兄「俺が死んだらどう思う?」妹「死なないじゃん」 (202)

兄「うん?」

妹「ふわぁ~眠…」

兄「こら妹さんや、どうしてそう思ったのかな?」

妹「いや兄貴こそなんで、今更そんなこと訊いたわけ?」

兄「暇つぶし…」

妹「全然暇じゃないでしょ? この後の予定埋まってるでしょ?」

兄「……」

妹「可愛そうだからノッてあげるけど、まぁなんでそう思うか言わなくてもわかるよね」

兄「ほう」

妹「一つ目、小学校の時に車に跳ねられ二十メートルふっ飛ばされ生きてた」

兄「ふむ」

妹「2つ目、小学校の卒業式で天井から鉄骨が頭上に落下。だけど無傷」

兄「あれ痛かったなー今でも憶えてるわぁ」

妹「3つ目、中学校の部活で素振りのバットが頭部に強打。だけどなぜか無傷」

妹「やばいよね、なんで生きてるの? というか全部どうして無傷?」

兄「なにそれふっしぎーぃ!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436450533

妹「ふっしぎーじゃないよ、当時の私の気持ちも考えてね。マジ考えて」

妹「緊急搬送の連絡の電話やニュースで兄貴の名前を見るときの気分、マジやるせないから」

兄「でも生きててよかったねー! とかならないの?」

妹「4つ目、海水浴場で波に流され十キロ泳ぎ切る、5つ目、遊園地のアトラクションセーフティ不備で地面落下」

妹「6つ目、土砂崩れに巻き込まれるが生還、7つ目、蛇に噛まれるが奇跡的に助かる」

妹「8つ目、9つ目──ていうか、もう上げてもきりがない」

兄「……」

妹「私が知ってるだけで30はあるけど、兄貴の不死身伝説。これだけ起こってたら生きてる奇跡よりね」

妹「周りの人たちって、それに家族も事故に遭い続けてる兄貴の人生に同乗するんだよ。コイツ、死なねえけど運だけ悪いなって」

兄(俺かわいそう…)

妹「でも言って欲しいなら言ってあげるよ。ふぁにひいひっひほっほー!」

兄「アイス食いながら言うなよぉ~」

妹「……」モグモグ

兄「確かな、兄ちゃんマジで運悪いとか思うよ。遊園地とかの事故だと一時間しか遊べなくてマジ泣きしたし」

妹「…周りのお客さんのほうがトラウマになって遊園地で遊べなくなったというのに…」モグ

兄「いや俺のせいじゃないし、落ちたの俺の責任じゃないから」

兄「でもさ? 改めて考えてみると、俺ってやっぱり運がいいんじゃね? んふふ、だって死んでもおかしくないことなのに生きてるし!」

妹「運だけじゃそうならないんじゃないの?」

兄「……兄ちゃんもう少しこの会話を楽しみたいんだけど……」

妹「いっちゃだめ?」

兄「…ダメ」

妹「そう。じゃあ言わない」


ミーンミンミン


妹「そろそろ」

兄「ん?」

妹「そろそろ、水泳の補修の時間じゃないの兄貴」

兄「ばぶー! だぁい!」ゴロン

妹「補修出るのが嫌なのはわかるけど、いきなり幼児退行しないで」

兄「……」

妹「高校生にもなったんだからさ、そういったことは諦めないと」

兄「…諦めるって」

妹「いいじゃん魅せつけてやりなよ。どうだーってね」

兄「いーや! 嫌だよおばかちん! そんな気楽に生きられないの! 実はすっごくキモいの! 周りの視線とか!」

妹「乙女かよ…」チッ

兄「あーっ! いま兄ちゃんに舌打ちしたー!? ひどいひどい!」ビシッ

妹「出なきゃ晩飯抜きだよ、きっと」

兄「おおう…」

妹「兄貴ダメでしょ、食べ物食べないと」

兄「……」コクリ

妹「うむ」

兄「うがぁ…やりたくねぇ、なんで授業に水泳があるのかね…同級生に半裸見せてなにか楽しいの…?」

妹「同感だね」

兄「あのさ、妹さんよ」

妹「昼飯は大丈夫」

兄「まだ何も言ってないよー?」 ニコニコ

妹「言い訳を考えてる顔だったから」

兄「…行ってきます」

妹「いってらっしゃい」


ミーンミンミン…ミーンミンミン…

チュクチュクバー! チュクチュクバー! ジョォオオオオオオオオオオオ!!


兄「今日も暑いな…だが長袖を俺は着る…」

兄(あっづぃいいいいいいい)

兄「はぁ~」 とぼとぼ

兄(あ。なんだろこう思いつきそうになりましたよ。水泳をサボれる妙案といいますかね)

兄(なんと云いますか車に跳ねられたとかどうだろう? そうすれば水泳補修の話じゃない気がする、入院モノな気がする)

兄(ま、そんなこと自分からやるやつなんて居ないけどなーアハハーん~んんん~♪)

ブォオオオオオ

兄「んー?」


ドン!!!


兄「んんんんんんんんんッッ!!?」 どっしゃああああ…

兄「あふぅんっ!」ゴチン

兄「……」

兄「…」

兄「痛ぇ…」むくり

兄(なんだ、今俺…ああ車に跳ねられたのか…)

兄「またかよ…もう数えるのも面倒だし…つかまた当て逃げされたし…」

ブロロロロ…

兄(ナンバプレート控えておいて、授業の帰り警察に報告か…交番の婦警さんにまた指差されて笑われるんだろうな…)

兄「って、おい! 水着は!? 水着が入った妹ちゃんお手製巾着袋は!?」ババッ

兄(あ、車のサイドミラーに引っかかってる…)

兄「──追いつけないとでも思ってんのかッ!」バッ!

再放送
所々変えてる

兄「ふぬおおおおおっ!」ダダダダダダダ

がしっ!

兄(よし、いや、なんか勢い任せで追いついてみたけど…予想以上に恐いよ…)ザリザリザリ

兄「靴底が減り切る前に…」 ガシッ!

兄「巾着袋を回収しますか…よっと…ほっと…よいしょっと、」がしっがしっがしっ

兄(ん? あ、どうしよう掴むところがない。後少しで手が届くのに…)

兄(窓ぶち破ってみる? そこまでやったら怒られるか、いや相手は犯罪者だし、ってうおおっ!?)


ブォンブォン!


兄「急に暴れ、めっちゃ揺れる! 落ちちゃうっつの! あばばばばばば!」

兄「──うおおっ!? ごめんごめんッ! 取ったら放すから取ったら居なくなるからーッ!」


ぐぐぐ! ぐぎゅ! ぎちちち! めきッ!!


兄(ぐぅぅぅ…やっぱやるっきゃナイトかよごめんなさい、弁償はしかねます)

兄「おるぁ!」ブン!!


バチコーン パラパラ


兄「あ痛ーぁ…」フリフリ

兄(よし窓割れた。後は開いた穴に手を突っ込んで回収! ビバ回収!)ガッ

兄「ほいっと」チラリ

女「───」

兄(んあ? 後部座席に女の子? 髪長いなぁ髪質わかめみたい、いやなに観察してるんだ俺は…)フィ


女「──……──…」ボロボロ


兄(めっちゃ泣いてる、うん、恐いよなぁ車でひいた人間が追いかけてきて…そのままへばりついて窓割ったんだもんな…めたんこホラーだよ…)

兄(ごめんよ少女、悪気があるわけじゃないんだ。ただ大切な巾着袋を取りたいだけ、ただそれだけなんだぜ…)

兄(ん? 開けた穴からなにか出てきて…)


「──もう追手が来やがったか、[ピーーー]ッ!」


兄「……それ刑事ドラマでみたことあるやつ…」

パン!

兄「ッ!?」 ズキン

女「ああっ…! いやぁああ!!」

「大人しくしてろ。おい、もっとスピードを出せッ! このまま振り落とすぞッ!」

女「なんて酷いことをするのだ! ばっばかものー!」ジタバタ

「黙れッ」

女「ひぅっ…」

「もう助けなど来ない。これは全て計画通りだ、全ては【人狼家】の…」

女「うっひぃいいいいいいいいいいいっ!?」

「っ!? だから大声を出すなと、」

女「な、なんで」

女「ど、どうして…生きてるのだ…?」

「何をいって」

兄「……」

「……」

兄「痛えなオイ」

「なっ…!」

兄「ああぁくそっ…やっぱ銃ってすごいんだな…体験してきた痛みの中でトップスリーに入るなこりゃ…」パッパッ

女「なっ、なっ、なっ!?」

「お前っ! 一体何者だ!? くそ、確かに弾は…!」

兄「昔、妹ちゃんは言ってました」


『兄貴の皮膚ってアルマジロの外殻みたいだね。固そうでくさそう』


兄「弾は当たった、けどそれは皮膚で止まってる」 びしっ

兄「ただただそれだけだし、そういった人間もいるわけなんだ」シクシク

「何を無茶苦茶事をボロボロ泣きながら言ってるんだコイツは!?」

兄「いや気にするんじゃない…昔ほど皮膚は荒れなくなった、今はそれでいいじゃないか…」グスッ

兄「──俺の話は終わりだ、次にそっち」

女「ふぁい!」

兄「よくわからんが……まぁ無事で居たいなら息を止めろ、無事を祈っとけ」

兄「何が起こっても絶対に引くなよ、お願いだからな…本当にだよ!」

女「へ…?」

「し、[ピーーー]ぇっ!」ギチ

兄「ごめんだっつーの!」 ガッ ガキン!


バギバギバギ! ビキィ!


女(ドアが…え? 外れ?)

兄「ほいっと」 がしゃああん!

兄「よし、次に…」

パンパンパン

兄「ッ痛ってぇえええええええ!?」

「はぁ…はぁ…!」

兄「あ、ちょ! 本当にやめてください! マジで痛いんで!」

「なんで! なんで死なない!」

兄「ああ…もうっ…! 手加減なしだから、折れても文句言うなよ!」

兄(秘技・母者直伝、昏倒フィガーショット──イヨーォ! ハイッ!)ぐぐっ ボッ!

「ぐぁああああッ!?」ゴキン

兄「うわぁ!? ご、ごめんマジでデコピンで腕が折れるとは思わなんだ…とりあえず飴あげるからさ…ホントすんません…」

「ひぃいいいい!? なんだお前は!?」

兄「あ、運転手さん。お仲間さんがちょっと、」

「し、しねえええええ!!」

兄「……」

兄「えいっ」

「ぎゃああああああああああ!?」 ボキン

兄(ち、違うんだよ…こうやりたかったんじゃなくて、もっとスマートに…)

ブォンブォン!!!

兄「うぉお!? 揺れるッ…! 早く脱出しないと…ほら、はやく捕まれ!」

女「ひぃいいいいい!?」

兄「気持ちはわかるけど今はビビってないで早く!」

女「きゃあっ!?」ぐいっ!

兄「い、妹ちゃんが言ってましたふたつめぇーーーっ!!」

兄「──抱えた女の子は無傷で着地っすわー!」バッ

兄「とりゃ!」

女「ひゃあああああああああああ!!!! 死ぬるぅうううううう!!」

自宅

妹(昼飯どしよ)ぐてー

妹「アイスだけでいっか…砂糖入ってるしミルクも入ってる高カロリー高カロリー…」モグモグ

妹「────………!」ピキーン

妹(また兄貴が女の子と出会ってる気配がする…!)ババッ


とある空き地


兄「ここまで逃げれば大丈夫だよな、うん、多分」

女「」チーン

兄「えっともしもし? あのー? 大丈夫かなー?」ユサユサ

女「ふぐぇぇぇ」

兄「お。起きた」

女「まみーお昼ごはんまだー…ふぇ…ぶっはぁっ!? ばけばけばけものーっ!」

兄「ひどいなぁ…間違っちゃいない反応だけどさ…うん…」

女「おま、おまままっ」

兄「とにかく落ち着いて下さいな。貴女の危険は一先ず去りました、オーケー?」

女「お、おっげ」

兄「ん。何があったのかわからないし、実際の所知りたくない気がする。いい感じしないからね、まずは…そうだな…」

兄(警察だろうな。明らかに普通じゃなかったし、俺撃たれたし…撃たれたってなんだよ冷静になってみるとやべぇ…)ボリボリボリ

兄「んお?」ボリッ

女「な、なんだ? なんなのだっ?」ビクッ

兄「んー? んんっ? あ、取れた」ポロリ キーン!

女「そ、それは──弾!?」

兄「みたいだね、本物を見るのは初めてだけど…まだ痒いな…どれどれ…」ボリボリ

女「ど、どこからそれを!」

兄「皮膚に刺さってた感じ?」コロコロ

女「…全部?」

兄「全部。あーいて、抜けたら抜けたで痛いよコレ洒落になってないっすわ…」

女「……」

兄(見られてるすっごく見られてる…こういった表情をするやつはいつだってそう…)

女「化け物なのだな」

兄(こう言われちゃうんだよなぁ…仕方ないけどさ…)

女「だが、オマエみたいな化け物はたくさん知ってる」

兄「へ?」

女「私の周りにも【化け物】と呼ばれる人間がいる、ということだ」

兄「……。へーそりゃすごい話だ、俺みたいに拳銃ぶっ放されても死なない人たちなの?」

女「それはないな、オマエだけだ」ウンウン

兄「さよですか…」

兄(まぁ子供が言うことだし話半分に…さて警察に連れて行こう、そしてそれから、それから? あれ?)

女「しかし化け物! オマエは素晴らしいな! …ちっとばかし驚いてしまったが…しかしその優秀さには眼を見張るものがある!」

兄「…………………」

女「我が一族に仕える程の実力を秘めておるぞ! ぐわはっは! 喜べ化け物! 今回の成果を認めオマエを我が城に迎え入れようではないか!」

兄「…………………」

女「フフン、嬉しさのあまり声も出ないか」


兄「あぁああああーッッ!? どう考えても巾着袋取り忘れてるじゃーーーーーーーーんっっ!!!!」


女「ぴぁあああああ!?」

兄「嘘だこんなこと…ありえないそんなワケが…俺は一体なんのためにこんな怪我を…」ブツブツブツ

女「あ、あの…もしもし…?」

兄「ハッ!? おいお前ちびっ子ぉー!」がしっ

女「ひゃい!?」

兄「あの車は…あの車はあの後何処に向かったのかわかるか…ッ!?」

女「あのそのあのっ」

兄「分かるかと訊いてるんだ!」

女「ううっ…ぐすっ…わがびばべん…」ポロポロ

兄「ぬぁんだとぅーーーーー!!! だっはぁーーーー!!」

兄(一生の不覚、途中から目的が変わってたから、巾着袋のこと頭からすっ飛んでた…変な気を起こすんじゃなかったぜ…)グググッ

女「っ……」ゴシゴシゴシ

兄「今から追いかけて見つけられるか…? いや、無理に決まってる。それに警察に届け出出してもいつ戻ってくるか…」ブツブツ

女「うぅーっ! 私の話をきけばかものーっ!」げしっ

兄「オゥ! …ちょい黙ってなさいお嬢ちゃん、お兄ちゃん今凄く考え事してるからね、うん」

女「…! そんなにあの巾着袋が大切なのか!?」

兄「大事だよ! ぶっちゃければアンタより大切だ!」

女(ひどいっ)

女「ふ、ふん! しかし家来の悩みも解決させることもまた主君としての役目ッ……聞いて喜べ化け物よッ!」バッ!

女「──我が一族の力を持ってして、オマエの私の命よりも大切だというその巾着袋! オマエの手に戻してやろうではないか!」

兄「はは、面白い冗談を言うなぁ」

女「冗談ではないぞ!? ちゃんと最後まで聞け化け物! いいか? オマエの持ち物は私の持ち物でもある、だったら探すのは簡単だ!」

兄「? 言ってるイミフだけど…とにかく俺の巾着袋見つけること出来るってこと?」

女「無論だ!」

兄「…………」

女「な、なんだ?」

兄「…条件があるとか言わないよな?」

女「そ、そんなワケないであろうー? ワハハ、気高き我が一族にそのような下賎な思惑など」くぅう~

く く くぅ~





女「…おなかがすきました…」ポロポロ

兄「はぁ~」


ファミレス


女「なんでこれはっ!? うまいな! なんだこれ!」

兄「ハンバーグだ。食ったことないの?」

女「肉汁ぶわーっ! って! なになにこれこれ!」

兄「………」

兄(とりあえず近くのファミレスに連れてきたけど…何を聞いてもぼろぼろ泣いて会話してくれないし…)

女「んふふ、んふ、この緑色の固い奴なんていうのだ?」

兄「ブロッコリー」

女「ぶ、ぶろっこりー…?」

兄「うん」

女「ぶろっこりー! あはは!」

兄「あはは…」

兄(はぁ~なにか嫌な展開になる気がする…こういった時絶対に変なことがあるんだよな…)

兄「本当についてないな俺…」

女「おいしぃ」

兄「……そういえば」

女「なんだっ?」ニコニコ

兄「……。いやなんでもない、溢れてるよホラ」ふきふき

女「むぐぐ」

兄(どうして誘拐みたいなことになってたんだ、なんて、気軽に聞いちゃダメだろな)

兄(どの家庭にだって問題はあるさ、今回は自分の常識とは桁違いなことが起こっただけ。何も変わらないよな、どの家も)

兄「ん」prrrr

兄「あーもしもし、兄貴兄貴。え? さっき電話が来た? まあ先生だろうな…」

女「もぐもぶへぇあぶぅぅー!? な、なんだこれまっずぅー! これまっずぅー! ぺっぺっ! みどり色のちっちゃいやつナニコレ!? ぶひゃー!!」

兄「変な声が聞こえる? いや気にしなくていいよ、俺も気にしてないから」

女「………」ひょい ぽとっ ひょい ぽとっ

兄「先生には後で説明するから──ってコラ好き嫌いせず食べなさい、大きくならないぞ」

女「そのちっちゃいやつマジマズだから、いらん…」

『兄貴、今どこにいるの』

兄「へ? いや、それは…」

『教えて、今すぐに。兄貴の側にいる奴の名前と特徴、それと住所を教えて』

兄「ちょちょっと? 妹さんや、何をそんなに切羽詰まったかのように…兄ちゃんサボってないよ? 色々と理由があって補修間に合ってないだけだよ?」

『じゃあどうして女の子の声が聞こえるの。会話してるの。意味がわかんない、説明どうぞ』

女「どうしたのだ?」

兄「うぐっ、どうしたもなにもこの状況をどう説明したら良いんだか…」 チラリ

『兄貴。早く教えないと補修サボったことお母さんにチクるよ』

兄「背丈は百五十、髪はウェーブがかかっててワカメみたい、瞳がパッチリで白いワンピースを着てる」

『了解。住所と名前は追々』

兄「いえすまぁ~む…」

『早く帰ってきなよ、晩飯、作ってあげてるから』

兄「甘口カレーが良いな兄ちゃん…」

『わかってる。じゃあね』

兄「…はぁ~お嬢ちゃん。生きて家に帰れたらいいな」

女「な、なんでそんな怖いこと言うのだ!?」

兄「怖いからだよ、俺の妹は凄いんだ、無敵化け物不死身言われてる俺でも勝てる気がしない人間の一人だよ…」

女「オマエよりも怪物なのか!?」

兄「怪物言いなさんな。傷ついちゃうからな、一応お年ごろの女の子だからさ」

女「ど、どうしてそんな恐いやつに私が狙われなきゃいけんのだ…?」

兄(それはどうしてだろう? たまにそうなるんだよな、アイツ)

兄「ま。いいよその時になったらちゃーんと説明してみるから、出来なかったらゴメン、諦めてくれ」ペコリ

女「まもれよーぅ!」ジタバタ

兄「アンタより妹が大事。家族一番、おーけー?」

女「………」

兄「うん?」

女「…家族は大事だな、それはわかってる」

兄(えなにこの空気、地雷踏んだの俺?)

女「……」モグモグ

兄「え、えっと~なんだその、あれだ! そろそろ聞いちゃってもいいかなー? 巾着袋のことさ~?」オドオド

女「う、うむ。それは平気だ、オマエが私の家来であるかぎり絶対に完遂させてみせようではないか」

兄(家来…?)

兄「まあ見つけてくれるって言うのなら文句もないけど…こうやってのんびり飯食ってて良いのか?」

女「大丈夫じゃないな」

兄「オイ…」

女「いや、オマエの巾着袋は大丈夫だぞ。既に我が一族に仕える家来が人狼家の連中の車を確保してるだろう…」

兄「えっ?」

女「場合によっては破壊されてる可能性もあるが、それはいい。爆破はするなと命令している、巾着袋は無事に違いない」カチャン


女「──大丈夫じゃないと言ったのは、つまり、私がここに居るということだ」


兄「つ、つまり?」

女「私には目的がある。だからこうやって助けを呼ばずオマエの側にいるのだ、そもそも私は【外に出てはいけない身体】なのだから」

兄「…………」

女「我が一族に伝わる言葉があるのだ。それは【決して太陽を見ては駄目】というもの」

女「…私はこの世に生を受けて未だかつて、太陽たるものを拝んだことがない。おかしな話だろう? 私は今までずっと城に閉じ込められていた…」



「きっちり閉められた窓、そして厚手の遮光カーテン。仄暗い重圧な空気が漂う室内で、独り私は生きていた」

「先々代、また遠くの時代からそうやって我が一族は続いてきたのだ」

「だがな、私は思うのだ。それは間違いではないかと」

「いかに重要なものであったとしても、私は素直に受け取ることは出来無い…例えそう…その言葉が大切な家族…」


女「私のお父様の言葉であったとしても…どうにも納得など出来ないのだ…」

兄「コーヒーお代わりで」

店員「ありがとうごいますー」

女「コラーッ! ちょ、こらぉ!? けっこう大切な話してたぞ私!?」

兄「ずず…」

兄「ふぅ。まぁ色々とあるんだなーてな感じで聞いてたよ、途中から嫌な気がして聞き流してたけど」

女「なぜだー!?」

兄「いやだって、俺に手伝えって言いそうだったから」

女「うぇ…やってくれんのか…?」

兄「太陽を見ることを? うん、見るなって言われてるんだったら見ないほうがいい。無理しないでさっさと家に帰ろうじゃないか」

女「むぐぐっ! それでもオマエは家来なのかっ!?」

兄「さっきからその家来ってなんなのさ…」

女「そりゃーもちろん! 我が高貴なる血族! 【ヴァンパイア】に仕える身のことだ! それがオマエだ!」

兄「ヴぁん…なに?」

女「ヴァンパイアだ! わかるだろ、ちぃー吸うやつだ! じゅるるうってな! じゅぞぞーって!」

兄「そういう設定?」

女「設定!? なんなのだ設定って!?」

兄「たまに妹とやるよ、ゲームやってると興が乗って勇者ゴッコするし」

女「ごっこーーー!? 違う違う違うちっがーーーーう!! ごっこじゃないモノホンなのーーー!!」バンバンバン

女「そしてッ! 私を攫ったのは狼の一族のやつらなのだ! がおーっ食べられてしまうところだったのだぞ!?」

兄「すみませーん、この子にもジュースおかわりでー」

女「って、きけぇえええええい!!」バン!

兄「さっきから何を言ってるのかさっぱりだけど、改めて言わせてもらうが、家来になったつもりなんて無いからね…」

女「えぇーっ!? だ、だって私喜べ家来にしてやるぞって言ったのに…」

兄「おいおいおーい、勝手すぎるよー。あのね、別に誰彼家来にされても喜ぶわけじゃないだろ、ちなみに俺は喜ばない」

女「んなわけないぞ! 皆この世で不必要なまでの力を持つものは、誰だってよろこんで仕えた! だからお前はきっと私と同じような──」

兄「違うっつの」

女「な、なぜそこまで頑なに…!」

兄「よくわからないことを押し付けるでないわ。第一、俺はお化けとか妖怪は信じてない」

女「…じゃあお前は何者なのだ…」

兄(なんか変な子と出会っちゃったな…そろそろすきを見て警察に電話するか…巾着袋は今は諦めよう…)

兄(このまま会話してたって解決するわけじゃないし…うん…トイレ行くふりして電話するか…)ガタリ

兄「ま。とにかく込み入った状況なのは理解したから、俺はこれからトイレに行ってくる。ここで待って──」


メイド「はい、行かれてどうぞ」 スッ


兄「──……何?」

メイド「……」

兄「うぇ? は、はいっ?」

メイド「ご機嫌麗しゅうお嬢様」

兄(いつの間に──気が付かなかった、目の前に、ワカメ頭の嬢ちゃんの隣に座って、)

メイド「探しましたですよ。人狼家一族に攫われた後、作戦ポイントに車が到達せず」

メイド「まさかこのような下賎な場所にて食事を取られているとは思いもよらず、一生の不覚であります」ぺこり

女「な、なぜここにっ!」

メイド「何故とは?」 キョトン

女「ううっ!?」

メイド「成る程やはりそうだったのですね。些か出来た話だったのですよ、あの脳筋アホ共がこうも警備網を?い潜り…」

メイド「追ってから上手く逃げおおせたのはお嬢様が……このメイドことマミー、一杯食わされたというやつですね」

兄「……」

メイド「御仁、お嬢様を救出していただき誠に感謝を申し上げます」 スッ

メイド「あとはわたくし達にお任せください。お嬢様は無事に城へとお連れします」

兄「…その失礼だと想いますが」

兄「その、彼女とはどのようなご関係で?」

メイド「見ての通り、主従関係であります。お嬢様に仕えさせていただいおります──名前は『マミー』」

メイド「ですが気軽に、メイドとお呼びください」

兄「は、はあ」

メイド「さてお嬢様」

女「な、なんなのだ」

メイド「お遊びはここまでです。さあ、帰りましょう」

女「うぐっ」

メイド「ご帰宅後には幾つかの儀式を行わければなりません。清めは大切な日課ですよ、それでは行きましょう」

女「…いやだ」

メイド「?」

メイド「えっ? すみません、もしや──『いや』と仰られましたか? ん?」

女「………」ビクン

メイド「まさか。そのようなことはないでしょう、ではもう一度申し上げます。帰りますよお嬢──」

女「い、嫌だといってるのだ!!」ばんっ

女「わ、わたしはっ…絶対にかえらん、あの城には絶対に…!」ぷるぷる

兄(ああ、机を叩いて手が痛いんだろうな)

女「私はまだ、なにも見ていない! 未だ空には雲が張られっ…私はただ…それだけを求めここまできた…っ!」

メイド「………」

メイド「各捕獲部隊、展開せよ」

ザザザ!!

兄「うぉおお!? な、なんだ!? 客が全員立ち上がって!?」

女「!」

メイド「お嬢様、我儘はいけません。それは重大な違反であります──『太陽』をみることは決して許されてはおりません」

メイド「先代のお父様の遺言ではありませんか」

女「ぐっ…そんな、そんなものは知ったことではない! 私は見たいのだ!」

女「太陽をっ…この目で、確かに見たいのだ…!!」

メイド「…捕獲」

女「ううっ…! 助けて───」


女「──ちょいこら助けんか化け物っ!!」ぐいっ


兄(そーっとそーっと…うわぁ!?)ゴロン

メイド「…!」ピタ

女「ばかものーっ! 何をそーっと逃げ出そうとしておるのだぁー! んー!?」

兄「い、いやいやいや…おもくそ関係ない空気じゃないっすか思いっきり他人の庭の話じゃないか…」

女「それでも私の家来か! 我が主が困っているんだぞ!?」

兄「だから家来じゃないってば…」

メイド「貴方は、」

兄「待った!」

メイド「…」

兄「わかってます、ええ、全然お呼びじゃない空気って分かってて口を開いてます…」

兄「…ただちょっと、一言言いたいなぁと」

メイド「認めましょう」

兄「ありがとうございます。えっと、あのーこの娘ってただ太陽を見たいだけ、なんですよね?」

女「っ…っ…!」こくこくこく!

兄「どのような理由でダメなのか、ていうのはさっぱりですけどそれぐらい良いんじゃないですか?」

メイド「お嬢様から話を聞かれたのですか」

兄「いやぁ得には。別段なにも聞かされてるわけじゃないですけど…」

兄「あ、敷いてあげればヴァンパイアの───」


ビュゴォ!


兄「あっぶッ!?」ヒョイ

メイド「い、今……なんと言ったのですか……!?」ブルブル

兄「急に殴ってくるとか危ないだ、ろ……へ?」

兄「えっ」

メイド「今、今、今! 貴方はっ…ああ、なんてことを…!!!」

兄(なにこれ。凄く怒られてないか、女の人愕然としすぎちゃって膝ガクガクしてるし、嘘、なんか言った俺?)

メイド「──黒服! まずはこの男を捕まえなさい!!」

黒服「御意」 ザザザザザ

兄「……」チラリ

兄「はぁ、あのさ。俺なんか変なこと言いましたかね…? 言ったのなら謝りますし、土下座だって…」

女「はは、わっはは! いいぞいいぞ化け物よ! オマエの活躍する状況を作ってやったぞー!」

兄「黙らっしゃい! ったく、取り敢えず助けてみようかと思った俺が馬鹿だった…とりあえずアンタの手助けぐらいはーなんて思ってれば…」

黒服「大人しく来てもらおうか」

兄「…嫌だよバカ」


ギチギチ! メキィ!


兄「連れて行きたいなら力尽くで来い。めげずに抵抗してやるぞ、どうした、こっちは生身で学生だぞ、ほれほれ」チョイチョイ

黒服「…」スッ

兄「……」


シーン


女「ご、ごくり…」

兄「どしたよ、来ないのか?」

黒服「…」ジリ

黒服「…」ジリジリ

兄(あと一歩来い、そうだ警戒しながら更に一歩詰めてこい──そうそうそう…それでいい…)スッ

兄「──はぁあああああッ!!」


ボッ! ガッシャアアアアアアン!!


黒服「なッ!?」ビクッ

兄(死角から机を上空に蹴り上げ注目度を下げる──イッてぇええええ脛打った脛! うごご、だが視線が飛んだ机に向かってる内に…ッ!)ババッ

兄(ファミレス特有のデカイ窓をぶち破って逃げる! )

兄「わはは! ばーかーめー! このまま逃げおおせてみせるわッ!」だだだっ

女「あーっ!?」

兄「とりゃ」バッ



───しゃりしゃりしゃりしゃり…



兄(ん。なんの音、)


しゃりじゃりじゃりじャリジャリジャリシャキンシャキン!!!!!


兄(だろぶッッ!? はぁッッ!!?)ギュン ゴッ! どて…

兄「かはァ…ッ!? ぐっ、なんだ背中に何か当たって…!?」

ジャリ ジャリッ


兄「んっ?!」バッ!

メイド「……」

兄「アンタどうやって今、っ!?」


──ジャキン!


兄(!? なに、血が出て頬に傷? いつの間に、つか何のさっきから何の音だコレ…)タラリ

メイド「気にすることはありません」

兄「ど、どういう意味でしょうか…?」

メイド「後悔やら苦悩、わたくしの前では全て関係無く散っていくもの」 ギャリン

兄「痛ぁ!?」

兄(わ、わからん! なにされてるんだ俺! …とにかく切られてるってことは、なんとなく理解したけど…!)

兄「とにかく痛ぇ…凄く痛いよ…」ズキズキ

メイド「何をどうやっているのでしょうか」 スッ

ジャギャン ギャリギャリギャリギャリ… ビン!

メイド「わたくしのほうが興味深くなってきておりますよ、貴方」

兄「なにがですかねー!?」

メイド「……。無意識で避けているのですか、驚異的な反射能力ですね」

兄「だから何を言って、うぉおお!? なんだよ意味がわからない! なんで怪我してるんだ俺!」 ヒョイ

メイド「殺しはしません」

メイド「ですが、瀕死状態にはします。ご覚悟を」

女「おい! 化け物!」

兄「ちょ、ちょっと待って。今アンタと話してる暇、ないっ、なんだよ、こっちは今立て込んでて──」

女「えいっ」ぽいっ

兄「うおっ!? な、なんだこれ…ケチャップ…?」

女「今だ! 目の前に投げるのだ!」

兄「投げっ? もういいえーいっ!」


ぱしゃああああああああ!!


兄「うわぁ!? なになに!? はじけ飛んだ!?」

メイド「…!」

兄「って、え? これなんだ…空中に模様っていうか…線…?」

女「『芳香族ポリアミド系樹脂』ッ! 通称ケプラー繊維と呼ばれる…なんだその…ピアノ線みたいなものだ化け物!」 

女「それを高速に撓らせ、皮膚を裂き血を流させる!」

兄「…アリですかそんなの…」

女「ありだばかもの! そもそもこの糸自体! ケプラー繊維と一応呼ばれているが重合体を黄金比率で仮想に組み立てて紡ぎ上げたトンデモ級のシロモノだ!」

ギャリギャリギャリ!

女「うひぃっ!? 透明だし柔軟性に飛んで水にも弱くもなけりゃ鋼鉄より強度はある! あっはー! マジやばいぞー!! こりゃ小型水素爆弾も夢じゃなーい!」キラキラキラ

兄「何をそんなに楽しそうにッ!? あぶぶっ!?」ヒョイ

女「実践で使われるのを見るのは初めてなのだ! なんという無駄な科学の結晶…ッ! うんうんうん! 実にすばらすぃーじゃーないかー!」

メイド「お嬢様お戯れを」ペコリ

女「うむ! 実によい仕上がり具合だ、マミー。オマエに渡して心底良かったと思えるぞ、わっはっは!」

メイド「お褒めいただき有難き幸せ」

兄「あのーっ!? そろそろ攻撃やめてもらってもいいですかなー!?」ババッ

女「たわけ化け物! その程度の猛攻など恐るに足らん! ケチャップにより軌道を読むのは容易くなったであろう!」

女「──元よりケプラー繊維は防護服に使われる糸だ! 糸自体に脅威はない、振るう者こそが糸自体の殺傷能力を高めておる!」

兄「けほっ、なるほど…! じゃあメイドさんを黙らさせれば良いってことね…!」ドッッ

メイド「……」

兄「おるぅあッ!」ブン!

メイド「甘い」ギャリギャリギャリ

兄「っ……!?」

クィ゙ン! 

兄(身体が動かッ、なっ!)

メイド「既に貴方の身体は『包帯グルグル』なのですよ。暴れ躱すときにはもう、貴方は引きずり込まれていたのです…」

メイド「棺桶に片足を」ギュリ

兄「うごっ!?」メキィ

兄「うぐッ…いつの間に身体にこんな糸が沢山…ッ!?」メキメキメキ

メイド「先ほどのわたくしの貴方の前に現れた時、心底驚いていらっしゃいましたね」

兄「そ、それがッ…んだよ…!?」


メイド「わたくしは訓練により、『人の視界』というものを読み取ることが可能なのです」

メイド「仕草、眼球の動き、対話する人間、性格性、性別、体格」

メイド「それらを踏まえた上で稼働できる視界を判別し、把握することが出来る」


メイド「──つまりはこの状況は、貴方がその程度の視界でしか物事を捉えきれなかったという事実なのですよ」

メイド「驚異的な反射と勘で避けているようでその実、視界外からの攻撃には太刀打ち出来ない…」スッ

兄「ぐっ!!」

メイド「貴方はわたくしを捉えようとした…その汚れた手で…まずは無力化を狙った…しかし貴方という下賎な人間を引き込む罠だった…」ボソボソ

メイド「クスクス…どのような気分なのでしょう無様に釣り上げられる者の気持ちというのは…」


メイド「──ミイラ取りがミイラ、よくお分かり頂けたでしょうか?」


兄「…っ…!」ギギギ


女「ば、ばけもの…」

メイド「さて無事に不埒な人間も確保しました。では、現場を整え城へと帰りましょう」

女「うっ…」

メイド「お嬢様。もう無駄な抵抗はお止めに為られて下さい、大人しくわたくしたちの車に」

女「い、嫌だと言ってる…!! もうあの城には戻りたくはない…!!」

メイド「お嬢様、出来ればわたくしにどうか『糸』を使わせないでください」ギャリ

女「うっ…だ、だって…私は…うぐ…」

メイド「だっても糞もありませんよ、速やかにこの場の整理も行わなければなりませんし」ギリリ

兄「…っ」

メイド「この者の尋問を執り行わければ。良きご理解を申し上げます」ペコリ

女「……」ギュッ


兄(だぁーもう嫌だ~…こういったこと【何度目】だよ全く飽々しちゃうよ…)

兄(勝手に話推められてるし、俺置いてけぼりだし、何処か連れて行かれるみたいだし)ショボーン

兄(…晩飯までに帰れるといいなぁ…)


prrrrrrrrrr


メイド「む?」

兄「!」

メイド「……。貴方の携帯ですか」

兄「げほこほっ! そ、そうだよ…出てもいい感じですかね…っ?」

メイド「余計な手間と人数を割くことに為らなければ宜しいですが?」

兄「はいはい…助けを呼ぶなってね…わかりましたよ…」

『もしもし? 兄貴?』

兄「ちょっと首の締め付け弱めてくれ…喋りにくいって」

『…兄貴?』

兄「お、おう。俺だよー愛しの兄ちゃんだよーでへへ」

『やっぱり切るね、バイバイ』

兄「冷たいなコノヤロウーあははー、いやまって、何の用事?」

『手間取らせないで面倒臭いから。あのね、今日の晩御飯作ってあげる言ったでしょ?』

兄「あーうん、滅茶苦茶楽しみしてるよ?」

『それ無理っぽい』」

兄「えなんで?」

『…切っちゃった』

兄「えっ」

『包丁で指切っちゃったから、ダラダラ血が出て、痛いって言うかさ』

兄「……………………」

『実は気が遠くなってるんだ、電話越しの兄貴の声小さく聞こえるんだー…』

『こうなったらもう作れないよね。その前に生命危ないかも、大変だよ…あ…お父さんが見える…わーい…』

『ふわぁ~…ということでムニャムニャ…ぶっちゃけるとヤル気めちゃ削がれたから作りたくない、以上』ブツン

ぷーぷー

メイド「終わりましたか?」

兄「…………」ポトリ

カシャン

メイド「何を話されていたのか判断しかねますが、通話を終えたのであれば連行させていただきます」

メイド「黒服、車の用意を」バッ

兄「……………」

女「ば、ばけもの!」たたっ

女「あ、あのな…オマエを巻き込んでしまったのは申し訳ないと思う…本当だ…後で幾らだって謝るぞ…」

女「だ、だがな! 私は主だ、そしてエライ! オマエの尋問も優しくしろといえば優しくしてもらえる…だから、その…っ」

兄「…ああ、なに、良いって」スッ

兄「別に嬢ちゃんは悪くない」ナデナデ

女「ふぇ…だ、だって…」

兄「泣くな泣くな。何時だってそうだろ、こうやって捕まって呑気に状況に流される方が駄目なんだ」

女「うっぐす…え…っ?」

兄「海水浴場の時もそうだった…妹の浮き輪拾いに行ったら流されて…山に遊びに行ったら蛇に襲われかけた妹を助けて…」

兄「バッドで遊んでいた妹の一撃が頭ぶち当たっても…あぁ、俺がやっちまってそれから得た状況だ…全部全部…俺が悪かったんだ…」


兄「ならどうして今回はアイツが指を切るはめになった…? そう、こりゃ俺が無様に捕まっちまってるからだァ…!!」ガキン!

兄「補修に出て無事に家に帰ってれば俺が作れてた…心配させずに美味しい晩御飯作ってやれた…!」ミキミキミキチィ…


パン! ブチ! ピュアッ! ボヂッ!

女「……」

女「え、うそ、そんなワケ、えっ?」

メイド「お嬢様車の用意が出来、……………ッッ!!?」


兄「あぁそうだよなァ…! なーんにも悪くねェ! 嬢ちゃんも、それに俺を縛りつけたアンタも悪くねぇーなァ……!!」ブチブチブチッ

兄「妹ちゃんの側に居て甲斐甲斐しく料理を作っていたあの場所にッ! 俺がいなかったことが何よりも悪いッッ!!」


    ズッぱぁああああああん!


兄「──だから家に帰らせてもらう、以上」


女「おっほおおおおおおおおお! かっちょいいぞ化け物ぉーーーーー!!」キラキラキラ

メイド「ば、ばっ、馬鹿なッ! 鋼鉄より五倍も強度があるものを筋力だけで、まさかそんなコトが…!?」

兄「…昔に妹ちゃんが言ってました」


『兄貴、お、おねしょしちゃった…お母さんに隠しておきたいから布団を滅茶苦茶に引きちぎって…お願い…』


兄「以前! そう言われて粉々になるまで千切ったことがある! 言葉通り文字通り! 千切って千切って繊維になっても千切って!」

兄「──己の指先だけで千切り倒して、一枚の敷布団を『粉』したことがな…」

メイド「は?」

兄「あれは得も言えぬものだった…おねしょしてる部分に触れる時…時間が立っていたとはいえ不思議と暖かさを感じたものだ…」

兄「つまりは俺に不可能ない。妹の為になら、鋼鉄の五倍とやらも引き千切ってみせる!」

女「確かに引き千切ってるぞ! すごいすごい! ライフルの銃弾すら編めば防ぐと言われる糸をこうも容易くな!」

兄「おうよ!」ニカリン★

メイド「ば、化け物…ッ!!」

兄「あぁそうだ俺は化け物だ! 実に清々しいね、妹の為に体を張って生き様を誇る今はどーんなこと言われちゃっても気持ちが良いもんね! っと」


兄「よいしょおおー!!!」バッチイイイイイイイン


メイド「っ!?」

兄「…【やったな】? また【視界外から攻撃】を? 今掴んでやったぞ、この手で」ギチギチギチ

メイド「『糸』をッ……は、離しなさい…っ…何故わかったのですか…!?」ギャリ

兄「バカ言え。言っただろ今の俺に不可能はないんだ、その死角から来る一撃など────」


ぎょろぎょろぎょろぎょろぎょろぎょろ


兄「──高速に動かすことを許された眼筋パワーには、無きに等しい」ぎょろぎょろぎょろぎょろぎょろぎょろ

女「えキモッ!? なにそれキモいぞオマエー!? ぎょろぎょろしてるー!! オマエ、ロボットだったのかー!?」

兄「イマナラ、ドンナイチゲキ、ツカマエル」

女「ロボだー!」

メイド「くっ!」ギャリギャリ

兄「どっこいしょー!」バチィン

メイド「そんな、ことがッ! あってたまるものです、かッ!」ビュインビュイン!







兄「はいっ」ガシッ

兄「ほいっ!」パシッ

メイド「っ……そんなわけがあるわけがないないないないないッ!!」

メイド「うわぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁッッ!!!」ググググッ グバァッ


しゃりしゃりしゃりしャリシャリシャリジャリジャリジャキンッ


兄「…」スッ

兄「──大切なモノを守る為、何かを必死に『掴み留めるため』に…」ギュッ


シュバァァァァアアアアアアア!!


兄「アンタは、その糸を振るうのだろう」メキィ!

兄「だがな、俺にも『それ』がある。何よりも必死に『守りたいモノ』がいるっ!」

兄「互いの思いは決して分かり合えないに違いないッ! しかしッ! だからこそ俺はアンタに抗ってみせるッ!!」


シュバア──バチン!


兄「妹の怪我した指をぺろぺろするのは俺だァアアアアアアアアッッ!!!!」グゥイン!

メイド(掴んだ糸をッ、引っ張ら、れッ!?)グッ

兄「ふんぬぉおおおおおおおおおおおおおッッ!!」グォオオオ

メイド「きゃあ!?」ピョイーン

メイド(地面に叩きつけられるッ──受け身、いや防御態勢を──)バッ

兄「…ッ」ズィッ

メイド(ッ!? 落下地点に既に来てッ、まずいッ! 追撃を許してしまっ!)

メイド(お、お嬢様申し訳ございません──)ぎゅっ



兄「よっと」トン

メイド「ふぇ?」ポスン



兄「あっぶねー間に合わないかと思った間一髪…」フィー

メイド「何、故…?」

兄「なぜ? いやいや当り前じゃないっすか、あのまま地面イッてたら顔面滅茶苦茶でしたよー?」スッ

メイド「……」ストン

兄「せっかく綺麗な顔してるのに、嫌じゃないっすか。そんな貴女を傷つけることするなんて」ニコ

メイド「き、綺麗だななんて…わたくしの顔は包帯で隠れて…」

兄「解けててますけど?」

メイド「えっ…あっ…」ババッ

兄「どーして隠してるのか分からないですけど、もったいないなぁ。最初から『ちゃんと見えていたら』こうも暴力に訴えることもなかったのに」

メイド「っ……最初から手加減をされていたと…? なぜ、わたくしは貴方を半ば本気で殺そうとしましたのに…」

兄「? えーまぁ~? ごほん、昔妹に言われたんですよ」

『兄貴。兄貴は特に理由もなく強いから、だから私みたいに可愛い女の子を守らなきゃいけないんだよ』


兄「俺、意味もなく強いから。強くなる理由もなく化け物と呼ばれるから、ちゃんと『理由』が無いと駄目らしくて…」

兄「妹に女の子を守る為に強いやつなんだ、なんて、そういう風にバカの一つ覚えで捉えとけと言われたんです」

メイド「………」

兄「ま、そんな感じです。分かってもらうつもりもないし、無事に済んだのなら妹に怒られないでおっけーということで!」

女「オイ待つのだ。じゃーなぜ私を守ろうとしないのだーーー!!」

兄「いやもう守ったじゃん…今は家に帰ろうとしないただの駄々っ子じゃん…」

女「た、たしかに!」ガビーン

兄「だろーが、なのでもう嬢ちゃんは帰りなさい。お家の人がお迎えに来ましたよ、ほら」

女「うぅー! いやなのだいやなのだーっ! 太陽みたいみたいーぃ!」ジタバタ

兄「ま! この子ったらまー図々しい! …良いから行けっての、心配する人の気持にもなれよ馬鹿」コツン

女「ふぐぇっ」

兄「そういうことで、色々とやってしまったけれど。話をすることがあるのなら、また後日…ってのはアリですかね?」

兄「妹のこと、結構心配してるんで!」

メイド「……」

メイド「お嬢様、この方はどういった経緯で出会われたのですか」

女「んお? そりゃもちろん人狼家に攫われそうになったところ、拳一つで助けられたからだぞ?」

メイド「……っ…何故ソレを先に仰られないのですか……てっきり放置されていたお嬢様を拾ったとばかり……」

女「そりゃマミーがいきなり連れて行こうとするだからだろーッ! あと急にブチ切れるのが悪い!」

メイド「い、いきなり仕える主の【秘密事項】を口に出されれば…! わたくし達も本気に為らざるを得ません…!」

女「ま、まあ…私が口を滑らせて言ってしまったからな…」

兄「ヴァンパイアのこと? え? あれマジなの?」

女「マジって言ってるだろ!」

メイド「お嬢様っ!」

女「わ、わかっている! 違うぞ? あれうっそぴょーんってやつだ! わはは! まんまと騙されおったな!」

兄「はぁ、もうなんでもいいよ。こっちは帰られせて貰えればそれで…」

メイド「お、お待ちになって下さい…!」

兄「ん?」

メイド「貴方は本当に何も知らずお嬢様を助け…そしてご兄妹の約束を守るためにわたくしを傷つけなかったと…?」

兄「んー……だって、」


兄「兄貴だし、それが普通だろ?」


メイド「───………」

メイド「この度は数々のご無礼お許し下さい、お兄様」スッ ペコリ

兄「お兄様っ!?」

メイド「メイドこと、このマミー。お嬢様の命の恩人でありながら、なんという無様な言動をしたのだと深くお詫び申し上げます」

兄「い、いやいや! こっちも色々とね? うん! 行き違いもあったなーなんて分かってたし! うん!」

メイド「有難きお言葉、痛み入ります」ペコリ

兄「うっ…」

メイド「ですがこのマミー、貴方のように出来た人間ではなく主に仕える身であり自由の効かない…言わば肉奴隷なのです」

女「もう少し言葉選べマミー」

メイド「しかし貴方にはお返しすべき多大の恩があります」スッ

兄「え…」くいっ


メイド「──我が命、今ここに貴方と共に連れ添うことを誓わせて下さい」チュッ


兄「づぉおッ!? なんで急に手にき、キス…を…!?」

女「あーーーーーっ!? おま、勝手になにしとるんだーーーーーーーッ!?」

メイド「仕方ありませんよね、だって主変えなきゃ恩返せないですし」

女「なにそれ超軽くない!? ばかものーっ! わ、私が認めれば良い話だろー!? 主わざわざ変える必要ありましたかー!?」

メイド「いえ無理な相談です。お給料安いし」

女「そんな理由でやめられても困っちゃうぞ!? しかも結構ふんだくってるだろオマエー!?」

メイド「はて?」キョトン

女「さり気なく袖から見えた高そうな腕時計はなんだと言ってるぅうううううう」

兄「あ、あの…メイドさん…?」

メイド「お兄様、わたくしマミーと申します」ペコリ

メイド「貴方は既にわたくしの主。それなりの呼び名でお呼びください、そう例えば──マミー姉ちゃん、と」ニコリ

女「主従関係まったく関係ねぇえええ」

兄「姉か…」フム

女「オイ化け物ッ! 何を考えとるぅー!? オマエ本気でマミーを従えるつもりか!?」

兄「いや姉ってのも悪くないなって…」

女「ダメだコイツ頭おかしいぞ!?」

メイド「おい嬢ちゃん、我が主馬鹿にしてっと目ん玉くり抜くぞ♪」

女「うばぁー!? さっそく蔑ろにされとる! 泣いちゃうぞ!? 私思わぬ家来の謀反にボロボロ泣いちゃうぞ!?」

メイド「あそこに紙が沢山ありますよ?」ニコ

女「拭いてーっ! やだやだ紙ナプキンで拭くの寂しい優しくハンカチで拭いてーっ!」

兄「………」

メイド「? 何でしょうそのように見つめられると少し、いえ物凄くムラムラします…」

兄「い、いや待ってくれ、アンタ何考えてるんだ?」

メイド「なにを、とは?」

兄「少しやりすぎというか出来すぎに感じる…なんか目的があるだろ、絶対に」

メイド「……」ペコリ

兄「つまり…?」

メイド「どうかこの哀れなメイドの願いを、一つのお願いを聞いてくださいまし」


メイド「──お嬢様の願い、この少女の『叶えてはいけない想い』をどうか叶えてくださいませんか」

兄「それは…」

メイド「はい。知っておられるでしょうが…お嬢様は先代の遺言により『他の世代よりも禁止事項』が多くあられます」

メイド「【太陽を決して見てはいけない】……これもまた数多くの内の一つ。お嬢様が生きていく上で、重要なモノ……」スッ

女「……」しょぼん

兄「けど、どうしてアンタがそれを願う? 駄目なら止めるべきであって、俺に頼むべきことじゃないはず、だよな?」

メイド「ええ、その通りです」


メイド「ですから『守る存在』から『応援する存在』になる為、貴方を主と認めたのですよ」

メイド「先程も申しました通り、わたくしは縄で繋がれた一匹の犬…もとり操り人形と化した一体の【マミー】…」

メイド「私情だけで動いては成り立たない身分な上、このメイドの命の価値とは吹けば飛ぶような軽いモノ…」


メイド「我が主よ。たった一粒の砂の価値にも満たないメイドの命を、貴方に差し上げます」

メイド「どうか何卒、彼女の小さくとも許されない『願い』を…どうか何卒…」スッ


女「マミー…」

兄「…そういうこと頼まれても…」ポリポリ

メイド「駄目、でしょうか」

兄「……」

兄「アンタはこのワカメ嬢ちゃんのこと、大切なんだって分かる…単純に叶えてやれない立場だってことも」

兄「だからこそ聞いてみたい。何故、そんな大切な奴の願いを出会って間もない俺に頼むんだ?」

メイド「それは単純なことですよ、お兄様」

兄「単純?」

メイド「はい。何故かと訊かれれば、もはやそれは」


メイド「女の勘、ってやつですね」ニコリ


兄「……。はは、なんだそりゃ」

メイド「侮っては困ります。女の勘というものは時によって虫の知らせよりも優秀さに遅れを取らないどころか、格上の万能性を秘めておりますよ」

兄「そりゃまた言い切ったな。でも、アンタがそこまで真剣な顔して言えるのなら…少し納得できそうな気がする」

メイド「で、ではっ?」

兄「けど言わせてくれ。アンタが望んでも俺が本当に太陽を見せれるか分からないし、上手く行くかも分からない」

兄「俺はこう見えて案外、人間っぽいことしか出来無いぞ。頼まれても結果はご期待に添えない可能性だってある…」スッ

女「ふぬぇっ」ポンポン

兄「…それでいいのなら頼まれてやってもいい。俺に出来る事があるのなら、精一杯やってみるさ」

メイド「………」スッ

兄「んお?」

メイド「我が主よ、貴方の言葉に我が命を捧げることを今ここに…」

兄「んな大げさな…てーいうか? 別に本気でアンタのい、命ほしいってワケじゃないっすからね! 勘違いしないで!」

メイド「ツンデレですか?」キョトン

兄「馬鹿な!」

女「…話は終わったのか?」

兄「ああ、なんか嬢ちゃんの願いを叶えることになっちまったよ。太陽見たいんだろ?」

女「みたいぞっ! みたいみたい!」

兄「そっか。なら見させてやるしか無いな、いや特に俺が頑張ることも無いんだけどさ…今日の天気ってずっと曇りだっけ?」

女「そ、そうだぞ…雲がはってて全然見れん…」

兄「マジかよ、じゃあ明日になるか」ポリ


兄「ん! これから家に帰らなきゃならんし、嬢ちゃん俺の家に泊まる?」


女「おっ!? うっ!!? とまっ!?」

メイド「まあ」

兄「いやちょっと待って勘違いしてない? 妹居るからね? 変な気を起こしてるんじゃないからね?」

女「お泊り…人の家にお泊り…ウムググ…なんという甘美な響き…むひっ…」ニヨニヨ

メイド「お兄様コンビニは近くにありますか? 歯ブラシを二本ほど買って参ります」ペコリ

兄「アンタも来る気まんまんなの!?」

メイド「冗談であります。……ちぇっ」

兄(全然冗談じゃない感じが…)

女「と、とにかくだ化け物! オマエの城に連れて行かれることを許そうではないか! わはは!」

兄「城じゃないよー…庶民のお宅だよー…」

メイド「お嬢様、あ、間違った。そこのガキ、主に迷惑かけんなよ?」ニコ

女「ガキとはっ!?」

メイド「テメーのことだぜ★」

女「ゆんやあああああああああ!!!」

兄「はいはいっていうか! この状況どうしよう!? ファミレス滅茶苦茶だし!?」

メイド「それはお任せ下さい我が主よ。わたしくたちと黒服──」

メイド「──後に来る『もう一人』の従者が責任をもって整えさせて頂きます」ペコリ

女「………」ジッ

メイド「あ! 今は元同僚でしたか…可哀想…今だガキに仕えてる従者まぢ可哀想…」ホロリ

女「むきぃー! オマエは一々私をばかにしないと気がすまんのかーっ!!」

メイド「…お嬢様」

女「むっ? な、なんだのだ急にあらたまって…」

メイド「どうかご無事で、より良い最善の選択を」

女「……。わかってる、ありがとうマミー」

メイド「いえ、これこそが従者の役目。そして貴女の一人の友人としての…想いでございます」ペコリ

女「マミー」

メイド「はい」

女「…城に帰ったらちゃんとこれからも、仕事をやるし儀式もサボらん…だから、その…ちゃんと帰って来い、お願いだ…」すっ

ぎゅっ

女「…絶対にだぞ」グリグリ

メイド「はい…わかってますよ…」ナデナデ

兄「……」

女「さて、行くぞ化け物! というか服がボロボロだなオマエ!」ばっ

兄「そりゃあれだけ斬って縛られ千切ってたらな…」ボロボロ

女「おわぁー!? 頬の傷既に治ってないか!?」

兄「ん? むしろ銃弾の傷、もう治ってるけど?」ペロリ

女「マジか!? ヤバイなマジやばめ! 化け物すぎるぞっ!?」


スタスタスタ …パタン


メイド「……」

メイド「行ってらっしゃいませ、お嬢様」ペコリ

メイド「……」スッ


チッチッチッ チッチッチッ


メイド「居るのでしょう?」ボソリ


『ほう、何時からだ?』


メイド「貴方ほどの気配を無にする力量に感づくことなど到底…ただの女の勘ですよ」

『クッハ! 儂もまだ青いな、小娘如きに一杯食わされたわ』


メイド「……」


『それで? 何か申開きがあるのなら聞くが?』


メイド「語っても無駄でしょうに。貴方が今の今まで手を出さなかったのは『現場の管理権』が移るのを待っていたからであり…」

メイド「あと数分で、わたくしから貴方に変更される。黒服たちが黙っていたのはそのせいでしょう」


『そう己を低く見るな。黒服たちはお前を慕っているから口を出さなかったのだ、幾ら【ゾンビ】と称されても』

『マミー……お前は尊敬するべき上司であり、同じ飯を食う仲間なのだ。ふむ、だからこそだろうな…』


『こうも目の前で裏切られると、些か腹も立ちにくい』


メイド「では、これで許してちょんまげとはなりませんか」


『ほほう! クッハ! 面白い冗談をいう、むろんちょんまげに笑ってはおらんぞ? ククク』


メイド(相も変わらず笑いの沸点が低い…)チラリ チラ チラ


『だが更にお笑い草なのは…マミーお前の行動だ。お嬢の側近である立場、もう少し有効に扱うべきだと思うがな』

『数少ないお嬢の気持ちを知る人間でありながら、ヴァンパイア家から鞍替えするだと? 更にお嬢の願いを何処の馬の骨とも知れぬ輩に頼むとは…』

『それこそ傑作だ! クハハハ! 恐れいったぞマミー……お前はどうにも儂を笑わせる才能を持って生まれてきたのだな、誇るがいいその命、砂粒より価値はある』

メイド「貴方のような古強者にお褒めいただくとは、思ってもない言葉で頭が下がりそうですね…」キョロ キョロ


『ああ、誇れ。そして散っていくその時まで笑い上げてやろうぞ』スッ


──カチャン


メイド「……っ!!!」ギャリギャリ シュバァ! パキン!


『マミーよ…』


メイド「ッ!!」ビュン


『我が主に仕える一族…【マミー家】の一人…その血は全て一滴残らずヴァンパイア家に差し上げるためのモノであり…』


メイド「くッ!」ギュワッ


『その行いもまた主の為だけだろう…? 何故だ…何故そうまでして無駄な行為をする…何を望む? 何を企む?』


メイド「その、ようなッ! わかりきったことを訊いてッ!」シュバシュバァ

メイド「貴方こそ何を望んでいられるのですかッ!? 貴方こそお嬢様のことで何を知っておられるのですかッ!?」ギャリギャリギャリギャリ

メイド「わたくしはお嬢様の願いを叶えますッ! 幾らだってこの命を差し出す覚悟はできています!」


メイド「──秀麗メイドこと、このマミィー! 友人の願いを叶えてなんぼの人生でございますッッ!!」ギャルギャル!

『…若いな』


メイド「頭でっかちの爺さんはここでポックリ逝ってどうぞ……!!」くるっ


『フン。良い知らせだマミー、ヒトサンマルマル、今を持ってして『現場管理権』が儂に移った』


メイド(くっ…何処だコレほどまで現場を破壊でもしたら隠れる場所など…!?)


『覚悟を決めろ小娘。お前は…貴様は我が主の【敵】となったワケだ、最後に元同僚の好として問うてやる』

『──貴様の血は、我が主の為か?』


メイド「ふぅ…はぁっ…はぁっ…! ふふっ!」

メイド「バカ言え、女ちゃんの為だよ糞ジジイ……!!」


『…その言葉、後悔する事なかれ』


メイド(来るっ!)バッ

メイド(何処だ、瓦礫の山の下──天井の裏──拡声器を使った外からの襲撃──柱の裏──机の影──)キョロキョロ

メイド(あの者は何処にだって影を潜められる──しかしカラクリを知っていれば、注意深く繊細に気配を察せれば人間であるかぎり──)トン

メイド(一先ず柱の影に背を向けて視界を……………)

メイド「…柱…?」ピタ


「ほう。貴様から儂に近寄ってくれるとは思わなかったぞ、新しいジョークか?」

メイド「………………」


【(くっ…何処だコレほどまで現場を破壊でもしたら隠れる場所など…!?)】


メイド「……っっ!!」ぞわり

「行くぞ」

メイド(まさ、か柱だと思っていたそれは──……駄目です間に合わなッブッ! ガッッ!?)


ドン! ぐるぐる… ポテリ


メイド「かはァ…ッ! ぐぅッッ…!!」ビクンビクン

「ほほう! やるではないかあの一撃、即座に張った『糸』で緩和しおったか」

メイド「ぺっ! くっ…!」ガクガクガク

「いいぞいいぞ。足掻け、死の淵から死に物狂いで這い出てこい。いまだ笑い足りんからな」

メイド「……」

「む? どうした?」

メイド「……」

「…チッ、気絶しおったか」

「なんとも貧弱な、無敵不死身と恐れられたマミー家の名が泣くぞ…しかし立ったまま意識を失った根性、認めてやらんでもない」スッ

ギャリ

「…む?」ギチギチ

「これは…」ガキガキガキィ

(無数に張られた糸…何重にも編まれ強度の増した『糸』がいつの間に儂の身体に…)ギチギチ

「しかもこれは…クハハ…【この店ごと】儂を縛りつけおったな…!」


ガギギギギ! ガキィン!


「クハハハハハハ! なんと! あの一撃にて辛うじて受け流したと思えばさもありなん! 瞬時に儂の視界外を読み取りこの罠を張ったのか!」

「クハハ! クハ! これは愉快愉快! 最後まで貴様を舐めてかかっていた儂の負けだマミー……」


メイド「……」バタリ


「…そうまでしてお嬢の願いを叶えたいか、フン、甘い甘いぞマミー。それでは長生きは出来ん」

「こりゃ罠から出るのに骨が折れるな…黒服、手伝え。後マミーを回収せい」


黒服「……」


「クハ! 安心せい、儂の負けだ。コイツの願いは叶えてやる──儂の拘束が解けるまでお嬢を捉えろとは命令はせんぞ」

「マミーを回収後も特に口出しはせん。煮るなり焼くなり好きにしろゾンビ共」


黒服「…御意」


「クッハー! こりゃ疲れるわい、いっそ建物ごとやるか? そりゃ後でチト面倒だわなぁ…」ガキガキン!

自宅


女「ほぉおぉ~…」キラキラ

兄「うっし着いた。ここが俺の家なんだが、やっぱ物珍しいかこういった一軒家って」

女「う、うん。凄く新鮮で素晴らしい…こ、この小さい家に風呂もトイレもキッチンもあるわけなのか」



兄「ただいまー!」

自宅


女「ほぉおぉ~…」キラキラ

兄「うっし着いた。ここが俺の家なんだが、やっぱ物珍しいかこういった一軒家って」

女「う、うん。凄く新鮮で素晴らしいと思う…この小さい家に風呂もトイレもキッチンも、それにオマエの部屋もあるのかっ?」

兄(平均家庭にしちゃ大きい方なんだけどな、俺の家)

兄「そうだな。後妹の部屋に両親の部屋もある、互いに違う仕事してるから別々なんだが…あと一室無駄に余ってるぐらいか?」ガチャ

女「ほぇ~」

兄「ただいまー! おーい、妹ちゃーん!」ダダダ


ガチャ!


兄「愛しの兄ちゃんが帰ってきたよ! 服がボロボロで!」バッ

兄「ん?」ニコ


『友達の家に遊びに行ってきます。もう二度と追いかけて転がり込んで来ないで下さい 妹より』


兄「……えー」

女「お、おじゃまします…」イソイソ

兄「……」ズーン

女「ん? 誰もおらんではないか…私の命を狙っている妹は何処に行ったのだ?」

兄「…トモダチノトコロ…アソビイッタッテ…」ボソボソ

女「なんと! それは好都合だな! どうやって初撃を躱すか悩み困っていたところだ! わはは! 私に恐れをなしたというわけだな!」

兄「だぁーもう! 心配して帰ってきた兄ちゃん凄くアホらしいじゃん! ったくよ~なんだかなぁ~」ボスン

女「おお…このソファーに私も座ってもいいのか…?」

兄「うん? いいよ、どんと座ってけ」ポンポン

女「う、うむ!」ぽすん

女「…むへへ」ニヨニヨ

兄「どしたよ急に笑って」

女「む? いやなんだ、少し良いなぁっと思っただけだ……私以外の人間と一緒の椅子に一緒に座る……良いことではないか…ムフフ…」

兄「良くわからないけど、俺の膝の上座る?」トントン

女「なんとッ!? 今なんとッ!? 乗る乗る乗りたいぞ!!」

兄「おお意外に乗り気…いやね? 妹もそんな意味が分からないこと言ってムッスリする時あるからさ、俺が無言で抱えて膝の上乗せるとさ」

兄「──なんか猫みたいにぐにゃぐにゃになって、とろけるチーズになる。パンに乗せて食べれそうなぐらい」

女「とろけるのかっ!? そりゃどんな能力なんだ!?」

兄「わからんなぁ…機嫌が良くなることはわかるけど…」

女「…っ…っ…た、試してみたい…! どんな風なのか知ってみたい…!!」ワクワクワク

兄「うむ。良かろう来たまえ」

女「おひょーいっ!」ポスン

兄「うぐぉっ…もうちっと静かにノッてくれ…」

女「……」

兄「ん? どうだ俺の膝上、なんか分かった?」

女「……筋肉がごつごつしててケツが痛い……」

兄「あはは~だよなぁ~」ムキムキ

女「おっ!? コラ! 揺らすんじゃない筋肉むきむきさせるでないっ! うわぉっとと!」ゆらゆら

兄「全自動筋肉マッサージと、妹は呼んでいる。直に嬢ちゃんのツボを探し当て、重点的にねっとりと攻め上げるぞ…」ムキムキムキ

女「おぐっ! おわぁ! …むっ? おひょ!? ぐひゃひゃひゃひゃ! ひゃあー!」ケタケタ

兄「いいぞぉ~ここがいいのかぁ~ここが嬢ちゃんの疲労ポイントかそうなのかぁ~?」ムキッ!

女「く、くそぉー! 言ってることマジキモなのに超きもちい…っ!」

兄「フン! 甘く見てもらっちゃあ困るぜ嬢ちゃんよ。この我が筋肉、未だ隠された機能を秘めている…それがッ!」カッ!



兄「筋肉振動マッサージだふるぅぁあああああああああああッッ!!」ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶッ

女「おぉおぉおおぉおぉおぉおぉあああああああああああああっっっ」ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク



兄「どうだぁあぁぁこれがぁあぁあぁ我が筋肉の真骨頂なりぃいぃい」ぶるぶるぶる

女「あわぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ」ガクガクガクガク


数分後


女「ふにゃ~ぁ…」とろーん

兄(妹だけじゃなかった、結構みんなとろけるなコレ…改めて俺は筋肉の新たな可能性を垣間見た…)ポンポン

女「すやすや…」

兄(んー、寝るとさらに幼く見えるな、まるで出来過ぎた人形みたいだ)

兄(ヴァンパイアねぇ、何処まで信じりゃ良いものか。そんな奴が居るって説明できるのならさ、なぁ教えてくれよ嬢ちゃんよ)ナデナデ

兄「…俺は一体何者なんだろうな…」

兄「ん?」くんくん

兄「よいしょっと、なんだこの匂い。キッチンからか?」スタスタ

兄「あ…」ピタ


『なんか巻き込まれてるだろうと予想ついたからカレー食べて元気出して 妹より』


兄「……」カチャ

兄「なんだよぅ…こいつぅ作ってくれてたじゃんかぁ…ムヒッ…素直じゃないなぁも~…」によによ

兄(そうだよ何を考えてんだバカ兄貴。俺は何時だってアイツのために強くあればいい、不死身で化け物で在り続ければいい)


兄「俺も大好きだよぉー! いっもうとちゃーん!」


女「………、」

女「…むぅ…」ゴロリ

兄「うふふ、ぐふっ、さーてちょいと味見をして…」ペロ

兄「辛ァッッ!! ぶッほぉ!?」

※※※

ヒァウィゴー! ハッハー!

女「おぉおっ? ぉおおおお!?」

兄「こなくそっ! うわ、落ちうわぁあああああああああああ」パキン

女「よっしゃああああ! まったいっちばーん!」

兄「………」ズーン

女「ハン! 化け物め、誇れるのはその腕っ節だけか情けないぞ!」フンスー

兄「………」

女「んお? ど、どうしたのだそこまで落ち込んで…?」

兄「またコントローラー壊しちゃった…」

女「力み過ぎだばかもの! しかしプラスチックじゃ耐久性に難がある、鉄製はないのか?」

兄「い、嫌だ! 人として鉄製のコントローラー握る姿を想像したくない…なんかの刑罰かよ…」

女「しかしそれじゃオマエがゲーム出来ないんじゃ…」

兄「良いんですぅ! もう慣れてますから、過去に数々のコントローラー壊してきて友人関係も同時に壊してきましたからー!」

女「かわいそぅ」

兄「そう俺可哀想なわけ…いまや64のコントローラーとかオークションで買わにゃならんのに…」ヒョイヒョイ

女「むぅ、それが最後のコントローラーなのか? ならその壊れたやつ貸してみろ!」

兄「? 何するんだ?」

女「改造する」

兄「か、改造する? 直すんじゃなくて? いや直すのも凄いけど…改造って…」

女「我が一族には『絶対修復』という掟がある、ドライバーはあるか? あとピンセットをくれ。瞬間接着剤もだ」

兄「お、おお」スタ

女「この世で壊れたものは、または壊されたものは限度はあるが──殆ど直せなくはない、実力と知識があれば誰にだって出来る」


カチャカチャ


女「しかし私は気高き血族【ヴァンパイア】の一人であり現当主だ、生半可な人間では辿り着くことなど出来ぬ高みに存在してる…」

兄「……」ヒョイ

女「うむ。ありがとう、では『絶対修復』とは何か? つまり壊れたものを完全なまでに修復し、本来の性能を劣らせずモノを仕上げる」

兄「…傷ついた後のヴァンパイアのように?」

女「ふふ、よく言われるセリフだ。まさにその通り私は『傷を負ったヴァンパイアの時のようにモノを完全修復』することが可能なのだ」カチャ

女「よし、いい出来た。終わったぞ」ポイ

兄「はや!」

女「チャッチな仕組みであったがよく出来てるな。ニーズに沿った低コストで作られたのだろう、いや、しかし当時価格を考えると高いのか…?」

兄「ま、まあまあ! あんがとな、こうも容易く直るなら…俺にだって直せそうだ、今度教えてもらっても良いか」

女「別に構わんが、そのコントローラーでは無理だぞ」

兄「へ?」

女「【オマエの手には負えないレベルの修復を施した】。下手に分解すれば、オマエが壊した時よりも酷い状態になる」

兄「え、えっと…つまり…?」

女「だから【改造】したと言っただろ。私は直すことは出来る、それも完璧にな。しかし独自の修復技術故か──」

女「──他の者が手を出すと直されたモノは壊れる……そう。そういった『身体』になってしまうのだ」

兄(ヴァンパイア…)

女「そうだ。今オマエが思った通り、私が『中身』に触れたモノは全て『元の姿』には戻れない。新たな『身体』として生まれ変わる」

女「まるでそう、ヴァンパイアに血を吸われた人間が『変わってしまう』ことと同じようにな…」

兄「それが、その嬢ちゃんの一族がヴァンパイアと呼ばれる所以となる、わけ?」

女「んー」ポリポリ

女「昔はもっと色々噂が絶えなかったらしいぞ。元は医療機関に深く根を張った一族だった、いまは一切関与してないが…」

女「過去の逸話を口に出してみてもいいが、あまり気持ちの良い話じゃない」

兄「……。よーーし、じゃあ聞かない!」

女「懸命な判断だぞ! つまらん話などさっさと終わらせていざ! もう一度勝負だ化け物! どんどん壊せ! 私が全て直してやる!」

兄「なんて頼もしい…! 兄ちゃん初めて嬢ちゃんのこと尊敬してるよ…! 流石現当主! かっこいい!」

女「わーはっはっはっ! だろうだろう!」

兄「じゃあ次はスマブラだ! やるぞやるぞー! ヤル気になるとコントローラーぶっ壊れまくるゲームだ!」ガサガサ

女「なんと!」

兄「うっふっふっ…こりゃ嬉しいぜ…壊してもいいから遊べなんて、初めて言われたかんな…」ニコ

女「そ、そうか? むふふ、な、なら一家に一人欲しい感じだろうなっ?」

兄「ああ欲しいな。いやでも家電製品みたいな言い方しないで、なんか返答に困る…」

女「そうか……」ショボン

兄「? つかオーゥ! めっさ懐かしい! 何度か妹と遊んだ時あったけど、四回連続でコントローラーぶち壊したら妹がブチ切れて二度とやってない!」フンスー

女「……」じっ

兄「うっし遊ぶぞー、ん?」

女「なあ一つ訊いてもいいか化け物」

兄「うん、いいけど?」

女「……。私は他の家族がどういった風なのか分からない、兄弟も居なければ両親も幼いころに死んでしまった」

兄「……」

女「オマエはどうも凄く妹を大切にしているように見える。それが普通のことなのか? 一般的と呼ばれる兄妹のあり方なのだろうか?」

兄「むぅ…」

兄「どうだろうなぁ。俺にだって世間のことは詳しくは知らないし、そういった仲良しな家族も居るかな? とか思ったりする」

女「じゃあ普通じゃないのか、確かに妹のことを語るオマエは正直きもちわるい」

兄「おいおい正直に言い過ぎだろ…まぁ自覚あるけど…でも、これだけは言えるよ」

女「なにをだ?」

兄「うん。それはな、」


兄「──俺は妹のことを誰よりも愛していると、この世で一番妹を守れる人間だということを」


兄「俺は絶対にもう二度と間違わない。これから先、ずっとずっとアイツのそばに居てやる」

兄「それが俺の誇りだ、つまり妹ラビューってこと?」

女「…妹ラビュー…」

兄「そうだ、それが俺が俺である理由。ここに居ても変じゃない理由になる」

女「そうか、オマエは妹の為に頑張るのだな。それが化け物であっても、きちんとこの世で生きる為の力となるわけか…」

兄「そ、そこまでまじめに考えちゃ居ないけどさ、あはは」

女「…羨ましいぞ、私にはわからない。誰かのために何かを成す、人と接してこなかった私には慣れぬ言葉だ…」

兄「そうか? そう思わないけど?」

女「む、なぜそう言い切れる?」

兄「だってホラ、コレよコレ」ひょい

女「コントローラー…?」

兄「これは俺の為に直してくれたんだろ? そりゃ人のためだ、寧ろ嬢ちゃんの技術そのものが最初から人の為のものじゃん」

兄「壊れたものを直せば誰だって嬉しいもんだ。経緯は何にせよ、完璧に治せちまう嬢ちゃんには皆感謝するはずだと思うけどなぁ」

女「感謝…」

兄「そうそう。ちなみに俺は感謝してる、滅茶苦茶嬉しい。あんがとな!」ニコ


女「………」ポッ


女「ばっ、ばかもの化け物このヤロウ! な、何を急にそんなことバーカ!」

兄「え何で罵倒されてるの…?」

女「うるさいうるさい! もう、いいっ! ったくなんなのだまったく…」ブツブツ

兄「怒るなってば、俺なんか変なこと言った?」

女「モニョムニョ…べ、べつに変とは…言わにゃい…がモニョ…」

兄(じゃあ怒るなよぉ…妹もたまにこんな態度するんだよな意味がわかんない…)

女「と、とにかく…! なんだそのあれだ化け物! はやくすまぶらとやらをやるぞーッ!」ダダッ

兄「お、おーうっ!」グッ


※※※


妹「……」イライライラ

「妹ちゃん落ち着きが無いけど、どうかしたの?」

妹「…また嫌な気配がするんだよね、滅茶苦茶気に食わない展開が伺えるんだよね」

「わぁ~! そんな眉間にシワが寄ってる妹ちゃんも素敵だよ!」ポワワー

妹「……。こういった時に限って絶対に兄貴ね」

「お兄さんが~?」

妹「うん。必ずと言っていいほどにさ」


妹「死ぬ」

妹「…ような目に遭う…」ボソリ


「それは大変だー! 妹ちゃんお家に帰らなくてだいじょうぶ?」

妹「巻き込まれたくないから別に…兄貴なら核弾頭ブチ当たっても死なないし…」

「たしかに~っ! 前に除雪機? のカミソリみたいなろーらー? に吸い込まれた後にね、車のてっぺんにあった筒からぽーんって飛び出してきたんだよー?」

妹「へぇー」ジュゾゾゾ

「よく見ると着ていた服がめちゃくちゃでぇ髪の毛もぼっさぼさ! 慌てて駆けつけてきた運転手さんにね、お兄さんってば…」


『すみません服か何か羽織るものくださいッ! 寒い寒い寒いサムーーーーー!! へるぷみぃーーーーーー!!』


「凄かったなぁ…特にあの細い腕にコレでもかと詰め込まれ引き締まった上腕二頭筋長頭腱そして短頭腱…!」

「うっひゃー! ぜひに今度ちからこぶをナデナデさせて頂きたいよ~!」ワクワク

妹(なんで兄貴の知り合いの女の子は、みんな変な娘ばっかりなんだろ…)じゅるる

妹「ぷは」

妹「…ということで家に帰りたくないので、今日は泊まる覚悟で遊んでいっていいかな」

「もちろんだよー! えへへ! なにしてあーそぶっ?」

妹「疲れない遊びならなんでも良いよ」


※※※


兄(そろそろ晩飯の時間か…)チラリ

兄「おい嬢ちゃんや。そろそろ飯にするけどなに食べたい?」

女「ん~? なんでもよいぞー好きにせーい」ペラリ

兄(おおぅダラシなくソファーで寝そべりジャンプを読んで…お嬢様溶け込みすぎだろ庶民のお宅に…)

兄「ま。良い事か、変に緊張されて堅いよりは……よし、」

兄「どうせなら庶民の家庭の味つーのも経験させるか。嬢ちゃん、今からカレーを温めてやるからな」スタ


女「…」ピク

女「…カリー?」バッ!

兄「Yes」

女「ほ、ほぉー…噂に聞いていたあのカリーか…」トテトテ

兄「やっぱ食ったこと無いのか、気になってたけど普段何食べてるんだお嬢さん」

女「パンだぞ?」

兄「洋食系か、確かにそれっぽい感じがするな」

女「あとワカメだ!」

兄「…へぇー…」

女「な、なにかへんだろうか…?」

兄(だから頭はワカメを食べてにょろにょろなのかい? と訊いたら怒るだろうか…怒られるだろうな…)ウンウン

兄「別に変じゃないな、全然変じゃない。だが肉も食わないけんぞ! ビバ脂肪!」

女「おおっ!」

兄「嬢ちゃんは少し細っちょろいからなぁ、肌も白いし、だーかーらー? ここでカレーだヤッホー!」

女「やっほー!」

兄「野菜も取れりゃお肉も食べれちゃう! おまけに好きな具材も入れ放題でしかも! すごく美味しい!」

女「な、なんだとっ…そりゃオマエ…魔法かっ!? 魔法なのかっ!?」

兄「まさにその類だ…」グツグツ

女「す、すごい…庶民のお家ヤバイぞ…」

兄「くっくっくっ恐れを抱いたかこわっぱめ…」スッ

女「むっ!? 今取り出したその紙容器はなんなのだっ!?」ビッシィイイイ

兄「牛乳だ。これを入れるとカレーにコクを与え、それと同時にまろやかさをプラスさせる……神の飲み物だッ!!」

女「ゴォート!?」

兄「ああ、兄ちゃん先ほど味見したら舌が馬鹿になるぐらい辛かった…牛乳入れないと多分嬢ちゃん死ぬし…」グツグツ

女「むぁー!? ここに来てまさか、オマエの妹の策略の手が伸ばさておったのかっ!?」

兄「いや、兄ちゃん苦しめたかっただけだと思います」キッパリ

女「…それでいて揺るがないオマエの妹ラビューは悲しくなるぐらい健気だな…」

兄「照れ隠しという隠し味が兄を強くさせるのさ…」

女「んお? なんだカリーとは違った別のいい匂いがしてきたぞ…」ふがふが

兄「ご飯が炊けてきたんだろうな、それお嬢ちゃんお皿を二つ持ちなされ」ヒョイ

女「わわっ」

兄「フフーン、ここでお嬢ちゃんに命令だ」

女「命令…?」

兄「おや命令って言葉は嫌いかね? では兄ちゃんからのお願いだ!」

女「な、なんだ?」

兄「この器にこんもり二人前、あそこの機械からご飯を盛っておいで」

女「わ、私は初めてだ…! うまく出来る保証はないぞ…っ?」

兄「ならチャレンジしてみよう。…好きにやってこい、誰も文句は言わねえってば」

女「う…」タジ

兄「どうした? カレー食べたくないか?」

女「…たべたい…」

兄「兄ちゃんも食べたい。けれどお鍋から目を離せないんだ、やれるのは嬢ちゃんだけだと俺は思う」

女「……失敗しても…怒らない、よな…?」チラリ

兄「もちろんだ」

女「あ…」ぱぁああ

女「わ、わかった! やってみよう…!」トテトテ

兄「………」


~~~~


兄「いただきまーす」

女「い、いただきます」


兄「ムシャムシャムゴムフゥー! …やっぱ疲れた身体にはカレーだわ最高…!」

女「……」じぃー

兄「んおっ? もぐもぐなんだ、食わないの?」

女「た、食べるぞ! ただちょっと色々と思うことがあって…」

兄「?」モグモグ

女「…頂きます」ペコリ

女「ぱくっ」

兄「どうだ?」

女「…美味しい…」キョトン

兄「だろだろ、そうだろー? 我が家のカレーは、ちょいと他のお家とは違うんだよなぁ~」ガッガッガッ

女「凄いな…我が城で一番美味しかったのはマミーが作るホットサンドイッチだった…」


「──カリカリに焼けたトーストに、しゃっきり新鮮なレタスとつやつやのスライストマトを挟むのだ」

「お好みでチーズを入れたり、その日の気分でツナや残り物の煮豆をトッピングして」

「じゅぅぅぅ~~~っと! 熱い鉄板で挟み込む、あの音がたまらなく好きでよくマミーに私にやらせろ! とせがんだものだ…」


兄「……」

女「そして開ければアツアツの、マミー特性ホットサンドイッチの出来上がり!」

女「私は我慢できずに思い切りかぶりつく! するとマミーが『お嬢様、お下品ですナイフとフォークを』と言って私の楽しみを邪魔をする…!」

女「しかしそんなマミーの小言も、口の中に広がる様々な食材の味に促され…私はなんと美味しいものを食べてるのだと実感するのだ…」

兄「成る程なぁ。聞いてて思わず涎が溢れそうだ」

女「………」

兄「…?」

女「私はそれでも、今食べたカリーのほうが美味しかった。マミーが作るサンドイッチより、このカリーが美味しいと思えた…」

女「何故かは直ぐに分かった。私は頭が良いからな、きっと…」チラリ

兄「おう?」

女「……、みんなで食べる食事は美味いのだな」

兄「ん…」

女「城ではいつも一人で食事が当たり前だった。それが普通のことで、ありのままの食材を味わっていたと思っていた」

女「全然違うこんなの違うぞ…凄い、だから凄いと…それしか言葉が出てこない…」モグモグ

女「──私は今まで一体、何を食べて美味しいと言っていたのだろう…?」

兄「……」モグ…




ジジッ ザザザッ ザァー…

                                『──いちゃん、やっぱり一緒に食べるご飯がおいしいね──』





兄「!」ピタリ

女「ふむ、ふむふむ、これはなんだっ? まあるい輪っかが入っているぞ? 肉じゃないな…練り物か…?」フンフン

兄「──……」スッ


ヒョイ ぱくっ


女「へっ?」

兄「ご飯ほっぺについてたぞ………ぇ、あれ、俺……」キョトン

女「あ、ありがとうな化け物…」テレテレ

兄「いやっ!? 俺も思わずやってしまった…というか…今一瞬お嬢ちゃんが…!」わたわた

女「な、なんだ? 私がどうかしたのか…?」

兄「…………」ビクッ

兄「…気のせいだ、うん、気のせいだと思う」モグモグ

女「なんだ気になるではないか!? 教えろ化け物!? あーんッ!?」

兄「なんでもないっての! いやいや本当にっ! マジでマジで!」ブンブン

女「オマエがそこまで焦るのは余程のことだろう…教えろッ!」ガバッ

兄「急にアグレッシブになるなっ! 大人しくご飯を食べなきゃ怒られるんだぞ! ほら、あーん! あーんしろ!」ぐいっ






執事「あーん」パク





兄「……」

女「……」

執事「クハ! 甘すぎるぞ小僧、思わぬ甘さに笑いが出たわ! カレーが辛くなければ何と呼べばいい? アマーか? クアハッハッハッ!」

兄「な、にッ──お前、」グググ

兄(【いつの間に】とか【そういう問題じゃない】…俺はいつまで顔を上げれば…【コイツの顔を見れるんだ】…?)グググ


ぐぐぐぐ…ぐぐ…


兄「なん、セン、チ?」

執事「クゥーハッ! よもや出会い初めにそれを訊くか小僧! 見事だあっ晴れだぞ!」

執事「2メートルは有に超えとる、詳しくは儂も知らん。しかも未だ成長盛りだ、たまに膝の関節痛くなるのは困ったものだぞ小僧、ククク」パシン!

兄「………」

執事「渾身のギャグが思わぬ不発か…ゾンビ共なら腹を抱えて無表情に転げまわるぞ…」

女「【エメト】…オマエ…」

執事「これはお嬢、些か無礼極まりない登場に頭が下がるばかり」スッ

女「ど、どうしてここに居る? いや、居ることを許されてるのだ…? 私の保護と現場管理は確かにマミーが取り締まって……」

執事「…元より理解している事項を問うのは主として如何なものかのぉ?」ボリボリ

女「ッ……」

執事「儂が現担当だ。かくいうそれは、お嬢とそこの小僧が起こした我儘が原因他ならぬのではないか?」

女「ではマミーはッ!」


執事「粛清」


女「何故…!? これは私の独断の行動なのだぞ!? マミーが何故そのような罰を受けなければならない…!?」


執事「お嬢…幼き頃から常々思わなんだと悩み続けておったがここまでとはの…」フン

女「ッ…?」

執事「しかし、それもまた定め。高貴なる血族【ヴァンパイア】家はそうでありそう在り続けることが頂点としての役目也ッ!」

執事「お嬢、大人しくご帰宅を」スッ


ガシッ!!


兄「待て」

執事「……」ピクッ

兄「……」ピクッ



──チギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ!!!



執事「フン、笑えんな指一本動かせんとは。小僧、貴様は化け物か」ギチギチ

兄「あぁよく言われる」ギチギチ

執事「では言葉を変える。化け物風情が儂の体に触れるでない、カレーの件で未だ腹は笑えておる」

執事「…その腹が煮えくり返る前に、この手を離しておくべきだな」

兄「それは無理な相談だ、放すことは絶対にできないし…」

兄「嬢ちゃんを連れて行こうとするアンタを黙って見てるつもりは無い」

女「…っ…」

執事「ほぅ? それは新しいギャグか?」

兄「笑えるか?」

執事「笑えんな、冗談でなければ何故そうも関り合いを持つ」

執事「小僧、それは新しいギャグか?」

兄「笑えるか?」

執事「笑えんな、冗談でなければ何故そうも関り合いを持つのか不思議でたまらんわ」

兄「…頼まれたからだ、メイドさんに」

執事「メイドではなくマミー姉ちゃんだろう?」

兄「!? い、居たのかあのファミレスに…?」

執事「無論だ。それが儂の仕事であり【呪いの如く架せられた命令】だからの」

兄「……。アンタみたいなデカイ奴を見過ごすワケ無いと思うんだが…」

執事「そりゃ気配を消しておったからだ。小僧如きが看破できる代物ではない」

執事「はてさて困ったものだ。小僧の真意、実のところ儂も分からんでもない…」

兄「……」

執事「クッハ! 愉快愉快、貴様のような『世に認められぬ力』を持つものは至って皆同じ考えに辿り着く」


執事「他人のために動くのは楽で良い」


兄「…ッ!?」

執事「化け物よ、貴様はよもや『他の者の為に動く人間』というものを信じてはおらんよな?」

執事「良いぞ信じることは無駄ではない! この世にごまんと人はいる! 儂も幾らかそのような人間を見てきた…」

執事「だがな化け物? あぁ化け物よ、貴様はその人間には成れぬのだ。希望を持ちやがて訪れる未来とは、惨たらしい【死】のみ」

兄「なに、を言ってるんだ…!」

執事「余計な希望を持てば、ただ後悔。そう儂は年配者として忠告している」

兄「っ…それは今、嬢ちゃんの話とは関係ないだろ…!」

執事「馬鹿を言え、あるに決まっておろうが」

兄「なにっ?」

執事「小僧、貴様は知っているかどうかは分からんが…」




「ヴァンパイアが太陽を見たらどうなるか分かるか?」




執事「化け物であっても、ゲームや小説ぐらい嗜むだろう?」

兄「…それは、」




「身体は煙のように溶けて、不死身の生命は死に絶える」




兄「けどそれは、嬢ちゃんの一族がそう呼ばれているだけだろ…っ? 別に本当に、消えるわけじゃ、死ぬ…わけじゃ…!」

女「………」

執事「何故、貴様がそう言い切れる」

兄「嬢ちゃんの凄さは壊れたモノを完璧に直す、それが凄すぎて周りからそう言われてるだけだとッ!」

執事「更にもう一度問うぞ、何故貴様がそう言い切れる?」

兄「だからッ!!!」


執事「──だから小僧、お嬢の【なにを】知ってるのだ?」


兄「…ぁ…ッ…」

執事「何故死なないと言い切れる? 何故ヴァンパイアの由来がモノを直すことだと言い切れる?」

執事「貴様はお嬢に一歩でも踏み入れようとしたのか? 嘘を付いている可能性すらも見出すことは無かったのではないか?」

執事「全て聞かされた話であり、そしてそれを鵜呑みにしたのは小僧…貴様だ…」

兄「ち、ちが…っ」

執事「では何故鵜呑みにしたのかの? そりゃ単純明快、人の為に何かをしたがる怪物だからだ」

執事「たった一人の哀れな小娘の願い…そして恵まれない環境下に置かれた小娘の想いを…」


執事「知ったように我が物顔の如き厚かましさで、叶えることこそが──この世で生きるための希望だからだ」


執事「だろう? クッハッハ! なぁ化け物よ!」

兄「っ……!!」ばっ

女「……」

兄「嬢ちゃん! お前は俺に太陽が見たいと言っていた…! それは本当に嬢ちゃんにとっての願いだったんだろっ!?」

女「……」コクリ

兄「だ、だったらどうして…いや違う認めるのもあれだっ…直接嬢ちゃんに訊く!」

兄「──本当に太陽を見たら、嬢ちゃんは…死んでしまうのか…?」

女「……ぁ…」ビクッ

兄「教えてくれ…!」

女「……あぁ、死ぬぞ」

兄「ぇ…」


女「私はヴァンパイアの一族。太陽を見ることはお父様から強く、強く、駄目だと言われた」

女「──その理由は勿論、私がヴァンパイアだから…一度太陽を見たら最後……私は…」



女「死んでしまうのだ…」



兄「…嘘だろ、それじゃあ俺は…」

兄「そんなの嘘だって言ってくれ…だったら俺は最初から嬢ちゃんを…願いを叶えるつもりが俺は自分で…また…」


執事「あぁ【また殺しかける所】だったな」


兄「…ぁあ…ッ」ギチ

執事「小僧、あぁ哀れな化け物よ。その生き様は実に傑作だ、一冊の書物になるならば何度でも読み返そう。何度でも腹を抱えて思い出そう」

兄「あぁッ…!」ギギギ

                    ジジジ ザァー…

ザザザッ ジジッ ガガガガガガ


『お兄ちゃん』

『大丈夫だよ、みんな怖がってるけど私だけはちゃんと着いて行くよ』

『こんなの平気へっちゃらだってば!』


『こんな怪我も大したこと無いから、お兄ちゃん外に遊びに行こうよ!』

『お兄ちゃん! 一緒に虫取り行こうよ!』

『夜にプールに行けば泳げるよ! ほらはやく!』


兄「…あぁあ…ッ…!」


『──ごめんね、お兄ちゃん』

『怒らせるようなこと言って、ごめんなさい』

『もう…誰も……』


『一緒に』 ジジジ 『傷つけないで』


 ガガガ『私は最後まで』


                                         ジジッジ 『ずっと側にいるから』ジジ…



兄「あああああああぁぁあぁあああああッッ!!」


女「ば、化け物…!? ど、どうしたっていうのだ!?」

執事「お嬢」スッ

女「離せばかものッ! いったい何を言ったのだエメト…!?」

執事「事実のみ」

執事「…過去に犯した己の罪を今、思い出しただけであろう」


執事「兄妹殺し、いや半殺しかの」


兄「ッッッ!!!」ギッ


──ブォオンッ! バキン!


執事「フン」タラ…

女「こ、コントローラーを何という速さで──落ち着け化け物!! いいから私の話を聞け!!」

執事「……」ガシッ

女「コラァッ!? オマエはさっきから主のことベタベタ触りすぎだっ!」

執事「これから先、この場において誰の命も守り切るとは言い切れん、ゾンビ共、お嬢を車に」

黒服「御意」

女「ぬぁあああああ!! やめろー!! はなせぇえええええ!!」

兄「あぁあぁッ!! やめろッ…離せッ…何処に連れいていくつもりだッ!」

執事「貴様が知る必要はない」

兄「それはぁッ! 俺が引き受けた問題だ…テメーこそ関係ねえだろうが…ッ!」

執事「化け物め、言葉が通じんか」

女「化け物…!!」

執事「……。お嬢とくと見定めるのだ、助けを乞うた相手は如何に壊れてるか」

女「コイツは壊れてなどおらんぞッ! ただ少し戸惑っているだけだッ!」

執事「フムフー」

執事「では此奴が投げたものを改めて見ても、そう言い切れるかの」

女「…ぇ…あ…」

執事「お嬢が直したモノを何ら躊躇いもなく投げ捨てた行為、些か正常だと思えんが?」

女「……」ビクッ

兄「ごちゃごちゃゴチャゴチャうるせぇ糞ジジイッ! そいつを離せッ!!」


ガシャァン… ぐちゃっ


女「あ…」

執事「頭に血が上り過ぎだ小僧。クッハ! 貴様は食べ物を粗末にすることに躊躇せんなぁ…化け物として立派だ、だがな」

執事「儂は許せん。この瞬間をもって貴様を我が主の【敵】と判断した」

執事「──粛清の時間だ」

兄「うるぅあッ!!」ブォン

執事「……」スッ


ゴッ! シャアアアアアンッ!


兄「っ…!?」キョロキョロ

『何処に向かって拳を振り下ろす。儂は此処だ、耳を澄ませばよくよく捉えも出来るだろう…』

兄「あああああッ!!」

『愉快愉快、道化に踊る貴様の姿…終わらせるには惜しいと思うほどには哀れだのう』

兄「ッ……ッ…!!」ギョロギョロ

『まるで飢えた獣のようではないか。血走った眼光、人間のものとは思えん貪欲さだ』

兄「……すぅ…っ」

『ムッ!』

兄「ぁぁぁぁああああああああアアアア」


兄「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」ビリビリビリビリ


ビシッ! バキンッ! ガタガタガタガタ! ガシャアン!!


兄「あぁッ!! っはぁ…はぁ…!!」

『…恐れいった。貴様はもしや気配を消す者と交戦済みか、【音】での対処を…』

兄「ッ!!」ギョロ

『(鼓膜揺らされ平衡感覚を鈍らされたの…しかし儂の姿が捉えられん限り、ッ!?)』

兄「ああぁあッ!」ゴゥ!

『ムゥー!!』ガッ!


ズサァー…


『驚愕だ。何故に儂の場所が理解できた』

兄「……ッ…」ギョロギョロ

『よもや先ほどの叫び…【声の振動による周囲の違和感】で察知したとは言わんよな?』

兄「がぁあああッッ!!」バコン!

『化け物め…望む限りの結果を身体一つで成せるとは…ますますお嬢の側に居ては成らぬ存在よのぉ…』


『だが気に入りもした。クッハッハッハッ! その常識という恐れを知らぬ突き抜けた力量、少し試したくなったわ』スッ


執事「此処だ、此処だぞ小僧。儂はここに居る…」

兄「!!」ドッッ

執事「どれその一撃を味おうてみるかの…」


ググググッ ズッ、ド゙ン!!


執事「──……」フゥー

兄「……!?」ピタ

執事「フン、拳で倒れぬ相手は初めてか?」グググ

執事「──なら次は儂の番だ」メキュ!


執事「どっこいしょ!」ボッッッ!


兄「ブゴッ! ッッッカハァ!!」ズォンッ メチメチメチ…

執事「地面に叩きつけられる気分な如何かのぉ、クック」

兄「グッ…がっ…!」ガクガクガク

執事「ほう立ち上がるか見事なりッ!」ダン!

兄「ゲハッ!?」メキィ

執事「…幾らか小僧も化け物として経験を積んでいるようだが、儂にとっては児戯に過ぎん」グリッ

執事「敵との力量差をぽてんしゃるのみで覆そうとする常識外れ、見るも無残な化け物ではなく…まるで子供の遊び…」

執事「無様に漬け込まれるとは思わんかのッ!!」ゴッ!

兄「ぶッ…!?」


ガン! ゴン! ゴロゴロ… ドシャッ


執事「さあ起き上がれ小僧。その程度など貴様には生温いはず、死ぬまで付き合うぞ」

兄「……」ガラガラガラ ガシャン

執事「良い耐久度だ、クック、これならまだわろうていられるわ」

兄「ッッ……!!」バッ

執事「粛清、粛清! 粛清ッ!! クァーハハハハハハ!!」



~~~~~~


兄「……ぁ…」バタリ

執事「此処までかの」シュルシュル きゅっ

執事「よもやこうまで暴れる悪餓鬼とは思わなんだと…多少は楽しめたぞ小僧…」くるっ

執事「黒服。新しいおにゅーの執事服、それとこの家の両親の銀行口座を調べい、損害等の計算が済み次第振り込め」

黒服「御意」

執事「まだ要らぬ出費が嵩むのぉ、こりゃお嬢に多岐に渡り仕事をこなして貰わんとな」 

兄「……」

執事「フン! いまだ学び舎に通う小童のでありながら中々どうして…多少貴様のことを調べさせてもらった」

執事「その後悔、過去に犯した罪…」

執事「胸に秘め、慎ましく生きろ。それが『世に認められぬ力』を持った化け物の生き方だ」


スタスタ …パタン



~~~~~~

『…俺はやっぱり【化け物】なんだ』

『俺の我儘で、俺の知らないうちにお前を傷つけてた』

『ただ、一緒に遊んでいるだけだって思ってた。ただ気まぐれに腕をふるっただけだと思ってた』

『なのに、それなのに、』

『お前の身体ここまでボロボロじゃないか…どうして俺はこうも化け物なんだよ…』



『お兄ちゃん』

『私はずっとお兄ちゃんの妹なんだよ、今更嫌だって言っても仕方ないし』

『それに一度だって嫌だと思ったこともない』

『だから、だからねお兄ちゃん』

『私はお兄ちゃんのこと大好きだもん。ずっと一緒に居たいんだよ』



『…妹…』

『そんな顔しないで、またこうやってご飯を食べれるようになったのに…もういやだよ病院で一人、食べるのは』

『……』

『お兄ちゃん』

『…ん…』

『──やっぱり一緒に食べるご飯がおいしいね』ニコ

『あ…あぁ…妹………あぁっ…ごめんよぉ…本当に、本当に……っ』

~~~~

兄「……」パチリ

妹「あ。起きた、おはよう兄貴」

兄「…今何時かな」

妹「夜中の三時かな。時計グチャグチャだから分からないけど」ナデナデ

兄「……」

妹「どうしたの? 妹のせっかくの膝枕なのに喜ばない兄貴なんて珍しい」

兄「兄ちゃんそんな気分じゃない…」

妹「だろうね、知ってる」

兄「……」

妹「またこんなに家を壊しまくってさ。今度はどんな怪物と戦ったの?」

兄「…ゴーレム」

妹「あ、本物なんだ。いつか出るとは思ってたけど本当に会っちゃうなんて、凄いじゃん兄貴」

兄「凄くなんかない…ボロボロだ…全然敵わなかった…」

妹「そっか。大変だったね」

兄「………」

妹「兄貴」

兄「………」

妹「今日はもう疲れたよね。このままもう一度、寝てしまっていいから。明日にでも一緒に片付けしようよ」なでなで


兄「………」ぎゅっ

妹「兄貴はなにも悪くない。ちゃんと頑張ったし、ちゃんとめげずに立ち向かった。お母さんだって許してくれるよ、天国のお父さんだってさ」

兄「勝手に親父を[ピーーー]なよ…つかあの人は死んだら地獄だ絶対に…」

妹「うん、かもね」

兄「…妹」

妹「うん」

兄「今日はたくさん、いっぱい恐いことや辛いことを言われたよ……お前は化け物なんだ、人に憧れるなって」

妹「うん」

兄「化け物なら化け物らしく、大人しく過ごせってな」

妹「うん、それで?」

兄「その通りだと思った。また俺は…誰かのためにやろうとしたことが…そいつを[ピーーー]事になりかけた」

妹「そっか」

兄「俺はやっぱり化け物なんだな。うん、知ってたよ知っててそれに未だ胡座をかいて余裕ぶっこいてたんだ」

妹「……」

兄「誰かのために…たった一人の女の子の願いを叶えるつもりが、また化け物として誰かを[ピーーー]ところだった…」

妹「願いね」ぽんぽん

妹「じゃあどうして兄貴は、その女の子の願いを叶えようと思ったの? どうせ人の為に動こうとしている人から、お願いされでもしたと思うけど」

兄「妹ちゃん凄い…どうしてわかったんだ…?」

妹「いや兄貴ってば大体そうじゃんか。以前にも世界創造と終焉を司る──とかいってたオーパーツを探しにテキサス州まで行ったでしょ?」

兄「………」ぎゅっ

妹「兄貴はなにも悪くない。ちゃんと頑張ったし、ちゃんとめげずに立ち向かった。お母さんだって許してくれるよ、天国のお父さんだってさ」

兄「勝手に親父を[ピーーー]なよ…つかあの人は死んだら地獄だ絶対に…」

妹「うん、かもね」

兄「…妹」

妹「うん」

兄「今日はたくさん、いっぱい恐いことや辛いことを言われたよ……お前は化け物なんだ、人に憧れるなって」

妹「うん」

兄「化け物なら化け物らしく、大人しく過ごせってな」

妹「うん、それで?」

兄「その通りだと思った。また俺は…誰かのためにやろうとしたことが…そいつを[ピーーー]事になりかけた」

妹「そっか」

兄「俺はやっぱり化け物なんだな。うん、知ってたよ知っててそれに未だ胡座をかいて余裕ぶっこいてたんだ」

妹「……」

兄「誰かのために…たった一人の女の子の願いを叶えるつもりが、また化け物として誰かを[ピーーー]ところだった…」

妹「願いね」ぽんぽん

妹「じゃあどうして兄貴は、その女の子の願いを叶えようと思ったの? どうせ人の為に動こうとしている人から、お願いされでもしたと思うけど」

兄「妹ちゃん凄い…どうしてわかったんだ…?」

妹「いや兄貴ってば大体そうじゃんか。以前にも世界創造と終焉を司る──とかいってたオーパーツを探しにテキサス州まで行ったでしょ?」

なるほど

兄「………」ぎゅっ

妹「兄貴はなにも悪くない。ちゃんと頑張ったし、ちゃんとめげずに立ち向かった。お母さんだって許してくれるよ、天国のお父さんだってさ」

兄「勝手に親父を殺すなよ…つかあの人は死んだら地獄だ絶対に…」

妹「うん、かもね」

兄「…妹」

妹「うん」

兄「今日はたくさん、いっぱい恐いことや辛いことを言われたよ……お前は化け物なんだ、人に憧れるなって」

妹「うん」

兄「化け物なら化け物らしく、大人しく過ごせってな」

妹「うん、それで?」

兄「その通りだと思った。また俺は…誰かのためにやろうとしたことが…そいつを殺す事になりかけた」

妹「そっか」

兄「俺はやっぱり化け物なんだな。うん、知ってたよ知っててそれに未だ胡座をかいて余裕ぶっこいてたんだ」

妹「……」

兄「誰かのために…たった一人の女の子の願いを叶えるつもりが、また化け物として誰かを…」

妹「願いね」ぽんぽん

妹「じゃあどうして兄貴は、その女の子の願いを叶えようと思ったの? どうせ人の為に動こうとしている人から、お願いされでもしたと思うけど」

兄「妹ちゃん凄い…どうしてわかったんだ…?」

妹「いや兄貴ってば大体そうじゃんか。以前にも世界創造と終焉を司る──とかいってたオーパーツを探しにテキサス州まで行ったでしょ?」

兄「あったなそんなことも…」

妹「突然いなくなって三日後、帰ってきたら汚いボロボロのハンマーだけ拾ってきたよね」

兄「どうにもそれが滅茶苦茶やべぇやつだったらしいよ…わからんけどさ…」

妹「今じゃ物置で、傾いた荷物の調節のためだけに使われてるやつ、それって」

兄「え…初耳なんだけどそれ…」

妹「それって『誰かのために拾いに行って』、『誰かのために持ってきた』。その誰かは言わなくてもわかるし、その人の願いは自分だけのものじゃない」

妹「きっと最初から最後まで【他人のためだけに動いていた】人だったから、兄貴は一緒に旅に出た」

兄「……」

妹「それに兄貴は忘れた風装ってるけど正月になればダイナマイトボディの金髪碧眼の女性から、ほぼ裸の写真付きエアメール来るじゃん」ジトー

兄「…今はそのこと忘れて下さい」

妹「あれお母さんにバレたら処刑ものだから。というか、あのね兄貴」

兄「う、うん」コクコク

妹「別に良いじゃんか。誰かのために動いて、誰かの願いのために生きる。そんなこと馬鹿にされる筋合いないし、立派な生き方だよ」

兄「…でもさ」

妹「でもじゃない。あの金髪女性と兄貴は同じなんだよ、それに今回だって誰かのために動いた兄貴はふつうのことをやっただけ」

妹「兄貴をここまでボロボロにした人に私は言ってやりたい。ふざけるな、兄貴は化け物じゃないってね」

兄「……」

妹「ねえ兄貴、私は絶対に兄貴のこと責めないし嫌いになったりもしない。ただそれだけだし、それ以上も要らないと思ってる」

妹「ただ私の兄貴で居てくれれば、それだけで良いの」

兄「…俺は言ったよな、また人を殺しかけたと」

妹「言ったね」

兄「それは願いを叶えるためだけが俺の生き方であって、それしか頭にない化け物だからやってしまいかけた過ちだった」

兄「それがどうしても胸につかえて…お前の言葉が信じられないでいる…兄ちゃん兄貴として失格だ…妹の言葉を信じ切れないなんてな…」

妹「……」

兄「俺はもう一度、あの時お前を傷つけた日と同じように…大切な妹ちゃんを傷つけるかもしれない…」

兄「それを今日思ってしまった。なにも変われてない、あの日からの俺はなにか少しでも変われたと思ってりゃさ…全然、まったくだ」スッ

妹「……」サスリ

兄「こんな綺麗な顔で、可愛い顔を触れている今……望んでいた結果がある今この時でさえ、何時戻ってしまってもおかしくないと思った」

兄「恐いんだ…恐いんだよ妹…俺はもう人を傷つける怪物には戻りたくない…簡単に腕を振るっただけで殺せてしまう、そんな化け物に…」


兄「どうして…俺はこうも弱いんだろうな…馬鹿みたいに同じことを何度も考えるんだろうな…」


妹「兄貴」

兄「……」

妹「ねぇ兄貴ってば」

兄「…ん」

妹「そろそろ膝枕しんどいからやめていい?」

兄「…はい…」ゴロリ

妹「ふぅー疲れた、痺れちゃったよ」

兄(床冷たい…)シクシク

妹「ねぇ兄貴」

兄「なんでしょうか…?」

妹「だったら今回も私の為だけに頑張ってよ」ボソリ

兄「えっ?」

妹「願いを叶えるのが恐くなった、叶えていては誰かをまた傷つける。知らないうちに知ろうとしない内に、化け物として」

妹「…それが兄貴にとって辛いことだったら、また、私のためだけに頑張ればいいじゃん。こんなに家を壊したやつ、懲らしめに行ってって」

兄「……ゴメン、家の中ほとんど壊したの俺だわ……」

妹「じゃーとりあえず腹立つから殴りに行っておいで」

兄「ま、待て待て! そうお前のお願いを聞いて、ハイそうですか行って来ますとはなりにくいって言うか…!」

妹「……。どうして? 私の願いで以前にも世界救ったことあるのに?」

兄「いやだからね? 滅茶苦茶気まずいっていうか、なにも知ろうとしないことを良いことに、人を傷つけかけたからさ…!」

妹「なんだ、」


妹「結局、その女の人に会うのが恐いだけじゃん」


兄「…あぅ…っ」

妹「珍しいこともあるんだね。そもそもこうやって悩んでる事自体、とうの昔に【私が解決させて】あげたのに」

妹「私の願いが兄貴を化け物であって、人のための化け物にしたのに。なのにもう一度同じことを悩む理由は…」

妹「──ただただ、兄貴が叶えたかった女の人に会うのが恐いだけ」


兄「……そうなるのか、やっぱり」

妹「誰に見えたの?」

兄「へっ?」

妹「その叶えたかった女の子、一瞬でも、誰に見えたの?」

兄「しょ! しょれはそのぉ~…」オドオド

妹「みさかいなし」

兄「うぐッ」

妹「色欲魔、唐変木、筋肉悪魔、ド変態」

兄「わ、わかってますわかってますほんとにすみませんーッ!」ドゲザー

妹「……」ぐりっ

兄「あふぅ!」

妹「兄貴はや・さ・し・い、兄貴だよねぇ」グリグリ

兄「へっへぇ~そのとおりでござんすぅ…」

妹「例え同じに見えたとしても、今更なに怖がるんだか。結局同じように頑張ればいいだけじゃん」

兄「………」

妹「今回は失敗した。また誰かを殺しかけた、じゃあ次だよ兄貴」


妹「──またもう一度、一緒にご飯を食べればいいだけじゃん」


兄「……」チラ

兄(踏み潰されたカレー、そうか最後まで食べれなかったな俺…)ギュッ

妹「兄貴」

兄「…うん」

妹「ちゃんと知っておいで、どうして願われたか今度はしっかり耳に入れておいで」

妹「きっとそれは、何よりも大切な想いの筈だから」

兄「……」コク

妹「それでもやっぱり駄目だと思ったら、帰っておいで。ちゃんと私はここに居るよ」

妹「──兄貴は私だけの兄貴で良いから、無理に頑張らなくていいし」スッ

兄「そりゃ…ちっとばかし虫のいい話だよ妹ちゃん…」

妹「ばーか、妹のお陰で立ち直ったくせに」

兄「あはは。確かに、そのとおりだよ」


スタ…


兄「俺はまだ知らなくちゃ駄目だよな。変に後悔して馬鹿みたいに暴れる前に…お前のことを守ろうと決めたあの日のように…」

兄「俺はどんなやつなのか、そして誰のために生きるのか。その理由を探し始めたあの時の俺と同じように」

兄「…あぁ、そうだ」


「昔、妹ちゃんが言ってました」


妹「大切なのは叶えることじゃない。良いよ、って優しく言えることが何よりも大切なこと」

兄「おう! それだ、イマイチ使う機会が無かったから忘れてたやつなんだが…」ポリポリ

兄「でも今回はその言葉で立ち向かってくるよ、今日もありがとう妹ちゃん」ニコ

妹「どーいたしまして」

兄「……」

妹「どうしたの?」

兄「行って来ます」

妹「…うん、行ってらっしゃい兄貴」フリ


グググッ ドッッッ!!


妹「わ~」ブワァアア

妹「凄い風…周りの家具が吹っ飛んだじゃんか…」パッパッ

妹(いまいち使う機会が無かった、ね)

妹「じゃあそれは、使うほどの相手だった…ということにならないのかな」

妹(そろそろ兄貴も妹離れかな。ふぇー疲れた、膝枕なんてしなきゃ良かった。しばらく痺れたまんまだなこりゃ)ビクビクッ

妹「まぁー…適当に、死なないだろうけど死に物狂いで叶えておいでぇー…」パタリ


妹「…頑張れお兄ちゃん」


妹「………」かぁああ

妹「……ハズ…」もぞもぞ

妹「っ……というかさ…」モゾリ

妹(兄貴、一体何処に向かったんだろ? 行く場所わかってるのかな?)


※※※


兄「あれ…どこに行けばいいんだろ…?」ズーン

兄(そうだって、そもそも俺って嬢ちゃんの家というか城の場所わからねーじゃん!)

兄「カッコつけてこのザマかよ情けないぅぅ…」


「そのような情けない声を出されても困ります、お兄様」


兄「…えっ? この声まさか…!」


「はい。わたくしであります、ちょいエロお姉ちゃんメイドことマミーでございます」スッ


兄「ぶ、無事だったのかマミーおねちゃ、」


黒服「お兄様こそよくご無事で…」


兄「ってオイ!」

黒服「はて? どうかなされましたか?」キョトン

兄「よ、よくもまぁ~ッ…恥ずかしい呼び名を呼ばせておいて、お前ェッ! 凄く声真似うまいな畜生ッ!」かぁあ

黒服「クスクス、いえわたくしですよお兄様。本当にマミーで御座います」

兄「へぇっ!?」

黒服「…、」ピクリ

黒服「メイド長、やはり始めに説明するべきだったのでは…これでは私が恥ずか『黙りなさい黒服、誰に指図しているのですか』…………、」

黒服「御意」ビシッ

兄「あ、あのー?」

黒服「『仕方ありませんね。実はわたくしは此処には居ません、この黒服の装備であるマイクを使ってコンタクトを取っているのであります』」

兄「あ、あー…そういう…」

黒服「『お兄様』

兄「は、はい」

黒服「『来るおつもりですか、我が城に』」

兄「…うん」コクリ

黒服「『それは何故でしょう? 些かわたくしの願い、そして命の価値では到底見合わぬ行動と思われます…』」

兄「……」

黒服「『今回は執事も、粛清のみ行った。お兄様が今から行うことは不法侵入でありますよ』」

黒服「『殺害を許可される可能性が十分にあります、どうか気分をお鎮めになりもう一度深くご考えを』」

兄「いや、もういっぱい考えたから良い」

黒服「『……』」

兄「それにもっと考えるのはもう一度、嬢ちゃんに会ってからだ。どうして俺に太陽をみたいと願ったのか…」

兄「死んでしまうと分かってて、何故、俺に叶えて欲しいと言ったのか…それをちゃんと聞いてから考える、今はただ行動するのみだ」

黒服「『……』」

兄「なぜかって聞かないでくれてありがとう。すまん、結局俺の我儘なんだ…」

兄「もう後悔なんてしたくない…先に進まないと俺はまた塞ぎこんでしまう…だったらもう迷わない、答えを知ってから考えるんだ」


兄「俺が兄貴で居る為に、ただそれだけだ」


黒服「『お兄様…いまわたくしがここに居るのであれば抱きついてるところでしょう…』」

兄&黒服「ッ!?」ビックゥウウ

黒服「『その若さで何をそうも悟らなくとも…健気でか弱い貴方を抱きしめてナデナデしてあげたい…』」ダラダラダラダラ

兄「ちょっ! 今は本当にやめていただきたいっていうか…! うんっ!」

黒服「『そうですかそれは残念です……』」ホッ

兄(黒服さん色々大変そぅ…)

黒服「『お兄様のご覚悟、わたくしマミーはしかと受け止めました。ご自分の我欲を押し通すお姿、その生き様をわたくしは深く心に焼き付けましょう』」

兄「あ、ありがと」テレ

黒服「『我が主よ』」

兄「うん」

黒服「『是非に、何卒お嬢様の願いを…わたくしの大切な友人の想いを…彼女から聞いてあげて下さいまし』」

黒服「『貴方ならばきっと、叶えてくださると思っております』」

兄「…あぁ、やれることだけはやってやるよ」

黒服「『きゅん、でございます。この年で年下の男性にときめくとは…やはりここは一度、仕える身として抱きしめておくべきでは…』」ガクガクガクガク


兄「わ、わかった後でもっかい会った時に! その時にお願い!」

黒服「『本当ですか? 約束ですよ、必ずですよ?』」チ、チラリ

兄「はいっ!」

黒服「『クスクス、ではお兄様。我が城への案内させて頂きます』」

黒服「『──我が二人の主に、しあわせがあらんことを』」

兄「……」ギュッ


※※※


兄「でけぇー…門だなあオイ……」ポケー

黒服「私は此処までだ」スタ

兄「あ、ハイ! ありがとうございます…」

黒服「礼はいい」

兄「そ、そうっすか…まぁマミー姉ちゃんに命令されただけだろうしな…」

黒服「……」

兄「?」

黒服「どうかメイド長の願いを、何卒」スッ

兄「え…」

黒服「では」シュン

兄「……いい人なんだろうな、あの人も」

兄(多分だけどこの城に仕えてる人はみな、良い人だろうな)グッグッ

兄(全員が全員、お嬢ちゃんのためや誰かのために生きている)

兄「…それは凄く羨ましいことだ」パンパン!

兄「俺もまた誰かのために生きていていたい……たったそれだけで理由になる、生きていいことになる」

兄「妹ちゃん、俺頑張るよ」スッ


誰かを傷つける為に化け物ではなく、可愛い女の子を守るために化け物であれ。


兄「…うん、知ってる」コク


けど、それでも動けなかった時、俺はどうしたらいい?


兄「そりゃ勿論、もっかい聞きに行けばいいさ」メキュッ!

兄「──そしてもう一度ッ! ご飯食べようって言えばいいんだよッッ!!」


グォォオオッ! メチッ ドッ! ガッシャアアアアアアアアアン!!


兄「…そう妹ちゃんは言ってたさ…」グッ

兄「待ってろ嬢ちゃん──今行くぞッ!」ドッッ!


※※※


女「………」

女「…何故ああまで怒ったのだろう…」カチャ

女(私が説明しなかったからか? 言わなくてもいいと思っていた、所詮知らぬ子供だ…知る意味などない…)

女「私はただ、太陽を見たかった…それだけだ…」


かちゃり


女「…でも、なぜだろう」ぎゅっ

女(アイツが投げて壊れたコントローラーを見た時、とてもなんだか、心が傷んだ)

女(何度でも壊せといった。何度でも直してやると言った。けど駄目だった…あの時のアイツには言えなかった…)

女「何が違うのだ…? 壊れたものを直すことは、何時だって普通で当たり前で…そう決められてきた人生だった…」

女「…何を馬鹿なことを言ってるのだ…」


元よりその【理由を知りたいがために太陽を見たいと願った】のに。


女「普通、普通、この城での普通は全部…あの家では普通ではなかった…」

女「私はヴァンパイアとして生きていた…それが当たり前であり、しかしそれこそが心から疑問に思うことだった…」

女「お父様…」


『君は太陽を見てはいけないよ、見ては死んでしまう。ヴァンパイアとして意味が成さなくなってしまうからね』

『気高き血族ヴァンパイア家の一人娘、私は本当に罪な命を生み出してしまったよ』

『けど安心してほしい。私はずっとお前の傍にいよう、この命が尽きるまで…ぶぇっくしょん! あーカッコつけると鼻がむずむずする…』ジュルルル

『コホン! つまりは我が愛しの娘よ、常にヴァンパイアとしての誇りを忘れる事なかれ!』

『…だがな』


『良いんだよ、お前はお前だ。きっとお前は『お前だけの未来』を見つけるのだろう。そして選ぶことが出来るよう私は頑張った』


『昔ほど血生臭い一族では無くなった。お父さんマジ頑張った、お前が幸せで暮らせるようにな』ナデナデ

『だからね、愛しい娘よ』

『──壊すのはお前だ、そして直すのもお前だ。我が一族は完全修復と言った言葉があるが、先代も中々いい言葉を残す』

『そして私は【完全破壊】という言葉もお前に残そう。無論、選ぶのはお前自身の気持ちで選べ』

『完全破壊とは、完全修復よりも辛いぞ。生半可な気持ちで挑むな、つらいことになるし皆が止めるに決まってる、特に筋肉おじちゃんとかな』

『お前を命を張って止めるだろう。しかしそれは悪いことじゃない、お前を思っての行動だからツルツルな頭をポンっと叩いてよくやった! と褒めるがいい』

『……』

『しかし、それでもやっぱり』

『お前が本気で完全破壊を望むなら、あぁ、素晴らしいことじゃないか…それもまた悪いことじゃないぞ…』

『……、ヴァンパイアとして【終わり】を望むのなら』


『太陽を見ろ、そして死ぬがいい我が娘よ』ポン


『あぁかわいいなぁちっちゃいな手…ぐふふ…こんな小さい娘に何言ってんだろ私…あはは…うふふ…』



女(私は頭が良いからな、うん、物心つく前の言葉も憶えてるぞお父様)



女「私は…生半可な気持ちで太陽を見たいのだろうか…」

女(そうじゃない、私は頭が良いではないか。きちんと太陽を見ることがどういうことなのか、後のことも考えておる)

女「…しかしここが…」ギュッ

女「胸が苦しい…どうしても素直に気持ちを切り替えられない…何故だ…最初はこうもならなかったのに…」


かちゃり


女「…化け物、私はどうしたらいいのだ…」ぎゅっ



ジリリリリリリリリリリリリリリリ!!!



女「っ!? な、なんだ侵入者かっ!?」

執事「お嬢」ガチャ

女「エメト一体何が起こっておる! 状況を説明せよ!」

執事「…あー小僧が来たな、うん」ボリボリ

女「へ?」

執事「全身の骨を枯れ木の如くへし折ったつもりなのだがなぁ…ちょい儂も驚いておる…自信なくすわのぉ…」

女「おまっ!?」

執事「まー待てお嬢、儂も手加減など出来なかったのだ。寧ろ手加減などすれば枯れ木に成り代わったのは儂のほうだったぞ?」

女「ぐっ…今は良い、それでどうするつもりだ…っ?」

執事「狙いは分かっておる。お嬢だろうな、しかし意図が不明だ」

女「むぅ確かに…あ、あまり手荒なことはするなと言いたいが…」

執事「………。我が主の敷地内で暴れることつまり、死のみだ」

女「うぐッ」

執事「彼奴も分からぬ阿呆でも無かろう。それほどの覚悟、お嬢、何も思わぬか?」

女「…ば、馬鹿とか…?」

執事「グァーハハハ! 間違ってはなかろう、ただ人として如何なものかの」

女「……」

執事「我が主よ」

女「な、なんだ」

執事「命令を」スッ

女「…ッ…」

執事「わたくしめの身体に【命という名の命令】を」

女「…あの馬鹿を止めろ」

執事「御意」スッ

女「……ッ~~~!! ま、待て!!」

執事「む?」

女「こ、[ピーーー]でないぞ…? ちゃんと生きて家に帰すのだ…ちゃんと…」

執事「お嬢」

女「ど、どうしたのだ?」

執事「そりゃ無理だわな、儂は敵と判断した者を容赦なく駆逐させる───」

執事「──【命なきゴーレム】、話が主の命令は絶対なり」

女「……っ…」


パタン


女「あぁッ…何故私はこうも融通が聞いた言葉が吐けんのだ…っ」ギギギ

女「ぐぅう…どうして来たのだ化け物…もういいでは無いか私のことなど…っ」

女「…ばかもの…」ギュ


※※※


執事「…ムフゥ…」

執事「先代よ、貴様のガキはどうにも人の気持を知るのが苦手らしい」

執事(だがそれもヴァンパイアとして在るべき姿。共に儂とお前で望んだ道とは違わぬか、先代よ)

執事「クハァー…」コキッ

執事「また迷惑な事になったものだ…」ズシズシ…


※※※


兄「案外人と出会わねぇー…バッタバッタ倒していくつもりだったけど、これじゃ直ぐに嬢ちゃんの所つくか…?」ダッダッダッ

兄「ん?」チラッ

兄(なんだ一瞬足元が盛り上がったような、気のせいか)

グバァ!

兄「うわぁっ!? なんだっ!?」

黒服「…」ガシッ

兄(ちょっ!? もしや床だと思ってたらコレ人だったのか!? 黒服さん、じゃないさっきの黒服さんじゃない!)バッ

黒服「…」ズザザザ

兄「はな、せッ…このままじゃすり減っちまうぞアンタ…ッ!」ダダダダッ


ガシッ がしっ ガシッ!


兄「んぁ!?」バタリ


黒服「捉えました」

黒服「C地点により実行中、至急応援を」

黒服「おとなしくしてろ」


兄「ぐっ…舐めるんじゃないよ若者をぉおぉおぉッ!!」ぐぐぐっ


黒服「なっ」ズリズリ

兄「がぁあああああああああっ!! おるぅあッ!」ポイポイポーイ

黒服「…っ」

黒服「ぐ…」

黒服「…ッ…」


兄「はぁ…はぁ…じゃ、そういうことで!」ぐるっ


黒服「マルヨンサンマル」

黒服「【ゾンビ】の許可が下りた」

黒服「御意」


──バチン!


兄「くそ、大分タイムロス…うわぁ!?」ガッ バタリ

黒服「逃がさんぞ」ギチギチ

兄「くそ! アンタ等しつこいなッ! 俺がどれだけ化け物か見てるはずだろ、手加減してる内に…!!」

黒服「……」ガシッ

兄「あーハイハイ分かったもう我慢ならん! 腕の一本ぐらい男なら我慢しろよッ!」ぐぐっ


ブン!!


黒服「…」バキンッ

兄「そら折れた! 離さないから痛い目、に……なる…っ…なに…?」ゾクゥ

黒服「…」ガシッ

兄(折れた腕を何ら躊躇いなく伸ばして掴み…ッ!? 嘘だろ、んなこと我慢できるわけ…!)

黒服「足を抑えろ」

黒服「…」ガシッ

兄「くっ! おらァッ!!」ボッ!

黒服「…」ズドンッ 

どっさぁあああ…

兄「はぁ…はぁ…い、今のは軽く肋骨ボッキボキに…」


黒服「…」ムクリ


兄「な、に…ッ!?」ビクゥ

黒服「レッド確認」

黒服「直に応援が来る、持ちこたえろ」

黒服「御意」

兄「あ、あああああ、アンタ等なんなんだ一体!? 不死身なのかよ! 痛がりもせずそんな…!」

黒服「抑えろ」

兄「ひぃいぃいぃいいぃいっ!?」

※※※

執事「恐ろしがってるのぉ、クハハ」

執事「ム? 黒服カメラの位置が悪いぞ、立て直せ」

執事「そうだそれで良い、小僧の恐怖に歪んだ顔がよく見える…クハハ…我がソンビ共はいかが化け物」

執事「倒れせず、顔色一つ変えず、対象を追い続ける不死身の身体」

執事「…とはイカンが、無論人間故に無敵ではない」

執事「しかし痛みを感じない輩は相当なモノだぞ? とくと味わうがいい、その恐ろしさを」

執事「……」


『ぎゃあああああ!! 放して嫌だうわぁあああああああ!!』


執事「何にせよ怖がりすだ小僧…そういった輩は初めてかの…?」

執事(儂の気配を察知する技術、とは到底呼べんが対処法を知っていた程の奴だ…)

執事「数分持てば良し、と判断したが…何かトラウマでもあるか…」フン

執事「良かろう黒服共ッ! 待機解除、全部隊をC地点に集結ッ! マルタイを殺してでも止めろゾンビ共ッ!!」カッ!


『御意』


執事「…そぅら小僧、早くせねば沢山のゾンビが貴様の声に釣られてやってくるぞ」


※※※


兄「やめろ、離せやめろやめろ…ッ!」グググ

黒服「…」

兄(ちっとも離そうとしない、これじゃ何度やっても傷つけるだけだ、痛みを感じないやつほど俺にとっちゃやり難い相手も居ないってのに…ッ)

黒服「……」ギチギチ

兄(しかし例え何かしらの理由で痛みを感じないとしても、余程の理由がない限りセーフティがある筈だ…)チ、チラリ

黒服「…」キラ

兄(あれか? 全員が付けているチョーカーっぽいやつで小さなランプが付いてる、色が全員違う、緑黄赤…)

兄(色ごとに危険度を表してるってやつか、金が掛かってる技術なこって…ッ)グググ

黒服「持ちこたえろ」

兄(緑)

黒服「全部隊が来るそうだ」

兄(黄色)

黒服「御意」

兄(赤、あぁコイツだけは【心臓の音が激しく】聞こえる…つまり赤は限界ってことか)ドクンドクン

兄「ふぅー……」


兄「おらァッッッ!!」ガバァ!


黒服「、まだこんな力を」スタ

兄「ふんぬッ!!」ボッ!

黒服「…、」ズドゴッ

…パタリ…


兄(倒れ、た? よし、赤色ランプが身体としての限界ギリギリってことならッ!)

兄「ふむぐっ」ブゥォン

黒服「…」サッ ゴッ!

兄(両腕破壊──黄色から赤色! ここで一番軽めの一撃をポンッ!)ブン


黒服「…、…」バタリ


兄「良いぞ、よしッ!」グッ

黒服「…!」

兄「黒服さんたちには分からないだろうけど、俺にとって【一番怖いのは一撃で殺しかけてしまう】ことなんだ…」

兄「痛みを感じない奴は今まで何度か会ったことがある。痛みに躊躇い分、こっちも本気を出さざるを得ないのはキツかった…」ギュッ

黒服「…」

兄「しかし、黒服さんたちの首に付いてるチョーカーは随分と分かりやすい。こっちも何処で手を抜いて、何処で本気になるのか明確だから」

兄「…覚悟してもらう。死なない程度に、頑張らせてもらうからなっ───」


ガシッ


兄「───う」チ、


ガシッ


兄「──そ、だろ」チ、ラ

黒服「…」
黒服「…」


ギュウウウウウウウウウ!


兄「ばッ! かな、なぜッ!?」バッ


黒服「…」ゆらぁ
黒服「…」ガクガクガク


兄(何故動けるッ!? ランプの色は──【黒色】だってッ? 意味がわからッ……ッ?)キョロ

兄「…この、足音は…」ぴくっ

兄(沢山の規律正しく鳴り響く革靴、ここから遠くない、もう近くに来ている、まさかこの足音全員が…?)

兄「や、やめろ…やめてくれ…それ以上動くなら絶対に命に関わるってッ!」


黒服「…」スタ… スタスタ…
黒服「…」ガクガクガク…


兄「ぁ…」ぞわぁ

兄(こりゃたまったもんじゃない、冗談にしてはたちが悪すぎ、こうまで破壊されて倒れない人間なんているのかよ!?)

兄「だが、や、やることは一緒だ。一人ひとりのランプを確認しつつ…決め手は手を抜き一撃で…仕留めて…」

黒服「…」ズチャ ズチャ

兄(──そして【全員この状態になったら】、俺は一体どうすればいいんだ…?)ゾクッ

黒服「捉えろ」

黒服「…、…」ガクガクガク

黒服「……、…」ガタッ ガタッ


兄「あぁ…くッ…黙って突っ立ってても状況は変わらない…!」ギュッ

兄(俺は化け物なんかじゃない。簡単に人を殺せる化け物になったつもりなんて、これっっっぽっちも無いッ!)


兄「俺は大事な妹ちゃんの立派な兄貴だ!!」くるっ


黒服「!」

兄(逃げる! この場から出来る限り最速、最短で逃げ去ることが最重要!)ダダダダッ

兄(敵わない相手じゃないからこそ戦略的撤退! 前もそうやってやり過ごした! 傷つければ感覚が無かろうが元の速さは減少する…)チラリ

黒服「…」ダダッ

兄(人間の身体は正直だ、馬鹿みたいに全身の骨を折られたクセに数時間後には元気に走ってる俺とは違ってなッ!)ダダダッ

兄「彼処の角を曲がって、全力で黒服さんを置き去る──」


兄(──あぁでも知っている。これが【罠】だということを)


兄「……、」ズサァア…

兄「【逃げられることを前提に配置された部隊】……以前もそうやって苦しめられた、何処に逃げても【目の前に現れる】…」


ザッザッザッザッ ザッザッザッザッ

兄「アハハ…だがこりゃ目の前の状況は何だ…全員が全員みな…」


ザッザッザッザッ ザッザッザッザッ ザッザッザッザッ


兄(視界内で把握できる限り少なくとも一、三、──五十人以上の黒服さん達が走ってきてるけど…)

兄「みんな、あんなゾンビみたいに立ち上がるって言うのかよ…馬鹿かよ…」ドッドッドッ

兄(今までの経験を超え過ぎてる。三人か五人、痛みを感じないそんな輩とは出会ってきたけどさァ…!)


兄「ふぅ~っ」ぎゅっ


兄「──ハハッ! アハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


黒服「マルタイ確認」

黒服「作戦に入る」

黒服「ゾンビのスイッチを入れろ」


「「「御意」」」


兄「アハハハハハハッ! ハァーハッ! ハハッ!」ドクン   ドクン   ド ク ン      ド  ク ン 


『ド   ク  ン』


兄「ハァーッ……よしッ! 心臓温まって来たぞ! うっしッ!」ぐるんぐるん 

┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨


兄「なに、難しい話じゃない。むしろ昔の経験より危なくないじゃんか」スタ

兄「そりゃそうだコブラの毒で感覚が麻痺されていたあの時より全然気分悪くないし…」スタスタ

兄「相手も丸腰と来たもんだ。痛いことも辛いこともまったく無い、むしろ気分が高翌揚して楽しいばかりだ…!!」スタスタスタ


ダン! スゥ…


兄「──己だけじゃなく、誰かの為に生きる人達の強さに立ち向かうだけ」ギャリ

兄「だから大丈夫、ちゃんと俺は【皆の大切な想いを連れてってやるぜ】?」ズッッ



兄「よーいドンっっ!!!」ドッッッ!



黒服「捉えろ」

黒服「御意」ガシッ


兄「一人目ェー!」ダダダダダダ


黒服「…」がしっ
黒服「…」がし!


ガシガシガシガシガシガシ!!!


兄「二人三人四人目五人目ッ!! オラどんどん来いやゴラァッ!!」ダダダダダダ


黒服「…、」ザリザリザリザリ

黒服「ば、馬鹿な」ズサァア…


兄「テメー等の重さはッ! 黒服さん達の重さ、想いは、くだらねェたったそれっぽっちかーッ!?」

兄「──軽いぜ軽すぎるッ! どうせならもっと大胆に見せろよ馬鹿野郎! 時には強気じゃねえと相手に伝わらないこともあるんだぞッ!」


黒服「止まらんだと…」ガリガリガリ

黒服「と、飛びかかれッ! 生死を問うなッ!」


兄「十人目ッ! オラオラオラオラオラオラオラオラッ!! まだまだ俺の足は止められんぞォーッ! まだまだまだ連れってやれるぞーッ! アッハハハハハハ!!!」


兄「ヒィーーーーーハァーーーーー!!」


ダダダダダダダダダダダ!!


※※※


執事「化け物だのぅ…七十人のゾンビ共を身体にぶら下げて行くつもりか…」

執事(お嬢の部屋に着くのも時間の問題か、体力の限界が先に来るか、未だ貴様のことを舐めて掛かっておったわ)

執事「どうせやって来る。儂も【ゴーレム】として準備を続行だ」ヌリヌリ

執事「…ム?」クルッ

キィ ガチャ…

執事「流石だの、もう起き上がっても支障なしか」

「始めに問うことがそれなのでしょうか? 些か呆れ返るばかりです、エメト」

メイド「──紙切れ同然のごとく地面に叩きつけておいて、謝罪の一つも欲しいところですが」

執事「なに、お前もあの化け物と一緒で立派な【不死身】故にな。手加減しようにも無い」

メイド「…顔を狙わなかっただけ感謝します」

執事「マミー、何をしに此処へ来た。わざわざ小言を言いに来たわけでもあるまいて」

メイド「勿論、小言ですが?」

執事「クハァー…儂とてお前の冗談に一々かまってられるほど暇ではないのだがなぁ…」ヌリヌリ

メイド「特に貴方の『準備』を邪魔するつもりなどありません。ただ、本当に小言を伝えに来ただけなのですよ、エメト」

執事「ではそのまま語れ、儂も勝手に続けるからの」ヌリ

メイド「はい。では、そうさせていただきましょう」スッ

執事「……」

メイド「エメト、現場管理権を持つ貴方なら当然のように既知なのでしょうが…我が部隊である『黒服』達は、皆…」

執事「あぁ既に【銃火器許可】は下ろしてあるな」

メイド「ええ、ですが画面を見てください」

執事「…」チラリ

『どっこいしょぉおおおお!』

執事「…いつの間に綱引きが始まってたのだ?」

『そら引け皆引けッ! 我ら黒服の意地と根性を見せろッ! せーのッ!』

『御意ィー!』『御意ィー!』『御意ィー!』グッグッグッグゥウウゥゥ~


『ふんにゅるぅうううあああああああああ!!』グギギギギ


執事「あの馬鹿共は何をして…まったく…」ハァ

メイド「実に楽しそうでありますね、クスクスス」

執事「して、これがどうしたマミー」

メイド「何故止めないのです? 彼らは貴方の作戦を確かに逆らってはいませんが…」

メイド「明らかに真剣味の欠ける状況であることは、見てお分かり頂けると思われますが」

執事「………」ヌリヌリ

メイド「語る気は無し、と。ではわたくしからこの包帯で隠れた小さな口からご説明させていただきましょう」


メイド「元より彼らたち、七十名の【黒服】は彼を本気で止めるつもりなどありません」


メイド「銃火器許可は発砲命令とは異なります。つまり彼らは敢えて、手持ちの武器は使用せずにこの作戦を遂行しようとしている」

メイド「それは何故でしょう? この屋敷の侵入者は即射殺が原則。銃火器許可など下りれば皆躊躇いなく銃殺という手段を選ぶはず」

メイド「だが、現実はそう為らない。彼ら黒服たちは耳にしてしまったのですよ…とある少年の覚悟を、一人の黒服のマイクを通して…」

メイド「──おのが覚悟を決め、いざ立ち向かわんとする【声】を」

執事「フン」

メイド「気に入りませんか、エメト?」 

執事「何を言う、その声など儂も聞いたわ」

メイド「ええ、ええ、そうでしょうね」ニコ

執事「……」

メイド「しかしそれならば何故ご立腹なのでしょうか? 貴方のような豪快で無欠な性分ならば、実に清々しいものだと察しますが」

執事「分からんか、分からぬか」

メイド「はて?」キョトン

執事「見てみい画面を」クイッ


『ぐぁ…はぁっ…これじゃもう体力のぉ…限界っていうかご飯食べてないから全然力が出ないっていうかぁ…ハァハァ…!』

『…』ズン

『ぬあっ!? 黒服さんの中でも一際デケェ人来たっ!? お、おおおぅッ!? テメーでも背負っていける覚悟はありますよぉ!?』

『貴様は兄妹の絆が深いと見た。これを見ろ、侵入者』スッ

『あ…それは…!?』

『巾着袋だ、我々が回収した。素直に返して欲しければこのまま屋敷から───ぷごォォォオッ!?』ドッシャァアアア

『ハァ…ハァ…』ガシッ


『き、きた…キタァーーーーーー!!! 妹ちゃんの匂フンフン! 微かにかほりが未だ残っスゥゥウゥウハァァァやばっこれ凄く元気でクンカクンクンクン…フォォォォォォォォッッッ!!』ぺかー


『──構わず来いよ黒服共、俺は誰にも止められねぇ!!』ドン!


執事「……………」

執事「何故にこのような気狂った小僧の言葉に共感などするか…」

メイド「ぷんぷん、でありますよエメト。実に素直で素敵ではありませんか、お兄様超かっこいい」ポヤー

執事「マミー…お前は本当にその性格で今後生きてくつもりか…?」

メイド「エメトよ、わたくしは最初から最後まで正確無比な状況を伝えております」ペコリ

メイド「確かにあの少年はどこかおかしい…」


『うわぁああああああああ! 巾着袋を頭に被ったら妹ちゃんに包まれうわああああああああああ!!!』


メイド「ですがその素直さに憧れるのですよ、あの少年の生き方には我々一同…七十人の黒服たちもすべて…」

執事「……………………………」

メイド「元より、わたくしと黒服たちは『ワケありの人生』を歩んできた身。かくにも人の世は生きにくいことこの上ない」

メイド「あの黒服たちは全て【痛覚を失くした】者の集いであり…」

メイド「軍による投薬人体実験、後天性失認障害、知覚麻痺を引き起こす花を摂取、そのようなモノを口にせねば生きられぬ土地に生き…」

メイド「つまりは七十人全ての者が望み、望まれぬ過程を得て【生きる屍】と化した者達であります」

執事「何が言いたい」

メイド「そして、そのような者たちを世界各国でかき集め──この城に呼び込んだのは我が主であった先代のお父上様でした」

メイド「無論、旅を共にした貴方ならわたくしよりも知っているでしょう」

メイド「集められた彼らは一つ、先代様から言葉を渡されました」


『私の為に生きることを、今、ここで誓い給え。ならばお前たちに生きる希望を与えよう』

執事「…」

メイド「彼らは生きる意味すら手放してしまっていたからこそ、先代様の言葉は彼らの心に響き、この命が尽きるその時まで仕えることを決めた」

メイド「そうして繋がった黒服は、そしてわたくし達は、もはや血の繋がりよりも強く、尊く、そして気高く繋がりを見せたのです…」

執事「クハァ~…話が長い今更だが簡潔に話せい、儂はもう歳だからのぉ」トントン

メイド「……アンタも話し出したら長いクセに…」ポソリ

執事「なにか言ったか?」

メイド「いえ、何も?」キョトン

執事「…いいから要点だけ話せ」

メイド「ええ、ですから憧れるのです」ニコ


「そして惹きつけられるのですあの少年に、ご兄妹との約束を己の生き様として語る姿に」

「揺るぎなく化け物として生きながら、わたくしたちが絶望した人の世でまた揺るぎなく化け物として生きる」

「人の為に生きる怪物、だからこそ人でありながら痛みという怖さを失った彼らには、とっても興味深いわけであります」


メイド「お兄様がどのようにして『我が主』を救うのか、とね」

執事「クハ! なんとも見誤ったな馬鹿共め、お前もまた阿呆としか言い様がないわ」

メイド「そうですか糞爺?」

執事「もう少し言葉を選べマミー、あのなぁ? 意味など無い希望など持って何を成す? 」

メイド「へぇ~爺はそう思ってるんだ~」コポコポ

執事「茶を入れるな! わしの話を聞けぇい!」ダン

メイド「ずずっ…いいよ? 聞いてるから、おじいちゃん喋っていいよ…ずずず…」

執事「お前…ッ! 喋りたいことだけ喋りおって一人で勝手に満足しおったなッ!」

メイド「そうなりますね」ニコ

執事「クッハァ~ッ…お前がそのような性悪だとわしゃ初めて知ったぞ…」

メイド「女はナイフを隠し通すものですよ。いえ、そもそもわたくし既に辞めてますし、むしろお客様気分ですし?」コテリ

執事「…この隠し部屋に堂々入り込んでおいて何を言うか無礼者…」

メイド「この部屋緑茶しかないのですか? コーヒーは?」

執事「そこの戸棚だッ! 勝手に飲めぇいッ!」ブン

メイド「有難き幸せ、誠に感謝します」ペコリ

執事「…もう一度言う、お前らは間違っとる。期待などしても無駄だ、その希望など無価値に等しい」

メイド「ふんふ~ん♪」がさごそ

執事「……。しかしマミー、お前の言うとおり小僧は『希望』となり得る可能性はあるだろうな」

メイド「……」

執事「だがの、結局その願いを叶えたいと願う人物が───」


執事「──元より【本気】ではなかったと成れば、どうなるかの」


メイド「勿論、それでも叶えるでしょう」

執事「それに何の意味がある」

メイド「意味など後で考えても宜しいでは? 人生など終わりに理由付けることのほうが多い気がしますが」

メイド「ずずっ…いいよ? 聞いてるから、おじいちゃん喋っていいよ…ずずず…」

執事「お前…ッ! 喋りたいことだけ喋りおって一人で勝手に満足しおったなッ!」

メイド「そうなりますね」ニコ

執事「クッハァ~ッ…お前がそのような性悪だとわしゃ初めて知ったぞ…」

メイド「女はナイフを隠し通すものですよ。いえ、そもそもわたくし既に辞めてますし、むしろお客様気分ですし?」コテリ

執事「…この隠し部屋に堂々入り込んでおいて何を言うか無礼者…」

メイド「この部屋緑茶しかないのですか? コーヒーは?」

執事「そこの戸棚だッ! 勝手に飲めぇいッ!」ブン

メイド「有難き幸せ、誠に感謝します」ペコリ

執事「…もう一度言う、お前らは間違っとる。期待などしても無駄だ、その希望など無価値に等しい」

メイド「ふんふ~ん♪」がさごそ

執事「……。しかしマミー、お前の言うとおり小僧は『希望』となり得る可能性はあるだろうな」

メイド「……」

執事「だがの、結局その願いを【乞う人物】こそが───」


執事「──元より【本気】ではなかったと成れば、どうなるかの」


メイド「勿論、それでも叶えるでしょう」

執事「それに何の意味がある」

メイド「意味など後で考えても宜しいでは? 人生など終わりに理由付けることのほうが多い気がしますが」

メイド「──小娘如きが儂に人生を説くか」

メイド「と、貴方は言いそうでありますが」ニコ

執事「……」

メイド「わたくしは不識を晒してでも頑固爺に言ってやりたいのですよ、案外、人は可能性やら未知数といったものに…」

メイド「──賭けて宜しいのでは、とね」

執事「フン、若いぞ若すぎる」

メイド「爺はもう少し頭を柔らかくしろよ♪」

執事「何とでも言えい。儂は経験上、そのような期待などごまんと潰える所を目にしてきた」

執事「哀れようのうマミー、お前の希望も又海の藻屑と消えよう」

メイド「………」

執事「されど現状は我が主の問題、儂はこの命が尽きるその時まで立ち塞がる【護り手】である」

執事「お嬢から芽吹く危険な芽を取り除く存在だ、それしか出来ぬし、それしか【望まれない存在】だ…」

メイド「貴方にとってそれは…」

執事「あぁ、そうだの」


執事「儂が此処にいてよい理由であり、それが【『命』令】だからのぉ」


執事「はらしてもらうぞ、この意地と人生を」クルッ

メイド「…悔いなきよう」ペコリ

執事「うむ」コク

※※※


兄「ハァ…ハァッ…ふぅー…ん! ついたっぽいな、この部屋か?」コンコン

兄「……」シーン

兄「おりゃっ!!」ゲシッ ドッバゴォオオン

兄「あるぇー?」キョロキョロ


黒服「またドアが壊されたぞーッ」

黒服「修理費が馬鹿にならん止めろ我々で止めるのだ!」

黒服「ウォーッ!!!」


兄「何処にいるんだ嬢ちゃんってば…こうまでして探しても見つからないなんて…」グググググググ


黒服「う、動かんぞ…!?」

黒服「我々七十人が死に物狂いで押し倒そうとしているのに!」

黒服「呑気に腕を組んで考えこんでやがる…!!」


兄「こっちの部屋かな…」スタスタ


黒服「オイ! やめろもうドアを壊す…やめて!! もう壊さないでお願い!!」

黒服「もういい見た目的に移動できない風体にしろ! 服を破くんだ!」

黒服「し、しかしそれでは我々がし、少年を囲い服を剥ぐという…とんでもない絵面になるのでは…?」

兄「お? そりゃ間違ってるぜ、服を脱がしたら掴む部分が無くなって不利になるのは黒服さん達の方だよ?」スタスタ


黒服「グムム」

黒服「マッパにされることもなれてやがるのかコイツ…」

黒服「ど、どうすれば…」


兄(仕方ない…黒服さん達も必死だし俺も世間体的なモンを気にしてる場合じゃないか…)ぐっ

兄「いざッ! お犬さんモーーードッッ!!」バッ

黒服「なっ!? 急に床に伏せ始めたぞ…!」

兄「俺の鼻は警察犬にも等しい繊細で高度な嗅覚を持っている…くんくん…」ザッザッ


兄「来た! お嬢ちゃんの匂いッ!」┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド


黒服「四つん這いでありながらなんという速さをっ!?」

黒服「止めろーっ! ある意味その動作で我が主の部屋にたどり着かせるなーッ!」


兄「フハハハーッ! この俺を止められるかなァ!? うぐぇ!? ちょ容赦無い、ウォォォオオオオオオ!!」┣¨┣¨┣¨┣¨

兄(ムッ!? 近い近いぞ嬢ちゃんの部屋は、何処だこの辺りのはずだ!)

兄「──あれだ!」ドンッ!

黒服「「「止めろぉおおおおお!!」」」」

兄「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


兄「だらァッ!!」ガチコン! バーン!

兄「いぎぁッ!? ぐぅうううう……っ」ドッシャアアアアアア…


「お、オマエ…」


兄「はぁ…はぁ…やっと見つけた、随分とまあ遠くに行っちまってからに…探すのに苦労したぜ…」

女「な、何故きたのだばかもの! 私の屋敷にまで侵入し、しかもそんなに傷ついて、ないけどな!」

兄「まぁ細かいことは横に置いといて、嬢ちゃん」

兄「俺がここまで追いかけてきたのはただの我侭だ、俺が満足したいから、もう何度も後悔なんてしたくないからここまできたんだ」

兄「お嬢ちゃん」

女「…、な、なんだ化け物…」

兄「アンタは、本当に太陽を見ると死んじまうのか?」

女「……」

兄「ただ、それだけを訊きに来た。今度はちゃんとお嬢ちゃんのことを知りたい…それが俺の我儘なんだ」

女「わ、私は…」

兄「うん」

女「…一般的な死を迎えることはない…象徴的な意味なものであり…本当に死ぬわけではない…」ボソリ

兄「っ………」

兄「そっか、そっかそっか! そりゃ良かった! はぁ~すっげぇ安心した…俺は殺しかけたわけじゃないんだな…」ホッ

女「ば、ばかもの、本当にそれだけを確認しに来たのか…我が城に…」

兄「勿論、そりゃだって願う奴を知らぬままに殺そうとしてたなんて気分が悪い」

兄「…それに俺はそんな【化け物】に為りたくはない」ギュッ

女「な、なぜだっ?」

兄「おうっ?」

女「別に本当の死を迎えたとしてもオマエには関係ないだろうッ!? 私とオマエに何の関係がある…?」

兄「そりゃ俺が認められないわけであって…」

女「赤の他人だぞ!? 死は皆平等に訪れる、オマエはニュースで毎日垂れ流される人の死に一々心を痛めるのかッ!?」

兄「そんなわけないだろ、他人と嬢ちゃんとは違うじゃん。多少知り合った仲だ、願いを叶えようと思った人間だから」

女「だからここまで聞きに来たのだと!? 意味が分からん、意図が分からんッ!」

兄「だぁーもう! そりゃ俺の我儘だっつーことなの! 一体お嬢ちゃんはなにが言いたいんだっ!?」

女「じゃ、じゃあ訊くが…オマエは聞きたいことを聞いて、この後はまっすぐ家に帰るのか…?」

兄「はぁ? 帰るわけないじゃんか、ちゃんと嬢ちゃんの願いを叶えるよ」

女「それだッ! それ絶対に言うと思った! 黒服もエメトも、そしてマミーも私が太陽を見ることを阻止することはわかっているのであろう!?」

女「私は太陽が見たい! それがどのようなことなのか、自分でも理解している…後の行動もきちんと予測を立て、準備を密かに行ってきた…!」

兄「………」

女「止められる意味もハッキリとわかっている…私はヴァンパイアとして完成された存在だ…そうなるよう父上様から育てられた…」ぎゅっ

女「何故だ…私にはこれっぽっちも分からん…止められる意味も理解している、そしてマミーの応援自体も【意味】もわかる…そしてオマエがここにきた意味も…」


女「どうして、【こんな程度】のことで【みな本気になるのだ…?】」





兄「……」

女「わからんよ私には…太陽を見ることによるリスクも理解して、止められる脅威のレベルも把握していた…」

女「マミーも表には出してこなかったが、私が太陽を見ることを応援してくれていた…しかしただの応援であろう…?」


女「何故、エメトと仲違いしてまで私を応援する必要がある…? 私は不思議で堪らない、実に非生産的な行動ではないか…!!」


女「ただの太陽だ! 太陽を見たいと願っただけであり、その場合によるデメリットもきちんとわかっていた!」

女「オマエもだ化け物よッ! オマエは何故このようなことまでして私の所まで来た!? そして叶えようとする!?」

女「それが…それこそがオマエの我儘であるのなら…もっと頭をつかうべきだろう…なぜ必死になるのだ…?」

兄「……」

女「どうか私に、私に分かりやすく教えてくれ…そのせいで今の私は何故か…素直に太陽を見たいと思えなくなっている…」ギュゥウウ

女「──このような馬鹿な私のままでは、駄目な気がするのだ…」

兄「…嬢ちゃん」

女「な、なんだっ?」ビクッ

兄「ゲーム楽しかったな、一緒にやったスマブラ滅茶苦茶楽しかったよな」

女「え…?」

兄「コントローラーぶっ壊すたびに嬢ちゃんが文句を零しながら直して、また壊して、また直して」

兄「いっぱい遊んで疲れた時に食べたカレーは凄く美味しかったよな」

女「…」コ、コク

兄「ああ、それに俺も楽しかった。久しぶりに笑って遊べたし、こんな時間が長く続けば良いなって思えた」

女「……」

兄「そだけじゃ駄目か?」

女「……それだけ…?」

兄「うん。また一緒に遊びたい、また一緒にごはんを食べたいからって理由で聞きに来たのは駄目なことなのか?」

兄「そりゃ最初の叶えたかった理由は違うさ。けど、今の俺はそういった気持があるからここまで来れた」

兄「あと、どんな障害があっても譲れないアイツとの約束があったからここまで来たんだよ」

女「…」

兄「俺がここに居る理由は、そして俺が嬢ちゃんの願いを叶えたい理由は【大切な人の為】なんだよ」

兄「自分だけじゃない。己の考えだけではこうまで動けない、大事な人の為だからこそ足を動かせられる」

兄「マミーお姉ちゃんだって、今俺に乗っかって黙ってる黒服さん達も、そしてあの執事も…」


兄「全部、嬢ちゃんの為だからこそ本気になれるんだ」


女「大切だから…本気になれる…?」

兄「うん! 特に俺みたいな化け物はそうじゃなきゃ生きられない、人の為になんて理由を探さなきゃ満足に息すら出来無い…」

兄「嬢ちゃん、知ってくれよ。太陽を見ることは嬢ちゃんが考えてるほど『軽い』もんじゃないんだ」

兄「どんなにリスクを理解しても、頭では分かってても、簡単には譲れないこともある」

兄「──俺はそんな人達と戦って、今こうやって嬢ちゃんに何とか再会出来たんだ」

女「…」

兄「そんなに難しい話じゃないからな? 至ってシンプルなもんだ、深く意味を探すんじゃない。本当に小さなことでいいんだよ」

兄「俺みたいに大切な妹ちゃんの為に必死になる、ほら、言っちゃえば実に簡単なことだ」

女「…でも」

兄「わからないなら行動してから考えればいい! 時には思い切って大胆にやってから、どうしてこうなったのか理由を探せばいいじゃんか」

女「そ、それでは…馬鹿なだけではないか…」

兄「ふん、言っちゃなんだが頭だけで考えてなにもしない奴のほうが俺にとってバカそのものだと思うけど?」

女「………」

兄「いやけど嬢ちゃんは考えたからこそ行動してるか。それでいて皆の気持ちが分からないかぁ…うーん…」

兄(そもそも太陽をみてどうなるかその意味がわからないし。しかしこのまま叶えてもありがたみってもんを本当の意味で理解しないような…)

女「………」

兄「だーもう、メンドクセ。考えるのやめたやめた!」

女「ちょおおおおい! いきなり何を言ってるのだオマエは!?」

兄「良いじゃんもう、いっぱい考えたんだろ? どうしてここに来たんだって俺が侵入してきた時点で思ってたんだろ?」

兄「なら良し! 俺も妹ちゃんと仲直りしたときも、すぐに頭を切り替えた! コイツの為に頑張って生きようと思えたし!」

女「だ、だからそれが分からんから迷ってると…!」

兄「若いんだから平気だっての! うん! 俺の親父みたいに年食って無茶苦茶やって世界各国逃げまわってる奴より全然マシだ!」

女「えぇぇえぇえ~…」

兄「行動してからもう一度考えろ! 嬢ちゃんが太陽と見たいと願ったことは事実なんだ、だったら叶えてから皆のことを理解するよう頑張れ!」

兄「…そういったことなら、俺も至って素直に嬢ちゃんの願いも叶えやすい」ギチチチ

兄「俺も嬢ちゃんのために【化け物】になることも容易いじゃん…」メキィ

黒服「…」

兄「黒服さん、俺ちょっと嬢ちゃんの願い無理やり叶えるから、そして教えてくるから退かすね」


グググググググ


兄(ああ知ってるよ、分かってても止めるよな。それこそが黒服さん達の使命だ、だからこそこっちも本気になる)

兄「ふぅぅうぅぅうううぅぅ…はぁああぁぁあぁあぁぁ…」


兄「筋肉膨張ッ! ハァアアッ!!」ギュウウウウウウ  ボッッッ!!


黒服「…!」ドッシャァアアア

兄「我が全身の筋肉を瞬時、一瞬にて全力で振動させることによって生じる衝撃波だ…!」ブルッ

女「あ、相も変わらず化け物だなオマエ…」

兄「そんなこと言ってないでホラ行くぞ! どっこいしょ!」ヒョイ

女「おわぁ!?」

兄「えっと今の時間は──日の出まで二十分も無いな、よし、窓を突き破ってなんだこりゃ!? 鉄板で閉ざされてやがるよ…」ゴォンゴォン

兄「デコピンぐらいでいっか、えいっ」ぼぎゅっ

女「…あー私を今まで太陽から遠ざけてたものを指だけでぇ…」

兄「その程度のもんだってことだ、うっし行くぞー」バッ

女「ちょ、待て! まだ黒服達が動いて、捕まるぞ!」

黒服「…」ガシッ

兄「おわっ」

女「ったくなにをしている! 【吸血鬼十二道具】その五式…!」パチ!


黒服「ッ!」ビリッ パタリ


女「『魅惑の瞳』…ふぅ…」

兄「えぇっ!? なにやったんだ嬢ちゃんっ? あの黒服さんたちが一瞬で…!」

女「別に大したことなどしておらん。レーザーポインターを黒服たちが付けている【トリアージチョーカー】にピンポイントで衝撃を与えた」

女「まぁ普通はあり得ん弱点だが。代物自体が父上様が作ったものだ、私にわからないものはない」フン

兄「嬢ちゃん…」

女「べ、別に助けたわけではない! ただ、オマエが言ったことが気になるだけだ…私は馬鹿でいては駄目なのだ…」

女「手段は問わぬと、そう自分の中で判断をつけた。なら後は着いて行くだけ、ただそれだけだ」

兄「うん、それでいいと思うよ」

女「ほらボサッとせずに飛び降りろ! そうなんども上手くいく方法ではない! 次が来るぞ!」

兄「あいよ任されたー!」バッ


ひゅううううう ドスン


兄「行くぞ!」

女「う、うむ…ここ5階なのだがなぁ…」

兄「今更だっつの! うぉおおおおおおお!!」

※※※

兄「こっちであってるの?」ダダダ

女「このまま真っ直ぐに走ればじきに崖へと着くだろう、その高さであれば太陽も綺麗に拝める」

兄「成る程ね」

女「…良いぞ時間通りに中央広場に来れたな、突っ走るがいい」

兄(ん? 銅像というか石像が沢山あるな、やっぱり金持ちだなー。金をかける所が意味不明なのが特に)ダダダ


ザァアアアアアア…


兄「…」ピク

女「どうした?」

兄「いや、今一瞬石像が動いたような…」

女「!? 躱せ化け物ッ!!」


ブォォオオン!


兄「──…ッ!?」サッ

女「い、今のは…」

兄「よく見えたな嬢ちゃん…ああそうだ今攻撃された…!」キョロキョロ

女「ただの勘だ…しかし本当に攻撃されるとは…一体何処から…!?」

兄(この感じ。あの執事だろうな、つけられていたか待ちぶせか、どっちにしろ無視して広場を抜けるのは無理臭い)チラ

兄「丁度いい、コテンパンにやられた借りをまだ返してないしな」スッ

女「お、おい」ストン

兄「嬢ちゃんは少し離れてろ。離れ過ぎるなよ、そのまま分からない内に連れて行かれちまう」キョロキョロ

女「う、うむ…」コクリ

兄「お願いする。──居るんだろ、どうせ声が聞こえてもアンタの位置はわかんねえさ、答えてくれていい」

『用心に越したことはない。素直に答える必要など無いな』

兄「ハン! これは優しいことで、それとも舐められてるのか?」チラ

『舐めてはおらんわ化け物、それとも甘く手解きを願うか?』

兄「俺はソッチのほうが好みだね、世間で行きづらい分、甘やかされて生きたいモンだ」ジリッ

『よく言うわ、自ら生きづらさを背負い掲げる貴様が』

兄「あん? 妹ちゃんのこと言ってんのか?」

『そうであろう。化け物であれば化け物らしく、人の世など捨て去り修羅の道に突き進め』

『他を思うな他を願うな他を求めるな。そも生きることすら望まれぬ身に、希望など持つべからず』

兄「そりゃごめんだな。俺は立派でかっちょいい兄貴で居続ける、それが俺が化け物の理由だ」

兄「誰彼関係なく化け物だという言うには、ちっとばかし俺には当てはまらないな」

『分からんか、分れと言わんが無様よのぉ』

兄「あんがとさん、最大の褒め言葉だっての」

『つまらぬ意地などはるでない。しかし、貴様のような気狂いに何度問いかけようと変わらぬのも事実也』

『──つまりは拳で語ろうか、はて、儂は一体何処に居るのかの?』

兄「…わっかんねえな、これだけ声が聴こえやすいなら、ハッ! 目の前とか?」ドクンドクン

『フム』


執事「当たりだ小僧」ブゥン!


兄「は──? っッッ!?!?」ドゴッ

執事「参ったのぉ、まさか見破られていたとは思わなんだ、クハハ」

兄「はっ…がっっ……ぐぅうっ…!?」ガクガク

女「化け物っ!?」

兄「く、来るなっ! くるんじゃ無い…う、嘘だろアンタ…ずっと目の前に居たのか…?」

執事「如何にも」

兄(何故一瞬でも分からなかった──今でもまた理解が及ばない、どうみたって殴ってきた相手は──)チラリ

執事「我は最大で最終の護り手【ゴーレム】。我が主の命を受け、命を持ち得て、この『命』が尽きるその時まで動き続ける…」


執事「この拳は我が命であり、我が主の命の為に振るわれる」


兄「ぐっ…石像がペラペラ喋ってると不思議な気分になる…ボディペイントか…?」ブルブルブル

執事「これは単なる趣味に過ぎん。しかし通常の人間よりも目を酷使する貴様には、些か思う以上に効果があったようだ」スッ

兄(また消えた…なぜ消えることが出来るんだよ…!?)キョロキョロ

『趣味もまた極めれば技術となり、そして技となる。貴様が如何に己の肉体のみを信じ、他を蔑ろにしてきたか…』ブン

兄「ごはぁッ!?」ガクン

『身を持って知ったであろう? おのが価値を知れ…無様に嘆き朽ちるその時笑ってやろうぞ…』

兄「ぐぅうううううッ!!」ブォッ

『愉快愉快…』

兄「ハァッ! ハァッ! くそっ…!」

女「化け物! 見えぬ相手ならば先ほどの筋肉による振動波はどうだ!?」

兄「え…? あれは一日二回ぐらいしか…さっきの黒服さんと、家に来た嬢ちゃんにやったマッサージで使い切っちゃった…」

女「ばかか!」

兄「そう言うなよ! 俺もこうなるとは思わなかったの! すっごい後悔してるの!」

女「ぐっ! で、では叫びによっての音の差による感知はどうだ!? オマエがやったと耳にしたぞ!?」

兄「……っ…」

『出来ぬよのぉ、ここは閉鎖された空間ではない。喚けば宙に散りゆくだけ…』

兄「無理だ、それすら最初から対策されてる。屋敷で立ち向かって来なかったのも、今この場所で戦うために張っていたからだ…っ」

女「なんと…! やるな、エメト!」

『クハハ』

兄「嬉しそうにするんじゃない! くそ、マジでどうしよう滅茶苦茶この人の拳辛いんだよ…ッ」

ゴスゥ!

兄「ぐぎぃっ!?」

女「な、なぜここまで化け物が…」

『クハハ! もうここまでか、ではお嬢は連れて行くぞ小僧』

兄「ふざけるなッ! 誰が連れて行かせるかよ!」バッ

『何処に向かって手を伸ばす? 儂はここだ、分からぬか?』

兄「ぐぉっっ!!」ダッ

『目を見開き探そうとも見つからぬぞ。儂は消えておる、見えぬのだ、凝らせば凝らすほど貴様は本心を見逃す…』

兄「くそっ! だったら片っ端から石像銅像をぶっ壊してやるよッ! 何時かはアンタに当たるだろッ!」ドドドドド

『餓鬼の駄々と変わらんのぉ』

兄「ッ…ッ…!!」ガラガラガラ…

『暫くそうしておれ。儂は我が主を救出するだけだ』すっ

兄「やめろッ!」

『……』

兄「嬢ちゃんには叶えなきゃならん願いがある! それを邪魔するんじゃない!」

『願いなど元より無い』

兄「なに…ッ!?」

『お嬢に願いなどという上等な想いなどあると思うてか? 貴様とて違和感に気づいておろうが』

女「…っ…」

『お嬢はヴァンパイアとして先代から清く、純等に育て上げられ作りられた完璧な存在』

『人の心が分からぬのは上等である証拠。知らぬまま生き、現当主として全うするのみが人生だ』

『──そのような無駄なもの必要など無い』

女「……」

兄「だけど嬢ちゃんは…嬢ちゃんは太陽を見たいと願った! それは嘘だというのかよ!」

『嘘ではない。だが、願いではなくたかが【興味】だ』

『ヴァンパイアとして命が終わるその時、お嬢は定められた血族の道から除外され、人の身となる』

『──つまりは【現当主を解任】されるという意味だ』

兄「………っ…」

『その顔は聞かずとも察しておったか。まあよい、つまりお嬢はその解任後の興味のみで願いという言葉を口にしておる』

『頭の良いお嬢だのことだ。解任後も、如何に上手くヴァンパイア一族を継続させるか策を弄しておることだろう…』

『だがな、だが分からぬか小僧?』


『たったそれ如きで崩れ去るヴァンパイア家と思うか、そして認める我が家来一同と思うか』


『如何に策を立てようが、どの様にことがうまく進もうが、上手く行かぬこともある』

『それが人だ。人で在り人である限り希望だけでは何かを失うことのほうが多い』

『そして極めつけはお嬢の願いの本質は興味本位、果たしてそれが許されようか。その願いが叶えて良いものか』


『小僧。何も分かってなどおらぬ小娘一人の想いに何を見る?』


女「………」

兄「…そうだな嬢ちゃんは確かに、願いを本気で叶えようという思いが募っていない」

女「…」

兄「例えどんなに計算立てて叶えようとしても、想いの強さは大切だ。たかが興味などで願いは叶えられるものじゃない」

『だが貴様はしようとしている』

兄「うん。俺が居れば嬢ちゃんも気楽に叶えられるだろう、『願いが叶う』という重要さに気づけずに」

兄「…」クルッ

女「…っ」ビクッ

兄「嬢ちゃん、教えてくれ。どうして太陽を見たいと願うんだ? ヴァンパイアとしての死を望むんだ?」

女「……」

兄「嬢ちゃんは言ってたよな? 今は素直に太陽を見たいと思えないでいると、じゃあ最初の動機はなんだったんだ?」

女「…知りたかったのだ」


「私という存在がヴァンパイアから離れた時、どんな価値を持つのだろう」

「あの城から離れ、太陽を身に浴び、金のことや一族のこと、それに私に仕える者共と別れ…」

「ただの人と呼ばなくては為らなくなった私に…一体何が残っているのかを…」


女「ただそれだけが興味があった。どれもこれも全て、ヴァンパイア家は実に分かりやすかった」

女「しかし…! けど、私はオマエの家に行って少しわかったことがある…」

兄「なにを?」

女「あの城で過越してきた日々…オマエと家で過ごした数時間…例えようがないほどの『違い』に驚かされた…」

女「食事一つで、世界観がひっくり返る思いをしたのは初めてだ…一緒の椅子に座ることで感動するとは思わなかった…」

兄「……」

女「だからこそ! だからこそ思うのだ…それこそが私が望んでいた新しい自分であると同時に…っ」ぎゅっ

女「──そのような違いなど、結局は些細な事なのだと…」

女「頭の良いはずの私は経験してから気づいてしまった、我が城でも同じようなことは出来たではないか…」

女「マミーと一緒にご飯を食べたいといえばよかった…エメトと一緒に椅子に座りたいと願えばよかった…」

女「黒服たち全員とゲームをしたいと言えば良い話だった…! なのに、私は一切気づけてなかった…っ」


女「この技術が人の為になると、そのことすらも分からなかった……」


女「私は…なんと小さな生き物なのだろう…なんと馬鹿な人生を歩んできたのだろう…」

女「今ならそう思える…そう口にできる…太陽など見なくてもわかったことだと、理解するほど惨めな気分になる…」ググッ

兄「うん、そっか」

女「オマエは…化け物…オマエは凄いのだな、化け物でありながらちゃんと人の有り難みを理解できていた…」

女「私はわからなかった…今でももしやきちんと把握できていないかもしれない…結局は一人よがりな思考回路を持っているかもしれない…」

女「私は離れてから気づいてしまった…本質を見逃し、たかが興味などという行動原理で他を困らせ…」

女「マミーやエメト…黒服たちを傷つけてしまってから…」ポロ

ポロポロポロ…

女「化け物ぉ…私はやっぱり太陽は見たくないっ…またみなを傷つけてしまう…! 自分だけの興味で人を困らせてしまうよ…っ!」ゴシゴシ

女「何も知ろうとしなかったくせに、何もわかろうとしなかったクセに、自分だけの願いなど叶えてどうするのだ…?」


女「…私は人の心など分からぬヴァンパイアなのだ…ッ」

兄「…馬鹿か」スッ

女「えぐっ…ぐしゅ…」なでなで

兄「それでいい、それが分かっただけでいい。自分の願いを押し通すことが、どれだけ周りに影響があるか知れただけで十分だ」ポン

兄「そしてその願いが他の奴らを傷つけてしまっていた…そのことを理解できたなら嬢ちゃんは凄いよ、少し前に進めたんだ」

女「前に…?」

兄「ああ、それは凄いことなんだぜ」

女「凄くなんか無い…当然のことを今更わかっただけなのだ…化け物、オマエだって知っていたじゃないか…」

兄「あはは、いやそうでもないって。嬢ちゃんの思う辛さは結構俺も知ってる」

兄「───こりゃ困ったなぁ…妹に見えたと思ったら案外…似たもの同士だったか…」ナデナデ

女「ふぇ…?」

兄「嬢ちゃん、聞いてくれ」スッ

女「う、うん」コクコク

兄「やっぱり嬢ちゃんの願いは叶えるよ。叶えなくちゃ嬢ちゃんの為にならない、俺はそう思ってる」

女「なぜだ…?」

兄「今の嬢ちゃんはただ周りを傷つけることを怖がってるだけ、だからもう一度先に進まきゃずっとこのままなんだよ」

女「そ、それは嫌だ…!!」

兄「だろ? けど何時かは変われる日が来るかもしれない、でも、その前に頭がこれでいいと思ってしまうかもしれない」

兄「…そんな可哀想なことはさせたくない。俺はちゃんと知ってほしい、太陽を見るというきっかけで飛び出すんだ」


兄「ヴァンパイアから人の為に動けるヴァンパイアに。太陽を浴びても生き続ける、そんな優しいヴァンパイアに」

女「優しいヴァンパイアに…?」

兄「そうだ。今の嬢ちゃんにならきっとなれる、俺はそう確信してる」

女「化け物…私は…」

兄「泣き言は終わってからでいい。やってしまえば修復なんて無理だ、だったら最後まで突き通してやりきって───」

兄「──すべてを壊してこい、全部全部まるっきり壊して、それから考えろ、それから皆に謝れ、たったそれだけで良い」

女「……こわして…」

兄「あぁ、そうだ! 迷うなら口にしろ、言葉にして誓え! 嬢ちゃんは一体何を望んでいる? 何を願う?」

女「……私は…」


「───みなと一緒に、太陽の下でカリーを食べたい…」


女「その願いは悪いことか…?」

兄「いいや、十分だ」ぐいっ

女「うぉおっ」

兄「嬢ちゃん。その吸血鬼なんとか道具ってのは、飛べる奴もあるか?」

女「あ、あるがハンググライダーのようなモノで予め高度がなければ飛ぶことなど…!」

兄「なら良し、滅茶苦茶身体に負担かかるから覚悟してくれ」ギュウ

女「えっ?」

兄「……っ…うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

グルグルグルグルグルグルグルグルグルグル

女「だあああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!?」

兄「どぅりぃやぁああぁあッ!!」ブォン

女「どぅああああああああああああッッ!!?」ピューン

兄「今だやれ!」

女「っっ…!!」


バッ! バタバタバタ!


兄「おぉー…一発で成功した…」

女「ば、ばかもの[ピーーー]気かぁっ!? 失敗したらぺちゃんこであったぞ!?」スィー

兄「それなら障害物もなく真っ直ぐ崖に迎えるだろ! そこで待ってろ嬢ちゃん! 俺も直ぐに向かう!」

女「何度も何度も勝手なことを…ッ!」


「絶対だぞ! 私を絶対に一人にするな! オマエには言いたいことがたくさんあるッ! 必ず…必ずだぞ…!」


兄「おうよ!」

兄「…、追いかけないのか?」

『戯け。お嬢の追いかける事により儂の位置を予測つもりだろうが』

兄(バレたか)

『なに、貴様を叩きのめし追いかければ間に合う。なんの支障もなし』

兄「なぁエメトさんよ」

『気安く儂の名を呼ぶな化け物』

兄「良いじゃん、なんだか長い付き合いになりそうだし。今ここで友好を深めても」

『お嬢の願いは叶えられん。今も、そしてこの先もだ』

兄「それはアンタが決めることじゃない。お嬢ちゃんが決めることだ」

『我が主に夢など要らぬ。ヴァンパイアに人の気持ちなど不必要』

兄「…お前にお嬢ちゃんの何が分かる?」

『三度問おう、貴様にお嬢の何がわかる?』

兄「…」

『……』


兄「知らないな、こりゃ俺の我儘だ」

『フン。儂の命に意味などあろうてか』


兄「元から互いに譲れないモンを嬢ちゃんに重ねて、意地を張り合ってるだけだもんなあ」

『実に気に食わんな。儂の命と貴様の駄々、同等に語られては笑えてくるわ』

兄「笑えるか?」

『笑えるぞ、心して掛かれ』

兄「いいね、そっちのほうが喧嘩しがいがある」

『止めさせてもらうぞ』スッ

兄「いいや行かせてもらう」グッ

『いざ、尋常に…』

兄「意地に張り合いをッ!」


ドッ!!

『(ッ! 儂の方へ真っ直ぐ走り込んでくるだと、何時から察知されたッ)』

兄「んんんんんッッ!!」ダダダダ

『お嬢を飛ばした時の叫びか…若干でありながら微細に感じ取ったか…ッ!』シュン

兄「おぅらァッッ!!」

ゴッシャアアアア

兄「チッ…」キョロキョロ


『破ァッッッ!!』ブォン


兄「ぐっはぁッ!!」ギュン ドォオンッ

『儂の拳はちと響くだろう。衝撃を当てるのではなく通す…打撃でなく貫通だからのお…』

兄「フンヌっ! ぅおおおおおおおっ!」バコン ダダッ!

『無駄だ、儂はもうそこに居らず、ムッ!?』バッ

兄「ぬんッ!!」ボッ ボッ ボッ

『小癪なッ…壊れた噴水の瓦礫を投げ、当たると思うてか!!』ドン

兄「おらおらおらッ!」┣¨┣¨┣¨┣¨ド

『まるで散弾銃だのぉ! しかし狙いが定まらぬ銃ほど容易いものはないぞ!』タタタタッ バッ!

兄(ッ! 宙に飛んだ音、!?)チラッ

『──阿呆め』

兄「!? 執事服ッ──フェイクか、よッ」グググ

『滅ッッ!!』゙ギュン

兄「ほぐぉあッ!?」ミチミチミチ…

『愉快愉快、貴様のような茶地な輩を相手取ると思うように踊る』

兄「ぐぎぃッ…離すかこの手を…!!」ギュウウウ

『それもまた無意味』ニュル

兄「な…ッ!?」

『関節を外し可動範囲を増やすことなど儂にとって造作も無い』シュン

兄(また消えた…!)キョロキョロ

『無駄よ、無駄無駄。儂の姿が見えん限り、何も出来ん』

『足掻け、そして死の淵から死に物狂いで這い出てくるがいい。その醜い姿、笑いあげてやろうぞ』


ザザザザザザ


兄「っ……っ……」キョロ

兄「はぁ~っ…」スッ

『諦めたか小僧』

兄「………」

『貴様には死すらも生温い。地獄の底まで叩き落とす一撃が実に相応しい』

兄「………」

『では、これにて我が任務完了──』


兄「フンヌッッッッ!!!!!!!」ドォゴン! ビリビリビリビリビリビリビリ!!

『(──震脚、っ…? 不覚ッ! 衝撃で、)』

兄「──」チラ

『(位置が把握され、否ッ!)』ギュッ

兄「──」ニヤ

『(例えそうであろうとも脚が見るも無残ッ! 彼奴は立つこともままならぬ、このまま止めず一撃をッ!)』ズォオオ


兄「もういっちょおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」ドォゴン! ビリビリビリビリビリビリビリ!!


『(もう片足も使い──!?)』ビリビリ


ボッ! ドゴォン!


『(消えッ…!? 否、地面が陥没し…落下…!?)』スカッ

兄「……」グググッ

『(こ、この地中の空間は──噴水の貯水槽かッ! 此奴は先ほど飛ばされた際にこの位置を把握して、誘き出されたのかのッ!)』

兄「宙なら…」メチィ

兄「落下中なら衝撃も受け流せないだろエメトォオオオオオオオオオ!!」

『悪餓鬼め…我が名はゴーレム一族ッ! 元より丈夫さを誇る一族なりッ!!』


兄「だらァアアアアアアア!!!」

『破ァアアアアアアアアア!!!』


ガガガガガガガガガガガガガ!!!

兄「くたばれ糞じじぃいいいいいい!!!」

『がハァ! ぐぅうう!! ぬぁああああああ!!!』



ばっしゃあああああん…


「ぶはぁ!! ハァハァ…ハァッ…!」

兄「うっし…勝った…」グッ

執事「…化け物め…」ぷかぁ

兄「お? まだ意識あるのか凄いよ、エメトさん」

執事「儂も…驚いておるわ…落下中に何度意識が失ったかのぉ…」

兄「こっちも賭けだったから、結構本気目でやるしかなかったんだ…ごめん」

執事「…敗者に謝るでない惨めになる…」

兄「え? あ、そっか。今までマジになって喧嘩したこと無かったから…」ポリポリ

執事「フン、何時から儂の受け流しを理解してたのだ」

兄「俺の家で戦った後。この貯水槽もふっ飛ばされて、噴水にぶつかった時偶然把握できただけで…」

兄「アンタが俺の拳で倒れなかった時、こりゃ勝てねえなって思ったけれど…」

兄「家の中で一番壊れてたのが、最後にアンタが立ってた場所だったから、なんとなくそうかなぁって」

執事「…見事だ」

兄(妹の膝枕拒否られた時に気づいたって言ったら怒るかな、怒るだろうなぁ)

執事「では、お嬢の所へ行くがいい」

兄「…良いのか」

執事「何が悪い。儂は主の命を果たせなかった、後は命を散らし砕けるのみ」

執事「我はゴーレム、ただそれだけで、それだけの価値だ」

兄「そう?」

執事「…」

兄「俺はそれだけじゃないと思うけどな。アンタ凄く強いし、実は憧れる部分がたくさんあるよ」パシャ

兄「それは俺だけじゃない」

執事「…何を言う」

兄「だってさ、あの嬢ちゃんの口調そっくりだから」

兄「エメトさんの口調とね。だから、俺一人だけじゃないって言いたいワケ…ただそれだけだ」

執事「下らぬ事を言っておらず行けぇい…」

兄「うん…じゃあ行ってくる!」バシャバシャ

執事「…もう脚は大丈夫なのかの」

兄「もう治った!」

執事「………」


「……。先代よ、これが望みか」

「完璧な一つのヴァンパイアを作り上げ、人の心を知れぬ怪物を育て上げ、」

「『我々のような者』で囲い築きあげて置きながら…何故ゆえに人としての心を取り上げなかったのか…」


執事「ヴァンパイアとしての血筋に楽は無し。では心など要らぬ怪物であるこそが、辛くもなく…お嬢は幸せに暮らせてたであろうが…」

執事「……」

執事「儂も年をとったのぉ…クハハ…クァーハハハハハハハハ!!」

執事「そんなモン、終わってから考えれば良かろうて…なぁ小僧…クハハ…!」



※※※


兄「ハァ! ハァ! はあ…はぁ…」ガサガサ

兄「ここら辺だと思うんだけどなぁ…ちゃんと匂いを追ってきたし…」ガサリ


「……」


兄「あ、居た! 嬢ちゃん嬢ちゃん! なんとか間に合ったみたい───あら?」

「……」

兄「きっちりとまぁ雲が張って…今日は晴れだって言ってたけどなぁ…」スタスタ

「……」

兄「ま、でも今日だけじゃない。別に明日にだって見れれば良いじゃん、な?」

「…ダメだ」


「それじゃダメだ。ダメなのだ、このまま今の私で太陽を見なければならない…」

「そうでなければ私の頭は理解してしまう。この感情を、やっと理解しかけた意味を異なったモノで置き換えてしまう…」

「私の頭はそうなっている。ヴァンパイアとして不都合なく生きれるよう、そうお父様から伝えられてた…」


女「だめ、なんだ…っ…化け物ぉ…私は今知らなければ変われない気がするのだ…!」

女「なぜだ、どうしてこうも太陽を見ることが出来ない…!? まだ、まだ足りないのか!? 私は望みきれてないのか…!?」

女「どうしたらいいのだっ!? …私はいつまでこうも悩み続けなければ為らぬのだ…!?」ガクン


トスン


女「…私はやっぱりヴァンパイアなのだ…」

兄「……」チラ

女「ひっぐ…うぐぇ…ぐしゅ…」ポロポロ

兄「俺さ、化け物だから嬢ちゃんがどういった風に捉えちまうかってわからない」

兄「なにより人の為に生きなきゃダメな馬鹿だし、そもそも嬢ちゃんのように頭が良くない。こういった時なんて言ってあげれば良いのかわからないよ」

兄「──だから妹の言葉で嬢ちゃんを助けようと思う」

女「…っ…?」ゴシ

兄「本当に、本当に俺が叶えられるかわからないけどさ」スッ

女「え…?」


兄「良いよ、俺が叶えてやるから」ナデナデ


女「──……」

兄「嬢ちゃんは黙って見てればいい。ここまでやったんだ、後はノリでなんとかなるさ」スタ

兄「今までもそうやってきたし、これからもそうだ。間違いはない、なんせ妹ちゃんが言ったことだしな」ギュッ



───ゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ! ミチィ! メキィ! メキメキメキメキッ!!



兄「以前、妹ちゃんが言ってました!」

兄「お前という人間は…何時までも…人の為に化け物であれとッ!!」




ぐぐぐぅうううう   ジャリ!  ヴォオオオオオオオオオンッッ!!!



女「きゃあっ!?」ブァアアアアアアアアアッ



※※※

メイド「なんともまぁ…」

                              キラキラキラ…


メイド「なにが、人の出来る事ぐらいしかやれないですかお兄様…人の出来る範疇を超えておりますよ…」

メイド「なんと綺麗でしょう…このような景色を生きている内に見れるとは思いもよりませんでした…」

メイド「お兄様」スッ ペコリ


メイド「わたくしの願いを叶えてくださり、誠に有難うございました」


メイド「…」スッ

メイド(あぁお兄様───貴方のお姉ちゃんメイドこと、このマミー……キュンキュンで御座います…)きゅんきゅん



※※※


ブァアアアアアアアアア…


女「…………」サァアアア…

兄「お。案外届いたなぁ」グッ

女「オマエ…これ…」

兄「うん。雲ふっ飛ばした、でも偶然にも吹いたしなぁ俺も半信半疑だ」


キラキラキラ…


兄「でも結果的に太陽は見れたろ? よっしゃ、存分に眺めろ嬢ちゃん!」トン

女「わっ」トトト

兄「それが太陽だ」

女「……太陽…」

兄「ああ」

女「……凄く綺麗だ…そして赤いな…それにめちゃ眩しい…瞳が超痛い…」

女「でも…」


女「何時までも見ていたい…これが太陽…私が求めていた…ヴァンパイアとしての終わり…」


兄「……」

女「化け物…」

兄「おうよ」

女「…私は本当にヴァンパイアとして終わったのだな…今太陽をみて、そう核心した…そう、これが私の終わり…」

兄「いや、それがまだだな」

女「えっ? ま、まだ何かあるのかっ? これ以上の感情はどうにも制御できない、不安だっ…わ、私は…どうしたらいい…?」

兄「別に不安がる必要なんて無いって。もう怖がることは何もない、ほらやりかけだったことがあるだろ?」

女「な、なんだ?」

兄「そりゃ勿論、嬢ちゃん」


兄「──これから一緒にカリーを食べに行くんだっての!」


※※※

妹「兄貴、起きて兄貴」

兄「もうちょっと…もうちょっと寝かせて…」

妹「ダメだよ、昨日で夏休み終わりじゃん。今日から登校日だよ」

兄「うそー…そんなことないー…だって水泳の補修だって終わってないじゃんか…」

妹「全部サボった人が何を言ってるの?」

兄「…そうでしたね」モソリ

妹「早く朝ごはん食べちゃって、片付かないから」

兄「ふぁい…」

妹「ほら早く」

兄「ん…あれ…妹ちゃん学校は…?」

妹「私は後、一日あるし」

兄「なんという不条理…おとなになるってことはこんなにも大変なことなんだね…」

妹「もう私が食べちゃうよ朝ごはん」

兄「食べます! 食べるから待って!」


~~~


兄「それじゃあ行ってくるよ、んー」チュー

妹「いってらっしゃい」

兄「…、行って来ます…」トボトボ

妹「あ、待って兄貴」タタ

兄「ん? やっぱり行って来ますのちゅぅぐぇっ!」キュッ

妹「ネクタイ曲がってるから」キュキュッ

兄「うぃーあんがと、妹ちゃん」

妹「始業式だから早く帰ってくるでしょ? だから、お昼ごはん」

妹「…作って待ってるから」ポソリ

兄「……。うん! 行って来ます!」

妹「……」フリフリ

妹「行っらっしゃい、お兄ちゃん」

妹「───……はっ!」


兄「ニヤニヤ」じぃー


妹「うっ…うぅー!! はやく行っちゃえロリコンシスコン!! 筋肉悪魔っ!!」ポイポイポイ

兄「おっ!? うわぁ!? わ、わかったごめん行って来ますー!」

妹「ったく…」


※※※


兄(こっぴどく教師から怒られた…まぁ補修電話無視しまくって遊びほうけてたしな…)


あの日。太陽を見た日から俺は、嬢ちゃんの城に何度もお呼ばれをされた。

嬢ちゃんとゲームしたり、マミーお姉ちゃんに抱きつかれたり、黒服さん全員と腕相撲勝負をしたり。

そしてエメトさんから八極拳たるものを習ったり。

兄「……」

結構充実した夏休みだったと思う。素直に楽しかったと、言わざるをえない程に。

兄「でもあんま、長居したりしちゃ悪いよなぁ~…」コテ

兄(約束のカリーも結局有耶無耶になって食べてないし、何時か食べれたらそれを機に、一応距離たるものを取るか…)


ガラリ


兄「む…教師が来た…」


これからの日々はまた生きづらいまま続くのだろう。

でも彼女の表情、あの太陽の下で満面な笑みを浮かべる少女を思い浮かべると何故か辛くはならない。

本気で求めれば願いは叶う。

だから、俺もこの先ずっと本気で願い続けるのだ。


誰かのために化け物であれ。そして大切な人の為に、動ける化け物であるために。


「ということでな! 私はこの学校に通うことになった、よろしく頼むぞ!」


そう、それが俺にとっての願い──


兄「…うん…?」ダラダラダラ

「ナヌッ!? 馬鹿を言え! 私は化け物の隣に座るのだッ! オマエはこの私に指図をするのか…!? 無礼者めッ!」

「え、えっ? 逆にお願いしますって…お、おお…そうまで言うのなら仕方あるまい! わはは! 私がこの隣の席をもらってやろうではないか!」

兄「…」チ、チラリ

女「なので私がオマエの隣だ、今後ともよろしく頼むぞ! 化け物!」

兄「…あの一切合財全然聞いてなかったんですが…?」

女「うむ。マミーが黙ってれば面白い顔を見れると言ってたのでな、しかし、あんま面白くないぞ?」キョトン

兄「あの人は本当に…ッ…つか嬢ちゃん俺とタメなのか…?」グググ

女「わはは! なわけなかろうが! 全然年下、まず中学を卒業するべきだな! しかしヴァンパイア家は便利だなぁ…」

兄(そういうことですか…)

女「そんなことよりも化け物、私はもっと面白い情報を手に入れたのだ。聞いてくれ」

兄「これ以上困ることを言われても…」

女「まぁいいではないか。化け物、実にオマエに関係している話だ…それがな人狼家の一人娘が…」



「──きゃー!? どうしたんですか暴れて!?」

「ウォオオオ! 奴は何処だ!? オレの仲間をコケにしやがった怪物はどこにいるーっ!?」


ガッシャンゴッシャンン ダダーン


兄「…え?」

女「なんだか隣のクラスがうるさいのぉ…ん? この声はまさか?」

兄「ちょ、ちょっとトイレに行って来ます! 先生!」

女「おい化け物!? どこにいく!? 私も連れて行け、私も!」ガシッ

兄「ま、待って! 本当に待って下さい! なんかもう色々とありすぎて頭が混乱してきた…!」

がっしぁあああああんっ!!


兄「ひっ」

女「やっぱりアイツか…どうするのだ? 軽く首根っこ抑えてへし折るか?」

兄「ば、ばか! そういうこと教室で言うなっての! ただえさ怖がられてるんだから…!」

女「そんなものは知らん。オマエのことを表面上でしか捉えられておらんだけであろう!」


女「──聞けぇい人間ども! 此奴はかのヴァンパイアと愉快な仲間たちを退けッ!」

女「──世に平穏をもたらした化け物ぞ! 讃えよ、そして崇めよ! ワハハハハ! …あれ?」キョロキョロ


女「逃げおったな化け物! 待てー!」


屋上


兄「はぁ…はぁ…」prrrrrr

『もしもし兄貴?』

兄「い、妹ちゃんどうしよ…俺どうしたらいいと思う…っ!?」

『…何かに巻き込まれたワケ? 今度はなに、またバビロンの空中庭園でも探しに行くの?』

兄「あれはもう前に見つけた! 何層にも灰が固まって出来た積乱雲の上にあったよ! そうじゃなくって、」


ガンゴンガンガン!!


兄「ひぃ!? も、もう屋上まで嗅ぎつけたのかよ…!?」ビクビク

『はぁ、本当に兄貴って面倒事に関わるね』

兄「好きでやってるわけじゃないっての! ご、ごめん…俺お昼ごはん間に合わないかも…!」ガシャンガシャン

『バカ言わないで、私、待ってるんだよ…嫌だよ兄貴と食べれなきゃ…寂しいよ…』

兄「急にデレるなよ! 反応に困っちゃうだろ!?」


バッコーーーーン!


兄「あ、やべドア壊された──もう飛び降りるしか、くそぉおおお妹ちゃあああんっ!」ばっ

『なに』

兄「もし俺が死んだら、どう思うぅうううううううう!!?」



ひゅうううううううううう ドゴォ!




『……はぁ、何いってんの兄貴』


『死なないじゃん』



終わり

乙&支援ありがとうございまう!
誠に感謝、質問あれば聞きます無ければこのまま

ではではノシ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom