勇者「命を奪えば奪うほど強くなる?」魔法使い「はい」 (366)

勇者「嘘だろ?」

魔法使い「いえいえ、ホントです」

勇者「勇者としてあるまじき能力じゃないか?」

魔法使い「ですねぇ」

勇者「勘弁してくれないか、僕は倒すことは出来ても[ピーーー]ことは出来ないんだよ」

魔法使い「まだそんな甘いことを仰ってるのですか?」

勇者「…」

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勇者「なんで俺だけそんな能力なの?」

魔法使い「まぁ厳密に言えば歴代勇者もこの力を多少なり持っているんですよ」

魔法使い「しかしあなたはその力が強すぎる」

勇者「はぁ」

魔法使い「そしてそれ以外は雑魚、一般人以下のゴミですね」

勇者「つまりぃ?」

魔法使い「早く殺せ」

勇者「ひどいわ」

勇者「…はぁ」

勇者「神の予言だか何だか知らないが」

勇者「俺が勇者っていうのも変な話だよな」

魔法使い「ええ、全く持って変ですね」

魔法使い「あなた如きの人間がこの千年続く魔族との戦いを終わらせることなどできはしないというのに」

勇者「オブラートに包むって出来ない?」

魔法使い「あなたが殺せば包みますよ」

勇者「はぁ…」

勇者「とりあえずどうしようか」

魔法使い「そうですね、とりあえず」

魔法使い「雑魚を狩って強くなりましょう」

勇者「うーむ…」



魔物「シャァァァ!!!」

勇者「おりゃあっ!!」ブンッ!

魔法使い「いけ!そこだ!やれ!」

勇者「うおおおおお!!!!」

魔物「シャァァァ!!!」

勇者「これで、止めだァァ!!!」




勇者「無理、殺せない」

魔法使い「ヘタレ」

勇者「あ、君、帰っていいよ」

魔物「…」バサッ!バサッ!

魔法使い「ああもぅ!何してるんですか!」

魔法使い「殺しなさい!すぐに殺すのです!」

魔法使い「帰ってこい!喉元カッ捌いて血抜きして今夜の食糧にしてやるんだから!」

勇者「はっはっはっ」

魔法使い「何笑ってんです!?」

勇者「そもそもさぁ」

魔法使い「え?」

勇者「基準がわかんないよね、基準が」

魔法使い「基準?」

勇者「命を奪えば強くなれるんだろ?」

勇者「しかも俺はその能力に全振りなんだろ?」

勇者「だったら俺って最強じゃね?さすがの俺でも今までどんな生物の命も奪ってないとは言えないぞ」

魔法使い「…」

勇者「虫や植物位なら俺だって殺してる」

勇者「ずいぶん曖昧だと思わない?」

魔法使い「…」

魔法使い「…それはきっと」

魔法使い「勇者の力というものは心から来ているからでしょうね」

勇者「心?」

魔法使い「あなたは普段食べているものが命だということを理解してますか?」

勇者「…」

魔法使い「人間は誰しも、命の上に成り立っている」

魔法使い「だけれど誰もそれを知らない、いえ、目を背けているのですよ」

魔法使い「だってそうでしょう、そんな事をいちいち考えている暇など私たちにはないのですから」

勇者「つまり奪う命にも差があるのか」

魔法使い「そうですね、その能力を行使するためには」

魔法使い「あなたが「命を奪った」という感覚が必要不可欠なのでしょう」

勇者「…なんだかなー」

魔法使い「期待していますよ、歴代最弱の勇者様?」

勇者「…」

ゆっくり書いていきます

勇者「村についたね」

魔法使い「ですねー」

勇者「なんかこう、都合よく事件でも無いもんか」

魔法使い「そのセリフは勇者失格だと思うんですけど」

勇者「なりたくてなったんじゃないやい」

魔法使い「それにしても静かな街ですね」

勇者「つっても人がいない訳じゃないけど」

魔法使い「そうですね、上品な静けさです」

スタスタ

勇者「なぁ」

魔法使い「はい?」

勇者「勇者って何なんだ?」

魔法使い「これはこれは、愚問と断ずるに些かの考慮も不必要なほど愚かしい質問ですね、死ぬ?」

勇者「死なないわ!」

魔法使い「勇者とは、神の予言に選ばれた魔族との戦いを終焉を導くもののことですよ」

勇者「そんなことは聞いてない」

魔法使い「?」

勇者「だっておかしいだろ?」

勇者「お前は言ったろ、魔族との戦いを終焉を導くものだってさ」

魔法使い「…?ええ」

勇者「だったらそもそも先代勇者なんてものが存在する時点で矛盾してるだろ」

勇者「先代なんてもんが存在するなら終焉を導くものじゃねーじゃん」

魔法使い「…まぁ、確かに」

勇者「何を基準に選ばれてんだ?よりにも寄って歴代最弱とまで呼ばれた平凡な俺を」

魔法使い「…」

魔法使い「そんな事知らないですよ」

勇者「…」

魔法使い「ただ、私たちの目的ははっきりしてる、それだけで良いのです」

勇者「何だかなぁ」

魔法使い「それとも勇者と呼ばれ崇められる今の生活に不満でも?」

勇者「…」

魔法使い「無いのなら、それでいいのです」

魔法使い「案外勇者とは単なるくじ引きなのかも知れませんね」

勇者「…くじ引き、か」

ガシャァァァン!

勇者「な、何だ!?」

魔法使い「静かな街には似合わない騒々しさですね」

勇者「ありゃ、何だ?」

魔法使い「大方酒場で酔っぱらいが暴れているのでしょう」

魔法使い「さ、行きますよ」

勇者「え?」

魔法使い「どのような些細な揉め事も解決する、それもまた勇者の仕事なんですよ」

「てめぇら!俺が誰だか分かってんのか!?」

「こんな安い酒で満足する訳ねぇだろうが!」

店主「…す、すいません…!」

「ああ!?」

勇者「…そ、しょこまでだ!」

魔法使い「締まらない人だなぁ」

勇者「こ、こここここんな高級な酒のなにが気に入らないんだ!?!?」

「…なんだぁ?てめぇ」

勇者「すいません」

魔法使い「おい」

勇者「じゃ、じゃなくて!暴れるのはやめたまえ!」

「…ほう、いい度胸してるな、お前」

勇者(こ、こわい)

「見たところ旅の奴か」

勇者「こ、こんなところで暴れるなんてこのゆ」ドゴッ!

勇者「」

魔法使い「…」

「けっ」

「ったく、力もないのに喧嘩売るんじゃねーよ」

魔法使い「…」

魔法使い「…おい」

「あ?」

魔法使い「…何してんです?」

「…何だ?文句でも…」

ガシッ!

魔法使い「あるんだよ」

「…!」

魔法使い「…あなた、この人が誰だか分かってるですか?」

「…」

魔法使い「…知らない奴が…」

「おいおい、待て待て」

「この貧相なナリした奴はどうでもいいが」

「嬢ちゃん、お前みたいな化物とやり合う気はねぇぞ」

魔法使い「先に手を出したのはあなたです」

魔法使い「殺しますよ」

「…」

「…悪かった、すまねぇな」

魔法使い「…わかれば、良いのです」

酒場を出て

「あんたら、勇者か」

魔法使い「な、なぜそれを!?」

「んー、わかる奴には分かるんだ」

「と言うより、分かんねぇやつにはわかんねぇ」

魔法使い「…?」

「世間一般じゃ勇者なんて神の予言に選ばれただけの人間で、判別する方法なんて無いと思われてるがそうじゃねぇ」

魔法使い「…あなたは…何を…」

「俺はただの酔っ払いさ、今はな」

魔法使い「…」

「それにしても嬢ちゃん、あんたすげぇ化物じみた強さだな」

「見ろよこれ、つかまれた腕がアザになってやがる」

魔法使い「…すいません」

「いや、俺が悪かったのさ、すまねぇな」

「俺の背中で未だ伸びてる奴とは大違いだ」

「反則だぜ、魔力も体力も桁違いだなんてよ」

「こんな奴が勇者だなんて、世も末だな」

魔法使い「そうですか?」

「そりゃそうだ、勇者ってのは知力体力魔力、その他あらゆる全てが人よりも数段抜きん出てないといけねぇ」

「実際はそうでないにしろ、国民はそうあらねばならないと思ってる」

魔法使い「…」

「嬢ちゃんは、どう思う」

魔法使い「…」

魔法使い「…私は…」

魔法使い「…別にこのままでも、良いと思ってます」

「へぇ、そりゃまたなんで?」

魔法使い「いえ、魔族との戦いを終焉を導くという目的は達成せねばならないと思ってますよ」

魔法使い「でも…」

魔法使い「…」

魔法使い「…」

魔法使い「…彼は、優しい」

「…」

魔法使い「その優しさを、否定するような生き方はして欲しくないんです」

「否定?」

「なんでだ?弱気を助け…ってのは優しさにそぐわねぇとでも?」

「何も命を奪えって事じゃねぇ、殺さずして倒して降伏させるって手もあるはずだ」

魔法使い「…いえ、それ以前の問題です」

「…?」

魔法使い「彼じゃ倒せないんですよ」

「…倒せない?」

魔法使い「弱い魔物は倒せても、大魔王はもってのほか、魔王レベルでさえも傷一つつけられない」

魔法使い「とんでもなく、弱いんです」

「…」

魔法使い「命を奪えば奪うほど強くなる」

魔法使い「それが、神の予言」

魔法使い「彼は、魔力が使えないどころか、感知さえできない」

魔法使い「何かの命を奪わない限り、命を奪ったという実感を得ない限り」

魔法使い「…彼が強くなることは無いのです」

魔法使い「皮肉、いえ、残酷ですよね」

魔法使い「彼のような優しい人間が、そのような力を持ってしまうなんて」

魔法使い「命を奪ってしまえば、彼はきっと壊れてしまう」

魔法使い「それくらい、彼は脆く、繊細なんですよ」

「…」

魔法使い「もちろん、殺せと言ったこともありました」

魔法使い「彼の生き方にそぐわないとしても、そんな優しい彼が道半ばで死んでしまう事なんて許せないから」

魔法使い「強くなってくれ、と、言いました」

「…」

魔法使い「でも、無理だった」

魔法使い「はやり何度言っても彼は殺そうとはしなかった」

魔法使い「命を奪うくらいなら、奪われる」

魔法使い「彼はきっとそう思うでしょう」

「…」

魔法使い「だからね」

魔法使い「私が彼を守らねばならないのです」

魔法使い「たった1人の仲間として、たった一本の剣として」

魔法使い「彼がどう決断するかは分かりませんが」

魔法使い「彼が決断するその日まで、私は彼のそばにいようと決めたのです」

「…」

「お熱いねえ」

魔法使い「ち、違いますから!」

魔法使い「そ、そもそもあなたは何なんですか」

魔法使い「神の予言について知ってることは分かります」

魔法使い「でも、このポンコツを一目で勇者と見抜くなんて」

魔法使い「そんなこと、有り得ません!」

「…」

「…」

「勇者ってのは負けたら死ぬ存在だ」

「だけど、死なない奴もいる」

魔法使い「…?」

「魔族から逃げて、神の予言から見放されて、みっともなく生き残った勇者失格のやつもいるってわけだ」

魔法使い「…なるほど」

「元勇者には、勇者がわかる」

「そんだけの話さ」

魔法使い「…あなたは元勇者…と」

元勇者「そうだ」

元勇者「人間側の負け犬、それが俺さ」

魔法使い「…」

元勇者「理由なんて聞くなよ」

元勇者「絶望した」

元勇者「共に生きた仲間が、共に歩んできた仲間が」

元勇者「俺の失敗で、俺の失態で」

元勇者「あるやつは魔族に性玩具にされ、あるやつは手足をもぎ取られた挙句半永遠の命を与えられて」

元勇者「あるやつは、目玉を奪われて自らの爪を埋め込まれ、あるやつは魔族に落とされた」

元勇者「…みんなみんな、俺のせいだ」

魔法使い「…」

元勇者「今でもそいつらが夢の中に出てくる」

元勇者「助けてくれ、どうして見捨てた」

元勇者「殺してやる、殺してやる、殺してやる殺してやるってさ」

元勇者「…勇者なんていいもんじゃねぇ」

元勇者「ただの幸福の先取りだ」

元勇者「あとから、必ず不幸がついてくる」

魔法使い「…」

元勇者「希望は存在するが、絶望も存在する、そして救いは存在しない」

元勇者「それが勇者なんだよ」

魔法使い「…辛かった…ですね」

元勇者「…」

元勇者「…嬢ちゃんたちは、そうなるな」

元勇者「逃げたっていい、負けたっていい」

元勇者「二人揃って生きやがれ」

元勇者「後続は誰かがやってくれるのさ、あんたらが気に負う必要はねぇ」

魔法使い「…」






「そんなわけにはいかないぞ」

元勇者「!」

魔法使い「…勇者」

勇者「今のあんたの話を聞いて俺はなおさら魔族に勝とうと思ったね」

元勇者「…」

元勇者「甘い事言ってんじゃねぇ」

元勇者「殺せもしないクソガキに何がわかる」

勇者「あぁ、殺せないさ、それに俺は相手を屈服させるような実力もない」

勇者「だったらなんだ?諦めて泣き寝入りすればいいのか?」

勇者「違うだろ、やるべきはまず、進むことだ」

元勇者「それが出来ねぇから嬢ちゃんは困ってんじゃねぇのか?」

元勇者「理想を垂れ流すだけで何も出来ないガキが俺は一番嫌いなんだよ」

勇者「昔の自分を思い出すから?」

元勇者「…!」

勇者「俺は弱者だ」

勇者「一人きりじゃ何も出来ない弱者なんだ」

勇者「だったらそれが諦める理由になるのか?」

勇者「ならないね」

勇者「そりゃ最初こそは、なんで俺なんかがって思ったよ」

勇者「でも今は違う、俺が、俺自身が魔族に勝ちたいって思ったんだ」

勇者「魔法使い」

魔法使い「はい?」

勇者「おまえは言ったな、私は剣だと」

魔法使い「ええ、まぁ」

勇者「だったら俺の剣らしく、俺の命令に従えるか?俺が殺すなと命令したら殺さないか?」

魔法使い「あなたが望むのであれば」

勇者「そうだ、俺には仲間がいる」

勇者「弱い俺を支えてくれる仲間がいる」

勇者「それは、俺にとって」

勇者「諦めない理由なんだ」

元勇者「だから!いくらお前がそう言っても!勝てねぇもんは勝てねぇんだよ!」

勇者「うるさい!」

勇者「勝つんだよ!勝って勝って勝ちまくんだよ!」

勇者「あんただってそうだろ!?だからあんな所で暴れてたんじゃないのか!?」

勇者「悔しくて悔しくて、だからあんたはそうなったんだろ!」

元勇者「…お、れは…!」

勇者「1本じゃ足りない!!!」

魔法使い「は?」

勇者「俺みたいな歴代最弱とまで呼ばれたクソ勇者は剣1本じゃ足りないんだ!」

勇者「来いよ、あんた!」

勇者「元勇者だろ?神に見放されたって?違うね、それはあんたが勝手に諦めただけだ」

勇者「諦観して達観して、悲観してただけだ」

勇者「もう仲間が助からなくて、死ぬほど自分を責めたんだろ!」

勇者「だったら贖罪だ!罪を償え!俺のための剣になれ!」

勇者「あんたは俺の二本目の剣だ!!」

勇者「俺に力を貸してください!!」

魔法使い「…」

魔法使い「…なんて言うか」

魔法使い「言ってること無茶苦茶で、凄く頭悪そうでしたよ」

魔法使い「しかもいまあなたおんぶされた状態ですからね」

魔法使い「頭悪さに情けなさが重なってもうなんか自殺をお勧めします」

魔法使い「あ、自殺したら強くなるんじゃないですか?」

勇者「なんてこと言うんだ!」

魔法使い「もう、凄い」

魔法使い「きもい」

勇者「うるさい!」

元勇者「…」

元勇者「…お前、馬鹿か?」

勇者「馬鹿でいい」

元勇者「じゃあアホだ」

勇者「それでも構わない」

元勇者「よりにもよって俺か?1度勇者を諦めた俺なのか?」

勇者「あんたがいい」

勇者「命の尊さを知って、誰かの死を悲しめる」

勇者「あんたがいい」

勇者「…俺に力を貸してください…」

魔法使い「…」

元勇者「…」

元勇者「1つ、条件がある」

勇者「…?」

元勇者「…たとえ、俺が死んでも、嬢ちゃんが死んでも」

元勇者「もしこれから仲間が加わって、その仲間が死んでも」

元勇者「お前は、死ぬな」

勇者「…」

元勇者「絶対に死ぬな」

勇者「…分かった」

元勇者「…」

勇者「これから、よろしく」

元勇者「…おう」

魔法使い「…ふふ」






魔法使い「あ、魔物だ、殺そう」

勇者「おい!?」

勇者「…ねぇ」

魔法使い「…」

元勇者「…」

勇者「…ねぇってば」

魔法使い「…」

元勇者「…」

勇者「ねえええええええ!!!」

魔法使い「うっさい!!!」

勇者「ご、ごめん!」

魔法使い「死ぬほど暑いんだから黙って歩いてください!!!」

勇者「そうだよ!なんでこんな暑いの!?つーかここどこ!?」

元勇者「砂漠だ」

勇者「なんで!?」

魔法使い「あなたほんと何も聴いてないんですね!!死にますか!?」

勇者「なんでいつもに増してイライラしてんの!?」

元勇者「…」

元勇者「…」

元勇者「…はぁ」

ーーーーー


勇者「奴隷市?」

元勇者「そうだ」

勇者「なんでまたそんなところに行くの?」

元勇者「俺の知り合いがいるからだ」

魔法使い「…知り合い?」

元勇者「かなーり遠いがな」

魔法使い「どれくらい遠いんです?」

元勇者「ここから東へ抜けて、砂漠を横断した先だ」

魔法使い「…えぇ…?」

魔法使い「また何のために?」

元勇者「そらもちろん魔族の情報を集めるためにだ」

元勇者「あそこは空気は陰気だがその分価値ある情報が眠ってる」

魔法使い「魔族にまつわる情報も?」

元勇者「…いや、少し違うな」

魔法使い「?」

元勇者「直接聞きに行くんだよ、人間の奴隷となった哀れな魔族にな」

ーーーーー

勇者「あー、そうだった」

魔法使い「ほんともう何も聞いてないんですね、クソカスバカボケゴミ、死ね、死ね、ついでにもういっぺん死んでカラスの餌になれ」

勇者「…」

元勇者「やめとけ、女ってのは気分屋なんだ」

勇者「…ひどいよぉ…」

元勇者「あぁなったらもう触らぬ神に祟りなしだ」

魔法使い「聞こえてますよ、次は全身アザだらけにしましょうか」

元勇者「…」

勇者「…」

魔法使い「あー!熱くてイライラする!」






魔法使い「やっと着きましたねっ♪」

勇者「女って怖い…」

元勇者「な」

魔法使い「何グズグズしてるんですか?さっそく情報を集めましょう」

元勇者「あいつって基本口悪いよな」

勇者「多分普通にSなんだよ」

魔法使い「おい」

「「はい」」

勇者「…」

元勇者「…いつ来ても胸糞悪い場所だな」

「安いよー!今ならこの魔物金貨3枚だ!」

「ぼったくりだろー!きちんと泣けんのかー!?そいつは!?」

「ははっ!」バチバチバチッ!!

魔物「…ぎぃぃぃぃ…っ!」

元勇者「…俺の仲間が酷い目に遭わされたって言ってたけど」

元勇者「人間も、やってる事なんて何一つ変わりゃしねぇ」

魔法使い「…」

元勇者「違うのは立場だけ、なのさ」

元勇者「…」

勇者「…」ギリ

元勇者「…おい」

元勇者「こういうもんを、真っ直ぐみんな」

元勇者「…お前が、当てられちまう」

勇者「…うん」

魔法使い「…」

元勇者「よう」

商人「おーう!旦那!」

商人「やっと買ってくれるのかい!?」

元勇者「だから俺は奴隷に興味なんてねぇんだ」

商人「へへ、そうだろうな」

商人「んで、今日は何の用だ?」

元勇者「…魔族の奴隷を探してる」

元勇者「少し話が聞きたくてな」

商人「ほー、旦那にしては珍しいな」

商人「普段なら払ってもらう所だが仕方ねぇ、旦那相手ならタダにしてやるよ」

元勇者「助かる」

「ちなみに今売れ行きなのがこのエルフ族で…」

「興味無いって言ってんだろ」




勇者「…」

魔法使い「ゆ、勇者さん」

勇者「…ん?」

魔法使い「だ、大丈夫ですか?」

勇者「…うん」

勇者「…一応は、こういう世界があるって知ってるから」

魔法使い「…」

魔法使い「み、見に行きましょう!」

魔法使い「さっきそこで露店を見つけたんです!」

勇者「…そうだな」

魔法使い「ええ!」




ガヤガヤ


勇者「…どこもかしこも、胸糞悪い」

魔法使い「…そうですね」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

勇者「…!」

「さぁ!世にも珍しい再生型の魔族だよ!」

「いっ…!痛い…っ!よぉお…!」

「さ!お客様の中でこの魔族の力を試したいと思う人はー!?」

「お!そこの君!元気いいねー!!」

奴隷「嫌だっ!嫌だっ!!!やめて!やめて…!!!」

「どこを狙ってもいいの?」

「頭以外ならね」

「おりゃっ!」

奴隷「いやぁぁぁぁっ…!!」

「耳かぁ!なるほど」

「おおっ!すげぇ!本当に生えてきた!」

奴隷「…やめて…!やめて…っ!」

「はっはっはっ!耳が生えてくるなんてこれまた不思議な化物だ!」

奴隷「…うぅ…えぐっ…!えっ…!」

「さて、他に試したい人は?」

「はいはい!」

「よし!どうぞ!」

「おらっ!」ゾブッ!

奴隷「…あっ…!ぐっ…ぇぇ…!」

「お、お客さん!喉は再生に時間がかかるから…!」

「あっ、そうなの?」

奴隷「…ごぽっ…えぇええっ…!」

魔法使い「…ひどい…」

魔法使い「ゆ、勇…」

勇者「…」

勇者「…」

勇者「…」ギリッ!!!

「さ、こいつの能力が分かったところで」

「お馴染みの競りと参りましょう!」

「寿命は百年とも二百年とも言われるこの魔族!」

「姿形からしてまだ幼い子供、人間にしておよそ10歳でしょうか!」

「長い間楽しめますぞ!さぁ!」

奴隷「…ぁ、あう…っ…!」

勇者「…」

奴隷「…っ…」

奴隷「…す、…」

奴隷「…け…て…」



た  す  け  て



勇者「…」

50!
      70!  75!

83!  89!  
      
         100!  101!


 200!!


「200が出ました!」

「さぁ、他には…!」

勇者「…」スッ

「おっ?そこのお方!」

勇者「…魔法使い」

魔法使い「何ですか?」

勇者「すまん」

魔法使い「いえいえ♪」






ガシャァァァン!!!!!







魔法使い「むしろここで暴れないのなら、あなたではありませんから」


「お、お客さん!?」

勇者「このっ…!外道が!」ゴッ!

「あぐっ!」

勇者「魔法使い、縄を」

魔法使い「はい」

「ど、奴隷泥棒だ!」

「奴隷泥棒だぞ!!」

勇者「黙らっしゃい!」

勇者「泥棒で結構!」

勇者「魔法使い!!」

魔法使い「私ばっかり!」スゥッ

「…え?」

「…き、消えた…!?」

商人「どうだった?」

元勇者「あぁ、なかなかいい話が聞けた」

元勇者「待ってる奴らもいるし、そろそろ…」

ドドドドド!

商人「…ん?」

勇者「逃げるぞ!元勇者!」

元勇者「えっちょま」

魔法使い「きゃっほー!!」

勇者「なんかキャラ変わってない!?」

魔法使い「些細なことです!」

元勇者「で、耐えきれなくて盗んできたと」

勇者「うん」

魔法使い「はい」

元勇者「この、馬鹿ども」

元勇者「お前らよりにもよって奴隷を盗むなんて…!」

勇者「…そんなにいけないことなのか?」

元勇者「…」

元勇者「…はぁ」

元勇者「お前な、この奴隷だけ盗んでどうすんだ?」

勇者「え?」

元勇者「お前がこいつを助けたことによって、こいつがいたあの位置には他の誰かが座る」

元勇者「きっと、腹いせでこいつ以上に痛めつけられる」

元勇者「しかも再生能力なんてもんを持ってる奴も稀有だ」

元勇者「次の奴は、殺されちまうかもしれねぇぞ」

勇者「…あ…」

元勇者「ったく、バカが」

元勇者「こいつも、ひどく痛めつけられはするが、死ぬことは無かった」

元勇者「だが次の奴はそうもいかないんだよ」

勇者「…ごめん」

魔法使い「…彼の行動は、褒められこそすれ責められるものじゃありませんわ」

元勇者「そんなことは分かってる」

元勇者「ただ、後先考えずに行動すんなって言ってんだよ」

魔法使い「…」

元勇者「…おい、お前」

奴隷「…!」ビクッ

元勇者「次の奴隷市はいつだ?」

奴隷「…あ…ぅ…」

元勇者「聞こえてないのか?」

魔法使い「違いますから、あなたの顔が怖いんですよ」

元勇者「…」

魔法使い「ね?可愛らしい魔族ちゃん」

魔法使い「次は、いつ開かれるのかな?」

奴隷「…えと、その…あぅ…」

魔法使い「…」

元勇者「お前の顔が怖いんだよ」

魔法使い「殺しますよ」

勇者「なんで次の開催日を聞くんだ?」

元勇者「お前と同じことだよ」

勇者「…?」

元勇者「俺はあの場所が気に食わねぇんだ、機会があればいつかぶっ壊してやろうと思ってたくらいだ」

勇者「…」

元勇者「おい、教えろ」

元勇者「お前と、お前の仲間を助けてやる」

元勇者「少なくとも、あそこにいた奴隷は全員誰にも買わせないから、答えてくれ」

奴隷「…」

奴隷「…んと?」

奴隷「ほんとに、助けてくれるの?」

奴隷「…ほんとに、私たちを…」

奴隷「…助けて、くれるの?」

元勇者「…」

魔法使い「…」

勇者「勿論だ」

奴隷「…」

奴隷「…うっ…え…」

勇者「俺に、君達を助けさせてよ」

奴隷「…う、えええええ…!」

奴隷「…ええぇぇえええええん…!!」




勇者「疲れて寝ちゃったね」

魔法使い「ですね」

魔法使い「後悔しますか?」

勇者「は?」

魔法使い「ですから、私たちの目的とそぐわない行動をとる結果となって」

魔法使い「後悔しますか?」

勇者「いや、しないよ」

魔法使い「…」

魔法使い「相手は敵である魔族ですよ?」

勇者「…それって俺を試してるの?」

勇者「あの時協力してくれた君が今更そんな事言う?」

魔法使い「…ですよね」

勇者「…この子は魔族である前に、生き物だ」

魔法使い「…生き物…」

勇者「目の前の命を蔑ろにしてまで、目的だけを果たそうとする人を、君は勇者と認めるかい?」

魔法使い「…」

勇者「俺の目的は、平和な世界だ」

勇者「みんなが分け隔てなく平和で生きていける世界だ」

勇者「魔族も人間も関係なく共存できる、世界なんだ」

魔法使い「…」

魔法使い「…そんな貴方だからこそ、私は付いていくって決めたんです」ボソッ

勇者「え?」

魔法使い「死ね」

勇者「はぁぁぁっ!?」

奴隷「…ん」

勇者「…あ、起きた?」

奴隷「…」ビクッ

勇者「はっはっはっ、怖がらないでよ」

奴隷「…お」

勇者「お?」

奴隷「…お兄ちゃんは…どうして、助けてくれるの?」

勇者「?」

奴隷「…だって…私は…魔族だよ?」

勇者「魔族って言うのは、助けてはいけない理由になるのかい?」

奴隷「…だ、だって…!」

奴隷「…み、皆私を…蔑んだ…!」

奴隷「赤い目だから…!角があるから…!不気味な…手足だから…!」

勇者「…」

奴隷「私は…!あなた達と違う姿だから…奴隷にされたんでしょ!?」

勇者「…そうかもね」

奴隷「…お母さんも…殺された、お父さんは、どこかに売られた…」

奴隷「お姉ちゃんは、私をかばって死んじゃった…!」

奴隷「魔族って…!生きていちゃいけないんでしょ!?」

勇者「…」

勇者「…」

奴隷「…えぐっ…ひっく…」

勇者「君はね」

奴隷「…?」ポロポロ

勇者「生きていて、良い」

勇者「君に、生きていて、欲しい」

奴隷「…!」

勇者「確かに君を取り巻く環境は君に優しくなかったかもしれない」

勇者「僕らを恨むのも、仕方がないかもしれない」

奴隷「…」

勇者「僕には何も出来ない」

勇者「力もないし、覚悟もない」

勇者「だけど、君にだけは、生きていて欲しい」

勇者「叶うならば、人を恨むことなく、幸せになって欲しい」

奴隷「…!!」

奴隷「私は、幸せになっていいの!?」

勇者「うん」

勇者「幸せに、なって下さい」

奴隷「…えぇ…えええぇ…!!」ポロポロ

魔法使い「…」

勇者「あれ?」スタスタ

魔法使い「こんなところで何してるんです?」

勇者「いや、特には」

魔法使い「あれも勇者の、いえ、あなたの役目ですか」

勇者「そうかもね」

魔法使い「…」

勇者「俺は、誰にも不幸になって欲しくない」

魔法使い「へえ、素晴らしいことです」

魔法使い「あと、僕はキモイですよ」

勇者「なんでそんな事言うの?」

元勇者「準備はいいか?」

勇者「もちろん」

魔法使い「ちょっと待って下さい」

元勇者「ん?」

魔法使い「髪の毛にクセついちゃって」ワサワサ

勇者「そんなの後でいいでしょ」

魔法使い「デリカシーの無い人ですよね、ははは」

勇者「乾いた笑いを出すな」

元勇者「よし、いくぞ」

勇者「そう言えばさ」ヒソヒソコソコソ

魔法使い「え?」ヒソヒソコソコソ

勇者「この奴隷たちってどこから連れてくるんだろうね?」

魔法使い「さぁ、知りませんよ、大方境界線の近くでしょう」

勇者「境界線?」

魔法使い「説明はしませんよ」

勇者「えぇ…」

魔法使い「魔界と人界の境界線ですよ」

勇者「あぁ」

元勇者「俺はやることがある」

元勇者「お前達は奴隷の縄をきって逃がしてやってくれ」

勇者「了解」

魔法使い「もうあの人が勇者でいいんじゃないですか?」

魔法使い「早いところ勇者返上した方がいいですよ」

勇者「ひどい」





ブツッ

奴隷「ひゃ…!」

勇者「シッ!」パシッ!

奴隷「…!」ガタガタガタ…!

勇者「…」

勇者(…ひどいな、すごく怯えてる)

勇者(…それに、この臭いは…)

魔法使い「こんな年端もいかない子供で性欲解消なんて最低の部類ですね」

魔法使い「あちこち嫌な臭いがこびり付いてます」

魔法使い「きっと少し前まで、遊んでた、いえ、品定めしてたんでしょうね」

勇者「…人間、魔族、見境なしか…」

奴隷「…!」フルフル

奴隷「…ん…ぐぅ…!」ポロポロ

勇者「大丈夫」

奴隷「…!」

勇者「助けに来たよ、だから」

勇者「声は出さないで」

奴隷「…ん…」コクコク

勇者「魔法使い」

魔法使い「はい?」

勇者「早いところ、奴隷たちを起こして逃がしてしまおう」

勇者「こんなところに、居たくないよ」

魔法使い「…えぇ」

勇者「…6人か…」

魔法使い「ここにはこの人達以外見当たりません」

勇者「…よし」

勇者「君達、近くに森があるからそこまで音を建てずに逃げてくれ」

勇者「絶対に立てないでね」

奴隷「…」

奴隷「…私達を、どうするつもりですか?」

勇者「…どうする?」

奴隷「…いや、嫌よ…!」

「…また、私達をどこかに売られるの?」

「もう、嫌だよ」

「慣れるのに、時間がかかるのに」

「…次はどんな事を…」

勇者「…」

奴隷「ねぇ」

奴隷「…何でも、するから」

奴隷「必要なら、私が何でもするから」

奴隷「…だから、もう」

奴隷「…彼女達で、遊ばないでください」

勇者「…っ!!!」

勇者「…そんなこと、するもんか…!」ギュッ!

奴隷「…あ」

勇者「君たちを、傷付けたりするもんか」

勇者「大丈夫、大丈夫だから」

勇者「君達はこれから、自由な人生を歩むんだ」

勇者「誰にも邪魔されずに、好きな人と一生を過ごすんだ」

奴隷「…あ…!」

勇者「走れ、そして」

勇者「生きて」

奴隷「…!」コクッ!

魔法使い「…」

魔法使い「…情に厚すぎるのも考えものだと思いますが」

勇者「…厚くなんてない」

魔法使い「…誰にでも優しくするのは、やめて下さいね」

勇者「…っ」

勇者「彼女達を見て…!そんなことが言えるのかよ!」

魔法使い「…彼女達じゃない」

魔法使い「…あなたのその優しさは、万死に値するような外道にさえ、通用してしまいそうだから」

魔法使い「…それが、怖いんです」

勇者「…」

   




勇者「よし、これで全員か」

魔法使い「全部で25人くらいですか」

勇者「小さい子供とかも混じっていたけど、大丈夫かな」

魔法使い「そこは同じ境遇の者同士、助け合うでしょう」

勇者「…だといいね」

魔法使い「それにしても元勇者さんは何をしてるんですかね」

勇者「…そう言えば…」

魔法使い「全く」

勇者「…」

勇者「森の方に行ってみよう」

魔法使い「え?」

勇者「彼女達がきちんと逃げ出せたか不安だし」

魔法使い「…夜ですよ?大丈夫ですって」

勇者「いいから、ほら、行くぞ」

魔法使い「…むぅ」




元勇者「…ってことだな」

商人「あちゃー」

元勇者「すまないな、ユダのような役割を押し付けて」

商人「いやいやいいって」

商人「それにしても、あのひ弱な少年が勇者ねぇ」

元勇者「…俺を、恨むか?」

商人「いーや」

商人「俺もいつか、この商売は辞めようと思ってたところさ」

商人「だけどやめたらやめたでおまんま食いっぱぐれちまう」

商人「だけどまぁ、いい機会だ」

商人「派手にやっちゃってよ」

商人「ここにいる奴隷商人が、2度とこんな商売をしないと思うくらい、派手にさ」

商人「今頃皆街の方で朝まで飲んでるだろうさ」

元勇者「…助かる」

勇者「…っ」

魔法使い「…」

魔法使い「見ない方がいいですよ」

魔法使い「…こんなの、惨すぎますから」

勇者「…」

魔法使い「罠、だったんでしょうね」

勇者「…こんなの…」

魔法使い「きっと奴隷達をエサに私達をおびき寄せる罠だったんです」

魔法使い「…ほら」

「よしよし、君たちのおかげで勇者をおびき出せたよ」

奴隷「…ぐぅ…!あぁぁ…!」

「ひひひ、ゴミ共よりも勇者の方が価値がある」

「…ひひひ」ゾプッ!

奴隷「…あっ…」ドサッ

勇者(…弄ばれた死体)

勇者(ある人は、目をくり抜かれて、ある人達は抱き合った状態で互いに噛み付きあって)

勇者(俺には、その時の状況が分からない)

勇者(あまりに混沌としすぎてて)

勇者(俺には、分からない)

「なぁ、知ってるか?」

「勇者の体には、どうして価値があるのか」

勇者「…」

「お前の体には、神の加護がかかってるんだ」



「だからお前ら勇者は、勇者であるときだけに限り、病に侵されない」

「回復も早い、軽いケガなら1日二日で治る」

「どこのバカが勘違いしたのか、お前ら勇者の体を万能の薬だと思ってる奴らもいる」

「高く、売れるのさぁ」

「こいつらが正真正銘ゴミだと思うくらいの金額でね」ゲシッ

勇者「…」

魔法使い「…」





店主「いや、だから来てないってば」

元勇者「そんな筈がない!本当にこいつらに見覚えが無いのか!?」

店主「どこのどいつがうちの店の名前を出したか知らねぇけど」

店主「うちにはこんな顔の客達、来てないよ」

元勇者「…くそっ!」

元勇者「…はめられた…!」

元勇者「…あいつも、仲間だったか…!」

勇者「…お前…っ!」

勇者「お前ええぇ…!」ダッ

「馬鹿だな、お前らも」

「勇者ってのがただ、ちやほやされるだけの地位だと思ってたのか?」

「とどのつまり勇者ってのは嫌な事を押し付けられただけの人間だろ」

「そりゃ、楽しい時もあるだろうな、だけどな」

「俺達はそんなお前らが、大嫌いでね」ドォン!

勇者「あっ…!ぐぅ…!!」ドサッ

魔法使い「勇者様!?」

「何、人様のために頑張ってんの?って感じなんだよ」

「お前、それほどできた人間か?」

魔法使い「黙れええええ!!」

「おっと、近づくな」ドォン!

魔法使い「ぐっ…!」

「化物じみた魔力だな、お前とやり合うつもりは無いぞ、そこでせいぜい痺れとけ」

魔法使い(体が…動かな…!)

「痺れ毒だ、朝までそうしてろ」

魔法使い「ぐ…!」

「安心しろよ、俺以外に人はいねぇ」

「勇者っつーもんが手に入ったんだ、独り占めしないと損だろ?」

魔法使い「仲、間を…?」

「仲間じゃねーよ、勘違いすんな」

「ただの、同業者さ」ドォン!

勇者「…ぐぁぁぁああああああ!!!」

「こっちは痺れねぇだろ?ただの銃だからな、だけどお前の命くらいなら」

「奪えるぞ?」ドォン!ドォン!ドォン!

魔法使い「勇者様あああ!!!!」

「…気絶したか」

「なるほど、一発で息の根を止めない限りどんどん再生しちまうな」

「つくづく厄介だな、神の加護ってのは」

魔法使い「…す」

「ん?」

魔法使い「…殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」

魔法使い「ぶっ殺す…殺してやる…殺してやる…!!!」

「ははは」

「うるせぇよ」ドォン!

魔法使い「あぐ…!」

「どうだ」

「お前ら今までいい気分だったんだろ?」

「勇者ってだけで、その仲間ってだけでいい思いしてたんだろ?」

「気分はどうだ?」

「辛くもなかった旅は、ここでおしまいだ」

魔法使い「…」

魔法使い(…辛くなかった…)

魔法使い(…わけがない…!)

魔法使い(彼は、誰よりも、優しくて)

魔法使い(誰よりも、脆いから)

魔法使い(…だから、人よりも傷ついたはずなんだ…)

魔法使い(…知った口を…!聞くなよ、外道が!!!)

「おー、こえぇ」

「なんつー目をしてやがる」

魔法使い「…ぐぅぅ…!」

「…まだ、動けんのか」

「だけどそれも時間の問題だ」

「痺れ毒だってな、立派な毒なんだぜ、さぁ、いつ回りきって死ぬかな?」

魔法使い「…ぐぅぅぅ…!」

「ははは、足掻いて見せろよ、英雄」

魔法使い「…吹きとべ…!」ズォォッ

ドゴォン!

「どこ狙ってんだ?」

魔法使い「…く、そ」

ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!

「おいおい、いいのか?朝までの寿命がどんどん短くなるぞ?」

魔法使い「…くそ、死ね…死ね…死ね!」

「はっは」

魔法使い「…ぐ」ドサッ

「馬鹿だな、自分で寿命を縮めやがった」

魔法使い「…」

魔法使い「…」

「…死んだか?」

「ひひひ、化物じみた強さも、毒と銃にゃ叶わねぇ」





魔法使い「…」

魔法使い(…地形を削って道を作った)

魔法使い(…大きな音も出して、合図もした)

魔法使い(…間に合ってください…!)

「ひひひ、こいつを売れば人生三回分位は遊んで暮らせるかもなぁ」

「…ひひひ」

「…そしたら」

「…それくらいの、金があればきっと治せるよなぁ」

「ひひひひひ」

パシュッ!

元勇者「いいや、それは叶わねぇ」

「…あ?」グラッ

「…ぐ…」ドサッ

「…あれ?嘘だろ?」

「…死んじまう…死んじまう、のか…?」

元勇者「そうだ、お前は死ぬ」

「…」

「…そう、か」

元勇者「…」

「…す、ま…ん…」

「…おか…」

元勇者「…」

元勇者「…誰がなんといおうと、お前は悪党だ」

元勇者「どんな理由があろうとも、お前は悪党だ」

元勇者「潔く、死ね」

「…」

「…」

「…」






商人「いやぁ、バレちまったか」

元勇者「…信じていたがな」

商人「あの3人の中で一番鼻が聞くのは旦那だからな」

商人「遠ざけてるうちにっていう寸法だったんだけどね」

元勇者「…」

商人「おいおい、何を躊躇ってる?」

元勇者「…」

商人「俺は悪党だぞ」

商人「あんたが殺したあいつも、俺にも莫大な金が必要だった」

商人「そのためにあいつは壊れちまって、俺はあんたを裏切った」

商人「だけど、だからといって俺達のしてきたことは変わらない」

商人「…」

元勇者「…」

商人「そうか」

商人「確かにこれ以上、旦那に強いるのは酷だ」

商人「俺は、俺で、死ぬとしよう」

商人「どうせあの女の子にバレたら生きてはいけないだろうしな」

元勇者「…そうしてくれると、助かる」

商人「旦那」

商人「…俺は、悪党だが」

商人「旦那のことは、好きだったよ」ゾプッ

元勇者「…」

元勇者「…悪…」

元勇者「…悪って…何なんだ…」




魔法使い「…」

魔法使い「…ん…」

魔法使い「…はっ!?」

魔法使い「…」

魔法使い「…生きてる…?」

魔法使い「…ゆ、勇者様…勇者様は…?」

元勇者「大人しく寝とけ、お前の方が重症だ」

魔法使い「…!」

魔法使い「…どこに行ってたんですか」

元勇者「…」

元勇者「…お前の魔法がないとヤバかったな、遅くなって、すまん」

魔法使い「…」

元勇者「…」

魔法使い「…勇者様は?」

元勇者「見事に凹んでる」

元勇者「しばらくは話しかけない方がいいぞ」

魔法使い「…」

勇者「…」

勇者「…」

勇者「…」

魔法使い「…勇者…様…」

勇者「…起きたのか、魔法使い」

魔法使い「…そんな所にいると、体に触りますよ」

勇者「俺は勇者だ、体に触るなんてことないんだよ」

魔法使い「…」

勇者「…」ガァン!!

魔法使い「…!」ビクッ

勇者「何が勇者だ」ガァン!!

勇者「ひとっつも、救えてないじゃないか…!」ガァン!!

魔法使い「勇者様!手が…!」

勇者「…こんなもの、治る」

勇者「…治るんだよ!」ガァン!!

魔法使い「…」

勇者「…だけど、あの人達は、治らない…!」ガァン!!ガァン!!

勇者「…ダメだ」

勇者「俺は多分、こんなんじゃ、ダメだ」

魔法使い「…」

勇者「…強くなりたい」

勇者「…優しさを貫けるくらい、強くなりたい」

魔法使い「…」

魔法使い(…でも、それは)

魔法使い(…矛盾してしまう)

魔法使い(人を殺してしまったら、あなたはきっと、耐えられないから)

勇者「…くそっ!」

奴隷「…あ」

魔法使い「…あ」

勇者「…!」

奴隷「…お、おはようございます」

勇者「…」

勇者「…ごめん」

勇者「君の仲間を、救えなかった」

奴隷「…え?」

勇者「…皆、死んでしまった」

奴隷「…」

奴隷「…でも」

奴隷「…私を救って、くれました」

勇者「…!!」

魔法使い「…」

魔法使い「あなたが、人を殺さなかったがために、死んだ人たちがいた」

魔法使い「そして、救われた人もいた」

勇者「…く…」

魔法使い「貫いてください」

魔法使い「弱きままで構わない、強くなくてもいい」

魔法使い「あなたが思う道を、突き進んで」

魔法使い「私が今度こそ、あなたを助けます」

勇者「…」ポロポロ

勇者「…ありがとう…!」ポロポロ

魔法使い(人を殺さずに、無力化すると言うことが)

魔法使い(人を、倒すということが)

魔法使い(人を救うという事が、どれほど難しいかが、分かった)

魔法使い(今回のことは、勇者様が貫くものが分かった)

魔法使い(道の険しさも、分かった)

魔法使い(ただ、救えるものもある)



勇者「…怪我は治った?」

奴隷「お陰様で、です!」

勇者「…良かった」


魔法使い「…」

魔法使い「何デレデレしてんです?」

勇者「…し、してないし!」ズビッ

魔法使い「あぁ、なるほど、ロリコンですか」

勇者「違うわ!違う!断じて違う!」

奴隷「だ、大丈夫です…な、慣れてますから…!」

勇者「何に?慣れちゃダメな奴だよねそれ!」

魔法使い「ニヤニヤヘラヘラデレデレしないでくださいよ、吹き飛ばしますよ」

勇者「だからしてないっつの!」

元勇者「…」

元勇者「…はぁ…」

元勇者「嬢ちゃん、その子に礼を言っとくんだぞ」

魔法使い「え?」

元勇者「ほら、お前達が助けた時、その子は見世物にされてただろ」

奴隷「…」ビクッ

元勇者「…あー、すまん」

元勇者「まぁ、とにかく、その子の再生魔法でお前は助かったんだ」

魔法使い「…そうだったんですか」

奴隷「…」

魔法使い「…」

魔法使い「…す、すごい魔法ですね」

奴隷「…い、いえ…!」

勇者「人見知りか」

魔法使い「ロリコン」

勇者「違う!」

ゆっくり書いていきます

元勇者「ほら、お前ら、言い合いはそこまでだ」

魔法使い「役立たずさん…」

元勇者「ふざけんな、死ぬほど役に立っただろうが」

勇者「そういえば、魔族達から情報を聞いてきたって言ってたな」

元勇者「あぁ、そうだ」

魔法使い「…じゃあ」

元勇者「いや、まだ行かない」

勇者「え?」

元勇者「お前ら疲れてるだろ」

元勇者「息抜きでもしてこい」

勇者「…はぁ?」

魔法使い「本気で言ってるんですか?」

元勇者「本気だよ」

勇者「アホか、俺達は一刻も早く魔族達を…」

元勇者「ちげーよ、体を休めてこいって言ってんだ」

勇者「…そんなことしてる間にも、沢山の人が…」

元勇者「バカが」

元勇者「おまえが疲れ果てて信じ待ったらそれこそおしまいなんだよ」

勇者「…」

元勇者「いいから街にでも出て買い物でもしてこいよ」

元勇者「…お前は確かに勇者だが」

元勇者「…それ以前に、ガキなんだよ」

勇者「…」

魔法使い「…行きましょう、勇者様」

勇者「…あぁ」

元勇者「ほら、お前も行ってこい」

奴隷「…あ、ぅ…でも…」

元勇者「…あぁ、ほら」ジャラ

奴隷「…!こ、こんなもの…」

元勇者「行け」

奴隷「…!」タタタッ

元勇者「…」

勇者「…」

魔法使い「…彼なりに、気を使ったんでしょうか」

勇者「…かもね」

魔法使い「…やっぱり、彼の年からすると私たちはまだまだ子供」

魔法使い「きっと許せないんでしょう」

魔法使い「戦いを終わらせることの出来なくて、子供たちに戦いを強いらなくてはならない、己の不甲斐なさが」

奴隷「…あ」タタタッ

勇者「あれ?どうしたの?」

奴隷「…お、おじちゃんが…お前も行けって…」

勇者「…」

魔法使い「…」

奴隷「…あ、ぅ…」

勇者「よし、行こっか」ニコッ

奴隷「…!」

>>139
魔法使い「戦いをおわらせること「が」出来なくて」

勇者「あ、ちょっと待っててくれ」

魔法使い「え?」

勇者「うんこいってくる」

魔法使い「死ね」ガン!

勇者「蹴るなよぉ!」





魔法使い「…」

奴隷「…」

魔法使い(…参ったなー)

魔法使い(あんまり子供の扱いは得意じゃないんだけどな)

奴隷「…お」

魔法使い「ん?」

奴隷「…お兄ちゃんは、優しいね」

魔法使い「…そうですね」

奴隷「…」

奴隷「…こんな奴隷の私にも、良くしてくれた」

奴隷「…もちろん、お姉ちゃんも、おじちゃんも」

奴隷「…」

奴隷「…」ポロポロ

魔法使い「あっ、あれ?え、えと…」

奴隷「…生きてていいって、言われた時に」

奴隷「…凄く心が軽くなったの」

奴隷「私はずっと、要らないって言われてたから」

魔法使い「…?」

奴隷「…私はね、家族が大好きだったけど」

奴隷「…お母さん達は、私のことが嫌いだったの…」

魔法使い「…!」

奴隷「…うぇ…!ひっく…」

奴隷「…だ、だから…奴隷になった時に、あぁ、これはっ…当たり前の事なんだって…思ったの…!」

奴隷「…要らない私が生きていく為には、誰かの道具になるしかないんだって…!」

魔法使い「…私は、化物だから…!」ポロポロ 

魔法使い「…」

魔法使い「…そうだね」

魔法使い「…確かに、人間から見たら、化物かもね」

奴隷「…」

魔法使い「…でもね」

魔法使い「彼は、人間でないとか、化物だとか」

魔法使い「そんな小さな枠で、私たちを捉えないよ」

奴隷「…」

魔法使い「…あなたは、もう奴隷じゃない」

魔法使い「…私を助けてくれたでしょ?」

魔法使い「…化物だとしても」

魔法使い「あなたは、「何かを守れる、化け物だ」」

奴隷「…!」

魔法使い「ふふ、誇りなさい、何かを守れる力を生まれ持った、己自身を」

奴隷「…うん…!うん…!」

魔法使い「…精霊、でしょ?」

奴隷「…え?」

魔法使い「再生魔法を使える魔族は精霊とグールだけだよ」

魔法使い「あなたは見た目的に精霊ね」

奴隷「…分かんない、お母さんは精霊だったけれど、お父さんは違ったから」

魔法使い「ううん、あなたはこれから精霊よ」

魔法使い「誰かのために力を使える誇り高い種族よ」

魔法使い「もう、奴隷じゃない」

魔法使い「いいわね?」

「…」

精霊「うん、分かった…!」ニコッ

精霊「…ちゃんは…」

精霊「…お兄ちゃんは、精霊の事も、好きになってくれるかな…?」

魔法使い「…!?」

精霊「…ダメだよね、やっぱり、見た目が違うし」

魔法使い「い、いや、どうかなぁー?」

魔法使い「大丈夫だよーん!?」

精霊「…?」

精霊「…お姉ちゃん?」

魔法使い「…こほん」

魔法使い「…ふふ、そうかぁ」

魔法使い「私とあなたは、同類だね、そしてライバルだ」

精霊「…ええ?」

勇者「ごめん、遅くなった」

勇者「めちゃくちゃキレが悪くてさ」

魔法使い「さいっていですね!」ガン!

勇者「ぐぁぁ!!」

精霊「…お兄ちゃん…」

勇者「…ん?どうした?」

精霊「…私、精霊、です…!」

勇者「…?」

精霊「…誰かを、守れる魔法が使えます…!きっと、みんなの役に立てます…!」

精霊「…だから…!私は…!…私を…!」

勇者「うん」

勇者「これから、よろしく、精霊ちゃん」

精霊「…!」パァァァァ






魔法使い「ロリコン」ガン!ガン!ガン!

勇者「ぐぁぁぁぁあ!!!なんか当たりが強くない!?」

ここまで
十一月頭から10日まで更新が止まるかもしれない

ガタン

元勇者「…おう」

元勇者「…気は、晴れたか?」

勇者「ああ」

魔法使い「はい!」

精霊「…ん…!」

元勇者「…そうか」

元勇者「…なぁ、勇者」

勇者「ん?」

元勇者「…」

元勇者「お前は、自分が、選ばれた事に後悔してるか?」

勇者「してない」

元勇者「…」

勇者「今更だぞ」

勇者「俺は選ばれて良かった」

元勇者「理由を聞く必要は、無いな」

勇者「うん」

元勇者「じゃあ、お前は…」

元勇者「…命を奪えるか?」

勇者「…」

勇者「…」

勇者「…」

元勇者「今回救えなかった、奴隷たちの命」

元勇者「責任感が強いやつなら、あいつらの命は「お前が奪った」と、言い換えられる」

魔法使い「…」

元勇者「もちろん、比喩だ、俺だってそうは思っちゃいねぇ」

元勇者「それくらい勇者の力は曖昧なんだよ」

元勇者「…そして、お前は本当に「殺す」という事を、知らない」

勇者「…」

元勇者「殺すっつー事は、そんな簡単じゃない」

元勇者「自分の振り下ろした刃で、それまで生きていた生命が失われる」

元勇者「圧倒的すぎる、絶望」

元勇者「殺すって事は、命を奪うってことは」

元勇者「他者の可能性を、奪うって事なんだよ」

元勇者「…お前がもし、命を奪うなら…」

元勇者「今日の悲しみなんか比較にならないくらいの罪悪感が、お前を襲う」

元勇者「それでもお前は、命を奪えるか?」

勇者「…」

元勇者「ここで、はっきりさせていけ」

元勇者「お前は自分の下らない理想を貫くのか」

元勇者「それとも、他者の命を食み、己の血肉に変えてでも敵を討つのか」

元勇者「ここで、選べ」

勇者「…」

勇者「…俺は」

勇者「…」

勇者「奪わない」

元勇者「…」

勇者「それが無茶な理想で、あんたにとっちゃガキの絵空事だったとしても、俺は命を奪わない」

元勇者「それじゃ覚悟が足りないんじゃないのか?」

元勇者「どんな手を使ってでも、この戦いを終わらせるという、覚悟が」

勇者「そんなもん、要らない」

勇者「俺に足りなかったのは」

勇者「人を殺さないという、覚悟だよ」

魔法使い「…」

勇者「甘いと言われても、勇者失格だと言われても知るもんか」

勇者「俺は命を奪わない、誰も殺さない」

勇者「そして!誰も死なせない!」

元勇者「…」

勇者「思えばこんな力、最初から要らなかったんだ」

勇者「あるだけ無駄な設定、無駄な能力だ」

勇者「いいか?見てろ?俺はこんな下らないもんなんかに頼らないでこの戦いを終わらせてやる」

勇者「命を奪えば奪うほど強くなる?」

勇者「俺の事をどこかで見てる奴がいるなら!」

勇者「残念だったな!俺はこんな力使わない!」

勇者「クソ喰らえだ!」

勇者「勇者の力なんか要らない、俺にはもう十分過ぎるほどの武器があるから!」

魔法使い「…」

元勇者「…」

精霊「…」

勇者「俺の無茶な理想に、付き合う覚悟は、おっけい?」



「「「勿論」」」





「…ははぁ、吠えるのう」

「…私の千里眼がバレてしまったのでしょうか」

「いいや、こ奴はその場のノリで叫んでるだけじゃ、大した意味など無いじゃろ」

「…消しますか」

「ワシに超超遠隔狙撃の魔法でもあったならそれも良かろうて」

「だが、興味が湧いた」

「…?」

「殺さずに我らとの戦いを終わらすと言う絵空事を、本気で宣うこ奴にな」

「…」

「こいつ程の人間が絶望に落ちる姿は、見物じゃろ」

「ですね」

「殺さず、か」

「ならばワシもそれに習って、殺さずに事を進めることにしよう」

「…」




「死ぬより辛い地獄に落として、その誓いを打ち砕いて、食んでやるわ」

「我ら魔族に、永劫の希望あれ」

「人工の神が許すなら、こちら側へ堕ちて来るのもまた一興だ」ニヤッ

続きは明日位に
ねむし

元勇者→愚地克巳くらい
魔法使い→手負いの範馬勇次郎くらい
勇者→一般人より少し弱い、魔力なし
精霊→戦わない

こんなイメージです

マッハ(音速拳)は普通に打てる
俺だけのマッハ(更に強い)は打てるが負担がめちゃめちゃでかい

勇者「…だから俺は結局甘いものが一番だと思うんだよ」

魔法使い「有り得ませんね、辛いものが一番ですよ」

勇者「甘いもの食ったら脳みそが覚めた気がしない?」

魔法使い「それを言ったら辛いものもですよね」

勇者「俺はそうは思わない」

魔法使い「あなたのくだらない人生観で培われた身勝手な感覚を私に押し付けないでください」

勇者「押し付けてないじゃん!」

魔法使い「いいえ!押し付けてます!」

精霊「…」

元勇者「…」





精霊「おじちゃん…」

元勇者「何だ」

精霊「あのふたりって仲悪いの?」

元勇者「…さぁ」

元勇者「お前には仲が悪そうに見えるか?」

精霊「分かんない」

精霊「おじちゃんはあのお姉ちゃんとは言い合いをしないの?」

元勇者「命がいくつあっても足らん」

精霊「…強いんだ…お姉ちゃん」

元勇者「あぁ、めちゃくちゃ強い」

精霊「お兄ちゃんは?」

元勇者「雑魚だ」

精霊「ええ…」

元勇者「だが努力を怠ってるわけじゃない」

精霊「…」

元勇者「あいつに今足りないのは、十分な鍛錬を積むための時間だよ」

精霊「?」

元勇者「難しいか?」

精霊「…」

元勇者「時間をかければある程度は強くなれる、だけどそんな暇はない、だから勇者には力が備わってるんだ」

精霊「…」

精霊「…それが、命を奪うこと、なんだね」

元勇者「…」

元勇者「お前は、誰かのために、殺せるか」

精霊「うん」

元勇者「…!」

精霊「私は、多分殺せるよ」

精霊「…お兄ちゃん達のためなら」

精霊「誰だって、殺せる」

元勇者「…そうか」

精霊「…」



魔法使い「そんな物ばっかり食べてるから頭の中身が甘甘なんですよねぇ!?」

勇者「お前だって似たようなもんだよなぁ!?」

勇者「女っぽさがたりないなぁ!」

魔法使い「[ピーーー]」

勇者「すいません」ガン!

元勇者「お前ら、そろそろ静かにしろ」

元勇者「もうすぐ着くぞ」

魔法使い「…あぁ、やっとですか」

元勇者「あまり目立つ行動はすんな、目をつけられたら厄介なんだよ」

魔法使い「らしいですよ、勇者様」

勇者「…謝ったのに、蹴った…」

勇者「ここは?」

元勇者「…」

魔法使い「…嫌な匂いがしますね」

勇者「…」

魔法使い「ぬぐいさることの出来ない血の匂いがこびり付いてます」

勇者「…」

元勇者「ここは、盗賊の村だ」

勇者「盗賊の…?」

元勇者「人から奪うことを生業とした村」

元勇者「ここには、あらゆる全ての種族が集まって過ごしてる」

元勇者「境界線上に、そして世界で唯一存在する魔族と人間の村だ」

勇者「…境界線?」

元勇者「そうだ、そしてここは魔界へ行くために必ず通る必要のある、いわば門」

元勇者「多くの奴隷は、ここや、ここの近くから攫われてきた」

精霊「…」カタカタ

勇者「…大丈夫だよ」

精霊「…うん」

魔法使い「行きましょう」

勇者「うん」

「…何の用だ、御一行」

元勇者「ここを通してもらいたい」

「叶うと思うか」

元勇者「…出来れば力尽くでは通りたくない」

「通りたいなら、差し出せ」

勇者「…差し出せ?」

「誰かひとりの命を差し出せ」

勇者「…」

「お前らがここを通るなら、誰かひとりを置いていけ」

「またここから出ていく時に、そいつは解放してやる」

「そうだな、お前がいい」

勇者「…俺か」

「お前がここへ残れ」

魔法使い「…」

魔法使い「図に乗るなよ、下衆が」

魔法使い「殺すぞ」

勇者「いや、いい、俺が残る」

魔法使い「…!ですが…!あなたが居なければ…!」

勇者「いいよ、お前達を信じてる」

勇者「ここの村長に話があるんだろ?」

勇者「話ついでに、俺のことも解放してもらってきてくれ」ニコッ

魔法使い「…」

「早くしろ、残らないなら帰れ」

元勇者「行くぞ」

魔法使い「…」

精霊「お兄ちゃん…」



魔法使い「有り得ない有り得ない有り得ない!」

魔法使い「勇者様を残して、一体何の話をするってんです!?」

元勇者「喚くな」

元勇者「ここの連中は、理不尽に命を奪ったりしない」

元勇者「そう聞いてる」

魔法使い「そんなもの…!奴隷の嘘かもしれないじゃないですか…!」

元勇者「あいつは俺たちを信じてるって言ったんだ、黙ってついてこい」

魔法使い「…」

元勇者「…そう言えば、お前も境界線の出だったな」

精霊「…うん」

精霊「…でも、私はここからもう少し離れた所の魔族の村だったから…」

精霊「…魔族と人間の村があるなんて、知らなかった」

元勇者「…」

精霊「…あ、でも人間と仲がいいお友達なら居たよ」

精霊「今思えば、その子はこの村に住んでたのかな…?」

精霊「…元気かな、あの子」

元勇者「…」

魔法使い「…」

「…」

勇者「なぁ」

「口を開くことは許してない」

勇者「…いい村だな、ここ」

「…」

勇者「俺、魔族と人間はいがみ合う関係だと思ってたからさ」

勇者「こんな所があるなんて知らなかったよ」

勇者「…ここからじゃ、あまり村の中は見えないけど…」

勇者「…ははは」

「…なぜ笑う」

勇者「…俺なんかいなくても、こんな所があるんだなってさ」

勇者「…この村はきっと、俺の理想だ」

「…」

勇者「…なんで盗賊なんだ?」

「…」

勇者「…俺は、あんた達のこの在り方は凄いと思ってる」

勇者「…きっと、あんた達は奪われ続けた側なんだってことも、知ってる」

勇者「…どうしてそんなあんた達が、奪うような真似するんだ?」

「…黙れと言ったのが、聞こえなかったか」

勇者「…」

「…」

「…」

「…大昔、我らの始祖がいた」

勇者「…!」

「…我らの始祖は、人間と魔族の間に生まれた存在だった」

「人間からは蔑まれ、魔族からは疎まれ、居場所などどこにもなかったと聴いている」

「…そうして両者から疎外され、居場所を無くした我らの始祖はここを見つけた」

「…境界線、その中でも極端に両方からの干渉が少ない場所」

「…ここでひっそりと、生涯を終えようとしていた」

勇者「…」

「…ある時1人の少女が現れた」

「…人間の少女だ」

「彼女は、人間から酷い仕打ちを受け、当てもなくここへ歩いていた、そしてここへ行き着いた」

「…初めは心を開かなかった2人だが、少しずつ彼らはお互いを認めあった」

「また、あるものが現れた」

「魔族の男だった」

「その男は魔族でありながら、殺す事を良しとしなかった」

「魔族に本能的に備わっている破壊衝動、殺害衝動がそのものにはなかった」

「そして、また1人、また1人と人が増えた」

「そうして、ここは魔族と人間がお互いを認め合い、住む村となっていた」

「人間の好奇心は、自然の探求へ」

「魔族の破壊衝動は、土地の発展へ」

「そうして、手を取り合って、この奇妙な村が生まれたのだ」

勇者「…」

「しかし、人が増えすぎた村は、いつからか貧しくなっていった」

「外界からの補給など期待出来ず、交換を申し出ようにも両者から外れた存在である我らにそれが出来るはずもなかった」

「だから」

「奪った」

勇者「…」

「生きるために、奪った」

「命を奪うことは極力しなかったが、それでも必要に駆られれば、それも奪った」

「だが、誰が責められる」

「我らは、知らない」

「それしか方法を知らないのだ」

「我らを悪と呼んでも構わない、元より外れた身だ」

「だが、我らの生き方を否定するな」

「勇者と、お前は呼ばれていたな」

「お前に聞こう」

「我らは、悪か?」

「存在を許されない我らが、それでも生にしがみつこうとする事は」

「お前にとって、悪か?」

勇者「…」

「ここにいる皆は、つまはじきにされるだけの理由がある」

「それを背負って生きている」

「互いを殺し合う、この醜い戦いは、我らにとって下らないことこの上ない」

「…」

「…なぜ、泣く」

勇者「…あ…え?」

「…同情でもしているのか」

勇者「…えっ、ちが…分からん…」

「…お前は、この戦いを終わらせられるのか?」

勇者「…」

「我らにとって、生きやすい世界を作ってくれるのか?」

「互いが認め合い、存在を許される、そんな世界を作ることが出来るのか?」

「…」

「…我らは」

「生きてても…いいのか…?」

勇者「…」

魔法使い「…そんな、事が…」

元勇者「まぁ、この村に伝わるおとぎ話みたいなもんだが、そのおとぎ話こそがこの村のルーツだ」

元勇者「魔族と人間が憎み合う原因を作るこんな戦争は、この村の住人は望んじゃいない」

元勇者「俺達の目的と同じだからこそ、俺達はここへ来たんだ」

元勇者「戦争は、終結する」

元勇者「それを望んでる奴らがいるんだからな」

ザッ

元勇者「着いたぞ」

元勇者「目的が同じついでに、力でも貸してもらおうか」

村長「よく来たねぇ」

元勇者「…!?」

魔法使い「…!?」

精霊「…ふぇ」

村長「ん?どうした?」

元勇者「…そ、村長はどこだ?」

元勇者「…ここにいると聞いてるんだが…」

村長「あたしだが?」

元勇者「嘘をつくな」

村長「はぁ?」

元勇者「お、お前女だろうが」

村長「ははぁ、この村の村長は魔族と人間の間に生まれた奴が請け負うってことになってんのさ」

魔法使い(…バインバイン…)

精霊(…ないすぼでー…)

村長「んで、何だ」

元勇者「…力を貸して欲しい」

村長「いいよん」

元勇者「えっ」

村長「だから、貸してやるって言ってんのさ」

村長「このクソしょうもない戦争を終わらせるんだろ?力を貸さないわけがないだろ」

村長「…でも、それだけじゃない筈だ」

元勇者「…」

村長「あの雑魚勇者を置いてきたのは、聞かれたくないことを、聞きに来たんだろ?」

魔法使い「…聞かれたくない、こと?」

村長「…おや」

魔法使い「…?」

村長「んで、何だ」

元勇者「…力を貸して欲しい」

村長「いいよん」

元勇者「えっ」

村長「だから、貸してやるって言ってんのさ」

村長「このクソしょうもない戦争を終わらせるんだろ?力を貸さないわけがないだろ」

村長「…でも、それだけじゃない筈だ」

元勇者「…」

村長「あの雑魚勇者を置いてきたのは、聞かれたくないことあるからだろ?」

魔法使い「…聞かれたくない、こと?」

村長「…おや」

魔法使い「…?」

村長「…むふふ、そうか」

魔法使い「…?」

村長「あたしは獣型の血が色濃く出てるから鼻が良く効くんだ」

村長「もっとも、あたしの姿がこうなのは近い代で魔族と人間がまぐわったからだけどね」

村長「詳しく言えば父と母だ」

村長「だけど、ふぅん、そうか」

村長「あんたは、先祖返りって奴か」

魔法使い「…」

村長「…ま、いいや、今はどうでもいいことだね」

村長「…で?何について聞きたい?」

村長「どこのどいつからあたしの博識ぶりを聞いたのか知らないが、そりゃいい判断だ」

村長「あたしは、割と何でも知ってる、割とね」

元勇者「勇者に、ついてだ」

村長「勇者?」

村長「そんなもん、神の予言に選ばれて勇者特有の力を承った人間のことさ」

元勇者「…」

村長「あのさぁ、少しは自分で考えなよ」

村長「ちゃんと考えれば疑問も出てきて確信に迫れるはずだ」

元勇者「…」

村長「そうだねぇ、例えば」

村長「どうして、勇者と別の勇者じゃ、承る能力が違うのか、とかさ」

村長「才能?あぁ、そうかもね」

村長「だけど、疑問には思わなかったかい?」

村長「それとも当たり前すぎて気が付かなかった?」

村長「じゃあなんで勇者の目的は戦争の終結なのか、とかからいってみる?」

元勇者「…」

村長「互いを脅かす存在なら、もうつつかなければいい、そうすりゃ偽善的ではあるけれども、両者とも一応は平和かもしれない」

村長「なのになぜ、このくだらない、不必要な戦いが千年も続いてる?」

村長「互いを憎みあってるから?」

村長「じゃあなんで?」

元勇者「…」

魔法使い「…」

精霊「…?…???」

村長「一つヒントを与えようか」

村長「この世には、神なんて存在しない」

村長「存在するのは、作られた偽りの神だ」

村長「そして、神の加護」

村長「神が居ないのに、そんなもんがあるわけが無いよねぇ」

村長「神の加護の正体は、単なる、魔法」

村長「正式名称は超高速修復術式魔法だ」

村長「術式魔法は、人間の体に埋め込める」

村長「シンキングタイムは…そうだね、6時間と行こうか」

村長「それまでせいぜい考えてみなよ、人間共」ニヤッ

魔法使い「…」

魔法使い(…神の加護は、存在しない)

魔法使い(…その正体は、魔法)

魔法使い(この人の言うことが本当なら…どうして…)

魔法使い(…どうして、人界は)

魔法使い(偽ってるの?)

村長「いい感じに疑問を持ってきたな」

村長「そうだ、疑え、疑わないと真実は見えない」

魔法使い(…もしも、神の加護が、そして神の予言さえ偽りなら…!)

魔法使い(…当然、勇者という地位も偽りになる…!)

魔法使い「…」

魔法使い「…」

魔法使い「…勇者は、存在しない…?」

村長「正解」

村長「勇者なんて言うもんは存在しないんだよ」

村長「存在すんのは、人間だけ」

村長「文字通り、人間だけなんだ」





ガシャァァァァン!!!

「…ぐ、うぅ…」

勇者「…!?おい!」

「…あが、が、ぐぅぅ…」

勇者「どうした!おい!?」

「…は、なせえぇぇ…!!!」

「…ぐ、ぅぅ…!!!!」

勇者「お前、何が」

「…なぜ捨てた」

勇者「…!?」

「私が、お前達に」

「何かをしたというのかァァーーーー!!!!」ガシャァァァァン!!!

勇者「…ぐ、ぅ…!」

「幻覚能力」

「用途によれば、人に安らかな夢を見せることも出来るが」

「その逆、過去の封じた記憶も思い出させることが出来る」

「この村は消したい過去を持つものが多くて心地がよく、操りやすい」

「そこにほんの少しの思考誘導を加えればこの通りじゃ」

「幻覚なんて魔法は存在しないが」

「しかし、この能力自体は、お前達が作ったものじゃったの」

「今は、勇者特有の能力じゃったか」

「誰かを愛せば愛すほど、研ぎ澄まされていく幻覚能力、じゃったかの」

「ワシの能力は既に最大値じゃ」

「さぁ、あとは地獄のような悪夢の中で殺し合うといい」

「あぁ、ワシは殺さんよ?」








「殺すのは、お前達自身じゃ」





勇者「…おい!落ち着けよ!」

「なぜ捨てた、この目が醜いというのか…!」

勇者「…こいつ…!」

勇者(俺を見ていない…?)

「それまで、平然とした顔で育てていたのは」

「…売るためだったのか…!?」

「捨てられるくらいなら、殺してやる」

「実験体として、扱われるくらいなら」

「私が、お前達を殺してやる!!!」ガシャァァァァン!!!

勇者「ぐ、ぅぅぅぅ…!」

ワァァァァ…!

村長「…!?」

元勇者「…なんだ?」

魔法使い「外が…」

精霊「ひゃあぁ…怖いよ…!」

村長「…」ガラッ!

村長「おい!?お前ら!!」

「殺してやる」

「みんな死ねばいいんだ」

魔法使い「…ひ、酷い…!」

元勇者「…見るな!」グイッ

精霊「わわっ!」

村長「何が、何が起こってる…!」

「あうっ…!」コケッ

「…ぅえぇん…!」

魔法使い「…!」

元勇者「…ほとんどの奴が、正気じゃねぇ」

村長「…」

魔法使い「…大丈夫!?早くこっちに来なさい!」グイッ

「わうっ!」




村長「…この中なら、一応は安全だ」

魔法使い「…何が起こって、いるのですか?」

魔法使い「勇者様は、無事なんですか!?」

元勇者「…落ち着け」

魔法使い「落ち着いていられますか!?そもそもあなたがあの時…!」

元勇者「…いいから、落ち着け!」

魔法使い「…っ…」

元勇者「…とにかく、状況を整理しよう」

元勇者「…精霊」

精霊「は、はい!」

元勇者「お前、再生魔法は使えるな?」

精霊「…う、うん…!」

元勇者「村長さん、安心してくれ」

元勇者「とりあえず、正気にさえ戻れば怪我はこいつが治す」

村長「…ぁ、あぁ」

「…あ…」

精霊「…」

精霊「…?」

「…あの時の」

精霊「…あ…!」

魔法使い(…前に言ってた、精霊ちゃんの、お友達…)

「…生きてたんだね…?」

精霊「…ぅ、うん…」

「…もう、会えないかと、思ったよ…」

「…あなた、突然いなくなるんだもの…!」

精霊「…ごめん、なさい」

ガバッ

「…とっても、とっても!…心配したんだよ…!?」

「…生きてて、良かったよぉ…!」ギュウッ

精霊「…!」

「…これが私の村なの、みんな、本当はとっても、優しいんだよ…!?」

精霊「…うん、うん…!」

精霊「…あなたこそ、無事で良かった…!」











ガラッ

村人「あれ?村長さん、こんな所にいたんか?」ガスッ!!!!

「かぽっ」


ガチャァァァン!!!

精霊「…」

精霊「…え」

精霊「…え?」

村人「こいつめ!逃げやがって!」ガスッ!!!!ガスッ!!!!

村人「このっ!このっ!このっ!」ガスッ!!!!ガスッ!!!!ガスッ!!!!

元勇者「…!?おいやめろ!!」

村人「村長さん、安心してくれや」

村人「このへんの畑をあらす、害獣はオラが駆除しといたから!」グイッ

魔法使い「…ひ…!」

精霊「…う…!」

精霊「…げぇぇぇぇぇ…!!」ビチャビチャ

精霊「…えほっ…かはっ…!」

元勇者「…出て行け!」バキッ!

魔法使い「だ、大丈夫!?精霊ちゃん!」

精霊「…ぁ…ぁぁあああ…」

精霊「…う、げぇぇぇぇぇえええ…!!!!」ビチャビチャ…!

精霊「…あっ…!えほっ…!ごほっ!」

村長「…なぜ、私の村が…」

村長「…どうして、人間も魔族もお互いを認め合うはずのただひとつの村が」

村長「…こんなふうになるのよ…!?」

ゆっくり書いていきます

勇者「…はぁ、はぁ」

「…~~!」ジタバタ

勇者「…何だよ…これ」

勇者「…誰が、こんな事、してるんだよ…」





「うん、その問は確信に迫る、いい疑問じゃな」

勇者「…!」

「しかし別の意味で恐れ入るの、お主本気で殺さずに我らを止めるつもりか?」

勇者「…何の、冗談だ」

「…冗談?」

勇者「…まさか、お前みたいなのが、大魔王なんて言わないよな」

「見かけで判断するなよ、若造」

「この幼い少女の姿にも、それ相応の理由があるんじゃよ」

「いや、理由というより、呪いかの」

勇者「…」

大魔王「誰が、と言ったか」

大魔王「この自体を引き起こしてるのは、このワシじゃ」

勇者「…」

大魔王「幻覚能力、と言っての」

大魔王「魔法とはまた違う、能力じゃよ」

大魔王「まぁ言わば、お主の能力と同じもんじゃ」

勇者「何を…!」

大魔王「姿形に惑わされるなよ、人間」

大魔王「私の姿が、幼い魔族の子供だからといって、侮るな」

勇者「…」

大魔王「ふはは、この時代において、言い換えるなら勇者特有の力」

大魔王「なぜワシが持っておるか、考えろ」

大魔王「疑問を持つことは、真実を知る上で何よりも大切じゃ」

大魔王「例えばそうじゃ」

大魔王「ワシ以外とはあまり口を聞かぬこの従者」

従者「…」

大魔王「こいつがワシの左腕を切り落としたとしよう」スッ

従者「…」ズバッ!

勇者「…!?」

大魔王「さて、どうなると思う」

ギュルルルル

大魔王「…」

勇者「…修復、して…」

大魔王「そうじゃ」

大魔王「似ておるのう、お主達の「神の加護」とやらに、ふははは」

大魔王「馬鹿な奴らじゃ」

大魔王「お前、本当に勇者のつもりか?」

勇者「…」クラッ

勇者「…そ、んな…」

大魔王「お、答えに至ったか?」

大魔王「そりゃそうじゃなあ?」

大魔王「お前らしか持ちえないはずの力をなぜワシが持っておるか」

大魔王「ワシの幻覚の中で、よーく考えろ」

大魔王「成功体、または、魔族予備軍よ」ギュアアアア

勇者「…う、げぇぇええ…!!」

大魔王「…眠ったか」

従者「…」

大魔王「おい」

従者「…はっ」

大魔王「お前はこ奴のほかの仲間を殺してこい」

従者「…良いのですか?」

大魔王「何がじゃ?」

従者「…彼の仲間の中には、元勇者が居ると記憶しております」

従者「…引き入れる、ということは…」

大魔王「いや、無理じゃろ」

従者「…?」

大魔王「あぁいう経験を積んだ奴は墜ちんよ、堕ちたとしてもワシらに反旗を翻す」

大魔王「…堕とすなら、こ奴の用に若くて迷いの多い奴でないとな、ふははは」

従者「…ご無礼を」

大魔王「うむ、良いから行け」

従者「…はっ」

元勇者「…ちっ…!」

村長「…この家の防御魔法を解いた者がいる」

元勇者「…」

村長「…相当な手練、だと思うぞ」

元勇者「…精霊…お前は…」

精霊「…」

精霊「…」

精霊「…」

元勇者「…」

元勇者(…無理も、ないよな…)

村長「…ところで、先ほど結局飛び出していった小娘は、放っといて良いのか?」

元勇者「あぁ、いい」

元勇者「あいつは化物みたいに強いからな」

村長「…」

元勇者「卑怯な手を使われない限りやられる事はねぇ」

元勇者「…それよりも…」

元勇者「…ここをどう切り抜けるか、が重要だ」

ォォォォォ…

村長「魔法を張り直したとはいえ、またいつ解かれるかわからん」

村長「…ここは外で迎え撃つ方が…」

従者「…それはいい考えです」

元勇者「…!?」

村長「…!!!!」

従者「…私も、こんな狭い所でうっかり返り血など、浴びたくないので…」

元勇者「…この…!化物が…!」

従者「…えぇ、そうです」

従者「…あなたがたが生んだ…化物です」

村長「…」ザッ

元勇者「…」ザッ

村長「…防御結界を張っておく」

村長「…これで村人達を巻き添えにする事もないが、逃げ道もなくなる」

元勇者「…」

従者「…」

元勇者「見たところお前、大魔王って柄じゃねーな」

従者「なぜ?」

元勇者「…ツラが若いからだよ」

従者「…」


元勇者「良いのか?大魔王様を放っておいて」

従者「彼女なら、大丈夫でしょう」

元勇者「…信頼してるって事か…笑わせる」

従者「…いえ」

従者「私たちは信頼し合ってるわけではありませんよ」

従者「互いのことも、よく知らない」

元勇者「…?」

従者「…現に彼女は、私の事を無口だと思っている」

元勇者「…じゃあ…!」

従者「それでも、彼女が敗北するなど、有り得ないからです」

従者「心がある以上、彼女が負けることなど、有り得ない」

従者「さぁ、用意はいいですか」

元勇者「…」

従者「あなた達を殺せ、と言うのが、彼女の命令なので」

従者「…心配しなくてもいいんです、すぐにでも」

従者「あの精霊も、後を追わせるので」

元勇者「外道がっ!!!」ダッ!!

元勇者「死ね!」ビュン!

従者「…」

元勇者「…てめぇらが、生きる世界なんざ、ここにはねぇ!」

元勇者「とっとと、死ねよ!」ビュン!

従者「…」

元勇者「お前ら…どれだけ命を奪ってきた…」ビュン!

元勇者「何で、何も感じないんだよ!」ビュン!

従者「…」

従者「…」

元勇者「死ね!お前らがいなきゃ、俺の仲間も死ぬことが無かった…!」

元勇者「…お前ら全員、死ねよぉぉぉぉぉ!!!!」ズバッ!

従者「…!」

従者「なるほど」

従者「全く、不気味な力ですね」

従者「私のような下位の魔族には到底理解しきれぬ力」

従者「勇者の力、ですか」

元勇者「うらぁぁぁぁ!!」ビュン!





パシッ

従者「じゃあ」

元勇者「…!?」

従者「なぜ、あの子が持っている」

従者「なぜ、年端も行かなかったあの子が持っている」

従者「なぜ、彼女は幼い姿のままなのだ」


ズドン!!

元勇者「…ぐっ…ぶ…!」

従者「お前が、死ねよ」

ズドン!!

従者「お前達が、死ねよ」

元勇者「…ぁ…あ…」

従者「内臓破裂、骨折多数」

従者「勇者の力を持っていても、神の加護を持たぬなら、耐えられないでしょう」

従者「まぁ、最も」

従者「ちぎれば関係ないんですけども」ブチッ

元勇者「…あ、ぐぁ…!」

従者「…」

従者「…上半身のみで生きているご自分をどう思いますか?」

従者「不気味だと思いますか?化物だと思いますか?」

従者「じゃあそれを100年分、感じろ」

従者「それが彼女の、人生だ」

勇者「…」

勇者「…なんだここ…」

勇者「…足が、ふわふわする」

勇者「…そうか、これが幻覚…能力」

勇者「…」

勇者「…神の加護…」

勇者「…勇者…」

勇者「…どうして、魔族が勇者の力を持ってる…?」

勇者「…」

勇者「いや、違うな」

勇者「どうして勇者が、魔族になってる?」

勇者「…成功体って何なんだよ…」

勇者「…それじゃ、まるで」

勇者「…お前達が、失敗作で」

勇者「…俺達が…」

勇者「…いや、そうなんだな」

勇者「もう、言わなくても分かってる」

勇者「俺は、勇者で」

勇者「魔族予備軍ってことは」

勇者「…お前達は、元々勇者なんだろ!?」

シュンッ

大魔王「少し違うな」

勇者「…!」

大魔王「心配するな、ここには誰も来まい」

大魔王「魔族は元々勇者なのではないよ」

大魔王「魔族の始祖が、元々人間」

大魔王「そして、実験体なんじゃよ」

勇者「…!?」

大魔王「神の加護の正体は超高速修復術式魔法」

大魔王「術式魔法と言う、人間に埋め込むことの出来る魔法の理論は」

大魔王「人体実験によって確立された」

勇者「…」

大魔王「だが、そんなのは些細なことじゃよ」

大魔王「元々この神の加護は不安定でな」

大魔王「個人差もあるが、数年で理論崩壊を起こす」

大魔王「ワシのように定着の儀式をさせない限りな」

勇者「…」

大魔王「もう一つ、あるじゃろ?」

勇者「…」

勇者「…勇者の、能力」

大魔王「ざっつらい」

大魔王「神の加護は、魔法」

大魔王「しかし勇者の能力は魔法ではない」

大魔王「愚かな人間が、神の領域に手を伸ばそうとして作ってしまった異物じゃよ」

勇者「…」

大魔王「曖昧だとは思わないか?」

大魔王「例えばお前のように、命を奪えば奪うほど」

大魔王「ワシのように、誰かを愛せば愛すほど」

大魔王「曖昧すぎる、そして不安定だ」

大魔王「勇者の力はあまりにも心に近過ぎるんじゃよ」

大魔王「人間、あるいは元人間の心にな」

勇者「…心」

大魔王「勇者の力を与えられ、しかしその結果、その力が暴走し体にさえ異変が起こる」

大魔王「…多分、己自身が最も醜いと感じる姿に、変異する」

大魔王「だからじゃよ、お前達人間が我ら魔族を嫌悪するのは」

大魔王「歴史とか、恨みとか、そんなものではない」

大魔王「もちろんそれもあるだろうが、それ以前に単にワシらの姿形が気に入らんのだ」

大魔王「じゃが、その時点では成功体はまだ成功体でしかなく」

大魔王「勇者とは呼ばれなかった」

大魔王「貴様ら人間が、失敗作をどうしたか知っておるか?」

勇者「…そりゃ、今後の生活の保障とか…」

大魔王「捨てたんじゃよ」

勇者「…!」

大魔王「貴様らが勝手に行った実験でできた失敗作を、醜く変異してしまった人間を」

大魔王「開拓されていない、荒んだ土地に捨てたのじゃ」

大魔王「愚かな人間はそれで事が済んだと思い実験を続けた」

大魔王「ワシら失敗作が交配し、多種多様な種族へと進化し、増えてしまったと知るまではな」

大魔王「その事実を、人間は千年前に知った」

勇者「…!」

勇者「…じゃあ…!」

大魔王「お前ら勇者の目的は、権力だけ持った愚かな人間の失敗作であるワシたちの」

大魔王「殲滅」

大魔王「言い換えれば隠蔽じゃな」

大魔王「魔族として生まれた魔族も」

大魔王「人間から生まれ変わってしまった魔族も」

大魔王「自分達の失態が知られてしまう前に殺し尽くしてしまおう」

大魔王「そうじゃ、だったらついでに実験も並行しよう」

大魔王「「成功体」に、勇者という称号を送り、「失敗作」を殺させよう」

勇者「…!!」

大魔王「それが、真実」

大魔王「貴様ら人間が犯した失敗であり、罪じゃよ」

勇者「…」

勇者「…じゃあ、お前は…」

勇者「…元々人間なのか…?」

大魔王「そうじゃよ」

大魔王「と言っても最近は人間の実験も安定していてな」

大魔王「人間から魔族に堕ちたのはここ100年ワシだけだと思うぞ」

大魔王「まぁ、だからと言ってこれからも同じ境遇の奴が生まれないわけではない」

大魔王「心が関係する以上、貴様も何らかの絶望を味わえば、魔族に堕ちる事がある、という訳じゃ」

勇者「…」

勇者「…」

大魔王「ふははは、声も出ぬか」

勇者「…辛かったな」

大魔王「…」

勇者「…知らなくて、ごめん」

大魔王「…」

大魔王「反吐が出る」

大魔王「ワシの過去のたった一つを知っただけで、ワシの何がわかる」

大魔王「侮るなよ、人間」

大魔王「辛くなかったわけがなかろうが」

大魔王「世の中に絶望し、自らが最も醜いと思う姿になり」

大魔王「そして、貴様らを恨みながら生きてきた100年が」

大魔王「辛くなかったわけがなかろうが」

勇者「…」

大魔王「だから、ワシらは、貴様らを許さん」

大魔王「その死を持って、償ってもらおう」

大魔王「もうこの戦いは、どちらか一方が滅びるまで終わらんからなぁ!!」ガシッ!

勇者「…!!?」

勇者「…これ、は…!」

勇者(…変なもんが、流れて…!!)

大魔王「思念じゃよ」

大魔王「ワシの、恨み、呪い、負の感情全てを凝縮した思念じゃ」

大魔王「絶望せよ、いつまで対等でいるつもりだ」

大魔王「ワシは大魔王じゃ」

大魔王「頭が、高い」

勇者「…!!!」

勇者「っぐっ…!ぁああぁぁぁぁああぁ!!!!!!」

大魔王「ふはははは!」

勇者「…っの…!!!」

勇者「放っ…せよぉ!!!!」ドスッ!!!!!!!






勇者「…あれ?」

勇者「…俺、何で今…」

勇者「…剣…を…?」

勇者「…ここは…?」








大魔王「絶望させるには、もっと簡単な方法があるじゃろ」

大魔王「幻覚から、おかえり、勇者よ」

大魔王「さて、どこからどこまでが、幻覚かの?」







魔法使い「…うっ…がはっ…げほっ…!!!」

勇者「…ぁ…あ…ぁああ…!」

魔法使い「…けほっ…」

勇者「…嘘だ…嘘だ…」

大魔王「嘘じゃない、貴様はその小娘を刺した」

大魔王「ワシの負の思念から逃れようと暴れていた貴様を止めようとした、小娘をな」

勇者「…ぅ…あぁぁあああ…」

魔法使い「…ゆ、…しゃ、さ、…ま…」ドクドク

勇者「…俺は…俺は…!」

魔法使い「…勇者…様…!」

勇者「…あ…」

魔法使い「…心配、しないで、下さいな…」

勇者「…だって、お前…これ…!」

魔法使い「…刺し傷…が、なんだって言うんです…?」

魔法使い「…こ、こんなもの…たいした事…ありませ…ん、よ…」

勇者「…し、喋るな…!い、今、治すから…!」

魔法使い「…あは、は」

魔法使い「…私を、殺したのが…、あ、あなたで、良かった…」

勇者「…何を…!言ってんだよ…!」

魔法使い「…けほっ」

魔法使い「…ねぇ、勇者、様…?」

勇者「何だ…!?」

魔法使い「…あなた、は、とても…心が優しかった…」

魔法使い「…自分の命が危険でも、…相手の命を奪い、…たがらなかった…」

勇者「…黙れ…黙れ…よ…!」

勇者「…そんなこと…言うなよ…!」

魔法使い「…私は、…そんな、あなたが…大好きです、よ…」

勇者「…!」





魔法使い「…勇者、様」

魔法使い「…どうか、絶望しないでください…!」

魔法使い「…誇って、下さ、い…」

魔法使い「今の今ま、…で命を奪わなかった…あなた自、身を…!」

魔法使い「…けほっ」

魔法使い「…そして…」

魔法使い「…歴代最弱の…勇者である、あな…た、を…」





魔法使い「私も、貴方を誇りに思います」

死が、腕から伝わってくる

逃れられない絶望が、体を這いずり回る

殺したという事実からくる嫌悪感が、喉を締め付ける

これが、命を奪うということ

これが、殺すということ







勇者「う…っぁぁああああああああああああああ!!!!!!!」










大魔王「ざまあみろ」

大魔王「これで貴様も同類じゃ」

次で最後にしたい
ゆっくり書いていきます

勇者(殺した)

勇者(俺が、殺した)

勇者(何だよこれ、結局こうなるのかよ)

勇者(命を奪わないだって?)

勇者(何だよそれ、単なる前フリじゃねぇか)




勇者(だったら、殺してやる)

勇者(1人も、二人も変わんねぇ)

勇者(こいつを、殺してやる)

勇者(魔法使いと同じように刺し殺して)

勇者(その後、首を刈って)

勇者(…俺は、殺せる)



勇者「殺してやるっ!!!!!」

大魔王「いい具合に、落ちてきたな」

勇者「う、ああああああああ!!!」ヒュッ!

大魔王「遅い遅い」

勇者「らぁぁあ!!」

大魔王「…ふん」

大魔王「そんなことではいつまでたっても殺せぬぞ」

大魔王「さっさと刺し殺して見せろ」

大魔王「そこにいる女のようにな、ふははは」

勇者「…あああぁぁぁぁ!!!」ヒュッ!

大魔王「…!」チッ

大魔王「…ほう」

大魔王「…堕ちるのが、早いなお前」

勇者「…あぁ!?」

大魔王「化物の才能があると言っているんだ」

勇者「…なっ…!」

勇者(…なんだこの、腕…!)

大魔王「今まで余程温い生活を送ってきたのだな」

大魔王「傷つかず、挫折せず」

大魔王「ただのうのうと、生きるために生きてきたのだな」

大魔王「…ふん」

勇者「ぐ、あああぁぁぁぁ!」

大魔王「あと一押し、か」

大魔王「仕方ない、手伝ってやるわ」

大魔王「便利じゃのう、このクソ能力は」

大魔王「過去を思い出して」

大魔王「現在に、絶望せよ」

勇者(…の、飲まれ…)



ゴポッ…








勇者「…は?」

勇者「…なんて言ったんだ?」

孤児院長「うん」

孤児院長「だからね、君が勇者だ」

勇者「…嘘つくな」

勇者「…俺なわけないだろうが」

孤児院長「ほら、昨日届いたんだ」ピラッ

勇者「…嘘だろ?」

勇者「…いたずらじゃないの?」

孤児院長「うーん、ちゃんと王宮の印もついてるしね」

勇者「…くっだらねぇ」

勇者「なるかよ、そんなもん」

孤児院長「…」

孤児院長「行っておいで」

勇者「はぁ?」

孤児院長「勇者には、「神の加護」という力がある」

勇者「…」

孤児院長「君のその病気も、治るかもしれないよ」

勇者「…治る」

孤児院長「あぁ、そうだ」

孤児院長「…もう、いいかもしれない」

勇者「…?」

孤児院長「…君はもう、絶望しなくてもいいかもしれない」

孤児院長「君は、勇者になる事で、救われるかもしれない」

勇者「…」

勇者「…そう、か」

孤児院長「行っておいで」

孤児院長「勇者という地位は、辛いけれど」

孤児院長「君は、真っ暗な闇から、抜け出せる」

孤児院長「生きてくれ」

孤児院長「ね、「勇者」?」

勇者「…」

勇者「…ここか」

「何者だ貴様!」

勇者「…」ピラッ

「…!?」

「し、失礼しました」

勇者「…はぁ」

勇者(こんな事マジであるんだな)




「…おお!待っていたよ!」

勇者「…どうも」

「君が、次の勇者だ」

勇者「…」

「早速だが君には身体検査をうけてもらう」

勇者「…検査?」

「あぁ、勇者に選ばれたと言ったが、君の体にその資格があるとは限らないからね」

勇者「…」

勇者「…どうして、俺なんですか?」

「ん?」

勇者「…どうして、俺みたいな奴が勇者に選ばれたんですか?」

「さぁね」

「それは、神のみぞ知るってやつだ」

勇者「…」

「お疲れ様」

勇者(…ふん)

勇者(…検査があるなら、俺はダメだ)

勇者(ずいぶん短い希望だったな)

「体に異常は見られなかったよ、君は晴れて勇者だ」

勇者「…」

「…」

勇者「…は?」

「…うん?」

勇者「…異常、無し?」

「ああ」

勇者(…そんな、だって、俺は…)

勇者(…!)

勇者「…神の加護」

「おお、よく知っているね」

勇者「…じゃあ」

「うん、君の病気はすっかり治ったよ」

「我々が検査していたのは、病気や障害じゃないからね」

「言ってみれば、君の先祖の「系譜」だよ」

「…悪ければ、堕ちる可能性が高くなるからね」

勇者「…?」

「あぁ、何でもない」

「じゃあ、成功…じゃない、これで終了だ」

「この部屋を出て、向かいの部屋に行っておいで」

勇者「…マジかよ」





「おお、君が勇者かね」

勇者「…らしいですね」

「ほっほ、まずはおめでとうと言っておこうかな」

勇者「…」

「それで早速、1つ、頼まれてくれないかね?」

勇者「はぁ?」

「まぁ、勇者としての君の、第1歩だと思って、ね?」

勇者「…」



王都を出て東の方に化物が住む村がある

その化物を狩ってきてくれたまえ




勇者「…マジで勇者っぽいな」

勇者「ん、ここか」

ガシャァン!!ガシャァン!!

グルルルルル…!

勇者「…?」

勇者「…なんだ、あの部屋」




「おお、あなたが勇者様ですか!」

勇者「…」

勇者「あ、俺か」

勇者「はい、そうです」

「ささ、こちらへ!」

「ほっほっほ、いやはや勇者と聞いていたからどれほど屈強な戦士が来ると思ったら」

「まさか、あなたの様な青年とは」

勇者「…」

「あ、いや、すみませんね」

「たた、あまりにも小食だったもので」

勇者「…いえ」

勇者「…言われ慣れてますから」

勇者「それで、化物っていうのは」

「あぁ、ここへ来る時部屋を見ませんでしたか?」

勇者「…部屋?」

「化物を閉じ込めている部屋です」

勇者「…あぁ」

「あの化物を、殺して欲しいのです」

勇者「…」

勇者「…殺すなら、別に俺がやらなくても」

「そうはいかないのです」

「どこで会得したか強大な魔法を扱うのです」

勇者「…」

勇者「眠るまで待つというのは…」

「近づいた瞬間に飛び起きるので無理です」

勇者「…」

勇者「…はぁ」

ガシャァン!!ガシャァン!!ガシャァン!!

勇者「…」

勇者(…いやぁ、無理)

勇者「…おじゃましまーす…」キィ

「アアアァァァァアアアァァァ!!!!!!」

勇者「おわぁぁぁぁぁ!!!!」

「ガゥゥゥアアァァァァ!!!!」ガシャァン!!

勇者「…魔法加工の、檻か」

「アアアアアアア!!」ガシャァン!!

勇者「…!」

勇者「…こいつ」

勇者「…見た目もろ人間じゃん」

「アアアァァァァアアアァァァ!!!!!!」ガシャァン!!ガシャァン!!ガシャァン!!

「アアアァァァァアアアァァァ!!!!!!」

「アアアァァァァアアアァァアアアァァァァアアアァァァ!!!!!!」

勇者「…う、るせ…!」

キィ

勇者「近所に迷惑だろテメェ!」

「…グルルル…」

勇者「グルルル…って」

勇者「お前人間だろうが」

「…!」

「…お前…」

勇者「おわぁぁぁぁぁ!!!!喋ったぁぁぁぁぁ!!!」

「人間って言ったのはテメェだろ!」

勇者「いや、獣に育てられた人間かと」

「…はっ」

「…単なる暇つぶしだよ」

「獣のふりしてたら、誰も近寄らないしな」

「上手だろ?獣の唸り声」

勇者「…」

「…なんだ?お前?」

勇者「…んー」

勇者「…勇者」

「…あぁ、なるほど」

「…私を殺しに来たのか」

勇者「…あぁ、まぁ」

「はっは、やってみろ、逆に殺し返してやるよ」

勇者「…いや、殺さないよ」

「…は?」

勇者「…だって君、人間じゃん」

「…」

勇者「…」

「…変なやつだな、お前」

勇者「そうかもね」

勇者「急にやるべき事が出来て、戸惑ってる」

「…」

勇者「ねぇ、ここにいていい?」

「…馬鹿か?」

勇者「ちょっと誰かと話したい気分なんだ」

「…」

勇者「…ってことでさ」

「…」

勇者「びっくりしない?よりにも寄って病弱で、運動なんかしたことない俺が」

勇者「勇者に選ばれるなんてさ」

「…」

「…でも、幸運じゃないか」

勇者「…そうかな」

「…そうだろ」

「お前の病気は治る病気だった」

勇者「…?」

「…だが、私の「病気」は治らない」

勇者「…」

「…今はこんなに汚いナリだがな」

「…私は8歳まで、普通の人間だった」

勇者「…お、おい、いきなり…」

「黙って聞けよ、勇者」

「話をしたいと言ったのはお前だろうが」

勇者「…すんません」

「いいだろう」



「ある時、私のペットをいじめていた男の子がいてな」

「まぁ、今考えれば私の気を引きたかったんだろうな」

「だが、幼い私はそんなこと知らなかった」

「怒りと同時に、あるものが湧いて来た」

「…殺意と、力だ」

勇者「…」

「なんてことは無い」

「使ったこともない力が溢れてきて」

「気が付いたらそいつは吹き飛んでた」

「ははは、笑えるだろ?」

「私の先祖は、魔族だったんだよ」

勇者「…」

「だが色濃くその力を受け継いだのは私だけ」

「お前と違って、私の病気は治らない」

「化物は、どこまで行っても化物なんだよ」

勇者「…」

「両親は八歳の私をこの檻に閉じ込めた」

「最初こそ助けを求めてた」

「今はどうでもいいがな」

「皆皆、一人残らずぶっ殺したい気分だよ」

勇者「…」

「なぁ、殺させろよ」

「お前を殺させろ、私は悪なんだろ?」

「殺させろよ、殺させろよ」

「それか」





「…私を、殺してくれ…」

勇者「…」



「…今、なんと?」

勇者「だからさ、俺なり立てだから何の力もないんだよね」

「…それでは!あの化物はどうするのですか!?」

勇者「…」

勇者「…あいつを、化物にしたのはお前らだろ?」

「…はぁ?」

勇者「…いいよ、そこまで言うならこの村を救ってやる」

勇者「あの化け物、貰うぞ!」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

キィ

「はっは、やっと殺す気になったか」

「こいつらに殺されるのは我慢ならないが、お前になら殺されてもいい」

「あはは、はははは」

勇者「いや、殺さないよ」

「…はぁ?」

勇者「ついて来なよ、俺に」

「…何を…!」

勇者「俺ってまだ勇者なり立てでさ、何も分かんないんだよね」

「…」

勇者「力がいる」

「…」

「…何の、力だ」

「殺す力か?魔族を滅ぼす力か?」

勇者「守る力だよ」

「…」

「…馬鹿か!私は化物だ!」

「そんなことが出来るわけが…!」

勇者「化物?」

勇者「歴代勇者の魔法も、お前の魔法も違いはないよ」

勇者「誇ってくれよ、その何かを守れる力をさ」

勇者「お前は化物かもな」

勇者「だけど、その力を守ることに使えるなら」

勇者「お前は誇り高い、何かを守れる化物だ」

「…!!」

「…」

勇者「…力に、なってくれるか?」

「…お前は、馬鹿だ」

「私みたいな奴を仲間にするってのか」

勇者「…うん」

勇者「俺は普通の女の子に、頼んでる」

「…」

「…だったら…」

「…」

「…でしたら」

「…あなたのそばに居られるように」

「私も、まずは」

「…言葉使いから直していきましょう」

「…よろしく頼…お願いします、勇者様」

勇者「…ぷ…」

「な、何笑ってやがるんですか!?」








勇者(…そうだ)

勇者(そうだよ)

勇者(俺は、もう、1回、絶望してた)

勇者(…だけど、あいつがいたから)

勇者(…化物の力を持ちながら)

勇者(それでも耐えたあいつがいたからこそ)

勇者(…俺は、俺で居られたんだ)


ゴポッ…

ゴポッ…


勇者「…そうだ」

勇者「…俺は」

大魔王「な…!?」

勇者「…あの日から、勇者になったんだ!」

勇者「…俺は、勇者だ!!」

大魔王「な、なぜ…!」

大魔王「死んだんだぞ!?」

大魔王「過去に存在したその女はもう死んだ!」

大魔王「何故絶望しない!?」

勇者「思い出したんだよ、自分のルーツを」

勇者「俺みたいなやつが、何で勇者になったか」

勇者「くじ引きだったかもしれない」

勇者「だけど、勇者として生きてきたのは、俺だけの、誓いだ!」

勇者「あいつのお陰だ!」

大魔王「腕が、戻って…!」

大魔王「クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」






勇者「さぁ、この戦争も、もう終わりだ!」




(ずっと、要らない子だった)

(容量が悪くて、役にも立たない)

(そのくせ1人前に生きて、消費していくから)

(親は私のことを嫌ってた)

(でも、心のどこかでそれは嘘だと思ってた)

(私が役立たずというのは嘘だと思ってた)

(だけど、それも証明された)

(昔のお友達の、そして)

(元勇者さんの死という形で)




従者「…逃げないのですね」

従者(諦めましたか…)

精霊「…」

精霊(何のために生きたんだろう)

精霊(私は、何のために生まれてきたんだろう)

精霊(…もういいや)

精霊(さっさと、殺して)

従者「そんな顔をしなくても、次はあなたの番ですよ」

従者「彼のあとを追うといい」

ガシッ

元勇者「…げほっ…がはっ…」

元勇者「…俺の勇者に、何してやがる…!」

従者「鬱陶しい」バシッ

元勇者「ぐっ!」

従者(下半身をもがれても動きますか)

従者(神の加護が消えても、勇者の基礎能力はそのままと言うわけですね)

従者「いいでしょう」

従者「次は、頭を破壊します」

精霊「…あ…」

精霊(何のために生きたんだろう)

精霊(私は、何のために生まれてきたんだろう)

精霊(…もういいや)

精霊(さっさと、殺して)

従者「そんな顔をしなくても、次はあなたの番ですよ」

従者「彼のあとを追うといい」

ガシッ

元勇者「…げほっ…がはっ…」

元勇者「…俺の仲間に、何してやがる…!」

従者「鬱陶しい」バシッ

元勇者「ぐっ!」

従者(下半身をもがれても動きますか)

従者(神の加護が消えても、勇者の基礎能力はそのままと言うわけですね)

従者「いいでしょう」

従者「次は、頭を破壊します」

精霊「…あ…」

精霊(…死んじゃう)

精霊(…今度こそ、死んじゃう)

「役立たず」

「精霊ちゃんのせいで、死んだんだよ?」

精霊「…そうだよ」

精霊「私は、役立たず…」

精霊「私みたいなのが、頑張ったって」

精霊「…どうにも…」

従者「潰れてしまえ」ギリギリ

元勇者「…ぐっ、うおおおおおおおおおおおお!」

精霊「…!!」

精霊「私は、私は…!」

元勇者「…ぐっ、がはっ…」チラッ

精霊「…あ…!」

逃  げ  ろ

精霊「…あぁっ!あああぁぁっ!」

精霊「…どうして…?」

精霊「…どうしてあなた達は…」

精霊「…お兄ちゃん達は、いっつも」

精霊「…人の為に…動けるの…?」

「あるいは、運命」

「あるいは、力」

精霊「…だ、れ…?」

「それによって、自身の志は定まる」

精霊「…」

「だけど」

「いつだって、行動するきっかけは、自身の決意よ」

精霊「…!」

「何かを守れる化物だ、役立たずなんてとんでもない」

「あなたは、私達の」

「とっても可愛い癒しキャラだったよ」

精霊「…う」

精霊「…わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ドン!

従者「…っとと…」グラッ

従者「…おかしいですね、もう諦めたと思ってましたが」

精霊「…声が、聞こえた」

精霊「…お姉ちゃんの、暖かい声が!」

従者「いいでしょう」パッ

元勇者「…ぐっ…」ドサッ

従者「やはりあなたから仕留めましょう」ダッ!

精霊「…!」

精霊(…動いて、足…!)

精霊「…くっ!」ダッ!

従者「…ずいぶんと逃げ足の早い」ドゴォ!

精霊「…くっ!」

従者「今まで随分と逃げてきたのですね」

精霊「…うる、さい…!」パァァァ!!

従者「…光…」

従者(…何か、来る)

従者「…」ダッ!

従者「…」バキッ!

精霊「…うぅっ…!」

従者「…ふん」ズバァ!

精霊「…ぅあああああっ!」

従者「…あなたは本来こちら側でしょう」

精霊「…」

従者「どうしてそうなってまで、勇者の側にいるのですか?」

精霊「…どこにいるかは、私が決める…!」

従者「…」ズバァ!

精霊「…ああああぁっ!!」

従者「…なるほど」

精霊「…」パァァァ!!

従者「…絶滅危惧種、精霊ですか」

従者「これはまた、殺しづらい」ズバァ!

精霊「…ぐぅぅううっ…!」

従者「しかし、耐えても力の差は歴然」

従者「あなたはもはや袋の鼠ですよ」

精霊「…」パァァァ!!

従者「…しつこいですね」

従者「…!」

従者(…何故、耐えている?)

従者(力の差は歴然、どうあがこうと彼女の運命は決まっている)

従者(…精霊)

従者(…こいつ、何かを待っている…?)

ズバァ!

精霊「…あああああっ!」

従者(…精霊の、魔法は…)

従者(…治癒魔法)

従者(…いえ、再生魔法…)

従者(…治癒力の超向上とはまた違う)

従者(失われた、部位すら再生する、魔法…!!)

従者「先ほどの、光はっ…!!」

ドスッ!!!!

従者「…が、は…」

元勇者「とったぞ、化け物…!」

従者「…こいっ…つら…!」

元勇者「俺の攻撃を執拗に避けてたってことは大した再生力もないんだろ?」

元勇者「さっさと諦めな」

従者「…このっ…」ギロッ

精霊「…!」

従者「化け物、が…!!げほっ!!」

精霊「…」

精霊「化物だって構わない」

精霊「…この力で、誰かを守れるなら、何でもいい」

従者「…くそっ…!げほっ!」ドゴッ!

元勇者「…ぐ…!」

元勇者「待ちやがれ!」

従者(…想像以上に、手強い…!)

従者(…ご無事で、大魔王…!)

大魔王「くたばれ!くたばれ!くたばれ!」ドゴッ!

大魔王「さっさとくたばれ!」ドゴッ!

勇者「くたばらねぇよ!」バキッ!

大魔王「なぜだ!なぜお前は…!」

勇者「…」

大魔王「…私とお前で、何が違う…!」

勇者「…」

勇者「…何も違わないよ」

大魔王「…だったら…!」

勇者「…違ったのは、生き方だ」

勇者「…諦めろ、大魔王」

勇者「…俺は、絶望しない」

勇者「…そして、お前に俺は殺せない」

大魔王「…」

大魔王「…じゃったら…!」

大魔王「…ワシをっ…殺してくれ…!」

勇者「…」

勇者「…何で、お前らは同じことしか言わないんだ」

大魔王「…」

勇者「…殺すわけないだろ」

大魔王「…」

勇者「…最初に、お前らに酷いことをしたのは、人間だ」

勇者「…だから、お前らも、やり返した」

勇者「…憎しみあって、ずっとこの馬鹿げ戦いが続いてる」

勇者「…俺で終わらせるよ」

勇者「俺は誰も殺さない」

勇者「俺は、復讐しない」

大魔王「ふざけるでない!だとしたら、あの女の思いはどうなる!?」

大魔王「お前のことを愛していたあの女はどうなるんじゃ!?」

勇者「…どうもしない」

勇者「ただ、この戦いが復讐によって起こるなら」

勇者「…誰がそれに加わってやるもんか」

勇者「…俺も、あいつも、そう思ってる」

大魔王「…」

大魔王「…」

大魔王「ふ」

大魔王「…ふはは、はははは…」

大魔王「…羨ましいの」

大魔王「…ワシにも、そんな奴がいれば」

大魔王「…こうは、ならんかったかの」

勇者「…居るだろ」

大魔王「…あ?」

勇者「…居なかったら、あいつは来ないだろ」

大魔王「何を…!」

ドカァァン!

大魔王「…!」

従者「…ご、無事ですか…?げほっ…」

従者「…大魔王、様…!」

大魔王「…お前…!」

勇者(…空飛んでた…)

大魔王「…!その傷…!」

従者「…げほっ!…あぁ、寝たら治りますよ」

従者「…それより、お怪我はないですか?」

大魔王「…バカが…!」

大魔王「…ひっ…」

従者「…!」

従者「…貴様…!!」

勇者「…」

大魔王「…ひっ…く…あぁ…」

大魔王「…うわぁぁぁぁぁぁあああん…!!」ガシッ

従者「…!…!?…!!?」

勇者「…」

従者「ど、どうされましたか…?」

大魔王「…うぇっ…うえぇん…!!!」

従者「…大魔王、様…?」

勇者「…そのままにしていてよ」

勇者「…その女の子、辛いことがあったみたいだから」

従者「…何を…!」

勇者「…泣き止んだら」

勇者「…これからの事について、話そう」

従者「…」

大魔王「うわぁぁぁぁぁぁあああん…うわぁぁぁぁぁぁあああん…!」

従者(…これが、あなたの泣き声なんですね)

従者(…知らない事が、これほど辛いとは、知りませんでした)

元勇者「…おい!勇者!」

精霊「お兄ちゃん!」

勇者「…あ、二人とも」

元勇者「…?どういう状況だ?これ?」

勇者「…あはは、さぁ」

精霊「…?」

精霊「…お姉ちゃん、は…?」

勇者「…」

勇者「…」ニコッ

勇者「…それも、話そう」

精霊「…?」

元勇者「…」

精霊「…ひっく、ひっく、ぐすっ…!」

精霊「…おね、えちゃん…!」

精霊「ひっく、うぇえ…!」

大魔王「ええい!早く泣きやめ!小娘!」

勇者「…それで」

大魔王「…ふん」

大魔王「…若造が、ワシたちを殺すなら今だぞ?」

大魔王「…ワシ達は、とうに汚れてしまった」

大魔王「…それでも、ワシたちに生きていけというのだな?」

勇者「…うん」

勇者「…死ぬことは、許さない」

大魔王「…」

勇者「君たちは、これから殺した魔族、人間よりもっと多くの命を救う」

従者「貴様…!大魔王に指図を…」

大魔王「…まぁ待て」

従者「…」

大魔王「つまりそれはどういう事じゃ?」

大魔王「具体的に、ワシたちにどうしろと言うのだ?」

勇者「…」

勇者「…境界線の向こう側を」

勇者「…魔界を、統治して欲しい」

大魔王「…」

勇者「そして、俺達と、君達は、極力混じわらない」

勇者「とりあえず今は」

大魔王「…ふん、それはつまりいずれは交流を持とうと言うことじゃな」

大魔王「…まぁそれは良かろう、だが貴様のそれは臭いものに蓋と何ら変わらんぞ」

大魔王「ワシが統治しても、いずれ貴様らはまた間違いを起こす」

大魔王「それを、どうするつもりだ」

勇者「…もちろん」

勇者「解決しに行く」

大魔王「期待してるのなら悪いがワシは手伝わんぞ」

大魔王「あの王宮に行く事を考えただけで反吐が出るわ」

勇者「…分かってるさ」

勇者「頼めるかな」

大魔王「ふん、鬱陶しい男じゃ」

大魔王「ワシたちの命は貴様が握っておるじゃろうが」

大魔王「大切な人間の命を食ろうて強くなった貴様がそれを言うのか?」

元勇者「…てめぇ…」

勇者「…いや、いい」

大魔王「…ふん」

大魔王「良かろうよ、貴様の言いなりになってやる」

大魔王「このワシが、魔界を統治してやる」

大魔王「貴様らよりも、秩序あり、豊かな世界を作ってやるわ」

勇者「…あぁ、助かる」






村長「…あれ?お前ら…」

勇者「…ん?」

村長「…あぁ、そうか、お前が勇者か」

勇者「…」

村長「よくもこの村を…!」

勇者「…!」

村長「…なんて、言うつもりは無いよ」

勇者「…ごめんなさい」

村長「…そうか、あの化物のようなお嬢ちゃんも、死んじまったか」

勇者「…」

村長「あたしはさ、元々この村の生まれだから細かいことは分かんない」

村長「だけど、この世界がこうなった理由はあんたらにある」

村長「あんたら人間にね」

勇者「…」

村長「だから、気張って見せなよ」

村長「あたしは、あんたの生き方、嫌いじゃない」

村長「優しさは、奇跡を起こすからね」

勇者「…ありがとうございます」

村長「ああ、気を付けて」





精霊「…ぐっ…」

元勇者「…泣き止んだか」

精霊「…お兄ちゃんだって、耐えてる」

精霊「…だから」

元勇者「…そうだな」




勇者「…」

勇者「…なぁ」

勇者「…魔法使い」

勇者「…俺は、勇者で居られたかな」

勇者「…別にみんなから認められなくても構わない」

勇者「…俺は、お前にとって勇者で居られたかな」

勇者「…お前がいない世界で、生きていけるかな」

勇者「…」

勇者「…怖いんだ」

勇者「…今からまた、無謀な事をしようとしてる」

勇者「…俺1人で、出来るかな」

「1人じゃ、ないんじゃないですか?」

勇者「…ま…!」

ヒュゥウウウウ…

勇者「…」

勇者「…そうだな」チラッ

元勇者「…おう」

精霊「…うんっ…!」






勇者「…1人じゃない」

勇者「…」

勇者「俺は、本当の勇者になる」

勇者「見ててくれ」

勇者「また、いつか、そっちで会おう」ニコッ





























数ヵ月後

従者「…」

大魔王「のう、従者よ」

従者「はっ」

大魔王「あやつらは今、どうしてるかの」

従者「…」

大魔王「はっはっ、ワシも注意深くなったの」

大魔王「お前の表情の微妙な変化がよく見て取れる」

大魔王「やくなよ、ふはは」

従者「やいてなど…!」

大魔王「不思議な奴らだったのう」

大魔王「勇者のくせにワシらを倒そうとせず」

大魔王「それどころかワシの気持ちを知って同情するやつだ」

従者「…」

大魔王「ワシとお前が初めてであったとき」

大魔王「ワシは化物だったか?」

従者「…」

従者「あなたは、出会った時から」

従者「今まで、私にとっての大魔王であり」

従者「…ただの幼い女の子です」

大魔王「ふはっ、言うようになったのう」

大魔王「ワシの力、誰かを愛せば愛すほど鋭く深くなっていく幻覚魔法」

大魔王「見た目だけじゃなく精神的にも幼かったワシはある村にたどり着いた」

大魔王「その時はまだ人間だったがの」

大魔王「幼いワシは力に気がつくことが出来ず、そして制御もできず」

大魔王「気が付いたら、ワシの力で、私の愛した村はほぼ壊滅しとった」

従者「…」

大魔王「ふはは、この力は災いを招く」

大魔王「誰にとっても、な」

従者「…」

大魔王「あいつも同じじゃよ、まぁほぼワシのせいだがの、ふははは」

従者「…」

大魔王「ワシには、どうにも出来んかった」

大魔王「絶望してなお持ち直すなど、出来なかった」

従者「…」

大魔王「だからの、これから作ろうと思うんじゃ」

大魔王「また、新しく愛そうと思う」

従者「…」

大魔王「付き合ってくれるかの?従者よ」

従者「…勿体ないお言葉です」

大魔王「ふはは、良い良い」

従者「…」

大魔王「ふはは、「これ」が気になるか?」

従者「…えぇ、少し」

大魔王「お前は奇跡を信じるか?」

従者「…いいえ」

従者「そんな物があったら、あなたは…」

大魔王「…ふはは」

大魔王「ワシは信じとる」

大魔王「奇跡というのはの、心が引き起こすものなんじゃよ」

従者「…?」

大魔王「要領を得んか?」

大魔王「つまりな、これが残っておったり」

大魔王「先祖返りしておったり」

大魔王「ワシが偶然にも不老不死であったり」

大魔王「人間共の復讐のために魂についての研究をしていたり」

大魔王「そのどれもは単なる要因でしかない」

大魔王「パーツが揃っていても決意がなければ意味がない」

従者「…」

大魔王「ワシがこんな事をするのも一度きりじゃ」

大魔王「そしてワシがそうしようと思ったのは、あいつが原因じゃ」

大魔王「生き方を貫き、絶望しなかったあいつの心が」

大魔王「ワシの心を動かした」

大魔王「その事が、決意であり、奇跡なんじゃよ」

従者「…」

大魔王「これは、あいつが起こした奇跡じゃ」

大魔王「ワシには起こるはずもない」

従者「…」

大魔王「あの勇者の人生は、不運であったかもしれないが」

大魔王「不幸ではなかった」

大魔王「そう、思えることが今のワシには素晴らしい」

従者「…少し、都合が良すぎではありませんかね」

大魔王「ふははは、ご都合主義でも構わんのじゃよ」

大魔王「それ相応の不都合を、勇者は味わった」

大魔王「ほれ」

大魔王「いつまで寝ておるか」

大魔王「起きろ」







大魔王「早くあいつの所へ、駆けつけろ、この化物め」ニヤッ





王宮

勇者「…やっと、ここまで来たな」

元勇者「あぁ」

精霊「…うん…!」

元勇者「まぁお前が道中余計な人助けをしなければもっと早くたどり着けたがな」

勇者「…ぐぬぬ」

元勇者「ま、お前はそれでいい」

勇者「…」

元勇者「さぁ、行くぞ」

元勇者「あそこでふんぞり返ってる馬鹿どもを殴りにな」

勇者「おう!」

「なんだ貴様!」

勇者「俺は勇者だ」

「例え勇者でもこの部屋へ入ることは出来ない!」

勇者「ふっ、だったら力尽くで通らせてもらうぞ!」

バキッ!

「…ふん、お前が勇者?嘘を言うな、弱者め」

勇者「…い、痛い…」

元勇者「…はぁ!?」

精霊「…お兄ちゃん…?」





「雑魚が、立ち去れ!」

「おい」

「…!?」

「どこの誰に、手を上げてる!」ドゴォン!

「ぐぉぉおおおおお!?」

勇者「…」

元勇者「…」

精霊「…」





「あらあら、私抜きで何をしようと言うんですか?」

「大体強くなったからと言って油断しすぎですよ」

「…あ、今はもう弱いんでしたっけ」

「あら、じゃあまた歴代最弱ですか?」

「ほんっと仕方ない勇者様ですね」

「…仕方が無いから、私が剣になってあげますよ…」

「…ふふ、ありがたく…ひゃうっ!!??」ガバァッ

「はははは離れてください!セクハラ!死ね!」

勇者「…」

勇者「…本物だ…」

「…」

魔法使い「当然です、私を誰だと思っているんですか」

魔法使い「化物ですよ?」





魔法使い「何かを守れる化物です」ニコッ

勇者「…もう、居なくなったりしないな?」

魔法使い「ふん、誰にいってるんですか?」

魔法使い「さて、詳しい事情は分かりませんけど」

魔法使い「ちゃっちゃと片付けてしまいましょうか」

勇者「…なぁ」

魔法使い「…?何です…!?」

勇者「これが終わっても、そばにいてくれよ」ギュッ

魔法使い「…」

魔法使い「…ほんっとうに」

魔法使い「…仕方が無いですね、勇者様は」ギュッ







元勇者「なあ」

精霊「…」

元勇者「覚えとけ、戦場でイチャつく奴は、最近は逆に死なねぇ」

精霊「…くぅ…!」メラッ

元勇者(あ、こいつもやばいな)

勇者「さぁ、行こう」

魔法使い「ええ」

精霊「…ん…!」

元勇者「…おう」

勇者「…国に反逆する俺は…」

勇者「俺は、もう勇者じゃないけど」

勇者「…それでも、付いてきてくれるか?」

元勇者「何を」

精霊「…今更…」

魔法使い「ばーか、変態、スケベ、ロリコン」

勇者「関係無いじゃん!」

魔法使い「あなたは勇者です」












魔法使い「私達の」

魔法使い「そして私だけの、勇者様ですよ!」

おしまい

精霊ちゃんと魔法使いのキャットファイトやいかに


見てくれてありがとね
質問あればどぞ
どんな質問されても辻褄合わせます

なんでこんな駄作を投稿しようと思ったの?
面白いと思ったの?

>>334
ひん;;



荒削りっていう意見があったけどどのへんを意識すればそういうの無くなるんでしょうか
煽りじゃなく素直に意見が欲しい

魔法使いを殺したって事実を受けて勇者の「命を奪った感覚(認識?)で強くなる」能力が発動した訳だけど、人知れず魔法使いが復活した結果(=勇者の中で殺したままになっている)勇者が弱くなったのは設定的に大丈夫なのか

具体的にいっていいの?
じゃあまずは設定が有りがち過ぎる
・最強になれる器を持つ主人公と最強クラスのヒロイン
・優しすぎて相手を殺せない主人公
・魔族が実は元人間
・ヒロインを殺して覚醒する主人公
etc

あげればキリないけどどこかで見たことある設定の詰め合わせで読んでて展開が予想できる。

あと最後が駆け足過ぎて読者を置いていってる。自己満足にしかなってない。

キャラの掘り下げが浅いから感情移入しにくい。だから読んでても情景が浮かばない。

まだ続ける?

そのキャットファイトは何処に

>>336
10日間の空白が俺の頭から設定を抜き取ってしまった
辻褄合わせるなら発動に必要なのは奪ったという実感と奪ったという事実両方だということです


>>337
うん


>>338
何処にもない

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