佐倉(目が覚めたら野崎くん家の扇風機になっていた) (46)

佐倉(な、なんで!? なんでこんなことになっちゃったの!?)

佐倉(確か私……さっきまで結月と遊んでて……それでうとうとしてたらそのまま寝ちゃってて……)

佐倉(それで目が覚めたらこうなってて……)

佐倉『……』

佐倉(なんで!?)

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前野『どーーもーー!! 妖精でーーーーす!!』

佐倉『ま、前野さん!?』

前野『どう千代ちゃん!? 扇風機の姿は気にいった!?』

佐倉『も、もしかしてこれって……前野さんの仕業なの!?』

前野『ご名答!! あと、僕は『前野』じゃないよ!! 妖精のミ・ツ・ヤ☆』

佐倉(うざい……)

前野『僕のお陰で千代ちゃんの願いが叶ったね!!』

佐倉『ね、願い!? 願いってなんですか!?』

前野『何って……夢野先生の扇風機になることでしょ?』

佐倉『!!!?』

前野『とぼけても無駄だよ!! 僕は知ってるんだから!!』

前野『夢野先生に初めて告白した時、君はなんて言った?』

佐倉『え、ええと……『ファンです』って』

前野『ねっ? そう言ったでしょ? だからこうして願いを叶えたんだよ』

佐倉『な、なんでそれが扇風機になるのと繋がるんですか!?』

佐倉『……あっ!!!』

佐倉『ファン……扇風機……』

佐倉『あああああああ!!!!』

前野『やっと気づいてくれたみたいだね!!』

佐倉『ちょ、ちょっと待って前野さん!! 確かに言ったけど!! ファンって言ったけど!! これ、違うファンですよ!!』

前野『でも『ずっとファンでした』って言ったよね? だったら今もこれからも扇風機でいなきゃ!!』

佐倉『なんで!?』

前野『それじゃあ素敵な扇風機ライフを楽しんでね!! ちゃお☆』

佐倉『ま、待って!! 前野さん行かないで!!』

佐倉『……』

佐倉『……行っちゃった』

佐倉(ていうかなんで前野さんは妖精の姿なの!? なんで私が野崎くんに告白したことを知ってるの!?)

佐倉(今の状況、ツッコミどころが多すぎるよ!!)

スタ……

佐倉『!!』

佐倉(こ、この歩く音……もしかして!!)

野崎「ふぅ……よく寝た」

佐倉『野崎くん!!!』

佐倉『野崎くん助けて!! 私、扇風機になっちゃったの!!』

野崎「……朝ご飯を作ろう」

佐倉『む、無視!?』

佐倉(……いや違う!! 私は声をおもいっきり出してるけど野崎くんには聞こえないんだ!! 私が扇風機だから!!)

佐倉(どうしよう……これじゃあ私が扇風機だってことが伝わらないよ!!!)

野崎「……」キュッ

佐倉『!!!』

佐倉(の、野崎くんのエプロン姿だぁ///)

野崎「……」ジュー

佐倉(エプロン……フライパン……様になってるなぁ///)

佐倉(……っは!!)

佐倉(つい野崎くんに夢中になってた!! 今はこの状況をどうにかすることを考えないと!!)

佐倉『野崎くん!! 野崎くん!!』

佐倉『私、ここにいるよ!! 助けて!!』

野崎「……」モグモグ

佐倉(ダメだ……いくら叫んでも意味がないよ……)

佐倉(……だったら!!)

佐倉『前野さん!! どこにいるんですか!!』

佐倉『お願い!! もう一回私の前に現れて!! 私を戻して!!』

佐倉『……はぁ……はぁ……』

佐倉(どうしよう……ずっと私、このままなの?)

野崎「……」ガタッ

佐倉(!! 野崎くんが立った!!)

野崎「……暑いな」

佐倉(……そういえば今は夏だもんね)

野崎「……」ピッ

佐倉(エアコンをつけた)

野崎「……ん?」

佐倉(……どうしたんだろう?)

ピッ……ピッ……

野崎「うーん……」

佐倉(野崎くんがエアコンのリモコンとにらめっこして1分……)

野崎「……」

野崎「……どうやら壊れてしまったようだな」

佐倉(ええっ!? エアコン壊れたの!?)

野崎「……仕方ない」

佐倉(……直すのかな?)

野崎「……」スタスタ

佐倉(あ、あれ……こっちにきた)

野崎「……」ズイッ

佐倉『!!!!!!!!!!』

佐倉『の、のののののののののののの野崎くん!! 顔近い!!!!///』

佐倉(そ、そっか……今の私は扇風機……だからエアコンが使えなくなった代わりに扇風機を使おうと思ってこっちに……)

野崎「……」

佐倉(扇風機に当たろうとしているから当たり前だけど顔が近い!!///)

野崎「この扇風機を使うのも久しいな」ピッ

佐倉『ひゃい!!?///』

野崎「……ん?」

佐倉(な、なななななななな何!? 何今の!?///)

佐倉(野崎くんが扇風機のボタンを押した瞬間……)

佐倉(私もアソコを触られた感覚が……)

野崎(おかしいな……コンセントはちゃんと入れているはず)ポチポチ

佐倉『ひゃあ!!!?///』

佐倉(野崎くん!! 何回も押さないで!! 今、凄い変な感じ!!!///)

野崎「うーん……」

野崎(どうやらこの扇風機も壊れているみたいだな)

佐倉『はぁ……はぁ……』

佐倉(やっとボタンを押すのをやめた……)

佐倉(でもおかしいな……なんで扇風機……というか私も壊れちゃったんだろう)

野崎「……暑い」

佐倉『!!』

佐倉(ど、どうしよう……エアコンも扇風機も壊れてる所為で野崎くんが苦しんでる!!)

佐倉(なんとかしなきゃ!! どうやったら野崎くんが涼しむか……)

佐倉(そよ風でもいいから涼しい風起こせないかな……)

佐倉『フーーーッ!!って……』

ブオオオオ……

野崎「ん?」

佐倉『!!!』

佐倉(今一瞬……扇風機のプロペラが動いた!!)

野崎「……」

野崎(一瞬動いたな……今更ボタンに反応したのか?)

佐倉(も、もしかして……)

佐倉(……)

佐倉『……』フーーー!!

ブオオオオ!!!

野崎「!」

野崎(また動いた……)

佐倉『!!』

佐倉(や、やっぱりそうだ……)

佐倉(この扇風機……私が息を吐いたら動くんだ!!)

佐倉(……ってことは……私が息を吐き続けなきゃいけないってこと!?)

佐倉(流石にそれは体力が……)

野崎(……また止まってしまったか……)

佐倉『!!!』

佐倉(の、野崎くん!! そんなに悲しい顔しないで!!)

佐倉(……そうだ、弱音を吐いちゃダメだよ千代!! ここは野崎くんの為に……)

佐倉『……』フーーー!!

ブオオオオ……!!!

野崎「!!」

佐倉(頑張らなきゃ!!!)

野崎「……」

野崎(涼しいな……)

佐倉(や、やっぱり顔近い……///)

佐倉(……って恥ずかしがってちゃダメ!! ちゃんとやらなきゃ!!)

佐倉『……』フーーー!!

佐倉(……でもこれって……私の息を野崎くんに吹きかけてるってことだよね)

野崎「……」

佐倉(扇風機だから普通に見えるけど人だったら変な光景なのかな……)

ピンポーン!!

野崎「!」

佐倉(誰か来た……)

ガチャッ

堀「よう野崎」

若松「お邪魔します!!」

野崎「どうぞあがって」

佐倉(堀先輩と若松くんだ!!)

堀「しっかし今日も暑いなぁ……」

野崎「実はそのことなんですが……」

堀「? なんだよ?」

野崎「生憎うちのエアコンが壊れてしまって……今は扇風機しか使えない状態なんです」

若松「俺は別に大丈夫ですよ!!」

野崎「実はその扇風機も動くには動くんだが……ちょっと様子がおかしくてな」

堀「どういうことだよ? 今普通に動いてるじゃねえか」

佐倉『……』フーーー!!

