【聖杯戦争】やる夫はステゴロワイヤーアクションで戦うようです (137)




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▼fateの聖杯戦争を元ネタにしたスレです
▼何度でも蘇るさ!


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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370712930



ランプの炎が勢い良く虫を落とす。

1927年。

魔術師としてはかなり古い、だが全くの無名な我がビップ家は10代の係累を重ね、
私の代までこれといった研究成果も自慢できる魔術礼装、家財すら持ち合わせてはいない。

私が極東の地で行われる「伊勢聖杯戦争」に参加するきっかけとなったのは知り合いの
新聞記者から謎の変死体をタイムズスクウェアで発見したという話を聞かされた時だった。

知り合い、友人と呼びたくないこの嫌味な男は私が魔術師であることは知らない。

彼は私を東部移民の家系で、自分の先祖が十字軍に参加した騎士の末裔だとか
カール大帝と共に遊歴した貴族の子孫だと自慢する連中のひとりだと決め付けている。

たしかに世間から見れば私は名実ともに没落貴族の子孫という体だ。
魔術師としての始まりも、貴族としての零落、まさにそこから始まっている。

              ヘッドレス ・ ホースマン
スリーピーホロウの 首なしのドイツ騎士 の伝承はNYでは知らぬ者のいない昔話だ。

独立戦争に参加した没落貴族のドイツ人傭兵が首を取られた後も、血を求めて夜を騎行する。
他のアメリカ人は我々、ドイツ系移民をそういう目で見る。

できる夫が、この奇っ怪な事件を私に話したがったのは
私をそういう目で見、からかってやろうという性根から来ているのだろう。

「さあ、ビップさんはこういう話がお好きでしょう?」

「隠さなくてもいいじゃないですか。あなたがたドイツの人は血や鉄砲や爆弾の話が
一日でも口に登らないことのない人たちじゃないですか。」とできる夫はにやにやと話し出した。

私も、「確かに。」と答えた。

「俺の先祖は国のために戦ったし、そんな先祖を野蛮だとは思わないだろ。
でも俺が商売仲間と鉄砲や爆弾の話をしたとしても、それは仕事の話で、趣味じゃない。」と反論はしておいた。


「ニッポンという国をご存知ですか?
とても小さな島国で、黄色くてちっぽけな野蛮人が暮らしている国ですよ。」

できる夫は、奇妙な島国の風俗や習慣を私に聞かせた。
それがタイムズスクウェアの妖しい殺人事件に咬んでいるというらしいのだ。

「いいですか。ニッポンという国にはひとりでに鞘から飛び出し、人を切るという魔剣の伝説があるのです。
タイムズスクウェアで殺された被害者は、大勢の人通りの最中、突然、斬り殺されたというじゃないですか。」

タイムズスクウェアは夜の街だ。治安も悪く、売春業や怪しげな店も多い。

そこで起きた殺人事件のあらましを、私は明日の新聞で知るが、
できる夫の語るように、人だかりの中で通行人の首がひとりでに切り落とされたという。

NY市警の調査では剣のような鋭利な武器を使った殺人だとできる夫は話し、ニッポンという国の魔剣の伝説は
なんらかの自然現象が、後世に脚色されて伝わったものではないか、と自信満々に力説した。

興奮して自説を垂れるできる夫を、私はひとりでしゃべくりかえらせておいて思案に耽った。

人の手を借りずに鞘から飛び出す剣、そんな武器があるというのか。

私はむしろそれが魔術に関わるものだと興味を持って、一族の書庫に答えを求めたが、
極東の知られざる地の名も知れぬひとふりの武具に関して記す書物を見つけるには至らなかった。

だが家督を10代も重ねて、些細な疑問を解き明かせぬ程、我がビップ家は惨めな魔術師ではない。


私は人目を避ける術の助けを借り、市警の死体安置所に滑り込んだ。
革包から取り出した青紫の小瓶に溜め込んだ粉を手のひらに乗せたハンカチに広げる。

ポーカス・ホーカスと唱えて吸い込まないように吹きかけると、私の求める死体を示した。

保管された死体の前に立ち、私はしるべの役目を果たす褐色の光を生じた粉に、再び呪文を唱えて瓶に戻す。
諸兄に断りを入れることが許されるならば、これは吝嗇のためでなく、証拠の抹消のためなり。

次にポーカス・ホーカスと唱えて死体が最後に見た光景を、死体自身の瞳より取り出す術を試した。
死体の目が開かれ、一瞬にして安置所に彼の最後の光景が映し出される。

男はあたりの女を物色しているようで、いそがしく風景が乱れていたが、
いきなり人ごみに何かの姿を認めて、はたと向きを変えて走り出したらしい。

続く瞬間に男の視線は地に落ち、次第に明るさを失った。

私は男が最後に何を見て逃げ出したのか知りたかったが、
人ごみに紛れ、男の首を切り落とした犯人の姿を見つけることはできなかった。

だが確かに男は自分の首が誰に狙われ、これからどう始末されるか知っていた。
ならばこれは偶然の自然現象ではなく、人の手で行われた種も仕掛けもある魔術に違いない。

それが東洋の伝承に示された武器か、それに準ずる現象を引き起こす術を使う魔術師と見た私は
その夜は満足して、自宅に戻った。


しばらく私はこの夜のことも忘れ、本職の貿易商として忙しく働いた。
同じドイツ系移民と共同経営する会社で、事業は軌道に乗って安定した成長を続けている。

いささか生活に余裕を得た私は、ニッポンという国の様々な品物を取り寄せて、
幾らかを知人や客に売り、気に留めた品だけは売らずに自宅に飾ることにした。

そんな時分、私はインスマスやプロヴィデンスで木乃伊(ミイラ)やら魔術にまつわる品々を
私の様に海外から買い集める奇妙な貿易商、おそらく魔術師の噂を聞き、
魔術協会も手を焼く《対邪神組織(ウィルマース・ファウンデーション)》という結社があることを思い出した。

それは”根源”や魔術師としての研究に一切、興味を見出さない連中で、外宇宙の蕃神(アウトサイダー)や
その眷属を信奉する邪神教団や秘密結社との抗争に明け暮れているという。

詳しく調べると彼等が極東のニッポンの「フユキ」で行なわれた聖杯戦争を模し、
同じくニッポンの「イセ」と呼ばれる地で自分たちも聖杯を召喚する大魔術式を始めるつもりだという。

聖杯戦争とは神の御子の聖遺物にして、それを持つ者に栄光をもたらすとされる聖杯、
万能の願望機をめぐり、魔術師たちが決闘を行い、聖杯に相応しいひとりを選ぶ大掛かりな決闘儀式であるという。

「イセ」はニッポンの都市のなかでも古い縁起を持つ地である。

「イ(伊)」は杖を持った老人の姿を示す彼等の文字、漢字の一字であり、その意味は「部族の長老」を意味する。
「セ(勢)」は勢いであるとか、繁栄を意味する文字であり、おそらく2字を合せて「王の繁栄」を意味する地名と言える。

多くの諸侯や僧侶たちが求めた聖杯を争うに、相応しい都市といえるだろう。と私はひとり合点した。
だが調べを進めるうち、イセという都市の誕生がニッポンの主要な民族、アマ(海人)族の呪術的根拠に依ることを見つけた。

アマ族はニッポンの古代の民族であり、その後ほかの民族を集合して”ヤマト(大和)”を号した。
彼らは自らの最高神、太陽と海を司る巫女にして女神、アマテラスを伊勢の地に祀ることにした。

彼らの宗教にとり、家の東の隅に先祖たちを神として祀る習慣があった。つまり国土を家に例えた時、
古代日本で東の隅に当たる土地が伊勢であり、そこに自分達の祖先神であるアマテラスを祀る神殿を建設したのである。

17世紀の宣教師たちは1000年以上も維持されてきた彼らの大聖堂、「伊勢神宮」を見ており、
それを「その神殿は長い年月の間、日本人が絶えまない努力を費やし、
彼らの祖先が暮らしていた古代の粗末な家を再現したもの」と侮蔑をこめて言及している。


私は一族の書庫からは、この極東の地にまつわる文献がなかったため、
何人かの比較的信頼できる知人の魔術師に頼み込んで書庫を開放してもらっていた。

      フィフス・アウ゛ェニュー
ここは、 5   番   街 。
今日もまた他人の家の書庫に入り浸っていた。


文献の劣化を防ぐため、薄暗い日の光を避けたドーム状の書庫。
背後に家人の気配を察し、私は手にとっていた文献を本棚に収めた。

「どうしてこんな辺境の島国に関する文献を揃えたんだ。」と私は真紅に訪ねた。

真紅・ローゼンメイデン。彼女の一門は私と違い3代しか続いていないが成功を収め、隆盛を誇る家系である。
服飾デザイナー、企業家としても財をなし、王族の如き大邸宅に居を構えている。

上品な貴族趣味。邸宅の敷地には図書館があり、大学も顔負けの蔵書を誇っている。
またアメリカにおける魔術師の組織、《魔術業界》でも理事を務める。

ひそかに私は彼女を、できれば彼女との間に子孫を儲けて、せめて家名に誉れを、
などと臆面もなく考えているのだが、彼女は承知しないであろう。常識的に考えて。

断っておくが、あくまで家名に箔を着けたいから彼女との結婚を望んでいるのだ。
彼女にしてみれば10代続く我が家と縁を結ぶことになるのだし、損はないだろう!?

「芸術にはあいかわらず興味がないようね。」と真紅はつんけんな態度だ。


19世紀、欧州では中国や亜細亜の文化が人気を博し、様々な美術品や工芸品がもてはやされジャポニズムや
アール・ヌーヴォといってホイッスラーやラ・トゥールなどの芸術家が影響を受けたり、美術品を自ら収蔵していたという。

真紅の先代もジャポニズムに傾倒した魔術師であり、漢字の辞典や古文書で研究を重ね、
魔術礼装や呪文に日本語を取り入れようとか、かなり無理をしていたらしい。

実は彼女の名前も漢字で書くことが出来るらしいが、本人も上手には書けないらしい。

「なあ、俺たちもその聖杯戦争に咬んでみないか。」と私は切り出した。
今思えばどうしてこんなことを言い出したんだろうか。常識的に考えて。

「別に構わないのだわ。」
意外にも彼女はOKした。

「10代も続いて、鳴かず飛ばずのビップ家があんまりに惨めですもの」と真剣だ。

どうやら予てから彼女の方でも私の家が”落ち目”であることを気にしてくれていたようだ。
何とかしなさいよ、と内心思っていたという訳だろうか。

「ビップ家としては”ノヴァラの裏切り”で被った汚名を雪ぐ、いい機会じゃないかしら。」
真紅は軽々とその言葉を口にしてから、私の顔を見て、すぐに謝罪してくれた。

そう、あの事件は歴史の教科書に残るほど、我がビップ家に痛手を残した事件なのだ。
それほど魔術師としては名高くないビップだが、俗人としては不名誉ながら歴史に名を残させてもらっている。

だが確かに元はビップも貴族だ。戦ってこそ貴き家系に名を記した者の末裔としての誉れも立つ。
「真紅、俺とで良ければニッポンに渡って欲しい。」と私は思い切って彼女の手を取った。

声が見事に上ずって、情けなく滑べらせた手は彼女の指の先だけを握っていた。
それでも彼女は、「貴方が何かを成し遂げるとしたら、私以外と、なんて有り得ないのだわ。」と言ってくれた。


貿易会社の共同経営者や信頼できる友人たちに仕事を委ね、人に自慢するような友人ではないが
憎ったらしいできる夫にも別れを告げようと彼の家を訪ねた。

ランプの炎が勢い良く虫を落とす。
私は手に持ったランプを消し、彼の家の戸を叩いた。

・・・おかしい。家には灯りはなく、なんとはなしに妙な雰囲気だ。

気配に異常を察し、すぐに真紅が腕をまくると魔術礼装である荊棘を操って家の周囲を調べさせた。
私も小瓶を取り出すと真紅の後ろに向かって勢い良く叩きつける。

忽ち紫の煙が立ち込め、私たちを包み込んだ。

この魔術礼装は生じた煙に異なる時間の風景を映し出す礼装である。
今、煙は外から見たとき、私たちが現れる前の景色を写しており、私たちの姿は消えている。

逆に内側ではそれよりも前の景色が再現され、私は目を凝らして過去から状況を読み解く。
しかし、しばらく時間を巻き戻して再現しても異常は見つからない。

警戒を絶やさずできる夫の家に上がると、激しく荒らされた様子である。
不自然に斧か鉈が部屋中を引っ掻き回したような跡が残り、手当り次第にモノが壊れている。

「これを見るのだわ。」と真紅は驚きを抑えた声で指差した。

それの意味する所を、ふたりは理解できなかった。それは壁に空いた穴だった。
穴は何度も斧が傷つけてできたようで、隣の部屋まで穿たれている。

誰かがこの小さな穴を通ったのか?

よく見れば犯人はまるで片手がふさがっていたのか獲物を一度も手放さず家捜しした様子で、
引き抜かれた引き出しやドアには全て大きな刃物を突き刺して扱ったらしい形跡が残されている。

「例のひとりでに動く剣の伝承は本当らしいな。」と私は真紅にこれまで調べた話と
できる夫が話していたニッポンの魔剣について説明して聞かせた。

彼女もその魔剣の伝承はまるで心当たりがないらしく、
「じゃあ、これはその魔剣が、自分で家捜ししたとでも言うの?」と半信半疑の様子である。

自分で言っておいて何だが、私だって何が何だか分からないのだ。
剣が自分を探る人間について追跡し、その存在を消そうとするなんてことがあるだろうか?
ひとりでに動くにしても、随分と利口な魔剣ではないか。

「しまった!ならば、急ごう!!」と私は急に真紅をせかせる。

不幸中の幸いか、できる夫の死体がここになければ、魔剣はまだできる夫を探しているはずだ。
私はしるべの役となる粉を吹き出して、求める魔剣の姿を答えさせた。


褐色の光となった粉は私たちをミッドタウンに誘い出した。
「タイムズスクウェアか!」と私はうめき声をあげた。

あんな繁華街で魔術を使っても大丈夫だろうか?
いやむしろ、あれだけの人出ならちょっとやそっとのことでは注目されないだろうと自分をなだめた。

タイムズスクウェアはマンハッタン島でもっとも賑わいを見せるミッドタウンにある。
できる夫が記者魂にうなされて、事件を調べているとしたら魔剣の餌食になりかねない。

今思えば、最初の犠牲者も魔剣が人を襲った所を偶然発見してしまったのではないだろうか。
恐るべき執念である。魔剣は人から人へ、目撃者を次々に消していったのだと思うと背筋も凍る。

まばゆい街灯に阻まれつつ、電灯より弱々しく光るしるべの役を追って私と真紅はできる夫の姿を認めた。

彼は血相を変えた私と、私の普段の生活からは縁遠い深窓の令嬢、真紅を見るや、
何かよからぬ事件に巻き込まれたのではないかと私を案じて狼狽した。

「ビップさん、このお嬢さんは?いやいやこんな所にどうしてこんな女性を連れ込んだんですか!
事情があるなら私に相談してくれても良かったじゃありませんか。」とがなった。

私はできる夫が、本当に私を心配してくれているのだと察して、これまでどこか彼が
私を落ちぶれた名族とばかにしているのではと疑っていたことを後悔した。

しかし、私の考えを他所に敵は容赦しなかった。
突如、炎が繁華街を襲って、たちまち死臭が立ち込め、炎と煙に焼けた肉の匂いが紛れた。

できる夫は真っ青になり、真紅と私は目を見合わせた。
正気とは思えない。魔術協会が知れば、大騒ぎになってしまうだろう!

もうこれで目撃者は増えまい!そういいたいのか!?
魔剣は舞台を整え、羽音を鳴らして夜のタイムズスクウェアを旋回して飛び回っているようだ。

動揺する私だったが、それでもすかさず真紅は荊棘に命じて私たちをビルヂングの谷間に隠した。

幾重にも伸びる荊棘がビルヂングとの間に梯を作り、私たちはぐったりしたできる夫を伴って、
ひとつ、ひとつとビルヂングの屋上に移った。


今度は霧が立ち込め、鋼の研ぎ澄まされた剣が姿をくらませながら私たちを狙うのを感じた。
時にけたたましい音と共に、それらしい姿が目をよぎるのが恐怖を募らせた。

私は時を操る煙を封じた瓶を使って剣を防ごうと試みた。

魔剣は伝説通り意思があるらしく私が魔術師と理解して、攻撃をためらってあたりを旋回し続けたが、
しびれを切らしたように煙の中に飛び込んだ。

私のポーカス・ホーカスの声と共に煙はあたりの風景を狂わせた。
急いで空に吸い込まれていく火の粉、今日の夕焼けを取り戻す空、そして混乱して静止する大剣が姿を現した。

刀身だけでも1mを超える大剣だった。真昼の太陽を写し取った白銀の刃と
黒々と闇をたたえた分厚い鎬、精緻な唐草と獣たちの細工を施した鍔とこしらえ、
どんな霊獣の毛皮から作られたのか、妖しく美しい飾り布が柄に巻かれている。

神々しさすら感じる中に、まるで悪魔がそれらしく取り澄ましたような邪悪さが、魔剣にはあった。
事実、この魔剣は無関係な人々を平気で巻き込み、自分の犯行を探る人間を付け狙っている。

私はすかさず、一種の使い魔が嫌う粉を魔剣にふりかけた。すると魔剣はのたうって私たちの前から姿を消した。

明日の朝日と昨日の南天に架かる太陽を、時を狂わせる煙が写す。
私が呪文を唱えると元の夜空が戻って、青白い月が顔を出した。

「本当に剣がひとりでに私たちをねらったのだわ。」と真紅はつぶやいた。
私と真紅は顔を見合わせた。

極東への憧れか、これが運命なのか。
私は退き返せない厄介事に足を突っ込んでしまったと決心を固めた。


「今のを僕に説明してくださいますよね。」
二人の間に入って来るできる夫。

すっかり、できる夫はいつもの通りになって、私と真紅の後ろでペンとメモ帳を構えて待っていた。
さっきまでの死にそうな様子とはうって変わって活き活きとした目で訴えかける。

「さあ、僕にわかるように。誤魔化せば為になりませんぞ。」と被せを効かせる。
真紅は呆れ顔で私を見て、私も、やれやれ、とにかく、ここを離れよう。とだけ答えると。

「今度は階段からお願いします。二度とあんな思いはこりごりです。」と
できる夫は真紅の荊棘を指差していった。

数日の航海を経て、我々はニッポンに辿りついた。

数年前、フユキでの聖杯戦争は失敗したらしく、聖堂教会や魔術協会が監視に乗り出すというので、
例の《対邪神組織》は邪魔されまいと手を尽くしているらしい。

彼等の手となる魔術師やその助手たちがニッポンのあちこちで海外から渡ってきた魔術師を監視し、
付け狙っているというので、私はまず言葉を理解できるようになる油と
しるべの役となる粉の小瓶をそれぞれ真紅とできる夫に渡した。

「どうしてもポーカス・ホーカスと唱えなきゃいけないのかしら。」と真紅は不機嫌につっかかる。

ポーカス・ホーカスとは「インチキ」という意味だが、俺はこの響きを気に入っている。
それに、この一言で自由に魔術礼装を操れるのは、個人的には発明だと思っているぐらいだ。

「では、まず遠坂家や間桐家を尋ねる、というのはどうでしょう。」とできる夫。

伊勢の聖杯戦争がフユキのそれを模した物ならば、事前に情報を当事者から得られるのではないか
という意見だったが、私は遠坂とかいうニッポン人の、しかも新しすぎる魔術師の家系というのが気にかかった。

間桐ことマキリやアインツベルンはその名を魔術に関わるものなら聞いたこともある名家だったが、
どちらも典型的な欧州の魔術師家系らしいことで悪名高く、近寄るのはライオンの檻に入るようなものだ。

欧州魔術師は大昔から”根源”と呼ばれる宇宙の真理を何世代も探究している。
それを我々、アメリカ魔術師は冷笑し、しかも目的の為には手段を選ばない冷酷さを非難している。

つまるところ、私は陰気な欧州魔術師のなかでも一等得体の知れない連中が組んでいること、
そいつらがこんな人知れぬ辺鄙な島でこそこそと魔術教会からさえも隠れて儀式を執り行う事も気味が悪いと思う。
だから、この聖杯戦争の首謀者「始まりの御三家」は信用ならないときっぱり決めつけた。


真紅も同意見だった。アインツベルンは錬金術の研究に逞しいが、当主がホムンクルスであったり、
マキリも何代も同じ人物が実質上の当主を務めていると聞き、まともな連中ではない。

失礼したが、このような気風がアメリカ人の魔術師には恥ずかしながら往々にあるものだ。

欧州へのひがみとでもいうのだろうか、古いことをことさら自慢する連中や、
自分たちを貧しい移民と憐れむ連中の顔が、どうしても浮かんでしまうのである。

何より私たちはなんの実利もない”根源”に興味をなくして久しい一族ばかりであり、
アメリカで魔術を扱うものは、ほぼ全て武力による自衛か、私のように仕事で扱う者ばかりだ。

我々にとって彼らは共感できない部分を多く持つ、不気味な敵ということになる。

しかし、今の我々は全く聖杯戦争がどんな儀式なのかさえ知らないままだった。
それにもまして、私たちは伊勢に向かわなくてはならないが、今はその道も分からなかった。

しるべの役となる粉で探すには余りに荷が重すぎる。
そこで私は貿易の仕事で付き合っているニッポンの商家を訪ねることにした。

商売の相手と一度も顔を合わせないのも礼を失するだろうと思うので、
是非とも今度、ニッポンでお会いしたいと約束を交わしていたのである。

待ち合わせの水茶屋で会合した《詠鳥庵》の主、蒔寺氏は健康的な褐色の肌をした、
ニッポン人とは思えない健康な体つきの壮年の紳士だった。

蒔寺氏は私が”関西弁”で話すことに驚いたらしく、言葉を操る油の失敗ではないかと疑ったが
氏の忙しい早口に付き合ううちに、言葉の不安は消え去っていた。

ニッポンは年の初め、3月に「昭和恐慌」と呼ばれる大不況に喘いでおり、
先の23年には「関東大地震」が起こって、先の世界大戦の好景気がすっかり冷え込んでしまった。

何より彼らの敬愛する現人神、皇帝である大正天皇が去年に崩御したあとであり、
時代に不吉な予感を感じるニッポン人は少なくなかったのだ。


蒔寺氏は高級なニッポン伝統の服飾着を扱う商家で、景気が悪くなると
扱う商品が値の貼る物であるだけに、非常に苦心しているのだという。

アメリカにも不景気の余波が来ていない訳ではなかったが、この小さな島国ほど危機的な状況ではなない。
私は心許し程度の挨拶で済ませるつもりだったが、今以上の取引をさせて欲しいと切り出した。

蒔寺氏は大いに喜んで、できれば何かお礼がしたい、と何度も持ちかけた。

そこで私が伊勢の名前を出すと、「お伊勢詣で」と氏は膝を打って気前よく路銀まで恵んでくれるという。

どうやら伊勢というのはニッポン人にして、ローマかエルサレムのようなところらしく、
参拝する人には施しを与えるのが習わしなのだという。

最後に、氏は遠いところから訪ねてきてくれた私に、とひとつの包みを持たせてくれた。
慇懃な氏に拙い語彙から言葉を選んで礼をのべると包みを開けた。

この時、蒔寺氏はぎょっとしたように私の顔を覗き込んだ。

この時まで私は知りようがないのだが、ニッポン人にとり貰った物を相手の前で開けることは
失礼なことであるらしく、アメリカ人のように品定めして、感嘆するのは好ましからざる行為のようだ。

包みの中身は古めかしい亜細亜の彫刻品で、ニッポンの物ではないようだった。
氏の話では、東南の島国から取り寄せた珍しい品物であるという。

蒔寺氏も、アメリカの貿易商と取引を始めたのもこういった珍しい品を集めたいというのが本音らしい。

氏は自宅にある鉄のタブレットや黄金の装飾品、不思議な円筒のシリンダーなどの珍品を
いつか私に見せたいと言って名残を惜しみながら別れた。

大阪に宿を取った私たちは小柄なニッポン人の注目を浴びつつ、二部屋に別れた。
できる夫と私は同じ部屋に入ると、すかさず魔術的な処理を部屋中に施した。

《対邪神組織》やふたつの”きょうかい”が、目立つ我々に穏やかでない挨拶を試みてくる可能性を
常に私と真紅は想定して行動してきた。このホテルも、霊的、地勢から見て、籠城向きだ。

明日には伊勢を目指す。



〜閑話休題〜


     / ̄ ̄\
   /   _ノ  \  ( ;;;;(
   |    ( ─)(─  ) ;;;;)
   |      (__人__) /;;/
.   |        ノ l;;,´      さて、この広いネット世界にいまや幾つの聖杯があるのか・・・

    |     ∩ ノ)━・'
  /    / _ノ´         果たして我々は聖杯の召喚を迎えられるのだろうか?

  (.  \ / ./   │
  \  “ /___|  |
.    \/ ___ /




   /    /' /     / ,:'/,:
 ,:' /   ,: ' / ' / / ,:'/,   / / ,:'/,:
'  ,:   /'   / ̄ ̄∪\      /' /
' / ,'/,:   /(●)  (●).\  ' / ' /
/,:     /   (__人__)    \  ,:'/,:   /'   エタってるよ!
/ ,:'/,  |     ` ⌒´    ∪  | ' / / ,:'/,:
 /    \      `       ,/' /         即効でエタってるって!!
/  /'  /  ∪       \'/  /'

/ ,:'/,: | Y       ∪   |  |/ ,:'/,:
     ||∪       |  |


.




