男「人前に立つと……手が震えるんだ」(20)

極度の緊張しいなんだよ、僕は。

緊張したらダメだって思えば思うほど、

手が震え、鼓動が大きくなり、発表内容が頭から吹っ飛ぶ。

せっかく一字一句すべてを暗記してたのに、

結局しどろもどろになって、何もかも失敗に終わるんだ。

クソみたいな人間だよ。ほんとに。

このままじゃダメだと思って飲食のバイトも始めたさ。

20年生きてきて初めてのバイト。

でも空回りして、全然うまくいかないんだ。


「なんかあの人って、話すネタなくない?」
「うん。人生経験少なそう」
「コミュ障を隠そうとしてる感じ?」
「うんうん。そんな感じ」


……バイト仲間は好き勝手言う。

僕の気持ちも知らないで。

何の苦労も知らないで。

男「確か初めてだよね? ぼく、男。これからよろしくね」

女A「あ、女Aです。よろしくおねがいします」

男「今何年生なの?」

女A「1年生です。男さんは?」

男「ぼくは2年生だよ。どこの大学通ってるの?」

女A「○○です。男さんはどこですか?」

男「ぼくは△△。女さんはどこに住んでるの?」

女A「えーっと……??……」

男「ふーん。このバイトはいつから?」

女A「……今年の春からです」

男「へぇ。そうなんだ。じゃあ半年くらいだね」

女A「……はい……そうですね」

男「へぇ、そうか半年かー。ふーん……」

女A「……」

男(やばい……話題が……何か話題……話題話題)グルグルグルグル

「うああああああああああああああああ!!!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

バイトを始めてからというもの、
家に帰って叫ぶ毎日が繰り返された。

僕は基本的な情報のやりとりしかできない。
相手の出身地だとか、サークルだとか趣味だとか。
もはややりとりではなく、一方的な身元調査だ。
聞いて終わりだから話題が広がらず、
相手は退屈だし、僕も楽しくない。

だからストレスはどんどん増えていく一方で、
やがて僕は限界を迎える。

……つまり黙るんだ。

僕はバイト仲間と一切喋らない。

それは物凄く楽で、ごく自然にできてしまうこと。

周りの目なんて気にしない。

結局何も変わらない。

サークルにも入って、飲み会にも参加した。

でもみんなが盛り上がってる輪に入れない。

話す内容を考えている間に話題はころころと変わる。

何をいうか考えて、それがスベらないかチェックして、
引かれないか考えて、みんなの反応を想定して……

だから面白いことを思いついてもそれを言う機会はとっくに過ぎている。

言えたとしても、想定外の反応をされたら緊張で手が震える。

みんなの話や笑い声がとにかく不快だった。

まぁでも、周りが笑ったら、僕もとりあえず笑う。

全力で愛想笑いする。しんどい。

だから結局黙ってしまう。

瞬発力がなさすぎて嫌になる。

そんなわけで、バイトもサークルもすぐにやめた。

予定表は一気にすっからかん。

ずっと家にいて、アニメ見てオナニーして……

それ以外は何もしない。

でも何もしないと泣きそうになるから、

とりあえずネットには繋がる日々。

次第に大学にも行かなくなった。

何もかも、どうでもよくなった。

いつからだろう。

こんな人間になってしまったのは。

小学校低学年の頃はそうでもなかったのに。

人気者だったはずなのに……


……イジメ?


そういえば、小学校高学年の頃には僕はイジメられていた。

今思うと不思議だ。何で? 何でだ?

何で僕はイジメられるようになった?

別に変なことはしてなかったのに。

みんなと同調してたのに……

よく影で泣いていたのを思い出す。

遊ぶ友達はいたけど、

その友達はいつも、僕を誂って笑う。

だから僕は、やめて欲しくて友達の機嫌をとる。

自分の好きな人を暴露したり、

友達がゲームを買えば、僕もそのゲームを買う。

友達をがっかりさせてはいけない。

退屈させてはいけない。

僕の発言や行動で友達が笑ってくれればほっとした。

コイツらは僕を必要としてくれる。

それを確認するだけで十分だった。

中学のときにはもう、ピエロになりきっていた。

友達の酷い誂いに対し、僕はその返しで笑いをとる。

イジメではなくイジリ。笑いをとることでそう変わる。

いじめられっ子だけにはなりたくない。

だから僕は友達を退屈させないよう毎日努力した。

でも奴らのイジリは日々ヒートアップする一方で、

やがて僕は壊れていく。限界が訪れる。

こんな奴らと同じ高校に行っては人生が終わる。

そう確信した僕は、離れの私立高校に進学を決意する。

その甲斐もあって、高校時代はイジメもイジリもなくなった。

ただひたすら孤独な毎日。

楽といえば楽だが、楽しくはない。

いっそのこと、死んでしまいたかった。

でも自殺したらみんなに迷惑がかかる。

クラスメートも僕の葬式なんか来たくないだろうし、

皆の不満そうな顔を想像するだけで冷や汗が出る。


つくづく思ったさ。僕はもう、他人の評価が全てなんだって。


とにかく人に嫌われたくない。

まず何をするにも人の迷惑にならないか考える。

小中と培ってきたその心がけが、

僕のこのクソみたいな人格を作ってしまったのかもしれない。

先生「軽度の対人恐怖症だね。それも典型的な」

精神科の先生は軽い口調で切り出す。

男「えっ……僕みたいな人って結構いるんですか?」

先生「うん、よくいるよ。君の症状を言い当ててあげようか?」

・2人っきりより大勢でいるときの方が辛い
・年下より年上の方が話しやすい
・異性を必要以上に意識してしまう
・期待されると鼓動が激しくなる
・人に嫌われることを物凄く恐れている
・過去の失敗を引きずりやすい
・褒められることで生き心地を感じる
・頭で言いたいことがまとめられない
・緊張すると噛んだりどもったりする
・声が小さい
・人に怒れない

男「……!」

先生「……君、人に興味がないだろ? そして自分に自信もない」

男「えっ……」

先生「なのに人から好かれたい、ワガママな野郎……違うか?」

男「なっ……何を言って……」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年12月08日 (日) 23:08:14   ID: DgZtgfMx

悲しい、でもその気持ち解ります~

2 :  SS好きの774さん   2014年06月30日 (月) 02:41:02   ID: UQ5n3rnX

うわぁ……ここに本物の俺をみた

3 :  SS好きの774さん   2015年06月07日 (日) 16:11:12   ID: 5KR34gEX

2に同じく

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