大鳳「ハマダンゴムシ?」 (47)

ある鎮守府にて、午後9時の執務室

大鳳「これで良し、と。後は提督から報告書に判子を頂ければ一段落つくわね」

執務室のドアを開ける音、提督が入室する

大鳳「あっ、提督! こちらの報告書に判子を……その手のひらにあるものは何ですか?」

提督「これ? ハマダンゴムシ」

大鳳「え?」

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大鳳「ええと、その、まずこちらに判子を頂けますか」

提督「うん、その前にこの妖精達に住処を与えてやらないと」

大鳳「え? それ飼うんですか?」

提督「それって何だ!」

大鳳「ひっ」

大鳳のか細い身体が震える

提督「この妖精達はな、まだ詳しく生態も解明されていない、謎に包まれた魅惑の小動物なんだ。それをそれって、君はそれでも気高い艦娘か!」

大鳳(今自分でそれって言ったじゃない…)

大鳳「も、申し訳ありません。それ、いや妖精さん達にはどのような住まいが必要なんですか? 瓶か何かでも」

提督「君の私室は何畳だ」

大鳳「え? 大体八畳ぐらいだと思います」

提督「じゃあ一畳の部屋に押し込まれたら君はどうなる?」

大鳳「精神的に飛行甲板が壊れるかもしれませんね」

提督「だろう? プラケースを用意する」

大鳳(そんなので良いんだ……)

大鳳「というか、提督はもしかして食堂で私と別れた後、そ……妖精さん達を採取していたんですか?」

提督「採取ではない、私の元へ来て頂いたんだ」

大鳳(事務仕事を終わらせたらお酒を飲むと約束していたのに、身勝手な人)

提督「彼らは砂浜にしか暮らせないダンゴムシでね、君達が海と深い関係を持つのと同じで、彼らも海の近くでなければ生きられない。因果を感じないかね?」

大鳳「そう……です、ね」

提督「詳しい話は後で酒を飲みながらだ、事務仕事お疲れ様。私は明石の売店でプラケースを探してくる」

提督は大事そうにハマダンゴムシを手に載せて退室

大鳳「……ズルい人ね。お酒は何処にしまったかしら」

30分後、提督はレジ袋にプラケースを入れて入室

提督「参った参った、駆逐達にさんざん弄られて妖精達が弱っちまった」

大鳳「お疲れ様です、提督。お酒はこちらに用意してありますよ」

提督「おお、悪いな。でもその前に、君としなきゃならないことがある」

大鳳「え、えっ? ちょ、その」

大鳳(やだ、まだシャワーも浴びてないのに!)

提督「砂を持ってこなくてはならない。手伝ってくれ」

大鳳「……はい」

提督「何故睨む? 君にも妖精を分けてやるからーー痛い! 蹴るな!」

二人はスコップを携え、鎮守府の横の砂浜へ移動した

大鳳「月が綺麗……たまには散歩も良いわね。フフ」

提督「見ろ大鳳! 美しい妖精がそこらを練り歩いてる!」

大鳳(この人は……)

大鳳は懐中電灯で足元の砂浜を照らす

大鳳「きゃ! こんなに沢山いるの? 踏んでしまいそうになります……」

提督「彼らは人の出入りが少ない砂浜でしか見られないと言われている。これがどういうことか、分かるか? 大鳳よ」

大鳳「うーん……汚れていないから?」

提督「良い推察だ、さすが私の秘書艦だ。しかし正解とは言えないな」

大鳳「フフ、光栄です。……では何故?」

提督「彼らはね、漂着物の下でも発見されるんだ。ゴミはさほど影響されないんだ、もちろん限度はあるが。正解は……分かっていない」

大鳳「え! ひどいです、答えの無い問題を出すなんて……」

提督「そう落ち込むな、自然という巨大な学問の壁をよじ登るには、時には答えが分からない問題にも必死にぶつかっていくしかないんだ。これは深海棲艦との戦いも似たことが言えるんじゃないかな」

大鳳「深海棲艦の意味……」

提督「まあ今はそんな暗い話は止めよう。お詫びと言ってはなんだが、一つ私の仮説を紹介しよう」

大鳳「仮説?」

提督「そう、仮説だ。彼らは人気の無い砂浜に暮らす。それはどうしてか? 私は人の踏圧、ようするに人が歩き回ることによって砂浜が踏み固められてしまい、彼らが砂から出られなくなってしまうのではないか、と考える」

大鳳「砂から? 妖精さん達は砂に潜るんですか?」

提督「ああ、すまん。そこから説明してよう、彼らは昼間砂に潜り、夜巣穴を出て行動する。でも人が歩き回れば砂は踏み固められ、彼らの力ではどうしようもなくなる」

大鳳「ああ、そういうことなんですね。でも、妖精さん達はそこまで苦労するのなら、砂浜から別天地を探せば良いとも思います」

提督「それも良いな、でも遠い昔に何らかの地理的分裂が起きて、彼らの祖先が砂浜に置き去りになったのでは、もしくは砂浜を捨てられない理由が何かあるのでは……ロマンが溢れるな、学問はやはり素晴らしい」

大鳳(昔、提督は専門にこういうことを勉強していたのかしら。何にしても、楽しげな提督を見ると私も嬉しくなるわ)

提督「さて、固い話も終わりだ。スコップで砂をプラケースに入れてくれ。大体八センチくらいにだ」

大鳳「了解です、大鳳やるわよ!」

一分後

大鳳「こんなもので良いですか?」

提督「ばっちりだ。後はこれを入れてと」

大鳳「あら、その石は? 軽石かしら?」

提督「そうだ、これを入れておくとカルシウム補給に妖精が食べる」

大鳳「石を? その、ムシャムシャーって感じですか?」

提督「いやいや、そんな食堂の赤城みたいにはじゃないよ。削り取って食べるんだ。カタツムリだってそうさ」

大鳳「へえー。何だか興味深いですね、妖精さん達」

提督「だろう? 趣味が合うのは君くらいかな、ははは」

大鳳(しれっと言わないでよ、恥ずかしい)

提督「さあ戻ろう。執務室へ向けて全速で帰投だ」

大鳳「はいっ」

執務室に戻った二人は、残った書類を片付けてテーブルの上にプラケースを置いた

大鳳「目が大きいのね、妖精さん達。ぬいぐるみみたいだわ」

提督「君の部屋のぬいぐるみに負けないくらい可愛いだろう?」

大鳳「それはさすがに……ってええ! 何で私の、ぬ、ぬいぐるみを知っているんですか!」

提督「隼鷹が教えてくれたぞ、ベロベロに酔いながら」

大鳳(久々の実戦ね、彗星をよく整備しておかなくちゃ)

提督「さて、彼らを見て気づいたことがあるかな?」

全部で5匹のハマダンゴムシは、落ち着かないように砂の上を歩いていた

大鳳「あら、皆違う色なんですね。この子は赤、この子は緑がかっていて、この子は茶色、この子は灰色、この子に関してはちょっと青っぽいですね」

提督「御察しの通り、ハマダンゴムシは非常に個体変異が多いんだ。これに関しても詳しいことは分かっていないがな。お気に入りの妖精を見つけるという楽しみも、彼らは存分に提供してくれるんだ」

大鳳「提督! 私、この赤い子が気に入りました!」

大鳳が赤いハマダンゴムシを突っつくと、すぐにその個体は丸まって防御態勢に移行した

提督「その妖精は君の妖精だ、大事にしなさい」

大鳳「フフ、よく見ると可愛らしいわねっ」

提督「妖精の食事は人参だ、ピーラーでスライスすると食べやすい」

大鳳「に、人参? 食べるんですか本当に?」

提督「まあ明日になれば分かる、今日は私がスライスしよう」

提督が用意した人参をピーラーでスライスし、それをプラケースの中に投入していく。ハマダンゴムシも各自砂に潜り、自らの巣穴を掘り始めたようである

大鳳「そ、そんなに! けっこう入れるんですね」

提督「彼らは大食感だ、戦艦並みさ」

大鳳(でも本当に食べるのかしら、あの
量……)

提督「さて、お待たせしたな、ゆっくり晩酌と洒落込もうじゃないか」

大鳳「あ、はい! ささ、どうぞこちらに。今日はこの大鳳が特別に肴を作りました。鯵のなめろう、お好きですよね?」

提督「おっ、よく知ってたな。鳳翔さんに聞いたのか?」

大鳳「はい、恥ずかしながら……味は良いと思います! 新鮮な鯵を使いましたから」

提督「ありがとうな。じゃあ、乾杯」

大鳳「乾杯、フフ」

その後二人は遅くまで飲み続けたが、提督が途中で寝てしまいお開きとなった

大鳳「寝顔、可愛らしいわね」

赤子をなだめるように、大鳳は提督の頭を優しく撫でた

翌日、午前10時

提督「……おはよう」

大鳳「……おはようございます」

二人を襲ったのはひどい二日酔いだった

提督は辛そうな顔でテーブルの上に置いてあるプラケースを指差した

大鳳「……どうしたんですか」

提督「……見て……見てそれ」

大鳳「……あら、人参無くなってる……本当に食べたんですね……」

提督「……ウッ、すごいだろ、俺は朝飯食ってないが」

大鳳「……妖精さん達は……ウッ、大食い……ちょっとすいません……!」

大鳳は口を押さえてトイレに走りこんで行ったが、途中で何かにぶつかったらしく、「うわっ!」という誰かの声と泣き出す大鳳の声が聞こえてきた

午後一時、医務室にて

大鳳「まさか私がお酒で入渠することになるとは……それに」

大鳳『トイレで出さなきゃ……!』

隼鷹『よーっす、大鳳。どうしたのさそんなに焦ってーー』

大鳳は隼鷹に激突した

大鳳『きゃっ……ウッ、ウッ』

大鳳は廊下に胃内容物を吐き出し、涙を流し始めた

隼鷹『うわっ! 飲み過ぎかもしかして!』

大鳳『うぅ……うっ、ひっ、ひっ』

隼鷹『泣くことないだろ! 私だって、ほら、昨日だって吐いたし、はは』

大鳳『もうお嫁にいけないよぉ……』

隼鷹『私なんか終わってるだろそれなら……とりあえず掃除してやるから、寝てなよ? 立てる?』

大鳳「よりによってあの人に助けられるとは……う、頭が痛い」



何者かが医務室のドアをノックした

提督「大鳳? いるか?」

大鳳「て、提督! その、先ほどは」

提督「いいから寝てろ、気にすんな。俺が飲ませ過ぎたのが悪いんだよ。そしてこれ、隼鷹がくれたぞ」

提督は大鳳にシジミエキスと書かれた錠剤を渡した

提督「効くとさ、それ。俺も飲んだけどまあまあ楽になった」

大鳳「後でお礼言わないと……」

提督「今日は秘書艦休め、明日からまた頼むよ」

大鳳「で、でも仕事が」

提督「何とかなるさ、じゃあな」

提督は大鳳の頭を軽く撫で、退室した

大鳳「秘書艦は私の席なのに……はぁ」

夜八時、執務室前のドアにて

大鳳「何とか治ったけど、私の代わりに別の人が秘書艦をしているかもしれないわね……」

大鳳はドアに耳を当てて中の様子を探った

大鳳「何も聞こえない、まさかそういうことを……さすがにないか。大鳳、入ります」

大鳳はノックして執務室に入った

提督「よう、元気か大鳳」

川内「やっほー! 昨日は散々だったらしいじゃん?」

雪風「あ、大鳳さん! お疲れ様です!」

時津風「どうもー」

大鳳「え、どうして貴女達が……?」

提督「昨日の砂取りが見られてたらしくてな、連れてけってうるさいんだよ」

川内「私はてっきり夜戦かと思ってさー、でも違うんでしょ? まあ夜に活動するなら私も興味あるしね」

雪風「昨日司令に見せてもらった妖精さんが可愛かったので、雪風も欲しいです!」

時津風「私は雪風の付き添いでーす」

大鳳「あら、そうだったの……」

大鳳(少し残念な気持ち、でも仕方ないわね)

提督「ということで大鳳、君が大丈夫なら今から妖精を迎えに行くが着いて来てくれないか?」

大鳳「ええ、もちろんです」

提督「よし、なら総員準備せよ! 夜戦だ」

川内「やっせっんやっせっん!」

時津風(この人勘違いしてるなー、絶対してる)

砂浜にて

提督「長靴は履いたかな諸君」

大鳳「はい、サイズもぴったりです」

川内「これじゃ水上を走れないなあ」

雪風「雪風、きちんと履いてます!」

時津風「ちょっと小さいかもー」

提督「よしよし、それでは簡単にハマダンゴムシについて説明しよう。彼らは砂浜でのみ生息し、夜間にのみ活動する妖精達だ」

川内「私と似てるね! 仲良くなれそーだよー!」

提督「個体変異、ようするに皆パーソナルカラーを持っていて、各自お気に入りの妖精を見つけてくれ。持ち帰る時は一時的にプリンカップに入れるから、大鳳の元へ行ってくれ」

大鳳はプリンカップの入った袋を胸の辺りまで上げて、注目されるようにガサガサと振る

提督「何か質問は?」

雪風「司令! 質問があります!」

提督「はいどうぞ」

雪風「妖精さん達はどうして砂浜にしかいないんですか?」

提督「それは大鳳が答えてくれる」

大鳳「ええっ! えーと、ハマダンゴムシはその、昔に色々あって、その」

提督「地理的な分裂」

大鳳「そうです! 地理的な分裂が起きてしまい、砂浜で暮らすように特化したと考えられてます!」

川内「対潜装備、対空装備って感じ?」

大鳳「そ、そんな感じです」

雪風「ありがとうございます!」

提督「二人は大丈夫か?」

川内と時津風は頷いた

提督「よし、ならば早速行動を開始せよ!」

ハマダンゴムシ捕獲部隊は各自散開

時津風「うわっ、しれぇー! このぴょこぴょこ走るやつ何ー!」

提督「それはフナムシだ、ゴキブリの親戚みたいなーー」

時津風「やだ! こっち来たー!やだやだってばー!」

提督「そういうのは逃げたら追って来るもんだ、どんと構えろ駆逐艦なら」

雪風「司令! オレンジ色の妖精さんを見つけました! 司令のおかげですね!」

提督「おっ、どれどれ、見せてみろ」

雪風「ほら! とっても可愛いです!」

大鳳(あんなに顔を近づけて……)

時津風「私も見るー」

大鳳(あっ、時津風ちゃんも……)

川内「大鳳さん、プリンカップある?」

大鳳「あっ、はいこれ。何色?」

川内「深緑色、もう二人お迎えすれば神通と那珂にあげれるからさ」

大鳳「優しいわね」

大鳳(欲しがるとは思えないなあ、特に那珂ちゃん)

雪風「司令! また見つけました! 次は黄色です!」

提督「黄色? どれどれ、うっ、これはレアっぽいなあ。羨ましい……」

雪風「この子、司令にあげちゃいます! 可愛がってあげてください!」

提督は顔を綻ばせながら雪風の頭を撫でた

提督「いつの間にそんな憎いことを言うようになったんだ、可愛いやつめ」

雪風「えへへ」

時津風「もー。私だってすごいの見つけたしー、本当すごいの」

大鳳(……私は虹色の妖精探そう)

しかし大鳳の探す虹色のハマダンゴムシは見つからなかった

大鳳(私もすごいのを探せば撫でられるかな)

川内「大鳳さん、プリンカップお願い」

大鳳「あ、はいはい」

提督「川内も頑張っているな、深緑か? その色もじつに美しい」

川内「姉妹で育てようと思ってね!」

大鳳(うーん、地味な色しかいない。でもこの子可愛いわ)

雪風「大鳳さん、プリンカップお願いします!」

大鳳「そ、そんなに! しかもカラフルな……」

雪風の捕まえたハマダンゴムシは、まるで宝石のような色合いのばかりであった

雪風「ハマダンゴムシのキスを感じちゃいます!」

時津風「それは嫌かも」

一時間後、五人は集まり互いの戦果を確認しあった


川内「ようやく三人集めれたけど、腰が痛くて仕方ないよ……夜戦は中止かな」

提督「初めてなのによく頑張った、偉いぞ」

川内「にひひ」

雪風「雪風はこんな感じです!」

大鳳(各色七匹も……願いが叶いそうね)

提督「すごいなそれ、願い叶えれそうだな」

大鳳(提督と同じ考え、素敵ね……)

時津風「私はこんな感じかなあ」

提督「無地が多いな、それも意外と珍しい妖精だ」

大鳳(普通だと思って私が逃した妖精だ……)

提督「さてさて諸君」

大鳳(私飛ばされた! 大破着底しそう!)

提督「育て方は執務室の前に置いてあるプリントを持っていけ、よくよく読みなさい」

提督「では解散!」

砂浜には提督と大鳳が二人立っていた

提督「皆楽しんでくれて良かったな」

大鳳「……えぇ」

大鳳(何も楽しくないわ)

提督「そろそろ帰ろうか、おっと懐中電灯の電池が切れてしまったな」

大鳳(え? 提督は自分のを使っていなかったのに?)

提督「暗いと危ない、だから、ほれ」

提督は大鳳の手を握り、鎮守府の方へと歩き出した

大鳳「……は、はいぃ」

大鳳(本当にずるい男ね。提督は)

提督「後で君の妖精を確認しよう、楽しみだ」

大鳳「で、でも……その、地味な妖精さんしか」

提督「何言ってんだ、地味でも派手でも好きならそれで良いじゃないか」

大鳳「……そうですね、フフ」

大鳳(やっぱり私はこの人の秘書艦、いえ、それ以上の……フフフフフ)

提督「痛い痛い! 強く握りすぎ!」


1です、こんばんは


執務室に戻った二人は、互いの戦果を確認した

大鳳「提督、この子達、私が見つけたのですけど……」

提督「どれどれ……おお、これはまた見事な地味加減だ」

大鳳「えー……」

提督「あえてこのタイプを選んだということは、中々君も通じゃないか、私はこのタイプが一番好きだよ」

大鳳「そ、そうよ! 私ったら通ですから! ええもちろん!」

提督「よしよし、だったらプラケースを追加しなきゃな、また増えて困っちゃうなあ、ははは」

大鳳「どんどん増えていきますね……」

提督「というわけで、大鳳売店で買って来てくれないか? プラケース。小さいやつを、そうだなあ、三つ頼む」

大鳳「は、はい、分かりました」

大鳳(昨日提督が買って来たけど、本当に明石さん取り扱っているのかな)

1です、こんばんは


執務室に戻った二人は、互いの戦果を確認した

大鳳「私が見つけたのは、この子達なのですけど……」

提督「おお、これはまた見事な地味加減だ、あえてこのタイプを選んだということは、中々君も通じゃないか」

大鳳「え、ええ、私は通ですから! ガンガン見つけちゃいます!」

提督「ならば、早速売店でプラケースを買って来てくれないか? 小さいやつをな、三つでいいから」

大鳳「は、はい、分かりました」

大鳳(昨日は提督が買って来たけど、本当に明石さん取り扱っているのかな)

すいません、誤爆でしたね


大鳳は明石が営む売店へやって来た

大鳳(あっ、あの漫画新刊入ったんだ、あっ、あそこには新発売のお菓子あるじゃない……いけない、今はプラケース買うんだった)

明石「あ、いらっしゃいませ大鳳さん。珍しいですね、お一人ですか? 提督はご一緒でなくて?」

大鳳「こんばんは、提督は執務室にいらっしゃいますよ。あの、プラケースって置いてます?」

明石「はい、こちらです! 最近はペット用品の需要も増えてきたので、コーナーを大幅に拡張しました!」

大鳳(うわ、すごい数……私じゃ全然分からない。小さいのって頼まれたけど、どれが適当なのか分からないわ)

鈴谷「ちーっす大鳳さん! 何やってんの?」

大鳳「あら、鈴谷さん、こんばんは。提督にお使いを頼まれていて……」

鈴谷「ほほう、プラケースを見てるってことは、小さい生き物を飼うんだね?」

大鳳「ええ、ハマダンゴムシっていうの」

鈴谷「ハマダンゴムシ? 良いセンスしてるね、やるじゃん! 多分提督はこのサイズ欲しがっていると思うな」

鈴谷はプラケースを一つ手に取った

大鳳「ありがとう、詳しいのね」

鈴谷「まーねー。この鎮守府でも一、二を争うレベルのペット好きだからねー」

大鳳(争う相手が少なそうね)

大鳳「じゃあこれを三つ買うわ、鈴谷さん、本当にありがとう」

鈴谷「いいってことよ! まったねー」

大鳳はプラケースを三つ携え、執務室へ戻って行った
提督は大鳳を褒め、大鳳は鈴谷のおかげだと言うと、仲間が増えたと喜んでいた

午後11時過ぎ、大鳳の私室にて

大鳳「……出てこないわね、シャンブロ」

大鳳の飼っている赤いハマダンゴムシの名前である、今日捕まえた個体群は提督に預かってもらっていた

大鳳「暗くしないとダメって言ってたかしら、提督」

大鳳は電気を消した

大鳳「……見えないわね」

大鳳「……」

大鳳「……」

大鳳「……」

大鳳「何か音がする」

大鳳「スマホで明かりを点けましょう」

大鳳「……あっ、出てきた」

大鳳「……フフ、人参食べてる」

大鳳「……フフ、一杯食べてね」

大鳳「……」

大鳳「よく食べるわね」

大鳳「……」

大鳳「何だか怖い人みたいね、私」

大鳳の私室前

龍驤「何や変な独り言聞こえる……大鳳どうしたんや、暗闇で」

翌日、午前九時の執務室にて

提督「……大鳳、おはよう」

大鳳「おはようございます、提督。何かあったんですか? まさか敵機動部隊が大規模な進撃を?」

提督「いや、まあ、その、何だ。違うんだけどな、えーと、昨日は部屋で何をしてた?」

大鳳「私室で? あの後は顔パックをしながら雑誌を読んで、そしてシャンブロの様子を眺めていましたが」

提督「シャンブロ? プラモ作ったのか? 発売してたかあれ?」

大鳳「いえ、妖精さんの名前です。一緒に見たじゃないですかアニメ、あのMAから名前を貰って」

提督「そ、そうか。実は昨日龍驤が君の部屋から怪しい声が聞こえたらしくてな。さっき教えてくれたんだ」

大鳳「」

提督「まあ、その、君がハマダンゴムシに傾倒するのは素晴らしいが、独り言もほどほどにな。私に聞かせてくれても良いんだぞ? 何処に行く? ちょっと、おい、おーい」

大鳳はその後、二時間ほど行方不明となり、空母勢が索敵機を数十機放って捜索し、砂浜で項垂れる彼女の姿を捉えたという


トリップはこんな感じでしょうか

午後二時、執務室にて

蒼龍「提督、大鳳さんが砂浜から動かないんですが……」

提督「ああ……理由は分かってるからこちらで対処する。君達は間宮で何か食べなさい、私につけていいから」

蒼龍「ありがとうございます、失礼します」

蒼龍はドアを開けて退室する

提督「さて、行くか」

砂浜にて

大鳳「はあ……砂があったら潜りたい」

大鳳「しかも仕事放棄してこんなところ来ちゃって……」

大鳳「クビだろうなぁ、私……」

提督「昼は出てこないぞ、妖精は」

大鳳「て、提督! 私、私、その……」

提督「いいよ、昨日今日の仲じゃないしな。昼飯付き合え、まだ食ってないだろ。仕事放棄した罰だ」

大鳳「……ぜひ、お付き合いします」

午後六時、執務室にて

大鳳「よし、と。昼間出来なかった仕事も何とか終わらせたし、この後は提督と二人きりで晩酌だし……何だかんだで幸せだわ……フフ」

大鳳「あ、そうそう。妖精さん達に人参あげなきゃ。食べ残しはピンセットで取り除いて、軽く霧吹きして……ピーラーで薄くスライスして……と」

大鳳は執務室にある簡易の暗室にハマダンゴムシ達を収納した

大鳳「ええと、管理日誌に記入ね。本日も餌食い良好、異常は見られず……と。そうだ、私のプラケースに昨日の妖精さんを移してと」

提督が入室する

提督「お待たせ、今日の晩酌なんだがーー」

大鳳「お疲れ様です提督! 今日は美味しいお酒を鳳翔さんから頂い……あれ?」

夕立「大鳳さん! 夕立にも妖精さん見せて見せてー!」

時雨「ごめんなさい、夕立がどうしてもと言うので……僕も興味あるけど」

雪風「こんばんは! 今日もよろしくお願いします!」

時津風「なーんか私もハマっちゃってねえ。うん、ハマったー」

鈴谷「ちーっす! 大鳳さん、つい気になって来ちゃった!」

熊野「私、どうしても気になりまして……ずいぶん可愛らしくて?」

提督「……ということだ、すまん」

大鳳「フフ、皆さんもすっかり興味持たれて、提督も鼻が高いですね」

提督(あれ、怒ってない?)

三十分後、また砂浜にて

提督「……ということだ、大体ハマダンゴムシについての知識は憶えてくれたかな」

夕立「うーん、つまりダンゴムシが砂浜にいるだけっぽい?」

時雨「それだけじゃないよ、提督の話聞いてたのかい?」

雪風「雪風は二日目ですので、しっかり憶えました!」

熊野(何か危険な台詞ですわね)

鈴谷「いやー、鈴谷も気になってたんだよねー、ハマダンゴムシ。この砂浜にいたなんて盲点だったよ」

時津風「しれぇ、早く捕まえたいー」

提督「捕まえるじゃない、お迎えだ。では質問がある者はその都度私か大鳳に聞け。各自散開!」

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