   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |    ( ⌒)(⌒)      まーな。
. |     (__人__)
  |     ` ⌒´ノ      でも、5回もやり直してる原作の聖杯戦争よりはいいだろ?
.  |         }
.  ヽ        }
   ヽ     ノ        \
   /    く  \        \
   |     \   \         \
    |    |ヽ、二⌒)、          \





       ____
     /_ノ  ヽ、\
   /( ●)  (●).\

  /   (__人__)  u. \     フィクションと比較してどうするんだお・・・
  |ni 7   ` ⌒´    . |n
l^l | | l ,/)      U  l^l.| | /)

', U ! レ' /      . . | U レ'//)

{    〈         ノ    /
..i,    ."⊃    rニ     /
 ."'""⌒´       `''""''''



.




               / ̄ ̄\
              _ノ  ヽ、  \
            ( ●)( ●)   |         さて、聖杯戦争スレをはじめる以上!

            (__人__)      | ../}
      _       ヽ`⌒ ´     | / /    __  最強の7体を選定し、読者を楽しませなければな!?
   (^ヽ{ ヽ      {        ./ /  . / .ノ
 ( ̄ ヽ ヽ i      ヽ      / 厶- ´ /

.(二 ヽ i i |,r‐i    ノ.   ヽ /     /
  ヽ   /  ノ  /    r一'´ ー 、   ̄ ̄ ̄)
   i   {   イ—イ /   .`ー—. 、__ .〈 ̄ ̄
   ヽ. `ー '/   /           /\ \
      `ー '  ̄ ̄!           |  ヽノ





           ____
         /      \
       / ─    ─ \      いやー、自分でハードルを高くする
      /   (●)  (●)  \
.     |  U  (__人__)     |     .無意味な緊縛プレイはいいからー
      \     `⌒´    ,/
      /     ー‐    \


.




      / ̄ ̄\
    /   _ノ  \
    |    ( ●)(●)
    .|     (__人__)        そーんな弱気でどーする!?
     |     ` ⌒´ノ
     .|         }         はりきっていってみよー!!
     .ヽ        }
   i   .ヽ '' ,,,    ノ   !
   li   _>\  (     li
    /⌒ ̄"   ゛ ヽ   !
  /  ノ、      }\

  <  < |  `     '{.> )
  \ , ーっ       ),,、/
 ガタッ `ー=ミ}    (彡 }






            ¨¨¨¨¨   、
         /  i l! |      \
         ′u | | |l !      u. ヽ
      /     !   (___人___)   }      おおーてりぶる!
       i u      !ililililil|   /
      !        {ililililiノ  /       てりぶる!!
        ゝ          イ..ノ}
         7 ..ノ}      ! ノ
         /  .ノ     |´
          /          |


.




                                     |~|

                                      | .ヽ
                                  _  ノ  \    _
                                   |ヽ_/    \_//
                                 √_  ._     __.(
                                 ) (.ヽ´\  ./   ̄
                                 ⌒_   .\/
                                .ノし~|

                                |   |
                                <   ヽ
                                /    |
                                /    /
                               /   _(
                             _/   /

                        ._   ._/   .|
                       . <(_ ‐~     .|
                 _____  ./        /
             _.-‐"~   "ー´         |
           _ /___ ,,__....._,...,_  ._      (~)./
         <" ~ し、_.ノヽ- \ ]  (`‐‐-´~U⌒.|,/
         ヽ,   く ~|._.-‐.v´| /↖

          /   /       ~   この辺
         ヽ∩/~
           ´



   / ̄ ̄\                   さて、ここまでのあらすじをまとめようか。
 /    _ノ \

 |::::::     (● ) )                舞台は西暦1927年、昭和2年の『伊勢(三重県)』。
. |:::::::::::   (__人)
  |::::::::::::::  `⌒´ノ          ....,:::´, . ・・・日本神話の最高神・アマテラスを祀る伊勢神宮がある場所、
.  |::::::::::::::    }          ....:::,,  ..
.  ヽ::::::::::::::    }         ,):::::::ノ .    といったほうが読者諸兄には分かり易いかなっ!?
   ヽ::::::::::  ノ        (:::::ソ: .
   /:::::::::::: く         ,ふ´..
   |:::::::::::::::: \       ノ::ノ
    |:::::::::::::::|ヽ、二⌒)━~~'´


.




          ____
       / ノ  \\

      / (●)  (●)\
    / ∪  (__人__)  \       なんで冬木でやらないんだお?
    |      ` ⌒´    |
     \ /⌒)⌒)⌒)   //⌒)⌒)⌒)
    ノ  | / / /   (⌒) ./ / /

  /´    | :::::::::::(⌒)  ゝ  ::::::::::/
 |    l  |     ノ  /  )  /
 ヽ    ヽ_ヽ    /'   /    /
  ヽ __     /   /   /




   ・東洋の英霊の出禁。
   ・二つの”きょうかい”と御三家の存在。
   ・時間軸。第1次〜第5次のなかから選ぶ。

   →原作準拠を守らないなら、中途半端に借用する意味なし。

        .r-、       / ̄ ̄\
       /て )     /   _ノ  \
        ( _ノ  フ.     |   ( ●)(●)
       ゝ、 〈     |    (__人__)       冬木でやる以上は原作に準拠した設定を守らんとならんだろ?

       / ハ ヽ.     |     ` ⌒´ノ
       /〃 ヘ  \ .   |           }         それを無視してオリジナルにするなら、
      i !   \  ` ーヽ       }
      丶丶   _ >   ヽ    ノ、        無個性な架空の都市を舞台にする理由はないだろ?
          ゝ'´- 、_  y-、       \
        〈      ̄  う       /、  ヽ
            `ー— ¬、__ノ     |  >  /
               |      r'^ヽ'´ _/
                |      `く__ノ´


.




     / ̄ ̄\        冬木という架空の都市には何のエッセンスもない。
   /   _ノ  \
   |    ( ー)(ー)      あるとすれば過去の聖杯戦争で度々災害に襲われてることだけだ。
.   |     (__人__)
    |     ` ⌒´ノ      それなら大司教都市ケルン、世界三大都市NY、日本の台所大阪・・・
   .l^l^ln      }
.   ヽ   L     }       実在する、魅力的で個性的な都市を舞台に選定する方が
    ゝ  ノ   ノ
   /  /    \       読者にイメージを膨らませる伸び代となるだろ。
  /  /       \
. /  /      |ヽ、二⌒)、

 ヽ__ノ




   ・海外は書く側のハードル高い。
   ・奈良&京都は仏教の色が強い。

   →神道の色が強く、日本でも古い都市として伊勢に選定。

         |
     \  __  /
     _ (m) _
        |ミ|
      /  `´  \
       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\

  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \    確かに冬木には古くからの都市、神道のイメージはないお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /


.




                、_
                ヾ\            i
                ヽ、__\:.:`¨"'ー、_i\.  |:l
               \ ̄: : : : : : : :ヾ`\l:ヘ.、 i、

           `=ニ二 ̄: : : : : : : : : : : : : : ヘ: ヽ |:!

            /´: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヾハ /
        、_,,,/´: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : レi  /
          ̄ノ: : : : : : : : : : : : :!ヾ: : : : : : : : : : : : : : レ′

         <二: : : : :, ヘ: : : :;;;;ミ  ヘ: : : : : : : : : : : /
          \: : : :((ヘ i彡""    ヘ!: :;: : : : :ノソ/

           ゝ: : : i:し ソ   \,    `ヾヘ:,://′
            ∨: : 〉Y   弋ftミ、、      ノ
             )ソ" 7    ´`´ ヾ´" ,,、≦"
             ソ  ヘ          iヾソ
        __  /  ____' ,         ∨
         //´ ̄ ̄7/::::::::∧   ー- 、_ /
       // ___ノノ==二∧、、,,,、、-/´、_
       ノノ´ ̄/::::::::::::::::::::::::::::::,::'':::´::::¨"``ヽ.
     ノソ: : : //::;;;:::::::::::::::::::::::::::;':::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\
    ノ!: : /´""l::::::::::::::::::::::::::::;'::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;ヘ
   //」'"´: : : : :.l::::::::::::::::::::::::::,:';;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::::::::::::::::ヘ
.  //: : : : : :/;;;::::::::::::::::::::::,:'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、_
  i/: : : : :/´::::::::;;;;:::::::::::::::;:'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
.     / ̄ ̄\
.   /        \          時代に関しては現代以外ならどこでも良かった。
.    |  _ノ  ヽ、. .|
.   !. (一)(ー) |         極論を言えば江戸時代や平安時代であっても問題ない。

   , っ (__人__)  |
.  / ミ) `⌒´  /          それは未来の英霊を召喚したかったからだろ。
.  / ノゝ     /
  i レ'´      ヽ
  | |/|     | |



     ____
   /      \
  /  ─    ─\
/    (ー)  (ー) \    まあ、オリジナルで「こいつは未来の英霊なんだよ!」って
|    U (__人__)    |
./     ∩ノ ⊃  /    言われたところでキツいお・・・
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /



.




   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |   ( >)(<)

. |    (__人__)         つまり、舞台となる”1927年当時”からすれば
  |     ` ⌒´ノ
.  |         }         誰も知りえないサーヴァントがいる、という展開を作りたかっただけなんだな!
.  ヽ        }
   ヽ     ノ
   .>    <
   |     |   まあ、現代だと
    |     |   強力すぎる銃火器や兵器がでるってのもある。
           いくらサーヴァントには無効でも、

           世間知らずの魔術師マスターなんかイチコロだろ!





      ____
     /\  /\       知名度ボーナスとかマジ死に設定だし、
   /( ●)  (●)\

  / :::::⌒(__人__)⌒:::::\    弱点や特徴を絶対に知られない英霊ってことかお!!
  |     |r┬-|       |
  \     ` ー'´     /

   まあ、それすらギルガメッシュのような大量の宝具を持ってるか、
   セイバーとランスロットのように同時代の英霊同士でもなきゃ、対策取れねえけどな!


.




           ,.xzzzzzx、
         ,イ///=‐='//ヽ

         ,':Y´     `�
         l:::》___  ___ {/l
         l:: :::::::::::八::ェェ::: V_
        l::::.ヽ  /!_   イ リ
        乂::::} }::::::リ` l !ノ

          l::V:::::—-  ノ
             i:::::::::::_,.イl
             ,小:::::::::::l 人
           /:::| ゝ==<  | \
     _ - ´l :::::::|'´ 》::::《` |  l` ー _
   ´    /   | /::::::ヘ  |  \    `
         l     | ,.:::::::::::‘ |   l
        l     ! !:::::::::::::l !    l
       l:   ! !:::::::::::::l !    !
          l   ! !:::::::::::::l !   :!
         l    ! !:::::::::::::l !   !



   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \                        ウィスマース・ファウンデーション
 |    ( ●)(●)     で、これはここだけの話だが 《 対 邪 神 組 織 》 は
. | u.   (__人__)
  |     ` ⌒´ノ      ラヴクラフト作品の中で、ミスカトニック大学のアルバート・N・ウィスマース教授が
.  |         }                            アウトサイダー
.  ヽ        }      クトゥルフやニャルラトホテプたち蕃神(外神)に対抗するために結社した
   ヽ     ノ
    i⌒\ ,__(‐- 、      邪神ハンターたちの機関なんだが・・・
    l \ 巛ー─;\
    | `ヽ-‐ーく_)
.    |      l


.




                             /|  .,イ,イ
                       _ /フ ,イレ レ

    / ̄ ̄\ .........::::::::::...r‐ ' ノ.    ̄// ̄// ̄
  /      \........::::::::_ ) (_      /  //   ,イ,イ ,イ
  |::::::: :      |.....:::(⊂ニニ⊃)       //    レレ //
  .|:::::::::::::     |....: ::::`二⊃ノ       /'       ./'
   |:::::::::::::      |..: :::: ((  ̄
   .|:::::::::::::::     }    [l、
    ヽ        }  /,ィつ     推定でも1928年9月13日(エイクリー失踪事件)以降に
   /   ヽ   . ノ .,∠∠Z'_つ
  /    ''⌒ヽ  ./ .r─-'-っ     .発足してるはずなんだよな
 .| (      / } ./  ):::厂 ´
  |   /  .// .ト  /



                  ,ヘ
      ____      / /

     /\  /\   / /
   /( ⌒)  (⌒)\/  /     気にすんな!な!?
  / :::::⌒(__人__)⌒:::::\ /
  |     |r┬-|       |
  \     ` ー'´     /
  /          \
 /             \
/  /\           ヽ
 /   \          ノ
U      ヽ        ノ


.




   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |    ( ●)(●)            さて、次に独自の設定なんだがアメリカの魔術師は
. |     (__人__)
  |     ` ⌒´ノ          欧州の魔術師、つまり魔術協会とは仲が悪いって設定になってる。
.  |         }
.  ヽ        }
   ヽ     ノ        \
   /    く  \        \
   |     \   \         \
    |    |ヽ、二⌒)、          \





       ____
     /⌒  ⌒\     l`Y
   /( ●)  (●)\   | !  /)      例によって魔術協会や教会の監督役に
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \│ {//
  |     |r┬-|     |/^つyく        介入されたくないって理由かお?
  \      `ー'´     / {  `〈__ }
                ヽ  ′/


.




     / ̄ ̄\
   /   _ノ  \  ( ;;;;(
   |    ( ─)(─  ) ;;;;)                                        プロット
   |      (__人__) /;;/     と、言いたいところだがのちの展開でやはり連中も介入する 予定 だ。
.   |        ノ l;;,´

    |     ∩ ノ)━・'      筆者個人として、型月作品群からあまりにアメリカの輪郭を求めることができない、
  /    / _ノ´

  (.  \ / ./   │        そこでやってみたいと思ったということかな・・・
  \  “ /___|  |
.    \/ ___ /





         ____
         / _ノ ヽ、\
      /o゚((>)) ((<))゚o
     /    .:゚~(__人__)~゚:\      でも、アメリカには古くから続く名門魔術師とか
     |         |r┬-|    |
     \、     i⌒i‐'  ,;/       吸血鬼とかが根城にしてるようなイメージはねえおっ!
    /  ⌒ヽ.ノ ノ  く
   / ,_ \ l||l 从\ \

    と___)_ヽ_つ_;_ヾ_つ.;.  せいぜい、
         ベシベシベシ     宇宙人ぐらいだおっ!


.




    / ̄ ̄\
  /   _ノ  \
  |    ( 一)(●)      ああ。だから、全くイメージの違う魔術師・・・、
  |     (__人__)
   |     `⌒´ノ      ”やらない夫・ビップ”というキャラクターを用意した。
   |   ,.<))/´二⊃
   ヽ / /  '‐、ニ⊃     彼は魔術協会、時計塔とはなんの接点も持たない魔術師だ。
   ヽ、l    ´ヽ〉

    ,-/    __人〉      だが衛宮士郎のような魔術師の事情を深く知らない人物でもなく、
   / ./.   /    \
   | /   /     i \    切嗣や葛木のような戦闘とも縁遠い人物、ということかな。
   |"  /       | >  )
   ヽ/      とヽ /
    |       そ ノ





       . … .

       :____:
     :/_ノ  ー、\:
   :/( ●) (●)。 \:     時計塔にも入ってないとか、超弱いんじゃね?

  :/:::::: r(__人__) 、 :::::\:
  :|.    { /⌒ヽ    |:
  :\   /   /    /:


.




                / ̄ ̄\
            /  ヽ、_  \    おそらくそうだろう。
           (●)(● )   |
           (__人__)     |    アメリカ魔術師は自分たちが欧州とは独立した、清浄で自由な存在。
           (`⌒ ´      |
               {           |      古いしきたりや因習、権力闘争の腐敗とは無関係だと思ってる。
             {       /
            ヽ      く      .だが現実は相手にもされない新興一門と年代物の雑魚しかいない。
     ⊂てヽ   /        ヽ
   {三_ ィ `´  /|     ィ  |    修行や研究をやろうにも、まともな文献も霊地も確保していないしな。
         .\__/   |      |  |





          ____
        /ノ   ヽ、_\
      /( ○)}liil{(○)\    それじゃあ、イイところがねえじゃねえか!

     /    (__人__)   \
     |   ヽ |!!il|!|!l| /   |   自由なだけってそりゃただのケモノだお!!
     \    |ェェェェ|     /
     /     `ー'    \ |i    _             _
   /          ヽ !l ヽi   | l [l] | ̄| /l    | |
   (   丶- 、       しE |そ  | 二l  ̄/ [][]∧.|_|
    `ー、_ノ      � l、E ノ < |__|  | ̄/ <_/ <>
               レY^V^ヽl       ̄


.




            / ̄ ̄\
          /_ノ  `⌒ \
    _     .| (● ) (⌒ ) .|          まあまあ、落ち着け。
    | !    | (__人___)   |
    | !    |  ` ⌒ ´    .|          型月世界観にはないかも知れんが、
    | !   ,.-,|          |
  ._,ノ ┴、/ ,/ .|        /            俺たちにはミスカトニック大学があるじゃないっ!?
  .r `二ヽ ) i ヽ        /
  .|  ー、〉 /   〉      <
  .|  r_,j j / ̄   '' ̄  ⌒ヽ
  .|   ) ノ/ {       ィ,  }
  ノ   ,/   |         |{  |





         |
     \  __  /
     _ (m) _
        |ミ|
      /  `´  \        おう!
       ____
     /⌒  ⌒\        たしか「ネクロノミコン」を始めとした魔導書を数多く所蔵し、
   /( ●)  (●)\

  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \     魔術師たちにとって修行の場になってるお!!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

   どう考えてもラヴクラフト版時計塔。
    むしろ、時計塔が型月ミスカトニック大学。


.




       ____
    //   \\
   /( ●)  (●) \
 /::::::⌒  、_!  ⌒::::: \    でも、やらない夫は・・・
 |     'ー三-'     |

 \              /





     / ̄ ̄\
   /   _ノ  \
   |    ( ー)(ー)
.   |     (__人__)         ああ。当然、魔術の勉強のために大学に通ったりはしてないだろうな。
    |     ` ⌒´ノ
   .l^l^ln      }        ”根源”を目指すわけでもないから家庭で教わる程度だろうし、
.   ヽ   L     }
    ゝ  ノ   ノ          それも素養があれば親も熱心になるかも知らんって感じだろう。
   /  /    \
  /  /       \
. /  /      |ヽ、二⌒)、

 ヽ__ノ


.




           ____
         /ノ   ヽ、_\
  (⌒ヽ   (○)}liil{(○)  \       をいをい!
  \ \/  (__人__)     \
    \ | ヽ |!!il|!|!l| /     |      そんな連中が勝てるわけねー!!
      \  |ェェェェ|      /
      (⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    く
        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    ヽ
           \         ヽ     γ´ 7
             \           `、  (  /
          ,.-————       リ、/  /
          弋   、_____ノ `  /
           \  \      \_ノ
             \  \
                \  ヽ
                \__)





                / ̄ ̄\
            /  ヽ、_  \
           (●)(● )   |
           (__人__)     |        だが、まともな修行をしてないってことがイコール
           (`⌒ ´      |
               {           |        アメリカ魔術師が弱いってことでもないだろ。
             {       /
            ヽ      く
     ⊂てヽ   /        ヽ
   {三_ ィ `´  /|     ィ  |
         .\__/   |      |  |


.




              、__,              ..,,, -‐—=ヘ
        γニ二 ヽ{i:{`Yフーrrrrェヘ,,,.,.,.,..-.‐'"´rしヘゝィ´ー=ゝ、
       (( i==ミヽムYノ:.:.:/i:i:i:/ .:.::.:.:.:.:.: κ;ノ=ミ三ニ=:.:.:.:.:乙}
      /ヽヽ〉}く;ノ:.:.:.:/i:i:i:/:.:.:.:.:.:. r=ミ乂    \三ニ=:.:.て}}
.      / /}ゝirヘ}:.:.:.:.:/i:i:i:/:.:.:.:.:_彡′   ヽ    \ニ=-:.:{ゞ}
     ,   i}i川i}マ{:.:.:.:/i:i:i:/:.:._!う‐'       l      �{:.:.てノ
      |i  /ヽイ仁ゝ:./i:i:i:/:.:.:}ノ// /   l   l      V:.:.:う}
      |i i斗l |(� 〈i:i:i:i:〔λフ// / /  '   '  / ,  'Yく:ソ
      |i l リ |〈ゝ:.:.{i:i:i:i:{:.〔〉 l十;- l 、/ / ′ / ,  , };ノ
      |i l  l |{κ:.:.}i:i:i:i|〈) j,l_l,,,l-/ / // / / / / / / ′
      |i l  l | ゙廴刈i:i:i:lリイf斧抃ミ癶// / /丁7'/ / /
      |i l 〈_j}ヽて)《薔》ミ代zツメ   `´ ´f斧ヽイ / /
      |i |  |  `ミ癶!刈{ム`¨¨´     {じ;メムイ'//
      |i |  |   ゞミヽヽ\ヽ      ' `¨ 从;|j/     だって私たちアメリカ魔術師が好んで使うのは
      |i |  | ‐=彡'_l'"\ヽヽー=ミ ‐ ‐   イi:川
      |i |  |    }:.:.:.:ー:\ヽ Y j、_  イ〈i{ノ i |     欧州魔術師の使う西洋魔術じゃなく、
      |i |  |   ノゝ=-ゞ'"´:`ヽ 》i:i:i:i:i:〉 ヽミ从      アラビア
      |i |  | /´:.:.:.:.:.ノ:イ:.:.:.:.:.:.:.:.:マi:i:i:/}  �ヽ`ミY   .中東圏の錬金術や呪術の類なのだわ。
      |i |  l |:.:.:.:.:.:.:.://:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:マ:〈从   } 川j
      |i |  | }:.:.:.:.:.:.//:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.V≦フ__j_ノ_ノ

   だってアメリカ魔術師の教本は魔術協会が興味を示さない、
    根源に関係ない書物とネクロノミコンを始めとしたアラビアの魔導書なのだわ。




     __
   /::::::::::::\
 /   __ノ::::ヽ

 |    (;;;;;;)::::)

 .|      ::(;;;人)
  |      :::::::::rつ       そう。そして、ラヴクラフト作品で言及されるような
  .|      :::::::((三)
  ヽ    ::::::::::(::::<      ブードゥーやアフリカ原宗教に蕃神たちを祀る邪神教団の教義———
   ヽ  ::::::::::/∧::::∨
   ∠::::::::::::/⌒ ∧:::ヽ      それらが渾然として融合したもの、だろ。
  (:::::\ /:::::::/;;;;;;;;;;)

  |\::::::::::::/|
  |:::::\_/:::::|   使い魔召喚や錬金術、
             呪術は得意分野だろ。


.




          /                `ヽ
            /  ,.. :'" ``  ̄`: : 、   j_
          __,′ 〃           \   )
        (  |  ノ //      '.     ヽ.く
    .xr'´ ̄ ..イ (_// /      i i 、    ∨
 r.::f´::」    !:::!  Y ! !i:  ! !   ハ| :Y    i
 Lン7て   |:::| ( | iハ. i i !   i i ! ノ! .! ii! !     これらは礼装に頼る、優秀な魔力回路を必要としない術なのだわ。
   /! ハ.__ !:::! `YVハ_ヽN」!、 i i,ィ=く「 リル′
.  i::| !  )ヽ::.、_,ノヘ ィナハ! `ヽノイノ 刈イ{       ”根源”への探求からすればこれらは無価値でも、
.   ゝ!. |   ゝ-、{r刈 「 ゝ- '   , `  jハi ハ
.    i !     ゞイ| |、     c   .小}  ヽ、    そもそも根源探求がアメリカ魔術師からすれば無価値!
   ノi ::!       /' | |介ト ..x‐.、   .イ⌒Y  ハ
  /:/ .::!    / |!.:': : : : : : :r千,: : : : jハ / ノ
. /:/ j.:::|     /  .イ i!: : : : : .イ^Y´ ̄`ヽ! ノ イ
/:/ .! .:|    \/ノ ノ、:.:.:/: : : : | : : : : : ゝニ=‐‐‐ァ
:/  ノ .::!      ゝイ.:.:.:./.:.: : : : :ノヘ: : : : 「. .-‐r‐/





      / ̄ ̄\
    /   _ノ  \
    |    ( ●)(●)
    .|     (__人__)
     |     ` ⌒´ノ       つまり”俗っぽい”アメリカ魔術師のほうが荒事なんかじゃ
     .|         }
     .ヽ        }        研究ばかりやってる欧州魔術師より得意ってわけだろ!!
   i   .ヽ '' ,,,    ノ   !
   li   _>\  (     li
    /⌒ ̄"   ゛ ヽ   !
  /  ノ、      }\

  <  < |  `     '{.> )
  \ , ーっ       ),,、/
 ガタッ `ー=ミ}    (彡 }



.




       ____
     /⌒三 ⌒\
   /( ○)三(○)\

  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\    でも、魔術回路はショボイっつーことですよね?
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

   パードゥン?

                                         └-i:::::::::::::::::::::::: ,.  '"´     ``ヽ:::::::.: : ヽ、
                                         __...ノ: : : : : : :,.ィ´   /     ',   ヽ `丶、: : : :ト.、  ,.ィ"ヽ
                                    .     |: : : : : : : :/  ./  /      ',   ',  「: : : : :|:.:.:ヽ: : : : : 〉ニニ、二
                                          ヽ.ィ: : : :/    /   ,'       l   ', `丶ト、:|:.:.:.:.:.|: : : : :ート、、ヽ
                                         r‐:':::::::/     ,'  ,'          !   .l i'"´: : |:.:.:.:.:.:!: : : : :_:ハ ',ヽ
                                    .      ',_:、:::/     l   l        |l     ! ',: : : :.|:.:.:.:.:.:|: : : : L_l::', ',r
                                           ノ:,'     ,'l   |     l  | l !  ! |  `丶; |:.:.:.:.:.::!: : : : : :ハ::ヽ
                                            /:| |   ,' | ! .!l|    ,'| l l | l ,' ,|. |!´: :.!:.:.:.:.:.,': : : :r ' `¬
                                         /:::,! |   ..L.',_ト. |',ト   / !./l/├ /¬ ¬、).:: /:.:.:.:./: ::::::::|    |:
そんなの、あんたが少ない魔力で                   /:::::ハ.ト 、 ! ..l_ヽヽ\、./ l/"´ l/_∠ |  {: : :/:.:.:.:./::::::;:::ノ|    !:
                                          ヽ|l ',ヽ \ !,イ `` ト  '′   ,イ"´ lヽ  ,ハr'^,-ヘ':::::::::}::!|   .!:
しっかり働いてくれればいいだけだわ。                |   ト、ト.`弋..ン        弋..ン ' | .|/j〈ィ'>》_ノ"!::l !   |:
                                          |    l l.|. ',     、        l  ! .|:.ヾ ニフ   !::l. |   |:
                                           |   / / | ト、     ,.、     | l| |/      ヽ:| |l    !
.             _ _                     .      |  / / | |_.> 、       _..-.、l l ! !          |.!   |
.             | | | |                    __./,イ _..l l:.:.:.:.:.:.:`丶、 __..ィ´:.:.:.:.:.,' .,'::| |         | !   !
        | ̄| | ̄| | | | | ___                 /   / | ̄| l:.:.:.:.:.:.:.:.:.ハィュヘ:.:.:.:.:.:.:./ /:.:::! !ヽ、       .| l   |
        |  | |  |  ̄  ̄ \__ |                  ̄ ̄ / /.! .l:.:.:.:/``ヾ.ニンリ:.:.:.:.:./ ':.:.:.:.:| |:.:.:/、       ! !   !
    ./   | |   \       ∧ |/  <二二二二>  / ̄ ̄ / ∨ ,'_:.:'-:.:.:.:.:.:.:`¬´:.:``:./:.:.:.:.:.:.:.! !;/: : \     ! l   |
      ̄ ̄   ̄ ̄        |/                ̄ ̄ ̄

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                                                                    │\
                      ┌┐                          ┌┐                    ┌┐│  \
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やらない夫・ビップはドイツ系アメリカ人で、同じドイツ系移民の子孫たちと共同経営で貿易商を営んでいる。
商売人としては真面目で堅実な男で、商売仲間からの信頼は厚いが、どこか人を遠ざけている風がある。

彼が「魔術師」という日常とはかけ離れた技術、文明体系に属する人だと知ったのはほんの1週間前である。

私、できる夫・パーソクはNYタイムズの記者で、彼と知り合ったのはやはり殺人事件がらみであった。
裕福な企業家や銀行員を狙う強盗殺人で、私は被害にあった貿易商の知人としてやらない夫に取材を申し入れた。

彼は独立戦争より前の東海岸入植時代に起源を遡る古い移民の家系の出であり、
いまさら教えられたことには、実は彼の一族が10代続く魔術師の一門だという。

10代も続いた魔術師の家系は彼らの世界でも珍しく、普通は畏敬を抱かれるような存在だが、
ビップ家は大きな研究成果もなく、鳴かず飛ばずの状態がつづく、冴えない家系であるということだ。

もともと欧州からアメリカに渡った魔術師は、欧州で権威的な勢力を占める《魔術協会》と呼ばれる組織から、
逃げるようにして移住してきたものが多い。

魔術協会は彼らの世界の自治組織だが、その目的は魔術の秘匿にあり、善悪や道理にはなく、
その目的の妨げとなるものは手段を選ばず排斥する恐るべき秘密結社であるという。

16世紀、ビップ家は魔術協会の支配する権威と因習に腐敗した社会から
逃げ出すように新大陸に渡った一族のひとつだった。

彼が得意とする魔術は調合した粉や薬液、油などの反応を用いたものであり、
これらは「魔術礼装」と呼ぶ魔術師の道具のなかでも極めて地味なものばかりだ。

しかも魔術の品でありながら、複数の粉や油を混ぜ合わせたり、温度や空気との反応を利用する性質を持った
”科学的”なエッセンスを多分に含んでおり、ほかの魔術師とは異なるアプローチを試みている。

また多くの魔術師は”根源”と呼ばれる世界の構造に関わる事象の観測や研究に
埋没する中、彼の家系は極めて俗っぽい研究に打ち込んできたらしい。

元を正せばビップ家は貴族であり、その関心は当然、権力や財産になった。
彼の魔術礼装も、鉱脈を探したり、火薬や新しい発明を作るためのものだったらしい。

ところが魔術を利用した品々が世間に出回ることを魔術協会が許すはずがなかった。
時のプラハ協会はビップ家を異端と定め、その排斥に乗り出した。


実際に刺客が送り込まれたことはなかったらしいものの、ビップ家の魔法を利用した薬品は
ことごとく流通を禁じられ、破産寸前に追いこまれた祖先は逃げるように新大陸に渡ったという。

しかしそこでもあの「セイラムの魔女事件」に代表されるような協会の魔手が
新大陸にも伸びてきて、アメリカに渡った魔術師たちはすぐに魔術の秘匿を強いられていった。

魔術に限らず、アメリカに渡ってきたのは社会や宗教の面でも異端者ばかりだった。
プロテスタント、ユダヤ、異人種、主義者、彼らの中でも異端とされる勢力が次々に新大陸に逃げ込んで来た。

当然のように追手も新大陸に上陸した。だがアメリカは欧州のようにはならなかった。
アメリカ人は古いしがらみを嫌い、自分たちの自由を守る戦いをやめることはなかったからだ。

魔術師だけではない、アメリカに渡った全ての人々が一体となって戦った。
表社会と裏社会の両側面から欧州勢力の介入を塞き止めようと立ち向かったのだ。

そうフレンチ戦争、独立戦争、米英戦争。歴史の裏舞台で糸を引き、アメリカ合衆国の成立に
《魔術業界》と呼ばれるアメリカ魔術師の結社、というよりひとつの社会が機能していたのだ。

業界は協会に武力で対抗する勢力であるだけでなく、彼らのモットーも協会に反目するものである。
まず、自己の研究成果を発表するのは自己に対してのみ、の廃止。

欧州の協会では研究は秘匿されるのが当然だった。だが業界では大いに研究結果は交換され、
技術の進歩と普及が勧められ、一族以外の人々にも魔術の門戸は解放された。

つぎに産業としての魔術の振興と世俗への介入、である。
業界という以上、その目的は産業であり、政治と経済に深く根付いた勢力となることである。

もともと”根源”に関心を失ったアメリカ魔術師にとって魔術は他の科学技術と同じで、
自分たちの生活を豊かにする手段のひとつだからである。

政党、車業界はフォード、クライスラー、大企業には極秘裡に雇われた専属の魔術師がいて、
様々な部門で密かに魔術を使って企業に貢献しているという。

服飾産業のローゼンメイデンに至っては社長自身が魔術師で、真紅嬢は聖杯戦争に参加してしまっている。


しかし今のアメリカ社会が魔術社会になっていないように、業界に入ることができる魔術師は
厳しい試験を通った優秀な素養を持った者だけである。

これは人数が増えすぎ、協会を刺激しないようにするためと能力主義である。
アメリカでは例えどんな名門で、古くから何代続こうとも素養のない魔術師は魔術を禁じられる。

遠く大西洋の向こう岸の連中に、どうしてそこまで気を使わなければならないのか。

いつも欧州の連中は私たち、アメリカ人の新しい試みを邪魔する。
古いだけで威張り散らす彼らが勝手に自分たちのやり口を押し付けてくるのは我慢できない。

記者として、魔術協会を告発してやりたい気持ちもあったが、NYタイムズに魔術協会の
殺し屋たちが物騒なお礼を届けてくるのでは堪らないとあきらめた。

今は20世紀だというのに、「魔術師に新世紀って言葉はないんですかね。」と私は嘆いた。
新聞は毎日欠かさず、日付を書いているというのに。

やらない夫は苦笑した。

魔術師は様々な方法で延命や若返りを望んだ。ただし我々のように有意義に
余生を楽しむためでなく、彼らの一文にもならない研究を進めるためだという。

それまでして望む根源とは何か。
当人、魔術師のふたりを差し置いて記者の私は興味をそそられずにはいられなかった。


伊勢は日本の紀伊半島の先端に位置する。
海と山に挟まれた凹地にあって伊勢平野というさほど広くない平地で人々は居住している。

「神君伊賀越え」という日本の近世の有名な出来事では、いかに伊勢から
脱出するのが困難か、逆に伊勢に入り込んだ人間の痕跡を着けるのが難しいかを教えてくれる。

私たちは山や谷をいくつか踏み越えて、ようやく人里に出た。
伊勢は海に面した都市であり、あちこちに港があって、沸き返る魚の匂いが鼻をつく。

私は仕事柄、いろいろな所に足繁く通うので、歩きは得意だし、道には自信がある。
しかし、真紅嬢は慣れない土地と見慣れない出来事に圧倒されている。

ローゼンメイデンはまだ4代を数える程度の新興の家柄だが、いまや大きな権威を持つ俊英の一族である。
そしてローゼンメイデンは魔術業界だけでなく、服飾業界でも成功した大企業なのである。

ちなみに彼女は自身をローゼンメイデン4代当主と名乗っているが、じつは一族は認めていないらしい。
彼女の何人かいる姉妹たちは我こそ当主と名乗って、服飾・魔術の二つの業界で競っている。

得意とするのは荊棘を使った魔術であり、主に護衛や戦闘に使う。
もともと裕福な商人だった初代は、物騒な新大陸での自衛を目的に魔術を習得したという。

インディアンやカウボーイと戦ったり、米墨戦争に巻き込まれてメキシコ兵から
商品や店を守る為に戦って、魔術協会から送り込まれた殺し屋とも決闘した目覚しい家系であるという。

そんな彼女でさえ、極東の地の新しい光景には飽きさせぬ体験が満ちている。

いったい、並みの魔術師は何を楽しみに生きているのだろう。
彼らは自分たちの研究を人に明かすことなく、隠者のようにうずくまって生きている。

ちなみに世界の根源といえば近日、「ビックバン」という宇宙誕生に関する新しい学説が
天文学者のルメートル氏によって示されたらしい。魔術師よ、世界はお前たちを知らない。


そんな連中が聖杯をめぐって争うというのはどういった心境の変化だろうか。

100年ほど前の1800年ごろ、この極東の地に3つの魔術師の家系が集結した。
彼らの言うところの「始まりの御三家」、遠坂、間桐、アインツベルンの三氏である。

三氏は大掛かりな魔術によって、どんな願いも叶えるという聖杯を作ろうとした。
そのためには相応しい人間を選ぶ、決闘をしなければならないのだという。

それが聖杯戦争なのだが、私たちはそれが具体的にどういうものなのかさえ知らない。

さて、ホテルの従業員たちは遠いアメリカの来客に慌てており、我々の口に合うような
料理がどういったものか、目を白黒させながら私に訪ねてきた。

真紅嬢は日本人の考える格式ある料理が、すでに新鮮な魚のスライスしかない、と憔悴しきっており、
いっそ近場のパン屋を訪ねて、売れ残りでもいいからお腹いっぱい食べたいの、とうなった。

やらない夫はといえば、真剣に魔術師同士の決闘について考え込んでいた。
前述した通り、よほどのことでもない限り魔術師が他の魔術師と接触することはない。

しかもそれが戦いに発展することは、極めて考えずらいできごとだという。

「まあ、考えても仕方ないじゃないですか。それよりも腹ごしらえしませんか。」
と私が切り出すと空腹を思い出したように、「そうか。」とだけ答えて立ち上がって部屋の隅に向かった。

「慣れない土地での行動に、支障を来たしているのは俺たちだけじゃないはずだよな。」
とやらない夫は真紅嬢に話しかける。

「もちろん、そうに決まってるのだわ。」と真紅嬢。

「日本人はどこに行っても私たちを物珍しく見物したがるし、言葉だって通じないハズなのだわ。」

そうは言う真紅嬢は我々とは比べ物にならない高価な服を着ている。さすが一流企業のデザイナーだ。
あれではアメリカでも十分に目立っていたんじゃないかと私はひとりごちた。

「私たちはやらない夫の薬で言葉は話せるし、漢字も読めますが、他の魔術師たちは
相当骨を折っているんじゃありませんか。」と私も意見を重ねた。

しかしそこでやらない夫は、「暗示をかければ難しくはないさ。」と苦笑した。

「むしろ、こんなことで魔術礼装を使うほうが、よっぽど魔術師としては不出来なことだろうよ。」
そういって彼は恥じたが、私は、それは違います。と反論した。

「だって、私のような人間でも扱える便利な道具が、物分りの悪い連中のせいで使えないなんて、
今になって思えば、腹の立つことじゃありませんか!」

便利なことに魔術に関する会話は英語で話せば、魔術の秘密を守ることに関しては
この聖杯戦争は問題なさそうだ。


そうこうしていると危険を知らせる水が小瓶の中で青白く光り始めた。
近くに誰かを害しようという意思を持った人間の存在を知らせる魔術礼装だ。

道中、魚をさばく料理人に反応して、やらない夫はすっかりこの魔術礼装への自信を失っており、
真紅嬢もそれほど気に止めずに、どうせなら牛でもさばいてくれないのかしら、と私に向き直った。

私も、そうですよね。と談笑していると軍人然とした男たちが部屋の戸を開けて姿を見せた。
身なりからして、大日本帝国の軍警察(憲兵)とは違うようすで、流暢な英語を操った。

「日本人の魔術師か。」
とやらない夫はすぐに身構えたが、軍人はそこですかさず抵抗をやめるよう促してきた。

「異国のひとよ。
神の御子の杯を争う儀式に加わる由(よし)ならば、我々に同行されたい。」と男は言った。

男は大佐の階級にあることを示す軍服を身にまとう上から、漆黒の外套を袖に腕を通さず羽織っていた。

その所作はぞっとするほど非人間的で、規律正しい動きというのだろうか、
体のそれぞれが別の生き物のように無様に働くようすが嫌悪感を覚えさせていた。

沈黙を保つ我々に、男は名乗った。

「私は帝国陸軍所属、阿部高和大佐である。
我々に従ってもらおう。」


自由を奪われた我々は、彼らが管理する施設に運ばれた。
阿部大佐は相変わらず不自然な動きで我々の前に立つと、右腕のアザを見せた。

「これは聖杯戦争に参加する魔術師であることを証する印、”令呪”だ。」
と阿部大佐はやや自慢するような調子で説明した。

「貴様ら、毛唐の野蛮人が我が神州で許しも得ずに怪しげな儀式をできるとお思いか?」

「俺たちは間抜けか?この目は節穴にはあらざるぞ。大本営はこの聖杯戦争で
万能の願望機たる神の御子の杯を、天皇陛下に奉じることを、俺に命じたのだ。」と大佐は続けた。

「ご大層なことだな。」
とやらない夫はあざけった。

「ヨーロッパ人の真似事は似合わぬ服装だけにしておけ。みっともない。」
とやらない夫は言葉を続ける。

「我々が身の丈に合わぬ装いをしているのは、そちらに合わせたからだ。」
と大佐。

「身なりを整えるのは礼儀であろう、ローゼンメイデン?」
と大佐は真紅嬢をみやる。

真紅嬢が鼻で笑うと再びやらない夫に向き直った大佐は高圧的に言う。
「だが合わせられぬ道理もある。残念だが、ここは俺達の国だ。」

「聖杯は神の御子のものだ。あんたらには関係ないだろ。」とやらない夫。

「すべては心次第。我が大和民族は世界に冠する運命を背負う民族ぞ。
キリスト教も、飲み込んでくれよう。」と大佐は大笑いした。

この時ばかりは無生物的だった大佐が、息を吹き込まれたように感じられて、
私はその様子から、彼が西洋に過敏にコンプレックスを感じている、と分かった。


この折を見計らって、給仕らしい若い軍人が紅茶を運んで入室した。
大佐は毒見役を給仕に命じると、若い軍人が口を運んだ器に、そのまま自分も口をつけた。

好色な眼差しを感じた若い軍人は立ち去るように部屋を辞すと、
大佐は意味ありげな笑いをドアの向こう側に送った。

「では、ビップといったか。聖杯戦争に参加する資格すらない貴様に、
俺が聖杯戦争がどういったものであるかを講じてやらんでもない。」と大佐は切り出した。

「もっとも貴様には我が帝国の勝利のために働いてもらうつもりでいる。」

大佐は”令呪”を指でなぞりながら目線を一度、手の甲に移し、再びやらない夫に戻した。

「”令呪”はどうやって得た。」とやらない夫が臆せず詰め寄ると
大佐は「これは聖杯が自分を求め、競うに相応しい人間にもたらす物。
これを得られぬ貴様には、そもそもこの競い合いに加わる資格はないのだ。」と冷笑した。

「道理を履き違えるなよ、ビップ。」
大佐はおもむろに立ち上がると威圧するようにまず私の背後に立ち、「選択の余地はないのだ。」と囁いた。

次に真紅嬢の背後に回ると髪を遊ばせ、「貴様らは俺に従わなければ、
この日本から生きて出ることすらできぬと、それすら思いもつかぬ愚物のようだな。」と言い放った。

「外交問題になるのだわ!」
と真紅嬢は髪を遊ぶ大佐の手を払って怒号した。

「我が大日本帝国はアメリカなど恐れぬ。」と大佐は真紅嬢に言い返しながら立ち位置を変え、
窓際に寄りかかってやらない夫を見下ろすようにしばらくうち黙った。

そして、
「なあ、やらない夫。意地を張るところを誤れば、失うものは多いぞ。」と脅しをかけた。

「聖人にあらねば、清貧に甘んじる理由もなかろう?報酬が欲しければくれてやろう。
望むならば言って聞こえさせよ。何せ、我が国は万能の願望機を手に入れるのだ。分かち合うことも考えるさ。」

大佐はひるがえって温厚な様子で語りつつ、自分の椅子に戻る。
しかし、椅子は情けなく倒れ、大佐はボロの上に崩れ去った。

何が起こったのか理解できない大佐。

「あんた、魔術師じゃないだろ。」とやらない夫は口の端を持ち上げた。
真紅嬢も吹き出して笑い、大佐は自分が仰向けに倒れている理由を悟った。


起き上がった大佐は激昂したが、すぐに平静を装いつつ、やらない夫に迫った。

だが熱気冷めやらぬ大佐は言葉を失い、代わってやらない夫から先に
「万能の願望機。そんなものの存在を認めているのか?」と切り出した。

「そうだ。聖杯はどんな願いも叶える。」と大佐は震える口を尖らせて答えた。

「誰も聖杯を手にしたことはないはずだ。」とやらない夫が返した。

真紅嬢も、「今回の伊勢の地の聖杯戦争は《対邪神組織》が目論んだ物に過ぎないのだわ。
彼らの目的は外宇宙の敵性と戦うこと。そのためには手段を選ばないと聞くわ。」と続けた。

「大佐、彼らの目的を知っている?」

真紅嬢の言葉に大佐は応じる。
「無論、この件の仔細は私が調べ上げさせている。《対邪神組織》に関してもな。」

「疑問に答えよう。」と大佐。
                                  サーヴァント
まず聖杯戦争における聖杯の信ぴょう性は七騎の「使い魔」によって示されている。
「使い魔」は本来、低俗な霊を降霊術によって召喚、使役するものだが、
聖杯戦争のそれは、格が違う。伝説や神話に歌われた英霊たちを呼び出すことができるのだ。

聖杯は己の存在を立証するとともに、七人の選んだマスターに七騎の英霊を「使い魔」として与える。
英霊を召喚し、使役するなど魔術師の力では及ばぬ技であることは理解できるだろう?

「それだけで聖杯を信じろと?」とやらない夫は引き下がらなかったが大佐は意に介さず、
「いずれにせよ、人知を超えた力を我が軍が得られる好機だ。」と答えた。

「これは《対邪神組織》に対する回答にもなるだろう。」と大佐は続けた。

確かに、魔術師ではない私には実感ができないが、英霊、神話に出てくるような存在を
自由に従える力があるとすれば、競い争う動機には十分のはずだ。

「仮にも一国の軍隊が得体の知れない物を巡って争うの?」
と真紅嬢は呆れ顔だ。

「得体が知れぬとは、魔術師らしくない発言だ。」
と大佐は冷笑を浮かべた。

「俺は魔術師ではないが、この力を認めよう。それに20世紀、人類の常識は破られ続けている。」


大佐の言葉はあながち間違ってはいない。
それに魔術師たち、閉鎖的な世界の人間に常識を論じられたところで彼は引き下がらないだろう。

「待ってください阿部大佐。」と私は意を決して大佐に詰め寄った。

「大佐が魔術師ではないなら、どうして魔術師だけの聖杯戦争に参加できたのですか?」

この私の問いかけに、
「聖杯の意思。」とだけ答えて、大佐は私を相手にしなかった。

ところがここでやらない夫の体に異変が生じた。
いきなり大声を上げて倒れると、右手を全身でかばうように床の上でのたうち回り始めたのだ。

真紅嬢と私がやらない夫の容態を案じ、大佐に助けを求めようとすると、
大佐は自失しつつ、顔を青くしてやらない夫の様子を見守っていた。

大佐と我々が呆然としているうちにやらない夫を襲った異変は止んだようで、
よろよろと立ち上がって、右手を省みると、大佐のアザと同じ幾何学的な紋章が生じていた。

外では部屋の異変を察知して数名の兵士が躍り出た。

「何事です大佐!」「貴様らぁ!」

「ま、待て。」と声を荒げて大佐は一旦、兵士たちを制した。
真紅嬢と私の背後にそれぞれ兵士が立ち、うずくまるやらない夫にも一人の兵士が拳銃を向けた。

「阿部大佐、これは一体。」
と兵士は狼狽え、しばらくして大佐はようやく言葉を見つけたように返した。

「ビップが”令呪”を授かったようだ。」
という言葉を聞くやいなや、兵士のひとりが発砲した。

驚いて私と真紅嬢が兵士の止めるのを振り払ってやらない夫に駆け寄ってを確かめると、
撃たれたと思ったやらない夫自身も無事を驚いているところだった。

そして気がつくと私たちの前に、やらない夫と兵士の間に、珍奇な格好をした東洋人が立っていた。

インクで黒く塗られた顔は、東洋のそれだと辛うじてわかる程度だったが、
小柄な体型や身にまとう黒い衣装は、中国人の漢服に似ていたように感じられた。

男は兵士の腕を握り、拳銃の先を反らせやらない夫を守っていた。

大佐は男に、「アサシン、よくやった。」と声をかけると、黒塗りの男は淡々とした調子で、
「お前も死なせるには惜しい。」ととっさに拳銃を撃った兵士の判断を認めつつ姿を消した。


      サーウ゛ァント
あれが「使い魔」。と真紅嬢は素直に驚いた。

 アサシンクラス
「暗殺者の座」を得て、現界した俺の「使い魔」だ。と大佐は真紅嬢の驚きに答えた。
                           クラス
「英霊たちは七騎、それぞれ特徴を備えた 座 を得て現界する。
これはそれぞれの特性が、争いに駆け引きの妙を含ませるための差配らしい。」と大佐は付け加えた。

一同が思案にふける。大佐は改めてやらない夫を見る。

「而して、俺の話を信じる気になったか、七人目のマスターよ。」
と大佐はやらない夫に声をかける。

いまだ痛みと生死の境をさまようやらない夫は、ようやく大佐の姿を捉えて立ち上がった。

「実物を見せられて、認めないわけにはいかんだろ。常識的に考えて。」
とやらない夫。

「10代にわたって何の実績もない我がビップ家を慰める程度の財産は、約束できるんだろうな?」

大佐は頷いた。

やらない夫は無言で手を差し出したが、大佐は握手に応じず、
「腕を切り落とされたマスターもいる。」といって部屋を出た。

真紅嬢は「お金なんか、お金ならいくらでも私が・・・」とひとりごちた。


阿部大佐は我々を地下に用意された、魔術師の工房に通した。
そこには、ようやく私が見た魔術らしい光景で、魔法陣とさまざまな機器が配置されていた。

「英霊の召喚を執り行う用意はできている、ってか。」
とやらない夫が大佐に投げかけると、

「貴様のためではない。俺の部下が使ったものがそのままにされていただけだ。」
と答えた。

ここで物陰から小柄な兵士が大佐に駆け寄って、断りなく立ち入ったことに抗議している様子だったが
大佐は気に止めることなく話を進める。

「呪文を唱えれば英霊は召喚される。驚く程に簡単だぞ。殆どは聖杯の助けによって儀式は進む。」

大佐に促されるまま、やらない夫は魔法陣の中央に進み出ると呪文を唱え始めた。

いきなり腹を殴られたような空気の振動と、爆弾が破裂するような衝撃が部屋中を駆け抜ける中、
光だけが強まって私たちの視界を完全に奪い去る一瞬、その次の瞬間に暗転した。

