勇者「古代魔法『カクゲー』」(366)

前スレ

勇者「結界魔法『カクゲー』」
勇者「結界魔法『カクゲー』」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1359561371/)

――前回までのあらすじ

数百年の歴史を刻み受け継がれてきた、恐るべき魔法があった。
その名をカクゲー。

その技を受け継ぐ、力ある者の末裔として生まれた男――勇者は天賦の才と並々ならぬ研鑽を武器に魔王討伐へと旅立つ。

僧侶、女戦士、魔法使いを仲間に加えた勇者は、旅の途中に立ち寄った街で四天王の一角――魔妖女と対峙し、辛くもこれに勝利。
街に仕掛けられていた罠も、改心した魔妖女によって打ち消され、街はようやくの平穏を取り戻した。

――だが瀕死の魔妖女から発せられた言葉は、再び街を、勇者一行を騒然とさせるものであった――

――――

「ひゃっほー!すっげー!おれんちがあんなにちっちゃく見えるぜ!」

「次は僕の番だよ~。早く交代してよ~」

「ゴーレムさん、ゴーレムさん、あたちも乗せてよあたちもー」

ズズッ

ゴーレム「……ォォォォ……」

―ヒョイッ

「やった~。僕はね~北の大きなお山が見たいんだ~」

―キャッ キャッ

――宿屋 2階 ベランダ

女戦士「……岩のデカブツと遊ぶ子供、ねぇ……」

コッ コッ ギッ―

女戦士「…………」

魔法使い「……気になる?」

女戦士「……ガキってのはよっぽど大人より、殺気や敵意に対して敏感なんだ。……だから心配はしちゃいない。その必要もないだろうしな」

魔法使い「でも、納得いかないって顔してるわよ」

女戦士「自分の顔見て物言え。あたしよかひでぇ顔してるくせによ」

魔法使い「……そりゃ、そうでしょ。あんなことになれば誰だって……」

女戦士「あんなことってのはどれのことだ?街が壊滅しかけたことか?勇者が一人で暴走したことか?クソババァが心変わりしたことか?それとも――」

女戦士「――クソババァが……あの魔妖女が勇者に対して求婚したことか?」

僧侶「…………」

魔法使い「悪いけど全部ね。特に最後が……いえ、推測は出来るのだけれど、あまりにも、その、ねぇ……」

僧侶「…………」

女戦士「まぁ過程はどうあれそいつのおかげで助かった。街もあたしらも、本当にギリギリだったからな」

魔法使い「……ギリギリだったのは街だけじゃないわ。……結果によってはこの大陸自体も飲み込みかねない程、切羽詰まったものだったから」

女戦士「大陸?」

魔法使い「そう。大陸のヘソ――要であるこの街が落ちてしまったら、東西南北の大きな流通はまとめて断たれる事になる」

魔法使い「兵や物資が滞るだけでなく、魔王軍の大陸中央からの進行を阻むことは困難になるのは目に見えてる」

魔法使い「小さく分断されてしまったら、対抗出来るものも出来なくなる」

魔法使い「……今回は天秤がこちら側に傾いたから良かったものの、もしあの極大真空呪文が止める事が出来なかったら……」

女戦士「……ハンッ。終わったもんに、いちいちたられば考えてたらキリがねぇぞ」

魔法使い「……それもそうね。私たちは生きていて、街も無事なまま。……なら、これから先、未来の事を考えるべきね」

魔法使い「……でも」グッ

魔法使い「でも、一つだけ気になる事があるのよ。勿論たらればの話じゃなくて……まぁ、ごく、個人的な話なんだけれど」

僧侶「…………」

―スッ

魔法使い「僧侶さん、私はあなたに聞きたい事があるの」

僧侶「……へ?」

魔法使い「……私達が勇者と魔妖女を止めようとした時、あなたは身を挺して彼らを庇ったわ」

僧侶「……はい」

魔法使い「それは、何故なの?」

僧侶「……な、ぜ……ですか?」

魔法使い「あなたには魔妖女の心が見えたの?それとも勇者の見ているものが見えたの?」

魔法使い「あの状況で勇者と魔妖女を守ろうと思えたのは、あなたの信仰や、あるいは私にまだ明かしていない古代魔法の効果で視る事ができたの?」


魔法使い「……何度も何度もその光景が頭の中に蘇るけれど……何度考えても私にはそれが分からないのよ」グッ

僧侶「……ど、どうしても言わなくちゃ駄目ですか?」

女戦士「そいつはあたしも気になってたんだ」

魔法使い「是非聞きたいわ」

僧侶「……えと、その……」

僧侶「……な、何となく、なんです」

女戦士「は?」

魔法使い「な、何となく?」

僧侶「う……そのですね。あの時、魔妖女さんと勇者さんのお話を聞いていた時に、何故だか分からないんですけど……」

僧侶「魔妖女さんはきっと約束を守るって、そう、感じたんです」

魔法使い「魔妖女が信用できると僧侶さんは思ったのね。その根拠は――」

僧侶「い、いえ、そうではないんです。魔妖女さんのことが信用できると思ったのは、あの、こ、告白の後のことで……」

魔法使い「……どういう事?」

僧侶「あの時、魔妖女さんはきっと『わたし達の為に行動する』って感じたんです。こう、ピピッて感じで」

女戦士「早ぇ話が勘って事か?」

僧侶「え、あ、あの、その……うまく言えなくてごめんなさい。わたし、変なこと言ってますよね……」シュン

僧侶「……魔妖女さん、大丈夫なんでしょうか」

女戦士「知らねぇよ。やるだけやらかした上に、言いたいこと言ってぶっ倒れちまったからな」

僧侶「……魔法使いさん」

魔法使い「……助かるのは、難しいでしょうね」

魔法使い「本人も言っていたけれど、魔の眷属にとって魔力とは生命力そのものなの」

魔法使い「魔妖女がこの世に命ある形を保つ為に必要な力。……それが、あの大魔法によって尽きてしまったのならば……」

僧侶「……そう、ですか」

僧侶「魔妖女さんは自らを犠牲にして、街とわたし達と、仲間の魔物さん達を救ったんですね」

魔法使い「部下の免罪も、普通なら通らない要求だったはずよ。それを求婚によって無理くり通したのは流石と言わざるを得ないわね」

僧侶「求婚、によって……ですか?」

魔法使い「ここは元々東の文化が強い土地柄。そして東の島国では、婚約は家同士、部族同士の同盟とほぼ同意義なの」

僧侶「こ、婚約って好きな人同士がするものじゃないんですか?」

魔法使い「背負っているものが国だったり血筋だったりするから、大陸どこでもよくある話よ。東が特に顕著ってだけでね」

魔法使い「話を戻すわ。……魔妖女は『狐妖』ってところが重要なの」

女戦士「東の島国の魔の眷属――なるほどな。そういうことか」

僧侶「え、え?つまりどういうことですか?」

女戦士「あいつは東の島国出身。で、東の風習が色濃く残るこの街で勇者に対して婚約を宣言した」

僧侶「……あ!」

魔法使い「――そう魔妖女は勇者に対して『同盟』を申し出ていると、この街の人達は受け取ったの」

女戦士「つけ加えるならあのクソババァが『婚約を申し込んだ』ってこともだな。下手に出たって事は『同盟』ってより、むしろ『忠誠』に近い」

僧侶「そ、そうだったんですか……。わたしはてっきり……」

「てっきり――なんじゃ?」

僧侶「いえ、てっきり勇者さんに想いを寄せていたから、その、婚約をお願いしたのかと……」

「うむ。その通りじゃ」

僧侶「や、やっぱりそうでしたか!あの勇者さんを見つめる眼差しは、絶対にそう……だ、と……」

「……んむ?」チョコン

僧侶「……ど、どなたでしょうか?」オロオロ

魔法使い「子供相手に敬語使うことないじゃない。はいはいお嬢ちゃん、迷子かなー?ここはお姉さん達の部屋だから――」

―ガタッ

女戦士「――ッんなっ!?」

魔法使い「あら?この子あなたの知り合いなの?」

女戦士「な、何で生きてやがるんだテメェ!くたばったんじゃなかったのかよッ!」ガルルルッ

僧侶「ちょちょちょちょっと女戦士さんっ!?深呼吸です深呼吸!どーどー、ですっ!」

魔法使い「落ち着きなさいよみっともない。大体子供相手にそんな――」

女戦士「こいつはガキじゃねぇ」

魔法使い「……はい?」

「ホホ。左様、此方は童ではないのぅ」

僧侶「……あ、あれ?この口調……どこかで聞いたような……」

「考えてみれば、お主ら二人にこの姿で会うのは初めてかの。……そこの雌猿は此方の姿をよーく覚えていたようじゃが?」カンラカンラ

魔法使い「……う、嘘でしょ。その鼻につく態度に仕草、まさか……!」

「……ふむ。こうすれば分かりやすいかの?」トコトコ

「むむむむ……!」フリフリ―

「――えいやっ!」ピョンッ

―ポムッ ポムンッ

狐幼女「……ふぅ。これでどうじゃ?」ピコピコ

僧侶「そっ、その狐さんのお耳にふわふわ尻尾!あ、あああなたは――」ワタワタ

魔法使い「魔妖女ッ!そんな……一体どうして……!」

狐幼女「……何じゃその反応は。わざわざ此方が直々に来たというに」

女戦士「何だじゃねぇだろ!お前死にかけっつーか、ぶっちゃけ死んでるはずだろうが!何でのんきにあたしらの部屋に来てやがるんだ!」

狐幼女「勝手に此方を殺すでないわ。大体いつ此方が死にかけたというのじゃ?」

魔法使い「ついさっきよ!合体魔法使って色々やらかした後魔力尽きて倒れてたじゃない!」


狐幼女「……別に魔力が尽きて倒れたのではない」

僧侶「ど、どういうことですか?」

狐幼女「……そ、それは――――から、じゃ」ツンツン

女戦士「……あ?声が小さくて聞こえねーよ」


狐幼女「は、恥ずかしかったからと言うておるのじゃ!何度も言わせるでないわっ!///」ブンブンッ


女戦士「…………恥ずかしかったから……倒れた……?」

僧侶「そ、それって……あの婚約のこと……ですよね?」

狐幼女「ああ……思い出すだけで顔から火が出そうなのじゃ……」ボッ

魔法使い「……い、いやいやいや!あなた自分で言ってたじゃない!」

狐幼女「何をじゃ?」

魔法使い「『命が尽きる前に』だの、『この姿を保っていられるのも』だの、『時間がない』だの散々――」

狐幼女「それは此方はすぐに処刑されると思っておったからじゃ。契りを交わす前に処刑されてしまっては妻として死ねぬからのぅ」ボッ

僧侶「で、では姿を保っていられないと言うのは……?」

狐幼女「それは此方の『ないすばでぃ』のことに決まっておろうが」フフンッ

女戦士「……あァ?」

狐幼女「此方のぷらちなでぷっれーみあむな美貌とすたいるは先祖代々の高貴な血筋と魔力で成り立っておる」

狐幼女「……じゃがさしもの此方と言えど先刻の合体魔法は少々しんどくてのぅ。それこそ何百年かの魔力を注ぐ必要があったのじゃ」

狐幼女「一度に大量に魔力を使ったが故に、此方は幼子の姿に戻らざるを得なかったと言うわけじゃ」ピコピコ

魔法使い「……時間の話は?」

狐幼女「ただでさえ恥ずかしいと言うのに、こんなちんちくりんな姿で勇者に求婚出来るわけなかろう!」ピーン

狐幼女「此方は何としてもないすばでぃな内に求婚する必要があったのじゃ!……ギリギリ間に合うたから此方はホッとしておる」


魔法使い「……つまり、倒れたのは魔力が尽きたんじゃなくて……羞恥の余り卒倒しただけで……」

僧侶「い、急いでいたのは死期が近いからではなく、婚約の為に大人の姿を保っていたかったから……?」

―ポンッ

狐幼女「まぁそんな過ぎたことなどはもうどうでも良い」

女戦士「良かねぇよクソガキ」

狐幼女「……クソババァの次はクソガキじゃと……ッ!ぉのれぇ……ッ!一体此方をどれだけ愚弄すれば……ッ!」メラッ

狐幼女「――はっ!」

―ブンブンッ

狐幼女「すぅぅぅ……はぁぁぁぁ……。くーるじゃ。落ち着け此方よ。くーるになるのじゃ……」

女戦士「……あ?」

狐幼女「こ、此方もそう呼ばれるだけひどい事をしたのじゃから、甘んじて受け入れねばのぅ」ホホ

女戦士「…………お前本当に魔妖女か?気持ち悪い……」ォェッ

狐妖女「きもっ!?――いやいや辛抱、辛抱なのじゃ此方よ……」ヘニョリ

狐妖女「……おほん。此方がわざわざお主らの部屋に来たのは他でもない、お主らに聞かねばならぬ事があったからじゃ」

魔法使い「……私達に?」

僧侶「聞きたい事?」

狐妖女「そうじゃ。率直に尋ねる。お主らの中で勇者の正室はどいつなのじゃ?」ピコッ

僧侶「勇者さんの、せい、しつ……ですか?」キョトン

狐妖女「側室もじゃ。序列があるならそれも此方に教えるのじゃ」

女戦士「……そくしつ?何の話してんだお前?」

狐妖女「ふむぅ……正室では通じぬか。では、第一婦人はどいつなのじゃ?」

女戦士「――ッハァッ!?」ガタッ

僧侶「ふっ、ふふふふふふ婦人ッ!?///」ボッ

魔法使い「ちょっ、ふ、婦人って一体誰のよッ!?」

狐妖女「勇者に決まっておろう」ピコンッ

狐妖女「此方はまことに高貴で、絶世の美貌を欲しいままにし、また家柄もこれ以上ない程に良く――」モフッ

狐妖女「頭脳は明晰で魔術の天才であり、更に茶道、華道、歌道を嗜み……おぉ、何と此方は完璧な女子なのじゃ……」モフモフ

僧侶「…………」
女戦士「…………」
魔法使い「…………」

狐妖女「まぁそれは当然として、じゃ」モフン

狐妖女「……いくら此方がぷらちなぷれみあむじゃからと言って、規則を破って良い理由にはならぬからの」

狐妖女「郷に入っては郷に従え――此方がしんがりと言うのは実に気に食わぬが……勇者と共に歩めるのじゃから、この際贅沢は言わんのじゃ♪」ピコッ

狐妖女「で、誰なんじゃ?平たいの、お主か?」ビッ

僧侶「わたっ、わわっ、わたしはそのっ、いずれはなりたいと言うかそのっ、聖職者ですしあのあのっ、今はまだと言うかっ!///」ツンツン

狐妖女「何じゃ、違うのか。ではお主か?」ビッ

魔法使い「……べ、別に。わたしと勇者はそんな関係じゃないわ。……貸しがあるから付き合ってあげてるだけだし」フイッ

狐妖女「……ふむぅ?となると……」

女戦士「…………」

狐妖女「……ま、まさかこの筋骨たくましい雌ゴリラじゃと言うのか!?……勇者もちと――いやかなり趣味が悪いのぅ」

女戦士「ああッ!?たたっ斬るぞテメェコラァッ!」

狐妖女「……それだけ勇者の器が大きいと言うことかのぅ」

女戦士「勝手に人を嫁がすんじゃねぇ!」

狐妖女「……はて?違うのかえ?」

女戦士「……すごい男だとは思っちゃいるが……違う。とにかく、そういうんじゃねぇんだ」

狐妖女「…………」

狐妖女「何じゃ?つまり……勇者はお主らの誰とも婚いでおらんと言うのか?」

僧侶「なっ、ないです!///」 魔法使い「……ないわよ」 女戦士「……ねぇよ」

>>49-51 修正
狐妖女→狐幼女

狐幼女「バ、バカな……!あれほど強く美しい――ハッ!?なイイ男を目の前にしてお主らは何をやっておるのだ!」

女戦士「そりゃ弟子入りして修行に次ぐ修行よ」ヘヘッ

魔法使い「ゆ、勇者自身と勇者の操る魔法の研究……よ」クリクリ

僧侶「お、美味しいお料理作ってます!」ムフー!

狐幼女「えぇいお主ら本当に女子かッ!寝食を共にしていて何もしておらんと言うのかッ!此方なら会ったその日に――」

狐幼女「――はっ!」

狐幼女「……むふ。うふふふ」ピコッ

―クルクル

狐幼女「そうか。ふふ……うふっ、ふははははっ!お主らは勇者と婚いではおらず、また行きずりの関係でもない――つまり単なるぱーてぃーというわけじゃな!」

狐幼女「それなら此方はお主らに遠慮する事なぞ何もないわ!さらばじゃ!」テテテッ―

―ガシッ

狐幼女「にょわぁっ!?ど、どこを掴んでおるこの雌ゴリラめ!此方の毛並みがめちゃくちゃになるではないかっ!」ブラブラ

女戦士「勝手に来て勝手に納得して勝手に出て行くんじゃねぇ。どこに行くつもりだテメェ」ユサユサ

狐幼女「ひあぁっ!ゆ、揺らすでない!も、もげる!此方のちゃーむぽいんとがもげてしまうのじゃぁっ!」

女戦士「そもそも自由にぶらついていい身分じゃねぇだろうが。さぁ吐け。じゃないとこの尻尾を一本づつちょん斬っちまうぞ」ユサユサ

狐幼女「ふんっ、知れたことよ。早速勇者の元へ赴き、此方が全身全霊を以ってぷろでゅーすする結婚式の打ち合わせに行くのじゃ」ユラユラ

女戦士「……それはマジで言ってるのか?」

狐幼女「大に真剣と書いて大マジじゃ。さぁ、此方の尻尾を放すのじゃ雌ゴリラよ」ユラユラ

魔法使い「……ねぇ、魔妖女」

狐幼女「何じゃ魔法使い?此方は今とても忙しいのじゃが」ユラユラ

魔法使い「あなた、勇者からの返事は貰ったの?」

―ピタッ

狐幼女「……なぬ?」

魔法使い「今の状況って、一方的にあなたが告白しただけで、婚姻の儀も行われてなければ……勇者の返事すら聞けてないんじゃないの?」

狐幼女「……い、いやきっと此方の美貌ならば勇者は爽やかな笑顔で首を縦にじゃな――」

魔法使い「それに婚約を申し込んだ段階ならまだ分かるけど……今あなたの武器である容姿は、その少女同然のちんちくりんの寸胴ボディ」

狐幼女「ぐ、ぐむぅっ!」ヘニョリ

魔法使い「まともな男性なら――今の魔妖女と本気で結婚なんて望まないでしょうね」ハンッ

狐幼女「ぬぐぐぅっ!」ヘニャリ

魔法使い「つまり、せいぜいがあなたを生かし、あなたの願いを通す為に、勇者の『配下』につく為に形だけの婚約を――」

狐幼女「い、言わせておけば好き勝手言いおってからに……!……いいじゃろう!そこまで言うのであれば見せてやろうではないか!」

魔法使い「……見せる?」

狐幼女「そうじゃ!此方を見くびるでないわ!しかとその眼に焼き付けるがいい!そして怖れ慄け!これが――」

―メラッ
女戦士「うお熱ぁッ!?」バッ

狐幼女「――此方の最終形態じゃッッッ!!!!」グォッ― ッバォンッ!

…モクモクモク…

僧侶「げほっ!ごほっ!けほっ!」

魔法使い「ゲホッ!ゴホッ!……ば、爆発?一体、何が起こって……え……?」


「――ホホ。どうした魔法使い?」シナッ

―ボンッ

「此方の余りの美貌に声も出ないと言ったところかのぅ」クネリ

―キュッ

「当然じゃ。この姿は普段の美貌に加え、更なる魔力操作で此方の魅力を限界まで引き出す秘奥義なのじゃからのぅ♪」ホホホ

―ッッバァンッ!

狐淫女「夜伽の流法を纏った此方は無類無敵!」

狐淫女「此方の技が、精神が――此方のすべてが美と言う一点に集結する究極形態!」フルンッ

僧侶「な、何て恐ろしい秘奥義なんでしょう……!」ガクガク

魔法使い「でもあなた、魔力がないから子供の姿になったって……!」

狐淫女「その通りじゃ。……じゃが!無駄遣いをせずにコツコツと魔力を貯めたならば――」

狐淫女「このように魔力を一時的に活性化させ……短時間ではあるが此方の究極最強の真の姿を取り戻すことができるのじゃ!」プリンッ

僧侶「そっ、そんな……」ガクリ

魔法使い「まだそんな手を……ッ!」ギリリッ

狐淫女「絶対に婚期を逃さぬ一子相伝の奥技……ご先祖様には本当に感謝してもしきれぬのぅ」ホホ

狐淫女「お主らは此方が出す結納の招待状におとなしく○でもつけておくのがお似合いじゃ!」カンラカンラ

女戦士「…………」

女戦士「なぁ」

狐淫女「ホーッホッホッホッホ!」

女戦士「――それ、今使って良かったのかよ?」

狐淫女「ホーッホッ……………なぬ?」―ピシッ

狐淫女「ぬわぁんたる事じゃぁっ!」クネッ

―ドタプンッ

僧侶・魔法使い「~~ッ!」ギリリリッ

狐淫女「夜這い用に残しておいた此方の貴重な魔力がこれでは台無しではないか!お主ら此方をハメおったな!」


―ガチャッ

勇者「ただいま」

僧侶「…………」
女戦士「…………」
魔法使い「…………」
狐淫女「…………」


勇者「……? そちらの方はお客さんかな?」

狐淫女「勝機ッ!」シュバッッ―

僧侶「さ、させません!」カカッ―
女戦士「……斬る」ミキキッ―
魔法使い「やらせるもんですか!」フワッ―

勇者「待て。一体何を争っ――」

――…ッカッ!

――――

勇者「まさか【トレーニング】――それも乱取り稽古をしていたとは……邪魔をして悪かった」

僧侶「……い、いえ」ボロッ
女戦士「……ふん」チリチリ
魔法使い「……別に」シュゥゥ…
狐幼女「ホ、ホホ……」ボサボサ


勇者「しかし驚いたな。魔妖女は姿を変える事が出来るのか」

狐幼女「そ、そうなのじゃ。このちんまい格好は仮の姿で、さっきのぼぼんきゅっばぼーんが此方の真の姿なのじゃ!」ピョンピョン

魔法使い「……だったらずっと真の姿でいればいいのにねぇ」ヘッ

狐幼女「魔法使いは黙っておれ!」フーッ

勇者「……しかしそれならば小さい方が良い気もするが」

――……

魔法使い「えっ」

女戦士「なっ」

僧侶「そっ、それは背ですか!?胸ですか!?」ガタッ

狐幼女「そっ、それはまことか勇者!な、ならば此方は一生この姿のままでも構わぬが……///」モジモジ

勇者「その方がいいだろう。【当たり判定】が小さくなる事は、攻めにおいても守りにおいても有利だからな」

狐幼女「…………な、何?当たり、判定……?一体何の話じゃ?」

魔法使い「……一瞬、焦ったわ」
女戦士「……そうだよな。こいつはこういう奴だった」
僧侶「…………」ストン

勇者「ところで魔妖女」

狐幼女「うぬぅ……やはりこの姿では誘惑するどころでは――何じゃ?」

勇者「ここにいるという事は……領主様の赦しは得られたのか?」

狐幼女「もちのろんなのじゃ。でなければこうしてお主に会いに来る事も出来ぬであろ?」ピコピコ

狐幼女「まぁ一時は此方も死を覚悟したがのぅ。これも此方の人徳が為せる業よの、ホホホ♪」

魔法使い「人徳でどうにかなるわけないでしょ。……何を取引したの?」


狐幼女「……こう何でも勘繰る女は傍に置いておくべきではないぞ勇者よ」ボソボソ

魔法使い「謀略と欺瞞に塗れたあんたに言われたかないわよッ!」クワッ

勇者「取引をしたのか魔妖女?」

狐幼女「したぞ。お主と生きて会うためならば何でも差し出す覚悟で領主に臨んだのじゃ。そうじゃ!此方がいかに献身的だったかを聞かせてやろう!良いか?まず……その前に膝の上に乗せて欲しいのじゃ。おおそうじゃ。これで良い。素晴らしい座り心地じゃ。それでな――」チョコン

僧侶・女戦士・魔法使い「……ッ」イライラッ チッ… ギリギリ…

――――

女戦士「なるほどな。つまり、お前はまだ『四天王』ってわけか」

魔法使い「魔王軍には勇者に敗北した事を伝え、更に準備が整い次第反撃するように報告した上で、こちらに魔王軍の内情を密かに流す……考えたわね」

狐幼女「じゃろう?此方が各地に放っている密偵の情報は必ず此方を通るからの。やりたい放題なのじゃ」

僧侶「で、でも魔妖女さんがその、今回この街の為にゴーレムを出したり、きゅ、求婚した事とか……広まっちゃうんじゃないでしょうか。あれだけ大勢の前で喋ったわけですし……」

狐幼女「ふむ。人、魔物を問わず口に戸は立てられぬと言うがのぅ。じゃがなぁ、僧侶よ」ピョンッ

―タシッ

狐幼女「『四天王の麗しき紅一点魔妖女様が人を相手に恋に落ち、命を救われた恩を返す為に街をゴーレムで守護した』と聞かされて……」

狐幼女「――果たしてお主は信じるかのぅ?」ピコピコ

僧侶「……信じないです」

魔法使い「……誰も信じないでしょうね。麗しい点も含めて」

女戦士「言った奴が正気を疑われるだろうな」

勇者「…………」

勇者「……だが、魔妖女の部下はどうなのだ?」

狐幼女「此方の部下達は魔王軍である前に此方の配下じゃ。つまり此方が仕える先を変えれば、此方の部下はすべてそれに従うじゃろう」

魔法使い「……楽観的過ぎない?」

狐幼女「いやいや此方に対する裏切りは絶対にありえんのじゃ」

狐幼女「何しろ此方の部下になるにはとぉ~くべつな面接が必要でのう。そこでバッチリ教育まで済ましてしまうのじゃ♪」パチッ

女戦士「……『魅惑《チャーム》』か。周到なこって」チッ

狐幼女「此方の魅力でめろめろになってしまうだけじゃよ」ホホッ

―テクテク

狐幼女「まぁそれらを踏まえた上で、此方が領主と取り決めた内容は二つじゃ」

狐幼女「1つは無条件に魔王軍のすべての情報を提供する事」

狐幼女「2つ目は……」モジッ

僧侶「? 2つ目は何ですか?」

狐幼女「……そ、それは……ゆ、勇者と常に行動を共にする事……なのじゃ///」モジモジ

魔法使い「な、何ですって!?」ガタッ

女戦士「あ”あッ!?流石にそれは聞き捨て――」

勇者「ああ。それなら領主様から聞いている。これからよろしく頼むぞ魔妖女」

魔法使い「ちょっ……あんたいい加減にしなさいよ!何でもかんでも勝手に決めるんじゃないわよ!」

勇者「あ、いや、すまない。仲間は多いに越した事はないと思ってだな――」

魔法使い「数日前まで魔王軍の四天王だった奴仲間に入れる勇者パーティーなんて聞いた事も見た事も今日に至るまでの史実にだってないわよ!」ズイッ

勇者「いや……それにこれは領主様の意思でもある」

女戦士「……領主の?」

勇者「……領主様はまだ魔妖女を疑っているからな」

狐幼女「じゃのぅ」

魔法使い「…………」

魔法使い「……つまり私達は魔妖女の首輪って事?……確かに抑止力として考えるなら……勇者以上の適任は……」ブツブツ

勇者「……魔法使い?」

魔法使い「……でも、くっ、納得いかないけど!すっごい納得いかないけどッ!分かった、わ……!」ギリギリ

勇者「そうか。なら良かった。魔妖女は私の婚約者でもあるしな」

魔法使い「だから分かったわよ。そう何度も――ハァァァァァァァッ!?」ガタッ

僧侶「え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」ガタッ

女戦士「ぬわぁにぃッ!?」ガタッ

狐幼女「ぅ我が世の春が来たのじゃぁぁぁ!」ガタッ

狐幼女「で、では勇者よ。ふ、不束者ではあるが――いや此方は不束かどころかぱーふぇくとじゃが、末永くよろしくお願いしま――にょわぁぁぁぁ!?」ババッ

―ゴウッ

狐幼女「そ、僧侶!お主は突然何をするのじゃ!」ガクガク

僧侶「……駄目……駄目です。例えわたしが許しても……女神様はお許しにならないでしょう……。ええ、女神様は決して、お許しにならないでしょう……」ブツブツ

僧侶「こんな事認められません……断じて……断じて認められないんです……。わたしが女神様に代わって神罰を代行するしかありません……」ユラァ―

狐幼女「ゆ、勇者ー!助け――」

僧侶「勇者さん。これは【トレーニング】です。さっきの続きです。だから何の問題もありません。全力全開で【トレーニング】するだけですから」ニコニコ

女戦士「ああ。問題ないな。何しろ【トレーニング】だからな。原型を留めない位に練習するだけだからな。僧侶だけじゃ荷が重いだろうから、あたしも参加するぜ」ニカッ

勇者「…………」

勇者「練習熱心だな、三人共」ハハッ

狐幼女「待て勇者!あの二人の目を見るのじゃ!何か真っ黒い炎が燃えておるっ!あれは殺――」

僧侶「天に召されなさいー!」ダッ
女戦士「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」ダッ

狐幼女「ほれ見ろ勇者!あやつら此方を滅する気満々じゃぞ!?頼む助け――ひぃっ!?」ババッ

―バオッ
―フォンッ

勇者「何と気合の乗った拳圧と剣圧か。まるで実戦さながらだな」ハッハッハ

魔法使い「……ハァ」

魔法使い「ねぇ、勇者」

勇者「む?どうした魔法使い」

魔法使い「……答えられるなら、答えて欲しいの」

魔法使い「何故あなたは……魔妖女の言葉を信じることが出来たの?」

勇者「…………」

魔法使い「私はあの時、魔妖女を信じることは出来なかった」

魔法使い「そこら辺の悪党と変わらない、その場しのぎの命乞いにしか思えなかったから」

勇者「…………」

魔法使い「……それに」グッ

魔法使い「街を――勇者の身を危険に晒すような……あんな大事な決断を……」

魔法使い「何故、相談してくれなかったの?」

勇者「…………」

勇者「……すまなかった。女戦士、僧侶、魔法使いには真っ先に理由を話すべきだったな」

勇者「――カクゲーの極意の一つに【人読み】というものがある」

魔法使い「……ヒトヨミ?」

勇者「そう【人読み】だ。私はそれを通して、魔妖女が信用出来ると判断したのだ」

魔法使い「カクゲーの技術……で、それはどんな技なの?」

勇者「相手の攻撃体系と思考を、戦闘を通して自分の内へと取り入れる極意だ。わずかではあるが相手の次の行動が見えるようになる」

魔法使い「それってつまり……未来予知が出来るってこと?」

勇者「……のようなものだ。戦う時間が長ければ長い程予知の正確さは増し、見てからでは間に合わない反撃や奇襲をかけることが可能になる」

勇者「女戦士の小足に対して『昇竜拳』を刺せるのは、この【人読み】を最大限に活用しているからだ」

魔法使い「……あなたのことだから、てっきり見てから間に合っていると思っていたわ」

魔法使い「そう、なるほどね。その【人読み】で魔妖女の次の行動が把握出来ていたから、あんな無茶な事が出来たのね……謎が解けたわ」

魔法使い「でもカクゲーの技術なら全然信用出来るじゃない。街の人や領主はともかくとして、私たちは勇者の味方になれたはずよ?」

魔法使い「下手をすれば世紀の反逆者として捉えられるような行動を――ってどうしたの?お腹でも痛いの勇者?」

勇者「……その、だな」ポリ

勇者「相談出来なかった理由というのは……まさにそれなのだ」

魔法使い「……どういう事?」

勇者「……【人読み】はあくまで予測の極意。例え精度を高め、練度を上げていても……的中する確率が高くなるだけで完全な未来予知とはならない」

魔法使い「…………」

勇者「更に今回は魔妖女と戦う時間も短かった。戦った回数や戦闘時間は【人読み】の精度に直に影響する。つまり――」

勇者「今回の私の行動は、限りなく【ぶっぱ】に近い――いや、【ぶっぱ】そのものと言える行動だったのだ」

魔法使い「ちょっ、ちょっと待って勇者。確か【ぶっぱ】って攻撃を当てる確信がない時に攻撃する、博打めいたカクゲーの攻撃理念のことじゃなかった?」

勇者「……いかにも」

魔法使い「それで今回の行動は【ぶっぱ】だった……?ッ! そっ、それじゃぁあなたまさか……!大した確信もないのに、魔妖女を信じたってこと!?」

勇者「……概ね、そうだ」

魔法使い「バカじゃないの!?それで【人読み】がハズれたらあなたは――」

―ハッ

魔法使い「……だから、なのね」

勇者「…………」

魔法使い「私たちに相談していて、それでハズれてしまったら……私たちにも逆賊の一味として疑いの目がかかる」

魔法使い「それを避ける為に、勇者はこれを独断で行った……そういうことなのね」

勇者「……すまなかった」

魔法使い「…………」

魔法使い「……もし【人読み】がハズれて、魔妖女が本物の悪党だったら……どうするつもりだったの?」

勇者「……カクゲーの技林は広く深い。多方向からの飛び道具からに対応する技もない訳ではない」

勇者「ある程度の自己の犠牲と引き換えではあるが、あの状況をどうにかできる――」

魔法使い「――算段はあったのね?」

勇者「…………」コクリ

魔法使い「そう。それならいいの」ニコッ

―ツカツカ

勇者「……魔法、使い?」

魔法使い「完全な博打であんたを含めるすべてを危険に晒したなら――超級の狂人認定待った無しで、勇者をしかるべき場所突き出さなきゃいけないからね」

魔法使い「次善策があった上で、賭け、最良の結果を手にした。……終わり良ければすべてよし。所詮この世は結果がすべてよ」

―ピタッ

魔法使い「……でもね」

勇者「?」

―ブオッ

バキャァッ!

