理樹「修学旅行から戻ってきたけど何故か女の子達の記憶が戻ってて僕がヤバい」 (108)

食堂

ガヤガヤ

理樹「………」パクパク

葉留佳「ねえ理樹君、今日は隣座ってもいい?」

クド「わふー?何をおっしゃっているんですか葉留佳さん?ここは彼女の席ですよっ」

葉留佳「あははっ。なんだー!………それじゃあ、やっぱり私の席じゃん」

理樹「いや…あの……」

恭介「……ご、ご馳走様…」ガタッ

理樹「き、恭介!」

真人「……あー…な、なんか俺も腹一杯になっちまったなー…カツはもう全部理樹にやるよ!じゃお先!!」

理樹「真人……」

謙吾「おっと、そういえばもう剣道の練習が始まるんだったな。はっはっはっ」

理樹「いや謙吾はまだ足にギプス巻いてるじゃん!」

理樹(どうして……どうしてこんなことに……)

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数日前



理樹部屋

ガチャ

真人「ふうーただいまっと!」

理樹「ただいま……もう眠いよ…」



理樹(僕らはあの事故のあと、みんなが回復してから二度目の修学旅行へ出かけた。最初に楽しめなかった分思い切りはしゃいだけどやり過ぎたというか…)

理樹「もう風呂は明日にして今日は寝ちゃおうか…」

真人「オーケー。それじゃあおやすみ」

理樹「うん…」





深夜

理樹「グゥ………」

真人「…もうそんなに食べられねえぜグヘヘ……」


ピカッ


モワンモワン

理樹(…………!)

理樹(夢。夢を見た………いや、これは夢ではない。昔、確かに体験した記憶だった。本当は起こらなかった体験が…。そうだ…僕は鈴、小毬さん、来ヶ谷さん、葉留佳さん、クド、西園さんと付き合ったんだ…それぞれの事情を……あのおぼろげな世界の記憶がはっきりと頭の中に………)



チュンチュン

理樹「…………ハッ!!」

真人「おう、お目覚めかい」

理樹「ま、真人……!」

真人「どうした、そんなに汗かいて…筋肉でも漏らしちまったか?」

理樹「お……思い出したんだ…僕…」

真人「何を?」

理樹「そ、それが………」







真人「………マジかよ」

理樹「うん…」

真人「と、とりあえず知らんふりしておけばいいんじゃねえか…?」

理樹「そうするよ…」

理樹(こんなこと人に言おうものならなんと言われたものか分かったものじゃない…)

食堂

理樹「もぐもぐ…」

鈴「おい馬鹿兄貴、醤油取ってくれ」

恭介「俺は馬鹿じゃない。なので取りません」

鈴「お兄ちゃん」

恭介「一丁お待ちィ!」

謙吾「こいつチョロいな」

真人「へっへっへ…」

小毬「………」

葉留佳「………」

クド「………」

来ヶ谷「………」

西園「………」

理樹「あれ?みんなどうしたの?」

ドキッ

葉留佳「なっ、なんでもないですヨ!?」

クド「わふー!私はその…あの…!」

来ヶ谷「……君の考え過ぎだ」

小毬「い、いやこれは違う~!!」

西園「ごちそうさまでした」

理樹「?」

教室

HR

ブブブッ

理樹(携帯が鳴った)

理樹「メールか…誰から……って5件も?」

カパッ

《神北 小毬:次の休み時間に屋上で待ってます(*^^*)》

《来ヶ谷 唯湖:放課後に一人で教室へ来い》

《三枝 葉留佳:昼休みに中庭で待ってる》

《西園 美魚:練習後に部室で待っています》

《能美 クドリャフカ:今日の夜、時間がありましたら裏庭に来てくださいませんか?》


理樹(な、なんだこれ…なんでみんな僕を待ちかまえようとしているんだ…?)

真人「どうした理樹っち?」

理樹「!」ビクッ

理樹「いや…なんでもないよ。あはは!」

理樹(とにかく行くしかないか…最初は次の時間の休みだね)

屋上

理樹「や、小毬さん…」

理樹(うう…やっぱり恥ずかしいな……あの世界の出来事だったとはいえあの時僕は小毬さんと……)

小毬「あ、理樹君…来てくれたんだね」

理樹「まあそりゃあ…ね」

小毬「……う…やっぱり緊張するよね…」

理樹「な、なんの話?」

小毬「え?あっ、ううん!こっちの話なのです…」

理樹(さっきから要領を得ない事を話す小毬さん)

小毬「あのですね!」

理樹「うん」

小毬「わ、私と付き合っちゃいませんか…?」

理樹「…………」

理樹「ええーーーーーっ!!」

次の時間

ドキドキ

理樹(ダメだ…胸の高まりが収まらない…ぼ、僕が…付き合っちゃったんだ…小毬さんと僕が付き合ったんだ!)

真人「今日はなんかしょんぼりしたかと思ったらニヤニヤして凄いことになってんな…」

理樹「えへへ~」





昼休み

葉留佳「という訳でデスネ……その…私と付き合って!」

理樹「……」

理樹(あれ……?)

葉留佳「私、今日の朝急に思い出しちゃったんだ…あの世界で理樹君達とどう過ごしたか……理樹君も覚えているよね?」

理樹「お、覚えてる……」

葉留佳「じゃあ…ね?」

理樹「うっ…………」





次の時間

理樹「…………」

真人「こ、今度はこの世の終わりのように落ち込んでやがる…!いったい何が理樹をそこまでさせてるんだ!?」

理樹(あれでNOと言える訳がない!葉留佳さんと実際僕はき、キスまで……いや、でもそんなこと言ったらみんなもそうだし…っていうか1日で二股しちゃったよ!)

放課後

来ヶ谷「恋してるって方の好きなんだ…」

理樹(ああああああああああ!!!!こんなに顔を赤くさせてる可愛い来ヶ谷さんを振れるわけないだろーーーーっ!!しかも来ヶ谷さんの場合は事情が事情だし……うう!これで三股……しかもこの流れだと…!)








恭介部屋

コンコン

恭介「開いてるぜ」

理樹「…………」

恭介「なんだ理樹か。どうした?話があるならゆっくり聞いてやるぜ」

理樹「……ま……った…」

恭介「ん?」

理樹「5股してしまった……」

恭介「は?」

恭介「………そいつはマズいな…」

理樹「うん…どうやら僕含めてみんな思い出しちゃったっぽいんだ。あの世界のこと…」

恭介「そ、そうか…確かに俺たちはあの世界でお前たちの記憶をなんども消して繰り返していたがそれが……」

理樹「どどどどうしよう!僕今とんでもない男に成り下がっちゃってるよ!!」

恭介「……仕方がない…こうなってしまったらやれる事は一つだけだ…」

理樹「やれること?」







食堂

理樹「…………」モグモグ



恭介『隠し通せ!』

理樹『いやいやいや…そんなの出来る気がしないよ!』

恭介『だがやれなければお前は……死ぬ』



理樹(確かに……今のタイミングでバレたらもう学校を堂々と歩けないかもしれない…!なんとか卒業…いや、彼女らが僕に飽きるまでは秘密にしておかなければ!)

恭介「……」グッ

理樹(それにこの件に関しては恭介も全面協力してくれるって言ってくれ……)

葉留佳「と、ここでみんなに重要発表があります!」

理樹「えっ」

謙吾「また朝から騒がしいな…」

真人「なんだなんだ?」

クド「わふー!いったいなんでしょうっ!」

葉留佳「実はワタクシこのはるちんは昨日!ここにおわす直枝理樹君と付き合いましたー!」

全員「「「!!」」」

理樹(さっそく死んだよ恭介)

理樹(そこから先のことは覚えていない。気を失ったんだ。人生で初めて例の持病以外で倒れた)




保健室

理樹「こ、ここは……」

真人「おっす」

謙吾「大丈夫か?恭介達から話は聞いた…大変だったな」

恭介「いや、現在進行形で大変になるぜ…これから…」

理樹「さ、三人とも…」

鈴「びっくりしたぞ。葉留佳と付き合うって言ってから理樹が急に倒れたから4人で保健室に連れてってやったんだ」

理樹「そうだったの……」

恭介「良い知らせと悪い知らせがあるがどちらから聞きたい?」

理樹「じゃあ悪い知らせから…」

恭介「もう三枝達は理樹の今の状況を完全に理解している。修羅場は必死だ」

理樹「お、終わった……それで良い知らせっていうのは…?」

恭介「俺が事情をメールで送って理樹がそうするしかなかったということだけは伝えておいた。あとは変身の内容が怖いから全員メール拒否に設定しておいた」

理樹「そ、そう……」

真人「とりあえずもう今日は部屋に帰って寝ちまいな。背負って行こうか?」

理樹「いや、一人で歩けるけど……」

理樹(これからいったいどうなってしまうんだ……)