ブオオオオ……

佐倉『はぁ……はぁ……』

ピタッ

佐倉『……』フーーー!!

ブオオオオ……

佐倉『はぁ……はぁ……』

ピタッ

佐倉(やっぱりずっと息を吐き続けるのは辛いよ!!)

野崎「こんな風に動いたり止まったりするんだ」

若松「確かにこれは壊れてますね……」

堀「ないよりマシだろ、俺は別にいいぜ」

野崎「すいません」

若松「そんな、先輩が謝ることじゃないですよ」

佐倉『謝るのは私だよ!! ごめん! 本当にごめん!!』

野崎「じゃあ始めるか」

若松「はいっ!」

堀「おう」

佐倉『堀先輩!! 若松くん!!』

堀「……」スラスラ

若松「……」ピッピッ

佐倉(……当たり前だけど二人にも聞こえないかぁ)

野崎「そうだ」

若松「どうしたんですか?」

野崎「首振りにするのを忘れてた」

佐倉『!!』

野崎「ボタンを押してっと……」ポチッ

佐倉『あっ!!!///』

佐倉(どこのボタンを押しても触られる感覚は変わらないんだね……)

野崎「……ん? おかしいな」

堀「押しても首振りしないのか?」

野崎「はい……それがさっきも電源ボタンを押しても動かなくて……時間が経ってやっと動いたんです」

堀「そいつはやべえな……」

野崎「困った……首振りできないとなるとみんなに風が当たらない」

佐倉(も、もしかして……)

グオオオオオオ……

野崎「!!」

若松「動きましたね!!」

佐倉(や、やっぱり……)

佐倉(私が首を振らないと……この扇風機動かないんだ!!)

若松「あっ……でも今度は首を振ってるだけでプロペラが動いてないです」

野崎「何っ!?」

堀「こんなことあるんだな……」

佐倉(し、しまった!! 首振りながら息を吐かなきゃ!!)

佐倉『……』フーーー!!

ブオオオオ……

若松「ちゃんと動きましたね」

野崎「ああ……」

堀「……けど今度は異様に首振るスピードが早くねーか?」

佐倉『!!』

野崎「確かに……」

佐倉(そっか……普通の扇風機のスピードで首を振らなきゃいけないんだ!!)

グオオオオオ……

若松「首振るスピード、遅くなりましたね」

野崎「なんとか戻ったみたいだな」

堀「なぁ野崎、この扇風機は使ってどれぐらい経つんだ?」

野崎「一人暮らししたと同時に買ったから……一年ぐらいですね」

若松「一年でこんなになっちゃうんですね……」

堀「ちゃんと丁寧に扱ってたのか?」

野崎「そのつもりなんですけど……こうなったってことは丁寧に扱ってなかったかもしれないです」

堀「物は大切にしろよ」

野崎「すいません」

佐倉『!!』

佐倉(ごめん野崎くん!! 野崎くんは何も悪くないの!! 悪いのは私なの!!)

佐倉(私の所為で野崎くんが怒られちゃった……)

数時間後

佐倉『はぁ……はぁ……』

佐倉(酸欠になりそう……)

野崎「二人とも、そろそろ部活の時間じゃ……」

堀「そうだな」

若松「すいません、もう帰りますね」

佐倉(演劇部もバスケ部も午後練があるんだね)

若松「お邪魔しました」

堀「じゃあな」

野崎「はい、二人とも気をつけて」

バタン!!

野崎「……」スタスタ

佐倉『!!』

佐倉(!! こ、こっちに来る……?)

野崎「……」プチッ

佐倉『あうっ!!///』

野崎「首振りを解除し忘れていた」

佐倉(そうだ……私、無意識に首を振ってた……)

数時間後

佐倉『……』フーーー!!

野崎「……」スラスラ

佐倉(野崎くんがスムーズに作業ができるようにするためにも……頑張らなきゃ!!)

