やはり俺では青春学園ドラマは成立しない (1000)
俺ガイルSSです
・亀進行注意
・原作1巻しか読んでないので、キャラの口調に自信なし
・八幡の性格改変もの
よければ見ていってください
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412099162
静「――比企谷。お前は、自分が変わっているという自覚があるのか?」
八幡「ええ、まあ」
静「それを変えようとは思わないのか?」
八幡「いや、別に困ってないですし……」
静「お前自身が困っていなくとも、教師としてまともに人付き合いをしないお前のことを放っておけないんだ」
八幡「はあ……」
静「気のない返事をするな。衝撃のファーストブリットを食らわせて根性を叩き込んでやろう」
八幡「懐かしいですね、スクライド」
静「……お前自身の話だというのに、何故そうも他人事みたいな反応なんだ。私はお前のことを心配しているんだぞ!」
八幡(平塚先生はいわゆる熱血教師という奴で、今時珍しく生徒に道を押し付けるような教師だった)
八幡(生徒に積極的に言葉を投げかけ、そいつが間違っていれば殴ってでも道を正そうとする強烈な人間)
八幡(方法や言い分が正しいかどうかは置いておくとして、他人と関わるのが苦手な生徒に必要となる部類の教師だ)
八幡(まあ……教師ともまともな会話をしない俺が、平塚先生が生徒によく声をかけているのか判断できるとは思えないが)
静「それになんだ、この作文は!」バンッ!
八幡(そう言って平塚先生が叩いたのは、国語の時間に出された俺の作文の課題)
静「『高校生活を振り返って』――――。そんな題名で、なぜ中学との授業内容の違いや施設の充実さしか書くことがないんだ」
静「普通『高校生活』と言えば、体育祭や文化祭といった友達と楽しむイベントが来るはずだ。なのに……お前の作文では友達の存在が一切書かれていない!」
静「比企谷、お前は友達を必要とすらしていないのか?」
八幡「と、言われても……」
八幡(何の興味もないクラスメイトの走る姿を見ているのは苦痛でしかないし、応援なんかするわけもない。俺にとって体育祭は校舎の影で時間が過ぎるのを待つイベントだ)
八幡(文化祭は一人で行動することが前提のイベントなので、回りたいところを回れば後はヒマだった)
八幡(え? 準備期間は何してたかって? ただ仕事をしていただけで、今まで以上に誰かと仲良くなるはずがないだろう)
静「ああ、もちろん担任には話を通してある。クラスで孤独なお前を少しでもいい方向に変えれたらと言ったら、快く了承してくれたぞ」
八幡「本人のやる気は関係なしっすか?」
八幡(部活動なんて面倒なことはやりたくない。そもそもどんな部活か分からないが、まともにこなせるとは思えない)
八幡(とはいえ担任まで敵に回ったんじゃ、抵抗したところで逃れられそうにないな)
静「お前のことだ。最初はまともに取り組もうとするはずだ。合わないなら合わないでもいい、気楽にやってみてくれ」
八幡「…………」
八幡(そうやって「信じている」みたいな言葉で相手を持ち上げるのは、卑怯だと思う)
八幡(でも実際、俺が先生の頼みを断らないのは事実な訳で)
八幡(どんな部活か分からないにしろ、できるか分からない以上挑戦するのが俺なのである)
とりあえずここまで
ストック書いて、一気に投稿していくスタイル取ります(投稿分短いけど)
原作の八幡は人付き合いにマイナスな感情を持ってますが、ここの八幡は人付き合いそのものに興味がないって感じです
ストックはまだあるんで、早ければ明日また投稿します
>>6修正。抜けがあった
静「やはりいくら説教したところで気にもならないようだな……。なら私は強行手段を取って出てやろう」
静「比企谷八幡。これからお前は私の部活に入ってもらう」
静「ああ、もちろん担任には話を通してある。クラスで孤独なお前を少しでもいい方向に変えれたらと言ったら、快く了承してくれたぞ」
八幡「本人のやる気は関係なしっすか?」
八幡(部活動なんて面倒なことはやりたくない。そもそもどんな部活か分からないが、まともにこなせるとは思えない)
八幡(とはいえ担任まで敵に回ったんじゃ、抵抗したところで逃れられそうにないな)
少ないけど続き投下します。>>7から
八幡(結局先生の話を断ることはできず、その部活をやっている教室まで連れてこられたのだった)
静「入るぞ」
???「平塚先生。入る時はノックをしてくださいと何回も言っているんですけど」
八幡(平塚先生に連れられて入った教室には、一人の女子生徒がいた)
八幡(恐らく美少女に分類されるであろう整った顔立ち。華奢な体型で人一倍白い肌。胸はそこまで大きくない。第一印象から見るにこいつは他人に対してキツめの態度を取るのだろう)
八幡(つまり俺のタイプの女子ではない。『だからどうした』レベルの女子だということだ)
静「悪い雪ノ下。次からはちゃんとする」
雪ノ下「毎回そう言って全く改善しませんね。……それで、そちらの男子は今回の依頼人ですか?」
静「いいや、こいつは新しくこの部活に入る仲間だ。こう見えて結構変わった人間でな、他人と人間関係を作ろうとしない奴なんだ」
八幡「どうも」ペコリ
八幡(とりあえず目があったので挨拶しておく)
八幡(こういう時は名前とか自己紹介するべきだってか? 平塚先生も言っているだろう。俺が人間関係を作りたがらない人間だと)
八幡(初対面だとか相手が美少女だとか関係ない。『他人』に対して俺の心が開かれることは絶対にない)
雪乃「……つまり彼はいわゆる、『ぼっち』という人種ですか?」
八幡「ずばり言うな……」
静「おい比企谷、初対面なんだから自己紹介くらいしろ」
八幡「(隠し通せなかったか。やれやれ)あぁ、はい」
八幡「比企谷八幡、1-A所属で、趣味は読書。とりあえず今後ともよろしく」
雪乃「……雪ノ下雪乃。1年J組所属。この部活の部長をやっているわ。『とりあえず』よろしく」
八幡(雪ノ下雪乃……。ああ、こいつ学年トップの奴か。今思い出した)
八幡(あととりあえずを強調して返す辺り、嫌味ったらしい人間だと分かる)
静「うん。お前ら似た者同士だな」
八幡・雪乃「「はぁ?(怒)」」
今日はここまで。短くてすいません
この八幡は原作よりも難攻不落です。雪ノ下レベルの美人で動じない時点でアレですし、恋愛にも興味持ってません
後々出てくるガハマちゃんは苦労すること確実ですね
乙!
この感じだと小町との関係が気になるな
原作同様に仲の良い兄妹なのか
学年って2年生じゃなかったっけ?
雪乃「平塚先生。言っていいことと悪いことがあります。こんな何事にもやる気を出そうとしない無気力な男と私を一緒にしないでください」
八幡「そうだな。こんな躊躇なく人を罵倒する心無い女と一緒にして欲しくない」
雪乃「先生の目は節穴ですね。いえ毎回私の忠告が届かない辺り耳も悪いんでしょう」
八幡「だから碌な男を見つけられないんですよ」
静「……お前らが私のことを嫌いだというのはよく分かった」
八幡(自分らしくもなく怒ってしまったな)
八幡(とはいえ今のは平塚先生が悪い。俺は他人の悪口は言わずに心の中で言うタイプだ。俺は雪ノ下のように無駄にヘイトを集めるような真似はしない)
静「ともかく、雪ノ下も比企谷が無気力な人間だと見て分かったようだな」
静「比企谷は一般的な学生生活やら友達との楽しいお喋りやら、そういう青春めいたことに興味を示さないんだ」
静「だから比企谷の孤独思考を改善して欲しいというのが私からの依頼だ。――お前たちに対する、な」
八幡「依頼……?」
静「やってくれるか、雪ノ下?」
雪乃「………………分かりました」
静「そう言ってくれて嬉しい。雪ノ下以外の部員がいないことは気になっていたからな。私はやり残した仕事があるので職員室に戻る。後は若い二人で精一杯親交を深めるように」
八幡(おいこいつもぼっちかよ。まあさっきの憎まれ口からして女子友達ができなそうな性格ではあるが)
八幡(具体的な説明は何もないまま平塚先生は行ってしまった。後に残ったのは会話を広げようとしないぼっち二人だけだ)
八幡(『ふたりぼっち』って書くとなんかかっこいい。厨二臭いけど)
八幡「……あそこにある椅子、使っていいのか?」
雪乃「ご自由に。というか立ったままでいられると目障りだから読書の邪魔になるわ」
八幡「それで、ここは一体何部なんだ?」ガガガッ スッ←椅子引いてきて座った
雪乃「当ててみなさい。いきなり人に答えを聞くという姿勢は、自分の無能さを曝け出す愚かな行為よ」
八幡「………………依頼っていうワードからしてここがよろず屋めいた部活なのは分かる。問題はそのよろず屋めいた活動に似合う名前が存在しないことだ。だからこそ聞いてるんだよ、『ここはどんな名前の部活だ?』ってな」
八幡(そう言うと雪ノ下は勢いよく読んでいた本を閉じ、椅子から立ち上がって俺を睨みつけた)
雪乃「比企谷くん。貴方は自分一人の力で解決できない問題に直面した時、どのような行動が最善だと思う?」
八幡「そうだな……」
八幡(諦めて他の方法を模索する。そして解決に至るまでの労力と解決した時の対価を比較し、それが見合わないようなら即刻諦める。俺にとって効率は何をおいても肝要なのだ。タイム・イズ・マネーの精神だ)
雪乃「私は――もし本人に問題を解決する能力を不足していても、諦めずに自己研鑽に努めるべきだと思うの。人の可能性は無限大。何事にも挑戦して可能性を広げていくべきよ」
八幡(俺の答えを聞かずに雪ノ下は自分の弁を述べる。おそらく雪ノ下は俺が『諦める』というような答えを出すことを読んでいたのだろう)
雪乃「しかも私たちは未来ある学生。そんな私たちが自分から可能性を閉じるようなことはしてはいけないのよ」
雪乃「ここは奉仕部。生徒の自己改革を促し、悩みを解決するその手助けを行う場所よ」
雪乃「改めて歓迎するわ。比企谷くん」
八幡「…………よろしく」
八幡(『奉仕』という言葉とその部活内容を聞いて、俺は思った――)
八幡(これまでの人生で、本気で誰かを助けたいと思うことは一度もなかった。目の前で傷ついた人間がいても、手を差し伸べることはなかった)
八幡(他人に感情を向けないことが当たり前で、家族や好きな相手でさえそれは例外じゃない。冷静に、冷酷に、冷淡に、相手を傍観していた)
八幡(むしろ小中学で虐められた反動で、見知らぬ人間の破滅を願ってしまう俺がいる)
八幡(足を引っ張るのは目に見えている。だから俺はすぐこの部活を辞めることになる。そう確信した)
八幡(雪ノ下は俺を見て、俺も雪ノ下の顔を見返しながら、しかし俺の心は別のところに向いているのだった)
プロローグ 「この比企谷八幡に優しさは微塵もない」 終
これにてプロローグは終了です
プロローグだけで3回分の投下が必要とか……
しかも第一章はプロローグ以上に長くなってるし…………
恐らく第一章も3回ぐらい投下が必要になると思います
>>19
性格が改変しているので、八幡と小町ちゃんの関係も若干変化しています
ガハマちゃんが登場する第二章の次の次の、第四章を小町ちゃんの話にする予定です
あと言い忘れていたことが二つ、
アニメは全話視聴しています
そして応援レスありがとうございます! これからも頑張ります!
抜けすいません。>>29の前部分にさしこんでください
八幡(他人を見ようともせず、まして興味も抱かない。ボランティア精神を欠片も持ち合わせない俺に、奉仕活動なんてできるわけがないと)
それじゃあ今から投下していきます
八幡「…………………………」ペラリ
雪乃「…………………………」ペラリ
八幡(会話が弾みません。とても本が読みやすいです)
八幡(何をすればいいか聞いたら、依頼がない時は活動がないと言われたので俺も本を読むくらいしかやることがなくなった)
八幡(俺が読んでいるのは『異能バトルは日常系のなかで』というライトノベル。もちろんブックカバーを着けてある。いやこれタイトルや主人公の厨二度とかパロディとか抜いたら、結構マジメな作品だからな?)
八幡(人の身に余る能力を手に入れたヒロインに対し、真摯に向き合って励ます主人公の姿がとんでもなく格好いい。これがあの『トリガー』でアニメ化されるとあっては、期待せずにはいられないだろう)
八幡(なんでガガガ文庫を読まないかだって? ……いやなんでガガガ文庫限定すんだよ)
八幡(ちなみに雪ノ下もブックカバーを使ってるので、何を読んでいるのかは分からない。実はヤバめの本を読んでいるのかもしれない。『神さまのいうとおり』とか『暗殺教室』とか)
雪乃「…………比企谷くん。会話をしなさい」
八幡「えぇ……」
八幡(ようやく本に集中してきて、雪ノ下のことが頭から離れかけてたのに。現実に戻さないでくれよ)
雪乃「貴方の問題を解決しなければいけないのだから、貴方が協力しないことには始まらないわ」
雪乃「平塚先生は孤独思考と言っていたけれど、実のところどうなのかしら? 貴方、友達いるの?」
比企谷「友達なら――いるぞ」
比企谷(俺にとって友達と呼べる関係にいる人間と言えば…………、『あいつ』と『あいつ』、だけだな)
比企谷「少なくとも2、3人いる」
雪乃「(……結構いたのね)それだけかしら?」
八幡「それだけって……、確かに普通より少ないのは分かっちゃいるが」
雪乃「少ないのが分かっているなら、どうして増やそうとしないのかしら?」
八幡「なら逆に聞くが、どうやって本を読みながら友達を増やせるんだ?」
雪乃「人と話すならまず本を読むのを止めなさい」
八幡「ならお前も人と話す必要がないからって部室で本を読むなよな」
雪乃「…………貴方、見た目に寄らず性格悪いわね」
八幡「そうだな」
八幡(相手の好きなものを弁護材料にするなんて自分でも卑怯だと思うさ)
八幡(だけど、これが俺なんだ)
八幡「大体話し相手なら他にもクラスにいるっての。雪ノ下だってそうじゃないのか?」
雪乃「あら。私にはそんな曖昧な関係の人間は存在しないわ」
八幡「いやそれだと友達いないことにならないか?」
雪乃「そういう風に取るのかしら。比企谷くんは人の粗探しをするのが好きなようね。そんなことばかりしているから友達が増えないのよ。直しなさい」
八幡(雪ノ下の目が言っている。『余計なことを言えば殺す』と)
八幡(ていうかマジかよ……。友達いない女子とかありえんの? こいつの方がよっぽど孤独思考だよ)
八幡「はぁ……」
雪乃「その溜め息は何かしら。言いたいことがあるなら素直に言いなさい」
八幡(その問い掛けは、これ以上この話題に触れないことの確認なんだと思うが、俺はそんな空気を読むような殊勝な人間じゃない)
八幡(もし俺が普通の奴なら、そもそもこんなよくも分からん部活に押し付けられたりしない)
八幡(つまり俺は他人と仲良くする気は全くなく、わざと空気を読む必要性など感じたりしないのだ)
八幡「いやさあ――」
八幡「なんだか平塚先生は俺の孤独思考を直して欲しいんじゃなく、雪ノ下の孤独思考を直して欲しくて依頼したんじゃないかって思うんだよ」
雪乃「……………………は?」
今日はここまでです
一つの行が長くなってるところがあるので、読みにくかったりしませんかね……?
特に八幡の脳内会話とか長くなってると思います
でももし名前表示『八幡() ←こんなの』を外したら、
改行しやすくなる代わりにさらに分量多くなって投下が遅くなると思うんです。
なので余程苦情が来ない限り、今の様式で投下していくつもりです
あ、ちなみに今回おすすめしてる『異能バトルは日常系のなかで』はホントにおすすめです
私はコミカライズ読んで嵌りました
>>36
ガハマさんの出番が無いってことですね
必然的に
わかります
短いですが、これから投下していきます
>>49
ガハマちゃん『の』出番は減ってないよ! 減ってるのは他のキャラだよ!
八幡(ちなみに今の俺の発言を意訳すると、『俺よりお前の方がぼっちだよな』だ)
八幡(あくまで遠まわしに、受け取る側がこの発言を挑発と取らなければ、ただの分かりにくい言葉でしかない)
八幡(しかし俺の言葉が挑発であることは変わらず、相手が馬鹿でもなければ気が付かないわけがないわけで、もちろんのこと相手は学年トップの雪ノ下雪乃である)
八幡(誤解などあるはずもなく、雪ノ下は俺が雪ノ下のことをバカにしているのを理解した)
雪乃「比企谷くん。よく聞こえなかったから、今言ったことをもう一度言ってくれるかしら?」
八幡(うわー。目が笑ってないというか顔が引きつっているというか、ガチでキレてるっぽいなこれ)
八幡(まあ雪ノ下の言いなりになりませんが。言いたいことだけ言ったら後は相手がより怒らないよう会話を進めるだけである)
八幡「別になんでもない。忘れてくれ」
雪乃「なんでもないわけがないでしょう。私にはしっかり貴方の言葉が聞こえていたわ。誤魔化しなんて通じると思っているの?」
八幡「思ってないことが口に出たんだ。ちょっとした言い間違いなんだ。俺が悪かったから許してくれ雪ノ下」
雪乃「許すわけがないでしょう。貴方の言葉で私の心が傷ついたのよ」
八幡(そこから暫く雪ノ下の説教は続く。相手が傷つく言葉を言ったことを過去の虐められたトラウマを引用しながらネチっこく追及してくる)
八幡(もっとも俺は雪ノ下がぼっちなのを否定しないことの確認が取れただけで満足だ。なので雪ノ下の説教を話半分に聞きながら、雪ノ下が求めているであろう返事を繰り返していた)
八幡(そして平塚先生がこの教室に戻ってきた)
静「随分会話が弾んでいるようだな」
雪乃「ノックをする気がないなら死んでくれませんか、平塚先生」
静「ど、どうした雪ノ下……?」
雪乃「…………失礼しました。どうにも気が立っていたので」
静「なるほど。早速比企谷と衝突したか。予想した通りだ」
雪乃「予想していたんですか? なら何故仲がいいなんて言うんですか」
静「本質的に似通っているのさ、お前たちは。もっとも考え方が真逆なのだがな」
静「親しくはならないかもしれんが、お互いに見るべきところがあると思うんだ」
八幡(初対面から気に入らないと思っていたら、そういうことか。雪ノ下も俺もぼっちだし、どこか似ていたからこそ嫌悪していたのか)
八幡(まあ具体的にどこが似ているかは言語化しにくいが。平塚先生は分かっているのだろうか)
雪乃「この男から学ぶところがあるように思えませんが」
静「こいつは結構強かなところがある。正攻法ばかりのお前では対処できないことも、もしかしたら比企谷なら対処できるかもしれん」
雪乃「私より比企谷くんの方が上手く依頼をこなせると、先生は考えているんですか?」
八幡(そう言って雪ノ下は俺の方を睨む。何こいつどんだけ負けず嫌いなの?)
今回はここまで
次で第一章が終わりで、第二章が書きあがってから投下しようと思うので、投下が遅くなると思います
ちなみにこの八幡は目が腐ってません。笑ったらキモイでしょうけど、笑うことが少ないのでそれほど嫌われることがないかもしれません
むしろ腐る余地すらなかったとも言えますが。ある意味原作より酷い人間に仕上がっております
見てくれはイケメンだから裏で女子人気は結構ありそうだな
今から投下していきます
台風だから会社とか学校とか休みになって見ている人は多いはず!
>>60
初対面ではよく見られるでしょうが、時間が経てば話しかけてもらえなくなります
ソースは作者
小町との関係は第二章や第三章でも仄めかしますから、気長に待ってください
静「ふむ。折角の機会だし、ここでお互いの力を示しておくのも悪くない」
静「ここは一つ、どちらがより奉仕できるか勝負してみてはどうだ? 勝った方が――――負けた方になんでも一つ命令できる」
八幡「なんでも……」
雪乃「下卑た考えは止めてもらえないかしら。確かに私は世間一般的に見ても魅力のある容貌をしているけれど……」
八幡「コンビニスイーツくらいでいいか」
八幡(『なんでも』とかクソどうでもいい。セクハラを意識させて引かれるより、不感症をほのめかせて哀れまれる方が気が楽だ)
静「ふふ。どうやら比企谷からすれば、雪ノ下よりコンビニスイーツの方が魅力的らしいな」
雪乃「へぇ………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
八幡「なんで煽ってんすか平塚先生ェ……」
静「比企谷。勝負である以上手を抜くことは許さない。全力を尽くせ」
雪乃「安心しなさい比企谷くん。私も全力で貴方の心を叩き潰してあげるわ」
八幡「いやこれ奉仕できるかの勝負だから。俺の心壊しても意味ないからね」
八幡(壊せられるもんなら壊してみろよ。――俺の心はとっくに壊れてるんだからな)
静「判定基準は私の独断と偏見で決めさせてもらう。異論は認めん」
雪乃「異論なんてありません。こんな男に負けるとは思えませんから」
八幡「勝手にしてくれ……」
八幡(こうしていつも通り、俺の意思が介在することなく展開は進む)
八幡(本音を言えば奉仕勝負なんて向いてないことに力を入れたくない)
八幡(適当にやって頑張っている姿を見せて、努力は最低限でただ終わるのを待つつもりだった)
八幡(しかし平塚先生の『全力でやれ』という言葉のせいで、俺は頑張らないといけなくなった)
八幡(断る理由が特にないなら、俺はその言葉に従う義務が発生する)
八幡(やれやれ。いつも通り俺の性格は難儀なことで。球磨川さんみたいに上手い負け方を目指してやるか)
八幡(そういえば、もし球磨川さんがここにいたら、絶対に雪ノ下に裸エプロンさせようとするだろうな)
八幡(雪ノ下の裸エプロン…………)チラ
八幡(まあ需要はあるんじゃねえの?)
雪乃「何を見ているのかしら、比企谷くん。それともコンビニスイーツより私の方が魅力的だと撤回する気に「いやそれはない」」
八幡(あ、やべ。思わず本音言っちまった)
八幡(でも今のはコンビニスイーツを馬鹿にした雪ノ下が悪い。エクレアとかパフェとか侮れねえからな)
雪乃「……どうしましょう。今まで男からはずっと好意的に見られていたから、こういう時どんな顔をすればいいか分からないわ」
静「笑えばいいと思うぞ。私のように!」
八幡「平塚先生。たぶん雪ノ下はエヴァを分かってません。あとモテない恨みを他人にぶつけないでください」
八幡(ぶつけるなら雪ノ下本人にぶつけてください)
第一章 「しかし雪ノ下雪乃は相手にしてもらえない」 終
これにて第一章は終了です
書き上げてみたら実はプロローグと大して字数は変わりありませんでした
切り方がちょっと悪いかもしれませんが、これ以上長くやると他のキャラの出番が遠のくので、
小町ちゃんとか戸塚とかね。ただしこのスレにおいては天使ではありません
台風でバイトが休みになりませんように、とか思う私は間違いなく社畜
皆さんも台風にはお気を付けください!
面白いわこれ
人が少ないのはタイトルかなあ
人物とか作品名検索で引っかかりそうにないしな
ただすごくしっくりくるいいタイトルだから勿体ない
>>75
八幡「タイトル」にしようか考えたんですが、この八幡はわざわざこういうセリフは言わないと思いまして
言うとしたら絶対内心でしょうね
検索に引っかからないのは覚悟の上です
今から第二章投下していきまーす
……実はまだ第二章は完成してなかったりします
このままいけば第一章の倍近い分量になりそうです
まあ何の問題もありませんね
今回投下分ではまだガハマちゃんの名前は出ない。次で出ます!
八幡「平塚先生、奉仕部の活動日って何曜日ですか?」
静「特に決めていない。ただ雪ノ下は毎日行っているぞ」
八幡「なら雪ノ下に相談して交代制にして、担当曜日決めるか」
静「……あのなあ比企谷。依頼としてお前の性格矯正が受理されている以上、お前自身もそれに協力しないといけないだろうが」
静「大体逃げたところで、雪ノ下が簡単にそれを許すと思わない方がいい。教室に直接迎えに来るのは当然のようにしてくるだろう」
静「別に用事がある時まで無理に来いとは言わん。だが予定がないなら素直に部室に行くのをおすすめする」
八幡(そんなわけで俺の放課後の予定は強制読書タイムに決定したわけだ。心底面倒臭い)
八幡(これで読む本を探すために、昼休みは図書館に、休日に本屋に行かないといけなくなった。別に本を読むのは好きだが、時間潰しと暇つぶしの意味合いは全く違う。無駄な時間を過ごすほど愚かなことはない)
八幡(俺が変わればいい話だと普通の奴なら思うが、俺のことを一番知ってる俺自身が『変わるはずがない』という結論を出している)
八幡(結果、俺はあの雪ノ下と同じ時間を過ごさなくてはならなくなった。誰かこの『美少女(毒舌)と過ごす時間』を金で買ってくれねえかな……、五千円くらいで)
八幡(まあ、売る相手がいないんだけどな。俺には)
雪乃「………………」ペラリ
八幡「………………」ペラリ
雪乃「………………比企谷くん」パタン
八幡「?」 ←顔だけ向けて返事しない
雪乃「貴方は――自分自身を改善するつもりがないのかしら?」
八幡「いやそもそも改善と言ったって、何をしたらいいか……」
雪乃「何をすればいいか、どんな方向に変わるのかはこの際別の話よ。でもね、比企谷くん――――」
雪乃「部室に入って挨拶をしたら、仕事が終わったみたいに一目散に椅子に座って本を読み始めるのはどうかと思うのよ……」
雪乃「さすがの私でも、それがダメなことくらい分かるわ」
八幡(『さすがの私』とか言うのもどうかと思う。コミュ障だって言ってるようなもんだぞ?)
雪乃「挨拶をしたっきり一度も顔を合わそうとしていないし。――貴方、わざとやってない?」
八幡(やっぱりこの態度はまずいよなあ……。まあ自覚的にやってんだけども)
八幡「そんなわけねえよ。本当に何をしたらいいか分かんねえんだよ」
雪乃「そうかしら? 昨日のように誤魔化そうという考えが透けて見えるのだけれど?」
八幡「してねえよ、誤魔化そうとなんて」
雪乃「なら、自分のどういうところを改善させるべきかちゃんと考えなさい」
八幡(つまり雪ノ下には俺の悪いところが思いつかないんですね)
八幡(学年一の秀才相手にキャラを掴ませないとか、さすがです俺。略してさくおれ。全然略せてねえな)
八幡「ん~…………。やっぱり人と深く関わろうとしないところだな」
雪乃「まずはそこよね。どう改善するべきかしら」
八幡「そうだよなあ。これはもはや生来の性質っぽいし」
雪乃「能力とか性質とかいう言葉で誤魔化そうとしないで、直す努力をしなさい」
八幡「(あ、これ次言い訳したら怒るな)……ああ、はい。頑張ります」
八幡(雪ノ下を怒らせないよう慎重に会話をしていると、部室のドアが開いた)
八幡(そこには『見覚えのない』女子生徒がいた)
??「失礼しま~す」
投下分終了。八幡が皮肉を返さないから雪ノ下のテンションが低い!(歓喜)
ていうか「異能バトルは日常系のなかで」が爆死してんじゃん!(憤怒)
スタッフよく見たら「キルラキル」メンバーほとんど参加してませんでした。
言っておきますがこの作品、「中二病版俺ガイル」と言ってもいいほどのシリアス作品です
読むなら小説かコミカライズにしましょう。絶対ですよ!(ダイマ)
乙
八幡が察しまくってあたりさわりないからヒートアップすら出来ない雪乃がザマァかわいい
元からそうっちゃそうだけど、ことごとく言ってることがブーメランな雪乃がザマァかわいい
原作ゆきのん好きじゃないけど
言われっぱなしとも違う、ここの(心が)強化八幡が雪乃に逆攻撃しないのはバファリンの半分なんだろうか
関心のカケラもないというパターンも……
>>90
たった8分で……?
他スレでもあちこちでsageずに「はよ」してるから間違ったのか?
ここの八幡の呼び名を探していたら、
「神八幡」
[副]《八幡神にかけて偽りない意から》絶対に。神かけて。誓って。
という言葉を見つけたので、これからはここの八幡を「神八幡」と呼んであげてください
なんせここの神八幡は、絶対に自爆することがありませんから(周りに爆弾を投げ入れます)
>>91
後者です。
半分はわざわざ指摘してやる義理がないから
もう半分は指摘すると反撃されるから
徹頭徹尾自分の都合しか考えてません
sageとかsagaとかレスごとにブレてますが、トリップが同じなのでスルーお願いします
むしろここまでだと部活に来るのが不自然な件
どんな手使ってでも帰宅しそう
>>15>>21
八幡のクラスは「2-F」でした。これでは主要人物と別クラスになってしまいますね
>>91
そもそもプロローグのタイトルからして、バファリンの半分はありえません
>>95
神八幡は自分の悪い部分を自覚しています
だからこそ負い目を感じて部活に足を運んでいるわけです
それではこれより投下していきます
??「え、なんでヒッキーがここにいるの!?」
八幡「一応ここの部員なんだよ。昨日この部活に入ったばっかりだがな」
??「へえ~。あれ、でもヒッキーって部活に入る気ないとか言ってなかった?」
八幡「色々あんだよ。色々。つーか俺のことよりお前のことだろ。相談事があるんじゃねえのか」
??「こういう機会じゃないとヒッキーと話できないじゃん」
八幡(ていうかこの女子、ガチで誰だよ)
八幡(クラブに入る気がないって話はしたことあるけど、何でそのこと知ってんの?)
雪乃「えっと、あなたは2年F組の由比ヶ浜結衣さんよね?」
結衣「え? なんで私の名前……っていうか雪ノ下雪乃さん!? なんでここに!」
雪乃「それは私がこの奉仕部の部長だからよ」
結衣「そうなんだ。じゃああたしの名前を知ってたのは?」
雪乃「同じ学校なのだから、あなたの名前を知っていてもおかしくないわ。それに記憶力はいい方よ。もっとも例外はあるけれど」
結衣「ああ、確かにヒッキー影薄いもんね」
八幡(男子より女子が多くなると、会話のメインが女子になる法則)
八幡(ならその法則に従って俺を除け者にしておいてくれ。会話をしなくて済むからな)
結衣「相談を受けてくれるって平塚先生から紹介されたけど、そもそも奉仕部って何の部活?」
雪乃「奉仕部とは、その人の問題をその人に解決させるよう促し、本人の成長を臨む部活。分かりやすく例えるなら、飢えている人に魚を釣ってあげるのでなく釣り方を教えて飢えないようにするのよ」
結衣「正直よく分かんないけど、凄いことをしているのは分かった!」
八幡(いや今の例えくらい分かれよ。仮にも進学学校生じゃねえのかよ)
結衣「それで相談なんだけど、クッキーを…………」チラ
八幡(由比ヶ浜がなぜかこっちを見て言い淀んだ。理由を推測し、俺は鞄を持って立ち上がった)
八幡「男子には話しにくい相談か。なら俺は外す。困ったことがあったら図書館に呼びに来てくれ」
八幡(本当なら少し席を外すくらいでいいのだが、自分以外の人間しかいない空間に鞄を置いておくことはありえないので、それだったらいっそ戻ってこないことを前提にした方が俺的に都合がいい)
雪乃「何を逃げようとしているのかしら。あなたも奉仕部員なのだから、ちゃんと依頼に向き合いなさい」
八幡「逃げようとなんてしてねえよ。なんだか由比ヶ浜が言いにくそうだったし、女同士の方が話しやすいことがあるだろうから気を使ったんだよ」
八幡(とはいえ俺は本気で図書館に行くつもりだったし、お前らが呼びに来なければずっと図書館に居るつもりではあった。つまり俺が逃げるかどうかの選択権は俺ではなくこいつらにあった)
八幡(まあ閉館時間になれば一回戻ってくるだろうが。それくらいの紳士性はさすがの俺も持ち合わせている。逆に言えば最低限の紳士性しか持ち合わせる気がないとも言えるが)
雪乃「言い訳は結構。あなた自身の性根の改善も依頼なのだからきちんとこなしなさい」
八幡「分かってるよ(嘘だけど)」
結衣「……二人とも何の話? あたしついていけないんだけど」
雪乃「ごめんなさい由比ヶ浜さん。奉仕部内の話だから気にしないでもらえるとありがたいわ」
八幡「結局のところ問題は、由比ヶ浜が俺に依頼内容を話してくれるかどうかだな」
雪乃「早速由比ヶ浜さんに責任を負わそうとしていないかしら? 依頼内容がどうであれ、比企谷くんの参加は絶対よ」
八幡「あっそ。で、由比ヶ浜。お前は依頼内容を俺に話せるのか、話せないのか、どっちだ?」
結衣「え、えーっと……別にヒッキーに話せないってわけじゃない……かな?」
八幡「なるほど。じゃあ話してくれ」
雪乃「待ちなさい。聞き役は私がするわ。比企谷くんはメモでも取っておきなさい」
八幡「……まあ書記くらいやってもいいが、なんか俺への当たりが強くないか?」
雪乃「そう思うのはあなたの不真面目な態度のせいよ。さて由比ヶ浜さん、話してもらえないかしら」
結衣「あ、…………うん」
結衣(なんだろう……? ようやくヒッキーと話ができたのに全然嬉しくない。雪ノ下さんと話しているのを見ても、全然羨ましくない)
結衣(むしろヒッキーと話す雪ノ下さんが気の毒に見える。ムダなことを頑張ってるみたいな……)
結衣(――ううん。こんなこと考えてちゃダメだよね)
結衣(だってヒッキーは)
結衣(ヒッキーは――――あたしとサブレの命の恩人なんだもん)
今回はここまで。神八幡ひどいな!
でもようやく、神八幡のひどさが浮き上がってきた感じです
今更言いますけど、性格改変によって入学式の交通事故にも変化が起きています
どうしてサブレだけではなくガハマちゃんまで助けたことになってるかは、後々語られます
神八幡がガハマちゃんのことを知らないのは、単純に「同じクラスになって時間が経っていないから」
そして何より「1年前に助けた相手なんて覚える価値すらないから」です
……うん。ヤバイ
これから依頼を通して、ガハマちゃんの理想は滅多打ちされていきます
ぶっちゃけガハマちゃんは神八幡に惚れないでしょうけど、その方が被害が少ないのでよっぽど幸せです
>>108
>惚れない
せめてメインヒロイン候補の一人くらい欲しかった…
つーか先の展開暴露し過ぎじゃね?
八幡が言い返さないから、雪ノ下が好き勝手言うから苛立ってくる。
>>110
それな
この八幡は他人に無関心なのに、面倒を避ける性格じゃないのがアンバランスに見えるな
となりの関くんみたいに他は無視して自分の興味が有ることだけに黙々と打ち込むタイプにも見えないし
毎日放課後部活に行くのも、負けたら何でも言うことを聞くという理不尽な勝負させられるのも
たいして面倒に感じてないのかな?
平塚先生の『全力でやれ』の一言でなんでもハイハイ聞いちゃったら破滅まっしぐらな他人にとって都合のいい人間になりそう
それと聞かれてもいない内容の本文外での解説が多すぎる気がする、多少なら仕方ないけどできるだけ本文内で表現して欲しい
あと神八幡とか中二病過ぎるw
>>109>>115
解説が多くなっているのは、本文の文章量を少なくしたいからです
ただでさえ亀進行なのに、描写を増やしたらさらに展開が遅くなります
むしろ意図して本文外での解説を多くしていきます
>>110>>111
他のキャラや読者がいくら不快に思っても、神八幡は雪ノ下の発言に動じることはないので……
>>113
「面倒を面倒だと思っていない」と言いますか、自分に降りかかる災難に対しても第三者の視点から傍観しようとします
なので理不尽な命令には普通に逆らいます
神八幡は他人にも興味ありませんが、自分にも興味を持っていません
自分にしろ他人にしろ、誰がどうなっても構わないけれど、善悪の価値基準だけははっきりしています。
相手が間違っている時に限り文句は言います
神八幡に一番近い性格をしているのが、西尾維新の「戯言遣い」だと思ってください
雪ノ下だろうがガハマちゃんだろうが平塚先生だろうが小町ちゃんだろうが戸塚だろうが、
これまでもこれからも、「好きが零で嫌いが零」です
神八幡は誰かを好きになることがないので、ヒロインかどうかは「神八幡のことが好きかどうか」で決まります
異性として好きじゃなくても友人として好きになればいいので、ガハマちゃんがヒロインになる可能性はまだあります
試験作として、本文内に説明をプラスしたSSを書いてみました
八幡「雪ノ下にグロマンガを読ませてみた」
八幡「雪ノ下にグロマンガを読ませてみた」 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413652879/)
グロ描写はまったくないですし、内容短く終わらせたので良かったら意見欲しいです
【】は要らないですよね……
好評なようですので、次回から本文に説明を追加してみようと思います
次回投下は若干遅れると思います
よく考えたら、作者は第二章をほぼ書き終えているのに対し、
読者はガハマちゃんが登場したばかりで「惚れない」と言ったわけですからね……
見通しが悪くてすいませんでした。猛省しないと……
確かに【】は要らないですよね
好評なようですので、次回から本文に説明を追加してみようと思います
次回投下は若干遅れると思います
このSSはそもそも神八幡の視点から書かれているので、グロ雪乃みたいに三人称の地の文を入れたら、
一人称と三人称とが入り乱れてこんがらがりました
せめて第二章が終わるまでは今まで通りのやり方で書かせてください
それでは投下します
雪乃「手作りクッキーを作りたい、と」
結衣「友達に相談したらマジな雰囲気に取られちゃうし」
八幡(好意を持ってるってわざと取られるわけですね)
結衣「別に好きとかそんなんじゃなくて、本当にお礼の意味を込めてプレゼントしたいの」
雪乃「分かったわ。奉仕部は由比ヶ浜さんの依頼を受けましょう。ではまず家庭科室に行きましょうか」
八幡(そうして色々あって時間が経過し、由比ヶ浜のクッキーが完成したわけだが……)
クッキー「コゲタヨー」
八幡(由比ヶ浜なんとかさんはメシマズ、いや料理の適性がこれっぽっちもなかった)
八幡(卵の殻が入ったまま作業を続けようとするのはまだ序の口。小麦粉の代わりに片栗粉やパン粉を入れようとしたり、味の素を入れれば料理が美味しくなると本気で言ってやがった)
八幡(『料理をしたことがない俺でさえ』、由比ヶ浜が駄目なのが分かる。料理も得意だと言っていた雪ノ下は完全に青ざめていた)
雪乃「これは……処置なしね」
八幡「とりあえず由比ヶ浜は今後一切料理はするな」
結衣「その結論早くない!?」
雪乃「比企谷くん駄目よ。それはまだ最終手段だから」
結衣「まだ!? もう最終手段想定してるし!!」
八幡(まあ別に失敗作というだけで味見しない理由にはならないな)ヒョイパク
雪乃・結衣「「あっ」」
八幡「………………」モグモグモグ
八幡「……駄目だなこれは。端的に言って、腐った味がする」
八幡(俺としても酷評はしたくないが、事実は事実である。それにこの場合わざと酷いことを言った方が由比ヶ浜のためになる)
結衣「そ、そんなにダメ……?」
八幡「普通なら作った本人なんだから食えと言いたいが、さすがに人前で戻すのは勘弁だろ」
雪乃「言いたくないのだけれど……これは捨てましょう、由比ヶ浜さん。今度は私も手伝うから、もう一度作りましょう」
結衣「うぅ……」
八幡(クッキーカッコカリは結衣自身の手で三角コーナーに送り込まれる。泣きそうな結衣を雪乃が精一杯励まし、もう一度クッキー作りが再開する)
八幡(次は雪ノ下と、少ないながら俺もフォローに回る。しかしそれ以上に由比ヶ浜が失敗を繰り返した)
八幡(俺たち三人とも疲れを溜めながら、なんとかクッキーは完成。完成品は一つ一つの焼き加減が曖昧で、生焼けのものもあれば焦げているものがある)
八幡(とはいえ先のものより数段上手くできている。ムラがあるが、一部は食べられるものに仕上がっていた)
雪乃「さっきよりは十分上達したわ」カリカリ
八幡「食えるには食える」ガリガリ
結衣「でも……こんなんじゃまだ」カリカリ
八幡(確かにまだ雑味やしっとり感が残っていて、素直に美味しいとは言いにくい)
八幡(しかし雪ノ下が手伝ったとはいえ、二回目にしてこの成長具合はむしろ上出来。あと二、三回作れば一度くらい成功品が作れるはずだ)
結衣「ヒッキー的には、どう?」
八幡「どう、と言うと?」
結衣「このクッキーを貰って、喜ぶ――と思う?」
八幡「そうだな。一般的な男子なら女子からのプレゼントはどんなものだろうと喜ぶと思うけどな」
結衣「ヒッキーの意見が聞きたいの。正直に言って」
八幡「……………………」
八幡(正直になんて、言えるわけねえだろ)
八幡(たとえプレゼントであろうと、相手が女子でも一国の姫だろうと、俺は不味い食べ物を押し付けられたら躊躇なく憎める人間なんだ)
八幡(さすがに感想をそのまま言うほど、今はもう幼くない。それに本音を言って他人を騒がせるのは、うんざりなんだ)
八幡(自分の心の醜さは自覚した)
八幡(だから俺はいつも嘘をつく。言い繕い、誤魔化そうとする)
八幡「手作りだってことなら納得する。でもこれだったらどうして市販のやつをプレゼントしないのかって思う」
結衣「っ……! そっか……」
雪乃「比企谷くん、言い過ぎよ!」
八幡「でもまあ――――」
結衣「もういい……」
結衣「こんなクッキーじゃ、貰っても誰も喜ばないよね」
八幡「おい……」
八幡(俺の言い訳タイム……)
結衣「あはは、あたし調子乗ってたのかな。不器用だって分かってたのに…………」
雪乃「いい加減にしてくれないかしら」
今日の投下分終了
どうやら本文で説明が少ないことよりも、本文外で解説が多かったことが不評のように思えます
今後ともしっかり書いていくので、応援よろしくお願いします
私も「神八幡」は痛いとは思っていますが、それ以上に思い当たる呼び名がないので
これからも使っていくつもりです
別に無理強いまでしませんし、他の呼び名が思いつけばそっちに乗りかえて構いません
では投下します
雪乃「この際だから二人に言うわ。向いてない、とか能力がない、とか大した努力もせずに諦めて分かったようなことを言わないでもらえないかしら」
雪乃「中途半端な努力で諦めて、才能のある人を羨んで、それで満足? 成功した人間だって努力をしているわ。あなたたちはその努力を想像すらせず、どうして自分には無理だと決めつけてしまうの」
雪乃「駄目だったなら、やり直せばいいだけじゃない。そこで踏みとどまることくらいできるでしょう。負けることが恥ずかしい? 違うわ、挑戦することを止めて負け犬になるのが一番恥ずかしいの」
雪乃「分かったかしら、そこの愚かな負け犬二人。いいえ、負け犬二匹」
八幡「…………」
結衣「…………」
八幡(……俺はいいとして、なんで由比ヶ浜まで負け犬呼ばわりされてんの?)
八幡(俺が過小評価されようがどうでもいいが、由比ヶ浜まで悪く言われるのは納得できん。…………ん? 俺らしくないこと考えてるぞ?)
八幡(由比ヶ浜なんてどうでもいい。そもそも由比ヶ浜の言葉がきっかけで雪ノ下は怒っている。どうして真っ先にまず俺のせいだと考えた?)
八幡(あ、そっか)
八幡(今までの俺の言動で雪ノ下に鬱憤が溜まっている可能性があるからか。そのことで発生する俺への責任に真っ先に考えが及んだだけか)
八幡(由比ヶ浜のことを心配したんじゃなく、リスクに目がいっただけ。ならいつも通りの俺だ。どこもおかしなところはなかった)
八幡(とはいえこれで由比ヶ浜は俺ら二人ともに否定されたわけだ。さすがにやる気も失せただろう)
八幡(初回の依頼は失敗か、やれやれ。残念無念また来週、ってか)
結衣「……かっこいい」
八幡・雪乃「は?」
八幡(雪ノ下とハモってしまった。いや、それはいい。それよりさっきの雪ノ下のどこがかっこよかったんだ?)
雪乃「比企谷くんと被ってしまったわ、腹立たしい。それはそれとして由比ヶ浜さん、今の私のどこがかっこよかったのかしら? 結構キツイことを言ったはずだけれど」
結衣「うん、確かに雪ノ下さんはキツイことを言ってるけど、でも思ったままのことを言ってるでしょ」
結衣「あたしって周りに合わせてばっかで、友達相手でも本音を言えないことが多くって。本音を言って友達との仲が悪くなるのが怖くて、言いたいことをいっつも我慢してるの」
結衣「でも雪ノ下さんは真っ直ぐ言いたいことを言ってる。言葉を選ぶのが間違ってて、本音を言うことが何よりも正しいと思ってる。自分にとっても正直で、そんな雪ノ下さんがかっこよく見えた」
雪乃「――――」
雪乃「そ、そうね。周りに合わせるなんて、自分の責任を周りに押し付けてるだけよ。心の通った友人を作りたいなら、本音を言わないといけないわね」
結衣「きゃー! ゆきのんすっごくかっこいい!」
雪乃「えっと……。その『ゆきのん』というのは何かしら?」
結衣「仇名だよ。呼びやすいじゃん。ゆきのん、ゆきのん、うん!」
雪乃「由比ヶ浜さん、それ止めてもらえないかしら。ちょっとバカっぽく聞こえるから」
八幡(由比ヶ浜が雪ノ下を褒め出してから、終始由比ヶ浜のペースだった。普段の上から目線な態度と比べれば、今の雪ノ下は可愛げがあるというか、見ていて大変面白い)
八幡(だが由比ヶ浜の正論を聞いているせいで、むしろ俺は気分が悪くなっている)
八幡(正論は正しい。大衆ドラマみたいに夢があっていい。しかしそれは現実ではない)
八幡(言いたいことを言いたいなら、会話のジャンルで話す相手を変えるべきなのだ)
八幡(ペットの話は同じくペットを飼っている相手か動物が好きな相手にする。勉強の話は勉強ができない相手にはしない。相手に通じる話でしか会話は弾むことはない)
八幡(友達に言いたいことを言わないのは間違っているってか? 逆だ。潔癖な奴にズリネタを話す馬鹿がどこにいる。沈黙は金。言うべきことと言うべきでないことを線引きし、言わなかったことを別の相手に言えば、秘密を少なくすることができる)
八幡(まあこれは俺のやり方であり、秘密を少なくできたとしても秘密を無くすことはできない。そもそも由比ヶ浜が友達に隠し事できないほど心細いから、こうして悩んでいるんだろうしな)
八幡(俺の価値観と由比ヶ浜の価値観、どちらが正しいかはどうでもいい)
八幡(俺の『言いたいこと』は別にある)
八幡「なあ由比ヶ浜、さっきの話の続きなんだが」
結衣「なあに、ヒッキー?」
八幡「お前はなんで手作りに拘ってるんだ?」
結衣「……………………」
雪乃「……比企谷くん、何を聞いているのかしら。それは由比ヶ浜の好みなのだから、問い質す意味がないわ。というか、依頼内容に口出ししてどうするの」
八幡「あのさ。最後まで喋らせてくんね?」
八幡「で、だ」
八幡「俺が言いたいのはまさに、手作りにしたいっていうのが由比ヶ浜の好みだということだ」
八幡「大抵の日本人なら贈り物を貰ったら感謝する。女子から何か貰ったらたとえゴミだろうと男子は喜ぶ。そういうもんだ」
八幡「稀に受け取る側が不満を言うことがあるが、それはそれ、これはこれ。贈る側の思いと受け取る側の喜びに因果関係なんてない」
八幡「結論を言おう」
八幡「由比ヶ浜。お前が手作りに拘っているのは、相手が手作りクッキーで喜ぶのが分かっているからか?」
八幡「そもそもお前は手作りクッキーを完成させたいのか、手作りクッキーを作れるようになりたいのか、どっちなんだ?」
八幡「これといって手作りに拘る理由がないなら――――自己満足以外に理由がないなら――――お前はここで頑張る必要はねえよ」
ここまでです
原作知ってる人からすれば、神八幡はめちゃくちゃ酷いこと言ってますね
ガハマちゃんの思い全否定してますから
第二章は後二回くらい投下すれば終わるかと思います
長かった……
第三章が終わればようやく小町ちゃんを登場させられます!
お楽しみに!
神八幡は性根がねじ曲がってますけど、他人を積極的に言い伏せて何かしたりしません
ていうか平塚先生はそこまで職権乱用してないような……
というか特定の生徒に目をかけるなんてことはどんな教師だろうとやってます
一番身近な例が、顧問教師が部員に何かおごるとか
では投下していきます
八幡(ここまで断言しておいてなんだが、俺は今の言い分に言い返して貰いたかったりする)
八幡(ちゃんと由比ヶ浜が相手のことを思って手作りクッキーを作りたいっていうなら、俺はその意思を尊重したい)
八幡(だからこそ俺は悪役を買って出てでも、由比ヶ浜の思いを確かめたかった。悪いのは俺だと、間違っているのは俺なのだと確信を得たかった)
八幡(だが、滅多にない俺の純心なる願いは叶わなかった)
結衣「――――――」
雪乃「――――――」
八幡(雪ノ下も由比ヶ浜も『そんなこと考えもしなかった』という顔をしていた)
八幡(別に由比ヶ浜はいい。こいつはこういうことを友達から教わるタイプの人間だ。……だけど雪ノ下、お前は違うだろ)
八幡(お前は頭のいい人間なんだろ。他人を助けたいと思っているのはお前の方だろ。なのになんで……っ、こんなことにさえ頭がいかねえんだ!)
八幡(――いや。今は雪ノ下が期待外れかどうか考えてる場合じゃない)
八幡(このままだと俺が正しいまま話が進む可能性がある。それだけは避けないといけない)
八幡(俺は正しく見られようが悪く見られようが、そんなことに興味はない。だが助けたいとかけらも思っていない俺が正しく見られるのは違う。そんなのは間違ってる。俺の心境を知れば、誰だってそう思うだろ?)
八幡(なら俺のやることは一つだ。尖った正義は少数派へと立場を変え、正論は暴論に変わる)
八幡(余計なことを言い過ぎれば、人は勝手に言い返してくれる)
八幡(任せたぞ――――雪ノ下)
八幡「まあ由比ヶ浜のことだし、相手が喜ぶ方を選ぶんだろ? さっき手作りを諦めかけてたし」
八幡「それに由比ヶ浜って化粧得意そうだから、クッキーを作るよりも買ってきたクッキーを飾り付ける方が案外上手くいくんじゃねえの?」
八幡「無駄な努力……とまでは言わなくても、もっと効率的に相手が喜ぶよう努力するのも一つの手だと思うぞ」
八幡「ほら、バレンタインとかで手作りキットみたいなのあんじゃん? あれ使うのズルって言わないだろ。たとえ手順を省いたり友達に手伝ってもらったからって、手作りなのは変わらない。なら湯銭とラッピングだけしかしてなくても、手作りだって言え――」
雪乃「そこまでにしておきなさい」
雪乃「あなたが言っているのは飢えている人に魚の釣り方を教えているのではなく、釣りをしている人に魚屋の場所を教えるようなものよ。言うなれば、その人の努力の意味を霧散させる最低な行為よ」
八幡「違うな雪ノ下」
八幡「ここは災害大国日本だぞ? 大地震で家屋が潰れようがコンビニで行列を作る、大変律儀で真面目な民族だ。魚屋が閉まるなんてありえない。きっと誰もが頼めば店を開き、魚を売ってくれるさ」
雪乃「話をずらさないで。今さっき由比ヶ浜さんが努力しようと決心してくれたのに、どうしてそれを否定するようなことを言うの」
八幡「否定してねえよ。努力の方向を間違うなと言ってんだよ」
結衣「ヒッキーは、あたしがクッキーを作るのが、間違いだって言うの……?」
八幡(由比ヶ浜の声は震えていた。けれど由比ヶ浜が傷ついているという事実を気にせず、俺は躊躇することなく言葉を続けた)
八幡「…………間違ってるかどうか決めるのは俺じゃない。作る側である由比ヶ浜と、受け取る側の誰かだ。俺たち奉仕部は、手助けの立ち位置から出ることはできないんだよ」
結衣「でもヒッキーは間違ってるって思ってるんでしょ?」
八幡「………………」
結衣「――――――そっか」
八幡(俺が否定しなかったのを受け、由比ヶ浜は顔を俯け黙り込んだ)
八幡(俺も雪ノ下もどう対処していいか分からず、しばらく時間が経つ)
八幡(――不意に由比ヶ浜がエプロンを外し机の上に置いた)
結衣「ごめん――――――」
八幡(そう言って由比ヶ浜は家庭科室から一人出ていった)
八幡(多分――泣いていたのかもしれない。そしてこれからどこかで泣きに行くのだろう)
次回で第二章が終了
なんだかガハマちゃんが酷い目に遭う区切り方ばっかりな気がしますが、
たぶん気のせいなんだと思います
神八幡のやり方は球磨川さんというよりパリストンの方が近いと感じますね
球磨川さんは勝ちたいと思ってますが、
パリストンは勝ちも負けも一緒くたに考えているところが神八幡と似ているような
ていうか神八幡は相手の心を折りたいとか思ってねーから!
パリス豚てなんだよ?
とりあえず他作品のキャラで例えを出すなら、もっと分かりやすいキャラでお願い
神八幡てよりは偽八幡のほうがしっくりくるな
ここまで反対意見が出れば黙っているわけにはいきませんね
ようやく新しい呼称も出ましたし、「神八幡」という呼称はお役御免ということで
偽八幡を使うかは人それぞれ
>>183
ハンターハンターは少年ジャンプだから!
パリストンと球磨川さんは出身同じです!
ちょっと分量長くなったので、投下は二回に分けます
夜に第二章終了まで投下します
雪乃「なんてことをしてくれたの……!」
八幡(雪ノ下は怒りをあらわにし、鋭い表情を俺に向けてきた。当然の流れである)
八幡(しかし俺は悪びれることもなく泰然としていた)
雪乃「由比ヶ浜さん、泣いていたわ。あなたが泣かせたのよ。あなたには…………人の心というものが存在しないの?」
八幡(――無いよ。そんなものは)
八幡(人の心があるせいで第三者の視点立てないなら、どちらかに肩入れする可能性が出てくるのなら、俺はそんなものなくていい)
八幡(たとえ人の心がないことで割を食うとしても……、俺なら耐えることができる)
八幡「ないはずないだろ。だが感情と理性は別のものだ。俺はこれで良かったと思ってる」
雪乃「どこがいいと言うの!! 由比ヶ浜さんがクッキーを作らなくなったらどうするの!!」
八幡「それが由比ヶ浜の選択なら、俺はその選択を尊重する。そもそもの話、クッキーを作るって相手が喜ぶのかも不明瞭だったんだ。そのことを指摘しなかったのは――由比ヶ浜の依頼が『クッキーを作りたい』だったからだ」
雪乃「なら…………あなたはあなたなりに由比ヶ浜さんのことを考えていたと言うのね」
八幡「そういうことになるな」
雪乃「――――そう。けれど、あなたのやり方が間違っているわ。人道的ですらない」
八幡「間違ってるかどうかは後で分かる。多分平塚先生辺りに、由比ヶ浜が自分の手でクッキーを作るか作らないかの話が伝わるはずだ。そこで初めて依頼完了と俺たちの勝負結果が分かる」
八幡「じゃあ今日はこれで帰っていいか?」
雪乃「愚かだと思っていたけれど、ここまでとはね。帰っていいわけないでしょう」
八幡「いやだって、由比ヶ浜はもう戻って――――――あ」
八幡(思わず俺は笑ってしまった)
八幡(なぜかって? 確かに俺は由比ヶ浜のことを否定した。けれど俺は彼女のことが嫌いだから否定したわけじゃない。彼女が徒労をしかけていたから許せなかっただけだ)
八幡(だから………………由比ヶ浜がこのまま帰るでなく、由比ヶ浜が戻ってきて努力を続けると言ってくれるのなら、俺は心から嬉しく思う)
八幡(俺の性根が腐っているとしても、由比ヶ浜の幸せくらい願ってもいいよな?)
雪乃「由比ヶ浜さんは必ずここに戻ってくるわ。あなたはそれを見届けなさい。そもそも由比ヶ浜さんを泣かせた時点であなたの負けよ。たとえ居た堪れなくても最後まで付き合うのよ」
八幡「りょーかい」
雪乃「……どうしてそこで笑うのかしら? 見ていて気分が悪くなるわね。もしかして被虐にくんはMなのかしら?」
八幡「Mじゃねえよ。つーか被虐にくん言うな」
八幡(その後雪ノ下が言った通り、由比ヶ浜は家庭科室に戻ってきた。泣いて顔を洗ったのだろう、目が赤らんで化粧が落ちており、髪に濡れた部分が残っていた)
八幡(見る者が見ればみっともないという感想が出る姿だが、由比ヶ浜の強い眼差しがむしろ逆の印象を与える。目に宿る敵意は俺に向いている)
結衣「――あたし、考えたよ。ヒッキーはあたしが不味いクッキーを作るのが許せないんでしょ?」
結衣「食材を駄目にしてるんだもん。美味しく作らないと、食べ物に失礼だよね」
結衣「だからあたし………………絶対に美味しいクッキーを作れるようになる!」
結衣「クッキーだけじゃない、どんな料理だって美味しく作れるようになりたい。そしたらヒッキーも文句ないよね!!」
八幡(……由比ヶ浜って最初はお礼の品を作りたいから相談しに来たんじゃなかったか?)
八幡(ま、いいか。ここは依頼を通して相手を成長させる部活だからな。依頼が解決しようがしまいが関係ねえだろ。肝心なのは相手に奉仕することだ)
八幡(お礼に渡す一回だけ作ってごまかすのではなく、これからも努力が続けられるよう仕向けられたなら、俺が悪役を買って出た意味があった)
八幡(では由比ヶ浜のこれからの成長を願って、努力の方向性を示しておいてやろう)
八幡「ならせめて『コレ』くらいは上手く作れるようにならなきゃな」スッ
八幡(雪ノ下のものでも由比ヶ浜のものでもないクッキーを俺は差し出す)
結衣「もしかしてこのクッキー……、ヒッキーが作ったの?」
結衣「うぅ………………ちゃんとできてる」
八幡(ちなみにこのクッキー、俺が由比ヶ浜を待つ間持ってきた本を読もうとしたら雪ノ下に怒られたので、代替案で作られたものだったりする)
八幡(もちろん、そんな邪な理由で作られたと言える訳がないな)
八幡「携帯で作り方を調べながらやったが、雪ノ下の手を借りず一人で作った。人生初の料理でこれなら上出来だな」
八幡(『人生初だからこの出来で満足』みたいな卑屈な言い方ではなく、あえて自慢するような言い方で由比ヶ浜を煽った)
結衣「絶対にこれより美味しいの作って、ヒッキーを驚かせるからね!」
結衣「ゆきのん、よかったらこれからも料理のこと教えてもらってもいいかな?」
雪乃「ええ、喜んで手伝わせてもらうわ。比企谷くんの何倍も上手く作れるようになりましょう」
八幡(たとえまずまずの出来だとしても、元々料理下手な由比ヶ浜だし、このくらいの目標で十分だ)
八幡(俺の料理という憎き目標があることで、由比ヶ浜はとても努力がしやすいことだろう)
八幡(これで依頼完了だ)
八幡(俺は負けることで自分の無力を証明し、雪ノ下は勝利を得て、由比ヶ浜は成長できた。誰もが得をする結果になった)
ひとまず乙
第二章は全部で1万文字ぐらいになりました
ホントに長かった……
それでは夜にまた会いましょう
ではこれより投下していきます
……どうせ一気に投下するんだし、開始前宣言要らないよね?
次からは投下終了宣言だけ書きます
結衣「やっはろー!」
八幡(数日後の放課後、由比ヶ浜は部室に現れた)
雪乃「その『やっはろー』というのは何かしら? 流行っているの?」
結衣「え、変かな?」
八幡「別に挨拶くらい何だっていいだろ。それで何の用だ?」
結衣「クッキーに一人で再チャレンジしてみたの。よくできたと思うから、二人に食べてもらいたくって」
八幡(そう言って由比ヶ浜は小袋を渡してきたが、なぜか俺と雪ノ下のものはサイズが違った)
八幡(雪ノ下は型でくり抜いたみたいに綺麗な形がたくさん入っているのに対し、俺は歪なハート型と尖った鼻と曲がった耳の顔型の二つだけ。細い目と口も相まって、顔型のやつはまるで悪魔の顔に見える)
八幡(絶対これ包丁で形取ってるよな。俺に嫌いな態度を見せるためだけに、ここまで凝るか?)
八幡「羊か、山羊か、それとも狐かこれ?」
結衣「犬だよ! 他の何に見えるの!?」
八幡「まあ形は何でもいいが……」パク
結衣「ねえヒッキー、美味しい?」
八幡「普通」ゴクン
八幡(特に不味いところがない、普通に美味しいクッキーだ)
結衣「えっと……、他に感想とかないの?」
八幡「まあまあだな。ちゃんとできてると思うぞ」
八幡(俺は感想を出すのが苦手だ。貶す部分がないなら他に言うことがない。意地でも他人を誉めたりしない)
八幡(どこまで他人が嫌いなんだと、自分でも思わなくもない。それでよく妹の小町を困らせるが、俺は困らないので多分一生このままだな)
雪乃「その男に感想を求めるのが間違いよ。比企谷くんは感想を言いそうにないもの、私がクッキーの感想を言うわ」
結衣「そうなの?」
雪乃「仮に『100点満点で何点?』と聞いても、恐らく比企谷くんは『及第点』としか言わないんじゃないかしら」
八幡(なぜ分かったし)
結衣「うわあ……、それありえなくない?」
雪乃「それより由比ヶ浜さん、クッキー以外の料理は作ったのかしら? そちらの方も聞いておきたいのだけれど」
八幡(そうやって楽しく話をする雪ノ下と由比ヶ浜は、まるで友達同士の普通の会話のようだった)
八幡(ところどころ毒舌で皮肉を混じらせる雪ノ下。そしてその解説を由比ヶ浜が求め、雪ノ下は楽しそうに説明する)
八幡(回転を始めた歯車みたいに会話の勢いが弾んでいく)
八幡(誰がどう見ても、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣は親友に見えるはずだ)
八幡(この前ぼっち認定されてたが、簡単にぼっち卒業してんのな。雪ノ下)
八幡(では俺も日頃の説教への当て付けを兼ねて、雪ノ下のぼっち卒業を祝福してやろう)
八幡(皮肉と悪意が混じるプレゼントを受け取るがいい)
八幡「さて。俺はこれから飲み物買ってくるが、お前らにも何かおごってやろうか?」
結衣「えっ、ああ……、うん…………、じゃあお願いしようかな……」
雪乃「比企谷くんの善意は気持ち悪いというか、裏がありそうで受け取りづらいわね……」
八幡「人の善意はちゃんと受け取れよお前ら」
第二章 「決定的に、由比ヶ浜結衣と彼はすれ違っている」 終
ようやっと終わったーー!!
ここまで長引いた理由は、八幡とガハマちゃんのすれ違いをしっかり書きたかったからでしょうね
そう思うと、思いつきで書いたサブタイが妙にはまっているように思います
ガハマちゃんのクッキーが二つに増えているのには理由があります
といっても、理由は単純なんですが
第三章は八幡のたった二人の友人について触れます
次回から地の文が入るので分量が増えるかもしれません
八幡「…………」モグモグ
比企谷八幡の昼食は基本、教室で一人弁当を摘まむというものだ。
孤独を感じる性格でもない上、他の誰にどう見られようとひとっ欠片も気にならない。机をくっつける邪魔にでもならない限り、堂々と教室の真ん中で昼食を取っている。
俺が今食べている弁当は出来合いの弁当ではなく、小町が毎朝早起きして作ってくれたものだ。
八幡(今日も失敗したおかずはなし、と。相変わらず小町の料理は美味い)
別に昼飯なんて菓子パンや味噌汁で軽く済ませたり、なんなら塩むすびだけでいいと俺は思うのだが。けれど小町は、
小町「お兄ちゃんは放っておいたらアンパンとコーヒー牛乳だけみたいな味気ない昼ご飯になっちゃうから、小町がお弁当作らなくっちゃ!」
と言って受験生であるにも関わらず家族全員分の弁当を作っているのである。小町偉いぞ。
メニューを選ぶ手間を省けるし、不味いものじゃなければ特に文句もないので、俺は小町の家族愛を遺憾なく利用している。
しかし今この教室には、小町の家族愛の結晶を曇らせるものがある。
優美子「ねえ結衣さー。あーしらって友達だよね? ならなんで最近あーしらとの付き合い悪いの?」
結衣「え、えっと、それは――――」
八幡「…………」ムグムグ
クラスカースト女子一位の三浦が、由比ヶ浜をいびっていた。
――とはいえ俺は三浦の怒鳴り声がうるさいと思うだけで、由比ヶ浜を助けたいという気持ちは微塵もない。
気にしなければ弁当を食べる邪魔にもならないし、後ろで騒ぐ二人に一切の興味もないので首を向けることはない。
アニメによく出る寡黙キャラみたいに、俺は黙々とおかずを口に運ぶ。
隼人「まあまあ優美子。少し落ち着こう」
優美子「あーしは落ち着いてるし。それより結衣、なんで理由言えないの? 結衣とあーしらは友達でしょ? 理由くらい言ってくれてもいいじゃん」
結衣「それは…………ごめん」
優美子「さっきから結衣ごめんしか言ってないよね。結衣のために言うけどさー、あーしはそういう煮え切らない態度が――」
別に騒ぐのは構わないが、明日以降にその怒りを持ち込むなよ。三浦。
まあどうせ由比ヶ浜は雪ノ下辺りと約束してるからさっさと行きたいのに、三浦が意地張って引き止めてるのが全容ってとこだろ。俺に関係ない話だし、さっさと弁当片付けて図書室に行くかな。
そんなことを考えていると、雪のように冷たく氷柱のように尖った声が教室に木霊する。
雪乃「オウムみたいな鳴き声が聞こえるけれど、この教室では鳥を飼っているのかしら」
他人を鳥扱いとか、俺でも酷いと思うようなことを言いながら雪ノ下は教室に入ってきたようだ。
ようだ、が付くのは雪ノ下が来てもなお、俺は振り向かずに弁当をつついているから。
雪乃「それに由比ヶ浜さん、謝る相手が違うわ。あなたの方から約束してきたのにその約束を保護にするのはどうなのかしら」
結衣「ゆきのん! ごめんね、あたしゆきのんの携帯知らないから……」
優美子「ちょっと雪ノ下さん、今あんためちゃくちゃ失礼なこと言わなかった? ていうかあーしと結衣は話の途中なんですけど」
雪乃「そうかしら? 相手の言葉を聞こうとせず自分の意見だけを押し付ける行為を会話とは呼ばない。そんなものは獣の威嚇と何ら遜色ないわ」
雪乃「あなたの常識では威嚇行為が会話として扱われてるのかしら? ……ごめんなさい。そうとは知らず、あなたの縄張りに踏み込んでしまって」
ごちそうさん。と俺は食べ終わった弁当を片付け、席を立つ。目指すはもちろん図書室だ。
音を一切立てずに動くことで周りから見られないように努める。まあ見られたところで見返さずさっさと教室から出ればいい。
三浦と雪ノ下に皆の注意が向いている内に教室から出ようとしたところで、俺は声をかけられた。
彩加「ねえ、八幡」
八幡「ん?」
コイツは戸塚。俺の数少ない友人の一人。小動物を彷彿をさせるかわいい見た目と『ニセコイ』の誠士郎にも似たソプラノ声。
こんなに可愛い子が女の子のはずがない! ――そう、コイツは男だ。いわゆる男の娘って奴らしい。
彩加「三浦さんと雪ノ下さん、…………とっても怖いね」
八幡「そうだな」
戸塚に話題を振られて、ようやく俺は雪ノ下がいる方を見た。雪ノ下はいつもの暴言で三浦の精神を滅多打ちにしていた。
一瞬、雪ノ下の視線が俺の方に動いた気がした。
彩加「ねえ八幡、今雪ノ下さんこっちを見たかな?」
八幡「気のせいだろ」
戸塚のおびえる姿は、タングステン製の堅物である俺でさえ、可愛らしいと感じるものだった。
男子の癖にここまで可愛いとなれば、女子に虐められないわけがない。
実際――――戸塚はこのクラスで虐められる寸前だった。
もっとも本人が言うには、戸塚は高二になるまでずっと虐められてきたらしいが。だから俺と同じく他者の視線に敏感なのかもしれない。
今のところこのクラスにおいて戸塚へのいじめはない。……はず。他人と碌に接しない俺が断言できるわけがない。
もっとも、戸塚を救うきっかけとなったのは俺なんだが、俺は戸塚を助ける気はさらさらなかった。
戸塚は間接的に助かっただけだ。
実際に戸塚を救ったのは――――
そこで雪ノ下にいびられている、三浦優美子だ。
今日はここまで
大量の二次作家がいる中で、「男の娘は虐められてしかるべし」なんてポリシーを掲げているのは私ぐらいだと思います
バカテスの木下秀吉なんかは、そっくりな姉がいた分さらに酷かったと妄想してたり
トラウマものの虐めを受ける→常に可愛く振るまうよう強要され、その癖が抜けない→男子にキモいぐらいモテる→主人公にだけトラウマを明かす→特に伏線は回収せず主人公はヒロインとくっつく
まで行きますね
どっちかって言うと性的や肉体的な苦しみより精神的な苦しみが好みです
オカマとか性同一性障害のやつは、芸人の過去ドキュメントを見る限り同性に虐められてるみたいだが、源君物語には可愛い男が女子に虐められてる描写があった。
その二つを分けるのは、中身ではなく見た目なんだろう。そして可愛い子を虐めていた理由は――――自分より可愛いから。
戸塚もその例に漏れなかった。新学年が始まったばかりの頃、戸塚は主に男子より女子に話しかけられていた。主に話しかけていたのは、そこで「三浦ザマァww」と笑っている女子グループだ。
三浦に幾歩か劣る程度の求心力しか持っていないアイツらでは、恐らく戸塚と同じくらいの魅力しか持っていないのだろう。むしろ戸塚の方が可愛いのかもしれない。
だからアイツらは戸塚の魅力を取り込もうとした。
もちろん俺はそんな戸塚の姿など目に入るわけもなく。
入学して一年経ち誰かと仲良くするのに飽きていたので、その頃は新調したばかりの教科書を読んでいた。
ある時、俺と戸塚は英語の授業でペアになった。俺は戸塚をクラスメイトの一人としか認識していなかったし、戸塚も俺なんかに自分の境遇を相談することはない。
その代わり戸塚が相談したのは、男子テニス部のことだった。
戸塚『男子テニス部ってさ、上級生が僕しかいないんだ。でも僕は皆に頼られるくらいテニス上手いわけじゃないからさ、自信なくって』
八幡『ふーん』
戸塚『どうでもよさそうに返事しないでよ! 僕ホントに困ってるんだもん。八幡はテニスが得意な人知らないかな?』
八幡『知らん。そういうのは自分で探さないのか? あとOBに訊くとか』
戸塚『だから今八幡にも聞いてるんだよ』
八幡『といっても俺知り合い少ないし、探してはみるが期待するなよ』
そして俺は当時、既にクラスの中心になっていた葉山に話を聞きに行った。葉山の名前は覚えていなかったがそんなものはどうとでもなる。
八幡『おっす。なあ、テニスの上手い奴探してんだけど、誰か知らないか?』
隼人『君は確か――“比企谷(ひきがや)”くんか?』
隼人『テニスか……。確か優美子が中学の時テニスで全国に行ったらしいけど』
八幡『おっ。それすごいな。じゃあそいつ紹介してくれねえか?』
さすがの俺も、人口が多い関東で全国に行くレベルの人間は尊敬する。まあいくら相手が恐そうでも偉そうでも、人見知りして話すのを躊躇う俺ではない。
戸塚を(半ば無理矢理)引き連れ、俺は三浦に話しかけた。
優美子『で、あーしに言いたいことって何?』
八幡『いいや、話があるのはコイツだ。ほら、こういうのは本人が頼まなきゃ駄目だろ』
彩加『ええっと………………。三浦さんがテニスが上手だって聞いて、それでできたら僕にテニスを教えてもらえないかな……?』
優美子『はぁ? なんであーしがそんなことしなくちゃいけないわけ?』
三浦は高圧的な態度で俺らを威嚇する。
だが戸塚は三浦の威嚇に怖気づくことはなかった。
彩加『お願いします! 僕、どうしてもテニスが上手くなりたいんです!!』
優美子『――――本気で、あーしに教えて欲しいの? 多分あーし容赦しないし、キッツイこと言うと思うけど』
彩加『頑張って全力でついていくから。三浦さん、お願いします!』
戸塚は頭を下げ、三浦に頼み込む。必死の熱意が三浦にも伝わったはずだ。
――もしかしたら俺はフォローに着いて来ることも、俺が三浦を探し当てる必要もなかったのかもしれない。と、今になっても思うことがある。
俺が動かなくてもいつか――――戸塚は三浦とこうして対面していただろうから。
優美子『……あんた名前は?』
彩加『え、あっ。戸塚彩加です』
優美子『そ。じゃあ彩加、いつなら空いてんの?』
彩加『! じゃあ、今日の放課後!』
そして戸塚は『三浦の弟子』というポジションを得て、カーストトップの三浦グループに属することで虐められなくなった。
今でも戸塚はその見た目ゆえに余り同性からは話し掛けられないが、時たま三浦やその友達らと話しているのを見かけるので、寂しい時間を過ごさずに済んでいるらしい。
今日はここまで
三浦のことを馬鹿にしている女子、いったい何者なんだ……?
それと>>230を修正
もっとも、戸塚を救うきっかけとなったのは俺なんだが、俺は戸塚を助ける気はさらさらなかった。
↓
とはいえ戸塚を救うきっかけとなったのは俺なんだが、俺は戸塚を助ける気はさらさらなかった。
とまあ――誰に向けてか分からない戸塚の話を思い出したが、そろそろマジで図書室に行きたい。
今日の奉仕部で読む本は別にあるが、今はとにかく雪ノ下と由比ヶ浜から距離を置きたい。
彩加「八幡ならあの二人の間に割って入れそうだね」
八幡「やろうと思えば入れるが、やる理由がないだろ」
彩加「由比ヶ浜さんを助けようって思わないの?」
八幡「由比ヶ浜が完全に被害者なら助けることも考えるが、あの状況を作り出してるのは由比ヶ浜自身だからな」
至極残酷なことを言って、その言葉に戸塚は顔を歪ませたが、すぐに戸塚は笑顔を取り戻す。
そこに俺は戸塚の処世術を垣間見るけれど、それ以上踏み込むことはない。
彩加「相変わらず……、冷たいよね。でもそれが八幡らしいよ」
八幡「そうだな。じゃあ俺は図書室に行ってくる」
彩加「行ってらっしゃい。八幡」
戸塚に手を振って別れ、ようやく俺は教室から脱出することに成功した。
雪ノ下が教室の壁に背をもたれて由比ヶ浜を待っているのが目に入る。
……美少女がいるからなんだって? 絵になるからどうかしたか? 別段気にせず、俺は雪ノ下の前を通り過ぎようとした。
雪乃「待ちなさい、比企谷くん」
八幡「……何なんだ?」
しかし雪ノ下に呼び止められてしまう。
……どうして皆俺が図書室に行くのを邪魔すんだよ。
雪乃「平塚先生に言伝を頼まれているの。今すぐ生徒指導室に来るように、だそうよ」
八幡「はぁ……。了解」
結局図書室に行けなくなってるじゃねえか。大きなため息を吐く。
雪乃「この前の依頼について、あなたから詳細を聞きたいらしいわ。由比ヶ浜さんへの発言の意図を含めてね」
雪乃「私も平塚先生と一緒にあなたを糾弾したかったけれど、由比ヶ浜さんとの約束があるから今回はパス。命拾いしたわね」
八幡「あっそ」
俺がこれから叱られるのが心底嬉しいのか、雪ノ下は見せつけるように笑顔を浮かべる。
別にお前と一緒に叱られたところで大したダメージは増えなそうだが、今から平塚先生の相手をするのに余計なエネルギーは使いたくないので、雪ノ下の相手はこれ以上したくはない。
挨拶もおざなりに済ます。
雪乃「ねえ、比企谷くん」
八幡「何だよ」
雪乃「――――――いえ、何でもないわ」
笑顔のまま雪ノ下は何かを問おうとして、突然真顔になって問いを撤回した。
その態度が少々気になるが、面倒なので追及しないことにする。
八幡「そうか。じゃあな」
雪乃「ええ――――」
俺は雪ノ下に別れを告げ、生徒指導室へと足を向ける。
――背中に雪ノ下の視線を感じながらも、やはり俺は振り返らなかった。
ほんとはもっと長かったんだけど、今回はここまで
保存ミスやっちまったからなぁ! よくあるけれど、毎度毎度モチベ下がるんだよぉ!!
それと前回出てきた、三浦を馬鹿にしている女子の正体はなんと「相模南」でした
……誰か突っ込んでよぉ!
テンションが変になってるのは見逃してください
* * *
比企谷八幡という男は、この私でさえ――雪ノ下雪乃でさえ、実態の掴めない人間だった。初めて奉仕部の扉を越えた時から、彼は私に本性を見せたことがなかった。
無表情で無感動で、会話からは主体性が欠片も感じられない。私の言葉にありきたりな返事をするだけで反省の姿勢が感じられるわけもなく、異常な程に自分のことに対して無関心だった。
一応、趣味が読書とアニメ観賞だとか、得意科目が国語だとか、好き嫌いが全くないというわけではなかったけれど、それくらいしか選り好みが確認できなかった。人間関係においては壊滅的と言っていい。
校内一の美しさと評されることもある私に目を向けようとしない。それ程に彼に情欲というものがない。
比企谷八幡は、私でさえ想像もつかない精神構造を持ち合わせていた。
何よりも特異だったのは、彼の思考――いえ、視点と言ってもいいかもしれない。
彼の視点は客観的過ぎる。第三者視点、どころか…………神の視点と言ってもいいくらいに。
客観視というものは、自分の感情を排して両側の善悪を判断するもの。とは言うものの人間である以上完全に感情をなくすことができないので、絶対的な客観視という概念は存在しない。
けれど客観視をすることによって、個人の身勝手な感情に流されず状況に即して正しい判断が下せるようになる。それがより究極に近いなら、尚更正しい判断が下せると言うことができる。
完璧な視点に立つことを諦めるのは奉仕部部長として、怠慢だと言い切れる。…………でも、完璧を求める立場だからこそ比企谷くんがどのような視点に立っているか分かる。
――――彼は自分自身に対しても常に客観視を行っている。
私と比企谷くんは以前こんな会話を交わした。
雪乃『ねえ比企谷くん。もしあなたが海の上で木の板に捕まっていて、大切な人が溺れそうになっている時、あなたはどうする? 助けようって考える?』
彼は一瞬の迷いもなく答えた。
八幡『大切な誰かなら、そいつに人殺しの罪悪感を植え付けたくないから見捨てる』
予想とは余りにかけ離れた回答に、私は言葉につまった。彼へ問い返すにも重い心の負荷がかかる。
それでもどんなに心の負荷がかかろうと、こんな思いやりのない非人間に言い負かされるのは死んでも御免だった。
雪乃『…………どうしてそんな答えになるの? 大切な誰かでしょう。家族や――あなたにできるとは思わないけれど――恋人の顔が思い浮かぶはずよ。その誰かを自分の手で殺すことに……躊躇いを感じないの?』
八幡『俺なら耐えられるって分かってるからな。それにたとえ家族だとしても、極限状態で俺を動かせるとは思えないし』
雪乃『――なら、あなたに全く関係ない他人ならどうするの?』
好奇心から出た質問。彼が冷たい人間だと確認したかったとその時は思っていたけれど、今思えば本心は違っていたと思う。
私の想像しない答えが出てくると、分かっていたから――
八幡『そいつが俺より「生きたい」という意思が強いなら、俺は生きるのを諦める。いや、ただ今掴まってる木の板を渡すだけなんだが』
雪乃『……随分と、簡単に自分の命を諦めるのね。二人とも生き残る方法を考えたりしないのかしら』
八幡『一応、たとえ絶望的でもそこから自分が生き残る方法を模索するからな?』
あとそういうお前はどうなんだ、と比企谷くんに聞かれ、私は人道的な回答をした。彼の回答が衝撃的で自分の回答はほとんど覚えていない。
しかしこの一連の会話で肝要なのは比企谷くんの回答だけで、これだけでも彼の異常さがよく分かると思う。
この問題の回答に逡巡しないだけで充分な性質(たち)を持っているけれど、自分の命を捨てる可能性をいとも容易く導き出したことが重要なのだ。
一体どういう人生を送ってくれば、どういう経験があれば、自分の命に無頓着になれるのだろうか。どれほどのトラウマを彼は抱えているのか。いつか私は…………彼の過去と向き合うことになるかもしれない。
私が比企谷くんに向ける感情は、呆れと苛立ちと――そして畏敬。
人間らしくしない彼にどうしようもない怒りを覚えることがあるけれど。
私は彼に――――少しだけ憧れていた。
由比ヶ浜さんを待つ廊下。比企谷くんに平塚先生からの伝言を渡して、私は比企谷くんとの勝負の報酬を思い出した。
そういえば私が勝った時に比企谷くんに出す願いを言っていなかった。そのことで『コンビニスイーツ>私』だと言われた時の恨みを晴らしておこう。
雪乃「ねえ、比企谷くん」
八幡「何だよ」
――ありえない。
そんな思考が浮かんで、私はその話を切り出すことができなくなった。
ここまで
この雪ノ下視点は場面転換のための筆休めのつもりだったんですが、予想以上に長くなってます
雪ノ下は陽乃さんに憧れを抱いてますし、雪ノ下なら陽乃さんに匹敵するほど頑なな八幡にも惹かれると思います
惚れるかは別として
伏線はなるべく分かりやすいように、なるべく早く回収するようしているんが……
これでも分かりにくかったりします?
内から聞こえた心の声に私自身が一番驚いている。
確かに私には今、比企谷くんにしてもらいたいことはない。そもそも能力面から見て彼にできて私にできないことはないと思う。やる気を見せないから彼の能力は分からないけれど、クッキー作りを見る限りそこまで悪くはないと言える程度。
でもそれならそれで、彼の能力面のなさを冷やかすこともできる。私の多才さを披露することもできる。もっと単純に、彼に何か奢ってもらうのもありかもしれない。
……ならどうして私は、彼に報酬の話を持ちかけることを躊躇うのだろう?
雪乃「――――――いえ、何でもないわ」
そう言って誤魔化した。誤魔化しなんて私らしくもない。
けれど自分でもどうしてか分からないのに…………本能が私の口をつぐませ、感情が話すことを嫌がって、比企谷くんを拒絶してしまう。
そもそも『ありえない』というのはどういうことかしら? なぜそんな声が形を成したのだろう。一体『何』が『ありえない』と言うのだろうか。
八幡「そうか。じゃあな」
比企谷くんは幸いにして私の変化を気にすることなくそのまま行ってしまった。
この得体の知れない感情の原因となった彼を見続けても、私の疑問が晴れることはなかった。
結衣「ゆきのん、お待たせ」
雪乃「あっ。――いいえ、そこまで待たされていないわ」
結衣「よかった。じゃあ早く部室に行こっか。私のせいでお昼遅くなっちゃってるし」
教室から由比ヶ浜さんが出てきたので、私は気持ちを切り替えようとする。
しかし由比ヶ浜さんが廊下の先にいる比企谷くんを見つけてしまった。
結衣「あれ、ヒッキー? さっき教室にいたはずなのに」
雪乃「さっき教室から出てきたわ」
音も立てず生気も発せず出てきた姿は亡霊と見分けがつかなくて、かなり……少し怖がってしまったことは言わないでおく。
雪乃「彼を誘う必要はないわ。由比ヶ浜さんを待っている間に平塚先生が部室に来て、私がここに来ることを言ったら、比企谷くんに生徒指導室に来させるように言われたの」
結衣「そっか……。でもヒッキーってこの時間にはもうお昼食べ終えてるから、どっちにしろ誘えなかったかも」
そう言えば私が教室に入った時も比企谷くんは弁当を食べ続けていたわね。あそこまで他に興味を示さずにいれば、食べ終わるのも早いはずだ。
私は周りの人に「線が細い」と言われて、無理矢理におかずを増やされることが常だったから、なるべくおかずが増える隙を与えないために少ない量をゆっくり食べる習慣が身に着いてしまったけれど…………。
雪乃「由比ヶ浜さん、教室での比企谷くんはどういうものなの?」
結衣「えっ?」
雪乃「違うわね、……比企谷くんは教室ではどんな風に扱われているのか教えてもらえないかしら?」
私は先の自分の感情を把握するために、あえて比企谷くんのことを知ることにした。
結衣「――どうして? ヒッキーのこと気になるの?」
雪乃「…………」
その言葉は、由比ヶ浜さんらしくもない圧迫感があった。
由比ヶ浜さんの変わった態度に私は一瞬戸惑う。由比ヶ浜さんは一体彼の何を知っているというの?
雪乃「いいえ。私は平塚先生から比企谷くんの性格の改善を依頼されているの。だからそのために、比企谷くんのことを知ろうとしているだけで、他意は全くないわ」
真実を話しているはずなのに、言い訳がましくなるのはどうしてだろう。
結衣「やめたほうがいいよ」
その声は――――先程の『ありえない』という自分の心の声と同じ響きだった。
ここまで
第三章はもう後半に差し掛かってるのに、このままいけば第二章の字数を越えそうです
やっぱり地の文入れたからですね。どうしても描写を細かく書きたくなります
まあそのおかげで分かりやすくなるなら結果オーライです
>>265修正。どーしても最後の部分が脈絡なくて気になった
結衣「――どうして? ヒッキーのこと気になるの?」
雪乃「…………」
その言葉は、由比ヶ浜さんらしくもない圧迫感があった。
由比ヶ浜さんの変わった態度に私は一瞬戸惑う。由比ヶ浜さんは一体彼の何を知っているというの?
雪乃「いいえ。私は平塚先生から比企谷くんの性格の改善を依頼されているの。だからそのために、比企谷くんのことを知ろうとしているだけで、他意は全くないわ」
真実を話しているはずなのに、言い訳がましくなるのはどうしてだろう。
結衣「ふーん。…………ねえ、ゆきのん。」
結衣「それ、やめたほうがいい」
その声は――――先程の『ありえない』という私の心の声と同じ響きだった。
本編と全く関係ない話ですけど、異能バトルの今週のはやりんの演技、凄かったですね
私が望んでいたのはこういうのですよ! 異能バトルとか期待してヌェ!(タイトルに入ってるのに)
……でもですね、『悲しみの向こうへ』を合わせるのは止めて頂きたい
ttp://sp.nicovideo.jp/watch/sm24940845/
ニヤニヤできなくなるから。雰囲気合い過ぎて
ついでに本編と少し関係のある話。次回投下は明後日になります
それと本編とは全く関係ない話。俺ガイル10巻読みました
はやりんって誰だよ!
はやみんだろ!!
雪乃「『止めた方がいい』というのは、どうして由比ヶ浜さんはそう思うの?」
結衣「えっと。説明しにくいけど……、とりあえず歩きながら話そっか」
そうね、と私はうなずく。由比ヶ浜さんの話の続きも気になるけれど、昼ご飯を食べ損ねては本末転倒になる。
廊下を歩きながら、由比ヶ浜さんは滔々と比企谷くんのことを話していく。
結衣「まずヒッキーって、そんなに話すタイプじゃないんだよね」
雪乃「えっ、そうかしら? 奉仕部での彼を見る限り、そこまで会話が苦手なタイプに見えないのだけれど。それに教室で戸塚くんと話しているのが見えたし」
戸塚彩加くんのことはJ組の女子の間でも話題になるので知っている。やはりと言うか、男なのにその可愛い見た目が嫉妬の対象になっていることもある。
内心そんな戸塚くんと比企谷くんの組み合わせを意外に思っているけれど。
結衣「うん。まあ、男子とだったらたまに話をすることもあるかな。――でも女子でヒッキーと話したことあるのって、多分優美子くらいだと思う」
雪乃「由比ヶ浜さんは話したことがないの?」
結衣「ううん。ない」
私は周りに人がいるのも構わず、声を荒げて言った。
雪乃「もう始業式から二ヶ月経っているのに、そんなことがあり得るの――!」
比企谷くんが奉仕部に入って一週間は経っている。その間、私と比企谷くんが話さない日は一日もなかった。
むしろ会話を楽しんでいると、そう感じることもあった。
だから由比ヶ浜さんが話す彼の実態を、私は想像だにできなかった。
雪乃「最低でも授業でパートナーになって、会話することもあるでしょうに」
結衣「授業で一回、ヒッキーと一緒になったことがあったの」
いつもは由比ヶ浜さんが感情的になって、私が冷静に対処する。しかし今は私が怒り、由比ヶ浜さんが大人しく話している。
いつも通り冷静沈着に由比ヶ浜さんの話を聞くべきだと分かっているのに、どうしても私は心の昂りを抑えられない。
結衣「四人グループになって、その時確か男子女子が二人ずつだったかな。グループの中でヒッキーだけ先にプリントを解き終わったの。そういう時って普通、他の誰かに話しかけたりするじゃん?」
結衣「……ヒッキーはね、誰にも話しかけないで、ただぼーっとしてたの。天井を向いて誰とも目を合わさないで」
ありえないよね、と由比ヶ浜さんはさみしそうに笑う。見ていてとても痛ましい。
まさかそこまで彼は他人に興味を持っていなかったというの?
結衣「だからあたし、思い切ってヒッキーに話しかけたの。そしたらさ、斜めにいたヒッキーじゃなく前にいた子が反応しちゃって。……ヒッキーは反応してくれなかった」
雪乃「……酷い話ね。許し難い行為よ」
結衣「それでもゆきのん……、ヒッキーのことあんまり怒らないで」
由比ヶ浜さんは比企谷くんを庇うけれど、私にはどうしても彼を許せそうにない。今日の放課後、彼の他者への認識について徹底的に追及し、糾弾しなくてはならなくなった。
今までずっとはぐらかされてきたけれど、今度こそは誤魔化されない。むしろどうして今まで彼に誤魔化されていたのか不思議に思う。
私は固い決心を誓う。
それでもたとえどれほど痛ましかろうと、由比ヶ浜さんは笑いながら話を続ける。
結衣「――――ヒッキーにはとんでもなく深い心の溝があるの。ヒッキーはそれを越えられないから、あたしが……あたしたちが頑張らないとヒッキーは心を開いてくれない」
結衣「そう思ってたの、最近まで」
雪乃「…………」
由比ヶ浜さんの口振りから見るに、もう話は佳境に入っている。
私は由比ヶ浜さんの言葉を一言一句聞き逃さぬよう、そしてそれを話す由比ヶ浜さんの感情を見逃さぬよう、怒りを抑え意識を彼女に集中させた。
結衣「ヒッキーと話してなんとなく感じたことだけど――――」
結衣「ヒッキーはね、空気を読んでるところがあるの。無難な答え方で反応することがそもそもあんまりない」
結衣「でもね……本音を隠してる理由が私とは違う気がする。言いたいことを言わないんじゃなくって、言わない方がいいことを隠してるんじゃないかって思うの」
結衣「もしかしたらヒッキーは、あたしの依頼の時みたいなことを普段から考えてるのかも。ヒッキーはみんなのためにわざと距離を置いてるんじゃないかな」
だからヒッキーがみんなと関わるようになったら、あたしみたいに傷つく人が出てくるのかもしれない。それで由比ヶ浜さんの発露が終わった。
* * *
雪ノ下視点は一端ここまで
第三章、まだ続くんだぜ……? 下手したら第二章の二倍の分量とか、そういうことにならないよね?
>>273
すみません。間違えました
『“はや”みさお“り”』で“はやりん”って今まで略してました
雪ノ下が変な様子だったが、大したことないよな? ヤンデレフラグや死亡フラグだったのにそれを見逃したとか、そんなんじゃないですよね?
まあたとえ死亡フラグでも、自分含め誰が死ぬことになろうが構わないんだが、心の準備くらいはしておきたいので前もって把握させて欲しい。
――――なんて、とりとめもないことを考えながら進路指導室に向かっている道中。前の角から見覚えのある、黒縁メガネの太マル男が出てくるのが見えた。
義輝「ん? 八幡ではないか!」
太マル男も俺のことを発見し、話しかけてきた。
俺は手を挙げて返事をする。
八幡「よ、材木座」
材木座義輝。一年の頃同じクラスだった、俺の数少ない友人のもう一人。
そしてこの学校で唯一、俺と趣味を共有している人物でもある。平塚先生もアニメやマンガは見るんだが、いかんせん年代とジャンルが合わない。熱血系はちょっと……。
今は別クラスになってるが、体育ではよくペアになることが多い。俺は余っている誰かと普通にペアを組めるんだが……材木座は雪ノ下と同じかそれ以上に人見知りなので、俺ぐらいしかペアを組める相手がいないらしい。
義輝「まさかこんなところで会うことになろうとはなあ。やはり我々は運命を共にする相棒」八幡「ウッゼェから止めろ。別にお前がどんなキャラを構築してもいいし、大抵の設定を見過ごしてやるが、俺を巻き込むのだけは止めろ」
義輝「はい…………。すみません……」
見て分かる通り材木座は厨二病だ。高二で厨二なのはもはや突っ込むまい。
脳内設定を惜しげもなく晒し、黒い指グローブを着け、かっこいいポーズ(笑)を人前で決めちまう奴だ。
右手を抑えることがあるから邪気眼っぽいが、キャラのモチーフが歴史の偉人の足利義輝らしいので、厳密には違うらしい。
平塚先生に生徒指導室に呼び出されているが、よくよく考えてみると俺は食べるのが早いから昼休みが始まってまだ十分も経っていなかった。
何もこんなに早くに行く必要はない。少し材木座と話をしていってもいいだろう。
義輝「相変わらず八幡は厳しいでござる……」
八幡「厳しいか? 俺としては公平にやってるつもりなんだが」
義輝「いやいや。我の設定を理解しているからこそ、我以上に設定に厳しいところがあるぞ!」
そうか? まあ俺も昔は…………現在進行形でラノベ見てるし、今も厨二病かもしれんという自覚はあるが。厨二病だったからこそ設定に厳しいのだろうか。
というより多分これはあれだ。虐められっ子が同じ虐められっ子を心の中で格下に見て、扱いを雑にしているのと同じものだろう。
実際材木座は、人に好かれる見た目も好意的に取られる態度もしてないしな。
義輝「そんなことよりビッグニュースがあったのだ!」
自分の設定を『そんなこと』っつったぞコイツ。
義輝「もちろん聞いてくれるな! 八幡!?」
八幡「ああ。言ってみ」
聞くだけだがな。
それでも俺が無表情であろうと、材木座にとっては聞く姿勢があるだけで嬉しいらしい。材木座は『のうりん』の林太郎のような独特の響くヴォイスで、そのビッグニュースとやらを俺に報告した。
義輝「次回の演劇で、我の脚本を使ってもらえることになったのだ!!」
ここまで
これで八幡の友達は二人とも登場しましたね
多分、もうすぐ、第三章が終わるはず……
それとこれで戸塚パートと材木座パートが終わるので、第三章で原作一巻分を消費したことになります。
八幡「ほう。それは凄いな」
義輝「ふふんっ。そうであろう、そうであろう」
とは言っていても、内心俺はそのことを凄いとは思っていない。入部してすぐならまだしも、半年も行っていれば採用されるくらいわけはない。
材木座は去年から演劇部に入っている。勧めたのは俺だ。
日頃キャラ作りしていることと、声が大きいことから演劇部で上手くやれることは分かっていた。しかし俺が材木座に演劇部を勧めた理由はそれではない。
材木座はかつて厨二病の御多聞に漏れず、ラノベ作家になることを夢見ていた。拙いながらも小説を書いて努力していた。
そして俺は材木座に、より物語を書き続けられるよう新たな環境をプレゼントした。
もちろん当時の材木座は書き始めたばかりで相応の文章力もなく、痛い設定がふんだんに盛られた読むに堪えない未完成小説しか書けていない。
オリジナルを書いてる分だけ二次創作しか書けない奴より少しマシだが、どうせすぐに諦めるだろうと俺は踏んでいた。
しかし材木座は本気でラノベ作家を目指していた。
義輝『言っておくが、そもそも小説家自体儲からない仕事なのだ! 数十万部売れるトップセールスだけ目に入るだろうが、本来なら数万部売れるだけでももの凄いのだぞ!』
義輝『そしてラノベの市場は普通の小説の数分の一! ラノベ作家のほとんどが兼業作家という話を聞いたことはないか? つまりそれだけ儲からんのだ!』
義輝『…………というかまず、我は十五万字相当のストーリーを書けるようになりたいです』
とまあ一部の内容を抜粋するだけでも、これだけ材木座はラノベ作家という職業に熱を注いでいた。
だからこそ俺は材木座の熱意に応えた。
八幡『なら材木座、演劇部に入ったらどうだ?』
義輝『演劇部? 文芸部ではないのか?』
八幡『いやお前、マンガとか読んでるだけでも文芸部が地雷なのは分かるだろ。文芸部ってのは自分の好きな本について語るのが九割の活動だった。…………いや、俺の体験談じゃないからな?』
俺の小学生の頃のマンガ部の話だから当てにならないが。しかし一年に一冊しか部誌を出さないような部活に期待するのは時間の無駄だろう。
かの涼宮ハルヒだって部誌を発行するエピソードは短編扱いだった。真面目に部活動をしているのなんて、氷菓と文学少女くらいだろう。それほどまでに文芸部での文芸活動は可能性の低い行動なのである。
涼宮ハルヒはSFメインだから仕方ないけど。
短いけどここまで
ちょっと材木座を原作から改変しました。より作家に向けての努力ができている状態にしています
別に自己投影させてるわけじゃないですよ! ただ原作の材木座のままだとつまんなくなりそうだったので
兼業作家で有名所を出すと「バカとテストと召喚獣」の井上堅二です。後書きで仕事の話がよく出てます
八幡『演劇部では教師が脚本を用意することもあるが、生徒が脚本を用意できるパターンもある。演劇は生徒全員の前で披露することが分かってるからな。もし後者で生徒自身が脚本を用意するなら、文芸部とは比べ物にならない程真っ当なアドバイスをするはずだ』
義輝『な、なるほどぉ!』
話に引き込まれる材木座に、とどめとなる言葉を告げる。
八幡『それにだ――学校の演劇は大抵一時間だ。一時間のアニメと言えば、ラノベ二分の一冊くらいの分量になるだろ?』
そして材木座はその日の内に演劇部へと入部した。
ちなみにこの時材木座に意図的に伏せた情報がある。そもそもなんで俺がそんなに演劇部の事情に詳しいのかと言うと、かつて俺も作家になることを目論んで演劇部に突撃したことがあったからだ。
演劇部に入ろうとした時に、顧問の教師に聞かされた。
「演劇部に入るなら演劇の練習はしてもらうが、それでもいいか?」
その演劇の練習とは、体力作りのための筋トレや発声練習で、それをほぼ毎日やる。小道具作りもあるにはあるが、よくよく考えれば部活動の時間に関係ない小説の執筆を許してくれるはずもないだろう。
だからかつての俺は作家の道を諦めた。ではなぜ、今になって材木座に演劇部を勧めるのか?
理由なんて、一目瞭然だろ。
八幡「痩せた分の見返りはあったわけだな」
義輝「……もしや八幡。いやもしかしなくても、我に痩せさせようと演劇部に入れたのではあるまいな?」
八幡「そんな訳ねえだろ。純粋にお前のためを思ってだ」
実際少し痩せようが、お前の痛さは変わらなかったしな。そこは残念だ。
義輝「八幡の愛は歪んでおるのう……」
八幡「愛とか言うんじゃねーよ。まあ言われてみれば俺は変わってるな」
否定しない俺を追及しない辺り、材木座は俺と相性がいいと言える。雪ノ下や由比ヶ浜よりな。
あいつらも俺に人間性を求めたりせず、話し相手として扱ってくれればいいのに。そこを諦めないのが雪ノ下らしいと言える。
義輝「変わってはいるが、我からすれば頼りになる相手であることに変わりはない。これからも『心友』としてよろしく頼むぞ八幡。…………ホントに我のこと見捨てないでね?」
八幡「見捨てねーから抱き付こうとするな」
前に抱き付かれたことがあるので結構警戒している。その時はすぐさま蹴り飛ばしたので、幸いにも俺がホモだという噂は立っていないようだ。
でも今よりキモくなるならさすがの俺も友達辞めたくなるから、マジで抑えような。
八幡「お前のことはちゃんと友達だと思ってるんだ。安心しろよ材木座」
義輝「『友達』止まり、だと……っ!」
八幡「友達扱いでむしろ上等だ。俺にとって友達と呼べる相手なんて、お前含め二人しかいないからな」
義輝「…………ん? 確か出会った時に他にも友達は何人かいると言っておらんかったか?」
八幡「ああ、それは出任せだな」
出会ったばかりなら俺の本性を見せるはずがない。友達だと思っているからこそ、本当のことをお前に言おう。雪ノ下には言えない真実をな。
……いや、雪ノ下は木の板の問題で俺の答えを聞いても拒否反応を示していなかった。見所がありそうだし、もしかしたら今後俺の本心を話すことになるかもしれないな。
今の時点での俺の友人は、戸塚と材木座の二人だけ。それ以外の人間は――――
八幡「俺からすれば『友達』って言うのは基本、『友達』だと紹介する時だけ友達になる」
八幡「逆に『友達』だと紹介しない時、つまりそれ以外の時は無関係の他人だ。――気楽だろ?」
義輝「お、おう……」
完全に引いてるな。発想が吹っ飛び過ぎててどう返せばいいか分かってないみたいだ。
また材木座から話題を振られる前に退散するとしよう。そろそろ生徒指導室に行かないと図書室に行けなくなりそうだし。たとえ五分しか行けなくても新刊が入っているかくらいはチェックできるだろ。
ここまで
第三章はもうすぐ終わります
八幡「そういや俺行くとこあるんだった。じゃあな材木座」
義輝「はっ!? さ、さらばだ八幡!」
材木座と別れる。これで普段俺と話をする相手全員と距離を置いたことになるから、もう誰かに話しかけられることはないはずだ。
クラスメイトとか顔見知りはまだ残ってるが、さすがに放課後ならまだしも昼休みの時間を削って俺と話をするとは思えない。
歩いていると俺はとあることを考える。戸塚と材木座のことだ。
そういえば俺は、奉仕部に入る前から他人の相談事を解決していた。
>>301修正
八幡「そういや俺行くとこあるんだった。じゃあな材木座」
義輝「はっ!? さ、さらばだ八幡!」
材木座と別れる。これで普段俺と話をする相手全員と距離を置いたことになるから、もう誰かに話しかけられることはないはずだ。
クラスメイトとか顔見知りはまだ残ってるが、さすがに放課後ならまだしも昼休みの時間を削って俺と話をするとは思えない。
歩いていながら、俺はふと考える。戸塚と材木座のことだ。
そういえば俺は、奉仕部に入る前から他人の相談事を解決していた。
もっとも人と関わること自体少ないから相談事を持って来られることが少ないし、誰だって人の相談事を知らず解決していることがある。
だからこそ俺は不思議に思う。奉仕部として活動した由比ヶ浜の件は、由比ヶ浜を傷つける形で取り組んだのに。奉仕部外の戸塚と材木座の件は正攻法で解決していることを。
いや、材木座の件も正攻法と言い難いな。普通なら書いた作品を見てそのアドバイスをするだけに終わる。ラノベ作家を目指すなら小説を書かせるべきなのに、小説を書く以外のことをさせている。
結果的に解決しているのに、俺は相手のことを思っている時は捻くれた解決法を示して、どうでもよかった戸塚に関しては一般的な対処に留まっている。
あべこべなのだ。俺は相手のためを思うと、相手のためにならない解決方法を考えてしまっている。
はっ、と俺は口元をゆるめた。
――――これでいい。これでこそ比企谷八幡らしい結果になっている。
俺は初めから相手を助けたいと思ったことは一度だってない。俺はむしろ――――面倒だから助からなくていい、とまで考えていた。
ゆえにこれは俺の間違った精神性が生み出した結果だ。“たまたま”“偶然”“相手が頑張ったから”という解決の仕方になるよう誘導し、間違っても“俺のおかげで”なんていう形にならないようにという責任逃れの精神から。
問題を別問題にすり替え…………当初の問題を解決せずに、俺が用意した別問題を相手に解決させる。俺がいなくても良かったという状況にスライドさせていたのだ。
由比ヶ浜の件は『お礼のクッキーを作りたい』から『思いのこもったクッキーを用意したい』に。
材木座の件は『ラノベ作家になりたい』から『ラノベを書けるようになりたい』に。
だから初めから俺を必要としない戸塚の件は穏便に済んだ。
元々の問題が解決していることに変わりないが、それがいいのだ。
今のやり方を繰り返せば、奉仕部は俺がいない方が依頼に真摯に取り組めると思うようになる。
そうなれば平塚先生も雪ノ下も俺が奉仕部から出ていくことに文句を言えなくなる。むしろどれだけ不本意でも推奨すべきことだと錯覚するまである。
頑張れば頑張る程、俺は奉仕部に向いていないことを証明できる。その相反する事象につい厨二心がくすぐられ、常に表情の浮かばない顔に珍しく笑みを浮かべるのだった。
――――――やはり俺の奉仕活動はどうしようもなく履き違えていて。間違っているがゆえに正しくなる。
ここまで
自分でもこの八幡は痛過ぎると思います。原作とどっちが痛いんだろうか
とりあえず言えることは、この八幡は原作の八幡より“有害”だということですか
あと一回雪ノ下視点を書いて、第三章は終わりです
当初の目的から外れて、戸塚と材木座より雪ノ下にスポット当ててしまいました
* * *
由比ヶ浜さんは、比企谷くんが今だ本心を隠していると言う。なるほど、もしかしたら私が感じた違和感はそこから来ているのかもしれない。
けれど、彼が他人を傷つけたくないから本心を隠しているという部分が納得できなかった。
雪乃「由比ヶ浜さんは、比企谷くんがいつも誰かを傷つけることを考えていると思うの?」
結衣「な、なんとなくだよ! なんとなく!」
雪乃「なんとなく、という言葉を使っても由比ヶ浜さんがそう考えていることに変わりないわ」
由比ヶ浜さんも彼女なりに他人と付き合ってきて、比企谷くんにそういう印象を抱いているのでしょう。――でも私だって社交界で狡猾な人達と接してきている。
だから私は言うことができる。比企谷くんはそんな人達とは違うと。
雪乃「私だってよく人を傷つけることを言う。もちろん相手を傷つけたいから酷いことを言っているわけではないわ。彼と私と何が違うというの?」
結衣「そ、それは…………」
雪乃「比企谷くんだってきっと由比ヶ浜さんのためを思ってあんなことを言ったのよ」
私は比企谷くんのことを擁護する。私よりずっと儚く遠い価値基準を持った彼のことを尊く思うがゆえに。
……とはいえこれ以上由比ヶ浜さんを責めるのも気が引けるので、比企谷くんの話はここまでにしておこう。
雪乃「…………比企谷くんの話はもう止めましょう。このままだと昼ご飯が不味くなるわ。暗い話は止めて、楽しい話をして盛り上げましょう」
先程教室に入ってまで由比ヶ浜さんを助けに入ったと言うのに、私が由比ヶ浜さんを苦しめてどうするというのだろう。
険しい表情を収めて、私は由比ヶ浜さんに優しく笑いかける。
由比ヶ浜さんが気にしないで、と言って明るく笑い返した。由比ヶ浜さんが他の友達の話を振ってきてようやく明るい雰囲気が戻った。
たとえ今、あの『声』の正体が分からなくても、比企谷くんと接していればいつかその正体に辿り着くはず。今回はここまでにしましょう。
ただ私の感じた『声』が由比ヶ浜さんと違うこと、そして由比ヶ浜さんの『声』の起因は推測することができた。
きっと由比ヶ浜さんは比企谷くんのことを恐れている。だから――――『恐怖』から「止めた方がいい」という警告が出てきたのだろう。
私の『声』は恐らく警告ではない。けれど本質は同じのはず。由比ヶ浜さんと私で比企谷くんに向ける感情が違うように、『声』を生み出す感情も違うのだと思う。
あるいは………………答えが出ることこそが「ありえない」のかもしれない。
なんて、それこそ「ありえない」だ。
比企谷くんはどんなに面倒臭がっても相手を助けようとするだろう。彼はとんでもなく捻くれていて、そんな自分に嫌気が指しているけれど、おそらくそれ以上に彼は人の可能性を信じている。
だから彼は選択肢を他人に委ねることができる。その行動は…………彼の心の奥底に眠っている、優しさから来ていると私は思う。
私には人ごと世界を変える力があった。比企谷くんは人を変える程の力を持っていなかった。それでも彼はその優しさで、相手を正しく導くことができる。
比企谷くんは客観的には正しい方法で、けれど人として間違ったやり方ばかり選ぶのかもしれない。でも――
――――――きっと彼の奉仕活動は結果的には正しい。
そうして私は一先ず思考を閉じることにする。私は比企谷くんのことを頭の端に追いやり、由比ヶ浜さんとの会話に没頭していった。
第三章 「たった二人、戸塚彩加と材木座義輝だけが彼の友達たり得ている」 終
第三章終了
書いててそんなに長く感じなかったのに、実際は別作書いてた第二章より投稿期間長かったりします
第四章は、生徒指導室で平塚先生と話した後に……お待ちかねの小町ちゃん登場です!
お楽しみに!
八幡「失礼します」
静「来たか…………」
進路指導室に入ると、平塚先生は沈痛な面持ちで腕を組んで応接イスに座っていた。呼び出した相手が来たというのに、平塚先生は顔を上げることをしない。
普段のがさつな態度なら顔を上げなくても不思議ではないが、この真面目な表情で動きがないとなると、よっぽどの感情を抑えているということになる。
熱せられた石は見た目に変化がなくとも、手を近づかせればその熱が伝わる。俺は対面のイスに座り、平塚先生から漏れ出す怒りを感じ取った。
静「さて比企谷。どうしてお前がここに呼び出されたか分かるか?」
八幡「由比ヶ浜の依頼のことでしたっけ」
静「そうだ」
平塚先生は備え付けの菓子を一つ手に取り、口に入れる。俺も食べてもいいですかね?
なんて思っていると、菓子を飲み込んだ平塚先生は空になった菓子のビニール袋をぐしゃりと握り締め、大きく見開いた目で俺を睨んできた。
静「先の依頼、お前は由比ヶ浜の気持ちをないがしろにし、泣かせたそうじゃないか」
八幡「ないがしろにした覚えは――」
静「黙って聞け比企谷!!」
大声を張り上げる平塚先生。さすがの俺も驚いて体を震わせた。
こほーーーーと息を吐いて平塚先生は気を落ち着かせようとしているみたいだが、どうしても握り拳に入る力が緩まず震えている。
それはともかく俺は平塚先生の大声が外の生徒に聞かれないかが心配だった。
静「比企谷。まずは一発、殴らせろ。話はそれからだ」
八幡「はい」
俺は簡素に返事をし、イスから立ち上がる。平塚先生も立ち上がり、歩いて俺の横に来ると菓子袋を握った右腕を回し始めた。
俺は平塚先生の拳を潔く受け入れるため、体の向きを変えて腹に力を込める。
静「キャプテンパンチッッ!!」
八幡「ごふっ」
神谷浩史の声は…………、クール過ぎて……、キャプテンっぽい貫禄が、感じ取れない……、です…………。
静「大丈夫か?」
八幡「大したことありません」
腹をさすりながら答える。確かに平塚先生のパンチは重かったし、今も吐き気がするくらい効いている。しかし何事にも鈍感である俺にとって、痛みを無視して会話することは朝飯前である。今は昼飯後だけど。
静「お前は強いな、比企谷。強すぎて、周りの人間を傷つけてしまう程に」
八幡「……………………」
平塚先生の言葉を否定しない。自分の精神が人として異常なまでに強靭だということも、周りを傷つけていることも自覚しているから。
静「まずは今回の依頼について、お前が何をしたのか、そしてその行動の理由を語ってもらおうじゃないか」
分かりました。と素直に俺は依頼の時のことを思い出しながら、自分の行動を説明していく。
ちなみに菓子袋は既に備え付けのゴミ箱に捨ててあり、俺が説明している間平塚先生はやけ食いするかのように菓子を開けていった。
第四章始動
それはそうと第二巻のエピソードに入ってるわけですが、今更ながら原作と展開が変わってます
第四章からはほとんどオリジナル展開だと思ってください
由比ヶ浜がクッキー作りに失敗したこと。雪ノ下が努力を諦めようとした由比ヶ浜を嫌悪し、なぜか和解したこと。そして俺は二人の『お礼』に関する常識を壊し、由比ヶ浜個人が納得できる形に誘導したことを話した。
八幡「――――――ってな具合です」
静「……なるほど。そもそもお前は由比ヶ浜のことを覚えていなかったのだな」
八幡「同じクラスになって時間が経ってないですからね」
静「そういうことを言っているんじゃないっ!!」
再び大声を上げる平塚先生。どうやら俺が由比ヶ浜の存在を認識していなかったことを怒っているようだ。
俺と由比ヶ浜はどこかで関係を持っている? 首を傾げて記憶を探ってみるが、一向に思い出せない。
静「思い出せないのか? ……なら今度は私の口から説明してやろう」
そう言って――俺を憐れむように見て、平塚先生は衝撃の真実を告げた。
静「由比ヶ浜は――――入学式お前が救った、“犬の飼い主”だ」
八幡「ああ……」
平塚先生の言葉を聞いて…………、やはり思い出すことはなかった。一年前以上のことだ、仕方がない。
けれど、これまでの全てに納得が付いた。
――――そうか、あの時“見捨てた女子”が由比ヶ浜だったのか……。
静「思い出したか……。なら後は分かるな? 由比ヶ浜のお礼の相手は――比企谷、お前だ」
八幡「なるほど。俺は無自覚に由比ヶ浜の思いを踏みにじっていたわけですか」
静「…………そうだ」
由比ヶ浜は俺のために手作りのクッキーを作ったというのに、恩人である俺ときたらそのクッキーを「食えたもんじゃない」とか言って、さらには「市販のやつの方がいい」「手作りに拘るのは由比ヶ浜の自己満足だ」と終始由比ヶ浜の思いを否定し続けた。
その事実を知れば、俺が最低の男だということは否定しようのないことだ。もっともその事実がなくても俺は最低の男だったが。
たとえ真実を知ったところで、俺は変わることができない。『この程度』のことで自分の内面に後悔できていたなら…………俺はここまで酷くなっていない。
何もかもが手遅れだ。俺はもう――――誰かが傷ついたことで感情を動かすことはないのだから。
静「比企谷…………。お前は、由比ヶ浜のことを覚えていたら別の方法をとっていたか?」
八幡「いえ――――――変わらず同じ方法をとってましたね」
静「……だろうな。その答えは予想していたよ。だから私はお前のことを可哀想だと思う」
八幡「……………………」
生徒をそんな目で見ないでください。惨めな気分になる。
教師の癖に俺の気分を害してんじゃねえ――――なんて、思いたくない。
静「私が何を言ったところで、どうせお前に私の言葉は届かないんだろう!? ……なら私は比企谷に何も言えないさ」
八幡「――ですね」
平塚先生はとても悔しそうな顔をして言った。懐から煙草を取り出し、火を点ける。
八幡「良いんですか? 学校で煙草なんて吸って」
静「お前が気にすることではない。…………誰にも言うな」
と言われて俺は黙ることにした。正直俺は煙草の臭いは嫌いなんだが、平塚先生を不機嫌にさせているのは俺なので、文句を言える立場にない。
静「これからもこんなやり方を続ける気か?」
八幡「はい。もしそれで誰かが傷つくのが許せないというなら、今ここで俺を退部させてください」
ここまで
八幡の性格の変更により、入学式のイベントも変化しています。この八幡が素直にサブレを助けるなんてありえないことですから
実際に入学式のイベントであったことはまた今度語るとして、>>215でガハマちゃんのクッキーが二つに増えていたことが伏線だったりします
ここまで
八幡の性格の変更により、入学式のイベントも変化しています。この八幡が素直にサブレを助けるなんてありえないことですから
実際に入学式のイベントであったことはまた今度語るとして、>>215でガハマちゃんのクッキーが二つに増えていたことが伏線だったりします
それと、魔法少女オブ・ジ・エンド100万部突破おめでとうございます(震え声)
ダブってるの気付かんかった
初めからこんな風に平塚先生とぶつかることは分かっていた。平塚先生は俺のことを一番理解している人間で、俺も平塚先生のことを理解しているつもりだ。
だから次に平塚先生の言葉も予想がつく。
静「いいや。比企谷はこれからも奉仕部で活動を続けろ」
八幡「それで奉仕部が、雪ノ下が割りを食う事になってもですか?」
静「ああ。と言っても雪ノ下がお前を見放すとは思えないがな」
そう言って平塚先生は煙を吐き、挑発的な目で俺を睨む。俺はその視線に堪えることもなく、焦点の合わない目で見返した。
しばらく見つめ合った後、平塚先生がため息を吐いてあっさりと根負けした。
静「比企谷、お前は由比ヶ浜にしたことが悪いことだと分かっているか?」
八幡「分かってます」
静「お前は自分のやり方が間違っていると分かった上で、今後もそのやり方を続けるのか?」
八幡「そうです」
平塚先生は言葉に怒気を混じらせながら言う。俺は機械的に即答していく。
静「……なあ比企谷。どうしてお前は、誰かの間違いも自分の間違いも許容することができるんだ。そのことの残酷さを分かっていながら、どうしてお前は――――」
八幡「………………」
俺の根幹に関わることを問われ、答えに迷った。これは考えて答えないといけない質問だ。
素直に比企谷八幡の価値観を暴露するか、即興で思いついた考えを言うのか。零コンマ数秒に満たない逡巡で、俺は素直に言った場合の被害をシミュレートし、誤魔化すかどうかを決める。
八幡「――俺なら耐えられるって、分かってますから」
結局俺は誤魔化さないことにする。誤魔化そうにも平塚先生は俺の内面を知り過ぎていた。
八幡「もう慣れたんです。自分が間違っても、誰かを見捨てても、それによって感情を動かさずにいられるようになりました。そういう自分だって分かってますから、……だからこれからもこの『生き方』を続けると思います」
たとえこの『生き方』でどんなに辛い目に遭うことになっても、きっと耐えることができるだろう。
敵味方を問わず、周りの人間の全てに悪影響を及ぼすと分かっていながらそれを選べる自分に嫌気が差し、そしてその嫌気さえ飲み込めてしまうのだ。
ならもう…………どうしようもないだろ?
静「比企谷。お前は――――――――そういうお前だって分かっているから、みなと距離を置こうとするのか?」
八幡「…………そうかも、しれないですかね」
平塚先生は俺の優しさの一面を指摘した。それを否定し切ることはできなかった。
静「とりあえず今日の部活動は休め。せめて一日くらい、今後雪ノ下や由比ヶ浜とどう接していくか考え直してくれないか」
八幡「分かりました」
もちろんそう言われなければ俺はいつも通り部室に行って、素知らぬ顔で二人と会うつもりだった。
入学してから度々話しているだけある。やはり平塚先生は俺のことを理解している。
静「それと比企谷、お前は雪ノ下のことをどう思っている?」
八幡「部長ってだけで、特に思うところはないですけど」
静「色恋の話じゃない。まったくお前に限っては、惚れた腫れた話は一切通じないな。お前は雪ノ下雪乃がどんな人間に見えるかを聞いているんだ」
ここまで。師走ってすげぇ忙しい!!
色々な予定が立て込んで12月中は更新頻度が少なくなるかもです
執筆自体はちゃんとやってるんで、心配しないでください
八幡「……………………」
どのような人間に見えるか、と聞かれても俺は雪ノ下雪乃という人間に対し興味を抱いたことはない。せいぜい、奉仕部という空間を破壊するに当たって彼女の人格を把握している程度だ。
けれどこの質問は、何がしかの答えを用意しなければ納得しない。ならどう答えればいいのか。
俺は……、俺が感じ取った雪ノ下雪乃の価値観を語ることにした。
八幡「雪ノ下の考えは『努力をせずに有能な他者を蹴落とす人間だらけの世の中を変える』でしたっけ? 確かにその考えを一概に否定できないし、理想として正しいものかもしれません」
八幡「その理想を雪ノ下が周りに押し付けても、俺は興味ありません。だけど…………自分のやり方に拘って、相手への対処方法の選択肢を狭めるのは間違ってます」
意図的に奉仕部に不利益になるよう解決方法を歪ませた俺が言えたもんじゃないが。
八幡「過去のトラウマか何か知りませんけど、問題の原因を『当人の努力不足』だと決めつけるのは下策ですよ。もし本当に……雪ノ下が『努力』しか人を助ける方法を知らないなら、致命的過ぎですね」
静「さすがにそこまで雪ノ下は頑なではない。しかしお前の言う通り、雪ノ下は正攻法しか使いたがらないところがある」
八幡「潔癖過ぎるんですよ。あるいは――――正しさに固執していると言いますか」
あるいはそれが雪ノ下の厨二病とも言える。自分が正さなくては誰もが間違いを続けるなんて考えは正直言って痛い。それを言っているのが雪ノ下だから、実現性があると思わせ人を錯覚させる。
人の負極面に晒されてきたから自分の清浄部分にこだわっているのか。気持ちは分かるが――――他人を助けるのに自分の好みを持ち出すのは、やってはいけないことだ。
自分のやり方で誰かを助けることを、奉仕などと呼べない。自己満足――そう呼ぶべきだ。まあ本来、誰かを助けているだけで十分なんだけどな。
八幡「アイツは俺みたいに…………間違った正しさを――自分以外の正しさを――考えつかないんですかね?」
静「確かに、それを考えつけば雪ノ下は正攻法じゃないやり方を覚えるんだろうが……。ケガレたやり方は雪ノ下の雪ノ下らしさを損なうことになる。本能的に恐れているんだろうさ」
さすがに自意識を捻じ曲げてまで人助けを求めるのは酷に思う。
こうして思うと、俺と雪ノ下は『正しさに強いこだわりを持っている』というところで似ていたのだ。
八幡「結局平塚先生が俺を奉仕部に入れた真意って、俺を雪ノ下への当て付けにしたかったからですか」
静「まあそれもあるが――――実際のところは、お前に変化するきっかけを与えたかったからだな。人助けを通じて、お前に自分を見つめ直して欲しかったんだ」
八幡「そうですか」
自己嫌悪なら常時しているから、余計なお世話だ。
平塚先生は吸い切った煙草を携帯灰皿に捨てながら、試すように俺に問いかけた。
静「それとも、奉仕部に入らない方が良かったか?」
俺の心は最初から変わらず、『比企谷八幡が奉仕部にいるのは間違っている』と思っている。
確かに学年成績一位の雪ノ下と話をする機会をもらえたことは良かったし、俺から見て雪ノ下はこれから付き合いを通して改変していきたい相手だ。
但し、俺は雪ノ下を改善する気は微塵もなく、これからも間違った方法を取り続ける自信がある。
だからこそ俺は『平塚先生のために』こう答えた。
八幡「――――――いいえ。先生が言ってたように、学べるところがありました」
静「そうか、ならいい。もう行って構わない」
八幡「失礼しました」
生徒指導室から出ると昼休み終了十分前くらいだった。今から教室に戻ればちょうど次の授業の準備ができるくらいだ。
けれど平塚先生との会話で少し感傷的な気分になり、来る前より体が重く感じてしまう。どうせ授業が始まる頃には忘れる気分だが。
真実は残酷で嘘は優しい。なんて言うこともあるらしいが、俺の場合はそれは当てはまらない。俺の破壊的な感情を相手に言うことはむしろ優しさで、隠すことは被害の拡大に繋がる。
それを分かっていながら俺は嘘をつく。相手のためにならないと分かっていながら、相手のことを思って嘘をつく。
なら……どうして俺は『平塚先生のため』と思ったのだろうか。
はっ、と短いため息を吐いた。答えは分かりきっている。責任逃れ以外の何があるというのか。
俺は自分のために誰であろうと見捨てる。平塚先生であっても、雪ノ下雪乃であっても、由比ヶ浜結衣であっても。クラスメイトでも、友人でも、家族でも、――――――自分であっても。
そして――――――――何も始まることもなく、物語(セカイ)は終わっていく。
ここまで!!!
これで「やはり俺では青春学園ドラマは成立しない」は全体の半分を書いたことになります
このSSは全部で7章+プロローグ+エピローグを予定していて、今ちょうど第4章の中間です
なのでこれから登場できるキャラも限られてきます。前に相模が登場していたのも、あれで出番が最後だったからです。…………すいません
他にも登場できないキャラが多々います。皆さんが期待しているキャラを出せないのは心苦しい限りです
次回は本編ではなく幕間を投下する予定です。もしかしたら登場できないキャラをそこにぶちこむ可能性があります
ここで報告していいのか分かりませんが、リョナの鐘SSをpixivに投稿しました
サイコパスの霜月美佳のお腹を叩く小説。結構ガチでグロく書いたから、閲覧にはご注意ください
ようやく、このSSに執筆に集中できるようになりました。年内には幕間を投下していけそうです
【奉仕部の相談窓口】
八幡「前に作ったメールフォームがあるだろ? あれに何通か相談が来てるらしい」
雪乃「そう」
八幡「仮にも同じ学校の相手だと分かってて、よくもまあ相談事を持ち込めるな。そういうことはネットの掲示板に書き込めばいいものを」
雪乃「……部員であるあなたが奉仕部の活動を否定しないでくれるかしら」
と言われてもなあ……。総武高校のホームページにバナーを作ったとはいえ、それでもこんな胡散臭い部活に相談事を持ち込みたいと普通は思わないだろ。
日々の生活の悩みは近くの誰かに相談すればいいし、大抵時間が経てば解決する。総武高校に限った悩みだとしても、裏サイトや裏掲示板、裏コミュニティで話してしまえばいい。
わざわざこのメールフォームを利用するということは、冷やかしか、奉仕部にしか聞けない奉仕部関連の相談か、それともこんな掲示板しか頼り処がないか――――といった面倒な理由しか想像できない。
ぶっちゃけ真面目に活動したくないし。
雪乃「たとえ顔が見えない相手でも、相談事を持ち込んでくれた依頼主であることに変わりはないわ。真摯に応対しなさい。――――間違っても相手の意思を否定しては駄目よ」
八幡「はいよ」
平塚先生から渡されたノートパソコンを机の真ん中に置き、人一人分の間隔を空けてパソコンの前に座る俺と雪ノ下。肩を並べて座るほど俺たちは心を許していないから。
右側にいる俺がマウスを操作し、雪ノ下がキーボードで返事を書く。こうして書くと仲良く見えそうで困る。
【M・Sさんの相談】
『奉仕部って、実際にはどんな活動をしてる部活なんですか? 相談事を解決するって書いてますけど、スケット団みたいなものと考えていいですか?』
八幡「じゃあよろしく。雪ノ下」
雪乃「ええ、まあ、奉仕部の仕事内容について聞かれているから部長である私が答えた方がいいのは分かるけれど…………」
こうも躊躇なく私に仕事を押し付けるのはどうなのかしら? と雪ノ下はぼやく。
でもこれストレートな質問だし、俺の出る幕ないっす。恐らく部活運営の立場の生徒が気になって聞いてきたって感じだな。ならなおさら俺ではなく雪ノ下が答えるべき質問だ。
雪ノ下はキーボードに文章を打ち込んでいく。予想していた以上にタイピングが速かった。
八幡「ていうか雪ノ下はスケット団が分かるのか」
雪乃「アニメで見ただけよ。活動内容は似通っていたもの。チェックくらいはしているわ」
八幡「じゃあ万事屋銀さんの方は?」
雪乃「ギャグセンスが酷くないかしら。たまに至極真面目なことを言ってるみたいだけど、基本ギャグ漫画だし参考にできないわ」
でもそのギャグセンスが海外で超ウケてるんですけどね。メジャー以上に人気らしいよ、銀魂。
たまにシリアスとかホラーとかあるから馬鹿にできん。ていうかアニメは原作以上にふざけてるよね。ホラー回をよりホラーにしたり、ガン○ム回にガン○ム声優起用したり。
小町は眠れない話とマダオが引っ越す話を見てトラウマになってたな。
当時小学生の俺でも怖かったもん。
ひとまずここまで。
未登場キャラを出すと言ったが、顔を出すとは言ってない
というかこういう形じゃないと、三年のキャラと一年のキャラを絡ませられないです
最初は無難な質問から。後になるにつれて質問に後ろ暗い要素が増えていきます
イニシャルや説明まで入ってるのに「このキャラ誰?」とか言う人がいても暖かい対応でお願いします
見直して見つけたミス二つ
戸塚が八幡と一年の頃から同じクラスなのに初対面みたいな対応をしたこと
第三章の終わりで八幡が図書室に向かわず教室に行っていること
スルーよろしく
【I・Iさんの相談】
『異性の友達はいっぱいいるけど、同性の友達が一人もいないせいでクラスでの肩身が狭いです。どうしたらいいでしょうか』
八幡(真面目な悲鳴出してんじゃねぇよ!!)ボソボソ
雪乃「どうしたの、比企谷くん?」
八幡「いや何も」
これマズイ。だってこれ99%女子の相談だもん。男子が女子にモテてるとしたら、こんな自慢をわざわざメールフォームに送って来ない。本当に男子と友達になれないならそいつはオカマってことになるし。結局女子じゃん。
女子は仲間意識がもの凄いと聞くし、状況が容易に想像できる。異性に友達ができるくらいフットワークが軽いなら一年経って一人も同性の友達ができないのも想像しづらいし、恐らくこいつは新一年生ということになる。
このメールがデマカセなら万事解決なんだがな…………。本人がどれほど悩んでいるかは分からんが、事実であることに変わりないはず。
というかこんな二、三行の文章からどれだけ情報を読み取ってるんだ俺。俺は折木じゃねえよ。どっちかと言うと折気だ。
雪乃「これは――――自慢かしら?」
八幡「十中八九そうだろうな」
よし、雪ノ下が常に友達ゼロ人のぼっちでよかった!! もし雪ノ下がこのメールに隠されたメッセージを読み取れていたら、全力を尽くして取り組むことになっていただろう。
そんなことは果てしなく面倒臭い。
ぶっちゃけこれは時間が解決する問題だからな。捨てる神あれば拾う神あり。俺は捨てる神だが、拾う神だってどこかにいてもおかしくない。
恐らくこのメールは駄目元で送ってるだろう。けどまあ、俺しか気づいていないならちゃんと応対してやらないとな。
雪乃「この思い上がりには現実を突きつければいいのかしら」
八幡「待て待てっ。自分から現実に気づくよう誘導すべきだろ。それが奉仕部じゃねえのか」
雪乃「……そうね。どんな相手でも平等に対応すべきだわ。たとえこのメールが他人の精神を逆撫でするためだけに送られたもので、心底腹が立つとしても」
それ多分、過去のトラウマと共通してることから来る苛立ちだぞ? 絶対に言ってやらんが。
俺は雪ノ下をなだめて無難な返事を出させる。メールの送り主が周りから見れば恵まれていることを指摘し、毒舌を比較的少なくなるように努めた。この年にして中間管理職かよ。
そして俺はパソコンを返す時、誰も見られないよう隠れて本命の返信をした。
女子に好かれず男子にのみ好かれるというのは、自分の魅力を最大限把握し、それを発揮することに終始するような人間だろう。性格などは関係ない、彼女はただ自分らしくあった結果孤独になるのだろう。
俺が何を言ったところで、そいつは自分を変えないかもしれない。しかし変化を起こすことはできる。
まあいくら顔の見えない相手の邪推をしたところで、実態なんて分かるはずもない。俺の予想が外れていても恥ずかしくないように、お調子者っぽい文章で対処法を送った。
『たぶんあなたは同年代より魅力があるから、周りの人はあなたが自分より上の存在に見えて気が引けているんだね。ならいっそのこと、年上の同性の人と交友を持ってみたらどうかな? 先輩としても、カッコいいまたは可愛い後輩に頼られて悪い気持ちにはならないし』
誰だよ。俺だ。
あとはここに『P.S 今奉仕部には1年生がいないので、あなたが入ってくれれば大歓迎です』という文を入れれば完璧なんだが、それをやると俺のこの所業が明るみになってしまうため、尻切れ悪い文になる。
俺の抜けた穴を埋める新しい後輩、並びに新しい雪ノ下の友人が作れるチャンスだったが、俺の身が危ぶまれてまで手に入れるほど重要なものではない。
もしこのメールだけでメールの主が部室に来たら、その時は諦めよう。諦めてメールの送り主を雪ノ下だと錯覚させよう。
残念ながらあなたには奉仕部との縁が御座いませんでした、ということでここは一つ。
ひとまずここまで
I・Iさんのキャラクターが登場してなくても強い。他の人は1レスなのに、この人だけ2レス使う羽目に
あと一回の投稿で幕間は終わりです
けれど後半の二人は前半の二人と違い、どこがどう後ろ暗いのか大変分かり辛くなってます
だからこそ闇が深くなると言うか。ちゃんとヒントとか補足とか出すんで、分かりにくかったら言ってください
先に謝っておきます。サキサキごめんなさい
【?????の相談】
『雪ノ下雪乃さんには誰か付き合ってる相手がいないんですか?』
雪乃「さて………………どうしてくれようかしら」
八幡「気持ちは分かるが落ち着け。まだそう決まったわけじゃないだろ」
さすがにこれは雪ノ下も察したか。このメールは女子が送ってきた可能性があることを。
例えば雪ノ下と同じクラスの女子が雪ノ下が奉仕部であることを知っていて、面白がってメールをしてきたとか。
さっきのメールが冷やかしだったから、雪ノ下は連想するのは簡単だったろう。ならさっきのメールも女子が送った可能性があることに気づかないよう、心から祈る。
しかし――男子が本気で雪ノ下に質問している可能性だってあるのだ。
八幡「雪ノ下にはこのメールが男子と女子、どっちが送ったか分かるのか?」
雪乃「この『いないんですか?』の部分から明け透けの上から目線が見て取れるけれど、これだけではこのメールの送り主が私のことを見下している身の程知らずということしか分からないわ。ならそれはそれで、業務内容に関係ない質問をしてくるなと言えばいいだけだし」
八幡「いや、普通に無視すればいいだろ」
雪乃「…………それもそうね」
送ってきたメール全部に律儀に返事を書く必要なんてない。それも、明らかに冷やかしだと分かる内容なら尚更だ。
たとえ送り主が男子生徒でも、ここまで回りくどいかつナルシストな人間を相手取りたくない。
放置する、という対応で正しいはず…………、なのに。
どうにも俺は違和感が拭えない。
いつもの、いや俺と出会う前の雪ノ下雪乃なら、こんなメールを送る人間だろうと説き伏せようとしただろう。返事をしないというアイデアは俺のもので、雪ノ下のものではない。
このメールは、雪ノ下のことをよく知る人間が送ってきているのではないか。
――――もしかしたらこのメールには『雪ノ下雪乃の言葉』で答えておくべきだったのかもしれない。俺はそう思えてならなかった。
【S・Kさんの相談】
『クラスに変、っていうか怖い、と言うより不気味な男子がいるんだけど。でもクラスメイトだし一年間はそいつと一緒にいないといけないわけだから、その対処法とかって教えてもらえんの?』
雪乃「要するに、進んで関わりたくない相手との付き合い方を教えて欲しい、といったところかしら」
八幡「ま、そうだろうな」
雪乃「気にかかるのはこのメールに書かれた表現ね。『変』と『怖い』と『不気味』とわざわざ書いているということは、それぞれの印象があるということ。でもその三つを兼ね備えた人間性の想像が全く付かないわね」
八幡「いや、その三つは同義語だ。少なくとも人間関係においては」
雪乃「え、そうなの?」
その三つの感情は、相手のことが『理解できない』から生ずるのだ。
相手の思考が全く想像できない、自分とは別種の人間。異次元の発想の持ち主。そんな相手に人はこの『変』『怖い』『不気味』という三つの感情を思い浮かべる。
表現は過激になったが、よくあるパターンでは陰気なオタクがこういう印象を持たれる。クラスの誰とも趣味が合わなくて孤独になっちゃった不憫な奴とかな。オレノコトジャナイヨ? エルフェンリートナンテミテナイヨ?
八幡「対処法として一番実践的なのは、そいつの活動圏を把握することだ。そいつがどんな話題に反応し、どんな場所によく行くか知っておくんだ。そうするだけでそいつと関わる可能性をかなり減らせる」
雪乃「……なるほど。でもその方法では、最初に何回かその苦手な相手との交流を持たないといけなくなるのだけど」
八幡「もしくは又聞きでそいつの特徴を聞いてる内に、興味を持ってると勘違いされるってか? それが嫌なら怯えていればいいだろ。ホラー映画の怖さを克服するのに、ホラー映画を見る以外の対処法があるのか? あらすじネタバレ見て誤魔化しても、実像への恐怖が無くなると思えんがな」
雪乃「嫌な相手との交流なんてこれから先何度でもあるし、ここは無理矢理でもその人と交流を持つようにするべきね」
雪ノ下は小気味良くキーボードを打ち始めた。相手を矯正できることがそんなにも嬉しいんでしょうか?
その正しさがたまにしか通用しないことに気づき、自分のやり方を疑うことになるのはこの先いつの事だか。
あと気になることがあるとすれば、それは一つだけ――――――その不気味な人間って、俺のことじゃないよね?
はいここまで
書いてて思ったけど伏線とか思わせぶりなことしか書いてない。でもそれが面白いんだからしょうがないよね
名前が出せない人は、いずれ本編で出てくるから名前が出せないだけです
まぁこんなメールを奉仕部に出してくる人間なんて一人しかいないでしょう
第6章、早くて第5章ラストに出るのでお待ちください
そして最後の人。この質問で一番後ろ暗い背景あるわけですが、予想できないですよね
実を言うとこれは逆。この質問の背景が後ろ暗いのではなく、元々彼女が持っていた問題が『存在しない』から全く関係ない質問をしています
そう、『問題の原因が存在しない』のです
乙
人付き合いに興味ないのに、人の評価が気になるのは変じゃない?
>>362
どの部分の話ですか?
スルーされる方が、余計な雑談でスレ潰されるより数段マシだって考えよう
小町「ねーお兄ちゃん、今日ヒマだよね?」
八幡「暇だけどそれがどうした?」
小町「よし! じゃあ買い物行こう! お兄ちゃんの服を買いに!」
八幡「メンドイからパス。略してメントス」
小町「お兄ちゃん、それダサいし寒い……。小町的に超ポイント低いよ…………」
平塚先生に呼び出された次の日。休日のリビングでくつろいでいた俺を小町は買い物に誘う。
もちろん俺は『女と買い物』なんてストレスフルなイベントに参加したくない。たとえ相手が家族だろうと遠慮なく言う。
だからと言って寒い略語を使って空気を殺すのは自分でもどうかと思うが。
八幡「着れる服のストックならまだあるはずだろ」
小町「おしゃれっ気がなさすぎだよ!! お兄ちゃんの持ってる服って、ほとんど黒とか白とかモノクロちっくなやつしかないじゃん。もうちょっと着飾ろうよ。お兄ちゃんは顔がいいんだから……!」
八幡「と言われてもな…………本屋に行くのに着飾っても意味ないだろ」
小町「お願いだから、友達付き合いしてっ!!」
相も変わらず、小町は小うるさい。
昔から真人間であろうとしない兄の俺にろくに帰ってこない仕事人間の両親、そんなさみしい環境で育った小町は「この家でちゃんとできるのは自分だけ」だと言って、家族の――主に俺の面倒を見るようになった。
家族全員の食事や洗濯、掃除、ごみ出し等の家事を自主的に行い、俺の生活にやかましく口を挟む。母親の仕事を小町が肩代わりしている。
つまり言うなら――――小町はこの家の『母』になった。
それはとても悲しいあり方だ。俺が家に帰ると大抵小町が先に帰っていて、「おかえり」と言って迎える。同級生との交友はあまり聞かず、むしろママ友の話をする方が多いくらいだ。
そんなんでいいのか、と問うたところで小町は「大丈夫」と疲れた顔で応える。
…………俺はそんな妹の姿を痛ましいと思っても、それで俺が困ることはない以上、助けたいと思えない。
小町自身が――――『もう、いやだ』と全てを投げ出したりしないか、もしくは小町に結婚相手ができてこの家から出て行かない限り。ずっと俺は小町に甘え続け、寄生するだろう。
歪なる俺の影響を一番に受けている人間は、雪ノ下でも平塚先生でも戸塚でも材木座でもなく、比企谷小町。俺の実の妹なのだ。
小町「本屋にばっかり行ってないで、人並みに友達と遊んでよ。前言ってた戸塚さんや材木座さんとは遊ばないの?」
八幡「そいつらは学校でしか話さない相手だ。片方は超アウトドアで、もう片方は超インドアな上コミュ障だからな。共通の遊びが思いつかない」
小町の追究に逃れるために、戸塚や材木座の名前を利用する。友人の紹介には虚飾を加える。俺が休日に一人で行動するのをなんとしても阻害されないために、しっかりとした理由を用意する。
もちろん奉仕部の名前は出さない。出せば小言とともにプレッシャーをかけられるのが、部活動と部員とのコミュニケーションを強制させられるのが分かっているからだ。
小町「もう…………、ホントお兄ちゃんポイント低い。とにかく! 今から買い物に行くからね。行かないならお兄ちゃんの今日のご飯抜きだからね!!」
八幡「はぁ――――。行けばいいんだろ」
小町「なんでそんなに面倒くさがるかなあ…………。行きたくないの、お兄ちゃん?」
八幡「じゃあ行かなくていいのか?」
小町「 ぜっ! たい! 行くからね!!」
ここで肯定すれば俺が行かなくなるのは承知の助(しょうちのすけ)だ。一番近しい人間として、小町は俺のことをよく分かっている。
しかし小町が理解しているのは俺の行動だけ。俺が何を考えているか、どうして俺がこんな風に育っているのかまるで考えもしない。生まれた時からずっと一緒だったから俺の行動に疑問を持てないのだ。
比企谷小町は――――俺の心を知らない。きっとこの先も知る機会は訪れないだろう。
>>343からの続き、第4章です
ようやく小町ちゃんの登場ですね
これでもかと言うくらいやさぐれてるけどなあ!!
小悪魔どころか堕天使ですね。でもやさぐれ小町、アリだと思いません?
ここの八幡の被害を一身に受け続ける悲劇のヒロイン。本編において二番目に不遇なキャラです
一番は言わずもがな
幕間で作者が何をしたかは、コメントがない限り答え合わせは一切しないつもりなので
>>363
どの部分がっていうよりは八幡に対する自分の印象です
人に対して無関心なら、その他人からどう思われようが関係ないでしょうし
かえって余計なトラブルさけるのに周囲と同化したり、擬態すると思うんですよ
あと、レス遅れて申し訳ないです
>>369
概ねあなたの言う通りなんですよ
奉仕部との勝負以外で八幡が他人の評価を気にすることは一切ないように努めています
だからこそ、どんな部分で他人の評価を気にしていたと感じたか聞きたかったんです
全体的な評価ならどうしようもないんですがね……
ららぽに到着。巨大レジャー施設に来ていつも思うんだが、どうして施設の大半がファッション店なんだ。もっと他に売る物ないのか? えっ、ないの? …………そうですか。
いやいや分かってますよ。ファッション店といっても色々あるってことくらいは。トップバリューやユニクロみたいな大量既製品や一般人の手に届かない高級ブランド、またはスーツやベルトなどのビジネスファッション、果ては女性しか目をつけないアクセサリーやランジェリーなどetcetc…………。
人は見た目が9割だって言うけどさあ、もう少しくらい1割の方にもスポットを当ててくれてもいいんじゃないか? ――――無理ですよね、だって1割の意見なんだから。
それに他人の見た目に一切の興味を示さない俺は、1割どころか1厘にも満たない極少数派だ。ボソボソ何を呟いたところで聞こえやしない。
小町「お兄ちゃんボソボソうるさい」
八幡「ああ、わりぃ」
小声で文句言ってたら一蹴されました。
そんな訳でららぽに来てから約一時間、俺は大観衆の中で実の妹に自分の着る服を選ばれるという憤死寸前に恥ずかしい目に遭っている。
小町「これなんかどうかな? ……ちょっとお兄ちゃん自分で持ってよ! ――――うんっ、これカッコイイ!」
俺も鏡で見てみるが、なるほどカッコイイと思った。黒い地の半袖Tシャツにピンクの虎柄迷彩が施され、正面には野性味溢れる虎の顔がプリントされている。
ピンクタイガーではなく、ピンクで描かれた虎というのがミソなんですか? しかし、俺にはそのセンスが理解できない。何より――――
八幡「これは目立つからダメだ。もっと無難なのがいい」
小町「だーかーらーぁ!! お兄ちゃんはもっと着飾った方がいいって言ってるでしょーが!!」
またやいのやいのと小町が怒り出す。いや小町が怒ってる原因が俺なのは分かってるけどね? でも目立つの嫌だし。俺はどこにでもいる一般人Aでいたい。
ステルスよりもなお高度な、視界に映ってもなお気にも止められない木のような存在に、俺はなりたい。
けれど俺のその考えを、小町は納得も理解もできはしない。
八幡「こういうやつの方がいいんだけどな…………」
小町「じみっ!? それめっちゃ地味だよお兄ちゃん!!」
黒と白しか使われていないTシャツを手に持って広げる。柄は胴部分の横縞のみという味気ないもの。これを下に着てどうファッションに活かせばいいのか。そもそも部屋着ですら使われないんじゃないか、コレ。
しかしだからこそ、俺の心をそのまま表していると思うんだけどな…………。
俺の出した地味Tシャツは当然却下され、いつも通り小町が勧めたものから俺が選ぶというやり方で買い物は進む。ズボンや上着も同様。
小町は親から俺の服飾代はある程度支給されているとはいえ、さすがにアクセサリーは手を伸ばすには金がかかる。なのでそれらの小物が増えることなく、俺の持ってるアクセサリーは中学一年の時に貰ったデジタル腕時計のみである。
もし俺がラノベキャラだったなら、こんな飾り気のなしのモブキャラは間違いなく降板だな。絵の比重が高いライトノベルにおいて私服がダサいことはそれだけありえないことだ。といっても大衆小説なら私服がダサくても何一つ問題ないけれど。
兄妹共々、精神を削りながらようやく買い物が一段落し、ゴーゴーカレー丼丼で昼ご飯を食べる。
そしてこれも小町が親から支給された生活費から払われる。『もしかしてヒモ?』と聞かれたら否定できない自信があるぞ!
自分のダメ人間さを再認させながら歩いていると、目の前で見覚えのある二人組の女子が歩いてくるのが見えた。
片方は艶やかな黒髪を二つに括り、水色のワンピースとその上からレースの入った白いカーディガンを羽織るクール系女子。もう片方はミニチュアダックスを共にし、薄桃のシャツにカラフルなスカートと色々なアクセを付けた快活そうな女子。胸のサイズは前者が貧乳、後者が巨乳。
…………なんだ。赤の他人じゃないか。
はい、ここまで
今更な話ですけど、この八幡のモデルは作者です。なので作者のファッションセンスはダサいとかそういう以前に判断材料が無い状態
二次元イラストや漫画は見ているとはいえ、作中のファッションが正しいのか分からないまま書いてます。最後の二人の服装に至っては、アニメも見返してませんし
まあ小説の登場人物の服装なんて脳内補完するしかないし、むしろ奇抜な方がキャラ立ちするんですけどね(開き直り)
もちろん八幡が語るエピソードの半分は創作です。作者は現時点で腕時計すら持ってません
>>374訂正
自分のダメ人間さを再認させながら~~ → 自分のダメ人間さを再認させられながら~~
特に視線を向けることなくそのまま横を通り過ぎる。ここで重要なのは絶対にこちらから注意を向けないこと、相手に気付いても1ミリも首を動かさず眼球も前に戻すこと、何よりも表情を変えないことだ。
風景と一体化し、心を鎮める――――。何が起きても動じない。
結衣「あれ? 今のヒッキーじゃなかった?」
雪乃「え、比企谷くんがいたの? 私には分からなかったけれど」
たとえ相手が自分の存在に気付いても、一切動じてはならない。そのまま歩くスピードを変えず、あいつらから距離を取れば話しかけられることはなくな――――――
小町「もしかして今の可愛い女の子、お兄ちゃんの友達?」
腕を引っ張るな小町ィィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!?
妹に腕を掴まれ引きずりながらも、表情を変えないまま歩こうとする俺と両足を揃え全力で踏ん張り、大理石の床を鳴らす妹。そんな異質な二人が目立つことこの上なく。
雪乃「ああ。私も見つけたわ。それで――――彼の腕を全力で引き止めているのは誰なのかしら…………?」
はい終了。俺の静かなる休日は、今をもって完全に終わりを迎えました。
結衣「へぇ~~。小町ちゃんヒッキーの妹なんだ。どことなくヒッキーと似てなくもないかも」
小町「もう、よしてくださいよ~。あんな兄に似てるなんて失礼ですよ!」
結衣「あっ、そうだよね。ごめんね」
小町「そうですよ。今日だってお兄ちゃんの服を買うために、妹の私がわざわざ付いてきてあげてるんです。お兄ちゃん一人だと、服すらまともに買えないんですよう…………」
結衣「小町ちゃんのお兄ちゃんはホントダメダメだね。その点小町ちゃんはしっかりしてるし、あたしの妹として家に来て欲しいくらいだよ」
小町「私も結衣さんみたいなお姉ちゃんが欲しいです!!」
顔を合わせ名前を紹介し合った小町と由比ヶ浜は、まるで長年連れ添った幼馴染のように一瞬で意気投合していた。
というか既に事実上の姉妹関係まで発展する勢いである。
別に小町が由比ヶ浜をお姉様と呼ぼうが、二人がハーレムだか逆ハーだか形成しようが構いはしない。俺の目の前で騒ぎを起こさなければ。
ですから初めて同年代で同性で兄のことを話題にできる気の合う友人ができたからって、さすがにそろそろ声を抑えた方がいいと思うわけですよ、小町さん?
二人のテンションについていけず、同じように置いてけぼりを食らっている雪ノ下をチラリと見ると、雪ノ下はおずおずと躊躇いがちに俺に質問する。
雪乃「……ねえ比企谷くん。もしかして」
八幡「んぁ?」
雪乃「今あなたが着ている服も、小町さんが選んだものなの?」
八幡「まあ服に拘るのは小町の役目だしな」
雪乃「――――――――ハァ」
いやお前が代わりにテンション引かせてどうするよ。
雪乃「人として恥ずかしくないの? 妹に自分の服を選ばせて、――妹に負担をかけて。あなたはそれなりに努力すれば人の目を引けるはずよ。少なくとも素材においては、そこまで劣っていないと思うの」
それ、褒めてるのか? 美少女と称される人間に見た目を褒められて若干嬉しいけどさ。
あるいは――――――期待か? こうあって欲しいと希望を言うくらいには俺のことを好ましく思ってるのか?
あいにく俺は人の目を見て会話しない。だからお前が何を思っているのか欠片も想像できない。予想や予測が正しいのか確かめる気にすらなれない。自分がしたいように、言葉を紡ぐだけ。皆そうやって会話をし、自分の意思を表現しているだろ?
聞きたいからではなく――言いたいことがあるから人は言葉を使うのだ。
…………けどまあ、その煩わしい期待に対し、俺の本心で応えてやるよ。
八幡「劣ってようが劣ってまいがどうだっていい。――俺は自分の見た目が相手の判断材料になって、相手の意識を阻害するのが嫌なんだ」
雪乃「…………阻害? どうしてそんなことを気にするの?」
八幡「透明でありたいんだよ、俺は。余計な重みを背負わなければ……、何事も楽観的に考えられるからな」
気になるものは気になるんだから、しょうがないじゃん。本能にどう説明を付加しろっての。
雪乃「理解できない価値観ね――――」
八幡「自分でもややこしい価値観だって思ってるさ」
ここまで
小町ちゃんのキャラとか口調が迷走気味。これでいいのかな?
いやむしろ小町ちゃんの台詞はサクサク書けてるんだけど、だからこそ不安になっていると言うか……
この小町はブラコンなのかそうじゃないのか、作者にも分かんないです
雪ノ下との会話はそれきり――――。立ち止まっていた俺たちは歩きながら会話をする。主に小町が、雪ノ下と由比ヶ浜に話題を振る形だ。今は料理の話で女三人姦しく騒いでいる。一緒にいる俺の肩身の狭さよ。
男の嫉妬の視線(と女の羨望の視線)は、お得意のステルスと感情の閉鎖で乗り切る。それらを受け取るストレスを感知せずに済んでいる。
その代わり美少女たちと過ごす時間を楽しめなくなるが、そんなもの今更すぎるデメリットだ。男子高校生の日常のモトハルより数段マシだろ! ……モトハルのは美少女ですらなかった気がするけど。
小町「ちなみにうちは三毛猫飼ってます」
雪乃「――――――ねこ」
結衣「そういえばゆきのん、犬は苦手だけど猫は好きって言ってたっけ」
話題がころっとペットの話になった。女の会話は勢いがありすぎて付いて行くのも一苦労だ。今時女子がLINEで三、四つ並行して話題と応答をしてるらしいけど、あれは日常会話でも起きているらしい。男には理解できない世界である。
その法則の通りなら、さっきの料理の話の続きをしながら更に追加の話題が投下されることになる。まさに外道。
しかも会話が長引くことで、終わりかけていた俺と小町の買い物が無視され、帰宅時間が遅くなってしまう。最低でもあと一時間はこのままららぽを散策するだろう。
…………よし。
八幡「おい小町。俺いる意味なさそうだし、買った物だけ持って俺だけ帰ってもいいか?」
小町「ええ゛っ!?」
ぐんっ! と小町は首をこちらに振り向かせる。顔が怒りで染まっていた。
小町「女友達ほっぽって自分だけ帰るとか、男としてありえないよっっ!! ガールフレンドだよ!!? ポイント低いポイント低い、超ひっくーーーい!!」
結衣「ポイント低いって……」
八幡「小町の持ちネタだ。気にするな」
雪乃「というより、私は比企谷くんの友達ではないのだけれど」
小町「…………………………へ?」
ああ。確かに雪ノ下は自分を小町に紹介する時『同じ部活仲間』って言ってたな。しかも由比ヶ浜も『同じクラスメイト』って言ってたし――――多分こいつら俺を友達扱いしてないよな。それはそれでいいことだけどな。
その後の小町の『ここにいるド腐れ人間の保護者こと、妹の小町でっす♪』とか言って由比ヶ浜もそれに乗っかってしまい、あまり突っ込まずそのまま親交を深めてしまっていた。
おそらく小町は俺に女友達ができたことへの喜びで頭が回らなくなってしまったんだろう。まあ『顔見知り=友達』扱いは当然のことだからな。
小町「え? あれ? じゃあお二人はお兄ちゃんの何なんですか?」
雪乃「最初に、単なる部活仲間だと言ってたはずよ」
単なる、は付けていなかったな。確か。
短いけれどここまで
黒歴史になるとかそれ以前に、俺ガイルssの執筆はどうあがいても自分の黒歴史を晒すことに繋がると思うのですが
自分のエピソードを晒さないと、書けないんだよ俺ガイルssってのは!!!
でもまあそんなことは、学園ものの小説を書いてたら避けられないことですから
今のところ作者は本編書いてて辛いなんて感じることはないので、読者の皆さんは心配しなくてダイジョーブです
この作者の臭さに嫌気さしてる人はとっくに読むのやめてると思ってた
短レス+自分語りの投稿は今に始まったことじゃないし
俺ガイルss書いてるけど自分の黒歴史晒さずに書けてるんですが
>>395
黒歴史晒すことになるのは、八幡視点で書いた時だけだったね
一括りにしてすいませんでした
小町「というかお兄ちゃん。最近帰りが遅いなーって思ってたら部活に入ってたんだね。小町は何も聞いてないんだけど……?」
小町は真正面から俺の顔を見上げ、威圧する。
三つ目の話題は俺の人間関係、並びに部活動についてというところか。俺は既に前二つの話題を忘れちまったよ…………。なんて、ハードボイルドに現実逃避をする。
現実逃避をするのは、俺の現状を小町に説明すれば面倒なことになるのが分かっているからだ。それもとてつもなく。
奉仕部の活動内容とか、俺が入った経緯とか、雪ノ下と由比ヶ浜の出会いとか、説明事項が多い上に一つ一つがややこしい。そしてどの事項をとっても俺がまともな行動をしていない。
突っ込みどころが満載だということは、その度に補足説明と言い訳が必要だということ。――つまり労力がかかるということ。
じゃあもういつも通り――――――俺に降りかかる被害を減らすために、事実を捻じ曲げるしかないじゃないか。
それでも面倒くさい。事実を曲げれば雪ノ下が突っかかってくることは分かっている。けれどこれが俺の得意なことで、唯一俺が思いつく対処策なのだから。
一般的で普通でまともな策は――実行に移せない。捻くれ過ぎて八方塞がりに陥るのが――――――俺のような、『人生を間違っている者』の末路なんだろう。
八幡「正式には俺、その部活に入ってないぞ」
結衣「はぁ!?」
雪乃「はぁ!?」
わーお。雪ノ下が瞠目する姿を初めて見た。
八幡「俺が通ってるのは言うなればボランティア部みたいなところでな。顧問の先生にペナルティとしてその部の活動を手伝わされてるんだ」
小町「本当なんですか?」
雪乃「……いいえ。似通っているようで、事実とかなりかけ離れたことを言っているわ」
八幡「そうだったか? 俺の生活態度が悪いから、考えが直るまで続けるって話だっただろ」
雪乃「(そうやって事実と寄り合わせていくのね…………。順序立てて否定しにくいことを並べていくことで、最初に言った間違いを正しいことだと認識させる。もはや悪魔的な手法ね)」
雪ノ下にかかれば、俺のちぐはぐな発言なんて一つ一つ正していけるはずだ。しかし全てを正すことはできない。先入観や類義語のせいでどうしてもズレが残ってしまう。
少しのズレさえ残れば俺にとって十分である。それだけで数割の労力が削減される。
さらに――――説明する人間を雪ノ下にすり替えることに成功している。本来俺が負うべき労力は、この時点でほぼ消失しているのだ。
この恐ろしく自然な手際、冨樫ワールドの住人でなきゃ見逃しちゃうね。
雪乃「彼の言うことを真に受けては駄目よ。実際には――何事にも無気力、無関心であろうとする彼の価値観を変えるため、私が部長をしている奉仕部で活動させられているの」
小町「奉仕部……? 奉仕ってどんな意味ですか?」
雪乃「報酬、見返りを求めない労働のことよ。サービスの日本語訳ね」
小町「へぇ~。でもボランティアにしろサービスにしろ、お兄ちゃんがそういうことをする姿って想像つかないですね」
雪乃「ええそうよ。彼はいつも理屈をこねて反抗して、私の邪魔ばかりするの」
小町「お兄ちゃん! 雪ノ下さんの邪魔ばかりしてるって本当!?」
はあ、と俺はうんざりした風にため息をついた。実態を知らない奴らは憐れでしかないな。その実態を語っていない俺が言えることではないが。
俺は邪魔などしていない。むしろ裏で雪ノ下のフォローをしている。しかしそれを本人に明かすことができない以上、俺が嫌われるのは避けようがない。
元々嫌われて無用の長物として見られるのが目的なのだ。むしろ狙い通りと言える。
――――結局俺は、自分の求めた結果にうんざりしているだけだった。
雪乃「…………どうやら否定できないみたいね。したくないことをさせられているからって、嫌そうな顔をされると真面目に活動をしているこちらのやる気も削がれるの。やる気がないのならせめて邪魔だけはしないで欲しいわ」
言ってろ。なんなら『いっそのこと辞めてくれるかしら?』と罵っ……言ってくれればいいのに。
雪乃「言い訳もないなんて…………。よっぽど腑抜けてるのかしら?」
そう言って雪ノ下は何かを諦めたように俺を一瞥し――、視線を小町に戻してからは俺のことを話題にしなくなった。
今回はここまで
第四章の終わりが見えない。ヒロイン三人揃った途端、セリフの量が倍増しているような気がします
執筆ペースは上がってるのにそれ以上に内容が膨れ上がってます。まあ、その分ヒロインたちのシーンが増えているので喜びましょう
というか最初期から比べて描写の濃さも段違いですね!
『 「~~」ボソボソ 』みたいなの書く必要なくなってますもん
会話に入れなくなった俺は小町と雪ノ下から意識を外す。由比ヶ浜は俺の方を訝しそうに見ていたかと思えば、雪ノ下の会話に合いの手を入れたりと忙しそうだ。
ふと、俺は由比ヶ浜が連れている犬がこちらを見ていることに気づいた。塗れた黒曜石のような透き通った瞳。短い四足をせわしなく動かしながら俺を見つめる視線は動かない。
人の感情も分からない俺に、動物の感情が分かるはずもない。………………とでも思ったか?
動物の感情なんて『快』か『不快』、もしくは『好奇心』か『嫌悪』くらいしかないんだよ。他にあるとすれば『空腹』『苦痛』『退屈』か。
覚えていないがこいつが俺の助けた犬なのだとして、恐らくこの犬は俺に好意を抱いているのだろう。
しかし犬だろうと動物だろうと人間だろうと、自分に向かう好意に喜ぶほど俺は安くない。
もし俺が折れるとしたら――、と俺はあるものに目を引かれる。
結衣「あ。小町ちゃんゆきのん、クレープあるよ。記念に買って食べようよ」
雪乃「何の記念なのかしら」
小町「まあまあ何でもいいじゃないですか、友達になった記念でも。お兄ちゃんも食べる?」
八幡「チョコバナナ一択」
結衣「あぁ…………ヒッキーも食べるんだ」
雪乃「そういえば比企谷くんって甘党よね。手をつけてるものが甘いものばかりだし、欲しいものがコンビニスイーツとか言ってしまうくらいだし」
ちょうど今欲しがってたものを買ってくれたりすれば、簡単に折れるんだけどな。
当然のように、クレープは俺の奢りでした。女性店員は女三人に付き添う俺を財布役なんだと同情したかと思えば、真っ先に「カスタードチョコバナナ一つ」と頼まれてまさか男が!? と驚いたり、結構見物だった。
全員分の注文を終え、俺が金を払い、その間の周囲の視線はこんな奇特な男を引き連れる女子三人に向いている。俺がぱっとしないのもあり、どうやら周りの人から見たらこの三人は『遊んでいる』ように見えるらしい。
雪ノ下さんビッチの括りに入れられてますよ。やだー(笑)。…………そんなギラついた目で睨まないでくださいすいませんでした。
先に俺と由比ヶ浜の分のクレープが完成し、店舗から離れた柱に背もたれ、並んで食べる。後になった二人は店先近くで待機している。
また由比ヶ浜のミニチュアダックスが俺のことを見上げている。と思えば今度は俺の足に飛び掛り、鼻をフンフンと鳴らす。
結衣「あはは。ヒッキーに懐いてるんだね」
八幡「クレープ欲しがってんじゃなくて?」
結衣「それもあると思うけど……。――――ううん、やっぱりサブレはヒッキーに懐いているんだよ」
あ、サブレは犬の名前ね。と由比ヶ浜は言う。
この犬に興味はないが、一応名前を頭を片隅に置きながらクレープを口に運ぶ。サブレという名前が甘くない印象だから、若干クレープの甘味も薄らいで感じてしまった。
いい加減抱きついてくる犬ッコロがうざいので、適当に相手をしてやろう。
クレープを持つ反対の手で犬の首や耳の裏を撫でる。動物は自分で掻けない部分の感覚が鋭敏になるらしい。犬猫が首周辺、耳裏を撫でられると気持ちよがったり、人間が背中をつつかれ身を捻ったりするのは同じ生理反応なのだ。
指が犬の体を引っ掻く度、犬は目を細めて体を捩じらせる。しばらくしゃがんで犬の相手をしていると、由比ヶ浜もしゃがんで犬の胴を撫で出した。
温かみを感じさせる指やスカートからはみ出る太ももが目に入る。思わず唾を飲み込んだことも生理反応なんだろうか。
俺は努めて冷静に犬を撫で回す。顔も動かさず、目線を揺らさず、犬と目を合わそうとせず、由比ヶ浜を見ようともせず…………。
だから俺は、由比ヶ浜がどんな顔をしてそのことを言ったのか知ることはできなかった。
結衣「ヒッキーはさ――――ゆきのんには自分のことを話すのに、小町ちゃんには何も話さないよね」
一瞬。由比ヶ浜に言われたことに動揺して、犬を撫でる手が止まった。指と頭の意識を切り離し、なんとか犬を撫でる指を動かした。
由比ヶ浜に核心を突かれた。――――数秒前まで疲れを見せていた俺の顔に、鋭い生気が宿る。頭の中で血と電流が巡り出す。これから始まる由比ヶ浜の発言を一つたりとも聞き逃さないために。
八幡「……………………そうか?」
由比ヶ浜の追及から…………“全力をもってして”逃れなければならない。
ここまで
さてさてシリアスムード。書いてみて分かるガハマちゃんの良さ
本編でも八幡は人に深く踏み込みませんから、地雷発見器があると便利ですよね
今作品だと、ここの八幡の地雷を発掘してくれます
うん、あのさ、色々あとがきとして言いたいことがあるのはわかるんだけどさ
毎回毎回そうだと痛々しいだけだから、たまには今日はここまでとかだけにしてフェードアウトした方がいいよ
>>414
作者もそう書くきっかけを求めてました。あなたのおかげで切り替えられそうです
>>394みたいな、一見否定しているようで肯定しているように取れる意見だと反映しにくいです
意見があるなら明言してください。批判は受け付けます
作品外であれば大抵のことは聞き入れますし、場合によっては振ってくれたネタも拾いますよ
次回から後書きは省略し、「ここまで」レスだけで済まそうかと思います
さすがに章終わりとかに後書き書くくらいは許してください
結衣「うん……、そうだよ。さっきヒッキーがゆきのんと話してた時、実はあたし聞こえてたの。…………でもね、聞こえてきた話をあたしは理解できなかった」
俺は今、どんな貌をしているのだろうか。少なくとも正面を向いて見せられた表情じゃないことは分かる。だから俺は顔を上げることができない。
結衣「ゆきのんには理解できたんだよね? あたしには理解できなかった……。ううん――――理解したくなかったっていうのが正しいのかな? 多分……小町ちゃんも分からないと思う」
八幡「何を言ったか思い出せないんだが。思いついたことをそのまま言っただけだし、大したこと言ってなかったんじゃないのか?」
結衣「『透明になりたい』って言ってたと思うよ。ホント意味分かんない。どんな意味なの?」
八幡「さあな――――――――」
由比ヶ浜は分かりやすい――――そう俺は思った。
これから由比ヶ浜が何を話そうとしているのか、何を話したいのか、俺は手に取るように分かった。
分かったところでどうしようもないが。………………俺に由比ヶ浜を止めたいという意思はない。
結衣「ヒッキー」
名前を呼ばれて………………それより次の言葉は告げられない。仕方なしに、俺は顔を上げ由比ヶ浜を見返した。
由比ヶ浜は――――ただ、見ていた。
無表情で――――体の中に激情を秘めながら。彼女の大きく綺麗な瞳に俺を映している。
ヒン、ヒン、ヒン、と犬が喉を鳴らしている。この犬は――サブレは――誰の怯えを、悲しみを、代わりに背負ってくれているのか。
事ここに至っても俺は…………由比ヶ浜から言い逃れることしか考えられなかった。
結衣「入学式のこと、覚えてる?」
――――心の奥底に触れる一言を、由比ヶ浜は口にした。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
あの日――――入学式の朝に。
横断歩道で待っている時、飛び出した犬とそれを追った女の子が車に撥ねられるのを目撃した。
すぐ目の前で起きた事件に体は動かない。でも俺にとってそれは、目の前の出来事に動じないのはいつものことであって。むしろ珍しい場面に出会えたとその光景を脳に刻み込んでいた。
つんざくブレーキ音は衝突音を塗り潰し、吹き飛んだ犬と女の子はアスファルトの上を何回転も転がる。運転手は何かを叫びながら(恐らく女の子を轢いたことを嘆きながら)車から出てくる。
さすがに一年も前のことなので、誰がどんな顔だったのかも犬がどんな色や種類だったのかも思い出せない。
覚えているのは…………あの時俺は何を思い、何を為したのか。
俺は轢かれた女の子を助けたくないと思った。恩を感じたくなかった。今も昔も変わらず俺は感情を向けられることが嫌だった。
立ち上がることのできない女の子。死に体の犬。被害の大きさに比例する恩義の大きさを感じ、俺は怖気づいた。
しかしこのまま彼女らを見捨てて入学式に行くのも後味が悪い。けれど周りには当事者以外に俺しかいない。
女の子を助けたくない、いや助けなければならない。責任感のジレンマに陥った当時の俺は――――――とんでもない行為に走る。
自転車を道路脇にとめ、携帯を取り出す。119番を押しながら転がった先にいる彼女らに駆け寄る。
ただし――――俺が駆け寄ったのは、女の子ではなく犬の方だった。
道に倒れ伏すミニチュアダックスフントの息があることを確認し、繋がった電話に向かって俺は言う。
八幡「もしもし。交通事故で犬が轢かれました。動物病院の救急車って119番で呼べますか?」
入学式。俺は車に轢かれた女の子を見捨て、死にそうな犬を助けた。
これが――――俺がひた隠しにしている“真実”である。
ここまでです
今後ともよろしくお願いします
次回投下分、八幡のキャラ崩壊注意
あとこの辺りから八幡の異常さを明るみにしていくので、受け付けられない人はブラウザバック
それと次回投下は明日予定
電話の向こうの指示に従い、近くにあった自動販売機で住所を伝えた。自動販売機に住所が書かれていることをその時知った。
犬が轢かれたことの説明が終わったという確信を感じてからようやく、飼い主も轢かれていることを伝えた。
応対している人に薄情だと思われただろうか。それともパニックになって説明下手になっただけかと思われたか。少なくとも追加の救急車が必要か聞かれただけで、咎められた記憶はない。
倒れている犬と女の子のことは運転手に任せ、両方の救急車を呼ぶ仕事をこなして責任感から解放される。俺は悠々と自転車に乗って高校への道を走り出した。
元々このような不幸なトラブルが起きても間に合うように、早くから家を出ていた。入学式に遅刻するなんてことになるはずもなく。
俺は無事入学式に出席した。犬が助かることを願いながら。轢かれた女の子の入学式が事故の前であることを祈りながら――――
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
結果的に犬と由比ヶ浜両方助かっていて、その時取った対応が最善だったと言われたとしても……、俺は自分の考えが間違っているとしか思えない。
周りから見れば結局、飼い主も助かってるじゃんと言われてしまうけれど。当時の俺は誰かと接点を結ぶことを怖がっていた。
だから俺は他人との接点を限りなく薄めるために、人間を後回しにしたという名分が欲しかった。その名分さえあれば安心できた。そのためなら傷ついた動物さえ利用できた。
それに、たとえ真実を告げても相手が傷つくことが分かっている。そしてこれまでもこれからも俺はこんなやり方しか取れないんだろう。だから俺はあらゆる他人を遠ざけることにした。
なのに……そんな俺の思いをわずかにでも察していながら…………なお俺に踏み込もうとする由比ヶ浜を、
――――――俺は許せなかった。
パチン――――と、しゃぼん玉が割れたような音が体の中で響いた。
それは堪忍袋の緒が切れる音。そして心のスイッチの切り替わる音だ。
怒りやストレスは一瞬で閾値を超え、抑えきれない感情は切り離される。
そこには人でなく、機械でもなく――――まるで『人に牙を剥く獣』と呼ぶべきものがあった。
…………比企谷八幡は柄でもなく、少しキレてしまった。
八幡「…………なんのことだ?」
この女、触れられたくないことに触れやがった。
ったく、腹立つ。何が腹立つって……、コイツ俺が答えないのを分かっていながら、それでも聞いてきたことがだ。
しかも…………この話題を小町がいる時に持ち出したから尚のこと許せない。小町に今の会話を聞かれでもしたら………………そして俺が交通事故のことを覚えていて詳細を小町に聞かれたら………………どうなっていたと思う!?
間違いなく小町は俺にコイツと仲良くするよう言ってくるだろう。
つまりこの女は俺からの恩に付け込み、小町を利用し、 俺 と 仲 良 く な ろ う と し た 。
そんな所業を許せるだろうか。いや…………許せるはずがない。何よりも許せないのが…………俺の善意を、心を踏みにじったことだ。
だから俺は――――由比ヶ浜の問いを踏み倒す。
結衣「ホントに……、覚えてないの……?」
八幡「なあ、由比ヶ浜」
俺は笑った。口の端を吊り上げ、犬歯を見せつけるように笑う。
目に狂気と怒りを滲ませながら。
笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である――――というのは誰のセリフだっただろうか。
八幡「入学式って言ったら一年前のことだろ。そんな大昔のことなんて覚えてなくてもおかしくないよな?」
由比ヶ浜は体を大きく震わせ、魂が抜け落ちたような顔をした後うつむいて――もう話しかけてくることはなかった。
ここまで
八幡は「少し」怒っただけなので、次回にはキャラは戻ります
もう一回言いますけれど、受け付けられない人はブラウザバックしてください
え、もしかして動物の救急車ってほとんど実施されてないんですか!?
でもこの展開は割と初期から考えてたので、今更訂正できそうにないし…………
かといって新しい展開が思いついても、書き直すのは滑稽なのでこのまま進むしかありません
にわか知識で混乱させてすいませんでした
なんでそんな救急車があると今の今まで思い込んでいたのかがまったく想像できないんだ・・・
>>464
ドクタードリトルで虎を救急車に乗せるシーンがあった
パチン――――と再び鳴って冷静な思考が、いつもの比企谷八幡が戻ってくる。俺の怒りは基本、十数秒しかもたない。
由比ヶ浜から顔をそむけ、甘いクレープを口一杯に頬張る。クレープの甘さが頭に残った熱を和らげる。熱が完全に消えるまであと数分といったところか。それでも十分に早いと自負する。
けれど怒りによるストレスは、しっかりと俺の心に残る。
俺は感情を上手く発露できない。発散できない感情は何よりも人を苦しめることを、フィクションやテレビ番組などの製作物を通して痛いほど理解させられている。だから俺は人一倍、ストレスになり得る感情が湧くことに対し敏感になっている。
俺が無感情であることを邪魔する事象はどんなものであろうと排除する。そこには躊躇や容赦といった甘さは持ち込ませない。
犬が俺の手元から離れる。ちらりと見ると、飼い主を慰めるように膝元に歩み寄って、クレープを持っていない方の手を舐めている。
慰められているということは、由比ヶ浜が悲しんでいるということなのだろうか?
もしそうなら、悲しませた立場として申し訳思う。
悲しませると分かっていても行動は変わらなかったと思うが。
小町「お待たせ~~。……あれ? 何かあった?」
八幡「いや何も」
雪乃「由比ヶ浜さん、どうしたの? 顔色が悪いわよ」
結衣「うん……。ちょっと気分悪いっていうか――――疲れたの」
雪乃「そんな急に――――比企谷くん、由比ヶ浜さんに何か良からぬことを言ったんじゃないの?」
八幡「何も言ってねえよ。それに……、俺は何もしていない。犬を可愛がっただけさ」
遠回しに、これでもかというほど皮肉が込めながら俺は実際にあったことを言った。当然、何を言っているのか由比ヶ浜にしか伝わらなかった。
由比ヶ浜が疲弊した理由は、俺と小町が出会う前にはしゃぎ過ぎたということになった。
どうやらメッセージも伝わっているし、今のところは秘密にしておいてくれるらしい。俺のことを怖がってくれているなら何よりだ。
もちろんこの先ずっと隠しきれるとは思っていない。今でも雪ノ下は俺が由比ヶ浜に何かしたんだと決めかかってくる。
俺は俺でそもそも由比ヶ浜が気分を悪くしていたのに気づかなかった、と言い返す。さすがにその態度は許せなかったのか、雪ノ下は怒りを露わに俺に怒鳴りかかろうとした。
雪乃「そう……。反省の余地なしと言ったところね――!」
結衣「やめて。ゆきのん」
由比ヶ浜が雪ノ下の袖を引っ張り、雪ノ下の声を詰まらせた。
雪乃「っ!? 由比ヶ浜さん…………!?」
結衣「ごめんね小町ちゃん。あたしたち先に帰るね。また今度、サブレのいない時に遊ぼっか」
雪乃「でも、彼が悪いのは分かりきっている。なら――」
結衣「ゆきのんと二人で話したいことがあるから」
雪乃「………………分かったわ。由比ヶ浜さん」
ただならぬ雰囲気の由比ヶ浜に、雪ノ下は俺への断罪より由比ヶ浜のフォローを優先させることにしたらしい。
雪ノ下は殺気を込めて俺を睨んだ後、小町に別れの言葉をかけ、由比ヶ浜を連れてどこかへと歩いていった。
小町「お兄ちゃん………………!」
そしてただならぬ雰囲気の奴がここにも一人。とりあえず落ち着け。誤解だ。俺は悪くない。
やってしまったことはもう取り返しがつかないので、とにかく今はこの作品を完結させることだけ考えます
だから皆さんも救急車のことについて過剰に掘り返さないようお願いします
小町「お兄ちゃん、また?」
八幡「またって、何をだ?」
小町「いつもみたいに、お兄ちゃんが結衣さんの期待に答えようとしなかったんでしょ。結衣さん見るからにデリケートそうだったもん。お兄ちゃんと仲良くしたいって思ってたのに、またお兄ちゃんはその関係を壊そうとしたんだよね?」
違う? と小町は俺に問うてくる。俺は沈黙で答えた。
違わないな、何一つ。
人間関係の構築に対し価値を見出さない俺であるが、それらの都合を気に留めず俺と仲良くしようとする人間がたまにいる。どんな相手とでも仲良くなりたい、そんな理想を掲げているのだろう。小学校でも中学校でも、由比ヶ浜のように俺に過干渉してくる奴がいたのだ。
そんな心優しき人々に――きっと世界中の人間が由比ヶ浜みたいだったなら世界は平和になるんだろう――俺が取った最終的な措置は………………完全な拒絶、『絶交』だった。
『もうお前とは顔を合わせたくない』『話をするのも嫌だ』というメッセージを、よりにもよって仲良くなろうと接してくる相手に告げる。差し出された手を力一杯はたき返すようなもの。少年漫画でよく見るシーンでも、現実でのそれは今後二度と関係の復活が見込めなくなる第一級のタブーと言っていい。
相手はどうして自分が嫌われたのか分からない。『自分と仲良くなろうとした』なんて理由で嫌われたなんて想像だにできない。幼い小中学生なら尚のこと想像できなかっただろう。
人一倍優しくても、理不尽な拒絶まで許せるような子供は、俺の知る限りではいなかった。
>>498修正
小町「結衣さんに、何したの……?」
八幡「俺が何かしたって決めるのか」
小町「じゃあ結衣さんが勝手に悲しんだって言うの? それに――家族なんだからお兄ちゃんが何をしたのかくらい分かってる」
分かってるならなぜ聞いた。ああ、自首勧告と反省の色が見えるか確かめたかったからだな。
言葉にするまでもなく、俺は自分が悪いと思ってるぞ。
小町「どうせ、お兄ちゃんが結衣さんの期待に答えようとしなかったんでしょ。結衣さん見るからにデリケートそうだったもん。お兄ちゃんと仲良くしたいって思ってたのに、またお兄ちゃんはその関係を壊そうとしたんだよね?」
違う? と小町は俺に問うてくる。俺は沈黙で答えた。
違わないな、何一つ。
人間関係の構築に対し価値を見出さない俺であるが、それらの都合を気に留めず俺と仲良くしようとする人間がたまにいる。どんな相手とでも仲良くなりたい、そんな理想を掲げているのだろう。小学校でも中学校でも、由比ヶ浜のように俺に過干渉してくる奴がいたのだ。
そんな心優しき人々に――きっと世界中の人間が由比ヶ浜みたいだったなら世界は平和になるんだろう――俺が取った最終的な措置は………………完全な拒絶、『絶交』だった。
『もうお前とは顔を合わせたくない』『話をするのも嫌だ』というメッセージを、よりにもよって仲良くなろうと接してくる相手に告げる。差し出された手を力一杯はたき返すようなもの。少年漫画でよく見るシーンでも、現実でのそれは今後二度と関係の復活が見込めなくなる第一級のタブーと言っていい。
相手はどうして自分が嫌われたのか分からない。『自分と仲良くなろうとした』なんて理由で嫌われたなんて想像だにできない。幼い小中学生なら尚のこと想像できなかっただろう。
人一倍優しくても、理不尽な拒絶まで許せるような子供は、俺の知る限りではいなかった。
…………今は由比ヶ浜は悲しんでいても、きっと後で雪ノ下と同じように怒りの感情が湧き上がってくるはずだ。そしてその怒りはクラス中に、もしかすれば学年全体に伝播し、俺への迫害が始まる。
まあ――もしそうなっても全部俺の自業自得だし、程度の低いイタズラや中傷くらいなら甘んじて受け入れるつもりだった。
仮に俺が耐え切れない程の仕打ちが待っているなら……………………その時はまた“何もかも終わらせればいい”。
小町「分かってる? 結衣さんはお兄ちゃんみたいな人とでも仲良くしてくれる優しい女の子なんだよ。それなのに、お兄ちゃんは結衣さんを突き放した。なんで?」
八幡「…………」
前にもこんなことがあったな。あれは確か……家ぐるみの付き合いがあった近所の同級生の女子。名前は渡辺さんで、小町とも仲が良かった。
高学年になっても男女差を考えず構ってくる渡辺さんに、『親が仲良くするよう言った、っていう理由以外に俺と仲良くする理由がないなら、もう俺に話しかけてくるな』みたいなことを言った気がする。
今思えば……仲良くする理由なんてそれだけで良かっただろうに。俺も若かったということだろうか。
渡辺さんと仲違いした時も小町にこっぴどく怒られた。その時俺はどうしてたっけ?
多分――今と同じことをしたと思う。
八幡「さあな」
どうせ説明しても納得してくれないから、初めから説明なんてしなかった。
小町「さあ、って…………。なんで分からないの! じゃあせめて、結衣さんに何を言ったのかくらい教えて」
八幡「えっと――――入学式に由比ヶ浜を助けたかどうか聞かれて、違うって答えただけだな。それ以外何も話してないぞ」
小町「お兄ちゃん、嘘ついてないよね?」
八幡「ああ」
小町「本当に?」
八幡「ホントホント」
小町「………………はぁ」
俺が何も語らないことが分かったのか、小町は大きく溜め息をついた。
小町「ま、いっか。結衣さんに直接聞けばいいんだし」
八幡「………………」
冷たい目で、小町は俺を睨む。
この件が由比ヶ浜のトラウマになっていると分かっていても、それは止めてやれ、とは言えなかった。
むしろトラウマになっているからこそ、由比ヶ浜も隠してくれる可能性が高くなると思った。
それにさっきまでと違って小町と由比ヶ浜両方に「俺は何も知らない」という意思が通っているから誤魔化しやすいし、何より小町も由比ヶ浜も事実を隠したことに怒りが向かうはずなので、もう俺と由比ヶ浜が仲良くさせられる展開は来ない。
――人間関係の計算ができるようになっていることから見て、どうやら調子は完全に回復したようだ。
小町「覚悟してよ、お兄ちゃん」
八幡「?」
小町「もしお兄ちゃんが嘘ついてることが分かったら…………、タダじゃおかないから。結衣さんに聞かれるのが嫌ならお兄ちゃんから白状してよ」
八幡「あー…………。うん」
それはつまり……由比ヶ浜のトラウマを掘り返されたくなかったら俺の方から自白しろという脅迫でしょうか? いやこの件がトラウマになってる確証がないんだけどそういえば。
意識的か無意識で使っているのか分からないが、なんというか――――その脅しは普段俺が使う手法とよく似ていた。別の人間を利用し相手の取るべき道を限定する。沈黙を選ぼうとした俺に、由比ヶ浜を庇うか庇わないかの選択を押し付ける。
小町「分かったならよしっ。じゃあ帰ろっか、ポイント低いお兄ちゃん」
小町は満足したように微笑む。その笑顔は可愛いと断言できるもの。けれど俺は小町を愛すべき人間だとは思わない。実の兄である俺のことも、自分がやろうとしていることの意味も、あんまり分かってない。
事態の放置をしているという点は、時として害となることもある。
さすが兄妹。俺と似て、お前も相当ポイント低いよ。
ここまでです
不安に思ってる人のために補足します
原作を1巻しか読んでいないというのは投稿当初の話で、口調や設定の確認のために原作をチェックしています
今のところ全部読み通したと言えるのは、1,7,8巻だけですが。他は巻によって読んだ度合いがまちまちです
というかこの作品はアニメ1期までしか時系列が進みませんから、アニメ見てるだけで充分なはずです
* * *
二人から目を離したのは、ほんの二分か三分だけだった。たったそれだけの時間で比企谷くんと由比ヶ浜さんの雰囲気は一変していた。
いつもは感情を表に出さない比企谷くんが貼り付いた笑みを浮かべていた。笑みといっても普通の人のものと比べれば小さなものだが、普段表情がない彼の変化はとても顕著だ。何より彼の笑い方は、能面のように不自然で――見ていて不安になってくる。
由比ヶ浜さんは心ここにあらずといった風に塞ぎこんでいて、作業的にクレープを口に運んでいた。いつもなら甘いクレープの味を心から楽しみ、明るく語ってくれるというのに。今の由比ヶ浜さんには彼女らしさが欠片も見受けられなかった。
何かあったのは一目瞭然。おそらく比企谷くんが何かしたと分かりきっているけれど、とにかく由比ヶ浜さんの様子が深刻で早急に対処しなければならない。
とても呑気にクレープを食べたりららぽーとを歩き回っていられない。私は由比ヶ浜さんから話を聞くために比企谷くんと小町さんと別れることにした。誰の反対もなくそのアイデアは実行される。小町さんも兄に言いたいことがあるようだし、由比ヶ浜さんもこれ以上彼と一緒に居たくはないだろう。
私たちはまるで彼から逃げるように別れていった。
雪乃「大丈夫、由比ヶ浜さん?」
結衣「ああ、うん。…………ゆきのん、あたしは大丈夫だから」
とても大丈夫そうには見えない。笑顔がぎこちなくなっているし、声にも張りがない。返事をしてもすぐ、何かを考え込むように俯く。時折リードを引っ張り、サブレという犬が私や他の人に寄っていかないようにするだけ。
どう見ても由比ヶ浜さんはまともに話ができる状態ではない。
雪乃「……まずはこのクレープを食べてしまいましょう」
結衣「そうだね。――――あそこで座って食べようよ」
ららぽーとでは天井が開けた通路にヤシの木が植えてある。私たちはヤシの木を丸く囲っている黒い台座に腰掛けた。私が右側、由比ヶ浜さんが左側。材質が固いから少し文句を言いたくなる。
私たちは黙々とクレープを食べる。その間ずっと犬が私のことを見ていたけれど、絶対に目を合わせない。クレープなんて甘みの強い食べ物は動物に食べさせてはならない。絶対に分けないから…………もの欲しそうな目を向けるのを止めてくださいませんか?
クレープを食べ終わり、手にクレープの包み紙が残る。私が食べ終わって口を拭き、由比ヶ浜さんは私が一息ついたのを確認する。――――そして由比ヶ浜さんは少しずつ、何があったのかを話し始めた。
結衣「んと。何から話せばいいのかな?」
雪乃「まず、由比ヶ浜さんは比企谷くんとあの時何を話していたのか教えてくれないかしら」
結衣「――ああ。ゆきのんには先に入学式にあったことを説明しないとね」
雪乃「入学式? その日一体何があったの?」
入学式……といえば一年前のこと。そういえば学校に向かう私を乗せた車が交通事故を起こした日でもある。相手は――――高校生で散歩させていた犬を一緒に轢いてしまったらしい。
………………えっ。でも、まさか……!!
相手は高校生としか聞かされていなかった。無駄な混乱を避けるためと相手へのお詫びと見舞いをさせてもらえなかった。詳細が分からず、だからその人が高校二年か三年と思い込んでいた。
しかし四月に入り入学式を待っていた身なら高校生と言ってもおかしくない。…………由比ヶ浜さんがその条件を満たすことを、瞬時に考えついてしまった。
でも、でも…………!! 由比ヶ浜さんは違う人であって欲しい、何もこんな形で出会いたくなかった! 知りたくなかった!!
結衣「入学式の日、あたしとサブレは車に轢かれたの」
――――由比ヶ浜さんの言葉は私の仮説を確証に変えた。
入学式の日、私が乗っていた車が轢いた相手…………それが由比ヶ浜さんだった。
今日はここまで
私は唾を飲み込んだ。脚の上に置いた手に力を込めて、湧き出る罪悪感を必死に堪える。
嫌だという私の思いを、あざ笑うかのように踏みにじられた。覆しようのない過去が私の心を襲う。
心情の変化を由比ヶ浜さんに悟られないように、決して表情に出ないように顔の力を緩める。あれは事故だから、誰も悪くない、と自分に言い聞かせる。
雪乃「………………続けて」
結衣「それで、あたしたちが轢かれた時救急車を呼んでくれた人がいたの。総武高の男子制服を着てたから、ケガが直ったら絶対お礼を言おうって、意識が薄れてたのに必死で顔を覚えた」
それのどこに比企谷くんが関わってくるのかを考えて、彼がその救急車を呼んだ人である可能性があることに気づく。
実は事故の原因が彼だった、とかそんな衝撃の事実を期待していた自分が嫌になる。罪悪感を薄めさせたいからといって、彼が捻くれているからといって、無関係な自分の責任を彼に押し付けたことでまた罪悪感が強まってしまう。
結衣「入院でちょっと間が空いたけど、退院して学校に戻ってからすぐヒッキーの――――ああ、ぶっちゃけ言っちゃうとあたしを助けたのってヒッキーなの」
雪乃「それは話の流れからなんとなく察してはいたわ……」
結衣「あっ、そうなんだ。でね……同学年だし、ヒッキーのことはすぐ見つけられた。でもその時は今より勇気がなくて、他クラスだったし話しかけづらかった」
彼のことだから一年生の時から周囲に拒絶のオーラを発していたでしょう。そう考えると余計由比ヶ浜さんは比企谷くんに話しかけるのが難しかったはず。
結衣「そのまま時間が経って…………二年になって、ヒッキーと同じクラスになった。そこからは今年に入ってからの話だから、前言ったことをなぞるだけかな」
雪乃「そう――――――」
比企谷くんと由比ヶ浜さんの過去を聞き終えて、私の頭を占めた思いはやはり、私が由比ヶ浜さんを轢いた車に乗っていたことを説明すべきかという考察だった。
まだこのことが二人の問題に深く関わっているか分からない。けれど隠し通すことなんてできない。由比ヶ浜さんは私の正直さに憧れている。ならその思いに応えたい。この程度で私と由比ヶ浜さんの友情が壊れることはないはずだ。
そうだ――――比企谷くんの問題なんて軽く解決して、今日由比ヶ浜さんに秘密を明かしてしまおう。
由比ヶ浜さんに塞ぎこんでいる姿は似合わない。比企谷くんの問題も私の秘密も一挙に解決して、元の元気な姿を取り戻して欲しい。
私は雪ノ下雪乃。今までの人生でそうだったように、きっとこの問題を解決できる。
強い目的意識が罪悪感を昇華させる。手を強く握り締めて自分を奮起させる。……包み紙が煩わしいのはこの際仕方がない。
改めて、私は由比ヶ浜さんの目を見る。由比ヶ浜さんの目は不安そうに揺れていた。私は由比ヶ浜さんを安心させようと、彼女の右手の上に左手を優しく乗せる。
雪乃「それじゃあさっきあなたと比企谷くんが二人だけになった時、あなたはその事故のことを比企谷くんに話そうとしたのよね」
結衣「うん、そうだよ………………」
雪乃「比企谷くんがあなたに一体何をしたかを、話してくれないかしら」
手を重ねても由比ヶ浜さんの不安は消えない。彼女の手には。私は自信に満ちた目で由比ヶ浜さんを見つめる。由比ヶ浜さんに本題を話すよう促した。
――――そして私の甘い認識は、それこそ軽く吹き飛ばされた。
仮にも比企谷八幡という男は私が一目置いた存在。私の姉が起こす騒動が厄介であるように、彼が起こした問題が一筋縄で解決するものではないと――――私は考えすらしなかった。
結衣「ヒッキーは……………………」
結衣「ヒッキーはあたしからお礼を言われることを拒絶したの。あたしがヒッキーに助けてもらったこと自体…………始めからなかったことにされた」
――――私は比企谷くんが何をしたのか、どうしてそんなことをしたのかを、本能的に理解してしまった。
けれどなぜ理解できたのか分からなかった。分からないまま…………、私は由比ヶ浜さんに質問を続けた。
調子良かったから連日投稿しました
そしてこれは予想ですが、雪ノ下視点は一万文字超えるかもしれません
一応、雪ノ下視点が終われば第四章が終わります
あのね作者くん
>私は雪ノ下雪乃。今までの人生でそうだったように、きっとこの問題を解決できる。
雪乃って今までの人生において自分で「問題を解決」してきたことってほとんどないんだよ
喧嘩して相手へこましてきたことはあってもさ。飛び飛びでも原作読んでりゃ普通に分かると思うんだが
>>545
チェーンメールや靴隠し等の虐めの対処ができてますし、それに一人暮らしもできているから、ほとんどの問題は自力で解決していると思っていました
原作は八幡が活躍してますから少なく感じるかもしれませんね
それに葉山が雪ノ下の虐めを止められなかったといって、雪ノ下は自分でいじめっ子への制裁はしていたでしょうね
とはいえ手元にアニメも原作もない状態ですので、もしかしたらそういうセリフがあったのに気づかなかったのかもしれません
少なく→そう
雪乃「ど、どういうこと……?」
動揺が声に表れる。声だけではなく、体も震えている気がした。
結衣「あたしもよく分かんない。でもヒッキーがあたしにどうして欲しいのかは痛い程伝わった」
雪乃「お願い由比ヶ浜さん、初めから……一つずつ説明してもらえないかしら!?」
何がどうなっているのか見当がつかない。この私の知能を持ってしても、原因が不明瞭、過程は未知、結果が意味不明な状態で事実を解明できるわけがない。
なら、唯一何も語られていない過程を教えてもらうべきか。それすら理解不能なら――そんなことにならない予感があるけれど――私にもお手上げだ。
それこそ、比企谷くんは私の手に負えないことになる。私が彼に屈服し、依頼が達成できないということになってしまう。
結衣「あ、ごめん。えっと…………最初はヒッキーとゆきのんが話してたことをきいたの。『透明になりたい』ってどんな意味なの、って。――これはあんまり関係ないことだから飛ばすね」
雪乃「ええ」
結衣「それから……、あたしはヒッキーに『ヒッキーは入学式の日、あたしを助けた?』ってきいた。そしたら――――――」
由比ヶ浜さんは私の手を握り返し、大きく深呼吸してから言った。
「『入学式は一年も前のことだから、覚えてない』ってヒッキーは答えたの。――笑っちゃうよね」
そう言う由比ヶ浜さんはもちろん、私も笑えない。
それはあまりにつたない言い訳。明け透けを通り越して、冗談にすらなっていない。三文推理ドラマの小物が使うようなバレバレの言い訳。
なるほど――――彼が事実をなかったことにしたというのはこういうことなのね。
結衣「ヒッキーは何もかも覚えているのに、答えるつもりが全くないからそんなことを言ったんでしょ? あたし、自分はバカだって分かってるけど……これくらいは分かった」
雪乃「そうね…………。でも、誤魔化すにしては言葉選びが杜撰ね。彼らしくもない。どうしてそんな分かりやすい言い方をしたのかしら…………」
結衣「えっ? ゆきのん分かんないの?」
私が比企谷くんの言葉の真意に気づかなかったことに、由比ヶ浜さんは首を傾げた。
雪乃「ええ――。というより由比ヶ浜さんは、彼がそんな言い方をした理由が分かるの?」
結衣「……………………………………………………」
私が質問した途端、由比ヶ浜さんの表情が凍り――――
結衣「…………あはっ」
笑った。
結衣「はははっ。あははははははっ。あははははあはははははははっ」
何が可笑しいのか、由比ヶ浜さんは左手で口元を隠しながら笑う。……けれど、私を握る右手を離さない。包み紙を持った左手は握り拳のように見える。
次第に、由比ヶ浜さんの声音が変化していく。静かに――、厳かに――、消え入るように笑い声が荒れた吐息に変化する。
彼女は嬉しくて、楽しくて、まして哀しくて笑っているわけではなかった。
由比ヶ浜さんの笑顔がなくなるとともに……、細まっていた目が、開いていく。
由比ヶ浜さんは――――怒りながら笑っている。
結衣「ゆきのん…………ホントに分からないの?」
私に向けて可愛く微笑みかけてくる。しかし由比ヶ浜さんの右手が私の手を強く握り、爪が食い込んでいた。その痛みに私は顔を歪ませる。
由比ヶ浜さんの急激な変化に、私は激しく動揺した。
雪乃「あ……。そ、そうよ、分からないの」
本当のことを言ったはずなのに――――なぜだか私は嘘をついたような気分になった。
ここまで
雪ノ下のキャラはわざとブレさせていますので、気持ち悪いと感じられるかもしれません
ガハマちゃんが笑っているのは、雪ノ下のあまりのブレ具合を感じ取っているからです
結衣「ふうん――――。ゆきのん、あたし最初に言ったよね。『ヒッキーはあたしからお礼を言われることを拒絶した』って」
私は頷く。数分前のことだから一言一句一音まで覚えていると言っていい。
結衣「じゃあ、どうしてヒッキーは私からのお礼を拒むの? 一体どんな理由があればお礼を言われたくないって思うの?」
雪乃「………………」
私は考える。彼の抱く、感謝の言葉を言われたくないという気持ちを……『私は理解できる』。
でもそれは……言われた言葉が『お礼』ではなく『定型文』か『嫌味』だったから。小学生の頃、クラスメイトに分からないところがあるから教えて欲しいとせがまれ、解き方を教えて「ありがとう」と言われた。けれどその子は自分の友達のところに戻ると「答えを教えてくれなかった」とぼやいた。
あの「ありがとう」は間違いなく感謝などではない。比企谷くんも私と同じような経験を…………いや、このような扱いは誰しも経験したことがあるはず。
――けれど由比ヶ浜さんが言おうとしていたのは純粋な感謝のはずだ。彼がそれを察知できないはずがない。それを察して尚彼が由比ヶ浜さんの感謝を拒絶するとすれば――――
雪乃「彼のことだから、感謝の言葉を言われることそのものが嫌だったとか……そんなところね」
とはいえ感謝の言葉を言われたくないというのはあくまで理由の一つだ。他にも彼が事実をなかったことにしようとした理由はあると思う。
思案を続ける私と対照的に、由比ヶ浜さんは納得したように頷いた。
結衣「ぅん…………」
す――――と私の手を握っていた由比ヶ浜さんの右手が離れた。離れていく手を私は呆然と見ている。
離してはいけない、掴み返さないといけないという思考が頭をよぎる。けれど私の手も体も動かない。
自然な体勢に戻ると、さっきまでより由比ヶ浜さんとの距離が空いていた。その僅かな距離が由比ヶ浜さんの心の隔たりを表しているのか。
私は目の前に、透明な壁があるような錯覚に襲われる。
雪乃「由比ヶ浜さ、ん……?」
思わず由比ヶ浜さんの名前を呼ぶ。けれど離れてしまった由比ヶ浜さんの心に私の言葉は届かない。私を見る由比ヶ浜さんの目はとても、冷たい。
さっきまで見せていた火のようなどこに消えて――――否、消えてなんかいなかった。
いつしか由比ヶ浜さんの怒りの矛先が変わっているのに、私がそれに気付いていないだけ。怒りは今も燃え盛って…………むしろより大きくなっている。
結衣「ほらやっぱり、ゆきのんはヒッキー…………ううん、“比企谷くん”のことを分かってるよ。あたしなんかよりずっと」
由比ヶ浜さんは比企谷くんの呼び名を改めた。私に対し、比企谷くんへの嫌悪を明確に伝えたいがために。
雪乃「あの、急に一体どうしたの? 私が何か気に触ることを――」
結衣「もういいよ、いい加減にして」
ついに由比ヶ浜さんは私の言葉を遮った。
結衣「分かってるくせに、分かってない振りをするのはもうやめてよ」
分かっていない振り? 私は比企谷くんのことを理解している?
雪乃「そんなこと――あるはずないわ」
結衣「そうだよね。うん、そうだよね」
そう、そう、そうだよ、と由比ヶ浜さんは言い含めるように言葉を繰り返す。行き先の分からない怒りを振りまく姿はまるで爆発寸前のダイナマイト。近くにいる人は皆、不安で彼女から目を逸らしている。
こうして由比ヶ浜さんが怒りを顕わにしているのなら、私は私が思っている以上に比企谷くんを理解できていることになる。
あと少し、きっともう少しで私は何を理解していて、何を理解できていないのかが分かる予感がある。それさえ分かれば私は由比ヶ浜さんの怒りを解消できるはず。
これ以上由比ヶ浜さんを怒らせたくない。それでも――――あなたが何に怒っているのか私に聞かせて欲しい。
結衣「じゃあゆきのん、『透明になる』ってどういうことなの?」
雪乃「え……? えっと、それは比企谷くんの言った意味かしら? ならそれは…………、『他人から興味も関心も感情も抱かれない、そこにいない透明人間のように扱われる』――そんな意味よ」
結衣「そっか――――――――」
聞かれた意味を答えた。
すると彼女は顔を上げて…………、歯が見えるくらい大きく口を開けて、吠えた。
感情を爆発させるように、啼いた。
「あたしはそんな風になりたがる人のことなんか、ぜんっぜん分かんないっ!!!」
――――私はようやく悟った。
由比ヶ浜さんは私と比べられないくらいずっと、彼を理解できないことを。それこそ海溝よりも遠く、深く、果てしなく……彼と彼女はかけ離れていることを。
そして由比ヶ浜さんが彼が分からないと言ってようやく――――少しでも彼のことが理解できていることに気付く。
彼と同じ視点に立って考えてしまうこと。孤独になりたいという気持ちに共感してしまうこと。何より、『他人のことを蔑ろにしていい』という考えがあったことに気付いた。
他人と比べてずっと、私は彼と近かったことを悟った。だから同じように――――
雪ノ下雪乃は由比ヶ浜結衣と相容れないと、痛感してしまった。
気持ち多めに投下しました
次回も文字数増やして投下したいので、期間空くかもしれません
>行き先の分からない怒りを振りまく姿はまるで爆発寸前のダイナマイト
あれ?爆発してない?寸前って言ってるけどこれ爆発してない?
>>587
じゃあダイナマイトから煙を噴き出す火山に変えた方がいいでしょうか?
読んでて面白いと思ってもらえるように書いてるので、笑われてもいいと思ってます
つまらないと言われるより数段マシ
それと明日投下します。第四章完結予定。
――“違う、私は彼とは違う、由比ヶ浜さんと友達でいたい”
数日前の謎の声が、また聞こえた。以前よりはっきりと聞き取れる。
誰に言われなくても、『自分』に言われなくても分かっている。…………でももう、何もかも遅かった。
結衣「興味も感情も向けられない、それって何? 置物みたいに扱われたいの? あたしは嫌だよそんなの。人として扱って欲しくないの? 話しかけて欲しくないならそう言えばいいのに、意味分かんない! クラスメイトなんだからさ、仲良くしたいって思って何が悪いの? お礼を伝えることの何が悪いわけ!? 悪いのはヒッキーの方、おかしいのは比企谷くんの方。ねえ、なんで? なんで、なんで――――――ゆきのんは比企谷くんの考えが理解できてるの? どうして『透明になりたい』ってことが分かるの?」
雪乃「………………」
由比ヶ浜さんの気持ちが痛い程伝わってくる。比企谷くんへの嫌悪だけではない。由比ヶ浜さんは私に敵意を向けていた。
当然だと思う。由比ヶ浜さんからすれば、私は彼と同じ考えを持つ異常者にしか見えない。
そして…………私はそのことを否定できない。
雪乃「…………ごめんなさい」
結衣「謝らないでっ。ゆきのんは悪くないのに」
ええ。悪いのは全部彼よ。でも、今由比ヶ浜さんを悲しませているのは誰? 彼は由比ヶ浜さんを悩ませただけ。由比ヶ浜さんが彼のことを理解できない、というだけでここまでの事態にならない。
全てのきっかけは――由比ヶ浜さんの悩みに答えられず、無意識に彼の擁護を行い、今なお彼のことを否定できない、
弱い私のせいだ。
結衣「ねえ……ゆきのん、訊いていい…………?」
雪乃「何かしら……」
頭を抱えた私に、由比ヶ浜さんはトドメを刺した。
結衣「比企谷くんは――私のことを覚えていたのに、私のクッキーを馬鹿にしてたのかな?」
答えはすぐ頭に浮かんだ。比企谷くんは――覚えていてもいなくても同じことができる。感情を無視して、正論を言うことができる。
彼が語った内容は、クッキーを受け取る相手が誰であろうが関係なく、由比ヶ浜さんと彼女のクッキーを受け取る相手を気遣ってのものだった。
ただその言葉は由比ヶ浜さんの意志と感情を否定するものだった。だから私はあの時怒った。直前の発言で彼を見直しかけていたのに、私の期待は裏切られた。
でもそれは、感情を排せば彼の言うことは正しかったということになる。
雪乃「――――それは」
その時私は、比企谷くんが思いやりのない人間だと思い知った。だから約束の話を持ち出した時――『私の感情』は彼に願いを叶えてもらうことを拒否した。
彼は敗北感も負い目も抱かず、私の願いを叶えるに当たって『約束だったから』以外の理由が“ありえない”のを確信していたから。
比企谷くんは私たちの期待に応えることはない。きっと彼が改善することはない。それが分かっていたから、その後の由比ヶ浜さんの言葉を『私の感情』は肯定した。
私は初めから……何もかも理解していたというのに、そのことに気付かないで由比ヶ浜さんを苦しめた。
この質問の意図は――確認。
由比ヶ浜さんは比企谷くんの考えを受け付けない。そして友達である私が彼の考えに同調することを許せないから、私に彼の存在を否定するよう確認を取っている。
由比ヶ浜さんと同じように――――『分からない』と答えることを求められている。
雪乃「……………………」
口に出すことが躊躇われた。なぜならその言葉は嘘だから。
感情は彼のことを否定している。けれど私の理性は――本心は、彼の論理を肯定していた。
それでも由比ヶ浜さんのことを思えば、ここは嘘をつくべきなんだと思う。それが当たり前の対応。友達相手の普通の会話。何も間違っていない。
なら、どうして私は躊躇っているのだろう。
結衣「ゆきのん」
雪乃「……? 由比ヶ浜さん?」
頭に被せていた手を外し、声のかけられた方に顔を向ける。由比ヶ浜さんと目が合う。
結衣「あたし、ゆきのんのこと信じてるから――――」
澄んだ瞳が私の心を捕う。
先程まであった彼女の怒りは消え失せていて、私への信心だけが伝わってくる。
由比ヶ浜さんは私のことを思って比企谷くんを突き放して欲しいと願っていた。この世の誰よりも――私以上に――雪ノ下雪乃のことを信頼してくれている。
私を心配しているからこそ怒りさえ忘れて、由比ヶ浜さんは私に頼み込んでいる。
ああ、なんて、彼女は優しいんだろう――。あんな男に惑っている私にすら優しさを向けてくれる。
この世のどんな美麗な景色よりも素晴らしく、美しく、尊い心を彼女は持っている。
私は由比ヶ浜さんと友達になれて本当に良かった。もしここに由比ヶ浜さんがいなかったら、私はどうなっていたのか分からない。彼の危うさに気付かず、取り返しのつかない失敗を冒していたかもしれない。
だからこそ――――私は由比ヶ浜さんに相対する。
決心はついた。私はもう迷わない。
雪乃「由比ヶ浜さん。私は…………、比企谷くんのことが理解できる」
私は、かつて由比ヶ浜さんが憧れた雪ノ下雪乃(私)でいようと思う。
誰に対しても言葉を選ばない正直な自分の姿を、再び彼女の前に晒す。
雪乃「普通の人が彼を理解することは難しい。いえ、無理かもしれないわ。それくらいに彼は歪。比企谷八幡は――由比ヶ浜さんに由比ヶ浜さん自身が満足できるクッキーを作らせるために、自分への恩を仇で返せる人なのよ」
一瞬由比ヶ浜さんの顔に悲しみの色が映る。けれどすぐ納得したように笑って、その色は無くなった。
せっかく友達になれたのに一ヶ月も経たず仲違いすることになって。私も胸が引き裂かれるように悲しい。
でもこれでいい。お互いに嘘をついてまで、私たちは友達でいたいと思わない。
雪乃「比企谷くんのことを理解できる私は……彼と同じように歪かもしれない。でもそれは――彼のことを理解できる私なら、彼を更生できるということ。きっと、当たり前に生きている人は彼に共感できないと思う。だからこそ私が彼と向き合わないといけない、これ以上彼に傷つけられる人を増やさないために。…………私のことを捨て置いてでも、彼は対処されなければならない」
――――だから、私たちはこれ以上一緒にいられない。
結衣「………………そっか。頑張ってね」
雪乃「ええ、言われるまでもなく」
たった一言の激励が、何より嬉しかった。
これからのことを考えると沈んだ表情にならざるを得ない。けれど何があっても大丈夫だと思ってしまう。
私はこんなに恥ずかしいことを考える人間だっただろうか? ――――いや、今更気にすまい。
雪乃「必ず彼を更生させてみせるわ。さようなら。由比ヶ浜さん」
結衣「分かった。じゃあ………………、またね。ゆきのん」
どちらともなく立ち上がり、別れの挨拶を交わす。
由比ヶ浜さんは短く手を振る。それを見続けていると由比ヶ浜さんが訝しそうになったので、彼女の言わんとすることを察し、私も慣れない手つきで手を振り返した。
別れた私たちは背中合わせの方向に進む。いつかまた彼女と並んで歩く日が来ることを信じて。
――“それでも、私と由比ヶ浜さんは友達のままか確認しておきたかった”
不安を示す心の声に、私は自嘲の笑みを浮かべた。そんなことを訊かなくても、私たちは通じ合っているというのに。
後ろで犬がワンと吠えて、私は後ろを振り向いた。
すると由比ヶ浜さんが私の方を見る。
私は思わず頬を緩ませた。
* * *
小町「ん……?」
八幡「どうした小町」
小町「なんか今、由比ヶ浜さんの声が聞こえたような……」
八幡「俺には聞こえなかったが――。気のせいじゃないか?」
小町「う~ん。そうは思えないんだけど」
八幡「仮に由比ヶ浜だったとしても、ボーっとしててクレープを落として犬に食われたとか、そんなんだろ」
小町「ボーっとする原因を作った人が言いますか」
八幡「………………」
小町「沈黙は肯定だっけ? 罰として今日買ったお兄ちゃんのミルクティーは私のものです」
八幡「はぁ」
もちろん由比ヶ浜の『叫び声』は聞こえていた。
とはいえ由比ヶ浜が雪ノ下に鬱憤をぶつける可能性があることを失念していたな。せっかく俺が二人の仲をくっつけたのに、俺のせいで分離していたら世話ねえよ。
…………どうすべきだろうか?
八幡「(ま、なるようになるか)」
小町「どしたのお兄ちゃん?」
八幡「いや何でもない」
小町「ふぅん」
仮に二人が仲違いしても、適当に話して仲直りするよう促してやれば済む話だ。
俺が誘導して仲直りすればそれでいいし、仲直りしなくても別にいい。気楽に考えよう。
向こうが俺を怒らせたのに、この程度のことに気を遣うのも馬鹿らしいよな。
俺はただ、自分の周りが静かであることを願うだけ。そして……俺を活動させようとする奉仕部の終焉を望む。
――――――だから次の日から奉仕部の部室で由比ヶ浜と顔を合わせなくなっても、俺にとって至極どうでもいいことなのだ。
…………あ。一応言っとくが、静かであることの『しずか』は平塚先生のことじゃないからな。
心の中で誰に言ってるのかって話だが。
第四章 「これからも比企谷小町は兄に騙される」 終
ついに第四章が完結しました! 長かった!
いや本当に長かったですよ…………。結局第三章の倍の分量になりましたもの。雪ノ下視点も一万字超えましたし
第四章は終盤の趨勢を決めるので、力を込めないといけません。雪ノ下とガハマちゃんの扱いは特に慎重に書きました
あと雪ノ下の心の声なんていう雑な伏線はとっとと回収しました。残してもしょうがないので
失敗とか迷走とか色々ありましたが、なんとか第四章完結できました。第五章は絶対短くします。短くします(大事なことはry
それでは、これからもこの作品をよろしくお願いします
教室に入ると、いつもより二割増し静かなことに気付いた。
たまたまそんな日もあるだろう、と思いながら席に座る。他人との接触が皆無な俺がクラスの雰囲気なんて気にしてもしょうがない。
クラスメイトの誰かに何かしらのイベントが起きたとしても、きっと俺の与り知らぬところで始まって、俺が知ることなく終わってしまう。
それに、もしそんなイベントに俺が深く関わってしまったなら――――
彩加「おはよう八幡」
八幡「おっす」
彩加「……ねえ。八幡はアレ、見た?」
八幡「アレってのはどれのことだ?」
彩加「ほら、あのメールだよ」
八幡「ああ――。俺のところにも届いてるよ」
俺はなるべく無関係でいたいがため、静けさの原因に思い当たりがあるのをしらばっくれていた。意味のない行動だ。
別に戸塚に意地悪をしたかったわけじゃない。俺にとって嘯(うそぶ)くという行為は本能に近い行為で、考えるより先に自然と口を動かしてしまう。
メールというのは昨晩俺のところに届いたチェーンメールのことだろう。戸部・大和・大岡という誰かしらの悪口が、複数のメールに渡って書かれている。
一年から同じクラスメイトの奴から送られてきた時は、『このメールを送ってきたということは、こいつは俺の存在を認識していることになる』と見当違いなことを考えた。メールの内容はスパム以上にどうでもいい。
どうせ人数指定の数合わせで送ってきたんだろう。俺のことを知ってる奴なら、こんなことに俺が興味を示さないのが分かるはず。現に戸塚は俺に送らず、翌日になって報告している。
こういうイベントに巻き込まれない、それ以前に俺はこういうイベントに参加したりしない。
八幡「大した問題じゃないから、放っておいていいだろ」
彩加「そうなの?」
八幡「ああ。このメールに書かれている三人はクラスメイト。そしてこのメールが俺にまで回ってきてるってことは、既にクラス中に浸透し切ってるってことだ」
ちなみにクラスメイトだと確認したのは、今日教室に来て掃除当番の紙を見た時だ。今だに俺はこいつらの顔を知らない。
八幡「つまりこれ以上このメールは拡散しない。仮に他のクラスに周ったとしてももって一日が限界だな、それ以上拡散することはない。そしてこのメールが学年を越えて広がるようなら――それこそ教師たちが動く。俺たちの出る幕なんてどこにもねえのさ」
彩加「でも、クラスに広がった噂はどうしたらいいの?」
八幡「俺らにはどうしようもない。時間が経てば噂なんて消える。同じ噂が一ヶ月以上持った試しがあるか? 新しい情報ないし燃料がなければ、噂は簡単に燃え尽きるんだよ」
彩加「放っておくってのはないんじゃないかな……。もっと他に、僕たちにもできることはないの? 八幡」
八幡「新しい噂で打ち消すっつっても、別の噂を用意したところで――それは他人の噂か自分の噂か。他人を売るか自分を売るかの違いしかない。それほどの犠牲を払ってまで助けたいってなら、それでいいじゃねえか。しかし俺はクラスメイトにそこまでする程の思い入れはない。戸塚はどうだ?」
彩加「ぅ…………」
言い返すことができず、戸塚は黙ってしまう。次の言葉を探そうと手をこまねく仕草は小動物チックで、一部の紳士は愛でたくなってもおかしくない。
困る戸塚が見たくて、わざと戸塚を責めているのではない。俺は自分が思った事実を述べているだけ。他のクラスメイトではなく真っ先に俺に相談する辺り、戸塚だって分かっている。事態の放置をスタンスにしている俺に相談している時点でこの問題は放置することが最善だと、戸塚は理解している。
クラスカーストが低いとか、影響力がないとか…………『助けない理由があること』で納得してはいけない。『助ける理由がないこと』を認めるべきなんだ。そうしなければ感情の堂々巡りに陥ってしまう。
けれどそう簡単に感情を割り切ることはできないから、俺を通して感情を吐きだし、霧散させている。そうやって頼られるなら悪い気はしない。
彩加「はちまぁん………………」
八幡「ああ、はいはい……。あと他にできることか――――。そうだな、友達にメールどうしたって自分から振って、そんで自分はメール消したって言うんだ。そうすりゃその友達もつられてメール消すかもしれないな。できることと言ったら、もうそれくらいしか思いつかん」
つぶらな瞳と猫撫で声で誘惑され、思わず対抗策を考えてしまった。戸塚……おそろしい子(娘)ッ!
今日はここまで
結局、サキサキの話は指摘されないままスルーされてるなあ……
>>617訂正
別に戸塚に意地悪を~~~~考えるより先に自然と口を動かしてしまう。
↓
俺にとって嘯(うそぶ)くという行為は本能に近い行為で、考えるより先に自然と口を動かしてしまう。
>>620訂正
言い返すことができず、~~~~戸塚を責めているのではない。
↓
言い返すことができず、戸塚は黙ってしまう。次の言葉を探そうと手をこまねく仕草は小動物チックで、一部の紳士が愛でたいという衝動に駆られるかもしれん。
困っている戸塚の姿は可愛いのは否定しない。しかし俺は戸塚の困っている姿を見たくて戸塚を責めているのではない。
さすおに的な面白さを感じるww
あとさちょっと気になったんだけど救急車呼んだだけなのに
神八幡は何で恩がどうとか言ってるの?
救急車呼ぶのなんてほとんど義務みたいなもんだろ
応急措置したわけでもないし
客観的に見れば八幡がいなくても運転手か雪のんが呼んでただろうし
>>626
救急車を呼ぶ=相手を助けようとした、ということになります。八幡の考える常識の中では
そして救急車を呼んだだけで恩を感じる人種がいることを八幡は知っています
というか恩返しと称して友達付き合いを強要してくる輩を八幡が毛嫌いしてるだけですね
義務だからこそ、義務感から近づいてくる善人が厄介なんです
彩加「ありがとう八幡!」
八幡「どういたしまして」
彩加「八幡ってツンデレだよね」
八幡「それはありえねえ!」
確かにツンデレみたいな態度を取ったが、『ツンデレ』という表現は止めてくれ。
元は萌えキャラに向けて作られた言葉だけに、『ツンデレ』は人を表す言葉として余りに可愛げがありすぎる。そんな言葉を人に当てようものなら一部の馴れ合い厨が『あいつツンデレなの? じゃああいつと仲良くしてみよっかな』とか考えちまうんだよ。ド迷惑なことに!!
もし俺がツンデレだと聞いて仲良くしようとする奴が現れたなら、俺だけではなくその相手まで要らぬ不幸を背負う羽目になる。俺が仲良くなれない類の人間だと途中で気づくならいい。これで構ってくる相手が大抵そのことに気付かない馬鹿だから問題なのだ。
そんな事態は絶対に避けなければならない。だから俺は怒りを露わにした。
彩加「あ……、ご、ごめんっ」
八幡「ったく」
とはいえ怒ったように見えるのはフリだけどな。これくらいで本気で怒ったりしない。
戸塚も言われなき言葉を向けられる立場だから、俺の言わんとすることが伝わったはず。
こういうことが分かってくれないから、俺はリア充みたいな仲良し集団が嫌いだ。仲が良い癖に、俺らみたいな繊細で心の弱い人間のことを気にも留めない。
特に何があるわけでもなく放課後になる。由比ヶ浜と目が合うと向こうから逸らしてくれるようになったのが、数少ない変化と言える。それすら良い変化だが。
部室のドアをノックをして、了解を取ってから中に入る。先に来ていた雪ノ下は手元の本から顔を上げ、なぜか俺を見ている。
雪ノ下の視線を意に返さず自分用の椅子に座る。鞄から本を取り出そうとすると、雪ノ下から声がかかった。
雪乃「本を取り出すのは止めなさい。私から話があるわ」
八幡「………………」
言われた通り鞄に伸ばした手を引っ込め、雪ノ下の方に体を向ける。
雪ノ下も読んでいた本に栞を挟み、机の上に置いて、真っ直ぐこちらを睨んでくる。
八幡「何の話だ?」
雪乃「先に言っておくけれど、嘘をつけるとは思わないで。今日ばかりはお得意のわざとらしい言い逃れが通じると思わないことね」
強い威圧感を発する雪ノ下に、思わず腕を組んで身構えてしまう。
ある種の確信を雪ノ下から感じる。恐らく雪ノ下は確実に俺を追及できる証拠を用意している。だからいつもより語気が強くなっている。
雪ノ下は本気だ。きっと『さあな』みたいな曖昧な言葉で納得はすまい。ここで確実に俺を問い殺すという殺気すら感じる。
八幡「(ようやっと、誤魔化しが効かなくなったか)」
雪乃「……?」
呟きをもって、俺は自らが窮地に陥ったことを再認する。
出会ったばかりの――俺を見下していた雪ノ下なら、俺を追い詰めるなんてできなかっただろう。雪ノ下の毒舌は大半の人間、特に負い目を持った相手には効果的だ。しかし俺は負い目はあるが感情のない人間。むしろ、人間と言っていいのかすら分からないシロモノ。彼女の毒舌は俺に効果がなかった。
俺を追い詰められるとすれば、それは確固たる事実だけ。
雪ノ下は自分の毒舌が通じないことを認め、マイナスだった俺への評価を上方修正し、間違った方法を改めた。堅物そうだった彼女が、柔軟な対応を取るようになった。
八幡「へぇ…………」
純粋に、俺は雪ノ下の成長を内心でだが賞賛していた。思わず表情が緩んでしまうくらいに、今の雪ノ下を微笑ましく思った。
不気味な表情をする俺に雪ノ下は慄いたが、すぐに気を引き締め直す。
雪乃「何がそんなに可笑しいのかしら? 今すぐその強姦魔のような気持ち悪い笑みを止めなさい。通報するわよ」
八幡「女子が強姦魔言っていいのか……?」
雪乃「そこで真っ当な意見を返してくるから、あなたは始末が負えないわね……。まあ――いいわ。私があなたに訊きたいことはたった一つ。嘘や虚偽の混じらない、あなたの本心を語りなさい」
息一つ分の間が空く。膝の上で重ねられた雪ノ下の手の指が曲がり、握り拳を作る。
対する俺は、腕を組まれて体の右側に移っている――雪ノ下から離れている方である――左手にのみ力を込める。
本心を暴きたい雪ノ下と本心を隠したい俺と、その動きは共通し似通っているようで。しかし俺たちは決定的にすれ違っている。
雪乃「あなたはどうして、由比ヶ浜さんを突き放したの?」
八幡「…………由比ヶ浜のためだよ」
同じ誰かのために――――どちらかが正しく、そしてどちらかが間違っている。
今日はここまで
雪乃「由比ヶ浜さんのため? どんな突飛な言い分があれば、彼女を傷つけたことが彼女のためになるのかしら?」
八幡「いや当たり前の理由だけど。作ったクッキーボロボロに貶しておいて、それを忘れて友達付き合いするとか後ろめたいだろ」
雪乃「あら。あなたに後ろめたさを感じるような精神性が残っていたの? 無表情で嘘をついている姿しか見たことがないから、そんなものがあると考えもしなかったわ」
八幡「……ああ、それは否定できないな。だから由比ヶ浜のためだって言ってんだよ。俺は感じなくても、由比ヶ浜は後ろめたさを感じるだろ」
もっとも、この『由比ヶ浜のため』だということさえ真実ではないのだが。ただ真実は別として『由比ヶ浜のため』というのは別の理由でもあった。
ぶっちゃけ俺と由比ヶ浜は気が合わん。由比ヶ浜が奉仕部に入り浸るようになっても、俺と由比ヶ浜は数度しか話をした覚えがない。成立した会話も五分以上続いた試しがない。というか話題が合わない。それほど俺たちは仲が悪いのに、無理矢理仲良くしようとしてはいけない。
たとえ無理矢理ではなくても、俺と由比ヶ浜はこれ以上仲良くなるべきではない。その思いは最初からあったのだ。
雪乃「そうね……。由比ヶ浜さんには耐えられないでしょうね。いえ耐えられたとしても心の中でその感情は残る。事故のことを覚えていながら追い打ちをかけられるあなたと違って、由比ヶ浜さんは普通の人間だもの」
八幡「――事故ってのは何のことだ?」
雪乃「言い逃れはできない。そう言ったでしょう」
雪ノ下は不敵な笑みを浮かべて、まさしく言い訳の余地がない事実を俺に突きつけた。
雪乃「私も入学式の交通事故の関係者なの。その事故の後始末をした人と簡単に連絡が取れるから、たとえ一年も昔のことでも、誰が通報したかくらいすぐに突き止められるわ」
そう言う雪ノ下の表情に陰りがあること、言葉の裏に隠された感情を俺は見逃さなかったが、俺からすればたとえ雪ノ下が加害者側であっても対応が変わるわけではないし、事故に関して言い逃れができなくなっても他に取れる方法はまだあるので動じることもなく。
八幡「ふうん」
とだけ返した。
ていうか俺が事故のことを覚えていながら由比ヶ浜のクッキーを貶したことになっているわけだが、特に否定しない。
覚えていても対応は変えなかったし、俺が外道だと思っていてくれる方が俺としても都合がいい。その方が奉仕部を辞める時説得材料が増えるわけだからな。
雪乃「それで、どうなのかしら。由比ヶ浜さんの交通事故の時、比企谷くんが救急車を呼んだということは間違いないのかしら?」
八幡「ああ。そうだよ」
組んでいた腕を解き、左手で首を揉む。選択肢を狭められて動じていないとはいえ、ありもしない疲労を感じるくらいにはうんざりしている。
自分の事情を抜きにして雪ノ下の成長を喜んだ。雪ノ下が有用になるほど(有能なのは元から)、彼女を裏で扱う俺は楽ができる。けれど自分の事情を考えれば、やはり雪ノ下の成長は面倒なのだ。
八幡「……だけど、それがどうした? それでも俺が由比ヶ浜を傷つけたことに変わりない。俺は相手のトラウマを踏みにじっても顔色を変えられないような人間だ。そんな人間が由比ヶ浜を助けた相手でいいのか? よりにもよってお礼のクッキーを全否定した奴が由比ヶ浜の気持ちに答えていいと、本気で思うのか? ――――俺は思わない。だから俺は、俺が由比ヶ浜を助けたという事実を否定したんだ」
雪乃「………………本当に、それだけ?」
八幡「はぁ?」
尚も俺を問うてくる雪ノ下に、俺は苛立ちを隠さず首をこきりと傾ける。
事実を明らかにし、俺が悪だということを示してやり、その上由比ヶ浜のためだという聞こえがいい正義さえ用意した。なのにどうして……、雪ノ下はこの正しさに屈しないのか。真実を知ることを諦めないのか。
どうしてこいつは――――俺の“善意”を受け取ろうとしない。
雪乃「それだけの理由で、あなたは由比ヶ浜さんを遠ざけたりしない。二の句を告げなくさせるような言葉が出さざるを得ないほど、由比ヶ浜さんの追及が厳しいかしら? 私が知る限り、あの時の比企谷くんには彼女を遠ざける必要性はなかった。あなたが感情を剥き出しにして由比ヶ浜さんを拒絶する理由が分からない」
八幡「…………感情的になった覚えはないんだが」
雪乃「今までの比企谷くんの言動と照らし合わせれば、あの時ほど感情的になっている姿を私は見たことがない。だから――――私はあなたに問うているの。どうして比企谷くんは由比ヶ浜さんを突き放したの?」
なるほど。初めから当たりはつけていたと。…………正解だよ、流石は雪ノ下。
雪ノ下の指摘は俺の根幹部分に触れている。これほど正確に俺の心を推測できた奴は今までにいない。俺の思考を理解する受け皿はあるかと思っていたが、まさか本当に理解してしまうとはな。
自らの思考が誰にも理解されないような歪んだ思考だという自負があった。しかし、受け入れられる奴は現実に存在したのだ。
それが、目の前にいる――――雪ノ下雪乃。孤独で聡明で氷のように美しい少女。
八幡「……………………なるほど」
これなら、全部白状しても大丈夫そうだな。俺の今後の目的、今まで隠れて行ってきた行動、それらの本心――その全てを話しても雪ノ下は感情的にならず受け入れてくれるだろう。
受け入れてくれるということは、話した内容を冷静に判断し無闇に伝聞したり行動に移したりしないということ。何もかもを話しても俺に悪影響が出ないことの確信も取れたので、俺は雪ノ下の質問に正直に答えることに決めた。
後頭部に置いていた左手をお腹まで下ろし、右手で頬杖をつく。これから何を明かしていこうか、話す内容の順序を考え出した。
雪ノ下は俺が思案することを許し、何も言わず俺の返答を待つ。
八幡「そうだな――」
まずは俺がどういう考えをもって人を遠ざけているのか、平塚先生の言う孤独思考の全貌を語ろうとしたところで。
――――部室のドアをノックする音が聞こえた。
ここまで。
うん、ぶっちゃけ作者に煽りとか効きませんね
??「入っていいですか?」
詰問が続けられなくなった、と考えたのは二人とも同じ。
八幡「…………まあ、話の続きはまた今度ってことで」
雪乃「はぁ……。そうね。そうしましょう」
緊張させていた雪ノ下の威圧感が途端に弛緩し、彼女は溜め息をつく。俺も頬杖を解いて伸びをし、さっきまでの会話内容を頭の隅に追いやった。
雪乃「どうぞ」
隼人「失礼します。――って、えっ、“比企谷(ひきがや)”じゃないか」
部室に入ってきたのは俺の知ってる顔だった。同じクラスの男子で、イケメン・運動部キャプテン・秀才と三拍子揃った最強のリア充。ご存じ葉山隼人さんその人なり。
葉山はまず俺がいることに驚いた。二回しか部室訪問がないとはいえ、同じクラスからの依頼者が百パーセントってのは地味に凄いのではなかろうか。
八幡「………………よぉ」
雪乃「………………」
隼人「なんか雰囲気悪いように見えるけど、外から喋ってる声が聞こえてたし、もしかして俺入るタイミング間違えたか?」
八幡「別に、問題ねえよ」
例えて言うなら、ストック残り一機で吹っ飛ばして決着か!? というところでポーズになり、L、R、A、スタートボタンでノーコンテストされたみたいな寂寥感が残っている。
うん。葉山お前、マジでタイミング悪いわ。
隼人「えーっと、ここが奉仕部で合ってるのかな? 外の立札に何も書いてないけど」
雪乃「ええ。ここが奉仕部で間違いないわ」
隼人「相談事はここに持ち込めばいいって先生に言われて来た訳だけど、二人が相談に乗ってくれるってことでいいのか? 本当に二人に解決できるのか?」
八幡「奉仕部は依頼を通して生徒を努力させ、成長することをスタンスとしているから、俺たちが手足のごとく働いて解決するのが目的じゃない。あくまで主体となるのは依頼者である葉山自身だ。相談事を解決したいっていうやる気がお前にないなら、俺たちは容赦なく依頼を断るからな」
葉山「そ、そうか…………」
不機嫌そうな堅物二人に睨まれて、葉山は椅子の上で身を縮こませる。目に見えて動揺し、視線をあちらこちらに揺らしている。
俺も雪ノ下も依頼者がイケメンかどうかで扱いを甘くするような人間ではない。しかし相談事を持って訪れた不安な生徒に対しもてなしの茶や菓子がない辺り、むしろ話の邪魔をされた怒りが混じっているとも言える。
改めて客観的に見て、相談事を受ける人が温かみのない二人っていうのはイメージが悪いのではなかろうか。俺の目的からすれば奉仕部の悪評は望むところなんだけどさ。でもどうなんだ。
雪乃「それで、相談事というのは何かしら?」
隼人「ああ――。これを見てくれないかな。雪ノ下さん」
そう言って葉山は懐から携帯を取り出し、少しいじって画面を雪ノ下に見せる。
隼人「比企谷にも届いてるだろ? あのメールが」
八幡「ああ、あのメールな」
俺も自分の携帯を取り出し、受信メールボックスを開く。
ぼっちあるある、メールは一週間に一通以下しか届かない。よって昨日一昨日届いたはメールボックスの一番上に並ぶ。
副題に書かれたたくさんの『RE:』が嫌でも目に入る。ちなみにこの『RE:』が残っているとメール料金がより多くかかるらしい。
どれくらい安くなるとか、本当に安くなるのかは正確に知らない。しかし少しでも証拠を残したくて五個も六個も『RE:』が重なっているんだろうが、正直言って見目が悪い。それにトーカちゃんもこんなにいらない。
八幡「葉山はこれらのチェーンメールを沈静化させたくて奉仕部に訪れたわけか」
隼人「そうだな。できれば犯人探しみたいに悪者を作るんじゃなくて、クラスの雰囲気がこれ以上悪くならないようにする、みたいな方向で進めたいんだ」
……………………………………………………なるほど。
葉山はいいかな? と笑いながら確認してくる。だが俺からすればその行動は有無を言わさぬ強制にしか見えない。
当たり前のことを言いながら当たり前のことを強制する、というのは俺もよく使う手法だから。その効果はよく知っている。
雪乃「葉山くんはこれ以上チェーンメールが広がらないようにしたいのよね?」
隼人「あ、ああ。メールがなくなれば、自然とクラスの空気も元通りになると思うけど…………」
ちらりと雪ノ下と葉山が一瞬だけ俺に視線を向けた。その真意は分からなかったが、何もしていない俺に対し同時に視線が向いたのは妙に引っかかった。
ここまで
すまん
煽りとかじゃなくて>>658の最後の喩えが本当に解らん
何のゲーム?
>>662
スマブラ
>えっ、“比企谷(ひきがや)”じゃないか
なんでこんなどうでもいいところで笑い取ろうとするのwwwwww
雪乃「なら犯人を探すしかないわ。私の知る限り、それが一番確実な方法よ」
隼人「ええっ!?」
雪乃「周囲の人に言い聞かせたところで、メールが止まるなんてありえないわ。メールを散布した犯人を直接締め上げ……、晒しあげない限り、ずっと続くのよ」
八幡「嫌に実感のこもった言い方だな……」
雪乃「私の体験談だもの」
隼人「はは…………」
そう言って目を細くしたままくすくすと笑う雪ノ下は、はっきり言って怖い。これあれだな、その後犯人にしかるべき制裁を与えたとか続くパターンだ。葉山が引きすぎて椅子から落ちそうになっていた。
だが雪ノ下の言葉の中で、他にも気になった部分がある。
『私の知る限り』――この言葉が出るということは、雪ノ下はこの相談に自分の他に対策を考え付く人間を知っているということだ。
そして俺以上にぼっちな雪ノ下の数少ない知人の中で、雪ノ下以上にこんな相談を得意としてそうな奴…………まあ、お察し。
雪乃「比企谷くんはどう? 何か思いついたかしら」
八幡「…………俺に聞くのか?」
雪乃「ええ。あなたは私よりずっと人の悪意に詳しいもの。そんなあなたなら、『犯人を見つける』という方法しか思いつかない私より、もっといいアイデアが思いつくと思うわ」
ちょっと黙ろうかお姫様。見たことないもの見たって感じに、葉山が目と口を丸くしてるから。つーか俺も驚いてるわ。
なんでこの有言実行を全身で表してるような姫さんは、俺のことを頼ってるんでしょうか!? 頼る相手を完っ璧に間違ってるぞオイ! 褒めるか貶すかどっちかにしろ!!
あ、さっきの視線の意味はそれか!
八幡「あー…………。聞き間違いじゃなければ、今お前は俺を頼るみたいなことを言ったような?」
雪乃「聞き間違いではないわ」
八幡「そうですか。はぁああああああああ――――」
思わず右手で頭を抱える。いや確かに、正攻法しか知らない雪ノ下より搦め手しか使わない俺の方がこの依頼に向いていると思う。
だがこうも潔く頼られるのはよろしくない。これでは俺が有能だと葉山に思われてしまうし、何より雪ノ下は俺が有用だという前提を作ってしまう。
重い期待なんて御免だ。後々面倒になるというなら容赦なく葉山やクラスの連中を犠牲にする。――なら俺はまた考えなければならないのか、見当外れの解決案を。
八幡「一応考えてやる。だから少し考える時間をくれ」
ここで考えるべきなのは、各々の妥協点だ。雪ノ下は事態の解決ができればそれでよさそうだな。葉山はクラスの空気をなるべく悪くしたくないから、単純な二者択一で容易に誘導できる。だとすれば必要な案は二つ。どれもメールが広まるのを抑えるような案。できれば結果がはっきり出るような案の方が、雪ノ下を説得しやすくていい。
朝俺が戸塚に提案したみたいな、周囲を動かしてメールを止める案ではなく、俺たちが直接的に働きかけることができる案が要る。
例えば葉山が教室で激昂して、これ以上メールが広がって欲しくないと宣言する案。クラスの中心人物である葉山が表立ってチェーンメールを嫌うことにより、群れに属するクラスメイトはメールを広めることはなくなる。それに犯人以外にも恐怖心を植え付けることで模倣犯も防げる。――但し、犯人が葉山を恨んでメールを流している場合この案は効果がない。
もう一つ、逆にメールを流している犯人の望みを叶えるという案。チェーンメールなんて大層なものを流しているということは、それ相応の行動理由があることでもある。犯人を特定をしないまま犯人の目的を推測し、その目的を達成させるよう働きかける。雪ノ下は納得しづらいだろうが葉山なら納得できそうな案だ。
あと他には……………………待て。
――――“犯人の目的”だと?
跳ね起きたように携帯を顔の近くまで引き寄せ、画面を凝視する。メールボックスに届いたチェーンメールを一つ一つ開き、目を通していく。
葉山「どうした、比企谷?」
ちっ! 俺にまで届くような末端メールだと正確な日時は分からねえ!
八幡「葉山、お前のとこのメール見せろ」
隼人「えっ」
八幡「いいから見せろ」
隼人「わ、分かった……。何か気付いたのか……?」
葉山からひったくった携帯のメールボックスには『RE:』の少ないチェーンメールの他に無関係なメールが混じっている。つーか無関係なメールの方が多いまである。そのことにイラつきながらも俺は一番古いチェーンメールに目を通していく。
いや……、転送されたチェーンメールを見る必要すらなかった。葉山のメールボックスにはチェーンメールが届いたことを報告してくるメールがいくつもあった。それが届いた時刻を照らし合わせることで、俺の立てた予想は確信へと変わる。
思った通り――。戸部・大和・大岡の三人を中傷するメールはほぼ同じ時間帯に発信が始まっていたことが分かった。
八幡「(くっそ………………)」
雪乃「…………」
隼人「…………」
八幡「…………雪ノ下」
雪乃「なに?」
八幡「中傷文ってのは、普通一人を対象として流れるものだよな?」
雪乃「ええ、それが――――――あっ」
どうやら雪ノ下も、このチェーンメールが『違うもの』だと気付いたらしい。
今日はここまで
>>665
原作との差別化です。以前のルビは時間軸が過去のものなので、改めて付けています
隼人「どうしたんだ比企谷、それに雪ノ下さんも。一体何に気付いたんだ?」
雪乃「チェーンメールにも種類があるということよ。私が経験したような人を粗暴中傷するような内容のメールは、むしろ珍しいの。世の中にありふれたチェーンメールのほとんどは、ただ情報を散布する目的のためか、どこまで拡散するか試すために作られる」
隼人「それが、どうしたんだ?」
ここまできてまだ葉山は気付かない。クラスのトップに立っている癖に、いやだからこそなのか、葉山は人の悪意に鈍感だった。
雪乃「一見今回のチェーンメールは対象の三人を貶めるために作られたように見えるけれど、もしかすれば違う目的のために作られた可能性があるということよ」
八幡「対象が一人だけなら中傷文って可能性はあったが、別々の三人に向けて同時に流れているなら、そこには何か別の目的が絡んでいると考えるのが自然だ。犯人が三人いて、示し合わせたみたいに同時にチェーンメールを流すなんてこと、どう考えてもありえねえだろ」
雪乃「文面を見るに、犯人が別々ということもないわね」
隼人「そういうことか…………。ん? 別の目的だって言うなら、どんな目的でこのチェーンメールは広がったんだ?」
ようやく自分でも考えるようになったかと思えば、そうではなく。葉山は能天気に俺たちに答えをせがんできた。さながら餌をねだる小鳥のように。
学生だから浅慮なのは仕方ないとはいえ、この相談を持ち込んだ葉山本人が問題を深く考えないというのはどうなんだ。
しかもこの相談に一番深く考え込んでいるのは、やはり俺なんだろう。毎度のことの苦悩だがうんざりする。奉仕部辞めたい。
雪乃「いいえ、目的は分からないわ」
隼人「は?」
雪乃「目的が分からないから、犯人を探すことも徒(いたずら)に対処法を考えることもできなくなったのよ。葉山くん」
下手に対処法を打ってそれが間違ったものなら、事態がより悪化する可能性がある。逆に最善に最善が重なってしまえば、犯人が改心して雨降って地固まるように大団円になり、奉仕部の評価が上がることだってあり得る。
チェーンメールが広がらないための対処法を考えるだけだったはずが、現状の正確な調査が必要になり、依頼の難易度が跳ね上がった。余計な作業を背負う羽目になったから自分で自分をなじった。
なら気付かない振りをすれば良かったかと言えば…………そうでもない。
これは事態の悪化だ。なら俺にとってそこまで悪い展開ではない。
依頼を持ち込む前より事態を悪化させて、その上満足な対応が行われないなら、穏便な対応策を取るだけよりも悪評が付きやすい。そもそも正確に事態を把握している方が俺の目的も達成させやすい。
それに何より、調査次第では何もしなくてもいい可能性だってあるのだから。
八幡「要するに、このチェーンメールが悪意をもってばら撒かれたものじゃないかもしれないから、事実背景を明確にする必要があるってことだ」
隼人「じゃあ、ただ出鱈目な内容を書いてるかもしれないってことか?」
八幡「…………そうかもしれないな。だがそれでもないならどうする? 中傷文でも、創作文でもないなら――――」
携帯を持ち主である葉山に向けて突き出しながら、俺は『最悪の展開』を――俺にとって最善の展開を――告げた。
八幡「『告発文』かもしれねえな」
隼人「そんなっ!? そんなことはありえない!!」
八幡「そうだ。今言ってることは全部可能性の話だ。分からないからこんな話になっているんだ。――それで葉山、お前はこれらチェーンメールの目的を答えられるのか?」
当然、葉山は答えることができない。
それでも必死で戸部・大和・大岡を擁護するが、もはや言い訳でしかない。段々言葉が途切れていき、遂に葉山は黙り込んだ。
それから話し合った結果、今日明日で自分の役割に合わせて調査してみて、明日の放課後部室に集合し調査結果をまとめるということになった。
葉山は部室に来た時と比べて格段にテンションが下がっている。それでも気丈に振る舞い俺たちの話に耳を傾けていられるだけ、由比ヶ浜より人間ができていると思う。由比ヶ浜がいたらこんなに重い話はできなかった。
告発文のくだりから葉山の意識が俺に向いていることを感じていたが、後半の話は俺が自重して喋らず、主に雪ノ下が取り仕切っていたので爽然と役割が決まっていった。
雪乃「私が女子生徒の噂を、葉山くんが戸部くん、大和くん、大岡くんの内外の事情を、そして比企谷くんがチェーンメール以外の情報を集める。それでいいかしら?」
八幡「ああ」
隼人「任せてくれ」
もちろんこの配役は俺の会話誘導や印象操作に寄るものである。俺と雪ノ下がクラスで日常会話をしないキャラであることを葉山に明かし、呆れられながら自分たちにできることをしようみたいな空気を作った。
雪ノ下は三人の中で唯一女性なのだから、俺らが踏み込めないであろう女子生徒同士の噂を探ることになり。俺の場合は、クラスで葉山以上に情報を集められる自信がないと言って、あぶれた役割を志願した。
他の弊害を調べることで新たな発見があるかもしれないという雪ノ下の裏打ちを計算に入れての発言である。こうして調査の肝要となる部分を葉山に押し付けることに成功した。…………いやまあ、俺や雪ノ下が内情に深く踏み込めないのも事実なんだが。
隼人「それじゃあ、また明日な」
八幡「おう」
雪乃「ええ」
口下手二人の雑な挨拶に更に顔を引きつらせながら葉山が部室を出ていく。
――奉仕部に俺と雪ノ下の、二人だけの空間が戻ってくる。
先手を打つように俺は机に頭をぶつけ、突っ伏した。
ここまで
粗暴中傷?
誹謗中傷じゃなくて?
>>687
そちらが正しいです
分かりにくい書き方だったから訂正。
誹謗中傷で合ってます
八幡「あー………………、メンド」
雪乃「…………何が面倒なの? 一番楽な役割を勝ち取っておいてなぜそんな言葉が出るのかしら」
八幡「あんな命令の仕方をする奴が、他人の深い事情に踏み込めると思うか?」
葉山はこのチェーンメール問題を解決するに当たって、犯人を突き止めるでもなく、メールの流布を抑え込むでもなく、不特定多数の他人を傷つけないことを何より優先させた。
きっと葉山には、自分の見えるところで誰かが傷つくことが何よりも許せないんだろう。そして自分の見えないところで誰かが傷ついても、仕方ないで済ませてしまう。
自分の価値観を優先させる理想主義者。異常事態に陥った時、その状況に適応できない頑固な一般人。それが――――この短時間で俺が想い描く葉山のイメージだ。
雪乃「そうね。彼に誰かを傷つけられると到底思えない」
八幡「――――?」
しかし雪ノ下は俺が説明するまでもなく、葉山のことを知っているようだった。
まあ学年でも指折りのイケメンと美少女である二人のことだ。どこかで交流があっても不思議じゃない。当人同士が興味を持っていなくても、イケメンたちと楽しい時間を過ごしたいという欲深い奴らが二人を近づけさせる。
学年行事というイベントだからイケてる顔の人と過ごしたい、一緒の写真に写りたいなんていかにも俗っぽい願いじゃねえか。俺は否定しない、それが当人にとって迷惑でしかないことでも。
雪乃「…………あなたは、彼に情報を得ることができないと思っているの?」
八幡「まあな。そうなれば重要になるのは俺たちが持ってくる情報だからな」
その責任感が煩わしい、ということにする。
次に来る雪ノ下の追及を予想し、先手を打つ。何かしらの重要事項を作ることにより、追及を逃れるに足る理由を作ったのだ。
八幡「そんじゃあ今から調査してくるから、今日はもう上がっていいか?」
体を起こし、椅子から立ち上がり、鞄を肩に掛けながら雪ノ下に問いかける。出ていく態度を見せることで雪ノ下を急かす。
雪乃「いいけれど……。心当たりはあるの?」
八幡「それは今から考える。つーかお前の方こそ調査しねえのかよ。毒舌はちゃんと引っ込められるのか?」
雪乃「大丈夫よ。私は見てくれが良いから、黙っていても周りに嫌悪感を与えたりしないわ。適当に相槌を打っているだけで勝手に噂を垂れ流してくれるわ」
八幡「そうですか」
悪役の笑みを浮かべながら、雪ノ下は躊躇なく他人を利用すると言っている。それに対し俺は何も言及しない。
おかしなことは言っていない、雪ノ下は自分のできることをすると言っているだけなのだから。なら『それ以上頑張れよ』みたいな檄を飛ばさなくていい。この気づかいが分からない奴は、一回コミュ障になるか『わたモテ』を読むかしろ。もこっちみたいな女子は現実にいる。目の前にもいる。
え、俺? 俺もコミュ障だけど他人を操作できますし。
その証拠に、雪ノ下は俺の意のままに――――俺が予想していた内容通りの質問を投げかけているのだから。
雪乃「待ちなさい比企谷くん。あなたは私の質問に答えていないわ」
八幡「は? ああ――なんで由比ヶ浜を突き放したのかってやつか」
雪乃「それよ。分かっているなら答えなさい」
何もかも俺の思い通りだった。学年一位の雪ノ下を意のままにできたという結果に思わず笑みがこぼれそうになる。
無表情に気を配りながら雪ノ下に目をくれる。葉山が来る前の覇気は全く感じられない。どころか悔しそうな雰囲気を纏っていた。
案外、雪ノ下もこの結果を予想していたのかもな。
ここまで
次は今日か明日に投下します
八幡「――――また今度な。今は依頼を優先させてくれ」
雪乃「そう…………」
葉山が奉仕部を訪れるまで雪ノ下は俺を追い詰めることに成功していた。けれど葉山が奉仕部を訪れたことで…………状況が変わってしまった。
状況が一新されたことで俺が真実を語る必要性が無くなり、逃げ道を作る余裕が生まれてしまった。本来足りていたはずの雪ノ下の手札は予想外の出来事で足りなくなってしまったのだ。
そしてその結果生まれた逃げ道とは――――葉山の依頼の調査。俺が請け負う調査の重要性も引き上げられている。その依頼を押しのけるだけの理由を、ついぞ雪ノ下は見つけることができなかった。
今日この場で俺を仕留めなければならなかった。同じ手札は二度と通じない、時間があればまた言い訳を作られる。もう少し……、あともう少しで由比ヶ浜に報いられたというのに――葉山隼人が全てを壊した。
気の毒に思ってしまう。だって雪ノ下は運が悪かっただけなのだから。
八幡「ま、気が向いたら答えてやるから。気長に待ってろ」
背を向けて後ろ手を振りながら部室を出る。勝ち誇りながらも次への仕掛けは忘れない。
雪乃「気長に、なんてよく言えるわね。この依頼が終わったら必ず、何もかも白状しなさい。いい? この依頼が終わったらよ」
八幡「はいはい」
雪乃「『はい』は一回よ。高校生にもなってそんな常識すら身に着いてないのかしら」
八幡「分かってるっつーの」
『気長に』なんていう挑発的な言葉を使ったのはわざとだ。話す時期を有耶無耶にしたければ余計なことは言わなくていい。仕掛けの目的は明確な時期を決めさせることだった。
依頼の終了は確定事項だ。しかし依頼の途中で調査が難航して、雑談をする時間が生まれるかもしれない。だからこのタイミングで――雑談をする余裕が生まれるか分からないタイミングで雪ノ下に時期を決めさせた。依頼の終了後以外の明確かつ近時な選択肢がない、この瞬間に。
部室のドアを閉めて雪ノ下の言葉を断ち切る。
――周りに誰もいないことを確認し、呟きを漏らした。
八幡「………………分かってるさ」
自分の歪さは分かっている。由比ヶ浜の依頼ですら(当事者同士で事情が絡み合っていたのもあるが)ここまで尾を引く被害を生んだ。
今回の葉山の依頼は由比ヶ浜の時よりも深く俺が立ち入ることになるだろう。このまま葉山が何も成果を出すことができないなら、それは避けられない。
“もしそんなイベントに深く関わってしまったなら――――”
その結果どうなるのか、『かつて』何が起こったのか、俺は覚えている。
きっと自分が大人になってもあの経験は青春の傷として、俺の中に深く刻まれているのだろう。
ガラスに映る自分の顔は相変わらずの鉄面皮。心の波も平坦そのもの。とりあえず特別棟から離れようと歩き出す。けれどこれから起きるはずの惨事に対し何も感情が湧いてこない。
せめてとばかりに、感情のこもった風な声を出してみる。
八幡「どうせ…………っ」
俺はまた手に負えないような事態を引き起こすのだろう。
きっとこの問題に俺は深く関わってしまう、となんとなくだが分かってしまう。
そして由比ヶ浜の確執は過去のものへと変わると分かっていたから、俺は依頼中に雪ノ下の追及が来ないようにしたかった。あの仕掛けはそれためだけのリスクヘッジだった。
誰かが傷つくことを前提としたリスクヘッジ。誰も傷つかない平和な未来を想像できない。
――――それが比企谷八幡の本質。歪みの正体。
青春学園ドラマは誰も望まない展開へ進んでいく。
かつてのように比企谷八幡は人間関係に終止符を打つ。
全ての人間を傷つけることで、もう誰も互いを傷つけ合おうとしない、無味乾燥な時間がすぐそこまで迫っていた。
ここまで
自分がややこしい文章書いてる自覚はあります
ていうかこの小説は原作の人間関係をどれだけ弄れるかを軸にしてますから、ややこしくなるのを避けられない
だから内容が分かりやすくなるよう工夫しているのに、そのおかげで文章量増えてるのに、むしろ「気持ち悪くなってる」とか言われてくるとさすがに傷ついてしまうわけで
今の状況でこの小説を楽しみにしてる人ってどれだけいます?
これから第五章盛り上がりを見せるとか言って、期待してくれる人いますか?
ここ最近、応援レス一つも見かけないから気がかりです
>>717
>自分がややこしい文章書いてる自覚はあります
無いでしょ。あったらこんなレス書いてないわけで
>ややこしくなるのを避けられない
んなこたーない。人間関係弄ろうがなにしようが表現は変わらない
いいわけにしても幼稚。みんなが気持ち悪いって言ってるのってこういうことだと思うよ
>内容が分かりやすくなるよう工夫しているのに
作者が工夫してるんだな、と思って読んでくれてる人はここには一人もいないと思う
>むしろ「気持ち悪くなってる」とか言われてくるとさすがに傷ついてしまうわけで
いやだって、じゃあ「気持ち悪くてしかたないけど作者がブチブチうるさいからキモくないよ。上手いよ」って書かれたいのかい?
気持ち悪くない文章書く努力すればいいのに
前にも言ったんだけどさあ、君の気持ち悪さって純粋に文章の作りだけの話じゃないんだってば
いや文っていうか日本語そのものもきったいからアレなんだけどさ
おそらく君が書きたいこと、というよりも内容とあまり関係ないところで「作者が見て欲しい」と潜在的に思ってるらしい部分が
内容を浸食してるというか内容なんかどうでもよくなるくらい全面に出ちゃってて
「なんだこいつキメエ……」ってなるんだよ思うよ
まあそういうレスとかで余計キモがられてるけど、黙って好きなように書くか、黙って泣きながら書くの止めるか、そういうもんでしょ書き手って
初心に帰るべく艦これssを書きました
しばらく更新が途絶えるかも
昨日は何もせずそのまま下校した。
一回目の調査から成果を出さなくてもいい。葉山や雪ノ下の調査結果を聞いてから改めて調査対象を決めればずっと効率的だ。今日に至ってようやく自習室と図書館を見にいったくらいか。
逆に葉山は昨日から駆け回っている。どうやら学年を越えて聞き込みをしているみたいだ。
人が変わったように聞き込みをする葉山に、周囲はどう対応していいか分からないといった印象だ。
似合わないことをするクラスのリーダーの姿はクラスの空気を不穏当にする。自分が当初の目的に反することをしているのに、解決のためにはそれをしなくてはいけない葉山の葛藤は如何ほどのものか。まああんな依頼の仕方をした葉山の自業自得だな。
某愉悦神父のように生温かい目で葉山を見ていると、ちょうどその横にいた由比ヶ浜と目が合った。
由比ヶ浜は俺から目を逸らさなかった。葉山や三浦に向き直って、ちょっとごめんと断りを入れる。そしてゆっくりと俺に向かって歩いてきた。
結衣「やっはろー」
八幡「おっす」
結衣「相変わらずノリ悪いよねー。比企谷くんは」
八幡「まあ、否定はしない」
会話が途切れる。先日のことも相まって、予想以上に口が回らない。
どう考えても談笑しに来たわけでもなさそうだし、用件聞いてさっさと帰ってもらおう。
八幡「それで、俺に何か言いたいことでもあるのか?」
結衣「…………そう、だね。当たり前みたいに考えてること読んできて比企谷くんキモイし、言いたいことはさっさと言っちゃおっか」
八幡「そうしてくれ」
結衣「うん。――――比企谷くん、隼人に何か吹き込んだよね?」
八幡「だとしたらそれが?」
平然と答える俺の言葉に由比ヶ浜は青ざめる。
由比ヶ浜は続いて何か言おうとするが、俺は先んじて言葉を被せる。
八幡「何を言ったか聞かない方がいいぞ。聞けばお前も葉山みたいになる」
結衣「怖っ!? え、ホントに何言ったの……? 逆に聞きたくなってくるんだけど」
八幡「だから聞くなって。てか言うつもりねえからな。それに周りに聞かれるとアレなんでもう帰ってもらえませんか?」
結衣「あー、うん。分かった」
きょろきょろ目だけを動かして確認する。どうやら周りに聞かれた様子はなさそうだ。それに関してだけは胸を撫で下ろしたい気分だ。由比ヶ浜のではなく自分のをな。
結衣「あんまり……酷いことしないでね」
八幡「はいよ」
それだけ言って由比ヶ浜は三浦たちのところへ帰っていく。
恐らく裏はないだろう。由比ヶ浜に腹芸ができるとは思えない。
そして帰っていく由比ヶ浜と入れ替わるように、今度は葉山が俺に近づいてくる。
隼人「やぁ」
八幡「よお」
隼人「どうだ比企谷、調査の方は?」
八幡「何の成果もねえよ。葉山はどうなんだ?」
隼人「他学年まで聞いて回ったけど、あのメールに書かれた内容が真実だって話は一つもなかった。比企谷の言う告発文の可能性はありえないと思う」
八幡「ならそれでいいじゃん」
友人が悪人じゃなくて、友人と絶交しなくて済んで良かったと、俺は葉山を励ました。
隼人「比企谷、結衣の様子がおかしいと思わないか?」
八幡「そもそも俺は由比ヶ浜のことを見てないから、変化とか分からないんだが」
隼人「…………っ。近頃の結衣は、無理に明るく振る舞ってる風に見えるんだ。嫌なことでもあったんだと思う」
ふうん、とこの段階で葉山が何を言おうとしているか察していながら、俺はだらけた返事をする。
隼人「聞いてみたら、最近結衣は奉仕部に行ってないらしい。でも雪ノ下さんと喧嘩してるとか、会ってないとかじゃないらしい。『なんとなく奉仕部に行きづらい』って結衣は言ってる」
八幡「それで、何が言いたい?」
隼人「奉仕部には比企谷と雪ノ下さん以外の部員は――――いいや。正直に答えてくれ比企谷、君が結衣に何かしたんじゃないのか?」
八幡「何もしてねえよ。由比ヶ浜は部室ではほとんど雪ノ下とばかり話して、ほとんど俺と話をしないからな」
俺は由比ヶ浜の方を見た。由比ヶ浜も三浦に問い質されているらしい。三浦と目が合ったような気がして、思わず目線を横にずらす。
――――――そして。
俺は『それ』に気付いてしまった。
>>745訂正
隼人「なあ。さっき結衣と何を話してたんだ?」
八幡「え? いや大したことは話してないぞ」
隼人「本当に……、そうなのか?」
どういうわけか、突然葉山は怒気を露わにし、俺に睨みをきかせてきた。まるで咎めるような口振りだ。
しかし葉山の怒りを受けても俺は全く動じず、平然と嘘をついた。
隼人「比企谷、結衣の様子がおかしいと思わないか?」
八幡「そもそも俺は由比ヶ浜のことを見てないから、変化とか分からないんだが」
隼人「…………っ。近頃の結衣は、無理に明るく振る舞ってる風に見えるんだ。嫌なことでもあったんだと思う」
ふうん、とこの段階で葉山が何を言おうとしているか察していながら、俺はだらけた返事をする。
隼人「聞いてみたら、最近結衣は奉仕部に行ってないらしい。でも雪ノ下さんと喧嘩してるとか、会ってないとかじゃないらしい。『なんとなく奉仕部に行きづらい』って結衣は言ってる」
八幡「それで、何が言いたい?」
隼人「奉仕部には比企谷と雪ノ下さん以外の部員は――――いいや。正直に答えてくれ比企谷、君が結衣に何かしたんじゃないのか?」
八幡「何もしてねえよ。由比ヶ浜は部室ではほとんど雪ノ下とばかり話して、ほとんど俺と話をしないからな」
俺は由比ヶ浜の方を見た。由比ヶ浜も三浦に問い質されているらしい。三浦と目が合ったような気がして、思わず目線を横にずらす。
――――――そして。
俺は『それ』に気付いてしまった。
八幡「最近の奉仕部はどんなことをしてるって訊かれただけだ」
隼人「結衣の調子が悪いことも、俺はクラスの雰囲気が悪くなっている原因だと思っている」
葉山が何か喋っているが、単語一つたりとも耳に入ってこない。気が遠くなりそうなくらいに大きな情報が頭を通り抜けていった。
『そこ』にあったのは――――戸部・大和・大岡の三人が互いに背中合わせで携帯をいじっている光景だった。
その光景は、彼ら三人の不仲を表している。
隼人「どうした? ……比企谷、聞いてるのか?」
三人はチェーンメールの対象になっている。だから周囲を警戒していたとして別段おかしくはない。だけど親しい友人を、それも同じ被害者同士が互いを遠ざけ合うのは変じゃないか?
葉山の証言からメールの内容が共有する秘密という可能性もない。考えられるとすれば一つ――――三人は初めから仲良くなかった。
そして対象の三人の不仲と風変わりなチェーンメール、この二つが頭の中で組み合わさって最悪の妄想が生まれる。
俺は、『説得力のある』チェーンメールが作られた理由を考え付いてしまった。
八幡「なあ、葉山」
俺は自分の妄想の裏付けを取ろうと、葉山に質問しようとして、やはり質問しないことにした。
葉山に確証を取る必要はない。たとえこれが仮定だとしても、この仮定を利用すれば葉山を俺の思い通りに動かすことができる。
上手くいけば………………、葉山を俺の味方にできるかもしれない。
八幡「放課後、部室に行く前に二人だけで話ができないか?」
隼人「話す気になったのか……」
葉山のおかしな返答に疑問を覚えたが、会話を続けてこれ以上注目されたくないので、ああと了解しておいた。
>>747訂正
八幡「最近の奉仕部はどんなことをしてるって訊かれただけだ」
隼人「結衣の調子が悪いことも、俺はクラスの雰囲気が悪くなっている原因だと思っている」
葉山が何か喋っているが、単語一つたりとも耳に入ってこない。気が遠くなりそうなくらいに大きな情報が頭を通り抜けていった。
隼人「どうした? ……比企谷、聞いてるのか?」
三人はチェーンメールの対象になっている。だから周囲を警戒していたとして別段おかしくはない。だけど親しい友人を、それも同じ被害者同士が互いを遠ざけ合うのは変じゃないか?
葉山の証言からメールの内容が共有する秘密という可能性もない。考えられるとすれば一つ――――三人は初めから仲良くなかった。
そして対象の三人の不仲と風変わりなチェーンメール、この二つが頭の中で組み合わさって最悪の妄想が生まれる。
俺は、『説得力のある』チェーンメールが作られた理由を考え付いてしまった。
八幡「なあ、葉山」
俺は自分の妄想の裏付けを取ろうと、葉山に質問しようとして、やはり質問しないことにした。
葉山に確証を取る必要はない。たとえこれが仮定だとしても、この仮定を利用すれば葉山を俺の思い通りに動かすことができる。
上手くいけば………………、葉山を俺の味方にできるかもしれない。
八幡「放課後、部室に行く前に二人だけで話ができないか?」
隼人「話す気になったのか……」
葉山のおかしな返答に疑問を覚えたが、会話を続けてこれ以上注目されたくないので、ああと了解しておいた。
説明を少なくしてみました
意見ください
声をかけてきた人に「何か言いたいことでもあるのか?」
これ心を読んでるって言うんですかねww
>>751
言いませんね。ハイ
ガハマちゃんの台詞を「お喋りしに来たって考えないんだね」と脳内変換してください
訂正できてないじゃん……
>>747と>>748の最初の八幡は除外してください
このセリフは>>746の葉山の二番目のセリフの後に入っていたんですが、なくてもいいですよね
それぞれ脳内変換お願いします
ホームルームが終わって一番最初に教室を出るのはいつも俺だ。話し相手が誰もいないし、他人の動きに何の感慨も持たないから、躊躇いなく教室を出ることができる。誰かと一緒に行動したいという集団意識を俺は持ち合わせていなかった。
奉仕部に所属しても習慣は変わらなかった。というか奉仕部には俺より孤独な美少女しかいないので、行くのを躊躇う理由がない。
けれど今日に限って俺には教室に残らなければならない用事があった。葉山と二人だけで話をするため、葉山が友達と別れ一人で行動するのを待っていた。
三 十 分 も。
八幡「おっせえ!」
隼人「悪い比企谷」
八幡「いいけどよ別に……。遅れたところで雪ノ下に怒られるだけだし」
これから長話をするんだから三十分なんて誤差として扱える。それに雪ノ下からの説教は聞き流し慣れてるしな。
というか――順調に行けば、葉山はともかく俺は今日奉仕部に行かなくてよくなる。
八幡「葉山は校内で二人だけで話ができる場所に心当たりあるか?」
隼人「結構一杯知ってるな」
八幡「…………それはあれか。よく告白されてるからそういう場所に精通してると言いたいのか」
隼人「はは。――――そうなんだ」
八幡「哀愁を出すな。ツッコミづらいだろ」
ちなみに俺もそういう場所はたくさん知っている。リア充とぼっちが共通して同じものを求めていると思うと、何だか面白い。
葉山に連れてこられたのは、特別棟の最上階の階段からさらに上、鍵のかかった屋上の扉の前だった。
元々部活のしてなかった俺は特別棟まで足を運ぶことはない。この場所は俺の知らない処だ。トップリア充すげえと感心する。
人の気配は全くしない。ここなら――今から俺が話す内容を聞かれることはない。
二人っきりでいるところを、海老名さんに見つかる心配もない!
八幡「話を始める前に一つ、葉山に約束して欲しいことがある」
この約束こそが――――これから始まる会話において最も重要な事柄だ。
八幡「今から俺が話すことを、絶対に、雪ノ下に言うな。それを約束できないなら、俺は何も話さない」
隼人「どうしてそんな約束を?」
八幡「理由は後で必ず話す。今はそれで納得してくれ」
隼人「……分かった。約束しよう」
所詮は口約束。善人の葉山だろうがいざとなれば簡単に破れる。だからこそ俺はこの約束が破られないようにしたい。そのために全力を尽くす、という決心の表れだ。
言わばこの約束は、宣戦布告のようなものだ。
八幡「さて、何から話せばいいのやら……」
話さなければならないことが多すぎる。授業中に考えを巡らせたが、なるべく多くの説得材料を用意するのに尽力していた。
話す順序は二の次三の次。重要なのは葉山に反論させないことだ。
数の暴力、言葉の勢いで押し切る。
八幡「チェーンメールの犯人の目的が分かった」
隼人「……何だって? いやそれより、本当なのか比企谷?」
葉山は意外だという風に驚いた。もしかして何か別のことを話されると思っていたんだろうか?
いやそんなことは気にするべきではない。聞き出すにしても、まず葉山を押し切った後だ。
八幡「ああ。予想とはいえ十中八九当たっている自信がある。しかしこの予想はお前にとって受け入れ難いものだと思う。確認しておくが、それでも聞くか?」
隼人「受け入れ難いもの……? それは、告発文ということより酷いものなのか?」
八幡「――――葉山隼人にとってはな」
隼人「教えてくれ比企谷。その酷い予想ってやつを」
名指しの脅迫に葉山は顔を強張らせる。しかし直ぐに立ち直る。どうやら生半可な恐怖では退がる気はないらしい。
なら手始めに教えてやろう。二年F組に一体何があったのか。葉山隼人の根幹を揺らすその全貌をな。
八幡「犯人の目的は――――戸部・大和・大岡の三人の仲を完全に壊すことだ」
八幡「チェーンメールを流すことにより、元から亀裂の入った関係に一石を投じること、それが目的の根幹だ」
隼人「えっ………」
八幡「つまり、全ての原因はあの三人の不仲が招いたってことだ」
隼人「不仲だと!?」
そう。クラスの和を重んじる葉山隼人に一番近いはずの、彼ら三人の仲が悪いせいで今回の事件が始まった。
八幡「当然、気付いてなかったみたいだな」
隼人「そんなことはありえない!」
八幡「ありえるんだよそれが。まあ気付かないのも無理ない話だ。だって三人はお前の前では仲のいい振りをしていたんだからな」
隼人「どうして比企谷にそんなことが分かる!」
八幡「お前の前で仲の悪い素振りなんか見せたら、お前に嫌われるに決まってるからだろうが」
隼人「は……?」
要するに三人は葉山の友人ではあっても、お互いを友人だと思っていなかったのだ。
だがそんな寂しい言い分を、葉山は許さないだろう。それは葉山を知る人間なら誰でも分かることだ。他でもない葉山自身も例外ではない。
だから三人は示し合うまでもなく『自分たちが友人だという演技』を葉山に見せ続けた。
クラスの中心人物の葉山に嫌われたくない、その一心で。
八幡「葉山が見ているところではいい子ぶってただろうが、葉山が見ていないところ……いや葉山がいないところだと、あの三人は一切会話をしない。このことは昼休みにお前が俺に話しかけてきた時発見した」
隼人「あの時…………、あっ」
八幡「もちろん裏付けは取ってある。海老名さんが言うに、あの三人はチェーンメールが流れる前からそんなに仲が良くなかったってさ」
ちなみに海老名さんを選んだ理由は、たまたま席が近かったということ以外にない。
葉山にとって戸部・大和・大岡と同格の存在である海老名さんを持ってくることで、葉山は俺の言い分を否定することも無視することもできなくなった。
八幡「元から仲の悪い三人に向けて、さらに追い打ちとして印象を悪くする噂を流す理由、――――思いつかないか?」
隼人「そ、それは……」
少女漫画や恋愛ドラマでよく見かけるだろ。好きだからこそ仇の印象を悪くしたい。葉山にとって身近な理由なんだが、思考能力を削がれて気付かないのだろうか。
まあ、『色恋』も理由の一つでしかない。
八幡「理由は色々あるぞ。
近々ある職業選択のメンバー決め。そこで三人の内の誰かのことが好きだから、その誰かと一緒のグループになりたいとか。
三人の仲が悪いことに気付いたお節介な他人がチェーンメールという迷惑な行為を選んだとか。
あるいは葉山グループを憎く思っている誰かがグループの仲を引き裂こうとしているとか。
それとも…………被害者本人たちの内誰かが、いい加減演技をすることに嫌気が指したとか。
葉山はどれだと思う? 俺はどれもありえると思うんだがな……」
並び立てた予想の数々、そのどれか一つにでも葉山は反論することができない。
ここまで
原作アンチの内容になってるけど、ヘイトではないです
今の発言忘れてください
これまた板が荒れる原因になる(震え声)
待たせてしまってすみません
今日の夜に投下する予定です
隼人「あ…………、うぁ…………っ」
八幡「気付いたのが今日だったし、俺にできるのは可能性の列挙だけだ。これ以上俺には踏み込めない。ていうか俺が踏み込む必要なんてないんだけどな。肝心なのは――全ての原因があの三人だってことだけだ」
隼人「何が、言いたい……っ」
八幡「この事態を招いたのがあの三人なら、犯人ではなくあの三人にこそ報いを受けさせなければならない――――雪ノ下ならこんなことを言うんじゃないか?」
雪ノ下が今までの話を聞いたとして、あの三人を許さないわけがない。
八幡「こう言われたらもう反論できない。あいつらが葉山に嘘をついていたことは事実だし、最悪あの三人の中の誰かが犯人の可能性もあるんだ。自覚があろうと無自覚だろうとそんな奴らを許して友達付き合いを続けるってのは、(俺が言うのもあれだが)人として見過ごせない」
隼人「じゃあ、どうすれば、俺はどうすればいいんだ……?」
葉山の友情を壊した俺に訊いてどうする。脅し文句の一つとはいえ、戸部・大和・大岡の関係を塵一つ残さず消失させる方法まで考えている、この俺に。
しかし俺は葉山に頼られる相手にならないといけない。悪いとは思いながら、それでも俺は葉山を唆し続ける。
八幡「とりあえず奉仕部に頼るのは止めるべきだ。奉仕部のスタンスは『依頼を通して相談者を成長させる』だ。現状維持は奉仕部のスタンスと真っ向から反してる。今までの話を聞いてもお前がクラスの平穏を求めるのなら、今日にも奉仕部への依頼を取り下げるんだな」
隼人「それだと、比企谷まで手伝ってくれなくなるんじゃないか?」
八幡「依頼じゃなくても頼み事なら手伝うっての。仮にもクラスメイトだぞ」
隼人「……そうか」
やっと光明を見つけたとばかりに、葉山はかすかに笑顔を浮かべる。それが実は近づいてはいけない光明だということに気付かずに。
隼人「比企谷、お前って結構いいやつだったんだな」
八幡「どうだろうな」
人から尊敬されるような人間に褒められても素直に受け取りづらい。というか褒められる行為自体慣れていない。
気恥ずかしい気持ちもあるけれど、どうしても俺は自分が褒められるような人間だと思うことができない。
いつだって俺は空気を読むことができなくて、周りの人間を不快にしてきたんだから。
隼人「実は結衣に『奉仕部には気を付けて』って言われてたんだ。結衣の言葉の意味が分かる。比企谷の言ったことは、俺にとって受け入れ難いことだ。でも比企谷が皆のために色々考えてくれたことに変わりはない。だから俺は比企谷のことを信じるよ」
八幡「へぇ……」
やはりと言うか葉山に俺への不信感を植え付けていたのは由比ヶ浜だったか。けれど結局、葉山は俺を信じてしまった。
そして葉山の期待は早々に裏切られた。
八幡「いいや、由比ヶ浜の言ってることは正しいよ」
隼人「え?」
八幡「なあ。俺から葉山に手伝って欲しいことがあるんだが、いいか?」
隼人「あ、ああ……構わないけど。それはこの問題に関係あるのか?」
八幡「関係ない。俺からの個人的な頼み事だ」
今までの話は全て前置き。この話が本題だ。
俺は葉山に協力を求めた。
八幡「葉山。お前には、俺が奉仕部を辞める手伝いをして貰いたいんだ」
隼人「…………………………はっ!? いや、何を言ってるんだ比企谷!?」
八幡「ま、そんな反応になるよな」
隼人「比企谷は奉仕部を辞めたいと思ってるのか?」
八幡「ああ」
隼人「そうか……、でも、だとしたらなんで俺に話すんだ。雪ノ下さんは比企谷が辞めたがっていることを知っているのか?」
八幡「いや、雪ノ下は知らない。話したところで雪ノ下は納得しないと思う。だけど葉山なら俺の考えを理解してくれると思ったから、俺は葉山に相談している」
こう見えて葉山はそこまで優しいわけではない。比べるのはどうかと思うが、由比ヶ浜の方が優しいと思う。
では優しくないはずの葉山がなぜクラスの中心人物になっているのかと言うと、葉山の考え方が皆の期待に答えるものだからだ。
ゆえに葉山は俺の考えを否定できない。俺の考えもクラスの、学校の皆のことを思いやっているから。
八幡「そもそも俺が奉仕部にいる理由は、生徒指導の平塚先生が雪ノ下に俺の人格を改善するよう依頼したのが発端なんだ。無理矢理奉仕部に通わされてるんだ」
隼人「人格の改善? 比企谷の人格はそんなにおかしいか? 確かに変わっているとは思うが……」
八幡「変わってる、っていう表現じゃ足りない。お前が思っているより数倍俺は捩じれているんだ」
そのことを葉山に痛感させるために、さっきまでの会話があった。
八幡「葉山。さっき俺は色々説明や証拠を提示して、お前に『奉仕部を頼るな』という意見を受け入れさせただろ? あれは全部――俺が奉仕部を辞めたくてやったことなんだ」
漫画によく出る悪役みたいに、俺は大袈裟な芝居で自分のやったことを騙る。葉山に危機意識を芽生えさせるために、意図して葉山を怒らせるような嘘をついた。
八幡「俺は依頼を失敗させるために、お前にわざと偏った情報を与えた」
隼人「え――――」
八幡「つまり……自分の目的のために、本来正しいはずの奉仕部と本来被害者であるはずの三人が“間違っている”と思わせる、そんな酷い人間なのさ。俺は」
隼人「何を言ってるんだ……。何のためにそんなことを……」
八幡「だから奉仕部を辞めるためだって言ってるだろ。依頼の解決の邪魔をすることで、平塚先生の依頼より他の生徒の依頼を優先すべきだと思わせられる。いや、雪ノ下一人で解決できそうな依頼なら邪魔はしないけどよ。その場合俺は何もしなければいい。だが雪ノ下に解決できなくて俺が解決できそうな依頼が来た時は――――わざと依頼を解決しない。ちょうど今の葉山みたいに、依頼者のことを見捨てる」
隼人「じゃあさっきのは、手伝うって言ったのは……っ」
八幡「依頼ではなく個人的な頼みなら、って言っただろ」
がっ、と怒りにまかせて葉山は俺の胸倉を掴んだ。
喉が閉められ息苦しくなったが、葉山から目を逸らすことだけはしなかった。
隼人「どうして……! どうしてそんなことを俺に言うんだ! 奉仕部を辞めたいって、雪ノ下さんに直接言えよ!」
八幡「ただ辞めたいって言ったところで、やる気の問題と言われるだけだ。それに……やる気の問題じゃない」
隼人「じゃあ何の問題だって言うんだ? 大体、どうして比企谷が自分自身を変えようとしないんだ!!」
――――そう簡単に変えられるものなら、とっくの昔に変えられてるさ。
変えられなかったからこそ今俺は悩みに悩んで、こんな回りくどい説得をしているんじゃないか。
八幡「なら、葉山は俺が奉仕部にいた方がいいって言うんだな」
隼人「そういうことを言ってるんじゃない。まず、比企谷自身の考えが変わらないといけないだろ」
八幡「こっちの話を聞け」
隼人「………………」
語気を強めて葉山を黙らせる。ついでに襟を掴んでいる手を離してくれた。
八幡「葉山の言いたいことはよく分かってる。確かに俺が変われば済む話だな。だけどな葉山、人格ってのは簡単に変わるものなのか? 一朝一夕で良くなるものなのか? その間俺は奉仕部に居続けなければならないのか?」
隼人「それのどこが駄目なんだよ」
八幡「――――葉山は俺の人格が改善するまで、由比ヶ浜みたいな犠牲者が出ることを許容できるのか?」
隼人「えっ? ああ――さっきの話のことを言ってるのか。あれは比企谷が奉仕部を辞めるためにわざとやったことだろ」
八幡「いいや。由比ヶ浜の時は奉仕部らしいアドバイスをしていた。その結果由比ヶ浜を傷つけている。葉山へのアドバイスは、葉山の都合を考えた上でのアドバイスだ」
由比ヶ浜の依頼が葉山たちに秘匿しなければいけないことを突いて、俺は奉仕部の悪印象を晒していく。
八幡「仮に俺が奉仕部を辞めたがっていなかったなら――――俺はさっきの話を雪ノ下に話し、雪ノ下に『三人は仲違いさせるべき』だと言ってるだろうな」
隼人「え、はっ!?」
八幡「なんか勘違いしてるみたいだから訂正するけどよ。奉仕部はボランティアや慈善活動をする部じゃねえぞ。依頼者のために依頼者を成長させる、それはつまり依頼者の現状を否定することでもある」
人間だから間違うことはあるだろう。高校生だから間違うのは当たり前だ。間違いをそのままにしておくことこそが間違いなのかもしれない。
けれど――たとえ間違っているとしても今のままでいたいという思いを踏みにじってまで、それは突き通さなければならないのだろうか。
八幡「もし俺が真面目に活動したなら――依頼者の感情を完全に無視して、ただ依頼者の将来のためになることをアドバイスする。依頼者の過去を否定し、努力を促す。その残酷な行為を、俺は無慈悲に実行できる」
隼人「確かに、比企谷ならできそうだな…………」
八幡「奉仕部はマンガやドラマの先生みたいに誰かの可能性を探し当てたり、伸ばしたりすることもない。努力を促すだけならいい。試練を与えるだけならいい。だけど場合によってはその誰かのトラウマを見つけたり、あるいはトラウマまで植え付けることになるかもしれない。というか俺がそういうことが得意過ぎるのが悪い」
これで葉山も俺の言うことに納得したはずだ。
相手の事情を無視すること。余計な感情を抱かないこと。誰が傷ついても無関心でいること。これらの俺の特質は、余りに奉仕部の活動に当て嵌まりすぎていた。
だから俺は公平に考えた。自分の都合と、雪ノ下の都合と、知らぬ誰かの都合とを比べて、比企谷八幡は奉仕部にいるべきではないという結論を下した。
八幡「分かってくれるよな。葉山」
隼人「ああ……」
八幡「高校生が同じ高校生にトラウマを植え付けるような部活動なんて、こんな俺でも“間違っている”と思う。少なくとも俺は…………そんな部活動に所属しながら人格を直せるとは微塵も思わないな」
修正や見直しがしやすいので次回投下以降もこうしてスパンを開けて投下していくスタイルをとりたいです
おそらく次か、次の次くらいで第五章も終わります
>雪ノ下が今までの話を聞いたとして、あの三人を許さないわけがない。
許しちゃうのかよwwww
訂正指摘されて焦る癖を直したい
許さないわけがない
↓
許すわけがない
この言葉がトドメとなり、葉山は俺に味方することを約束してくれた。
隼人「それで、俺は何をして比企谷を手助けすればいいんだ?」
八幡「奉仕部に相談しようとしている奴を見かけたら葉山が相談相手に名乗り出るだけでいい。いつも通りお節介を焼いてくれ。もしくは奉仕部に雪ノ下が解決できそうにない依頼が持ち込まれた時、お前に相談を横流しにすることがあると思う」
隼人「俺が困った時は比企谷に相談していいか?」
八幡「奉仕部を通した相談なら解決しない方法を、葉山を通した相談なら平和な解決方法を考えてやる」
割り切った物言いに葉山は苦笑いを浮かべる。しかし奉仕部で出会った時と比べれば少し朗らかになっている。
思っていた通り、俺と葉山は理解し合える人間だったのだ。
苦手意識はたっぷり植え付けてあるし、初期の由比ヶ浜みたく俺に深く踏み込んでくることもないだろう。
八幡「おっと。チェーンメールの解決法は今言っとかないとな。――葉山が間に立って三人を仲直りさせるだけでいい。三人の仲違いを望んでいるのは所詮犯人一人。なら葉山や本人たちが仲直りを望むだけで犯人に諦めがつくはずだ」
隼人「頑張ってみるよ」
八幡「依頼はキャンセルってことでいいよな」
隼人「ああ。俺の方から雪ノ下さんに言っておこうか?」
八幡「俺が言っておく。葉山だと誤魔化し切れなさそうだし」
隼人「…………かもしれないな」
よく雪ノ下さんの問い詰めを流すことができるな、と葉山に関心される。
大したことない、と俺は答えておいた。
さて。依頼をキャンセルさせたことと由比ヶ浜の事件、この二つを誤魔化す文句をこれから考えないとな。
はあ、メンドくさい。
――――――葉山の依頼が解消してから数日後。この教室では職業選択のグループ決めが行われている。
あの三人(名前は忘れた)は同じグループになっている。三人だけで談笑する姿も見受けられるようになった。
チェーンメールも流れなくなったらしい。まさか万事解決の形になるとは思ってもみなかった。
ちなみに雪ノ下からの追及は依頼のキャンセルというトラブルがあってか、楽に処理することができた。
彩加「八幡! 一緒のグループになろうよ!」
八幡「いいぞー」
暫定美少女のお誘いに間延びした返事で了承する。
あとの一人は余りものと組むか、なんて考えている俺に予想外の人物が話しかけてきた。
姫菜「ねえ、そっちのグループに入れさせてもらっていいかな?」
彩加「いいけど、葉山くんたちと組まなくていいの?」
姫菜「ほら。私たちのいつメンって七人じゃん。三人グループだとどうしても一人余るから、私があぶれたの」
八幡「へえ」
姫菜「一緒のグループになってもいい?」
八幡「俺はいいけどよ……。戸塚は?」
彩加「僕もいいよ」
姫菜「よかったー。これで…………、うふっ、うふふ、デュフフフフ……」
明らかに女子が出してはいけない類の不気味な笑い声を漏らし、そして海老名さんは叫ぶ。
姫菜「『とつはち』キタ――――――――――ッッ!!!!」
姫菜「前から目をつけてたんだよね! 弱気Sな戸塚くんとMに見えて実は鬼畜な比企谷くん! 二人と同じグループになれるなんて、私は幸せです!」
八幡「ちょっと待て、俺が受けなのか」
姫菜「戸塚くんが『これで……、いいのかな……?』なんてたどたどしく攻めて、比企谷くんが『全然物足りねえよ』ってせがむのよ。ああっ、妄想が頭でスパークする!」
戸塚「海老名さん何を言ってるの…………?」
八幡「おい――――っ!」
なんでこいつから目を離した! といった視線を三浦のいる方に向ける。三浦や葉山、他の面子も全員すまなそうな顔をしている。
しかし三浦たちの誰も海老名さんを引き取りに来ようとしない。他の女子のクラスメイトも同じ。どうやら俺たちは見捨てられたらしい。
姫菜「あっ、ヤバ、鼻血出ちゃった」
八幡「ハンカチかティッシュ持ってねえのか?」
姫菜「ちゃんと持ってるよ。自分のことは自分がよく知ってるから」
八幡「なら少しは自分を抑える努力をしてくれ」
姫菜「ごめんね。二人のカップリングが素晴らしくてどうしても我慢できなかったの」
彩加「カップリングって何のこと?」
姫菜「むほっ! これは……染めがいがある!」
八幡「戸塚を染めようとするな。被害者が出るじゃねえか」
ていうか戸塚は見た目の割にBL知識を知らないのか。戸塚は漫画を読んでないタイプか、いかにも純粋だからテニヌを見ていそうなのに。
それとも知っていてしらばっくれているのかもしれない。だとしたら腹黒いな。
結局、俺と戸塚は海老名さんを拒絶しなかった。俺たちのようなはみ出し者はグループ決めでは受け身を取るしかない。
だから海老名さんが職業選択で行きたいと言った場所にも、俺と戸塚は反対しなかった。というか希望がなかっただけである。
――その場所が葉山たち二グループとは違う場所だったことが、少し気になった。
姫菜「戸塚くん、黒板に書いてきてくれるかな」
彩加「うん。いいよ」
海老名さんは黒板に書きに行く役に戸塚を指名し、席を外させた。
どうやら海老名さんは俺に言いたいことがあるらしい。
姫菜「ねえ比企谷くん。ユイと隼人くんを変えたの、君でしょ?」
八幡「…………何の話だ?」
姫菜「誤魔化さなくていいよ。全部知ってるから」
そう述べる海老名さんの目は確信に満ちている。――まるで葉山が依頼を持ち込んでくる前の雪ノ下のように。
姫菜「バレバレだよあんなの。二人とも数日前より明らかに人付き合いが慎重になってる。二人に一体何を吹き込んだの? 比企谷くん」
八幡「なんで俺が二人に何かしたことになってるんだ?」
姫菜「二人とも、比企谷くんの話を振ったら口を噤むようになったから。雪ノ下さんのことは元から話そうとしてなかったけど、君について話をする態度の変化は顕著だよ」
八幡「ふーん」
姫菜「まあ、君が聞きたいのはそういうことじゃないよね」
海老名さんはいつも浮かべている笑みを消し、無表情になる。
海老名さんは俺に決定的な証拠を突きつけた。
姫菜「比企谷くんだよね。去年の『カッター刃事件』を引き起こしたのは」
八幡「――――――――よく分かったな」
姫菜「否定しないんだね」
八幡「まあな」
『カッター刃事件』とは、去年総武高校で起きた一つの悲劇。当時虐められていた一年生男子の机と椅子に、カッター刃が剣山のように数十本も刺さっていた事件だ。
一年生男子を虐めていた上級生たちが犯人と見なされ、全員が停学または退学処分を受けた。総武高校が進学校だったこと、入学半年にも満たない一年生から十万円以上の大金を取り上げていたこと、そして『目に見える殺意』に学校側は厳しい処分を下した。
被害者の一年生男子も後を追うように転校。教師の心に危機感を、生徒の心に恐怖を植え付けた凄惨な事件だった。
皮肉にもそのおかげで虐めが以前よりずっと減った、と平塚先生が話しているのを聞いた。
姫菜「虐められてた子と私は一年の時同じクラスでさ。今のクラスの雰囲気が、その子が転校した後と似ているんだよね」
要するに海老名さんは、去年の事件で俺が関わっていたように今回も俺が関わっていると言いたいらしい。
その考えは一部の狂いもなく正解だ。なら海老名さんは俺に何をさせたくてその考えを話したんだ?
姫菜「………………静かだよね。今の、この教室って」
八幡「そうかもな」
姫菜「人間関係に不満を言う人がいない、優しい空間。――私はホラ、人と違ってるから。そういう空間を居心地がいいように感じちゃうの」
そう言って海老名さんは――三浦たちの方を寂しそうに見つめた。
姫菜「でも、ううん、それは気のせい。ホントはそんな空間味気なく感じると思う。誰も文句や不平を言わない。何の刺激も感じない。そんな高校生活つまらないよ。そんな青春――――ありえないよ」
八幡「………………」
姫菜「………………」
彩加「二人とも、何の話をしてるの?」
黒板に名前を書き終え、戸塚が戻ってくる。戸塚は俺たちの話に入ってこようとする。
俺は戸塚に構わず海老名さんとの話を続けた。
八幡「それで? そんな色褪せた青春の当事者である俺に何をして欲しいんだ?」
姫菜「比企谷くんのせいで優美子のグループに居辛くなったんだよ。責任取って、私の隠れ蓑になってちょうだい」
八幡「……それはつまり、さっきみたいな妄想垂れ流して人を遠ざけさせろということか?」
姫菜「ザッツライ!」
八幡「はぁ…………。悪い戸塚、迷惑かける」
彩加「ううん。気にしないでよ」
そこに居るだけで誰かを幸せにしたり、尊敬される人間がいるように。
そこに居るだけで誰かに迷惑をかけたり、疎まれる人間がいる。
――――俺は思う。彼ら彼女らの青春は色褪せているのかもしれない、けれど色褪せた青春こそが彼ら彼女らの居場所なのかもしれない、と。
職業選択を経て、俺と戸塚は海老名さんとよく話すようになる。対照的に海老名さんは三浦や葉山、由比ヶ浜と距離を置くようになった。
俺は他人の趣味にとやかく言わないし、海老名さんはBL以外のオタク趣味にも理解がある。お胸の大きな誰かと違って踏み込んではいけないラインを越えることもないので、軋轢が生まれる心配もなかった。
こうして海老名さんは、俺の三人目の友人になった。
ちなみに――俺が下の名前を覚えている友人は、材木座義輝だけである。
第五章 「こうも簡単に、葉山隼人は説き伏せられた」 終
ちょうど三万字までに収まりました。もし描写を濃いまま書いていたら四万字いってたかもしれません
第五章で作者の執筆スタイルが大分改善したので、すらすら書けました
チェーンメールや依頼解決のくだりで反論が一つもなかったことを意外に思ってたりします
第六章では幕間の「謎の人物」が出張ってきます
遂に、あの大魔王が登場します。ただし八幡と対峙するかはわかりません
残すところあと二章。伏線は一つ残らず回収するつもりです
最後までよろしくお願いします
最近では下校時間になる前に帰宅を申し出ても雪ノ下に反対されない。
部室で本を読んだり、宿題や勉強をしていても咎められない。むしろその手の話題で会話が弾むまである。最近の雪ノ下から俺を改善するという意思が感じ取れなくなっていた。
雪乃「ねえ。比企谷くんの両親ってどんな人なの?」
八幡「え? 俺の親?」
まあたまに俺の内情を探ろうとする質問が飛んできたりするが。別に質問されるだけなら気にならない。大事なのは俺に干渉してこないことだ。
聞いたことを言い触らしたり、それを知って感情的にならなければ俺を知ろうとすることに抵抗意識は湧いてこない。
一言で言ってしまえば…………見た目通り大人しい雪ノ下は可愛げがある、ということだ。
八幡「両親は共働きってだけで、特に変わり映えしてるところはないと思うぞ。俺と小町が小さい頃は作り置きとはいえご飯を作ってくれてたから、ネグレクトってわけでもない」
雪乃「家族で外に出かけたりしないの?」
八幡「小町と親とでよく行ってるぞ。ほら俺インドア派だし、服装も気にしてないだろ? 面倒臭がって断ってるうちに、今では完全に放置されるようになった」
雪乃「……相変わらず、人並みの生き方に興味がないのね」
そう言う雪ノ下も得意の毒舌を言わない。両親や小町のように、苦言を呈すことの不毛さを悟ったらしい。
雪乃「――――私には両親の他に、姉が一人いるの」
八幡「へえ。なんというか……、苦労してそうだな」
雪乃「ええ。だって姉は私以上に優れているもの」
八幡「え、そっち?」
てっきり雪ノ下の有能さに凡人の姉が苦労していると思ったが。苦労しているのは雪ノ下の方なのか。
というか雪ノ下より有能って…………せいぜい東大、それも理Ⅲに受かるレベルだな。大したことあるようなないような。
雪乃「私以上の魅力と聡明な頭脳を持っていて、運動や芸術も人並み以上にこなせてさらには人当たりが良いという完璧超人なのよ。そういう姉をもってしまったから、私がいくら頑張っても姉と比べられてしまうの」
八幡「ふーん」
雪乃「性格はいいとは言えないけれど、大抵の人は外面に騙されてしまうから。誘蛾灯で虫が焼かれるのを見ている気分になるわ。まあ……あなたには関係のないことね」
そう言って雪ノ下は読書に戻った。その日に雪ノ下がそれ以上姉の話をすることはなかった。
静「比企谷。それに雪ノ下」
八幡「あ、はい」
雪乃「なんでしょうか? 平塚先生」
奉仕部の戸締りをして鍵を職員室に返しに行く途中、平塚先生に出会う。
雪ノ下と二人でいる時に平塚先生と会いたくなかった……。もし葉山の依頼について突っ込まれたりしたら面倒なことこの上ない……。
静「勝負について報告しておきたくてな」
雪乃「どう考えても私の勝ちとしか思えませんが」
静「いやいや。確かに由比ヶ浜の依頼は雪ノ下が勝っているが、葉山の依頼では裏で比企谷が活躍している。比企谷は由比ヶ浜のアフターフォローを間違えるという大失態を犯したが、メールの相談は雪ノ下の方が優勢…………ん、雪ノ下の勝ちとしか思えないな」
雪乃「ならそれでいいじゃないですか。たとえこの先勝負を続けたとしても、結果が覆ることはありえません。そも比企谷くんには勝つ気がないですから」
静「そうだな…………。まあ、そうなるしかないか」
俺も雪ノ下もこの結果を目指して今まで頑張っていた。むしろどうやればこれから逆転するというのか。
奉仕勝負は雪ノ下雪乃の勝利。初めからこうなることは決定していた。
静「敗者は勝者の言うことをなんでも一つ聞く、という約束だったな。雪ノ下は比企谷に何を望むんだ?」
雪乃「いえ……。今後のためにその約束は取って置きます」
静「そうか。まあ私から強制するつもりはないさ。そこは当人同士で学生という枠の中で好きにやればいい」
学生の枠って結構広いと思うんですが。高校生でも結婚できたりするし、避妊してれば不純じゃないとかだろ実際は。
ていうか『男が女に』何でも一つ言うこと聞かせられるって展開はよく見るけど、『女が男に』って展開はあんまり見ないような。『女が男に』の場合は『何回でも』みたいな形によくなる。
頼むはずがないと思うが、回数を増やす願いは断らせてください。
静「ああそれと、比企谷」
八幡「はい」
静「――――気を付けるんだぞ」
八幡「? 何にっすか?」
静「すぐに分かるさ」
それだけ言って平塚先生と別れる。
平塚先生の忠告の意味は次の日に判明する。そして雪ノ下の話も忠告であったことを知る。もし今日明日に葉山と話すことがあれば、遠まわしに忠告を受けていたのかもしれない。
しかし結局――それらは忠告でしかない。当人たちのことより自分たちの身が心配で、だから遠まわしなことしか言えなかった。
――――――彼女らは、化け物同士の争いに巻き込まれるのを怖がっていただけだった。
次の日の放課後、学校の正門前に“それ”がいた。
八幡「――――ん?」
下校時刻より三十分早く部活を切り上げ、いざ帰ろうとしていたところだった。自転車のハンドルを押しながら歩いていると、正門の近くで私服の美女が立っているのが見えた。
私服の美女は下校している生徒の注目を浴びていて、その注目に応えるように笑顔を振り撒いている。
俺は立ち止まってその美女を観察する。時折男子生徒がその美女に話しかけるが、少し話しただけですぐ男子生徒は離れていく。
いや、どちらかと言えば拒まれている。男子は美女の方を振り返っているのに、美女の方は振り返らず他の生徒に目を向ける。まるでその美女は『何か』を聞き回っているように見える。
ふと、俺は昨日の平塚先生の言葉を思い出した。
八幡「………………嫌な予感しかしない」
もしかしてあの美女、俺に関係したこと聞いて回ってないよな?
自転車を駐輪所に置いて別の出口から逃げてしまいたい、という気分になる。
結局俺は正門から出ていくことにする。たかが美女のために帰路を変更するなんてらしくないことはしない。
しかし美女への警戒は怠らない。なるべく美女の視界に入らないよう、美女より離れた道を歩いていく。
目も合わないよう、気を配った。
「あっ」
しかしその美女は、俺の方を見て何かに気付いたように声を上げた。
「そこのキミ、聞きたいことがあるんだけど」
美女の呼び止める声に周囲にいる生徒が一瞬動きを止める。
俺も遅れて反応を示した後、知らない振りをしてまた歩き出す。
「ストップストップ! キミだよキミ! 止まってってば!」
自転車の前に立ち塞がられて俺は歩みを止める。
ようやく、俺とその美女の目が合わさった。
間近で見て、その美女の顔が綺麗だということを再認識する。女優もかくやと言える程に整った顔の造形と、グラドル顔負けのプロポーション。その上化粧や服、アクセサリーで着飾っているから意識しなくても自然と目を向けてしまう。
この俺が『美女』という名詞を使うくらい、目の前の女性は強いオーラを放っている。
そしてその美女は輝かんばかりの笑顔を俺に向けている。
――――言い換えれば、コイツは俺を見て笑っているということだ。
途端に俺の中で、笑顔を向けられていることへの不快感が湧き立つ。
目の前にある美しさなど関係ない。気持ち悪くて、腹立たしくて、今すぐこの美女から離れたくなった。
「あのさぁ」
美女が口を開く。ねっとりと絡みつくような目で美女が俺を見た。
「君が比企谷八幡くんだよね」
八幡「いえ。人違いです」
「あれっ?」
驚く美女。無表情の俺。観察する周囲の生徒たち。これがどんな状況か理解できる人間は一人としていない。
これが――――“人間関係を掌握する化け物”と“人間関係を壊す化け物”の出会いだった。
VS雪ノ下陽乃、開幕
第六章は陽乃さんのキャラ描写が難しいので、投稿がいつもより遅れるかもしれません
>最近では下校時間になる前に帰宅を申し出ても雪ノ下に反対されない
もう出だしのこの一文からいきなりおかしくね?
いや日本語的には間違っちゃいないんだけどさ……
なんでこんな英文翻訳みたいな文章多用するのかよく分からん
唐突にされない、って断言されても「はあそうですか…」ってなっちゃうだろ…
なんつーかこんな感じで逐一小説っぽくない文章なんだよね
乾いた文章狙って捻ったらこんな変な文章になってしまいました、って感じでもないし、
小説書き慣れてないのは分かるんだけど、あまり読んだりもしない人なのかな?
気になってたの俺だけだったらスマンコスだけど
なんか細かくてすまんな
過去ログ見てたら日本語がおかしい、どうおかしいのか言ってみろ、みたいなやり取り何度かあったから
気になったから言ってみた
>>851>>852
細かい指摘をしてもらって逆に感謝したいです
小説は読む方なんですが、どうしてもズレた日本語になってしまうようです
だからもう、とにかく書いてとにかく読んで上達を図るしかないと思っています
明日投下予定
あと俺ガイル2期始まってますが、作者は関西圏なのでまだ見れてません
一章完結に1ヶ月半くらいかかっているので、多分2期が終わる頃にこの作品も完結しますね
「いやいや嘘ついちゃ駄目だよ。君が比企谷くんだって私知ってるから」
いいや。俺のことを知っているからこそ、俺は人違いの振りをしている。
俺は常日頃から人に注目されない生き方をしている。噂になるのをなるべく避けて、たとえ話題に上がっても『語られにくい』ような行動を取っている。
――そのはずなのにこの女は、俺のことを知って直接会いに来るという行動を取っている。
この行動を例えるなら、探偵小説で探偵ではなく警察を、それも名前のない鑑識に目を向けるようなものだ。
普通の人間にそこまでの注意力はない。つまりこの女は普通じゃない。だから俺はこの女に心底警戒している。
八幡「違います。俺は、材木座義輝です。比企谷じゃありません」
「すぐバレる嘘はつかないでね。最初の名前を言うテンポは遅いのに、比企谷はスムーズに言えてる。慣れない名前を言った証拠だよ」
八幡「見ず知らずの人に自分の名前を教えるわけないじゃないですか」
「私は、雪ノ下陽乃だよ」
その美女は、雪ノ下陽乃と名乗った。
やはりと言うべきか、この女は雪ノ下雪乃の実の姉のようだ。
陽乃「ほら。私は名乗ったんだから、君も名前を教えてよ」
八幡「なんで名乗らなきゃいけないんですか。というか今日は忙しいからあなたなんかと話してる余裕ないんです。どいてくれませんかね?」
陽乃「じゃあ君が比企谷八幡なのか、それだけ教えてくれないかな?」
八幡「はいはい、そうです、俺がその比企谷です。それでは失礼します」
自転車のハンドルをきり、前に立ち塞がっている雪ノ下陽乃の横を通り抜ける。
校門を越えて自転車に乗った時、後ろから声が届く。
陽乃「また今度話をしようねー! 比企谷八幡くーん!」
大声で、俺の名前が叫ばれた。振り返ると雪ノ下陽乃が笑顔を浮かべて俺に手を振っていた。生徒たちは全員、俺と雪ノ下陽乃に目を向けている。
俺は雪ノ下陽乃を睨む。彼女は俺の憎々しげな視線を気にした様子もなく、笑みを浮かべている。
前に向き直り、自転車に乗りペダルを漕ぐ。一刻も早くここから離れるために。
かつ、かつ、と無意識に自転車のベルを爪で叩いている。
――――たった一度の邂逅で、俺は雪ノ下陽乃に怒りを抱いた。
隼人「ちょっといいか? 比企谷」
次の日の休み時間、教室で葉山に話しかけられる。
隼人「昨日、陽乃さんに会っただろ?」
八幡「え。もう噂になってるのか?」
隼人「いや。そこまで広まってないと思う。比企谷がそこまで有名じゃないからかな」
訊いておいてなんだが、俺は学校の噂よりも葉山があの女を下の名前で呼んだことが気になった。そんな細かい手がかりを気にしてしまうくらい、俺はあの女を危惧していた。
珍しく俺は他人の人間関係に踏み込む。
八幡「――――知ってるのか、そいつのこと」
隼人「まあ、な」
八幡「知り合いなのか?」
隼人「それは…………」
八幡「頼む葉山。そいつ――雪ノ下陽乃について、お前が知っていることを全部教えてくれ」
俺は頭を下げて葉山に頼み込んだ。いつもの無表情から考えられない俺の態度に、葉山は大層驚いている。
そして葉山は――初めから言うつもりだったのか――素直に了承し、雪ノ下陽乃について話し出す。
雪ノ下陽乃。俺らより三つ上の大学生。雪ノ下雪乃の姉で雪ノ下家の長女。父親は県会議員で、財閥の社長でもある。長女という立場から、幼い頃より上流階級のパーティーによく出席している。人受けのいい笑顔はそこで身に付けたらしい。
表面上は人を侍らせているが、性格はとても厳しく現実主義者とのこと。そして雪ノ下陽乃が大事に思っているのは、実の妹の雪ノ下雪乃ただ一人。それ以外の人間は自分にとって有用か邪魔かで判断する。
仮面の裏には真っ黒な内面が潜んでいて、そこから生まれる歪んだ愛情は全て雪ノ下に向けられている。もしその歪んだ愛情が他の対象に向かえば、そいつは壊されるか飽きられるかの二つに一つしかないという。
隼人「三日くらい前に陽乃さんから電話がきて、最近変わったことがないか聞かれたんだ。最初は隠し通していたけれど、次に掛け直してきた時には君の名前を掴んでいて…………結局俺は君についてほとんどのことを白状させられていた。――――すまない」
八幡「それでどこまで話して、何を隠すことができたっていうんだ?」
隼人「メールの相談で比企谷が話したことと比企谷の目的、というかあの時の会話内容を全部言わされたかな。言ってないのは結衣のことと――君の危険性くらいだよ」
八幡「……ホントにほとんど全部知られてんじゃねえか」
ついでに葉山の父親が雪ノ下の父親の会社の顧問弁護士で、葉山が雪ノ下姉妹と幼馴染という話も聞いた。幼い頃から葉山が雪ノ下陽乃に逆らえない立場にあることを気の毒に思う。
だが俺の目的を聞いておきながら、俺に接触してくるって変じゃないか? 放っておけば俺は奉仕部から、雪ノ下の下から離れる。
その予定を早めるか、彼女手ずから引導を渡すために雪ノ下陽乃は接触してきたっていうのか?
隼人「だから、君が陽乃さんに目を付けられたのは俺のせいかもしれないんだ」
八幡「は、なんで?」
隼人「俺の話を聞いて陽乃さんが君に興味を持ったからさ」
あーなるほど。俺の存在を面白がって構ってきているわけですか。普通いないだろうからね、雪ノ下妹から縁を切りたがる男なんて。
…………ふざけんじゃねえよ、一番最悪のパターンじゃねえか!!
八幡「ヤバいぞ葉山、多分俺しくじったかも」
隼人「……何をしたんだ?」
八幡「徹底的に拒絶の態度を取ったり、偽名を使って人違いの振りをしたり、とにかくそいつに心を開かなかった」
話を聞く限り雪ノ下陽乃はいじめっ子気質。そんな相手に拒絶なんて逆効果でしかない。
いじめっ子には嫌な感情を見せず普通の対応をするべきだったのに。けれど俺は雪ノ下陽乃の笑顔に“反応”してしまった。
隼人「それは不味いな……。まず間違いなく目を付けられたと思う」
八幡「目を付けられてない可能性、残ってると思うか?」
隼人「ありえないな。それに俺の知ってるあの人は、自分が気に入った玩具を逃がすような真似は絶対しない」
八幡「だよなぁ……。はぁ、ヤバい」
あの雪ノ下雪乃でさえ俺を恐れさせることはなかった。今回の状況、今回の相手はそれだけ厄介だということ。しかもその相手に目を付けられるという大失態を犯している。
避けようのない厄介事に気が滅入り、一際大きくため息をつく。
結衣「あれ? 比企谷くんと隼人くん、二人でゆきのんの話をしてるの?」
気を滅入らせている俺たちに由比ヶ浜が話しかけてきた。
隼人「いやいや、雪ノ下さんの話なんてしてないよ」
結衣「ホントに~? あたし、二人がゆきのんの名前を言ってるの聞こえたんだけど」
ノータイムで誤魔化しにかかる葉山。どうやら葉山は周りを危険人物に関わらせたくないらしい。
葉山の意を汲み、俺は由比ヶ浜がこれ以上この話題に触れないようにしてやることにした。
但し、悪印象を植え付ける形で。
八幡「違うぞ由比ヶ浜。昨日、雪ノ下の姉が俺に話しかけてきたって話だ」
隼人「おいっ、比企谷それは……」
結衣「えっ! ゆきのんにお姉さんがいたの!!?」
葉山が慌てる。由比ヶ浜が『雪ノ下の姉』という話題に興味を示すことは予想できた。葉山は彼女の話題を逸らそうとしたのに、俺はそれを掘り返した。
だがまあ慌てるな葉山。印象操作は俺の得意分野だ。
由比ヶ浜の返事から、由比ヶ浜が雪ノ下陽乃のことを知らないのは明白。――見知らぬ他人の印象を操るなんて、赤子の手をひねるようなものだ。
八幡「ああ。俺に話しかけてくるような姉がな」
結衣「…………え? そ、それってどういう意味?」
八幡「要するに変わり者だってことだ。でも見た目が雪ノ下以上だったから、中身が残念な分もったいないって話をしてたんだ」
結衣「隼人くん――――、マジ?」
隼人「あ、ああ! そうなんだよ!」
俺はありふれた言葉で雪ノ下陽乃の人間像をぼやかした。
これでたとえ由比ヶ浜が例えば雪ノ下に雪ノ下陽乃のことを尋ねても、「ゆきのんのお姉さんって変人?」という質問が出るようになる。
由比ヶ浜の身を守りたいなら、雪ノ下陽乃を知る奴はその言葉を否定せず、そしてそれ以上の言葉を付け足さないだろう。そうすれば由比ヶ浜の中で雪ノ下陽乃は『近寄りがたい変人』のままなんだから。
後は葉山が雪ノ下陽乃の容姿について語り過ぎなければいい。
隼人「それより、そろそろ期末テストだけど結衣は大丈夫なのか?」
結衣「なんでそこで勉強の話になるの? テストなんて一ヶ月も先の話じゃん」
隼人「でも結衣の頭だと、今から勉強しないといい点取れないだろ」
結衣「いくら隼人くんでも、あたしのことバカにしすぎだよ!」
しかし………………、由比ヶ浜を守ろうとする葉山の露骨な態度。いくら周囲に優しい葉山とはいえ、あからさま過ぎるように思えてしまう。
――――もしかして葉山は由比ヶ浜のことが好きなんじゃないか?
なんて、どうでもいいことを考えた。
誰が誰を好きかなんて俺は全く興味がない。たとえ相手が誰であろうと、恋愛という一感情にこだわったりしない。
仮に誰かが俺のことを好きになっても、逆に俺が誰かを好きになっても…………きっといつかその気持ちを『どうでもいいもの』だと断じてしまう気がする。今までの経験と、感情と、人生観から自分にまともな恋愛ができると思えない。
――――だからこれから先、俺が誰かを好きになっても、その気持ちを表現することはない。
ならそれは、誰も好きにならないことと同じなのではないだろうか。
ここまでです
# # #
陽乃が初めて予兆に気付いたのは、電話で隼人に近況を尋ねた時だった。
陽乃「ねえ隼人、最近変わったことなかった?」
隼人「――――いえ、何もありませんでした」
陽乃「おやっ? 隠し事してる感じ? 声で分かるから意味ないよ隼人。何年の付き合いだと思ってるの」
隼人「何もないですって」
陽乃「またまたぁ。隠そうとしても無駄だよ」
隼人「だから……何もなかったって言ってるじゃないですか」
陽乃「……隼人?」
隼人「何もありませんでした」
強い意思を見せる隼人に、陽乃は珍しいこともあるなあなんて楽観的なことを考えた。
陽乃からすれば隼人の隠し事などいつでも聞き出せる瑣末事でしかない。
隼人との電話を一端切り上げ、次に陽乃は平塚静に電話を掛ける。
陽乃「はろはろー、静ちゃん。隼人の周りで変わったことなかった?」
静「いきなり掛けてきてそれか……」
陽乃「何かあったことは分かるんだけど、本人が教えようとしないから自分で調べてるの。で、どうなの静ちゃん?」
静「本人が語ろうとしないことを教師の私が教えられるわけないだろう」
陽乃「でも静ちゃんが教えなくても、いずれ真相に辿り着いちゃうよ? 総武高にいる後輩に聞けばいいだけだし。なら静ちゃんが教えてくれても同じことだよ」
静「しかし…………」
陽乃「教えてくれたら、男紹介しよっか?」
静「本当か陽乃!?」
男のために生徒を差し出すって教師失格だよ……、という言葉を陽乃は必死に飲み込んだ。
陽乃「約束は守るよ。それで、教えてくれるんだよね?」
約束を踏み倒すことを考えながら陽乃は問いかける。どう考えても紹介される男が可哀想だし。
静「葉山のクラスでチェーンメールが流れたんだ。しかも対象が葉山の友人でな。相談を受けた私はその問題を奉仕部に持ち込んだ」
陽乃「へぇ。それで?」
静「色々あって奉仕部ではその問題を解決できないという結論に至り、葉山は依頼を取り下げた」
陽乃「なるほどね、ふーん」
雪乃と隼人は人間関係における理想が違う。その食い違いが問題を起こしたのかと陽乃は一瞬考え、そしてすぐ撤回する。
隼人の様子から、今回はそれと違うように思えた。
陽乃「それで、静ちゃんは何を隠しているの? 『色々あった』の『色々』では何が起きたの?」
静「……………………」
陽乃「静ちゃん?」
静「――――――――比企谷八幡」
陽乃「誰それ」
静「奉仕部のもう一人の部員さ。私が強制入部させた。そいつが葉山を説得し、葉山に依頼を取り下げさせたんだ」
陽乃「隼人を説得なんて地味に凄いことしてるね。それって男子かな」
静「ああ」
陽乃「どんな感じなの? その比企谷八幡って子」
雪乃の監視者を自認する陽乃は、雪乃に近しいその男子を気に掛ける。ましてその『比企谷八幡』は隼人を言い負かしてしまうような人間だ。いざとなれば自分が出ていって雪乃から遠ざけることも考えないといけない。
それにチェーンメールといえば雪乃が以前解決した事案のはず。それが『奉仕部では解決できない』というのもおかしい。
もしかして比企谷八幡という男は、雪乃すら説得してしまったのだろうか。――その疑念は平塚静の言葉を聞いてより強くなる。
静「――――常に一人であろうとする人間。一言で言えばそれだな」
陽乃「ぼっちってこと?」
静「友達を作れないぼっちとは違うな。どちらかと言えば雪ノ下雪乃の孤高に近いか。…………あまりおすすめしたくはないが、直接会えば陽乃なら実感すると思うぞ」
陽乃「チェーンメールの相談を取り下げさせたって、具体的に何をしたの?」
静「私は具体的なことは知らない。比企谷は『知らなかったとはいえ、ああいうこじれた問題を奉仕部に持ってくるな』と言ってそれ以上語らなかった。恐らく詳しいことを知っているのは本人たちだけだろうな」
陽乃「その比企谷くんは部活では普段どんな感じ?」
静「それも本人に訊け」
平塚静もこれ以上『比企谷八幡』について語ることはなかった。
断り文句は『教え子をお前のような危険人物にあわせたくない』だったが、陽乃にはそれが建前に聞こえた。
平塚静の声音がまるで――陽乃のことを心配しているようだったことも、陽乃の気に障った。
陽乃は『比企谷八幡』のことを警戒し始める。それと同時に、『比企谷八幡』と同じ部活に通う妹のことが心配になった。
以前陽乃が奉仕部のメールフォームに雪乃への冷やかしを送った時も、挑発に応じずメールを無視するという雪乃らしくない対応が取られている。
雪乃がその『比企谷八幡』という男に、何らかの影響を与えてられているのは明らかだ。陽乃は雪乃に起きた変化を確かめるべく、雪乃に電話をかける。
陽乃「もしもし。雪乃ちゃん」
雪乃「もしもし。姉さん」
陽乃「ねぇ、最近変わったことなかった?」
雪乃「いいえ、いつも通りよ。この前の中間テストも一位だったし」
陽乃「いやいや勉強の方じゃなくって、部活で何かあったんじゃないの?」
雪乃「……………………」
やはり何かある。陽乃は雪乃に電話越しに詰め寄る。
陽乃「雪乃ちゃん。私に隠し事できると思ってるの?」
雪乃「……違うわ。姉さんに隠し事をしようとしたわけじゃないの。――何を語ればいいか分からないから、黙ってしまっただけなのよ」
陽乃「ふーん。ま、雪乃ちゃんが私に何を隠してるか、私は知ってるんだけどね」
雪乃「でしょうね」
陽乃「それじゃあ雪乃ちゃん。『比企谷八幡』って子について詳しく教えて」
――――雪乃からあらかた話を聞き終え、平塚静の話を踏まえ、陽乃は『比企谷八幡』の人間像を掴んでいた。
陽乃(『透明になりたい』――――なるほどね。この子は引きこもりなんだ。多分幼い頃から誰からも理解されなくて、理解されることを放棄したんだ。社会的な引きこもりじゃなくて精神的な引きこもり。だから雪乃ちゃんに靡くこともないし、由比ヶ浜って子が踏み込もうとしたら怒ったんだ)
雪乃もそれに近いところがあるが、雪乃には陽乃がいた。きっと『比企谷八幡』には陽乃のような理解者がいなかったのだと予想を立てる。
もっとも、その『比企谷八幡』が幼い頃から『透明になりたい』と言って理解しようとした人を突き放している可能性だってあるのだが。
雪乃は今まで男子からは好意と憧憬を、女子から嫉妬と尊敬を浴びて育ってきた。だから雪乃は『比企谷八幡』の無反応をもの珍しがっているのかも、と陽乃は思った。
陽乃「雪乃ちゃんは……、その比企谷くんのことどう思ってるの?」
雪乃「――――自分でも分からないわ。最初は依頼の対象として見ていたけれど、自分に興味を示さないことに苛立って彼のことを知りたいと思うようになって。最近は質問すれば答えてくれるようになったけど、その答えも本心からの言葉か分からない。彼が何を考えているのか、私にとって彼が何なのか、依然として不明なままなのよ」
陽乃「ひょっとして、好きなの?」
雪乃「それはないわ。私が比企谷くんに向けているのは好奇心だけ。そもそも比企谷くんに好意を向けること自体不可能に近いわ」
陽乃「それって、比企谷くんが皆を遠ざけてるからかな。まあそんな尖った男のことを好きになろうとは思えないよね」
雪乃「そうね。たまに比企谷くんの考えを気持ち悪いと感じることもあるわ」
雪乃から八幡について詳しく話を聞けたこと、雪乃が八幡に入れ込んでいないことが分かっただけで陽乃にとって大きな収穫だ。
あとは隼人辺りか、もしくは直接出向いて八幡の雪乃に対する思いを探るだけ。
気を楽にした陽乃は、雪乃からも確認を取ることにした。
陽乃「雪乃ちゃんも大変だね。そんな男子から好かれてさ」
雪乃「え?」
陽乃「あれ、好かれてるんじゃないの? それとももしかして嫌われてるの?」
雪乃「姉さん。さっき私は、比企谷くんは私に興味を持ってないと言ったでしょ」
陽乃「うん。でもいくら興味がないからって、自分に好意が向いてるかくらいは――――」
雪乃「興味のない“モノ”を嫌いになることも、まして好きになるなんてできるわけがないでしょう」
陽乃「何、それ――――?」
雪乃が何を言っているのか――陽乃は理屈を理解できても、感情が理解することを拒否した。
遅れてしまってもうしわけありません
次はなるべく早く投下したいです
陽乃「何あれどうなってるの! ねぇ隼人は何を知ってるの? 『比企谷八幡』ってどういう人間なの!?」
隼人「落ち着いてください陽乃さん」
余裕ぶった隼人の態度が更に陽乃を動揺させる。対して隼人の方はこうなることを予想していたので、普段とは逆に陽乃をたしなめている側にいる。
陽乃「隠していることを話して。じゃないと私、隼人に何をするか分からないよ」
隼人「……何をするって言うんですか?」
陽乃「わざわざ教えないと駄目? ――例えば、隼人のサッカー部の部員が暴力沙汰に巻き込まれるかもね?」
隼人「やめてください。…………分かりました陽乃さん、ちゃんと答えます」
陽乃「まだ何か隠し通そうとしてるよね。無駄だよ」
隼人「分かってますって」
陽乃「じゃあ――――――――」
隼人は陽乃からの質問に正直に答える。
八幡の普段のクラスでの態度はどうなのか。――本を読んでいるか、戸塚という男子か姫菜という女子と話している。
八幡の趣味は。――多分マンガとアニメのようなオタク趣味。
付き合っている女子はいないのか。――おそらくいない。姫菜という女子もここ最近で仲良くなった女子らしい。
雪乃との仲は。――悪いようには見えない。ただ、少なくとも『比企谷八幡』は雪乃と仲良くしようという気概はない。
陽乃「そこが疑問なのよ。本当に比企谷くんは雪乃ちゃんに興味がないっていうの?」
隼人「だと思います」
陽乃「どういう根拠から?」
隼人「比企谷の……雪乃に対する態度からです。まともに目を合わそうとしませんし、会話も弾んでませんでしたし、何より比企谷は雪乃ちゃんといても変わらず無表情ですから」
陽乃「そういうことを聞いてるんじゃないの。比企谷くんの態度は雪乃ちゃんから聞いてる。だからクラスでの比企谷くんの態度も予想通りだし、実は比企谷くんに友達がいたってことにもそこまで驚いてない。でも私が気になってるのはそんなことじゃない」
陽乃には八幡が他人に無関心な人間だと分かっている。その判断が間違っていると思えない。
しかしそれ以上に陽乃は――――妹の雪乃の魅力を理解しているのだ。だからこそ又聞きの相手の精神力が雪乃の魅力を凌駕していると、陽乃はどうしても認められなかった。
陽乃「じゃあどうして比企谷くんはほぼ毎日奉仕部に通っているっていうの? 雪乃ちゃんの強さを見て、好きになるわけでもなく嫌いにもならないなんてありえない。それとも本当に比企谷くんが雪乃ちゃんに興味を持ってないなら――――異常だよその子」
隼人「……そうですね。俺もそう思います」
陽乃「……隼人もそう思ってるんだ。比企谷くんはなんで奉仕部に通い続けてるのかな? 隼人に彼の意図が分かる?」
陽乃の口からふと出た質問。陽乃自身答えが返ってくることを期待していない。
しかし幸運にもそれが『比企谷八幡』の根幹に触れる質問だった。
隼人は陽乃の言いつけを守り、根幹の質問に正直に答えた。
隼人「――――比企谷が言うには、奉仕部を辞めるために奉仕部に通っているそうです」
陽乃「………………は、はぁ?」
隼人の口から語られたチェーンメール事件の顛末。最初は意味不明なまま聞いていたが、話を聞くにつれて陽乃は興奮していった。
雪乃は八幡を頼り、八幡がメールの違和感に気づき捜査を指示する。そうして八幡が突き止めた事実は、メールは対象となった三人の仲を引き裂くためのものであり、あろうことか奉仕部では解決できないと断言した。
そして奉仕部で解決できないことを利用し、隼人に奉仕部を辞める協力を求める。『無理矢理参加させられた上、周囲に迷惑をかけてまで人格を矯正したくない』――――それが八幡の目的であり、依頼解決の邪魔をすることが八幡の目論見だったのだ。
話を聞き終えた陽乃が最初に思ったことは―――-
陽乃(今すぐにでも比企谷くんに会いたい!! ううん、明日絶対に会いに行く!!)
自分の妹や恩師を手玉に取る異常な人間像に、陽乃はここ数年でも類を見ない程心が惹かれた。
陽乃「あっははははっ! まさか雪乃ちゃんの同学年に、雪乃ちゃん以上の怪物がいたなんてね!」
隼人「陽乃さん……?」
陽乃「雪乃ちゃんから嫌われようとする人間がいるなんて想像すらしてなかったよ!! 私の想像を超える人間がまだまだいるもんだね!! 会ってみたいなぁ…………その比企谷くんに」
明日にでも陽乃は八幡に会いに行く。隼人や周囲の人間が止めようとしても絶対に陽乃は止まらない。――そのことを隼人は予想できた。というより、こうなることは初めから予想できていた。
隼人も雪乃も平塚静も――陽乃が八幡と会おうとすることは、避けようのない運命だと思っていた。
彼ら彼女らにできたのはあるがままを受け入れることと、陽乃と八幡を含む自分たちの身を心配することだけ。
だから彼ら彼女らは陽乃と八幡が対峙することをどうしても避けたかった。陽乃と八幡が対立したなら、きっとどちらかが傷を負うか、両方とも傷を負う形でなければ決着がつかないだろうから。
そして二人の決着がつくまで、その近くにいる人間に被害が及び続ける。
隼人「比企谷に会いたいなら…………、俺が紹介しましょうか?」
陽乃「別にいいよ。自分で会いに行くから。多分一目見ればその人が比企谷くんだって分かると思うし」
隼人「もしかして、学校に来るつもりですか!?」
陽乃「うん! あ、心配しなくても他の人に迷惑をかけるつもりないよ。まぁ今の三年生は私のこと知ってるから、その人たちに声をかけられるかもしれないけどね」
隼人の悪あがきが通じるはずもなく。せめて隼人や雪乃たちが間に立てば穏当に出会いを済ませられたかもしれないのに。
こうして――――陽乃が総武高校に訪れることになった。
電話を終えた陽乃は、うきうきしながら明日着ていく服を選んでいた。
陽乃「比企谷くんは…………私のことも無視できるのかな? 私が本気で着飾っても誘惑されなかったら……、心ゆくまで可愛がってあげる」
自分の部屋で『仮面』を外している陽乃は、まるで好きな相手と会う約束をした女の子のように、心からの笑みを浮かべて八幡との出会いを待ち望む。
――――そして次の日、いつもの3倍の時間をかけて着飾って生まれた絶世の美女が総武高校に現れる。
陽乃が話しかけるまでもなく、多くの男子が彼女に見惚れて彼女に話しかけていく。一目惚れが後を絶たないが、どうでもいいことだ。
待ち人がいると聞いて、その待ち人が男と聞いて男たちの心が折られていく。しかしその待ち人の姿を見ようと、あるいは陽乃の姿を目に焼き付けておきたくて、陽乃の周りから人が離れることはなかった。
もしかしたら最後まで出てこないのかもしれない。それか別の出口から帰ってしまったのかもしれない。そんな焦りを胸に抱いて陽乃は待ち続け――――ついに陽乃は見つけた。
集団の中でたった一人、陽乃に警戒の目を向ける『彼』を。
陽乃のことを横目に見ながら、周囲に溶け込むように雰囲気を薄めている『彼』を。
陽乃(見ぃつけたぁ!!!)
陽乃は『仮面』の笑顔を浮かべて、八幡に話しかけた。
陽乃「――――――――君が比企谷八幡くんだよね」
# # #
ここまで
陽乃さんのキャラ描写も気になってるけど、葉山のプライベートでの雪乃の呼び方も気になる
まあ、この小説では「雪乃」と呼んでいるって設定にすればいいだけなんだけど
次スレは950くらいに立てておいて、ここを消費し終わってから移行する予定です
とりあえず400レス目くらいまで呼んだけど
自分語りみたいなのいらんし
説明もいらん
黙って投下してればいい
>>904
今はもう後書きの自分語りや、本文の過剰な説明は控えています
700辺りから文章を改善してるので、そこまで読み進めてくれると大変嬉しいです
ゼノブレイドクロス買ったので、しばらく投下はありません
少なくともゴールデンウィークの投下はないと思ってください
遅くなってすみませーん!!
明日の夕方くらいに投下できます!!
ここまで遅れた理由はゼノクロと、文章を書き直していたからです
今更ですけどアニメ2期に合わせて完結とか無理ですね
雪乃「そういえば比企谷くん。昨日姉さんに会ったそうね」
八幡「ああ」
雪乃「……分かっていたことだけれど、心底どうでもよさそうね」
八幡「そうでもないぞ」
部室で雪ノ下から雪ノ下陽乃のことを聞かれ、読んでいた本を閉じ雪ノ下に向き直る。
八幡「少なくとも面倒くさい相手だとは思ってる」
雪乃「『面倒』で済ませられるのはあなたくらいよ」
八幡「そうか?」
雪乃「比企谷くんは……姉さんの凄さを理解してないの?」
八幡「いや理解してるぞ。あの美貌であの笑顔、その上お前以上に聡明なら、さぞ人の心を掴んでやまない存在なんだろうな」
雪乃「理解しているなら……それにそんな相手に目を付けられて、よく無感動でいられるわね。姉さんほどの女性に気に入られても、あなたは揺るがないのかしら」
八幡「まあ、ぶっちゃけ一目会って『コイツとは合わないな』って痛感してるからな。そいつがいくら俺のことを気に入ろうと、俺がそいつを気に入る理由にはならないだろ」
雪乃「『そいつ』なんて呼び方をしているけれど、もしかして比企谷くんは姉さんのことが嫌いなの?」
八幡「いいや。どうとも思ってねえよ」
というのは嘘だ。俺は雪ノ下陽乃への警戒を微塵も薄れさせていない。
しかしどういうわけだか雪ノ下が俺に無感動なキャラを求めているように感じる。まあ俺の勘違いだったとして何かが変わるとは思えないし、雪ノ下陽乃への怒りを隠すことにする。
雪乃「そう…………」
八幡「……………………」
雪乃「……………………」
一度会話が途切れると、少なくとも数十分は会話が再開しない。
この沈黙ももう慣れてしまった。
一時間ほど沈黙が続き、また雪ノ下が俺に話しかける。
雪乃「ねえ比企谷くん」
八幡「なんだ?」
雪乃「もし仮に――あなたと姉さんが付き合うことになったら…………あなたの人格が改善されると思う?」
八幡「――――ハッ! ありえねえよ」
雪ノ下の滑稽な質問に、俺は声を荒げた。
答えなんて分かりきっているだろうに。
八幡「聞いた話、そいつは自分が楽しければそれでいいみたいな性格なんだろ? そんな奴が俺の性格を気づかってくれるのか? ありえねえよ。それに昨日会った時もそいつは俺の態度を不思議がっていなかった。むしろ面白がってすらいた。そんな奴が俺の人格を改善しようとするのか? 絶対にありえない」
雪乃「…………そうね」
実の姉を悪く言われたのに雪ノ下は動じない。それどころか俺の言ったことを肯定した。
雪乃「でも……、もし姉さんが本気になれば、あなたを変えられたかもしれない。ありもしない仮定の話だけれど、それでも私は姉さんなら――――」
――――比企谷くんを矯正できると思う、と続くことはなかった。
結局のところそれは仮定の話。そして他人事だ。雪ノ下がどれだけ雪ノ下陽乃のことを信頼しているとしても、本人でない者がどうこう言っても意味がない。
おそらく雪ノ下は実の姉のことが心配なんだろう。だから雪ノ下は遠まわしに、俺が雪ノ下陽乃をどうしたいのか聞き出そうとしている。
俺は別にどうしたいとも思ってないのにな。――――今のところは。
八幡「まあ、今後面識があるかどうかも分からないんだし、そんなこと考えてもしょうがないだろ」
雪乃「楽観視が過ぎるわ。学校まで押しかけてくるほどなのよ。きっとまた近いうちにあなたに会いに来るわ」
八幡「かもな」
かもしれないと言っているが、俺だってあの女とまた会うことになるのは確信している。ああいう手合いについて俺はずっと前に経験している。
小中学生時代の俺は今ほど他人の心を把握し切れていなかった。だから雪ノ下陽乃のように俺の性格を珍しがる人間はいて、そしてそいつらに目を付けられて絡まれることが多かった。さすがにあの女ほど有能な奴はいなかったが、いじめっ子がクラスで強い影響力を持っているのは変わりない。相手が誰であろうと昔と今とで何も変わらない。
無視することが最善だと分かっているのに、それでも奴らは絡んでくる。雪ノ下陽乃もあのいじめっ子たちと同じで、どれだけ俺が拒絶しようときっと俺に絡んでくるのだろう。
八幡「なるべく早くお前の姉が俺に飽きるのを祈っておくか」
無駄だと分かっていながら、俺はそのことを言わずにはいられなかった。
部活を終えて、自転車に乗って下校しているわけだが、俺は家に向かわず学校を挟んで真反対の方向にある本屋に遠征している。
言うまでもなく、あの雪ノ下陽乃を警戒してのことだ。
今日もまた正門で待ち伏せしているのか、それとも俺の帰宅途中の道で待っているのか分からない。そもそも今日は待ち伏せなんかしていないのかもしれない。それでも俺は万が一を考えて、できる限りの寄り道をすることにした。
いつも利用する正門ではなく運動部が利用する通用口を使って学校を脱出。寄り道先に本屋を選んだのは趣味とはいえ、自転車で片道三十分かかる遠くの本屋を選んでいる。
本屋で時間を潰していると、小町から電話がかかってきた。
小町「お兄ちゃん今8時だよ! どこにいるの!?」
八幡「本屋」
小町「またぁー? 早く帰ってきてよ。ご飯冷めちゃうから」
八幡「へいへい」
短いやり取りを終えて電話を切る。さすがに短すぎるって? でも俺からすればこれがデフォルトなんだよな。
だったらメールやLINEで済ませればいい話だが、生憎過保護に電話してきているのは小町の方である。まあ心配かけているのはこっちだし、電話かメールかくらいで気に留める必要もない。電話しか使わずメールを一切使わないってわけでもないしな。
じゃあ店内をあと一周してから帰るか、と気を緩めた途端――――まるでタイミングを見計らっていたかのように、真後ろから声がかかった。
あの不快な猫撫で声が――俺の名を呼んだ。
陽乃「やっほー、比企谷くん。こんなところで奇遇だねー」
フリーフォールの如く一瞬で気分が下落した。当然振り返らずに無視。
陽乃「ねぇ比企谷くーん。こっち向いてよねぇ、比企谷くーん?」
八幡「――――――――」
繰り返し名前を呼ばれることでがりがりと精神を削られる。分かってやってるのか知らんが、いい加減にしないとキレるからな?
呼びかけてくるそいつは早足で俺に近づき、ぽんぽんと肩を叩いてきた。
うんざりした顔で振り向く。振り向いた先で頬に指を突き立てられることはなかった。しかし代わりに………………、もはや嫌悪感しか沸かない笑顔がそこにあった。
陽乃「呼んでるんだから反応してよ」
八幡「うるさいです。ていうかなんでここにいるんですか?」
陽乃「そんなに邪険になることないじゃん。たまたま私もここに立ち寄って、たまたま比企谷くんを見かけて話しかけてるだけなんだから」
八幡「そうですか」
嫌気のさした返事。額面の意味を信じるという以前に、聞き入れることすらしない。
どうやって俺がここにいることを突き止めた? …………本当にたまたまなのか、それとも俺の行動を予測して待ち伏せか候補を見繕ったか。制服に発信器かもしれないから帰ったらチェックしないとな。
あと探偵の可能性もあるが…………探偵を一日雇うだけで数万円かかると聞いている。正門以外から出た俺を追うためだけに、学校の全ての出口を張り込める人数を雇い、十万円以上コストをかけたかなんて考えたくもない。
――――当人も本当のことを言うつもりはなさそうだし、精神衛生的に考えて聞き出さない方がいいか。
陽乃「うーん。とりあえず、そこのカフェでコーヒー飲みながらお話しない?」
八幡「なんでですか? 夜遅いですし、俺これから帰りたいんですけど」
陽乃「君に興味があるからだよ。昨日は見逃がしてあげたんだから、今日は付き合ってもらうからね」
八幡「見逃がしてあげた、って……」
確かに昨日のあの場面でこの女はもっと俺を引き止めることはできたから、この女が俺を見逃したということにならなくもないが……。
陽乃「あはははっ! 君って面白いね、ホントに」
八幡「どこが面白いんですか?」
陽乃「君のそのあり方がだよ。話の続きはコーヒーを飲みながらしよっか。付き合わせてるのは私の方だからお金はこっちが出すし、どうしても遅くなりそうだったら車で君の家まで送るよ。それでも断る?」
提示された材料を吟味する。ここで話し合いを断れば、この女は次にどんな手を打ってくる? 今日は偶然会ったからなのか、俺の方に『夜遅く』という断り文句が残ってしまっている。これはこの女がわざと手を抜いているのか、それとも偶然なのか俺には判断がつかない。
しかし次はもっと追い詰められるかもしれない。だが今日ここで話し合いに応じれば、俺はこの女を無視できていないことになり、この女を付け上がらせることになる。『次からも構えば付き合ってくれる』という思いを抱かせてしまう。
断るか了承するか迷い、そして俺はこれから行くであろうカフェに目を向ける。看板に描かれたケーキが甘く美味しそうに見えた。
八幡「……分かりました。行きましょう」
決め手となったのは食欲だった。
家族の美味しいご飯も良いが、甘いスイーツはそれ以上に好きなのかもしれない。
ここまで
ていうか第六章また文字数更新しそうな勢いなんだけど
あとすごく細かい訂正
>>895
「~~~何より比企谷は雪乃ちゃんといても変わらず~~~」
↓
「~~~何より比企谷は雪乃といても変わらず~~~」
姉さんの凄さを理解してないの?
/\___/ヽ
(.`ヽ(`> 、 /'''''' '''''':::::\
`'<`ゝr'フ\ + |(●), 、(●)、.:| +
⊂コ二Lフ^´ ノ, /⌒) | ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
⊂l二L7_ / -ゝ-')´ .+ | `-=ニ=- ' .::::::| + .
\_ 、__,.イ\ + \ `ニニ´ .:::/ +
(T__ノ Tヽ , -r'⌒! ̄ `":::7ヽ.`- 、 ./| .
ヽ¬. / ノ`ー-、ヘ<ー1´| ヽ | :::::::::::::ト、 \ ( ./ヽ
\l__,./ i l.ヽ! | .| ::::::::::::::l ヽ `7ー.、‐'´ |\-、
やはり俺では青春学園ドラマは成立しない 2
やはり俺では青春学園ドラマは成立しない 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432130429/)
あと>>862の時系列訂正
隼人「三日くらい前に陽乃さんから電話が~~~」
↓
隼人「一昨日に陽乃さんから電話が~~~」
陽乃「カフェオレ一つ。比企谷くんは?」
八幡「俺は――ウインナーコーヒーとチョコパフェで」
陽乃「甘いもの好き過ぎるでしょ」
俺の注文に雪ノ下陽乃は顔を引きつらせ笑顔を崩す。ついでに注文を聞いた女性店員も。
人の好みにとやかく口出しするなよ。男が甘いものを好きになるのはそこまで罪深いことなのか?
小町は何も言ってこないのに…………。
陽乃「さて比企谷八幡くん。君はどうして奉仕部にいるの?」
八幡「はい? えーと…………奉仕部活動を命令されたから、ですけど」
陽乃「それだけ? じゃあなんて今も続けてるの? 辞めようって思わないの?」
八幡「部長と顧問が――――って実の姉にこんなことを言うのは気が引けるんですが。とにかく二人とも頑固なので、言って簡単に辞めさせてくれるとは思えないんですよ」
陽乃「だから二人に、君が役立たずだって思わせようとしてるの?」
八幡「…………なんですかそれ?」
陽乃「とぼけなくていいから。全部隼人から聞いてるよ」
にんまり、と雪ノ下陽乃は目を細めて笑う。俺は何も分かっていない風な表情で見返す。
八幡「葉山から何を聞いたんですか?」
陽乃「君がやったこと、君がやろうとしていることを聞いたよ。面白いことをするもんだね」
八幡「そうですか?」
あの所業を面白いと感じるなんて、この人も歪んでいるな。聞いていた通り、目の前の女は快楽主義か刹那主義みたいなところがあるようだ。
陽乃「ううん、とっても面白いよ。君の今の態度もね。どうでもいいみたいな態度を取ってるけど、本当に思うところがないの?」
八幡「別に何も感じてないってわけじゃ…………」
陽乃「やっぱり比企谷くんはズレてるね」
八幡「は……?」
陽乃「クラスメイトを脅しておいて、一切申し訳なさそうな顔をしないのはどうなのかな? 普通そこは『やりたくてやったわけじゃ――――』的な言い訳をするところだよ」
八幡「あ………………」
ついに雪ノ下陽乃の追及に反論が出なくなる。
今までの俺と彼女との応対は、言わば前哨戦だった。俺が彼女を無視できなくなるか、それとも俺がスルーし切るか、目的の分からない会話の数々は全て主導権の奪い合いだったのだ。
そして雪ノ下陽乃は主導権を握り、俺は不利な立場へと追いやられる。元々返答しか許されない立場だったが(というか元々返答することしかやることがない)、弱みを見せたことで黙秘権を行使することが難しくなってしまった。
陽乃「君は隼人にやったことについて、少しの負い目も感じていないんでしょ」
八幡「ぐっ…………」
陽乃「このことを雪乃ちゃんや静ちゃんに言ったらどうなるんだろうね?」
雪ノ下はともかく、静ちゃんって誰だよ!! ドラえもんのしずかちゃんじゃねえよな!?
頭を回転させ、恐らく平塚先生のことを言っているんだと予想を立てる。それ以外に思いつく人間がいない。
もし俺が葉山にやったことを、雪ノ下と平塚先生に聞かされでもしたら――――――
八幡「――――それで?」
陽乃「…………」
二人に事実を聞かせたところで、俺の人格が直っていないことが判明するだけで大した痛手にならないぞ。
仮に話の中に嘘を混じらせようとも、悪意のある改変ならまだいい。俺の目的は奉仕部を辞めさせられることにあるから、悪印象を受けるのはそこまで悪いことではない。
問題なのは――――善意のある改変をされること。例えば俺が思いやりを持って葉山にアドバイスをし、後ろめたく思いながらもその方法を示して、善意から依頼解決に貢献した…………なんて鳥肌の立つような、実は俺が奉仕部に向いていると思われる内容だけは避けなくてはならない。
善意ある改変こそ俺が最も危惧していること。そのことを悟らせないために俺は軽く挑発的な返事をする。
陽乃「なるほどね。二人に聞かせても大丈夫なんだ」
――――ッ! 読まれたのか!?
いや駄目だ、表情に出すな!! 無表情は俺の得意分野だ。あくまで平静な態度を続けろ俺!!
じっと互いを睨み続ける時間が続く。数分後、注文していたコーヒーとパフェが届いた。
スプーンでコーヒーの上に乗ったクリームを溶かし、口に運ぶ。分かっていたけどめちゃくちゃ甘い。けどまあMAXコーヒーより甘くないので顔をしかめることもなく飲める。
そしてパフェにも手を付けていく。生クリーム、アイス、チョコ、バナナ、シリアル、それぞれ違う甘さを味わう。
一心不乱に甘味を口に運んでいく。対面の相手のことは気にならない。というかそもそも、食事をする時同席の人間のことを気にしたことがない。嫌いな相手だし夜遅いし、喰い終わったらとっとと帰ってやる。
甘味でさっきまでの緊張が解れていく。だから雪ノ下陽乃が口走ったことに、よく考えもせず了承してしまった。
陽乃「…………あのさ比企谷くん。ちょっとパフェ分けてちょうだい」
八幡「へ? まあいいですけど」
当たり前のようにお手拭きでパフェ用のスプーンを拭き、器とスプーンを渡す。
陽乃「……………………」
八幡「?」
間接キスがどうとかで騒ぎたくないとはいえ、即決即断はさすがにやり過ぎだろうか? というかまあ、嫌いな相手との間接キスなんだから相手から返ってきた時に拭けばいいだけで、俺が渡す時に拭く必要はなかったな。
雪ノ下陽乃は数口つけて、パフェを返す。返ってきたスプーンを割かし力を込めて拭き、またパフェを口に運んでいく。
陽乃「ねえ、比企谷くん」
八幡「はい」
陽乃「比企谷くんから見て、私はどう見える?」
八幡「はい?」
何言ってんだこの女? とち狂ったか?
俺から見て雪ノ下陽乃はどう見えるか。その質問に対し俺は『どうとも思わない』どころか『他人と区別がつかない』という感想しか沸いてこない。
他人に対して一切の感情を抱かない奴がまともな感想を出せるわけがない。感想文は俺にとって生まれた時から苦手な宿題の一つだ。
目の前の女がこれらの俺の歪みを感じ取っていないはずがないのに。雪ノ下ですらこんな質問はしてこないのに。どうしてこの女はこんな不毛なことを聞いてきたんだろうか。
とりあえずここは感想文と同じく、ありふれた答えを返す。
八幡「――世間一般的に見れば、美人とカテゴライズされると思いますよ」
陽乃「私が聞きたいのは、君の感想だよ」
相変わらずの憎たらしい程整った笑顔を見せながら、再度雪ノ下陽乃は問いかけてくる。
俺はもう一度嘘をつく。
八幡「綺麗……というより、華麗ですかね」
陽乃「――――もういいよ。君が、私のことをどうとも思ってないことは分かったから」
そのことを確認して、一体どうしようというのか? 雪ノ下陽乃はそれからずっと思案するように黙り込んだ。
次の質問を警戒していたが、結局俺がコーヒーとパフェを食べ終わるまで話しかけてくることはなかった。
八幡「食べ終わったんで先に帰ります」
陽乃「待って。君は頑なに私の名前を呼ぼうとしないけど、もしかして私の名前忘れてる……?」
八幡「えっと――――はい。苗字が雪ノ下ってことは覚えてますけど、下の名前は思い出せないです。すいません」
なんで嫌いな相手の名前を覚えることにしないといけないんだか。
陽乃「……いや、嘘だよね?」
八幡「忘れてしまって本当にすいません」
陽乃「あくまで嘘を貫き通すんだ。ていうか、泣いていい?」
八幡「すいません」
本当に泣かれたとしても俺は頭を下げる以外何もできない。十中八九嘘泣きだろうけど。というかこの女なら自分の意思で涙を流せてもおかしくないな。女性なら訓練すれば誰でもできるようになるって言うし。
陽乃「駄目、許さない。罰として私と付き合って」
八幡「買い物ですか?」
陽乃「何言ってるの。恋人だよ」
八幡「――――――――」
え? 何? これキレてもいいの?
陽乃「あはっ。冗談に決まってるじゃん! ねえ、一瞬期待しちゃった? どうなの?」
一瞬絶望しかけたよ。ホントこいつ俺を怒らせることしかしないな。
ここまでです
>>968訂正
なんで嫌いな相手の名前を覚えることにしないといけないんだか。
↓
なんで嫌いな奴の名を覚えていないといけないんだ。
次スレは次回投稿時に立て直します
次回投稿までにこのスレが埋まってもすぐ立てないつもりなので
スプラトゥーンってさ、予想以上に頭を使うゲームなんですよ
そんなわけで執筆遅れてます。早ければ今週中に投下できるんですが……
言い忘れてましたが、次回投稿分は次スレに投下します
次スレ
やはり俺では青春学園ドラマは成立しない 2 - SSまとめ速報
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三日以内に埋まらなければ埋めネタでも投下しようかと思います
このSSまとめへのコメント
面白い
がんばって最後まで続けてください♪
出だしから日本語がおかしい。1-Aから2-Aに訂正するならなぜ2-Fにしないのか。
早く続き見たいです♪
八幡の性格は嫌いではないが、ちょくちょく入る作者の解説(?)が何か残念…
読んでてスカっとする。原作の八幡への不満がこれ読むとなんか晴される♨︎
ところどころに作者のエゴがでていて気持ち悪いが。
話自体はおもしろいので続きを読みたい
6は黙れ、気持ち悪いなら読むなカス
※7は本人か?
プライドの高い勘違い君らしく、瞬間湯沸し器だねぇ
見てくれはイケメンだから裏で女子人気は結構ありそうだなって書いた>>60へのレスに、
自分を引き合いに出すあたりとか、勘違い甚だしいし、本当に気持ち悪い
自称イケメンクール系の中二病じゃねぇか
言い合いは別のとこでお願いします。
まぁ、こういうのも「アリ」じゃないかなと。補足が無ければ尚良しじゃないのかな。
8※事実だろ?わざわざ読みたく無いもの読んで、コメント残すとか馬鹿がやることだ、あとてめぇの価値観何か知るか
6は話自体は面白いと言ってるんですから無関係な人間が人格批判の部分にまで噛み付く必要は無いかと思われますが。
最初の方の神八幡とかは少し痛々しかったけど、内容はとても面白い。続きーーM・SとI・Iの登場ーーに期待。
神八幡とか痛すぎたからなくなってよかったわー
物語自体は面白いから期待
日々の仕事の中でちょっとした楽しみになっております、頑張って下さい
途中から微妙
後八幡=自分って言い出してるけどそれはどうかと思う
オモロイ
面白いのに
ほんと残念な作者だなw
作者がキモい材木座レベルかある意味それ以上です
あーあ、面白い話だったのに
ここのコメにキレているのも本人だろうけれど、煽りや中傷にいちいち反応しなけりゃいいのに
自分語りとか織り交ぜずに書いていれば、少なくともこういう状況にはならなかったんじゃないかな
自分が正しいとか、理解できない読者が悪いみたいな雰囲気出してないでさ、
応援レスがなくなってしまった理由をよく考えてみたほうがいいよ
↑のコメに同意ですね。
文章が稚拙なのは構わないんですよ。
解説&自分語りウザイと指摘→止めます→それでも語るとか。
答えられる質問伊だけ答える。(自己弁護に走る)
素直にそうですね気をつけますとか無い。
言い訳できないことはスルー
そういう作者さんの態度が原因だと思いますよ。
煽りが効かないのなら黙って話を投下するだけでいいのにね。
本気で気持ち悪いなこの作者…つーか、だんだん話の内容よりも周りのツッコミの方が面白いと感じ始めた。
由比ヶ浜の「比企谷君」呼びに絶望しか感じないわ・・・
このssの八幡は原作の八幡の汚点を限りなく凝縮したみたいだ
執筆者の発言にはあまり好感が持てないけども中々の良作だから目をつむるよ
はよかけや
待ってるぞ
65(遠回しに自分はイケメン発言)と92(神八幡)がイタすぎる……
3万字とか四万字とか関係あるのかな?
やたらと文字数を気にしているけど
それより、「カッター事件」に「透明になりたい」と思っているここの八幡が関わっているとは思えない
後付で語るにしても違和感がハンパないな
この作者、以前の作品を読んでも、なんか病的なところがあるよ
誹謗中傷的な意味でじゃなく、アスペルガー症候群の特徴に当てはまる部分も多い気がする
反論がなくなったのは、かつて見ていた多くの人が見切りをつけたというふうには考えられないものかな
話が通じないから、反論しても無駄だと思った人も多いと思う
無関心ってのは、ある意味最高の嫌悪だしな
面白ければ何でもいい
面白かったらなんでも良いかなと
作者が何を書こうと自由
せっかく面白いのに・・・
作者も読者もなんか残念だなあ
正直、コメント欄を見て後悔したよ
まあ、面白ければそれでいいや。どんな発言にしろ、意見にしろ、所詮はssなんだから楽しんだもん勝ちでしょ。
だって突っ込みたくなるような本編、そして自ら煽る様なことするから色々と面白いSSになってるんでしょ?
作者が何を書こうが自由だし、読者が何を書こうが自由
自分の作品を晒すってことはそういうこと
突っ込まれるところがあれば容赦なく突っ込まれても仕方がないし、その対応がまずかったら応援コメが少なくなることは当然だと思う
面白いです。他の方は色々言ってますが頑張って下さい。
面白ければ何でもいいとコメが続き、何を書くのも読者の自由と批判を受けて今度はすぐに頑張れだけの応援コメ
放置すればまた、微妙な間隔で同じようなコメ連投されるの?
だから自演乙っていわれるんだよ
作者さんは煽りが効かないそうだから、もし外野の人なら批判コメをスルーするほうがいいよ
かえって自演乙のネタにされるだけだから
久々に来て読んでなくとも主が相変わらずってわかる辺り草しか生えない
お手拭って・・・
紙ナプキンを丁寧に言い換えたつもりなのかもしれないけど、今までの独特の世界観や表現あるから、ホントに日本の方ですか?日本語大丈夫?と心底思うわ
話以外には何も感じない
一々作者を意識しすぎじゃないか
床に髪の毛落ちてるなぐらいの認識でスルー安定
今更内容なんて気にしている奴おらんよ
真面目に読んでた連中は、とうに見切りをつけただろうし
作者を残念な人扱いで、茶化すような雰囲気が出来上がっちゃってるからね
それを招いたのも、作者自身の言動だから仕方ないけど
そんな状況でも書き続けられる無神経さは凄いと思うよ
ここまで来たら、ぜひとも完結させてほしいものだわ
くっさ!
書いてる本人が厨二病臭プンプンする!
くっさ!きんも!
スレ埋まる前に次スレで書き始めるとか
埋まるまで投稿しないんじゃなかったけ
次スレ予告されてからなかなかスレ埋まらないってことはそういうことなんだよ
早く自分で埋めるしかないと思うよ
アンチきもすぎる
しょうもない揚げ足取りしかできない無能しかいないw
※41 作者かな?
ID:gfw65Gnro
こいつは優しいな、埋めてあげるなんて
それとも、小ネタ浮かばなかった作者様の自演かな~
ちょうど3日たったしね
米41 揚げ足取りされる作者様はもっと無能と言うことですか?
ブーメランになるからやめといたほうがいいよ
今までの流れや作者の態度を見て、アンチコメントを打つ連中はいても、
まとめサイトにまで熱心に擁護するコメント書くやつなんていないんだよ
そういうところが自演だと言われる所以
ここのサイトでも、こんなにコメント伸びているところは異質だぞ
すげーコメント伸びてるな。
器が小さいのか薄っぺらいのか、なかなか気持ち悪いな。さすが神八幡
作者がいなければ良作