セクシャル召喚士【R18】 (66)

「よ、久しぶり。元気に店員やってたか? 俺はまあ、普通かな」

「そうそう、ようやく召喚士見習いになったんだよ。学院入学な」

「これがさあ。召喚士志望って意外と少ないって知ってたか?」

「つーか試験も難しすぎてさ。下位精霊って知ってる? 知らない。そりゃそうだ」

「俺も全然分からんかった」

「俺は試験を白紙のまま出して、周りの数少ない受験生は俺以外全員やる気無くして退室よ」

「寂しい」

「一人ぼっちで俺も帰ろうかなって思ったら、試験官がタイミング悪く入って来てさあ」

「そしたらどうなったと思う?」

「全員落ちたら試験官の体裁が悪いから、残ってた俺は合格」

「棚ボタっつーか。それでいいのかよってもんだよな」


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「ん? 召喚士にした理由?」

「そりゃお前、召喚士なら食いっぱぐれ無いだろ」

「治水工事に災害対策、魔物退治から何から精霊と意思疎通できれば役立つし」

「……同じ事が魔導士でできるんだけどな」

「魔導士ならわざわざ精霊と意思疎通する必要ないし」

「魔導士の方が流行ってるし」

「あっちの方が可愛い子多かった。俺もあっちにすりゃ良かったかな……」

「つかお前学院行かねーの? 店が大事? いい跡継ぎだねお前」

「酒飲むよ。エールで……後はおまかせな」

「でさ、召喚士クラスの教室に行ったんだけど、全然予想と違うの」

「もー端っこも端っこ! 資料室の並びにひっそりあってさ」

「中も教室っつーより研究室かな。書類と書物の山の奥に、テーブルとイスが二つ」

「召喚士担当教官の自室らしい」

「見晴らしは良かったよ? 裏の森が一望出来て、木の隙間から剣士志望が訓練してんの見えたし」

「あと驚いたのが、イスの片方に一人女の子が座ってたんだ」

「いや、召喚士じゃなくて……なんだっけ、符術?」

「紙札に魔力を込めた文字を書いておくと、紙を破るだけで魔術が使えるんだってさ」

「その子がそう言ってただけだけど」

「結構可愛くていい感じなんだけどさ、めっちゃ口数少ないの」

「まー、ちっこくて髪の毛は長い銀色で。人形みたいな感じだからそれも似合ってるけど」

「延々ずーっと札を作り続けてんの」

「担当教官? 適当に本でも見て時間になったら帰れ、って言って出てった」

「つーか召喚士専任教官っていないらしい」

「どんだけ人気ねーんだよって話」

「なんか気が抜けちゃって、ボーっと向かいの女の子を見てるだけでもう昼よ」

「ご飯どうします? って聞いたんだよ。初対面だし紳士的に。マジで」

「そしたら首を横に振って一言」

「『私、貧乏だから』だとさ」

「確かに服は年季の入った古着っぽいんだよな」

「聞けば聞く程悲しいっつーか。貧乏ってヤだね」

「爪に火を灯すっつーの? 魔術じゃなくて、切り詰める意味で」

「小さい弟や体の悪い親を養うために学院でバイトしてんだとさ」

「符術の札がそこそこいい値で売れるらしい」

「体は売らないって。なんかそこは決めてるみたいだけど」

「まあ胸もまっ平らだし背も低いし、特殊な相手にしか売れないだろうな」

「俺? 俺は全然アリ」

「変態で悪かったな」

「女の子は黙々と札作り続けてるから、俺は席立って食い物探したんだよ」

「ん? 名前? さあ。また今度会ったら聞いてみるわ」

「つーか学院って広いのな。食堂って部屋の正反対だから結構歩いたわ」

「途中で魔導士クラスも見たけど、すげえ数の人居たな」

「可愛い子も多かった。いやあ、本気で魔導士にしときゃよかったって思ったね」

「今もな」