勇者「ッぐは……ッ!」

魔法使い「結果が良かろうと悪かろうと、これだけは関係ないわ!譲れない!」

魔法使い「何の為の……ッ、一体何の為の仲間なのよッ!」

勇者「ま、魔法使い……」

魔法使い「確かに私たちはあんたより弱いわ!」

魔法使い「守られてばっかりで、魔妖女との戦いだってほとんど役に立たなかったわよ!」

勇者「…………」

魔法使い「でも、違う。そうじゃない」

魔法使い「私たちは足手まといで役立たずかもしれないけど……あんたと一緒に戦うことは出来ないかもしれないけど!」

魔法使い「勇者を――男を信じることは出来るじゃない!」

勇者「……!」

魔法使い「あんたはバカで、人を疑うってことを知らなくて、いつもカクゲーの事しか考えてなくて、デリカシーもない、どうしようない奴だけど……!」

魔法使い「あんたがいい奴だってこと。私たちは知ってる」

魔法使い「あんたが信用出来る奴だって……皆、思ってるの」

勇者「魔法使い……」

魔法使い「だから、話してよ」グイッ

魔法使い「どんなに荒唐無稽だって、どんなに滅茶苦茶で、どんなに途方も無い話だって――」

魔法使い「ちゃんと聞くから。あなたを――カクゲーじゃなくて、あなたを信じるから」

魔法使い「話してよ……」ポスッ

勇者「…………」

魔法使い「……仲間、なんだから……」グスッ

勇者「…………」

勇者「……すまな、かった」

魔法使い「…………」グスッ

勇者「…………」―ナデリ

魔法使い「…………」グズッ


魔法使い「……ちょッ、うわうわうわぁ!///」ババッ

魔法使い「なッ、何すんのよッ!勝手に頭撫でないでくれるッ!?///」

勇者「……つい、手が。すまない」

魔法使い「……ま、まぁその、アレよ!」フンッ

魔法使い「今度から相談しなかったらグーパンじゃすまないんだからっ!骨まで焦げる位のメラをぶつけてやるんだからっ!」

勇者「ああ。肝に命じておく」

勇者「…………」

勇者「……ありがとう。魔法使い」ペコリ

魔法使い「……ッ///」

魔法使い「わ、分かればいいのよ。分かれば」

魔法使い「…………」

魔法使い「……その、勇者。私は――」

―ゴシャァッ

魔法使い「ヘぶッ!?」

狐幼女「ッいったぁぁぁぁいのじゃぁ!おのれ女戦士!力任せに投げよってからにぃ!」

女戦士「……チッ。石壁に叩きつけてやろうと思ったのに、手元が狂ったぜ」

僧侶「少しづつ、少しづつ狙いが近くなってきました……徐々に、徐々に画面端に追い込んで……次は当てますよ……うふふ」ユラァ

狐幼女「あわわわ……女戦士よりどちらかと言うと僧侶の方がよりでんじゃーなのじゃ……!」ガタガタ

タタタタッ

ヒシッ

狐幼女「ゆ、勇者!助けてたもれ!」ブルブル

勇者「…………」ポムッ

―ナデ

狐幼女「お、おぉ?ゆ、勇者?」

勇者「僧侶、女戦士」

女戦士「ん?」

僧侶「……はっ、はい!」ハッ

勇者「話がある。……聞いてくれないだろうか」

女戦士「……おうよ」

僧侶「は、はいっ!」


魔法使い「…………」クシッ

魔法使い(……仲間、ね)

魔法使い(本当、どの口が言ってるんだか……ハァ)

――――

女戦士「……開いた口が塞がらねぇってのはこういう事を言うんだろうな」

僧侶「…………」ホケー

勇者「すまなかった」ペコリ

女戦士「正直、腹は立った。……が、まぁいいや。何しろ勝ちは勝ちだしなー」ノビー

勇者「……女戦士」

女戦士「あ、勿論次はねぇぞ。ま、勇者のその顔見る限り……どうやらあたしの分まで殴ってくれた奴もいるみたいだしよ、今回はそれでチャラだ」ヘッヘー

勇者「…………」ヒリヒリ

魔法使い「……ふん」プイッ

僧侶「…………」ホケー

女戦士「ほれ。僧侶は特に言いたいことないのかよ」

僧侶「え、あ、は、はい? 言いたいことですか? えーっとですね……わたしの感じてたことと、勇者さんの考えてた事が一緒でびっくりしたと言いますか、その……」

僧侶「…………」

僧侶「……言いたい、こと……」

―ガタッ
僧侶「いッ、言いたいことあります! すっごいありますよ! ええ! これは絶対に聞かねばなりません!」フンスッ

僧侶「ゆ、勇者さんッ!」

勇者「む?」

僧侶「勇者さん、こッ、カッ、こんッ、こんにゃ……ッ!」ワタワタ

勇者「こんにゃ……?」

僧侶「ま、ままっ、魔妖女さんと婚約ってどういう事ですかーッッ!」

女戦士「…………」
魔法使い「…………」

女戦士「あ”ぁっ!」ガタッ
魔法使い「あぁーッ!」ガタッ

僧侶「わ、わたし聞いてないですっ!……あ、聞いてないのは当然なんですけど……あっ、さもわたしに話を通してないとおかしいって言い方もアレなんですけど――」ゴォォォ―

女戦士「そうだ勇者! ぶっちゃけお前が打った博打よかよっぽどそっちのが異常だろ! 何でお前はあのクソババァの求婚受けやがったんだ! 熟女で幼女趣味とか救いようのねぇ――」ゴォォォ―

魔法使い「不意打ちで『魅了《チャーム》』でも受けたの勇者? それとも婚約って意味分かってなかったりするの? 前者なら解呪の方法を、後者なら私がみっちり一から教授して――」ゴォォォ―

勇者「待て。一遍に話されても何が何だかさっぱりだ」

僧侶「あァ、あのっ! つまりそのっ、ゆゆっ、勇者さんがま、魔妖女さんと婚約なさった理由をですね……聞きたくもあり、聞きたくもないと言うかっ、そんな感じでっ!」アセアセ

勇者「……? 私が何故魔妖女と婚約したか、それを答えれば良いのか?」

僧侶「あ……やっぱり婚約したことは事実なんですか……そうですか、そうですよね……あれ……? だったら、もうわたし、聞かなくても、むしろ聞かない方が……」ズーン

勇者「それは――」

僧侶「……ッ」ゴクリ
女戦士「……ッ」ゴクリ
魔法使い「……ッ」ゴクリ

狐幼女(ホホ、それは当然此方がぷらちなでぷっれーみあむに美しく高貴だからに決まっておろう)ソワソワ

勇者「求婚されたからだ」

僧侶「…………」
女戦士「…………」
魔法使い「…………」

狐幼女「」チーン

女戦士「……あ? ま、まさかそれだけとか言わねぇよな?」

勇者「……?」

勇者「それだけだ」

僧侶「ななっ、何ですかそれ!? つまりそれってわたしが先に求婚してれば勇者さんと――じゃなくて婚約ですよ!? ゆくゆくは結婚するのにそんなにあっさりでいいんですかー!?」

