穂乃果「これがラブライブの選択だよ」 (287)


*プロローグ
*ことりのお部屋


海未「シュタインズ・ゲート……。なんと素晴らしいお話なのでしょう……」

穂乃果「……面白かったけど、穂乃果はとりあえず眠いよぅ」

ことり「夏休みだけど、全話連続マラソンはちょっと辛かったね……」

海未「そうです! 電話レンジ(仮)を作りましょう!」

穂乃果「……海未ちゃんさぁ。今シュタゲを最終回まで見たのに、その発想はないんじゃないかな?」

ことり「あはは……。実は電話レンジ(仮)はもう作ってあるんだ」←連続マラソンの首謀者

海未「流石はことりです! 早速実験をしましょう!」

穂乃果「……何にも起きないと思うけどね」

ことり「うん! もう準備はできているよ♪」ジャーン

穂乃果(部屋の隅に意味ありげに布がかかっているなぁとは思っていたけど、まさかの電話レンジだよ!?)

海未「ことり完璧です! さて、どんなメールを送りましょうか……」

穂乃果「え? 本気でやるの?」

ことり「実はことり一人で実験するのが怖かったから、シュタインズ・ゲートを皆で観たんだぁ」

穂乃果(あれ? 私だけがおかしいパターンなの? 過去改変駄目絶対だよね?)



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穂乃果「海未ちゃんは何で過去を変えたいと思うのさ?」

海未「……私には姉が一人居るはずでした」

穂乃果(あれ? 思ったよりもシリアスっぽい? と言うかお姉さん居たっけ?)

海未「穂乃果も初耳だと思います。……つまりは私たちが産まれる前の話です」

穂乃果「……そっか」

穂乃果(こんな機会でもなければ、海未ちゃんはずっと黙っていたんだと思う)

ことり「……ことりは、ただの好奇心だったとは言い辛い雰囲気だよ……」ボソリ

穂乃果(ことりちゃん……。もっとしっかりしようよ?)

海未「では実験を開始します!」

ことり「電話レンジ(仮)準備オッケーです♪」

穂乃果「展開が早いよ!? 気持ちの切り替えも一瞬だよ!?」

海未「エルプサイ、コングルゥ!」ポチッ

穂乃果「え……?」グニャー


*0.3215478



*第1章『模倣品のシュタインズゲート』


穂乃果「はっ!?」

海未「あ、穂乃果が目を覚ましましたね」

穂乃果(あれ……?)

海未「それにしてもシュタインズ・ゲート……。なんと素晴らしいお話なのでしょう……。徹夜をした甲斐がありました」

ことり「そう言ってもらえると嬉しいな♪ でも、夏休みだけど、流石に全話連続マラソンはちょっと辛かったね……」

海未「そうで──」

穂乃果「待った! 海未ちゃん!」

海未「穂乃果、いきなり大声を出してどうしたのですか?」

穂乃果「もしかして……電話レンジ(仮)を作ろうって言おうとした?」

海未「流石、穂乃果! 私の思考を読むとは!」

穂乃果「それで、ことりちゃんがすでに電話レンジ(仮)を作っていたりして」

ことり「えぇ!? どうして分かったの?」

穂乃果「ついでに海未ちゃんが過去改変したい理由がお姉さんを救いたいから?」

海未「いえ。一番くじのA賞が欲しかったからです」

穂乃果「どうでも良い理由に改編されちゃっているよ!?」



コンコン

ことり「はーい、どうぞ」

希「こんにちは。ことりちゃん、穂乃果ちゃん」

穂乃果「あれ? 希ちゃんが来たよ?」

穂乃果(これってもしかして過去が変わっている!? 来る予定なかったよね?)

希「海未。ことりちゃんに借りた漫画ってこれで良かったん?」ゴルゴ13

海未「はい、それです。すみません、希ねぇ」

穂乃果「希ねぇ!?」

希「おっ! 穂乃果ちゃん、遂にウチの妹になってくれるん?」

穂乃果「の、希ちゃんは東條希ちゃん、だよね……?」

海未「おや? 穂乃果は父方の苗字を知っていたのですか?」

穂乃果「待って! ちょっと整理させて!」

海未「はぁ」

穂乃果(シュタゲ見て、電話レンジ使って、希ねぇ……)

ことり「穂乃果ちゃん、もしかしてリーディングシュタイナー?」

穂乃果「それだぁ!」



海未「ふむ。つまり穂乃果は別の世界線から来た存在だと?」

穂乃果「うん。どういうわけか分からないけど、と言うか、電話レンジ成功しているんだけど! 私は、希ちゃんが東條希ちゃんの世界から来たらしいの……」

希「事実は小説よりも奇なり、やね」

ことり「でも、過去を変えても他人がお姉さんに変わるのかな?」

穂乃果「そこがおかしいんだよね。でも、海未ちゃんと希ちゃんに血縁関係があるって聞いたことはないしなぁ」

海未「希ねぇが他人ですか……。とても信じられません」

穂乃果「私は逆の気持ちだよ。あ、とりあえず、穂乃果が別の世界線から来たことは信じてもらっていると思っても良いの?」

海未「シュタゲを観た後ですので信じます。……希ねぇの件は気にかかりますが」

ことり「ことりはそもそも電話レンジ(仮)が成功して欲しかったから、信じるよ!」

希「穂乃果ちゃんのことはいつでもオールオッケーやで!」

穂乃果「希ちゃんはそれで良いんだ……。とりあえず、元の世界の海未ちゃんはどんなメールを送ったんだろう?」

海未「穂乃果は文面を見ていないのですか? ちなみに、私にメールは届いていませんよ」

穂乃果「海未ちゃんが勝手に始めちゃったんだよ! 誰に送ったのかも謎だよ!」

希「海未は困ったさんやね」

海未「別の自分とは言え、面目ないです」



穂乃果「やっぱり海未ちゃんと希ちゃんが姉妹だって言うのが、凄い違和感だね……」

海未「私としては自然なのですが」

希「ウチも」

ことり「あ、そうだ。海未ちゃんたちのお母さんかお父さんに、変なメールを昔送られていないか聞いてみたらどうかな?」

穂乃果「それが現実的なところだよね」

海未「母は家に居るはずですので、早速聞いてみましょう」プルルル

海未「あ、母ですか? 希ねぇが産まれる前に変なメールを受け取っていませんでしたか?」

穂乃果「え? 海未ちゃん、お母さんのこと母って呼んでいるの!?」

希「おや? 穂乃果ちゃんの居たところでは違う呼び方なん?」

穂乃果「確かお母さまって呼んでいたよ?」

希「家柄的にはありそうな呼び方やね」

ことり「海未ちゃんらしい感じかも」

海未「ええ、分かりました。……母には覚えがないとのことです」ピッ

希「となるとお父さんやね」

海未「ふむ、父ですか。いや、ないですね」

希「……せやね」



穂乃果「え? なんで?」

海未「父は重度の機械音痴なのです」

希「らくらくフォンすら使えんもんね」

穂乃果「そんなに重症なんだ……」

ことり「それじゃあ、メールは無理かな?」

海未「十中八九無理でしょう」

穂乃果「そうなると、他には誰が居るのかな?」

希「海未が知っているアドレスで、ウチが産まれる前の知り合い、ねぇ……」

海未「あ! ことりのお母さま、理事長が居ました!」

穂乃果「え? なんでことりちゃんのお母さんのアドレス知ってるの?」

海未「メル友です」

ことり「娘に衝撃の事実!?」

希「たまに二人でショッピングしとるよね?」

穂乃果「なんでそんなに仲良いのさ!?」

海未「とりあえず、電話をしてみましょう。あ、こと母ですか?」プルルル

穂乃果「と言うか、この家に居るよ! なんで電話するの!?」



バタン

理事長「こと母です」

ことり「あ、お母さんだ」

海未「さっきぶりです。希ねぇが産まれる前に変なメールが届きませんでしたか?」

理事長「そうねぇ……。言われてみれば、海未っちのお母さんが事故に巻き込まれるから一緒に居て欲しい、という差出人不明のメールがあったような気がするわ」

穂乃果「海未っち!?」

ことり「穂乃果ちゃん、そこじゃないよ。……え、海未っち!?」

海未「ビンゴですね!」

希「相変わらず海未と理事長は仲が良いね」

穂乃果「あ、海未っちは流す方向なんだね」

海未「しかし、そのメールをなかったことにするのですか……」チラッ

希「海未。自分がした後始末はちゃんとせえへんと駄目やで」

穂乃果「え? 希ちゃん、良いの?」

希「うーん、正直良く分からんよ。でも、そのメールがなかったとしても、ウチは海未の先輩になるだけやん? それも面白そうやね」

ことり「流石希ちゃん、だね」

穂乃果(本当に良いのかな? と言うか今気付いたけど、なんで希ちゃん園田家なのに関西弁なんだろう?)

海未「ではメールを送ります!」

希「ウチはそれを見ています!」

ことり「電話レンジ(仮)準備オッケーだよ!」

穂乃果「だから! 行動が早過ぎるの!」グニャー


*0.70897275



穂乃果「はっ!?」

にこ「海未ちゃん。自分が行ったことの後始末は自分でやるのよ?」

海未「はい、ニコ姉さん」

穂乃果「ニコ姉さん!?」

海未「どうしました、穂乃果? また違う世界線から来ましたか?」

穂乃果「それだよ!」

ことり「え? 電話レンジ(仮)は使っちゃ駄目なの?」

穂乃果「駄目! とりあえず説明するね──」

海未「ふむ。ニコ姉さんが居ない世界は想像できませんね」

にこ「ニコも海未ちゃんが妹でない世界なんて信じられないわ!」

穂乃果「と言うか、なんで希ちゃんからニコちゃんに変わっているの!?」

にこ「え? 希が海未ちゃんの姉? ふん! ギタギタにしてやるわ!」

海未「ニコ姉さん」キュン

穂乃果「あれ? ニコちゃんもしかして姉バカになってる?」

にこ「失礼な穂乃果ねぇ。海未ちゃんより可愛いものなんてないわよ!」

海未「ニコ姉さん!」キュン

穂乃果「姉バカだよ!?」



ことり「本当はお姉さんが居ないのに、希ちゃんがお姉さんになって、今度はニコちゃんがお姉さんかぁ……」

穂乃果「穂乃果も正直イミワカンナイです」

にこ「その前にあんたって希と仲良かったっけ?」

穂乃果「同じμ'sの仲間だよ!?」



海未「穂乃果、ミューズとはなんですか? 石鹸ですか?」

穂乃果「……え?」



ことり「家のハンドソープもミューズだよ♪」

穂乃果「ちょっと待って! μ'sだよ!? スクールアイドルだよ!?」

にこ「スクールアイドル? なにそれ?」

穂乃果「ニコちゃんがスクールアイドルを知らない!?」サーッ

穂乃果(待って待って!! どうなっているの!? μ'sがない!? スクールアイドルがない!? いつから? 希ちゃんの時から? それとも今だけ?)

海未「……穂乃果、顔色が優れません。ひとまず休んだらどうでしょう?」

ことり「ことりのベッドを使って」

穂乃果「……うん」フラフラ

にこ「これは相当重症ね……。ほら、横になりなさい」

穂乃果(……何が……どうなっている、の……?)



海未「さて、穂乃果には休んでもらって、とりあえず私たちで考えてみましょう」

にこ「そうね。どうやらニコも当事者のようだし」

ことり「そもそもことりが過去改変をしようとしたから……」

海未「いえ、私が考えなしにメールを送ったからです」

にこ「海未ちゃん……」

海未「さて、一つ一つ整理していきましょう。とりあえずミューズとは何でしょうか?」

ことり「スクールアイドルって穂乃果ちゃんは言っていたよね?」

にこ「スクールアイドルねぇ……。テレビのアイドルの学生版?」

穂乃果「……うん、そうだよ」

海未「穂乃果は休んでいてください」

穂乃果「……そうもいかないよ。横になりながらだけど、分からないことは答えるから」

にこ「それじゃあ遠慮なく、学生のアイドルって流行か何かなの?」

穂乃果「うん。凄い流行っていて、有名なスクールアイドルが居る学校になると、受験が凄い倍率になるんだよ」

にこ「へぇ。うちの学校の廃校も防げるかもしれないわね」

穂乃果「え? 廃校の予定なの!?」

海未「残念ながら、その予定です」



穂乃果「……そっか、スクールアイドルがなければそうなるよね……」

ことり「と言うことは穂乃果ちゃんがスクールアイドルになって、廃校を救うの?」

穂乃果「私だけじゃないよ。今ここに居る全員もメンバーだし、絵里ちゃん、希ちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃんで九人、それがμ'sだよ」

にこ「あの絵里が!?」

海未「凛、ですか。陸上で活躍していた子ですかね?」

ことり「真姫ちゃんはお店のお得意さんだね。あっ、言ちゃった!」

穂乃果「え? 真姫ちゃん、メイド喫茶に通っているの!?」

ことり「え!? 穂乃果ちゃん、私のバイトのこと知っているの!?」

穂乃果「ミナリンスキーさん、その通りだよ。それよりも真姫ちゃんが何で!?」

ことり「メイド喫茶に居ると勉強がはかどるらしいよ?」

穂乃果(絶対嘘だ!)

にこ「もしかして、あの堅物絵里もメイド喫茶に!?」

穂乃果「絵里ちゃんとメイド喫茶は関係ないよ。絵里ちゃん、こっちでは堅物なの?」

にこ「融通の利かない頭でっかちの生徒会長よ」

穂乃果「私が知っている絵里ちゃんはぽんこつチカって呼ばれているよ?」

にこ「何それ!? 凄い見たいわ!」



海未「あとは花陽と言う人物ですか」

穂乃果「アルパカさんのお世話をたまにしているよ」

ことり「あ、眼鏡の子かな?」

穂乃果「うん。ごはんが好きな花陽ちゃん。ちなみに、アイドルになると眼鏡を外すよ」

海未「なるほど。そう言えばスクールアイドルとはどんな活動をするのですか?」

穂乃果「ライブとかするよ。あと、スクールアイドルの頂点を競うラブライブも行われるよ」

にこ「え? ラブライブ!?」

穂乃果「ニコちゃん、ラブライブは知っているの?」

にこ「知っていると言うか、絵里がたまに独り言で『これがラブライブの選択ね』とか言っているのよ」

ことり「あ、『シュタインズ・ゲートの選択だ』だね」

穂乃果「……絵里ちゃん、限りなく黒。穂乃果の携帯に絵里ちゃんのアドレス入っていないかなぁ……って入ってた!?」ムクリ!

にこ「あんたと絵里って接点あったかしら?」

ことり「この間、次期生徒会長に穂乃果ちゃん誘われていたよ。あと起き上がっても大丈夫なの?」

穂乃果「え? そうなの? 我ながら絵里ちゃんに言われたらやっちゃいそうで怖いね。あと、大丈夫だよ。手がかりにようやく辿り着いたんだから寝ていられないよ!」プルルル



絵里『あら? 穂乃果じゃない?』

穂乃果「あ、絵里ちゃん? と言うか、私と絵里ちゃんって知り合いで合ってる?」

絵里『もう、μ'sの仲間なんだから当たり前じゃない』

穂乃果「絵里ちゃん、記憶あるの!?」

絵里『リーディング・シュタイナーね。どうやら、私と穂乃果しか世界線の移動は感知できないらしいわ』

穂乃果「そんなことまで知っているんだ……。海未ちゃんのお姉さんが居ないのが元の世界線で、次が希ちゃん、今はニコちゃんが海未ちゃんのお姉さんで合ってる?」

絵里『え? そんなハラショーなことが起きているの!?』

穂乃果「それは知らないんだ」

絵里『そうね。でも、希の時は穂乃果から一ヶ月ほど前にメールが届いていて、『これがラブライブの選択ね』と適当に言うよう書かれていたわ』

穂乃果「え? 私知らないよ」

絵里『となるとさらに未来からのメールかしら?』

穂乃果「待って! そうなると、絵里ちゃんがシュタゲ関連の言葉を知ったのはいつなの?」

絵里『ニコの時。つまり今の世界線。時間的には昨日ね』

穂乃果「……なんだか頭がこんがらがってきたよ。と言うか絵里ちゃんの理解力が凄い!」

絵里『穂乃果は今どこに居るの? 直接会って話した方が良さそうね』

穂乃果「ことりちゃんのお家だよ」

絵里『分かったわ。今から向かうわ』ピッ

穂乃果「電話切られた……」ツーツー



穂乃果「そんなわけで、もう少ししたら絵里ちゃんが来るから」

にこ「ぽんこつチカ、楽しみね」ニヒヒ

海未「ニコ姉さん、悪い顔をしています」

ことり「元の世界だとことりも絢瀬先輩と仲が良いんだ……」

穂乃果「とりあえず、絵里ちゃんが来るまでの間、話を整理してみるね」

海未「お願いします」

穂乃果「私と絵里ちゃんは二度世界線を移動しているんだけど、何故か一度目の時には絵里ちゃんに私からのメールが届いていたんだ」

ことり「二度目、今回は?」

穂乃果「シュタゲ関係の話を多分メールで送っているのかな?」

ことり「うーん、でも私たちが徹夜マラソンする内容の話なのに、メールだけでそこまで分かるのかな?」

穂乃果「言われてみればそうだね。……しまった。ことりちゃんのお母さんの時に詳細なメールの内容を聞いておけば良かったよ」

ことり「そっか。シュタゲの設定と違う可能性もあるもんね」

海未「いずれにしても、穂乃果が今よりも未来からメールを送ることにはなるようですね」

穂乃果「つまり、この二度目の世界線移動だけじゃ終わらないんだね……」

海未「シュタゲ通りの展開が待っているのでしょうか?」

穂乃果「最初の自分を騙せ、か……」

穂乃果(私にとっての最初って──)

にこ「一つ疑問なんだけど、なんで絵里は一度目の時に過去のメールなんて見ていたのかしら? 二度目なら分かるけど、穂乃果の話だと前の世界の記憶のままなんでしょう?」

穂乃果「あ、うん、確かにそうだね。とりあえず絵里ちゃん待ちかな? と言うか、この世界の海未ちゃんは一度メールを送っているわけだから、それを教えてもら──」グニャー


*0.15353309



穂乃果「え? も、もしかして、また世界線が変わった!? どうして!? 電話レンジは使っていないよ!」

海未「お姉さま? どうかしましたか?」

穂乃果「お姉さま? 今度は誰が海未ちゃんのお姉さんなの? そろそろ慣れてきている自分が居るね……」

ことり「? 海未ちゃんのお姉さんは穂乃果ちゃんだよ?」

穂乃果「は?」

海未「お姉さま……ひどいです……」

穂乃果「ちょっと待って! お姉さまって、私と海未ちゃんは同い年でしょ?」

ことり「穂乃果ちゃんと海未ちゃんは双子だよ?」

穂乃果(ご丁寧に誕生日まで変わっているし!?)

穂乃果「海未ちゃんでもことりちゃんでも良いけど、電話レンジ(仮)でさっきどんなメールを送ったか教えてもらっても良い?」

ことり「電話レンジ(仮)?」

海未「お姉さま。(仮)の部分は意味があるのでしょうか?」

穂乃果「え? 電話レンジないの!? シュタゲは!?」

ことり「しゅたげ? ごめんね、穂乃果ちゃん。よく分からないの」

穂乃果(あれ? ことりちゃん、アニメに詳しいよね? シュタゲを知らない? もしかして……いやいや、変なことは考えちゃ駄目だ……)

穂乃果「そうだ! 絵里ちゃんに連絡を……アドレスなくなっているし!?」



海未「お姉さま。絵里ちゃんとはどなたですか?」

穂乃果「な、何を言っているの……? 生徒会長の絢瀬絵里ちゃんだよ!?」

ことり「生徒会長は東條先輩だよね? 絢瀬先輩なんて居たかな……?」

穂乃果(え? 皆、何を言っているの……? 電話レンジは、ない。シュタゲ自体もないかもしれない……その上、絵里ちゃんも存在しない……?)



穂乃果(もしかして私……完全に詰んでしまったの!?)



       第1章『模倣品のシュタインズゲート』終



*第2章『孤立無援のクラウン』


海未「お姉さま。本当に体調はよろしいのでしょうか?」

穂乃果「うん、大丈夫。元気元気!」

海未「それならよろしいのですが……」

穂乃果「それじゃあ、穂乃果は少し出かけてくるね」

海未「はい。いってらっしゃいませ」



穂乃果(謎の世界線移動のショックから翌日、ようやく私はある程度の現実を受け入れることができるようになっていた)

穂乃果(驚くべきことに私は、本当に海未ちゃんの双子の姉としてこの世界に存在しているようだった)

穂乃果(幸いにも次期園田家の家元は海未ちゃんが継いでくれることになっているようで、私は園田穂乃果という名前だけで性分は変わっていないらしい)

穂乃果(おかげで海未ちゃんの家族とも高坂穂乃果の時と同じ感覚で接することができていた。本来の世界線で勝手知ったる幼馴染だったことが本当に幸運だったと言える)



穂乃果(それよりも問題だったのは、海未ちゃんとことりちゃん二人ともがシュタゲも世界線移動も知らなかったため、混乱した私の言葉のせいで私自身の正気が疑われてしまっていた)

穂乃果(家から出る時に海未ちゃんから掛けられた言葉はそういう理由からだった)

穂乃果「はぁ……。それにしても参ったな……」

穂乃果(私の正気が疑われたと言うことは幼馴染、あ、今一人は妹か、に穂乃果の境遇を理解してもらうことができなかったこと)

穂乃果(しかも、絵里ちゃんの行方もしれない。つまり私への理解者はゼロ。孤立無援だった)

穂乃果「まぁ、正直一度絶望したけど、そこでくじけたら穂乃果じゃないよね」

雪穂「お姉ちゃんさ、独り言言ってると危ない人みたいだよ?」

穂乃果「雪穂、ひどい!」

穂乃果(考え事に集中していて、知らずに本来の我が家穂むらまで来てしまっていたようだった……って!?)

穂乃果「雪穂!?」

雪穂「うわ、大袈裟に驚かれちゃったよ」

穂乃果「お、お姉ちゃんだって分かるの、分かるの!? マイシスター!!」

雪穂「ゆ、揺らさないでよー!」ガクガクガクガク



穂乃果「なーんだ海未ちゃんの勘違いかぁ。やっぱり私は高坂穂乃果だよねぇー」

雪穂「いやいや、穂乃果ちゃんがしつこく私にお姉ちゃんって呼ぶように言ったじゃん?」

穂乃果「え?」

雪穂「まぁ、幼馴染だからお姉ちゃんって感覚は分からなくないけど、どっちかと言えば海未ちゃんの方がお姉ちゃんっぽいよね」

穂乃果「……雪穂。私の名前は?」

雪穂「なに? 変なものでも食べたの?」

穂乃果「ぷりーずまいねーむ?」

雪穂「穂乃果ちゃん」

穂乃果「フルネームで」

雪穂「園田穂乃果?」

穂乃果「……はぁ」ガックリ

穂乃果(うわぁ、堪えるわ。これ想像以上にくるね。なまじ期待しちゃったし)

雪穂「え? なんでそんなに落ち込んでるの?」

穂乃果「……色々あるんだよ、大人には」

雪穂「そんなに歳変わらないじゃん!?」

穂乃果「……それじゃあ、穂乃果は行くね」

雪穂「あ、うん。よく分からないけど元気だしなね?」

穂乃果(雪穂はこの世界線でも優しかった)



穂乃果「やっぱりここは園田穂乃果の世界線なのかぁ……」

穂乃果(言葉にすると改めてガックリくるね)

穂乃果「でも、まぁ、落ち込んでいる暇はないよね」ファイトダヨ!

穂乃果(そう言って、本来の目的地に私は向かう)

穂乃果(それはもちろん、絵里ちゃんの家だった)

穂乃果(海未ちゃんとことりちゃんが絵里ちゃんを知らないからと言って、絵里ちゃんが居ないとは限らない)

穂乃果(私が園田穂乃果なくらいなのだ。絵里ちゃんがUTXとか別の学校に通っている可能性だってあるはずなんだ)

穂乃果(でも、と少し弱気になる。一番怖い可能性、それは絵里ちゃんの家が存在しない場合)

穂乃果(だから、私は目をそらしながらそこへ近づいていく)

穂乃果(果たしてそこに絵里ちゃんの家は──あった)

穂乃果「はぁ……良かった」

穂乃果(どうやら最悪の可能性はなくなったようだった)



穂乃果(深呼吸する。そして、私はチャイムを鳴らす)ピンポーン

穂乃果「…………」

穂乃果(あれ?)ピンポーン

穂乃果「…………」

穂乃果(留守、なのかな?)

穂乃果(そう思い、嫌なことに気付いてしまう。私の記憶にある絵里ちゃんの家よりもなんと言うか荒れているのだ)

穂乃果(具体的に言えば、庭の草が伸びている。心なしか家自体が古びている。そう、何年も放置されたように……)

穂乃果「……そうくるかぁ……」

穂乃果(何なんだろう。雪穂の時と言い、期待させておいてその後に落とすなんて、神様はなんて意地悪なんだろう……)

穂乃果(参った。かなり参った)

穂乃果(いくら能天気で知られた穂乃果でもこれにはがっかりだよ……)



穂乃果「これからどうしようかな……」

穂乃果(とりあえずハンバーガー屋でドリンクを頼んで、これからのことを考えてみることにする)

穂乃果(本当は絵里ちゃんと会えることが理想だった。だけど、結果は散々だった)

穂乃果(μ'sは存在しない。絵里ちゃんも存在しない。何より最悪なのはシュタゲが存在しない。イコール電話レンジ(仮)だって存在しない)

穂乃果(穂乃果だって現代っ子だ。インターネットで調べるなんて一番初めに行っている)

穂乃果(本当どうしよう……)

穂乃果(あれ? でも、よくよく考えると困ることって……あ、廃校か)

穂乃果(でも、逆に考えればそれ以外は割と困らない気がする)

穂乃果(園田家で暮らすことも海未ちゃんが居るから心細くないし、廃校だって今からスクールアイドルを始めれば何とかなるかも? そう上手くはいかないかな。うーん)ブクブクブク

「穂乃果ちゃん。行儀悪いよ?」

穂乃果「え?」

穂乃果(なんで? μ'sはないんだよね? それなのに、それなのに!)

穂乃果「希ちゃん!?」

希「はい、東條希です。隣良いかな?」

穂乃果(そう言って、希ちゃんはいつもの優しい笑顔を見せた)



希「いやー、今日も暑いね? 穂乃果ちゃんも涼みに来てたの?」

穂乃果「うわーん、希ちゃーん」ダキッ

希「おぉっ! 穂乃果ちゃん、大胆や──大胆だね?」ヨシヨシ

穂乃果「うぅ……希ちゃんは穂乃果のこと分かるの?」

希「当たり前や──当り前よ? 去年剣道で全国優勝した我が校の有名人じゃない」

穂乃果(あれ……? この希ちゃん、どこか違う。あっ! それよりも!)

