唯「あずにゃんドキドキ大作戦だよ!」 (66)

【月曜日】

梓「よーし…」

純「どうしたの梓?」

憂「気合い十分だね」

梓「今日こそきちんと練習しようと思ってね」

梓「最近、部活の雰囲気がたるんでるんだよ」

純「軽音部としてはそれが通常運転じゃないの?」

梓「うっ…」

梓(言い返せない…)

梓「さ、最近特にそうなの!」

梓「だから、今週だけでもティータイムをなくして、みっちり練習するんだよ」

純「ふーん…ほんとになくせるのかなぁ?」

純「憂のお姉ちゃんとか律さんとか手強そうだけどなぁ」

梓「や、やるったらやるもん!」

梓「うんしょっと…」

梓「じゃあ部室行くね」

純「まぁやるからにはがんばりなよ梓~」

憂「ファイトだよ、梓ちゃん」


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2期11話の「暑い!」の後あたりをイメージした話です。

梓(部室にクーラーが付いてから、まともに練習しない日が続いてる)テクテク

梓(このまま夏休みに入っちゃったら、もしかしたら唯先輩は難しいリフやコードは全部忘れちゃうかもしれない…)テクテク

梓(こんなことじゃダメだよ!私たちは軽音部なんだから!)ブンブンッ!

梓(先輩たち、わたしが行く前に練習してくれてればいいんだけど…)テクテク

梓(そんなわけないか…きっと先にティータイム始めちゃってるよね)テクテク

梓(練習の音は…やっぱり聞こえない)テクテク

梓(今日からがんばらないと!)フンスッ

梓「こんにちは!」ガチャッ

唯「…」

律「…」

澪「…」

紬「…」

梓「…?」

梓(なに…?この張り詰めた空気)

梓「あの~…?」

律「唯…本当のことを言ってくれ」

唯「…!」ピクッ

律「お前…タイムリープしてるだろ」

唯「…っ」

律「唯、どうなんだ…?」

唯「…わたしは…」

律澪紬「…」

梓「え…」

梓「…えっ?」

紬「思えば一年生の時からおかしかったのよね」

澪「テストの結果がまったくダメだったと思ったら、一夜漬けの勉強だけで追試を満点でパスしたり」

澪「完全に覚えてたはずのリフを次の日には忘れてたり」

律「最初は唯だからって理由で納得してたんだ。でも、それにしても不自然なことが多すぎた」

紬「それで思ったのよ。もしかして、唯ちゃんはタイムリープしているんじゃないかって」

律「どうなんだ、唯」

律「お前はいったい…どこから来たんだ?」

梓(…どうしよう、いきなり過ぎてついていけない)

梓「せ、先輩方…」

唯「バレちゃったら…しょうがないね」

澪「唯…」

紬「唯ちゃん…」

唯「わたしと…そして憂は、未来人なんだよ」

梓(はっ!?)

紬「ええっ?」

律「憂ちゃんもなのか?」

唯「うん…わたしたちは、ある任務の為に、この時代にやって来たんだ」

紬「ある任務って…」

唯「それは…」

唯「あずにゃんを守ることだよ!」ビシッ

梓「ひっ」ビクッ

律「あ、梓を!?」

澪「梓、いたのか!?」クルッ

梓「は、はぁ…」

紬「どこから聞いてたの!?」

梓「えっと…タイムリープの辺りから…」

律「唯、どうして梓を守ることが任務なんだ?」

唯「…遠くない未来、人類対ロボットの戦争が起こるんだ」

紬「人類対ロボットの!?」

律「戦争だって!?」

梓(こんな話、どこかで聞いたことあるような…)

唯「そしてあずにゃんは、人類側の軍隊を率いる、リーダーとなる人物なんだよ…!」

律「なんだってー!」

紬「そ、そんな、梓ちゃんが…」

梓(やっぱり聞いたことあるような…)

唯「ロボットたちは、重要人物であるあずにゃんを抹殺しようと計画したんだ…」

唯「でも未来のあずにゃんはしっかり守られてるの…。だから過去に飛んで、この時代のあずにゃんを消してしまおうと考えた」

唯「わたしと憂はそれを防ぐ為に、この時代に送り込まれたんだよ」

唯「わたしは部活中のあずにゃんを、憂は授業中のあずにゃんを守る為にね」

律「まさか…梓がそんなに重要な人物だったなんて…」

梓「…」

唯「わたしがいつもあずにゃんに抱きついていたのも、あずにゃんの盾になる為だったんだよ」

唯「でもわたしの力不足で、何度も何度もあずにゃんの護衛に失敗したんだ」

紬「そうだったのね…」

唯「その度にわたしはタイムリープして、過去をやり直し、あずにゃんを守ってきたんだよ」

梓「…」

唯「でもね、わたしがタイムリープできる回数は、あと一回だけなの」

律「なっ…そうなのか!?」

唯「うん…そしてその一回は、わたしたちが未来に戻るために残してある一回なんだ」

唯「だからね、ここで完全に敵を撃退しなきゃいけないんだよ」

律「完全に…」ゴクッ

紬「撃退…」ゴクッ

澪「……」紅茶ゴクッ

梓(なんだこれ…)

梓「えっと…みなさん」

唯「はっ!」ガタッ

梓「え?」

唯「あずにゃん!あぶなーい!」ダッ

梓「ええっ!?」

律「梓ー!」ガタッ

紬「梓ちゃん!」ガタッ

唯「伏せてっ!」ダキッ

梓「わっ!」

ギュウウゥ…

一同「…」

シーン…

唯「ふぅ…」ムクッ

唯「危機は…去ったよ」

紬「やった…!」

律「良かったー!」

唯「あずにゃんは助かったよー!」

律「人類の未来は救われたぞー!」

律「ムギっ!祝杯の準備だ!」

紬「ただいま!」

梓「…」

ワイワイキャイキャイ…

梓「だからみなさん」ムクッ

梓「なにやってるんですか?」

    ~~~

紬「はい、梓ちゃん」コトッ

梓「ありがとうございます」

唯「ねぇねぇ、ドキドキした?あずにゃん」ルンルン

梓「全然です」

唯「えぇ〜」

紬「頑張ったのにねぇ」

梓「頑張るところが違います」

律「澪も途中から全然喋んなかっただろー、真面目にやれよな〜」

澪「そもそも真面目のベクトルが違うだろ」

梓「そうですよ、まず練習の方を真面目にやってください」

唯「まぁまぁ、練習の合間の息抜きだよぉ」

梓「合間も何も、最初から息抜いてるじゃないですか」

律「わかってないなぁ梓、今の時代を生き抜いてくには、適度な息抜きが必要なんだぞ?」

梓「まったく上手くないですね」

律「バッサリだぁ!」バタッ

紬「えっと…?」

唯「りっちゃ〜ん、今のどういう意味〜?」

律「聞くな唯っ!自分で言ったギャグの説明ほど虚しいことはないんだっ!」

澪「『生き抜く』と『息抜き』を掛けたんだよ。上手くないけど」

律「そこっ!わざわざ説明しないでいただきたい!あと一言余計だ!」

唯「おぉ〜、なるほどぉ」キラキラ

紬「りっちゃん、凄いわぁ」キラキラ

律「むぐぐ…悪意がないとわかっている分心がえぐられる…」

梓「そもそもなんだったんですか、あのお芝居…」

唯「気になる〜?ふっふっふ、あれはね〜」

唯「ズバリ!あずにゃんドキドキ大作戦だよ!」

梓「…はぁ」

梓(なんのこっちゃ…)

唯「はぁあ〜、でも今回は失敗だったなぁ」

唯「どうやったらあずにゃんをドキドキさせられるんだろう」

律「今回はちょっと唯のセリフが長すぎたよな」

紬「全体的に間延びしちゃったわよね」

唯「えぇ〜、頑張って喋ったのにぃ」

梓「そもそもあの話、どこから持ってきたんですか?」

唯「あ~あれはね、昨日の夜やってた映画を見て思いついたんだよ!」

梓「やっぱり…」

律「次はもう少しシンプルに行くか」

唯「シンプル~?」

紬「う~ん…じゃあもっとわかりやすい話にしてみようか」

澪「お前ら」

澪「梓が目の前にいるのに、話し合いの内容が筒抜けじゃ意味ないだろ」

一同「…」

唯律紬「はっ!」

梓「コントですか…」

梓(もしかしてまだお芝居続いてるのかな…)

