭部を狙って集中砲火を繰り返しています。頭を吹き飛ばされた巨人は一分程度の足止めができ、目を潰された巨人でも数十秒は足止めが出来ているようです。

ただ攻撃の威力は強いみたいだけど、先程までの連射音は聞こえません。火力が強い分、単発式の武器なんでしょう。なら、尚更人手が必要なハズ。

ズシリとした重量感のある銃把を握り締め、私は兵士さん達が守る5号棟へと駆け出しました。

隊員A「畜生!ツイてねえッ!何だってこんな化物が居やがるんだッ!!」

隊員B「このクソッタレ共、どっから湧いて出やがった!」

隊員C「泣き言は後にしろ!現状報告、送れッ!!」

隊員D「隊員の損耗3、負傷1ッ!他、随員の損耗・・多数。マーカス隊長、弾薬が瓦礫に埋まり残弾が残り僅かです!」

マーカス「副長は隊員1名を連れて潰された2号棟から弾薬を掘り起こせッ!」

マーカス「俺と残りの5名は化物の迎撃だ!急げ副長、弾切れになったら全員揃って化物の餌になるぞッ!!」

隊員C「了解ッ!!」

巨人に応戦している8人が二手に別れ、2人が潰れた棟の方に向かいました。

一瞬悩みましたが、私はそのまま5号棟の6人の所に駆け寄ります。

6人のすぐ側に、滑りながら片膝を地につけた私は、一番間近な巨人の喉元に照準を定めました。

本来狙うべきは巨人の項ですけど、7m級の巨人の項を直接狙う事は、位置的に出来ません。

この世界の武器に、どれ位の威力があるのか解りませんが、高い火力である事を信じて私は叫びました。

サシャ「加勢します!」

叫び声と同時に引き金を引くと、爆音みたいな音がして、右肩と脇に半端ない衝撃が伝わりました。

押さえきれない反動のせいで、銃砲がかなり上に跳ね上がります。

キーンと鳴る耳鳴りに顔をしかめて標的の巨人を見てみると、巨人の顎から上、頭部の大半が吹き飛んでいました。

サシャ「チッ・・」

狙った所より、かなり上にズレてる。

サシャ「もう少し下・・もっと銃を抑えんと」

痛む右肩に眉をひそめながら、復活の蒸気を上げる巨人に向かって、私はもう一度狙いを定めました。

隊員G「誰だお前は⁉」

サシャ「私は味方です!あの巨人は私の敵ッ!!」

サシャ「巨人の弱点は項です、喉の向こうにある項を一瞬で吹っ飛ばすつもりで攻撃して下さい!」

私は叫ぶと同時に引き金を引きました。

爆音が私の耳を、反動の衝撃が右肩を痛打します。

顰めっ面で巨人を見ると、今度はやや着弾点が低かったのか、巨人は胸の上部から喉にかけてゴッソリと肉が消失していました。

周囲の視線を感じながら、痛む右肩を無視する様に、すかさず三度目の引き金を引きます。

銃口から轟音が轟き、復活の蒸気を凪ぎ払う様な爆発の後、胸の上部から上を綺麗に消失させた巨人は、地響きを立てて地面に倒れ込みました。

全身から蒸気を上げ、見る間に巨人の肉体が崩れ始めると、銃声と共に周囲から絶叫に近い歓声が上がりました。

隊員G「ヤーーーッ!やりやがったぜチクショウッ!!」

隊員A「ワオッ!勝利の女神の登場だ!」

隊員F「項だ、全員項を狙えッ!!ジャンヌ・ダルクの後に続けッ!!」

隊員E「そう言やジャンも項がどうとか言ってたな!?まあいい、感謝するぜお嬢ちゃん!アンタに今すぐキスしたい気分だッ!」

巨人はまだ6体もいて、絶えずこちらに向かって来ています。けど、たった1体とはいえ巨人を倒せたと言う事実、明確な弱点の存在が、兵士の皆さんを大きく鼓舞させたようでした。

マーカス「君は昨晩、ユウ達が連れて来た娘だな?」

サシャ「はい。サシャ・ブラウスといいます」

流石に右肩が痛み、直ぐには銃撃ができず痛む箇所をさすっていると、隊長さんとおぼしき人が大口径のロングライフルを撃ちながら私の側に駆け寄って来ました。

ユウさん達に拘束されていた事もあって、内心ちょっとビビリながら短く自己紹介すると、隊長さんは強面の顔にニッ!っと大きな笑顔を浮かべて、バチンと音がしそうなウインクをして見せました。

マーカス「俺はマーカスだ。で・・・」

マーカス「こんな危険な場所に女の子が来るんじゃあないッ!!・・・と言いたい所だが、正直助かった」

マーカス「君の勇気と貴重な情報に、心からの敬意と感謝を申し上げる」

サシャ「ど、どういたしまして、です」

キース教官ばりの一喝に、一瞬背筋が凍りつきましたけど、感謝の言葉と顔一杯に浮かんだ笑顔を見て、ホッとする事が出来ました。

どうやら再度の拘束は無さそうです。

マーカス「では後の事は我々に任せて、君も5号棟に避難するんだ」

マーカス「室内にはユウと、生き残ったアーカムの随員がいる」

・・なるほど。生き残った人間は全部あの中に居るんか。だから巨人が砂糖に群がる蟻みたいに集って来るんやな?

私は小さく首を振って、立ち上がりました。

サシャ「ごめんなさい」

サシャ「詳しく説明してる暇はありませんけど、あの巨人は私の敵なんです」

サシャ「私がココに来たから、あの巨人が現れたんです」

サシャ「私には、あの巨人を倒さないといけない理由があるんです」

サシャ「巨人が現れたせいで・・・亡くなられた方達には申し訳のしようがありません」

サシャ「だから・・・」

私は新たに迫る巨人に向かい銃を構えると、喉元に照準を定めて、引き金を引きした。

片膝を地につけて撃った時とは比べ物にならない反動が、私の体を後方にずらします。

その私の体を片手でしっかりと受け止めたマーカスさんは、一つ大きな溜め息を吐くと、銃火の轟音に負けない位の大声を張り上げました。

マーカス「ヨーシお前達、良く聞けよッ!!」

マーカス「今、我々の前に現れた彼女は、戦場の女神!勝利の女神だ!」

隊長B「ヘイ隊長!俺には彼女が可憐な天使、戦場の天使様に見えるぜッ!!」

マーカス「ハッハッハッ!確かにその通りだッ!」

マーカス「だからこそ、例え我々が命を落とす事があっても、我等のヴァルキリーに傷一つ付く事など断じて有ってはならんッ!!」

マーカス部隊『ヤァーーーーーーッ!!』

マーカス「世界最強部隊の一つに数えられるアーカムの工作部隊、マーカス隊の本領を今こそ発揮して見せろッ!」

マーカス「あのニヤケ面を晒した糞袋共に、思い知らせてやれッ!!」

マーカス「ガンホーッ!ガンホーッ!!」

マーカス部隊『ヤァーーーーーーッ!!!』

意気軒昂、と言ったところでしょうか。

恐れや混乱の色は消え去り、部隊の皆さんからは僅かながらも笑顔が浮かんで見えます。

立ち込める火薬臭の中、私達は更に1体の巨人を葬り、沸き上がる気勢と共に、このまま一気に殲滅!といくハズが・・・

隊員G「クソ、ランチャーの榴弾が切れた!」

隊員A「コッチもだ!」

サシャ「私も弾切れです!」

マーカス「副長達は!?」

隊員B「馬車馬みてえに瓦礫を引っ張ってるよ!それより隊長、自分もアサルトライフルの分しか弾がねえ」

マーカス「榴弾の残ってる奴はいるか!?」

マーカス隊長の問に、返事を返す隊員さんは一人もいません。

マーカス隊長は大口径のロングライフルを地面に放り出すと、たすき掛けにしていた銃を構え直しました。

マーカス「諦めるな!巨人の目を狙って視界を奪い、時間を稼げ!」

マーカス「我々が諦めたら全てがお仕舞いだッ!!」

マーカス隊長はそう叫ぶと、巨人の目を狙って銃を連射します。

今までの重い銃声とはうって代わり、辺りには一斉に甲高い連射音が響き渡りました。

隊員F「クソッ!俺の愛しのP-90を、豆鉄砲みたいだ、と思う日が来るとは考えもしなかったぜッ!!」

隊員A「クソが突っ込んで来やがる!グレネードならまだしも、5.45ミリ弾じゃあ足止めにもならねえッ!」

巨人は目を潰され、視界を奪われても前進をやめません。

私達の目前まで迫ると、がむしゃらに手足を振り回し始めました。

マーカス「全員回避!」

隊員E「あぶねえッ!!」

サシャ「ひっ!」

隊員G「うおおおおっ!」

振り回される巨人の腕が私へと迫った瞬間、隊員さんの一人が私を横抱きにしてダイブしました。

本当に一瞬の差です。ゴッ!と音を立てて巨人の腕が頭上を通りすぎ、私達は事なきを得ました。

隊員G「大丈夫か?」

サシャ「お、お陰様で・・」

隊員B「ヘイ!ヴァルキリーは?怪我してねえか!?」

サシャ「大丈夫です、ありがとうございます!」

隊員G「よし、なら立てるな?」

サシャ「はいッ!」

隊員B「OK!言い返事だ。あとヴァルキリー、コイツを使いな。俺達の仲間が使ってたP-90だ」

立ち上がった私に、随分と長方形を感じさせる銃が手渡されました。

隊員B「戦場の天使様は、剣を持ってねえとシマらねえからな!まずはセーフティを外して、次にスライドを引いて初弾を送り込むんだ」

サシャ「え、どれ?」

隊員B「ここだ。スライドはコレを手前に引くんだ。OK?」

サシャ「えっと・・これで良いですか?」

隊員B「OK、OK!後は狙いを定めて引き金を引くだけだ。反動が来るからしっかり銃を脇に挟みなよ?」

隊員B「さてそれじゃあ麗しのヴァルキリー、俺たちと一緒にあの糞袋共をやっつけようぜ!」

隊員B「さああの間抜け面に腹一杯喰らわせてやれッ!ガンホー!ガンホーッ!」

サシャ「や、ヤーーーッ!」

掛け声と同時に引き金を引きます。振動の様な射撃の反動が、私の体を小刻みに揺らしました。


つづく

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