魔王『我は魔王、新たなる魔王。人間どもよ、聞くがいい』(276)

魔王『幾度となく、貴様達人間に……勇者に辛酸を舐めさせられてきた』

魔王『そうした中で、私は新たなる魔王としてこの世に発現した……よって』

魔王『人間どもよ! 私は貴様達に対し不可侵を宣言する!』

魔王『我々からは一切、手を出さない! だがしかし、もしもそちらが交戦の構えをもって侵攻してきたならば』

魔王『こちらも一切の容赦はしない』

魔王『とは言ったものの、こちらの末端の魔物までは十分に伝わらない』

魔王『というよりも、それだけの知能がない者もいる。そうした者に関しては全力で狩ってもらって構わない』

魔王『何なら、そういった者の討伐報酬を出しても構わん。以上だ』

魔王「ふむ、こんなところか」

側近「」

魔王「どうした? そんなにこちらの顔を見て。照れるではないか」

側近「い、いい今、なんと申して……」

魔王「照れるではないか。言わせんなよ恥ずかしい」

側近「そうではありません! ふ、不可侵?! 討伐報酬?! 気はお確かですか?!」

魔王「当然だろう。酔狂であんな事を人間に伝えるとでも?」

側近「な、何を考えて……はっ! 油断させて一気に攻め込むつもりですね! なるほど!」

魔王「いや……もうどうせ勇者に殺されるんだろ。寿命まで慎ましく暮らせばいいじゃないか」

側近「はぁぁぁ!?」

四天王・炎「どう思う、先ほどの魔王様の人間への伝達魔法」

四天王・風「まーいいんじゃないの。あたしは戦うの好きな訳じゃないしね」

四天王・氷「そうねぇ、私も同意見ね」

四天王・土「俺は認めんぞ! 何を腑抜けた事を!」

炎「どうするつもりだ?」

土「……しばらくは様子を見よう。だが行動次第では、魔王に相応しくないのであれば……」

風「おー怖……」

氷「下克上? 止めなさいよ」

土「ふん、お前達のように魔族の誇りのない者には分かるまい」ザッ

国王「い、今のは……しかし」

大臣「し、信用してはなりません! 魔王の言葉ですぞ!」

騎士長「確かに、今まで敗北し続けた魔王軍だ。こちらの不意を突いてでも、崩したいと考えていてもおかしくはない」

騎士長「とは言え、あれが本心であれば悪戯に刺激するわけにもいかない」

騎士長「各国の連合軍を我々の領土内に配備し、様子を見てはどうだろうか?」

大臣「ううむ、しかしなぁ」

国王「ふむ。大臣よ、至急各国に連絡を。それと騎士長、いざ交戦が開始された時に備えよ」

騎士長「仰せのままに」

魔物達「おい……さっきのあれ、どうなんだ俺達」

魔物達「さあなぁ……」

魔物達「人間を襲わなくても暮らしていけるのか……?」

魔物達「食い物……」

魔物達「だが、魔王様に歯向かう訳にも……」

魔物達「いや……全員でかかれば」

魔物達「もしかしたら、魔王様は弱いから……?」

魔王「西の平地を酪農地帯にする。力ある者を集めて派遣せよ」

魔王「素早い魔物には山等に放て。家畜となる動物を集めさせろ」

側近「……」

魔王「返事はどうした?」

側近「チッ……チッ……チッ……」

魔王「舌打ちをするな」

側近「はぁ……分かりました。仕事はこなしましょう」

魔王「船……船か……。側近、我々の陣営には造船技術はあるのか?」

側近「大きなものは無理でしょうね。精々不恰好なカヌーがやっとでしょう」

魔王「流石にそれでは自給自足がやっとだな。海岸近辺の開発は後回しにすべきか」

魔王「現状は陸地の開発を進めるとしよう」

魔王「ゴーレム達には街道でも作らせておくべきか……搬送ルートを確立させておくのも重要だな」

側近「……」

魔王「今度は何だ?」

側近「いえ、仰せのままに」

魔物達「ま、魔王様」ズラッ

魔王「随分と大勢とどうした?」

魔物達「そ、そのぅ」

魔物達(おい、本当にやるのか?)

魔物達(だ、だけどよぉ)

魔王「……先日の声明の件なのだろう? 納得できないのは無理もない」

魔王「だがな、この件である種族を切り捨てる。そんな事は一切考えていない」

魔王「しばらく苦しい思いはさせるだろうが、その事だけは分かってほしい」

魔物達「は、はい!」

魔物達「わ、分かりました」

魔王「うむ、すまないな」

魔王(職場に華がないな)

魔王(いや、女性はいるにはいるが)チラッ

側近「……」カリカリカリ

側近「?」ピク

側近「……」ジッ

魔王「その『何見てんだよ』的な目線止めてくれない?」

側近「……」ジィッ

魔王「ご、ごめんなさい」フィ

側近「……」カリカリカリ

魔王(これだものな)

魔王「という訳で今日から君を秘書にしようと思う」

メイド「!?」ダラダラダラ

魔王「え、なにその脂汗」

メイド「い、いえ、その不安でいっぱいで……」

魔王「普通に簡単なスケジュール管理してくれればいい。会議の時間とか食事の時間とか」

メイド「しょ、食事……」

魔王「まだまだ忙しいからな。つい食事の時間を押してしまって、調理担当の者を困らせているのだ」

メイド「そ、そのぐらいなら出来そうです」

魔王「うむ、任せたぞ」

魔王「という訳で今日からメイドから秘書になった子だ」

秘書「よ、よろしくお願いします」

側近「言っている意味が分かりません」

魔王「タイムキーパー不在だとかなり滅茶苦茶な状態だからな」

側近「はぁ……仰っていただければ尻を蹴り上げて差し上げますが?」

魔王「こういうね、ドツンドツンしかないから君みたいなほんわかパワーには期待しているよ」

秘書「え?! は、はい! えっ!?」

側近「……魔王様?」ギロリ

魔王「ここまで来るとツンよりブスッだな」

秘書「刺さっちゃうんですか?!」

一ヵ月後
巫女「……勇者を選定した神託が下りました」


国王「君も魔王の声明を聞いてのとおりだが、魔王に交戦意識はないとされている」

勇者「しかし、それが本心であるともいえないのでは?」

国王「うむ。だが、今尚、魔王軍としての動きは一切見られず、僅かな魔物達がこちらに侵入し、討伐されているのだ」

勇者「……魔王軍が力をつける為の時間稼ぎではないのでしょうか?」

国王「斥候……というよりも旅人を一人送ってみたのだが、どうにも軍備強化をしている様子はないそうだ」

勇者「……なんで旅人」

国王「魔王の言葉通りなら、軍事行動に関わらない者であれば攻撃はされないだろうと考えたのだ」

国王「ただ報告の中では、魔王城の先で何かをしているらしいとの事だ」

勇者「……流石にそこまで踏み込むのは」

国王「敵陣営まで踏み込んでいて何もされないのに今更だ、とも思えるが」

国王「そこまでして生かして返してもらえるとも思えんからな」

勇者「神託、とは言え神々に選ばれた身です。陛下のご命令とあらば、単身でも魔王城に踏み込むつもりです」

国王「……うむ、そこでなのだがな」

国王「いくつか、作物の種子をあちらに運び、物々交換でもしてきてもらいたい」

勇者「……は?」

国王「もしも、魔王が本気で不可侵の構えを持っているのであれば、今頃自給自足に向けた動きをしているだろう」

国王「作物の種子は、こちら側にしか生えていないものだが、あちらの土地でも育つものだ」

国王「これでもし、向こうが喜んで応じるのであれば、魔王の言葉の信憑性が上がるというものだ」

勇者「命がけの探りですね……」

国王「無論、そんな事をと思うのなら商人を雇うつもりだ。君でなくてはならない使命ではない」

勇者「……いえ、やらせて下さい」

勇者「もし……もしも本当に魔王にその意思があるのであれば、それは新たな時代の到来とも言えます」

勇者「神託で勇者を選んだ事に意味を求めるのならば、ここで橋渡しになるべき事なのでしょう」

国王「……そうか、ありがとう。同行者は君が自由に決めるといい。必要であればこちらも手配しよう」

勇者「と、言う訳なんだ」

剣士「うーん、俺は危険だと思うな」

魔法「幼馴染としても止めたいところね」

僧侶「で、ですが魔王を敵と見なすにしても、向かう事には変わらないのでは……」

勇者「そうなんだよね。だから飽くまで命令違反の魔物対策に武装、という建前で警戒しつつ向おうと思っている」

剣士「覚悟はあるんだね?」

勇者「……最悪の事も含めて、ね」

剣士「よし、ならば俺も同行しよう」

魔法「勇者一人とか心配だものね」

僧侶「ですね」

勇者「信用ないなぁ……」

剣士「皆、君の事が大好きって好意的に捉えておきなよ」

土「魔王様」バンッ

魔王「ノックくらいのマナーはないのか?」

土「お戯れを。それより少々、お時間を頂けませんか?」

側近「土、これより会議があるのですよ。だいたい、貴方も出席……」

土「側近は黙っていろ」ピシャリ

魔王「……」

魔王「時間は?」

秘書「あと三十分です」

魔王「いいだろう、手短に済ませるぞ」

演習場

魔王「なんだ? 稽古でもつけてほしいのか?」

土「貴様に魔王の座は相応しくない。が、死なれても困る」

土「ここで貴様を打ち倒し拘束させてもらう」

側近「土?!」

魔王「クーデターか。面白い」

秘書「ま、魔王様!? いいんですか!?」

魔王「だがやるからには殺す気でこい。悪いがこちらは手加減してやるつもりはないぞ」

土「構わん。元よりそのつもりだ!」

風「これ、どーなんのかしらねぇ」

氷「近接格闘能力であれば、魔王軍一の土だものね」

火「しかし、相手は魔王様だ」

風「まだ、どれほど強いかは分からない、ね」

火「……ああ」


土「……」ジリ

魔王「どうした? かかってこないのか? ならば」バッ

土(馬鹿が……その一撃を食ってや)ブォッ

ズシャァッ

土「な……」ズルッ

土「」バラバラバラ

側秘火風氷「!?」ビクッ

秘書「な、ななな……」

火「……なんだ? これは……まさか」

氷「手で薙ぎ払っただけで土の体がバラバラに切り裂かれた……」

風「恐ろしいほどに高圧の魔力を乗せて指先……魔力の爪で裂いた?」

側近「……歴代魔王の中でも、頭一つ抜きん出ていると言っても」

魔王「ふむ……やはり殺してしまったか」

魔王「側近、死体処理の手配を。四天王の穴埋めをどうするかな……」

魔王「今のところ戦闘の予定はないしな。秘書、君が兼任するように」

秘書「ええぇぇぇ!? 無茶振り!!」

魔王「君も土属性を持つ魔族だろうに……」

側近「流石にそういう問題では……いえ、もう何でもいいです」

魔王「さて……そろそろ会議の準備をしなくてはな」

側近「本日の議題は勇者についてです」

炎「実しやかに彼らの出現が噂されているが本当のようです。魔王様はどのようにお考えを?」

魔王「まずは勇者の現状の報告を聞かせてほしい」

氷「勇者は他三名を同行者とし、こちらに向っている模様。一般兵よりも上等な装備をしています」

氷「まだ人間の領地を出ていないので、これ以上の情報は厳しいところですね」

風「魔王様は不可侵を宣言されているというのに……」

魔王「あちらの真意が分からない以上、手を出してはならないな」

側近「もしかすると、先日の斥候から得た情報でこちらに攻め込むつもりなのかもしれませんよ」

魔王「と言っても城下町を見られたりした程度だろう。攻め込むには情報不足と見ていい」

魔王「境界線あたりに一名配置。あちらの様子を探り報告させる事」

風「それでしたらあたしの部隊から出しましょう」

魔王「ああ、任せるぞ」

側近「では、勇者に関しては続報を待って行動。次の議題ですが……」

勇者「へぇぇ……ここの名物ってこれなんだ」

剣士「鳥肉と野菜をふんだんに入れて煮込んだ鍋料理、かぁ」ゴクリ

魔法「なんか観光気分ねぇ……いいのかしら」

僧侶「戦闘がないですからね……ちょっとしたお使いになりつつあります」

勇者「まあまあ、折角だし食べていこうよ」

剣士「ここまで来て食べないとか勿体無いよな」

……
魔王「ふう……今日の食事も美味かった」

秘書「今、紅茶を淹れますね」

魔王「すまないな」

秘書「いえいえ、魔王様はお掛けになっていてください」

魔王「……ふむ」

秘書「どうされました?」

魔王「前々から気になっていたのだが……」

秘書「スリーサイズなら教えませんよ?」

魔王「……お前の中で俺はどういう評価なのだろうか」

魔王「そんな阿呆な事ではない。秘書にしても側近にしても、前回の戦いでは生き延びたのだろう?」

魔王「先代魔王の死後、どうしていたのだ?」

秘書「えっと……あたしは先代魔王様の時代に生まれたので、そこまで詳しくは分からないのですが」

秘書「魔王様が絶命されると共に、あたし達魔族・魔物は封印と言いますか」

秘書「次の魔王様が現れる一週間ほど前まで、消えているというか記憶がないんですよね」

魔王「なに……? ふうむ……」

秘書「因みに、前回の勇者達は殲滅、ではなく極力生かして戦闘不能にして、先代魔王様の下へと進んだそうですよ」

魔王「だから四天王達も前回から引き続き、だったのか……オーバーキルを防いで余力を残すか、確かに賢い戦い方だな」

魔王「秘書の両親はどうしているんだ?」

秘書「? ああ、魔王様はご存知じゃないんですね。私達、魔族は魔王様と同じで突如現れるんですよ」

魔王「は?」

秘書「あたしも城内で"生まれた"んでメイドとして就く事になったんですよね」

魔王「……なるほどな」ニヤ

秘書「どうされました?」

魔王「いや、確かな事は何も分からないな。だが、ここに居る者達は皆、生命の理の外に存在しているのだな、と」

秘書「んー……まあそうですね」

魔王(この反応からするに、それが当たり前となっているのだな)

魔王「待てよ、そもそも城とかはどうなっていたんだ? 当然、人間の手が入っているはずだろう」

秘書「それが少し埃が積もっている程度なんですよね」

秘書「そういえばなんでこっち側に人間は町とか作らないんでしょうかね?」

魔王「……忌み地の扱い? いやそもそも妙だな……」

秘書「紅茶淹れましたよ」コト

魔王「ありがとう……」ススッ

魔王(人間達はこちらに入ってこれなくなる、とかか?)

魔王(しかし誰が何故そんな事を……これは……)

炎「今日の業務はこんなところか」

風「ねー」

氷「それにしても、魔王様は随分と大胆な事を……」

風「まさか土を殺しちゃうなんてね。まあ、これで日和見主義って訳じゃないのは分かったけど」

炎「ああ、何も殺さなくても……彼は近接戦であれば一騎当千の力を持っていたのに」

氷「どうかしらね……確かに単体の戦力は恐ろしいほど高いけども、魔王軍の構成上、肉弾戦型の比重が大きいのよね」

風「数で補えなくもないって事?」

氷「身も蓋もない言い方をすればね。まあ、魔王様の真意なんて分からないけども」

炎「私は恐ろしいよ。あれほどの力を持っている事も」

炎「その上で平和的に生きるという考えをする思考も」

氷「そうね……あれだけの力に抗える勇者なんて……先代勇者でも10人いたって勝てないわ」

風「もしかしたら制約があるとか……」

炎「しかし土には使った。使えない、使うのが非常に困難な制約ではないのだろう」

炎「つまりは、その条件下で一気に攻めるなりすれば我々の勝利も……」

氷「ま、想像でしかないけどもね」

炎「まあな……」

数日後
側近「勇者達がこちらの領土内に入ってきたようです」

魔王「様子は?」

側近「周囲を警戒してはいますが、のんびりと歩いているそうですね」

魔王「偵察は勇者達を監視しながら帰還、まあ放置で良そうだな」

側近「よろしいのですか?」

魔王「……そうだな、彼らがここまで来たらすぐに謁見の間に呼ぼう。通達出しておいて」

側近「また突拍子もない事を……」

魔王「この書類を頼む」

側近「……最近は随分と仕事されますね」

魔王「近い内に勇者との謁見があるかもしれないからな」

魔王「片付けられる仕事は全て片付けておきたい」

魔王「酪農地区の方はどうだ? そろそろ追加物資の要請があるんじゃないか?」

側近「やはり肥料が足りませんね」

魔王「家畜の糞捨て場の土を使わせるか……」

側近「えぇ……」

魔王「もっと長い時間をかけて、堆肥にしたいのだが贅沢も言えないからな」

秘書「魔王様!」

魔王「お前が慌てているとは珍しいな」

秘書「勇者が来ました!」

側近「遂に、ですか」ゴクリ

魔王「向こうに俺と会う気があるのなら時間を設ける事を伝えてくれ」

魔王「あと時間は何時でもいい、というのと何なら城に宿泊の手配もさせる、とな」

側近「念の為に魔王の間を準備をしておきましょうか?」

魔王「ああ、よろしく頼むぞ」

魔王の間

魔王「よくぞ来てくれたな」

勇者「……」

剣士「……」

魔法「……」ソワソワ

僧侶「……」キョロキョロ

勇者「単刀直入に聞こう。先の声明は本心か」

魔  側(ど直球?!)
剣魔僧(ど直球?!)

魔王「そうだ。が、それで信じられるのか?」

勇者「まあ、無理だな。ここの西には何があるんだ?」

魔王「酪農地帯として開発している。とは言え多くない作物と、家畜がのんびりしているだけだがな」

勇者「……」キョトン

剣士「……勇者?」ボソリ

魔王「どうかしたか?」

勇者「あ、ああいやすまない。何でもない」

魔王「それで、何が目的でこちらに来たのだ? ただの観光か?」

勇者「我が国の陛下より仰せつかった命の為だ」

魔王「……」ピク

勇者「ここに我々人間の領土で自生している作物の種籾がある。こちらの気候でも十分に育つものだそうだ」

勇者「これを物々交換してくるというものだ」

魔側「……」キョトン

魔王「そ、その作物について、育て方などは……」

勇者「こちらです」ガササ

魔王「側近っ」

側近「失礼します」

勇者「どうぞ」

側近「……凄い、肥料の種類まで。物さえあればすぐにでも着手できそうです」

魔王「お、おお! それでは早速!」

魔王「と、言いたいのだが如何せん、余分な資金もなければ物もない」

魔王(む? そもそもこの貨幣は一体……? いや、今はいいか)

魔王「ツケといてくれないか?」

側近「……」ギロッ

魔王「ひっ」ビクッ

勇者(あの女性凄い眼光っ!)

剣士(あの人こえぇ……)

魔法(……これが魔王?)

僧侶(急にこの魔王が悪い存在ではない気がしてきました)

魔王「……」ダラダラダラ

側近「……」ジィィ

魔王「い、何れ恩を返す。だから、これを譲っては頂けないだろうか?」

勇者「……」

勇者(目的そのものは達成できている、か?)

勇者「いいだろう。ただ、高くつくぞ?」

魔王「ああ、構わんさ」

謁見後
魔王「……」

側近「……」

魔王「用品は?」

側近「メモの通りであれば揃ってます」

魔王「播種の時期も良いようだな。至急取り掛からせろ!」

側近「勿論です!」

魔法「無事終わって良かったわ……」

僧侶「ですねぇ」

剣士「とりあえず、これからどうするんだ?」

勇者「魔王が時間を設けるっていう話の時に、魔王城に宿泊の手配もしているというのを聞いている」

勇者「今日はここに泊まって、明日ここを発とうかな」

魔法「……あ」

剣士「え? なに? 嫌な『あっ』だな」

魔法「別に悪い事じゃないのだけれど……ここ、転移魔法で来れそうだわ」

僧侶「え? えぇ……? 魔王城に転移魔法ですか」

勇者「……まあ、今後もここに来る事はあるだろうから、有り難いと思っておこうか」

側近「この作物、記された内容に嘘や不備がなければ、数年後にはかなりの収穫量が期待できますね」

魔王「あとは味か……これで不味かったらどうする?」

側近「文句の一つでも言いに人間の国に行かれては?」

魔王「……それも有りか」

側近(有りなんですか……)

側近「では私はこちらの手配がありますので」

魔王「ああ、任せるぞ。さて、俺も自室に戻るか」スック

自室
秘書「良かったですね、魔王様」

魔王「ああ、まあな」ドスン

魔王「ふー……やれやれだな」ノビー

秘書「今、紅茶を淹れますね」

魔王「あまり無駄に淹れるな。というかそういう嗜好品は他の者達に回してやれ」

秘書「何を仰っているんですか。謙虚な姿勢は大切ですが、下の者より質素に生きては示しがつきませんよ」

魔王「ふむ……そういう考えもあるか」

魔王「忠告痛み入るよ」

秘書「ふふ、では淹れますね」

魔王「……時に秘書よ」

秘書「何でしょうか?」

魔王「お前は何時まで俺の傍にいるつもりだ? 最早、目的は達成、いや終了しているんだろう?」

秘書「……」ピク

魔王「なあ……? 先代、最初期四天王の一人、四天王・闇」

秘書「……」

秘書「何故、それを知っている」クルッ

魔王「前回の勇者は上手く殺さずに魔王の下へと肉薄した。つまりは幹部連中の多くが続投だ」

魔王「であれば、彼らはどう生きたか、どう戦ったか。それぐらい上司として把握に努めるに決まっているだろう」

秘書「……素性を知った今、私をどうするつもりだ?」

魔王「別に何もせんよ。土属性ながら暗殺主体の闇ちゃん」

魔王「まあ、上手い事先代勇者に赤っ恥かかされて、その地位を追い立てられてメイドになったみたいだが」

秘書「……!」グッ

魔王「バカにはしていないさ。土を含めた四天王を殺さずに勝利しているんだ。その手腕は恐ろしいものだったのだろう」

魔王「それに、そもそも暗殺命令は側近から撤回の言葉を頂いているんだろ? それが目的終了の意味だ」

秘書「……これでも、慎重に極秘裏に進めていたのだが……恐ろしい方だ」フゥ

魔王「いや、実際のところは知らないぞ?」

秘書「……は? っ! カマをかけたのか!」

魔王「違う。側近の能力から考えての推測だ」

秘書「推、測……? なっ!」

秘書「……側近様も同じ事を……ま、まさか、それじゃあ今までの行動は全て、計算しての……?!」

魔王「……」ニヤリ

魔王「側近は先代魔王を支えた参謀だ。誰よりも明確に俺を『見る』事ができると踏んでいた」

魔王「それも踏まえてあの声明だ。勿論、あれだけで人間の信頼を勝ち取れるなどと思ってはいない」

魔王「だが少なくとも、今までにない魔王としての警戒心、それと僅かな期待が生まれるだろう」

秘書「期待、ですか?」

魔王「最終的には勝利を収めているとは言え、人間達にとっても痛みがない訳ではない」

魔王「この長く続く流れに変化が生まれた事による、状況好転への期待だ」

魔王「故に表立って攻撃の姿勢が取りづらくなる。折角の好機が立ち消えるかもしれないからな」

魔王「それに対する側近だ。と言っても彼女ほどであれば、彼女もまた表立って突っかかってくる事はない」

秘書「貴方の声明に意を唱える事はないとでも?」

魔王「いや、それはありえないだろう。ただ、いきなり土のようにクーデター紛いの事はするまいさ」

秘書「と、油断をしているところを刺される可能性は……?」

魔王「逆だ。彼女ほどであればと言っただろう。働き振りを見ても優秀さがよく分かる」

魔王「故に、俺の能力も分からない内に行動はしない。仮にもしかしたら俺を負かす事ができるかもしれなくてもだ」

魔王「確証一つないのであればそれは賭けであり、ただの無謀だ。彼女がそれを行う可能性は……まぁ、俺にデレてくれるぐらいないな」

秘書「……それはそれで言っていて悲しくないのか?」

魔王「……物事にはな、辛くても直視しなければならない現実があるんだ」

魔王「次に、四天王・土だけを殺した事だ」

魔王「俺自身にかなりの力があるのは気付いていた。その上で大きく角が立つようであれば、何かしら見せしめを行おうと考えていた」

魔王「とても悪い言い方だが戦力的には痛手だが、土は格好の見せしめとなってくれたな」

秘書「……」ピク

魔王「魔王軍において肉弾戦のみであれば最強とも言える彼を、一瞬で殺した俺を皆は力の上では頂点と思うだろう」

魔王「更には魔王軍の戦力の構成が近接型が多い。それでいい、という訳ではないが数で補えない訳ではない」

魔王「この段階で、側近は俺に対するクーデターの企みを放棄、俺に尽くす事に転換するだろう考えていた」

秘書「り、理由は……?」

魔王「初めに言ったように、彼女が俺の真意を見抜いていれば本心として和平の意志がある事を知る」

魔王「またクーデターそのものの成功率が微塵もない事も判明する訳だ。ならば残された道は俺と共に行くか離反か……ある意味、安全面では前者だな」

秘書「……」

魔王「勇者達は斥候ぐらいに考えていたが、あそこまで大胆に出てくるとはな」

魔王「考えてはいなかった訳じゃないが、随分とまあ面白い奴だな」

魔王「この分なら国交もそう遠くない内に実現できそうだな」

魔王「早いところ輸出できる品、産業を生み出さなくてはな」

秘書「……はぁ」

魔王「どうした?」

秘書「側近様の仰る通りで驚いているんです。いえ、それ以上です」

秘書「人間と国交……側近様、また驚きますよ」

魔王「だろうな」

魔王(最も、俺が目指すべき場所は……)

……
勇者「以上が報告となります」

国王「ふむ……」

大臣「ま、魔王の策略だ!」

騎士長「真偽の程は別にしても、即時武装解除は危険であると思われるな」

勇者「正直なところ、魔王軍の侵攻はないと見ていいと思いますが……」

国王「各国への報告はするが、防衛線は今後も維持する事となるだろう」

国王「勇者、もし可能であれば今後も、魔王軍へ立ち入りしてもらいたい」

国王「いや、現状では魔王国、と呼ぶべきか?」

大臣「正気ですか!?」

勇者「いえ、既に国としての運営を目的とした行動は始まっています。間違っていませんよ」

騎士長「国として……俄かに信じがたい話だな」

国王「もしそうであり、勇者の提案をのんだ事を考えるに、次に大きな変化は産業であろうな」

勇者「え?」

国王「本当に国として運営、更には勇者との取引を行う柔軟さ」

国王「こちらの国々との交易も視野に入れているのであろう。とすれば、取引する物品を作る事にも力を入れてくるはず」

大臣「魔族魔物が?! そんな……陛下、気をお確かに!」

勇者「……」

勇者「それでは勇者、ならびにその同行者はしばらくの間、自由に行動させてもらいます」

大臣「ゆ、勇者殿?!」

勇者「あ、いえ、任を降りるという意味ではありませんよ?」

勇者「今回の任では陛下のお考え通りでしたので、もっと近くで様子を見たいと思っただけです」

騎士長「なるほど……。もし魔王が本気であるならば、今後の関係改善にも効果がある……」

勇者(対魔王に関して言えば、既に何も問題なさそうだけどなぁ)

国王「うむ、任せたぞ」

……
側近「……」カリカリカリ

秘書「本日のスケジュールはですね」

魔王「……なあ、秘書。もう無理をしなくていいんだぞ?」

側秘「?」

魔王「もうこの間の話も側近に伝えているのだろう? 素の口調で構わんさ」

秘書「!」ビク

秘書「~~~」プルプルポロポロ

魔王「えっ!? 泣っ! えぇ?!」

側近「最低ですね」ボソ

魔王「俺!? 俺の所為なのか!?」

側近「よしよし」ナデナデ

秘書「うぅ~~」

魔王「……」オロオロ

魔王「まさ、か……それが素の口調、なのか?」

側近「土属性とは言え、暗殺型の四天王です。こうほんわかでは威厳がないので頑張って矯正して無理して……」

側近「なんだかんだでそれから解放されたというのに、本当にデリカシーのない人ですね」

魔王(初見殺し!)

魔王「い、いやまあ、今の状態で秘書がストレス少なく働けるのならそれに越した事はないが……」

秘書「ぐすぐす」コクコク

魔王「望んで今の仕事もやってくれているのなら、俺はそれ以上言う事はない」

魔王「というか居てくれて有り難いと思っている」

秘書「あ、あたしもここで働けて嬉しい、です」グズ

魔王「と、という訳でこの話は終わりっ。いい? いいな?!」

秘書「はいっ」コクリ

側近「もっとしっかりと謝罪するつもりはないんですか?」ジトォッ

魔王(あ、やっぱこれじゃダメなんだ)

……
魔王(ちゃんと詫びると言ってもなぁ……)スタスタ

魔王(プレゼント? いやいや……あ、人間の国に行って? しかし何で? 今余裕のある物は……)ブツブツ

勇者「来てはみたものの……」

剣士「どうするんだ?」

魔法「今日は観光程度にしないかしら?」

僧侶「何か面白いものとか売っているかもしれませんね」

魔王「!」

魔王「勇者ぁっ!」

勇者「ひやぁっ!?」ビクッ

勇者「な、なんだ魔王か……驚かさないでくれよ」ドギドギドギ

剣士「随分と切羽詰って……何かあったのか?!」

魔王「頼む! 助けてくれ!」

魔法「ま、魔王が……」ザワ

僧侶「一体どれほどの事態が発生したというのでしょうか……」ザワザワ


勇者「女の子へのお詫びの仕方……」

剣士「というか何をプレゼントするかか……」

魔王「頼む! 知恵と力を貸してくれ!」

僧侶「しょ、しょうもなゲフン」

魔法(どうしよう、もうこの男がそこら辺にいる人間にしか見えない……)

勇者「そもそも魔族の好みってなんだろう……」

剣士「あんまり貴金属が好きそうにも見えないしな」

魔法「確かに今までの話の限りじゃ、そういうのって出てこないものね」

僧侶「因みに食事って肉食限定じゃないんですよね?」

魔王「魔物は種族次第だが、魔族の括りなら人間と変わらんと思ってもらえればいい」

僧侶「うーん……因みに相手は好き嫌いしますか?」

魔王「特にそういうのは見受けられないというか、そもそも贅沢が言える環境ではないからな……」

僧侶「じゃあシンプルにいきましょうか」パンッ

……
僧侶「はーい、クッキーの完成です!」

魔王「ありがとう! 本当にありがとう!」ペコペコ

魔王「すまないが俺は急いで戦場に赴く! 武運長久を祈っていてくれ!」バババッ

魔王「では行ってくる!」バッ

勇者「えっちょ……」

剣士「行っちまったぞ……」

魔法「まだ味見もしていないのにね」

僧侶「見た目も悪くないですし、途中経過も問題なかったですから、極端に悪いという事はないと思いますよ?」

勇者「魔王がクッキー作り……これも時代か……」

剣士「まあ、折角だし残っているのを頂くとするか」モグ

魔法「これでアレだったら笑えるわね」ヒョイ

勇者「今からじゃ追いつけないだろうしね」パク

僧侶「でも初めてでここまでしっかりできるのは凄いですよね」サク

勇剣魔僧「……」

勇剣魔僧「美味っ!?」

勇者「え? 嘘、え? 本当?!」パク パク

剣士「見た目は少しあれだが、そこらの店で並んでいる味だぞ……」モグモグ

魔法「……あいつ、本当に何なの」ジー

僧侶「お菓子作りの才能を持つ魔王……ですか」サクサク

秘書「わあぁぁぁ! 美味しいです!」サクサク

側近「……本当、魔王様が? 人間の国に行って略奪してきたのではなくて?」モグ

魔王「何ちゃっかり側近も食べているんだよ。しかもなんで略奪なんだよ。クッキー略奪する魔王ってなんだよ」

側近「クッキー作る魔王も大概ですけどね」

秘書「美味しいっ美味しいっ!」サクサク

魔王「そ、そんなにか……?」

側近「というよりも、基本的にここは甘味に欠けていますからね」

魔王「……? そういえばそもそも今ある食料ってどうなっているのだ?」

側近「不思議な事に、我々が目覚める時にはある程度の備蓄が倉庫にあるんですよね」

魔王「その言い方だと、今までの記録でもそうなのか」

側近「ただ、先代は元より今まではこうした酪農などは一切なかったので、段々と食べる物も減り」

側近「昆虫型や動物型の魔物から順に……」

魔王「げぇっ!? ちょ、前回そうやって暮らしていたのか?! あ、まさか城内に昆虫そのものが見かけないのはっ!」

秘書「何時飢えるか分かりませんから、"皆"見つけたら食べちゃいますよ」

魔王「……き、君達も?」

側秘「当たり前じゃないですか」

魔王(やばい、戦中生まれやばい。絶対に豊かにしてやらなくてはっ!)グッ

おになるごになる
れるられる

って知っていたはずなんだけどなぁ

おまけ
大臣「勇者からの報告書でございます」

国王「ふむ……連日動かせてしまって、申し訳ない事をしているな」

騎士「給金はしっかりと出している以上、それ相応の働きはしてもらわねばならんでしょう」

大臣「確かにそうですな」

国王「ふむ……は?」

大臣「どうされましたか?」

国王「……」ピラ

大臣「……んんん!?」

騎士「『魔王にクッキーの作り方を教えたところ、初めてで中々の味だった。才能があるのかもしれない』」

騎士「これは報告に必要か……?」

国王「それ以前に一体何がどうなってクッキー作りなどという状況に……?」

大臣(魔王って女性だったっけ?)

おまけ2
メイド「フンフーン」サッサッ

メイド「うん?」

蛾「」パタタ

メイド「……」

メイド「……」シュバッ パクッ

側近「こらっ! 行儀がなっていませんよ!」

メイド「ふぉっひんあま!?」モグモグモグ

側近「租借しながら声を出すなぁっ!」

魔王「……」

魔王「皆、あんな感じ?」

秘書「? そうですよ?」

魔王「俺、頑張るから。もっと頑張るから」グス

秘書「え? は、はあ……え、なんで涙ぐんでいるんですか?」

それから一ヵ月後
側近「本日の報告です」

側近「本日も勇者達が目撃されています」

魔王「今日も? ここしらばく連日いるんじゃないか?」

側近「あの四人自身は友好的ですからね。目下、国々を抑える為の証拠探し、我々の働きを監視」

側近「というか、普通に日雇いの仕事していたりするんですよねぇ……」

魔王「日雇い?! ううむ……流石にそれは予想していなかった」

側近「何を考えているのやら。それと酪農地帯ですが、勇者達が持ち込んでくれた書物のお陰で、だいぶ様になってきています」

魔王「待て、何の話だそれ」

側近「順序立てて話しますと、産業関係で鉱山の活用を開始しましたよね?」

魔王「割と順調らしいな」

側近「ただ精錬や鍛造技術がどうしても低いものでして」

側近「なので、手先が器用な者がちょっとした小物を作るに留まっているのですが」

側近「勇者達には割かし好評でして、それとの物々交換に様々な書物を見繕ってもらっています」

魔王「……冷静に考えるとそれ、人間側の貴重な技術の流出じゃないのか」

側近「そこまで考えていないんじゃないですかね?」

魔王「考えてやっていたら逆に怖いわ」

側近「そんなこんなで、鉱山周りは少しずつ、酪農地帯はそれなりの速度で発展しており」

側近「第一陣となった作物も順調です。早いものですとあと一、二ヶ月で収穫できそうですね」

魔王「おぉっ」

魔王「うんうん、いい感じになってきたな」

魔王「とするとそろそろあれにも……」

側近「今度はなんですか?」

魔王「足の速い……いやハーピーとかでいいか。召集してくれ」

ハーピー達「一体何が始まるんだろうね」

ハーピー達「ねー」

魔王「お、集まっているな」

魔王「皆に頼みたい仕事がある。これより西部の土地の調査を行ってもらう」

魔王「一人一人にエビルマジシャンを配属させて、定期的に伝達魔法にて状況や周囲の報告を行ってもらい」

魔王「詳細な地図を作成するのが目的だ」

ハーピー達「へー」

ハーピー達「なんか面白そう!」

ハーピー達「人間って地形に名前付けるんだって! ハーピー川とか探そうよ!」

魔王「え? い、いや……まあいいか」

魔王(そろそろ色んな事を調べる段階に来たか)

魔王(そもそもここや皆が持つ貨幣は一体何だと言うのだ?)

魔王(俺自身も初めから所持していたものだしな)ゴソゴソ

勇者「いやーいい汗かいたねー」スッキリ

魔法「湯浴みしたい……」

剣士「設備が整っていないまだ無理だろ」

僧侶「! つまりはそうした物を私達が提案すればいいのですね!」

魔王(住民化している……)

勇者「あ、魔王。こんなところで何をしているんだ?」

魔王「いや、大した事ではないさ」チャラ

剣士「? なんだ、金握り締めて買い物か?」

魔法「そういえば……なんであたし達のところのお金持ってんのよ?」

魔王「なに? これはそっちの貨幣なのか?」

僧侶「え? 知らなかったんですか?」

魔王「……」

魔王(全魔族魔物のを集めたらそれなりの資財になるのでは……)ゴクリ

勇者「真面目な話、どういう事なんだろうね」

剣士「今までの連中も持っていたらしいな」

魔王「ふむ……」

魔法「妙な話よね」

魔王「うむ、追々考えるか」

僧侶「えぇっ?!」

剣士「割と重大な事じゃないのか?」

魔王「考えるためのカードが少な過ぎる。現状ではただの想像の範疇から出られない」

魔王「であれば、ここで深く考えるより他の事に力を向けるべきだ」

剣士「……もしかして魔王って優秀な奴なんじゃ」ヒソヒソ

魔法「……信じがたいけど有り得そうね」ヒソ

魔王「こちらは置いておくとして、お前達はなんだ? 仕事とか生活はないのか?」

勇者「魔王国視察が仕事、みたいな」

魔王「……。え? これで給金されているのか? しかも日雇い労働しているとか。二重取りとかいいなぁ」

剣士「いや、こっちの給料って現物支給だからな? 分かっていっているよな?」

魔王「まあ、個々の貨幣が潤沢という訳じゃないからな」

魔法「正直、肉体労働組二人が持ってくる天然の鉱石とか、どうすんのよって話なんだけど」

僧侶「あれ、全部鍛冶屋さんに卸しているんじゃ……」

勇者(買い叩かれているけどね)

剣士(買い叩かれているけどな)

魔王「まあ、もし暇なら城にでも寄っていってくれ」

魔王「こちらは到底暇とは言い難いが、そちらの話は聞きたい事でいっぱいだからな」

勇者「こっちで働くのが主目的って訳でもないし……」

剣士「明日から魔王城に行ってみるか?」

魔法(魔王に魔王城へ招待される勇者の図……)

僧侶「あれ……魔王さんとの距離が凄い縮まっている気がする」

魔法「今頃気付いたの……? 前のクッキーの件であたし達の株、鰻上りっぽいわよ」

しばらく後
商人「まいどどうも。しっかしいいんですかい? こんな安物ばかり」

魔王「割と食糧難だからな。季節の食物で生産量も多いものは安価になる。我々には有り難い事だ」

商人「こちらとしても有り難いですから今後ともご贔屓に」ニヤ

魔王「そちも悪よのう」ニタ

側近「何を健全な取引で阿呆な事をしているんですか」

商人「悪の象徴、魔王と先んじて取引して市場を独占しているのですぞ!」

魔王「ちゃっかり大量購入でそれなりに安くしてもらっているのだぞ!」

勇者「前者は逞しいというか流石の商人魂ってだけで、別に普通の事じゃないか……」

秘書(最近、城内で当たり前のように勇者さんの姿がある……)

商人「ではあっしはこれで」

魔王「うむ、また頼むぞ」

勇者「一応、報告に来たのだが時間はいいか?」

魔王「おお、どうだった?」

勇者「割と好評だよ。種族が違うから体力も違うしよく働くってさ」

側近「? ちょっと待ってください、何の話をしているのですか?」

魔王「い、いや……城の者とかを人間側へ出稼ぎというか……」ゴニョゴニョ

側近「」
秘書「」

側近「国交前にそんな事になるとは……」

魔王「ほ、ほら、向こうの技術が身につくし、ね! 悪い事じゃないから!」

勇者「あ、うん……その魔族の人達、早くも向こうでの居住権を求め始めているんだけど」

秘書「えぇっ!?」

魔王「なっ! り、理由は……?」

勇者「食べ物が美味しい」

魔側秘「あー……」

側近「人材流出とは面白い政策ですね」ギリギリギリ

魔王「しま、絞まって」パンパン

側近「締めているんです」ギリギリギリギリ

勇者「まあ、こっちが落ち着いてくれば戻ってくるんじゃないか?」

秘書「食文化が人間の国に追いつくまであと何年かかるんでしょうか……」

魔王「ゲッホゴホ……そ、その点なら既に、手を打って、ある」

側近「……まさか」


勇者の故郷の国の城の厨房
炎「……」ジュァァァジャジャジャ

氷「……」スタタタタン

風「……」グツグツグツ

料理人「あれ……? 新人ですか? 中々良いですね」

料理長「勇者様が連れてきた……魔王軍の四天王の三人、らしい」

料理人「えっ」

……
側近「本日の人間の来訪者数は3人、何れも商人で工芸品を買っていきました」

秘書(勇者さん達ノーカウントなんだ……)

魔王「工芸品……あんなのでも売れるものなのか」

側近「感性が違うのでしょうね。デザインが独特で面白い、だそうですよ」

魔王「聞き取り調査までしているのか……」

側近「店主と話せば色々と聞けますので」

側近「それとですね、最近になって北の山奥のドラゴンの活動が活発になってきているようです」

魔王「被害報告は特に来ていないようだが?」

側近「目撃が目立っているんだそうです」

秘書「ドラゴンって……あの、ですか?」

魔王「前回、ひと悶着でもあったか?」

側近「とても巨大な有翼ドラゴンでして、先代魔王様も魔王軍の傘下に加えようとして……」

秘書「それはもうコテンパンに……」

魔王「そんなに強いのか?」

側近「恐らくエンシェントドラゴンの一種なのでしょうね……。過去に記録を見る限り、千年単位で生きているようです」

魔王「ふむ……」

秘書「ま、魔王様……?」

魔王「今度、見に行ってみるか」

側秘「観光?!」

魔王「いやだって凄そうじゃないか。地上にいるエンシェントドラゴンなんて、相当珍しいんじゃないか?」

側近「ええ、まあ……殆どの個体は天界へと移り住んでしまったというのが専らの考えですからね」

魔王「北か……暇があったら行くとしよう」ウム

秘書「ええぇぇぇ……」

魔王「そろそろ海産資源も増やしていきたい所だし、少し海岸線の開拓も視野に入れておいてくれ」

側近「そこまで食料が潤沢なわけじゃないですよ?」

魔王「しばらくはこちらからは何も求めはしないって事で、自由に暮らして開発する方向で動かせろ」

秘書「それはそれで丸投げ感が凄いですね」

魔王「しかし獲ったら獲った分食えるのだぞ?」

側近「一応、開拓員の募集はしますけども、最終的に魚介類の出荷を考えますと船の面がどうしても……」

魔王「書物待ちか……」

側近「完全に人間に頼りきっていますね」

エビルマジシャン「お話中、失礼します」

魔王「おお、どうだ?」

エビルマジション「大まかな地図が出来上がりました。本当に大まかですが」

エビルマジション「こちらが試作の地図です。それと不可解な事がありまして」

魔王「! 申してみろ」

エビルマジシャン「どうにも、小さな祠というか建物が点在しているようです」

側近「この先の土地に、ですか……。一体誰が何のために……」

魔王「ふむ……地図はもう少し詳細を調べてくれ。それとは別に何名か現地に派遣し、その建造物の調査」

魔王「魔力、材質、外形をまとめさせろ。何があるか分からないし、あまり深入りさせるな」

側近「魔王様……?」

魔王「んー?」ニヤニヤ

魔王「あー側近は気にしないでくれ」ニマニマ

側近「……非常に不安です。一体何をお考えなのですか? まるで何かがある事を知っていたかのような」

魔王「さあてな。俺は何も知らない」

魔王「まあ……安全ではないかもしれないな。だが、これからもしかしたら」

魔王「とんでもないお祭り騒ぎが始まるかもしれないな」ニタァ

秘書「……」ゾク

側近「……」ブル

魔王自室のテラス
勇者「と、言うわけだ」

魔王「面白いな……直接見てみたいものだ」

勇者「暇があれば言ってくれ。こちらの転送魔法で連れて行こう」

魔王「かたじけない。それと例の件だが」

勇者「ああ、許可は取ってある。日中であればいつでも構わないぞ」

魔王(書類関係は粗方片付いている。正直に言って側近に任せても城の業務は回るだろう)

魔王(他に急ぐべき事は……ないな。多分)

魔王「側近に一声かけてくる。出る準備をしておいてくれ」

勇者「ああ、皆を集めておくよ」

魔王「という訳で人間の町に行ってくる!」

側近「第一声がそれで何がどういう訳ですか?!」

魔王「いいか、側近。男にはやらねばならん時があるのだ」

側近「……」イラッ

魔王「あ、ぇ、ごめんなさい……」

側近「……」フー

側近「最近やたらと仕事されていたのは"それ"ですか?」

魔王「さっすが側近」

側近「いいですよ。仕事も一段落着いていますし。ただ、連日徹夜だったのですから、あまり無理はなさらないでくださいよ」

魔王「……そ、側近がデレ、た? やばい、今日は隕石が降るぞ……」

側近「魔王様の血で雨を降らせて差し上げましょうか?」ギロ

魔王「行ってきます!」

秘書「……」

側近「ふー……何です?」

秘書「……出来るんですか?」

側近「出来ますよ。殺せないでしょうけども」

秘書「……四天王、兼任なさったらいかがでしょうか?」

側近「嫌ですよ。ただでさえデスクワークが多いのに、そこまで面倒は見ていられません」

秘書(戦闘型としての話なんだけ皆まで言ったら怒られそう……)

魔王「許可が下りたぞ」

勇者「立場的に何か引っかかる気がする……まあいいか」

魔法「それじゃ、この間話していた場所でいいのね?」

剣士「何だってあんな所に?」

魔王「知りたい事は限りなくあるからな」

僧侶「私も久しぶりに行きたかったので有り難いです」

勇者「え? 言ってくれれば向うのに。別に無給で動けって言われている訳じゃないんだよ?」

魔法「はいはい、一先ず行くわよー」カッ

大図書館前
魔法「はい、到着」ヒュンッ

魔王「おおおおおお! でかい! これが全部、書物を保管している建物なのか?!」

勇者「いやまあ、備品とかもあるだろうから全部って事はないと思うぞ」

剣士「言っても八割以上は本だろうけどな」

魔王「感謝するぞ。さあ行かん、知識の海へ!」

僧侶「……テンションが」

勇者「……さ、流石に引く」

五時間後
剣士「あ、あいつ……まだ飯も食わずにあんな……」

僧侶「机独占してますね」

魔法「公共の場であそこまで本を積むとは……流石は悪の親玉ね」

勇者(秘書さんがいないからこっちで止めないと食事取らない、のか? まあ一食ぐらい死にはしないか)

魔王「ふー……流石に疲れたな」シパシパ

剣士「それで疲れたぐらいか……」

勇者「何か面白い話でも見つけたか?」

魔王「神話は中々良かったな」

僧侶「意外ですね……」

魔王「軍神にして破壊神である一柱と命の神等の三柱から始まる抗争は面白い」

剣士「そうかぁ?」

魔王「後に不死の神と時空の神を味方につけておきながら、未だに軍神に軍配が上がらないところとかな!」

魔法「ああ、そういう……あたしも思ったわ。能力的にこの三柱どうなのって」

勇者「え?! 今のそういう意味!?」

魔王「うむ」

僧侶「何ていうか楽しみ方が斜めですね」

魔王「まあ……ちょっとした事にも気付けたし中々有意義な話だ」

勇者「へえ?」

魔王「神と言えば……勇者は神々の神託で選定されるのだったな?」

魔王「という事は神託が下る前までは、極々普通の少女だった訳か」

勇者「……」ピクッ

剣士「あーまさか魔王からその話来ちゃったかぁ」

魔王「え? 何がだ?」

魔法「神託における勇者についてから話すべきかしら?」

魔法「根本的に勇者と言うのは魔王を倒す存在に限った事じゃないのよ」

魔王「そうなのか?! 何と言うか、想像もしていなかった事だ」

魔法「例えば、ある天災が続きそれがある神の怒りだったとして、それを沈める祭事を行うとする」

魔法「そんな時に、神託が下りその者が祭事を執り行う事になるのよ」

魔法「適材適所というか、まあそんな感じで最も相応しい者が指名される。総じて皆勇者とされるのよ。分けるのが面倒だから」

魔王「? 待て待て、まさかお前達の言う神託とは、神々が誰々! と指名するだけで内容は一切ないのか?」

剣士「そうらしいんだよなぁ」

僧侶「流石に私達もそれはどうかと思うのですが、長きに渡り神々はそのようにしております」

魔王「……」

剣士「なんだ? どうかしたか?」

魔王「いや、少し、な」

魔王「つまりは……それに適した性格だったり能力がある者、なんだな」

剣士「そうそう」

魔王「つまり……勇者は元々」ジトー

勇者「な、何のことかなぁ」フィ

剣士「そりゃもうお転婆さ」

魔法「男の子泣かすとか恒例だったものね」

僧侶「私達は皆、同じところで育ったのですが、同い年で泣かされていない男の子はいなかったと……」

勇者「わーわーわー!」

勇者「そ、そんな言うほどの事はしていないぞ!」

剣士「ステゴロ最強だったけどな」

魔法「むしろ剣術よりも……」

魔王「うわぁ……」

勇者「ちょ! 引くな引くな! それと誇張だからな! すっごい誇張されているからな!」

僧侶「言葉間違えてますよ。正しくは控えめです」

勇者「僧侶ぉーー!」

係員「お静かに」ピシャリ

勇剣魔僧魔王「……」

魔王「なるほどなぁ……勇者はなるべくしてなった訳だ」

勇者「ち、違……」

剣士「神託が下った話を聞いて納得だったもんな」

魔僧「……」コクコク

勇者「み、皆してよってたかって……」ブルブル

魔王「……」

魔王「しかし有意義な話が聞けたな」

勇者「ま、魔王までっ」

剣士「……なあ、魔王は何を企んでいるんだ?」

魔王「……」ピク

魔法「え?」

僧侶「な、何ですか急に」

剣士「こうして和気藹々とはしているが……お前、色々と探りを入れているだろ」

魔王「……」

勇者「ま、魔王……?」

剣士「不自然なんだよな……このタイミングで人間側の書物が見たい? おかしいだろ」

剣士「お前、何かとんでもない事をしようとしているんだろ?」

魔王「……ふ」

魔法「まさか、本当に……?」ジリ

魔王「ふはははは! 見破るとは流石と言っ」ガタッ

係員「黙れっつてんだろっ」ギロッ

魔王「……」

魔王「(´・ω・`)」スッ

勇者(座ったっ!?)

剣士(普通に椅子に座った!)

魔法(駄目! もう全くもって威厳ある存在に見えない!)

僧侶(顔が凄いしょんぼりしてる!)

魔王「ったところだがもうおそい。ぐははははー」ボソボソ

剣士「あ、うん、なんかごめん」

勇者「なんか不憫だ……」

魔王「あんな思いっきり怒られるなんて……」

魔法「あー……なんかあの目線、覚えがあると思ったら側近さんか」

僧侶「側近さん、苦手なんですか?」

魔王「側近というかあの目で怒られるともう素直にごめんなさいだよなぁ」

剣士「ああ……分かる」

勇者「……分かっちゃうんだ」

魔王「ええ、と何の話だったっけか」

剣士「あ、ごめん。俺の勘違いだからもういいよ」

魔王「そうか?」

勇者「もう、虚勢を張らなくて良いんだ」

魔法「少なくともあたし達は分かっているから」

僧侶「そうです、人生は色んな事がありますし、色んな事で躓きますし、完璧な存在もいないんです」

魔王(あれ? なんか同情会になっている)

魔王城下
勇者「それじゃあ私達は帰るよ」

魔王「なんだ? 夕飯でも食べていけばいいものを」

魔法「魔王が勇者を晩餐に呼ぶ図」

魔王「いや、まあ晩餐というほどのものはないのだが……」

剣士「まあ俺らも多少なりとも仕事があるからな」

僧侶「あ、今日は報告書提出……」

魔王「? ああ、勇者としての仕事か?」

勇者「そんなところだよ。デスクワークは好きじゃないんだけどね」ハァ

魔王「戻ったぞー」

側近「何を亭主のように言っているのですか」

秘書「どうだったんですか?」

魔王「うむ、中々実りがあったぞ」

側近「実りですか。一体、どんな実がなる木なのやら」

魔王「成るまでは分からんなぁ」

魔王「秘書、一週間ほどで片付けなくてはならない仕事をまとめておいてくれ」

魔王「数日で片付けてしまおう」

秘書「えぇっ?! は、はい! 分かりました!」

魔王「すまないが風呂入って飯を食べたらすぐに寝る」

側近「はあ……ごゆっくり」

秘書「魔王様……何を考えているんでしょうか?」

側近「さあ、どうでしょうか」

側近「……何とも掴みどころがないですが、本当に……とんでもない恐ろしい事を考えていそうで」

秘書「……悪い事が、起こらないですよね?」

側近「そう思いたいですね」

三日後
魔王「お、終わった……」ゼーゼーヒューヒュー

側近「鬼神の気迫で終わらせましたね……」

秘書「そんな大急ぎでどうするおつもりなんですか?」

魔王「すまないが、少し人間の国を視察しておきたかったんだ」

側近「なるほど……数日、城を空けるつもりだと」

魔王「そういう事だ」

側近「事前に言えよ」ギロリ

魔王「そ、その視線で三日三晩仕事するとか嫌だったんだもん……」

秘書「だもんて……魔王様……」

魔王「では行ってくる。三日ほどで帰ってくるから、留守の間は頼むぞ」

側近「何をされるかは知りませんがお気をつけて」

秘書「何かお困りになりましたらお呼び下さい!」

魔王「ただの視察だからそんな事にはならんと思うが……」


魔王「……」キョロキョロ

勇者「……」ヒョッコリ

魔王「そこにいたか」イソイソ

勇者「随分と手間のかかる事だね」

魔王「側近の雷は怖いからなぁ」

魔王「それでは頼むぞ」

勇者「勿論。魔法使い」

魔法「はいはい、転送魔法」シュンッ


剣士「おーきたきた」

僧侶「遅いですよー」

魔王「すまんな。準備に手間取ってな」

魔王「だがその分、しっかりと今までのも含めて礼を返すぞ」

魔王「いざ行かん! 二泊三日のグルメツアーに!」

勇者「わー!」パチパチ

剣士「おー!」パチパチ

魔法「いいのかしら……これで」

僧侶「いいんじゃないですか? もう何でも」

剣士「まあ嬉しいんだけど、そんなに金を持っているのか?」

魔王「実はな、魔王城には魔王の装備というものが多数、保管されているのだ」

魔王「肉弾戦型から魔法型、果ては耐性装備とまああまり使わない装備もあってな」

勇者「……まさか」

僧侶「とんでもない装備が質屋に持ち込まれた、という噂は……」

剣士「まさか魔王の装備だったのか」

魔法「それ、国の資財に全額入れなくていいのかしら?」

魔王「そ、側近にバレるだろう!」

勇者「あー」

三日後
魔王「帰ったぞー……げふっ」

側近「ああ、魔王様。丁度良いところに」

魔王「何かあったのか?」

側近「それがもう、大変な大事件なのです」

魔王「お、おぉ……? 側近にそこまで言わせるとは……何事なんだ?」

秘書「そ、それが武具庫にしまってあって魔王様専用の装備が一つ、なくなっている事が発覚しまして」

魔王「……」ビクッ

側近「それと最近、どうやら人間の国にあまりにも特殊な装備が持ち込まれたそうで」

魔王「……」ビクッビクッ

秘書「……魔王様が勇者さん達と豪遊されている目撃情報も」

魔王「どうやって嗅ぎつけやがった!」バッ

側近「常に周囲の情報を集めるのも参謀の仕事であり、道を外した王を矯正するのも仕事です」

魔王「……」ダッ

側近「ブラックアーム」スィ

黒い手「」ウネネネ

魔王「ぎゃあああなんじゃこりゃああああ!」ビタタタ

秘書「あ、捕縛用魔法……」

側近「さ、て……」ギロリ

魔王「つい魔が差した。今は反省はしている」

側近「大丈夫です、魔王様の謝罪と反省の意に価値はありません」

狭い部屋
魔王「あ、あの、側近ちゃん? ここ凄い風の渦があるんですけど……」

魔王「ね、ねえ?! ちょっとこれはあれじゃない? 流石にこれはないんじゃない?!」

魔王「ちょ! 渦! 近い近いちぎゃあああああああ!!」ズシャァァァァ


秘書「……」ゾォッ

側近「あの方は魔法そのものには精通していませんので、各倉庫に施錠魔法でも施しておきましょう」

秘書「え、あの、あれ大丈夫なんでしょうか?」

側近「……魔力が高いという事は、様々な魔法に対して耐性を持っているという事です」

側近「見たところ、1cmも切れていないようですし程々に刻んでおきましょう」

秘書(あ、血の雨って……)

側近「しかも私の最大出力でアレですからね。程々と言っても持続時間そのものが一分もないでしょうし」

秘書「それでも結構重症になるんじゃないでしょうか……」

翌日……営倉
魔王「なんでこんな部屋があるんだよ……」

側近「灯りはないので明るい内に書類を片しておいて下さい」

魔王「何時出してくれる……?」

側近「面倒ですから明日、出してあげますよ」

魔王「お、おお……優しい」

側近「書類は明朝に釈放と共に回収しますので、くれぐれもサボらないように」

側近「トイレはそちら、ベッドはそこです」

魔王「石の台はベッドとは言わないと思うんだけどなぁ……」

側近「では明朝まで誰も来ませんのでごゆっくり反省して下さい」ギィィ バタン

魔王「あい……え? ちょっと待って! 今日一日飯抜き?! ねえちょっと!」

エビルマジシャン「おお、側近様」

側近「おや、建造物調査の報告ですか?」

エビルマジシャン「ええ、魔王様はどちらに?」

側近「謹慎中ですので報告書は私が預かっておきますよ」

エビルマジシャン「……」

側近「……」

エビルマジシャン「もしやあの盗難騒ぎは……」

側近「何か?」ニコリ

エビルマジシャン「では、こちらが書類です。失礼します」

側近「……」

側近「……」ガサ

側近(特に魔王様が指示した以上の……建物の模様?)

側近(随分と変わった模様ですね。やはり何かしら、大きな意味のあるものなのでしょうか?)

側近(昼過ぎにでも様子を見に行って渡しておきますか)ガササ

側近(……本当に、何を考えておられるのやら)


魔王「なんだ……もう書類が終わってしまったな……」

魔王「うーむ、やる事がないな……寝るか」ドッカ

魔王「……これは寝られんな」

側近「おや、もう仕事は片付いたのですか」

魔王「おお? まだ昼だぞ。はっ! こ、これがツンデレ!」

側近「魔王様宛の書類、燃やしておきましょうか?」

魔王「側近ちゃん超クールビューティ。惚れちゃうー」

側近「やっぱり燃やしますね」

魔王「ごめんなさい!」

魔王「……」ガサ

側近「何か面白い事でも分かりましたか?」

魔王「うーむ……うん? この模様はどっかで……」

側近「その見覚え、本当に正しいんですか?」

魔王「え? あれ? そう言われると違うような……」

側近「その程度のうろ覚えでしたら、後で確認し直して下さい」

魔王「……なんだ? 今日はやけに優しいな」

側近「仕事は一段落着いています。書類は重要度が高そうだったので。フォローは勘違いで振り回されたくないだけです」

魔王「……ソウデスカ」

側近「で、そちらについてはどうしますか?」

魔王「そうだなぁ……建造物の調査は一旦ストップさせるか」

魔王「しばらくは精密な地図の作成に集中させてくれ」

側近「よろしいのですか?」

魔王「模様は調べなおしてから考える」

魔王「建造物はトラップが怖いからなぁ……訳が分からん以上、無理に手を出せない」

側近「それならいいんですけどもね」

側近「では、私は戻りますので」

魔王(あ、このまま出してくれるんじゃないのか……)

魔王(だがあの模様、間違いない。だとすればやはりあれは我々の……)

魔王(しかし誰が……何故? いや……奴らがと考えるべきか)

魔王(そうかこれは……我々とは……)

魔王(ふん……いいだろう)

魔王(もう少し詰める必要があるが)

魔王(そろそろ……我々の恐ろしさを知らしめる準備もしなくてはな)ニタァ

勇者「何だ? 魔王はいないのか?」

側近「ええ、装備を持ち出して売り捌いた罰を受けてもらっています」

剣士「即バレしてんじゃないか」ヒソヒソ

魔法「あれ、本当に魔王なのかしら」ヒソヒソ

秘書(魔王なんですよねぇ……)

側近「面会しますか?」

勇者「いや、明日には出てくるんだろう?」

側近「ええ、そうですよ」

剣士「まあ、こっちは挨拶がてらだしなぁ」

僧侶「無理して会う事もないですね」

勇者「だねー……」ハァ

魔法「……」

勇者「ああ、そうだ。それでしたら後で渡しておいて下さい」

側近「こちらの書物は?」

勇者「? 船が作りたいって話だったので、造船に関わる書物ですよ」

側近「ああ! いつもありがとうございます」

勇者「いえいえ、それでは私達はこれで」

側近「ええ、またいらして下さい」

勇者(いつも思うけど側近さんって)

剣士(俺らに対して、魔王を相手にする時より優しく対応してくれるけど)

魔法(それでいいのかしら……)

僧侶(魔王さんが不憫ですね)

翌日
魔王「―――」ヒソヒソ

エビルマジシャン「―――」ヒソヒソ

魔王「では」ソソクサ

エビルマジシャン「はい」イソイソ


秘書「一応、報告までに」

側近「何か良からぬ事を考えていそうですね……」

側近「……」

側近「まあいいでしょう。他の者に監視をさせておいて下さい」

秘書「いいんですか?」

側近「時折不穏な素振りを見せますが、基本的に我々を豊かにさせようと動いていますからね」

魔王「側近、すまないが城を空けるぞ」

側近「どちらへ?」

魔王「鉱山を見てくる」

側近「急ですね……」

魔王「確認しておきたい事ができたのでな」

側近「あまりふらふらとしないで下さいよ。下の者にも示しがつきません」

魔王「あー……気をつけよう」

謎の建造物
魔王「……」

魔王「ふむ……」

魔王(やはり思ったとおりだな)

魔王(問題は自分の知識不足か。まあ早急に動けるものでもなし)

魔王(後々調べさせるとするか)

魔王(さて、鉱山にも寄って見てこなくてはな)クルッ

魔王(残す問題は小さいものがいくつか。それとこの建造物次第か)

魔王(ふ、ふふふ、ふははははは!)

勇者「えっ? 今日もいない?」

側近「ええ、今朝早くに鉱山の視察に行ってしまったのですよ」

勇者「そうかぁ……」


勇者「今日は何するかなぁ」

剣士「ま、今日はもう帰ってもいいんじゃないか?」

魔法「たまにはのんびりしたいものね」

僧侶「私はどちらでも構いませんが」

勇者「……待ってても時間の無駄か。帰ろう」

……
魔法「どうすんのよ、あれ」

剣士「何がだ?」

僧侶「勇者さん、明らかに調子が……」

魔法「いや、そうじゃなくて。明らかに魔王に好意を寄せてんじゃないの!」

剣士「あーそれな。あんな雰囲気初めて見るよな」

魔法「そうじゃなくてあんたはそれでいいのかって話よ!」

剣士「えっ」

僧侶「えっ」

魔法「……えっ?」

剣士「なんだ、そんな勘違いしていたのか」

魔法「ち、違うの?」

剣士「二つしか違わないとは言え、俺からしても勇者からしても近所のお兄さんと妹みたいな女の子な関係だからなぁ」

僧侶「ですよね……」

魔法「あ、あれ? あたしだけ……?」

僧侶「そんな素振りありました?」

魔法「だ、だって子供の頃から一緒だったじゃない!」

僧侶「それを言ったら私達もそうじゃないですか……」

剣士「まあ、俺は勇者がそういう風になってくれて嬉しいと思っているぞ」

剣士「本人に自覚があるのかは甚だ疑問ではあるが……」

魔法「ふーん、じゃあ剣士は応援するつもりなんだ」

剣士「魔王良い奴じゃん」

僧侶「もう魔王という肩書き要らないくらいですね」

魔法「……あっそう」

剣士「なんだ? 不満そうだな」

魔法「別に!」

僧侶「流石に魔王相手ですからね。心配なんですよ」ポソポソ

剣士「ああ、なるほど」ポソ

魔法「目の前で耳打ちとか聞こえてるわよ!」

剣士「まあそうカッカするな。どうせ行動は共にするんだ。怪しければ諭してやろう」

勇者(明日は魔王はいるのかな……)

勇者(あー最近ダメだ。魔王のことばかり考えてしまう!)

勇者(これ完全に……うーん、まさかなぁ)

勇者(というか……魔王に惚れる要素ってあるのか? どこが好きなんだ私)

勇者(……)

勇者(皆とは違う……一緒に居ると楽しい相手、だからかなぁ)

勇者(まあ、理由はどうあれ気持ちは変わらないよなぁ。早く会いたいなぁ)ハァ

おまけ

「やーい! 男女男女!」
「やーい! やーい!」

幼勇者「……」ダッ

幼魔法「またやってる……」

幼僧侶「また泣かされるのに……」

幼勇者「……」ゴッゴッゴッ

「ぎゃ! ひっ!」
「む、無言! 無言で殴ぎゃ!」

子剣士「勇者! 喧嘩はダメだ!」

幼勇者「……」ブン ゴシャ

子剣士「はぶっ!!」

幼勇者「あ……」

幼魔法(反射ね……)
幼僧侶(条件反射……)

翌日
魔王「側近!」

側近「やかましいですね。どうしたんですか?」

魔王「忘れていた!」

秘書「何をですか?」

魔王「ドラゴン!」


北の山岳地帯
魔王「ドラゴン!」

側近「な、なんで同行してしまったのだろう」ガタガタ

側近(に、逃げ出したい! いやでも、魔王様が粗相してエンシェントドラゴンが暴れる未来は阻止したい!)

魔王「ドラゴンやーい! でーておーいでー!」

側近「……」ガッガッガッ

魔王「痛い! 痛い! そこら辺の石で殴らないで!」

側近「いいですか!? 社交的に接してください!」

魔王「いやーもう遅いかも」..ン...ン

側近「え?」..シン...ズシン

古竜「我を呼び出すとは随分なものだな」ギョロリ

側近「ひっあっ……」ビク

魔王「おーすげぇ……」

古竜「ふんっ性懲りもなく軍門に下れときたか」

魔王「え? いや、別に要らないな」

側近「えっ」

古竜「えっ」

古竜「ハッハハハ! この我の力が要らんか!」

古竜「とんだ啖呵を切られたものだ!! ここで消し炭にしてくれるわ!!」ガァァァァ

魔王「いや、別に戦力なら俺だけでも十分にあるからなぁ」

側近「ままままっま魔王様! 挑発! だめ!」

古竜「ならばその小さき存在でどれほどの力か、見せてみるがいい!!」ギロッ

魔王「え? いや流石にそれはなぁ」

側近「かかか帰りましょう! もういいでしょう!!」

魔王「いや、でも折角のご希望だし、ね?」

側近「止めろぉぉぉぉ!!」

魔王「目にものを見せてやるぜ」ザッ

側近「変ポーズ! 要らないから! イラっとする!」

古竜「グルルル」

魔王「食らえ! 魔力、全・開☆」キュピッ

側近「うっぜええええぇぇぇ!」

古竜(我の言いたい事、全てこの女に言われてしまっている……)

魔王「……」ズゴォォォッ

側近「ぇぁっ?!」ゴォォォッ

古竜「グッ!?」ゴォォォッ

側近「かっ、はっ!」ガタガタガタガタ

側近(なんて、魔力の圧……息が)

古竜(馬鹿な! これほどの魔力だと?! こんなもの、生物が持ちえる量では!)

魔王「まあ、こんなもんだな」シュウウゥゥゥ

側近「っは! はぁっ! はぁっ!」ガタガタガタ

魔王「放出しただけでこれか……やっぱり全開なんてするもんじゃないな」

魔王(まあ正直、思った以上の出力で俺自身も驚いているんだけどねっ!)ドギドギドギ

古竜「フハハハハハ!」

魔王「?」

古竜「いいだろう! 如何なる命令も聞いてやるわ! 何なりと申せ!」ガグブルガクブル

魔王「いやだからそういうの要らないって……側近からも言ってやって」

側近「……」プルプルプル

魔王「そ、側近?」

側近「別に違いますよ! 1ml足りても漏らしてませんよ!! ええ全く乾いたものですよ!!」プルプルプル

魔王「え? あ、ご、ごめん」


このあと滅茶苦茶お漏らしした。

魔王城
側近「……」ピリピリ

魔王「……」ビクビク

秘書「側近様、物凄く機嫌悪そうなんですが、エンシェントドラゴン見に行ってなにかあったのですか?」ヒソヒソ

魔王「に、二次災害」ヒソ

秘書「……は?」

勇者「魔王、今日はいるようだな」ガチャ

魔王「! 勇者! ちょっと外に行こうか!」

勇者「へ? ああ、構わないが」

……
剣士「そんな事があったのか……」

魔法「あの側近さんが……」

勇者「にしてもいくら魔力が凄くても、魔力そのものを放出しただけでそんなになるものだろうか?」

僧侶「うーん……人が持つ魔力量では到底届かないですよね」

剣士「お、じゃあさ、試しにやってみてくれよ」

魔王「えぇー……絶対に嫌なんだが」

魔王「というか巻き添えが多すぎるだろうしなぁ。大顰蹙が目に見える」

勇者「もしも本当にそんなレベルならある種のテロ行為だもんなぁ」

剣士「よし。皆さーん! 魔王様の全力見てみたいと思いませんかー!」

「魔王様の?」
「あ、面白そうだな」
「えぇ……物に当たられても困るんだが」
「でも見てみたいね」

剣士「やっていいんじゃね?」

魔法「……話を聞く限り、無責任すぎないかしら」

勇者「剣士!」

剣士「えー面白そうじゃないか?」

「魔王様! 魔王様!」

僧侶「わぁ……コール始まっちゃいましたね」

魔王「これはやらねば納得しなさそうだな……」

魔法「ほ、本気……?」

魔王「本当にいいんだなー!!」

「イエーイ!!」

魔法「た、対魔力障壁!」キンッ

勇者(これで防げるのかなぁ)

魔王「よし、では」バッ

魔王「魔力、全・開☆」キュピッ

魔王「……」ドゴォォォォッ

勇剣魔僧「」オオオォォ
町人「」オオオオオオォ
町の兵士「」ゴォォォッ


この日、魔王城城下町で売られている下着とズボンとスカートの在庫が全部捌けた。

営倉
側近「……」ガシャンッ

魔王「……」

魔王「流石にこれは理不尽だ」

側近「反省しろよ、このクソ」ギッ

魔王「ご、ごめんなさい……」

魔王「いややっぱり理不尽っ」

勇者「クスン……」

魔法「あー……あれほどとは……公然羞恥プレイもいいところね」

剣士「いやぁ……ガキの時以来に漏らしたもんだ」

僧侶「……まあ、全員だったわけですし恥じる事は……まあ……ええ……」

側近「貴女方も貴女方です。話を聞いていて尚、実行させるなんてバカですか!」

剣士「興味本位で」

魔法「とりあえず、他の国が独断で攻撃を行っても放置する事にしたわ」

側近「まあ……魔王様を敵陣に放り投げて魔力を放出させれば、恐慌状態と戦意喪失ですからね」

勇者(魔王の前で漏らした魔王の前で漏らした魔王の前で漏らした……)カァァァ

魔王「……」キィィン

魔王(やはりとんでもない魔力だな)ィィィィン

魔王(これなら想定する攻撃は……)

魔王(問題は媒体か……何か一番効果的か、効果的と思われるか)

魔王(……いつ事態が変わるか分からない。そろそろ急ぐべきか)

魔王(その為にも……)

翌日
魔王「やれやれ……石ベッドは体が痛むな」

側近「ま、魔王様」

魔王「どうかしたか?」

側近「海岸線開拓組より荷物が届いているのですが……」ジャラ

魔王「……。小石? 砂利?」

側近「よ、よく分かりません。もしかしたら貝なのかも」

秘書「お早うございま……どうしたんですか、そのカメノテ」

魔王「カメノテ?」

側近「亀の手……?」ゾォッ

秘書「はーい、出来上がりです」

魔王「汁物か……」

秘書「殻を剥がし易いように切れ込みを入れてありますので、中身が食べたい時はその部分に串を刺してこうくりっとすると……」

側近「おぉ……というか随分と詳しいですね」

秘書「先代勇者と対峙する前に、別の海岸線でトラップを仕掛けていましたからね」

秘書「その時に発見したんですよ」

魔王「……」ズズゥ

魔王「なるほど……磯味だな」

側近「悪くはないですね」

魔王「しかしなんでまたこんなものを……」

秘書「さ、さあ……」

側近(魚は送りたくないと見えますね)モグモグ

魔王「しかし、この量を消費するには飽きるだろうな」

秘書「流石に早めに消費した方がいいですからね」

魔王「他の者にも配っておいてくれ」

秘書「分かりましたー」

……
魔王「これで大方片付いたか」

魔王「酪農地区は安定しているな」

側近「牧草が不安ではありますがね」

魔王「最悪、相当数の人員を動員して遠出させればいい。草ならいくらでも生えているだろう」

魔王「ああ、そうだ。この書類をエビルマジシャンに」

秘書「分かりました」

側近「魔王様」

魔王「なんだ?」

側近「……いえ、何でもありません」

魔王「そうか? なら、少し休憩してくるぞ」

魔王「……」ペラ ペラ

魔王「やはり、か……」

魔王「あとは解明と対策、か……」

魔王(とは言え、恐らくは……問題は対策か)

魔王(もし単純なものであればほぼ解決したも同然か)

魔王(まあ、急ぐ必要はあっても焦る必要はない。落ち着いて調査、裏づけをとればいい)

魔王(それが終わってしまえば……)ニヤ

魔王「ふ、ふふ……待っているといい」

魔王「その舐めきった考え、すぐに後悔させてやろう」

魔王「ふっふっふ、ふはーーはっはっはっはっ」

メイド「……」シラー

魔王「……」

魔王「こ、このクッキーで手を打とうか」カァァ

メイド「私、とっても口が堅いんですよー」ニコニコ


昼過ぎ
勇者「魔王、魔王」

魔王「おお、勇者か。どうした?」

勇者「た、高笑いしていたと聞いたがどうしたんだ? 何か悩み事か?」

魔王(あのアマ……!)

剣士「やっぱ国長ってのは大変なのか……?」

魔王「あ、哀れむ目で見るな!」

魔法「えぇ……だって、ねえ」

僧侶「……」コクコク

魔王「いいか! 忘れろ! この事は絶対に忘れろ!」

勇者「まあ、魔王がそう言うのならそうするが……本当に大丈夫なんだな? 心配しなくていいんだな?」

魔王「そんな目で見るなぁ!」

魔王「くそ……ああもういい。そんな事より前々から聞きたかった事がある」

勇者「へえ、なんだろう?」

魔王「今までもそうだが魔王を倒した後、この土地を手に入れようとする国はいないのか?」

剣士「は?」

魔法「? 何を言って……」

僧侶「え……」

勇者「……魔王は、いや『君達』が何かをしている訳じゃないのか?」

魔王「……」

勇者「魔王が死ぬとその土地に……広大な範囲に結界らしきものが生じるんだ」

勇者「話だとどんなに前進しても気付けば元の位置にいる……エルフの森とかみたいな感じで戻されるという事らしい」

魔法「朝、ここら辺の土地に入ったのに、気付けば夕方で方角的には帰路に着いていたって話もあるわね」

魔王「……そうか」

剣士「おいおい、じゃあ一体ああいうのは誰の仕業なんだ?」

僧侶「……とてもじゃないですが、人間は愚かエルフにだって出来ないでしょう……」

魔法「ええ、大掛かり過ぎるわ。やるとしたら膨大な人数か……それなりの人数の命をかけないと無理でしょうね」

魔王「そうか……話が聞けてよかったよ」

剣士「一人で納得かよ」

勇者「どういう事か説明はしてくれないのか?」

魔王「……そのうち色々と話す事もあるだろうな」

魔法「……」

僧侶「悪事を考えている、という訳ではないのですよね?」

魔王「……」

魔王「どう転ぶか分からないな。ただ……我々魔族魔物が乗り越えるべき壁ではあるな」

勇者「な、なんだか凄い大きな話な気が……」

魔王「まあ、俺もよく分かっていないがな」

……

エビルマジシャン「魔王様、こちらを」

魔王「おお、すまないな」

側近「……」

エビルマジシャン「それと例の件の物を頂きたいのですが」

魔王「とりあえずはこれだけだな」ジャラ

エビルマジシャン「確かに。では早速取り掛かります」

魔王「頼むぞ」

側近「魔王、様……」

魔王「最近、そんな顔をよくするな。一体なんだ?」

側近「一体、何をお考えなのですか?」

魔王「……」

魔王「お前はお前のすべき仕事をしていればいい」

秘書「……」ビクッ

魔王「あ、ああ……お前達を脅かすつもりはない。ただいつも通りに働いてくれ」

側近「時々恐ろしいのです。魔王様が何をお考えなのか……皆目検討もつかないんです」

魔王「何れ、全てを話す。だから今は俺の事は気にしないでくれ」

側近「……」

魔王城 書庫
魔王「……」ペラ ペラ

秘書「残っているのはこれぐらいですねー」ドサッ

魔王「ふーむ……」ペラ

秘書「何かあったんですか?」

魔王「いや、他にはないものだな、と思ってな」

秘書「話が見えてこないんですが……」

魔王「四天王等、魔王直下の者を排除せずに魔王を倒した勇者の記録だ」

秘書「あー……」

秘書「書物よりも前の事かは分かりませんが、一番詳しい人でも初めての事だって仰ってますよ」

魔王「……誰だそいつ」

秘書「エビルマジシャンの中でも高齢の方です」

魔王「書物より昔の事かは怪しいなぁ……」

秘書「あははは……初めてと言えば、魔王様ほどの力を持った方も過去にいない」

秘書「というよりも他に類を見ないほどって話ですよ」

魔王「……」

魔王(エンシェントドラゴンの驚きようにしてもそうだろうな)

魔王(だとすれば……根本的に俺はあまりにも異質な存在なのだろう。しかしそれは一体……? 偶然か?)

人間の国の書物庫
魔王(念の為とは思ったが……流石に魔王軍の内情まで記したものはないか)ペラ

魔王(にしても、随分と神話の類が多いのだな……)ペラ

魔王(うん? 神話に勇者が? 何があったんだ?)ペラ ペラ

魔王(魔王を倒した勇者が神々の世界に渡り、邪神討伐を試みる? ほうほう)ペラ

魔王(如何なる攻撃も神に届く事はなく、渾身の爆破魔法さえも軌道が逸らされ、邪神の後方で爆発をあげた……)

魔王(後には空しく飛び散る破片が邪神の鎧にあたり、カラカンと音を鳴らしただけだった……)

魔王(……絶望的だな)

魔王(邪神は彼ら人間がここまで到達した事に賞賛を称え、神に弓引く行為さえ赦し、地上に返した……か)パタム

魔王(名の割には随分と話の分かる邪神だことだ)

魔王(というかこの勇者は何故、神に抗う真似を……?)

魔王(これには載っていない様だし、原文に近い内容の本でもあればいいが……覚えていたら、魔法使いあたりにでも聞いてみるか)

魔王(それにしても邪神か。神話とは概ね、何かしらの真実が込められている、もしくは真実そのもの)

魔王(……描写からするに、この邪神というのは障壁や結界の類で身を守っていそうだな)

魔王(神殺しか……)

しばらく後
勇者「魔王」

魔王「おお、勇者か」

勇者「最近、少しバタバタしているな……大丈夫か?」

魔王「なに、勇者が気にする事ではないさ」

魔王「……そうだな、一つ聞かせてくれ」

魔王「もし、俺が苦しい境地に立たされた時、勇者は共に戦ってくれるだろうか?」

勇者「!?」ドキリ

勇者(な、なんだこれは! プロポーズ? プロポーズなのか?!)

魔王(いや、どう考えても共闘するような時間の共有はしていないよな)アー

勇者「わ、私は魔王の力になれるなら、私に出来る事は惜しまないぞ!」バッ

魔王「お、おお……え? 本当か?」

勇者「あ、ああ……二言はない」

魔王「勇者……」パァッ

勇者「うっ……」ドキリ

魔王「すまない! 本当に助かるぞ」ギュ

勇者「あ、ああ……」カァァ

勇者「そ、それにしても、近々そういう場面がありそうなのか?」テレテレ

魔王「分からない。分からないが、もし起こるとすればそれはもう……」スゥ

勇者「……?」

魔王「どれほどの大災害となるか……完全に未知数だ……だがそれでも、立ち止まる訳には」ブツブツ

勇者「ま、魔王……?」

魔王「!」ハッ

魔王「すまない、今のは忘れてくれ。それと少し疲れているな……」

勇者「魔王」

魔王「な、なんだ?」

勇者「魔王が……人々の生活を脅かす事を目的としないのであれば……」

勇者「その……その……」ゴニョゴニョ

魔王「??」

勇者「ま、魔王と共に何処まで行ってやる。だから、私に遠慮するな!」

魔王「勇者……? !」ハッ

魔王「え、ええと……あ、ありがとうな」

勇者「~~~!」カァァァ

勇者「うおおおおぉぉぉぉ!!」ドドドド

剣士「お、勇……なんだ?!」

魔法「顔真っ赤だったわね」

僧侶「泣いてはいませんでしたね」

剣士「OK、だったのか?」

魔法「さあ……」


魔王「……」ポツーン

魔王「あ、あれ、今の反応って……勇者はそういう意味で言ったんだよな」

魔王「……」

魔王「!? 俺、OKしたという事か?!」

魔王(まあ、悪い気はしないが、せめて全て終わった後に応えてやりたかったな)

エビルマジシャン「勇者殿の奇行は一体?」

魔王「あ、ああ気にしないでやってくれ」

エビルマジシャン「そうですか。こちらが例の結果となっております」

魔王「おお、すまないな」ガサ

魔王「……期待値を超えているな。どう思う」

エビルマジシャン「以前、仰っていた案ですが、相当な範囲に効果を及ぼすでしょう」

エビルマジシャン「それこそ使用する素材によってはその威力は正に……」

魔王「そうか……」ニタァ

魔王「引き続き頼むぞ」

エビルマジシャン「お任せ下さい」

魔王「すまないがまた数日、城を空けるぞ」

側近「いい加減にして頂けませんかね?」

魔王「そろそろ本気だ。酪農地帯は安定を見せている」

魔王「海岸線開拓も順調……俺が必ず指揮すべき事はないといっても過言ではないな」

側近「ま、魔王様?」

秘書「あ、あの……魔王様はその、消えてしまうおつもりではないんですよね?」

魔王「は? 消える? ああ、そういう意味じゃない」

魔王「少しぐらい俺がいなくても平気だよね、って事さ」ニカッ

側近「……」

魔王「ごべんばなざい。じょうじにのりまじだ」ボッコボコ

側近「筋力増加魔法重ねがけは便利ですね」フー

秘書「マウント取って早10分……」

側近「……必ず、お戻り下さいね」

魔王「ずでにいぎぞうでずが」

側近「……」グッ

魔王「いっでぎまず!」ダッ

側近「ふー……」

側近「……」

側近「やはり、流石に不安ですね」

側近「秘書、魔王様の私物を全て洗ってください」

側近「少しでも気になるものは確保」

秘書「分かりました」

秘書(傍から見ていると物憂いとも取れる表情で、素直になれずにいる恋煩いのようにも見えますけども……)

側近「魔王様に有効な魔法……新たに考えておかなくては……打撃……物理に近い魔法……」ブツブツ

秘書(発言内容が絶対に違うと物語っていますね!)

建造物
魔王「どうだ?」

エビルマジシャン「やはり、建造物同士を結ぶ魔力を感じられますね」

魔王「崩せそうか?」

エビルマジシャン「もう少し調べる必要がありますね」

魔王「そうか……」

魔王「人員要請を許可する。全箇所を同時に調べろ」

魔王「第一目標は完全に破壊、絶対死守ラインは一切の干渉を止める事だ」

エビルマジシャン「これがどう何に作用しているかは分かりませんが、魔王様のご期待にお応えしましょう」

エビルマジシャン「とは言え、時間がかかる事でしょう」

エビルマジシャン「魔王様は時間をかけたくないのでしょうし、ここは一つ、魔王様のお力をお貸し下さい」

魔王「構わないがどうすればいいんだ?」

エビルマジシャン「ここにこうやって手を着いていて下さい」

魔王「ふむふむ……ん? それだけか?」

エビルマジシャン「ええ。こちらで魔王様の魔力をこの建造物に流します」

エビルマジシャン「もしここから別のところに魔力が流れていれば、魔王様の魔力を追い調べます」

エビルマジシャン「ここで魔力が消費しているのであれば、どう消費されているのかを調べます」

魔王「ほうほう」

魔王(ん? 待てよ、想定する機能を考えるとそれは……)

エビルマジシャン「魔王様ほどの魔力であれば問題ないでしょう。ただ強制的に魔力が抜かれるショックがあると思いますので」

魔王「えっ」

数日後
エビルマジシャン「医療班急げ!」バタバタ

魔王「」ピクッピクッ

側近「……」

秘書「……」

側近「い、今のは一体……」

秘書「え、えと……付き添いに行ってきます!」

更に数日後
魔王「あー死ぬかと思った」

エビルマジシャン「いやー申し訳ない」

秘書「ま、魔王様……? 本当に大丈夫でしょうか?」

魔王「ああ、問題ない。心配かけたな」

魔王「急性魔力欠乏症、嘘じゃなかったんだな」ボソボソ

エビルマジシャン「ええ、驚きました」ボソボソ

秘書「??」

魔エビ「なんでもなーい」ニコ

秘書「と、とりあえず側近様に伝えてきます」

魔王「ああ、頼むよ」

魔王「で、結果は出たんだろうな?」

エビルマジシャン「はい、大まかには」

魔王「大まか?」

エビルマジシャン「……魔力を溜め込んでいるようなんです」

エビルマジシャン「あの建造物に施された魔法が発動した際の範囲も予想できているのですが」

エビルマジシャン「一体、何を目的としているのかまでは、魔法そのものを解析しない事には分かりません」

魔王「……」

魔王「資料は出来ているのだろう? 後で持ってきてくれ」

魔王「これをもって建造物の調査は一旦終了だ」

エビルマジシャン「よろしいのですか?」

魔王「これ以上触れるのは火傷じゃ済まないだろうな」

魔王「ただ、大よそは検討がついている……盲目的になっていなければな」

エビルマジシャン「魔王様がそう仰るのであれば」

魔王「ああ、お疲れ様。引き続き地図の方を頼む」

エビルマジシャン「そろそろ地質までに調査が及ぶ勢いなのですが」

魔王「それいつの間にか増員されているよな……誰が追加で行っているんだ……」

エビルマジシャン「では私もこれで失礼致します」

魔王「ああ……」

魔王「……」

魔王(やはり建築物同士が結ぶ線で魔方陣を形成していたか)

魔王(貯められた魔力は設定値、もしくは時限式で発動か……)

魔王(これなら逆に魔力を吸収し、それでもって破壊してやればいい)

魔王(これでいよいよ……か)ブルッ

魔王(今更恐ろしいか……当然だな)

魔王(だが駄目だ。それこそ今更だろう。もう一度、覚悟を決めろ)

魔王(もう後には引けない。例えそれで、未曾有の事態を引き起こそうとっ)キッ

……
魔王「秘書……頼みがある」

秘書「な、何でしょうか?」

魔王「俺の自室へちょっと」

秘書「は、はあ……」

側近「……?」


勇者「こんにちは~」

側近「おや、勇者さん。魔王様なら自室ですよ」

剣士「昼間っからか? 珍しいな」

魔法「サボり?」

僧侶「でしょうか?」

側近(人間にまでこの評価……)

勇者「魔王、いるかー」ガチャ

剣士「ノックぐらい……」

魔王「!?」ビクッ

下半身裸秘書「ひぁっ!?」

魔僧「えっ」

側近「……」

側近「……」キィィィ

勇者「……」コォォォ

剣士(魔力の高まりで耳鳴りが……逃げよう)バッ

肉塊「」ピクピク

秘書「ま、ま、魔王様っ!」ワナワナ

側近「貴女も貴女ですよ」ギロリ

勇者「ふーん、へー、秘書さん、そういう関係なんだー」

秘書「ち、違、誤解です! そういう事じゃないんです!」

魔法「なんで庇うの? 権力を盾に言い様にされていたんじゃ……」

僧侶「諒承済み、という事でしょうか?」

秘書「だ、だから違うんですぅ!」

剣士「とりあえず、本人に事情聴取した方がよくないか?」ソロー

魔法「なんで逃げたのよ」

剣士「立ち位置的に巻き添えくらいそうだったからだよ……」フー

側近「事情……事情ですか……情事か痴情の間違いでは?」

秘書「だから違うんですってばぁ……」

剣士「俺には魔王がそういう事を平然とやるような奴には思えないけどな」

側近「む……人間の癖に知った風に言いますね」

剣士「まあ……」

剣士「この場で同性として接点あるの俺だけだし」

勇者「……言われて気付いたけど、魔王の周りの女性率……」ワナワナ

魔法(単純な率ならあたし達が加担しているのだけども……)

魔王「し、死んだかと思った……」プルプルプル

側近「では話して頂けますよね?」ギロ

勇者「まあ、内容次第じゃまた同じ事を味わうんだけどさ」ギロ

魔王「……」

魔王「ふむ……ここまでか」

剣士「……」ピク

魔王「あー身構えるな。いや、身構えられてもいいのか……? 正直、俺にも判断できない」

側近「魔王、様……?」

魔王「エビルマジシャンを呼べ。今後の話も含めて、包み隠さず話そう」

魔王「だが、話したら最後だ。本当に後戻りはできないぞ」

側秘勇剣魔僧「……」

剣士「格好良く言っているけど、俺達はまず、秘書さんをひん剥いた理由を知りたいって事忘れてないよな」

魔王「うわー……凄いみっともな」

勇者「ま、真面目な話、なんだよな?」

魔王「そしてこの凄い疑いの眼差し」

側近「正直、私でもそうですから」シラー

魔王「信用のしの字もない……」

エビルマジシャン「全て魔王様からお話になった方が早いのでは?」

魔王「一応証人みたいなものだ」

魔王「さて、何から話したものか」

側近「秘書」

勇者「秘書」

魔王「……ですよねー」

剣士「分かっててやってんじゃないのか?」

側近「因みに、あの時私達がこなければどうしていたおつもりでしょうか?」

魔王「……あ、愛撫するつもりだった」

勇者「死刑?」

側近「死刑」コクリ

剣士「これは待ったなしかなぁ」

魔王「待て! 待ってくれ! 説明を!!」

魔王「ええとだな……我々魔族、魔物は自然発生している……文字通りの木の股から生まれてきている」

魔王「いや発生していると言える」

勇者「……」

剣士「……本当かよ、それ」

魔王「人間にとっては驚愕の事実かもしれないがそうなんだ」

魔王「事実、俺もあの声明を行った日が一番古い記憶だ」

魔法「それは……何とも」

僧侶「……それでどう繋がるんですか?」

側近「ええ、私も本当にそう思いますねっ」

魔王「語勢に容赦のなさが……」

魔王「何故、発生するのかは置いておくとして。そうであるならば、我々に生殖能力はないのか? という問題がある」

魔王「受精、着床は……本来、目を瞑るべきではないが、今は瞑ってその前段階はどうだ、というところだ」

魔王「が、側近や秘書の様子から生理は発生している。つまりは排卵はされているのだろう」

側近「何気に観察されていたのですか」

魔王「二人とも気をつかわせない様にと隠してはいたようだが、どうしたって気付くさ」

魔王「話を戻して俺にしても射精する事が出来る。最も、卵子も精子も異常がないかどうかはまた別の問題だがな」

剣士「さらっと言ったなぁ」

魔王「俺も男だ。手淫ぐらいするさ」

勇者「手……」カァァ

魔王「なので、現状で簡単に確認できる生殖能力の一つを確認しておきたかったのだ」

剣士「濡れるかどうか、か?」

側近「アホくさ……」

魔王(あ、これ本気で怒ってる時の言い方だ)ブル

勇者「そ、それだけ、なのか?」

魔法「いや、相当な話じゃなかったかしら?」

勇者「何ていうか、もっと大きな事かとも思ったんだ……」

魔王「順におって説明していこう……そもそも、それでは我々はなんで発生するのか、我々は何なのか、だ」

魔王「考察程度で明確な物的証拠も何もないが、我々は神々によって生み出されているのだろう」

側近「は?」

勇者「あ、ありえない!」バンッ

剣士「今の魔王ならそうも思いたいが、過去の魔王を考えるとそれは無理な話じゃないか?」

魔法「……」

魔王「この先の土地には謎の建造物があり、大規模な魔法が施されている」

魔王「魔王が死んでも立ち入れない土地にだ」

僧侶「それは……一体どういう事でしょうか?」

魔王「その魔法がこの魔王軍の仕掛けなのだろう。だが、魔王軍は過去にそれを見つけた記録はない」

魔王「ともすれば魔法も建物も、中核を関与しているのは……人でも魔族・魔物でもないだろう」

剣士「面白い話だが、理由としては弱くないか?」

魔王「と、思うだろう。だが神々は一枚岩じゃあない」

魔法「……まさか!」

勇者「え? な、なに?」

魔法「神話よ! 軍神と時空の神と不死の神!」

側近「な、何ですかそれは」

秘書「神話でその三柱が何かをしたんですか?」

剣士「他の神々に喧嘩吹っかけて継続中、って内容」

剣士「という事は人間対魔王って……」

魔王「神々の代理戦争……どちらかと言えば軍神が強制的にその場を作っているとも言える」

魔王「古すぎて記録に残っていないが、恐らく魔王出現以前は勇者は勇者という名称ではなかったのかもしれないな」

勇者「……」ポカーン

魔王「……ついていけてるか?」

勇者「あ、ああ……だが突拍子もなくて、その……」

僧侶「わ、私もです」

魔王「まあそれでも構わないさ」

魔王「俺はこの連鎖を断ち切りたいと思っている。だから、生殖能力の有無、というのは重要だったんだ」

剣士「ああ、そういう事か」

魔法「木の股から生まれなくなったら絶滅だものね」

側近「で、ですがどのようにして……?」

魔王「先代勇者の贈り物でな」

秘書「え? 何か残していったんですか?」

魔王「俺さ」

剣士「……?」

勇者「どういう事?」

側近「ああ……感心していたのに……やはりただの馬鹿ですか」

魔王「……」

秘書「……もしかして、魔王様のその力が?」

魔王「少なくとも、魔王誕生時に四天王他、有力な幹部がいないというのは今までなかったそうだ」

魔王「居ないポストは必ず初めに埋まるのだろう」

側近「! 先代勇者は……」

魔王「城内の魔族や魔物も殆ど死ななかったそうだな」

魔王「彼らの分の力を俺が一人で受けたのだろう」

秘書「……なんか、凄い辻褄が合っている気がします」

側近「しかしどうやって……建造物を破壊するだけでは危険なのでは?」

エビルマジシャン「破壊の仕方次第です。あれらが溜め込んだ魔力を全て放出させた上で破壊すれば」

エビルマジシャン「完全に機能は停止するでしょう。魔王様のお話から今まで発生していた干渉もなくなると考えられます」

魔王「幸い、魔力の流れを強制的に作る、という魔法を編み出してくれたからな」

エビルマジシャン「魔王様が瀕死になりましたが」

側近「この間のは……」

秘書「それだったんですか……」

勇者「待って、それ何の話!」

剣士「なんかごちゃごちゃし始めたな」

魔法「要約すると魔王は軍神達が生み出している。軍神と神々の争いの延長戦であるのかもしれない」

魔法「そして、その原因はこの先にある建造物が神々の世界からの中継点として干渉」

魔法「あるいは建造物単体が独立して機能しているが為と思われる」

魔法「今の魔王は本来補填されるはずの魔族や魔物の力、その殆どを得ているからとっても強い」

魔法「これで建造物を破壊して神々の干渉、今までの魔王復活から討ち死にの流れを止める」

魔王「討ち死に言わんでくれないかー?」

秘書「あ、あの……少し資料を見た事があるんですけど、建造物は凄い距離に点在していますよね?」

魔王「いくらだってやりようがある。別の方法ではあるが一例としては……エビルマジシャン」

エビルマジシャン「こちらに」スッ

側近「鉄の……弾?」

エビルマジシャン「この中には魔王様の魔力で生成した魔石が入っており、魔石には爆発魔法が施されています」

魔法「魔石を生成!? そんな事が……できそうね、あの魔力」

僧侶「常軌を逸脱していますからね……」

勇者「けれども何で周りを鉄で覆っているんだ?」

エビルマジシャン「それでは皆さん、伏せてください。では、失礼」ポイッ

鉄玉「」カッ

窓ガラス「」ガシャシャババリンババン

壁「」ガガガドドガガガ

勇者「わあああああ!」

魔法「きゃああああ!」

僧侶「ななななな!」

剣士「すっげぇ……」

側近「なるほど……」

秘書(魔法を物理攻撃に変えて……トラップとして優秀……)ゴクリ

魔王「とまあこんな感じだ。爆発を直接の攻撃とせず、飛散した外殻で物理攻撃に転じさせるわけだ」

側近「一斉に発動させれば距離の問題はクリアですね」

魔王「いや、だからこれは違う用途に使うんだって」

勇者「……。ちょっと待て。違う用途ってなんだ!」

魔王「神に使う」

側秘勇剣魔僧「!?」ドヨッ

魔法「……? でも神話だと神々は障壁に守られているんじゃ……」

魔王「お、やはり知っていたか」

魔王「まー対策はしてあるし、現物を見てもらったほうがいいだろう。向いながら説明しよう」

秘書「な、なんだか……」

側近「ええ……神に弓引くつもりだったとは……恐れ入る話ですね」

魔王「ある勇者が神々……邪神と刃を交えた話で気付いたが、この障壁は完全遮断のものではないらしい」

魔法「え? そうなの?」

魔王「まあ、完全に遮断するとなると光や空気、音なんかも遮断されるのだろう」

魔王「だから攻撃性のあるもの……熱や冷気、物体の固さや速度によって遮断する判定があると考えられる」

勇者「その判断は何処から来たんだ……」

魔王「おっと、抜けていたな。その勇者の話では爆発で巻き起こった小石等の破片は、邪神の鎧に当たっていた」

剣士「ああ、だから固さや速さか」

僧侶「でもそれですと、殺傷能力の無いものしか効果がない訳ですよね」

魔王「それでこれだ」

巨大倉庫「」ギギィィィ

排泄物の山「」モモモモモモ

側秘勇剣魔僧「」

側近「一応聞いておきます。何ですかこれは」

魔王「さっきのサイズの比でない魔石が入った、家畜の排泄物の山だ」

秘書「……これで何を」

魔王「嫌がらせだ!」クワッ

剣士「うわぁ……」

エビルマジシャン「流石、魔王様です。こんな事を思いつくのは貴方だけでしょう」

勇者「ナチュラルに貶されているようだけど……」

魔王「……いやまあ俺自身、馬鹿げているとは思う」

魔王「だが現状できる最大効果はこれだと気付いたんだ!」

側近「最低最悪が付きますけどね。というか何時の間にこんなものを……」

秘書「あ、あのー……」

魔王「神々の世界へ送る方法、か?」

秘書「は、はい」

魔王「例の建造物に俺の魔力を流し、どう動いているのか調べさせたんだ」

エビルマジシャン「その時に送り先が不明確な魔力の流れが検出されました」

魔王「あとはそのルートをこじ開けて送り出してやるだけだ」ニタァ

僧侶「凄い悪い笑顔……」

勇者「それ、本当に大丈夫かなぁ」

側近「無駄に神経を逆なでするんじゃないでしょうかね」

剣士「これで天変地異が起こったらどうすんだ?」

魔王「……どうしようね」

側近「憂さ晴らしで世界が滅ぶとか止めませんか? ねえ?」

魔王「でも腹立つだろ」

秘書「……否定はしませんけども」

側近「リスクが大きすぎます」

魔王「出きればもうこっちに干渉したくない、と思わせたい」

勇者「確かに、同じ事の繰り返しじゃ意味が無いしな……」

剣士「だけど神様だからなぁ。怒り狂ってどうにかしてくるんじゃないか?」

魔王「やはり否定的な意見が多いか……だが、正直なところ俺はそれこそないと思っている」

魔王「この代理戦争の目的は人間を減らす事だろう。基本的に神々の力は信仰の大きさが影響されている」

魔王「本気で手を下すつもりなら、とっくに人間なんぞ滅ぼしているはずだ」

魔王「もしかしたら、神々は人間の世界に直接手を下してはいけないルールというか、戒律等が存在するのかもしれないな」

魔王「でも腹立つだろ」

秘書「……否定はしませんけども」

側近「リスクが大きすぎます」

魔王「出きればもうこっちに干渉したくない、と思わせたい」

勇者「確かに、同じ事の繰り返しじゃ意味が無いしな……」

剣士「だけど神様だからなぁ。怒り狂ってどうにかしてくるんじゃないか?」

魔王「やはり否定的な意見が多いか……だが、正直なところ俺はそれこそないと思っている」

魔王「この代理戦争の目的は人間を減らす事だろう。基本的に神々の力は信仰の大きさが影響されている」

魔王「本気で手を下すつもりなら、とっくに人間なんぞ滅ぼしているはずだ」

魔王「もしかしたら、神々は人間の世界に、いや」

魔王「人間や命そのものに直接手を下してはいけない、という戒律等が存在するのかもしれないな」

側近「……推測の上では、ですよね?」

魔王「まあな……」

剣士「つっても説得力があるからなぁ」

魔法「……この話って今まで内密にしていたのよね?」

魔王「ああ、そうだ」

魔法「……ま、まさか」

魔王「お、気付いたか」

側近「な、何を……」

魔王「もしかしたら、俺達の事を監視しているかもしれない」

魔王「これで軍神達がどう動くかはそれこそ予測ができない」

魔王「やるのであれば……賽は投げられたという訳だ」

……一時間後
エビルマジシャン「準備完了です」

側近「……。待って下さい、考え直させて下さい!」

魔王「側近、素直に言ってくれ」

魔王「今の魔王城の暮らしと、先代の時の魔王城の暮らし。どっちがいい?」

秘書「……!」

側近「それは……ええ、そうですね。今の暮らしは色々と面倒で大変ですが……とても楽しいです」

魔王「俺が何らかの形で死んだら、それを教授するには気の遠くなる年月が」

魔王「あるいはもう二度とないかもしれない。それは惜しくないか?」

側近「……」

側近「これからもし、問題が起こるとしたら全ての責任を負っていただきますからね」

魔王「端からそのつもりだ」

勇者「い、いよいよか……」ゴクリ

剣士「これで神の逆鱗に触れたらどうするんだ?」

魔法「さあねぇ……」

僧侶「でも魔王さんの力でしたら、多少の事は跳ね返してしまいそうですけどね」


魔王「もう一度確認しておこう」

魔王「俺が生成して暖めておいた魔石を使い、天界への穴を開ける」

魔王「と言っても、一呼吸も開けば上出来だろう。その隙に堆肥爆弾を放つ」

秘書(まだ堆肥になってない……)

魔王「直後に魔力強制移動の魔方陣を用い、建造物から吸い上げた魔力を」

魔王「建造物の近くに置いた魔石に転送し、建造物を破壊する」

魔王「以上だ」

魔王「やってくれ」

エビルマジシャン「はい、直ちに」

秘書「……」ハラハラ

エビルマジシャン「穴を確認!」

エビルマジシャンA「転送魔法!」

エビルマジシャンB「魔石起動! 爆発まで10秒!」

秘書「そこまで人任せ!?」

側近「まあ……魔王様は魔法そのものを使えませんし」

エビルマジシャン「魔方陣起動!」

エビルマジシャンA「魔力吸収完了まで後2分!」

エビルマジシャンB「魔石起動スタンバイ!」


勇者「あ、そこまで人任せなんだ」

剣士「そんな気はしてたけどな」

魔法「何ていうかやる事の割に呆気ないわね」

僧侶「神々の世界に物を送るなんて大それた話なのに、淡々と進んでいきましたよね」

エビルマジシャンA「吸収完了!」

エビルマジシャンB「魔石起動!」

側近「……?」ユラユラ

秘書「じ、地震?」ゴゴゴゴ

魔王「成功か」ゴゴ..

側近「今のは?」

魔王「魔石より半径10mを木っ端微塵にした」

秘書「こっ!?」

魔王「物はおおろか魔力そのものも砕く。建造物のカケラも機能となる魔法も」

魔王「完全消滅というわけだ」

……
魔王「……」

側近「これで……終わったのですね」

秘書「! 何か来ます!」

魔王「あれは……御爺ちゃんドラゴンだな」

側近「エンシェント……!? な、何故……」

勇者「ま、ままま魔王! なんか来たぞ!」

剣士「あれはドラゴンだろ……でもあのでかさは」

魔王「エンシェントドラゴンだ。話しただろう」

魔法「ああ……漏らした所為ですっかり忘れていたわ」

古竜「い、一体何をしたのだ、したのでしょうか!」

勇者「敬語!?」

魔王「いや、大した事じゃないから気にしないでくれ」

古竜「し、しかしあれは……い、いえ貴方様がそう仰るのでしたら」

魔王「ああ、これから祝うんだ。お前も参加したらどうだ?」

古竜「祝い、ですか?」

側近「何のですか……」

魔王「呪いとも言える連鎖が断ち切られたのだ。当然だろう?」

秘書「確かに……そうですね」

魔王「今日ぐらいぱーっとやろうじゃないか!」

勇者「うーん、直ぐに王様に報告してちょって手を打とうかな」

剣士「今後の国交を考えると、ある意味でチャンスだもんな」

魔法「転送魔法、準備しておくわね」

魔王「ああ、勇者達もすまんな。それにしても俺は馬鹿だな」

側近「え?」

魔王「やった事で言えば、その魔力量は力の弱い神にも匹敵していただろうに」

魔王「"神々"が建造物への干渉、それに対する機構。なんで考えなかったんだ」

秘書(!? 殺気もないのに、この魔力!?)ゾゾォッ

黒魔王「……」コォォォ

急性魔力欠乏症という概念あるって事はLv46と同じ世界観かな?

しかし、別段酉もつけてないのに何でみんな作者特定できるんだろうか

魔王「建造物周りとは別に用意されていたか……」

黒魔王「……」スタ スタ

魔王「俺の力と姿をコピー、ぐらいなら有り難いんだが……上回るように設定されて、いるよなぁ」

魔王「だが……この命を賭ける覚悟など今更だ!」コォォ

魔王「はっ!」ブァッ

側近(両手に魔力の爪……確実にオーバーキル……と言いたいけども)

黒魔「……」ガガキッ

秘書「手の平で……受け止めた!?」

魔王「はぁっ!」ヒュヒュンヒン

黒魔「……」ガギギガギガガッ

勇者「あ、あんな攻撃を、全て受け止めて……」

剣士「おい、避難するぞ……俺達は足手まとい以外何者でもない」

魔法「魔力を感知してこちらに来られても困るし、移動するわよ」

僧侶「は、はいっ」

魔王(涼しい顔で受け止めやがって……)ヒュヒュンビュァッヒンッ

黒魔「……」ガガギガンガガ

黒魔「……」スッ

魔王(手刀……避けた隙に切り裂いて、いやこの構え方は……)ゾォ

黒魔「……」ブンッ

魔王「く、おおおぉぉ!」ガガギャギャギャリリリ

魔王(俺以外も、周囲全てを切り裂くつもりか!? くそ……腕が痺れ)ビリビリ

黒魔「……」ヒュン

魔王(うおおおおおおお! 魔力の壁削れるぅ!!)ガガガリャリャリャ

魔王(神々の干渉であればその神を殺せばいいだけ……だが、こいつは明らかに勇者達も含めて攻撃した……)バッ

魔王(優先順位が俺だから? あるいは軍神達も制御仕切れていない……? 後者ならまだ軍神達にも理性があるからいいんだが)

魔王(いや駄目か。前者は形振り構わないって事だし、後者は暴走って意味では早く片をつけないとどうなる事やら)

黒魔「……」スッ

魔王(くそ……隙が出来るまで凌ぐしか……凌げるか?)


古竜「これは何と言う……しかし、ここで動かなくて何とするか」ノソ

側近「危険です。あれはもう……魔王様以外手出しなど」

古竜「舐めるな小娘、あの御方の足元にも及ばんとは言え、太古の竜ぞ」コォォォ

古竜「……」ポポポ

秘書「口に……光の玉?」

側近「……いえ、あれは……超高熱の……ブレスをあのような形に?」チリチリ

古竜「ハッ!」ビュ


魔王「ぐうううう!」ガリュリュリュリュ

魔王(そろそろ貫かれそう! 休ませてくれ!)

黒魔「……」スッ

黒魔「!」ガッギャッギャリッ

魔王(エンシェントドラゴン! 助かる!)バッ

黒魔「……」クル

魔王「!」ヒュン

黒魔「……」ガリュリュリュ

魔王(防がずに魔力の障壁任せに……まさかエンシェントドラゴンを!)

魔王「不味い! 逃げろ!」

黒魔「……」スッ

エビルマジシャン「魔王様!」

魔王「! でかした!」ゴァァッ

黒魔「……?」ピク

エビルマジシャン「魔力吸収魔法陣起動!」

黒魔「!」ズォッ

魔王「ぐっ!」ズンッ

魔王(魔力を防御に全振りしてこれか! 早く力尽きてくれよ)ギャリリリリリ

黒魔「……!? ……!!」ギュアァァッ

魔王(奴が俺より高い魔力を保有しているのであれば、その反動である急性魔力欠乏症の症状もでかくなる)

魔王(発症さえしちまえばこちらの勝ち、だが……)タラ

黒魔「……」グググ

魔王「この状態でも、動けるのか……」

エビルマジシャン「魔法陣起動!」

黒魔「!」ズォッ

魔王「ぐっ!」ズンッ

魔王(魔力を防御に全振りしてこれか! 早く力尽きてくれよ)ギャリリリリリ

黒魔「……!? ……!!」ギュアァァッ

魔王(奴が俺より高い魔力を保有しているのであれば、その反動である急性魔力欠乏症の症状もでかくなる)

魔王(発症さえしちまえばこちらの勝ち、だが……)タラ

黒魔「……」グググ

魔王「この状態でも、動けるのか……」

黒魔「……」スッスッ

魔王「!?」ギャリリガギャンリリリガギャン

魔王「敢えてこちらを攻撃してくるか……第一優先は飽くまで俺か……」ビキビキビキ

魔王「や、ヤバイ……ここらが限界か」ダラダラダラ

黒魔「……」スゥ

魔王「ま、待て、その溜めは耐えられない、止めてお願い!」

黒魔「!?」ボボジュォッ

古竜「オオォ」コォォォ

魔王「何だよ、美味しいところ持っていってくれるなぁ、助かるぅ」

黒魔「!!」ブルル

黒魔「!! !!」ガタガタガタガタ

魔王「きた!」スゥッ

魔王「? お、おい、魔法陣を止めるな!」

エビルマジシャン「負荷が多き過ぎて自壊しました!」

エビルマジシャンA「修復も再設置もしばらくかかります!」

魔王「え、あ……!」バッ

黒魔「!!」ブンッ

魔王「ぐぁっ!」ザンッ

魔王(障壁ごと切られた! が、これならまだ何とか……だがもう魔力が)ダラダラ

黒魔「……」ブルブル

エビルマジシャン「魔力の転送先は!」

エビルマジシャンA「急ぎでしたので明確には……」


勇者「……」ダラダラダラ

勇者「……」ゴアアァァァ

剣士「これって……」

魔法「ええ、この魔力は間違いなく……勇者に指定されていたようね」

僧侶「か、体は大丈夫ですか?」

勇者「と、とりあえずは」

勇者「この剣にまとわりつく魔力って」

剣士「ああ、魔王のあれだろう……」

僧侶「! 魔王さんを助けて好感度アップのチャンスですよ!」

勇者「いざ、参る!」バッ

剣士「……」

剣士「今の選択肢、本当に合ってたか?」

僧侶「つい……」

魔法「え? 考えてやったんじゃなかったの!?」

剣士「まああれなら……一撃に込めたら魔王と黒い魔王の一撃よりも、強いどうにでもなるだろ」

剣士「一撃だけだけどな」

黒魔「……」スッ

魔王「つぉっ!」バッ

黒魔「……」ブルブルブル

魔王「はぁっはぁっ!」

魔王(俺自身は強制的に魔力を抜かれていないから、症状は殆ど出ていないがジリ貧だぞ)

魔王(かと言って近づいて攻撃しようにも、あちらからの攻撃が回避不可になるし)ダラダラ

黒魔「……」ピク

魔王「?」クル

勇者「……」ザッ

魔王「ばっ、来るな!」

黒魔「……」スッ

勇者「はぁっ!」ヒンッ

……
黒魔「」ボロボロ ドサ

剣士「おー見事に体が崩れていくな」

魔王「心臓に悪かったぞ……絶対に寿命が縮んでいる」

勇者「し、仕方がないだろう」

勇者「魔力を強制的に移す魔法? とかが私にかかっているし」

勇者「なんだかんだでお互いが追い詰められていたし……魔王が、ピンチだったじゃないか」シュン

魔王「まあ……結果的には助かったよ。ありがとう、勇者」

側近「最後は呆気なかったですが……これで本当に終わったのでしょうか」

魔王「さあなぁ……だがこれ以上は特に変わった様子もないからな」

魔王「念の為、俺とエビルマジシャンでもうしばらく周囲を警戒」

魔王「他の者は戻って用意をしておいてくれ」

側近「宴、ですか?」

魔王「ああ、当然だろう」

勇者「本当に大丈夫か?」

魔王「まあ、ぶっちゃけ第二陣が合ったら終わり、というか既に詰んでるんだけどな」

剣士「今、防波堤が崩れている状態だもんな」

側近「それでは我々は先に」

勇者「魔王、また後でな」

魔王「ああ」

古竜「我もしばらくはここに留まろ、留まります」

魔王「エンシェントドラゴンも本当にありがとう。居なかったら二回は死んでいたな」

魔王「エビルマジシャン達もこれまでの尽力、感謝してもし足りない」

エビルマジシャン「勿体無きお言葉」

魔王「これで……ようやく、終わったんだな」フゥ

魔王「俺の、役目も……」ドサ

エビルマジシャンA「魔王様!?」

エビルマジシャンB「いや、単なる疲労だろう」

エビルマジシャン「それに、まだまだ魔王様にはやって頂く事があります」

魔王「おいおい……少しぐらいは多めに見てくれ。大体大急ぎの仕事……国交とかあるかぁ」

魔王「まあ慌てなくてもいいだろ?」

エビルマジシャン「いえいえ、火急の用事があるじゃないですか」

魔王「ほう? 例えば?」

エビルマジシャン「勢いでスルーされていましたが、堆肥として使う予定だった家畜の糞」

エビルマジシャン「あれがなくなる事で予想される影響、その報告書が上がっているでしょう」

エビルマジシャン「それに気付いた側近様の逆鱗を受け止める事です」

魔王「……」ムク

魔王「……」ダラダラダラダラ

エビルマジシャンA「あ、人影」

側近「……」ダダダダッ

魔王「うあああごめんなさいごめんなさい! 許し」ゴキャァッ

 この日を最後に、魔王軍との戦争は完全な終結に至った。
 その功績を成した第○○○代目魔王は、他に類を見ない変人ではあったものの、
 その後も様々な分野で貢献し、永く後世に名を残す事となった。
 が、割とよく部下から私刑にあっていたという。


   魔王『我は魔王、新たなる魔王。人間どもよ、聞くがいい』  終

正直、魔王と勇者のくだりは蛇足だった

>>247
世界観は違う
魔力(MP)の消費が魔法撃てないだけって凄いノーリスクだよね
て事で危険性もあるよ、という適当設定
名前的には元ネタあるけど内容がちょっと違う

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