提督「休日の秘書艦夕雲さん」 (83)


 〇六〇〇 提督私邸 寝室――

提督「ん……む、六時か」ムクリ

提督「今日は休みだが……染み付いた習慣というのは恐ろしいな」

提督「……あれ」キョロキョロ

提督「あいつ……もう起きてるのか」

ガチャッ
「あ、やっぱり六時には目が覚めるんですね」クスクス

提督「お陰様で。おはよう、夕雲」


夕雲「おはようございます、提督」


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夕雲「夕雲としては『うーん夕雲、あと五分……』というのもアリなのだけど」

提督「それなら五分早く起こしてくれればいいんじゃないか?」

夕雲「それでは提督のご迷惑になってしまうわ。……はい、どうぞ。コーヒーでよかったかしら」カチャ

提督「ああ、ありがとう。いただくよ。砂糖は――」

夕雲「朝は1つ、でしょう?」

提督「……参ったね」ズズッ

夕雲「お味は如何?」

提督「うん、美味い」

夕雲「うふふ、良かったわ」


提督「さて、久々の休暇だが。夕雲、何かしたいことはあるか?」

夕雲「夕雲は提督と居られるのなら何でもいいわ」

提督「それじゃあいつもと変わらないだろう?」

夕雲「それもそうね……」

提督「ふぅむ、そうだなぁ……とりあえず街に出てみるか」

夕雲「あら、デートのお誘い?」

提督「受けてもらえるかな?」

夕雲「喜んで。折角なので朝食のついでにお弁当でもつくりましょうか」

提督「おお、そいつは楽しみだ」

夕雲「提督はその間にシャワーでも浴びてらして?」

提督「そうさせて貰おうかな」ヨッコラセ

夕雲「……それと、家の中とはいえ、お洋服はちゃんと着てくださいね」

提督「む……そうしたいところなんだが、あいにく俺のシャツは誰かさんが着ていてね」

夕雲「あら、それなら仕方ないですね」

提督「仕方ない仕方ない」スタスタ


 〇八五〇 提督私邸 玄関――

提督「夕雲ー? まだかー?」

夕雲「はいはいもう少し待ってくださいね。女の子の準備は時間がかかるんですから」ガサガサ

提督「とは言うがな。戦闘に行くわけでもあるまいし」

夕雲「あら、デートは女の戦場よ」

提督「おいおい、俺を撃たないでくれよ?」

夕雲「それは無理な相談ですね。夕雲の照準はいつでも提督を狙ってるんですから」パタパタ

提督「ま、とっくに撃ち抜かれてるわけだがね」ボソッ

夕雲「……提督? その、何か言ってくださらないと、夕雲は恥ずかしいわ……」

提督「ああ、すまない。こう、不覚にもキュンときてしまった」

夕雲「……その反応はちょっと気持ち悪いわ」

提督「酷くねぇ?」


夕雲「ふぅ……。提督、ごめんなさい。お待たせしてしまって」

提督「ん、ああ。それじゃあ出――」

提督「」

夕雲「……提督?」

提督「……」

夕雲「あの……もしかして、似合わなかった……?」クルリ

提督「綺麗だ」

夕雲「へぁ!?」


提督「綺麗だよ、夕雲」

夕雲「そっ……そう……? よかった……。あの、でも、そんな見つめられたら……夕雲、恥ずかしいわ……」テレテレ

提督「ああ、すまない……思わず見とれてしまったよ」

夕雲「もう、仕方ないですねぇ」

提督「本当に綺麗だ。今ほど自分の語彙の少なさを呪いたくなったこともない」

夕雲「も、もう……」

提督「それはそれとして」

夕雲「はい?」

提督「ここ、俺の家なんだけどさ」


提督「その白ワンピ、どこにあった?」


夕雲「……」

提督「……」

夕雲「」ニコッ

提督「……夕雲さん?」

夕雲「提督」

提督「はい」

夕雲「『言わぬが花』、よ?」

提督「『知らぬが仏』、だろ?」ハァ

夕雲「まぁ、酷いわ」クスクス

提督「まったく……仕舞う場所が足らなくなったらちゃんと言えよ」

夕雲「はぁい♪」


 〇九三〇 市街某所――

提督「さて、どこへ行こうか」

夕雲「夕雲は何処へでもお供するわ」

提督「そう言われるのが一番困るんだけどなぁ……」ポリポリ

夕雲「うふふ、提督のセンスに期待しているわ」

提督「そういうプレッシャーはやめてくれよ。そうだなぁ……普段行かないようなところにするか」

夕雲「あら、どこかしら」

提督「たとえば……そこだ」


 〇九五〇 ゲームセンター ――

 ドゥワーデデデデンマンマミーアチャリンチャリンハッハードドドドジョインジョイントキィピロリンッダコラヤンノカテメピュイーンシュバーヒュイゴー

夕雲「相変わらず耳に悪いわ……」

提督「来たことあるのか。意外だな」

夕雲「長波さんたちに連れられてね」

提督「ああ、なるほど」

夕雲「知ってます? 早霜さんってギタ……なんて言ったかしら。ギターのゲームがとっても上手いのよ」

提督「早霜が? 凄いな。意外な才能だ」

夕雲「朝霜さんはドラムのゲームが好きらしいわ」

提督「ああ、それはなんだかわかる気がする。夕雲は何かできるのか?」

夕雲「少しやってはみたけれど、さっぱりね」

提督「ま、最初はそんなもんさ。……お、あれやってみないか?」


夕雲「海戦シューティング……?」

提督「なんて言ってるが、要は的当てだな。敵の船が出てくるから、撃たれる前に撃って、撃たれたら加速して避けろって事だ」

夕雲「……それだけ?」

提督「……いや、まぁ。夕雲達から見ればそれだけと思うかもしれんがね」

夕雲「いいわ。やってみましょう。二人で協力するのね?」

提督「そうなるな」

夕雲「ねぇ提督?」チャリン

提督「ん?」チャリン

夕雲「どちらがより多く敵を沈められるか競争しましょうよ」

提督「……ほぉ」

夕雲「負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞くというのはどう?」

提督「いいのか? 夕雲には悪いが俺はこのゲームをやったことがある。艦娘とはいえ初心者に負けるほど弱くはないぞ」

夕雲「あら、海の戦いでこの夕雲に勝てるつもり?」first stage!!

提督「言ったな?」fire!!


 デデーン stage clear!!

