青年「ボロ神社で雨宿り」狸娘「あなた誰ですか」(126)

青年「なんだこいつ」

狸娘「なんだこいつとは失礼ですね、ヒトの家に勝手にあがっておいて」

青年「雨が降ってきたのでついつい」

狸娘「ついついって……どっちが失礼なんですか」

青年「それについては謝る」

青年「けど目の前に茶色い耳と尻尾をつけた変人が居たら突っ込みたくなるじゃん」

狸娘「(……ん?もしかしてこの人間……気付いてない?)」

狸娘「あの……あなたここが何処だか知ってます?」

青年「……いや」

狸娘「やっぱり……」

狸娘「率直に言うとこの耳と尻尾は本物です」

青年「またまたご冗談を」

狸娘「触って確かめてもいいんですよ?」

青年「じゃあお言葉に甘えて」サワサワ

狸娘「どうですか?本物でs……」

青年「よいしょ」グィイイイイッッ!!

狸娘「んぎゃぁぁぁああ!!!???」

青年「……あれ、本当にくっついt」

狸娘「なにするんですか!!!!」バキッ

青年「ゴフッ!!」ドサッ

青年「悪かった、反省している」

狸娘「全く……最近の人間はみんなこうなんですか!?」

青年「??」

青年「(最近の人間……? 若者ってことか?)」

青年「まぁ多分俺だけだと思うけど」

狸娘「信仰が無くなっただけではなく手をあげるようになっているとは……時の流れってこわい」ゲンナリ

青年「なにいってんだこいつ」

狸娘「聞こえてますよ、あなた本当に失礼な人ですね」

青年「ていうかさっきから思ってたんだけど」

狸娘「はい?」

青年「もしかしてあんた人じゃなかったりするの?」

狸娘「(えっ今更?)」

青年「よく考えたらこんなボロボロの神社に人がすんでる訳ないし」

青年「普通の人はそんな耳と尻尾ついてないし」

狸娘「は、はぁ……」

青年「普通に考えて初対面の人を殴り飛ばすなんてありえないし」
狸娘「それはあなたに原因があると思うんですけど」

青年「もしかして妖怪の類いだったりすんの?」

狸娘「……」

狸娘「……そうだと言ったら?」

青年「ん?」

狸娘「私はここに住み着く妖怪、モノノケだと言ったらどうします?」

青年「えっ……」



青年「いや別になにも」

狸娘「えっ」

青年「えっ」

狸娘「えっ」


狸娘「……」

狸娘「えっ」

狸娘「(あれ? あれ!? いつもならみんな叫びながら逃げ出すんだけど……)」

狸娘「(ま、まさか……)」

狸娘「あ、あのですね……私、妖怪ですよ?」

青年「さっき聞いた」

狸娘「なんとも思わないんですか」

青年「うん」

狸娘「……」



狸娘「……あなたよくオツムが足りないって言われません?」

青年「よく知ってるな、まさかあんた妖怪か?」

狸娘「(あっ分かった、この人ただの馬鹿だ)」

狸娘「はぁ……なんかもういいです、私が馬鹿でした」

青年「どうしたいきなり」

狸娘「誰のせいだと思ってるんですか……全く」

青年「一体誰のせいなんだ……?」

狸娘「それ本気で言ってます?わざとじゃないですよね?」

狸娘「(ってそうじゃない、話が進まない)」

狸娘「(この人をここに置いておいたら私の頭が過労死しちゃう……早く追い出さなきゃ)」

狸娘「あの、すいません」

青年「ん?」

狸娘「この雨が止んだらさっさと帰って頂けます?」

青年「勿論」

狸娘「ふう……一応会話はできるようですね……」

青年「俺をなんだと思ってたんだ」

狸娘「山猿の類いかと」

青年「この人酷い」

狸娘「酷いのはあなたのオツムの中ですよ……」




~結構時間が経った頃~

雨「ザァァァァァッァアァァアアアッッ!!!!」

狸娘「雨が……止まない……」

青年「困ったなぁ」ハナホジ

狸娘「それ汚いんでやめてくれますか……」

青年「おう」ピンッ

雨「うぉっこっちに飛ばすなよ」

青年「あれ、一瞬雨弱まったな」

狸娘「まさか、気のせいですよ」

青年「そっかー」

狸娘「(……まるで人と会話してる気がしない……)」ズーン

狸娘「(はぁ……なんで久しぶりの来客がこんなのなのかなぁ)」

青年「ひまだなー」ハナホジ

狸娘「……」



狸娘「……」ハァ

青年「そういやこの神社汚いな」

狸娘「んぐっ……あなただけには言われたくないです」

青年「せっかくだし、雨宿りさせてもらってるお礼と言っちゃあ何だけど、俺が片付けてやる」

狸娘「えっ!? いや良いです!! やめてくれますか!?」アタフタ

狸娘「(この人に任せたら只でさえ片付いてない社の中が……!!)」




部屋「ペカァァァッァアアアアアッァァァアアンッッッ!!!」キラキラ

青年「よし、できた」

狸娘「うそ……でしょ……」ガクゼン

狸娘「馬鹿でも掃除ができるなんて……」

青年「なんだこいつ酷い」

狸娘「(いや、きっと掃除しか能の無い馬鹿なのかも……そうに決まってる……!!)


