俺「……天へ還れ、魔の者達よ……」 (25)
月が爛々と輝く夜。月に照らされて炙り出された都市。不自然なほどに巨大化した都市だというのにそこには人が一人いるだけであった。
漆黒の衣を着た俺が足音一つ出さずに歩行していた。
そのとき……
?「Quoniam impletum est tempus et moriendi.」
暗黒の光。全ての物を殺し尽くす闇の光、漆黒に囚われた周囲からも拒絶されるほどの闇。
それがその人物から俺に向けて放たれた。
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俺「光よ……」
そこに現れたのは光。
あたり一面が光を祝福していた。
光と闇がぶつかりあう。
俺「甘い、な」ニヤリ
勝負はついていた。
光が闇をも飲み込み謎の人物すら飲み込んだ。
轟音。
あとに残されたのはずたずたに引き裂かれた肉の塊だけであった……。
タッタッタッ。軽い足音が暗闇から俺の方へと向かってきていた。
少女「俺さん!」
凛とした声は闇すら飛び越えそうであったが、その小柄な肉体からは今すぐにでも壊れてしまいそうでもあった。
俺「……何をやっているんだ、こんなところで」
やや不機嫌に俺は言った。
少女「さっきの戦い見てました!」
俺「……なら分かるだろう。俺は、危険なんだ」
そう、俺はもはや現実に居ては周りを巻き込む身、闇に飲まれながら闇を[ピーーー]しか生きる道はない。
光の魔術を扱いながら闇に飲まれるもの……それが俺なのだ。
少女「だからなんですか?」
そう少女はなんともないふうに言った。
しかし……、常人ならば見逃すほどの些細な震えを俺は見逃さなかった。
だが……。
俺「フッ。そうか……分かったよ」
笑顔……。
笑うという感情を失った俺が笑ったのである。
そうして俺はたった2つのことをした。
俺「ありがとう……」
感謝。
俺「さようなら……」ザンッ
そして謝罪。
そう言って俺は少女を殺害した。
血にまみれた少女を抱えて俺は闇へと歩を向けた。
感情を失った俺が、涙を流しながら……。
そうして俺という存在は闇へと消えていった……。
第一部 終わりと始まり、そして甘い果実 おわり
第二部 天使と悪魔と俺、そして限りなく澄み切った海
ザァーン……
波。
大量の塩水が押し寄せる日本海。
漆黒の夜に包まれた黒い海は工業用汚水に晒され、もはや海を失っていた。
そこに足音すらなく、男……俺が現れた。
俺「……よお、久しぶりだな」
俺は虚空に語りかけた。
声は波に飲み込まれ形を消した。
俺「悲しい、か。そんなもの、とっくに失った……だが、慈愛の心は消えんよ」
いつにも増して饒舌な俺。
まるで心からの親友に語りかけるような口調は聞くものを安心させ、惚れさせる。だが、それを聞くものは海しかなかった。
「……俺よ」
どこからともなく声が聞こえた。
凛と透き通る声、ヒトが発することができない神秘性を持ちあるものには神を思わせ、あるものには淫魔を思い出させた。
俺「……言われなくても分かっている。だが、意味はない」
「……」
肯定の沈黙であった。
俺は正直乗り気ではなかった。それぐらい、彼女も分かっているだろうに……。
俺「ಶಿಶ್ನ ನೆಕ್ಕುವುದು !」
光。光。光。
あたり一面に光が押し寄せた。
俺はその光を、海へとそっと投げつけた。
サァァアア
海は持ち上がり、空を目指した。
そうして空を抜け、大気圏を超え、宇宙へと旅立っていった。
俺「……なぁ、本当にこれでよかったのか?」
俺の目から流れ落ちる液体は涙ではなく海の水しぶき、そうしておきたい。
~三週間後~
~あるコーヒーストア、俺御用達~
TV「……NASAによる発表だとあと三時間以内に超巨大な氷の隕石が東京へと……」
俺はTVの慌ただしい報道画面を見もせずにマスターにコーヒー頼んだ。
俺「……マスター、ブラック」
マスター「……畏まりました」クイッ
俺「……ふぅ……」
俺はそっとため息をついた。
あの海からの依頼、光の使者としての俺がやる仕事だったであろうか。
マスター「……おまたせいたしました」
俺「Thank you.」
そう言い俺はマスターに10万円のチップを与えた。
マスター「ありがとうございます」
俺「……」ズズズ
珈琲を啜りながら、俺はもはやこの件には関わらないことを決めた。
光の使者の俺は依頼を遂行するだけ、俺は善意悪意なしの光なのだ……。
……そうして東京は壊滅した。
日本列島にはポッカリと穴が空いた。
俺「俺はもう、この国には居れないようだな……」
そう言いながら、もはや感情を失った俺にも目から涙というものが溢れてきた。
だが俺は呪文を唱える。
俺「Sranje pušča verjetno !」
ボシュッ!
俺の周囲から溢れんばかりの光が出現し、俺を空へと誘った。
俺は空を飛び、この広い世界へと旅立った……。
第二部 天使と悪魔と俺、そして限りなく澄み切った海 おわり
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