ピンポーン!!

野崎「きたか……」

佐倉(今度は誰だろう……)

ガチャッ

御子柴「よお」

野崎「いらっしゃい」

佐倉(みこりん!)

野崎「ここに花を頼めるか?」

御子柴「おう」

野崎「……そうだ、お前に謝らないといけないことがある」

御子柴「なんだよ?」

野崎「実はうちのエアコンが壊れて動かないんだ。 だから今日は扇風機で我慢してほしい」

御子柴「別に謝ることじゃねーだろ、気にすんなよ」

野崎「その扇風機もちょっとガタがきてるんだ」

佐倉『……』フーーー!!

佐倉『はぁ……はぁ……』

野崎「動いたり止まったりするんだ」

御子柴「なるほどな……」

御子柴「知ってるか野崎」

野崎「何がだ?」

御子柴「こういうのは扇風機を元気づけたりすると直るもんだぜ?」

野崎「そうなのか?」

御子柴「俺の知ってるギャルゲーでよ、日頃物を大切にしてたらある日、その物が擬人化してそこから恋が始まるっていうやつがあったんだよ」

佐倉(そんなゲームがあるの!?)

御子柴「ちょっとやってみるか」

野崎「ああ、頼む」

御子柴「……俺の為だけに風をくれよ☆」

佐倉『……』

ピタッ

野崎「一瞬で止まったぞ」

御子柴「うるせえ!!///」

野崎「頑張れ」

御子柴「お前は感情こもってなさすぎだろ!!」

佐倉『うん!! 頑張る!!///』フーーー!!!!

御子柴「めちゃくちゃ回り始めてるじゃねーか!!」

野崎「何故だ!?」



御子柴「あーーやっと終わったな……疲れた」

佐倉『みこりん、私も疲れたよ……』

野崎「ああ、今日はありがとう」

御子柴「そんじゃ帰るわ……そうだ野崎」

野崎「なんだ?」

御子柴「扇風機壊れてるんだったら新しいのを買った方がいいんじゃねえのか?」

佐倉『!!』

野崎「確かに……だが先にエアコンを直す方を優先しようと思う」

御子柴「そっか……夏バテすんなよ」

野崎「ああ」

バタン

野崎「……」

佐倉(もう直ぐ1日が終わる……)

佐倉(……)

佐倉(……ていうか私、これからどうなるの!?)

野崎(風呂に入ろう……)スタスタ

佐倉『!!』

佐倉(野崎くんがどこかに行った……)

バシャーン!!

佐倉『!!』

佐倉(この音……もしかしてお風呂に入ったのかな?)

佐倉(……)

佐倉(お風呂……)

佐倉(野崎くんが……お風呂……)

佐倉(……)

佐倉(……っは!!)

佐倉(な、何想像してたの私!? 今、物凄い変態だったよ!?///)

野崎「……」スタスタ

佐倉『!』

佐倉(足音……お風呂からあがったんだ)

野崎「ふぅ……」

佐倉『!!!!!!』

佐倉(の、のののののの、野崎くんの……パジャマ姿!!///)

佐倉(初めてみた……ちゃんと目に焼きつけておかなきゃ!!)

佐倉(私今、やっと初めて扇風機になれて良かったって思ったよ!!)

野崎「……寝よう」

佐倉『うわ、うわわ!!?』

佐倉(野崎くんが扇風機を……私を持ちあげてる!?)

野崎「……」

佐倉(そ、そっか!! 自分の部屋に扇風機を持って行くんだね!! エアコンが壊れてるから!!)

佐倉(野崎くんがちゃんと寝られるように……私が息を吹きかけなきゃ!!)

佐倉『フーーーって……』

ブオオオオ……

野崎「!!!?」

佐倉『!!!』

佐倉(ど、どうしよう!! コンセント入れてないのに動いちゃった!! 野崎くん驚いてる!!)

