女剣士「目指せ!城塞都市!」魔法使い「はじまりのはじまり」 (285)

関連:犬「オリハルコンの牙」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388670899

魔王無き後の世界――

女剣士「私たちは魔王を倒した」

女剣士「厳しい戦争の中で、私たちは勇者と、その勇者を育んだ村を失っていた」

女剣士「大切な仲間が生まれ、そして亡くなったその村を」
女剣士「私たちは蘇らせたいと思ったんだ……」

魔法使い「具体的にどうするか考えてるの?」

僧侶「なんだか楽しそう」

女剣士「……そんな簡単な話じゃないと思うんだが」


女剣士「街を作るのになにが必要か、ってのももちろん考えないと駄目だけど」

魔法使い「?」

女剣士「少し考えていることがあるんだ」



女剣士「この街を、少なくとも魔王の使い程度では破壊できない城塞都市にしたい」

魔法使い「……はあっ?」

僧侶「すごいね! 私もそうなったら楽しいかもっ!」

魔法使い「無知って絶望的に可愛いよね……」

女剣士「ん、まあわかる」

女剣士「そんな簡単に街を発展させることができるなら、そもそも今回のような戦争は起こらなかったはずだ」

女剣士「だが、だからこそ、そこに理想をおくべきなんだ」

魔法使い「意外と考えててびっくりした。いままで脳筋だと思っていた。解剖したい」

女剣士「なぜ解剖するのか。とりあえず謝れ」

魔法使い「うむ」

女剣士「まあ色々考えることはあるんだけど、とりあえず、この街の象徴を決めたい」

魔法使い「ふうん……まあうちの街の象徴は決まってると思うんだが。」

僧侶「ん~? 勇者様の村だから勇者の剣とか?」

魔法使い「それだとオリハルコンの牙になるな。」



世界を救った勇者の村……

その勇者とは……


オリハルコンの牙をくわえた犬であった


魔法使い「犬が勇者とかよくよく考えるとひどい」

女剣士「うむ」

短いですがとりあえずここまで

すぐ更新します

魔法使い「私たちの街の象徴、オリハルコンの牙か。 すると街の名前はオリファンとか。」

女剣士「ん、けっこういい響きだね。 異論はないよ」

僧侶「オリファンの街かあー。 楽しい街にしたいねー!」

女剣士「もちろんそうなるさ。 かわいい僧侶もいるしね」チュッ

魔法使い「変態には言及しない。 さて、じゃあまずは何をするべきかね。」

女剣士「それについては数日かけて考えたんだ。 ほめて!」

魔法使い「よしよし。」

女剣士「ぞんざい! まずさ、人間が足りないよね」




僧侶「今の街の人口……三人」

女剣士「とりあえず村に残ってる一番大きな家、村長の家を宿屋に改装しようと思うんだけど……」

魔法使い「それはあんまり問題がない。 そもそも勇者を匿うための小規模な村だったから、村長の家は宿屋の代わりになっていた。 そのまますぐに流用ができる。」

僧侶「私が宿屋さんするんだよー?」

魔法使い「もちろんかまわないよ。」ナデナデ

僧侶「まずは住人を増やすんだよね!」

女剣士「うん、そうだよ。 なんか心当たりあるの?」

僧侶「勇者犬ちゃんの家族がいるんだけど」

魔法使い「は?」

女剣士「へ?」


魔法使い「……そりゃそうか。 犬っていっぱい生まれるもんね。」

僧侶「うん! その犬ちゃんの家族に、子供がたくさん産まれたんだって! もらってきていい?」

女剣士「いいよ!」

魔法使い「ちょっとは考えろ。 まあいいけど。」

僧侶「じゃあ連れてくるね~!」


犬兄「わん!」

犬弟「わん!」

犬妹「くう~ん」


女剣士「さ、三匹!?」

魔法使い「魔王が再臨しても即死レベル。」

僧侶「街の人口 三人と三匹」


――一方、麓の町――

商人「もうすぐ麓の町って呼ばれてる町ですよ!」

盗賊「たのしみだね~」

賢者「いくらか商品を捌ければ良いですね」

商人「銅の剣が40本、皮の盾二十枚、薬草50個」

賢者「商人君は在庫管理とかしっかりしてますね。 さすが商人です」

商人「えへへ。 いつか伝説の剣を扱うような大商人になるんだ!」

盗賊「ボクも協力するからね!」

賢者(二人ともしっかりした子供で私も楽な限りです)


賢者「ん? 魔物が……」

商人「うわっ! すごい大群!」

盗賊「町を襲ってるよ!」

賢者「行きましょう! 二人とも前衛は任せますよ!」

商人、盗賊「りょーかいっ!」

雑魚とは言え、魔物の群に、三人の若き冒険者は躊躇せず立ち向かう

魔物A「な、なんだあ! このガキども!」

魔物B「……くそっ、強いぞこのガキ!」

ガキン


キイン

二人の少年は素晴らしいスピードで魔物の群を混乱に陥れる

少年商人は鉄の槍で絶えず突きを放ち、敵を牽制し近付けさせず、隙をついて襲いかかろうとする魔物が有れば少年盗賊の厚いナイフが襲いかかる

若いとは言え、そのコンビネーションは完成されたものがあった

賢者「私が見初めただけはあります。 では終わらせましょうか!」

二人が後ろに跳びづさるとともに、賢者の大魔法が炸裂する!


賢者「極大爆裂魔法!」

賢者「ふう……」

商人「おみごとですっ!」

盗賊「すごいねー! すごいねー!」



おじさん「……た、助かりました」

少女「ありがとー!」

おばさん「……子供なのに、すごいわねえ」

商人「困ってる人を助けるのは、当然ですっ!」


商人「あの、ところで、怪我をしてる方がいたら薬草を買って欲しいんですが!」

おじさん「はっはっは! こいつは商売上手だ!」

おばさん「できるだけたくさんかわせていただくわよ。 武器ももらっておこうかしら?」

おじさん「また襲われては困るしな。 そうしよう」

少女「あたしこの人形ほしー!」



賢者「……まったくたくましいものですね」フフッ

町人「……魔物が逃げたぞー!」

賢者「!」

商人「! 追いかけましょう!」


おばさん「あ、お代……」


盗賊「あ、ボクが預かりますっ」

おばさん「ああ、きをつけてね!」



山頂へ続く道、少年たちは魔物を追いかけて駆け上がっていった――

女剣士「ん、魔物が来てるな」

魔法使い「弱い魔物……だいたい20匹くらい」

女剣士「楽勝だな。 行ってくる」

僧侶「きをつけてねっ!」

魔法使い「魔王に一撃を加えた強力雷神ゴリラだから負けるはずがない。安心。いつか解体する。」

女剣士「やめて? だれがゴリラ?! ……とりあえず薬草だけ持って行くわ」

僧侶「いってらっしゃーい!」ピョンピョン


女剣士「……さて、遭遇まで数分ってところか」




商人「見えました! 魔物の群です! ……ちょっと多いですね」

盗賊「だれかいるよっ」

賢者「……! 対面に居られては魔法が使えません……!」


女剣士「ふん……」


魔物の群「ぎゃあ! ぎゃあ!」


魔物「雑魚人間が一人で!」

魔物「我らに立ちはだかるかっ!」


女剣士「……極大雷撃剣」


魔物「!?」


魔物「」

魔物「マジかっ!」

砂埃が巻き上がる山道


雷神の剣が、巨大な壁となり、魔物の群を飲み込んだ


賢者「二人とも! 引いてください!」

商人「うわああっ」

盗賊「ひえええっ」

賢者「……魔法防御壁!!」


ズガアアア……

…………


賢者「む……無茶をしますね……。」

盗賊「……すごぉい……!」

商人「び、びっくりしました……」

その少女と三人の間には、ただ乾いた土の道しかない

魔物は跡形もなく消え去った!


賢者「……大丈夫ですか? お二人!」

盗賊「へっちゃらだよー」

商人「全然大丈夫です。 それよりびっくりしました。 あんな魔法見たこと無い!」

盗賊「すごかったー! 勇者様みたいだねー!」

賢者「正しく、勇者並みの強大な魔力の持ち主ですね」


女剣士「! おおっ、人がいたのか。 すまない、大丈夫か?」

賢者「大丈夫ですが、大丈夫ではないですね」

女剣士「え……と、すまない」

商人「大丈夫ですよ!」

盗賊「……かっこいい」ドキドキ

女剣士「わざわざ魔物を倒すためにこんな山奥まで走ってきたのか」

賢者「この子たちは正義感が強いんですよ。 この子は商人、こちらは盗賊君です」

女剣士「若いね。 まあうちの僧侶ちゃんもこの子たちと同じくらいだけど」

賢者「先ほどの魔法は勇者でなければ扱えない極大級雷撃魔法だとお見受けしました……あなたは……」

女剣士「? 私は勇者ではないよ? うちの犬は勇者だったようだが……」

商人「あ、聞いたことあります! 魔王を倒した勇者が今回は犬だったとか!」

賢者「情報通のあなたが言うのだからそうなのでしょう…… つまりあなたは」

女剣士「あー……。 頼む、誰にも言うな」

賢者「……何か事情があるのですね。 構いませんよ」

賢者「しかし、いくらかお話を聞かせていただきたいですが」

女剣士「! いいぞ、うちの街に来てくれ」

女剣士(町人三人ゲットかも!)

魔法使い「……で、三人さらってきたのね。 いい仕事した。」ヨシヨシ

女剣士「えへへ~、じゃない! とりあえずこの子たちに旅の話を聞かせてやってくれよ」

魔法使い「自分で話せばいいのに。 まあいいけど。」


盗賊「聞きたい聞きたい!」

商人「えっと、そちらの僧侶さんも……?」

僧侶「魔王と戦ったよ!」

盗賊「すごーい!」

商人(か……かわいい。 こんな女の子が魔王と……)

女剣士「ん、この子はこんなだけど、うちのパーティーじゃ一番化け物かも知れないよ」


魔法使い「魔王との戦いの時、魔王がいくつもの魔法を連続で放ってきた。 この子は戦闘中にそれを真似て回復魔法を重ねがけしてくれた。 連続魔法ができる僧侶なんて私は聞いたことがない。」

賢者「……私も寡聞にして知りません。 大僧正ではないですか」

商人「……すごい……勇者パーティーってほんとに各人が一軍に匹敵するんですね……」

盗賊「わくわく」


女剣士「まあ勇者は犬だったんだけどね」

魔法使い「正式には人間の勇者がいたのだけれど、不慮の襲撃で勇者の父、勇者ともに命を落とした。」

魔法使い「これは私の推測だけれど、魔王と勇者の力と言うのは、いつの時代も均衡している。」

魔法使い「つまり、失われた勇者のかわりに、選ばれるべき最も近しい者が選ばれた結果……」

魔法使い「たまたま勇者と同じ日に産まれた犬が勇者の役目を負ったのだと思う。」


賢者「……実に興味深い話ですね……」

盗賊「それで、それで、どんな戦いだったの?」



――――

魔法使い「犬はオリハルコンの牙を魔王の体に巻き付けるように斬りつけ……」

魔法使い「返す刀、地を蹴り、怯む魔王の体を貫いた……!」

魔法使い「斯くして魔王は倒れ……世界に平穏が……」


商人「……ごくり」

盗賊「……犬かっこいい……」


賢者「…………」

魔法使い「……訪れたはずなんですが。」

女剣士「……!」

賢者「……魔物が居なくなるわけではなかった……ですか」

魔法使い「うん。 困った困った。」

女剣士(まるで困ってないなこいつ)

僧侶「……でも、魔物も街を襲わないなら殺さない方がいいです」

女剣士「ん、分かってる」ギュッ

僧侶「んむっ」

賢者「……ふむ、それで三人はここで何をするつもりなんですか?」

女剣士「私たちは、この町を城塞都市に変えるつもりなんだ」

女剣士「とりあえず魔王を倒したことで、私たちは攻撃目標を失った」

女剣士「だから私は考えたんだ。 この町を鋼の守りを持った城塞に変えて、次に魔王が現れても反撃できる拠点にしようと」

賢者「……なるほど」

商人「……それって僕らが手伝っても良いですか?」


魔法使い「しめしめ」

女剣士「おい、思ってても口に出して言うな」



僧侶「……私たち三人じゃ、限界があるのは分かってます」

僧侶「男の人に手を貸してもらえたら……」

僧侶「……そのっ! すごくうれしいですっ」

商人「協力します」
盗賊「協力します」

賢者「う……私はお二人についてきただけです。 従いますよ」

魔法使い「ひやっは~! 野郎どもは肉体労働だ~!」

女剣士「おぉい!」

賢者「……トリッキーな人ですね。 ちょっと憧れますよ」

女剣士「お脳が軽いとことか?」

魔法使い「脳筋に言われたくないわね。」

賢者「あははっ!」




魔法使い「……とにかく女剣士が計画を言い出してからちょちょいと計画を考えてみた。」

魔法使い「女剣士は町長。」

女剣士「うえっ!? 重いな……」

魔法使い「あなたは私たちのリーダーだからね。」

魔法使い「僧侶は宿屋と教会をやってもらう。」

僧侶「がんばるよっ!」

商人「ぼ、僕たちは?」

魔法使い「ん、あなたたち三人は事務員的な仕事をしてもらいたい」

魔法使い「街を大きくするポイントは? はい、賢者さん。」

賢者「人を集めることですね」

魔法使い「そのとーり。 賢い。 脳細胞は何色か。」

賢者「たぶん普通の色です」

魔法使い「商人君には銀行と、予算の管理をお願いしたい。」

商人「……すごく大きな仕事ですね!」

魔法使い「盗賊君は自警団。 ゆくゆくは騎士様に。」

盗賊「ええっ!? ボクがあっ?」

賢者「商人君はお金の管理が得意ですし、盗賊君ならセキュリティーについても才能を発揮できますね。 素晴らしい配置ですよ」

魔法使い「そうなの? たまたまだけど良かったわ。」

魔法使い「緊急時以外は私たち六人が1ヶ月に一回集まって街の行く末を話し合う会議を行う。 これ大事。」

魔法使い「司法関係は賢者さんに任せる。」

賢者「分かりました。 魔法使いさんの補佐もさせて頂いてよろしいでしょうか?」

魔法使い「今後の計画立案に力を貸してもらえると有り難い。」

魔法使い「私は道具屋を経営しつつ、この町、オリファン城塞都市化の計画を立てる。 ……女剣士。」

女剣士「? ああ」

女剣士「私はこの町を城塞都市に変え、来るべき新魔王の脅威に備えたい」

女剣士「皆の力を借りたい……よろしくたのむ!」

五人「おおっ!」

三匹「ワン! ワン!」


僧侶「現在の人口……六人と三匹!」

――


魔法使い「さて、色々やらなければならないことがある。」

女剣士「いや、たくさんあるだろうな。 ほとんど一から街を作るんだから」

魔法使い「とりあえず宿の確保が出来たので、冒険者誘致、大工誘致をする。」

賢者「街を訪れる冒険者から希望者を募って住み着いてもらうんですね。」

魔法使い「これで理にかなってる?」

賢者「そうですね。 それとまず、資金の方を確認したいのですが……」

女剣士「商人君に魔王城のお宝とかの鑑定をお願いしてるから全部を把握するには時間がかかるが、軽く見積もっても1500万Gはある」

賢者「小国の国家予算は余裕で上回りますね」

魔法使い「それに加えて私が竜の秘薬を売ったお金も国庫に入れようと思っている。」

女剣士「あれか」

僧侶「私の病気も治りました!」

賢者「それはどれくらい売れそうですか?」

魔法使い「一個二十万。 ただし腐食するものだから半年くらいで在庫は無くなる。 持ち帰れたのは三百個分と言ったところ。」

賢者「……二十万! いや、竜の秘薬と言えば万病を癒すもの、その値段でも広報が上手く行けば売れそうですね」

魔法使い「これを行商人に五万で卸すのも考えてる。」

賢者「流石です。 賢い行商人になら早々とさばけるでしょう。 足りなくなれば竜を狩りに出かけることも出来ますし……」

魔法使い「供給を少なくして値段を釣り上げたいのもあるけど、なるべくなら戦闘は避けたい。」

賢者「わかります」

女剣士「とりあえず麓の町とタイガンの国、ヤマナミの国に広報を出したい」

賢者「そのあたりはギルドや業者に頼むべきですね。 思い切って二百万くらい使ってしまいましょう」

魔法使い「なるほど。 人を集めるには仕事も必要だけど……」

女剣士「公共事業って奴だな。 麓の町との間に砦を設けるための資材搬入とか建設要員として……」

賢者「……待ってください、流石にそれだけの人員を増やすと町がパンクしてしまいます」

魔法使い「そうね、まずは専用宿泊施設を作ろう。」

女剣士「何事にも手順が大切と言うわけか。」

魔法使い「まずは大工……15人くらいかな。 それと竜の秘薬だけど、どこかに病気の王族でもいればその人に営業をかけようと思っている。」



僧侶「……難しい」プスプス

女剣士「うん……」ナデ

盗賊「すごいお金だね!」

商人「そうだね。 あ、盗賊君が預かってるお金はそのまま持ってて。 二百くらいでしょ?」

盗賊「うん、二百十六だよ」

商人「旅先とかで緊急で必要になるかも知れないし、一番管理能力高そうなの盗賊君だしね」

盗賊「……ねえ、商人君。 ボクらすごくラッキーだったんじゃないかな?」

商人「……そうだね」

商人「始まりの国が滅ぼされて僕らは孤児になった」

商人「二人で色々食べ物を漁りながら、魔物とも戦ったね」

盗賊「賢者さんに拾われていろんなことを教えてもらわなかったら……ボクはきっと汚いだけの盗賊になってた」

商人「そして旅してきて、勇者様のパーティーに出会えた」

盗賊「ボクね、女剣士さんのためにがんばるよっ!」

商人「……そう言うのは本人に言ってあげるときっと喜ぶよ……。 さて」

商人「財宝の鑑定は少し怪しいけど、千八百万ってところかな」

盗賊「……うわあ……、目が回るみたいな大金だねえ」

商人「これから街を大きくするんだから、足りないよ」

盗賊「ええっほんとにぃ!?」

商人「まあね。 もちろんあの人たちなら何か収益を得る方法も考えているんだろうけど」

グギュル……

盗賊「……ボクおなか減った」

商人「だね。 そろそろ広間に戻ろう」

――


女剣士「ああ、二人降りてきたな」

僧侶「ごはんだよぉ~!」

商人「はい!///」

盗賊「ごちそうだあ~!」


賢者「美味しい……」

魔法使い「料理は実験。 実験は得意。」

女剣士「うちは三人でいろんなこと賄ってきたからね」

僧侶「畑も作るんだよ~!」

賢者「そうですか。 城塞都市を構えるなら兵糧を自給できるシステムは肝要ですね」

魔法使い「まあね。」

賢者「……なんと言うか、私の出る幕がありませんね。 魔法使いさんは博識です」

魔法使い「ほめても実験しかできない。」

女剣士「それどんな鬼畜?」

盗賊「美味しいよ! 女剣士さんっ」

女剣士「そうかぁ。 良かったぁ///」ナデ

魔法使い「それどんな変態?」

犬三匹「ワンワン!」

魔法使い「とりあえず私は明日はこのあたりの地理を把握するために探索に出るつもり。 僧侶についてきてもらいたい」

女剣士「私もそっちに行こうか?」

魔法使い「そこまで危険はないと思う。 いざとなれば帰還魔法を使う。」

賢者「では私たちは広報に回りましょう。 女剣士さんは王族の方とも顔見知りなんですよね?」

女剣士「一応ね。 タイガンには行きたくないけど」

魔法使い「タイガンの王子にプロポーズされたんだっけ」



盗賊「……王子様に……?」

商人「ライバル強力だね……」

僧侶「女剣士さん、王子様は苦手だって言ってたよ」

盗賊「!」

商人「良かったですね」

盗賊「えっ? べつにっ///」

盗賊「そうだ、魔法使いさん、セキュリティー魔法について聞きたいんだけど……」


僧侶「いいとこをみせたいんだねっ」

商人「女剣士さんを射るならまず魔法使いさんか、盗賊君の策略家!」



女剣士「……?」



――


女剣士「じゃあ留守番は任せる……盗賊君だけだけど大丈夫かな?」

魔法使い「大丈夫。 完全なセキュリティー体制で町長宅、兼宿屋は雑魚魔物には突破不可能。」

女剣士「なんかすごい仕事できるよね、魔法使いって」

魔法使い「任せて。実験は得意。」

女剣士「……まあ失敗したの見たことないからな」

僧侶「そうそう、てっぺきだよ~! 盗賊君を信じてあげようね女剣士ちゃん!」

女剣士「?」


賢者「……では、行きましょうか」

商人「とりあえず薬のサンプルと二百万、お金を持って行きますね」

女剣士「君らもしっかりしてるよなあ」


魔法使い「じゃあこの辺で、私と僧侶は南の崖下の川とその向こうの山脈、東の森をまわり、北の山を調査してくる。」

女剣士「私たちは麓の町からヤマナミの城、最後にタイガンに飛ぶ。 今日は帰れないかもな」

魔法使い「私はできる限り早く帰る。 どうせ調査は何度もいく。」

女剣士「じゃあ盗賊君、留守は任せたよ!」

盗賊「はい!」

女剣士「犬たちも頼むよ」

犬たち「ワン!」

――

その後、魔法使いと僧侶は緩やかな崖をおり、川に着いた

僧侶「きれーい! あ、お魚さんだ!」

魔法使い「うん、釣りも出来そう。 しかし上水道には使えないから北の山にある川も見ておかないと。 それと、できれば排水がこの川に流れないようにしないといけない。」

僧侶「お水は井戸があるけど、火事とかあるともっとお水がいるし、下水も整備しないといけないしね」

魔法使い「勉強してるね。 いい子。」ナデ

僧侶「えへへ///」

魔法使い「それで東の森。 下水処理できる場所を作りたいから北の山沿いに開けた土地が有れば……。」


魔法使い「南の山は今日回るのは厳しいかな。」


僧侶「じゃあ森にはいろっか!」

魔法使い「そうしよう。 気をつけて。」

僧侶「うん!」ジャキッ

僧侶は女神のメイスを装備した!

今日はここまでです。

更新はいつになるか分かりませんが早めに書ければと思います。

少しだけ更新します。

先は長くなりそうです

一方、女剣士達は西の森を見下ろしつつ、山道を降りていた

女剣士「砦を築くより幾つかの門を作って、崖上で城壁を作った方が防御は堅いかな?」

賢者「そうですね、まずは陸路、侵入者を防ぎつつ流通を妨げない仕組みが必要になりますね。 門をいくつか作ると言うのはいいアイデアです」

賢者「普段は入り口だけで検閲を行うといいですね。 兵士が10人くらい各門にいれば堅く守れますし」

賢者「空からの進入を考えて城壁に弓兵を配置出来るようにしましょうか」

賢者「……」

女剣士「? どうした?」

賢者「いえ、なんだかワクワクしてきました。 ここが戦場になることを想像するのは良くないことですが、それを乗り切ることを思えば魂が高鳴ります」

女剣士「そうか。 君みたいな人がどうしてここにいるのか不思議ではあるが、君が心からここにいたいと思ってくれるなら心強い限りだ」

商人(二人は年が近いんだな……これは盗賊くん、ピンチ。)

(でも交渉向きなボクと賢者さんに、顔が広い女剣士さんで外交するのは当然の組み合わせだし、村を留守にする訳にもいかないしなあ……)




商人「……ん? なんだか麓が煙ってるような……」

商人(! 魔物の群?!)

商人「賢者さん、女剣士さん!」

賢者「!」

女剣士「今まで気配を感じなかった……強い群だぞ!」

商人、賢者「!!」

女剣士「……いつ以来かな」

商人(これは……二人の邪魔にならないようにするべきだな)

女剣士はまだ視界に入ったばかりの魔物に向かい、走り始めた

賢者(女剣士さんは勇者と共に戦った歴戦の強者)

賢者(ここはサポートに徹するべき)

賢者は倍速行動魔法、攻撃強化魔法、防御強化魔法、魔法防御魔法と、移動しながらも丁寧に女剣士に重ねてかけていく

女剣士「ふふふ……魔王城を一息に突破した時を思い出す」

女剣士「血がわき踊るこの感覚!」



やがて眼前に魔物の群が現れたが、女剣士の突進に慌て、なまじ大量の群であったため、混乱をきたした

魔物「ひっ、怯むなあ! たった一人だぞ!」


かつて単騎で乗り込んだ将兵が、戦果を勝ち取ることがままあったが、それは味方の中心に敵対象が現れた場合を想定すればある程度察しがつく

つまり、お互いの武器や魔法が味方に当たることを懸念して、速く大きな行動を取れなくなるのだ

魔物の群は精強ではあったが、そこに飛び込んだのは、かつて魔王の城に乗り込んでその首を取った女剣士である

足場の悪い山道で、強敵に、山上から、先手を取られた時点で勝負は決していた

女剣士「おりゃあっ!」

女剣士の雷撃剣が群がる敵を凪払う!




賢者「ははっ、一人で一軍とはよく言ったものです」


商人「……すごい」


商人「自分の見識はまだまだ甘かったようです……」

賢者「私もあんな人、初めて見ましたよ」


女剣士が剣を納め、チン、と小気味の良い金属音が響いた時には、そこには精強であったはずの魔物の群の死体が転がっていた


女剣士「……おかしい」

二百メートルほどの距離を賢者と商人がようやく追いついた時に、女剣士は呟くように言った


女剣士「賢者さん、この魔物の群、弱かったと思うか?」


賢者「! ……いや、私も見知った魔物がいくつかいます。 図鑑に載るような魔物は、メジャーな魔物か中級より上の魔物のはず」

賢者「見識が浅くて申し訳ありませんが、この魔物が弱い部類の魔物でないのは、分かるつもりです」

賢者「問題は……、そんな魔物がまるで、一軍を率いるように何もない山道を登ってきたことですね?」


女剣士「……」


商人「もしや、また勇者討伐隊が?」


女剣士「……まさか……」



賢者「……魔王が蘇った?」

女剣士「もしくは、それに準ずる者が現れた」

賢者「……しかし、早すぎる……」


女剣士「……とりあえず……」

賢者「戻りますか?」


女剣士「……いや」


女剣士「このままヤマナミ国王に会う」

女剣士「盗賊くんが心配だが、あっちには私以上に魔物感知に長けた魔女と、無敵の女僧侶がいる」

女剣士「私は私のやるべきことをやる」

賢者「……」

賢者「了解しました。 この一瞬でそこまで思い至るのは戦場に身を置いた経験からでしょうか」

賢者「私はリーダーの勘を信じることにします」




商人「……なんだか自分が場違いな空間にいる気がしてきました……」

……

そして、その数刻後、勇者の町、オリファンでも異変が起こっていた



山賊A「ようやく山脈を乗り越えられたと思ったら、こりゃまた随分とシケた村がありやがる」


山賊B「……ほんとだ、人の気配もねーぞ?」


山賊A「おっかしらあ、どうしやしょう?」


山賊頭「……ふん、先の戦で焼かれた町か。 盗賊に荒らされてなきゃ良いが」


山賊A「下に川が流れてやすぜ?」


山賊B「ひさしぶりに水浴びと行くかあ」


もしこの薄汚れて極まった山賊のセリフを件の魔女が聞いていたら、大実験大会開催であろう

しかし、幸運にも?山賊頭の下した判断は、水浴びの前に仕事、であった

山賊頭「いけや! お前ら!」

山賊A~D「「へい!」」

町はまだ復興を始めていないし、そこに残った建物は数件である

たちまち山賊たちは村長の家に辿り着いた

山賊A「さて、このデカい家だけやたら綺麗だし、なんかお宝出てくれよぉ!」


山賊が、せいっ、と扉を蹴り込むと


魔法使いの声「ヘイ! 超絶天才美少女魔法使い様の、個人認証結界システム作動だぜい! ヘイ!」

魔法使いの声「結論! 解体用サンプル! ぐへへ!」


けたたましく、狂ったような叫び声が、家の全体から響くと

山賊A「ぎゃべらぼちゃあべしっ」

結界に触れた山賊が可哀想な悲鳴をあげて、焼け焦げた

山賊B「……なななななななな……」




盗賊「なに、この家」

犬たち「ワン! ワン! ワン!」

盗賊「! あっ、誰か来たんだ」

慌てて二階に登り、窓から下を伺う


盗賊「……うわあ、一般の人だったらどうしよう……」


眼下には、カオスが広がっている


魔法使いの声「ハズレ!」

山賊B「がぎゃべらぼちったわっばっ」


魔法使いの声「失格!」

山賊C「ぐほらへはひゃひっでぶっ」


山賊D「ちょっおまっ」

魔法使いの声「駄目男!」

山賊頭「はやひゃぎらべほひっうわっらばっ」


山賊D「かっ、かしらぁあっ、って駄目男はひでえ! あ、四十まで山賊とか駄目男か」



盗賊「」


盗賊「かっ、固まってる場合じゃない! そうだ、とりあえず誰なのか聞かなきゃ!」

盗賊は思い切って窓を開けると、山賊たちを見下ろした

盗賊「……あ~あ……」

まだ十三歳になったばかりの少年盗賊には、目の痛い光景である

真っ黒に焦げた四人の山賊と、辛うじて危ない橋を渡らないタイプだった山賊Dがおどおどしていた


山賊D「……て、てめえ! てめえかこんな凶悪無比なトラップ仕込んだのは!」

盗賊「心外です」

盗賊「あなたの発言は人権を蔑ろにしています」

盗賊「ボクのようなか弱い少年にこんな凶悪で非道なことが出来るでしょうか? いいえできません。 反語」

盗賊「こんな無邪気な少年を疑うとはそれでも人間ですか? 天罰を受けて下さい。 神も喜んで下してくださいますでしょう」

盗賊「神の慈悲です、早く帰って下さい。 お願いします。 急いで。 かけ足で」


あまりの事態に正気を奪われた盗賊は山賊たちに矢継ぎ早に冷ややかな言葉を浴びせかけるのであった


山賊D「ふざけるな! 今そっち行ってやる!」

しかしその言葉で腸が煮えくり返った山賊は、とりあえず脇に見えた窓ガラスを狙って、斧を振り下ろしてみた



硬い手応え

その刹那、魔法使いの一際明るく可愛らしい声が響き渡る

「ぴんぽんぱんぽ~ん!」


魔法使いの声「ハ~イ! 超可愛い究極ラブラブ大天使魔法使いちゃんの全自動個人認証式結界は、見知らねー野郎が5人続けて来たらバトルモードに移行しちゃうんだぜ~!? すげえ?すげえ?」





山賊D「」

盗賊「」

犬たち「ワン! ワンワンワン! ワッホン!」

盗賊「魔法使いさん」

このトラップは、恐らくようやく仲間になったばかりの可愛い可愛い身内を守るために魔法使いが、己の全知識、全知力、全魔力、すなわち己の全才能を駆使し、無尽蔵と言われる魔力をもほぼ百%使い、それでも守る!と言う決意を現した作品で有ったかも知れないが、



盗賊「あほですか」


それしか言うことが無かった!


盗賊がそう呟いたか否か、家全体が震え、咆哮にも似た大音響を響かせ始めた


山賊D「いやああああ! 殺さないで許して足洗いますごめんなさい助けてママぁ~んっっっ!」


家は広域殲滅閃光魔法を発動した




山賊の群「」





盗賊「……うふふ。」

盗賊「ボクが無事ならいいかな? いいよね!」


最早トラウマにもなりかねない事態

盗賊は達観したかのように呟いたのだった……

魔法使い「おやや~? 発動しちゃったか。」

とぼけたつぶやきで魔法使いが帰ってきたのはそれから一刻も過ぎぬうちであった

僧侶「あ~、なんか水が染み込んだぼろ雑巾を焼いた後みたいなのが落ちてますよっ」

魔法使い「侵入者を殲滅できないで、トラップと言えようか? いや、言えない! 反語。」

僧侶「あっ、あっ、これ人間です?! きゃあっ! 回復しなくちゃ!」

魔法使い「うん、縛ってから回復した方が」

僧侶「蘇生魔法×5!」

魔法使い「良かったよね、うん。」



山賊頭「かはっ! なんだ? 何が起こった!」

山賊A「……うっ、くそお……頭痛い……」

山賊B「……確か……、無人の村で空き家を襲って……それから……」

山賊C「あっ! なんだ小娘ども! 見せもんじゃねーぞ!」

山賊D「もうやだ山賊やめる山賊やめる……」ガタガタ



魔法使い「はい、びりびり~。」

魔法使いの束縛魔法!


……勇者パーティーと言う神々の遊びを見た気がする

後日盗賊はそう語ったと言う

魔法使い「んでんで、君たちは何者? 森で聞いた魔物じゃないわよね?」

山賊D「その声……あの家の……ひいい」

魔法使い「お話続かないから寝てて。」催眠魔法!

魔法使い「見たところ黒こげ山賊団ね? 賞金首? 賞金首?」

山賊頭「賞金かかるような山賊じゃねえよ。 ヤマナミ東にアジトを構えてこそ泥やってた、しがない山賊さ」

魔法使い「……」(残念。)

山賊頭「最近やたら魔物が増えてよぉ……アジトも魔物に奪われちまった」

山賊頭「命からがら逃げ延びてようやく飯にありつけるかと思ったら化け物の家がよお……」グスッ


魔法使い「泣き言を言ってる人間の脳の反応を見たい。 見せて。」

盗賊「鬼畜かっ」


盗賊「あの、それなら少しくらいご飯食べさせてあげて良いですよね? 僧侶さん」

僧侶「ん~、困ってる人は助けるよ!」

僧侶「……魔法使いちゃん、どう思う?」

魔法使い「……みなが帰ってきたら、話そう。 とりあえずごはんにしよ。」

何か重いので少し休憩します。

朝から嵐のような勇者の町に、夕日が射し込もうとする時間になった

女剣士たちは予定より早く帰宅した

女剣士「……んで、その山賊たちは?」

魔法使い「実験室。」

盗賊「……縛ってから空き家に放り込みました」

女剣士「? なんか盗賊ちゃん大人びてない?」

賢者「本当ですね。 何があったかは言わないように」

盗賊「察しがいい師匠は持つべきではないと悟った」

商人「まあまあ、大変だったんだね! (こっちはあんまり進展してないから大丈夫だよ)ボソッ」

盗賊(なにかあったの?)

商人(ちょっと賢者さんと女剣士さんがいい雰囲気だったけど、進展してないから)
盗賊(この世に神はいない 神は死んだ)


女剣士「まず何から話すべきか……」


魔法使い「まずは私から、森であったことを話す。」

女剣士「うん」

魔法使い「森に入ったんだけどね、結論から言うと新しい情報は一つだけ。」

魔法使い「森に魔物が増えてるらしい。」

女剣士「……それを誰から?」

僧侶「それはね、ちょっと長くなるけどいい?」

女剣士「ん、ああ」

女剣士「ああ、ここ僧侶の地元じゃん。 知り合いでもいたの?」

僧侶「うん、私の知り合いだよ」

魔法使い「まず、私らは南に向かい川を調べた。 そこでは綺麗な水と、そこを住処にする魚たちを見つけた。」

魔法使い「そのまま山脈に向かうと時間が大幅に削られた上で、何も発見できない可能性があったのと、村に一人残して来てしまったのがやはり心残りだったので……。」

盗賊「……魔法使いさん……」

魔法使いは確かに行き過ぎ、と言うか、脳髄が宇宙遊泳している可能性があるが、とても自分のことを思ってくれていたのだ……



盗賊(いや、わかりたくもないけど。)

盗賊「とりあえずボクを守ってくれてありがとう」フフフ

そう言って暗く笑う少年盗賊



商人「この子誰ですか」

魔法使い「僧侶ちゃんも魔王の城で見つけた女神のメイスまで装備して、やる気まんまん気合いビンビンで森に入った訳だけど。」

僧侶「だってあそこ危ない魔物がいるから子供の頃には入れなかったんだよっ」

魔法使い「まあそれは見事に空振りだったわけです。」


盗賊「あの、話を遮って申し訳ありませんが、あなたは仲間の神経を抉る趣味でもあるのですか?」

魔法使い「あります。 ありありです。」

盗賊「自分がバカなのを再確認しました」フフフ

賢者「何があったかは後で聞くので落ち着いて」アセッ

盗賊「……失礼しました……」

女剣士「とりあえず、あとで魔法使いは一発殴っとくから」

盗賊「ありがとうございます!」

商人(大変だ、わけがわからない!)


魔法使い「とりあえず痛い一発をいただくことが確定したわけだが。」


魔法使い「森には魔物が居なかった。 より上位の魔物がいたから。」


僧侶「ふかふか主様です」

僧侶「あ、間違いました! 狼です、狼主様です」



僧侶「狼の主、狼主様です」

女剣士「……狼? どんな?」

魔法使い「デカい。」
女剣士「!?」

魔法使い「しゃべる。」

女剣士「!」

魔法使い「ふかふか。」

女剣士「??」


魔法使い「まあその狼主が私たちの前に現れた」



……



狼主「……久しく嗅いでない人の臭いがするかと思えば……僧侶の娘か」

僧侶「あ! ふかふか主様!」

狼主「もはやお約束になりつつあるがふかふか主ではない」

魔法使い「……でかい。 私の倍は体高がある。 魔王に並ぶ強い魔力も感じる。」

狼主「……察せるだけでも、お主は天才であろう。 その魔王に並ぶ魔力を持って幾重にも隠しておるのだが……」

目の前に立つ者が人の身を超えた実力の持ち主であることを悟った狼主は、自身の姿を明らかにした

……銀の髪、銀の狼耳、金の瞳の娘……

…その娘は、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込み……

魔法使い「ぐぬぬ。」



銀狼の娘「……話せ」

魔法使い「初の巨乳キャラで会場が沸き立つ中。」

女剣士「まて、いらんエピソード入れてくるな。 とりあえずそいつあとでシメよう」

僧侶「勇者パーティーの全力を持って!」

賢者他「」


魔法使い「では、狼主の語りから……。」

……

狼主「……なにやら殺気を感じたが」

魔法使い「なんでもない。 気のせい。」

僧侶「魔王にこてんぱんにされた記憶が蘇っただけだよ!」

狼主「? そうか」

狼主「そう言えば僧侶よ、わしが西の森に住んでいたのは覚えているかな?」

僧侶「はい! 勇者様について入っていっただけですけど、ちょっと覚えてます!」

狼主「うむ、それでな」

僧侶「?」

魔法使い「……西の森……最下級の魔物も出ない安全な森だった。」

狼主「如何にも。 わしが居るでな、下手な魔物など寄り付かんわ」

僧侶「……ではなぜ安全な西の森からこの東の森に?」

狼主「……その安全なはずの森に踏み入る魔物が増え始めたからじゃ」

狼主「これは何かある、そう思い、今この森をさ迷うておる」

魔法使い「……なるほど、反対のさらに西はタイガン王国と大河がある。 容易に魔物は攻め入れない。」

狼主「そうじゃのう」

魔法使い「魔物が攻めて来る理由は東の森にあるはず、と。」

女剣士「んん? そんなはずは無いんだが……」

魔法使い「……なぜ?」

賢者「……実は、西に降りかけたところで、比較的に強い魔物の群に遭遇しました」

賢者「今のお話からすると、狼主様のテリトリーをかわし入ってくる魔物がいたと言うことになります」

魔法使い「……なんとなく絞れた気がする」

魔法使い「つまり、魔物の生息地もしくは出現箇所は東の森で間違いないと思う。」

魔法使い「東の森はヤマナミの近くまで長く海岸沿いに続く森。」

賢者「……そうか、東の森でも南端にいれば、入り口をさ迷っていた狼主様にも気取られなくて済む」

魔法使い「そこは、逆に気付いていたら潰していたかもだけど。」

魔法使い「さっきの山賊たちはヤマナミの城東の比較的に近いところ、山脈に対して西側に拠点を持っていたけど……」

賢者「それを奪われた。 そして魔物たちは、そこを拠点にヤマナミを攻めるのではなく北を攻めてきた」

女剣士「ん、つながるな。 ヤマナミで聞いた魔物の不穏な動きとは、これだったんだ」


魔法使い「……ん、じゃあ、そちらの報告を。」


賢者「わかりました」

中途半端ですが今回はここまでです

次は一週間くらいかかるかも知れません

遅くてすみません。
読んで下さる皆さん、ありがとうございます。

再開します

今回で第一章終わりまで行くつもりです

女剣士「さて、ヤマナミで何が起こったのか話す前にちょっと経緯を説明しようか」

魔法使い「一切説明を省いて客観的にこの世界を見てる後世の歴史家をポカーンとさせる手も。」

盗賊「黙れば?」

商人「誰ですかこの子」


賢者「まず、私は転移魔法が使えるのですが、なぜのんびり山を降りたかと言う所から話しましょうか」

魔法使い「麓の町で記録しなかったね?」

賢者「仰有る通りです」


女剣士「私が全く意味が分からない話が始まるのが分かった」

魔法使い「まあ聞けば。」

賢者「当初の我々の目的はここから最も近く、且つ協力を仰がねばならない麓の町に行く事でした」

賢者「そこで転移魔法を使えば良かったのですが、私は麓の町に立ち寄ってなかった」

魔法使い「私が送っても良かったんだけど、距離的に近いことと、後、」

賢者「盗賊君たちを護るために一晩この家にかける魔法を試行錯誤し、全魔力を投入して下さったんです」

盗賊「!」

商人「じゃあ……」

女剣士「……こいつ研究に入ると寝なくなるんだよな」

僧侶「初めて知ったのは、私が呪いに倒れた時だねえ」



盗賊「……あんな魔法見たことない」

盗賊「あんな非道い魔法も見たことがない」

魔法使い「照れる。」

女剣士「死ね」ボグウ

魔法使い「痛い。」

僧侶「女剣士さんの一撃を耐える魔法使いちゃんは化け物だねっ!」

賢者「……勇者パーティーって本当に凄まじいですね(ノリもツッコミも)」



賢者「……で、麓に行くまでは歩いていくことにしたわけですが、途中でなかなかに強力な魔物の群に遭遇したこと、その前にも麓の町を襲った大群と戦っていたことから、事を急ぐべき、と、女剣士さんが即座に判断したわけです」

賢者「幸いにも私はヤマナミに行った経験は有ったので、即座にヤマナミに転移しました」

女剣士「ここからはヤマナミ王との対話だな」

賢者「短い時間でしたが、恐ろしく濃い時間でしたね」


…………


女剣士「ヤマナミ王に具申致します」

ヤマナミ王「……」ウツラウツラ

女剣士「先ほど、勇者の村を襲う強力な魔物の群と遭遇しました」

ヤマナミ王「……ぐう……」



商人「……あの、ヤマナミ王陛下、眠ってませんか?」

賢者「……黙って聞いていなさい」

商人「?」


女剣士「……いつかは魔物の襲撃を受けることを懸念し、私は勇者の村を城塞化するつもりであったことも述べておきます」

賢者(女剣士さんは頭の回転は抜群に速いな……)

ヤマナミ王「うへへ……遊び人ちゃんかわゆすなあ……」グウ


若いヤマナミ王は、依然眠っているようで、ついには寝言まで飛び出す有り様であった

しかし、その場にいた大臣、メイド長、賢者、女剣士までが、それを気に止める様子もないのである

少年商人は大いに困惑していた

商人(……なんでこんな失礼な人が王様なんだろう……見たところ僕と十も違わないのに……)

女剣士「……事は急を要しますが、私の私見からヤマナミ王に以下の援助を求めたいと思っております」

ヤマナミ王「ぐう」

ヤマナミ王「……みなまで申すな。 城建設に詳しい者を15人ほど遣わそう」


ヤマナミ王「……ぐう……」


ヤマナミ王「えへへ、遊び人ちゃんのお胸とってもフカフカ主」

女剣士「コロしてよろしいですか?」

ヤマナミ王「ごめん、真面目にやる」



…………


ヤマナミ王「……資金援助も人材援助も、見返りなしで無尽蔵に行おう」

女剣士「えっ!? いえっ、そこまでは」


ヤマナミ王「必要なだけ支援すると、余が言っている」

女剣士「……っ……ははぁっ!」

賢者(相変わらずの決断力……ヤマナミ王には会う度に頭が下がる……)



商人「ポカーンですよ、僕は」

大臣(ワシにしてみれば……忌々しいことだ)


ヤマナミ王「少年よ、お主は歴史に詳しいかな?」

商人「……え? いえ、少ししか」



ヤマナミ王「それほど遠い昔の話ではない」

ヤマナミ王「まず、我々数十ある国家、…………まずこれが世界にはある」

商人「はい、確か現在国際機関に認証を受けているのは四十二国です」

ヤマナミ王「……ぐう」

商人「」


ヤマナミ王「……賢い……サトいのうお主」

商人「……光栄でございます」

ヤマナミ王「……寝るのは気にするな」
商人「気にします」

ヤマナミ王「それらが魔王と対峙した」グウ

商人「聞けよ」

賢者「こういうお方なので突っ込みは厳禁です」

商人「嫌です。 王が死ぬまで突っ込みたいです」

ヤマナミ王「いや、いいよ別に」

商人「ムカついたら殴ってよろしいですか?」

…………

盗賊「また途中で遮って悪いけど商人君ごめんなさい」

商人「キニスンナ」

…………

ヤマナミ王「つまりな、我々は魔王の死を司るシニ国、四十二国をもってしても、たった一人、魔王を倒すことなど出来なかったのだ」

商人「!」

ヤマナミ王「先代勇者が魔王を追いつめるも、子をなし、十六年も戦いを避ける間も、我々は魔王を倒せなかった。 ちなみにそのことで勇者を咎める国は無い。 その資格も無い故な」

ヤマナミ王「……お主、そこな女剣士の戦いを見たことは?」

商人「……二度ほど」



ヤマナミ王「よく、一軍に匹敵と言うが、それは誤りだ」

ヤマナミ王「女剣士が魔王なら、今この瞬間にこの国は、国中の地図の我が国の名に修正液をかけるよりは、容易く消えよう」

商人「……まさか!」

ヤマナミ王「魔王とはそういう存在、魔王を倒すとはそういう事なのだ」




ヤマナミ王「我も眠らずには居れまい」
商人「いや、それは別に関係ない」

ヤマナミ王「……その女剣士が、人類の未来をかけて戦って居るのだぞ?」

ヤマナミ王「協力出来ぬ者は万死に値する」


女剣士「……!」


女剣士「過ぎたお言葉です……」



賢者(こういうことばかり賢いのが賢者とは聞こえが悪いことだが、女剣士殿は……)


商人「?」


ヤマナミ王「……では、……城塞都市の名はオリファンであったか?」

ヤマナミ王「我はここにヤマナミ王の権限を持って、それを許す。 協力も惜しむまい」


メイド長「……これにて面会時間を過ぎました。 お下がり下さい」


女剣士「はっ!」

賢者「ありがとうございました」




大臣「……」

魔法使い「……なるほど、あっと言う間だけど、濃いね。」

女剣士「……次は例の山賊の砦を襲った魔物の不穏な動きについてだが……」


…………

メイド長「まあ王さんの面会時間切れたからってウチがしゃべってまずい話も無いわけで」

女剣士「……相変わらずだな、アンタは」

メイド長「そうそう、相変わらずアンタが国王を見る……」

女剣士「黙ってくれないかな?」ニッコリ

メイド長「ウチは一国の総戦力より弱い自信がある」



メイド長「ウチが現状を総括するなら、ヤマナミ王国は下手するとオリファンの独立まで認める」

女剣士「!! そこまでは!」

メイド長「ウチの私見だが」

女剣士「……むう」


女剣士は幾度かヤマナミ王に接見した経験がある

その幾度かでヤマナミ王を知り、その人格と言うか、圧倒的な判断力に深く敬意を覚えた

しかし、それ以上に圧倒的だったのが、このメイド長である

彼女は賢者と呼ぶべき人物であった




メイド長「たかがメイドのウチが何を言っても戯れ言だからね」




メイド長「判断はテメエでしろと」

メイド長「……最近ヤマナミの東で山賊モドキが砦を築いたんだがね」


メイド長「……数日中に魔物に襲われて、魔物の砦になっちまった」ギャハハ


賢者「おやおや」


女剣士「それは間抜けな山賊だな」クスッ

商人「何かを略奪する間もなかったのでは」アハハ

メイド長「おっ可愛い少年」ニコニコ

商人「こっち見ないでくれますか?」ニッコリ



メイド長「……んでな、ウチのメイド部隊に偵察させたんだが、どうもその魔物共も何かと争っていたらしいんだわ」

女剣士「……?」


賢者「……ずいぶん慌ただしいことですね。 要するに最初の一軍は逃亡した先で山賊の砦を奪った可能性があると」

メイド長「お主賢いな。 賢者と呼んでやろう」

賢者「え……それはありがたいことです」




王とメイド長の思考、権限は、ほぼイコールと言っても良いものであった


彼女が王妹であることもある


メイド長「んで、その逃げた魔物ってのがよくわからんのだが」




メイド長「四天王って知ってる?」

女剣士「!?!」



賢者「……よく言われますね、魔王四天王」

賢者は、冷静に答えつつも、女剣士の反応を見逃さなかった


メイド長「……どうもあの砦に、その四天王がいたっぽいんだわ」

メイド長「…………そこで魔王の軍に詳しそうな女剣士に事情を聞こうかと居場所まで調べてたんだが」

賢者「女剣士殿が答えるまでもありません。 討伐命令を下されるなら我々が討伐致します」

女剣士「!!」

メイド長「……いや、別にいいよ」


メイド長「どうもこちらを襲ってくる気配がない」

メイド長「……んで、魔物同士で争い始めちゃったんだわ」

メイド長「こういう場合の国家としての対応はわかるかね?」

賢者「……静観すべきですね。 場合に置いてはどちらかに武器供与などもあり得ます」

メイド長「……ウチがなんにも言ってないのに魔物の勢力も外交勢力と見ているとは……読む目があると言うべきか。 女剣士と違って」

女剣士「いつでも剣は抜ける」

メイド長「土下座で許していただければ」ズサー


メイド長「……つまりそういうわけなんよ」

メイド長「先にキミらが二回交戦した魔物の群は、そいつかな?」

賢者「……恐らくは」

商人「……つまり山賊を追い散らした四天王の使いの魔物の群が、先に僕らが交戦した二組の魔物ってことですか……?」

メイド長「敵の配置や勢力規模、行動速度は分からないが、概ねそういうことじゃないかな、と」

メイド長「にらんでるっつーか、戦略を考えたらそのあたりに落ち着く」

女剣士「……いや、私はおう……メイド長の言葉が正しいと思ってるから」

賢者「国家を預かるものの知性とは素晴らしいものですね……おっと」

商人「……?」



女剣士「……つまり」

メイド長「砦を支配してる強力な魔物は、ヤマナミに敵対することを避けていたが、より強力な勢力の攻撃を受けたことから、現状を逃れる手を打つ必要に迫られた」

メイド長「南のより高い山脈や東の進軍も難しい山脈と深い森、西のヤマナミに逃げるより、北に逃げることを選ぶと、斥候として弱めの一軍を北に送り込んだが……」

女剣士「全滅した」

賢者「女剣士さんによってあっさり倒されたわけですね」

メイド長「そこで、より強い一軍を斥候に送る必要に迫られた……」

賢者「それをまた女剣士さんに一蹴された、と」



女剣士「……なんか恥ずかしい」



メイド長「ウチはむしろ誇らしいがね」

メイド長「その四天王と思しき魔物の群とそれと戦って打ち勝った魔物がどこから来たのかは分からないが」

メイド長「とりあえず不穏な動きをしている、と」

メイド長「魔物の出現ポイントは君らが絞ってくれたらウチは助かるね」

賢者(たかがメイド、されど王妹、微妙な立場をこの人は上手く使ってくるんだよなあ)

女剣士「早速帰還し仲間に報告します」

メイド長「そうだね、ああ、2日以内に人は送るんで」

賢者(いくらなんでも迅速すぎるけど、普通にやってしまうんだろうなあ……)

…………

魔法使い「なんだ、有る程度はメイドちゃんが予想してたんだ。」

女剣士「いや、しかし出現ポイントまでは予測が立ってないよ。 私たちもなんとなく山脈を越えるより南西の荒れ地から来たのでは、と予測していた」


僧侶「でも四天王って本当に居たんだね」


盗賊・商人「?!」

商人「えっ、皆さん四天王と戦ってないんですか?」


魔法使い「必要がなかったからね……魔王が何を考えていたかは今となっては知る由もない。」

賢者「メイド長様はそれを察してかは深く言及なさいませんでしたが、四天王を残していては……」

魔法使い「世界を救ったとは言い難いかな。」



魔法使い「とりあえず現在において推測が立つのは、狼主が感じたように東から魔物が攻めてきたことと、」

賢者「メイド長様が仰ったようにその一勢力がここより南の砦に居を構えていること」

魔法使い「魔物同士の争いがあったことと、四天王と思しき魔物が南の山脈に居着き、そこから二度斥候を放ってきたこと」

魔法使い「そしてこれはとても大切なことだけれども……」

女剣士「四天王に打ち勝つ魔物がいると言うこと……か」

魔法使い「その通りでございます。」

~~翌日~~

山賊頭「相談がある」

魔法使い「あ~ん。」

山賊頭「ぱくっ」

山賊頭「うめえっ!」

山賊頭「……じゃなくて話を聞け!」



魔法使い「ん~、ちょっとヤマナミ王を真似てみようかな?」

山賊頭「?」


魔法使い「城塞を築くには大工が必要だ。 魔物が居城として選ぶほどの砦を建てる技術を持っているアンタらの力を借りたい。」

山賊頭「!?」

山賊頭「なんでわかった? 頭ん中覗けるのか?」



魔法使い「……まあねえ。」クックック


山賊頭「魔法使いさんパネェ……弟子にしてくだせえ!」

魔法使い「半端なことをするとホルマリンに漬かることになるけど……。」

山賊頭「(こえぇ)あっしはこれでも男だ! 一度言い出した事は曲げねえ!」

魔法使い「ふん、信じよう。 ちょっと建築に詳しい人材が欲しかったのもあるけど。」


…………


魔法使い「ってことで、この山賊どもを大工頭にしようと思う。」


山賊頭改め大工頭「よろしくお願い致しやす!」


女剣士「……良いけど、ずいぶんな変わり身だな」


山賊D改め大工D「姉さんの実力は重々承知してやすんで」


僧侶「怪我したらいつでも治してあげるね!」ニコッ

山賊改め大工共「ウオォ!! 僧侶ちゃあああん!!」ピーピー

魔法使い「げせぬ。」

盗賊「げせます」

魔法使い「げせますって初めて聞いた。」


女剣士「とりあえず士気も高いし服従してくれるなら、オリファン町長の権限で君たちを正式に雇い入れよう」

魔法使い「私のありがたい飯も食わせる。」

山賊改め大工共「イヤァッホー!!」



賢者「根が単純なんでしょうか。 とりあえず目立った悪事を働いた経緯も無いようなのでよろしいでしょうが」

大工共「ありがとうごぜえます!」


魔法使い「建設計画の陣頭指揮は私が取る。 外交はサッパリなので賢者君に任せる。」

賢者「有り難いですが、ご謙遜を。 魔法使いさんなら外交も問題なくこなせるでしょうに」

魔法使い「私に人付き合いが出来るとでも?」

賢者「勘違いでした」


女剣士「なんだか新しい朝が来た感じでワクワクするな」

賢者「好きですよ、この感じ」

魔法使い「確かに悪くない。」

僧侶「どんな町になるかすごく楽しみだね!」




ヤマナミ大工「すみやせ~ん、ヤマナミからきやした~」


女剣士「はやっ」

賢者「早いにもほどがあるでしょ」

賢者「メイド長殿が敏腕なのは知ってますが……」

女剣士「私らがヤマナミから離れてすぐ活動しないとこんなに速くは来れないはず」

魔法使い「頭が下がる。 じゃあこちらも迅速に建設計画を発表する。」



商人「おおっ」

盗賊「始まるんだね!」

僧侶「私たちの町作り!」

犬たち「ワン! ワン! ワオ~ン!」




僧侶「現在、26人と三匹! 街づくり開始!」


第一章 女剣士「目指せ!城塞都市!」魔法使い「はじまりのはじまり」完

とりあえず第一章はここまでです

まだスレが進んでないので、第二章もこちらに書きたいと思います


長編SSは初めて書きますけど、書けば書くほど複雑になっていくので怖いですね

いつも投下するまでに二日くらい悩みます

ご好意で読んで下さる皆さん、本当に有り難う御座います。

ミスがあったら女剣士ばりのツッコミをお願いします。

やっぱり悩んでしまいました

第二章始まります

女剣士「目指せ!城塞都市!第二章!」僧侶「勇者と魔王」

~~メイド長の部屋~~

賢者「さて、なぜ私を見知らぬふりをしたのか聞いてもよろしいですか?」


メイド長「そりゃ、ウチがあんたを使ってやりたいことがあるからでしょ」


賢者「素直ですね。 でもたぶん……」

メイド長「魔法使いちゃんがいたら思い切れなかったけどねー。 女剣士ちゃんは王族を疑ったりしないだろうから」

メイド長「ところで、君がヤマナミ出身とかバレてないか?」

賢者「それは大丈夫だと思います。 王と顔見知りなのは知られていますから怪しいですが」



賢者「しかし、あの町で密かに動く自信があまりないのですが……」

メイド長「そうね。 とにかくあの魔法使いちゃんが鬼門過ぎる」

メイド長「とりあえず兄ちゃんのためにウチらがやるべきことはやる」

賢者「……私は自信が有りませんよ。 言いましたからね」



メイド長「策を持ってすれば落とせない奴はいない!はず!」

賢者「とりあえず勇者パーティーと肉弾戦は完全に不可能ですから」

メイド長「まあガチでやり合う必要がないんだけどさ」



メイド長「悪い話ってわけじゃないから」


…………


?「全く小細工をしてくれるなあ」

?「甘くない相手なのは分かってるけどよ」

??「ですが、本当にマズいのは当面の敵よりあの者たちの方です」

??「回避しつつあの者を封印せしめればよろしいのですが……」

?「それについて策はあるさ。 とりあえずオレにやらせてくれ」

??「ご無理はなさらないように……」

…………

魔法使い「やるべきことは多い。」

狼主「全くだの」

狼主「西は触るな。 北の森の開拓は主に任せよう」


魔法使い「今狼主ちゃんがどっちの姿か分かりづらいよね」

狼主「見りゃわかるダロ」

娘主「とりあえず獣が女になってたら分かるだろ」

魔法使い「なんかシュール」

娘主「確かにな」


魔法使い「今のとこ、北の森さえ抑えられたら西の森には影響を与えることはない。 ただ、開拓が進めば戦いが起こる可能性が高い。」

娘主「腐れ縁じゃし、手伝っても構わんぞ」

魔法使い「狼主ちゃんは世話焼きだねえ、損しかしないでしょ。」

娘主「命が無くならないなら人に尽くすのもわりと狼心をくすぐられるものがあるんじゃよ」

魔法使い「私の女剣士に対する気持ちみたいなものかな」

娘主「それは初耳じゃな」


魔法使い「そう?」

犬兄「ワン!」

犬兄(俺たちのオジさんは人間を救った勇者だったそうだ)

犬弟「ワンワン!」

犬弟(僕らと人の絆が深まるのは良いことだね!)

犬兄「ワン!」

犬兄(しかし俺たちはエサをいただくだけ!)

犬兄「ワン!」

犬兄(愛すべき僧侶様、魔法使い様、そして我らがリーダー女剣士様!)

犬たち「ワオン!」

犬たち(なにかあれば助けになりたい!)



犬妹「くう~ん」

犬妹(でも私たちはオジさんの名前を汚しているかも知れない)

犬兄「ワン!」

犬兄(我らも努力せねばなるまい!)

犬弟「ワオン!」

犬兄(そのためにはオジが学んだと言う狼主様に協力を頼まねばならん!)