紬「梓ちゃん、今の話し合いの内容は忘れて?」

梓「忘れてって言われても…」

律「そうだ唯、こんなときこそタイムリープでやり直しだ!」

唯「任せてりっちゃん!」

唯「ふむむむむ…!」

梓「なにやってんですか」

澪「馬鹿なことやってないで…ほら、練習始めるぞ」

唯「うぅ〜、過去に飛べない〜…」

律「頑張れ唯隊員!」

梓「唯先輩も律先輩も、早く準備してください」

唯「はぁ〜い」

律「ちぇっ、わぁったよ〜」

ここでいったん終了します

再開します

【火曜日】

梓(今日は日直で遅くなっちゃった)テクテク

梓(昨日は練習はできたけど、結局ティータイムの後だったんだよね…)テクテク

梓(まさか昨日の今日で、変なお芝居は挟んでこないだろうし)テクテク

梓(今日こそ、最初からしっかり練習するぞ!)フンスッ

梓(…というか)テクテク

梓(部室が近づいてきたのに、相変わらず練習の音が聞こえてこない…)テクテク

梓(また先にお茶してるんだろうな…)ハァ…

ガチャッ

梓「すみません、日直で、遅く…なっちゃって…」

梓「…」ジトー

唯律澪紬「…」ジー

梓「…どうしたんですか?」

梓「みんなでトンちゃんの水槽を覗き込んで…」

律「あっ梓ちゃん!やっと来たのね」

澪「梓…落ち着いて聞いてくれ」

梓「え…なんですか、まさかトンちゃんに何か…!」

律「実はな、さっきトンちゃんが…」

梓「トンちゃんが!?」

律「喋ったんだ」

梓「喋っ…た…」

梓「…」

梓「はい?」

トンちゃん「…」スーイスイ

梓「すみません、意味がわからないです」

律「だからぁ、トンちゃんが喋ったんだって」

律「あたいトンちゃん!いつもかわいがってくれてありがとう!ってさ」

梓「はぁ…もういいですから」

梓「馬鹿なこと言ってないで、今日こそ真面目に練習…」

「馬鹿なことって失礼だね!あたいほんとに喋れるようになったんだよ!」

梓「」

梓「ええ!?」

梓「ど、どこから…」キョロキョロ

律「お〜!また喋った!」

梓(まさか、誰かがトンちゃんのふりして声出してるんじゃ…)ジトー…

紬「トンちゃん!梓ちゃんも来たわよ!」

律「ちょっと挨拶してやれよ!」

「梓ちゃんこんにちは!いつも一番あたいの世話してくれてるよね!ありがとう!」

梓「…」

梓「だ、誰も口を動かしてなかった…」

梓(机の陰とかに、だれか…隠れてない)

梓(まさか…こんなおかしなこと、起こるわけないよ…)

梓(も、もしかして…!)

梓「だ、誰か私のほっぺをつねってください!」

律「え?いいけど…」

ギュー!

梓「いはいいはい!いはいれす!」

律「あ、悪い…つねりすぎた?」パッ

梓「いえ…大丈夫です…」ヒリヒリ

澪「どうしたんだ梓?」

梓(この痛さ…)ヒリヒリ

梓「夢じゃない…」ヒリヒリ

梓(でも…さっきから何か違和感が…)

梓(なんだろう…)

紬「トンちゃん、どうして喋れるようになったの?」

「いつもみんながかわいがってくれてるお礼が言いたいと思ってたら、いきなり喋れるようになったんだよ!」

律「へ〜、こんなこともあるんだなぁ」

澪「この話を元に新しい詩が浮かびそうだな…」

梓(…そうだ)

梓「あの…唯先輩?」

唯「ふぇ?なぁにあずにゃん?」

梓「さっきから、一言も喋ってないですよね?」

唯「え?そ、そうかな?」ビクッ

梓「おかしいですね、唯先輩がいちばんトンちゃんをかわいがってるのに」

梓「いつもの唯先輩なら真っ先に大騒ぎして、私に抱きついてきそうなものですけど…」

唯「いやぁ〜、いきなりのことだったから、ちょっとビックリしちゃってさぁ〜…」オドオド

梓「そういえば唯先輩、昨日より少ーし髪が伸びてませんか?」

唯「え〜?き、気のせいじゃない、かなぁ?」アタフタ

梓「あれ…いつの間にかトンちゃん静かになっちゃいましたね」チラッ

唯「あ、あれぇ〜、おかしいねぇ、急に恥ずかしくなっちゃったのかなぁ」ドギマギ

梓「もういいですから、唯先輩」

梓「いや…、憂」

   ~~~

憂「ごめんね、梓ちゃん」ペコリ

憂「お姉ちゃんに協力してって言われたら、断れなくて…」

梓「憂は唯先輩に甘すぎるよ」

紬「はい、憂ちゃんも紅茶どうぞ」コトッ

憂「ありがとうございます、紬さん」

梓「だいたい腹話術なんてどこで習ったの?」

梓「まさか、このお芝居のためにわざわざ…」

憂「あはは、まさか〜」

憂「一昨年、私がまだ中学生のときに、お姉ちゃんがうちで軽音部の皆さんや和さんとクリスマスパーティーを開いたことがあってね」

憂「そのとき、パーティーの余興で一人一芸を披露するってお姉ちゃんに聞いて、練習したんだ」

梓「…つまり独学ってこと?」

憂「うん」

梓(やっぱり憂って天才肌だな…)

梓「…それはともかく、先輩方」ジロリ

梓「よくまぁこんなお芝居を思いつきましたね」

唯「えへへぇ、照れるなぁ」

梓「褒めてませんよ…」

律「昨日、次はシンプルって言ってたのを梓に聞かれたから、裏をかいて凝った内容にしたんだけどな〜」

紬「あと一歩だったのにねぇ」

唯「ぶー、でもわたし、ずっと倉庫の中でつまんなかったよ〜」

澪「しょうがないだろ、憂ちゃんが梓の前で唯のふりしてたんだから」

紬「でも、あそこで唯ちゃんが倉庫の中から飛び出してきたら、唯ちゃんが二人いる!って梓ちゃんをドキドキさせられたかもねぇ」

唯「あ〜、それおもしろそう!」

律「なるほど、ドッペルゲンガーか…じゃあ次はホラー路線で」

澪「ぜったいやめて」

ワイワイキャイキャイ…

梓(また私の前で話し合い始めて…内容が筒抜けだよ…)

梓(昨日今日のお芝居の目的って、私をドキドキさせることのはずだよね?)

憂「お姉ちゃんも皆さんも楽しそうだねぇ♪」

梓「そうだね…」

梓(ほんとに楽しそう)

梓(目的を忘れて、盛り上がってるよ…)

梓「皆さん、目的を忘れてませんか?」ガタッ

唯「ほぇ?目的って?」

梓「私をドキドキさせる為に作戦を立ててるんじゃないんですか?」

律「そうだけど」

梓「じゃあ、私の目の前で話し合いしてちゃダメじゃないですか」

唯律澪紬「…」

唯律澪紬「はっ!」

梓「だからコントですか…」

梓「こんなことじゃまだまだ私をドキドキさせられませんよ」

憂「ねぇ梓ちゃん」

梓「なに?憂」

憂「言いにくいんだけど…梓ちゃんも目的を忘れてないかな」

梓「え?」

憂「梓ちゃんの目的って…、皆さんにドキドキさせられるってことじゃなくて」

憂「軽音部でしっかり練習することじゃなかったの?」

梓「…」

梓「はっ!」

【水曜日】

梓「憂…先輩たち、今日も何か企んでるのかな?」

憂「やだなぁ梓ちゃん、さすがのお姉ちゃんたちも、昨日の今日で何もしてこないよ」

憂「…た、多分…だけど」

梓「そっか…」

梓(すでに2日続いてるからなぁ…)

梓「じゃ、行ってくるね」

憂「また明日ね〜」

純「バイバーイ梓ー」

梓(まさか憂まで絡めてくるとは…)テクテク

梓(二度あることは三度ある…今日はいったいどんなお芝居を挟んでくるんだろ)テクテク

梓(今日こそはちゃんと始めから練習するんだから!)テクテク

梓(…案の定練習の音は聞こえないな)テクテク

梓「こんにちは〜」ガチャッ

唯「犯人はっ…!」バッ

唯「きみだよ!あずにゃんっ!」ビシッ

梓「…」

唯「…」フンスッ

一同「…」

梓「…なんの話ですか」

律「しらばっくれても無駄だァ、梓!」

紬「証拠は全て上がってるのよ」

澪「この部室も完全に包囲されている、もう逃げ場はないんだ」

梓「はぁ」

唯律紬澪「…」ジー

梓「あの…もういいですか」

   ~~~