青年「まぁ一応親方に厳しく教えられたからな、家事全般はこなせるぞ」

狸娘「は、はぁ!?嘘でしょ!?」

青年「ほんと」

狸娘「……」←何も出来ない




狸娘「(私は馬鹿以下の存在だった……?)」ガーン

青年「どしたいきなり」

狸娘「なんでもないです……」

青年「お、雨止んできた」

狸娘「!」

青年「丁度いいな」

狸娘「(や、やっと帰ってくれる……!)」パァァア

青年「ん?なんか嬉しそうだな」

狸娘「それは勿論!!」クワッ

青年「お、おう」

狸娘「(地味に長く苦しい一時だった……!)」

青年「なんか馬鹿にされてる気がする」

狸娘「気のせいですよ」シレッ

雨や部屋が喋るとは…イカすぜ




~青年は神社を後にし、時はその日の夜へと移る~

~ナントカ村・青年宅~

青年「ふう、今日は酷い雨だったなぁ」

青年「……んあ、そうだ」

青年「さすがに片付けるだけじゃお礼したりないだろうし明日これをもってまた行こうかな」

青年「親方も恩には全力で恩返ししろってよく言ってるし、これくらいしないとな」

父「こら、まだ起きているのか、明日は早いんじゃなかったのか」ヌッ

青年「うわっびっくりした」

父「何を驚いている……明日は親方さんのところに朝一番で行くんだろ?寝た方がいいと思うが」

青年「あー……そうだった気がする」

父「やれやれ……本当に頭が弱いなお前は」

父「(母さんも昔はこんな感じだったなぁ……変な所を受け継いだものだ)」ヤレヤレ

父「まぁとにかく早めに寝るんだぞ?起きられなくても知らないぞ」

青年「へーい……さて、寝るか……」

青年「……(……それにしても)」

青年「(あの神社の人、変な人だったなぁ……zzz)」←妖怪だということを忘れている

~同刻、社の中~

狸娘「はぁ……今日は散々だった……」

狸娘「久しぶりの人間だと思ったらただの馬鹿だったなんて」

狸娘「(触られたとき一瞬、妙な力の流れを感じたのもどうやら気のせいらしいし)」

狸娘「(正体をバラした時の反応で陰陽師か結界師の類いかとも思ったけど……考えすぎだったようね……)」

狸娘「変に警戒して損した気分……はぁ……」

狸娘「……」

部屋「ペカー」

狸娘「まぁ、悪い奴ではなさそうだから良かったけど」



狸娘「……まともに誰かと話したのなんていつ以来だろう」

狸娘「……なんか、懐かしかったなぁ」

狸娘「……」

「かみさまー!」

「あら、いらっしゃい」

「これ、村で獲れた野菜だべさ!」

「まぁ、美味しそうですね」

「村のみんなも後で来るってさ!みんなとお昼一緒に食べねぇか?」

「良いですね、それでは少し準備しましょうか」

「んだ!おらさも手伝うべ!」

「ふふふ……ありがとうございます」



「……今日も、何事もなく平和でありますように」

~朝、港街ソコン・トコ 親方の店~

親方「ん、来たな」

青年「うっす」

親方「今日は着物が二着、装飾品が三つという依頼が入ってる」

親方「お前は着物が得意だったな、そっちを頼む」

親方「柄や丈はそっちの依頼用紙に詳しく書いてある、それを参考にして作ってくれ。頼んだぞ」

青年「はいっす」

青年「(早めに終わらせよう)」シュババババババ

青年「(案外時間かかったな……まぁこんなものか)」

親方「よぅ、進んでるか?」ヌッ

青年「うわっびっくりした」

親方「いい加減慣れろよ」

親方「てかもう完成してるじゃねえか、相変わらずはええな」

青年「ちょっと野暮用があるもんで……」

親方「そうかよ……ん?着物は二着のはずだが……その巫女装束みたいなのはなんだ?」

青年「ん?これですか?これは……」

親方「ハッ……野暮用……着物……成る程な、ついに馬鹿なお前にも春が来たわけか」

青年「ちょっと何言ってるかわかんねぇっす」


青年「んじゃ、お先に失礼します」

親方「おう、親父さんに宜しく言っておいてくれや」

青年「へーい」

青年「(さて、もう夕刻か……急がないと日が暮れそう)」

青年「少し走るか……」

ダッダッダッダッダ……

~神社~

狸娘「むー……」

社「ギシギシ」

支柱「グラグラ」

障子「ボロボロ」

狸娘「昨日の雨がトドメをさしちゃいましたか……ぬー……」

狸娘「片付いても社自体がこれじゃ……」

狸娘「(そろそろここも限界なのかなぁ)」

狸娘「昔は直してくれる人が居たのにな……」

青年「そうなのか」ハァハァ

狸娘「そうなんですよ、それも直すどころかより豪華にしてくれて……ってきゃあああ!?」

青年「うわっびっくりした」ハァハァ

狸娘「なんであなたが……てかなんで息荒あげてるんですか!?何をするつもりですか!?」

青年「いやべつになにも」ハァハァ

狸娘「ちょ……こっち来ないで下さい!!」

青年「傷つくなぁ」

青年「せっかくお礼を持ってきたのに」

狸娘「は?お礼……?」キョトン

青年「昨日の雨宿りのお礼だよ」ハイ

狸娘「は、はぁ……」ウケトリ

狸娘「(何だろう……どうせろくでもないものなんだろうけど……)」

狸娘「……ってこれって」

青年「うん、あんたの装束ボロボロだったし、どうせならと思って」

狸娘「いやいや、雨宿りさせただけでこれは……こんな高価なものは頂けませんよ」

青年「あ、それ自作だから大丈夫」

狸娘「へ!?」

狸娘「え……?冗談ですよね……?」

青年「ほんと」

狸娘「そんな馬鹿な……お馬鹿にこんな物が作れるなんて……!」ワナワナ

狸娘「世の中は一体どうなってしまったの……!!」

青年「つらい」

狸娘「あ……いえ、ごめんなさい」

青年「うん」

青年「お腹減ったので早めの夕食にしよう」

狸娘「唐突ですね、脈絡も知性も感じさせないほど唐突です」

青年「まぁまぁ」

狸娘「それにここ私の家ですし入ることを許した覚えもないですけど」

青年「細かいことは気にしない」

狸娘「私が気にするんですけど」

青年「本日の献立はおむすびです」

狸娘「話を聞かない上に料理ですらないとは……」

青年「時間がなかった、許せ」

狸娘「いや謝られても……」

青年「明日はまともな料理作るから我慢してくれ」

狸娘「なんで明日も来る気満々なんですか?」

青年「ほら、あんたの分」ヒョイ

狸娘「む……ありがとうございます」

狸娘「……」パクッ

狸娘「(何十年振りだろう……まともにお供え物……いや、ご飯を食べたのは)」

狸娘「(ただのおむすびだけど……美味しい)」パクッ

青年「うまま」ガツガツモシャモシャバリバリゴックン

狸娘「……あの」

青年「ん?」モシャモシャ

狸娘「その……もうひとつ、貰っていいですか」

青年「うん」ニコリ

狸娘「……では」ヒョイッパクッ

狸娘「……」モシャモシャ

――おむすび美味しいな、かみさま!

狸娘「……うん、美味しいです」ボソッ

青年「ん?」モシャモシャ

狸娘「なんでもないです」

――食後

青年「日が暮れた」

狸娘「気付くの遅くないですか」

青年「そろそろ帰らないといけない」

狸娘「はぁ……むしろやっと帰ってくれるんですね……」

狸娘「おむすび食べ終わっても帰る気配がないので少し焦りました」

青年「すまん」

狸娘「謝られても……」

狸娘「……」

青年「お邪魔しました」

狸娘「お邪魔されました」

青年「ひどぅい」

狸娘「勝手に押し掛けておいて怒られないと思ったら大間違いです!」

青年「反省します」

狸娘「本当に分かってるんですか……全く」

青年「迷惑だったかな」

狸娘「……ん」

青年「親方が言ってたんだ、恩には全力で恩返ししろって

青年「どんな小さなことでも必ず恩返ししろって教わったんだ」

青年「だけど、迷惑ならやめる」

青年「恩人に迷惑をかけるなとも教えられたから」

狸娘「……」

青年「……それじゃ」

狸娘「……明日」

青年「……?」

狸娘「料理作ってくれるんでしょう?」

青年「……うん」

狸娘「山菜や木の実の料理が食べたいです」

青年「わかった、献立考えておく」

狸娘「……ふふっ」

青年「……それじゃ、もう行かないと」

狸娘「待ってください」

青年「?」

狸娘「右手を出してください」

青年「右手?こうか?」

狸娘「はい……そのままじっとして」ポォウ…

青年「うぉっ光った」

狸娘「無事に帰れるようおまじないをかけただけですよ」

青年「そういやあんた妖怪だったな」

狸娘「忘れたんですか!?嘘でしょ!?」

狸娘「はぁ……信じられないですよ、本当」

青年「許せ」

狸娘「まぁ、別にいいですけど……」

青年「うん、それじゃまた明日」ヒラヒラ

狸娘「……明日はちゃんと許可を取ってくださいね」

青年「おう、頑張る」スタスタ



狸娘「ふふっ……頑張るも何も一言言うだけじゃないですか」

狸娘「……」

狸娘「はぁ……どうしちゃったんだろう、私。もう来させない絶好の機会だったのに」

狸娘「(……あの人の子供っぽさが、あの子に似てたからかな)」

狸娘「(子供っぽいというよりお馬鹿なだけだけど)」クスッ

狸娘「(あ、そう言えばあの人の名前聞いてないっけ)」

狸娘「(どんな名前なのかなぁ……気になる……)」

狸娘「(って!べつにそれは知らなくてもいいでしょ!)」

狸娘「(知らなくてもいいけど……ね、念のために……)」

狸娘「そ、そうですよ!あくまで念のため!念のためですから!」

狸娘「って、誰に言い訳してるんだろう……私……」ハァ…

狸娘「(まぁ……妖怪だって言っても怖がらない人間なんて久しぶりだから……うかれてるだけかもしれないなぁ、私)」

狸娘「……どんな料理作ってくれるんだろう……」

狸娘「……ほんの少しだけ楽しみだな……なんてね」

狸娘「ガラじゃないなぁ……ふふっ」

狸娘「……あ、そうだ」

狸娘「せっかくだし明日はこれを――」

今日はこの辺で

>>15
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面白い
期待

「神様、いるか?」

「はい、ここに居ますとも」

「聞いてくれよぅ、おらさ、料理作ったんだ!」

「へえ、珍しいですね。一体何を作ったのですか?」

「木の実のお菓子と山菜のスープだべさ!神様の為に頑張って作っただ!」

「あら、嬉しい限りですね。早速頂いても?」

「勿論だ!」

「……うん、凄く美味しいですよ。今までで一番のお菓子かもしれません」

「ほんとか!?良かっただ~」

「ふふ……」



「(……いつまでも、こんな日々が続けば――)」

~朝、ナントカ村~

青年「準備よし」

青年「早速出向くか」

父「あれ、どうしたこんな朝早く?今日は親方さんのとこは休みなんだろ?」ヌッ

青年「うわっびっくりした」

父「飽きないのかそれ……それよりなんだその荷物?」

青年「ちょっと野暮用に必要なもの」

父「野暮用……ハッ、まさかお前にもいい人が……!」

青年「ちょっと何を言ってるか分からん」

青年「ちょっと出掛けてくるだけだよ」

父「そうか、あんまり遅くなるなよ?昨日はお前が定時に帰ってこないって大騒ぎになったんだからな」

青年「すまん」

父「まぁよくあの暗い森の中を迷わず抜けてこれたな。少し驚いたぞ」

青年「まぁ色々あって」

青年「(親父話長いな……適当に切り上げるか)」

父「とにかく、あの森には人を弄ぶ妖怪がいるって話だ。うちのご先祖様もその被害にあったらしいからな、気を付けるんだぞ」

青年「おう、そうだな行ってくる」

父「あ、おい!話は最後まで……はぁ……せっかちなところも母さんそっくりだ……」

~神社~

狸娘「……」ソワソワ

狸娘「……」チラチラ

狸娘「……うーん」

狸娘「(まだかなぁ……まだ来ないのかなぁ)」

狸娘「(って!!私は何を期待しているんですか!?)」

狸娘「(いや、違います!私は料理を心待ちにしているだけであって別にあの人のことなんか……!)」

狸娘「……」

狸娘「はぁ……アホ臭いです……」ハァ

青年「何がだ」

狸娘「そりゃあ私が……ってうわ!?」ビクッ

青年「うわっびっくりした」ビクッ

狸娘「いきなり現れないでください!」

青年「すまん」

狸娘「ちゃんと許可取ってから上がってくださいって言いましたよね!?」

青年「いや……許可取ろうにもあんたの名前知らないし、なんて言えばいいのか思い付かなくて」

狸娘「あっ……」

狸娘「……すめ」ボソッ

青年「ん?」

狸娘「た、狸娘と言います……!ちゃんと覚えて下さいね!?」

青年「お、おう」

青年「俺は青年って言うんだ」

狸娘「青年……青年さんですね、覚えました」

青年「おう、宜しく短気娘」

狸娘「宜しk……ってだれが短気ですか!!」

青年「冗談、許せ狸娘」

狸娘「全く……あなたという人は!」ゲキオコ

青年「気を取り直してお昼だ」

狸娘「唐突ですね」

青年「すでに料理はこの荷袋に入っている」ガサゴソ

狸娘「本当に料理出来たんですね……」

青年「まぁ数少ない取り柄の一つだから」ガサゴソ

青年「さて、最初は我が家秘伝のお菓子、木の実の焼き菓子だ」ヒョイ

狸娘「うわっ……本当に美味しそう……」

狸娘「(しかも見た目も良いですね……って、あれ?このお菓子どこかで……?)」

青年「さぁ食べようか」

狸娘「えっあっはい、頂きます」パクッ

青年「ます」パクッ

青年「うまま」ガツガツボリボリムシャムシャ

狸娘「……」モグモグ

狸娘「(……これって)」

「かみさまー!」

狸娘「……」

青年「ムシャムシャ……ん?どうかしたか?」

狸娘「へ!?あ、いや、別になんでもないですよ、ははは……」

青年「そっか」ガツガツボリボリムシャムシャ

狸娘「……ふふっ、懐かしい味です」モグモグ

――食後

青年「ふぅ、食った食った」ゲフッ

狸娘「うぷっ……お腹一杯……どんだけ作ってきてるんですか……そんな時間有りましたっけ……?」ゲフッ

青年「秘密だ」

狸娘「むぐぐ、妖怪相手に隠し事なんていい度胸してますね……」

青年「すまん」

狸娘「まぁ良いです。ご馳走さまでした、美味しかったですよ」

青年「そうか、それは良かった」ニカッ

狸娘「……笑顔が眩しいです」

青年「それじゃ、日が暮れないうちに行くか」

狸娘「へ?もう帰るんですか?」

青年「ん?違うけど」

狸娘「え……じゃあどこにいくんです?」

青年「近くの山」

狸娘「へー近くの山ですか……って、え!?」

青年「山菜取りに行くぞ」

狸娘「えっ」

青年「家に山菜がなかった、調理器具は持ってきてるから急いで収穫しに行くぞ」

狸娘「ええ……」コンワク

青年「まぁ、食後の散歩ってことで」

狸娘「は、はぁ……散歩ですか……」

狸娘「(お馬鹿は無駄に行動力があるって本当なんだ……登山が散歩って、散歩の域を越えてると思うけど……)」

青年「急がなければ日が暮れる、行くぞ」

狸娘「猛烈に動きたくないです」

青年「引きこもりか」
狸娘「そう言う事じゃなくてなんの準備もなく登山って可笑しいですよね……!?」

青年「準備なら荷袋に」

狸娘「そういう問題ではなく……」

青年「ほら、行くぞ」グイッ

狸娘「あだだだだ!!し、尻尾を引っ張らないでください!!」

青年「じゃあこっちを」グイッ

狸娘「何で耳を引っ張るんですぅぃだだだだ痛いです!!」

青年「じゃあ早く行くぞ」グイッ

狸娘「きゃっ……」

狸娘「(尻尾や耳だけでは飽きたらず……腕を無理矢理引っ張るなんて失礼で強引な人です……!!)」

~オッキー山ふもと~

青年「いたい」ボロボロ

狸娘「当然の報いです!!私も痛かったんですからね!!」

青年「瀕死になるまで殴られるとは思ってなかった」

狸娘「貴方はもう少し思慮深くなるべきです!」

青年「しりょ……よくわからん」

狸娘「ダメだこりゃ」

狸娘「それにしても、登山なんてどうするんですか。私山登り苦手ですよ」

青年「えっ」

狸娘「それに山登り用の服なんて持ってないし……」

青年「いや」




青年「山菜ってふもとに生えてるヤツのことなんだけど……」

狸娘「えっ」

狸娘「え、でも山に行くって……」

青年「山菜取りに行くって言っただけで登るとは言ってないと思う」

狸娘「私が登山って言っても否定しなかったですよね?」

青年「え……言ってたっけ」キョトン

狸娘「(猿並みの記憶力……)」ズーン

狸娘「まぁ、それなら別にいいですけど」

青年「うん、じゃあ始めようか」

狸娘「はぁ……始める前から疲れました」

青年「老人みたいだな」

狸娘「本当に失礼ですね、怒りますよ」

青年「すまん」

狸娘「謝られても……もう良いですよ、さっさと刈り取っちゃいましょう」

青年「おう」

青年「今日使おうと思ってる山菜はオッキノコ、チッセイモ、マイタケノコ、アリガトナスです」

狸娘「多っ……」

青年「オッキノコとマイタケノコは比較的良く取れる。そこら辺の倒木に自生してるからそこまで時間はかからない」

狸娘「チッセイモとアリガトナスは……」

青年「この時期ならアリガトナスは川の近くに自生してるし、チッセイモは樹木の根っこ付近に沢山あるからそっちも問題ない」

青年「ただチッセイモを掘るとなるとすごく汚れる」

狸娘「うわぁ……私キノコ採ってきますね……」

青年「はいこれ袋と切り取り用の鎌」

狸娘「あっはい」

~山菜を収穫した~

狸娘「沢山取れましたね」

青年「うん」ドロンコ

狸娘「汚いんでそれ以上近づかないでください、服が汚れます」

青年「ひどぅい」

狸娘「酷くないです。さぁ日がくれる前に帰りましょう」

青年「おう」

~神社~

青年「さて、今日の夕食は山菜のごった煮スープです」

狸娘「名前だけだと凄く不味そうです」

青年「まぁまぁ」

青年「早速準備にとりかかろう」

狸娘「私料理出来ないんで見てますね」

青年「妖怪って意外に何も出来ないんだな」

狸娘「貴方を帰らぬ人になら出来ますよ……」ゴゴゴ

青年「冗談だって」

青年「まずは持ってきた鍋に持ってきた水を入れ、持ってきた薪と持ってきた火打ち石で準備をします」

青年「温めてるうちにキノコ達をサッと洗い、ぶつ切りにします」

キノコ達「ギャー」ザクリ

狸娘「準備良いですね……どうりで荷袋が大きかった訳です」

青年「続いてチッセイモの皮を剥き、サッと洗って潰します」

チッセイモ「スモールッ!!」グシャ

青年「さらに温まってきた鍋にだしの素となる調味料と洗ったアリガトナスを入れます」

アリガトナス「アッー!」グツグツ

狸娘「騒がしい調理場ですね」

青年「そしてダシを取っているあいだに潰したチッセイモを練ります」

狸娘「へ?練るんですか?」

青年「チッセイモは練ると粘り気が出るんだ、今回はそれを利用して肉団子風にします」

狸娘「お、おお……何だか凄そうですね」

青年「そこで歯ごたえを与えるべく、ぶつ切りにしたキノコ達をチッセイモと混ぜます」

青年「キノコがいい感じにバラけたら、取り敢えず丸める」コネコネ

狸娘「あ、それなら私にも出来そうです」

青年「やるか?」

狸娘「まぁせっかくですし……少しだけ」

狸娘「よいしょっと」スッ

ベチャッ

狸娘「ぎゃあ!!変な感触……っ!!」ゾワゾワ

青年「慣れればどうってことない」コネコネ

狸娘「うう……やると言ったからにはやるしかないですよね……」ベチョベツォ

青年「何か楽しそうだな」

狸娘「うう……これの何処が楽しそうに見えるんですかぁ……」コネコネベチャッ

青年「できた?」

狸娘「ふふ……やり遂げました……私……やり遂げました!」

青年「すごいすごい」ナデナデ

狸娘「えへへ……ってうわっ!?なんかベタベタするんですけど!?」

青年「あ、手を洗うの忘れてた」

狸娘「何してるんですか!!」シュッ

青年「ゴハァッ!!」ドゴッ

青年「腹痛い」ズキズキ

狸娘「自業自得です」

青年「まぁ気を取り直して」

青年「ダシがとれた鍋にさっきのキノコダンゴをぶちこみます」ドバァ

狸娘「豪快に入れますね、跳ねるんで止めてください」

青年「あとは塩を少し振って煮きるのを待つだけ」

狸娘「案外簡単なんですね、私でも出来ましたし」

青年「まぁ幼児でも出来るって我が家秘伝の巻物に書いてあったし」

狸娘「う……」

青年「狸娘ってこねる以外何かしたっけ」

狸娘「……」アセダラー

狸娘「(料理……学ぼうかなぁ……)」ズーン

青年「どうした」

狸娘「何でもないですよ……」

~社内にて実食~

青年「山菜のごった煮スープの完成、召し上がれ」

狸娘「それでは、頂きます」スススッ…

青年「ます」ズズズズズズズズズズゥッ!!

狸娘「青年さんうるさいです静かに飲んでください」

青年「許せ」ズズズッ

狸娘「全く……風情の欠片もない人ですね……」

青年「ズズズッ」

狸娘「……ふふ」スススッ

狸娘「(懐かしい味……あの子の料理をこんな所でまた味わうことになるなんて……)」

狸娘「(変わらない……あの頃と変わらない。少し薄味なのがまた良いんですよね)」

狸娘「(キノコダンゴも丁度いい歯ごたえ、アリガトナスもいい感じにほぐれてて食べやすい)」

狸娘「(何よりダシのコクと旨味がスープにしっかりと溶け込んでいて、喉を潤すと同時にお腹も満たしてくれる)」

狸娘「……美味しいです」ニコッ

青年「ズズズズズズズズズズゥッ!!」

~完食~

狸娘「ご馳走さまでした」

青年「でした」ゲプッ

狸娘「青年さん、スープ美味しかったです。ありがとうございました」

青年「ん?別に良いぞお礼なんて。これは恩返しだからな」

狸娘「それでもです。久々の食事だったので……。誰かと囲んでご飯を食べるなんて、本当に久々で……」

青年「……」

狸娘「……私は妖怪なので、食べなくても生きていけます。それでも、誰かと囲んでご飯を食べるのは、なんて言うか、その……」

狸娘「やっぱり、良いものですね」

青年「……だな」

狸娘「あはは……変な空気になっちゃいましたね、ごめんなさい」

青年「べつに気にしない」

狸娘「そうですよね、青年さんですもんね」

青年「酷い」

狸娘「ふふ、いつものお返しです」

青年「お、おう」

狸娘「……」

青年「……」

青年「言いそびれてたんだけどさ」

狸娘「え?」

青年「その着物、早速着てくれてたんだな」

狸娘「!……朝から着てるのに反応がないので気付いてないと思ってました」

青年「ごめん」

狸娘「本当ですよ、せっかく着たのに無反応で少し傷付いたんですよー?」

青年「すまん」

狸娘「もう……まぁいいですけど」

青年「……良く似合ってる」

狸娘「……」

狸娘「……今さらお世辞いっても何も出ませんからね?」

青年「お世辞じゃない、本当に似合ってる」

狸娘「……はいはい」

狸娘「(どうしてこの人は恥ずかしげもなくこう言うことを……)」ハァ…

狸娘「……あの、少し気になったんですけど」

青年「ん?」

狸娘「もし、恩返しが終わったら、どうするんですか?」

青年「んん?」

狸娘「だからその……恩返しが終わったらもう此処にはこないのかと聞いているんです」

青年「あー……」

狸娘「……」

青年「どうなんだろうな」

狸娘「全く、いい加減ですね……」ハァ…

青年「まぁ、これ以上何が出来るか分からないし、これっきりかもなぁ」

狸娘「……そうですか」

青年「迷惑かけるわけにもいかないしな」

狸娘「迷惑だなんて……多少迷惑ですけど」

青年「おい」

狸娘「事実ですー」

青年「つらい」

狸娘「日頃の行いを正せばそんな思いはしないと思いますよ」

青年「俺ほど真面目な奴はなかなかいないと思う」

狸娘「(確かに真面目にお馬鹿をやってるのはあなただけでしょうね……)」クスッ

青年「なぜ鼻で笑う」

狸娘「なんでもないです」シレッ

狸娘「(けど……これで最後か……)」

狸娘「(もう日も暮れてきた……)」

狸娘「(少しだけ……寂しいかな……なんちゃって)」

青年「……もうそろそろ行くかな」

狸娘「……はい、お気をつけて」

青年「……雨宿り、ありがとうな」

狸娘「こちらこそ丁寧に料理を振る舞ってくれてありがとうございました」ペコリ

青年「……それじゃ」

狸娘「……それでは」



――ビュゥゥゥウウウッ!!!!!

青年「うぉっ」

狸娘「ひゃっ……」

神社「アカン、強風はアカンて」

グラグラ……バキバキッ!!

狸娘「や、やしろが!!」

青年「ッ!!こっちだ!」グイッ

狸娘「あっ」

バキバキッ……ドッシャーン!!!





…………。




神社「」チーン

狸娘「あ、あああ、私の、やしろ……」ガーン

青年「これは酷い」

狸娘「そんな……私の家が……みんなの……みんなとの……」

青年「……」

狸娘「……思い出の、場所なのに……」

狸娘「壊れちゃった……うう……こんなのって……」

青年「……なぁ」

狸娘「……なん、ですか」





青年「……」





青年「まだ恩返し、出来ることあった」

狸娘「……へ?」

青年「良く考えたら、恩返しする相手は二人居たんだ」

青年「雨宿りさせてくれた狸娘と」

青年「その雨を凌がせてくれた社、どっちにも恩返しするべきだったんだ」

狸娘「どういうこと、ですか」

青年「だから」

青年「直させてくれないか、この社」

狸娘「えっ……いくら青年さんでもそれは……無理があると思いますよ」

青年「うん、だから学んでくる」

狸娘「……?どういうこと、ですか?」





青年「狸娘が住んでた社を直す為に親方に教えを乞いに行く」

狸娘「えっ」

青年「親方は俺に色んな事を教えてくれる」

青年「裁縫や料理や掃除だって、全部親方が教えてくれた」

青年「だから、神社の建設だって教えてくれるはずだ」

狸娘「その理屈はおかしいです」

狸娘「というか前から話に出てくる親方って何者なんですか……」

青年「何でも屋の店主」

狸娘「恐ろしいほどの大雑把な説明ありがとうございました」

青年「まぁ……なんだ、その」

青年「すぐには出来ない、それは許してほしい」

狸娘「そんな……別に青年さんが謝ることなんか……」

青年「それでも、恩は返す。必ず。だから少し待ってほしい」

狸娘「……気持ちだけでも、充分ですよ」

狸娘「(本当に……お馬鹿さん)」

狸娘「(神社を人みたいに扱って)」

狸娘「(挙げ句に神社を建設って……普通ならふざけてるんですか、って怒るところですけど)」

狸娘「(きっとこの人は、本気なんだろうなぁ)」

狸娘「(それに、この恩返しが意味するものは……つまり)」



狸娘「(まだ最後じゃない、また青年さんは来てくれるんだ……!)」

狸娘「……明日も、来てくれますか」

青年「……まだ、なにも出来ないけど」

狸娘「それでもいいです。来てくれますか」

青年「……それが恩返しになるのなら、行く」

狸娘「……約束、ですよ」

青年「うん、必ず来る。だから待っててくれ、狸娘」

狸娘「……勿論です!」

――青年は妖怪の少女と約束を交わし、帰路につく。

――妖怪の少女は、朽ち果てた社の隙間にて、強風を凌ぐ。

――そうして、夜は更けていった。

中途半端ですが今日はここまで
>>40-44
皆様コメントありがとうございます
ご期待に添えるように頑張ります

不自然な点、矛盾点などありましたらご指摘していただけると嬉しいです

壊れた社に置いとくのもあれだし持って帰ろう

「神様、おら信じてたのに……」

――待って、違うの

「神様は――だったんだか……?」

――嘘をつくつもりなんてなかったの

「何とかいってけろ……なぁ、神様……」

――っ……

「……神様ぁ」

――違う、違うの、行かないで

「おらを、騙したんか……?」

――――私は……そんなつもりじゃ……

「おら達を、騙してたんか!?」

――違うの、話を聞いて……

「嘘つきだ!信じてたのに!!」

――違うの……!待って……!行かないで……!!

――私は……!!

~時は丑三つ時、ナントカ村・青年宅~

青年「……さぶっ」ブルッ

青年「……風が強いな」

青年「(部屋の中だってのにすごく寒い)」

青年「(おかげで変な時間に目が覚めた)」

青年「……」

青年「狸娘、寒そうだなぁ」

青年「……」

……。

…………。

~朽ちた神社~

ビュウウウウウウッ!!

狸娘「……へっくしょん」クシュッ

狸娘「(最悪な気分です)」

狸娘「(社は壊れるわ、風は強くて冷たいわ、おまけにあの夢を見るなんて)」

狸娘「(……)」

狸娘「(今思えば、あれからだれも手入れをしなくなったというのに)」

狸娘「(この神社はよく百年余年も持ちましたね)」

狸娘「(冷静に考えれば充分すぎるほど耐えてくれたものです)」

ビュウウウウウウッ!!

狸娘「……さむいです」ガタガタ

狸娘「(あの頃は良かった)」

狸娘「(誰かがお供えものをしてくれて)」

狸娘「(誰かが話し相手になってくれて)」

狸娘「(誰かが常に笑っていて)」

狸娘「(そんな日が続きすぎて、最初の目的を忘れてまで)」

狸娘「(それで……)」

狸娘「……」

狸娘「(はぁ……らしくないですね、昔の事を引きずるなんて)」ハァ…

狸娘「きっとこんな気分になるのもこの風のせいです……へっくしょん」クシュッ

狸娘「はぁ……やっぱり風を凌ぐには朽ち果てすぎですね……」

狸娘「……まぁ、私なんかにはお似合いの状況かもしれませんけど……」

狸娘「……」

狸娘「……青年さん、今寝てるのかな」

狸娘「もしかしたら起きてるかな」

狸娘「……」

狸娘「一人には、慣れたはずだったのになぁ……」

狸娘「(あの日あの時、雨が降らなければ青年さんとは出会わなかったんだろうか)」

狸娘「(あの日あの時、いつもみたいに無理矢理追い出していればこんな寂しい思いはしなかったんだろうか)」

狸娘「(あの日あの時……話すことを拒んでいたら)」

狸娘「……ああ、駄目です、これ以上考えたところで何になると言うのでしょう」

狸娘「……誰かと、話したい」

狸娘「それが本心、隠す必要が何処にあるって言うんですか」

狸娘「隠し事なんて……してても、不幸になるだけ……」

青年「へー、妖怪でも隠し事するのか」

狸娘「勿論です、妖怪だって生きてるんですから隠し事の一つや二……つ……?」

狸娘「ってなななな!?なんでここにあなたが!?」

青年「うわっびっくりした」ビクッ

狸娘「それはもういいです!なんでこんな時間にあなたが……」

青年「あー、それはだな」

青年「これ」チョイチョイ

狸娘「……?ずいぶんと膨らんだ荷袋ですね」

青年「よいしょ」セッセッ

狸娘「?」

狸娘「……!これって……」

青年「おう」

青年「今日は寒いから、毛布を持ってきた」

狸娘「ええ……」

ビュウウウウウウッ!!

青年「さむっ」

狸娘「へっくしょん」クシュッ

青年「……」

狸娘「……」

狸娘「あの……毛布貸してくれると嬉しいです」

青年「あ、うん」

青年「ほれ」

狸娘「ありがとうございます……暖かい」

青年「俺は寒い」ブルッ

狸娘「(……暖かい、誰かに抱かれているよう)」ポカポカ

青年「狸娘、寒い」ガタガタ

狸娘「(……んっ、青年さんの匂いがする……)」クンクン

青年「狸娘、たすけて」ガタガタガタガタガタガタ

狸娘「(ああ……何だかよくわからないけど凄く安心するなぁ……)」

青年「狸娘、聞いてくれ」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


狸娘「(それに、何だかとても懐かしい感じがする……やっぱり、青年さんはあの子の……)」

青年「もうだめだ……許せ狸娘」ガバッ

狸娘「へっ?」

青年「俺も一緒に毛布でくるんでくれ」グイッ

狸娘「えっ……ちょっと……青年さん!?」

青年「ああぁぁ……温かい」

狸娘「あっあっあの!?ち、近いです!!」アセアセ

青年「仕方ない、こうするしかなかった」

狸娘「あ、あのですね……その、なんと言うか……!!」

狸娘「(ち、近すぎて頭がががが……!!!)」カァァァァアア

青年「毛布最高」ノホホーン

狸娘「(寒い筈なのに体が熱くなって冷や汗が……!!)」ダラダラ

青年「おっ、今日は星がよく見えるな」

狸娘「(お、落ち着いて……まずはし、深呼吸を!!)」

青年「あ、蛍」

狸娘「(スー、ハー、スー、ハー、ああ、青年さんの匂いが……じゃなくて!!!)」

青年「近くに川でもあるのか」ハナホジ

狸娘「(落ち着いて、落ち着いて私……かつての風格はいずこへ……!!)」カァァァァアア

青年「腹減ったなぁ」ギュルルルル

狸娘「(心よ静まって……相手はたかが人間、たかが人間……)」

青年「うおっ葉っぱが顔に当たって目がふさがれた」

狸娘「しっかりするのよ私……!!そう、気を確かに!!」

青年「うわっいきなり叫ぶなよ」

狸娘「へ!?あ、ああ!ごめんなさい!!ちょっと神通力や妖力について考察を反論してなんと」アタフタ

青年「なにいってんだこいつ」

狸娘「あばばばばば……」

青年「壊れた」

青年「うーん、修理時か」

狸娘「し、失礼ですね……!」

青年「何をそんなに焦ってるんだ」

狸娘「へ!?いやそのですね……それは」

青年「それは?」

狸娘「それは……っ!!」

青年「それは?」

狸娘「……だからです」ボソボソ

青年「(聞こえねぇ……)」

狸娘「ああもう、いっそのこと寝てください!!」

狸娘「あなたが寝れば解決する可能性があるやも知れないので!!」

青年「お、おう」

青年「じゃあお言葉に甘えて」

青年「zzzzz」

狸娘「早っ」

狸娘「ええ……いくらなんでもそれは……」

狸娘「たしかに寝ろっていいましたけど」

狸娘「さすがにもっと……こう、場を盛り上げる何かをですね……」

青年「zzzzz」

狸娘「……」

狸娘「……」クスッ

狸娘「全く……あなたは歪みないですね……」クスッ

狸娘「あなたと知り合ってからまだ数日しか経ってませんが」

狸娘「大体あなたのことはわかった気がします、それぐらい本当に強烈な人なんですよ?あなたは」

狸娘「そんな貴方の気楽に気ままに物事をこなす姿勢、少し羨ましいです」

狸娘「そして、そんなところに少しだけ惹かれます……なーんて」


狸娘「ふふっ……寝てるのを良いことに何をいってるんだろう私」

狸娘「でも、本当に感謝してるんですよ」

狸娘「青年さんに」

狸娘「だからお願いです、今は」

狸娘「このままで」

狸娘「いさ……せて……」…zzz


…………。

……………………。

 気付けば風は止んでいた。あれほど猛威を奮った風はどこかへと行ってしまった。

 同じ毛布にくるまる童顔の青年と、妖怪の少女を星達が見守る。

 二人は寄り添い、月明かりに照らされながら深い眠りに落ちていく。

 ――そして青年は夢を見る。そして少女も夢を見る。

 そこはどこか分からない。

 けれどもいつかたどり着く場所であることを知っていた。

 望んだものが叶う場所であることを知っていた。

 理想郷とも思えるその場所を、二人は夢見る。
 
 同じ夢を見たのは偶然か、必然か。

 妖怪少女が妖力で無意識に視せたものかもしれない。

 青年が心の奥底で望んでいる場所なのかもしれない。

 けれど、二人がそこに辿り着くのはまだ先の話だろう。

 今はただ、妖怪少女と不思議な青年は寄り添いながら、夢を見ている。

「ねえ、あなた。私、待ってるから」

「……ああ」

「ここで、悠久の時が流れるこの場所で、あなたが作ったこの家で」

「ああ」

「その時まで、この子を宜しくね」

「……ああ、任せろ」

「――の私と、人間のあなたの、大事な大事な子供」

「泣かないで、可愛い私の子。また会えるから」

「ここで待ってるから」

「立派になって、お父さんと一緒に帰ってきてね」


「私の大事な子」






「青年」

大分短いですが今日はここまで
予定よりもテンポが悪く、無理矢理物語を進行させてる為雑になっている感が否めませんが、ご容赦ください。

>>82-85
コメントありがとうございます。
皆様が楽しめる様に頑張ります。

乙乙~

~朝~

狸娘「zzzzz……」

青年「……」

青年「(……変な夢だったな)」

青年「(知らない場所のはずなのに懐かしく感じた)」

青年「(最後のほうはモヤがかかっててよく覚えてないけど)」

狸娘「zzzzz……もうダメ……お腹いっぱいです……」

青年「……起こすか」

狸娘「おはようございます……」

青年「おはよ」

狸娘「ふああ……まだ眠いです」

青年「妖怪でも寝不足とかあるのか」

狸娘「うーん……私達の種族が特別なだけっぽいです」

青年「種族?」

狸娘「私達《ケモノ妖怪》は妖怪の中でも生物にかなり近い存在なんです」

青年「お、おう」

狸娘「そもそも妖怪は時間の影響を受け付けないだけで、一応あなた方人間や動物と同じ、生き物なのです」

狸娘「まぁ生物の理から外れた妖怪も多いです。がしゃどくろさんなんかはいい例ですね」

狸娘「彼らは有り余る妖力を制御出来ず、生物としての機能を失ってしまった妖怪なのです」

狸娘「まぁ、あくまで生物としての機能を失っただけで妖怪としての機能は――」

青年「あ、長くなる感じなのか」

狸娘「うんちくを話してたら目が覚めました」シャキーン

青年「それは良かった、やっと話を進められる」

狸娘「?」

青年「ほら、あれだ」

狸娘「あれとは?」キョトン

青年「神社建設計画」

狸娘「あー……」

青年「なにその薄い反応」

狸娘「いや、なんというか……」

青年「まあいいよ。とにかくまずは親方に建設方法を聞いたり道具を借りたりしなきゃいけない」

青年「なのでそのため港町へ出掛けます」

狸娘「成る程、私の出番は無さそうですね……気を付けて行ってらっしゃいです」

青年「え」

狸娘「え?」

青年「狸娘も来るんだよ」
狸娘「え!?」

狸娘「一体どういう思考してたらそんな結論が出るんですか……」

青年「いや、どうせやることないと思って」

狸娘「む……たしかにやることはないですけど……」

青年「ならいいじゃん」

狸娘「いや、そういう問題ではなく……」

青年「何か問題があるのか」

狸娘「いや……別にそういうわけでは……」

青年「なんだなんだ」

狸娘「私が行く必要が無さそうに聞こえたので」

青年「そんなことはない」

青年「荷物持ち欲しい」

狸娘「ああ……そういう……」

狸娘「うーん……人里に出向くのはかなり久々なので緊張しますね」

青年「そういやその尻尾と耳はどうするんだ?」

狸娘「あ、これですか?」

狸娘「ふふっ、丁度いいです。あなたに妖怪の凄さを教える良い機会です」

狸娘「(最近妖怪らしいことをしてませんでしたし、妖力を使わないと鈍っちゃいますからね)」

狸娘「行きますよ~」

青年「おう」

狸娘「せいっ」ドロン

青年「うわっびっくりした」ビクッ

狸娘「どうですか、この格好」

青年「おお、村娘にしか見えない」

狸娘「ふふっ、私にかかれば人間に化けるなんて造作もないのです」

狸娘「今からは狸娘改め……村娘です!」

青年「案外乗り気だな」

狸娘「気のせいです」

青年「まぁこれでバレることはないか」

村娘(狸娘)「どこからどう見ても平凡な村人達ですもんね」

青年「まぁ、準備が出来たみたいだし、行くか」

村娘「神社……いや森から出るなんていつ以来でしょう……」

青年「やっぱ引きこもりか」
村娘「違うと何度言ったら分かってくれますか」

青年「あと五回くらいかな」

村娘「いや具体的にされても困ります……」

~港町、ソンナ・トコ~

青年「ついた」

村娘「わ、わあああ……!!」

村娘「見渡す限り海……!人間……!あれは……船!?なんて大きいのですか!!」

村娘「私が森に籠ってる間にこんなに発展していたなんて……!!」

青年「やっぱ引きこもり」
村娘「籠ると引きこもるは違います、いいですね」

青年「あ、はい」

村娘「本当に分かっているんですか……?」

青年「まずは親方に会いに行こう」

村娘「え"、いきなりですか!?」

青年「だって親方の工具なければ作ることすらできない」

村娘「……」

青年「……」

村娘「行かなければ行けませんか……?」

青年「いい人だから安心しろ」

村娘「き、緊張で変化が解けそうです」

青年「がんばれ」

村娘「もっとマシな励ましをください……」

青年「すまん」

村娘「いや、謝られても……」クスッ

村娘「む、もしやあれですか?親方さんのお店」

青年「あ、うん。あれ」

村娘「《何でも屋》……あはは、本当に大雑把なお店ですね……」

青年「照れる」

村娘「褒めてないです」

~親方の店~

青年「こんちす」

親方「ん?おお、青年じゃねえか。どうした、今日も休みだったはずだが……て誰だよ横のべっぴんさん」

村娘「べっぴんだなんて……」エヘヘ

青年「ああ、こいつは妖怪のたぬk」モゴッ

村娘「だああああああ!!」ガシッ

親方「?……お、おう?」

親方「えーと……」

村娘「はっはじめまして!!高い所が大好きなワタヌキ村娘と言います!!高いところが大好きなので《四階のワタヌキ》って言われてます!宜しくお願いします!!」

親方「お、おう……宜しくな嬢ちゃん……」

村娘「いえいえこちらこそ!!あははは……」ガッ

青年「ぐえっ」グイィッ



村娘「いきなりバラそうとしてどうするんですか!!」

青年「すまん」

村娘「誤魔化すのに必死で意味のわからないことを口走っちゃいましたよ!!なんですか?四階のワタヌキって!!」

青年「俺に聞かれても」

村娘「それに、それにですよ!?謎の高いところ大好きアピールのせいで若干距離を取られてしまいました!!どうしてくれるんですか!?」

青年「すまん」

村娘「謝ってもダメです!ちゃんと反省してください!」

青年「うん」

村娘「本当に大丈夫ですか……?この調子だと建設すら出来ないですよ……?」

青年「親方、教えて欲しいものがあるんだ」

親方「ん?なんの相談だ?」

青年「いまあるものを作ろうとしてるんだけど」

親方「ほほぉー!良いねえ、ついにお前も仕事が趣味になったのか?」

青年「そうじゃないけど、教えてほしいんだ」

親方「んだよ、勿体ぶってねえで教えろよ~」



青年「神社作りたい」
親方「無理」

村娘「即答……」

青年「つらい」

本当に中途半端ですが今日はここまで
リアルが多忙になりつつあるので、更新速度が低下するかもしれません。
尚且つ時間が時間ですので、寝ぼけているせいで会話文が抜けてたりするかもしれません。
その場合補足及び訂正させて頂きますので違和感なり不自然な箇所がありましたらご指摘ください。

>>105-106
コメントありがとうございます。
皆様のコメントのおかげでやる気が湧き出ます、ありがとうございます。

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