野崎「……」

佐倉『……』

野崎「……すまなかった」

佐倉『!!!』

野崎「こんな異常になるまで気づかないとは……俺はなんてダメなんだ」

佐倉『全然ダメじゃないよ!! ダメなのは私!!』

野崎「物も大切にできないようじゃ……みんなのことも大切にしているつもりでもしていないのかもしれない」

佐倉『……?』

野崎「佐倉、御子柴、堀先輩、若松……みんな本当はアシスタントをやりたくないんじゃないだろうか」

佐倉『そんなことないよ!! 寧ろやりたくてたまらないぐらいだよ!!』

野崎「特に佐倉は我慢強いからな……やりたくないと言うのも我慢しているかもしれない」

佐倉『思ってないよ!!』

野崎「俺と一緒にいること自体が苦痛かもしれない」

佐倉『真逆だよ野崎くん!! 私今、ずっと一緒にいられて幸せなんだよ!!』

野崎「ほかのアシスタントと比べると……俺は佐倉を酷使し過ぎているかもしれないな」

野崎「その所為で……佐倉は俺のことを嫌いだと思っているんじゃないだろうか」

佐倉『違うよ!! 私は野崎くんのことが……』

佐倉『大好きなの!! 好きで好きでたまならいの!!!』

ピカアアアアアア……

佐倉『な、何!?』

前野『どーーもーー!! 妖精蜜也でーーーーす!!』

佐倉『前野さん!!』

前野『どう千代ちゃん!? 扇風機ライフ、楽しんでる?』

佐倉『お願い!! 戻して!! これ以上野崎くんに迷惑かけたくないよ!!』

前野『えーー……でもこれは千代ちゃんが望んだことでしょ?』

佐倉『だからこっちのファンじゃないって!!』

前野『だいたい、千代ちゃんが『ファン』って言わなければこんなことにはならなかったんだよー?』

佐倉『た、確かにそうだけど……』

前野『……ねえ千代ちゃん、今日一日中、扇風機になってどうだった? 辛かった?』

佐倉『は、はい……』

前野『もうこんな経験したくない?』

佐倉『はい……』

前野『じゃあ嘘をつかず!! はっきりと正直に言うこと!!』

佐倉『……へ?』

前野『『ファン』って言って誤魔化さずに、ちゃんと夢野先生に『好き』って伝えること!!』

佐倉『!!』

前野『さっき思いっきり好きって言ったよね? あれは君が扇風機になってて夢野先生に聞こえなかったから? 違うでしょ?』

前野『君がこの場にちゃんといて夢野先生が同じこと言っても君はさっきと同じことが言えると僕は思うなー』

佐倉『前野さん……』

前野『それだけの勇気と気持ちがあれば大丈夫!! それに千代ちゃんはさっき、元に戻してって言ったよね?』

佐倉『……うん』

前野『その時に『野崎くんに迷惑かけたくないから』って言ったでしょ!?』

前野『それって自分よりも好きな人のことを優先している証拠だよ!! だって普通は自分のことを考えて元に戻したいって言うよね!?』

前野『それだけ夢野先生のことを思ってるんだ!!! そんな人、いないって!!』

前野『だからさっさと告白してくっついちゃえ!!!』

佐倉『前野さん……』

前野『 もしまた『ファン』って言って誤魔化すようなら……もう一度扇風機ライフを楽しんでもらうからね!!』

前野『じゃあ頑張って!!』

佐倉『!! ま、前野さん!! 待って!!』

ピカアアア……











佐倉「……っは!!」

野崎「……佐倉? なんで佐倉がここにいるんだ?」

佐倉「!!!! の、野崎くん……私が見えるの!?」

野崎「あ、ああ……おかしいな。 俺はさっきまで扇風機を持っていたはずなんだが」

佐倉「!!!」

佐倉「わ、私……いつの間にか元の姿に戻ってる!?」

野崎「……?? ど、どういうことなんだ」

野崎「……と、すまない。 ずっと抱っこしたまんまだったな」

佐倉「!!! ご、ごめんね!!/// すぐおりるね!!///」

佐倉「の、野崎くん……今日一日中、扇風機が壊れてたでしょ?」

野崎「!!! な、何故佐倉がそれを知ってるんだ!?」

野崎「まさか……今日一日中俺の家に隠れてたのか!?」

佐倉「うん……ずっといたよ」

野崎「ど、どこだ!? どこに隠れてたんだ!? それに何故隠れてたんだ!?」

佐倉「信じてもらえないかもしれないけど……私、一日中扇風機になってたんだよ」

野崎「!!?」

佐倉「扇風機になってた所為で……喋りたくても喋れなかったんだ」

野崎「佐倉……」

佐倉「ご、ごめんね……頭おかしいよね私……こんなこと言っても信じてもらえないよね」

野崎「……信じる」

佐倉「!!」

野崎「現に俺が持っていた扇風機は……佐倉になったじゃないか」

佐倉「野崎くん……」

野崎「もしや……扇風機が止まったり動いたりしたのは……」

佐倉「うん……私が息を吹いたり首を振ったりしたから動いたの」

野崎「じゃあお前は一日中、息を吹き続けて……」

佐倉「うん……」

野崎「……すまなかった」

佐倉「な、なんで野崎くんが謝るの!? 野崎くんは何も悪いことしてないよ!!」

野崎「俺がこのことに気づいていれば……佐倉がこんなに苦しむことはなかったのに……」

佐倉「そ、そんな!! 寧ろ気づけって言う方が難しいよ!!」

野崎「だがお前に迷惑をかけてしまったのは事実……俺はどう責任を取れば……」

佐倉「そんなに深く考えないで!! 大したことじゃないから!!」

野崎「佐倉……」

佐倉「それに今はこうやって元に戻れたことを喜ぼうよ!! ねっ!?」

野崎「……そうだな。 本当に戻れて良かった……」

佐倉「そ、それでね野崎くん……」

野崎「……?」

佐倉「私、扇風機になってたけど……野崎くんが言ってることは全部聞いてたよ」

野崎「!!」

佐倉「さっき野崎くん言ってたよね……『佐倉はアシスタントをやりたくないんじゃないか』って……」

野崎「! あ、ああ……」

佐倉「私、そんなこと微塵も感じてないよ!! これからもずっと野崎くんのアシスタント、やりたいって思ってる!!」

野崎「……本当か?」

佐倉「本当だよ!! それにね、『俺と一緒にいること自体が苦痛かもしれない』って言ってたけどそんなことないよ!! 私、野崎くんと一緒にいられてすっごく楽しいの!!」

野崎「佐倉……」

佐倉「あとね……『佐倉は俺のことを嫌いだと思っている』って言ってたけど……思ってないよ!!」

佐倉「だって私……野崎くんのこと……」

佐倉(言わなきゃ……今ここで言わなきゃダメよ千代!!)

佐倉(扇風機になりたくないからじゃない……自分に正直になるために!!!)

佐倉「野崎くんのことが……」

野崎「……」

佐倉「す……」

野崎「……?」

佐倉「す……」

野崎「……す?」

佐倉「す……」













佐倉「好きだから!!!///」

瀬尾「何言ってんの千代」

佐倉「……へ?」

瀬尾「やっと起きたかー。 にしても寝過ぎじゃね?」

佐倉「あ、あれ……なんで私、結月の家にいるの?」

瀬尾「なんでって私の家で遊ぶ約束したからじゃん」

佐倉「で、でも私!! さっきまで野崎くんの家に……」

瀬尾「は? 野崎?」

佐倉「……」

瀬尾「もしかして千代、野崎の家に行く夢見てた? ねえねえ見てた?」

佐倉「……」

佐倉(そっか……そうだよね……普通に考えたらあんなこと、現実にある訳ないもんね)

佐倉(そういえば結月の家で眠くなったから寝てて……そしたら野崎くん家の扇風機になってて……それが実は夢で……)

佐倉(さっきまで夜だったのに、今は外が明るいしね……)

佐倉「……ごめん、結月。 私、結構長い間寝てた?」

瀬尾「うん。 30分ぐらい」

佐倉「そっか……」

佐倉「……」

佐倉(あの夢は……私の背中を押すための夢だったのかな)

夕方

佐倉「じゃあね結月!!」

瀬尾「じゃーねー」

佐倉(この後は野崎くん家に行ってアシスタントする約束してるんだよね)

佐倉(……言おう)

佐倉(野崎くんに好きだって……はっきり言おう!!!)











野崎の住んでるマンション

ピンポーン

佐倉「野崎くん! 佐倉です!」

佐倉「……」

佐倉(……あれ、出てこない……)

佐倉(……買い物中かな)

都「……あら? 千代ちゃん?」

佐倉「! 都さん!!」

都「野崎くんのアシスタントしに来たの?」

佐倉「はいっ! ……あの……野崎くん知りませんか?」

都「野崎くん? 今家にいないの?」

佐倉「はい、この時間に来るとは言ってたんですけど……」

都「……そうだわ、野崎くんが来るまで私のところにいる?」

佐倉「えっ!? い、いいんですか!?」

都「ええ、外でずっと待ってるのも辛いだろうし……野崎くんにはメールで私のところにいるって伝えればいいと思うの」

佐倉「み、都さんは……迷惑じゃないんですか?」

都「そんなことないわ、寧ろ千代ちゃんとお茶したいと思ってたの……ダメだったかしら?」

佐倉「そ、そんなことないです!!」

都「本当? なら良かったわ。 じゃあ私のところに行きましょう」

佐倉「はいっ! ありがとうございます!」

都「それにしても今日は暑いわねー……」

佐倉「そうですよねー……早く夏終わらないかなー……」

都「ごめんなさい、ちょっとエアコンが壊れてて……扇風機でいいかしら?」

佐倉「はいっ! 大丈夫です!」

ポチッ

都「……あら?」

佐倉「どうしたんですか?」

都「おかしいわ……ボタンを押しても扇風機が動かないの」

佐倉「ええっ!? ……コンセントは?」

都「……ちゃんとささってるわ」

佐倉「なんでだろう……」

都「壊れたのかしら……」

ブオオオオ……

都「!!」

佐倉「動いた!!」

都「良かったわ……でも動いたり止まったりしてるわね」

佐倉「そうですね……」

佐倉(……あれ?)

佐倉(今の話の流れ……既視感がある……)

佐倉「おかしいな……電話しても繋がらない」

都「野崎くん、大丈夫かしら……」

佐倉「……あっ! もしかしたら漫画の素材になりそうなのが見つかって夢中になってて……電話に気づいてないのかも!!」

都「ふふ……確かにありそうね」





















野崎『何故俺が都さん家の扇風機に……?』

前野『だってーーー、それは夢野先生がそうなりたいって言ったからじゃないですかーー』

野崎『!!? ま、前野さん!?』

前野『前野じゃないですよ!! 妖精の蜜也です!!』

野崎『お、俺がいつ扇風機になりたいって言ったんですか!?』

前野『確か数日前だったかなー』

数日前

都『はぁ……』

野崎『都さん、どうしたんですか?』

都『今月、アンケートの結果があまり良くなかったのよ……』

野崎『ほぼ前野さんの所為だと思うんですけど……』

都『そんなことないわ……私の力不足よ……』

野崎『そんなこと言わないでください……俺は都さんの漫画は面白いと思ってます』

都『野崎くん……』

野崎『俺は同じ漫画家として、それに都さんのファンとして応援しています』

都『野崎くん……ありがとう』










前野『……っね? だからこうやって願いを叶えたんじゃないですか。 僕って気が効くなーーー!!』

野崎『前野おおおおおおおおおおおお!!!』

タモリ「ファン……それは熱心な愛好家を意味すると同時に扇風機をも意味する言葉です」

タモリ「『私、○○のファンなんだ』とあまり口にしない方がいいみたいですね」

タモリ「それにもしかしたら……あなたの家にある扇風機の正体は……あなたの知ってる誰かかもしれません」

〜終わり〜

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