唯「またあずにゃんをドキドキさせられなかったよ…」ショボン

紬「なにがいけなかったんだろう…」

律「今度はシンプル過ぎたのかもな〜」

澪「いや…そういう問題じゃないだろ」

梓「そうですよ」

唯「じゃあなにがいけなかったの、あずにゃん?」

梓「なにが、というより…」

梓「ちゃんと、練習しましょう?」

律「練習って、演技のか?」

梓「じゃなくて!」

澪「演奏の練習のことだろ…」

梓「そうです!」

唯「でもあずにゃんをドキドキさせてからじゃないと、練習も何もないよ」

梓「いったいここは何部なんですか…」

律「何部ってそりゃ…」

唯「けいおん部だけど…」

梓「ですよね?軽音部なら軽音部らしく活動しましょうよ」

律「わかってないなぁ梓は」

梓「何がですか?」

唯「あずにゃんが言ってるのって、『軽音部』のことでしょ?」

唯「わたしたちは『軽音部』じゃなくて、『けいおん部』なんだよ!」

律「なんだぞ!」

梓「…すみません、ちょっと意味が…」

澪「ああ…なるほど」

紬「わかるわぁ」ニコニコ

梓(わかるの!?)

梓「何が違うんですか…?」

律「ふっ、この違いがわからないとは…梓もまだまだだなぁ」

梓「むっ…」

唯「だからね、わたしたち『けいおん部』は、ただ5人で演奏するだけじゃなくて、お菓子食べて、お茶して、お話して。そういうのぜーんぶが活動なんだよ!」

梓「えっと…?」

唯「そこが『軽音部』とは違うんだよ!」

梓「はぁ…」

唯「ってことでムギちゃん、今日のおやつは〜?」

紬「今日は唯ちゃんの大好きなマドレーヌよ〜♪」

唯「やったー!ムギちゃん大好き〜!」

律「現金な奴だなぁ唯は」

澪「言っとくけど、これ食べたらちゃんと練習するんだからな」

唯「わかってるよぉ。ムギちゃん早く早く〜♪」

律「待て唯、まず梓をドキドキさせてから練習するんじゃなかったのか?」

唯「はっ!そうだったよ!」

澪「お前らなぁ…」

ワイワイキャイキャイ…

梓「…」

一旦終わります。次でおそらく終わります。

再開します

【木曜日】

梓(はぁ…昨日はなんか上手く丸め込まれちゃった気がするなぁ)

梓(先輩たちの雰囲気に飲まれてなんとなく納得しちゃったけど)

梓(冷静に考えたら、それって私たちが普通の軽音部よりダラけてるってことだよね…)

梓(ダメダメ!自分をしっかり持て、梓!)ブンブンッ!