穂乃果「私、剣道で全国優勝したの!?」

希「……まぁ、暑いもんね。そんな日もあるかもね」

穂乃果「それに! 希ちゃん、似非関西弁じゃない!?」

希「おぉっと! なんでウチの過去知っとんの!?」

穂乃果(ああ、そっか。この希ちゃんは生徒会長として剣道で優勝したらしい私を知っているだけなんだ……)ガッカリ

穂乃果「たぶん、生徒会長だから似非関西弁を封印したんだろうなぁ……」

希「グサッ! せ、正解や……。あと、あんまり似非って言わんといて」

穂乃果(本当、今日は上げて落とすのが流行り過ぎているよ! もう!)プンプン



希「ちなみに関西弁を封印したのはこっちに来てからやよ?」

穂乃果「え? てっきり生徒会長の責任感とかそんな感じだと思ちゃったよ」

希「ついでに、こっちに来る前に穂乃果ちゃんと接点はないはずなんよ。少なくともウチの知る限り」

穂乃果「ほうほう」

希「つまり、スピリチュアルやね! お、数年ぶりに使ったん、この言葉」

穂乃果(穂乃果は聞き慣れているけどね)

希「で、穂乃果ちゃん。何があったん?」

穂乃果「え?」

希「ずばり! スピリチュアルなことに巻き込まれているんやない?」

穂乃果「凄い! 正解だよ!」

穂乃果(え? もしかして、これって期待して良いやつ? あ、でもなぁ、散々落とされたしなぁ……)

希「おっ、ウチのタロットが言っとる。穂乃果ちゃん、別の世界から来たんやない?」

穂乃果(タロットって凄い! 改めてそう思いました)

穂乃果「って冗談言っている場合じゃなくて、希ちゃん、それも分かるの!?」

希「ウチのタロットは当たるんやで? まぁ、正直ここまで突飛な答えは初めてやけど」



穂乃果「そ、それじゃあ、希ちゃんは私の話、信じてくれる?」

希「うーん、ウチもここまでのことは初めてやから信じ切れるかは分からんよ。でも、可能な限り受け入れたいとも思うん。だから、まず話を聞かせてくれへん?」

穂乃果(その言葉が希ちゃんの本音であることは、今までの付き合いで分かった。だから、私は自分に起きたことをなるべく分かりやすく語っていく)

穂乃果(だけど、気持ちが早まり希ちゃんが理解できるように話せたかは自信がなかった)

希「ウチがスクールアイドルで、穂乃果ちゃんが穂むらの娘さんかぁ……」

穂乃果「あと、私たちのグループの名前はμ'sって言って、希ちゃんがつけてくれて──」ポロポロポロ

希「ほ、穂乃果ちゃん、どうしたん!?」

穂乃果「え? あれ……?」

穂乃果(目から熱いものが流れて、目の前の希ちゃんがぼやけていく)

希「……大変やったんやね」ギュッ

穂乃果(優しく希ちゃんが抱きしめてくれる。……そっか、私は辛かったんだ。そして、嬉しいんだ……)



穂乃果「えへへ、恥ずかしいところ見られちゃったね」

希「良いんよ。ウチも泣きたくなる日くらいあるんやし」

穂乃果「その時は私が抱きしめてあげるよ」

希「あはは、そん時はお願いな」

穂乃果「……話の続きだけどね、さっき絵里ちゃんの家に行ったの」

希「ウチの親友の子やったっけ?」

穂乃果「うん、大親友。あと、絵里ちゃんが生徒会長で、希ちゃんが副会長なんだよ」

希「おぉ、そっちの世界にウチも行きたい。生徒会長って大変なんやもん」

穂乃果「そうなんだ」

希「せやで。生徒会の書類処理とか漫画の世界の話だと思ってたのに、ウチの学校やけに多いやもん」

穂乃果「あれ? もしかして、今日も学校から逃げてきたとか。流石にそんなことないか」

希「……ノーコメント」

穂乃果「えぇ!?」

希「さあ、穂乃果ちゃん、話の続き。続きをー!」

穂乃果(希ちゃん、無駄に必至だよ……)



穂乃果「……とりあえず、希ちゃんの事情は置いておくことにして、絵里ちゃんの家でチャイムを鳴らしたんだけど、誰も出なくて」

希「ふむふむ」

穂乃果「それで気付いちゃったんだ。やけに庭が荒れていて、建物も古くなっていて……だから、絵里ちゃんは絵里ちゃんの家に住んでなかったの……」

穂乃果(もう一度思い出すだけでも、落ち込んでくる)

希「ん? おかしくない?」

穂乃果「え? なにが?」

希「チャイム鳴らしたんよね?」

穂乃果「うん。だから、誰も出てこなかったし」

希「もし穂乃果ちゃんの言うように誰も住んでいないとしたら、それはおかしいんよ」

穂乃果「……あっ!?」

希「気付いた? そう、チャイムが鳴っとるんよ」

穂乃果「本当に誰も住んでいないとしたら、チャイムが鳴らない!?」

希「その場合、電気が通ってないもんな。ウチの予想やけど、ロシアの子なんやろ? もしかして日本の別荘で、ロシアも夏休みか分からんけど……」

穂乃果「帰ってきている可能性がある!?」

希「その可能性はありそうやね」



穂乃果「凄い! 希ちゃん凄いよ!」

希「あはは。それ以外は理解の範疇を超えとって良い意見は今のところ出せそうにないんやけどね」

穂乃果「よーし! 穂乃果、もう一度絵里ちゃんの家に行ってみるよ!」

希「もし予想が外れてたらまたウチに相談してな。聞くくらいはできるから」

穂乃果「うん! ありがとう!」

穂乃果(こうしちゃいられない! 店内だと言うのに私は思わず駆け出してしまう)

希「長期戦になるようなら、熱中症に気を付けるんやで!」

穂乃果「うん!」バタバタバタ

希「あわただしい子やね」クスッ



穂乃果(結果として、それは長期戦となった。希ちゃんのアドバイス通り、昼には自宅に帰ってお昼ご飯を食べ、絵里ちゃんの家と近くの店を行ったり来たりした)

穂乃果(そして、夕方)

穂乃果(見慣れたプラチナブロンド。両手に重たそうな袋をぶら下げている)

穂乃果(彼女は絵里ちゃん──の妹の亜里沙ちゃんだった)

穂乃果(歓喜が湧き寄せてくる。亜里沙ちゃんが居ると言うことは、絵里ちゃんが居る!)

穂乃果(もはや意識とは関係なく、私は近づいていく。そして──)

穂乃果「亜里沙ちゃん!」

亜里沙「え?」

穂乃果(振り向いた彼女は間違いなく亜里沙ちゃん。……ってしまった!? どう説明すれば良いのか考えてなかった!?)

穂乃果「あ、えーと……」

亜里沙「……もしかして、高坂穂乃果さん、ですか?」

穂乃果「え!? 穂乃果のこと分かるの!?」

亜里沙「……やっぱりそうでしたか……」

穂乃果「亜里沙ちゃん! 絵里ちゃんは? 絵里ちゃんはどこ!?」

亜里沙「────」

穂乃果「……え?」






亜里沙「お姉ちゃんは、3ヶ月前に亡くなりました」





          第2章『孤立無援のクラウン』終




第3章は明日以降の投下となります

──次回予告──

明かされる絵里のその時
そして、穂乃果は一つの決断をする

次回第3章『自己犠牲のトゥルース』

これは優し過ぎる彼女たちの物語


明日になったので投下していきます(4時間後とも言います)

ちなみに4章からが本番ですので、3章はさっくりです


*第3章『自己犠牲のトゥルース』


穂乃果(冗談だよね、という言葉は亜里沙ちゃんの表情で発することはできなかった)

穂乃果(私は亜里沙ちゃんに促されるまま、彼女の家の客間へと通される)

穂乃果(やはり記憶の中よりもそこは古びているように見えた。人が住まないと家が朽ちていくというのは本当なのかもしれない)

亜里沙「初めまして、絢瀬亜里沙です」

穂乃果「あ、高坂穂乃果です」

穂乃果(私が抱いていた亜里沙ちゃんの声よりも幾分かトーンが低い。あれほど明るかった彼女の雰囲気が今はもう、ない)

亜里沙「初めにお詫びします。ごめんなさい」

穂乃果「え、どうして謝るの?」

亜里沙「これです」

穂乃果(亜里沙ちゃんは一通の封筒を差し出す。それはすでに開封されているようだった)

亜里沙「穂乃果さん宛の手紙です。……亜里沙が勝手に読んでしまいました」

穂乃果「私宛?」

亜里沙「お姉ちゃんからです。どうか読んであげてください」

穂乃果(封筒を開き、便せんを取り出す。持つ手が震えていた)

穂乃果(そして、私はその手紙を読み始めた)



『穂乃果へ

 この手紙を読む頃には、私はこの世にいないでしょう。

 あ、この書き出し、少し憧れていたのよ。ハラショーでしょ?

 え? 笑えない? 穂乃果は笑っていないとダメよ?

 μ'sの太陽でしょう? ね?

 冗談みたいに書いているけれど、私の本心よ』



『さて、どこから伝えれば良いのかしら。

 そうね、結論から言いましょう。この世界線こそが、あなたが居るべき場所よ。

 絢瀬絵里が死亡しているこの世界が正しいの。

 どうして? って、きっとあなたは聞くのでしょうね。

 本当はね、シュタインズゲートという作品を私は知っていたの。

 いいえ、私の経験したことがシュタインズゲートだったと言った方が良いのかしら』



『あるゲーム会社の企画で、シナリオ原案を募集していたの。

 ハラショーな賞金が出るから、面白半分で応募してみたら見事当選。

 ハラショーでしょ?

 もちろん、事実と異なるフィクションを多大に入れたのだけれど、根本はこの作品の通り。

 まさかアニメにもなるなんて思ってもいなかったわ。

 これがこの世界にシュタインズゲートが存在しない理由。

 この世界線で私は応募しなかったから』



『なんで応募しなかったのかって?

 だって、現実はあんなに綺麗な物語ではなかったから。

 白状します。私は27歳の時間から跳んできました。

 まゆりさんを助けるために岡部さんは何度も何度も同じ時間を繰り返したわよね?

 実はこれフィクションだったの。元々シナリオ原案からは存在しないお話。

 だから、最初は本当にフィクションだったの。

 でも、27歳の時、それはノンフィクションとなったわ。

 そして、私も頑張って、現実に打ち勝……てなかったの』



『ねぇ、穂乃果。もし、自分と他のμ'sのメンバー全員の命が懸かっているとしたら、どちらを選びますか?

 何故こんなことになったのかしらね。きっと、私がむやみやたらに過去を変えてしまったからなのね。

 意味分からないわよね? でも、何となく分かる気がしない?

 そうね、あの作品を借りるならリーディングシュタイナーを持つクリスさんの物語。そういうことよ。

 つまり、全ての始まりは私の死から始まったのだから。

 当時、電話レンジを偶然作ってしまった私は、自分の死の時、それを使ってしまったの。

 そうして生まれたのが、μ's九人の存在する世界』



『幸せだったわ。でも、代償は27歳の時に訪れてしまったの。

 結局、世界線シュタインズゲートは存在しなかった。

 だって、タイムマシンがないのだから。

 さて、どこまで理解してもらえたのでしょうね?

 一つだけ言えるとしたら、穂乃果はこの世界で幸せになりなさい、と言うことよ』



『あ、そうだわ。あなたの身に起きたことを説明しましょう。

 あなたがリーディングシュタイナーを持っていることは本当にハラショーだったわ。

 私の予想なのだけれど、シュタインズゲートを知ってしまったから、あなたのその力が目覚めてしまったのだと思うの。

 だって、あなたが自覚する前に私は何度も電話レンジを使っていたのだから。

 次に海未の姉についてね。その前に電話レンジを作ってしまったことりには正直困ったものよ。

 作中で語った電話レンジの作り方は嘘だったのだから。ある意味天才ね、ことりは』



『海未の姉が変わってしまったのは、実はよくあることなの。

 バタフライエフェクトってあったでしょう? あれが実は曲者で、家族構成くらいちょちょいのちょいなのよ。

 極端な話、私が子供の頃に咳をしただけで、亜里沙が居たり居なかったりする世界線が存在してしまうの。

 そんなあやふやな世界線なのだから、ラブライブが存在しない世界も簡単に出来上がるわ。

 さて、これで疑問は解決ね。え? 解決していない? 世界線は人の手に負えないものだから仕方がないのよ』



『最後に。穂乃果、絶対に世界線を変えるような真似をしては駄目よ。

 そもそも電話レンジもタイムマシンもないのだから無理だとは思うのだけれど。

 私に悔いはないわ。体感時間では十分な時間生きたのだから。

 この手紙はね、もしリーディングシュタイナーを持つあなたが起こってしまった過去に抗おうとしていた時の保険。

 それじゃあね、穂乃果。

 私のことは忘れて、今をしっかり生きなさい。


                      絢瀬絵里』



穂乃果(絵里ちゃんからの手紙を読み終わり、私は身じろぎ一つできずにいた)

穂乃果(情報量があまりにも多かったこと以上に、絵里ちゃんの死が覆られないと言う事実が自分の中になじまない)

穂乃果(多分、認めたくなかった)

穂乃果(そんな時間がどれくらい流れたのだろう。静かに亜里沙ちゃんが口を開いた)

亜里沙「……どう思いましたか?」

穂乃果「……ごめんね……考えがまとまらない」

穂乃果(涙が出てこない。多分、心が空虚だからだろう)

亜里沙「そうですよね──」



亜里沙「──だって、その手紙嘘ばっかりですから」



穂乃果「え……?」



亜里沙「たぶん、穂乃果さんに世界線を変えさせないためのお姉ちゃんの嘘です」

穂乃果「絵里ちゃんの、嘘……」

亜里沙「亜里沙、この手紙を読んだ時に思い出したんです。いくつも存在する同じ時間の記憶。23歳の頃の記憶もぼんやりとあります」

穂乃果「それって……」

亜里沙「はい。亜里沙も少ないながらリーディングシュタイナーを持っていたようです」

亜里沙「お姉ちゃんの誤算は亜里沙です」

亜里沙「手紙の嘘を見破れて、──電話レンジの設計図を見つけてしまったそんな亜里沙です」

穂乃果「電話レンジ、の……設計図!?」

亜里沙「はい。巧妙に隠されていましたが見つけちゃいました」

穂乃果(亜里沙ちゃんが初めて笑顔を見せる。それは悪戯っぽい子供の笑顔だった)



亜里沙「穂乃果さん、亜里沙と一緒にあの優しい嘘つきお姉ちゃんに一泡吹かせませんか?」



穂乃果(その誘いに私は、はっきりと頷いた)



穂乃果(ここから本当の意味での、私たちの物語が始まった)



               第3章『自己犠牲のトゥルース』終



第4章前半部分も投下しておきます

盛り上がってくる手前辺りまでのお話です


*第4章『再集結のミューズ』


穂乃果「それで亜里沙ちゃん、まずはどうする気なの?」

亜里沙「その前にいくつかはっきりさせておきますね」

亜里沙「まず亜里沙は23歳の記憶があるので、わりと日本語が達者になっています」

亜里沙「あと、今はロシアの学校の休み中に、昔住んでいたこの家に来ています」

穂乃果「昔、住んでたの?」

亜里沙「はい。多分、お姉ちゃんと穂乃果さんはその時に会っていると思います」

穂乃果「え? 本当?」

亜里沙「確か、お祭りのおみこしにお姉ちゃんが乗っている時に会ったと聞いたことがあります」

穂乃果「と言うことはこの世界線のことだよね? ごめんね、私、この世界線の記憶はないみたいなの」

亜里沙「なるほど。もしかしたら、穂乃果さんは亜里沙とお姉ちゃんとも違うのかもしれませんね」

穂乃果「なんかさ、海未ちゃんの双子の姉になっているしさ、剣道で全国優勝してるしさでイミワカンナイなの!」

亜里沙「ハラッショー、海未さんと双子なんですか!? あと、真姫さんの真似上手いですね」

穂乃果「うん。あ、全然関係ないけど、最初に初めましてって亜里沙ちゃん言ったのは、嘘だったり?」

亜里沙「はい、亜里沙実は演技派です。あと、この世界線では初めてなので嘘じゃないです」

穂乃果「うー、でも、騙されちゃったことに変わりないよぅ」

亜里沙「えへへ」



穂乃果「……あ、一番大切なこと聞くの忘れてた」

亜里沙「なんでしょうか?」

穂乃果「絵里ちゃんの……死因」

亜里沙「交通事故です。あ、ロシアでのですね」

穂乃果「交通事故?」

亜里沙「多分日本でも報道されたかもしれませんね。列車と車両との衝突事故です。死者一名の規模から考えると奇跡的な事故です」

穂乃果「お父さんが見てたニュースで見たかも……」

亜里沙「何でよりによってその一名がお姉ちゃんなのか……」ブツブツ

亜里沙「って、違います! そこは置いておいて、重要なのはお姉ちゃんがその時点でタイムマシンを作っていた事実です!」

穂乃果「そっか! 絵里ちゃんがそうなってしまったと言うことはその地点まで戻ることができるっていうことだもんね!」

穂乃果「あ、でも、シュタインズゲートの設定と現実は違うんだっけ?」

亜里沙「いえ、大分あっているはずです。それがお姉ちゃんの嘘の一つですね」

穂乃果「と言うことは何回もタイムマシンを使って、3ヶ月前まで戻ってきたんだね?」

亜里沙「はい、そのはずです」



穂乃果「でも、何でそれが分かったの?」

亜里沙「どうにも亜里沙もタイムマシンを使ったことがあるようで、戻れる時間に制限がありました」

穂乃果「なるほど」

亜里沙「他に何か質問はありますか?」

穂乃果「うーん、正直頭の中がパンパンで浮かばないや」

亜里沙「分かりました。もし疑問があったらその都度お願いしますね」

穂乃果「うん。それで最初に戻るけど、まず何をすれば良いのかな?」

亜里沙「まずはお姉ちゃんが生きている世界線に跳びます」

穂乃果「そうだよね、そうじゃないと話が始まらないもんね」

亜里沙「そのために必要なのが穂乃果さんの記憶です」

穂乃果「私の記憶?」

亜里沙「世界線を変えることは穂乃果さんたち以外ではお姉ちゃんしか行っていないはずです。ここで問題となるのが、世界線を変える方法です」

穂乃果「メールの内容?」

亜里沙「はい。お姉ちゃんのメールの内容は全部が不明です。形見のケータイからは該当のメールがおそらく故意的に消されていました」

穂乃果「それで例外の穂乃果たちが送ったメールが必要になってくるんだね?」

亜里沙「ダー。その通りです」



穂乃果「でもね、私もメールの内容が分からないんだ。それもこれも海未ちゃんが毎回毎回勝手に送るから」

亜里沙「海未さん……。あ、でもメールを送った相手が海未さんなら分かるのではないでしょうか?」

穂乃果「あ、盲点だった。ついでに、一回はことりちゃんのお母さんに送っていることは確定だよ」

亜里沙「では、海未さんとことりさんのお母さんに聞くと良いですね」

穂乃果「そうだね。あ、電話レンジってもうあるの?」

亜里沙「そうでした。亜里沙、そのために今日秋葉原に行ってきたんでした」

穂乃果「ああ、あの重そうな荷物がそうだったんだ?」

亜里沙「はい。でも、設計図が曖昧に書かれている部分がありますので、そこだけが不安なところです。正直、電話レンジが上手く完成できるか自信がありません」シュン

穂乃果「あー、穂乃果分かったかも」

亜里沙「?」

穂乃果「ことりちゃんだよ。シュタゲの話をして、設計図を渡せば作れると思うよ。何しろ実際に作った世界線があるからね」

亜里沙「流石穂乃果さんです!」

穂乃果「あと多分さ、最終的にμ's全員が集まる気がするよ?」

穂乃果(当事者の幼馴染三人衆、海未ちゃんの姉だったことのある希ちゃん、ニコちゃん、もちろん大元の絵里ちゃんも)

穂乃果「何だろう、一年生組もどこかで関わって来そうな予感……」



*絢瀬邸前


亜里沙「では、明日から行動開始ですね」

穂乃果「うん! 家に帰ったら海未ちゃんにまず聞いてみるね」

穂乃果(亜里沙ちゃんとある程度の話がまとまったので、帰り支度を整え、外へ出た。この季節の温度はまだ生暖かい)

穂乃果(それにしても、亜里沙ちゃんからの誘いがなかったら、絵里ちゃんのことでグスグス泣いていたんだろうな、今頃)

穂乃果「運命って数奇なものだよね?」

亜里沙「そうですね」

穂乃果(何となく通じ合い、二人で笑い合う)

凛「あ、穂乃果先輩にゃ!」オーイ

花陽「あ、本当だぁ」

穂乃果「フラグ回収早いよ!?」

凛「穂乃果先輩♪ はっ!? 可愛い外人さんにゃ!?」

花陽「もしかして、デートでしたか?」

穂乃果「いや、花陽ちゃん、違うからね」

亜里沙「こんばんは、凛さん、花陽さん」

凛「あれ? お会いしたことありましたか? かよちんは覚えてる?」

花陽「ごめんね、花陽も覚えてないの」

亜里沙「あ、ええとですね、穂乃果さんから可愛い後輩が居ると聞いたばかりでしたので、挨拶しちゃいました」テヘッ

穂乃果(本当に演技派だね、亜里沙ちゃん)

凛「にゃー! テレるにゃ!」



*園田家


穂乃果(あの後、改めて亜里沙ちゃんが自己紹介をして、無事三人は友達になりましたとさ。おしまい)

海未「あ、遅かったですね、お姉さま」

穂乃果「ただいま、海未ちゃん」

穂乃果(未だにお姉さまって呼ばれるのに慣れないよ。それはそれとして)

穂乃果「大事な話があるんだけど良い?」

海未「分かりました。では、私の部屋に行きましょう」



*海未ちゃんのお部屋


穂乃果(勝手知ったる海未ちゃんのお部屋。世界線が変わっても変わらないものはいくつもあるんだなぁ)

海未「お姉さま。それで大事なお話とは?」

穂乃果「ええとね、いつかは分からないけど昔、送信者海未ちゃんで変なメールが送られて来なかった? もしくは送った記憶でも良いんだけど」

海未「変なメールですか? ……申し訳ありません。記憶にありません」

穂乃果「そっか……」

穂乃果(となると、ことりちゃんのお母さんが最有力かな?)

海未「ですが、お姉さま宛にそのようなメールが昔送られていた記憶はあります」

穂乃果「え、私?」

海未「はい。確か送り主は不明で、『悩んだら剣道』という内容が何故か平仮名で何通かに分かれて送られてきたかと」

穂乃果(ああ、多分それ絵里ちゃんからのメールだ。なるほど、だから私が剣道で全国優勝するんだね。打ち消しメール候補に入れとこう)

穂乃果「それにしてもよく覚えていたね、そんなメール」

海未「お姉さまのことですから、どんな些細なことでもこの園田海未、忘れません!」

穂乃果(えー、愛が重いよ、海未ちゃん)



海未「お姉さま。失礼ながら、昨日から少し様子がおかしく感じられるのですが、私の気のせいでしょうか?」

穂乃果(流石、愛が重いだけあるね……)

穂乃果「ねぇ、海未ちゃん。もし、私が昨日言ったことが本当だったらどうする?」

海未「電話レンジ(仮)、せかいせん移動でしたか?」

穂乃果「うわ、本当によく覚えているね」

海未「はい。今日も一日、もう一度お姉さまの言動を思い出していました」

穂乃果「……どう思った?」

海未「正直、お姉さまと姉妹でないと言うことは認められません。しかしながら、別の似た世界から来たと言うことならもしくは、とも思いました。様子も明らかにただ事ではありませんでしたし」

穂乃果「姉妹なのは譲らないんだ?」

海未「はい、私の誇りですから」

穂乃果(穂乃果、そんなに立派な人じゃないよぅ)

穂乃果「まぁ、信じられない話だよね」

海未「……ですが、本当なのですね」ハァ

穂乃果「え、信じてくれるの?」

海未「お姉さまと生まれる前からの付き合いです。その辺りは理解したくなくとも理解できてしまう自分が居ます」

穂乃果「おぉ、まずは一人目かな」

海未「? 一人目ですか?」

穂乃果「うん。μ'sのね」



ここで一旦終了です

続きはまた今度


*ことりのお部屋


穂乃果「ごめんね、急にお邪魔しちゃって」

ことり「ううん、穂乃果ちゃんたちならいつでもウエルカムだよ♪」

穂乃果(翌日、私はことりちゃんの家を再び訪れていた)

穂乃果「今日、ことりちゃんのお母さんは居ないの?」

ことり「今日は学校に行っているよ。多分、夕方前には戻ってくると思うけど。お母さんに用事だった?」

穂乃果「うん、ちょっと大切なことを聞きたくてね」

ことり「そうだったんだ。それじゃあ、ことりがお母さんが帰ってくるまで代わりにお相手するね」チュンチュン

穂乃果「実はことりちゃんにも大切な相談があるんだ」

ことり「え!? 告白!?」

穂乃果「告白と言えば告白かな?」

ことり「ええぇぇぇー!?」プシュー

穂乃果「多分、ことりちゃんの考えているものとは違うよ?」

ことり「穂乃果ちゃん、ひどい!」プンスカ

穂乃果「えー」

穂乃果(薄々気付いていたけど、ことりちゃん、そっちの気があるんだ……)



穂乃果「冗談は置いておくとして」

ことり「うん」

穂乃果(真剣な顔つき、背筋を正して、ことりちゃんに向かい合う。ことりちゃんもそれに応えてくれる)

穂乃果「この間、私色々変なこと言って、帰ってしまったよね?」

ことり「そうだね……。急に混乱していたようだったから、ことりも心配だったんだ」

穂乃果「その節はご心配をおかけしました」

ことり「いえいえ」

穂乃果「でも、あの時の私の反応が正常なものだったとしたら、どう思う?」

ことり「……ことりはアニメも映画も好きだから、フィクションに憧れがあるよ? だから、あの時の穂乃果ちゃんが本当のことを言っていたのなら、憧れていた主人公みたいって思う」

ことり「でも、ごめんね。半信半疑なの。もちろん、穂乃果ちゃんのことは信頼しているよ? だけど、情報が少な過ぎて、多分正しい判断が今のわたしにはできないんだと思う」

穂乃果「ううん、それでも私のことを信じてくれているんだからことりちゃんには感謝だよ」

穂乃果「ねぇ、ことりちゃん。私の知っていること、私の経験したこと、とても長い話になるけど、聞いてくれる?」

穂乃果(私の言葉に、ことりちゃんは『うん、もちろんだよ』って応えてくれた。だから、私は語り始める。シュタインズゲートのこと、そして、今自分の身に起こっていることを──)



穂乃果(話せることは全て話せたと思う。特に電話レンジ(仮)のことについては私の知る限りのことを伝えた)

穂乃果(一息つき、ことりちゃんの淹れてくれた紅茶を口に含む。すっかりぬるくなっていた)

ことり「……そっか、そんなことがあったんだね」

穂乃果「うん。正直、妄想だって言われても仕方がない話だと思う。だけど、できれば信じて欲しいかな?」

ことり「海未ちゃんも信じたんだよね? それなら、ことりが信じない道理はないよ!」

穂乃果(流石最愛の幼馴染にしてμ'sの二人目。こんな突飛な話も信じてくれるなんて、本当に私は恵まれている)

ことり「でも、電話レンジ(仮)かぁ……。本当にわたしが作ったのかな? 今一つ納得が──うっ!?」

穂乃果「ことりちゃん!?」

穂乃果(いきなり頭を押さえ、苦しそうにすることりちゃん。一体何が!?)

ことり「だ、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけだから……」

穂乃果「ほ、本当?」

ことり「うん……。でも、おかげで思いだせたよ」

穂乃果「え?」

ことり「電話レンジを作ったのはわたしじゃない。わたしの知らない女の子が作ったの」



*通学路


穂乃果(ことりちゃんの頭痛は、フェイリスちゃんやルカ子ちゃんに起こったような、一時的なリーディングシュタイナーだった)

穂乃果(その中でことりちゃんは、この世界線では面識のない特徴的な女の子に電話レンジの開発を依頼していたらしい)

穂乃果(ことりちゃんの知らない女の子で、ツンデレぽくて、簡易タイムマシンを作れそうな人物なんて私は一人しか思いつかない)

穂乃果(全く穂乃果の勘もバカにならないね)



穂乃果(そう、存在するμ'sメンバー最後の一人、真姫ちゃんだ)



*西木野邸


穂乃果(相変わらず立派なお屋敷だね。前にも訪れたことはあるけど、やっぱり緊張しちゃうね。まぁ、ピンポンしちゃうけど)ピンポーン

穂乃果「あの、私、音ノ木坂学院2年生の高坂穂乃果と申します。真姫さんに用事があって来ました。お取次ぎお願いできますか?」

穂乃果(インターホンに出たのは確か真姫ちゃんの執事さんだ。少しだけ待たされて、家の中に入ることを許される。うわぁ、やけにスムーズな展開だよ)

穂乃果(正直、良くて門前払いも予想していたから、予想外も良いところだった。執事さんに前も入ったことのある応接室に案内される)

穂乃果「お邪魔しまーす」ソローリ

穂乃果(恐る恐るそう呟いてしまう。何しろ、飾られている調度品が明らかに高級品で、何度訪れても緊張しちゃうから)

真姫「あ、夢の中の人」

穂乃果(そこには真姫ちゃんが既に居て、開口一番そんなことを言われる。こんな感じで私と真姫ちゃんはこの世界線で初めて顔を合わせることとなった)



穂乃果「夢の中の人?」

真姫「あー……何故か作曲させられたり、色々連れまわされたりする夢を見るのよ。その中での加害者があなた」

穂乃果「うわぁ」

穂乃果(何だか穂乃果が極悪人みたいになっているよ)

真姫「で、穂乃果。あなた誰よ?」

穂乃果「今、思いっきり私の名前呼んでたよね?」

真姫「あら? そうだったかしら?」

穂乃果「もう……。私、高坂穂乃果、高校二年! 今、音ノ木坂学院が大ピンチなの!!」

真姫「はいはい」

穂乃果「真姫ちゃん、適当ー」ブー

真姫「あなただって変な小芝居入れてたでしょ! まぁ、良いわ。私は西木野真姫。多分、あなたに迷惑をかけられる可哀想な高校一年生」

穂乃果「ブー」

真姫「はぁ……。初対面の人にこんなやり取りをするのなんて初めてよ」

穂乃果「真姫ちゃん、友達居ないもんね」

真姫「はぁ!? 居るわよ! 凛とか花陽とかニコちゃんとか……ってあれ? 星空さんと小泉さんとあと誰?」



穂乃果(なるほど、ことりちゃんと同じような状態なのかな?)

穂乃果「ねぇ、真姫ちゃん。正直なところ、どこまで把握しているの?」

真姫「なんだかやけに鮮明な夢を最近よく見るのよ。さっきも言ったように、あなたに作曲をさせられて、いつの間にか一緒にアイドル活動? みたいなのをやらされたり」

穂乃果「μ'sだね!」

真姫「あぁ、そんな名前だったような気がするわ」

穂乃果「でも、ちょっと意外。真姫ちゃんってそう言うの信じなさそうだったし」

真姫「ああ、さっきまで信じていなかったわよ。でも、高坂穂乃果って名前を聞いた瞬間、夢で見た人だって直感的に分かって、ついでに絶対面倒事を持って来たって確信してしまったのよ。はぁ……」

穂乃果「あはは……」

真姫「やっぱり面倒事なのね」

穂乃果「言いづらいけど、うん!」

真姫「元気いっぱいじゃない!? 何が言いづらいけどなのよ!?」

穂乃果(ああ、真姫ちゃんだ。どうしようもなく、μ'sの真姫ちゃんだぁ!)



穂乃果「それで本題になるんだけど、電話レンジ(仮)って作れる?」

真姫「無理」

穂乃果「えぇー!? 即答!?」

真姫「確かに夢の中でやたら可愛らしい先輩に作るように頼まれて、どうやら作ったようでもあるわよ。でもね、その設計をどうやったとかまでは覚えていないのよ」

穂乃果「そこを何とか!」

真姫「無理なものは無理! せめて設計図くらいあれば何とかなるかもしれないけれど」

穂乃果「あるよ設計図!」

真姫「え? あるの?」エー

穂乃果「露骨に嫌そうな顔しないでよ」

真姫「あ、そうそう。材料とかないわよ」

穂乃果「材料もあるよ!」

真姫「くっ……。どうしても逃げられないのね……」

穂乃果「お願い真姫ちゃん。真姫ちゃんにしかできないことなの!」ウルウルウル

真姫「し、仕方がないわね!」プイッ

穂乃果(相変わらずちょろいなぁ)



真姫「それで作るとして、何に使うつもりなのよ?」

穂乃果「……そうだね。今、穂乃果の身に起きていることを説明するべきだよね」

真姫「そうね。夢の中の私はどうせ上手くいかないだろうと思って、安請け合いしていたようだったけれど、多分、あれ本物のタイムマシンよね?」

穂乃果「うん」

真姫「それを知ってしまった以上、私は製作者として責任を持たないといけないの。使い方次第では悪用なんて容易なんだから」

穂乃果「長い話になるし、非現実的な内容じゃないけど聞いてくれる?」

真姫「夢の中の人が目の前に居るのよ? 今更よ」

穂乃果(そして、私は三度語り始める。シュタインズゲートとその後の私の話を)

穂乃果(真姫ちゃんは真剣に聞いてくれた。電話レンジの話に関しては特に念入りに質問も交えて会話した)

穂乃果(こうしてμ'sの三人目が揃ったのだった)



第4章後半部分その1でした

徐々に集結しつつあるμ'sメンバー

それはそれとして、ちょろい真姫ちゃんでした


*夕方・ことりのお部屋


穂乃果「そんなわけで電話レンジ(仮)を真姫ちゃんに作ってもらえることになりました」

ことり「わー」パチパチパチ

海未「何やら、私が居ない間に随分と進展していたようですね」

穂乃果(場所は再びことりちゃんのお部屋。部活動を終えた海未ちゃんも加わり、幼馴染三人衆勢ぞろいである)

穂乃果「真姫ちゃんと亜里沙ちゃんとは明日約束してあるから、あとはことりちゃんのお母さんにお話を聞けば任務完了だね!」

タダイマー

ことり「あ、ちょうどお母さん、帰ってきたようだよ」

海未「たしかにこと母の声ですね」

穂乃果「……海未ちゃん。もしかして、この世界線でもことりちゃんのお母さんとメル友なの?」

海未「はい。海未っちとして頻繁にやり取りしています」

穂乃果「そこは変わってないんだ……」

ことり「?」



ガチャ

理事長「ただいま、ことり♪ あら、穂乃果さんに海未っちもいらっしゃい」

穂乃果・海未『お邪魔しています』

ことり「え? 海未っち!? ええと、とりあえずお帰り、お母さん。早速なんだけど、穂乃果ちゃんがお母さんに大切なお話があるようなの」

理事長「穂乃果さんが?」

穂乃果「はい。とっても大切なお話なんです」

穂乃果(私の真剣な様子をくみ取ってくれたのか、ことりちゃんのお母さんはことりちゃんの隣に座り、姿勢を正す)

理事長「分かりました。話してもらえますか?」

穂乃果「はい。昔、そうですね、私たちが産まれるよりも前に差出人不明の不思議なメールを受け取っていませんでしたか?」

理事長「……心当たりがあります。もしかしたら、そういうことだったのかしらね」

穂乃果「え?」

理事長「いえ。確かに、穂乃果さんたちが産まれる数年前に数通の平仮名で書かれたメールが送られてきました」

穂乃果(よし! これで過去を変えることができる!)



理事長「それも二回です」

穂乃果「……へ?」

穂乃果(二回? それってもしかして……)

理事長「一度目のメールは穂乃果さんたちのお母さんが近いうちに事故に遭うという内容でした」

理事長「そして、二度目はそのメールがいたずらメールであると言う内容です」

穂乃果(やっぱり、そうだったんだ! 希ちゃんが海未ちゃんのお姉さんだった時に送ったメールは、ことりちゃんのお母さんに届いていたんだ!)

理事長「スパムメールの類だと私は思っていました」

理事長「ですが、そう判断してしまったのが私の悔恨です」

穂乃果「かい、こん……?」

海未「おばさまが気になされるようなことではありません」

穂乃果「海未ちゃん……?」

理事長「ですが! 私が二回目のメールを信じなければあんなことは起こらなかったはずです!」

ことり「お、お母さん!?」

穂乃果(これほど感情をあらわにする姿をことりちゃんも見たことはなかったのだろう。ことりちゃんのお母さんからは悲しみ、もしくは何かに対する怒りが溢れていた)



海未「お姉さま。お察しのように、過去は元通りになったのです」

穂乃果「元通り……」

穂乃果(過去が元通りになる。それが何を示すのか、ようやく私は思い出す。ああ、そうだ! 私は忘れていたんだ。始まりは海未ちゃんの切なる願いがあったことを!)

海未「私のもう一人のお姉さまは、流産で亡くなられたのです」

穂乃果(……そういうことなんだ。過去を元通りにするということは。何で気付けなかったのだろう!)

穂乃果(今回の世界線はたまたま『双子』の姉が居ただけなんだ。希ちゃんもニコちゃんも二歳年上の姉だった。私たちの過去改変はすでに元通りに戻し終わっていたのだ……)

穂乃果(思わず拳を握り締める。これが過去を変えた代償。私たちはただいたずらに、ことりちゃんのお母さんを傷つけてしまったんだ!)

理事長「……やはり、穂乃果さんはお姉さんが居たことを知らなかったのですね?」

穂乃果(ことりちゃんのお母さんのその質問は、私の全てが見透かされているようだった)

理事長「間違っていたら笑ってちょうだい。あのメールは穂乃果さんが関わっているのではないかしら? ……ふふっ、良い歳をしたおばさんが夢物語を語っているわね」

穂乃果「……関わっています。そして、一通目のメールをなかったことにしようと決断したのも私です」

理事長「…………」

海未「おばさま! そもそもの発端は私があの事故を防ごうと、過去を変えようとしてしまったことです。全ての責任は私にあるのです!」

穂乃果「海未ちゃんは悪くない! だって、家族を助けたかっただけだよ? 助けられない過去を変えたいって思うのは当然だよっ!」

海未「いえ、違います。私が悪いのです」



理事長「……ごめんなさい。私が取り乱してしまったせいでお二人を傷つけてしまったわね」

穂乃果(ことりちゃんのお母さんの言葉で私たちは我に返る。本当に辛かったのは目の前に居るこの人だったのだから)

理事長「でも、不思議ね。過去にメールを送ることができるなんて……。受け取った当事者であっても、未だに信じがたいわ」

穂乃果(ことりちゃんのお母さんは優しくそう言った。ただ傷つけるだけの話題から少しでもそらしたかったのかもしれない)

ことり「あの……。穂乃果ちゃん?」

穂乃果「ことりちゃん?」

ことり「わたしが入りづらい雰囲気だから黙っていたんだけど、ちょっとおかしくないかな?」

穂乃果「おかしい? え、どこが?」

ことり「ええとね、ことりも完全に理解できているわけじゃないんだけど、一番最初に海未ちゃんが事故を防ぐメールをお母さんに送ったんだよね?」

穂乃果「うん」

ことり「そしたら、海未ちゃんのお姉さんは東條先輩になっちゃったんだよね?」

穂乃果「そうだね。正直驚いたけど」

ことり「それで、その時に海未ちゃんが二回目のメールを送ったんだよね?」

穂乃果「一通目がいたずらメールだったっていうメールだね」

ことり「それなら、なんでその後の海未ちゃんのお姉さんが矢澤?……先輩なの?」

穂乃果「あっ!?」

穂乃果(そうだ! その流れだと、ニコちゃんがお姉さんの世界線が存在しないことになる!? だけど、確かに存在していたはずなんだ!)



穂乃果「ことりちゃんのお母さん! 一回目のメールと二回目のメールって送り主は同じアドレスだったか覚えていますか!?」

理事長「ええと、正直大分昔のことだから曖昧だけれど、違うアドレスだったと思うわ」

穂乃果(と言うことは、二回目のメールは絵里ちゃんが送った!? それじゃあ、海未ちゃんが送ったメールはどこに……?)

海未「お姉さま。二通目のメールは私が送ったものではないと言うことですか?」

穂乃果「流石、海未ちゃん。多分、二通目は絵里ちゃんが送ったメールだよ」

海未「では、私の二回目のメールはどこに届いたのでしょう?」

穂乃果「……もしかしたら、それが鍵になるかもしれないし、意外とどうでも良いことなのかもしれないね」

海未「?」

穂乃果(私の頭がかつてない程、思考で巡りつくされる。そして、試さなければならないことができた)

穂乃果「もしことりちゃんのお母さんだったら、こんな怪しいメールをさらにもう一通受け取ったとしたら、その内容が何であれ信じますか?」

理事長「多分、いたずらメールだと思いますね」

穂乃果(当然だよね。それじゃあ)

穂乃果「逆に、どんな内容だったら三通目を信じることができますか?」

理事長「……きぃちゃんからのメールだったら、信じられるかもしれません」

ことり「きぃちゃん?」



穂乃果「お母さんじゃなくて、雪穂のお母さんって当時ケータイを持ってましたか?」

理事長「そうですね、持ってはいましたけれど、メールだけは使っていませんでした。なんと言うか、きぃちゃんは少し変わっていましたから、頑なに拒否し続けていたのでアドレスすら当時は知りませんでした」

海未「ああ! そう言えばお母さまが穂むらのおばさまのことをきぃちゃんと呼んでいましたね」

穂乃果「そんな変わり者のきぃちゃんだから、逆にいたずらメールであったとしても信じられる、もしくは記憶の片隅に残ってしまう?」

理事長「そうね、そうかもしれないわ。だって、きぃちゃん、昨日のこともすぐ忘れるんだもの」

穂乃果(よし! 答えは出た! あとは行動に移すだけだ!)



穂乃果「ねぇ、海未ちゃん。誰も傷つかない方法が見つかったかもしれないよ?」




第4章後半部分その2でした

次はようやく電話レンジの出番か?
真姫ちゃん頑張ってください


*翌日・絢瀬邸前


穂乃果「おーい、真姫ちゃーん! こっちこっち!」

真姫「聞こえているわよ! 恥ずかしいから叫ばないで!」

穂乃果「えー? 真姫ちゃんが道に迷わないように穂乃果が目印になっていたんだよ?」

真姫「ちゃんとここに来れているでしょう! だいたい、この間、場所を聞いた時に分かるから大丈夫って言ったはずよね?」

穂乃果「えー、万が一ってこともあるし」

真姫「なんのためにアドレス交換したのよ……。今の時代、仮に迷ったとしてもどうとでもなるわよ」

穂乃果「流石真姫ちゃん、天才!」

真姫「世の中にどれだけ天才が蔓延っているのよ……」

亜里沙「あの! 絢瀬亜里沙です。今日はよろしくお願いします!」

真姫「……西木野真姫よ。よろしく」

穂乃果(私と一緒に真姫ちゃんを待っていた亜里沙ちゃんと、真姫ちゃんが互いに自己紹介をする。それぞれのその事情は私を通して、すでに伝えてあった)

亜里沙「では、掃除もまともに行き届いていない家ですが、どうぞ」



*絢瀬邸応接室


亜里沙「これが電話レンジの設計図です」

真姫「ところどころロシア語で書かれているわね……」

亜里沙「分からないところは亜里沙に任せてください」

真姫「そう。お願い」

穂乃果(部屋に入ってすぐ、亜里沙ちゃんと真姫ちゃんは電話レンジの話を始める。亜里沙ちゃんの持ってきた設計図は、どうやら日本語とロシア語を両方使って書かれているようだった)

穂乃果(穂乃果は役に立たないので、二人を眺める作業を始める)

亜里沙「この部分がとても曖昧な書き方なんです」

真姫「電話レンジの根本部分じゃないの……。あ、これはなんて書いてあるの?」

亜里沙「ケーブルですね。電子部品同士を繋ぐ線のようなものです。これは買ってきてありますよ」

真姫「なるほどね……。でも、参ったわ。一番重要な部分が書かれていないなんて」

亜里沙「意図的なんでしょうか?」

真姫「もし見つかった時の保険ね。全く絵里らし──痛っ!?」

亜里沙「真姫さん!?」

穂乃果(真姫ちゃんがいきなり頭を押さえて、苦しみだした!?)

穂乃果「大丈夫!?」

真姫「……ええ、大丈夫よ。夢以外では初めてだわ。これが他の世界線の記憶なのね」フゥ



穂乃果(一時的なリーディングシュタイナー。おそらく、別の世界線で電話レンジを作っていたから、その電話レンジの設計に触れることで記憶が呼び覚まされたのだろう)

真姫「ことり? の家に行きましょう。今日中に作ってしまうわよ」

穂乃果「ことりちゃんの家?」

真姫「設計図の抜けの部分を思い出したの。そして、その材料は別の世界線での依頼者の家にあったのよ」

亜里沙「本当ですか!?」

真姫「ええ。絢瀬さんが買ってきた部品があれば作れるはずよ」

穂乃果「やったー! それじゃあ、私はことりちゃんに連絡してみるよ」

真姫「お願い」

プルルルル

穂乃果「あ、ことりちゃん。急だけど今からことりちゃんの家に行っても良いかな? ありがと! 亜里沙ちゃんと真姫ちゃんも一緒だけど良い? うん、それじゃあ今から向かうね!」

真姫「どうやら話はまとまったようね」

亜里沙「それじゃあ、亜里沙、部品と設計図を持っていきますね」

真姫「……半分持つわ」

亜里沙「ありがとうございます!」

真姫「って、重っ!?」

穂乃果(集まる時間を午前中の早い時間にしておいて良かった。今から始めれば電話レンジの完成も早まるに違いない。よし! 穂乃果、ファイトだよ! ……まぁ、真姫ちゃんが主に頑張るんだけどね)



*お昼前・ことりのお部屋


穂乃果(ことりちゃんとの自己紹介も簡単に、早速電話レンジの話を始める真姫ちゃん)

真姫「この家に使っていない古い電子レンジってあるわよね?」

ことり「うん。粗大ごみに出しそびれてそのままになっている電子レンジがあるよ」

真姫「それ、すぐにこの部屋に運んでちょうだい。あれがないと始めたくても始まらないのよ」

ことり「分かった。それじゃあ、わたし取ってくるね」

穂乃果「あ、ことりちゃん。私も手伝うよ」

ことり「ありがとう、穂乃果ちゃん」

真姫「それじゃあ、私たちはその間に必要な部品を選別しましょう」

亜里沙「全部使うんじゃないんですか?」

真姫「いえ、思い出したのよ。必要な部品はそれほど多くはないわ。きっと、その他の部品は私が作ったことのないものね」

亜里沙「分かりました。真姫さん、指示をお願いします」

穂乃果(上手い具合に役割分担ができていた。私はことりちゃんの後に続き、電子レンジを取りに行く)



穂乃果(別の世界線で見た同じ電子レンジに微かな感動を覚えながら、ことりちゃんの部屋へとそれを運んだ)

穂乃果(後は真姫ちゃんの独壇場だった。たまに亜里沙ちゃんに分からないロシア語を聞くくらいで黙々と作業に没頭する真姫ちゃん)

穂乃果(気付けば時間はお昼を回っていた。手持ち無沙汰の私にちょうど良い仕事を思いつく)

穂乃果「あ、穂乃果。お昼ご飯を買ってくるよ」

ことり「ことりも一緒に行くね」

真姫「待って。南先輩は残ってください。この家にあるものを使う必要が出てきそうなのよ」

ことり「あ、そうなんだ。ごめんね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「大丈夫。買い出しなんて一人で十分だから」

穂乃果(そう言って、私はお昼を買いに外へ出た)



*コンビニ


穂乃果「真姫ちゃん、トマトが好きだからサンドイッチで良いよね」

希「おや? 穂乃果ちゃんやないの」

穂乃果「あ、希ちゃんだぁ! この間はありがとう! 無事前進しております、隊長!」

希「うむ。期待しておるぞ、高坂隊員」

穂乃果「希ちゃんもお昼買いに来たの?」

希「せやね。午後も生徒会室で雑務やで……」ガックシ

穂乃果「ファイトだよ! でも、今日は真面目に仕事しているんだ?」

希「たまにはやらんと、他の役員に示しがつかんよ」

穂乃果「一度、エスケープしているから、もう遅いかも」

希「がーん、ウチの威厳がぁ!?」

穂乃果「あ、そうだ。威厳はもうないから、明日暇?」

希「ひどい! あまりにもひどい! まぁ、暇やけど」

穂乃果「それじゃあ、明日穂乃果たちと会ってもらっても良い?」

希「おっ、遂にμ'sメンバー集合の時かな?」

穂乃果「すっごい! 希ちゃん、大正解!」

希「ふっふっふ。ウチのタロットが近々終結の時と言っておったんよ」



穂乃果「今、思い付いただけだけど、言ってみて良かったよ」

希「まさにスピリチュアルやね」

穂乃果「そう言えばニコちゃんって、この世界ではどうなっているの?」

穂乃果(この世界線で未だ顔を合わせていないのはニコちゃんだけだった)

希「夏休みやけど、たまにアイドル部の部室に来とるようやよ。今日も確かおったよ?」

穂乃果「ニコちゃん、ここではちゃんとアイドル好きに戻っているんだ。良かった」

希「ああ、ニコっちもμ'sのメンバーやったね」

穂乃果「うん。出来ればニコちゃんも明日来てほしいな」

希「ええで。ニコっちには貸しがたくさんあるから、首に縄を付けてでも連れていくで」

穂乃果「やったー! 希ちゃん、大好き!」ギュッ

希「役得やね。ところでどこに行けば良いん?」

穂乃果「理事長の家って分かる?」

希「一応知っとるよ。生徒会長やし」

穂乃果「それじゃあ、理事長の家に、ええと、二時集合で良いかな?」

希「了解やで」

穂乃果(あっけなくμ'sの四人目、五人目がそろちゃった……。あ、ことりちゃんに事後承諾になっちゃうけど、大丈夫だよね?)



*ことりのお部屋


穂乃果「ただいまー」

ことり「お帰り、穂乃果ちゃん」

穂乃果「皆一休みして、お昼にしようよ!」

真姫「……今、良いところなのに」

亜里沙「亜里沙はお腹がすきました」

穂乃果(買ってきたサンドイッチと飲み物を皆に振り分ける)

穂乃果「それで、進行具合はどう?」

真姫「あと二時間くらいかしらね」

穂乃果「すっごい!」

亜里沙「そうなんです! 真姫さんったら、プロフェッショナルみたいな手つきでどんどん進めていくんです!」

ことり「りふたー? だったかな、それの準備も終わったよ♪」

穂乃果「ふむふむ。あ、そうだ。穂乃果からも報告。明日の二時に希ちゃんとニコちゃんをことりちゃんのお家に呼んじゃったけど、大丈夫だった?」

ことり「大丈夫だよ~」

真姫「え? 今日、実行するんじゃないの?」

穂乃果「何となくだけどね、μ'sの皆が集まって電話レンジを使うと大成功しそうな気がするんだぁ」



真姫「プラシーボね。ま、文句はないわ」

亜里沙「偽薬効果ですね。亜里沙、知っています!」

ことり「ぎやく、こうか?」

真姫「効き目のない薬でも、お医者さんが効きますよって言えば効く気がしない? そう言う現象のことよ」

穂乃果「それでことりちゃん。残りのμ'sメンバーも集めたいんだけど、凛ちゃんと花陽ちゃんって知ってる?」

ことり「中学校からの先輩後輩だよ、私たち」

穂乃果「ああ、だからこの前会った時に先輩って呼ばれたんだ。仲は結構良い方?」

ことり「ふふっ。二人とも穂乃果ちゃんに懐いているよ」

穂乃果「よし! 二人にも声をかけてみるよ! ことりちゃんのお家凄いことになるけど、大丈夫?」

ことり「大丈夫だよ~」

真姫「(この人、穂乃果の言うことなら何でも大丈夫って良いそうね)」ボソッ

穂乃果「善は急げだ! 凛ちゃんとことりちゃんのアドレスは、と」

真姫「あれ? もしかして、私、頭数にすでに入っている?」

ことり「? そうだよ?」

亜里沙「亜里沙も頭数です! 亜里沙がμ'sでないのが非常に残念ですが」

真姫「はぁ。分かったわよ。明日も来ればいいのね」



穂乃果「凛ちゃんと花陽ちゃんもオッケーだって!」

亜里沙「ハラッショー! μ'sの皆さん勢ぞろいです!」

穂乃果(これで六人目、七人目! 穂乃果を入れて八人だぁ!!)



穂乃果(絵里ちゃん、九人目の場所は空けておくね。必ず助けるから!)




穂乃果(真姫ちゃんの言った丁度二時間後、電話レンジ(仮)は完成した)

穂乃果・亜里沙・ことり『やったー!!』パンッ

真姫「この真姫ちゃんに不可能はないのよ!」フフン

穂乃果(数日ぶりでしかないのに、とても懐かしくみえるそのそれは、必ず未来を切り開いてくれるように感じさせた)

穂乃果「真姫ちゃん、お疲れさまっ!」ダキッ

絵里「ちょっと、ひっつかないでよ! 暑いでしょ!」プイッ

ことり「良いなぁ、わたしも穂乃果ちゃんに引っ付かれたい」

真姫「聞かなかったことにして……再確認だけど、作るのは電話レンジで良いのよね?」

穂乃果「うん、そうだけど」

真姫「この設計図ね、タイムマシンの作成方法も書かれているの。だけど、作るためにはかなりの時間が必要になるわ」

穂乃果「それなら尚更だね。私たちに必要なのは過去にメールを送ることだけだから」

真姫「そう、それなら良いわ」

亜里沙「……穂乃果さん。打ち消すメールはどうしましょうか?」

穂乃果(真面目な顔で亜里沙ちゃんがそう質問を投げかけてきた)

穂乃果「大丈夫。それもすでに答えが出ているよ!」

穂乃果(そして、私は自信満々にそう答えた)



*夕方・絢瀬邸応接室


穂乃果(電話レンジは完成し、真姫ちゃんとことりちゃんと別れたところで、亜里沙ちゃんにお話がありますと言われ、再び絢瀬家へと来ていた)

亜里沙「申し訳ありません。また時間をとらせてしまって」

穂乃果「今更遠慮なんて必要ないよ。……大切な話なんでしょ?」

亜里沙「はい」

亜里沙「これは亜里沙自身の話になります」

亜里沙「亜里沙はタイムマシンを使って、意識だけを23歳、誕生日の関係で24歳の自分から跳ばしてきました」

穂乃果「え? それって……」

亜里沙「はい……お姉ちゃんが27歳の時、やり直したい未来の時間から来たんです」

穂乃果「つまり、絵里ちゃんが見てしまった、その……μ'sメンバーの結末を知っているってこと……?」

亜里沙「……ごめんなさい、分からないんです。いえ、正確には分からなくなってしまったんです」

穂乃果「分からなくなってしまった?」

亜里沙「亜里沙は確かにリーディングシュタイナーを少ないながら持っています。それに気付いたのはたぶん23歳の時です。ですから、それまでに世界線移動を実感したことはないはずです」

亜里沙「問題はタイムマシンを使って、意識を過去に向かわせることでした。前にも話しましたが、一定の時間しか戻れませんから、何度も使っていくしかこの時間に辿り着けませんでした」



亜里沙「そして、……忘れていくんです。タイムマシンを使うたびに、ポロポロと未来の記憶がなくなっていきます。それに気付いたのが、先日穂乃果さんとお話しした後です。正直、目の前が見えなくなるくらい愕然としました……」

亜里沙「お姉ちゃんの嘘だらけの手紙。だけど、何が嘘なのか大半が分からなくなっていて、嘘であったと言う感覚しか残っていません」

亜里沙「亜里沙は、誰かに大切なことを託されてここに来たんです! 託されたはずなんですっ!」

亜里沙「その大切なことすら今はもう分かりません……」

亜里沙「亜里沙は何のためにここに来たのかっ! 使命を忘れるなんて、意味なんて……ない! ないんです……!」ポロポロポロ

ギュッ

亜里沙「穂乃果、さん……?」

穂乃果「意味はあったよ。優しい嘘つきの絵里ちゃんに一泡吹かせるんでしょ? 亜里沙ちゃんが居なければ、私は前に進めなかった。だから、意味はあったの! 亜里沙ちゃんが居てくれたから、今の現実があるの!」

穂乃果「だから、自分を責めないで……」

亜里沙「──大丈夫だから」

穂乃果「え?」

亜里沙「……大丈夫だからって、お姉ちゃんに伝えなくちゃ、いけない……」

穂乃果「もしかして、思い出したの!?」

亜里沙「あれ? 亜里沙、何か今言いましたか? あれ? 変だな? 何か言ったのに思い出せない……あれ?」

穂乃果「……穂乃果が確かに受け取ったよ。亜里沙ちゃんの言葉。だから、安心して。亜里沙ちゃんは使命を果たせるから」

亜里沙「……そっか……良かったです……。多分、亜里沙は次に世界線が移動すると、もう思い出せないと思うから……これだけ多く覚えていられたのが、きっと、奇跡だったの、かな……?」

穂乃果(泣き疲れたのか、そう呟いて、亜里沙ちゃんは目をつむった)



次回で第4章はラストです

正直情報量が半端ないですが、色々なことが判明していきます



*翌日・ことり家前


凛「ことり先輩のお家、久しぶりだね!」

花陽「そうだね~。あれ、西木野さん?」

真姫「こんにちは。小泉さん、星空さん」

穂乃果(私にとって運命の日。μ'sメンバーが次々揃っていく。……そう言えば、この世界線ではまきりんぱなはただのクラスメイトにしか過ぎないのか……)

希「おぉ! 大所帯やね」

にこ「え? これどういう集まり!? ねぇ、希ちゃん、ニコに教えて欲しいニコ~」

穂乃果(この世界線では初対面のニコちゃん。何かぶりっこになっていない?)

希「ええで。これは運命の女神たちの集まりや!」ドヤッ

にこ「うわー。希が電波だわー。何故か昨日から関西弁だし」

穂乃果(あ、ニコちゃんの化けの皮が剥がれた!)

亜里沙「感動です! μ'sメンバーがこんなに揃っているなんて!!」

海未「お姉さま。これで全員揃ったのではないですか?」

穂乃果「そうだね」

ことり「それじゃあ、ことりのお家へレッツゴ~だよ♪」

にこ「だから、これ何の集まりなのよ!?」

穂乃果「ニコちゃん。ことりちゃんのお部屋で皆に説明するから、ちょっと待っててね」

にこ「いや、あんた誰よ? 希、ちゃんと説明しなさいよ!」

穂乃果(若干一名騒ぎながら、ことりちゃんのお家にお邪魔する。……何か毎日お邪魔している気がするなぁ)



*ことりのお部屋


穂乃果「──そんなわけで、なんとしてでも絵里ちゃん、μ'sの大切な仲間を助けたいんだ!」

穂乃果(流石に説明も四回目。我ながら上手く状況説明ができたと思う)

凛「穂乃果先輩、大変だったんだね……」

花陽「うん。花陽も力になれるんだったら力になるよ」

穂乃果「凛ちゃん、花陽ちゃん……」

穂乃果(この世界での私は想像以上に信頼されているらしく、あっさり凛ちゃんと花陽ちゃんは信じてくれたようだった)

にこ「……希、あんたにはアイドル研究部を守ってもらった恩があるから仕方がなく来たけど、流石に付き合いきれないわ」

希「ニコっち、これは本当の話なんやで」

にこ「そのニコっちっていうのも何なのよ!? 今まで矢澤さんって呼んでたでしょ、あんた!」

希「いや、心の中ではいつもニコっちって言っとったよ」

にこ「知らないわよ、そんなこと! 大体ねぇ、ニコが再びスクールアイドルをやるはずなんてないでしょ!」

穂乃果(え……?)

穂乃果「……ニコちゃん、今なんて言ったの?」

にこ「なんで後輩にニコちゃん呼びされなきゃならないのよ!」

穂乃果「もしかして、ニコちゃん、スクールアイドル知っているの……?」

にこ「またニコちゃん呼び! それにスクールアイドルなんて常識も常識! 女子高生の基本よ! ついでにニコはA-RISEの大ファンよ!」

花陽「矢澤先輩もA-RISE好きなんですか!? 良いですよね! わたし、ライブは全部観ています!」

凛「かよちんが久しぶりに、こっちのモードになっちゃにゃ」

にこ「へぇ、あんた見どころあるじゃないの」



穂乃果「……どうして? μ'sはないんだよね……?」

希「あちゃー。穂乃果ちゃんはてっきり知っとると思ってたわ」

穂乃果「あれ、だって、希ちゃん……スクールアイドルはないって……言って、いない!?」

穂乃果(『ウチがスクールアイドルで、穂乃果ちゃんが穂むらの娘さんかぁ……』って確かに希ちゃんは言っていた。そう、この言い方はスクールアイドルを受け入れている言い方なんだ!)

穂乃果(この後、穂乃果が泣いちゃってうやむやになっていただけ!?)

穂乃果「そっか! 私は高坂穂乃果じゃないから、スクールアイドルを知る機会がなかったんだ!」

穂乃果(雪穂がUTXの学校案内を持っていたから、私はスクールアイドルを知ることができた。園田家ではもちろんそんな機会はない)

にこ「とにかくニコはこんな電波系に興味はないの。帰るわ」

穂乃果「……伝伝伝」

にこ「……」ピクッ

花陽「伝伝伝! 伝説の伝説アイドルDVD-Boxですか!?」

穂乃果「三セット」

にこ「な、なんでそれを……」

穂乃果「保存用も開封しちゃうよ?」

にこ「くっ! 卑怯よ! ニコの宝物を人質に使うなんて!」

花陽「えぇー!? 三セットも持っているんですかぁっ!?」

穂乃果「冗談だよ」

にこ「あんたねぇ……」

穂乃果「でも、伝伝伝のことはニコちゃんしか知らないはずだよね?」

にこ「……そうね」



穂乃果「信じてもらえる?」

にこ「……あんた、スクールアイドルだったんでしょ? それなら、その実力見せてみなさいよ。それで判断してあげるわ」

穂乃果「……アカペラでも大丈夫?」

にこ「へぇ、もしかしてオリジナル曲? 良いわよ。むしろ望むところよ!」

穂乃果(部屋の中はぎゅうぎゅうだったけど、それでも詰めてもらって、私はアカペラでSTART:DASH!!を歌いきる。一瞬の静寂、皆の呆けた表情。そして、大喝采。特に花陽ちゃんと海未ちゃんの興奮が凄まじかった)

にこ「……A-RISEに届きそうなレベルじゃない……。こんなの素人の付け焼刃でできるものじゃないわ……」

穂乃果「それじゃあ!?」

にこ「認めるしかないようね。あんたは確かにスクールアイドル。……それってつまり、ニコもあんたの居た世界に行けば、そのレベルだってこと?」

穂乃果「私よりも上手いよ」

にこ「よーし! ニコも最後まで付き合うニコー♪」

希「単純やね」

穂乃果(何はともあれこれでμ'sメンバーの気持ちは一つになった。あとは、絵里ちゃんの生きている世界線に行くだけだ)

亜里沙「それで穂乃果さん。送るメールは結局どんな内容になるんですか?」

穂乃果「うん! それを皆に今から説明するよ。だけど、ちょっと長い話になるから飲み物飲ませてね」

穂乃果(START:DASH!!も歌ったので一度水分補給が必要だった。ことりちゃんの淹れてくれた紅茶を飲み切る)



穂乃果「まず、話を一度整理してみるね。そうすると見えてくるものがあるから」

穂乃果「全て穂乃果視点での話になるけど、まず一番最初のメールは海未ちゃんのお姉さんに関わる事故から救うこと。結果、希ちゃんが海未ちゃんのお姉さんになった」

穂乃果「次にその最初のメールを打ち消すために、新たなメールを送信。結果、ニコちゃんが海未ちゃんのお姉さんになった」

ことり「前も同じことを言ったけど、この時のメールは失敗しているんだよね?」

穂乃果「うん。二歳年上の海未ちゃんのお姉さんが存在しているからね。だけど、希ちゃんからニコちゃんに代わっているから過去は何らかの形で変わっているのは間違いないよ」

穂乃果「この時点で絵里ちゃんは生存していることは私が電話で確認済み。それでここからが本題」

穂乃果「絵里ちゃんはシュタゲの情報を穂乃果から受け取っているって言っていたけど、亜里沙ちゃんから渡された手紙から嘘であることが分かる」

穂乃果「同時に『これがラブライブの選択ね』と言うように穂乃果から絵里ちゃんはメールで指示されたと言っていたけど、多分これも嘘。おそらく私がリーディングシュタイナーを本当に持っているかの確認に使われたんだと思う」

真姫「何でその予測になるのよ?」

穂乃果「この時点でシュタゲは存在していて、スクールアイドルとラブライブは存在していないから。リーディングシュタイナーを持っていると言うことはラブライブを知ってことになる」

穂乃果「リーディングシュタイナーを持っていて、そのために困った状況になったら、意味深な言葉を言っている人と連絡を取りたくなるでしょう? 現に絵里ちゃんは開口一番μ'sと言う言葉を使って、私の反応を確かめていた節があるの」

海未「なるほど……。しかし、三年生の教室でそんな言葉を言っているだけで、それが上手くお姉さまに伝わるものなのでしょうか?」

穂乃果「それがポイントだよ。絵里ちゃんはニコちゃんが海未ちゃんのお姉さんであることを知っていた。だけど、世界線は変わっていない」



穂乃果「世界線が変わらずそれができるのはすでにタイムマシンを完成させていた絵里ちゃん、ってなるんだよ。意識だけを過去に送って、あとは何もしなければ良いだけだから」

穂乃果「そして、三回目、謎の世界線移動。これはことりちゃんのお母さん宛に一番最初のメールの打ち消しとして絵里ちゃんから送られている。その影響で私と海未ちゃんが姉妹になってしまった」

穂乃果「問題は何故絵里ちゃんがことりちゃんのお母さんのアドレスを知っていたのか、一番最初のメールの内容を知っていたかの二点」

穂乃果「ここからはあくまで想像でしかないけど、多分良いところを突いていると思うの。ねぇ、海未ちゃん。自分が送ったメールを取り消したい場合、それを送る相手は誰?」

海未「……自身以外は考えづらいですね」

穂乃果「そう、二回目のメールは海未ちゃんが海未ちゃん宛に送っているの。おそらく『姉の事故を防ぐメールをことりちゃんのお母さんに送ってはいけない』と言うような内容で」

穂乃果「結論の前に一つはっきりさせておくね。現実とアニメとの電話レンジの違い。真姫ちゃん、その電話レンジは送り先の時間設定は必要?」

真姫「今更非現実的もなにもないけれど、それでも非現実的なことに送り主の送る際の意思で設定ができるわ」

穂乃果「ずっと引っかかっていたんだ。アニメと同じなら時間設定をする必要がある。でも、いつも送る時は私の意見を言う前に瞬時にメールが送られていた。だから、今の真姫ちゃんの回答でその疑問は解決できるし、海未ちゃんが最初のメール以前に打ち消しメールを送ることは必然だよね」

穂乃果「もしその海未ちゃんの二回目のメールが思っていたよりも前に送られているとしたら? メールの受信BOXから消えてしまうくらい前に」

海未「だから、私のケータイにはそのメールが残っていない!?」

穂乃果「世界線が変わり過ぎてしまったからという可能性も考えられるけど、受信BOXから消えている場合の方が色々説明がつきやすいの」

穂乃果「メールを受け取った当時、海未ちゃんはシュタゲを知らない。だから、なんだこの変なメールは、と思う。もしその場にたまたま絵里ちゃんが居て、その話を聞いていたとしたら?」

穂乃果「加えて絵里ちゃんは生徒会長だから、理事長のアドレスを知っている可能性もあるし、理由をつけて直接本人からアドレスを聞くことだってできたんじゃないかな?」



穂乃果「あと蛇足だけど、私に送られてきていた『悩んだら剣道』っていうメールは多分意味がなかったんだと思う」

海未「園田家は元々剣道の家元ですので、お姉さまは幼少の頃から剣道をたしなまれていましたものね」

穂乃果「うん。昨日、園田家の家元が剣道に変わっているのを知って気付いたんだ。あと、本来の穂乃果に剣道なんてメールを送っても面倒くさくてスルーするって自信をもって言えるよ!」

希「穂乃果ちゃんは面倒くさがりなんやね」

穂乃果「そう言うこと。以上が穂乃果の推理。どうかな?」

凛「さっぱりにゃー」

花陽「花陽もだよ……」

にこ「……あんたが見た目の割に頭が良いのはよく分かったわ」

海未「私のお姉さまですので、当然です!」

希「ニコっち、そう言っておきながら理解できてへんやないの?」

にこ「……あんたはどうなのよ?」

希「分からないニコー」

にこ「この希、ぶん殴りたいわ」

ことり「ことりは半分くらいしか分からなかったかな」

真姫「ふふん、この真姫ちゃんは全部把握したわよ」

亜里沙「亜里沙も大丈夫です」

穂乃果(私自身もこんがらがる内容だから、理解してくれた人が居るだけでもありがたい。そして、大事なのはこの先)



穂乃果「肝心の送るメールの内容だけど、『いたずらメールというのは嘘。必ず事故を防いで。きぃより』でいこうと思っているの」

真姫「その文章量だとそれなりのメール数になるわよ?」

穂乃果「それで良いと思うよ。何しろきぃちゃんからのメールだから」

海未「変わり者のきぃちゃんならありえるかもしれないと言うことですね」

穂乃果「そういうこと。そして、このメールを送ると言うことは一番最初のメールを打ち消さないということ。つまり、海未ちゃんのお姉さんを生かす選択なの」

穂乃果「一番最初のメールの世界線に跳ぶと言うことは、絵里ちゃんが生きている世界線に跳ぶということ」

穂乃果「これが誰も傷つかない。穂乃果の解答」

穂乃果(穂乃果の頭ではこれ以上のものは思いつかない。だから、他に良い案があるのであればそれを採用することも考えていたけど──)

真姫「私は賛成」

海未「お姉さまはやはり最高のお姉さまです」

ことり「わたしは穂乃果ちゃんを信じるよ」

希「ウチのタロットは正解を示しておるよ」

にこ「よく分かんないけど、良いんじゃない?」

凛「穂乃果先輩凄いにゃー!」

花陽「よく理解はできていませんけど、とても暖かい答えだと思います」

亜里沙「ハラッショー! 穂乃果さん、素晴らしいです!」

穂乃果(答えは出たようだった)



真姫「電話レンジの準備はできたわ」

海未「おばさまのアドレスも入力完了しました」

穂乃果「……メールも完成したよ」

穂乃果(たった数日のことなのに、果てしない旅をしてきた気がする)

穂乃果(ここまで辿り着いたことに、感謝を)

穂乃果(私を支えてくれた皆に、感謝を)

穂乃果「……μ'sは九人居れば、奇跡だって起こせる」

穂乃果「そして、今、μ'sは八人揃った」

穂乃果「大切な仲間を、奇跡を起こせるもう一人を、私は取り戻したい!」

穂乃果「悲しい現実なんて、いらない!」

穂乃果「仲間の、友達の、親友の犠牲で成り立った今なんて意味はない!」

穂乃果「それを、私たちが! 絵里ちゃんに教えてあげるんだ!」

穂乃果(最後に私は亜里沙ちゃんに目を向ける。彼女から私は託される)

穂乃果(準備はできた。さあ、あの言葉で世界を変えよう!)



穂乃果「エルプサイ、コングルゥ!」

穂乃果(私は全ての想いをのせて、メールを送った)


*0.3227421


穂乃果(こうして辿り着いた世界線には──)



               第4章『再集結のミューズ』終




長かった第4章もようやく終了です

終盤の穂乃果の語りである程度辻褄はあっていると思われます
(かなりややこしい内容ですが)


次回、第5章『等価交換のアワーライフ』

さらなる真実が穂乃果を待ち受けています

82です。ファイトだよありがとう。トラブルはなんとかバスター出来そうなのでこのssを読むのを糧に頑張るよっと

とりあえず
穂乃果「善は急げだ! 凛ちゃんとことりちゃんのアドレスは、と」ってとこが気になったので書いとく

さらなる真実、また読める世界線であることを切に祈りつつ。続きお待ちしてます

>>111
それはよかったです

気付かなかった……
凛ちゃんとことりちゃんのアドレス→凛ちゃんと花陽ちゃんのアドレス
が正しいですね
あと地味に誤字脱字がポツポツありますが、文脈でフォローお願いします

5章以降はやや暗い話ですが、↓のようなもの書いている者ですので……
海未「トラックが穂乃果に突っ込んで──!?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451918998/)


*第5章『等価交換のアワーライフ』


穂乃果(皆が居る。絵里ちゃん、絵里ちゃんは!?)

海未「流石にこれだけ人が集まると狭いですね、希ねぇ」

希「そうやね」

穂乃果(希ねぇ!? 最初の世界線に戻れたの!?)

穂乃果「絵里ちゃ──」グニャー

穂乃果(言葉を最後まで言うことができず視界がゆがむ。世界線移動!? 絵里ちゃんの仕業なの!?)


*1.0073550



穂乃果「くっ……」

穂乃果(あの独特の感覚。世界線がもう一度変わったことは間違いない)

穂乃果(でも、私が世界線を変えていないということは、絵里ちゃんは──)

絵里「──世界線がまた変わった……?」

穂乃果(愕然とした表情で、果たして彼女はそこ居た!!)

穂乃果(私は何もかもを忘れて彼女に抱き着こうとし──)

ことり「そんなわけで、この電話レンジ(仮)で過去を変えてみようと思います!」

穂乃果「駄目だよ!」

絵里「駄目よ!」

海未「駄目です!」

凛「駄目にゃ!」

ことり「え?」オロオロ

にこ「……約四名から物凄く反対されているんだけど、ことり?」

花陽「結局どういうことなのか、わたし未だによく分かってないよぉ……」

真姫「……まさか、天才真姫ちゃんが本物を完成させてしまったのかしら……?」

希「タロットもそれはあかんと言っとるよ」



穂乃果「ことりちゃん! 穂乃果はリーディングシュタイナーを持っています! 大変な目にあいました! 頑張ってこの世界に戻ってきました! 分かりましたか!?」

ことり「え? え? ……はい」シュン

絵里「……やっぱり、穂乃果が世界線を移動させたのね」

穂乃果「あ、絵里ちゃん! 思い出した! 穂乃果、絵里ちゃんにとても抱き着きたかったんですけど、よくよく考えたらビンタしたいです!」

絵里「駄目。ビンタは痛いから嫌よ」

穂乃果「本当はここ感動の再会の場面なんだよ!? ことりちゃんの一言で台無しになったけど。あと、絵里ちゃんには文句がいっぱいあるの!」

絵里「穂乃果、あなた亜里沙から私の手紙は貰わなかったの?」

穂乃果「貰ったから文句があるの!」

絵里「あれほど世界線を変えちゃ駄目って書いておいたじゃない!」

穂乃果「そんなの認めらないわー」

絵里「うぅ、無性に腹が立つわ」

穂乃果「絵里ちゃんのバカ!」

絵里「穂乃果のバカ!」

穂乃果「ぽんこつチカ!」

絵里「あんぽんたん!」

穂乃果「ほむまん!」

絵里「ぺりめに!」

にこ「え? これって喧嘩してるの? なんか食べ物で罵り合っているようだけど?」



海未「穂乃果、落ち着いてください」

希「エリちもそんな興奮せんと」

穂乃果「だって、絵里ちゃんが悪いんだよ?」

絵里「穂乃果が悪いのよ!?」

穂乃果「なんだとー!」

絵里「なによ!?」

ことり「ここは間をとって過去を変える実験をするということで」

穂乃果・絵里・海未・凛『駄目!』

ことり「……はい」シュン

凛「よく分からないけど、穂乃果ちゃんと絵里ちゃんはオカリンなの?」

穂乃果「うん」

絵里「そうよ。……それよりも今はどんな状況なの? 凛もシュタゲを知っているようだけど?」

凛「凛はアニメを見たよ? 夜にやってて最初はよく分からなかったけど、面白かったよ?」

真姫「どうやら、私は天才真姫ちゃんだったようね」

にこ「あんた、自分で言ってて空しくならない?」

真姫「ニコちゃん、うるさい!」

花陽「(さっきから花陽は空気です)」ボソッ



真姫「今はことりに頼まれて作った電話レンジ(仮)の起動実験を行おうとしていたところよ。μ'sの皆でたまには誰かの家に集まろかということになって、ことりがその画策をして自分の家に皆を集めたのよ」

真姫「それで、物凄く雑な説明をして、電話レンジ(仮)、ってもう! かっこかり、かっこかりって言っている方が面倒くさい! とにかく電話レンジを実験しようとして、さっきのことりの台詞になるの」

穂乃果「なるほど」

絵里「……黒幕は真姫だったのね」

海未「ことり、あのアニメを一緒に観た身です。どうして、そんな実験をしようとしたのです?」

ことり「……だって、成功するなんて思わなかったんだもん。失敗しちゃった、えへへって感じで笑いごとにできると思ったから」

真姫「あなた、そんな一発芸みたいなことをするためだけに私にあれを作らせたの!?」

ことり「だって、真姫ちゃん。おだてるとやる気になってくれたから」

にこ「ちょろい」

希「真姫ちゃんちょろいな、ちゃちぃちゅちぇちょ」

にこ「滑舌良いわね、あんた」

希「照れるやん」

真姫「二人とも、怒るわよ!」



穂乃果「あれ? そう言えば亜里沙ちゃんは?」

ことり「? 亜里沙ちゃんは呼んでないよ?」

穂乃果(そっか。世界線が変わった影響か……。海未ちゃんも過去改変には否定的になっているようだし──)

穂乃果「そうだ、海未ちゃん! お姉さんは!? お姉さんはどうなったの!? ニコちゃんなの? 希ちゃんなの?」

海未「ニコと希がどうして出てくるかは分かりませんが、姉は全寮制の学校で元気に生活していますよ?」

穂乃果「そっか……良かった」

穂乃果(絵里ちゃんが生きていて、μ'sがある。しかも、海未ちゃんのお姉さんまで生きている! 間違いなくこれが最良の世界線だ! やったんだ、私は!)

絵里「穂乃果っ! あなたなんてことをしたの!!」

にこ「え、絵里? 顔、物凄く怖いわよ? ほら、にっこにっこにー」

絵里「にこは黙ってて!!」

にこ「……はい」

絵里「いえ、待って……。海未のお姉さんが生きているのに、μ'sが存在している!? ありえない……。だって、海未のお姉さんとスクールアイドルはどちらかしか選べないはず……」ブツブツブツ

穂乃果(……どちらかしか選べない?)

海未「ふむ。どうやら、穂乃果と絵里には非科学的なことが起きていて、それ故に二人は対立してしまっているようですね」

海未「μ'sが全員揃っているのです、どうです二人とも、私たちにお互いに起こったことを話してみては?」

穂乃果(海未ちゃんのその提案に私は頷き、絵里ちゃんは答えなかった)



第5章冒頭でした

ようやくμ's全員が揃いましたね

この全員が揃うことで漂うコメディ感が何となく安心させられます


穂乃果「絵里ちゃん、私は皆に話すよ?」

絵里「勝手にしなさい。私の考えは変わらないわ」

穂乃果「そう……。それじゃあ、勝手にするよ」

穂乃果「始まりは、ことりちゃんの家で、海未ちゃんとことりちゃんと一緒に観たシュタインズゲート徹夜マラソンの日から始まるの」

凛「あ、それ、凛も呼んでほしかったな」

ことり「あはは。二十四話連続だったから、流石に穂乃果ちゃんと海未ちゃんにしかお願いできなかったんだ」

海未「ことり。流石に幼馴染と言えども、あれは無茶が過ぎました。その場の勢いとは恐ろしいもので、当時了承した私も夏の暑さにやられていたのかもしれません」

穂乃果(やっぱり、この過去はこの世界線でも存在していたんだね)

穂乃果「シュタゲを観終わった後、海未ちゃんが電話レンジ(仮)を作ろうと言いだして、すでにことりちゃんが、正しくは真姫ちゃんが作り上げてて、メールを過去に送ろうということになってしまって──」

ことり「あれ? 真姫ちゃんに制作依頼したのはその日だよ? 海未ちゃんもそんなこと言わなかったし」

真姫「そうね。あれが完成したのは昨日になるわ」

海未「……なるほど、この時点で私たちの知っている過去とは違うわけですね。話しの中の私の発言に少し思うところはありますが、予測はついていますので、穂乃果続けてください」



穂乃果「それで、二人ともノリノリで海未ちゃんがメールを送ってしまうの」

穂乃果(……あ。海未ちゃんのお姉さんが希ちゃんになったと言うことを言ってしまうと、海未ちゃんに気付かれしまうかも……)

海未「穂乃果。おそらく、そのメールの内容は母の事故に関わることですね?」

穂乃果「……海未ちゃん、知ってたの?」

海未「私はそれほど鈍感ではありません。さきほどの穂乃果と絵里のやりとり。知らない過去とは言え、私が過去を変えてしまおうとする動機。おそらく、そこでは事故が最悪の形で起こっていたのでしょう?」

穂乃果「……うん。お姉さんを助けるために海未ちゃんはメールを送って、結果希ちゃんが海未ちゃんのお姉さんになってしまった世界線に私は居たの」

希「へ? ウチ?」

にこ「へぇ、希が海未のお姉さんね。……災難だったわね、海未」

希「にこっち、それはどういう意味なん!?」

にこ「えー。お姉さんと言ったら、このニコニーしかいないじゃない?」

希「リリホワ三姉妹長女、東條希をなめたらあかんで!」

穂乃果「……私が言うのもなんだけど、二人とも私の話を信じてくれているのが何だか意外かな」

希「ウチはスピリチュアルやから」

にこ「普段ぼけーっとしている後輩が真剣な顔で話しているのよ? 少しくらいは付き合ってあげるわよ」

希「おぉー、ニコっち男前やん!」

にこ「ニコは女の子よ!」

穂乃果「ありがとう、二人とも」



穂乃果「そんな変わってしまった過去を元に戻すために海未ちゃんは二回目のメールを送るの。そして、出来上がったのが、ニコちゃんが海未ちゃんのお姉さんになってしまった世界線」

にこ「ほら、やっぱりニコが姉で正解なのよ! え? ちょっと待って、それってどうなっているのよ!?」

希「その疑問、ウチの時にすでに思っとこうやん?」

海未「確かに。姉を救うメールが過去に送られたとしても、その姉が希やニコになるのはいくら何でも無理がありますね」

ことり「でも、シュタゲの中でもルカ子ちゃんが女の子になったりしていたからあり得るんじゃないかな?」

凛「んー、確かルカ子ちゃんの時は野菜をお母さんに多く食べさせたから女の子になったはずだから、希ちゃんとニコちゃんとは少し違うような気がするよ?」

穂乃果「私も凛ちゃんと同じ意見。だけど、この件に関しては未だによく分かっていないの。と言うより、次の世界線がさらに、穂乃果にとってはすっごい滅茶苦茶だったし」

花陽「あ、あの! 花陽も分からないなりに聞いていたんですけど、もっと凄いことが起こるんですか?」

穂乃果「うん。絵里ちゃんのせいでね」ジトー

絵里「……私は変えてしまったものを正しく戻しただけよ」

穂乃果「あのさぁ、絵里ちゃん。その正しく戻したメールのせいで、穂乃果が海未ちゃんの双子のお姉さんになってしまったんだけど?」

絵里「はぁ!? そんなことありえるはずないわ! 現に、今まで打ち消した過去は正しく戻っていたはずよ」

穂乃果「そんなの知らないよ。とにかくさっきまで私は海未ちゃんの双子のお姉さんだったの!」



海未「ほ、穂乃果が私の姉ですか!? それはまた凄い世界線があったものですね」

穂乃果「何だか穂乃果が剣道で全国優勝したことになっていたり、海未ちゃんにお姉さまと呼ばれてやたら過大評価されていたり、一番変な世界線だったよ……」

海未「穂乃果が剣道で全校優勝!?」

穂乃果「あ、園田家が剣道の家元になっていたよ?」

絵里「……まさか、無効メールだと思っていたあのメールのせい……?」

穂乃果「たぶん関係ないよ。基本私、そういうメールはスルーする自信あるし」

真姫「そんな滅茶苦茶な世界から、あなたどうやって戻ってきたのよ?」

穂乃果「絵里ちゃんのメールを打ち消したよ。正しく言えば、この世界線は海未ちゃんの一通目のメールを打ち消さなかった世界」

海未「なるほど。穂乃果、話は変わりますが、ラブライブが存在しない世界線はどこになりますか?」

穂乃果「ええと、希ちゃんの時は分からなかったけど、知る限りだとニコちゃんがお姉さんだった時だけかな?」

海未「そうなりますと、一つの仮説が成り立ちますね」

穂乃果「仮説?」



海未「そうですね。まず、絵里。独り言を言う時は他人に聞こえないようにしなければいけませんよ?」

絵里「……気付いたの、あなた?」

海未「はい。と言っても、流石の絵里もこの世界線でのことは理解していないでしょうし、穂乃果も私の姉のことは知らないのでしょう?」

穂乃果「うん。この世界線のことはμ'sが居て、海未ちゃんにμ'sメンバー以外のお姉さんが居ることくらいしか知らない」

ことり「海未ちゃんのお姉さんは凄く優しい人だよ♪ 見た目は海未ちゃんに近いけど、海未ちゃんをもっと家庭的にしたような人かな?」

海未「そうですね。姉は家事全般が万能で、得意料理のぼたもちは穂乃果も認めるくらいの腕前です」

穂乃果「凄い!」

ことり「穂乃果ちゃん、あんこ嫌いだもんね」

海未「ですが、ここで重要なのは姉の人柄ではありません。姉の生い立ちにあります」

海未「姉が産まれる前にことりのお母さまに届いた、穂乃果のお母さまを含めた複数の不思議なメール。これは園田家ではよく語り草になっています。もっとも、その不思議は今解決しましたが」

海未「結論から言いましょう。姉を身ごもっていた母が巻き込まれた事故、あれは完全には回避できなかったのです」

穂乃果「え、でも、お姉さんはちゃんと居るんだよね?」

絵里「……そういうことだったのね」

海未「どうやら絵里は気付いたようですね。穂乃果、最初に言っておきます。姉も含めて園田家は感謝こそすれ、誰も後悔はしていません」



海未「ことりのお母さまは、私のお母さまを事故から救うことには成功しました。しかしながら、その事故の影響で破水し、すぐさま病院へ運ばれることになったのです」

海未「流産の可能性が非常に高くありました。しかし、奇跡的にも本当に体重わずかな早産で済みました。ただし、代償がなかったわけではありません」

海未「姉は産まれながらに、足に障害を抱えていました」

穂乃果「!?」

海未「穂乃果。先ほども言いましたが、姉も私もそこに後悔はありません。むしろ、姉の命が助かったと言う事実にとても感謝しています」

穂乃果(優しい海未ちゃんの表情が、私から発する言葉を奪っていた)

海未「さて、姉とラブライブとの関係ですね。簡単に言えば、事故の加害者の方が、ラブライブを企画した方になります」

にこ「はぁ!?」

花陽「えぇーっ!?」

海未「アイドル好きのお二人、予想通りの反応ありがとうございます。全てはおじさまの贖罪なのです」

海未「おじさまとはあの事故の加害者の方のことです。事故を起こしたこと、姉の足が不自由なことに責任を感じ、姉に関する全てのことを全面的にサポートしていただいています」

海未「姉がバリアフリーの行き届いた全寮制の学校に通っているのもその影響です。正直、身内でも過ぎるほどおじさまは姉のために尽くしてくださいます。最早園田家でおじさまを恨んでいる者は誰も居ません」

海未「それだと言うのに、未だに厚いサポートをいただいています。そして、未来ある子供への奉仕活動も同時に行われています」



海未「もうお気付きかもしれませんね。ラブライブとはその奉仕活動の一つです」

海未「たまたまスクールアイドルと言うものが活性化したのと、姉が当時高校生であったということが重なり、収益は全て寄付という仕組みのラブライブが完成したのです」

ことり「ことりも初耳だよ!?」

海未「実は私もおじさまが子供への奉仕活動を行っていることは知っていましたが、ラブライブの主催者だとは先日まで知りませんでした」

海未「偶然私がスクールアイドルを行っていることをおじさまは知り、立場上ひいきはできないけれど、応援していると言っていただいたばかりですので」

海未「つまり、私の仮説とは事故が完全に防がれた世界線では、おじさまが関与しないためにラブライブが存在しないと言うものです。いかがでしょう? 核心を突いていると個人的には思いますが?」

穂乃果(……そっか、そう言うことだったんだ。だから、絵里ちゃんはどちらかしか選べないと言ったんだ……)

絵里「……まさか、そんな世界線が存在するなんてね……」

穂乃果「たぶん、海未ちゃん正解だよ!」

海未「それは良かったです。それでは穂乃果に場を戻しましょう。と言っても、おそらく残っているお話は穂乃果と絵里の対立の原因くらいなのでしょうが」

穂乃果「そうだね。そろそろ、このバカ絵里ちゃんのやったことを皆に知ってもらわないとね!」

穂乃果(そう言って、私は意地悪気に絵里ちゃんに微笑み、絵里ちゃんは顔を背けた)



次回、絵里ちゃんフルボッコ回!

ちなみに結末は書き上がっていますので、残りは第5章を書き上げるだけです

投下はゆっくりになるかもしれませんが、そんなわけでご安心を


穂乃果「一つ前の世界線、私が海未ちゃんのお姉さんだった世界だね。そこで絵里ちゃんは自殺したの」

海未・ことり・凛・花陽『!?』

にこ「はっ……!?」

希「ちょ、ちょっと待って!」

真姫「だから、絵里だけ居なかったのね……」

絵里「……誤解のある言い方はしないで欲しいものね。私はただ、正しい歴史のままに自然死しただけよ」

穂乃果「ここに居る全員が今も絵里ちゃんと一緒に生きているんだよ? それを諦めたということは自殺と同じだよ」

絵里「私はメールで本来起こるはずの自分の事故死という過去を変えてしまった。それが最初にして最大の間違いだと気づいたわ。だから、私はそれをなかったことにしたのよ」

穂乃果「納得できないね」

絵里「それはそうよ。あなたは未来を知らないから」

穂乃果「……絵里ちゃん以外のμ'sメンバー全員が死んでしまうという未来のこと?」

絵里「そうよ」

穂乃果(全員が息をのんだのが分かった。だけど、そこで終わらない人だらけだと言うことを私は知っている)



にこ「ふざけんじゃないわよ! 絵里の犠牲でニコたちが生き残る? 誰がそんなの望んだのよ!?」

希「そうね、それは私も本気で頭にくるよ?」

穂乃果(言いたいことはニコちゃんが言ってくれた。希ちゃんは言葉遣いが変わって、表情も違う。これは本気で怒っているんだ)

絵里「私が歴史通りに死んでいれば、皆が私を知ることはないのよ。ほら、何も問題ないじゃない?」

海未「絵里。あなた、本気で言っているのですか?」

絵里「本気よ」

ことり「絵里ちゃん。それじゃあ悲しいよ……」

花陽「絵里ちゃんが居ないμ'sってもうμ'sじゃないよ?」

凛「そうにゃ! 絵里ちゃんが死んじゃうくらいなら、凛たちが死なないように過去を変えてしまえば──」

絵里「いい加減にしてっ!!」

凛「え、絵里、ちゃん……?」

穂乃果(初めて絵里ちゃんが叫んだ。それは血を吐くのと同じような、そんな苦しみが込められているように思えた。……それでも、私は言葉を止められないんだ!)

