【艦これ】艦隊アイドル改二宣言 (123)

※SS初投稿です。生暖かい目で見守ってやってください

とりあえず完結目指して頑張りたいと思います

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二度と覚める事がないと思っていた眠りから、私は目覚めた。まだぼうっとしている視界に飛び込んできたのは、昔の姿とは全く違うけれど、よく知っている人。

神通「……久しぶりですね、那珂ちゃん」

那珂「……神通ちゃん!?」

なぜ自分がここにいるのか。姉である神通ちゃんが簡単に説明してくれた。

人類は現在、深海棲艦と呼ばれる謎の敵と戦っている。その敵に対抗できるのは、古き艦艇の魂を持った私たち艦娘と呼ばれる存在だけなのだそう。

そしてもう一つ。自分たちが沈んでから、長い月日が経っているということも……。

那珂「なるほどね……。なにはともあれ、もう一度会えて嬉しいよ!」

神通「そう。私もですよ」

神通ちゃんは現在、この鎮守府のトップである提督の補佐、秘書艦を務めているそうです。そして、これから那珂ちゃんもその提督に着任の挨拶をすることになりました。

神通「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、那珂ちゃん」

那珂「えっ!? き、緊張なんかしてないし……」

神通「私たちの提督は、とてもお優しい方ですから」

緊張なんてしてないよ! だって私はアイドルなんだよ!! ……あれ、アイドル……?

工廠と呼ばれる大きな施設を出て外に出ます。ここで私が造られたんだ……。なんだか、とっても不思議な感じ。

大きな建物に入りほどなくして着いたのは、執務室の目の前。この中に提督がいるんだ。

コンコン

神通「神通です。新しい艦が参りました」

提督「ああ、入れ」

ガチャ

那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ~!」

提督「……こりゃまた、やけに元気なのがやってきたな。那珂、ということは。神通、君の妹か?」

神通「はい」

提督「そうか。これで川内型揃い踏みだな。那珂。俺たちは君を歓迎するよ。ようこそ鎮守府へ。これからよろしくな」

那珂「はい。よろしくお願いします!」

提督「では神通。彼女に鎮守府内の案内をしてやってくれ」

神通「はい、了解です。それでは、失礼しました」

那珂「失礼しましたー」

ガチャリ

神通「どうですか、那珂ちゃん。提督の初対面での感想は」

那珂「そうだねー。優しそうな人、って感じ。でも……」

神通「でも……?」

那珂「神通ちゃんみたいに厳しそうなところもありそう」

神通「もう。那珂ちゃん……」プク

拗ねて頬を膨らませる神通ちゃんかわいい……! 

神通「とりあえず。他の艦の皆さんへの挨拶は食事の時にするとして、まずは姉さんに会いましょう」

那珂「川内ちゃんだね! 元気にしてるの?」

神通「ええ。元気すぎて提督に怒られたりもしますが……。まあ、それは夜になればわかることです」

あ、これ多分夜戦とかそういうやつだ。

コンコン

神通「姉さん。失礼します」

シーン

神通ちゃんが扉を叩いても反応なし。

神通「……おかしいですね。この時間ならそろそろ起き出していてもいい時間なのに……」

ガチャリ

神通ちゃんに続いて、私も部屋の中に入る。部屋の中には二段ベットが二つ。神通ちゃん曰く、ここは川内型共用の部屋なのだそう。

神通「……誰もいない。ということはもう起きて外に……。!」

部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台の上に、神通ちゃんは置き書きを発見。

神通「……那珂ちゃん。姉さんは調理室です。向かいましょう」

神通「失礼します。姉さん……と、漣ちゃん」

川内「お。おっす神通、と……那珂!?」

漣「えっ!? 那珂ちゃんキタコレ!?」

那珂「川内ちゃんに漣ちゃん! これからよっろしくー!」

漣「こちらこそよろしくお願い申し上げる」

川内「やった! これで一緒に夜戦できるね!」

神通「それで、姉さんは一体何を?」

川内「ああ。漣に料理教えてるの」

漣「今日一緒に夜戦しますと言ったら、簡単に釣れましたよ!」

神通「漣ちゃん……」ジットリトシタメ

漣「テヘペロ☆」

神通「あまり提督に迷惑をかけるようなことをしてはダメですよ」

川内「あっ、良かったら那珂も一緒にどう?」

神通「なんでそういう流れになったんですか……」アキレガオ

那珂「ごめん、遠慮しておくね。夜更かしはお肌の大敵だから」

漣「ほうほうなるほど。那珂ちゃんはそういうキャラづけですか……」メガネクイッ

那珂「キャラづけなんかじゃないもん! 那珂ちゃんはアイドルになるんだから!」

漣「言っときますけど、ご主人様は渡しませんからね!」

那珂「えっ、ええ……」コンワク

川内「漣、料理焦げてる」

漣「あっ、ウソン! 愛の結晶がダークマターへ進化を始めている……。間に合えBボタンキャンセル……!」

神通「それでは姉さん。漣ちゃん。また夕食の時に」

那珂「それじゃあまたねー! キラリーン☆!」

漣「はいまた!! うおおおおおおお!!!」

川内「じゃあねー。……ふわああ」

―執務室―

提督「どうだ那珂。ちゃんと鎮守府の案内はしてもらえたか?」

那珂「はい! もうバッチリです!」

提督「そうか。それは良かった。今日の夕食では、運良くここにいる全ての艦娘が来るはずだ。積もる話もあるだろうし、まあ、ゆっくりしていくといい」

那珂「はい! ありがとうございます!」

一足早く食堂に訪れた私は、ぞろぞろとやってくる娘たちと再会の挨拶を交わす。

川内型や漣ちゃんの他に、天龍型の二人や叢雲ちゃんを除く吹雪型のみんななどなど、ここには二十人近くの娘たちが在籍しているようだった。

那珂「この人数って多いの? 少ないの?」

神通「この鎮守府は、できてから日が浅いですから……。まだまだ少ない方です」

那珂「でもこれからどんどん増えていくっていったら、他の鎮守府の戦力はどうなってるの? もしかして、同じ名前で同じ容姿の娘がたくさんいるとか……」

川内「あー。そこはタブーだから、触れちゃダメだよ。まだ消されたくないでしょ?」

那珂「! うんうん」

もうこの話題は振らないことにしよう。芸能界の闇は深いなあ……

食事も終わって、那珂ちゃんお風呂ターイム!

大浴場とは別に、艦の損傷時に使う入渠ドッグというものもあるんだって。それで傷が治っちゃう艦娘って一体……。

那珂「……ねえ神通ちゃん」

神通「なんですか那珂ちゃん」

那珂「……なんか不思議だよね。こうして人の体を持ってるって。私たちって、前世は艦だった訳じゃん? それなのにこうして人間の体に驚くほどに順応できてる。それって、とっても不思議なことだよね?」

神通「……そうですね。これまで疑いもしなかったのに……」

川内「きっと、建造られる時にそういう知識みたいなのも色々詰め込まれてるんじゃない? じゃないと不便だし」

那珂「……じゃあ、那珂ちゃんのアイドル宣言もそうなのかな……」

神通「那珂ちゃん、アイドルはわかるの?」

那珂「うん。なんとなくわかるよ。前世の時にはその存在すらなかったはずなのに、今は驚くほどにしっくりきてるの。みんなを笑顔にするって、とっても素敵なことじゃん! みんなに笑顔になって欲しいっていうその気持ちは、昔も今も、ずっと変わってないから。だから、なのかな……」

神通「……本当に、ピッタリだと思いますよ。那珂ちゃん」

川内「うんうん。那珂にはその素質がある!」

那珂「……決めた! 那珂ちゃんアイドルになる! そして、みんなを笑顔にするんだ!」

川内・神通「…………」カオミアワセ

川内「那珂! 私たちが応援するから!」

神通「その夢、叶えてください!」

那珂「……川内ちゃん、神通ちゃん。……ありがとう!」

川内型のお部屋で、みんなで寝る準備。那珂ちゃんは神通ちゃんの下のベッドになりました。

神通「姉さん。夜戦は……?」

川内「パス。やっぱり、今日くらいは三人で一緒に寝たいじゃん?」

今日は、ということは、明日からは平常運転なんだ……。

川内「さあ、寝るぞー!」

神通「おやすみなさい。姉さん、那珂ちゃん」

那珂「二人とも、おやすみー!」

明日からは、任務にアイドル活動に大忙し! になるはず! というわけで、今日はおやすみ。


次の日。朝の食堂。

那珂「おっはよーございまーす!」

提督「ああ。おはよう」

那珂「提督! 那珂ちゃん頑張っていくから、よろしくねー!」

提督「……ふふっ。期待しているよ」

漣「ご主人様! こっちの席空いてますよ!!」

曙「ちょ! なんでこっちに呼ぶのよ!」

漣「そうカリカリしなさんな。卵の殻ああげるから」

曙「あんたねえ……」

漣ちゃんの猛烈なアピールに、提督は振り向く。

提督「じゃあ、また後でな」

那珂「はい!」


朝食をとり終えた私は、執務室に呼び出されました。

那珂「失礼します!」

提督の座る机のすぐ傍には、神通ちゃんもいます。

那珂「お仕事ですか?」

提督「いや、いきなり出撃はさせないよ。まずは今の体に慣れるため、ある程度の期間は訓練を行ってもらう。神通のお墨つきを得たら、晴れて実戦だ」

那珂「ええー」

神通「文句は駄目ですよ。全ては提督の決定です」

提督「いきなり実戦に出る、というのは少々無茶が過ぎるからな。だからこそ、だ。すまんが我慢してくれ」

那珂「わかりました! 早く提督のお役に立てるように頑張りますね!」

提督「ありがとう。それじゃあ、神通に訓練の内容は一任してある。頼むぞ、神通」

わあお

神通「では、早速行きましょうか、那珂ちゃん」


それからお昼ごはんの時間まで、二人でひたすらグラウンドを走りました。アイドルは体が資本! とは言うけれど、さすがにもうクタクタ……。

神通「那珂ちゃん。箸が止まっていますよ。早く食べないと、午後の訓練に差支えてしまいます」

那珂「い、今無理に食べたらやばい感じ……」

提督「よっ。調子はどうだ」

那珂「提督……!」

神通「午後からは、艤装を使っての訓練を行っていこうと思っています」

提督「そうか、わかった。那珂、頑張れよ」

那珂「! ……当然! 那珂ちゃんはアイドルなんだから、これくらいでへこたれないもん!」

提督「その意気だ」

神通「提督。昼食はとっていかれないんですか?」

提督「ここに来た用事は、お前たちの様子を見に来ただけ。昼は漣が作ってくれたのを食べたから大丈夫だ」

神通「……そうですか。その、今度私が食事を作ってもよろしいですか?」

提督「ああ、大歓迎だ。期待して待ってるよ。じゃあな」

あれ、この様子もしかして……。いや、もしかしなくても神通ちゃんは……。


神通「那珂ちゃん。艤装をつけての航行はどんな感じですか?」

那珂「……ちょっと気を抜いたらすぐに転んじゃいそう」

神通「じきに慣れます。では、このまま私についてきてください」

お、鬼だ……!