勇者「…………」

勇者「いや、恥ずかしい話ではあるのだが……」ポリポリ

勇者「私は元服を迎えて大分経つにも関わらず……まだ妻を娶ってはいないのだ」

僧侶(え?勇者さんまだすっごく若いのに……恥ずかしいってどういう……?)ボソボソ

魔法使い(……勇者の里は周辺から断絶された地域にあるから、まだ古い風習が残っているのかもしれないわ)ボソボソ

女戦士(聞いた事あるな。東の国だと十を過ぎたあたりで縁組されるのはそう珍しくないだとかいう話を)ボソボソ

勇者「里の掟の中に、『夫婦となる者同士は、【PSR(プレイヤースキルレーティング)】に開きがあってはならない』というものがあってな」

僧侶「……ぷ、ぷれいやーすき……?」

勇者「単純に言えば、実力差が開いた者同士は夫婦になってはならないという掟だ。お互いのカクゲーの精進に大きく関わるらしくてな、里に古くから伝わっている」

魔法使い「恐らくより強い子孫を残す為に作られた掟ね。……でもそうだとすると……」

女戦士「ああ。勇者の能力の高さから察するに……」

勇者「……最終的に、里で私にダメージを与えられる者がほとんどいなくなってしまってな……」シュン

女戦士「やっぱりな。……ん? ほとんど?」

勇者「……一人、いるにはいたのだが……」ポリポリ

僧侶「え!? いるんですか!? じゃぁそっちを優先して魔妖女さんとの婚約はなかった事に――ああそれじゃ結局駄目ですからやっぱなしでお願いします!」

勇者「……それが……その……私の、妹、でな……」

女戦士「げぇっ、マジかよ。そりゃキツいな……」

魔法使い「近親者で子を成すのは血が濃くなって危険よ。勇者の里みたいに小さな社会だとかなりある話みたいだけどね……」

勇者「とは言え掟は里において絶対だ。私も、妹も……覚悟は決めていた」

勇者「……が」

勇者「私の目の前に魔妖女が現れてくれた」

狐幼女「」

勇者「一度喰らえば倒れるまで連続ヒットしそうな火炎の連撃、MAXゲージ技に匹敵する程の巨大な竜巻――」

勇者「どれもこれも申し分ない実力の証だ。掟に沿える上に、里の外の――しかも極めて強い血を子孫に残せる」ムンッ

女戦士「いやいや、待て待て。あの魔妖女だぞ!?何とも思わねぇのか!?」

勇者「ふむ、元の姿の魔妖女は大きな胸をしていた。あの大きさなら乳も良く出て、子供も健康に育つに違いない」

女戦士「違ぇ! そうじゃねぇよ! あれ見ろあれ! 何かホラ耳とか尻尾とか生えてて、何つーかホラ、違うだろうが!」

勇者「……? 耳と尻尾がどうかしたのか?」

僧侶「え……? どうかしたって……その、あのあの、あの……えぇ……?」

勇者「里の伝承によれば、カクゲーを修めた者達の姿は実に多種多様を極めたとある」

勇者「猫やリスの耳と尻尾が生えている者、淫魔や屍人など人ならざる異形の者……里にある絵巻を見る限り、この者達は皆女性だ」

勇者「……故に狐耳や尻尾が生えていたところで、大した問題ではない」ポフポフ

狐幼女「……ッ!」ハッ

狐幼女「そうじゃ……此方はこの世に産まれてから今に至るまで、好きに出来なかったものは何一つない高貴で麗しい闇の眷属……!」ググッ

狐幼女「例え勇者がまだ此方の真の魅力に気付いておらずとも、これから徹底的に此方の魅力を教え込めば良い話ではないか!」

狐幼女「そうと決まれば話は早いのじゃ。早速部屋を別に取り、此方のてくにっくで勇者を快楽の虜に――」

女戦士「待てコラ」ゴスッ

狐幼女「あぶっ」

女戦士「話はまだ終わっちゃいねぇんだよチビババァ」

狐幼女「ちっ、チビ……ッ!?」ブワッ

女戦士「領主や領民を納得させるのに、表向き婚約しなきゃならねぇってのは……まぁ百歩譲って仕方ねぇとは思うがよ」

女戦士「マジでそいつと結婚するってのはお前、どうなんだ?」

勇者「……?」

女戦士「つまりアレだ。そいつは人間じゃなくて……そう、元魔王軍の魔族だ」

女戦士「こっちの侵略の片棒担いでた、言ってみりゃ勇者の里の――お前の母親の仇じゃねぇか」

狐幼女「うぐっ……」ヘニャァ

女戦士「……勇者はそれでいいのかよ?」

勇者「…………」

勇者「……過去の過ちは消せない」

勇者「魔妖女の行いも、消えることはないだろう」

狐幼女「…………」シュン

勇者「私もそうだ。……自身が弱かったという罪を消し去ることはできない」

女戦士「…………」

勇者「私が強ければ、里を守れたはずだ」

勇者「母を守れたはずだ。救えたはずだ。……強ければ、すべてを……」ググッ

僧侶「勇者さん……」

魔法使い「…………」

勇者「……だが、未来は違う。変えられる」

勇者「魔妖女は身を賭してこの街を守った」

勇者「それは魔王軍としての魔妖女の選択ではなく、魔妖女自身の選択だ。過去を断ち切り、行いを正そうとする行為だ」

勇者「……そしてそれは私が憎むべき魔族とはまったく違う存在だ」

勇者「だから何も問題はないのだ、女戦士」

狐幼女「……ゆ、勇者……」ウルウル

女戦士「…………」

女戦士「分かった」

魔法使い「はい? 分かったってあなた――」

女戦士「っせぇな! 勇者が納得してるんだったら外野がグチグチ言うこっちゃねぇだろうが!」ガルルルッ

魔法使い「だ、だったら何でキレてんのよあんたは……」

女戦士「……腹ァ減ったんだよ。別に今の話たぁ関係ねぇ。全然な」フンッ

僧侶「……じゃ、じゃぁ勇者さんは、その、最終的に魔妖女さんが好きで婚約なさるんですね……」ズズーン

勇者「……?」

勇者「好き、とは?」

僧侶「へ? いやあの、魔妖女さんのここが好きだから嫁にしたいとか、女性として魅力的だからとか、性格が良いからとか……そういう……」

勇者「いや、別にそういう訳ではないが」

狐幼女「に”ゃっ!?……」チーン

僧侶「え? へ? だって結婚をするってことは、その……勇者さんは魔妖女さんが多少なりとも好きだからってことですよ、ね?」

勇者「……好き?」

勇者「それは結婚に必要なことなのか?」キョトン

僧侶「え……え? あの、その……あ、あれぇ?」オロオロ

魔法使い「…………」

魔法使い「ねぇ、勇者。あなた結婚ってどういうものだと考えてるの?」

勇者「子を成す為に必要な儀式だ」

魔法使い「……なるほどね」スゥッ―

―ザッ

魔法使い「でもそれじゃ不十分よ勇者」ビシッ

勇者「……不十分?」

魔法使い「強い女性と縁を結ぶのは、強い子を産み、強い子を育てる為……違うかしら?」

勇者「その通りだ」コクリ

魔法使い「だけどね。必ずしも強い女性と結ばれたからと言って、強い子供が育つとは限らないわ」

勇者「……どういうことだ?」

魔法使い「確かに血統は充分かもしれないけれど……本当に子供の強さを左右するのは環境なのよ」

勇者「【環境】、か」

魔法使い「ええ。両親の円満な関係があるからこそ、円満な家庭が作られ――子供が育つのに適した環境が形成されるの」

魔法使い「そして円満な関係は二人の相性によって決まるわ」

勇者「……【相性】」

魔法使い「でもね、里の掟の【PSR】を基準に考えると、相性や相手の性格と言ったものは全部無視してしまうのよ」

魔法使い「分かるのはあくまで『強さ』だけ」

勇者「…………」

勇者「『強さ』、だけ……」

魔法使い「ひょっとしたらあなたの選んだ相手が子供を育てる能力に欠けているかもしれない」

魔法使い「あるいは子供を産む気すらないのかもしれない」

魔法使い「そもそも一緒に生活できない程のド畜生かもしれない」

魔法使い「……あなたのその結婚の決め方では、そういったリスクを皆見過ごすことになってしまう」

勇者「し、しかし――」

魔法使い「今まで代々それでやってきたって言いたいんでしょう?」

魔法使い「でもあくまでそれは里の中での話」

魔法使い「里の外の『女性』がどうなのかは……あなたも知らないでしょ?」

勇者「……!」

魔法使い「そう、あなたがまさに結婚しようしているのは里の外の女性――それも人ですらなく魔族」

魔法使い「だったら普通以上に慎重になってしかるべきじゃない?」

勇者「ううむ……」

魔法使い「私たちの知る世間一般ではその相性を重視するわ」

魔法使い「何度も逢瀬を繰り返して、お互いの事をよく知り合った上で納得して……それから結婚するの」

魔法使い「これならさっき上げた問題だって解決出来るでしょう?」

勇者「【相性】をよく考えた上で、理想的な【環境】を求める……」

魔法使い「それに『強さ』の観点から言っても、結婚はまだ早いと私は思うわ」

勇者「……早い?」

魔法使い「『里を出て初めて強い女性と会えた』ってことでしょ?なら――」

魔法使い「『魔妖女以上に強い女性』がいてもおかしくないんじゃない?」ニッ

勇者「!!」

魔法使い「勇者と勇者の里の目的は強い子孫を残すことが一番大切なんでしょう?」

魔法使い「勇者が里にいる女性すべてと戦った理由は……より強い女性を選び出す為」

魔法使い「それなのに里を出てから一人しか妻の候補を試さないのは、理屈に合わないと思わない?」

勇者「……言われてみれば……魔法使いの言う通りかもしれん」フムフム

魔法使い「だから勇者は色々な意味で女を知る必要があるのよ」

勇者「なるほど。勉強になるな」

狐幼女「な、何やら不穏な空気を感じるのぅ……」ピクッピクッ

勇者「……しかし私は既に魔妖女と婚約を――」

魔法使い「『婚約』でしょ? 婚約なんだから……もちろん破棄出来るわ」ニヤァ

狐幼女「にょ”わ”ぁっ!?」ブワァッ

狐幼女「お、おおっ!……おっ、お主は何を言っておるかぁぁッッ!!」フーッ

魔法使い「魔妖女だって……勇者が今みたいな失礼な事を言うなら婚約破棄しかねないしね」

狐幼女「勝手にごちゃごちゃと何をこの小娘は――」フーッ!

勇者「待ってくれ魔妖女。……失礼な言葉とは一体何か?」

魔法使い「……分からない?」

魔法使い「あなたは好きでもないのに魔妖女と婚約した。その上気にするのは生まれてくる子供とカクゲーの事ばかり……」

魔法使い「それってつまり――」

魔法使い「魔妖女に『強い女で子を産めるならだれでもよかった』って言ってるようなものなのよ」

―ピッシャーン!

勇者「……な、なんと……私が言ったことはそのような……」ズーン

魔法使い「しかも魔妖女は自分の美貌に対して絶対の自信を持っている――高貴で麗しい闇の眷属。そうよね魔妖女?」

狐幼女「お、おぉ……そうじゃ、その通りじゃ。此方は真に高貴で麗しくこの世に二つとない絶世の美女じゃ」フフン

魔法使い「ねぇ、魔妖女。さっき別に好きじゃないって言われた時どう思った?」

狐幼女「ん……い、いや、まぁしょっくじゃないと言うたらそれは流石に嘘じゃが、そんなに…………いや、かなりしょっくじゃった」シュン…

魔法使い「ほら、見なさい勇者。あなたの心無い言葉で魔妖女はこんなにも傷ついているのよ?」

狐幼女「ま、待て! 待たぬか魔法使い!……確かに此方は深く傷ついた……じゃが! 此方は必ず勇者を振り向かせてみせると決――」

―ポムッ

狐幼女「あうっ」

勇者「…………」ナデナデ

狐幼女「ゆ、勇者? い、一体どうしたのじゃ?///」

勇者「……すまなかった、魔妖女」

狐幼女「ふわぁ……ふぇ?」ユラユラ

勇者「婚約は解消しよう」

狐幼女「……………………」

狐幼女「……す、すまぬが、ももっ、もう一度言ってくれぬかのぅ。ここっ、此方にはよく聞こえなかったのじゃががが」カタカタカタカタ

勇者「婚約はなかったことにしよう魔妖女。……本当にすまなかった」ペコッ

狐幼女「何故じゃぁぁぁ!? やはりこのチンチクリンの体のせいか!? 耳か!? 尻尾なのか!?」ジタジタ

勇者「いや、私がまだ魔妖女に釣り合うような男ではないからだ」

狐幼女「……な、なんじゃと?」

勇者「私は未熟だ……」

勇者「魔法使いに言われなければ、自分が失礼な態度を取ったことにさえ気付かなかった……未熟な男だ」

勇者「……誇りを無遠慮に傷つけられて、魔妖女もさぞ腸が煮えくり返る思いだっただろう」

狐幼女「いや此方はそこまでは別に――」

勇者「魔法使いの言う通り、私は女というものについての理解が足りなかったようだ」

勇者「女をよく知り、多くの女を試し、カクゲーと同じく――良き男となる為に修練を重ねねばなるまい」ムンッ

狐幼女「ま、待たぬか勇者! お主色々と盛大な勘違いをしておらぬか!? 此方は別に――」

勇者「不快な思いをさせてすまなかった魔妖女」

勇者「……表向きは婚約者として過ごさなければならないのは苦痛かもしれないが……何とか耐えてくれないだろうか? この通りだ、頼む」ペコリ

狐幼女「……ッ」

狐幼女「~~~~ッ!!」

―ムンズッ

狐幼女(貴様最初からこれが狙いじゃったなッ!)ボソ

魔法使い(……私は勇者にとってより良い道を示しただけよ)ボソ

狐幼女(白ばっくれても無駄じゃ小娘! あの妙に純粋な勇者を言葉巧みに誑かしおってからに!)

魔法使い(誑かしが専売特許の狐妖に諭されてもね……)フイッ

狐幼女(ええい黙らんか! あれを見よ!)

勇者「…………」シューン

狐幼女(完全に反省して萎縮しておるではないか! これでは此方が食い下がっても――)

魔法使い(気を使っているようにしか見えない、かしら?)フン

狐幼女(お・の・れぇ……!)ギリギリ

魔法使い(まぁ、私が狙ったのどーのは別としても……正直あなたにはがっかりさせられたわ)ハァ

狐幼女(……がっかり、とな?)

魔法使い(だってあなた……自分に自信がないから、食い下がろうとしているんでしょう?)

狐幼女(……何じゃと?)ビキッ

魔法使い(だってそうでしょ?)

魔法使い(勇者が世界を巡った後に自分が最後に選ばれないかもしれないから……必死に保険をかけようとしてるようにしか見えないもの)

魔法使い(高貴だの、美貌だの、さんざんのたまっておいてこれじゃぁ……高貴な闇の眷属だなんて聞いて呆れるわね)ハンッ

狐幼女(貴様ァ……此方をそれ以上愚弄するなら……ッ!)ブワァ

狐幼女(…………)ピタッ

狐幼女(…………)

魔法使い(……?)

狐幼女(……フッ)

狐幼女(プッ……クククッ……)

魔法使い(……な、何? 突然笑い出したりして)

狐幼女(そうか……そういうことじゃったか。ほォう、なるほどのぅ)ククク

魔法使い(したり顔で何を――)

狐幼女(―― お 主 、 勇 者 に 惚 れ て お る な )ニィッ

魔法使い(なッ!?///)

狐幼女(短いとは言え、お主らとは濃密な時間を共に過ごした仲じゃ。多少なりとも個々の性格は掴めておる)

―ビシッ

狐幼女(お主は策略、計略、謀略といった『はかりごと』に長ける――所謂軍師タイプの人間じゃ)

狐幼女(大方、今回も宮殿の時のように此方を逆上させて事を運ばせるつもりじゃったな?)

魔法使い(……ッ)

狐幼女(残念ながら一流に二度目は通用せぬぞ)

狐幼女(お主が此方を怒らせようとするならば、必ず別の狙いがあると此方は考えたのじゃ)

狐幼女(そしてようやく此方は理解した)

狐幼女(此方を勇者から遠ざけ、婚約の座から此方を引きずり下ろそうとする……お主の本当の狙いをのぅ)ニィ

魔法使い(……別に――)

狐幼女(隠さんずとも良い。勇者が好きなのであろう? 恐らく僧侶や女戦士もじゃな)

狐幼女(このまま婚約が決まってしまえば、お主らのチャンスは無くなってしまうからのぅ)

狐幼女(じゃからお主は口八丁で勇者と此方を押さえ込んだのじゃ……いやいや大したものだのぅ。敵ながら天晴じゃのぅ)

魔法使い(くっ……!)

狐幼女(見破ってしまえば訳はないのじゃ。このまま此方がごねて未来の勇者の嫁の座はいただきじゃの♪)

狐幼女(――と、言いたいところじゃが)

魔法使い(へ?)

狐幼女(此方の気が変わった。あえてお主の手に乗ってやろう。……婚約は此方からも『取り消し』じゃ)

魔法使い(……どういうつもり?)

狐幼女(……お主の言うことにも一理あるからの)

狐幼女(此方はこの世で最も高貴で美しい存在じゃ――他の雌共に引けを取るはずがないと、此方は自負しておる)

狐幼女(更に此方は勇者への愛へ目覚めた身。この先勇者に気に入られる為ならば全身全霊を捧げ、ありとあらゆる研鑽をするつもりじゃ)

狐幼女(つまり……どうあっても最終的に選ばれるのは此方なのじゃ)ホホホ

魔法使い(本当に……何て傲慢さなのかしら……ッ!)

狐幼女(じゃからお主らにも、これから出会うであろう何処の馬の骨とも分からぬ雌にも、平等にちゃんすを与え――)

狐幼女(此方はお主らの悔しがる姿を見ながら祝言を迎える――そんな未来設計に計画変更じゃっ♪)

魔法使い(……追う者は追われる者より常に強いわよ)

狐幼女(自分の感情も素直に吐き出せぬ小娘がよう言うわ。すたーとらいんにも立てぬお主がいかに策を弄したところで……此方の足元にも辿りつけぬぞ?)ホホホ

魔法使い(――ッ!)ギリッ

―バチバチバチバチ…

女戦士(似た者同士、か)ヒソ

僧侶(女戦士さん聞こえてたんですか? 何ですか? 何の話をしてたんですかお二人共?)ヒソ

女戦士(……何でもねぇよ。……僧侶はともかく、あたしも勝手に含めやがってあのババァ……)ブツブツ

僧侶(や、やっぱり聞こえてますよねそれ!? わたしにも教えてくださいよぅ!)ブンブン


勇者「…………」ペコーー


―ザッ

狐幼女「――おほん!」ピコピコ

勇者「……む?」

狐幼女「勇者よ、お主の言い分ももっともじゃ。確かに男を磨くには女に塗れるのが一番じゃろうて」

狐幼女「……それに此方も勇者のぞんざいな扱いにちと傷ついたしのぅ」

勇者「……すまなかった」

狐幼女「よって一旦婚約を破棄する旨、表向きは婚約者として身分を偽る旨、共に承った」ポムッ!

勇者「かたじけない」

狐幼女「――じゃ・が!」ビシッ

狐幼女「お主は嫁探しを続ける内に勇者は思い知るはずじゃ」

狐幼女「此方程優れた結婚相手なぞ……そうはおらぬとのぅ」ホーッホホホ!

勇者「……魔妖女」

狐幼女「……納得するまで存分に嫁を探すが良い勇者よ」

狐幼女「お主が嫁を探せば探す程、男を磨けば磨くほど――」

狐幼女「――此方の姿は以前にも増して、お主には魅力的に映るようになるはずじゃ」

狐幼女「その時は申せ。時を問わず、場所を問わず、此方がお主の妻になろう」

勇者「ありがたい申し出だ。魔妖女の心の広さには――」


狐幼女「いや、違うのぅ……これからはこうではいかんのぅ」ブツブツ

勇者「魔妖女?」

狐幼女「こほん。その時は、その時は此方を……お主の――勇者のお嫁さんにして欲しいのじゃ///」ピコッ フリフリッ

勇者「……心得た」コクリ

―ポムッ ナデナデ

狐幼女「に”ょわっ!? ゆ、勇者! 脈絡もなく此方を――はにゃぁ~……」ピクッ ピクンッ

勇者「…………」ナデナデ

――――

魔法使い「――と言う訳よ。とりあえず婚約は回避したわ。……色々と厄介な問題はまだ山盛りだけれど」

女戦士「……ま、あたしにゃぁ関係ねぇがな」フンッ

僧侶「良かった……本当に良かったです……あ、でもでもわたしより魅力的な方なんてそれこそ星の数程……でもでもわたし――」ブツブツ

女戦士「…………」ジーッ

魔法使い「……何よ?」

女戦士「……いや、別に。お前が金以外に好きなもんがあったのが意外なだけだ」

魔法使い「へ、変な勘ぐりはやめてくれない? 私は人と魔族が一緒になるなんてどうかと思ったからで……」アセアセ


―シュタッ!