ビリビリと低振動を続ける室内に明かりが復活する。
目を凝らすと、そこにはフードをかぶり、マントを身にまとう青年が立っていた。

青年はしばらく辺りを見渡してから、
「問おう、どっちがやる夫のマスターですかお?」と大佐とやらない夫に声をかけた。

すぐに右腕の”令呪”を示してやらない夫が、「俺だ。」と答えると青年が向き直って答えた。

「やる夫がキャスターですお。」

           キャスタークラス
青年は自らを 魔術師の座 の英霊であると宣言した。






                                                                    │\
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 キャスタークラス
「魔術師の座 とは…、ハズレだな、ビップ。」
そういって阿部は私の肩をたたくと、頬を寄せて私の肩ごしにやる夫を見つめた。

「饅頭みたいな頭だ。」
阿部の言葉の意味する所をやる夫は悟ったらしく、酷く憤慨した。

「聖杯から現代の知識は貰ってるんだお!」

やる夫の言うよう、彼ら「使い魔」は現界の際に、必要な知識を与えられて召喚されるらしい。
この時、私には理解できなかったが、あとで知ると饅頭とは日本の菓子のことらしい。
                            スキル
「聖杯戦争において、使い魔たちは対魔力技倆を付与されて現界する。
つまり、貴様の攻撃は他の使い魔には通用しない。」と阿部はやる夫を馬鹿にした。

怒ったやる夫が阿部に襲いかかろうとしたが、「やめろよ」と阿部に制され、
「マスターの命は保証せんぞ。俺の使い魔は暗殺者だ。」という言葉に凍りついた。

「理解力があって結構。で、貴様の「真名(まな)」を明かしてもらおう。」
阿部は高圧的な態度でやる夫に迫った。

「真名(しんめい)」とは英霊たちの本来の名前である。

英霊たちは、そのほとんどが伝承や神話、歴史上でどのように死んでいるかは広く知られている。
「座(クラス)」などというかりそめの姿を与えられているのは、その弱点を隠すためである。

「いやだお!」

やる夫はうなったが、阿部は涼しげに自分の使い魔を呼び出した。
またもや音もなく姿を現したアサシンは真紅の背後に立つと真紅の胸を短刀で引き裂いた。

阿部を含めた全員が、薄暗い地下室に広がる生臭い匂いに言葉を失う。


「サーヴァントの召喚さえ終わればそれでいいだろう。協力関係など必要ない。ここで殺す。」
そうアサシンはこの場の全員に言い放った。

平然とした表情を崩さず、息を喘がせる真紅を見下ろすアサシンに阿部は「貴様、誰の命令で・・・」と
アサシンを叱責しようと言葉を出しかけて、逆にアサシンに遮られた。

「俺に意見するとは、偉くなったものだ。」

                              サーウ゛ァント
アサシンの様子は、どう考えても従順な 下   僕 とは思えない。

阿部は表情を崩さぬ使い魔と、すでに顔が青くなり始めた真紅を見合わせ、
まとまらぬ考えを置いて「下がれ!」とアサシンに右手の「令呪」を示して再び強い語勢で命令した。

それでもアサシンは一向に構わないで、むしろ目線はずっと真紅のほうにあって、
彼女を物珍しそうに眺めている。

「分かるか。俺の時代では、肌の白い女や、黒い男たちは王への珍しい貢ぎ物だった。」

「王は俺に命じて、飽きた玩具を捨てるように、俺に始末を言いつけたものだ。」
声には出なかったが、狂っている、とアサシンの口が動いたように見えた。

「二度と誰かに命令されたくはないと思ったが、何の因果か。面白い。」
アサシンは残忍な笑いを浮かべた。

次の瞬間、私の身体は数十mは後ろに飛びずさって、やる夫の足元にどっと倒れた。
「マスター!奴は正気のサーヴァントじゃないお!!」

つづいて倒れたままの真紅もやる夫の手の動きに合わせてできる夫に向かって飛びかかってくる。
できる夫はすかさず真紅の体を受け止めた。


「阿部高和は、利用しようと招き入れた毛唐に返り討ちにあって息絶えた。」

アサシンは無表情のままに、「どうだ、ありきたりな筋書きだろう。」と吐き捨てるように言葉を投げた。

そして、そこには何もなかったような静けさでアサシンは再び姿を消した。

やる夫の言う通りだ。こいつは何を考えてる?
どうやらこいつは生前、よほど主従関係に苦心した様子だ。

だがどんな理由があれ、自分を悲劇の主人公のように考え、
浅慮な行動をとる軽薄な”殺人鬼”に私は強い拒否感を認めた。

サーヴァントは霊体化といって、霊体となることができる。
霊体は魔術師しか感知できないのだが、アサシンの姿が見つからないのは、霊体化が原因ではないようだ。

完全に奴は気配を消しているだけでなく、姿さえも見えない。
奴が意識的に言葉を発する時以外、マスターの阿部を含め、誰も奴の姿を見ることさえない。

マスターすら感知できないヤツの行動は狂っているとしか言い様がない。

だがこの間、できる夫はすでに真紅の血の匂いで吐きそうな顔で、一歩も動けそうにない。

阿部は引き抜いた拳銃を落とし、拾おうと身をかがめて腰の軍刀が邪魔してその場で倒れ、
冷たい床の上を赤ん坊のように這い回りながら、右往左往している。

一方、真紅のはだけた胸の傷は荊棘によって縫い合わされ、
倒れたまま、彼女は反撃の機会を密かに伺っていることを私は確認すると、アサシンに対峙した。


攻撃用の魔術礼装は、手元にある。

ビップの魔術礼装は、阿部大佐やほかの魔術師から見れば
何の変哲もない普通の雑貨に過ぎないよう擬態されているからだ。

私は再びアサシンが姿を見せるのを待ち、上着をまさぐって小さな小瓶を取り出したが、

「やめるお!」というやる夫の忠告は遅かった。
次の瞬間、「愚か者!」という声と共にアサシンの持つ短刀が目の前で停止する。

何事か、とアサシンは周囲に目線を巡らせた。
私も刺されたものと思っていたのであたりを見渡す。

目を凝らせば、糸のようなものが幾重にもアサシンと、部屋中とを巡って、奴の体の自由を封じている。
アサシンは一層、状況を理解できず、言葉すら失って立ちすくすしかなかった。

ふたりは糸を目で追う。その伸びる先に、糸はやる夫の両手につながっている。

やる夫が左手を上げるとアサシンは藁のように部屋の端にまで吹き飛び、
右手と共にやる夫の手前まで引き戻され、壮絶な左の正拳を受けて倒れた。

鼻が折れ、ポテトサラダのように潰れた頭部からはおびただしい黒い血が流れ出した。
まさに一瞬だった。

「おっご!?」
糸を切られた人形は床を転がって惨めに起き上がることすらできない。

「これで勝ったと、思っているのか?」
床を舐めつつアサシンは姿を消す。あの状態からでも気配を消せるのか!?

私はアサシンの反撃を予見して身構えるが、やる夫が首を振って止めた。
「分かった。ヤツは放っておこう。」


やる夫は同じ要領で、青くなったできる夫と真紅を拾い上げると
「さあ、皆でここを脱出するお!」とがなった。

その時、一同の真上の天井は崩れ落ちた。

落ちる瓦礫は吸い寄せられるように私たちを避けて床に落ちた。
そして開いた穴に向かってまるで母親が子供を抱えるような優しい力で一同は上の階へと運び上げられた。

しかし異変に気づいた兵士たちが、次々にやる夫に襲いかかる。

やる夫はそれらを次々に料理して行く。

ある兵士は机に挟まれ、ある兵士は蜘蛛の巣にかかった蝶のように中空に架けられたまま置き去りにされた。
銃弾も斬撃も群衆の突進も関係ない。すべてはやる夫の操る糸であらぬ方向にいなされた。

そして時にはやる夫自身も空中に飛び上がると拳と蹴りで敵を仕留めにかかる。
速い。これが魔術師の動きとは思えない瞬足!

おそらく糸の反発を利用した攻撃。弓のように引き絞られた糸のアシストを受け、
キャスターの手足は正しく矢のごとき威力で兵士たちの骨を破砕した。

やる夫に先導されつつ一同が外に出ると、やる夫は何かを呼ぶように軽く右手を振った。
すると駐車場に止まっていた黒塗りの車が目の前にひとりでに引き出された。

糸に結ばれた車のドアは一同を招き入れるように開く。

「さあ、乗るお!」というとやる夫だけ車の天井に飛び乗って、私たちを車内に招いた。

「そこは違うだろ!」と私がやる夫に言うが、「気にするなお!」とのこと。
そこが本来、乗るべき場所でないことは理解している様子だった。


ともあれ、やる夫の活躍によって私たちは帝国陸軍の施設から脱出した。

阿部は言っていながったが、マスターはサーヴァントのステータス、
能力を見ることができるらしいので、早速、やる夫のステータスを頭に思い浮かばせた。

他のサーヴァントのステータスはアサシンしかまだ見ることはできないが、
はっきりいってやる夫はどう考えても、魔術師のサーヴァントとは思えないステータスだった。

まず、筋力は「B+」に評価されている。これはサーヴァントではかなり高い値だろう。
常人の6倍の腕力らしく、さっきのアサシンの筋力は「D」となっている。

次に敏捷は「A」で、アサシンが「B」。
暗殺を特技とし、あれだけ素早い動きをするアサシンより、やる夫は速いらしい。

何より魔力。おそらく魔術師としての能力の高さを示す値だろうが、
これはなんと「E」、最低評価となっているのだ。

「おい、やる夫。」と私が運転しながら天井のやる夫に声をかけた。

「運転中は話すんじゃないお!」とやる夫は怒鳴ったが、私は気にせず続けた。

「キャスターっていうのは魔術師だろ。お前はどこの時代の魔術師だ?」
そう私が尋ねるとやる夫は「やる夫は魔術師じゃないお!」と答えた。

「何!?」と私が車を止めて降り、やる夫を見上げると
「やる夫は魔術師じゃない、”英雄”だお!」とたからかなポーズを決めていた。

「なら真名を教えて頂戴。」
そう真紅に言われて、やる夫はかたくなに首を振った。

「俺はマスターだぞ。教えてくれてもいいだろ。」
マスターであるはずの私が詰め寄って問うてもやる夫は明かそうとしない。

どうやらよほど有名な英霊で、おそらくここ日本では、正体を明かされると困るようである。

「だが、魔術師じゃない英霊が、どうして魔術師のサーヴァントとして現界したんだ。」
繰り返すが、英霊たちは召喚に応じた時点で聖杯戦争のシステムを理解している。

彼らは勝ち残ったマスターが聖杯を得た段階で、マスターと共に、自身の願いを叶えられるという。
なら非協力的になることに利益はないはずだ。

「世界最古の英雄だからだお。」
そうやる夫は答えた。


その答えの意味するところが私や真紅にはにわかに理解し難かった。

しかし、それも理にかなっている。剣のサーヴァント「セイバー」、槍のサーヴァント「ランサー」、
弓や投射物を扱う「アーチャー」、聖獣や機械を乗り回す「ライダー」、多くの英霊は
             ノウブルファンタズム
その象徴たる器物を《  宝  具  》と呼ばれる神秘として与えられている。

《宝具》とはその英霊の伝承に由来する武器や能力、必殺技である。
生前の英雄が所持する武器や彼らの伝説を具現化したものたちの総称だ。

例えば高名なキリスト教の至高の王と謳われたアーサー王ならば、
エクスカリバーは彼の武勇と伝説を語る上で不可分であり、王を象徴する伝承の剣といえる。

しかし、人間がサルから進化したことは20世紀の現代では常識である。
これを否定する科学者や魔術師は多いのだが、確かに認め難くもある現実だ。

だが仮にそうでなかったとしても、人は裸で泣きながら生まれてくる。

剣も弓もない時代、あらゆる器物と魔術さえない時代に誕生した英霊は
象徴となる”何か”を伝承として持たない筈である。

例えばアダム、ヤマ、アトゥムなどの様々な伝説と神話に登場する最初の人類たちだ。
彼らはヒトの始祖として偉大な英雄でありながら、一切の象徴となる器物を持たない。

やる夫は、あまりに古る過ぎる英雄だった。
そのために当て嵌るクラスがキャスター以外に用意されていなかったのだ。

ああ、聖杯戦争というシステムを考えた、おそらく名伏し難い菌類、もとい、
冬の魔女ユスティーツァは剣も槍もない時代の英雄をおもんばかる事を忘れたるや?

彼らこそ、もっとも我ら人類が貧しい時代に英譚を刻みし、真の英雄なるぞ。

哀れ、やる夫は何もない時代の英雄であるが故に聖杯戦争でもっとも
不利といわれたキャスターに就かざるを得なかったのだ。


「何か、伝承はないの?」と真紅が尋ねると「人類最初の火を手にした英雄ですお!」
そういってやる夫は胸を張った。

「プロメテウス?」と私が尋ねると「プロメテウスは神の火を盗んだヤツだお!」
やる夫が言うには、自分こそ人類で最初に火を手にした英雄だと主張した。

まあ、火に関しては世界中のあらゆる地域でそれぞれの英雄がいるはずである。
やる夫も数多くいるであろう、最初の火を手にした英雄のひとりに過ぎない。失礼だが。

「じゃあ、この糸は?」と真紅がやる夫の両腕から伸ばされた糸を手繰る。
よく見ると糸の先には鈎爪がついており、これが糸を固定する役目を果たしているようだ。

つまり、ここまでの車や私たちを引き寄せたり、アサシンを吹き飛ばしたのは、
魔術によるものではなく、本当にただの糸を使った力技だったということだ。

そうとはいえ何の魔術も行使していない訳ではないらしい。
重量軽減の魔術が働いており、捕らえた相手の重量を軽減できるようだ。

しかし、この糸はどうやら宝具ではなく、ただの魔術礼装だ。

宝具という常人が手にできない圧倒的な神秘の具象を持つはずのサーヴァントが
ただの魔術礼装を着けているのは妙な感覚もする。

「マスターの魔力を考えるとこれが妥当だお。」

痛いところを突かれた。私程度の、もちろん10代も続いた魔術師の家系であるだけに
並みの魔術師をはるかに上回る魔力回路を持っているが、それでもやる夫の現界に支障をきたすらしい。

ビップ家の魔術は科学との折り合いだ。
                      グラン・マエストロ
元をたどれば、我がビップ家はあの”大魔術師”、その異名を取った科学者であり、
芸術家、ルネサンス期の大偉人レオナルド・ダ・ヴィンチに師事したところから始まっている。


スフォルツァ家の傍系だったビップ家は、あの悪名高いルドヴィーコ・スフォルツァと共に
ミラノを支配し、スイス人傭兵団を率いて周辺諸国と争った。

スフォルツァ家は傭兵あがりと貴族たちからは馬鹿にされていたが、
「ノブレス・オブリージュ」の言葉があるように国を守ってこその名誉と貴族である。

レオナルド・ダ・ヴィンチが”腹の黒い”ルドヴィーコに招かれてスフォルツァ城に
工房を構えたとき、ビップ家の初代は彼から様々な教えを受けたと伝えられている。

つまり、魔術師である前に貴族、発明家にして軍人だったビップ家は
根源や世界の理を探求する以前に、宗家であり主のミラノ公スフォルツァ家のために、
できるだけ効率よく人を傷つける道具や、金になる発明をしなければならなかった。

あざ笑う他の魔術師たちに真っ向と、世界の外を目指し、人を見ない隠者たち。
民の幸福と国を守らんと欲するビップの志を笑う権利など貴様らにはない、と主張したという。

もちろん、魔術師たちにはビップ家を非難する理由がある。

魔術は人に知られてはならない。それは社会的制裁を受ける危険を孕むとともに、
魔術は広くその原理を知られると、神秘の力を失ってしまうのだという。

事実、世界の構造が科学として人々に知られるほどに魔術は衰え、
現代の魔術師は過去の魔術師よりも神秘の到達が遅々として進まなくなっている。

根源への道は遠のき、神秘は明かされ、魔術師たちの道標はかすむ。

根源は世界の構造を解き明かす十全な知識だという。
それを得れば、どんな奇跡も起こすことが可能だという。

しかし人にそれだけの神秘が必要だろうか?
何もかもを可能にする力が、人類に必要とは思えない。

だからこそプロメテウスは永遠の命をゼウスに差し出して、
日々の幸せを選んだのではないだろうか?


両者の主張は平行線のままだ。

それは当然だ。根源のために幾世代もの研究を重ねて苦痛と嘆きの果てを目指す
彼らの邪魔を我々はしているのだから。

彼らから見れば我々は刹那的な快楽に溺れる耽美主義者に他ならぬ。
しかし苦痛しか生み出さない求道者の道を選ぶ者がどれだけいるだろう。

私は知っている。根源を目指すのが魔術師として当然だと親から教えられる魔術師の子を。

彼らは歪んだ常識を、それが当たり前と教えられている。
正しい世界を知らず、ひたすら悲劇だけを引きずっていく。

幸せになりたい。
こんな単純な願いすら欧州の魔術師にとっては奇異と受け止められる事柄だ。

だが奇異で結構。それに科学が魔術に代わるなら、ビップ家としては願ってもないことだ。
長年、ビップ家が不可能とあきらめた素材が次々に生まれているからだ。

そう、黄金を産む黒い水、石油から作り出された様々な化学物質。
これまでビップ家が諦めてきた多くの魔術礼装が着々と完成しつつあるのだ。

化学反応を利用するビップ家の魔術は歴代当主の魔術起源「加える」を骨子とする。
魔術起源とは、簡単に言えば魔術師に限らずあらゆる人間、個人が持つ特性と思えばよい。

発火、冷却、変形、硬化、液化、蒸発、あらゆる反応を魔力で補正するだけ。
魔術としては初歩でも、科学から考えればありえない結果も自由に行うことができる。

しかし化学物質の反応を押さえ込むにはどれだけ微弱でも魔力を必要とする。
これも湿度や気圧、気温を調整でき、常に中身が分離しないよう瓶を攪拌する機械ができれば話は別だが。

そのため私は、常に魔力の3割がたを魔術礼装の維持に回さなくてはならない。
もちろん、逆をいえば発動には魔力を必要としない。普通の魔術礼装とまるであべこべなのだ。

おお、去年の秋頃にやっとったやつだ
アーチャー登場のあたりから読んでなかったんだよな
また読めて嬉しいよ


「やらない夫の魔力量でも現界に無理があるというの?」と真紅。

「やる夫の宝具を使う分には、厳しいかも知れないお。」

ステータスによればやる夫の宝具は相当の魔力を消費するらしい。

宝具はその効力を及ぼす対象ごとにカテゴライズされている。

まず、人一人を目標にする対人宝具、次に集団を目標にする対軍宝具、
後者などは今後、《対邪神組織》や大日本帝国軍との戦いでは欠かせないだろう。

続いて対城宝具。これなどは街一つを消し飛ばすほどの効力と規模である。
ここまで来ると使用が危ぶまれる。

そこで問題なのはやる夫の宝具は、「対海宝具」と表記されている点だ。

海、と言われて数日前の航海が思い出された。西海岸をあとにして
あの太平洋を渡ったすぐの私の頭には、あの青海がありありと思い起こされる。

宝具の発動を見たことはないが、海に対する宝具と聞いて、
それが当然、街一つを吹き飛ばす兵器よりも危険が少ないと判断する人はいないだろう。

「どっちにしても、当分の隠れる場所を探さないと」と私は三人を見渡していった。
それに真紅の傷に関しては、ちゃんとした治療が必要だろう。

だがその前にと、私はすぐ蒔寺氏に連絡し、氏の周りで何か異変がないかを確かめた。
いきなりの連絡に氏は驚いたようだが、何も変わりなく、私は胸をなでおろした。

それでも不安が尽きない私は魔術による通信で日本に住む真紅の姉弟たち、
蒼星石と翠星石に連絡を取り合って、冬木に住む《詠鳥庵》の主、
蒔寺氏の身辺に危険が及ばないよう、できれば助けて欲しいと伝えた。






                                                                    │\
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>>59
ありがとうございます。
でも、まだ書き直してる部分だけなんで新しいところはありません。
・・・まあ、あまり変わってませんけどね(汗


【クラス】:キャスター
【マスター】:やらない夫・ビップ
【真名】:やる夫(仮名)
【性別】:男性
【身長・体重】144cm・65kg
【属性】:中立・中庸

【ステータス】

【筋力】■■■■    B+
【耐久】■■■      C
【俊敏】■■■■■  A
【魔力】■          E
【幸運】■■■■    B
【宝具】■          E

【クラス別スキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
スキル喪失。

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。
十分な時間と素材さえあれば、宝具を作り上げることすら可能。

【固有スキル】
言語理解:A+
神々や動物たちとの対話が可能。

変身:C
体を小さくする魔術が使える。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

【宝具】
『■■■■■■■』
ランク:Unknown 種別:対海宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:‐
対城宝具以上の規模を射程に収め、その伝承に由来して”対海宝具”とカテゴライズされる。
ただし、やらない夫の能力が低いので封印。

【伝承】
・彼の伝承における神話世界観で最初の人類。
火の起こし方と糸の発明者。他にも様々な道具を作った最初の人間。

・かなり古い時代の英雄であり、様々な武勇を持つが剣や槍、弓などの道具がない時代に生まれた。
いくらか”おまじない”を使った伝承を持つが、いわゆる魔術師ではない。
それでも他のクラスに該当しないため、キャスタークラスを得て現界した。


【クラス】:アサシン
【マスター】:阿部高和
【真名】:■■■■■
【性別】:男性
【身長・体重】165cm・54kg
【属性】:混沌:悪

【ステータス】

【筋力】■■        D
【耐久】■■■      C
【俊敏】■■■■    B
【魔力】■          E
【幸運】■          E
【宝具】■          E

【クラス別スキル】
気配遮断:A++
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちるが、
本当に攻撃に入る瞬間以外、衆目から消えたように錯覚させるほどの巧妙さである。

【固有スキル】
宗和の心得:B
同じ相手に何度同じ技を使用しても命中精度が下がらない特殊な技法。攻撃を見切られなくなる。

【宝具】
『■■■■(ざばーにーや?)』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?
サーヴァント、アサシンクラスが共通して保有する宝具。
英雄の伝承を由来とするのが宝具であるが、伝承を持たないアサシンたちのそれは
共通して「ザバーニーヤ」なのである。その姿は未確認のため、不明。

【伝承】
・正体不明だが、冬木聖杯戦争のアサシンと違い、東洋人の特徴を備えている。
また漢服を着用していることから、中国人ではないかと推測できる?

・本家fateのアサシンは4次、5次、真アサシン、全員がマスターに強い忠誠心を持ち、
属性が「秩序・悪」であったのに対し、「混沌・悪」となっている。主従関係に嫌悪感を持ち、
マスターの命令にほとんど従わない。他のアサシンが殺しを仕事と割り切っている中、
人を傷つけることを「狂っている」としながらも、平然と行う矛盾した性格を見せる。


【クラス】:???
【マスター】:???
【真名】:■■■■■
【性別】:??
【身長・体重】???
【属性】:???

【ステータス】
【筋力】???
【耐久】???
【俊敏】???
【魔力】???
【幸運】???
【宝具】???

【クラス別スキル】
不明

【固有スキル】
不明

【宝具】
『???』
ランク:? 種別:対人宝具 レンジ:? 最大捕捉:1人?
遠くアメリカまで目撃者を狙って追跡してきた”魔剣”。
持ち主がいなくても自ら敵を探し、攻撃するという性質を持つ。

【伝承】
・日本神話の伝承で、自ら鞘から抜き放たれ、敵を討つ魔剣を持つという英霊。

・霧や炎を生ずる能力を持ち、攻撃や自身の姿を隠すために使う。


そのころアメリカ、NYでは社長が危険な荒事に巻き込まれたことを察知し、
ローゼンメイデンの社員たち、その中でも魔術に関わる者たちが動き出した。

「日本?神の御子の杯、聖杯を巡る決闘〜?」

「ええ。社長が巻き込まれているのは間違いないようです。」

「・・・既に翠星石、蒼星石が現地で動いておられます。」

「我々も日本に飛ぶべきでは?」

「馬鹿な。魔術協会に掣肘を受けることにならんか?」

「社長の思惑はなんだ?」

「これが会社の利益になることならばよし。」

「聖杯なるものの獲得が?ローゼンメイデンは古物商じゃない。」
 グランドマスター
「 老    大 の意向を伺うべきでは?」

「この場に及んで何を協議する必要がある。社長を呼び戻せ。」

「そうだ。アメリカ魔術業界の理事会に席を持つ社長に万一のことがあれば・・・」

真っ白な、清潔感のある会議室に集まった老若男女はすべてローゼンメイデンに雇われた魔術師たちだ。
魔術で経済的に成功した多くの企業は、莫大な報酬で協会に所属しないフリーの魔術師たちを雇った。

騒がしい会話をぶった切るようにひとりが口を開く。

「いや、ローゼンメイデンは社と一門の総力を挙げて聖杯戦争に挑むべきだ。」

静かな沈黙の後、中央に設えられた電話が鳴った。


同じころ冬木町、のちの冬木市では
町で知らぬ者のいない広大な豪邸に住む謎の老人、間桐臓硯が屋敷を処分したいと言い出した。

町を見下ろす景観に鎮座する豪邸は、他の町民を睥睨するように威圧的だ。

しかし老人は丘の上にあるこの家は交通の便も良くないし、人気がなく夜は心もとないという。
どこか深山や新都のあたりに新しい屋敷を建てたいと考えているらしい。

もっとも新しい屋敷も1941年に始まる太平洋戦争の戦火を潜ることにはなるのだが、
今日の我々が知る「間桐邸」の誕生であった。

一方で聖杯の有力な霊脈のひとつである丘の上の「旧間桐邸」に代わって
新しい主が現れた。聖堂教会がすかさず新しい寺院を丘の上に設けたいというのだ。

これが我々がよく知る、「言峰教会」の始まりである。

聖杯戦争の「始まりの御三家」はそれぞれ聖杯の有力な霊脈を抑えていた。
龍洞寺の大空洞、丘の上の旧間桐邸こと言峰教会、そして新都の中心部である。

しかし間桐の血と丘の上の土は相性が悪く、魔術師として好ましからぬ条件の
この土地を、やむなく手放さざるを得ないと間桐臓硯は判断した。

無論、本当のところを言えばマキリの血はそれよりはるかに前から魔術師として枯れ始めていた。

500年続くマキリの家も、自分限りではないかと
臓硯は認め難くもある現実と向き合わねばならなかった。


冬木町長、氷室氏と教会の言峰神父は法律上のやり取りを済ませ、
代理人や弁護士の立会いの中、旧間桐邸の売買と新居に関する今後の取りまとめが始まった。

小さな町である冬木にとって、これほど大きな買い物は町民誰もが知るところとなり、
新しい間桐邸はどんな屋敷になるのか、工事現場を行く人行く人が足を止めて覗きみた。

一方で街の新しいモニュメントとなるであろう言峰教会の工事現場では
口を真一文字に閉じた巨躯の壮年の紳士と青年が、遥か昔からその地に鎮座した
大岩のように微動だにせず工事を見守っている。

さて、蒔寺氏はやらない夫の忠告も忘れて物見遊山に出ていた。
言峰父子だけでも一見の価値があると町民の間では噂になっているぐらいである。

なにせ一言も交わさず親子で岩のように立っていると評判なのだ。

蒔寺ともあろうものが町民誰もが噂する話題について無視できるはずがない。
ふたりのアメリカ人魔術師を後ろに従えて丘の上の工事現場にいそいそと足を運ぶ。

スーツの似合う長身の女性が蒼星石、ドレスの女性が翠星石である。
ふたりともやらない夫と真紅の依頼で蒔寺氏の警備に務めていた。

アメリカ魔術業界は魔術協会のような組織体系はないが、横のつながりがない訳ではない。

表向きは商工会とか、全米ライフル協会とか、鯨保護団体と名を変えつつも、
社会的には企業の経営者、その実態は魔術師という二重の生活を楽しんでいた。

蒼星石は今年、大阪に拠点を開いた日本ゼネラルモーターズの取締役の婦人として
日本に居を構えるつもりであり、彼女自身も車業界では有名な業界人である。

「蒔寺さん、ちょっと待ってくださいよ!」と蒼星石が足の速い氏を呼び止めた。
”冬木の黒豹”と異名を取る氏である。若いふたりより俄然、馬力が違うのだ。

「人間、最後に物を言うのは体力!さあ、早く早く!」
それにしても蒔寺氏の体力の底が見えない、とふたりは顔を見合わせた。


ようやくやっと丘の上にたどり着くと、例の岩のような二人と枯れた老人、
そして青い目の若い女性が何やら立ち話をしているらしい。

ふたりは言峰親子。父、言峰神父は「聖堂教会」というカトリックの一派に属する司祭で、
名前は日本人だが、日本を感じさせない大きな体をしている。息子の璃正を連れ、世界各地で
巡礼と修行を重ねる求道の旅を繰り返しているのだという。

一人は話題の人、間桐臓硯老人である。
大豪邸の主だが、どんな仕事をしているのか、また何歳なのかも定かではない。

無論、魔術による暗示がなされているのだが、それでも謎多き老人を敬遠する者は
この冬木では珍しくないが、蒔寺氏にとっては上得意客のひとりであり、付き合いもある。

最後のひとりの姿を認めて、蒼星石と翠星石の表情は凍る。
魔術協会に所属する”ガンド使い”の女魔術師、のちの遠坂時臣氏の外祖母である。

しかし相手の方はアメリカ人などまったく無視しているようである。臓硯も同様の様子だ。

会話はフランス語(この時代では英語よりフォーマルな言語)であり、蒔寺氏には
判断できなかったが、この時、聖杯戦争の今後の方針に関して、呆れるほどの
美辞麗句を尽くして話し合っていた。


「魔術協会としては教会との関係を考えれば、次の聖杯戦争は
何があっても遂行されなければならないと考えています。」と青い目の女。

「前回の被害を考えれば、魔術の秘匿に関して誰かが責任を持たねばな。」
臓硯老人は「誰が尻拭いなぞ引き受けるものか」と言いたげだったが調子を合わせた。

「アインツベルンは信頼できません。あれだけの家柄で魔術協会にも属していないうえに、
やり口、物言いといい、カンに触ることばかり。結界の内側に引きこもっている間に、
あの連中は子宮から腐ったとしか思えませんね。」と女。

言峰神父は眉を釣り上げたが、何も言わず、相変わらず真一文字に口を閉じている。

ふたりの魔術師は上辺だけのやり取りを続け、言峰神父の口からなんとしても、
魔術の秘匿に関しては聖堂教会が協力する、と言い出すように仕向けていた。

しかしここで臓硯老人は蒔寺氏とふたりのアメリカ魔術師に目がいった。

「詠鳥庵の、これはこれは。」と臓硯老人。
馴染みの呉服屋の主に、こんな妖怪にも社交辞令というものはあるらしく、話を絶って歩み寄っていった。

「いや、住み慣れた家を引き払うのは辛いのですが、何せ人気も少なく、
家族のいない私にとって、いささか都合の悪い。なんといっても少々、広すぎて…」

「税金もかかる。」と蒔寺氏がいうと、臓硯老人も合いの手を入れて微笑んだ。

ゆったりとウェーブのかかった髪、清潔な身なりと和服姿。
老人というには、この時はまだ、姿勢も良く、何より瞳には光があった。

聖杯戦争の英霊召喚というシステムを考案した人物であり、
降霊術に関しては名人芸と呼ばれた魔術師、それがマキリ・ゾォルゲンである。

非常識な魔術師たちの中では、物事の順序や規律を重んじ、不平を嫌う。
若い頃は多くの女性との関係があったといわれているが、最後の最後で最悪の魔女と巡りあった。
それが冬の魔女ユスティーツア、アインツベルンの先代の当主である。

彼女と共に日本に渡り、日本人として暮らし始めて半世紀以上になる。

恋焦がれた冬の魔女とはついに結ばれず、それどころか戦うことになった彼が
魔女の気まぐれで利用されていただけだと悟るには何百年かかるだろう。

第1次聖杯戦争では、この丘の上で臓硯老人と冬の魔女が対峙したとも伝え聞く。
生きているのが臓硯老人だけである以上、ふたりの間で何が起こったのか、深く考えるまでもない。


「どどど、童貞ちゃうわ!」という臓硯老人の言葉にアメリカ魔術師姉妹は
この妖怪の500年近い生涯の(勝手な)過去回想から現実に引き戻された。

「あの恥ずかしい日記帳は始末したのか、臓硯〜。」と蒔寺氏。
あとで氏が言うには間桐邸に上がって酒を酌み交わした折、臓硯老人の日記を見つけたという。

                                    カリヤ サクラ
これが後に”間桐三大奇書”の最初の一篇となるのだが、第2、最3のそれに、
なんら恥じ入ることのないほどに、立派に恥ずかしい内容であったという。

俗人との馴れ合いに興じる臓硯老人を一瞥して、青い目の女魔術師は
「哀れ、分別を持たない老人。」と嘆息した。

魔術師も人だ。当然、社会との折り合いはつけていく。だが必ず線を引かねばならない。
あんなふうに馴れ合うのは、魔術師として好ましくない。そう言いたげだ。

「…近親憎悪というものでしょうな。」
言峰神父はついに堪えかね口を開いて、苦言を呈した。

青い目の女魔術師も、かなり俗人に肩入れすることで知られていたからだ。
行きずりの一般人を助けたり、相当無茶なことをしていると聞く。

蒔寺氏という思わぬ来客に興を削がれたのか、女魔術師は退散することにしたようだ。
言峰神父も、ようやく難敵が立ち去ったことに安堵したようすだ。

入れ替わりに蒼星石が璃正に近づく。
まだ小さな子供だが、厳しい父親の教えがあるのだろう。利発そうな雰囲気だ。

蒼星石が優しく微笑むと、璃正も子供らしい笑顔で応じて挨拶した。

「…璃正、僧侶は歯を出して笑ってはならない。」
冷たい父親の言葉に、璃正は恥じて父親に謝った。

「いくらなんでも厳しすぎるんじゃないですか。」と蒼星石が詰め寄ると
「…私やこの子を誘惑しないで欲しい。…魔術師め。」と言峰神父。

「行こう。璃正。」
そういって言峰神父は逃げるように蒼星石に背を向けた。

言峰神父が幼い璃正を残して、この世を去るのはそれからしばらくも経っていないぐらいだった。
自殺だった。聖職者が禁忌を犯して子供を儲けたことを彼は思い悩んでいたという。






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冬木の近況を蒼星石の手紙から知ったやらない夫は、一応の安心に胸をなでおろした。
帝国軍とのいざこざから一週間。やらない夫たちは伊勢市の民宿に拠点を置いていた。

伊勢市の四分の三は「伊勢神宮」と呼ばれる日本独自の土着宗教「神道」の寺院の敷地になっている。

「御用林」といって、伊勢市の殆どの森林が伊勢神宮の所有する領土なのだ。
他にも60を超える社の神々に捧げる米を作る「神田」と呼ばれる畑や水田まで用意されている。

確かに、ここはローマやエルサレムに負けるとも劣らない宗教都市だ。
ここでは生活のあちこちに、日本人の神が散在している。

日本人にとって神は突き詰めれば”死なない隣人”と言い換えてもいい。怒りもすれば、泣きもする。
供物を捧げ、丁寧にお願いすれば力を貸してくれたりもするが、逆に機嫌を悪くすれば罰が当たる。

日本の神話を記した「古事記」において三輪大明神は、自分の住む神殿を作れ、とせがんで、
日本の国に様々な災いを振りまいたと言う。神が人間に願い事をするあべこべの伝承だ。

これを”祟り神信仰”という。

雨の神を怒らせれば日照りを起こし、川の神を怒らせれば洪水になる。
だが、逆に神々と上手に付き合えば様々な恩恵を受けることができる。

同じような神話がバビロニアに存在する。人間が増え、人間たちの声をうるさいと怒った神々は
様々な災害を地上にもたらし、人間を滅亡させようとする。いわゆる「大洪水」だ。

ところが人間たちが生贄となる動物の肉を焼いたとたん、神々はすっかり飢えていたので
すぐに姿を現して生贄に飛びつき、人間と神が共栄の関係だったことを確認したという。


人間にできない事ができ、物凄く力持ちで、目に見えないし、死なないけど隣人であることに変わりない。
なんでも出来るわけじゃなく、互いの協力を必要としている存在。それが日本人の神なのだ。

「アマテラスは日本の女神で、太陽神であると同時に巫女でもある。」
できる夫は首をかしげた。「神なのにシャーマンというのは、どういう意味なんです?」

例えば古代エジプトの太陽神ラーは太陽そのものの神だ。
しかしアマテラスは太陽が明日も間違いなく昇るように祈りを捧げる巫女の神なのだ。

彼女にまつわる神話に、魔術を使って太陽の運行を妨げる「天磐戸」という伝承がある。
太陽に祈る彼女が姿を消し、太陽を二度と地上に現れないようするという神話である。

他にも雄略天皇という皇帝の夢に現れて、自分のためにご飯を作る神様を頂戴!と
命じて、この伊勢神宮に自分の神殿を移されたのが、豊受大神という女神だ。

豊受大神はアマテラスの食を満たす神であり、太陽神であるアマテラスとともに
日本の食を司る神だという。神のために食事を作る神までこの国にはいるわけだ。

他にも多くの神がアマテラスに仕えているが、それらの神々の権能をまとめて
アマテラスの権能だと考えられてもいるらしい。

つまり、アマテラスにお願いすれば、アマテラスから家来の神々に”神の奇跡”を
起こしてくれるように計らってくれるというわけだ。

そこで話を翻すとアマテラスは日本神話の最高神、つまりもっとも強い霊威を備えた神であり、
その権能は”この世全ての災い”すら引き起こすことができるという。

「天磐戸」ではアマテラスが隠れたことで太陽だけでなくあらゆる災いが地上を覆い尽くし、
あらゆる闇から邪神たちが這い出してきたと伝えられている。


「伊勢聖杯戦争の霊脈は、古代ヤマト民族の呪術によってこの地に祀られた、
アマテラスを起源としている訳ですから、聖杯の召喚も、伊勢神宮で行われたんでしょうか?」

《対邪神組織》がどうやって聖杯を呼ぶつもりなのかは分からない。
真紅の姉弟たちの調べでは、最後のマスターは聖杯を召喚する儀式を行わなければならないという。

冬木の2度の聖杯戦争では、この聖杯を呼ぶ儀式までに参加者が全員、死んでいる。
六人のほかのマスターを倒しても、彼らの一族や仲間に殺されてしまったらしい。

聖杯の召喚には、その地で有力な霊脈を抑えることが必須。
間違いなく伊勢神宮はこの地で最良の霊脈だが、問題があった。

伊勢神宮の「内宮」と呼ばれるアマテラスを祀る大聖堂に入ることができるのは
天皇、つまり大日本帝国皇帝だけなのだ。

参拝客は内宮の手前の門までしか入ることが許されず、中には入れない。

おまけに恐ろしく巧緻な呪術、しかも西洋魔術とは異なる古代日本独自の結界で守られており、
力づくで内宮まで入ることができたとしても、間違いなく日本列島を無事には出られないだろう。

なぜそこまで強力な結界が安定しているのか。

それほどに潤沢な魔力が伊勢神宮の霊脈から吸い上げられているからにほかならない。
しかも結界の核となっているのは神話にまで起源を遡る三種の神器のひとつ、「八咫鏡」である。

神話によればアマテラス自身の持っていた鏡であり、地上における彼女の身代わりだという。
以来、2000年以上、日本という国が伊勢神宮に祀り続けてきた、最強の魔術礼装なのだ。


「それを使えば…」とできる夫。

私もうなづいて答える。
「ああ、魔術どころか、5つの魔法すら使いこなせるだろうな。」

「しかし、困ったな。伊勢でめぼしい霊脈は本当にここしかない。
まさか《対邪神組織》は、ここで聖杯の召喚を考えてるんじゃないだろうな。」

そういって私は頭をかいた。大問題だな。常識的に考えて。

ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂、ローマ法王だけがミサを執り行う聖堂みたいなところで
アメリカ人が鶏の生き血で魔法陣書いたら、間違いなく外交問題だよ。

ちなみに鶏は伊勢神宮の境内で何羽か放し飼いにされている。
これも神話で鶏がアマテラスを呼び、太陽を昇らせるからだという。ご自由にお使いくださいってか。

「そういえば、真紅嬢はどうして民宿にお留守番なんです。」
できる夫は、折角ですから彼女とどこかに行って、少しはアピールしては?と笑った。

「そうもいかんのだ!」
私の必死な様子にできる夫だけでなく、日本人の参拝客も驚いた。

そうだ。それはダメなのだ。何故ならアマテラスは処女神。

巫女であるために汚れを知らない神。そのため、酷く女性を嫌うという。
アマテラスの怒りを受けた女性は、一生、男運が無くなるとまでいわれている。

真紅には私の子孫を作って欲しいのだ!

それはダメだ!それだけは!!


一方、やる夫は民宿の主に頼んで工房をこしらえていた。
といっても、正式な魔術師ではないやる夫の工房は、文字通り作業場だった。

やる夫の道具作成スキルのランクは「EX」、評価規格外。

世界最初の人類にして始祖であるやる夫は、最初に「火」を手にした英雄であると同時に、
最初に「糸」を発明した英雄でもある。

やる夫の手に結ばれている糸は全て、宝具級の魔術礼装であり、
古代バビロニアの英雄王の宝物庫にさえ納まっていない「世界最初の糸の原典」なのだ。

やる夫はビップ家の文献を頼りに、私の技量では作れない魔術礼装を完成させていった。
ビップ家の文献はどれも、こんな礼装があれば便利だろうな、程度のネタ帳なのだ。

神代の英雄に答え合わせを任せたところ、現在の科学で作られた石油製品や
新しい素材を組み合わせれば、作成可能な魔術礼装はかなりあるという。

やる夫には聖杯から得た、現代の全ての知識がある。

もちろんこれは他の英霊も同じだが、並みの英霊なら全ての知識を使いこなせない。
世界最古の神代の発明王だからこそ、現代の科学と魔術を余すことなく組み合わせられるのだ。

「はあ、はあ…。」
やる夫は工房で、自らの手で作り上げた作品に感涙していた。

やる夫の生まれた時代には、芸術や美術は存在しなかった。

生きるだけでも精一杯の時代である。生の魚を、皮ごと貪った少年時代、
やる夫が火の起こし方を発明するまで、人類は山火事か、偶然手に入る火しか使えなかった。

ところが現代には素晴らしいものがある。「春画」である。
やる夫は生前、女性に酷い目にあって以来、酷い女性恐怖症なのだ。

それでも抑えきれぬ男の性欲が、「春画」に向けられたのは当然といえよう。
絵の中の女性はやる夫を傷つけず、常に自分好みの笑顔で接してくれるのだ。

「ってぇ、自分の書いた絵で×××出来るかァァァッ!」

やる夫は自分で書いた、世界最古の発明王が手ずから作った「エロ同人」を
破り捨てると偉大なる自らの発明、火の中に放り捨てた。


「やる夫、そろそろお昼にしない?」
と工房の外で真紅が声をかける。

実際、すでに昼食を取るには、かなり遅い時間帯だ。

「し、真紅さんですかお。ほら、頼まれた薬できてるお。」
そういって戸をわずかに開けるとやる夫は小瓶に入った軟膏を手渡した。

「胸の傷も、これを使えば跡形もなく消えるはずだお。」

戸の向こう側から新しい魔術礼装の説明をしようとするやる夫の言葉を遮って、
真紅はもう一度、工房から出てきて、昼食を取るように勧めた。

「いったい、何があったって言うの?」
真紅はやる夫に声をかけた。

やる夫の女性への反応は普通ではない。
帝国陸軍から逃げる時は普通にしていたが、次第に真紅を避けるようになったのだ。

思い当たる節がないでもない。

英霊は突き詰めれば”一度死んだ人間”だ。英霊が真名を隠す理由が生前の死や
破滅に関わるトラウマを知られないようにするためであることは間違いない。

これまでの一週間、やる夫は彼が属する伝承における様々な発明者であることは明かしても、
その真名を、マスターのやらない夫や仲間の真紅やできる夫にさえ明かしていない。

それでも、民宿に出入りする女性や自分を避ける様子から
真紅はやる夫が”女を苦手にしている”と、薄々感づいていた。


「誰も貴方を取って食べたりしないのだわ。」
真紅が粘り強く説得すると、やる夫はいやいや工房を出た。

やる夫自身の話では彼が生まれた時代は当然、
彼が火の起こし方を発明するまでは魚や鳥を生肉のままで食べていたという。

それが酷く屈辱的で、火が手に入った時は、
やる夫を皆が讃えて、喜んだことは忘れられないという。

魚の刺身は日本に限らず、元来は古代の様々な地域に散見された。

しかし多くの文明は生のまま魚を食べることを、やはり嫌うようになり、
何より調理しないということを、非文明的、野蛮と感じるようになって次第に廃れていった。

だが、日本の刺身は洗練されたひとつの文化として認めて良いレベルになっている。
「一見、ただ生の魚をスライスしただけの粗末な料理だが、これはどうだお。」

「気に入った?」と真紅が尋ねると嬉しそうに口に運んだ。
「新しいものを作らなくても、改良する余地を探せばやり様はあるものだお。」

ただし、真紅は相変わらず生魚のスライスには抵抗があるようだ。

「でも、この刺身を作った包丁は、貴方の作った火を使って作ってるのよ?
貴方が火の起こし方を考えて人々に広めなければ、この料理は生まれなかったわ。」と真紅は笑った。

火と糸。

どちらも世界中のあらゆる文明の起点となる発明だ。

やる夫がそれを本当に歴史上で、最初に発明した英霊かどうかはともかく、
このふたつの発明者という伝承を持つ英霊というのは大きい。

英霊の伝承は派生が多ければ多いほど、その原点は強力になる。

いわばやる夫は全世界の英霊のすべての宝具、伝承の原典であり、最古の人類の伝承を持つ英霊。
本来であれば「神霊」に当たる英雄で、聖杯の力を持ってしても召喚できない英霊である。

何故なら神は死なない。死んでいない者は聖杯といえどもクラスを与えてサーヴァントにはできない。
つまり彼は、彼の時代では一番の英雄のはずだ。そんな彼が死んだとすれば、その原因は何?

女が関わっているとすれば、この異常な嫌がり方も頷ける。

火のない時代に火をもたらした英雄。間違いなく皆から尊敬され、慕われたはずの彼が、
想像もつかないが、破滅したその原因が女だというのなら。






                                                                    │\
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天空に弧を描く鳥を瞬く射落として見せるアーチャー。

僕はまず、よぼよぼの老人の姿のアーチャーに驚かされた。

聖杯戦争に呼び出される英霊は、その英霊の絶頂期の姿で召喚される筈である。
枯れ果てた老人が、この英霊の最も満ち足りた姿かと。

「アーチャーはサーヴァントの三騎士の一角。通常、他の英霊より強力な宝具を持ち、
遠距離戦に秀でた能力を持つ。選定の条件に投射物を用いる伝承を有すること、がある。」

                        アーチャークラス
僕が確認するようにアーチャーの前で 弓 兵 の 座 に選ばれる英霊の条件と
その特徴を反芻する。

アーチャーはほうほう、業腹な”ますたあ”様よ。とあごひげをなでた。
「目に見えるものだけが全てではございますまい。」

真っ白なあごひげは完全に曲がった背中のせいで地面にすれるほど長い。
見事に中国の山奥に住む仙人という風のアーチャーは飄々とした何事にも慌てない男だ。

「目に見えない宝具があることぐらい知っている!」
僕が苛立ちを隠さずに迫ると、アーチャーは困った様子で返す。

「ならば尚更、なにを俺(わし)にお望みかな?」

問題があった。召喚に応じたアーチャーは、一切の宝具、目に見える武器を携えていないのである。
確かにアーチャーの言うとおり、目に見えない武器、概念武装という魔術礼装や器具はある。

「だがアーチャーは何かを射る騎士のはずだ!」
僕が引き下がらないのを見て、アーチャーは僕に自分の技を見せるという。

深い山々の奥に入り込んだ僕とアーチャー。
やおらアーチャーは天を指差したが、僕には何も見えない。

「ほうほう、”ますたあ”には見えませなんだか。」
アーチャーは本当に困った様子でほかの獲物を求めた。


アーチャー曰く、彼の千里眼を以てすればまつ毛の先に載せた”泓(ふけ)”さえも、
牛よりもはるかに大きく見えるという。

落ちる木の葉を撃ち、敵手の矢をも射抜くと言う。放つ矢は遠く、七人の兵の鎧を貫いても勢いを落とさないという。

「けど、弓矢がなければただの爺さんだ。どれだけ目が良くても。」
僕の言葉にアーチャーはこう返した。

「”ますたあ”よ、例い定規を使いなさって綺麗に線を引いた処でそれを名人芸と呼びなさるか?」
アーチャーの言っていることは理に適うようで、やはり外れている。

弓の名人とはいえ、弓を持たずに何を射抜けるというのか。
それともこれはどんな道具であっても選ばず、使いこなして相手に当てる自信があるのか。

探し回った挙句、僕の目でもかろうじて見える位置に鳥が飛んでいるのを見つけた。
「ほうほう、これは近すぎてかえって難しいかも知れませんぞ。」

アーチャーの戯言を無視して、いいから撃って見せろ。と急かした。

それでも「これではつまらぬ。」

アーチャーがそういうと、近場の石を次々と重ね始めた。

大小の石を正確に積み上げるアーチャー。
僕の腰までの高さにまで積み上げると、鳥は初めの位置よりだいぶ遠くまで飛んでいった様子である。


「まだ、見えなさるか”ますたあ”様よ。」とアーチャー。
目が慣れたのか、前よりも遠くの鳥が見える。

「あれはもう”ますたあ”様の思うより遠くにござるぞ。」

「さあ、始めまする。」
そういって不安定な石の上に勢い良く飛び乗った。

バランスよく石の上に体重を支える。普通の、訓練していない人間なら飛び乗っただけで崩れただろう。
だが、そんなのは今は関係ないのだ。

撃たない。まだ撃たない。
何もせず、ただ石の上に登って弓を引き絞るポーズをとっているだけだ。

僕が見守っているあいだにも、何もしないまま鳥はどんどん遠くに飛んでいく。
依然としてアーチャーの手には何もない。どうするつもりだ。

次の瞬間、アーチャーが突然振り向くと「ほれ、何も持っておりません。」
と自分が弓やその代わりとなる物を、何も持っていないことを確認させた。

「いい加減に撃て!」

僕が怒鳴ると、アーチャーはそれを合図に素早く身を反転させ、
背後の鳥を瞬く間に射抜いた。

ほんの一瞬だったが、アーチャーは驚く程に正確な動きで反転し、素手のまま鳥を射た。
素直に驚いた。不安定な積み石の上であること、加えて早撃ち、しかも素手である。


僕は何度か、木の葉や木の枝などでアーチャーに何度も技を見せろとせがんだ。

その全てにおいて、アーチャーは空手で、しかも何かを拾って投げているようにも、
魔術の類を使っているようにも思えなかった。

最後には僕が、あの木の、あの枝を狙え、というよりも早く、僕が指さそうと
心に決めた遠くの杉の木の枝を落として見せるまでになった。

ここまで来ると確かに早撃ちだとか、狙撃だとか、そんなレベルでは断じてない。

「弓矢を持たずに獲物を射るなんて、デタラメに決まってる!」
おそらく目に見えない魔力か何かを放っているに違いないのだ。

「確かに魔術師ならば、俺(わし)の技も魔を用いていると思われても無理はない。
しかしこの世には魔術以外に神秘を起こす異能と呼ばれる技術があることも”ますたあ”様は
知っておられましょうや。いかにも俺の技は修練によって得られた異能に他なりますまい。」

種も仕掛けもある。たが魔術ではない、というつもりらしい。

異能とは根源の渦という大きな濁流から別れた世界を構成する神秘の一分。
魔術とは異なる律、法理に則した技術体系であり、後天的、先天的に得ることができる。

最大の違いは魔力という生命エネルギーを変換した霊的力量を用いない一点にある。
だがそれでも過度の使用は、魔力と等しく生命の危険にももとると言われる。

また後天的ならば体や精神に異常を、先天的ならば初めから欠陥のある人間であり、
異能者の人格や精神状態は、普通人から見て、異常を来たしているとも聞いた。


アーチャーの真名は「甘蠅(かんよう)」。

春秋戦国時代と呼ばれる古代中国で弓の仙人と謳われた名人である。
その技は”不射之射(ふしゃのしゃ)”。撃たずにして、之(これ)を射る、という超人芸だったという。

「ほうほう、俺(わし)の技はなあ、”直死の魔眼”と同じ類と思いなされ。」

アーチャーがいう”直視の魔眼”とは異能のひとつだ。
この世に存在するものは全て、誕生と同時に死を内包して成立している。

直死の魔眼に映る線と点は、万物が誕生とともに内包する死の概念そのものだ。
それを切るだけで、死という結果を相手に突きつけることができると言われている。

血を流しすぎて死ぬ、内蔵の機能が止まって死ぬ、そういう過程は直死の魔眼にはない。
直死の魔眼の持ち主に切られれば、物が持つ命が奪われ、結果として死だけが残るからだ。

アーチャーの技はそれと同じだ。
こいつが狙えば、当たったという結果だけが突きつけられる。

何かが空中を飛んで、それが相手に当たるという過程を無視して、当たったという結果だけが
相手に突きつけられる。狙い、構える、この二動作でこの英霊の射撃は完成する。

狙うだけで撃ったという結果が成立する。ゲイ・ボルグやアンサラーと同じだ。
因果律を無視し、結果を先に決定する宝具に分類される。

構えて放てば、持ち主が死んでいても必ず心臓を刺し貫く伝説の魔槍「ゲイ・ボルグ」。
必ず後の先を取る、”後より出て先に断つ”と謳われたフラガ家の家伝の魔術礼装「フラガラッハ」。
そして、切れば相手に死を突きつける「直死の魔眼」という異能。

だが前者三者を大きく突き放すのは、「不射之射」は遠距離であるということだ。

しかも並みの長距離ではない。軽く1km以上は離れた鳥であっても、
この英霊には鼻の息がかかる位置の相手を指でつつくほどの難しさもない。

何より、先の三者と違い、この英霊の攻撃は避けることも防ぐこともできない。
何かが飛んで当たるという過程がないからだ。当たるという結果しかない。

アーチャー自身、先例の三者が同時に敵として対峙しても勝てる自信があるという。
齢が10を数える前に落ち葉も射抜く技量に達したアーチャーにとって問題にもならないだろう。

ひとつ懸念するのは必中であっても、必殺ではないという点だ。

だがこいつを敵にした相手は不運だ。逃げることのできない攻撃を一方的に浴びるのだから。
それに射程も、早撃ちに関しても、こいつは並みの英霊じゃない。接近こそ至難の業だ。


「ほうほう、俺(わし)のすごさがお分かりか、”ますたあ”様よ」
自分の力量を十分に認めさせたことで、アーチャーは満足したらしい。

「だが、この程度で驚いてもらっていては少々、興ざめじゃのう。」
今日一日でもっとも険しい表情に転じた好々爺は頭上に向けて七度、矢を放つ動作を繰り返した。

口腹で8つを数える程の時が立ち、青い空に21の黒い影がようやく見えるまでになった。
さらに4つを数えるほど時が経つと、黒い影が人間より大きな生き物だと僕の目にもわかるようになった。

アーチャーが矢を放って実に数秒後、どうと21の得体の知れない化物が地に落ちた。

黒い肌はまるで昆虫のようにぴかぴかと光り、アリのようなハチのような姿をしているが、
人間のようにも見え、こんな奇妙な動物が日本の空には飛んでいるのか、と驚かされた。

「使い魔かのう」
と射抜いた本人も正体を解しかねている様子だ。

魔術師の僕でさえ、これが何者なのか判断できない。見たこともない霊獣か、
あるいは”死徒”の一種、英霊の宝具かも知れない。

「飛んでいた高さは?」と僕が尋ねると
「落ちるまでの時間を計算するとざっと5kmぐらいかのう」とアーチャー。

飛行機という発明品が世界大戦で活躍したという。

もっとも魔術師はそれよりはるかに前から空を己の領域としてきたが、
そんな高さを飛ぶことが、果たしてどんな力の助けでできるのだろう?

だが間違いなく、この生き物は魔術師が使い魔として放ったものに間違いない。
おそらくアーチャーの今日一日の行動を、つぶさに観察していたのだ。

「アーチャー、気づかなかったのか?」と僕が問い詰めると、ほうほうと微笑んで、
「俺(わし)の技は隠すよりも、知られておいたほうが良いと思いましてな。」と答えた。

呆れた。ずっと監視の目があることを気づきながら、この英霊は自分の技前を気前よく披露したのだ。
しかしそれでも一理ある。アーチャーの技の冴えを見て、おいそれと向かってくる敵は少ないはずだ。

どれほど強力な英霊であっても、連戦すれば消耗する。弱点もその中でほかの
サーヴァント陣営に漏れ出す危険もある。いかにアーチャーが弓の仙人であっても、油断は禁物といえるだろう。

さしずめ、今日の敵はしばらくは対策を練るか、攻撃を見合わせたはずだ。

さすが戦国時代の英霊。撃たずにして撃つと言わしめた弓使いだ。
戦わずに勝つということを十分に心得ている。

余談だが、僕がアジトに帰って鏡を見ると、全てのまつげと眉毛が失われていた。
アーチャー曰く、この一日の散歩の間に、隙を見て全て撃ち落とした、という。






                                                                    │\
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乙—
火と糸と対海ってことは、ハワイの英雄かな?
雰囲気出てるから続きが楽しみだ。

>>88
バーサーカーでもよかったかも知れんですよねー


【クラス】:アーチャー
【マスター】:アーチャーのマスター
【真名】:甘蠅(かんよう)
【性別】:男性
【身長・体重】152cm・40kg
【属性】:中立・中庸

【ステータス】

【筋力】■          E
【耐久】■          E
【俊敏】■          E
【魔力】■■■■■  A+
【幸運】■■■■■  A+
【宝具】■■■■■  A+

【クラス別スキル】
「単独行動」:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。

「対魔力」:E
無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

【固有スキル】
「無窮の武練」:A+++
いついかなる状況においても体得した武の技術は劣化しない。

「三眼」:A+++
天性の直感・第六感である「心眼(偽)」と修練によって得た洞察力「心眼(真)」、
さらに「千里眼」を加えた3つの洞察力、直感力、遠視能力を併せ持つスキル。
危機的状況を打開する戦術論理を導き出す。また透視、未来視、視覚妨害に対する耐性。

【宝具】
『不射之射(ふしゃのしゃ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:4000 最大捕捉:1
弓の極意を会得した甘蠅が、弓も使わず獲物を射抜いた伝承に由来する宝具で、概念武装。
この宝具には「投射物が放たれ、空中を飛翔して、相手に当たる」という途中経過の概念が存在しない。
ただアーチャーの攻撃が当たるという結果だけが突きつけられる。そのため命中までの時間差もない。
過程はなく、結果だけを相手に着き付ける、いわば「直死の魔眼」の超長距離バージョンとも言うべき技だが、
「必中」であるという点でそれを凌駕する。
ただし「必殺」ではないため、サーヴァント相手の場合、殺し損ねることもあるが、
まばたきする人間のまつ毛も射落すアーチャーの技量の前に確実な防御手段はない。

【伝承】
・中国の伝説の弓使い。様々な伝説で中国最高の弓使いとして登場する。

・「名人伝」に登場する弓の名人・季昌の最後の師匠。齢百歳を超える仙人であり、
人知を超えた弓の技を持つ。一切の器具を使わずに狙った獲物を射落とすという。
彼にとっては道具を使って何かを撃つ、という行為は画家が定規を使って線を引くこと、
素人の技に等しいという。


「ジャップを殺せ!ジャップを殺せ!もっともっとジャップを殺せ!!」
恰幅の良い軍人の英霊は物騒な文句をくりごとのように喚き散らした。

ライダーの真名はカーチス・ルメイ。アメリカ合衆国空軍参謀総長、空軍大将。
太平洋戦争での対独、対日の戦略爆撃を指揮し、その暴虐な戦略方針から”鬼畜ルメイ”の異名を取った。

先の戦争(第1次世界大戦)で搭乗した新兵器・戦闘機。彼はそれらが今後は大規模に展開され、
戦争の趨勢すらも左右すると僕に語った。

彼は指揮官というだけでなく、自らも爆撃機のパイロットであり、作戦中は爆撃機編隊に加わって陣頭で指揮した。

このように話すと部下と苦楽を共にし、自身も危険に身をさらす将軍として好感が持てる。
しかし実態は命令に従わない部下を脅迫し、怒号を放つ戦争の鬼神だった。

ライダーは未来の英霊である。
カーチス・ルメイは1906年生まれなので今現在、1927年では本物のルメイはハタチである。

サーヴァントは「英雄の座」から召喚された英霊を核としているため、本人とは同質だが、異なる存在となる。

そのため、このような”その時代では英雄になっていない人間”が英霊として召喚される場合も、
極めてまれではあるが過去2度の冬木の聖杯戦争でも認められている。

「だから本物のルメイは今頃、空軍学校で訓練に励んでいるというワケだね。」
僕は、日本人なので、遠からぬ未来に民間人を巻き込んだ大量殺戮と破壊を繰り返す英霊を
サーヴァントとして呼び出してしまった事に不快感を隠せなかった。

無論、向こうも日本人がマスターになったことを酷く嫌がっている様子で
「ジャップのマスター。」と僕を蔑視している。

「宝具が頼みのライダーなんだから、マスターである僕に服従して貰わないとね。」
「だから魂を喰らって俺の魔力を底上げするんだろうが、ジャップめ!」

ライダーが僕に提案した戦略方針は”魂食い”という使い魔を使役する魔術師としては
外道とまで隠避された方策で、さすが生前は”鬼畜”の異名をとった英霊である。

ライダーの固有スキル「破壊工作」。戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。
ランクAの場合、戦闘前の敵に六割近い損害を与えることが可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。


霊格?確かにこの男には品位とか風格というものは感じられない。
仮にも大国、アメリカ合衆国の最高位の司令官だというのに、短気で粗暴な中年オヤジじゃないか!

ともかく、ライダーの提案では”魂食い”で能力を底上げし、順次戦闘に入るつもりらしい。

生前、勝つためには手段を選ばず戦争を早期に終結させたことが平和につながったと彼は主張するが、
結果を出すまで足早に過程を推移させるため、かえって無用な消耗と被害を生みだす。

「対軍宝具」は広域に効力を及ぼすが、それは被害を小さくしたい僕の望む方針じゃない。
それでなくても、こいつは周りの迷惑顧みないとんでもない英霊なのだから。

胡乱な英霊だ。
僕に相応しい英霊はもっと繊細で、緻密な知性を備えた英霊であるべきだ。

こんな杜撰な、しかもライダーのような大味なクラスではなく、
ランサーやアサシンのような戦いを小規模にとどめ、速やかに対処する英霊が好ましい。

「俺が胡乱だと?ハぁっ!」
葉巻を片手に、太った顎を揺らしてライダーはがなった。

「いいかい黄色い坊や?俺があんたの呼び声に応じたってことは、あんたも存外、胡乱なんだよ。」
残り少なくなった葉巻の数を確かめるとライダーは八方ふさがりの議論を諦めたようだ。

「OK!あんたが”魂食い”を承諾しないのはいいとして、どうやって敵をふっ飛ばすつもりだ?」
ライダーは洞(うろ)で冬眠するクマの様に部屋をぐるぐると回りながらつづける。

「俺は面倒は嫌いだ。いっきに効率よく勝ちたいんだよ。」
なおもしぶる僕にライダーは身体を寄せて、ぐっと肩を掴んで顔を近づけた。

「俺とあんたの目的は同じだろ?そうさ、勝つことだ、違うか?」


皮肉にもライダーの言う通りなんだ。僕もこいつも具体的な願いはない。
聖杯に、万能の願望機に祈る願いはこの聖杯戦争で起った被害を帳消しにすること、だ。

なんでって?僕は他人を蹴落とす必要のない優秀な人間だからね。

「でも、お前が”魂食い”みたいな被害が広がる手を使わなきゃ、もっといい使い道もあるんだ。」
そう僕がそう言うと「日本がアメリカに戦争で勝つか?」とライダーは鼻を鳴らした。

「その戦争を防ぐこともできるかもしれないじゃないか。」

僕がむきになって語勢を荒げるとライダーは新しい葉巻をシガーカッターで切り落として、
「ああ、日本人を皆殺しにすればな。」と僕にむかって切り落とした葉巻の端を投げつけた。

僕はライダーに背を向けた。ライダーは葉巻に火を着けると
「おっとそいつは聖杯に頼むまでも無いがな。」と背中越しにぼやいた。

だが確かにライダーの言うような、決まった戦略方針は僕にはない。
でも他に手がないとは言え、無関係な人たちを巻き込むことはしたくない。

「なあ、お前って司令官なんだろ?”魂食い”以外の戦略を思いつかないのか?」
僕の挑発とも取れる提案にライダーは、待っていたと言わんばかりに即答した。

「あるとも!」

「もっとも聖杯戦争は過去の2度、魔術師の一門が一族を上げて参加したらしいが、
お前の家では何十人も徒弟を集めて戦う事は出来んだろう。」

確かに、ライダーの取り得る選択肢を僕が狭めているのは認めなくてはならない。

本来であれば対軍宝具も聖杯戦争に参加する敵の魔術師一門、
雇われた傭兵や徒弟、大勢の敵を相手どる状況を想定した宝具なのだ。

そして、その対軍宝具を最大限に活用するのがライダーというクラスであり、
こと戦略爆撃を指揮し、空軍参謀総長まで任せられたルメイは、大規模な戦闘、
多数対多数でこそ、その真の実力を発揮できる英霊の筈だった。

どんな英雄、豪傑も大勢の大軍には敵わない。歴史がそれを証明している。
英霊でありながら個人の武勇よりも、軍隊という総体の強さを競うのがライダーの正しい在り方だろう。

「まあ、数の少なさを補うのは、ジャップのやることだからな。俺はてんで思いつかん。」
ライダーはそういって思いっきり葉巻を吸いこむと、弱気と共に煙を吐き出した。


「だが負けるのは俺の主義に反する。いやアメリカ人は古臭い英霊共に負ける訳にはいかん。」
過去の偉人は学ぶだけで十分だ。有難がるばかりで挑戦しないのはただの権威主義者だ。そうライダーは言った。

アメリカは古いものに挑戦していく。そういう国なのだ。
欧州や亜細亜の国々を圧倒し、世界を引っ張るリーダー。アメリカはその資格と義務を負っているのだ、と。

「だが魔術師とは詰らん人種だな。魔術師は坊や、お前みたいな連中ばかりなのか?」

結局、新しい戦略方針に関しては触れずに、ライダーの話の内容が別の方向に転じた。
おそらく、妙案が思いつかなかったのだろう。

僕はため息をついて答えた。
「そうだよ。魔術師の悲願は根源に至ることだ。…少なくとも、僕が知る限りではね。」

「金にもならん、ヒーローにもなれんし、歴史にも残らん。面白くない。」
ライダーはそういって不機嫌そうに葉巻を大理石の灰皿に押しつけた。

「…甘い。」
僕の取り寄せた葉巻の味が気に入らないらしい。煙草に味があるなんて、
吸った事も無い僕には思いもよらない事だった。

「じゃあ、やり方を変えよう。俺たちが”魂食い”をやらないからといって、ほかの連中も
やらないとは限らん。だったら、先手をとるに限る。こちらから出向いて吹っ飛ばす。」
そう言うとライダーは外に僕を伴った。

”魂食い”をマスターに拒絶された以上、他の陣営がそれをやる前に叩くと言うのだ。


この伊勢聖杯戦争にあわせて僕らに用意された拠点の前には黒塗りの外国車がふんぞり返っている。
「キャディはお好き?」そうライダーは振り返って僕に意味深な笑みを向けた。

1920年代は狂騒の時代と呼ばれた。
大富豪の象徴とも言える乗用車は大量生産が始まり、次第に庶民の手にも届くようになった。

それに反してゼネラル・モーターズのキャデラックは世界一の高級車として
アメリカはもとより日本でも広く知られ、「アメリカの富の象徴」とも呼ばれている。

「高いんだからな。」僕がそう言うと「知ってるとも。」と答えてライダーは上機嫌にエンジンを蒸す。
「何せ大統領サマの専用車だからな。猪口才なドイツ車や日本車とは違う。タフな車だ。」

フィリピンや中国を占領した、遠からぬ近い未来の日本軍もキャデラックを軍用車として接収、鹵獲して運用したという。

もっとも僕が詳しく知りたいのは”日本車”というカテゴリーが未来にはあるらしいということだ。
いまだ日本は工業力においてはるかに欧米列強に及ばない。そんな時代が、こんな不況の後で来るというのか?

「あー、気にするな。どうせお前はこの時代の俺に吹っ飛ばされるんだよぉ。」
未来の話をするときは、決まってライダーはこういう。

確かに、東京、名古屋、大阪で数十万を無差別爆撃で焼き殺した英霊の話だ。
その中に未来の僕が含まれていてもおかしくはない。

勿論、倫敦の時計塔に帰っていればいいだけの話だが、
日本人として、故郷の危急にひとりだけ海外に逃れるわけにはいかない。

魔術師としては、失格だな。

「それにしても、汚い道だぜ。せっかく洗ったばかりなのにもう泥だらけだ。」
ライダーは農道に近い伊勢市内を散策しながらブツクサと不満をこぼした。

ガサツそうな男だが、それでいて妙に凝り性な部分がある。
逆に細かい事に気をとられて大きなミスを犯すことも多々あるが。

その時、いやな風切り音を伴ってひと振りの剣がキャデラックを斬撃した。

魔術で強化されたフロントガラスは魔剣を一度は静止したが、
錐揉みするようにじりじりと刀身は運転席のライダーを狙って前に進み続けている。

「ジャップめ!さっさと止めろ!」そういってライダーは僕に魔術で対処するように急かした。

僕が「ライダーこそ車を止めろ!」と言うと「馬鹿言え、周りに敵がいたらひとたまりもないぜ!」
そう返してライダーはアクセルを踏み込んで急加速する。


人気のないところを目指し、騎乗スキルがあるとは言え、前も見えない状態のまま人を避け、
でこぼこの道をものすごい速度のまま落とさずに走破していく。

「勝ち目はあるのか?」僕が尋ねると不思議そうにライダーは答えた。
「いつまで乗ってる。ここに敵の宝具があるってことは相手は空手だ。さっさと探してこい!」

「複数の宝具を持っている可能性は?」
                                            セ イ バ ー ク ラ ス
「これは剣だぞ。敵はセイバーだ。仮に複数の宝具を持っているとしても 剣の騎士の座 に
呼び寄せられる英霊が、自身の伝承を代表する宝具より強力な代替宝具を持っているとは思えん。」

ライダーの主張は、ほとんど憶測と推論に過ぎない。僕はそう言い返したかったが、
今こうやってふたりが揃って逃げていても仕方がない。どちらかひとりは反撃に出たほうがいいだろう。

「よし、僕が迎撃する。で、お前はどうする?」
そういって僕は魔術で車からの脱出を試みた。

ライダーは僕がドアに手をかける前に「俺か?この剣を料理してからお前に合流する。」と答え、
更に「おい、坊や、拳銃は撃てるか?」といって飛び出そうとした僕を制した。

「僕は自慢じゃないが同年代の魔術師なら右に出るもののいないといっていいぐらいの時計塔の優等生だよ。
それに俗人の使うような道具に手を出すなんて、魔導の恥だよ、ライダー。」

僕がそういって手を払うと、ライダーは無理やり引き戻して二丁の拳銃を僕に握らせた。


「二丁は重いが我慢しろ。ひとつは予備だ。メンテナンスは欠かしてないが、用心のためだ。」
手渡された拳銃は一方がコルト・ガバメント、一方はコルト・シングルアクション・アーミー(SAA)だ。

SAAはアメリカ家庭に1丁はあるという伝統的な回転弾倉拳銃だ。
メンテナンスを怠ってもすぐに使えるという点で、護身用の予備として信頼されている拳銃らしい。

「間違っても二丁拳銃なんてするなよ。撃つときは必ず両手で握って顎の前に突き出せ。」

これは彼の時代ではスタンダードな拳銃の撃ち方だが、
この時代では拳銃は片手で構えるのが普通らしい。

もっとも僕は拳銃を触ったことすらないので、
ライダーに教えられるまではどちらも知らなかったのだが。

僕はガバメントを片手に、SAAを腰に指すと加重軽減魔術で時速100km近いキャデラックから飛び降りた。

ずぶっと両足が水田にめり込む。
泥だらけの体を起こして周囲の気配に神経を研ぎ澄ませる。

一方、マスターが車内からいなくなったことを察知した魔剣はライダーの刺殺を中断して、
フロントガラスから自身を引き抜こうと今度はじりじりと後ずさり始めた。

ライダーはそれを見越して大きく車を反転させ、
魔剣を更に深く車内に押し込んだ。

軽く刀身だけでも1mを超える長大な魔剣は勢い運転席のシートを貫通し、ライダーの頬をかすめた。

「へへっ!」
ライダーはしたり、と微笑んだが次の瞬間、魔剣は発火し、車内をごうごうと炎上させた。

「しまった!」
ライダーは素早く車内から飛び出すとキャデラックは魔剣を伴ってため池に飛び込んだ。


「おのれ、よくも俺の車を!」
そうライダーはため池に沈む魔剣に毒を吐きつけた。

これで一巻の終わり、と思った矢先、魔剣は水中を泳ぐようにため池から飛び出した。

剣に伴う魔性か、水中とは思えない驚くべき加速、何より水面から飛び出したとき、
わずかな飛沫も起こさず、不気味なまでの静けさを保って魔剣は空中に躍り出た。

「ええい、面倒なやつめ!」

ライダーの眼前で停止した魔剣は再び火炎を生じると、ライダーめがけて突進する。
ライダーは自身のガバメント、宝具化されておりサーヴァントにも有効な、それで魔剣を撃ち落とした。

2撃、3撃、タップ射撃で続けざまに魔剣に追い討ちをかける。それでも魔剣は傷一つつかない。
それどころか妖しく赤紫に輝く刀身はライダーを刃紋に映し、獲物を見定めた野獣のように再び水中に戻った。

水中に身を隠した魔剣はまるで水に同化していくように気配を消し、ライダーは魔剣を見失った。
「…この宝具はセイバーの意志で動いているのか?」

ライダーは姿を消した敵となる魔剣に怯えるどころか冷静に敵の能力を分析していった。

どこからか、セイバーかマスターが俺を見てるのか?
いや、そんな感じじゃない。明らかにこの剣は意志を持って動いている。

「宝具が、英霊だと!?」
                                     セイバー
そんな武器が、英霊があるというのか?自分で考え、戦う”剣の英霊”!?
しかし、そうでなければこの魔剣の動きは説明がつかない。
        B-52ストラト・フォートレス
「出てこい! 成 層 圏 の 要 塞 !!」
                                   ストラト・フォートレス
ライダーは霊体化させていた自身の乗機たる宝具「成層圏の要塞」を現界させた。


この超巨大な爆撃機、B-52こそ、ベトナム戦争で投入された米空軍の戦略爆撃機である。
1955年に正式採用された未来の超兵器。余談だが2045年まで現役で運用される信頼厚い爆撃機でもある。

無論、これも宝具化しているため、爆弾や機関砲などの各種兵装はサーヴァントに対し十全な威力を発揮する。

何よりもライダー自身が乗り込むことで、力学的に不可能な飛行も可能となったB-52だが、
それでなくとも一度地上から離れれば、地上16,000mを飛行でき、この時代のどんな兵器も攻撃不可能となる。

「ふはははは!石器時代に戻してやるぞぉ!」

ライダーは高笑いして成層圏の要塞を離陸させる。ライダーの保有スキル「魔力放出」の助力を得て、
巨体は素早く空へ逃れ、機関砲の雨がため池の中の魔剣を狙う。

幾度か水柱が立ち、ため池の水はどんどん水位を下げるが、魔剣そのものに命中させるには
爆撃機の尾翼についた機関砲では射撃に正確さを欠く。

もっともそんな理由はなくともライダーは爆撃を試みただろうが。

「いいぞぉ!池と一緒に吹き飛べぇッ!!」
早速、ライダーは爆弾の投下スイッチに指を伸ばす。

「———ちッ!爆撃しようにもマスターが下にいるのでは自由には攻撃できんか。」
ライダーは残念そうに爆弾の投下スイッチから指を退けると旋回して再び機関砲を魔剣に向ける。

魔剣は、当然、このような超兵器と抗する術がないことを判断して、ため池に身を潜めた。

魔剣は完全に水と同化し、ため池の水と一体化している。どんな攻撃も、魔剣には通用しないだろう。
あるとすればため池の水を全て乾ききるほどの高熱をあてがう事だけだ。

B-52には戦術核兵器が搭載されている。

過去の伝承を、この場合は僕らにとって未来だが、具現化したものが宝具である。
当然、核兵器も宝具化されB-52の体内で霊体化している。

もし魔剣が核兵器の存在を知っていれば、直ぐにでもため池から脱出しただろう。
しかしもちろん、ライダーも核兵器をこんなところで使うつもりはなかった。数は2発しかないからだ。

それよりも魔剣をここで封じておいて、マスターの救援に向かうほうがライダーにとって先決だった。

今もしセイバーが無手であったとしてもただの人間に遅れを取るとは思えない。
またこの魔剣に並ぶほどではないにせよ、予備となる剣を携えている可能性は十分にあった。

「ジャップめ、死ぬんじゃねえぞ。」
ライダーは霊体化し、B-52から離れた。主を失っても成層圏の要塞はなおも遊弋を続け、魔剣を制していた。


魔力の波長を捉えた。
単独行動する僕は僅かな気配を探って、剣の英霊の姿を求めた。

「逃げるつもりはないのか。臣(わたし)を探してという事かね?」
背中の向こうで幼い声が僕に投げられた。

どうやら相手は僕を尾行していたようだ。本拠地を探るためだろう。
だが、逃げ帰るつもりがないのを見て、姿を見せたのだ。

小柄な少年だった。ハンチング帽を深く被り、長い髪を結い上げて帽子の中に押し込んでいる。
淡いオレンジの髪、エメラルドグリーンの瞳は超人的な印象を僕に与えた。

バンドをかけ、茶色のハーフパンツ。見た目は120〜30cmの小学生といった風である。

それでも、ああ、僕のサーヴァントと違って、こいつは間違いなく時代の寵愛を得た英雄だ。
僕は一人合点した。

こうやってみているだけで、大物という印象だ。

彼の武器を探す。すぐに僕の目線はそれを見た。
壮麗な金細工の施された剣を、彼は後ろ腰に佩いている。

さて、ここからは博打だ。
あれが本命の宝具か、それとも急場をしのぐ代替なのか。

「チェストぉ!」
僕は全力を込めた火球を剣の英霊にめがけて叩きつける。

次の瞬間、剣の英霊は業火に包まれた。赤紫の火が飛び散って燃え広がる。
そのまま火は四方に広がってたちまち一帯が火の海になる。

「対魔力スキルを剣の英霊が持っている事を伯(きみ)は知らないのかね?」
セイバーはそういうと苦もなく炎を掻きわけて一歩前に踏みだした。


オレンジの髪が風になびいた。
この時、彼のエメラルドグリーンの瞳は周囲が燃えていなくとも底光りして見えただろう。

時代の英雄が発する殺気。
一介の魔術師(見習い)には対峙することもかなわない。

「臣は———」

上空に伸ばした彼の左手にさっきの魔剣が帰還する。
右手には金ごしらえのロングソード。ふたつの刃がセイバーのしなやかな動きと共に澄んだ刃音を鳴らす。

「アサシンに用がある。伯のサーヴァントがアサシンでなければ、
臣はこの場は剣を収め、できれば伯らとともに戦いたいのだがね。」

嘘だ。並々ならぬ殺気には寛容さは感じられない。ライダーのような下劣さはないものの、
彼ら英霊にとって目的の為に殺戮を冒すということにためらいはない。

そうでなければ彼らは英雄にはなれない。どんな美辞麗句を重ねようと英雄は大量殺人犯だ。
すぐに信頼していい相手ではないが、

「・・・やれやれ、伯はバカなのかね。」
セイバーの言う通りだ。この場は従うそぶりさえ見せれば命は助かる。

それでも抵抗の構えを見せる僕に、

「いいだろう。伯の愚かさを許そう。」
セイバーは時間の無駄と判断したのか剣を収め、僕に背を向けた。

「僕はライダーのマスターだ。」
僕の声にセイバーは報いなかった。


オレンジの髪が風になびいた。
この時、彼のエメラルドグリーンの瞳は周囲が燃えていなくとも底光りして見えただろう。

時代の英雄が発する殺気。
一介の魔術師(見習い)には対峙することもかなわない。

「臣は———」

上空に伸ばした彼の左手にさっきの魔剣が帰還する。
右手には金ごしらえのロングソード。ふたつの刃がセイバーのしなやかな動きと共に澄んだ刃音を鳴らす。

「アサシンに用がある。伯のサーヴァントがアサシンでなければ、
臣はこの場は剣を収め、できれば伯らとともに戦いたいのだがね。」

嘘だ。並々ならぬ殺気には寛容さは感じられない。ライダーのような下劣さはないものの、
彼ら英霊にとって目的の為に殺戮を冒すということにためらいはない。

そうでなければ彼らは英雄にはなれない。どんな美辞麗句を重ねようと英雄は大量殺人犯だ。
すぐに信頼していい相手ではないが、

「・・・やれやれ、伯はバカなのかね。」
セイバーの言う通りだ。この場は従うそぶりさえ見せれば命は助かる。

それでも抵抗の構えを見せる僕に、

「いいだろう。伯の愚かさを許そう。」
セイバーは時間の無駄と判断したのか剣を収め、僕に背を向けた。

「僕はライダーのマスターだ。」
僕の声にセイバーは報いなかった。


火の勢いが弱まる頃、ようやくやっとライダーが姿を見せた。

「魔剣を押さえておいてくれるんじゃなかったのか?」
僕がライダーに尋ねるとぷん、と血の匂いがした。

「ライダー?」

僕は振り向くと満身創痍のライダーを見た。
無残に斬撃を受けた五体からは抑えても抑えても血が溢れては河を作っている。

「ふん!騒ぐな。」
とライダーは葉巻に手を伸ばす。

だが葉巻のほうが重傷だったらしい。
パラパラと手の中から落ちる葉巻を物惜しそうにライダーは眺めた。

「また、買ってやるよ。」と僕が言うと「親の金でな。」とライダーは嫌味を返す。

「で、マスター。できればはやく治療魔術をかけて欲しいと思ってるんだが?」






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【クラス】:ライダー
【マスター】:ライダーのマスター
【真名】:カーチス・ルメイ
【性別】:男性
【身長・体重】185cm・79kg   ※ 183cmとも
【属性】:秩序・悪

【ステータス】

【筋力】■■        D
【耐久】■          E
【俊敏】■■■■    B+
【魔力】■          E
【幸運】■■■      C
【宝具】■■■■■  A+++

【クラス別スキル】
騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
ただし、竜種はこのスキルの対象範疇外。

【固有スキル】
軍略:C
多人数戦闘における戦術的直感能力。
自らの宝具行使や、逆に相手の宝具への対処に有利な補正がつく。

カリスマ:D−
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
ライダーの場合、恐怖のあまり兵が逆らう気力を失うという。
自分より気の小さい相手であれば服従させることができる。

破壊工作:A
戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。ライダーの場合は、戦略爆撃。
ランクAの場合、進軍前の敵軍に六割近い損害を与えることが可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。

魔力放出:C
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は常の比ではないため、かなり燃費が悪くなる。

【宝具】
『成層圏の要塞(ストラト・フォートレス)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:10000 最大捕捉:240(原水爆を含まない場合)
ベトナム戦争で登場したアメリカの戦略爆撃機。ライダーのお気に入りの宝具。
小説「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」において
これに搭乗し、核攻撃を大統領に主張するリッパー将軍はルメイがモデルである。
それもキューバ危機にあってキューバに核攻撃を含めた空爆を大統領に進言した実話をもとにしている。

【伝承】
・アメリカ合衆国空軍参謀総長、空軍大将カーチス・ルメイ。
彼の性格は「ジャップを殺せ!一人でも多くのジャップを殺せ!」以上の言葉で語ることはない。

・第2次世界大戦で活躍し、”鬼畜ルメイ”の異名を取る戦闘狂。自らを戦争犯罪人と認めている。
ドイツ、日本、朝鮮戦争からベトナム戦争に至るまで戦略爆撃機の無差別爆撃、大量虐殺を行った。

・東京大空襲の指揮、命令実行者。その味方の被害も省みない作戦に味方からも非難された。

・本人も爆撃機パイロットであり、自ら爆撃機編隊の陣頭指揮を取った。

・第5次聖杯戦争のアーチャー・英霊エミヤと同じく、オリジナルが存命中の未来の英霊。
1906年生まれなので、劇中(1926年)では本人はハタチである。

・君は今、戦闘機を宝具にするなんて馬鹿げていると思ってるだろ?
ふん、正気を保って人生を送りたいなら、俺に意見はしないことだなっ!!


【クラス】:セイバー
【マスター】:???
【真名】:???
【性別】:男性
【身長・体重】149cm・42kg
【属性】:中立・中庸

【ステータス】

【筋力】■■■■    B
【耐久】■■■■    B
【俊敏】■■■■    B
【魔力】■■■      C
【幸運】■■■■■  EX
【宝具】■■■■■  EX

【クラス別スキル】
「騎乗」:−
騎乗スキルは失われている。

「対魔力」:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、魔術ではセイバーに傷をつけられない。

【固有スキル】
不明

【宝具】
『???』
ランク:? 種別:対人宝具 レンジ:? 最大捕捉:1人?
遠くアメリカまで目撃者を狙って追跡してきた”魔剣”。
持ち主がいなくても自ら敵を探し、攻撃するという性質を持つ。

【伝承】
・日本神話の伝承で、自ら鞘から抜き放たれ、敵を討つ魔剣を持つという英霊。

・霧や炎を生ずる能力を持ち、攻撃や自身の姿を隠すために使う。

・アサシンに関わりがある?

ルメイは確実に反英雄寄りだろwwwwww

サーヴァント選出のセンスが実に渋くていいなあこのスレ
いつか>>1描くアポ設定の
「世界各地で起こってる劣化聖杯戦争」なんてのも読んでみたいね

>>107
赤弓兵とは仲良くなれそうですよ?

>アポ
14騎のサーヴァントを用意するのは私には無理ですし、
14人のマスターの名前を「黄金のライダーのマスター」とか
「白銀のアサシンの第2のマスター」とか書いてたら長いし
最悪、「瑠璃色のセイバーのマスターの恋人の兄」なんて出てきたら・・・、と何を言ってるんだ

マスターたちは最初、アニメキャラを借用することを考えたのですが、
なんか違うと思ったので「○○○のマスター」で統一します。

名前を与えても良いのですが、2次制作でそれは気持ち悪すぎるですからね
結果、やらない夫、やる夫、できる夫、真紅、阿部高和だけが名前があるという事態に。


〜閑話休題〜

バーサーカー(以下:狂戦士
「マスター、まだ出番がありませんよー!」

バーサーカーのマスター(以下:召喚主
「・・・黙って座ってろ。」



狂戦士「はぁ〜・・・。
     皆戦ってるんですよ?私も戦いたいですよぉ〜!」

召喚主「お前って、そういうキャラだったのか?」

狂戦士「そうですよー?」

召喚主「まあ、本編じゃ喋れねえんだし、言いたいこと言っとけ。」

狂戦士「じゃあ、友達が欲しいですっ!」

召喚主「はあ?」

狂戦士「だって私、生前は友達なんかいないし、こ、恋人だって!」

召喚主「・・・・・・。」



狂戦士「4次バーサーカー(ランスロット)は宮廷の貴婦人にモテモテ、

     5次バーサーカー(ヘラクレス)は18歳までに100人斬りですよ?
     モテモテなんですよ?ヤりまくりじゃないですかぁ!?」

召喚主「少し、言葉を慎め。」

狂戦士「分かりました。マスターが童貞だから私が選ばれたんですね!?」

召喚主「触媒を使ったろ?」

狂戦士「ヴァージン最高や!触媒なんかいらへんかったんや!」


召喚主「とりあえず、服を用意しないとな。
     ・・・他のサーヴァントはどうしてるんだ?」

狂戦士「やっぱり、裸なんじゃないかなっ!?」
      (み、皆は服着てるんじゃないかな・・・)

召喚主「つーか、お前みてーなデカイ女の服なんざねえよ。
     やっぱ裸のままでいいやなぁ。理性もねえし?」

狂戦士「ですよねー」

召喚主「・・・まあ、何かは着ろよ。」



狂戦士「ところでマスターはなんで顔に傷があるんですかー?」

召喚主「英雄になれない普通の人間なら、傷の一つや二つはあるもんさ。」

狂戦士「治しません?治せますよ?」

召喚主「いや、いい。傷を隠したところで自分のすぎた誤ちは隠せんからな。」

狂戦士「じゃあ、私も裸でいいですよね!?」

召喚主「お前、狂ってるのか?」

狂戦士「このバーサーカー、狂化スキルで消える理性がない件についてwww」

召喚主「どーりで魔力消費が普通のサーヴァントと同じなんだな、お前。」



狂戦士「じたばたするなよ〜」

召喚主「世紀末が〜」

主  従「来るぜ〜♪」


庭に出ているキャスター、やる夫は小鳥たちに話しかけている。

一見、頭の残念な人に見えるのだが、彼は動物と会話できる英霊だ。
こうやって地道に敵のサーヴァントを探したり、情報を収集したりしている。

「使い魔を使ったほうがいいんじゃないの?」
真紅が呆れ顔で私に訪ねる。

「ああ。」
私も寡言に答える。

「だが、これなら敵の魔術師にも探知されない。なにせ、使い魔じゃない普通の動物だからな。」
私たちが話している間にも次々にやる夫の手に止まる鳥たちはやる夫に報告するや空に飛び立っていく。

真紅とできる夫はしばらく黙って見ていたが、徐々に自体の異常さに気がついてきた。
やる夫は素早く餌を手に乗せ、鳥たちは狙いすましたように着陸する。それが延々と終わりなく続いている。

「・・・何よりこれだけの数を魔術で動員しようと思ったら。」
そう言いながら私は新しい豆の袋をやる夫に手渡した。

「でも、やらない夫。こいつらは動物じゃないですか。」
「そうよ。信用できるの?」

真紅とできる夫の言葉にやる夫が
「こいつらは人間と違って素直なんだお。嘘はつかないお。」と返した。

「・・・まあ、鳥はそうでもないけど。」
やる夫が言うには鳥は比較的賢い動物らしいので、嘘をつくらしい。

その言葉を聞いて真紅とできる夫は呆れて朝食を取りに部屋に引き上げていった。
この民宿に拠点を置いて1週間。近所でも知らぬ者のいないアメリカ人四人組で通っている。


「阿部大佐はここに感づいてるのか?」
「ああ。あっちにも何匹か偵察を送りたいんだけど・・・」

やる夫が言うには厄介な結界を貼っているらしく、小動物では近寄れないらしい。
当然、魔術の知識がないやる夫は結界を突破できない。

「キャスターが結界を破れないとはねえ。」
普通なら逆だろうに、と私は首を振った。

陣地作成もキャスターのクラススキルだが、やる夫にはない。
本来、長期戦はキャスタークラスの英霊には有利なはずだが、勝手が違う。

その代わりに世界最古の発明王は次々に強力な魔術礼装を完成させていった。
また、それと並行してやる夫は宝具の素材の作成にかかっている。

宝具は本来ならばそれを作る素材が存在しない。どれも古代の失われた神秘が使われているからだ。
しかしやる夫はその失われた技術を現代の科学で代用して作成している。

近々、そのやる夫の宝具が完成する。
これは魔力を殆ど必要としない宝具らしく、私の魔力供給でも十全に働くらしい。

「ランサーを発見したお!」

いきなりやる夫は頭の上に乗せていた小鳥をつまむと私につきつけた。
私は鳥が必死になにか訴えてきているのを意味も分からずに何度も頷いた。

「や、やったな・・・?」
「スグに戦闘準備だお!」
 ランサークラス
”槍兵の英霊”は一度捕捉して足取りが途絶えたサーヴァントだった。
アサシンは帝国軍が背後についているので手が出せない以上、ランサーから攻略する手はずなのだ。

ランサーは七騎の英霊の中でも三強と呼ばれる英霊の一角だが、
やる夫はこの機会を逃す手はないと張り切っている。


一方、その頃。
港に着いた二人の魔術師を蒼星石が迎える。

「結局、一族総出で戦うことになったみたいだね?」
蒼星石が話しかける。

豊かな黄金の髪をふさふさと生やした少女、金糸雀は
「真紅はいつからローゼンメイデンの家督を継いだつもりかしら?」と不機嫌だ。

「ローゼンメイデンの社長と魔術師ローゼンメイデンの家長は、全く別のもののはずかしら。
真紅は親の会社を継いだだけじゃない。それに比べて、私たちはそれぞれの会社で出世してるかしら!」

「イライラしてもしょうがないわ。」
プラチナブロンドの女性、水銀燈が疲れた声で答える。

「翠星石は?」
「蒔寺氏の護衛だよ。」

「まきでらー」と水銀灯は呟いてから、「ああ。」とひとり合点した。

「それじゃあ、伊勢ってところに行きましょう。
戦争はアメリカ人に地名を教える神の授業なのよぉ?」

水銀燈はそういうと部下の男たちに大量の荷物を車に運び込ませる。

「ちょ、ちょっと!?」
蒼星石ががなった。あまりの荷物に目を皿のようにしている。

「なんだよ、これ!?」と蒼星石が水銀燈の服を掴むと
「あら〜?」と不思議そうな声が帰ってきた。

「これは戦争なのよ。あらゆる手を尽くして勝つわ。」

金糸雀も「そうなのかしら!」と怒鳴った。
次々と姿を見せる荷物の量に蒼星石は急いで車を調達しなければならなかった。

「楽しくなりそうね。」
水銀灯はひとりごちた。


「急げ!」
伊勢についたローゼンメイデン家の使用人や個人的な部下たちは主の荷物を下ろす。

件(くだん)の民宿の従業員は驚いたが、水銀燈が挨拶もせずに通り過ぎ、
金糸雀が小切手を切って話をつけると満面の笑顔で歓待した。

真紅の件で生魚のスライスが不評と学んだ従業員は急いで彼女たち好みの料理を用意した。

「あら、真紅もやらない夫もいないわよぉ?」
水銀灯は通された客室で甲高い声を上げる。

「ちょっと、水道もないのかしらァーッ!?」
お構いなしに怒鳴り散らす金糸雀の声に従業員がすっ飛んでいく。

一方で客室で水銀燈はやらない夫の荷物を物色していた。
カバンを遠慮なく開き、小声で「あらあら。」とゴミ箱を塞ぐように立ち去った。

「冷たい飲み物が欲しいかしらー!」
金糸雀がどこかしらで怒鳴る。

「冷たい飲み物はー?」
水銀燈もわめき散らすが、すでに従業員はまるで金糸雀の専属使用人のように付きっきりになっている。

「ちょっと、金糸雀。あんたなんで従業員を独占してるのぉ!?」
水銀灯は客室を飛び出すと金糸雀を見つけるや喚き散らした。

「気っ風がいいからかしら?」
そういって金糸雀は冷たいお茶を口に運んだ。

「・・・ねえ、真紅たちはぁ?」
水銀燈が従業員に詰め寄ると「さあ?」のひとこと。

「ビップ様とお連れのお客様は、何も言わずに出て行かれますので・・・。」
従業員の答えに水銀灯は歯噛みした。

金糸雀は気に求めないで二杯目を飲んだ。


太平洋の真上。両者の時速は200kmを優に超えていた。

ランサーは速度を挙げて私たちを振り切ろうとする。
彼を飛翔させる両足に生えた翼は、青白く金属的な質感、光沢を持って黄金の火を噴いている。

それを追うのはやる夫の宝具。
巨大な、涙滴型流線体の飛行船はそれ自体が翼になっている全翼戦闘機のようであった。

エメラルド色に発色するそれは僅かなブレもなく、静かに飛行を続ける。
機体の上には直立二足不動体勢で腕組みするやる夫。

ランサーを睨みつけるやる夫は右手をかざし、糸を引く。
それに応じる様に飛行船は戦闘形態に移行する。翼の一部が後退し、先端部位に穿孔が出現する。

瞬時に扇状に雲が切れる。
それをインメルマンターンで回避するランサー。

今度は逆にランサーがやる夫の背後を取った。
「え!?」やる夫は呆気にとられた。

当然だろう。

やる夫の時代、空を飛べる兵器を持っていたのはやる夫だけだ。
風を統べる空の帝王と呼ばれた彼だが、四百万年後の世界では彼はただの井の中の蛙だった。

ランサーは速度を上げる。
速い。やる夫の飛行船との距離がみるみる小さくなる。
                                         ド レ ッ ド ・ エ ア
やる夫も糸を手繰って飛行船、彼が大洋を渡る対海宝具『 颶風帝戦艦 』は最高速なら太平洋を
1時間もかからず渡りきってしまう、それを旋回させる。

静かに、滑らかな旋回。飛行学的に有り得ない速度、角度で颶風帝戦艦は急降下する。

ランサーはたちまちやる夫を見失った。それほど予想外の動きだったのだ。
雲の谷間に隠れ、「やったか!?」とやる夫はあたりを見渡す。

直後、3度の衝撃が颶風帝戦艦を襲う。
ハイ・ヨー・ヨーだ。やる夫より急上昇、下降したランサーは颶風帝戦艦以上の加速を得て追いついたのである。


理解不能!
              マニューバ
やる夫にとって空中の戦術機動は何が起こっているのか理解できない事態だった。
やらない夫も飛行船の内側で見守っているが、愕然とした。

だが予測はあった。
最古の英雄ということは自分と対等の敵とは戦ったことはほとんどない、ということだ。

英雄王ギルガメッシュがサーヴァントでも屈指の強さを誇るのは自分と対等の存在、
エルキドゥと戦って、共に互を高め合う研鑽を積んだからに他ならない。

「なんでだお!速度でも旋回角度も、こっちが上なのに!?」

ランサーはますます速度を上げる。
上から、下から槍を突き出し、颶風帝戦艦をかすめ、次々と槍撃を加える。

「だあああっ!!」
やる夫はムキになって船体の底部、上部のスライドハッチを解放する。

雲が、風が唸りを上げて切れ飛び、空間が湾曲する。
その狭間をバレルロールで背後に回るランサー。

だが、ここで攻撃もしないで静かにランサーは追走する。
攻撃の正体がつかめていないランサーは消極的だ。

この見えない攻撃は魔術か?キャスタークラスなら、当然そうだろうと思うはずだ。
だが、魔術ではない。そこがランサーを混乱させている。

だが分からないのはこちらも同じだ。

槍兵の英霊を発見した私たち。
まさに目の会った瞬間、ランサーは翼を広げて上空に飛び立つと真っ直ぐに太平洋を目指して飛翔した。

聖杯戦争・最速の英霊、それがランサーだ。
しかし生身で空中戦をやってのけるランサーがいるのか!?


手に持った槍は1〜2mほどの手槍だが、大振りの垂直三角形の鉾がついている。
黄金の鉾はいかめしい、直線的、幾何学的な図形を彫り込んだものでいわゆる英雄の武器には見えない。

全身を覆うラバースーツのような衣類、金属的な装飾はフリッツ・ラングの映画「メトロポリス」を
彷彿とさせる未来科学的なデザインだ。

「やる夫、逃げろ!勝ち目はないぞ!!」
私が怒鳴るが、やる夫は返事をしない。

 イラストリアス・エア
『 颶風帝鉄槌 』はやる夫が操る風を高圧で噴射して攻撃する宝具である。         マジェスティック・エア
これは魔術ではないため、魔力の消耗は極めて小さく、颶風帝戦艦もこれを応用した『 颶風帝号令 』で飛翔している。

これらは風の神々をやる夫が屈服させ、服従させた伝承を由来とするもので、
風の神たちがやる夫の命令に従い、攻撃や彼の操る飛行船を飛翔させているものである。

また風を使った魔術や攻撃に対してもこれらは有効だが、やる夫が屈服させられなかった西風だけは号令に応じない。

「やらない夫、真名解放だお!」
やる夫は怒鳴った。

「いいのか!?」とマスターの私のほうが訪ねてしまった。
あれだけ隠してきた真名を明かす、宝具を完全開放するつもりか!?

「———颶風帝マウイ・トアの名のもとに三方の風神に命ず!
我が敵を粉砕し、破砕し、撃破し、殲滅せよ!颶風帝号令!!」

やる夫の宣言に応じる様に太平洋上に風が集まる。
ランサーは状況が大きく変化したことに気づき、空中に立ち止まって静止した。

ランサーは宝具が完全に発動する前にやる夫を撃墜しようと身構えたが、遅かった。
大気がたわみ、光を屈折させると颶風帝戦艦は姿を消した。

『颶風帝号令』で姿を隠した船体は想像以上の空気の壁で守られてもいた。
まぐれ当たりを期待して宝具を乱発されても十全に防ぎ切ることができるだろう。

ランサーはここに来て、やる夫、キャスターの攻撃が風によるものと見抜いたようだが、
見るまもなくランサーは風の刃で風撃され、ナマス切りになっている。


「古代の呪術の一種か。」
ランサーはつぶやくと空中に指で文字をなぞる。

ひとつ、ふたつ、みっつ。空中に光る文字は消え、ランサーは続けざまに次の文字をなぞる。
何度かルーン魔術をこうやって試みるランサーだが一向に効果はない。

颶風帝号令を受けた風の神々はいかなる魔術の干渉にも、西風以外は応じない。
さらに勢いをます風圧にルーン魔術は抗しきれず、目に見える効果は現れないのだ。

「私の術が封じられている?厄介な。」
ランサーは冷静に状況を見極めようと試みる。

ハリケーン、ここは太平洋なのでタイフーンは核兵器の30発分以上の力量を持つ。
既にランサーを包囲する風の壁はいかなるサーヴァントも突破できない高密度と速さで旋回している。

そこをやる夫の颶風帝戦艦だけが通り抜けることができる。
王を迎えるように風の壁は口を開き、静かに私たちを結界の外へと運び出す。

外に出ると巨大な雲と風の塊がランサーを中心に収束し、縮小しているのがわかる。
だが、小さくなっていく風の城の暴威は全く衰えていないのだ。

「イチかバチか。」
ランサーは真っ直ぐに眼下の海に向かって飛び込む。

予想通り、海中までは颶風帝号令の影響は出ていなかった。
常人であれば溺死は避けられない海流の速さだったが、ランサーならば持ちこたえられないこともない。

しかしそれはこちらも想定済み、海中に逃れたランサーを直撃しようと待ち構えている。
「・・・どうだ?」と私がハッチから顔を出してやる夫に声をかける。

いかに神速を誇るランサーも水中から飛び出すとなれば動きは鈍る。
真名解放、宝具を完全開放してまで作ったチャンスだ。必ず相手を仕留めたい。

今、やる夫の眼前には圧縮された空気のレンズにより、海域のあらゆる地点が映し出されている。
ランサーが動き出せば、それが背後であってもやる夫はすぐに察知できる。

それに時間が長くなるほど、颶風帝鉄槌の射程から逃れられる可能性は狭くなっている。
海中で身を潜めてやり過ごそうにも、体力には限りが有り、やり過ごすほどに遠くへ泳いで逃げられまい。


1時間近く経った。

私と真紅、できる夫はやる夫に声をかけ損なっていた。
切り札を使い果たし、博打を打ってランサーを取り逃がしたのだ。

いや、あの巨大な風の柱の中でランサーは風撃で破砕された可能性がある。
ランサーは海中に逃れることはできず、あのまま粉砕されたのだ。

そう我々は考えずにはいられなかった。

「なあ、やる夫。ランサーは、もう死んだんじゃないか?」
私が意を決して外のやる夫に声をかける。

「ああ。」と疲れたやる夫の声。

ボロボロの船体は静かに夜の闇を滑るように日本に向けて船首を返した。
それをランサーは無言で見送った。

正直、ランサーも逃げるのがていいっぱいだった。
自分にここまで接近する速さを誇る英霊に驚いていたのはお互い様だった。

しかし、両者には大きな差が生まれていた。
キャスターはランサーには勝てない、という印象を植えつけられてしまった。

逆にランサーは自分の戦術機動はキャスターを凌駕したこと、
なによりやる夫が戦闘に、あまりも不向きであることを完全に看破していた。

「マスター、疲れたよ。」
海面に浮かびながらランサーはマスターと魔術で交信する。

「キャスターは問題外だ。戦いは私が有利だよ。」
気障な仕草で髪をかき揚げるランサーは誰も見ていない海で身だしなみを治すと海上に浮上した。

青白い炎を吐き、金属質の翼がランサーの両足から広げられる。
そのまま高度を上げるとランサーは、今度は星の海に向かって飛び込んで姿を消した。






                                                                    │\
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【クラス】:キャスター
【マスター】:やらない夫・ビップ
【真名】:マウイ
【性別】:男性
【身長・体重】144cm・65kg
【属性】:中立・中庸

【ステータス】

【筋力】■■■■    B+
【耐久】■■■      C
【俊敏】■■■■■  A
【魔力】■          E
【幸運】■■■■    B
【宝具】■■■■    B

【クラス別スキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
スキル喪失。

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。
十分な時間と素材さえあれば、宝具を作り上げることすら可能。

【固有スキル】
言語理解:A+
神々や動物たちとの対話が可能。

変身:C
体を小さくする魔術が使える。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
祖父に始原神タネ(ティキ)、死の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポを祖母に持つ半神半人の英雄神。
ただし母神ライライ(ヒナとも。人間の祖神)に捨てられ人間タマ・ヌイ・キ・テ・ランギに育てられた。

【宝具】
『颶風帝号令(マジェスティック・エア)』
ランク:A 種別:対海宝具 レンジ:4000 最大捕捉:3
西風を除く東と南北の風を屈服させたキャスターの伝承に由来する宝具。
三方の風神に風の帝王から発せられる大号令。敵が風を使うことを禁止し、自らの陣営に西風以外を帰参させる。

『颶風帝鉄槌(イラストリアス・エア)』
ランク:B 種別:対城宝具 レンジ:2000 最大捕捉:230
三方の風神に風の帝王から発せられた攻撃指令。万軍を突破する風の帝王の作り出す暴風圏。

『颶風帝戦艦(ドレッド・エア)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:2000 最大捕捉:230
キャスターの建造した空飛ぶ飛行船。マウイが移動に使った大きな鳥型の凧に由来。

【伝承】
・ハワイの半神の文化的英雄。最古の人類なのに兄がいたり、母親や祖母がいる。
「千の悪戯のマウイ(マウイ・ヌカラウ)」「知恵のマウイ(マウイ・モヒオ)」など数多くの異名をとる。

・天地を切り離し、太陽を捕らえて昼夜と四季を作り、西風を除く風を捕らえて服従させた。
最大の功績としてニュージーランド島を海底から釣り上げたことが挙げられる。
また糸と火の起こし方、凧を発明した。さらに凧の名人であり、風を操り自在に大洋を渡る。

・4人兄弟の末弟だが、動物と話し、呪術と道具の作成に長けた弟を兄達は嫌っており、終始疎まれていた。
様々な道具や呪術で人々の生活を豊かにしたが、化物退治などの武勇伝は少ない。

・兄弟たちと違い、釣りは苦手である。
呪術や道具を使えば釣ることもできたが、それがかえって気味悪がられていた。
女たちは漁果さえ取れればいいのでマウイを海に出したがったが、男たちは恐れ、妬んで海に出さなかった。
小さくなる術、様々な道具、天候すら操作して無理やり船に乗り、釣り上げたのがニュージーランド島だった。


【クラス】:ランサー
【マスター】:ランサーのマスター
【真名】:???
【性別】:男性
【身長・体重】183cm・78kg
【属性】:中立・中庸

【ステータス】

【筋力】■■■      C
【耐久】■■■■    B
【俊敏】■■■■■  A+++
【魔力】■■■■■  A
【幸運】■■■■■  A
【宝具】■■■■■  A

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【固有スキル】
高速神言:A
現代人には発音できない神代の言葉を、神託により授かっている。
呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。
大魔術であろうとも一工程(シングルアクション)で起動させられる。

ルーン魔術:A
北欧の魔術刻印・ルーンの所持。

魔術:A
魔術を修得していることを表す。

黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

【宝具】
『???』
ランク:? 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人

【伝承】
・金属的な外見を持つランサー。

・脚部のスラスターで飛行する。


「兵を集めろ。」
阿部大佐は土色の顔で絞り出すようにいった。

アサシンは対岸の火を見るような表情で静観していた。
大佐の部下たちはアサシンの反抗的な態度を気に求めないで動き回っている。

だがそれは正確には違う。

アサシンは私以外には見えていない。
正統な、聖杯から”令呪”を受け取ってアサシンを召喚したマスターの、私には気配を消しているアサシンが見える。

マスターの交代には英霊とマスターの同意が必要になる。
これが不完全な状態のままだと様々な障害が発生するらしい。

もちろん、こんな話は私も、おそらくはアサシンも阿部大佐には話していない。

「・・・・・・。」
無言でアサシンは私を部屋の外に連れ出した。

キャスター召喚の数日前、この施設で槍兵の英霊が召喚された。
ランサーはすぐに私とアサシンのように正統なマスターの手を離れ、帝国軍に引き渡された。

ただ違ったのはランサーの正統なマスターはアサシンの手でその場で殺されたことだ。

キャスターの時も英霊を召喚し終えた途端、アサシンはキャスターのマスターを殺そうとした。

焦っている。
アサシンは聖杯戦争を可能な限り手短に終わらせたい理由があるらしい。

キャスターの時などは完全にアサシンは失敗した。
敵の宝具や特性を探る前に攻撃を仕掛け、あまつさえ阿部大佐にまで殺意をあらわにした。


こうなれば私の立場は危ういものになってしまった。
アサシンは阿部大佐をマスターと認めず、正統なマスターの私に執着している。

それは何故?
アサシンが一介の魔術師に肩入れする理由がどこにあるのか。

「全てのサーヴァントが揃ったようだな。結果はともかく、ここからだ。」
私の脳裏の疑問を他所に、アサシンが口を開いた。



時間を戻すこと十数日前か。
ある程度警戒していた通り、聖堂教会、魔術協会がこの伊勢聖杯戦争に乗り込んできた。

協会と教会の派遣員はどこから嗅ぎつけたものか阿部大佐率いるこの部隊と
それが拠点とするこの施設に姿を現した。

「”きょうかい”の機関員だと?」
阿部大佐に副官である中尉、ランサーのマスターが報告する。

続けて片眼に眼帯をつけた長身の男が姿を現す。ランサーだ。
気障な所作を繰り返し、伊達男を気取っている英霊で口数の多い男だ。

「同時に来るということは向こうも”詰め”は済んでいないのでしょう。
二つの”きょうかい”が表向きに不干渉を装っていても、水面下で何をしているか考えれば・・・。」

「ランサー、使い魔ごときの意見など俺は聞いておらん。」
阿部大佐は不愉快そういって、槍兵に部屋から出ていくように促した。

「ああ。失礼、大佐殿。では私のような者はお邪魔でしょうから、失礼させてもらいましょう。」
ランサーは来たところに引き返し、ドアノブに手をかけた。


「しかし”きょうかい”の機関員と面談なさるのであれば、是非に私も同席したいと思います。」

ランサーは戸口で立ち止まり、話し続けた。

「言うまでもなく、協会の送り込んできた魔術師は並みの腕の者ではなく、
その魔術系統も荒事に慣れたモノでしょうし、教会の機関員もその分野の工作員でしょう。」

まだランサーは部屋から出ようとせず、ペラペラと話し続ける。
大佐は腕を組むと中尉に目線をやるが、中尉も顔を伏せたままだ。

「まあ、アサシンに任せれば十分とも思いますが、私も聖杯戦争に参加する者のひとり。
今後の動向を直に伺っておきたいのですよ。・・・隠し事は無しということで。」

「ああ。好きにしろ。あとで人をやるから、黙っていろ。」
阿部大佐は語勢を荒げてランサーを下がらせた。

ランサーが消えると中尉は顔をあげて息を吐き、私に向かって苦笑いした。

落ち着いたところで大佐は今度は副官に目線を転じ、
「・・・で、中尉はどう思うかね?」と若い将校に訪ねた。

「正直、準備不足です。しかし門前払いというわけには参りません。ただ、大佐はここでお待ちください。」
中尉がそう言うと、大佐は眉をひそめた。

「アサシンはこちらに残し、大佐の護衛を。私とランサーで会ってまいります。」

「逃げたと思われるのは癪に障るが。」
そう答えて腕を伸ばし、大佐は一息つく。

中尉は続けて大佐にこういった。

「聖杯戦争の成否はともかく、大佐はより高い地位に進まれる人です。
ここで、魔術師の決闘ごときで命を落としていい方ではありません。」

「あちがとう。忠告は受けよう。任せる。」
笑顔で応じて、大佐はそのまま椅子に深く沈んだ。

中尉も一礼するとランサーを伴って”きょうかい”の機関員の待つ応接間に足を運んだ。

この時、アサシンは阿部大佐のそばをすぐに離れた。






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私はこの場にアサシンがいないことを知りつつ、押し黙って大佐を一人にした。

応接間として来客たちが通されたのはこの私設の奥まったところで、人目を避けられる場所だった。
中尉とランサーは先に部屋に入ると警護の兵たちを部屋の四方、窓際に、また戸口にも立たせた。

聖堂教会の使いは僧侶というより、軍人然とした巨漢で、如何にも荒事専門という感じだった。

第1次大戦、イタリアは「未回収のイタリア」と呼ばれる歴史的根拠に基づくイタリア領土の回収に乗り出した。

中世から近世、数多くの戦争に巻き込まれ、幾らかの小国に分割されたイタリア。
これは近代から現代(1927年)までに併合・吸収され統一イタリアへの道を進んでいる。
                                                 ウ゛ァ   チ   カ   ン
しかし、1929年の独立を認める条約が交わされるまでイタリア国内の独立勢力「ローマ教皇庁国家」と
イタリア政府の間には深刻な対立が存在していくこととなる。

ファシスト党。イタリア統一を目指すムッソリーニはローマ進軍を掲げ、国家統一を目指していた。
これに対し、歴史的根拠から独立の正当性を唱えているのはローマ、つまり「ヴァチカン」だ。

1926年。イタリアはアルバニアを保護国化し、イタリア政府の影響力は日に日に教会を圧搾していた。

さらに戦後、カトリック教圏最大のキリスト教国スペインでもファシスト政党が台頭した。
スペインは長年、ヴァチカンを守る戦力であり、キリスト教信者の剣であった。

そのスペインで支配階級を占めたのは貴族と聖職者であり、スペイン国内のキリスト教の影響力は大きい。
それが弱まり、教会の敵になろうとしていた。王政が倒れ、貴族や聖職者の支配に対する抵抗運動が始まったのだ。

統一を目指すイタリアとは逆にスペインは各地で独立運動や分離勢力が台頭。
蚕食される領土とアメリカの好景気によって経済的にも政治的にも打撃を受けて弱体化していった。

結果のちの1931年にスペイン革命、スペイン内戦と呼ばれる共産党勢力とカトリック教会、軍部の衝突が起こる。
その結末は教会と軍部の連合勢力が国内の共産勢力を排斥するのだが、力を貸したのは皮肉にもナチスだった。

ナチスはイタリアと同盟。ローマの教皇庁に対し、スペインに対する援助を迫った。
日本もスペインの軍部を国際的に支援し、複雑な関係が進行。教会はナチス、イタリア、日本に協力することになる。


聖堂教会は魔術協会と違い、世俗との軋轢を避けることはできない。
当然、暴力装置となる武装集団をいくらか抱え込んでいる。だがそういった組織には人も金もかかる。

来るべき次の戦争に向けて動き出した共産主義とファシズムという時代の怪物。
世捨て人のような魔術師と違い、教会は現実と向き合う必要があるということだった。

彼は、まさにその教会が立たされている現実を表すような人物だ。

「冬木同様、神の御子の聖遺物がこの地で争われると聞きましたが。」
率直な物言いだ。発音も軍人らしい。

「つまり冬木同様、ここでの闘争を監視すると。」
中尉も挨拶もしないで答えた。

「然り。」
教会の使いはそう答えてから私に目線を転じ、次にランサーに目線を移した。

「貴官がそのサーヴァントのマスターか?」
大木が風にうねる様な声が響いた。

「いえ。」
「そうか。貴官は魔術師とお見受けしたが。」

確かに、と私が答えたところで中尉に静止された。
「冬木のこと。我々帝国は全く関知しないことだった。」

それが当たり前という顔をして、他人の家に上がり込んだ盗人め。
中尉はそう言いたげな調子だ。

「解しかねますか?」
教会の使いは勿体ぶった言い方で返す。中尉が首をかしげた。

「異教徒どもと対等に立つ必要などない。」

私たちは圧倒された。


「聖杯の監視は我々の教義に基づくもの。主に対してのみ、その責務を果たすもの。
我々としてはその中でも、譲歩し、慈悲深い選択を選んでいるつもりではあるが。」

一歩も譲る気はない、という向こう側にこっちも条件を与えた。

「ならばご自由に。しかし、こちらにも条件がある。」

「当然です。」

中尉に対し、教会の使いは「どうぞ、何なりと仰ってください。」と言わんばかりだ。

「監視は自由になされるが良いでしょう。
ただし、拠点を置くことは許しません。兵力を持ち込まれては困りますからな。」

教会の使いはこれを快諾した。
「それは良いのですが、もし我々が戦闘に巻き込まれでもすれば、どうです?」

「聖杯の監視はあなたがたの教義に基づくもの。主に対してのみ、その責務を果たすもの。
ならば聖杯監視行動の範囲内で、あなたがたが命を落とすとすれば、それが神の意思でしょう?」

「ならば自衛を認めていただく。」

「拒否する。」

要求を突っぱねる中尉に、教会の使いは答えた。
「主に対し、責務を負う以上、これは当然。」

「なにゆえ。」と中尉。

「神は我ら人に自由を与えたもう。」

教会の使いは続ける。
「自由は、人が幸福を追求する権利である。それが我々の教えだ。
死はそれを妨げるもの。我々は神より受けた恩寵として、万難より自身の生命を守る権利を有する。」

「なら、安全な場所で結果を待ちたまえ。」

「そうはいかない。これは神の使命であれば。」


「相変わらず時代錯誤の連中は愚かしいな。」
中尉はうなったが教会の使いは水をうったように穏やかな表情だ。

「ご存知ないでしょうが、我々は常にキリスト教信者のためにのみあるわけではありません。
いまだ改宗しない者たちもいつか神の教えに立ち戻る伝道の機会が失われないよう、勤めております。」

教会の使いは続ける。
「主は慈悲深く、人に過ちを取り戻す機会と自由を与えたもう。
我々は多くの人が命を落とし、伝道の道が阻まれることを憂うが故に、聖杯を監視したいと思っております。」

「・・・だが、これを理由に国内に軍事拠点など設けでもしないだろうね!?」
中尉は怒鳴った。

さらに続けた。
「帝国臣民の生命、国民の安全保障は、その国が自治のもとに行うべきこと。
坊主ごときが、なんの理由があって頼まれもせず他国の人間の生命を左右するか!」

「それが慈悲。」と教会の使い。

「我々は邪教に洗脳され、神の王国への道を阻まれた哀れな人々を救いたい。
窮地に苦しむ人々に手を差し伸べずにはおられません。」

「馬鹿な。狂っている!」と中尉はなおも喚いた。

「我々は手を貸そうというのです。なぜ拒むのです。」

「武装したキリスト教僧侶が、勝手に国内を暗躍するのを許せるものか!」

「分かりました。」
静かに教会の使いは頭を降ろした。


「では条件はこうです。
我々は国内に拠点を設けず、また行動するときは聖杯召喚の時のみ。」

教会の使いの出した条件に、中尉はうなづいた。

「ただし、武装と自衛は認めていただく。」

さらに中尉は続けてこれもうなづいた。

「では、その条件で大本営に連絡を。」
「お待ちください。」

今度は教会の使いは立ち上がった。
「貴官にはこの件に決定権がない、確約できないと?」

「ば、バカを言うな。大本営に指示を仰がなければ・・・。
第一、今日、初めて現れて、一度で全部勝手に決められるとお思いか!?」

「やはり話になりませんな。」
この教会の使い、無茶苦茶にも程がある。

どう考えても教会はまともに日本とやり取りをするつもりはない。
土足で上がり込んで好き勝手放題に国内で何をするつもりか!

「ま、待て!そのようなことがまかり通ると!!」

中尉も立ち上がって教会の使いを呼び止めようとする。

「ならば、今ここで軍上層部、政府と交渉させたまえ!」と教会の使い。

「ならば時間を!」

「待てぬ。」
中尉を振り切って教会の使いは席を立ち、本当に一国の意向さえ無視せんという様子だ。


その時、入れ違いに魔術協会からの使者が現れた。

「何、聖堂教会からも使者が?」

協会が使者として送り込んだ魔術師はでっぷり肥えた商社マンという風だ。
危険そうな雰囲気はなく、動きも散漫でのろい。

「それはいい。是非、同席したい。」
だがやはり、協会の使者も、引き止める兵士たちを振り切ってズカズカと奥まで進んていく。

まるでどこで密談が行われているかはじめから知っているような足取りで
廊下を滑るように歩く魔術師はドアを勢いで開け、一同を驚かせた。

「おや、そっちが教会の。で、こっちが日本帝国軍の代表ですかな?」
白い歯を見せて部屋の中に入り込んでくる魔術師。

教会の使いも厄介な連中と鉢合わせになったと顔に書いてある。
中尉は何故、通した!と兵を怒鳴りつけている。

「おやおや。」
困ったものですね、と魔術師は私に微笑んだ。

魔術師の左上の甲には無数の刺が生えていて、それで教会の使いを軽くぶった。
血を吹いて倒れる巨漢の姿に、事態の異常さにようやく周囲が気づく。

続いてランサーも自身の宝具たる魔槍を出現させるや兵士たちをなぎ払う。

「何をするかーッ!」
中尉も気づくが、すでに遅かった。

神速。

まさに軽功な動きでランサーは中尉を屠り去ると足で中尉の腕を蹴り上げ、鉾で切断した。
そして切り落とされた右腕から令呪を素早く回収するや協会の使者の魔術師に移植した。

通常、契約の刷新には簡易ながら詠唱を要する。
しかしランサーは魔術師としての伝承を持つ英霊。それを破壊的に高速化することができるのだ!


「アサシンの元マスター。貴方に恨みはないが、ははっ!」
ランサーは、この事件をかなり前から企んでいたようで、ひとり愉快そうに笑う。

「はは・・・。聖杯に選ばれたマスターは再契約のマスターと違って、
ほかのマスターが倒された場合、次のマスターに選ばれる可能性が高い。消えてください。」

飛び散る鮮血。
それはランサーの、鉄甲の隙間をぬって切り落とされた両腕から吹き出している。

「なんだー!」
協会の使者が血相を変えて逃げ出すが、足をやられて廊下を舐めた。

姿を見せるアサシン。その手には漆黒の槍が握られている。
巧妙にもあの神速のランサーの死角から伏撃を加えたのだ!

「君も、槍が好きかい?」
ランサーは床を舐めている新しいマスターを見てからにこやかに答える。

腕を落とされたというのにランサーは平然としている。
魔術を使うランサーにとり、槍は宝具、必殺の一撃とは言え、攻撃手段のひとつに過ぎない。

逆にランサーはアサシンの武器は隠れることと知っている。
だから既にランサーは先手をとってアサシンが再び姿を消すことを妨げる魔術を展開していたらしい。

自分を直視するランサーにそれを悟って、

「ああ、大好きさ。」

アサシンは背筋が寒くなるような微笑みと共にランサーの鉄甲の隙間を再び貫いた。

「ィ・・・———いいですねぇ!」
驚愕ののち、傷を確かめ、ランサーは壁を突き破って逃走する。

なんという瞬足!
彼は新しいマスターを伴って、なおあの速さで逃げ出したのだ!

事態を知った大佐がうろたえていられたのも僅かな間だった。
続いてアメリカ人魔術師が国内に入り込んできたという情報がもたらされたからだ。

彼らこそ、のちのキャスターとそのマスターたちに他ならない。


さらに数日。
魔術協会が派遣した魔術師、新しいランサーのマスターが死体で発見された。

負傷で用済みと判断されたのかまともな治療も受けておらず、
令呪、魔術刻印だけ取り除かれて放置されていた。

さてこれですべての英霊は召喚済みとなった。
当初の目論見に反し、帝国の擁する英霊はアサシンひとり。

セイバー、アーチャー、キャスター、ライダー、バーサーカー、ランサー。
すべての英霊が今、どこにいるのかは問題ではない。

欧州勢力と敵対し、新大陸で影響力を伸張させているアメリカ合衆国。
その闇を担う、魔術をただの産業として扱う魔術業界がキャスター陣営。

魔術協会はランサーを強奪し、独自に暗躍。
情報ではソヴィエト、聖堂教会もあちこちの港から国内に紛れ込んできている。

そして、この儀式の発起人である対邪神組織ウィルマース・ファウンデーション!

聖杯戦争。聖杯を巡る魔術師たちの決闘?
これはもうそれを借りた世界勢力図の衝突。歴史の闇で起こった第2次世界大戦なのか。

どの英霊が、今世界のどの勢力の思惑を受けて動いているのか。
前例から常軌を逸し、各陣営には未曾有の大兵力が揃う。

戦いは早くも急転直下の大波乱を舞台袖に待ち構えさせている。






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