提督「ふっふっふ……」12隻撃沈 76.5%命中

夕雲「」3隻撃沈 12.8%命中

提督「何か言うことはあるかね、夕雲くん」

夕雲「こんな……こんなはずじゃ……」

提督「……まぁそう落ち込むな。所詮ゲームだしな」

夕雲「あんな大見得きってこの様なんて……いっそ沈んでしまいたいわ……」

提督「待て待て待て待て。夕雲の場合は実戦を知っているせいでゲームの距離感に馴染めなかったんだと思う」

夕雲「ゲームの距離感……?」

提督「ああ。実戦をそのまま再現してもゲームとしてはあまり面白くないから、こういうのは色々調整されてるのさ」

夕雲「なるほどね……」

提督「だから、夕雲の感覚に合わせるとしたら……ひのふの……映像より4キロ手前に落とすつもりで撃ってみてくれ。それでも当たらないなら徐々に近付けるつもりで」next stage!!

夕雲「わかったわ」fire!!


 デデーン stage clear!!

提督「いやぁ……」9隻撃沈 71.9%命中

夕雲「うっふふ」16隻撃沈 94.2%命中

提督「当ててくるだろうとは思ってたが、まさかここまでとは……」

夕雲「夕雲もなかなかやるでしょう?」

提督「いや感心したよ。しかしこれで夕雲の『何でも』を聞かなくちゃならなくなってしまったな」

夕雲「何を言ってるの? さっきのは提督の勝ち、今のは提督の指示で沈められたのだから提督の勝ち、提督は合わせて二回、夕雲になんでもさせていいのよ?」

提督「いやその理屈はおかしい」

夕雲「そうかしら」

提督「そうですとも」


夕雲「なら……夕雲から提督への『何でも』は『夕雲に一つ言うことを聞かせること』というのはどうかしら」

提督「それはナシ」

夕雲「むぅ……卑怯だわ」

提督「なにがだよ……。とにかく何でも命令はお互い一回、いいな?」

夕雲「提督……そんなに夕雲に命令されたいの?」

提督「俺を被虐趣味みたいに言わないでくれ……。それを言うなら夕雲の方がそうだろう」

夕雲「ええ、夕雲は被虐趣味ですから」

提督「マジで!?」

夕雲「冗談よ?」

提督「お、おお……びっくりしたぞ……」

夕雲「どちらかと言えば逆ね」

提督「ああ、そうだな」

夕雲「あら、酷いのね」


・・・

提督「どうだ、結構楽しいもんだろう」

夕雲「そうねぇ。さっきのクイズのゲームなんかは結構気に入ったわ」

提督「あれか。夕雲のおかげで優勝もできたしな」

夕雲「提督の知識の賜物よ」

提督「いやいや、ライフスタイルの問題は殆ど夕雲に……ん?」

夕雲「提督? どうかされたの?」

提督「いや、あれ――」


・・・

DQN1「なっ、ちーっと金貸してくれるだけでいいからさァ」

清霜「やっ……で、でも……」

朝霜「あんたらに貸す金なんか無いよ! どっか行きな!」

DQN2「そんなこと言わねーでさァ。さっきでかいの両替してたろ? ガキンチョには勿体ねーって!」

DQN3「そーそ、俺達がゆーこーりよーしてやるよ! ほら出しな!」ギャハハハ

清霜「あ、朝霜姉さん……」フルフル

朝霜「清霜……ちっ、仕方ねぇ。こうなったら――」グッ

提督「君たち、何をやってる」


DQN1「あァ? なんだおっさんテメェ」

DQN2「あんたにはカンケーねェよ! すっこんでな!」

提督「悪ガキが随分とでかい口を利くじゃないか、えぇ?」黒手帳チラ

DQN1「あっ」

DQN2「ゲッ……」

DQN3「ま、まさか、警……」

提督「俺ぁ今日は非番なんだ。今なら見逃してやる」

DQN2「お、おい、鉄っつぁん……あれ?」

DQN3「やべぇよ、早く……あれ鉄っつぁんが居ねぇ!」

提督「とっとと失せろ」ギロッ

DQN23「ひぃい!」ダダダッ…


提督「ちっ、クソガキどもが。……朝霜、清霜、大丈……どうした、変な顔をして」

朝霜「あ……いや……その、あたいが悪いんだ。清霜は悪くない。許してくれないか……」

清霜「ごっ、ごごごめんなさい! しれーかん!」

提督「は?」

夕雲「ぷっ……くすくすくす……」

提督「あ、おい夕雲? なんだ、どうなってる?」

朝霜「げっ、アネキ……」

清霜「夕雲姉さん!」

夕雲「二人とも、謝るよりも提督に言うべき事があるでしょう?」

朝霜「あ、あぁ……司令、ありがとな。助かったぜ」

清霜「しっ、しれーかん、あ、ありがっ……ううう、こっ、怖っ、怖かったよぅぅうう……」ビエェ

提督「よしよし、もう大丈夫だ。しかし海の化け物は平気でも不良はだめか? そんなんじゃ戦艦になれないぞ?」ナデナデ


清霜「戦艦……うう、清霜頑張る……」ズズッ

提督「その意気だ。……で? 俺は何でいきなり謝られたんだ。お前たちは何も悪いことしてないように思えるが。外出許可は俺が出した筈だし……」

朝霜「あー、いや……その」

清霜「えっと……」

夕雲「提督のお顔が怖かったからでしょう?」

提督「は?」

朝霜「」コクコク

清霜「」コクコク

提督「マジで? 普段通りだったと思うけど……」

朝霜「」ブンブン

清霜「」ブンブンブンブンブン

提督「そ、そんなにか……」

夕雲「さながら般若の如くだったわ」


提督「そ、そうか……。すまないな、怖がらせてしまった」

朝霜「いや……いいんだ。それだけあいつらに怒ってたんだろ? なんかこう……へへ、嬉しかったぜ」

清霜「怖かったけど、すぐにいつもの優しい司令官に戻ったから平気!」

提督「そうか。……あぁ、じゃあせっかく謝られたから少しだけ怒っておこう。朝霜」