狐幼女「そうと決まれば善は急げじゃ! 早速嫁探しの旅に出発じゃのぅ!」ムフー

女戦士「……あァ?」

魔法使い「はァ……あのねぇ。嫁探しなんてのはついでもついで、おまけもおまけの目的なの」

狐幼女「おまけ? お主らは此方を討伐する領主の依頼を成し遂げて……もう暇人じゃろう? じゃったらもう探し放題ではないか」キョトン

僧侶「あ、そう言えば……魔妖女さんには、まだわたしたちの旅の目的伝えてませんでしたね……」

勇者「これからは行動を共にするのだ。伝えねばなるまい。 魔妖女、我々の旅の目的は――――」

――――

狐幼女「」

女戦士「あっはっはっはっ! 見ろよあの魔妖女の顔! 顎が今にも地面につきそうだぜ!」ゲラゲラ

魔法使い「まぁ、気持ちは分かるけどね……」

狐幼女「ゆ、勇者……」カタカタ

勇者「む?」

狐幼女「今……魔王様――いや、魔王を倒す為に旅をしていると……そう、言ったように此方は聞こえたのじゃが……」ギギギ…

勇者「ああ」

狐幼女「つ、つい先日まで此方が仕えていた……あの魔王で間違いないのかえ?」ヒクヒク

勇者「ああ」

狐幼女「…………」

狐幼女「嘘じゃー! 絶対に嘘なのじゃー!!」フーッ

狐幼女「みんなして此方をたばかっておるのじゃろう! ふふん。此方も甘く見られたものじゃ。どうせ嘘をつくならつくでもう少しマシな嘘を――」

女戦士「嘘なもんかよ。ホレ、勇者の目を見てみろ」

狐幼女「……勇者の目?」

勇者「……?」

―キラキラ

狐幼女「う”っ……何と、何と純粋な瞳なのじゃ……! とても嘘をついているようには思えぬ……!」

狐幼女「それではまさか……! まさかお主ら――」ゴクリ

狐幼女「本気で魔王を倒すつもりでおるのか!?」

勇者「ああ」

僧侶「わ、わたしは皆さんのお手伝いを出来ればそれで……」

女戦士「おうともさ」

魔法使い「うん、まぁ一応……ね」

狐幼女「た、たった四人ぽっちのパーティーでじゃと……!? 正気の沙汰とは思えぬ……!」

女戦士「まっ、確かに正気じゃねぇのは認めるがよ。勝機はばっちりあるんだぜ魔妖女」ニッ

狐幼女「……何じゃと?」

女戦士「勇者の、そしてあたし達だけの武器――」

女戦士「『カクゲー』さ」

狐幼女「……かく、げぇ?」

――――

狐幼女「何と……。勇者が此方を打ち破った闘技は魔法であったか……」

魔法使い「見たことも聞いたこともない魔法だから、私たちは便宜上結界魔法と区分しているわ」

狐幼女「……ある一定範囲内の理を、勇者の任意とする理に書き換えてしまう……。此方が干渉出来なかったのもそれが理由じゃったか」

狐幼女「結界を己だけでなく相手にも強いる魔法――結界魔法。成る程、言い得て妙じゃのぅ」

魔法使い「……ちょっと待って。まさかあなた、その様子じゃ――」

狐幼女「此方がこう言うのはちと腹が煮えるがの……知らんのじゃ。そんな魔法などのぅ」

狐幼女「……主らに敗れたとは言え、此方は魔王軍随一の魔導師じゃ」

狐幼女「人の間では失われて久しい古の魔法は愚か、此方しか扱えぬ原初の魔法、宝具神具魔具に込める呪詛……」

狐幼女「おおよそこの世で魔とつく言霊はすべて網羅していると言っても過言ではない」

狐幼女「……その此方でさえ、知らぬ」

狐幼女「主らの何百倍と生きている此方でも――お主の言を借りるなら、見たことも聞いたこともない魔法じゃ」

魔法使い「……魔妖女ですら知らないなんて、一体どういう出自の魔法なの……?」ガジガジ

狐幼女「…………」ピコッ ピコッ…

狐幼女「……成る程のぅ。それがお主らの武器ならば、あるいは……」フムゥ

狐幼女「のぅ魔法使い」

魔法使い「――結局あの里に行かないと何も……何かしら?」

狐幼女「お主の魔王討伐の計画を聞かせて貰えぬかの」

魔法使い「……何で私に聞くのよ」

狐幼女「女戦士と僧侶はこういった手合が得意な輩ではなさそうじゃからのぅ」

魔法使い「勇者を含めなさいよ勇者を。この中で一番無謀で考えなしなのはあいつなんだから」

狐幼女「勇者は男前じゃし、此方の未来の旦那様じゃからのーかんなのじゃ♪」フリフリ

魔法使い「…………」ハァ

魔法使い「私たちは何も四人で魔王軍すべてを相手にする訳じゃない」

魔法使い「……かなり乱暴な言い方だけど――」

魔法使い「――魔王軍の要、絶対的な悪のカリスマである魔王さえ倒せればそれでいい」

狐幼女「……間違ってはおらぬな」

魔法使い「そして多数には多数の――少数には少数にしか出来ない事がある」

狐幼女「ほぅ……。つまり?」

魔法使い「……少数の理を活かして魔王城を密かに目指し、魔王に対して一騎打ちに近い形に持ち込む」

狐幼女「…………」タシッ タシッ…

魔法使い「自分でもバカなこと言ってると思うわ。このパーティーにいる内に、私も大分毒されたんでしょうね」

魔法使い「……でもね、魔妖女。一対一、個対個の戦いにおいて『カクゲー』は無類の強さを発揮するわ」

魔法使い「ルールを押し付け、それこそ一方的に蹂躙することだって出来る――究極の【初見殺し】」

魔法使い「……戦ったあなたなら分かるはずよ。あの底知れぬ力と問答無用の理不尽さが」

狐幼女「……ふむぅ」タシッ タシッ…

狐幼女「して、その計画が成功する見込みはどれ程と魔法使いは考えておるのじゃ?」

魔法使い「千に一つ――0.1%ってところね」

狐幼女「……ほォう? 此方には、お主がそのような分の悪い賭けに乗るような柄には見えぬがのぅ……」

魔法使い「…………」フイッ…

狐幼女「謎の結界魔法の強さに対する信頼か――それとも勇者自身に対する信頼がお主をそうさせておるのか……果たしてどっちかのぅ?」ニヤニヤ

魔法使い「……ともかく」

魔法使い「魔妖女、あなたがこちらについたおかげで状況は好転したわ」

魔法使い「……千に一つから――百に一つになる位にはね」

―タシッッ
狐幼女「訂正せぬか。十に一つ、10ぱーせんとじゃ」

狐幼女「主らも知っての通り、魔王軍で諜報を司っておったのは此方じゃ」

狐幼女「情報収集から情報操作――此方の息がかかった駒を使えば、戦も政も、何もかもが自由自在じゃった」

狐幼女「――その此方が、お主らの為に力を貸す」

狐幼女「つまり、魔王軍から勇者一行の姿を隠すことも……現れる先を偽ることも此方の思うがまま」

狐幼女「そして同時に手に入れたわけじゃ――」

―フワッ

狐幼女「高貴で美しい――魔王までの水先案内人をのぅ」カンラカンラ

勇者「! では……」

狐幼女「どの道、領主との盟約によって此方は勇者の側を離れること出来ぬ身じゃ。……まぁ元より離れるつもりもないがの」

狐幼女「それに良き妻とは、夫がこれと決めたことに余計な口は挟まぬものじゃ!」フンッ

狐幼女「勇者がどこへ赴こうと……此方は喜んでついて参るぞ♪」

勇者「……心強いな、魔妖女」ナデナデ

狐幼女「な”っ――ま、待たぬか! 此方は妻としてのあぴーるをしたのじゃからこの様な扱いではなく――にゅふぅ……」ピクッ ピククッ

僧侶「……いいなぁ魔幼女さん……わたしもいつかあんな風に……」ジーッ

女戦士「ことあるごとに撫でやがって……あいつやっぱりその気があんのか……?」イライラ

――――

狐幼女「……おほん。お主らが本気で魔王を倒そうとしている旨、此方は十二分に理解した」ツヤツヤ

魔法使い「殴りたいわ……」

女戦士「殴りてぇな……」

僧侶「殴りたいですね……」

狐幼女「――しかし、じゃ」スゥ

狐幼女「魔王を倒そうとするならば、お主らにはどうしても避けては通れぬ障害があるわけじゃが……それは何とする?」

「…………」

勇者「……四天王、か」

狐幼女「しかり」―タシッ

狐幼女「我ら四天王の最大の役目は魔王の守護じゃ」テクテク

狐幼女「そしてそれがすべてにおいて優先される命である以上、四天王はお主らの前に必ず立ちはだかるじゃろう」ピタッ

狐幼女「……かつての此方のようにのぅ」

魔法使い「あなたを除いた四天王とは、この先いずれ当たることになるだろうと思っていたわ。……けど魔王の守護ですって?」

狐幼女「うむ。それが四天王に課せられた一番の命じゃ」

魔法使い「……守られるような存在に、力のある魔族が従うっていまいちピンと来ないのだけれど……」

狐幼女「そうじゃな。そこも含めて、今一度魔王と四天王についてお主らに語らねばならんのぅ」ヨジヨジ

勇者「……?」

―チョコン

狐幼女「――結論から述べるとのう……魔王は今、瀕死の重体なのじゃ」

女戦士「おいテメェ勇者の膝に座る必要あん――何?」

魔法使い「……どういうこと?」

狐幼女「今から凡そ七百年前、魔王は女神とその加護を受けた伝説の勇者一行に敗れた……それは皆知っておるのぅ?」

僧侶「勿論知ってますよ。女神様と伝説の勇者様が力を合わせて魔界へ封印したんですよね。わたしの大好きなお話です!」キラキラ

狐幼女「……じゃがのぅ、魔王の封印は女神と伝説の勇者の本意ではなかったのじゃ」

僧侶「え?」

狐幼女「女神と伝説の勇者は魔王を滅するつもりじゃった。この世から、引いては魔界から跡形もなくの」

狐幼女「……じゃが魔王は強かった」

狐幼女「世界の境目を曖昧にする程の瘴気。かつての魔界の神々たちを屠り去った魔力……」

狐幼女「古の神々をも超越した魔界の王は、神と同列か――いやそれ以上の力を有していたのじゃ」

狐幼女「結果、女神と伝説の勇者による攻撃は、光と光の加護による剣で魔王に癒えぬ傷を与えるに留まり……」

狐幼女「魔王を滅することは叶わなかったのじゃ」

魔法使い「全力を賭したにも関わらず、ただ弱らせただけで終わってしまった……そういうことなのね?」

狐幼女「左様。しかも弱らせたとはいえ……女神は御神体――『器』が砕け、伝説の勇者は剣の一振り、魔法の一つさえ撃てぬほど消耗し、共に満身創痍になってしまったのじゃ」

女剣士「……ほーん、で?」

狐幼女「『このまま時が経てば、魔王は再びこの世界に破壊と厄災を振りまく』――そう確信した女神は……覚悟を決めたのじゃ」

狐幼女「己が身――壊れかけではあるが――神という存在を賭して、魔王を封印するという覚悟をのぅ」

僧侶「……女神様の存在を、賭して……ですか?」

狐幼女「そうじゃ。……女神は残されたあらん限りの聖なる力で魔王を拘束、魔界へと送り返し――」

狐幼女「魔界との境界を三振りの光の剣で閉じるように伝説の勇者に命じると……その姿を消した」

僧侶「ま、ままっ、待ってください! それって、まさか……まさか……!?」

狐幼女「……お主の想像通りじゃ。その時、この世界の神、女神は……『死んだ』のじゃ」

僧侶「そんっ……な……」

狐幼女「主らが奇跡を扱えるのは、砕けた神の欠片がただ反応しているからに過ぎぬ。……まぁ、良く言うならば、女神が最後に放った人への想い、その残滓がお主らを助けてるとも言えるがのぅ」

狐幼女「……神託が国によって食い違い、いつからか人を導かなくなったのはそれ故じゃ」フゥ

僧侶「…………」

狐幼女「……話を戻そうかのう」

狐幼女「魔王は、全身に癒えぬ傷を負い、光の鎖でその四肢を封じられ、魔界の深淵へと落ちていった」

狐幼女「己が力で傷を治すことも叶わず、己が力で鎖を砕くことも叶わず、どこまでもどこまでものぅ」

狐幼女「そして魔の獄の焔で照らすことのできない、闇の底についた魔王は……その魂を凍らせたのじゃ」

魔法使い「眠りについたってこと?」

狐幼女「眠りとはちと違うかの。魔王は自らの『時』を完全に停止させたのじゃ」

狐幼女「……再びこの世界を攻める好機が訪れるまで、のぅ」

女戦士「ん? そうさせねぇ為に女神さんが体張ったんじゃねぇのかよ?」

狐幼女「壊れかけの器で、じゃ。万全ならば永久に封印も叶ったかもしれぬがの」

狐幼女「……とは言え死にかけでも壊れかけでも女神は女神。強力な境界の封印には変わらぬ。その封印は百年どころか二百年も保ち続けた」

狐幼女「じゃが恐らく女神は失念しておったのじゃ。人という生き物の習性――適応という諸刃の刃をの」

女戦士「あァ? どういう意味だそりゃ?」

狐幼女「女戦士、平和とは何じゃ?」

女戦士「……突然何だよ。まぁ、要はあたしが廃業する言葉だな」

狐幼女「ホホ、これはなかなかどうして。真を突いておるな」

狐幼女「良いか? 人類種の天敵は去った。大きな争いは起きぬ、ならば武器を取る必要も……己を鍛える必要もなくなる」

狐幼女「効率良く敵を倒す術も不要、異なる国をまとめ上げる力も不要じゃ」

狐幼女「すると何が起こるか分かるかの?」

魔法使い「……停滞、もしくは退化する。自らを守る為の力と、敵を打ち破る為の力が」ギッ

狐幼女「しかり。人は良くも悪くも驚嘆に値する早さで環境に適応するもの。争乱であればその争乱に……平和であればその平和に、じゃ」

狐幼女「その様子だと、魔法使いは『それ』をよく知っておるようじゃがのぅ」

魔法使い「……当たり前よ。魔王との大戦から、一体どれだけの魔法が埋もれ、失われていったことか。……本当に耳が痛い話だわ」

狐幼女「人と言うものは――いや大半の魔族もそうであるが……易きに流れるものじゃ。水が低きに流れるが如く、この世の摂理には逆らえまい」

狐幼女「……魔王は自らの時を凍らせ、その時が来るのを待ち続けたのじゃ。人が怠惰に流れ、勇者の血が薄れ、女神の封印が風化する……その時をのぅ」

女戦士「そんで魔界からまた出てきたってわけか」

女戦士「――でもそうすっと一つ納得いかねぇ事が出てくるんだがよ」

狐幼女「ほう? 言うてみよ、女戦士」

女戦士「要は魔王ってのは信じられない位長生きなんだろ? だったら瀕死のままじゃなくてよ、治るまで穴蔵に引っ込んでりゃ良かったんじゃねぇのか?」

狐幼女「残念ながら――と言うか今となっては好都合じゃが……魔王の傷は癒える事はないのじゃ。光の鎖も同様、解けることも壊れることも未来永劫ありえないじゃろう」

女戦士「……ほーん。なるほどな。こっち側に来る事は防げなくても、魔王の弱体化には伝説の勇者と女神さんはかっちり成功してたってわけだ」

狐幼女「……まぁ『魔界』においては、の話じゃが」フゥ

魔法使い「……どういうこと? 詳しく聞かせてちょうだい」

狐幼女「うむ。魔王が受けた攻撃、拘束はすべて……光の魔法と奇跡によるものじゃ」

狐幼女「故に闇を擁する魔王に治癒の術も、解く術もない。当然、魔界にもない」

狐幼女「……じゃが――」

狐幼女「『こちら』にはある、そうじゃろう?」

勇者「!」
僧侶「あ……」
女戦士「……ちっ」
魔法使い「そういう、ことね……」

狐幼女「魔王が五体も満足に動かせぬままこちら側に来た理由は、それ故じゃ」

狐幼女「女神の器の欠片を集め、治癒と解呪の方法を探し出し、魔王としての完全な力を再び取り戻す為に……魔王は再びこの世界へと降り立ったのじゃ」

魔法使い「……でも、変ね」

狐幼女「何がじゃ?」

魔法使い「あなた達魔族の社会は、基本実力本位の世界のはず。下克上上等の弱肉強食の世界――なら、今弱っている魔王を倒せば、そいつが魔王になって変われるじゃない」

狐幼女「……魔法使い、それは簡単な話じゃ」

狐幼女「魔王が、四肢を断たれ融かされ、鎖で動きを封じられ、ろくに力を振るえなかったとしても――」

狐幼女「――此方では勝てぬ。ただそれだけの話よ」

魔法使い「……!」

狐幼女「いや、此方どころか……例え四天王が束になってかかろうとも、勝てる相手などではない」

狐幼女「魔王を倒すことなぞ、それこそ万に一つ、億に一つ、那由他に一つもありえぬ話なのじゃ」

狐幼女「それ程までに……魔王は強い」

僧侶「……ッ」ゴクリッ

女戦士「……んで、そんなにクソ強い魔王さんを、今は過保護に囲ってるってわけか」

魔法使い「すべては万が一を無くす為、でしょ? 百年単位でチャンスを待つような奴よ。 ……用心深くて周到、加えて並々ならぬ精神力の持ち主ね」

僧侶「い、いくら強いと言っても、ひ、瀕死ですから、万全で戦う時よりも、大きく消耗してしまうから、ではないでしょうか?」

―スゥ

狐幼女「しかり。これ以上魔王の計画が遅れることのないよう、我ら四天王は魔王の守護を最優先の命としておるのじゃ」


魔法使い「……魔王が瀕死でもあなた達魔族が従い、何故に守護に努めるのか……合点がいったわ」

魔法使い「……同時に、私たちが魔王を倒せる見込みも随分と減ってしまったけれど」ハァ…

狐幼女「……ふむ」ピコピコ

狐幼女「此方はそうは思わん」フリフリ

女戦士「あん?」

狐幼女「あくまで魔王を倒せぬのは、此方ら四天王の話ぞ。力に対して力で対抗するならば、力が強大な方が勝る……当然の話じゃ」

―ピョンッ

狐幼女「そうじゃ。お主らが魔王を倒せる見込み――決して多いとまでは言わぬが……女戦士の言うた通り、勝機はあると此方は考えておる」

魔法使い「……根拠は何?」

―クルゥリ

狐幼女「魔王はのぅ、『伝説の勇者』の末裔――直系の血族を探しておるからじゃ」

僧侶「え? それって、あの、その……勇者さんを探してるってことですか?」チラッ

勇者「む?」…パチッ

狐幼女「しかり。魔王は度々、人間達の中に力を有している者を見つけては自らの軍勢を送り込み……その者たちをすべて葬ってきたのじゃ」

魔法使い「――人類種での強者は、勇者の末裔の可能性があるから……?」

女戦士「アレか? 要は魔王がビビってるってことだよな?」

狐幼女「ふむ。なにしろ魔王に唯一の敗北を与えた男の血統じゃ」

狐幼女「女神亡き今、自らの野望を阻むとすれば『伝説の勇者』の血しかありえぬと……そう魔王は考えておるのじゃろう」

女戦士「……ほーん。手前の体は万全どころか満身創痍。例え女神さんがいなかろうが、加護がなかろうが、今の魔王には十分脅威ってわけだ」

ビッ

狐幼女「加えて、じゃ。改善につぐ改善を重ね、脈々と受け継がれてきた勇者の結界魔法『カクゲー』とやらは……」テクテク

狐幼女「魔族と人が全力で戦った時代そのままの鋭さを――あるいはそれ以上の冴えをもって、勇者の躰に秘められておる」―ポムポム

勇者「……ふむ」グッ パッ

―ニギッ

狐幼女「丁度良い。少しを手を借りるぞ勇者」キュッ

僧侶「――――ッ!! ――~~ッッ!!」パクパク

魔法使い「ちょっ、何あんた脈絡もなく勇者と手を繋いでんのよ!」

狐幼女「触った方がより正確じゃからのぅ。……ほれ」キュムッ

…ポワッ

女戦士「何だ? このホタルみてぇな光は……」

魔法使い「ッ!? こッ、これって……ッ!」

狐幼女「ほうほう、一目で見抜きおったか魔法使い。伊達に魔法を修めておらぬな」

魔法使い「こッ、古代文字じゃない……! それもおびただしい量の……!」

狐幼女「……まぁ、これを古代文字と言っていいのかどうか、此方には判断がつかぬがの」ウヌゥ

魔法使い「……え?」

狐幼女「このように小さくては皆も見えにくいじゃろう。少し大きくするぞ」ムムッ

…ポワワッ

僧侶「うわー……綺麗ですねぇ……まるで教会の碑文みたいです……」ハァー

狐幼女「どうじゃ、魔法使い。これでも古代文字と……お主は解釈するかのぅ?」


……0A 91 6D 97 B5 81 41 8F 97 90 ED 8E 6D 81 41 96
82 96 40 8E 67 82 A2 82 F0 92 87 8A D4 82 C9 89
C1 82 A6 82 BD 97 45 8E D2 82 CD 81 41 97 B7 82
CC 93 72 92 86 82 C9 97 A7 82 BF 8A F1 82 C1 82……


魔法使い「…………」

魔法使い「……これは……一体、何……?」ゴクッ

狐幼女「さぁのぅ。此方も知らぬ。勇者と相まみえた時から、得体の知れぬものだとは思っておったが……」

狐幼女「魔力の流れを掬ってみれば、ほれ、この有り様じゃ」

ツッ…

狐幼女「文字一つ一つに魔力が込められている――と言う意味でならば、確かにこれは古代文字なのじゃろう。じゃが――」

魔法使い「――文字の並び方が支離滅裂で、意味を成していない……」

狐幼女「しかり。此方の目にも、幼子が悪戯に書いた文字の羅列にしか見えぬ」―スッ

―ポポワッ

狐幼女「……が、それはあくまで『此方たち』には――の話じゃ」

魔法使い「!」―ハッ

狐幼女「そうじゃ。忘れてはならぬ。このような混沌とした文字の組み方でも……実際、勇者は力を使役出来るのじゃから」

狐幼女「しかも極めて強力な結界魔法を、のぅ」

魔法使い「……つまり、私たちには理解できないだけで……この古代文字の並びには意味が――力が込められている……」

狐幼女「魔法の作りからして根本から違うのじゃろう。恐らく、魔法を最小単位まで解いた上で、再構成をしておると此方は見ておる」

魔法使い「あ、ありえない……。メラやメラミ、ホイミだってこれ以上ない程に洗練された魔法なのに……それを、それを崩して構成し直すなんて……」フルフル

狐幼女「当然、人の成せる技ではない。無論、此方ら闇の眷属でも試みた者はおらぬ」

女戦士「……人でもねぇ。魔族でもねぇ」

僧侶「そうなると、一体どなたがこれを……」ツンツン

狐幼女「ホホ、トボけるでないわ僧侶。お主が先ほど自分で答えを言うたではないか」

僧侶「……へ?」

狐幼女「まるで『教会の碑文』のよう――とな」

僧侶「あ、いえ、あれはっ、何となくと言いますか。例えるならそうかな、って感じで、わたしが勝手に……」ワタワタ

狐幼女「いや、そのものズバリじゃよ僧侶」

僧侶「へ、え……と……?」

狐幼女「まぁ正確には『碑文』のよう――ではなく、『碑文』そのものと言って良いじゃろう」

僧侶「……! そ、それってまさか……!」

狐幼女「うむ。その、まさかじゃ」キュムッ

―ポワッ…

狐幼女「結界魔法『カクゲー』とは……女神が創りあげた全くもって新しい魔法」

狐幼女「お主のような僧侶達の信仰の柱――碑文と同じように、女神がこの世に遺した奇跡の一つというワケじゃ」

僧侶「…………」

僧侶「……カクゲーが、女神様が遺してくださったもの……」グッ

魔法使い「こ、根拠は? 女神が作ったという証拠、いえ痕跡でもいいから教えなさ――いえ、教えて欲しいわ!」フシュー


狐幼女「そればかりは勘働きじゃ」

魔法使い「…………」チーン

狐幼女「まぁ、あえて理由をつけるならば、そうじゃのぅ」ピコピコ

狐幼女「……魔法を知り尽くしている此方が知らぬ、となればそれは誰かが新たに創り出したと言うことじゃ」

狐幼女「じゃが、そんな大それた事が出来るのは魔王か女神くらいしかおらぬ」

狐幼女「そして魔王の得意とするのは『破壊』であって、『創造』ではない。となればホレ、もう一柱くらいしかおらんじゃろ?」ン?

魔法使い「…………恐ろしく明快な説明ありがとう」

女戦士「……んー」バリバリ

女戦士「まぁ、何か、奇跡だの何だのはよくわかんねぇけどよ。魔妖女が言いてぇのはこういう事か?」カタッ

女戦士「――女神さんがこの世から消える前に、カクゲーを伝説の勇者ってのに授けた」―サラサラ

女戦士「伝説の勇者の娘せがれ共はカクゲーを何百年も改善し、継承を続け」―サラサラ

女戦士「とんでもなく強いモンに鍛え上げた」―シャッ

女戦士「一方魔王は現状瀕死で、かつ力を封印されている」―シャシャッ

女戦士「……かつて伝説の勇者や女神が使っていた古代魔法より、優れた新魔法である『カクゲー』なら――」―カッ カッ

女戦士「――魔王を倒せる目がある、と」―シャァッ


狐幼女「女戦士は恐ろしく絵が下手じゃなぁ」フムゥ

女戦士「うるせぇな」

狐幼女「大体合っておる。……この珍妙なトゲトゲの物体が魔王ならのぅ」

女戦士「あァ!? んなもん大体分かりゃいいんだよ、分かりゃぁなぁ!」フンッ

僧侶(……ハチマキをしてるからこれがかろうじて勇者さんだと分かります)

魔法使い(この黒帽子に手足が生えた物体が私だと言いはる気なら後でメラを打ち込むしかないわね)

勇者(……このトゲのヒットボックスはどうなっているのだろうか。先端部分に喰らい判定がないなら完全に出し得の――)

女戦士「だぁッ! もうあたしのラクガキは見るな! この話は終わりだ終わり!」ブンブンッ

女戦士「要は魔王が倒せるってことだろこの野郎ッ!」フシュー!

狐幼女「しかり。……まぁ、十に一つ程ではあるのじゃが」―パッ

―フッ…

僧侶「あぁ……消えちゃいました……」

狐幼女「魔王と勇者の話はひとまずここまでじゃ。カクゲーと魔王について委細語り始めれば、それこそキリのない話じゃ」

狐幼女「今は目下の難題――四天王をどうするかの方が急務じゃろうて」

魔法使い「……確かにね。魔王の下にも辿りつけないんじゃ、カクゲーが通用するしないの問題にすらならないし……」

狐幼女「ふむ。四天王をすべて倒すにしろ、避けるにしろ……まず敵を知ることが何より肝要じゃ。よって――」―ピョインッ

狐幼女「高貴でまぐにふぃせんとな元情報参謀である――此方がっ! 軽ぅく四天王について教えようではないかっ!」―パァァァッ

魔法使い「こんなナリとは言え、元四天王で元情報参謀だものね。有用性は計り知れないものがあるわ」

狐幼女「えぇい! いい加減にせい! この姿は仮の姿じゃと何度も言うとろうが! 此方はぼぼんきゅきゅきゅのばぼばぼーんが真の姿なのじゃ!」プンスカー!

狐幼女「――ハッ! ……いかんいかん。正妻の余裕じゃ、正妻の余裕。女は海なのじゃ。細かいことで目くじらをいちいち立てたりはせぬ」ブツブツ

狐幼女「コホン……まずはそうじゃな。お主らは四天王を――此方を除いてどこまで知っておるのじゃ?」ビッ


僧侶「と、とても強そうですよね」ブルブル

女戦士「あと三人いる」― ト ゙ ン ッ

勇者「知らない」― ト ゙ ン ッ


狐幼女「」

―ポンポン

魔法使い「……あきらめなさい。こういう連中なの。私も一度は通った道だわ」

狐幼女「さ、先が思いやられるのじゃ……」

狐幼女「…………」

狐幼女「……いや、しかしじゃ。知らない事をはっきりと知らないと言う勇者は……見方によっては非常に、潔く、男らしいのぅ。うむ、そう考えると勇者だけはのーかんじゃな」コクコク

魔法使い「……どいつもこいつも」ワナワナ

――――

狐幼女「まずは竜網軍団長『魔竜人』じゃ」

僧侶「……りゅう、も?」

狐幼女「竜の網、どらごんねっとわーく――つまりは兵站の要、そして情報伝達の要である『竜の宅急便』の大将じゃ」

狐幼女「四天王の一角、誇り高き武人、そして隻眼片翼の古竜――『魔王軍の翼』とは何とも皮肉な字名よの」ホホ

女戦士「――――」ピクッ

女戦士「隻眼、片翼だって?」

狐幼女「そうじゃ。生まれつき翼がかたわ故に空も飛べず、また喉の火打ちがないが故に竜の息吹も吐けぬ――古竜の『なりそこない』じゃったと此方は聞いておる」

女戦士「…………」

狐幼女「じゃが此方の故郷で剣の師と出会い、技を極めて腕一本で四天王までのし上がった……恐ろしいまでの超実力、超武闘派じゃ」

女戦士「……隻眼ってのは?」

狐幼女「む? 片眼を失ったのはつい最近の話じゃ。確か十年程前だったかのぅ……」フムゥ

狐幼女「理由を尋ねても、あのやたらとデカい声で笑うばかりでまともには応えてくれんかった。……それがどうかしたかの?」

女戦士「……いや、別に」

狐幼女「ふむ?」

狐幼女「……まぁ良い。此奴は火を吹く、飛ぶといった竜としての能力はほぼないに等しいがの……その実力は折り紙つきじゃ」

狐幼女「扱う得物は、此方の故郷ではぽぴゅらーな『刀』という武器でな。『いあい』と呼ばれる奇妙な剣技の使い手なのじゃ」

魔法使い「『いあい』?」

女戦士「……『居合い』だ」

勇者「知っているのか女戦士」

女戦士「……ああ、まぁな。抜刀術とも呼ばれてるな。簡単に言やぁ、こう鞘に納めてある剣を――」―シュラッ

女戦士「――抜き放つと同時に相手に一撃を加える剣技だ」ピタァ

狐幼女「……詳しいのぅ女戦士」

女戦士「…………」

女戦士「……これでも剣でおまんま食ってるんだ。多少はな」―シャキン

女戦士「まぁ剣技としちゃ、あたしはそんな強いたぁ思ってないんだ。速さは確かにあるが……片手で振りぬく事には変わりない。諸手にはどーしたって力で競り負ける」

女戦士「……ただ」

勇者「ただ?」

女戦士「使い手が竜とあっちゃぁ、話はまったく別だ。だろ? 魔妖女」

狐幼女「しかり。竜の底知れぬ膂力と噛み合って、その『いあい』は強力無比。その抜刀の速度は神速と謳われる程に速く――斬撃の鋭さは黒鉄を真っ二つにする程じゃ」

狐幼女「実際、幾千、幾万の戦いを終えて勝てなかった勝負はたった二戦のみと……ま、無敗に近いの」

女戦士「……その二戦ってのは?」

狐幼女「一敗は魔王に、一分けは四天王の一人の魔将軍にじゃ」

僧侶「ま、魔竜人さんは魔王に挑んだんですか……!」ゴクリ

狐幼女「勝てないと知っておって挑んだようじゃがの。……あやつの死生観というか何と言うのか……あの独特の思考には此方はついていけぬわ」ハァ

女戦士「……引き分けた魔将軍って奴はどんな奴なんだ?」

狐幼女「まぁそう急くでない。魔将軍の話はおいおいじゃ」

狐幼女「ともかく『竜の宅急便』を束ねておるのは間違いなく魔竜人で、権力や資質に溺れぬ超級の実力者には違いないの」

勇者「刀……東方……侍――サムライ……?」ブツブツ

狐幼女「竜の社会はいわゆる脳筋だらけの縦割り体育会系でな、己より弱い者は全部灰にしてしまおうなんぞと考えとる野蛮な種族じゃ」

狐幼女「そんな歯の隙間から始終火を吹いとる連中が、頭を垂れて無言で付き従っておる……それだけで充分力が推し量れよう」

魔法使い「……それで、その魔竜人に弱点はあるの?」

狐幼女「竜、ドラゴンの類は大体が生まれついての戦闘生命体じゃからのぅ。身体的な弱点はないほぼないと言って良いのぅ」

狐幼女「まぁそこらの竜ならば、弱い種族をとことん舐めてかかるその精神性につけこめるのじゃが……のぅ? そこの竜殺し」チラ

女戦士「……ん? ああ。竜は人をそこら辺の虫ケラと大差ないと思ってる節があるからな。まぁ、その油断を突いて五分ってところか」

狐幼女「何せあやつは生まれつきのはんでを乗り越えて、魔王軍で成り上がった男。故に、油断という言葉と最も縁遠い存在じゃ」

狐幼女「力も有り、人望も有り、頭も竜にしてはキレる。……むぅ、改めて言葉にすると、恐ろしい奴じゃな」

僧侶「か、勝てるビジョンが浮かびません……。弱点らしい弱点も無いのに、努力家だなんて……」

狐幼女「いや、魔竜人の弱点――とまでは言えぬのが。ない訳ではないぞ僧侶」

僧侶「……え?」

狐幼女「あやつはな、何事においても名誉を重んじる……そこが急所なのじゃ」

僧侶「ど、どういう事でしょう?」

狐幼女「女戦士、戦いにおいて、最も重要なのは何じゃ?」

女戦士「……何においても、勝利すること」

狐幼女「そうじゃ。戦い、戦において勝利は何にでも優先される。そしてより大きな戦果をあげる為には……」チラ

魔法使い「よりダーティな手を使うこと」

狐幼女「ホホ。……じゃがあやつはそれをせん。騙し討ちは愚か、数押しさえ卑怯だと思っている節があるのじゃ」

勇者「なるほど。では俺たちが一対一で勝負を挑むならば――」

狐幼女「魔竜人は必ず一人で勝負を受けるじゃろう」ウム

魔法使い「……それが確かなら、カクゲーを最大限に活かせるわ……!」

女戦士「……変わった奴だな」

狐幼女「うむ。魔王軍においては異端も異端じゃ。正々堂々、質実剛健なんぞと言う言葉がアレほど似合う奴も人間側にもそうはいまいて」

女戦士「……聞いてる限り、あんまり魔王と反りが合うようには思えねぇが」

狐幼女「まぁのぅ。が、いかにやり方が手緩いとは言え……兵站を整え、魔王軍の流通と防衛を一手に担い、かつ成果を出しておるからの。此方を含む四天王も文句は言えぬわけじゃ」

女戦士「……いや。……まぁどうでもいいか」

僧侶「……? 女戦士さん?」

狐幼女「勝てるかどうかはこの際語らぬ。が……もし倒せたならば、魔王軍にとって大きな痛手を負わせる事が出来る」

魔法使い「……組織の構造が、いわば魔竜人の強さと一種のカリスマ性に支えられているから」

狐幼女「左様。押さえつける力と、従うべき主を失えば、竜共の連携は間違いなく途切れるからじゃ」

狐幼女「以上の理由から……四天王の中では『まだ』相手にしやすいと言えるのぅ」

女戦士「……で?」

狐幼女「何じゃ女戦士?」

女戦士「魔竜人はお前より強いのか?」


狐幼女「……魔法を詠唱出来れば此方の勝ちは揺るがぬ」フリッ… フリッ…

魔法使い「『出来れば』?」

狐幼女「…………」ペタン…

狐幼女「……出来ぬじゃろうなぁ」

狐幼女「恐らく此方の高速詠唱でも間に合わん」ヘナリ

狐幼女「瞬き一つの間に、此方の頭と胴体はさよならしとるじゃろう」

狐幼女「あの神速の抜刀と踏み込みには……此方は太刀打ち出来ぬ」

女戦士「…………」チキッ― カシンッ

狐幼女「……女戦士よ。ただ単に戦闘という一分野で比べるならば……魔竜人は此方よりも強い。それも分かりやすく、極めてしんぷるに、じゃ」

女戦士「……そうか。それだけ分かりゃ充分だ」チキッ― カシンッッ


狐幼女「……次の者の説明に入ろうかの」

狐幼女「――冥土軍団長『魔将軍』」

狐幼女「不死共を率いる死霊魔術師にして、侵攻の総司令。青肌の魔法剣士――『魔王軍の牙』。そして……」ピコンッ

狐幼女「……魔王の息子じゃ」

僧侶「ええーっ!? ま、魔王に息子さんがいたんですか!?」

魔法使い「噂だけじゃなかったのね」

狐幼女「うむ。似ても似つかぬ外見故、親子とは傍目にまるで分からぬがの。此方や魔竜人が魔王に仕える以前から魔王の忠臣じゃ」

狐幼女「魔将軍は骸骨や死体と言った不死の類の魔物を使役することに長けておってな。あやつの軍団は主に不死の魔物で構成されておる」

狐幼女「特にその中でも、常に魔将軍の傍に控えておる侍従――メイドが強烈に強い」

僧侶「メ、メイドさんがですか?」

狐幼女「ただのメイドではないぞ。狸――クソ爺――いや、魔学者が改造に改造を重ねた最強の死体に、本人の魂を定着させたすーぱーりびんぐでっどじゃ」

狐幼女「……此方の索敵魔法を抜け、何の前触れもなく背後から緑茶を差し出された時は肝を冷やしたのぅ。……おお、今思い出してもぞくぞくするのじゃ」

狐幼女「あれは最早メイドと言うより忍者の不死。メイド服をまとったくノ一みたいなものじゃ……」

僧侶「ニンジャでメイドさん……」

女戦士「肝心のそいつ自身の実力はどうなんだ? それとも魔竜人と分けたってのはタイマンじゃねぇのか?」

狐幼女「いやいや、きちんと一対一の決闘で魔竜人と引き分けたのじゃ」

魔法使い「……さっきの話から考えると、魔将軍も魔竜人並の剣術使いってこと?」

狐幼女「違うのぅ。確かに魔将軍もなかなかの剣術の使い手ではあるが、魔竜人には遠く及ばぬ」

狐幼女「あやつが魔竜人と分けることが出来たのは、その『魔法』の才能故じゃ」

―ガタッ

魔法使い「ま、魔法ッ!? ど、どんな魔法を使うのッ!? 火炎系ッ!? 閃熱系ッ!? 氷雪系ッ!? それとも変わり種の真空系ッ!?」フンフンッ!

狐幼女「……どれも違うのぅ」ピコッ

魔法使い「ってことは爆裂系? レアね! 希少価値バリバリじゃない!」フンス!

狐幼女「確かに扱えるが、せいぜいが上級爆裂呪文《イオラ》程度じゃ。此方は極大爆裂呪文《イオナズン》まで扱えるのじゃから、大した事もないのぅ」フフン

魔法使い「まさかの回復系なの? それなら確かに厄介極まりないけれど……」チラ

僧侶「……回復呪文《ホイミ》、ですか」

狐幼女「それも違うの」

魔法使い「……? でも他に系統なんてもうないはずよ?」

狐幼女「……魔将軍はのぅ」

―ピコンッ

狐幼女「『雷』。……電撃呪文の使い手なのじゃ」

魔法使い「なッ――嘘でしょう!?」

僧侶「ま、魔将軍さんが……で、電撃呪文の使い手……? そんな……」

勇者「?」

女戦士「何をそんなに驚いてんだ? その電撃ほにゃららってのはヤバい魔法なのか?」

魔法使い「ヤバいどころじゃないわ! 電撃呪文って言ったら威力もハンパじゃないけど何よりその範囲と速さが――」

魔法使い「――違う! そういう問題じゃないのよ! とにかく威力がどうこうじゃなくて、まず電撃呪文を扱えることが異常なのよ!」

女戦士「……どういうことだ?」

魔法使い「……フー、落ち着け私。うん、あのね。電撃呪文はそもそも――」


魔法使い「――勇者の血統で無い限り、本来使えない魔法なのよ」


勇者「なんと……!」

女戦士「おいおいおい……マジかよそりゃぁ」

僧侶「お、大マジなんです女戦士さん! 教会の伝承にも、伝説の勇者が雷の使い手であったと残されているんです!」

魔法使い「どういう事なの……? 理論も術式も確率されているけれど、勇者以外誰も扱えない魔法であるはずなのに……」

魔法使い「師匠だって再現出来なかった唯一の系統なのに……ッ!」グッ

狐幼女「……だから言うたであろう。あやつには魔法の才能があると」

魔法使い「……くッ」

狐幼女「良いか? 恐らく、魔将軍は先の戦いで勇者と女神と魔王の激戦を最も近くで見ることが出来た内の一人じゃ」

僧侶「…………」

狐幼女「魔王に及ばぬとは言え、父の血を半分は受け継いでいる男。観察から己の内に雷を宿すことは、そう難しい話ではあるまい」

狐幼女「あやつは伝説の勇者の最大の魔法――上級電撃呪文《ギガデイン》まで自在に操ることが出来る男なのじゃ」

魔法使い「……魔妖女は」

狐幼女「ん?」

魔法使い「……魔王領随一の魔術師のあなたなら、電撃呪文を使えるの?」

狐幼女「ホホ、流石に無理じゃ。無理無理。雷はてんで扱えぬわ」カンラカンラ

狐幼女「お主の言う通り、理論も術式もばっちり理解しておるがの。小さな雷一つも生み出せぬわ。元々炎寄りじゃしな」

狐幼女「まぁ此方が間近で伝説の勇者の魔法を見れておれば、バリバリ使えておったのは間違いないのぅ。何しろ此方は天才じゃから」ホホ

狐幼女「その電撃呪文と剣技を組み合わせた魔法剣術が――魔竜人と対等に渡り合えた最大の理由じゃ」

女戦士「神速の抜刀と雷の魔法、か。……確かにいい勝負だな」

狐幼女「個の力でも充分過ぎる程の強さじゃが、数を率いた時の魔将軍は更に厄介じゃぞ?」

狐幼女「不死ならではの、死と切り離された戦術。不死故に兵の数も多く、物量で容赦無く相手を攻める――あやつは不死の何たるかを完全に知り尽くしておる」

狐幼女「魔竜人のように決闘を望むこともなく、情けも慈悲の心も持たぬ冷徹な男じゃ。そして傍には給仕も戦闘もこなすゾンビメイドと隙が無い」

狐幼女「魔将軍の目的は父の勝利と、勇者の血族を断つこと。その為ならばどんな手段も厭わぬじゃろう」

僧侶「と言うことは、と言うことはですよ……」ガタガタ

魔法使い「……不死の軍団と魔将軍を同時に相手しなきゃならないってことね」

女戦士「あたしらだけで、湧いて出てくる亡者共と四天王をぶっ倒す……」

女戦士「……面白ぇじゃねぇか」ニヤァ

勇者「一対多。一度に三人までなら相手に出来るのだが……」

勇者「いや、援軍を攻撃して吹き飛ばして相手にぶつけることが可能なら……不死の軍団に同様のことが可能かもしれないな」ブツブツ

狐幼女「え、援軍を殴る? 勇者は何を言っておるのじゃ?」

魔法使い「……基本、意味が分からないと思ったら全部カクゲーだと思った方がいいわ」

狐幼女「……前から思うとったが、お主らは真正面からぶち当たり過ぎじゃ。搦め手も使わぬと命が幾つあっても足りぬぞ」

狐幼女「さて、次は三人目の四天王……じゃ、が――」ピクッ

狐幼女「…………」

狐幼女「三人目の四天王は爺。狸爺で、『魔王軍の……クソ爺』じゃな。ともかくクソ爺じゃ! うむ! 三人目はこれで終わりじゃ」

僧侶「……え、えーっと?」

魔法使い「……ちょっと真面目に答えなさいよ魔妖女」

狐幼女「いや~今ので充分じゃろ? クソ爺はクソ爺なのじゃ。それ以上でも以下でも――」

―ガシッ

狐幼女「にゅあぁぁぁ~!? 本日もう何度目かも分からぬ宙吊りじゃー!」ブラブラ

女戦士「…………」

狐幼女「お、女戦士よ! お主はちと暴力的過ぎやしないかのぅ! お主の握力じゃとしっぽの付け根の毛がこれでもかと圧縮されて此方のきゅーてぃくるがメッタメタのギッタギタに――」ブラブラ


女戦士「……ちゃんとやれ」ギロリ

狐幼女「ぴィッ!?」ヘニョーン

狐幼女「ゆ、勇者~……た、助けてたもれぇ……」ブラブラ


勇者「……む」

勇者「出来ればちゃんと知りたいのだ、魔妖女。【キャラ対策】の第一歩は、まずその相手をよく知ることだからな」

狐幼女「……うぬぅ、勇者がそう言うのであれば仕方ないのぅ。……本当は気持ち悪うて口に出すのも不快なれべるなんじゃが……」

女戦士「気持ち悪い?」パッ

―ストッ

狐幼女「うむ。倫理的にも生理的にも完全に超絶無理な皺くちゃ爺――それが四天王、幻魔軍団長『魔学者』じゃ」

魔法使い「……魔学者」

狐幼女「いつ着替えたかも分からぬ薄汚~い白衣に、目の前が見えてるかも怪しい分厚くて曇りきった丸眼鏡」

狐幼女「よく分からぬ理屈で浮いとる水晶球に超猫背で乗りながら、不快なしゃがれ声で不快に笑う実に不快な狸爺……おぉぅもう思い出すだけ怖気が走るわ」

僧侶「うぅ……何か会ってもないのに何か、頭の中にやたらはっきりとしたイメージが……」ブルブル

女戦士「おいコラ。勇者がちゃんと知りたいってのは見た目の話じゃねぇだろうが」

女戦士「四天王の看板背負ってるってことは、やっぱ魔竜人や魔将軍並に何かヤベェ能力持ってるんだろ?」

狐幼女「……そうじゃな」

狐幼女「じゃが特殊能力と言うよりは、ずば抜けた『知能』の持ち主と言った方が適当じゃのぅ」

僧侶「ま、魔学者さんは、頭がいいんですか?」

狐幼女「魔王軍の中では飛び抜けておるの。一度見聞きしたものは絶対に忘れぬ上、その知識量も膨大じゃ。本に記すとしたら大きな島一つ埋めても足りぬ程じゃろう」

狐幼女「そして、既存の魔法と魔学者独自の理論を組み合わせて創られたまったくもって新しい学問――」

狐幼女「――『魔学』を魔王軍にもたらしたのは他でもない、あのクソ爺なのじゃ」

魔法使い「……『魔学』、ね」

狐幼女「む? 魔法使いは魔学者を知っておるのか?」

魔法使い「魔学者自身は聞いたことはないけど、『魔学』は少し知ってるわ。……噂程度の断片的なものでしかないけれど」

魔法使い「『個々に備わっている魔法適性を無視して、強力な魔法を自在に扱えるようになる』――それが『魔学』が実現可能と掲げる一つの理論だったわよね?」

狐幼女「うむ。おおまかに言ってそのような感じじゃ」コクリ

狐幼女「ただ対象は被験者自身だけでなく、回復薬や武器防具と言ったありとあらゆるものに及ぶ――『万能の魔法理論』と捉えた方がより近いかのぅ」

女戦士「……するってぇとあれか? どう見ても頭が悪くて魔法なんかちっとも使えないムキムキのファイターが、その『魔学』にかかっちまえば――」

女戦士「魔法をガンガン使ってくる筋骨隆々のファイターになれるってことか?」

狐幼女「かなり乱暴な例えじゃが……間違ってはおらん。実際にあやつが取り組んでおる魔法強化兵の計画もあるしのぅ」

魔法使い「……ただし」

狐幼女「ほう? 魔法使い、お主そこまで知っておるのか」

魔法使い「『魔学』を利用した兵士の能力の強化には……極めて大きな『犠牲』を払う必要があるの。そうよね?」

狐幼女「……うむ。……此方が魔学者を毛嫌いしとる理由の一つもまさにそれよ」

魔法使い「……まず、そうね。名称に差はあるけど、思想自体は元々王国――人間側も持ち合わせていた理論なのよ」

魔法使い「でも禁忌、禁呪とされ……古の魔法と共に歴史の闇に葬られてしまったの。……当時の識者、魔導師、教会の司教達によってね」

僧侶「きょ、教会が……? でも、何故そんなことを……? その理論があれば、強いモンスターにだって立ち向かえますよね?」

魔法使い「……『魔学』を力として、実戦に向けて実用化するには、大量の『生贄』が必要だったのよ」

僧侶「い、生贄!?」
女戦士「……木偶か」
狐幼女「……やれやれ、なのじゃ」

勇者「……魔妖女。その『生贄』と言うのは?」

狐幼女「要は『魔学』がうまく機能するかどうかを試す実験体のことじゃ」

狐妖女「武器に実験するならば大量の武器を用意するのと同様に……魔物に実験するならば大量の魔物を、と言うわけじゃ」

狐幼女「……未完成の理論を大量の実験体を犠牲にして完成に近づける――まさに『生贄』と言って差し支えないじゃろう」

僧侶「……そんな、恐ろしい事を……」

狐幼女「対象となった実験体は実に様々じゃった。奴隷として捉えた連合国軍の兵士、山間部で抵抗していた反乱組織の一員、単なる町人の母娘、そして――」

狐幼女「――魔王軍の兵士達じゃ」

女戦士「……はァ?」

狐幼女「ふむ。まず魔王への忠誠心を盾に実験体へと志願をさせる」

狐幼女「反抗的な態度を取った魔物は謀反の心ありとして、あやつの研究塔に強制連行され……やはり実験体となる」

女戦士「……結局、どっち選んでも木偶扱いかよ」

狐幼女「……喜んで自ら体を提供する者。泣き喚いて命乞いをする者。戦わずして死すことに憤怒する者」

狐幼女「その魔物や人間がどのような思いで実験に臨んでいようと……魔学者にとってはどれも変わらぬ、単なる研究材料というわけじゃ」

僧侶「……うゥッ」

狐幼女「恐らく、今も『魔学』は絶えず発展を続けておるはずじゃ」

狐幼女「……うず高く同胞の死体の山と奴隷の山を築きながら、のぅ」フゥ…


女戦士「……魔学者の目的は、最強の魔物を造り上げて、最強の魔王軍を結成することか?」

狐幼女「それも勿論ある――が、『それら』はあくまで魔学者の研究の副産物にしか過ぎないのぅ」

魔法使い「……副産物?」


狐幼女「何しろ魔学者の――『魔学』の究極の目標は、魔王を復活させることなのじゃから」


女戦士「――……ッ! そうか。治癒と解呪の方法の研究か……!」

僧侶「め、女神様の器の欠片の行方もそうですよね……!」

魔法使い「魔学者の真の姿は、学者などではなく『医者』……『魔学』を使い、魔王を完治させる魔王専属の主治医――それが魔学者が四天王の一員たる大きな理由ってわけね……!」

狐幼女「女神との激戦で激しく損傷した魔王の体は、魔界と違って瘴気の薄いこの世界では……ただただ朽ちてゆくばかりじゃ」

狐幼女「魔学者は魔界人界問わず様々な知識を収集し、研究を重ね、『回復薬の血液』なるものを生み出し――」

狐幼女「――その液体に魔王の体を浸すことで、肉体の劣化を極限まで防ぐことに成功しておる。……要は偉く大掛かりな応急処置じゃ」

魔法使い「『回復薬の血液』……?」

狐幼女「正式な名称はよう知らぬが……要は体を巡る血液そのものを回復薬にしてしまおうという実験から生まれたものじゃの」

狐幼女「体中に回復薬が流れておるのだから、斬られようが抉られようが瞬時に傷口を塞ぎ、再生が可能になるわけじゃな」

魔法使い「さっきあなたが言っていた魔法強化兵計画の副産物――と言うより、魔王を治療しようとして出来た副産物ってところかしら」

狐幼女「理解が早いのぅ。まぁ当然、血液と言うからには媒体が血液じゃから……その、のぅ」チラ

僧侶「…………」

女戦士「言わなくてもいいぜ。大体は把握できたしな」

僧侶「……も、目的を達する為なら敵味方関係なく犠牲にしてしまう精神、あと、狡猾な頭脳の持ち主で……」

魔法使い「魔学者本人の戦闘能力は極めて低く、四天王での役割は道具・兵士開発と治療が主。それと――」

女戦士「警戒すべきは実験で生み出された新たな魔物ってところだろうな」

勇者「魔学者が浮いているなら、【下段】はことごとく【スカる】ことにも注意が必要、か」フム

狐幼女「……ふむ、皆は大体は把握できているようじゃな。大体は……大凡は……ごく一部を除いては、じゃが……」ウウヌ

狐幼女「――さぁ!」ピコンッ

女戦士「うるせぇ! 急に大声出すんじゃねぇよクソ狐ッ!」キーン…

狐幼女「四天王の内――『魔竜人』、『魔将軍』、『魔学者』まで説明し終えたわけじゃが!」フスー!

狐幼女「何か足りぬのぅ? 一体それは何じゃろうなぁ? 四人の内三人紹介したと言うことはあと一人足りぬ気がするのぅ? ――そうじゃっ!」ムフスー!

狐幼女「最も高貴で! 最も美しく! 最も華怜で! 最も淫靡で! 最も崇高で! 最も高貴な四天王の紅一点っ!」ピコピコッ

狐幼女「幾千幾万もの『此方』の愛の奴隷を率いる大魔王宮の魔導師っ! 謀なら右に出る者などいない情報参謀っ!」フンスフンス!

狐幼女「白磁にも似た透き通るような肌、ばっぼぼっぼーんのきゅきゅぃーのぼんばぼっぼーんのドドドぐらまらすな妖艶れでぃっ!」クルクルクルー…

狐幼女「――そう、此方こそが『魔王軍の瞳』――……『魔妖女』その人なのじゃぁっっ!」キラキラキラ

僧侶「知ってますよモフモフさ――あ、いえっ、その、魔妖女さん、えへへ……」
魔法使い「長いわ。三文字くらいにまとめてきなさいよ」
女戦士「ついでに外見はクソガキで中身はクソババアって付け足しとけ。あ、性格も最悪ってところもな」
勇者「戦闘中に複数のモードをチェンジして戦うテクニカルタイプ。隙の少ない強力な飛び道具を持ってはいるものの、体力と防御係数が低くワンチャンスからの――」

狐幼女「…………」プルプル…

狐幼女「ひ、ひどい……ひど過ぎるのじゃー! 他の四天王を散々真面目に聞いておいて何故に此方だけこの有り様なのじゃー!」プンプン!

狐幼女「不公平じゃ! えこひいきじゃ! 普通『カワイイ』だの『エロい』だの『スゴイ』だの此方を敬い賛美する言葉などあっさり出るじゃろう!? それをお主ら……ぬぁぁ納得いかんのじゃー!」ダンッ ダンダンダンッ!

狐幼女「勇者に至っては最早何を言うておるのかさっぱり分からんし! むむむむぅぅぅぅ……ッ!!」プクー

勇者「…………」―スッ

―ポフッ

狐幼女「……勇者?」ブスー

―ナデナデ

狐幼女「ぐすっ……此方はただ、此方はただ……」

魔法使い「はぁ……。何よ?」

狐幼女「『魔妖女らんど』を説明したいだけじゃったのに……」

僧侶「ま、魔妖女らんど……ですか?」

狐幼女「おお、気になるか僧侶! やはり気になるものよな! ならば説明せねばのぅ!」キラキラ

女戦士「……嫌な予感しかしねぇな」

狐幼女「おほん。『魔妖女らんど』とは此方の居城、『魔妖女きゃっする』を中心とする居住可能な一大てーまぱーくじゃ!」

勇者「てぇま、ぱぁく?」

狐幼女「うむ。魔妖女らんどはそれこそ揺り籠から棺桶まで過ごすことが可能な人生の娯楽御殿じゃ」ペラペラ―

狐幼女「そこには魔物や人といった区別や差別はなく、皆公平に此方の『奴隷』として一生を幸せに働くことが出来るこの世で最も幸福な場所なのじゃ」

魔法使い「……うわぁ」

狐幼女「奴隷全員に衣食住の保証があり、給料もきちんと払われる。更に此方の為により良い働きをしたものには『特別なぼーなす』まで与える規則もある」

狐幼女「勿論娯楽施設も充実に充実を重ねておる。つまり外に出る必要などない、完全無欠な此方の王国というわけじゃなっ!」

女戦士「……うへぇ」

狐幼女「どうじゃっ! すごいじゃろうっ!」フスー!

女戦士「どーもこーも奴隷な時点で幸せじゃねぇだろうが。しかも全員洗脳済みときた日にゃぁ……考えただけでもぞっとするぜ」

狐幼女「此方の為に一生働けるのじゃから幸福に決まっておるじゃろ? それに人生をしんぷるに生きられるなら、洗脳もそう悪いものじゃなかろう」フフン

魔法使い「……どーせその給料とやらもその魔妖女ランド内でしか使えない通貨とかなんでしょ」ジロ

狐幼女「ほぅ? よく分かったのぅ魔法使い。大陸一般の通貨『G』とは違い、独自の通貨『M$(マヨウジョダラー)』がらんど内での主な通貨じゃ」

魔法使い「で、買える商品、食品は大方そのランド内で生産されたもの、と」

狐幼女「おぉ! まったくもってその通りじゃ!」

魔法使い「……洗脳で忠誠心と労働の尊さを叩き込み、職に就かせ、更に通貨そのものを変え、お金の循環を閉じてランドの利益を最大限まで伸ばす――それが恐らく『魔妖女ランド』のコンセプトってところかしら?」


狐幼女「…………」フフッ

狐幼女「そう。それこそが魔妖女らんど建設の根幹じゃ」ホホ

狐幼女「凝りに凝った娯楽施設や、過剰とも思える華やかな外観は……本来の目的を悟られぬ為のかもふらーじゅに過ぎぬ」

狐幼女「必要な物資を略奪簒奪に頼ることなく生産し、有能な者がおればすぱいに取り立てて各地へと送り込む……それも、二十四時間絶え間なくのぅ」

狐幼女「……どうじゃ? すごいじゃろう?」ホホ

狐幼女「よいか? 狸爺は実験の為なら同胞であろうと死体の山を築くようなさいこ爺じゃが、此方は違う」

狐幼女「奴隷は生きておるのだから、正しく導いてやれば力を生みだすことが出来る……殺してしまってはそこで終いじゃ。死者は何も生みはせんからの」

狐幼女「此方は命を無駄にはせんのだ」フフン

魔法使い「やっぱりね。だろうと思ってたわ」

狐幼女「……本当に聡明な黒帽子じゃのぅ。魔王軍時代で、しかもお主が魔族であれば此方がへっどはんとしていたところじゃ」カンラカンラ

僧侶「え、えっと? つまり、どういうことなんでしょう……?」

女戦士「……金に関しちゃ頭回るからなお前は」ハァ

女戦士「にしたって胸糞悪い話だ。そんなん聞かせてどういうつもりだ? あたしをイラつかせて、また尻尾の長さを伸ばして欲しいのか?」ワキワキ

狐幼女「ひッ!? お主は伸ばすというより毟るだとか引っこ抜くのほうが表現が近いわっ!」ササッ

勇者「魔妖女。その捉えられた人達は――」

ピトッ

狐幼女「ふふ、勇者。皆まで言わずとも良い。此方はもう魔王軍ではなく、勇者の忠臣であり正室候補……捉えた奴隷達は勿論解放するつもりじゃ」

狐幼女「……じゃが、ただ単に解放するより遥かに優れた案が此方にはあるのじゃが、のぅ」ホホ

魔法使い「……そこからが本題ね」

狐幼女「そう、まさにそこからが本題じゃ」フフン

僧侶「えっと、えっと……?」

狐幼女「奴隷と魔族織り交ぜて魔王軍を大方賄える程の生産力……肝心要の大きな戦の前に突然無くなってしまったら、どうなるかのぅ」

僧侶「……あぁっ!」ポムッ

女戦士「……随分とまぁ思い切りやがったなぁ」

狐幼女「無論、備蓄は各方面にはあるがの。魔王軍にとって大だめーじなことには代わりないのぅ」ホホ

狐幼女「加えて将には遠く及ばずとも、雑魚を相手するのに充分な荒くれ者どもは相応におる」

魔法使い「四天王以外に魔王を守る魔物達を、ある程度排除するか、足止めすることが可能になる……と、そういうことね?」

狐幼女「左様。此方らが討ち取らねばならぬのは魔王の首一つじゃ。有象無象の格下共に割いている時間はないからのぅ」

―ヘニャ

狐幼女「……まぁ、の。どこまでうまく行くのかと問われれば、それこそ神のみぞ知る――女神のみぞ知るといったところじゃが……」

女戦士「…………」

女戦士「マジなんだな、お前」

狐幼女「当ったり前じゃ。此方が打てる手を打たなければ、お主らとまとめて滅っされてぽいーじゃからな」フーッ!

狐幼女「それにここまでやりきってようやっと『十に一つ』じゃ。冷静に考えればマジどころか狂ってるやもしれぬ」

狐幼女「あと女戦士っ! 此方の名は魔妖女であって『お前』ではない! ……お前、と呼んで良いのは勇者だけじゃ」ポッ

魔法使い「……それで、魔妖女ランドはどこにあるのかしら?」カサッ

狐幼女「魔妖女らんどはじゃな――む、地図をもうちょっと大きく広げよっ……そうじゃ、それで良い」ヨジヨジ

狐幼女「今此方達がおるのはココ、大陸の中央――砂漠の街じゃな。魔妖女らんどはそこからほぼ真西に真っ直ぐ――」

狐幼女「――砂漠を抜け、エルフの森を抜けた先にある。二つの川に挟まれた天然の要塞であった場所を、堅牢な建築で更に難攻不落に仕立てあげた代物じゃ」

魔法使い「……『エルフの森』を抜けた先、ね」サラサラ

狐幼女「そしてこの魔妖女らんどを抜け、浮遊城の縄張りを抜けた先が――」

狐幼女「――魔王城じゃ」

僧侶「……ッ」ゴクリ

女戦士「…………」チキッ― カシンッ

魔法使い「『エルフの森』に『魔妖女ランド』、そして『浮遊城』……と」サラサラ

勇者「…………」グッ…

狐幼女「此方達は行き先を偽装した上で、魔妖女らんどに到着。充分な支度を整えた上で、らんどごと蜂起」スッ スッ…

狐幼女「その混乱に乗じて魔王城へと乗り込み、脇目も振らず一路玉座の間へ行き――」トントン

狐幼女「――世界と婚姻を掛けた魔王決戦へと……勇者と此方、その下僕共が挑む」ベシッ

狐幼女「これが、此方が今べすとと考えておる策じゃ」フフン

魔法使い「今までで一番勝ち目がありそうな作戦ね。……細部に関してはおいおい炎で修正するからいいとして」ビキッ

女戦士「目があるだけいいだろ。最初から無理だって言われるよかよっぽどマシさ。……ど~にも納得出来ない箇所はおいおい体に聞いて変更してもらうとしてな」ビキビキッ

僧侶「……下僕、下僕……。……下僕かぁ……もし結婚出来なくても、そっちならわたしも……」ホワホワ

―ハッ

僧侶「いやっ、だっ、駄目ですっ! わたしは僧侶で聖職者っ! わたしは僧侶で聖職者っ! 慎ましくあれ慎ましくあれ慎ましくあれ……!」ブンブンブンッ!


魔法使い「ねぇ魔妖女、さっき『充分な支度を整える』みたいな事言ってたけれど……」

狐幼女「おぉ、言うたぞ。食料から酒、煙草、心地よい葉の粉末等の嗜好品はもとより、武器防具、装飾品に至るまで何もかも選び放題じゃぞ?」

魔法使い「……いえ、その、すご~く年代の古い古文書や呪文書だとか、宝具神具みたいなものとか……あったり……する、かしら?」チラッ チラチラッ

狐幼女「ほぉぅ?」ニマァ…

狐幼女「卑しいのぅ。ガメついのぅ。魔法使いは、此方のお宝が欲しくて欲しくて堪らんのじゃなぁ♪」クスクス

魔法使い「………………す、少しだけ」ボソッ

狐幼女「ホホ! ホホホホ! 良い、良い良い。素直に欲しがった褒美じゃ。此方の嫁入り道具と持参金に値するもの以外はすべてお主らにやろう。此方はもう多くの宝物なぞいらぬ身じゃからのぅ……持ってけどろぼー、じゃ」カンラカンラ

魔法使い「ィやッッッッ……!!!――」グッ―

魔法使い「――おほん」

魔法使い「ありがとう、魔妖女――いえ、魔妖女様。これからは何なりとこの魔法使いへとお申し付けを」スリスリ

狐幼女「む、苦しゅうない苦しゅうない、ホホ。此方の懐は胸の谷間並に深いからのぅ、収めきれぬ狐徳がまろび出てしまうのも無理はないのじゃ」カンラカンラ

女戦士「……うっへぇ。洗濯板が何か世迷い言云ってやがるぜ……」


魔法使い「……うふ」

魔法使い(うふふふ……アハハッ……アーッハッハッハッハ!)

魔法使い(魔妖女の蔵書コレクションが加わったとなれば、私の魔法学の見識は山よりも高く海よりも深いものにっ!)ムフー

魔法使い(得るものによっては師匠を超えることも夢ではないことに加え! 歴史的価値のある宝具神具遺物が複数手に入れば飛び込んで泳げる程の金貨を――)

魔法使い「…………」

魔法使い「歴史的価値のある……遺物……?」


魔法使い「……ねぇ、魔妖女」

狐幼女「ホーッホッホッホ……ん? 何じゃ魔法使い」

魔法使い「あなたの宝物コレクションの中に、変わった『鏡』はなかったかしら?」

狐幼女「変わった鏡?」

魔法使い「これ位の大きさで、円盤の形をしていて……虹色に輝いたりする、そんな変わった鏡なんだけれど……」

狐幼女「……むー」

―ポンッ

狐幼女「おお。そう言えばあったのぅ。魔法使いが言ったような妙な鏡を、此方は幾つか所蔵しておるぞ」

魔法使い「い、幾つか!? あなたその円盤を複数持ってるの!?」

狐幼女「嘘をついてどうするのじゃ。……まぁ流石に何枚あったかまでは覚えておらぬがの」

狐幼女「手を広げた程の大きさで、中央に穴がこさえてあってのぅ……そう、表面はぴかぴかに磨きあげられておった」

魔法使い「そう、それ! まさにソレよ!」

狐幼女「ふーむ、しかし珍しいものを欲しがるのぅ。『ただの鏡』ぐらい、お主なら幾らでも手に入るじゃろうに」

魔法使い「は、はい? ただの鏡……? 冗談はよしてよ魔妖女。その鏡は魔法具、もしくは神具と言った古代のミラクルアイテムで――」

狐幼女「――いや、それはありえないのじゃ」

魔法使い「……え?」

狐幼女「そう言った魔力が通った代物ではなかった、と此方は言っておる」

狐幼女「此方は魔法のすぺしゃりすとじゃぞ? 術式や呪文の類がかかっておれば、此方が気付かぬはずがないじゃろう?」

魔法使い「……どういうことなの? そこまで形が似ていて、魔法具の類じゃないとすれば一体……。その鏡は勇者の里にあったものの模造品なのかしら……」ブツブツ

狐幼女「……何? 勇者の里にも似た鏡があると言うのか?」

魔法使い「ええ、まぁ。話せば長くなるのだけれど――」

――――
――


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月04日 (木) 23:04:22   ID: L8gBy5O-

すづぬつしちししてて

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom