ストライクウィッチーズ ブラックオプス (38)

[注意]
・オリジナルキャラ有
・ストライクウィッチーズと謳っておりますが501は出ません
・504のウィッチがほんのちょっと出るだけです
・隊員同士の呼称、口調がおかしかったらごめんなさい

ストライクウィッチーズの世界観でやる必要があるのか――と言われれば全くないです。
つまり自己満のオ○ニーです。どうかお許しください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463502430

 #1.You give love a bad name.



[19××年○月○日]


 人類とネウロイの戦いはまだまだ先が見えない状態である。
 奴らがどのような目的、理念のもと我々を攻撃しているのか――それは現在も定かではない。
 我々がハンティングをするように、ただスポーツ感覚で狩っているとでもいうのか。
 ともかく、まだまだ予断を許さない状況には変わりなく……そして、戦争はその形態を変貌させつつある。

 ネウロイという人類共通の敵が出現したことは寧ろ好都合だったのかもしれない――今になってそのような考えが浮かんできた。
 戦争や争いといった行為は人間に刻まれた本能なのだろうか。
 まだまだこの戦いは終わらない……。しかし、早くも終戦後を見越し着々と牙を研いでいる狡猾な狼がいる。

 人間は汚らしい生物だ。
 ある意味ネウロイに占領されてしまった方が……。いや、これは言い過ぎたかもしれない。
 しかし、そのような愚痴をこぼすのも致し方ない……そのような状況だ。

 我々の敵はネウロイではなかったのか。
 俺たちの敵はどこだ? 俺たちの敵は誰だ? 俺たちは何のために戦っているんだ?
 この不毛な争いはいつまで続くのか。





 人間は良くも悪くも単純な生き物だ。
 なんとか主義だとか、そんなつまらない理想の違いで争うことができる。


 19××年、ロマーニャ公国某所。


支局長「新しい任務だ――メイソン」


 メイソン……俺の呼び名の一つを口にする支局長。
 リベリオン合衆国中央情報機構、通称CIO。
 俺はこの情報機関の情報員である。
 アルバート・メイソン――合衆国軍のとあるレンジャー部隊にいた俺は、機関からのスカウトを受け、その結果転属し今の地位にいる。
 元々俺は魔力を持っているので(ストライカーを動かせるほどではない、微力なものだが)ネウロイが放出する瘴気の干渉を受けない。
 よって、女のウィッチには任せられないような汚れた仕事も任せられる――そのような意図で目をつけられたのかもしれない。


支局長「早速だが、この資料に目を通して欲しい」


 ロマーニャの南、CIOのオフィス。
 オフィスと言っても、表向きには「大西洋通信」のオフィスである。
 俗に言うダミー会社というものだ。
 リベリオンとロマーニャは友好関係にあるが、あくまでもそれは表向きである。
 ネウロイとの戦いが続く世界であるが、その裏では各国の汚れた人間たちが牽制し合っているのだ。
 戦後の世界情勢、その覇権を握るために……。
 内紛を起こしている場合ではない……。人類滅亡の危機であるというのに。
 まだまだ終わらない戦いの最中、今このときの戦いではなく、「人類が勝利した」という仮定のもと早くも終戦後のために動いている。


 そして自分自身も、そんな汚れた人間の一人なのである。




メイソン「これは」


 新型麻薬、LSD。
 世界地図と、麻薬密輸ルートと思われる地点がマークしてある。

 支局長の言葉が情報となり俺の脳裏にインプットされていく……。
 新しい麻薬が密かに出回っているらしく、それはここロマーニャにも流通し始めている。
 それを売り捌いて一儲けしよう――とあるマフィアがそれを独占しようと動いている模様で、ロマーニャ南部を中心に緊張状態が続いている。


メイソン「了解しました」


 新型麻薬の密輸ルートを明確にする。
 新しい任務が追加された。
 俺は政府の犬であり、政府の汚い意向だとか謀略について疑念を抱いている暇はない。
 俺が麻薬の製造場所を突き止めたとして、その後政府がどうしようと俺の関知するところではない。
 製造場所や密輸ルートを抑え、それを利用し他国を腐らせようとか、新薬の開発のために使おうとか、戦争資金の調達とか……そんなことはどうでもいい。
 俺は国の汚い利益のために忠実な駒となるしかないのだ。


メイソン「それでは、失礼します――」




 ロマーニャ公国某所


フェデリカ(新しい『赤ズボン隊グッズ』の営業も好調ね)

フェデリカ(さて、ビジネスビジネス)

男「やあ――リカ」

フェデリカ「……」

男「今日もロマーニャの太陽にように輝いているね」

フェデリカ「あちゃー……」

男「どう? ちょっとランチでも」

フェデリカ「ごめんねー、私は今忙しいの」

男「そんなこと言わずにさぁ、ご馳走するよ!」

フェデリカ「……」

男「さぁさぁ、行こうか!」

フェデリカ「あ、ちょっと……! はぁー……」




 [とあるバール]


