【ガルパン】麻子「男になった」 (272)

沙織「えっ!?ちょっとどういう事!?」

麻子「いや、別に身体が男になったわけじゃない。現に声の高さはそのままだし、体格も変わってない。身体のつくりもだ。ただ、頭の中が男性的と言うかだな」

沙織「……えっと?」

麻子「……いや、二度寝した後の寝起きのせいで夢とごちゃごちゃになってるのかもしれない。『俺』が悪かった、忘れてくれ」

沙織「……あー!今、俺って言ったでしょ!何があったのよー!」

麻子「…………とりあえずあと五分寝かせてくれ」



※麻子以外のキャラクターの口調が違っていたら指摘ください。以降修正します。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454515281

――――――――――

沙織「なんて事が今朝あったんだけど……どう思う?」

みほ「どうって言われても……」

華「麻子さんのイタズラでは?」

沙織「朝に弱い麻子がイタズラなんて出来るはずないよ……」

優花里「では、冷泉殿は本当に頭の中、脳が男性的になってしまったと?」

沙織「う~ん……」

※追記

 アニメ本編後の秋。多少のネタバレが含まれます。
 多少のオリジナル設定が含まれます。

華「直接聞いてみます?」

みほ「今日はまだ麻子さんとも話してないし、それがいいかも」

優花里「ではそれとなく話しかけてみましょう。朝、否定したという事は気を遣っているのかもしれません」

沙織「うぅ~……麻子のせいで男の子にさりげなく好意を寄せられたけど本気かどうか分からない時みたいだよ……」

華「寄せられた事あるんですか?」

みほ「麻子さん麻子さん」

麻子「ん、なんだ『西住』たちか」

優花里「タンマです!」

華「昨日までは『西住さん』だったのに、みほさん何があったんですか?」コソコソ

みほ「わ、わたしも分からないよ……」コソコソ

優花里「しかし、これは驚きますね……」コソコソ

沙織「でしょ!でしょ!?」コソコソ

麻子「……はぁ、どうせ今朝の事を沙織に聞いたんだろ?」

ギクリ
沙織「だ、だって麻子が突然変な事言うんだもん……」

麻子「あれは俺の冗談だ。ジョークだジョーク。察するにいい具合に引っ掛かってくれたみたいだな」

みほ(あ、今俺って)

華(言いましたね)

優花里(むむ……ますます状況が分からなくなってきました……)

麻子「ほら、そろそろ授業始まるぞ。行くぞ沙織」

沙織「ちょ、ちょっと待ってよ麻子っ」

みほ「沙織さんの手を引いていった麻子さん……」

華「ええ、なんだかとても……格好いいような」

優花里「あれが俗に言うイケメンオーラなんでしょうか……」

沙織「ではここに、第一回麻子クン会議を始めたいと思います!」

麻子「昼休みは寝たかったんだが……」

沙織「わたしの膝で寝てていいから!」

麻子「いや、流石にこの状況では寝ないが……」

優花里「とりあえず現状を把握したいですね」

みほ「麻子さん、冗談抜きでどういう事なの?」

麻子「冗談じゃ済ませないのか……」

麻子「……朝起きたら自分を男だと思った、以上」

華「正直、それだけ聞いたら異常ですよ……。後天的な性同一性障害ですかね」

麻子「いや、後天性性同一性障害はあり得ないらしい。昔、本で読んだ事がある。しかも俺自身、違和感がない。だから、性同一性障害ではないはずだ」

優花里「突然なんですか?」

麻子「ああ。でも、俺に害はないし、さっきも言った通り違和感もない。身体に変化もないし、こんな会議は終わりだ終わり」

みほ「こっちは違和感とか結構あるんだけどね……」

沙織「とにかく!麻子のせいで何だか大変なの!」

華「ちょっと、いいですか?」

麻子「ああ」

華「……下の名前で呼んでもらってもよろしいですか?」

麻子「……?『華』、でいいのか?」

華「……ほぉ……これはいいものですね」

麻子「……これになんの意味が」

華「何故だか少しドキドキしました……///」

優花里「れ、冷泉殿っ、私もお願いしても!」

麻子「……『優花里』」

優花里「こ、言葉に出来ない何かだぜえええええ!?」

みほ「華さんと優花里さんが立て続けに……麻子さんっ、わたしも呼んでみてください……っ」

麻子「だからこれになんの意味が……『みほ』」

みほ「こっ、これは……っ///」

沙織「麻子あたしも!」

麻子「沙織……って、いつも通りだが」

沙織「え~っ、みんなだけズルいっ。あたしにもいつもと違う事してみてよ」

華「では、アレをやってみてはどうですか?」
________________

麻子「……『お前ら』、俺をおもちゃにしてないか?」

優花里「この素っ気ない感じ、何かかっこいいですね」

華「沙織さんは壁際に立っててください」

沙織「こ、こうでいいの?」

華「はい。そして麻子さんは斯く斯く然々」ミミウチ

麻子「……はぁ、やればいいんだろやれば

壁を背に立つ沙織の前に移動した麻子は、沙織の顔の真横にドンッ、と腕を突き立てた。俗に言う壁ドンだ。

沙織「へ、え、えぇええ!?」

華「キマシタワー!建設です!」

みほ「ま、麻子さんがなんだか……///」

優花里「イケメンな男の人みたいです……っ///」

麻子「これで満足か?」

華「あ、じゃあもう一つ」ミミウチ

沙織「け、結構女の子同士でも恥ずかしいんだね、か、壁ドン……って///」

 つい、顔を赤らめ麻子から目線をそらす沙織。

麻子「……目をそらさないで、俺だけを見てくれ」

沙織「ちょっ!?」

みほ「は、華さんこれは!?///」

華「ええ、顎クイが理想だったのですけれど、麻子さんの身長では難しそうだったので、頬に手を添えて顔すらも逃げられなくしてもらったんです!あらあら、沙織さんったら顔を真っ赤にしちゃって……」ハァハァ

優花里「な、何かイケナイものに目覚めそうです……///」

沙織「ま、麻子……///」

麻子「……これで満足か、華」

華「はぅっ、ふとした何気無い呼び捨てって……」アセアセ

沙織(華に頼まれたとは言え、こんな事してすぐ華と喋るって……)

麻子「……満足そうだな」

今宵はここらで。
遅筆ですが、ちゃんと走りきるので何卒宜しくお願いいたします。

みほ(麻子さんもあんまり気にしてないみたいだし、この調子ならそんなに深刻そうじゃないよね、よかった)

みほ「話変わるんだけど、今度の体育祭で麻子さんリレーのアンカーになったんだよね?」

麻子「は、聞いてないぞ」

華「確か、その時は寝ていましたよ」

麻子「本人の了承は取られてないぞ」

沙織「麻子、『分かった分かった出ればいいんだろ、だから寝かせろ』って」

麻子「……今からでも辞退を」

優花里「いいではありませんか、冷泉殿は運動神経もいいんだし」

麻子「面倒だ」

沙織「いいじゃん麻子!一位取れたら男の子にモテモテだよ!」

優花里「そうですよ!クールで頭脳明晰で運動神経も良くて戦車道全国大会優勝校隊長車操縦手!完璧じゃないですか!」

麻子「俺は沙織みたいにモテたいわけじゃないし、男にモテても嬉しくない」

華「男から、という事は女からはモテたい、と?」

麻子「今のは言葉の綾だ。男女共にモテたいわけじゃない」

優花里「でも、女子高生ですよ?一応わたし達。健全過ぎて逆に不健全じゃないですか?」

麻子「戦車が恋人みたいなやつに言われたくない」

みほ「ま、まぁ女子校だしね……」

麻子「みほはなんだかんだ、戦車道での勝利に恋してるだろ。勝つ事ばかり考えてる。たまに独り言漏らしてるが、黒森峰プラウダサンダース聖グロアンツィオ連合チームと戦って勝つ方法を模索してたのは流石に引いたぞ」

みほ「えっ!?声に出てた!?」

沙織「えっ!?みぽりんそんな事考えてたの!?」

華「あの、ものには限度が……」

優花里「ご、5校の隊長が集まるテントに潜入するんでしょうか、わたし……」

みほ「そ、想像だってば!それに、もし本当にそんな事態になった時に役に立つかもって……」

麻子「あり得ないだろ」

麻子「そうだ、みほ。こないだ練習してた時なんだが――」

沙織(……なんで、少し寂しいんだろ)

麻子「華――」

沙織(今まで、麻子が呼び捨てで、しかも下の名前で呼んでたのがあたしだけだったから?)