梓(よ〜し、今日こそは先輩たちに惑わされずに…)

梓「練習するぞ!」

純「わっなに!?」

憂「梓ちゃん…どうしたの?」

梓「あ…ごめん、なんでもない…」

梓「じゃあ練習行ってくるよ」

憂「いってらっしゃい」

純「お茶飲んでばっかじゃダメだよ〜梓」

梓「なっ…ちゃんと練習もするもん!」

梓(うう…『練習してる』って言い返せなかったのが悔しい…)テクテク

梓(でも、今日こそは…!)テクテク

梓(絶対に練習するんだから!」フンスッ

梓「…///」

梓(最近、心の声が漏れやすくなってる気がする…)テクテク

梓「気をつけよう…」

唯「なにを?」ヒョコッ

梓「うわぁっ!唯先輩!?」ビクッ

梓「いつの間に隣に…というか、まだ部室に行ってなかったんですか?」

唯「ちょっと職員室に用事があったんだ〜」

梓「そうですか…」

梓「今日もまた、おかしなお芝居挟んでくるつもりですか?」

唯「う〜ん、今日はおやすみかなぁ。わたしも遅れちゃったし、まだ作戦立てられてないもん」

梓「…ということはまだ続けるつもりなんですね」

唯「当たり前だよぉ」

梓(それを私の目の前で宣言してる時点でダメな気が…)

梓「練習はいつするつもりなんですか…」

唯「ん~、まぁあずにゃんをドキドキさせるまでは、できないかもねぇ」

梓(ダメだ…頭が痛いよ…)

唯「ところで、なにを気をつけるの?あずにゃん」

梓「えっ?」

唯「さっき『気をつけよう』って言ってたじゃん」

梓「ああ…いや別に…」

唯「ふっふっふ〜、何を考えていたのか当ててあげよう」

梓「え?」

唯「ズバリ、心の声を漏らさないように気をつけようと思っていたね!?」

梓「ええ!?」ドキッ

唯「ふふ~ん、当たったみたいだね~」

梓「どうして、それを…」

唯「わたし、エスパーなんだよ」

梓「…なんですか、やっぱりお芝居続いてるんですか?」

唯「えへへ〜、今ドキッとしたんじゃない?あずにゃん」

梓「してません!」

梓「それで、どうしてわかったんですか。まさか本気でエスパーって言い出すんじゃ…」

唯「エスパーじゃなくたって、後ろからあずにゃんの様子を見てたらわかるよぉ」

梓「なっ…ずっと見てたんですか?」

唯「うん。あずにゃんって後ろ姿だけでも何を考えてるのかわかるんだよねぇ」

唯「だから見てておもしろくってさぁ」

梓「そんなにわかりやすいんですかね…私って」

唯「まぁわたしとあずにゃんの仲だからね〜」

梓「なんですかそれ…」

唯「ふふ〜、照れなくてもいいんだよぉあずにゃん!」ダキッ

梓「わっ!いきなり抱きつかないでください!」

唯「この抱き心地…やっぱり抱きしめるのはあずにゃんに限りますなぁ」ギュウゥ

梓「もー!」

ガチャッ

梓「こんにちは」

唯「よっす!」

律「お、来た来た」

澪「…なんで唯は梓に絡みついたまま部室に入ってきてるんだ」

唯「あずにゃん分補給中なのであります!」

梓「もうっ!いい加減離れてください!」ズイッ

唯「ああん!接続が中断されちゃったぁ…」

紬「あらあら」

律「毎日大変だな~梓も」

梓「いい迷惑です」

唯「えぇ〜、あずにゃんしどい…」

梓「先輩はもうちょっと大人になってください」

唯「ぶー、けちけち」

梓(…というか、予想はついてたけど)

梓(やっぱり今日も練習始めてないんだよね…)フッ…

紬「どうしたの?梓ちゃん」

梓「いえ、なんでも…」

澪「また練習せずにお茶飲んでるな、っていう苦笑だろ今のは」

梓「えっ?」

律「お〜?図星か梓?」

梓「そ、そんなこと…!」

梓「うう…」

紬「ねぇ唯ちゃん、マロングラッセとチョコケーキならどっちがいい?」

紬「さわ子先生はまだ来てないから、どちらか選んで?」

梓(あれ、唯先輩と先生の分だけ…?)