男「さぁさぁ、テーブルに座ろう」

フェデリカ「ちょっと、テーブル席は高いのよ」

男「まぁー、俺に任せてよ! お金の心配はいらないからさ」

フェデリカ「私も別にお金には困ってないけど……」

男「なんたって『赤ズボン隊』の一人だからね!」

フェデリカ「残念ながら、おだてても何も出ないわよ?」

男「504統合戦闘航空団、アルダーウィッチーズのお膝元ロマーニャ!」

男「君は俺たちロマーニャ人の誇りだ」

男「愛してるよ」

フェデリカ「はぁー……」

フェデリカ「上辺の言葉ほど心に響かないものはないわね」

男「そんな、俺はいつだって本気さ」

男「こんな美女を前にして、本気にならない男は――」

フェデリカ「すいませーん!」

男「ちょっと、酷いじゃないか……」

フェデリカ「ところで――あなたは一体何者なの?」

男「何者? どういうこと?」

フェデリカ「こんな昼間から、そんなにワインを飲んで」

フェデリカ「テーブル席に私を招待して」

男「だから、俺はただの帽子屋だって」

フェデリカ「お店はどうしたのかしら」

男「今日は休みだ」

フェデリカ「ふーん……」

フェデリカ「ご馳走してくれたことにはお礼を言うけど」

フェデリカ「もう私に付き纏わないで欲しいの」




男「そんなぁ」

男「俺と君が出会ったのは、きっと運命なんだよ」

フェデリカ「あーあー、聞こえない」

男「俺は君を一目見たときから、『この人は運命の女性だ』と感じた」

男「俺の勘は当たるのさ」

男「どうだい? これからデートでも」

フェデリカ「巡回してる憲兵に突き出すことにしましょー」

男「そ、そんなぁ! カラビニエリだけは勘弁だっ」

フェデリカ「残念ながら、今回ばかりはあなたの勘も外れたようね」

フェデリカ「じゃ、私はこれで――」

男「ま、待ってくれ!」

男「食後のエスプレッソは!? 君の好きなジェラートだってあるよ?」

男「君は帽子が似合いそうだっ! どうだい? 見繕ってあげよう」

男「赤いリボンの中折れ帽、ボルサリーノが良く似合うと思う」

男「なんたって赤は情熱の色! 君のそのワイシャツにもピッタリだ!」

フェデリカ「……」

フェデリカ「なるほどね」

男「……ッ!!」

フェデリカ「アリーヴェデルチ、チャオ!」

男「ちょ、リカッ!?」




 [ロマーニャ郊外、とある邸宅]


