八幡「普通科高校の劣等生」留美「とある魔術の……禁書目録?」(57)

とあるシリーズの俺ガイルバージョン。

※尺や登場人物数の都合でストーリーやキャラ設定は思いっきり改変しています。

だから禁書を知らなくても全く問題ない。

知ってても、ルミルミと同棲生活編的な軽いノリで見て頂けたら幸いです。

不幸だ……

「凄いな比企谷」

「さすがだな比企谷」

ここは元千葉県、今は学園都市と呼ばれる特殊な場所だ。

この学園都市(千葉)では、精力的に能力開発を行っており、日夜人間離れした能力保持者を生み出している。

科学によって誕生した超能力と呼ばれる存在。

レベル0からレベル5と、能力の強さに合わせて分類、仕分けがされていく。

能力の強さによってレベルは変動し、レベル5にカテゴライズされる超能力者は学園都市に7人しか確認されていない。

担任「また遅刻ですか、比企谷くん」

クラスメート「比企谷そろそろ留年すっぞ」ハハハ

戸部(土御門)「タニやん、まぁた寝坊かにゃー?パないわー」

八幡(上条)「うっせ。色々あんだよ……」

戸部「普段ぼっちぶってるけどタニやん、俺見ちゃったんだよねー」

八幡「何をだよ」

戸部「常盤台の女子と仲良くやってんのをよぉー」

八幡「……不幸だ」

戸部「なんで!?」

ちなみに、俺は無能力者だ。

レベル0、劣等生。

落ちこぼれ。

担任「戸部くん私語は控えて」

戸部「すんませーん」

担任「それと比企谷くん、君は今度の日曜に数学の補習を受けるように」

八幡「……はい」

戸部「だっせ。タニやん超だっせ」

八幡「……うるせぇよ」

放課後になった。

雪乃(美琴)「あら、比企谷くん。奇遇ね。今日もサボりなのかしら?」

八幡「マッカン売ってんのがここだけになっちまったんだよ……」

最近、公園の自販機でマッカンを買うのが習慣となってる。

そして頻繁に会うのが、常盤台のエースこと雪ノ下雪乃。

中高一貫の常盤台女子は、学園都市にいる学生たちなら誰もが憧れるエリート校だ。

雪乃「そう。不幸体質の貴方らしい悩みね」

八幡「どういう意味だ……って、クソっ。金入れたのに出ねえぞ」

雪乃「ふふっ。さすが不幸体質ね」

八幡「どうすんだよ。マッカン飲めねぇと死んじゃうよ、俺」

雪乃「大袈裟ね。ちょっとどきなさい」バチバチ

雪乃「出たわよ」ガコン

八幡「すげぇよな、お前の能力」

雪乃「……そうでもないわ」

常盤台の超電磁砲。

それが雪ノ下の別名だ。

電流電力電気磁気。

つまりは電撃系の超能力者だ。

彼女が操る力は、多岐に渡って応用が効く。

……自販機も電力で動いているからな。

ネットワーク関連でも最強の存在と呼べるのじゃないだろうか。


つまりは、おっかねー女ということだ。

個人情報筒抜けだよ。どうなってのこの国のセキュリティ。

八幡「学園都市第三位は十分凄ぇだろ。まっ、お前にも持てる者の悩みってヤツがあるだろうけど」

雪乃「それは皮肉かしら?……この力は放置すると帯電するのよ。定期的に発散しなければ、他人に触れることも出来ないわ」ビリビリ

八幡「ほらよ(握手)」キーン

雪乃「……不思議よね。無能力者のはずの貴方だけが、私の能力が通じない唯一の人間なのだから」

八幡「唯一ってことはねーだろ」

雪乃「そうね。比企谷くん以外の人間に会ったことがないだけ」

八幡「……さてと、俺はタイムセールに繰り出すとしますか。今月ピンチでな」

雪乃「比企谷くん、貴方はどうしてそう会うたびに金欠状態なのかしら?」

八幡「色々買っちゃうんだよ……。一人暮らしだからな、誘惑に勝てないっ」

雪乃「はぁ……」

八幡「んだよ?」

雪乃「なんでもないわ。……そうね。今は私も時間があるし、付き合ってあげてもいいのだけれど?」

八幡「ほんとか?助かるわ。卵とかお一人様1パックとかだし」