朝霜「え゛」

提督「あいつらを殴ろうとしたな?」

朝霜「あ……」

提督「『艦娘は船にあって船に非ず。人にあって人に非ず』……何度も言ったはずだ。君たちは人としては強すぎる」

提督「力の制御が完全にできていない以上、人に暴力を振るうのは許さない」

朝霜「おう……わかってる。いや、わかってるつもりだった。すまん……」

提督「うん。だが」ポン

朝霜「ぅあ?」

提督「清霜を守ろうとしたんだろう? その気持ちは間違っちゃいない。いいお姉ちゃんをしてるようで安心したよ」クシャクシャ

朝霜「ん……まぁ、な……っておい! やめろよ! 髪がグシャグシャになっちまうだろーが!」

提督「ははは」ナデクリナデクリ


夕雲「では清霜さんには夕雲からお説教といきましょうか」

清霜「ふぇっ!?」

夕雲「ちらっと聞こえたんだけど……大きいお金を崩したんですって?」

清霜「あっ……」

夕雲「目的の物がある時以外は大きなお金は持ち歩いてはダメだって、言ったわよね?」

清霜「で、でもぉ~……」

夕雲「デモもストもありません。清霜さんがお金を使いすぎて夕雲に借りに来たことが何回あるか覚えてます?」

清霜「うっ……」

夕雲「ちゃんと自制できるようになったら幾らでも持たせてあげます。それまではたくさん遊びたいならしっかり者の長波さんを誘うことね」

清霜「うぅ~……わかったよぅ……」

夕雲「用事がなければ夕雲も付き合ってあげますから」

清霜「ホント!? やったぁ! ありがと、夕雲姉さん!」ギュッ

夕雲「はいはい、清霜さんもスキンシップ大好きねぇ」ポンポン


朝霜「なぁアネキ、あたいもまだダメなのかい……?」

夕雲「朝霜さんはこの前のドラムのゲームを何度もやっているのを見なければ解禁してあげてもよかったんだけれど……」

朝霜「あれかぁちくしょー! まぁ仕方ねぇ、あたいもアツくなっと周りが見えなくなるのは直さねーとと思ってんだけどなー」

夕雲「うふふ、でもそう遠くはないと思うわ」

提督「しかし、夕雲型は本当に姉妹仲がいいな。こういっちゃなんだが、夕雲型ってこう、濃い奴が多いだろう?」

夕雲「みんないい子ですから」

朝霜「アネキがしっかりしてるから癖が強いあたいらも纏まれるのさ」

清霜「そうそう、夕雲姉さんったら凄いんだから!」

夕雲「あらあら、そんなにおだてても持ち歩き解禁が早くなったりしませんからね」

朝霜「ちぇっ」

清霜「ざんねーん……」

夕雲「貴女達……」ハァ

提督「くくく、なるほど。夕雲は厳しいけどそれだけじゃないみたいだな」


提督「ところで朝霜たちはなんでここに? もっと鎮守府近くにもゲーセンはあっただろ」

朝霜「ああ、あたいらが好きなゲームがこっちにしか置いてないのさ」

提督「ああ、なるほどな」

朝霜「それじゃ、あたいらはここらでお暇させてもらうよ。これ以上邪魔したくないしな」

提督「邪魔ってことは無いが……すまないな、気を遣わせて」

朝霜「いいってことさ。……司令、今日はありがとな」

提督「気にするな。今度ああいう手合いに会ったらさっさと逃げるんだぞ」

朝霜「そうさせてもらうさ。おーい、清霜! そろそろいこーぜ!」

清霜「ええっ、夕雲姉さんたちと遊ぼうよぉ」

朝霜「アネキ達はこのあと別の用事があるんだってよ」

清霜「そうなの? それなら仕方ないかぁ……」

夕雲「ごめんなさいね、清霜さん」

清霜「ううん、また今度遊ぼうね、夕雲姉さん! しれーかんも!」

夕雲「ええ」

提督「おう、気をつけてな」


提督「いい子らだなぁ……」シミジミ

夕雲「夕雲の自慢の妹たちですもの」

提督「それもそうか。……お、そろそろいい時間だな」

夕雲「結構夢中になってしまったわね。お昼はどこで食べましょうか」

提督「少し歩くが、大きめの公園がある。そこでどうだろう」

夕雲「では、そうしましょうか」


 一二四〇 市立運動公園――

 ワーワーキャーアブナイワヨーブーンキョーソーシヨーアハハ

 サアァッ……
夕雲「ん……いい風ね」

提督「運動日和って感じだな」

夕雲「随分親子連れが多いわね」

提督「ま、休日だしな。見た感じカップルもそこそこ居るな……」

夕雲「夕雲たちも恋人同士だと思われているかしら」

提督「ないだろ」バッサリ

夕雲「……そんな一言で切って捨てなくてもいいじゃない……」ムゥ

提督「いやだって明らかに年齢差あるしな……兄妹、下手すると親子だと思われるかもな。実際俺は辛うじて夕雲くらいの娘が居てもおかしくない歳な訳だし」

夕雲「そう……そうね、『お父さん』」ニコッ

提督「!!!!?!?!?!?!?」


夕雲「どうしたの? お父さん」

提督「いやいやいやいや……」

夕雲「あ、お父さん、あっちにテーブルとベンチがあるわ」

提督「あの夕雲さん」

夕雲「あそこでお弁当にしましょ、お父さん」

提督「ちょっと」

夕雲「どうしたの、お父さん? 置いて行っちゃうわよ?」

提督「……すいませんでした」

夕雲「何を謝っているの? 変なお父さん」クスクス

提督「ああああ普段の優しいうちの鎮守府の優秀な秘書艦であるところの夕雲型駆逐艦一番艦の夕雲さんに戻ってくださいお願いします何でもしますから」ドゲザー

夕雲「……ふぅ。提督、そんなに嫌でした?」

提督「いや……嫌というか……なんか……おかしくなりそうだった……」


夕雲「ふぅん……なら今夜はこれでしましょうか」

提督「多分いろいろやばいからやめてください」

夕雲「そう? 残念だわ」クスクス

提督「まったく……」ハァ

夕雲「さぁ、気を取り直して、お待ちかね夕雲お手製お弁当よ」コトッ

提督「お、サンドイッチか。随分カラフルだな」

夕雲「今日はいろいろと冒険してみたんです。一応味見はしたけれど、美味しくなかったらごめんなさいね」

提督「夕雲の料理が不味かった事なんて一度もないよ」

夕雲「んもう、お上手ね」

提督「事実だからな。では、頂きます」パン

夕雲「どうぞ、召し上がれ」


・・・

提督「ふぅ……御馳走様」パン

夕雲「お粗末様でした」

提督「流石は夕雲、どれも美味しかったよ」

夕雲「そう? よかったわ。どれが一番お好みだったかしら」

提督「うーん……どれも捨てがたいが……あれかな、オレンジ色の……何だったんだ、あれ」

夕雲「あれは干し柿ね」

提督「干し柿! はー……サンドイッチにしてもいけるとは思わなかった。夕雲は料理が上手いから退役したらレストランとかいいかもな」

夕雲「あら、素敵ですね。夕雲は海が見える場所でやりたいわ」

提督「ああ、それはいいな。青くて綺麗な海を一望できるレストラン……最高だ」

夕雲「そのためにも頑張らないといけないわね」

提督「ああ。静かな海を取り戻すために、な」


提督「さて……ふぁ、あ……っと、悪い」

夕雲「いいえ。……提督、こちらにいらして?」

提督「ん? うん」

夕雲「はい、どうぞ」ポンポン

提督「……敵わないな、夕雲には」

夕雲「提督のことですから」

提督「参ったね。じゃあ甘えさせてもらうとしよう」ゴロン

夕雲「ん……。提督、夕雲の膝は固くない? 大丈夫?」

提督「最高」

夕雲「ん、もうっ……」ナデナデ

提督「これが……至福というやつだな……」

 ピロリーン カシャッ

提督「あ?」

??「アオバ、ミチャイマシタ!」

提督「げ……この声は……」ガバァ


陽炎「はろー司令? いいお天気ね。夕雲も」ニヤニヤ

夕雲「あら。こんにちは、陽炎さん、不知火さん」

提督「陽炎……! に、不知火……。なんでこんなとこに……」

不知火「お疲れさまです、司令。不知火たちは訓練の一環としてランニングをしていたところですが」

提督「そいつは結構だが、ランニングは鎮守府でも十分できるだろう」

陽炎「ずーっとあそこばっかりじゃ気が滅入っちゃうでしょ? だから私が誘って公園で走ることにしたのよ。そしたら……くっふふ」ニヤニヤ

提督「今すぐ消しなさい」

陽炎「ざーんねん、もう秋雲に送っちゃったわ」ピロリーン

提督「げぇ……」


陽炎「まったく、駆逐艦に膝枕してもらってデレッデレしてるダメ男が司令だなんて将来が不安になっちゃうわ」

提督「うぐっ……」

不知火「陽炎、それは違います」

提督「おお不知火……!」

不知火「司令は確かに遙かに年下の夕雲の太ももに頭を乗せながらあまつさえ手も伸ばして今にも涎を垂らしそうなだらしのない顔でニヤついていましたが、艦隊指揮に関しては一流であることは間違いありません。ですから不安になる要素など一つも――司令、なぜ泣いているのですか。不知火に落ち度でも?」

提督「っ……いや……素晴らしい……パーフェクトだ不知火……」サメザメ

陽炎「咽び泣く司令、ゲット♪」ピロリーン カシャッ

夕雲「あ、陽炎さん、今のとさっきの写真、夕雲にも送ってくださらない?」

陽炎「おっけーおっけー、ちょっと待ってねー」スイスイ

提督「おい俺の痴態を拡散させるな! 鎮守府に広まりでもしたら俺は破滅だ……」

陽炎「そぉ? 司令が夕雲にデレデレなのは今に始まった事じゃないし、大したことないんじゃない? 私は気にしないわよ」

不知火「不知火も司令への信頼はこの程度では揺らぎませんが」

提督「ありがたいが、それはそれでおかしくないか君ら」


不知火「では司令、不知火たちは訓練に戻ります」

陽炎「んじゃーね司令! 写真をばらまかれたくなかったら今度甘味奢ってよ!」タタタッ…

提督「ヤクザか貴様! わかったから絶対やめろよ! ……はぁ」

夕雲「ん、陽炎さんからのメールね」ピロリーン

提督「一体俺はどんな顔で……うわぁ」

夕雲「うふふ、可愛いわねぇ。待ち受けにしましょう」スイスイ

提督「やめなさい」


提督「まったく……すっかり目が冴えてしまった」

夕雲「どうします? 夕雲はこのままお昼寝の続きでもいいけど」

提督「いや……また街に出よう。二人で外にでる機会はあまり無いし、それに――」

夕雲「夕雲の膝枕はいつでもできますし、ね?」

提督「……そういうことだ」

夕雲「うふふ。そうと決まれば早速行きましょうか。何かプランはあるの?」

提督「そうだな……ショッピングとかどうかな。何かほしい物はないか? 洋服とか、バッグとか」

夕雲「あ、それなら夕雲が行きたいお店があるのだけれど。いいかしら」

提督「お、構わないよ。どこへなりともお供しよう」

夕雲「ふぅん。どこへなりとも、ね」

提督「」ビクッ


 一四一〇 市街 衣類店――

提督「前言の撤回を」

夕雲「ダメよ」

提督「いや、しかし……」

夕雲「どこへでもつきあってくれるんでしょう?」

提督「確かに言ったが、ここ、ランジェリーショップじゃないか……」

夕雲「そうよ?」

提督「……あのな、夕雲。さっきも言ったが俺とお前は親子並みに歳が離れてるんだよ。そんな俺たちが連れ立ってランジェリーショップとかどこからどう見てもヤバい奴以外の何者でもないだろ?」

