エーミール「そうか、そうか、あれから何年も経ったんだな…」 (54)

僕「こ、こんどはどうだい?」

エーミール「はは、まだまだ。こんな標本じゃ僕は満足できないねぇw」

僕「君と同じヤママユガの標本だよ?」

エーミール「たしかにヤママユガだけど詰めが甘すぎだ。羽が左右対称角度がずれてるよ、子供の頃僕が成功させた『あれ』のほうがまだマシさ」

僕「うぐ…」

エーミール「君は僕のヤママユガをバラバラにしてからしばらくして言ったろう?僕の納得できるヤママユガの標本を作って弁償するってさ」

僕「もちろんさ、あの時のあの台詞、今でも心に染み付いてるからね」

エーミール「まあそうなってくれるよう望んで言ったからね…ふふふ」

僕「わかってるって!かならず君が喜んでくれるヤママユガを完成させてみせるよ!」

エーミール「ソレは楽しみだwもうそう言って数年経ってるけどねw」

僕「ぐぬぬぬ」

エーミール「さて、今日はもう遅い、よかったら夕食でも食べていかないかい?」

僕「え、いいの?」

エーミール「母さんの作るシチューは絶品だからね。食べていくといい」

僕「あ、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて」

エーミール「近いうちにもうちょっと上手く作成できるよう僕が技術を伝授してやるよ」

僕「ありがたいけどお手柔らかに頼むよ。君は本当にきびしいからなぁ…」

エーミール「まあ教えたところで君が僕に追いつけるはずなんてないんだけどねw」

僕「ぐぬぬぬ」

エーミール「ふふ、さあ、夕食が冷めないうちにいただこう」

エーミール「まあ以前よりはマシになったか…」

僕「え…じゃあ今度こそ!」

エーミール「誰が納得したと言ったんだい?以前より多少マシになっただけだよ。こんなんじゃ誰もほしがらないし売り物にすりゃならないよ」

僕「くっそう…今回もだめか…もうあきらめたくなってしまったよ」

エーミール「そうか、そうか、つまり君は(ry」

僕「わかった!わかったからそれ言うのやめて!がんばる!がんばりますってば!」

エーミール「ふふ、その意気だw」

僕「ねえ、ここの割れてしまった羽の部分なんだけど…」

エーミール「ああ、それはね…」

・・・・・・

・・・・

・・

そしてまたしばらく経ち

エーミール「ほう…やるようになったものだ」

僕「どんなもんだい?これなら様にになってるだろ?君ほどじゃないけど」

エーミール「ふ、ふん!///ま、まあ君なりには上達しているようだね、でもまだまださ。あの時異常のヤママユガの標本を君に弁償してもらうまで僕は君を逃がさないよ?」

僕「そ、そっか…わかったよ…一度失った信用を取り戻すことは大変だからね…がんばる…!」

エーミール「別に僕と君の関係は信用するしない以前のものだった気もするけどねw」

僕「ひっど!」

エーミール「ふふ、さあ今日はもう遅い、親も心配するだろうからまた続きは後日にしよう」

エーミール「本当最悪だったな…彼との出来事は…」ゴソゴソ

エーミール「本当ぼろぼろにしてくれたものだよw僕の最高傑作を…」

エーミール「だけど…僕は…」

・・・・・・・

・・・・

・・・

エーミール「な…本当に君が作ったのかこれ…」

僕「見事なヤママユガでしょ?徹夜で完成させたんだよ?」

エーミール「すごいな…初めて僕が完成させたもの以上の出来だ…認めざるおえない…」

僕「本当!?やった…!やっと納得してくれた!受け取ってよ!そのヤママユガ!」

エーミール「いいのかい?こんな凄い出来の物を僕に…」

僕「だって僕は君の宝物を壊してしまったんだ、これはその償いさ。今までそのために頑張って来たんだから貰ってよ」

エーミール「そうか…わかったよ。これであの時の貸し借りは無しだ…」

僕「うん!本当にごめんね…」

エーミール「謝る必要なんてもうないさ。君はこうやって対価以上の物を僕に心から詫び、返してくれた。それだけで十分だよ」

僕「エーミール…」

エーミール「だから…」

僕「ん?」

エーミール「いいや。なんでもない。今までありがとう」

僕は彼へ償いをするために必死に蝶の標本を何度も作ってきた。

入手が非常に難しいクジャクヤママユを時間をかけては標本にして彼に送り続けた。

そして初めてエーミールは僕の作品を認めてくれた。

エーミールは普段の不気味な笑みではなく、曇りの無い笑顔で僕にお礼を言ったんだ。

しかし、時代の流れとは酷なものだ。僕が何年もかけて彼にやっとプレゼントした標本も時代の流れで価値は落ちていた。

そう、今の子供たちは蛾の標本集めではなく、カブトムシの標本集めに移行していたからだ。

僕もブームに取り込まれるかのごとくカブトムシやクワガタ集めに夢中になっていた。

そしてしばらくしてエーミールから連絡があり家に向かった。

エーミール「やあ、久しぶりだね、君に見てほしいものがどうしてもあって」

僕「え?何?また何か標本を作ったの?」

エーミール「その通りさほら見たまえ」

僕「うわ!これオオクワガタの標本じゃねーか!まさか幼虫から育てのか!?」

エーミール「馬鹿を言っちゃいけないよw山で捕まえてきたのさw」

僕「すっげえ…売れば10万以上になるんじゃね…?」

エーミール「生きていればね?wまた君の驚く顔が見れてうれしいよw」

僕「まったく、君はやっぱり凄い奴だなあ」

エーミール「そりゃどうもwさあ、熱いだろう?アイスティーでも持ってくるから少し待っていてくれたまえ」

僕「お、悪いね、いつも気を利かせてくれてありがとう!」

エーミール「ふん//褒めてもなにもでないからな?取って来る」タッタッタッ

僕「ごくごく…ぷはぁ…やっぱ暑い日はアイスティに限るわ…!」

エーミール「まったく、もう少し上品に飲めよ君は…」

僕「いやぁ、やっぱ夏に飲む飲み物ってついガブガブいっちゃってさ…ってあれ…なんか体がふらつくんだけど」

エーミール「え?大丈夫かい?まさか熱射病じゃ…とりあえず水分をたくさん取るためにこのアイスティーをたくさん飲むんだ!」

僕「すまん…恩にきるわ…」

そしてそれから僕の意識はぷっつりと途絶えた。

そして気づけば夕方になっておりエーミールのベッドの上で横になっていた
水枕が添えられていた

エーミール「目が覚めたか…」

僕「あれ、エーミール…僕は一体」

エーミール「どうやら室温が高すぎて熱射病になったらしい、いきなり倒れて驚いたよ」

僕「君が介抱してくれたんだね。ありがとう」

エーミール「別にそんなことはどうでもいいさ…それより困ったことが起こったよ…」

僕「何?」

エーミール「コレを見てくれ…」

僕「あれ!?オオクワガタの標本が胴体真っ二つになってる上に羽がもげてる!?」

エーミール「誰がやったとおもう?」

僕「気を失っていたから解らないよ…」

エーミール「そう、君が気を失って倒れた際に君の後頭部が僕のオオクワガタの標本にもろに命中したのさ…」

僕「うそ…?」

エーミール「嘘じゃない…僕の部屋には監視カメラがついてるからそれで再生してみればわかる」

僕「監視カメラ!?趣味悪!」

エーミール「どっかの誰かさんが人の蛾を盗んだときから用心としてつけたんだよ」

僕「何も言いかえせん…」

エーミール「ふふ、で、どうしてくれる?」

僕「え…?」

エーミール「このオオクワガタの標本の価値はそこそこするもんだ。ぶっちゃけヤママユガの標本の値打ちがゴミなレベルだとおもう」

僕「え…じゃあ僕はかなりやばいことをしたんじゃ…」

エーミール「やばいね」

僕「でもわざとじゃないし」

エーミール「そうかそうか、つまり君は(ゲス顔」

僕「だからそれやめ!ったく、不可抗力とはいえたしかに壊した僕に責任がある…わかったよ…なんでもするから…」

エーミール「へえ?でもこのオオクワガタはもう修復不可能だよ?仮にしたとしてもつぎはぎだらけで人に見せられたもんじゃない…」

僕「そ、それなら僕がこれ以上のオオクワガタを捕まえて標本にして君にプレゼントしてやる!」

エーミール「僕のより大きいオオクワガタなんて無理だよ。なかなか居ないと思うよ?ホームセンターで売ってるようなものじゃないんだからねぇ」

僕「できらぁ!」

エーミール「そこまで言うなら楽しみにしてるよw僕の捕まえたオオクワガタより大きいものをぜひプレゼントしてくれたまえw」

僕「え?これより大きいオオクワガタを…?」

エーミール「ほほぅ?君はそこでふざけるかね」

僕「じょ、冗談だよわかったよ。善処する!」

こうして僕は夜の雑木林を何日もかけて探し回った

僕「くっそ、ノコとかカナブンしかいねぇ…うわ!スズメバチだ!」

僕「でもまあ僕が壊してしまったことに変わりは無い…がんばらないと…」

・・・・・・・

・・・・・

・・・

あれから数ヶ月捕まえたクワガタやカブトムシをもってエーミールの家へ通った。
一緒に飼育しながら雑談したり彼の家で食事をご馳走になったりした。
しかしどうあがいても僕はあれ以上の大きさのオオクワガタを捕まえることが出来なかったのだ。

エーミール「やあ、もうギブアップかい?」

僕「ぐっ…どうしても君のオオクワガタより大きい固体が見つからないんだ…」

エーミール「そうか…(無理も無い…だって僕のクワガタは実はオオクワガタではなくギラファノコギリクワガタだったんだからね」

僕「くっそ…僕は…僕は1度ならず2度までも君の心を傷つけてしまった…ぐす…」

エーミール「な、なくな!」

僕「僕はずっと、ずっと君にあの軽蔑の言葉を向けられてから償うことばかりを考えていたんだ…」

エーミール「…」

僕「やっと…やっと晴れた顔で僕を許すといってくれて、こんなクズの自分にも救いの手を差し伸べてくれた君をまた再度裏切ることになって…僕は最低だ…ぐす…」

エーミール「ちょっとまってろ…」ガラガラ

僕「え?どうしたの?僕が前あげたヤママユガの標本なんて取り出して…」

エーミール「こうするのさ…」グシャグシャ!

僕「な、なんてことを!?君さえ認めてくれたヤママユガを!」

エーミール「これでおあいこだろ?」

僕「え?」

エーミール「君は僕のオオクワガタを故意じゃないとはいえ壊した。そして僕は君が一生懸命作ってくれたヤママユガの標本を壊した。これでおあいこさw」

僕「エ、エーミール…君は」

エーミール「僕は気づいたことがあるんだ…」

エーミール「最初の僕は正直いって君という存在がゴキブリ以下だと思っていたよ」

僕「いや酷いわ」

エーミール「でも、君が僕の家に通うようになってから、毎日が楽しくなってね…気づけば標本のことなんてどうでもよくなってたんだ…」

僕「え…どういうこと?」

エーミール「そう、怖かったんだ…君が完璧な標本を作り上げて、僕に弁償してもう家に来なくなってしまうことが…」

僕「それじゃあ…何度も駄目だししてきたのは」

エーミール「いや、それは本当のこと」

僕「ひでえ」

エーミール「それにしたってさ。なぜか解らないけど僕は君がそばから居なくなってしまうことに寂しさを感じてしまったんだよ」

僕「・・・」

エーミール「僕は…君と友達になりたかったのかもしれない…」

エーミール「君が家にくるたびに、一緒に標本を作ったり虫を飼育したり。それが楽しくて仕方が無かった。人と接することがこんなにも楽しいことだななんて思わなかったんだ…」

僕「エーミール…」

エーミール「実はアイスティーに睡眠薬を入れたんだ…」

僕「!?」

エーミール「このクワガタの標本を壊したのも実はぼくなんだ…」

僕「ど、どうしてこんなことを」

エーミール「君がやらかしたことにしてまた償いのために僕の家に通わせようとしたんだ…」

エーミール「そうか、そうか、僕はつまりこういうやつだったんだな…僕も結局君を責められるような立場の人間じゃなかったんだ…」

エーミール「こうやって君と仲良くするために卑怯な小細工をして嘘をついて…そんな僕が君と友達になれるはずなんt」

僕「友達だろ?もう僕たちは」

エーミール「」

僕「最初は本当罪悪感からの償いだったけど、僕も凄く楽しくってさ、途中から君の家に通うのが楽しくてね」

エーミール「君は…」

僕「僕達は気づけば友達だったんだよ」

エーミール「本当にこんな僕を友達だって…思ってくれるのかい?」

僕「ああ、だっておあいこなんだろ?僕達w」

エーミール「・・・ふ、ふん!///ま、まあ元はといえば君がまいた種なわけだし…その…なってやるよ、友達に//」

僕「ああ、これからもよろしくね、エーミール!」

エーミール「ふん、よろしく…///」

この後めちゃくty


そして今現在に戻り

私「そういえば友人には蛾を盗んでその後の話はしてなかったな…」

雪が降りしきる中、私は飲み屋の戸を静かに開けた

チャラン

エーミール「やあ、今日も残業会?」

私「はは、まあね、毎日忙しくて困るよ」

エーミール「良い事じゃないか、景気が良いのは良い事だよ」

エーミール「へえ、君の友人の僕との出来事を話したんだ」

私「ああ、でも蛾を盗んで君に人格否定されたところしか話してなかったんだわw」

エーミール「ははは、そりゃ傑作だ、じゃあその友人は僕と君が仲悪いと思ってるんだろうなww」

私「悪い事しちゃったかな?」

エーミール「いいんじゃね?別に周りがどう思おうとさ」

私「変わらないな君はw」

エーミール「ふふ、君もね」

『乾杯』


わたしは「僕」の友人ですが
「僕」も成長すれば一人称は変わるだろうとの事で「私」にしてしまいました
紛らわしくてさーせんorz

今度こそそれでは
酒飲んで書きました

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