麻子「優花里――」

沙織(ううんっ、そんな事ないよね。だって、あたしも麻子も女の子だしっ。彼氏が他の女の子と仲良くしてるの見ちゃったみたいにはならないんだからっ)

沙織「そ、そろそろ昼休みも終わっちゃう、第一回麻子クン会議はこれにて閉会!」

みほ「沙織さん、喋ってみても麻子さんは大丈夫そうだったし、あまり気にしない方がいいんじゃないかな」コソコソ

沙織「うん……」

みほ「それとも、沙織さんはああいう麻子さん、嫌?」

沙織「……嫌、とかじゃないんだけど……」

沙織(むしろ、麻子が男の子だったら、付き合ってたりしてたのかな、とか考えたことはある。女の子同士じゃなくて男女の幼馴染で。だけど、今は何か違う。今まで隣にいた麻子が遠のいてしまうような気がする。仲が悪くなるわけでもないし、麻子が実際どこか行っちゃうわけでもないのに。
あたしは、この感情の名前を知らない)

麻子「そうだ、この事は出来れば他言無用で頼む」

優花里「どうしてです?冷泉殿なら女子に人気でそうですが」

麻子「もし、そんな事態になってみろ。お前らだけじゃなくて他にもおもちゃ扱いされるんだぞ。耐えられるか」

華「すみませんでした、これは千載一遇のチャンスだと思いまして」

みほ「華さん、前々から狙ってたの……?」

麻子「……はぁ、それに大事でもない。お前らもそんなに気にしないでくれ」



沙織「んーっ、やっと金曜日の授業もおしまい!」

麻子「沙織、明日付き合ってくれないか?」

沙織「えっ!?付き合ってくれって///」

麻子「いや、普通に買い物だ」

沙織「な、なーんだ……驚かせないでよ!ただでさえ男の子になったとか、今日だけで色々あったんだからっ」

麻子「悪い」

沙織「それじゃ、みんなも誘おっか」

麻子「……ああ」



※初めてなのでよくわかりませんが、一応コテハンつけました。

みほ「すいません、明日はちょっと……」

華「私も明日は……」

優花里「明日は用事があって……誘っていただいたのに申し訳ありません……」

沙織「見事にみんな用事があったね……どうする、麻子?」

麻子「どうするも何も、別に二人で行けばいいだろ。何か、困る事でもあるのか?」

沙織「ううん、じゃあ明日10時頃迎えに行けばいい?」

麻子「ああ」

沙織(今の麻子を変に意識しちゃってるなんて言えるわけないじゃん///)

#みほまほは至高
みたいに文字列のまえに#を入れるとトリップが作れるぞ
こんな感じに

翌日

沙織「麻子ー、来たよー」

麻子「土曜日だぞ……こんな時間になんの……」

沙織「麻子が買い物付き合ってくれって言ったんでしょ!」

麻子「……あー、悪い……今着替えてくる」

>>35 さんありがとうございます。こんな感じで大丈夫でしょうか?

麻子「悪い、待たせた」

着替え終わった麻子は長髪をポニーテールでまとめ、七分丈の青と白のシャツとカーキのズボンという出で立ちだった。

沙織「あれ?麻子ズボンなの?」

麻子「ああ、スカートじゃ何か落ち着かないんだ」

沙織「ふぅん……麻子、なんだか男の子っぽい」

麻子「そりゃ、昨日から何故か男だと思ってるからな自分の事。男っぽくも少しなるんじゃないか?」

沙織「……あれ?でも、麻子が自分を男の子だと思うようになったのって、昨日でしょ?なんでその服持ってるの?」

麻子「別にどうだっていいだろ……ほら、行くぞ」

沙織「あー!何か隠し事でもあるんでしょ、ごまかしてるもん!」

麻子「ごまかしてない」

沙織(うーん……こうなったら聞き出すのは至難の業だし、あとで話してくれるの待てばいっか)

沙織「ところで麻子は今日、何が欲しいの?」

麻子「ちょっと服が欲しくてな。スカートは落ち着かないと言ったが、ズボンもこれくらいしかないんだ」

沙織「じゃあ、あたしは麻子に似合うものを見つければいいの?なんだか彼氏が出来たみたい///」

麻子「……ああ、彼氏が出来た時の練習とでも思えばいい」


今宵はここらで。
少し書き溜めてきて安定した更新を心がけたいです。

麻子「じゃあ行くか」

――――――――――――――――

麻子「……なぁ、沙織は何で彼氏が欲しいんだ?」

沙織「え、えー……何でって……恋愛したいから、かな?」

麻子「何で疑問形なんだ……恋愛って好きな人とするものじゃないのか?」

沙織「そう、だとは思うけど……」

麻子「別に、名前も知らない顔も知らない存在するかも分からない男に恋してるわけじゃないだろ?」

※1です。酉は次の投稿から変更致します。

沙織「あ、当たり前じゃん!それだったら麻子の方が好きだもん!」

麻子「っ、後者はどうでもいい……俺は心配なんだ。高校を卒業して大学に進学した時、悪い男に引っかかりそうで」

沙織「麻子ったら心配しすぎ、あたしだってそれくらいの見極めはできるよ」

麻子「いいや、沙織は頼まれたら断れないし、恋愛に憧れてる今のままじゃ、軽い男に軽いノリで迫られただけでコロッといっちゃうだろ」

沙織「そんな軽くないしっ!」

沙織「それに、進学してからなんて麻子の方が心配だよ。朝ちゃんと起きられるかな、人付き合いちゃんとできるかなって!」

麻子「……ふっ、沙織は俺のおかぁ、か、って……」

沙織「――麻子っ」

麻子「なっ、ちょっ、沙織っ」

 沙織は麻子の手を固く握りしめ、何かを振り切るように走り出した。

沙織「麻子と二人きりで出かけるのも久しぶりだし、早く行っていろんな所回ろうよ!それに、今日はあたしに彼氏ができた時の練習でもあるんだから手、繋ぐくらいいいでしょ?昔はいっつも手繋いでたんだし!」

麻子「…………ありがと、な」ボソッ

沙織「何か言った?」

麻子「……いや、学園艦じゃそんなに回る所もないだろうなって思っただけだ。次、陸地に上がるのはいつだったか」

沙織「麻子、そっちは男の子の服のお店だよ?」

麻子「?……ああ、身体は変わってないんだった」

沙織「あたし、未だに麻子が頭だけ男の子になっちゃったってよく分かってないんだけど……冗談、じゃないんだよね?」

麻子「ああ。……冗談、ではないな。自分で言うのもなんだが」

沙織「……そっか。じゃあもう気にしない。麻子は麻子だもんねっ」

麻子「なんだ、気にしてたのか。大した事ないのに」

沙織「幼馴染が突然男になった、なって言い出して気にしない方がおかしいよ」

沙織「麻子だって、あたしが突然『男になった』なんて言ったらびっくりするでしょ?」

麻子「変な雑誌でも読んだかと思うな。最近の男にはそんなのが有効、なんて記事があったら沙織、すぐ真似しそうだしな」

沙織「もうっ、少しは心配してよっ」

麻子「心配してる。そんなのが流行る世の中とアラサーOLみたいな沙織の恋愛情報吸収力を」

――――――――――――――――

麻子「ある程度、変な柄じゃなくて着られればどれでもいい」

沙織「えー、せっかくだし似合うのにしようよ。彼氏が似合わない服来てたら嫌だし」

麻子「……じゃあ沙織に任せる。俺はそんなに服に詳しくないし」

沙織「あ、なんだか今の男の子っぽい」

麻子(俺のはこれくらいでいいか。沙織が選んだものだし、大丈夫だろう)

沙織「ねぇ麻子、この服可愛くない?」

麻子「そうか?それだったら、もっといいのがさっきあっただろ」

沙織「えー、可愛いよー」

麻子(そう言えば、女は共感を求める、みたいな事を聞いた事あるな。全く意識した事なかったが)

麻子「……そうだな、沙織が着たら大体可愛い」

沙織「えっ、あ、ありがと……///」

麻子「……?俺が言ったのは服で、沙織が照れる必要はないだろ」

沙織「わ、分かってるけど!麻子は女心が分かってないよっ!」

麻子(女心なんてものは前々からよく分かってなかったが、男になってますます分からなくなってきたな……)

――――――――――――――――
沙織「なんだかんだ、あたしも服結構買っちゃったなー。新しくできてたレストランも美味しかったし!」

麻子「最近は戦車道ばかりだったからな。たまにはいいだろ」

沙織「……って、まだ夕方でもないんだけどね」

麻子「店が少ないからな」

沙織「大洗行きたいね、麻子」

麻子「そうだな」

沙織「……」

麻子「……」

沙織「そ、そうだ。麻子本当にリレーのアンカーやめちゃうの?」

麻子「ああ、その事か。辞退できるなら辞退する」

沙織「ふぅーん、そっか……」

麻子「なんだその反応」

沙織「うーん……ほら、麻子って今までそういうの出た事ないから、たまにはそういう麻子も見てみたいなー、って思っただけ」

麻子「……沙織が出てくれ、って言うなら吝かでもない」

沙織「えっ、めんどくさがりやの麻子が?どうして?」

麻子「……別に、背中を押してくれる人がいるならやってみてもいい、そう思っただけだ」

今宵はここらで。
最近どれだけ寝ても眠気が取れません。特に朝。麻子の気持ちが少し分かりました。
話変わりますが、戦車サーの王子っていい響きですね。

沙織「……やっぱり、麻子少し変わったね。戦車道に誘った時は結構大変だったのに」

麻子「戦車道とリレー選手じゃ事の大きさが違う、それだけだ」

沙織「……そっか。き、今日はありがとね。久しぶりに麻子と出かけられて楽しかったし」

麻子「ああ、ありがとな。俺も楽しかった……って、まだ夕方にもなってないんだけどな」

沙織「そ、そうなんだけどっ、今日は、えっと、そのね、」

麻子「どうした、具合でも悪いのか?」

沙織「そ、そうっ!だから、か、帰るねっ」

麻子「送ってく、誘ったの俺だし、心配だし」

沙織「大丈夫だから!」

麻子「そ、そうか……」

沙織「それじゃ、また月曜日に!」

沙織(どうしちゃったんだろどうしちゃったんだろどうしちゃんたんだろ!
   いつもなら、麻子が男の子になったなんて言う前なら、このあともおしゃべりしたりどっちかの家に行って遊んだりもしてたのに!)

 もちろん仮病だった。
 麻子の厚意か社交辞令か(麻子に限って社交辞令はないだろうけど)も振り切って、具合が悪いと言った直後に走り出してしまったが、精神状態の具合は本当に悪いかも知れない。
 
沙織(麻子が男の子みたいになっちゃったから?あたしが変に意識しちゃってるから?)

沙織「どっちにしろ麻子のせいなんだからあああああ!」

 顔を赤く染めたのは麻子のせいか走ったせいかは定かではないけれど、自宅に到着してそのままベッドにダイブし枕に顔をうずめて、しばらくしてから冷静になり自分の行動を思い出したせいで赤はそのままで。

沙織(デート終わりの男の子みたいな切なげな表情で『ありがとう』なんて言わないでよ……麻子……)

 そして、三度顔を紅潮させた。
 男性とデートした事もないのに。

――――――――――――――――

みほ「沙織さんと麻子さんの関係に若干の変化はありましたが、大きな影響はありませんでした」

みほ「――ですが、体育祭を目前に控えた月曜日に事件は起こってしまったのです……」

麻子「……ふぁ〜ぁ」

麻子(月曜日は何でこう毎週毎週律儀にやってくるんだ……)

そど子「ちょっと冷泉さん!せっかく遅刻データ消したのにまた遅刻!」

麻子「なんだ、そど子か。朝から元気だな……そのセリフも毎日聞かされる身にもなってみろ、バリエーションを増やしてくれ」

そど子「何よ!私は怒ってるのよ!だいたい、体育祭だって控えているのにこうやってだらしない――」クドクド

麻子「はいはい、そんなに怒ってるとせっかくの可愛い顔が台無しだぞ」アタマポンポン

そど子「ふぇっ!?///」

麻子(眠い……)

そど子「なっ、な、なああああ///」

生徒A「そど子さんがきてませーん」
生徒B「でも朝、挨拶したよ?」
生徒C「あ、まだ校門にいる」マドカラ

生徒A「そ、そど子さんどうしたの?」

そど子「……さんに……れた……///」

生徒A「え?」

そど子「冷泉さんに口説かれたああああ!」

生徒A「そど子さんが壊れてる……」

杏「冷泉ちゃーん、ちょっといい?」

麻子「生徒会?」

沙織「麻子、何か変な事したの?」

杏「いやね、ちょっと聞きたい事があってさー」

華「もしかして、噂の件ですか?」

桃「なんだ、もう二年生にまで広まっているのか」

麻子「何の事だ、俺に関係あるのか?」

華「えっと……それがですね……」

杏「『俺』、ねぇ。ちょっと前から雰囲気も変わった気してたし。ま、冷泉ちゃんが悪い事したとかじゃないからさ、そこは安心してよ」

桃「まぁ、とりあえず生徒会室で話そう。廊下じゃなんだしな」

杏「あ、一人じゃなくてもいいよー、大した話じゃないからさ」

 一旦落ちますが、今宵は再び舞い戻る所存であります。

麻子「みほと優花里がいないが……連絡いれておけばいいか」

沙織「じゃあ、あたしメール送っとくね」

華(見たところ、お二人は噂を知らない様子……修羅場チャンス!?)

――――――――――――――――

杏「んじゃ、どっから話そうか。川嶋ー」

桃「では。我が校の風紀委員園みどり子については知っているだろう」

麻子「そど子か」

杏「そそー、重要参考人A、ってとこかな」

桃「まぁ、園は風紀委員の中でも頭一つ真面目でな。言わば、風紀委員の要なんだ。それが、今朝から働けなくなってな」

麻子「働けなくなった?今朝は校門でいつも通り小言を言われたが」

杏「そのすぐ後だと思うんだよねー、川嶋ー」

桃「今、校内の三年生を主としてある噂が出回っている」

杏「冷泉ちゃん、園ちゃんの事口説いた?」

麻子「……は?」

沙織「……え?」

華(ワクワク)

杏「やっぱかー、本人自覚ないし、園ちゃんの勘違いだとは思うんだけどねー」

麻子「……華、どういう噂が流れてるんだ?」

華「今、会長が言った通りです。麻子さんが園さんの事を口説いた、っていう」

沙織「ちょっ、麻子っ、どういう事なの!?」

麻子「いや、俺自身一番困惑してるんだが……」

桃「風紀委員から相談が多くてな……今朝の事なのに十五件を超えている……一人何回くれば気が済むんだ。恋愛事まで請け負う気はないぞ」

杏「まー、一番真面目な園ちゃんが参っちゃったからねー。しかも色恋沙汰で。風紀委員に困惑がそっこーで広まっちゃってねー。とりあえず、冷泉ちゃんに話聞くだけ聞いてみよーってなったわけ」

麻子「全く身に覚えがない」

沙織「寝ぼけて記憶がないだけ、とか、麻子ならありそうなんだけど……」



麻子「……遅刻について小言を言われたから適当に返して軽く頭を叩いた……」

杏「あー、それに似たようなシチュエーションどっかで見たなー、どこでだっけ」

柚子「多分、最近みどり子ちゃんに読ませた少女漫画だと思います」

杏「あれかー……変な所で重なるもんだねー、不思議なもんだ」

麻子「そど子も漫画とか読むんだな」

杏「いやさ、校内で授業中とかに読まなきゃ漫画読んでもいいじゃん、ってゆー生徒の声が聞こえちゃってね。生徒会的には勉強に支障をきたさなきゃいい、って結論に至ったんだけど風紀委員が許してくれなくってねー」

桃「『校内で漫画なんて風紀が乱れるじゃないですか!』ってな」

柚子「それで、漫画を読ませて懐柔しようとしたんだけど……」

華「たまたま読んだ漫画と、現実を重ねてしまった、と」

杏「多分ね」

麻子「はぁ、完全にとばっちりじゃないか……俺は知らないぞ。そんな気もない」

沙織「なんだ……よかったー……」ホッ

杏「ま、その件は園ちゃんの勘違いって事で。川嶋ー説明しといて」

桃「分かりました」

麻子「じゃあ、これで終わりですか?それじゃ――」

杏「――ところでさー」

杏「その『俺』って、どうした?」

麻子「……まぁ、色々と」

杏「ちょっと気になっちゃってさー。冷泉ちゃんがよければ教えてくんない?」

――――――――――

麻子「……斯く斯く然然でして」

杏「へぇー、大変だったねー」

桃「確かに、言われてみれば少し変わった気がするな」

柚子「だね、漫画に出てくる可愛い系の男の子みたい」

麻子「……はぁ、あんまり大事にはしたくないんです。話はこれくらいですか?」

杏「そ、昼休みに悪かったね」

麻子「行こう、沙織、華」

沙織「う、うん」

華「では、失礼します」

華(特に修羅場とか、ありませんでしたね……)

沙織「ねぇ、麻子。……本当に勘違い、なんだよね?」

麻子「ああ、だからそう言ってるだろ……俺にそんな気はない」

沙織「そう……だよね……」

華(これは……ッ)

華「すみません、ちょっと用事を思い出しました。先に戻っていてください」

そど子「ち、ちょっと冷泉サんっ!」

麻子「……そど子か」

沙織「……」ソワソワ

華(三角関係キター!)モノカゲカラ

今宵はここらで。
そど子って三年生なんですね。出そうと思って調べて初めて知りました。

そど子「あ、あの今朝の事なんだけどっ///」

麻子「それについては俺も話したい事がある。沙織、先に戻っててくれないか」

沙織「えっ、でも……」

麻子「人に聞かせたいようなものでもないしな。すぐ俺も戻る」

沙織「……うん」

麻子「……悪い」

そど子「その、昼休みよく空いてる教室があるんだけど……そ、そこで話さない?」

麻子「ああ……手短にな」


――――――――――

沙織「うぅ〜……」

みほ「どうしたんですか?沙織さん」コソコソ

華「それがアレコレコウでして……」コソコソ

優花里「はぁ〜……やっぱり、冷泉殿が男性になってからお二人の関係も少し変わってきてますよね」コソコソ

今宵はここらで。
すいません、日曜日全然書けませんでした。

麻子「……疲れた。昼休みでこんなに疲れたのは初めてだ」

沙織「麻子っ、大丈夫だった!?」

麻子「あ、ああ……」

沙織「あの、さ、園さんとの話はついたの?」

麻子「……ああ」

沙織「よかった〜……」ヘタリ

麻子「お、おい大丈夫か?」

みほ「沙織さん、ずっと心配してたから」

麻子「……そうか」

麻子(沙織には、これ以上心配させられないな。ただでさえ、男になっただの迷惑もかけてるしな……)

―――――――――― 水曜日 昼休み
沙織「あれ?麻子と華は?」

みほ「さっきまでは一緒にいたんだけど……」

優花里「お手洗いじゃないでしょうか」

沙織「じゃあ、見てくるついででお昼食べる前に行っておこうかな」

麻子「俺はそど子に――」

華「――しかも……少女漫画のシチュエーション――厄介ですね」

沙織(麻子と華の声だ。でも、二人で何話してるんだろ?そど子、って聞こえたけど園さん?)

麻子「――違った意味で――」

華「――いち度しっかり話し合って――」

麻子「――こっちはしっかり――」

華「――だったらそれ以上に――心をありのままに――」

沙織(所々しか聞こえないけど、何か園さんについて真面目な話をしているのはわかった。

   麻子……大丈夫だったんじゃ、なかったの?)

優花里「あ、どうでした?」

沙織「……あ、うん。二人共いたよ」

みほ「二人は?」

沙織「たぶん、すぐ来ると思う……」

優花里「……?」

 なんだか、その場に自分はいない方がいい気がして、沙織は教室に戻ってきていた。
 麻子が男の子になったと言ってきたあの日から、麻子が遠のいていく気がする。

 麻子の隣に自分がいない方が多くなってきてるかもしれない。 
 それが、どうしようもないほどに、昔は考えられないほどに、嫌だった。 

今宵はここらで。
鼻水と寒気がヤバイです。これからは暖かくなると思われますが、風邪には注意してください。

――――――――――金曜日 放課後
みほ「明日は体育祭だね」

優花里「はいっ!体育祭の練習が重なって、ここ最近は全く戦車に乗れませんでしたからね。溜め込んでいたものは明日、全部吐き出してスッキリしたら戦車に乗りましょう!」

みほ「わたしたちは紅組だけど、優花里さんは白組……なんだよね」

優花里「はい……まさか他クラスという弊害が忘れた頃に牙をむくとは……」

沙織「ねぇ、みぽりん。麻子見なかった?」

みほ「あれ?さっき教室にいましたよね」

優花里「リレーの練習でしょうか?冷泉殿はアンカーですし、何より学年選抜リレーは締めを飾る大事な競技ですからね」

みほ「リレーの練習してる麻子さんって下級生に人気なんだってね」

みほ「雰囲気からカッコイイって噂でね。麻子さんファンクラブまで出来たとかできてないとか」

優花里「そう言えば、噂といえばなんですが……多分、誤解ではあると思われるのですが、その、冷泉殿と風紀委員の園殿が……密会していると」

沙織「…………えっ?で、でも、麻子はその件はもう大丈夫だ、って……」

優花里「う、噂です。あくまでもっ」

今宵はここらで。
今日休みなので出来るだけ頑張ります。

沙織「ま、麻子の事探してくるっ」

みほ「あっ、沙織さん……行っちゃった」

華「すみません、お待たせしました……あら?沙織さんは?」

優花里「五十鈴殿とすれ違いで冷泉殿を探しに行きましたよ」

みほ「麻子さんの噂を聞いたら急いで行っちゃって……」

華「噂?ああ、アレですか。でも噂はやはり噂ですね。だって――」
――――――――――

沙織(密会なんて噂、どうしたら立つのよ……麻子……)

麻子「――ちゃんと聞いてくれ、大事な話だ」

沙織(麻子の声……空き教室から?)

麻子「そど子の心はわかった。……だから、次はちゃんと俺の心もわかってくれ」

沙織(一緒にいるのは……園さん?どうして空き教室で?大丈夫なんじゃなかったの?どうしてよ……麻子……)

 沙織は、その場から離れたかった。けれど、つい物陰に身を潜め会話に耳を傾けてしまった。

そど子「――どう思ってるの……?」

沙織(声が小さくて少し聞き取りづらい……)

麻子「――好きだ」

沙織「っ……」

 唐突な告白の言葉に、沙織は崖から突き落とされたかのような錯覚を覚えた。

 噂は何かの誤解だと思っていた。
 けれど、密会なんて言葉はやっぱり後ろめたいイメージが強くて。
 大丈夫だと麻子は言っていたけど、嘘で隠したい事があったのかもしれない。

そど子「――じゃあ、明日……みんなの前で告白してくれない?」

麻子「……そうしたら、信じてくれるのか?」

 信じるも何もないだろう、と声に出してふたりの間に押し入って麻子の手を引いてやろうかと、沙織は思った。
 
沙織(……別に、麻子の彼女でも何でもないのに、何考えてるんだろあたし……)

 どうして、こんなに胸がざわめていているんだろう。
 どうして、こんなに悲しいんだろう。
 どうして、こんなに妬ましいんだろう。

――――――――――
みほ「あっ、沙織さん。麻子さんは……ってどうしたの?」

沙織「……ごめん、今日は先に帰るね……」

 走って逃げた、というより無理やり足を動かして逃げた。
 現実から逃げた。理解から逃げた。自分の心から逃げた。嫌な事から逃げた。

 麻子から逃げた。

 自宅に帰るまでの記憶がない。
 ただ、思い当たりがあるとすれば、一つ。

沙織「どうしてよ……麻子ぉ……」

 涙が滲む理由も、心の違和感も、この感情も、麻子の事も、何もわからない。
 何故わからない。知らないからわからない。
 涙が滲む理由を知らない。
 心の違和感を知らない。
 この感情を知らない。
 
 麻子の事を知らない。

今宵はここらで。
艦これのイベントで体力を使い果たし、睡眠の取り方を忘れた私。今日死ねる。

冷泉は書き始める前に調べたられいぜい、だそうです。

――――――――――土曜日 朝

麻子『学校まで一緒に行かないか?』

 麻子から、しかも朝にこんなメールが来たのは初めてだった。
 一瞬断ろうかとも思ったけど、それらしい理由がぱっと思い浮かばなかったから、そっけなく『いいよ』とだけ返信。
 ……たった三文字打って送信だけで五分もかかったのは想定外だったけど。
 こんなに早くに珍しいね、とか、どうしたの? 麻子らしくない、だとか、話のタネが後から浮かんでくる。
 それは置いておいて、いつも隣にいたはずの麻子と一緒に登校できるだけのはずなのに、何故か嬉しかった。
 たぶん、それは昨日麻子と園さんとの盗み聞きした会話の欠片である『好きだ』と『告白』という言葉が影響してる。
 
沙織「……もしかしたら、今日が最後になっちゃうのかな……」

 だって、麻子が園さんに告白したら、二つ返事どころかひとつ返事だろうし、そもそも園さんから攻めてきたわけで……。

沙織「あたし……どうしたいんだろ……」

 麻子が、園さんと付き合っちゃったりして、あたしに関係はあるのだろうか。 
 世間からする一般の幼馴染、しかも同性は片方に恋人ができたりしたらどういう心理状況なのか。
 別に、麻子が唯一の友人とか、麻子がいなくなったらあたしには何も残らないとか、麻子はそんな存在ではない。
 幼馴染。そう、ただの幼馴染。幼馴染以上でも幼馴染以下でもない……はず。たぶん。
 麻子は、もしあたしに彼氏ができたとしても、いつもみたいにけだるげな表情で『よかったな』って言ってくれるだろう。
 なら逆は? いや、あたしに彼女ができた場合じゃなくて。
 麻子に彼氏ができた時、あたしはなんて言うんだろう。
 ……正直わからない。
 心から祝福するかもしれないし、髪の先まで嫉妬を満たすかもしれないし、少し悲しいかもしれない。
 ……これは麻子に男っけがないせいで想像できないのもあるんだけど。
 っていうか、今はそんな事関係なくて、目先の問題はあたし自身。
 こんなに憂鬱な気分になってる理由はわからないけど、つまりは憂鬱になる理由があるってこと。
 