犬兄弟「ワオ~~ン!!」

…………

大臣「ヌシらがやることは分かって居るだろうな?」

傭兵「人間を殺せば良いだけだろ? そんなに難しい話じゃねえよ」

傭兵「相手のパーティーは分かってるんだ」

大臣「相手は魔王クラスの相手じゃぞ?」

傭兵「勇者が魔王を倒していなかったら俺たちが倒していたさ」


大臣「そう思うから大金を積んだのじゃ」



大臣「任せたぞ」

~~勇者の隠れ里、オリファンの町~~

女剣士「とりあえず魔法使いが狼主様に許可を取りに行ってるが、それ以外に開拓できる土地はある」

大工頭「とにかくこの宿はいずれ城に建て替えるとして、西に対しても東に対しても攻撃しやすい形を取るべきです」

大工頭「南の山から俺らが入れたことも鑑みて、南に砦の形で宿舎を建てやしょう」

女剣士「わりと頭が働くんだな、簡単に魔族に砦を奪われたクセに」

大工頭「ありゃとにかく相手が化け物でしたからね」

女剣士「その話をアンタらから聞けるのもすごく大きな収穫だったよ」

女剣士「町が大きくなれば功績をたたえてもいいくらいだ」

大工頭「もったいない話です!」



僧侶「ごはんができましたよ~♪」


大工頭「はあ~い♪」

女剣士「四十男の猫なで声は非常にキモい」

大工頭「あんまりでさっ」

大工A「それにしても」

大工B「勇者パーティーはみんな料理できるんっすね」

大工C「嫁にほしい……」

大工D「俺らは間違いなくモブだから諦めろ」

大工A「人生では主役なんだけどなあ」


大工B「兄貴、哲学ですね」

大工C「似合わねえなあ」

大工D「……まあ俺たちであの魔法使い様をびっくりさせるような仕事してみたいよな」

大工A「分かるわ~」

大工B「俺は安定してうまい飯食えるだけで大満足だけどな」


ヤマナミ大工「頭ぁ、今後ともよろしくお願いしやす! こいつはヤマナミの名酒です、ぜひ飲んでくだせえ!」

大工頭「すまねえ、じゃあ一献いただくか」

大工頭「しかし俺なんかがいきなりあんたらの頭になっても良かったのかね?」


ヤマナミ大工「俺らは現地で仕事するよう言われただけの雇われ大工でさ! 大工頭殿みたいなリーダーがいるならそこにまとまった方が仕事もやりやすいってもんでさ!」

魔法使い「私たちの現在最大の目的は城塞都市建設。」

魔法使い「言わば、今は君たちが主役と言っていい。」

大工頭「総指揮は魔法使い様でさ!」

ヤマナミ大工「期待してますぜ!」

魔法使い「しくじったら今研究中の麻酔薬が……」

大工頭「勘弁してくだせえ」


ヤマナミ大工「こえぇ」

僧侶「魔法使いちゃんの薬は安全安心だよぉ~♪」ニコニコ

大工A~D&ヤマナミ大工衆「僧侶さまぁ~! ラブリぃー!!」


魔法使い「いいなあ。」

大工頭「えっ」

そして春の月半ば、あらゆる策謀が渦巻く中、砦をかねた宿舎の建設が始まった

大工頭「とりあえず城壁も平行して、まずは木造でがっちり作ります」

魔法使い「生木は燃えにくいからね。 とりあえず建てる分には木造はなかなかいい。」

大工頭「まあ実際は木を乾かしてから使わないと割れたりするんで、城壁の方は応急で生木ですが、これから北の山の石を切り出させてそれでもって作り直す方針です」

魔法使い「実に助かるなあ。」


魔法使い「山賊になる必要があったのか。」

大工頭「不景気な時に一番に仕事を無くするのが俺ら大工ですから」

魔法使い「すごく勉強になる。」

大工頭「魔法使い様は現場主義で俺らにとっちゃ賢者様より賢者でさ」

魔法使い「おだてられる免疫がない。」///


大工頭「うちの衆は僧侶ちゃん命だけど、勇者パーティーはみんな可愛いよなあ」

大工頭「まあうちの衆以外と結婚してもらいたいもんだが」

魔法使い「親の心境みたいだね。」

大工頭「実際年の差は親子ですしね。 甘えてくだせえ」

魔法使い「毒針を手に入れたから実験したい。」

大工頭「勘弁してくだせえ」

女剣士「すごいな、こんなに早く家って建つものなのか」

魔法使い「まだ骨組みだけだけどね。 でも山賊たちはかなり優秀でビビった。」

魔法使い「とにかく一番大きかったのはヤマナミから製材を輸入し放題になったことだけどね。」

賢者「ヤマナミ王は女剣士様のためには協力を惜しみませんよ」

女剣士「……ありがたい」

魔法使い「……ふふっ。」

商人「彼らへの給金もヤマナミ王からの支払いですから、僕たちの負担は資材費用と山賊の皆さんへの給金だけです」

大工頭「山賊は勘弁してくだせえ、向いてなかったし」

魔法使い「あっはっは! 確かに!」

女剣士「」

僧侶「」


大工頭「ん?」


女剣士「いや、魔法使いがここまで明るいのは初めて見たかも」

僧侶「珍しいねえ」

大工頭「新しい仕事ってのはワクワクしますからねえ!」


盗賊「……僕も何か手伝えないかな」

魔法使い「私に抱っこされなさい。」

女剣士「」

僧侶「魔法使いちゃんハイテンションだねえ」ニコニコ


賢者(魔法使いさんは不思議な人ですねえ)



女剣士「そうだ、盗賊君に剣技を教えるように魔法使いに言われてた」

盗賊「えっ! 本当ですか!」

女剣士「最初の計画通りなら君は城塞都市を守る初めての騎士になるわけだからね」

魔法使い「嫌じゃなければ今日から騎士を名乗ってもいい。」

盗賊「……僕が?」

盗賊「いやっ!イヤじゃないんですけどっ!」

盗賊「……夢みたいだ……」

商人「いいなあ。 僕も財務担当とかすごく大きな仕事だけどね」

賢者「たまたまこの町に来たような私たちがこんなに優遇されて良いものでしょうか」

僧侶「みんなたまたまこの町に来ただけだから気にしなくていいんだよっ!」

女剣士「僧侶にそれを言われたら痛いな」ハハッ

魔法使い「全く。」フフ



盗賊「……可愛い」

赤髪を振り回すような女剣士の立ち回りは、まるでそのものが炎のようで

その翠眼は槍のように心を貫く

それに対し魔法使いはいかにも大人しいくるくる栗色の巻き毛に柔らかなブラウンの瞳が愛らしい

僧侶はクリーム色のセミロングで明るく太陽の光を跳ね返し、蒼の瞳が美しい


賢者「いいですねえ、勇者パーティーに男がいたら大変だったろうなあ」

女剣士「なにをひとりでぶつぶつ言ってんの? こっちきて飲みなさいよ」

賢者「ヤマナミ法では18で成人ですが飲み過ぎですよ」

女剣士「大丈夫、君より酔ってない」



僧侶「酔ってる人は楽しいよねえ、なんだかお酒を飲んでなくても楽しい気分になるの」

盗賊「わかるなあ」

商人「……お祭り……」

女剣士「ん?」

商人「お祭りを開けば人が集まるかも知れません!」

魔法使い「ナイス! 採用!」

女剣士「マジで!?」


商人「つか魔法使いさん16歳じゃなかったっけ?」

盗賊「なんで酔ってるっぽいの?」

僧侶「魔法使いちゃんはきっと空気で酔ってるんだね!」

魔法使い「なるほど。」



女剣士「まずは春の月、桜の舞い散る日は勇者祭りだな」

夏の月後半、宿舎完成パーティーの中で、女剣士たちのお祭り計画が盛り上がりを見せていた

盗賊「……でも本当に魔法使いさんの料理美味しい」

商人「胃袋をつかまれてしまうよね」

賢者「なにか怪しいほれ薬でも実験してるのかと」

盗賊「」

商人「」

賢者「……疑いそうですがそれはなさそうですよ、たぶん」

盗賊「たぶん!?」

商人「そこは断言してくださいよ」



女剣士「それで具体的な計画はあるのか?」

魔法使い「仮にとは言え宿舎が完成したから、本格的な人集めはすぐにでも行いたい所。」

商人「夏も真っ盛りだし、夏野菜を使ったお祭りが一番に考えられますね」

賢者「そもそもお祭りは収穫を祝うところから始まったわけですからね」

盗賊「商人くんっていろいろ知ってますよね……」

女剣士「私たちは剣士として努力すればいいのさ」

女剣士「知恵で言えば私は魔法使いに頼りすぎなくらい頼ってる」

魔法使い「いや、実際頼りすぎだけど。」

魔法使い「私なんかおおよそ賢者のくくりには入れない存在なのに。」

賢者「!」

僧侶「私、魔法使いちゃんがいなかったら、死んでたの」

僧侶「魔法使いちゃんのためなら、私どんな回復魔法でも覚えるよ!」

魔法使い「それ以上すごくなる必要あるのかね?」

女剣士「……僧侶はあんまり戦わないから凄さって伝わりにくいけど」

魔法使い「実際最強なのは僧侶ちゃんなんだよね。」


賢者「不思議ですよねえ」

賢者「皆さんまだまだ若いのに……」

女剣士「君も私と二つしか変わらないだろ」

魔法使い「……やっぱりそういうことなのかも。 勇者の力って……」

賢者「!」

女剣士「どういうこと?」


かつて


犬の勇者がいた

それはいかなる歴史書を紐解いても、一度も現れたことがない

犬勇者


魔法使い「勇者の力、光の力はおそらくこの世界に定まった量存在している」

魔法使い「今回はイレギュラー的に勇者が倒されてしまった。」

魔法使い「その結果、力の逃げ場として、仮にだと思うけれど犬に勇者の力が与えられた……」

魔法使い「しかし、器としては浅かった。」


賢者「それで……あの女剣士さんの力……勇者の魔法……」

魔法使い「勇者の力は漏れ出して、パーティーに与えられた。」

魔法使い「実質魔王にトドメを刺したのは女剣士と言っても過言ではないし」

女剣士「えっ、ちょっ」

僧侶「女剣士ちゃんが今の勇者なんだねえ!」



賢者「……いや、一番強く力を受け継いでるのはどう考えても僧侶さんですが」

魔法使い「僧侶ちゃんの能力は明らかに異常。」


女剣士「たかが13歳の僧侶だが、実戦をしたら私も負ける」

魔法使い「女剣士にここまで言わしめるのは世界で僧侶ちゃんだけ。」




賢者「……つまりそのそばにいる私たちにも、勇者の加護が働いているのでは……」

魔法使い「それは有り得ると思う。」

魔法使い「魔王を倒した後に私たちが更に強くなった理由とも合致する。」

僧侶「……犬ちゃんが亡くなったからだね……」



商人「……これだ」

賢者「?」

魔法使い「どれ?」

商人「最初に闘技大会を開催しましょう!」

魔法使い「ふふっ、勇者の加護を受けられる祭り!」

女剣士「ははっ、そりゃすごいな」

僧侶「みんなが強くなるならいいよね!」



賢者(……あまり良くないことのように思うのですが)

賢者(敵が増える可能性は考えないんでしょうか)

魔法使い(そこは勇者の力を正義の力と信じてるからだろうね)


魔法使い(私たちが正義であったかは、今となってはものすごく疑わしいんだけど)

賢者(!?)

魔法使い(私たちは、魔王が悪であると考えていた)

魔法使い(そしてその勢いのまま、魔物をひたすらに倒し続け、魔王と対峙し、魔王を倒した)



魔法使い(どこの侵略者?)

賢者(……)

魔法使い(私たちには晴らしても晴らしきれない恨みがあった)
魔法使い(私たちのパーティーは全員、肉親を魔物に殺された)

魔法使い(私は自殺さえ考えたほど苦しんだ……)

盗賊「!」

賢者(……まさか、それらが誰かの仕組んだ計略であったと……?)


魔法使い「そうだったら、やだな。」

賢者(勇者の力を彼女たちに与えている者とは誰だ)

賢者(なんのメリットがある)

賢者(なんだこのどうしようもない気持ち悪さは……)

賢者(……そもそもの魔王とは……!)


賢者(……)

魔法使い(……世界を女神が作り直そうとしているのかしら)

賢者(……私たちは遊ばれているのではないのか……)

魔法使い(楽しい遊びならいいわね)

賢者()


賢者(だからあなたは魔王と呼ばれないよう注意すべきです)

賢者(試みで世界を滅ぼされたりとかしたら困りますからね?)

魔法使い(困るですむのか。 大丈夫、私はみんなが好き。)



盗賊(僕も話に混ざっても良いですか?)

盗賊(……僕では力になれませんか?)

魔法使い「ラブリー!」ダキツキ

盗賊「ぐるじい…」

賢者「胸が無いとは言え」

魔法使い「死にたければいつでも」

賢者「私今日から愚者を名乗ります」

魔法使い「そうですね。」

盗賊「苦しい……」

女剣士「……私の時は変態扱いするくせに……」




女剣士「とりあえず夏の終わりに闘技大会、秋には収穫祭をしよう」

商人「収益を増やしたいところですね」

魔法使い「何種類か回復薬を作れるけど。」

女剣士「野菜とかも輸出できる規模で作れたらいいんだけどな」

僧侶「女剣士ちゃん、鍛治を始めたでしょ、なにか作れないかな?」

女剣士「大工に詳しい人がいて教えてもらってるけど、お互いまだそこまで技術がなくてさ」

大工D「とりあえず毎日鉄と向き合っていくレベルです」


魔法使い「なにか魔導具でも作ろうかな。」

僧侶「徹夜は駄目だよ~!」

女剣士「例の秘薬の方はどう?」

魔法使い「だいたい捌けた」


魔法使い「効果を保存できる瓶を用意できたから当分は大丈夫。」

女剣士「でも無限ではないか」

魔法使い「いろいろ実験してきた成果はでている。」



女剣士「そもそも私はお前に頼りすぎだよな……」

?「頼もう!」

??「王子、そこはもう少し柔らかく」

?「? 頼まれて下さい!」

??「意味が分かりません」

女剣士「はいはい、どなた?」



女剣士「あ、旅人さんか、すまんね、今はごたついてて」

女剣士「宿の部屋は余ってるから、あ、後仕事がほしい人には宿舎もあるよ」


?「いや、そんな話をしにきたわけじゃないんだ……」



魔王「オレ現魔王なんだけどさ」

女剣士「……」ニッコリ


魔王「……ぼくわるいまおうじゃないよっ」プルプル

??「王子、そのセリフはスライムのレベルですよ」


女剣士「……!」

女剣士は再び戦闘態勢を取った


側近「すまん、私は敵ではないから」

女剣士「信じられるか!」


魔法使い「騒がしい。 どうどう。」


女剣士「」


魔王「だから俺は敵じゃないってば」プルプル

魔法使い「来るのは推測してた。」


魔王「そうか」


魔法使い「私らはもうアンタらの敵じゃない。」

魔法使い(私がそう言っておけば女剣士は手が出せないから)


魔王(この人賢いなあ)

側近(勇者パーティーは魔王レベルの廃人であるのは間違い有りませんぞ)


魔法使い「四天王に勝てるのは魔王か側近レベルだけ。」

魔法使い「四天王と敵対していながら、魔王は四天王にトドメをさせない」


魔法使い「魔王は『悪』ではなかったとするなら。」


魔法使い「なら魔王は四天王と敵対している上で、四天王を倒しきれない理由を保持している。」


魔法使い「全部推測だけど、そうすると魔王が魔王以外の勢力と接近する、その際に一番自由に動ける勢力がうち。」


魔法使い「それだけ。」



側近「王子、この方も魔王ですよ」

魔王「オレはスライムとでも名乗ろうかなあ……」


魔法使い「気にしない。」

女剣士「……おい、魔法使い」

女剣士「こいつ倒さないと世界は平和にならないんじゃないのか?」

魔法使い「魔王を倒した世界は平和ですか?」

女剣士「え?いや、あの」

魔法使い「私は女剣士が好き」

女剣士「なんだそれなぜいまそれをぶっこんだあああああ」


魔法使い「アンタは私が生きてる理由だから。」


魔法使い「信じて。 こいつらは敵になり得ない。」




魔法使い「弱すぎる。」



魔王「そうだ」ハア



魔王「俺の力はお前ら勇者パーティーの一人分に過ぎん」


側近「王子……」

魔法使い「あんたが王子って呼んでることでもコイツが魔王って確定だね。」


魔王「あんたらこの側近を数撃でノしたんだっけ」

側近「すみませんですぞお~~~!!」

側近「あの時は犬殿が異様に強くて、思考を完全に断たれました」

女剣士「ん~、まああいつはドラゴンとサシでやりあう化け物だったからなあ」

魔王「そのドラゴンはたしかまだ生きてるな」

側近「魔王様の使いを監視させていたドラゴンですな」

魔王「あのヤロウが、使いのくせに勝手なことをしなければ父は死ななかったのにな……」



女剣士「ちょっと待て」

女剣士「さすがに私たちの始まりの国とこの勇者の村を滅ぼしたのは魔王の肝煎りじゃないのか」

魔法使い「もしそうなら人語に尽くしがたい拷問を加える。」


魔王「俺が言うのも変だが、女神に誓ってそれはない」

魔王「考えてもみろ、勇者が子育てしてた間なぜ魔王が人を攻めなかったのか」

魔王「さんざん前勇者、勇者父にこてんぱんにノされた魔王軍だぞ」


魔王「勝てぬと悟ってるのに自分から攻めるほど我らは阿呆と思われているのか!」


女剣士「……驚くほど納得が行った」


魔法使い「話し合えばこうなる。 だから外交は苦手」



賢者「ほう」(じゃあ私の仕事ですね)

賢者「確かにお互いがお互いの立場を理解する姿勢を見せれば話し合いでカタがつきますね」


賢者「しかし魔王がそのような存在とはとても信じがたいものがあるのですよ」


賢者「ぶっちゃけた話、何故魔王などが存在するのですか」


魔王「分かるよ」

魔王「なんで俺が魔王なのかな」



女剣士「まだ10歳くらいに見えるが」フンス

魔法使い「ショタコンめ。」

賢者「ヤマナミ王とか見た目はすごい若いですよね」

魔法使い「ふふっ。」


賢者(これはもう魔法使いさんにはメイド長さんの策は見透かされてると見るべきか)


女剣士「誰がショタコンやねん」

魔法使い「不自然なツッコミ来た」

賢者「デレデレですな」

女剣士「私も刀を抜きたくはないが仕方ない」

魔法使い・賢者「す・み・ま・せ・ん」ウフフフ


少年は、赤い瞳、赤い髪、それは「我こそが魔王」と言ったいでたちである



ただ、魔王の見た目は十歳未満である


魔王「酒も飲める年なんだがなあ」

側近「あなたがヤマナミ法に従う理由はありませんから!」

魔王「つまり俺はお前等と同盟が組みたい」

魔王「人の世に誤解を与えぬよう、交渉はしていく、いや、オレが魔王ではないことにすればいいか」

魔王「ことが緊急を要する故にオレが自分でここに来たんだ」


魔王「オレを信じられないならこの場で首をハネろ」

女剣士「信じる……か」

魔法使い「信じる信じないではなくとも、事実……。」

魔法使い「この魔王が勇者パーティーに囲まれたがるとか危険すぎる。」


女剣士「しかし、魔王を倒したことで実際に世界を覆っていた暗雲は晴れたわけだが……」

魔王「それはこれだ」

魔王はゆっくりと闇を体に纏わせる


魔法使い「闇の衣……それこそが真の魔王の証明……。」


魔法使い「なぜだろう?」

女剣士「えっ、そう決まってるからだろ?」

女剣士「はっ」

魔法使い「勇者も魔王も誰が決めたの?」

魔王「それより空を見てみるといい」

さっきまで晴れやかであった空に、暗雲が広がっていく


魔王「これが魔王に伝えられる禁断魔法、闇の衣の副作用と呼ぶべきものだ」

魔法使い「犬が倒れた後、いろいろ文献も漁った。」

女剣士「あれだけいろいろ仕事してたのにそれはすごいな」

魔法使い「睡眠時間平均30分にしたら余裕。」

僧侶「寝ないと許さないからねっ」

女剣士「聞いてたのか僧侶」


魔王「勇者パーティー勢揃いか、闇の衣を纏っているのに生きた心地がしないな」

魔法使い「まず側近はなぜ生きてるの? 例の復活の儀式?」

側近「あれは私共の技ではありません」

魔法使い「!」

女剣士「バカな……いや、じゃあアイツはいったい……」

僧侶「……それに、なぜ勇者様が倒されたのか……」

魔法使い「そんなところに気がついて無かったとはね……。」

女剣士「私たちはただの人間だからな。」


魔王「その強さでただの人間かよ、すげえな」


側近「あんまりにあなた方が強いので、速攻で死んだふりをしました」

側近「私は魔王様に、若の世話を任されておりました故」

魔法使い「それに魔王が倒されるとも思わなかった、と。」


側近「それは違いますな」

側近「私共もただの生物ですから」



女剣士「とりあえずその闇の衣やめてくれ、寒い」

魔王「ああ、すまん、俺は気分いいんだよな、これ」

魔王「父は立派に戦ったか? 最後まで魔王であったか?」

女剣士「あれは間違いなく魔王だったよ」

魔法使い「あそこまで大魔法を連発しながら、それによる疲弊を感じられなかった。 底知れない。」

魔王「そうだろう」


魔王「だが、俺はオヤジを継ぐわけにはいかん」

魔法使い「なにか目的があるんだね?」

女剣士「見た目は可愛いのにしっかり考えがあるんだな!」

魔法使い「仮にも魔王、抱きつきたそうにしない。」


魔王「いつでも抱いてくれ」

側近「それではただのエロガキですぞ王子」



魔王「まず、四天王を前線に出さなかった理由から話そう」

魔王「前魔王が自分で魔王と言う立場を崩さなかったのは、人間たちを留めておく必要が有ったからだ」

魔王「四天王を殺されたくは無かったのでな」


魔法使い「四天王の命を使って何かを封印していたりするの?」

魔王「いや、厳密には四天王や魔王がその一部と言うべきだろうか」


魔王「魔王の使いの奴が破壊神を信仰していたのは知ってるだろうか?」

魔法使い「復活の儀式で蘇られたら困る。 色々調査はした。」

女剣士「だからお前はいつも黙って仕事をこなすなよ!」

僧侶「少しは信頼して欲しいな……」


魔法使い「僧侶ちゃんには色々やってもらってるけど?」

僧侶「例の魔法は完成したよ」

魔法使い「助かる。 人が増えたら色々問題も起こるから。」


魔法使い「とりあえず破壊神の存在は知ってるけど、魔王を倒したら出てくるものかと。」

女剣士「そういう伝承はいくつもあるからな」


魔王「ここで君らの疑問にも答えが出せるはずだ」


魔王「要するに破壊神の力と勇者の力は同質な物であると言うこと」


魔法使い「ふむ。」


賢者「!」

賢者「それでは魔王軍が総倒れになったら……」


魔王「ご推察の通り」

魔王「逃げ場を失った力が暴走し」

魔王「奴が現れてしまう」



魔法使い「色々納得。」

魔法使い「魔王はそれを避けたかったが魔王の使いはそうではなかった……。」

魔王「勇者を倒せたのも復活の儀式が使えたのも、破壊神の影響だろうな」


魔法使い「返り討ちにあっても人間が魔物を恨み、殲滅すれば、四天王や魔王を打ち倒せば……破壊神が……。」

女剣士「……それは……」


女剣士「私たちはまんまと策にハマったのか?」



賢者「……仮に……」

賢者「今や敵のいないあなた方と同等か、それ以上の力を持った破壊神が現れれば……」


女剣士「……倒せなければ世界は破滅するな」

魔王「そこでこの城塞都市には感心していたところだ」

側近「お互いが守りを固めていれば誰も傷つきませんからな」

魔王「……しかし、ウチにはそれを理解しないバカがいる」

側近「土の四天王ですな」

女剣士「それでヤマナミ東のゴタゴタか」


魔法使い「……魔王の力はどこに?」

女剣士「!」

魔王「察しがいいな」

魔王「俺が受け継ぐはずの力は魔物全体に均等に散らばった」

魔王「それで、自分たちが強くなったと勘違いしたバカが暴れだした」

魔王「そんなところだ」


賢者「魔王が魔王として最後まで振る舞ったのも?」

魔王「魔王を倒せばすべて終わると言う印象を人間サイドに与えたかったからだ」

魔法使い(私たちの力は、破壊神を止めるための力……正義の力なんだ……そして魔王も破壊神を望んでいない……)


魔法使い「魔王、来てくれてありがとう。」

魔法使いはそっと魔王の両手を握りしめた

魔王「んなっ」///


側近「なんと! 魔王様に春がっ!」

盗賊「来ないから」


女剣士「居たのか」

商人「途中から全部聞いてました」


賢者「それで、私たちと協力して四天王を……どうするのです?」



僧侶「封印魔法」

僧侶「私、お父さんに聞いたことがある」


賢者「つまり倒すのではなく……」


魔法使い「封印する。」

魔王「そうだ」

魔王「奴は今、広大なヤマナミ山脈のどこかか東の森に潜伏しているはず」

魔王「探し出すまではオレがやるが、なにぶん広いからな」


女剣士「魔王もここに住めばいい。 拠点があれば活動もしやすいだろう」

魔王「迷惑をかけるから旅人を装ってこちらに泊まる形にしたい」

魔王「あんたらに城の金は持って行かれたが、隠し財産がある」

女剣士「そんなのがあったのか」

魔法使い「回収し損ねた。」

僧侶「お金が欲しいな」


女剣士「みんなのアイドルがさらっと黒いこと言った!」

僧侶「お、お金は町を作るのに大事だもん!」

魔法使い「ふふっ。」


魔王「そちらもオレの正体については隠してくれ」


賢者「……あなたはどこかの国の王子様でしょう?」


魔王「う、うむ!」


魔王「では、さっそく探してくる」


女剣士「よし、じゃあこちらも封印魔法の研究だ!」

魔法使い「実験だ~!!」

僧侶「はい!」



しかし、魔王に追い込まれ姿を消した四天王は、簡単には見つけ出せなかった


やがて夏の終わりに向けた、闘技大会の準備が始まる……

――今回はここまでです

次回、第二章後半です

書く度になんか最初から(犬から)書き直したくなります

かなりガクブルしてますがここはふんばって更新します。

応援ありがとうございます。

魔法使いは思うところがあり、ヤマナミに来ていた

魔法使い「はぁい。」

メイド長「」


メイド長「!」「?」「!!」


メイド長「……詰んだ」

魔法使い「何が?」フフッ


メイド長(フフッってフフッって!)

メイド長(こいつぁがっつりウチの読みを覆してきたかぁ?!)

メイド長(なんでだ? そんな悪い話じゃないだろ?!)

メイド長(あれか、やっぱりこいつらレズだったりするのか?)

魔法使い「私が来ただけで取り乱すとか、おかしなメイド長。」

メイド長「え~え~、分かってますよ」

メイド長(どうせウチはあんたに比べたら凡人だよ)

魔法使い「相手が色々グチグチ考えてる時に、相手の考えをできるだけ推測したりする?」

メイド長「するよ」

メイド長(あんたのレベルでは無理だけどね)

魔法使い「私も沈黙されただけで色々と考えてしまう。」

魔法使い「だから人付き合いは、苦手。」

メイド長(あんたが人付き合い苦手なら付き合い得意な奴はみんな考えなしか!)

メイド長「……ああ、そうね、ウチもわりと苦手」ハハッ


魔法使い「相手を信じていたらグチグチ読まなくてすむらしいよ?」

メイド長(ウチの心の声にまで適切に答えてくるわけね)

メイド長(確かに、人を信用してグチグチ読まないのは、馬鹿でも悪いことでもないね)

メイド長(でも目の前に怪物がいたら怯んで構えるのが人の常だろっ)

魔法使い「……私を信じてくれる?」

メイド長「ここでテンパってるウチに救いの手を差し伸べちゃうわけね」

メイド長「だからあんたは危ないんだっつの」


魔法使い「?」


メイド長(そこで小首傾げられたら惚れてしまうやろー!)


メイド長「はあ……なんの用?」


魔法使い「あなたの策は賛成ではあるけど、女剣士は適応力高い」

魔法使い「あいつは王族は堅苦しくて無理と思ってるけど、ほんとは面倒なだけ。」

魔法使い「ヤマナミ王が押し間違えなきゃ自分から落ちると思う。」


メイド長「……完全にウチの策を読んだ上でアドバイスですか」

魔法使い「タイガンの王子は無理だけどヤマナミ王は女剣士も好きそう。」




魔法使い「……遊びはどうでもいい。」

魔法使い「王様に会いたい。」


メイド長「」


メイド長「……すまん、一瞬思考停止した」



ヤマナミ王とは


別名「眠れる千里眼」




メイド長(眠らない千里眼の方が強そうな気がするなぁ)

メイド長(しかし遊びかぁ)

メイド長(一国を治める身になれば雑務に潰され王妃の方が楽なくらいに責任も重くなると思ったけど、女剣士は慣れる、か)

メイド長はしぶしぶ、普段特別な人間しか入れないヤマナミ王の私室に魔法使いを連れてきた


メイド長(ぶっちゃけ二人の対決を見てみたいし~)フフッ

メイド長「お兄ちゃ~ん、魔王が攻めてきた~!」


ヤマナミ王「ぐう……」


メイド長(私室で寝てたことないだろこのタヌキ野郎)ピキピキ

メイド長(毎日毎日徹夜しやがって寝るのは謁見の間だけとか)
メイド長(風評も考えやがれ糞タヌキ!)


ヤマナミ王「……また悪態ついてるだろ」

メイド長「いつものことだし」


ヤマナミ王「魔法使いちゃん、久しぶり~」

メイド長(あ、兄ちゃん臨戦態勢)


魔法使い「ども。」

メイド長(っ、こっちもガチオーラだね)



ヤマナミ王「……ぐう……」


メイド長(ウチには分かる、これは先制攻撃のためのフェイントの寝たふりだ)


魔法使い(カウンター狙い。)


ヤマナミ王「魔法使いちゃん、魔王を倒してから深読みするようになったね~」

魔法使い「……ヤマナミ王は寝過ぎ。」

メイド長(まずは軽く牽制を入れあった感じねぇ)

魔法使い(ヤマナミ王がどこまで看破してくるかは分からないけど、こちらも準備はしてきた。)



ヤマナミ王「最近東の砦からお客さん来なかった?」



メイド長(?!)



魔法使い「最近? タイガンの王子が来たかな。」



メイド長(か、解読せねば!)


メイド長(ヤマナミ東の砦って言えば、最近山賊→四天王→四天王以上の存在と支配者が変わった渦中の砦!)

メイド長(今、兄ちゃんは「魔王来なかった?」って聞いた!)

メイド長(なんじゃそりゃ!)


メイド長(そのクリティカルな兄ちゃんの問いに対し予め質問を知っていたかのように軽くかわす魔法使い!)

メイド長(賢者にも見せてえ~!)


ヤマナミ王「今タイガン王病で臥せてるんだけど、あの王子はほんとお気楽だね~。 同い年だけど」


メイド長(いくらお気楽な王子でも親が病に臥せてるのに遊び歩かないよ、と)


魔法使い「竜の秘薬残ってないか聞きに来た。」

メイド長(あら、兄ちゃんカウンター食らっちゃった)


ヤマナミ王「……竜の秘薬便利だよね、僕もいっぱい買わせてもらったよ~」


メイド長(……僕って、)

メイド長(兄ちゃんが押されてるの初めて見たかも)

メイド長(でもこれは悪い返しじゃない)

メイド長(つまり、王族なら探し歩かなくても見つかる、高価な竜の秘薬を買えるのは王侯貴族だけですよ、と)


魔法使い「ありがとう。」ニッコリ


メイド長(暗い女のたまに見せる笑顔は卑怯っすよ)



魔法使い「ちょっとヤマナミ王に質問がある。」

メイド長(?)


ヤマナミ王「他ならぬ魔法使いちゃんだから聞いてみる」




魔法使い「明日世界を滅ぼす者を呼び出せるなら、誰かを殺す?」



メイド長(?)

メイド長「?!」

メイド長「!?!」

ヤマナミ王「」


ヤマナミ王(……なん……だと……?)


その瞬間、ヤマナミ王の頭の中をヤマナミが誇る王立図書館の蔵書数十万冊の情報が駆け抜けた

ヤマナミ王(世界を滅ぼす者……)


ヤマナミ王(破壊神?!)

ヤマナミ王(誰かとは、僕が殺したい誰かとは)

ヤマナミ王(正に東の砦の客人、魔王に他ならぬ!)



ヤマナミ王「魔王を滅ぼせば破壊神が現れると言うことか!」


メイド長「」





魔法使い「そんな質問したかな?」シレッ

メイド長(今確信した魔王は目の前にいる)

メイド長「何ぶち込んできてんだこのアマ!!」

魔法使い「照れる。」

メイド長「死ね!」ボグウ

魔法使い「痛い。」



魔法使い「曇りの日でも仲間と一緒なら楽しめる。」


ヤマナミ王「……曇りの日の仲間だと……そうか……」



ヤマナミ王「魔王は四天王を追っていた」

ヤマナミ王「しかし魔王は未だに東の砦に陣を残している」

ヤマナミ王「つまり」

メイド長(兄ちゃんがこんなに焦ってるの始めてみたよぉ~)




ヤマナミ王「ぐう……」


魔法使い「ありがとう。」

メイド長「いやいや!さすがにわからん!」


魔法使い「ヤマナミ王は全てを悟って認めてくれた。」

魔法使い「初めから信じてくれたらこんなやりとりはしなくて良かったのに、少しがっかり。」

ヤマナミ王「さすがに魔王を認めろと言われたら誰でも逡巡するでしょ」




魔法使い「あと、お願いがある。」ゴニョゴニョ

ヤマナミ王「そりゃ大変だな、だがやっておこう」



メイド長「?」

魔法使い「また遊ぼうね。」


ヤマナミ王「僕と遊べるのは魔法使いちゃんだけだからね」


メイド長(結婚は絶対したくないだろうがある意味一番仲が良いよね)

メイド長(女剣士ちゃんが少し不憫だわ)



部屋から出て、即帰還魔法を使おうとする魔法使いをメイド長は呼び止めた


メイド長「あ、魔法使いちゃ~ん、待って待って」

メイド長「教えときたいことが」

魔法使い「何?」


振り返る魔法使いは少し嫌な顔をする



メイド長「……もう悟られてたりする?」



魔法使い「……わざわざ止めてくれたのはヤマナミ発でウチに何か悪いことが起こっている。」

魔法使い「ここの内情を考えれば大臣あたりが私らに刺客とか送ってる。」

メイド長「なんでそこまでわかるんだよぉ!!」ボグシャ


魔法使い「痛い。」


メイド長「結構必死で調べたんだけどなあ」

魔法使い「私のはただの推測。 ありがとう。」ニコッ


メイド長「惚れてしまうやろー!!」


魔法使い「私は女剣士のもの」

メイド長「やっぱりそのケあったりするんですか?」

魔法使い「……そういうケは、ないね。」


魔法使い「気になる男子はいるよ。」

メイド長「マジで?」


メイド長「ちょとお茶しない?」ワクワク

魔法使い「忙しいから、また今度。」

メイド長「ちぇっ」


……ヤマナミでそんなやりとりがあった時

オリファンでは闘技大会開催のための準備が進んでいた


商人「チラシに書く文章は、一番に、」


「魔王を倒せし勇者! 世界最強、女剣士と戦える!!」


盗賊「そそられるね~!」

僧侶「私も戦ってみたくなった~」アハハ

女剣士「だから僧侶には勝てないって」

タイガン王子「女剣士ちゃああああん!! 結婚してええええ!!」


ズガシッ







僧侶「あれ? こんなとこに壁画あったかな?」トコトコ


タイガン王子は実際にオリファンを訪れていた

宿屋の壁画になったり、絨毯になったりしながら女剣士に迫っていた



女剣士「あんた親父さん危篤なんだろ!!」

タイガン王子「だって魔法使いちゃんの秘薬でも治らないんだよ~!」

タイガン王子「魔法使いちゃんならもっとすごい薬作れるかもと思って来たのに」

タイガン王子「魔法使いちゃんいないなら女剣士ちゃん落とすしかないよお~!!」

盗賊「逮捕していいですか?」ムカムカ

商人「とにかく!うちはこの闘技大会に始まるお祭りの準備に忙しいんですよ!」

商人「あんまり邪魔をされると温厚な僕でもキレますからね!」

盗賊(温厚だっけ?)