メイソン「やあ、チェーリオ」

チェーリオ「……」

メイソン「今日はやけに機嫌が悪いようだな」

メイソン「チェーリオ・ラッキー・ルカーノ」

メイソン「ロッソファミリーの若頭がそんな状態じゃ、この組もおしまいだな」

チェーリオ「……」

チェーリオ「メイソンか」

メイソン「ほら、あんたが好きなバニラのアイスクリームだ」

チェーリオ「溶けてたら怒るぞ」

メイソン「中に氷を敷き詰めた。お陰で重かったのなんのって……」

メイソン「それから、20年物のワインだ」

チェーリオ「グラーツィエ」

メイソン「それで、その顔は……抗争でも起きたのか?」

メイソン「新型麻薬に関する小競り合い――とか?」

チェーリオ「……」

チェーリオ「分かった、そこに掛けてくれ……。コーヒーを淹れよう」

メイソン「悪いな」

チェーリオ「それで――今日は何の用だ、リベリアン」




メイソン「……」

メイソン「ラッキー・ルカーノ」

メイソン「シチリア島からリベリオンに渡り、ギャングの構成員になる」

メイソン「才能を開花させ、ロッソファミリーを結成」

メイソン「しかし警察にしょっぴかれ……監獄生活」

チェーリオ「そして、豚箱の中であんたたちからヘッドハンティングされる」

メイソン「俺たちの作戦に協力する対価として、刑期の短縮もしくは釈放させるよう画策する」

チェーリオ「あんたたちのおかげでよろしくやってるよ」

チェーリオ「それで――その説明口調は俺の自伝でも書いてくれるっていうのかい?」

メイソン「……」

メイソン「頼みがある」

チェーリオ「なるほど」

チェーリオ「リベリオン……。自由の国」

チェーリオ「メイソン、君たちの国はまるでディアボロ(悪魔)だな」

チェーリオ「権利、自由、地位……そして麻薬さえも全て自身の管理下に置こうとしている」

メイソン「それをマフィアであるあんたから言われるとはな」

メイソン「世も末だ」

チェーリオ「違いない」

チェーリオ「とにかく――新型麻薬だったか?」

メイソン「ああ」

チェーリオ「あれこそディアボロだ」

チェーリオ「一度手を出せばパーさ」

チェーリオ「特にあいつは恐ろしい」




メイソン「こっちにも出回ってきていると聞いたが」

チェーリオ「ああ、どうやらそのようだ」

メイソン「その口調だと、あんたらの手元にはまだ渡っていないということか」

チェーリオ「その通りだ」

チェーリオ「そして、俺たちはあれに手を出すつもりはない」

メイソン「どういうことだ?」

チェーリオ「先日、俺たちと手を組んでるネーロファミリーのシマでヘマした奴らがいた」

チェーリオ「そいつらの船の積み荷を調べたところ」

チェーリオ「中身は例の麻薬だった」

チェーリオ「出所はヒスパニアだ」

チェーリオ「ヒスパニアの革命解放戦線……。要するに『赤野郎』だ」

チェーリオ「ヒスパニアやこっちの政党と裏で取引してる――そんな噂もあるが」

チェーリオ「ともかく、奴らは新型麻薬をマフィアに売り捌いて資金源にしてるらしい」

メイソン「……」

メイソン「それじゃ、麻薬の小競り合いは……」

チェーリオ「俺たち以外の奴らと取引を始めたらしい」

チェーリオ「俺たちは奴らと関わる気はない。だが、奴らと取引したファミリーが俺たちのシマを荒らしている」

チェーリオ「この国のマフィアを手中に収めて、勢力を拡大しようって魂胆だな」

チェーリオ「俺たちの縄張りで好き勝手はさせない」

チェーリオ「それで……。メイソン」

チェーリオ「君はその麻薬をどうしたい?」

メイソン「麻薬の製造場所や密輸ルートを明らかにしたい」

メイソン「それが明らかになれば、ゆくゆくはあんたたちにとってもプラスに働くだろう」

チェーリオ「なるほど……」



チェーリオ「確かに、君たちには色々と世話になってる」

チェーリオ「もし俺たちのシマで馬鹿野郎がヘマしたら」

チェーリオ「情報はくれてやるさ」

チェーリオ「ただし、その機会が訪れるのは当分先になるだろう」

チェーリオ「その一件があってから、俺たちが睨みを利かせているからな」

チェーリオ「そして俺たちは、全ての元凶である赤野郎に自分から踏み込むつもりはない」

メイソン「その麻薬で敵対するファミリーが力をつけたとしても?」

チェーリオ「……」

メイソン「そうか――ネーロファミリーが検挙したものは?」

チェーリオ「条件付きで警察にくれてやった」

メイソン「なるほど……。分かった、今日はありがとう」

チェーリオ「ああ……。こちらこそアイスとワイン、ありがとう」

チェーリオ「それと」

メイソン「……?」

チェーリオ「俺は麻薬の話で落ち込んでたわけじゃない」

メイソン「……」

チェーリオ「いやぁ、なんてことない」

チェーリオ「一途な愛について、思い悩んでいたのさ」

メイソン「そうか、じゃあな」

チェーリオ「お、おい――冷たい奴だな」

メイソン「あんたもロマーニャの男なら、プレゼントの一つでも送ってやるんだな」

メイソン「じゃあな」

チェーリオ「……」

チェーリオ「アイスアイス……。ひえっ、冷てぇ……」

チェーリオ「なんだかなぁ……」




 [504統合戦闘航空団ベースキャンプ]


フェデリカ「まったく、迷惑も甚だしいわ」

醇子「……」

醇子「上層部との駆け引きや資金調達も大切だけど」

醇子「他の仕事を押し付けられる私のことも考えて欲しいんだけど……」

フェデリカ「それはそれ、これはこれよ?」

醇子「もう……」

フェデリカ「まぁまぁ、後で何か奢るからさっ――じゅんじゅん」

醇子「ちょっ……! その呼び名はやめてっ!」

フェデリカ「いいじゃーん。じゅんじゅんかわいいっ!」

醇子「……」

醇子「でも――一途に想ってくれる人がいるなんて、素敵じゃない?」




フェデリカ「えー……。タイプじゃないわ」

醇子「私はそういうの、憧れるわ」

フェデリカ「んー、鬱陶しいのは嫌いなの」

フェデリカ「私は友達の延長って関係が理想かなー」

醇子「あなたらしいわね」

フェデリカ「まぁ、そりゃ私だって女だし……興味がないと言ったら嘘になるけど」

フェデリカ「でも、今はあまりそういう気分にはなれないわねー」

醇子「ふふっ、あなたの恋人は機械だったかしら?」

フェデリカ「ふっ、そうね。違いないわ」

フェデリカ「じゅんじゅんは一途な男に迫られたら……そのまま受け入れそうね」

醇子「えっ、ええ!?」

フェデリカ「見かけによらず、そういうの好きでしょ?」

醇子「そ、それは……。好きな人だったら……だけど」

フェデリカ「あははっ、やっぱりじゅんじゅんはかわいいわね」

フェデリカ「私と代わってみるのはどう?」

醇子「ちょっと……! いくらなんでも、それは相手の人にも失礼よ!」

フェデリカ「じ、冗談よ冗談っ!」

醇子「冗談に聞こえないわよ? まったく……」

醇子「少しくらい、相手のことを受け入れてみたらどうかしら」

フェデリカ「うーん……。気が向いたらね」

醇子「もう……。あなたには敵わないわ」




 [CIOのオフィス]


支局長「なるほど――報告ご苦労様」

メイソン「いえ」

支局長「つまり……ルカーノはあくまでも慎重な姿勢を崩さないということか」

メイソン「そのようです」

支局長「しかし、いずれは有無を言わさず動いてもらうことになるだろう」

メイソン「と、いいますと」

支局長「解放戦線はヒスパニアからガリアへ、そしてこのロマーニャも赤化しようとしている」

支局長「一部政党との繋がりも自明の理だ」

支局長「その上で、勢力拡大のためにマフィアを手中に収めようとしている」

支局長「新型の麻薬でね――彼の言う通りだ」

支局長「やがてロマーニャ全土にも流通し、そしてルカーノたちと衝突することになるだろう」

支局長「そうなってからでは遅い」

メイソン「ということは、既に戦力的にロッソファミリーは不利な状況に?」

支局長「なりつつある……ということだな」

支局長「なんとしてでも赤化は阻止する」

支局長「そのために――今すぐ彼らに動いてもらわなければな」

支局長「彼は『手を出すつもりはない』ということだが……」

メイソン「その麻薬についても」

メイソン「彼らの『シノギ』の一つにするよう仕向ける――ということですね」

支局長「そういうことだ」





支局長「一部の情報筋によると、この周辺でもセールスが始まっているようだ」

支局長「例えば……。○○という会員制クラブで」

支局長「ロッソファミリーの目を盗んで密売している可能性がある」

メイソン「しかし、彼らのお膝元であるこの場所で、そのような大胆な行動が――」

支局長「そうだ。ロッソファミリーのシマで行動が許されるのは……」

メイソン「ネーロファミリー」

支局長「もしくは、ロッソファミリーの中に裏切者がいる可能性があるな」

支局長「事実、そのような場面を目撃したと別の情報員から連絡が入っている」

メイソン「なるほど……」

メイソン「これを利用しない手はない」

支局長「ああ。新型麻薬をルカーノたちに摘発させて、管理させる」

支局長「この国のマフィアの勢力図が反転する前にな」

支局長「幸い地元警察とロッソファミリーは相互関係にあるようだ」

メイソン「敵の敵は味方……というわけですか」

支局長「そうだ――解放戦線を弱体化させるため」

支局長「そして、新型麻薬の実態を明らかにするため」

支局長「あらゆる手を使って、ルカーノが動かざるを得ない状況を作り出せ」

メイソン「了解しました」




 [504統合戦闘航空団ベースキャンプ]


