魔法使い「このままだと退学に…」(21)

魔法使い「(誰もいなくなった教室で私と先生は教卓を挟んで向かい合う。もちろん、先生は椅子に座り私は立っている)」

魔法使い「……」

先生「…なぜ、呼ばれたかは分かるね?」

魔法使い「(私の担任である先生は眼鏡を取り外し、私の方を一切見ずにレンズを磨きながら私に告げる。…いくら相手が自分の生徒だろうとその態度は良くないと思う)」

魔法使い「…はい」

先生「ふむ…よしよし。……なら話は早い。2年生になったら後期の進級試験を受ける為に、パートナーを見つけて担任に書類を提出するようにと説明をした筈なんだが……もしかして君は欠席していて聞いていなかったのかな?もしそうだとしたらこちらの落ち度だ。謝罪をしよう」

魔法使い「(レンズが綺麗に磨けたのか満足そうに頷くと、眼鏡をかけてやっと私の方に視線を移す。だが決して優しいものではない。その上に皮肉まで言ってきた)」

魔法使い「(いやらしい言い方…いや、悪いのは私だから仕方ないよね…)」

魔法使い「い、いえ…聞いていました…」

魔法使い「(3ヶ月ほど前の話だが私はしっかり覚えている。いや、この3ヶ月間忘れた事などなかった)」

先生「ほう!なら、なぜ君は書類を提出していないのかね?」

魔法使い「(……わざわざ聞かなくてもわかってるくせに…)」

魔法使い「…それ…は、その」

先生「……はぁ」

魔法使い「」ビクッ

先生「一週間だ。一週間後までにパートナーを見つけること。でなければ君は留年…いや、退学にするしかないだろうな」

魔法使い「え!?た、退学…ですか?」

魔法使い「(留年じゃなくて退学…!?う、うそ…)」

先生「君の成績では…な。残念ながらそうせざるを得ないんだ」

魔法使い「(……『君の成績』…か…)」

魔法使い「……」

先生「なに、そこまで気負う必要はないさ。知っているとは思うが別に2年生同士じゃなければいけない、なんて規則はないし、学院外の助っ人を呼んでくれても構わない」

魔法使い「(慰めるように、救いの手を差し伸べるように笑顔で私に優しく告げる。けど、まったく救いがないのを私は知っている)」

魔法使い「で、ですが…」

先生「期限は一週間後。では君に伝えるべき事伝えたし帰ってよろしい」

魔法使い「…はい。失礼します…」

魔法使い「はぁ…一週間後までにパートナーを見つけないと退学…か…」

魔法使い「(…一週間でパートナーが見つけられるなら呼び出されないよ…)」

魔法使い「(一週間。その単語が私の背中に重くのしかかり、寮への足取りが自然と重くなる)」

魔法使い「(…進級試験…かぁ)」

魔法使い「(…さっき先生が言った通り、2年生の後期には3年生への進級試験がある。内容は2対2の模擬戦闘)」


魔法使い「(学院に入学してから学んだ技術や技能をどれほど身につけているかを2年の学年主任と各クラスの担任が採点する試験だ。合格ラインに達している者が3年に進級出来るというものだ)」

魔法使い「(つまり、合格ラインを達成さえすれば4人とも合格出来るということ)」

魔法使い「…だけど、それ以前の問題だよね…」

魔法使い「(小さなため息をついて開いている窓から外を眺める。夕焼けが私と廊下を照らしながらゆっくりと地平線に沈んでいく)」

魔法使い「(…そう、前期も半ばを過ぎても私はパートナーを見つけられていないのだ)」

魔法使い「…誰も私と組んでくれないから仕方ないじゃない」

魔法使い「(1人小さく愚痴を呟いていると、前から来た男女とすれ違う。横目でチラリと見たら体格の良い男の子が横を歩く女の子と談笑をしていた)」

魔法使い「…いいなぁ」

魔法使い「(私は誰にも聞かれないように小さく呟く。すれ違った女の子は隣のクラスの子だ。話した事はないけれど何度か見た事はある。では、その隣にいた男の子は誰なのか)」

魔法使い「(…考えるまでもないよね。多分、剣士クラスの人…)」

魔法使い「(また私は小さくため息をつく。彼女が羨ましくて)」

魔法使い「(…進級試験を受ける為にパートナーを作る必要がある。だけどそれは誰でもいいという訳ではない)」

魔法使い「(2対2の模擬戦だから自分の役割と被らない相手を選ぶ必要がある。…一部例外はいるけど)」

魔法使い「(それに関してならこの学校には魔法使いクラスと剣士クラス、魔法剣士クラスがある為にさほど問題はない)」

魔法使い「(また、人数的にも魔法使いクラスが4剣士クラス:5魔法剣士クラス:1といった割合だ。パートナーを見つけるのはさほど難しくはない)」

魔法使い「…はずなんだけどなぁ」

魔法使い「(ならばなぜ私は未だパートナーを見つけられていないのか。理由は単純明快である。誰も私と組みたくないからだ)」

魔法使い「(なぜ?と聞かれれば私が回復魔法と復活の魔法しか使えないからだ)」

魔法使い「(どこかの物語で読んだ魔法が全く使えない魔法使いとは違い、私は回復魔法や復活の魔法が使える。むしろこの学院の中では指折りの癒し手だと自負している)」

魔法使い「…全く、意味ないけど」

魔法使い「(そう、回復魔法に特化していても意味がないのだ)」

魔法使い「(一般的な魔法使いは攻撃魔法、補助魔法、回復魔法を一通り扱える。だけど私はなぜか回復魔法に特化しておりそれ以外の魔法が使えないのだ)」

魔法使い「(回復に特化した魔法使い。なんだか凄そうに聞こえるかもしれないけどその実、大した事はないのだ)」

魔法使い「(確かに他の人と比べたら回復量とかは多いみたいだけど…それ以外特筆したものがないんだよね…)」

魔法使い「(回復魔法しか使えない魔法使いと攻撃魔法と補助魔法、回復魔法が使える魔法使い。どちらか選べるとしたら私でも後者を選ぶだろう)」

魔法使い「…いや、もしかしたら…」

魔法使い「(優秀な前衛だから攻撃魔法や補助魔法はいらないから回復魔法だけで充分……なんて人いないよね。そもそも、優秀な人がパートナーを決めてないなんて聞かないし…)」

魔法使い「(今度は深くため息をつく。私はどうしたらいいのだろうか…)」

??「どうしたん?」

魔法使い「(どうしたら…どうしたら…)」

??「おぉ~い」ポンポン

魔法使い「っ!?」バッ

??「なんか死にそうな顔してるけどどしたん?」

魔法使い「(肩を叩かれて慌てて後ろを見る。そこには赤い髪を後ろで纏めて黒い三角帽子と鞄を脇に挟んだ私より背の高い女の子がいた)」

魔法使い「なんだ、赤ちゃんか…脅かさないでよ」

赤髪「あれ、途中から後ろに居たんだけど気付かなかった?」

魔法使い「え、本当?」

魔法使い「(考えすぎてて女ちゃんを無視してた?うわー、やっちゃった…)」

魔法使い「ごめん、考え事してた…もしかして何か用だった?」

赤髪「だろうねぇ。なんかぶつぶつ言ってたし。ああ、そんな気にしなくていいよ、ただ一緒に帰ろうと思っただけだし」

魔法使い「そっか。ならよかった…。じゃあ、一緒に帰ろっか」

赤髪「…あんた、本当に大丈夫?」

魔法使い「え?」

赤髪「もう寮の目の前じゃん」

魔法使い「はっ!?えっ、あっ!」

魔法使い「(慌てて辺りを見渡せば確かに寮の入り口だった。考え込んでいるうちにいつの間にか寮に着いていたようだ)」

魔法使い「……」

赤髪「…まあなんだ、ここじゃなんだし腹も減ったから食堂いかない?」

魔法使い「…うん」

赤髪「ははぁ、パートナーを見つけなきゃ退学…ねぇ。そりゃキッツイわぁ」

魔法使い「(私から放課後の話を聞いた赤ちゃんはガツガツと皿の上に何枚も積まれたステーキを平らげている。瞬く間になくなっていく肉の壁に私は苦笑しながらオニオンスープを一口啜る)」

魔法使い「本当、どうしよう…」

赤髪「一年とか三年に声をかけるのはどーよ?知り合いとかは?」

魔法使い「いないね…そもそも三年生はともかく、一年生を模擬戦に出すなんて可哀想な事出来ないよ」

赤髪「そお?一年でも腕の立つやつはいると思うけど」

魔法使い「…いるかも知れないけど」

魔法使い「(私は手に持ったスープカップに視線を落とす。確かに、噂で天才とか三年に匹敵する、なんて一年がいる話は聞く。…でも)」

魔法使い「私と組んでくれないと思う。…落ちこぼれだし」

赤髪「なに、それは私に対する嫌味?」

魔法使い「(綺麗さっぱり無くなったステーキ皿を横にやりながら身を乗り出して不敵に笑う赤髪。私はため息をついて視線を上げて赤ちゃんと視線を交える)」

魔法使い「超弩級の攻撃魔法が使えるエリート様のどこが落ちこぼれなの?」

魔法使い「(エリートという言葉を聞いた赤髪はブスッと頬を膨らませ腕を組んで膨らませる。子供じみた行為だが、なぜか彼女にはとても似合っていた)」

赤髪「はぁ、エリートなんて呼ばないでよ。攻撃魔法しか使えないんだから」

魔法使い「攻撃魔法しか使えなくても本気出したら校舎1つ吹き飛ばせるんだもの。充分エリートじゃない」

魔法使い「(そう、赤ちゃんは攻撃魔法しか使えない。だけどその攻撃力は二年はおろか三年まで追従を許さない。下手したら一部の教員にすら勝ると言われる程だ)」

赤髪「そんな事言ったらあんたは復活の魔法が使えるじゃない。たしか教師を除いて学院で使えるのはあんただけなんでしょう?」

魔法使い「誰も習得しようとしないだけよ。だいたい、回復や復活なんて僧侶職の役目だし」

赤髪「あー…」

魔法使い「(僧侶は神への信仰心で奇跡を起こし、回復や復活、攻撃を行う。そんな僧侶という存在がいる為、魔法使いにとって回復魔法はあればいいが無くても問題はない、というなんともいえない立場にあるのだ)」

魔法使い「はぁ…そんな私達だから前衛後衛でピッタリだと思ったのに」

赤髪「ごめんごめん、戦士と組むって決めてたからさぁ」

魔法使い「(私のこれ見よがしのため息を赤ちゃんはにへらと笑って無視する)」

魔法使い「…今の私は惚気を聞く余裕ないからね?」

赤髪「わかってるよー。いくらなんでも友達がピンチな時に惚気たりしないって」

魔法使い「(ピンチ、という言葉に私の顔は暗く落ち込む)」

赤髪「で、本当に一年と三年に知り合いとかはいないの?」

魔法使い「……」コクリ

赤髪「うーん…じゃあ、学院外には?」

魔法使い「いたら悩んでないよ…」

赤髪「だよねぇ…プロを雇うっていう手もあるみたいだけど」

魔法使い「…そんなのが出来るのは貴族様達だけだよ」

赤髪「ですよねー」

魔法使い「(学院卒業を一種のステータスにしている貴族は是が非でも卒業したい。そのために貴族は少しでも自分に有利になるように金にものを言わせてプロを呼ぶのだ。しかしそんな事出来るのは家が金持ちの者だけだ、私のような一般人には出来ない)」

魔法使い「…まだ決まってない人とか知らない?」

赤髪「いやぁ、この時期になっても決まってない人は魔法使いしか知らないねぇ」

魔法使い「…ですよねー」

赤髪「うーん…一年も三年もダメ。学院外から呼ぶのも無理かぁ…これはキッツイキッツイ…」

魔法使い「……」ションボリ

赤髪「駄目元で一年と三年に声を掛けまくるとか?」

魔法使い「…それしかないよね。可能性は低いけど」

魔法使い「(私はため息をついて食器を片付け始める。明日から恥を忍んで学年を回ろう、期限は一週間しかないのだから)」

魔法使い「(各学年に頭を下げてお願いして回る自分を想像して心が折れそうになるけど仕方ない、私はプロになるんだからと決意を固めている中、赤ちゃんがとんでもない事を言った)」

赤髪「あ、そうだ!勇者様にパートナーをお願いしたらどう?」

のんびり更新です。今日は以上です

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