われわれの短編SSスレ(67)


    / ̄ ̄ヽ、
   /  ●/  ̄ ̄~ヽ      ★短編ssスレです。1~20レスくらいの短く終わるssを書いていきましょう。

  /     ト、.,..    \    ★書き溜め推奨。即興で書く場合は名前欄に番号を振ってもらえると読みやすいかも。
 =彳      \\    ヽ   ★ジャンルはなんでもあり。男女勇者パロエロなんでもお好きに。
,          \\   |   ★書き方も自由。地の文?台本?何ソレおいしいの?
         /⌒ヽ ヽ  |    ★長くなりそうな場合は自分でスレ立てたほうがいいかも。
        /   | |  /    ★スレタイ(タイトル)はあってもなくてもおk。
      /     \|/    ★さっくり気軽にssを楽しみましょう。
      l



お題でssスレがいつまでたっても進行しないのでむしゃくしゃして立てた。
とりあえず一本投下します

天中殺である。

戌年でも亥年でも占いを信じているでもないが、あまりにも不運が続くので勝手にそう思っている。

受験に失敗して浪人したのはまあいい。いや良くはないが自分の実力不足である。運の所為じゃない。

予備校で孤立しているのも自分のせいだろう。受験の失敗を引き摺り、落ち込んで居過ぎた。

トイレ、しかも用を済ませた後に携帯を落としてしまったのは…不注意だと言えるだろう。

だが鳥の糞が直撃したり、何も無い場所で盛大に転んだり、自転車のチェーンが外れたり。

突き詰めれば自分の所為だが、こうも続くと不運を呪う他無い。

「あーっ、先輩またこんなところにいたんですかっ!」

甲高い声が耳に響く。更にもう一つ、不運がやってきた。

「こんな寒い階段じゃなくて、中でお昼食べましょうよ~」

予備校に友達は居なかったが。どこに目を付けられたのやら、こいつだけはしつこく話しかけてくる。

別に先輩でもなんでもない。歳が違うだけで、同じ入試を控える受験生だ。

「うーん、相変わらずクールっすねぇ。そこがたまらんのですよハァハァ」

ハァハァ、の部分まできっちりと声に出して読み上げる。一体どこからそのアニメ声は出ているのか。

黙ってさえいれば普通の外見である。性別は女、らしい。

「のんのん。腐ってやがる、遅すぎたんだ…どやぁ」

毎日毎日時間を見つけては同好の士と人目も憚らずアニメや漫画の話で盛り上がる。

所謂、痛い奴である。

そういう趣味を否定するつもりはない。自分とて同じようなものだ。

だがそれを一旦表に出せば周囲の視線が気になってしまう。

高校生活は入学当初に口を滑らせて以来、オタクのレッテルを三年間張られ続けた。

こいつと仲良くなることで、同類だと思われたくなかった。

尤も周囲の男連中は既にグループを確立していたし、こいつと縁を切ればそこへ入れるわけでもない。

「自分としては早く誰か男友達を見つけてイチャイチャしてほしいものなんですがね~」

余計なお世話だ。というかそういうことを人前で口にだすな。

イライラしてしまう。

こいつが悪いわけではないのは、わかっているつもりなのだが。

「…なんか、いつも以上に機嫌が悪いっすね。どうかしたんですか?」

別に。

「あはは、そりゃこんなのに絡まれたら迷惑っすよねー……すいません」

別に、と言っている。お前のせいなんかじゃない。

誰彼構わず話しかけていく割りに、こいつはやたら空気が読める。

本当に話したくないときは近寄っても来ない。

ただ勝手にこっちの都合を想像して、勝手に謝られるのは困る。

寂しそうに笑う顔に、罪悪感を覚える。それこそこっちの勝手なのかもしれないが。

このところ、運が無いから凹んでいただけだ、と説明する。

「ははぁ、なるほど。うんうん、そういう時ってありますよね~」

うんうんと大げさに頷く。

こちらとしても愚痴を聞いてもらえるだけありがたいのかもしれない。

「自分でどうこうできるもんじゃないっすからね、こればっかりは」

まぁ、そうだろうな。

「でも解決する方法ならありますよ」

思わず、後輩の顔をまじまじと見る。やけにニヤついた顔をしている。

「その顔、疑ってますね~?…人間の運気なんかどうしようもない、占いも嘘っぱちだ。

 こいつ怪しい宗教にでもはまってるんじゃ…?と、そんな顔ですな」

「そんな先輩にプレゼントです!」

ごそごそとポケットをまさぐり、何かを取り出す。

「じゃじゃーん。ごーまーだーれ~。運気の上がるストラップです!」

そのまま手に押し付けられる。

手の中を見てみると、ピンク色をした、大きな嘴の鳥がいた。

何かのキャラクターなんだろうが、見たことがなかった。

「その子を携帯につけてるとみるみる運勢アップ!雑誌の裏表紙みたいな人生間違いなし!」

ますます胡散臭い。更に眉をひそめる。

こんなもので解決するようなら、そんなに落ち込むこともなかったと思うのだが。

「まーまー、疑う気持ちはわかりますが。タダだし試すだけ試してみてくださいって~ダンナ!」

突っ返そうと口を開きかける、が。

「いっけなーい、もうこんなじかん!わたし、いかなくっちゃー」

白々しく遮られる。

「あ、その子結構だいじなんで。捨てたりしちゃだめですよ!」

「それじゃーまたです、先輩っ!」

わざとらしくバタバタとどこかへ行ってしまった。階段に、一人とストラップが残される。

……一体、どういうつもりなんだか。励ましのつもりなんだろうか。

だが確かに試してみる分にはタダだ。ストラップ一つつけて損をすることもあるまい。

今度会ったときに、丁重にお返ししよう。

そう心に決めて、最近新しくなった携帯に、ピンク色の鳥をくくりつけた。

占いだとか運気だとか、信じちゃいなかったが。

予備校で友達ができた。教室で隣に座った男と、その、趣味の話で盛り上がれた。

何を話せばいいのかわからず漫画の話をふってしまった。言った後に高校生活を思い出して後悔する。

ところが、それまで気のない返事しかくれなかった男は意外にも食いついてきた。

見た目の印象で勝手に硬派だと思い込んでいたが。蓋を開けてみれば彼も漫画をこよなく愛する青年だった。

向こうも同じような印象をこちらに抱いていたらしい。お互いに苦笑する。

携帯のアドレス帳が、久々に増えた。

他にもコンビニくじが当たったり、百円玉を拾ったり、雨上がりに大きな虹を見れたり。

雑誌裏の強運、とまでは言わないが。少なくとも不運ではなくなった。

「お久しぶりです先輩。どうでした?その子の活躍は」

廊下でメールを打っていると後輩がやってきた。

とりあえず不運ではなくなったので礼を言う。効果があったことでますます胡散臭くなったが。

「あ、別にこの子にそんな効果はないですよ~。ガシャガシャで二百円の普通のストラップです」

しれっと言う。薄々そんな気はしていたが、もう少しなんかあってもよかったんじゃないか。

「んーそうですね。効果があったとしたなら、先輩の心境の変化じゃないですかね」

いつもと違う、真面目顔。

「私も、占いとか信じてないんですよ。そりゃ、話のタネぐらいにはしますけど」

「嬉しいこととか、悲しいことを、『運』だなんて曖昧な言葉で片付けたくないんです」

「晴れの日は気分良く、雨の日は憂鬱。そんなわけないです。

 晴れの日にも悲しい事はあるし、雨の日だって楽しく過ごせます。」

「いいですか先輩。先輩の不運なんてそんなものです。悪いことが重なったのは唯の偶然です。

 先輩がしてしまった失敗は反省して次に気をつければいい。

 うまくいったときには素直に喜んで幸せな気分になればいいんです」

「気分が上向いたのは私の所為でもなく、ましてや幸運のストラップでもなく」

「先輩の、気持ち一つなんですよ」

傾いてきた夕日が廊下を照らす。

「ですから先輩、いつまでも落ち込んでないで楽しくやろうじゃないですか。

 辛いこと悲しいことがあったからって、いつまでも引き摺っていたらつまんないですよ。

 楽しいときは笑って、悲しいときには泣いて。そのお手伝いくらいは、私にもできます。

 でも自分から楽しくなろうとしないと、本当に楽しくないままになっちゃいます!」

浪々と、抑揚をつけて。

オレンジ色に染まった姿が、妙に絵になっている。


「ですからね、先輩っ!」

びしっと、指をさす決めポーズ。

「幸せは、途切れながらも続くのですっ!」

よくもまぁ、そんな恥ずかしい事を恥ずかしげもなく。

思わずクスッと笑うと、ちょっと顔を赤くしながらぽかぽか叩かれた。

でも、まぁ。

なんだか少し、肩の力が抜けた気がした。

そういえばまだ、メールアドレスを聞いてなかったな。

「ふぇっ!?アド交換ですかっ!先輩とメル友ですかっ!?」

目をまんまるにして驚く。そこまで嫌だったのかね。

「ととととんでもないっ!っしゃーきたこれ!ヘブン状態ですよっ!!」

ワタワタと騒がしい。そこまで喜ぶようなことかね。

「だって先輩あったまいいーじゃないですか。わからないとこ教えてもらえるかなーと」

意外に現実的である。

ともかく、またアドレス帳が見えない厚さを増した。

元よりモラトリアムな予備校生活である。最後に受かりさえすればどんな気分で過ごすのも自由だろう。

「先輩っ!セブンに買い食い行きましょうっ!買い食いっ!」

へいへいと返事をして、並んで階段を降りる。

なら。


どうせなら、面白おかしく過ごすのも、悪くないと思えた。

以上です。スピッツの「スピカ」が元ネタです。バンプのスレがあったので。
気が向いたら投稿していくので、皆さんも書いてみてください。

男「愛してる」

女「はあ?」

男「もっかい言おうか」

女「いいよ別に」

男「愛してる」

女「言うな、ばか」

男「だめ?」

女「恥ずかしいだろ、ばか」

男「かわいい」

乙乙

女「かわいいとか言うな」

男「なんで駄目なの?」

女「だって、ほらその…」

男「かわいい」

女「てめぇ!」

男「どうしたの?」

女「本気でいってんのか?」

男「どうだと思う?」

女「殴るぞ、こら」

男「…ごめん」

女「えっ…」

男「どうしたの?」

女「…なんで謝ったの?」

男「だって君、怒ってるから…」

女「…もう…っバカ!」

男「えっ?」

女「…大好きだよこのやろう」

男「えっ」

女「一生、幸せにしろ……ばか」

男「……うん」





めでたしめでたし

乙乙乙

「ですから、人間の目指す場所は何かって考えたんですよ」

「お金をいっぱい稼ぐこと?勉強や仕事での成功?有名人になること?」

「どれも魅力的だとは思うんですが、私にはしっくりきませんでした」

「ほら、子供のうちだとできないことって沢山あるし。

 でも子供がみんな目標を持っちゃいけないわけでもないですし」

「私も人間である以上、私にも納得できる目標があるんじゃないかなって」

「交尾すること?繁殖すること?子孫を残すこと?」

「惜しいとは思うんですが。私もお嫁さんになりたいって思います。

 でも子供って嫌いなんですよね。うるさくって、わがままで」

「幸せになること?不幸にならないこと?生きていくこと?」

「素敵だと思います。みんなが幸せになれればとっても素敵です。

 ですが、人間の創った社会では全員がそうはなれません。なれていません」

「みんなが幸せになれていれば、戦争も殺人も自殺も無いはずなのに」


「私だって、幸せになれたはずなのに」

「ノートを破かれなくても。靴を探さなくても。落ちた給食を食べなくても。

 お母さんにぶたれなくても。お父さんに乱暴されなくても」

「痛い思いをしなくていいはずなのに。苦しくなんかないはずなのに」

「私の、みんなの幸せってなんだろうって、一生懸命考えたんです」

「うんうん頭を捻って、鼻血が出るまで考えたんです」

「そしたら。

 人間の行き着く所って、死ぬことなんじゃないかって。気付いたんです」

「本に書いてあるみたいな死後の世界が無くたっていいんです。

 死んじゃえば、お父さんもお母さんも、クラスのみんなだって」

「私に、みんなに、酷いことをしなくなります」

「ほら、今、環境問題だなんだってテレビでやってるじゃないですか」

「このままじゃ50年後には人間は全滅だーって。

 社会も、大人も、子供も、みんなも。人間は。死にたいんですよ」

「みんな死んで、みんな静かになれば。きっととっても素敵なんです」

「きっと、みんな幸せなんですっ!」

――それが、両親とクラスメイト、担任まで刺した理由?

「刺したのはお母さんと○○ちゃんとせんせいですよ。

 お父さんは窓から落ちちゃったし、××君は転んだ拍子に鉛筆が刺さっちゃって」

「あとの子はあんまり覚えてないなあ。あ、黒板消しをドアに挟んだのは覚えてますよ。

 確かにあれ、面白いかもしれないです。やられる側としては嫌ですけど」

――酷いことをしたとか、罪悪感は無いわけ?

「…? 特に、ないですけど」

――それはどうして?

「だって、みんな幸せになれたんですよ。そりゃあ、最初はみんな大暴れでしたけど」

「最後にはわかってくれて、静かになってくれたんですよ」

「みんなを幸せにしてあげたのに、なんで悪いと思わなきゃいけないんです?」

――自分がしたことが、正しいことだったと?

「みんな、気付いてないだけなんです。気付かないフリをしているんです」

「みんな、幸せになりたいだけなんです。幸せになりたいはずなんです」

「私は、みんなを、私を。幸せにしたいんです」

「刑事さんだって、いつか気付きますよ」

「死んじゃえば、幸せなんだってっ!」



―――

『なんだかなぁ。やるせない話っスねぇ』

――やめとけ、同情なんかするのは。

『そうはいってもですね、あんな理論を信じなきゃいけないような。

 そんな環境に置かれたってのは本人のせいじゃないはずですし』

――そうはいっても、そうはならなかった。

   結果として殺人を犯してしまったなら、法で裁く他ないさ。

   それが我々人間様の社会ってもんだろう。

『はぁ、さいですか。

 にしても彼女、随分とまぁ可愛らしい顔で演説してましたね』

――ああいった顔は年相応なんだよな。全く。

『言ってる事は滅茶苦茶なんですけどね。

 ああ言われると、なんだか正しい事を言われている錯覚にも陥りますよ』

――それこそやめておくべきだな。一応先輩として忠告しておくならば、

   犯罪者の戯言なんか真に受けるべきじゃない。

『んーわかってるつもりなんスけどね。

 先輩はないんスか?そういうの』

――無い、むしろ無くすようにしている。

『はぁ。なんだか先輩らしいスね』

――犯罪者に限らず精神異常者に言えることなんだがな。

   間違っていることを、そいつの持っている材料だけで無理やり証明しようとする。

   すると歪ながらも、そいつだけの文化、価値観なんかが生まれちまうんだ。

――大抵は御伽噺にもならない下らないモノなんだが。

   偶に、妙に人を惹きつけるモノが出来上がったりもする。

   理屈なんかじゃない。今でも精神鑑定士が頭を抱えているような代物だ。

   運がよければ新興宗教を興したりもするな。

――ほら、海外に旅行に行ったりした連中がさ。

   帰ってくると、言葉すら喋れないのにその国を理解したような顔をしているだろう?

   風邪みたいな流行病だ。軽い症状だがこじらせると死に至る。

『あー。部長とか旅行帰りうざかったっスからね。

 エッフェル塔と警察組織を一緒くたに話すのはなかなか凄かったスけど』

――似非外国人になるなら可愛いもんだが。

   犯罪者の思想に染まりきると、社会から弾かれる他に道は無い。

――昔の偉い人は言ったもんだ。"長く深淵を覗く者を、深淵もまた等しく見返す"

   異常者の頭の中身を覗くのは、ちゃんと勉強した鑑定医に任せとけ。

   もし風邪が移ったなら、うまい物食って酒呑んで寝て起きれば忘れるさ。

   我々刑事は、粛々と、国の法律からはみだした奴をしょっぴけばいいんだよ。

『…はぁ。なんだか、刑事の鑑って感じっスね。

 熱いんだか冷めてるんだかわけわかんないスけど』

――なんだよ。俺だって偶には語りたくもなるさ。

『あーはいはい。まぁ今はそんなことどーでもいいんで。

 国に恥じない立派な警察官である先輩にもう一度質問するっスよ』



『なんで、あの娘の頭を撃ち抜いたんですか』

.

『本当に前代未聞っスよ。現職の警察官が、取調べ中に被疑者を銃殺だなんて』

『先輩は知らないでしょうけど署は今大騒ぎっス。庁からも偉い人が山程来ましたよ』

『部長なんか真っ赤になったり真っ青になった挙句、今は血の気が引いてまっちろです』

『なんで、先輩はあんなことしたんスか?』

――なんでって。そりゃあ。

   あいつはこの先どうせ死刑になるんだし。

   今まで不幸な人生を送ってきたみたいだし。


   少 し で も 早 く 死 ん だ ほ う が 、 " 幸 せ " っ て も の だ ろ う ?

.

以上です。書いておいてなんですが既視感バリバリな設定ですね。
でも少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

そしてお題スレが進んだけど思いつかないっていう。

乙乙乙

乙です

――覚えておきたまえマサト君。このお兄ちゃんが妹を愛するテーマが流れたとき――

…君は全力で逃げるんだ。

マサト「うわああああああ!」

二ノ宮早彦「うりりりりりぃぃぃぃ!!」

どどどどどどどっ

黒いちぇーんそーが振り回される。

マサト「うひいいいい!」

プレハブが爆発する。

マサト「逃げ切れたけどどうしよう……行き場がないなぁ」

沙代メール「あたしの家にくればいいじゃない!」

マサト「そっか」

そして俺が沙代を蹂躙しまくり続けるssが読みたいと思います。

「一応話の通りチェーンだけは交換しておきました。

 ですが、全て修理するとなると新品が買えてしまいますね」

自転車屋の店員が言う。カゴはひしゃげ、ギアは錆と油でドロドロに。

ペダルもひび割れ、変速機から伸びる鞘はズタズタで、スポークまで折れている。

「とりあえず乗れますがギアチェンジはしないでくださいね。

 お早めに修理か交換を行ってください」

ハンドルにもガタが来ているらしく、本当ならば乗って欲しくない状態だと念を押された。

礼を言い、修理代を支払う。

普段よりもギア比が小さくされていた。割れたペダルをくるくる廻し、家に帰る。

それでも乗り心地は、以前のまま変わらない気がしていた。

―――

就職が決まり、慌しく引越しの準備をしている最中。

実家に置きっぱなしにしていた自転車の事を思い出し、カギを見つけ出した。

マンションの駐輪場に丸二年の雨ざらし。自分が居ない間は弟も使ってなかったとの事。

高校の駐輪シールが貼られたままの自転車は、見た目こそ当時のままだったが、

実際に乗ってみるとペダルが途中で何度も止まった。

それまでにも何度も修理に出していたので、いつものように自転車屋まで乗っていく。

買い替えを勧められた時も大してどうとも思わなかった。

強いて言えば、新しい自転車を選ぶのが面倒くさいな、といったところか。

「おかえりなさい。自転車はちゃんと直った?」

帰るなり母親に尋ねられる。買い替えの方が安く済むと伝えると、残念そうな顔をした。

「あらそう。それじゃしょうがないかもねぇ」

直し直し使ってきたが、もう寿命ということなんだろう。

それなりに長い期間使ってきたはずだろうし。

「高校の時からだから、もう八年にもなるのね」

…そんなに長かっただろうか。

「高校の入学祝に買ってあげたじゃない。自転車通学したいからって。

 えらく気に入ったみたいで、盗まれたときも必死に探してたのを覚えてるわよ」

そんなこともあったっけ。結局無くなったところから一つ市を挟んだ所に回収されていて、

夏の暑い日にひいひい言いながら帰ってきた気がする。

「友達と自転車旅行に行くって、みんな立派な自転車なのにママチャリで着いて行っちゃって。

 せっかくの旅館なのにずっと寝てたって話とか。面白かったわねぇ」

今思えば馬鹿な真似をしたものだ。置いていかれまいと常にハイペースで漕ぎ続けていた。

思い出し笑いが込み上げる。

「まぁでも、それだけ使ってあげたら自転車の方も満足でしょうよ。

 引越し先で適当に良いのを買ったらいいんじゃない」

言うと、母親はテレビに視線を戻す。

手洗いを済ませ、冷蔵庫からお茶を一本取り出し、自室に入った。

ペットボトルのフタを開け、布団の畳まれたベッドに腰掛ける。

八年か。大学三年にあがるときに家をでたから、実質は六年。

それでも数字にしてみると随分長いことである。

高校は電車でも自転車でも30分の距離にあった。

疲れるからと電車通学を勧められても、自転車に乗るとストレス解消になると言い張っていた。

浪人中通った予備校も大体同じくらいの距離だった。

受験の不安から予備校を抜け出し、一人で海を見に自転車で駆け出したこともあった。

大学は距離があり自転車で通うことは叶わなかったが、それでも休みの日には使っていた。

友人と街に繰り出しては、駐輪場を探してうろうろする羽目になった。

思えば当時は何をするにも自転車で行動していた。それこそ雨の日も風の日も、である。

桜舞う川沿いの道を。茹だるような夏の日差しを。痛いほど冷たい風の中を。

青春の大部分は、自転車に跨って過ごしていた。

…アイツ自体にそんなに愛着があるつもりではなかったが。

青春の大半を一緒に過ごしたアイツが、自分の気付ぬ内に寿命を迎えてしまっでいたことを。

悔しいな、と思った。

時計を見ると、時刻は4:50を指している。母親はまだ夕食の準備をしていない。

今なら、まだぎりぎり行けそうだ。

お茶を一気に飲み干すとマフラーを巻き、粗大ゴミのシールを買ってくると言って家を出た。

―――

高校への川沿いの道を走る。ギアを変えられないため、以前よりも随分とゆっくりだ。

この道は遊歩道としての側面が強いらしく、路面にはピンコロ石が敷き詰められている。

自転車も通れるがガタガタと振動し、主にサドルの上の尻が悲鳴をあげる。

尻を労わりノロノロと走るか、立ち漕ぎで一気に抜けてしまうかの二択だ。

寝坊が多かった自分は立ち漕ぎ派だったが、尻は平気でも自転車には相当な負担だったらしく、

おかげで一年に一回はどこかに故障が出ていた。

今日は急いでいないので、ぽつぽつ咲き始めた桜を眺めながらゆっくりと。

当時はここで別の高校の友人と会うことがあり、喋りながら並走する迷惑な高校生と化していた。

今ではもう疎遠になってしまったが。きっと元気にやっていることだろう。

悪辣な路面を抜け、そのまま川沿いに住宅街に入る。

先ほどとは変わり、ここは滑らかなアスファルトなので非常に走りやすい。

遅刻しそうなときは、立ち漕ぎで付近の女子高の生徒をごぼう抜きにしていた。

せっかくの女子校生が多い地帯でも、寝坊ばかりでゆっくりと眺められた回数は少ない。

帰りに買い食いをしていたコンビニは潰れてしまっていたが、新しい家なんかも建っていて、

そんなに寂れているわけでもないらしい。

当時はやきもきしていた押しボタン式信号。押すと、すぐさま車道側の信号が黄色く光る。

横断歩道を渡り、まだまだ続く桜並木をくぐってゆく。

もう少し進むと、畑が広がる場所になる。

丁度駅からも離れていて高い建物も無く、菜の花畑があったりして景色がいい。

お陰で夏の日差しも冬の風もモロに受けることになっていたが、車通りも少なく、

自転車通学にはぴったりの道である。

徹夜明けで登校した際に、漕ぎながら眠っても無事でいられたほどだ。

高校の友人と帰るときはここらで別れていた。一度だけ、好きな女の子と帰ったこともあった。

結局、その娘とは何もないまま卒業を迎えてしまったが。

瓦を載せた一軒家の庭に、紅白混じったボケの花が咲いていた。

県境の大きな川との合流地点の手前で曲がり、坂を上れば我が母校である。

傾斜は緩やかではあるがそれなりに長く、学生の中には押して歩く者も居た。

もう壊れかけの自転車。ここまでは緩々と走らせてきたが、この坂はどうだろうか。

車通りの多い道なので、途中でチェーンが外れて転倒すると至極危険だ。

坂の下のハンバーガー屋の前に停め、自転車の様子を見る。

幸いにもギア比は小さいままである。チェーンもがりがりと音をたててはいたが、

外れる予兆のような音は出していなかった、ように思う。

何にせよ。今日はコイツのラストランである。

多少の無茶は承知の上。サイドスタンドを蹴り上げ、伸びる坂のてっぺん辺りを睨みつけた。

―――

軋むペダルに力を込める。

チェーンは一層苦しそうに音をたて、スポークの折れたタイヤはゆらゆらと揺れる。

日頃の運動不足も相まってすぐに息が上がる。想像していたよりも大幅にスローに。

それでも、じわじわと坂を上っていく。

チェーンが外れないように精一杯気を使う。実際どうしたらいいのかわからないので、

祈ると言った方が正しいかもしれない。

実際、突然チェーンが外れて派手に転び、肘をしたたかに擦り剥いた事がある。それも二回。

未だに両肘の同じような位置に傷跡が残っている。

…よく毎朝登れていたものだ。立ち漕ぎで一気に登り、冬でも汗がだらだら流れていた。

女子の眩しい太腿目当てにしても、随分と血気溢れる男子高校生だったらしい。

当時と同じように汗が吹き出る。息は荒く、棒のようにとまでは言わないが脚に疲労が溜まる。

いや、そういえばあの時もこの坂にはうんざりとしていたような。

あの頃は硬派を気取っていて、人目を気にしてわざわざスカートから目線を逸らしていたような。

ここは排ガスも酷いものだし、朝の通学時間はそれなりに混んでいた。

遅刻しそうなことが多いから、一気に駆け上っていたんだっけ。

だらだら歩く生徒を抜かして悦に入っていたような、そうでもなかったような。

マフラーを巻いた首元がやたら熱い。

汗の流れる額がむず痒い。

もういっそ降りて押したほうが楽なんじゃないか。いや、ここまで来たら意地だろう。

自問自答を繰り返し、万端の力を込めて、ペダルを押し込み――


――やっとの思いで、坂を登りきった。

.

道の左手に高校が見える。やれやれ、と思わず呟く。

歩道に入り、地面に足を着けて。マフラーを外し、シャツのボタンを開け、息を整える。

登ってきた坂を見ようと、ふと振り返ると。

傾き始めた黄色い光に、その色に染まったビルの群れ。

小さく見える高架の線路を、チラチラと光を散らしながら電車が通った。

火照った頬を、まだ冷たい風がひんやりと撫でる。

コイツの最期に相応しい、それなりに感動的な景色が広がっていた。

なんで、わざわざ自転車に乗っていたのか。

電車賃を惜しむほど小遣いに困ってはいなかった。

友人の大半は電車で通っていたので、一緒に帰ることは少なかった。

疲れるような走り方をして、毎朝汗だくで教室に入っていた。

それでも、きっとコイツに乗るのが楽しかったんだと思う。

全速力の立ち漕ぎが。体を傾けて曲がるカーブが。格好よく地面を蹴って乗る乗り方が。

上り坂の重いペダルが。下り坂のスピードが。なだらかな道が。ぼこぼこの道が。

うるさく響く風の音が。体を押してくれる追い風が。熱くなった体を冷やす向かい風が。

偶に出会える、こんな景色が。

赤色が強くなりはじめた空を見つめながら、劣化してベタ付くハンドルを握り締める。

どこからか運ばれてきた桜の花びらが、目の前をゆっくりと通り過ぎていった。


色々理由をつけてはいたが。自転車に、コイツに乗るのが好きだったんだ。

雲ひとつ無い夕空を見ながら、そう思った。

―――

なんとか坂は登りきった自転車だが、家に着く直前にチェーンが外れ、見事にギアに挟まった。

油断していたが、スピードは出していなかったので転倒は免れた。

チェーンを嵌めなおすのも億劫なので、すっかり暗くなってしまった帰り道を押して歩く。

駐輪場に停めたところで粗大ゴミのシールを買い忘れていたことに気付いた。

が、適度な疲労感と、換気扇から漂うカレーの匂いには勝てず。

また明日、買いにいくことにした。

きっと、明日はタバコのついでにでもシールを買ってくるのだろう。

粗大ゴミの日がいつだったかは忘れたが、もうアイツに乗る事も無く処分するのだろう。

アイツが居なくなった心の隙間も、そんなに時間を待たずに塞がるのだろう。

自転車一台に涙するほど、感傷的な性格はしていない。


それでも。

就職したらどれだけ時間を空けられるかはわからないが。

運動不足を解消するなら、自転車に乗ろうと。

それだけは、心に決めた。

以上です。
相変わらずな感じですが少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
あと、短編を思いついたらどんどん投下していって下さい。当スレは誰でもウェルカムです。

あとお題スレが遂に落ちてしまった。すまぬ…すまぬ…

おつ

あげてみる

男「いやー、受験結果出たぜぇーーーい」

 「ダメだ、テンション上昇が止まらねぇ」ヒャッハー

 「んー……お! あれは友」

 「おーい友ぉー」

友「……おぅ……男か」ドヨーン

男「おいおいおいおい、受験どうだったよ!」

男「はははははははははっははははははは」

友「テンション高ぇな……男」

男「あはははは、だってさ俺さ、丘の上高校にさ」

友(合格自慢か、うぜぇ)

男「落ちたんだぜ!」

友「えっ」

男「えっ」

友「えっ、えっ」

男「あははは、もう笑うしかねぇよな」

 「俺、私立も落ちてんだぜ」

 「お先真っ暗だ」

 「もう泣きたくて仕方ねえよ」

友「あ、えっと俺も落ちて……」

男「私立に受かってんだから、お前は大丈夫!」

 「いい高校生活を送れよ!」

友「おと、男!」

男「あーははははははははははっはははははははっははははははははははははは

  ひひゃあややややっやややややっややややはははははははははうあっははは

  げほげほ、ぐふふうふふふははっはえへっへへへはははははおーあおあおあ

  ふぅふぅ、ひーひーあはははははははははははははげへげはげっほげっほ

  ひーひー、ひっくひっくうあぁぁぁぁぁっぁん、うあぁぁぁっぁぁぁぁん

  びえーーーーーーんひっ、うあーーーーーーーーーーん」

友「あわわわわ」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom