冷泉麻子「朝は何故来るのだろう……」 (55)

深夜 冷泉宅

麻子「今日はこの位置から月が良く見える……」

麻子「もう1時か。そろそろ寝ないとまた沙織に怒られるな」

麻子「あとそど子にも小言を言われる」

麻子「……」

麻子「なにより遅刻をするのはな」

麻子「戦車道のおかげで色々と免除になったとはいえ、また遅刻日数を増やしてしまうと……」

麻子「寝るか」

麻子「はぁ……」

麻子「やっぱりもう少し起きておくか」

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翌日

沙織「まこー!!! おきてぇぇぇ!!!」グイッ

麻子「むぅぅ……」

沙織「遅刻するわよぉぉ!!!」

麻子「朝は何故来るのだろう……」

沙織「折角、遅刻全部消えたのにまた増やすの!?」

麻子「増やしたくない……」

沙織「なら起きろぉー!!」グイッ

麻子「起きたくない……」

沙織「おばあちゃんに怒られてもいいの!?」

麻子「よくない……」

沙織「もー!! おきてよぉぉ!!! 昨日は何時まで起きてたのよ!?」

麻子「たぶん、2時……」

沙織「朝起きれなくなるの分かってるくせになんでそんな時間まで起きてるのよぉ!!!」グイッグイッ

麻子「朝が来るのが悪い……」

沙織「仕方ない。――みぽりん、お願い!!」

麻子「……」

ドォォォォン!!!!

麻子「ん……?」

みほ『すみません!! 空砲です!!』

麻子「また戦車で……近所迷惑だからやめたほうがいい……」

沙織「これ以上、麻子を遅刻させるわけにはいかないの」

麻子「……なんで?」

沙織「なんでって一緒に卒業できなくなってもいいの?」

麻子「あぁ……よくない……」

沙織「私のこと、先輩なんて言えないでしょ」

麻子「そうだな」

沙織「ほら、制服に着替えて。みぽりんと華とゆかりんも待ってるんだから」

麻子「分かった……あと5分……」モゾモゾ

沙織「わかってなぁい!!! ねるなぁー!!!」グイッ

Ⅳ号戦車内

麻子「西住さんが操縦してたのか……」

みほ「あまり得意じゃないけど、学校までの安全運転ならなんとかなるから」

優花里「冷泉殿、おはようございます」

麻子「うん」

華「大変でしたね、沙織さん」

沙織「ホントだよぉ。麻子ったら堂々と2度寝しようとしたんだから」

みほ「麻子さん、戦車に乗ってから低血圧が改善したって言ってなかったっけ?」

麻子「少しだけだ」

沙織「多少低血圧が直ったって、夜の2時まで起きてたら意味ないって」

華「そんなに遅くまで何をされていたのですか?」

麻子「別になにも」

優花里「冷泉殿のことですから、きっと教養を高めるために読書や勉学に勤しんでいたんですよぉ」

沙織「ないない」

優花里「そうなんですかぁ?」

大洗女子学園 校門

Ⅳ号戦車『おはようございます!!』ゴゴゴゴッ

みどり子「ちょっと!!! 戦車で登校なんてしないで!!!!」

優花里「すみません!!」

みほ「ごめんなさい。でも、会長の許可は貰っています」

みどり子「会長はなんでも許可を出すから関係ない。大体、会長は西住さんたちに特別甘いんだから」

麻子「すまんな、そど子。みんな私のためにしてくれたことなんだ。あまり怒らないでやってくれ」

みどり子「怒るわよ!! あと名前を略さないで!!」

華「申し訳ありません。近所迷惑なのは分かっていたのですが」

みどり子「そういう問題でもないの!!」

沙織「ほら、麻子。こうして怒られるんだから早寝早起きを心掛けてよね」

麻子「分かった。7時頃に寝る」

沙織「ちがうぅ! それだと早すぎぃ!!」

みどり子「もういいから。早く格納庫へ行ってきなさい。もうすぐ予鈴が鳴るわよ」

みほ「はい!」

格納庫

沙織「会長の許可はあったとはいえ、やっぱり園さんには怒られちゃったね」

優花里「園殿は自身の職務に誇りを持っていますからね。当然だと思います」

華「遅刻対策に自転車で登校するのとはわけが違いますし」

麻子「明日からはなんとか気を付けてみる」

みほ「気にしないで。私も戦車で登校なんてしたことがなかったから、ちょっと楽しかったぐらいで」

麻子「あれ? でも、Ⅳ号に乗ってきたということは一度学校に行ったんじゃないのか」

みほ「Ⅳ号を持ってきたのは私じゃなくて、沙織さんなの」

麻子「沙織……」

沙織「だ、だって空砲でもないと麻子は起きないと思ったんだもん」

麻子「……運転できたのか」

沙織「そこに驚くよりも先に感謝とか謝罪の言葉でしょ!!」

みほ「あはは……」

「冷泉ちゃん」ガシッ

麻子「え……?」

ゾンビ「がおー」

麻子「ひっ……!?」

ゾンビ「干し芋くれなきゃたべちゃうぞー」

麻子「うわぁぁぁー!!!」ダダダッ

みほ「わっ。びっくりした」

沙織「ちょっと麻子ー!! どこまで行くのよぉ!!」

華「その声は会長ですか」

杏「――だぁいせいかい。どう、この被りモノ。結構いい出来だと思わない?」

優花里「クオリティが高いですね。自作ですか?」

杏「そうそう。今週は大洗ハロウィンウィークだから、仮装し放題だ」

優花里「おぉ!! そういえばそんな時期でしたね!!」

華「どうしましょう。準備ができていません」

杏「お菓子を持っていればそれで十分だから、心配ないよ。貸衣装だってあるしね。ところで冷泉ちゃんがすごい遠くまで逃げちゃったけど、そんなに怖かった?」

みほ「いえ、麻子さんはお化けとかそういうのが苦手で……」

杏「あぁ、そうなんだ。じゃ、謝ってくる」

麻子「おぉぉぉ……おばけぇ……」

沙織「あれは被りモノだって。一発でわかるじゃん」

麻子「おぉぉ……」

沙織「夜更かし大好きで頭もいいのにお化けが怖いってどういうこと?」

麻子「怖いものを怖いと思って何が悪い――」

あや「沙織せんぱいと麻子せんぱいだにゃぁ」

優季「トリックオアトリートだにゃん」

桂利奈「お菓子くれなきゃ悪戯するにゃー」

沙織「みんな、おはよう」

梓「おはようございます」

あゆみ「がおー」

麻子「うわぁぁ!!!」

沙織「いやいや。みんな猫耳つけてるだけ……。沙希ちゃんは落武者みたいで怖いけど」

紗希「おちむしゃのたたり」

麻子「な、なんでこんなオバケばっかり……世界はどうなってしまったんだ……」

梓「あれ、知らないんですか? 今週はハロウィンウィークなんですよ」

沙織「あ、確かに去年似たようなことしたなぁ。会長はお祭り好きだよね」

あゆみ「仮装するの楽しいですよね。生徒会が簡易衣装とか貸し出してくれてますし」

沙織「だから、その猫耳つけてるんだ」

桂利奈「はいだにゃー」

あや「にゃー」

麻子「おぉ……」ビクッ

優季「麻子先輩、かわいいぃ」

杏「冷泉ちゃーん」

麻子「か、会長……学校はどうなってしまったんだ……バイオハザードなのか……」

杏「いやぁ、悪いねぇ。今週はハロウィンウィークってことでさ、こういう仮装をしてもいいことになってるんだ」

麻子「な、なんてくだらないことを……」

杏「冷泉ちゃんは苦手なんだってね。でも、まぁ見ての通りそこまでホラーに偏った仮装をしている生徒は……」

紗希「たたりぃ」

杏「……若干いるみたいだね」

格納庫

紗希「たたりぃ」

左衛門佐「これはすごい!! 落武者が余すところなく再現されている!!」

おりょう「一種の芸術ぜよ」

カエサル「生前、大戦を経験したような風貌だ」

エルヴィン「傷痍軍人といえば南北戦争や日露戦争でも大きな問題になったが、こういった戦国時代の武士をみると遥か古の時代から社会問題だったのかもしれないな」

麻子「うぅぅ……誰か丸山さんにあの衣装を脱ぐようにいってくれないか……」ギュゥゥ

みほ「麻子さん、そんなにくっつかなくても」

沙織「こーら。みぽりんが困ってるから」

杏「河嶋ぁ。丸山ちゃんの仮装だけど、もうちょっとマイルドにしてあげて」

桃「分かりました」

優花里「というか、今週は仮装したまま戦車の練習をするのですか?」

杏「他の授業でも仮装のまま出席してもいいよー」

麻子「地獄か……ここは……」

優花里「冷泉殿、向こうを見てください。あれを見れば少しは楽しくなるではありませんか?」

ナカジマ「私たちはどんな仮装にする?」

ツチヤ「やっぱり車の仮装がいいよね」

ホシノ「ラリーカーっぽくしない?」

スズキ「ハロウィンって普通はお化けの仮装じゃないの?」

典子「大変だ!! 八九式に搭乗できない!!!」ムギュゥ

妙子「キャプテン!! 流石にバボちゃんのままでは無理ですよ!!」

典子「いや!! このままでも搭乗できるはずだ!!! 近藤! 河西! 佐々木! 根性で押し込んでくれ!!」

忍「わ、わかりました!! みんな!! キャプテンをバボちゃんのまま八九式の中へ入れよう!!」

あけび「わ、わかったぁ!!」ギュッギュッ

妙子「オーエス!! オーエス!!」ギュッギュッ

典子「むぐぐぐ……!!! エ、ス、オーエス……エス、オーエス……!!」

忍「キャプテンもがんばってる!! みんなー!! もっと押し込んで!!」

妙子・あけび「「キャプテン!! オーエス!! オーエス!!」」グイグイッ

典子「ちょ……!! しぬ……!! 圧死する……これ……!! たすけて……エスオーエス……」

麻子「こういうのを見ている分にはハロウィンもいいかもしれないな……」

優花里「よかった。お祭りですし、怖がるのはもったないですよ」

麻子「しかし、わざわざオバケに仮装する神経が分からない。日本の文化でもないのに」

沙織「それをいったらクリスマスなんかも否定しちゃうわけになるけど」

桃「お前たち、浮かれ過ぎだ!! さっさと戦車に乗り込め!! 授業は始まっているんだぞ!!」

柚子「桃ちゃんだって怖いお面つけてるじゃない」

華「みなさん楽しそうで羨ましいです。わたくしたちもあとで仮装しましょうね」

沙織「するのはいいんだけどさぁ」

麻子「オバケになったら幼馴染やめる」

沙織「これだもん」

優花里「動物の耳をつけるぐらいならむしろ可愛くていいと思うのですが」

麻子「でも……」

華「耳なら猫田さんがいつも着けていますし」

ねこにゃー「はい。ボクのトレードマークです」

麻子「……まぁ、耳なら」

みほ「と、とりあえず、戦車に乗ろうよ」

Ⅳ号戦車内

華「どの動物にしますか?」

優花里「武部殿はやっぱり猫ですよね」

沙織「まぁ、武部沙織イコール猫みたいなところはあるからね」

華「そうですねぇ。沙織さんは猫ですわ」

みほ「私は何がいいかな?」

優花里「西住殿は草原を駆ける獅子が似合うのではないですか?」

みほ「ライオン!? そんなの私とはかけ離れてるよぉ」

優花里「そうですかぁ? 凛々しく気高い西住殿を象徴する動物だと思うのですが」

沙織「みぽりんは犬っぽいよね」

華「あぁ、いいですね。愛らしいみほさんにはぴったりです」

みほ「愛らしいなんて……」

優花里「冷泉殿は猫がいいですか?」

麻子「……西住さん、目的の地点に到着したぞ」

みほ「あ、ごめんなさい。それでは練習を始めましょう」

放課後 通学路

華「熊の耳しか残っていませんでした」

沙織「いいじゃん。可愛いよ、華」

華「沙織さんみたいに猫がよかったです」

優花里「西住殿のイヌ耳、とっても似合っていますよ!!」

みほ「あはは、ありがとう」

麻子「……」

優花里「冷泉殿? ハロウィンは苦手なんですか?」

麻子「別に」

沙織「紗希ちゃんの落武者だってゆるキャラみたいになったんだから、いい加減機嫌直しなよぉ」

麻子「……もういい。また明日」

みほ「あ、麻子さん。明日は朝練があるから」

麻子「分かっている。5時起床だな」

華「なんでしょう。複雑そうな表情をしていましたね」

優花里「ハロウィンが嫌なだけではないんでしょうか」

冷泉宅

麻子「……」ピッ

麻子「……もしもし」

久子『もしもし』

麻子「なんともない?」

久子『何かあれば電話に出られるわけがないだろう』

麻子「そう……」

久子『明日も戦車の練習あるんだろ? もう寝な』

麻子「うん。また明日、電話するから」

久子『はいはい。今度の休みにはまた顔見せにくること。わかってるね?』

麻子「分かってる。おやすみ」

久子『ああ、おやすみ』

麻子「……テレビでもみるか」ピッ

『ハロウィンということでゾンビの仮装をしている人がこんなにも集まっています!!』

麻子「ひっ!?」ビクッ

翌朝

沙織「おきろぉぉぉ……!!!」グイッ

麻子「むり……」

沙織「昨日は何時に寝たのよぉぉ……!!」

麻子「たぶん、3時……」

沙織「なにやってるのよぉ!! 朝練があるってみぽりんにも念を押されたでしょう!?」

麻子「怖いニュースをやっていたのが悪い……」

沙織「怖いニュース?」

麻子「ゾンビが大量に映し出されていた……あんなものニュースでもなんでもない……」

沙織「なんでそんなので夜眠れなくなるのよぉぉ……!!!」グイッグイッ

麻子「朝が悪い……ニュースも悪い……私は悪くない……おやすみ……」

沙織「ねるなってばぁぁ!!! ――ゆかりん!! お願い!!」

優花里「分かりました! 行きます!!」

パパパパッパパッパパパパパ~♪

麻子「んー……? 今日は秋山さんか……ラッパの音が……きこえる……」

通学路

麻子「うぅぅ……ねむいぃ……」

沙織「もー、ちゃんと歩いてよね」

優花里「冷泉殿って朝が弱いというより、夜更かししてしまうのですね」

沙織「昔から基本的に夜型なんだよね、この子。限界まで起きて朝はぐっすり寝る。そんな毎日送ってきたよ」

華「そういう生活はあまり体にも良くないと聞いたことがありますが」

みほ「うん。麻子さん、せめて夜の11時ぐらいには寝るようにしたほうがいいんじゃないかな?」

麻子「難しいな……」

沙織「麻子さぁ、みんな麻子のためを思って言ってくれてるんだから、少しは反省してよ」

麻子「分かっている……分かっているが……朝が来るのほうが悪い……」

沙織「何言ってるのよぉ。あまり遅くまで起きてると、オバケが来ちゃうよ?」

麻子「……ふっ。それは嘘だ。今まで来た事がない」

沙織「……」

みほ「沙織さん、それは小学生でも信じないんじゃ……」

沙織「昔の麻子はこれで言うこと聞いてたの。あぁ、あのときの麻子は可愛げがあったのになぁ」

大洗女子学園 格納庫

みどり子「今日も遅刻ギリギリだったわね、冷泉さん」

麻子「そど子ぉ……」

みどり子「折角、優勝して欠席と遅刻が帳消しになったのにこれじゃあ進級はできても卒業できないわよ」

麻子「そのときはまたそど子に消してもらうからいい」

みどり子「何言ってるのよ!! 私は来年には卒業してるんだからいつまでもあなたの世話なんてできないのよ!!」

麻子「じゃあ、そど子は卒業を引き伸ばしてくれ」

みどり子「なんで私が冷泉さんのために留年しなきゃいけないのよ!!」