―――

――



那珂「はあっ、はあっ」

神通「それでは、本日の訓練はここまでとします。よく頑張りましたね、那珂ちゃん。明日もこの調子で頑張りましょう」

神通ちゃん、私と同じ訓練をこなしたはずなのに全然疲れの色が見えない。すごい。けど……。

那珂「……那珂ちゃんはアイドルだから、どんな時でも笑顔を絶やさないんだよ。キラリーン☆」

神通「……立派です。那珂ちゃん。では、夕食にしましょう」


那珂「つ、疲れたー」

夕食を済ませ風呂に入り終えた私は、体をぼすんとベッドに横たえる。こんなオフの姿、ファンには見せられないよ……。

今部屋には私一人だけ。そして、外からは川内ちゃんの「夜戦だ―!」と騒ぐ声が聞こえてくる。……すごい迷惑。

もうこのまま寝てしまおうかと考えた時、私は昨日の自分の言葉を思い出す。

そうだ。那珂ちゃんはアイドルになるんだ! その為には、人一倍の努力が必要!

昼の訓練は艦娘の分! 夜のトレーニングはアイドルの分!

それくらい頑張らないと、人気アイドルにはなれっこないよね! アイドル業界は厳しいんだから!

よし、そうと決まれば早速ランニング! 私はトレーニングウェアに着替えて、部屋を飛び出した。


提督「夜遅くに呼び出してすまないな、神通。那珂の様子はどうだ?」

神通「はい。想像以上によくついてきてくれています。この調子なら、明日に砲撃・雷撃・水上機運用の指導。早ければ明後日には鎮守府正面海域に出撃できると思います」

提督「そうか。なら、まずは一安心だな。よし、下がっていいぞ」

神通「……はい。失礼しました」



神通「……」スタスタ

神通「あら。那珂ちゃん」

那珂「えっほ、えっほ」

神通(……今日あれほどの訓練を行ったのに、まだ……)

神通(……あなたは、きっと素晴らしいアイドルになれる。応援していますからね)

川内「おっ! 那珂じゃん! 今日はこってり神通に絞られたって聞いてたけど、元気だね」

那珂「川内ちゃん! アイドルになるためには、こういった努力が大切なんだよ!」

川内「なるほどね。まっ、夜は長いからさ。お互い頑張っていこうよ」

那珂「うん!」

川内「さあ……夜戦だーーー!1!」

那珂「那珂ちゃんだって……! すごいアイドルになるんだからーーー!1!」

神通「」ピクッ

神通「夜なんだから、静かにしてください!!」

那珂・川内「ごっ、ごめんなさい!」


雷撃翌雷撃今日も雷撃! これだけ繰り返してちゃそりゃ、上達もします。というわけで、今日もMVPは那珂ちゃんだよ!!

提督「ああ。よくやってくれた。このままなら改もすぐだな」

神通「そうですね」

提督「……そういや神通に聞いたんだが、お前アイドルを目指しているんだって?」

那珂「はい。今は艦隊のアイドルだけど、いずれは超人気アイドルになるんです!!」

提督「そうか。……頑張れよ」

那珂「! ……ありがとうございます!」


那珂「それでは、失礼しました」

提督「ああ。ゆっくり休めよ」

バタン

提督「……夢に向かって精一杯に頑張るだなんて、簡単なことじゃない」

神通「ええ、そうですね」

提督「あいつの笑顔は、周りまで明るくなれる。とっても素敵な笑顔だ」

提督「だから、このまま頑張り続けて欲しいな」

提督「提督と言う立場上、誰か一人を贔屓するという訳にはいかないからな。陰ながら応援してるよ、ってことだ」

神通「……はい」


   二週間後

那珂「那珂ちゃんライブやりまーす! 良かったら来てくださーい!」ビラクバリ

天龍「おっ! とうとうライブやるのか!」

那珂「はい! 天龍さんと龍田さん、よかったらどうぞ!」

龍田「あら。是非行きたいわね~」

天龍「そうだな。頑張れよ! アイドルさん!」



吹雪「那珂ちゃんさん! ライブやるんですね!」

那珂「吹雪ちゃーん。さんはいらないって言ってるじゃん!」

深雪「あ、あはははは」

白雪「那珂ちゃんさん頑張ってますから、きっとみなさん来てくれますよ」

磯波「那珂ちゃんさん。楽しみにしてますね」

那珂「もう二人とも……! みんなわざとでしょ!」



那珂「よし。もうだいたいの娘には配れたかな……!」ドキッ

提督「……」

那珂「て、提督!」

提督「……頑張ってるな、那珂。俺にもビラくれるか?」

那珂「はっ、はいどうぞ!」

提督「ありがとう」

提督(……この既視感。これ作ったの神通だな)

提督「……見に行くよ、お前のライブ。楽しみにしてるからな」

那珂「はっ、はい!」


那珂「……」バクバク

那珂(む、胸がすごく苦しくて、頭がぼうっとしちゃう。……もしかしてこれが……?)

那珂「……よくわからないよ」



那珂「……」カキカキ

那珂「……恋の2-4-11 ハートが高鳴るの」

那珂「……はあ」

那珂「……どうしちゃったんだろ、那珂ちゃん」


   ライブ当日

那珂「す、すごい! こんなに集まってくれたんだ! あれ? というより……みんないる?」

神通「那珂ちゃーん!」<L・O・V・E>

川内「頑張れ那珂ーー!!」<ラブリー那珂ちゃん>

那珂「じっ、神通ちゃん。川内ちゃん。……ありがとう」

那珂「すうーーー。はーーー」

那珂(不思議と、緊張はしてない。なんというか、気持ちいい高揚感)

那珂(まるで、胸の内側でバチバチと火花が散っているよう)

那珂「みんなー!! 今日は那珂ちゃんのライブに来てくれてありがとう!!」

提督「……」

那珂(提督……。ちゃんと来てくれたんだ)

那珂「曲は、『恋の2-4-11』!! それじゃあ、いっくよーー!!」

―――

――





――

―――

ワアアアアアアアア!!!


那珂「……そうなんだ。私……」ドキドキ

那珂「……提督のことが好きなんだ」

那珂(ああもう! とっても恥ずかしい! 解体されちゃいそうだよー!)カーンカーンカーン

提督「那珂!!」

那珂「! 提督!!」

提督「……とっても良かったよ。なんていうか、いっぱい元気もらった。これからも頑張ってな。じゃ、また後で」スタスタ

那珂「……」ポカーン

那珂「……うう! 提督の鈍感! 女たらしーー!!」

那珂「……ありがとう」

那珂「……絶対に攻略しちゃうからね!!」

本日はここまで。L・O・V・E ラブリー那珂ちゃん!!


那珂「はあー。今日もまたここに出撃かー」

神通「文句を言うのもわかりますが、深海棲艦の行動パターンがわからない以上、こうして反復出撃することが大切なんですよ」

那珂「それはわかってるけどさー。何回も何回もおんなじとこを行ったり来たりじゃ、そりゃ嫌にもなっちゃうよ」

那珂(だけど、なんか変な感じなの。ちょっと気持ちよくって癖になってるんです。それは、提督が期待してくれてるから、かな……?)

神通「……! 偵察機より通信。敵艦隊発見!」

那珂「よーし! 那珂ちゃん今日も張り切っていくよー! どっかーん!!」

―――

――



那珂「いたた……。まさか中破しちゃうなんて……」

夕立「那珂ちゃん、私を庇ってくれたっぽい」

五月雨「あんまり責めないであげてください」

提督「わ、わかったよ。報告ありがとう。神通と那珂以外は、さっさと補給を済ませて来い」

村雨「それもそうね。行きましょう、夕立」

夕立「ぽいー」


ぞろぞろ 「シツレイシマシター」


提督「ふう。まさか全員で来るとは思わなかった。……大切にされてるんだな、那珂」

那珂「うっ、うん!」

提督「あいつらは最近来たばかりで練度も低い。お前が庇ってくれて良かったよ。本当にお前は頼りになる」

那珂「……//]

提督「ドッグはちゃんと空いてるから、ゆっくり入渠してこい」

那珂「はい! ちょっと長めのオフいただきまぁーす。それでは、失礼しましたー!」バタン

提督「……神通も。行って来い」

神通「! はっ、はい!」

提督「…………」

神通「それでは、また後で!」バタン!

提督「……なんか最近、神通ぼーっとしてるよな。らしくないというか……なにかあったのだろうか」


チャプン

那珂「……中破した時くらい、傍にいてくれたっていいじゃん。っていうのは、私のわがままだよね……」



神通「……提督。どうしたら、私の気持ちに気付いてくれるのでしょうか……」

青葉「神通さん! 出撃お疲れ様です!」トタトタ

神通「……青葉さん!」

青葉「まだ補給が済んでいないようですけど、なにかありましたか?」

神通「い、いえ……特には……」

青葉「……ピキーン! 青葉、わかっちゃいましたよ。もしかしなくても、司令官のことですね!」

神通「! あ、あの。なんでわかったんですか?」

青葉「それは、神通さんが恋する乙女の表情をしていたからです!」

神通「あ、あう……//」

青葉「青葉でよければ、相談に乗りますよ」

神通「……で、では……お願いします」

青葉「あっ、先に補給済ませてくださいよ。お話はそれからです!」

神通「そ、そうでした。では、行ってきます」スタスタ

青葉「……これは重症だなー」


青葉「なるほど。自分は提督のことが好きだけど、肝心の提督はその気持ちにまったく気づいてくれない。それに加えて妹の那珂ちゃんさんも提督のことが好きらしい、と。要約するとこんな感じですね」

神通「は、はい……//」プシュー

青葉「ちなみに、お二人の関係はどこまで進んでるんですか?」

神通「お、お昼にお弁当を作ってあげたり、晩酌に付き合ったり。とか、です……//」プシュー

青葉「わあお。結構進んでますねえ(知ってたけど)」

神通「それで、その。那珂ちゃんはよく提督と仲良さそうにおしゃべりしてて、その、少し……」

青葉「羨ましい?」

神通「……」コク

青葉「それ、贅沢な悩みですよ。神通さんのしてることだって、漣ちゃんあたりが聞いたら血の涙を流しますよ、きっと」

神通「……でも、まったく関係が進まなくて。私が奥手すぎるというのもありますけど、それにしても……」

青葉「提督が鈍感、と。まあ、これくらいじゃないと提督は務まらないのかもしれませんね」

神通「……どうすればいいのでしょうか?」

青葉「うーん。……難しい話ですねぇ……」


青葉「そもそも、この鎮守府には多くの艦娘がいます。そして全員、提督を憎からず思っているはずです。中には、それが恋愛感情とも言える娘もいるでしょう」

神通「そ、それじゃあ」

青葉「まあ、神通さんは今提督に一番近いところにいますから(物理的に)、そこの心配はいらないと思いますよ」

神通(それは、……事実そうだ。でも、今のままじゃ駄目なのはわかっている。私の、本当の気持ちは……)

神通「……私は、提督を他の娘にあげたくないです。それがたとえ……相手が那珂ちゃんであっても」

青葉「……答え、出ましたね」

神通「……青葉さん、ありがとうございます」

青葉「いえいえ。青葉はちょっとお手伝いをしただけですよ。……こういうのはおかしいかもしれませんが、頑張ってくださいね」

神通「……はい」


  夜・食堂

提督「夜はハンバーグか。中々うまそうだ……と」キョロキョロ

提督「……あんま席が空いてないな」

「クマー」 「タマー」 「キ、キソー」 「デース」 「ヒエー」

提督(……うちも賑やかになってきたな。戦力的にはまだまだなんだけど。まっ、焦っても仕方ないな)

提督(俺もみんなの頑張りに負けないように頑張る。それだけの話だ)

神通「提督、隣空いてますよ」

提督「ああ、悪いな。それじゃあ失礼するよ」

那珂(! 神通ちゃん積極的!)

提督「那珂、調子はどうだ?」

那珂「はい! もうバッチリです! キラリーン☆」

提督「そうか。明日からもよろしく頼むぞ」

神通(! 私じゃなく那珂ちゃんを気にして……!)

神通「提督。執務のほうはどうですか?」

提督「ああ、あらかた終わったよ。漣も最近はミスが少なくなってきたしな。だけど、まだ少し残ってる」

神通「よろしければお手伝いします」

提督「いや、悪いよ。今日は出撃してもらったんだし。そこまでしなくても……」

神通「私がしたいからするんです。それじゃあダメですか?」

提督「あ、いや、どうしてもと言うなら……。よろしく頼む」

那珂「!」

神通「……!」

那珂・神通「バチバチバチバチ」

川内「な、なんか火花が見える……」


那珂「はっ、はっ。ここでこうして……足の動きはこうで……」ピトッ

那珂「びゃあ!!」バッ

提督「よっ」

那珂「て、提督ーー! もう、驚かさないでよ!」

提督「ははっ。悪い。ほら、スポドリの差し入れ」

那珂「あ、ありがとうございます」



提督「今日くらい休んだっていいだろうに……」

那珂「だめだよ! そんなことじゃ真のアイドルにはなれないんだから!」

提督「……そうか」

那珂「提督、執務は?」

提督「さっき終わったとこ。ちょっとお前の様子が気になってな。そしたら案の定これだ」

那珂「あ、あはは……」ドキッ

那珂(提督、私のこと心配して……)

那珂「でも、もう平気ですから! 心配しなくても大丈夫ですよ!」

提督「お前がそう言っても、俺は心配なんだよ」

提督「……お前は頑張りすぎだからな。目が離せないんだよ」

提督「だから……無理だけはするなよ。いざとなったら、頼ってくれてもいいんだからな」

那珂「……はい」

提督「……応援してるよ。……また明日」スタスタ

那珂「はい! あやすみなさい!」


漣「ご主人様! おはようございます!」

提督「……ああ、おはよう」ポケーッ

曙「相変わらず朝弱いわね。もっとシャキッとしなさいよ、クソ提督!」

提督「……顔なら洗ったぞ」

曙「そういう意味じゃないわよ!」


那珂「提督! おっはよーございます!」

神通「おはようございます」

提督「おはよう。……川内は、寝てる?」

神通「はい……ご迷惑をおかけします」

提督「昨日もうるさかったからな……」


金剛「提督ぅー! おはようございマース!」

提督「おう。おはよう」

比叡「提督は鮭定食ですか。相変わらず好きですね」

提督「朝はこれに限る」モグモグ



提督「よし、神通。今日も執務頑張っていこうか」

神通「はい」

神通(この時間にはすっかり目が覚めてるのって、元気な挨拶をもらっているからでしょうか……)




――

―――

神通「提督、起きてください。朝ですよ」

提督「うう。……おはよう、神通」

神通「おはようございます。もう朝ごはんできてますからね」

提督「ああ。ありがとう」



提督「それじゃあ、いただきます」

神通「はい」

提督「モグモグ」

神通「……」ジーッ

提督「……神通」

神通「はい、なんでしょうか?」

提督「神通。神通!」



―――――



神通「は、はい!」

提督「だ、大丈夫? 寝不足か? やっぱり、昨日の執務が響いてるんじゃ……?」

神通「だっ、大丈夫です!」

提督「それならいいが……」

神通「」クル

神通「……//]プシュー


   工廠

那珂「妖精さーん!」

妖精さんA「ほいさ! よばれてとうじょう!」

妖精さんB「なんだなんだ?」

妖精さんC「われらのちからがひつようかな?」

那珂「この歌詞に、曲をつけて欲しいんだけど……」

妖精さんA「かいたいのうたいらい」

妖精さんB「うでがなるです」

妖精さんC「ほうこのうたは。なるほど。こいするおとめのきもちをつづったきょくだな」

那珂「そうなの。じゃあ前と同じく、私が歌うから、それに曲をつけてね。よろしくお願いします」

妖精さんA「まかせるです」

妖精さんB「めざすはみりおん」

妖精C「さあみせてくれ。きみのおもいを」

那珂「それじゃあ、行きます! 1,2,3 はいっ!」

―――

――


神通「妖精さーん。装備の開発を……あれ?」

「BANG! BANG! BANG! 恋の主砲で――」

神通「この歌は……那珂ちゃん?」サッ

那珂「艦これ! 艦これ! 艦これ! Oh……」

神通「……! この歌詞! ……そういうことですか」

神通(……私は羨ましいです。自分の気持ちを素直に表せられるあなたが。……提督もこの歌を聞いたら、さすがに気付きますよね?)

―――

――





パチパチパチ

妖精さんA「とってもよかったです」

妖精さんB「びんびんきた」

妖精さんC「すばらしいうただったよ。あとはわたしたちにまかせてくれ」

那珂「はい! よろしくお願いします! それじゃあまた!」トタタタ

神通「……」

妖精さんC「ぬすみぎきはよくないな」

神通「! 気付かれていましたか」

妖精さんC「わたしのめをあなどるなよ」

神通「ぬ、盗み聞きしようとした訳じゃあ……」

妖精さんC「なるほど。そうせざるをえなかった、というところか」

神通「……」


妖精さんC「かのじょはじぶんのおもいをていとくにつたえるきだ」

神通「……はい。わかっています」

妖精さんC「きみはただゆびをくわえてみているだけか?」

神通「……」

妖精さんC「いまのままでは、こうかいすることになるぞ。たとえどんなけっかになってもいいじゃないか。たいせつなのは、じぶんのおもいをつたえることだ」

神通「……でも、提督がどう思っているのかはわからないじゃないですか」

妖精さんC「それはかのじょもおなじだ。ちがうのは、いっぽふみだすゆうきがあるかないか。それだけだ」

妖精さんA「あたってくだけろです?」

妖精さんB「はいはひろいます?」

妖精さんC「……まあ、そういうことだ。なににしても、くいのないようにな」

神通「……はい」


妖精さんA「ここはこうして」

妖精さんB「こんなかんじでどうです?」

那珂「うん! バッチリだよ! あとはここをもっとバーン! っていう感じで……」

妖精さんC「あいかわらずあばうとだな。わかった。やってみよう」

―――

――



『那珂ちゃん定期ライブ! 新曲披露!』



潮「わあ! 次のライブで那珂ちゃんさん新曲歌うんだ!」

朧「へえ。楽しみだね」



叢雲「ほんと那珂さんすごいわよね。まるで本物のアイドルみたいじゃない」

吹雪「あとは鎮守府外でも歌える機会があればいいのにね」

深雪「いっつも艦娘に向かって歌ってるだけだからな―」

磯波「絶対人気出ますよ!」



金剛「ううー。負けてられないネー。シスターズ! 私たちも曲を作って提督にアピールするデース!」

霧島「私の計算ではとてもいい曲ができるはずです」

榛名「はい。榛名は大丈夫です」

比叡「気合! 入れて! 行きます!」


神通(……とうとうですか)

神通(……悔いのないように、か)





神通「……提督」

提督「……なんだ?」カキカキ

神通「今日の夜、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか」

提督「それはいいけど。なにかあったのか?」

神通「……大事な話があるんです」

提督「……わかった。じゃあ夕食が終わったら、ここ、執務室に来てくれ」

神通「はい。わかりました」

神通(……もう、後戻りはできない)


コンコン

神通「神通です」

提督「入っていいぞ」

神通「……失礼します」ギィ、バタン

提督「……今日の執務も、ありがとうな。やっぱり神通が秘書官をしてくれると捗る」

神通「い、いえ……」

提督「……うちも、だいぶ艦娘が増えてきたよな。でもやっぱり、一番頼りになるのはお前だ」

神通「そ、そんな……。最近では戦艦のみなさんや空母の人も増えてきて、私じゃ力不足で……」

提督「そんなことはないよ。もっと自信を持て」

神通「は、はい」

提督「……」チクタク

神通「……」チクタク

神通「そ、それでその……」

提督「ああ、そうだ。神通の話だったな。すまん。話の腰を折るような形になってしまって」

神通「だ、大丈夫です」ドキドキ

神通「……すー。はー……」ドキ、ドキ…

神通「……よし」




神通「提督。私は提督のことが……好きです」



提督「……ありがとう。勇気を出して、言ってくれたんだな。だけど、ごめん」

提督「俺はその気持ちには応え――」

神通「那珂ちゃん、ですね」

提督「! ……そうだ。それがわかってたなら、どうして」

神通「……言わないと、きっと後悔していたから」

提督「……ごめん」

神通「謝る必要はないですよ。……しょうがないことなんですから」

神通「その代わり、」

神通「……那珂ちゃんのこと、絶対に幸せにしてあげてくださいね」

提督「……ああ、わかった。約束する」

神通「……それじゃあ、私はもう行きますね。明日からもよろしくお願いします」

提督「ああ。また明日」

神通「はい。失礼しました」バタン

提督「……神通、君は強いな。……俺の前では泣かないなんて」



神通「……うっ、ううっ。う……」

神通(……わかってた、はずなのに。どうしても涙が堪えられない)

神通(……私、こんなにあの人のことが好きだったんだ……)


提督(初めは、元気な娘だなって思った)

神通(初めて会った時は、少し怖い人だなと思いました)

提督(少し経ってから、アイドルを目指していると知った)

神通(後になって聞いたら、緊張していただけだと言っていました)

提督(とっても頑張っているけど、頑張りすぎでちょっと心配だった)

神通(話してみれば、とっても優しい人でした)

提督(危なっかしくて、目が離せなかった)

神通(しばらくして秘書官を任されて、もっと色々なことを知りました)

提督(自分でも気づかないうちに、目で追っていた。その素敵な、眩しい笑顔を)

神通(好きな食べ物。好きな本。私たちをとっても大事にしてくれていること。提督になった理由)

提督(どうしてなのか、自分でもよくわからなかった。でも、君の初めてのライブでわかった)

神通(誰よりもあなたと一緒にいて、誰よりもあなたの近くにいました)

提督(俺は君が好きなんだってことが)

神通(私は、あなたが好き)

提督(なんで君を好きになったのか。自分でもよくわからない。考えてみれば、神通や漣。魅力的な娘は君の他にもたくさんいる)

神通(でも、あなたが選んだのは私ではなく、妹でした)

提督(でも、なんとなくならわかる。それはきっと、夢に向かってまっすぐに進む君が、とても輝いていたから)

神通(とても痛くて苦しくて。……だからこの気持ち。しばらくはこのままでも、いいですよね?)


提督「那珂」

那珂「提督!」

提督「次のライブ、新曲を歌うんだって?」

那珂「うん! それで、是非提督に聞いて欲しいんだ!」

提督「ああ、わかった。絶対に行くよ。楽しみにしてるな」

那珂「うん!」

神通(……那珂ちゃん。私はあなたに勇気をもらったんですよ)

神通(あなたがいなかったら、私は一歩踏み出すことすらできなかった)

神通(あまり良いとは言えない結果でしたけど、後悔はしていませんから)

神通(那珂ちゃん。私はあなたの幸せを、願っています)




――

―――

那珂「みんな―! 今日も那珂ちゃんのライブに来てくれてありがとーう! キラーン☆」

那珂「今日歌う新曲は、私のある人への気持ちを込めた曲です!」

那珂「それでは、聞いてください! 『初恋! 水雷戦隊』!」


ワアアアアアアアア!!!



金剛「こ、この歌は……」

漣「つまり……」

榛名「そ、そういうことですか……」



那珂「はあっ、はあっ」

那珂「みんな―! 次のライブも応援よろしくー! キラリーン☆」

那珂(あ、あれ。提督どっか行っちゃった……)

提督「那珂! 一緒に来い!」バッ

那珂「うわっ! 提督!」

提督「よいしょっと」オヒメサマダッコ

那珂「わわわわ//」

提督「しっかり掴まってろよ」

金剛「逃がさないデース!」

漣「漣はしつこいから!」

時雨「抜け駆けは許さないよ!」

如月「司令かーん。どこに行くつもりなのー? 如月も一緒に行かせて。ねっ?」

榛名「榛名! 全力で参ります!」

提督「くっ!」


神通「那珂ちゃん! 提督!」

川内「ここは私たちが」

村雨・五月雨・涼風・朝潮「食い止めます!」

夕立「ぽい!」

提督「お前ら……! ありがとう」

神通「さあ、私たちが相手です」ゴゴゴ

漣「なんて迫力……! だけど、簡単には退かないよ!」

「うおおおおおおおおお!!!」

――雌雄、決する時!


金剛・榛名・漣・時雨・如月「」ドサッ

川内「うわ、よっわ」

五月雨「ほとんど神通さんの独壇場でしたね」

涼風「ほんとおっかねえなあ……」

村雨「さすがは神通さん」

夕立「出る幕すらなかったっぽい」

朝潮「……少しやりすぎでは?」

神通(……那珂ちゃん。提督……)

キリが悪いですが本日はここまで。




――

―――

提督「はあっ、はあっ。……そろそろ大丈夫か」

那珂「あわわわわわ//」

提督「降ろすぞ、那珂。よいしょ」スッ

那珂「……」プシュー

提督「……神通たちがうまくやってくれたか。まあまずは一安心だな」

那珂「……提督、その……」

提督「お、見ろ那珂。綺麗な夕陽だ。あ、でもお前らはいつも見てるのか。海の向こうに沈んでいくあの夕陽を」

那珂「……うん。でも、ね。こうして提督と見るのは、初めて、だな」

提督「……そうだな」

――茜色の空を水鳥が優雅に飛んで行ったり、ざぱあんと波が岸に打ち寄せる心地よい音が聞こえてきたりします。


気まずいような気恥ずかしいような静寂の中、私は意を決して言葉を紡ぎだします。




那珂「……提督。私ね、あなたのことが、好き、です」



やった。ちゃんと伝えられた。私の気持ち。

好き、大好き、世界一あなたが好き。

あなたのことを考えるだけで、胸が締め付けられるの。あなたの声を聞いただけで、心がときめくの。あなたの優しい笑顔を見ると、どうしようもなく切なくなって、愛おしくなるの。

――でも、私はその先が怖い。いくら私があなたのことを想っていても、あなたの想いはわからないから。無責任だけど、ね。

あなたの答えを聞くのが怖い。あなたの気持ちを知るのが怖い。

もしも、あなたが他の娘を好きでいるのなら……。こんな苦しいような夢なら、早く覚めてしまってもいいから。


しばらくの沈黙のあと、提督がゆっくりと口を開いて――


提督「……俺も好きだよ、那珂」

那珂「……ほんとに?」

提督「……ああ、本当だ」


那珂「だって、だって……」

ずっと押さえていた私の気持ちが、堰を切ったようにどっと溢れてきて――

那珂「私なんかより神通ちゃんのほうが綺麗だし、料理も上手だし、気配りだってすごいできる」

那珂「秘書艦としていつも一緒にいるのも神通ちゃんだし、私より神通ちゃんのほうが提督のことたくさん知ってる!」

那珂「私、神通ちゃんのことが羨ましいの! もっと提督と一緒にいたいのに、もっとたくさんお話ししたいのに!!」

那珂「なんで……! なんで私なの!? なんで神通ちゃんじゃないの!!? ……こんなのおかしいよ……!」ボロボロ

――ああ、言っちゃった。私って、ほんとバカだね。……提督、きっと私に幻滅しちゃった――

提督「てい」ペシ

那珂「うっ! ちょっと、いきなりなに――」

提督「那珂。俺はな、お前が好きなんだ。んでもっと言うと、お前の素敵な眩しい笑顔が大好きだ。だから、泣くなよ。お前が泣いてたらさ、こっちまで辛くなるだろ」

提督「だから、これからずっと俺の傍で、笑顔でいてくれ。ずっと、な」

那珂「……で、でいどぐ~!」ダキッ

提督「うわ、ちょ。……よしよし」

提督(お前はみんなのアイドルだから、ずっと笑顔でいなきゃいけないもんな。だから俺には、笑顔以外の表情だって見せてくれていいんだぞ)

提督(まあ、ずっと笑顔でいられるようにしてやるけどな)


那珂「…………」ギューッ

提督「……(泣き止んだか)。なあ、そろそろ離れて――」

那珂「ヤダ」

提督「即答かよ……」

那珂「……今だけは、もう少しこうさせてて……」

提督「……なあ那珂」

那珂「え? う、うわ!」

少し強引に引き剥がされたと思ったら、手を私の頭に回されていて。ゆっくりと提督の顔が近づいてきます。

那珂(こ、これって。つ、つまりはそういうこと、だよね//)

バクバクと破裂しそうなほどに高鳴る胸を抑えて、私はゆっくりと瞼を閉じます。

――唇に、熱いものが触れた。目で見なくても、それが提督の唇であるというのはわかる。

――数秒、はたまた数分だろうか。ありきたりな表現だとは思うけれど、まるで時が止まってしまったかのような感覚だった。ずっとこの瞬間が続けばいいとさえ思えた。

どちらからともなく、顔を離す。頬は紅潮していて息が荒くなっているのが、自分でもわかる。

提督「……//」

那珂「……提督」

提督「な、なんだ?」

那珂「……大好き!」ニコッ

ありがとう、提督。那珂ちゃん、これからも頑張っていくからね! だから、ずっと私を、傍で見守っていてね!


とりま今日の分は終わりです。もうちっとだけ続くんじゃ。


天下一お料理会……いいですね! おまけのネタが一つ増えました。感謝。

では、またのんびりと投下していきます。


それから、二人でぼうっと水平線の向こうに沈んでいく夕陽を眺めたりして。気付いたら、空がすっかり暗くなっていました。

提督「……そろそろ夕食の時間だな。……ああ、気が重い」

那珂「那珂ちゃんもー」

他の娘たちに一体どんなことをされるか……。今からもう気が気じゃないです。

提督「まあ、ここにずっといても仕方ないしな。ほら」

すっと差し出された提督の手を握ります。大きくてあったかくて、とても安心できます。

提督「じゃ、行くか」

那珂「……うん」

―――

――



提督・那珂「こんばんは」

金剛「ああ提督、那珂ちゃん。こんばんはデース! ……って提督と那珂ちゃん!!?」

瞬間、食堂に電流走る――!

堂々とさりげなく突入する作戦、あえなく失敗。

金剛「今までどこにいたんデスカー? 心配したんデスヨー? あははは」

提督・那珂(……駄目だ。目が笑ってない……)

席に着いて食事をとっていた娘たちも、ぞろぞろと私たちの周りに集まってきます。

今まで二人で何をしていたのか。そんな質問ばかりが繰り返されます。

提督「えー、えっと……」チラ

那珂「……うう//」

提督「……秘密に決まってるだろ」


榛名「そんなにもったいぶらなくても、榛名は大丈夫です」

提督「俺たちが大丈夫じゃないんだよ!」

如月「男女が二人一緒に秘密にすることなんて……。勿論、アレしかないわよね」

長月「……なるほど。そういうことか」

何がそういうことなの!?

瑞鳳「私の玉子焼きじゃ駄目なの? そんなに那珂ちゃんの玉子焼きがいいの?」

玉子焼きがいいってどういうこと!? 瑞鳳さんショックでおかしくなっちゃたの!?

青葉「青葉、とっても気になります!」

とか言いつつ、もう知ってるとかありえそうだから怖いよー!!

提督「わかった、わかったから。お前ら少し静かに!」

ピシリ、と提督が場の空気を掌握して……

提督「俺は那珂が好きだ! だから、その……そういう関係だから。……以上//」

自分から言い出して照れないでよーー! 私まで恥ずかしいじゃん//

北上「わあお」

大井「い、言い切りましたね……//」

陽炎「……つまり」

不知火「司令と那珂ちゃんさんは、」

黒潮「恋人。っちゅうことか……」


落胆の声や祝福の声。周りからは様々な声が上がっています。

と言っても、提督に少なからず好意を寄せていた娘は何というか、この世の終わりみたいな絶望的な顔をしていたりもしますけど。

神通(私もあんな顔をしていたんでしょうか……。なにはともあれ、那珂ちゃん。提督。……おめでとうございます。!)

