―――ドン!パチパチパチ…
野崎「次のネタは花火だな」
佐倉「うん!」
――佐倉千代、16歳。
今、ジャングルジムのてっぺんで好きな人と一緒に
花火を見ています。
入学式から好きになって一年余り。
野崎君の勘違いで結果的に告白はうやむやになってしまったけれど
そのおかげで一緒にいる時間が多くなった。
物陰からこっそりと見ていたあの時間が嘘みたい。
野崎「今ので最後か。佐倉、そろそろ帰ろうか」
佐倉「あ、うん…」
野崎君が軽々とジャングルジムから降りて
私に向けて手を伸ばしてくれる。降ろそうとしてくれているんだ。
自然と手をとり野崎君の肩に体重をかける。
軽々と私を支える野崎君の体温は涼しい表情に反して暖かかった。
――ああ、この時間が止まってしまえばいいのに。
野崎「佐倉、降りたぞ」
佐倉「あ!ごめんね、ありがとう!」
野崎君はゆっくりと私を降ろした。支えたれた為降ろすときには繋いだ手。
名残惜しさに泣きそうになる。
野崎「佐倉?」
佐倉「え?あ…!」
あまりにも惜しくて繋いだ手を離せないでいたみたいだ。
あまり長い間握っていても不自然だ。
慌てて手を離そうとした。が――
――クン!
佐倉「…ん??あ、あれ?野崎君、あの、その…手が」
野崎君の手が私の手を握ったまま離れない。
ま、まさかこれは少女漫画的なあれでそれでお前を離さない的な…!
野崎君がじっとこちらを見ている。
もしかして、野崎君も繋いだ手を離すのを名残惜しいと思ってくれているとか…?
野崎「…ん?佐倉が握っているんじゃないのか?」
佐倉「え…野崎君、からかっても駄目だよ!また漫画のネタの為にびっくりさせようとしているの?」
野崎「待て待て、俺は本当に握ってないぞ、ほら」
野崎君がすっぽりと握っていた左手を開いた…けれど私たちの手のひらは
まるで接着剤がくっついたかのようにぴったりと合わさったまま。
佐倉「」
佐倉「え、な、なにこれ!?」
野崎「ちょっと待て、引っ張ってみよう」
佐倉「うわ!ちょ、野崎君うわああいたたた!痛い!」
野崎「す、すまん佐倉!何故だ、いつの間にくっ付いたんだ。手品か?」
佐倉「本当に野崎君じゃないの?てっきりネタのためにこんな事しているのかと…」
野崎「佐倉、流石に俺も不便なことしないぞ」ゴソゴソ
佐倉「…野崎君、そういいながらメモ取らないでよ!」
野崎「すまん佐倉、空いている手でメモ帳を持っててくれないか」
佐倉「野崎君!」
――――――
――――
――
野崎「というわけで佐倉と手を繋いだら離れなくなった」
御子柴「」
御子柴「…おい佐倉、ちょっと来い」
佐倉「ええ!ちょっとみこりん!今引っ張ったら…」
野崎「もれなく俺もついてくることになるが」
御子柴「おめえはガンガン音楽かけたヘッドホンでもつけとけ!」スポッ
御子柴「…んで、何がどうしてこうなってんだよ?
俺はてっきり、お前らが手を繋いできたから遂に付き合う事になったのかと」
佐倉「ち、違うよ!私だってわかんないよ!ジャングルジムの上で花火見て
野崎君から俺も好きだよ(花火)って言われて、抱きかかえられて…
気がついたら(手が)くっ付いてた」
御子柴「…チョイ待て、お前さっき付き合ってないって言ってなかったか?
俺を一置き去りにしていちゃコラしてんじゃねえよ!泣くぞ!?」
佐倉「だから!付き合ってないってば!」
鹿島「おおーい!千代ちゃんに…野崎!?あんた何してんの?」
堀「…!おい、まみ…こ柴、何で泣いているのか知らねぇが
あの二人どうしたんだ。とうとう佐倉の想いが成就したのか?」
御子柴「知らないっすよ!わかっているのは二人が俺を除け者にして
イチャコラしてるっつーことだけっす!
花火!?そんな大切なイベントの時になんで俺を置いていったんだよ!
今年のイベントスチルうまんねーじゃねえか!」
佐倉・堀「(マミコめんどくせえ…)」
佐倉「と、ともかく!みんなが言うような事じゃなくて、
二人で花火見ていたら野崎君と手がくっ付いてしまったんです!」
鹿島「くっ付いた…?どれ」
佐倉「いたたたたた!無理無理無理!」
野崎「ぐわあああ鹿島!お前のその握力女子のものとは思えんぞ!
やめろ!佐倉の手首が取れる!」
佐倉「怖い事言わないで野崎君!」
鹿島「うっへー、ほんとにくっ付いてる…接着剤でも塗ったの?」
野崎「まさか、ちょっと佐倉と少女漫画みたいなシュチエーションで
仲良く花火を見ていたらこうなった」
堀「(多分こいつ無意識で言ってんだろうな…)」チラッ
佐倉「!!」プシュウウウウウウ~
鹿島「それでどうすんの?どういう理屈か知らないけれど
本当に取れないみたい。ともかく場所を移動させないと…」
野崎「とりあえず佐倉の家に連絡をしなければ…」
佐倉「あ!それなんだけど、うちの家族今日から連休だから
田舎の実家に泊まるっ言ってたから帰ってこないの…
弟も合宿だし…」
野崎「そうか。それは不幸中の幸い、下手な説明をしないで済むな」
御子柴「おい、野崎お前まさか…」
野崎「ああ、佐倉を家につれて帰る」
佐倉「ピエッ!?!?!?」
野崎「それで佐倉の両親が帰ってくるまでにこのくっ付いた手を
どうにかする。どうにも出来なかった時は正直に打ち明ける」
堀「流石に男女二人で泊まるのは不味いんじゃねえか…?」
野崎「佐倉には迷惑をかけてしまうと思うが…
もしここでややこしい事態になっているのがばれると、
離れて暮らしている俺の親にも連絡が行って、
最悪一人暮らしさせて貰えなくなる恐れがある」
御子柴「ああ…なるほど(そうなると少女漫画が描けなくなるな…)」
鹿島「?」
野崎「頼む、一日だけでいい。佐倉を不快にさせるような事は
絶対にしない。俺が何とかして見せるから信じてくれないか?」
佐倉「の、野崎君…!」
―――俺が、君を守るから、信じて…(CV宮野真守)
佐倉「(野崎君がまるで鈴木君みたいな台詞を…!ふわああああ!)」
堀「おい野崎、そういいつつメモ取るな。
お前案外この事件ネタにできると喜んでいるんじゃねえか?」
野崎「」ギクッ!
佐倉「野崎君!」
――――――
――――
――
佐倉「(…ということで野崎君の家に来たものの…)」チラッ
野崎「…」
佐倉「(き、気まずい!)」
――――回想
鹿島『もし何か困った事がったらいつでも連絡してね!
堀ちゃん先輩が最終手段で泊まるらしいから』
堀『…おい、それ佐倉が2対1で余計気まずいんじゃねえか?』
佐倉『そ、そうですね…あ!みこりんがいてくれるほうが安心するかも!』
佐倉・堀『(マミコだから…)』
御子柴『フウ…お前は本当に欲張りな女だな。そんなに俺に添い寝して欲しいのか?
さびしがり屋のウサギちゃん』☆ミ
佐倉『』シーン
御子柴『何とか言えよ!!!!!』カアアアアア!
野崎「佐倉、先程俺たちの手を調べてみたが、やはり簡単に離れそうにもない。
鹿島の言ったように何か薬品がついているかも知れない。
とりあえず洗面器にお湯張って来たからそれで洗い落としてみよう」
佐倉「う、うん」
――――実験1 お湯&石鹸
野崎「…」チャプチャプ
佐倉「うぅ…何か変な感じ…」ニュルニュル
佐倉「(ただ石鹸で手を洗って貰っているだけなのに、
それを野崎君にやって貰っているって言うのが
くすぐったいというかなんと言うか…)」チラッ
野崎「佐倉、お湯は熱くないか?」
佐倉「うぇ!?う、うん調度良い湯加減…!」
野崎「いい湯加減か、まるで一緒に風呂に入っているみたいだな」
佐倉「うひゃあ!あ、な、何言っているの野崎君!」
野崎「ん…これだけ洗っても取れないな、やはり接着剤みたいに強力な薬品なのか?」
佐倉「(そして安定のスルーっっぷり!わかってたけれど!)」
――――実験2 マニキュアの除光液
野崎「接着剤などの強力なやつにはマニキュアの除光液で取れる」
佐倉「へえー!…って野崎君、なんでマニキュア持っているの?」
佐倉「(前のセーラー服みたいに資料用なんだろうけど…)」
野崎「?今時の女子高生はこういうの好きなんじゃないのか?
いろんなデザイン描いたり、カラーストーンでデコったり。
そのせいでご飯も研げないと聞いた」
佐倉「さ、さすがにそこまですごい人はいないんじゃないかな?」
野崎「女子って凄いよな!ネイルアートやデコ携帯とか見ていると
細かい作業への集中力は漫画家を軽くしのぐ時がある」ワクワク
佐倉「野崎君、今そういう女子がベタやらトーン貼りしてくれると
助かるのになーと思ったでしょ」
野崎「いや、ベタに関しては佐倉が群を抜いているから必要ないな」
佐倉「へ!?あ、ありがとう…(って、これ褒められてるってことでいいのかな)」
野崎「とはいえ、やはりあまり肌に長い間触れるのは手荒れの原因になるからな。
早めに洗い流そう」
ジャアアアアアア
佐倉「(どうしよう…私が勝手に野崎君の言葉に過剰反応しているからだろうけど
なんか普段より期待を持たせるような発言が多い気がする…)」グッタリ
佐倉「(駄目よ!期待しないって決めたじゃい!
さっき隣にいられるだけで幸せだって思ったのに…!)」
佐倉「(そもそもあんなロマンチックな場面でも野崎君はやっぱり野崎君だったし
本当に他意はないんだから…)」
――俺も好きだよ。
佐倉「…!」カアアアアアアア!
野崎「佐倉、大丈夫か?凄い汗だぞ」
佐倉「え!あぁ、うんやっぱ取れないな~と思ったら焦っちゃって…(く、苦しい言い訳)」
野崎「浴衣着ているから疲れたんだろうな。補正のタオルもあるし暑いんだろう。
しょうがない、佐倉、このまま脱衣所まで行くぞ」
佐倉「」
すみません今日はここまで。
一泊の出来事なのでそこまで長く続きません。
最後の落ちは決まっているのですが問題の風呂、トイレ 寝る場所
あと野崎君の連載はどうなるの?ってことでネタを煮詰めてきます。
新鮮なネタは熱い内に調理しないとなあ。
と言う事で再開。
千代ちゃんと野崎君は向かい合った状態で手が繋がっています。
千代ちゃん右手、野崎君左手です。
野崎「―と言ってみた物の…手を繋いでいるから脱げないな」
佐倉「うん…帯や腰紐は外れるれど肝心の浴衣は脱げないと思う。
というか流石に私もは、恥ずかしいから今日はこのまま浴衣でいるよ…」
野崎「そうか?でも佐倉の顔真っ赤だぞ、やはり暑いんじゃ…」ジー
佐倉「(だから野崎君の顔が近いからだよ!もーもーもぅ!)」ダラダラ
佐倉「しょうがないよ、浴衣を破くわけにはいかないし
(何より野崎君の前で脱ぐなんて無理だし、これで諦めて…)」
野崎「そうか!片方の袖だけ外せば脱げるな!
佐倉、もうちょっとの辛抱だぞ。
大丈夫だ、俺が後で縫っとくから」
佐倉「ぎゃあああああああ!(そして梅子、女子力高ぇ…)」
――――――
――――
――
そうして野崎君が大きめのバスタオルを持ってきてくれて
体を隠した後浴衣の解体ショーが始まった。
野崎君は器用に袖の縫い糸を外して、無事に脱ぐ事が出来た。
私はバスタオルの下が文字通りパンツ一丁の状態。
途中「よかった、前にフロントがあるからすぐに脱げるな」とか
「女子の下着ってじっくり見る機会が無いから参考にさせてくれないか」とか
心臓に悪い事ばかり言ってきて頭を抱えた。
幸い?な事に野崎君は心のそこから漫画の新しいネタとして
メモに書き込んでいるだけで下心なんて微塵もないみたいだけど…
これはこれでまったく異性として見られていないのがわかって落ち込む。
わかってたけど!わかってたけど!
野崎「いやあ、体がくっ付いて離れないって思った以上に大変なんだな。
少女漫画で”やだ!憧れの彼と体がくっ付いちゃった、どきどき☆”
と言って喜んでいられるのも数時間だけで、現実的に考えると
思った以上に不便なものだと実感した。
やはり何事も経験だな」
佐倉「こんな経験したくないよ!というかこれまだ漫画に出来ると思っているの!?
商売根性たくましすぎだよ!…って」
野崎「?佐倉?」
佐倉「…!」
野崎君の漫画脳にめまいを感じていると、肝心な事を思い出した。
いや、必死に気付かないようにしていた、と言うほうが正しい。。
…そう、言いたくないけれど…思春期の女子高生としては、
特に恋する女の子としては気になる相手に絶対に感づかれたくない事だけど。
…トイレに、行きたくなって来た。
続きはまた今夜くらいに・・・すみません
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