買い物を済ませ、学校寮のボロアパートにたどり着いた。

八幡「今日は助かったぜ、雪ノ下。さんきゅーな」

雪乃「待ちなさい」

雪乃「夕食くらい作ってあげるわ。日頃のお礼にね」

八幡「お前のビリビリを消してることか?んなもん気にするな」

雪乃「そうもいかないのよ……」

八幡「……まあ、作ってくれるって言うなら甘えるわ。頼む」

雪乃「ええ」

雪乃「お邪魔するわね」

女子を連れ込むとか、ぼっちにはハードル高すぎるんですが。

つかこいつ不用心すぎるだろ。
むしろ男として見られてないまである。

悲しくなるからやめよう。

八幡「たでーまー、そしておかえりー」

雪乃「……それいつもやっているのかしら?」

八幡「うっせ……ほっとけ。一人暮らしすっと独り言増えんだよ。ぼっち舐めんな」

雪乃「台所借りるわね」

八幡「スルーですか……ん……?」

ベランダに何かが引っかかっている。

人間、修道服を着た……シスターだった。

八幡「はぁ?」

雪乃「どうかしたの?」

八幡「あれ……」

指した先に存在する何か……シスターさんを見て、雪ノ下雪乃は絶句する。

雪乃「……比企谷くん」

八幡「……はい」

雪乃「正座」

八幡「……はい?」

雪乃「比企谷くん貴方、女の子を連れ込むような変質者だったのね……」

八幡「いやいや、誤解だから。あんな女の子知らないし」

??「お腹……空いた……」

雪乃「……まずは夕食にしましょうか」

留美(禁書目録)「私、鶴見留美。禁書目録って呼ばれてる」

八幡「インデ……なんだって?」

雪乃「インデックス。つまり目録ね?」

留美「私には10万3千冊の魔導書が記憶されている」

八幡「魔導書?10万3千冊?……なんか胡散臭えな」

雪乃「絶対記憶能力というものかしら?」

留美「そう。だからたぶん……そのせいで私は狙われてる」

八幡「誰に?」

留美「わかんない。わかるのは魔術結社から送り込まれた魔術師ってことくらい」

雪乃「魔術師……能力名のようなもの?」

留美「違う。魔術師は魔術師だよ」

何言ってんのこの子

どうやらただの電波少女というわけでもないようで。

その日は色々と有耶無耶になって解散という形で落ち着いた。

女の子と二人っきりにできないという理由から、最後まで雪ノ下は泊まると言って聞かなかった。

しかし、常盤台の寮の規則が厳しいことを指摘すると、険しい表情を浮かべつつも、妥協して帰宅という流れに落ち着いた。

そんな信用ねぇのかよ。ないよな。ごめん。

そして翌日。

八幡「朝飯だ」

留美「……ありがと」

俯いたままの鶴見。

丸めた背中に哀愁を感じる。

人生に疲れた小学生。
……って疲れんの早ぇよ。

俺でも中学までは浮かれてたぜ……青春的な何かに。

鶴見は思ったより不器用な生き方をしているのかもしれない。

八幡「……緊張しなくていいぞ。別に取って食ったりしないからよ」

留美「緊張なんてしてない」

八幡「そうか」

留美「……うん」

八幡「お前、これからどうすんの?」

留美「わかんない」

八幡「追われてんならよ、ここに居てもいいぜ?」

留美「……これ以上八幡に迷惑掛けらんないし」

八幡「だからってこのまま見捨てんのも何か違ぇだろ。一度面倒見た奴が襲われるとか、夢見悪いっつうの」

留美「でも……赤の他人じゃん……」

八幡「まあな。けど出会っちまった。年下は年長者を頼るくらいでいいんだよ」

詭弁だな。
年上だから助けられるなんてのは思い上がりだ。

世の中どうすることもできないことは山ほどある。

鶴見留美にはどこか、自分に似た部分を感じる。

だから放っておけない。

……そうやって見捨てられない理由を考える自分が……嫌いだ。

留美「八幡……ありがと……」

留美「ねぇ、八幡。私と一緒に地獄の果てまでついてきてくれる?」

地獄の果てって、そこまでヤバいの?