穂乃果「絵里ちゃん! 皆の気持ちが分からないの!?」

絵里「……っ……!」

穂乃果(何かを呟いて、絵里ちゃんは伏せていた顔を上げる。……泣いていた……)



絵里「それじゃあ! あなたたちに私の気持ちが分かるの!!?」

絵里「何度繰り返しても救えない! 変えてしまった過去をどれだけ戻しても救えない!!」

絵里「いつも私の27歳の誕生日の同じ時間っ! 皆が居なくなってしまう!!」

絵里「どれだけ繰り返したと思っているの!? 百年はゆうに超えるのよ!?」

絵里「もう死なせてくれたって良いじゃない……」

絵里「残っているのは最初の間違い、私の事故死の有無だけなの!」

絵里「それさえ元に戻してしまえば、皆は助かる……それで私は良いのよ……」

穂乃果(絵里ちゃんの嗚咽が静寂の中、悲しく響き渡る)

穂乃果(リーディングシュタイナーを持ち、別の世界線を知ってしまった私だから分かる。絵里ちゃんの辛さが。寂しさが)

穂乃果(いや、分かるなんて言ってはいけない。それはどれだけの孤独なのだろう。それはどれほどの悲しみなのだろう。想像すらできない。誰もが同じような気持ちを抱いたに違いない。だけど──)



真姫「悪いけど絵里。私はあなたの亡き脅しには揺さぶられないわよ?」



穂乃果(ただ一人だけ、真姫ちゃんだけが冷静だった)



真姫「他の世界線? ってやつで私はその電話レンジと言うものを作っているらしいから、多少分かることがあるわ」

真姫「まず一点。何故、あなたが死ぬことで九年後だか十年後だかの私たちが助かるなんて分かるの?」

真姫「次。μ'sが絵里だけ残して死んでしまう? それって、どんな確率なのよ? 宝くじ一等当選確率の方がずっと高いんじゃないの? よって、私はそこに真実味なんて感じない」

真姫「絵里、あなた嘘をついているでしょう?」

穂乃果(!? 思い出した……! 亜里沙ちゃんも言っていたんだ、絵里ちゃんの手紙には嘘があるって。それってつまり、今絵里ちゃんが話した内容にも嘘がある可能性が高い!)

絵里「……そうよ、皆が助かる確信なんてない。私が疲れて、もう嫌になっただけよ……」

真姫「そんなところでしょうね。それで後者については?」

絵里「……死んでしまう。そこに嘘はないわ」

真姫「……なるほどね」

真姫「ねぇ、穂乃果。この場ではもう誰も冷静ではないわ。だから、この話は別の日に繰り越した方が良いと思うの」

穂乃果(真姫ちゃん以外皆が悲しそうな顔をしている。上手い言葉も皆浮かばないのだろう、真姫ちゃんの言葉以外は凄く静かだ)



真姫「それと、絵里のことを本当の意味で理解できるのは穂乃果だけだと思うわ。だから、二人だけでないと話せないこともあるんじゃないの? ねぇ、絵里?」

絵里「……分かったわ」

穂乃果(真姫ちゃんの視線に絵里ちゃんが渋々頷いた形となる。真姫ちゃんは何かに気付いている?)

絵里「穂乃果。明日、私の家に来て。あなたとはしっかりと話をしておかないといけないようだから」

穂乃果「……うん、分かった。穂乃果も絵里ちゃんに伝えることがあるよ」

真姫「それじゃあ、今日はこれで解散ね。はいはい、帰った帰った」

凛「にゃにゃ!? 真姫ちゃん、押さないでよ!」

花陽「ご、強引だよぉー。真姫ちゃーん」

にこ「……はぁ、ここは真姫ちゃんに乗せられておくわよ。言っておくけど、絵里。許したわけじゃないから」

希「ウチはエリちが本音を話してくれるのをいつでも待っとるよ」

海未「希の言う通りですね。それでは私たちも帰りましょうか、穂乃果」

穂乃果「うん。それじゃあ、絵里ちゃん、また明日」

絵里「……ええ、明日ね」

穂乃果(こうして問題は先送りとなり、私は明日絵里ちゃんと会うことになった)



*帰り道


海未「絵里の訴えはおそらく本心でしょう。ですが、その中に嘘があると私も思いました」

穂乃果「前の世界線で亜里沙ちゃんが絵里ちゃんの言葉に嘘があるって言っていたから、多分正しいよ」

海未「亜里沙がですか?」

穂乃果「うん。亜里沙ちゃんもリーディングシュタイナーを持っているんだ」

海未「なるほど。だから、亜里沙が居ないか確認したのですね」

穂乃果「前の世界線では一緒に居たからね」

海未「しかし、そうなるとやはり二人ということになりますね」

穂乃果「なんの話?」

海未「いえ、ただの妄想です。現実的な話にまとめられましたら、お話しましょう」

穂乃果「うん?」

海未「それにしても、私の姉がコロコロ変わる世界というのも一度は見てみたいものですね」

穂乃果「ある意味じゃ面白かったけど、もう体験したくないよ」

海未「ふふっ。お疲れ様でした」

穂乃果「うん、疲れた!」

海未「……明日の絵里との話。頑張ってください。おそらく、絵里の気持ちを変えることができるとしたら、あなただけですから」

穂乃果「そうかな? そうかも。頑張るよ」

海未「朗報をお待ちしています」

穂乃果「うん! ファイトだよ!」



*翌日・絢瀬邸応接室


亜里沙「あ、穂乃果さん、こんにちはです!」

穂乃果「こんにちは、亜里沙ちゃん」

穂乃果(応接室に案内されて、絵里ちゃんと二人何となく気まずい雰囲気の中に、一筋の清涼剤が差し込んできた)

穂乃果「そうだ! この話は亜里沙ちゃんにも参加してもらわなくちゃ」

絵里「……なんで亜里沙を巻き込むのよ?」

亜里沙「?」

穂乃果「だって、亜里沙ちゃんもリーディングシュタイナーを持っているから」

絵里「は? そんなことあるはずないじゃない。ねぇ、亜里沙、そうでしょう!?」

亜里沙「え、ええと、りーでぃんぐしゅないだー? ですか?」

穂乃果「……亜里沙ちゃん、もしかして前の世界線のことを忘れてしまったの?」

亜里沙「せかいせん? ごめんなさい、穂乃果さん。亜里沙、バカだからよく分からないです」

穂乃果(……そっか。忘れるかもしれないって言っていたもんね。本当に忘れちゃうものなんだ……)

絵里「穂乃果。あなた、亜里沙を巻き込んで私を揺さぶっているつもりなの?」

穂乃果(おぉ、怖い。μ's加入前の絵里ちゃんみたいに厳しい目つきだ)



穂乃果「私は、嘘は言っていないよ」

絵里「亜里沙は何も覚えていない。それなのにあなたはまだそんなことを言うつもりなの?」

穂乃果「タイムマシンの設計図。絵里ちゃんの手紙には嘘がある」

絵里「!? ……なんでそれを?」

穂乃果「タイムマシンにはシュタゲ同様戻れる時間に制限がある。こんなところかな? 本来なら私が知らないはずの情報は」

絵里「まさか、亜里沙が一時的なリーディングシュタイナーを!? 亜里沙! タイムマシンの設計図はどこにあったの!?」

亜里沙「お姉ちゃんの机の一番上の引き出しの二重底? あれ? タイムマシンの設計図って何だったっけ?」

絵里「あれはボールペンの芯を使った正規の開け方をしないと燃えてなくなるはずなのよ!?」

亜里沙「普通に開いたよ。ぼやーっとしているけど、何か変な装置みたいなのがあって、そこに設計図? があったような」

絵里「くっ、こんなところでミスをしてしまっていたのね……」

穂乃果(絵里ちゃん、そのギミックって有名な漫画であったアレだよね?)

絵里「は!? だから、穂乃果は過去改変ができたのね!?」

穂乃果「正解。真姫ちゃんにも手伝ってもらったよ」

絵里「……そこまで揃っていれば、この結果も必然というわけね」



穂乃果「疑問は解決した?」

絵里「……いえ。手紙の嘘とタイムマシンの仕様は仮に亜里沙がリーディングシュタイナーを持っていたとしても知りえないはずよ」

穂乃果「亜里沙ちゃんがそのタイムマシンを使って、前の世界線に来ていたとしたら?」

絵里「ありえないわ。私は亜里沙にタイムマシンを使わせるはずはないから」

穂乃果「その辺の事情は知らないよ。だけど、亜里沙ちゃんが23歳だか24歳の時からタイムスリップしてきたのは間違いなくて、そのお陰で手紙の嘘のことも話してくれたよ」

穂乃果(本当は手紙の嘘が何なのかは分からないけど、引っかかってくれたらラッキーだよね?)

絵里「亜里沙が23歳か24歳の時って、私の27歳の誕生日の地点ということ、なの……?」

穂乃果「それで私は亜里沙ちゃんに頼まれたことがあるの。タイムマシンを使う度に記憶がなくなっていって、次はもう覚えていないだろうからって」

絵里「タイムマシンを使う度に記憶がなくなる……?」

穂乃果「たぶん、亜里沙ちゃんがリーディングシュタイナーを失ったのはそれが原因だよ」

絵里「……それで、穂乃果は亜里沙に何を頼まれたのかしら?」

穂乃果(冷静そうにみえるが、大分絵里ちゃんは混乱している様子だった。だから、私は穏やかに答える)

穂乃果「大丈夫だって、絵里ちゃんに伝えて欲しい、って」



絵里「大丈夫……?」

穂乃果「何が大丈夫かってことはもう記憶から失われているようだったけど、そんな風に記憶を失いながらも、タイムマシンを使って伝えたかったことって何だろうね?」

絵里「…………」

穂乃果「絵里ちゃんなら、何となく分かるんじゃないかな?」

亜里沙「大丈夫……お姉ちゃんに伝える……うぅっ!? い、痛い! 痛いよぉっ!!」

絵里「亜里沙!?」

穂乃果「亜里沙ちゃん!?」

穂乃果(突然頭を抱えて苦しみだす亜里沙ちゃん。これってもしかして──)

絵里「亜里沙っ! 亜里沙!?」

亜里沙「だ、大丈夫……大丈夫だよ、お姉ちゃん」

穂乃果(真っ青な顔で亜里沙ちゃんが答える。瞳はどこか虚ろで、何故か優しい。そして、次の一言は──)



亜里沙「──穂乃果さんは助かる、から」



穂乃果(……私……?)



絵里「……あぁ……」

穂乃果(絵里ちゃんの身体から力が抜ける。まるで抱えていたもの全てから抜け出せたかのように)

穂乃果(……そうか、やっと分かった。絵里ちゃんのついていた最大の嘘が)

穂乃果(絵里ちゃんが傷つきながら、時間を繰り返したのは、μ'sのためじゃなくて……)



穂乃果(……私、たった一人のため、だったんだね?)




絵里「……電話レンジが完成したのは本当に偶然だったの」

穂乃果(私が悟ったのを知り、絵里ちゃんは一人語り始める)

絵里「ロシアに居る時は退屈で、家にあるガラクタで発明をするのが私の趣味だったわ」

絵里「ある日出来上がったヘンテコな電子レンジに満足して、私は一人で初めての遠出をするため電車に乗ったわ」

絵里「だけど、最悪なことにその電車は事故を起こして、私は自分が死んでしまうことが分かったの」

絵里「だから、必死にメールを打って遺書を送ろうとした。宛先もなく、その時ふと浮かんだ情景がヘンテコな電子レンジに満足した私の姿だったわ」

絵里「そして、気付けば私はその電子レンジを完成させた時に戻っていた」

絵里「奇妙なことにその電子レンジは勝手に起動していてね」

絵里「幾度も実験をして、そのヘンテコな電子レンジが過去にメールを送れるもので、ヘッドホンをつけてしまえば、自分自身の記憶を過去に送ることができることも分かったの」

絵里「私はとても面白い玩具を見つけたように喜んだわ。些細なことで過去を変えるメールを送り、過去を変えたり、メールを送っても何も起こらなかったり、はしゃいで、がっかりして、楽しい日々だった」

絵里「そんなある日。私は一冊の小説を読んだの。過去を変えることのできる能力を持った主人公の物語。その結末を知って、私はようやく自分の行っていることの恐ろしさに気が付いたわ」

絵里「そこから私はタイムマシンを封印して、普通の人と同じように、一喜一憂しながら生きていったわ」

絵里「社会人になって、タイムマシンのことさえ忘れていたある日、それは起こったの」

絵里「大切な親友、高坂穂乃果の死」



絵里「未来の穂乃果はね……子供を庇って自らを犠牲にしたわ。それを皆、尊いことだと言ったけれど、私は納得できなかった」

絵里「どうして穂乃果が死ななくてはならないの!? どうして穂乃果だけが犠牲にならないといけないの!? ってこの世の不条理を恨んだわ」

絵里「そして、思い出したの。私にはタイムマシンがある。それなら、穂乃果が事故に遭わないように過去を変えれば良いってね」

絵里「でも、上手くいかなかった。交通事故を防げば、建物からの落下物に押しつぶされ、それを防いでも、何かが穂乃果を殺しに来る。私が一緒に居ても、絶対に穂乃果だけが犠牲になる」

絵里「何十と繰り返して、それが無意味だと知って、記憶を過去へと跳ばしたわ」

絵里「穂乃果が職業を変えても、その日のスケジュールを変更しても、どうしても私の誕生日の日、必ず同じ時間で穂乃果は命を落としたわ」

絵里「そして、一つの考えに至ったの。私が変えてしまった些細な過去が穂乃果の死に繋がっているのではないかと。小説でもそんな場面があったことを思い出しながら」

絵里「こうして、私は変えてしまった過去を可能な限り元に戻した」

絵里「時間が過ぎるのに耐えて、私の27歳の誕生日。やはり、穂乃果は亡くなってしまった」

絵里「もう無理だ。諦めようと思った時、私は一つの希望を抱いたの」

絵里「海未の姉が希に代わっていると言う、かつてないほど大きな過去改変。しかも、私は何も絡んでいない。そのすぐ後にまた世界線が変わる感触があって、今度はニコが海未の姉になっていた」

絵里「私は原因を探るため、ニコの前でわざとらしく、この世界線でなくなってしまっていたラブライブについて呟いたわ」

絵里「そして、電話のかかってきた穂乃果にブラフをして、穂乃果がリーディングシュタイナーを持っていることを知ったの」



絵里「だけど、その世界線も、私の27歳の誕生日には同じことが起きてしまう。希望が下手にあっただけ、絶望は測り知れなかったわ」

絵里「そして、私はまた考え続けた。ここでようやく気付いたの。私が変えてしまった過去で元に戻していないものがあることに」

絵里「そう、一番最初に変えてしまった私の事故死。だから、それを変えるために、海未のメールを打ち消し、私の一番最初のメールを打ち消したわ」

絵里「穂乃果がリーディングシュタイナーを持っていることは最早仕方がないことだったから、亜里沙に手紙を託してね」

絵里「──これが私の全て。絢瀬絵里の隠していたことよ」

穂乃果(私も亜里沙ちゃんも涙でぐしゃぐしゃになりながら、絵里ちゃんの話を最後まで聞いた)

穂乃果(亜里沙ちゃんがお姉ちゃんと言って、絵里ちゃんに抱き着く)

穂乃果「絵里ちゃんっ!!」

穂乃果(言いたいこと、感謝したいことがたくさんあったけど、言葉になったのはそれだけで、私も絵里ちゃんに抱き着くことしかできなかった)

穂乃果(そんな不甲斐ない私の頭を絵里ちゃんが優しく撫でてくれる)

穂乃果(余計に涙がこぼれて仕方がなかった)



穂乃果(絵里ちゃんの洋服をびしょびしょにして、ようやく私と亜里沙ちゃんは離れていた)

絵里「……あーあ、全部話しちゃった」

穂乃果(すっきりした表情で絵里ちゃんは呟いた)

穂乃果「絵里ちゃん、ありがとう……」

穂乃果(変わらない涙声で、そう言葉になったかは分からない)

絵里「私こそ、助けてあげられなくてごめんなさい」

穂乃果「そんなこと、そんなことないよ!」

穂乃果「私のために絵里ちゃんはいっぱい傷付いて、辛い思いをして……それなのに、私は昨日酷いことしか言えなかった……!」

穂乃果(やっぱり涙声で私は本心からそう言った)

絵里「お互いさまよ。私なんて、悪者が全部自供して、経緯を説明するなんてドラマみたいな役割で格好悪いったらありゃしないもの」

穂乃果「穂乃果は嬉しかったよ。全部話してくれて」

穂乃果(絵里ちゃんはちょっと照れたように、はにかんで口を開く)

絵里「はー。それにしても、これからどうすれば良いのかしらね?」

穂乃果「亜里沙ちゃんの話だと私は助かるって解釈で良いんだよね?」

亜里沙「えっと、はっきりとはしないんですけど、お姉ちゃんの誕生日の後で、お姉ちゃんと穂乃果さんが居て、そこで伝言を任せられていました」

絵里・穂乃果『!?』



穂乃果「私自身のことだから、あまり大袈裟に喜ぶのもどうかと思うけど、これってシュタゲで言うシュタインズゲートの世界線に来たってことだよね?」

絵里「楽観主義が過ぎるかもしれないけれど、亜里沙がそう言うのだったら、私はもう一度信じられるかもしれないわ」

絵里「ただ原因がはっきりしないから、どうしてあの未来が回避できるから説明が欲しいところだけれど──」

ヘイヘイヘイヘイスタートダッシュ!

穂乃果「あ、海未ちゃんから電話だ。ちょっとだけごめんね。穂乃果だよ!」

海未『私です。絵里との話し合いはどうなりましたか?』

穂乃果「ちょうど決着がついたところかな?」

海未『ほう、声色からして良い結果のようですね』

穂乃果「うん!」

海未『これは急いで電話をする必要はなかったかもしれませんね』

穂乃果「え、もしかして、前の世界線のことを思い出したとか?」

海未『それも一部あるのかもしれませんが、昨日言っていた妄想が形になりましたので、お電話しました』

穂乃果「あー、言ってたね」

海未『実は真姫と話をしていたのですが、その前に絵里の世界線移動で私の姉が希やニコに代わったような大きな過去改変があったのか、聞いてもらうことはできますか?』

穂乃果「いいよ。絵里ちゃん、海未ちゃんが希ちゃんやニコちゃんみたいに、海未ちゃんのお姉さんが代わってしまうような大きな過去改変が、絵里ちゃんの時にあったか教えて欲しいって」

絵里「さっきも話したけれど、海未のお姉さんの件が初めてよ。まぁ、あえて挙げるなら私の事故死の過去改変かしら。それ以外は本当に小さな変化しか起きなくて、むしろ変わらないことの方が多かったくらいよ」

穂乃果(絵里ちゃんにも聞こえるようにケータイを持つ角度を少し変える)



穂乃果「えっとね、海未ちゃん」

海未『大丈夫です。絵里の声が聞こえましたので。やはり、私と真姫の推測は妄想ではなかったようですね』

穂乃果「どういうこと?」

海未『シュタインズゲートのオープニングの歌詞で孤独の観測者と言うフレーズがありますよね?』

穂乃果「あるね」

海未『ですが、今この世界線は二人の観測者になっています』

穂乃果「う、うん?」

海未『先ほどの絵里の言葉から、孤独の観測者では小さな変化しか起こせません。しかし、二人の観測者の場合は、大き過ぎる過去改変が起こっているのです』

穂乃果「あ!? 前の世界線は絵里ちゃんが居なくても亜里沙ちゃんが居たもんね!」

海未『その通りです。片目では遠近感が狂います。しかし、両目であればはっきりとモノを見ることができるのです』

穂乃果「もしかして、絵里ちゃんの時にはなかった、ラブライブと海未ちゃんのお姉さんの共存も!?」

海未『少なくとも私と真姫はそう考えています。ですから、幾度繰り返したかつてが駄目であったとしても、二人の観測者の居る世界線では希望があるのではないか? それを絵里に伝えて欲しいのです』

絵里「海未。聞いていたわ。おかげで引っかかりが取れたわ、ありがとう」

海未『そうですか。それは良かったです。この様子ですともう大丈夫のようですね。では、私はこれで』ピッ



第5章もあと少しです

ちなみにここまででテキストサイズ120KBですので、悲しみに~の本編・番外編を含めた180KBに大分近くなっています

思った以上の長編となって少し驚きました


絵里「なるほどね。観測者が二人……それは考えたことがなかったわ」

穂乃果「凄いね、海未ちゃんと真姫ちゃん。私たちが気付けなかったことにこんな簡単に気付いて」

絵里「……多分簡単ではなかったはずよ。二人はリーディングシュタイナーを持っているわけではない。だけど、私たちを納得させる答えを出せた。……それだけ、心配をかけてしまっていたのね」

穂乃果「良い友達に恵まれているんだよ。私たち」

絵里「全くね。……はぁ、それが分かるからこそ今度皆にあわせる顔がないのよね……」

穂乃果「穂乃果が謝るよ。元はと言えば、私が絵里ちゃんを悪者扱いしてしまったのが原因だし」

絵里「悪者であろうとしたのは私の意思よ。穂乃果が謝ることじゃないわ」

亜里沙「多分、怒らないと思います。皆さん」

絵里「亜里沙?」

亜里沙「せいい? を持って、本当のことを伝えれば、きっと分かってくれます。μ'sは素敵な人たちばかりですから!」

穂乃果「……そうだね。皆、分かってくれるよね」

絵里「一応、土下座の準備をしておくわ」クスッ

亜里沙「じゃぱにーず土下座!」キラキラ

穂乃果「もう、亜里沙ちゃん。絵里ちゃんの冗談だよ」

亜里沙「ハラッショー! そうでしたか」

絵里「ふふっ、亜里沙ったら」



*絢瀬邸前


穂乃果「ねぇ、絵里ちゃん?」

絵里「何?」

穂乃果「絵里ちゃんは本当に納得している?」

絵里「……あれだけ説得されれば、納得もするわよ」

穂乃果「そっか。それなら良いんだ。もし、私が絵里ちゃんと同じ立場だったら、そんな風に素直になれなかったんじゃないかなって、ちょっと思ちゃって。へへ、心配性過ぎるよね?」

絵里「そうね、私を納得させる材料としては七十パーセントくらいってところですものね」

穂乃果「え、えぇー!?」

絵里「一つ、亜里沙が伝言を頼まれた世界線は別の世界線である。一つ、二人の観測者の居る世界線で私は一度失敗をしている。これが足りない三十パーセントよ」

穂乃果「た、確かに、言われてみれば……。でも、絵里ちゃん、凄くすっきりした表情しているよ?」

絵里「足りない三十パーセントは今、私にメールも記憶も送られてきていないということ。この世界線も失敗するのであれば、私はすでに送っているはずですもの」

穂乃果「うわっ!? 絵里ちゃん、頭良い!」

絵里「伊達に色んな世界線を渡り歩いていないわよ?」クスッ

穂乃果「だね。……それじゃあ、絵里ちゃん、またね」

絵里「ええ。またね」



*帰り道


穂乃果(そっか。流石賢い可愛いエリーチカだね)

穂乃果「……痛っ!?」

穂乃果(唐突な刺すような頭痛。それと共に何かの映像がフラッシュバックする)

穂乃果(大人の女性。今とは姿は違うけど、それが穂乃果だと何故か分かる)

穂乃果(その女性は綺麗な服を着て、マイクを差し出す)

穂乃果(それは誰かに託されるマイク)

穂乃果(穂乃果の時間は終わり、次の誰かがそれを引き継いでくれる)

穂乃果(……ああ、そっか)

メールダヨ!



穂乃果(──私はやっぱり死んじゃうのか)



穂乃果(届いたメールは案の定私からで、内容もそういうことだった)



                    第5章『等価交換のアワーライフ』終




区切りの関係で短いですが、ここまでで

そうすんなり事が運ばないのがループものの特徴です


*エピローグ


穂乃果(絵里ちゃんから穂乃果の死を聞いてから抱いていた微かな不安。私は26歳近くでもこの不安を抱いていたのなら、過去へメールを送ろうと決意していた)

穂乃果(そして、唐突な頭痛。その影響で見た光景はきっと予知で、それを証明するように『だめだった』というメールが私には届いていた)

穂乃果(勝手な思い込みだと考えることもできたのかもしれない)

穂乃果(だけど、どうしてもあの光景が未来のものであって、この世界線上のものであるという不安を止めることができなかった)

穂乃果(絵里ちゃんにはメールが届いていないようだったし、私の死を否定する要素はそれなりにある)

穂乃果(それでも私の結論は、やっぱり死んじゃうんだなという酷く客観的な感想だけだった)

穂乃果(だから、私が考えるべきことは、私の死ではなく、私が死んでしまった後も絵里ちゃんに生きていてもらう術だった)

穂乃果(それがもし可能であれば、私の生死などどうでも良いことだから)



*夏休みのある日・アイドル研究会部室


穂乃果(私と絵里ちゃんは事実を正直に、皆に話していた)

穂乃果(反応はとても微妙)

穂乃果(何しろ自分自身の命ではなく、穂乃果一人の命を救うために絵里ちゃんは行動していたのだ)

穂乃果(多分、許していないと言ったニコちゃんでも、ニコちゃん自身の命を救うために絵里ちゃんが犠牲となっていたとしたら、烈火のごとく怒ることができたのかもしれない)

穂乃果(だけど、真実は穂乃果一人だけの命。怒れない。それはニコちゃんが絵里ちゃんの立場であった時に決断する行動が、おそらく一緒になってしまうからだろう)

穂乃果(他人事のように私は心中で述べるが、穂乃果の立場を他のメンバーの立場で入れ替えて考えることで、意外と容易にそんな答えに至った)

穂乃果(だから、歯切れ悪く、仕方がないわね、だったり、話してくれて嬉しかった、だったり、絵里ちゃん頑張ったね、だったりしたわけである)

穂乃果(μ'sほんわか担当組に至っては終始涙を浮かべて抱き着くと言う、あの日の私と亜里沙ちゃんを連想させる行動だったりした)

穂乃果(頭良い組はやっぱりね、と言う感じで聞いていたので、私もやっぱりね、と言う感じに思った)

穂乃果(つまり何を言いたいのかと言えば、μ'sはいつものμ'sに戻ったと言うことである)



穂乃果(今日の練習を終えて、私は考える)

穂乃果(私のタイムリミットは26歳。それなりに長いように見えて、やっぱり短いのだろう)

穂乃果(でも、それまでを精一杯生きてみせる)

穂乃果(そして、必ず見つけよう。絵里ちゃんがもう過去を繰り返さない未来を)

穂乃果(嫌われる? いやいや、相手は大ベテランだ、そんなの通用しないだろう)

穂乃果(だって、私が絵里ちゃんを心の底から嫌うことができないから。むしろ、大好きだから)

穂乃果(さて、本当に難しい問題だ)

穂乃果(だけど、私にはまだ時間がある)

穂乃果(そうだ! 発想を変えよう)

穂乃果(世の中には交通事故など、思いもよらない死というのは日常にありふれているのだ)

穂乃果(そんな人たちと比べれば、穂乃果は何と恵まれていることか!)

穂乃果(だって、26歳までは生きられるんだよ? 残り十年近くだ。それだけあれば、偉業だって成し遂げられる!)

穂乃果(まずはスクールアイドルを頑張ろう! そしたら、私の偉業が一歩進むのだ!)

穂乃果(そう考えると、何だかワクワクしてきた!)

穂乃果(さあ、絵里ちゃんが納得できるような、そんな人生で終えために、頑張ろう!)



これにてラブライブ、シュタインズゲートクロスSSは終了となります

またどこかでお会いできまs





























メールダヨ!




穂乃果(思えば、世界線移動という不思議な体験をしたりもした)

メールダヨ!

穂乃果(そう考えると、私ってかなり面白い人生を送っているよね?)

穂乃果(だから、為せば成る!)

穂乃果(絵里ちゃんが生きられるそんな未来を私は作って──)

メールダヨ!メールダヨ!

穂乃果「って、うるさいなぁ!!」

メメメメールダヨ!ダヨ!ダヨ!ダヨ!

穂乃果「も、物凄い量のメール!? 差出人は、また穂乃果!?」


『こんにちは、私』

『ようやくみつけたよ!』

『絵里ちゃんと一緒に生きる方法を!』

『それは──』


穂乃果「……分かったよ、私」

穂乃果「そんな未来があるんだったら、絶対に辿り着いてみせる!」

穂乃果(生きられるんだったら、全力で生き抜いて見せるさ!)

