勇者「私は、勇者であると同時に」(57)

勇者「勇者の特権に、いつでも好きな時に好きな場所を探索し、見つけたものは自分の持ち物とできることは知っていますね?」

側近「ああ……。」

勇者「私は、勇者であると同時に、トレジャー・ハンターでもあるのです。」

側近「それは耳にしている。」

勇者「だから、あなたの討伐前に、宝物庫を漁ることは、トレジャー・ハンターとしての本能なのですよ。」

側近「……言いたいことはそれだけか?」

勇者「許してください!ほんの出来心だったんです!」

側近「勇者侵入の報を聞いて回ってみれば……。ここはどこか言ってみろ。」

勇者「魔王城の、宝物庫です!ここには最強の装備があると聞いてやってきました!」

側近「何が宝物庫だ!ここは……」

側近「ここはランドリールームだ愚か者め!」

勇者「えっ……だって、こんなに宝物がたくさんあるのに……」

側近「それはわたくしの下着だ!」

勇者「えへへ……」

側近「懐に仕舞った物を全部出せ。」

勇者「えー……。」

側近「えー、じゃない!見知らぬ人間が洗濯物に包まってたら流石のわたくしとて驚くぞ。」

勇者「正直、興奮しました。」

側近「へっ、変態!変態!」

そっきん の こうげき!

ゆうしゃ は すばやく み を かわした!

ゆうしゃ の カウンター こうげき!

そっきん の そうび が ぬすまれた!

側近「わッ!?」

勇者「秘技……燕外し……」

側近「ちょっ……わたくしのベルト!」

勇者「ふふ……。どうです。手も足も出まい。」

側近「パ、パンツが下がっちゃう……」

勇者「説明しよう!」

勇者「この場合のパンツというのは、下着を意味する『おぱんつ』ではなく、残念ながらスラックスのことである!」

側近「ベルトを返せ!」

勇者「ちなみに」

ゆうしゃ の こうげき !

そっきん の そうび が ぬすまれた!

勇者「魔王の側近のおぱんつはこれです。」

勇者「魔王の右腕、なんて職業をやっている割には、白地にレースとリボンだなんて、随分と可愛らしいものをつけていますね。」

側近「ちょっ……わああああ!?」

勇者「ふむ……。」

ゆうしゃ は せいなる かぶと を てにいれた!

そうびしますか?

→はい

側近「やめろ!」

勇者「ふふふ……魔王の側近とあろうものが、こんなところにへたり込んだりして顔真っ赤にして……形無しですね。」

側近「なんでこんなひどいことするんだ!」

勇者「そうそう、しっかり隠してください。でないと大変なところが見えてしまいますからね。」

ゆうしゃ は 流血 した!

ステータス異常:「鼻血」

側近「勇者とは、もっと清く正しく高貴なものではないのか!?」

勇者「勇者とは!他人にできないことをやってのける勇気ある者のことを言います!」

側近「勇気の方向性がおかしい」

勇者「ふっ……ご存知ないのですか?英雄、色を好むという言葉を。」

側近「人間って最低。」

魔王「無事か我が側近よ!」

側近「……魔王様!」

魔王「我が右腕の悲鳴を聞きつけて参じてみれば!」

魔王「側近がマントでしっかり体を覆って座り込み……。」

魔王「人間の小娘が手をわきわきさせながら側近の下着を帽子のように被って対峙している……!」

魔王「…………。」

魔王「……どういう状況だ?」

勇者「どうも、ご説明ありがとう。魔王殿。」

側近「魔王様ぁ!お助けください……」

魔王「……涙目可愛いぞ側近。もう安心するのだ余の配下を苛める人間なんて、余が直々に排除してやろう!」

まおう の こうげき!

ミス!ゆうしゃ は すばやく み を かわした!

魔王「何ッ!?」

勇者「特定の目的の為、素早さだけ特化して上げているのです。そんな遅い攻撃が通用するとお思いですか?」

側近「こんなの絶対おかしいよ!」

勇者「今度はこちらからいきますよ!」

ゆうしゃ の こうげき!

まおう は よけられない!

ミス!なにもおこらなかった!

勇者「そんな……ばかな……」

魔王「膝をついたりして。どうかしたか?矮小な人間よ。」

勇者「穿いてない……だと……!?」

魔王「くくく……驚いているようだな。」

勇者「おかしいと思ったんだ……これだけ探しても、魔王の下着が一枚もないなんて……」

魔王「余は強敵と相対すれば、変身を重ねて大きくなるからな。」

勇者「はっ!?その度に下着が……!」

魔王「そう……千切れてしまうならいっそ穿かない。この決断力こそ、魔王の魔王たる所以よ!」

勇者「そんな……それじゃあ……私の夢は……」

魔王「ここで潰えたな。」

側近「どうしよう……何を言っているか聞こえてるけど理解ができない……」

勇者「それじゃ……私は……何のためにここまできたのか……わからないじゃない……」

側近「いやなんのためだよ我ら魔族討伐のためだよね?」

魔王「ふはははは!絶望するがいい小娘!」

勇者「そんな……こんなことって……」

勇者「あれだけ苦労したのが水の泡じゃない……!」

側近「えっ!?なにこのスクリーンと投影機。」

勇者「あれは、まだ私のレベルも低く、ただただ正義に燃えていた頃のことでした……」

側近「独白始まるの!?今から!?なんなのこの郷愁にかられる音楽!?」

あれは、まだ私のレベルも低く、ただただ正義に燃えていた頃のことでした。
ある山の峠に差し掛かった時のこと、急に浮浪者のような身形の男たちが、私を取り囲んだのです。

ぐへへへへ。有り金全部置いてきな。

男たちは、山賊でした。

ねえちゃん、よく見るとなかなかの上玉じゃねえか。よし、俺たちが可愛がってやろう。

彼らは、魔物ではなく人間でした。
勇者である私は、人間を殺めるわけには参りません。
手加減をして、殺さず生かさず戦力を削ぐ。
今の私には造作もないことですが、当時の私はさっきも言ったように、戦士として非常に未熟だったのです。
力加減を誤って、山賊の一人の命を、奪ってしまいました。
私は呆然と立ち尽くし、激昂した他の山賊たちに、よってたかって襲われ、多勢に無勢。
とうとう命を落としました。

気がつくと、私は、旅立ちを命じた王の前に跪いていました。
王は言いました。

おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない。

そのときです。
私の中でぷつんと何かが壊れ、私の正義というものが、がらがらと音を立てて崩れ落ちたのは。

私が山賊を手にかけて立ち尽くしたのは、人の命を奪ってしまったショックからではありません。
山賊の命が、その身体から抜け落ちるのと同時に、魔物を倒したときと同じ、ファンファーレが鳴り響いたからです。
私の経験値というものが、くるくると回転してそれまでよりも大きな数字に変化したからです。

私は、気づいてしまったのです。
魔物も、人間も、本質的には同じだということを。

また、気づいてしまったのです。
また、魔王を倒す名目さえあれば、勇者は何をしても罪には問われないものだということを。

それから私は、自分の欲望のまま生きることに決めました。

街の外の魔物や盗賊を、狩りたいだけ狩りました。
洞窟や、魔物の住処を荒らし、そこに眠るお宝や、そこに護られるお宝を奪いました。
封印からあらゆる武器を解き放ちました。
欲しいものはすべて、手に入れることにしました。
魔物を倒せば、その革や宝石や、金や銀が手に入りました。
盗賊や、時には欲深いキャラバンを倒せば、食べ物や、薬や、衣服や、その国の通貨が手に入りました。

どの生き物の命を奪っても、ファンファーレは鳴り響きます。
例えしくじって死んでしまっても、ただ王の前に戻るだけです。
くるくるくるくると、経験値を示す数値は上がり続けます。
レベルは上がり続けます。

私は、それまで街や村の外でそれらを行ってきましたが、何度目かの死を迎えた時に、ふと思ってしまいました。
勇者として私は、どこまでの行いが赦されるのだろう。
考えてみれば、私がどの家をどの時間に訪問しても、家人は気にする風でもなく、私が話しかけるまで何の反応も示しません。

私はついに、街の中の家々に忍び込みました。
金貨を奪いました。
薬草を奪いました。
道具を奪いました。
武器を、防具を奪いました。
壺を壊しました。
木箱を壊しました。

誰にも咎められませんでした。

私は、城に、屋敷に忍び込みました。
金の置物を奪いました。
銀の燭台を奪いました。
絹のドレスを奪いました。
宝石を奪いました。
門番の前で、警備隊の前で、兵士の前で行いました。

誰にも咎められませんでした。

私はどんな狼藉を働こうと、許されてしまったのです。
私が、勇者だからという理由だけで。
たったそれだけの理由で、重ねた罪を許されてしまったのです。
私は、愕然としました。
それから、ひどく虚しくなりました。

酒に溺れました。
強い薬に溺れました。
自分から魔物の魅了の術にかかりました。
享楽に、淫犯にふけりました。
そうして、私は日々をただ無為に費やしました。

ある夜のことです。
それはもう、かなり酔って前後不覚に陥って、道端で眠っていた私を、ある青年が家に招き、介抱してくれました。
自暴自棄になっていた私は、いっそ誰かがめちゃくちゃにしてくれないかという願望を持っていましたから、この青年が下心を持っていることを恥ずかしながら期待しておりました。

一週間、彼の家で過ごしました。

不思議なことに、彼は私に一切の手出しをしてきませんでした。
ただ、彼は彼の誠意を持って、単純に私の世話をするだけでした。

ある日、私は居候として、せめてもの家事に協力するため、彼の洗濯の手伝いをしていました。
そして、その中のあるひとつの布切れを手にした瞬間、私の中で目覚めたものがありました。
私は布切れをまじまじと見つめました。
その布切れが、まだ見ぬ彼の神秘を優しく包み込んでいる布切れなのです。
私はその布切れが、大層愛しくなりました。

布切れを抱きしめました。
布切れを顔に当て、深呼吸をしました。
すー、はー。
すー、はー、すー、はー。
すー、すー、すー、すー、はあああああ。
何とも言えない心持ちになり、私は悦に入りました。

すると、向こうで洗濯物を干していた彼がこちらに気付きました。
つかつかつか、と歩み寄り、私を攻撃呪文で吹き飛ばしました。
言い忘れていましたが、彼は、当代一の魔導士でした。
私の手からその布切れを奪うと、私に向かって烈しく罵りました。
羞恥にその頬を赤く染めて。

変態!変態!この痴女ッ!

私はそれを聞いて、大変昂奮しました。
何をしても英雄と讃える者だけではなく、こうしてまともな感性の人間もいる。
私は思いました。もっと罵倒してほしい、と。
この際なので、今までのことを洗い浚いぶちまけました。

彼は、しばし瞑目して私の言葉を聴いていました。
それから私の頭をわしわしとかき回すと、静かな口調で言いました。

この極悪人め。そんな奴をひとり放っておくわけにはいかないな。

そうして、たったひとり旅をしていた私に、初の旅の連れができました。
彼は、私が悪事を働かないよう、叱り飛ばしてくれました。
私が道を誤った時には、攻撃呪文を叩き込んでくれました。
すっかり忘れていた私の存在意義である、魔王討伐の使命を思い出させてくれたのです。
そうやって、今の私があるのです。

側近「えっ?今の流れと貴様がわたくしの下着を被っていることと、何か関係ありました?」

魔王「……小娘、なぜ独りでいるのか訊こう。」

勇者「魔導師は、この中です」

棺桶「……。」

側近「棺桶……あ、そうですよね。魔王城ですものね。犠牲者なしに攻略されてたまるものか。」

勇者「魔王の下着を装備した後で生き返らせて、魔王討伐直前のサプライズを演出しようと思ったのに!」

魔王「無駄な努力だったな!余は一切の下着を身につけぬタイプだ!」

勇者「ぐぬぬ。」

魔王「魔王がなぜ鎧ではなく、ローブで身を包んでいると思っている。」

勇者「はっ!?まさか……!」

魔王「そう!余は裸族よ!自室では常に全裸で過ごしておるわ!」

勇者「そんな……!」

勇者「認めない!認めません!そんな、魔王がローブの下はノーパンどころか全裸だなんて!」

魔王「くくく……畏怖せよー!」

勇者「私の正義のために、剣の錆となれ魔王!そして、無理矢理にでもおぱんつを穿かせてやる!」

魔王「果たしてそううまくいくかな……?」

勇者「いきますよ魔王!」

魔王「かかってこい勇者!」

かんおけ から なぞ のばくはつ!

ゆうしゃ と まおう に 500 の ダメージ!

そっきん の こうげき !

ゆうしゃ と まおう に 700 の ダメージ!

魔王「突然なにをするんだ我が右腕。」

勇者「ひどいじゃないか魔導師。システム無視して攻撃してくるなんて。」

側近「他所でやれ。痴女共。」

棺桶『もっと別のものを賭けて戦え。痴女共。』

魔王「確かに、ここでは狭すぎるな。魔王の間に来い。」

勇者「もっと別のモノを掛ける……////」

側近「」

棺桶「」

側近「ちょっといつまでも死んでないで、あれをどうにかするの手伝ってください。」

魔導師「生き返らせるなよ。せっかく関わり合いにならずに済む状態だったのに。」

側近「わたくしの手には負えません」

魔導師「俺だって無理だ」

側近「知っているのですよ。人間の諺には、あるでしょう。こういう言葉が。」

魔導師「なんだ。」

側近「しなばもろとも」

魔導師「生き返らすなや。」

魔王「存分に闘おうではないか、勇者よ!」

勇者「よーし勇者はりきっちゃうぞー。」

魔王「余が永遠に安寧の時を迎えるには、何物にも拘束されず、自然のままであることのできる世界が必要なのだ。」

勇者「そうやって自分の理想だけで世界を思うままにできると思うのは大間違いですよ!」

魔王「今度こそいくぞ!」

勇者「望むところだ!」

側近「もうやだこの職場。」

魔導師「……。」

魔導師「もーあいつら一緒くたに埋めちゃった方が世のためなんじゃねーかな。」

側近「うん……。」

側近「勇者と魔王の熾烈な戦いは、3年という長きに渡った。」

魔導師「その後、魔族と人間はなんかこう、ぐだぐだのまま和平を締結した。」

側近「それから間もなくして、人間と魔族の間に、大胆なランジェリーと開放的なファッションが流行した理由は」

魔導師「考えたくも、思い出したくもない……」

以上でした。

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