少年「アメジストの世界、鯨と踊る」 (50)

前作 少年「鯨の歌が響く夜」の続編です。
少年「鯨の歌が響く夜」 - SSまとめ速報
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父「さすがにこの季節は寒いねえ、厚着してきて正解だな」

少年「うん、そうだね」

父「この島に来るのは何年ぶりだろうなぁ」

少年「三年と四ヶ月ぶりだよ」

父「おおう、よく覚えてるな……」

少年「そりゃね」ニッ

父「そんなに楽しみだったか?」

少年「うーん、どうだろ?」

父「お?」

少年「確かに楽しみなんだけど、心の中の綺麗な思い出のままにしておきたい気持ちもあってさ」

父「あー、分かる分かる。いつの間にか思い出補正で変わってたりするよな」

少年「こんなものだったっけ、ってショックを受けるのが少し怖くてさ」

父「……ま、ここに居る間、どうするかはお前しだいだよ」

少年「うん」ザッ

祖父「……おお、来たか。この島で会うのは久しぶりだな」

少年「爺ちゃん。久しぶり」

祖母「背が伸びたねえ。私が追い越されちゃったわ」

少年「さすがにもう追い越さないとね」ハハ

父「じゃ、また頼むわ。少年、あんまり心配かけんなよ?」

少年「分かってるよ」

父「じゃあな」ポンポン

少年「うん、またね」

祖父「よし、部屋は前の所を使いなさい」

少年「うん、また前の秘密基地に行っても良い?」

祖父「さすがに台風なんかで無くなっていると思うが……よし、行くか! くっ……!!」ドサッ

少年「!? 大丈夫!?」

祖母「あらあら、無理しちゃ駄目ですよ」

少年「爺ちゃん、どうしたの?」

祖母「島の力自慢を決める相撲大会に出てね。良い歳して負けず嫌いだから、優勝までいったのよ。でも腰を痛めてねぇ」

祖父「男たるもの……どんな勝負も……真剣に取り組むもんだ……いつつ……」

祖母「しばらくは大人しくしてなさい。そうだ、海の家に行ってみたらどうだい?」

少年「あー、懐かしいなぁ」

祖母「店主さんの姪っ子もこの島に来てるのよ。確か同じくらいの歳だし、仲良くなれるかもよぉ」

少年「へえ」

少年「……ん、行ってみようかな」

祖母「気を付けてね。あんまり危ない事はしないでね」

少年「うん。気を付けるよ。……行ってきます」ガラッ

祖父「……あいつもしっかりしてきたなあ」

祖母「そうですねえ……」

店主「やあ、久しぶりだね。大きくなったなぁ」

少年「久しぶりですね。どうやら僕と同じくらいの歳の子がいるって聞いたんですけど」

店主「ああ、姪の事? あの子は今はちょっと出かけてるよ。ごめんね」

少年「そうですか……」

店主「この島を見て回るって言ってたから、どこかで会うかもしれないな」

少年「分かりました。ありがとうございます。失礼します」ペコッ

店主「……あの白い鯨を見た子がねえ……大人になったもんだ」

少年(……懐かしいな、この道)ザッ

少年(身体が道を覚えてる)

少年(この森も、この川も……そして)

ザザアァアァン……

少年「――帰ってきたよ、少女」

少年(この眺めも)

少年「さすがにあの秘密基地は無いなぁ……眼鏡さんはどうしてるんだろ?」

少年(彼女は今、何をしているんだろう)

少年(笑って生きているだろうか)

少年(あの時にくれた不思議な石、今も持ってるよ)

少年(……あの大切な夜だって、ちゃんと覚えてるさ)

少年(何も変わっていないはず)

少年「だから、僕達は繋がったままだよ……きっと」

少年(……冬は鯨達がこの海域にやってくる、って爺ちゃんが言ってた)

少年「また、会えたらいいな。……少女」

――。

少年「……?」

少年(風が……何か変わった?)

――。

少年「……この感じ」

少年(心臓が大きく鼓動を立てている)

――また。

少年(何だろう、この緊張と……高揚感は)

――会えたね。

少年(いや、僕はこれを知っている。この胸の高鳴りは――)

……少年!

――ザバアァアアァアアァン!!

少年「……!」

少年「――少女!!」バッ

白鯨「……」

ザプン……

少年「……あ」

少年(海に、潜っちゃった)

少年「でも……確かに、君の声……聞こえたよ! 少女!!」

少年(あの時と同じ、この島に入って一日目)

少年(僕は、再び海の神様に出会った)

更新は以上です。おやすみなさい……

少年「ごちそうさま」

祖母「はいはい。良い食べっぷりだねえ」

祖父「何か良い事があったのか?」

少年「?」

祖父「やけに嬉しそうじゃないか」

少年「別にー? 爺ちゃんこそ、もう腰大丈夫なの?」

祖父「おう、へっちゃらよ! まだまだ儂も現役――」ピキッ

祖父「」ガクッ

祖母「もう、昔みたいに動けないんですから、大人しくしてなさい」

少年「眼鏡さんはどうしてるの?」

祖母「……ふふふ、明日図書館にでも行ってみなさい」

少年「? 分かった。お風呂入って練るね。おやすみなさい」

祖母「おやすみ、冷えないようにね」

祖父「」

少年(……!)パチッ

少年(……これ、少女の……あれ、でも駅じゃない……霞で見えないぞ……)

「少年」

少年(……何処……?)

「目を閉じて、そのままリラックスして身体が浮くイメージを浮かべて」

少年(……身体が、浮く、イメージ……)

少年「……っ!?」フッ

少年(こ、これは……現実世界!? 身体からすっぽ抜けた!?)

少女「久しぶりだね、少年」ニコッ

少年「少女……これって」

少女「夢現。また君に会えた時のために、必死で練習したんだ」

少年「ユメウツツ……? そっか、また会えたんだね、僕らは……」

少女「うん。私が渡したあの石も、力を貸してくれたんだよ」

少年「あの不思議な石が?」

少女「昔浮いてたのを見つけて、そのままずっと持ってたの」

少女「それがいつの間にか、私の力を吸って、脳の一部みたいになったんだ」

少年「なるほど……ねえ、あれから君はどうしてるの?」

少女「大丈夫だよ。新しい群れを見つけて、大事にしてもらってる」

少年「そっか……良かった、本当に……」

少女「……えへへ」

少女「さ、せっかく会えたんだし、上に行こ?」

少年「上……?」

少女「あ、まだ精神体を動かしにくい? 私の手を握って」

少年「……」ギュッ

少女「さ、行くよ!」

少年(あ、身体が引っ張られて――)フワッ

少年(えっ、天井に当た……すり抜けた!)

