坊ちゃんとクーデレメイド (24)

坊ちゃん「……遅い。まだですかねぇ」

坊ちゃん「一体買い物にどれくらいの時間をかけているのでしょうか」

坊ちゃん「まったく。これはまた帰ったら説教が必要かもしれませんね」

坊ちゃん「献身的に働いてくれるのはありがたいのですし……」

坊ちゃん「従順で素直で優しくて真面目なのは嬉しいのですが、まるで役にたたない」

坊ちゃん「メイドさん……」

ガチャ

メイド「ただいま帰りました」

坊ちゃん「遅いですよメイドさん!」

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坊ちゃん「あなたは買い物程度に何時間かけているのですか?」

メイド「? 申し訳ございません」

坊ちゃん「使用人としてもっと時間を管理してください」

メイド「……」

坊ちゃん「返事は?」

メイド「あの……お言葉ですが」

坊ちゃん「! ほう、あなたが口答えとは珍しい。今日は雨が降るかもしれませんねぇ。いいでしょう言ってみてください」

メイド「私は決して時間をかけてなどいないと思うのですが」

坊ちゃん「……どうぞ続けて」

メイド「買ってきてほしいと頼まれた品物、近くでは到底見つかるものではありません。これくらいかかるのは妥当かと」

坊ちゃん「何を言いますか。僕が頼んだものは二つ。どちらもすぐそこで手に入るものではありませんか」

メイド「……」

坊ちゃん「何か不満でも?」

メイド「私は道草など食ってはおりません。まっすぐ店に向かいまっすぐ帰って参りました」

坊ちゃん「それならばどうしてこんなに時間がかかるのですか?」

メイド「坊っちゃんが住まわれるこの屋敷は山奥でございます」

坊っちゃん「それで?」

メイド「海はここから遠く離れたところにあります」

坊っちゃん「ですから?」

メイド「……このあたりで海の幸が手に入るわけないではありませんか」

坊っちゃん「はい?」

メイド「私は隣の国まで車を走らせたのですよ?」

坊っちゃん「ちょっと待ってくださいメイドさん。あなた何を言っているのです?」

メイド「ですから、山奥に立てられた立地条件の悪いこの洋館から海の幸を仕入れるには手間がかかると言っているのです」

坊っちゃん「すみませんがメイドさん。あなた何を買ってきましたか?」

メイド「はい。命じられた通りこちらの……」

毛ガニ「ぶくぶく」

メイド「毛ガニでございます」

坊ちゃん「……まさかここまで出来が悪いとは」

メイド「それとこちらの切手200枚です」

切手「どさ」

坊ちゃん「あのですねメイドさん」

メイド「はい。なんでしょうか坊ちゃん」

坊ちゃん「僕が頼んだのは手紙……」

メイド「毛ガニ?」

坊ちゃん「いいえ。手紙……て、が、み。あなたが買ってきたのは毛ガニ」

メイド「坊ちゃんが頼まれたのは……」

坊ちゃん「手紙」

メイド「私が買ってきたのは……」

坊ちゃん「毛ガニ」

メイド「だいぶ違いますね」

坊ちゃん「それは僕が言うべきセリフです」

坊ちゃん「さらにこちらの切手。何ですかこの量……。僕は50円切手を200円分と言いましたけど」

メイド「そちらに関しては私に一切の責任がございます」

坊ちゃん「そちらに関しては?」

メイド「恥ずかしながら私には学がございませんので。数や計算はあまり得意でないのです」

坊ちゃん「あまり?」

メイド「計算が難しく、どう転んでも良いように200枚ほど買って参りました。もちろん、余分なものは私の自腹でございます」

坊ちゃん「あたりまえです」

メイド「ご理解いただけたでしょうか」

坊ちゃん「はい。十分すぎるほど。あなたがどうしようもないことが改めて実感しました」

メイド「ありがたいですわ」

坊ちゃん「これほどまでファンタジーな人を見たのは初めてです。どうですか。劇団に入団してみては?」

メイド「それはどういう」

坊ちゃん「僕がお願いしたもの……何一つこなせていませんね。大丈夫ですか?」

メイド「はい。ご心配なさらず」

坊ちゃん「……」ムッ

坊ちゃん「ちゃんと反省しているのですか?」

メイド「ええ。もちろん。深く反省しておりますわ」ツン

坊ちゃん「……」カチン

坊ちゃん「いい加減にしてください! あなたふざけているのですか?」

メイド「ふざけてなどいません」

坊ちゃん「これは仕事なのですよ!」

メイド「承知しております」

坊ちゃん「……!」ビキビキ




メイド「あの坊ちゃ……」

坊ちゃん「やる気がないのなら出て行ってください!」



メイド「……坊ちゃん」

坊ちゃん「! あ、いや。今のは……」

メイド「私が解雇……そういうわけですか」

坊ちゃん「(やってしまった)」

メイド「もう私は坊ちゃんのメイドではない……そういうことなのですか?」

坊ちゃん「あの。すみません。かっとなってつい」

メイド「わかりました。出ていきます」

坊ちゃん「ちょっと! メイドさん!」

メイド「申し訳ございませんでした。ご迷惑ばかりおかけして」

坊ちゃん「え……本気ではないですよね?」

メイド「……坊ちゃん」ガチャガチャ

坊ちゃん「(荷物をまとめている。本気だ……)」

メイド「私はあまりお金を使いません。ものも部屋には置かない方でして。片付けが楽でいいです」

坊ちゃん「待ってよ。メイドさん!」

メイド「やはり私には坊ちゃんの世話はつとまらないのです。荷が重すぎました」

坊ちゃん「……」

メイド「それでは。今までありがとうございました」





メイド「私は幸せでした」



坊ちゃん「待ってくださいメイドさん! まだです!」

メイド「……」

坊ちゃん「ごめんなさい。先ほどのは冗談です。なかったことにしてください!」

メイド「……気を」

坊ちゃん「はい?」

メイド「……気を、使わなくとも私は、大丈夫ですから」

坊ちゃん「メイドさん?」

メイド「……私はっ。駄目なメイドです。……ぐすっ。これくらいなんともありませんからぁ!」

メイド「ですから。私にっ! ……情けをかけるのはお止めくださいませ……うぅ」

坊ちゃん「……情けなどではありません。私にはメイドさんが必要です」

メイド「! そんなぁ……。私が必要……? 私、必要とされているのですか?」

坊ちゃん「ええもちろん。あたりまえです」

メイド「でも、でもっ! ……やはり私には坊ちゃんの身の回りを任されるほど位の高い身分ではございません」

メイド「坊ちゃんは私の全てなのに、私は何もしてあげられません」

メイド「坊ちゃんのお母様のことも。私がついていながら守れなかった……」

メイド「私がいていいはずがないのです。坊ちゃんは将来を期待されています。私のような野蛮で汚らわしい過去を持つ女などと……」



坊ちゃん「メイドさん。うるさい」

ちゅっ

メイド「ん~!?」


坊ちゃん「メイドさん。……あなたが顔色一つ変えないで職務に没頭しているのは」

メイド「……//」



坊ちゃん「僕を安心させるためではありませんか?」



メイド「……!?」

坊ちゃん「あなたは不器用な性格です。昔から頭が悪い癖に遠回りでひねくれた愛の伝え方しかできない」

メイド「……」

坊ちゃん「メイドさんは自分が何事にも動じないことで、いつでも僕に安心感を与えようとしているのではありませんか?」


坊ちゃん「自分がふらついていたら僕は何を頼ればいいのか分からない。自分がきょろきょろしていたら僕が安心して暮らせない」


坊ちゃん「メイドさんは一人で多く背負いすぎです」


坊ちゃん「失ったものはありません。僕の母さんのことは仕方ないのです。メイドさんは最後まで勇敢に戦ったじゃないですか」

坊ちゃん「昔は昔です。忘れてください」

メイド「……坊ちゃん。ありがとう」

坊ちゃん「……メイドさん」

メイド「はい……なんでしょう?」




坊ちゃん「僕と結婚してくれますね?」

メイド「えぇ!?」



メイド「そ、そんなぁ……//」

坊ちゃん「嫌ですか?」

メイド「嫌だなんてぇ……そんなことありませんわ//」テレッ

坊ちゃん「メイドさんは魅力的です。多少出来が悪くともそれを凌駕するほどの美しさを持ち合わせています」

メイド「それほどでもぉ//」




坊ちゃん「それで。結婚の方は?」




メイド「もちろん……」



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