唯「どれどれ?うわぁ〜、どっちも美味しそう!」

唯「どうしようかなぁ〜」

梓(どうしよう…『私の分は?』なんて聞きづらいし…)

律「…」チラッ

律「梓ー、お前の分はもう席に置いてあるぞ」チョイチョイ

梓「えっ?」

梓(私の席に…?)チラッ

梓「あっ…気づかなかった…」

律「『私の分はないのかしらー?』って、顔に書いてあったぞ〜?」

梓「なっ…そ、そんなこと思ってないです!」

律「へぇ〜?」ニヤニヤ

梓「う…」

梓「それで、これって…」

紬「あら、梓ちゃんはバナナシフォンケーキがいいんじゃないかなって思って、先にとっておいたんだけど…違ってた?」

梓「いえ、そんなことないです!」

梓(私の好きなバナナのケーキ…)

梓(とっておいてくれたんだ…)

梓(唯先輩といい、澪先輩といい…)

梓(律先輩も、ムギ先輩も…)

唯「…ん?あずにゃん?」

梓「みなさんエスパーですか…」ボソッ

唯「…ふふっ」

唯「エスパーなんかじゃないよ〜」

唯「みんなあずにゃんがかわいくてかわいくて仕方ないから、あずにゃんのことがよーくわかるんだよ」

紬「梓ちゃんは、けいおん部でただ一人の後輩だからね」

律「唯なんて1日梓に会えないと禁断症状が出るもんな〜」

唯「うんっ!常にあずにゃん分を求めております!」

澪「よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるな…」

紬「うふふ、いいことじゃない」ニコニコ

梓「…///」

澪「梓、どうしたんだ?早く座りなよ」

梓「あ…、はい」

ギシッ…

紬「はい、梓ちゃん、ミルクティーよ」

梓「ありがとうございます」

さくっ…はむっ

梓「…おいしい」モグモグ

梓「…」モグモグ

梓「…どうひてみなはん」モグモグ…ゴクン

梓「嬉しそうにこっちを見てるんですか」

律「別にー?」

澪「ただ、なんとなく…」

唯「わたしは、幸せそうにケーキを食べてるあずにゃんもかわいいなぁって思ってさ〜」

紬「見ててこっちまで幸せな気分になるのよねぇ」

梓「な…みなさんなに言ってるんですかっ」

梓「早くケーキ食べて、練習しますよ!」

唯「えー、もうちょっとのんびりしようよぉ」

律「人生には余裕が大切だぞ?」

唯「そのとーり!」

梓「余裕しかない人生もどうかと思いますよ…」

梓(…ん?何か大事なことを忘れてるような…)

唯「はいっ!あずにゃんあーん♪」

梓「えっ?あ…」

唯「ほれほれ、はようはよう」

梓「あ…あーん…」

はむっ

紬「ふふふ♪」

梓「うー…」モグモグ

梓「…やっぱりおいひい」モグモグ

【金曜日】

梓(昨日は結局大した練習はできなかったなぁ…)

梓(というか、私も最初から練習するって目標、すっかり忘れてたし…)

梓(ここ何日か、先輩たちのペースに巻き込まれてる…マズい!)ブンブンッ

梓(今日こそは気合いを入れて!)

梓「きちんと…!」

純「はっ?」

梓「…」

憂「きちんと…?」

梓「…や、なんでもないよ」

梓(危ない…また心の声が漏れてた…)

梓(とにかく、きちんと真面目に!最初っから練習しないと!)フンスッ

梓「じゃあね!部室に行ってくる!」

トタトタ…

純「う、うん、いってらっしゃい」

憂「梓ちゃん、今日は一段と気合い入ってるね」

梓(するったらするんだから!)テクテクテク!

…して、気まぐれかも…

梓(…ん?)テク…

梓(何か聞こえる…)

…の確率ー割りー出すー…

梓(これって…わたしの恋はホッチキスだよね)

梓(部室から聞こえてくる…)テク…テク…

ガチャッ…ソロー

唯「キラキラ光る♪願い〜ごとも♪グチャグチャへたる♪悩み〜ごとも〜♪」

唯「そーだホッチ〜キスで〜♪綴じちゃお〜お〜♪」

梓「…」

梓(…私、先輩たちの演奏したこの曲に惹かれて、入部を決めたんだっけ)

唯「もう針がな〜んだか〜♪通らな〜い〜♪」

唯「ララまた明日〜♪」

梓(そういえば、先輩たちが4人で演奏してるのを見るのって久しぶりかも)