少年「これって、宙に浮いてる……!」

少女「そうだよ、精神体だからね」

少年(どんどん島が小さくなっていく……身体がシャボン玉になったみたいだ)

少年「……ん」ピクッ

少女「もう身体動かせるかな?」

少年「……うわあ、すごい……」

少年(宇宙に行くと、こんな感じなのかな? 不思議な感覚だ……)

少女「もう少しで歩けるくらいに慣れるよ。心配しないで。ほら、空を見て!」

少年「わぁ――」

少年(冬の澄み切った夜空が、こんなに近い!)

少年(視界一面に広がる、淡く輝くきらきら星)

少年(あの夜の星空も綺麗だけど、こんなに近くで見れるなんて……まるで星空に呑まれたみたいだ……!)

少女「気に入ってくれた?」

少年「うん……すごく……綺麗だ……」スッ

少女「あ、もう姿勢が整ったね、慣れると簡単でしょ?」

少年「本当だ、無意識に整えてたよ」

少年(……感覚も馴染んできた。夜風が心地いいな)


ヒュウゥウウゥウゥ……


少年(夜風の音しか聞こえない)

少年(ここは静かだ)

少年「……落ち着くなぁ」

少女「……気に入ってくれて良かった」ニコ

少女「ねえ、今度はいつまで居るの?」

少年「うーん、あんまり長くは居られないかなぁ。のんびりしていたいけど……」

少女「そっか……でも、また会えるよね」

少年「うん、また会えるよ」ニッ

少女「……何だか安心した。少年が変わってたら、どうしようって思ってた」

少年「僕もだよ、また会いたかったけど、会うのが少し怖かった」

少女「余計な心配してたね。また二人で一緒に過ごそう」

少年「うん!」

少女「あまり長時間するのも良く無いし、今日はここまでにしようか」

少年「分かった……おやすみ、少女」

少女「おやすみ、少年」ニコ

少年「……あ」

少年(昨日の事、覚えてる……)

少年「……ははっ」

祖母「あら、おはよう」

少年「おはよう」ニコ

祖母「今日は良い天気だねえ、何処かへ行くの?」

少年「図書館に行ってくる。お昼は……今日は店主さんの所へ行こうかな」

祖母「はいはい。お金はあるかい?」

少年「うん、大丈夫だよ」

少年「行ってきます」

―島の図書館―

少年(前より綺麗になってる気がする)

少年「……んっ!?」

眼鏡「ああ、少年か! 来たとは聞いていたが……久しぶりだな」

女「あら、背が伸びましたね」

少年「お久しぶりです、眼鏡さん……女さん」

眼鏡「はは、何だそれは。そんなに他人行儀にならなくても良いぞ?」

少年「えー、と、それじゃあ……眼鏡に聞きたい事があるんだけど」

眼鏡「?」

少年「その……二人はどういう、ご関係でいらっしゃるんでしょうか……?」ボソボソ

眼鏡「……フッ」クイッ

女「?」

眼鏡「あれから挫けず、何度もアタックした結果……!!」

眼鏡「ついに、ついに……」

少年「あ、探したい本があるんで失礼しますね」

女「はい」ニコ

眼鏡「……おい! 最後まで聞け!!」

少年(鯨に関しての本は……これだな、いや、今読みたいのは)

少年(……ふむふむ、大丈夫だな。何度もイメージトレーニングしたし)

少年「?」

姪「……」

少年(窓を見てぼんやりしているあの子は……あれが店主さんの所の子?)

姪「……!」

少年(あっ)

少年(目が合っちゃった、とりあえず挨拶するか)

少年「えーと、店主さんの所の子だよね。僕は少年って言うんだ。よろしくね」

姪「……そう、よろしく」

少年「此処、良い所だよね」

姪「……そう? 退屈でつまんない」

少年「確かにゲームとかは無いけど……自然が豊かだよ」

姪「私が住んでる所も、結構豊かだし……」

少年「ああ……なるほど」

姪「図書館の本も気に入ったの無いし……もう行くね」

ー海の家ー

少年「ふう、寒い寒い……あ」

姪「……」

少年(そういえば、此処の子だったな。気まずい……)

店主「やあ、何にする?」

少年「えーっと、今日のおすすめで」

店主「はいよ、少し待ってね」ジューッ カンカン

姪「……」コトコト

少年「あれ、料理出来るの?」

姪「ちょっとだけ。手伝いくらいなら」

店主「ははは、もう話すようになったのか」ジュアアァアァッ

姪「……さっき、図書館で会ったから」

店主「そうか。見ての通り、無愛想な子だからね。仲良くしてやってね」

姪「……別に、私は」

少年「あはは……」

店主「はい、お待ちどうさま。野菜炒めにアサリの出汁の餡をかけた丼だよ」コト

少年「いただきます」パンッ

少年「……うまいっ!」

少年(具はレタス・もやし・豚肉。火を通し過ぎず、しゃっきりとした歯ごたえだ)

少年(それにアサリの出汁が絡んで……口に入れると香りが一気にぷーんと広がる! これはうまい!)ガツガツ

姪「……」

店主「嬉しいかい? あんなに美味しそうに食べてくれて」コソ

姪「……別に、嬉しくなんか」

店主「その割には、楽しそうじゃないか」

姪「……部屋、戻る」

店主「おっと、からかいすぎたかな?」

少年「?」

店主「ああ、気にしないで。不器用な子なんだよ」

少年「はぁ……ごちそう様でした。美味しかったです!」

店主「はいよ、二百円だね」

少年「安い……」チャリン

少年「ご馳走様でした。また来ます」

店主「ああ、またね」

――

少女「……さあ、今日は何をする?」

少年「ああ、したい事があるんだけど……その前に、あの子とは話さないの?」

少女「うーん、仲良くはなりたいけど、恥ずかしがり屋さんみたい。心に壁が作られてて介入出来ないの」

少年「そっか……ねえ、一緒に踊らない?」

少女「え?」

少年「君とまた会えたら、踊ってみたいなって思ってたんだ」

少女「で、でも私踊るのなんか出来ないよ?」

少年「本で練習したから、教えれると思う……多分。君に泳ぎを教えてもらったし、今度は僕の番だよ」

少女「……うん、いいよ」

少年「では、お手を拝借して」スッ

少女「えっと……」

少年「あはは、恥ずかしいな……まず、左足を出して」スッ

少女「わっ、こう?」スッ

少年「そうそう、そして右足、また左足」スッスッ

少女「ふむふむ」スッスッ

少年「はい、ここで右に回転」クルッ

少女「回転、ね」クルッ

少年(少女、優しい匂いがするな……それに、海の匂いも)

少年「さらに二度回転」クルクルッ

少女「何だか楽しいね!」クルクルッ

少年「そうだね、人とやるのは初めてだ」

少年「今のをメインに覚えようか、いっせーのーでっ」スッ

少女「……」スッ

少年「ワン、ツーッ」スッスッ

少女「~♪」スッスッ

少年(! 歌ってる……歌詞はよく分からないけど、この姿でも綺麗な声だなぁ)クルッ

少女「~♪ ――♪ ♪~♪」クルクルッ

少年(……頭にじんわり溶けるような感覚だ)クルクルッ

少女「……ふう、どうだった?」

少年「すごく綺麗だったよ! また鯨の時の声も聞きたいな」

少女「ああ、思わず歌っちゃって……じゃなくて、ダンスの方だよ」フフ

少年「初めてとは思えないなぁ、足運びがスムーズすぎない?」

少女「向いてるのかもねー」ニコ

少年「よし、もう一度やろうか!」

少女「うん!」


少年「ふぅ……今日はお終いにしようか」

少女「そうだね、脳に負担はほとんどかからないけど……やりすぎはよくないもんね」

少年「それじゃ、おやすみ」

少女「おやすみ。次は明後日にするからね」

少年「今日も適当に散歩してるね」ガラ

祖母「気を付けてねー」

少年(……と言ったのは良いけど、実はあまりやる事ないんだよなぁ)

少年(前来た時は夏だったし、虫とりとか、秘密基地とか……ああ、少女を探そうともしてたしなぁ)

少年(また少女の姿を見てみたいけど、あまり人目につくとまずいな)

少年「うーさむさむ……外でのんびりするのも辛い季節だな」ブルブル

少年「……ん」

姪「……あ」

少年「たき火……の終わった後かな? ちょっと当たってもいい?」

姪「……良いよ」

少年「ありがとう、寒くて寒くて」スッ

姪「外、出なければ良いのに」

少年「正論すぎてぐうの音も出ません……」

姪「……」

少年「この島、僕にとっては大事な場所があるからさ、散歩してるんだ」

姪「大事な場所……」

少年(おや)

姪「……」

少年「……ごめん、気を悪くしたかな」

姪「別に……優しいんだね」ギュッ

少年「そんな事……ん? 軍手なんか付けてどうしたの? 手袋代わり?」

姪「……違う、これで灰をかき回して」

少年「木の棒? ……ん、何か当たった」ゴソゴソ

コロン

少年(ん? アルミホイルで何か包んでるぞ?)

姪「……はい、一つあげる」

少年「これは……焼き芋か! あつつ」ホクホク

姪「……ふー、ふー」

少年「ありがとう、いただきます……うまっ」

姪「……おいしい」

少年「ほくほくとトロトロの中間くらいだ……甘いなぁ」

姪「甘い、ね」

少年「……ごちそうさま。ありがとうね」

姪「別に……ただの気まぐれだし」

少年「これからどうする予定?」

姪「……別に。じゃあね」スタスタ

少年「あ……行っちゃった。あの方向は住宅地じゃないけど……」

少年(繊細な子なのかな? でも、根は優しそうだ。焼き芋くれたし)

少年(……何処に行くんだろ?)

少年(……着けてみるか? いや、見つかったらドン引きされる。やめておこう)

少年「さて、何をしようかな……」

少年「まぁ結局此処に落ち着くんだけどね」

眼鏡「?」

少年「ああ気にしないで、本でも読もうかな」

少年(どれにしようかな……ん?)

【インテリア系】

少年(おお、良いなぁこういうの。……そうだ、少女に何かプレゼントしてあげたいな)

少年(でも、何が良いかな……出来れば手作りできるようなもの……)ペラッ

少年「……これだな!」

眼鏡「ほほう」ニヤ

少年「っ!?」バッ

眼鏡「なるほどな、そうかそうかー」

少年「違う! こっちみんな!」

眼鏡「いやなに、人生の「先輩」として、力を貸してやろうと思ってな?」クイッ

少年(うぜぇ)

眼鏡「ああ、恋愛ごとにおいても「先輩」だったかなぁ」ククイッ

少年「うぜぇ」

眼鏡「少し待っていたまえ、今ノートを持ってこよう」タッ

少年「いやいや……うわ、もう居ない」

女「……ふふ、これは彼なりの感謝の形なんですよ」

少年「え?」

女「君のおかげでこうして私達は結ばれました。言葉に出すのは恥ずかしいんでしょうね」クス

少年「……そっか」

女「私からもお礼を言わせて下さい。本当にありがとう」ペコ

少年「や、止めて下さい……何だかくすぐったい」ポリポリ

女「ブレスレットを贈るつもりですか? 材料なら分けますよ」

少年「! 持ってるんですか、助かります」

女「いえいえ。石とかはパワーストーンショップで買えますよ」

女「それで、誰にあげるつもりなんですか?」

少年「!」

女「彼は勘違いしてますけど、多分違いますよね?」

少年「……すごいですね。何で分かったんですか?」

女「ふふふ」


女「女の勘、ですよ」

――

少年(女という生き物は、やはり僕らとは違う特殊能力を持っているのではないだろうか?)

少年(まあ良いか。取り掛かろう。ワイヤーでゴムひもをビーズの穴に通す……と)ススッ

少年「……ん、案外難しいなぁ」

少年(後、漁師の方々に頼んで貰った……これ)

少年(穴開けるの難しいな……よし、開いた)コッ

少年「後は丁寧に磨くだけだ……」シュリシュリ

少年「……よし、出来た!」

少年(少女、喜んでくれるかな?)

少年(集中したら眠くなってきた……少し昼寝しよう)

少年「……zz」

――

「少年」

少年(……あれ、少女の声……?)ポー

「起きて、起ーきーてー」

少年「少女? まだ昼だよ……?」ゴシゴシ

少女「今日は私の群れの皆に紹介しようと思って」

少年「紹介?」

少女「うん、ほら、行こう!」

少年「えっ、そんないきなり、準備も……」フワッ

ザブッ!

少年(! 懐かしいな、この感覚……)

ボコココ……ボココ……ブクブクブク……

少年(水の音はやっぱり綺麗だな……あれ、動き辛いぞ?)

少女「大丈夫? 夢入りの世界とは違うから、あまり水を掴まなくても大丈夫だよ」ギュッ

少年「ああ、そう言えばすり抜けるもんね」

少年(……わあ、魚がこんなに近い)

少女「? あ、そうか。普段海の中なんて来ないもんね?」クス

少年「やっぱり綺麗だなぁ……」

少女「夜空も良いけど、海中も綺麗だよね」

少年「うん、何だか安心する」

少女「何だか嬉しいなぁ」ニコニコ

少年「……あ、あれって」

少女「あ、迎えにきたみたいだよ」

少年「え、見えてるの?」

クジラ『姫、そちらが例の人間ですか?』

少年(うわ、頭に直接声が、少女の力か……姫?)

少女「うん、そうだよ」

クジラ『そうですか、今日はよくいらっしゃいました』

少年「あ、初めまして……」

クジラ『群れの皆も待っていますよ、行きましょう』クンッ

少年「……」

少女「どうしたの?」

少年「やっぱり……鯨って、大きいなぁ」

少女「……ふふ、そうだね」

『姫!』

『お待ちしておりました!』

少女「みんな、お待たせ」ニコ

少年「……!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

少年(これが鯨の……群れ……! 何て数だ、ニ十頭は居るぞ……)

少年(さ……さすがに圧巻だ……人間の小ささが身に染みる……)

少年(……!! 奥にすごくでかい個体がいる!?)

少年(その近くで動かない、白い個体は……少女の本体か)

長老クジラ『……少女よ、それが例の人間かい』

少女「うん、少年だよー」

少年「あ、ええと……少年です。初めまして」

長老クジラ『はいよ、初めまして。あたしがこの群れの長だよ』

少年「ねえ、どうして少女は姫って呼ばれてるの?」

子供クジラ『え、確かねえ……えっと』

父クジラ『姫は神の生まれ変わりなんだ。あの美しい純白の姿。あれこそが神の証』

父クジラ『歌を歌うのは、我々のような雄が、異性の関心を引くためにする行為だ』

長老クジラ『そうだよ、だけどあの子は仲間を呼ぶために、一人で歌い続けてたのさ』

長老クジラ『それが原因で、いつしか群れの衆は「白金の歌姫」なんて言い始めたんだよ』ケラケラ

少年「白銀の歌姫……」

少女「や、やだなあ。そんな大層な……」

長老クジラ『でも良かったね、あたしらが保護出来て。前の群れは悪魔の化身とか言ってたそうじゃないか』

父クジラ『とんでもないですね。全く……』

『そうだそうだ』『許せねえぜ!』『姫を傷つけるなんて……』

少年「……」

少年(少女は一人ぼっちだったんだ)

少年(僕と離れてからも……)

少年(この群れが無かったら……少女はまだ孤独の世界で息をしていたんだろうか?)

少年「……あの!」

長老クジラ『んん?』

少年「少女を受け入れてくれて……守ってくれて、本当にありがとうございます!」

少年「これからも少女をお願いします!!」ペコ

長老クジラ『ふふん……言っていた通りの人間だね。ビー玉みたいに透明な心だ』

長老クジラ『悪い奴に騙されちゃいけないよ?』

少年「はい!」

少女(ありがとう、少年)ニコ

少年「……え? 今何か言った?」

少女「ううん、何でも。今日は来てくれてありがとう。戻ろっか」

少年「うん、分かったよ」

長老クジラ『あんたも達者でね。ありがとうよ』

少年「はい……じゃあ、また……」

少年(あ……眠気が……視界がだんだん……)

少年(……)

少年「……んん」パチ

祖母「おや、起きたようだね。良く眠れた?」

少年「……」ドキドキ

少年「うん、とても良い夢を見たんだ」

祖母「そう、それは良かった」ニコ

少年「あれ、これは?」

祖母「これかい? ……ああ、前は居なかったね。冬に祭りがあるんだよ」

少年「祭り?」

祖母「うん、一年間命を頂いた海に対して、感謝の意味を込めて蝋燭を灯すのよ」

少年「なるほど……じゃあこの時期、蝋燭すごい売れるんだね」

祖母「既製品でも良いけどねえ、昔から手作りが一般的だねぇ。」

少年「僕も作ろうかな、難しい?」

祖母「蝋燭を融かして器に入れるだけだよ。出来た蝋燭は貝殻の上に飾ってね」

少年「よし、やってみるよ!」

祖母「火傷に気を付けてね?」

少年「うん」


少年(……うーん、こんなもんかな? 赤色ってよりピンク色の蝋になっちゃったけど)

少年(まあこんなもんかな。よし、後は冷めるのを待とう)コト

少年(しかし寒い……どうしようかな、適当にぶらぶらするか)

少年(……あ、姪)

姪「……」スタスタ

少年(またあっちの方向に……何しに行ってるんだろう?)

少年(……バレなきゃ大丈夫だよね)コソコソ

姪「……」

少年(え、この森……嘘だろ、まだ先に? だってこの道は)

少年(少女と出会った場所……何でここに?)

姪「……」スーッ

姪「ピィ――ッ!」

少年(ゆ、指笛!? すごい高い音だ!)

バササササッ!

少年(鳥が集まった!? ……ええ、すごい懐いてる……?)

姪「……うん」

姪「そうなの、でね……」

姪「……えへへ」ニコ

少年(あれは……まさか、鳥と話してる、のか?)

姪「……えっ?」

姪「!!」キッ

少年(あっぶね……見つかる所だった、て言うか……こっち、見てる?)サッ

姪「ねえ」

少年「!」ドキドキ

姪「……隠れても無駄なんだけど?」

少年(嘘、気付かれてる……よな?)

姪「少年」

少年「うっ……ごめんなさい」

姪「見てたよね?」

少年「はい……すいません……つい気になって」

姪「……」

少年「……あの、今……鳥と話してた、とか?」

姪「……そうだよ」

少年「なるほどね……」

少年(少女みたいな力持ってるのかな? 人が?)

姪「……何で?」

少年「えっ」

姪「何で、そんな普通なの?」

少年「普通?」

姪「……行くから、ついてこないでね」スタスタ

少年「え、待って、ちょっと……」

バササササッ!

少年「ちょ、邪魔……前が見えない……」

少年(待って、姪! 君に聞きたい事が……)


少年「あ……居ない……」

少年「って事があって」クルッ

少女「へえ、不思議だね……私の力が届かないのも、もしかしたらそれのせいかも?」ワン、ツー

少年「突然こっちを振り返ってきたんだ。鳥が教えたのかも」タンッタンッ

少女「それで、どうするの?」クルクルッ

少年「……どうも出来ないよ。本人にとっては複雑な問題だろうし。他人の僕に入りこまれても……嫌なだけだよ」ピタ

少女「なにか話せるきっかけがあると良いのにね」

少年「そうだね。……そうだ、君に渡したいものがあるんだ」

少女「え?」

少年「アクセサリー、作ったんだけど……この精神体に反映されるの、着てる服だけなんだよなぁ」

少女「私の方から送る事は出来るけど……どうしようかな、直接向かおうか?」

少年「いや、止めた方が良いよ。見られて変な騒ぎになってほしくないし、それに」

少女「それに?」

少年「……あまり、君が変な目で見られたくないんだ」

少女「……ありがとう」クス

少年「うーん……そうだ、近いうちにお祭りがあるみたいなんだ。海への感謝を表すための」

少女「! へえ」

少年「蝋燭を灯すみたいだよ。僕も作ったんだ」ニコ

少女「見てみたいなぁ」

少年「おいでよ、待ってるからさ」

少女「うん!」

少女「……あと、どれくらい一緒に居られるかな?」

少年「……もう、あまり長くはないかな」

少女「そう……もっと遊びたいなぁ」

少年「そうだね……」

少年(そうだ。もう少女と過ごせるのは長くない)

少年(……どうにかして、アクセサリーを渡す手段を考えないとな)

少年「いよいよ明日だね、お祭り」

祖母「そうだねぇ。初めてにしては、なかなか良く出来てるじゃないか」

少年「ありがとう。冷えたら蝋燭って凹むんだね。最初はびっくりした」

祖父「蝋燭を眺めながら一杯やるのも良いもんだぞ。お前も早く大人になりなさい」

少年「あはは」

少年(大人、か……)

少年「さて、今日も適当に歩こうかな」

祖父「おう、たまには儂も……」グキッ

祖父「がっ!?」バタ

祖母「もう、せっかく治りかけてたのに……」

少年「いってきまーす」クス


少年「……お腹すいたな、よし……ん?」

「~!!」

「……!!」

少年(なんだ? 大声が)

姪「もう良い!!」バンッ

少年「うぉ!?」

店主父「二度と帰って来るな!!」クルッ

姪「……!!」ダッ

店主「あちゃー……」

少年「あの……お取込み中で?」

店主「うん……そうだね、少し待っていてくれるかい?」

少年「? はい」

店主「寒い中待たせてごめんね。珈琲は大丈夫かい?」スッ

少年「あ、はい。いただきます」

店主「……さて。まずはさっきの事だけどね」

店主「やっぱり、白い鯨は居たんだね」

少年「!!」

店主「前、姪がうちの親父に聞いたんだよ。「白い鯨を見た事があるか」ってね」

店主「それを聞いて、「どうしてそれを! 誰に聞いたんだ!」って怒鳴っちゃって」

店主「そこからはもう頭ごなしに「あれは災厄の化身だ」とか言いたい放題」

店主「姪はどこかで見たんだろうね。きっと感動してただろうに……それを否定されたもんだから」

店主「今日も少し「鯨、見たいなぁ」って言ってるのを聞かれて、……まぁ、あんな感じさ」

少年「……」

店主「あの子はね、繊細な子なんだよ」

店主「ただ……少し、素直になれないだけで」

店主「どうも学校でいじめられていたみたいで、人に壁を作っているんだ」

店主「お願いがあるんだ。どうか、あの子の心を解いてやってくれないか」ペコ

少年「え?」

店主「大人の僕には、やはりどこかで壁が出来ているんだ」

店主「鯨を見た君なら、何か通じる物があるかもしれない……情けないが、頼れるのは君だけなんだ」

少年「……はい、僕、行った場所に心当たりがあります!」タッ

店主「……頼んだよ」

店主(情けないな。結局、彼女を守ってやれるのは、子供の彼だけなんだ)

店主「何だろうね、この感じは」


店主「大人になるにつれて、心の何処かで何かを失っていくんだ、僕らは」

少年「はっ、はっ……」

少年(きっと、あの子はあの場所に居る)タタッ

少年(そうか、あの場所に居たのは……海を一望できるからか)

少年(……そうだよな。自分の夢が壊されるのは、嫌だよね)

少年(……居た!)

姪「……何」

少年「聞いたよ、君の事を、少しだけ」ゼェゼェ

姪「……大人はいつもそう。自分達に無い物は、全て否定する」

姪「そうして面倒な事は誰かに押し付ける。だから嫌い」

少年「……君も、少女を見たんだね」

姪「少女?」

少年「あの白い鯨の名前だよ」

姪「……聞いたんだ。それで? そんなの信じると思うの?」

少年「僕も昔、ここで少女を見たんだ」

姪「……」

少年「……ドキドキした。あんなに大きくて白い……海の神様が現れるなんてね」

姪(……そう言えば、あのおせっかいが言ってた。少年は鯨を見たって)

少年「僕は夏休みの間、ずっとここで鯨を探してたんだ」

少年「そうして、ついに出会った……いや、本当は毎日会ってたんだ」

姪「?」

少年「……何でも無いよ、でも、少女には不思議な力があるんだ。人に変化したり、夢に入ったり……」

少年「君も神様なの? 鳥と話す力? どうやって身に付いたの? 生まれつき?」

姪「……」


姪「あなたに話す事は無い」


姪「どうしても信じてほしかったら、その鯨と会わせて」

少年(少女に言って明日に……いや、それだと今日このままこの子は家に帰らないだろう。家で保護も出来るけど……駄目だ!)

少年「……少し、時間くれる?」

少年(今納得させないと、この子の心は一人ぼっちのままだ!! 今やるんだ!)

少年(少女は確か、僕が此処に来た時に姿を現した。つまり、何かしらの方法で僕を感知出来る)

少年(不思議な石は、少女の力を吸っている……心の声が届くよう、願うしかない)

少年(……少女、ごめん! 姿を現してほしい!!)グッ

少年「……」



姪「……まだ?」

少年「……」

少年「……」

姪「……もういいよ」

少年(駄目か……)

――そんな事ないよ。

少年「!」バッ

――届いてるよ。君の優しい心が。

姪「何?」

――待たせてごめんね。少年。

少年「あ、あ……」


――ザバアァアアァアアァン!!

姪「……え」

白鯨「……」

少年「少女!!」

――後は、よろしくね。信じてるよ。

ザプン……

姪「嘘、本当に……」

少年「これで信じてくれたかな?」

姪「……うん」

少年「今度は話してくれる?」

姪「……私のこの力は、昔怪我した小鳥を保護した時に身についた」

姪「ずっと世話をして、ようやく飛びたてるようになった時に、突然頭の中に声が聞こえた」

姪「それからは、鳥達が友達になった」

少年「……動物は、嘘をつかないもんね」

姪「そう。でも、周りの人は違った」

姪「今までは仲良くしてたのに、この事を打ち明けた時から、だんだんと態度が変わっていった」

姪「四人でずっと、仲良くしてたのに……、ノート、とか、隠すように、なって」グスッ

姪「皆、笑ってた、それが悲しくて、悲しくて……」ポロッ

少年「……辛かったんだね」

少年「「悔しい」とか「憎い」よりも先に「悲しい」が出るんだもん。やっぱり君は優しいよ」

姪「……グスッ、一人ぼっちで、両親も、よそよそしく、なって、わたし、の事で、喧嘩するようになって、家に居るのも辛くて」

少年「……もう良いんだよ、ずっと一人で戦ってたんだね」

姪「うえっ……ヒッグ……ううっ……寂しかった……寂しかったよ……!」ギュッ

少年「……」ナデナデ


少年「……どう、落ち着いた?」

姪「……うん」

少年「とりあえず、家に戻れそう? 今日はうちに泊まってく?」

姪「……そうしたい。今は家に戻りたくない」

少年「おっけい、それじゃあ戻ろうか……あ、ほら、見て」

姪「……綺麗な夕日……あっ!!」

白鯨「フウゥウウゥ――!」プシュアァッ!

少年「……あはは、励ましてくれたみたいだね」

姪「綺麗……」

少年(ありがとう、少女)ニコ

店主「では、お願いします」ペコ

祖母「全然かまいませんよ、一日どころか一週間でも」

祖父「うちにお泊りがしたいとな……いつの間に仲良くなったのやら」

祖母「お嫁に来てくれてもいいんですよ?」

店主「あはは……では、失礼します」ガラ

店主「……さて、どうにかして親父を説得しないとな」キッ


少年「良かったね、味方してくれて」

姪「うん」

少年「あの人も色々君を気にかけてるみたいだよ、それに」

姪「……大丈夫。明日、ちゃんと言う」

少年「よし。色々疲れたよね? もう寝ようか」

姪「……おやすみ」

少年「おやすみ」パチッ

姪「……少年」

少年「……zz」

姪(もう寝たの? 早い……)

姪「……ありがとう」

姪(なんだか、つかれたなぁ)

姪(……あったかい。こんなよるはひさしぶり)

姪(……ねむく、なってきたなぁ)

姪(……)

姪(その夜、私は不思議な夢を見た)

姪(アメジスト色の夜空の中で、少年ともう一人、綺麗な女の子)

姪(女の子の澄み切った声が、星空の奥まで響き渡るようで)

姪(その舞台の中で、二人は踊っている)

姪(二人とも、優しい笑顔)

姪(とても幸せそう)

姪(私の目には、あの二人は綺麗すぎて……)

姪(気が付けば、涙が零れていた)

姪(でも、その涙はとても暖かくて……凍てついた心が癒えていくようで)

姪(この世界は、とても純粋で)

姪(そう、今、私はきっと)

姪(感動、しているんだ――)

今日はこれで終了です。
あと数回で終わらせる予定です。長い間更新できずに申し訳ありませんでしたorz

チュンチュン……

少年「あ、起きた? おはよう」

姪「……あ」

少年「んー? ……良い夢、見れたみたいだね?」ニッ

姪「……うん、とても良い夢をね」ニコ


姪「……もう挨拶も終わったし、帰ろうかな」

少年「大丈夫?」

姪「うん、大丈夫。……大丈夫だよ」

少年「……そっか」

姪「……行ってくるね」

少年「……うん」

少年「行ってらっしゃい」ニコ

祖母「さて、玄関先には置いたし、後は部屋にでも置きましょうか」

祖父「うむ、やはり良いものだな。蝋燭と言うのは」

少年「僕のは何処に飾ろうかな」

祖母「そうねえ……あら?」ピンポーン

少年「はーい……姪?」

姪「……店主が、持っていけって」スッ

少年「おお、クッキー! ありがとう!」

姪「……良かったら、見て回らない?」

祖父「よし、儂がついていってやろう。さすがに夜は危ないからな」

祖母「駄目です、安静にしてなさい。また痛めたらどうするの?」

祖父「しかしだな「 駄 目 で す 」……はい」

姪「……大丈夫です、女さん達がついていってくれる、みたいで」

祖父「ほう、なら安心だな。ゆっくり見ておいで」

少年「分かった、ちょっと準備するから待ってて」

姪「うん」


少年「お待たせ」

眼鏡「……」ニヤニヤ

女「さ、行きましょうか」

眼鏡「そうだな」ニヤニヤ

少年(絶対勘違いしてるだろ、こいつ……)

少年「それにしても、どうして急に?」

眼鏡「……どうしてだろうなぁ?」ニヤッ

女(彼がけしかけたんですよ、少年と一緒に見たらどうだ? って)コソ

少年(ああ、なるほど……)

女(でもまさか本当に行くとは思いませんでした。何かあったんですか?)

少年(……まあ、それなりに。仲良くなれたと思います)

眼鏡「おい、何をぼそぼそと話している?」

少年「別に……おお、綺麗だなぁ」

少年(どの家も、蝋燭を飾ってある。色もそれぞれ違うな)

少年(何だか、今日の夜は明るいな。星に負けないくらい)

少年(この光も、少女に届いてるかな)

少年(届くと良いな)

眼鏡「……ああ、そう言えば、また白い鯨が現れたみたいだな」

少年「え?」

眼鏡「話題になっているぞ、ほら、写真も」スッ

少年(やっぱり、見られてたか……)

眼鏡「……どうした?」

少年「いや、何でも無いよ。やっぱり綺麗だね」

眼鏡「ああ、初めて見たが、美しいな!」

少年(……)

女「次はあちらを見て回りましょうか」

眼鏡「……さて、そろそろ帰るとするか」

女「そうですね」

姪「……あ、ここまでで大丈夫です」

眼鏡「え?」

姪「少し、少年と話したい……です」

女「まあ、この広場なら道も一本ですし……でも」

姪「……お願いします」

女「……分かりました。気を付けてね?」

姪「はい」

眼鏡「……」ポンッ

少年「何?」

眼鏡「しっかりな? お前なら出来る」

少年「だから違うって……」

眼鏡「はっはっは」スタスタ

少年「全く、あのバカ……」

姪「あのね」

少年「……ん?」

姪「あの子が少女なんだよね」

少年「うん。そうだよ」

姪「そっか……二人とも、すごく綺麗だった」

少年「うん……え? 僕も?」

姪「……私も、あの子と友達になりたかったな」

少年(そっか、もう此処を出る時期になるんだな……僕も)

少年「……まだ、間に合うよ」

姪「え?」

少年「そう思っているなら、きっと今日、友達になれるよ」

姪「……そう、かな」

少年「そうだよ。……あ、クッキー食べようか。おお、うまい。さすが店主さんだ」ポリッ

姪(……実はそれ、私が焼いたんだけどね)ポリ

少年「あれ? 美味しくない?」

姪「ううん、美味しいよ」ニコ

ヒュオォオォ

少年「うっ……! さすがに寒いね。夜の風は……」

姪「……うん」

少年「あ、そうだ。灯す場所決めて無かったんだけど……ここにしようかな。マッチ持ってきて正解」

姪「え?」

シュボッ! 

ヂヂ……ヂヂヂ……

「よし、灯った」

ほんのり薄暗い広場に、柔らかい灯が灯ります。

「暖かいね」

「うん」

ゆらり、と揺らめく火に手をかざすと、ほうと暖かく。

二人のかじかんだ指先を、じんわりと癒してくれます。

ふと空を見上げると、無数の光が空を舞っていて。

彼の眼には、それが夜空の灯のように映りました。

「綺麗だなぁ」

「綺麗だね」

今日の夜は、いつもと違う。

寒いけど、とても暖かい。そんな夜。

言葉は必要ありません。

ゆらゆらと。ゆらゆらと。

蝋燭が融けるよりもゆっくりと。

二人の時間は流れて行きます。

「帰ろうか」

「うん」

蝋燭の火を消した二人は、並んで広場に背を向けます。

今日の夜は、いつもと違う。

寒いけど、とても暖かい。

そんな夜。

「あ……見て、流れ星!」


明日も良い事、ありますように。

女「……無事に二人とも帰りましたね」コソ

眼鏡「ああ。なかなか良いものを見せてもらったよ」

女「私達も帰りましょうか」ニコ

眼鏡「そうだな!」

少年「……少女」パチ

少女「今日は此処を見て行こうと思って……」ニコ

少年「ああ、そうだったね」

少年(……何だか、いつもより元気がないな?)

姪「……あ」パチ

少女「あ、意識が起きたかな? 初めまして、少女です!」

姪「……えっと、姪……」

少女「良かった、やっと話せて」

姪「やっと?」

少女「今まで何度も話そうと思ってたけど、なかなか心に入れなくて」

姪「あ……ごめんね?」

少女「ううん、良いよ。さ、行こっか!」

少年「うん。……この身体、感覚はあるけど寒さとかは感じないんだね」

姪「……動き辛い」フワフワ

少女「慣れるまで手を引いてあげるよ」ギュ

姪「……ありがとう」

少年「あ、これが僕の蝋燭ね。もうかなり溶けてきてるけど」

少女「へえ、そうなんだ! 貝殻で融けたのを受けてるんだね」

少年「そうそう」

姪「……もう誰もいないね」

少年「まぁ、真夜中だからね」

少女「何だか、幻想的だなぁ……」

少年「君が歌ってくれたあの夜も、すごく幻想的だったけどね」

姪「二人は、すごく仲が良いんだね」

少女「うん、そうだよ! もちろん、姪ちゃんとも仲良くなりたいよ?」クス

姪「……あ、ありが……とう……」

少女(あれ? 私変な事言ったかな?)

少年(不器用な子なんだよ、感謝とかどうすれば良いのか分からないんじゃないかな? それと緊張してるみたい)

少女「なるほどね、教えてあげるっ!」

姪「わっ、な、何……?」

少女「ほら、こうして笑えばいいんだよ!」ニコッ

姪「……こう、かな?ニコ

少女「そうそう、どんな時でも、笑ってたら元気になるんだよ」ニコニコ

姪「……うん、頑張る」ニコ

少年(さすがは少女だな。さっきのは杞憂だったかな)クス

少女「あ……それとね?」クル

少年「……?」

少女「私、日が昇ったら、どこか遠くへ行くつもりなんだ」

少年「……え?」

少女「やっぱり、人の目に付いてたみたい。もうここに居るのも、良く無いかなって」

少年「……そんな」

少年(……でも、分かってた事だ。無理に呼んだのは……他でもない、僕だ)

少女「……そんな顔しないで、出る理由はもう一つあるんだよ」

姪「もう一つ?」

少女「私ね、この広い海を、群れで旅しようと思うんだ」

少女「そうして、一人ぼっちで泣いている子を、笑顔にしてあげたい」

少女「……君みたいにね」

少年「……」

少女「私、もっと自分の力を理解して、困ってる子の声を聞いてあげたいんだ」

少女「長老にも話してあるんだ。好きにしていいって」

少女「そのためには、此処とお別れしないといけない」

少年「……そっか」

少女「ごめんね、せっかく話せたのに。もうお別れなんだ」

姪「……私、もっと話したい事が……たくさん……」ギュッ

少女「……ごめんね」ナデナデ

少年「……覚悟は出来てるんだね」

少女「うん。自分で決めた事だから」

少年「……僕、君と会えて、本当に良かった」

少年「言おうと思ってたのに、毎日が楽しくて、ずっと言えなかったんだ……僕、君の事が――」

少女「しーっ、それ以上言わないで」ピト

少年「!」

少女「それ以上言われたら、行けなくなっちゃうよ……お願い」グスッ

少年「……少女」

少年(……急に涙が込み上げてきた、彼女の涙を見たからか? それとも、別れが目の前に迫っているから?)

少年(でも、泣いちゃ駄目なんだ、僕は男の子だから)

少年(いかないで、って言葉は……言っちゃ駄目なんだ!)

少女「本当にありがとう。私……幸せだよ、二人とも……」

少年(……まずい、夢現が終わる……)ボヤー

姪「見送りに行くから……あの場所で……最後に待っててほしい……」

少女「……分かった、待ってるよ」

少年「……少女……!」

少女「今日の夜空は、本当に澄み切ってて……綺麗だなぁ……」ポロッ

少年(……)

チュンチュン……

少年(……よし、まだ誰も起きてないな)ソーッ

少年(最後にこれ、渡したかったな。ムーンストーンに、磨いた貝殻を添えたブレスレット)

姪「……おはよう」

少年「……うん。おはよう」

少年「じゃ、行こうか……」

姪「……そうだね」

姪「何だか、実感が湧かないな」タタッ

少年「……会ってすぐお別れだもんね」タッタッ

姪「……もっと早く、心を開いてればよかったなぁ」

少年「……悔やんだって仕方ないよ。僕だってそうだ」スッ

姪「……それ、渡したかったの?」

少年「うん」

姪「……まだ、間に合うよ」

少年「え?」

姪「……恩返し、出来るかな」

少年「どういう事? ……着いた」

白鯨「……」

――ありがとう、迎えに来てくれて。

少年「少女……」

姪「――おいで!」

鳥「……」

少年(鳥が出てきた!)

姪「この子は、渡り鳥……色んな所を渡っているんだ」

姪「このブレスレット、送ってくれない?」

鳥「!」コクン バサッ

少年「……あ」

少年(名前も知らない鳥が、僕のブレスレットをくわえて飛んでいく)

少年(彼女に渡したかった、大切なものが……朝焼けに染まる空を駆けてゆく)

少年(……ああ、本当に、僕は……恵まれてるんだなぁ)

――これが、言ってたプレゼント?

少年「うん、そうだよ」

――ありがとう、大切にするね。

少年「……少女」

少年「あ……その……」

少年(色んな感情がごちゃ混ぜになって、何を言えばいいか分からない)

少年(……ああ、なんだ。簡単じゃないか)

少年「――またね」

白鯨「!」

姪「また、一緒に話そうね……!」ポロッ

――ふふ。

――ありがとう。じゃ、行くね。

白鯨「……フオォオオォオォ――!」

――大好きだよ、二人とも。

ザプン……


少年(朝焼けの光を浴び、白い鯨は消えていった)

少年(……でも、僕は忘れない。彼女と過ごした日々を――)

少年「――あれ?」

少年(彼女に貰った不思議な石は、白っぽいただの石になっていた)

白鯨(ごめんね)

白鯨(私のせいで、きっとこの島にはたくさんの人が来る)

白鯨(そうしたら、この海は、私を探す人に荒らされる)

白鯨(だからね、私に関する全ての情報を、人から消す事にしたの)

白鯨(現実に干渉する孤独の力、「空夢」……この力を使う事は無いと思ってたけど)

白鯨(でも、ありがとう)

白鯨(私はずっと忘れないよ)

白鯨(あの夏の日々も、あの冬の夜空も……)

長老クジラ「……大丈夫かい?」

白鯨「……ええ」

白鯨「さて、皆。行こう!」

白鯨(バイバイ、私の大切な人達)

ー数年後ー

ブウゥウゥウン……

父「あの島、長期休暇のたびに来るよな? さすがにもう楽しくないんじゃないか?」

少年「そんな事ないさ、あの島は……何だろうね、何か好きなんだ」

父「ふーん……まだその石持ってるんだな?」

少年「うん。いつの間にか気が付いたら持ってたんだけど……何か大事な気がするんだよね」

父「何だそりゃ」

少年(これは確か……誰かに貰ったような……誰だったっけ)

父「ま、いいか……ん!?」

少年「どうしたの?」

父「びっくりした、遠くの右の方見てみろ! ザトウクジラがいるぞ!」

少年「本当だ、でっかいね!!」

父「頭だけであんなにでかいんだもんなぁ」

少年「――また、会いたいな」

父「? 何て?」

少年「……あれ? 何か言ったっけ、僕」

父「……気のせいか」


少年(頭のどこかで、大切な物が抜けている気がする)

少年(冬の空気は寒く、僕はポケットに手を入れる――その時)

『少年!』

少年(この広い海の何処かで、そんな声が聞こえたような気がした)

終わりです。
前作と比べ、蛇足と感じた方は申し訳ありません……

前作

男「夏の通り雨、神社にて」
男「夏の通り雨、神社にて」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437922627/)

少年「鯨の歌が響く夜」
少年「鯨の歌が響く夜」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438310494/)

男「慚愧の雨と山椒魚」
男「慚愧の雨と山椒魚」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447667382/)

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