もちろん居ない日はあったけど、普段何の仕事をしてるかは知らなかった。
学校外で会ったことないし。

とにかく、先生がうちの学校の先生じゃなくて、エセ科学者みたいな恰好で、生徒とも先生とも仲が良い。
ここまではいいかな。
なんかGTOみたいな話だけど、鬼塚先生と違うのは、非常勤どころか先生じゃないってとこだ。

そう、今思い出したけど先生には校内に部屋と言うか住処があった。
屋上の入口の前にある踊り場をいっぱいに使って、ホームレスみたいにビニールシートで覆った簡易なやつ。

んでビニールシートには、よく見ると細かい字が沢山書いてある。
「先生大好き！」とか「俺の事忘れんなよ！」とか、卒業生が寄せ書きするのが毎年の恒例行事みたいになってた。

「人んちに落書きをするでないと毎年言っとるんじゃけどのう」

「いいじゃん先生、人気者で」

「お主、さては嫉妬しておるな？」

「いいもん、俺は卒業アルバムの方に書いてもらうし」

高校生的な思考で学校に退屈してる（俺カッコいい）と思っていた俺は、よく先生のとこに遊びにいっていた。
一回授業中に抜け出して行ったらめちゃくちゃ怒られたので、以来きちんと放課後とか、昼休みとかに行くようにはした。
頻度が尋常でなくても怒られたけど。

行けば先生はたいていタバコ吸いながら古いブラウン管のテレビでファミコンをずっとやってるから、隣に座って一緒にやる。
一度夜通しやりこんで、親にしこたま怒られた事がある。

サイコロの一と六を切らないように二つに割れよ
二十年近く前から使われてるから、それ

遊戯王乙

期待

「先生って普段何してんの？」

「さあのう。ワシにも分からんからてきとーに生きちょる」

「いいなー、俺も先生みたいになりたい」

「マジでやめちょけ。死ぬぞ」

「何で」

「暇すぎて」

「なんじゃそりゃ」

「……あ、そうそう。今から科学部を破壊しに行くんじゃが一緒に来るか？」

「……何ソレすごそう」

確か一年生の夏ごろだったと思う。
先生は突然思いついたみたいにそう言った。

先生が『こういう事をする人』というのはそれまでの２、３カ月でよく知っていたので、とりあえずついていくことにした。

「あー先生、今行こうと思ってたの」

廊下を歩いていると同じクラスの鳴海が声をかけてきた。
長い黒髪と元気な笑顔が印象的で、既に三年の先輩から告白されたという噂まである。

「おお鳴海ちゃん、どうしたかいの？」

「先生に聞いてほしいことがあってさ！」

鳴海はそう言ってくしゃっと笑った。

「ついでに神田も聞いてよ！」

「俺はついでか」

ようやく名前を書く機会に恵まれたから、俺について簡単に説明する。
名前は神田　晴（カンダ　ハル）。
少しクセの付いた茶髪……だったと思う。今こそ黒いが、当時は何故か髪の色素が薄くて茶髪に見え、よく担任に怒られていた。
顔は自分では普通に思っていた。童顔を除けば大した特徴はない。
こんなもんでいいだろう。終了。

「あんねあんね、今日先輩から告白された！」

「ほう！！」

「マジか」

先生この手の話題大好きだから食いつくぞ、と思ったら案の定。
目がキラキラしている。

「てかそれ俺に言ってよかったんか？先生はともかくとして」

「あ！確かに！でもね、人生で初めて告白されたけん嬉しくて！誰かに聞いてほしくて！」

「ええのうええのう、青春かくあるべし！！はぁあああ！！」

続き期待してる

「鳴海ちゃんが告白されたって噂は広まってたぞ」

「え、嘘！告白されたん今日なのに！」

慌てる顔も可愛い。
なるほど、先輩方が目をつけるのもよく分かる。

しかし人生初告白とは意外だったなあ。
てっきり彼氏でもいるものかと思ってたけど。

「で、その様子じゃ告白は断ったのじゃろう。付き合う前でそんなに舞い上がっては、恋愛なぞとうてい手が届かんのう」

「あーすごいね先生！そう、ごめんなさいしてきたの！全然知らない先輩だったし！」

何故か少しほっとした。
可愛い子がフリーだという安心感か。

「でも噂って回るの早いねー」

「かわええからのうお前さんは。誰かが告白した、と噂だけ流れたら告白しやすくもなるじゃろうて」

「？　どういう事？」

「誰だって赤信号は一人で渡りたくないという事じゃよ」

先生は意味深に笑うと、ちょいちょいと手を引いた。
一緒に科学部に連れて行くのだろう。

鳴海ちゃんは暇してるし楽しそうだから、とホイホイついてきた。
フットワークが軽いのはいいことだ。世の童貞が何人も救われる。

もう少し話すと、鳴海ちゃんは先生の部屋の常連の一人だ。
他にも何人かいるが、カラオケも行かず勉強もせず先生の部屋に入り浸ってる連中だ。
当然一癖も二癖もある。

「ほれ、ついたぞい」

先生は古びたドアを開けた。

乙！

8面体以上のダイス使えばいいだけじゃね

「あ、先生またですか」

「破壊しに来たぞい」

「破壊ですか」

先生と同じように白衣を纏った背の高い青年、原田　大成（ハラダ　タイセイ）。
黒の短髪にメガネの不愛想だが、色々とロボまがいの何かを作っては先生の部屋に持ってきている。

「今日はどうしますか」

「うむ、ドラえもんレベルの奴をつくってやるか」

「先生、ドラえもんは流石にもう何年かかかりますよ」

何年かで出来るの？！
というツッコミは置いておく。

タイセイは以前大臣賞とかたいそうなものを獲ったという噂もある。
侮れない。

「じゃあ爆弾でも作りますか」

「いや、ワシが破壊したいのは学校じゃなく科学部なんでな。爆弾ではない」

「？　では破壊とは？」

「うむ、こんなものを作ろうと思う」

「おや、今回は設計図まで……スコープのようですね……？！　こ、こんなものを作っては！！科学部は崩壊する！！」

「ふふ、無機物透視スコープ……夢が広がるじゃろう」

「ここ、こんなものをここのか弱い童貞たちにばらまくなど……大変なことになるぞ！！あなたの事は尊敬していたが、師弟関係も今日限りだ！！特大空気砲『でんじろう』で返り討ちにしてやる！！」

「フハハハ、そんなちゃちなもんでワシを吹っ飛ばせると思うてか。ほれ、試作品１８業『地球破壊ばくだん』じゃ」

なんか始まった。