梓(…先輩たち4人の演奏するこの曲が、私を二度も軽音部に招き入れてくれたんだよね)

梓(やっぱり…、こんなにも心を打つ演奏ができるなんて)

梓(この人たちの演奏は、凄いよ)

   〜〜〜

唯「ふう…」

澪「あれ…?どうしたんだ梓、そんなところで」

梓「あ…ごめんなさい」

梓「せっかく演奏してるときに中に入ったら、邪魔になるかなって」

律「ほほう、つまりそこであたしらの演奏に聞き惚れてたってわけだな?」

梓「なっ…それは、ちが…わない、ですけど」

梓「というか、どうしてみなさん、お茶する前に演奏してたんですか?お芝居は?」

唯「うーん、まぁお芝居にも飽きちゃったしね〜」

唯「たまにはお茶する前に演奏してもいいかな〜って」

梓「はは…そうですか」

梓「…でも」

梓「先輩方の演奏を聴いて、なんだか入ったばかりの頃のことを思い出しました」

紬「入ったばかりの頃?」

梓「はい。先輩方4人だけでの演奏って、久しぶりに聴きましたから…」

律「そーいや、梓が入部してからは4人で演奏すること、殆どなかったもんな」

梓「新歓ライブのときのことや、軽音部に戻ってきたときのこと思い出して…ちょっとだけ」

唯「ドキドキした!?」

梓「えっ?」

律「今『ドキドキしました』って言おうとしてただろ!」

梓「そんなっ別にそんなドキドキなんて!」

唯「え…?してないの…?わたしたちの演奏でドキドキ…」ワナワナ

梓「あっいや…」

梓「し、してないと言えば…嘘になりますけど…」

律「したのか!?」

唯「したんだね!?」パァッ

梓「は…はい」

唯「やったー!作戦大成功!」

梓「え?」

律「いえーい!」

唯「りっちゃん!ハイタッチ!」

パチン!

梓「え…あの…」

唯「いや〜、澪ちゃんの言う通りにして正解だったよぉ」

澪「言っただろ?梓をドキドキさせるには、やっぱり演奏しかないって」

紬「ふふふ、あれこれ言いながら澪ちゃんもノリノリだったのねぇ」

梓「…」ジトー

梓(私のさっきの小さな感動はいったい…)

梓(…あ、そうだ。こうなったら)

律「はぁ〜、梓をドキドキさせるって目的は達成できたし、お茶にすっか」

唯「わーい!ムギちゃ〜んおやつおやつ〜」

梓「あれ?みなさん、なに言ってるんですか?」

唯「ん?どしたのあずにゃん?」

梓「やだなぁ、忘れちゃったんですか?先輩方、言ってたじゃないですか」

梓「私をドキドキさせてから練習するって」

唯「そうだっけ?」

梓「はい♪」

梓「私をドキドキさせられたんですから、これで思う存分練習できますよね?」ニッコリ

唯律「」

紬「そういえば…りっちゃんや唯ちゃん、一昨日そんなこと言ってたよね」

澪「…ははっ、それなら仕方ないな」

唯「で、でもぉ…さっきまで真面目に演奏してたし…」

律「そうそう!息抜きも必要だぞ〜梓〜…」

梓「な に 言 っ て る ん で す か ?」ニコ

唯律「」

梓「はい、唯先輩、ギター持って?」

律「ほら、律先輩も。スティック持たないとドラム叩けませんよ?」

唯「りっちゃん…あずにゃんなんか怖いよ…」コソコソ

律「あ、あの〜、梓さん。もしかして怒ってらっしゃる…?」オズオズ

梓「え?そんなことないですよ?むしろワクワクしてます」ニコニコ

梓「これでやっと『 み っ ち り 』練習に取り組めるんですから」ニッコリ

唯律「ひえぇ…」ブルブル

澪「なんか…私たちも覚悟しといた方が良さそうだな」

紬「来週はケーキ持ってくるの、やめとこうかしら…」

梓「さ!みなさん、今日からしっかり練習しましょうね!」




END

これでおしまいです。先輩にうまいことやり込められ、紆余曲折を経ながらなんとか練習しようとする梓視点の話でした。

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