メイソン「初めまして――本日はよろしくお願いします」

フェデリカ「あなたは……」

メイソン「大西洋通信社の『アル』と申します」

フェデリカ「えーと……」

醇子「許可は下りています」

フェデリカ「なるほどなるほど」

醇子「まったく、だからあれほど書類を確認してって――」

フェデリカ「冗談よ、冗談。しっかり把握してるわ」

フェデリカ「それにしても、大西洋通信社……。失礼だけどあまり聞かない名前ね」

メイソン「最近創立したばかりでして」

フェデリカ「アル……。本名はアルフォンソ? アルフレッド? それともアルバート?」

メイソン「それは、企業秘密ってやつです」

メイソン「気軽にアルと読んで下さい」

フェデリカ「いじわるね――ふふっ、面白いじゃない」

醇子「それで、本日の工程は確か……」

メイソン「アルダーウィッチーズの乙女たち……その活躍ぶりを取材せよとの命令でして」

メイソン「勤務の邪魔はしませんから、それぞれの隊員の自由な時間に少しだけお話を伺ってもよろしいですか……?」

フェデリカ「オッケー。大丈夫よ!」

フェデリカ「もうバシバシ取材しちゃって!」

醇子(ちょっと、リカ……)

フェデリカ(宣伝よ宣伝。いい機会だわ)

醇子「タイムテーブルはこちらで設定してもかまわない――とのことでしたので」

フェデリカ「こっちで決めちゃったけど、良かったかしら?」

メイソン「もちろんです……。ご協力、感謝致します」

メイソン「それでは、タイムテーブル通り取材させていただきます」

醇子「時間までは、こちらに掛けてお待ちください」

フェデリカ「コーヒー淹れるわね」

メイソン「ありがとうございます」




 [数時間後]


メイソン「それでは、最後に隊長であるドッリオさんにお話を伺います」

フェデリカ「フェデリカでいいわよ?」

メイソン「それではフェデリカさん、よろしくお願いします」

フェデリカ「何が知りたい? スリーサイズ?」

メイソン「……」


 [数分後] 


メイソン「本日は本当にありがとうございました」

フェデリカ「いい記事を期待しているわ」

メイソン「ええ、記者生命をかけて書かせて頂きます」

フェデリカ「ふふっ、それは楽しみね」

メイソン「ところで……」

フェデリカ「……?」

メイソン「最後に一つだけ、いいですか?」

フェデリカ「ええ、何かしら?」

メイソン「あくまでも噂なんですけどね」

フェデリカ「……」

メイソン「黒い噂ってやつです」

メイソン「新しい麻薬が密かに出回っていることはご存知ですか……?」

フェデリカ「新しい麻薬……。ええ、話だけなら……」

フェデリカ「だけど、あれって本当なの?」

メイソン「存在自体は本当みたいなんですが」

メイソン「なんでも、この周辺にも出回ってきてるらしいんですよ」

フェデリカ「……」

メイソン「ウィッチの皆さんは大丈夫かと思いますが……。念のため気を付けて下さいね?」

フェデリカ「ええ、頭に入れておくわね」

メイソン「それともう一つなんですが――フェデリカさん」

フェデリカ「……?」

メイソン「最近、あなたにゾッコンな男がいませんか?」





フェデリカ「――!?」

フェデリカ「ど、どうしてそれを……?」

メイソン「いやー、こういう仕事をしていますとね……。色々と」

メイソン「別にあなたを嗅ぎ回ろうとか、そういうことではないんですが」

メイソン「ウィッチを束ねる隊長、そしてロマーニャの女傑の一人ということもあり、言葉は悪いですが……ただでさえ目立つような存在ですから」

メイソン「口伝いに色々と耳に入ってくるんですよ」

フェデリカ「あははー、困ったわね……」

フェデリカ「確かに、最近やけに口説いてくる男がいてねー……」

メイソン「それで――気を付けた方がいいかもしれません」

フェデリカ「どういうこと?」

メイソン「あくまでも推測や噂に過ぎませんが」

メイソン「この周辺に○○って名前の会員制のクラブがあるんです」

メイソン「そこで新型の麻薬が取引されてるって話があって」

メイソン「先日、そのクラブへ男が入っていくのを見たと、記者仲間が」

フェデリカ「――!!」

メイソン「まぁ、クラブの会員全員が取引しているということではないでしょうが」

メイソン「気を付けて下さい」

フェデリカ(そんな――)

フェデリカ「ええ、ありがとう……」

メイソン「それでは、お世話になりました。私はここらへんで――」

フェデリカ「ねえ」

メイソン「……?」

フェデリカ「私をそのクラブへ案内して欲しいの」

メイソン「……」

メイソン「いやー、やめた方がいいですよ」

メイソン「いくらあなたがウィッチでも――」

フェデリカ「大丈夫よ、別に暴れてやろうとかそういうことじゃないから」

フェデリカ「ただ、身近にある脅威を把握しておくのも隊長の仕事よ」

フェデリカ「少し偵察して、もし何か起こったらすぐに憲兵に知らせるわ」

メイソン「……」

メイソン「一応、こういう仕事柄ですから」

メイソン「中へ入れないこともないんですけど……」

フェデリカ「それじゃー、決まりね」

フェデリカ(あの男――)




 [ロマーニャ某所、会員制クラブ]


用心棒「会員証の提示をお願いします」

メイソン「はい」

フェデリカ「……」

用心棒「確認致しました――素敵な時間をお楽しみ下さい」

メイソン「ふぅー、私も命が惜しいので手短に済ませましょう」

メイソン「取材の材料としてはこれ以上のものはありませんが」

メイソン「口封じに埋められるのは勘弁なんで」

フェデリカ「この会員証って、偽造なの?」

メイソン「それは企業秘密です」

フェデリカ「相変わらず口が堅いわね。理想のスパイだわ」

メイソン「……」


 [同時刻]


チェーリオ「ったく、最近は面倒な仕事が多いな……」

チェーリオ「――ん?」

チェーリオ(あれは……。メイソンか?)

チェーリオ(それに……隣のレディは)

チェーリオ(――!!)




 [再び、クラブ内]


メイソン「……」

フェデリカ「なんだ、ただの『サロン』って感じのクラブじゃない」

メイソン「ですね」

フェデリカ「全然怪しいようには見えないけど――」

メイソン「……」

メイソン「――!!」

メイソン「しっ、静かに……!」

フェデリカ「……?」

メイソン「あれを見て下さい」

フェデリカ(あれは……?)

フェデリカ(広間の奥――厳然と立ち塞がる黒服の用心棒二人)

フェデリカ(二人に守られた扉……)

フェデリカ(そこへ見るからに『そっち系』の男二人が入って行く……)

フェデリカ(あの男はいないようだけど)

メイソン「もしかしたら、本当にやってるのかもしれませんね……」

フェデリカ「……」

メイソン「まあ、あの中へ入るのはさすがに――」

フェデリカ「見て。クラブの会員が何人か入っていったわ」

フェデリカ「怪しい……」

メイソン「いやぁ、さすがに……もう帰りましょうよ」

フェデリカ「あの中には入れないの?」

メイソン「私は嫌ですよ」

フェデリカ「それじゃ、私一人で行くわ」




メイソン「どうして……! あなたがそこまでする意味はないじゃないですか」

フェデリカ「……」

メイソン「ちょ、ちょっと! フェデリカさん!」

フェデリカ(なぜそうするのか……私にも分からない)

フェデリカ(あの男が中にいたとして……私には関係ない)

フェデリカ(なのに……。私は……)

フェデリカ(あの男が、もしそんな存在だったらと思うと)

フェデリカ(私は、少なからずあの男が――)

フェデリカ「私、行ってくるわ」

メイソン「ちょっと! 危険ですよ!」

メイソン「フェデリカさ――」


 ドスッ!!


フェデリカ「――ッ!?」

フェデリカ「アル……!!」

フェデリカ(迂闊だった――)

フェデリカ(目の前のアルが倒れる)

フェデリカ(倒れる影から現れた、一人の男――手には自動小銃)

フェデリカ「やっぱり……!!」

フェデリカ(そういうことだったのか)

フェデリカ(魔力が減退してきた私だって、男一人に負けるような……!!)


 ドスッ!


フェデリカ「――ッ!?」

フェデリカ(あれ……)

フェデリカ(どうやら私は――後方から何者かに後頭部を殴られた)

フェデリカ(それが分かった時には、何もかも遅かった)

フェデリカ(鈍い痛み)

フェデリカ(視界に稲妻が走り――真っ暗になった)




 [同時刻]


チェーリオ「あれは……ネーロの奴らに仕切らせてるクラブじゃないか」

部下「アニキ、どうしたんすか?」

チェーリオ「お前ら、ちょっとここで待ってろ」

部下「あ、アニキッ――」

チェーリオ「リカ、どうして君が……」

チェーリオ(それに……メイソンのやつ)

チェーリオ「何を企んで――」

チェーリオ「――ッ!?」

チェーリオ(あれは……!?)

チェーリオ(建物の裏口――男が数人出てきたぞ)

チェーリオ(何かを抱えて……)

チェーリオ「なっ――!?」

チェーリオ(そんな……!!)

チェーリオ(リカ……!? どうして君が!!)

チェーリオ(それに……メイソンも!?)

チェーリオ(車に乗せられている……。気を失っているのか?)

チェーリオ(一体何があったんだ)

チェーリオ(リカ……)

チェーリオ「――ッ!!」

部下「あ、アニキ!! 一体どうしたんすか!?」

チェーリオ「大変なことになった」




チェーリオ(メイソンがいたということは)

チェーリオ(麻薬絡みだろう)

チェーリオ(どうしてリカと一緒にいたのかは分からないが)

チェーリオ(もしかして、メイソンのやつ……)

チェーリオ(いや、ともかく――ここはネーロの奴らに仕切らせている場所)

チェーリオ(二人は何らかの不都合な場面に遭遇した……?)

チェーリオ(麻薬の取引……)

チェーリオ(メイソン……。新型麻薬……)

チェーリオ(まさか――)

チェーリオ「お前ら、非番の奴らを呼び出せ」

チェーリオ「このクラブを洗い出すんだ」

部下「ど、どういうことっすか?」

チェーリオ「LSDがないかチェックしろ」

チェーリオ「もしそいつを取引してた場合、直ちに売人を拘束しろ」

部下「は、はいっ!」

チェーリオ「それから、ネーロの奴らにも連絡を取れ」

チェーリオ「このクラブの責任者と、そいつらが仕切ってるシマを全て教えろってな」

チェーリオ「裏切者がいる可能性がある、非常事態だ――そう付け加えておけ」

部下「は、はいっ!」

チェーリオ「俺は一旦本部まで戻る」

チェーリオ「戦闘員も呼び出しておけ」

チェーリオ「行くぞ――!!」




 [ロマーニャ郊外、とある廃工場]


男A「まさか『赤ズボン隊』の一人がいるとはなぁ」

フェデリカ(ここは――両腕両足をきつく拘束されている)

男A「俺だってロマーニャの英雄である一人を傷つけたくはないけどよぉ」

男A「何やらこの男と嗅ぎ回ってたみたいだからなぁ」

男A「そうだよなぁっ!?」


 ドスッ!!


メイソン「ングッ……!!」

フェデリカ「なっ――やめて!!」

男A「おらぁ! 何が目的だ!」


 ドスッ! ドスッ!


メイソン「ア゛ッ……!! ガハッ……!!」

男A「簡単には死なせねぇぞ、おら」

メイソン「俺たちは何もしてない……!!」

男A「うちの会員にしてはお前みてぇな顔見たことねぇーしよー」

男A「それに、何でウィッチがいるんだよ!」

メイソン「俺たちは新しく会員になったんだ……!!」

男A「そんな話聞いたこともねぇよ!」


 ドスッ!


男A「それによぉ――あんたの懐から出てきたこいつはなんだよ」

メイソン「……!!」

男A「この名刺はなんだよ? 大西洋通信社?」

男A「お前……記者だよな?」

男A「俺たちのこと嗅ぎ回ってたんだろ?」

男A「もう言い逃れはできねぇよなぁ?」

メイソン「……」

男A「なんとか言えってんだ!!」


 ドスッ!!


メイソン「ンア゛ッ……!!」

フェデリカ「やめて……!! その人は何も悪くない!!」

フェデリカ「あそこに行こうって言い出したのは私なの!!」


男A「……」

男A「残念だな――英雄が一人いなくなるのは」

フェデリカ「……!!」

男A「知らなくてもいい世界ってもんがあるんだぜ? 隊長のフェデリカさんよ」

男A「明日には戦死扱いになってるかもしんねーなぁ?」

フェデリカ「……」

フェデリカ(クソ……!! この拘束さえなければ……!!)

男B「なぁ、どうせ殺すんなら……ヤッとかねぇか?」

男C「そうだ――隊長さんよぉ、俺は前からあんたみたいなウィッチを犯してぇと思ってたんだ」

男C「なんでも、ウィッチっつーのは純潔さが大切なんだってな」

男C「そんな奴を汚せるなんて……たまらねぇぜ!」

男A「まぁ待て。まずはこの男が先だ」

メイソン「……」

メイソン「ふっ、いいのか?」

男A「何笑ってやがる」

メイソン「俺はともかく、ウィッチが……しかも英雄が殺されたとなれば」

メイソン「お前らは鬼の憲兵にこの世の果てまで追い回されるぜ?」

メイソン「もしくは、憤怒した一般人の私刑を受ける」

メイソン「それから、これが味方にバレたら大変だよなぁ?」

メイソン「お前ら、味方のファミリーに隠れて何かやってたんだろ?」

男A「やはり、コソコソ嗅ぎ回ってたんだな」

男A「心配には及ばんよ」

男A「俺たちがやった証拠さえなければ、お前たちは永遠に行方不明のままだからよ」

男A「海の藻屑になってもらうから、安心しろ」

男A「それじゃ、お喋りはこれまでだ」

男A「もう痛めつけるのも飽きた。やっぱり、さっさと殺しちまおう」


 スチャッ


メイソン(拳銃……)

フェデリカ「やめてっ!!」

男A「すまねぇが、それは無理な相談だ」

男A「じゃあな――」

メイソン「……」




 額に向けられる銃口。
 黒光りする無機質なフォルム。
 これが報いか――散々人を不幸にしてきた、その報いか。
 これで罪も軽くなるなら……。俺は……。


男A「……」


 罪も軽くなる――いや、これはただの逃避だ。
 現実から、己の罪から逃げているだけだ。
 俺はこれからも、罪を負い続ける……。


フェデリカ「やめてっ――」


 バァンッ!!


メイソン「――ッ」


 燻る硝煙、火薬の臭い。
 排出された空薬莢が黙示録を奏でる。
 そして、災いがやって来る……。
 血飛沫がこの世の終焉を確実に告げて――目の前の男が人形のように倒れた。


メイソン「……」


 俺は死んでいない。
 その銃声は、男の拳銃のものではなかった。
 ということは――


男B「あ、あんたは……!!」

男C「く、くそぉっ! く、来るなっ!」


 バァン!


男C「ギャアッ!!」


 的確に脚を貫く銃弾。


男B「わ、分かった!! や、やめてくれっ!!」

メイソン「……」

フェデリカ「あ、あなたは――」

チェーリオ「奴らを捕まえろ……。それから、この二人の拘束を解いてやれ」

部下たち「はっ――」




フェデリカ「あなた……。帽子屋じゃなかったのね」

チェーリオ「リカ……」

チェーリオ「嘘をついて、すまなかった」

フェデリカ「……」

チェーリオ(メイソン……。やってくれたな)

メイソン「……」

チェーリオ(後でゆっくり話し合おうじゃないか)

フェデリカ「あなた……。やっぱり麻薬を……」

チェーリオ「フェデリカ――君は早く逃げて」

チェーリオ「ここも騒がしくなる」

フェデリカ「そんな……」

チェーリオ「行くんだ」

チェーリオ「行ってくれ」

フェデリカ「……」

フェデリカ「やっぱりあの時、憲兵に突き出しておくんだったわ」

チェーリオ「ふっ、今からでも遅くはないよ?」

フェデリカ「……!!」

フェデリカ「最低――」ダッ

チェーリオ「さて……。どうしてくれるんだ? メイソン」

チェーリオ「派手にフラれてしまったではないか」

メイソン「言い訳はしない。殺すなら殺せ」

チェーリオ「そうしたいけれど、今はそれどころじゃなくてね」

チェーリオ「まぁ、後日――落ち着いたら俺の家に来てくれ」

メイソン「ああ、そうさせてもらう」

チェーリオ「じゃあ、待ってるよ――」




 [チェーリオの邸宅]


チェーリオ「まさか……本当に来るとはね」

メイソン「俺は約束を守る男だ」

チェーリオ「よく言うよ――てっきり逃げたかと思った」

メイソン「報酬はいつもの口座へ送っておいた」

チェーリオ「最早この世で信頼できるものは金だけだな」

メイソン「金で買えないものはない――人の心以外はな」

チェーリオ「リベリアンの癖に変なところでロマンチストなんだな」

メイソン「金で買える心もあれば、金に屈しない心もあるってことだ」

チェーリオ「あー、まったくだ」

チェーリオ「愛する人間の心は奪えなかったわけだ」

チェーリオ「君のおかげでね」

メイソン「……」

チェーリオ「人の恋路を引っ掻き回した挙句、愛する人を危険な目に遭わせた」

チェーリオ「本来ならばアドリア海に沈めてあげたいけど」

チェーリオ「これがまた憎い男だ――裏切者の存在に気付かされたというわけだ」

チェーリオ「俺たちの目を盗んで他のファミリーと取引し、麻薬を売り捌いていた」

チェーリオ「あいつらは敵に魂を売った」

チェーリオ「もし気付くのが遅れていたら……。俺も危なかったかもしれない」

チェーリオ「俺がどれだけ甘ったれだったか……気付かされたよ」

チェーリオ「もしかして君は、最初からこれを見越して――」

チェーリオ「フェデリカを巻き込むことで、ファミリーに迫る危機に気付かせた」

チェーリオ「そして何が何でも、俺が新型麻薬に関わらなくてはならない状況を作り出した」

メイソン「……」

メイソン「いや、あれは賭けだ」

チェーリオ「随分とハイリスクな賭けじゃないか」

メイソン「あんたらファミリーの傘下組織であるネーロファミリー、その下っ端が裏切者だという確証はほとんどなかった」

メイソン「そして、あの状況を作り出せるかどうかも――一か八かの賭けだ」

メイソン「あんたがいつものルーティーン通りに行動して、俺たちを見つけるかどうかも分からないしな」

チェーリオ「でも、俺はいつもの通りに行動した。そして君たちを見つけた――君の予想通りに」

チェーリオ「今回は君に全て持っていかれたわけだ」




チェーリオ「殴られた怪我は大丈夫かい?」

メイソン「ああ」

チェーリオ「まったく――君の目論見通り、結局俺もあの麻薬に手を出す羽目になったわけだ」

メイソン「……」

チェーリオ「ロマーニャ全土のマフィア、その幹部を集めた会議があった」

チェーリオ「俺たちが持ち掛けた話だ……。なんとか成功したよ」

チェーリオ「新型麻薬に関する取り決めだ」

チェーリオ「新しいルールが決まって、その結果独占は禁止された」

メイソン「その会議には解放戦線の幹部も出席していたのか?」

チェーリオ「ああ、結局幹部の立ち会いのもと全マフィアと取引が交わされた。麻薬の配分についてな」

チェーリオ「こうして俺たちも、あれを扱う羽目になったわけだ」

チェーリオ「赤野郎の息がかかっちまった――君たちにとってはまずい状況じゃないのか?」

メイソン「いや、むしろ好都合だ」

メイソン「ロマーニャの共産化を防ぐことは最重要事項だ」

メイソン「だが、これであんたらマフィアのパワーバランスも元に戻った」

メイソン「あんたたちロッソファミリーが潰されたら、俺たちにとってもたまったもんじゃない」

メイソン「そして――あんたたちが解放戦線と取引したことで、色々と情報が得られるわけだ」

チェーリオ「なるほどね」

チェーリオ「あんたはディアボロだ」




チェーリオ「新型麻薬は解放戦線が直接管理し、俺たちマフィアへ卸している」

チェーリオ「確証はないが、恐らく製造場所は……ビルマとシャムロ」

チェーリオ「しかし、これは輸送の関係上こちらへ送るのは難しい。ネウロイの占領地域も数多いからな」

チェーリオ「そうなると……有力候補はアステカ、アマゾナス、ノイエカールスラント」

メイソン「幹部がそのように言っていたのか?」

チェーリオ「いや、風の噂ってやつさ――ただ、可能性は高い」

チェーリオ「解放戦線はヒスパニアで生まれた組織だが、奴らは南リベリオンとも繋がっているって話だ」

チェーリオ「もっとも、そっちの話は君たちが一番知っていることだろう」

メイソン「そうだな。ただ、正確な情報が欲しい」

チェーリオ「奴らは製造工場を直接管理している」

チェーリオ「貧困、そして政情不安に付け込んで勢力を広げている」

チェーリオ「今分かっているのはこれくらいさ」

メイソン「なるほどな……。ありがとう」

チェーリオ「まったく、俺は厄介事を背負わされ」

チェーリオ「失恋までしちまったわけだ」

メイソン「そうでもないと思うぞ」

チェーリオ「どういうことだい?」

メイソン「ああ、そうだ――土産を持ってきた」ペラッ

チェーリオ「――ッ!?」

チェーリオ「これは……」

メイソン「ちょっと基地へ遊びに行く用事があってな」

メイソン「そこで撮ったものだ」

チェーリオ(フェデリカ一人が写った写真)




メイソン「あと、もう一つ……。なんでも『せくしーカレンダー』ってもんらしい」

メイソン「もしかして既に持ってたか?」

チェーリオ「い、いや……」

チェーリオ(フェデリカがあんな格好やこんな格好をしたカレンダー……)

メイソン「赤ズボン隊のグッズらしいな」

チェーリオ「……」

メイソン「ある男が会員制のクラブで麻薬の取引をしているかもしれない――そう言ったら」

メイソン「彼女が『案内して』って言ってきたんだ」

チェーリオ「――ッ!!」

メイソン「どうでもいい男なら、わざわざ確かめに行こうとしないよな」

チェーリオ「……」

チェーリオ「メイソン……。君は機密に関わる話をポンポン喋っているけど」

チェーリオ「大丈夫なのかい……?」

メイソン「俺とあんたはビジネスパートナーだ」

メイソン「これからもよろしく頼むぜ――じゃあ、またな」

チェーリオ「お、おい……!」

チェーリオ「やれやれ――メイソン、あんたはディアボロだ」




 [CIOのオフィス]


メイソン「ロッソファミリーは組織内の洗浄を行い、裏切者を粛正」

メイソン「その後、ロマーニャ内の全マフィアとお互いに取り決めを交わしました……」

メイソン「これで彼らも新型麻薬を扱うことになるでしょう」

メイソン「解放戦線の○○という幹部とも面識を持った模様です」

メイソン「まだ正確な製造場所、密輸ルートは明らかになりませんが」

メイソン「彼が色々と情報を探ってくれるはずですから」

メイソン「まもなくその全容が明らかになるはずです……」

メイソン「報告は以上です」

支局長「分かった、ご苦労様。よくやったメイソン」

支局長「アステカ、アマゾナス、ノイエカールスラント」

支局長「解放戦線を取り締まるはずの政府だが、奴らはそれら政府とも繋がっている可能性がある」

支局長「とにかく――全容が明らかになれば、後はこちらのものだ」

支局長「よくやった」

メイソン「ありがとうございます」

支局長「しかし、任務が終わった直後で悪いが……。どうやらカラビニエリが本格的に動き出したようだ」

支局長「君も目をつけられている可能性がある」

支局長「さっそくだが、休暇も兼ねて一旦本国へ帰還したまえ」

支局長「そして本部へ一連の流れを報告すること――私から話を通しておく」

メイソン「了解しました」

支局長「詳しくは後日、連絡する」

支局長「それまでは休暇を楽しみたまえ」

メイソン「ありがとうございます。失礼します――」




 [ロマーニャ某所]


チェーリオ「さて、今日の仕事は終わりだな」

チェーリオ「メシにしようぜ」

部下「そうですね」

???「チェーリオ・ラッキー・ルカーノ」

チェーリオ「……」

部下「この女ッ……!!」スッ

チェーリオ「待て――知り合いだ」

チェーリオ「お前は先に行ってていいぞ? いつもの店だ」

部下「は、はい……。それでは……」

チェーリオ「やあ、今日もロマーニャの太陽のように――」

フェデリカ「やっぱり、あなたがロッソファミリーの若頭だったわけね」

チェーリオ「……」

チェーリオ「まあ、バレるのも時間の問題だよなぁ」

チェーリオ「でも――その様子だと、憲兵へ通報しないでくれたんだね」

フェデリカ「あなたは私を助けてくれた」

フェデリカ「だから、これで貸し借りはゼロよ」

チェーリオ「……」

チェーリオ「ああ」

フェデリカ「最後に一つだけ……」

チェーリオ「……?」

フェデリカ「ありがとう」




チェーリオ「――ッ」

フェデリカ「あの時、言わないで逃げちゃったから……。ごめんなさい」

フェデリカ「あなたは私の命の恩人」

フェデリカ「本当に、ありがとう」

チェーリオ「……」

フェデリカ「……」サッ

チェーリオ「いや、当然のことをしたま――」


 チュッ


フェデリカ「……//」

チェーリオ「フェデリカ……」

フェデリカ「だけど――ごめんなさい」

チェーリオ「……」

フェデリカ「これが最初で最後のキスよ――」スッ

チェーリオ「……」

チェーリオ「やれやれ……。君もディアボロだったわけかい」

チェーリオ「Diavoletta Rossa(赤い悪魔)だ」



 [504統合戦闘航空団ベースキャンプ]


醇子「報告は以上です」

フェデリカ「了解、ご苦労様」

フェデリカ「直っていいわよ」

醇子「ふぅ……」

フェデリカ「お疲れかしら? コーヒー淹れるわね」

醇子「ありがとう」

醇子「だいぶいい感じになってきたんだけど……。うちの隊も個性派ばかりだから大変だわ」

フェデリカ「ほんとよねー」

醇子「もちろん、あなたもね」

フェデリカ「てへっ」

フェデリカ「はい、淹れたてよっ」

醇子「ありがとう」

醇子「……」

醇子「そういえば――リカ」

フェデリカ「どうしたの?」

醇子「その帽子……買ってきたの?」




フェデリカ「――ッ」

フェデリカ「ああー、こ、これはねっ」

フェデリカ「そうそう、買ってきたの!」

醇子「黒地に赤いリボンがついた中折れ帽……。もしかしてボルサリーノとか?」

フェデリカ「その通りっ」

醇子「ねぇ、被ってみせて?」

フェデリカ「え、ええっ!? 恥ずかしいわ」

醇子「リカが狼狽するなんて珍しい。ふふっ、もしかして例の彼が――」

フェデリカ「ち、違う違うっ! 自分で買ったの!」

醇子「まあまあ――ほら、被って被って?」

フェデリカ「もう……。じゅんじゅんって意外とSなんだから」

フェデリカ「はい――どう? 似合う?」

醇子「うんっ! とても似合ってる!」

醇子「写真撮りましょ!? 彼に送ってあげなくちゃ!」

フェデリカ「や、やめてっ! それだけはっ!」

醇子「いいからいいからっ! 持ってくるわね?」

フェデリカ「ちょっと、じゅんじゅん待って!」




フェルナンディア「失礼しまー――えっ!?」

醇子「あら、マルヴェッツィ中尉!」

マルチナ「なになにっ!? あっ、フェデリカさんかわいいっ!!」

ルチアナ「その帽子、とても似合ってます……」

醇子「それに二人も――ねっ? 似合うでしょ?」

フェルナンディア「大尉のセレクトですか?」

醇子「違うの、これは――むぐっ!」

フェデリカ「あーあー何も聞こえない! あなたたち何の用っ!?」

フェルナンディア「もしかして――贈り物ですかっ!?」

ルチアナ「彼氏さんから……とか?」ボソッ

マルチナ「きゃーっ!! いいなぁっ!!」

フェルナンディア「全然知らなかった……いつから付き合っているんですか!?」

フェデリカ「ちーがーうーの!! 私には彼氏もいないしこれは私が買ってきた帽子で――」

醇子「ふぅ……。だからね、写真を撮って送ってあげようって話してたの!」

フェルナンディア「あっ、それいいですね!」

ルチアナ「きっと喜んでくださると思います……!」

マルチナ「よーしっ、それでは僕たちが責任を持ってカメラを待って参ります!!」

マルチナ「二人とも行こっ!!」ダッ

フェルナンディア「あっ――待ちなさいティナ!!」タッ

ルチアナ「あ、待って……!」ダッ

フェデリカ「あああっ!! 待ちなさい三変人っ!!」

醇子「私も行くわっ!」ダッ

フェデリカ「ちょっ、醇子!? いつものあなたはどこへ――」

フェデリカ「まったく……」

フェデリカ「とんだ災難だわ……」

フェデリカ「あなたたち……。まるで悪魔ね……」

フェデリカ「そして」スッ

フェデリカ「あなたも――」


 Cara,’’Diavoletta Rossa’’


フェデリカ「赤い悪魔、ね」










ふぅ見苦しいものをありがとうございました。

[参考]
・フェデリカ・N・ドッリオ→http://i.imgur.com/CWCrtqT.jpg
・竹井醇子→http://i.imgur.com/gsw3gs4.jpg
・フェルナンディア・マルヴェッツィ→http://i.imgur.com/bn3578K.jpg
・マルチナ・クレスピ→http://i.imgur.com/zoXkej9.jpg
・ルチアナ・マッツェイ→http://i.imgur.com/li1gIja.jpg


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