 だから、たぶんあたしは麻子の隣にいたいんだと思う。

 自己解決してかなり恥ずかしい。

沙織「べ、別に変な意味じゃないんだからっ」

 嫌いでもない幼馴染から離れたいと思う人の方が少ないんだし、変ではない、はず。
 頬を軽く叩いて熱をごまかす。誰に見られてるわけでもないけど気恥しかったから。
 
沙織「よしっ、今日は頑張ろう」

 そのあとしばらく、今日が体育祭だと忘れていたんだけど。

 

麻子「ふぁ〜ぁ……ん、おはよう沙織」

沙織「えっ、わざわざ来てくれたの? 麻子の家の方が近いのに学校」

麻子「まぁ、誘ったの俺だしな。それに、朝と夜に軽く走るようにしたら起きるだけ起きれるようになった。眠いのは相変わらずだがな……ふぁ」

 家から出たら、あくびをした麻子が電柱に寄りかかっていた。

麻子「まぁ、それも今日までだ」

沙織「体育祭が終わるから?」

麻子「ああ、正直走るのめんどくさい」

沙織「じゃあ、なんで朝と夜走ってるの? あのめんどくさがりの麻子が」

麻子「……そりゃあ、少しでも格好いいところ見せたいから、な」

沙織「っ……」

 いつもなら、笑って何か返せたのに、今日に限って脳が今まで習った言葉を軒並み忘れるし、心臓が少し慌てる。
 落ち着け沙織。今日は頑張るって決めたんだから……。

沙織「あ、あのね麻子っ」

沙織「今言うべきかちょっと悩んだんだけど言っておきたいっていうかなんていうかちょっとあれなんだけど一応っていうかねほんと一応だから気にしなくてもいいんだけど……」

 いけない、緊張で意味のない言葉がでしゃばって大行列。しかも心なしか早口だ。

沙織「え、えっとぉ……あ、たしはずっと麻子の隣にいたい……っていうか……」

麻子「……別に俺はどこにも行かないだろ。突然何を言い出すんだ」

沙織「そ、そうだよね! あ、はは何言ってるんだろーあたしってば体育祭でテンション上がっちゃってるのかもしれない、な!」

 ああー……何言ってるんだろあたし……。

 その後、学校に着くまでどんな会話をしたか覚えていない。
 そもそも、会話をしていなかったかもしれない。
 もしくは、会話していないのと同レベルなくらいからっぽな会話をしたのかもしれない、あたしが。
 せっかくの麻子と二人でいられる時間を無駄にしてしまったような……。
 いやいや、今日は体育祭で二人で話せる時間はいつもより多いはず……。
 まだ大丈夫……まだ……。

沙織「想像以上にベリーハードなんだけどっ!?」

――――――――――土曜日 体育祭 午前の部終了

みほ「わっ、びっくりしたぁ……」

華「急に大声を出して……どうしたんですか?」

沙織「あ、ごめん……何でもない」

 なんでも、戦車道全国大会優勝をした後最初のイベントという事で全体的に盛り上がってる、らしい。
 競技間の休憩時間が異様に短いせいで、麻子と話しても他愛ない会話にしかならない。
 これは由々しき事態だ。(使い方あってるかな)
 なんとか、伝えたい。伝えるだけでいい。何もしないで恨み言だけ吐いているのは間違ってると思うから。
 
沙織「って、また麻子いないしっ!」

みほ「麻子さん、さっきあっちに行ってましたよ? お手洗いかと思って止めなかったんですけど……」

 今日はいつも以上に踏み込んでいこう。頑張るって決めたし。

沙織「ちょっと行ってくるっ、みぽりんたちは先に食べててもいいから!」 

 どこに行ったんだろう。嫌な予感しかしない。昨日だって、それで二人の会話を盗み聞きしてしまったのを探し始めてから気づいた。
 ……こういう時に限って嫌な予感は的中してしまうんだけど。

そど子「――それなら、リレーで一番――」

麻子「――チャンスはそれくらいか――」

 麻子と園さんを、中庭で見つけた。

 今宵はここらで。
 女の子の可愛さを表現するのに地の文は欠かせないと思います。少しだけ多くなってしまったような、でも読み返してみてもそんなに多くないような。

 理解した瞬間に、足は午前の部で溜まった乳酸菌の存在を忘れたように駆け出していた。
 麻子のところに――行ける訳もなく、只、二人から離れるように。
 どんな会話をしていたかなんて大体想像もできる。
 仲睦まじく『告白』の算段を立てている、なんて飛躍しすぎかな?
 あたしの想像だったら別にいい。だけど、勝手に完成に近づいていくパズルのピースが如実に一つの答えを叩きつけてくる。
 今週の初めに園さんが麻子に口説かれたなんて言って? それを麻子は否定したのに密会? 挙句にはみんなの前で告白?
 人間の心は恋患いに弱い、って前に雑誌で読んだ事がある。
 

 どうせ麻子だって、ベタ惚れの園さんに悪い気は抱かなかっただろうし、男の子になった今なら女の子に擦り寄られて嬉しかったんでしょ。女子校だけどっ。あたしも女子だけどっ。

沙織「弱い弱いよわーい! 本当に弱い!」

 人目があろうが今日は体育祭。強い弱い叫んだところで違和感はないだろう。精々、体育祭にさほど興味がなかったあたしが叫ぶことに対し、クラスメイトは眉間にしわを寄せるかもしれないけど。
 こうやって、必死に見たくないものから目をそらすあたしは、多分弱いんだろうけど。

華「さ、沙織さん? どうしたんですか……」

沙織「ちょ、っと……午後のっ、ため、に、……からだ、あたためっ、て……おこう……かなっ、て……」

 普段なら奇行に分類されてもおかしくない事をしても言い訳が聞く。体育祭万歳。
 どこで止まればいいのかわからなくて思う存分走ってきたのは我ながら馬鹿にしか思えないけど。
 
華「午後って言っても、クラス競技ひとつと借り物競走ぐらいしか、私達にはないじゃないですか……」

沙織「……あ、たしの……本気度を確かめてみたっていうか……」

 ちょっと、言い訳しきれてない。体育祭ノー万歳。

みほ「そ、それで麻子さんは見つかったの?」

 そうだった。麻子捜してくるって言ったんだった。

沙織「――リレーの選手とお弁当食べてたよ」

 咄嗟に出てきた言葉は嘘だった。自分でも何で隠そうとしたのかわからない。
 ここまで来てまだ認めたくないんだろうか。

華「……それじゃあ、仕方ありませんね。私達も食べてしまいましょう」

今宵はここらで。
このあと、安価するかもしれません。

みほ「わたしたち紅組は今劣勢なんだけど、午後の部は得点の大きい競技が多いからまだ勝ち筋はある。でも、負けられるのは二回くらいかな」

華「どうして分かるんですか? 確か、得点配分は公表されていないはずじゃ……」

みほ「ちょっとだけ、ね」

華「何したんですか……」

沙織「……」

華「沙織さん? 食べないんですか?」

みほ「腹が減っては何とやら、だよ?」

沙織「……うん」

華「やっぱり、何かあったんですか? さっき、というより今朝から少しいつもと違う気がします」

沙織「……別に、何もないよ」

華「沙織さん、これでも私は沙織さんと結構な時間一緒にいるんですよ? 誤魔化すならもっと上手に誤魔化してください」

沙織「華……」

華「もしよければ、教えてください。友達なんですから」

沙織「……華ってば、ずるい」

華「本当の事ですから」

みほ「わ、わたしも同じ戦車に乗る仲間だからっ」

沙織「みぽりん……」

 二人共ずるい。まるでお腹の底から言葉を引き上げられるような。

沙織「あたし――」

 次の瞬間には、まんまと話し始めてしまったようで。

沙織「あたし、麻子の隣にいたい」

 ……言ってから気づいた。結構ヤバイ人じゃない? 幼馴染に恋人(同性)が出来そうでそれが嫌って、少女漫画じゃないんだけど!? 同性の時点で少女漫画じゃないかもしれないけど。

華「つっかえは取れましたか?」

沙織「……うん。少し、取れた、かも」

華「つまりは、麻子さんが園さんに取られてしまっている現状を打破したい、と」

みほ「つまりは、園さんに勝ちたい、と」

沙織「わがままなのは分かってるし、麻子が決めたことならどうしようもないけど……伝えるだけ伝えたい」

 今日が体育祭でよかった。だって、特別なテンションじゃないとこんな恥ずかしいこと言えなかったしね。体育祭万歳。

 お昼休みはプラマイゼロ……じゃなくて、ちょっとプラス。
 午後の部も頑張れる気がしてきた。
 そして迎えた午後の部最初の競技なんだけど……。

沙織「借り物競走かぁ……」

みほ「これは得点入らないから安心して見てられるね」

沙織「安心できないよぉ……出番のない生徒の救済競技みたいなものだし、あたしそれに出るんだし……」
 

華「ですが、ここで麻子さんに関係するお題を引ければ……」

沙織「そんなうまくいくかなぁ……」

麻子「俺がどうしたって?」

沙織「ま、麻子っ!?」

麻子「そんなに驚かなくてもいいだろ」

沙織「な、なんでもないからっ! そ、れじゃ、行ってくるから!」

麻子「ああ、頑張ってこいよ……全く」

華「麻子さんも意地悪ですよね」

麻子「……悪かったな。色々こじつけるのにちょうど良かったんだ」

沙織「借り物競争って去年もやった気がする……」

 順番を待って、沙織の番がきた。
 緊張感のないスタートを切り、お題の書かれた封筒が地面に置いてあるところまで軽く走る。

沙織(中身が分からない今、どれ取っても一緒だよね)

沙織「じゃあ、これっ」

借り物競走のお題「>>160

 今宵はここらで。
 ああああ4DX初日観に行きたかったぜぃ……。
 安価はお題っぽいものでおねがいします。私の独断と偏見で無理だと判断したときは他のレスから採用する場合があります。ご了承ください。

特別な人

沙織「ま、ままっ、麻子っ!」

麻子「何引いたんだ? 顔真っ赤だが……」

沙織「いや、ね、そのね……お、幼馴染って大切だよねぇ!?」

麻子「だ、大丈夫か? 今朝から少し様子がいつもと違ってたし、熱でもあるんじゃないか?」

 あれ? あたし今なんて言ったっけ?
 
麻子「沙織、少し屈んでくれ」

 言われた通りに少し屈むと、麻子と同じくらいの高さになった。
 
麻子「こんな時俺の身長が憎いな」
 
 あたしは可愛いと思うけど。
 麻子の手があたしの前髪を払うと、麻子も前髪を払っていておでこが見えていた。
 麻子の顔が近づいてくる。
 前後の会話を覚えていないけどどういう状況?これ。

 ぴたり。

 麻子のおでことあたしのおでこがくっついていた。 

 今宵はここらで。
 最近忙してくて全然書けていませんすいません。でも4DX観てきました。楽しかったです。

 きゃ、きゃ、

沙織「きゃあああぁああぁぁあぁああぁあぁぁあぁ……」

 ど、ど、ど、ドユコトー!?
 現在進行形で全身の骨が溶けに溶けてへなへなで、まさに骨抜きで、軟体動物並にへなへなで、うぅん? ちょっとわけがわからない。
 あたしの顔を心配そうに覗き込んでる麻子と華がいて、みぽりんがなんか慌ててて、なんか体に力が入らなくて、うーん。
 多分、目が回ってる。

――――――――――
沙織「……あれ」

華「あっ、やっと目を覚ましましたね」

沙織「華……?えっと……ここは?」

 目に入るものが基本的白い。小さく、というよりは遠くで歓声のようなものが聞こえる。

華「保健室ですよ。沙織さん、借り物競走で倒れてしまったんですよ」

 借り物競走で倒れた人間が今までに何人いたんだろう。恥ずかしさで少し顔が熱くなる。

 そして、近づく麻子の顔がフラッシュバックして、首から上が心臓の噴火でどこかへ飛んでいってしまうんじゃないかと思うほど熱くなった。思わずかけられていた布団を頭まで被せる。

華「顔も赤いし倒れましたし……季節の変わり目です、風邪でもひきましたか?」

沙織「あー……うん、そう、風邪……風邪、ね」

 華からごまかすネタを振ってきてくれた。大正義風邪先輩。世界で最も仮病に使われてると思う。

沙織「……あたしどれくらい寝てた?」

華「今が一年生の選抜リレーくらいには」

沙織「じゃあ、クラス競技終わっちゃったんだ」

 別段、たいしてやりたかったわけでもないし、未練はない。

華「二年生は負けてしまったんですけどね」

沙織「二年生以外は勝ってるの?」

華「はい。だから、まだ勝機はあるとみほさんは俄然はりきっていますよ」

沙織「……次は麻子が走る番」

華「大丈夫そうなら、見に行ってあげたらどうですか?」

沙織「……でも」

華「でも?」

 麻子がカッコつけたいのは、あたしじゃないだろうし。

沙織「もう少しだけ、寝たい、かもしれない……」

 言い切れないところがあたしらしいかも。

華「大丈夫そうですね。ほら、行きましょう沙織さん」

 バレてた。
 華がまるでお母さんみたいに布団を剥いでいく。やめてー。

華「沙織さんは、頑張っている麻子さんを見届けないでいいんですか?」

――――――――――
優花里「冷泉殿ー!」

麻子「優花里じゃないか。優花里もリレーの選手だったのか」

優花里「いえ、いっつも重そうなリュックを背負って走り回っている、っていうイメージがあったらしくて補欠に選ばれていたんです。そしたらアンカーの人が倒れちゃったらしくて、このとおりアンカーです! いくら冷泉殿相手でも負けませんよ!」

麻子「なるほどな。……だが、今日だけは俺も負ける気はない。勝たなきゃいけない理由があるんでな」

 選抜リレーは四レーン、四人一チーム。
 一年生の選抜リレーが終わり、一位に輝いた紅組の一年生のアンカーがインタビューを受けていた。

優花里「あれって、結構前から続いている伝統らしいですよ。インタビュー」

麻子「……ああ。知ってる」

優花里「そろそろ始まります。わたしたちも準備しましょうか」

 今宵はここらで。
 ここからちょっとイケメン要素ましまししていきます。

 スタートを告げる空砲が鳴り響いた。
 一番手の選手が大体同じくらいの速度で走り始める。二番手にバトンが渡される頃には少しばかり差が開くだろう。
 待機場所で、横から見る冷泉殿は新鮮だ。長く艶やかな黒髪をポニーテールで高くまとめていて、普段は感じさせないスポーティーさを見出してしまう。いつもは眠たげな眼も今日に関してはきりっとしていて凛々しさに溢れている。こりゃあ、王子様としてファンクラブもできてしまうわけだ。
 いけないっ、わたしには西住殿という存在が……っ!
 
麻子「……? どうした優花里、そんなに見つめられたら俺でも照れるんだが」

優花里「わたしには西住殿があああああ!」 

 いけない、脳内と現実がごっちゃになっては。なんとかリカバリーしないと……。

麻子「優花里はどうしてそんなにみほに憧れてるんだ?」

優花里「え? いや、その……えーっとですね……」

麻子「それは恋心と違うのか?」

優花里「なああああああ!? ちがっ、違いますよ! 女子同士なんですからっ!」

もしできればイフの場合で友達という一線を超えられたらいいなぐらいなんですから!

麻子「女子同士、か……」

 あれ? これってもしや異性だったら恋心になりえたって自分から行っちゃいました!?

優花里「いやっ、そうではなくてぇっ」

麻子「優花里から見て、俺は……恋心を抱けるに値するか?」

 は、

優花里「はいいいいいいいいいいいいい!? えっ、ちょっ!?」

麻子「冗談だ。行くぞ」

 気付けば三番手の選手にバトンがわたっていましたか……。
 冷泉殿の言葉が真剣味を帯びすぎて冗談に聞こえないんですがそれは。
 とりあえずレーンに入り、軽く屈伸。
 走っている選手を見ると、現状一位から紅組白組紅組白組と、それなりに混戦はしている様子。
 あ、四位の白組が三位の紅組を抜かした。
 三番手の選手が最後のコーナーを曲がり、バトンパスの準備をする。

 むぅ、わたしのチームは三位。巻き返せるでしょうか……。
 一言と共にバトンが受け渡される中、わたしがバトンに触れても冷泉殿はまだバトンを受け取っていない。
 
「ごめんっ、頑張って!」

優花里「はい! 頑張ります!」

 申し訳ありません、冷泉殿。今日だけは同じ戦車に身を寄せる仲間であっても負けられませんっ!

 戦車道を始めてから続けてきたランニングは決して無駄ではありませんでした!
 前を走る選手の背中が徐々に近づいていく感覚は初めてのもので、疲れるはずなのにもっと速く走りたくなる。
 意識は走ることにどんどん集中していって、放送部の実況なんてまるで耳に入ってきませんでした。
 だから気付かなかったんだと思います。
 視界の端に黒い髪が映り込むまで、冷泉殿に抜かされるなんて、髪の毛の先ほどにも思っていませんでした。

優花里「なッ」

 少しだけ、回した首で見えた冷泉殿の表情は、まさに勝利だけを見据えていたと、一瞬で脳が理解しました。

 冷泉殿はわたしを抜かして三位になったかと思うと、あっという間にもうひとりの白組を抜かして二位に躍り出ました。
 この時点で、紅組のワンツーフィニッシュ。最高の結果でしょう。
 けれど、後ろを走っていたわたしなら分かりました。
 もっと速くなったんです。
 目の前の選手だけを見ていたわたしとは根本から違っていたのです。
 冷泉殿が見ているのは、きっとまっさらなゴールテープただ一つ。
 
麻子『なるほどな。……だが、今日だけは俺も負ける気はない。勝たなきゃいけない理由があるんでな』

 先ほどの冷泉殿の言葉が頭の中で反響し、言葉の意味を塗り替えていきました。
 負ける気がない、とは、わたし及び白組に向けたものではなく、このリレーを走る全員に向けてだと。

――――――――――

『まさかまさかの白熱に次ぐ爆熱! 一位は疾風の如く四位からの巻き返し! 最近話題の王子様ぁ! 冷泉麻子選手ぅ! ではでは、早速インタビューの方を……』

麻子「っ、く……マイク貸してくれ……」

『え? あ、はい」

麻子『――聞いてくれ』

 

――――――――――

華「わぁ、すごいですね麻子さん!」

沙織「うん……かっこよかった」

 かっこいい麻子が見れて嬉しい反面、そんな麻子がかっこつけたい相手が羨ましい。
 
華「保健室で寝てなくてよかったですね」

沙織「あっはは……」

『まさかまさかの白熱に次ぐ爆熱! 一位は疾風の如く四位からの巻き返し! 最近話題の王子様ぁ! 冷泉麻子選手ぅ! ではでは、早速インタビューの方を……』

華「あ、一位になったから麻子さんインタビュー受けますね」


沙織「あ……」

 みんなの前で。
 あっはっは、なーるほーどねー。みんなの前で告白ねー。
 このために躍起になってたの。へー。
 一位のインタビューは伝統らしいし、辻褄が合う。
 
華「どうしたんですか? 本当に調子が悪かったりします?」

沙織「これから吐いて吐血して失神するかも」

『え?』

麻子『――『沙織』聞いてくれ』

 ……え?

麻子『俺は……沙織が好きだ』

沙織「え、え、え、」

 え、が入り乱れる。疑問符も飛び交う。現に何がどうなって、

麻子『だからと言っちゃなんだが、俺とデートしてくれないか』

 今宵はここらで。
 もっとかっこよく書きたかった悔しい。

――――――――――

 体育祭の結論から言えば、紅組は負けた。三年生の選抜リレーで接戦の末、ギリギリ負けてしまったらしい。
 なんでらしいかって?
 
麻子「まさか倒れるとは思ってもなかったんだが」

沙織「だってびっくりしたんだもん……麻子のバカ」

 夕陽が横から射して、影を長くする。
 そんな中、わたしと麻子は歩いていた。

 麻子の大勢の前――みんなの前で――公開告白を受け、わたしが発した言葉は「きゅぅ」だったらしい。最早記憶はあやふやで、麻子の言葉しか覚えてない。つまりは、それを聴き終えた瞬間倒れたということで……。
 今思い出しても、夕陽のせいにすれば大丈夫……なはず。

麻子「……悪かったな。あんな事言って」

沙織「わっ、悪くなんか……ううん、やっぱり悪いっ! 恥ずかしかったもんっ! それに……初めて……だったし」

麻子「初めて……そうか」

沙織「……なんで笑うの」

麻子「あれだけ、恋愛恋愛言ってるのに、俺が初っておかしな話だな、ってな」

 気付けば見蕩れていた。一瞬の笑みだったのに、写真みたいに網膜に焼きついて。
 男の子みたいに無邪気に笑う麻子が。
 慌てて目を瞑って首を振った。

麻子「……ちょっと座って話でもしよう、あんまり早く帰りたくないしな」

 いちいち一言が体温上昇に一役買っているのお気づき?
 まぁ、言われるがままにベンチに座っちゃうんだけど。

麻子「なんで鞄を間に置くんだ」

沙織「いやっ、なんとなく……」

 おかしい。いつもならくっついて座るくらいはするのに。鞄置いたのあたしだけど。

麻子「……」

沙織「……」

 座ったはいいけど、沈黙が気まずい。
 麻子は手を組んで微動だにしないし、あたしは逆に手を何回も置き直したりして落ち着きがない。
 何か、何か言わないと……。
 
沙織「ど、どうしてあたしだったの……?」

 なんか重い事に手出しちゃった感がーっ!

麻子「……この状況でそれを聞くか……」

 呟いた麻子は少し悩んだかのように瞼を閉じてから立ち上がり、あたしの前で向き合う形になった。

沙織「えっ、え」

 麻子が少し屈んで顔の高さが座っているあたしと同じになった。
 瞳の奥には何も見えない。
 だけど、こんなにも人の心が見えたらいいのに、って思う事は二度とないと思う。
 横から射す夕陽が憎らしい。麻子の表情を影で隠してしまうし、やけにロマンティックに演出してくるから。

麻子「沙織、キスってした事あるか?」

沙織「……この状況でなんでそんな事聞くの……?」

 自然と視線が麻子のくちびるに向いてしまう。

麻子「聞いてみただけだ」
 
 目の前に麻子がいて、さっき告白されて、夕陽が射し込む中キスの話をして、
 
 麻子の顔が近づいてきて、

 今宵はここらで。
 しばらくサボっててすいませんでした。
 あと、酉のニックネームの存在を先日初めて知りました。
 もう自分で決めた〆切くらいは破らずにがんがります。

―――――――――― 振替休日を経て

華「さ、ささささ沙織さん!?」

沙織「あ、おはよう。どうしたの? 顔赤いよ?」

麻子「ふぁ……」

沙織「麻子ったらね、体育祭終わったんだからもう早起きしなくてもいいって――」

華「どうしたのじゃないですしそれどころじゃないですよ!」

華「体育祭のあと、麻子さんと、き、きき、キスしてましたよねっ!?」

沙織「あー……えっへっへっ」///

麻子「してないぞ。沙織もそんな反応するな」

麻子「と言うか、見てたのは華だったのか。視線は感じていたが」

華「だって、仲良しの女の子二人が告白して一緒に夕暮れの中帰るとか……黙って見ていられるわけないじゃないですか!
  実際どうなんですか沙織さんっ!」

沙織「えーっとね――」

――――――――――少しばかり逆戻り振替休日

麻子「これに関しては、本当にすまなかった」

沙織「え」

 わたしは喫茶店で麻子に頭を下げられていた。

 ほわい? わっつ? なんで? どうして? 

麻子「……かいつまんで説明するとだな……。その、そど子は俺が誰かを好きになってないと納得がいかないらしくてな……そのときの流れで好きなやつがいるって言ってしまってな。そしたら、みんなの前で告白してくれたら信じるってそど子が」

 はー。
 ……なんだか、色々と合点がいく気がする。

沙織「つまり、わたしは隠れ蓑って事?」

麻子「……まぁ、そうなるな」

沙織「……ふぁあぁぁあ」 

 なんだか力が抜けてきた。今日だって一番おしゃれだと思うコーディネートで決めてきたけど、もはやどうでもよくなった。

麻子「……どうして笑ってるんだ? 沙織」


沙織「えっ? あたし笑ってた?」

麻子「ああ」

 自分の頬を触ってみると、確かに笑ってるかもしれない。
 それはたぶん、

沙織「たぶん、安心したからだよ」

沙織「麻子が、どこか遠くへ行っちゃわないって、誰かあたしの知らない人にとられちゃわないって、まだ麻子と一緒にいれるんだって、安心できたから」

麻子「……そうか。なら、いいんだ」

沙織「ねぇ、麻子」

麻子「ああ」

沙織「あたしは麻子の事、大好きだよ」

麻子「……そう、か。その、なんだ……ありがとな」

沙織「うん。だから、あたしを逃げるための嘘に使ったのも許してあげるし、その嘘にもつきあってあげる」

麻子「いや、別にフってくれてもいいんだぞ?」

沙織「だって麻子の事嫌いじゃないもん」

麻子「……まったく」

沙織「恋愛に関してなら十八番なんだからね? そもそも――」

麻子「大好きだ沙織」

沙織「……ずるい。でもありがと」

麻子「なんか幼なじみっぽくないな、この会話」

――――――――――

沙織「ってな具合に」

華「それはごちそうさまです……ではなく! 夕暮れのお話ですよ!?」

麻子「あれは、俺が耳元で『デートは喫茶店でいいか』って言っただけだ」

華「このっ、ヘタレ麻子さんっ!」

麻子「!?」

沙織「まぁ、一件落着って事だよ!」

麻子「ああ」

華「うぅ……腑に落ちません……」

 今宵はここらで。
 大変長らく。待ってくれていた人がいたなんて感涙です。
 最近は体力も余ってきたので、せめて一週間に一度は更新したいです(願望)。

 次回、文化祭編です。

――――――――――十一月

そど子「遅刻よ、冷泉さん」

麻子「そど子か。もう寒いのによくやるな」

そど子「当たり前じゃない、風紀委員なんだから」

そど子「……彼女さんとは良好なの?」

麻子「ぼちぼち。正直、昔から何も変わってないけどな。俺が告白したっていうだけで」

そど子「そう……せいぜい風紀を乱さないよう文化祭を楽しむ事ね」

麻子「もうそんな時期か……沙織が最近テンション高いわけがわかったよ」

そど子「惚気話なんて聞きたくないわよ」

麻子「そうかい」

――――――――――

華「というわけで、私が脚本を務める劇に決まりましたよ麻子さん」

沙織「また寝てたんでしょ。ほっぺにあとついてるし」

麻子「あー……じゃあ沙織が姫とかの劇なら見てるだけで満足だから」

華「いいですね、丁度王子様もいますしね」

沙織「やだもー、麻子ったら」

麻子「ちょっと待て、俺はやらないぞ」

華「なんで、ですか?」

麻子「なんでも何もやりたくないからに決まってるだろ」

華「沙織さんをお姫様にするなら王子様が必要じゃないですか。それは麻子さんじゃなくていいんですか?」

麻子「……別に劇だろ。それになんで王子が俺に決まってるんだ。みほのが適任じゃないのか、この学校の救世主みたいなものだろ」

華「じゃあみほさんも王子様にするので麻子さんも王子様になってください」

華「とりあえず書いてきます! 書いてしまえば麻子さんも逃げはしないでしょう!」

麻子「ちょ、待て、は」

華「脳内心中百合の花カーニバアアアアアアる!」

沙織「華!? ちょっとどこ行くの!」

沙織「今日まだ授業あるんだけど……」

麻子「はぁ……もう放っておけ。チャイムが鳴れば帰ってくるだろ」

沙織「そ、そうだよね……」

沙織「そ、それでさ、麻子は……王子様やってくれるの?」

麻子「あの様子じゃ絶対書いてくるだろ……クラスで発表なんかされたら、やるしかない」

沙織「は、華があたしをお姫様にしてくれるなら、なんか、恥ずかしいけど嬉しいんだけど……」

麻子「なんだ、どうかしたのか?」

沙織「あたしが、麻子に王子様やって……って言ってら、いやいやでもやってくれる……?」

麻子「……沙織が言ってくれるなら、少なくとも、嫌、ではない……な」

沙織「……そっか……えっへっへ」

麻子「はぁ……文化祭も大変になりそうな気がするな……」

 それからしばらくの間、華は授業にだけ顔を見せ、休み時間になるとどこかへ行き、時間ギリギリまで帰ってこない事が多くなった。
 数日後には、目の下にクマが出来、授業中もうつらうつらとし、時に、

華「はい……はい……今週中には……台本あげますから……」

 と、独り言をつぶやくようになった。
 
沙織「は、華、最近大丈夫? 脚本の事で追い詰められてたり……」

華「さ、沙織さんっ! いくら麻子さんとはいえ、そんな事おおおお!」

沙織「!? 華鼻血鼻血!」

 と、妄想と現実が混じり合ったりもしていた。

 今宵はここらで。
 ちゃんと書きます……書きますから……。
 早く書けって言われたらもっと早くなります。

――――――――――
華「ううぅぅうぅぅぅう……」

麻子「華、そんなに脚本の事で悩んでいるなら相談に乗るぞ?」

華「え、いや、でも、麻子さんは役者さんですし……」

麻子「役者だから、だ。やるからにはちゃんとやるし、脚本が止まってたら何も出来ないだろ。それに、クマが酷くて見てられない」

華「……ダメダメですね、王子様ならもっと格好良い言葉言ってくださいよ」

麻子「ふっ、俺はあくまでも、沙織の王子役だ。で、脚本はどこまで出来ているんだ?」

華「とりあえず大まかな物語の流れとキャラクターの設定は出来ているのですが……中盤ですかね」

華「物語は、王子様サイドとヒロインサイドに分かれて展開させようと思っているのですが……」

麻子「少し複雑になるな」

華「そこは頑張ります……物語の始まりは幼い頃の回想です。王子様がお城を抜け出した先で少女と出会うんです」

麻子「ほう、王子から動いていくのか」

華「それから、王子様は何度もお城を抜け出して少女に会いに行くんです。少女はあまり裕福そうではなく、王子様も自分の身分は隠して会っていました」

麻子「身分違いの恋は定番だな」

華「しかし、しばらくして少女は姿を消してしまいます。何度会いにお城を抜け出しても少女には会えなくなり、いつからか王子様はお城から抜け出さなくなります」

麻子「それは……なんだか悲しいな」

華「時が流れても王子様の心の中には少女の影が残っていました。そして、王子様に隣国のお姫様との結婚の話が出てきます。王子様は少女が今後自分の前に現れてはくれないだろうと思い、少女を忘れるためにも、OKの返事を出してしまいます」

麻子「おい王子、ちゃんと考えろ」

 今宵はここらで。
 夜も纏わり付くような暑さになってきましたね……。

華「そして隣国へ赴くと、町の中で幼い日の面影を残したまま成長した少女を見つけてしまい――」

――――――――

華「……というのが、考えている物語です」

麻子「なんだ、全部出来てるじゃないか。面白かったぞ」

華「いえ、まぁ、人に話ながらまとめるとすらすら出てきてしまうと言いますか……」

華「何か、気になる部分とかはありませんでしたか?」

麻子「……じゃあ、一つ。……この王子はどうして、少女を好きになったんだ?」

華「それは……好きになってしまったからじゃないですかね」

麻子「そういう、ものか」

華「そういうものですよ、誰かを好きになるなんて」

華「……本音を言えば好きになってもらわないと困るんですけどね……書く側からすれば」

麻子「まぁ、そうだろうな」

華「ふぅ、とりあえず、セリフとか全部まとめたものを今日書いてきます。次のHRで役とかは決められると思います。王子様役と少女役は決めていますが」

麻子「いいのか勝手に……」

華「脚本からの最後の願いです」

――――――――

 華は実際に翌日、台本を完成させてきた。沙織やみほを筆頭にクラスメイトからも好評で華も安心していた。
 そしてHR。

華「主人公王子様には麻子さん、少女は沙織さん、隣国王子様にはみほさん、これは決定事項でよろしいですね」

麻子「ちょっと待――」

「いいと思いまーす」「やっぱり王子様は冷泉さんだよね~」「そうそう」「格好いいしね」

麻子「ぐぉぉ……」

華「わが生涯に一片の悔いなし!」

みほ「華さんが腕を天に突き上げ死んじゃいそう!」

沙織「せめて文化祭で劇が成功してからにしようよ!?」

華「後はお任せします……私は……もう……がくっ」

沙織「華!? 華あああああああ!」

麻子「寝不足だろ。寝かせておいてやれ」

麻子「まぁ、もうちょっと頑張ってもらうけどな」

――――――――

麻子「華、役決めは順調に進んでHRは終わったぞ」

華「そうですか……どうなりましたか……?」

沙織「あの、それがね……」

麻子「隣国の姫、頑張れよ」

華「えっ」

沙織「いやぁ、結局メインにいつものメンバーが集まっちゃった、かなぁ」ヤダモー

華「舞台袖から指示を飛ばす夢があああああああああああ!」

 今宵はここらで。
 大洗行ってきました。夜中、お腹出して寝たりでお腹を壊さないように気をつけてください。私は夏場の方がお腹を壊しやすい気がします。

――――――――――――――――

 華の脚本が上がってからは順調に事は進んでいった。
 文化祭の日が近付くに連れ、劇の完成度も比例して高まっていく。
 ただし、一点を除いて……。

沙織「な、なっ、な、っ、なああああああああああ!!」

華「はいカットォ!」

麻子「いや、キツいだろ……このラストシーン」

 そのラストシーン。
 言い換えてしまえば、キスシーンなのである。
 
沙織「き、きき、キスってぇ! 文化祭の劇なんだよ!?」

華「『文化祭の劇』ですがなんですか! 一芝居入魂! 本物以上の偽物! 現実以上の架空!」

沙織「で、でもあたし……初めてもまだだし……」

華「私が沙織さんの初めて奪ってしまえば気兼ねなく接吻が可能というですか! ならば――あ痛ぁ!」スパコーン

麻子「のめり込みすぎだ」

華「はっ……私は何を……」

麻子「別に、実際にキスするわけじゃないだろ。それっぽく見えれば」

沙織「それでもっ! やっぱり、顔とか近付くし……」

みほ「顔をずらして、観客席からはキスしてるように見せれば良いんじゃない?」

麻子「ああ、この前マンガで似たようなのを読んだな、それは後ろに光源があったが。影がキスしてるように見えるんだ」

華「むむむ……では、実際にやってみましょうか……」

沙織「こっ、こう……?」

麻子「これでいいか?」

華「う~~~ん……何か違う。近いからですかね……」

みほ「多分そうだと思うよ……舞台の舌からだとだいぶ違うんじゃないかな」

 今宵はここらで。
 遅くなりました。遅いだけです。遅いだけなんです。

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