川内「うぐ……ひっぐ……」ボロボロ

神通「っ! 姉さん、どうしたんですか!?」

川内「……良かったね、那珂。おめでとう……!」ボロボロ

神通「……姉さん」

姉さんのこの涙が、悲しみによるものなのか。それとも、嬉しさによるものなのかはわかりません。

だけど、姉さんは那珂ちゃんたちを祝福してくれている。本当に妹想いの、いい姉です。


私は申し訳なさや罪悪感で、胸が張り裂けそうでした。

もしかしたら、私が提督に選ばれずに、苦しい想いをしていたのかもしれない。

もしも提督にフラれたら。もしも提督が、他の娘のことが好きだと言ったら。そんな不安を今までずっと抱えてきた私だから、みんなの気持ちは痛いほどよくわかるんです。

だから、私は重苦しい顔で、そこに立っているしかなかった。

だけど、

金剛「那珂ちゃん。あなたがそんな顔でどうするデース?」

那珂「! 金剛さん……」

金剛「提督と結ばれて今一番幸せなハズのあなたがそんな顔をしていたら、私たちはどんな顔をしていればいいんデース?」

金剛「…」フキフキ

金剛「みんなー! 早く食事に戻りまショー! 今日は提督と那珂ちゃんが結ばれたとってもおめでたい日ネー! 涙は似合わないワ!」ウインク

那珂「……金剛さん。ありがとうございます」

金剛「私は当然のことをしたまでデース! さあ、早くしないと料理が冷めてしまいマスヨ?」

那珂「うん!」

提督「(……助けられたな)。ありがとう、金剛」

金剛「提督。那珂ちゃんのこと、絶対に幸せにしてあげてくださいネ!」

提督「……勿論だ。約束する」


金剛(……幸せになってくださいネ。私の愛した人)


それからはみんなに祝ってもらいながら、楽しくご飯を食べました。いつもと変わらないメニューだったけど、とってもおいしかったです。

それで、今度は豪華なディナーにしようって、一部の料理好きな娘たちが張り切っていました。川内ちゃんも作るって言い出したのは少し意外だったな。


新曲も好評だったようで、とっても嬉しい! 廊下を歩いている時に雷ちゃんが口ずさんでるのを発見しちゃったり。


大浴場ではみんなに、「提督と一緒に入らなくていいのか?」ってからかわれたけど……それはちょっと早すぎるかな//


その後、神通ちゃんに「提督は今の時間なら執務室にいるはずです」と教えられて、執務室前まで来たわけだけど……。

那珂(き、緊張するな……)

思えば、自主的にここに来たことはあまりなかった気がする。ずっとアイドルになるって目標を一直線に追いかけていたから、あまり提督と一緒にいられることもなかったし。

だけど、これからは違うよね。もっと提督と一緒にいられるだろうし、もっと提督のことを知れる。

ふう、と一息ついて、扉を叩きます。

コンコン

提督「どうぞ」

那珂「失礼します」ガチャリ

提督「那珂か。……飲み物出そうか?」

那珂「あ、はい。お願いします」

提督(……ぎこちないな)


那珂「……ふうー、落ち着くね」

提督「ああ。さすがは金剛一押しの茶葉だ」

那珂「提督紅茶淹れるの上手だね」

提督「まあな。金剛に教わったんだ」

那珂「……(私の知らないうちに)」プク

提督「なーに妬いてんだよ。まったく、可愛いなあもう」ニコニコ

那珂「かっ、かわ……! //」

提督「……今日は色々あったな。まあ一番は、那珂と今までよりずっと仲良くなれたこと、かな」

那珂「……私もそう。本当に嬉しくて、とっても幸せで。もしかして夢なんじゃないかって思っちゃったり……」

提督「夢じゃないよ。寝てまた朝を迎えても、俺たちの距離は近づいたままだ」

那珂「……うん」

提督「……それで、さ。一つ頼みがあるんだけど」

那珂「な、なに?」

提督「……俺に、お前の夢の手伝いをさせて欲しいんだ」

那珂「え……? それって、那珂ちゃんがアイドルになる夢の、ってこと?」

提督「ああ。今まではあくまで提督と艦娘、上司と部下って関係だったけど、これからは少し違ってくるだろ?」

提督「これまではほんのささやかなことしかしてやれなかったけど、もっとお前の力になりたいんだ。だから……どうだ?」

那珂「もちろんだよ! 本当に!? ……嬉しい……」

提督「……改めて、これからよろしくな、那珂」

那珂「うん! こちらこそ、よろしくお願いします!」

提督「……それじゃあ、俺はそろそろ寝るわ。また明日な。……おやすみ」

那珂「おやすみなさい!」

夜寝る前に、好きな人におやすみって言われて、おやすみって言える。それは、とっても幸せなことなんだよね。

那珂ちゃん、今とっても幸せです!


キリがいいので今日はここまで。


   翌朝

提督「……うう」ガチャリ

那珂「! 提督! おはようございます!」

提督「……おう、おはよう。お前は朝から元気だなー」ボケーッ

那珂「はい! 今日も日課のランニングを終えて来たところです! アイドルは身体が資本だからね!」

提督「そうか。……」キョロキョロ

提督「俺、もしかして待ち伏せされてた?」

那珂「あっ、う、うん。その、提督に一番に会いたくて……//」

提督「そっか。じゃあ、朝ごはん食べに行こうか」

那珂「うん!」

―――――

那珂「ねえ、提督」

提督「うん?」

那珂「これからは、那珂ちゃんが朝ごはん作ってあげたいな、なんて」

提督「……そうだな。でもさすがに毎日はあれだから……。これからは週に一度、頼んでもいいか?」

那珂「うん! 任せてよ! じゃあ、早速明日! ね!」

提督「わかったよ。楽しみにしてる」


―――

――



提督「とりあえずみんな元気そうで良かった」

那珂「な、那珂ちゃんはいつ提督が刺されないかヒヤヒヤだったよ……」

提督「おいやめろ。ていうかやめてください」

那珂「大丈夫だよー。うちにそんなことする娘なんていないし。……た、多分」

私だったらどうしてるのかな。もう提督とは今までのように接せられなくなってるかも。……金剛さんは今日も元気に抱きついてきてたけど(軽くあしらわれてた)。



提督「それじゃあ、また昼にな」

那珂「はい! お仕事頑張ってね!」

提督「おう」

まるで新婚さんの会話みたいだな、と思っちゃったり。行ってきますのキスはなかったけど……//

神通「那珂ちゃん。何か提督に用事でも?」

那珂「え! うんうん。今提督を見送ったとこ。神通ちゃんもお仕事頑張ってね!」

神通「那珂ちゃんこそ。駆逐艦の娘たちは任せますね」

那珂「うん! それじゃあ、また後でねー!」

神通「……」


書類作業を始めてから数分がたった頃。神通がおもむろに口を開いた。

神通「提督。少し相談があるのですが、よろしいでしょうか?」

提督「……那珂についてのことか。大方、秘書艦を彼女に変えてみてはどうかとかそんなとこだろう」

神通「! その通りです」

提督「だが、秘書艦を那珂に変えるつもりはないよ」

神通「……理由をお伺いしても?」

提督「……神通。俺はお前が秘書艦に適任だと思っている。前にも言ったと思うが、お前を一番頼りにしているからな」

提督「正直、那珂を秘書艦にするなんて公私混同もいいところだ。はっきり言って、彼女は執務作業には向いていないしな」

提督「別に那珂のことを悪く言っている訳ではない。適材適所、ということだ。彼女が輝くのはここではなく、もっと別の場所だ。だから、だ。……納得してもらえたか?」

神通「はい。提督らしい理由で、安心しました」

提督「……まあ、俺個人としてはもっと一緒にいたいんだけどな」

神通「……」クスクス

提督(あ、やべ。つい本音が漏れた……。神通の前だから、なのかな)

提督「ゴホン。という訳で、これからもよろしく頼むよ、神通」

神通ウ「はい。こちらこそよろしくお願いしますね、提督」

神通(那珂ちゃん。悪いですけど、この席は簡単には譲りませんよ)