「そうそう! お前知ってる? 学院の食堂って有料なんだけどさ」

「女の子が行かないのも分かる。そこらの食堂よりたけーの」

「味はいいけど、あれって中流階級以上向けだわ」

「そんなトコでも下流階級に対して冷たい。悲しいね」

「そういやお前、上流階級の可愛い子に気に入られてるらしいじゃん」

「前もこの店来てたよな。あの子も学院の生徒なんだっけ?」

「あー、中央の学院に。つーことは王都に引っ越しか」

「だからこの間泣いてたのか」

「はいはい、やめとくよ」

「で。午後になっても女の子の向かいでボーっと本読んでたらさ」

「担当教官が入って来て、すわ授業かって期待したんだ」

「全然」

「この『精霊の意思』だけ寄越して、後は自分で契約して来いってな」

「マジマジ。途方に暮れるしかない」

「ただの石に見えるだろ? 俺も」

「なんでも精霊の感情に反応して色が変わるんだってさ」

「それを見て上手いこと契約しろ、そういう事らしい」

「すげー曖昧だよな」

「行ったよ。とりあえず本に書いてある通り、『灯火』の精霊んとこ」

「昨日昨日。契約のためなら入学の次の日に休んでいいってテキトーだよな」

「昨日も店に来ただろって? そりゃそうさ」

「『灯火』の精霊、教会にいるんだから」

「俺が行ったのは学院の近くだけど、そこらへんの教会にもいるらしい」

「ほら、毎週さ。一週間消えない種火を貰いに行くだろ?」

「あれって『灯火』の精霊が力を分けてるらしい。神聖術じゃないんだよ」

「俺も本読んで初めて知った」

「下位精霊って結構そこらへんにいるみたいでさ、案外契約しやすそうで助かった」

「これで種火には困らないよ、俺」

「教会の奥の方に祭壇があるだろ? そこに種火用の容器じゃなくて『精霊の意思』を置いて」

「後はひたすら交渉。戦う? そんなわけねーって」

「いや、好戦的な上位精霊だとあるらしいけど」

「それがさあ、面倒くせーんだよ」

「契約に必要なモノを差し出して『意思』が青に光れば契約了承、赤なら拒否」

「何が面倒って?」

「契約に必要なモノが人によって全然違うんだよ」

「全然バラバラ。マッチ一本の人もいれば、宝石やペットの鳥だったのもいるらしい」

「あげく必要な物が分からず終いで生涯契約できなかった人もいたとか」

「精霊って怖いもんだな」

「大変だったってマジで」

「『火』の下位精霊だし、とりあえずマッチや火蜥蜴の尻尾やら持ってったけど全然ダメ」

「二時間かけても『意思』は真っ赤な拒否のまま。もー何もねーわってなってさ」

「初っ端コレかよ、って祭壇に両手をついたらどうなったと思う?」

「そ。青色になったわけだ」

「別に指輪とか付けてないんだぜ?」

「嫌な予感がして手を離したら『意思』は赤色。もっかい乗っけたら青」

「指を一本ずつ乗っけてってみたら……」

「人差し指がビンゴ。外せば赤、乗せれば青。精霊って素直で面白いわ」

「やっぱ召喚士辞めようって思ったね」

「いや大丈夫だって。ほら、人差し指あるだろ?」

「後でよーく調べてみたら契約の代償ってより、精霊を分けて宿す入れ物の交渉らしい」

「どれを住処にしたい? って話だな」

「でもその時は分かんなくて、どうすっかって頭ん中止まってるわけ」

「油断してたわ」

「ふと気付いたら右の人差し指が妙に温かい……」

「熱いんじゃないのが絶妙だよ。熱いと温かいの境界っつーの?」

「触ってみ。な? ちょっと温かいだろ」

「更に、ちょい離して……『灯火』の精霊、淡く小さな火を顕現せよ」

「ほら、指先に火がともる。魔導士みたいじゃね?」

「魔導士なら無言でできるらしいけど」

「ちなみに『灯火』の精霊ができるのはほぼこれだけな」

「よう」

「おっさん、あれ貰えるか。水魔の涙」

「宿題じゃなくて。ちっげーよ俺ってもう召喚士だから触媒にさ。ほらこれ。『精霊の意思』」

「ただの石にしか見えない? うっせ」

「一応『灯火』と『浄化』の精霊とは契約できたんだぜ、これで一応新米召喚士かね」

「うっせーな、今時召喚士なんて流行らないって俺が一番わかってんの」

「この数日でよーく分かったよ……何があったって?」

「んなこと良いからさっさと用意してくれよ……んなことに時間かかるわけねーだろ!」

「ああもう、分かったよ! えーと、こないだ『灯火』と契約した後なんだけどさあ」

「俺が学院に行ってるのは知ってるだろ。ま、召喚士クラスは俺一人だし、同じ部屋にはあと一人しかいないんだけど」

「暇で暇でしゃーなくてさ。あ? 講義も何も召喚士の講師がいねーもん、自習ばっかだぜ」

「向かいに座ってるもう一人はずーっと札に文字書いてるし」

「女の子女の子、可愛さはまあ……俺としちゃ全然アリ」

「胸? ちっせーよ。つか全体的に子供だし」

「おっさんの娘より全然感情の起伏は小さいけどな。まあ反応無いとかじゃないし」

「元の性分と環境のせいじゃねえの」

「服装もボロだし、お、そういやおっさんの娘のお古なら丁度いいんじゃねーか?」

「なんで俺が買わなきゃいけねーんだよ。彼女でもねえのに」

「つか娘の服売ろうとするか? 普通さあ」

「まあなんだっけ。俺も暇だし、契約した次の日で結構嬉しかったのよ」

「そしたらいいタイミングでその子がキョロキョロしてんの」

「何かと思ったら、陽が傾いて部屋が暗くなってきたわけ。なったら文字も書けねーじゃん?」

「ここは俺の出番だろってもんでさ、意気揚々とね」

「これこれ、この人差し指に『灯火』が宿ってるから、こうランプに向けて」

「『灯火』の精霊、淡く照らしつける火を顕現せよ!」

「やべ……わりーわりー、まあ『灯火』だから火事にゃならねーから」

「とまあこんな風に灯りを付けてやったのよ」

「そしたらどうなったと思う?」

「ジーっと俺の指を見つめて、次に一枚の札を出して一言」

「『これ……見てて』だとさ」

「何が書いてあったのか分かんないけど、魔術関係だろうよ」

「破いた途端に札が小さな種火になって、空中でチリチリ回ってさ」

「女の子が別のランプに指を向けたらそこに向かって飛んでったんだわ」

「それって魔術じゃねーか、おっさんもそう思うだろ?」

「俺も思った。つーかそのまま言ったわけ」

「首振って『違うよ……符術』って呟くけど、なんとなく得意げよ」

「なんでも魔術が使えなくても魔力を込めて文字をかければ破るだけで発動するとか」

「詳しくはわかんねー、魔導士なら理解できんのかもだけどさ」

「いちいち契約して詠唱しないとダメな召喚と、破けばだれでも使えるらしい符術」

「おっさんならどっちがいい?」

「だよな。俺も符術の方が便利だって思うわ」

「召喚の利点かあ……魔力も札も無くても使えることかね」

「まあ契約した触媒がねーと召喚できないから、結局は大して変わらねーけど」

「便利だな、って思って机の上見たらさ、今破いたのと違う文字の札がいくつかあんの」

「ピンと来たね。こりゃ効果が違うんだ」

「聞いたら『灯火』と『浄化』、『微風』に『水滴』の代わりができる札が作れるんだと」

「おいおいって話」

「下位精霊四体と契約してんのとおんなじだもん」


「魔導士ならそれくらいは余裕、でも符術なら普通の人が使えるようになるわけだ」

「マジかよすげーって。手放しで褒めるしかねーじゃん」

「ちょい嬉しそうに身体を揺らすのがなかなか」