次の日

食堂

ガヤガヤ

理樹「………」パクパク

葉留佳「ねえ理樹君、今日は隣座ってもいい?」

クド「わふー?何をおっしゃっているんですか葉留佳さん?ここは彼女の席ですよっ」

葉留佳「あははっ。なんだー!………それじゃあ、やっぱり私の席じゃん」

理樹「いや…あの……」

恭介「……ご、ご馳走様…」ガタッ

理樹「き、恭介!」

真人「……あー…な、なんか俺も腹一杯になっちまったなー…カツはもう全部理樹にやるよ!じゃお先!!」

理樹「真人……」

謙吾「おっと、そういえばもう剣道の練習が始まるんだったな。はっはっはっ」

理樹「いや謙吾はまだ足にギプス巻いてるじゃん!」

理樹(どうして……どうしてこんなことに……僕はただみんなを悲しませないようにしようとしただけだっていうのに…!!)

理樹(その日は恭介の計らいで野球の練習は中止になった。今は時間を置いて落ち着いて話し合おうという事だろう…)



理樹部屋

コンコン

理樹「はい」

ガチャ

クド「こんばんわですリキ!」

理樹「く、クド!」

理樹(思わず後退りしてしまった)

クド「……恭介さんから事情は聞きました…辛かったですよねリキ…」

理樹「いや、あれは僕が完全に悪いっていうか…」

クド「でもこれからはのーぷろぐれむですっ!ようは私以外の人を振っちゃえばいいんですよ」

理樹「なっ……」

クド「でもリキは優しいですからすぐに別れの言葉なんて思いつきませんよね…だからゆっくり考えていてください。私それまで待ってますから」

理樹「そ、そんなこと…!」

クド「さっ、それじゃあお腹空いてませんか?今日はお料理を持ってきたんですよ!これは私の国に伝わる簡単に作れる伝統料理で……」

理樹(くそっ……人はここまで豹変してしまうのか…クドはあんなに心優しい子だったのに……)

ガチャ

真人「ただいまー…おっ、なんか美味そうな匂いがするな…」

クド「あっ、井ノ原さん!お邪魔してますっ」

真人「く、クド公…か……いや別に構わねえぜ…」

クド「井ノ原さんも一緒に食べませんか?」

真人「いや俺さっき食っ……」

理樹(お願い!2人じゃ身が持たない!一緒に食べて真人!)

ジーッ

真人(あ、ああ…そうかい……分かったぜ、これも理樹のためだ……仕方がねえ)

真人「おう!それじゃあいっただっきまーす!」

クド「召し上がれ!」

理樹「い、頂きます…」

続く




1時間後

理樹(ご飯を食べたあと、クドは人生計画を話して、そのまま帰って行ってしまった)

真人「う…もう食えねえ……」

理樹「本当にありがとう真人……」

真人「いいってことよ。だがちょっと夜風に吹かれて来るぜ……」

バタンッ




コンコンッ

理樹(数分後、再びノックの音が)

理樹「どうぞ?」

ガチャ

小毬「理樹君、まだ起きてる?」

理樹「あ…小毬……さん…」

小毬「ごめんねえこんな時間に…」

理樹「い、いやそんな事はないよ!」

理樹(でも小毬さんは僕が見る限り大人しめ
だったから大丈夫だろう…鈴とも普通に話していたし……)

小毬「あっ、そうだ、今日のお弁当どうだった?」

理樹(そう、今日は身の危険を感じて裏庭でこっそりパンを食べようとしたら何故か小毬さんが待ち構えていて鈴と小毬さんと3人で食べる事になったんだった)

理樹「美味しかったよ」

小毬「そっか…口に合わなかったらどうしようって思ってたけどこれで一安心だね。明日も同じ場所で食べましょうっ」

理樹「い、いや別に毎日は小毬さんに悪いっていうか……」

理樹(今日だけでも他の女の子に見つからないかどうかビクビクして食べていたのに…。実際のところは緊張でお弁当の味は分からなかった)

小毬「ううん、そんなの気にしなくていいよ。彼女なんだから…ね?」

理樹「えっと…あ、うん……」

小毬「ところで最近理樹君見かけないけどどこ行ってるの?」

理樹「それは………」

小毬「それは?」

理樹「に、西園さんと本を借りたりとか…」

小毬「ああ、美魚ちゃんか………」

小毬「でもあの人って大人しいって言うより暗いよね」

理樹「!?」

小毬「あんな人と一緒にいたら理樹君まで暗い性格になっちゃうよ」

理樹(な、なんで小毬さんまでこんな事を…!?)

小毬「理樹君、最近屋上に来てくれないよね…私ともお話してくれなくなったし」

理樹「いやいやいや…気のせいだよ……」

小毬「………あんな人!!理樹君のことなんにも分かってないんだから!!」

理樹・真人「「ヒイッ!?」」

小毬「理樹君のことを世界で一番分かってるのは私なの!他の誰でもない私っ!!」

理樹(小毬さんの顔が憎しみで歪む。普段のほほんとした口調だけに怖すぎる)

小毬「はっ……ごめん、怒鳴っちゃって…」

理樹「だ、大丈夫だよ!心配しないで…」

小毬「ところで今日の晩御飯はどうしたの?」

真人「今日は理樹とク……いや!理樹と2人で串カツ店にいったぜ!」

理樹(ちょっと強引だけどナイスだ真人!)

小毬「ふーん2人で外食したんだぁ……」

理樹「うん……」ゴクリ

小毬「………あの女の匂いがする」

理樹・真人「「えっ」」

小毬「クーちゃんさっきここに来たよね?…ねえ理樹君、どうしてそんな嘘つくの?」

理樹「ご、ごめんなさい!3人でクドの料理を食べてました!」

理樹(しかし今更正直に言っても意味はなく…)

小毬「へぇ…やっぱりクーちゃんと一緒にいたんだぁ~手料理食べさせてもらったの?……それはよかったねっ!!」

バンッ

理樹「ごめんなさい、ごめんなさい!」


小毬「理樹君はそういう性格だから縁を切るのは難しいって知ってたから、私ずっと我慢してたんだよ?いつか分かってくれるって……」

理樹「いやその……」

小毬「それなのに私に隠れて浮気ってどういうこと!?信じられないっ!!」

小毬「やっぱりあの女がいけなかったんだね。呼び捨てですり寄ってるけど結局は赤の他人でしょ!?」

理樹「お、落ち着いて!」

真人「そうだ!というか他人という意味ならお前も一緒だぜ!」

小毬「そっか、私良いこと思いついたよっ。…理樹君にすり寄ってくる女どもはみんな始末すれば良いんだよねっ」

理樹(そう言うと小毬さんはどこからともなく銀色の薄くてよく切れる金属を取り出した…)

理樹「え、ええーーっ!?な、何するつもりなのさ!?」

小毬「何って邪魔する女を全部片付けに行くんだよ。大人しく待っててね理樹君っ」

理樹「ま、真人止めて!」

真人「お、おう!」

シュンッ

小毬「んー?なんか言った?」

真人「にゃ、にゃんでもありません……!」

理樹(万事休す。僕のせいでこの学校で大量の殺人事件が…!!)

トンッ

小毬「ふ…え……?」

ドサッ

「やれやれって感じだな…」

理樹(小毬さんが倒れた。気を失っているだけらしい)

理樹「そ、その声は…!」

来ヶ谷「君も本当の意味で罪な男だなまったく…」

理樹「く、来ヶ谷さん…」

来ヶ谷「安心しろ。当人が言っても仕方がないと思うが私は正常だ」

理樹「ところでどうしてここへ?」

来ヶ谷「ああ、私もちょっと話があったんだがちょうど部屋なら物凄い音がしてな」

真人「た、助かったぜ……それで話ってのは?」

来ヶ谷「うむ。それは…だな…」

理樹(話す途端にうつ向いてしまった)

来ヶ谷「私達はもう別れよう」

理樹「ええっ!?」

理樹「どうして……」

理樹(付き合うとなった時あんなに喜んでくれた来ヶ谷さんが別れようだなんて…)

来ヶ谷「君の事情は分かった。しかしやはり君は普通の男の子なんだ。みんなと付き合うという訳にはいかない」

理樹「でも…」

来ヶ谷「君は誰か一人を選ばなくちゃならない。他の子はみんな君を独り占めしたがっている…なら私はその戦いから辞退するよ…私はただ君が幸せでいてくれるだけでいいんだ……そう言うことならそれで……」

理樹「待ってよ!僕は来ヶ谷さんと別れたくなんかっ!!」

来ヶ谷「その言葉だけで私は満足だよ。………だからあんまり女の子を泣かせてはいけないよ少年」

理樹(来ヶ谷さんはそれだけ言うとドアに手をかけた)

理樹「待って来ヶ谷さ…」

バタンッ

理樹「くっ…」

ガチャッ


シーン

理樹(来ヶ谷さんの姿はもう…どこにもなかった。……しかし来ヶ谷さんがどこかで声を押し殺して泣いているのは分かった。今優しさをかけるとするならこのまま部屋に戻って寝てしまうことが一番だと理解してしまった)

理樹「………」

ドサッ

真人「もう…寝ちまうのかい?」

理樹「……小毬さんを女子寮に帰さないと…」

真人「俺がうまくやっておく」

理樹「……ごめん…」



………………………

………………

……

次の日

昼休み

中庭

理樹「…………」

理樹(今日は来ヶ谷さんと小毬さんの姿は見えなかった…全部僕のせいだろう。ここ最近は罪悪感しか感じていない)

「やはは…理樹君…こんばんわ」

理樹(ベンチに座っていると誰かが隣りに腰掛けた)

理樹「…葉留佳さん」

葉留佳「………う、うん…」

理樹(様子がおかしい…手はスカートを掴んでぐしゃぐしゃにしてしまっている…)

理樹「どうかしたの?」

理樹(顔を覗き込んだ)

葉留佳「……………ごめんなさい」

理樹「え?」

チュッ

理樹「………!!」

理樹(それは長い時間だった。いや、実際はほんの数秒だったかもしれない…でもこの体験はあの時とは違って僕の…正真正銘初の……!)

葉留佳「ぷはっ……」

理樹「はぁ…はぁ……こ、これはいったい……」

葉留佳「う……ひぅ…グスッ」

理樹「えっ!?ちょっと…!」

葉留佳「うわぁぁ!ごめん理樹君!ごめんなさい…!!」

理樹(突然泣いてしまった。泣きじゃくって顔を隠そうともせず上を向いて子供のように)

理樹「と、とりあえず落ち着いて!」

理樹(ばか、すぐ落ち着ける訳ないだろう。何を言ってるんだ僕は!…でもこの場合どう声をかけたら……)

葉留佳「だって…一人選ぶなら私なんか無理に決まってるじゃん!ううっ……だって姉御とかクド公の方が綺麗だし…私みたいな問題児が彼女なんて……うぁっ…ッグ…」

理樹(そうか、だからいっそ振られる前に……)

理樹「それは違うよ!」

葉留佳「ぇ……?」

理樹「葉留佳さんは可愛いに決まってるじゃないか!」

葉留佳「わ、私が……」

理樹「僕だって性格だけで人を好きになれるほど人間が出来てない……やっぱり彼女なら可愛くないと付き合えないよ…恥ずかしいけど……」

葉留佳「それって…」

理樹「うん…」

葉留佳「…えへへ…っ…理樹君ってば優しいんだ…こんな子にもそんなこと言ってくれるなんて……」

理樹「嘘じゃないよ。こういう事で嘘はつけない」

葉留佳「……そっか…うん、ありがとう」

理樹「うん。だからもう泣き止んでよ…僕はある人と約束したんだ…もう人を泣かせるなって」

葉留佳「………分かった…もう泣かないよ」

「あー見つけたー。今度ははるちゃんと2人でいたねっ」

理樹「なっ!?」

小毬「もう理樹君ったらちょーっと遊び過ぎじゃないかなー?」

ギラッ

理樹「ほ、包丁!」

葉留佳「理樹君……っ」

理樹「逃げよう葉留佳さん、僕から離れないで!」

ダダダッ

小毬「どこ行くのかな?逃がさないけど」







校舎

1F廊下

理樹「ハァ…ハァ…っ!」

葉留佳「はっ…はっ…」

「どこいっても一緒だよ~」

理樹「な、なんでついてこれるんだ!」

理樹(しかし今はそんな事を気にしている場合ではない。なんとか逃げなくては!)

葉留佳「理樹君!そこに階段があるよっ!逃げよう!」

理樹「いやダメだ、上に行けば行くほど帰える時の選択肢を大幅に狭められ、かえって追い詰められる!それにホラー映画でも2階に逃げたキャラは死ぬッ!」

理樹(しかし出来るだけ曲がり角を選んで撒こうとしているのに小毬さんはまるで僕らを壁越しに見ているかのように進んで来た!)




理樹「次はこっち………ああっ!」

葉留佳「い、行き止まり……」

「そろそろ観念してほしいなぁ~」

理樹(くそっ!こうなったら窓から逃げるしかない…だけどそんな悠長に待ってくれるとは限らない…ここは僕が犠牲になるしかっ)

「君が直枝君だな!?早くこっちへ来たまえ……そこの君も!こっちだ、さあ早く!」

理樹「えっ?」

理樹(横の教室から声が聞こえたと思ったらドアが開いた。扉には『科学部』と表記されている)

トコトコ

小毬「理樹君?」


シーン


小毬「………いないね…どこ行っちゃったんだろう?」

トコトコ



科学部

部員1「部長!行きました!」

「ふう…ひとまず安心と言ったところか……」

理樹(半ば引きずられて来たが、どうやら敵ではないらしい)

理樹「あの…あなたは?」

マッド鈴木「私かね?私はそう、人呼んでマッド鈴木だ!」

葉留佳「助けてもらったのはありがたいんデスけどいったい何者なんですカ…?」

鈴木「悪を成敗する正義の味方…人呼んで科学部部隊だ!」

部員達「「科学部部隊ッス!」」

理樹(歯をにやりとみせ、そう名乗った。……どこかで聞いた事があるな…)

鈴木「まあ自己紹介はそれぐらいにしておいて本題に入ろう」

理樹「本題?」

鈴木「そう、あれは数日前の話だ……」


……………………

……………

鈴木(私はこの頃科学の新しい可能性を模索していた。しかしこの学校と設備で出来ることなどたかが知れている…そんな節に出会ったのがNYPだった)

鈴木(ある日、科学部が中庭でテニスボール程度の大きさの超小型ヘリコプターの試験飛行を行ったのが私の人生のターニングポイントだった。)

グラウンド

鈴木「さあ行けアルカディア号よ!」

パパパパ……

鈴木(屋上まで飛んで降り立たせる、というだけの実験のはずだったが、私はその中にNYPという超パワーの吸収回路を仕込んだのだ。……結果、中庭は大騒動となった)

部員「部長!ヘリの様子がおかしいです!」

鈴木「なんだと?」

パパパパ………ゴォォォオオオ!!

鈴木「!?」

鈴木(ヘリはハリケーンのごとき暴風を発生させてすべての木々を薙ぎ倒し、我ら科学部員たちを壁に磔にした)

鈴木「ぬ…ぬぉおおお!?」

「………」

鈴木「!?」

西園「………」

鈴木(そんな中、あの西園美魚君だけは自分の未知なる力のすごさを目の当たりにして笑っていたんだ……)

……………………

……………



鈴木「という訳だ」

葉留佳「いやそれ苦笑いなんじゃないですカ…」

鈴木「その後、私はNYPを取り憑かれたように研究し、NYPをエネルギーとして使う数々の兵器を開発した。これこそが私の求めていた技術の進歩だよ!………だが、しかし、話はそう単純なものではなかったのだ…とうの西園君が力を発揮したのはそれが最後だったのだよ…」

理樹・葉留佳「「?」」

……………………

…………




鈴木「西園君!あの時のパワーはどうしたのだね!?」

西園「出せと言われて出せるものではないかと…」

鈴木「くそっ…そ、それならば何かあの時頭に思い浮かべたものとかはないか!?気持ちや感情でもいいっ」

西園「あの時……そういえば、あの時、皆さんのことを思い浮かべていました…」

鈴木「みんな…とは?」

西園「リトルバスターズの……すいません、何故かこれだけは思い出せないのです…すごく最近の話だったはずなのに……」

鈴木「なら…それを思い出す事が出来れば?」

西園「というと?」

鈴木(私は記憶を思い出す薬を研究した。まるでRPGでドラゴンを倒すためにまずは伝説の武器をゲットしにいくかのようで私は凄くワクワクしていたのを覚えているよ…遂にはあの生物部のバイオ田中とも組み、いよいよ完成したのがバイオ田中とマッド鈴木の記憶完全回復クッキーだ)



………

………………

理樹「なんでこの人達こんなところにいるんだろう」

葉留佳「じ、じゃあそのクッキーをみおちんが?」

鈴木「ああ。微弱にも僅かにヘリの吸収装置に残されたNYPをそのクッキーに浴びせた途端全体が眩い光に包まれたのだ。そして翌朝西園君のNYPを観測すると……見事、実験は成功だったということだ。…結果的には最悪だったがね」

理樹「つまりみんなの記憶が戻ったのもそのせいだと?」

鈴木「ああ。深い事情は知らんが君はものすごく罪深い男らしいな。この現状はまずい…私達はパンドラの箱を開けてしまったようだね。西園君も元に戻してほしいと言ってきたよ」

葉留佳「それは可能なんですカ!?」

鈴木「ああ。方法は単純だ…このアンチ記憶クッキーに西園君のNYPを浴びせるといい。あいにくNYPは切らしているからこの改良してクッキーを内蔵したスイッチを西園君自身の手で押してもらえれば全てが元通り。全員の記憶がまた頭の隅に追いやられるはずだ」

理樹「はずって…」

葉留佳「というかクッキーを内蔵ってなんかヘンな匂いしそうですネ…」

鈴木「私だってこんな事は初めてなんだ!だがこうするしかない…さあ、もうあの女子は居なくなっているだろう。この有様をなかった事にしたくば西園君の元にこれを渡しに行ってくれればいい」

理樹(だが一応解決策(?)は見つかった。あとは西園さんに……)



小毬「へーそっかー……それじゃあ先に美魚ちゃんだねぇ。はるちゃんはその後だね~」




理樹「後って何が?………って」

理樹(窓には小毬さんが張り付いていた。辺りの部員は恐怖で腰を抜かす者もいた)

小毬「理樹君。そういうわけだからちょっと待っててね~」

鈴木「しまった!会話を聞かれていたかっ!」

理樹(タッタッタと可愛く走っていく小毬さん。その方向は僕の記憶が正しければ……)

葉留佳「女子寮に言ってるよ!みおちんが危ないっ」

理樹(記憶を消されないためにその方法を潰しに行ったか!)

理樹「葉留佳さんは危険だからここに居て!僕は小毬さんを止めに行く!」

理樹(スイッチを受け取ると一目散に駆け出した。必ず先手を取らないと手遅れになるぞ!)

夕方

女子寮

バンッ

理樹「ゼェ…ハァ…!」

理樹(ドアを開けると掲示板の前に寮長さんがいた。勢いよくドアを開けたのですぐ気付かれた)

あーちゃん「あら……直枝君どうしてこんなところに?ここ女子寮よ。怖~い風紀委員長に見つかったら反省文10枚は書かなくちゃなんないわよ~!」

理樹「今はそんな場合じゃないんです!先輩、西園さんはどの部屋ですか!?」

あーちゃん「おっと何か訳ありっぽいわね…西園さんは3階の右端の部屋よ。直枝君の事だから問題ごとにはならないと思うけど見つかんないようにねー!」

理樹「ありがとうございます!」

理樹(といっても、僕が間に合わなかったら問題が起きまくるんですが…)




ダダダッ

理樹「ここの端…!」

理樹(あった。扉のプレートには『西園』と記されている)

理樹「西園さん!開けてっ!」

コンコンコンッ

ガチャ

西園「どなたでしょうか…あ…直枝さん」

理樹(よかった!まだ小毬さんは来ていないようだ)

理樹「西園さん、落ち着いて聞いてほしいんだっ」

理樹(顔を微かに赤らめている西園さんにことの成り行きを話した)



理樹「………というわけでこのスイッチを西園さんが押せば全ては元どおりになるんだ!」

理樹(これで全てが丸く収まる。そう思っていると予想外の返答が帰ってきた)

西園「……嫌です」

理樹「へっ?」

理樹「ど、どうして!今にも小毬さんが君を襲ってくるんだよ!?」

西園「だって…そうすればこれまでの私達の記憶も消えるんでしょう?そうなれば私達が付き合っていたことも……」

理樹(と、僕が渡したスイッチを悲しげに撫でながら言った)

理樹「あ………」

理樹(そうだ。それを失念していた…確かに小毬さんやクドの性格も元に戻るだろうけど、それは同時に彼女らと付き合っていたという記憶も消してしまうわけなのだ)

理樹「ど、どうすれば…!」


小毬「それでいいと思うよ…」


理樹(神出鬼没。…いや、この登場は分かっていたはずだった…なんで僕は西園さんの部屋に入れてもらわなかったんだ!)

小毬「それならもう忘れる事もないもんねっ。理樹君との思い出も…」

理樹(いつの間にか木製バットを引きずっていた…後ろは壁。3階なので窓から逃げる事も出来ない)

理樹「う…うう……こ、こっちに近づくな!」

小毬「どうして?……どうしてそんなこというの?」

理樹「君は今狂ってるんだ…まずは頭を冷やし…」

理樹(ニコニコ顔が真顔に変わる)

小毬「理樹君はそんなこと言わない!!」

バリンッ

西園「!!」

理樹(窓ガラスを割った。野球の練習ではろくに素振りも出来なかった小毬さんが今ではそのバットを狂乱に身を任せてあちらこちらの窓を割っていく)

小毬「私を傷つけるようなこと絶対に言わないもんっ!そんなの理樹君じゃないっ!!」

理樹「お、落ち着くんだ!」

小毬「ああ、そっか…きっとクーちゃんの料理食べて毒されちゃったんだね…ならそれを取り除かないと……きっと胃の中まで毒されちゃってるから内臓もやられちゃってるんだよね…」

理樹(と、おもむろにポケットからプラスドライバーを取り出す。屋上に入る時のあれだ)

理樹「そ、それで何を……」

小毬「ん~?…ふふふっ」

理樹(質問には答えない)

カラーン…

小毬「じゃあちょっと大人しくしててね~」

ガヤガヤ

「なにさっきの音…?」

「あっちから何かが割れた音がしたわっ!」

理樹(騒ぎを聞きつけてあちらこちらの扉が開く。ああ、もうここまでだ!きっと何股もしてしまった僕に神様が罰を与えたに違いない!せめて来世では誠実に生きていこう…)

西園「あ……あ…」

小毬「ふんふふーん」

ダダッ

理樹(ドライバーを手に走り寄ってきた。武器を手にされちゃう叶わない。さよならみんな。さよならリトルバスターズ…)

西園「……っ」ポチッ


ピカッ



モワンモワン

理樹「!」

小毬「!?」

理樹(覚悟を決めて目を閉じかけた瞬間、眩い光が僕らを包んだ。直視出来ない!……そして…)


…………………………


………………


………………

………





理樹「……ううん…」

理樹(ここは…いったい……)

小毬「ほ、ほえ…?」

理樹(意識がハッキリとしてきたので辺りを見渡してみた。今確認出来るのはあっちこっちに散乱する窓ガラスの破片。そして抱き抱えるようにして僕の胸元にいる小毬さん…そしてギャラリーには女生徒の皆さん。そして、同じく今起きた感じの西園さんがこちらを見ていた)

理樹「………はっ?」

理樹(いったいどういうことだ!僕はなんでこんな状況に!?)

ガヤガヤ

「な、なんてこと!女子寮に男がいるわ!」

「大変!すぐに風紀委員長と寮長を!」

小毬「ほわぁぁあ!?りりり理樹君!?なんでこんなところにいるのっ!」

理樹「僕だってわかんないよ!」

西園「……不潔です」

理樹「ちょっと待って!僕にもこの状況がさっぱり飲み込めないっていうか…!」

理樹(こうなる前の記憶を思い出せ……そうだ、僕は確かに自分の足でここまで必死で走ってきた………ん?…そういえば僕はいったい何のために走ってきたんだ…!?ダメだ、記憶が混雑している…!)

理樹「とにかくここから逃げないと!何が何だかよく分からないけど捕まったら地獄の…」

佳奈多「地獄の…なに?」

理樹「う、うわぁぁあ!出たぁーーっ!!」

佳奈多「失礼ね…それにしてもあなた…この状況説明出来るんでしょうね?一般生徒を抱きしめ、(見たところ)木製バットでガラスをブチまけ…あなた、場合によっちゃ冗談抜きで退学ものよ」

理樹(冷静沈着な口調でそう言い放たれた…)

後日

食堂

理樹「~~~~っ!」カリカリカリ

小毬「鈴ちゃん、ゼリー食べる?」

鈴「それは悪い…小毬ちゃんが食べてくれ」

クド「わふー…井ノ原さん朝からカレーなんて重たくないんですかー?」

来ヶ谷「放っておきたまえクドリャフカ君。彼はああいうキャラなんだから」

真人「おいちょっと待て、いま俺スゲー馬鹿にされたか?」

葉留佳「気のせいッスよ真人君。それよか理樹君は何してるんですカ?」

謙吾「あまり触れてやるな…なんでも女子寮に忍び込んだことがバレて、反省文を今日中に提出しなければならないらしい」

理樹(あのあと、昼までにこれを二木さんの元へ出さなければ職員会議に突き出すと脅されてしまった…どうしてこんなことに……)

恭介「理樹…もう一度聞くがなんでそんな無茶したんだ?」

理樹「いや僕にもわかんないよ…本当に……」

理樹(ただ、このいつもの穏やかなみんなの会話を聞いていると今はものすごく安心する…なんでだろう……)

鈴木「直枝君」

理樹(後ろから肩を叩かれた)

理樹「うわっ!誰ですか!?」

恭介「お前は…マッド鈴木じゃないか!」

理樹「マッド鈴木…?」

鈴木「その様子では遂に成功したらしいな…本当に良かった……」

理樹「あの…その鈴木さんが何のようですか?」

鈴木「いや…そのだな……そこにある反省文は私も手伝わせてくれ」

理樹「はい?」

理樹(反省文の半分をひったくってペンを取り出しながら僕の隣へ座るとこう言った)

鈴木「ああ……言っても分からないだろうが、私がそれを手伝うのは至極当然のことなのだよ」







終わり

う、うるさいやい!オチは苦手なんだよ!

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