千早「違う道を選んでいたら……」朋花「知りたいですか?」 (18)

千早「――Just be myselfを聴いて頂きました。いかがでしたでしょうか」

千早「この曲は、私にとって大切な曲の1つです。私を変えてくれた、大事な曲」

千早「ひたむきに前に進むことしかできなかった昔の私では、歌うことすら拒んでいたかもしれません」

千早「仮に歌ったとしても、歌以外に興味を持てなかった私では、この曲を歌いこなすことはできなかったと思います」

千早「……」

千早「あの頃に比べれば、少しずつではありますが、歌だけでなく、生きることそのものを楽しめるようになりました」

千早「ですが私は、この曲の歌詞にあるように、まだまだ成長したいと願っています」

千早「次の機会では、より成長したこの曲と共に、進化した私の姿を見せられるよう磨き上げてきます」

千早「ですから、期待して、待っていてください!」

千早「……時間のようですね。では、次の方にバトンを渡したいと思います――」

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朋花「千早さん、おつかれさまでした~」

千早「ありがとう、天空橋さん」

朋花「ふふっ。モニターに映っていた子豚ちゃん達、みんなとても楽しそうでしたよ~」

千早「そうね。私もステージ上から、客席のたくさんの笑顔を見ることができたわ」

朋花「うふっ。千早さんも、子豚ちゃん達に負けないくらい、素敵な笑顔で歌っていましたね」

千早「ええ。胸が躍る、素晴らしい時間を過ごせたと思うわ」

千早「やっぱり、ライブは楽しいわね」

千早「最近になってようやく、ライブの楽しみ方を本当の意味で理解できるようになったような、そんな気がするの」

朋花「それにしては、曲が終わった後の挨拶では、何かに迷っているようでしたね」

千早「それは……恥ずかしいわね。そんなに、動揺しているように見えたかしら?」

朋花「安心してください。たぶん、ほとんどの方は気づいていないと思いますよ~」

千早「では、どうして天空橋さんは見抜けたの?」

朋花「ふふっ。簡単なことです。私には、誰も隠しごとはできませんから」

朋花「その悩み、私なら、もしかしたら答えを見つけるお手伝いができるかもしれません」

朋花「千早さんさえよければ、教えてくださいませんか?」

千早「……悩みと呼べるほど、大したことじゃないわ」

千早「ただ、時々、考えることがあって」

千早「もしも私が、天空橋さん達のような仲間と出会わず、いまも昔のように自分の歌を広めることだけを追求していたとしたら」

千早「私は、どんな道を歩んでいたんだろうと、そんなことを考えてしまう時があるの」

朋花「知りたいですか?」

千早「えっ……?」

朋花「違う道を選んでいた場合、どのような人生を送ることになっていたのか」

朋花「それを確認できる方法があったとしたら、千早さんは、その未来を見てみたいですか?」

千早「それは……そうね……」

朋花「うふっ。実は、私の家には不思議な古い鏡がありまして」

朋花「その鏡には、映された人の、別の世界での生活が垣間見れるとの言い伝えがあるんです」

朋花「伝承を信じて、試してみた方もたくさんいます」

朋花「話によれば、その内の何人かは鏡を通して、自分ではない自分を見ることができたそうですよ」

千早「にわかには、信じられない話ね」

朋花「はい。ですけど、私は嘘は言っておりません。私、嘘は吐いたことがないんです」

朋花「鏡を使えば、千早さんの抱える悩みを解消できるかもしれません」

朋花「どうでしょう? 千早さんが望むなら、私の家に招待して、鏡を使わせて差し上げますよ」

千早「……」

千早「……決して、歌以外の多くの事柄に興味を向けるいまの生き方が、嫌いなわけじゃないの」

千早「仲間と同じ目標に向かい、足並みをそろえて進むいまが、これまでの人生で最も幸せな時間なのだと、それくらいこの生活を大切に思っているわ」

千早「けれど、私は“あの時”迷った」

千早「散々迷って苦しんだから、捨ててしまった道の先に何があったのか、どうしても気になってしまうの」

千早「私は、それが可能であるならば、あの日止まった時間の未来を見てみたい」

朋花「それが、千早さんの答えなんですね」

朋花「わかりました。この公演が終わりましたら、私の家に招待いたします」

朋花「ですけど、まずはライブを成功させて、子豚ちゃん達の普段の働きを労ってあげないといけませんね」

千早「ええ。そうね」

朋花「これが、その鏡ですよ~」

千早「ずいぶん大きな姿見ね。それ以外、特に変わった点は見当たらないけれど」

朋花「初めて見た時は、皆さん似たようなことを口にされます」

朋花「ですが、この鏡に不思議な力があるのは事実なんです」

朋花「信じられないのであれば、騙されたと思って鏡の前に立ってみてください」

千早「わかったわ」スタスタスタ

千早「……えーと、これでいいのかしら?」

朋花「はい、大丈夫です。そうしたら、鏡面に映る自分の顔に意識を集中してください」パチッ

千早「えっ、電気が……」

朋花「お気になさらず。こうすることで、より成功率が上昇するんです」

朋花「自分自身の目と目を合わせて、瞳の奥に秘めている何かを見抜くように、強く、強く見つめてください」

千早「……」ジーッ

朋花「そう、強く……」

千早「……」ジーッ

朋花「……さぁ、浮かんできますよ――」

千早「(――青色に輝く光の海……)」

千早「(これは……ライブ?)」

千早「(どこからか歌が聞こえてくる……)」

千早「(この声を、私は知っているわ)」

千早「(……これは、私の声。ずっと一緒に歩んできた、私の声で間違いない)」

千早「(だけど……こんな曲、私は知らないわ。いったい、どういうこと?)」

千早「(視点が移動していく。青い海の先に浮かぶ、ステージが見える……)」

千早「(見たことのない衣装に身を包んで、私がマイクを持って歌っている……)」

千早「(……すごい曲。壮大で、感情が怖いくらいに込められている)」

千早「(青い海の前に立つ私が、鬼気迫る表情で、命をすり減らしながら歌っている)」

千早「(でも……)」

千早「(でも、あの“私”は、客席に意識が向いていない)」

千早「(全然、楽しそうじゃないわ)」

千早「(まるで、何かに取り憑かれているよう……)」

千早「(……曲が終わる。異常なまでに完璧なパフォーマンスは、客席に歓声をあげることも、拍手をすることも許さない)」

千早?「……新曲、さい……細氷を……聴いて…………うぅ……っ!」

千早「(……沈黙の中、私が泣き出してしまった。黙ったまま駆け出し、舞台袖に逃げていく)」

千早「(……)」

千早「(これが……歌だけを追い求めた、私の末路……?)」

千早「(……映像が、切り替わる――)」

千早「(――お墓……優の眠っている墓地……)」

千早?「うぅっ…………私は……どうすれば……」

千早「(また泣いている……優のいる目の前で……)」

千早「(隣に人がいるわ。あれは――プロデューサー?)」

千早「(プロデューサーの胸の中で、私が泣いている)」

千早「(っ!)」

千早「(さっきの曲の歌詞……)」

千早「(あの曲……あれは、もしかして……)」

千早「(……いいえ、間違いないわ。あれは、私が優と決別するための歌)」

千早「(だから、あんなにボロボロになって、壊れそうになっていたのね……)」

千早「(あそこにいる私は、まだあの悲劇が清算できていない。まだ、哀しみが終わっていない)」

千早「(……だけど、そうじゃないわ)」

千早「(あの歌に込められた意味は、それだけではないはず)」

千早「(ここにいる私にはわかる。あの歌は、弟との別れを表した悲しいだけの曲じゃない)」

千早「(気づいて――)」

千早「(今度は……夕日の見える浜辺……)」

千早「(私と、プロデューサーが並んで立っている)」

千早「(何を話しているかまでは聞こえない。けれど……なんというのかしら)」

千早「(私、清々しい顔をしているわ。とても幸せそう)」

千早?「美しい景色ですね。いつまでもこうしていたいとすら、思ってしまいます」

千早「(それに、心臓がとても高鳴っている。どうして……?)」

千早?「……あの、プロデューサー。私、プロデューサーにお願いがあるんです――」

千早「(……違う。理由はわかっているわ。そう。それは、そうよね)」

千早「(私があんなふうに笑えるようになったのは、プロデューサーのおかげだから)」

千早「(その気持ちだけは、選ぶ道が違っても、変わったりしないわよね。ふふふっ)」

千早「(また、場面が切り替わる――)」

千早「(――青色に輝く光の海……)」

千早「(またライブの映像。でも、会場がさっきよりも大きい)」

千早「(ここは……先日私達がライブを行った、国内最大級の会場かしら?)」

千早「(……そうなのね。あなたも、同じステージに立っていたのね)」

千早「(歌が聞こえてくる……さっきと同じ、私の知らない、私の歌)」

千早「(けれどさっきのような、聴き手を戦慄さえさせる迫力がなくなっているわ)」

千早「(……代わりに、全てを包み込む優しさと、未来への希望を感じさせる明るさがある)」

千早「(きっとこれが、この歌に込められていた、本当の意味)」

千早「(気づかせてくれたのは、やっぱりあの人なんでしょうね)」

千早?「~♪」

千早「(……本当に素晴らしい歌)」

千早「(違う道を選んだ私には、たとえ与えられたとしても、ここまで歌いこなせる自信はないわ)」

千早「(この歌は、あそこにいる私にしか歌えない)」

千早「(この歌は、あそこにいる私だけのもの)」

千早「(ここにいる私に、あの歌は必要ないから)」

千早「(……視点が、青い海の中心に浮かぶステージに移っていく)」

千早「(私が、広いステージの真ん中で歌っている)」

千早「(……周囲にいる大勢の観客に目を向けながら、優しく、笑顔で――)」

朋花「うふっ、どうでしたか? お望みの世界を見られましたか?」

千早「ええ」

朋花「喜ばしいことですね。迷いは、振り払えましたか?」

千早「……ええ」

千早「ありがとう、天空橋さん。あなたのおかげで、自分を見つめなおすことができたわ」

朋花「いえいえ、共に子豚ちゃん達に笑顔を与える仲間として、当然のことをしただけですよ~」

朋花「……千早さん。もしも、道が分かれる直前の、分岐点まで戻ることができるとしたら、貴方はどうしますか?」

朋花「鏡の向こう側にあった世界を選びますか? それとも、こうして私と話している今を選びますか?」

千早「私は、今を選ぶわ」

朋花「あらあら、即答ですね~。ちょっと驚いてしまいました」

千早「あちらの世界の出来事も魅力的だったわ。けれどそれは、どっちが良いのか悪いのかと、比べられるようなものじゃないと思うから」

千早「それに私は、劇場のみんなと賑やかに過ごす今を、共に階段を上っている時間を、大切にしたいと思うの」

朋花「プロデューサーさんと、今よりもっと深い関係になれるとしても、ですか?」

千早「な、なんで知っているの? あの映像、天空橋さんにも見えていたの?」

朋花「見えてませんよ~。ただ、そういうこともあるのかなって思いまして。うふふっ」

千早「もうっ、からかわないで」

朋花「うふふっ、すみません。でも、そうですか。千早さんは、やり直せるとしても、今を選ぶんですね~」

朋花「……ふふっ、そうですか」

千早「ねぇ、天空橋さん。もしかして、この不思議な鏡だけではなくて」

千早「天空橋さんの家には、過去に戻れるタイムマシンのようなものまであったりするのかしら?」

朋花「残念ながら、そのような便利なものは、ここにはありませんよ~」

千早「そうなのね。でも、本当に違う世界を見られるなんて、とても驚いたわ」

千早「天空橋さんも、この鏡の中を覗いたことがあるの?」

朋花「私が、ですか?」

千早「ええ」

朋花「……」

千早「天空橋さん……?」

朋花「そうですねぇ~……」

朋花「うふっ……さて、どうでしょうかね~」

朋花「……うふふっ」

Fin

ミリオンライブの全国ツアー編にて行われるカップリングの件で、
千早さんと朋花様にくっついてほしくて書いたつもりが、ほとんど千早SSになってしまいました。

読んでくださった皆様、ありがとうございます。


面白かった

乙でした

>>1
如月千早(16) Vo
http://i.imgur.com/ncgOgyv.jpg
http://i.imgur.com/l0pt5WN.jpg

>>2
天空橋朋花(15) Vo
http://i.imgur.com/kv14LhN.jpg
http://i.imgur.com/AmTIbKa.jpg

>>1
『Just be myself』
http://www.youtube.com/watch?v=DUAVVN3OSeg#t=81

>>7
『細氷』
http://www.youtube.com/watch?v=X21KqIO1Iyk

珍しい組み合わせな気したけど、朋花様ちーちゃんのうた聞いてたことあったね
http://i.imgur.com/scoKA6q.jpg

ミリオンの千早は本当に毎回楽しそうで心が癒される
(脅威の歌唱ユニットは除く)

JBMな千早も細氷な千早も好きだぜ、おつ

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