 昼・食堂

夕立「疲れたっぽい~」

涼風「てやんでい! まだまだ頑張らないとな! これくらいでへばっちゃいられないぜ!」

那珂「うん! みんなお疲れ様! ご飯をモリモリ食べて、午後も頑張っていこうね!」

村雨「そうねー。お昼は何にしましょうか」

五月雨「私はさっぱりとうどんがいいなあ」

朝潮「私は親子丼にしましょうか」

ぞろぞろ


提督「みんなー、お疲れ様」フリフリ

那珂「提督もお疲れ様!」

提督「おう、ありがとうな。午後からも頑張れよ、第四水雷戦隊」

「ポイー」 「ガッテンダ!」 

神通(提督ったら、みなさんがやってくる度にこれなんですから……)モグモグ


本日はこれにて終わりです。次の艦娘想歌は『恋の2‐4‐11』と『艦隊アイドル改二宣言』でお願いしたい今日この頃。


コンコン

提督「どうぞ」

那珂「失礼しまーす! 那珂ちゃんに何か用事ですか?」

提督「ああ。訓練終わりに悪いな。ちょっと話があるんだ」

那珂「話?」

提督「……那珂。鎮守府の外で、歌ってみたくはないか?」

那珂「えっ、ええ!? そ、それってつまり、外でライブするってこと!?」

提督「そういうことだ」

那珂「でっ、できることならやってみたいけど。その、正直あんまり自信ないよ……」

提督「大丈夫だ。もっと自信を持てって。お前はもう、この鎮守府の立派なアイドルなんだから」

那珂「だ、だけど、みんなに向かって歌うのとはわけが違うだろうし……」

提督「何も変わらないよ。お前はいつも通りやればいいんだ。来てくれた人が笑顔になって、たくさん元気をもらえるような。そんな素敵なライブにしよう!」

那珂「……うん。わかった。那珂ちゃんやるよ!」

神通「……」コクッ

提督「よし。じゃあ、話は俺たちが通しておくから。お前はライブのことだけ考えていればいい。頑張れよ、那珂」

那珂「うん!」

―――――

コンコン

提督「どうぞ」

青葉「ども、司令官! 面白そうな話ですね! 是非青葉にも協力させてもらえないでしょうか?」ガチャリ

提督「入れ替わりに入ってきたと思ったらそういうことか。それはいいけど、大丈夫か?」

青葉「もちろんです! 那珂ちゃんさんはこの鎮守府のアイドル、そして大切な仲間。そんな那珂ちゃんさんの晴れの舞台、応援するだけじゃなく、力になりたいんです!」

提督「なるほど、そういうことか。わかった、よろしく頼むよ」

青葉「はい! それと、後で取材をお願いしてもいいでしょうか?」

提督「え。どういった内容で?」

青葉「もちろん、那珂ちゃんさんとのあれやこれについてです!」

提督「却下」


 数日後

提督「那珂。正式にライブをすることが決まったぞ。それも、広報の一環として、な」

那珂「やったー!」

提督「大本営も全面的にバックアップしてくれるそうだ」

那珂「さすが提督!」

提督「いや、これは青葉のおかげだ」

神通「ええ。青葉さんとても頑張っていましたから」

那珂「青葉さんが?」

提督「那珂のライブのPVを作ってくれたんだ。反応も上々。是非生で見せてくれって、当日は軍のお偉いさんも来るっていう話だ」

那珂「わあお。ますます頑張らなきゃね!」

提督「ああ。ライブは今から二週間後だ。最高の舞台にしような!」

那珂「うん!」


神通「提督。お客様がお見えになられました」

提督「入れてくれ」

ガチャリ

明石「失礼します。工作艦、明石です!」

提督「よく来てくれた」

明石「大本営から、那珂さんのライブの会場設営を手伝ってくれということで参りました!」

提督「ああ、ありがとう。忙しい所すまないな。本業のほうは大丈夫なのか?」

明石「ええ。私だけじゃなく、他の娘や妖精さんもいますし」

神通「それにしても困った話ですよね。艦娘はいるのに肝心の艤装ができていないなんて」

明石「私は今できることを精一杯にやるだけですから」

那珂「よろしくお願いします! 明石さん!」

明石「はい! 任せてください!」

―――――

霧島「マイク音量大丈夫…? チェック、1、2……。よし」

青葉「ここの機材はこうして……と」

鳳翔「みなさん。差し入れを持ってきましたよ」

吹雪「わあー! 鳳翔さんのおにぎりだ!」

瑞鳳「瑞鳳の玉子焼きもあるわよ。一緒にたべりゅ?」

蒼龍・飛龍「たべりゅうううううう!」

那珂「那珂ちゃんも食べりゅ!」

提督「俺も食べ……って危ない。いただくよ」

鎮守府のみんなが一丸となって、ステージの設営が進んでいきます。

そして――


提督「ついに本番当日か。長かったような短かったような……」

安堵の表情で、提督がそう漏らします。

提督「……ちゃんと見てるからな。俺はもう行くよ」

那珂「うん。……提督」

提督「なんだ?」

那珂「……ありがとう!」

提督「……おう」



期待と興奮で、胸が改造されちゃいそうです。でも、不思議と不安は感じていなくて。これはきっと、提督のおかげなんだろうなって。

一人じゃここに来るまでに、途中で挫けちゃっていたかも。鎮守府のみんなや提督の支えがあったから、ここまで来れたんだ。

アイドルになるっていう那珂ちゃんの夢を笑わないで、大切にしてくれて、応援してくれて。

色々な積み重ねがあって、とうとうここまで来ることができた。本当に、ありがとう。

今日は、最高のステージを見せるからね!

―――

――


川内「では、那珂のライブ成功と、那珂と提督が結ばれたことを祝して、かんぱい!」

みんな「かんぱい!」

隼鷹「ひゃっはー! 今日は飲むぜー!」

飛鷹「あなたはいつも飲んでるでしょう……」

赤城「こんな豪華な食事は初めてですね。装備換装を急いで!」

加賀「ここは譲れません」

瑞鶴「しっ、七面鳥……!」

翔鶴「私も腕によりをかけて作ったんですよ」

暁「テーブルマナーはレディーのたしなみよね!」

響「ハラショー。こいつはすごい」

雷「さあ。たくさん食べてね!」

電「いただくのです」

ワイワイガヤガヤ

明石「提督。私もいてよろしいのでしょうか?」

提督「ああ、もちろんだよ。それとも、無理に引き留めちゃったか?」

明石「いえいえ! そんなことはないです!」

提督「ならよかった」

明石「……ここだけの話、近々練度の限界を引き上げる、ケッコンカッコカリというシステムが完成する予定なんです」

提督「ケッコンカッコカリ? なんだその結婚もどきみたいな名称は」

明石「今開発部のほうで開発中なんですが、その方法が改装などではなく、指輪を装備すること、なんですよ」

提督「……それじゃあ本当に結婚するみたいだな。あ、でも実際にするわけじゃないからカッコカリ、なのか」

明石「はい」

提督「なんでそれを俺に……」

明石「それはもちろん……」

提督「……那珂、か」

明石「察しがいいですね」


明石「ケッコンカッコカリという名称については、もう一つ理由があるんです」

明石「それは、装備の条件が練度限界である他に、提督と艦娘の間に深い絆があること、だからと」

提督「なんだそりゃ? 実験でもしたのか?」

明石「開発陣である妖精さんたちの話です。そして彼らによると、なぜか指輪という形になってしまった、とも」

提督「ケッコンカッコカリなんて名前で指輪渡すなんて、いくら練度を引き上げる為とは言えポンポン渡せねえな」

明石「どうせなら書類もつけようって話になっているみたいですよ」

提督「…………」

明石「大本営のお偉いさん方も、『これはつまりそういうことだ。末永くお幸せにな』ってことで満場一致したようです」

提督「何が!?」

明石「まあつまり、那珂さんに渡してあげるんでしょう?」

提督「……ああ」

明石「……幸せにしてあげてくださいね」

提督「……わかってるよ」


 執務室

神通「……提督」ショルイニメヲトオシナガラ

提督「うん?」カキカキ

神通「最近那珂ちゃんとはどうですか?」

提督「うん。まあまあ」

神通「……まだデートもしていませんよね?」

提督「! ……言われてみれば」

神通「二人が恋仲になってから早一ヶ月。それなのにこの状況というのは、少しどうかと思います」

提督「ライブの準備があったりで忙しかったからな」

神通「それはわかっています。ですが、提督も働きすぎです。ですから、そろそろ提督も一日休みの日を入れて、その日に那珂ちゃんとお出かけ、というのはどうでしょうか?」

提督「一日中鎮守府を空けたことはないからなあ……」

神通「私たちを信頼してください」

提督「……わかった。頼むよ、神通」

神通「はい」

―――――

 提督・自室

那珂「……」ペラッ(メガネソウビ)

提督「……那珂。次の日曜さ、二人でどっか出かけないか?」

那珂「え? そ、それってつまり……。は、初デート!!?」

提督「そう。ようやく一日中休みの日が取れたから。どうだ?」

那珂「もちろん行くよ!!」

提督「(良かった)。どっか行きたいところはあるか?」

那珂「えっと、ね。遊園地に行きたい」

提督「遊園地か……。俺も子供の時以来だな。わかった」

那珂(……やったあ! 提督とデート、提督とデート♪)ルンルン

というわけでついに来ましたデート回。終わりもそろそろ近づいてきました。この三連休で終わらせられれば……。
本日はこれにて終了です。


 デート当日

提督「……」トケイチラッ

提督(……なんで現地で集合なんだよ。どっちも鎮守府にいるんだから一緒に行けばいいだろうに……)

那珂「提督ー! おまたせー!」

提督「ああ、まだ五分前……!」

那珂「? どうしたの?」

提督「いや……その、なんだ。似合ってるよ」

提督(メガネ姿自体はまあまあ見た事はあるが、こうして私服と一緒にとなると、ガラッと雰囲気が変わるな……)

那珂「ありがとう! 提督の私服も新鮮だね。すごく似合ってるよ!」

提督「……どうしてメガネしてるんだ?」

那珂「えっと……変装?」

提督「お前そんなにファンいるのか?」

那珂「ああもうひどーい!」

提督「冗談だよ。何からいく?」

那珂「ジェットコースター!」

提督「…………え」

那珂「さあっ、早くいこっ!」

提督(……やばい、死んだかも)


ゴオオオオオオオオ!!

那珂「きゃあーーー!!」

提督「」チーン

―――

――



那珂「楽しかったねー!」

提督「……うん」

那珂「次はおばけ屋敷いこっ?」

提督「…………うん」

提督(……は、ははっ。落ち着け俺。おばけなんて空想の産物。おばけ屋敷なんてただの子供だましだ……)



――

―――

おばけ「ア゛ア゛ーーー!!」クワッ

那珂「きゃあっ!!」ダキッ

提督「ひいっ!!!」ビクッ

おばけ「……バグハヅ、シロ゛ヨォ……!」

那珂「あわわ……!」オロオロ

提督「」チーン

おばけ(……スエナガクオシアワセニ)

提督「あ、ああ……」フラフラ

おばけ(……コワガリスギダロ)


提督(遊園地。まさかこんなに怖い所だったとは……)ガクブル

那珂「提督大丈夫ー?」

提督「ああ、大丈夫……」

那珂「ねえ、そろそろお昼にしない? 那珂ちゃんお昼ごはん作ってきたの!」

提督「おお、ありがとうな。じゃあ、早速食べようか」



那珂「じゃーん!」

提督「サンドイッチか! おいしそうだ。じゃあ、いただきます」

提督(ツナマヨ、たまご。ポテトサラダにハムサンド。色々あるなあ……。これは……玉子焼きサンド?)

那珂「から揚げや生春巻きもあるから、たくさん食べてね」

提督「モグモグ……うん。おいしいよ!」

提督(しかもこんなにたくさん。……食べ切れるか?)

―――

――



提督「ごちそうさま」オナカイッパイ

那珂「はい! おそまつさまでした!」

提督「少し休んでていいか? さすがにちょっと苦しい……」

那珂「う、うん! ごめんね、ちょっと多すぎたね」

提督「気にしてないよ(いつものことだしな)。ありがとう、那珂」

那珂「どういたしまして!」


それからも遊園地をたくさん満喫して、気付けばもう夕方になっていました。楽しいとあっという間に時間は過ぎちゃうね。

那珂「提督。今日はありがとう!」

提督「それはこちらこそだよ。そうだ、最後に観覧車行っていいか」

那珂「うん。那珂ちゃんも行きたいと思ってた」



――

―――

ゆっくりと頂上を目指して昇っていくゴンドラの中に、優しいオレンジの光が射しこんできます。

提督「……綺麗だな、夕陽」

那珂「うん。……那珂ちゃん、あの日のこと思い出すな」

提督「ああ。あの日も夕陽が綺麗だったもんな」

なんだか幻想的で、とってもロマンチックです。それになんだか、不思議な気持ちになってきて……。どうしようもなく切なくなって。

那珂「……ねえ提督」

提督「なんだ――!」

提督の振り向きざまに、唇を重ねました。

那珂「……えへへ//」

提督「……那珂」

今度は提督が私にゆっくりと顔を近づけてきます。そしてそのまま唇が触れ合って。かと思ったら、そのまま提督の舌が私の舌に絡みついてきました。

那珂(……! なにこれ……すごい。とっても気持ちよくって、頭がぼうっとしちゃう……)

されるがままに口の中を蹂躙されて。しばらくして、提督がゆっくりと唇を離します。これが、大人のキス……//

提督「……大丈夫か?」

那珂「えっ? う、うん//」

提督「……夜ご飯なんだろうな……」

那珂「え、えっ?」キョトン

提督「……」プイ

那珂「ちょっと提督! 顔背けないでよ、こっち向いて!」

提督「やだ」

那珂「……もう//」ポカポカ

提督(……めっちゃ恥ずかしい//)


 ――12月24日――

龍驤「メリクリや~♪」

翔鶴「瑞鶴? 何をそんなにイライラしているの? せっかくのクリスマス、これを食べて落ち着いて、ね?」

瑞鶴「翔鶴姉! その料理は食べない。ぜ~ったい食べないから!」

瑞鳳「クリスマスっぽい玉子焼き、焼いてみたの。どう?」

祥鳳「是非いただくわね、瑞鳳」

ハルナ「クリスマス。イエス・キリストの降誕を祝う祭り。クリスマスツリーを飾り、ケーキなどを食べる日。タグ添付、分類、記録」

霧島「それは、大分歪められた日本特有の認識ですね……」

榛名「榛名は大丈夫です」

イオナ「……?」クビカシゲ

ベツレヘムの星「」キラーン

タカオ「うん! この七面鳥おいしいわね」

瑞鶴「!」クワッ

タカオ「!」ビクッ

加賀「まったく。これだから五航戦は」モグモグ

瑞鶴「ああーー!!」

愛宕「はーい提督! 愛宕からのプレゼント! 今開けてね」

提督「……どうだ?」

愛宕「わあ、よく似合う! よかったぁ」

高雄「もう、愛宕ったら。お似合いですよ、提督」

提督「……ああ、ありがとう」


提督「……神通、那珂がどこに行ったか知らないか?」

神通「すぐに戻ってくるはずですよ」

提督「ああ、そうか」

提督(はぐらかされた……)

川内「あ! 来たみたいだよ、那珂」

提督「え? ……!」

那珂・サンタ服「那珂ちゃんとメリークリスマスだよ! きゃは☆」

提督「……」ボーゼン

漣「うおお、キタコレ!」

潮「那珂ちゃんさんとっても可愛いね」

曙「……漣。あんた変なこと考えてないでしょうね?」

漣「え? べっつにー」

朧「なんか白々しいね……」

提督「……//」

川内「なーに照れてんの」

提督「だって……//」

陸奥「あらあら」

長門「ふっ。少しはかわいいところもあるんだな」

那珂(……那珂ちゃんまで恥ずかしくなってきちゃったよ//)


コンコン

提督「……(終わったか)。入れ」

ガチャリ

那珂・改二「那珂ちゃんだよ! もっと素敵になっちゃった。きゃは♪」

提督「……改二改装ご苦労様。調子はどうだ?」

那珂「もうバッチリだよ! これでもっとお仕事できるね!」

提督「ああ。期待しているよ」

那珂「うん!」

提督「それじゃあ、下がっていいぞ」

那珂「はい。失礼しました」

バタン

神通「……更にアイドルっぽくなりましたね」

提督「そうだな。……あれが川内型の改二制服か。神通はどうなるんだろうな」

神通「ふふっ……。楽しみですね」


――それから1ヶ月近く経って――

那珂「ねえ提督」

提督「なんだ?」

那珂「その……。次のライブ、是非来てくれないかな……って」

提督「ああ。毎週恒例の定期ライブか。最近行けてなかったからな……」

那珂「それもあるんだけど。……新曲できたの。だから、聞いて欲しくて」

提督「……わかった。楽しみにしてるよ」

那珂「……うん!」



――

―――

ワアアアアアア!!

~♪~♪~♪~

那珂「みんなー! いつもありがとう! いっくよーー!」



那珂「あなたの近くに居たくて アイドル生まれ変わります!」


那珂「着替えもメイクもバッチリね 新しい私 こんにちは!」


那珂「スキだから ダイスキだから セカイイチアナタガスキ」


那珂「伝えたい想い 届いた! 今輝く戦場(ステージ)へ!」


那珂「憧れの改二になったから もっと私のこと見ててよね」


那珂「アイドルなだけじゃないってところ 魅せてあげる」


那珂「そう改二になったけど ずっと私のこと好きでいて」


那珂「あなたの気持ちで 今日も私 出撃できるから」


―――

――


ワアアアアアアアアアアア!!!

那珂「みんなー! ありがとう!!」

那珂(……提督。いつも素直に伝えられないけど、こうしてならちゃんと伝えられるの。私の想い)

那珂(提督……大好きだよ)

提督「那珂」

那珂「うわあっ!!」ビクッ

提督「……驚きすぎじゃないか?」

「テッ、テイトクガステージニ!」「イッタイナニガオキルンダ!?」

提督「……とっても良い曲だったよ」

那珂「あ、ありがとう……」

提督「……俺からも、那珂に伝えたいことがあるんだ」スッ

提督「……これを、受け取ってくれないか?」

那珂「こ、これって……? 指輪……!?」

「ユ、ユビワ!?」「マサカケッコンノモウシコミ!?」「アレ?マダケッコンシテナカッタノ?」

提督「これ、本物じゃないんだ。ケッコンカッコカリって言ってな。艦娘の練度上限を上げるアイテムなんだ」

那珂「そ、そうなんだ」

提督「でもな、那珂。俺の気持ちは本物だ。……俺と、結婚してくれないか」

那珂「……えっ」

提督「……どうだ」

那珂「ちょ、ちょっと待って。突然すぎて頭が混乱しちゃって……」

那珂「……うん。もちろんだよ提督」ボロボロ

那珂「これからも、ずっとずっと応援してね!」ニコッ


  完!

はい、というわけで本編のほうは終了になります。お付き合いくださいありがとうございました。
後はおまけをいくつかやって、このスレは終わりにしようかと思います。
何かおまけでやってほしいネタがあれば言ってください。
では、今日はこれにて。

おつありです。
それでは、おまけ書いていきたいと思います。


 おまけその1

神通「提督。お客様がいらっしゃいました」

提督「(お客様……?)ああ、通してくれ」

ガチャリ

ハルナ「……来たよ」

イオナ「おっす」

タカオ「久しぶりね」

提督「お前らは……! まさか、また霧の艦隊が……?」

イオナ「今日は別の用事」

ハルナ「実は私たち、こういうのをやっていて……」

提督「(名刺……?)どれどれ……。アイドルユニット・Trident?」

那珂「ああーっ! そうだよ、この三人アイドルやってるんだよ! しかも単独ライブとかやってたり、凄いんだよ! ……那珂ちゃんとは大違い」

提督「な、なんの話をしているんだ?」

那珂「でも、解散したはずじゃ……?」

タカオ「その話は置いといて――」

イオナ「ここに来たのは、地方巡業みたいなもの」

ハルナ「提督。ここで私たちのライブをやらせてもらえないだろうか」

提督「それはいいが――」

那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんが黙っちゃいないよ!」

神通「それなら、こういうのはどうでしょうか?」

提督・那珂・イオナ・タカオ・ハルナ「?」


提督「なるほど、対バンライブか。上手いこと考えたもんだ」

那珂「観客も凄い盛り上がり……」

ワアアアアアアア!!

神通「那珂ちゃん、姉さん。少しいいでしょうか?」

那珂・川内「?」

―――

――



青葉「それでは、Tridentの登場です!」

イオナ「ニコニコ」

タカオ「ニコニコ」

ハルナ「ニコニコ」

ワアアアアアア!!

提督「……なんという営業スマイル。あいつらがアイドルやってるなんて、何かの間違いじゃないか? ……違和感がすごいんだが」

イオナ「今日はみんな、楽しんでいってね」

タカオ「私たちも最高のステージを届けるわ」

ハルナ「それでは、聞いてください」



~~~♪


イオナ「どうしようもないほど」

タカオ「無意識の意識が」

ハルナ「君を求めてた」

Trident「Purest Blue,Purest Water」

―――

――



ワアアアアアア!!

青葉「曲はTridentで、Purest Blueでした! 続いて、我らが那珂ちゃんの登場です」

那珂「キラーン☆」

神通「神通、いきます!」

川内「川内参上!」

提督「……なんで川内型ごとステージに上がってるんだ……」


神通「那珂ちゃん。相手は三人。ですから、私たちも三人でいきましょう」

那珂「二人がいれば心強いよ!」

川内「なるほどね。それはいいけど、一体何歌うのさ?」

那珂「もちろん、アレ、だよね?」

神通「……はい」



――

―――

神通「川内型で、曲は『華の二水戦』です」

~~~♪

―――

――



ワアアアアアア!!

提督(……那珂だけじゃなくて二人ともノリノリだったな。練習とかしてたんだろうか)


イオナ「すごくいい舞台だった」

那珂「そっちもすごかったよ! さすがはプロのアイドルって感じ!」

タカオ「あなたもトップアイドル目指して頑張ってね」

那珂「うん! ありがとう!」

ハルナ「それじゃあ。またいつか会おう」

那珂「じゃあね~!」

アイドル同士、奇妙な友情を育んだ那珂とTrident。果たして、那珂が真のアイドルになれる日は来るのだろうか。我々は、ただ彼女を信じて、運営を信じて、待ち続けるしかない……。

おまけその1、『アイドル×アイドル』終わり。もっと那珂ちゃんを推してくれてもいいのよ(チラチラ)。
おまけその2、波乱万丈の天下一お料理会は後日。
今日はこれにて終わりです。

ありが豆板醤。では、まったり続き書いていきます。


 おまけその2

霧島「マイクチェック、1,2――」

霧島・青葉「第一回! 鎮守府!! 天下一お料理会!!!」

イエエエエエエイ!!

青葉「司会の私、青葉と!」

霧島「実況・解説の霧島で、お送りしていきます!」

提督(……霧島テンション高すぎるだろ……)

青葉「ではまず初めに、審査委員の皆さんを紹介していきます」

青葉「鎮守府のおかん、鳳翔さん!」

鳳翔「よろしくお願いします」フリフリ

霧島「料理の美味しさだけではなく、栄養面も視野に入れなければ、鳳翔さんから点をとることは難しいです! 彼女から高得点をとることが、優勝への秘訣ですね!」

青葉「続いて、意外と料理できる、伊勢さん!」

伊勢「意外とは余計……」

霧島「海軍料理コンテストでの優勝経験もある、艦娘きっての料理上手! 得意料理はもちろん、アサリのホワイトシチューそうめん!」

伊勢「あっ、フォローありがとう」

青葉「続いて、夜戦の申し子こと川内さん!」

川内「川内参上! 夜戦なら任せて!」

霧島「川内さんも、同コンテストで小鯵の南蛮漬けを発明したほどの料理上手!」

川内「ビシバシ審査していくからね!」

青葉「そして、我らが司令官!」

提督「どうも」

霧島「……ノーコメントでお願いします」

提督「いや、なんでだよ!」

青葉「以上の4名が審査員を務めます」

提督「おい! 無視すんじゃねーよ!」


青葉「続いて、選手の紹介に入りましょう!」

青葉「エントリーナンバー1。艦隊のアイドルにしてケッコン艦、那珂ちゃん!」

那珂「キラーン☆」

霧島「提督、那珂ちゃんの料理スキルは如何ほどなんですか?」

提督「はっきり言うが、那珂を嫁にして良かったと思っている。それぐらいには」

那珂「……////」

霧島「はい。ノロケありがとうございます」

青葉「エントリーナンバー2。華の二水戦、神通さん!」

神通「神通、行きます!」

霧島「奇しくも姉妹対決となりましたね」

神通「那珂ちゃん、今日は負けません!」

那珂「それはこっちもだよ」

神通「お互い、全力を出し合いましょう」

那珂「うん!」

青葉「エントリーナンバー3。初期艦の意地を見せられるか? 漣ちゃん!」

漣「今日は絶対に勝つよ!」

霧島「改で更にメイドっぽくなった漣ちゃん。果たしてどんな料理を繰り出してくるのか!?」

青葉「エントリーナンバー4。鳳翔さんが空母の母なら、こっちは潜水艦の母。大鯨さん!」

大鯨「頑張ります!」

霧島「その料理の腕は間宮さんや鳳翔さんに匹敵するとも。これは期待が持てますね」

青葉「そしてラスト! エントリーナンバー5。比叡さん・磯風さんペア!」

比叡「気合! 入れて! 行きます!」

磯風「大丈夫、心配はいらない」

提督・川内・伊勢「ちょっと待てーーー!!!」

霧島「どうしたんですか。止めないでくださいよ」

提督「いやおかしいだろ! なんでその二人にコンビを組ませようと思ったんだよ!」

川内「夜戦するまでもなく沈んじゃうよ!」

伊勢「無理にオチつける必要ないんだよ!?」


霧島「どうしてって。お二人がどうしても出してくれって……」

青葉「まあ大丈夫ですよ。死にはしませんって」ケラケラ

川内「青葉は実際に食べないからそんな余裕でいられるんだよ!」

提督「見ろ! 鳳翔さんですら顔が引き攣ってるぞ!」

鳳翔「あ、あはは……」ピクピク

伊勢「大体、マイナスとマイナスを足しても更に酷いものができるだけじゃん。あんまりだよ……」

比叡「それは違います!」

磯風「私たちの料理は掛け算!」

比叡「マイナスとマイナスを掛け合わせれば、それはプラスになる!」

磯風「一人ではだめでも、二人ならば越せる!」

提督・川内・伊勢「自分たちがマイナスだという自覚はあったーーー!?」

青葉「以上、エントリー選手の紹介を終わります」

青葉「では最後に、今回の主催者である間宮さんからお言葉を頂きます」

提督「よりによって間宮さんかよ……」


間宮「私からは短く3点だけ。その1、食べ物は粗末にしない! その2、感謝の気持ちを忘れずに! その3、お残しは許しません!」

間宮「以上のルールを守って、楽しくおいしい大会にしましょう!」

ワアアアアアア!!

青葉「あっ、そうだ。優勝賞品の発表を忘れていました。見事最高得点をマークし、優勝した艦娘には……」

青葉「提督との一日デート券が贈呈されます!!」

提督「ちょっと待ったーーー!!」

霧島「もう、なんですか。水を差さないでくださいよ」

提督「あのー、俺には那珂さんがいるんですが、そこらへんは大丈夫なんでしょうか……」

那珂「任せて! 那珂ちゃんが優勝するから!」

提督「そ、そういう問題かい……」

青葉「大丈夫ですって。みなさんちゃんと弁えてますから」

神通「……」ゴゴゴゴゴ

漣「……」ゴゴゴゴゴ

大鯨「……」ゴゴゴゴゴ

提督(……怖い)

青葉・霧島「それでは! 天下一お料理会!! ……スタート!!!」


青葉「さあ、一斉に調理スタートしました!」

霧島「それでは、各選手の動きを見ていきましょう」

那珂「……」シュバッ、シュバババ

霧島「おおー。手馴れた様子で進めていますね。さすがは正妻」

青葉「提督と結婚してから、かれこれ二年半。朝食は毎朝那珂さんが作っているとのことです」

霧島「この材料は……なるほどー」

青葉「お楽しみにしておきましょう!」

霧島「料理は何を作ってもいいんですよね?」

青葉「そうなんです! 完全自由! でも、あまり重いものはちょっと……」

霧島「そうですよね。さて、次は神通さん」

神通「……」シンケン

霧島「……おお、これは」

青葉「……凄いですね。これも秘密にしておきましょう」

漣「よっ、ほっ」クルリッ

青葉「おお漣ちゃん、見事なオムレツです!」

霧島「シンプルイズベスト! まさかこの料理で来るとは……」

青葉「これからの展開、もうある程度読めちゃいますね」

曙「ま、まさか漣……」

朧「そのまさかだね」

潮「え? まさかって?」

漣「できました! 漣の特製オムレツです!」

霧島「早くも一人目完成!!」


霧島「審査員の元に料理が運ばれます」

提督「……なあ漣。俺のだけケチャップかかってないんだけど……」

漣「えー、えっと……それはですね……」

漣「これからかけます」

青葉「おおーっとーー!! これはまさかーー!?」

漣「お……おいしくなあれ////」ハートケチャップ

霧島「出たーーー!! ジャパニーズ・メイドの萌え萌え攻撃! これは提督、予想外!」

提督「……ああ、ありがとう」

那珂「……ぐぬぬ」

霧島「これは他の選手たちに強いプレッシャーをかけることができたか!?」

川内「じゃ、食べようか」

鳳翔「はい」

審査員一同「いただきます」

川内「……甘い」

伊勢「甘いね」

鳳翔「おかしいですね。砂糖を使っている様子はみられなかったのに」

提督「……あま」

青葉「これは……アレですね?」

霧島「はい。自ら砂糖を分泌してしまうという、アレです」


青葉「それでは審査員の皆さん。得点の記入をお願いします」

霧島「この得点は最後に、一斉に公開されることになります。そしてこの得点が、これからの基準になってきます」

伊勢「それじゃあ……」

審査員一同「ごちそうさまでした」

パチパチパチパチ

青葉「漣ちゃん、ありがとうございました」

霧島「それでは続いて、大鯨さんの様子を見ていきましょう」

青葉「この料理は……?」

霧島「大鯨さんの得意料理、フーカデンビーフではないでしょうか?」

青葉「おおっ! とってもおいしそうです」

霧島「手際もすごくいいですね……」

大鯨「♪」ルンルン

青葉「そしてラスト……」

霧島「比叡・磯風ペア……」

長らくお待たせしました。続き書いていきます。


比叡「……」グツグツ

磯風「……」シンケンナマナザシ

――まるで殺人現場のようなまな板。血が滴る包丁。黒魔術のような色を迸らせながら沸き立つ鍋。そのすべてが異常としか言いようがなかった。

霧島「ひ……ひえー」

青葉「これって一体……」

金剛「ふっふーん。二人が作っているのは……うなぎのゼリー寄せデース!!」

一同(なんでそれを作らせようと思ったーー!!?)

比叡「金剛お姉さま直伝のメニュー!」

磯風「これで私たちが優勝をもらうぞ!」

提督「……もうなんも言えないわ」


榛名「でも、この料理って結構時間がかかりますよね? 大丈夫なんですか?」

金剛「二人は、その弱点を見事に克服したのデース」

比叡「それじゃあ磯風、アレを入れましょう」

磯風「ああ」スッ

高速建造材「デーーーン」

榛名「」パクパク

日向「もはやおおよそ料理と言える代物ではないな……」

金剛「料理を超越した新たな存在の完成デース!」

提督(入れるべきは高速建造材ではなく、高速修復材ではなかろうか)

しかし意外! 二人は鍋の中に入れるのではなく、そのまま鍋を炙り始めたのである――!

伊勢「なっ! 紫色だった中身が、段々と黄金色に――!!」

鍋「ペカーー」キラキラ

比叡「後は冷やして固めれば完成です!」

磯風「楽しみにしていてくれ」



――と、そんな内に


神通「完成しました。白身魚の和風あんかけです」

霧島「二人目の料理が完成しました!」

神通「どうぞ、お召し上がりください」コトッ

審査員一同「いただきます」

鳳翔「!」

伊勢「おいしい!」

川内「さすがは神通!」

鳳翔「パリっと焼き上げられた魚にかかるあんが絶妙ですね。それに、とても優しい味付け……」

提督「……うまい」

提督(そういえば、よく神通に作ってもらってたな。……懐かしい味だ)

神通「……」ニコッ

―――

――



審査員一同「ごちそうさまでした」

青葉「みなさん完食です! とってもおいしそうでしたね……」

霧島「果たしてどのような点数がつけられたのか……」




――

―――

那珂・大鯨・比叡・磯風「完成です!」

青葉「とうとう残りの3組も無事、完成を迎えました!」

大鯨「どうぞ。大鯨のフーカデンビーフです」

川内「おいしい!」

那珂「那珂ちゃん特製肉じゃがだよ!」

伊勢「うん! 毎日でも食べられそうだよ!」

比叡・磯風「うなぎのゼリー寄せです」

鳳翔「……! これは……!」

提督「うまいぞ! 確かに見た目からして少々キツイものがあるが……味も申し分ない」

比叡「やったね」グッ

磯風「ああ」


霧島「それでは、結果発表に移りたいと思います」

那珂「……」ドキドキ

神通「……」

霧島「第一回鎮守府天下一お料理会、栄えある優勝者は……」

ジャン!!

霧島「神通さんです!!」

神通「!」

青葉「おめでとうございます、神通さん」

神通「あ、ありがとうございます」

パチパチパチパチ!

青葉「それでは優勝景品、提督との一日デート券を贈呈します」

神通「あ、はい。ありがとうございます」

提督「……マジかよ……」

那珂「……神通ちゃん」

神通「な、なんですか? 那珂ちゃん」

那珂「那珂ちゃんのことは気にしないで、提督とデート、楽しんできなよ」

神通「……そう言われても……」

那珂「ね?」

神通「……はい」

川内「これが正妻の余裕か……」


神通「提督、その。……私とデートに行っていただけないでしょうか?」

提督「……わかった。じゃあ、今度行こうか」

神通「はい」

提督(……なんでこんなことになった)


おわり

神通とデートすることになったけど、もう知らない。結ばれない恋の結末を書くのは心苦しい……。

それでは、またどこかでお会いしましょう。依頼出しときます。

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