京太郎「新入部員が」ムロ「私だけ!?」 2スレ目 (1000)

京太郎スレです

咲原作から1年後のお話です


前スレ
京太郎「新入部員が」ムロ「私だけ!?」
京太郎「新入部員が」ムロ「私だけ!?」 - SSまとめ速報
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 『父さんな、今度独立して開業しようと思っているんだ』

 『以前、同じ事務所で働いていた同僚が物件を用意してくれてな』

 『……』

 『母さんも、次の出向先については要望が通る見込みがあるらしい』

 『……』

 『これからお前がどんな進路をとるかはわからない』

 『できるだけ希望はかなえてやりたいと思っている……今までの事もあるしな』

 『……』

 『これから進学や就職で、自立するために……家から出て暮らしていったりもするだろう』

 『……』


 『なあ、和。きっとこれが最後の……家族一緒に暮らす機会だと思うんだ』

 『それを踏まえて、よく考えてくれ』


 
和『私は……』

1年前 夏 祝賀会会場(清澄高校 体育館)


咲「あ、あの……!」

久「どうしたの、咲?」

咲「こんなお祝いムードの時に言うのもなんですけど……」

優希「ん?」


咲「私、2学期が始まる前に転校する事になりました」

久「ええ!?」

まこ「なんじゃとて!?」

マホ「宮永先輩、清澄じゃなくなっちゃうんですか!?」

咲「うん……」

京太郎「マジかよ、咲」


優希「咲ちゃんどこ行っちゃうんだ!?」

久「もしかして、白糸台?」

咲「はい。お姉ちゃんと一緒の学校で」


京太郎「仲直りしたってのは聞いてたけど……転校? しかも夏休み終わったら、すぐ東京なのか?」

咲「具体的な日程とか詳しい事は分からないけど。多分そう、なるね」

優希「でも、仲直りしたからってすぐに転校しちゃうなんて……」

咲「お姉ちゃん、学校卒業したらプロになるから」


咲「それで、これで最後になっちゃうから一緒の学校生活を送りたいって」

まこ「そうじゃったか……」

久「で、でもいい事よね! 咲の夢が叶ったんだから」

京太郎「そうですね。ずっと言ってましたし」


和「実は……私も」

久「え?」


和「……来年、転校する事になりました」


ムロ「そんな……和先輩も?」

京太郎「おいおい……!?」

優希「どういう事なんだ!?」

久「……も」

和「も?」


久「モアーーーッ!?」


京太郎「部長!?」

まこ「イカン! あまりの展開にネジが飛びおった!」

久「ごめんなさい。すこし取り乱したわ……」

和「い、いえ……」


優希「な、なんで……なんで、のどちゃんも転校しちゃうんだ?」

和「父が開業するにあたって事務所を立ち上げる事になったんですが」

和「その事務所の住所が、県外で……」

まこ「ほいじゃけん、家の事情ならしゃーないかのう……」

和「もしインハイで優勝できていたら、融通も利いたかもしれませんけど……」

優希「……」


優希「私がもっと稼いでたら……」

マホ「優希先輩はいっぱい頑張ってました!」

久「みんな頑張ったわ。それでも、思い通りにならないのが麻雀よね……」

和「元々、中学卒業の時点で東京の進学校をすすめられていたんです」

和「それが1年先延ばしになったという事です。結果的に」

咲「そうだったんだ」


和「これ以上わがまま言えません……」




咲「祝賀会が送別会になっちゃったね」

和「そうですね。なんだか申し訳ないです」

京太郎「そんな事言うなよ」

咲「京ちゃん」


久「そうよ。咲も和も、別に悪い事して出ていくわけじゃないでしょ?」

京太郎「咲はお姉さんと仲直り、和も親父さんの門出。めでたい話じゃんか」

和「でも……」

久「二人とも、きっとこれから家族との時間が増えると思うわ」


久「大切にしなさい。学生生活も短いけど、家族と一緒の時間も案外とれないものよ」

咲「はい」

まこ「あっちでも元気にやるんじゃよ」

咲「染谷先輩、ありがとうございます」


優希「咲ちゃん、のどちゃん」

咲「優希ちゃん……」

優希「咲ちゃん……私達、離れてても友達だよな?」

咲「うん、もちろんだよ」


優希「初めて会ってから、まだ3ヶ月しか経ってないなんてウソみたいだじぇ」

咲「それしか経ってないんだ。もっと長く一緒だった気がするよ」

和「確か、咲さんが麻雀部に入ったのは少し遅くて5月頃でしたね」

咲「うん。京ちゃんに連れ込まれてね……あの時はまだ麻雀がキライで」

優希「よくのどちゃんに怒られてたじょ」

和「む、昔の話です」

咲「あはは」

優希「咲ちゃんが来てくれたから、私達は団体戦にエントリー出来たんだじぇ」

和「そして、全国へ……」


優希「……楽しかったじぇ」

咲「私も。途中でくじけそうになったけど、最後まで諦めなくて良かった」

和「まさか阿知賀のみなさんとまた会えるとは、思ってもみませんでした」

咲「すごいよね。ドラマティックだよ」

優希「てゆーか、姉妹で頂上対決もなかなかのモンだじぇ」

和「それで優勝してしまうなんて、さすがは咲さんです」

咲「ありがとね。お姉ちゃんだけじゃなくて、神代さんとか他の人もすごく手強かったよ」


咲「ホント……またお姉ちゃんと麻雀できて、仲直りできて、よかった」

優希「……私達も、また会えるよな?」

咲「うん。会えるよ、きっと」

和「友達です、私達」


和「友達と会えると嬉しいんです」

和「私も、嬉しかった……」

和「阿知賀のみんなと、会えて……私も……」


優希「のどちゃ……」

和「だから……わたしたちも、うぅ……」

咲「うん……また、あおうね……ぐす……」

マホ「ふぅ、うえぇぇ……」

ムロ「ああもう、もらい泣きしちゃって。マホ泣くなよ、泣くなって……マホ……」


久「須賀君は向こう行かなくてもいいの?」

京太郎「いや、なんとなく今あいつらに混ざるのはちょっと」

まこ「なに恥ずかしがっとんじゃ」

京太郎「ノリが違うんですよ、女子とは」

久「幼馴染なんでしょ?」

京太郎「そうですけど……逆にそれが気恥ずかしいっていうか」


 「優希ちゃぁぁん!」
  「のどちゃぁぁん!」
 「咲さぁぁぁん!」


京太郎「うーん。思い返してみると、オレ咲の面倒見てる思い出しかないな……」

まこ「クク、想像つくわ」

京太郎「人見知りだし、すぐ迷子になるし」

久「変わらないのね」

京太郎「オレが居ないとダメダメですから。あー、なんか言ってて心配になってきたぞ……」

まこ「大丈夫じゃろ。白糸台は周りがしっかりしてそうじゃけぇ」


 「私達、三人……」
 「生まれた日は違いますが」
  「死ぬ時は同じだじぇ!」


京太郎「そうですかねぇ……」

久「本当は須賀君がさびしいんじゃないの?」

京太郎「……そんなこと」

まこ「素直になりんさい」

京太郎「まあ……少しは。いなきゃいないで物足りない気もしますけど」


久「ですって、咲」

咲「……」

京太郎「うお、いたのか」

咲「京ちゃん、コレ」

京太郎「ん、なんだ? チケットかこれ。なんの?」

咲「あげる」

京太郎「ああ、サンキュ。えーと……こ、これは!?」

まこ「なんじゃ?」

久「なになに?」


京太郎「レディースランチ・フリーパス!?」


まこ「は?」

久「ナニソレ」

京太郎「これさえあれば、男子のオレでもレディースランチが注文できるのか!?」

咲「実は、京ちゃんになにかお礼しなきゃって思って、何がいいかなんて考えてて……」

京太郎「咲……」

咲「だからね、もらって、コレ。私は、もういなくなっちゃうけど」

京太郎「あ、ああ……」


咲「ダメダメな私が、京ちゃんにしてあげれる事って、これくらいしか、なかったし……」

咲「私が居なくなっても、京ちゃんが、レディースランチ、食べられますようにって……」

京太郎「さ、咲……お前ってやつは……!」

咲「京ちゃん……!」


久「いい話ねぇ」

まこ「ほうか?」

久「でも、あの二人らしいじゃない」

まこ「じゃな」


マホ「和先輩、マホさみしいです……」

ムロ「マホ……しょうがないよ」

和「ごめんなさい……」

ムロ「和先輩が謝る事じゃないです。でも、びっくりしました……」


和「あ、そうだ」

マホ「?」

和「二人とも、これから暇があったら清澄に来ませんか?」

マホ「え?」

和「私が転校するのは3月です。それまでの間、指導したいと思ったのですが」

ムロ「いいんですか!?」

久「いいんじゃない?」


久「生徒議会長の私が許可します!」

マホ「わぁい!」

まこ「また思いつきで……じゃが、後輩の面倒みんのは」

優希「先輩の役目だじぇ!」

和「よかった」


優希「というわけで、二人ともこれからビシビシいくじぇ!」

ムロ「はい!」

マホ「お願いします!」

和「ふふ、これは熱が入りますね。私も教本など色々用意しなくては」


和「ムロと優希と、マホちゃんと須賀君と……指導内容をレベル別に分けたりして……」

優希「え、私も……?」

京太郎「なに? 呼んだ?」

京太郎「そういえば、すっかり忘れてたけど」

咲「どうしたの?」

京太郎「いや、一番大事なコト聞いてなかったなぁって」

優希「なんだ? 言ってみろ」


京太郎「和の転校先って、どこ?」


久「あ」

まこ「そういや聞いとらんかったわ!」

ムロ「びっくりしてて、それどころじゃなかったですしね」

和「あれ、言ってませんでしたっけ?」

咲「言ってないよ!」

マホ「和先輩、どこ行くんですか!?」


和「私は……」




現在


ガタンガタン

京太郎「思いのほか揺れるな……」

ムロ「揺れますね。あれ、もしかして」

京太郎「んだよ……」

ムロ「怖い?」

京太郎「べ、別に」

ゴトン

京太郎「うおっ!?」

ムロ「プフ」

京太郎「いやいや今のは違うでしょなんか驚いてビックリしたやつでしょ!?」


トシ「このロープウェイ、現存している中では日本で一番古いみたいよ」

まこ「ほ~、どおりで年季入っとるわけですのう」

トシ「ここからの風景もいいわよね。季節ごとに山の表情が変わって、春や秋なんてまた景色がキレイなのよ」


京太郎「やめろ、こっち寄ってくんな……!」

ムロ「フフフ……」ジリジリ

ブウウゥゥゥン

ムロ「あ、もう着いちゃった」

京太郎「はぁ、助かった……ホレ、もう離れろ」

ムロ「はいはい、もう怖くないですよー」

京太郎「すぐ調子乗る」

トシ「さて、宿までここから歩きね」

  「おーい!」


京太郎「徒歩でも10分くらいで、けっこう近いですね」

ムロ「着いたらどうします?」

まこ「特訓は明日からじゃけぇ、どっか観光でも……」


  「おーい!」


ムロ「ん? 誰か呼んでる……?」

  「きょーたろー! そめやさーん!」

京太郎「え、オレ?」

まこ「わしも呼ばれとる、一体どっから……」

トシ「こっちかしら?」

ムロ「ええ? そっちは山ですよ……」

ガサガサ

ムロ「え、な、なんかいる?」

まこ「タヌキか?」

ガサッ


穏乃「てやぁぁぁ!」ガッサァァァッ


ムロ「人だー!?」

京太郎「う、うわー!?」



京太郎「穏乃だー!?」

今日はここまで
阿知賀編はじまるよ

こんばんわ
阿知賀編からはもう風呂敷たたむだけだから楽かなぁって思ったけど、そんな事なかった

ビールの余韻に浸りつつ投下します

穏乃「はぁっ! 追いついたー!」

京太郎「久しぶりだな穏乃! でもなんで山から出てくるんだよ?」

ムロ「ええ……この人が」

穏乃「モチロン山登ってた! それでロープウェイに乗ってるトコ見えたから、急いで追いかけてきたんだ!」

京太郎「相変わらずの山好きだな!」


穏乃「染谷さん、お久しぶりです!」

まこ「元気しとったか? ま、見りゃわかるがの」

穏乃「はい! 熊倉さんも、お久しぶりです」

トシ「しばらく。アンタも元気そうでなによりだよ」

京太郎「あれ、穏乃って熊倉先生と面識あったのか?」

穏乃「うん。ちょっとね」


穏乃「それに、赤土さんを実業団チームにスカウトしたの熊倉さんなんだよ」

京太郎「え? そうだったんだ」

まこ「こんなとこに縁ってあるもんじゃのう」

トシ「そうなのよ。世の中って広いようで狭いわねぇ」

穏乃「キミが和の後輩の!?」

ムロ「は、はい! 室橋裕子です。よろしくお願いします」

穏乃「高鴨穏乃です! よろしくね!」



穏乃「皆さん、これからチェックインですか?」

京太郎「ああ、松実館ってトコなんだけど」

穏乃「松実館! 玄さんの家だね。まかせて、案内しちゃうよ!」

まこ「ほんじゃ、頼むわ」

穏乃「お任せください! って言っても、歩いてすぐなんですけどね」

ムロ「着いたらまずお昼しましょうか」

京太郎「だな。それじゃあ行くか」

穏乃「うん!」


ブウウゥゥゥン

 「よいしょ……あ、あれ?」


宥「あ、いらっしゃいませ? ですか?」

穏乃「宥さん!」

宥「わぁ、清澄のみなさんだ」

まこ「お久しぶりですわ。まさか後ろからお出迎えとは思わんかったがの」

宥「ど、どうも。吉野には今着いたんですね」


穏乃「買い物の帰りですか?」

宥「うん。夏になるとカイロ売ってるお店って少ないから……」

ムロ「カイロ? カイロってあったかいアレですか?」

京太郎「この人は松実宥さん。見ての通り寒がりさんだ」


ムロ「……夏ですよ?」



松実館


トシ「それじゃ今日は自由行動にするけど、あんまりハメを外し過ぎないようにね」

トシ「色々と積もる話もあるだろうけど」パサリ

京太郎「わかってますよ」

ムロ「アレ? 熊倉先生、なにか落としましたよ」

トシ「あらあら」

まこ「なんじゃ? パンフか?」


『奈良 吉野の地酒 酒蔵巡りマップ』


京太郎「……先生も、あんまり飲み過ぎないようにしてくださいね」

トシ「わかってるわよ。ふふふ」

宥「あの、よかったらコレ使って」

穏乃「ありがとうございます、宥さん」

京太郎「ビニール袋に……タオル?」

ムロ「それじゃあ、行ってきまーす」

宥「はい。行ってらっしゃいませ」

トシ「気をつけてね」



足湯


京太郎「なるほどなー」

まこ「この為のタオルじゃったか……はー、あっつー」

ムロ「ああ……すっごい巡ってる。血が。わかる」

穏乃「夏に足湯ってのも、なかなかオツだよねー」


京太郎「今言うのもなんだけどさー」

穏乃「なにー?」

京太郎「阿知賀女子全国出場おめでとー」

ムロ「おめでとーございまーす」

穏乃「ありがとー」

まこ「おめでとさん、これで2年連続か」

穏乃「そうですね。それにしても、今年の地区予選は大変でした……」

ムロ「どっか強い学校が居たんですか?」

穏乃「それもあるけどね。晩成とか他校より頭一つ出てるのが居るし」


穏乃「でも、それ以上にうちら、めっちゃリサーチされてたんだよね」

ムロ「なるほど」

京太郎「去年はほぼ全員データの無いダークホースだったけど今年は」

ムロ「なんたって、決勝進出4校のうちの1校ですもんね」

穏乃「うん。あからさまに阿知賀対策っていうか、阿知賀に対してだけ固いっていうか」


穏乃「特に、玄さんはドラそばの牌は握られたりしてさ……」

京太郎「わっかりやすい打ち筋だからなぁ」

まこ「高火力じゃし、一撃でもってかれるけぇのう」


穏乃「去年、すっごく頑張ったんだ私達」

穏乃「全国の2位校にお願いして練習させてもらったり、荒川さんや長野の皆さんにも相手してもらって」

穏乃「それで今年負けちゃったら、去年のは偶然だ、みたいに思われちゃうのイヤだし」


穏乃「応援してくれた人達に申し訳ないし。それに……」

穏乃「阿知賀を卒業した宥さんと赤土さんを心配させたくない!」ザバッ

京太郎「うおっ?」


穏乃「私達は大丈夫ですって伝えたい!」

穏乃「だから、こんなとこで負けられない!」

穏乃「また全国ではしゃぐんだ! そして!」


穏乃「そして……う、うわわ?」フラフラ

ムロ「って、全然大丈夫じゃない!」

まこ「のぼせたか?」

京太郎「足湯で?」


ムロ「テンション上げ過ぎですよ」

穏乃「ゴ、ゴメンね……」

ムロ「でも、その気持ち分かります」


ムロ「私も、見てもらいたい人が居て……あ」


 「何をそんなに騒いでるんですか?」


京太郎「よっ」

和「ずいぶんと楽しそうですね」


穏乃「和もどう? 入る?」

和「いえ、私は……」

まこ「せっかくじゃ」

和「では」

チャプン

ムロ「下にこのタオル敷いて座ってください」

和「ありがとうございます」


和「……ふぅ」

京太郎「はぁ……」

まこ「あぁ……」

ムロ「……ん」


ムロ「和先輩、お久しぶりです」

和「はい、お久しぶりです。実際に会うのは卒業式以来ですね」

和「二人とも、全国出場おめでとうございます」

京太郎「サンキュ。まぁ、あれだけ特訓すればな」

ムロ「私は結構ギリギリでしたけど……」

和「驕ってはいけませんよ」

京太郎「別にそういうわけじゃないさ」


京太郎「和の指導を受けて、それが自信になってるんだよ」

ムロ「はい、和先輩のおかげです!」

和「ふふ。そう言われると、先生として鼻が高いです」



穏乃「今日はみなさん予定とかあるんですか?」

まこ「観光」

京太郎「物見遊山」

ムロ「サイトシーイング」

和「つまりノープランですか」


ムロ「旅館の周りを散策してるだけでも楽しそうですけどね」

まこ「店もたくさん並んどるけぇのう」

京太郎「たくさんありすぎて迷っちゃいますよね」

ムロ「でも、時間もそんなに無いですから……」

京太郎「観光名所だし色々あると思うんだけど、お薦めの観光スポットってあるか?」

まこ「できれば食事できるトコとか」

穏乃「オススメかぁ。逆に色々あるからこそ、ココだっていうのが……」


穏乃「あった」

京太郎「あったのか」



ムロ「ここは、神社ですか」

京太郎「あれ……新子って」

穏乃「ふふん、気づいたようだね」



新子神社


和「春になると、ここから千本桜が一望できるんですよ」

京太郎「へぇ、ちょうどいい場所にあるんだな」


ムロ「あのへん、全部桜ってすごいですよね」


まこ「中に入ってくと、結構広いんじゃのう」

和「ここは風景も素敵ですし、この一種落ち着いた雰囲気は他では無いです」

穏乃「あこー! 清澄の人達来たよー!」

憧「うわ、え、なになに?」ビクッ


まこ「ついでじゃし、お参りしとくか?」

京太郎「そうですね」

和「本殿はあちらです」


チャリン

ペコリペコリ

パンッパンッ

ペッコリン


京太郎「……ふむ」

ムロ「ずいぶん熱心にお願いしてましたね」

京太郎「ここぞとばかりに頼み込んじゃったな」

まこ「あんまし多いと効果無いんと違うか?」

チャリン

京太郎「チップ払っとこう」

和「そういう問題なのでしょうか……?」

京太郎「ムロは何をお願いしたんだ?」

ムロ「んーと、私はお願い事っていうか、ただの挨拶というか」

京太郎「え、なんで?」


穏乃「憧つれてきたよー!」ダダダッ

憧「ハァハァ、ちょ、ちょっと待ってよしず!」

和「そんな急がなくても……」


ムロ「私が全国まで行けたのって、やっぱり指導してくれた先輩方や先生のおかげですし」

ムロ「それから、宮守や大阪、東京の皆さんにもお世話になって……」

ムロ「きっとこれからも、色んな人に頼っていくんだろうなって気づいたんです」

京太郎「そうかもな」

ムロ「ですからこれ以上、神様にまで頼っちゃうのもどうかなーって思って」


ムロ「それに、今一番かなえたい願いは自分の力で叶えたいですよ」

京太郎「……」

ナデナデ

ムロ「な、なんですか!?」

京太郎「いや……いい子だなぁって」

ムロ「もう、またそういう事言って……」

京太郎「でもさ、頼ってもいいんだぜ?」

ムロ「うーん……」


京太郎「他の人には遠慮してもさ、オレには遠慮するなよ」

京太郎「オレが一番、お前の力になってやりたいから」

ムロ「うぅ……もう……そういう事言う~」

ムロ「ふ……ふふっ」


ムロ「いざって時はお願いしますね。頼りにしてますよ?」

京太郎「任せとけって!」



まこ「どうも」

憧「あ、どうも。染谷さんでしたよね、去年次鋒の」

穏乃「あと二人きてるんだけど」

憧「二人? 和の後輩って一人だけじゃないの?」

穏乃「ホラ、忘れたの? 京太郎!」

憧「きょーたろ……」

京太郎「呼んだ?」

憧「ふきゅ!?」

ムロ「え?」


京太郎「えーと、久しぶり」

憧「へ、あ、しゅ、しゅ、す、須賀君!?」

京太郎「覚えててくれたんだ」

憧「あ、うん……まぁ、一応」


穏乃「憧ビックリしすぎ」

憧「だって、急に出てくるから……!」

京太郎「ゴメンゴメン。まだ男は苦手なんだな」

ムロ「そうなんですか?」

和「そうみたいです。憧も思春期ですから」

まこ「わしらもな」

穏乃「今から皆でご飯食べに行くんだけどさ、憧もどう?」

憧「まだ食べてないし、いいけど」


憧「どこ行くの?」

穏乃「うん。それが問題なんだ」

憧「はぁ?」


京太郎「この辺で有名な店とか、ここでしか食べれない料理とかないかな?」

憧「ふぇっ? そ、そうね……ええと」

憧「の、和ぁ……」

和「はぁ……」


和「では、お寿司なんてどうでしょうか」

京太郎「寿司?」

まこ「海から離れとるここで、寿司?」

穏乃「おお、ソレがあったね!」

ムロ「?」

今日はここまで
調べたら足湯でのぼせる事はあるそうです
気をつけましょう

そういえば奈良って飲食店少ないって聞いたことあるけど、実際どうなんだろ?

こんばんは
たまに見かける野良ネコのお腹がおっきくなってて
お前メスだったのか!?って思ったけど太ってるだけなのかもしれない

>>50
宿泊施設も少ないようですね。京都大阪が近いからでしょうか?知らんけど

投下します

憧「はい、到着よ」

まこ「えっここか?」


ムロ「お寿司屋さん……っぽくはないですね」

京太郎「でも、ちゃんと書いてあるぞ『柿の葉寿司』って」

ムロ「柿の葉? 葉っぱのお寿司なんですか?」

穏乃「それは見てのお楽しみ!」

和「では入りましょうか」



店内


京太郎「さて、目の前にその柿の葉寿司とやらが運ばれてきたわけですが」

ムロ「葉っぱだ」

まこ「長方体の形でキッチリ包まれとるわ」


ムロ「スンスン……お、いい香りしますね」

京太郎「本当だ、柏餅みたいな爽やかな匂いがする。では葉を開いて……」

ムロ「わぁ」

まこ「押し寿司じゃな。ネタは鯖と鮭」

京太郎「柿の葉で包んだ寿司だから柿の葉寿司なんだ」

穏乃「そういう事」

ムロ「でもなんで柿の葉っぱで包んだんですかね?」


憧「この辺、山の中で海から遠いからね。昔は海の魚を運んでくるのも大変で、その為の先人の知恵ってやつ」

憧「柿の葉には抗菌作用とかもあるのよ」

和「それでいて味も良いですから」

穏乃「昔の人すごい」

京太郎「それじゃあ、いただきます」

ムロ「いただきます。あむ……んっ」


ムロ「んむむ、すごい脂の乗りですね」

まこ「そこに酢飯でサッパリとして」

京太郎「噛むほどに柿の葉の香りが、ほのかに鼻から抜けて……」

穏乃「ウマい! もう一個!」

ムロ「鯖の味がしっかりしてますね」

和「塩でシメてるので、そのせいでしょうか」

京太郎「へぇ、どおりでまったりした旨さだ」

ムロ「シャリもそんな固くない」

まこ「ホロっと崩れる感じじゃ。こりゃもう一口でいったほうがいいかの」

憧「酢飯に甘さがあって全体的にマイルドだから、飽きがこないのよね」

穏乃「いくらでも食べれちゃうよね」

京太郎「やべぇ止まらん」


憧「あ、そういえば、ちっちゃい頃に初めて柿の葉寿司食べた時さぁ」

穏乃「おい、憧」



綾乃『憧ちゃん、柿の葉寿司食べる?』

憧『かきのはすし?』

綾乃『あら、食べた事ない? おいしいわよ』

憧『わぁい!』

穏乃『おかーさん、わたしのはー!?』

綾乃『ちゃんと穏乃の分もあるから。落ち着きなさい』

綾乃『はい、召し上がれ』

憧『いただきまーす。はっぱコレむくのー?』

バリッ ビリッ

憧『え』


穏乃『あぐ、もぐ……むしゃむしゃ』ババリバリッシュ


憧『そのままいったー!?』

綾乃『穏乃!? 葉っぱはちょっと食べれないわよアンタ!』

穏乃『おいひー!』

憧『おいしいんだ』

綾乃『そんなわけないでしょ……ほら、ぺーってしなさい、ぺーって!』


憧『こーやって、はっぱとってからたべるんだってさ……あむ』

憧『んまい!』モグモグ

穏乃『おいひーねー!』モグモグ

綾乃『……なんでこんな逞しく育っちゃったのかしら』



憧「……でね、葉ごと食べちゃったの」

穏乃「そんな昔の事、なんで覚えてるんだよ!」

まこ「ワイルドじゃの~」

ムロ「あはは……」

和「まあ、穏乃らしい話ですね」

京太郎「葉を食べ物と認識してしまったかー」

穏乃「だってさあ、目の前に置かれたら食べちゃうよ!」


穏乃「子供だったから分かんないのも仕方ないし、お母さんも最初から剥がしてくれればよかったのに」

憧「普通そのままかぶりつくなんて思わないって」

穏乃「いやいくね、アレは。うん」

京太郎「なぜ自信に満ちあふれるのか」



和「すみません、お茶のおかわりもらえませんか?」

店員「はい、ただいま」

ムロ「気が付いたら完食していた」

まこ「はぁ、美味しゅうございました。堪能いたしました」

ムロ「ですねぇ」


京太郎「気が付いたら追加分買ってた」

ムロ「なんと」

店員「おまたせいたしましたー」

和「ありがとうございます」

まこ「どうも」


憧「ん~、渋めのお茶がまた合うのよねぇ」

ムロ「はふぅ……お寿司と冷たいお茶。日本の夏ですね」

穏乃「夏だねー」

京太郎「夏……夏だな」


京太郎「あれからもう1年か」


京太郎「もうってか、ようやくって感じもするけど」

和「長いようで、短かったようで」

憧「あっという間だよ」


京太郎「準備はしてきたつもりだけど、まだ足りない気がしないでもない……」

穏乃「でも、個人戦始まるまでまだ少し時間あるんじゃない?」

京太郎「いや、男子は個人戦からでさ。オレ出番すぐだよ」

京太郎「長野帰ったら、またすぐ東京だ」

穏乃「また?」

和「みなさん、去年の阿知賀みたいに全国を巡っていたんですよね」

穏乃「そうなんだ! へぇ、どこ行ってきたの?」


京太郎「こないだ東京行ってきた。1日目に咲と白糸台、2日目に優希と臨海の人達に会ったんだ」

和「咲さんと優希は変わりありませんでした?」

京太郎「ああ、二人とも元気してたよ。咲は迷子で待ち合わせに遅れてくるし」

和「そこも相変わらずなんですね……」

穏乃「白糸台って事は、大星さんとも?」


京太郎「打ってきた。アイツめっちゃ強いわ」

穏乃「だよねー」

京太郎「全力じゃなかったけどな。オレ1回、配牌で5向聴抜けたし」

憧「マジで!?」

穏乃「ホント!? もしかして京太郎って……」


穏乃「山が好きとか?」

京太郎「なんでだよ」

京太郎「その後は照さんにボコられたけど」

和「咲さんのお姉さんとも対局したんですね。今は宮永プロでしたか」

ムロ「私も同卓したんですけど、いい経験になりました」

憧「宮永照と打って、よく耐えられたわね……」


憧「対局者はみんなしてあんな顔になっちゃうものだとばかり」

穏乃「玄さん……」

ムロ「非公式試合で、抱えるプレッシャーもありませんでしたし、胸を借りるつもりのですから」

まこ「じゃが、あんまし連続で対局すると」

京太郎「あ、思い出しちゃっ……あ、ううぅ……」ズーン

和「す、須賀君?」

ムロ「こう……なりますよねぇ」

憧「あー、やっぱり……?」


まこ「翌日には臨海のメンツとじゃったわ」

ムロ「染谷部長、ハオさん相手にリベンジ達成できましたもんね」

まこ「わしも、まだまだ若いもんにゃ負けとられんけぇ」

まこ「あとは今回、松実宥さんじゃな。これに勝てたらわしの個人的な目標は完遂じゃ」

穏乃「そっか、次鋒戦のメンバーですね」

憧「リベンジかぁ……私、去年はあんまし活躍できなかった」

憧「江口セーラや清澄の元部長さん相手に善戦できたとは思うけどさ」

まこ「デジタル打ちには、久は相性悪いけぇの」

憧「悪待ちとか」

和「わざわざ悪い待ちにするより、広く受け入れた方がいいと常々言ってたんですけどね。結局……」

京太郎「ははは、竹井先輩らしくていいじゃん」


憧「流石に世界ランカーにはね、アレでもレベルが違ったわ」

ムロ「ミョンファさん、強いですよね。はぁ……」

和「その分だと、どうやら……」

まこ「スッタン振り込んじまったんけぇ」


京太郎「しかも3巡目」

穏乃「あらら」

ムロ「ううぅ……あんなの無理ゲーですよ」


ムロ「しかもその後はヤミテン禁止って言われて、それで狙い撃ちされまくるし……」

ムロ「斬られるし歌われるし斬られるし……」

京太郎「でもつらかった分、成長できただろ?」ナデナデ

ムロ「うん……って、先輩にもやられましたけどね!」

和「……」

まこ「そん前は龍門渕……は、ちょくちょく行っとるけぇ。大阪かの」

穏乃「大阪かー。私達は三箇牧に行きましたけど」

ムロ「三箇牧って……?」

憧「荒川憩さんって言えばわかるかな」

まこ「ああ、あのナース服の」

穏乃「はい。荒川さんには個人戦の選手あつめてもらったり、学校以外でもお世話になったんです」


ムロ「そうだったんですか。私達は三箇牧の方とはお会いしませんでしたけど」

京太郎「大阪のメンツは熊倉先生のツテで集まってもらったんだ」

まこ「去年の千里山のインハイメンバーと愛宕姉妹、いや千里山の監督も合わせて愛宕一家じゃな」


穏乃「うわー、そりゃまた豪華ですねー!」

憧「世界ランカーとか宮永照とかで感覚がマヒしてるけど、新人プロが居るのよね。二人も」

和「お二人とも活躍してましたよね。インターハイの成績がプロに直結してるという実感がわきます」

まこ「それでも、高校卒業と同時にプロ入りなんざ、ほんの一握りじゃがの」


ムロ「園城寺さんには色々と教えてもらいましたよ」

憧「あの人、準決で倒れちゃった印象が強くて」

ムロ「ああ。ちょっと華奢と言うか、そんな雰囲気は出てましたね」

京太郎「麻雀と食事してる時以外は、だいたい清水谷さんに膝枕されてたな」

まこ「じゃが麻雀はごっついけぇ」

ムロ「ホントに……」

和「千里山は今年もシード校でしたね」

京太郎「春季大会で健闘してたからな。姫松は残念ながら……」

穏乃「阿知賀も夏の時点でギリギリ定員だったから。春は宥さんが居なくなって出れなかった」

憧「出れたらいいとこまで行ってたと思うなー」


京太郎「お、そりゃあスゲー自信だな」

憧「ほぉ!? あ、ま、まぁね!」

穏乃「これでも一応、夏のファイナリストだし。ってか憧……」


和「驚きすぎです」

穏乃「明日には晩成と練習なんだぞ?」

憧「ふ、不意打ちされなきゃ大丈夫よ。多分……」


憧「でも急に話かけられたら絶対キョドる自信あるわ」

ムロ「明日の練習は男女合同ですよね?」

憧「そう、そうなのよねぇ……去年の晩成との壮行試合の時は女子部とだけだったのに」


京太郎「ゴメン、多分オレのせいかも」

憧「ちょっとぉぉぉ……!?」

まこ「そういや、最初は阿知賀に申し込んだんじゃが男子はNGでの」

まこ「ほんなら晩成との時にあっちの男子麻雀部と一緒にやりませんかって話になったんよ」

和「へぇ、そうだったんですか」

憧「そんなぁ」

京太郎「悪いな」

憧「ハァ……いや、いいわよ。もう決まっちゃった事だし」


まこ「ほんでその前、最初の遠征が元宮守の人達とじゃった」

和「宮守の麻雀部って……」

京太郎「うん。去年で廃部になったって」

穏乃「あ、そうだったんだ……」

ムロ「部員全員3年生だったんです」

まこ「地方の学校の統廃合なんざ珍しい話でもないがの」

憧「どこにでも、それぞれの事情があるのね」


穏乃「だからこそ! ステージに上がったら、だらしないとこなんて見せらんないよ!」

和「穏乃の言うとおりですね」

京太郎「そういや宮守で思い出したけど」

和「なんですか?」

京太郎「姉帯さんが和のサイングッズ持ってて嬉しそうだった」

ムロ「ああ、抽選で当てたやつですね」


和「それは、喜んでいただけたのなら嬉しいですけど」

穏乃「和はアイドル的な人気あるよね」

和「ちょっと恥ずかしいです」

まこ「最近は色んなメディアでも見かけるけぇ、知名度も上がってきとるの」

和「そんな」


憧「いやいや、インターミドルの頃から結構注目されてたでしょ」

ムロ「確かに。中学の時から雑誌のインタビューとか受けてましたから」

京太郎「ちゃちゃのんも危機感を覚えるレベルだぞ」

和「さ、流石に本物のアイドルにはかないませんよ」

憧「ふむ」

穏乃「ん、どした?」


憧「明日の合同練習、アイドルのどっち登場、男子は和に注目……私に話しかける生徒はいない」

憧「すると女子だけで練習、おかげでキョドる心配ない……これね!」

和「なにが、これね! ですか。あと私はアイドルじゃありません」


穏乃「憧なに言ってんだおまえ」

和「私をスケープゴートにするより、自分が慌てないようにする方が建設的と思うのですが」

憧「だ、だってそんなの1日じゃ無理よぉ……」

まこ「ちゅーか、男子と女子は基本わけて練習じゃよ」


憧「えっホント? やった!?」

京太郎「ええ、マジですか?」


ムロ「なんですか? そんなに女子と一緒がいいんですか?」ツンツン

京太郎「うっ、腹つつくな。ちょっと食べ過ぎ気味で、はうっ……」

ムロ「調子乗って追加するからでしょ」

京太郎「な、なんだかんだ言って女子の方がレベル高いからな。それに」

京太郎「ユニークな打ち手も多いから、そういう人と実際に打ってみたいんだよ」

まこ「そうじゃのう。その辺、少し考えてみるか」



穏乃「それではまた明日!」

ムロ「はい、明日はよろしくお願いします」

憧「こちらこそ。それじゃーね」

和「明日は県代表の力、見せてもらうとしますか」

京太郎「おお、ひさびさに和先生の採点くるか」

ムロ「ちょっと緊張しますね」


和「そんなに固くならず、いつも通りにしてくれればいいんです」

和「今日みたいにね」


まこ「ほんじゃま」

和「はい、さようなら」

ムロ「失礼します」

京太郎「また明日な」

今日はここまで
柿の葉寿司は、夏には地方発送しないお店もあるので今のうちに

こんばんわ
衣やネリーはっちゃんみたいに普段無邪気っぽいキャラが時折見せる悪い笑みが好きです

全然進まないけど、とりあえずキリのいいとこまで
投下します

松実館 朝


京太郎「起きた?」

ムロ「おき……た」

京太郎「ピント定まってなさそうなんだけど」

ムロ「んぅ~?」

京太郎「目ぇ閉じるな閉じるな」


玄「おはようございます!」

京太郎「おはようございます、玄さん」

トシ「準備できた?」

京太郎「ばっちしです」

玄「ムロちゃんはまだ眠そうだね」

まこ「いつもの事じゃよ。歩いてたらそのうち覚めるけぇ」


玄「お昼持参ってのは聞いてるよね。途中コンビニあるから、そこ行こっか」

京太郎「はーい」

ムロ「あい」

ムロ「そういえば、風越に練習しに行った時は食堂開いてましたよね」

玄「そうなの? 休日でも開いてるんだ」

まこ「ありゃ料理部の部員じゃけぇ」

京太郎「部活ですか」

まこ「部員がシフト組んでの。それで調理師免許取得するんじゃと」


ムロ「へぇ、いいですね。そういえば染谷部長は免許は」

まこ「持っとるんじゃなー、それが」ドヤ

京太郎「玄さんは」

玄「実は、私も持ってますが」ドヤ


まこ「欲しいんならウチでバイトでもするか?」

ムロ「えぇ……」

まこ「なんじゃよ、その反応」

ムロ「染谷部長のお店で働く時ってメイド服着なきゃいけないんでしょ?」

玄「え、な、なにそのお店……?」

コンビニ


京太郎「さぁてと、何食おうかなー」

ムロ「って、雑誌コーナー直行ですか」

京太郎「体が勝手に向かうんだよ」

ムロ「あんまり立ち読みしすぎないで、早く済ませてくださいよ」


京太郎「人気スニーカー特集ねぇ。ふんふむ。うーん、ランニング系はネオンカラーが合わせるの難しいよな……」

コンコン

京太郎「機能性はいいんだけど……ん?」

穏乃『おいーっす!』

京太郎「うぉ」

ウィーン

憧「おっはよー」

玄「おはよう、憧ちゃん」

ムロ「おはようございます。新子さん達も、ここでお昼買ってくんですか?」

憧「まぁね。この辺、コンビニってここしかなくってさ」

穏乃「なに見てんのー?」

京太郎「くつ」

穏乃「私もそろそろ買い換えた方がいいのかも。かなり無茶させてると思うし」

京太郎「ああ……酷使してそうだもんなぁ」

穏乃「ジャングルモックとか欲しい」

京太郎「いいな」


ムロ「先輩まだ読んでたんですか、まったく」

京太郎「わりぃわりぃ」

憧「ホラしず、早く買っちゃうわよ」

穏乃「ゴメンゴメン」



まこ「たまごサンドか、それともたまごロールか。悩む……」

京太郎「それはなにが違うんですか」

まこ「サンドはしっとりして食べやすいが高い。ロールは安いがパサパサしとる」

京太郎「なるほど」

まこ「そんで値段が2倍近いんよ……悩むわ」

ムロ「新子さん? ソレって」

憧「生ハムだけど」

ムロ「それは把握してます」


憧「いやコレね、いいのよ! 高タンパク低カロリーで色々と捗るのよ!」

ムロ「ほう」

トシ「へぇ」スッ

まこ「熊倉先生はそれつまむ目的のですよね?」

トシ「そういう事もあるだろうね。それにしても、最近のコンビニはこんなのも売ってるのね」


憧「最近、足まわりとか気になってきてさ」

憧「身長低いから、すぐシルエットに影響出ちゃって……ムロは背高いからいいよね」

玄「阿知賀はみんな身長低いからね。いいなー」

ムロ「そんな事ないですよ。お二人ともスタイル良くて羨ましいです」

玄「京太郎君もすごい高いし、少し分けてほしいよ。ムロちゃんはいくつ?」

ムロ「たしか、春の身体測定では165でした」

憧「おー、服とか良く見えるサイズじゃない?」

ムロ「ブランドによってはLでも小さいのとかあって、そのへんが悩みですけどね……」

まこ「ちょっと伸びたか?」

ムロ「ですね。1cmほど」

まこ「ほうか。なんとなく去年よりも丸っこくなった気がしての」

ムロ「え゙っ」


まこ「いや、ええ意味での」

ムロ「なんですか!? いい意味ってぇ!」


まこ「前がちょっとヤセ過ぎじゃったんよ。今くらいがちょうどええわ」

トシ「そうだね。女性らしい、ふくよかさが出てきた感じかしらね」

ムロ「そう、ですか?」


玄「うんうん。もっとココとか、もっと成長すればもっと……」ワキワキ

憧「はいはい、その手の動きやめなさい」

まこ「じゃけぇ、たんと食べんさい」

ムロ「あはは、わかりました。でも今日は少なめにしときます」


ムロ「コンビニでがっつり食べようとすると高くつくんで……」

まこ「じゃな……」


穏乃「メロンパンに、あんバタ。えーと、あとはウィダーかな。バリエーションはもちろん……」

京太郎「対してお前はカロリー全開だな」

穏乃「プロテインだね!」

京太郎「そうだね」


憧「しず、ちゃんと栄養とかそういうの考えてる?」

穏乃「考えてるよ!」

穏乃「ガス欠しないように炭水化物とか糖質とか重点的に」

京太郎「思考がアスリートなんだけど」


憧「はあ。そんなに食べて消費出来ちゃうカラダが羨ましいわ」

穏乃「あとビタミンB群。これが無いと糖質が燃えないんだ」

憧「ふぅん」

ガサ

玄「ノータイムでカゴに入れたね」

京太郎「冷やしうどん、か。コレにしようかな」

トシ「買い終わったら行こうか。阿知賀の人達はもう集まってるかしらね」



阿知賀女子学院 校門前


和「みなさん、おはようございます」

ムロ「おはようございます」


玄「おはよう。もうみんな揃ったかな?」

灼「うん、後はバスが来るのを待つだけ」

まこ「ほんじゃ先に挨拶しとくかの」

京太郎「そうですね」

穏乃「みんな集まってー!」


まこ「えー、清澄高校麻雀部です。今日は晩成との練習に無理言って参加させてもらって、ホンマに感謝です」

まこ「今日はよろしくお願いします」

京太郎「よろしくお願いします」
ムロ「よろしくお願いします」

灼「こちらこそ。今日の練習が有意義なものになれば良いと思……」


「「よろしくお願いしまーす」」


京太郎「みんな1年生?」

玄「そう、有望な新入生です!」

ムロ「阿知賀と清澄、何故差が付いたのか……」


和「実は、去年から阿知賀こども麻雀クラブ復活してたんです」

まこ「そうじゃったんか」

京太郎「なるほど、そこで入学前の生徒を勧誘してたんだな?」


穏乃「そそそ。体験入学とか説明会で来た中学生にさ、麻雀教えてたりしたんだ!」

京太郎「採用」

ムロ「清澄こども麻雀クラブ、作っちゃいます?」

まこ「熊倉先生どうですか」

トシ「うーん、受け入れる人数にもよるけど……」


トシ「雀卓が1台しか無くて大丈夫かしら」

京太郎「新しいの購入できないんですか?」

トシ「宿泊費用が思ってたより高くついちゃって。インハイも結構長く東京に居る事になるから」

まこ「うーむ。誘っといて卓に座れんとかなったらちょっと悲しすぎるわ」

京太郎「何人来るかも予測つかないですし、難しいですね」

ブロロン プップー

玄「バス来たよ。みんな乗ってー」



憧「しず、車酔いは?」

穏乃「うん。平気」

穏乃「ちゃんと降りてから食べるから!」

和「着いたらすぐ練習ですよ、お菓子食べる暇なんてありません……」

穏乃「ふっふっふ。私はお菓子に対して真摯だからね、もうね、すぐにペロリだよ」

和「意味がわかりません」


まこ「ほんじゃ、最初は男女別で……」

灼「うん。で、午後からは……」

まこ「じゃがわしらどうすりゃええん?」

灼「そこは大丈夫。当てはある」

ブロロン プップー

玄「晩成着いたよ。みんな降りてー」

晩成高校


ムロ「やってきました晩成高校」

京太郎「どっかに早熟高校とかないかな」

まこ「なに言っとんじゃ」


  「お待ちしてました」


灼「おはようございます」

まこ「どうも。清澄高校の染谷まこです」

由華「おはようございます。晩成高校女子麻雀部部長の巽由華です」



晩成高校 多目的ホール

ガヤガヤ

晩成男子a「おい、もうすぐだぜおい」

晩成男子b「やっべ緊張してきた。早くリアルのどっち見たいわ」

晩成男子c「県予選で見た憧ちゃん可愛かったなー」

      「お前、誰派?」
       「玄ちゃん派に決まってんだろ!」
        「興奮する」

初瀬「……憧、大丈夫かなぁ」

晩成女子a「はぁ……男子は盛り上がってんね」

晩成女子b「阿知賀と練習できるのはすごく勉強になるよー」

晩成女子a「まーね、それはいいんだけど」

晩成女子c「アタシのどっちと打ってみたいなー」

晩成女子a「ミーハーめ」


晩成女子b「そういえば、今日は男子も来るんでしょ? ホラ、清澄の。なんてったっけ」

晩成女子a「ああ、雑誌でちょこっと見たけど。なんかだらしない顔してたわね」

ガラッ

由華「はい、みんな静かにー!」

晩成男子a「お、来た来た、来たぜ……!」

晩成男子b「うおぉぉ……!」

ザワ ザワ

晩成女子a「まるでロックバンドのライブ直前、みたいな雰囲気ね」

晩成女子c「SE変わった時みたいなね」

由華「今日は他校の生徒がいらしてます。失礼のないように」


由華「ではどうぞ、入ってきてください」

「「おおおっ」」

ガララッ



京太郎「阿知賀かと思った!? 残念!」


 「だ、誰!?」
   「清澄じゃね?」
     「あれ、阿知賀は?」

ザワ ザワ

まこ「マジで特攻しよったわアイツ」

ムロ「それじゃあ私達も続きますか……」

今日はここまで
アコチャーとか淡とか急激にムチムチしすぎ問題
おやすみなさい

こんばんわ
この頃一日中半袖で過ごせそうな日和だけどすぐに梅雨入りしちゃうんだ

投下します


  『おい、もうすぐだぜおい』
    『やっべ緊張してきた。早くリアルのどっち見たいわ』
      『県予選で見た憧ちゃん可愛かったなー』

ガヤガヤ

憧「はわわ……」

玄「大丈夫? 憧ちゃん」

京太郎「おおう、めっちゃ盛り上がってんじゃん。このモチベーションの高さよ」

ムロ「でもちょいと高すぎやしませんか?」

穏乃「賑わってるねー!」


灼「憧、そんなに固くならないで」

憧「わ、わか、わかってる」

灼「みんなも、いつも通りでいいから」

阿知賀部員's「「は、はいっ」」

灼(憧の緊張がうつっちゃったかな。どうにかしないといけな……)


まこ「えっとローテーション表は……」

由華「どうぞ。あ、個人代表は同卓しないように注意しないと」

男子部長「代表はポストイットかなんかで分かりやすくした方がいいですね」


京太郎「オレらで先に挨拶しときましょうか?」

灼「いいの?」

京太郎「はい。だって」

憧「そ、そうよ! たしか、緊張した時は『人』という漢字が……」

玄「あー、聞いた事ある」

憧「こう、人と人が支え合ってるって言うけど、本当は人間を横から見た形からきてるのよ!」

穏乃「へぇーそうなんだ」


穏乃「……で?」

憧「……ア、アレ?」


京太郎「もう少し時間かかりそうでしょ?」

灼「うん。じゃあ、お願いしようかな」

ムロ「って事は、あの中に入るのか……」


  『生で玄さんのドラ爆が拝めるぜ!』
    『今日の穏乃ちゃんは袖ありか? 袖なしか!?』
      『あらたそ、いいよね』
       『いい……』
ガヤガヤ


まこ「んー、こんなもんじゃな」

男子部長「ですね。ではコレで決定稿って事で」

ムロ「ささ。染谷部長、さあさあ」

まこ「な、なんじゃい?」

ムロ「突撃です」

まこ「お、おう……えっ?」

京太郎「阿知賀組はまだちょっと準備出来てないみたいなんで」

まこ「行くん? コレ。わしらだけで?」

由華「じゃ、先に清澄からいきますか」

京太郎「はい。お願いします」


和「大丈夫なんですか?」

京太郎「だって、いきなり阿知賀登場ってなったらすごい騒ぎになるぜ?」

まこ「そりゃそうかもしれんが」

由華「時間もそろそろですし、よろしくお願いします」

京太郎「和は後輩の子達の面倒見てやってくれ」


ガラッ

由華『はい、みんな静かにー!』

ザワザワ

和「わかりました」

京太郎「そんじゃ行ってくる」

まこ「軽くムチャするのう」

ムロ「でも、逆に面白そうですけどね」


ムロ「これだけ盛り上がってるところに先輩が出て行ったら、晩成の人達はどんな反応するんでしょうか」

和「意地が悪いです……」

ムロ「フフ、でも私、先輩って結構こういうの好きなんだと思うんですよ」

和「そうですか?」


由華『今日は他校の生徒がいらしてます。失礼のないように』


ムロ「圧倒的に不利な状況とか劣勢に立たされた時、負ける事や諦める事は考えないんです」

ムロ「いつもどこかで大逆転を狙ってる。そういうカタルシスというか、どんでん返しな展開が好きなんですよね」

和「へぇ」


由華『ではどうぞ、入ってきてください』

『『おおおっ』』

ガララッ

京太郎『阿知賀かと思った!? 残念!』

まこ「マジで特攻しよったわアイツ」

ムロ「それじゃあ私達も続きますか……」

和「いってらっしゃい。大変でしょうけど」

ムロ「はい。でもですね……」


ムロ「私もそういうの、嫌いじゃないんです」


  「誰だよ! お前誰だよ!?」
    「清澄かよ! 清澄きちゃったよ!?」
      「阿知賀じゃねーのかよ! 阿知賀ドコだよ!?」

ザワザワ ガヤガヤ


京太郎「これが、偏差値70のツッコミ……!」

由華「む、バカにしてるな?」


男子部長「いやだって見るからにバカだもん。コイツら」

由華「んーまあ、男子はなぁ」

男子部長「……うん」


京太郎「おはようございまーす!」

晩成男子b「ええ~、のどっちじゃねぇのかよ」

晩成男子c「憧ちゃんはー?」

晩成男子a「肩すかしだわ」

由華「コラッお前ら、わざわざ来て下さったのにその態度」


晩成男子a「だって……」
京太郎「おはようございます!!」

晩成男子a「うぉ!? お、おは……?」ドキッ


京太郎「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」

晩成男子b「……おはよう」

晩成男子c「ございます……」


男子部長「いい挨拶だ。挨拶は大事だな、うん。お前達も見習え」

晩成男子a「……た」

男子部長「ん? おい、どうしたって?」

晩成男子a「スゲーいい匂いした……」

男子部長「は?」

晩成女子b「さっき言ってたのって、この人の事?」

晩成女子c「うはぁ、背高っ! アンド足長っ!」

晩成女子a「アレ? 雑誌で見たのと顔ちょっと違うかも……」


京太郎「清澄高校から来ました! 2年の須賀京太郎です。よろしくお願いします!」

  「「おねがいしまーす」」
     「声低いぃぃ」

まこ「どうもー」

  「この人インハイで見たよー」
    「決勝で松実宥さんと対局した人だ」

ムロ「失礼します」

  「見た事ないな。1年生?」
    「この子も背高ーい」


由華「ではこちらの方へどうぞ」

まこ「はい。えー清澄高校麻雀部部長、3年の染谷まこです。ほんで……」

ムロ「1年の室橋裕子です。本日はお招き頂いてありがとうございます」

由華「こちらこそ、遠いところからお越しいただき、ありがとうございます」

ムロ「今日は皆さんの胸を借りるつもりで頑張ります。よろしくお願いします」

  「「おねがいします」」

由華「えー、阿知賀の皆さんはまだ準備に時間かかってるので……どうしよ、うーん」


由華「質問ターイム!」

ムロ「ええっ?」


由華「清澄の人に、何か質問ある人ー?」

京太郎「答えられる範囲でお願いします」

まこ「なんじゃ、こういうのちょっとドキドキするのう」


Q.『部員は3人だけなのですか?』

京太郎「そうですね。去年は女子5人に男子1人の6人だったんですけど」

まこ「1人卒業、3人転校して……」

ムロ「今年に私が入って、今に至るって感じです」


Q.『好きな役はなんですか?』

まこ「緑一色」

ムロ「一発」

京太郎「即答かよ! えっと、なんだろ? ホンイツですかね」

玄「はい、それでは深呼吸です。みんな合わせてー息を吸ってー」

憧「ひっひっふー、ひっひっふー」

和「微妙に違うような。産まれちゃいますよ?」

灼「それで落ち着くならなんでも……」


Q.『休みの日は何をして過ごしてますか?』

京太郎「この数ヶ月、週末はずっと合宿だったからなぁ……何してたっけ?」

ムロ「ずっと麻雀……ですね」

まこ「昨日は少し観光できたけぇ」

由華「どこ行ったんですか?」

京太郎「新子神社とかですね」

  「憧ちゃん家だ!」
    「パワースポット!」


Q.『得意料理はなんですか?』

まこ「カツ丼」

ムロ「カレー」

京太郎「タコス」

  「カツど……タコス!?」
    「タコスってなんだっけ?」
      「あれだろ、クレープみたいな」


玄「他人の心音を聞く事でリラックスできると聞きました!」ワキワキ

和「なんでコッチに……ちょ、そ、その手つき!?」

和「そういえば、押すと緊張が和らぐツボがあるそうですよ」グリグリ

玄「イタ! イタタタッ……!? あ、そ、そこは、オウフ! か、堪忍してええぇぇー!」

穏乃「よし憧やるぞ!」ギュウゥゥ

憧「いたたた! しずは力任せ過ぎるのよ!」

灼「でも、緊張は取れたみた……」

憧「あ、そうかも」


Q.『たい焼きはどこから食べますか?』

京太郎「んー、頭からかな」

ムロ「私も頭です。普通は頭からじゃないですか?」

まこ「え、わし尻尾からじゃ。いきなり頭からかぶりつくんはちょっと……」

  「私は喉から」
    「私は鼻から」


男子部長「もう準備いいそうだ」

由華「了解。じゃ、いい感じにゆるい空気になったところで阿知賀のみなさんどうぞー」

  「「おおおーっ」」

ガララッ

灼「お、おはようござい、ます……。な、なんで私まで」

玄「よろしく、お、おねがいします……イタタ」

憧「ど、どうもー……」

京太郎「フラフラだー!?」


ムロ「なんか疲れてません?」

  「阿知賀だ! 手負いの阿知賀が出たぞ!」
    「気だるそうな女の子……いいな!」

穏乃「あはは、ちょっとやり過ぎちゃったかも」

和「本当ですよ、もう……」

  「のどっち! 今日はツインテなのか!」
    「穏乃ちゃんは袖あり。なるほどなるほどー」

灼「阿知賀女子学院麻雀部です。本日はよろしくお願いします」

由華「こちらこそよろしくお願いします。では、早速練習に入りたいと思いますが……」

  「ええ!?」
    「質問タイムはー!?」

由華「それは休み時間とかに各々聞いてください。じゃあローテ表配りまーす」

男子部長「受け取ったら後ろに回してください」

まこ「ほれ」

京太郎「ありがとうございます。どれどれ?」

ムロ「午前は男女別で、それぞれの部室に移動ですね」

京太郎「だな。それじゃまた昼休みに」

ムロ「はい」



晩成高校 男子麻雀部部室


京太郎「では、改めてよろしくお願いします!」

男子部長「はい、こちらこそ。といっても、僕は個人代表だから対局は出来ないけどね」

京太郎「そうだったんですか」

男子部長「実際にお相手するのはコイツら」

  「「おねしゃーす」」

男子部長「今年は団体での全国出場は逃したけど、県で2位の実力は持ってる」

京太郎「いいですね。大勢の人とやるのはあまり経験ないんで、勉強させてもらいます!」

男子部長「期待に添えれば幸いだよ」

晩成高校 女子麻雀部部室


トシ「今日は出和了りを狙ってみましょうか」

ムロ「わかりました」

トシ「相手の牌をよく見るんだよ」

ムロ「はい!」


初瀬「憧、なんていうか……お疲れ!」

憧「あぁ、初瀬。ホント朝から無駄に体力使っちゃったわ……」

初瀬「なにしてたの?」

憧「なんか緊張に効くツボだとかで押されまくりよ。こんな風に……ね!」

ググッ

初瀬「ガアアア!」


由華「はいはい、卓について。早速はじめてくださーい」


ムロ「よろしくお願いします」

晩成女子a「よろしくね」

晩成女子b「お願いします」

晩成女子c「よろ~」

晩成女子a「あのさ、ちょっと聞きたいんだけどいい?」

ムロ「なんでしょう?」

晩成女子a「清澄の男子さ、なんか写真と顔違わない?」

ムロ「ああ、そうですよねぇ……なんと言ったらいいか」


ムロ「先輩、麻雀打つ時って異常に集中するんですよ」

ムロ「その状態で長時間打ち続けてるとダルくなって、あの写真みたくなるんです」

晩成女子c「へぇーそうなんだ」

ムロ「多分その写真って県予選で優勝した時のだと思うんですけど、対局終わってからすぐの表彰でしたから」


ムロ「お昼休みには見れると思いますよ」

晩成女子b「なにその珍百景?」



昼休み 男子麻雀部部室


晩成男子b「終わったー! メシ食おうぜ」

晩成男子c「おう、ラーメンでも行くか」

晩成男子a「須賀君、なぁ大丈夫か?」

京太郎「あい」

晩成男子a「そ、そうか。須賀君は昼飯どうするんだ?」

京太郎「あさこんびにでかってきたのある」

晩成男子a「じゃあ食堂使うといいぞ。テーブルとかは使えるから。場所は……」

ムロ「失礼しまーす。先輩回収しにきました」


京太郎「むろおつかれー」

ムロ「はい、お疲れ様です」

晩成女子a「うわホントだ」

晩成男子a「なんだよお前達まで」

晩成女子c「あれ見に来た」


ムロ「えと、先輩の牌譜は……」

男子部長「ああ、これだね」

京太郎「せきちゅうきりつきんがだるい」

晩成女子b「ゆるキャラみたいだよー」

晩成女子c「これもダルかわ系って言うの?」


ムロ「ありがとうございました。ホラ、先輩立って立って」

京太郎「おー」

廊下


ムロ「食堂はこっちみたいです」

京太郎「おう」


ムロ「……そういえば、先輩の事聞かれましたよ」

京太郎「んー、なにが?」

ムロ「誕生日だとか趣味はなんだとか」

京太郎「ふーん」

ムロ「人気者ですね?」

京太郎「そんなこと……げすとだからめずらしいんじゃないのか?」


ムロ「鼻の下、伸びてますよ」

京太郎「えっうそだろ?」

ムロ「ククッどうやらマヌケが見つかったようですね」

京太郎「いっぱいくわされたぜ」


ムロ「……こんなイジワルしちゃうのも、先輩が悪いんですよ?」

京太郎「うん、わかってる……」

食堂


まこ「来たのう」

ムロ「お待たせしました。熊倉先生、コレ先輩の牌譜です」

トシ「ごくろうさま」


京太郎「なにはともあれ、はらがへってはいくさはできぬ、だ」

玄「少し見ない間に……」

和「いつもの事ですよ」

憧「ヤバイくらいカロリー消費してそうよね」

灼「プロ棋士みた……」


京太郎「さて、あさかってきたうどんと……」

穏乃「そ、それは!?」

京太郎「きのうたべきれなかったぶん」

灼「柿の葉寿司?」


ムロ「うどんに寿司……なんだかサラリーマンの昼食みたい」

京太郎「おとなだな」

穏乃「私達も食べようか」

憧「そうね、午後からも頑張らなきゃ!」


京太郎「ずるずる……ん、これだしがちがう?」

まこ「ほう。コンビニのうどんでも地域で違うんか」

トシ「どん兵衛の関東風と関西風があるのは有名よね」

ムロ「マーケティング的にも大正解ですよ」


灼「玄はお弁当?」

玄「昨日の残りを詰めただけなんだけどね。和ちゃんも?」

和「はい、今日は早く目が覚めたので」

灼「二人とも何気に女子力高……あ、そうだ」


灼「みんな、午後からは団体戦やるからね」


京太郎「へ?」

ムロ「もぐ?」

憧「ん?」


憧「……ん?」

多目的ホール


由華「昼休み開けたぞお前らー! 多目的ホールに大集合だー!」

男子部長「と言う訳で、団体戦です。準備出来てるな?」

晩成男子a「オッケーでーす」


京太郎「雀卓が遮音パネルに囲まれてるぞ」

ムロ「ちゃんとカメラも設置してあるんですね」

まこ「それぞれの手牌と、中央を俯瞰するカメラ。モニターも5枚あるわ」

玄「わぁ、すごく本格的」


灼「それで、清澄のチーム編成だけど」

京太郎「そうですよ、オレら2人足りないですよ」

和「1人目は私が参加させてもらいます」

ムロ「……!」

まこ「おお、そりゃええわ」

京太郎「よろしくな! それでもう1人は……」

ガララッ

  「お待たせ」

  「話は灼から聞かせてもらったわ」

由華「おはようございます。わざわざ来てもらってスミマセン」

  「いいって事よ。このくらいは」

京太郎「なぁ、あの人って」

和「私とも、去年全国で対局しましたので見た事あると思いますが」

和「去年は奈良県で個人1位だった……」

初瀬「今日はよろしくお願いします。小走先輩!」


やえ「後輩だからと言って、手加減はせんよ!」

今日はここまで
たい焼きの食べ方で性格とか分かるみたいです

こんばんわ
立先生が日記更新するたびにSSに影響無いかどうかビビってます
こないだのはちょっとかすったくらいです

イラストはあんまり貼られると恥ずかしくなります
ってかなんで他の人が貼ると横にならずにちゃんと表示されるんだ……

投下します。短めだけど

先鋒戦 東一局
親:小走やえ


やえ「ツモ! 1000オール」
四五六七八九⑧白白白/一二三:⑧

玄「はい」

男子部長「あいたた……」

由華『最初の和了は清澄チーム、小走やえ!』

  「さすが小走先輩!」
    「部長も頑張れー!」

ワーワー

京太郎「まずは先制ですね」

トシ「親でどれだけ稼げるかしら」

ムロ「でも、ドラ爆親っ被りも怖いです」


穏乃「玄さん、まだまだですよ!」

灼「全然取り返せる範囲」

憧「でかいの一発ぶちかませー!」


由華『それでは東一局の1本場に入ります。対局中は大きな声での応援や実況はしないでください』

由華『先程の和了はどうでしょうか?』

和『そうですね、親が早い巡目に一萬を鳴いたので他家が警戒しました』

和『他のヤオチュー牌はツモ切りなので、チャンタ・三色はないだろうと』

和『であればイッツウ・ホンイツを推測しますね。染め手を意識させた鳴きだと思います』


京太郎「あえて手牌を読ませて相手を堅くさせたのか」

ムロ「和了れなくても、他家をオリさせれば連荘ですもんね」

まこ「親は大事じゃけぇ」


初瀬「これぞ王者の打ち筋よ!」

京太郎「それにしても、小走さんの人気も凄いな」

灼「去年の晩成のエースだったから」


憧「和はさりげなく解説席にいるけど、さまになってるじゃない」

穏乃「昔から人に教えたりするの上手だよね」

東一局 3本場
親:小走やえ
ドラ表示牌:②

由華『さぁ、小走先輩の3連続和了で迎えた東一局3本場。まだまだ清澄の親番は続きます』

やえ(ドラは三筒か……これ玄相手だと厄介なのよね)

やえ(辺張搭子は早めに落としとかないと)


14巡目

やえ(とりあえずテンパイしたけど、この巡目じゃリーチ掛けられないし……)チャッ
六六七七八八⑨⑨33389:3

やえ(あ、4枚目……玄はだいぶ前からツモ切りか。ならばダメ押しで)


やえ「カン!」


玄「ううっ!?」

やえ(ドラを増やしてあげる。あふれるくらいにね!)

憧「あっちゃー」

灼「これは、ドラゴン復活の儀式の準備しとかないといけな……」


由華『ここでカン。カンドラは……』

京太郎「あっ!」

穏乃「おお!?」

ザワッ

玄「!」


ドラ表示牌:②②


やえ「なっ!?」

由華『カンドラはまたしても三筒! ドラが重なったー!』

  「うおおおお! キターー!」
    「阿知賀のドラゴンロードは伊達じゃない!」
      「そ、それだよ。視聴者が求めているモノは……!」

ワアアアァァァーッ

まこ「おいおいおいおい……」

ムロ「マジですか」

京太郎「い、いくらドラを抱えてても、和了らなければどうと言う事は……」

玄「ツモ!」

京太郎「あふん」


玄「タンピンツモ……ドラ12!」
四(五)③③③③④⑤(⑤)(⑤)(5)67:三

玄「8000・16000の3本場は、8300・16300です!」


由華『か、数え役満……!』

ウオオオォォォーッ

穏乃「いやったああぁぁぁ! 玄さぁぁん!」

憧「玄っ!」

ワアアァァァ

  「スゲーー!」
    「玄ちゃんカッコイイ!」
      「ドラ12とか見た事ねぇよ!」

玄「フフン」ドヤァ

灼「ふ……また調子のって」

  「「MA・TSU・MI! MA・TSU・MI!」」


由華『なんと、まさかのドラモロ乗りで松実玄の数え役満が炸裂!』

由華『今の対局はいかがでしたか、原村さん?』

和『迂闊でしたね』

和『そもそも、親でトップで終盤。あの場面でカンする意味がわかりません』

やえ「ダメ出しだー」


やえ「チラッ」


京太郎「え、カンしたのに……ツモ切り?」

まこ「普通はそこで嶺上開花じゃろうに……」

やえ「き、清澄ぃぃ……」



由華『先鋒戦終了ー!』

玄「ありがとうございました!」

やえ「お疲れさまぁ」


由華『さて、先鋒戦を終えてここまでの順位は4位晩成女子、3位晩成男子、2位に清澄チーム』

由華『そして大きく引き離しましたトップは、阿知賀女子学院!』


穏乃「玄さん、お疲れ様でした!」

灼「大活躍だね」

玄「いやーたまたまだよ、たまたま。えへへ」

憧「その割に得意気な顔してたけどね」


やえ「ただいま……」


京太郎「お疲れ様です」

やえ「はぁ……ゴメンね、やらかしちゃったわ」

ムロ「でも、そこから崩れないで安定して打ててましたし、すごいですよ」

ポン

まこ「ほんじゃ行ってくるわ。ま、安心せい」

やえ「まこ……」

まこ「カタキはとっちゃるけぇ」

由華『次鋒戦、まもなく開始です』

まこ「さてと、よろしくな」


京太郎「染谷先輩、頑張ってください!」

ムロ「お願いします!」

やえ「頼んだわよ!」


由華『さぁ、始まりました次鋒戦。起家は晩成女子……』

由華『では、ここで原村さんにお便りが届いてるので紹介したいと思います』

和『はい?』


由華『えー、原村さんこんにちは』

和『こ、こんにちわ』

由華『質問です。原村さんは対局中ずっとペンギンのぬいぐるみを抱いてますが、どうしてですか? わたし、気になります』

由華『との事です。今は持ってませんけど、対局中あのペンギンはよく見ますね。なんなんですかアレ?』


憧「昔はぬいぐるみ抱いて麻雀なんて、してなかったわよね」

玄「そういえばそうだね」

穏乃「って事は、高校生になってからぬいぐるみ抱くようになったのか」

憧「ナニソレおもしろすぎでしょ」

和『あれはエトペンと言って、エトピリカになりたかったペンギンっていう絵本に出てくるんですけど』

和『ど、どうしてかと言われると……えと』


和『自宅でネット麻雀をする時にも抱いているんですけど』

和『それで、自宅以外の場所で打つ時もエトペンを抱くとリラックスできて、家に居る時みたいに落ち着くんです』

由華『そうだったんですか。緊張しないようにって事ですね』


憧「ふーん、なるほどね」

穏乃「なんか納得」

ムロ「確か、宮永先輩も同じ様な理由でしたよね。靴下脱ぐの」

京太郎「そうだな。他にも対局中、髪のリボンほどいたりする人もいるよな」


ムロ「逆にマント羽織ったり」

トシ「モノクル掛けたり」

灼「ネクタイ付けたり」

やえ「あ、まこが眼鏡外したわ」


京太郎「でも、和のエトペン抱いて打つ理由って確か……」

ムロ「他にあるんですか?」

京太郎「なーんか忘れてるような……あっ」

京太郎「そうだそうだ、思い出した。去年の県予選前の合宿で』


京太郎『和ってば寝る時はエトペンがないと眠れませんーとか言ってたらしくてさ』

京太郎『その頃はまだ、和はリアルの麻雀に慣れてなかったからミスも多かったんだ』

京太郎『それで竹井先輩が麻雀の時も抱いて打ってみたらってアドバイスしたんだよ』

和『うぅ……』


由華『ほうほう、なるほどなるほどー』

京太郎『あれ、いつのまにマイク向けられて……あれ?』

ムロ「あはは……」

  「のどっちカワイイー!」
    「エトペン場所変われー!」
      「エトペンに、私はなりたい」

憧「うっそー!? それはちょっと可愛いすぎでしょ! アハハ!」

穏乃「うわぁマジで?」

和『ほ、ほんとうです……うわぁって……』

京太郎『提案した本人いわく、半分くらいはネタのつもりだった』

和『ええー!?』

京太郎『でも、それでイージーミスなんて無くなったんだし、いいじゃんか』

和『それはまぁ、そうですけど……』


由華『いやぁ、まさかの意外な一面でした』

憧「意外すぎるわよ」

穏乃「ちなみに私はどこででも寝れるけどね!」

玄「そんな感じするよね」

まこ「あのぉ……」

和『ん?』


まこ「対局、終わったんすけど……」

由華『じ、次鋒戦しゅーりょー!』


京太郎「お疲れ様です」

まこ「見とった?」

ムロ「見てました見てました」

トシ「ちゃんと観戦してたよ」

まこ「ホントけ?」

やえ「よく阿知賀と差を縮めたじゃない。すごいわ!」

玄『さぁ、団体戦も中盤に突入!』

由華『中堅戦が始まります!』

玄『解説は、むくれてしまった和ちゃんに代わりまして阿知賀女子3年、松実玄がお送りします』


和「むくれてなんかいません」

京太郎「機嫌直せよーぅ」

和「ムロ、頑張ってください」

京太郎「反応してよーぅ」


ムロ「はい、もちろんです。では行ってきます」


まこ「なんじゃ、えらい気合はいっとるのう」

和「そうですね」


晩成男子a「ちゃんと俺の応援もしてくれよ?」

晩成男子c「え?」

晩成男子a「いや、気持ちは分かるけどな……頼むよ」


初瀬「行ってくる!」

晩成女子a「おう、頑張ってね!」

穏乃「このまま1位独走だ! やっちゃえ憧!」

憧「オッケーマカセトイテ!」

灼「不安すぎる」


由華『まもなく中堅戦スタートです!』

今日はここまで
このssの憧ちょっとポンコツすぎですかね

おつおつ
染谷センパイ哀れ( ノД`)…

>>127
画像貼った者だけど以後控えますね
向きは最初画像が容量オーバーだったんでリサイズするついでに修正したのを保存してるからっす

乙です
今日は飯テロ無しか
何気に阿知賀の次鋒は誰?
色々見てると、玄が先鋒、憧が中堅、和は次鋒戦で実況、穏乃は憧達としゃべってる、灼は他の面々と緊張を解く方法を挙げてる、とかで誰でも無さそうなのだが
可能性としては、灼か?

玄の和了、ピンフ付かないよね
付かなくても数えだから変わらないけど

こんばんわ
タピオカやバジルシードつい噛んじゃう

>>142
リサイズ!そういうのもあるのか

>>144
阿知賀の次鋒は阿知賀部員aちゃんです
モブで名前6文字ってなんだかなーって感じだったので喋らせませんでした。わかりにくかったですね
プレイスタイルは攻撃重視な感じです

>>146
ご指摘ありがとうございます。平和無いですね

なので>>131
まちがい
玄「タンピンツモ……ドラ12!」
ただしい
玄「タンヤオ・ツモ……ドラ12!」

では投下します

ムロ「遮音パネルに囲まれてるっていっても、けっこう声援とか届くもんだな」

ムロ「あんまりこういう状況でなんてしないから」

憧「緊張するぅ……」


初瀬「人前で打つのって、そんな経験無い?」

ムロ「えと、5~6人に見られるくらいならありますけど……」

ムロ「こんな大人数で歓声もあってっていうのはなかなか。大会も個室ですし」

初瀬「そっかー、うちは練習試合する時は実戦形式って事でこんな風になってるけど」

晩成男子a「他の学校でもあんまりないんじゃないか?」

初瀬「かもね」


ムロ(団体戦……)

  「憧ちゃーん頑張れー!」
    「負けんなー!」

ワー ワー

初瀬「まぁ、今日はいつも以上に騒がしい感じだけどね……まったく」

憧「は、早く始めちゃいましょ……」

ムロ「そうですね」

ムロ「始まれば、少しは静かになるでしょうしね」

由華『さぁ、中堅戦開始です!』



東一局
親:岡橋初瀬

9巡目


憧「チー」

カシャッ

ムロ(鳴かれた……これで私の和了形は消えた)

ムロ(テンパイを察知されたのかな)

初瀬(せいぜいイッツウか三色狙ってるんだろ? でも、ドラが怖いな)


憧「ロン! 2000!」
五六④⑤⑥⑨⑨11/(5)46:四

初瀬「はい……油断したかぁ」

穏乃「やったー!」

ワアアァァァァ


由華『中堅戦最初の和了は阿知賀女子、新子憧!』

由華『これは鳴きを得意としている新子さんらしい麻雀ですね』

玄『はい。でもそれだけじゃなく、状況に応じた打ち回しができるのが憧ちゃんなんです』

由華『と言う事は、この和了り方にも何か意味があると?』


京太郎「ツモをずらしてる」

まこ「ああ、これからも鳴けるチャンスがありゃあドンドン鳴いてくるじゃろうな」

憧(安いけど、張ってたっぽいし結果オーライよね)


憧(……リーチ一発ツモで、最低でも3飜確定)

初瀬(そう考えれば2000で済んで良かったかな)

ムロ「はぁ……」

初瀬(この子の前だと、親番もそんなに嬉しくないし)


灼「上手くいってる?」

穏乃「そうみたいですね」


京太郎「基本、門前で構築するムロとは相性悪いけど」

トシ「そこは腕の見せどころね」

東三局
親:新子憧


憧(さて、私の親番。緊張もほぐれてきたかな)

憧(早和了りで連荘すべきか、大人しく防御に徹するべきか……悩むわー)


由華『更にリードを広げた阿知賀女子、他校は追いつく事が出来るのか!?』

由華『ってか追いつけ!』

初瀬「そこは公平に実況してくださいよ」


ムロ「…………」

チャッ ヒュン

由華『室橋さんはツモってから牌を切るのが速いですね』

玄『どことなく和ちゃんに似てますよね』

まこ「違うところは発情しとらんっちゅーとこか」

和「してませんから!」


憧「ポン」

京太郎「攻めてきた」

憧(イイ感じ……)
二二二三三四(五)七七九/中中中

穏乃「あは、なんか憧の手牌」

灼「あったか……」


ムロ「…………」


京太郎「ムロ、見てるな」

和「え?」

京太郎「相手の視線だったり、牌の位置だったり」

和「でも、カメラは牌しか映してませんよ? それだけでどこを見てるのか、わかるんですか?」


京太郎「いやさ、ムロの牌をツモる動きがちょっとだけ遅いかなーって」

まこ「ほうか?」

京太郎「なんか、普段より動きがなめらかすぎるんですよ」


京太郎「そういう時って相手を見るのに集中してる事が多いんです。ホラ」

チャッ ヒュン

まこ「……わかるか?」

和「い、いえ……」

初瀬(役牌鳴かれた……)

晩成男子a(こりゃ警戒しないとだな)

打:八

憧「チー!」チャッ

初瀬「む……」

由華『二副露! しかしこれは……』


ムロ「ロン」


京太郎「よっしゃあ!」

ムロ「ピンフ・タンヤオ・イーペーコー。3900」
五六②③④22334477:七

トシ「練習の成果、出たみたいだね」

和「いい和了です」

由華『清澄チーム、室橋裕子が阿知賀の親を一蹴!』

  「おお、スゲー!」
    「さすがは清澄で県代表だな」

憧「はい」

憧(四萬切っても振り込んでたか……)


由華『浮いた牌で振り込んでしまいました』

玄『でも、あの手は突っ張っちゃいますよね』

東四局
親:室橋裕子


由華『ついに東四局。清澄の親番』

玄『どんな打ち筋を見せるのか、期待です!』


ムロ「ツモ。ツモのみ、500オールです」


憧「はい」

憧(え、リーチしないの?)

初瀬(ちょっと拍子抜け……)

由華『清澄の和了でした。ここは確実に積み棒を増やしていきます』

玄『ムロちゃん、まずは連荘狙いのようですね』


和「普通はリーチかける場面なんですけど」

京太郎「リーチしたら、一発消しされると思ったんじゃないか?」

和「それは鳴かれるかもしれませんけど、裏ドラも期待できるじゃないですか」


由華『各校、順位は変わらず。1本場です』

東四局 1本場
親:室橋裕子


ムロ「…………」チャッ ヒュン


京太郎「お」

和「どうかしました?」

京太郎「今のは余計な力が入ってない。だいぶ慣れてきたみたいだぞ」

まこ「みたいだぞー言われてもな……」

和「……須賀君ってもしかして」


和「手フェチ、なんですか?」

京太郎「いや別にそういうわけじゃ」


灼「さっきの、なんでリーチしなかったんだろ」

穏乃「私も、てっきりリーチするかと思ってました」

灼「過去の牌譜見る限りでは、デメリットあるみたいだけど果敢に曲げてく打ち筋だった……そういえば」


灼「午前の練習でも、今日はまだリーチしてなかったね。あの子」

晩成男子a「ツモ! 2000・3900の1本場は2100・4000!」


男子部長「よし、いいぞ!」

晩成男子b「よくやったー!」

由華『男子チームの和了で女子を逆転して3位に。1位は依然として阿知賀女子』 

玄『それでは中堅戦も後半。南入です』



南三局
親:新子憧


由華『しかし、気になるのは室橋さんですね』

玄『なにがですか?』

由華『不思議です。早い順目にテンパイしても、リーチも手変わりもしません』

玄『うーん、あまり手の内を見せたくないんじゃないでしょうか?』


玄『ここにはムロちゃん以外にも個人代表が居ますから』

由華『そうですね。って、松実さんもでしょ』

玄『巽さんこそ』


由華『…………』

玄『…………』


由華『へへへへ』
玄『へへへへ』

京太郎「仲良いなオイ」

玄『いやでも、ホント対策とられると……ツライですよ……』

由華『言葉に重みがありますね。なーんて言ってる間に中盤です』


ムロ(もうこんな巡目か。あんまり稼げてないなぁ、私)

ムロ(これじゃまた、あの時みたいな……)


和「ムロ、頑張って……!」

まこ「和も応援に熱が入っとるのう」

京太郎「そういえば、高遠原で団体戦出たんだよな」

和「はい」

京太郎「どんな感じだったんだ?」

和「どんな感じ、ですか……えーと」


和「例えるなら、サッカーW杯ブラジル大会の準決勝でのブラジルです」

京太郎「あらら……マジで」

まこ「そんな酷かったんか」

和「……結果もふるわないものでした」


和「今でも……あの時ああしてたら、こうしてれば、なんて考えてしまいます」

ムロ(……まさか、また和先輩と団体戦できるなんて思ってもみなかったな)

ムロ(インターミドルは……正直、暗くなっちゃうから思い出したくない)


ムロ(でもそんなの無理だし。それに、やり残した事があるんだ)


ムロ(だからここで……今ここで、その無念を晴らす!)

憧(なんか動き無くて大人しい感じだし、攻める!)


憧「リーチ!」

由華『親のリーチ! 更にリードを広げる事ができるのか!?』

玄『今日の憧ちゃんはイケイケですね。積極的に……』


ムロ「リーチ……!」

ドッ


玄『攻めて、て、え、ええええ!?』

由華『曲げたー! いや立ったー!? 清澄室橋の追っかけリーチ!』

京太郎「勝ったな」

まこ「ああ」

穏乃「あ、あれは!?」

灼「リーチしてきたと思ったら、まさか……一巡先?」

憧(ウソでしょそんなの!?)


憧(リーチしちゃってるから鳴けないし、差し込めない! なんとかしなきゃ。じゃないときっと……)

憧(私が一発で和了れれば……)

初瀬「っ……」

タン

憧(違う)

晩成男子a「うーむ……」

タン

憧(違う……! 仕方ない、自分で引くしかないか……)

チャッ


憧「くっ……」

由華『一発ならず! さぁ、清澄は!?』

バシィッ

ムロ「ツモ」


ムロ「リーチ・一発・ツモ・ホンイツ・發・赤1」
②②③④(⑤)⑥⑧⑨⑨⑨發發發:⑦


ムロ「4000・8000です」

京太郎「うっし!」

やえ「おお!」


由華『倍満ツモー! これで清澄が阿知賀の背中を捉えたー!』

ワアァァァァ

憧(しくった……もおお、なに私の親で倍満和了っちゃってくれてんのよ!?)

穏乃「憧……」


和「ムロ……!」

ムロ「ふぅ……」

ムロ(まだ)

由華『さぁ、いよいよ中堅戦もオーラスを迎えました』

由華『このまま1位をキープしたまま終われるのか? その清澄の親番です!』

玄『な、なに今の……?』



南四局 オーラス
親:室橋裕子


ムロ「リーチ」ドッ

憧(来た!?)

由華『連続でリーチ! そしてやはり、リー棒は立っているぞ!』


ムロ「ツモ!」パシッ

由華『またまた一発ツモー!』

玄『またぁ!?』

ウオオォォォォ

京太郎「確かに、リーチ率は下がったけど」

まこ「そんかわり一発ツモは絶対じゃ」

京太郎「ツモれるから立てるのか、立てたからツモれるのか……」

トシ「必ず和了れるなら、なんでもいいわよね」


ムロ「続行します。1本場」

ムロ(まだ……もっとだ)


南四局 1本場 オーラス
親:室橋裕子


ムロ(2年間、ずっと心残りだった)


南四局 2本場 オーラス
親:室橋裕子


ムロ(あのとき渡せなかったバトンを)


南四局 3本場 オーラス
親:室橋裕子


ムロ(強くなった私で)


南四局 4本場 オーラス
親:室橋裕子


ムロ(和先輩に)


南四局 5本場 オーラス
親:室橋裕子


ムロ(胸を張って……!)

憧(……こ、このへんかな?)

初瀬「はいそれぇ! ロンロンロォォン!」ガタッ

ムロ「おおぅ」ビク

由華『終了ー! 長かった中堅戦もようやく決着。最後は女子チームの和了で幕を閉じました』

玄『しかし、終わってみれば清澄が圧倒的リードです!』


憧「うっはぁ……やっと終わった……!」

晩成男子a「あざっした……」

初瀬「お疲れー」


ムロ「ふぅ……ありがとうございました!」パアァァ

憧「お疲れ様でした……うお、まぶし」


まこ「ムロ、ようやったのう!」

やえ「大活躍じゃない!」


トシ「想定以上の仕上がりね」

ムロ「えへへ、やりましたよー!」


京太郎「思いっきり褒めてやってくれよ」

和「はい。もちろんです」

和「ムロ」

ムロ「和先輩」


和「本当に、もう大丈夫みたいですね」

ムロ「あ……」

和「私も、安心しました」

ムロ「ありがとうございます……!」


京太郎「満足そうな顔しやがって」

ムロ「ふふん。あ、先輩はなにか言う事ないんですか?」

京太郎「んー? この欲しがりさんめ」

ムロ「素直にねぎらってくださいよー」

京太郎「みんなにいっぱい褒めてもらったじゃん。べた褒めじゃん」

ムロ「先輩もしてくれていいんですよ? ホラ遠慮なく」

京太郎「そんなにウェルカム状態だと、逆に言いたくなくなるなぁ」

ムロ「うわ、ひねくれてる」


和「ぅおっほん」


京太郎「!」
ムロ「!」

和「さーて、私の出番のようですね」

京太郎「は! ご武運を!」ササッ

ムロ「エトペンに御座います」ササッ

和「はい。それでは行ってきます」


由華「ここで挽回しとかないとな」

初瀬「すみません、お願いします!」

灼「行ってくる」

憧「後は任せた!」


やえ『副将戦、始まるわよ!』

今日はここまで
クロチャーにオンジョウジリアリティショック・フィードバック発症させようと思ったけどやめました
我ながらやさしみがある

こんばんわ
今回で団体戦おわりです。投下します

灼「行ってくる」

憧「あと任せたわよ!」

穏乃「頑張ってください、灼さん!」

灼「うん……あ、そうだ」

憧「なに?」


灼「得点収支が一番低い人には今日の最後、締めの挨拶してもらうから」

憧「はぁ!? なにそれ聞いてないわよ!」

灼「そういうわけだから、今のうちに考えといた方がいいと思……」

憧「私がするの確定!?」

  「のどっちー!」
    「和ちゃんガンバー!」

やえ『やっぱ歓声すごいわねー。一段と大きいじゃない』

玄『さすがは和ちゃんですね。でも他のチームも負けないで! 阿知賀がんばれー』


憧「和ー、やっちゃえー!」

玄『んん?』

和「決勝戦を思い出しますね」

灼「うん。ふたりして副将だったね」

和「はい」


灼「阿知賀女子学院麻雀部部長を名乗りたくば、私を倒してゆけ」

和「え?」


和「…………」

和「あの、どうして私なんですか?」

灼「うちの部は代々しっかりしてそうな子が部長になる」

和「はあ……」

灼「それが伝統」


和「でも、私より穏乃か憧の方が適任なのでは」

灼「穏乃はたまに、ときどき、ちょくちょく……いつもとは言わないけど、あらぬ方向へ突っ走る時がある」

和「それなら憧は……」

灼「うちの部員はまとめてくれるけど、学校以外だとちょっと頼りな……」


灼「特に今日のを見てるとね」

和「確かに」

灼「でも、消去法で決めたわけじゃないから」

灼「原村さんなら大丈夫だと思……」

和「……少し、考えさせて下さい」

由華「お待たせしました。それじゃあ早速、始めるとしましょうかね!」


やえ『お聞かせしよう、王者の実況を!』

玄『それでは副将戦スタートです!』

和「ふぅ……」ホゥ

京太郎「表情をお見せできないのが残念です。むむむ……」

ムロ「なーにがむむむですか」



東三局


灼「ツモ。リーチ・ツモ・イーペーコー・ドラ2。2000・4000」

和「はい」

やえ『また阿知賀の和了! じわじわとトップとの差が縮まっていく!』

玄『灼ちゃんやったー!』

ワアァァァ

やえ『でも、原村のオリもすごくキレイだったわ』

やえ『現在トップだから無理な勝負は避けてるけど』

やえ『そのラインでの駆け引き、いいセンスしてる』

玄『見てて感心しちゃいますよね』

トシ「今のところ、阿知賀が追い上げてきてるね」

まこ「和も固い打ち方しとるが、ツモで削られとる」


京太郎「そういや、聞いたぞ」

ムロ「なにをですか?」

京太郎「インターミドルの団体戦。ひどかったんだって?」

ムロ「ああ……まぁそう、だったんですよ」


京太郎「ちなみにポジションは?」

ムロ「副将でした」

京太郎「あ、和と同じなんだ」

ムロ「はい。和先輩は、その試合は大将でした」


ムロ「私の出番が回ってきた時にはもう、けっこうな点差あったんですけど……」

ムロ「それでも、なんとか挽回してやろうと思って……でもダメで」

ムロ「自分なりに精一杯やったつもりでしたけど、気持ちだけじゃどうにもならなかった」

ムロ「せっかく5人揃って団体戦にエントリーできたのに、私なにもできなくて……」

京太郎「うん」

ムロ「だから、そんなボロボロの状態で和先輩に引き継ぐのが申し訳なかったんです」


ムロ「あれからずっと、やるかた無かったんですけどね。でも今日やっと……」

京太郎「晴れた?」

ムロ「ふっふっふ。ええ、それはもう!」


ムロ「自信持って、バトンを受け渡せました」


ムロ「もう和先輩と一緒のチームなんて、無いと思ってましたから……」

京太郎「そうだな。ついでにオレも一緒に組めるなんて、まったく予想外」

ムロ「はは、ですよね」


京太郎「うん、よく頑張ったなムロ。2年越しで、ようやく叶ったぞ」

ムロ「……はい」

ムロ「和先輩に安心したって言ってもらえて、私もホッとしましたね」


京太郎「わ、わた、私……まだ全然、ダメダメです……もっと、もっと和先輩に、ううっ……」


ムロ「ちょ、ま、真似しないでください!?」

京太郎「卒業式であんな泣かれたら、そりゃ心配にもなるさ」

ムロ「いやだってあれは仕方ないですよ……ってか、先輩だってちょっとウルっとしてたでしょ」

京太郎「え、そんな事……ないぞ?」


ムロ「あっち行っても、元気で……やれよ。オレらも、もっと強くなって、追いつくから……」


ムロ「って、肩プルプルさせて、頬もピクピクってして」

京太郎「いやだってそれは……仕方ないだろ」

ムロ「うんうん、仕方ないです」

京太郎「仕方ないよなぁ」

ムロ「…………」

京太郎「…………」


京太郎「お、いいぞ和ー!」

ムロ「和先輩ナイスでーす!」


京太郎「……で、何の話だっけ?」

ムロ「……なんでしたっけ?」

南四局 オーラス


灼「ツモ、700・1300!」

やえ『オーラスは阿知賀の和了! これで副将戦終了ね」

ワアァァァァ

やえ『この時点で、トップの清澄に親倍直撃で逆転できる射程まで追いあがってきたわ』

玄『終始、灼ちゃんのペースで進行していた副将戦も終わりまして、いよいよ大将戦に突入です!』


穏乃「大健闘でした、灼さん!」

憧「おつかれ~」

灼「部長だからね。頑張らないと……どう? 喋る内容考えた?」

憧「考えてるわよぅ、一応……」


憧「ぐぬぬ……こうなったら、しず! 絶対に勝ってきなさい!」

穏乃「おう、任せとけ! それじゃ行ってくるよ!」


和「すみません、だいぶ削られてしまいました」

京太郎「気にスンナ。まだまだリードは保ててる」

ムロ「お疲れ様でした」

まこ「阿知賀の部長相手に大したもんじゃ」

和「ありがとうございます。でも、不甲斐ない結果になってしまいました」

ムロ「大丈夫です」


ムロ「あとは、先輩がなんとかしてくれますから。ね?」

まこ「気張ってけよ、大将」

和「お願いします。須賀君」


京太郎「……ああ」


和「ん? 緊張、してるんですか?」

まこ「まあ、初めての団体戦で大将じゃけぇ」

ムロ「プレッシャーですか」

京太郎「いや」


京太郎「なんかこういうの……悪くないな」

南四局 流れ3本場 オーラス
親:高鴨穏乃


玄『遂に大将戦オーラスです!』

やえ『これが団体戦の最後の一局なわけだけど……』


玄『南一局から誰も和了れてないですね』

やえ『ぶっちゃけ、地味』

京太郎「いやいや……そりゃちょっと静かだけど、こんなん普通だって」

穏乃「そうそう」


まこ「先鋒・中堅戦に比べると、どうしても味気ないっちゅーか……」

京太郎「そんな倍満だの役満だのポンポン出ないですよ」

穏乃「そうそう」


和「長い事麻雀をしていれば、確率的にこういう事もありえます」

京太郎「だよな。4回に1回和了れれば良い方だし」

穏乃「そうそう」


  「ノーテン」
    「ノーテン」

穏乃「テンパイ」

京太郎「テンパイ」キィィィン

穏乃「え」

やえ『ラス親が高鴨なのでこれで……』

玄『これにて決着!』


やえ『団体戦しゅーりょー! では早速、気になる結果発表! まず1位は……』

玄『1位、阿知賀女子! やったねみんな!』

憧「うむ!」

灼「一応、これで奈良代表の面目は保たれた……よかった」


やえ『2位阿知賀、3位晩成女子、男子は最下位』

玄『清澄チーム、僅差でトップを逃しました。惜しい!』

京太郎「あっれ、オレもしかして焼き鳥……?」


やえ『みんな長丁場ご苦労様』

玄『半荘1回づつとはいえ、長く続いた団体戦もおしまいの時間となりました』


男子部長「うーむ、あわよくば2位くらいにはなれると思ってたんだけど……」

由華「上位2チームに大差つけられちゃったわ。鍛え直しね」

初瀬「そうですね」

玄『では、この後はお片づけしてから閉会になります』

和「チーム清澄プチ反省会です」

やえ「はい」

京太郎「お願いします」


ムロ「まずは、先鋒の小走さんですけど」

やえ「私の場合、言ってもあのカンが裏目に出たくらいよね」

まこ「それが致命的なんじゃが……」

和「論外です。語るに及ばず」

やえ「うわーん」


まこ「ほんじゃ、次はわしか」

京太郎「染谷先輩の反省点かぁ」

まこ「ちゅーか見とった?」

ムロ「見てました見てました」

やえ「特になしっと」

まこ「いやまあ、別にええんじゃけど」


京太郎「次、中堅ムロ公」

ムロ「わんこみたく言わないでください。で、どうでした?」

和「語る術なし」

ムロ「それって……?」

まこ「文句無しの出来栄え。上出来じゃ」

ムロ「やった!」

和「とてもよかったですよ。ただ、ところどころ不自然な打牌はありましたが」

やえ「悔しいけど、なかなかの貫録だったわ」

京太郎「いばっていいぞ」

ムロ「えっへん」


まこ「副将戦も、内容はそんな悪くは無かったけぇ」

やえ「そうね。順位キープして大将につなげてたし」

和「そう言ってもらえると、ありがたいです」

ムロ「じゃあ次ですね。その大将なんですけど……」


京太郎「…………」


まこ「おつかれさん。奈良の強豪2校相手に、ようやったわ」

やえ「私にも責任あるわ。一緒に反省しましょう」

和「はじめての団体戦ですし、実力を発揮できないのもしょうがないですよ」

ムロ「ごめんなさい。私がもっと稼げたら良かったんですけど」

京太郎「やめて。逆にツライ……」


憧「やったね、しず!」

灼「お疲れ、大将」

穏乃「うん、ありがと。あのさ……」

憧「ん?」

穏乃「京太郎なんだけど、ちょっと違和感あって」

玄「ああ、最後の」

穏乃「違和感っていうか、うーん、どっかで感じた事あるような……」


トシ「どうだい? 久しぶりにシラフでやり合った感想は」

京太郎「キツイです。こんな結果で返ってくるとなおさら」

トシ「あんたの場合、ゾーンに居続けるとかなり体力を消費するからね」


トシ「個人戦では長時間打ち続けるもの。どこかでインターバル入れなきゃ持たないわ」

京太郎「それが一番いいんでしょうけど」

トシ「スタミナを付けるのも良いけど、なるべく温存して戦いたい」

京太郎「時々は素の実力で勝負、ですか」


トシ「全国レベルのプレイヤーを相手にね」

京太郎「…………」

トシ「地区予選の時みたいに、マークした相手にだけ集中してっていうのはもう無理よ」


京太郎「はぁ……まだまだ課題は山積みだ」

由華『今日はみなさん、一日お疲れ様でした』

由華『では、最後に阿知賀女子さんからの挨拶で終わりたいと思います。それではどうぞ』

憧『あち、阿知賀女子学院の新子憧、です』


憧『ほ、本日は、お集まりいただいて、本当にありがとうございます』

玄「ちょっとハラハラするね」

穏乃「憧なら大丈夫ですよ」


憧『みなさんお忙しい中、このような素晴らしい壮行会を行ってくださってありがとうございます』

憧『去年に引き続き、阿知賀は全国大会に出場する事ができました』

憧『みなさんの応援を受けて、全国の舞台でも頑張っていきたいと思います』


京太郎「意外、とか言ったら失礼だけど」

まこ「ちゃんと喋れとるわな」

和「及第点、あげてもいいんじゃないですか?」

灼「まあまあ合格かな」


憧『最後に、皆様のこれからのご活躍を願って、締めの挨拶とさせていただきます』



憧「今日は本当に、ありがとうございますた!」ペッコリン


パチパチパチパチ


京太郎(噛んだ……)

和(噛みましたね……)

ムロ(ますた……)

灼(最後の最後に……)

  (噛んだ……)
    (噛んでも可愛い……)

穏乃「憧、ドンマイ!」

玄「し、しずちゃん……」


パチパチパチパチ

憧「…………」



憧(……死にたい)

今日はここまで

死にました。おしまい

おつー
対局最後の京太郎はゾーン入りかけ?


2位も阿知賀になってますな

こんばんわ
激強打破飲んでがんばるぞい

>>193
入りかけってか、ずっぽし入っちゃってますねぇ

>>194
ご指摘ありがとうございます
>>185
まちがい
やえ『2位阿知賀、3位晩成女子、男子は最下位』
ただしい
やえ『2位清澄、3位晩成女子、男子は最下位』

原作最新話で爽くんが色々凄い事してましたね
ちなみにオシラサマのルーツにアイヌのチセイコロカムイという宅神があるという説があるようです
今回はムロのオカルト形成についてのお話

それでは投下します

松実館


玄「ただいまー」

宥「お帰りなさいませ。練習試合おつかれさまでした」

ムロ「ただいま戻りました」

まこ「はあ~つっかれたのう」

京太郎「ですね。ところで……」


穏乃「ん?」

灼「ひとっ風呂はいりた……」

京太郎「なんで阿知賀のみんなまで? ってか」


桜子「うおお! 玄ちゃん家ひさしぶりー!」

ひな「まずは温泉でリフレッシュしたい所存ー」

綾「うーん、私はまだいいかな」

京太郎「増えてる……」


ムロ「地元の子ですか?」

和「はい」

和「以前、赤土さんが主催していた麻雀クラブに所属していた子達です」

京太郎「へぇ。すると今は中学生か?」


和「自己紹介、できますか?」

桜子「はいはーい! ギバード桜子、中学1年生です!」

ひな「山谷ひな。吉野小6年ー」

綾「阿知賀中2年、志崎綾です」

京太郎「ご丁寧にどうも。オレは須賀京太郎、こっちが」

ムロ「清澄高校1年、室橋裕子です。よろしくね」


京太郎「赤土さん時代からって事は、麻雀歴は少なくても5年以上……オレより先輩だな」

和「実力も申し分ないですよ」

桜子「麻雀やろ! 麻雀!」

憧「あとでね」


和「実は今日、麻雀部の関係者や保護者らで行う激励会がありまして」

穏乃「と言っても、アレ実質宴会だけどね」

灼「子供は遊んで大人は飲んで……みたいな」

玄「京太郎君達もどう?」

京太郎「え? いいんですか?」

灼「特に関係者じゃない地元の人もやってくるから大丈夫だと思……」

穏乃「みんな阿知賀女子麻雀部の応援団ってことでね」

京太郎「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」


灼「それまで時間あるし、お風呂行ってくる」

憧「あ、私もー」

桜子「あこちゃん一緒にはいろー!」

ムロ「私も入ってきますね」

京太郎「おう」

穏乃「私はひとっ走りしてくるよ!」

京太郎「おう……は?」


まこ「ほんじゃ、わしは本懐を遂げさしてもらうけぇ」

グイッ

宥「ええ、私? な、なんですか?」

まこ「誰か入りたい奴おるかー?」

松実館 大浴場


桜子「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁ」

ひな「いきかえるー」

憧「小学生のうちからオヤジくさいわよアンタ達」


ムロ「でもホント……いい湯だなぁ」

玄「あははん♪」

灼「玄……」

玄「ついね。言っちゃうよね」


ムロ「ところで、さっき高鴨さんが飛び出してっちゃいましたけど……」

玄「穏乃ちゃんは汗を流してから入るって」

ムロ「何処へ?」

玄「山へ」


灼「相変わらずの山好き」

ムロ「そういえば、高鴨さんって小さい頃から山を駆け回ってたって聞きました」


ムロ「修験者が歩いた山路を庭のように……それで」

ムロ「高鴨さんは山の深いところを支配する能力を得た……」

灼「私も聞きたい事あるんだけど」

ムロ「ん、なんでしょう?」


灼「あの、今日の対局でリーチ……」
憧「そうそう! なにアレ! すっごくビックリしたんだけど!?」

灼「わずらわし……」

ムロ「アレですか? 園城寺さんに伝授してもらいました」

憧「だろうね!」

玄「アレ、習うものなんだ」

ムロ「先月だったかな? その時に」


憧「へぇ。私も教えてもらおうかしら」

ムロ「あ、でも条件がありまして」

灼「条件……なに?」


ムロ「半荘で3回、一発付けて和了る事」


玄「ええー!?」

憧「一発……しかも3回とか。相当の運ゲーね」

ムロ「ウチの象徴みたいなもんやし、やりたいんならこんくらい出来ひんとなぁって」

灼「室橋さんはクリアしたんだよね。もちろん」

ムロ「はい。その時は半荘やって5回も付いちゃいました」

玄「半分以上、ムロちゃんが和了ったんだ……」


憧「つまり……そういう事? 一巡先見えちゃうって事?」

ムロ「いえ、そういうんじゃないです」

玄「だよねー。園城寺さんみたいな人がいくつも居るわけ……」


ムロ「自分のツモ牌しか見えませんし」

玄「居たよ」



松実館 宴会場


まこ「さーてと」

綾「わ、私なんかが同卓してもいいんでしょうか?」

和「あまり緊張せず、普段通りで大丈夫ですからね」

綾「は、はい」

宥「えっと、あと一人は……」

京太郎「オレ入ります」

京太郎「いつもは友達と打ってるの?」

綾「はい。中学の部活と、あとたまに高校の麻雀部の人達と」

京太郎「ふーん、学校以外では?」

綾「全然です、顔見知り以外の人と打つのは。それに男の人とも、あまり……」

和「阿知賀は中高一貫ですから、慣れてないみたいなんですよ」

京太郎「へぇ、そっかー。オレも、そんな初々しい時期があったなぁ」


和「……ありましたっけ?」

まこ「んー、どうじゃったかのう……」

京太郎「あったよ? 入学したての頃とか」


宥「清澄は、男子は京太郎君だけなんだっけ」

京太郎「そうなんですよ。別に男女で分かれてるわけでもないのに」

京太郎「男女比1:5ですよ」


京太郎「しかも、今年の新入生には『男子麻雀部って存在したんだ?』なーんて言われるし」

綾「ははは……」

和「それはそれは……」


まこ「今度の大会で頑張って目に物見せたれ。ほんじゃ、始めるかいね!」

京太郎「はい。よろしくお願いします」

宥「お願いします」

憧「ほーら、ちゃんと洗わないと傷んじゃうわよ」

ワッシャワッシャ

桜子「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁ」

ひな「次おねがいー」


玄「……それで、お母さんが言ってた『ドラを大切にしなさい』って言葉を守っていたら」

玄「いつの頃からか、ドラがたくさん来るようになったんだ」

ムロ「そうだったんですか……」


灼「室橋さんの能力も、なにか自身に関係あるものだったりするのかな」

ムロ「うーん、どうなんでしょうか」


ムロ「この能力が発現したのが今年の4月で、自分もまだよくわかってない……」

灼「思いのほか最近」

玄「わわ、そうだったんだ。何かきっかけとかあったかな?」

ムロ「きっかけ……そういえば、熊倉先生が初めて来た日に不思議な和了をしたんです」


玄「熊倉さんかー」

灼「あの人なら、なにやってもおかしくな……」

ムロ「あ、いや、その前にスランプがあって」

ムロ「あれは前兆……だったのかな」

灼「それは、いつから?」

ムロ「えーと、そこから1ヶ月くらい前だったから……」


ムロ「3月……あっ」

玄「思い出した?」

ムロ「はい。多分、なんですけど」



5ヶ月前 清澄高校 麻雀部部室 卒業式後


久「うっく……ひぅ……」

まこ「ほれ、ええ加減泣きやみんさい」

久「だ、だってぇ……」


マホ「ふわあぁぁ……ぐしゅ……うぅ……」

ムロ「はい、ちーん」

マホ「ぶぅぅぅっ! ……あうぅ……」


和「ムロ、マホちゃん……わざわざ来てくれて、ありがとうございます」

ムロ「いえ……」

京太郎「二人も居なくなると……なおさら淋しくなりますね」

久「うう……須賀くぅん。私、あまり貴方にかまってあげられなくって……ゴメンねぇ」

京太郎「そんな事ないですよ。まぁ、確かに女子は大会ありましたけど」

京太郎「秋からはオレの指導に注力してくれて、感謝してます。ありがとうございました」

久「わ、わだしの方こそ……ありがどおおぉぉぉ……!」

まこ「ああ、また」


和「やはり、離れ離れになるのは淋しいですね。何度体験していても……」

ムロ「はい……」

マホ「のどかせんぱぁい……ふえぇぇ」

和「大丈夫ですよ」


和「優希が言っていたように、また、すぐに会えます」

ムロ「はい」


京太郎「あっちでも達者でな。って、穏乃達も居るし大丈夫か」

和「顔見知りが居るのはありがたいですね」

和「阿知賀では2年住んでいました」

和「長野では3年。そのうち2年は高遠原、1年は清澄に通って……」

ムロ「あっという間でした」

和「そうですね。短い間ですけど、貴方達に麻雀を教えるのは楽しかったです」

マホ「マホも、とっても楽しかったです」


和「もう、私の手を離れても大丈夫ですね」

ムロ「え……」


和「時間の許す限り、教えられる事は全て教えました」

京太郎「ホント、普通なら無茶ってくらいに詰め込んだ内容だったからな」

和「それでもついてきてくれて、嬉しかったですよ」

京太郎「まぁな」


ムロ「わ、わたし……」

和「ムロ?」

ムロ「私は、まだ全然……ダメダメです……」


ムロ「もっと……もっと和先輩に、教えてもらいたいです……!」


和「それは……」

ムロ「……ごめんなさい」

ムロ「なんだか和先輩の存在が遠くなるような」

ムロ「繋がりが、無くなっちゃう気がして……」

和「そんな事ありませんよ」

ムロ「でも、不安なんです……」

京太郎「ムロの気持ち、わからんでもない」


京太郎「それはきっと、自信無いからだよ」

京太郎「つい、どうしても和達と比べちゃってさ。つまるところ、オレ達はまだ何も成してない」

ムロ「そう、かもしれません……」

京太郎「じゃあ、これからすべき事はわかってるよな?」

ムロ「……はい」

京太郎「そういう事だ」

和「ムロ……」


ムロ「和先輩……私、これから頑張ります」

和「はい。頑張ってください。応援していますよ」

京太郎「あっち行っても元気でやれよ。オレらも、もっと強くなって追いつくから」

和「はい。待ってます」




ムロ「それから猛勉強して、でも上手くいかなくて……」

ムロ「きっと、まだ心のどこかで吹っ切れてなかったんだと思います」


ムロ「私に道を示してほしい……なんて思いが。だから」


玄「それがムロちゃんのオカルトとして表れた」

ムロ「そういう事かと」

ムロ(宮永プロも、本来の姿じゃないって言ってたし)

灼「なるほど」


憧「そろそろ上がるわよー」

桜子「あーい」

ひな「風呂上がりの一杯はコーヒー牛乳を所望ー」

玄「あ、私もお手伝いとかしないと。お先に上がるね」

灼「うん」


チャプン


灼「はふ……」

ムロ「ふぅ、ん……」

灼「…………」

ムロ「ぁ……」


ムロ「今日は、願いが叶いました」


ムロ「リベンジっていうか、鬱憤を晴らす事ができたんです」

ムロ「2年越しで……やっとバトンを渡せたっていうか」

灼「そ……」

ムロ「はい」


灼「……受け取ったら渡さないとね」

ムロ「ですね」

灼「私も、昔ハルちゃんに貰ったモノがあったんだ」

灼「それは……色々あって、ずっとほったらかしたままだったけど」


灼「でも去年、やっとお返しできた」

灼「私はそれに10年かかったけどね」


ムロ「へえ……」

灼「ふぅ、私もあがろ。お先」

ザパァ

ムロ「…………」


ムロ(10年……上には上がいるもんだなぁ)

今日はここまで

あの末原さんの状態がムロのオシラサマ反転状態に似ちゃってたりして

ネリーのオカルトはコピーとかゲオルギウスとか色々言われてるけど
このSS的にはアミランです。当たってたらいいな

こんばんわ

このSSは部活の先輩後輩という関係性に焦点を当てたSSです
そういえば今は妹キャラなんて普通にテンプレだけど、昔はそこは後輩キャラが定番だったんですよね
なんもかんもシス○リのせい……

ゆるーく投下します

南4局 オーラス
親:松実宥


まこ「ロン! 2000!」

綾「あうっ」

和「はい、そこまでです」


まこ「っしゃあ!」

京太郎「おお、遂にこれで」

まこ「リベンジ達成じゃあ!」

宥「おめでとうございます」


京太郎「これで去年の次鋒全員に勝ち越しましたね」

和「それはすごいですね」

まこ「もっと褒めて、もっと称えてもええんじゃよー? んー?」

ムロ「こんなに有頂天な染谷部長は初めてだ……」


綾「あうぅ……すみません。最後の最後にやってしまいました」

宥「ううん、これも麻雀だもの」


宥「4人でするから、なかなか自分の思った通りにいかないよね」

綾「はい……でも、次はもっと頑張ります!」

宥「うん。その意気だよ」

桜子「ああ! 私も麻雀するー!」

憧「あがったよー。和達も入ってきたら?」

和「そうですね、では」

綾「お供します」


穏乃「ふぃーいい汗かいたー」

灼「これはまた……」

ムロ「ずいぶんと走りこんだみたいですね……」

穏乃「走った後に浴びるシャワーがまた気持ちよくって! あ、お風呂セット忘れた……」


穏乃「走って取ってくる!」ダッ

ムロ「ええ!?」

玄「穏乃ちゃん、ウチの貸すよ?」


まこ「京太郎は?」

京太郎「オレはもう少し後に。たった今、勝負を挑まれてしまって」

桜子「始めるよ!」

ひな「おねがいしますー」

京太郎「さぁて、コイツら倒して気分スッキリしてから、体の方もサッパリさせようかね」

ひな「舐められたものだな」

桜子「一度吐いた唾は飲めぬぞ」

宥「あはは……」

綾「リベンジよろしくね!」



東一局
親:須賀京太郎


京太郎「オレが起親だ」

桜子「やったるぞおおおお」

京太郎「カモカモーン」

チャッチャッ


京太郎(宥さんの打ち筋はさっきの対局で大体わかったぞ。さて、この子達はどうかな?)

ひな「それポンー」カシャッ

京太郎(いいぜ、鳴けばさらに情報量が増える)


京太郎(理牌の癖、そして視点移動から手牌を……)

桜子「むーん」

京太郎(視点移動……)

桜子「おおー」

京太郎(視点……)

対局結果

1位 松実宥「また勝っちゃった」
2位 ギバード桜子「やったあぁぁ!」
3位 山谷ひな「これくらいにしといてやろー」
4位 須賀京太郎「今日は全然ついてねぇ……」


京太郎「クッ……動揺して崩れちまったぜ」

桜子「京ちゃんに勝ったああぁぁぁぁ!」

ひな「年季が違うよー」

憧「小学校から打ってたもんね」

京太郎「はぁ……やっぱ小さい頃から始めると違うもんなのかな」

玄「そういえば、赤土先生が言ってたんだけど」


晴絵『この短期間でここまで待ちの受け入れ方や読みの精度が上げられる吸収力』

晴絵『まったく、小学生は最高ね!』


玄「って」

京太郎「子供の学習能力ってスゲー」


桜子「どーだい!」

京太郎「いや恐れ入った。さすが、オレより先輩なだけあるよ」

ひな「ぐうの音も出まい」

憧「もう、すぐ調子乗って」


グゥゥゥゥ

京太郎「あ、出た」

ひな「これはこれはお恥ずかしいー」


桜子「お腹空いた……」



玄「そろそろ大人の人も集まる頃だし、みんなの分もすぐ用意するね」


ムロ「先輩も入ってきたらどうです? お風呂」

京太郎「だな、もうヘトヘト。それじゃ行ってくる」

ムロ「はい、またあとで」


憧「さっすが宥姉、相変わらず安定してる!」

宥「ありがとう。でも、京太郎君の対応力もなかなかだったよ」

灼「そ……?」

宥「うん、私のフェイントが通用しなかったの」

灼「見破られてる?」

宥「多分……」

まこ「ふぅ……良いお湯でしたわい」

穏乃「サッパリしたー」


京太郎「今あがりですか?」

まこ「おーう」

京太郎「もうすぐ食事の用意するって言ってましたよ」

穏乃「やった!」

綾「わあ、メニューなんだろう?」


京太郎「和はもう?」

まこ「いんや、まだじゃ。アンタもはよしんさいよ」

京太郎「はい。それでは」



松実館 大浴場


チャプン

京太郎「あ゙っ」

ザバー

京太郎「はああああぁぁ……」


京太郎「……ああ、今日も疲れたぁ」

ムロ「先輩の打ち筋ですか?」

宥「うん。ちょっと気になって」

ムロ「先輩は基本的にデジタルですよ」

憧「ムロみたいに、なにか見えるわけじゃなくって?」

ムロ「そういうのは先輩には無いです。でも……」


ムロ「見えるって言うよりかは、見てるって感じですかね」


宥「見るの?」

ムロ「はい。相手の視点移動、捨て牌、手牌。さらにその中の牌のグループの位置だとか」

灼「その打ち方って……」

ムロ「去年、風越のキャプテンだった福路さんに指導してもらったんです」

憧「おお、あの気がきく県1位の!」


宥「じゃあ、私の染め手の引っ掛けは……」

ムロ「先輩も宥さんの牌の偏りは知ってるので、考慮して打ってたと思います」

宥「そっかぁ、逆に私は相手を意識しすぎちゃって。自分でツモを狙って行けばよかったかな」

憧「でも、結果は宥姉に白星だったけどね」

宥「ところで、さっき言ってたのだけど……」


宥「ムロちゃんは何が見えるの?」

灼「どうやら、次にツモる牌が見えるらし……」

宥「わぁお」

ムロ「宥さんって違うんですか?」

宥「ち、違うよ? あったかい牌が集まってくるのはわかるんだけど」


宥「あったかくない牌も来ちゃうし、たまに裏目っちゃう事もあるもん」

灼「私も」

憧「白糸台の大星淡も、しずに突破された時は見えてなかったわよね」

宥「だから、ピンポイントで牌が見える人なんてムロちゃんと、それこそ園城寺さんくらいじゃないかなぁ?」


穏乃「おなすいー」

まこ「戻ったぞー」

綾「ただいまー」

宥「おかえりなさい。ちょっとお喋りしすぎちゃったみたい」


宥「それじゃあ、私もお手伝いしに行かないと」

灼「雀卓、片付けとく」

宥「ありがとう、灼ちゃん」

憧「ほら、私達も手伝うわよ」

桜子「はーい」


ムロ「和先輩、遅いですね」

まこ「ほうじゃのう。仕度に時間かかっとるのかもしれんけぇ、ちょっくら見てきんさい」

ムロ「わかりました」

京太郎「シメに水風呂入ってスッキリ爽快……ん?」

和「はふぅ……」


京太郎「和?」

和「あれ、須賀君? 早いですね」

京太郎「男の入浴時間なんてこんなもんだよ。和の方はずいぶん長風呂のようで」

和「実は、のぼせてしまって……」

京太郎「おいおい大丈夫かよ。ちょっと待ってろ」

和「あ……」


京太郎「はい」

和「すみません、わざわざ」

京太郎「ちゃんと水分補給しとかないと。夏場は特に」

和「返す言葉もありません……いただきます」


京太郎「…………」

和「コクコク、んっ」

京太郎「…………」

和「ふぅ……」

京太郎「あー、そういや……元気?」


和「まだちょっとクラクラします……」

京太郎「いや、ちがくて」

京太郎「転校してからさ、あれから阿知賀での生活はどうだ?」

和「え? ああ、ですよね……すみません」

京太郎「以前住んでた町だから慣れてるだろうけど」

和「そうですね。ここは昔から変わりません」


和「古くからの景観を守ってきた土地でもありますし」

京太郎「歴史あるもんな」

和「それに、離れていたのは3年間ですからね。それで変化のある方が珍しいです」

京太郎「ま、そりゃそうだ」

和「クラスの顔ぶれも……そうですね、憧の成長ぶりには驚かされましたが」

京太郎「ああ、オレも新子さんの昔の画像見せてもらったけど」


京太郎「アレ見ると、優希ももうちょっとなんとかならんかったのかと……」

和「それ以上よくないですよ」


和「こういう場所だから、戻って来た時のギャップというのはあまり感じませんでした」

和「……離れていた3年間なんて無かったみたいに」


京太郎「和?」

和「いえ……」

和「逆に須賀君は、何か変わった事ありますか?」

京太郎「オレか? オレの方は、そうだなぁ……うーん」


京太郎「相変わらずだよ。いつもの場所で、いつものメンバーで麻雀して」


京太郎「たまにお茶して」

和「たまに?」

京太郎「時々……」

和「時々?」

京太郎「しょっちゅう……」


和「ああ、変わりないようですね」

京太郎「それで判断すんのかよ」


和「ふふふ。でも、変わったところもありますよ?」

京太郎「ええ? わっかんねーな、自分じゃ」

和「近すぎて、日々の変化には鈍いみたいですね」

京太郎「和から見ればわかる?」

和「はい、それはもうハッキリと」

京太郎「ヒントくれ」

和「うーん、これはもうほぼ答えを言ってる様なものですけど……ヒント、新入生です」

京太郎「ムロか? 確かに見た目変わったよな」

和「髪も長くなって、雰囲気も女の子っぽさが増したような気がします」


和「そう思いませんか?」

京太郎「高校に上がって清澄の制服になったから、そう感じるのかも」

和「外見だけでなく、性格も明るくなったみたいですし」

京太郎「明るくねぇ……アクティブになるのはいいんだけど」

和「だけど?」

京太郎「良くも悪くも遠慮が無くなってきてるというか」


京太郎「ワガママ言ったり、からかってきたりしてさ。オレ一応これでも先輩なんだぜ?」

和「それは意外です」

京太郎「和とか優希達の前ではイイ子ちゃんなんだよなぁ」

和「今まで、そういうところは私達には見せませんでしたね」


和「須賀君には見せられる、と言う事ですか」

ムロ「和せんぱーい?」

和「あら、ムロ。迎えに来てくれたんですか」


ムロ「もう夕食の準備出来てますよ。ついでに先輩も居たんですね」

京太郎「ついでとはなんだ。和がのぼせちゃったから介抱してたんだよ」

ムロ「えっ大丈夫ですか!?」


和「はい、すっかり回復しました」

京太郎「それでは、お待ちかねの晩飯にするとしますか」

ムロ「しますか」


京太郎「っと、その前に……服とかタオル部屋に置いてくるわ。先行ってて」

ムロ「了解です」

和「お先です」


ムロ「じゃ、行きましょ」

和「…………」ジー

ムロ「ん? なんですか?」

和「髪、伸びましたね」

ムロ「そうなんですよ、長めにしようと思いまして。どうですかね?」

和「長いのも似合ってますよ」

ムロ「えへへ、やった」



松実館 宴会場


ガヤガヤ

ムロ「更に人いっぱい居る」

和「私達の席は……」

玄「あ、来た来た」

和「すみません、遅れました。少しのぼせてしまって」

玄「え、そ、そうなの!?」


玄「血行マッサージしとこうか?」ワキワキ

和「結構です。その手つきもやめてください」

ムロ(けっこう、なだけに……)


まこ「おーい、こっちじゃこっち」

穏乃「モグッモグッ」

桜子「あむあむ」

ひな「んまー」

ムロ「あれ、お料理ってこうゆうでしたっけ?」

憧「ちっちゃい子は旅館の御膳料理よりも、こういうのが好きだからね」

まこ「旅館のメニューとは別でオードブルをケータリングしたんじゃよ」

ムロ「なるほど」

宥「お皿に好きなの取っていってね」

まこ「京太郎は?」

ムロ「荷物置いてくるって部屋に戻りました。すぐ来ると思いますけど……」


京太郎「おなぺこー」ガララ

和「来たみたいですね」


  「いやぁ、めでたい席で飲む酒はウマイのう」
    「ガッハッハ。おう、兄ちゃんも飲め飲め!」
      「若いもんがいっちょまえに遠慮すんな、ホレホレ」

京太郎「ええ!? いやあの、オレは……」

ムロ「捕まったみたいですね」


玄「あ、ダメですよ? 京太郎君はまだ未成年なのです!」


京太郎「そうなんですよ、じゃ失礼しま……」

  「へぇ、そーなの! こんな立派なタッパして男前でねぇ」
    「今時の若ぇのはすごいもんなあ! ほれ見てみコレ、何センチだ身長?」

京太郎「はは、どうも……」


まこ「ありゃあ、しばらくは逃げられんぞ」

ムロ「……先に食べちゃいましょうか」

和「そうしましょう」

憧「ちゃんと野菜も食べなさいよー」

穏乃「わかってるってば」

ムロ「オードブルといえば、やっぱりお肉とか揚げ物が多いですね」

和「エビフライにローストビーフ、ウインナーと色々ありますね」


ムロ「ウインナーといえば、大阪に遠征行った時に本場のウインナー食べて来たんです」

和「本場って、ドイツですか?」

ムロ「はい。ドイツ料理のお店なんですけど、種類もいっぱいあって」

ムロ「ハーブとかスパイス入ってたりするんですよ」

和「それは美味しそうです」

ムロ「味も日本のとはまた少し違うんです」


和「こっちにはお寿司が」

ムロ「そういえば、ニュージーランドでお寿司っていえば巻き寿司の事なんですって」

和「へぇ、向こうにもお寿司あるんですね」

ムロ「ネタはサーモンとアボカドらしいです」

和「アボカドですか……ちょっと想像つきません」

ムロ「元宮守女子のエイスリンさんに教えてもらったんですよ」

和「次鋒だった留学生の方ですね」


ムロ「宮守の人達とは仙台でお会いしたんですけど、その時食べた牛タンが……」

和「麻雀しに行ってるんですよね?」

穏乃「くぅぅ……ワサビがツーンって……!」

憧「はい、コーラ飲むとなおるんだってさ」

穏乃「んっんっプハッ……なおった!」

桜子「うぉースゲー!」


ムロ「持ってきましたー。先輩はまだですか?」

まこ「酔っ払いっちゅーもんはの、なかなか話に区切りつかんのよ」


まこ「しかもこっちの話は聞かんくせに一方的に喋りおるしさっき言った事と今言った事が矛盾しとるのなんてザラじゃし何故かエラそうにするしうるさいし話ループするし……」

和「じ、実感こもってますね……」

ムロ「えっと、先輩は今どこに?」


京太郎「いい飲みっぷりですねー。さ、もう一杯」トットットッ

  「どうもどうも。おっとっと……」

京太郎「あ、こっちのグラスも空いてますよ。ささ」トットットッ

  「おお、スマンねえ。おっとっと……」

京太郎「そちらの方もどうぞどうぞ」トットットッ

  「ありがとよ。おっとっと……」


まこ「アイツ、お酌しながら段々こっちに近づいてきとる!?」

和「順に注いでいって、最終的にこちらに辿り着くつもりですか」

ムロ「また無駄に地味なスキルを身に付けましたね」

京太郎「さぁ、グイっといっちゃってください」

ムロ「おやおや、こりゃどうも」

京太郎「って、なんだムロか」

まこ「おつとめ御苦労さん」

京太郎「なんとか脱出できました。やれやれ……」


和「では染谷先輩もどうぞ」トットットッ

まこ「おっとっと……つい言ってしまうわ、コレ」

ムロ「日本人あるあるですね」

京太郎「やっとメシ食えるぜー」

ムロ「先輩の分も取ってきましたよ」

京太郎「お、サンキュ。気が効くねぇ」

・ねぎま
・なんこつ
・レバー
・つくね

京太郎「な? こういう事するんだコイツは」

グリグリ

ムロ「あぅあぅ」

和「……プフ」

京太郎「お前もか。お前も共犯なのか」

まこ「まあまあ。とりあえず乾杯しようかい」

ムロ「そうひましょ、ね?」

京太郎「ったく……もうムロいじめる体力も無いし、許してやろう」


和「それでは、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


京太郎「ゴクゴク……ぷはぁっ! 生き返る~」

まこ「ええ飲みっぷりじゃのう。ジュースじゃが」

ムロ「はい、ちゃんとサンドウィッチとかも用意してますからね」

京太郎「それを最初から出せよって話だよ。いただきまーす」

まこ「美味そうじゃのう」

和「あ、そういえば聞きたかった事があるんですけど……」

ムロ「黒烏龍茶あってラッキー」


和「ムロは須賀君のドコに惚れたんですか?」


ムロ「ぶっふぉ!?」

京太郎「オアー!?」

ムロ「ゲホッゴホッ……!」

まこ「な、なんじゃい!?」

和「二人の馴れ染めを聞こうと思ったのですが……」

京太郎「だ、だいじょぶか? コレで拭け」

ムロ「すびばせん……ケホッ」


まこ「気付いとったんか」

和「見ればわかりますよ」


和「なんというか、距離が近いといいますか」

まこ「ふぅん、そうかのう?」


まこ「部活仲間で男女仲良いなんて、よくある話じゃろ?」

和「言葉では説明しにくいんですけど、須賀君の対応が優希や咲さんとは違うんですよね」

和「ムロだけに見せる表情、というか」

まこ「他には?」


和「例えば会話でも、わざと相手の欲しい言葉を外したりして反応を楽しんでいる様子ですし」

和「言われた方も不満なリアクションはとりますけど、まんざらではないみたいで」

和「逆にそれが、お互いを深く理解しあっている感じがします」

まこ「ほうほう」


和「あとボディタッチ、多すぎです」

まこ「ふむふむ、なるほどのう」

和「それで?」

まこ「ん?」

和「実際のところ、どうなんですか? まあ……」


ムロ「ぅ……っぁ……」プルプル

京太郎「ハッズ……なにこれ」

和「お二人の反応を見れば一目瞭然というものです」


まこ「おんやぁ? 二人して真っ赤になって。ジュースに酒でも入っとったか?」

京太郎「うっわぁ、わざとらしい」

京太郎「つーか冷静に分析とかしないでくれます? そういうのめっちゃ恥ずかしいんですけど」

和「すみません。でも……」


和「こういうのめっちゃ楽しんですけど」ワクワク

京太郎「あ゙あ゙ぁぁぁぁ!」

ムロ「ぅ……っぁ……」プルプル

今日はここまで
なんかオカルトの設定で書かなきゃいけない事があった気がしたけど忘れちゃった

乙乙
風呂上がりの憧穏和見て冷静でいられる自信ないわー
京太郎の精神どうなってるんだ

こんばんわ
夏ですね。冬に夏が舞台の話書いてて違和感覚えてたのにもう夏ですよ
早いものですね

>>248
心中穏やかではないです

投下します。短い

まこ「ほんで、他になんか気になったトコあるん?」

和「そうですねぇ」

京太郎「まだ続けんの……」


和「ムロ?」

ムロ「ぅぁぁ……あ、は、はい!?」

和「須賀君には色々とワガママ言ってるそうですね」

ムロ「えと、そんなつもりはないんですけど……ゴメンナサイ?」


和「昔のムロは、先輩のいう事はよく聞く出来た後輩だったのですけど」

ムロ「いえ、私なんか……」

和「マホちゃんの面倒もよく見てくれたりして」

ムロ「はい」

まこ「そこは憚らんのか」


和「それがいつの間にか、こんなに甘えん坊になってしまって」

ムロ「あまっ……!?」


和「それも仕方のない事なのかもしれませんね」

まこ「県予選で結果出るまで余裕無かったけぇのう」

まこ「和の課題地獄に始まって優希の転校、卒業式があってその後のスランプ……」

和「今まで誰かに頼る事はしなかったみたいですし、溜まっていた欲求が爆発したんでしょうね」

ムロ「そんなんじゃないですってば!」


和「でもムロ? あなた須賀君と居る時は表情が柔らかくなってるんですよ」

まこ「それはわしも思っとった」

和「ムロのあんなに優しそうな顔は初めてかもしれません」

ムロ「別に、普通の顔してるつもりですけど」

和「否定はしないんですね」

ムロ「えっと……」


ムロ「そんな顔、してるんですかね?」


まこ「ククッしとるしとる。京太郎とおると、よう見るわ」

和「なんでしたら鏡か、写真でも撮りましょうか?」

ムロ「いいですよ……」


まこ「ほれ、茶でも飲んでまったりせい」トクトク

ムロ「どうもです。ってか、さっきから私ばっかり」

和「そうですね、一方にだけ問い詰めるのも不公平ですよね」

和「じゃあ、須賀君に質問なんですけど……須賀君?」


京太郎「ねぎまはね、鶏肉よりも中のねぎが一番美味しいんだ」

和「聞こえないフリしても無駄ですよ」

和「須賀君って、長い髪の女の子が好みなんですよね?」

京太郎「まぁ、どっちかっていうと……」

和「ふふ、やっぱりですか」

京太郎「え、なんなのバレてんの?」

和「振り向いてもらう為の努力がいじらしいと思いまして」

ムロ「べ、別に……」


京太郎「え? あぁ……そう、だったんだ」

ムロ「いや、あの……」

まこ「なんじゃいお前、気づいとらんかったんか」

京太郎「スミマセン……」

和「どうして伸ばそうと思ったんですか?」

ムロ「うう、それは……」


ムロ「その……ただ、ほんのちょっとでいいから、先輩が見てくれる時間が増えたらなって」


まこ(わしゃもう限界かもしれん……!)

和(ちょっと待ってください、ここ一人にされると困ります……!)


京太郎「そ、そか……」

ムロ「うう……全然まったりできないぃ……」

京太郎「それは、なんか……嬉しいかも」

ムロ「そう言ってもらえると、私も……嬉しいです」


まこ「あー、ちょっとつつくと物凄いのが出てきよるわ。あっつー」パタパタ

和「ふぅ……見てるこっちが耐えられません」

まこ「何飲む?」

和「では、オレンジジュースを」


京太郎「…………」

ムロ「…………」

京太郎「とりあえず、食べるか」

ムロ「食べますか」


京太郎「もぐもぐ」

ムロ「あむっ」

京太郎「うまいな」

ムロ「おいしいですね」


京太郎「もぐもぐ……」

ムロ「あむ……」

和「それで? お二人がそういう関係になったのは、いつ頃の話なんですか?」

京太郎「ド直球きたな」

和「変化球投げてもヒット飛ばしてくるので」


京太郎「夏祭りの時にちょっとあったんだよ」

まこ「この時京太郎、意外に素直」

京太郎「別に隠す事でもないですし、追求されるのハズイんで」


和「清澄花火大会ですか?」

京太郎「そうそう、去年みんなで行ったやつ」

和「へぇ。それは、なかなかのシチュエーションですね」


京太郎「そこでムロに告られた」

ムロ「ブフッ」


まこ「送りバントの構えでホームラン打ってきたわ……」

和「マジですか? えっマジなんですか?」

ムロ「ちょ……ケホッ」

和「本当に? ムロから?」

ムロ「えーまあ、ホントかどうかと言われれば……ホントなんですけど」

和「はぁ……すごいです」


和「なんというか積極的というか、大胆ですね」

まこ「実は当日のちょっと前に相談されての、二人きりにしてくれっちゅーて」

ムロ「そ、染谷部長! ソレは……」

和「計画的犯行じゃないですか!」


京太郎「そういや、祭り来てすぐ居なくなってたな。なんか不自然だと思ってたけど」

ムロ「うああ……」プルプル


まこ「おっとスマンスマン。つい、な」

ムロ「言っちゃあ駄目でしょ! そーいうの!」

和「したたかなんですね」

ムロ「うう……絶対に確信犯だ、愉快犯だ……」

和「それで、二人きりになって、一体、何を、どうしたんです!?」

ムロ「いやもう、これ以上は恥ずかしすぎて死にますって」

京太郎「さっきからテンションおかしくないか?」


和「いたって平常ですが?」

京太郎「全然見えない」


ブーブー

和「あら、もう迎えが来る時間みたいです」

ムロ「ほっ……」

和「残念ですが、この話はまた次回に」

京太郎「そうしてくれ。今日はもう色々と限界だ」


和「次は咲さんと優希も呼んで、久しぶりにみんなで集まりましょうか」

京太郎「ああ……」

ムロ「はははは」



松実館 ロビー


和「では、これで失礼します。また東京でお会いしましょう」

穏乃「じゃあねー! またねー!」

ムロ「はい。さようなら」

京太郎「まさかあんな話の流れになるとはな……」

ムロ「あはは……もう渇いた笑いしか出てこないです」


ムロ「もう寝よ……」

京太郎「そうだな。あ……」

ムロ「どうしました?」


京太郎「いや、なんでもないんだけど、ちょっと用事ができた。ムロは先に寝ちゃってくれ」

ムロ「はぁ……それじゃあ、おやすみなさい」



京太郎「食器とゴミの分別と、やっておきました」

宥「ゴメンね、手伝ってもらっちゃって」

京太郎「いえ、なんか久しぶりに雑用魂に火がつきまして」

玄「それはまた難儀な性格だね。でも、ありがとう」


宥「お疲れ様でした。明日チェックアウト10時だから、寝坊はダメだよ?」

京太郎「わかってます。それでは、おやすみなさい」

玄「おやすみなさい」

宥「おやすみなさい」


京太郎「ふう……」

京太郎(ああ、疲労が一気に……ダル)

京太郎(今日は、肉体的にも精神的にもかなり消耗した気がする)


京太郎(はぁ、よりにもよって和の前で……)


京太郎(ま、最初から高嶺の花ってやつだったんだが)

京太郎(縁が無いというか……)

京太郎(……最初あった時は全中王者でさ)


京太郎(それがインターハイでも大活躍して)

京太郎(さらに遠くに行っちまった……)


京太郎(オレ自身、全国の頂に近づいて……つっても、まだまだスタート地点だけど)

京太郎(実感したよ……)

京太郎「やっぱスゲーや、お前ら」


  「……先輩?」


京太郎「んん?」

ムロ「やっぱり先輩だ。まだ起きてたんですか」

京太郎「そっちこそ」

ムロ「私は……ちょっと忘れものを」

京太郎「なんだ、じゃあ早く取ってきたらいい。早く寝ないで、寝坊しちまったら置いてくぞ」

ムロ「いや、そういうんじゃなくって……」

京太郎「なに?」

ムロ「私、先輩に大事なコト言うの忘れてました」


ムロ「これ、まだ言ってなかったと思うんですけど……」

京太郎「なにさ」


ムロ「私、先輩のこと大好きです」


ムロ「では今度こそ、おやすみなさい」

京太郎「おう……」

パタパタパタ

京太郎「…………」


京太郎「早いうち、ちゃんとケリつけないとなぁ……色々と」

今日はここまで

長かった阿知賀編もおしまい
次回からは全国編です

こんばんわ

暑いですね。昼日中はまぁ太陽が昇ってるので暑いのはしょうがない気もしますけど
熱帯夜はホントに嫌になる……

投下します

ゆみ「その嶺上、取る必要無し」

マホ「はうっ!?」

ゆみ「チョンボだ。そのカン成立せず」



roof-top 店内


ゆみ「リーチ後のカンは、待ちが変わってしまえばチョンボだぞ」

マホ「うう、またやってしまいました……」

美穂子「あらあら」

久「今のは、誰をイメージしてやったの?」


マホ「宮永先輩です。宮永先輩はカンしてリーチしたり、いっぱいバリエーションがあって凄いと思ったのです」

マホ「真似しようとしましたが、マホはチョンボしてしまいました……」

久「ふむ、能力は再現できても……使い手に問題ありね」

智美「ワハハ」


ムロ「なに? またチョンボしたの、マホ」

マホ「はいです……」

久「あら、メイド服似合ってるわよ。ムロちゃん」

ムロ「ありがとうございます。はぁ、どうして私が……」

ムロ「ではこちら、ご注文のアイスの盛り合わせです」

美穂子「ありがとう。まあ、美味しそうね」

久「それでそれで? さっきのハムトーストは何位なの?」


ムロ「えと、ハムトーストは第……」

久「ゴクリ……」

ゆみ「む……」

智美「ワハハ……」


ムロ「……11位です」


久「ああ、惜しい!」

ゆみ「また外したか」


智美「最初に1位のカツ丼を当ててからは外しまくりだぞ」

ゆみ「これまでは意外性重視で注文してたのが」

美穂子「今回は当てにいったのに……わりと真面目に」

久「やーめーてー」


ムロ(てか、カツ丼が売上げ1位の喫茶店って……)

久「ラスト一品って時にこそ本領発揮すんの、私は」

美穂子「そういう事にしておきましょうか」

久「ホントよ?」


美穂子「さて溶けないうちに、いただきます」

久「でも、美穂子もまだまだね。この店の主な客層は中年男性なのよ?」

美穂子「この暑さじゃ、おじさまだってアイス食べたくなるわ」

久「でもでも、ここって結構クーラー効いてるし、注文してる間に身体が冷えちゃうんじゃないかしら?」

美穂子「その場合は、ホットコーヒーとの相性がいっそう良くなるわね」

久「でもでもでも……」


美穂子「バニラ食べる?」

久「食べる」


美穂子「ごちそうさまでした」

ムロ「じゃあ言いますよ? アイスの盛り合わせ、第……6位です」

美穂子「やったわ」

マホ「福路先輩スゴイです!」

ゆみ「さすが美穂子だ」

智美「注文する時なにげに両目開いてたしな」

ゆみ「これで美穂子が3つ当ててトップだ」

智美「残り1つだから罰ゲーム免除確定か」

美穂子「ふふふ、ありがとう」

久「ぐぬぬ。ゆみと智美が2つ正解、1つだけが私と……」

ゆみ「さぁ、次はお前の番だ。がんばって当てるんだぞ」

  「はいっす!」

ムロ「ひゃっ!? あ、居たんですか……東横さん」ビクッ


桃子「ずっと加治木先輩の隣に居たっすよ?」

まこ「まだ苦手なんか」

ムロ「急に出てこられたからビックリしちゃって……すみません」

桃子「いつもの事っす。むしろビックリされない方がビックリっすよ」

まこ「なんじゃそりゃ……ムロ、もう上がってもええぞ。ご苦労さん」

ムロ「はい、お疲れ様です」


桃子「ラスト、ビシッと決めて大勝利っすよー」

久「当てられたら私が最下位……!」

まこ「ついでにムロもなんか欲しいのあったら、遠慮せんと言うてええよ」

ムロ「そうですか? ありがとうございます。それじゃどうしよっかな……」

桃子「よし、決めたっす」


桃子「私は、コーヒーフロートが欲しい!」

ゆみ「お、おいモモ……」

智美「ワハハ。いいところに目を付けたな、モモ」

久「アイスの流れが来てるのかしら」

美穂子「私もベストなチョイスだと思うわ」

まこ「コーヒーフロートじゃな。ストローは?」


桃子「2本で!」

まこ「本数は聞いとらんのじゃが……まぁええわ」


まこ「そこのメイド服の似合うとるお嬢さんは?」

ムロ「冷たいのいいなぁ。えと、メニューには無いんですけど……」

ムロ「ミルクティーをアイスミルクティーフロートにできますか? あとカレーにカツも」

まこ「ええよー」


  「ごちそーさん」

京太郎「ありがとうございましたー!」

まこ「客もだいぶ捌けたけぇ、もう上がりんさい」

京太郎「わかりました。お先です」

まこ「腹も減ったろ。まかないもええぞ」

京太郎「おっマジですか!」

まこ「ああ、遠慮すんな。なんせ今日は……」


まこ「アンタら二人の壮行会じゃけえの!」

ムロ「そういえば」

京太郎「すっかり忘れてた」

京太郎「そうですよ! なんでオレら染谷部長の店で接客してるんですか!?」

ムロ「なんで竹井先輩達は帰れま10してるんですか!?」


久「それはね、バイトの子が休んじゃって、予備のメイド服もほとんどクリーニングに預けたままで」

久「残ってるメイド服が一着と執事服だけ」

京太郎「メイド服はともかく、どうして執事服があるのか?」

久「それがムロちゃんにピッタリのサイズだったから、じゃあ二人お願いね~って」

ムロ「サイズなら竹井先輩と加治木さんでも丁度いいハズでしょうに……」


久「い、いやぁ……私もう大学生だし」

マホ「それは関係があるんでしょうか?」

ゆみ「私にメイド服なんて似合わないさ」

桃子「どちらかといえば、執事服の方を着てほしいっす!」

智美「ワハハ。ゆみちんサマになりそうだな」

ゆみ「そ、そうか?」


京太郎「コレ見た目通りに動きにくいんですよね。ハギヨシさんよくあんな動作できるなあ」

久「あの人は色々と規格外だから……」

京太郎「首周りとか肩とか動かしにくくて。着替えてこよ」

ムロ「私も」

まこ「コーヒーフロートお待ち」

桃子「きたっすね……! さぁ、加治木先輩!」

ゆみ「ほ、本当にやるのか?」

桃子「モチっす!」

ゆみ「はぁ……仕方ない、ところで」


ゆみ「コレは、どうやって飲んだらいいんだ?」

桃子「え?」


久「どうなの?」

まこ「別に、正しい飲み方とかありゃせんわ。好きに飲んだったらええよ」

智美「アイスをすくいつつ、合い間にコーヒー飲むんじゃないのか?」

美穂子「ウィンナーコーヒーと同じ要領じゃないかしら。あ、でもストローがあるのよね……」

マホ「マホはコーヒー苦手なので最初に混ぜちゃいます」


桃子「うーん、どうするっすか?」

ゆみ「私は、ブラックはいけない事もないが……モモはどうだ?」

桃子「わ、私も大丈夫っすよ!」

ゆみ「そうか。では混ぜない方で行こう」

桃子「じゃ、じゃあ……」

ゆみ「な、なんだか緊張するな」

美穂子「はっ、いけないわ!」バッ

マホ「わあ! 見えないですー」

久「さぁ、今のうちにグイッっと! さぁ!」


ゆみ「あ、ああ……チュルルー」

桃子「チュチュー……んんっ!?」


智美「ワハハ。モモ、やっぱり苦いんじゃないか」

桃子「んふっ……うぅ、ちょっと見栄張っちゃったんす……実は」

ゆみ「あーん」

桃子「ん?」


ゆみ「あーんだ。まったく、それならそうと正直言えばいいのに」

桃子「加治木先輩……あむ、ん~甘いっす!」

久「はぁ、どっちが甘いんだか」

京太郎「やっぱTシャツ1枚が気楽でいいぜ……って、なにやってるんですか?」

美穂子「もういいかしら」

マホ「見えませんー」

久「ちょーっとJCには見せれないナニカがね」

京太郎「な、ナニカ?」


桃子「先輩も、あーんっす!」

京太郎「ああ、はいはい把握しました。こういう時は存在感出てるなぁ、めっちゃ見られてるぞ」

ゆみ「ほ、ほらモモ、あまり騒いでは……あ、あーん」


マホ「見えないー」

久「R-15指定なんだなーコレが。マホちゃんは高校生になってからよ?」

京太郎「オレはメニューめっちゃ見てるけどね。さーてと、何食べようかな」


ゆみ「食べ終わったぞ」

桃子「ごちっす!」

美穂子「はい。もういいわよ」

マホ「はふぅ、マホの見えないところで一体ナニが……」

ゆみ「ここまでやったんだから、当たらなかったら嘘だ」

智美「ワハハ。おつかれゆみちん」

まこ「なんだか呼ばれた気がしたけぇ。ん? まだムロは着替えとんのか」

京太郎「メイド服って、色々ゴチャってそうで着替え大変そうですよね。それじゃ注文……」


桃子「の前に、運命の結果発表をお願いしますっす!」

久「ついにこの時が来たわね」

美穂子「残りはただひとつ」

智美「4位のメニューのみ」

まこ「うぉっほん! ほんじゃ発表するぞ? コーヒーフロートの順位は……」


ゆみ「むむ……」

美穂子「ゴクリ……」

マホ「はわわ……」

智美「ワハハ……」


まこ「第……」

桃子「っす……」

久「お願いします……」


京太郎(長ぇ。先にオレの注文聞いても良かったんじゃ……)

ムロ(着替え終わったら、なにこの緊張感……)

京太郎(戻ったのかムロ。お疲れー)

ムロ(お疲れさまです)


まこ「4位!」


ゆみ「やった、やったぞモモ……!」

桃子「勝ったっすよ先輩! 大勝利っす!」


智美「実際にトップ獲ったのはミッポなんだけどなー」

美穂子「そうなのだけどね。嬉しそうでなによりじゃない。あら、久?」

久「神は死んだ……死んだのよ……」


マホ「竹井先輩、残念でしたね……」

美穂子「そんなに落ち込まないで。元気出して?」

久「これからは、いざって時は悪魔に頼む事にしましょ」

京太郎「それっていつもの事じゃ……」


久「なぁんですって?」

京太郎「いえなんでもないです。あ、染谷部長、注文お願いします」

まこ「ほいほい」

久「負けちゃったものはしょうがない。それじゃ気を取り直して……」


久「須賀君とムロちゃんの壮行会、始めましょうか!」

マホ「おおー!」


ムロ「やっと本題ですか」

久「主役の二人が揃わないとね」

京太郎「その主役に仕事させないでくださいよ……」

今日はここまで

見返したらムロのオーダーがカロリーお化けすぎる
これが若さか

こんばんわ
本屋でビール特集やっててちょっと興奮しました。NHKがテキスト出したからその影響ですかね

投下します

都内 某テレビ局 ラウンジ


みさき「……って感じの流れでお願いします」

理沙「わかった!」

健夜「あの、このシーンにテロップとか入れたいんだけど」

みさき「どこです? ああ、ここですか」

健夜「最近ね、地元の子供に麻雀を教える機会があったんだけど、そこで真似してる子が居て……」

みさき「それは大変ですね」


恒子「おはようございまーす! アイス買ってきましたー」

健夜「こーこちゃん。わざわざありがとう」

恒子「はい、どうぞ」

みさき「ありがとうございます。ほら、野依プロも」

理沙「っ……今言おうとした! ありがとう!」


恒子「はい、すこやんの分」

健夜「こーこちゃん……これ」

恒子「ん?」

健夜「これ絶対わざとだよね!?」

健夜「3人ともセブンティーンアイスなのに、私だけサーティワンって!」

恒子「いやぁそれがね、自販機のアイス全部売り切れちゃっててさー。この暑さだもんねー」

健夜「うっそだぁ……」

みさき「わざわざ買いに行ったんですか。確かこの局から一番近い店舗って……」

理沙「手が込んでる!」


健夜「しかもナッツトゥユーって、ひどい……」

恒子「すこやんが好きなやつだよね?」

健夜「よく知ってるね……はぁ、もう」


健夜「ありがとね!」

恒子「どういたしまして」


恒子「それで何を話してたの?」

健夜「えっと、子供に教えたり注意するのは難しいなーって」

恒子「ああ、すこやん最近やってたよね」

健夜「私、麻雀ってまともに指導受けた事ないし……」


みさき「そうなんですか?」

健夜「うん。麻雀自体、高3に始めたから」

恒子「出た」

理沙「自慢!」

健夜「違うよ!」

みさき「選手として優秀だからって、指導する立場でそのまま通用するとは言えませんからね」

健夜「そうなんだよ……教える方も教える方で、ちゃんと勉強しなくっちゃ」

恒子「誰か、そういうの得意な人とかいないの?」

健夜「ええ? そうだなあ……やっぱり赤土さんとか、はや」


健夜「パッと思いつく限りでは赤土さんかな」

みさき「実際に教職に就いてましたよね、赤土プロ」


健夜「それ以前から、小学生くらいの子達に教えてたんだって」

恒子「その子達がまたインハイで全国に出てくるんだから、スゴイよねぇ」

恒子「もしかしたら、すこやんが今教えてる子の中に将来のチャンピオンが居たりして!」

みさき「可能性はゼロじゃないですよ」


恒子「すこやん指導者でも最強になっちゃうかも!」

健夜「変に持ち上げるのヤメテ! っていうか、指導者で最強って何!?」


恒子「それにしても、すこやん先生かぁ」


理沙「先生!」



健夜「確かに先生と言えば先生なんだけど……慣れてないせいか、呼ばれるのに違和感あるんだよね」

理沙「師匠!」

健夜「いやそれはちょっと大げさだよ」

理沙「師範!」

健夜「道場持ってないから」

理沙「老師!」

健夜「……やっぱり先生でお願い」


咏「やぁやぁ、みなさんお揃いで」

えり「おはようございます」

照「お疲れ様です」


健夜「咏ちゃん。あれ、照ちゃんも一緒なんだ」

照「今日は一緒の現場だったんです」

咏「こりゃあいいや、今から一杯どっすかね?」

健夜「あ、ごめんね。今日はこれからラジオの収録があって……」


咏「んっふ~、残念! 野依さん達はどう?」

野依「行く!」

みさき「私もかまいませんよ」

健夜「まさか、照ちゃんも連れて行く気?」

照「いえ、私はそのまま家に帰ります」

みさき「ご家族と住んでるんでしたっけ」

照「はい、おかげさまで。今日は妹がご飯作ってくれるんです」


咏「へぇ~。リンシャンちゃんの料理かぁ」

恒子「宮永プロは料理するんですか?」

照「んん……実はあんまり」

咏「料理できると一人暮らしするとき便利だぜぃ? 知らんけど」

えり「三尋木プロだって、普段そんなに料理しないでしょうに」


咏「だって作るより買った方が楽だし。ああ、でも酒の肴は自分で作るよ?」

照「すごいですね」

咏「ふふん。まあねぃ」

恒子「一人暮らしとか考えてたりは?」

照「うーん……将来的には、ですけど」


照「でも、妹が学校卒業するまでは一緒に暮らすつもりです」

えり「いいお姉さんですね」

恒子「どこぞのアラフォー実家暮らしとは違いますよね」


健夜「アラサーだよ!」

健夜「って言わせないでよ!」


理沙「伝統芸!」

咏「伝統芸だねぃ」

健夜「そんなんじゃないから……」


みさき「では、打ち合わせはこのくらいにして解散にしますか」

恒子「お疲れ様でーす」

健夜「お疲れ様です」

咏「早く行こうぜぃ」



roof-top 店内


久「それでは、須賀君とムロちゃんの全国出場を祝しまして……」

久「カンパーイ!」


「「カンパーイ!」」


京太郎「乾杯!」

ムロ「か、かんぱい」

久「いやー、部員がムロちゃんだけって聞いた時はどうなる事かと思ったけど」

美穂子「こんな事があるのかって、ビックリしたわよね」

久「でも、こうやって二人が個人戦で頑張ってくれたおかげで、清澄は今年も全国に行けたわ」

京太郎「それもこれも、竹井先輩達のおかげです。もちろん福路さんも」

美穂子「ふふ、ありがとう」


まこ「ほんにめでたいのう。ホレ、ムロも」

ムロ「はい、いえ……」

まこ「なんじゃ、ハッキリせん返事じゃ」

ムロ「いやあの……コレは?」


まこ「こちら、ご注文のカツカレーとアイスミルクティーフロートでございます」

ムロ「いや、カツカレーはいいんですけど、ミルクティーが」

まこ「ちゃんとアイス乗っけてフロートにしたぞ?」

ムロ「ありがとうございます……って、そこじゃなくて!」


ムロ「ストローささってるんですけど、2本……」

まこ「当店のサービスでございます」

智美「それにしても、1位通過だなんて凄いじゃないか」

京太郎「ありがとうございます。指導してくれた人が優秀なんですよ」

ゆみ「インターミドルチャンピオンに、名門風越のキャプテン。不足は無いな」

桃子「清澄自体、インハイ準優勝校っすからね」

京太郎「たまに龍門渕にもお邪魔したりして」


久「ほらー須賀君、おいでおいで」

ムロ「こなくていいです」

京太郎「いや……それさっき加治木さん達がやったじゃないですか」

久「こっちはあんなの見飽きてんのよ!」

京太郎「知りませんよ!」


桃子「いやぁ照れるっす」

智美「ワハハ。多分、褒めてないぞ」

久「っていうか、たまに見えないのよ……」

京太郎「その場合、加治木さんがひとりごと言ってる人に……」

ゆみ「そんな風に見られるのにはもう慣れたよ……」


ムロ「じゅずずぅぅぅぅ」

まこ「ああ、一人でほとんど飲んでもうた!」

ムロ「ぷはっ」

久「え~」

ムロ「え~じゃないです。なんでこんな衆人環視の中でカップルストローしなきゃならないんですか」

久「あら? つまり、二人きりだったらするのね」

ムロ「!? ……ゆ、誘導尋問はやめてください!」

久「そっちが勝手に引っかかったんだけどなー」


桃子「それにしても、羨ましいっす……」

ムロ「東横さん……」

ムロ(そうだ。敗れてしまった人達の為にも頑張らないと……)


桃子「大好きな先輩と一緒に全国とか、めっちゃ燃えるじゃないっすか!」

ムロ「あ、そうですね」


桃子「1学年差だったら、コクマでも一緒のチームになれてたんすけど」

美穂子「コクマ……そういえば、マホちゃんはインターミドル出たのよね?」

マホ「はい。でも……」

ムロ「本選までは行けたんですけど……惜しかったな」


マホ「やっぱり、マホはダメダメなのです……」

マホ「先輩達はすごいです。マホなんて、同じ先生に教わっても全国に行けませんでした……」

京太郎「マホだって強くなったさ。結果は伴わなかったけど、地力も上がってる」

マホ「そうでしょうか……マホ、才能無いんです」

美穂子「そんな事ないわよ」


ゆみ「そうだな。ダメダメだ」

マホ「はうっ!? ……や、やっぱり」

ムロ「…………」

久「ちょ、ちょっとゆみ?」

ゆみ「まあ聞け、私だって才能の無い人間の一人だ」


ゆみ「才能なんて無い。だが、これがなかなかに面白い。そうは思わないかマホ?」

マホ「え……?」

ゆみ「例えば、萬子を集める才能を持った人間が居たとして……どんな手を作ると思う?」

マホ「萬子の染め手です。チンイツとかホンイツ」

ゆみ「当然だな。しかし逆に考えれば必然的に他の手は出来にくい、もしくは出来ない」


マホ「どういう事ですか?」

ゆみ「マホはなんでも出来るって事さ」

マホ「なんでもですか!?」

ゆみ「ああ。自分の中に決まった偏りも縛りも無い、つまり自由だ」

ゆみ「マホは緑一色でもなんでも和了れるぞ。それは才能のある人間から見れば羨むことだろう」

マホ「すごいです……マホすごい……」


美穂子「うまく元気にさせたわね」

ゆみ「私なりの持論だがッ……!?」
  桃子「さっすが先輩っす!」ガバァッ

ゆみ「こ、こんなアドバイスでも、役に立てれば嬉しいものだ」

智美「それを憚らず言えてしまうのが、ゆみちんの良いところだ」


マホ「マホ、これからも頑張るでーす!」

ムロ「ちょっと元気になりすぎ?」

まこ「マホらしくてええじゃろ」

久「にしても、ムロちゃんがいつ怒り出すかヒヤヒヤしたわ。急に神妙な顔つきになるから」

ムロ「そ、そんな……怒ってませんよ。ただ、マホもあんな事考えるんだなって思って」

まこ「意外か?」


ムロ「この間まで、私も同じ事思ってましたから」

マホ「そうだったんですか?」

ムロ「そうだぞー。恥ずかしくて人には言えなかったけど、羨ましかったんだぞー」

京太郎「結果出ないと、なかなか自信持てないよな」

ムロ「だからさ、マホはそのままでいろよ。きっと上手くいくから」

マホ「わかりました!」


久「マホちゃんの次の舞台は、さっきもちょっと出たけどコクマかしら?」

ムロ「実際、マホがコクマ出れる確立ってどのくらいなんでしょうか」

桃子「私、全国行けなかったっすけどコクマは出れたし……選出基準ってなんなんっすかね?」

久「うーん。そのへん、どうなのかしら?」

美穂子「久保コーチも関わっていたようだったけど」


久「まあ、誰が選んでるのかは判明してるわけだし……ちょっくらお願いしてみようかしら」

ムロ「えっ」

久「電話してくるわ」

マホ「えっ」

まこ「マジで」

京太郎「まさか」

智美「お、テレビでインハイ特集してるぞ」

京太郎「どれどれ?」

ムロ「ちょっと音量上げてもらってもいいですか?」

まこ「はいよ」


みさき『さて、今年もやってきました。夏の祭典、全国高等学校麻雀選手権大会』

理沙『インターハイ!』

みさき『そうですね。まずは去年の盛り上がりの様子を見返してみましょう』


まこ「……なつかしいのう」

京太郎「まだ1年しか経ってませんよ」

まこ「そうか。あの夏はもっとずっと長く感じた気がするわ」


洋榎『32000――思ったより痛いんちゃうか?』

いちご『そんなん考慮しとらんよ……』


美穂子「お祭りみたいなものよね」

智美「自分で参加するのも面白かったけど、見てるだけでも楽しめた」

ゆみ「それはきっと、彼女たちが皆の想いを背負っているからだろうな」


ムロ「それを今年は私達が……」

久「受け取っていくのよ」

久「なぁに、面白い番組やってるじゃない?」

京太郎「まだ清澄映ってませんよ」

久「いいタイミングね」


初美『8000・16000ですよー!』

和『はい』


久「ああもう、和ったら!」

まこ「まだ気にしとったんか……」


玄『メンタンピン・イーペーコー・ドラ6……! 16000の2本場は16600です!』


京太郎「こないだ阿知賀と練習試合したんですけど、玄さん数え出してましたよ」

ゆみ「さぞかしドラが乗ったんだろうな……」

ムロ「ドラ12でしたっけ」

智美「12って……誰だカンドラ増やしたのは」


咲『ツモ。嶺上開花』


マホ「宮永先輩です!」

京太郎「今や全国に名の知れた白糸台の嶺上使い、か」

久『ツモ!』バチーン
  ※よいこはマネしないでね

久「あ、私よ私!」

美穂子「これもちゃんと見てたわよ」

まこ「また対局者の顔が……」


みさき『はい。去年のインハイの様子、ダイジェストでお送りしました』

みさき『なんと本日は、優勝候補と言われている白糸台高校のメンバーに取材して来たんです』

理沙『インタビュー!』


京太郎「お、咲出るのか?」

久「どうかしらね」

まこ「アイツは人見知りじゃけぇの」

ムロ「普通に部長さんじゃないですか?」

みさき『今年のインハイに懸ける想いをお聞かせ下さい』


咲『王座奪還は私たちの一大目標です!』キラキラ


久「ええっ!?」

まこ「なんじゃあ!?」

京太郎「誰だこれ!?」

ムロ「みなさんヒドくないですか?」

都内 ビアガーデン


咏「いやぁ、今日もお疲れちゃーん」

えり「お疲れ様でした」

みさき「お疲れ様でした」

理沙「お疲れ!」


咏「今日はパーっと飲んでさ、暑気払いしてまた明日も頑張ろうぜ!」

えり「明日はオフですけど」

咏「そうだったけ? じゃあ今日は気兼ねなく飲めるねぃ」

えり「……墓穴を掘った気が」


みさき「野依プロが待ちきれないようなので、まず乾杯しませんか?」

理沙「はやく!」ソワソワ

咏「だね。キンキンに冷えて泡がぷっくりしてるうち、いただいちゃおっか」

えり「このタイミングを逃す手は無いですね」


咏「コホン。えー盛夏の候、皆様におかれましては……ってウソウソ。冗談だよ野依さん」

咏「じゃカンパーイ!」

えり「乾杯」

みさき「乾杯」

理沙「乾杯!」


理沙(弾ける泡! ホップの香り! たまらない!)

理沙(唾液が溢れる! 喉が広がる! 準備万端!)

理沙「んっく……すぅ」

理沙(口の中からっぽ! 少しだけ息吸って……!)

理沙「ん……」

理沙(グラスに唇つけて! ……あおる!)


理沙(飲む!)


理沙「ゴクッ! ゴクッ!」

理沙(ッ……! ッ……!)


理沙(くっ……!)

理沙(喉が締まる……! 首と顔に力が入る……!)ギュッ

理沙「ゴクッ! ゴクッ!」

理沙(くぅっ……!)


理沙(グラスを持つ腕にも力が入る!)

理沙(手にも! 指先にも!)


理沙(お腹にも!)ギュギュー

理沙(冷たい……!)

理沙(唇が! 舌が! 上顎が! 喉が! 食道が!)

理沙(辿り着く! 胃袋に!)


理沙「ゴクンッ……!」


理沙(飲んだ! 力の限り!)

理沙(限度いっぱいの一口!)

理沙(体中の筋肉を総動員! 全力! 会心の一口……!)


理沙「プハッ! かぁ~っ!」


理沙(息が漏れる……)

理沙(最後の空気……)

理沙「ァ……!」プルプル

理沙(絞り出す……! 肺の中身全部!)


理沙(……死にそう!)

理沙「……っすうぅぅ!」

理沙(深呼吸……!)

理沙(あ……)


理沙(ああああ!)


理沙(やってくる!)

理沙(麦のうま味! ホップの苦味!)

理沙(空気が口を伝い……鼻を伝い……)

理沙(味蕾を刺激する! 攻めてくる!)


理沙(美味い! ほとばしるほど美味い!)


理沙(くぅ……!)

理沙(吸う空気が美味い! 吐いた息すら美味い!)

理沙(幸せ!)


理沙(口が幸せ! 喉が幸せ! おなかが幸せ!)

理沙(満たされる! 液体以上の快楽物質!)

理沙(幸福! 快感! 美味い!)


理沙(頭がどうにかなりそう!)

理沙「はあぁぁぁぁ……」

理沙(弛緩……リラックス。リフレッシュ。解放のカタルシス)

理沙(生き返る……)


理沙(これだけで報われる……)

理沙(今日の苦労。疲れ。ストレス。不安。全部消えた)

理沙(全肯定……安心感……)


理沙(……美味い)


理沙(まだ舌の上で踊ってる)

理沙(麦の味。炭酸の刺激)

理沙(喉にしがみつく)

理沙(爽やかな苦み。香りも鼻に抜けてく)

理沙(満足……!)


理沙(満喫! 堪能! 充実!)

理沙(ああ……!)

理沙(湧きあがってくる!)

理沙(じわじわ! 染み込んでいく!)

理沙(五臓六腑!)

理沙(快楽中枢!)


理沙(美味い!)


理沙(味覚細胞で認識! ニューロンで理解!)

理沙(ビール美味しい!)


理沙(思えば香りから美味しかった!)

理沙(ホップの華やかでフルーティなアロマ!)

理沙(最初は朝露に濡れた一輪の花の匂い! そこから草原に吹きぬける風のような爽やかさ!)

理沙(そして飛び込む! 黄金の海!)


理沙(全身で味わう!)

理沙(視覚! 白すぎないナチュラルな白! 泡に隠れる輝く琥珀!)

理沙(聴覚! シュワシュワ!)

理沙(触覚! 炭酸の刺激が喉を行進! パレード!)

理沙(嗅覚! しっかりしたモルティ! シトラスめいたフレーバー!)

理沙(味覚! 苦味! 酸味! 旨味! 塩味! 甘味! 美味!)

理沙(呼吸さえも忘れる!)

理沙(溺れる! ビールの海!)


理沙(くぅ……!)


理沙(潜水! アルコールの波に漂う!)

理沙(ゆらゆら揺らぐ!)


理沙(……満を持して息継ぎ!)

理沙(水面から顔を上げる。そこは理想郷! ユートピア! イーハトーヴ!)

理沙(至福!)


理沙(圧倒的至福……!)


理沙「はふぅ……」トローン


咏「くっはぁ! ああ、この為に生きてるって感じ!」

えり「ホント美味しそうに飲みますよね」

咏「野依さんには負けるよ。こりゃあ一つ、コメントでも貰いたいもんだ」

理沙「!?」

咏「もしかしたら今度、そういう仕事とかあるかもだし。知らんけど」

みさき「そうですね。では、野依プロの食レポ……どうぞ」


理沙「え、うう、う、美味い!」


えり「ど、どうなんでしょうか……」

咏「いつもの野依さんだね」

えり「それはわかります」


みさき「でも、飲んだ直後の緩んだ顔で美味しさは十分伝わりますよ」

理沙「ゆ、ゆるんでない!」

今日はここまで
次回には上京してるかも

こんばんわ
今年は二日酔いと熱中症が併発しないように気を付けたいです

投下します。今回はお買い物する話

京太郎「……もしもし、母さん? オレだけど」

京太郎「あのさ、オレの部屋に……あー、やっぱそこにあったか」

京太郎「送ってくれる? じゃあ、受け取りは……えーと、適当に近くのコンビニでも探してみるわ」

京太郎「今日明日は……どうしよっか。うん、いま着てるのしかない」

京太郎「こっちで買うしかないだろ。それで悪いんだけど振り込みの方……あざっす!」



宿泊所 談話コーナー


京太郎「と、言うわけで服買ってきます」

まこ「なんじゃ忘れてきたんかい」

京太郎「実は新幹線に乗った時にはうすうす感づいてました……あれ、なんか足りねぇって」


ムロ「先輩、でかけるんですか?」

京太郎「忘れてきた荷物は送ってくれるって言うんだけど、その間はシャツの1枚も替えがないし」

ムロ「いま、でかけるんですか?」

京太郎「そうだな。今日はシャワー浴びて着替えたい」


ムロ「すこし、時間もらえますか?」

京太郎「え?」

ムロ「っていうか、私ついて行っていいですか?」

京太郎「いいけど」

ムロ「やた! じゃあ、ちょーっと待っててくださいね。すぐ仕度してきますから!」

パタパタ

トシ「あら、ショッピング? いいわね」

京太郎「適当にコンビニで立ち読みして、ついでに下着とか買ってくるだけですよ」

まこ「せっかく東京に来たんじゃけえ、シャレた服屋にでも行ってみたらどうじゃ?」


京太郎「でも、どの店行きゃいいかなんてわかんないですし」

まこ「わしも知らん」

京太郎「服屋はいっぱいあるんだろうけど、ありすぎて悩むっていうか」

まこ「選択肢が多いのも考えもんじゃな」


トシ「マルイとかルミネなんてどうかしら」

京太郎「メンズの店ありますかね」

トシ「あるわよ。なんならあの辺、ビルのフロア全部メンズファッションっていうお店もあるし」

まこ「ビルまるごと!?」

京太郎「どんだけ~」


トシ「あとは伊勢丹とか」

京太郎「それはちょっとキツイかもです……」

まこ「学生じゃけえの」

京太郎「それに結局、目的は数日分の着替えですから。あまり高そうな場所には行きませんよ」


ムロ「お待たせしました!」

ムロ「ど、どうですか?」シャランラー

トシ「あらあら」

まこ「よう似合うとるぞ」

京太郎「これは……」


京太郎(襟のひらいた、袖にフリルの付いてるチュニックでガーリーな雰囲気を出しつつ)

京太郎(ボトムをタイトな六分丈クロップドパンツでキレイめにまとめて)

京太郎(さらにリボンのカチューシャまでつけてるだって?)

京太郎(めっちゃおめかししとるがな)


トシ「京太郎」

京太郎「はい」

トシ「キチンと、エスコートしてあげなさい。間違ってもコンビニなんかに連れていくんじゃないよ」

京太郎「わ、わかりました」


京太郎「では行ってきます」

トシ「そうだ。夕方に行きたいところあるから、それまでに帰ってきてね」

ムロ「はーい」

まこ「気をつけての」


京太郎「それじゃ、行こうか」

ムロ「はい」

京太郎「とはいえ、ドコに行ったもんかな」

ムロ「決めてないんですか?」

京太郎「まったくもってノープラン」

ムロ「とりあえず服、買うんですよね」

京太郎「そう。オレのな」

ムロ「わかってますよ」


京太郎「ならいいんだ。ムロの買い物はちょーっとばかし長いからな」

ムロ「えー? べつにふつうですよ、ふつう。」

京太郎「それに今日のムロには、これ以上オシャレする必要なんてないだろ?」

ムロ「えへへ、ちょっと頑張っちゃいました」


ムロ「それで、今日はどんな服を買うつもりなんですか?」

京太郎「今日と明日のぶんの着替え」

ムロ「それだけ?」

京太郎「ああ」

ムロ「ふーん、そうだったんですか……」

京太郎「……いや、その前にちゃんとオシャレな服買わないといけないな」


京太郎「ムロの横に立つのにふさわしい格好しなくちゃ。一緒に歩けないだろ?」

ムロ「ふふ、しょうがない先輩ですね。そうだ、私がコーディネートしてあげましょうか?」

京太郎「ほう、それじゃお願いしようかね」

ムロ「おまかせあれ!」


京太郎「なんか自信ありげ?」

ムロ「たまに兄の読んでるファッション雑誌とか読んでますんで」

京太郎「期待しちゃうぜ。それで、どこ行くんだ?」

ムロ「……どこ行きましょう」


京太郎「わかんないのかよ!?」

ムロ「さすがにお店の所在までは知りませんよ!?」

京太郎「えー、どうしよ……あっ」


京太郎(そうだ。そういえば熊倉先生が言ってた……)

トシ『キチンと、エスコートしてあげなさい』

京太郎(違う違う……いや、それも違わないんだけど)

トシ『マルイとかルミネなんてどうかしら』


京太郎「よし、わかった!」

ムロ「行くとこ決まったんですか?」

京太郎「おう。マルイとルミネ、そこに行けばメンズ服の店はそろってるっぽいぜ」

ムロ「へぇ、そうなんですか」

京太郎「まずはマルイに向かおう」

新宿マルイメン付近


京太郎「あっれー?」

ムロ「見つかりませんね……」

京太郎「この辺なんだけどなぁ」

ムロ「あれ、MENSって看板ありますよ。ココじゃないですか?」

京太郎「ホントだ。でも……」


0101


京太郎「オイオイ?」

ムロ「オイオイ……」


京太郎「どんな店なんだ……聞いた事あるか?」

ムロ「いや、知らないです」

京太郎「メンズって書いてあるから、男物が売ってるんだろうけど」

ムロ「入ってみます?」


京太郎「い、いや、やめておこう」

ムロ「えー、なんでですか」

京太郎「だって、学生が行かないような、身の丈に合わないショップだったらどうするよ……」

ムロ「ね、値札のゼロがひとつ多いかんじの……」


京太郎「ヘタしたらふたつかも……!?」

ムロ「いやぁぁ……!?」

10分後 新宿マルイメン付近


京太郎「ちくしょう! マルイの奴、全然見つからねぇ……ふざけやがって!」

ムロ「マルイは諦めてルミネに行きませんか? そこにもメンズのお店、あるんでしょう?」

京太郎「そう、そうだな。残念だけど、マルイは諦めるか」


京太郎「ルミネなら新宿駅から近いし」

ムロ「っていうか、駅ビルですからね」



新宿駅 中央東口


京太郎「さてルミネはっと……アレか。わかりやすくていいな」

ムロ「ちょ、ちょっと待ってください!」

京太郎「なんだよ? 目的地はすぐそこなのに」

ムロ「よく見てください!」

京太郎「え? あっ」


LUMINE EST


京太郎「ルミネイーエスティー?」

ムロ「イーエスティー……」


京太郎「ルミネの親戚なのか?」

ムロ「あれ、ルミネって南口にありませんでしたっけ?」

京太郎「そ、そういえば……」

ムロ「どうします?」

京太郎「むむむ……」


京太郎「……よし! 南口だ、南口に行くぞ!」

ムロ「南口のルミネでいいんですか?」

京太郎「余計な情報にまどわされるな。オレたちはルミネに行くんだ、イーエスティーじゃない」


京太郎「ヤマトとヤマト2199くらい違うのかも……」

ムロ「例えがよくわかりませんけど、わかりました」



新宿駅 南口


京太郎「すぐ着いた」

ムロ「ふぅ、やっと目的地ですね」

京太郎「服買う前にどんだけ時間かかってんだって話だよな」

ムロ「ホントにですよ……って、先輩!」

京太郎「ど、どうしたムロ?」

ムロ「あの看板、見てください!」

京太郎「すでにもうイヤな予感がするけど……なに、こ、これは!?」


LUMINE 2


京太郎「ルミネ……2?」

ムロ「あっちにルミネ1があります!」

京太郎「…………」

ムロ「……どうします?」


京太郎「2に行こう」

ムロ「理由は?」

京太郎「現在地から近い」

ムロ「なげやりですね」

京太郎「さぁ、行こう。そして本懐を遂げようぞ」



ルミネ2


ムロ「ああ~やっと涼める」

京太郎「ずっと歩きまわってたもんな」


京太郎「エレベーターあるけど、どうする?」

ムロ「うーん、混んでるみたいですね。エスカレーター使いませんか?」

京太郎「そうだな」


ムロ「エスカレーターといえば」

京太郎「いえば?」

ムロ「先輩はそのままでね。私が1段あがって……」

京太郎「なに? ポルナレフ?」


ムロ「よいしょっと、はい!」

京太郎「……で?」

ムロ「ほら、これで私と先輩の身長がかぎりなくゼロに近づくんですよ」

京太郎「まあまあ、たしかに同じくらいだ」


ムロ「これが先輩の見てる景色かぁ」

京太郎「いや、エスカレーター乗ってたらわかんないでしょ」

ムロ「先輩、身長高いからなぁ。これでおそろいですよ」

京太郎「……ふははっ」

ムロ「ちょ、なんで笑うんです!?」


京太郎「クク、顔下げないで目の前にムロの顔があるって、なんかおかしくって……あはは!」

ムロ「なにがおかしいんですか」

京太郎「わりぃわりぃ。だって、しかもお前ドヤ顔で……プフー」


ムロ「……ここからだと先輩のマヌケ面がよーく見えますよ」

京太郎「オレでも知ってるブランドで値段もそこそこな、このショップで買い物しよう」

ムロ「レディースもあったりして、なかなか広いスペースですね」


ムロ「さて、先輩の今の服装ですけど」


須賀京太郎

E:ワイシャツ
E:制服ズボン
E:黒のスニーカー


ムロ「典型的な男子高校生ですね。あれ、なんかスポーツやってる? ってかんじの」

京太郎「麻雀はスポーツにはいりますか?」


ムロ「先輩はどんなコーデがいいとかあります?」

京太郎「そうだなぁ。ちょっと大人っぽいカンジがいいかな」

ムロ「わかりました。さて、どうしてやろうか……とりあえず、下から決めていきましょうかね」

京太郎「下?」

ムロ「ボトムとかシューズです」


京太郎「靴もか?」

ムロ「もちろん」

ムロ「うーん、チノよりもジーンズのほうが似合うのは確定なんだけど」

ムロ「なんか足りない……」

京太郎「熱心に考えてくれてるな。やっぱ着せ替えとか好きなんだろうか、女の子だし」


店員「何かお探しですか?」

京太郎「ええ、まぁちょっと」

店員「今日はどのようなアイテムを……」


京太郎「えっと、今日は連れが選んでくれるんで」

店員「あ、そうだったんですか。彼女さんですか?」

京太郎「まあ、そんなかんじです」

店員「失礼しました。ごゆっくり」

京太郎「どうも」


京太郎「…………」

京太郎「……そんなかんじ、なんです」


ムロ「先輩、よさそうなの見繕ってきました!」

京太郎「お、待ってました」

ムロ「まずはジーンズ。思い切ってワインレッドです」

京太郎「ちょっと派手じゃないか?」

ムロ「落ち着いたトーンで、かるくウォッシュかけてるからそこまで浮きませんよ」

ムロ「さらにクロップすれば夏っぽいですし、ベルトはリングベルトでラフなかんじで」

京太郎「なるほど」


ムロ「足元はネイビーのスリッポンでシンプルに涼しげに」

京太郎「これって靴下は履いていいのか?」

ムロ「見えちゃうのはアウトですけど、でもホラ、こういうアンクルソックスだと見えませんよ」

京太郎「なるほど」


ムロ「トップスは靴と合わせてネイビーのTシャツ。シンプルなデザインのリネンTシャツです」

京太郎「なにか羽織らなくてもいいのか?」

ムロ「あえての無地1枚でビシッと決めちゃいましょう!」

京太郎「なるほどなー」


ムロ「それでは」

京太郎「試着室へGO!」


京太郎「のぞくなよ?」

ムロ「のぞいて私になんの得があるんですか?」

ムロ「着替え終わりましたー?」

京太郎『もう、ちょい……おっけ!』

シャッ

京太郎「ど、どう?」

ムロ「おお……」

京太郎「ベルトとかまだちゃんと付けてないし靴も履いてないけど、だいたいこんなかんじ」

ムロ「いい、です」


ムロ「予想以上に、いいです。コレ……!」

京太郎「そう? いや、オレもけっこうイケてると思ったんだよ」

ムロ「で、ですよね!」

京太郎「……よし、これに決めた」


ムロ「いいんですか!」

京太郎「ああ、ムロがこんなに喜んでくれるならな。それが一番だ」


京太郎「じゃあ、このコーデで着替えるんで……」

京太郎「エスカレーターの近くで待っててくれ。ちゃんと着飾ってから、あらためて迎えに行くから」

ムロ「わかりました!」

京太郎「行ったか。さてと……スミマセーン!」

店員「はーい」

京太郎「このまま着てくんで、タグ外してもらっていいですか?」

店員「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」

京太郎「で、着てた服は袋にいれといてください。それで会計は……」


店員「はい。それではお会計、XXXXX円になります」

京太郎「え?」

店員「お会計、XXXXX円になります」

京太郎「……はい」


店員「ありがとうございましたー」

京太郎「はい、どーも……はぁ、けっこうかかったなぁ」


京太郎「よく考えると、オレの人生でも一番金かかってる服装だぞコレ」

京太郎「そもそも、着替え買いにきただけなのに……なぜ?」

京太郎「それもこれも、ムロがお洒落なんてするからオレも合わせなくちゃいけなくなったんだ」


京太郎「ムロがお洒落なんてするから……」

京太郎「おまたせ」

ムロ「ううん、今来たとこ」

京太郎「テンプレだな」

ムロ「待ち合わせといったらコレでしょう」


京太郎「……どう?」

ムロ「ばっちしです!」


京太郎「ふふん、そうだろう」

ムロ「なんでふんぞりかえってるんですか」

京太郎「だってさ、ムロがオレのために選んでくれたんだぜ?」

ムロ「な、なんかあらためて言われると、ちょっと照れますね」

京太郎「これで、自信持って隣りを歩けるよ」


ムロ「服ひとつでそんなに?」

京太郎「単純だろ? でも、最初はムロがしたことだぜ」


ムロ「え、私なにかしましたっけ」

京太郎「自分で気付いてない?」

京太郎「ただ着替え買いに行くってのに、わざわざおめかししてさ」

ムロ「あ……い、いやだって、お買い物っていうからてっきり遊びに行くのかと」

京太郎「期待した?」

ムロ「うぅ……!?」

京太郎「ならしょうがない。それに応えないとな」


京太郎「こう見えてサービス精神旺盛なんだ」

ムロ「知ってますよ」


ムロ「期待されたら頑張っちゃうのとか、逆に、ここぞって時に逆転したがるのとか」


ムロ「でも、気を付けてくださいね? 先輩ってどっか抱え込んじゃうとこもあるんですから」


京太郎「あっはは……」

ムロ「……ありがとうございます」

京太郎「ん?」


ムロ「一緒に歩いてくれて」

京太郎「どういたしまして」

ムロ「私も、先輩にお返ししなくちゃ」

京太郎「オレがしたくてやってるところもあるし」

ムロ「でも……」

京太郎「ムロが喜んでくれること、これがオレにとってのリターンなんだよ」


京太郎「だから今日は素直に、オレにエスコートされてろ。いいな?」

ムロ「つまり、エスコートするにふさわしい女子であれと? いいでしょう」


京太郎「話しが早くて助かるよ……それではまいりましょうか、お姫様?」

ギュッ

ムロ「ふふ、よろしくおねが手ぇぇーぇっ!?」

京太郎「っておい、さっそくこれかよ……」

ムロ「いきなり!」

京太郎「さっきまでの余裕っぷりがウソみたいだ」

ムロ「不意打ち!」

京太郎「だってこういう時、お手を拝借ーなんて言わないじゃん」

ムロ「ビックリした!」

京太郎「……なんか野依プロになってんぞ?」

今日はここまで
オイオイとか駅付近さまようのは定番ですよね

そういえばムロにお兄さんとお兄さんがいたんですね
二人は双子か年子で、ムロとは3~4歳ほど離れてるって勝手に想像してます

手元におめかしムロのスケッチしかないけどいいかな
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org439827.jpg.html
おまけ咲さん(白糸台2年生)
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org439835.jpg.html

やっぱり横になるんな

あれ、ムロ髪切った?

このスレのせいで京ムロに目覚めてsswikiのムロを漁りに行ったらあまりにも少なくて絶望した!
これは>>1に責任を取ってもっとたくさん書いてもらうしかない

うーん、率直に言わせてもらうと、怜悧な絵柄だからたれ目で隙の多そうな雰囲気である咲さんはかなり印象が違って見えるねー。あと以前見せてもらったムロのアップは顔の作りがしっかりしてるけど、遠景になるとかなりディテールが甘くなってるねー、十分上手いけど

こんばんわ
マルイって読めないですよこんなん……

>>360 >>368
精進いたします。ムロの髪って結構バランスがシビアな気がします
かわいい感じの目が描けないんです。なんでだろ

投下します

京太郎「もどりましたー」

ムロ「ただいまです」


トシ「おかえり」

まこ「楽しんできたか?」

ムロ「はい!」

トシ「あら、ずいぶんとオシャレになったわね」

京太郎「ありがとうございます。これ、ムロがセレクトしたんですよ」


まこ「ほう、ええの。見違えたわ」

トシ「そうね、なんだかオトナっぽいね」

ムロ「私の自信作です!」


トシ「一休みしたら出ようか」

京太郎「そういえば、どこ行くんですか?」

トシ「それは、行ってみてのお楽しみ」



東京国際フォーラム


京太郎「ここって……」

ムロ「インターハイの会場?」

久美子「熊倉さん、お待ちしてました!」

トシ「こんばんわ。今日はどうもありがとう」

久美子「いえ、こちらこそありがとうございます」


まこ「あの人は」

ムロ「Weekly麻雀TODAYの埴渕さんですよね」

京太郎「また取材かなにか?」

久美子「清澄のみなさんもこんばんわ。さ、どうぞ」


トシ「それじゃあ、入るわよ。コレ首から下げてね」

ムロ「コレは……」

京太郎「プレスパス?」

まこ「ちゅーことは、関係者しか入れんような場所に……どこ行く気ですか」


京太郎「しかも埴渕さんまで巻き込んで」

トシ「そこはギブアンドテイクよ」

京太郎「テイク? なにをテイク?」

久美子「また二人のインタビューの約束してもらったの」

久美子「インターハイ終了後のフレッシュな情報を本誌独占!」

京太郎「知ってる。これインサイダー取引っていうんだよな」

ムロ「独占禁止法違反じゃないですか?」


久美子「そしてヒラ記者から番記者へとレベルアップするのよ!」

ムロ「バンキシャ?」

まこ「特定の対象に密着取材する記者じゃな。政治家やスポーツ選手にようついとる」

京太郎「この記者じゃないと喋らないって選手もよくいますよね」


久美子「今は、高校に番記者がつくのも珍しくないのよ」

ムロ「へぇ、学校につくんですか」

久美子「そういう人は地元のプロチームにも繋がってたりしててね」

久美子「新人獲得するときなんかに、監督が番記者の意見を参考にするくらいよ」

まこ「たしかに、情報はぎょうさん持ってそうじゃけえ」


久美子「熊倉さんはレッグワークで人材発掘してらっしゃったんですよね」

トシ「こればっかりは自分の目で探したいもの」


トシ「っと、着いたわね」

まこ「ここは……」

インターハイ決勝戦用特別対局室


まこ「ここは、決勝で使うた部屋じゃ……」

トシ「そうだね。まこは懐かしいだろう?」

京太郎「ここが決勝戦の……って、オレら入ってもいいんですか?」

トシ「本来なら公平性やセキュリティの関係上、入室できないんだけどね」


京太郎「まだ卓が設置されてないみたいだ。設営途中なのかな」

ムロ「ホントだ。ステージだけですね」

トシ「個人戦の日程は、1日目と2日目のふたつのグループに分かれて予選が行われるわ」

トシ「そして3日目の本選終了後、すぐに決勝戦が始まる」


トシ「団体戦なら決勝の日の前に下見ができるけど、個人戦だとそれができないから」

京太郎「そうだったんですか」

トシ「だから今のうちに、その目で見ておきなさい」


まこ「ふむ。あらためて見ると……そんなに広いようには感じんわ」

ムロ「ええ? ものすっごく広いんですけど」

まこ「あん時はそれなりに緊張しとったから……」

まこ「すこし雰囲気に飲まれとったのかもしれんのう」

ムロ「なんせ決勝戦ですもんね」

まこ「ここじゃあ、なにが起こるかわからんし、なにがあっても不思議じゃない」


まこ「ムロも、もし不測の事態に陥ったとしても揺らがんようにな」

ムロ「肝に銘じておきます」

まこ「前にも言うたかもしれんが、一番大事なもん持っとればええから」

ムロ「大事なもの、ですか」

まこ「今までの積み重ねや実績でもなんでも、言ってみりゃあブレない芯みたいなもんよ」


まこ「それがありゃあ、たとえ素っ裸になっても平気ってなもんじゃけえ」

ムロ「さすがにハダカはちょっと……ふむ」


ムロ「……大事なもの、芯かぁ」


京太郎「ステージも立派だけど、部屋のつくりもすごいですよね」

トシ「そうだね。防音に電波遮断の強化、他にもいろいろあるみたい」

京太郎「外界から切り離されてて、ここだけが別世界みたいだ……」


ムロ「上がってもいいんですかね?」

トシ「いいんじゃないかしら」

ムロ「先輩、一緒にどうですか?」

京太郎「んー、オレはいいや」

ムロ「なんで?」

京太郎「じつは……」


京太郎「楽しみはとっておきたい性分なんだ。本番までとっておくよ」


まこ「あっはっは、勝ち上がる気マンマンじゃのう!」

京太郎「もちろんですよ!」

ムロ「ああ……なるほど。私もその意見に賛成です!」

トシ「おやおや、頼もしいね」


久美子「熊倉さん、そろそろ」

トシ「もう時間? ふたりとも、もう十分かい?」

京太郎「はい!」

ムロ「気合はいりました!」

トシ「よし、それじゃあ」


トシ「早いうちズラかるよ」


京太郎「ズラかるって」

トシ「人に見つかったら事だからね」

ムロ「ちょ!? このパスがあれば大丈夫なんじゃないんですか!」

久美子「そこまでは保障できないなあ」

まこ「意味無いんかい!?」

久美子「パスにもランクってあるんだよねー」

トシ「でも無いよりはマシだろう?」

京太郎「出ましょう、早く出ましょう!」



東京国際フォーラム前


京太郎「一時はどうなるかと……」

トシ「バレてもせいぜい厳重注意くらいよ」

ムロ「それでもダメでしょ……はあ、マジでビビっちゃいましたよもう」

まこ「誰にも見つかっとらんじゃろうな?」

久美子「だいじょぶだいじょぶ。見つかっても堂々としてればいいんだよ。あ、そうだ」


久美子「一応、今日のことは口外無用でお願いね?」

京太郎「言いませんよ。ってか、やっぱアウトじゃないですか」

久美子「いやいや、全然グレーゾーンだから」

まこ「ならオッケーじゃな」

ムロ「いいんですか……」


久美子「今日はありがとうございました。須賀君も室橋さんも、大会がんばってね!」

京太郎「はい、自分の力を出し尽くしたいと思います」

ムロ「私も精一杯がんばります」

トシ「それじゃあ、そろそろ晩ごはん食べに行きましょう」

ムロ「わぁい」


トシ「なにかリクエストある?」

まこ「大会前じゃし、ガッツリ元気のでるもんとか」

京太郎「いいですね」

ムロ「あと、縁起のいいものとか」

トシ「願懸けも大事よね」

まこ「縁起のええもんのう、なんじゃろ」


京太郎「それで結局、なににしますか?」

トシ「どうしようかしら」

  「あれ?」


靖子「熊倉さん、ご無沙汰してます。偶然ですね」

トシ「あら藤田プロ」


京太郎「これは……」

まこ「決まったな……」

ムロ「ドンピシャですね……」

靖子「なんだお前ら、人の顔見るなりニヤニヤして」

かつ丼屋


靖子「こんばんわ」

店員「いらっしゃいませ、あら藤田プロ。毎度どうも」

靖子「5人なんだけど、二階空いてます?」

店員「はい、大丈夫ですよ」

靖子「よかった。それじゃ並3と大盛り2で、あと先ビール」

店員「かしこまりました」


京太郎「慣れてるなぁ」

靖子「この店はお気に入りでね。東京滞在中はよく行くんだよ」


靖子「二階は座敷で個室になってる」

ムロ「なんと趣のある」

まこ「なかなかに年季はいっとるのう」


店員「失礼します。麦茶と、お先にビールでございます」

靖子「どうも」

京太郎「オレが注ぎましょうか?」

靖子「いいのか? でも、ビール注ぐのってけっこうコツがいるんだぞ?」


京太郎「まかせてください。こう見えて、もう何10杯と注いでますから!」

靖子「おいおい、それはそれでどうなんだ……?」

靖子「さてと、熊倉さん」

トシ「うん。乾杯といこうか……ムロ、乾杯の音頭おねがいね」

ムロ「ええっ、私!?」


ムロ「な、なに言ったらいいんですか……?」

まこ「乾杯の前にちょっとなんか付けとけばええから」

京太郎「大会に向けての抱負とかどうだ?」

ムロ「抱負ですか……それでは」


ムロ「えと……まさか私が全国に行けるなんて、今でも実感わかないです」

ムロ「ほんの数ヶ月前までは、なんの取り柄もなかった私です」

ムロ「でも、負ける気無いです」

ムロ「大会では常に全力で、行けるとこまで行きたいと思います……それでは、カンパイ!」


「「カンパーイ!」」


トシ「んぐ、んぐ……ぷはぁ」

靖子「かーっ!」

まこ「美味そうに飲むのう。どれ、わしらも」

京太郎「先生達は麦酒で、オレらは麦茶で乾杯だ」

ムロ「お酒は二十歳になってから、ですね」

靖子「あ、そういえば夢乃の件だけど」

ムロ「マホがなんです?」

靖子「こないだ久から電話きたんだが、お前たちは知らないのか?」


京太郎「竹井先輩が言ってましたね。コクマの話でしたっけ」

ムロ「そんな事ありましたね」

靖子「ああ、それだ。急に電話よこしてきて、夢乃をエントリーできないか? だと」

まこ「単刀直入すぎる」

京太郎「いいのか? そんなんで」

ムロ「そんな簡単にいくわけないですよね。いくらなんでも……」


靖子「ところが、候補に挙がってるんだなぁコレが」


ムロ「ホントですか!?」

まこ「言ってみるもんじゃのう」

靖子「いや、べつに久に言われたからじゃないぞ」

ムロ「じゃあ、マホの実力で……?」

靖子「まあ、そういう事になるな。今の業界の流れもあるが」


京太郎「業界の流れ?」

靖子「ああ、それは……」


店員「失礼いたします」


靖子「お、来た来た」

京太郎「な、流れって?」

店員「お待ちどうさまです」

靖子「それはまた、後でな。さ、アツアツのうちに食べるぞ」


ムロ「いい匂いが蓋からもれてますよ」

まこ「たまらんのう……ほいじゃ」

パカッ フワァ

トシ「うーん、この香ばしくてちょっと甘い匂い。いいわね」

京太郎「いただきます!」


ムロ(少し濃いきつね色の衣。とろっとした卵に包まれて、ツヤツヤのご飯がチラッとのぞいてる)

ムロ(かつは5切れ。その上に三つ葉がちょこんと乗ってて香りもいい)

ムロ(丼だけじゃなく、お吸い物と漬物も付いてきた。箸休めに最適だ)


ムロ「いただきます。あむっ」

ムロ「んぐ……はふ、あっふ、もぐもぐ……んん、お肉がムッチリしてる」

まこ「衣がちゃんとつゆを吸っとるのに形を保ってピッチリくっついてて」

京太郎「ご飯大盛りにしといて正解だったぜ」


靖子「むふー、コレだよコレ」

トシ「このお漬物も美味しいわ」

まこ「ふう……ごちそうさん」


靖子「それで、さっきの話の続きだけど……」

ムロ「麻雀業界でなにが起こってるんですって?」

靖子「さて、どうやって説明したもんか……そうだな、おい須賀」

京太郎「はい?」


靖子「お前、私と対局して勝てるか? 正直に言ってみろ」

京太郎「えーと……何局か打てば、勝てる局もあると思いますけど」

靖子「そうだな。麻雀ってそういうもんだ。プロ対アマで、いつもプロが勝てるわけじゃない」

靖子「プロからしたら立場ねーってわけだ」

京太郎「それはしょうがないでしょう」

ムロ「そこが麻雀の醍醐味ともいえるんじゃないですか?」

靖子「否定はしないよ。だが、こちらにもプロの威厳ってもんがある。じゃあ……」


靖子「三尋木プロや小鍛治プロとやって勝てるか?」


京太郎「う、うーん……」

靖子「何百、いや何千局とやってもいいぞ」

京太郎「それでも、ちょっとイメージできませんね。あの人達に勝つってのは……」

靖子「だろうな。強者でも勝率は3割程度。7割は負けてしまう麻雀で絶対勝てない、なんて言わせる」

靖子「そういう一般的な確立を凌駕した能力を持つ人材を、業界は今、欲しがっている」


ムロ「能力……それでマホが?」

靖子「プロとしては、アマチュアとの間に一線を設けたいんだ」

靖子「そーゆーのが去年あたりから出てきてな。インハイでも、競技麻雀ルールの撤廃とか」

靖子「今年も露骨に出てるぞ、そーゆーの」

京太郎「どのへんですか?」


靖子「今年のシード校」

ムロ「えっとたしか、臨海、白糸台、千里山……」

京太郎「……龍門渕」


まこ「言われてみりゃあ、龍門渕が浮いとる気がするわ」

京太郎「そうですね。透華さんがあまりにもはしゃいでたから、つい……」

ムロ「冷静になって考えたら不自然ですよね」


トシ「どうせ、お目当てはあの子なんだろう? でも……」

靖子「ええ、衣は人の目を嫌いますから。プロ入りなんてありえないでしょうけどね」

京太郎「デジタル不遇の時代か……」

まこ「いや、あんたもまっとうなデジタル打ちとは言えんけえ」


靖子「そんな悲観的になるなよ。プロがみんなオカルトで打ってるわけじゃないさ」

靖子「むしろ、そんなのは一部だけだ」

ムロ「だからの人材募集ですか」

靖子「そうなんだが、あんまりオカルトが蔓延しても、それはそれでよろしくない」

まこ「いかんのですか」


トシ「得てして、そういった選手は対策されやすいからね」

靖子「そう、決まった打ち筋が必ず存在する」


靖子「あとレベル差ありすぎても競技人口増やせないし……」

京太郎「ワガママだなぁ」

ムロ「プロって情報戦すごそうです」

靖子「すごいぞー」


店員「失礼いたします。ビールおかわりと枝豆です」

靖子「どうも」

店員「今日の枝豆は山形のだだちゃ豆なんですよ」

トシ「あら、いいわね」

まくりが印象的=最低でも中盤まではリードされてる事が多い
って事だからなぁ。
特に藤田プロは強い弱い抜きに勝てそうな空気はプロの中で一番あると思う。

靖子「お前らもどうだ」

まこ「いいんですか? いただきます」

ムロ「いただきます!」

京太郎「ゴチです!」


トシ「だだちゃ豆は香りも味も濃くって、ビールと良く合うのよ」

京太郎「もぐもぐ」

ムロ「ホントだ。美味しいですね……あむ」

靖子「んっんっプハァ……情報戦で思い出したけど」


靖子「今年の新人はそういうの上手いよな」

京太郎「照さんが真っ先に思い浮かんだ」


靖子「宮永は……ちょっとずっこい。あとは赤土プロとか」

まこ「あの人が阿知賀の時も、ちょいと普通じゃない情報仕入れとったそうで……もぐ」

ムロ「選手の表情ってのはまだわかりますけど、右手って」

京太郎「観察眼がすごいんだろうな……あむ」


京太郎「オレも個人戦に向けて、一応は対戦相手の牌譜とか見てるんですけどね。これがどうにも」

ムロ「量が多い……あむ」

靖子「相手を気にしすぎなんじゃないか? まだ高校生だろう」

京太郎「関係あるんですかそれ? ……あむ」

靖子「相手よりまず自分だろ。自信のスタイルを確立してから言え」


まこ「敵を知り己を知ればってやつですか……もぐ」

靖子「そういうこと」

ムロ「なるほど、一理あります……あむ」

トシ「ムロはまだ成長途中だからねえ……もぐ」

京太郎「ですね……あむ」


靖子「って、ちゃんと話し聞いてるのか? 枝豆ばっか食べて」

京太郎「聞いてますよ……もぐ」

ムロ「もちろんですよ。もぐ、あむ」

靖子「ったく……もぐもぐ」


靖子「……うん、美味しい」

今日はここまで
>>385
藤田プロは点差があればある程強くなるイメージ
三国志大戦3の高順みたいな

>>367
自分で書いてもいいんですよ
ちなみに総合だとこういうの書いてました
http://www34.atwiki.jp/kyotaross/pages/5310.html
http://www34.atwiki.jp/kyotaross/pages/5294.html

こんばんわ
最新話の第146局は怒涛の展開でしたね
個人的には、ネリーの見えなくなるシーンに注目してました

ところで、ツモ筋ってあるじゃないですか
優希や宥みたいな、ツモにブーストや偏りを生み出す能力の人は
自分に有利なツモ筋を作りだす……って前までは思ってたんですけど

もっとその奥にある『ツモソース』に影響を及ぼしてるんじゃないかと思いました
ツモソースとはツモ筋とかツモ順みたいな枠を取っ払ったやつです
カイジの十七歩みたいなイメージ

鳴かれてもツモる現象と、霞の絶一門がズレてないの説明付けたいと思ってこんなの考えました
一発消しの鳴きや亜空間殺法などでズラされたりは、プレイヤーの支配力の戦力差によります

あと、牌が見える系の人は牌の所在をロックします。咲とか
明白になる代わりに、鳴かれたら普通にズレます
逆に見えなかったらやりたい放題ですが、明確な牌種はわかりません
衣がイーピン掴まされたり、淡が穏乃に注意されたのはコレ

上手く説明できないけどこんな感じの設定があります。このSSでは
原作でなんか気になった描写があればその都度バージョンアップしていきたい

それと、ネリーの目のエフェクトって火でいいんですかね?
だとしたら前にちょこっと言った、ネリー=アミラン説がいよいよ真実味を帯びてきたような……


長々しちゃいました
投下します。今回は北の人とか南の人とか

北海道 牧場内 カフェ


爽「今日はお客さん少ないな」

誓子「そうね。と言っても、まだ朝で開いたばっかだし」

爽「昨日が多すぎたんだよね。団体様がいくつもブッキングしてさ」

誓子「ここの牛よりも人間の方が多いんじゃないかってくらいの……」

爽「ああ……アレはもの売るってレベルじゃなかったわ、マジで」


成香「おつかれさまです」

揺杏「コーヒーくれコーヒー。ハブ・ア・コーヒー・ブレイク・ターイム」


爽「はい、よろこんでー!」

揺杏「明るいうちから聞く掛け声じゃねーぞ」

誓子「ご一緒に、当牧場自慢のチーズをふんだんに使用した、レアチーズケーキはいかがでしょうか」

揺杏「ほほう。じゃあひとつ、そのレアチーズケーキとやらを食べてみようかな?」


誓子「かしこまりました」

爽「成香は?」

成香「私はロイヤルミルクティーをおねがいします」

爽「あいよー。ふたりともホットでいいの?」

成香「はい」

揺杏「いいよー。こちとらジェラートの仕込みが長引いちゃってさ」

成香「手先が冷えちゃいました」

爽「昨日はすっごい忙しかったからな」

揺杏「そのまますぐ帰ってすぐ寝たしね。代わりに朝早起きすんのヤベェつれーけど」

誓子「ごくろうさま。はい、ご注文のコーヒーとレアチーズケーキ、ロイヤルミルクティーです」

成香「ありがとうございます」

揺杏「サンキュ~」


揺杏「ずずっ……ふぅ。今日はそんなに忙しい予定ないんでしょ?」

成香「はい。昨日は団体のお客様が重なりましたけど、今日は予約が入っていませんので」

誓子「ホント、昨日は大変だったよね」

成香「ええ、みなさんありがとうございました」

爽「いいよいいよ、それにしても……」


爽「これもユキの宣伝効果なのかな?」

揺杏「それはあるだろうな。あんなに人来たのはじめて見たし」

成香「ユキちゃん、雑誌やテレビに出ててすごいです」


誓子「成香の家の牧場にお客さんがたくさん来るのもうれしいけど」

誓子「それがユキのおかげっていうのが、なんかうれしいよね」

成香「すてきです」


爽「ユキは私が育てた」

揺杏「いや、最初に会ったときからかなりの育ち具合だったろ」

爽「そんなユキが、ここの牛乳よく飲んでるんですよー、とか言っちゃったらもう」グフフ

揺杏「その宣伝効果たるやもう」ムフフ

誓子「アンタたちねぇ……」

成香「思考がまるで中年男性で怖いです」


誓子「大学生にもなってバカなこと言わないの」

爽「ずっと若いままでいたいよ、気持ちだけでもね」

成香「……私は、はやくオトナになりたいです」


成香「昨日も、お客様に中学生と間違われましたし……」

誓子「ああ……」


爽「だいじょぶだいじょぶ。去年は小学生だったじゃん、ちゃんと成長してるよ!」

揺杏「アッハッハ、ぜんっぜんフォローになってねーし!」

誓子「いや爽も言うほど……」

成香「うう、せめて実年齢……のマイナス2歳くらいは……!」


爽「ま、そんな背伸びすることはないよ」

揺杏「そうそう。二度とない今を楽しもーぜ」

爽「ふふーん?」

揺杏「あん?」


爽「この上なく夏休みをエンジョイしているようだね、受験生?」

揺杏「やめろやめろ」

誓子「それにしても意外だったわ」

爽「なにが?」

誓子「揺杏の進路よ」


誓子「てっきり服飾系の学校に行くのかなって思ってたもん」

揺杏「それも一応は考えてたんだけどね」

爽「でも、将来的にはそういう仕事したいんでしょ?」


揺杏「私さ、アラサーなる前に自分の店とか持ちたいんだよね」

爽「へぇ、いいねいいね」

揺杏「会社とか入るその前に、色々やりたい事とかあるし」

成香「それで、留学ですか」

揺杏「イエース」


誓子「フィンランドってどのへんなんだっけ?」

揺杏「北欧。ヨーロッパの北の方」

爽「ユキって北欧好きそうだよなぁ」

揺杏「あは、ありそう」

成香「そうなんですか?」



爽「ユキが好きそうな神話とかあるしね」



誓子「ちょっと納得しちゃった」

成香「あの辺りの国はよくわかりません……」

誓子「高校の授業でもあんまり触れてなかったもんね」


成香「えっとたしか、お隣りはスウェーデンでしたよね?」

揺杏「そうそう、ノルウェーも近い」

誓子「ノルウェーなんて、ビートルズか村上春樹くらいでしか聞かないなぁ」

爽「そのへんの地理について、いい暗記方法があるんだけど」

成香「へぇ、どういうのでしょう?」


爽「ノル上、下スウェーしたら、た――」

誓子「そこまで!」


爽「怒られちった……」

揺杏「バッカでやんの」

成香「な、なんだったんでしょうか」

誓子「いいからいいから。あ、もうすぐインハイの開会式やる時間じゃない?」


爽「マジか!」

揺杏「テレビテレビ!」

成香「はい。ええと、リモコンは……」

パッ

誓子「あっ上様」

揺杏「いま、暴れん坊将軍やってんだ」

爽「ええい、上様がこのような時間帯におられるはずがない! さては再放送だな?」

成香「3チャンでいいですよね」

揺杏「開会式はそこくらいしか放送してないんじゃね?」

爽「ユキはどこだ? ユキを映せ!」

誓子「地元代表の琴似栄も応援してあげようよ」


揺杏「つーか、個人戦の選手って映すのか?」

誓子「基本は団体戦のメンバーだと思うけど」

成香「総合開会式ですから、個人代表の方も映しますよきっと」


爽「ちらほらと見知った顔が」

誓子「強豪校なんかは、皆さんすでにおなじみのって選手がいるわよね」


  『東東京代表、西東京代表の入場です』

 
揺杏「実際に戦った人もいるし……お、言ってるそばから臨海女子」

成香「あ、あれ? この人、片岡さんですか? 清澄の」

誓子「えっホントだ」

揺杏「マジか? マジだ。相変わらずあのマント付けてんのね、ヤベェ」

爽「片岡さん、臨海行ったんだ」


揺杏「大将だった宮永咲が白糸台行ったのは知ってたけど」

成香「あのときはめちゃくちゃ話題になってました」

揺杏「今年はインハイ出ねーから、そういう情報スルーしてたわ」

成香「出れない、の間違いではないでしょうか……」

爽「予選落ち」ボソ

揺杏「るっせー」


誓子「白糸台だ。宮永咲もいるよ」

爽「がんばってほしいよね。元対戦相手としては」

誓子「今年は先鋒なんだ」

揺杏「姉のポジションを受け継いだってとこか」


  『続いて北北海道、南北海道代表の入場です』


爽「来たか……!」

揺杏「どこどこ?」

誓子「個人戦のみだし、列の最後だと思うよ」

成香「いました!」

爽「おおーユキー!」

誓子「がんばれー」

成香「堂々としてて立派です」

揺杏「だね。なんかオーラ出てきたっつーか」

爽「芸能人的な?」

揺杏「そそそ、やっぱ周りと比べてみても垢抜けてんじゃん?」


誓子「あ……隠れちゃった」

成香「ユキちゃん見えません」

揺杏「身長低いから、こう整列されるとマジで見えね~」

爽「カメラワークたのむよー」


  『さぁ、この後は選手宣誓です』

  『高校生らしい、フェアネスでリスペクトしあう試合を期待したいですね』


爽「この選手宣誓する人ってどうやって決めるんだろ」

揺杏「抽選らしいよ~。なんかクジ引くんだって」

爽「当たってもうれしくなくね?」

誓子「夏の大会は立候補した選手の中から選ばれるみたいよ」

  『選手宣誓を行います。選手代表、新道寺女子高校部長、鶴田姫子』


姫子『楽しいよ! おいで!』

  『選手宣誓も終わり、いよいよ団体戦トーナメントの抽選が行われます』

インターハイ会場


華菜「ふう。やっと終わったし」

ムロ「ちょっと緊張しちゃいました」

華菜「そんな緊張するシーンなんてあったか?」

ムロ「ここに居る全員が、全国レベルのプレイヤーだと思うと圧倒されちゃって……」

華菜「実際に対局するのはあの半分くらいだけどな」


京太郎「ムロうぃーっす」

ムロ「先輩」

華菜「よっ」

数絵「どうも」


京太郎「池田さんと南浦さんもおはようございます。そっちは開会式終わり?」

ムロ「男子もですか? あれ、抽選会は?」

京太郎「それも終わった。団体戦より数多いし、あんな仰々しくやらねーよ」

ムロ「それで、今ここにいるってことは」

京太郎「2日目でしたー。はぁ……」


華菜「ん? 2日目だとダメなのか?」

京太郎「オレの場合、長時間麻雀するとめっちゃ体力削れるんで、3日目の本選前は休みたかったんですよ」

ムロ「幸先わる……」

京太郎「運を貯めてると考えるんだ」


華菜「私たち女子の個人代表は、これからけっこう時間空くからダレないようにしとかないと」

ムロ「ですね。そういえば、南浦さんはこれからどうするんですか?」

数絵「私はいったん長野に帰ります」


数絵「うちの学校は、あまり麻雀部に力を入れてないので、滞在費も試合当日分して出てなくて」

ムロ「個人戦が始まるまで9日もですもんね」

数絵「ですから、今日は観光でもしようかと思ったんですけど……」

華菜「へぇ、ドコ行くんだ?」


数絵「それが、行きたい場所がなくて」

ムロ「ええ?」


華菜「観光するとこなんて、いっぱいあるじゃん?」

数絵「最初は巣鴨に行く予定だったんですよ」

京太郎「渋い」

数絵「でも、お爺様が若い女が行っても楽しめんだろうし、自分の好きなところに行ってこいと」


数絵「暇を出されてしまいました」

京太郎「まあ、お店とか多すぎて迷うってのはあるよな」

ムロ「私たちがそうでしたからね……」

数絵「ですから、適当に雀荘にでも行って暇をつぶそうかと」

華菜「え~? それはもったいないし!」

数絵「そう言われましても……」

京太郎「そうだ。南浦さん、これから時間空いてるんですよね?」

数絵「はい」

京太郎「麻雀打ちたいんですよね?」

数絵「まあ、はい」

ムロ「まさか……」


京太郎「なら、いい場所知ってますよ!」

数絵「本当ですか?」

華菜「んん? ドコ行く気だ?」



国立オリンピック記念青少年総合センター


数絵「ここは……」

華菜「うちと清澄が泊まってるとこだし。ってかここかよ」

数絵「風越と清澄の方が相手ですか。たしかに、そのへんの雀荘の客よりは手応えありそうですけど」

京太郎「それだけじゃないんですよ」

ガラッ

衣「きたぞー!」

透華「来ましたわ!」

数絵「あなたたちは……!」

京太郎「ようこそ、いらっしゃいませ」

純「ん? コイツは」

透華「あら、貴女は平滝高校の南浦数絵さんじゃありませんの」

京太郎「特別ゲストです」


京太郎「今日はわざわざ相手してもらってありがとうございます」

一「ううん、こちらの方こそ」

透華「私達も出番まで調整しないといけませんので」


透華「なんせ、我が龍門渕高校はシード校ですもの! 第1試合が無くって時間を持て余していたところですわ!」

純「そーゆーことだ。ところで、南浦の方はいいのか?」

数絵「私ですか?」

智紀「他の個人代表に、少なからず情報を与える」

数絵「かまいませんよ」


数絵「隠すことなんてありませんから。逆に、見せつけてあげましょう」

純「ならいいんだ」

数絵「そのうえで私が勝ちますから」


衣「ほう」

衣「日は高く、満月まで八日ほどあるが……それでも衣に勝てると思うのか」

数絵「私は長野大会で1位でした。つまり、長野では1番強いということです」

数絵「……しかし、長野にはあなたが居る」

衣「衣は衆目を嫌う」


数絵「個人戦に出場しない理由はこの際いいんです」

衣「おぅっ」

数絵「気がかりだったんですよ、あなたの存在が」

衣「それで?」


数絵「しこりを取り除き、万全の状態で大会に臨む……あなたを倒してね」

衣「然もありなん。では衣も今の全力で迎えるとしよう」

ゴゴゴゴ


京太郎「あ、あれ、なんかガチっぽい空気なんだけど……」

ムロ「元はと言えば、先輩が誘ったからでしょ?」

今日はここまで

成香の家は酪農っぽいと思います

こんばんわ
フィンランドといえばムーミン

投下します。みじかめ

東三局
親:天江衣


京太郎「ツモ。1000・2000」

純「おう」

数絵「はい」

まこ「ふむ、今日は突破できとるみたいじゃの」

衣(おかしい……)


衣(衣は東場で勝負を決するつもりだった)

衣(万全の衣ではないけれど、手加減しているつもりはない)

衣(堅忍不抜。東場はじっとしていて、何も無いものと思っていたが)


京太郎「…………」キィィィン

衣(キョータローも腰を上げた)

純(嵐の前の静けさってか。荒れる前に、少しでも稼いでおきたいね)



東四局
親:井上純


衣「ロン! 裏は……乗らず。8000」

純「うげっ!? マジかよ……しくったァ」

衣「うーん、やっぱりトバせない」


衣(コレがこの局で最高点の和了だった……やはりなにかある。さて)

京太郎(南場だ)

南一局
親:須賀京太郎


ブワァ

衣「!」

純(きたか)

ドォッ

数絵「さぁ、南入です」シュルル

京太郎(あったかぁい)

ムロ「南浦さん、県予選の時よりも熱を帯びてるような」

智紀「設定温度さげる?」


数絵「リーチ」チャッ

純(やれるだけやってみるか)

純「ポン!」

カシャ

数絵(フッ)


バシィッ

数絵「ツモ。リーチ・ツモ・ダブ南・ドラ2……3000・6000」

京太郎「はい」


池田「須賀と井上どっちがトぶかなー?」

純「やかましい」

京太郎「まだまだこれからですよ」

南二局
親:南浦数絵


数絵「私の親番です」

数絵(つまり、これがラス親ということです)

数絵(南場では誰であろうと、私を止められない)


数絵「ロン。ダブ南・ドラ1、1300・2600」

一「6巡目か……」

透華「始まりましたわね」

数絵「1本場」ダン


京太郎(ここは安手でもいいから速攻で)



南二局 1本場
親:南浦数絵
4巡目


数絵「ツモ。南のみ、300・500の1本場は400・600です」

池田「はや……」

京太郎(なんもさせてもらえん)

数絵「2本場」


智紀「県予選では高打点の和了が印象的だったけど」

一「片岡さんみたいに鳴いて速攻もいけるみたいだね」

数絵(トップとの点差はあるけど、相手は天江衣)

数絵(高い手を狙っている間に和了られでもしたら、一撃で勝負が決まってしまう)

数絵(速度で圧倒し、和了る隙を与えない)


衣「ポン!」
/⑧⑧⑧

数絵(これは、 海底つけて打点を上げるつもりですね)


京太郎「…………」タン

純「チー」

カシャ

ムロ「鳴きかえした」

池田「コースアウト」

数絵(わざわざ妨害してくれるとは、手間が省けて助かります)


京太郎「…………」タン

衣「チー!」
/234

一「まただ、二副露」

透華「あら? これって」

数絵(……これは海底コースではない。喰いタンですか)

京太郎「…………」タン

純「ポン」

数絵「!」


数絵(これは、手を進めるための鳴きではなく、私のツモ番をとばすための……!?)


純「チー」

衣「ポン!」

純「チー」

衣「ポン!」

数絵(ううぅぅッ!?)


ムロ「うわぁ……」

まこ「こりゃあ、一向聴地獄のあたらしいやつかいのう……?」

数絵(こ、こんなの、やりすぎです!)


数絵(し、しかし……よくみれば役無し。ただの延命処置にすぎな……)


京太郎「ツモ」キィィィ

数絵「なっ」


京太郎「2000・4000の2本場は、2200・4200です」

数絵(もしかして、この鳴きは須賀君の手を育てるための……)

数絵(そうか。これだけ点差があれば、自分で和了らなくても)

数絵(天江さんにはその選択肢があって……それを私は考慮できていなかった)

数絵(というか私の親が……!)



南四局 オーラス
親:井上純


数絵「それ! それロンです! 12000!」

京太郎「は、はい!」キィィィ...


ムロ「あーあ。最後の最後にヘマしちゃいましたね」

透華「デジタルで打ってたら、アレは振ってしまいますわ」

まこ「ちゅーことは、これで順位変わって……?」

数絵「ふふふ、ふ……!」


数絵「やはり南場は私の独壇場。私に勝つには東場で勝負をつけるべきでしたね」キリッ

衣「え~?」


純「いや途中めっちゃ焦ってたろ、お前」

数絵「あ、あせってません!」

池田「めちゃくちゃ動揺してたし」

京太郎「バレバレでしたよ」

一「でも、あれだけ露骨に鳴かれたらビックリしちゃうよね」

智紀「あれは想定外すぎる」

数絵「ですよね」



数時間後


京太郎「ちょっと休憩はいりまーす」

まこ「わしらもインターバルとるか」

ムロ「そうしましょう」

衣「小休止!」


ムロ「先輩、明日が試合なんですからあんまり無理しないでくださいよ」

京太郎「わかってる。体調管理はバッチシだって」

池田「いよいよ明日か」

一「見たかんじ、緊張とかないみたいだね」

京太郎「そうですね。今のところは」

まこ「コイツは本番で緊張するタイプじゃあないわ」


ムロ「図太いっていうか」

京太郎「おいおい。こうみえて結構デリケートにできてるんだぜ?」

京太郎「それに、自分の力を100%出し切れば勝てるって信じてますから」

数絵「まったくです。それにしても……」


数絵「天江さんは、思っていたより柔軟な戦い方をするのですね」

衣「そうなのか?」

数絵「去年までの記録を見てて、私はそう思いました」

透華「たしかに、戦術の幅が広がっていますわ」

衣「衣は以前までは、相手をいたぶる麻雀をしていた」


衣「でも、そんな麻雀を打っていたら負けてしまった」

数絵「去年の県予選の決勝戦ですね」

衣「その時にわかったんだ。衣は麻雀を打たされてるって」


衣「そして負けてわかった。麻雀とは楽しいんだということを」

衣「麻雀には色んな打ち方があるし、負ける事もある」

衣「当たり前のことだけど、衣の眼前は晴れた」

衣「カズエは、衣と麻雀を打って楽しかったか?」

数絵「そう、ですね。楽しかったですよ」


数絵「久しぶりにエキサイトしたような気がします」

数絵「それに、色々と学ぶことがありました」

衣「本当か!?」

数絵「ええ。良かったら、また私と打ってもらえますか」

衣「うん! カズエの様な打ち手ならば大歓迎。芝蘭の室に入るが如しだ!」

京太郎(楽しい、か……)


数絵「それでは、私はこのへんで」

池田「次は個人戦で華菜ちゃんと勝負だし!」

数絵「ええ、その時はいい勝負ができる事を期待しています」

ムロ「大会ではよろしくお願いします」

数絵「はい。今日は誘ってくれてありがとうございました。須賀君もがんばってください」

京太郎「どうも。お互い頑張りましょう」

数絵「では、失礼します」


ムロ「行っちゃいましたね」

京太郎「ああ」

池田「よぅし、もうひと勝負だし!」

純「次こそトバすわ」

池田「ハッ、言ってろ」

衣「衣もやるー!」

池田「おっしゃ来いやぁ!」


ムロ「次、私はいります。予約でーす」

京太郎「オレも入ろうかな」

まこ「ええんか?」

京太郎「リラックスして打てるのは今日が最後ですから」

ムロ「やっぱちょっとは緊張してるんですか?」

京太郎「まぁな。でも、悪い意味では全然」


京太郎「不安要素はあるけど、こればっかりはしょうがないし」

ムロ「なんです?」

京太郎「100%の力を出せばオレは勝てる。それは自信がある。でも……」


京太郎「それがいつまでもつかなーって」

今日はここまで
次回京太郎出番です

こんばんわ
原作のトーナメント表見てたら、東愛知・西愛知、北神奈川・南神奈川ってあるんですね
人口多いしね。
北海道は4分割くらいしてもいいのにって思ってたけど、面積に対してそこまで人口多くなかった

投下します

インターハイ 2日目
男子個人戦 予選2日目


  『これにて個人戦2日目終了ーッ! さぁ、明日の本選に進むのは一体誰なのか!?』

  『ただいま集計を行っています。しばらくお待ちください』


京太郎「ただいまー」

ムロ「おかえりなさい先輩!」

まこ「どうじゃった?」

京太郎「めっちゃつかれました」

トシ「見たらわかるよ」


ムロ「はい、飲み物です」

京太郎「さんきゅ……んっんっ、ぷはぁ」

トシ「最後の方のボーダー争い、すごかったわよ」

京太郎「そうですか」

ムロ「先輩の順位が一気に10位も下がった時なんて、思わず変な声出ちゃいましたよ」

京太郎「まじで」

まこ「じゃがそっから挽回できてたけぇ。結果発表も、そがぁ怖いもんでもないじゃろ」

京太郎「ならいいですけど」

京太郎「はよしゃわーあびたい。くーらーつけたへやでふとんにくるまりたい」

ムロ「もう少し我慢してくださいね」

トシ「京太郎的には手応えあったかい?」

京太郎「そうですね」


京太郎「ぜんこくでも、けっこうれべるさがあるとかんじました」

ムロ「先輩からみて、長野のレベルってどうです?」

京太郎「けっこうたかいところにあるとおもうぞ。きょうぎじんこうは、あんまりかんけいなさそう」

京太郎「とうきょうとか、おおさかみたいなだいとしをのぞけば」

まこ「ほほう。ちなみに全体で自分はどのへんにおると思う?」


京太郎「ぞーんにはいってれば、とっぷしゅうだんにさんかできるくらい」

ムロ「入ってなかったら?」

京太郎「……ちゅうのげ、くらいかな」

トシ「問題はそこだね」


  『いよいよ結果発表です! この中から選ばれるのはたったの20人!』

  『昨日と今日で選出された計40名で明日の本選を争い、決勝戦を行う4名が決まります』

ザワザワ

ムロ「あ、きますよ、結果!」

まこ「まあ、大丈夫じゃろ。なんだかんだ安定して1位獲ってたけぇ」

トシ「そう言って、ソワソワしてるじゃないの」

京太郎「ああぁぁぁぁ……だっる」

  『集計が終わったようです』

  『ではでは、運命の結果発表……! はいドーン!』

ワアアァァァァ


ムロ「先輩は……あった!」

京太郎「おお」

まこ「やったのう!」

トシ「ふう……ひとまず予選は突破だね」

京太郎「よかったー」


ムロ「じゃ、帰りますか」

京太郎「うい」

トシ「戻ったら反省会だよ」



宿泊所


京太郎「ついに明日で決まっちゃうのか」

ムロ「早いですね」

トシ「まこは去年どうだった? 決勝の前日って」

まこ「けっこう緊張とか興奮はありましたわ」

ムロ「決勝前ってなったら、やっぱりそうなりますよね」

まこ「わしらの団体戦は1週間以上かけて決着でしたけぇ」


京太郎「やっぱり短い日程だと、実感わきにくい……」

ムロ「んなこと言ってらんないですよ!」

トシ「そうだね。泣いても笑っても、明日が京太郎の最終日なんだから」

京太郎「なんか別の意味であせってきたかも……」

まこ「ちゅーても、やるこたぁおんなじじゃけぇ」


京太郎「気を抜いてるわけじゃないですよ。むしろ気合はバッチリはいってます!」

トシ「はいりすぎて、途中でガス欠なんてしないようにね」

まこ「そんじゃあ今日の試合じゃが、全体的に――」



2時間後


トシ「――ってかんじね。あまり最高状態に頼らないように」

京太郎「はい、やってみます」

まこ「今日はこんくらいにしとくか。あんま詰め込んでもイカンしのう」

ムロ「はーい」

京太郎「お疲れさまでした」


ムロ「先輩、なんか食べに行きます?」

京太郎「いや、やめとくよ。今日はもう寝て、明日はやく起きて食べる」

ムロ「わかりました。おやすみなさい」

京太郎「おやすみ」

ムロ「はい……さてと」


ムロ「この牌譜、すこし借りますね」

トシ「かまわないよ」

深夜 宿泊所 ランドリールーム


ゴウン ゴウン

京太郎「いやー、うっかり。洗濯するの忘れてたわ」

京太郎「替えの下着もあるけど、汚れものをそのまま放置は精神衛生上よくない」

ゴウン ゴウン

京太郎「こういう小さい事が気になって試合に影響出るかもだし」

京太郎「……そんなんで負けたらマジでつまんねーぞ」


ガタッ

ムロ「洗濯するの忘れちゃったーん……うぉっ先輩? まだ起きてたんですか」

京太郎「それはこっちのセリフでもある」

ムロ「なんなのもう」

京太郎「ずっと起きてたの?」


ムロ「そうですよー。あれから色々と、明日出てくる選手の牌譜とか見たりして」

京太郎「調べてくれてたのか」

ムロ「私が先輩にしてあげれることって、今はこれくらいしかありませんし」

京太郎「そっか、サンキュ」

ムロ「いえいえ。私だけじゃなく熊倉先生と染谷部長にも言ってあげてください」

ムロ「すみません、ちょっとあっち向いててもらえます?」

京太郎「え、なんで」

ムロ「いいから!」

京太郎「わ、わかったよ……」

ガサゴソ

京太郎「ああ、洗濯しに来たんだもんな」

ムロ「デリカシーないです」

ピッ ゴウン ゴウン


ムロ「ふぅ、これでよしっと」

ムロ「先輩こそ、先に休んでたんじゃないんですか?」

京太郎「あんまりにも早く寝たせいか体内リズムが狂ったみたいで。起きちゃった」

ムロ「大丈夫ですか? 明日ちゃんと起きれます?」

京太郎「ムロに寝起きを心配されるとは……」

ムロ「むう」


京太郎「大丈夫だって。なんなら起こしに行ってやろうか?」

ムロ「けっこうです。私こそ、ちゃんと起きられますからね!」

ムロ「ってか、なんで今わざわざ。朝に洗うという選択肢は?」

京太郎「洗濯なだけに?」


ムロ「…………」

京太郎「…………」


京太郎「気になって眠れなかったら元も子もないじゃん? 気持ちスッキリしてから寝たいし」

ムロ「だいぶ神経質になってますね」

京太郎「なってるかな」

ムロ「なってないです」

京太郎「気ぃつかうなよ」

ムロ「……なってるみたいですね」


ムロ「やっぱプレッシャーとかですか?」

京太郎「なんだろ……絶対にミスしちゃいけないって思ってるんだ」

京太郎「どこで集中してどこで休むのだとか、その見極めっていうか」


京太郎「いつでも冷静に、機械的に判断しないと」

京太郎「ずっとゾーンに入ってるわけにもいかないからな」


京太郎「素の状態のオレなんて、たかが知れてるし」

ムロ「……先輩、試合終わったらどこか出かけませんか?」

京太郎「へ? なに突然」


ムロ「前に、東京行ったら遠出しましょうって約束したじゃないですか」

京太郎「そうだっけ」

ムロ「ですよ。デートしましょう、デート!」

京太郎「デートって……そうだな。試合終わったら、どっか行くか」

ムロ「わぁい」


ムロ「どこ行きます?」

京太郎「騒がしい都心からすこし離れた、落ち着いた雰囲気の場所がいいな」

ムロ「落ち着いたとこ……」

京太郎「うーん、どうしよっか……すぐに思い浮かばねーわ」

ムロ「いいかんじの観光地ないかなー」

京太郎「あ、そうだ」


京太郎「いっそのこと、東京出るとか」

ムロ「ええっ?」

京太郎「前にテレビで特集やってて、行ってみたかったんだ。鎌倉」

ムロ「海ですか、海行っちゃいますか!」


京太郎「海も良いけど、散策とかしてさ。移動に電車使ったり」

ムロ「江ノ電ですね」

京太郎「神社とかパワースポットもあるし」

ムロ「オシャレな喫茶店もたくさんありますし」

京太郎「いいなぁ」

ムロ「いいですねぇ」


ムロ「……すこしはリラックスできました?」

京太郎「うん。ありがとな」


ムロ「どういたしまして」

京太郎「アレだな、旅行は行く前の計画してるときが一番楽しいってやつ」

ムロ「それはあるかもしれませんね。でも、ホントに行きましょ?」

ムロ「街を歩いたり、海を眺めたりお茶したり」


ムロ「先輩と一緒ならきっと、なにをしても楽しいですよ」

京太郎「ああ、そうかもな」

ピー ピー

京太郎「終わったか。よいしょっと」

ガサゴソ

京太郎「それじゃお先。はやく寝るんだぞ?」

ムロ「お互い様ですよ。おやすみなさい、明日もがんばってくださいね」

京太郎「うん、おやすみ」



翌日 インターハイ 3日目
男子個人戦 最終日


京太郎「ついに最終日か」

トシ「いよいよだね」

まこ「調子どうじゃ?」

京太郎「問題ないです」

ムロ「ご飯も食べたし、注意選手の打ち筋もチェックしたし、後は……」

トシ「ちょっと問診しようか」


京太郎「問診?」

トシ「いくつか質問するから答えてね」

トシ「今、心理的にどういう状況か理解した方が落ち着けるでしょう?」

トシ「昨日はよく寝られた?」

京太郎「はい」

トシ「朝食は美味しかった?」

京太郎「はい」

トシ「緊張してる?」

京太郎「少し。でも、悪い緊張じゃないです」

トシ「すぐに集中できそう?」

京太郎「はい」

トシ「今日の目標は?」

京太郎「優勝」

トシ「勝つイメージはある?」

京太郎「はい。いつも通りできれば」


トシ「よし、大丈夫みたいだね」

まこ「久も試合前にチェックシート作ってたわ。ムロん時にも作っとくか」

ムロ「それいいですね」


トシ「あとは、スタミナの管理が最重要よ」

京太郎「わかってます」

トシ「あら、あの子たちは……」

京太郎「ん?」

優希「おーっす! 応援に来たじぇー!」

咲「おはようございます」

京太郎「咲、優希!」


京太郎「来てくれたのか」

咲「電話とかメール送ろうかと思ったんだけど、やっぱり直接会って言う方がいいと思って」

優希「ありがたいだろう!」

京太郎「ああ、わざわざありがとな」


咲「京ちゃん、がんばって決勝戦まで行ってね」

京太郎「おうよ、絶対行くからな!」

優希「ホレ京太郎、差し入れのタコスだ!」

京太郎「おおっ! まさか、優希からタコス貰える日がくるなんて」

京太郎「前はいっつもオレが作ってやってたからなぁ」

優希「タコスといえば私、私といえばタコス。これ食べてタコスぢからチャージするんだじぇ!」

京太郎「サンキュ、昼休みにいただくよ」



咲「それと、和ちゃんから伝言あるよ」

京太郎「ああ、今日は阿知賀は試合だっけ」

咲「須賀君、あなたならきっと勝てます。今までの成果を見せる時です」

京太郎「ありがとう、って伝えといてくれ。あと声真似は微妙だった」

咲「あっそ」

  『まもなく、男子個人戦がはじまります。選手は指定された対局室に――』


優希「時間だじぇ」

咲「気合だよ!」

京太郎「うん」

トシ「あせらず、落ち着いてね」

まこ「思いっきり、後悔のないようやってきんさい」


ムロ「行ってらっしゃい、先輩」

京太郎「うん。行ってくる」


  『さぁ、個人戦最終日。今日で最強の男子高校生雀士が決まります!』

  『時間となりました……それでは、試合開始です!』



女子団体戦 3日目
Bブロック第1試合会場 阿知賀控室


憧「さーて、そろそろ私の出番か」

穏乃「がんばれよ!」


憧「玄が大量リードしてくれたから気ぃ楽だわー」

和「それでも、油断は禁物ですよ」

憧「わかってるって」

玄「和ちゃん、さっきからそわそわしてるけど……やっぱり気になる?」

和「えっ、そわそわしてましたか?」

灼「ちょっと落ち着きがな……」


穏乃「京太郎の試合だっけ。そんなに気になるんなら見てきたら?」

憧「こっちは私達でも大丈夫だけど」

和「いえ……」


和「ここまできたら、もう須賀君の実力次第ですから」

和「それに、言いたい事は咲さんに伝えてありますので」

穏乃「ふーん、そっか」

憧「くくく……」

玄「ふふっ」

和「な、なんですか」


憧「あははっ、和もけっこう頑固よねー」

玄「似た者同士っていうか」

和「な、なんですか!?」


灼「憧、そろそろ」

憧「はーい。それじゃ行ってくるね」

穏乃「おう! やっちゃってこい!」

玄「がんばってね!」

和「がんばってください……もう、なんなんですか」

観戦室


まこ「京太郎はようやっとるが、全国の強者もなかなかやりおるわ」

ムロ「レベル差があるって先輩言ってましたけど、確かに」

トシ「なんとか隙をついて上位に入りこみたいね」


ムロ「でも、圧倒的に順位伸ばしてるのは今のところ数人ですし」

まこ「じゃが、その数人で枠を埋めるかんじじゃ」

ムロ「決勝行けるのはたった4人だけですもんね……」

トシ「逆に、その上位の選手に仮に負けたとしても、他の選手に安定して勝ち続ければ決勝に行ける」


トシ「上手くそういう立ち回りができれば、京太郎にも勝機はあるわよ」

ムロ「そう、ですよね」

まこ「いずれはどっかでインターバルとらにゃいけんしのう」



対局室F


京太郎(強いなぁ、この人)

  「ツモ! 1300・2600」

京太郎「はい」

京太郎(ここは一旦引いた方が良さげかな?)


京太郎(それとも、勝負してみる? あんまし総得点に余裕無いし)

  「ロン! 3900」

  「はい……」

京太郎(チッ……またかよ)

京太郎(さすが本選に残った人は強い)

京太郎(ずっと勝つ事ばっか考えてたけど、目の前の壁はそうとう高い)

京太郎(超えられるか? もし、超えられなかったら……その時は)


京太郎(……敗退?)


ドクン

京太郎「えっ」

ドッ ドッ ドッ ドッ

京太郎(なに……急に、心拍数が……?)

ドッ ドッ ドッ ドッ


京太郎(あ、コレ、やばいやつだ……)


京太郎「スゥー、ハァー……」

京太郎(意識しちまった……!)

京太郎(落ち着け落ち着け大丈夫だ。焦るな落ち着けよ!)

京太郎(まだ負けるって決まったわけじゃない。まだ全然いけるって!)

プルプル

京太郎(震えてきた……かっこわりぃ)


京太郎(……思考は冴えて頭は冷静なのに、身体の方はパニクってる)

京太郎(コントロールできない。なにがそんなに怖いんだ……!?)

京太郎(……言いようのない不安感がやってくる)

京太郎(かまうな。いつも通りやるだけだ……)

京太郎(……心臓がうるさい。耳を塞いでるみたいだ)

京太郎(相手の発声は届く。問題ない……)

京太郎(……ツモる指が震えてる。山を崩しそうだ)

京太郎(チョンボとかシャレになんねーぞ……)

京太郎(……目がかすむ。牌がボヤけてきた)

京太郎(まだ色でなんとか判断できる……)


京太郎(……負けたくない)

ドクン

京太郎(…………)キイィィィィ

今日はここまで
だんだん五感を奪われていく

こんばんわ
グランドキリン 十六夜の月、美味しいです
ニュージーランドのホップを使ったKIWI IPAというスタイルのビールなんですってよエイちゃん!
国旗のデザイン変更とかで色々話題のNZですが、飲酒は18歳かららしいです

前回の最後ですけど
念のため言っておくと、別に相手に何かされてイップスってるわけでなく、京太郎が勝手に変になってるだけです。
五感とか余計な事書いちゃいました
ちなみにテニプリ原作でもちょっとタイムリーな展開でしたね

投下します

1年前 9月 清澄高校


同級生a「まさかウチの学校が準優勝しちまうなんてなー」

同級生b「僕は風越に勝った時点で、いいとこまで行くって確信していたよ」

同級生c「いやいや、それは言い過ぎじゃね?」

同級生b「そう? なぁ、須賀君もそう思うだろ?」

京太郎「えっなに? 聞いてなかった」


同級生a「だからー、麻雀部すっげーって話しだって」

京太郎「そうだな。ホントすげぇよ」

同級生b「なんせ風越と龍門渕を下しての県予選突破だからね」

同級生c「でも最後ギリギリの逆転だったし。正直言って、俺は全国ちょっと厳しいかと思ってた」


京太郎「あいつらは最初から優勝するつもりでいたぜ」

同級生c「マジか」

京太郎「もちろん。そのために決勝四校で合同合宿したりして……オレは行けなかったけど」

同級生a「なんで? もったいねー」

京太郎「はぁ!? オレだって行きたかったよ! でも女子の合宿だから無理なんだよ!」

京太郎「こっちは全然オッケーでもあっちは女子高の人達だし、そこに男は入れないんだよ!」


京太郎「オレだって行きたかったよ……!」

同級生a「京太郎、心の叫びである」

同級生c「しかも宮永がチャンピオンの妹で新チャンピオンって、すごいよな。ドラマティックだよ」

同級生a「昔はここに住んでたんだろ? いやー、全然知らなかったわ」

同級生b「でも急な転校だよね」

京太郎「そうだな」


京太郎「まぁ、家族が一緒ってのはいいことだよ、うん」

同級生a「幼なじみ的にはどーよ」

京太郎「どうよってなにが?」

同級生a「ひとり地元に残されて、さみしいんじゃねーのか?」


京太郎「ねーよ」



京太郎(……この頃はまだ、インターハイの熱に浮かされていたけれど)

京太郎(それが冷めるにしたがって、だんだんと浮き彫りになっていった)


京太郎(部のメンバーとの格差……)


京太郎(学校ではもちろん、自宅にいても皆を目に、耳にする)

京太郎(雑誌で。テレビで。新聞で。ネットで)

京太郎(あらゆるメディアで彼女達を見かけた)


京太郎(そこに映る『清澄高校麻雀部』には、何かがあって……誰かが居なかった)

インターハイ 3日目
男子個人戦 最終日 昼休み


まこ「無茶しすぎじゃ!」

ムロ「先輩、大丈夫……じゃないですよね」

京太郎「へいきさ……このくらい」

ムロ「嘘……」

トシ「明らかに疲労の色が見えるわ。これ以上は……」

京太郎「すこし、やすめばだいじょうぶ、ですから」


まこ「そうじゃな、とにかく今は休むのが最優先じゃけぇ」

ムロ「先輩……」

京太郎「はぁ……はぁ……」


ムロ(昨日、あれだけ冷静に判断しなきゃって言ってたのに)

ムロ(なんで、こんな無茶なペースで……判断ミスどころの騒ぎじゃない)

ムロ(プレッシャー? どうして……)


ムロ「……なにか、嫌な事とか考えちゃったんですか?」

京太郎「え……」

ムロ「問診です」


ムロ「話すとスッキリしますから、ね? あ、そのまま寝てていいですよ」

ムロ「前半の方は安定してトップ獲れてました。よかったですよ」

京太郎「ああ」

ムロ「途中から、ちょっと無理しちゃいました?」

京太郎「ああ」

ムロ「そんなに相手は強かったですか?」

京太郎「ああ」

ムロ「すこしは引いても、よかったんですよ?」

京太郎「それは……いやだ」

ムロ「嫌なんですか?」


京太郎「これいじょうは……はなされたくない」

まこ「そがぁ焦るほど離れとらんよ」

トシ「そうだよ、まだまだ挽回できる順位内だわ」

京太郎「まけたら、おいつけない……」

まこ「なにを……」


ムロ「それは、和先輩達のことですか?」

まこ「なんっ……そうなん?」

京太郎「…………」


京太郎「おれは……あいつらといっしょにいたいんです」

京太郎「ここにあいつらはいないから、おれががんばらないと、いなくなっちゃうんです」

まこ「京太郎……そこまで背負い込まんでもええんよ?」

京太郎「でも、それで、ここまでやってこれたんです。だから、このまま……」


京太郎「行けるとこまで行きます」

まこ「……わしゃあ、なんも言えんわ」


まこ「ここでやめろっちゅーても、遺恨を残すじゃろうし」

まこ「そもそも、聞かんじゃろ」

京太郎「すみません」

まこ「しゃーないのう、まったく。わしにできることは……」


まこ「……わしは待っとることしかできんけぇ」

トシ「京太郎」

京太郎「すみません、熊倉先生……なんかもう、ペース配分とか滅茶苦茶で」

トシ「それが、あんたの選んだ道なんだね」


トシ「自分で選択したんだもの。できる限り応援するわ」

京太郎「ありがとうございます」

トシ「でも、全部の試合に勝つのは無理よ。ただでさえ疲弊してるのに」

京太郎「それは……」

京太郎「それでも、オレは勝ち続けたいです。アイツらみたいに」

トシ「その為には最高状態を維持しないといけない」

ムロ「それは、無理ですよ」

京太郎「わかってる。だから……」

ムロ「なにか考えが?」


京太郎「無い」

ムロ「はぁ?」


京太郎「だからいいアイディアください! お願いします!」ペッコリン


まこ「えぇ……」

トシ「呆れた……考えナシかい」

京太郎「すみません……」

トシ「いいよ。それを考えるのが顧問である私の仕事だからね」

京太郎「ありがとうございます!」


トシ「その間、ごはん食べときなさい」

京太郎「言われてみれば……腹減った」グゥゥゥゥ

ムロ「もう食べても大丈夫なんですか?」

まこ「あんま時間無いけぇ、食うならはよせんと」

京太郎「今日のお昼はタコスです」

ムロ「これって優希先輩の手作りですね」

京太郎「っぽいな。どれどれ……あむっ」


京太郎「むむっ」

まこ「どうじゃ? 優希のタコスは」


京太郎「オレが作ってやった味に似てるけど」

京太郎「辛さや肉のボリューム、レタスの刻み方、細かいところがアレンジされてる」

京太郎「特にソースが、辛さの中にも旨味と甘味があって……なに入ってんだろ」

ムロ「美味しそうですねぇ……じゅるり」

京太郎「うん、美味いぞ。優希のやつ腕を上げたな」

トシ「食べながらでいいから聞いてちょうだい」


トシ「今までは強い選手との対決を避けて、稼げる局で稼いできたけど」

トシ「午後からは逆に強い選手にぶつかっていって、相手に点を取らせない」

トシ「ゾーンに入っても入っていなくても、攻めの姿勢で対局する方針を取ります」


トシ「これでいい?」

京太郎「ふぁい」モグモグ

トシ「ある程度なら、素の京太郎でも通用するから頑張りなさい。これ要注意選手リストよ」

  『まもなく、男子個人戦、午後の試合の開始時刻になります。選手は――』


京太郎「え、もう……?」

ムロ「はい、頑張ってください!」

まこ「きばってけぇ」

トシ「落ち着いてね」

京太郎「はい、行ってきます」


まこ「大丈夫かのう」

ムロ「先輩を信じましょ」


トシ「そうだね」


トシ「なるべく、京太郎の願いに沿った方針を提案したけど」

まこ「なんとかならんかったんかのう」

トシ「突き放すようだけど、結局はコンプレックスの問題だから。自分で克服するしかないわ」

まこ「わしは……」


まこ「部長として、あいつを引っ張ることをせんと、なんもしてやれんかった」

ムロ「そんなことないですよ」


トシ「まこは十分、京太郎の道しるべになってるよ」

トシ「あの子は最初から進むべき道を見据えていた」

トシ「だから、それをサポートしてやるだけでよかったんだよ」

まこ「そうですか……」

ムロ「はい、染谷部長は私達をよく支えてくれてます。私が保証します!」

まこ「……そか、ムロにそう言ってもらえんなら、ええことじゃわ」

トシ「私達は、私達でやれる事をやった」


トシ「あとは京太郎が見せてくれるさ」


京太郎(さぁ、最後の追い込みだ)

京太郎(ここで踏ん張って、絶対に決勝に進むんだ)

京太郎(一戦一戦、気を抜かずに、今度こそ冷静に……)

ガチャ


カッ

京太郎「うっ?」クラッ


京太郎(めまいが……まだ疲れが抜けきってないのか。それとも照明が眩しすぎ……)

ズゥゥゥゥン

京太郎(なっ!? 抜けてないどころか、これ、ずっとゾーンに入り続けてた後みたいに)

京太郎(身体が……重い……!)

京太郎(と、とにかく、卓に着かないと……)

カツン カツン

京太郎(卓が、遠い……)

カツン カツン

京太郎(あれ、こんなに階段って長かったっけ……?)

カツン

京太郎(あれ、ここって……)


  「早くめくりなよ」

京太郎「あ、はい」

京太郎(場決め……)


タン

京太郎(北……ラス親か)

  「やっと決まったな」

  「では、始めましょうか」

京太郎(!? この人達、よく見たら全員要注意選手じゃん!)

京太郎(ってゆうか、ここ……)


京太郎『ステージも立派だけど、部屋のつくりもすごいですよね』

トシ『そうだね。防音に電波遮断の強化、他にもいろいろあるみたい』


京太郎(……決勝戦用の対局室)

京太郎(え?)

第二観戦室


和「ようやく席に着きましたね」

優希「なんだかボーっとしてる感じだったじぇ」

咲「京ちゃん、大丈夫なのかな……?」



第一観戦室


ムロ「先輩……」

まこ「やっぱ止めといたほうが……」

トシ「送りだしたものは仕方ないさ。なにかあったら私が責任取るわ」



決勝戦用特別対局室
男子個人戦 決勝卓


京太郎(オレ、いつの間に、なんで、こんなところに居るんだ……?)

京太郎(午後の対局って、もう終わったのか……?)

京太郎(ちょっと、待ってくれよ……こんな、急に放り出されたみたいな)


  「そんじゃ、よろしゅうなー」

  「よろしくお願いしやーす」

  「宜しくお願い致します」

京太郎「あ……」


京太郎「よろしく、おねがいします」

ドクン

京太郎(待ってくれ)

京太郎(一体なんなんだ、記憶があいまいだ……)


京太郎(まずこの状況……気付いたら予選終わってて、決勝戦で)

京太郎(疲労感もマックスで……)ズゥゥン


京太郎(今ここに座っている人は、どれも本当に強い人ばかり)

京太郎(そりゃそうだ。だってここは、インターハイの決勝戦)

京太郎(それが……オレの対戦相手)


京太郎(そんな人達に、こんな状態で、勝てるのか……?)

今回はここまで

次回で決着つけたいなー

こんばんわ

最近、咲関連のブログを見ていると、SSの書き方についての記事をよく目にします。
それを見て、自分もSS書きたい人に、なんかアドバイスできたらいいなぁと思いました。
影響されやすいのです。

しかし、ストーリーやキャラクターの解説しちゃうと、これはいけません。
つい、先の展開をポロリしちゃったり、予見されてしまう恐れがあるからです。
ネタバレ怖い。

なので、それとは別に、自分がいつもSSを書くときに気をつけている事を、ひとつ紹介します。



『ウェイトの高い情報を後ろに置く』


この場合のウェイトとは、情報の重要度や言葉の厳格さ。みたいな、自分なりの意味です。
自分でも明確な定義なんて無くて、あいまいなんですけど。

低いウェイトから高いウェイトへ持っていくと、会話も展開もスムーズに進む気がします。


>>472 を例にしてみましょう。

場面は「第二観戦室」「第一観戦室」「決勝戦用特別対局室」
と、順に決勝戦の舞台に移っていきます。

第二観戦室の会話も
和(姿の確認)、優希(体調の異常に気付く)、咲(心配する)
と、キャラの心情が京太郎に寄っていきます。

第一観戦室では
ムロ(部員)、まこ(部長)、トシ(顧問)
と、会話の順番が部内ヒエラルキーの高い方へ向かっていきます。
トシのセリフも「責任」という重みを持った言葉を使います。

決勝卓では
対局者が、カジュアルな言葉づかいの人からフォーマルな言葉づかいの人の順に発言します。
「よろしく」も「宜しく」にし、文字面を硬くすると、その場の雰囲気が引きしまった感じになります。

どうして、こんな事するのかいうと「その方が読みやすい」と思うからです。
※あくまで個人の感想で、感じ方には個人差があります

逆に、ウェイトの高い方から置いていったらどうなるか。

インパクトは大きいですが、後に続く展開が尻下がりになってしまいます。
先に出した情報のフォローをしなくてはいけませんからね。
でないと、置いてけぼりになっちゃいます。


~逆に置いてみた例~


咲「京ちゃん、大丈夫なのかな……?」

優希「なんだかボーっとしてる感じだったじぇ」

和「ようやく席に着きましたね」


咲と優希は自然に会話できてますけど、これだと和がクールすぎますね。
突き放した感があって、それが流れを途切れさせてしまい、テンポが悪くなってしまいました。

でもまぁ、何事もケースバイケース。時と場合によりけりです。
キャッチーな展開にしたい時などには、変えちゃってもいいんです。



SSを書くのに、とても役に立つとは思えないテクニックを紹介してしまいました。
ふーん、こんなこと考えて書くヤツもいるんだなぁ、くらいに思ってください。
別に作品が面白くなるわけでもないし、労力の割に効果は薄いですが、けっこうな自己満足感が得られます。


じゃあ、書きたいこと書いたので、おしまいです。
SS作者志望者がこのスレ見てるか知らんけど。作者人口増えるといいなー。

おはようございます

前回からずいぶん時間がかかってしましました
今回で男子個人戦は最後です

投下します

インターハイ 男子個人戦決勝
東三局 親:対局者C


対局者A「ロン、1300!」

対局者C「はい……」

京太郎(……なんとか、この局も凌げた)


優希「京太郎のやつ、全然に前に出ていかないじょ。なにをやってるんだ!」

咲「調子悪そうだけど、打ち方もなんだか予選と違うよね」

優希「アイツ、ちゃんとタコス食べたのか? タコスぢからが足りてないじぇ」

和「そんな優希じゃあるまいし……」


  『決勝戦も東四局となりました。現在の点数状況は……』

1位:対局者A……40100
2位:須賀京太郎…22700
3位:対局者B……20800
4位:対局者C……16400


  『A選手が一人浮き! 圧倒的リードです!』

  『意外なのは清澄高校の須賀選手』

  『予選ではかなり攻撃的なプレイスタイルでしたが、この試合ではそれが感じられませんね』

  『やっぱり、決勝の相手ともなると手強いんでしょうね』


まこ「まだ動かんのか……もどかしいのう」

ムロ「動かない、というより動けないんですよ、きっと……」

トシ「でもまだ逆転可能な点差だよ。これからさ」


京太郎(東場は……とにかく防御に徹する)

東四局
親:須賀京太郎


対局者B「ロン。8000です」

対局者A「げっ……マジで」

  『満貫直撃ーッ! 着実にトップとの差を詰めていく!』

  『この和了でB選手が2位に浮上しました』

京太郎(勝手にしろ……次からだ。次はオレが和了る)

  『さぁ、ついに決勝戦も折り返し。南入です!』

優希「なんもできないうちに東場が終わってしまったじぇ……」

和「南場でどれだけ稼げるか、ですね」


京太郎(優希的には面白くないだろうけど……悪いな。でも、オレにも考えがあるんだ)

京太郎(体力を少しでも回復させて、南場でゾーンに入って巻き返す……!)


京太郎(序盤は、危険牌を察知するのも一苦労だったけど)

京太郎(今なら深く集中できる気がする)

京太郎(それが何分、何局維持できるかはわからない)


京太郎(その間に持てる限りの力を尽くす)

京太郎(ゾーンに入れば勝てるんだから!)


京太郎「すぅ……はぁ……」

ムロ「きた……!」

まこ「おお、やっと入ったんか!」


京太郎「…………」キィィィィ



20分前

インターハイ 2日目
男子個人戦 予選終了後


京太郎「はぁ、はぁ……」

ムロ「結局、ずっとゾーンに入りっぱなしでしたね」

京太郎「……ああ」


ムロ「つらくないですか?」

京太郎「おれは、これがないと、だめだめだから……」

京太郎「みんなのまえで、だらしないかっこみせらんないだろ?」

まこ「じゃが、そんな状態でまともに打てんじゃろうに」

京太郎「なんとかなりますよ」

ムロ「先輩……」


京太郎「だからさ、ちゃんとみてろよ?」

ムロ「はい。見てます」


ムロ「なにがあっても、見届けますから」

ムロ(……もどかしい)

ムロ(ただ見てるだけなんて、なにもできないなんて……辛い、切ない、歯痒い、苦しい)

ムロ(私、先輩になにもしてあげれないなんて)


対局者A「ツモ!」

京太郎「え……」


  『またまたA選手の和了! 他の相手に隙をあたえず突き放すー!』

京太郎(……なに、言ってんだ?)

京太郎(今は、オレが)


対局者A「2000オールっす!」

京太郎(ふざけんなよ、なに……なんで、テメェ……)

京太郎(クソがッ……!)

対局者A「1本場!」

  『そして親の連荘です!』

京太郎(いい加減に……もう、勘弁しろ……!)


ムロ「そ、そんなぁ……」

まこ「せっかく良い手じゃったんに……」


和「須賀君……?」

咲「へこたれちゃダメだよ……京ちゃん」

優希「コラーッ! なにうつむいてんだ京太郎ー!」


京太郎「っ……」キィィ...ン

京太郎(もう……無理かな)


京太郎(チャンピオンには……咲、お前みたいにはなれそうもない)

京太郎(ゾーンに入れば勝てるって思ってた)

京太郎(そんな保障なんてあるわけないよな。そりゃそうだ、何を勘違いしてたんだ)


京太郎(でも、頼らなくちゃいけなかった。オレが勝つには、こうするしかなくて)

京太郎(じゃなきゃ、ここまで来れなかった。だけど、それも……)


トシ「やっぱりもう、体力的にも……精神的にも限界なのね」

まこ「そんなん、わかっとったんに……」


京太郎(……どうしようか)

京太郎(ここでオレは、なにをしたらいいんだろう……)

京太郎(なにかしなくちゃ……)

京太郎(なにかしないと、動かないと……でも……)


京太郎(勝てる気がしない)


京太郎(とっておきの、伝家の宝刀もポッキリ折れちまった)

京太郎(足元が揺れて……崩れた)

京太郎(また、追いつけないのか?)


京太郎(また……置いてかれるのか?)

対局者C「ツモ、1300・2600の1本場は1400・2700です」

  『連荘を阻止してC選手が追い上げる! このまま流れに乗ることができるのか!?』

京太郎(もう、いいだろう……)

京太郎(結局、オレはあいつらみたいには、なれない……なれっこないんだ)


対局者C「ロン、1000・2000です」

  『連続和了! そして迎えた親番、怒涛の攻勢はまだまだ継続中!』


京太郎(こんな立派なステージに立てただけでも、ありがたい)

京太郎(決勝戦まで来れてさ。それで十分じゃないか)

京太郎(……決勝戦、か)


京太郎(みんなは、どんな気持ちで座ってたのかな?)


咲「京ちゃん、つらそう……」

優希「時には、何事も上手くいかない……そんな場面もあるじぇ」

咲「うん……」

優希「この私だって、いつも順風満帆なわけじゃない」


優希「麻雀でも、東場でトバさなきゃ必ず南場がやってくる……憂鬱だじぇ」

優希「もっとああすれば、こうすればとか思っちゃうけど、愚痴っても後悔してもなんにもならない」

優希「その時の自分の精一杯を出してかなきゃなんないじぇ」

和「そうですね」


和「それは、須賀君も知っているはずです」

咲「うん」

和「最後まで諦めずに、最善を尽くして勝利を目指していた……」

咲「清澄高校麻雀部のみんなを」

優希「京太郎は一番近くで見てたんだじぇ」


咲「私、団体戦で優勝できなかった時、イヤな気持ちに押しつぶされそうになった」

咲「でも、それでも頑張って麻雀を打ったら優勝して、お姉ちゃんとも仲直りできた」


咲「だから、京ちゃんにも諦めないでほしい。今より先に、もっといい未来があるはずだから」


咲「そもそも、京ちゃんが誘ったんだよ。麻雀部」

優希「そういえばそうだったじぇ」

和「今でも、咲さんが部活に来たときの事は、よーく覚えてますよ」

咲「う、うん。私も、覚えてる」


和「忘れるもんですか。3連続プラマイゼロなんてやってのけて」

咲「あはは……」


咲「まぁ、それは置いといて」

優希「置いとくのか……私的にもけっこうショッキングな事件だったんだじょ?」

咲「麻雀から離れていた私を呼び戻したのは、京ちゃんが元凶なの」

和「元凶って……」


咲「その張本人が、麻雀を諦めるなんて許さない」


咲「麻雀に関してはどんな状況、点差があろうが配牌やツモが悪かろうが」

咲「相手が格上だろうが……逃げたりなんかしたら、絶対に許さないよ」

咲「私だって……辛い時は本当に辛かったんだもん……!」


京太郎(そうだ。あいつらだって、苦しい時があった)

京太郎(でもそれを耐えて、乗り越えたんだ)

京太郎(あいつらが離れちまうって? ……違うだろ!)


京太郎(離れていったのはオレの方だ!)

京太郎(頭のどこかで違うもんだと決めつけて、時期とか才能とか言い訳にして)

京太郎(なんだ……同じじゃないか)


京太郎(一緒だ。同じ舞台に立ってる……)


京太郎(じゃあ、もうちょっと、がんばってみようかな)キィィィ


ムロ「あれ、先輩?」

まこ「なんじゃ、なんかあったんか?」

ムロ「先輩の雰囲気……すごく辛そうだったのに、今は」

京太郎(くまくらせんせいがいってた、おれのまーじゃんは、じぶんじしんとのたたかいだって)

京太郎(じぶんにまけるとか、くそだっせーよ。それに……)

京太郎(みんなのまえで、だらしないとこなんか、みせらんねぇ!)

ムロ「なんだか、楽しそう?」



南三局
親:対局者C


京太郎(このはいぱい、すーしゃんてんか)
一一二五(五)六八②⑧⑧37中

京太郎(なんとかかたちにしたいところだけど)

チャッ

京太郎(!? いや、これは……)
一一二五(五)六八②⑧⑧37中:六


和「チートイ二向聴!」

優希「うおおっ、コレは逃がしたくない手だじぇ!」

京太郎(こい……)チャッ
一一二五(五)六六八②⑧⑧37:②


まこ「入った!」

トシ「七対子は一向聴から進みにくいけど、テンパイすれば……!」

京太郎(こい……!)チャッ
一一二五(五)六六②②⑧⑧37:7

まこ「よっしゃ!」

ムロ「テンパイ!」

京太郎(めのまえがぼやけて、あいてのかわもよくみえないけど……)
一一五(五)六六②②⑧⑧377

咲「いけるよ京ちゃん!」

優希「そのままリーチぶちかましだじぇ!」

和「須賀君……!」


京太郎「りーち!」ドッ

京太郎(かまうもんか。つもればいいんだろ……!)

  『須賀選手のリーチ宣言! この試合の初の和了となるのか!?』


京太郎(ずっとやられっぱなしだったぶん……)

京太郎(おかえしさせてもらうぜ)

バシィッ

京太郎「ツモ!」


京太郎「リーチ・一発・ツモ・七対子・赤1」

京太郎「3000・6000!」


  『跳満炸裂ーッ!!』

ワアァァァァ

まこ「よっしゃよっしゃよっしゃあっ!」

トシ「やればできるじゃない!」

ムロ「やったぁ! 先輩、最っ高です!」

優希「うおぉぉぉっイェェェーイ! 京太郎やったじぇーーッ!」

和「あはっもう優希、はしゃぎすぎです! アハハッ!」

咲「京ちゃん……! うぅ、やっと和了れたよぉ」

  『須賀選手、この和了で最下位から一気に2位に浮上!』

  『順位が大きく入れ替わりましたね。現在の順位は……』

1位:対局者A……31400
2位:須賀京太郎…30300
3位:対局者B……20400
4位:対局者C……17900


  『このようになってます。1位・2位が3位以下に大きく差をつけています』

  『B選手は跳満、C選手は倍満での直撃が必要』

  『トップと2位の差は、わずか1100点。僅差でオーラスを迎えます』

京太郎「ふぅ……」

京太郎(もうちょっと、あとちょっとで)

  『泣いても笑っても、最後の一局! 運命の最終決戦!』

  『南四局。オーラスの開始です!』


インターハイ 男子個人戦決勝
南四局 オーラス
親:須賀京太郎
ドラ:①


京太郎(おーらす。いがいとおちついてる……うん、それでいい)

チャッ チャッ

京太郎(じたばたしてもしょうがない)

京太郎(いつもどおりに、うつ。ただそれだけだ)

京太郎(とにもかくにも、てんぱいしなくちゃ)
一五六⑥⑦⑦456788白白

京太郎(2い3いは、たかいてをくむから、おそくならざるをえない)

京太郎(もんだいはとっぷ)


対局者A「…………」チャッ

京太郎(このひと、このじょうきょうでだまってるようなたいぷじゃない)

京太郎(おれだって)


京太郎「ぽん!」
五六⑥⑦⑦45688/白白白

  『特急券だぁーッ! 須賀選手が優勝に大きく近づく!』

京太郎(まもりにはいるきなんて、さらさらない!)


対局者A「チー!」

  『しかし、A選手も負けてない! このまま逃げ切れるのか!?』

京太郎「ぽん!」
五六45688/白白白/⑦⑦⑦

京太郎(まにあえ……!)


対局者B「リーチ」

ドッ
  『あーっと! ここでB選手が大逆転をかけたリーチがはいる!』


京太郎(なに!? つーか、はえぇぞ……!)

対局者C「通らば、リーチ」ドッ

  『追っかけリーチ! 決勝戦のオーラスにふさわしい、激しいチャンピオン争い!』

京太郎(こっちも……!?)

5巡後


京太郎(Aせんしゅはずっとつもぎり。たぶん、てんぱいしてる)

京太郎(このままいけば、りゅうきょくもありえるかも……)


京太郎(む……)チャッ
五六45688/白白白/⑦⑦⑦:①


京太郎(また、はずれか……はぁ)


ムロ「……あ」

まこ「マズ」


京太郎(あれ……?)

京太郎(ぼやけて、よくみえないけれど)

京太郎(このふうけい、どこかでみたことあるような……)

スッ

優希「ああっ!?」

咲「危な!」

ゾクン

京太郎「っ!? ちょ、ちょっとしつれい……すみません」

京太郎(こ、これって……)

  『須賀選手、長考のようです』

優希「ふぃ~ギリギリセーフだじぇ……」

  『いやぁ須賀選手、よくふみとどまりましたね』

対局者A「ふぅん」
一二三九九②③中中中/789(待ち:①④)

対局者B「…………」
四五六①④(⑤)⑥234456(待ち:①)


京太郎(このじゅんめで……どらのいーぴんだって?)

京太郎(それに、よくみたらこのすてはい……)

京太郎(めっちゃあぶないきがする)


京太郎(どうしよう)


京太郎(このままかかえて、てがわりは……まにあわない)

京太郎(なにより、これいじょうあいてのりーちはよけきれない)

京太郎(でも、ここでおりたら……おりる?)

京太郎(おーらすだぞ?)

京太郎(さいごまでつっぱるしか……いやいや、それでふりこんだら、おしまいだ)


京太郎(どうしよう)

京太郎(こういうとき、ふつうはどうするんだ……どうすればいい?)


京太郎(のどかは……なんていってたっけ?)

咲「……そう簡単にはオリれないよね」

優希「テンパイしておけば、流局でも親だから連荘できる……」

和「その考えはあるでしょう」


優希「私だったら……うぅ~、悩むじぇ。オリるかなぁ?」

咲「わ、意外」

優希「南場では徹頭徹尾、防御モードなんだじぇ」

咲「デジタルだと、どうするの?」

和「一般的にはオリでしょうね」


和「自分が和了れなくても、他家の和了でトップになれる可能性もありますから」

優希「なるほどなー」


咲「じゃあ、京ちゃんもオリ……」


和「そうとは限りませんよ?」

咲「え、なんで?」


和「麻雀の打ち方には、その人の性格がよく表れます」

和「私は須賀君に、デジタルの打ち方は教えても、須賀君なりの打ち方は教えていません」

和「それは、彼自身が見つけるものですから」

京太郎(おりたら、まけたら……ここでおわり……)

京太郎(……なんてな)

キィィ...ン

京太郎(終わらないさ。ここで、どんな決着になっても)

京太郎(だから……)チャッ

まこ「おおっ」

ムロ「…………」

バシィッ

京太郎(じゃあな)


  『放銃回避! 須賀選手、テンパイにとらず!』

  『これはよく耐えましたね。さぁ、残り少ない巡目で挽回できるのか』


和「それが、須賀君の……」

京太郎(どんな結果になろうと、オレの麻雀は続いてくってわかったから)

京太郎(今は、自信を持って)


京太郎(先に進むために……!)


タンッ

    「ロン」


京太郎「!?」ビクッ

京太郎(ちが……オレじゃない……?)


対局者A「げ……」

対局者C「…………」ジャラ
一二二三三四五六七七七七八:九

京太郎(和了られた……! 点数は?)

対局者B「ん?」

  『トップに直撃ーッ! しかし……!?』

対局者C「リーチ・メンチン……」

  『役は7飜で跳満止まり! 1位になるにはもう1飜プラスで倍満が必要となります! つまり』

対局者C「裏は……」スッ

  『裏ドラ! 1個でも乗れば、その瞬間にC選手がチャンピオンに決定!』

対局者A「あ、あぁ……」

ドクン

京太郎(……乗るな)

京太郎(乗らなかったら、そのままオレが1位だ……)



対局者C「ッ……!」

チャッ

京太郎(乗るな……!)

インターハイ 男子個人戦
授賞式 終了後



ムロ「惜しかったですね」

京太郎「そうだな。でも裏4とか、逆にせいせいするわ」

ムロ「まさか最後の六萬が、あんなところに隠れていたとは」

京太郎「ロマンがあるよな。六萬だけに」

ムロ「はぁ?」

京太郎「……お気に召しませんでしたか」


ムロ「なんか、あんまり落ち込んでなさそうで、よかったです」

京太郎「え? そりゃまあ悔しいけどさ。そんな落ち込むまではいかないって」

ムロ「へこんでたら、思いっきり慰めてあげようかと思ってたんですけど、杞憂でしたね」

京太郎「思いっきり……それはちょっと興味あるかも」


ムロ「ねぇ先輩、最後の打牌で迷ってたじゃないですか」

京太郎「ああ」

ムロ「結果的に一筒を抱えるのが正解だったわけですけど、なんでそうしたんです?」


ムロ「判断の決め手っていうか」

京太郎「うーん、そうだなぁ……」

京太郎「オレ最初、今までの努力の成果の有無が、この試合で決まるって思ってた」

ムロ「この大会のために、いっぱい練習してきましたからね」

京太郎「それこそ0か100。結果出せなかったら全部水の泡……みたいな」

京太郎「でも、それは違うって気付いたんだ」


京太郎「どんな結果でも先に繋がるって。だって、今のオレがそうだから」


ムロ「それで負けてしまっても?」

京太郎「うん。去年なんて散々だったろ? 大会は予選落ち、他の部員は次々と居なくなって」

京太郎「でもさ、そんなことがあってもオレはここまできた」

ムロ「はい」

京太郎「逆に、そんなことがあったから頑張ってこれたのかも」

ムロ「リベンジしてやるー、ってかんじですか」

京太郎「それに、一人じゃなかったからな」


京太郎「すぐそばで、一緒に頑張ってたやつもいたから」

ムロ「そ、それって」

京太郎「本当に、一人じゃダメだったかもしれない……」

京太郎「ありがとう、ムロ」

ムロ「え、ええ!?」

京太郎「お前がいてくれたからだよ。あの時つっぱらずにいれたのは」

ムロ「そうなんですか?」

京太郎「ああ」

ムロ「ホントに?」

京太郎「あそこで立ち止まっても、ムロとならまた歩ける気がしたんだ」


京太郎「じゃなかったら、怖くてオリられなかったよ」

ムロ「そっかぁ……私、先輩の役に立ってたんですね!」

京太郎「ムロのおかげだよ。だから、ありがとう」

ムロ「ふふふ、でもここまで来たのは、やっぱり先輩の力です」


ムロ「おめでとうございます」

京太郎「うん、ありがとう」

ムロ「それじゃ行きましょうか」

京太郎「おう。それにしても、わるいなあ」


ムロ「なに言ってるんですか、こんなめでたい日はありませんよ!」

京太郎「だって長野の人達が祝ってくれるって、それ龍門渕さんもいるんだろ?」

京太郎「なんか……すごい豪奢なパーティとか用意してそうで恐縮してしまう……」


ムロ「大丈夫ですよ、私達のような一般庶民レベルでお祝いしますから」

京太郎「なんだ、心配してたオレが恥ずかしい」

ムロ「ですから心おきなく、はしゃいじゃいましょうね!」

今日はここまで

点数調整がめんどかったです。間違ってないといいなあ

こんばんわ
最近のコーヒーゼリーってば、ほぼクリーム乗ってるやつばかり
プレーンなコーヒーゼリーはいずこへ……

ノートに理想の牌譜を描くのにも限界を感じてきました
そろそろ慕ちゃんみたいに紙で麻雀牌でも作ろうかとか思っちゃいます

投下します。短いです

ホテル 宴会場


  「「「須賀君、インターハイ準優勝おめでとう!!」」」

パーン パーン

京太郎「うわぁ、みな(パーン)、あり(パーン)ござ(パーン)す!」

パーン パパーン

京太郎「こ(パーン)ひとえに、熊(パーン)生や(パーン)……」

パパパパーン

京太郎「ス、スト(パーン)トップ! み(パーン)んちょっ(パーン)」


京太郎「多いわ!」


一「ちょっと準備しすぎたね」

純「だな」パーン

透華「クラッカーの扱いも、だいぶ上達しましたわ!」


和「扱いもなにも、ひもを引っ張るだけでは……?」

衣「みんなの誕生日のときは、いつも使っているからな」

透華「私のことは、クラッカー人間……いえ、クラッ……ええと」

透華「クラ……クラック、クラッカー……クラッケ」


透華「クラッキストとお呼びくださいまし!」

まこ「なんじゃそりゃあ……?」

京太郎「でもまぁ、こんな大勢の人に祝っていただけるなんて……よいしょっと」


京太郎「ホント、嬉しいもんですよ」ガサガサ

ムロ「先輩、具の処理は私達でやっておきますから!」

咲「京ちゃんは主役なんだから、席につきなよ!」


京太郎「あ、ああそうだな。無意識に片付けなきゃいけない衝動に駆られて」

優希「雑用根性が骨の髄まで染み込んでるじぇ……」


華菜「いやぁ、こんなにいっぱいのクラッカー用意するのもすごいけどさ」

華菜「バズーカ型のクラッカーは、さすがに持ち込まないかー」

透華「……バズーカ型? そんなのもあるんですの!?」


純(池田ァ!)

智紀(空前絶後の)

一(不用意な発言を!)


和「では、あらためて。須賀君、おめでとうございます」

咲「おめでとう、京ちゃん!」

優希「おめでただじぇ!」

まこ「おめでとさん」

ムロ「おめでとうございます!」

京太郎「ありがてぇ……ありがてぇ……」


トシ「岩手の子達からもお祝いきてるよ」

京太郎「おお、見ててくれたんですね。うれしいなぁ」

トシ「写真送りたいから、ちょっとポーズとってくれる?」

京太郎「はい。じゃあトロフィーとか持ってっと……」


和「私も阿知賀のみんなに見せたいです」

咲「あ、私も」

優希「それじゃあ、私もパシャるじぇ」

ムロ「マホに送っておこうかな。ミカと花田先輩にも」


トシ「はい、チーズ」パシャ

咲「京ちゃん、次こっちね。はい笑ってー」

和「目線ください」

優希「いいねいいねー。そろそろ脱いでみようか」

京太郎「なんでだよ!?」

ムロ「ああ、変な顔しないでくださいよ」

京太郎「してない!」


透華「……目立ってますわね」ソワソワ

一「今日は我慢だよ、透華」

まこ「久に送っとくか」ピロリン

京太郎「あー恥ずかしかった……」


咲「きっとこの後も取材とかで写真いっぱい撮ると思うから、慣れておいた方がいいよ?」

京太郎「そうなのか」

和「ですね。雑誌や新聞、テレビにネットメディアなんかも」

京太郎「大変そうだ……あ、でも取材はWeekly麻雀TODAY独占だった気が……ですよね?」

トシ「そうだけど、他のマスコミには一切しゃべりませんってわけにはいかないからね」


トシ「ふつうにインタビューは受けるよ。特に地元メディア。コメント、ちゃんと考えときなさい」

ムロ「あっちは他のインタビューとなにが違うんですか?」

トシ「うーん、そうねぇ」


トシ「根掘り葉掘り聞いてくるかどうかよ」


京太郎「えぇ……」


トシ「それが彼女のスタイルだからね。たしか、ニュージャーナリズムっていったかしら」

ムロ「なんですかソレ?」

トシ「一般的なインタビューってのは、言ってみれば質疑応答のようなものでしょう?」

トシ「取材対象に、あらかじめ用意した質問を答えてもらう形式の」

京太郎「はい」

トシ「よくある一問一答のやりとりじゃなくて、その人の仕草や行動の中から本質に迫る」


トシ「そうやって、取材対象の人間性を書きだすのがニュージャーナリズムなのよ」

京太郎「わかるような、わからないような?」

トシ「例えば、最近どうですか? なんて質問よりも……」


トシ「ぬいぐるみを抱かないと寝られないって本当ですか? の方が興味をそそられるだろう?」

和「なぁっ!?」

京太郎「よーくわかりました」


咲「納得しちゃったよ」

トシ「こっちの方が、なんだか人となりが見えてくるじゃない」

まこ「なるほどのう」

華菜「あっはっは、ウチの妹達だってぬいぐるみなんてなくても寝れるぞー」

優希「言われてるじょ?」

和「え? あの、もしかして……知られちゃってるんですか? 全国的に……」

衣(……たまに透華に絵本を読み聞かせてもらってるのはナイショだ)


透華「原村和っ! 寝てる時でさえも目立っているなんて……!」

智紀「そんなトコまで張り合わなくても……」


京太郎「やべぇな。オレもうっかりしてたら、変な事までポロっと言っちゃいそう」

和「変な事……!?」

ムロ「そういえば、インタビューで思い出したんですけど、この間の……」

まこ「アレのう……おったまげたわ」

咲「なにかあったんですか?」

京太郎「ああ、何日か前の話なんだけど」


京太郎「テレビでさ、咲にめっちゃそっくりな人が満面の笑みでしゃべってる姿が映ってて……」

咲「うん。たぶんそれ、私かも」


咲「っていうか私だね」

京太郎「お前だったのか」

和「その会見、私も見てました。阿知賀のみんなと一緒に」

咲「へぇ、なにか言ってたかな?」

和「え、えーと……」


咲『一生懸命がんばります! 応援よろしくお願いします!』キラキラ

穏乃『え……』

憧『な……』

玄『うわわ……』

灼『…………』

和「……その」

咲「ん?」


和「お姉さんに、似てるねって……」

咲「ええ~そうかなぁ? でもぉ、白糸台の人からもね、最近似てきたねって言われるんだー!」

京太郎「そこ照れるトコなのか」

咲「お姉ちゃんといっぱい練習したんだー」


優希「たしかその日は海外合宿で、日本に居なくて見れなかったじぇ」

華菜「うわっ、マジで」

優希「ふっふっふ、今や世界をまたにかけるユウキ・カタオカだからな!」

華菜「何キャラだお前。で、どこ行ってきたんだ?」

優希「ドイツ行ってきたじぇ」


純「なんだドイツか! 言ってくれれば美味い店のひとつでも教えてやったのに」

優希「あ……そ、そうか。教えてもらえばよかったな。忘れてたじぇ……」

まこ華菜「ど、どうしたん?」

優希「さすがの私でも……」


優希「豚肉を生では……ムリ……」

純「ムリだったかぁ」

優希「ほかにも美味しい料理はあったけど、なんだかんだ言って和食が一番落ち着くじぇ」

優希「日本人ならお茶漬けやろが!」


ムロ「いいですね。私の場合はカレーかな」

衣「衣はエビフライがいい! タルタルマシマシで!」

一「マシマシって、そんな言葉どこで覚えてくるのさ」

華菜「ってか、どっちも和食じゃないし」


透華「でも日本独自の料理に昇華されてますから、日本食といえるのでは?」

智紀「魔改造」

まこ「アレンジ大好きな国民性じゃけぇの」


京太郎「優希のことだから、またタコス言うと思ったけど」

優希「タコスは勝負前とか、ここぞという時に食べるものなんだじぇ!」


優希「日常的に大量摂取してると、身体の中に抗体ができてしまうからな」

和「カフェインかなにかですか」

ムロ「それって、もはやドーピングじゃ……」

京太郎「しっかし、ドイツかぁ。世界でも麻雀の盛んな国だよな」

優希「うむ。あのレベルと意識の高さは日本も見習うべきだじぇ!」


優希「そして私も文化交流を経て、少し成長したような気がする。いや、した」

衣「文化交流(生肉)」

ムロ「私達もこの夏はいろんなとこ行きましたけど、そういうのいいですよね」

優希「おいおい、いつまでこの狭い日本におさまってるんだ? んん?」

京太郎「あ、ウザ」


華菜「コイツ……かぶれてやがる」

優希「かぁーっ! 時差ボケで2時間しか寝れないじぇ~、かぁーっ!」

まこ「ほんの数日滞在しただけじゃろうに……よくもまぁここまで」


ムロ「ずっと長野から出なかった反動なんですかね……」

優希「ムロ、海外はいいぞー。人生の先輩として、アドヴァイスしてやろう!」

京太郎「発音ウゼー!」

和「ふむ。人生の先輩、ですか。でも……」


和「彼氏のいる、ムロの方が人生の先輩って感じ、しますけどね」


優希「……はいぃ!?」

咲「そ、そうなの? え、もしかして……?」


透華「あら、やっと進展しましたのね」

優希「ご存知あるのですか!?」

透華「ええ、もちろん。存じ上げておりますわ!」

一「透華がみんなの前で問いただしちゃったからね」


咲「和ちゃんは知ってたの!?」

和「知ってるもなにも、二人の様子を見ればわかるじゃないですか」

咲「二人の……って、じゃあ聞くけど」


咲「ムロちゃんの彼氏って……京ちゃんなの?」


ムロ「…………」


ムロ「どうなんですか、先輩?」

京太郎「うぇ?」

咲「んん?」

和「あれ?」

透華「って、なんですの! まだハッキリしないんですの!?」

優希「つまり、どういうことなんだ? 説明……説明を求めるじぇ!」


和「まさか、あんな空気を出しておいて付き合ってないと? いえ、そんなわけないですよね」

京太郎「どんな空気だよ……」

純「たしか、室橋が須賀に告ったんだっけ?」

優希「なにぃ!? マジか、おい!」ユサユサ

ムロ「あぅ」ガクガク


一「そう、夏祭りの時にだったよね」

咲「夏祭り! 学校の先輩への憧れの告白シチュエーションランキング第2位の!?」

まこ「えらい具体的じゃのう」

和「ほら、ほら! やっぱりそうなんですよね!」


智紀「でも、二人は付き合ってはいない」

和「え?」

咲「それは……」

優希「まさか……」

京太郎「あー」


優希「……強く生きろよ」ナデナデ

ムロ「ど、どうも……」

まこ「いや、べつにフられたわけじゃないけぇ」

優希「おいぃぃ! だからつまりどういうことなんだァ!?」ユッサユッサ

ムロ「あうぅ」ガックンガックン

衣「おお、ヒロコが歌舞伎の連獅子が如く!」


ムロ「な、なんもかんも先輩が悪い……うぅ……」

純「そういうやつなんだよ。釣った魚にエサをやらないタイプ」

華菜「うわぁ」

京太郎「引かないでください……これには理由があって。あと、言い方に悪意が……」

咲「…………」パーン パーン

京太郎「うわっ、ちょ、無言でクラッカー打つな! 人に向かって使用してはいけません!」

和「では、その理由とやらを聞かせてもらいましょうか。ん?」

今日はここまで

こんばんわ
褒めてもらえるとうれしくなります
更新ペース落ちてきて申し訳ないです
生肉は馬しか食べたことないです

>>522
まちがい
まこ華菜「ど、どうしたん?」
ただしい
まこ「ど、どうしたん?」
池田ァ!なんでそんなトコいるんだ!?

投下します

透華「夜空にきらめく打ち上げ花火。誰もが見上げる中、二人はお互いを見つめていた……」

透華「そこに雑踏の喧騒は届かない。静かな、二人だけの世界があった」


透華「ずっと続けばいいと思った。このまま胸に秘めたままで、近すぎず遠すぎない心地いい距離で」

透華「……裏腹に、日を増すごとに膨れ上がる気持ちを抑えきれずにいた」

優希「おお……」


透華「伝われば、たった一言でもこぼれてしまえば崩れてしまう。この空気も、曖昧だった二人の関係も」

透華「それが恐ろしかった……」

透華「今まで積み重ねてきた関係や、明日からの何気ないおしゃべりが無くなってしまうかもしれない」

咲「ゴクリ……」


透華「でも、もう止められない! 激しい脈動に押し出された感情がすぐ喉元にまで迫ってきてる!」

透華「言った方がいいとかよくないとか、後悔するとかしないとか、掛ける天秤なんてすでに壊れてる!」

透華「今は激情に身をゆだね、ただ万感の思いを言葉に込めるだけ!」


透華「私は……貴方が欲しい!!」


優希「うおおぉぉぉ!」
咲「きゃああぁぁぁ!」

和「どこかで聞いたようなセリフですけど」

京太郎「なにこの龍門渕劇場……」

純「透華のやつ、ノリノリじゃねぇか」

一「まるで朗読劇だね」

まこ「で、ホンマはなんちゅーとったんけ?」

ムロ「……知りません」


華菜「でもこの後フるんだよな?」

京太郎「べつに、そういうわけじゃ」

華菜「ああ、キープだっけ」

京太郎「言い方……」

和「私もてっきり、ここでオーケーしたものだと……」


透華「オレもだよムロ。さぁ、ひとつになろう!」

和「しちゃいましたよ」


純「おいおい、元の話と違うじゃねーか」

一「最近の映画やドラマでも、よくあるよね。こういうの」

まこ「上手くせんと荒れるパターンじゃのう」

智紀「特にマンガが原作のとかは改変されまくり。はぁ……」


透華「……こうして、愛し合う二人は結ばれたのですわ」

華菜「終わったっぽいな」

衣「めでたしめでたし」

咲「あー、おもしろかった」

優希「第二回公演も見にいきたいじぇ」

一「観客の満足度は高いみたいだよ」


ムロ「それはなにより……」

京太郎「人にアレコレ言われるのって……めっちゃ恥ずかしい」

衣「なんで結末が違うの?」

透華「まどろっこしいのは趣味じゃありませんわ!」

咲「これで、大体の流れは理解できたよ」


和「でも、実際はそうじゃないんですよねぇ」

優希「そうだじぇ! 女の子に告白されて断るとか……お前はモテ男か!?」

京太郎「いや、違うけどさ……」


咲「京ちゃんにも、きっと理由があるんだと思うよ。ね?」

優希「それなりのがあるんだろうな」

京太郎「ああ……」


京太郎「結論から言ってしまえば、インハイで勝つためだ」

京太郎「オレみたいなのが全国で勝つためには、練習に練習を重ねて」

京太郎「さらに練習して、実力をつけなくちゃならない」

京太郎「自分の事で精一杯だから、ムロのことまで見てやれないと思ったんだ」


京太郎「仮にあの時オーケーしても、ちゃんとムロを恋人扱いできない」

京太郎「してやれる自信がなかった」


京太郎「それじゃ、せっかく恋人同士になれたのに味気ないっていうか、さみしいだろ?」

咲「バカだなぁ」

京太郎「えぇー」

和「想いを伝えるのは、なにも恋人扱いしてほしいから……だけではありません」


和「気持ちの問題なんです」

優希「お前、ちゃんとムロに返事したか?」

京太郎「あ、いや……」

まこ「もうええじゃろ」

京太郎「染谷部長」


まこ「もうあんたの大会は終わったけぇ。先延ばしの理由も無くなった」

まこ「ずっと待っとったんじゃ。はよう言うてやりんさい」

ポン

ムロ「あ」


京太郎「ムロ……」

ムロ「先輩、えと……」

京太郎「ゴメン!」

ムロ「え……」

京太郎「オレ、自分のことばっかで……本当にムロのこと、ムロの立場で考えてなくて」

ムロ「いえいえ、そんな!」


京太郎「なにもインターハイで頑張らなくちゃいけないのは、オレだけじゃないよな」

京太郎「ムロも同じで……それなのに」

ムロ「いや、先輩は、その、人一倍プレッシャーもありましたし……」

ムロ「えっと、私はそんな気にしてないです。ちゃんと、約束もしてくれましたし」

ムロ「絶対、返事してくれるって」


京太郎「うん」

ムロ「だから、いいですよね……?」


ムロ「もう、待たなくても……いいんですよね?」

京太郎「ムロには、いつも支えてもらってたな」

ムロ「そうですか?」


京太郎「ああ。最初に清澄に遊び来た日も、お茶汲むの手伝ってくれてさ」

ムロ「別に、ふつうです。てか、よく覚えてますねそんな事」

京太郎「それで、いい子だなーって思って」

ムロ「ええー、ホントに?」


京太郎「マジで。あと、一緒に麻雀の練習に付き合ってくれたり」

ムロ「あたりまえですよ。なに? わざわざお茶するために、清澄に通ってたとお思いでした?」

京太郎「まさか。そのあたりまえが、オレには無かったんだよ」


京太郎「教えてくれる人は居たけど、同じの立場の人間はいなかったし」

ムロ「ああ、そうですね。他の部員の人は、全国レベルの人達ばかりでしたから」

京太郎「けっこう周りとの差を気にしてた時期でさ。そこにムロがやってきて、なんか楽になって」


京太郎「うん。やっぱ、一緒っていいよな」

ムロ「はい」

京太郎「それで、だから……」


京太郎「よかったら、これからも、ずっと一緒にいてくれないか?」


ムロ「……ふふっ」

ムロ「あはは……!」

京太郎「いいかな?」


ムロ「うああぁぁぁんん!」ポロポロ

京太郎「お、おい……?」

ムロ「やっと、やっと言ってくれて……えへへ、えへ」

ムロ「うええぇぇぇん!」ポロポロ

優希「ム、ムロ……泣くか笑うか、どっちかに……」

ムロ「だ、だって……くくっ」

ムロ「あっはははは!」


ムロ「ううえぇぇぇ……!」ボロボロ

まこ「ちょう、見てて怖いわ!?」

咲「泣くのと笑うの繰り返す人、はじめて見たよ……」

和「な、泣き笑いって、できませんか?」


ムロ「うふふっ、ふはは、あーなんか嬉しすぎて……」


ムロ「えぐっうぅ、壊れちゃったもぉぉぉん!」

京太郎「おーよしよし、大丈夫か?」ナデナデ

京太郎「もう、おさまったか?」

ムロ「はい……すみません」


ムロ「お恥ずかしいところをお見せしてしまって」

優希「……まぁ、しょうがないじぇ」

咲「う、うん。しょうがない、よね?」

和「正直、予想外なリアクションでしたけど……」

ムロ「自分、不器用ですから」


透華「そ、それで返事の方は……」

ムロ「オッケーでーす」

華菜「ノリ軽いな!?」

純「これで一件落着ってか」

トシ「収まるトコに収まった感じだね」

一「お祝いしよっか」

智紀「二次会的な」

まこ「ほんじゃ、もっかいやったるかのう」

衣「この先、二人に上に幸あれかし!」

パーン

ムロ「わぁ、ありがとうござ(パーン)」

パパパパーン

ムロ「多い!(パーン)っぱり多(パーン)すって!?」

優希「おい京太郎! ムロを泣かせたら承知しないからな!」

京太郎「いや、すでにめっちゃ泣いてたんだけど……」

優希「…………」


優希「あ、明日から! 明日からだぞ!」

京太郎「はは、わかってるよ」

和「またベタな……須賀君、私達の後輩をよろしくお願いしますね。私からもありきたりですけど」

京太郎「おう!」

咲「京ちゃん」

京太郎「咲?」


咲「京ちゃん……なんか、オトナになったみたい」

京太郎「そうか?」

咲「そうだよ」

咲「私からしたら、遠くに行っちゃった感じするなぁ」

京太郎「オレは、今日やっとお前達に追いついた感じだよ」


咲「そうなの?」

京太郎「そうだよ」

咲「……ちょっと、さみしいね」

京太郎「だろ?」

ホテル ロビー


一「片岡さんは、明後日の5日目から出番だっけ」

優希「うむ。臨海女子から、超大型新人全国デビューだじぇ」

まこ「気張ってけよ」

優希「はい! 臨海でも、ババーンってやってやるじぇ!」

和「その翌日は阿知賀と……」

咲「白糸台」


咲「思ったよりも早くぶつかったね」

和「そうですね。去年、決勝に進んだとはいえ、阿知賀はまだまだ常連校とは言えませんから」

透華「6日目は私達、龍門渕高校の出番もありますのよ!」

純「明日の試合結果次第だが、間違いなく姫松が来るだろうな」

京太郎「となると、順当に行けばBブロック準決勝は……」


ムロ「白糸台・阿知賀・龍門渕・姫松……ですか」

透華「その時は……よろしくお願い致しますわ!」

咲「はい。こちらこそ」

和「ウチも、準決勝で止まる気はありませんから」


優希「フッ……決勝で待ってるじぇ!」

純「すでに行ってる前提かよ」

衣「ふわぁ……んにゅ……」

智紀「おねむ?」

透華「あらあら。では、今日はもうお開きにしましょうか」


ハギヨシ「お送りいたします。こちらに車を用意しておりますので、どうぞ」

和「ありがとうございます」

優希「次は私の番! ちゃんとモニターの前で正座して見ろよ?」

京太郎「ぜひ、拝見させていただきます。正座はしないけどな!」


ムロ「宮永先輩も、頑張ってください」

咲「うん。これでも一応、ムロちゃんの先輩でもあるからね」

ムロ「はい、清澄の大先輩です!」

咲「……ムロちゃんでよかったかな」

ムロ「え?」

咲「顔も名前も知らない人よりは……」


咲「京ちゃんとなかよくね」

ムロ「は、はい!」

バタン ブロロン

京太郎「オレ達も戻ろうか」

ムロ「そうですね」


京太郎「あ、そういやもう一つ、約束してたっけ」

ムロ「なんかありました?」

京太郎「デートの」

ムロ「ああ! そうそう。してましたね」


京太郎「お前から誘ったんだろ」

ムロ「アハハ、すみません」

京太郎「で、どこ行くか決めた?」

ムロ「まだです」


京太郎「しょうがないな。じゃあ、一緒に考えようか」

ムロ「はい。一緒に……」

今日はここまで

次回からは女子団体戦編(予定)です
京ムロはしばらくおやすみ

今回は細かいところにこだわり過ぎてちょっと全体のメリハリが弱かったかな?


意外にあっさり受け入れたな
和についての言及も期待してたがなかったし

こんばんわ
サークルKサンクス無くなるとかマジか……
コンビニで一番使ってるのでショック

>>556
ココ分かりにくいよ!とか、どうなってんだよコレ!とか
あったら具体的に書いてくれればフォローなり説明できるかもしれません

投下します。団体戦です

インターハイ7日目
控室 臨海女子高校


アレクサンドラ「おーい、準備できたかーって……」

優希「モグモグ……ゴックン。ふぅ、いま食べ終わったところだじぇ」

コポコポ

ハオ「……さ、どうぞ」

優希「ありがと。くんくん……」

ハオ「監督もいかがですか?」

アレクサンドラ「いただこう」

ネリー「今日もよいおてまえで」

ハオ「ありがとうございます。あとそれは、日本式のお茶の時に使う言葉ですよ」

ガチャ

明華「おはようございます~」

アレクサンドラ「直らんなー、キミの時差ボケは」

明華「あ、私にもいただけますか?」

ハオ「はい。では、もうすこし待っていてください」

アレクサンドラ「すまないね。いつも淹れてもらって」


ハオ「かまいませんよ。茶を点てる事で、適度な緊張状態にもなれますから」

優希「うっし、それじゃ行ってくるじぇ!」

ハオ「忘れ物はありませんか?」

優希「バッチシ抜かりないじぇ!」バッサァ

明華「ご機嫌みたいですね」


優希「なんなら、先鋒戦で終わらせてこようか?」

ネリー「やめろ……!」

アレクサンドラ「まだ準決勝だ。キミのプレイスタイルは分かりやすいけどね」


アレクサンドラ「だからといって、開き直って手の内を見せる必要はないんだ。わかるな?」

優希「わかってるじょ。そのくらい気合入ってるってこと!」

明華「そんなに倒したい相手なのですか?」

優希「まぁ、結果的には勝たせてもらっちゃうんだけど……そうじゃなくって」


優希「私がどれだけ成長したのか、実際に見せてあげたいんだじぇ」



準決勝対局室


煌「どうぞ」

泉「ほな、お先……北やん」タン

明星「では……私は西ですね」タン

煌「私は南家ですから残りは……」


煌「ま、そんな気はしていましたよ」

優希「やぁやぁ、待たせてしまったようだな」

煌「優希!」

優希「お久しぶりです、花田先輩!」


煌「福岡にも優希の噂は届いてますよ……すばらです!」

優希「すばらだじぇ!」

煌「すばら!」

優希「すばら!」

泉(なんやコイツら……)


煌「本当に……立派になりましたね」

優希「そんなことあるじぇ! つって!」

優希「でも、未だ修行の身。もっと高みに登らなくちゃいけないじょ」

優希「全国には、まだまだ強いヤツがいる。世界にも……」


佐藤『まもなく、Aブロック準決勝先鋒戦が始まろうとしています』

佐藤『昨年の優勝校、臨海女子と対戦するのは、同じくシード校の北大阪代表、千里山女子』

佐藤『鹿児島県代表、永水女子。そして福岡県代表の新道寺女子です』

佐藤『どこが決勝に駒を進めてもおかしくない学校ばかりですね』

良子『イエス。北九州最強と呼び声が高い新道寺に、永水は去年はシード校でしたから』


佐藤『しかし、なんといっても注目は臨海女子!』

良子『唯一の日本人である彼女ですが、ご存知の方も多いと思います』

佐藤『はい。臨海女子の片岡選手は、去年まで長野の清澄高校に在籍』

佐藤『初出場の団体戦では先鋒として活躍。準優勝を飾ります』


良子『個人戦だと歴代スコア1位のレコードホルダーなんです。アンオフィシャルですけど』

佐藤『地区予選の東風戦のみでの記録ですからね』

良子『その頃から頭角を現していたと言えるでしょう』


煌「その志の高さ、すばらです。が、私も今日は負っけませんよー!」

優希「いいじぇ。ならば……」チャッ

バシィ

優希「この東風王者片岡優希が受けて立つ! さぁ、私の起親で始めるじぇ!」



インターハイ女子団体戦 Aブロック準決勝
東一局 親:片岡優希


優希「リーチ!」ドッ

泉(早速かい……!?)

明星(これは……)


佐藤『片岡選手、開幕でいきなりダブルリーチ!』

良子『さすがですね』

優希「…………」

オ オ オ オ オ オ

煌(このプレッシャー、本当に成長しましたね……!?)

煌(まるで、あの日のチャンピオンのよう……!)

チャッ

優希「ツモ!」


優希「ダブリー・一発・ツモ・ピンフ・ドラ2! 6000オール!」バンッ

ワアアァァァァ

佐藤『跳満炸裂! 王者の貫録を見せつけるオープニングとなりました!』

良子『エクセレント。火力もさることながら相手に隙を与えないクイックリィな和了、がよいですね』


泉(ダブリー・一発とか……なんもできひん)

泉(園城寺先輩やったら、コレ防げとったんやろか……)

泉(って、アカンアカン! 卓着いてんのに、なに弱気しとんねん)


泉(今は私が千里山のエース任されて、ここ座ってんねやろが!)

煌(この速度この火力……とても敵うものではありません、しかし)

煌(私も、私なりのやりかたで)


優希「1本場……私の連荘を開始する」

控室 千里山女子高校


雅枝「んー、これは?」

浩子「火力重視のスタイルやと思います」

浩子「めっちゃ速いですけど、速度重視ではあんなん出ません」


雅枝「せやけど、たまらんわ」

浩子「いくら片岡でも、ダブリーなんてそうそうないですよ」

雅枝「泉は対処できんのか?」

浩子「一応、対策……みたいなんは言っときましたけど……」


  『またまた片岡選手の和了、4100オール満貫です!』

ワアアァァァァ

雅枝「あー」

浩子「あー」



東一局 2本場
親:片岡優希


泉(ある程度の被害は織り込み済みとして……しててもこれはキツイ)

泉(私のやるべき事……なんとしても片岡の親を流す)

泉(私にできる事……ひたすら鳴いて速攻)

泉「チー!」カシャッ

泉(待ちもわかりやすくしとる。振り込んでこいやぁ!)


優希「ロン! 7700の2本場は8300!」

煌「は、はい……」

泉(って、そっちかい!?)

煌(うーん、臨海に振り込んでしまいましたか。でも、やることは同じ)

煌(それは千里山も分かってるようですし、今は耐えるしかありませんね)


優希「ロン! 12000の3本場は12900!」

明星「はい」

明星(うわぁ、もうマイナス23000点……)


泉(これは……狙われとるんか?)

泉(新道寺、永水ときて次はウチの番かな。ここは守りに……いや)

泉(まだまだ速攻! 避けきったる!)


東一局 4本場
親:片岡優希


優希「ロン! 3900の4本場は5100!」

泉「はい」

泉(あかんかった……けど、思ったより安手ですんだし、ええか)

ゾクッ

泉(……いや)

優希「…………」

オ オ オ オ オ オ

泉(これだけじゃ足りひんみたいやな……)

優希「5本場……私の東場は継続する」

ダンッ


佐藤『怒涛の5連続和了。これは、一方的ですね』

良子『他の3校も手を早くして、対応しています。追いつくのも時間の問題でしょう』



東一局 5本場
親:片岡優希


泉(またコッチ狙いか。次も安手とは限らんし……)チャッ

泉(もしかしたら、ごっついの喰らうかもしれへん)

泉(どないしよ……)

タン


浩子「守りに入りよったな」

煌「ポン!」カシャ

明星「チー」チャッ

泉(ここでどっちか和了ってくれれば……)


優希「リーチ!」

泉(っべぇ……!?)

煌(ここで千里山が振り込んでくれれば、ウチが2位浮上)

煌(それはとても都合のいい事。ですが……)


煌「またポン!」

カシャッ

煌(ただ傍観しているだけでは、おもしろくない!)


煌(それにこれ以上の連荘は見過ごせません!)

明星(これかな?)

タン

煌「それロンです!」

優希「む……」

泉(助かった……?)

煌「1300の5本場は2800! 積み棒もバカにならないですね!」

東4局
親:二条泉


優希「ツモ! 2000・3900!」


佐藤『長かった東場が終わりを迎えまして、ようやく南場に突入』

佐藤『東場での和了が、ほぼ全てが片岡選手という圧倒的な展開でした』

良子『他の3校はここからの立ち回りが重要ですね。注目です』



南一局
親:片岡優希


泉(こっからや……挽回したる!)

泉(南場ですこしでも多く稼いで、後続につなげたい)


煌「ツモ!」

泉(なっ……はや)

煌「500・1000!」

泉(はぁ?)


泉(やっす……って、なんでそんな安手やねん)

泉(この点差やぞ? わかってんのか新道寺!?)


佐藤『新道寺花田選手、わずか4巡での素早い和了……しかし』

佐藤『これは……この巡目だともっと高い手を狙えるのではないでしょうか?』

良子『そうですね。でも、これが彼女のスタイルなのでしょう』

良子『花田選手のあくまで失点を抑えるという、その点においてはブレていないと思います』

良子『この状況ではどの選手も高い手を組む……組まざるをえない』

良子『その隙をついた見事なプレイですね』


泉(なんか今日は……相手に振り回されっぱなしやな……)


ビイイイィィィィッ


佐藤『前半戦終了ーッ!』

佐藤『ここまで臨海女子が大量リード。2位以下に大きく差を付けて前半を終えました』

佐藤『現在の点数状況です』


1位 臨海女子……173600
2位 千里山女子……85200
3位 新道寺女子……71300
4位 永水女子………69900


佐藤『さて、戒能プロはどの様にご覧になりましたか?』

良子『オフェンシブなプレイとディフェンシブなプレイのコントラストが明確に出ていた試合でした』

佐藤『え、えーと……攻守の切り替えができていたと?』

良子『そういうことですね』


良子『後半戦、2位争いがますます苛烈になってくるでしょう』

佐藤『そうですね。では、このあとは前半戦のハイライトを……』

自販機コーナー前 休憩スペース


ピッ ガコン

泉「はぁ……」

カシュッ

泉「……アカンなぁ」

浩子「なにへこたれとんねん」

泉「ふ、船久保先輩!? きてたんですか」

浩子「まぁな」

泉「すみません……全然稼げんで……」


浩子「だいじょぶだいじょぶ」

泉「でも、千里山は常にトップを狙わんといけないのに……これじゃ最終2位も危ういです」

泉「正直、重たいですわ……」

浩子「チャンピオン相手に、よくやっとる方や思うで」

泉「そうですか。つか、同学年にチャンピオン多すぎなんすよ」


泉「思えば中3の頃から全中で原村がおって、インハイでは宮永咲で、春は大星」

浩子「春は曙みたいに言うたな」

泉「なんか知らんと片岡も東風フリースタイルで優勝しよるし」

泉「ホンマ、かなわんですよ……」

浩子「泉なぁ、ちょっと周り気にしすぎなんやって」

泉「でも……」

泉「去年からレギュラー入れさせてもらってんのに、結果出せなくて」

泉「2回戦まではうまくやれてんのに、そっから上行くと……」

浩子「泉なぁ」


浩子「一回、背負っとるもん全部おろしたら?」

泉「はい?」


泉「なんですって?」

浩子「せやから、千里山のレギュラーだの相手がチャンピオンだのとか」

浩子「余計なもん取っ払ってやってみたらええわ」

泉「そ、そんな!? せやったら、私どうしたら……」

浩子「自分のやりたいようにしたらええよ」

泉「急に言われても……」


  『まもなく、準決勝先鋒戦の後半戦を開始したします。選手はすみやかに……』


浩子「時間やな。じゃ、そういうわけで頑張り」

泉「どういうわけですか!」

浩子「せや、あんま点数表示見んようにな」

泉「ええー!?」

浩子「ただいまです」

雅枝「おかえりー」

浩子「一応、好きなようにやれとは言ってきましたけど」

雅枝「ん、サンキュ」

浩子「よかったんですか?」


雅枝「アイツはなぁ、色々と考えすぎんねん」

浩子「まあ、そういうトコありますね」

雅枝「選手がいちいち後援会受けとか、そんなん考えんでもええっちゅーねん!」

浩子「あっはは……」


雅枝「麻雀の実力もあって、それでヘタに頭も回るから卓の外にまで思考がハミ出てまうねんな」

雅枝「目の前に集中せんとアカンねや」

浩子「そうですね」


  『選手達が戻ってきました。後半戦が始まります』


雅枝「こんなとこで潰れてもろたら困る」

雅枝「来年はもっと成長して、千里山を背負ってもらうんやから」


佐藤『後半戦も、起親は片岡選手。また連続和了が始まってしまうのか?』

良子『見どころですね』


泉(もし、私がレギュラーじゃなくなって)

泉(千里山でもなくて)

泉(2年生でもなくて……)


泉(そしたら私は、ただの二条泉はどんな麻雀打ってるんやろ?)

今日はここまで

なんだか泉が主人公みたいだ

こんばんわ
投下ペースが原作並になってきました
体調不良とかモンハンにハマったりとかで

ちなみに3G→4→3rdとやってまして
区切りとしてスタッフロールまでって決めてたから
次回はもっと早く更新できそうです

投下します

泉「さて……」

泉(船久保先輩は、なんて言ってたっけ)

泉(気にスンナって?)


優希「…………」

オ オ オ オ オ オ

泉(目の前のコレを……っすか)


煌「チー!」

カシャ

泉(走ってんなぁ新道寺)

明星「ポン」

チャッ

泉(永水もきとる……無視できんけど、せやからって有効な策もあらへんし)

泉(自由に、私の好きなように、か)

泉(つっても……)


泉(千里山入ってからの私、ずっとインハイに向けて麻雀してきとんねん)

泉(いや、インターミドル終わった頃からや。高校入った見返してやろう思て)

泉(そんで千里山でも頑張ってレギュラーなって、去年は……)

泉(あ~アカンアカン! ちょっと考え事したらすぐおかしなる)


泉(でもそれが私を構成しとる、いわば主成分やんな)

泉(ずっとそうやって打ってきた。そんなん関係無しに打ってたんって、いつの話やったっけ……?)


優希「ツモ! 2600オールだじぇ!」

煌「すばらぁ……」

ワアアァァァァ


佐藤「後半戦も勢い止まらず! 片岡選手の和了で始まりました!」

良子「片岡選手は、東場でのみ攻撃的で南場は防御に徹する傾向がありますね」

佐藤「東場で大量得点できるのなら、南場で多少の失点覚悟で攻めてもいいと思うんですが……」

良子「京都大会後からこのような打ち方ですね」


良子「優勝した事で考えが変わったのでしょう」

佐藤「と、言いますと?」


良子「チャンピオンという名の威力」

良子「彼女の場合、動くべき時とそうでない時、ホームとアウェイがハッキリしています」

良子「通常、特殊なプレイスタイルというのは対策されやすいデメリットがあります」

佐藤「東場では早い手で流して南場で稼ぐ、と言う対策ですね」

良子「そこが片岡選手の狙いです」

良子「対策を取らせる事で逆にコントロールしている」

佐藤「極端なプレイスタイルは相手を縛るためのもの?」


良子「どうでしょう? おのずと東場では片岡選手から逃げようと躍起になりますし。あるいは……」

良子「ただ、自分の狩り場を主張しているのかも」


優希「ロン! 7700の1本場は8000!」

明星「は、はい」

明星(残り66500点……うわわ、これ本当に……)

泉(コイツまさか、先鋒戦で決着つけるつもりなんか?)


優希(んー、前半にくらべて火力が出ないじょ)

優希(テンパイ速度も落ちてる)

煌「チー!」

カシャ

優希(しっちゃかめっちゃかに鳴くから、卓に意識が通りにくくなってるんだ)

煌「ポン!」

明星「チー」

優希(手を進めるため、じゃなくてのクソ鳴き……)

優希(全国の試合とは思えないじょ、コレ)

泉「チー!」

カシャ

優希(また……でも、それを受けて立つのがチャンピオンってもんだじぇ!)

優希「リーチ!」チャッ


優希(防御が薄くなってるところにコレは効くじぇ!)

優希(さぁ、せいぜい逃げ惑うがいい!)



優希「テンパイ」

煌「ノーテン」

明星「ノーテン」

泉「ノーテン」


優希(むむむ……フルパワーじゃないとはいえ、ここまで効果があるとは)

優希(あなどれぬ)

泉(なんか前半よりも、やりやすぅなった気が)

泉(基本的な打ち方してみたら上手くいった。公式試合でこんな気分で打つのって初めてかも)

泉(この感覚……)


泉(家でネット麻雀してる時とおんなじや)


泉(ネト麻は学校や合宿で打っとるのと違って、相手の顔が見えん)

泉(目の前の勝負に集中しとる)

泉(名前や肩書きやない)

泉(……船久保先輩の言うてたん、コレか!?)



東一局 3本場
親:片岡優希


優希「チー!」

カシャ

煌(鳴いてきた!? これはスピード重視のですね!)

明星(このうえ、さらに加速するの?)

優希(自分で鳴いて流れを引き戻すじぇ)


泉「…………」タン

優希「テンパイ」

煌「ノーテン」

明星「ノーテン」

泉「テンパイ」


佐藤「またもや流局。しかし、親のテンパイで東一局は続行です!」

良子「ふむ」


優希(コイツ……千里山の)

優希(場が荒れてるとはいえ、東場の私に追いつくとは)

泉(気分が軽くなったら手も軽くなったてか)

泉「ふぅ……」


泉(次もこの調子をキープや)

泉(相手に縛られんな、好きにやれ、周りに流されんよう)



東一局 4本場
親:片岡優希


煌(なんだかよくわかりませんが、勢いが収まってきているようですね)

煌(もしかして……ワンチャンある!?)

煌(連続流局なんて今までありませんでしたし、ここは攻めていきましょー!)

泉(いつもやっとる事や)

泉(一人で居る時、ネット麻雀してる時、学校から帰ってきて、ディスプレイの前)

泉(牌構築、河読み、確率、デジタル……やってきたやん)

泉(思い出せ、思い出せ、思い出せ)


煌「リーチ!」

チャ

泉(新道寺の花田……!)


佐藤「花田選手のリーチが入りました。これが反撃の嚆矢となるか!?」

良子「東場でのリーチは、片岡選手以外では初めてですね」


優希(曲げてきたじぇ)

優希(ソレが私に刺さるとは思えない、けど……)

優希(この状況じゃ他家のフォローできない。連荘ストップしちゃうじぇ)


泉「ポン」

チャッ

煌(むむ、一発消しされちゃいましたか)

優希(くんくん……テンパイの匂いがするじぇ)


泉(役牌バックと一発消し、おまけにポンテン)

明星「…………」

タン

優希(永水は手出し。テンパイ、もしくは一向聴)

チャッ

泉(待ちも良形や。来い!)

優希(押さえつけ……れない、流れが)

泉「ッ……!」


バシィ

泉「ツモ! 500・1000の4本場は900・1400!」

泉(キタァァァァ!)

煌「リー棒……グッバイです……」

ワァァァァ


雅枝「キター!!」グッ

浩子「キター!!」グッ


佐藤『千里山の二条選手が連荘を阻止!』


雅枝「やるやん泉!」

浩子「いけるでしかし!」

優希(私の支配を……!)


優希(決勝に備えて、様子を見ておくべきか? でも)

泉(今、ここは全国大会じゃない、私は千里山のレギュラーでもない)

優希(東風王者は……)

泉(ただ一人の雀士として……!)


ザワ


優希「ッ……!?」

煌「おや?」

泉「あん?」


明星(これ以上は失点できないし、それに親だし……いいよね)



数時間前 控室 永水女子


霞『いい? 貴女達の使命は、大将である姫様まで繋げる事』

明星『はい』

湧『はい!』

春『わかった』


霞『大量失点したところで、最後に小蒔ちゃんが何とかしてくれる手筈だけど』

小蒔『お任せ下さい!』

霞『でも、減り過ぎても困るから……』

霞『そうねぇ、先鋒戦の時点で4……5万点。半分も無くなっちゃうようなら』

湧『さすがに先鋒戦でそこまで……』

巴『いや、それはわからないよ?』

初美『先鋒はヤッバイ選手うじゃうじゃ居ますからねー』


霞『油断はできないわ』

明星『うぅ、プレッシャーが……』

霞『頑張ってね。もしもの時は……』



東二局
親:石戸明星


明星(はい、お従姉様)

オ オ オ オ オ オ

明星(今、それを使います)


良子「むむ」

佐藤「?」


明華「おやぁ?」

アレクサンドラ「おっと、これは……」

ハオ「ツェーイーメン」


ネリー「たしか、中国麻将だと役がつくんだよね?」

ハオ「ええ、1点役です」

アレクサンドラ「やはり出たな。去年のデータと見比べて、じっくり観察させてもらいましょうか」

浩子「なんか隠し玉あるんちゃう思ってたけど……あったー!」

雅枝「絶一門なぁ……これ、見た事あるわ」

浩子「姉の石戸霞、顔も乳も似とる似とる思っとったら、ここまでソックリとはな!?」

浩子「泉わっかるかなー? ああもう……出すんやったら前半のうちに出しとけっちゅー話や!」


優希(この配牌……去年、2回戦の大将戦で見た。そして、雰囲気が変わった永水の1年)

優希(もし、データに無い異常が発生した場合は……)

優希「ぐぬぬ……」


優希(……言いつけは守るじぇ)



ビイイイィィィィッ

佐藤「先鋒戦、終了ーッ!!」


明星「お疲れ様でした」

泉「お疲れさん」

煌「お疲れ様でした」

優希「お疲れ様でした」


佐藤「後半は永水女子の大逆襲! といった試合内容でした」

良子「ついてましたね」

佐藤「東一局では、片岡選手が前半に引き続き、圧倒的な展開を見せていました」

良子「それも4本場までという、長い時間の親番でした」

佐藤「はい。しかし東二局から永水の石戸選手が大活躍!」

佐藤「順位が4位から2位に浮上。大量リードしていた臨海女子を捉えるか!? と言うほど」

良子「これは千里山と新道寺には厳しい追い風、ですね」

佐藤「ええ、そうですね。では休憩をはさみまして、次鋒戦を――」



泉「すいませんでした!」ペッコリン

雅枝「ちょーっと削られ過ぎやな」

泉「うう……」

雅枝「まぁ、片岡相手にようやってたわ。永水の1年に関しては予想外やったけど」

浩子「牌譜見る?」

泉「ちょい見してもらっていいですか? うわぁ……」


浩子「3人ともこうなっててな。ヒドイやろこれ?」

泉「はい。あ、いや、でも……すいませんでした……」

雅枝「いつまで謝ってん」

浩子「そんでなんか掴めた?」

泉「え?」


浩子「ホレ見てみぃ、東一局の4本場。これええツモやったで」

泉「あ、ここ……そうですね」


泉「なんか、自分の居る場所を理解したって感じですかね。あ、そこか、みたいな」

優希「あーあーあー」

アレクサンドラ「まぁそう腐らないでよ」

明華「どうでしたか?」

優希「やりやがったじぇ、あの1年坊! よりにもよって東場で……!」


ハオ「では、行ってきます」

優希「よーし、ブチかましてこい! なんならどっかトバしてこい!」

ネリー「やめろ……!」

今日はここまで
泉「麻雀を打つ時はな、誰にも邪魔されず自由で、なんちゅうか救われとらんとアカンねや」
だいぶ雰囲気変わってたけど、2も面白かったです

こんばんわ
早く更新できると言ったな。あれは嘘だ
普通に体調不良だったりビール飲んだり
ちゃちゃのん役の松来さんの訃報にショックを受けてました

>>592
まちがい
浩子「姉の石戸霞、顔も乳も似とる似とる思っとったら、ここまでソックリとはな!?」
ただしい
浩子「従姉の石戸霞、顔も乳も似とる似とる思っとったら、ここまでソックリとはな!?」
明星のセリフではちゃんとなってるのに。油断した……

投下します。団体戦は巻きで進行します

半年前 3月 霧島神境


小蒔「すぅすぅ……」

春「ロン」バラッ

湧「あっ……やっちゃったー!」


明星「ふぅ。なんとか2位を維持できました」

初音「また私の1位ですよー!」

巴「うーん、最後ちょっと突っ張りすぎかな?」

湧「せっかくいい形だったのに……」

初音「いくら配牌やツモがよくっても、和了れなきゃ意味ありません」


湧「4局に1回、役満和了る人に言われてもなー」

明星「あはは……」

春「…………」ポリポリ


霞「あらあら、頑張っているようね」

湧「はい!」

明星「今年は私達が、姫様を支える番ですから」

霞「ええ、それはいんだけど……」

霞「何やってるのよ、初美ちゃん」

春「…………」ポリポリ

初音「よーし、次も勝ちますよー」

霞「初美ちゃん?」

初音「あ、私のことですか?」

霞「当たり前でしょ。どうしたの、永水の制服なんて着て……」


霞「私達、卒業式したばかりじゃないの」

初音「違います」

霞「え?」


初音「私は今年入学する、新1年生の薄墨初音ですよー!」

霞「ええ!?」


巴「先程から、そう言って聞かないんです」

初音「今年は春……先輩と私達、新1年生トリオが姫様をばっちりサポートしちゃいますよー!」

湧「ますよー!」

明星「いやぁ、それは……」

霞「それは無理があるわよ、さすがに」

初音「最初は、普通に入り直せばいいと思ってたんですけどねー」

初音「実はインターハイの出場条件に、生年月日の問題があったのです……」

霞「ああ、実年齢に差が出ちゃうものね」


初音「ですから、別の人間になって入学すればいいのです!」

霞「いやいや」


巴「すぐバレますよね、コレ」

湧「でも、一緒に試合できたら心強いですよ!」

初音「まっかせなさい!」

明星「もう、二人とも……」


小蒔「すぅすぅ……ハッ」

初音「姫様、お目覚めですかー?」

巴「おはようございます」

霞「おはよう、小蒔ちゃん」

小蒔「おはようございます。あれ……初美ちゃん、制服?」

初音「違います」

小蒔「え?」


初音「私は新入生、永水女子1年の薄墨初音ですよー!」

小蒔「ええ!?」

霞「あのね、小蒔ちゃん……」

小蒔「えっと、薄墨で初音という方は存じ上げないのですが?」

初音「それが居たのです! 神境の奥深く、さらにその奥の奥に……」

巴「UMAですか」

霞「藤岡弘探検隊じゃあるまいし」


小蒔「また永水に入学するんですか?」

初音「はい。つよくてニューゲームです!」

小蒔「ど、どうしてでしょう?」

初音「去年の団体戦では、あまり活躍できずに終わってしまって、それが心残りなのです……」


初音「ですから、今年こそ姫様をしっかりサポートしてさしあげたいのですよ!」

小蒔「初美……初音ちゃん……」

巴「いやいや、無理ですからね?」


巴「だいたい戸籍は? どうするんですか」

初音「そこは……ちょいちょいっと」

霞「まあ、出来ないことはないと思うけど」

湧「えっ」

明星「いけるんだ……」

初音「それに、姫様が不発だった場合に備えて誰かがカバーしなくちゃですよー」

霞「うーん……確かに、今年のメンバーだと火力に不安があるわね」

春「…………」ポリポリ

巴「そこをなんとかするのが、私達の仕事じゃないですか?」


霞「作戦の一つとして、アレを降ろす……というのもあるけれど、制御が難しいのよ」

明星「頑張ります! これでも、予備として修行していますので!」

霞「実戦レベルの使用には調整が必要だけれど」

巴「お祓いするのは別にいいんですけどね、やっぱり使いこなせるかどうかが」

霞「そうねぇ……大将戦時点での点数差を考慮して、使用条件を設定して……」

小蒔「あのぅ」

霞「ん? なにかしら小蒔ちゃん」


小蒔「私、今年は大将がいいです」

霞「あら、そう?」

巴「そのようにローテーションとかオーダーも組みますけど」

初音「なにか思うところがあるのですか?」

小蒔「はい。そうですね」


小蒔「今年、私は3年生で、最後のインターハイです」

小蒔「霧島神境の姫として、永水女子麻雀部部長として」


小蒔「いつも、みんなに支えられています」

小蒔「団体戦でも私が先鋒にいて、失敗してしまった時はみんなでカバーしてくれる」

巴「それが私達、六女仙ですから」

小蒔「でも今年は、私が最年長として引っ張っていきたいんです」


霞「ふふ、そうね。今年は小蒔ちゃんが一番お姉さんだものね」

小蒔「はい!」


初音「……わかりました」

初美「私、普通の巫女に戻ります!」

巴「わかってくれましたか」

初美「ここは姫様にとって、晴れの舞台なのですね」


初美「ならば退きましょう。私は年齢も、やはり外見的にもオトナですから!」

巴「いや、そこは……」

霞「新入生でも、見た目には問題無いわね。むしろ……」

初美「ガーン!?」

小蒔「最後のインターハイ、悔いの残らないようにしたい」


小蒔「だから、全力を尽くします!」



ビイイィィィィッ

佐藤「決着ーッ!!」

佐藤「Aブロック準決勝を制して決勝に進出したのは……」


小蒔「ありがとうございました」

ネリー「お疲れさまでした」

佐藤『臨海女子! 永水女子! この2校がファイナリストに決定しました!』

良子『コングラッチュレーション』パチパチ

佐藤『明後日の決勝戦は、この2校と――』


淡「サキー、なに見てるの?」

咲「ん? 昨日の試合、いま見終わったトコだよ」

誠子「大星もチェックしといたらどうだ?」



インターハイ8日目
控室 白糸台高校


淡「私は昨日見たよ?」

誠子「中継をな。みんなと一緒の時の」

尭深「これは色んなカメラからの映像もあるから」

淡「まぁ、大将戦が始まる前には見とこうかな」

尭深「うん。それがいいと思う」


誠子「咲、今日の対戦相手なんだけど……」

咲「はい」

誠子「よく知ってる相手だと思うんだ」

咲「そうですね」

咲「龍門渕も姫松も阿知賀も、去年の団体戦で対決しましたし。実際には優希ちゃんが、ですけど」

咲「あ、井上さんとは合同合宿で同卓したことあります」

誠子「そうなんだ。でも、ここはインターハイだ」

誠子「なにが起こるかわからない」


誠子「特に準決勝は……」カタカタ

咲「そ、そうですね」

尭深「誠子ちゃん、まだトラウマが……」

淡「あー」

誠子「と、言うわけで」

淡「ん?」


誠子「今日は私、本気(マジ)でいくから」

淡「え、アレは? 決勝に備えて相手を研究ーって、しないんですか?」

誠子「たまには最初からクライマックスでも……いいんじゃないかな」

咲「もう準決勝ですけどね……」

尭深「それでもいいけど」

尭深(私はどっちでも、やること変わらないし)


誠子「べ、別に、個人的な理由で本気出すわけじゃないぞ!?」

淡「いや、聞いてないから」

誠子「実を言うとな……」

誠子「私達、ナメられてる」

淡「は?」

尭深「…………」ズズ

咲「どういう意味ですか?」


誠子「今の白糸台の地位は宮永先輩が築き上げたんだよ」

誠子「宮永先輩が入学する以前の白糸台麻雀部って、それほど強くなくってさ」

誠子「チャンピオンになって、部員全体の質も底上げされて」

誠子「そして色んな大会で優勝して現在、強豪校と呼ばれるに至った、と」

淡「ふーん。じゃ、テルが居なくなった白糸台なんか大した事ないやーみたいな?」

尭深「…………」ズズ


誠子「誠に遺憾ながら」

咲「政治家みたいに言いますね」

誠子「いやいや、他人事とは思ってないよ!?」


誠子「だから、ここらで強いところ出してもいいかなって」


淡「そっか」

咲「……つまり」


咲「見せつけれくればいいんですね」

誠子「っ……!」

  『まもなく、準決勝先鋒戦を開始します――』


淡「時間だよサキー!」

咲「うん」

ヌギヌギ

咲「よし。じゃ、行ってきます」


誠子「お、おう」

尭深「がんばって」

淡「いってらしゃーい!」

咲「うん」グッ

ガチャ

誠子「…………」

準決勝対局室


純「よう」

咲「どうも」

純「同郷ってことで、因縁感でも出しとく?」

咲「それは、決勝で待ってる優希ちゃんにとっておいた方がよくないですか」

純「ま、それもそうだな」


純「それで、なに? 宮永的にはオレらで決まりって思ってんの?」

咲「どうでしょう。どこが来ても、私はかまいませんよ」


えり「さぁ、対局室には選手の姿が見えはじめました」

えり「インターハイ決勝の席は、残り2つ」

咏「いったい、どこが勝ち抜くんだろうかね?」

えり「どの高校も十分可能性があります」

えり「三尋木プロは、注目している選手はいらっしゃいますか?」

咏「ん~? そうだねぃ」


咏「やっぱ、リンシャンちゃんかな」

えり「白糸台高校の先鋒、宮永咲選手」

えり「前回インターハイの個人戦チャンピオンです」

えり「姉は今年プロ入りした宮永照。これは有名ですね」

咏「あの子とはよく会うんだよ。試合でもプライベートでも」

咏「だからって、それでひいきしてるわけじゃないよ? 妹は妹で見どころあるし」

えり「それは、どんなところでしょうか?」


咏「見てりゃわかるんじゃねーの? 知らんけど」

えり「……白糸台宮永選手以外の選手をご紹介します」イラッ


えり「第4シード、龍門渕高校からは3年の井上純」

えり「地区大会では、先鋒戦で対戦校をトばすという活躍をみせています」

えり「2年前のインターハイにも出場していますね」

咏「あれはちょっと話題になってたよ」


えり「そうですね。龍門渕高校は当時とメンバーは同じ」

えり「つまり全員1年生での全国出場という、他の選手もすごい実力を持っている学校なんです」

咏「まぁ、去年はちょっと相手が悪かったねー」


えり「おっと、ただいま姫松の上重漫選手と阿知賀の松実玄選手が入場してきました」

玄「お先にどうぞ」

漫「ほんじゃ失礼します」


えり「姫松高校は大阪の強豪校。先鋒は去年に引き続き上重選手」

えり「そして去年のファイナリスト阿知賀女子。これも同じく、先鋒は松実玄が務めます」

咏「ドラゴンロードちゃんの高火力は見てて面白いんだよ」

咏「姫松の子も不安定だけど、やる時はやるって感じだから期待しちゃうねぃ」

えり「選手達が揃い、場決めも終わりました」


玄「よろしくお願いします!」

純「ヨロシク」

玄(うむ)

漫「よろしゅうお願いします」

玄(うむ!)

咲「よろしくお願いします」

玄(はぁ……)


咲「…………」

ゴッ

ビリビリ

誠子「これは」

淡「サキが本気になったったー!」

尭深「…………」チャポ

誠子「それにしてもさ」

淡「ん?」


誠子「咲のやつ、ホント似てきたよな」

尭深「うん」

淡「ねー」

今日はここまで

立先生のサイト更新されてましたね
もうね、「ムロ」の文字を見るだけでテンションあがりますよ
内容はともかくとして。アゲアゲ

こんばんわ
未読の本を9冊も積んでしまった
読書の秋にも限度があるわ。確実に冬に持ち越す……

>>604
まちがい
霞「藤岡弘探検隊じゃあるまいし」
ただしい
霞「藤岡弘、探検隊じゃあるまいし」
>>611
まちがい
咲「見せつけれくればいいんですね」
ただしい
咲「見せつけてくればいいんですね」
まちがい
淡「いってらしゃーい!」
ただしい
淡「いってらっしゃーい!」

投下します。短いです

えり「前半戦終了ー!」

ビイイィィィィッ

えり「これは……意外な展開になりましたが……」

咏「うーん。まだ前半だし、わっかんねー」


えり「一体、誰が予想できたでしょうか? チャンピオン宮永咲、まさかの一人沈み!」


1位:阿知賀……120000
2位:姫松………101400
3位:龍門渕……100500
4位:白糸台………78100


えり「先鋒戦の前半が終わって、このような順位になっております」

えり「三尋木プロ、この後どのような展開になると思われますか?」

咏「さすがにね。このままじゃ終われないよねぇ、チャンピオン」


咏「とはいえ、相手は全国でも屈指の火力自慢の雀士達」

咏「一筋縄ではいかない相手に、どう立ち回るかな?」



自販機前 休憩スペース


淡「ほい。水分補給」

咲「ありがとう、淡ちゃん」

咲「いただきます」プシュッ

淡「私のおごりだ。飲みねぃ」

咲「ふふ、なにそれ」

淡「……どっちかってーとサキの方がナニソレだよ」


淡「様子見だとしてもさ、気前よすぎじゃない?」

咲「…………」ゴクゴク


淡「アイツらって、そんな強いの?」

咲「強いよ。火力だけで言うなら全国でもトップクラスじゃないかな?」

淡「でも、サキは私と同じくらいチャンピオンで一番じゃん」


咲「そうだね」


咲「悪い事があっても、その後に必ず良い事がやってくる」


咲「人生そういうものだよ。だから、大丈夫」

淡「えー、テキトーすぎない?」

咲「あはは……まぁ、自分でもちょっと楽観的かなって思うけど」


咲「昔ね、私とお姉ちゃんとケンカして、そのまま離れ離れになっちゃったの」

淡「……うん」

咲「ずっと麻雀からも離れてて、でも偶然、麻雀部に入部する事になって」

咲「インターハイにはお姉ちゃんも出る。しかも、これが最後のチャンス」

淡「テルは3年で、サキは1年だもんね」

咲「うん。それで必死になって頑張ったら、お姉ちゃんと仲直りできました」

淡「めでたしめでたしっと。じゃあ今、サキにはイイコトが来てるんだ?」

咲「うーん、どうだろう? それって、長くは続かないものなんだと思う」

淡「ダメじゃん!」

咲「でもね……」


咲「たとえ、幸不幸は交互にやってくるサイクルなんだとしても」

咲「待ってるだけじゃ変わらない」


咲「私はあの日の私を知ってるから、そう信じられるんだ」


  『インターバルは残り5分です。選手は対局室に戻ってください』


咲「相当の対価を払わないと、何も手に入らない」

咲「もちろん、私だけの力じゃないけどね。色んな人に支えてもらったし」

咲「小さい歯車がかみ合って、大きな力を生み出すみたいに」


淡「これからサキは、どうするの?」

咲「一人じゃ大変だけど、流れに乗ってくれそうな人がいるから」

淡「イイコト、来るといいね」

咲「ありがとう。前半戦は、たくさん悪い事かぶっちゃったから……」


咲「その分、がんばって帳消しにしてくるよ」



控室 白糸台高校


ガチャ

淡「ただいまー」

誠子「おかえり」

尭深「おかえりなさい……咲ちゃん、どうだった?」


淡「大丈夫そうだったよ。はいお釣り」

誠子「あいよ。それならいいんだけどさ……」

淡「あれれ? 亦野先輩ってば、実は気が気じゃなかったりしてますぅ?」

誠子「ん、そんな事ないぞ? どんな状況でも、どっしり構えてないと」


誠子「白糸台麻雀部の部長は務まらないんだよ」

淡「へー」

淡「余裕あるんなら、お茶でも飲んだらどうですか?」

誠子「そうだな。じゃあ尭深、悪いけど……」

淡「いや、あるじゃないですか」


淡「すっかりぬるくなっちゃったやつが」

誠子「あ」


誠子「忘れてた……ズズ……」

淡「さめててもすするんだ」

誠子「日本人だもん。大目に見てよ」

淡「責めてないけどね。口付けないくらい焦ってたんだ?」

尭深「ずっとソワソワしてたよね」


誠子「た、尭深……気付かれないようにしてたんだけどなぁ」

尭深「それくらい、わかるよ」


えり『前半戦では、跳満倍満が飛び交う激戦が繰り広げられました』

咏『取ったら取り返す、クロスレンジで殴り合いって感じで熱かったねぃ』

えり『あるいは、早い手で流すといった駆け引きもあり、見ごたえのある試合でしたが』

えり『一方で、チャンピオン擁する白糸台が振るわなかった前半戦でもあります』

咏『大きく振り込むってことは無かったけど、ツモで削られすぎたな』

えり『そうですね。後半戦の巻き返しに期待がかかります』

咏『でもまぁ、私だったらピンチは燃えるシチュエーションなんだけど』

えり『プロでもそういう選手は多いですね。例えば、佐久フェレッターズの藤田プロとか』

咏『まくりの女王なんて言われてるしね』


咏『だから、逆境に身を置いてこそ発揮される強さもあるんじゃねーの? 知らんけど』



控室 阿知賀女子


憧「うーん、様子見なのかな?」

穏乃「それにしては静かすぎる気もするけど」

憧「和はどう思ってる?」


和「たしかに、いつもの咲さんと比べると動きがありませんね」

灼「そうなんだ」

和「それに、表情からも不安な様子は見てとれませんし」

憧「しず的にはどうよ?」


穏乃「そんなに対局経験あるわけじゃないんだけど」

憧「いいからいいから」

穏乃「……このままじゃ終わらないと思う」

穏乃「仕掛けてくるんじゃないかな。相手を見極めろって指示があったとしてもね」

穏乃「春の山みたく、急に豹変するんだ」

憧「やっぱなんかしてくる予想かー」


灼「点差もあるし」

憧「トップだけど油断できないよ、玄」

和「姫松の人も、玄さんみたいに高い手を組みたがりますし」

憧「龍門渕の井上さんは、厄介な鳴きするのよねぇ」

穏乃「玄さんがんばれーっ!」



Bブロック準決勝 後半戦
南三局
親:松実玄
ドラ:⑨4東


玄(もう、溢れちゃう……)


玄(宮永さんが2回もカンするから……)
(五)六(⑤)⑨⑨⑨344(5)東東東

玄(これ以上、受け入れられない)

玄(東・⑨が来れば四槓流れも狙えるけど……連続で引ける保証なんて無いし)


玄(どうしよう……)

チャッ

玄「うぅ……」
ツモ:4

タン

咲「カン」カシャッ

玄(大明槓……!?)

ドッ


咲「ツモ。嶺上開花」

咲「8000です」

玄「は、はい」


えり「宮永選手の嶺上開花が決まりました!」

咏「調子イイ~」

えり「あれは嵐の前の静けさと言うものだったのでしょうか」

えり「前半戦とは打って変わっての大攻勢! そして勝負はオーラスへと突入します!」


咲(うーん。思ってたより、防御に徹した姫松の人は固いなぁ)

咲(この人と松実さんの支配で、山の圧縮がヒドイ事になってるし……)

咲(絶一門よりマシだけど)

Bブロック準決勝 後半戦
南四局 オーラス
親:上重漫


漫(最後の親番。ここで連荘しとかんと)

漫(宮永……)


漫(末原先輩と違って、偏りのある私の手じゃ撹乱なんかできひん)

漫(せやから、スピードで真っ向勝負! 火力を速度に! )

漫「ポン!」カシャッ

咲「ロン」

漫「え」


咲「タンヤオのみ、1000点です。ありがとうございました」
五六⑥⑥222233334:四


ビイイィィィィッ

えり「先鋒戦、終了ー!」

えり「終わってみれば白糸台が大差で圧勝!」

咏「やるねぇ」

えり「チャンピオンの貫録を見せつける展開となりました」

漫(普通にやられてもうた……)

漫「ありがとうございました」
姫松:84700

玄「ありがとうございました」

玄(私が稼がなきゃいけないのに、負けこんじゃった……)
阿知賀:93900

純「おつかれさん」

純(つーか、オレが最下位かよ……ダッセ)
龍門渕:84400


咲「ふぅ」
白糸台:137000


えり『白糸台高校の大逆転劇という形で幕を下ろした先鋒戦』

えり『つづく次鋒戦、果たして3校は追いつくことができるのか――』


ガチャ

純「ただいま……ゲッ」

透華「じゅ~ん~?」ゴゴゴゴ

純「あー」

透華「なんですの、あのザマは!?」

純「途中までは悪くなかったろ」

透華「最後失速しては意味無いではありませんの!」

純「松実と上重に削り合いさせようと思ってたのに、アイツらツモばっかしやがって」


純「おかげで直撃してねーのに点数ごっそり減るし!」

透華「それはアナタの見極めが甘かったからでしょう」

一「言い訳は男らしくないよ、純くん?」

純「オレは女だっつーの!」


純「ああそうだよしくったよ! でもな、次は絶っ対に勝ってやるからな!」

透華「当ったり前ですわ!」

智紀「時間。行ってくる」

一「頑張ってね」

透華「智紀! 龍門渕の実力を見せつけてやりなさい!」

純「頼んだぜともきー!」

智紀「ん……」


純「がんばれよー! ……ところで、まだ衣は寝てんのか?」

一「まだお昼前だし、そうかもしれないね」

透華「出番までに起きてくれば問題ナッシング! ですわ」

今日はここまで

最新話の咲さんカッコイイでしたね
あと最後の末原ちゃんのポーズが面白かったです

おつ
集合絵、ムロ『も』居なかったね…

むろたんイェイ~♪

ムロスレなのに1ヶ月も出番無い……
これからも1ヶ月くらいは出る予定ないかも
>>637
単行本に備えよう

去年のむろたんにスレ立てたんですよね
1年かかっても終わらんとか考慮しとらんよ
もうしばらく時間かかると思いますが、ちゃんと最後まで書こうと思います

とりあえず今日は、ちょっと値の張るビールで祝杯をあげたいです

IDにムロが居たので

こんばんわ

寒くなってきましたね。最近、カフェオレにハチミツ入れるのがマイブームになってます
>>642
うらやましい

投下します

えり「副将戦、終了ーッ!」


灼「ありがとうございました」

絹恵「ありがとうございました」

誠子「ありがとうございました」


えり「この試合も熾烈な戦いでした。各校部長対決を制したのは……」


ヒュオォォォォ

透華「ありがとうございました」


えり「龍門渕高校、龍門渕透華!」

咏「後半からの追い上げ、凄かったねぇ。まるで人が変わったみたいだったよ」

えり「そうですね。圧倒的な和了率でトップに躍り出ました」


えり「前半は、阿知賀の鷺森選手、白糸台の亦野選手の活躍に隠れ気味でしたが」

咏「龍門渕自身は目立った和了とかないんだけど、他の選手が揃ってトリッキーなスタイルだ」

咏「それが後半戦、打って変わって静まり返ったもんだから、そこを上手く突いたって感じ?」

えり「ペースをものにして相手にチャンスを与えない。そんな試合展開でした」



淡「亦野せーんぱいっ」

誠子「大星……」

淡「サキが言ってましたよ。あの状態のりゅーもんぶち相手に大健闘だって!」

誠子「健闘、か」


淡「亦野先輩?」

誠子「集中して臨んだつもりだけど、上手くいかないな」

淡「麻雀って、そういうもんじゃないですか?」


誠子「準決勝本気でいくって言ったのは実は、学校のためだけじゃなくて自分のためでもあるんだ」

淡「そうなんだ?」

誠子「今年最後のインターハイ。私は個人戦に出場しないから、残りはあと半荘2回」

誠子「数少ないチャンスでベストを尽くせなかった。次こそは……」

誠子「いや、下手したらこれで終わりかも……」

淡「それは大丈夫でしょ」


淡「私がちゃんと、決勝に連れて行ってあげますよ」

誠子「……そうだな」


誠子「残された対局数はあとわずか。私はその一局一局を、精一杯頑張りたい」

誠子「だから……頼んだぞ、大星」

淡「まっかせなさい!」



灼「点、減らして申し訳な……」

穏乃「灼さん。あとは、私がなんとかします」

灼「うん……でも、相手には」

穏乃「大星さんと天江さん……」

灼「二人とも高火力で攻めてくるから、気を付けて」

穏乃「はい」


灼「天江さんは海底狙いだと思……」

穏乃「そしたら、早い局から発揮できるかもしれませんね」

灼「序盤は耐えて」

穏乃「はい」


灼「ゴメン……もうちょっと、点差に余裕あれば」

穏乃「大丈夫です。今日のために、和のスパルタに耐えてきたんですから!」

灼「うん」


穏乃「ここで終わらせません。また今年も一緒に行きましょう!」

灼「うん。任せたよ、大将」

穏乃「はい! 行ってきます!」



衣「透華が目覚めるまでに終わらせてこよう」

純「あいよー」

一「いってらっしゃい」

智紀「がんばれー」

衣「…………」


衣「もっと、こう……他に掛けるべき言葉はないのか?」

純「つってもなぁ、もう勝ち確じゃん。こっから負けねーだろ?」

衣「無論!」

智紀「でも油断はしないように。そういって去年……」

衣「わ、わかってる!」

衣「努めて克己的に。余計な演出などせず、最善を尽くす」


衣「その上で、楽しんでこよう」

純「おう」

衣「それじゃあ、行ってくるね。ハギヨシ!」

ハギヨシ「ここに」

衣「人払いを頼む」

ハギヨシ「かしこまりました。対局室までのマスコミを撤去します」



えり「ついにBブロック準決勝も、大将戦が始まろうとしています」

えり「決勝戦に進むのはどの学校なのか」

えり「対局室の映像です。先に着席しているのは姫松高校」

えり「次にやってきたのは、大星淡。春季大会では個人戦で1位」

えり「白糸台高校から、二人目のチャンピオンがやってきました」

咏「そういやさぁ、大星淡って宮永照の後継者って言われてたじゃん?」

えり「たしかに、そう呼ばれてましたね」

咏「でも今年は妹の宮永咲がやってきた。実力も申し分ない」


咏「噂だと後継者問題で揉めてるらしいよ?」

えり「へぇ、そんなポジション争いがあるんですか」

咏「部長とかエースだったりとかは、他の学校や部活にもあるけどさ」

咏「やっぱ思い入れってのがあるんだろうね。知らんけど」

えり「そうでしょう。宮永姉妹は、複雑な家庭事情もありましたから」


咏「でさ、聞いてみたんだよね」

えり「なにを……え、まさか本人に」

咏「そうそう。どっちが本命なんだい? ってね」


えり「ちょっと、それここで言っちゃってもいいんですか?」

咏「いいのいいの。快く答えてくれたし」

えり「白糸台の控室がざわついてないでしょうか……」

咏「知らんし」

咏「んで、聞いたのね?」

えり「はい」

咏「そしたら……いや、それは、ちょっと私には、えーと、あの……分かんないです。って」

えり「ものすごく困惑してるじゃないですか」


えり「快さのカケラもありませんよ」

咏「それがさ、アレってマスコミが勝手に付けたものだから、本人はそういうふうに考えてないみたい」

咏「でも、大星淡が気に入っちゃってるらしいんだ」

えり「宮永咲も、妹としてそこは譲れないと」

咏「らしいよー? 知らんけど」


咏「夏に宮永咲、春に大星淡がチャンピオンになったけど、それぞれ1勝1敗とも言えるわけで」

咏「それで今回の大会で、優勝した方が後継者に選ばれるみたい」

えり「二人には嬉しい優勝賞品ですね」


咏「日本一よりもそっちの方が重要だったりして」

えり「それは無い、とは言いきれませんね……おっと」


えり「来ました、3人目」

咏「ふーん、今日はジャージじゃないんだ」

えり「続いて阿知賀女子から高鴨穏乃。2回戦まではジャージ姿でしたが」

えり「準決勝からは制服を着用。これは、去年も同じでしたね」

咏「ゲン担ぎみたいなもんなのかな」

えり「普通は逆なんじゃないんでしょうか……」


咏「逆にいつもはジャージ着てんじゃね?」

えり「逆に?」

咏「逆にね」


咏「いつも着てる服じゃあ、気分が締まらないってのはあるんじゃない? 知らんけど」

えり「わからなくはないですけど」

咏「そういやアナウンサーの人って毎回違う服装で、同じ服着てなくね?」

えり「あれは、スタイリストさんが用意してくれる衣装ですから」


えり「たまに気に入った服とか、買い取りしたくなるんですけど……」

咏「いいじゃん。買い取れば」

えり「プライベートで、となると着にくいデザインだったりするんですよ」

咏「ははぁん、なるほどねぃ」


えり「三尋木プロは、いつも着物で」

咏「そだね」

えり「トレードマークというか」

咏「私と言ったら着物、着物と言ったら私だよ」


咏「なんたって、生まれてきた時も着物着てたくらいだからね」

えり「また、いくらなんでもテキトーすぎるでしょ……」

咏「まぁ着物は着物なんだけど、勝負服ってのはあるよ」

えり「へぇ」

咏「大事な試合とかに着てくんだけど、帯とか帯留も全部特注でさ」

えり「それはまた凄いですね……って」


えり「さっきから何の話してるんですか!?」

咏「ほっほっほ」


えり「で、では気をとりなおして……あ、最後の選手が来ましたね」

咏「龍門渕の天江衣。一昨年のMVPだ」

えり「当時は団体戦でのみ出場。龍門渕は準決勝で、大将に回ることなく惜しくも敗退。しかし……」

えり「それでMVPに選ばれるというのは」

咏「破格だよねぇ。ま、それも納得できるくらいのインパクトがあったんだけど」


えり「この天江選手、1・2回戦ではそれぞれ2校・3校を同時にトバしているんですね」

咏「そうそう。今年の地区大会決勝でもトバしてたんだよ、この子」

えり「その強さは健在ということでしょうか……それでは」


えり「運命の大将戦、間もなくスタートとなります」




透華「ん……」

一「透華! 気分はどう?」

透華「はじめ……」

透華「わたくし……また……」

一「後半戦が始まってから、すぐに……」

透華「そうですの」

純「自覚は無いと思うけど、大活躍だったぜ?」

透華「……牌譜を」

一「え、うん。すぐに持ってくる」


透華「試合は……?」

智紀「さっき終わった」

透華「今回は、長く寝ていたんですのね」

純「そうでもないぞ」

透華「え?」


一「はい、透華。副将戦の牌譜」

透華「ありがとう、衣の姿が見えないのだけど?」

一「もうすぐに帰ってくると思うよ」

透華「そう、それで結果は?」

一「透華……?」


一「もしかして……怒ってる?」

透華「…………」

智紀「前半の南2局で白糸台が姫松をトバして終了」

智紀「1位のウチと2位の白糸台、それと臨海と永水が明日の決勝で闘う」

衣「衣はもっと打っていたかったがな」

純「おう、おかえりー」


衣「ただいま!」

智紀「おかえりなさい」

一「おかえり、衣。試合どうだった?」

衣「姫松の点数が少なかったとはいえ、もうちょっと時間があれば穏乃の真価を見れたのに」

純「阿知賀の大将の?」

衣「うん。去年とは比べ物にならないくらい早く、狭霧のかかった景色が見えた。ところで……」


衣「トーカは何をむくれているんだ?」

透華「むくれてなんて……いますわ!」

一「やっぱり怒ってたんだ」

透華「これは……こんなの私じゃありませんわ!」


透華「私の麻雀はもっと理性的、かつ情熱的なデジタル!」

純「なに情熱的って」

透華「それに、この大会には原村和がいません」

智紀「レギュレーション」

透華「つまり、私が一番目立なければいけないという事ですわ!」

一「は?」


透華「私の颯爽としたデジタル麻雀を、観客は、求めているのですわ!」

衣「そうかなぁ」

透華「それをお見せできないのが残念でなりませんの」

一「ま、まぁ透華も一応、注目選手ではあるよね?」

透華「ライバル不在とはいえ、この様な姿を……」

智紀「むしろ注目度は上がってると思う」

純「そんな理由も、透華らしいっちゃらしいけどな」

透華「それに……やっぱり5人で一緒にいたいのですわ」


透華「2年前に、毎年夏には東京に通いましょうと言ったのを覚えていますか?」

衣「無論」

一「みんなでファミレスに行った帰りだよね」

透華「ええ」

透華「あれから2年。私達も3年生ですわ」

純「時が経つのは早ぇな」

透華「私達が集まったきっかけは、衣と一緒に遊ぶ事ですけど」


透華「言っておきますが、この大会が終わったらとか結果がどうだったとかで」

透華「この関係は変わらない」

一「そうだね」

智紀「もちろん」

純「ああ」

衣「み、みんな……衣は感に堪えない!」


透華「そしてそこに居るのは、あの様な私ではありえませんわ」

一「うん。ボクも、いつもの透華がいいな」

透華「みんなでこのお祭りを楽しみましょう!」

純「祭りだな。じゃあ楽しまなくちゃ損だ」

智紀「明日が楽しみ」

衣「衣も楽しみだ!」


透華「この家族旅行で、最高の思い出をつくるのですわ!」




カポーン

穏乃「終わったね」

憧「うん」

チャプン

穏乃「なんもできなかった」

和「まさかの前半で終わっちゃいましたからね」

憧「点差もあったし、しょうがない」

灼「申し訳な……」ブクブク

憧「灼さんだけのせいじゃないよ。ホラ、沈まない沈まない」

玄「みんなで出した結果だもん」


穏乃「すぐ終わったから、なのかなぁ……なんか不完全燃焼って言うか」

玄「穏乃ちゃんだけフルでやってないからね」

穏乃
「正直、実感が湧いてこないです」

憧「変にヘコむよりかマシだよ」

和「溜まったうっぷんは個人戦で晴らしましょう」

玄「私も頑張るよー」

灼「溶けそ……」ブクブク

玄「もう上がろっか?」

ドタドタ

和「そうですねぇ……ん?」

ガララッ


晴絵「みんな!」バンッ


灼「ハルちゃん!?」

憧「ハルエッ!?」

穏乃「赤土先生! なんでここに!?」

晴絵「来たよ……!」


和「奈良でお仕事してたんじゃ?」

玄「というか服着たまま入ってきちゃダメですよ!」

灼「ハルちゃん……ゴメ、私……」ザバァ

晴絵「ううん、頑張ってた……頑張ってたよ、灼……」パシャ


憧「ああもう、ダメだって入ってきちゃ」

穏乃「服濡れちゃいますよ」

灼「わ、私、阿知賀の部長として……」

晴絵「ありがとね」

灼「え……?」

晴絵「また今年も、阿知賀を全国まで連れてってくれて」


晴絵「立派だよ、灼……!」

灼「は、はるちゃ……」

ギュウウゥゥゥゥ

灼「はるちゃああぁぁぁぁ!」

晴絵「あらたああぁぁぁぁ!」


和「あーあー」

玄「びっしょびしょ……」



淡「ついに明日かー」

咲「うん」


ヒュウゥゥゥゥ

咲「風、つよくなってきたね」

淡「そろそろ戻る?」

咲「そうだね」


淡「お菓子これくらい買ってけば大丈夫かな」ドッチャリ

咲「十分すぎるよ……」

淡「甘いもの大事だって」

咲「いやでも、多いよ。ちゃんと消費できるかなぁ?」


淡「余ったらテルにあげよう」

咲「人のお姉ちゃんをそんなふうに使わないでくれる?」


咲「絶対喜んじゃうからダメ。もう大人なのに」

淡「いいよね」

咲「いいの?」

淡「いいよ! プロになっても変にエラぶらないで」

咲「たまに学校にも顔出してくるしね」



淡「いいよねー。なりたいもん」

咲「なりたいんだ」

淡「明日、なるよ」

咲「なれるかな?」

淡「なるね」

咲「じゃあ、私も」

淡「負けないよ」

咲「うん」


淡「よーし、はやく帰ろー! 寝よー! 起きよー!」

咲「うん。あっ」

咲(月がおおきい)


咲「…………」

咲(明日、満月か……)

今日はここまで
ムロたん記念にこんなSS書いてました
よかったらどうぞ

京太郎「高遠原の学園祭?」
京太郎「高遠原の学園祭?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447513111/)


一応言っておくと、このSSとはまた別世界の京ムロの話です
突発で書いたので反省点の多い……
でも書いてて楽しかったです。ムロ分補給出来たし

こんばんわ
ハンターランク4になりました

原作ではついに準決勝が終局
これから悲喜交々、決勝戦に向けてのなんやかんやがあって
対局開始まで、実際にはもうすこしかかるんでしょうけど
やっと、というか、もう?って気持ちが強いですね

阿知賀編の続編を予告されたような気分です


投下します。こちらはもう決勝戦はじまります

インターハイ会場 実況席


  『まもなく本番でーす!』

恒子「はーい」


健夜「ふぅ……」

恒子「すこやん、緊張してる?」

健夜「少しだけ。いよいよ今日が決勝戦……」

恒子「夜には日本一の高校が決まってるんだね」

健夜「うん。私達も選手に負けないくらい、頑張らないと」

恒子「そうだね」


恒子「今日もよろしくお願いします」

健夜「はい、よろしくお願いします」


  『本番参ります! 5秒前……』

恒子「そういえば知ってる? すこやん」

健夜「なに?」

恒子「女子プロ赤土選手の女子風呂闖入事件」

健夜「えっナニソレ?」

恒子「だから、女子プロと女子風呂がかかってるっていう……」

健夜「そこじゃなくて……え? ホントの話?」

  『2……1……』

恒子「すこやん、始まるよ!」

健夜「あっ……んん」

健夜「おはようございます」キリッ


恒子「…………」

健夜「あの……ふ、福与アナ?」

恒子「んー?」


恒子「今アバンだよ?」

健夜「うわぁ、ひさしぶりに引っかかった……」


恒子「もう、しっかりしなよ」

健夜「だって、こーこちゃんが本番直前に変なことを……なに言ってるのさ!?」

恒子「いや、すこやん緊張してるって言うからさ」

恒子「楽しい話題で緊張ほぐそうかと思って」

健夜「脱力したよ……」


健夜「タイミングも最悪にバッチリだし」

恒子「これが現場で鍛え上げられた時間感覚ってやつですよ」

健夜「発揮する場所がおかしいでしょ」


健夜「あとさ、赤土さんなにしてるの……」


恒子「ねー。私もビックリしたよ」

健夜「阿知賀女子、昨日敗退したから……ヤケになっちゃったんだ」

恒子「たぶん、すこやんの考えてるのと違うと思うよ」

健夜「そうなの? 赤土さん捕まってない?」

恒子「あはは、大丈夫だって。そういうのじゃないし」

健夜「そっかぁ」


健夜「略式で済んだんだ」

恒子「たぶん、違うと思うよ」


  『映像あけまーす』

恒子「よし、ホントのホントに本番だよ」

健夜「今度こそね、お願いね?」

  『3、2、1……』


恒子「おはようございます!」

健夜「おはようございます」

恒子「インターハイ女子団体戦、ついについに決勝戦!」

恒子「全国の猛者達が鎬を削った8日間。出場校52校のうち、残ったのはわずか4校!」

恒子「その頂点に立てるのはたった1校のみ! 勝利の栄冠を手にするのは、一体どこなのか!?」


恒子「実況は私、福与恒子。解説は小鍛冶健夜プロです、よろしくお願いします」

健夜「よろしくお願いします」

決勝戦専用対局室


優希「こうして咲ちゃんと対戦するとは思ってもなかったじぇ」

咲「私は転校した時から、優希ちゃんと闘うビジョンってあったけど」

咲「そのイメージとは、ちょっと違うトコもあるかな。制服とか」

優希「これは、さすがの私も予想外だったじぇ」

咲「そうなの?」

優希「キッカケなんて突然やってきたんだ」


優希「考える時間もあんま無くて、勢い任せで飛び乗ってみたけど」

優希「今ここにいると、それで良かったって思うじぇ」


咲「お互い、立場も変わったしね。私は白糸台、優希ちゃんは臨海のために」

優希「ウチはみんなスタンドプレイに走ってるから学校のために、とかないなぁ」

咲「うわ、さすが世界ランカー集めてるトコは違うね」

優希「……って言うと、すごいストイックな感じするじぇ」


優希「でも、みんなが一番を目指してるから、それでシンパシーみたいなのはあるんだじぇ」

咲「意識高そう」

純「あっちでも上手くやってるようで、安心したよ」

優希「ノッポ」

純「送り出した側としてはな。しかし……」

純「年上に対する礼儀は、あいかわらず仕込まれてないみたいだな」


優希「ノッポさん」

純「違う、そうじゃない」


明星「お待たせいたしました。私が最後ですね」

純「よし、揃ったな。じゃあ……」

優希「始めようか」

咲「うん」


恒子「各校、先鋒の選手が席に着きました」

恒子「起親は臨海女子の片岡優希」

健夜「片岡選手は、起親になる確率が非常に多いですね」

恒子「先行逃げ切りが得意な片岡選手。スタートダッシュでどこまでいけるのか」

健夜「……時間です」


恒子「日本一強い高校を決める戦いの火蓋が今……」

ビイィィィィッ

恒子「切って落とされました!」

インターハイ女子団体戦 決勝戦
先鋒戦 前半
東一局 親:片岡優希(臨海)


優希(む……)

咲(へぇ)

オ オ オ オ オ オ

明星「…………」

純(いきなりかよ!?)


純(片岡は想定内だが、コイツ……永水の、初っ端から出してくるのか)

純(すこしは出し惜しみとかしないもんかね)

チャッ チャッ

純(ほいきた。実際にやられるとウゼェな)


恒子『石戸選手の手には索子が、他の選手には筒子と萬子が集まっています!』

恒子『絶一門状態!』


優希(まずは字牌を整理して)
打:發

明星「ポン」

優希「!?」


恒子『門前を捨てて鳴いた! これはまさか……?』

優希(索子で染めて發ポンって)

タン

純「ポン!」

純(わかりやすいぜ。流れを変えたいとこだが……)

明星(よし、これで)タン

咲(索子があふれた……しかも赤五)

純(無理かよ)


明星(もうちょっと……)

純(そろそろ一向聴、ってとこか?)

純(永水の動きも気になるが……どうした?)

優希「…………」

咲(優希ちゃんがここで様子見、なんてないよね)


咲(カン材……)チラ

咲(次巡でカンして嶺上ツモ)

明星「…………」タン

ゾクッ

純(ッ!? 今ので張ったか……!)


恒子『キター! これは、とんでもないことになりました!』

恒子『決勝戦最初の局で役満、緑一色テンパイーッ!』

純(間に合うか……?)タン

咲(ギリギリだったね。その前に、私が和了るんだから)


優希「ツモ」


明星「えっ?」

パラッ

優希「1300オール」


咲(張ってたの? いつから……)

優希「まずは1本」チャッ

純(テンパイの色が全然見えなかった。役満のオーラに当てられてたってか?)

明星(潰されちゃったかぁ……惜しい!)


恒子『これは臨海の片岡選手が阻止! 親番を簡単には譲りません!』

健夜『片岡選手にしてはおとなしい立ち上がりですね』

恒子『そうなんですか?』

健夜『門前での高火力と鳴きの速攻、この2つのスタイルを使い分けるのが有名ですね』


恒子『そのわりには、そんなに高い点数ではありませんが』

健夜『今の和了は、石戸選手の役満を警戒した和了だと思います』

健夜『リーチをかけなかったのも、待ちを寄せたり柔軟に対応できますし』

恒子『へえ。さァ、始まりました。東風王者の連荘!』

東一局 1本場
親:片岡優希(臨海)


優希「ロン。3900の1本場は4200」

咲「はい」

純(まただ。一切の気配を察知させずに和了った)

咲(臨海に行って、新しいスタイルを身につけたのかな?)

優希「2本場」ダン

咲(そっか。今は東場……)

咲(優希ちゃんのテリトリーだ)


明星(リーチをかけずに安手で和了り続けるならば)

明星(毎局メンチンツモを狙える私は一撃で追いつける)

明星(連荘してくれるだけチャンスが増えて、ありがたいよ)



東一局 2本場
親:片岡優希(臨海)


優希「ロン」

咲「はい」

純(リーチせず、鳴きもせずにダマで通す……)


恒子『またまた片岡選手の和了、これで3連荘!』

恒子『王者の快進撃はまだまだ継続中!』


アレクサンドラ「調子イイようで安心したわ」

ハオ「しかし何故、優希はリーチしないのでしょうか」

ネリー「ハオみたい」

ハオ「リーチに制限をかける事で、なにかしらの能力が?」

アレクサンドラ「東場でのユーキの火力は非常に強力だけど」

アレクサンドラ「ソレも通用しない相手が、上には居る」

アレクサンドラ「そういう相手に対抗するための新しいスタイルさ」

ハオ「やはり」

明華「連荘してますし、これも攻撃的なスタイル?」

ネリー「どっちつかずに見えるけどね」


明華「監督はそのへん、なにか知りませんか?」

アレクサンドラ「あぁ……うーん」

ネリー「シュヒギムってやつ?」

アレクサンドラ「アレはユーキが自主的に開発したやつだから、私も詳しくは知らんのよ」

ネリー「なーんだ」


アレクサンドラ「聞いたところによると、サトハに色々と仕込まれたらしいわ」

明華「ああ」

ハオ「たまにお邪魔しているらしいです」


ネリー「お茶菓子食べれるし、おみやげもらえるもんね」

ハオ「アナタもですか」

咲(カン材……タイミングが顔に出てるのかと思ったけど)

優希「チー」カシャ

咲(ズラされる)


咲(山はノールックでツモってるのに……表情で判断してるんじゃなくて?)

咲(別のナニカを見てる、見えてるのかな)

明星「リーチ」

チャ

明星(リーヅモメンチンドラで倍満確定!)

優希(曲げた、か……)


優希(自分だけは、確立された支配の中で麻雀を打ってると、そう思ってるんだろう?)

優希(ひとつの色で染め上げられて、他の色の余地もなく)

優希(だが)

チャッ

明星(あ……)
ツモ:東


タン

優希「ロン」

明星(掴まされた……!)

恒子『4連続和了ーッ! この勢いは誰も止められない!』

健夜『派手さはありませんが、着実に相手の和了を潰していますね』

健夜『親ですから、堅実な和了を重視しているのでしょう』


明華「今のは」

アレクサンドラ「そういうこと」

ハオ「どことなく、ネリーにも似ていますね」

ネリー「そう?」


咲(卓に意識が通らないわけでもなく、妨害されているわけでもない)

咲(かといって、普通に打っても追いつけない)

咲(だったら……)



東一局 4本場
親:片岡優希(臨海)


咲「ポン」

純「ポン」

咲「チー」

純「ポン」

咲「チー」

純「ポン」

咲「ポン」


優希(またコレぇ!?)

恒子『おぉーっと! ここでチャンピオン宮永咲、裸単騎!』

恒子『龍門渕の井上選手も3副露で追いかける! これは速攻で親を流す作戦か!?』


純「チー」カシャ


恒子『追いついた! これで3人テンパイ、誰が先に和了るのか!?』

恒子『あ、でも宮永選手は役無しですね』

健夜『そうですね』


純(こんだけやりゃ十分だろ)
5/六六六//八八八888/678
待ち:5

優希(むむむ……)
一二三七八九23444中中
待ち:中・1・4

明星(うっわ、ツモ飛ばされすぎ。手が全然進まないよ)
①①②③④④⑤(⑤)⑦⑨⑨⑨南

咲(…………)
1/二二二/三四五/三四(五)/999
待ち:1


明星(……裸単騎)

明星(わざわざ防御薄くしてまで鳴く意味なんてあるのかな)

チャッ

明星(ん……)
ツモ:中

明星(一応、ね)タンッ
打:①


恒子『おっと、ここは離しませんでした』

健夜『いい判断です』


純(これだけ撹乱すれば、変な真似できないだろ)

純(ま、普通に打って当たるって可能性もあるが……)

咲「カン」

純「お」


ドッ

咲「ツモ。嶺上開花・赤1」

咲「800・1600の4本場は1200・2000です」


恒子『決まったーッ! 嶺上開花!』

恒子『臨海片岡の連荘にストップをかけたのは、インハイチャンプ宮永咲!』

健夜『ようやく東二局に進めますね。臨海以外には、この局は長く感じたと思います』


純(普通なんて無かった……)

東4局
親:井上純(龍門渕)


優希「ツモだじぇ! 2000・4000!」

純「ほらよ」


恒子『さぁ、ついに南場に突入!』

恒子『3局続けて片岡選手の和了。臨海の圧倒的リードで迎えます』

健夜『ここからの活躍で、どこまで追いつけるかがポイントですね』

恒子『トップを狙う3校の逆襲がいま……』

恒子『…………』


健夜『……?』

恒子『…………』


恒子『……はじまる!!』

健夜『溜めたねぇ』

今日はここまで
アニメ4期やんないかなぁ
咲日和でもいい

こんばんわ

パウチカムイもいいけど、ムロの出番あってびっくりしました。わーい
なんか丸くなってたです


短いですが投下します。今年最後

純「ツモ。2000・4000」


恒子『南場、最初の和了は龍門渕井上選手』

恒子『あっさり親番、流されちゃいましたね』

健夜『南場は防御に徹するのが、片岡選手の方針ですから』



前半 南二局
親:石戸明星(永水)


明星(それじゃあ、この南場でガッツリ稼いじゃおうか!)

純(さっきはずいぶん素直に和了らせてくれたな……なら、もっと高い手狙っときゃよかったわ)

明星(ってか私、いまだ和了れてないじゃん!?)

明星(いつでも倍満を狙える……けども)

ダンッ

咲「カン」

明星(なぁっ!?)

ドッ


咲「ツモ。嶺上開花のみ、400・700」


ワアァァァァ

恒子『決ィまったー! 嶺上開花! インハイチャンピオンの反撃が始まる!』


明星(暗槓かぁ、びっくりした……あ)

明星(親……)

前半 南三局
親:宮永咲(白糸台)


優希(咲ちゃんの親番……)

優希(永水は、きっと字牌に過敏だろうし期待できない)

純(ふーん、合わせて動いてくれるの?)

純(オレが南家だったら、もうちょっとアシストしやすいんだけどな)

純(でも西家よりマシか)

優希(いや、油断せずガードを固めよう)


優希(5順目。まだ誰もテンパイ気配は無い)タン

咲「カン」

優希(なに!?)

カシャッ


咲「ツモ。嶺上開花、2400です」ドッ

優希(うあ……考慮してなかったじぇ)

咲「1本場」


純(この絶一門状態……なにをしても、発揮したら最後まで続いていたな)

優希(さらに生牌の危険度は激高ときたもんだ。これはキビシーじょ)

純(孤立しててもなかなか切れない牌が多い……)

明星「…………」タン

純(それは、相手も同じか)


明星(うーん、守りに徹すれば最強なんだけど)

明星(そう何度も責任払いなんて無いと思うし……無いよね)

咲「カン」バンッ

明星(また暗槓!?)

ドッ

咲「ツモ。嶺上開花」

咲「1600オールの1本場は1700オールです」

明星(こっちがツモに影響を与えているせいで槓子が集まりやすくなってる、とか?)



前半 南三局 2本場
親:宮永咲(白糸台)


咲「リーチ」チャッ

明星(曲げた……)

純(攻めてくるじゃねえの)

優希(打点上げてきたじぇ)


純「チー」カシャ

優希(一発消し、ご苦労さまです)

誠子「咲がリーチなんて珍しいな」

淡「飜数上げてかないとだもんね」

尭深「打点を高くするため?」

淡「だろうね。テルは符で調整してたけど」

誠子「咲の場合、ほとんどの和了が嶺上開花だからアガリ符が……」


誠子「それに、永水のせいで三色つくれないし」

淡「ドラは臨海に持ってかれるし」

尭深「龍門渕の人も、染め手を意識させる鳴きするから」

誠子「なかなかに縛りのキツイ卓だな。でも」


誠子「そんなまでして、宮永先輩の真似しなくてもいいと思うんだけど」

尭深「すこし、気負ってるのかな?」

淡「どうだろ」



咲(一発消しが入るのは予測してたよ)

咲(その読みの上を行く。嶺上開花だと一発付かないもん)

咲(次巡でカンして……)


優希「カン!」

咲「えっ!?」


優希(鳴いてコースを変えてもゴールに着いちゃう。ならば……)

優希(ゴール自体を潰せばいい)

恒子『なんと、防御一辺倒だった片岡選手が南場で動きを見せた!』

健夜『めずらしいですね』

恒子『あれだけ嶺上開花でてるし、自分も乗るしかない。みたいな感じですかね?』

健夜『いやいや……だとしたらノリ軽すぎでしょ』


恒子『では、この鳴きはどういう事なのでしょうか?』

健夜『相手の当たり牌を先に掴もうという考えだと思います』

恒子『宮永選手は嶺上開花をよく決めますが、第二、第三嶺上牌でも和了ってきますよ?』

健夜『それは、最初に自分でカンした場合ですね』


咲(……とられた)

純(2人の手牌が大人しくなった)

優希(きっと、もう咲ちゃんは動けない……私も役無しになっちゃったけど)

咲(あとは、普通に打ってくしかないのかな)

咲(もしくはカンして警戒させてみたりとか)


咲(それでオリさせる事、できるかな?)

純(さっきカンされた時の表情、ありゃガチで不意打ち喰らったっぽいな)

純(つーか『えっ!?』って言ってたし)

純(チャンスみたいだがここが攻め時? いや、それでも親リー相手だ)

純(それに、永水は……)チラ


明星(チャンピオンがリーチで臨海がカン!? ど、どっちも高そう……)アタフタ

純(あ、いけるっぽい)

誠子「これはちょっと……」

淡「あーあ、慣れない事するからだよ」



純「ポン」

カシャッ

咲(止められない? カンすればズラせる?)

明星(染め手を狙ってるみたい……こっちも高そう)

優希(…………)

チャッ

咲(あ……)

純(ほいきた)


純「ツモ! チンイツ・ドラ3、2本場で4200・8200!」

明星(倍満……!)

優希(カンドラくらい、くれてやるじぇ)


恒子『倍満炸裂! チャンピオンの連荘をストップしたのは龍門渕、井上純!』

健夜『各選手の思惑が交差した局でしたが、上手く流れに乗りましたね』


咲(通用しなかったかぁ……)

咲(お姉ちゃんの真似してみたけど、本質は、そう変わらないや)

後半 南二局
親:石戸明星(永水)


恒子『さぁ、後半戦も南場に入りまして、先鋒戦も終盤に差し掛かりました』

恒子『親は永水女子の石戸明星選手。片岡選手と宮永選手に押され気味なのでしょうか』

恒子『後半戦では、未だ動きがありません』



3巡目


純(さて、ここらで追い込みかけないとな)

明星(あらかた字牌は処理してるかな? よし)


明星(……今だ!)ゴォッ

オ オ オ オ オ オ

優希(え、ここで?)

咲(って事は、次のツモからは……)


明星(休憩時間に祓ってもらってよかった。こうかはばつぐん!)

純(クッソ、どれか一色は捨てないといけなくなった)


純(面子になってない搭子なんかは、完全に死んだ。対子なら雀頭にできるが……)

優希(まずはどの色に偏ってるか、見極めないと)

咲(筒子……じゃあ、どっちを捨てようか)チャッ

タン

純(宮永は索子切りか)チャッ

純(おっと、残念だったな)タン

優希(正解は筒子・索子か)

咲(裏目……)

恒子『石戸選手の手には、萬子が集まっています!』


明星(ふんふむ)

明星(チンイツ・ピンフ・イーペーコー、おまけにドラが3つで11飜)

明星(という事はつまり……)


明星「リーチ!」

明星(こういう事よね!)


恒子『石戸選手リーチ! ツモで数え役満!』

恒子『本日2回目の役満チャンスだー! ツモるのか、ツモらないのか……?』


純(まーたヤバそうなのが……)

咲(うぅ、まだ萬子処理しきれてないよ)

優希(よりによって親番でなんて)


明星(役満和了ってもまだマイナスだけど)

明星(姫様に繋げるために、少しでも多く点を残したい)

チャッ

明星(わぁ)


明星「ツモ! 16000オールです!」バンッ


ワアアァァァァ

恒子『どっちなんだい!? ツモったー!!』


明星(よっし! これで差が縮まった)

優希(鳴いてもズラせなかったのか?)

咲(絶一門は崩せないんだよね)

純(2~3巡は延命できたかもな)


ビイイィィィィッ

恒子『先鋒戦終了ーッ!』

恒子『インハイチャンプと東風王者が激突した、実に激しい戦いでした』


恒子『結果は、臨海女子が1位で通過。僅差で白糸台高校が2位に着きました』

恒子『3位龍門渕高校、4位が永水女子。どちらもまだまだ逆転のチャンスはあります』

恒子『それでは、小鍛冶プロ。振り返ってみていかがでしたか?』

健夜『そうですね。前後半を通して、片岡選手は自分らしい打ち方をしていました』


健夜『ペースを保って安定していましたが、やはり隙が大きいですね』

健夜『宮永選手は前半すこし乱れていて、そこを他の選手にもっていかれた印象です』

健夜『石戸選手の役満には驚かされましたが、挽回には及ばず』

健夜『龍門渕の井上選手は、地味ながらも堅実に点を稼いでましたね』


恒子『日本の高校生へ、世界の小鍛冶プロからでした。ありがとうございました!』

健夜『な、なんかいやらしいし、嫌味クサイからやめてー!?』



優希「咲ちゃん」

咲「あ、優希ちゃん。お疲れ様サマ」

優希「おつー。なんか最初の方、様子違ったみたいだったじょ?」

咲「あはは……ちょっとね」

優希「チーム的にはかまわないんだけど」

優希「どうせなら絶好調のコンディションでやり合いたかったじぇ」

咲「ゴメンね、変なトコ見せちゃった」


咲「なんか最近、自分に自信持てなくて。だから自分らしくない事してみようかなって」

優希「クヨクヨしちゃイカンじぇ! なんだ、男の一人や二人!」

咲「でも、やっぱり気にしちゃうよ……」

優希「…………」

咲「な、なに?」


優希「こんなに見事にカマに引っかかるとはな」

咲「ええっ!?」


咲「ちょま……ええ……」

優希「咲ちゃんって、けっこう引きずるタイプ?」

咲「うぅ……そうかも。自分でも思ってもいなかったよ」

咲「ゆ、優希ちゃんこそ、どうなの?」

優希「私か? 私は清澄を離れる時に全て覚悟を決めてケリつけたからな!」


咲「そっか。すごいね」


咲「私は、いろいろ整理してこないで来ちゃったから」

咲「っていうか、全然自覚とか無かったし」

優希「おおう、それはそれで……」

咲「別に、気付かないフリ出来ないわけじゃないけど」


咲「それは変に遠慮してるみたいで、イヤ」

咲「一方で、納得できてない自分もイヤだ」

優希「うーむ……わからなくもないじぇ」

咲「まぁ、結局は私のワガママなんだけどね」


優希「そっか。しょうがないから全力咲ちゃんは個人戦に期待するじぇ」

咲「うん」


優希「さて、それじゃあマスコミの出待ちもあるし、さっさと行きますか!」

咲「そうだね。どうしよ、絶対なんか言われるよ……」

優希「いつもの営業スマイルでいけばいいじぇ」


咲「苦しい試合でしたけど、皆さんの応援のおかげで頑張れました! ありがとうございます!」キラキラ

優希「うわぁ……」

咲「…………」キラキラ

優希「わぁ……」


咲「自分で言っておいて!」キラキラ

優希「ご、ごめんなさい」

今年はここまで
よいお年を

こんばんわ

お気に入りのマグカップ割れるとへこむよ
マジでろくでもない

投下します。短いです

インターハイ女子団体戦 決勝
副将戦 後半
東一局
親:亦野誠子(白糸台)


誠子「ポン」カシャッ

透華(3副露……ですか)


透華(おそらくテンパイもしているはず。普通であれば、警戒レベルを上げてオリも考慮しますが)

透華(抱える牌が少なければ、そのぶん事故る確率も高いのですわ!)

透華(さぁ、お出しなさい!)

誠子「…………」

チャッ


誠子「ツモ。1300オール」バシッ

透華(くっ……)

誠子「1本場」


誠子(準決勝のような、あの異様な雰囲気は……まだ出てこないか)

誠子(アレ、やりにくいんだよなぁ)



咲「亦野先輩、私と違って調子いいみたい」

淡「先に自分で言っといてガードするの無しだよサキー?」

尭深「不安なのが、準決勝でみせた……」

咲「冷えたりゅーもんさん。まだ出てきませんね」

淡「ま、今のところ圏内だし、すこしくらい失点しても私がなんとかするけど」

咲「決勝だよ?」

淡「決勝だからだよ」


淡「昨日の準決は2位確でキメちゃって、全然いいとこ見せらんなかったし」

尭深「淡ちゃんにしては、めずらしかったよね」

咲「天敵がいましたから」

淡「べ、べつにそんなんじゃないし、お腹へってたから早く終わらせたかっただけだし!」


淡「今日も最初からクライマックスで。トバせるならトバす」

淡「邪魔する奴もいないしね」

咲「強気だ」

淡「挑戦者の気持ちで挑みたいと思います」

尭深「謙虚だ」



恒子『連続ツモー! またまた白糸台の亦野選手! 次々と当たり牌を釣り上げていきます!』

健夜『さすが鳴いてから速いですね。ただ、打点が低さが目立ちますけど』


純「透華のやつ、めっちゃイライラしてんな」

一「うん、思いどおりに運べないみたい……」

智紀「デジタルと相性、最悪」

純「白糸台?」

智紀「そう」

純「3副露したら5巡以内に当たり牌を引くんだっけ?」

智紀「たとえどんなに確率が低くても、純カラでない限りは」

一「竹井さんみたいだね」

智紀「あれも相性が悪い」


純「だが、発動させるには鳴かなきゃいけない」

一「それである程度、欲しい牌は見当つくけど」

智紀「止められるかどうかは別」

純「3副露する前に、オリさせればいいんだろ?」

一「この人、オリる時の放銃率が高かったよね」

智紀「あとは」


純「そもそも鳴かせない、とかか」

一「うん……」


智紀「やっぱりイヤ?」

一「まあね」

純「つっても、こうなったら止めらねえぞ? 白糸台も、透華が冷えるのも」

一「わかってる。これはボクのワガママだから」

智紀「大丈夫。まだそうなると決まったわけじゃない」

純「透華だって、自分のスタイルで打って勝ちたいって思ってるからな」


恒子『3連続ツモーッ!』

ワアアァァァァ


一「透華……!」

後半 東一局 2本場
親:亦野誠子(白糸台)


透華(ダマで6飜、裏ドラ期待で倍満ですが待ちは良くない。でも……)

透華(決勝が始まってから、未だいいとこ無し)

透華(ここで攻めないのは私じゃありませんわ……!)

透華「リーチ!」チャッ


湧「ロンです!」

透華「なぁッ!?」


恒子『親の連荘をストップをかけたのは、永水の十曾選手』

恒子『龍門渕選手は、やや無謀なリーチだったか?』


透華「ぐぬぬ……」

透華「…………」

ピシッ

誠子(っ……!? このカンジ……)



一「あ……」

純「スイッチ入っちゃった」

一「あぁ……」

智紀(控室も冷えてきた)

後半 東二局
親:十曾湧(永水)


湧(これが、巴さんが言ってたやつ)

誠子(きたか……)

湧(場の空気が変わった。まるで、神様を降ろした時みたいな)

湧(圧倒的な支配……!)


透華「…………」

ヒュオオォォォォ

誠子(前半では、アドバンテージ持ってたから稼げたけど)

誠子(龍門渕がこうなると厄介だ)

誠子(せめて鳴けたら……)


タン

透華「リーチですわ!」ドォッ

誠子「!?」



一「透華……?」

純「へぇ、アイツ」

智紀「自分を保ててる」


恒子『龍門渕選手またもやリーチ! 果敢に攻めていきます!』

誠子『ポン!』カシャッ

恒子『ここは一発消しが入りました』

健夜『上手くカットできましたね』

誠子(これは、あの時とは違う……のかな?)

透華「ふふん」ドヤァ

誠子(龍門渕もなんか自信ありげというか、冷たい感じがしない)

誠子(まだ何かあるのか? でも、動けるんだったら……)


誠子「ポン!」

誠子(自分のスタイルを曲げる理由は無い!)

透華(よろしくてよ……)

湧(あれ? さっきまでの緊張感が……雲散した? )


恒子『亦野選手2副露! まだまだ攻める手を休めません!』


透華(好きなだけ、せいぜいお鳴きなさいな)

誠子「ポン!」

カシャッ

誠子(追いついた!)

湧(うわっ……速い。注意が龍門渕に向いてる隙にもう3副露)


透華(相手の準備を出来あがらせて)

チャッ

透華(なおかつ和了る!)カッ


透華「ツモ!」

透華「3000・6000!」

ワアアァァァァ

誠子「くっ……」


恒子『二度目の正直! 跳満ツモで取り返した―!』

恒子『前半ではあまり動きのなかった龍門渕選手、後半では積極的な姿勢を見せています』

恒子『そして迎えた親番です!』


透華「ふふふ」

透華(私……サイッコーに目立ってますわ!)

透華「さァ、私の親番を開始しますわよ!」




ハギヨシ「衣様、そろそろ時間でございます」

衣「……ん」

ハギヨシ「どうかされましたか?」

衣「刹那に感じた波動……今はもう感じないが、トーカではないのか?」


衣「試合の状況はどうなっている」

ハギヨシ「現在トップは白糸台、次いで臨海女子、龍門渕、永水」

ハギヨシ「東三局、透華様の親番です」

衣「ふーん……」ヒョイ


衣「トーカ、楽しそうだ」

ガチャ

透華「ただいま戻りましたわ!」

一「透華!」

ギュウ

透華「あらあら」

純「お疲れさん」

智紀「おかえり」


透華「申し訳ありません。あまり稼げませんでしたわ」

一「ううん、そんなことない」

純「透華らしいプレイングでよかったんじゃね?」

智紀「アレはちょっと驚いた」

純「そのまま冷たい透華になるのかと思ったわ」

一「ボク、すっごい心配したよ」

透華「私達5人で一緒にって、言ったでしょう?」


透華「勝ち負けより自分らしさを優先いたしましたの!」

一「さすが透華だね!」

透華「そうでもありますわ!」


純「しっかし、差ぁ開いたな」

透華「うっ……あ、あとは衣に託しますわ」

決勝戦専用特別対局室


小蒔「みんなと一緒は最後のインターハイ」

小蒔「全力以上で当たらせてもらいます」

衣「強き者と麻雀を打つ。衣のこの願いは既に果たされている」

衣「あとは、土産を貰っていくだけだ」

淡「ま、誰にでも負けらんない理由ってあるよね」


淡「そもそも負ける気なんてさらさら無いし」

淡「ココまできたら勝つしかないんだ」

ネリー「まーね」


ネリー「相手がどんな覚悟で参加してるとか関係ないもん」

ネリー「なんにしろ潰すし」

衣「然もありなん」


衣「舌戦はここまで。あとは……」

淡「麻雀で決着付けようか」



恒子「インターハイ女子団体戦決勝、大将戦が開始されます」

恒子「泣いても笑っても、残された局数は半荘2回」

恒子「まもなく決着です!」

恒子『王座奪還を狙う白糸台!』

恒子『前大会覇者、臨海女子は防衛できるのか!?』

恒子『永水女子、龍門渕高校も諦めていません。誰もが優勝を狙っています!』


霞「さて、ついに小蒔ちゃんの出番ね」

巴「ローテの調整もバッチリです」

初美「ちょーっと点差がありますけど、姫様なら大丈夫ですよー!」

明星「申し訳ないです……」

湧「右に同じく……」

春「…………」ポリポリ


ゴゴゴォ


湧「おっと」

巴「寝ましたね」

霞「寝たわね」

初音「ではでは、見守るとしましょうか」

今日はここまで

次で団体戦終わらせたいです

こんばんわ
立-Ritz-単行本化とか考慮しとらんよ

シノハユは中学編に入りましたが
咲日和ではまだ小学生のシノハユメンバーが見れるっぽいので安心です

投下します

インターハイ女子団体戦 決勝
大将戦 後半 南一局
親:大星淡(白糸台)


小蒔「ツモ。6000・12000」

淡「むっ……」


恒子『3倍満ーッ! 永水女子が3位に浮上! そして……』

恒子『この和了で、トップが白糸台から臨海女子に入れ変わりました!』

恒子『2位以下との差が詰まりました! 気が抜けない優勝争いは、ますます加熱!』

恒子『デッドヒートの様相を呈しています!』


ネリー(できれば、ネリーの和了でトップになりたかったなぁ)

ネリー(その方がエンタメ性高いし)


恒子『そして迎えた親番! 臨海女子大将、ネリー・ヴィルサラーゼ!』

恒子『ここで一気に突き放すチャンス!』



大将戦 後半 南二局
親:ネリー・ヴィルサラーゼ(臨海)


ネリー「サイコロ回すよー」ポチ

衣「楽しいな」

ネリー「ん?」

衣「こんなに強い者と麻雀が打てて、衣はとっても楽しい!」


淡「そう。いい思い出できた?」

衣「うむ! だが、それも終焉を迎える。衣が終わらせる」

ネリー「なに、今からトップ獲るつもりでいるの?」

衣「月が……」

淡「ん? 満月の日は能力が強くなる、だっけ」

衣「ああ、潮の満ち引きの如し。昼より夜、月が昇ればますますだ」

小蒔「…………」

衣「衣の真骨頂が見られるんだぞ。何時まで寝ている?」


衣「起きろ」ゴォッ


小蒔「ハッ……!? あ、えっ?」ビクッ

淡(永水の雰囲気が……!?)


小蒔(アレ? まだ試合終わってない……)

ネリー(やってくれたな)

淡「ホラ、早く配牌とってよ」

小蒔「は、はい。ごめんなさい」チャッ

淡(ふーん。シラフでいるのなら敵じゃないね)


小蒔(ローテーションは精密に組まれたはず。それが解かれたという事は、外部からの影響)

小蒔(それほどの脅威。震源地は……)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

衣「ふふん」

小蒔(龍門渕……天江衣さん)

淡(一向聴地獄のせいで、私の絶対安全圏の意味が薄れちゃって損だよね)

ネリー(拮抗していた支配に穴ができた)

ネリー(パワーバランスが崩れる。勢いを押さえられない……!)

ドッ

衣「ロン! 8000!」

小蒔「は、はい」

淡(当然、そこを狙い撃つか)

ネリー(ネリーの親が……)


恒子『永水女子、神代選手が放銃! 一歩後退してしまった!』

恒子『そして後半南三局、最後の親番!』

恒子『最下位の龍門渕はもちろん、永水女子も攻める以外の選択肢はありません』

恒子『邁進あるのみ!』



大将戦 後半 南三局
親:神代小蒔(永水)


小蒔(このままじゃ逆転できなく、手遅れになっちゃう。どうしよう、いえ……)

小蒔(やるしかない。もう一度……!)スヤァ

オ オ オ オ オ オ

ネリー(またか。でも)


淡(さっきほどの威圧感は無いかな)

衣(まだ抵抗できるのか。ならば……)


衣(さらに足掻いて、もっと衣を楽しませろ!)ゴッ

湧「姫様、また眠っちゃいましたよ?」

初美「それよりも先程の目覚め、不自然でしたね」

巴「祓われた様な感じがしました」

明星「意図的に起こされた、という事ですか?」

霞「小蒔ちゃん……」



淡(……配牌一向聴)

淡(向こうの支配のが上回ってるってわけ)

淡(リーチできないわけじゃないだろうけど、和了れるかな)

小蒔「…………」

淡(永水は親だし、火力よりも安く速く和了れる手を組んでるはず)

ネリー「ポン」カシャッ

淡(臨海も速い。私はどうする?)


衣「リーチ!」

ネリー(ラスト1巡リーチ……)

淡(来る……!)


衣「ツモ、海底撈月」バシィッ


恒子『決まったーッ! 伝家の宝刀、炸裂!』

恒子『他の選手達は、ただただ見守るばかりです!』

健夜『鳴いてズラしてもまた鳴かれて、コースを修正されるのが怖いですね』


恒子『いよいよ、インターハイ団体戦も最終局面!』

恒子『果たして栄冠は誰の手に!? 運命のオーラス、開始です!』

大将戦 後半 南四局 オーラス
親:天江衣(龍門渕)


衣「海底撈月……!」ドッ


恒子『3連続和了ー! 龍門渕高校、最下位を脱出だーっ!』

恒子『まさに飛ぶ鳥落とす勢いです!』


純「よっし!」

一「やったね衣!」

透華「こうなったらもう、誰もあの子を止められませんわ!」

智紀「油断は禁物」


恒子『勢いを保ちたい天江選手ですが、誰が和了ってもノーテンでもそこで終了です』

恒子『ギリギリの綱渡り状態』

恒子『この細い道を無事に渡りきれるのか?』


ネリー(また和了は海底ツモ。得意技強いな)

淡(うー、リー棒もってかれるとこだった……って)

淡(なにナチュラルに弱気になってんの、私)

衣「1本場!」


恒子『臨海女子は2連覇達成をかけて闘います。白糸台は昨年の無念を晴らすために』

恒子『永水女子もまだまだ諦めていません』

恒子『高い打点の逆転手を狙っています!』

巴「よりによって、高火力重視の神様ですか」

春「ただでさえ手が遅くなるのに、白糸台の子の影響も……」

初美「でも、ハンパな火力じゃ逆転できませんよー」

霞「むしろこの神様が降りてきてくれて、ラッキーだと思いましょう」

明星「うぅ……早くしないと、トップとの差が開くばかりです」



淡(また配牌が……でも)

淡(リーチできないと和了れない? カンして裏ドラ乗らないと逆転できない?)

淡(他のやつに邪魔されるならまだしも、自分を自分に縛られてたまるか!)

ゴォッ

衣(ふむ、良い気概だ)

ネリー(来るか?)


淡「…………」

タン

衣(む……一瞬、煌いたようだが所詮、星屑程度の輝きにすぎなかったか)

ネリー(肩すかしだよ。じゃあ)

ネリー(ネリーが行かせてもらうよ)

ネリー「ポン」


恒子『ヴィルサラーゼ選手、ドラの五萬をポン』

恒子『そして次巡ツモは、またも五萬しかも赤。ドラが集まります!』


ネリー「カン」カシャッ

恒子『加槓! さぁ、カンドラは……な、なんと!?』


衣「おおー」

淡(ふんっ)

小蒔「…………」


恒子『カンドラはまたもや五萬!』

健夜『ドラが重なりましたね。結果的には良い判断でした』

恒子『これでヴィルサラーゼ選手はドラ9! 倍満確定!』

恒子『トップの臨海は、安手でも和了れば優勝です』

恒子『引導を渡すには十分すぎるぞー!』


淡(カンドラ……私への当てつけってわけ?)

淡(私の場合はカン裏だけど)

衣「ポン!」


恒子『鳴き返す!』

健夜『コースイン、ですね』


衣(見せつけてくれるなぁ臨海!)

ネリー(差し込みや安手で終わらせる方法もあるけど)

淡(ドラなんて関係ないとこに、私は居る)

ネリー(そんなシナリオじゃあ面白味ないでしょ)

衣(だが、燦然と輝く月にまで辿り着けるかな?)


小蒔「…………」

チャッ

小蒔「リーチ」ドッ

衣(ほう!)


恒子『神代選手リーチ!』

恒子『ツモで逆転できる手です!』

健夜『はたして間に合うんでしょうか』


衣(こちらも高い)

ネリー(思ってたより早く仕上がってたね)



(配牌やツモで、ヤオチュー牌の対子がいくつかあったから、上手く偽装できた)

淡(それにしても、ホントに集まりやすいんだ)

淡(逆か。集まりにくいのか……普通に打ってたらね)

淡(少し前の私だったら、意固地になって張り合うんだろうな)


淡(あれから少しは成長したんだ)

ネリー(……コレじゃない)チャッ

タン

淡(上手くいかない事もあって、負けも味わって)

衣(さぁ、ラスト1巡!)チャッ

タン

淡(泣いたり泣かせたりもして)

小蒔「…………」チャッ


健夜『あっ!』

恒子『一発ならず! そしてコレは……!』


タン

淡「ロン!」


淡(それでまた……淡ちゃんはレベルアップ!)

シュウゥゥゥ

小蒔「……はい」

淡「う、うぅ……」


小蒔(今度こそ決着、ですか)

ネリー「なん……だと……?」

衣「おおぅ!?」

淡「ううぅぅ……よっしゃああああ!!」


第72回全国高校麻雀選手権大会
女子団体戦 結果

優勝:白糸台高校
2位:臨海女子高校
3位:龍門渕高校
4位:永水女子高校


小蒔「ふぅ……優勝、おめでとうございます。ありがとうございました」

ネリー「ありがとうございました」

衣「ありがとうございました」

淡「ありがとうございます。お疲れ様サマでしたー」


ネリー「あーあ、次のツモで和了ってネリーの勝ちだったのに」

衣「右に同じく。しかし、そんな手を張っていたとは……」

衣「お前の手牌、星の瞬き程にしか思えなかったぞ」

淡「ん?」


淡「小さく見える星でもさ、近くに行ったら結構大きかったりするじゃん?」

衣「…………」


衣「それもそうだ」

淡「うん」

衣「でも、もっと打ってたかったなー」

小蒔「楽しい時間というのは短く感じてしまうものです」

淡「いやいや、何連荘する気だっつーの」

衣「行けるとこまで! オーラスで衣がトップになっても和了止めする気なんて無かったし」

淡「やばいねソレ」

小蒔「気持ちはわかります」

ネリー「わかるのコレ」


小蒔「この時間がずっと続けばよかったという想いが、大切な思い出になるんです」

小蒔「惜しい気持ちはありますけど、それがより一層引き立ててくれるんです」

ネリー「ふーん。ワビサビってやつ?」

小蒔「そうですね」


ネリー「それよりも、これでスポンサーにアピールできたのかネリー心配だよ」

ネリー「個人戦は出れないしさ……はぁ」

小蒔「留学生の方は出場できないのでしたね」

衣「衣も出ないがな」

淡「ああ、マスコミとか嫌いらしいね」

衣「言っておくが、衣が居ないからって長野の代表は決して弱くは無いぞ」

小蒔「鹿児島代表は全員手強いです!」

淡「へぇー、期待しておくよ」


小蒔「では、そろそろ戻りましょうか。みなさん待っていると思いますよ」

衣「おー!」

淡「おー!」

ネリー「お、おー?」



控室 永水女子高校


小蒔「ただいま戻りました」

霞「おかえりなさい、小蒔ちゃん」

巴「お疲れさまでした」

初美「お疲れ様ですよー」

春「……おつかれさま」


小蒔「申し訳ありません。不甲斐ない結果で終わってしまいました」

湧「そんな、私もあまり点数を残せないまま姫様にお任せしてしまって……」

明星「私達がもっと頑張っていたら……」

小蒔「いいえ。どの学校も、本当に強い人ばかりが揃っていました」


小蒔「むしろ決勝戦まで連れて行ってくれて、ありがとうございます」

湧「うう……姫様ぁぁ」

明星「こちらこそ、ありがとうございます!」


霞「ところで小蒔ちゃん、二度寝したけど大丈夫?」

小蒔「はい。特に、体調に問題はないと思いますけど」

春「明日から個人戦」

巴「念のため、今日のところは早くお休みになられた方がいいでしょう」

小蒔「わかりました」



控室 臨海女子高校


ネリー「ただいま」

アレクサンドラ「おう、お疲れさん」

明華「おつかれさま」

ハオ「お疲れ様です」


優希「お帰りだじぇ。ラスト、ギリギリだったな」

ネリー「最後の最後にやられちゃったよ」

ハオ「それまではペース作ってて良かったですよ?」

ネリー「いい感じにリードできてたんだけどねー」


明華「でも、まさかあんな隠し玉があったなんて……」

アレクサンドラ「特殊な状況だったから個人戦では出ないだろうけど」

明華「そうなんですか?」

アレクサンドラ「ああ、どうもアマエ以外の手には国士が入りやすくなるらしい」

ハオ「オーラスまで、そのような兆候は見られませんでしたが」

ネリー「エイスイが起きたから、場の流れがおかしくなったんだよ」

ネリー「それまでリュウモンブチの支配を押さえつけてたのが急になくなって」

ハオ「でも、アナタなら上手く対応できたんじゃないんですか?」

ネリー「まあね」


アレクサンドラ「どうせ、逆転勝ちした方がおいしいとか考えて点差抑えてたんだろ」

明華「また悪いクセですか」

ネリー「うっ……」


優希「おまえはスポンサーを意識しすぎだじぇ!」

ネリー「だ、だって」

優希「それで負けちゃったら元も子もないだろ!」

ネリー「ゴメン」

優希「でもまぁ、安心しろ。個人戦でカタキはとってやるじぇ」キリッ

ネリー「ユーキ……」


ネリー「別にユーキが勝ってもネリーの評価が上がるわけじゃ……」

優希「全然反省してないな!」


明華「世界ランクに関わってない大会だからよかったものの」

ハオ「足元をおろそかにしていい理由にはなりませんよ」

アレクサンドラ「こっちはこの大会が本業なんだけどねぇ……」

控室 龍門渕高校


衣「いま戻ったぞー!」

透華「お帰りなさい」

一「おかえり、衣」

智紀「お帰りなさい」

純「お帰り。惜しかったな」

衣「うん。でも、衣はすっごく満足してる!」

純「そっか」

一「モニターで見ててもわかったよ」

透華「楽しめたのならば、なによりですわ」


智紀「私達の夏も、これで終わり」

一「だね」

衣「長かったような短かったような……走馬灯のように巡り巡る」

純「つい十数分前のことだけど」

透華「今は、余韻に浸るのも悪くないのでは?」


純「それは戻ってからにしようぜ。オレもう腹減っちまった」

智紀「賛成」

一「打ち上げだね」

透華「そうと決まればパーッとやりますわよ!」

衣「ハミレス行きたい!」

純「いいのか? ファミレスで」

衣「ハンバーグエビフライが食べたいの!」

純「はいはい。タルタルたっぷり盛ってやんよ」


智紀「完成……これで全員分」カタカタ

透華「あら、決勝戦の牌譜を作ってくれてましたの?」

智紀「今日の試合、いろいろと課題ができた」

透華「そうですわね。改善点もまだまだありそうですわ」


透華「では、打ち上げは反省会も兼ねることにしましょう」

純「メシ食ったあとでならいいけど」

透華「食事中に持ち込むなんてヤボな真似はいたしません」


衣「はやく行こうよー」

一「ボクもすっかりお腹ペコペコだよ」

透華「ふふっ。そんなに急がなくとも、エビフライは逃げたりしませんわよ」



控室 白糸台高校


ガチャ

照「みんな! 優勝おめで……」

シーン

照「…………」


照「いない……」

決勝戦専用特別対局室


誠子「ホラ、そろそろ泣きやみなよ」

尭深「うん……うん、ヒック……」


咲「インタビューの方は、もうないかな?」

淡「今日の分はおしまい! 写真撮影はもうすこし後になるっぽいね」

咲「渋谷先輩待ちだ」


淡「尭深があんなボロボロ泣くなんて、ちょっとビックリかも」

咲「いつもは物静かだからギャップあるよね」

淡「ギャップ萌え?」

咲「正直かわいいと思うよ。あ、ギャップと言えば亦野先輩もリアクションすごかったよ」

淡「へぇー」


咲「淡ちゃんが和了ったり他の人が和了った時とか『うわあああ!』って叫んだり」

淡「アハハ、実質毎局じゃんか」

咲「まあ、そうなんだけどね」

照「それは見てみたかったなー」


咲「うわ、お、お姉ちゃん!?」

淡「テルー!?」

照「まだ控え室に戻ってないと思ったら」

誠子「宮永先輩!?」

尭深「ぐしゅ……?」

照「みんなを祝福しに来た」


照「誠子、よく部員をまとめてくれたね。誠子が部長になってくれてよかった」

誠子「みんないい子ですからね。私なんか逆に支えられっぱなしでしたよ」

照「優勝おめでとう」

誠子「はい! ありがとうございます!」

照「尭深も、よく頑張ったね。個人戦も期待してる」

尭深「あい……ありがとござましゅ」


照「咲はもうちょっと自分のやり方に自信を持った方がいい」

咲「はい……」

照「チーム最多獲得点で、優勝に多大な貢献をしたのは評価します」

咲「わぁい」

淡「私は私は?」

照「終始押され気味だったけど、最後よく落ち着いて打ててた」


照「あのメンバー相手に大健闘。はなまるあげる」

淡「えへへへへ。やったー!」

照「それじゃ、行くね」

咲「え、もう?」

照「うん。まだやる事あるから」


照「それじゃみんな、あらためて優勝おめでとう。個人戦もがんばってね」

淡「まっかせて!」

咲「次こそしっかりやるよ」

尭深「頑張ります」

照「バイバイ」


淡「じゃあねー!」

誠子「それにしても……」


誠子「地区代表が全員ウチのメンバーから輩出されたのが、嬉しいやら悲しいやら」

尭深「誠子ちゃんの分も頑張るから……」

今回はここまで

思いのほか時間かかった団体戦
次からは個人戦です
4カ月ぶりにムロが出てくる……かもしれない

こんばんわ

5位決定戦楽しみです
真っ先に頭に思い浮かんだのが、揺杏がんばれ超がんばれって事
あと泉にもがんばってほしいです

投下します

インターハイ7日目
宿泊所


ムロ「ただいまです」

京太郎「おじゃましまーす」

まこ「おう、おかえり」

華菜「会場どう? 混んでた?」

京太郎「そうですね。4校とも強豪で有名なとこが揃ってますから」

まこ「優希には会えたんか?」

ムロ「はい。ちょっとだけ、話もできました」


ムロ「花田先輩の方にも挨拶行ってきたんで、本当に一言二言でしたけど」

まこ「ほうか」

ムロ「ちゃんとタコスも渡してきましたよ」

まこ「こっちでもテレビで見とったが、調子ええみたいじゃのう」

京太郎「朝早く作った甲斐があります」


まこ「じゃが、相手も手強いわ。特に永水なんかは」

京太郎「絶一門……」

ムロ「ああ……会場に居たので直に感じたんですけど、かなり強力ですねアレ」

華菜「へぇ、わかるのか」

ムロ「はい。山全体に効果がある能力には、特に」

ムロ「そういう能力とは相性よくないから苦手なんですよ」

華菜「相性?」

ムロ「私の能力だと、せいぜい自分のツモ牌と相手の当たり牌が分かる程度です」

華菜「いや、十分だし……」

ムロ「観測するのは得意だけど、ツモや配牌には影響を与えられないので」


華菜「そういや、文堂もそんな感じの持ってたなぁ」

星夏「はい? 呼びました?」

華菜「呼んでないけど、いいところに来たし」



星夏「はぁ……相手から支配を受けているかどうか、ですか? わかりますよ」

まこ「ほう、こんなとこにも能力持ちがおったんか」

華菜「これでも風越の次期部長だからな!」

星夏「でも、最近気付いたんですけど、コレあんまり意味無いですよ」

ムロ「え?」


星夏「分かるのは能力が発動したタイミングだけで、それがどんな能力かまでは分からないんです」

ムロ「そうなんですか」

星夏「というか大抵の場合、事前に牌譜を見れば分かりますよね」

まこ「ヤツら打ち筋が特殊じぇけぇのう」

星夏「天江さんにしろ南浦さんにしろ、逆に何してるか分からない人の方が少ないですし」


星夏「ホント、室橋さんが羨ましい……」

ムロ「そ、そんなテンション下がらないでください」

華菜「きっとどこかで威力を発揮できるトコがあるって」

京太郎「マジで強い人ほど支配力持ってる気がする」

ムロ「そういう人達の対処って難しいですよね」

華菜「分かっててもやられちゃうしなぁ」

ムロ「やっぱり、同じ全体効果系で対応するとかしないとダメなのかな」

華菜「やられる前にやる。コレしかないし!」


まこ「ほうじゃのう、アガリそうなったら鳴くか差し込むとかすりゃええ」

星夏「普通はアガリそうなタイミングって分かんないですけどね……」

京太郎「集中してゾーンに入れば?」

ムロ「入れません!」


純「流れを読んだりとかは?」

ムロ「それも読めないですよって、来てたんですね」

一「こんにちわ。何の話してたの?」

まこ「アンタんトコの大将みたいなんを、どうやって倒すかっちゅーハナシじゃ」

衣「それはまた興味深い! それでそれで?」

京太郎「実は、これと言って対策が思い浮かばなくて……」


衣「なーんだ」

華菜「露骨にガッカリしたな……じゃあ正解を教えてくれよ」

衣「うーん、そんなこと言われても」

ムロ「やっぱり弱点は教えられないですよね」


衣「衣に弱点なんて無いから教えたくても教えられないんだ。すまない!」

まこ「ようゆうわ」

華菜「ここまでくると、いっそ気持ちがいいし」

智紀「ピーマン食べれないのは弱点じゃないの?」

衣「うっ……!?」

透華「まったく……いい加減、好き嫌いはおやめなさいな」

衣「そ、その話は今は関係ない!」


京太郎「子供の舌って苦味に敏感なんですよね」

衣「子供じゃない!」

ムロ「大きくなれば食べられるようになりますよ」

衣「年上だぞ!」


一「美味しいのに」

まこ「夏の今が一番美味い季節、旬じゃのう」

ムロ「いいですね。私、ピーマンの揚げびたし好きです」

京太郎「渋いな。オレはやっぱ肉詰めがいいなぁ」

透華「以前、香港で食べたチンジャオロースが美味でしたわね」

純「オレはアレかな、ピザかな」

華菜「それはトッピングだし」


智紀「衣がありえないモノを見るような目をしてる」

衣「し、信じられない……」

京太郎「こんな話してたら、ますます腹減ってきた」

ムロ「そうですね」

まこ「なんじゃ、まだ昼食うとらんかったんか」

ムロ「会場付近のお店は軒並み混んでて、どこも入れずじまいで帰ってきちゃいました」

京太郎「というわけで、リベンジ行ってきます!」

一「はやく済まさないと試合始まっちゃうよ」

ムロ「はい、それじゃ行ってきます」


まこ「気ぃつけよー」




  『というわけで、この後は女子団体戦準決勝、中堅戦が始まります』

  『この中で注目している選手はいらっしゃいますか?』

  『いる!』

  『それを教えてほしいんですけど』

  『か、風……!』

  『臨海女子の雀明華選手ですね。世界ランカーでヴァントゥール、風神の異名を持っています』

  『っ……!』コクコク


まこ「あ。そういや、天江に聞いときたい事あったんじゃが」

衣「なんだ?」

まこ「あんたぁ、海底狙う時とそうでない時で支配力って変わるもんなんか?」

衣「……そうだな」


一「そうなの?」

透華「あら、私も初耳ですわ」

衣「衣も意識したことはないけど、言われてみれば確かにそうかもしれない」

智紀「新発見」

華菜「本人も自覚ないのに、よくわかったな」

まこ「白糸台の大星淡な、アイツがダブリーする時は能力が強うなるらしいわ」

透華「それは有益な情報ですわ!」

衣「確かに、海底を目指した方がやりやすいというか、安定感はある」

純「キャッチボールでも、自分の得意な投げかたの方がコントロールしやすいしな」

一「なんでキャッチボール?」

純「最近投げてないなーって思って」

透華「でも、わかりやすい例えですわね」


まこ「この情報がどんだけ役に立つかはわからんが、戦術の足しにしてくれ」

衣「ふむ。つまり、相手を自分の領域に引き摺り込めばいいんだろう?」

まこ「結局ゴリ押しかい」



京太郎「さてと、なんか食べたいものある?」

ムロ「なんでもいいですよ」

京太郎「一番困るパターンだ」

ムロ「先輩におまかせ。エスコートさせてあげます」


京太郎「さりげなくオレのセンス、器量と甲斐性を量るようなマネを……」

ムロ「ごはんも楽しみたいしー、試合も見たいしー」

京太郎「そうだな。始まるまであんまり時間も無いから」


京太郎「いっそ買って帰るという選択肢もありえる」

ムロ「えないです」

京太郎「えないか」

ムロ「せっかく東京にいるんですから、色んなお店行きたいです」

京太郎「うん」

ムロ「それに、戻ると宿泊所には、ホラ、他の先輩方もいますし……」

京太郎「あー……」

ムロ「はい……」


京太郎「まぁ、ごはん食べる時くらい、別に急がなくてもいいかもな」

ムロ「はい!」




京太郎「……なんて言ってたものの」

ムロ「なかなかいいお店見つかりませんね」

京太郎「決め手に欠けるというか、やっぱ食べたいものとか設定しないと」

ムロ「ズルズルしちゃいますね」

京太郎「しかも駅前から離れていって、ちょっと閑散としてきたぞ」

ムロ「住宅街まで見えてきましたよ。どうしましょう」

京太郎「焦るんじゃない。迷子になったわけじゃあるまいし」


京太郎「オレ達はただ腹が減っているだけなんだ」

ムロ「あっ」

京太郎「どうした?」

ムロ「KEY COFFEE」

京太郎「良い発音、グッドだ。あの、妙に安心感のある青い看板は……」

ムロ「喫茶店ですね」

京太郎「喫茶店だな。カフェじゃない、喫茶店だ」


京太郎「ここでいい?」

ムロ「いいですよ。って、最初から言ってましたよ。先輩におまかせだと」

京太郎「時間かかって申し訳ない。どこも初めての店だし、ハズレ引きたくなさすぎて……」

ムロ「引いたら引いたで、その時はその時です」


ムロ「愚痴を肴に飲むのも、いいものですよ?」

京太郎「アハハ。でも、二人でならそれもいいかもな」

ムロ「ええ、何事も楽しもうという気持ちが大事なんです」

京太郎「そうだな。よし、これで何が出ても怖くない。入るぞ!」


ガチャ カランコローン

  『……さぁ、まもなく中堅戦スタートです』

京太郎「おっ?」

ムロ「この音は……」

  『ここまでの順位は、臨海女子の独走状態。次いで千里山、新道寺……』

京太郎「テレビ置いてあるんだ。しかもインハイやってるチャンネル」

ムロ「二兎を得ましたね」

店員「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

京太郎「ふう。歩きまわった甲斐はあったかな」

ムロ「急がば回れってやつですね」


京太郎「結果オーライ。なんだ、いざ入ってみれば結構いい雰囲気じゃん」

ムロ「やーい、先輩のビビリー」

京太郎「ムロのイビリー」

ムロ「どんな返しですか」


京太郎「オレはとりあえずアイスコーヒー頼むとして……」

ムロ「待って待って。私にもメニュー見せてください」

京太郎「ほれ。オレもまだドリンクしか決めてない」

ムロ「見にく……お嬢様見せしてください」

京太郎「お嬢様切りみたいに言うな。オレも見たいし……となり座る?」


ムロ「と、となり……だとう……?」

京太郎「ん? その方が見やすいだろ?」

ムロ「いや全くその通りです」


ムロ「では、失礼して……」

京太郎「はい、いらっしゃい」

ムロ「ふーむ。カレーのセットでドリンクは……ミルクティーにしようかな」

京太郎「決まった? じゃあ注文するぞ」

ムロ「お願いします」


京太郎「すみませーん」

店員「はーい。ご注文、お伺いします」

ムロ「あ、はじまった」

  『親は永水女子2年、滝見春。手堅い打ち方を得意とする選手です』


京太郎「永水は今年もこの人か、安い手ですぐ流すから稼ぎにくいんだよ。部長もそれで苦労してた」

ムロ「部長呼びに戻ってますよ」

京太郎「おお、つい。竹井先輩な」

ムロ「気持ち、戻っちゃいました?」

京太郎「そうかも。ずっと観戦してる立場だったからなぁ」


京太郎「あそこで試合してた自分はもしかして、別人みたいに思えるんだ」


京太郎「実感が追いついてこない……夢みたいな感じで、今も」

ムロ「夢見ごこちですか?」

京太郎「っていうか実際、試合中は半分寝てたようなもんだよ」

ムロ「後半、ちょっと様子おかしかったですもんね……」

京太郎「後で映像見たけど、全然身に覚えのない自分が映ってて……怖いぞアレは」


京太郎「酒に酔って記憶失くす人の気持ちがわかったよ」

ムロ「わかっちゃったよ」

京太郎「あーあ、もったいない。気が付いたら、せっかくの晴れ舞台がもうフィナーレなんだぜ?」

ムロ「ホントですね。でも、無茶しなかったら決勝行けなかったかもしれませんし」

京太郎「ままならないなぁ」

ムロ「かなり無理してましたよね」

京太郎「我が事ながら、満身創痍というか、よくあんなボロボロの状態で打ってたよ」

ムロ「でも、最後の方は本当に楽しそうに打っていました……けどッ!」

京太郎「うぉっ!?」ビクン


ムロ「見てる方は、気が気じゃなかったんですからね!」

京太郎「はい……ゴメンナサイ……」

ムロ「まったくですよ!」

京太郎「その節はご心配をおかけしまして……」

ムロ「私がどれだけハラハラドキドキワクワクしたのか、本当にわかって……」


店員「おまたせいたしましたー。こちらカレーセットになります」

ムロ「あ、はーい!」

京太郎「……ナイスタイミング」


ムロ「セットだと、サラダにスープ付いてけっこうボリュームある」

京太郎「大丈夫か?」

ムロ「大丈夫ですよ、ペコペコですから」

京太郎「それじゃ、いただきますか」

ムロ「はい。ん? コーヒーとチーズケーキ、だけ? 先輩、これだけですか?」

京太郎「朝、ちょっと食べ過ぎてな」

ムロ「そんな時間あったっけ」

京太郎「まぁ、朝食というか味見と言うか」


ムロ「タコス?」

京太郎「正解。久しぶりで感覚を思い出しながら作ってたんだけど、これがなかなか」

京太郎「ブランクあったとはいえ、全盛期の味を出すのが難しくて」

京太郎「そういうわけだから、遠慮せずにおあがりなさい」

ムロ「もとより遠慮する気なんてありませんけどね。いただきまーす」


  『またまた臨海女子、雀明華選手が和了!』

  『さすが!』

ワアアァァァァ


京太郎「さすがは世界レヴェル」

ムロ「やっぱり、桁違いですよね。あの人達が個人戦で出ないのはありがたいです」

京太郎「まさに世界が違うというか、そんな人達と打って骨身に染みたよな」


ムロ「正直、あの日の事は、あまり思い出したくないです……」

京太郎「ボッコボコだったもんな……でも、いい経験になったろ?」

ムロ「それは否定しません」

京太郎「ムロは打たれ強くないけどその分、立ち直る時にもっと強くなってる」

ムロ「な、なんですか」

京太郎「立ち止まる事があっても、最後は必ず前に進もうとする人間だ」

ムロ「なんですかー!?」


京太郎「それがムロの良いトコ、長所、ストロングポイントだ」

ムロ「ど、どうもです。って、急になんなんですか……」

京太郎「オレの試合はもう終わったし、これからはムロに注力しようかと思って」

ムロ「思って?」

京太郎「褒めて伸ばす方針にしようかと。その方がオレも楽しいし」

ムロ「……ちょっとからかい入ってません?」


京太郎「ムロは良い子だなー、こんな良い子めったに居ないぜ」

ムロ「ソレですソレ! もうっ!」

京太郎「どうした、赤くなってきてんぞ?」

ムロ「むぅ……」


ムロ「あー、辛。辛いなぁ、このカレーめっちゃ辛いわー」ガツガツ

京太郎「ハッハッハ、照れんな照れんな」

ムロ「もぐもぐ」モグモグ

京太郎「がっつくのはいいけど、よく噛んで食べるんだぞ」

ムロ「お母さんみたいなことを……」

京太郎「おっ、チーズケーキ美味しい。自家製かな?」

ムロ「…………」


ムロ「コレあげます、先輩」

京太郎「……ピーマンじゃん、サラダの。なんで?」

ムロ「宿泊所でピーマンの話してたから、食べたいかなぁって思って」

京太郎「じゃあ、いただきます」

ムロ「はい、あーん」スッ

京太郎「は?」


ムロ「ですから、あーん」ススッ

京太郎「ですからの意味がわからんが……マジで?」

ムロ「マジです。腕疲れるんで、ホラはやく」

京太郎「あ、ああ」

ムロ「照れんな照れんな、はい」


京太郎「くっ……やるしかないか。あ、あーん……あむっ」

ムロ「はーい、よくできました」

京太郎「ハズイ……」

ムロ「ふっふっふ。道連れです」


京太郎「こうゆうのって、もっと甘ったるいもんだと思ってたけど、さすがに苦いな」モグモグ

ムロ「ピーマンだし。それより……食べましたね?」

京太郎「むぐっ?」

ムロ「それじゃ、チーズケーキもらっていきますねー」

京太郎「なにごとだ」


ムロ「一口は一口、やられたらやり返す、ギブアンドテイクってやつです」

京太郎「割に合わねぇよ、等価交換って知ってるか?」

ムロ「知りません。錬金術師じゃあるまいし」

京太郎「わかってんじゃん」


ビイイィィィィッ

  『中堅戦終了ー! トップの臨海女子が2位以下に差をつける結果となりました』

  『すごい!』


京太郎「中堅戦終わったか。まぁだいぶ予想通りの試合展開だったな」

京太郎「そろそろオレ達も戻るか?」

ムロ「あ、まだすこし残ってます」

京太郎「無理するなよ?」

京太郎「量多かったもんな。手伝う?」

ムロ「じゃあ、お言葉に甘えて。すみません」

京太郎「いいっていいって、ケーキ食べたら逆に食欲でてきちゃってさ」

ムロ「糖分ですか」


京太郎「ケーキがいい腹ごしらえになったぜ。今なら何杯でもいける気がする」

ムロ「別に大食いにチャレンジするわけじゃないんですけどもね。お願いします」

京太郎「まかせとけ。えっと、スプーンは……」

ムロ「…………」

スッ

ムロ「あ、あーん……」

京太郎「えっ……」

ムロ「…………」

京太郎「…………」


京太郎「あーん……」



宿泊所 夕方


ムロ「ただいま戻りました」

京太郎「おじゃましまーす」

まこ「おかえりんさい」

ムロ「臨海、無事決勝進出でホッとしました。新道寺は残念でしたけど」

京太郎「あれでも、まだ全力じゃないって怖いですね」

まこ「ほんにのう」

衣「なーに、丁度いいくらいだ」


透華「明日は私達の番ですわ。抜かりのないよう」

智紀「白糸台と阿知賀。どちらも手強い」

透華「阿知賀……はぁ、原村が居ないのが残念でなりません」

一「まだ言ってる……」

純「オレの相手には宮永か、相手にとって不足は無い」

透華「私はいつも通り、相手がどなたであろうと一番に目立ってみせますわ!」

一「透華はブレないなぁ」


智紀「それでもリサーチは重要」

透華「わかってますわよ。さぁ、対瀬相手のデータをお見せなさいな」

純「先鋒はわかりやすい奴らが揃ってるし、実際に場の流れを感じないとわかんねー事が多いし」

純「オレはパスだ。おーい、誰かやろうぜ!」

ムロ「お相手します」


華菜「室橋が入るならしょうがない。文堂いってこい」

星夏「えっ、私ですか?」


華菜「私は個人代表だから入れないし。存分に揉まれてこい」

星夏「わ、わかりました」

京太郎「よし、オレも入ります」

ムロ「ツモ。1000・2000です」

京太郎「はいよ」

ムロ「ん……?」

純「どうした?」

ムロ「今の、一発ツモでした。リーチしとけばよかったー」

まこ「わからんかったんか?」

ムロ「ちょっと視てませんでした」


純「オレはなんもしてないぞ?」

星夏「私も、何も感じませんでしたけど」

京太郎「気ぃ抜いてたのか? ダメだぞ」

ムロ「そうですね、すみません……ふぅ、集中集中!」



ムロ「……まただ」

京太郎「視えなかった?」

ムロ「はい。おかしいな……」

星夏「調子悪いんですか?」

ムロ「いや、そんなつもりないんですけど……」

まこ「ふむ……一応、熊倉先生呼んでくるわ」


京太郎「お願いします」

ムロ「あれ……あれれ……?」

トシ「ムロが不調と聞いたけど、どんな感じなんだい?」

ムロ「一巡先のツモが視えなくなっちゃったんです」


トシ「ムロの能力は、現在のツモ筋で作れる和了形と危険牌の察知、それと次巡ツモの予測」

ムロ「はい。特訓して一巡先がわかるようになったのに、これじゃ……」

京太郎「一発ツモができないってなると、かなり火力下がっちゃうな」

まこ「そりゃこまったのう」

トシ「何か、原因があるのかしら……?」

ムロ「も、もうすこし打ってみましょう! もしかしたら治ってるかも」



30分後


ムロ「み、視えない……」ガクリ

京太郎「こ、これはちょっと……」

トシ「まずいね」

今日はここまで

今回は少し時間戻って決勝戦の2日前の話となっております
って最初に書いておくの忘れてました

久しぶりすぎて話の流れを全部忘れた

こんばんわ

シノハユ最新話の悠彗ちゃんに衝撃を受けて震える
>>777
今度からあらすじとかつけてみましょうか

~前回のあらすじ~
男子個人戦で準優勝した夜、京太郎はムロに告白
二人は結ばれて、イチャイチャしてたと思ったらムロのオカルト無くなってた

大体こんな感じですかね。投下します

インターハイ 8日目


トシ「宮永照の言うには、ムロの現在の能力は本来のモノではない、のよね?」

京太郎「はい。なにか、外部的影響を受けていると」

まこ「そのなにかが今後無くなるとか、変化するとも言っとりました」

トシ「ふむ……やっぱり心理的なものかしらね」

まこ「わしが聞いたところによると、これはムロが言っとったらしいんじゃが」


まこ「あの能力が表れたキッカケは、どうやら和が原因みたいじゃのう」

京太郎「和が?」

まこ「ほれ、卒業するまでビシバシ鍛えられとったじゃろ」

京太郎「ビシバシ、なんて生ぬるい……あれはもっと、バキボキとかボコスカっていうレベルです」

まこ「その反動かなんかしらんが、居なくなってから寂しかったようでの」

京太郎「言われてみれば、そのくらいの時期でしたね。ムロが能力を手に入れたのって」

まこ「じゃけぇ、その影響で今の能力になったみたいじゃ」


まこ「もっと教えてほしい、先を示してほしいと」

トシ「なるほどね。納得だわ」

京太郎「能力の成り立ちはわかりましたけど」


京太郎「ここにきて、それが無くなってしまったのって?」

トシ「ムロの関心が原村さんから離れたということかしら」

まこ「全国出場できたけぇ、もう心残りが無くなったとかか?」

京太郎「それだけじゃ、ムロのおさまりはつかないと思いますけど」

トシ「だったら地区予選が終わった時に無くなるはず。今このタイミングの説明はつかないよ」

まこ「そうじゃのう。このタイミングでか……ん?」

トシ「このタイミングでよ……あら?」


京太郎「うむむ、ムロに一体なにがあったってんだ……?」

まこ「…………」

トシ「…………」


まこ「あぁ、そゆことかい」

トシ「みたいだね」

京太郎「二人とも、心当たりがあるんですか!?」

まこ「心当たりっちゅうか、目の当たりにしとるわ」

トシ「思い当たるのはコレしかないわよね」

京太郎「えっ、ま、まさか……」

トシ「そのまさかだよ」


京太郎「オ、オレですかー!?」

まこ「そんくらいしか可能性として考えられん」

京太郎「マジすか」

トシ「今のところ最有力候補」

京太郎「くっ……オレのせいでムロが……!」

まこ「ああなったんはしゃあない事じゃけぇ、そんな落ち込まんでも……」


京太郎「……でもちょっと嬉しいかも」

まこ「おい」


トシ「このおバカは置いといて、現実問題ムロの処置だけど」

まこ「どうしましょうかねぇ」

トシ「根本的解決は望めないのだけど、付け焼刃の対処ならできるハズよ」

まこ「ホントですか!?」

トシ「うん。能力が不安定という事はある程度、矯正できると思うの」

まこ「矯正とな?」

トシ「外部からの影響で変質したというのなら、同じように影響を与えて形作ればいい」


京太郎「大丈夫ですかね……」

トシ「鉄は熱いうちに打てって言うでしょ? 不安定な今こそやるべきだわ」

まこ「なるほどのう。そんで、特訓でもしますか?」

トシ「そうだね。ある意味、タイミングが良かったよ」

京太郎「へ?」

トシ「実はね……」

宿泊所


華菜「そろそろ会場行った方がいいんじゃないのか?」

衣「おー、そーだなぁ」

華菜「試合の日だってのに、寝坊して遅刻なんてすんなよ?」

衣「むにゃ……衣は大将だから午睡に微睡む余裕はある」


華菜「いくらなんでも寝すぎだっての。あと、そこのタオルケットお化けはいつまでいじけてんだ」

ムロ「……お化けじゃないですもん」

華菜「じゃあ、妖怪生春巻きだし」

ムロ「むぅ、人をベトナムの美味しい食べ物みたいに」


衣「ふわああぁぁぁ……」

華菜「顔でも洗ってこいよ」

衣「そーする」

華菜「一人で大丈夫か? 洗面台届く?」

衣「全くの杞憂だな!」

ガララッ


衣「もう、それくらい一人でできるもん!」

衣「ええと、洗面所は……」

ドン

  「わわっ」

衣「あうっ」ドテ

衣「うう、すまない」

  「こちらこそ前方不注意だったよー。ごめんねー? 立てるかな?」

衣「仔細ない。衣はこれしきの事、で……」

  「アレ? あなた、もしかして」


豊音「あ、天江衣さんですか!?」ズオオオオ

衣「……はい」



京太郎「じゃあ、宮守のみなさんが?」

トシ「ええ。ちょうど東京観光に来てるって言うのよ」

まこ「そりゃあええわ。心強いのう」

トシ「せっかくだから頼りにしちゃいましょう」

京太郎「うわぁ、会うのいつぶりだろう」

まこ「大体3ヶ月くらいかの」

トシ「さて、もう着いてると思うけど……」


塞「熊倉先生!」

トシ「やあ、よく来てくれたわね」

胡桃「お久しぶりです。須賀君も久しぶり、それと準優勝おめでとう」

京太郎「ありがとうございます。これも指導してくれた先生と先輩のおかげなんですけどね」ドヤァ

まこ「はいはい謙遜謙遜」

塞「セリフと表情が一致してないよ……って、なんにしろおめでとう」


トシ「ところで、豊音とシロは?」

胡桃「ああ、あの二人なら……」

豊音「えへへ、天江さんにサインもらっちゃったー!」

衣「喜んでもらえてなによりだ」


まこ「ミーハーなんは相変わらずじゃのう」

京太郎「すごい組み合わせですね、身長差的な意味で……70cmくらい?」

豊音「あっ、京太郎君!」

京太郎「ども、おひさしぶりです」

豊音「サインください! それと準優勝おめでとう!」


塞「いきなりサインおねだりか。あと、シロはリラックスしすぎ」

胡桃「コラ、寝っころがるな!」

白望「腰がダルい……」

塞「まぁ、ずっとバス移動だったしね。でもお腹丸出しは良くないよ」

胡桃「じゃあ、そこのタオルケット使わせてもらえば?」

白望「お借りします」


ズルズル

ムロ「うぅ……剥がされるぅ」

胡桃「わぁっ、具が出てきた!?」


塞「話は聞いてたけど、こりゃ重症だ」

トシ「昨日からあんな感じでね。なんとかしたいのよ」

豊音「なんとかしましょう! でも、私達はどうしたらいいんですか?」

胡桃「この状況を改善する方法なんて知らないですよ」

トシ「それは大丈夫」


トシ「いつもどおり麻雀でボコボコにすればいいから」

ムロ「え?」


塞「そ、そんなのでいいんですか?」

トシ「色々考えた結果よ」

ムロ「え、ちょ」

豊音「それなら得意だけどー」

まこ「案ずるより産むが易しって言うけぇ」

京太郎「そうそう。時間もないし、いつまでもグズってるわけにもいかないだろ?」


衣「そういう事なら、衣もすこし手伝ってやろう」

豊音「わぁ! 天江さんと打てるなんて、ちょー感動だよー!」

まこ「ほんなら、あと一人どうする。わしが入ろうかの」

京太郎「お願いします。それじゃ、オレはなんか飲み物買ってきますね」

ムロ「あ、じゃ私も……」


塞「はいはい、ムロちゃんはこっち」グイッ


ムロ「いやああぁぁぁ……」

胡桃「ホラ、こっちくる!」

ムロ「あー」ズルズル

京太郎「スイマセン」

塞「いいっていいって。こういう手合いには慣れてるし」

京太郎「というわけで、頑張れよー」

ムロ「せんぱぁい……」



30分後


豊音「ツモ! 2000オールで私の勝ち!」

衣「やるなぁ」

塞「赤口で逃げ切ったね」

豊音「えへへ。天江さん相手だと、後半は不利だからね」

まこ「トリッキーな打ち筋は見てて、わしも勉強になるわ」

ムロ「うーん」

トシ「どう? なにか掴めた?」

ムロ「まだなんとも。今まで通りにやろうと思っても、上手くできないですし……」


トシ「まだまだ足りないみたいだね。よし、私も入るよ」

豊音「おおー!」

白望「なら、私も」

ムロ「……これはこれは」

ガララッ

京太郎「もどりました。一息いれたい人は手ぇ挙げてください」

白望「はい」ビシッ

胡桃「わざわざゴメンね」


ムロ「全っ然勝てなーい!」

京太郎「おっ、やってるな。調子どう?」

ムロ「2位3位を行ったり来たり。で、トータルで負け越してます」

京太郎「ラスは引いてないんだ」

ムロ「今のところは。振り込み回避機能は健在みたいです」


ムロ「でも、それだけじゃ……とても個人戦は勝ち抜けそうにないですよ」

トシ「じゃあ次は京太郎、はいんなさい」

京太郎「いいですけど……えーと、いいんですか?」

トシ「ええ、やってみなさい」

ムロ「?」

トシ「さて、これでどんな化学反応が起こるのかしらね」

塞「シロ交代」

白望「ダル……」

京太郎「そういえばさ、ムロが能力に目覚めた時ってどんな感じだった?」

ムロ「んー? そうですねぇ……」

京太郎「一巡先がわかる感覚とか、オレには理解できないしちょっと興味ある」

ムロ「園城寺さんは、未来の映像が視えるらしいですね」

塞「なにそれ便利」


ムロ「私の場合『この牌は最後まで残るな』とか『これ切ると当たるな』って予感があったんです」

ムロ「最初はデジタル的にありえない選択肢にも反応しちゃって、違和感覚えたんですけど」

ムロ「それが強くなって、予感になって、確信に変わりました。今はわかりませんけどね」

衣「衣もそんな感じかな。なんとなくわかるんだ」

華菜「まだ居たのか天江」

衣「ひどいな」

京太郎「いやマジでそろそろ行った方がいいですって、マジで」


衣「2回も言なくても。じゃ、向かうとしようか」

ムロ「頑張ってください」

豊音「がんばってねー!」

華菜「油断すんなよ」

衣「みんな応援ありがとう! 行ってきまーす!」


京太郎「いってらっしゃーい。さて、続きやりましょうか」

豊音「それじゃ、サイコロ回すよー」

胡桃「ん? ……なんだか外が騒がしいような?」

ムロ「ホントですね……アレ?」

京太郎「この声、いや、まさか……」

まこ「知っとる声が聞こえたような気ぃしたが……気のせいじゃろ」


ガララッ

久「みんな! おひさ――」

胡桃「うるさいそこ!」

久「ゴ、ゴメンナサイ……! え? なんで?」ビクッ

美穂子「あらあら、騒がしくてごめんなさいね」

華菜「福路先輩!」ダッ

美穂子「わっ、もう、華菜ったら」


華菜「んにゃ~」

美穂子「ふふふ」ナデナデ

胡桃「まったく、そういうところは変わってないんだから!」

久「はぁ、すいません。って、なんで宮守……いや今は違うか、の人達がここに居るの?」

塞「東京旅行のついでに寄ったんだよ」

久「そ、そうだったのね」

まこ「他の人に迷惑じゃけぇ。突っ立っとらんと、はよ入ってきぃ」

久「愛想ないわね……まこも飛び込んできてもいいのよ。さぁ!」


京太郎「竹井先輩なにしに来たんですか?」

久「応援に来てあげたのよぅ……後輩の育て方間違ったかしら、私」

トシ「間違ってたら個人戦で準優勝なんてできやしないよ」

久「く、熊倉さん?」

トシ「胸を張りなさい。あんたの指導は間違ってなんかなかった」

久「うう、熊倉さん……私は、私は……!」


ゆみ「そうか、能力が」

ムロ「はい。それで今、みなさんに協力してもらってるんです」

智子「大変だなー」

久「置いてかないで。私を置いていかないで」


久「なになに、能力無くなっちゃったのムロちゃん? 大変じゃない!」

ムロ「そうなんです。ですから個人戦、竹井先輩のご期待には添えられないかも……」

久「なに言ってるの、ここまで来ただけで十分立派よ。それに結果だけが全てじゃないわ」


久「でもね、やる前から諦めるのはダメ。私がなんとか解決してみせるわ!」

ムロ「あ、ありがとうございます」

今日はここまで
描写してないだけでちゃんとモモも居ます

こんばんわ
今日は福島のお酒、奥の松 純米吟醸原酒を飲みつつ
メロンじみたフルーティさがある。美味

>>791
『智子』って誰だよ。『智美』の間違いでした
前もともきーで間違ったし、智って字に弱いのかしら……

個人戦やる……やるが、今回 まだその時と場所の指定まではしていない
そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい
今回は短め。投下します

インターハイ 9日目
会場 ロビーギャラリー


京太郎「おや?」

和「あ、須賀君?」

京太郎「おう。おはよう、和」

和「おはようございます。こんな朝早くに、ということは5位決定戦の観戦ですか?」

京太郎「そういうこと。和こそどうしたんだよ? こんなところで」

和「私は、みんなのために飲み物などを買ってこようかと」

京太郎「まるでマネージャーだな」

和「実際、そんな感じですよ。私は試合に出られませんから」

京太郎「ふーん。まだ試合開始まで時間あるし手伝うよ。必要だろ? 荷物持ち」


和「いいんですか?」

京太郎「そのくらいお安い御用だって」

和「ありがとうございます」

京太郎「飲み物も人数分となると重いだろうしな」


京太郎「ってか、誰か連れてこなかったの? 一年の子とかさ」

和「あの子達には、できるかぎり大会の空気に触れてもらいたいので」

京太郎「ああ、同じモニター観戦でも、会場の控室で見ると雰囲気って全然違うもんな」


京太郎「緊張感が伝わってくるというか」

和「そういえば、ムロは一緒じゃないんですか?」

京太郎「アイツはまだ寝てるよ。昨日の特訓でだいぶ疲れたみたいでさ」

和「特訓ですか。明日から個人戦ですからね。でも、あまり根をつめてはいけませんよ?」

京太郎「相手する方も気合入っちゃって。去年宮守と戦っただろ? あのメンバーが来てくれたんだ」

和「そうだったんですか。それは、顧問の熊倉さんが呼んで?」

京太郎「いや、コッチ来たのはたまたま。東京観光だってさ。で、さらに竹井先輩達も来たんだけど」


京太郎「これは知ってた?」

和「いえ、知りませんでした。竹井先輩はどうして?」

京太郎「先輩達は応援に来てくれたって。他にも福路さんや加治木さ……あー」

和「どうかしました?」


京太郎「もし竹井先輩に会ったら驚いてやってくれない? 今のは聞かなかった事にして」

和「わかりました。ふふっ、なにかサプライズがありそうですね」

京太郎「頼むぞ」

和「ええ、上手く驚くための心の準備はしておきます」


京太郎「それじゃ行こっか。ファミマだろ?」

和「はい」



会場内 コンビニ


京太郎「けっこう混んでるなぁ。朝早いってのに」

和「試合前ですからね」

和「決勝戦前ともなれば、さらに混むと思いますよ」

京太郎「だろうな」

和「さて、なにを買って帰ればよいのやら……」


京太郎「お茶はセルフのがあるし、ジュースとか?」

和「あと、お茶請けなんかも必要ですね」

京太郎「カゴ持つよ」

和「ありがとうございます」


京太郎「ん? コレ見たことないな、新商品?」

京太郎「ああ、コンビニ限定のやつか。こんなの発売されてたんだ」

京太郎「うわっ、これはちょっと挑戦的な味付けの……」

和「須賀君?」

京太郎「おっと、悪い悪い。つい目移りしちゃって」

和「へぇ、こんな商品があるんですか。買っていきましょう」

京太郎「いいのか?」

和「いいんです。限定品という肩書きは、気分を高揚させますから」

和「これで、ちょっとでもテンションを上げて試合に臨めたら、もうけものです」

京太郎「一理ある。でも……」


京太郎「甘い系のポテチはやめとこうか」

和「ですね……ハズレた時がこわいですし」


京太郎「チョコレートなら安定だろう」

和「そうしましょう」

店員「ありがとうございましたー」


和「んしょ。思えば、須賀君はいつもこういうことしてたんですね」

京太郎「まぁ、オレの仕事といったら買い出しとかか。男だし、力仕事は当然だな」

和「大変なんですね」


和「いつも部員のみんなをサポートしてくれて、改めて、ありがとうございます」

京太郎「よせやい。自分にできることをしたまでだよ」


京太郎「オレはそうでもないけど、和の方だって大変だろ?」

京太郎「あ、でも阿知賀には後輩も居るし、普段はその子達に頼んだりしてるのか?」

京太郎「運動部だと1年は球拾いだけ、とかよくある話だし」

和「分担したりして、お願いする事もありますよ」


和「言っても、阿知賀の部員数もそう多くありませんから。各自でやれる事はやる」

和「それと、何かにつけて上級生優先という場面はありませんね」

和「基本的に学年関係なく、卓に入る機会はありますし」

京太郎「そっか」

和「ただ、今はインターハイで、私はマネージャー寄りの立場になっているだけです」


京太郎「じゃあ、秋からは選手モードになるんだ」

和「そうなりますね。やっぱりそっちの方が落ち着きます」

京太郎「落ち着くって?」

和「……咲さんや優希、ムロがあの場所に居るのに私が居ない」

和「それがなんだか妙に違和感、というかおさまりが悪いというか……」

京太郎「マネージャーとか監督なんかも似合ってると思うけど」

和「確かに、そういう事もしてきましたけど」


和「選手として、あの場所に立ちたいと思う。私は……そうなんです」

和「ずっとモヤモヤしてるんです」


京太郎「ああ、それはきっと……いや、なんでもない」

和「えぇ……なおさらモヤモヤするんですが。なんですか? 教えてくださいよ」

京太郎「それは和が自分で考えて、自分で気付いて、自分で解決するものなのだよ、きっと」

和「そういうものですか……」


京太郎「そういうものです。そして悩み、苦しみ、あぐねるがいい」

和「本当になんなんですか!?」



控室前


和「ここまでで結構です。ありがとうございました」

京太郎「うん。大丈夫か? 重いぞ」

和「このくらい、全然平気ですよ」

和「おっとっと……」フラフラ

京太郎「おっとっと」

和「……だ、大丈夫ですから。このくらい」

京太郎「気をつけてくれよ、マジで」


和「では、行きますね」

京太郎「じゃあな。みんなにも頑張れって、伝えといてください」

和「はい。承りました」

京太郎「…………」

京太郎(大きな袋を2つ……いや、4つも。大変だなぁ)



門前仲町 蒲原祖母宅


智美「みんな起きたかー?」

桃子「……なんとか起きてるっすよー、うあぁー」

智美「まだ寝ボケまなこだな、モモ」

久「寝不足かしら?」


ゆみ「ちゃんと睡眠をとっておかないと、体調が悪くなるぞ」

桃子「うぅ……だって、寝てるのがもったいないっす」

ゆみ「なに?」

桃子「加治木先輩が卒業してから、会える機会がめっきり減ってしまって」

桃子「こんな風に、一緒にいれる時間を大切にしたいから……」


桃子「先輩との時間をちょっとでも増やしたくて、ずっと起きてたんすよ?」

ゆみ「モ、モモ……」


智美「ワハハ、設定温度下げるぞー」

久「はい、リモコン」

美穂子「みなさん朝食できました……この部屋、ちょっと寒くないかしら?」

久「ありがとう、美穂子」


ゆみ「すまないな、任せっきりで」

美穂子「いいのよ。料理は好きだし得意だもの」

久「そのうえ美味しいしね。美穂子さまさまだわ」

美穂子「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ」

桃子「この朝食も、すごく美味しそうっす」

ゆみ「そうだな」

智美「ワハハ。それじゃさっそく食べようか」


久「いただきまーす!」

美穂子「はい、めしあがれ」


久(さて、まずはお味噌汁。具はみょうがとタマネギ)

久「ズズ……ふぅ、あったまるわ」

久(味付けもあっさりしていて飲みやすい。寝起きにちょうどいいわね)


久(そしてご飯。これは……)

久「枝豆! うーん、いい香り」

美穂子「炊く時に、さやごと入れるのがポイントなのよ」

久「へぇ、そうなの」

智美「もぐもぐ。これだけでイケるな」

桃子「そうっすね。美味しいしカワイイし、枝豆ごはん最強っすね」

ゆみ(カワイイ……?)


久「さて、夏らしさ全開ね。ゴーヤチャンプルー、いただこうかしら」

桃子「うっ、ゴーヤっすか……」

ゆみ「なんだモモ、苦いのはキライか?」

桃子「ゴーヤはコレ、苦いのレベルが違うっすよ! 明らかに神様ステ振りミスってるっす!」

美穂子「心配しないで東横さん。苦味は下処理でなるべく取り除いておいたから」

桃子「ホントっすか……?」


久「あむっ」

久「モグモグ……あら、ホントだわ。苦いは苦いけど、優しくてやんわりしてる」

智美「これなら、きっとモモでも食べれるぞ」

ゆみ「せっかく美穂子が作ってくれたんだ。それに、好き嫌いはよくないぞ」

桃子「そういう加治木先輩も手ぇつけてないっすけど」



ゆみ「…………」

桃子「…………」


智美「ゆみちん」

ゆみ「ああ……」

久「ん~、漬物もいい感じに漬かってて美味しい」

美穂子「やっぱり野沢菜よね」

ゆみ「じゃあ、せーので」

桃子「わかったっす」

ゆみ「いくぞ……せーのっ」


桃子「あむっ……」モグモグ

ゆみ「もぐっ……」モグモグ


桃子「……おお」

ゆみ「イケる……イケるぞ!」

美穂子「それなら良かったわ」

久「マヨネーズでまろやかになってるから、食べやすいわ」

智美「でも、ぼやけないで味がしっかりしてるのはミッポの腕だな」


久「で、さっきから気になってたんだけど、なにかしら? このカラフルなのは」

ゆみ「刻んだ野菜と、これはサーモンか?」

美穂子「ロミロミサーモンよ」


智美「ろ、ロミロミ?」

美穂子「そう、ロミロミサーモン。ハワイの料理なの」

久「ワイハ! これまた夏っぽいわね」

ゆみ「マリネのようなものなのか?」

美穂子「そうね。ハワイ風マリネってところかしら。こっちの方が作り方はシンプルなんだけど」


美穂子「ちなみに、ロミは揉むって意味らしいわ」

久「揉み揉み」

久「ふぅ、ごちそうさまでした」

美穂子「おそまつさまでした」


ゆみ「5位決定戦はここで観るとして、決勝戦はどうする?」


久「試合前に咲と優希に会いたいんだけど、無理かしらね。時間もそんなに無いし」

ゆみ「決勝は取材するマスコミも多くなるからな。難しいだろう」

久「しょうがない、諦めて大人しく観戦に徹するか」

智美「きっと観戦客も多いぞ?」

久「そうなのよねぇ。そうだ、まこ達はどうするのかしら」



まこ『わしらは宿泊所で観ることにするわ』

久「あ、そうなの」


まこ『京太郎が言うには、まだ少し席に余裕あるようじゃけぇ。行くんならはよせい、今のうちじゃ』

久「ふーん、須賀君は会場に居るのかー。ムロちゃんも?」

まこ『いんや、まだ寝ちょる』

久「相変わらず朝弱いみたいね。じゃあ一人で?」

まこ『そうじゃの。わしも行きたかったが、昨日の今日でさすがに疲れたわ……』


久「ふふ、お疲れ様。アレは大変だったわね」

まこ『他人事のように言う……アンタも共犯じゃろが』

久「あら? そうだったかしら」

まこ『ハァ……まぁええわ。おかげでムロもまた強うなったし、感謝しとるよ』

久「どういたしまして。うーん、まだ空きがあるなら行ってみようかな」

まこ『行くんなら気ぃ付けよ。迷子なんかならんようにな』

久「咲じゃあるまいし、大丈夫よ。それじゃね」

まこ『ん、じゃあの』


久「今ならまだ空席あるみたい」

美穂子「でも、すぐに埋まっちゃいそうね」

ゆみ「それも踏まえて、出るなら早めに出た方がよさそうだ」

桃子「なら、今のうちに準備しといた方がいいっすかね?」


智美「んー? 急ぐなら乗ってくか?」


久「いやいや大丈夫よ!? メトロあるし!」

ゆみ「これも踏まえて早めの準備だ!」

桃子「ラジャっす!」

美穂子「あらあら、まだそんなに焦らなくても」

今日はここまで

15卷カバーのネリー智葉が姉妹みたいで可愛いと思いました

こんばんわ

原作やシノハユや咲日和について色々と書きたい事はありますけど
まずなにより単行本15巻で例の扉絵にムロが追加されてて嬉しかったです
やったー!見切れてたけどね!
ちゃんと国広君もいました
あと臨海や白糸台みたいに夏服と冬服で意匠が違うのって見る分にはお得だと思いました

投下します。今回はちょっと長めだけどあんまし話は進んでない。というおはなし

インターハイ 9日目
会場 観戦室


久「とうちゃーっく!」

ゆみ「やはり人が多いな」

智美「さすが、今大会メインイベントなだけはある」

美穂子「どこか空いている場所あるかしら?」

  「パッと見、満席っすね」

久「んん? あの、後ろの座席に座る人の観戦の妨げになりかねない高身長で金髪の男の子は……」



京太郎(……どうしてこうなったんだろう)


京太郎(オレは、自分の試合が終わったことによる解放感に浸りすぎていたのかもしれない)

京太郎(これから試合があるムロに対してちょっと悪いかな、なんて思いながら会場に向かっていた)

京太郎(着くと、まだ試合開始の40分前だというのに観戦室はかなり混んでいる)

京太郎(予想以上の混雑具合にオレは、焦りを覚えながら空席を探す)

京太郎(だが、前列も後列も、良い席もそうでない席もお構いなしに埋まっていた)


京太郎(これは立ち見になるかな、と思っていたところに、ふいと空白地帯に出くわした)

京太郎(何故 ここに/ここだけに 人が居ないんだ、なんて思う前に身体が動いていた)

京太郎(しばらく歩いたから疲れてたし、この機を逃す手はない、という思いに急かされてたんだろう)

京太郎(だから、あの場に流れる不穏な空気に気がつかなかったんだ)



菫「おい、聞いてるのか? 須賀」

智葉「それで、お前はどっちの肩を持つんだ? 言ってみろ」

京太郎「ええぇぇ……」

1時間前 会場 地上広場


優希『さっき、ムロから応援メールきてたじぇ』

京太郎「そうなんだ。オレは文面とか考えるのメンドイし、直接電話した方が楽だけど」

優希『それ知ってる、筆無精って言うんだじぇ』


京太郎「優希のクセに小難しい言葉を……そんなことより、今日の調子はどうなんだ?」

優希『もちろんバッチシだじぇ。ここぞという時にハズさないのが私だ!』

京太郎「ははぁ、まったく頼もしい返事だぜ」

優希『あ、タコス美味しかったじょ。サンキュー京太郎』

京太郎「お口に合ってなによりでございます。昨日渡したの、つまみ食いしなかったんだな」

優希『当たり前だ! そんな事して、当日タコスぢからを補充できなかったなんて大変だじぇ』

京太郎「敗因はタコスの食べ忘れですぅ、とかシャレになんねーからな」


優希『お間抜けにも限度があるじぇ。そういうのは咲ちゃんに任せるとして……』

京太郎「お前がふだん、咲をどんな目で見てるのか分かっちゃったよ」


優希『もちろん冗談冗談。本番前の緊張をほぐす世界レベルのジョークだじぇ。ロンオブモチ!』

京太郎「はいはい、そういう事にしておくよ。そんじゃ、決勝戦がんばれよ!」

優希『おう! 見事、期待に応えてやろうではないか!』

京太郎「楽しみにしてるよ。それじゃあな、はーい……」


京太郎「相変わらず、元気があり余ってる様子だったな」

京太郎「まぁ、優希が本番前カチコチに固まってるのなんて想像できねーし」

京太郎「さてと、次は咲に電話だ」

プルルルル

京太郎「……つか、出れるか? アイツ」

プルル

咲『はい、もしもし。京ちゃん?』

京太郎「おっ、ちゃんと着信ボタン押せたんだ。えらいえらい」

咲『もう、私だって電話に出るくらいはできるってば!』


京太郎「さすがだな。次は頑張ってメール打ってみようか」

咲『そ、それは、そのうちね。やってみるよ……』

京太郎「待ってまーす。それはそうと、今日の試合がんばれな」

咲『うん、がんばる。白糸台のエースだもん。かっこわるいトコ見せられないよ』

京太郎「気合十分ってかんじだな」

咲『当然だね。だって、その為に私はここにいるんだから』


咲『エースポジション、お姉ちゃんの代わりを任されて責任重大だよ』

京太郎「でも、気負い過ぎはよくないぞ」

咲『それに長野の、地元の人もやっぱり見てると思うし』

京太郎「まぁな」


咲『清澄を出てったのは私のワガママだから、その、なんて言うんだろ……償い、じゃないけど』

咲『後悔はしてないけどちょっと、ほんのちょっとね、悪い事したかなって思ってるの』

京太郎「いいよ、気にすんな」

咲『ありがと。それでも気にしちゃうから、ここにいる意味があるんだとしたら』


咲『私は、この場所で、立派にやってますってところを見せたいんだ』


京太郎「ちゃんと見てるよ。きっとそれなりの意味はあると思うぜ。って、なんか竹井先輩みたいだな」

咲『あはは、実を言うと竹井先輩からもメール来てたんだ。無意識に影響されちゃったみたい』

京太郎「……くれぐれも、ツモった牌は打ち上げるなよ?」

咲『しーまーせーん! ただでさえウチには手牌回しちゃう子がいるんだから。どんな曲芸集団?』

京太郎「それはさておき、決勝戦しっかりやれよ。チャンピオンらしい戦いを期待してます」

咲『はい。王者の打ち筋をお見せしちゃいましょう』


京太郎「おう、じゃあなー。っと……咲も調子よさそうだったな」

京太郎「時間は……もう会場向かった方がいいかも」



観戦室


京太郎「くっそ、レジめっちゃ混んでたし……先に買い物しときゃよかった」

京太郎「ああ、やっぱな、やっぱりだ。空きなんて無いかぁ決勝戦……」

京太郎「ここで昼飯が最善策なんだろうけど、荷物持ちたくないしなぁ、一人だし」

京太郎「ムロも来ればよかったのに。基礎体力がなっとらん、長野に戻ったらターザンでも読ませて鍛えるか」

京太郎「いやマジで空いてる席は無いのか? ここまで来て引き返したくないぜ……お?」


京太郎「あ、あった……!」


京太郎「はぁ、よかった……セーフだよ、ラッキーだよ、日頃の行いだよ」

京太郎「今日の運勢、みずがめ座1位ってホントだったんだ」

京太郎「べつに信じてなかったけどね。よっこらしょっと」ドサッ


  「メンバーの変更も少ないから、今年は……ん?」

  「それはこちらも同じ……どうした? ほう……おい須賀!」


京太郎「は、はい!? あ……?」ビクッ

智葉「よう、久しぶりじゃないか」

京太郎「辻垣内さん! それに……」

菫「なんだ、お前も須賀と面識があるのか」

京太郎「弘世さんも! 二人ともお久しぶりです!」

智葉「須賀、こっちだ。ここ座れ」トントン

京太郎「アッハイ」


智葉「まずは個人戦準優勝おめでとう」

菫「おめでとう、正直おどろいたよ」

京太郎「ありがとうございます! まさかオレが準優勝だなんて、自分でもビックリです」

智葉「見事だった。が、次は観ていて安心できるような麻雀を打ってくれ。色んな意味でな」

京太郎「あはは……善処します」


京太郎「ところで、お二人はよく一緒に出掛けたりするんですか?」

菫「いや?」

智葉「しないな」

京太郎「じゃ、今日はたまたま鉢合わせたと」

智葉「そうだ」

菫「もともと一人で観戦するつもりだったんだがな」


菫「あいにくと、空いてる席がここしかなかったんだ」

智葉「この混雑だ。他をあたれなんて言えないだろ?」

京太郎「……そうですね」

京太郎「そ、それにしても、決勝戦ともなると凄い人ですよね」

菫「ああ、ほとんどが5位決定戦からいた人達だろう」

智葉「まるで花見の場所取りだ」

菫「今年の桜は、1日遅れだったな」

智葉「一場春夢の花ではないところを見ると、また来年も期待できそうだ」

京太郎「来年かぁ。来年はきっと和も……」


智葉「ほう? これから旧友が打ち合うというのに、そっちの方が気になるか?」

京太郎「えっ、いや……」

菫「ああいうのが好みなのか、須賀は」

京太郎「き、嫌い……ではないですけど。そ、そういう意味で言ってないですから!」


京太郎「それだけは声を大にしたい! じゃないと後で怖い気がする……」

菫「なにをムキになってるんだ?」

智葉「まあ、それはどうでもいい。聞きたいことがある」

京太郎「なんでしょう?」


智葉「この試合、どこを応援している? 言え」

京太郎「はい?」


菫「キミが最も期待を寄せている学校の名前を聞かせてくれ」

京太郎「ええと……」

智葉「あるんだろう? 教えてくれてもいいじゃないか、なにも博打しようってわけじゃない」

京太郎「ですよね」

智葉「お互いの学校について話し合ってたんだが」

菫「ハァ……」

智葉「これがなかなかに分からず屋でな」

菫「なんだと?」

京太郎「ま、まあまあ」


智葉「いい加減飽きて……じゃなく、話しが平行線になってきたところに現れたのがお前だ」

菫「おい」

京太郎「オレになにをしろと」

智葉「これじゃあ埒が明かないから、第三者からハッキリ言ってやってくれ」


智葉「優勝するのは今年も臨「白糸台」」


智葉「…………」

京太郎「…………」

菫「白糸台だ」


智葉「な?」

京太郎「察しました……」

京太郎「そりゃあ母校が優勝争いで、それぞれに因縁もあるでしょうけど」

京太郎「わざわざ険悪ムードにならんでも。仲良くやりましょうよ」

智葉「私にそんなつもりはない。努めて友好的に話しかけていたぞ」


智葉「そっちが突っかかってくるんだよ」

菫「されるような事を言うからだろう」

京太郎(突っかかるのは否定しないのね……納得した)


京太郎(そりゃ、まわりに人が寄ってこないわけだよ……)



10分前 観戦室


菫「ん?」

智葉「おや、珍しい顔だ」


菫「辻垣内」

智葉「お前がわざわざ会場まで観に来るなんてな」

菫「どういう意味だ、それは」

智葉「いや、こういう人の多い場所は苦手なんじゃないかと、勝手に思っていただけだ」

菫「ああ、好き好んで喧騒の中に入りたいとは思わないよ、間違ってない。でも今日は特別だ」

智葉「なるほど。まぁ、座れよ」

菫「遠慮なく」


智葉「意外と暇なのか?」

菫「なんだ、さっきから」

智葉「試合開始までまだ1時間弱あるぞ? こういう時間をもったいないと思わないか?」

菫「人が入るからしょうがないだろう。それにお互い様だ」

智葉「私は嫌いじゃないぞ。だんだんと賑やかになっていく様子は、見ていて楽しい」

菫「物見高いやつ」

智葉「ああ、それこそお互い様だろ」


菫「暇人め」

智葉「持て余し過ぎてな、お裾分けだ」


菫「気前のいいことだ」

智葉「実際、お中元なんかはよく周りに配ったりしているよ」

菫「その年齢でもうデビューしているのか」

智葉「いや、家に送られてくるやつ。これが多いのなんの」

菫「なるほど」

智葉「食品とかは、とてもじゃないが腹に収まりきらない」

菫「食べ物は喜ばれるだろう」

智葉「ああ、メグにカップラーメンを段ボールでやったら、とても喜んでいた」

菫「メガン・ダヴァン。去年の副将か」


菫「そういえば、よく野外で食べているのをウチの生徒に目撃されていたな」

智葉「なにをしてるんだ、アイツは」

菫「大会期間中だけで。5回」

智葉「あきれるな……」


菫「しかし、想像していたよりもずいぶん仲が良さげというか」

智葉「意外か?」

菫「海外で活躍している選手を招集したチームだから、もっとストイックなのかと思っていたよ」

智葉「たしかにお前が考えているような一面も、もちろんある」

智葉「だが、卓から離れれば普通の娘だ」


智葉「他の人間よりも、麻雀が強いってだけのな」

菫「まあ、そんなものか。照も麻雀以外は……わりと普通だし」

智葉「麻雀を打っている時とそうでない時とでは、まるで別人だよな」

菫「人より口数が少なくて、本を読むのが好きで、お菓子が好きで、あとは……」


菫「営業スマイルがひどすぎる」

智葉「ああ……」


智葉「あれこそはまさに別人……本当の意味で人が変わっていたりは?」

菫「残念ながら同一人物だ」

菫「しかも驚く事に、アレは遺伝するものらしい」

智葉「血は争えないか」

菫「離れて暮らしていても、姉妹というわけだ」

智葉「その宮永妹だが、どうだ? 元部長の目から見て」

菫「そうだな」


菫「まず、実力は申し分ない。なんといっても、照を破ってのインハイチャンピオンだ」

菫「嶺上開花での火力アップは言わずもがな、ツモだけでなく大明槓での直撃も可能」

菫「さらに、相手をコントロールして被害をプラマイゼロに抑える事もできる」

智葉「しかし、去年の宮永咲はダークホースだった。今年は研究し尽くされていると思うが?」

菫「だからといって咲の支配に対応できる選手は、そういないだろう」


智葉「一理ある……助かったな、今年は先鋒に配置されて」

菫「なに……?」


菫「どういう意味だ」

智葉「そのままの意味だよ。数少ない、対応できる相手と当たらずに済んで良かったじゃないか」

菫「咲が大将だったら、ネリー・ヴィルサラーゼには敵わないとでも言いたいのか」

智葉「断言はしない。しかし結果はどうなるか、お前も見ていただろ?」

菫「それは1年前の話であって、今年は違う」


菫「咲だけじゃない。淡だって、あの頃よりさらに強くなっている」

智葉「成長速度でいえば、うちの新入りも負けてない」

智葉「東風フリースタイルのタイトルを手土産に持ってくるレベルだぞ」

菫「肩書きだけで優勝できるのなら苦労しないさ」

智葉「実力の証明だ」

菫「なら、うちには全国1位が二人もいる」


智葉「はぁ……視野が狭いというか、目の付けどころがシャープシューターだな」

菫「シャ……!?」

智葉「こっちは世界レベルで活躍してるやつらが揃ってるんだ。中には世界ランカーだっている」

菫「日本には日本のルールがある。実力を出せなければ、匕首に鍔だ」


智葉「匕首と思って見縊ると真っ二つだぞ。かつてのメグのようにな」

菫(メガン・ダヴァン……一体なにをやらかしたんだ?)


京太郎「よっこらしょっと」ドサッ

菫「メンバーの変更も少ないから、今年は……ん?」

智葉「それはこちらも同じ……どうした? ほう……おい須賀!」

京太郎「は、はい!? あ……?」ビクッ



京太郎(……ホント、どうしてこうなった。みずがめ座1位とは一体)

智葉「それで、もう答えは出せるか?」

京太郎「あ、いや……うーん、ちょっと難しい質問ですね」

智葉「まだ答えられないか」

菫「じゃあ、質問を限定して答えやすくしてみよう」

京太郎「すみません」


菫「先鋒戦では、誰を贔屓している?」

京太郎「むしろ答えにくくなったです」


智葉「誰推しなんだ? ん?」

京太郎「推しって……」

菫「しょうがない。じゃあ、他の選手の評価から聞いてみようじゃないか」

京太郎「評価するんですか? オレなんかが」

智葉「個人戦2位の実力者がなにを気兼ねする必要がある」

京太郎「それはそれでハードルが上がっちゃうと思うんですけど」


智葉「当然だ」

菫「自己評価が低いようだが、世間ではすでに全国トッププレイヤーという認識が通っている」

京太郎「みたいですね」

菫「ならば、相応の立ち振る舞いを求められるというものだ」

京太郎「……大変だ」


菫「あの姉妹を見習え、とまでは言わないがね」

京太郎「アレは勘弁して下さい」

智葉「まずは龍門渕の井上純。どう思う?」

京太郎「この中では一番お世話になってる人です。あの、オレ評論家みたいな事は言えませんよ?」

菫「かまわない。むしろ自分の思うまま、気取らずに話してくれ」

京太郎「わかりました。そうですね、流れを重視するスタイルです」


智葉「ネリーのようなタイプか」

京太郎「天江さんの支配も突破する時があるんで、勢いづいくと怖いですね」

菫「2年前のインハイで、2校3校を同時にトバした選手……天江衣」

智葉「メグが合浦女子をトバしていなかったら、あるいは……」

京太郎「それと、よく鳴くのが特徴で、それで相手の当たり牌を逸らすのが厄介です」

智葉「鳴きが多いと宮永咲は苦労すると思うな」

菫「その程度で咲のペースは乱されないさ」


京太郎「ちなみに、優希の速攻スタイルの先生でもあります」

菫「つまり、片岡の手の内は把握されているわけだ」

智葉「知らないのか? 優希の戦法はそれだけじゃないんだよ」

京太郎「一言でいうと、スコアにムラが出るけど油断できないプレイヤーです。って事で」


京太郎「こんな感じで、どうでしょう?」

菫「大丈夫、おもしろい情報だった」

智葉「では次、永水女子の石戸明星」

京太郎「巫女さんですか」

智葉「巫女だ」

菫「巫女だな」

京太郎「ヴィジュアルも特徴的ですけど、能力もユニークですよね」


京太郎「高火力で組めて、字牌以外では振り込まない。攻守に優れた能力だと思います」

菫「改めて考えるとヒドイ能力だ」

智葉「この絶一門を突破できるのは、今のところ誰もいない」

京太郎「あんまりデータ無いんで、よくわからないところも多いですけど」

菫「なにせ、おとといの準決勝で初めて見せたからな」


菫「県予選では至って普通の打ち筋だったらしい。個人戦も出てないから、とっておきのようだ」

智葉「いや、去年見せてただろう?」

京太郎「え? でもそれって、お姉さんの方の……」

智葉「ところが、アレは彼女ら固有の能力ではない」

京太郎「どういうことですか?」


智葉「戒能プロの噂を聞いた事はないか?」

京太郎「ソロモン王の力を借りてるって……まさか、あの人達にも何か憑いてたり!?」

智葉「実に巫女らしいじゃないか」

京太郎「らしいっちゃらしいですけど」

菫「そういう手合いには複数の打ち筋が確認されるものだが、彼女はどうだろう?」

智葉「チームメイトの神代がそうだし、さらに奥の手が存在するかもしれん」

京太郎「おっかない話だなぁ。でも、あの絶一門だけで言えば、咲はうまくやってましたね」

菫「槓材が集まるのが大きいな。それは制限されないから、むしろ状況は良いと思う」


菫「もしかしたら、意外と亦野も対応できたりするのかな」

京太郎「鳴きやすい場だし、速いですもんね」

智葉「石戸明星が同卓の場合、手が読みやすくなるから防御面が重要だな」

京太郎「あ、そっか。うーん、色々と難儀な試合になりそうだ」


菫「まぁ、咲ならば一度経験しているし、大丈夫だろう」

智葉「その時の試合、区間1位は石戸霞だったと記憶しているが?」

菫「経験というのは大きいものだ。データや数字でしか知らないのとは雲泥の差がある」

智葉「それが油断に繋がるというものだ。ハナから決めてかかると足を掬われる」

京太郎「…………」


京太郎「あ……そういや、お菓子買ってきたんだっけ」ゴソゴソ

京太郎「これこれ。クリームたい焼きカスタード」

京太郎「生地がもっちりしてて、中のクリームが美味しいんだよなぁ。いただきま……」


菫「おい、聞いてるのか? 須賀」

智葉「それで、お前はどっちの肩を持つんだ? 言ってみろ」

京太郎「ええぇぇ……」

菫「というか、何食べようとしてるんだ」

京太郎「食べます?」

智葉「頂戴する」

菫「ちょ……おい、辻垣内」

京太郎「弘世さんもいかがですか?」

菫「いただこう」


京太郎「そうだ、たい焼きってどこから食べます?」

菫「考えたことなかった。言われて、無意識に尻尾から食べようとしていたよ」

京太郎「オレは頭からなんですよ。辻垣内さんは……」


智葉「おお。想像していたよりも、もちもちしてるな」

京太郎「割った……だと?」


智葉「なんだよ」

京太郎「いや、割る人はじめて見たので」

菫「他の人に分けたりする時は割るだろうけども」

智葉「このほうが口に入れた時、ダイレクトにクリームの味を楽しめるだろ?」


京太郎「もぐもぐ。んで、さっきの話ですけど、オレはどっちも応援してますよ」

京太郎「二人とも大事な友人ですからね」


  「あら、同じ地元の井上さんは応援してあげないの?」

京太郎「いや、井上さんも応援してますってば……竹井先輩」


智葉「これはこれは、インターハイ出禁になった竹井久」

菫「そうなのか?」

久「……ソレ言ってるの愛宕さんでしょ?」


久「まったく。プロなんだから、発言の影響力ってもんを考えてほしいわ」

久「弘世さんもちょっと信じちゃってるじゃない。根も葉もない噂よ」

京太郎「あんなツモやってりゃ信憑性も出てきますって、そりゃあ」

久「言ってる本人だって相当マナー悪いわよ?」

菫「信じてないぞ、本当だぞ。ところで、竹井は龍門渕を応援するのか?」

久「そうね。先鋒戦じゃあ咲も優希もいるけど、そこで活躍されると困るのよね」


久「地元龍門渕が優勝できるなら、二人は負けてくれてかまわない」


菫「後輩相手にずいぶんと辛辣なんだな」

久「そうかしら?」

美穂子「これも、久なりの愛情なのよね。こんにちわ」

ゆみ「ふぅ。空いていて助かった」

  「ラッキーっす」

智葉「福路も、長野のメンバーも一緒だったか」

久「言っとくけど、二人がキライなわけじゃないのよ? むしろ好きよ?」

京太郎「そうそう。ただ、愛情表現が歪んでるだけで」

久「少しくらい変化球な方が、気付いた時により大きな喜びが得られるってものよ」

ゆみ「否定しないのか」

美穂子「久らしいわね」

智葉「だったら仕方がないな。優希もさぞ嬉しかろう」

久「本当に、咲も優希も立派になったわ」


久「すっかり一人前なんだから、そんな二人には相応の態度を示さなきゃ失礼よね?」

智葉「確かに。しかし、いまだに後輩離れできないのがいるようだ」

菫「まさかとは思うが私の事か? お前の方こそ、片岡が心配でたまらないと見える」

  「加治木先輩は後輩離れしなくってもいいっすからね?」

ゆみ「わかったよ、モモがそう言うのなら」

京太郎「まーたはじまったよ……」

久「あらあら、二人とも愛されちゃって。果報者ねぇ」

智美「ワハハ。みんな仲がいいな」



京太郎「……って感じで、大変だったんだぞ」

ムロ「へぇ」

宿泊所


ムロ「お疲れ様でしたね、先輩」

京太郎「ムロにも見せたかったなぁ。先鋒戦前半の、辻垣内さんの煽りっぷり」

ムロ「反対方向からはプレッシャーが凄かったんでしょうね……」

京太郎「そして後半の弘世さんのはしゃぎっぷり」

ムロ「それはちょっと見たかったです」


ムロ「白糸台が優勝決まった時なんて、どうなっちゃったんです?」

京太郎「逆に静かになって震えてた」

ムロ「感無量ってやつですか。無理もないですよね、王座奪還ですから」

京太郎「そんでまた、竹井先輩がささやくんだよ」


久『見て、大星さんの顔、すごく嬉しそう』

久『王者白糸台陥落、なんて言われた1年間。辛かったわよね……』

久『それでも部員達が団結して、みんなで頑張ってきて、やっと悲願を果たすことができた』

久『きっと他のメンバーも凄く喜んでるはずよ。ほら、想像してみて?』

菫『ッ……うっ……く、くぅ……ううぅぅぅぅ!』プルプル


京太郎「男泣きを見た」

ムロ「女ですよ」

京太郎「とまぁ、会場はこんな感じだったわけだけど」

京太郎「ムロ……ついに明日から個人戦が始まる」

ムロ「はい」

京太郎「相手が誰であっても油断しない。遠慮もいらない」


京太郎「チャンピオンだろうがなんだろうが、ボッコボコにしていいからな」

ムロ「できるならしたいですけどね」


京太郎「できるよ」

ムロ「だといいんですけど……先輩?」

京太郎「ん?」

ムロ「先輩は、もし私が優勝したら、泣いてくれます?」

京太郎「うーん、どうだろ。その時になってみないとわからん」

ムロ「おーい? そこは嘘でも泣くって言ってくれないと」

京太郎「正直者でスマン」


京太郎「自分の時は実感わかなかったけど、ムロの時はもしかしたら泣いちゃうかも」

ムロ「そっかそっかぁ」

京太郎「そんなに泣かせたいか、オレを」

ムロ「どちらかといえば、イエス」

京太郎「なんでだよ」

ムロ「思いだしたら、今まで私が泣き顔見られても先輩のは見た事なかったし、ズルイです」

京太郎「別にズルかねーよ」

ムロ「というわけでこの大会の目標は、先輩泣かすに決定しました!」

京太郎「やれやれ、男はそんな簡単に泣かないもんなの」

ムロ「ホントに?」

京太郎「ホントホント」


ムロ「青い猫型ロボットが未来に帰っちゃっても?」

京太郎「おい、それは卑怯だぞ」


京太郎「まぁなんにせよ、頑張ってくれ。まずは自分が後悔しないように」

ムロ「はい」

京太郎「それが第一義。結果や評価は後からついてくる。ついでにご褒美もつけとくよ」

ムロ「わぁい!」



京太郎「モノにもよるけどな。それで優勝してくれるなら安いもんだ」

ムロ「ちょっと楽しみ増えてきました!」

今日はここまで
最近自分の中で臨海女子ブームきてます

こんばんわ

第157局を読んで思ったんですけど
竜華はひとつの関心に傾倒する性格なんでしょうかね
末原さんに対しても世話焼きと合わさって独特の距離感を生み出したり
それが天然さんと言われる所以なのかと思いました
咲日和のゾンビ映画の話でも「あっ!怖い!」ってやってたし

投下します

ムロ「ツモ。リーチ一発ツモ三暗刻、2000・4000です。ありがとうございました」


  「……はい」

  「ありがとうございました……」

ビイイィィィィッ

ムロ「ふぅ……全試合日程終了」

ムロ「これで本選いける、かな?」



インターハイ11日目 女子個人戦
予選2日目


京太郎「おつかれさん、ムロ」

ムロ「はい。ただいまです、先輩」

トシ「お疲れ様、いい調子だったよ」

ムロ「ホントですか?」

まこ「ほんまじゃ。自分でやっとってどうじゃった?」


ムロ「以前よりも考える要素は多くなったけど、そのぶん、思い通りにいきました」

ムロ「できる事も増えましたし」

まこ「そりゃあええわ」

トシ「ムロ自身に、特に問題はないようだね」

まこ「んで、今日当たった相手で気になったやつはおったか?」

ムロ「えーと、そうですねぇ……」

ムロ「白糸台の渋谷さんと対戦しましたけど、オーラスまでいかなかったんですよ。今日は」

ムロ「本選でも、早めに切り上げられればいいんですけど」

京太郎「その時って、他の選手をトバしたんだっけ? 明日は相手のレベルも上がってるから」

まこ「同じ作戦は難しいかもしれんのう」

ムロ「姫松の上重さんも、私との時は爆発しなかったんでラッキーでした」


ムロ「あと、気になるのが真屋さん……」

トシ「彼女がどうかした?」

ムロ「左手の事なんですけど」

京太郎「アレって、1日に何度も使用できるモノじゃないんだろ?」

まこ「じゃが、それでなんも対策せんのは心許ないのう」

ムロ「真屋さんって、通常は右手でツモるんですけど、ここぞという時は左手なんです」

ムロ「その時、左手でツモっていいか許可を求めてくるんですけど……」


ムロ「拒否したら使わないでくれるんですかね?」

京太郎「鬼かよ」


京太郎「あれは、一種のお約束ってヤツだろ」

ムロ「お約束?」

京太郎「たとえば、ヒーローが名乗りの最中に攻撃されないとか」

まこ「両親は長期の海外出張で留守にしとるとか」

トシ「犯人は最終的に崖の上に追い込まれたりとかね」

ムロ「ああ、なるほど。パンを咥えて遅刻遅刻~のやつですね」

ムロ「それと、宮永先輩はいつも通り……というか、全力で打ってる感じではなかったように思います」

京太郎「本番は明日だからな。もしかして、本気をムロに見せたくなかったのかも」

まこ「ほんなら、咲に認められたっちゅう事かのう」

ムロ「おおぅ、それはそれは……」

まこ「次は手加減無しでくるけぇ」


ムロ「宮永先輩の本気、かぁ。わかっちゃいるけど怖いです」

京太郎「それもこれも予選の結果次第だけど、まぁ」



  『まもなく、女子個人戦の、本選出場者を発表いたします』


トシ「いよいよだね」

ムロ「はい……!」

京太郎「だいじょうぶだよ、絶対通ってる」


まこ「おっ、アンタらも見に来たんか」

穏乃「はい! 緊張しますね!」

ムロ「松実さん達は1日目でしたよね」

玄「うん。1日目での結果は出たけど、明日行けるかは今日の結果次第だから、ドキドキ」

憧「そろそろ結果発表だよー」


ワアアァァァァ


ムロ「……!」

京太郎「きたっ」

友香「うっし! 予選突破でー!」

莉子「わあ、友香ちゃんすごーい」


藍子「名前……あった!」

憩「ウチもや。モコちゃんのもあったわー、よかったなぁ」

もこ「…………」ブツブツ


ムロ「……あった、ありました先輩!」ピョンッ

京太郎「やったな!」

トシ「よしよし。ひとまずおめでとう、ムロ」

ムロ「ありがとうございます」

まこ「池田も南浦もおるけぇ。長野勢は全員、本選出場じゃな」


灼「あ、あそこ……」


玄「わあ、ホントだー!」

穏乃「やったああああ!」

和「優希と咲さんも。よかった」


優希「ふふん、順当な結果だじぇ!」

和「あら、優希」

ムロ「優希先輩、お互い頑張りましょうね。明日は私も全力です!」


優希「おう! 咲ちゃんも勝ち進んで、清澄で決勝卓を囲むのも面白そうだじぇ」

ムロ「いいですね!」

ワイワイ

和「……私は仲間ハズレですか」

まこ「安心せぇ、わしがおるよ」

京太郎「オレもいるぜ」

誠子「いやぁ、よかった。3人とも出れてよかったー!」

淡「トーゼンっしょ」

尭深「なんとか進出できて、ほっとしたかな」

咲「私もです」

淡「団体戦でも個人戦でも、目指すところはテッペンなんだから!」

誠子「ああ、明日もこの勢いで頑張れよ」


誠子「それを見届けるまで、私の夏は終われない」

淡「そーなの?」

誠子「そうだよ。部長としての責務もあるし、なにより応援してる側の身として」

誠子「勝ち進んだからには、そういった人達の想いを背負ってるって事、知っといてくれ」

尭深「自分にできる事を、精一杯やればいいと思う」

淡「わかってる。カッコ悪いとこ見せらんないもんね!」



漫「まずは予選突破や」

絹恵「せやね」

漫「明日は正念場、むっちゃ集中せんと」

絹恵「大変やなぁ漫ちゃん、常時爆発しとかなアカンやん」

漫「うち、個人戦終わったら燃えカスなっとるかも……」


絹恵「アハハ」


漫「でも、そんくらいの気合で行かなな!」

絹恵「その意気やで!」

爽『わるいね、現地で応援できなくて』

由暉子「そんな、応援してくれるだけでもありがたいですよ」

爽『なに言ってんだ、当たり前じゃん』

揺杏『そうそう。ユキは私達の後輩で、アイドルなんだから』

由暉子「アイドル関係あります?」

誓子『あるの?』

爽『あるでしょ』


爽『ユキは、昔っから他人の助けになりたがる性分だったけど、今も変わらないよね』

由暉子「そう、だと思います」

成香『素敵です』

爽『うんうん。それがアイドル真屋由暉子の魅力の1つだ』

爽『でも、アイドルってそれだけじゃないと思うんだよ』


爽『頑張ってる人を応援したいって思わせるチカラが、アイドルの本質だと思うんだ』


揺杏『出たな、爽のアイドル論』

由暉子「思わせる……思う、ではなく?」

爽『やっぱり、人の心に感情を引き起こさせるのって特別な能力だからね』

誓子『そうね。ユキを見てると、こっちもがんばれーってなるもん』

揺杏『なんて言うか、庇護欲をそそられるっつーか』

成香『支えてあげたくなります』

由暉子「見ていて頼りないという事でしょうか。まだまだ未熟ですね、私」

爽『いや、それでいいんだよ』

由暉子「それに、そんなスキルが私にあるんでしょうか」

揺杏『あるよー。あるある』

爽『あの時、あのユキを見出した私を信じなさい』

由暉子「……はい。そうですね」


爽『だからさ、ユキはもっと自分本位になってもいいと思うんだ』

由暉子「自分本位……」

揺杏『ワガママになれってこと。ちょっとくらい、いいんじゃね?』


誓子『ユキは今、やりたい事とかないの?』

由暉子「うーん、そう言われても。やりたい事……あっ」

揺杏『お、なんか見っけた?』

由暉子「私、ミステリーハンター……に、なってみたいです」


揺杏『へぇ、ユキにピッタリかも』

誓子『ユキ、そういうの好きだからね』

由暉子「ビュガラッシュとか、エリア51とか行ってみたいです」

爽『いいねいいね』

成香『あ、そういえば』


成香『アレって、たしか年齢制限あった気がします。20歳以上の』


由暉子「…………」

誓子『…………』

揺杏『…………』

成香『えっ?』

爽『つ、つまり、今は目の前のインハイに集中しとけって事だな、うん!』

初美「姫様、本選進出おめでとうございます」

明星「おめでとうございます」

湧「おめでとうございます」

小蒔「ありがとうございます。明日もがんばります」



霞「さぁ、戻って食事にしましょう」

小蒔「はい」

巴「食事が済みましたら、ローテーションを組みます」


小蒔「わかりました」

初美「姫様は明日のために早く寝なきゃですね」

霞「予選は、それほど強くない神様でも凌げたから良かったけど」


霞「明日の本選では総合順位4位以内を目指して、なおかつ決勝戦に備えないといけないから」

巴「調整がシビアですね」

小蒔「お手数をおかけします」

巴「いえ、お気になさらないで下さい」

初音「姫様はいつも通りで大丈夫ですよー」



浩子「おつかれさん、泉」

泉「お疲れ様です」


浩子「もうちょい喜んでもええんやで?」

泉「まだ早いですよ。まだ、こんなトコで満足できません」

浩子「気ぃ抜いたらエンジン止まるってか。そんじゃ、ガソリン入れとく?」

泉「コレなんですか?」

浩子「さっきのミーティングでは出さんかった、個人的にチェックしとる選手のデータ」

泉「へぇ、なんで出さんかったんです?」

浩子「グループで検証するんが、ためらわれるくらいのデータしか無くてな」

泉「ありがたく見させてもらいますわ」

浩子「おう」


泉「ようさんありますねぇ。やっぱ1年生が多いか」

浩子「逆に言うと、少ないデータでも見どころのある選手って事や」

泉「ほうほうっと……」


泉「あ、清澄の室橋ですね。コレも保留ですか」

浩子「んー、そうやな」

泉「アイツなら先輩達で打って、園城寺先輩と似たような能力だって分かってるんじゃ?」

浩子「そうやねんけど……どうもそれだけじゃないっぽい」

泉「じゃあ、なんか不審な点でもあったり?」

浩子「無い」

泉「えー」


浩子「つーか、無いのがおかしい。自然すぎるんや」

怜「自然すぎって、なにが?」ヌッ


浩子「うわっ!?」

泉「お、園城寺先輩!?」

怜「うわーて、ヒドイわぁ」

竜華「いや、急に現れたらビックリするやろ」

怜「それは申し訳ない」

泉「あれ? 二人して、団体戦終わったら大阪戻ったんちゃいますの?」

怜「うん。ちゅうか、もともと大会の最後までおるつもりやってん」

竜華「でも、昨日は怜の病院行く予定入っててな。一旦、大阪戻っただけや」

泉「そやったんですね」

浩子(軽くお嬢様発言しとうなぁ……)


怜「せや、泉に差し入れあるんやった。竜華」

泉「マジすか!」

竜華「阪急でな、いろいろスイーツとか買うてきたで。食べてなぁ」

泉「ありがとうございます! めっちゃうれしいです」

浩子「じゃあ、お茶淹れてきますわ」

怜「んー、たのむわー」


怜「そんで? 何話してたん?」

泉「船久保先輩のですね、気になる選手のデータ見てたんですけど」

怜「そういうのって、もっと大人数で検証せぇへんかったっけ?」

泉「情報量すくなくてミーティングで出すには至らないやつ、らしいです」

怜「ほっ、なるほど」


泉「そんで、先輩が気になる選手ってのが居まして。ええと……コレですね」

竜華「浩子が目ぇ付けるのって大概おかしい打ち手がーって、清澄のムロちゃんやん」

怜「おー、弟子がんばっとるなぁ」


浩子「はーい、お茶でございます」

竜華「ありがとう、浩子」

浩子「んで、さっき話ししてたんですけど、ちょっと見てもらえます?」

怜「どれどれ」

竜華「んー……これは、最終形が分かっとる打ち筋や」

怜「それは、ムロも視えとるって言うてたやん、ひっかかるトコか?」

竜華「分かるのは今の自分のツモ筋で、やろ?」

怜「ああ、そやったね」


竜華「この牌譜やと、鳴いてツモ筋はズラしても有効牌ツモっとる」

怜「ふんふん」

竜華「って事は、その鳴きも織り込み済みで構築しとったんやな」

怜「ふーむ」

竜華「いやでも、この手やったらデジタル的に不自然じゃない? こともない……?」

浩子「そこです」


竜華「浩子はどう思ってんの?」

浩子「まず、場を支配しているという感じはありませんね」

浩子「偏った配牌やツモは、あっても他の選手によるものです」

浩子「ですから、和了れない局もそこそこあります」


浩子「逆に、和了る時はとにかくスムーズ」

泉「裏目とかありませんね」

浩子「その通り。これはまるで……」

竜華「やっぱり怜ちゃんや!」

怜「やっぱりって、わかってたん?」

竜華「見たときからそんな気はしとった」

泉「えっと、怜ちゃんが教えてくれるのって和了れる局だけでしたよね?」

竜華「せや。和了れん局は、ヤレヤレ……みたいな顔して帰ってくんや」

泉「一応は来てくれるんですね」

竜華「まあ、そういうトコも可愛いんやけどな!」

浩子「さようですか。で、泉はなに気になっとう?」


泉「この局、室橋が和了らない局なんですけど、これって相手の当たり牌ズラしてますよね?」

竜華「どれどれ。あ、ホンマや」

浩子「ふーん。つまり、園城寺先輩に怜ちゃん付いた感じなんかな?」

竜華「なぁっ……!?」

泉「えぇ、そんなん……」


竜華「そんなん、最高やーん!」

怜「竜華だけやで」

泉「清水谷先輩はおいといて……そんなん厄介すぎますて」

浩子「もともと似たようなモノやったし、能力が変化した可能性は無きにしも非ずや」

怜「すくなくとも、前までのムロとは一味ちゃうみたいやな」

泉「この数ヶ月間で、異常な成長スピードですよ」

怜「ま、そんな事もあるやろな」


怜「無名の新人が化け物とか、インハイやと毎年恒例やったりするし」

泉「はぁ……」

怜「てか、これだけで判断できん情報量やろ」

浩子「そもそもミーティングで出せんデータですからね」

怜「せやから、あんま考えすぎもあかんやろ?」

泉「そうですね」

怜「ちゅうわけで、お菓子食べよお菓子」


浩子「どうする泉?」

泉「いいと思います。せっかく先輩方が買ってくれはったんですし」

怜「よっしゃ」


泉「それにしても、ずいぶん種類ありますねぇ」

竜華「あっはは。ちょーっと買いすぎたかも。まぁ、余ったら監督とか、みんなにも分けたげて」

怜「なにから食べようかなー」

竜華「怜のおやつに買うてきたんちゃうやろ? わかっとる?」

怜「ちゃうねん、泉の好きそうなの選んどるだけや」


泉「おまかせしますよ」

怜「ほんならな……コレや。このハッピーターンがヤバイんやって」

竜華「もう、しゃーないなぁ怜は。泉も、あんま怜を甘やかしたらアカンで?」

泉「……なんですと」

浩子「……自分がそれ言うんかい」


怜「バニラミルクとな、あとキャラメル味おすすめ……あ、キャラメルもう1個しかあらへん」

竜華「はあ? なにつまんで……とーきー!?」

浩子「さわがしい人達やな」

泉「あはは、試合前日ですのに。なんか緊張感ないわぁ」

泉「…………」


  『無名の新人が化け物とか、インハイやと毎年恒例やったりするし』

泉(……まさか、なんて思えへんよな)


泉(そういう選手達を、自分も見てきた)

泉(園城寺先輩がそうやし、3年には神代小蒔が。同学年では大星淡、そんで宮永咲……)

泉(毎年、参加者に一人や二人、おかしいのが混ざっとる)

泉(ハンパな異能やったら打ち負かす自信はある。けど、アレは)


泉(……規格外。並大抵の打ち手なんかじゃ対抗できん、言うなれば脅威)



バシィッ

  「ツモ。嶺上開花のみ」

泉(それが……)


ムロ「800・1600です」

泉(今、目の前に居る――!)

今日はここまで

ここぞとばかりにフナQが神戸弁しゃべっとう
反省してます

こんばんわ

最近パンにハマってます
ハマり過ぎて食生活が乱れ、体調を崩すくらいです
やっぱり本格的なパンを焼くお店のパンは一味違いますね
カンパーニュにいろいろ入ってるのが好き

投下します

インターハイ 最終日
女子個人戦 3日目 本選


絹恵「最後の夏……最後の1日や」

漫「早いもんやなぁ。最終日、今日で終わりか」


絹恵「漫ちゃん、昨日はよう眠れた?」

漫「それが……自分でも驚くほどぐっすりやったんよ」

絹恵「よかったやん」

漫「いや、ちょっとくらい目ぇ冴えて寝つけんくなるかなーって思ってたんやけど」

絹恵「またまたー、そんな細い神経しとらんやろ?」

漫「私かて、いっぱしの乙女やねんで」


漫「お好み焼きに、マヨで花とかハートとか描くよ?」

絹恵「それって乙女なん?」


漫「乙女やろ! どう考えてもどう見ても!」

絹恵「ま、それはどうでもええねんけど」

漫「ええんかい……ええか、別に。絹ちゃんはどないな感じ? 調子は」

絹恵「フィジカルは問題無し。R-1飲んどるからね。ただ……やっぱ緊張しとるみたい」

漫「そか」


絹恵「心拍数高めやし、浮ついてる感じする」

漫「うちも、そんな風なってる」

漫「たぶん、ここに居る人達みんなそうなっとるはずや」

絹恵「うん」


漫「ちゃんと実力出せるかとか、悔いの残らんようにとか不安な人」

漫「中には、麻雀打つのが楽しくてしゃーない人も居るかもしれん」

漫「共通して言えんのは、今日限りってことやな」

漫「今まで頑張ってきた成果が、泣いても笑っても今日の日に決まってしまう」


漫「……惜しいなぁ」

絹恵「惜しいって?」

漫「当たり前の事やけど……この夏、この日、この瞬間は、今しかないんやなって思て」

絹恵「漫ちゃん……」


絹恵「今、めっちゃ乙女しとるで」

漫「えっへっへっへ……なんかハズイわぁ!」


絹恵「乙女っちゅうか、青春?」

漫「そりゃあ、思春期真っ盛りのティーンエイジャーやし、青春の一つや二つ謳歌しとるよ」

絹恵「割り合い、ほぼ部活動やけどね」

漫「そ、それも立派な青春や!」


  『まもなく、女子個人戦の本選を開始します。選手は指定された対局室に……』


漫「そんじゃ、おたがい悔いの無いよう」

絹恵「うん。頑張ろな!」

漫「この部屋か」

ザッ

漫(あ、もう誰かおる。あれは……)


数絵「…………」

漫(この人たしか長野代表の、南場に強いとかいう)チラッ

[南]

漫(南浦プロの孫娘。ちゃっかり南家に座っとるし、コイツもアレとおんなじ類いか)

タンッ

[西]

漫(となると、前半で稼ぎたい。少し無茶しても攻めていかな)

漫(可能なら誰かトバして終わらしたる。爆発した私なら不可能やない)

漫(爆発できれば、やけど……)

数絵「おや」

漫「ん? 誰来たん……あっ」


尭深「…………」

漫(白糸台の渋谷尭深! 場合によっては、こっちがトビかねんやつや)

漫(総合収支よりも早めに切り上げる作戦で。親で和了っても、状況次第で連荘はやめとこ)

尭深(場決め……)

タン

[北]

数絵「!」

漫(げぇっ! よりによってラス親かいな!?)

尭深(……よし)

漫(最悪のパターンやん。この局、絶対に東場で決めたる、で……)ザワ

数絵「あ……」

ゴォォォォ

  「これはこれは、懐かしい顔が揃ってるじぇ」

尭深「…………」ズズッ

漫「あっ……」


優希「真打ちは遅れてやってくるものだじぇ!」ドン

漫(も、もっと最悪のパターンやん……!?)


優希「待たせたな」

タンッ

[東]

優希「起親は誰にも譲れない主義なんだ」

数絵「アナタには……」

優希「ん?」


数絵「アナタには、ずっと後塵を拝してきました」

優希「なーに言ってんだ。直接対決では、こっちが負けを喫してるじょ」

数絵「ふっ、なまじ勝利を味わってしまったものですから……」


数絵「渇きを癒せないんですよ。東風王者となり、高みに登っていくアナタを倒しでもしないと」

優希「……そういうトコロ、隠さないヤツは嫌いじゃないじぇ」


漫「なんや火花バチバチいわしとるけど、私らの事も忘れんとってぇな」

優希「忘れてなんてないじぇ。ただちょっと印象が薄いだけで……」

漫「ひどいな!?」


優希「だって2回戦は不発だったし、準決勝には智葉先輩がいたし」

漫「言わんといて……うちが悪かったわ」

優希「そうだ、白糸台のおねーちゃん、ハオがよろしく言ってたじぇ」

尭深「あ、うん。よろしく言われました」

漫「へぇ、意外な交流やな」

尭深「茶飲み友達なんです。文字通りの」



絹恵(さぁ、初戦を白星でもって勢いつけたいとこやけど)


由暉子(なかなか手ごわい卓に入ってしまったみたい)

小蒔(うぅ、緊張します……。でも落ち着いて、まずは様子を見ましょう)

絹恵(このメンツ相手は、ちょいキツイかも……)


絹恵(いやいや、弱気なったらアカン!)

絹恵(逆に、逆にや、ここで勝ったら後の試合が楽になると考えれば……)

ゾクッ

絹恵「ッ!?」

小蒔「あ……」

由暉子「揃った、ようですね」

ザッ ザッ

絹恵(な、なんやこのプレッシャーは……)

ザッ


玄「…………」ゴゴゴゴ


絹恵(松実玄……)

由暉子(阿知賀のドラゴンロード)

小蒔(す、すごい気迫です……!)

絹恵「えらい気合はいっとんなあ」

玄「はい……なにしろ、この場所に来るのが私の夢でしたから」


玄「去年のインターハイ、私が行きたくても行けなかった場所が、ここにある」

小蒔(……!)ハッ

由暉子(個人でも決勝進出、ということかな)

絹恵(そういや、去年は個人戦出てへんかったな)

玄(あの奇跡ともいえる組み合わせの妙、Bブロック準決勝副将戦……混ざりたかった)


玄(しかし、その思い焦がれた夢の光景が、今、目の前に! 神様がいるのなら感謝したい!)

小蒔(……そうでしたね)


小蒔(なにを様子見などと……私とした事が、あやうく礼を失するところでした)

小蒔(自分だけじゃない。ここに居る誰もが本気で、全身全霊をかけて闘おうとしている)

小蒔(ならば、その熱意に応える私は全力で、いえ……)


小蒔(全力以上であたらせてもらいます!)

ゴッ



初美「さて、そろそろ始まりますよー!」

湧「姫様の最後の戦いですね!」

巴「同時に、私達の最後の仕事とも言えるわね」

霞「最後と言ったら語弊があるけど、役目の一区切り、といったところかしら」

巴「ええ。自分の時には感じられなかったのに、今はとても感慨深いです」

霞「私達はいつも、小蒔ちゃん中心に行動してるから、無理もないわ」

明星「私は、すこしさびしいです。もう姫様と一緒に試合できなくて」

湧「そうだねー」

霞「こればっかりは、生まれた時期が悪かったとしか……」

初音「私、いいこと考えました! 本家に連なる巫女を集めて、麻雀大会なんてどうですか?」

巴「それいいかも」

霞「それなら、団体戦のチームも組めるわ」

湧「ホントですか!?」

明星「また姫様と麻雀できるね」


巴「さ、この話題はひとまずおしまい。今は応援に集中しましょう」

明星「はい」

湧「わかりました」

霞「ローテーションを組むのもこれで最後になるかと思うと」

巴「さみしいですか?」

春「…………」ポリポリ

霞「そうねぇ。そういう感情もあるわ」

初美「ホントに、高校を卒業したあともご苦労様です」


春「っ……?」ポキッ

巴「まぁ、それが六女仙の役目だから」

霞「小蒔ちゃんが活躍できるのなら、全然苦じゃないわ」

巴「そうですね、それで浮かばれます。そういえば、最初は弱い神様から……」


ゴゴゴゴゴ


巴「ん?」

霞「あら?」

泉「ポン」

カシャッ

泉(よし、テンパイ! 待ちも良形や!)

ムロ「リーチ」チャッ

打:五

泉(げ、さすがに早っ。次で引かんと……)


泉(来い!)

チャッ

泉(ちげぇわ……)

ムロ「ツモ。リーチ一発ツモ赤1で2000・4000」パシッ

ツモ:(五)

泉(間に合わんかった。ってか、ウーワン切って赤ウーで和了るとか……えげつねぇな)


ムロ(この卓には、特定の牌をコントロールしたり偏らせたりする人は居ないみたい)

ムロ(おかげで、王牌までよく視える。だから……)


ドッ

ムロ「ツモ。嶺上開花」


ムロ(こういう事もできる)

泉(り、嶺上開花やと……!?)

泉(まるで狙ったかの様な和了やないか)

泉(……いや、事実狙ってたやろうな)

泉(室橋の待ち……オタ風、しかも単騎待ちとか)

泉(明らかに意図してやっとる。それ以外考えられへん)

ムロ(見抜かれたかな? コレが偶然じゃないってこと)


ムロ(ちょうど槓材と、嶺上牌と同種の牌があったからやってみたけど)

ムロ(これが、宮永先輩がいつもしている……)


泉(怜ちゃんは、喰いタンの形も視えるらしい)

泉(今のも、あくまで和了形が嶺上ってだけで、ほいほいカンできるってわけやないハズ)

泉(宮永とはちゃう。なんでもかんでも関連付けるのはイカンな)


ムロ「…………」タン

景子「ポン!」

景子(よっしゃ、ドラゲット!)

ムロ(余るんでしょ? ソレ)

タンッ

ムロ「ロン」

景子「うっ……!?」

泉(今のドラ捨てたん、わざと鳴かせるため? 振り込んだのは偶然?)

ムロ(私の思惑通りだ)


ムロ(相手の手牌もツモも、全てが視える私の考えたイメージのまま進行する)

ムロ(まるで、この場を操っているみたい)

ムロ(ああ……これが)


ムロ(これが、支配するってことか)

優希(ここまでか。東場で決められなかったのは、私が未熟だったからだ)

優希(あとは天におまかせ風まかせだじぇ)

数絵(……生き残った。ここからは私のターン)

数絵(さぁ、反撃開始です……!)

ゴオッ



南一局
親:片岡優希


漫(ヤバイなぁ、全然稼げてへんやないか)

漫(現在2位。でも安心できん点差や。トップ独走の片岡は、南場では動かんから置いといて)

漫(問題はコイツ、南浦数絵……)

尭深(オーラスまで耐えれば……)

数絵(残念ですが、オーラスに辿り着く事はないでしょう。なぜならば)


バシィッ

数絵「ツモ! 2000・3900」

優希「…………」

漫「うぅ……」

数絵「さァ、私の親番」

数絵(私の連荘で決まるから!)


漫(片岡さん、当初の予想通りに動く気あらへん)

漫(そんで渋谷さんも、防御一辺倒)

漫(私も差し込む余裕なんてない。みんな、縮こまったまんまや……)

漫(あれ、この状況……ガチでマズない!?)

ビイイィィィィッ

小蒔「ありがとうございました」オ オ オ オ オ


由暉子「ありがとうございました」ペコリ

由暉子(結果は、神代さんの圧勝……)


由暉子(なんとか2位につける事ができた。けれど、得たものはわずかな勝ち点)

由暉子(左手も使ってしまった……)

由暉子(本当にこれで良かったんだろうか)

由暉子「ふぅ……」


由暉子(……でも、とてもいい試合だった)

由暉子(あんなに強い人と戦えて、後の事も忘れて、無我夢中になって)


由暉子(こんなに熱中した試合は去年以来かな? 今年では1番な気がする)

由暉子(捨て試合にしないで立ち向かったから、結果はどうあれ、こんなにも充実感にあふれてる)

由暉子(後悔はしない)


由暉子(これから先、また私は自信を持って麻雀を打てる)

由暉子(けど、そう思うのは……)


絹恵「くっ……」

玄「はふぅ……」


由暉子(そう思えるのは、私がまだ2年生だからなのかな)

ムロ「1本場です」チャッ

泉(ごっついなぁ……)


泉(ツモが視えるっちゅうのは、かなりのアドバンテージやんな)

泉(普通やったら、確定と不確定の間で足掻いとるところ。シュレーディンガーのなんとやらって)

泉(異能なんて持っとらん私からしたら月とスッポン、雲泥の差や。けど……)


泉(私には武器がある)


泉(ごく普通の、特別な才能の無い人間が編み出した武器がある)

泉(不確定を確定にする事はできん。でもその境界線に迫る事はできる)

ムロ(この局でも和了れるルートだといいな)


ムロ(無理そうなら鳴いて変更。相手に鳴かせるのは、まだちょっと不安だけど)

タン

泉(理論的に、より高い確率の選択肢を選んで、極力ミスを減らす)

タン

泉(ずっとやってきたことや。それも……)

ムロ(このペースだと、今のツモ筋でよさそう。誰も鳴けそうにない牌姿して――)

泉(時と場合で使いようやけどな)

タン

ムロ(えっ)

景子「ポン!」

カシャッ

景子(要所キター! 今度は余剰牌に気を付けてっと)

ムロ(なんで、二条さんそれ捨てて……良形狙える一向聴だったのに、なんで?)

泉(どうやら効果はバツグンみたいやな)


ムロ(あ、いや、それよりもルート上に和了牌は……無い。なら、この面子を崩して再構築……)

タン

那都「ポン」

ムロ「ッ……!」

ムロ(またルート変更だって? くっ、一度ズレたらこうも次々と……)

泉(自分で牌を集められへんのが不幸中の幸いや)


泉(あのタイプは、こっちも牌に干渉せなアカンからな。無理や。対抗できん)

泉(そこいくと室橋も、私らと同じく何らかのアクションを起こさんとズラしたりできひん)

泉(どこまで視えとるんか知らんけど、他家の動きに完全に依存して計算しとるはず)

泉(あんまりにもお行儀のいいデジタルしとったから、無警戒やったろ)


泉(甘く見たな)

ムロ(まったく想定外……マズイ、このままじゃ)


泉(フェイントは大成功。そんでこの先のツモは)チラ

ムロ「うぅ……」

泉(このまま道なりに真っ直ぐ、やな)

ムロ(完全に後手……隙を突かれたからって、我ながらこうも脆いなんて)

泉(これ正直、結果的に上手くハマったパターンや)

泉(セオリー外の行動して、次もまた成功する保障なんかわからんし)

泉(今みたいな打ち方は、なんちゅうか……特別な才能に対する私なりの反抗心)


泉(ってか、ただのいやがらせ?)

バシィッ

泉「ツモ!」


ムロ(こんな打ち方をする人がいるんだ……)

泉(まぁ、私かてNPCなんかやない。生きとるひとりの人間ってことや)


ムロ「…………」

泉「フッ、予想外やったろ?」

ムロ「…………」

泉「異能の無い打ち手は、敵じゃないって思っとるやろうけど」

ムロ「……敵じゃない? まさか」


ムロ「全員です……」

泉「へ?」ゾクッ


ムロ「全員……敵ですから」

漫「ポン!」カシャッ

/白白白

数絵(役牌……!)

漫(速攻で和了ったる!)ボッ


漫「チー!」カシャッ

漫(速度……今は速度が最重要事項)ヂヂッ

漫(火力を速度に変換。爆発力を全部スピードに回す!)


数絵「ロン」


漫「っ!?」

漫(そんなぁ)

数絵(今のはさすがの私も焦りました)

数絵(安目でも和了優先で正解でしたね)

漫(追いつけん……)


漫(これで追いつけんとか、もう無理なんかな……)

漫(って……なに弱気になっとんねん。メゲたらアカン!)

漫(爆発がちぃちゃかっただけや。自分を信じろ)

数絵「2本場です」チャッ


尭深「…………」

タン

漫(そういや、渋谷さんのオーラスの配牌、この局で計12個目か)

漫(狙いは大三元。あ、いや、ここでまた連荘されたら、親での天和確定……)

漫(……ゲームオーバー)

優希(南場では動かない)

優希(それが、東風王者としてのプライド)

優希(自分のテリトリーにて決着する事で保ってきた誇りは、果たして)

優希(……本当に、それでいいのか?)


漫(オーラスの事は考えんとこ。今はとにかく、連荘止めんことには話しにならん)

優希(このまま、削られていくのを黙って眺めているばかりで)

漫(まだ足りん。火力も、速度も……)

優希(目の前に、がむしゃらに打ってるやつがいる。それを見せられると……)


数絵「リーチ」

チャッ

優希「ポン」カシャ

数絵(一発消しですか)


優希(盛者必衰には、まだ早いじぇ……!)

漫(えっ動いた……? ほんなら)


優希「ポン」

数絵(え……)

漫「それポン!」

漫(この状況を打破できるかも。上家にはツモらせへん)

数絵(まさか、攻めてきている? 南場で?)

優希(いまさら気づいても、一歩遅かったな)

チャッ

優希「ツモ!」バシッ


優希「そう簡単にトップは譲れないじぇ!」

数絵(な……)

数絵「なん……ですって……」

数絵(防御に徹するはずなんじゃ……?)


優希「動かないつもりだったじぇ。でも、ヘタに意地張って獲物を逃がすのもな」

優希「澄ました顔で打つよりも、必死こいて勝ちに喰らいつく方が私らしいって、気が付いたんだじぇ」

数絵「はぁ」

優希「これからは東場以外でもガンガン攻めてくんで、ヨロシク!」



南三局
親:上重漫


漫(親番……後ろには役満が控えとる)

数絵(親が流れてしまっても、南場は南場)

尭深(あと一局。次で……)

数絵(瀕死の相手にトドメを刺すのは容易です)


漫(ここで勝ち続けるしかない)バチッ

漫(背水の陣やな。こうなると火力、速度、どっちかやない……どっちもや!)ヂヂヂ

漫(どっちも全力全開! 最高MAXや!!)ボボッ

チャッ

漫(三色狙える手ぇやな)

一(五)七八九⑦⑧⑨⑨7999

漫(赤ドラを有効活用したいとこやけど)

優希「ポン」

/888 カシャッ

漫(うわっ、八索とられた……残り1枚)

漫(リーチのみで我慢しとこか)

チャッ

ツモ:9

漫(……いや、ちゃうやろ)

打:(五) タン


優希「ポン」

カシャッ

尭深(ツモれない……)

数絵(宣言通り、攻めてきますね)


漫(来い……)

打:7 バシ
 打:⑦ バシ
  打:⑧ バシ
   打:七 バシッ

漫(来いッ!)

ツモ:① ダン
 ツモ:⑨ ダン
  ツモ:一 ダン
   ツモ:① ダンッ

一一八九①①⑨⑨⑨9999 ドンッ

漫(まだや……!)バチチッ

漫「ポン!」

/一一一 カシャッ

漫(もうちょい……!)

数絵(一萬ポン。トイトイ狙い? ホンイツではなさそうですが)

優希(あ、ちょっとイヤーなカンジが……)ブルッ

チャッ

ツモ:①

漫「ッ……!」ゾクゾクッ


漫「カン!」

バン

優希(暗槓……?)

数絵(ドラを増やす気ですか)

/9999 カシャッ

ドッ

ツモ:⑨

漫「もいっこカンや!!」

/⑨⑨⑨⑨ ガシャッ


尭深「うわ」

数絵(連槓!?)

チャッ

漫「ッ!」ボボッ


ドンッ

九九①①/一一一/⑨⑨⑨⑨/9999

ツモ:九


漫「ツモ!」


漫「……清老頭。16000オールです!」

数絵「あ……」

尭深「役満……」

優希「マジか」

漫「マジです」


ビイイィィィィッ

今日はここまで

スズちゃん大爆発の巻

こんばんわ

立絵のAブロックキャラは新鮮でいいですね
姫子の小悪魔JKっぷりがハンパねぇ
団体戦と個人戦の間に1日空くそうです。滞在費やっべー

投下します。決勝戦の始まり。ちょー短いです

インターハイ最終日(13日目)
決勝戦出場者用控室前


京太郎「よし、出陣だ!」

ムロ「はい!」


まこ「さっきまでうなだれとったのに、すっかり元気みたいじゃのう」

煌「すばらです!」

トシ「悔いの残らないように、頑張りなさい」

ムロ「どこまでやれるかわかりません……でも、自分の限界までは絶対いこうと思います」

優希「そしたら、咲ちゃんだってきっと倒せるじぇ!」

ムロ「だといいですけど」


ミカ「ムロすごいね」

ムロ「ううん、これからだよ」

ミカ「そう言えるのがすごいよ」

ムロ「もっとすごいのが近くにいるから」

ミカ「大変だね」

ムロ「本当にね」


煌「では、私達も行きましょう……もう席は残ってないと思いますが」

ミカ「立ち見かぁ」

京太郎「すみません。この部屋、関係者以外は入っちゃダメなんで」

優希「まったく。そういうとこ融通きかないじぇ」

決勝戦専用特別対局室


咲「こうしてると思い出すよ。去年の、団体戦のこと」

淡「そうだねぇ。まだ咲が白糸台の制服じゃなかった頃」

穏乃「たしか席順もこの通りでしたね」

咲「うん。同じだから、またここに戻ってきたって感じする」


穏乃「去年の私は、この場所に来るだけで満足してしまったところがあったけど」

穏乃「でも今年は、それだけじゃ終われません」

穏乃「団体戦の無念を晴らすためにも、優勝トロフィーは阿知賀に飾らせてもらいます」


淡「送料は高くつくよ? 25000点いただきます」

穏乃「大丈夫ですよ。テイクアウトして、そのまま持ち帰りますから」



関係者専用観戦室


恒子『高校生1万人の頂点、栄光を勝ち獲るのは一体誰なのか!? いよいよ決勝戦が始まるぞー!』ガタタッ

健夜『ちょっ……マイク持って振り回すとノイズ入っちゃうよ?』


えり「実況、やりたかったですね」

咏「うぇー。決勝戦とか、予選と違って別格に大変じゃね?」

えり「わかってますよ。でもそのぶん、やりがいだってあるじゃないですか」

咏「さすがに決勝だと、わかんねーなんて言えないしなー」

えり「じゃあ言わないでください。っていうか、わかってるなら普段でも気を付けてくださいよ」


みさき「わからない、と言えるだけマシじゃないですか」

えり「あら、アナタ達」

咏「おっ、野依さん達も観戦組?」

理沙「そう!」

みさき「基本、短いセンテンスでしか喋らないこの人に比べたら」

理沙「うっ……」

咏「あっはっは、こりゃお呼ばれされないワケだよ私ら!」

えり「他人事みたいに……笑ってる場合じゃないですよ、まったく」


みさき「最初の頃は、フォローいれるの大変だったんですから。今はもう慣れましたけど」

理沙「あ、ありがと!」

咏「へぇ、今は以心伝心って感じだねぃ」

えり「いいですね。こっちは今でもなに考えてるんだか、わからない事ばっかりで……」

咏「ねぇ、えりちゃん」

えり「はい?」


咏「フフン」

えり「なんですか、三尋木プロ」

咏「フーン」

えり「だから、一体……」

咏「当ててみてよ、何考えてるのか」

えり「ハァ……どうせろくでもない事でしょう。せんべい食べたいとか」

みさき「何故せんべい」


咏「おおっ、正解」

えり「え、ホントに?」

理沙「私も食べたい!」

みさき「ところで、決勝戦の実況ってこの局だけでしたっけ?」

咏「ネットでライブカメラ中継してんじゃなかったっけ? 知らんけど」

えり「それは映像のみの配信ですね。テレビ放送は独占じゃないので……ええと、ホラ」ピッ


咏「ああ、このチャンネルか。こっちは落ち着いてるねぃ」

理沙「粛々」

えり「こちらの方が緊張感があって好ましいですけど」

みさき「単に、あちらが騒がしすぎなのでは?」

咏「ふぅん」ピッ


恒子『インターハイの歴史が変わる瞬間を見逃すな! トイレは今のうちに行って来ーい!』

健夜『またスポンサーに怒られるような事を……!』


咏「荒ぶってるね!」

えり「……盛り上げるという点では適任なんでしょう。ええ、そう思う事にします」


ザッ

ムロ「おや、ずいぶんと和やかな雰囲気ですね?」

穏乃「室橋さん」

咲「来たね」

淡「私くらいになると、決勝戦くらいじゃ動じないの」


淡「踏んでる場数が違うからね!」

ムロ「さすがです」

咲「ムロちゃんは緊張してない?」

ムロ「さっきまでガタガタ言ってましたけど、今はもう平常です」

ムロ「腹を括りました。ここまできたら、やるしかないって」

咲「うん。緊張して、いつも通りの実力を発揮できなかったら残念だもんね」

穏乃「その様子だと、大丈夫みたいだね」

淡「覚悟決めたんならソレ、めくりなよ」

ムロ「おっと、そうでした」

タン

【北】


淡「じゃ、はじめよっか」

ムロ「はい」

穏乃「負けませんよ」

咲「それでは……よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」

ビイイィィィィッ


恒子『最強の高校生を決める、運命の半荘が今、はぁじまったァーッ!!』

健夜『起親は大星淡選手、白糸台高校。春季大会では個人1位です』

恒子『さぁ、夢の春夏2連覇となるのか!?』



インターハイ 女子個人戦 決勝
東一局 親:大星淡


ギャギャギャ ドッ

淡「リーチ!」チャッ

ムロ(初手ダブリーが来るのはわかっていた)

恒子『出たぁー! 大星選手のダブルリーチ!』

恒子『決勝戦のしょっぱな、しかも親番でのダブリー!』

健夜『役はそれだけですが、大星選手の場合、結果的に跳満に仕上がるケースが多いですね』


ムロ(王牌は宮永先輩と大星さんの支配領域だから、今回も視えない)

ムロ(さらに山の中ほど、中盤からそれ以上が……これは)

穏乃「…………」

ムロ(高鴨さんの能力によるものだ)


ムロ(それでも、本選で対局した時より視えなくなってると思ってたけど)

淡「フッ……」

咲「…………」

ムロ(宮永先輩と大星さんの支配とで、せめぎあってるんだ)

ムロ(試合が進むにつれて、段々と手前に侵攻してくるはず)

ムロ(はぁ……配牌五向聴はキツイ。けど、ちょっとでも良い手になるよう、がんばるぞ!)


咲(決勝戦。この、たった半荘で全てが決まる)

咲(この場所に清澄の生徒がやってきた事で、まるで問われてるような気がする)

咲(……私が決めた選択)

咲(穏乃ちゃんは、トロフィーを持って帰ると言ったけど……)


咲(それは、もともと私のなんだ)


咲(清澄においてきたものの一つ)

咲(返してもらうよ)

ムロ「…………」チャッ

タン


咲「カン」


ムロ「えっ」

ムロ(……大明槓?)ゾワ

咲「…………」

カシャッ


ムロ(なに、を……まさか……)


咲(きっと本人も気づいてなかったんだろう)

咲(ムロちゃんの危険牌を察知する能力、その抜け道)

咲(ソレは、確かに私の当たり牌じゃない。でも)

咲(その牌は、私の和了に繋がる牌……!)


ドッ

咲「ツモ」


ムロ「……あ」

咲「嶺上開花」


オオォォォォン

今日はここまで

やっとミカ出せました
もちろん新道寺女子高校1年です
もともと長野でマホと一緒にお留守番の設定だったのですが
新道寺目指して勉強中とかいう原作設定が出てきたからタイミング逃してました
でも冷静に考えてみれば、いくら強豪校でもレギュラーじゃない1年を福岡から応援よこすかなぁ?
お嬢様校なんでしょうね、きっと

こんばんわ

今週の咲は新キャラ盛りだくさんで、すばらなエピソードでした
そんな中でもムロの出番とセリフがあったのが嬉しかったです

投下します

ムロ「勝てる気しないです……」

まこ「なんじゃと?」



1時間前
決勝戦進出者用控室


トシ「ずいぶんと弱気じゃない。決勝まで来れたっていうのに」

ムロ「それは……」

まこ「そうじゃよ。ちゃんと特訓の成果も出とるけぇ」

ムロ「だって」


ムロ「……怖いんです」

トシ「なにがだい?」

ムロ「決勝戦の相手」

京太郎「淡、穏乃、それに咲か」

ムロ「私には、大星さんのダブリーも、宮永先輩の嶺上開花も止められません」

まこ「そりゃあ……」


ムロ「それに高鴨さん……いつも視えてる山の奥が、視えないんです」

ムロ「試合が進むにつれて、だんだん視えない範囲が広がっていって」

京太郎「ムロ」

ムロ「きっと、最後には……」

ギュッ

ムロ「あっ」

京太郎「ちょっと、悪い方に連想ゲームやめろ。今は休め」

ムロ「……はい」

トシ「そうね、試合が始まるまで1時間ほどあるし」

まこ「すこし、横になったらええ」

京太郎「ずっと打ちっぱなしで疲れたろ?」

ムロ「そうですね……あ」


京太郎「どうした?」

ムロ「いや……先輩の時と、立場逆だなって思って」

京太郎「逆って?」

ムロ「決勝戦前の先輩、フラフラだったの思い出しました」


ムロ「あの時は、すごく心配したんですよ?」

京太郎「ああ、うん、ゴメン。あんま覚えてないけど」

ムロ「本当に、ひどかったんですから……」

京太郎「心配かけてゴメンな。でも、無我夢中だったんだよ」

ムロ「正直、見てられないくらい。とても疲れてて、話しかけても上の空で」


ムロ「なんで、あんなになるまで……」

京太郎「だってそりゃ、見てる人達がいて、その人達にだらしないとこなんて見せらんないさ」

ムロ「……あぁ、そっか」


ムロ(負けるのは怖い。負けたら悔しいし、恥ずかしいし、ヘコむ)

ムロ(自分だけならきっと耐えられない、けど、そこに自分以外の人がいてくれたら……)

ムロ「……先輩」

京太郎「ん?」

ムロ(すぐ近く、限界を超えてボロボロになるまでがんばってる人がいた)

ムロ(あの姿を見て、何も思わないわけがない)


ムロ「しょうがないなぁ……私も、がんばらなきゃ」

ムロ「ひとつ、お願いしていいですか?」

京太郎「なんだ?」

ムロ「試合が終わって戻ったら、いっぱい褒めてください」


ムロ「結果がどんなものであっても」

京太郎「ああ、いいぞ」

ムロ「ありがとうございます。私、それで安心できます」

京太郎「その代わりと言ってはなんだけど」

ムロ「なんだけど?」


京太郎「今日、ムロは十分がんばった」

ムロ「はい」

京太郎「だから、決勝戦は十二分にがんばれよ!」

ムロ「はい。ふふ、先輩に言われちゃあしょうがないです」


ムロ「それじゃ、いっぱいパワー溜めないとですね」ポフッ

京太郎「おっとと」

ムロ「充電充電~」

まこ「あのう……盛り上がっとるとこ申し訳ないんじゃが」

ムロ「?」

まこ「お客さん来とるけぇ」

ムロ「えっ」


優希「ゴホンゴホン。あー、お邪魔だったかな?」

煌「すばらくないタイミングで来てしまったようですね」

ミカ「ム、ムロったら……」

ムロ「おああああ」プルプル

煌「なにはともあれ……決勝進出、すばらです!」

ミカ「おめでとう、ムロ!」

ムロ「ありがとうございます。ミカ居たんだ」

ミカ「居たよ!」

ムロ「新道寺の制服、似合ってるよ」

ミカ「ホント? うれしいな」


優希「差し入れ、持ってきたじぇ。本当は自分用に作ってきたんだけど、必要なくなったから」

ムロ「優希先輩……ありがたくいただきます」

優希「うむ。最終決戦用スペシャルタコス、ご賞味あれ!」

ムロ「そういえば、晩ごはんにいい時間ですね。意識したらお腹空いてきた」グゥゥ

まこ「茶でも入れるかの。ここ一番にハンガーノックなんざ、シャレにならんけぇ」



京太郎「どうぞ。粗茶ですが」

ミカ「ありがとうございます」

煌「わざわざ持ってきてくださって、すみません」

優希「ムロはどうしてる?」


京太郎「先生達とミーティングしてる。やっと調子出てきたみたいでよかった」

煌「ムロ、元気なかったんですか?」

京太郎「ええ、ちょっと。決勝戦のメンツ見て、不安がってまして」

ミカ「ああ……あの相手ですからね」

煌「逆に考えるとスゴイことですよ、これは!」

京太郎「はい。もっと自信持っていいと思います」

ブルルル

ムロ「ん?」

ブルルル

ムロ「電話……マホからだ」


ムロ「すみません、いいですか?」

まこ「おう」

トシ「かまわないよ」

ムロ「じゃ、ちょっと失礼します……はーい、もしもし?」


マホ『もしもし! すごいです! 決勝戦です! マホ感動です! すっごい興奮してもう心臓ドッキドキです! もしもし! もしもし!?』

ムロ「うぉ、ちょ、ま、うるさ」キーン


マホ『ハァ、ハァ……すみません。なんか脳から出てました……』

ムロ「なにが出たんだ」

マホ『と、とにかくですね、決勝戦進出おめでとうございます!』

ムロ「うん。ありがとう、マホ」


ムロ「ちょうどさっき、花田先輩と優希先輩とミカが応援に来てくれたんだ。今もいるけど」

マホ『うわぁ、高遠原中学の時の麻雀部が大集結ですね!』

ムロ「和先輩はいないけどね」

マホ『決勝戦には阿知賀の人もいますし。でもきっと、心の中では応援してると思います!』

ムロ「そうだといいなぁ」


マホ『マホの先輩はみんな凄い人ばかりで、マホの自慢です』

ムロ「それ私も入ってたりする?」

マホ『もちろんです! でも、ちょっとさみしい気もします』

ムロ「ん? どうしたの?」

マホ『みなさんインターハイとかで活躍してるのに、マホだけそういうの無いです』

マホ『だから、遠いところに行っちゃったみたいで……』

ムロ「そっか……マホもか」

マホ『え?』


ムロ「私も、そんな気持ちあったよ」

マホ『そうだったんですか?』

ムロ「うん。あったっていうか、今もある」

ムロ「自分よりも、すごい人が近くにいるからどうしても比べちゃって」

マホ『あはは、ですよねぇ』


ムロ「先輩達はもちろんだけど、実は、マホの事も羨ましかったんだ」

マホ『ええっ? なんでですかー!?』


ムロ「マホはいつもチョンボばかりしてて、優希先輩には永遠の初心者なんて言われちゃうけど」

マホ『はうぅ……』

ムロ「本当は、すごい力を持ってる」

マホ『あ、あれは人の真似で……1日1回しかできないし……』

ムロ「それでも、私は羨ましかった」

ムロ「ねえ、ちょっとだけ話、聞いてくれる?」

マホ『はい』


ムロ「特別な能力がなにも無かった私は、そのまま高校生になったよ」

ムロ「なんの準備もできないまま時間が来て、先輩達と同じ舞台に立たされて」

ムロ「先輩達の居ない部室で……すごく悩んだ」

ムロ「このまま、何も成し遂げないで終わるのかなって」

マホ『で、でも、危険牌とか和了形とか視えるようになったじゃないですか!』

ムロ「うん。そうなんだけど、実は」


ムロ「私の能力はね……紛い物なんだ」

マホ『え? それって、どういう事ですか?』


ムロ「私も詳しくは分からないんだけど、どうやら本来の能力とは違うみたい」

ムロ「しかも、時間も無いようでさ。困ったよ」

マホ『時間が無いって?』

ムロ「能力が消えかかってる。今は集中すれば保てるから決勝戦は大丈夫だろうけど」


ムロ「きっと、この大会が終わったら……もう」

マホ『そんなぁ……』

ムロ「だから、これから最後の――」

マホ『ダメです……!』

ムロ「えっ」

マホ『最後なんて言っちゃダメです!』

ムロ「でも」


マホ『優希先輩が言ってました。インターハイで会おうって』

マホ『マホ、来年インターハイで全国行きます。だから、一緒に行きましょう!』


ムロ「マホ……」

マホ『絶対に行きますから、絶対に来てください!』

ムロ「それ……」

マホ『待ってます。だから……』


ムロ「それって、私のセリフじゃない?」

マホ『へ?』

ムロ「へ? じゃないよ。私、来てる、マホが、来い」

マホ『あ』

ムロ「ぷっ、くふふ、あははは」

マホ『あうぅ……マホ、フライングしちゃいました』


ムロ「ふふ……ごめんね。本当は私が言うような事なのに」

ムロ「そうだね、ここじゃ終わらない」

ムロ「来年もこの場所に来よう。その時は一緒に、ね」

マホ『……はい!』 



ムロ(先生や先輩、中学の時の仲間、そして後輩に見送られて、私はここに来た)

ムロ(誰が相手でも、全力を出し切ってやろうって思って臨んだ。それが……)


咲「ツモ、嶺上開花。8000です」

ムロ(それが、このザマか……!)


ワアァァァァ

恒子『宮永選手の代名詞、嶺上開花が東一局から炸裂!!』

恒子『大明槓からの嶺上ツモは責任払いとなり、室橋選手一人の放銃となります! みんな知ってるね』


京太郎「マジかよ……」

まこ「どうやら、直接の危険牌しか見えんらしいのう」

トシ「嶺上開花のような、あいだに手順を挟んだものには対応できなかった」

京太郎「それが、ムロの弱点……じゃあ、咲は」

まこ「知っとったんじゃろ……本選で対局した時に。じゃが、そん時は見逃した」

トシ「決勝戦にムロが来た場合に備えて、手札を増やしていたのね」



優希「咲ちゃん容赦ないじぇ」

煌「いきなり大ピンチ!?」

ミカ「ムロ……大丈夫かな」

オオォォォォン

淡(なんだろ、スッゴイ嫌な感じする……)

咲(うわわ……)

穏乃(通常であれば、とても便利な能力なんだろうけど)

穏乃(道を誤ると、恐ろしい顔をみせてくる。まるで……)

ムロ(久しぶりだね……できれば会いたくなかったんだけど)

ムロ(ホント、後にしてくれないかなぁ。今は、この人達の相手で精一杯なんだよ……)



東二局
親:高鴨穏乃


ムロ「ぁ……は……」

ムロ(呼吸が、吐く息が弱くなる……それはダメだ)

ムロ「すうぅぅ、はあぁぁ」

ムロ(せめて、脳に酸素は送らなきゃ)

オオォォォォン

ムロ(切り替えろ……!)


淡(なんか勝手にトラブってるみたいだけど)

ギャギャギャ ドッ

淡「リーチ!」


淡(私にはカンケーないね! ってゆうか、さっきのリー棒返してほしいんですけど!)

ムロ(ヤバイな……これは、私が大星さんに12000振り込むパターン)

ムロ(だからってヤケになるもんか。なんとか回避して……できれば和了る!)

ムロ(あと、生牌には気を付けよう)

淡「カン!」

カシャ

ムロ(新ドラ乗った! でも、色気だすような場面じゃない)チャッ

ムロ(おさえろ……今は、振り込まない事だけ考えるんだ)

タン

淡(! それ当たってる。当たってるよォ)



純「マズ……!」

智紀「あぁ」

衣「この状態のヒロコはよく振り込む」

透華「これで、ますます点差が……あら?」


淡(でーもー)


恒子『おーっと、大星選手これをスルー! 一体どういうつもりだー!?』

健夜『他の選手と差をつけるために、ツモ和了を狙うんでしょうね』


チャッ

淡(コレコレ、コレだよ……!)

淡「ツモ! 3000・6000!」


恒子『カン裏モロ乗り跳満ツモ! 大星選手がトップに躍り出たー!』

ワアアァァァァ


ムロ(あれ、私の捨てた牌でも……そうだ、やっぱり)

ムロ(自分では気を付けてたつもりだけど、見逃されてたんだ)

ムロ(結局、ムダな努力だったのか……)

東三局
親:宮永咲


咲(逆転されちゃったけど、まだまだ東三局)

咲(警戒レベルも上がってるだろうし、これからはそうそう振り込まないよね)

咲(親番だ……依然として、攻めていくしかない)


ムロ(ふぅ、やっと元通りに……って)

ムロ(5巡目くらいまでしか確認できなくなってる)


ムロ(もう山のほとんどが視えない……霧が深くなったような、そんな感じだ)

穏乃「…………」ボボッ

ムロ(所詮は急造品、メッキ剥がれるのも早かったな)


淡(チッ……)

タン

ムロ(ダブリーじゃない)

咲(効果速い。穏乃ちゃん、本選の後もずっと打ってたのかな)

ムロ(五向聴じゃなくなってる)

咲(もし、カンできなくなったら……その時はその時。普通の麻雀で勝負だよ)


淡「リーチ!」

ドッ

ムロ(速い……それでもなおアドバンテージの差は、多少の事では覆らないか)

咲(できなくなるまで、もうちょっと稼がせてもらわなきゃ)チャッ タン

咲(そのためには、早く揃えないと)チラ

ムロ(あっ!)

ムロ「チー!」

咲「!?」

カシャ

ムロ(いま一瞬、視線が山に移った。槓材を確認したんだ)



久「よしよし、よく見てたわ!」

美穂子「久のアドバイスのおかげね」

ゆみ「まったく、敵に回すと恐ろしいタイプだな」

   「っすね」


ムロ(ツモ筋がズレて、宮永先輩の手は遅れたはず)

ムロ(こんな事しかできないけど……いや)

咲(やられた……挽回は、できる? 間に合う? 淡ちゃんは?)

ムロ(こんな事でいい)


淡「ツモ。2000・4000」

咲「うぅ……」



東四局
親:室橋裕子


ムロ(自分の限界まで行くって決めたんだ)

ムロ(ムダな努力でもいい。自分にできる事、全てを出し尽くす)

ムロ(山は……何も視えない。きっと和了形も判別できなくなってる)

ムロ(それでもできる事は……)

恒子『トップは大星選手、2連続和了で独走状態!』

恒子『決勝戦も折り返し、東場最後の局となりました!』


咲(槓材が集まりにくくなってる……焦っちゃうな)

咲(で、前局そこを突かれちゃったわけか。反省)

淡(まーたテンパイできない……)

淡(さっきのは、室橋がツモをズラしたけど、じゃなかったらサキの和了だった)

淡(スピードで追いつかれてきてる)

チャッ

淡(でも、まだまだイケる!)


淡「カン!」バン

淡(火力でも突き放す!)

淡「リーチ!」ドッ

ムロ(私にできる事……それは)ピクッ


ムロ「とおらば、リーチ」ドッ

淡(追っかけてきた!?)


恒子『最下位の室橋選手、起死回生の追っかけリーチ!』

恒子『このチャンスをモノにしたいところです!』

健夜『そういえば去年、似たようなタイプの選手がいましたね』

健夜『まるで、1巡先がわかっているような打ち筋で、リーチを掛ける時は……』

淡(コイツがリーチする時って、高確率で一発付くんだよね)タン

淡(リーチも暗槓も、手札は全部切っちゃった。ほかに誰か、鳴く人いないの?)


穏乃(鳴けない)タン

咲(いまカンしちゃうと役無しになっちゃう。それに)

咲(ドラ追加のリスクを考えると……)

タン

咲(お願い、誰か……)


ムロ(よかった。自分を信じて)


ムロ「ツモ」バシィッ

ムロ「リーチ一発ツモドラドラ。4000オールです」


ワアアァァァァ

恒子『決まったァ! 直立したリー棒が高らかに、予告したかのような一発ツモ!』

恒子『室橋選手、原点まで持ち直しました!』


ムロ(直感は生きてる。どうやら、山の支配には影響されないらしい)

京太郎「よっしゃあ!」

トシ「ふむ。おそらく、アレは流れの一種のようだね」

まこ「これも特訓の成果じゃけぇ、惜しまずどんどん披露しちゃれ!」


ムロ(努力は嘘をつかないって、誰かが言ってたけど)

ムロ(結果、それが紛い物であったとしても……)


バンッ

ムロ「1本場」

今日はここまで


あとは決勝戦後半→エピローグの流れでおしまいです

こんばんわ

片手鍋に水とコーヒー粉と砂糖とシナモンパウダーを投入
かき混ぜながら煮る。沸騰する直前に火を止めて茶濾しで濾したら完成
トルココーヒー風に淹れてみたけど、結構イケる
一緒に入れるスパイスを変えたり色々楽しめそう。牛乳で煮たりとかも

では、投下します。決勝戦の続きから

岩手 姉帯臼沢鹿倉小瀬川宅


 『リーチ!』

豊音「わぁ、大星さん5回連続でリーチだよー!」

胡桃「ダブリーじゃなくなってきてるけどね」

塞「それでもカン裏乗って満貫は怖いよ」


白望「ダル……」

塞「こればっかりはシロに同意」

豊音「そこだー! もっかい追っかけろー!」

胡桃「そんなに上手くいくかな?」

塞「ムロちゃん、仕掛ければ一発確定だってさ」

胡桃「私達と練習した時よりも精度上がってるし」

塞「ずいぶん強くなったよね」


塞「でもまさか正直、ここまでくるなんて思ってもなかった」

豊音「ちょーすごいよー」

胡桃「だね」

豊音「でも、残念だな」

白望「?」


豊音「これだったら、あの時サインお願いしとけばよかったよ……」

白望「えぇー」


 『カン』

パリーン

胡桃「いまなんか割れる音しなかった?」

塞「知らなーい聞こえなーい」

咲「カン」


淡(げっ)

カシャ

咲「ツモ。8000点の1本場は8300」ドッ


淡(まくられた……リーチ無警戒すぎたかな?)

ムロ(親流れちゃった。いともやすやすと)

淡「1700バックね」チャラ

咲「はい」

淡「さてと、それじゃあ……」

パチン


淡「南入、しよっか」



観戦室


姫子「ほんに高鴨ば、どげんしたやろか」

姫子「ラスとこれ、おっちらーとしと」

朱里「なんか策のあっとですかね?」

姫子「どうやろか……」


真佑子「大星ー! がんばれー!」

姫子「ん?」

真佑子「ん?」



恒子『さぁ、決勝戦もいよいよ折り返し、南場に突入です!』

健夜『東場を終えて、現在1位は宮永選手で32300点』

健夜『2位は大星選手で29700点。3位、室橋選手は25000点』

健夜『高鴨選手13000点で、いまだ和了がありません』

インターハイ 女子個人戦 決勝
南一局
親:大星淡


ムロ(山の支配が強力になって、上手く戦えなくなってきてるはず)

ムロ(そしたら、彼我戦力差は縮まる)

ムロ(特殊な打ち方ができないなら、デジタルに慣れてる私の方が有利だ……!)



観戦室


絹恵「これでも、あの場所目指して戦ってたんやけどなぁ」

浩子「どしたん」

絹恵「んー、なんちゅうか、見えへんねん。ヴィジョンが」

泉「なんすかヴィジョンて」


絹恵「自分があの場所に立っとるトコとか、自分やったらこう打つとか」

泉「ああ」

絹恵「もしもがリアルに追いつかへん。想像力なさすぎやわ」

漫「あのメンツやしなぁ……なんか作戦とかある?」

浩子「カンする前に和了る」

漫「ないかあ」

浩子「いや、マジメにこれくらいやって!」


漫「末原先輩の超早和了りやったら、なんとか」

泉「室橋に阻止されそうですけどね」

浩子「阿知賀の高鴨はどうなん? データ見ても変わったトコみられへんけど」

泉「うーん……いたって不自然なとこの無い、普通の対局でした」


絹恵「私の時も、特になんもなかったけどなぁ。漫ちゃんは?」

漫「実は……」

漫「実は、高鴨さんと打った時、能力が発動せんかったんよ……これって」

絹恵「…………」

浩子「…………」

泉「…………」

  「「「「どっちや……?」」」」



淡『ロン! 11600!』

咲『……はい』


ワアアァァァァ

真佑子「やったぁ! いいぞ大星ー!」

姫子「ぐぬぬ……」

朱里「つ、鶴田先輩?」

姫子「大星ばっかいリードしてつまらん……」


姫子「宮永でん花田ん後輩でんいいから、アイツ止めろー!」

朱里「うひぃっ!?」ビクッ



控室 六女仙


小蒔「ずずっ……はあ……」

明星「またも大星さんがトップですね」

湧「このまま独走でしょうか?」

初美「宮永咲も清澄の子も、一発の火力が大きいです。まだまだわかりませんよー」


霞「そうねぇ。あら? どうしました姫様、お茶のおかわりですか?」

小蒔「あ、では、いただきます……」

巴「ここから阿知賀の支配がより強大になりますし……あ、これ美味しい」

霞「あら本当? ひとついただこうかしら」

湧「はい、どうぞ」

小蒔「あのぅ、私にも……」

霞「それにしても、さすが決勝戦。レベルが高いわ」


霞「ウチの神様でも苦戦しそうよね。まぁ、もし行けたらの話だけど」

小蒔「う……」

巴「意外と善戦するかもしれませんよ? 正しくローテーションが機能していればの話ですけど」

小蒔「うう……」

明星(根に持ってるなぁ)


小蒔「春、それ、いただかないんですか?」

春「?」ポリポリ

小蒔「その、お茶菓子」

春「食べます」

小蒔「でも黒糖、食べてるじゃないですか」

春「これは、別腹」

小蒔「そんなに食べて、お腹いっぱいになりませんか?」

春「なりません。別腹」ポリポリ

小蒔「はあ……」



淡「1本場!」ダンッ

咲(さっきはリーチを警戒しすぎてダマで討ちとられた……)

咲(というより、リーチしてこない事で警戒がゆるんでたのかも)

咲(よーいドンで走ってたら周回遅れになっちゃう)



南一局 1本場
親:大星淡


淡(そりゃあ、私だってリーチしたいけどさ)

淡(もうまともに打ってたらテンパイするの終盤になっちゃいそうだし)

淡「カン」カシャッ

ムロ(来る?)

タン

咲(……じゃない)

淡(サキの和了を潰しつつ手を進める。見越して第二嶺上牌で待ってたら? 知らないね!)



控室 白糸台高校


誠子「大星、変則で攻めてきてる」

菫「特訓の見せどころだな」

誠子「そうですね」

尭深「あの、お茶はいりました」

菫「ああ、すまない。もう正式に関係者ではないのに、控室に居座ってしまって」

尭深「いえ。私達にとっては大事なゲストですから」

菫「本当はちょっと挨拶でもと、立ち寄っただけなんだが」

誠子「みんな、骨の髄に染みてたんでしょうね」


誠子「先輩が見えるやいなや、廊下にズラっと整列したもんだから」

尭深「警備の人、なにも言ってこなかったね」

誠子「言えないだろう……アレは。どっからみてもコーチか監督。顔パスでオールオッケー」

咲『…………』

タン


菫「どうやら、パターンを変えてきてるのは淡だけじゃないらしい」

尭深「槓子を崩した」

誠子「能力に頼らないで打つ練習をしてきたのは、咲も同じだ」

菫「2人とも、去年はそれで悔しい思いをしてきている」

誠子「はい……だからこそ」


恒子『宮永選手、3位転落して慎重になったのか、門前で構築していきます』

健夜『大星選手が大量リードしているので、高い手が欲しいんでしょう』

恒子『なるほどー。ところで、点差が大きいとはいえトップがカンしたのはなぜでしょうか』

健夜『たんに手を進めたいのかと。ドラも必要無いですし。相手に乗っても怖くないのでは?』


恒子『たしかに、2位とは16300点差ありますけど……』

健夜『ええ、直撃には注意したいところですね』


菫「にしても、変則……か。まるで正攻法にしか見えないがな」

誠子「それだけ普段の打ち筋が特殊ですからね、2人とも」

尭深「咲ちゃん、たまにPCの前で涙目になってる」

誠子「それで、いつもならもっと牌が見えてるのに~とか言うし」

菫「やはり特殊だ……」


淡『…………』タン


誠子「あっ!?」

菫「その変化球、見事に当たったようだぞ」

咲「ロン。7700の1本場は8000」

淡「はい」



ワアアァァァァ

恒子『奪い返すーッ! 直後に取り戻して2位浮上!』

恒子『喰らいつきます! これがチャンピオンの意地!』



控室 阿知賀女子学院


玄「穏乃ちゃん……」

和「これが、最後の親番ですね。ここで連荘できればいいんですけど」

灼「点差あって厳し……」

憧「まさかあの状態のしずに、ここまで対応できるなんてね」


玄「私だったらもうドラも来ないし、まともに打てないくらいなのに……」

灼「それだけ地力が高……」

憧「でも、しずは落ち着いてる」

玄「うん。穏乃ちゃんを信じよう」


恒子『白糸台ダブルエースの殴り合いがヒートアップ! 先に倒れるのはどっちだー!?』


憧「このまま……このままいけば、きっと」

憧(だから、それまでやられたりしないでよ、しず……!)



南二局
親:高鴨穏乃


淡『ツモ! 700・1300!』


玄「ああっ!?」

灼「これマズ……」

恒子『あっさり親を流されてしまいました。トップとの差はさらに広がるばかりです……』

恒子『もう誰も大星選手をとめられないのか? いや、まだわかりません……!』


恒子『決勝戦は残り2局。そして迎えるチャンピオンの親番!』



南三局
親:宮永咲


咲(親の私は、安くても和了を目指す)

咲(それに対して淡ちゃんは、トップはどう動く?)

咲(麻雀は、いかにオリるかのゲームというけれど)

咲(振り込まないように、守りを固める? それとも……)


バンッ

淡「チー!」


淡(トップだろうと攻める。サキよりも早く和了る!)

淡(やるかやられるか、それが麻雀でしょ!)

カシャッ


恒子『依然として、攻めの姿勢を崩さない!』

恒子『後続を突き放すように手を進める、大星淡ー!』


咲(そうだよね。淡ちゃんならそうするよね)

咲(でも、ここで相手のペースには乗ってあげない)


咲(相手が誰だろうと、自分のベストを尽くすだけです!)

咲(……なんて、和ちゃんだったら言うんだろうな)

咲(和ちゃんに教えてもらった技術が、いま生きてる)


淡「ポン!」

カシャッ

淡(よっし、テンパイ!)

タン


ムロ「ロン。5200」

淡「ッ!?」


ムロ(麻雀は4人でするもの。そろそろまぜてもらおうか)


恒子『トップに直撃ーッ!』

恒子『この放銃で3人、横一列に並んだ!』


ミカ「やったぁ!」

煌「おお! これは、もしかすると……」

優希「もしかするかもしれないじぇ! いけー! もいっこブチかましだじぇーっ!」


透華「キレイな和了でしたわ! さすが、原村和の後輩なだけはありますわ!」

一「それとこれ、関係あるのかな」

智紀「さあ?」

純「先輩後輩の関係はオレらよくわかんねぇけど、なんか似てくるもんなんじゃね?」

衣「成程。麻雀を通じて想いが伝う、か」

一「打ち筋とか?」

純「……室橋が東場に強いなんて聞いた事ねぇな。わりぃ、テキトー言ったわ」

智紀「衣、納得しちゃった」

久「ついにオーラス……」

ゆみ「しかも親番だ」

美穂子「点数も、射程内に入ってるわ」

智美「1位の大星は攻めてくるみたいだから、そこを突けば」

  「でも、リンシャンさんも手堅いっすよ?」

ゆみ「ああ、楽観はできない」

美穂子「最後の最後まで気を抜けないわね」

久「ええ……何があるのかわからないのが麻雀だもの」


京太郎「うっわ……オレの方が緊張してきた……」

まこ「ウロウロせんと、落ち着きんさい京太郎」

トシ「そういうまこだって、さっきから髪の毛いじってる指が止まらないわよ?」

まこ「えっ……あー、わしも人のこと言えん」


トシ「とはいえ、大きいタイトルが決まる瞬間ってのは、何度経験してもそわつくねえ」

京太郎「自分の時でもこんなんじゃなかったのに……じれったいなぁ」

まこ「事は画面の向こうじゃ、手出し口出しできんけぇ」

京太郎「見守るしかできないですか……ああ、もどかしい」


トシ「出せるのは声くらいのものだね」

京太郎「そうですね……では」スゥゥ

まこ「ほうじゃの……なら」スゥゥ



控室前廊下


  『ムロォォがんばれえぇぇぇぇ!!』

  『ブチかましたりんさぁぁぁぁい!!』

警備員「!?」ビクッ

恒子『いよいよ、最後の一局が始まろうとしています……』

恒子『最強の高校生が決まる、その瞬間が……』


淡(まだまだ1位キープ。この座は譲れないね!)
30800点

ムロ(追いつめた……あと一歩)
29500点

咲(結果的に点差が縮まったから、良しとしよう)
28000点

穏乃(道のりはまだ遠い)
11700点


恒子『長かったインターハイ。その熱い日々もグランドフィナーレを迎えようとしています』

恒子『全国から集まってきた高校生が、おのれのプライドと青春をかけて戦った13日間』


ムロ(トップとの差は1300点)

ムロ(役満もゴミ手も、この場では同価値。和了れればなんだっていい……!)


恒子『その誰もが頂点を目指し、しかし、辿り着いたのはわずか4名』

恒子『さらに、優勝の栄光を掴むことが許されるのは、たった1人……!』

恒子『何千人、何万人のつわものどもを踏み越えて、乗り越えて……!』

恒子『運命の女神は誰にほほえむのか!? 南四局オーラス、開始です!!』


淡(さぁ、これがラスト!)

咲(負けないよ!)

ムロ(行くぞ、オーラス!)


オ オ オ オ オ

穏乃(……そういえば)

南四局 オーラス
親:室橋裕子


穏乃(子供のころ……よくおじいちゃんと一緒に山に登ってたっけ)

穏乃(吉野の山だけじゃなくて日本中の、いろんな場所につれてってもらって)

穏乃(ただ、おじいちゃんの後ろについてくだけで、楽しかったな)


ムロ(まっすぐに、和了を目指す)

ムロ(高くて重い手は、今はいらない。とにかくスピード!)


穏乃(でもある時、道をはずれて迷っちゃったことがある)

穏乃(細くなる道。誰もいない山。見知らぬ樹。くずれる天気。無くなる道……)

穏乃(いつもと違う感覚。楽しいはずの山登りを、山を……恐いと思った)


淡(鳴けるなら積極的に鳴く)

淡(追いつけないほど加速してやる!)


穏乃(頂上に達した人は言う、『山を征服した』と。でも)

穏乃(……それは、違う)


咲(もう、こういう時にかぎって)

咲(手が進まない……)


オ オ オ オ オ


ムロ(くっ、不要牌ばかりツモる……)

淡(まだリャンシャンテンとか……おっそ)

咲(今のままじゃ、ダメなのかな……?)

恒子『オーラスも、まもなく終盤に差し掛かろうというところですが』

恒子『各選手、依然として伸び悩んでいるようですね』

健夜『そうですね。和了れるのは確率的に、4局に1回と言われていますから』

健夜『最善の一手を打ち続けても、和了れないということはあるでしょう』


淡「ポン」

カシャッ

淡(これでもまだテンパイできないとか……)

淡(速攻スタイルなんて、慣れないことはするべきじゃないの?)


咲「ポン」

カシャッ

咲(これで、追いついたかな?)

咲(……でもちょっと強引だったかもしれない)


ムロ(まったく進んでる気がしないんだけど……)

ムロ(この選択は、デジタル的には正しいはず)

ムロ(といっても、必ずしも和了れるとは限らないし……)


穏乃(道を誤ると恐ろしい顔をみせてくる)

穏乃(それだって、山の姿である事にかわりはない)


ムロ(効率のいい打ち方しても、いつでも和了れるわけじゃない。それはわかってる)

ムロ(その和了れないタイミングが決勝戦で、オーラスだっただけ。それだけ……)

ムロ(私は、正しい選択をしてきた……)


穏乃(空の移ろいを気まぐれとして)

穏乃(辿り着けない不条理を嘆くしかない。そんな)


ムロ(私は……間違ってない……)

穏乃(人が、山を支配するだなんて――)

咲(完全に裏目ってる……焦って鳴いて、ケチついちゃったかな?)

タン

淡(もう、時間無い……)

タン

ムロ(そんなの……ただの言い訳だ)


ムロ(デジタルに忠実になって、自分を正当化してるんだ)

ムロ(それは、私の本質じゃない)

ムロ(ここで追いつかなきゃ……)

タン

ムロ(でも、今さら……私にできる事なんて……)


穏乃(もっと深いところへ)

穏乃(限界を超えて、もっと)


ムロ(ラスヅモ……)

チャッ

ムロ(お願い……)

ムロ「っ……!」



ムロ「…………」

タン


パタン

ムロ「……ノーテン、です」

パタン

咲「ノーテン……」

パタン

淡「ノーテン」


パタン

穏乃「テンパイ」


咲(あれ……?)

淡(これって……)


恒子『こ、これは……高鴨選手以外の3人が、テンパイならず』

恒子『ノーテン罰符で、それぞれ1000点づつの支払いとなり』

恒子『それにより、点数が……』


大星淡……29800
室橋裕子…28500
宮永咲……27000
高鴨穏乃…14700


健夜『インターハイのルールでは、南四局が終わってもトップが30000点未満の場合は……』


ムロ「まさか……」


オ オ オ オ オ


穏乃「それでは西入、しましょうか」

今日はここまで

続きは今月中には書き上げたいです……

ムロ(つらいなぁ……こんなの)

ムロ(どうやっても辿り着けない)


ムロ(延々と、果てしの無い道を歩いているみたいだ……)


パタン

ムロ「ノーテン」


咲「ノーテン」パタン

淡「ノーテン」パタン

穏乃「テンパイ」パタッ



恒子『まったまた流局ーッ!』

恒子『あと一歩が踏み出せない! 決勝戦は西二局流れ2本場へと続きます!』


明星「なかなか和了れませんね」

巴「こうなると、ノーテン罰符も馬鹿にならないね」

初美「これも、阿知賀の子の仕業でしょうか」

巴「おそらく」

霞「まるで、迷子ね」

湧「迷子……ですか?」


霞「なんだか目的地を見失って、さまよっているみたいだわ」

明星「それは、高鴨さんも?」

霞「和了れてないのは同じだけれど……」

小蒔「あの方に、迷いは無いようにみえます」

巴「姫様」


小蒔「テンパイにとどまっているのも、なにか理由があるんだと思います」

巴「和了るでもなく、和了らないでもなく……」

小蒔「是も非もない。そのような境地に居るのでしょう」

霞「なるほどね」

初美「どういうことですかー?」


霞「まあまあ、お茶でもひとつ、どうかしら」

初美「よくわかりませんが、いただきます」

小蒔「私はお茶菓子が欲しいです」

霞「はいはい」

明星(なんだかんだ言って、姫様には甘いんだ)



淡(なんなの、コレ……)

淡(全然、手が進まない。つーか、こんな配牌どうしろって?)

淡(なに目指して組めばいいのか、てんでわかんない……)

タン

淡(チッ……槓子もない、張ってもない牌姿を前に、こんなにアタマ回らないなんて)



咲(最短距離で和了る。この考えが間違ってるんじゃないかと思ってしまった)

咲(すこし遅くなっても、待ちを良くしたり有効牌を増やせば……)

咲(でも回り道してるあいだに、他の誰かに和了られでもしたら、そこでおしまい)

タン

咲(それが怖くて、スピードを落とす勇気を出せずにいる……)


ムロ(ここで止まってなんかいられない)

ムロ(ここで追いつかないと……)

憧「ここからしずの本領発揮ね!」

和「まさか、西入するとは」

玄「はあ、ドキドキしたぁ……首の皮一枚だよ」

灼「おかげで、こうかはばつぐん」

玄「うん。ああなったら、もう誰も和了れない」


玄「ただ目の前の道を歩き続けるしかなくなって、結果どこにも行けないんだ」



穏乃(……いまから4ヶ月前の春。新学期)


穏乃(和が阿知賀に戻ってきて、とっても嬉しかった)

穏乃(欠けてたピースが埋まったような、満たされた気持ちになった)

穏乃(ところが、人間そうなると他の空白に目がうつってしまうもの)

穏乃(まだある足りないトコロ、それは……)


穏乃(……去年の団体決勝戦)


穏乃(阿知賀女子が決勝に行けたこと、それだけでも快挙だ)

穏乃(けれど、やっぱり悔しいものは悔しい)

穏乃(だから今年は、リベンジしてやろうって意気込みで挑んだけど……)


穏乃(全国の壁は、たやすく二度目を許してくれなかった)

穏乃(結局、そこで満足することはできなかったんだ)

穏乃(こころはずっと、満たされないまま……)

穏乃(和が阿知賀に戻ってきて、しばらく経った頃に修得したこの能力)

穏乃(それはきっと、こころの体現)


穏乃(ここから上には、誰も登らせない)

穏乃(私も登る事はない。そのかわり、3人には降下してもらう。ゆっくりとね)


淡「ポン!」

カシャッ

淡(これで3副路。われながらメチャクチャな鳴きしてるし……)

淡(もしも亦野先輩ならコレ、和了れるのかな?)


淡(……なんてね。そもそも亦野先輩じゃあ、こんなトコ来れないでしょ)

淡(いまココに居るのは、他の誰でもない、私なんだ)


咲(まるで、ペンローズの階段だ。上がっているのか下がっているのか)

咲(コースをはずれないと……)



京太郎「イーシャンテン地獄……?」

まこ「じゃが、本人もせいぜいテンパイ止まりじゃ」

トシ「それでも構わない、という事ね」

まこ「つまり、ノーテン罰符でジワジワ削ってくっちゅうわけですか」

京太郎「えげつねェな……」

京太郎「コレを打ち破る方法は……」

まこ「真っ向からぶつかるのはアウトじゃな。現に大星のダブリーすら封じられとるけぇ」

まこ「天江も言うとったろ。得意技ん時は能力が強ぅなるって」

京太郎「咲も、もうカン狙えないみたいですしね」

トシ「二人とも、山の奥が支配領域なのが痛いわ」


京太郎「能力を無効化してからのコレ……二段構えの戦法か」

まこ「咲と大星の能力が弱体化した隙を狙う……ええ作戦と、思っとったんじゃがのう」

トシ「いまさらだね……奥の手を見せられた、いまとなっては……」



咲「ノーテン」

ムロ「ノーテン」

淡「ノーテン」

穏乃「テンパイ」


恒子『またしても流局ーッ!』

恒子『ちなみになんですけど、もしこのまま流局が続いて30000点を越えた場合は……』

健夜『その時点で決着となります。西四局に進んでない場合でも、そこで終了ですね』

恒子『なるほどー。でも最後くらい役満とかブッぱなしてほしいですよねぇ。最終決戦ですし』

健夜『いや、それができたら最初からやってるでしょう……』



尭深「……できるかも」ボソッ

誠子「そりゃまあ、尭深ならやれちゃうかもね」

尭深「あぅ……き、聞こえてたの」


尭深「……でも実際、この卓ではどうだろ?」

菫「白水と鶴姫のコンボでも危ういんじゃないか」

誠子「それほど強力な支配力ってことですか……」

恒子『さぁ、決勝戦はサドンデス。西二局3本場です』

恒子『誰が抜けてもおかしくない状況』

恒子『上位選手はボーダーの3万点から少し遠のきましたが、果たして……』


ムロ(いまさらながら、すごい相手と打ってるなぁ、私)


ムロ(宮永先輩は去年のチャンピオンで、大星さんは春季大会での優勝者)

ムロ(高鴨さんも去年の団体ファイナリスト)

ムロ(そんな人達の中に混じって打ってるなんて、しかも全国大会の決勝戦)

ムロ(よくここまで来れたもんだ)


ムロ(すべては春に……和先輩が清澄を去ってから目覚めた能力のおかげ)

ムロ(降って湧いた幸運だった。コレがなかったら、私はここに居ない)

ムロ(……もうなくなっちゃったけどね)


ムロ(いまここに立っているのは、ありのままの自分)

ムロ(せいぜい県予選レベルの室橋裕子だ)

ムロ(そんな自分が、どうやって立ち向かおうっていうんだ)


ムロ(嶺上使いにダブリー使い。それらをねじ伏せる深山幽谷の化身……)

ムロ(そんな相手に、どうしたらいい?)


ムロ(ずっとずっと、高い場所にいる人達に、ただ見上げるしかない)

ムロ(追いつかなきゃ……)

ムロ(なにも武器を持たない私が、いったいどうすれば……いや)

ムロ(探せ。こんな私にも、なにかあるはずだ)

ムロ(こんな状況でも一巡先の直感は生きていた。なにも無くなったわけじゃない)

ムロ(なにもできないわけじゃない。そういえば……)


ムロ(以前の私って、どんな麻雀してたっけ)

恒子『流局ー! これで4回連続の流局です!』

ワアアァァァァ


優希「うむむ……」

煌「西場に入ってから動きがありませんね」

ミカ「しかも、高鴨さんだけテンパイなんて……」

煌「トバされないのが自慢の私でも、これはお手上げかな」

ミカ「花田先輩でも?」

煌「負けもしないけど勝ちもしない能力ですから」


煌「高鴨さんは似てますけど、その逆ですね」

ミカ「どのへんがですか?」

煌「生かさず殺さず。相手になにもさせないところとか」

ミカ「うぇ、それはそれは……」

優希「……でもまだ生きてる」


優希「生きてるなら、なにかできるはずだじぇ!」



西二局 4本場
親:高鴨穏乃



ムロ(本格的に麻雀に向き合うきっかけは、それこそ和先輩だ)

ムロ(高遠原中学麻雀部。団体戦最低人数の部から輩出されたインターミドルチャンピオン)

ムロ(誕生の瞬間を間近で見ていたのだから、その強さに魅了されるのは当然の事だった)

ムロ(翌年のインターハイでも活躍し、憧れの感情はますます大きくなった)

ムロ(ところが……)


和『実は……私も』

和『……来年、転校する事になりました』


ムロ(取り残されたような気分だった)

ムロ(秋には優希先輩に、臨海女子からスカウトが来た)


優希『私にはやるべき事があるからな。後ろ振り向く暇なんて無いんだじぇ!』


ムロ(まもなく、東風フリースタイルでチャンピオンとなった)

ムロ(先輩もインターハイ準優勝して、遠くにいってしまった感がある)

ムロ(また私だけ、なにもできずに……)


ドクン

ムロ(置いてかれるのかな……)


ムロ(うぅ……悪い癖だ。またプレッシャー感じてる)

ムロ(地区予選……いやもっと前からだ。身内以外の人と打つと、余計に緊張しちゃう……)

ムロ(染谷部長に言われたっけ。緊張感を楽しめって)

ムロ(あと、気負い過ぎると潰れちゃうとも。それに)


まこ『結局、人が持てるもんなんて限られちょる』

まこ『アレもコレも持ってこうとせず、最後に一番大事なもんを持っとったら、それでええんよ』


ムロ(大事なもの……)

ムロ(優勝すること……でも、それが本当に、一番大事なものなの?)

ムロ(そりゃ勝ちたいよ。勝てば嬉しいし、みんなも喜んでくれる)

ムロ(ずっと頑張ってきた苦労も報われる。間違ってない)

ムロ(間違ってない、けど……それだけが正解じゃないと思う)


京太郎『今までの努力の成果の有無が、この試合で決まるって思ってた』

京太郎『でも、それは違うって気付いたんだ』


ムロ『それで負けてしまっても?』


京太郎『あそこで立ち止まっても、ムロとならまた歩ける気がしたんだ』

京太郎『どんな結果でも先に繋がるって。だって、今のオレがそうだから』



久「うー」

智美「このままだとジリ貧だな」

ゆみ「しかし、対処のしようがない」

美穂子「どうすればいいのかしら。ねぇ、久……」

久「つまらないわ」

美穂子「えっ」


久「だってそうでしょ!? 自分のやりたい事ができないなんて!」

久「あれだけ頑張ってきたのに実力を発揮できないなんて、そんなのつまらないじゃない!」

ゆみ「フッ……久らしいな」

美穂子「そうね。久ならまず、自分が楽しめなきゃって言うものね」

久「ええ。期待も責任も、背負う自分をしっかり持ってないと!」



ムロ(みんな、自分の道を歩いてる)

ムロ(自分で選んで、自分の足で、時には誰か一緒に)

ムロ(そう思えば、なんだか新しい行き先が見つかった気がする)

ムロ(先輩だって、自分の信じた道だから進めた)


ムロ(だから、べつに追いつかなくていい。私には私の、進むべき道があるんだから――!)ゴッ


オオォォォォン


咲(え……?)

淡(なに?)

穏乃(なにか、来てる?)



京太郎「ムロだ」

まこ「どしたん?」


京太郎「いや、ずっとこわばってた表情してたのが、急にいつもの顔になってて」

京太郎「あ、いつものムロだ。って思ったんですけど」

まこ「なんじゃそりゃあ」

トシ「張りつめてたのが、やわらいだようだね」

京太郎「そうですね。ハハッ、なんだ」


京太郎「ようやく緊張が解けたか」



穏乃(この感じは、室橋さん……?)

淡(またなんかやらかしたの!?)


ムロ「…………」チャッ

タン

咲(目に見えて、変わったところは無さそうだけど……)

淡(なんだっていいよ、このクソみたいな状況をブチ壊せるなら。むしろ来い!)

憧「しず、どうしたんだろ……」

玄「どうかした?」

憧「しずだけじゃない……なんか、他の人も動揺してるっぽいんだけど?」

灼「言われてみれば……本当だ。トラブル?」

玄「もしかして、穏乃ちゃんの支配に対抗できるなにかが……!?」


憧「い、いや、そ、そんなま、まさか……だだ、大丈夫だしょ」

灼「落ち着いて……」



オオォォォォン

咲(逆に、なにも起こらないのが不気味だよ……)

穏乃(考えられるのは、また室橋さん自身にデバフがかかっているのか)

淡(んー? 誰かに振り込むのかと思ったけど。まだ誰もテンパイしてないの?)

穏乃(原因はわからないけど、今のプレイ中になにかしらのタブーに触れたのかも)


穏乃(原因は問題じゃない。厄介なのは、私以外のファクターがこの場に存在しているということ)

穏乃(私の能力でも抑えられない……何かが)

淡(つーか、こっちまで滅入ってくる空気だなぁコレ……)

咲(場の雰囲気が、重圧がどんどん増していく)


咲(あっ)チャッ

パタン


ムロ「ノーテン」

淡「ノーテン」

穏乃「テンパイ」

咲「テンパイ」


穏乃「!?」

淡「お?」

咲(ギリギリでテンパイ。それと、モヤがすこし散ったみたい)

恒子『流局が続きます! 今度は宮永選手もテンパイにこぎつけた!』

恒子『結果的に、高鴨選手の1位奪取を阻止しました!』


咲(状況が変わった)

淡(いいね! 支配がほころび始めてきたんじゃない?)

穏乃(能力の効果が、完全じゃなくなってる)

穏乃(さっきのは1局で消えたけど、もし、コレが継続するようであれば……)



西二局 5本場
親:高鴨穏乃


オオォォォォン

咲(まだ続いてる……)

穏乃(山の支配は全て封じたつもりだった。それ以上に身動きとれない状況をつくった)

穏乃(その中で動けるのはつまり、余地がある。そこにもし、つられて他の誰かが……)

ゴッ

穏乃(……って――)


ギャギャギャ


淡「リーチ!」ドッ


穏乃(連鎖反応ッ!?)

咲(リーチ? もう張ってたんだ!?)

穏乃(そんな……せめぎ合いの隙を突かれた! 当然か……!)

淡(やっぱこの手に限るね!)

恒子『大星選手、リーチ!』

恒子『ここにきて大きく戦局が動いたー!』


穏乃(最悪のパターン……!)

淡(動けるなら、わずかでも余裕があるなら無理矢理にでもこじ開け――)


ゴポッ

淡「うっ……?」


淡(……な、なにいまの)


穏乃(大星さん?)

淡(喉が詰まったような、息苦しい感覚は……?)

咲(この感じ……似たようなのを、私は知ってる)

咲(龍門渕さんと対局した経験があるからわかる。これは……)


咲(――河の支配)


咲(穏乃ちゃんとは別領域の支配)

咲(龍門渕さんは河を乱すことを許してくれなかったけど、ムロちゃんはそうじゃない)

咲(トリガーはきっとリーチ、または副露。発動すれば……)


ズズズズズ

淡(せっかく……ここぞって時に、こんなの……!)

咲(誰かに振り込まざるをえない)

穏乃(呪われた時の室橋さんと同じ……)

淡(じゃあ……カンは危険だ。しかたないよね)


淡(……あれっ! 私、無防備すぎじゃん!?)

穏乃「テンパイ」

淡「テンパイ」

咲「テンパイ」

ムロ「ノーテン」


淡(ふう……)

穏乃(流局まで何もなかった……?)

咲(穏乃ちゃんの支配は、まだまだ健在なんだ。揺らいできてる部分もあるけど)

咲(もともと山に干渉できないムロちゃんは、自力ではテンパイできないみたい)

咲(ここからは、淡ちゃんの当たり牌を避けつつ……)


咲(嶺上牌……)チラ

咲(あそこまで、飛んでいけるかな?)


穏乃(……ヤバイ)

穏乃(このままじゃいずれ突破されちゃう。そうじゃなくても、振り込む可能性だってある……)

穏乃(なにより私自身が動けない)

穏乃(かといって、能力を解いてしまうのは……)



西二局 6本場
親:高鴨穏乃


淡(悪くない配牌。これをメンゼンでダマで和了ればいいんだ)

淡(大丈夫。そんなに難しいことじゃない)

チャッ

咲(これでテンパイ)


咲(嶺上牌の五萬をツモれば、私の勝ちだ)

咲(手元に槓材は無いけど、四枚目のありかは確認できてる)

ムロ「…………」

咲(あとは、ソレが出てくるのを待つばかり)


咲(でも、不安材料もある)

咲(はたして、ムロちゃんの能力を回避できるかどうか……)

咲(もし届かなかったら……ここで遅れたくない。放銃なんてもってのほか)


チャッ

ムロ(テンパイ)

ムロ(やっと張った。けれども役は無し……それじゃあ)


ムロ「リーチ」ドッ


穏乃(曲げてき……え?)


オオォォォォン


穏乃(なんだって!?)

淡(自分にもかかるのソレ!?)

咲(うわ、見境ないなぁ……)


ムロ(役無し上等――!)


キィィィィィン


咲「えっ」


恒子『室橋選手リーチ!』

恒子『役はリーチのみですが、また一発付くのかー!?』

ムロ「…………」

キィィィィン

穏乃(この感じ、どこかで……あっ!?)


穏乃(あの時……晩成との練習試合で、京太郎と打った時と同じだ!)

咲(これ、京ちゃんが見せてくれた……)

穏乃(そういえばあの時も、京太郎は私の支配を抜けて、最後にテンパイしていた)

咲(なんで……)


ムロ(これが先輩の見てる景色か)

咲(邪魔……しないでよ!)


咲「カン!!」

カシャッ


ゴポッ


咲(あ……)

咲(溺れた……)


恒子『あーっと! 一発消えてしまった! 宮永選手の大明槓!』

恒子『責任払いの悪夢ふたたびか!?』

健夜『それはどうでしょう』

淡(サキ……?)

咲(嶺上牌が……視えない)


ズズズズズ

咲(さっきまで視えてたのに)

咲(じゃあこの牌は、いったいなんなの……?)

チャッ

咲「っ……!」


咲(……五萬じゃない)


恒子『嶺上開花ならず!』

恒子『しかも、ツモったのは室橋選手の当たり牌! これはあぶない!』


誠子「ええっ!?」

菫「まさか!?」

尭深「咲ちゃんが嶺上開花はずすとこ、はじめて見た」

菫「咲には、嶺上牌が視えているんだろう? それが、はずれただと……?」


咲『…………』タン


尭深「あ、それは……」

菫「マズイ!」

誠子「よりによってツモ切り……なっ、見逃し!?」


恒子『出和了り拒否!』

恒子『あくまで自力でツモる気だー!』


キィィィィン

バシィ

ムロ「ツモ」

ムロ「500・1000の6本場は、1100・1600です」


ワアアァァァァ

恒子『室橋選手、意地のツモ和了り! これでトップになりました!』

恒子『しかし、2位以下とその差はわずか! まだまだきびしい戦いは続きます!』


穏乃(親番が……!)

咲(カンでずらしても和了ってる……ツモ筋とか関係ないんだ)

咲(それとも、鳴くのを見越していたの?)


オ オ オ オ......

淡(ん?)

咲(山が、晴れた)

穏乃(能力で相手を縛っていたつもりだったけど……)


穏乃(縛られてたのは、私の方だったんだ)


恒子『6本場を経て、ながらく続いた西二局が終わりました』

恒子『インターハイ決勝戦は西三局へ!』


穏乃(ここからは、ありままの自分でいく)

穏乃(裸の私がどこまで通用するかはわからない……でも、)

穏乃(私の中に、諦めない以外の選択肢なんて存在しないからね!)


キィィィ...

ムロ「ダル……」

ムロ(たった一局でこれか……こんなの、何時間も続けて入るもんじゃないよ……)

京太郎「おお……マジか」

まこ「ムロのやつ、いつの間にゾーン入れるようなっとったん!?」

トシ「これは驚きだね」

京太郎「冗談でやってみればーなんて、言ったこともあったけど……」


京太郎「あいつ、本当にやりやがったぜ……!」

ムロ(これでも、ずっと先輩のこと見てたんだから)


ムロ(一緒に練習して、観察してるうちにだんだんコツが掴めてきて)

ムロ(ほんの数分なら入ることができた)

ムロ(実戦でやるのは初めてだったけど、上手くいってよかった)



西三局
親:宮永咲


淡(配牌でテンパイ! でもリーチできない、役も無い!)

淡(さぁ、どうしてやろうか)


咲(穏乃ちゃんの支配がなくなって、やりやすくなると思ったら……)

咲(淡ちゃんの配牌五向聴が復活してる)


穏乃(鳴いて速攻は封じられてるし……スピードに差がついちゃってるなぁ)

穏乃(しょうがないけど、鈍行で進むしかない)


ムロ(なんとなく、この能力の本質が掴めてきたかも。鳴くのはダメっぽいね)

ムロ(それでも、先輩と一緒に練習してきたことなら、最大限に活かせるはず)

ムロ(相手の視点移動と理牌のクセを読んで、牌の所在を探る)


ムロ(どこになんの牌が集まっているのか)

ムロ(捨て牌と手出しの牌から見極める……!)ジィッ


ムロ「ロン、3900!」

咲「うぁっ……!?」


ワアアァァァァ

恒子『連続和了ーッ! 室橋選手が3万点のボーダーに王手をかけたー!』

恒子『この和了りで29700点となり、優勝までは、あとわずか300点!』

恒子『放銃してしまった宮永選手は大きく後退!』

恒子『ノリにノっています! そして迎える西四局……室橋選手の親番です!!』



西四局
親:室橋裕子


咲(後半に入ってから、ずっとやられっぱなし……)

咲(それじゃダメだ)

咲(やられたら、やりかえすよ)


カッ

咲(プラマイゼロ――!)ゴォッ


咲(南場と西場で半荘とみなす!)

穏乃(山全体に張りつめたような気配が……!?)

淡(ここで動くんだ!?)

ムロ(これは、もしかして……だったら!)


タン

ムロ(初手ランダム!)

咲「ッ!?」フッ...


咲(くっ、卓に意識が……!)

ムロ(どうせクズ配牌だし、最初の一打くらいくれてもいい)

咲(プラマイゼロに抑えられる気がしない……タイミングを誤った?)

ムロ(この牌姿じゃあ、執着する要素も見当たらないし)

タン

パシッ

トン


ムロ(いいぞ、どんどん手が進んでいってる)

チャッ

ムロ(よし、ドラ引いた! これでドラ2)

ムロ(浮いてて悩ましかったけど、これで有効活用できそう……あれ、この形……)

ムロ(イーペーコー狙いだったのが、チートイドラドラまで見えてくる……!)

ムロ(予想以上に良い手に育ってく!)


ムロ(ヤバイ……これ、楽しい!)


アナ『長かった西二局も過ぎて、現在西四局。いよいよ決着が迫ってきたように思えます』

アナ『ですが最後に大逆転もありえます。優勝するのはいったい誰なのか』

 『あの場にいる誰にでも可能性はあると思います』

アナ『はい。最後まで諦めずにがんばってほしいですね。ところで……』

アナ『プロから見て、勝つために必要な要素とは何だと思いますか?』

 『そうですねぇ、やっぱり……』


慕『麻雀が大好き、という気持ちが大事だと思います!』



咏「この人は相変わらずだねぃ」

えり「そうなんですか?」

咏「昔っからこんなだったよ、白築さん」

えり「あれ、そういえば三尋木プロと白築プロとは、学生時代に対戦経験って……」

咏「あるよー。小学生の時に」

シノチャー!?

咏「全国の決勝戦で。一回きりだったけど」

えり「その時の結果は?」

みさき「その大会、運天原小学校の小禄心が優勝しましたよね」

咏「おっ詳しいね」

みさき「同じ沖縄出身ですから」

理沙「さすが!」

咏「いやぁ、あの試合は波乱万丈だったよ。そんな中……」


咏「どんな状況でも、麻雀を楽しんでる人がいたんだ」



ムロ(張ったァ……! チートイドラドラ、ダマで9600!)

ムロ(他の人もテンパイしてるはずだ、よく警戒しておかないと)


淡(結局ほぐしきれないまま……もったいない打牌してるなぁ、私)

淡(まぁ、和了ればいいんだけどね、和了れば!)

穏乃(追いついた! 役はピンフのみだけど)

穏乃(安くてもいいや、まだまだ登り足りない! 北場どんと来い!)

咲(出遅れた……こうなると、必然的に高い手を組みがちだけど)

咲(どのみちカンできないなら、点数関係なく和了りを目指す)

咲(PCの前で、どれだけツライ思いをしてきただろう……それも、こういう時のため)


咲(でも、槓材は集まってきてる。ちょっと可笑しいな)


恒子『西場後半は前半と比べて、各選手の手が伸び伸びしてますね』

健夜『みんな、最後に残った力を振り絞っているのだと思います』


健夜『自分にできることを、ただひたすら……』

チャッ

咲(さっきまでの反動なのか、収穫祭やれるくらい槓材が集まってくる)

咲(こんなに揃うのは久々だけど、今はカンできないから槓子は崩すしかない)

咲(そうなると……こうなるよね)

タン

咲(四暗刻単騎――!)


恒子『役満テンパイーッ!!』


淡「…………」ゾクゾク

淡(オーバーキルの予感……!)

穏乃(役満だろうとゴミ手だろうと、和了るまでは同価値。違いなんてあるもんか)

穏乃(いや、待ちが良形の方がエライもんね! 単騎は損気って言うし!)


チャッ

ムロ(あ……)

ムロ(コレが、宮永先輩の当たり牌……)

タン

ムロ(抱えて回し打つ)

ムロ(フットワークが軽いのが、チートイのいいところ)

ムロ(ぜひとも2枚目ツモりたいね。これが待ちになったら席順で頭ハネだ)

ムロ(……待ちになっちゃった)


ムロ(いいや、2枚目もツモるのに変わりはない。なんにせよ手放せないし)

ムロ(この牌は……)


咲(私が引き当てる――!)ゴッ

ムロ(私が引き当てる――!)ゴッ


恒子『宮永選手と室橋選手の奪い合い! 残り2枚の当たり牌はどちらの手に!?』

健夜『インターハイではダブロンがないので、出和了りの場合は席順で宮永選手の和了となります』

恒子『も、もし、宮永選手が役満を和了ってしまったとしたら……!』

健夜『したら?』


恒子『すこし前の私の発言、フラグとみなしてもいいんでしょうか?』

健夜『どうでもいいよ……!?』


ムロ(麻雀してる時、テンパイしてあと一つで和了りって時)

ムロ(この時が、一番ドキドキする)


ムロ(行く先を考えて構築して、ツモった牌に導かれたりもして)

ムロ(ようやく辿り着くというその間際)

ムロ(あの、胸の奥から感情が湧きあがる感じがたまらない)

ムロ(きっと今の私には、目の前の対局しか映っていないと思う。だって)


ムロ(今はただ、この対局を楽しんでいたいから)

ムロ(私……麻雀が好き)

ムロ(楽しい事ばかりじゃないけど、今は自信を持って、ひっくるめてそう言える)

チャッ

ムロ(何度もツモを繰り返す。まだかまだかと待ち遠しくなる)

ムロ(そのうち、不意に訪れる――)

ムロ「っ……!」

ギュッ

ムロ(その瞬間が……)


パラッ

ムロ「ツモ」


穏乃「うあっ!?」

淡「んん……!?」

咲「……ッ!」


咲「…………はぁ」パタン


ムロ「ツモ・チートイドラドラ……」

ムロ「4000オールです!」


ムロ(この瞬間が、大好きなんだ――!)


ビイィィィィィィッ

恒子『試合終了――!!』


恒子『インターハイ決勝戦、ここに決着ーッ!!』

恒子『全国一万人の頂点に君臨したのは……!』

ワアアァァァァァ

恒子『長野県代表――』


久「やったああああ!!」

美穂子「すごいわ!」

ゆみ「おおっ!」

桃子「っす!」

智美「ワハハ!」


ワアアァァァァァ

恒子『清澄高校1年――』


優希「やったじぇええ! ムロー!!」

煌「すばら! おお、すばらです!!」

ミカ「ムロすごいよ!」


ワアアァァァァァ

恒子『室橋裕子!』

恒子『新しいチャンピオンの誕生だァ――!!』


トシ「よくやったね、ムロ……!」

トシ「あんたが優勝してくれて、ホントに嬉しいよ」

トシ「ええ、指導者としてこんなに嬉しいことはない!」


トシ「あの子達なんて、たまらず部屋を飛び出しちゃったわ」

ムロ「ありがとうございました」

淡「ありがとうございました」

穏乃「ありがとうございました」

咲「ありがとうございました」


咲「優勝おめでとう、ムロちゃん」

淡「おめでとう」

穏乃「おめでとうございます」

ムロ「はい! ありがとうございます……!」


淡「てかさぁ、穏乃もムロ子も隠し玉持ってるとかさぁ、もーなんなのよ」

咲「うん。ビックリしたね」

穏乃「いや、私の方が驚きました。まさかアレを突破されるなんて……課題だなぁ」


淡「次は、私が破ってみせるからね。焼き鳥シズちゃん」

穏乃「はい、受けて立ちます! ……え、焼き鳥? あれ、えっ?」

咲「ね、ムロちゃん……アレって……」

ムロ「はい?」


咲「……ううん、なんでもない。それじゃあ私達は行くね」

ムロ「はい、今日は本当にありがとうございました!」

咲「うん。これから色々と大変だろうけど、がんばってね」

ムロ「あんまり実感ありませんけどね。無我夢中だったし」

咲「そんなものだよ。実感は後でやってくるから」


穏乃「ええええええ!?」

淡「あー、長丁場つかれたー」

ムロ「実感、かぁ」

ムロ「私がチャンピオン……」

ムロ「普通に楽しんでたけど、よかったのかな」

ムロ「うーん……」


ムロ「……うん、楽しかった」


ムロ「しょっぱな、宮永先輩に責任払いで出鼻くじかれたのは本気でビビった」

ムロ「それに、大星さんの高火力もすごかった」

ムロ「なんとか喰らいついたけど、高鴨さんの独壇場が始まって」

ムロ「もうダメだって思った」


京太郎「でも、諦めないで打ってたな」

ムロ「先輩」

まこ「わしも居るけぇ。おめでとさん、ムロ。ようがんばったのう」

ムロ「染谷部長。ありがとうございます」


京太郎「どうだ? 玉座の座り心地は?」

ムロ「いいですね。持って帰りたいくらいです」

まこ「そりゃあ無理じゃわ」

まこ「持って帰れるもんは、トロフィーくらいのもんじゃよ」

京太郎「ああ、もうすぐ授賞式と閉会式がはじまる」

ムロ「そうか、それがありましたね。行かないと……って、おわぁ!?」

ガタッ

京太郎「おっと! 大丈夫か」ガシッ

ムロ「は、はい。あれ、おかしいな……?」

京太郎「お前、途中でゾーンに入ってたろ」

ムロ「あ、そういえば」


京太郎「驚いたぞ! ムロいつの間にできるようになってたんだ?」

ムロ「いや、今日がはじめてです。実戦では」

まこ「なんにせよ、おかげで勝つ事ができた」

ムロ「はい」


まこ「他にもいろいろ話したい事もあるがの……」

京太郎「式を済ましたら、もう今日は休もうか」

ムロ「そうですね」

京太郎「明日からまた忙しくなるぞ」

まこ「ほうじゃのう。取材もようけ来るし、県庁とかにも行かにゃイカン」

ムロ「マジですか? うへぇ……もう県庁が来てよ」

京太郎「とりあえず会場に行こう。歩けるか?」


京太郎「それともおぶるか?」

ムロ「けっこうです! あ、でも、ひとつだけお願いが」

京太郎「ん?」


ムロ「手、つないでもらえますか?」

京太郎「おう。それくらい、おやすいごようだ」

京太郎「さぁ、お手をどうぞ、お姫様?」

ムロ「はい」

ギュッ

ムロ「ふふっ」


まこ「ほれ、はよう行くぞ。みんな、ムロにおめでとう言いたくて待っとるんじゃから」

京太郎「おっと、そうだ、言い忘れてた」


京太郎「全国優勝おめでとう、ムロ」

京太郎「やっと追いついたぞ」

ムロ「あ……」

京太郎「オレも、来年は優勝目指すから」


京太郎「今度は、オレがムロを追いかける番だな」

ムロ「あ、あ……そうだ、私……」

京太郎「うん。そうやってさ、これからも追いつき追いこせで、一緒にやってこうぜ?」


ムロ「はい、私も……私も、一緒に……!」

京太郎「ああ、一緒に」




――こうして、私の夏は終わった。

インターハイ優勝。これ以上望むべくもない、最高の結果を手に入れて。

――願いは叶った。

私だけじゃない、見ていた人の想いも……

これでおしまいです





本編はね

京太郎「新入部員が」ムロ「私だけ!?」3スレ目
京太郎「新入部員が」ムロ「私だけ!?」3スレ目 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467304947/)

>>987
私は慕ちゃんプロ説を断固として支持する者です
ちなみに咲キャラソートで2位でした

エピローグなるべく早く書き上げたいなー

1000なら原作でムロがインターミドル優勝&国麻参戦

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