穂乃果「だから、優勝するよ!」



穂乃果「──ラブライブを!」




*最終章『観測者のラブライブ』


絵里「大量のメール!? しかも、自分から!?」

絵里(あまりにも大量のメールのため、一通一通紙に書き連ねていく。そして、未来の私からのメッセージは出来上がる)


『おめでとう。あなたは今辿り着こうとしているわ。世界線ラブライブへと』

『だけど、辿り着くためには未来を変えなければならない』

『過去を変えるのではなく、未来を』

『変えなければならない未来はラブライブでの優勝』

『そう過去一度と進めていないラブライブ本戦。さらにはそこでの優勝よ』

『必死になりなさい、絢瀬絵里』

『A-RISEさえ破れば、優勝も手に届く』

『そのためにすべきことを行いなさい』

『穂乃果とあなたが共に生きる未来のために』

『KKE2より』


絵里(間違いなくこのメールは未来の自分から送られたものだった)

絵里(KKE2は私だけが知る合言葉だから。賢い可愛いエリーチカ、悲しい悔しいエリーチカという情けない自分自身を省略したものだ)

絵里「……間違いなくあるのね。穂乃果と一緒に生きられる未来が」

絵里(もう一手足りないと思っていたけれど、そう言うことだったのね)

絵里「それなら、やってやろうじゃないの!」

絵里(私が求めてやまない未来が今、そこで待っている)



やっとここまで来れました

ラブライブ!とシュタインズ・ゲートのクロスであるなら、やはりこういう展開でしょう

そんなわけで遂に最終章です。ちなみにここから視点は絵里ちゃんに変わります



デーデッデー

絵里(穂乃果から電話ね。このタイミング、穂乃果ももしかして……)

絵里「はい、絵里よ」

穂乃果「絵里ちゃん、今ね、未来の私からメールが届いたんだ」

絵里「奇遇ね。私もよ」

穂乃果「と言うことは、知っているね? 世界線ラブライブ」

絵里「安直よね? ラブライブで優勝するから世界線ラブライブって名づけるなんて」

穂乃果「シュタゲの特に意味はないよりはマシかも、だよ?」

絵里「ふふっ、そうね」

穂乃果「って、そうじゃなくて! ラブライブどうしよう……」

絵里「? 頑張るしかないわよね」

穂乃果「ラブライブもう終わったじゃん!? 格好良く『優勝するよ! ラブライブを!』とか言っちゃったけど、どうにもならないよ!」

絵里「ああ、そう言うことね。実は、今年度はラブライブが二回あるのよ」

穂乃果「えぇ!?」

絵里「新学期になったら、花陽が大変です! とか言いながら教えてくれるから安心して」

穂乃果「そうだったんだ……」ホッ



絵里「と言うか、今の私たちの実力で前回のラブライブ優勝はどう考えても無理だもの」

穂乃果「おぉ……バッサリだ」

絵里「実質、三ヶ月程度で優勝する方がどうかしているわよ。海未じゃないけれど、日々精進。重ねた練習は嘘をつかないわ」

穂乃果「逆に言うと、練習を頑張らないと優勝は夢のまた夢なんだね?」

絵里「その通りよ」

穂乃果「そっかぁ……。ところで、つかぬことをお聞きしますが、絵里ちゃんさん」

絵里「なに、穂乃果ちゃんさん?」

穂乃果「今まで絵里ちゃんって、ラブライブで優勝したことあるの……?」

絵里「ないわね」

穂乃果「またバッサリだー!」

絵里「残念ながら、どの世界線でも僅差でA-RISEに破れてしまうのよ」

穂乃果「僅差!? それなら、穂乃果たちがもうちょっと頑張れば優勝できるよね!?」

絵里「……私が知る限り最高の作詞作曲、コンディションで僅差なの」

穂乃果「うわぁ……」



穂乃果「でも、逆に言えば、そのレベルまで私たち成長できるってことだよね?」

絵里「ええ。さっきも言ったでしょう? 練習は嘘をつかないって」

穂乃果「むむっ。でも、何回も繰り返している絵里ちゃんが居ても駄目だったってことは、やっぱり未来を変えるのって難しいんだね」

絵里「嫌って言うほど実感はあるけれど、今回は勝機があるし、私自身、手段を選ばないつもりよ」

穂乃果「良いアイデアあるの!?」

絵里「まず、あんなメールを送ってきているくらいだから、優勝している未来があるはずなのよ」

穂乃果「ぶぅ。それならもっとヒントくれても良いのに」

絵里「……たぶん、あのメールと同じものを未来の私たちが受け取っているから、あんな内容になったのではないかしら?」

穂乃果「?」

絵里「助言一つで優勝できるほど簡単なことではなくて、優勝するために切磋琢磨しなさいと言うことでしょうね」

穂乃果「なるほど」

絵里「あと手段を選ばないという点についてだけど、私の本気を皆に還元するわ」

穂乃果「絵里ちゃんの本気?」

絵里「未来で得る予定の技術を今使うと言うことよ。あと、ぶっちゃけると、私ループしている関係で卑怯かなとか思って、微妙に抑えてライブしていたのよね」



穂乃果「えぇー!? 今でも十分凄いのに!?」

絵里「六割程度よ」

穂乃果「ひゃー!」

絵里「でも、やっぱり卑怯かしら?」

穂乃果「ううん。私が言えたことではないけど、当事者だから本当に言えたことじゃないけど、本気を出さない方が相手に失礼だと思うよ?」

絵里「……そう言う考え方もあるのね」

穂乃果「となると、これで優勝に近づくのかな?」

絵里「一歩ね。でも、多分足りないわ」

穂乃果「練習がこれからすさまじくなりそうなのに、それでもまだ足りないんだ……」

絵里「おそらくね。穂乃果、私たちとA-RISEの決定的な差って何か分かる?」

穂乃果「うーん……キラキラしていて凄いなって思うけど、決定的な差かぁ……あ、ファンの数とか?」

絵里「正解。より正確に言うとすれば知名度ね」

絵里「例えばの話、μ'sとA-RISEの実力が同じで同じ曲でライブをしたとするわ。その場合、勝つのはファンが多く、知名度の高いA-RISEなのよ」

穂乃果「それは何となく分かるかも」

絵里「と言うわけで、知名度を上げるためにライブの回数も増やす必要があると思っているわ」

穂乃果「賛成!」



絵里「まぁ、今の段階ではこんなところね」

穂乃果「流石絵里ちゃん。頼りになるぅ」

穂乃果「あ、そう言えば、私からのメールには過去を変えてはいけないって書いてあったけど、絵里ちゃんもそれでオーケーだった?」

絵里「どうやらこの世界線が正解らしいから、私もその認識よ」

穂乃果「そっか。それじゃあ、今更だけど、今後過去を変えるメールは駄目絶対の約束だね?」

絵里「略してDメールね!」ドヤッ

穂乃果「おぉ、流石原作者様! そう言えば、今まで一度もDメールって言葉使わなかったなぁ」

絵里「メールで意味が通じていたからかしら?」

穂乃果「だね」

絵里「まぁ、D(駄目絶対過去改変)メールと言っても、ラブライブで優勝するということ自体、未来から見れば過去を変えることになりそうだけれど、こればっかりは卵が先か鶏が先かの問題よね」

穂乃果「過去を変えるメールじゃなくて、過去にあった通りにするメールってことだよ」

絵里「そういう見方もあるわね」

絵里(そんな風にお互いに意見を交わして、電話を切る)

絵里「ふぅ……」

絵里(さて、これから忙しくなるわね)



ラブライブ予選までかなり端折っていく予定です

最終章の本編はその先にありますので

思い付きで二本SSを書いてしまって(未公開)、こっちが遅れていましたがペースを戻したいと思います


今日は休みだったので、最初から読み直したら1時間くらいかかった……

自分でもたまに混乱する過去改変関連
今のところ矛盾はないですが、理解が難しいところが要所にありますね

今回は先に書いたので後書きはなしです


*夏休み後半・学校屋上


絵里「やっぱり忙しくなったわね」

にこ「絵里、あんたっ……はぁ……ニコたちを、殺す気、なの……」ハァハァ

海未「驚きました。これが絵里の百パーセントなのですね」

凛「……はぁ、はぁっ……息が切れていない海未ちゃんも、何なの……?」

絵里(穂乃果と相談して、ラブライブの優勝が未来に関わっていることは伏せ、私が全力を出していないことだけを皆に伝えていた。そして、開口一番、海未が私に指導を仰ぎ、結果皆バタンキューというわけである)

絵里「辛いのは最初だけよ。実際私の体力自体は未来から持ってきているわけではないもの。要は、どう動けば最適かを知る、そんなテクニックを今学んでいると思ってちょうだい」

穂乃果「これ、明日絶対筋肉痛になるよ……」

海未「皆、クールダウンはしっかり行いましょう」

絵里(ちなみに、今発言していない人は絶賛ゾンビ中である)

絵里(そんな夏休みを終え、従来のμ's以上の力を付けた私たちは新学期を迎えた)



絵里(正史の通り、穂乃果が生徒会長となり、ラブライブがもう一度行われることも公開され、μ'sの士気も一段と高いものへと変わっていた)

絵里(新曲でやっぱり多難に苛まれることとなったものの、出来上がってみれば何もかも好調で、今回もまたA-RISEに誘われるまま彼女たちの本拠地でライブを行い、無事予選を突破することができた)

絵里(ただ一つ違うとすれば、A-RISEを驚愕とさせたこと)

絵里(今までの世界線でμ'sのライブ後にあったA-RISEの余裕が今回はなかったのだ)

絵里(つまり、それだけ私たちが実力を身につけ、明確なA-RISEのライバルになったということだろう)

絵里(実力は確実に上がっている。ライブも小さいながら回数を増やしている。それでも、地区予選決勝でA-RISEに勝てる確証はなかった)

絵里(もう一手。もう一手が欲しい)

絵里(でも、これ以上できることとはなんだろうか?)

絵里(すでに真姫と海未の最高傑作であるノーブランドガールズは完成している)

絵里(曲、振り付け共に高い完成度となるだろう)

絵里(そんな私の葛藤を穂乃果に話したら、皆に相談してみようと言われて──)



*放課後・部室


穂乃果「はい、それでは第四十二回μ's会議を始めます!」

にこ「前の四十一回はいつやったのよ!?」

穂乃果「ニコちゃん、ナイスツッコミ!」

真姫「それで会議って何をするのよ?」

凛「決まっているにゃ! A-RISEに勝つための作戦にゃ!」

花陽「ここまで来たら、わたしも! ラブライブ本戦に進みたいです!」

穂乃果「おぉ! 一年生組が熱い! そう、まさにその通りなのです!」

ことり「うーん、作戦かぁ……」

海未「絵里。あなたがあえて触れてこなかった部分でしたので、今まで聞くことはありませんでしたが、μ'sはA-RISEに勝てたのですか?」

真姫「まぁ、穂乃果が会議を開くくらいだから、何となく分かるけれどね」

絵里(流石、察しの良い二人よね)

絵里「……そう、μ'sは未だかつてA-RISEを破れていないわ」

にこ「うわぁ、嫌なこと聞いちゃったわ。まぁ、A-RISEが凄いのは今に始まったことじゃないけど」



凛「凛たち、地獄の特訓に耐えてきたのに……」

花陽「うぅ……辛かったです」

真姫「絵里、その時の曲もノーブランドガールズだったの?」

絵里「ええ。客観的に見ても最高の曲に、最高のパフォーマンス、それでもA-RISEに一歩届いていなかったのよ」

海未「なるほど。……それでは曲を変えましょう」

絵里「え!? 何をあっさり言っているの、あなた!?」

真姫「ノーブランドガールズで勝てなかったのでしょう? それなら、それを超える曲を作るだけだわ」

絵里「真姫まで!?」

にこ「作詞作曲がそう言っているところ悪いけど、ノーブランドガールズって盛り上がれる最高の曲じゃない? それを超えるってかなりの難度でしょう?」

絵里(流石ニコ! 私の言いたいことを言ってくれたわ!)

花陽「わたしもそう思います。数あるアイドルの名曲にもノーブランドガールズは対抗できる出来ではないでしょうか?」

穂乃果「アイドル好きの二人の説得力が凄い……」

海未「確かにあの曲は最高傑作と言って良いでしょう。真姫も自負があるのではないですか?」

真姫「まぁ、ね……」



海未「それならば、曲の方向性を変えるしかありませんね」

凛「方向性?」

海未「ノーブランドガールズは言うなれば、観客を巻き込む突進力に優れた曲と言えましょう。勢いと言う意味ではこれを越えることは今の私たちには難しいです」

真姫「……例えば、海未の矢のように鋭く貫く貫通力に優れた曲を作るとかであれば別の方向性になるわね」

絵里「なるほど、曲の方向性ね……」

絵里(これは今まで考えもしなかった。でも、それはそれで難しい話よね。結局、作詞作曲は海未と真姫になるわけだから、いきなり方向性を変えるのも……)

希「あの……」

絵里「希?」

絵里(珍しく遠慮がちに希が手を挙げる)

希「ら、ラブソング、とかどうやろ?」

ことり「ラブソング! ことりは良いと思うよ!」

にこ「意外なところから意外な意見が」

希「それと、皆で歌詞を作れたら、ええなと思うんよ……」

穂乃果「それだぁ!!」



絵里(希の意見と穂乃果の勢いに乗せられて、私たちは右往左往しながら別の方向性を持つ一つの曲を完成させた)

絵里(その過程で希の内に秘めた、本来であれば私が数年後に知る想いも皆が共有できるものとなっていた)



絵里(そして、出来上がった『Snow halation』はA-RISEを打ち破り、私たちは初めてラブライブ本戦へと出場することが叶ったのだった)



絵里(前回の覇者であり、優勝を最有力視されていたA-RISEを破ったμ'sがラブライブ本戦でどうなったのかは最早言うまでもないだろう)

絵里(アンコールにまで応え、遂に念願の優勝を果たしたのだ!)

絵里(誰よりも私がぼろ泣きしてしまい、穂乃果が苦笑しつつも優し気に微笑んだ姿が強く今でも記憶に残っている)

絵里(こうして私たちは、学校を廃校から救いつつ、未来の自分からの課題を見事にクリアした)



絵里(三年生組の卒業と共にμ'sは解散し、メンバーの全員がそれぞれの道を歩んでいった)

絵里(私の知っていた未来と大きく違っていたのが、メンバーそれぞれの進路だった)

絵里(凛は持前の運動神経を活かし、なんと母校音ノ木坂学院で体育教師を務めている)

絵里(μ'sがラブライブで優勝した影響もあり、今でも入学希望者は絶えないらしい)

絵里(割と高い確率でメンバーが成人した頃には廃校となっていた音ノ木坂を知っている身としては、嬉しい限りである)

絵里(花陽はやっぱりお米への愛が深く、郊外で農業を営んでいる)

絵里(知る限り花陽が農業の道に進むのは十割なので、どこの世界線でも唯一ぶれない存在であった)

絵里(ちなみに花陽の作ったお米は本気で美味しい)

絵里(ことりは卒業後、海外へと行き服飾の道へと進んだ)

絵里(服飾関係の仕事に就くことはいつも確定であったのだが、未だに根強く居るμ'sファンの支えもあり、ことりブランドは相当な売り上げを作り出しているという)

絵里(たまにフラリと現れては、新しい服のプレゼントを貰うのだが、どんなブランドよりも私の好みに合うものばかりで流石だなと思っている)

絵里(海未は花陽同様ぶれることなく園田家を継いでいる)

絵里(かつての未来よりも門下生が多く、世間への認知が高いことが最大の違いだろう)



絵里(希は神職に就いた……のだが、怪しげな占い屋も営んでいるのをたまに見る)

絵里(よく当たるという評判なので、むしろ占いを本職した方が良いような気もしないでもない。と言うか、神職としてそれで良いのだろうか?)

絵里(真姫は立派な医師となった。まだ新人ではあるものの相当に優秀らしい)

絵里(副業でとあるアイドルたちに楽曲を提供していたりするのが、他の世界線と違うところだろうか?)

絵里(ちなみに、電話レンジの影響か趣味で機械いじりも行っている。幼少の頃から発明が趣味である私と同好の友なので、お互い忙しいながらもわりと頻繁に意見を交わしていたりする)

絵里(さて、残りの私、穂乃果、ニコなのであるが……まぁ、ニコは相変わらずアイドルを頑張っている)

絵里(μ'sのネームバリューもあり、第一線で活躍しているのが他の世界線との違いである)

絵里(そして、リーディングシュタイナーを持つ私と穂乃果であるが、これがまたかつてない奇妙な道に進んでしまっている)

絵里(ぶっちゃけよう。ニコと同様に第一線で活躍しているアイドルが私たちである)

絵里(ついでに、真姫の楽曲提供先のとあるアイドルたちとは私たちのことで、たまに海未に歌詞作りを手伝ってもらっていたりもする)



絵里「ねぇ、穂乃果。私たち、今本物のアイドルをやっているのよ?」

穂乃果「いやー、遠いところに来ちゃいましたねぇ」

絵里「ほんと。何なのよ、この世界線は?」

絵里(学生の頃と比べてお互い大人びた容姿で苦笑いをする)

にこ「はいはい。スカウトされたお二人は良いですよねぇ~」

絵里(ちなみにニコの容姿は一切変わっていない。日々のスキンケアの賜物らしいけれど、身長もなのよね……)

穂乃果「ごめんね。ニコちゃんより先にデビューしちゃって」

にこ「にごー! こっちは必死になって教習所で頑張って、ようやくアイドルになったって言うのに! むきー!」

絵里「ニコ、アイドルがしちゃいけない顔しちゃっているわよ?」

にこ「ニッコニッコニー」ニコー

穂乃果「流石ニコちゃん。アイドルの鏡!」

にこ「当然よ!」

絵里(そんなわけで、今、私たちはアイドルを頑張っている最中である)



*とある休日・西木野邸


真姫「うわー、私の家に人気アイドルが二人もいるわー」ボウヨミ

絵里「真姫。いくら何でも棒読み過ぎ」

絵里(真姫も随分と大人びた容姿に成長したものだ。白衣を着こなせばまさに美人女医と言えるだろう)

穂乃果「でも、真姫ちゃんもすっごい忙しいんでしょう?」

真姫「ブラックね。病院なんてブラック企業よ!」

絵里「アイドルも似たようなものよ?」

穂乃果「皆ブラックだ!」

真姫「まぁ、こうやって、集まれる暇があるだけまだマシなのかしらね」

絵里「年々、機会は減っているけれどね」

穂乃果「皆、ファイトだよ!」

真姫「はいはい。……ところで、絵里の誕生日まで残り一週間もないわね」

絵里「……そうね。あれから、未来の私からの便りは一切ないから、大丈夫だとは思うけれど」

穂乃果「ラブライブ優勝したから問題ないよ!」

真姫「と言うかね、ラブライブ優勝が穂乃果の生存条件だったって聞いた時には開いた口が塞がらなかったわ。ほんとにね!」

絵里「まぁ、過ぎた話じゃないの」



穂乃果「高坂穂乃果! おかげさまで今日も生きています!」

真姫「文句も言いたくなるわよ、もう!」

絵里「はいはい。ところで電話レンジはどう?」

真姫「また新しいことが分かったわ」

穂乃果「すっごいね、真姫ちゃん!」

絵里(真姫には私の作った電話レンジ(完成版)と設計図を預けている。個人的に研究したいとの申し出があり、私にも不明な部分が多々あったので、その申し出を了承したと言う流れである)

真姫「電話レンジの起動条件はリーディングシュタイナーを持つ人が近くに居ないと駄目、っていうのは最早確定ね」

絵里「やっぱり、そう言う仕組みなのね」

絵里(真姫に電話レンジを預けてすぐに、過去にメールを送ることも記憶を送ることもできないと言われたことがあった)

絵里(それで様々なシチュエーションで試すこととなり、その結果が遂に出たということだろう)

真姫「あと使用すると何だかよく分からない数値が微妙に減少するようね」

絵里「何だかよく分からないって……」

穂乃果「それって亜里沙ちゃんがリーディングシュタイナーを失ったのと関係あるのかな?」

真姫「推測だけど、リーディングシュタイナーを持つ人は特殊な数値を持っていて、それを消費することで過去に干渉しているのでしょうね」



絵里「あの、私、百年以上色々過去改変してきているけれど、何ともないわよ?」

真姫「だから推測って言ったでしょう? あと、もしかしたら、絵里の数値がバカみたいに大きいのかもね」

穂乃果「ちなみに過去を変えちゃいけないから、実験をすることが分かっている時点の真姫ちゃんにしかメールを送っていないよ」

真姫「誰に言っているのよ?」

絵里「まぁ、駄目絶対過去改変メール、略してDメールですものね」

真姫「はぁ。それにしても、最近はこいつをいじっている時だけが癒しな気がしている自分が嫌になってくるわ」

絵里「学者肌なんでしょうね」

真姫「本当は絵里が本気になって協力してくれれば、もっと早く研究は進むのでしょうけれど」

絵里「自分の体験した世界線を対象に、メールを送ることができるっぽい理論は完成しているわよ?」

真姫「これだから天才は……」

穂乃果「え!? 凄い!?」

絵里「まぁ、気が向いたら手伝うわよ。そう遠くないうちに私たちがメールを送る立場になるでしょうからね」

穂乃果「そっか。あの時のメールはそうやって送られてきたんだね?」

絵里「たぶん、そういうことね」



真姫「それで絵里の誕生日の日はどうするつもりなの?」

絵里「一応、私も穂乃果も完全にフリーにしてあるわ」

真姫「万が一を考えれば当然ね」

穂乃果「頑張って引きこもるぞー!」

絵里「一応大丈夫だと言うことになっているけれど、今までが今までだったし、私もつきっきりよ」

穂乃果「絵里ちゃんの誕生日もついでに祝うんだ♪」

真姫「……あなたたち、恋人同士か何かなの?」

絵里「私はいいって言ったのに、穂乃果がね……」

穂乃果「だって、せっかくの休みだし、引きこもっているだけだと暇だしー」

真姫「それなら、私も仲間に入れてもらおうかしら」

絵里「え? 真姫も休みなの?」

真姫「……μ's全員が休みよ」

穂乃果「えぇー!?」

真姫「やっぱり、皆気になるのよ。いくら大丈夫だって分かっているとは言え、万が一を考えてしまうの」

絵里「……ああ、だから年中暇な希もわざわざ休みを取ったとか言っていたのね」

穂乃果「そう言えば、ニコちゃんもその日オフだ!」



真姫「皆、音ノ木坂に戻ってくる予定らしいわよ? ついでにμ's同窓会にしちゃえば良いんじゃないの?」

穂乃果「私のために、皆、申し訳ないです。はい」

絵里「良いわね、同窓会。私の誕生日を祝ってもらうよりもそっちにしましょう!」

真姫「……そろそろ絵里も誕生日を気にする年頃よね」

絵里「え? 私は永遠の十七歳よ」

穂乃果「……皆、独り身だもんね……」

真姫「…………」

絵里「…………」

穂乃果「あ、ごめん」

絵里「いいのよ……私、アイドルだし……」

真姫「……男には興味ないもの……」

穂乃果「穂乃果もアイドルだもんね……」

絵里「……あ、雪穂ちゃん、ご結婚おめでとうございます」

穂乃果「いつの話!? 数年前だよ!?」

真姫「……穂むらが安泰で良かったじゃない」

絵里(女独身が集まると、お通夜みたいな雰囲気になるのは何故かしらね……)

絵里(その後、いつも通りストレス発散も兼ねて、アルコールありの会食をして解散となった)



絵里(そして、十月二十一日がやってくる)

絵里(私の誕生日であり、かつての世界線での人生最悪の日)

絵里(午後三時丁度。何をしても穂乃果はこの時間に亡くなってしまう)

絵里(でも、この世界線では未だ私からのメールが送られてきていない)

絵里(今までとは違う世界線。未来の自分からの課題であったラブライブ優勝も果たしている)

絵里(だから、大丈夫だと自分に言い聞かせる)

絵里(あまたの失敗が私に不安を抱かせるのだ)

絵里(それ故に真姫からの提案はとてもありがたかった)

絵里(本来の予定では穂乃果の家で引きこもることにしていたのだが、μ's全員が集まるということもあって、部屋の広い真姫の家を提供してもらうこととなった)

絵里(加えて、部屋の調度品、シャンデリア等を総点検し、間違っても室内で事故が起こることのない配慮も行ってくれたと言う)

絵里(また、最悪の場合でも西木野総合病院へと最短のルートで辿り着くことができる立地でもある)

絵里(まさに万全の準備が整っていると言えよう)

絵里(現状でこれ以上ない安全策。真姫のリアリストかつ友情に厚い内面が窺えるようだった)

絵里(さあ、絵里。今日を乗り越えて、今までの苦労から報われよう!)

絵里(ずっと夢見た未来がそこにあるのだから)



*西木野邸・応接室


ことり「うわー! 皆、久しぶりだね~」

凛「わー! ことりちゃんだぁ!」

海未「ことりは海外を飛び回っていますから、中々会えないですからね」

穂乃果「ことりちゃん、会いたかったよ~」

ことり「わーい! 穂乃果ちゃーん!」ヒシッ

にこ「……先週フラッと現れて、衣装を貰った記憶があるんですけど」

真姫「奇遇ね、ニコちゃん。私もそんな記憶があるわ」

希「ウチはことりちゃんを占った記憶まであるで」

海未「……そう言えば、結構会っていますね」

絵里「大ブランドの社長がそんなフラフラ出歩いていて大丈夫なのかしら?」

花陽「でも、こうやって皆で集まるのは本当に久しぶりだよね」

凛「本当だよねー」

穂乃果「凛ちゃん先生も結構忙しくて中々会えないよね」

凛「穂乃果ちゃん、先生は止めてー」

真姫「あの凛が今では音ノ木坂学院の先生って、未だにピンと来ないわ」

にこ「同意ね。それにしても、ニコたちは当然としても、皆結構忙しい日々を送っているわよね」



海未「門下生が増えたのは良いですが、前よりも時間がとられるようになりました」

花陽「稲刈りの時期は目が回るくらい忙しいです」

真姫「穂乃果と絵里にも言ったけど、病院はブラックよ!」

ことり「ことりは基本デザイナーだけど、忙しい時はパタンナーさんにもなるのです」

絵里「学生時代は全部やっていたものね」

穂乃果「パタンナーって型紙を作る人だっけ?」

にこ「そうよ。当時もことりの型紙があったからこそ、ニコたちも裁縫を手伝えたのよ? 今考えれば、この子化け物だったわね」

ことり「ニコちゃん。ことりをお化け扱いしないで~」ウルウル

凛「うちのスクールアイドルたちも衣装づくりにはいっつも苦労しているようだよ?」

花陽「懐かしいな~」

希「…………」

にこ「あ、一人だけ暇な奴居たわね」

希「う、ウチだって忙しいんよ?」

凛「凛が学校から帰る時、希ちゃんいっつも居酒屋さんに行っているのをよく見るよ?」

希「グサッ!」

絵里「……相変わらず自由人ね」



希「う、ウチのことは置いておいて! エリちの誕生日を祝おうやん!」

海未「思いっきり誤魔化しましたね」

凛「だね」

希「リリホワの妹たちが冷たい!?」

真姫「まぁ、良いわ。それじゃあ、ケーキに火をつけるわよ」パカ

花陽「すっごく美味しそうなケーキです!」

穂乃果「ケーキ♪ ケーキ♪」

にこ「穂乃果、アイドルたるものカロリー計算はしっかりしなさいよ?」

穂乃果「今日は無礼講だよ!」

絵里「無礼講の意味分かっている?」

ことり「あ、このケーキ、有名なパティシエさんのケーキだ」

絵里「え? そうなの?」

真姫「よく分かったわね。……準備ができたから、皆飲み物を持って」

凛「はーい」

希「今日はソフトドリンクやね」

花陽「希ちゃん、アルコール中毒になっちゃ駄目だよ?」

にこ「ウーロン茶って喉に良くないんだっけ?」

海未「確か、日常に飲む分には問題ないはずですよ」



穂乃果「それじゃあ、絵里ちゃん! お誕生日おめでとう!」

絵里以外『おめでとう!』カンパーイ

絵里「ありがとう」フー

絵里(ロウソクの火が消え、皆拍手してくれる)

絵里「……遂に私も27歳かぁ……」

にこ「分かるわ。最近歳をとるのが嫌になってくるもの」

希「せやね」

凛「なんで、いきなり雰囲気暗くなってるの!?」

絵里「そのうち凛も分かるようになるわ……」

花陽「こ、怖いです……」

ことり「穂乃果ちゃんは何歳になっても可愛いよ♪」

穂乃果「ありがとう! ことりちゃん」

海未「……とりあえず年齢の話はなしにしましょう。今日は楽しむ! 以上です」

真姫「海未も大分くだけたわね」

海未「門下生との付き合いで飲み会に参加することもありますからね」

絵里「付き合いっていうのも大変よね」

穂乃果「結構気を使うよね」

花陽「流石、現役アイドルです!」



真姫「あ、今日はμ's同窓会も兼ねているから、気兼ねなく楽しんでちょうだい」

にこ「仕事の付き合いでない飲み会は最高よね!」

希「にこっち、世界の矢澤がそれを言っちゃいかんよ」

にこ「今日はプライベートだから良いのよ。あと、矢澤って言うな!」

凛「にゃははははっ! 楽しいにゃー!」

ことり「え? 凛ちゃん、酔っぱらっちゃったの!?」

海未「凛が飲んでいるのはただのオレンジジュースです」

希「雰囲気に酔ったんやね。楽しいことは良いことやで」

穂乃果「そう言えば、真姫ちゃんみかん食べられるようになった?」

真姫「昔から食べられるわよ! ただ、少し苦手なだけで」

花陽「苦手と言えば、絵里ちゃんは梅干しの他にのりが苦手だったよね?」

絵里「こればっかりはね。一応ロシアの血を引いちゃっているから」

真姫「日本人と違って、海外の人は海藻類を伝統的に食べてこなかったから消化できないことがあるのよね」

ことり「ことりの苺、穂乃果ちゃんにあげるね」

穂乃果「わーい、ありがとう、ことりちゃん!」

海未「昔から穂乃果はパン同様苺も好きですよね」



絵里(久しぶりに全員揃ったμ's。それぞれが思い思いに近況を述べたり、思い出を語っていく)

絵里(そんな楽しい時間はすぐに過ぎていき。気が付けば、午後三時まであと一分もなくなっていた)

絵里(自然と身構えてしまう私。真姫と海未も気を引き締めているのが見て取れた)

絵里(他の面々も楽しそうにしてはいるものの、ちらちらと時計を気にしているようだった)

絵里(そして、午後三時。それは起こった)



穂乃果「……ぐっ……!?」



絵里・真姫・海未『穂乃果!?』

穂乃果「く、苦し、い……!!」ガタン

絵里(胸を押さえて、倒れ込む穂乃果の姿……嫌、いや……いやーっ!!)