「長い銀髪も揺れるのが見てて結構綺麗なんだぜ」

「なんとなく髪を撫でて、そのまんま頬まで手の平付けてやったらさ」

「微妙に不安そうに見上げてくるのがそそるね」

「うっせ。変態じゃねーよ」

「これが肌が柔らかくて、撫でるだけでピトっと指に吸い付く感じ」

「顎に人差し指添えて、こう、クイっとしたわけよ」

「怯えた感じで震えて涙目。お前貧乏なわりに慣れてねーのなってもん」

「変態じゃねーよ、多分」

「口付けしたと思うか?」

「したけど?」

「ギュッと目ぇ瞑って震えてるのが可愛くてさ」

「ついね。ちっちぇー唇奪っちゃってよ」

「悲鳴みたいな声も聞こえたけど小っちゃすぎ、あれじゃ誰もこねーわな」

「そっからの事聞きたいか? わりとドン引きするかもよ」

「へ、おっさんも好きだね……娘さんとか奥さん来ないよな?」

「んじゃ男同士の猥談といくか」

「なんせ唇がさ、吸い付くだけで固いような柔らかいような」

「いや、固かったわ。そりゃ向こうからしたら無理矢理だから当然だけど」

「逃がさねーって勢いで唇重ねたから、人生で一番長くキスしたかも」

「その後も含めてな。つか終わるまでずっとキスしてたわ」

「涙がポロポロ零れるくらい泣いてるわりに、逃げられないから震えるだけ」

「可愛いよなあ」

「唇くっつけたまんま抱きかかえて向かい合わせになるだろ?」

「俺が椅子に座って、脚の上にその子乗っけてるわけよ」

「名前? あー、知らん。まだ聞いてねーし」

「明日にでも聞いとくわ。女の敵? だよな! ははは!」

「ちっせー声で『なんで……』って呟くのを見るのも楽しいわけ」

「そりゃお前が可愛いからだよって言わざるをえない」

「そん時の信じられないって感じで俺を見る目がもう、イチモツに来るぜ」

「よく考えたらさ、前の日に青姦してんの見てるし溜まってたんだよな」

「どんな女の子でも愛しちゃうわ。その子が可愛いってなったら尚更」

「おっさんなら分かんだろ?」

「へへ、やっぱおっさんは趣味合うぜ。娘さんに性癖バレないように気を付けろよ」

「イヤイヤって首振ろうとするのを、ガッチリ掴んで延々キスしてやったんだけど」

「大変だったぜ? もう口と口の間から涎が溢れちゃって」

「ようやく諦めて力抜いたから、息継ぎの間ひたすら言ってやったのよ」

「そりゃもう昂ぶってるからな」

「銀髪が綺麗とか愛してるとか可愛いよとか、背筋が寒くなるっつー」

「唇は喋るかちゅぱちゅぱヤるか、ずーっと動きっぱなしだったわ」

「段々ボーっとしてきたのか抱きしめられても反応薄いんだよ」

「おずおず、ってのが正しいのかね」

「唇の力が抜けて来たから舌入れてやったのな」

「調子乗り過ぎたけど舌噛まれなくて良かったわホント」

「結構時間経ったとはいえ、全然人来ない部屋だから問題なし」

「いや、さすがに最後まで舌が絡みあったりはしなかったね」

「舌でつっついたら引っ込んじまう。ま、一応無理矢理だからな」

「それでも唇でついばむと啄み返してくれたし、次に期待ってとこか」

「キスにも慣れて来たしそろそろ俺の方も。頃合いって奴?」

「そう思って指をその子の股倉に持ってったけど、やっぱこっちは抵抗があった」

「いやいや、そこまで無理矢理行ったら流石にやべーって」

「強姦は退学じゃすまねーもん」

「まあ俺もそこまで期待はしてねーし本命は別よ」

「あ? 馬鹿かおっさん、口は流石に期待しすぎだって」

「手だよ。手で抜いてくれって話」

「その辺はさすがに分かってたんだろ。俺の股間明らかにパンパンだもん」

「ズボン脱いで手を引いて、こっちは? って囁いてやったらさ」

「目を逸らしてだいぶ悩んでたけど、最終的に頷いたわけ」

「俺の勝ち」

「膝に女の子乗っけて向かい合う俺達と、間で反り立つイチモツ」

「ちっせー手で先っぽ掴んでさ、拙い手つきでシコシコすんのよ」

「ん? さっき言ったじゃん。その間もキスしっぱなし」

「ノってきたのかわかんねーけど、段々手付きが滑らかになるっつーか」

「単に動かしてたのが亀頭を握ったり、玉の方をツンツンつつくのな」

「俺としちゃ一番先っちょくすぐられると感じんだけどさ」

「さすがの俺も気持ちいいと息吐いちゃうわけ。唇の動きも止まっちまうしな」

「分かってきたんだろーよ」

「執拗に指で責めて来て、俺が慣れてきて呼吸が整い始めると別のトコを刺激しだす」

「俺の呼吸が乱れたポイントを指と手の平で扱いてくんの」

「だろ? でも商売やってねーんだよ」

「俺も負けてらんねー。男だからな」

「とにかく舌で、その子の歯とか頬の内側とか舐めれるとこ全部舐めまくってやった」

「もうどっちの唾液かわかんねーけど、唾飲みまくったわ」

「口周りベトベト、飯食った直後とかじゃなくて良かったね」

「んなことヤってりゃ一層昂ぶるだろ? いい加減出そうになってさ」

「手で受けろっつったらしっかり包み込む。悪くない反応だろ?」

「結構長い事出たかな」

「その間もキスしっぱなしだったけど」

「ほら、出し終わったら我に帰るだろ」

「それでも十分すぎるくらい可愛いんだから、結構アタリ」

「つってもそれまでみたいに矢鱈愛してるだの連呼する気にはならねーし」

「一回だけさ」

「やっぱ好きだわ、って」

「それだけ言って後は黙ってキス」

「もう外真っ暗だったけど気にしねーよ」

「困ったのはその子だろうな。ぱっちり合わせた両手の中、精液だし」

「ただ、キスの止め時が分からなくてさ」

「とりあえず手を拭かせて俺は下穿いて、そこからどうするか」

「もう考えるのが面倒すぎたっつーか」

「抱っこしてキスしながら家まで送り届けてやったわ」

「さすがに嫌がってたけど、腕の中で悶えるだけなら可愛いもんだ」

「お互い唇腫れてたのがお笑いだね」

「あ? 召喚士が流行らないって話?」

「そういやそんな話だっけか……また今度な。おっさん的にもこっちの方が楽しかっただろ」

「んじゃ俺帰るわ。そろそろ娘さん戻って来るんねーの」

「ほい、『水魔の涙』確かに。またなー」

今日はこんなもんで

どっちもそうです。

――符術士の少女――

私の家は、有り体に言えば貧乏そのものでした。

父は私が物心ついて少しした頃に病で死に、母はそれ以来身体を悪くして伏せる事が多く。

弟はまだ小さいので働きに出る事は出来ず、私が日々の食い扶持を稼ぐより他にありません。

とはいえ私自身が大人とは言えない年齢。手っ取り早いのは身体を売る事でしたが、そればかりは抵抗がありました。

それ以外にお金になりそうな事が一つだけ。

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。くれぐれも符術の事は知られないようにね」

「うん、わかってる」

ごめんなさい、と心の中で謝る事にも段々と慣れてきて。裏切っているという罪の意識だけが薄く積もっていくよう。

先祖伝来門外不出の技術だという符術は、私達の生活を安定させてくれるものでした。

「……おはようございます」

学院の中には人気のない場所がいくつかありますが、ここはその中の一つ。

魔術、剣術、芸術。

それら学院三本柱に属さない技術はいくつかの科を纏めて一人の教官が見ているのです。

でも専門の先生ではありませんから、当然指導はできません。王都の中央学院なら別だそうですが。

(でも、静かだから好きかも)

この部屋もそういった教官の部屋。今は私一人しかいませんし、そもそも私自身きちんとした学生ではありません。

「今日は『火』と『微風』だけ……」

いつもの椅子に座っていつも通り札を作るだけ。

紙を扱う関係で窓も開けられないから、まるで時間が止まってしまったかと思うくらいに静かな部屋。

私の好きな、少しだけ寂しい日々。それがまた始まりました。

黙々と札を作っていると思いだすこと。それは教官が私を誘ってくれた時のこと。

二年前、いよいよ母が働きに出る事もできなくなり、路地裏で春売りを始めた私を買った最初で最後の客が教官でした。

教官は行為に及ぶ前に私に色々と質問をしました。後で知ったのですが、詳細にその子の事を知ることで興奮できるのだそうです。

私は自暴自棄でしたから、何を聞かれても素直に答えました。答えてしまいました。

処女であること、初潮は来ていること、名前、家庭環境、そして符術のこと。

その時の教官の姿は今でも忘れる事が出来ません。

『ほう、ほう? 符術かい。それは素晴らしい! なるほど、行使には魔術より簡便であると。素晴らしい!』

『どうだね、身体を売るよりも学院に来てその札を作ってくれんか。報酬は弾むぞ!』

鍛えた体は全裸で、行為のために固くなっていたアソコは見る見るうちに柔らかくなり。

ベッドの端で太ももを撫でられていた全裸の私は、教官の熱意に押されて頷いてしまいました。

教官は嬉しそうに飛び上がるといそいそと服を着て、私を急かして。

混乱しながら服を着た私を掴んで学院に行き、今の場所で札を作るよう促したのです。

『ほう、ほう! 素晴らしい! これが符術! 魔術の歴史がまた変わるぞ!』

一枚だけ書いた札は『火』の札。破いた途端燃え上がる札と灯火に教官は大興奮でした。

それ以来というもの、私はこの場所で札を作り続けています。

どこかで札を売っているようなのですが詳しい事はわかりません。私はただ書いて、お給金を貰うだけ。

符術クラスという新たなクラスに在籍する生徒になりました。それでもすることは同じ。

「……できた」

ふう、とため息を一つ。文字に魔力を込めるのは集中しなければならず、意外とコツを掴むのが難しいのです。

教官も試しましたが結局はできませんでした。悔しそうにしていましたが、私はお金を手に入れる手段が保たれてホッとしています。

……それに、教官は私の身体より札の方にお熱ですから。身体が綺麗なままでいられるのはやっぱり嬉しいから。

「お昼ご飯……どうしよう」

ふと気付けばお昼前。動かないとはいえお腹は空きますが、お金は無駄遣いできません。

服だって買えない……というより買わないくらい。

だってお母さんには下働きに出てるとしか言ってなくて、それなら服を買う余裕があるわけがないから。

教官はプレゼントすると言ってくれましたが断ってしまいました。

「……だって、凄くヒラヒラしてるんだもん」

あんな服、恥ずかしいもの。

思い出して少し熱を持った頬を冷まし終えた頃、扉が開く音が聞こえました。

入ってきたのは予想通り教官と、予想していなかった男の人。

予想外の事に思わず挨拶の言葉も出ず、ただ小さく頭を下げる事しかできませんでした。

教官は教官で、男の人に適当な指示だけして帰っちゃうし……どうすればいいんだろう。

「あーっと、俺はカユウ。召喚士クラスで今日から厄介なるんで。よろしくお願いします」

へら、と笑うその人に私は名前を返すこともできず、慌てて頭を下げるだけ。

……私を見る目がちょっとだけ怖かったのもあります。

始めのうちは物珍しそうにしていたカユウさんは、段々暇そうに向かいに座ってぼんやり外を見つめていました。

私は努めて気にせず札を作っていましたが、いよいよ太陽が頭上まで昇り私もお腹が空いてきた頃。

「あー、ご飯どうします?」

多分、敬語には慣れていないんだなって。私が年下だから余計かもしれません。

まだ緊張しててすぐには言葉が出ませんでした。どうにか首を振ってようやく出てきたのは。

「私、貧乏だから……あの、敬語じゃなくていいです」

「あ、そう? んじゃそっちも敬語いらねーよ。普通に話してくれりゃいいから」

肩凝るんだよな、そう零して大げさに肩を回す仕草が面白くて。

「つーか貧乏なのに学生やってんの? 働いた方がいいじゃねーかな。女の子なら色々あんだろ」

「そういうのは、しないようにしてるんです……それにこれがあるから」

「紙? そういやさっきから何か書いてるけど、何それ?」

符術の説明をするのも、何でかな。話し相手がいないから話しかけてくれるカユウさんの事が嬉しかったんだと思います。

……問題は話し慣れていないこと。一言ずつしか言葉に出来なくて、結局だんまり。

やがてご飯のために立ち去って行くカユウさんを見送る事しかできませんでした。

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