夕雲「そうかしら」

提督「そうなんです」

夕雲「でも、提督が居ないと好みがわからないわ」

提督「夕雲のセンスならちゃんと俺の好みに合うだろ……って、こんなところでこんな話をさせるんじゃない」

夕雲「ふぅ、仕方ありませんね。提督を困らせるのは夕雲の本意ではないですから」

提督「……わかってくれるか。万が一週刊誌あたりで『海軍中将、駆逐艦とランジェリーショッピング!?』とかやられると割と拙い」

夕雲「それは確かに困るわね」


提督「……正直に言えば」

夕雲「はい?」

提督「外聞さえなければ見て選んでやりたいよ」

夕雲「まぁ」

提督「……軽蔑するか?」

夕雲「まさか。ごめんなさい、意地悪を言って」

提督「いいさ。それじゃあ、本屋あたりで待ってるから、終わったら呼んでくれ」

夕雲「はぁい。あ、提督」

提督「なんだ?」

夕雲「白か、黒か、それとも……どういった色がお好み?」

提督「………………黒で」

夕雲「うっふふ、わかったわ」

提督「やれやれ……」


 一四五〇 市街 書店――

夕雲「提督、遅くなってごめんなさいね」

提督「ん、来たか」パタン

夕雲「こんな時まで戦術指南書? 相変わらず真面目なんですから」

提督「もう一種の趣味みたいなものさ。結構面白いぞ。画期的なものから荒唐無稽なものまでな」

夕雲「提督も執筆なさればいいのに」

提督「書くのは苦手でね。荷物、持つよ」

夕雲「ありがとうございます」ガサッ

提督「おっ……結構重いな……」チラッ

夕雲「気になります?」クスクス

提督「いや別に」メソラシー

夕雲「うふふ、帰ったらファッションショーをしましょうか」

提督「今後の楽しみが減ってしまうから遠慮しておこう」

夕雲「あら、残念だわ」


提督「ん、もう三時か。どこかで休憩しようか」

夕雲「そうね。どこにします?」

提督「そうだなぁ……この辺にいい喫茶店でもないかな」

夕雲「それならこの前陸奥さんに聞いた喫茶店が近くだったはずだから、そこに行ってみましょうよ」

提督「ほう、陸奥の……なら、案内を頼めるか?」

夕雲「もちろん。夕雲に任せて?」


 一五〇五 市街 喫茶店――

夕雲「ここね」

提督「ふむ、これか。……こう言っては何だが、普通だな」

夕雲「派手さはないとは聞いていたけど、確かにそうね」カランカラン

<いらっしゃいませー二名様ですねーお好きな席へどうぞー

提督「ほぉ……外見はああ言ったが、なんというか、いい雰囲気の店だな」ガタッ

夕雲「シックな感じで素敵ですね」カタンッ

??「あらあら」

提督「ん?」


夕雲「あら、長門さんに陸奥さん」

長門「む、提督か」モグモグ

陸奥「こんにちは、夕雲ちゃん。提督も」

提督「……今日はやたら知り合いに遭遇するな……」ハァ

陸奥「さっそく来てくれたのね」

夕雲「せっかくお勧めしていただいたので。いい感じのお店ですね」

長門「ああ、ここはいい店だ。あまり目立たないが静かで落ち着く。洋菓子の種類も豊富で、何より美味い」パクパク

提督「説得力あるんだかないんだか……」

夕雲「美味しいのは間違いなさそうね」

<ご注文はおきまりですかー?

提督「そうだなぁ……陸奥、お勧めはあるか?」

陸奥「そうねぇ……」

長門「チーズケーキだ。そこらの物と一緒にするなよ。口に入れた瞬間とろけるような極上の舌触りだ。あとはそうだな、ここのチョコタルトはチョコにありがちなしつこさがなくて口当たりがいい」

陸奥「……だそうよ?」

提督「……だそうだが?」

夕雲「ではチーズケーキとチョコタルトを。それからアールグレイを二つで」

<かしこまりましたー


長門「しかし、提督ともあろう者が白昼堂々駆逐艦と逢い引きとはな」パクパク

陸奥「羨ましいわねぇ」

提督「……真っ昼間から大量のケーキをパクついてるビッグセブンに言われてもな」

長門「何か問題があるのか?」モグモグ

提督「いや、何もないがね」

陸奥「ほら長門姉、クリームがついてるわよ」フキフキ

長門「む、すまん」

夕雲「そんなに美味しいんですか?」

長門「じきにわかるさ。だがそうだな、単純に美味いと言うよりは、もっと食べたくなるという感じか」

<おまたせしましたー、チーズケーキとチョコタルト、アールグレイです

提督「お、来たな。夕雲、どっちがいい?」

夕雲「提督のお好きな方を」

提督「じゃあチーズケーキを貰おうかな」

<ごゆっくりどうぞー

提督「さて、いただくとしよう。……おぉ」パク

夕雲「提督、どう?」

提督「ああ、長門の言うとおりだな。この口の中に広がる甘さはなかなか……」パク

長門「そうだろうそうだろう」パクパク

夕雲「それほどなの? ……あら、美味しい」パク

陸奥「気に入ってもらえたみたいでよかったわ」


夕雲「提督、一口いかが?」

提督「ん、いいのか?」

夕雲「もちろん。はい、あーん」

提督「ん。……おお、こっちもいいな……」モグモグ

陸奥「」

提督「夕雲もどうだ。かなり美味いぞ」

夕雲「いただくわ。あー……ん♡」パク

陸奥「」

夕雲「あぁ……これはすごいわね……」

提督「だろう。市販品じゃこうはいかないな」


夕雲「夕雲もこう作れればいいのだけど」

提督「何、夕雲の手作りは俺の世界一だよ」

陸奥「」

夕雲「もう、大袈裟ね。今日のディナーも腕によりをかけちゃうんだから」

提督「ははは、それは楽しみだ」

陸奥「」

長門「」パクパクモグモグ

陸奥「て、提督、夕雲ちゃん。お姉さんたちはそろそろ行くわね」ガタンッ

提督「ん、ああ。ここを教えてくれてありがとうな」

夕雲「素晴らしいお店だわ。ありがとうございます、陸奥さん」

陸奥「い、いーのいーの、じゃあね! 行きましょ、長門姉」

長門「む、待ってくれ、あと二口……あ、おい陸奥!」ガタタッ

<カランカラン…

提督「随分と慌ててたな。用事でもあったんだろうか。引き止めて悪いことをしたかな」

夕雲「それは大丈夫だと思うわ」クスクス


 一五三〇 市街某所――

提督「さて、どうするかな」

夕雲「夕雲は提督にお任せするわ」

提督「いつもそうだが、たまには夕雲のしたいことを言ってくれていいんだぞ?」

夕雲「夕雲としてはそれなりに我が侭を言っているつもりなのだけど……」

提督「そんなことないだろう」

夕雲「なら、もう一度ランジェリーショップに――」

提督「申し訳ありませんでした」

夕雲「ね?」

提督「本当、敵わないな……」

夕雲「夕雲は提督と居られればそれだけで楽しいですから」

提督「なら、そろそろ引き上げるか。あとは家でゆっくりするのもいいだろう」

夕雲「そうしましょうか」

提督「最近見る機会もないし、映画のDVDでも借りていくか?」

夕雲「そういえば、映画ってあんまり観たこと無いわねぇ」

提督「そうなのか」

夕雲「たまに巻雲さんに付き合うくらいね。どういうものがあるのかも全然知らないですし……」

提督「はは、その様子だとレンタルショップを眺めるだけでも楽しめそうだな」


 一五四五 レンタルショップ――

夕雲「まぁ……これ全部映画なの?」

提督「ここらのはそうだな。向こうに行けばドラマとかアニメとかお笑いとか、まぁいろいろだ」

夕雲「ふぅん……SF、恋愛、コメディ……いろいろあるのねぇ」

提督「何か観たいものはあるか?」

夕雲「そうねぇ……あ、大戦のドキュメンタリー……少し気になるわ」

提督「ああ……でも、二人で見る映画としてはちょっとな」

夕雲「それもそうね」

提督「お、ホラー映画なんてどうだ。最近暑くなってきたことだし、丁度いいだろう」

夕雲「えっ? え、ええ……そうね……」ビクッ

提督「夕雲?」

夕雲「な、何かしら? ……あ、これ面白そうじゃない? これにしましょうよ」ガタタッ

提督「ホラー、苦手か?」ニヤリ


夕雲「…………そ」

提督「そ?」

夕雲「そんなわけないでしょう?」

提督「それもそうか。本物の海の怪物を倒す艦娘がたかが作り物の映像を怖がるわけないもんな」

夕雲「当然でしょう? だからわざわざ映画でまで見なくてもいいと思うわ」

提督「でもなぁ……俺、結構こういうの好きなんだよね」

夕雲「そ、そうなの……でも夕雲はこっちの恋愛映画を観てみたいわ」カタッ

提督「ここは譲れません」

夕雲「そんな加賀さんみたいなこと言わないで、ね?」

提督「……なぁ夕雲。ゲームセンターでの約束、覚えてるか?」

夕雲「あ……」

提督「『夕雲は今夜、俺と一緒にホラー映画を観ること』。それを俺の命令にさせて貰おうかな」

夕雲「~~~~っ、わ、わかったわ……」

提督「よし。なに、大丈夫だ、俺が隣に居てやる」ポンポン

夕雲「だから、怖くなんてないのよ? ただ、夕雲はこっちの映画を観たいと思って……本当なんだからぁ!」

提督「ああ、そうだな。さ、借りて帰ろう」ナデクリナデクリ

夕雲「んもぅ! ……あ、帰りにスーパーに寄っていきますからね」

提督「切り替え早いな……了解」


 一七一〇 提督私邸 居間――

提督「ふぅ、戻った戻った。意外と遅くなったな」

夕雲「ごめんなさいね、沢山持たせてしまって」

提督「これくらい大したことないさ」

夕雲「このあとはご飯にする? お風呂にする? それとも……ゆ・う・ぐ・も?」

提督「うーん……飯にするかなぁ。早めに食べて映画を観たい」

夕雲「……つれないわねぇ」

提督「はっは、もう慣れたよ」

夕雲「むぅ……新しい誘惑を考えないといけませんね」

提督「程々に頼むよ……」

夕雲「さぁ、どうしようかしら。それじゃあ夕雲はディナーの用意をしますね」パタパタ

提督「楽しみにしてるよ。……さて、どれだけ報告書が溜まってるかな……」


 一八〇〇 提督私邸 書斎――

提督「うーん……」カチッカチッ

 コンコン
夕雲「提督? ディナーの準備が整いました」

提督「ん、ああ。すまない、少し待って貰えるかな」

夕雲「入ってもよろしいですか?」

提督「構わないよ」

夕雲「失礼しますね」ガチャ

提督「んー……」カチッカチッ

夕雲「あら、お仕事中でしたか。ごめんなさい」

提督「いや、報告書を読んでただけだ」

夕雲「でも難しいお顔をしてらしたわ」

提督「うーん……まぁ、な」カチッカチッ


提督「やはりここの所敵の動きが鈍っているみたいでね。不安なんだよ。とても似ている」

夕雲「似ている……?」

提督「昨年の夏……『本土南西諸島強襲』にだ」カチッ

夕雲「……っ」

提督「憶えているな? MI作戦成功の裏で起こった、あの戦闘を」

夕雲「……ええ」

提督「近々大規模作戦の発動が計画されている」カチッカチッ

夕雲「……」

提督「あの時も大規模作戦の直前に敵の抵抗が一時的に弱まっていた……偶然とは思えない」カチッ

夕雲「……大丈夫なの?」

提督「すまない、不安にさせてしまったな。大丈夫だ。あの時より余剰戦力も増えてるし、何よりみんなの錬度も上がっている。夕雲だってあの頃とは『桁違い』だ」

夕雲「そう……そうね」

提督「それに……」

夕雲「それに?」

提督「ここには俺がいる。負けるわけがない」ポンポン

夕雲「まぁ」クスクス

提督「らしくなかったかな」ハハハ

夕雲「うふふ、そうね。でも、格好良いわ」

提督「はは、恥ずかしいな。さて、それじゃあディナーをいただくとしようか」


 一八五〇 提督私邸 食卓――

提督「御馳走様」パン

夕雲「はい、お粗末様でした」

提督「はー……食った食った……」

夕雲「沢山食べてくれるのは嬉しいけど……食べ過ぎは身体に毒よ?」

提督「ならもう少し食欲をそそらない料理にしてもらわないとな」

夕雲「まぁ、意地悪ね」

提督「それだけ美味いということだ」

夕雲「それは嬉しいですけど。提督、お風呂にします?」

提督「その前に」スチャ

夕雲「……ねぇ、それ、本当に観ないとだめかしら……?」

提督「うむ。怖がる夕雲が見たい」

夕雲「こ、怖くなんてないのよ? 本当よ?」

提督「なら観れるだろう? まぁ怖くても観てもらうんだがな」

夕雲「あうぅ……」


 二○一〇 提督私邸 居間――

<キャアアアアア

夕雲「ひっ……」ギュッ

提督「おぉ……」

<ヒタッ…ヒタッ…

夕雲「ひうっ……」ギュウッ

提督「うぉ……」

<トオォオオォォウ

夕雲「…っ…っ」プルプル

提督「……」


・・・

提督「まぁ、その、なんだ」

夕雲「……」グスッ

提督「悪かったよ……。まさかそんなに苦手だとは思わなくて……」

夕雲「…っ、」ギュッ

提督「おっと」

夕雲「…………て」ボソッ

提督「ん?」

夕雲「……抱き締めて……くれても、いいのよ……?」ギュッ

提督「あ、ああ……」ギュウッ

夕雲「っは……あ……提督……ん……」フルフル

提督「本当に悪かった。もうホラーは無しだ」ナデナデ

夕雲「そう願いたいわ……」


提督「だけど本当に駄目なんだな」

夕雲「……ええ」

提督「まぁこればっかりはな……。でも意外だったよ」

夕雲「ゾンビとかならまだもう少しマシなんですけど……」

提督「ゾンビはいけるのか」

夕雲「主砲で倒せそうでしょう?」

提督「ああ、そういう……」

夕雲「でもさっきのみたいな幽霊とか怪奇現象とか、そういうのは本当に……うぅ」

提督「なるほどね。うちの完璧秘書艦の意外な弱点というわけだ」

夕雲「あまり言い触らさないでくださいね……」

提督「言わないさ、勿論」


提督「さ、気分転換に風呂でも入ってこい。夕飯の片付けはやっておくから」ヨッコラセ

夕雲「…………提督?」

提督「ん?」

夕雲「夕雲を一人にしないで欲しいわ……」

提督「う、」

夕雲「鏡に映る白い手に絞め殺されたりしたらどうするんですか?」

提督「いや、それは……」

夕雲「子供のお化けに湯船に引きずり込まれたら――」

提督「わかったわかった。脱衣場に居てやるよ。ずっと話してれば気も紛れるだろう?」

夕雲「幽霊が夕雲に取り憑いて会話をしているかもしれないわ……」

提督「…………」

夕雲「…………」

提督「……一緒に入るか?」

夕雲「はい♪」


 二○四五 提督私邸 浴室――

提督「どこか痒いところは御座いませんか、お嬢さん」シャカシャカ

夕雲「ん……大丈夫よ。気持ちいいわ……」

提督「しかし、いつも思うが大変じゃないか? これだけ髪が長いと洗うのは一苦労だろうに」シャカシャカ

夕雲「そうねぇ……でももう慣れてしまったし、それに提督、好きでしょう?」

提督「夕雲を?」シャカ

夕雲「っ、んもぅ……そうではなくて……髪の長い娘が、よ」

提督「どちらかと言えばな。ああ、なんか昔そんな話をしたな」シャカシャカ

夕雲「あ、覚えてらしたんですね。それから髪を伸ばしだした娘も居るんですよ?」

提督「……本当か?」シャカ

夕雲「金剛さんはまず確実ね」

提督「金剛は元から長かったと思うが……」シャカシャカ

夕雲「随分と変わってますよ? もう、もっとちゃんと皆のことを見ていなきゃダメよ? 提督失格だわ」

提督「むぅ……面目ない。……流すぞ」シャアア…

夕雲「はぁい。ん……」ザアアッ…


・・・

提督「…………よし、と。……で、この先はどうする?」

夕雲「では、お願いしますね」

提督「……どこからどこまで?」

夕雲「首から足の指先まで」

提督「ムラムラくるがよろしいか?」

夕雲「抑えてくださいね」クスクス

提督「……仰せのままに、お嬢さん」

夕雲「うふふ」


・・・

提督「一種の拷問だなこれは……」ザパァ

夕雲「んっ……ふぅ……」キラキラ

提督「如何でしょう、お嬢さん」

夕雲「ん……いい感じね。気持ち良かったわ」

提督「それは重畳」

夕雲「お礼に途中の悪戯は許してあげますね」

提督「……有り難き幸せ」


・・・

夕雲「では、失礼しますね」チャプン

提督「む……おう」

夕雲「ん……ふぅ……いい気持ち……」チャプ…

提督「……」

夕雲「提督? まだ慣れないんですか? もう何度もこうして湯船に浸かっているのに」

提督「そういわれてもね……夕雲の柔らかい肌が常に触れているわけだし」

夕雲「もう、またそんなことばっかり。……提督、ちょっと狭いのでもう少し脚を広げてくれます?」

提督「ん、こうか」

夕雲「ありがとうございま――あら」

提督「あ」


夕雲「……提督?」

提督「すまん……が、本当にどうしようもないんだ……許してくれ」

夕雲「ふぅん?」チャプチャプン

提督「あ、待て動……っあ」

夕雲「仕方ないわねぇ……」チャプン

提督「うああ」

夕雲「うっふふ、可愛い声まで出して。特別に許してあげましょうか」

提督「はぁ……あまり苛めないでくれよ……」

夕雲「反省しましたか?」

提督「はい……」

夕雲「よろしい。元気なのはいいですけど、時間と場所は弁えてくださいね?」

提督「はい……」


 二一三〇 提督私邸 寝室――

提督「じゃあドライヤーかけるぞ」ブオォ

夕雲「お願いするわ」

提督「痛かったら言ってくれよ?」ゴー

夕雲「はぁい。でも大丈夫よ。上手にできてるわ」

提督「そうかい。最初の頃は何度も怒られたっけな」ゴオオ

夕雲「提督ったら適当に乾かすんですもの。ちゃんと根元から順番に、丁寧にやらないと髪が痛んでしまうわ」

提督「それまでは無縁の世界だったからな。自分のはそれこそ適当で問題なかったわけだし」ゴー

夕雲「でもすぐに慣れたのはすごいと思うわ」

提督「そりゃあ、自分の乾かし方で撫で心地に影響が出るんだからな。真剣にもなるさ」

夕雲「あ、やたら撫でる回数が増えたのはそのせいね?」

提督「はっはっは」ブオオ


提督「しかし、せっかく長くて綺麗なんだからもっといろんな髪型にしてみたらどうだ?」ゴワー

夕雲「ここでは結構色々やっていると思うけど?」

提督「そうじゃなく、鎮守府でさ」ピャア

夕雲「うーん、そうねぇ……朝もっと時間があればそういうのもいいかもしれませんけど……」

提督「……すまん」ブオワー

夕雲「ごめんなさい、責めてるつもりはないのよ? 秘書艦を外されてまでヘアアレンジなんかしたくはないわ。それに」

提督「それに?」ドゥワー

夕雲「提督しか知らない夕雲の姿というのも、いいと思いません?」

提督「……ずるいな、夕雲は」ブロロロ

夕雲「そうかしら」

提督「そんなこと言われたら、鎮守府では三つ編みで居ろとしか言えないだろう」ボアー

夕雲「うふふ、御命令とあらば♪」


・・・

提督「よしよしサラサラツヤツヤだな」ナデナデ

夕雲「ん……ありがとうございます、提督」

提督「おやすいご用だ」ナデナデナデナデ

夕雲「……提督?」

提督「ん?」ナデクリナデクリ

夕雲「……んもぅ! 折角提督に整えて頂いたのに、提督のせいで乱れてしまうわ」

提督「おお、すまん」

夕雲「まぁ、どのみちこの後乱れてしまいますけど?」クスクス

提督「……ま、そうだが」ナデナデ

夕雲「もう、だからといって乱していいとは……あ」

提督「どうした?」


夕雲「いいことを思いついたわ」ニコッ

提督「いいことって顔ではないな……」ナデナデ

夕雲「ゲームセンターの約束、夕雲はまだ使ってなかったわよね?」

提督「ぐ……ここで来るのか……」ナデナデ

夕雲「夕雲の命令は『今夜、提督から夕雲に触れてはいけない』にするわ」

提督「………………は?」ナデ

夕雲「はいはい提督、その手を離してくださいね?」

提督「えっ……」

夕雲「提督? 夕雲はまだ映画でいじめられたことを忘れてはいませんよ?」

提督「うっ」

夕雲「ですから、夕雲も提督をいじめることにします」


提督「そんな……夕雲に触れないってことは……つまり死ねということじゃないか……」

夕雲「あら提督、少し勘違いしていませんか?」

提督「えっ……?」

夕雲「夕雲は提督『から』夕雲に触れてはいけない、と言ったのよ?」

提督「ということは……」

夕雲「夕雲からは触れるという事ね」

提督「いや……しかし……それは……」

夕雲「大丈夫よ。夕雲に任せて?」チュッ

夕雲「うふふ、今度は時間と場所を弁えてるわね……」サワッ

提督「うぁ……」

夕雲「動かないでね……今日は最初から最後まで、全部夕雲がしてあげますから……」スルッ…

提督「……っ、夕雲……」ス…

夕雲「手を動かしてはダメよ。触れてしまっては罰になりませんから」

提督「ぐっ……」

夕雲「さぁ、灯火管制よ」ピッ

提督「うわ、暗……っ、夕雲……?」

夕雲「では、夕雲の夜戦を堪能してくださいね……♡」

提督「あ……ああぁ……」


 翌〇六〇〇 提督私邸 寝室――

   チュン… チュンチュン…
提督「…………」

夕雲「…………」

提督「…………」

夕雲「…………」

提督「…………」

夕雲「…………」

提督「……んむぅ」スヤァ

夕雲「……うぅん」スヤァ


 ○八三三 提督私邸 寝室――

提督「…………げぇ」カッチコッチカッチコッチ

提督「まぁ……そういうこともある、か。今日は午後からだしな」

提督「夕雲は……うわぁ」

夕雲「…………ん」スヤスヤ

提督「起きたらとりあえずシャワーだな……。その前に俺も浴びてこないと……」


・・・

 ガチャッ バタン
夕雲「んぅ……?」

提督「お、夕雲起きたか」

夕雲「あら提督。今何時……ええっ!」

提督「まぁ、仕方ないさ。疲れてたしな」

夕雲「むぅ……」

提督「あんまり気にするな。ホットミルク、飲むか? ほれ」

夕雲「いただくわ……」ズズ

提督「それ飲んだらシャワー浴びてきなさい」

夕雲「え? ……うわぁ」

提督「……夕雲の『うわぁ』はなかなか貴重だな」

夕雲「変なこと言わないでください。もう、すぐに浴びてきますから」ギシッ トッ

提督「家の中でもちゃんと服は着るんじゃないのか?」

夕雲「そうしたいところですけど、あいにく夕雲のパジャマは誰かさんが汚してしまって」

提督「…………それならしょうがないな」ポリポリ

夕雲「ええ、しょうがないですね」


 〇九四〇 提督私邸 居間――

 ガチャッ
夕雲「ふぅ……あがったわ」

提督「おかえり。長かったな」

夕雲「誰のせいだと思ってるの?」

提督「はっはっは」

夕雲「まったくもう……。結局命令も無視されてしまうし……」

提督「今夜っていうのは今日の夜のことだろう? あれは十二時過ぎてたからセーフだ」

夕雲「……提督? そういうのを屁理屈って言うのよ?」

提督「はっはっは。さ、スクランブルエッグだ。簡単ですまないね」

夕雲「んもぅ……。では、いただきますね」

提督「ああ、召し上がれ」


 一一二〇 提督私邸 玄関――

提督「はぁ……休みもたったこれだけで終わりか」

夕雲「また大規模作戦があるんでしょう? すぐに特別休暇が貰えるわ」

提督「だといいがね」

夕雲「あ、提督? また帽子が曲がってるわ」

提督「む……これでいいか?」

夕雲「ああもう……少し屈んでくださる?」

提督「ん、ああ……」

夕雲「ん……と、これでよし。もう、ちゃんとしてくださいね。今や大艦隊の司令官なんですから」

提督「なに、夕雲が居るから大丈夫さ」

夕雲「そんなことばっかり言って。いつまでも夕雲が面倒みれるわけじゃないんですから」

提督「え?」


夕雲「今後提督が出世したり、異動になったら、ずっと一緒に居られるとは限らないでしょう?」

提督「ああ……なんだ、そんなことか」

夕雲「そんなことって……」

提督「そうしたら君も一緒に連れて行く」

夕雲「えっ?」

提督「駆逐艦一隻の配属先くらい俺の力でどうにかできるさ」

夕雲「……それって公私混同ではないの?」

提督「否定はしない。が、優秀な船を引き抜くのも提督の仕事だ。夕雲ほど強い駆逐艦を、俺は他に知らない。俺のところに居て欲しい」

夕雲「つまり……いつまでも提督の面倒見ていいの……?」

提督「できるなら。俺たちが老いて朽ち果てるまで、ずっと」

夕雲「ふぅん……?」





夕雲「イ・イ・ケ・ド♥」


おしまい。

改二や立体化とまでは望まないので限定ボイスとか来てくれませんでしょうか……
夕雲さんの甘ったるい声でもっとダメにされたいです。攻められるのもアリですね。
夕雲さん好きがもっと増えるといいなぁ。みんな育ててあげてくださいね。

もしよければ前作
提督「うちの秘書艦夕雲さん」
提督「うちの秘書艦夕雲さん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395405681/)
もよろしくお願いします。
ストーリーとしてのつながりは特にありません。
そのうち夜の夕雲さんも書きたいですね。

それではお読みいただいた方、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月16日 (火) 00:10:25   ID: pYP2ko7T

たまんねぇな

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