絵里「大丈夫なはずじゃなかったの!?」

絵里(なんで穂乃果が苦しんでいる!? 未来は変わったはずじゃないの!?)



絵里(穂乃果ちゃん! 穂乃果! と皆騒ぎ出す。それほどに穂乃果は尋常でなく苦しんでいた。そして、動きが、……止まる)

絵里(頭の中が真っ白になったのが分かった)

絵里(穂乃果……)

絵里(穂乃果……)

絵里(穂乃果っ……!!)

真姫「……意識がない、呼吸も止まっている。凛! 玄関まで担げる?」

凛「意識がないなら一人じゃ無理。海未ちゃん、かよちん手伝って!」

海未「分かりました!」

花陽「うん!」

真姫「絵里も手伝ってあげて! 車は準備できているわ。私は先に行って準備をしておくから」

絵里(ほとんど思考が回らず、真姫の言葉の通り穂乃果を担ぐ三人に手を貸す)

絵里(想像以上に担ぐのが大変だったような記憶がある)



絵里(穂乃果を車に乗せ、即座に真姫が心肺蘇生を試みる)

絵里(穂乃果を担いでいた私たちを乗せ、車は動き始めた)

絵里(その間も真姫は必死にマウスツーマウス、心臓マッサージを繰り返す)

絵里(汗だくになっていく真姫を私は見ているだけしかできなかった)

絵里(そして、数分で病院へと着く)

絵里(担架は既に用意され、凛たちが穂乃果をそこに乗せ、真姫と共に穂乃果は病院の中へと運ばれて行った)

絵里(気が付けば、手術中と表示された手術室の前の待合椅子に私たちは居た)

絵里(祈る)

絵里(祈る)

絵里(祈る)

絵里(必死に穂乃果の無事を祈る)

絵里(他の世界線と違い、穂乃果は即死ではない。手術は午後三時を過ぎてもまだ行われている)

絵里(助かる。助かるはずなんだ)

絵里(祈る)

絵里(祈る)

絵里(祈る)

絵里(今の私にはそれだけしかできなかった)



絵里「……うそつき……うそ、つき……」

絵里(穂乃果の手術は終わっていた)

絵里(手術を努めた真姫の父親が、いつの間にか来ていた穂乃果の家族とどこかの部屋に入って行った)

絵里(私たち四人と手術室に居た真姫もまた別室に移り、穂乃果の状態を聞かされる)

絵里(真姫は、本当は家族にしか伝えられないことだけれどと前置きして、結論を告げる)

絵里(穂乃果は命をくい止めた)

絵里(原因不明の心臓麻痺。真姫の処置が早かったおかげで脳死には至らなかった)

絵里(でも、こんなことってないでしょう……)

絵里(確かに穂乃果は生きている。でも、ただ生きているだけ)

絵里(いつ目を覚ますのか分からない。真姫の客観的意見では奇跡でも起こらない限り目を覚まさないとのことだ)

絵里(穂乃果はいわゆる植物状態であった)



絵里(私は、そんな現実に耐え切れず、意識を手放していた)




物語は遂にクライマックスへと

存在するのは奇跡ではなく、ただ必然のみ

一乙
ところで医大って最短で何年くらいかかるんだ?

>>209
日本では最短で24歳です。海外で優秀な人になると23歳
プラス2年で正式な医師となるので、作中の真姫ちゃんは研修医となります
自分の家の病院、フィクションの補正で正式な医師っぽい感じはしますが

ちなみに真姫ちゃんが心肺蘇生をしていなければ、穂乃果は脳死の可能性がありましたので、真姫ちゃんはかなり必死でした

あと、アイドルであることは重要ですね

そんなわけで、今回も前書きのみとなります


*???


穂乃果(絵里ちゃん)

絵里(穂乃果っ!?)

絵里(……なんだ、私夢を見ていたのね。いつも通りの穂乃果が目の前に居るじゃない)

絵里(それにしても、性質の悪い悪夢だったわ)

穂乃果(私ね……何となく分かっていたんだ)

穂乃果(助からないって)

絵里(なに、何を言って居るの穂乃果……?)

穂乃果(でも、大丈夫だって必死に思い込んで、結局皆を悲しませてしまった)

絵里(言っていることが分からないわ、穂乃果!)

穂乃果(ごめんね、絵里ちゃん。未来を変えることができなくて)

絵里(居るじゃない! ここに! 穂乃果がっ!!)

穂乃果(できれば、絵里ちゃんには、笑って生きていて欲しいな)

絵里(わからない……分からないわ! 穂乃果……)

穂乃果(それが穂乃果の願い)



絵里「──穂乃果っ!!」ガバッ

真姫「……目を覚ましたのね、絵里」

絵里「真姫……? 私、は……?」

真姫「ここは私の病院の病室。空きが一つあったから、あなたを寝かせていたわ」

絵里「病院……穂乃果! 穂乃果はっ!?」

真姫「面会謝絶。状況は変わっていないわ」

絵里「だって、穂乃果はさっき私と普通に話をしていて……」

真姫「……夢を見たのね」

絵里「夢……あっちが夢、だった……?」

絵里(夢、悪夢、病院、植物状態!)

絵里「穂乃果を、穂乃果を助けないと!」

真姫「……電話レンジを使う気? それはおすすめできないわ」

絵里「何でよ!? 穂乃果が心臓麻痺を起こしたのなら、起きる前に病院へ行っていれば解決するじゃない!?」

真姫「……残念ながら、それでも穂乃果の状態は変わらないと思うわ。例え数分早くても、相手は原因不明の心臓麻痺。植物状態であることは変えられない」

真姫「それに現状は最善を尽くした結果よ。下手に過去を変えることでさらに悪い状況に陥る可能性が高いわ」



絵里「……世界線の収束」

真姫「そうね。穂乃果がこうなることは世界の決定事項なのかもしれないわね」

絵里「……私は、また……穂乃果を救うことが、できなかった……っ!」

真姫「…………」

絵里「どうして……どうして、こうなるのよ……」

絵里(今回こそ大丈夫だと思って、必死に諦めることをやめて、頑張って……それが、それがこの結果なの!?)

真姫「私は……絵里を聡い人間だと思っているわ」

真姫「そんな絵里が穂乃果と共に生きる未来を、こんな結末で納得するはずがない」

絵里「…………」

真姫「医学上、奇跡でも起きなければ穂乃果は目を覚まさない。だけど、その奇跡が起こったから、未来の絵里はあなたをここに誘ったのかもしれない」

真姫「だって、穂乃果はまだ生きているのだから」

絵里「!?」

絵里(そうだ。かつて一度も状態がどうであれ、穂乃果が午後三時を超えて生きていることはなかった。この世界線はその初めてが存在する。それなら──)

絵里「真姫。ケータイを使える部屋はどこ?」

真姫「この部屋を出て、左の大室。……付き合うわ」

絵里「ありがとう」



絵里(覚えていなかったが、ケータイの電源は切られていた。病院に居るのだから当たり前と言えば当たり前なのだが)

絵里(電源を入れなおし、着信メールを確認する)

真姫「どう?」

絵里「……駄目。届いていない」

真姫「静観しなさいと言うことかしらね?」

絵里「そうね。私が未来の私なら、メールを送らない理由はそれしか考えられない」

真姫「つまり、この後何かが起こる。それがトリガーとなるから、今はメールを送ってこない」

絵里「同感ね」

真姫「それなら、あなたは絵里がするであろうことをしながら、生活しなさい」

絵里「私がするであろうことね……」

真姫「まず何をする?」

絵里「穂乃果を見舞うわ」

真姫「アイドルの仕事は?」

絵里「休む」

真姫「まぁ、それが絵里よね」

絵里「まぁ、私は絢瀬絵里だから、ね」



真姫「それじゃあ、私もすべきことをするわ」

絵里「真姫のすべきこと?」

真姫「あなたの答えを聞いたから、すべきことができたのよ」

絵里「?」

真姫「私のことは気にしなくても良いわよ。今はあなたのことだけを考えなさい」

絵里「そうね。今は余裕がないものね」

真姫「ついでに言うと、他のμ'sメンバーは穂乃果の状況を知っていて、それぞれ思うことはあるようだけれど、それも気にしなくて良いわ」

絵里「……何だか、私薄情者みたいだけれど?」

真姫「逆よ。あなたは希望なの。未来の絵里から何らかのアクションがあれば、穂乃果が助かるかもしれない。それを私たちは待っているわ」

絵里「……未来の私、責任重大ね」

真姫「だから、メールを送ってこないのかもね」

絵里「……ああ、何となく少しだけ未来の私の気持ちが分かったかも」

真姫「期待しているわ」

絵里「……応えられるように頑張ってみるわ」



*ある日・穂乃果の病室


絵里(穂乃果の面会謝絶は解かれ、ようやく私たちもお見舞いに行けるようになっていた)

絵里「こんにちは、穂乃果」

絵里(よくドラマでみるような機械に繋がれた穂乃果がそこに居た)

絵里「痩せたんじゃないの、あなた? ふふっ、昔みたいに海未にしごかれなくて良かったわね」

絵里「そうそう、ドラマで思い出したわ。今度ニコがゴールデンタイムのドラマの主役に選ばれたのよ。ハラショーでしょ?」

絵里「そう言えば、マスコミって酷いのよ?」

絵里「絢瀬絵里芸能活動引退か!? って見出しで勝手に騒いだりして」

絵里「でも、穂乃果のことを心配している記事もよく見かけるわ」

絵里「だから、早く目を覚ましなさいね、穂乃果」

絵里「それじゃあ、また来るわね」

穂乃果「…………」



*またある日・穂乃果の病室


絵里「こんにちわ、穂乃果」

絵里「立派な千羽鶴ね。海未のところの門下生さんと海未が一所懸命に作ってくれたらしいわ」

絵里「手紙も溜まってきたわね。全部あなたのファンからよ」

絵里「返信を書くのが大変そうね」

絵里「え? 私? 確かに私も手紙を貰うわ。こんな私を心配してくれるなんて私は恵まれているわね」

絵里「凛から聞いたのだけれど、私たちの後輩がラブライブ地区予選を通過したらしいわよ」

絵里「先輩として鼻が高いわね」

絵里「そう言えば、ことりから服が色々送られてきているわよ? 早く着てあげないと可哀そうよ?」

絵里「この間何故か花陽が希と一緒に神社に居たわ。稲作が一休みだから、希が誘ったのかしらね?」

絵里「真姫は……言うまでもないわね。一番、あなたと会う機会が多いですものね」

絵里「……また来るわね、穂乃果」

穂乃果「…………」



*季節の終わり・絢瀬邸


絵里(私からのメールはまだ来ない)

絵里(何度くじけそうになったことか。何度過去を変えたくなったことか)

絵里(それでも、穂乃果は生きている。だから、私は私として毎日を送らなければならない)

絵里(ほぼ毎日穂乃果のお見舞いだから、穂乃果もそろそろうんざりしているかもね)

絵里(……ちょっと疲れて、気まぐれにテレビをつける)

絵里(あ、ニコだ)

記者『絢瀬絵里さんは芸能界を引退されたんでしょうか?』

記者『絢瀬絵里さんはファンに対して申し訳ないと思わないのでしょうか?』

絵里(穂乃果が入院したあの日から、私は完全に芸能界から離れてしまっていた。友人であることを公表しているニコにそう言った質問が投げかけられるのは当然だったのかもしれない)

絵里(……本当に私は自分のことしか考えていなかったのね……。ごめんね、ニコ)

にこ『うっさいわね!』

絵里(!? ニコ! あなた、素を見せちゃ駄目でしょ!? マスコミがどよめいているわよ!?)

にこ『絵里はね! 親友のために、毎日頑張っているの! ニコにはそこまでできなかった……』

にこ『そんな絵里をあんたらがどうこう言って良いわけないでしょ!! 頭の中とっ変えて出直してきなさい!』

絵里(……ニコ……)



絵里(ニコの発言はマスメディアで大騒ぎを起こすこととなった)

絵里(ニコニーで一貫していたニコが素を見せて、マスコミを敵にするような態度をとったのだ。当然と言えよう)

絵里(だけど、何故かネット文化に詳しい花陽の話によると、逆にニコの好感度は上がり、可愛いだけでなく格好良いアイドルとして認識されるようになったとのことである)

絵里(世の中、何がどう転ぶか本当に分からないものだ)

絵里(そして、私の評価もニコのお陰で同情的なものとなったらしい)

絵里(ニコに電話であんたファンが増えたらしいじゃないと言われたのは、何だか複雑な気分だった)

絵里(穂乃果入院のニュースが流れた時も大騒ぎになったのだが、私が穂乃果を見舞っていることが知れ渡ったらしく、第二次の大騒ぎが世間で起きているとのことだ)

絵里(そんなちょっとした騒動が過ぎていったある日、真姫から電話がかかってきた)

真姫『絵里、少し良い?』

絵里『ええ。でも、もう少ししたら、そっちに向かうつもりだったけれど』

真姫『早い方が良いと思ってね。一つ分かったことがあるのよ』

絵里『分かったこと?』

真姫『ええ。実はね──』

メールダヨ!

絵里『あれ? メール?』

真姫『……やっぱり、これがトリガーだったのね。私の電話はもう良いわ。メールを確認してみなさい。多分、お待ちかねのものよ』ピッ

絵里(一方的に、真姫に通話を切られ、メールを確認する)

絵里(そして、そこには)



絵里(──絢瀬絵里の文字があった)




絵里(『今すぐ添付の動画を再生しなさい』と本文に書かれている。平仮名でなく分割もされていないメールに疑問を抱きながらも、指示通り添付の動画を開く。そこには──)



大人絵里『こんにちは、私』

絵里(今よりも大人っぽくなった私の姿。そして──)

穂乃果『はろー、絵里ちゃん!』

絵里「穂乃果っ!?」

絵里(懐かしい元気に溢れた穂乃果の姿。間違いようのない彼女の姿!)

絵里(穂乃果が居る……穂乃果が動いている! ……穂乃果が話をしている!!)

絵里(その事実に私は言葉にならない感情と涙を浮かべ──)

大人絵里・穂乃果『私たち、結婚しました!!』

絵里「……はぁ!?」

絵里(見事に引っ込んだ。……何を言っているんだろう、この人たちという気分である)

穂乃果『びっくりした? ねぇ、びっくりした?』

大人絵里『もちろん、冗談よ。でも、涙なんてなくなったんじゃないの?』

絵里(確かに涙は引っ込んだけど! 引っ込んだけど!!)

大人絵里『画面の向こうで怒っている私が見えるわ……』


穂乃果『泣いてちゃ駄目だよ、絵里ちゃん? 今から大切なことを伝えるんだから』

大人絵里『そう、大切なことよ。この動画は今あなたが居る世界線の延長上で撮ったもの』

穂乃果『つまり! 穂乃果と絵里ちゃんが同時に生きている世界線なの!』

大人絵里『どういうことか理解できるわよね? 穂乃果と私が定義したDメールはまだ継続よ』

絵里(駄目絶対過去改変ね……)

穂乃果『せっかく辿り着いた世界線だからね』

大人絵里『もしかしたら、期待させてしまったかもしれないけれど、……今後、穂乃果が目を覚ますことはないわ』

絵里(未来の私の言葉は、私に冷たい刃を突き刺すようだった)

大人絵里『だけど、これはあなたがこの世界線で経験しなければならないこと。そうでなければ、今私が居る未来に繋がらなくなってしまうから』

大人絵里『今あなたの感じている辛い想いは続いていく。それでもあなたは未来に進まなければならない』

大人絵里『……今まで不安にさせてしまって、ごめんなさい。でも、このタイミングでなければならなかった』

大人絵里『下準備は終わったわ。あとは、あなたが自分の使命を果たすだけ』

絵里(私の、使命……?)


大人絵里『あなたの使命は完全なるタイムマシンを完成させること』

大人絵里『そして、それを使い穂乃果を救うこと!』

絵里「ちょっと待って! 完全なるタイムマシンなんて可能なの!?」

絵里(返答がないことを理解していながら、思わず声をあげてしまう)

大人絵里『言ったでしょう? 下準備は終わったって。あとは完成させる過程の中で勝手に答えは出ていくわ』

絵里(流石自分。私の疑問は見越していたのね)

大人絵里『シュタインズゲートでは最初の自分を騙せだったわね。それなら、こっちは──』

大人絵里『力技で乗り越えろ、よ』

大人絵里『私はすでに穂乃果を助けたわ。だから、あなたも行いなさい』

大人絵里『良い? 過去にあったことはなかったことにしてはいけない。過去と言う事実は絶対のままに未来だけを変えなさい』

大人絵里『願わくば、私たちと同じ時間に辿り着くことを』

穂乃果『絵里ちゃん! 未来で待っているよ! あれ、今、過去? よく分かんないけど、ファイトだよ!』



絵里(こうして、動画は再生を終了した)

絵里(力技で乗り越えろって……本気なの!?)

絵里(タイムマシンが存在していて、力技を行使するということはアレを行うということ)

絵里(かつてそれを考えたこともある。そして、それを行った結果が、きっとあの動画の世界線なのだ)

絵里(……なるほど、一つ分かった。ラブライブを優勝したことの意味。それは私がアイドル、しかも人気絶頂のアイドルであること)

絵里(現実的な話、タイムマシンを完成させるのであればお金がかかる。そして、今私の手には残りの人生を遊んで暮らせるほどの財があった。毎日のように穂乃果のお見舞いに行くことができる理由の一つでもある)

絵里(だけど、多分それだけが理由じゃない)

絵里(……そう、真姫の電話ね)

絵里(おそらく、真姫は完全なるタイムマシンを作るきっかけを見つけたのだ)

絵里(それが、未来の私の言った下準備)

絵里(……良いわよ。穂乃果を救えるのだったら、タイムマシンでも何でも作り上げてやる!)

絵里(だからこそ、あなたは未来を掴んだのでしょう? 未来の私?)



タイムマシンが存在することで可能となる力技

それは本当に単純かつ有効的な反則技とも言えます

こうして、結末に向けて絵里は進み始めます


絵里(まず最初に動くべきことは、真姫への連絡だろう)

絵里(ケータイを取り出し、見慣れた番号を呼び出し、一度止まる)

絵里(考えてみれば、真姫には頼りっぱなしよね。今度何かお礼でもしないとね)

絵里(そして、任せて安心、頼りがいのあり過ぎる親友に心中で詫びる)

絵里(これからもっと迷惑をかけるだろうけれど、何とか許して欲しい)プルルルル

絵里「真姫。今大丈夫?」

真姫『今日はオフよ。どう? 未来の絵里から連絡は来た?』

絵里「ええ。穂乃果を救うための方法は教えてもらったわ」

真姫『そう、やっぱりあの数値が鍵になるのね』

絵里「数値?」

真姫『ええ。前に過去へメールを送ると何だか分からない数値が減るって話したことあったわよね?』

絵里「……あったわね」

絵里(穂乃果もまだ元気だった頃の話だ。……遥か昔のことのように感じられる)

真姫『色々検証して、その数値が過去をさかのぼるために使用される代償、コストでも良いわ、そういうものであることが分かったの』

絵里「それってリーディングシュタイナー保持者のみが持っている数値なの?」

真姫『そうよ。絵里と穂乃果しか持っていない他人とは違う特殊な数値、それを使って、あなたたちは今まで過去改変を行ってきたの』

絵里(うわ、もろにタイムマシンに関係しそうな数値じゃない!)



真姫『もっとも仮説として、そういうものであることは何となく分かっていたわ。重要なのはここからよ』

真姫『その数値、穂乃果のものが極端に増加しているのよ』

絵里「極端に増加?」

真姫『大きな増加の山は二回。穂乃果の入院が公表された時とニコちゃんがマスコミ相手に喧嘩を仕掛けた時。今も増加し続けているわ』

絵里(その二回に共通するのは──)

真姫『マスコミに注目を集めた時、いいえこの言い方は好きじゃないわね、人々が穂乃果を心配して、治って欲しいと願った時かしら』

絵里「真姫にしては随分詩的ね」

真姫『海未に作詞をしてもらっていたからかしらね?』

絵里「ありえるかも」クスッ

真姫『もう、冗談よ。他の要因としては、絵里、あなたの数値も穂乃果ほどでないにしろ増加しているわ。特にニコちゃんの後は急激に』

絵里「……あなたね、いつ測ったのよ?」

真姫『穂乃果のベッドの下に機械を設置してあるのよ』

絵里「油断も隙もあったものじゃないわ……」

真姫『そうでなければここまで辿り着けないわよ。まず結論として、その数値は過去をさかのぼるコストであり、人々から想いを向けられることで数値を上昇させる。間違いないわ』



絵里「大した自信ね?」

真姫『オカルトじみている話だけれど、世界線の移動とか過去にメールを送るとかも、どっこいどっこいでしょう? それに実際に数値が上がり続けていることに偽りはないし……人からの想いって言った方が綺麗じゃない?』

絵里「そうね。私もアイドルと言葉は綺麗な方が好きよ」

真姫『どちらも裏側はドロドロしていそうだけれどね』

絵里「茶々入れないの」

真姫『はいはい。それでこの話は未来の絵里からの指示にどう関係してきそうなの?』

絵里「……完璧なタイムマシンを作りなさい、ですって」

真姫『ああ……ええと、肉体も移動できるタイムマシンってこと?』

絵里「そうね。あとは過去、未来どちらも行き来できるものね」

真姫『正直、予想はしていたけれど、頭痛いわね……』

絵里「でも、やるしかないのよ」

真姫『でしょうね。……百も承知でしょうけれど、こういうものを作ると言う場合、NASAでも呼んできた方が早いのよ。他の理系の大企業とでも可ね。でも、それはできない。絵里と穂乃果が実験体とされてしまうから』

絵里「……解剖されるのは嫌ね」

真姫『私も友達がそんな姿にされるのはごめんよ。要するに、完璧なタイムマシンを作る人手は今まで通り、私たちだけしかいないと言うこと』

絵里「頼りにしているわ親友」

真姫『頭が痛いわ悪友』



真姫『……本気で作る気なのね?』

絵里「未来の私たちが完成させていたんですもの、出来ない道理はないわ」

真姫『……分かったわ、こっちも腹をくくるわ』

絵里「大好き、真姫ちゃん♪」

真姫『今、一瞬難聴になったわ。それで、仮にタイムマシンを完成させたとして、どうやって穂乃果を助ける気なの?』

絵里「力技で乗り越えろだそうよ」

真姫『……なんで一番大事な部分がずさんなのよ?』

絵里「でも、その強引さがなければ未来なんて変えられないものじゃない?」

真姫『まぁ、最善手であることには間違いないのかもね』

絵里「そういうこと」

真姫『はぁ……先に愚痴っておくわよ?』

絵里「どうぞ」

真姫『私、研修医だけれど、滅茶苦茶忙しいんですからね!』

絵里「私、絵里ちゃん、元アイドル。時間とお金はいっぱいあるの」

真姫『まだ引退していないでしょうに……いいわ、私の家の地下室勝手に使ってちょうだい。開発に関する費用は任せるわよ?』

絵里「ありがとう」

絵里(真姫の家の地下室とは、電話レンジ(完全版)が置いてある場所であり、真姫の私的な研究室であった。あそこであれば、研究から開発まで様々な自由が効く)



真姫『はぁ。素人女子二人でタイムマシンを作ろうなんて正気の沙汰じゃないわよ』

絵里「私、学生時代に電話レンジを完成させちゃったけど?」

真姫『うるさいわね、天才! あなたの頭がなければ、私もこんなことに賛同しないわよ!』

絵里「けなされながら褒められている?」

真姫『そもそも、人類の歴史を変える発明をしているあなたが何でアイドルなんてやっているのよ! もっと、社会貢献しなさいよね!』

絵里「……電話レンジはまだ人類には早すぎる代物よ」

真姫『分かっているわよ! 素で平成のエジソンをやっているあなたに腹がたっただけ!』

絵里「研修医が電話レンジの起動条件を見つけることも十分天才の範囲じゃないかしら?」

真姫『真姫ちゃんは努力の達人なの!』

絵里「あと、知的好奇心の塊ね」

真姫『お互いさまでしょう!?』

絵里「いや、私百年前にその辺り卒業しちゃったし」

真姫『今、必要とされることじゃない!?』

絵里「もう一回入学してみるわ」

真姫『はいはい、分かりました! 詳しい話はまた今度。それじゃあね』

絵里「ええ、また今度」ピッ

絵里(明日会うであろう親友との時間のために、私は私で今できることをまとめてしまおう。まずは、例の理論の文章化と数値化からかしらね?)



タイムマシン作成への繋ぎ回

とりあえず二人とも超有能だということを把握してもらえればOKなシーンです


絵里「……ふう」

絵里(酷使していた目を少しもみほぐす。一応はこれでかつて経験したことのある世界線であれば、過去へメールを送ることも記憶を送ることも可能になるはずであった)

絵里(理論上、現状の電話レンジを多少改造するだけで十分だろう)

絵里(真姫にそれを話せば、また天才だとか言われるだろうが、実のところ、それは違う)

絵里(絢瀬絵里と言う人間は、かつての世界線で科学の道に進んだことがある。そこでは最先端の機械を開発しており、そこで得たノウハウは今でも十分通用するものであろう)

絵里(だから、素人が無謀にタイムマシン作成に挑もうとしているわけではない。経験者が未知の機械に挑もうとしているのだ)

絵里(それを知っているからこそ、未来の私はタイムマシン作成という無理難題を差し出してきたのだろうし、過去は決して無駄になっていないことの証明とも言えよう)

絵里「そう、全てに意味はあった」

絵里(穂乃果を救えなかった数多の世界線。そこで抱いた悲しみも絶望も、今は全て糧となっている)

絵里(過去をなかったことにしていけない。過去は活かさなければならない)

絵里(それが一つの真実であろう)



*西木野邸・地下室


絵里「これが例の未来から届いた動画よ」

絵里(真姫は穂乃果が動いて、話している場面で瞳に涙を浮かべて、その後やっぱり台無しにされていた)

真姫「……なんと言えば良いのかしらね」

絵里「分かるわ。未来の私たち無駄に幸せそうで、何だか腹が立ってくるわよね」

真姫「いえ……絵里、老けたわね」

絵里「はあ!?」

絵里(物凄い低い声が出た。なんてこと言っているの、この人!?)

真姫「そんな怖い声出さないでよ。あくまで客観的な観点からよ」

絵里「老けていない。大人っぽくなっただけよ!」

真姫「いや、それを老けたって言うんでしょう?」

絵里「ぐぬぬ」

真姫「一方で穂乃果は私たちの記憶にあるままの姿。と言うことは穂乃果を助けた後で撮った動画ということになるわ」

絵里「……確かに」

真姫「絵里の老け具合──大人っぽさから相応の時間がかかるわよ?」

絵里(私が睨んだところで、真姫が言葉を言い換える)



絵里「……多分、三十代前半と言ったところかしら」

絵里(物凄く! 客観的に見て私の年齢はそのくらいに見えた)

真姫「つまり五、六年は見ないといけないということかしらね」

絵里「長いわね……」

真姫「完全なタイムマシンを作ることを考えれば、むしろ短いくらいよ」

絵里「でも、もどかしいわ」

真姫「待つことは慣れているんじゃないの?」

絵里「まぁ、ね」

真姫「……ねぇ、絵里」

絵里「何?」

真姫「あなた、アイドルを引退しなさい」

絵里「自分の中ではすでに引退しているけど?」

真姫「公的にはしていないじゃないの」

絵里「今更アイドルって言ってもね……」

真姫「必要なことよ」

絵里「例の数値を稼いでおくということ?」

真姫「ええ」



真姫「人気絶頂のアイドル絢瀬絵里。その番組出演数は年に数百と言われている。穂乃果があんな状態になってからも熱狂的なファンは減らず、むしろ同情的な意見から増えているとも言える」

絵里「おかげさまで毎日マスコミがうるさいわ」

絵里(毎日、穂乃果のところにお見舞いに行ってはいるものの、どこを通ってもマスコミが居て、正直嫌になっていると言うのが素直な感想。真姫の病院でなかったら、私は穂乃果のところに辿りつけなかったのかもしれない)

真姫「現実問題、あなたアイドルとしては限界の年齢でしょう? 数値を稼いでおくには最良のタイミングだと思うわ」

絵里(むしろアイドルとしては高齢と言える。ニコもアイドルから徐々に女優方面にシフトを始めている)

絵里「……私のその数値って、結構危うい感じなの?」

真姫「いえ、穂乃果と比べても化け物と言って良い程、数値は高いわ。言わば規格外」

絵里(良いことなのだろうけれど、ものには言い方があるでしょうに……)

絵里「それなら、別に引退発表する必要はないんじゃない?」

真姫「色々なしがらみは取り払った方が良いと思うわ。……あと、ファンの気持ちも一区切りさせてあげないと可哀そうだわ」

絵里(……そうか。かつてのμ'sも解散という形でファンへ気持ちを一区切りさせた。それを真姫は言っているのだ」

絵里「分かったわ。きっちり引退をするわ」

真姫「そうしなさい。最後のライブ楽しみにしているわ」

絵里「え? ライブするの!?」

真姫「アイドルの最後は解散ライブって相場は決まっているのよ」



絵里(私が正式に引退発表をすると世間は大盛り上がりを見せた。改めて自分の影響力の高さを知らされた気分である)

絵里(そんな私が休みを取れていたっていうのは、マネージャーが物凄く優秀だったってことなのよね)

絵里(全く、亜里沙には頭が上がらないわ)

絵里(そして、そんな敏腕妹と共に解散ライブは東京ドームで行われることが決定した)

絵里(チケットは即完売。テレビでも生放送で送られるそうだから、チケットを取れなかった人はそちらで楽しんでもらえれば、幸いに思う)

絵里(同時にこれだけの人に愛された絢瀬絵里は本当に幸せ者だ。流石にチケット即完売はひぇーと思ったが)

絵里(解散ライブに向けて、ブランクを取り戻すように私は練習に注力した)

絵里(そして、惜しむ声と共に私の最後のライブは終わり、アイドル絢瀬絵里もここで終わりを迎えた)

絵里(心の中がスーッと軽くなったような気がした)

絵里(真姫の言っていたしがらみが取り除かれたからだろう)

絵里(ちなみに真姫は、今回のライブでかなりの数値を稼ぐことができたと言って、少し上機嫌であったのは余談である)

絵里(結局、真姫は研究大好きっ子なのだった)



絵里(そこからの日々はタイムマシンの開発に全てが費やされた)

絵里(最初の一ヶ月で過去に辿った世界線であれば、メールも記憶も送れるようになった)

絵里(次の一ヶ月はその検証をした。つまり、自分の記憶を跳ばし、この世界線に再び戻ってくる危険な実験であった)

絵里(電話レンジの改良方法は頭の中にあったので、それも何とかクリアし、次の段階へ)

絵里(ここからが実に長い時間を必要とされた。かかった期間は三年。課題は過去へ送るものの容量制限の撤廃)

絵里(これをクリアしなければ、肉体を過去に送るなど夢のまた夢である)

絵里(実に地道な作業であった。言ってみれば、一バイトずつ送れる容量を増やしていくような行為だったからである。ちなみに一バイトは半角文字一文字なので、分かる人にはどれだけの困難なのかは容易に想像できるはずだ)

絵里(そして、容量制限は撤廃され、動画さえも過去に送れるようになっていた)

絵里(ここから二年で私と真姫は人体を送るタイムマシンの完成へと至った)

絵里(地道な三年間があったからこその成果でもあった)

絵里(しかし、ここで一つ問題が発生する)

絵里(数値、コストのかかり方が極端だったのである)

絵里(電話レンジでのコストを仮に一と仮定すると、記憶で百、肉体で五万である。検証だけで、解散ライブの貯金は全て使い尽くしていた。おそらく、真姫が解散ライブを挙げた時にはここまで計算済みだったのだろう)

絵里(さらに問題だったのが、未来へのタイムトラベル。予測で一億。インフレもここまでくると行き過ぎである)

絵里(しかしながら、かかるものは仕方がない。真姫と話し合い、私の持つ数値と穂乃果を救う計画とのすり合わせが念入りに行われた)



真姫「……問題は穂乃果よね」

絵里「私は問題なし?」

真姫「余裕でしょう……と言いたいところだけれど、後一、二年遅かったら危なかったわね」

絵里「未来へのコストがかかり過ぎなのよね」

真姫「このタイムマシンがタイムリープではなく、タイムトラベルを実現させるものだから、仕方がないと言えば仕方がないでしょう?」

絵里「リープが同じ時間に私が一人しかいなくて、トラベルが同じ時間に私が二人居ると言う解釈よね」

真姫「今更だけれどね。とにかく、穂乃果の未来へのコストを計算するとかなりギリギリ。イレギュラーが起きれば対応できないわ」

絵里「…………」

真姫「本当にこの時間に戻ってくる必要はあるの?」

絵里「未来の私によれば、過去は再現しないといけないようだから」

真姫「でもねぇ……」

絵里「実際に未来の私は成功させている。そう考えると、答えは一つよね」

真姫「正直、こう話し合っている時間も惜しいのよね。……それでいくしかないのね」

絵里「失敗した場合はタイムリープで対応できるのでしょう?」

真姫「理論上はね」

絵里「それじゃあ、やってみるしかないじゃない」

真姫「……分かったわ。それじゃあ、明日決行。私はそれまでの間、最終的な計算を行って不確定要素を少しでもなくしておくわ」

絵里「迷惑かけるわね」

真姫「今更よ。……穂乃果を救うことでチャラにしてあげる」

絵里「……ええ、もちろんよ」



描写上はあっさりとタイムマシンが完成しましたが、色々ありました

補足としては穂乃果も絵里並みの人気ですので、世間で騒がれましたがその辺も
話しの都合で省略

物語の終わりは近いです


*翌日・西木野邸地下室


真姫「それじゃあ、最終確認よ」

絵里「ええ」

真姫「絵里の27歳の誕生日である十月二十一日午後二時五十五分に、タイムマシンで過去に戻る。そして、穂乃果を連れてこの時間に戻ってくる」

絵里(この時間とは私の今居る時間、奇しくも亜里沙の誕生日の一日前であった)

真姫「再び穂乃果を連れて、十月二十一日午後三時五分に跳ぶ。そうすることで、穂乃果にとっての十月二十一日午後三時を存在しないことにする」

絵里「そして、私がタイムマシンを使い、再度この時間に戻ってくることで、穂乃果が本当の意味で生きている未来、今を作り出す」

真姫「……呆れるほど単純だけれど、これ以上の手段はないわね」

絵里「力技って言うのは、そういうことを言うのよ」

真姫「まぁ、ね。でも、リスクを冒してでも本当に穂乃果をこの時間に連れてくる必要はあるの?」

絵里(リスク、未来へ行くことで、穂乃果のリーディングシュタイナーの数値がギリギリになってしまうことを指す)

絵里「今と改変された過去とのパイプが必要なのよ。過去の穂乃果がこの時間に存在することで、それは明らかな事実となり、今と過去を繋ぐパイプになるの」

真姫「……了解。何となく分かったわ」

絵里(本当は、他にも意味があるがそれはその時になってみないとはっきりとは言えないことだった)



絵里「タイムマシンの調子は?」

真姫「至って良好よ」

絵里(そう言って、真姫は二本のペンライトを差し出す。そう、ライブで使うあのペンライトだ)

絵里(見た目に反して、このペンライト型タイムマシンは非常に高性能であった。握った者の意思に反応して、行きたい世界線を数値化してくれる)

絵里(そして、もう一本のペンライトが今居る世界線も数値化、言わば、シュタインズゲートのダイバージェンスメーターの働きをしてくれる)

絵里(あとは現時点の日時表示、向かいたい世界線の日時表示を各々が行う)

絵里(加えて最大のギミックとして、使用者の周囲に見えない膜を張り、外部を遮断する。これによって、思いもよらないものをタイムトラベルさせることは決してないようにできている)

真姫「絵里の準備が整い次第、すぐにでも起動可能よ」

絵里「それじゃあ、過去の私にメールを送るわ」

絵里(進化した電話レンジには文字数制限がない。だから、確実に伝わるように細かく入力する)

『穂乃果を救うために絶対に必要なことを伝えるわ。本日午後二時四十五分から午後三時二十分まで、絶対に何が起きても真姫の部屋にあなた一人で居ること。これは厳守すべきことであり反論は許さないわ。KKE2より』

絵里(私が私に対面することを避けるためであった。真姫の話によれば、同じ人物が同一時間で対面すると何が起こるか分からないため、非常に高い危険性があるのだと言う)

真姫「未来の絵里が過去を変えてはいけないって言っていたけれど、これだけは絶対に必要なことだものね……」

絵里「正しくは過去を成立させることだから、これで良いのよ」

真姫「まぁ、本人がそう言うんだったら、そうなんでしょうね」



絵里「……送信完了よ」

真姫「……いよいよね」

絵里「ええ。気持ちも準備も万端よ。ケータイは預けるわ」

絵里(ケータイの代わりに、私は二本のペンライトを握る)

絵里(すると、右手で水色、左手でオレンジ色に明かりが灯り、水色地に白文字で1.0073550と表示され、今日の年号、時間が表示される)

真姫「成功を祈っているわ」

絵里(……相応の年数がかかった。言葉では言い表せない程の感情をいくつも抱いてきた。挫折だってあった。だけど、全てはこの日のため。この三十分もかからない瞬間のため。だから──)

絵里「ええ。絶対に成功させて戻ってくるわ」

絵里(私から真姫に言えることはそれだけだった)

絵里(……向かいたい世界線は同様に1.0073550、日時は27歳の午後二時五十五分。そう意識するとオレンジ地で白文字でそれが数値化される。同時に外部と完全に遮断される)

絵里(水色とオレンジ色に照らされる、何もない個室がこうして出来上がる)

絵里(外からはこの個室は見えない。完全に風景と同化を果たす。つまり透明であると錯覚させる)

絵里(絢瀬絵里、準備はオーケー?)

絵里「オーケーよ」

絵里(それじゃあ、穂乃果を救いに行きましょうか?)

絵里「ええ」

絵里(そうしてタイムマシンは起動した)



絵里(タイムマシンの中での時間は存在しない)

絵里(だから、タイムマシンが起動した瞬間に、私はタイムトラベルを果たしている)

絵里(それを示すように私のリーディングシュタイナーの数値が一気に減少していた。これもペンライトに表示できるようにしていた)

絵里(そして、私はタイムマシンを止める)

絵里(すると、目の前には真姫の家の地下室が存在していた。未来であったような立派な機械類はなく、真姫の個人的な研究室のままだった)

絵里(念のため、水色のペンライトで現在の時間を確認する。午後二時五十五分。タイムマシンに狂いはなかった)

絵里(時間が惜しい。誕生日会兼μ's同窓会が行われている応接室に向かおう)

絵里(真姫の部屋は二階にあるので、この時間の私と鉢合わせになることはないはずだ)

絵里(何となく不思議な感慨を覚えながら廊下を歩き、扉を開く)

絵里「穂乃果、迎いに来たわよ!」

穂乃果「えぇ!? 誰!?」

絵里(当然のごとく、穂乃果を筆頭に皆が騒ぎ始める)

希「す、スピリチュアルやで……このお姉さん、エリちや!」

凛・花陽・にこ・ことり『えぇー!?』

絵里(流石、希ね)

真姫「……老けたわね、絵里」

絵里「あなた、毎回同じこと言うのね……」



海未「ふむ。絵里を真姫の部屋に移したのはこのためでしたか」

絵里「海未は理解が早くて助かるわ」

真姫「まぁ、絵里にあんなメールが送られて来たんだから、何か起こるとは思っていたけれど、まさか未来の絵里が来るなんてね」

花陽「絵里ちゃん! 物凄く美人さんです!」

絵里「ありがとう、花陽」

にこ「未来のニコはどうなって──」

絵里「ニコ、悪いけれど急ぎなの。詳しい話は未来で聞きなさい」

絵里「さあ、穂乃果。行くわよ」

穂乃果「? どこに?」

絵里「未来に」

凛「シュタインズゲートっぽいにゃー! あ、未来には行かないっけ?」

ことり「た、タイムマシンってどこにあるの?」

絵里「ここにあるわよ。穂乃果、このペンライトを私の手の上で握って」

穂乃果「こう?」

絵里(状況を把握できていないのか穂乃果は素直に言うことだけを聞いてくれた)

絵里「十分後に戻ってくるから安心して待っていてちょうだい」

絵里(皆に告げるが、どれだけの人が理解してくれたのかは分からない)



絵里(穂乃果に未来の私が居た時間を思い浮かべるように指示する)

絵里(無事、オレンジ地に元の時間が表示される)

絵里(その瞬間、私と穂乃果だけの個室が完成する)

絵里(凛辺りが神隠しだと言ったように聞こえたが、音はすでに遮断されていた)

穂乃果「うわぁー! なにこれ!? 凄い!?」

絵里「今、未来に向かうわ。……はい、到着」

穂乃果「えぇー!?」

絵里(個室は解除され、元の時間の応接室に私たちは居た)

穂乃果「ここが、未来……?」

絵里「ええ、そうよ。地下室に行きましょう」

穂乃果「ええと……私、よく分かっていないんだけど……」

絵里「あなた、さっきまで自分の死を確信していたわよね?」

穂乃果「!?」

絵里「それを回避するために未来に来たの。オーケー?」

穂乃果「お、おーけー……?」

絵里「ぶっちゃけ、三時に心臓麻痺が起きるから、その三時を飛ばしてしまおうとしているの」

穂乃果「おぉ、オーケー!」

絵里(なんだか納得してくれたようだった)



真姫「あ、動く穂乃果」

絵里(地下室に入って、開口一番これである)

穂乃果「うわぁ! 真姫ちゃんも大人っぽくなったね!」

真姫「今のあなたよりも年上よ?」

穂乃果「えぇ!? そうなんだぁ!?」

絵里「……感動の再会みたいにはならないのね」

真姫「絵里だって、淡々と穂乃果を連れて来たんじゃないの?」

絵里「いや、だって、ねぇ?」

真姫「まぁ、分かるけれど」

穂乃果「?」

絵里「その原因を今から撮らないといけないのよね……」

真姫「ぷぷっ」

絵里「何、その笑い方?」

真姫「頑張って、バカップル」

絵里「……腹はもうくくっているわよ」

穂乃果「? 今から何かするの?」

絵里「ええ。過去の私にムービーメールを送るのよ」

穂乃果「え? そんなものまで送れるの!?」

絵里「……タイムトラベルしているのよ。そのくらいできるわよ」



穂乃果「そっか! 今は未来だったね」

絵里「そんなわけで動画を撮るわよ」

穂乃果「私も映るの?」

絵里「そうね。……はい」

絵里(手っ取り早くかつて送られてきたムービーメールを穂乃果に見せる)

穂乃果「テンション上がってきた!」

絵里「そ、そう?」

穂乃果「でも、この動画をそのまま過去に送っちゃ駄目なの?」

絵里「過去に起こったことを再現しないと未来に繋がらないのよ」

穂乃果「?」

絵里「パンを買っていないのに、パンを食べたと言う未来があると思う?」

穂乃果「ないね!」

絵里「今動画を撮ることは、そのパンを買うことと等しいのよ」

穂乃果「なるほど!」

絵里(流石パン大好きっ娘、その例えで理解してくれるとは)

穂乃果「じゃあ、撮ろっか?」

絵里「ええ、そうしましょう」

真姫「私は撮影係ね」



絵里(すでに撮影後の映像を見ているから、私たち結婚しました──じゃなくて、過去の私に向けた動画は呆気なく完成した)

絵里(そして、かつてのあのタイミングにメールを送る)

真姫「これで根回しは完璧ね」

絵里「いいえ。もう一つ残っているわ」

真姫「……一体何が?」

絵里「穂乃果は覚えているんじゃない?」

穂乃果「んー? あ! そっか!」

ピンポーン

絵里(穂乃果のひらめきと同時にインターホンが鳴る)

真姫「あら? 亜里沙ちゃんね」

亜里沙『はぁっ……亜里沙です! 思い出したので来ました!』

絵里(画面越しに息を切らした亜里沙の姿。やっぱり、このタイミングだったわけね)

真姫「どういうこと?」

絵里「すぐに分かるわ。亜里沙、上がってちょうだい。いつもの地下室に居るわ」

絵里(お邪魔しますと言いながら、亜里沙が玄関に向かう)



亜里沙「お姉ちゃん! 思い出したよ!」

絵里(亜里沙には無理を言って、今日は休みを取ってもらい、何かを思い出したらすぐに真姫の家に来るよう言っておいてあった)

絵里「そう、思った通りだったわね。真姫、亜里沙のリーディングシュタイナーの数値を調べてみて」

真姫「まさか!? ……穂乃果と比べると大分小さいけれど、確かに亜里沙ちゃんから数値が出ているわ──って、穂乃果、あなた!?」

穂乃果「私?」

真姫「穂乃果の数値が当時よりも大幅に上昇しているわ……もしかしたら、こっちに居る穂乃果の影響……?」

絵里「まさか、対面していなくても何か影響しているの!?」

真姫「らしいわね。と言うことは長居はできないと言うことね」

絵里(穂乃果の数値が増えること自体は、計算上ギリギリであったことから朗報ではあるが、未知の危険性は少しでもなくしておきたい)

絵里「それなら、亜里沙には悪いけれど、すぐにでも実行してもらわないといけないわね……」

亜里沙「お姉ちゃん。亜里沙なら大丈夫だよ」

絵里「……ごめんなさい、辛い役目を押し付けてしまって」

亜里沙「ううん。こっちこそ中途半端にしか役目を果たせなくてごめんなさい」

絵里「そんなことはないわ。あなたの言葉があったから、私たちはここまでこられたの」

亜里沙「お姉ちゃん……」



真姫「……大体、把握したわ。電話レンジの準備は出来ているからいつでも良いわよ」

絵里「穂乃果、隣に居て」

穂乃果「うん」

絵里「亜里沙。過去の私に伝えてちょうだい。大丈夫だから、穂乃果は助かる。だから、未来に希望を持って、って」

亜里沙「うん! 確かにお姉ちゃんからの伝言、預かったよ」

真姫「それじゃあ、亜里沙ちゃん。このヘッドホンをつけて、世界線は──」

穂乃果「私が海未ちゃんの双子のお姉さんになっている世界線だよ」

真姫「亜里沙ちゃん、穂乃果が海未の双子の姉になっている世界線を思い浮かべて。……0.15353309ね。準備は良い?」

亜里沙「はい」

真姫「それじゃあ、記憶を送るわ。……成功ね」

亜里沙「……あれ? 亜里沙、何をしていたんだっけ?」

絵里「真姫。亜里沙の数値は?」

真姫「ゼロ。完全に消滅してしまっているわ。……こんなことがあるなんてね」

絵里「お疲れさま、亜里沙」

亜里沙「?」



絵里「さて、これ以上時間はかけていられないわね。穂乃果、元の時間の十分後に跳ぶわよ」

穂乃果「うん。さっきと同じやり方で良いんだよね?」

絵里「ええ。ただ時間は午後三時五分よ」

穂乃果「了解」

真姫「今更失敗もなにもないとは思うけれど、しっかりね」

絵里「ええ……今までありがとう、真姫」

真姫「その台詞は戻ってきた時に聞くわ」

絵里「……そうね。でも、言わせて。あなたには感謝してもしきれないくらい、本当に感謝しているの。だから、ありがとう」

真姫「……恥ずかしい台詞ね」プイッ

絵里「本音よ」

真姫「はいはい。それじゃあ、いってらっしゃい」

絵里「ええ、行ってきます」

亜里沙「ハラッショー!? お姉ちゃんと穂乃果さんが──」

絵里(亜里沙が驚いている中、私と穂乃果はタイムマシンの個室に包まれる)

穂乃果「穂乃果の準備はオーケーだよ」

絵里「ええ、それじゃあ、行きましょう。あなたが本来居るべき場所へ」

絵里(そして、タイムマシンは一瞬で先ほどの十分後に到着する)

絵里(ごめんなさい、真姫。私は嘘をついたわ。……だから、さようなら)



絵里(──真姫にかけた言葉は、私の今生の別れだった)




絵里のみが知る真実。だけれど、作中にすでに登場している出来事ですので、
お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんね

あと、文章量は悲しみに~を超えることは確定です

次回か次々回でラストになります


訂正
・迎いに来たわよ→迎えに来たわよ

補足
・原作のシュタゲのタイムマシンも未来に行くことが可能です
・この世界の真姫は後輩をちゃん付けしているようです
・作中の数字は基本漢数字で統一していますが、年齢(と世界線)を最初漢数字にしなかったためそれらのみ例外となっています


穂乃果「絵里ちゃん? どうかした?」

絵里「……いいえ、何でもないわ。皆のところに行きましょう」

穂乃果「うん?」

絵里(穂乃果と二人、応接室に向かう。こうして、穂乃果と共に歩くのも最後だろう)

絵里「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「なあに?」

絵里「生きなさい。私が救えなかった穂乃果たちのためにも」

穂乃果「うん! もちろんだよ!」

絵里(太陽のような笑顔。まさしく穂乃果だ。私はその笑顔を見ることができて、とても満足だった)

穂乃果「皆! ただいま!」

凛「あ、穂乃果ちゃんが神隠しから帰ってきたよ!」

真姫「タイムトラベルでしょう?」

海未「絵里もおかえりなさい」

絵里「ええ」

にこ「それでどうなの? 穂乃果は助かったの?」

絵里「未来に寄り道した時に五分はもう過ぎていたわ。そして、今も穂乃果は元気にしている。……成功よ」

希「タロットが示すのは、未来。乗り越えたんやね」



花陽「本来はどうなっていたんですか?」

穂乃果「心臓麻痺を起こしていたんだって。今はなんともないけど」

ことり「それは……大変だったんだね、絵里ちゃん」

絵里「でも、それを乗り越えて、今があるわ」

海未「お疲れ様でした、絵里」

絵里「……そうね。本当に長い時間がかかってしまったけれど、今はただ純粋に嬉しい」

凛「よーし! もう一回、お祝いしようよ!」

花陽「絵里ちゃんも一緒にどうですか?」

絵里「私は……もう行くわ」

真姫「帰るのね、未来に」

絵里「……ええ。もっとも、この時間の私は真姫の部屋に居るんだけれどね」

希「もう少しゆっくりして行ってもええんやない?」

にこ「確か、こっちの絵里は二十分まで来ないはずよね?」

絵里「そうもいかないわ。私が居るだけで、こっちの私に悪影響を及ぼす可能性があるから」

穂乃果「私はリーディングシュタイナーの数値が上がったんだっけ?」

絵里「ええ。それだけで済むのであれば、良いのだろうけれど、他に何が起こるか分からないから」

ことり「……そっか。残念だなぁ」



絵里「皆、穂乃果と私をよろしくね」

希「もちろんや」

にこ「これからも一緒にアイドルを頑張る予定だしね」

凛「任されたよ」

花陽「こちらこそよろしくお願いします」

真姫「あなたは安心して未来に行きなさい」

ことり「何かあったら、絵里ちゃんが来る前の時間にメールを送るよ」

海未「……ええ。あなたの願いは私たちが叶えます」

絵里(……これで、私は安心して先に進むことができる)

穂乃果「絵里ちゃん!」

穂乃果「本当にありがとう!」

絵里「……どういたしまして」

穂乃果「……っ……」

絵里(素直な穂乃果の言葉に私は顔を背けてしまった。少し後ろめたさがあったから)

絵里(そして、私は友人たち、親友たちに背を向けて、地下室へと向かう)

絵里(行先は真姫が不在の少し前の『過去』)

絵里(そう、まだ私にはやらなければならないことが残っていた)



絵里(過去へと到着する。この日は絢瀬家も不在の日であった)

絵里(だから、私は真姫の家を出て、自宅へと向かう)

絵里(未来の私は言っていた。『過去にあったことをなかったことにしてはいけない』と)

絵里(そうでなければ、未来へ繋がらなくなるから)

絵里(……そして、私は思い出したのだ)

絵里(確かにあった過去を。まだ実現していない過去を)

絵里(鍵を開け、自宅に侵入する。……泥棒ではないのだけれどね)

絵里(そして、いつもかけていた椅子に腰を下ろす)

絵里(色々あった。本当に色々あった)

絵里(走馬灯のように、かつての世界線の記憶が通り過ぎて行く)

絵里(……さあ、覚悟は良い? 絢瀬絵里?)

絵里(大丈夫……と言いたかったけれど、やっぱり少し怖い)

絵里(それを実行してしまえば、もう後戻りができないから)

絵里(だけど、やらなければ、未来に繋がらないから)



絵里(私はペンライト型タイムマシンを手に取り、あの時を思い浮かべる)

絵里(向かう世界線は0.3227421。私が生き返ってしまった世界線)

絵里(勘違いか幻覚かと思っていた。だけど、今の私の姿を鏡越しに見て、私は悟ってしまったのだ)

絵里(今の世界線に辿り着く前に、見てしまった人の姿を)

絵里(それは、私。未来の私だった)

絵里(そして、その直後に私は世界線を移動した)

絵里(つまり、一瞬存在したあの世界線は、未来の私と言う本来ありえない人間を本人が見てしまったために存在を否定された世界線)

絵里(真姫が未来の自分と過去の自分が対面すると何が起こるか分からないと言った、その答えがそこにあった)

絵里(だから、私はタイムマシンを起動する。一瞬で、世界線は変わり、目の前には在りし日の私の姿)

絵里(……これで、私は未来に戻れなくなった。リーディングシュタイナーの数値が未来に戻れるだけ残っていないのだ)

絵里(だけど、これで良い)

絵里(そして、かつての私は生き返ってしまったことに混乱した様子で、私を見た)

絵里(その瞬間、タイムマシンの個室のように、時間の存在しない空間に私は投げ出されていた)

絵里(私は必死にタイムマシンを握り、1.0073550の世界線を意識する)



絵里(何とか私は1.0073550の世界線に存在できているようだった)

絵里(だけど、自分同士が対面した影響か、居場所が絢瀬家から大分離れてしまっている)

絵里(何故か力が入らない。だから、ここから行くしかない)

絵里(向かうべきは過去。絢瀬絵里が産まれる前の時間)

絵里(私は残ったリーディングシュタイナーの数値全てを使い、過去へと戻る)

絵里(戻る)

絵里(戻る)

絵里(リーディングシュタイナーを持つ、絢瀬絵里は過去に必要ない)

絵里(だから、全てを使い切る)

絵里(そして)



絵里(そして、──私は観測者としての力を完全に失った)





絵里(……私は……?)

絵里(記憶に靄がかかっている)

絵里(私が誰なのかを思い出せない)

絵里(それなのに、不思議な満足感だけが私の心を占めていた)

絵里(辺りを見回す。見たことがあるようで、記憶にない景色)

絵里(ここはどこだろう?)

絵里(そもそも私は何をしているのだろう?)

絵里(疑問しか浮かばない)

絵里(目の前を二人の女性が通り過ぎて行く)

絵里(一人は妊娠しているのか身重な様子だった)

絵里(もう一人は何かに気を払っている……?)

絵里(その瞬間、私は意識とは無関係に動き出していた)

絵里(気付けば、目の前には何かが迫っていた)

絵里(ああ、そうか)

絵里(そんな風に、何故か納得した)

絵里(そして、不快な音と体への衝撃で、私は完全に意識を失う)

絵里(──満足だった)



*かつてのある日・ことりのお部屋


海未「シュタインズ・ゲート……。なんと素晴らしいお話なのでしょう……」

穂乃果「…………」

ことり「夏休みだけど、全話連続マラソンはちょっと辛かったね……」

海未「そうです! 電話レンジ(仮)を作り──」



絵里「とってもハラショーな物語だったわ!!」



穂乃果(私は未来での私の生存を確信してから、電話レンジを使い始まりの時間へと戻ってきていた)

穂乃果(何故、そうしたのかはよく分からない)

穂乃果(いや、嘘だ。最後に見た、未来の絵里ちゃんの表情が気になったから)

穂乃果(理由を挙げれば、それだけだった)

穂乃果(そして、わずかに残ったリーディングシュタイナーが、全てが終わったことを教えてくれた)

穂乃果(絵里ちゃんは観測者としての力を完全に失っているようだった)

穂乃果(だから、この時間に電話レンジはなくて、本来だったらシュタインズゲートも存在しないはずなのに、私たちは今、それを観終えたところだった)



ことり「電話レンジ(仮)作りたいけど、作っちゃいけないものだよね」

海未「はっ! そうでした……」

穂乃果(未来が成立しているのは分かっている。だから、時間は全て正常に戻り、ここからもその未来へと続いて行くのだろう)

穂乃果(わずかに残ったリーディングシュタイナーは、神様の気まぐれだったのかもしれない)

穂乃果(もしかしたら、頑張り切った絵里ちゃんを観測しろという命令なのかも)

穂乃果(シュタインズゲートの映像は終わり、通常のテレビ番組が映った)

穂乃果(何気なく、私はその画面を見た)


アナウンサー『──スクールアイドルの頂点を決めるラブライブの立案者でもあり、フリーのシナリオライターでもある──氏をお招きしてお話をうかがいます』

『全国のスクールアイドルの皆さんには、ぜひ次回のラブライブでの優勝を目指して活動していただきたいと思います』


穂乃果「……あぁ……」


アナウンサー『──氏が今、注目しているスクールアイドルは?』

『そうですね……。前大会優勝のA-RISEもそうですが、太陽みたいな女の子を中心とした、とあるスクールアイドルですね』


穂乃果「…………」ポロポロポロポロ

海未「穂乃果? どうしたんですか?」

穂乃果「……ううん、目にゴミが入っただけ」

海未「そうですか?」








穂乃果(ありがとう、私を助けてくれて。そして、お疲れさま、絵里ちゃん)








絵里「これぞ夏休みの正しい過ごし方よね!」

穂乃果「徹夜でアニメマラソンは一般的な女子高生の過ごし方じゃないよぅ」

絵里「はぁー。何なのかしら、今がとっても楽しいの」

絵里「重い荷物を思いっきり下ろしてしまったかのような爽快感があるわ!」

穂乃果(元気いっぱいな絵里ちゃんの姿に、私はつい微笑んでしまう)

絵里「さぁ、穂乃果! 行くわよ!」

穂乃果(やっぱり元気いっぱいで駆け出す絵里ちゃん。私もそれを追いかける)

穂乃果(通り抜けた風が私に尋ねている気がして、私はちょっとだけ立ち止まる)

穂乃果(今日も私たちは平和に生きています)

穂乃果(言葉にしようと思い、かすかに覚えている、どこかの世界線で誰かさんが言った言葉を思い出す。またここから新しい未来が始まるんだ──)



穂乃果「これがラブライブの選択だよ」



              終





これで『穂乃果「これがラブライブの選択だよ」』は本当に終了です

約一ヶ月間、お付き合いいただき誠にありがとうございました

思えば、半年前に思い付きで第1章を書いて、何となく絵里が怪しいということしか考えずにスタートしてしまいましたので、
結末を思いついたのは、実は第4章の後半だったりします。
いつもは結末を明確にしてから、書いていくスタンスでしたので、中々苦労させられましたね

そして気付けば、自分の書いたSSでは最長編となってしまいました

伏線回収と物語の整合性は整っているはずですが、もし疑問点などありましたら、お応えできる範囲でお応えできるかと思います

長々となりましたが、また機会がありましたら、お会いしましょう


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