タイガン王子「すみません」ショボーン


女剣士(こんなお子様がヤマナミ王と同い年……)

女剣士(ひょっとしたらヤマナミ王と自分を比べて劣等感とかあるのかな?)


商人「当日に入る屋台の管理や税金……地方税の調整とか、ヤマナミ法調べなおしたり、ヤマナミ役人さんへの対応、人員整理……、僕が言い出したこととは言え、やることが死ぬほど多いんですよおっ!」


商人「邪魔はしないで下さい!」


タイガン王子「手厳しい……」


…………


魔法使い「ただいま。 あ、馬鹿だ。」

タイガン王子「ひどっ」

魔法使い「商人ちゃんみたいな子供が頑張ってるのにアホな大人がいたら誰でも厳しくなる。」

タイガン王子「魔法使いちゃんには勝てないよ~!」

商人「とにかく、黙って下さい」

タイガン王子「……あい。」


魔法使い「今回はこのお気楽無双ナンパ王が役に立った。」


魔法使い「ヤマナミ王は現状を黙認してくれる。」

女剣士「!」

女剣士「知ってるけどすごいなお前は」


タイガン王子「とりあえず広告をタイガンに貼り出すくらいはやっとくよ」


魔法使い「ありがとう。 助かる。」



女剣士「なぜ今魔法使いに張り合ったのか」

タイガン王子「僕だって役に立つんだよぉ~!」


女剣士「魔法使い並みに役に立つには寝る時間も食べる時間も働かないと無理」ニッコリ

タイガン王子「殺す気?」

魔法使い「今は私はそれくらいしてるね」

タイガン王子「死ぬ気?」

僧侶「眠らないとそのうち催眠魔法一晩中寝るレベルでかけるから!」


魔法使い「今は少し頑張らせてよ。」


魔法使い「賢者くんは?」

僧侶「今は上でニシハテの国のギルドの長と話してるよ。」


魔法使い「……広報か」

女剣士「なんとか言いながらも賢者君はしっかり難しい仕事をこなしてくれてるよ」

魔法使い「賢者くんはちゃんとメイド長ちゃんレベルの賢者だからね。」


魔法使い「……今日はヤマナミ王とやりあったから流石に疲れた。 寝る。」

僧侶「よしっ!」

僧侶「お風呂よし!布団よし!寝る前のホットミルクも用意しますっ!」

僧侶「回復魔法っ! はい、お風呂からつかってっ!」


魔法使い「」


僧侶「サービス満点僧侶の宿屋へようこそっ! ごはんも食べる?」


魔法使い「あはは、かなわないなあ。 食べる。」


女剣士「私も一緒に休もうかなあ」

女剣士「事務仕事ばかり山のように増えて商人くんと分担してるけど、まあ疲れる」

女剣士「だいぶ慣れてきたけどさぁ」

魔法使い「じゃあ久しぶりに僧侶ちゃんと三人で寝よう。」


女剣士「懐かしいな」


商人「僕も休みたいです」

女剣士「よし、今日は休んで、明日からまた頑張ろう」



盗賊「ただいまです」

盗賊「付近のパトロールと大工さんたちにハッパかけてきたよ!」

盗賊「異常はありません!」


女剣士「お疲れ様」

僧侶「回復魔法! 僧侶の宿屋にようこそっ!」

魔法使い「僧侶ちゃんを見てると妹を思い出す。」

魔法使い「頑張らなきゃ。」


女剣士「……昔の話なんて、だいぶ疲れてるんだな」

女剣士「肩くらい揉ませろよ」

魔法使い「いい。 レズ疑惑かかってるし。」

女剣士「誰に!?」

魔法使い「メイド長ちゃん。」

女剣士「メイド長も遊びに来たら良いのにな」ピキピキ

魔法使い「殴るんだね。」




魔法使い「ごはんおいしい。」モグモグ

僧侶「大工さんたちも呼んでこようか?」

女剣士「宿舎の方はもうご飯食べてたよ」

僧侶「予め言っておかないと駄目かぁ」

僧侶「ちょっと寂しいかも」

魔法使い「夏が終わる前にキャンプでもしようか。」

タイガン王子「うおっ、何これ、うめぇ!」

商人「静かに食べて下さい」

盗賊「僧侶ちゃん、美味しいよこれ!」

僧侶「まだおかわりあるよ~!」

犬たち「ワン、ワン!」




魔法使い「まだにぎやかだ。」アハハ

女剣士「ははっ、だな!」

魔王「ただいま」

僧侶「回復魔法はサービスです! 僧侶の宿屋にようこそっ!」

魔王「ありがたい」

側近「ラヴリーですなあ」

僧侶「ごはん食べる、お風呂入る?」


魔王「僧侶ちゃんを食べ
側近「それではただのエロガキですぞ!」

女剣士「どう、調査は?」アイアンクロー

魔王「いたたた、駄目だな」ブラーン


魔法使い「ヤマナミ東の砦のあなたの配下は?」

魔王「拠点を守りつつ交代で探している感じだな」


側近「少し良くない知らせがあります」

魔法使い「!」


魔王「魔物がかなり増えている」

側近「レベルもかなりのものです」

魔王「もう一つ言えば、俺の統制が効かない」

女剣士「……何が起こってる?」


魔法使い「……例の魔王の分散した力を受けた雑魚?」

魔王「それもある」

魔法使い「四天王の影響下の魔物もいるのね。」

魔王「間違いない」



魔王「畜生!あの野郎!」ダン

女剣士「焦るな」

魔法使い「封印魔法は研究課程で色々な魔法を生み出してるものの、まだ完成は難しい。」

魔王「封印魔法が完成してから見つかるのがいい、か……しかしな」

魔法使い「しばらくは私も研究に集中する。」

女剣士「とりあえず今日はみんなでゆっくり休む日だ」

女剣士「しっかり休んでからまた頑張ってくれ」

魔王「……甘めの紅茶をもらいたい」

側近「確かに疲れましたな」

僧侶「任せてっ!」

魔法使い「私も欲しい、ミルクいらない」

僧侶「はいはーいっ!」

女剣士「私も欲しいから手伝うよ」

女剣士「頭を使うことばかりで疲れた」



魔法使い(……ヤマナミ王がかならず見つけだしてくれる)



タイガン王子「僕も欲しいな~」

魔法使い「……君はなんでここにいるのかな?」


タイガン王子「……」


魔法使い「……病は、嘘?」

タイガン王子「僕は何にも言っちゃいないよ」

魔法使い「竜の秘薬で治らない病と言うのは、殆ど無い」

タイガン王子「君とやりあう気はないよ、僕はヤマナミ王と違って剣を振るしか能がないからね」


魔法使い(察しろってことか)



魔法使い「!」ゾッ




タイガン王子「僕は帰らなくても良いかね?」


魔法使い「そうかもね。」



魔法使い「せっかくヤマナミ王に頼んだ各国での四天王捜索が無駄になったかも知れない。」

タイガン王子「そこまで読んでたのかよ、つか親父四天王かよっ!」

魔法使い(親父四天王……。)プッ


魔法使い「森を探して見つからないのは敵が木の葉になったから、町を探して見つからないのは人に紛れたから。」


魔法使い「しかしこれは……。」


魔法使い「タイガンの人たちを人質に取られた……かな。」



魔法使い(……もうタイガン王も生きてはいないかも……くそっ)

タイガン王子「あんたのことだから策は立てられるだろ?」

魔法使い「まず無視する。」

タイガン王子「はあっ?!」


魔法使い「病を装ってると言うことはまだ動かない。」

魔法使い「封印を完成させて乗り込む。」

タイガン王子「魔王を倒したように、か」


魔法使い(明日から魔王にも封印完成に手を貸してもらうか……。)


魔法使い「大会が終わるまでには完成させる。」

タイガン王子「あと二週間か、誤魔化せるかな?」

魔法使い「あんたは闘技大会にシードで参加すればいい。」

タイガン王子「おお、流石!」



魔法使い「……軍略は苦手。」

タイガン王子「?なんで軍略?」

魔法使い「あなたの直属の兵隊さんを精鋭重視で五十人ほど護衛として連れてきて欲しい。」

魔法使い「できる?」

タイガン王子「まだ今なら問題はないか……分かった!」

魔法使い(冒険者が集まる闘技会はかなり有力な人員を増やすチャンス)



魔法使い「急がなくては……。」

…………

魔法使い「みんな紅茶を飲みながら聞いて。」

魔法使い「まず、魔王君は明日から封印魔法完成に協力してもらう。」


魔王「!」

側近「では私は……」

魔法使い「側近さんにはここに連れてきても大丈夫な兵隊さんを連れてきて欲しい。」

側近「!」


女剣士「……捜索は、中止か?」

魔法使い「いや、今終了した。」

魔王「ぶっ!」

側近「ごほっ、ごほっ!」


魔法使い「……やっぱり紅茶飲むのやめて。」


魔法使い「詳しくはそれぞれ後で質問を受け付ける。」

賢者「……」

魔法使い「タイガン王子には衛兵50人、あと賢者君と難民の誘導準備をお願い。」

賢者「!」

魔法使い「商人君は引き続き大会運営を、盗賊くんは私と警備について研究。」


魔法使い「女剣士は大会に参加してもらうから。 あと暗殺者が大会に来るんでやっつけて。」

女剣士「ごほっ!」


魔法使い「……だから紅茶飲むのをやめろと。」


魔法使い「僧侶ちゃんは例の魔法と封印装置、それを応用した魔法や装置の研究を私と。」

魔法使い「犬たちにもその装置をつける。」

犬たち「ワオン?」

魔法使い「大工のみんなには城壁建設を中心に増築も急がせる。」

魔法使い「賢者くん、何か意見は?」

賢者「私はある程度難民誘導の体制ができれば軍略に参加しても?」

魔法使い「うん、難民が出るのはまだ先。」

賢者「敵は誰です?」

魔法使い「魔王軍の中の破壊神信徒、土の四天王中心のアンデッド系と推測している。」


魔法使い「あと、魔王君、相談があるのであとで私の部屋に。」

魔王「分かった」


魔法使い「こちらが派手に動くと敵に悟られるので、外に出る人は大会運営の動きに紛れるよう行動してほしい。」


魔法使い「質問は?」

商人「大会が終わった後はどうしますか?」

魔法使い「商人くんは秋の収穫祭の計画を。」

商人「あの、集めた兵たちは?」

魔法使い「運営に協力してもらった後は開墾に協力してもらう。」

商人「賢者さんの提案でギルドに通達を出して冒険者に集まってもらう計画を進めています」

魔法使い「!」


魔法使い「この際どばっと使っちゃうか、お金。」


魔法使い「他に。」

女剣士「私は普段は何をしていればいい?」

魔法使い「宿泊施設を増やしたい。 人を百人ほど増やして指揮を。」

側近「私は兵を集めて、その後は?」

魔法使い「兵を集め終わったら研究のサポートを。」

魔法使い「他に質問は?」

タイガン王子「あの、魔王って?」

魔法使い「基本的にはスライムもどきだから、あとで本人に聞いて。」

魔王「ひどい」


魔法使い「四天王がどこにいるか聞かなくていいの?」

魔王「だいたい読めた」

魔法使い「流石に側近に廃人って言われただけはあるのかな?」

側近「鋭いですなあ」

魔法使い「みんな、明日一日はお休みにするから充電して。 二週間は死闘。」


魔法使い「じゃあ解散して、あと質問等あれば個別に私の部屋に来て。」




みんな「紅茶紅茶……」

魔王「入るぞ」ガチャ

魔法使い「いらっしゃい。」

魔王「うおっ、ピンクが眼にいたい! ぬいぐるみだらけ!」

魔法使い「触るとあなたもぬいぐるみに。」

魔王「それどんな呪い?」



魔法使い「四天王であなたの言うことを聞く子はここに避難させてもらいたい。」

魔王「そういう話だと思った」

魔王「できればここには魔物が居ないことにしたいが仕方有るまい」


魔法使い「表向きはね。 人間と戦争はしたくない。」

魔王「奴はタイガンか、思い切ったことを」

魔法使い「逆に言えばそこまでしなければ隠れるのは不可能だった。」

魔法使い「そしてこれだけフリーで長時間野放しにした以上、軍を進めて私たちを消しにくる。」

魔法使い「増えた魔物はその中の比較的抑えの効かない連中で、本隊は森と荒れ地にいるはず。」

魔法使い「敵は破壊神信徒である以上魔王の使いに近い、いや、それ以上の能力を持った軍のはず。」

魔王「流石にお前たちでも一度には相手にしがたいか?」

魔法使い「私たちだけなら余裕。」

魔王「化け物だもんな……、だがタイガン難民を守るとなると難しいか」



魔法使い「忙しくなるから今日明日はごゆっくり。」

魔王「ああ、ありがとう」

…………

賢者「入ります」

魔法使い「夜這いですか?」

賢者「帰ります」

魔法使い「冗談。」

魔法使い「メイド長ちゃんとは同級生?」

賢者「やはりバレてましたか」

魔法使い「作戦も続行しなくて大丈夫。」

賢者「そこまで……参りますね」


魔法使い「軍略は苦手なのでよろしく。」

賢者「あなたの『苦手』はもはや全くアテにならないですが、私はむしろ軍事や経済が専門です」

賢者「城壁建設の計画はすでに立てて女剣士さんに伝えてあります」

魔法使い「頼りにしてる。」

賢者「戦えない難民が多い方が敵も有利になるため、タイガンからの難民は相当な数になると思われます」

賢者「ヤマナミ王にも予め協力を要請しようと思います」

賢者「敵は恐らくこちらに難民を誘導してきますから、広域転送魔法の研究を進めます」


魔法使い「……やっぱり流石。 協力する。」


賢者「あと、敵は難民を割って攻めてくることも考えておかねばなりません」

魔法使い「それについてはすでに研究してる。」

賢者「!!」


賢者「それが『例の魔法』と言う奴ですか?」

魔法使い「それの応用、と言うべきかな?」


賢者「……凄いですね、あなたは、いや、流石です」

…………

女剣士「入るぞ」

魔法使い「夜這いですか?」

女剣士「もちろん」

魔法使い「入って入って。」

僧侶「私も入るねっ」

魔法使い「やったあ、美女二人キター!」

僧侶「うひひ」



魔法使い「明日はみんなで魚でも釣りに行こうか?」

女剣士「旅をしてる時は基本魚だったな、懐かしい」

僧侶「私お魚大好き!」

魔法使い「魚料理のバリエーションばかり増えて困ったね。」

女剣士「旅が終わってからは野菜料理ばっかりになったなあ」

僧侶「おかげでみんなに料理ほめられたよ!」



魔法使い「そう言えばクッキーが余ってた」

僧侶「わーい!」

女剣士「お茶持ってくるか」



魔法使い「ここまで苦しいことは多かったけど、楽しいこともあった。」


魔法使い「僧侶ちゃんは可愛いし。」

僧侶「えへへ」

魔法使い「女剣士はカッコいいし」

女剣士「犬に負けてられないからやたらスピードを鍛え込んだよ」

魔法使い「思い出すね。 二人を巻き込まないように魔法のコントロールが上手くなった。」

僧侶「回復も上手くなったけど」アハッ


魔法使い「このおっ」ダキッ


女剣士「まだ暑いのに何やってんの…てあんまり暑くないな」

魔法使い「この宿屋は氷結魔法を使って作った氷で冷房してるから。」

女剣士「すごい考えてるな」

魔法使い「城なんかでは良く使われてるよ。」

僧侶「おかげでかいてきかいてき!」

女剣士「私も」ダキッ

魔法使い「ロリコンめ。」

女剣士「待て」

女剣士「私より魔法使いの方が変態だろ!」

魔法使い「何を言うか。 変態リーダー。」

女剣士「やめて!その呼び名やめて!」


僧侶「あ、ちょっと失礼」



魔法使い「……」

女剣士「僧侶も旅立ちの時は11才だったか」

魔法使い「旅を始めてすぐに誕生日だったね。」

魔法使い「私は冬で17になります」

女剣士「私の一つ下なんだよな~」

魔法使い「あ、今年僧侶も女剣士も誕生日祝ってない!」

女剣士「来年は頼みますよ」


魔法使い「しまったなあ。」


魔法使い「と言うか、旅が終わってまだ一年も経ってないのか。」ゴロゴロ



女剣士「……早すぎるな……」

魔法使い「……うん。」


僧侶「おまたせっ」

僧侶「チョコとか持ってきた!」

魔法使い「寝る前に歯磨きしないとね。」


女剣士「……お茶沸かしてくるかな」





魔法使い「僧侶ちゃん、辛くない?」

僧侶「うん、楽しいよ~」

魔法使い「これからもし戦争になれば、何人かは亡くなるかも知れない」

僧侶「……頑張る」

魔法使い「僧侶ちゃんだけ生き残れば、私たちの勝ち。」

魔法使い「例の装置と例の魔法の研究は、正に僧侶ちゃんによる城塞都市無敵化機関計画。」

魔法使い「それでも魔物に食われたり、飢えるのには勝てないし、やっぱり相手を倒しきる力も必要。」

僧侶「女剣士ちゃんにまた無茶させちゃうね……」

魔法使い「女剣士だけは二人で助けようね!」

僧侶「うん!」





女剣士「よし、お待たせ」


魔法使い「ちょっとおトイレに。」

女剣士「ああ」





女剣士「私はまたアイツに無茶させてる……」

僧侶「何度止めても聞かないんだもん」

僧侶「そのうち魔法で眠らせようと思うんだけど、魔法で寝るのはあんまり体に良くないんだよね」

女剣士「だよなあ、魔法の眠りから目覚めたらすごい頭痛いし」

僧侶「いつもこっそり回復魔法かけてるのが悪いのかも」

女剣士「そんなことしてたんだな」

僧侶「魔法使いちゃんだから気付いてるかも知れないけど」

女剣士「気付いてるだろうねえ」

僧侶「開き直ってずっとかけ続けるかなあ」

女剣士「それも副作用が怖い」

僧侶「封印しちゃおうか?」

女剣士「出れないと困ります」

僧侶「まだ出来ないんだけど」

女剣士「ですよねー」



魔法使い「ただいま。」

僧侶「おかえりーっ」ゴロゴロ

女剣士「おかえり」

翌日、大工含め全員が計画を急ぐためにも、ゆったりと過ごした



その更に翌日、朝から魔法使いはヤマナミに飛び

帰還後は全員の仕事を手伝っていった


女剣士は更に人員を集め、宿舎を増やし、城塞を多重にし、補強するために走り回った

賢者は食料備蓄や難民管理のシステム構築、軍略のために走り回った

盗賊と商人はお祭りのために走り回り

僧侶と魔王は結界完成のために部屋に籠もった

側近は仲間たちを集めてから研究に協力し

犬たちは森を駆け回った


狼主はそれを静かに眺めていた







……そして、無慈悲なるかな、二週間がたった

――大会当日――

ドンドン……

ザワザワ


ザワザワ



行商人「安いよー安いよー」

片目の女傭兵「それをいただこう」

ナイフ使い「お、綺麗なおねえちゃん! パフパフしてえ!」



メイド長「いかやきーいかやきー」

タイガン王子「ちょっとそこの美しいお嬢さん!」

メイド長「いかーいかー」



娘主「……これはどうやって食うんだ?」

女剣士「りんご飴はそのままかぶりつけ」



魔王「祭りなんて初めてだ!」

側近「王子、お気をつけて!」

魔王「すげー人だなー」



魔法使い「はい、入場していいですよ、そちらの方、お荷物を拝見します。」

僧侶「こちらにご記名お願いしますね!」




盗賊「そちらの商人の方、許可証をお見せ下さい、はい、間違いないですね」

商人「売上はどうですか?……場所を変えても構いませんよ……申告は正確にお願いしますね……税はヤマナミ王国の役人さんが来ていますのでそちらに納めてもらいます……」





商人の声「ただいまより~、闘技会参加者の登録を行います、参加希望者は~……」


…………

…………

僧侶「拡声魔法!」


商人「さて、皆さん良くお集まりいただきました!」

商人「今回お集まりくださった皆さんはいずれも名のある冒険者の方々とお見受けします」

商人「この闘技会はまさに!皆様が最強であることを示す最高の機会でありましょう!」

商人「……!……!」

男A「前説いらねー!」

商人「失礼しました! 試合は僧侶さんの張られた結界の中で行っていただきます!」

男A「僧侶ちゃ~ん!」

大工A「ラブリー!」

大工B「俺の嫁ー!」

男B「誰だてめー!」


…………

商人「予選六試合終了! 予選はバトルロイヤル形式で行われ六人の戦士が選ばれました!」


商人「それでは決勝戦、八人によるトーナメント! シード二選手をご紹介しましょう!!」


「ナンパをさせたら大陸一! ご存知タイガン王子ー!!」

タイガン王子「なんだよその紹介……やあ! どーもどーも!」


ギャラリー「ワーワーワー」

女A「カッコイイ!」

男C「引っ込め!」

オカマ「きゃー!おうじさまああああ!」

大工C「僧侶ちゃんだせー!!」


商人「そして皆さんお待ちかねっ!大魔王を倒した勇者の剣! ……我らが女剣士の登場だーっ!!」

女剣士「っど、どーも皆さん! オリファンの町長です!」

ギャラリー「どっ!」

女B「カッコイイ!」

女C「可愛い!」

商人「第一試合はナイフ使いVS娘主!」

男A「娘主ちゃーん!!」

男B「おっぱいふかふか主ちゃーん!!」


娘主「ギロッ」

女たち「きゃー!」

娘主「……」///



商人「審判は魔王を倒した絶対正義! オリファンのルールこと魔法使いさんで~す!!」

ギャラリー「ワーワーワー」

――――

ナイフ使い「はあっ!」

娘主「ふんっ」

商人「ナイフ使いの雨のようなナイフ攻撃を娘主は鉄の爪で華麗にかわしていく~!」

大会最初の戦い、商人はこれまで積み上げてきた物を吐き出すように声を上げた

娘主「やりおるな」

ナイフ使い「まだまだぁ!」

一方的に攻めているように見えるナイフ使い

しかし、実力差は歴然としている



娘主「ここまでだ!」

娘主の鋭い突き!

ナイフ使い「ぐはっ!」


魔法使い「一本!」

僧侶「回復魔法!」

商人「けっちゃく~~~!!」

商人「速い、速い! 女格闘家、娘主さんの勝利です!!」



ナイフ使い「つえ~!」

男A「おー!おっぱい!」

男B「さすがおっぱい!」

男C「すげーおっぱい!」

娘主「おっぱいおっぱいうるさいわっ!」///

商人「第二試合、早くも本命選手の登場だあっ!!」

商人「剣士の中の剣士、我らが勇者、女剣士ぃ~!!」

商人「対するは神秘の眼帯娘、女傭兵ぃ~!!」

女A「カッコイイ!」

男A「眼帯娘おっぱい!」

男C「おっぱい!おっぱい!」


女剣士(会場を死の海にしたい)



眼帯「……あの犬はどうした」

女剣士「?!」


眼帯「魔王を倒した犬は……」


女剣士「……亡くなった……」


眼帯「くっ、決着をつけられなかったか!!」


商人「さあ今、試合開始!」


女剣士「お前は何者だ?」

眼帯「剣で答えよう!」

ガッキーン!!


眼帯娘の一撃は、人間のレベルではない、とても重い一撃だった

女剣士には一瞬でそれがモンスターの類であることが分かった

魔法使い(随分上手く隠してはいるが……この魔力の質は……)

(竜か!)


女剣士「!」

僧侶「!」


眼帯「この程度か!」

商人「おおっと、これは意外だあ! 片目の女傭兵、優勢!」


女剣士「……相手が人間でないなら、全力で行く」

眼帯「なに!?」

女剣士「はあっ!」

女剣士の重い一撃、受けきれない眼帯娘は一気に後ろに下がる!

女剣士の追撃はその着地よりも速く……

一閃!眼帯娘を吹き飛ばした!

女傭兵「ぐはっ!」

魔法使い「一本! それまで!」

ワーワーワー

大工頭「さすがだぜっ!リーダー!」

大工D「格好いいですぜー!!」

ワーワーワー


商人「第三試合、なんと予選を勝ち上がってここまで来ました、我らの騎士、盗賊ー!」

商人「対するは大陸を代表するタイガン国王子、もう一人のシード選手!タイガン王子ー!」


タイガン王子「えーっ! 君なのー?」

盗賊「甘く見ないでくださいよ!」

商人「試合開始ーっ!」

盗賊「……女剣士さん仕込みの剣を!」

ズバッ


持ち前のスピードに剣を重心に回転するような見事な立ち回りで、盗賊はタイガン王子を追い詰めていく

しかし、


タイガン王子「仮にもシードなんだよねっ!」

重い一撃!

その一撃で盗賊はバランスを崩す


タイガン王子「体重軽すぎるねっ」

タイガン王子の足刀蹴りが盗賊の鳩尾に入る!


盗賊「ぐふっ!」


タイガン王子「すまんな!」

そのままタイガン王子は首元に鋭い一撃!

ピタリと寸で止める


魔法使い「一本! それまで!」


盗賊「……負けたぁ」

タイガン王子「いや、君すごいよ」ハハッ

商人「第四試合、なんとずうずうしくも魔王を名乗る者が現れた!」

商人「見た目は完全に十歳児! 魔王!」

商人「対するはヤマナミ王国を代表する賢者にして剣士、メイド長の登場だーっ!」

メイド長「魔王かー、こいつが魔王かー」

魔王「よくそんな細腕で予選を突破したな!」

メイド長「十歳児が言うな! 抱きついてむぎゅーってするぞ!」

魔王「ぜひ!」

側近「王子それではただのエロガキですぞー!」

商人「一回戦最後の一戦! 開戦です!」

二人の見た目とは裏腹に、斧槍を振るう魔王に大剣を振るうメイド長の戦いは

その場で打ち合うパワーファイト!!

魔王「おおりゃあああ!」ドゴォ

男C「すげーぞあのガキ!」

ヤマナミ大工「正に魔王!」

オカマ「可愛い!」

メイド長「オラオラオラ!」ギャリリン

男B「うわーっこっちもすげー!」

女C「格好いい!」


…………

魔王「体力の差が出てきたな!」

メイド長「やっぱり魔王だねっくそっ」

魔法使い「……つーかデスクワークばっかりしてるせい。」

メイド長「ううっ、この後仕事あるし、降参!」


商人「おおっと、メイド長の降参で決着~!!」

商人「準決勝ー!」

商人「第一試合、女剣士VS娘主~!!」


男A「おっぱい!おっぱい!」

男B「おっぱいふかふか主ちゃーん!」

男C「ちっぱい剣士も好きだー!」



女剣士「虐殺したい」

娘主「そうするか」

魔法使い「まあまあ、試合すんの初めてじゃない? ここは一回思い切りやっときなよ。」

女剣士「ちっ!」

娘主「ちっ!」


商人「開戦っ!」

娘主「ついてこれるかっ!」

女剣士「スピードには自信があるんでね!」

ガギャギャギャギャ


女剣士「その姿じゃ軽いなっ!」

娘主「くそっ!」

娘主「下から来られるとどうしても浮いてしまう」

ギャリン

娘主「いつもと戦闘スタイルが違うのはやりにくいのう!」

女剣士「食らえっ!」ガッ

女剣士の鋭い切り上げ!

女剣士はそのまま回転し、連続で切り上げる!

娘主「うっ、浮かされ……」

女剣士「はあっ!」

閃光のような女剣士の一撃!!


商人「いっぽぉ~~ん! 衝撃~!一方的にフィニッシュ!!」

商人「さあ、始めよう!準決勝第二試合!」

商人「これに勝てば女剣士への挑戦権獲得だぁ~!!」


商人「ご存知退屈魔王、タイガン王子~!」

商人「対するは!大胆不敵、魔王~!」

ワーワーワーワーワー


商人「魔王対決!ファイト!」

タイガン王子「僕もちょっぴりスピードに自信有るのよ!」

魔王「!」

ヒュバッ


タイガン王子「パワータイプでついてこれるかい?!」

魔王「ぐおおおお!」

ガキャ

バキン!

タイガン王子がその位置を目まぐるしく変えながら何度も打ち込むも、魔王は剣かナイフを振るごとく斧槍を振り回しかわしていく

タイガン王子「ひゃあ、化けモンじゃないのスライムちゃん!」

魔王「舐めるな、たわけがっ!」

魔王の激しい突き込み!

しかし


槍の上に乗るタイガン王子!


タイガン王子「速さには自信有るって言ったろ!!」

そのまま剣を魔王の喉元に突きつける!!


魔法使い「それまでっ!」

魔王「くそっ、実戦なら負けんのに!」

タイガン王子「僕の勝ちっと」



商人「けっちゃ~~く! 意外にもタイガン王子が勝利! 決勝進出!!」

商人「ついに来ました決勝戦!」

商人「誰がこの対決を予想したでしょうかっ!」

商人「勇者魔王対決になるかと思いきや!」

商人「我らが勇者女剣士に対するは!」

商人「誰が呼んだの優男!」

商人「誰が呼んだかナンパ王!」

商人「シードの名を汚さず決勝まで来てしまった!」

商人「タイガン王国の彗星、タイガン王子ー!!」


タイガン王子「長いしっ色々失礼だしっ」


商人「そして頂上で当たり前のように待ちかまえるは赤き旋風!」

商人「魔王を屈服させた炎の剣!」

商人「そして魔物を凪払う雷剣からついたその名は!」

商人「雷撃の女神!女剣士~~~!!」


魔法使い(どうでもいいけど商人君がのりのりで可愛い)

女剣士(だっこしたい)

商人「ファイナルバトぉ~ル!! レディ~~、ファイア~あ!!」


ワーワーワーワーワーワー

タイガン王子「隙有り!」

商人に見とれる女剣士の隙を突く、タイガン王子の閃光の一撃!


女剣士「隙なんか無いよ」キン


タイガン王子「!?」

商人「おぉ~っと! これは格好悪いぞタイガン王子! 完全な隙を突いたのにあっさりさばかれた~!」

タイガン王子(あのガキ後でシメる!)


女剣士「ぷっ……くくっ……」カンキンカン



タイガン王子「っ笑いながら余裕でかわしてんじゃねーっ!」

スタミナ、パワー、スピード……

死線を潜り抜けた女剣士は、タイガン王子より総てが上回っている


そして何より技術が違う


タイガン王子が振り下ろした瞬間蹴りが飛んでくる

その足を狙えば剣で止められ、そのまま逆手で切り上げる

どんな体勢でもどんな位置でも、まるで剣だけが飛んでくるような剣術……

タイガン王子「雷剣で敵を凪払うだけのパワーファイターでもなくっ」

タイガン王子「スピードで翻弄するだけのスピードファイターでもなくっ」

タイガン王子「それらが殺すための技術に集約されているこのテクニック!」

タイガン王子「実戦で魔王追い詰めた化け物!」



タイガン王子「……こいつが伝説かっ!!」

女剣士の中段への前蹴り

どんっと鈍い感覚が胸を襲ったと思った瞬間、足元を凪払う後ろ回し蹴り、バランスを崩した瞬間、体の下には女剣士の体が……


タイガン王子(剣持ってる相手にショルダータックルかっ)


弾け飛ぶタイガン王子!

その首元に、次の瞬間には突き刺さる長剣


シーン……



タイガン王子「……ま……参った……!」


ギャラリー「ウオオオオオ!!」


商人「おおおおお!!」


商人「これが我らの英雄!! これが生ける伝説!!」



商人「女剣士、優っ勝っ、だあああ~~~っ!!」



大工一同「おっしゃあああああ!!」

僧侶「やったーっ!!」ピョンピョン

魔法使い「やっぱり強いわ、ウチらのお姉ちゃん」

メイド長「ほんっとに化け物だなー」

魔王「こいつは勝てんなぁ」

盗賊「……やっぱりすごいや」


娘主「貧乳のくせにのう」

女剣士「うっせふかふか主」



タイガン王子「強過ぎ……完全に歯が立たなかったわ(結婚したいな~)」

商人(来年の参加者いないな、これは)


賢者「お見事、そして商人君、お疲れ様」

ワーワー

ワーワーワー


そして、オリファンの町には、鳴り止まぬ歓声が響き続けた……

女剣士「目指せ!城塞都市!第二章!」僧侶「勇者と魔王」

――完――


――第三章予告――

終わる祭り、迫る暗殺者の影、天を覆う雲が波乱を呼ぶ――

そして、失われる命――

始まる戦争、予想外の四天王軍の力、その猛攻から、少女たちは城塞都市を守りきることができるのか?


次回、女剣士「目指せ!城塞都市!最終章!」騎士「魔法使いと光の力」

あ、女傭兵=眼帯、眼帯娘です

名前ミス多過ぎて恥ずかしい

女剣士もたまに剣士になってるかも知れませんが同一人物です、すみません


更新は来週中にできれば、と思います

しばらくお待ち下さい

あまり完成度が高くないんですが、それは最初からなんで、読者の皆様のご要望があると信じて更新します

今回かなりハードな展開があるので、残酷描写が苦手な皆様は注意してお読みください

女剣士「目指せ!城塞都市!最終章!」騎士「魔法使いと光の力」



――二週間前――


――ヤマナミ王国謁見の間


ヤマナミ王「早くも戦争となる可能性が出てきたか」

魔法使い「敵はまだ動いてこない。 戦争の準備は始めていても、攻めてくるのは十分な戦力を蓄えてからになる。」

ヤマナミ王「魔王の本拠に攻め入る化け物が更に力を蓄え、城塞都市まで築いているのだ」

ヤマナミ王「城塞が完成すればそうそう侵攻できまい」

ヤマナミ王「すぐにも人員と資材は準備しよう……(もう進めてたりするけど)」


魔法使い「……さすが抜かりない。」


魔法使い「でもお世話になりっぱなしで申し訳ない。」

メイド長「そこは人類の希望の砦を強化するのに躊躇してられないでしょ」


ヤマナミ王「お前たちを失えば人類は大きな危機に立たされる」

ヤマナミ王「自覚をし、無茶をしないようにな」


魔法使い(私室にいる時みたいにフランクに話してくれたらいいのに)

ヤマナミ王(一応立場って物があるんだから)

メイド長(まあ兄ちゃんは気取りすぎだけど。 余、とか)

ヤマナミ王(うるさい)


魔法使い「四天王捜索は終了していいけど、一応確認はとって欲しい。」

メイド長「そのへんは一応、抜かりなく」

ヤマナミ王「城塞建設や祭りの準備により、地域経済も活況になってくるだろう」

ヤマナミ王「お主らの今後の活躍に期待する」

メイド長「時間です」

魔法使い「……」ペコッ


…………

メイド長「んで、いちお戦争になったら王自ら援軍派遣しちゃうので」

メイド長「その前に掃除もしておきたいし~」


魔法使い「無理はしないで……まあ尻尾は押さえるので切られないよう注意して。」

メイド長「了解了解」

魔法使い「……ヤマナミ王寝てない?」

メイド長「むしろ逆。 いつ事が起こっても良いように毎日四時間寝るようにしてるらしいよ?」

魔法使い「私は不安になってしまうから寝れない……流石。」

メイド長「ほめてるんだよね? まあ、ありがとう」

魔法使い「メイド長も祭りに来て欲しい。 待ってる。」

メイド長「うちの部隊も連れて行くよ~、どうせ税金徴収したり色々仕事あるし」

メイド長「尻尾も回収しないとね」

魔法使い「……。」


魔法使い「……色々、お願いね。」


メイド長「?」

メイド長「まあ任せとき!」ニカァ

…………

その翌日、オリファン――


賢者「魔法使いさん、狼主さんがおいでになってます」

魔法使い「狼主ちゃん?」

魔法使い「分かった、会う。」


賢者「夜にまた魔法使いさんの私室にお邪魔します」

魔法使い「夜這いですか?」

賢者「……まあそうです」クスッ


魔法使い「賢者君が本気っぽい。」

賢者「まあいつまでも足を引っ張れませんから」


魔法使い「そんなことないよ……、とりあえず狼主ちゃんに会う。」

賢者「お待ちを」

…………

娘主「戦争の準備を進めているようなのでわしからも色々教えておこうと思ってな」

娘主「古代魔族の戦争で使われていた技術がある」

娘主「破壊神サイドの者なら使ってくる可能性があると見るべきじゃろう」


娘主「お主らにも教えておこうと思ってな」

魔法使い「!」


魔法使い「……それはあの犬の強さにも関係している?」

娘主「犬にその技を教えてはいた」


娘主「一つは魔獣闘技……主ら人にも似たような技があると思うが」

娘主「相手にとって痛恨となる一撃を与えるための間合いの取り方や突撃法などを極めたもの……まあこれは獣にしか使えん」

魔法使い「あ~、なんか心当たりあるわ。」

魔法使い「アイツの攻撃力って明らかに犬の範疇を超えてたもんね。」

娘主「人の場合は振りが大きくなるから半分は外れるらしいのう」

魔法使い「それを獣の四本の脚と反射神経で補うのか……確かにすごい技。」


魔法使い「もう一つは?」

娘主「こちらは戦略級魔法と呼ばれる物じゃ」

娘主「野戦場では城や洞窟ではとても使えぬ魔法も使える」

娘主「数人の上級魔導師が心を合わせねば使えぬ故に既に廃れてしまったが、かつては単身それを扱う者が居った」


娘主「まあ、わしは使える」


魔法使い「私にも使える?」

娘主「お主と魔王ならできるじゃろ」


娘主「名付けて、『超級魔法』」


…………


娘主「手順は以上じゃが、恐らくは主らでも全魔力の半分は軽く持って行かれるじゃろ」

娘主「くれぐれも使い所を誤るでないぞ」

魔法使い「……狼主ちゃんは何者なの?」

魔法使い「普通に気付かなかった……あなたは何故魔王軍でもなく、勇者の味方でもないのにそれほどの力を……」



娘主「……本来なら隠すべきことじゃが……」


娘主「……女神の寝坊助もこのような事態に出てこぬのだから構わんじゃろ」

娘主「魔物以外に、普通に獣は沢山居る、それは分かるじゃろ?」

魔法使い「うん」

娘主「わしらもかつてはただの獣であった」

娘主「本来ならばドラゴンも中立的な存在であったが……」

娘主「そもそも……まあそれは余計なことか」

娘主「つまりわしらは中立の立場で女神の使いとして存在しているわけじゃ」

娘主「聖獣と言う奴じゃ、敬うがよいぞ」

魔法使い「いやだ、実験したい、解体したい。」

娘主「やめい」


娘主「でな、あの寝ぼけの女神は色々ほっぽって寝ているからわしらがこうやってバランスを取っておるわけじゃ」

娘主「寝ていると言うのは封印とかそう言うものの比喩的な表現でなく本当にだらだらしておる」


魔法使い「」


娘主「で、だ、光の力や闇の力、破壊神の存在はイレギュラーじゃからわしらにも分からん」

娘主「女神に言わせると『ぶっちゃけ女神もびっくり~』だそうじゃ」


魔法使い「女神にあったら真っ二つにしていい?」

娘主「会えたらそうするがよい」

…………

賢者「なんだか話を聞くだけで疲れてしまいました」

魔法使い「そうですね。」


魔法使い「まあとりあえずは戦争のために強力な力を得たことと、逆にそれを敵も使ってくる可能性があること、そこに注意しなくてはいけない。」



魔法使い「それから光の力について女神が関与していないと言うのは恐るべき情報。」

魔法使い「私たちは倒れても、その力は仲間に受け継がれ、闇の力のように破壊神を生まないこと、」

魔法使い「それらから、そもそも光の力が本当に私たちに力を与えているのかも疑問に思うようになった。」

賢者「!」


賢者「……光の力とは、魔王の闇の衣を払う力、とされていますが、確かにそれが人の力を補助している可能性は、可能性に過ぎません」


賢者「今の話によると犬勇者の力もむしろ狼主様のご助力が大きいように思います」


魔法使い「一つ実験を考えている。」

魔法使い「封印をコントロールするための研究過程で光の力らしきものを観測することに成功した。」

賢者「では、それを私も習得しておきます」

賢者(光の力が人に力を与えている可能性が有る限り、魔法使いさんも自分に自信を持てないんでしょうね……)

賢者「でももしそれが本当なら」


賢者「あの僧侶さんは……」


魔法使い「天才の部類だろうね、あんまり天才とか信じたくないんだけど。」

賢者「魔法使いさんは思いきり努力の人ですもんね」

魔法使い「……なかなか身につかないけどね。」

賢者「私ももっと努力しよう……」


魔法使い「僧侶ちゃんのお父さんも神官だったらしいから英才教育されてたのかも。」

賢者「封印魔法についても知っていましたしね」




賢者「それで私の方の話なのですが……」

賢者「時間を作って封印魔法の研究を覗かせて頂いて、そこで封印装置を見せていただき」

賢者「例の犬につける装置、あれを応用して誰でも使える兵器を作れると思ったんです」


魔法使い「……なるほど。」

魔法使い「それについては任せたい。」

魔法使い「あと、賢者君には、私がいない場合の指揮も任せたい。」

魔法使い「だから基本的に軍師としてだいたいの権限は持っていてもらいたい。」

魔法使い「そのための知識ならたぶん賢者君は身につけているはず。」

賢者「……非常に責任が重い仕事ですが、頑張ります」

魔法使い「……戦闘を不利にしないためにも伏せておこうと思ったことがあるのだけど、」

魔法使い「これまでの魔王くんの説明や狼主ちゃんの説明……、」

魔法使い「まず、私たちサイドでは光の力が暴走などしないこと、」

魔法使い「魔王の力は散らばったこと、」

魔法使い「闇の衣がなんであるか、」

魔法使い「それらを考え合わせると恐ろしい結論が生まれる」


魔法使い「破壊神は魔王を倒さなくても現れるかも知れない。」

賢者「」


賢者「ちょっ、それは」

魔法使い「もちろん推測に過ぎない、だから女剣士たちには話しては駄目。」

賢者「思いっきり剣が鈍りそうですもんね……」

魔法使い「あの娘はバカ正直だから。」

魔法使い「そもそもなぜ魔王に闇の衣が受け継がれたか……」

魔法使い「これを逆に考えた。 闇の衣があるから魔王なのではないか。」

賢者「闇の衣は闇の力の結晶のようなものですからね」

魔法使い「魔王くんの話では、闇の衣には闇の力を吸収する働きがあるらしい。」



魔法使い「闇の力を持った存在……かつては闇の力は世界に溶け込んでいたんでは無いだろうか……。」

魔法使い「散らばっている力を集めて」

魔法使い「それをエネルギーとして再分配する存在……」

魔法使い「そうであったものがいつしか、闇の衣と言う魔法だけを受け継ぐ存在になった」



賢者「魔王くんは確か、闇の衣をまとっていると気分がいいと言ってましたね」

賢者「闇の力を吸収することでなんらかの力を得ていたのかも知れませんね」

魔法使い「それなら闇の勢力では無敵だよね。」


魔法使い「だから魔王は魔王に祭り上げられる……」


賢者「闇の衣の技術とは受け継がれるだけで他の者が何人も持つことはできないんでしょうか?」

魔法使い「!」

魔法使い「それは魔王くんに確認してみる。」

…………


魔王「それはできない」

魔法使い「ほうほう。」

魔王「それができるなら側近のような存在にも教えておけば負けないだろ」

魔法使い「ゾッとする。」

魔王「四天王にも各属性攻撃吸収結界はあるが……」

魔王「そのあたりは……こちらの資料にまとめてるから後で見てくれ」


魔王「まず、闇の力が散らばっているとは言え、身内で半分は抑えてる」


魔王「おっと、紹介しておく、四天王だ」

魔法使い「あ、もう来たの?」



魔王「……水と風だけは、な」


魔王「火は消されていた」

魔法使い「!」


妖精「ども~! 水の四天王でぇ~っす!」キャハハ

オカマ「風の四天王よ~ん!」



魔法使い「帰っていただけますか?」

魔王「サンプルにしても良いぞ」


妖精「ひどっ」
オカマ「ひどっ」


魔法使い「魔力はウチらの半分から八割くらいか。」

魔王「大魔力だろ」

魔王「そもそもお前ら魔王を倒したパーティーだし、レベル高すぎなんだよ」


魔法使い「そう。」

魔法使い「私たちの力が一定なら、成長はしないはず。」

魔法使い「一度は勇者も倒した魔王の使いが今は楽勝……。」

魔王「それはつまり、力が一定ではないか、そもそもその力が闇に対してのみ有効な力で、お前らになんら力を与えていないか」

魔法使い「後者が有力かな。」

魔王「両方ってのも考えられなくはないか」


魔法使い「もしそうだとして、闇の力が光の力と同じく、成長する力である場合、」


魔法使い「破壊神は君達が倒れなくても現れるかも知れない。」

魔王「その可能性については全く否定できない」

魔王「親父が残した破壊神や闇の衣についての研究とか歴史資料をまとめてみたからもらってくれ」

魔法使い「助かる。」

魔王「だっこしていいぞ」


魔法使い「ん。」ぎゅう

魔王「///」

魔法使い「自分で言っておいて照れるとか、可愛い魔王。」


魔法使い「親父さんはおっぱい大好きだったのに。」

魔王「親父の名誉のためにそれだけは忘れてやってくれ」

魔王「この資料によるとだな」

魔王「闇の衣は破壊神の闇の力を吸収する」

魔王「そこにはなんらかのパワーがあるのは間違いない」

魔王「光の力の場合は」

魔王「これは恐らくはお前たち固有の力で、成長力の要にはなっている可能性があるな」

魔王「ただ、親父も勇者捕まえて研究するわけにもいかないから、こっちはそんなに詳しく書かれていない」

魔法使い「う~ん。」

魔法使い「やっぱり実験は必要かな……。」

魔王「続けるぞ」


魔王「そもそも、なぜ我らが闇の衣をまとえ、それを秘術とし、ただ一人魔王となりうるものにだけ伝えられるのか」

魔王「これは本来魔王が、破壊神の力を封じるための神官であったためではないか」

魔王「もともとは我らも人の信仰の対象であったとする記録も残されている」

魔法使い「やっぱり闇の衣をまとう者と破壊神は同時に存在していたのかな。」

魔王「そのように読めるな」


魔王「また、闇の衣は多人数に振り分けることができないが、それについては秘術の制作過程で、『力を一カ所に集める性質』が優先されたためだ」


魔王「そしてこの性格から、魔王は魔族においては最強である」

魔王「で、」

魔王「最強の魔王はどうなるか」

魔法使い「常に負けてるね。」


魔王「……そうなんだよなあ」

魔王「それだけでも勇者の力と魔王の力は異質な部分を有していると分かる」

魔法使い「……光の力の実験は進めておく。」

魔王「うむ」

魔王「まあそれを元に勇者対策なんかしないから安心しろ」

魔法使い「信用してる。」



魔王「それにしても女神って本当にいたのか」

魔法使い「人を守る存在と伝え聞いてたけどただの引きこもりだった。」

魔王「女神ってなんなの?」

魔法使い「信仰の対象ではあるね」

魔法使い「僧侶ちゃんにはくれぐれも内緒に。」

魔王「純真そうだもんなあ。 嫁にしたい。」

魔法使い「覚悟はできてる?」

魔王「えっ」





魔王「まあ僧侶ちゃんは保護者が無敵すぎるからあきらめる」ボロボロ

魔法使い「本人もほぼ無敵だけど。」

魔王「よく聞くが見た目だけを見るとそれほどには思えんなあ」

魔法使い「まず、物理的な強さはドラゴンを数発で撲殺できる女神のメイスを振り回す程度。」

魔王「それだけで驚異ですが」

魔法使い「魔力については私の二割り増し」

魔王「……なんか心臓がキュッてなった」

魔法使い「最近光の攻撃魔法を覚えた」

魔王「もうやめて」

魔法使い「即死魔法も使える。」

魔王「ひいっ」

魔法使い「体力は女剣士に迫る」

魔王「タフすぎる……」

魔法使い「回復魔法はほぼ間違いなく人類史上最高」

魔王「どうやっても倒せないな」

魔法使い「倒せないと言えば自動で封印結界を張れるようになってる。」

魔王「攻撃も通らないな」

魔法使い「現在研究中の自動蘇生魔法は絶命しても復活する。」

魔王「誰か助けて!」

魔法使い「まあそれでも魔力が切れたら負けるけど、間違っても1対1で喧嘩は売れないのは分かったと思う。」

魔王「なんか俺なんかが魔王名乗ってすみませんでした」


魔法使い「……だから、僧侶ちゃんだけは守って。」

魔法使い「彼女が人類の要だから。」

…………


魔法使い「僧侶ちゃん、研究の方はどう?」

僧侶「どうしても封印の中心になるシンボルが弱いの」

僧侶「張り方によって内側は封印結界だけにすればなかなか壊せないのは分かったけど」

僧侶「それもシンボルのポテンシャルを上回る魔力だと壊れる」

僧侶「だから内側からも魔力を吸収する仕組みを考えているんだけど」

僧侶「そうするとシンボルがむき出しになって弱いの」

魔法使い「あちらを立てたらこちらが立たない……か。」

僧侶「この魔力吸収装置は画期的なんだけどね~」



魔法使い「……天才、か。」

僧侶「?」

魔法使い「なんでもないよ。」ナデナデ

僧侶「んうっ」


魔法使い「結界をカタツムリの構造にしてみたらどうだろう?」

僧侶「あ、なるほど……でも駄目、シンボルが剥き出しになる構造が変わらないといつか壊されちゃう」

魔法使い「だねえ。 これは難解だわ。」

僧侶「例の魔法を攻撃に使う魔法もできたよ」

僧侶「ただ魔力を半分くらい使いそう。」

僧侶「魔力吸収装置は本来全快に八時間かかるところを二時間程度まで短縮できるから」

僧侶「一発分の魔力は予備として、一時間に一回限り」

魔法使い「まあそれでも十分かなあ?」

僧侶「最初に相手に警戒させたら続けて撃たなくても大丈夫かな?」

魔法使い「そうだねえ。」

僧侶「ん、なんだか魔法使いちゃん疲れてる」

魔法使い「ここが踏ん張りどころだから、気にしない。」

僧侶「魔法使いちゃんは私たちの頭脳なんだからね!」

僧侶「なくなったら代わりは居ないんだからね!」

僧侶「倒れたら……嫌だよ?」

魔法使い「人間食べないと死ぬけどあんまり寝ないってだけではそう簡単に死なない。」


魔法使い「キャッキャウフフしなくても死なない。」

僧侶「死ぬ~っ私は死ぬ~っ」ダキツキ

魔法使い「わっほう!美女に抱かれたぜっ!」キャッ

側近「仲がよろしいですなあ」ホノボノ


側近「紅茶を用意しましたので一休みしなされ」

魔法使い「あんた馴染みすぎ。」

僧侶「いただきまぁすっ! あ、ドーナツぅ!」

側近「私が揚げました」

魔法使い「主夫かっ!」

側近「まあそんな感じですよ、側近なんて」

魔法使い「商人くんお疲れ様。」

商人「あ、魔法使いさん!」

魔法使い「こっちの方任せきりだったなって。」

商人「女剣士さんも頑張ってくれてますから大丈夫ですよ!」

商人「増築に関してはヤマナミ王から色々ご指導も受けています」

商人「大会開催の方は、僕が司会進行を務めさせていただきます」

商人「それで僧侶さんに舞台に結界を張っていただくのと、魔法使いさんに審判をしてもらいたいんです」

商人「入場者に魔物がいる可能性もありますので魔法使いさんには町の入り口で入城管理もして欲しいですが……」

魔法使い「大丈夫。」

魔法使い「商人くんがすごい。」

女剣士「めちゃ助かってます」

商人「ぼっ、僕は賢者さんに教わった通りにやってるだけでっ」

盗賊「僕も教わったけどできない……」

商人「いや、盗賊くん経済の時間はほとんど寝てたし」

盗賊「鍵を開けたりはできるけどそれ以外は武器を使えるくらい……役に立たない……」


女剣士「前にも言っただろ!」

女剣士「私たちは筋肉だと思え」

女剣士「筋肉は骨にも内臓にも脳にもなれないけど」

女剣士「それらを守るために動くことはできる!!」

女剣士「悩みが晴れないなら、何時でも訓練に応じてやるぞ!」

盗賊「……お願いします!!」



魔法使い「熱いなあ。」

魔法使い「好きだなあ、熱血。」

商人「ですねえ」

商人「もう僕じゃ盗賊くんと戦っても勝てないです」

商人「頑張ってますよ、彼も」

魔法使い「うん。」

商人「あと、屋台に入る商人ですが」

魔法使い「竜の秘薬を扱ってもらったヤマナミ王付きの商人が取り締まりしてくれる」

魔法使い「商人くんは一応これ、商業許可証の確認法を覚えてもらいたい」

魔法使い「わずかに魔力にさらすとヤマナミ王のエンブレムが浮き出す。」

商人「おお、なんかかっこいい!」

魔法使い(あ、ちゃんと子供だった。 良かった。)

魔法使い「そうだ、盗賊くんに頼んでたことがあるの忘れてた。」

商人「なんですか?」

魔法使い「城塞で死角になるところを探してもらってた。」

商人「確かに闇取引なんかされたら困りますよね」

魔法使い「内政は私の仕事だからね。」

魔法使い「法律はヤマナミ法に基づいた地方法を賢者さんが詰めてくれてるし、」

魔法使い「私は警備計画等立てるだけ。」

商人(他にやってる仕事が多すぎです)





……そして、大会の後……




眼帯「魔王様、長らくご無沙汰しておりました」

魔王「うん、気にするな」

魔王「そもそもお前は聖獣の類で、オレらに味方する必要もないんだろ?」

眼帯「!どこでそれを?」

魔王「狼主に聞いた」


眼帯「……あやつが……」



眼帯「あ、そうだ、そこのオカマ」

オカマ「ビクッ」

眼帯「お主魔王様に色目を使っておったろう……」メラメラ


オカマ「だっていい男なんですものっ」

眼帯「……認めざるを得まい」ポッ


魔王「は、ハーレムなのに嬉しくない……だ……と……」


魔王「と……とにかく、魔王軍全軍に通達する」


魔王「我らはオリファンの同盟国、コトーの国の王とその眷族とする」


魔王「我らは今日より人類の味方である!」


魔王「くれぐれも肝に銘じておけい!」

魔物たち「ははあっ!!」


魔王「我らが任務は、逆賊、土の四天王の封印である!」

魔王「各自死力を尽くし我に従い、逆賊を討てい!!」


魔物たち「ははあっ!!」


魔法使い「すげぇ統制力じゃないの。」

魔物たち「!?」

魔王「皆の者、臆するな、彼女が我らの盟友、魔法使い殿である」

魔物たち「ははっ!」

魔法使い「……」ダキッ

魔王「///」ポッ


オカマ「そういう関係なんですかああああ」

眼帯「きさまああああ」

妖精「ボクらの萌えキャラがああああ」


魔王「お前ら死刑にするぞ」

魔物たち「すみません」

魔王「魔法使いも遊ばないで欲しい」

魔法使い「うん。」


魔王「竜たちが来たことでウチの戦力も増した、土の四天王の力も推測は立つ」

魔法使い「負ける心配がないと言う状況にはいかなる戦争もならない。」

魔法使い「だから皆ギリギリまで対策を練り、自軍の強化に努めて欲しい。」

魔物たち「了解しました!」


魔法使い「可愛い。」

オカマ「ほんとにぃいいい?!」


魔法使い「オカマ以外。」

オカマ「ガッデム!!」


魔王「四天王以外は一旦ヤマナミ東砦に戻り、東の森に先制攻撃をかけるために準備しておけ! 指揮は竜!」

魔王「気合いを入れよ!」

魔物たち「オオオオオ!!」


魔法使い「準備が整えば帰ってきてね。」

魔法使い「あと、私がいない場合こちらの賢者くんが総指揮を務める。」



賢者「よろしくお願いします」

…………

商人「今回祭りで集まった冒険者の皆さんの中から、我らの城塞都市開発に協力して下さる方は、自発的に北の森に宿営地を設けて協力してくれます」

魔法使い「戦力も開発人員も大幅アップだね。」

商人「あくまでもボランティアなので給金は必要有りませんが、生活物資補給などはこちらがやることになっています」

商人「あと、ギルドを創設して仕事を冒険者の皆さんに分配します」


魔法使い「助かる。 物資はヤマナミ王からも受けられる。」

魔法使い「それから住居の建設に当てて、ヤマナミ王から派遣された大工二千人も班を分けそれぞれ仕事をしてもらう。」

魔法使い「人員の配分は女剣士、賢者くんに任せているので、要望があれば随時そちらに。」

…………

魔法使い「……さて、仕事はだいたい終わったかな?」


魔法使い「……疲れた。」


魔法使い「後は最後の実験が残っている。」

魔法使い「あと問題があっても、賢者くんがちゃんとやってくれる……」


魔法使い「ごめんね、女剣士……少し休むね」



町の外れ、盗賊が見つけたこの町の死角



北の森の外れの木の下で、小さなカプセルを飲み込んで、魔法使いは眠りについた

???「……なんだあいつ」



???「こんな外れになにが……?」



???「ん?……寝てやがる」





傭兵「ちょっと油断しすぎなんじゃねえか?」

傭兵(勇者パーティーを暗殺する際、最も気をつけなくてはならないこと)


傭兵(こいつの頭脳と僧侶の蘇生術……)


傭兵(蘇生術を防ぐためには、毒を使う)


傭兵(強力な毒の中には、蘇生術をもってしても解毒できないものがある)


傭兵(大量には必要ない)


傭兵(わずかにかすり傷をつけるだけ)


傭兵(難しい話じゃ、ねえ)



傭兵(……よく寝てやがる)






傭兵は、静かに、毒のナイフで、魔法使いの胸元に、



傷をつけた…………





……死に至る毒が静かに魔法使いの体を埋め尽くす……

…………


魔法使いは夢を見ていた

…………


妹「おねえちゃん、このえほん、読んで!」

魔法使い「いいよ、さあこっちおいで」

妹「わあいっ!」


…………


魔法使い「かくして、勇者は魔王を倒し、世界には平和が訪れたのでした」

妹「やったあ、勇者さまっ!」

妹「あたしねえ、勇者さまのパーティーに入って魔王たおす!」

魔法使い「今の勇者様は魔王軍の大半を倒した後に、子供が生まれたからどこかでその子を匿ってるらしいよ」

魔法使い「新しい勇者様のパーティーになら、妹も入れるかもね」

妹「やったあ!」

…………


女剣士「パパ、ママ!この荷物ここでいい?」

魔法使い(うわあ、一人でタンス持ってる)

これが魔法使いと女剣士の出会いであった

…………

女剣士「その子がね、すごく可愛いの! 姉妹でね!」

弟「ボクも遊んでもらったよ!」

パパ「そりゃ良かったなあ」

ママ「あそこのお家の方、確か国立図書館の司書をされている方よ」

パパ「ああ、あの大きな家の……」

ママ「お友達もできて、この街に来て良かったわね」

…………

魔法使い「じゃああなたはニシハテから来たの? 山越え大変だったでしょ」

女剣士「馬車だからね、大変なのは馬の方」

弟「ぼくね、ちっとも眠くなかったよ!」

女剣士「えらいえらいっ」

魔法使い「可愛いなあ……」

女剣士「君の妹も可愛いよね!」

妹「ありがとう、おねえちゃん!」

魔法使い「これからよろしくね! 何かあったら相談して!」

女剣士「ありがとう、すぐ行くかも!」アハッ




二人は年も近く、すぐに友達になることができた

妹と弟も仲が良く、二人で二つの家を大冒険したりしていた


…………

弟「この家すごくたくさん本があるねっ」

魔法使い「一万冊くらいかな? お父さんの趣味でね」

妹「お姉ちゃんは全部読んだ?」

魔法使い「内容は覚えてないけど、読んでない本は新刊以外は無いかな?」

妹「すごおい!」

弟「お姉ちゃん賢者になれるんじゃない?」

魔法使い「あはは、無理だよ、私なんか……」


…………

女剣士「はあっ! いいぃっやあっ!」

パパ「甘いっ!」

女剣士「うわあっ」

魔法使い「わあっ、何やってるの!」

魔法使い「パパさんもひどいっ! 女剣士は女の子なのに……」

女剣士「……いや、私が頼んだんだ」

女剣士「私、弟を守るために強くならなきゃ……」

魔法使い「なんで!?」



パパ「……この子が小さい頃、弟が大怪我をしてね……」

女剣士「……」


パパ「あれはこの子のせいではない、街に迷い込んだ魔物が暴れて……」

女剣士「……私が……、私が強かったら怪我しなかったんだもん……」

魔法使い「……」


…………


女剣士「私になんの用?」


魔法使いは、自身の家の書斎で女剣士を待っていた


魔法使い「私、魔法を習いだしたのよ」

普段、本などに触れない女剣士にとって、夕日に照らされる書斎はなんとも言えない圧力を放っていた


魔法使い「いい?」


魔法使い「私は大魔法使いになる! そしてあなたを守る!」

魔法使い「だからあなたは無理をしないで!」

女剣士「え…………」


女剣士「ん……」




女剣士「ごめん」ウウッ

女剣士「うああ……」

魔法使い「……」ギュッ

魔法使いは、可愛い幼なじみを、強く抱きしめた

…………

魔法使いは、その日、可愛い妹と幼なじみ、その弟のために、ケーキの材料を買い出しに出かけていた



……ゴウン……


始めは、大きな岩が滑り落ちたような音がした

ゴン……ゴォン……


魔王の使い「進軍せよ!」

魔王の使い「勇者の生まれた街を焼き尽くすのだ!」



…………


魔法使い「はあっ、はあっ、はあっ…………」

魔法使い「……た、大変!」


魔法使いは複雑に入り組んだ始まりの街、家までおよそ二キロの道を走り出した……

…………

女剣士「……くそっ、こんな大きな街を攻めてくるなんてっ!」


街の外の森でトレーニングをしていた女剣士は、街を走り、自宅への道を同じく急いでいた


…………

魔法使いは家につく直前、道の真ん中に見慣れた服が落ちているのに気付いた



それは



魔法使い「……妹……」




魔法使い「……いや……いやあああああっ!!!」

女剣士は家に向かい走った


途中で何度か街に火を放つ魔物に遭遇したが、本隊から遠いのか、どれもそれほど手強くはなかった


女剣士「家が……」

魔物たちが放った魔法の火は、恐ろしい勢いで広がり、女剣士の家からも高い炎が上がっていた

その家から、燃え盛る固まりが転がり出す…………

女剣士「…………!」

女剣士「……嘘っ……いやああっ!!」

女剣士「うわああああっ!弟!弟ー!!」

女剣士は持っていた荷物でその火を消そうとするが消えない

消えない。


消えない。




やっと消えた時には、彼はすでに息絶えていた


女剣士「う……うわああああっ!!」


…………


魔法使い「ひゃあはっはははっ!!」

女剣士「……!」


女剣士「魔法使い!」


魔法使いは自分の家の書斎で、本棚に火球を浴びせていた


魔法使い「ひゃはっ!あはははっ!」


魔法使い「燃えろ燃えろ!」

魔法使い「私を燃やせっ!」

魔法使い「うわあああああっ!」

「うわあああああっ!!」


女剣士「魔法使い!」

魔法使い「うわああっ」

女剣士「魔法使いぃ!!」

パシン……


魔法使い「妹……妹があっ……」

魔法使い「もういや」

魔法使い「いやなのぉ……」


魔法使い「もういやあ……。」

魔法使い「死にたいの、死なせてえっ」

女剣士「死なせないっ」

女剣士「私の弟も死んだ!」

女剣士「あんたにまで死なれたらっ」



女剣士「……死なないでよお……」

女剣士「……私の……私のために」




女剣士「私を……死ぬ前に私を助けてくれ……」



…………

思い出しちゃった


やだなあ


みっともないなあ


女剣士が可哀想……

弟ちゃんが可哀想……


妹が可哀想……



思い出したくないからあんまり寝れなかったのにな……



もう十分助けられたかな?

女剣士……




魔法使いの胸元に傷をつけたナイフには、神経毒や麻薬などが仕込まれていた

痛みより、少しの高揚感のあと、指先からゆっくりと全身が痺れる



やがてゆっくりと……

魔法使いの心臓は、止まった

……一時間後……


傭兵(次は女剣士か僧侶か……)

傭兵(ん?)


傭兵(女剣士……宿に帰るのか)




女剣士「あいつどこに行ったんだ?」

女剣士「久しぶりに二人で屋台巡りしようと思ったのに」

女剣士は誰も居ない宿に帰り、扉を開ける


女剣士「真っ暗だな」


かたっ


女剣士「ん?」


傭兵は毒矢を放った!

キンッ


女剣士「刺客かっ!」

傭兵「……さすがに化け物」


女剣士「……お前は……」


ナイフ使い「この暗がりで毒針みたいな小さな物をかわすとは……」

女剣士「ナイフ使いか!」


ナイフ使い「死んでもらうぜ……俺の百万Gのために、な……!」



女剣士「貴様っ!」


ナイフ使いは実力を隠してはいたものの、女剣士には明らかに及ばない


ナイフを投げつけてもかわされ、マントで目隠しをしようとも軽くかわされ、そこを狙い毒針を放つも、弾かれた


ナイフ使い(……やはりこれでは駄目か!)

女剣士「そこまでだっ!」

女剣士が一気に間合いを詰める!


ナイフ使い「魔法使いは死んだぞ!」


女剣士「……なっ!」

その瞬間、ナイフ使いが振るったのは、毒の鞭であった


女剣士「ぐあっ」

女剣士「くっ、くそっ」

女剣士は袂に手を差し込み、小さな瓶を取り出し、一息にあおった!

女剣士はそのまま、その場に倒れ込んだ


ナイフ使い「……今、何を飲んだ?」


ガチャ


ナイフ使いの後ろで扉が開く

その瞬間、部屋に魔法の明かりが広がった


僧侶「……」


僧侶「魔法使いちゃんが……」

僧侶「魔法使いちゃんが目を覚まさないのぉっ!!」


ナイフ使いは振り返りつつ僧侶にナイフを振り下ろした

キンッ

見えない壁に弾かれるナイフ

ナイフ使い「?!」


僧侶「あなたが殺したの……?」

僧侶「あなたが魔法使いちゃんを!!」

僧侶は


女神のメイスを振り下ろした

振り下ろした

振り下ろした

振り下ろした

蘇生魔法を唱えた


ナイフ使い「や……やめっ」

振り下ろした

振り下ろした

振り下ろした

振り下ろした

蘇生魔法を唱えた


ナイフ使い「やめでぇ……」


僧侶「あなたが殺したの?」

ナイフ使い「そ、そうだ」


僧侶はナイフ使いの魔法抵抗を封印魔法を応用した魔法で打ち消した

僧侶は即死魔法を唱えた

ナイフ使いは息絶えた

僧侶は蘇生魔法を唱えた

女神のメイスを振り下ろした

振り下ろした

振り下ろした


蘇生魔法を唱えた


僧侶「なんでええっ!!」


僧侶「なんでええっ!!」

振り下ろした

蘇生魔法を唱えた


女剣士「……僧侶、そこまでにしておけ!」

ナイフ使い「ひいっ、ひいいい!」


ナイフ使いは持ち前の武器を次々に放った

それらは僧侶に届くことすらなく壁に当たったかのように弾かれた


完全物理防御結界、完全魔法防御結界の自動発動……

ナイフ使い「しゅっ、しゅみましぇええええっっえっ!」

僧侶が女神のメイスをもう一度振り上げた時、ナイフ使いは泣き喚き失禁した



女剣士「あいつだって竜の秘薬を飲んでるはずだ」

女剣士「絶対助かる!」

僧侶「目を……覚まさないんだよっ」


…………


魔法使いは魔法の眠りについたように目を開かなかった


賢者「とりあえず心臓は動き出してます」

賢者「僧侶さんが蘇生から解毒、解呪、覚醒、回復、麻痺解除、石化解除、ありとあらゆる考えられる限りの回復魔法を、彼女の魔力を大部分使い果たすほどぶつけたのですが……」

女剣士「そんな……」

女剣士「……嘘だろっ!」

女剣士「魔法使いっ!」

女剣士「嘘だあっ!!」



僧侶「……とりあえず、まだ生きてる……生きてるけど……」



魔王「……駄目だな」

魔王「オレもいろいろやってみたが目を覚まさない」

魔王「とりあえず栄養は与えていき、目を覚ますまでは時間をかけるべきだ」

女剣士「……」

賢者「ありがとうございます」


魔王「魔物のやったことなら俺もここにいられなかったな……」

僧侶「……」

僧侶「……目を……覚ますのかな?」

魔王「……わからん」

魔王「しかし、じゃあ、聞こう」


魔王「あきらめるのか?!」

女剣士「あきらめるわけない!」

僧侶「そうだよっ!」

賢者「そんなわけない」

商人「当たり前です、あきらめません!」

盗賊「助けたい……助けたい!!」


魔王「……俺も全く同じ気持ちだ」


…………

メイド長「身内の不始末で、申し訳ない」

メイド長「こいつは必ずその大元と一緒にヤマナミ法において裁きにかける」

メイド長「……なんにもならないかも知れないけど……すまない」グスッ



娘主「なんとか女神の薬を調達して来よう」

女剣士「本当か!」

女剣士「頼む……」

僧侶「一緒に行こうか?」

娘主「いや、必要ない」

娘主「効くかどうかもわからんからな……」

女剣士「すがれるものにはすがりたい」

娘主「ああ、わかっておる」


…………


メイド長「ウチの部隊が、あんたからナイフ使いに流れた金の流れをつかんだ」

メイド長「ナイフ使いの証言とも合致……覚悟してもらおうか、ゴミ野郎」


大臣「だ、誰がゴミだ!」

大臣「ワシは一国の大臣じゃぞっ! 先王にも仕えた……」

メイド長「全く関係ないね」

メイド長「捕縛!」

メイド「はっ」


ヤマナミ王「ヤマナミ法に基づき、大臣は殺人教唆の罪で極刑、財産は没収、親族は国外追放とする」

ヤマナミ王「没収した財産はオリファンに対し謝罪金として全額送ろう」


メイド長「えっ?いいの?」

ヤマナミ王「?」

メイド長「あのゴミ野郎横領して二億もため込んでたんだけど」


ヤマナミ王「」


ヤマナミ王「余に二言はない」

メイド長「今回だけ二言あることにしようよ」

ヤマナミ王「くどい」

メイド長「あいつらもこれだけの額は受け取らないって」


ヤマナミ王「考えはある」

メイド長「さすが兄ちゃん……でもなあ」

ヤマナミ王「魔法使いのことは心配ではあるが、魔法使い以上の薬師がいないのでは手を尽くしても無駄であろう」

ヤマナミ王「聖獣様を信じ、女神の秘薬を待つ」


…………

賢者「冷血と思われるやも知れませんが、魔法使いさんの志を無にせぬためにも、城塞都市計画を進めます」

女剣士「……ああ」

女剣士「……すまん、私がこんな調子では駄目だな」

僧侶「……魔法使いちゃんが目を覚ましたらびっくりするようなお城を作ろう?」

女剣士「ああ!」


女剣士「どの道私にはこういう生き方しかできない」

女剣士「やるぞ!魔法使いをびっくりさせてやる!!」


賢者「よい覇気です」

賢者「では」


…………


商人「僕はどうせ四天王と戦うことができない」

商人「なら、僕は僕にできる戦いをやる!」

商人は各都市を走り回り、寄付を求めた

大半は金に汚い商人で、オリファンの名を聞くだけで追い払われたりもした

しかし中には意気を汲み、資産を半額出すような豪傑もいた


商人は走った


食糧備蓄のために日持ちのする食材を購入順に箱詰めし、日付をラベリングするまで一人でこなした

商人「戦争に必要な武器や食糧は僕が集める!」

…………

冒険者たちは北の森を開拓し、道を作り、北の山で石を切り出し始めた

…………

タイガン王子は国に一旦帰った

彼も覚悟を決めていた

タイガン王子「いざあの野郎が動き出したら、僕が一番に動かねばならん」

タイガン王子「騎士隊は民の逃亡のために演習をしておけ!」

タイガン王子「僕たちが殿だ!」

…………

盗賊「はあっ!」

女剣士「いい動きだ!」

女剣士は盗賊の首に腕をまわし投げつける


女剣士「まだまだ!」

盗賊「くっそおお!」

簡単に足をかけ転ばされる

盗賊「うおおおおっ!」

盗賊は必死だった

今まで役にたたなかった自分

守られていた自分

自分と同じ街で同じ悲運に見舞われた魔法使い


弱い自分


そしてきっと自分は……


女剣士の剣は簡単にはかわせない

ドガッ

盗賊「……くっ……!」

…………

狼主「おい、糞女神」

女神「zZZZ……」

狼主「死ね」超級閃光魔法

女神「おわっ!あぶっ!」

女神「誰、いきなり戦場を丸焦がしにする魔法放ったの!」

狼主「わしじゃ」

女神「あらぁ、懐かしい」

女神「女神は留守にしています」

娘主「目の前におるじゃろが!」

女神「石像です、美しい女神の石像です」

狼主「砕けろ!」

狼主の魔獣闘技!

会心の一撃!

女神は死ぬ気でかわした!


女神「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

女神「相変わらず無茶するのねえ狼主ちゃん」

狼主「やかましい」

狼主「どうせ破壊神対策もしとらんのだろ」

女神「だってあれ人間が作ったものでしょ?」

女神「光の力も人間が破壊神に対抗するためにつくったんでしょ?」

女神「私がなんかする必要ないじゃん」

狼主「この糞ニートがっ!」

女神「なんでそんなに怒ってるの~?」

狼主「あいつらはそんなお前を信望し今も祈りを捧げておるのだぞ?」

狼主「わかっておるのか?!」

女神「でも私は基本的に人間の自業自得な事には手を貸さないわよ」

女神「滅びてもそれが一つの結果に過ぎないの」

女神「人間は馬鹿でした、それだけなのよ」

狼主「上手いこと言って怠けとるだけではないか」

狼主「とりあえず女神の秘薬をよこせ、今回はそれで許してやる」

女神「はい」ポンッ


狼主「」


狼主「いやいや、簡単すぎるじゃろ」

女神「効かないからねえ」

狼主「はあ?」


女神「それもうお酢になってます」

狼主「死ぬか?神は死ぬか試すか?」


女神「でもさあ、あの娘に使うんならどっちにしても効かないわよ」

狼主「分かるのか?」


女神「あれ病気って言うのかね?」

女神「まああれも自業自得だからねえ」

狼主「」


狼主「そうなのか」

女神「そうだよ~」ゴロゴロパリパリ

狼主「ベッドに寝転んでポテチ食うな!」

女神「だってもう用は終わったでしょー」ゴクップカァ

狼主「ワイン飲むな!タバコふかすな!」

狼主「……不健全じゃのう、主は……」

女神「神様なんてそんなもんよ! エロエロ神話とか多いしょ!」

狼主「いっぺん死ね!」魔獣闘技!

女神「ぐはっ」


女神「まああの娘が助かるかは五分五分かねえ」ドクドク


狼主「出血止めてから話せ!」

狼主「仕方ないのう……わしは今回あいつらに手を貸すぞ」

狼主「黙って見ておけ」

女神「それくらい許さないとさすがに信者居なくなるよね」

狼主「じゃろうな」

女神「んじゃおっけ!」ペラペラ


狼主「漫画読むな! せめて血を止めい!」


…………

女剣士「そんな話を聞かせて私を過労死させる気か」

娘主「いや、すまん、ほんとにごめん」

女剣士「しかしあんたが味方になるのは心強い、賢者君にも報告しておいてくれ」

娘主「わかった」

…………

賢者「私に過労死の呪いをかけてますか?」

娘主「いや、すまん、ほんとにごめん」

賢者「しかしあなたが味方につくのは頼もしいです」

娘主「役立たずの女神はいつかわしがほふるでな」

賢者「仮にも信仰の対象なのでいいです」

賢者「あなたには西の森で奇襲と遊撃に当たってもらいます、普通に暮らして下さい」

娘主「なんか悪いな」

賢者「あなたも一応信仰の対象なんですから」ハハッ

娘主「全く、一応じゃな」


…………

メイド長「はろー!」ピシッ

女剣士「おう」

メイド長「改めてわびにきた~」

女剣士「いや、気にしないでいいぞ」

メイド長「わび金に二億持ってきた」


女剣士「」クラァ……



ぱたん



メイド長「あ、女剣士まで倒れた!」

…………

僧侶「」ゴゴゴゴゴ……


娘主「破壊神じゃ……破壊神がおる」

メイド長「お助けぇ……」

僧侶「女剣士ちゃん、急に魔法使いちゃんの真似して寝ないで仕事しても魔法使いちゃんにはなれないんだよ?」

僧侶「……もうびっくりさせないでよお……」

女剣士「すまん僧侶」

女剣士「でもあいつはやっぱり偉大だわ、あんな細くてあおっちろいのに、私よりこういうことはタフだ」

女剣士「私こんなにアイツに無茶させてたんだ……」



僧侶「魔法使いちゃんはいま魔王くんが診てくれてるよ」

女剣士「あいつエロいことしてないかな?」

僧侶「」


僧侶「見に行こう!」

女剣士「わかった、準備するからパジャマ引っ張るな!」

…………

魔法使い(うーん。)

魔王「どうなってるんだろうなあ?」

魔法使い(私的には完全に目が覚めてるんだけど、まぶたも動かないんだよね~。)

魔王「それでなんでオレにだけ語りかけられるのか」

魔法使い(さっぱりわからん。)

魔法使い(まあ計画の進捗状況を知れて指令を出せるのは有り難い。)

魔王「せっかくだし、寝ておけ」

魔王「心が伝わる時間は現在1日二時間程度で、後は寝ている状態だから」

魔王「神経系のダメージが蓄積した結果と言うのも考えられるしな」

女剣士「マジか?」

僧侶「魔法使いちゃん起きてるの?!」

魔王「あ」

魔法使い(魔王くんの間抜け。)

魔王「正確にはまだ状態は変わってない」

魔王「こいつの心が何故か俺に伝わるんだ」

魔王「闇の力の影響かも分からん」

女剣士「でも、目を覚ますかも分からないんだな」

僧侶「魔法使いちゃあん……」グスッ


魔法使い(賢者ちゃん呼んできて。)

魔法使い(あとみんなにごめんって……。)……スウスウ

魔王「眠ったようだ」

魔王「賢者を呼んでこいと言われたが、どうするかなあ」

女剣士「今すぐ呼んでくる!」ズガガガァ

魔王「あとお前らにわびを入れてるぞ……っていねえ!」

僧侶「気にしないで、寝ててね、魔法使いちゃん」

女剣士「おっらあっ!」バン


魔王「はやっ」

僧侶「そ、そのズタ袋は……」

女剣士「……け、けんじゃ……」

賢者「」



僧侶「」


僧侶「回復魔法!あと蘇生魔法!」



魔王「悪いけど、寝ちゃった」

魔王「また明日の昼だな」

賢者「そ、そうですか」

女剣士「ごめんなさい」

僧侶「ごめんなさいできるのはいい子だね」ナデナデ

女剣士「えへへっ」


魔王「良かったな」

魔王「最大の危機は乗り切ったじゃないか」

魔王「やっぱり勇者だな」

女剣士「そうなのかな」

僧侶「女神様のご加護かも」

全員(それはないな)

僧侶「とりあえず竜の秘薬も飲ませてみたけど、それで気がついたのかな?」

魔王「分からんが、しかし竜の秘薬が効かない病か……」


…………

メイド長「いま起きてる?」

魔法使い(起きてるよ~。)

魔王「起きてるようだな」

メイド長「紅茶入れてきたからちょっと飲ませてあげるわ」

魔法使い(やったあ。)

メイド長は魔法使いの口にゴム管のついたろうとを差し込んだ


魔法使い(味気ないよお……。)

魔王「味気ないとさ」

メイド長「じゃあ早く起きろ」

魔法使い(犬もこんな感じだったのかなあ)
メイド長「わび金を二億ほど持ってきたんだけど断られちゃった」

魔法使い(そりゃ断るわ。)

魔王「そりゃ断るわ」

メイド長「だよねえ、まあいいんだけど」

メイド長「ウチの提案でぇ~、北の山をオリファンから買い取って石切場を作って石材を今まで通り安価で搬入する資金にしました」

魔法使い(さすがヤマナミ王)

魔王「さすがヤマナミ王だとさ」

メイド長「バレバレかい」

すみません、今したたかに酔ってるので更新ミスの確認をします

しばらくお待ちください

魔法使い(メイド長ちゃんも考え得るけど権限が無いでしょ。)

魔王「……だと」

メイド長「ご明察ぅ」


メイド長「……ごめん……」

魔法使い(気にしない。)

メイド長「あと、大臣ち破壊神の像があった」

魔王「やっぱりな」

…………


賢者「さて、僕に話があるんですよね?」

魔法使い(私の光の力を見て欲しい。 こいつをどう思う?)

賢者「すごく……大きいです」


賢者「全く衰えていませんね」

魔法使い(他のみんなの力は?)

賢者「明らかに増加しています」

賢者「変な話かも分かりませんが魔王くんも側近さんも四天王二人も光の力を持っています」

魔法使い(主体的に増加してるのか私から受けてるのか分からないかな?)

賢者「おそらく主体的でしょう」

賢者「明らかに総量は増えているわけですから」

魔法使い(実験は成功かな……?)

魔王「ひどい実験だ……お前を思う女剣士や僧侶、盗賊たちはどうなる」

魔法使い(一時的に死ぬだけのはずだったんだよ~。)

魔法使い(僧侶ちゃんの例の魔法があるから。)

賢者「その例の魔法ってなんなんです?」

魔法使い(一口でいうなら)

魔法使い(超広域自動回復魔法かな?)

賢者「?」

魔王「ん~」


魔王「よく分からんな」

賢者「ですねえ」


魔法使い(つまり超遠距離にいても怪我をした人がいればそれを僧侶ちゃんが感知し、回復魔法をかける。)

魔法使い(この魔法のポイントは超広域の人を分析する能力にこそ肝がある。)


魔王「!」

賢者「?!」

賢者「できるんですかそんなこと!」

魔王「できてもそんな魔法お断りだ」

賢者「!」

魔王「どれだけ神経を使えばそんな馬鹿な魔法を使えるんだ?」

魔王「……いや、それをこなせる奴が実際いたわけか」

魔法使い(だから言ってるでしょ。)

魔法使い(僧侶ちゃんは化け物だって)

賢者「まあ聞いていても分かりませんよ、そんなに私たちと違うんじゃ……」

魔法使い(だから私は光の力と言うものに明確な結論が出せない。)

魔法使い(そんな人間が自分のそばにいて、)

魔法使い(しかもあんなに可愛いんだもの!)

魔王「」

賢者「あ、なんか訳さなくて結構です」

魔法使い(恵まれすぎ。)

魔王「だってさ」

賢者「ですねえ」

魔法使い(しかし今回の実験で、光の力は固有のもので、かつ伝播もする物とわかった。)

魔王「また一歩研究が進んだな」

女剣士「おっす、魔法使い、魔王」

魔王「おう」

魔法使い(愛してる女剣士! ××したい!)

魔王「訳さねえよ?!」

女剣士「なんか分かったから訳さなくていい」フミ

魔法使い(動けないからって踏むなあ~!)

魔王「大事な話があるんだろ」

女剣士「ああ」

女剣士「城壁にな、石の壁ができたんだ」

魔法使い(早すぎない?)

女剣士「もう秋の月半ばだぞ?」

女剣士「商人君が頑張ってさ、秋の収穫祭も始まるんだ」

女剣士「かなり楽しいお祭りになりそうだ」

女剣士「お前は寝てるから参加できないんだ」


女剣士「馬鹿だな~、お前は!」

女剣士「寝ないで働いたりするから反動が来たんだ」ポロッ


魔法使い(泣かないで……)

女剣士「馬鹿魔法使い」ぐすっ


魔法使い(ごめん)

女剣士「どうせ謝ってるんだろ」

魔王「ああ」

女剣士「なんで謝るんだ!」


女剣士「お前はいつも私を守ってくれたのに……っ!」ポロポロ

魔法使い(ごめん)

女剣士「私にも、お前を守らせてもらうからな……」



女剣士「たぶん冬の月には私たちは東の森を攻める」




女剣士「戦争が、始まる」

次回、戦争編に突入します


ちょっと更新ミスが怖いです



けっこうサドい展開だったので、ついてこれなかった皆様、ごめんなさい。

更新します

今回で終わらせるつもりでしたが終わりませんでした

ラスト付近なのでプレッシャーがすごいです

正直このデキで更新するのは勇気がいるのですが、待ってる人がいると信じて更新します!

あと、自分で続きを読みたくなったのでw

追記:酔ってるのでミスがあればすみません

…………

魔法使い(少しでも早く目を覚まさないと)

魔王「焦るな」

魔法使い(いつも落ち着いてるよね)

魔王「そうか? 女剣士がオレに言ったことだろ?」

魔王「オレはわりとすぐキレるからな」

魔法使い(まあ魔王だしね)



盗賊「魔法使いさん、起きてる?」

魔王「ああ」

盗賊は魔王を見ると少し睨んでいるような目をした

魔王「手は出してないから心配するな」

魔法使い(おう、今手を出されたら逃げられないぜ!)

魔王「起きたらぎゅってしてもらうかな?」

盗賊「させないよ?」

魔王「オレにくらい勝てるようになってから言えよ」

魔王「まあ騎士様、いつまでもコイツが目覚めないようならキスでもしてやれ」

盗賊「」

魔法使い(わっほう!)

魔王のセリフを聞いて、気のせいか魔法使いの吐息が荒くなってる気がした

盗賊「」

魔王「よくあるだろ、人間の伝承で」


魔王「まあいよいよ目を覚まさないとなると、やってみる価値はあるかもな」

盗賊「……警備について聞いておこうかと思ってきたんだけど」

魔王「…………まあいいけどよ」

…………

宿屋、軍議室――

賢者は黒板の前で鞭を取り、ゆっくりと口を開いた

賢者「魔法使いさんは今この城塞がどうなってるかは見られません」

賢者「不肖ながら私が戦略を立てさせていただきます」

賢者「現在東西南北各所に砦を設け、外壁を守っています」キュッ


賢者「この中で北砦はあまり脅威はありません」タン

賢者「北の山の向こうは海ですし、森もあり、西は断崖になっていて、その下は西の森、狼主さんのテリトリーです」キュッキュッ

賢者「よってこちらには四天王、水と風の王さんについていただきます」

賢者「南の山はこちらは難関ではありますが、東の森の魔物が奇襲をかけてくる可能性は十分にあります」

賢者「こちらは新兵器を大工衆に使っていただき、私が陣頭指揮を取ります」

賢者「さて、難民が流れてくる重要な西砦、」

賢者「こちらは私たちの急所となるので、僧侶さんに当たってもらいます」クルッ

賢者「西の森の狼たちが参戦してくれますので、選別魔法の際はお気をつけて」

賢者「僧侶さんの護衛にはタイガンの精兵が当たってくれます」キュッ

賢者「当然西砦で最も重要になるミッションは難民の保護です」

賢者「最後にタイガン王子たちが入城するまで交戦し、終わったら門は封印をかけてしまいます」カッカッ

賢者「難民は南砦近くに誘導し、戦えない人は私がヤマナミに転送します」タン

賢者「東は最も危険です、女剣士さん、冒険者さんたちに当たってもらいます」クルッ

賢者「東を抑えておけば北も安心ですからかなり重要になります」

賢者「僧侶さんは西の封印が済めばこちらに、あと封印後は西は対空戦となりますので魔導師を中心に配備します」キュッ

賢者「遊撃部隊も西と北の防備を中心に」

賢者「東に戻りますが、こちらに潜んでる魔物は破壊神信徒の可能性が高いため、魔法より物理攻撃を重視し、魔法封じが使える方はこちらに」カッカッ

賢者「強力な悪魔の存在が確認されていますので、不利であれば籠城し、援軍を待ちます」キュッ

賢者「ヤマナミ東の砦から魔王さんに攻め入っていただきます」クルッキュッ

賢者「行けますか?」

魔王「魔物なら一人で勝てる」

賢者「闇の衣ですか、反則臭いですね」

魔王「反則も何もそのための闇の衣だからな」

魔王「だが、俺だけ生き残っても仕方ないだろ」

賢者「そのための軍略です」ピシッ

賢者「東はこれで間違いないと思いますが、敵戦力の主力は東です」

賢者「くれぐれも各人、油断無きように」

賢者「最も注意すべき土の王ですが、西からくるか荒れ地からくるか分かりませんが、帰還魔法等で東や南に回ってくることも警戒するべきですね」キュッキュッ

賢者「目撃情報が入れば狼主さんに当たってもらいます、一番速いですからね」キュッ

賢者「側近さんはどうなさいますか?」

賢者「私としては側近さんの闇の力を奪われても困るので水や風の王さんたちと一緒に北でもいいと思うのですが、」

賢者「南側が正直不安ですのでこちらに来ていただいても」

側近「南砦に参りましょう」

魔王「竜をまわそうか?」

賢者「竜さんは失礼ながら倒されても闇の力を奪われる心配が無いので、魔王さんと一緒に攻め上がってください」

賢者「防御は無敵でも攻撃は無限ではありませんので、かなり有効な戦力となるはずです」

魔王「やるなぁ」

賢者「ありがとうございます」

賢者「では各人報告、提案等あればお願いします」

商人「はい、糧食の管理ですが、中央砦で一元管理するのではなく……」


…………

僧侶「回復は一時間から二時間ごとに行います」

僧侶「魔力吸収装置の改良を試みてますが重くなると戦闘に差し障るので置き型にしたものを使い……」

僧侶「あと過度な使用は弊害があるので、この点は厳重に注意を……」

…………

魔王「荒れ地の魔物についてはアンデッドが中心で、おそらくはタイガンでもアンデッドが出るから……」

…………

タイガン王子「とにかく山道を一般人が逃げるのだから進軍は遅くなるが……」

タイガン王子「足の弱い者はこっちから魔導師を派遣して直接ヤマナミに転移して……」

…………

賢者「信号弾の色を覚えてください、あと発動法ですが……」

賢者「今回の作戦で一番注意すべき敵はなんだと思いますか?」

女剣士「人間の中の破壊神信徒だな」

賢者「御名答です」

賢者「魔法使いさんが行動不能になっているのも人間の中に破壊神信徒が居たため」

賢者「メイド長さんがタイガンまで私兵を遣わせてタイガン王子と共に探ってくれていますが……」

女剣士「魔物と違って一目で分かるとはいかないからな」

賢者「私としては風の王さんたちを餌に誘って叩き潰してしまうつもりです」

女剣士「それで北は手薄にしてその分を東に回してるわけか」

賢者「総合的な判断です」

賢者「殲滅戦はあまり気分がよくはありませんが、破壊神信徒などと言う者はのさばられても困ります」

賢者「別に人に危害を加えないなら自由ですが……」

女剣士「まあ躊躇はしないよ」

女剣士「こっちも命がかかってるんだからな」

…………

賢者「ヤマナミ王陛下、作戦は以下の通りです」

賢者「大きな負担を背負わせることになります、申し訳ありません」

ヤマナミ王「気にすることはない」

ヤマナミ王「余も軍議に参加しよう、近く日程を設けそちらに向かわせてもらう」

賢者「有り難いことです」

ヤマナミ王「敵の魔物の中に強力な種族がいれば我が軍でも太刀打ち出来ぬ可能性もある」

ヤマナミ王「言わば、余、自身の保身のためでもある、気にするな」

賢者「ヤマナミ王陛下を失うことは勇者たちを失うに匹敵する人類の損失です、御自愛下さい」

ヤマナミ王「……すまんな」

メイド長「兄ちゃんが動けないとこはウチが走り回るからさ」

メイド長「借りも返さなきゃね!」

ヤマナミ王「お前には苦労をかけるな」

メイド長「それこそそのためにいるのがウチなんだから気にしないでよ」

…………

賢者「メイド長さんには言っておかねばならないことがあります」

賢者「私たちは誰一人ヤマナミ王陛下やあなたを責める者はおりません!」

賢者「いつものようにお軽い感じで皆さんのピリピリしたムードを溶かしてください!」

賢者「それがあなたの一番大きな才能です!」

メイド長「う……」

メイド長「あんたはぁ……」ポロッ


ヤマナミ王「嫁にいるか?」

賢者「えっいやっそのっ///」

ヤマナミ王「妹を泣かせた仕返しだ」ハッハッ

賢者「……参りました」ハハッ

メイド長「……ウチで遊ぶな!」グスッ


…………


宿屋、軍議室

魔法使い(とにかく目が覚めないとは言っても軍議は聞いておきたい。)

魔王「軍議は聞いておきたいそうだ」

賢者「構いません、ただ、無理はいけません」

魔法使い(分かってる。)



ヤマナミ王「タイガン王子殿、この度は……」

タイガン王子「いやいや、気にしないでくれ……」

タイガン王子「平和になれば友好条約とかも結びたいな」

ヤマナミ王「ああ、そうしよう」

魔王「とりあえずこの軍議が終わればオレはヤマナミ東砦に帰り翌日進軍を開始する」

魔王「各人良く戦略を把握し行動して欲しい」



ヤマナミ王「お主がコトー王殿か」

魔王「ああ、そうだ」

魔王「俺の話は?」

ヤマナミ王「聞いておる」

ヤマナミ王「なるほど、愛らしい見た目であるな」プッ

魔王「喧嘩は買わんぞ」ハハッ

ヤマナミ王「いや、これより我らは盟友よ」



魔法使い(なかなか面白い対決だなあ。)

賢者「面白い対決ですね、魔法使いさんもそう思ってるんでしょ?」

賢者「魔王君を挟まないとコミュニケーション出来ないのは残念です」

魔法使い(だねえ。)

…………

ヤマナミ王「こちらの東砦、ここに魔法も得意な重騎士隊を派遣しよう」

…………

ヤマナミ王「いざとなればニシハテに難民を受け入れてもらうことも考えている」

ヤマナミ王「交渉はこちらに任せておけ」

タイガン王子「頼みます」

女剣士「重ね重ねご助力に感謝します」

ヤマナミ王「いや、オリファン建設から税収も大きくあがり、ヤマナミは好景気に湧いている」

ヤマナミ王「こちらから感謝せねばならない」

女剣士「もったいないお言葉です」

すみませんちょっと休憩します

魔王「東砦から鎧を着せた兵を援軍に送る、必要が有れば言ってくれ」

ヤマナミ王「魔物だからと言うわけではないが、なるべくは自軍のことは自軍でやりたい」

ヤマナミ王「次にこのような戦争がないとは言えない故、彼我の力を知っておきたいのもある」

ヤマナミ王「ただ、無駄に兵の命を散らすわけにもいかぬ故、苦戦するようなら頼む」

魔王「分かった、命じておく」

タイガン王子「僕はオリファンに入った後東に兵と共に進めばいいだろうか?」

賢者「そうですね、対空戦力を残して東に行ってください」

賢者「その際に僧侶さんの護衛をお願いします」

タイガン王子「分かった」

賢者「戦争が長引くようなら僧侶さんには中央砦で魔力吸収装置を稼働し、全域の回復を行っていただきます」

タイガン王子「すげえな僧侶ちゃん」

賢者「我等が三英雄ですからね」

僧侶「///」

ヤマナミ王「その魔力吸収装置はいくらか譲ってもらえるだろうか?」

賢者「もちろん良いですよ」

僧侶「こちらが簡易版になりますっ」

ヤマナミ王「ふむ、彫金も自分で?」

僧侶「はいっ」

タイガン王子「器用だなぁ」

魔王「間近で見ていたが本当にすごいぞ」

魔法使い(僧侶ちゃん人気だなあ。)

魔王「やはり力があるからな」

魔王「お前だって起きていればもてはやされただろ」

魔法使い(そんなことないよ……)

魔王「お前は変な奴だ」

魔王「自信満々なのかと思えば引いたり、皮肉を言ったかと思えばべた褒めする」

魔王「心が不安定なのかと思えばしっかりと人を導く」

魔王「光の力や僧侶の技より更に難解だ」

魔王「まあ、乙女心の謎解きはあの騎士殿に任せるが」クックッ

魔法使い(///)


盗賊(……なにを話してるんだろう)ムカムカ


…………

ヤマナミ王「それで、この封印装置は完成しているのか?」

僧侶「……いえ」

魔王「いや、これで封印できる」

僧侶「えっ!」

魔王「オレに一つ預けてくれ、必ず奴を封印する」

ヤマナミ王「これを悪用しないと言えるのか?」

魔王「断言しよう」

魔王「先の研究で、魔王を倒せる光の力をほぼ全ての存在が持てることは分かった」

魔王「ちなみに俺も持ってるそうだ」

賢者「こちらは魔法使いさんの研究資料です」

ヤマナミ王「ほう」バサッ

ヤマナミ王「……ふむ」

魔王「問題が有ればオレを倒せばいい」

ヤマナミ王「命を差し出されては信じぬとは言えぬな……」ニッ

魔王「初めから信用はしていたと言いたげだな」

ヤマナミ王「魔法使いが信じているようだからな、魔法使いは難解な奴だが、信用はできる」

魔王「なるほどな」


魔王(ほら、評価は高いではないか)

魔法使い(動けたら逃げ出したい……)

盗賊(何を話してるんですか?)

魔王(騎士殿の姫様は可愛いと言う話だ)

盗賊(……ううっ魔王めっ)

魔王(うらやましいのか)ハハッ

盗賊(いつか倒す……!)

魔王(もうちょっと修行しろ)


魔王「さて、ではだらだら評定していても仕方がない、状況が変わればそれに併せて策を変えていくもんだ」

魔王「十分に準備ができたなら、オレは出陣する」

ヤマナミ王「分かった、こちらの準備が終われば知らせよう」

ヤマナミ王「我々は荒れ地に向け進軍する」


タイガン王子「僕も帰らねばな」

タイガン王子「女剣士ちゃ~ん、またね~!」

ヤマナミ王「……」

ヤマナミ王「女剣士ちゃ~ん、またねー!」

女剣士「なななな……///」

戦いが始まるのは、それよりわずか十数時間後である――



――深夜

暗闇では、ひたすら時計の音が響いている……

コッコッコッコッ……

賢者「……」

賢者「眠れないか……それはそうだ」

賢者「賢者など名ばかり……私は確かな準備を揃え、策を打てたのか……」


賢者「ヤマナミ王は何もおっしゃらなかった……」

賢者「いや、東砦の弱さは看破されていたな……」

賢者「賢王が相手とは言え……」

賢者「魔法使いさんならどうしただろうか?」

賢者「あの人なら大胆にもオリファンを空城にしたりしそうだな」ハハッ


賢者「私は何を考えてるんだ……」

賢者「女剣士さんはこういう時、すっと寝てしまうんだろうか……」

賢者「僧侶さんならわりと分かってくれそうな気がする……」

賢者「メイド長さんなら……」

賢者「///」

賢者「……思い出してしまった」


賢者「だいたい私のポジションってモロに中間管理職じゃないか……」

賢者「そうだ、大工衆の皆さんはちゃんと私の戦略を汲んでくれるだろうか……」

賢者「南砦は明らかに山越えも平気な強兵が来るだろうな……」

賢者「だから引き受けたのも本当だが……」

賢者「どうせ今日は眠れないか……」


賢者はせっかく温まった布団から出て、宿屋の階段を下りて厨房に入る

賢者「紅茶でも飲んで落ち着こう……」

僧侶「あ」

賢者「あっと」

僧侶「眠れなくて~っ」

賢者「同じです」フフッ

コポポ……


僧侶「お茶入りました」

賢者「ありがとうございます」


暗闇の中で、ただ沸騰するお湯の音だけが響く

賢者「……」

僧侶「……」


賢者「僧侶さんは好きな人いますか?」

僧侶「はわっ?!」ガチャーン


僧侶「あわわっ、ごめんなさいっ……!」

ガチャンガチャン


僧侶が掃除をする音が消えると、再び静寂が訪れる……


賢者「すみません」

僧侶「いやっ!あのっ!」

僧侶「……魔王くん」

賢者「ぶほっ」

僧侶「きゃあっ!ごめんなさいごめんなさいっ!」


僧侶「あの、……どこがって言うんじゃないんですけど、勇者様に似てるんです」

僧侶「雰囲気でもなく、口調でもなく、考え方でも無いんですけど……」

賢者「……責任感とか?」

僧侶「あ、そうかも?」

賢者「まあ魔王くんは女剣士さんと魔法使いさんを倒さなければならないですけど」

僧侶「インポッシブルですねっ」

僧侶「この話は無かったことにっ」

賢者「分かりました」



コッコッコッコッ……


賢者「……私はよく分からないんですが、メイド長さんが好きなようです」

僧侶「す、素敵ですねっ」

賢者「そうですか?」

僧侶「素敵です」


賢者「魔法使いさんもそうですけどね、時々考えが読めない」

賢者「なのに素直なんです」

賢者「この二人は私以上に賢者なのだと思わされる……」

賢者「あ、これも聞かなかったことに」ハハッ

僧侶「そうします」ニコ

僧侶「賢者さんは私よりずっと賢いです」

僧侶「私は魔法のことしか分からないんです」

僧侶「料理も魔法使いちゃんに教わったし」

僧侶「体力も女剣士ちゃんや犬ちゃんを追いかけて自然についたんです」

僧侶「もっといろんなことできたら……」


賢者「だから宿屋なんですね」

僧侶「みんなの役に立ちたいんです」

賢者「私もです」


賢者「明日からは戦いの日々ですが……頑張りましょう」

僧侶「はいっ」

女剣士「……なんか物音しなかった?」

僧侶「はわっ」

賢者「いや、すみません、コップを落としました」ハハッ


女剣士「はぁ……まあいいけど」

女剣士「……私も紅茶ちょうだい」

僧侶「うん、お湯沸かしてた」

女剣士「あはは、やった」ポリポリ

賢者「女剣士さんも眠れないんですか?」

女剣士「単細胞だと思った……?」

賢者「いえ、むしろ繊細に見えますよ」

女剣士「ありがとう」

女剣士「魔法使いが目を覚ましたらなあ……」

女剣士「いや、頼っちゃ駄目か」

僧侶「ううん」

僧侶「二人で女剣士ちゃんを助けるって、約束したから……」

僧侶「魔法使いちゃんきっとすごくパワーアップして目を覚ますよっ!」

女剣士「あいつならそうだろうな」ハハッ


女剣士「あいつはいつも私を守ってくれる」

女剣士「あの日の約束を、ずっと守ってくれてる……」


…………

魔王「…………月か」

魔王「明るいと思えば……」

魔王「良く晴れるのはいいんだが、すごく冷えるのがなぁ」


魔王「オレもこの戦いが終われば……」


魔王「……問題は、これを分離できるか、かな」


魔王「……必ず、勝つ」

翌朝


青く晴れたヤマナミの空に白い信号弾が上がる


…………

魔王「皆の者、出陣っ!!」

竜の兵「オオオオオ!!」

魔王の兵「オオオオオ!!」

魔王「我が兵はヤマナミ救援に備え南進!」

魔王「竜の兵は東進! 山を越え、森に討ち入り、敵対者を見れば蹴散らせ!」

魔物「オオオオオ!!」

…………

タイガン――


タイガン王子「始まったな」

タイガン王子「さあ、どう来る?」

…………

ゾンビ「オオオオオ……」

タイガン王子「……ずいぶん敏感じゃねーか死体ども……」

タイガン王子「これだけ時間をかけたんだ、スパイがいるのも当たり前、ってか」

タイガン王子「騎士全隊! 行動開始!」

…………

オリファン――

僧侶「西門第一門から西砦まで全開っ!」

僧侶「難民のみんなを助けるよっ!」

タイガン精兵「そうりょっちゃああ~んっ!」

僧侶「いっくよ~っ!」

タイガン精兵「うおおおお~っ!」

まず、麓の街の人々は事前の知らせの通り、各自避難を始めた

賢者「始まりましたね」

賢者「では、行きましょう」

賢者「散開!」

大工衆「オオオオオ!」

まず、戦端は東の森で開かれた

女剣士「森の中から何か来るな」

女剣士「この気配……巨人か」

冒険者A「女剣士さん、尊敬してます!」

冒険者B「お気をつけて!」

冒険者C「援護します!」

重騎士A「女剣士様、ヤマナミより参りました!」

重騎士B「なんなりと御命令を!」

女剣士「私が討ちもらした敵を討ってくれ!」

女剣士「行くぞォっ!」

「オオオオオ!!」


女剣士「私もデスクワークだけしていたわけじゃない!」

女剣士は剣に魔力を集め始めた


女剣士「周囲の魔力を吸収し必要魔力は三分の一、攻撃力は数倍!」


ゆっくりと森の木がかき分けられ、女剣士が予測した通り巨人が現れ――


女剣士「雷・神・剣!」

閃光が迸り、森が切り開かれる!


盗賊「すごい……!!」

盗賊「いやすごすぎっ!!」


巨人数体は、その姿を現す前に森ごと溶けたバターのように崩れた



冒険者A「……俺ら出番有るかな……?」

重騎士A「……さあ……?」

盗賊「」ポカーン


女剣士「まだまだくるぞっ!」

切り開かれた森から、再び数体の巨人が踊り出てくる

その後から、後からと巨人はわき出してくる

女剣士「足を狙え!」

女剣士「うおおおっ!」

…………

伝令A「西砦に麓の街難民が到着!」

伝令B「東では女剣士殿が開戦! 初撃で敵数体を打ち破った模様!」

賢者「女剣士さんは予想を上回ってきましたね」

賢者「大工頭さん」

大工頭「はい! ひさびさの登場です!」

賢者「新兵器『爆裂』、『雷撃』、『火球』、『氷撃』、『閃光』の準備を!」

大工頭「へいっ!」

…………

南砦見張り台――

大工頭「兵器展開! チャージ開始だあっ!」

大工A「おおっ」

大工頭の号令で大工たちは銀の壷のようなものを重そうに運び出し、台に固定していく……



大工B「運べ運べ~!」

大工C「チャージ開始ぃ!」

大工D「チャージ率20%!」

大工頭「次々時間差で準備しろ!」

ヤマナミ大工「へい!」

一般大工衆A「どんどんいきますぜ~!」

一般大工衆B「敵発見!虫型でさっ!」

大工頭「山の上だああっ」

大工A「目標確認!」
大工B「チャージ率80%!」

大工D「撃てます!」

大工C「っけえっ!」

その瞬間、銀の壷から様々な魔法が飛び出す!

大工A「雷撃砲発射!」

大工B「氷撃砲発射!」

大工C「残った奴は火球をくらえっ!」

時間差で次々と魔法弾を放っていく大工たち

大工D「もっとこい……、近寄ってこい」

大工D「チャージ率120%、爆裂砲ーっ!」

爆音と閃光……山から降りてくる魔物たちは、川まで辿り着くこともできずに崩れ落ちていく……


大工衆「何発でもあるぜーっ?」

大工たちは次々にチャージを完了した壺を運び出し、交代で放っていく――


賢者「これは……我ながらすごいな」

無限に打ち続く魔法弾は、もはや南の山からの突破を最難関と知らしめるに十分な威力を示した


…………

タイガン王子「行けっ! 逃げろっ!」ズバッ

わき上がるように出てくるゾンビの群を切り払いながらタイガン王子は人々を誘導していく

難民の逃避速度はこの戦局を左右するものである

タイガン王子は街中を走り回り、必死に各騎士隊に指示を送っていく

街中は悲鳴と怒号が渦巻いていたが、被害者は少なかった

タイガン王子「行け行け~っ!」ズバッ


タイガン王子「タイガンの彗星の本領発揮だっ!」

タイガン兵たちが町人を逃がしきり、足の悪いものや怪我を負ったものを次々と転送していく

タイガン王子は兵たちをまとめあげ、難民たちの最後尾についた

その報告はすぐにもヤマナミ王の下に届いた

ヤマナミ王「やるね~、王子くん」

ヤマナミ王「こいつは交渉の価値がある」

ヤマナミ王は干し肉をかじりながら前方、自軍数万を見据える


メイド長「説明しよう! 兄ちゃんはガチモードになると一気に不良になるのだ!」

メイド長「悪いぜ!うちの王さんは!」

ヤマナミ王「お前はオリファンに行ってこい!」

メイド長「あいさっ!」

ヤマナミ王「魅せるぜ!」

ヤマナミ王「左陣営は南下せよ!」

ヤマナミ王「中央、右陣は待機!」

ヤマナミ王「かかってこい!腐った脳味噌共!」

そのヤマナミ王の声に誘われたように荒れ地から毒々しいアンデッドの群が現れた

ヤマナミ王「伝令!」

ヤマナミ王「全軍動くなよっ!」

ヤマナミ王「まだ魚は餌を見つけていない!」

ヤマナミ王「食らいついたら引き上げろ!」

ヤマナミ伝令「はあっ!」

ヤマナミ王は動かない


タイガン王子たちを追うようにゾンビたちがタイガンから溢れ出し、大河にかかった橋に差し掛かる

ヤマナミ王は動かない

荒れ地から溢れ出した魔物たちはヤマナミからはるかに遠くを横切り、逃げる難民に向かっていく

ヤマナミ王は動かない

荒れ地から巨大な竜のアンデッドが現れ、前方のアンデッドたちをおいかけはじめる

ヤマナミ王は動かない

アンデッドたちはついに合流し、一つの巨大な固まりとなり、タイガン王子を追い始めた

ヤマナミ王「かかった!中央進軍!」

ヤマナミ兵「オオオオオ!!」


ヤマナミ兵中央騎士団は電光石火の速度で進軍し、荒れ地の魔物の群れを真っ二つに引き裂く!


ヤマナミ王「中央兵は南下せよ!左陣兵団と挟みうて!」

ヤマナミ兵団「オオオオオ!!」


一旦固まった魔物の群は不意をついてきた中央軍を挟みうとうと南下を始める

そこに

ヤマナミ王「大将首はここだあっ!」

ヤマナミ王は自ら突っ込んだ!

右陣兵団はそれに後れを取るまいと食らいつく



タイガン王子「なんだ兄貴動かないと思ったら!やるなっ!」

伸びきった群に一丸となり飛び込むヤマナミ王の軍は、たちまちに脳味噌の腐ったアンデッドたちを凌駕して駆逐していく

ただ、ヤマナミ王の不意を突こうとする者もあった

荒れ地の魔物はこれだけでは無かったのである


ヤマナミ伝令「伝令ー!」

ヤマナミ伝令「荒れ地から破壊神信徒と思われる魔導師団が出現!」

ヤマナミ王「はいはい、じゃあ行っていただこうかね」

ヤマナミ王「黄色放て!」

ヤマナミ右陣兵A「ヤマナミ王の千里眼は伊達じゃない!」

ヤマナミ右陣兵B「さすがヤマナミ王!痺れるッ!」

ヤマナミ右陣兵C「憧れるッ!」


黄色の信号弾に合わせ、魔王軍が動き出す

南方に下がったヤマナミ軍左陣営は一気に北上し、中央軍と合わさり濁流となって北上する


ヤマナミ王「一旦ヤマナミを守る! 下がれえっ!」


ヤマナミ兵「オオオオオ!」

固まった軍団はそのまま一気に東に上がりヤマナミの守りを固めていく


ヤマナミ王「陣を整えよ、休め!」

すみません、残りは夜に

では、残りです

楽しんでいただけたら幸いです

十分な準備の後の進軍

誰もがこの戦いの勝利を予感した


しかし


魔術師団「超級魔法準備ッ!」



戦場には急速に暗雲が広がっていった


…………

オリファン東砦では、女剣士が奮戦していた

魔力吸収装置をつけているとは言え、体力は失われているはずである

女剣士「魔王の城の方がよっぽどハードだったよ!」

女剣士「オラオラ!」

端で見る盗賊たちにはまるで無限に体力がわき上がっているようにすら見えた

そんな中、グレーターデーモンが死角をついて襲いかかる

デーモン「ガゴオエオ」

女剣士「!」

女剣士「くそっ!」

跳び下がる女剣士を悪魔の剛腕が襲いかかる


ドゴォ……


女剣士「……」

盗賊「女剣士さん!」

女剣士「知ってる?」

盗賊「!?」

女剣士「うちの魔法使いは私のパンチ耐えるんだけどさ」

女剣士「私そのパーティーで前衛張ってたんだよね」

デーモン「」

盗賊「」


女剣士「温いんだよッ!」

女剣士はすぐさま反撃し、グレーターデーモンを真っ二つにした

腕まくりしながら、舌なめずりする女剣士

女剣士「ちょっと面白くなってきたー!」

盗賊「」

盗賊「さすがにここまでは強くなれないかも……」ハハッ……


…………


魔王は森に入り、周囲の探索を始めていた

魔王「ヤマナミ王は上手くやっているかな……」

人型の魔物が魔王に語りかける

人型「こちらは調べ尽くしました」

人型「怪しいクリスタルのサークルがいくつかあります」

魔王「うん、たぶんそれが魔力の干渉を断ってたんだな」

魔王「今更見つかるって事は数が相当増えてるんじゃないかな?」

人型「そのように思われます」

竜人「しかし中はもぬけの殻ですな」

魔王「広範囲ではあるが全て見つけ出し、潰せ。 オレは北上する」

魔王「竜よ!」

眼帯「こちらに」

魔王「お前だけついてこい!」

眼帯「はっ!」


魔王は緩やかに闇をまとっていく

明るい赤い瞳はゆっくり暗い紫に変わり、やがて青白く輝き始めた……


東の森を、青白い炎の馬が駆け上がって行った

その頃、荒れ地の魔物による超級魔法の閃光はヤマナミ王の軍を凪払わんとしていた


ヤマナミ王「強い魔力……超級魔法と言う奴か」

ヤマナミ王「銀鎧兵、前へ!」

ヤマナミ王「結界を展開せよ!」


ヤマナミ王「全軍は守れまい、伏せよ!」

ヤマナミ兵「オオオオオ!」


ヤマナミ王「ここで僕が敵ならタイガンからオリファンに攻め上がるな」

ヤマナミ王「一旦はふかふか主様と僧侶ちゃんに任せとくか」

ヤマナミ王「数発は耐え忍べ!」

ヤマナミ王「頃合いを見て赤!」

ヤマナミ兵「はいっ!」

…………

タイガン王子「よし、だいぶオリファンに入れたな!」

タイガン王子「そろそろ魔物共が追いついてきてもおかしくないか?」

タイガン王子「兵たちは山道を塞げ!」

タイガン王子「第一門、閉ざせ!」

タイガン王子「ヤマナミがやられたら終わりだからよ」

タイガン王子「頑張ってくれよ、ヤマナミ王!」


やがて空を覆うようにして、魔物の群が襲いかかってくる

南砦では、次第に魔法の効きづらい魔物が現れ始めていた


賢者「そろそろ苦しくなってきましたか」

賢者「では、第二弾の投入と行きましょうか」

賢者「行きましょうか、皆さん!」

大工たち「オオオ!!」

ハンマーを構えた大工たちが南砦から飛び出した

腕に覚えのあるマッチョな大工たちがハンマーを構える姿は如何にも物々しい


賢者「魔法の効かない敵と言うのは得てしてこういったパワー押しに弱いものです」

賢者「全員に能力強化をかけていきましょう」

賢者「側近さん、よろしく!」

側近「やっと出番ですかな?」

賢者「魔導砲班は攻撃を続けてください、ハンマー隊は進軍合図があるまでは待機!」

賢者「突破してきた敵を叩き潰してください!」

ハンマー隊「オオオゥ!!」


賢者「魔法防御からかけていきます、よろしくお願いします!」

側近「了解ですぞ!」

…………

東砦――

冒険者たちと重騎士たちはお湯を沸かし、お茶の準備まで始めていた


盗賊「ちょっ……なにやってるんですかっ!」

冒険者A「飲む?」

冒険者B「敵来ないしさ~」

盗賊「女剣士さんが疲れたら僕らが行かないと駄目なんですよっ!」

冒険者C「行く行く」

重騎士「ちょっと休憩だよ」


盗賊(何もしてないくせに……)


そこで、巨大な魔力が集まる気配に盗賊は気がついた


女剣士「避けろっ!」

女剣士の声が届いたか否か、目の前を覆い尽くす閃光が襲いかかってくる……


盗賊「!」

その閃光は盗賊の頭上を掠めると、砦の一部を砕いた


盗賊「……こ、これは……」ガクガク……

女剣士「超級魔法か、ちょっと厄介だな」

盗賊「断言しよう、ちょっとではない」

女剣士「大袈裟だな盗賊は」クスッ

盗賊「断じて大袈裟ではない、断じて!」

ふと横を見ると、お茶会をしていた冒険者たちが少し焦げていた

盗賊「……」ヨシッ


冒険者A「今よしって言った?!」

盗賊「キノセイ」

女剣士「もう一発くるぞ」

盗賊「あぶっ」

冒険者たち「ひえっ」

砦が少しずつ削れていく


女剣士「剣で攻撃するにはちょっと遠いなあ」


女剣士「盗賊くんさあ」



女剣士「あいつ起こしてきてよ」

難民はあらかたオリファンに入ったが、南砦が苦戦にみまわれたため、転送もままならない状況であった

次第に民たちがオリファンに入るスピードも遅くなってくる

足の遅い者は必然的に後ろに集まるためだ

僧侶「賢者さん聞こえますか?」

賢者(! これは僧侶さんですか? すごい!聞こえます!)

僧侶「広域認識魔法を応用した意思伝達魔法です、難民の皆さんがいっぱいになってます」

賢者(了解しました、転送をはじめます)

僧侶「良かった……」

僧侶の前方上空、魔物の群が……


狼主「ていっ」超級閃光魔法


狼たち「わおーん!」閃光魔法×25

犬たち「ワンワン!」強閃光魔法×3


……どんどん撃ち落とされていった

僧侶「お仕事あるかなあ……」


…………

ヤマナミ王は度重なる超級魔法攻撃にひたすらに耐えていた

ヤマナミ王「負傷者は後ろに下げろ!」

ヤマナミ王「回復部隊!」

回復部隊「ははっ!」

ヤマナミ王「次が来るぞっ、伏せよ!」

ババッ


超級閃光魔法がヤマナミ王の頭を掠めたその時、

ヤマナミ王「赤!」

ヤマナミ兵「はっ!」

赤い信号弾が打ちあがる

魔王軍兵は最初の信号弾で既に奇襲可能位置に来ていた

魔王軍隊長「魔導師を打ち取れ!」

魔王軍隊長「行けえ!」

魔王の兵、鎧を装備した……いや、鎧そのものが魔導師たちに襲いかかる!


ヤマナミ王「良いぞ、流石は僕らを苦しめた魔王軍だ!」

ヤマナミ王「気付けの酒を寄越せ!」

ヤマナミ兵「はっ」

ヤマナミ王は気付け薬を一口含み、吐き出す


ヤマナミ王「銀鎧兵を中心に中央軍進軍!」

緩やかにその重装備の騎士団が南に進軍を始めたころ、


…………魔王はようやく魔物の最後尾にたどり着いた

いや、魔物が待ちかまえていたと言うべきであろうか

巨体が売りと言わんばかりの一つ目の巨人である


魔王「古代魔族……か!」

古代魔族「腑抜けた闇の王よ、破壊神様に従わんか……」

魔王「足止め如きがオレとまともに口が聞ける気か……」

魔王の瞳が、一層青白く輝く

魔王「かかってこい」

巨人はその体に見合わぬスピードで槌を振り下ろした!

魔王「ふん」

魔王に直撃した槌はその場でぴたりと止まった


魔王「阿呆が!」

魔王はその槌を叩き落とし駆け上がる

元よりパワーファイターの魔王の斧槍が巨人の頭を叩き割るのに、背後で爪を気にする眼帯の娘がため息をつき終わる時間は必要なかった


魔王「雑魚がっ!」

ずしん、と轟音と砂煙を上げて倒れる巨人を背後に、魔王は口角を吊り上げて歯を見せた

眼帯「いい男すぎる……」ハアハア

古代魔族B「通すわけに行きませぬ」

古代魔族C「王よ、何卒槍をお納めください」


眼帯「我が蹴散らしましょうか?」

魔王「いや、ちょっと遊びたい」

眼帯「仕方有りませんねっ」ポッ

魔王「さあ、貴様等の王を退屈させるでないぞっ!」

…………

東砦では、女剣士がさすがに疲れを見せ始めていた


女剣士「遠くから撃ってくるばかりだな」

女剣士「しかし、何体魔導師がいるんだ?」

女剣士「数百体くらいが交代で撃ってきてると見るべきか、っと」

考えている間にも超級魔法が襲いかかってくる

女剣士「起きるかな、あいつは」

女剣士「私より砦がヤバい」

南砦では賢者の計略が当たり、殆どの敵は砦に取り付くこともできないでいた

しかし

ヤマナミ大工「大将、魔法も打撃も効かねえ!」

賢者「!」

賢者「撤退です!」

大工と賢者たちを引かせたもの、それは機械の兵たちであった

側近「あれはまずい、こちらの打撃のレベルが足りません」

賢者「そのようですね……」

賢者「少しづつ魔導砲で削っていきましょう!」

賢者「雷撃系を中心に行きます!」

賢者「……魔法使いさん……あなたに綺麗な砦を見せたかった……」


賢者「……私は先に転送をはじめます!」

…………

僧侶「敵が……突破してくる!」

空を飛ぶ魔物たちは、魔法の効きにくいもので固まって攻めてくる

僧侶「すーっ、はーっ」

僧侶「魔法が効きにくい敵を選択!」

僧侶「聖光魔法!」

僧侶の選択魔法攻撃は、眼前の敵をどんどん貫いていく……

僧侶「なんとか通じる!」


その時、僧侶の横に巨体の魔物が降り立つ


狼主「やりおるのう」

僧侶「ありがと!」ニコッ


狼主「わしもここから狙おうか」

僧侶「お願いします!」

タイガン王子「おお~い!」

僧侶「あ、来たあっ」

狼主「とろくさいのお」

タイガン王子はようやく最後まで民と兵を導ききっていた


…………


ヤマナミ王軍はじりじりと侵攻するも、魔王兵と敵の魔物が入り乱れていては攻め入りづらい

ヤマナミ王「魔王兵を引かせるのが定石と言った所か」

ヤマナミ王「しかしまずは超級魔法を防がねばならん」

ヤマナミ王「どうしたものかな……」

混戦となっていては策を使うのも難しい

ヤマナミ王「少しずつ削って行くしか有るまいか……」

その頃、宿屋――

盗賊「魔法使いさん……」

魔法使い(あ、盗賊くんだー!ヤッホー!)

盗賊「みんな苦戦しています……」

魔法使い(!)

盗賊「目を……覚ましてください……」

盗賊は魔法使いの肩に手を当てた

魔法使い(えっ、ちょっ盗賊くん?)


魔法使い(ちょっ)


盗賊はゆっくりと

魔法使いにキスをした


魔法使い(わっほうわっほう!)

魔法使い(ごちそうさま!)


魔法使い(ってこれで目が覚めるわけないよね)

魔法使い(乙女の涙も効かなかったしね)

盗賊「……」ウーン

魔法使い(あ、盗賊くんがキスの仕方間違えたか考えてる!)

チュッ

魔法使い(ごちそうさま!)



盗賊「……」フーフー

魔法使い(あ、私じゃなくて盗賊くんが何かに目覚めたっぽい!)

魔法使い(ヤバいヤバい私の心臓が持たない!)

魔法使い(しかし竜の秘薬も効かない病ってそんなに無いはずなんだけどなあ)


魔法使い(例えば先天性症状、これはない)


魔法使い(今まで何度も使ったことあるし)

チュッ

魔法使い(このエロガキ!)


魔法使い(あと竜の秘薬が効かない症状って言ったら魔力過多症、これもないな)


魔法使い(たしか魔力過多症は回復魔法の副作用……)

魔法使い(ってアホか私はっ!)

魔法使い(思いっきり心当たりあるわっ!)



(僧侶ちゃんが命懸けで毎夜全魔力で回復魔法をかけ続けたせいだーーっ!!)



チュッ



魔法使いは、ゆっくりと自分の体の中心に魔力を集めていく

魔力過多による神経障害……今、魔法使いの体内には自己のポテンシャルを遥かに上回る魔力が集まっているのだ


魔法使いはその魔力を支配下に置くと


ゆっくりと目を覚ました

盗賊「はわっ!ままま、魔法使いさん!」

魔法使い「エロガキめ!」

盗賊「す、すみませ」

魔法使いは盗賊を強引に引き寄せると


深くキスをした


盗賊「///」


魔法使い「よっしゃーッ!!」

魔法使い「充・電・完・了!」


魔法使いは装備を整えると、遥か上空に転移した



魔法使い「ヒャッハーーーーっっ!!!」


魔法使い「おはよぉうっ!!ファッキンピーポー!!」


魔法使い「あ・い・し・て・る・ぜぇ~~~ぃえっ!!」

魔法使い「選択!」

魔法使い「悪い奴!」

魔法使い「今日は私の第二の誕生日だーっ!!」



魔法使い「祝え!野郎共!!!」


魔法使いは杖を高々と掲げ、魔法を唱えた


魔法使い「超級、爆裂魔法!!」


その瞬間、空にオリファン全体を覆うような、巨大な太陽が現れた


…………


僧侶「うわっなにあれっ」



僧侶「……魔法使いちゃんだぁ……っ! よかったぁ……」ポロポロ



狼主「あやつも寝坊助じゃのう」


タイガン王子「すげえな、あれは」


…………


商人「魔法使いさん!」

商人「みんなあなたを待ってました!!」

賢者「……すごい魔力だ……」


大工衆「親方~!空に女の子が!」


大工頭たち「魔法使いちゃ~ん!! 愛してますぜ~!!」


盗賊「魔法使いさん……愛していますっ!」

…………

魔王「あそこはオリファン上空か……なんだあの馬鹿魔力……魔法使いめ!」

…………

女剣士「遅いっつの……全く」

女剣士「……愛してるぜ……!」

女剣士「私の魔法使い!!」

…………

天空に渦を巻く巨大な光

その巨大な光球は、ほとばしる力を押さえ切れぬように




砕け散った!

砕け散った光球は


無数の光の矢となって地上に降り注いだ


ほとんどの魔物の魔力抵抗を物ともせず



超級爆裂魔法の破壊の雨が降り注ぐ!!



魔法使い「消えろおおっ!!」


その光の矢は、辺り一帯の魔物を次々と貫いていく……


魔法使い「……っふう!」


魔法使い「さあて、ここいらの魔物は九割九分殺ったかな?」


魔法使い「それでも耐えた奴が二百くらいいるか……まあ女剣士に任せておくかな」

魔法使い「ヤマナミ王を助けに行かないとね」

魔法使いはヤマナミに向け……、飛ぶ!


僧侶「魔法使いちゃあ~ん!」

僧侶「愛してるよ~!!」ブンブン


魔法使い「わっほう!わっほう!」


…………

魔法使いは瞬きほどの時間で荒れ地へと辿り着いた


ヤマナミ王「魔法使い!」

ヤマナミ王「おおおっ!魔法使いっ!」


魔法使い「お待たせーっ!!」

魔法使い「超級魔法に苦しんでるのかな?」


ヤマナミ王を確認すると魔法使いは魔法を唱えはじめた

魔法使い「属性選択!」


魔法使い「極大」


魔法使い「爆裂、閃光、氷撃、火球、聖光、即死、雷撃!」

魔法使い「砕け散れっ!!」

魔法使いが魔法を唱え終わると、七色の雨が敵陣に降り注ぐ

魔王軍の兵をよけ、敵兵のみを貫いていく

荒れ地の魔物はそれによって次々と力尽きていった


ヤマナミ王「おおっ! なんという魔力だ……!」


魔法使い「残党がいたらよろしくー!」

魔法使い「あとは魔王くんかな?」


…………


一方その頃


北砦――

土の王「闇の力をいただきに参った」

妖精「だっ、誰があんたなんかにっ!」

オカマ「どうやって入ったの!」


土の王「……簡単なこと」

土の王「人の皮を被れば勝手に導いてくれたわ……」


メイド長「まあ、誘い込んだんだけどねぇ」

土の王「!?」

メイド長「あんたを導き入れた破壊神信徒は全員捕縛したよ」

メイド長「あんたも観念しな」

土の王「……くくく」

メイド長「?」


メイド長「何がおかしいんだ!」

土の王「闇の力を得れば、もはやこの身に用はない……邪魔な魔王もまだ遠い」


妖精「くっくるしっ……!」

オカマ「ぐはああっ……!」


メイド長「や、やめろ!」

メイド長が大剣を振り下ろすと、土の王は


それをかわすことなく、その身を裂かせた……

土の王「……くくっ」

土の王「完成だ……」


土の王「」


妖精「」

オカマ「」


メイド長「……まさかっ」


メイド長「まさか!」

メイド長「またあいつらに迷惑を……!」

…………


東の森――


女剣士「魔法使いの馬鹿魔法くらってほとんどの魔物は沈黙した……」

女剣士「終わった、のか?」


女剣士「いや、まだ魔物が集まってくる……」

女剣士「……いや、魔物じゃない、ただ力が渦を巻いて……」

南東から急速に黒雲が広がってくる

それは魔王の闇の衣の副作用であろう

しかし今眼前に渦巻く闇は、明らかに性質が違う


渦巻く闇の中、女剣士はその中に産声を聞いた気がした


闇の密度が急激に上がっていく

雷雲が空を覆っていく

密度を増した闇が様々に姿を変えていく

いくつもの腕、いくつもの頭が次々に現れ、潰えていく

ぐちゃぐちゃに煮立った闇のスープがゆっくりと冷え固まり







破壊神が現れた

女剣士「……あれは……まさか!」チャキ

女剣士は怯むことなく立ち向かう


剣を構えるとそこに魔力を集中……


女剣士「魔物を食い散らかしはじめたか」

女剣士「満足だろ、破壊神信徒ども」


女剣士は雷神の剣を持って闇に斬りかかった!

…………

魔法使い「おーい、魔王ちゃん」

魔王「おう」

魔王の周囲には子供が遊び散らかした玩具のように、屈強な古代魔族の死体が散らばっている

魔王「女剣士がヤバそうだ、乗せてってくれない?」

魔法使い「おうよ!ぎゅってしちゃうよ!ぎゅってしちゃうよ!」

魔王「///」

ギュッ

魔王を抱えると、魔法使いは更にスピードを上げて飛んでいく

破壊神が闇の波動を打ち出そうとしたまさにその時

超級閃光魔法が闇を射抜く

続き雷神剣

狼主「ふん、ありゃただのデカい的じゃのう」

女剣士「そうみたいだな」


魔王は二人の前に着地した

魔王「よお!」

女剣士「来たな」

破壊神はその空域全てを凪払うように闇の矢を放った!


魔法使い「ただいま~」

女剣士「おせーな!」

魔法使い「悪い悪い、いい夢見ちゃってさあ」

女剣士「なんとなく聞きたくない!」

闇の矢が砦の手前まで達し、辺りに爆音が響いているのに、二人はのんびりと会話を楽しんでいるようだ

闇の矢が砦に突き刺さろうとした時、まるで壁に当たったパン屑のようにその力は弾かれて消えた

僧侶「お待たせーっ!」

魔法使い「美女きたー!」ギュッ

女剣士「変態め」ギュッ

魔法使い「な、これは私のだぞ!」

盗賊「」

魔法使い「これも私のだけど」チュッ



女剣士「」

僧侶「」

魔王「」

狼主「」


盗賊「遊んでる場合ですか!///」


盗賊「破壊神の攻撃が来ます!」

魔王「任せろ!」

破壊神は闇の力を収束させ、砦に打ち込んでくる


魔王は闇の衣を広げその闇の力を誘導した

直撃する大魔力

魔王「闇の力が」

魔王「魔王に効いてたまるかあっ」


魔王は眼前の巨大な闇の塊を吸収していく

女剣士「おい、うちのパーティー無敵じゃないの?」

魔法使い「無敵に決まってるでしょ!」

僧侶「無敵だよ!」

賢者「全く、呆れたパーティーですね」

女剣士「賢者!」

魔法使い「ただいま~」

賢者「おはようございます、そしてお帰りなさい」

賢者「感動の再開ではありますが、先にアレを砕いてしまいましょう」

魔法使い「了解!」

女剣士「やるぞ!」

僧侶「やるよっ!」

盗賊「行きましょう!」

狼主「よし」



まず先陣を切り、盗賊は閃光の剣を放った

魔法使い「わあ、成長してる!」

女剣士「そりゃしてるさ」


盗賊「ボクはこの街を守る騎士だから!」

魔法使い「かっこいい!エロガキのくせに!」

盗賊「記憶を失ってください」

魔王「おいおい、遊ぶな」

女剣士「すまん、あんまり魔王の背中が安全だから」

僧侶「敵にまわしたら大変だったけどね~」

僧侶「魔王くん、ありがとう、私たちの味方になってくれてっ!」


魔王「おう」ニカッ



破壊神は自らの力がなんら破壊をもたらせない現状にじれたかのように周囲の木を引き抜き、投げ出した

狼主「任せろ!」

狼主の放つ閃光はその大木を木っ端微塵に砕き、焼き払っていく

竜「魔王様!」

竜はようやく追いついてきて、その真の姿を現した

賢者「さて、問題はアレに攻撃が通じるか、でしょうか」

魔法使い「砕き散らかしてくるわ」

竜「私も行こう」

賢者「では奴を砕いたら闇に変換しどんどん魔王くんが吸収していくスタイルで」

女剣士「援護する」

僧侶「みんなは私が守る!」

盗賊「行きます!」

盗賊が再び閃光の剣を放つ

盗賊「多少は効いてるのでしょうか?」

魔王「なかなか有効なようだぞ」

盗賊「では続けます!」

女剣士「雷神剣!」

闇に吸い込まれた雷神の一撃、少し遅れて轟音が起こり、破壊神から闇色の煙が巻き起こる

盗賊「威力が違いすぎるもんなあ」

女剣士「撃ちまくれ!」

盗賊「分かりました!」

盗賊は閃光剣を連続で放つ

三発……四発……五発

上空では魔法使いがその魔力を蓄えていく

魔法使い「攻撃力ある順番で行っておくか」

魔法使い「超級!」

魔法使い「爆裂魔法!」

破壊神に匹敵する巨大な光球が破壊神を襲う

竜「おおおっなんたる馬鹿魔力!」

竜「だが」

竜「我は竜である!」

竜は巨大な火球を吐き出し、それをまとめあげ、爆炎の矢を吐き出した

キュイン……と言う音が破壊神を貫いた少し後、爆音とともに破壊神の肩が吹き飛んだ

少し遅れて光球が破壊神に落ちる


渦巻く闇は身を守らんとするように固まり縮んで行く

破壊神「ギュオオオオ……」

破壊神の頭はその一撃で砕けた

しかし、破壊神である

まるでトカゲが尻尾を失った程度と言わんばかりに闇の攻撃を放ってくる

しかしそれは魔法使いや竜に当たることはない

僧侶「封印結界!」

闇の力は狙いを逸れて、それは魔王を主に変え、吸収されていく

魔王「闇の力が余ってきたな」

賢者「どうするんです?」

魔王「四天王を呼び戻すのさ」

魔王は闇の力をまとめあげ、水の王、風の王を象っていく

妖精「ふっかーっつ!」

オカマ「大・降・臨・!」

魔王「行けい、四天王と呼ばれた力を示してこい!」

妖精「はいは~い!」

オカマ「魔王様のために!」

妖精は巨大な水球をまとい飛び立った

オカマは風をまといそのまま色々丸出しで飛んでいった

盗賊「」

盗賊は閃光剣を放った

オカマ「おうふっ!」

盗賊「シッパイ」

タイガン王子「なんかパーティーでもやってるの~?」

女剣士「ああ、参加しないと損だぞ!」

メイド長「私もそろそろ汚名返上させてもらうからあ!」

女剣士「おお、どんどん行くぞ」

三人の剣士は剣を重ねた

そこに女剣士が魔力を注いでいく


女剣士「雷」

タイガン王子「神」

メイド長「剣!」

三色の閃光が破壊神を貫く

魔法使い「超級」

魔法使い「雷撃魔法!」

雷のサークルが現れ、巨大な破壊神を引き絞って行く

魔法使い「超級」

魔法使い「火球魔法!」

巨大な火球が閃光となり、破壊神に突き刺さる

竜「凍えろ!」

竜は絶対零度のブレスを吐き出した

周囲の破壊神によって朽ちた木々がたちまちに氷の柱に変わっていく

破壊神の体表のあちこちで爆音が上がる

妖精「超質量水撃!」

オカマ「爆風マッスル!」

妖精が放った水の矢を追いかけてオカマが爆風をまとって突っ込む

妖精・オカマ「四天王二連撃!」

水撃が貫通した破壊神の体内に飛び込んだ爆風が弾け飛ぶ


魔法使い「ちゃんと避けなさいよ」

魔法使い「超級」

魔法使い「氷撃魔法!」

破壊神の上空に破壊神に匹敵する巨大な氷の剣が現れる

遠くから見ればまるで緩やかにケーキに入刀されているようにすら見える

女剣士「さすが私の魔法使い」

魔王「派手な奴だ」

魔王「もう少し奴に接近する、お前ら頼む」

僧侶「了解!」

盗賊「行きます!」

タイガン王子「置いてかないでよお?」

メイド長「私も!」

ヤマナミ王「ではみんなで行こうか」


女剣士「」


タイガン王子「」


メイド長「あんた軍はどうした!」

ヤマナミ王「もはや後始末だけだ、魔法使いちゃんが来てくれたからな」

ヤマナミ王「僕にもかっこつけさせて欲しいな~」


賢者「行きましょう」クスッ

女剣士「おおっ!」

走り出す剣士たち、遠方では巨大な破壊神が一方的な暴力にさらされていると言う異常な光景が広がっている

魔法使い「そろそろ魔力切れてきたから回復したい」

竜「守りは任せるが良い」

狼主「よっと」

竜「糞狼!」

狼主「よう、トカゲ、折角だしわしも活躍したいでな」


狼主「超級閃光魔法!」

竜「ぐぬっ、爆裂ブレス!」

二匹の獣が破壊神と戦う中、魔法使いは魔力回復装置の出力を上げ、深い瞑想に入った

女剣士「もう魔法使いの出番はないぞ!」

女剣士「みんな、剣をあわせてくれ!」

タイガン王子「おう」ガチャ

ヤマナミ王「よし」キンッ

メイド長「はい」カン

盗賊「では」カシャ

魔王「やるか!」ガシッ


僧侶「私が守ってるからゆっくり魔力を蓄えて!」

賢者「私もご助力します!」



女剣士「いくぞ……」

女剣士は残る魔力全てを使い、その六本の武器に力を注ぎ込む……

ヤマナミ王「我らも魔力を重ねるのだ」

魔王「任せろ!」

タイガン王子「熱いね、このボロ剣が溶けちまうぜ!」

メイド長「なら魔力の刃を作れば?」

盗賊「できるかなあ」



女剣士「私を支えてくれた勇者の剣……」

女剣士「お前の切れ味をあの馬鹿でかい糞に使うのは申し訳ないが」

女剣士「頼むぞ!」


魔法使いはゆっくりと目を開き、超級爆裂魔法を唱えた

女剣士「あれにあわせるぞ!」

犬たち「わおん!」

女剣士「犬もきたー!」


女剣士「放て!」

巨大な光球に押しつぶされていく破壊神を、虹色の巨大な閃光が貫き……






破壊の神は、潰えていった…………

…………

トンテンカンカンカンカン……

大工頭「そっちだー」

ヤマナミ大工「へ~い」

たくさんの大工たちが、忙しそうに砦を修復していく

僧侶「お茶ですよ~!」

大工A「ありがてえ」

大工B「体が冷えてきたところでさ!」

大工C「仕事足りないんじゃねえの?」

大工D「ちげえねえ」

犬たち「わん!わん!」

青い空に大工たちの笑い声が響く


…………

女剣士「じゃあ、盗賊くんは今日からオリファン町長の権限を持って、騎士に任命する」


盗賊改め騎士「ありがとうございます」

魔法使い「おめでとう、盗賊くん」チュッ

女剣士「いちゃいちゃすんな!」

魔法使い「なによ、女剣士もヤマナミ王と付き合ったら良かったのに」

魔法使い「告白されたんでしょ?」


女剣士「……私さ、忙しいのになれちゃって」

女剣士「なんつーの? またみんなでワイワイ城塞造りしたいなってさ」

魔法使い「適応力高すぎ」

女剣士「お前が長いこと寝てたのが悪い」

魔法使い「関係ないって!」

騎士「魔法使いさんはまだ研究を?」

魔法使い「なかなか光の力について納得の行く結論が出なくてね」

騎士「……ん~」


騎士「光の力って、キモチの力なんじゃないですかね?」

魔法使い「!」

騎士「そもそも勇者って、勇気があるから勇者なんでしょう?」

騎士「光の力って言うのはそう言うキモチ」

騎士「生きたいってキモチ」

騎士「守りたいってキモチ」

騎士「共に居たいってキモチ」

騎士「そう言う人類の生存に前向きな心の力こそ、光の力」



魔法使い「だから強い光は人に伝わって」

魔法使い「だから強い光は人を強くする」

魔法使い「暴虐を振るう破壊神や、闇の衣も打ち破る……」


魔法使い「それが、光の力」

騎士「素敵ですね!」

魔法使い「それは私たちに初めから備わっていた力なんだね」


騎士「ボクにとっての光は魔法使いさんです」

騎士「だから無理はいけませんよ!」



商人「いちゃいちゃしない!」

騎士「商人くん」

騎士「ラストバトルに参加できなかったから拗ねてるの?」

商人「いーや、最初から分かってましたよ」



商人「盗賊くんに先を越されて悔しいだけです」

女剣士「……ところで、魔王はどこに?」

…………

魔王の城、隠し資料室

土の王「どこだ、どこにある!」

土の王「必ず破壊神復活の方法があるはずだ!」

土の王「何度か歴史に現れているのだ!」

魔王「そんなもの、ここにはない」

土の王「!」

魔王「貴様のことだ、闇が散れば復活する儀式くらいしてるとは思ったが……」

土の王「何のようだ!裏切り者め!」

魔王「そもそも魔王とは破壊神に立ち向かう存在だ」

魔王「貴様らとは違うんだ」

土の王「馬鹿なことを!」

魔王「俺が貴様を探していたのはだな、闇の力と一緒に貴様を」

魔王「封印するためだ」

土の王「なんだと?」

魔王「封印魔法の欠点はようするに魔力吸収とシンボル保全を両立できなかったことにある」

魔王「そこで、闇の衣だ」

魔王「闇の衣は完全なバリアにして、魔力吸収装置」


魔王「莫大な闇の力と、闇の衣を作る、この『魔王の心臓』」


魔王「貴様にくれてやる」


土の王「い、嫌だあああああっ!!」


魔王は、土の王を封印した……


魔王「……これで俺もただの魔物だ」

側近「まだお仕事は残っておりますぞ」

魔王「……ああ」

非常に中途半端とは思いますが、今回はこれで終了です

携帯のメモ帳が50しかないのが悪いので携帯会社に文句をいってくださると有り難い!

次回、目指せ!城塞都市!最終回となります、エピローグです

あんまりにも長かったのでもしかしたら皆さんに見せ損なったエピソード等があるかも知れません

でも今後もこの実験は続けていきますので、ご一緒に検証をお願いしますね!

では、最終回をお待ちください

更新します

終わったら色々質問したり教えてくれたら嬉しいです

――エピローグ――

――春の月――


女剣士「町の民家もいくらか建ってきたな」

魔法使い「あれだけの戦争をしたのに、物好きね」



僧侶「魔法使いちゃん喋り方変わった」


魔法使い「ん、そうかな?」

魔法使い「ヒャッハー!」


女剣士「そう言う意味じゃないだろ」


僧侶「なんだか幸せそうだし!」


女剣士「私以外に生きる理由が出来たんだろ」


魔法使い「まあそれよりさ、勇者祭りの計画なんだけど……」

女剣士「ああ、もう商人がお祭りのノウハウを作っちゃったからさ」

僧侶「また色々やりたいな~」

女剣士「だよな、次は東の森開拓でもやろうか?」

魔法使い「もはやズタズタで森も南にしか無いけど」


魔法使い「とりあえず私が目覚めて最初のお祭りなんだから、目一杯楽しみたいな!」

僧侶「さんせいっ!」

女剣士「そうだ、魔法使いと僧侶と屋台巡りしたかったんだよ」

魔法使い「今回は商人くんに甘えちゃおうかな?」


商人「ええ、結構ですよ」

商人「なぜか最近メイド長さんがよく手伝ってくださるんで、正直僕もそんなにすることがないんですよ」

女剣士「あんまりいちゃいちゃするようなら雷神剣一発入れとくか」

魔法使い「どこの鬼畜よ」

僧侶「まだまだいっぱい書類仕事は残っているのだっ」

女剣士「もぉ、判子押すだけだろ?」

魔法使い「まあ私と賢者君でだいたい目を通してるからね」

僧侶「はい、判子お願いしますっ」

女剣士「ん~? なになに……」

女剣士「なんで僧侶のおやつの領収書があんの?」

僧侶「」

僧侶「それはミスっ!」

魔法使い「あはは、今度私がおごってあげるよ」

ヤマナミ王「はろ~」

魔法使い「変わったと言えばこの人でしょ」

僧侶「タイガン王子さんに見習ってるらしいよっ」

女剣士「明らかに師を誤ってるでしょ、それ」

ヤマナミ王「まあまあ、今回そのタイガン王子がタイガン王位即位式やるからさ」

ヤマナミ王「皆に招待状持ってきたんだよ~」

女剣士「お、いよいよか」


魔法使い「タイガン王は残念だったわ……」

僧侶「うん……」

ヤマナミ王「まあそれはそれ、これはおめでたい席だからさ、楽しんでよ」

女剣士「もうすぐうちの勇者祭りもありますから、遊びに来てください」

ヤマナミ王「うん、メイド長ちゃんがイカ焼きが美味かったって毎日主張してたから連れてくるよ」


魔法使い「んで、女剣士と進展はあるの?」

ヤマナミ王「ぐう……」

魔法使い「寝るな」

女剣士「まあ全く無いんだけど」

魔法使い「鬼畜なフラグブレーカー現る」

僧侶「この子がお嫁に行けるか心配ですっ」

賢者「ただいま帰りました」

僧侶「お帰りなさいっ」

僧侶「ご飯にしますか?」

賢者「ああ、もうお昼ですね」


魔法使い「よし、私が有り難い飯を作ります」

女剣士「十人前ほど余分に頼む、大工頭たちも呼んであるんだ」

魔法使い「久しぶりの大人数、結構厳しいミッションですな」

僧侶「みんなでつくろっ」

女剣士「それはいいな」

魔法使い「シチューとかは時間がかかるし……混ぜご飯にしようかな」

僧侶「ご飯あるよ」

魔法使い「じゃあそれを中心に鍋物とか焼き物を作るかな……」

ヤマナミ王「いただきます」

魔法使い「食ってくの?」

魔法使い「いや、歓迎だけど」

女剣士「よし、腕を振るうか!」


僧侶「……魔王くんも帰ってこないかな」

ヤマナミ王「魔王くん……じゃなくてコトー王くんは先日うちに来ていたよ」

魔法使い「今は何をしてるって?」

ヤマナミ王「国造りしてるってさ」


ヤマナミ王「よっぽど君らのが楽しそうだったのかな」


ヤマナミ王「あと、闇の封印石なるアイテムの管理と」

ヤマナミ王「三国同盟の申し込みがあった」

魔法使い「!」


僧侶「ホントに封印完成したんだね……、なんか悔しいなあ」

ヤマナミ王「いや、あれは彼にしか作れなかったんだよ」

ヤマナミ王「自分の体から闇の衣を剥いで結界に使ったんだって」

僧侶「!」

僧侶「そっか、それがあったんだ」ブツブツ


魔法使い「僧侶ちゃんは意外に研究者肌だねえ」

賢者「天才ってこういう人なんでしょうね」

女剣士「これにずいぶん助けられてきたんだな」

魔法使い「閃きもすごいけど知識も幅広い」


僧侶「んもう、ほめるの禁止っ///」

僧侶「でももう闇の衣ないんだね」

魔法使い「まあ仮にも魔王だから大丈夫なんでしょ」


女剣士「生きていればまた会えるさ」

ヤマナミ王「まあ三国同盟作るんだから我々も守るしね」


魔法使い「……問題も起こる」

ヤマナミ王「まあな」


魔法使い「よし、飛びっきり美味い魚食わせる、待ってて!」

ヤマナミ王「楽しみだ」

賢者「楽しみですね」

メイド長「終わった終わった~、いか~いかやき~」

商人「お腹空きましたね」

メイド長「兄ちゃん城を空にするなよ」

ヤマナミ王「大丈夫だよ、今の大臣は身内なんだから」

メイド長「甘えすぎ」

賢者「いいじゃないですか、そのお陰で私もあなたに会えますし」

メイド長「ん///」


ヤマナミ王「いちゃいちゃ禁止令だそっかな」

メイド長「ウチが暴動起こすわ」


賢者「魔王くんも優秀な側近さんがいるんだから帰ってきたらいいのになあ」

メイド長「なんかあるの?」

賢者「彼を待ってる人もいるでしょう」

メイド長「まあかなり頑張り屋でいい男だしねえ」

賢者「灼けますね」ハハッ

ヤマナミ王「早速浮気だな」ハハッ

メイド長「ウチで遊ぶなと///」

商人「僕も誰かいい人いないかなあ」

メイド長「商人くんもいい男じゃない、誰か紹介しようか?」

ヤマナミ王「ああ、メイドに彼くらいの年の可愛い子いたな、派遣するか」

メイド長「さっそく呼んでくるかな」

賢者「いつも行動速いですねえ」

メイド長「ウチはスパイもやってるわけで、なんでも速くないとね」

商人「戦闘はパワータイプなのに」

メイド長「あの祭りまたやってよ~、リベンジしたい」

ヤマナミ王「僕も今度は呼んでよ? 参加はしないけど」

商人「それは箔がつきますからこちらからお願いしたいくらいです」


商人「あ、ヤマナミ商人さんにはすごくお世話になってます、先日竜の骨や肉をいただきました」

賢者「有り難いことですが、魔物については乱獲や虐殺を禁止する法律を作って規制はしてください」

ヤマナミ王「ん、同盟の件もあって魔物を追い詰めるようなあらゆる行為は禁止される」

賢者「それはいいですね」

ヤマナミ王「同時に破壊神信仰については厳しく監視される法律も作った」

メイド長「まあ当然か、今は破壊神の傷跡も癒えきってないし」


賢者「ここの皆さんは何回でもぶっ倒すって言いそうですけど」

ヤマナミ王「女剣士ちゃんたちなら余裕かもね~」

商人「あ、いい香り」

メイド長「ウチも手伝ってくるわ」

賢者「そうですね」

商人「配膳やります」

賢者「そうですね、やりましょう」

ヤマナミ王「たまにはいいね」

賢者「陛下も?」

ヤマナミ王「ここにいる時は陛下はやめてよ~」

賢者「まあたまにはいいですかね」

ヤマナミ王「君も柔らかくなったねぇ」


娘主「美味い飯の匂いがする」

眼帯「腹減ったな」

大工たち「お招きありがとう、僧侶ちゃ~ん!」

僧侶「はいはい~」パタパタ

僧侶「あ、みんないらっしゃいっ!」

女剣士「できたのから運んで~」

ヤマナミ王「よしきた!」

女剣士「え、王は座っててくださいよ」

ヤマナミ王「たまに動かないと太っちゃうよ」

女剣士「それは可愛くないので、じゃあ頼みます」

賢者(結構仲良いですね)

僧侶(だねっ!)

騎士「ただいま、お腹へった」

僧侶「お帰りーっ!」

魔法使い「あ、お帰りっ」

騎士「ただいま!」チュッ

女剣士「ヤマナミ王、いちゃいちゃ禁止令を」

ヤマナミ王「妹が暴れちゃう」


魔法使い「あんたたちもいちゃいちゃすればいいのに」

商人「僕がキレます」

大工たち「俺たちには僧侶ちゃんがいるぜっ」

商人「そうですね!」

賢者(ん~、彼女にも待ち人がいるんですけどね)

メイド長(やっぱりね)

賢者(あ、バレちゃった)

メイド長(内緒になってないから)

賢者(お見逸れしました)

メイド長「ちょっと失礼」

賢者(?)

賢者(あれ、どこに行くんです?)

女剣士「ごはんは?」

メイド長「一人分追加で」

女剣士「は?」

メイド長「帰還魔法」シュン


シュン

メイド長「ただいま」

メイド娘「はっ!?ここはっ!?」

メイド娘「メイド長さまが現れたと思ったらっ」

メイド娘「メイド長さまっ、ここはどちらですか?」

商人「オリファンにようこそっ!」


女剣士「行動速すぎるだろ……」

魔法使い「もともとメイド長ちゃんは行動派」

女剣士「商人もな」

僧侶「手が足りなくて困ってたのっ」

僧侶「お願いしますっ」

メイド娘「あ、はいっ」

メイド長「あんたが良かったらこっちで働いて欲しい、給金は今まで通り」

メイド娘「でも……私は尊敬するメイド長さまの下で働きたいのですが……」

メイド長「今ウチはほぼこっちに居るし」

賢者「確かに」

メイド娘「で、ではお手伝いしますっ」

メイド長「……」ニヤリ

賢者(……本当に策略家なんだから……今のメイド長さんの仕事は商人君の補佐じゃないですか)

商人「で、ではよろしくお願いしますっ」

メイド娘「あっ、はいっ、こちらこそっ」

賢者(しかもちょっと僧侶さんに似てる娘を選ぶ辺りが抜かりない)

メイド長(自分以外のこういった話は大好物ですから!)

賢者(でしょうねー)


魔法使い「楽しくなりそうね」

その後、皆で食卓を囲み、楽しい会話がかわされた


そのまま破壊神討伐記念パーティーのようになってしまい、激務に追われる新タイガン王をヤマナミ王が引っ張ってきて一緒に飲み始めたりした


楽しい空気の中、僧侶はふ、と寂しさを感じる



犬兄「ワンワン!」

僧侶「あ、犬ちゃん、今は入ってきたら駄目だよ」

犬兄「ワンッワン!」

僧侶「んもー、いつも言うこと良く聞くのに……」


僧侶は仕方なく犬と外に出た
















魔王「おわっ、なんだ犬どもっ」ドサッ

犬弟「くうん」ペロペロ

魔王「あははっ、仕方ないなこいつぅ!」

犬妹「ワンワン!」ペロペロ

魔王「可愛い奴らめっ!」アハハッ



僧侶「ま、魔王くん?」



魔王「あ、ただいま~、僧侶ちゃん!」



僧侶はニッコリ笑って答えた


僧侶「うん、……おかえりっ!」





――おしまいっ――

乙乙!
素晴らしいと思う!あと、リア充は爆発しやがれ。

終わりました

たぶん終わりました

消化不良だったらすみません

色々感想とか質問して下さいお願いしますっ


派生のお話とかも考えて無くは無いですが、次は別ジャンルのオリジナルで行きたいです

とにかく魔法使いが勝手にヒャッハーしてくれたので終われました

ありがとう魔法使い!


なんか次の話のご要望とかあればご遠慮なくっ!

拙いですが頑張ります、楽しかったので!

>>278
完全に同意

次はオリジナルで行くつもりですが、これの続編を三本思いついたので同時に行くかも知れません

日曜の夜にこちらのスレはHTML化依頼を出しますので、それまでに質問等あればお願いします

>>281-282
レスありがとうございます!

勇者って存在は物語作りでは案外邪魔なんですよね……

これからも勇者を迫害し続ける予定ですw

これからいかやきのコテで頑張ります!

美味しいよね!

ではでは。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom