男「最近、溜まっちゃってさ」友「!?」 (29)



男「うーん、便秘だ……」

男「まずいな、今日は期末試験の最終日だってのに」

男「今日までごまかしごまかし過ごしてきたが、とうとう限界か……」

男「……いや、ダメだ。今日は絶対に休めない。体調は最悪だが、今日さえ乗り切ればいい」

男「朝食は……食べないほうがいいな。試験中に便通が来るのが一番困る」

男「幸い今日は午前中だけだし、きっと大丈夫だ、うん」

男「そろそろ家を出ないとな……」


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校門

男「……」

友(ん? あれは男か?)

友「よーっす、男。おはよう!」

男「ん? ああ、友か。おはよう……」

友「なんだなんだ? 元気ねーな。やっと今日でテストが終わるってのに」

男「いや、ちょっとな……」

友「どうしたんだよ、通学のバスで酔ったか?」

男「実はな、恥ずかしい話なんだが……」

男「最近ずっと、溜まっちゃっててさ」

友「……」

友「は!?」

友(どうしたんだ急に男のやつ! こんな下ネタぶっこんでくるやつだったか!?)

男「俺、結構溜まりやすい体質でさ」

友「お、おう」

男「それに今日も試験だろ?」

男「今はおさまってるけど、試験中にしたくなっても困るからさ」

友(こいつは一体何を言ってるんだ!?)

男「今日の朝、抜いてきちまった」

友「そんな報告いらねーよ!!」

男「まあ、そんなわけで今日はちょっと調子が悪いんだ」

友「……なあ、本当に今日どうしちゃったんだよ。変なものでも食ったか?」

男「おいおい、いくら俺でもそれはねーよ」

友「そ、そうか?」

男「仮にそうだとしたら、溜まるどころか今ごろ出しまくってるところだよ」

友「やっぱり変なもの食っただろお前!」

友(長年の付き合いだが、俺の知ってる男じゃない!)

男「いやいや、それに聞いてくれよ」

友(一体何が原因で……まさか勉強のストレスか?)

男「今朝乗ったバスが珍しく混んでてさ、腹の調子が悪かったってのに――」

友(くそ、最近俺も自分の勉強に必死で男に構ってやれなかったから……)

男「――っていうことがあって……おい、俺の話聞いてるか?」

友「え? す、すまん。なんだって?」

男「だから、俺がバスの中で立ちっぱなしで大変だったって話だよ」

友(朝抜いたのにビンビンかよおおおおおおお!!)

男「しかもその時、隣に女の人がいたんだけど」

友「ああ……」

男「その女の人のにおいが結構クラっとくるというか何というか……」

男(たぶん香水だと思うけど、においが刺激的で腹にきたんだよなあ)

友(まあ、確かに女の人って何故かいい香りするよな)

男「それで、思わず出そうになっちゃってさあ」

友「何が!? 何が出そうになったんだよ!?」

男「何って……。言わせんな恥ずかしい」

友(ああ……ピュアだった男はどこに行ったんだ)

教室

男(体調もだいぶ落ち着いてきたな……。これなら乗り切れそうだ)

男「もうそろそろ試験が始まるな……。友、今日の試験、自信はあるか?」

友「朝から色々あって全部飛んじまったよ……。試験範囲どこだっけ……」

男「しょうがねえなあ友は。もう時間もないけど要点だけ教えてやるよ」

友「ああ、すまんな。お前が俺の前の席で助かった」

男「なに、気にすんなって」

友(教室に着いてからはいつもの男だな。さっきのはきっと何かの間違いだ)


男「――っと、そろそろ時間か。緊張してきたなあ。試験中にしたくなったらどうしよう……」

友「……」

友(……俺も別の意味で緊張してきた)

男「……」

男(……まずいぞ。ここにきて緊張のせいで便意が……。なんでこのタイミングなんだ)

友「おい、なんか小刻みに震えてるけど、大丈夫か?」

男「……ああ」

男(正直返事をするのもきつい。本格的にやばいぞこれ)

女「……男くん、大丈夫?」

男「あ、女さん……」

友(男に話しかけてきたのは男の前の席の女さんだ)

友(学年で一二を争うレベルの美少女で、男を気遣っていることから分かる通り、気立てもいい)

友(男が密かに思いを寄せている人でもあり、俺もそれを陰から応援している)

男(女さんが話しかけてくれた……! だが、その喜びを噛みしめる余裕すら今の俺には無い)

女「ほ、本当に大丈夫? 保健室に連れて行こうか?」

男(もうなにも耳に入ってこない。今はひたすら耐えることに集中だ……!)

友「……いや、女さん、男は大丈夫だよ。張り切りすぎて武者震いを起こしてるだけだから」

友(今日の男はちょっと様子がおかしいからな……。変なことを言い出す前に女さんとの会話を打ち切ろう)

男「……」

女「そっか。男くん、最近勉強がんばってたもんね。……ふふ、なんだか私もやる気に満ち溢れてきたよ」

男「……」

女「ふふ、一緒にテストがんばろうね、男くん!」

友(女さんがそう言ったあとに浮かべた笑顔は、思わず俺も見惚れてしまうものだった)

男「……」

男「……トイレ行ってくる」

友「おい」

男「離せ! 俺はもう我慢できん!」

友「ちょっと待て! トイレで何する気だお前!」

友「悪いことは言わないから考え直せ! 今のお前は一時の感情に流されてるだけだ! 後悔するぞ!」

男「……!」

友「それに、あれだ、今トイレに行ったら試験に間に合わんぞ!」

男(――確かに、友の言う通りだ。少々冷静さを欠いていたかもしれない。俺は今日の試験を乗り越えるために来たんだ)

男(そうだ、便意なんて一時の感情に過ぎない。落ち着けばひっこむはずだ……よし、もう大丈夫)

男「……友、ありがとう。冷静になれたよ」

友「あ、ああ!」

友(よかった! 元の男に戻ったんだな!)

――試験開始から十分後

男「ハァ……ハァ……」

男(もうだめだ……、漏れる……、死んじゃう……)」

友(な、なんだ!? 男のやつまた震えだしたぞ!?)

男(――いや、簡単に諦めるな。さっきは便意を抑え込められたんだ)

男(冷静になれ……虚空を見つめるんだ。無心だ、無心)

友(……ん? 男のやつぼーっと前を見つめてるような……)

男(無心無心無心無心……)

男「ハァハァ……ハァハァ……」

友(――こ、こいつ! 女さんの後ろ姿を凝視して興奮してやがる……ッ!)

友(さっき正気に戻ったんじゃねーのかよ! よりにもよって試験中に!)

男(無心無心無心無心……)

男「ハァ……ハァ……」

男(……よし、なんとなくおさまってきた気がする)

男「……」

男「……ふぅ」

友(え!? なに!? 賢者タイムか!? まさかやっちまったのか男!!)

――試験終了後

男「……どうだった、手応えは」

友「……試験どころじゃなかったよ」

男「奇遇だな、俺もだよ」

友(お前のせいだよ!)

――下校時刻

男(――ああ、やっと解放される。俺は今日という日を乗り切ったんだ!)

友「はあ……、ようやく終わったな。なんだかこれまでにないほど疲れたよ……」

男(あ、気が抜けたら急に便意が……ッ! まずい! 今日一番の波だ……!)

友「よし、男、いつまでも座ってないでさっさと帰ろうぜ」

男(これは……一歩でも動いたらアウトな気がする)

友「なにぼーっとしてんだよ。ほら、行くぞ」

男「お、おい! 腕を引っ張るな……うわっ!」

友「うおっ!?」

友(気づいたら俺は男に押し倒されるような形で床に倒れていた)

友「お、おい……男?」

男「……」

友(周りにはまだ人が残っていたが、俺たちのいる空間だけがまるで切り取られたかのように静寂につつまれていた)

男「……ッ」

友「……」

友(男は何かに耐えるような表情をしている)

友「ど、どうしたんだ? そろそろどいてほしいんだが――」

男「なあ、友……」

友「な、なんだ……?」

男「俺……」

男「もう、我慢できない……ッ!」

友「!?」

友(な……! こいつ、もう見境なしか!?)

友「お、落ち着け男!」

男「ハァ……ハァ……」

友「いくら付き合いは長くても俺とお前は友人関係だろ!?」

男「ハァ……ハァ……うっ」

友(どうやら俺の言葉は男の耳に届いていないらしい)

友「おい! お前はそれでいいのか!? 俺とこんな関係を望むのか!?」

友「お前……女さんのことはいいのか!?」

男「……!? ……あ、あぁぁ」

友「……お、男?」

男「……くっ!」

友「あっ……おい!」

友(男は歯を食いしばった表情を見せ、どこかへと走り去っていった)

友(あの後すぐに男のあとを追った)

友(そして探し回ること十数分――妙にすっきりした顔でトイレから出てきた男を見つけた)

男「ふぅ……。ん? よう友。さっきは迷惑かけたな」

友「お前……、その、トイレで出してきたのか?」

男「ああ。いやー、すごい量が出て我ながらびっくりしたよ。トイレに詰まるレベル」

友「そんなに!?」

男「それにしても大変だったよ。毎日出してるお前が羨ましいよ」

友「出してねーよ!」

友「いや、それよりもだな……さっきのことなんだが」

男「ああ、さっきのか。友には助けられちまったな」

友「いや、俺も必死だったからな。……これまでにないほどの危機を感じた」

男「ああ、俺もだよ。……お前、あの時こう言ったよな。『お前、女さんのことはいいのか』って」

男「俺、あの言葉で冷静になれたんだ」

友「……そうか」

男「確かに――教室で女さんとか皆が見ているところでするのはダメだなって」

友「そっち!? 場所の問題じゃねーよ!!」

男「自宅ならまだしも、人の目があるところでやっちゃったら恥ずかしすぎるもんな」

友「自宅だったらやってたのか!? おい!!」

男「ははは、どうかな。……あ、そうだ。せっかく試験も終わったし、久しぶりに俺の家に遊びに来ない?」

友「行かねーよ! 今の流れで誰が行くんだよ!」

男「なんだよ、つれないやつだな。じゃあ、お前の行きたいところでいいから」

友「え? それなら……カラオケとか?」

男「カラオケか。……あ、」

男(そういえばカラオケ店で使えるクーポン券が家にたくさんあったなあ)

男「最近、溜まってたし、ちょうどいいかな」

友「!?」

男「そうと決まれば早速行こう。色々と発散させちゃおうぜ!」

友「……」

友(近いうちに俺と男は友人関係でいられなくなるかもしれない)


おわり

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