桃「冷泉のアレはどうにかならないのか。今はいいとしても大事な日に遅刻されては困るぞ」

沙織「どうしても寝るのが深夜になっちゃうみたいで」

杏「わかるわかる。深夜のテレビ番組のほうが面白いんだよねぇ」

優花里「そうですね。私が良く見る戦車の番組も深夜のほうが内容は濃いです。大戦時には活躍できなかった戦車のことも事細かく解説してくれていますし」

華「麻子さんはそういう番組は見ないような気もしますよ」

柚子「それに録画なんかもできるから、わざわざ起きてみる必要もないと思うんだけど」

みほ「あ、確かに……」

沙織「もう昔からああだから、あれは一生治らないと思うなぁ」

杏「昔からって小学生のときから?」

沙織「はい。麻子とはもう10年の付き合いです」

杏「遠足とかそういうときも冷泉ちゃんはあんな感じだったの?」

沙織「えーと……。そうですね。中学校の修学旅行なんかでも私が叩き起こしました。まぁ低血圧の所為もあるんですけど」

杏「不思議なこともあるもんだねぇ」

優花里「どういうことですか?」

杏「楽しいイベントの日って大体早起きするもんだ」

柚子「それは人によるんじゃ……」

みほ「楽しい日に早起きするのは普通のことですよ。自分にとって楽しい日にわざわざ2度寝する人はいないですし、前日も早めに休もうとしますから」

柚子「そういえばそうねぇ」

杏「つまり遠足や修学旅行は冷泉ちゃんにとって何も興奮するほど楽しいことじゃなかったわけだ」

沙織「まぁ、そういうことになるかも」

優花里「低血圧の人でも朝一番に日光を浴びることで改善されるとも聞いたことがありますね」

桃「冷泉は元より早起きする気がないということか?」

華「そうなのでしょうか?」

杏「冷泉ちゃんが珍しく早起きした日とかなかったの?」

沙織「うーん……戦車道の決勝ですら誰よりも遅く起きたからなぁ……」

みほ「会場でも試合開始前はウトウトしてたもんね」

柚子「冷泉さんにとって早起きしたくなる日は今までなかったということ……?」

桃「熱中できるものがないのか。まぁ、いつも冷静だから冷泉は」

杏「お、座布団いちまぁい」

優花里「以前、聞いたことがありますが冷泉殿って趣味とかもないんですよね」

沙織「そうそう。何かを集めたりとか見たりとか、そういうことで熱心になったり感動したりするような子じゃないんだよ。ケーキを食べるときは若干楽しそうだけど」

杏「良くも悪くも冷めちゃってるわけかぁ」

優花里「そんなことはありません!! 冷泉殿、戦車に乗っているときはいつも真っ赤に燃えています!!」

みほ「誰よりも落ち着いているように思うけど」

華「頼もしいですよね」

みほ「うん。いくら操縦が上手くても決勝戦の大事な場面であんな動きは中々できない。麻子さんも戦車道には真面目に取り組んでるのは間違いないよ」

沙織「やる気がないわけじゃないのはわかるんだけど、麻子って勘違いされやすいのは確かなんだ。昔からあんまり笑わないしさ、愛想もないでしょ?」

優花里「はっ!? そういえば!! 冷泉殿が笑っているところはあまり見たことがありません!!」

杏「私もないなぁ」

柚子「桃ちゃんはある?」

桃「冷泉と常に行動をしている武部ですらあまり笑わないと言っているのに、私が見ることなどできるわけがないだろう」

華「優勝のときでも喜びを分かり易く表情に出してはいませんでしたね」

みほ「園さんに遅刻の記録を全部消去してもらったときにとっても喜んでたけど」

杏「こりゃ、何かで釣って早起きさせるのも無理かぁ」

沙織「そんなこと考えてたんですか!?」

桃「冷泉は成績が良いから多少のことはカバーできるが、出席日数が足りないとなると私たちの力ではどうにもできないぞ」

杏「まぁ、私達が生徒会に居る限りは冷泉ちゃんの遅刻なんてずっと0だけどねぇ」

沙織「会長!! それは麻子を甘やかしすぎ!! 麻子の為にならないから、やめてください!!」

柚子「といっても私たちが生徒会でいられるのはあと2か月間ぐらいだから」

優花里「生徒会のみなさんも引退の時期ですよね」

沙織「昔みたいにオバケで脅すのも高校生の麻子には無理だし。これはお手上げだよ。地道にやっていくしかなさそう」

杏「……それいいねぇ」

みどり子「目覚まし時計とかちゃんとセットしているの?」

麻子「してる」

みどり子「寝る前にカーテンを少し開けて、日の光が顔に当たる位置で寝ている?」

麻子「いや」

みどり子「それをすると眩しさで嫌でも起きるわよ。今日から実践しなさい」

麻子「それ夜の3時まで起きていた奴にも効果はあるのか?」

みどり子「なんでそんな深夜まで起きてるの? 7時間は寝なさいよ!!」

麻子「何も分かっていないな、そど子」

みどり子「何がよ」

麻子「24時間中、人間は平均8時間眠るとされている。つまり1日の3分の1は寝ているわけだ」

みどり子「それがなによ」

麻子「これはこう考えることもできる。人生の3分の1は寝ているだけだと。それでは余りにも無駄が多い。だから私は出来るだけ起きているんだ」

みどり子「あまり寝なかった人って短命だって知ってる?」

麻子「結局起きている時間は一緒ぐらいだ。問題ない」

みどり子「屁理屈こねていないで、ちゃんと寝なさいよ!!」

杏「そうだぞぉ、冷泉ちゃん」

麻子「なに?」

桃「あまり深夜まで起きていると冷泉が苦手なお化けが出るぞ」

柚子「そうそう。だから、今日からでもいいから早寝を心がけよう」

麻子「ふっ。私はそれで何度も騙された。もう騙されることはない」

優花里「何度、同じ手を使ったんですか?」

沙織「数えてないって」

杏「でも、今は丁度ハロウィンなんだよねぇ」

麻子「それがどうした?」

杏「……でるよ?」

麻子「なにが」

杏「オバケ。みんな仮装してるから仲間がいっぱいいると思ってオバケも出てきちゃうんだよ」

麻子「な、なに……?」

華「ハロウィンにはそんな逸話があるのですか?」

みほ「さぁ……」

桃「冷泉。この学園艦にはとある言い伝えがある。それは、夜更かしをする子供をオバケの世界に連れて行ってしまうオバケが来るというものだ」

麻子「そ、そうなのか……?」

杏「そんな絵本あったなぁ」

柚子「桃ちゃんのトラウマになってる絵本ですね」

麻子「だ、だが、私はもう子どもではない」

桃「高校生は十分に子どもだ。公共施設等で大人料金を払わなくてはいけなくなっただけで大人になった気になるな」

麻子「むぅ……」

優花里「河嶋殿が立派なことを言っています!!」

華「麻子さんがオバケをあそこまで信じているのは何かわけでもあるんでしょうか?」

みほ「異常なほど怖がってるようにも見えるね」

杏「でも夜更かしはするんだ。1日中蛍光灯は点けっぱなしとか?」

沙織「いえ、朝起こしに行くときはちゃんと消えてます」

優花里「暗くなるとかえって興奮してしまうこともありますから、一概にオバケが怖いから暗いのも苦手ということではないのでは?」

杏「友達と一緒ならそれも分からなくはないんだけどねぇ」

みほ「……」

桃「ともかく周囲の者に迷惑をかけないようにするためにも、早寝早起きを心掛けろ。寝ない子はオバケの世界に連れていかれてしまうぞ?」

麻子「それは嫌だ……」

桃「ならば早く寝ろ。いいな?」

麻子「うぅぅ……わかった……努力する……」

桃「分かればいい。さぁ、戦車の整備を始めろ!!」

麻子「うぅ……オバケの世界だと……」

みどり子「こんなことで生活習慣が改善されるなら苦労はないですね」

杏「まぁまぁ。試すだけの価値はあるって」

みどり子「冷泉さんのアレは筋金入りですよ。一度脅したぐらいでどうにかなるわけないじゃないですか」

杏「ちゃんと次の作戦も考えてあるから」

みどり子「次の作戦ですか?」

杏「いでよ、オバケたちー!! 冷泉ちゃんが夜更かしした場合、この子たちで脅かすつもりだ」

あや「にゃにゃーん」

あゆみ「寝ない子だれにゃんっ」

みどり子「ふざけるのもいい加減にしてください、会長!! これのどこがオバケなんですかぁ!!」

杏「昨日の丸山ちゃんみたく超怖い落武者だと効果覿面過ぎて大変なことになるから」

みどり子「そうかもしれませんけど」

紗希「おちむしゃのたたりぃ」

左衛門佐「クオリティはだいぶ落ちてしまったが、これはこれで」

おりょう「万人に愛される落武者ぜよ」

カエサル「私はこっちのほうがいいな。大洗のゆるキャラとして売り出してもいけるはずだ」

エルヴィン「名前はちっちゃい落武者でどうだ?」

左衛門佐・おりょう・カエサル「「それだぁ!!」」

ナカジマ「おーい、ホシノー」

ホシノ「ブーン!! どんな砂漠も乗り越える!! ラリーカーの登場!!」テテテッ

典子「バレー魂、いまここに!!!」トテトテ

優花里「おぉ!! 自動車部は車でバレー部はバボちゃんですか!! みなさん、それぞれ部活の個性が溢れていますね!!」

華「可愛いですね」

みどり子「こんなのオバケじゃない!! ただの仮装パーティーになっていますよ!?」

杏「冷泉ちゃんにはこれぐらいが丁度いいんだって」

沙織「大丈夫なの……これ……」

みほ「……ねえ、沙織さん」

沙織「なに?」

みほ「こんなことを聞くのは失礼なのは分かっているんだけど……その……」

沙織「もー、なんなの? 遠慮なくいって。体重は秘密だけど」

みほ「麻子さんがオバケを怖がり始めた時期っていつかな?」

沙織「え? そんなの小さいときからずっとだったと思うけど」

みほ「例えばテレビで怖い番組を見てからとか、遊園地とかのお化け屋敷で怖い目にあったとか、暗い場所に閉じ込められたことがあるとか」

沙織「ちょっと、みぽりん。急にどうしたの?」

みほ「あ、ごめんなさい。でも、麻子さんが河嶋さんの話まで信じていたのが気になって。怖い話や映像が苦手というよりはオバケそのものを怖がっているみたいだし……」

みほ「頭の良い冷泉さんがオバケの存在を心の底から信じているのもちょっと違和感があって……」

沙織「そういえば、麻子って昔から理屈っぽいところあったし、サンタクロースの存在なんかも信じていた時期があったのかも疑わしいぐらいだったような」

みほ「もしかして、ご両親のことが関係してるんじゃないかな?」

沙織「え……あ……ど、どうなんだろう……」

みほ「もしそうなら、あまり触れないほうがいいことなのかも……」

沙織「でも、それを本人には聞けないよね」

みほ「そうだね。ただオバケを怖がるのにそれなりの理由があるとすれば、夜更かしするのも麻子さんなりのわけがあるかもしれない」

沙織「どうする。それとなく聞いてみる?」

みほ「麻子さんは察しがいいから、きっとどう訊ねても話してくれないんじゃないかな」

沙織「それもそっかぁ。これだけ夜更かしするなって言っても直らないんだもんね」

みほ「夜に起きていたい理由ってなんだろう……」

沙織「麻子のおばあちゃんなら何か知ってるのかも。私、麻子の実家の電話番号知ってるし今すぐにでも聞けるよ」

みほ「だけど、麻子さんにとって触れて欲しくないことだったら」

沙織「そうは言ってもこのまま麻子が早起きしてくれなきゃ困るじゃん。3年になって留年なんてことになったら洒落にならないしさぁ」

みほ「うん……」

沙織「それに幼馴染である私や親友のみぽりんたちにまで話せないことなら、きっとおばあちゃんも教えてくれないよ。おばあちゃんが教えてくれなかったら……」

みほ「そっか。そうだね。その場合は触れちゃいけないことなんだよね」

沙織「そのときは私たちが会長たちを止めなきゃいけないでしょ」

みほ「……よし。沙織さん、訊いてみよう」

沙織「オッケー。ちょっと待って」

沙織「あ、もしもし。武部沙織です」

久子『どうしたんだい? まだ授業中じゃないのかい?』

沙織「あ、今は休憩中で。それよりちょっと聞きたいことが」

久子『聞きたいこと? あたしにかい?』

沙織「おばあちゃんは麻子が怖がりなの知ってるよね」

久子『あぁ。あの子は普段は澄ました顔をしているけど、人一倍根性なしだよ。戦車でもそこが表にでちゃってるんだろ』

沙織「そんなことはないよ。むしろ度胸があるぐらいで」

久子『ふぅん』

沙織「高いところも苦手だけど、オバケは特に怖がってるんだ。で、その理由をおばあちゃんはなにか知ってるかなぁって」

久子『そんなこと知ってどうすんだい?』

沙織「あ、えっと……麻子が夜更かしする理由なんかも、そこにあるんじゃないかって……」

久子『それ、あんたが思いついたことなのかい?』

沙織「ううん。私じゃなくてみほが気付いたの」

久子『みほ……。ああ、あんたらの隊長さんだね。今、代われるかい?』

沙織「あ、うん」

みほ「もしもし、代わりました。西住です」

久子『あんたの活躍は麻子から聞いてるよ。いい隊長さんみたいだね』

みほ「いえ、私なんて……」

久子『……麻子のこと心配してくれてるのかい?』

みほ「今、麻子さんの夜更かしをなんとか改善させようとしているんです。その方法にオバケが使われていて」

久子『そうかい、そうかい。あの子には良い薬になるかもね』

みほ「だけど、もし夜更かしにもオバケを怖がるのにも麻子さんのご両親が関わっていることがあるなら、私はみんなを止めます」

久子『そういうことかい』

みほ「何があったのか、麻子さんが何を抱えているのか。そんなことを聞こうとは思いません。ただオバケを使っていいのか、夜更かしを無理にでもやめさせたほうがいいのかを知りたくて」

久子『それ、今日やるのかい?』

みほ「え、ええ」

久子『なら、開始の合図はあたしがやるよ』

みほ「え!?」

久子『なに驚いてんだい。孫の悪癖を直す手助けをしてやろうっていってるんだよ』

沙織「みぽりん、なに言われたの?」

みほ「――ということに」

杏「おばあちゃんが冷泉ちゃんに電話をかける。で、通話が終わった瞬間にオバケを投入しろかぁ。あとで許可をもらうつもりだったけど、まさか家族のほうから頼まれるとはねぇ」

みほ「私も驚いてます」

桃「冷泉の祖母は追い打ちをかけてくれるわけか」

沙織「早く寝ないとオバケがでるぞー的なことを言ってくれるって」

柚子「会長、これは失敗ができませんね」

杏「だねぇ。冷泉ちゃんの家族からの支援を無駄にするわけにはいかないぞー!!」

あや「がんばるにゃーん!!」

あゆみ「がんばりにゃーす!!」

ホシノ「ラリーカーを怖がってくれるか?」

ナカジマ「いきなりラリーカーが出てきたら怖いんじゃない?」

典子「バボちゃんを怖がってほしくはないけど……。今は心を鬼にしなければ……」

妙子「キャプテン、がんばってください!!」

華「これで麻子さんが夜更かしをやめてくれるのでしょうか」

優花里「心配はいりません!! 多分!!」

放課後 通学路

沙織「今日も疲れたー」

麻子「そうだな」

沙織「麻子、今日はちゃんと早く寝た方がいいよ? 毎朝起こすのも大変なんだから」

麻子「私は沙織に起こされるのが好きだから」

沙織「え……。って!! そんなことで誤魔化されないわよ!!」

麻子「バレたか」

沙織「もう。夜になるとオバケが出ちゃうんだからさぁ、早寝したほうが麻子のためなんだよ」

麻子「……」

沙織「別に何かしてるわけでもないんでしょ?」

麻子「……沙織には多分、分からない」

沙織「は? なんでよ。麻子のことを世界で一番理解してるって自負してるけど」

麻子「いい。友達に話すことでもないからな」

沙織「あ、麻子」

麻子「じゃあな」

夜 冷泉宅前

杏「各員、配置にはついた?」

あや『こちら猫娘班。裏口にいます』

あゆみ『周囲に怪しい人は私たち以外にいません』

ナカジマ『ラリーカー班、スタート位置についてます』

ホシノ『エンジン全開』

左衛門佐『落武者班、既に』

おりょう『いつでもいけるぜよ』

カエサル『ちっちゃい落武者も先程から星空を見上げている』

典子『バボちゃんもオッケーです』

杏「あんがと。かわしまぁ。そっちはどう?」

桃『冷泉は読書中のようです』

杏「よぉーし。冷泉ちゃんが電話に出たら、こっそり裏口から全員はいれー」

柚子「こんなことしていいんでしょうか。合鍵まで使って……」

優花里「学生寮ですから生徒会はこうして出入りは簡単にできるんですね……」

華「麻子さんのためとはいえ、段々良心が痛んできました」

沙織「麻子、めちゃくちゃ怒るだろうなぁ……」

みほ「やめるなら、今のうちだけど」

杏「やめるのは無しだね。冷泉ちゃんのおばあちゃんが協力してくれるって言ったわけなんだから」

沙織「そうなんですけど」

杏「普通ならこういうことをしてもいいって許可をするだけで済むところを、おばあちゃんはわざわざ電話をかけるという手段を使ってまで手伝ってくれたわけだ」

優花里「ええ、そうですね」

みほ「……それ、何か不自然のような」

柚子「会長、何が言いたいんですか?」

杏「私たちに何か聞かせたい話でもあるんじゃない?」

沙織「聞かせたい……?」

杏「まぁ、これは私の予想だけどねぇ」

みほ「もしかして……麻子さんの……」

桃『会長、冷泉が携帯を手に取りました』

杏「よぉし。侵入ぅ」ガチャ

麻子「もしもし。どうしたの、おばあから電話をしてくるなんて」

久子『ちょっと色々と聞きたいことがあるんだよ』

麻子「な、なに……?」

久子『遅刻、よくしてるんだって?』

麻子「それは全部、帳消しになったって言った」

久子『で、全部消えたから緊張の糸も切れてなくなったわけかい? また遅刻の数を増やしてるんだろ?』

麻子「そんなことないって。ちゃんと学校にいけてる」

久子『万年寝坊してるようなあんたがどうやってだい?』

麻子「それは……」

久子『友達に起こしてもらってるんじゃないだろうね?』

麻子「うっ……」

久子『なにやってんだい!!! 人様に迷惑をかけるんじゃないよ!!! ちゃんと自分で起きて学校にいきな!!!!』

麻子「うぅ……」

久子『そんなもんはねぇ!! 遅刻してないって言わないんだよ!!! 全く!!!』

麻子「ご、ごめんなさい」

久子『寝坊する原因は? それも分かってないなんて許さないよ』

麻子「それは低血圧だから……」

久子『社会ではそんなの遅刻の理由にはならないんだよ!!! ちゃんと早く寝れば人間ってのは勝手に早起きできるもんなんだ!!!』

麻子「わ、わかってるけど……」

久子『分かってるならなんでできないんだい!!! えぇ!? 言ってみな!!』

麻子「それは……あんまり言いたくない……」

久子『夜起きていればあんたの苦手なオバケがわんさか出てくる時間になるんだから、早く寝な』

麻子「でも、オバケは出ないし……」

久子『出ないって思ってるならなんで怖がってんだい?』

麻子「それは……」

久子『あたしにも言えないことなら、いいけどね』

麻子「……もし、私の前に出てくるオバケがいるとしたら、それはきっとお母さんだから」

久子『……』

麻子「あのとき、喧嘩して謝れなかったからお母さんは怒ってる……」

麻子「出てきたら……きっと怒られる……から……」

久子『だからオバケが怖いってのかい。呆れたね』

麻子「何度も謝ったけど、私の声がお母さんに届いてるとは思わないから……」

久子『そりゃ、高い雲の上に逝っちまったんだ。あんたの声なんてこれっぽっちも届いてないよ』

麻子「それと、もう一人私の前に出てきそうなオバケが……いる……それが一番怖い……」

久子『誰だい?』

麻子「……」

久子『あたしかい?』

麻子「……うん」

久子『あたしゃあ、まだ死なないよ。全く。失礼なことをいうんだね』

麻子「だ、だって……おばあ……何度も倒れて……入院もしてて……」

久子『なにいってんだい。そんなことで――』

麻子「朝が来るのが怖い!」

久子『な……』

麻子「どうして……朝が来るんだろう……って……いつも思ってる……。朝なんて来なければ……おばあだって……ずっとこのままで……いられるの、に……」

久子『あんた……』

麻子「朝が来るたびに……おばあが……少しだけ離れていって……る気がして……。だから、寝るのも嫌で……1秒でも長く……おばあが生きてる時間がほしくて……」

久子『馬鹿じゃないのかい。そんなことしても何もかわりゃあしない。死ぬ時は死ぬんだよ』

麻子「そんなことわかってる!! でも、ひとりでいたら、色々考えて……もしおばあがいなくなったら……わたし……ひとりになって……」

麻子「それが……こわくて……なにをしていても……おばあがいなくなったあとのことを……かん、がえるように……なって……」

麻子「でも、こたえなんて……どこ、にもなくて……だから……1日がすこし、でも……こないように……するしかなくて……」

久子『それで友達に迷惑をかけているのはわかってんだろうね』

麻子「うん……」

久子『悪いと思ってるのかい』

麻子「おもってる……」

久子『ちゃんとお礼は言ったかい? きちんと謝ったのかい?』

麻子「ごめん、なさい……」

久子『あたしに謝ってもしかたないだろう! ちゃんと友達に言いな』

麻子「わ、わかった……」

久子『いいかい、麻子? あたしはきっとそんなに長くはないよ』

麻子「そ、そんな、こと、いわないで……おばあ……わたし……いやだ……」

久子『泣き虫で怖がりで、他人の前ではいつも強がってるあんたが心配で心配でたまらないよ。せめてもうちょっと強くなってくれたら安心して逝けるんだろうけどね』

麻子「やめて……」

久子『でもねぇ、今日分かった。あんたの周りにはいい友達がいる。無愛想で愛嬌の欠片もないあんたでも、あんなにいい友達が作れるなんて思ってもなかったよ』

麻子「おばあ……それって……」

久子『武部さんのことだけじゃないよ。西住さんもそう。前に病院まできてくれた、なんていったっけね』

麻子「五十鈴さんと秋山さん……」

久子『ああ、そうそう。その二人もそうだし、戦車をやってるみなさんも同じだろうね。ちょっとは安心したよ』

久子『近くいなくなるあたしのことを気にかけるあんたの気持ちはわかるけどね、これから何十年とお世話になるかもしれない友達も気にかけてやりな』

麻子「……」

久子『親切にされたら?』

麻子「お礼をいう」

久子『迷惑をかけたら?』

麻子「謝る」

久子『それさえできれば、簡単に縁を切られたりはしないし、1人になることもない』

麻子「うん……」

久子『ついでだからこれも言っておこうか』

麻子「なに……?」

久子『お母さんも謝ってたよ。また麻子に厳しいことを言ってしまったって』

麻子「え……」

久子『あの子もあの子で、お前の事は本当に大切にしていた。それはもう分かってるだろう?』

麻子「うん……う、ん……」

久子『麻子を怒らせてしまったことを悔いてたよ。あの子も麻子に謝りたかったんだ』

麻子「うん……う……」

久子『もう謝るのはやめな。これ以上、泣き言を言っていたらそれこそ化けてでるよ』

麻子「わかっ……た……」

久子『話は以上だ。もう早く寝な。明日も練習があるんだろ?』

麻子「うん……ある……」

久子『麻子、くれぐれも体には気を付けるんだよ。おやすみ』

麻子「お、やすみ……なさい……」

麻子「う……うっ……うぅぅ……」

冷泉宅前

杏「さぁーて、帰ろうかぁ」

みほ「……沙織さんは知ってた?」

沙織「ううん。恥ずかしいなぁ。麻子のこと世界で一番知ってるなんて言っちゃったのに、大事なこと知らなかった……」

優花里「冷泉殿は1日が過ぎるのが嫌だったんですね……」

華「夜更かしすると1日を長く感じることができますからね」

杏「これからどうする? 冷泉ちゃんには早寝早起きをしてもらう?」

みほ「それは……」

沙織「してもらう」

みほ「沙織さん……」

沙織「麻子が自分で起きられるようになるまで、何度だって私が起こす」

杏「つまり、半ば容認ってことか」

沙織「違います。麻子が自立できるまでですから」

華「わたくし、沙織さんに協力いたしますわ」

みほ「私も、麻子さんを支えたい」

典子「うぅぅぅ……!!!」

桃「うぅぅ……うわぁぁん……」

柚子「ちょっと、二人とも泣き過ぎぃ」

あや「麻子先輩……そんな理由で……夜更かしを……」

あゆみ「私たち……何もできません……」

ナカジマ「できないってことはないんじゃないかな」

あゆみ「だけど、これって麻子先輩の心次第で……」

ホシノ「今日よりも明日のほうが面白いって思えるようにすることはできるかもしれない」

おりょう「そうすれば早起きも自然にできるかもしれないぜよ」

左衛門佐「うむ。1日の始まりを鬱々とした気持ちで迎えても悲しいだけ」

エルヴィン「だは、今以上に面白くすることはできるだろうか」

カエサル「実現は難しいが、簡単なことだと思う」

ナカジマ「それって、なんですか?」

カエサル「戦車道でもう一度優勝すればいい!!」

おりょう・左衛門佐・エルヴィン「「それだぁ!!!」」

翌朝 冷泉宅

沙織「麻子ー。はいるよー?」ガチャ

麻子「……沙織か。おはよう」

沙織「え……!?」

麻子「なんだ。オバケでも見たような顔をして」

沙織「い、いや、そりゃ、びっくりするって!! 麻子が朝から起きてたら!!」

麻子「昨日は10時半ぐらいに寝たからな」

沙織「そ、そうなんだぁ」

麻子「もう行くか?」

沙織「みぽりんたちも来てるんだけど、必要なくなったね」

麻子「そうか。いつもありがとう」

沙織「……いえいえ、どういたしまして」

麻子「戦車で来てくれたのか?」

沙織「それはないって。とりあえずいこっ。まだちょっと早いけど」

麻子「確かにいつもより30分ほど早いな」

通学路

麻子「おはよう」

みほ「あ、おはよう。麻子さん」

華「おはようございます。今日は早起きをされたのですか」

麻子「ああ。いつまでも西住さんたちに迷惑をかけるわけにはいかないからな」

みほ「別に迷惑だなんて、思ったこともないけど」

麻子「今まですまなかったな」

優花里「やめてくださいよぉ。冷泉殿のためでしたらこれぐらいなんでもありません」

麻子「……」

沙織「じゃ、行こうよ。今日は早めに登校できるから誰よりも早く戦車乗って、バンバン撃っちゃおー!!」

優花里「いいですね!! 撃ちましょう!!」

華「でも、近所迷惑になりそうですよね」

みほ「結構砲撃音は響いちゃうもんね」

沙織「ぶぅー。今更そんな心配いらないじゃーん」

麻子「ふふっ。そうだな」

優花里「冷泉殿……」

麻子「なんだ?」

優花里「い、いえ!! なんでもありません!!」

沙織「どうしたの、麻子。今日はなんか楽しそう」

麻子「うん。楽しいな。いつもと変わらないが、いつもより楽しい気がする」

華「そういうときってありますよね」

みほ「朝の体調が良い時とかそんな気がするかも」

沙織「あるある。朝ご飯が美味しく感じるときとか」

優花里「いつもよりも装填速度が上がる日もありますからね」

華「花がとても美しく生けられたときはそう思いますね」

沙織「麻子は?」

麻子「……早起きできたときかもしれない」

沙織「それぐらい毎日しろー」

みほ「あはは」

麻子「ふふ……」

大洗女子学園 校門

みどり子「れ、冷泉さん……?」

麻子「おはよう、そど子」

みどり子「お、おはよう……」

麻子「なんだぁ?」

みどり子「今日は随分と早いのね」

麻子「これからは私を怒れないな」

みどり子「何言ってるのよ! 別に私は貴女を怒るのなんて好きじゃないわよ!!」

麻子「またあとでな」

みどり子「……」

みほ「それでは」

みどり子「ちょっと、西住さん。昨日の作戦が上手くいったの?」

みほ「いえ、昨日は大失敗でした」

みどり子「えぇ……?」

みほ「麻子さんが少しだけ前向きになれたんだと思います」

格納庫

あや「麻子せんぱぁーい!!」

麻子「なんだ?」

あや「麻子先輩も仮装しましょうよ!! 仮装!!」

麻子「……」

あゆみ「猫とかどうですか?」

麻子「じゃあ、猫で」

あや「はぁーい。にゃーん、にゃん」

麻子「これでいいのか」

あや・あゆみ「「ちょーかわいい!!」」

桃「もう遅刻の心配はないようだな」

柚子「うん」

杏「私たちが生徒会を引退しても、問題はなさそうだな」

柚子「もしものときは冷泉さんを次期会長にしようとか考えてました?」

杏「さぁ。どうだろうねぇ」

桃「さぁ、練習を始めるぞ!! 戦車に乗り込め!!」

カエサル「いくぞぉ!!!」

おりょう・左衛門佐「「おぉぉぉ!!!」」

エルヴィン「来年も優勝だぁぁ!!!」

ナカジマ「これは私達も負けてられないね」

ホシノ「レオポンを起こせ!!」

ツチヤ「りょーかい」

麻子「なんだ、みんなすごく気合いが入っているな」

沙織「だって、来年も優勝するつもりだもん」

麻子「おぉー」

優花里「それに目標は高い方が一致団結でがんばれますから!!」

華「目指せ、2連覇ですね」

みほ「うん!」

麻子「ふっ。では、私も本気でやろう」

沙織「おー!! 今日の麻子は燃えてるー!!」

放課後 通学路

優花里「本日はいつもよりも充実していましたね!!」

みほ「そうだね。その分、疲れちゃったけど」

沙織「心地良い疲れ方だからいいんだよねぇ」

華「そうですね。このまま布団に入ってしまえば眠ってしまいそうです」

沙織「まぁ、華の背中で寝ちゃってる子がいるぐらいだもんね」

麻子「すぅ……すぅ……」

華「うふふ。誰よりも張り切っていたのは麻子さんですから」

みほ「このまま寝かせておこうよ」

優花里「賛成です。家まで送り届けましょう」

華「はい」

沙織「でも、明日が心配だなぁ。ちゃんと起きてくれるかなぁ」

みほ「あ……どうなんだろうね……」

華「また起こしにいけばいいだけですよ」

麻子「んぅ……あり……がとう……」

翌朝 冷泉宅

沙織「おきろぉぉぉ!!! まこぉぉぉ!!!」グイッ

麻子「むり……」

沙織「昨日の早起きはなんだったのよぉぉ……!!!」グイッグイッ

麻子「晴天の霹靂……」

沙織「もー!!! おきなさいってばぁぁ……!!! また元通りじゃないのよぉぉ……!!」

麻子「あ……沙織……」

沙織「なに?」

麻子「いつも……ありがとう……。感謝してる……」

沙織「え? あ、うん」

麻子「というわけで……おやすみぃ……」

沙織「あー!? ねるなってばぁぁ!!! ――華ぁ!!」

華「はぁい。では、この花を麻子さんの鼻に……」コチョコチョ

麻子「ふえ……ふぇ……へっくしゅん!!! ……この起こされ方は嫌だ」

華「では、起きましょう、麻子さん。今日も素敵な朝が来ましたよ」


おしまい。

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