出来れば平穏に生きたい。

何も見なかったことにして。

けどもう遅い。

出会っちまったんだから……

留美「冗だ……」
八幡「……必要ならな」

留美「え?」

だから
そんな彼女を見捨てられない俺は……

きっと誰よりも愚かなのだろう。

八幡「……気が済むまでいろよ」ポンポン

パキーン

留美「えっ?」

なぜか鶴見留美の修道服がバラバラになった。

なんでだよ。

俺肩叩いただけなんだけど。

素っ裸の鶴見はこっちを睨みつけている。

その犯罪者を見るような目付きやめて……。
泣いちゃうからほんと。

ちょっと待て……。
着替えがねぇ。

修道服を安全ピンで修復する間、冷たい視線にさらされる俺。

バスタオルに包まれた鶴見。

痛い。痛いよ視線。

これはもうあれですね、比企谷菌扱い。
通報まである。

ジャッジメントはやめてー。

八幡「……できたぞ」

留美「…………」

八幡「……悪かった」

留美「ねぇ、八幡。……あんた何者?」

留美「歩く教会を破壊するなんて……」

何かブツブツと独り言を呟く鶴見留美。

説明する気は一切ないようだ。

八幡「俺はただの劣等生だ」

留美「劣等生?」

八幡「レベル0の落ちこぼれってヤツだ」

留美「ふーん。よくわかんないけど、頑張って」

八幡「おう。んじゃ、行ってくるわ」

留美「私は留守番してればいいの?」

八幡「テレビでも見てな」

留美「わかった」

??「このままじゃ、いつまで経っても雪乃ちゃんをレベル6に出来ないじゃない」

研究員「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の結論通りに、雪ノ下雪乃のクローン2万体の配備は既に完了しています」

??「さぁて、この紛い物を何体殺せば、雪乃ちゃんは本気になるかなー」

??「楽しみだねー。コイツらは差詰め、雪乃シスターズってところかぁ」

研究員「雪乃シスターズですか?」

??「うん。犠牲になるために生まれてきた憐れな存在……雪乃ちゃんと同じ顔してんの見てると苛々すんのよねぇ。雪乃ちゃんは一人でいいのにさぁ」グシャ

研究員「ひっ!」

??「あーあ、うっかり殺しちゃった。手汚れちゃったなー」

とある高校

八幡「はぁ……」

戸部「どしたん、タニやん。なんかブルーじゃね?」

ワケ有り小学生を拾ったなんて言えねーしな。

八幡「トラブルを抱えてな」

戸部「タニやんがトラブルとか日常茶飯事じゃね?」

八幡「俺は平穏な毎日を過ごしたいだけだ」

戸部「とかなんとか言ってー!困ってる奴ほっとけないお人好しじゃん!タニやんはー」

八幡「違ぇよ。向こうからやってくんだ。トラブルってヤツは」

戸部「結局無視できないー!さすがタニやん!そこに痺れる憧れるぅ~」

バス女「なかなかできることじゃないよ」

八幡「帰るか」

戸部「いやいやいやいやー!ダメでしょーぅ!まだ朝だってタニやん!」

八幡「だりぃ……」

そして放課後

授業?そんなんキングク〇ムゾンだ。

雪乃「あら、比企谷くん。奇遇ね」

奇遇じゃねぇだろ。ここ校門前だぞ。待ち伏せなの?暇なの?ストーカーなの?

口に出したら怖いから言えないけど。

八幡「常盤台のエース様がウチの高校に何の用ですかね?」

ワイワイガヤガヤ

時既に遅し。
すっかり噂になってんぞ……。

学園都市に七人しか存在しないレベル5と、無能力者の落ちこぼれ。

落ちこぼれって、言ってて悲しくなってきたわ。

雪乃「昨日のことよ」

八幡「……場所かえようぜ」

サイゼは庶民のヒーローだなぁ。

ドリンクバーで粘る。

鶴見待ってんだろうなぁ。俺、鬼畜谷八幡。

雪乃「比企谷くん、貴方本当にサイゼリアが好きね」

八幡「悪いかよ」

雪乃「悪くはないわ。私も好きよ」

ドキッとしたじゃねえか。一瞬だけど。

八幡「鶴見留美ならウチにいる。狙われてんなら匿うしかねーだろ」

雪乃「でしょうね。貴方根は優しいもの」

八幡「…………」

照れてないし。ほんとだよ?

雪乃「アパート行きましょうか」

八幡「そうだな。待ってるだろうし」

アパート前に着いた時、異変に気付いた。

鉄のような血の臭い。

倒れているのは……

八幡「鶴見っ」

慌てて駆け出す。

雪乃「待ちなさい!」

??「どうも、禁書目録がお世話になったようで。感謝致します」

八幡「……お前、誰だ」


沙希(神裂)「イギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)に所属します、川崎沙希と申します」

露出度の高い服を着た女が、鶴見を抱える。

沙希「禁書目録は確かにお返し頂きました。それでは、ご機嫌よう」

雪乃「逃がさないわ」バチバチ

沙希「……やはり能力者でしたか」

八幡「お前、鶴見を攻撃したのか?」

沙希「鶴見?禁書目録のことですね。確かに攻撃しましたが、ですがそれには深い事情が……」

八幡「小学生を血塗れになるまで攻撃する事情なんてあるかよ……」

女に向かって石を投げつける。

難なく躱された。

何もわかってない俺でも、唯一わかることがある。

こいつは敵だ。

沙希「チッ!」

雪乃「その子を放しなさい」バチバチ

沙希「……厄介だなぁ、ほんと」

沙希「あなた方ですか?彼女の『歩く教会』を破壊したのは」

雪乃「歩く教会?」

沙希「禁書目録の着ている修道服のことです」

八幡「それを破いたのは俺だ。不可抗力だった」

沙希「馬鹿な。歩く教会はどんな攻撃も無効化する法王級の結界を持った霊装です。ただの能力者に破壊できるわけがない」

八幡「俺は無能力者だがな」

沙希「なっ!?まさか魔術!?」

八幡「そもそも魔術って何だよ。鶴見に会うまで存在すら知らなかったんですがね」

沙希「そんな馬鹿な……。存在に気づけなかった?ありえない」

八幡「厄日かよ。突然電波なこと言いやがって」

雪乃「あなたたち、自己完結はいいのだけれど、まずは私にも理解できるよう説明なさい」

沙希「……今は時間がないのですが、少しぐらいなら構わないでしょう……」

要約すると、科学とは違った魔術という分野で派閥があって、科学とも仲が悪いと。

魔術の本をたくさん記憶してる禁書目録には、行動を制御するために呪いが掛けられていて、その目的は彼女が所属する組織から抜け出さないように。

また、魔導書が外部に漏れないようにする措置でもある。

一年周期で鶴見留美の記憶を消さなければならない。
それはあくまで魔導書を保護するため。

組織の人間からは、10万3千冊の魔導書を記憶することで、一年で脳の記憶容量に限界がきて命を落とすと言われているらしい。

川崎沙希はそれを信じず、自分で答えを導いたという。

禁書目録を攻撃したのは、組織から逃げ出した鶴見を捕まえるため。彼女の動きを止めるため。

歩く教会があるから、ダメージはないと思っていたから。

全ては鶴見留美の身を案じての行動だった。

八幡「で、連れ帰ってどうする?」

沙希「無論、記憶を消します。それしか彼女を救う方法はないのですから……」

八幡「呪いか。なら方法はある」

沙希「どういうことですか?」

八幡「とりあえず部屋に入ろうぜ」

雪ノ下は黙って俺の右手を見つめていた。

雪乃「まずは傷の手当をしましょう」

沙希「出血はありますが、深手は負わせていません」

雪乃「確かに、血は止まっているし、これなら消毒して包帯を巻くだけで問題なさそうね」

八幡「一安心だな」

沙希「それでは本題に入りましょう」

川崎は自分が所属する必要悪の教会について改めて語った。

この世界には科学だけじゃない、魔術が存在していること。

科学と魔術が相容れない存在となっていること。

いつ対立しても不思議ではなく、世界は危うい均衡の上で成り立っていること。

そして俺は、自分の体質について説明した。

沙希「幻想殺し(イマジンブレイカー)……ですか?」

八幡「そうだ。なんでかはわからねーが、俺の右手は異能を消すことができる」

雪乃「彼の言っていることは真実よ。私が保証するわ」

沙希「お話はわかりましたが、その『幻想殺し』とやらで本当に禁書目録の呪いを解けると?」

八幡「ああ。呪いを破壊する」

沙希「異能を打ち消せる、それはわかりました。ですが、論外ですね」

雪乃「なぜ?」

沙希「呪いと能力は別です。解こうとすれば何が起こるかわからない。もし失敗したら、アナタ方は責任を取れますか?」

八幡「だから、鶴見の記憶を消すと?」

沙希「それが一番安全ならば」

雪乃「それこそ解決になっていないわね。今年を乗り切っても来年は?再来年は?」

雪乃「今回と同じように逃げられたとしたら、どう対処するのかしらね?」

沙希「何度でも連れ戻します」

雪乃「間に合わなかったら?これからは同じリスクを回避するために監禁でもするのかしらね?」

沙希「……ちっ!……黙れ……うっせぇんだよ!何様なんだよテメェは!?」

八幡「……は?」

雪乃「それが貴女の本性?」

沙希「こっちだって消したくて消してるわけじゃないっつうの!これしかないから!これが最善だって信じてるから!あたしはっ!」

八幡「いや、まあ……とりあえず落ち着いて」

沙希「今まで何度あの子の笑顔を奪ってきたと思ってる!?他に方法がないからさ!あの子の記憶を消してきたあたしが、間違ってたなんて言わせない!」

雪乃「間違っているわね。それは解決とは言わないわ。ただの逃避よ」

沙希「はぁ?」

雪乃「解決策が見つからないのなら探せばいい。それでも見つからないのなら回避すればいい」

雪乃「解決策を持たなかった貴女の行動は、確かに間違いではない。けれど今は、『幻想殺し』という希望を見つけたじゃないの」

沙希「希望?」

雪乃「もし、貴女が鶴見さんを本気で心配しているのなら、藁にも縋る気持ちで試そうとするはずよ」

沙希「ねぇ、それ本気で言ってんの?あんた、他人事だから簡単にそんなこと言えんだよ。そういうの逆に無責任って言うんじゃないの?」

八幡「雪ノ下、川崎。とりあえず落ち着け。二人とも頭冷やせ」

沙希「あ?」ギロッ

雪乃「比企谷くんは黙っていてくれないかしら?」キッ

怖ぇよこの女たち。

八幡「……俺だけじゃ頼りないのもわかる。不安なのもな」

沙希「…………」

八幡「でも考えてもみろよ?ここには学園都市第三位の超電磁砲様と、魔術師様?がいんだぜ?」

雪乃「……それで?」

八幡「三人で力を合わせりゃ何とかなんじゃねーの?」

沙希「なにそれ。ばっかじゃないの?」

八幡「だな。バカ言ってんのはわかってる。だけどよ、俺は雪ノ下がすげー奴だって知ってる。川崎、お前だってそうなんだろ?」

沙希「…………」

八幡「俺が呪いを解く。そのあと何が起きても、お前たちなら対処できんじゃねーの?」

雪乃「比企谷くん……あなたバカね」

沙希「それができたら今揉めてないんだけど?」

八幡「なぁ、力って何なんだろうな?俺は雪ノ下を過大評価してたのか?」

雪乃「…………」

八幡「女の子一人救えねぇ力なんて意味ないだろ……」

沙希「…………」

八幡「俺は救いたい。会ったばっかだけど、それでも……」

どこか自分に似た少女。

全てを諦めたような……悟ったような生意気な顔で。

それでも無意識に救いを求めてしまう彼女を。

まさに地獄だ。

沙希「…………」

八幡「もし失敗して鶴見が死んだら……川崎、お前が俺を殺せばいい」

留美『ねぇ、八幡。私と一緒に地獄の果てまでついてきてくれる?』

ああ、付き合ってやるよ。

地獄の果てまで付き合う約束だしな。

沙希「……は?」

八幡「保証がないなら、俺の命を担保にしてやる」

雪乃「……わけがわからないわね」

八幡「鶴見のことを生意気なガキだって思ってた。けど、毎年記憶を消されたら俺だってああなるよな」

八幡「生きていて何の意味がある?忘れるために生きるのか?それ何が楽しいんだよ?」

沙希「…………」

八幡「俺なら死んだほうがマシだ。そんな人生」

沙希「っ!?」

八幡「お前はどうだよ?川崎」

沙希「……はぁ……あの子が笑ってるとこ、もう何年も見てないね」

沙希「生きていても辛いだけ……か。あたしなにやってんだろ……あの子を苦しめてんの、あたしなのにね」

八幡「視野が狭くなるくらい、そんな必死になるくらい、心配だったんだろ?」

沙希「最初はそうだった。でも毎年繰り返すうちにさ、辛さから目を背けて……流れ作業みたいに淡々と消してたんだよ……」

沙希「あの子の笑顔を奪ったのはあたしだ」


沙希「比企谷、お願いするよ。担保なんていらないから。あたしに力を貸してください」

川崎はその場で膝をついて土下座した。

彼女なりのケジメなのかもしれない。

八幡「頭を上げてくれ。土下座する必要はない」

沙希「ありがとう、比企谷」

八幡「どこだ……」

雪乃「鶴見さんを縛る呪いなのだから、そう簡単には目につかない場所にあるはずよ」

沙希「一度全身調べたことあるけどさ、おかしなところはなかったね」

雪乃「それが素、なのかしら?」

沙希「なにが?」

川崎さん、口調!口調!

丁寧な口調はやめたんですかね?

雪乃「いえ。もういいのよ」

沙希「ふーん?ま、いいけどさ」

眠っている鶴見の全身を手当たり次第調べる。

呪いの刻印のような物が、必ずどこかにあるはずだ。

八幡「外にないなら中とか……なんでもないです」

雪乃「……比企谷くん、お手柄かもしれないわ」

内側……

雪ノ下が鶴見の口を大きく開く。

雪乃「比企谷くん、口の中を調べてみて」

八幡「お、おう」

小学生女子の口に指を突っ込む背徳感。

八幡「ん……?」キーン


雪乃「どうやら正解のようね……」

沙希「待ちな!」

留美?「警告、禁書目録の首輪の破壊を確認」

留美?「再生……失敗……術式の逆算……失敗……」

留美?「首輪の自己再生は不可能……10万3000冊の書庫の保護のため」

留美?「侵入者の迎撃を優先します」


真っ赤に輝く二つの瞳。

鶴見留美が、静かにこちらを向く。


沙希「比企谷、アンタなにしたの!?魔術を使えないはずの禁書目録が魔術だって!?」

雪乃「全てが嘘まみれのようね……貴女の組織は」

八幡「くるぞ」

留美?「攻撃術式、発動」

留美?「攻撃に備え、術式による結界を発動します」

八幡「鶴見、やめろ」

留美?「侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました」

留美?「これより、特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」

沙希「避けて!!」

八幡「くそっ!」

鶴見の瞳に展開された二つの魔法陣が、大きく拡がる。

轟音と共に魔法陣からレーザーが射出された。

光の柱……まさしくそれはレーザーと呼ぶのが相応しい。

咄嗟にかざした右手で、何とか攻撃を受け止める。

八幡「くっ……!」

指が……裂ける……

八幡「くっそぉぉお……!」

沙希「Salvare000」

沙希「あと少しでいい……耐えな!」

雪乃「比企谷くん、頼むわよ」

沙希「まさか竜王の殺息(ドラゴンブレス)を受け止めるなんて……」

八幡「限界……だ」

諦めかけたその時、鶴見の攻撃が止まった。

留美?「聖ジョージの聖域は侵入者に対して効果が見られません。他の術式へ切り替え、引き続き首輪保護のため侵入者の破壊を継続します」

八幡「嘘……だろ……」

再び魔法陣が展開される。

ゆっくりと死が近づいていく。

沙希「七閃!」

雪乃「…………」ヒュッ

鶴見の足を何かが弾いた。

俺の目では追えない速さで放たれた『一撃』が、鶴見の体勢を崩していく。

聖ジョージの聖域……竜王の殺息が天井に……上空に向かって放たれる。

光の柱は天を貫く。

反動で後方に倒れた鶴見から、光の羽が無数に舞う。

沙希「竜王の吐息(ドラゴンブレス)……その羽に触れちゃダメだ!」

沙希「それは伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義だ!どんな力があっても、人の身でまともに取り合おうと考えちゃいけない!」

八幡「難しいこと言ってんじゃねぇよ……」

雪乃「今よ、比企谷くん」

八幡「……この世界が神様の作ったシステム通りに動いてるってんならよ……、まずは……その幻想をぶち殺す……」

鶴見の頭に右手が触れた。

確かな『音』を耳にした。

今度こそ成功だ。

鶴見はもう大丈夫。
不思議とわかった。


……俺はダメだ。
避けられそうにない。

舞い散る光の羽を躱す手段がない。

雪乃「勝手に諦めるなんて……情けない男ね」

何が起こったのか、一瞬では理解できない。

駆けつけた雪ノ下が、俺を掴んで『瞬間移動』したのだ。

雪乃「磁石の原理よ。磁場に向かって移動しただけ」

無茶苦茶だ。

ところで、二人を引き付ける強い磁場なんて、この室内にあっただろうか?

雪ノ下は語る気はないようで。

川崎は静かに笑っていた。

きっと違うのだろう。

雪ノ下は何らかの方法で、俺を救い出したのだ。

今は教える気はないってことかよ。

鶴見を転倒させた手段すら本当はわかっていない。

世の中わからないことだらけだ。

俺はボロボロの右手を治すために入院することとなった。

今回の後日談。

留美「ありがとう、八幡」

八幡「気にすんな」

病室のベッドの上。果物の皮をナイフで切りながら、鶴見留美はこちらの顔色を窺っているようだ。

八幡「どうしたぁ」

気だるげに話を振ってみる。

留美「別に」

八幡「そか」

実に気まずいのだが、見た目小学生女子と何を話していいのかが、そもそもわからん。

いや八幡わかるけどね。ほんとだよ?ごめん嘘です。

留美「八幡はさ…………」

八幡「おう」

留美「やっぱいい」

鶴見留美はイギリス清教へと戻ることになった。

同じような過ちは犯さないよう注意すると、川崎は断言していた。

上には既に話を通したらしい。



数時間前の会話を思い出す。

沙希『自由とまではいかないけど、もう記憶を消されるような事態にはなんないよ。安心していい』

こちらとしては信じるしかないのだ。

沙希『比企谷、世話になった。この恩は一生忘れないから』

八幡『忘れていいぜ』

沙希『そうはいかないよ。また力を借りることもあるかもしんないし』

いつかまた、鶴見留美と会う機会もあるかもしれない。



鶴見が剥いたリンゴを一口頬張る。

八幡「……美味い」

沙希「今いい?禁書目録迎えにきたんだけど」

留美「…………」

結局時間切れか。
元気でやれよ、鶴見。

沙希「行こっか」

留美「…………」

沙希「禁書目録?」

留美「……やだ。行きたくない」

留美「……ここにいたい」

それは初めて耳にした、鶴見留美の『自分の為』の我が侭だった。

沙希「…………ふぅ。そっか」

反対すると思っていた川崎は、どこか吹っ切れたような笑顔を見せ、「比企谷、禁書目録を頼む」と頭を下げた。

八幡「……はい?」

沙希「この可能性も頭にあったからね。比企谷が保護してくれるんなら、イギリス清教も許可するってさ」

八幡「意味がわからないのですか。つか俺の意見は?」

沙希「禁書目録の保護者になってくれるならさ、自動的に比企谷もイギリス清教の味方になるってことじゃん」

スルーかよ

八幡「何その超理論。俺なんてただの無能力者だぞ?んな価値ねえよ」

沙希「あーはいはい、そういうのいいから」

沙希「アンタは自分が思ってる以上に貴重な存在なんだよ。敵に回すと面倒そうだしね。だから味方にしておきたいわけ」

八幡「鶴見を利用するのか?」

留美「別にいい。それでここに残れるなら」

沙希「確かに禁書目録の存在は、アンタに対する人質みたいなもんだけどさ。だからって禁書目録が不要になったわけじゃないし」

沙希「二人ともイギリス清教にとって重要な存在と認められたってことじゃん?」

八幡「互いを足枷にして、どうか二人ともイギリス清教と仲良くしてねってか……性格悪いな、お前のボスは」

沙希「……生活費出るよ?」

八幡「鶴見、ウチ来るか?」

留美「八幡、現金すぎるよ……」

沙希「決まりだね」

え?今の冗談だったんですが……

なにこの流れ
養子縁組?この年で娘できちゃうの?むしろ恋人まである。

あるわけねーだろ。

留美「これからよろしくね、八幡」

はじめて目にした鶴見の笑顔を前に、俺は熱くなる顔を隠そうと俯いた。

八幡「お、おう」


この日から、二人の奇妙な同棲生活が始まった。

??「海老名が消えたですって?」

「法の書の解読に成功したと思われる。そこで相模、君に新たな指令が下った」



EP2.絶海の腐女子に続く……カモ

おしまい

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