京太郎「タイム…リープ!?」 (758)


・京太郎スレです

・安価はありません

・ほぼ完成しています

・グロ描写はありません

・おまけでエロ描写があるかもしれませんが、基本無しです


では少しずつ始めていきます

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??「おやおや、これは」

京太郎「」

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京太郎「んん…」

??「気づいたかい。どこか痛むところとかは?」

妙齢の女性だ、どことなく気品がある。だがおもちはない

京太郎「ええと…体の方はなんともないんですが。この状況は…」

??「あんたうちの目の前に倒れていたんだよ。体には異常がないみたいだったから救急車は呼ばなかったけどね」

京太郎「そう…なんですか。助けていただいてありがとうございます」

??「どういたしまして。で、あんた名前はなんていうんだい?」

京太郎「須賀京太郎といいます。清澄高校の1年生で麻雀の全国大会に来ているんです」

??「全国、大会…?」

京太郎「ええ、まっ僕はただの雑用なんですけどね」


??「うーん…?そういえばどうしてあんなところに倒れていたんだい?」

京太郎「ええと、確か部長に買出しを頼まれて、外を歩いていたのは覚えているんですけど……」

??「倒れた理由はよく分からない、と」

京太郎「まあそうですね、たぶん疲れがたまっていたんだと思います」

??「なるほどね。ところで須賀君、あんたその格好は寒くないかい?羽織るものなにか貸そうか?」

京太郎「え?いえ体が丈夫なのが取柄なんで心配には及びませんよ」

??「そう、かい。うーん、なるほどねえ…」

??「でも体の方は大丈夫そうでよかったよ。あんまり時間をとらせてもあれだし、そろそろ行くかい?」

京太郎「はい、みんなも待たせていると思うんでもう行きます」

京太郎「このお礼はいつか必ず…お名前と電話番号だけ教えていただいてもかまわないでしょうか?」

??「私は熊倉トシ。電話番号は――だよ。それよりも須賀君、もしかしてあんた…」

京太郎「?」

トシ「……いや、なんでもないよ。気をつけて行ってらっしゃい。あと困ったことがあったらまた来なさい」

京太郎「はい!では失礼します。ありがとうございました!」ペコリ


__________

______

__


30分後


ピンポーン

トシ「ハイハイ、どちら様?」

京太郎「すいません、須賀京太郎です。困ったことがあったのでまた来ました」

トシ「来ると思ったよ。とりあえずお入り」


京太郎「あの変なこと聞くようですいません、ここってどこですか?」

京太郎「それに、なんというか古臭いとういか、いや失礼…なんだか懐かしいレトロな町並みですし」

京太郎「いったい何がどうなっているのかさっぱりで……」

京太郎「さっきの口ぶりからするともしかしたら何かご存知じゃないんですか?」

京太郎「何でもいいんです、教えてください!!」

トシ「まあとりあえず落ち着きなさい。ここは、茨城県だよ」

京太郎「……へ?」

トシ「麻雀の全国大会の会場である東京都からはだいぶ離れている」

トシ「しかし、さっき須賀君は麻雀の全国大会に来ていると言っていたね」

トシ「さらに今の季節は冬、そしてどう見ても須賀君、君の服装は夏服のそれだね」

京太郎「……はい」

トシ「普通の人ならこの季節にそんな格好はしないよ」

トシ「さて一つ、こちらから質問してもいいかい?今は西暦何年だい?」

京太郎「……20××年のはずです」

トシ「そうかい、やっぱりね。でも残念ながら今は20△△年、つまり君の言った年より12年も前なのさ」

トシ「まさかと思うかい?でもそろそろ君も気づいているはずだよ。君の身に一体何が起こったのか」


京太郎「……」

トシ「答えは単純、君は時空を越えたんだよ。いわゆるタイムリープというやつさ」

京太郎「タイム…リープ?」

そんなアホな、と思ったが口には出せなかった

だってこの部屋の、いやこの部屋だけじゃない

外の様子、人の服装、携帯電話、電子機器、世間話の内容、それらは明らかに過去のものだったから

だから黙ることしかできなかった

トシ「とりあえず、こんなところかね。何か質問あるいかい?」

京太郎「ええと…すいません、話の内容は分かるんですが、いまいち実感がわかなくて」

トシ「そりゃあそうかもしれないね」

トシ「まあでも、そんなに気に病むことはないよ。君くらいの年頃の子にはよくあることなのさ」

京太郎「え゛?そ、そういうもんなんですか……?」

芳山和子みたいなことを言うな

トシ「まあね。実は私は多少の知識ぐらいなら持っているんだよ」

トシ「君だって麻雀をやるなら見たことぐらいあるだろう」

トシ「この世の中には常識では説明のつかない力、いわゆるオカルトが存在するのさ」

トシ「そういうものの一種と考えれば、理解できないこともないんじゃないのかな?」


まあ分からなくもないが、なんだか煙に巻かれた気もしなくもない

しかし、現状頼れるのはトシさんだけだ

京太郎「まあなんとなくは理解しました。けどじゃあ、僕はこれからどうすればいいんでしょうか?」

トシ「とりあえずは、ここでの生活に慣れることだね。ということで暫くはうちにいなさい」

京太郎「うぇっ、いいんですか。自分で言うのもなんですけど、僕明らかに不審者ですよね?」

トシ「不審者か、ははは、そりゃそうだ。でも大丈夫、私の人を観る目は確かだからね」

トシ「それに迷える青少年を導くのも年寄りの仕事のうちさ」

トシ「でもタダで住まわすことはできないよ。家事の手伝い、それと私が買い物に行くときは必ず付き合うこと」

トシ「この二つだけはしてもらおうかな」

京太郎「そんなことでいいんですか?それなら家事でも買い物デートでも何でもしてみせますよ!」

トシ「デートだなんて嬉しいことを言うねえ。まあでもよろしく頼むよ、"京太郎"」

京太郎「こちらこそよろしくお願いします、"トシさん"!!」


その後、いろいろと細かいことを決めなければならなかった


まず設定として、俺はトシさんの孫ということになった

そして変な誤解を避けるため、俺は熊倉京太郎と名乗ることにした

少々語呂が悪い気もするが、まあ我慢しよう


元の時代に帰る方法だが、それはトシさんが調べてくれるらしい

なんでも、トシさんはそっち方面のことには詳しいらしいのだ

俺にはどうしようもないことなので、これについてはトシさんを信じるしかない


またトシさんの助言で、元の時代のことはなるべく言わないようにと釘を刺された

もちろん、トシさんに対してもだ

どんな発言が未来に影響を与えるか不明確だからだ。注意するに越したことはない


また、なんと信じられないことに学校に通えることになった

俺としてはニート生活を満喫したい気持ちでいっぱいだったのだが…

トシさんはその人脈をフルに活用し、俺を近隣の高校にねじ込むことに成功したのだ

戸籍とか住民票とかどうしたんだろうか?トシさんにそのことを聞くと

「世の中には知らないことが良いってこともあるんだよ」ニコ

と言われた。トシさんあなた一体何者なんですか…



そんなこんなで、俺の新しい生活がスタートした


大丈夫かなぁ……

茨城とかすこやんピンポやん

タイムリープって精神だけってイメージだった

12年じゃそこまでレトロな感じはしないと思うが、これは茨城の景色を言っているのだろうか

>>19
京太郎はその時点では、自分は大都会の東京にいると思っていました
なので、そのギャップからの発言です

>>13
タイムリープもタイムトラベルも同じような意味で使われることが多いので
語感のいいタイムリープを採用しました
しかし本来の意味はあなたが書いた通りです


どうでもいいかも知れないけど、舞台は2001年から2002年辺りを想定して書いてます


――3月



この2ヶ月弱の間にこちらの生活にはだいぶ慣れることができた

すべてはトシさんのおかげと言っても言い過ぎにならないだろう

本当に感謝している

お金のことを話すと、「気にしなくていい」と一蹴されてしまったことがある

だから元の時代に戻ったら全力でお礼をするつもりだ


12年という歳月は中々長いもので、色々と面食らうことはあった

この時代にはスマートフォンがないのは知っていたけど、まさかあんなオモチャみたいなものを使っていたとは…

パソコンのCPUがセレロンで回線がADSLだったのには少々呆然とさせられた

しかし、今ではその速度が逆に心地よい

子供のころ見ていたアニメや戦隊ものの番組を、この年になって再び見てみるのは意外と感慨深いものがある


そうこうしているうちに4月に入った、いよいよ高校の入学式だ


――4月上旬 入学式



トシ「なかなかきまっているじゃないか、似合ってるよ」

京太郎「ありがとう、なんだか照れるね。でも今までと違う制服だからやっぱり違和感があるよ」

ちなみに、孫設定だから敬語は基本無しだ

トシ「はは、仕方が無いね。でも第二の母校になるんだから慣れなきゃならないよ」

トシ「ほら時間がない、遅刻するから早くお行き」

京太郎「はい、行ってきます!!」


近所の人たちに挨拶をしながらバス停に向かう

近所の人といえば、幸いなことに俺がトシさん家の前で倒れていた様子は誰にも見られなかったらしい

なので俺は近所の人たちにも孫ということで通っている

そして通学のためにトシさんのところにお世話になっている設定なのだ


高校まではそれほど遠くないが徒歩や自転車では少々時間がかかる

なのでバスを利用することになっている

30分もすればもう目の前だ


校門の前には初々しい新一年生が群れを成している

桜が綺麗だ

まさか一年経たないうちに、また満開の桜を見ることになろうとは、夢にも思わなかったが


教室に向かい扉を開けるとすでにかなりの席が埋まっている

自分の席に向かい着席する

何人かの生徒は談笑しているが、おそらく同じ中学だったのだろう

しかしほとんどの者は静かに着席し、先生が来るのを待っている

俺もその一人だ。ぼっちだよー

仕方ないので、隣の女の子にでも話しかけますか


手入れのされた綺麗な黒髪のセミロング

容姿は整っているが、少々暗い雰囲気をまとっている

残念ながらおもちはない

しかしこの子、前にどこかで……


京太郎「ちょっといいか?」

??「う゛ぇ!わ、私…ですか?」ビクビク

驚かれた、俺ってそんなにいかついか?地味に傷つくぜ

京太郎「うんそうそう。俺は須…じゃなかった、熊倉京太郎っていうんだ」

京太郎「知り合いがいなくて暇なんだ。先生来るまで少し話そうぜ」

??「え、はあ…」ビクッ

人見知りだな、こりゃあ

京太郎「実は俺長野からこっちに来たから知り合いが誰もいないんだよ」

京太郎「だからこれからよろしくな」

??「は、はい…」ビクビク

京太郎「同級生なんだから敬語はいいよ」

これはなんだか駄目そうだぞ。出会ったころの咲を思い出させるな


京太郎「そういえば君は地元の人なの?」

??「は…う、うん。小さいころからずっとこの辺に…」

京太郎「おーそうなんだ、じゃあもうすでに知り合いとかいるのか」

??「い、いやその…えと」カァァ

目線を下に向けてわずかに顔を赤らめる

あちゃーこの反応、友達いなかったパターンだ。悪いことしたな

とりあえず話題を変えよう

京太郎「そういえば最初に聞くの忘れてたわ、名前はなんていうの?」

??「え、名前?こか…」


ガラガラガラ

担任「おーい、みんなー席につけー」

京太郎「わるい。タイミング悪かったな」

??「う、うん…」シュン

京太郎「……」

京太郎「あー、また後でな」

??「う、うん!」ニコ

おお、笑うとかわいいな

しかし本当に見覚えがあるんだよなあ…

こう、口まで出かかってるんだが……うーん分からん


先生は簡単な自己紹介をし、今日の日程を説明した

この後入学式で教室に戻った後、所属する委員会を決めて解散らしい

うん、いたって普通だ


担任「体育館に行く前に点呼しておくぞー」

先生は次々と名前順に呼び上げていき、ついに俺の隣の子の名前を呼ぶときになった

その名前は彼女の口から聞きたかったが、まあ仕方がない。そう思っていると――








担任「小鍛治健夜ー」







京太郎「…………」

京太郎「へ?」


驚いてすぐに隣を向くと逆に驚かれたが、それでも凝視してみる

なるほど、確かにその面影がある、むしろそっくりだ。おもちがないのも頷ける

気がつかなかったのが不思議なくらいだ

小鍛治健夜プロその人である


しかしなんでここに?なぜよりによって小鍛治プロが?

そんなことを考えていると、いつの間にか俺の名前を呼ばれたので返事をする

俺の挙動がおかしかったのか、隣の小鍛治さん…いや小鍛治はキョトンとしていた



びっくりしてしばらく頭が回らなかった

頭の中は小鍛治のことでいっぱいだった

別に恋に恋する男子高校生ってわけじゃないが


近くの男子と会話したけど、生返事だったと思う、正直すまん

気付いたら式は終わり教室に戻っていた


相変わらず小鍛治の周りには誰もいない

というかさきほど、俺と喋った以外誰とも会話してないと思う

本読んでるし。お前は咲か!!と言ってやりたくなるがこらえる


しかし俄然興味が湧いたのは事実なので、思い切って小鍛治に話しかけてみる



京太郎「さっきは悪かったなー。先生に先越されちまった」

京太郎「小鍛治、って呼んでいいか?」

小鍛治「う、うん。いいよ…」

京太郎「おう分かった。俺のことは熊倉…?うーん、やっぱ下の名前の京太郎で呼んでくれ」

京太郎「こっちの方が慣れているし」

小鍛治「えっ、え、急に言われても……」

京太郎「だめか?」

小鍛治「ええと…うーん…じゃあ、きょ、京太郎くんと……呼ばせていただきます////」カァァ

京太郎「おう、改めてよろしくな。小鍛治!」



京太郎「そういや委員会なにやるのか決めた?」

小鍛治「えと、私、本とか好きだから図書委員やろうかなって思ってるんだけど…」

小鍛治「京太郎くんは?」

俺かあ…正直いって何でもいいんだがなあ

京太郎「そうだなあ、体育委員でもやるかなー(適当)」ボケー

小鍛治「そう、なんだ…」

京太郎「でも小鍛治の図書委員は似合ってるんじゃないか。少なくとも体育委員とか学級委員て感じじゃないしな」

小鍛治「もう、なにそれ!ま、まあ…本当のことだけど」

今の反応は少し素っぽかったな

京太郎「はは、すまんすまん」

ガラガラガラ

京太郎「おっ、先生来たみたいだからまたな」

小鍛治「うん」


早速先生は委員決めに取り掛かる

先生が挙手を促し、それに応じて各委員が次々と決まっていく


担任「じゃあ次、図書委員やりたい奴いないかー」

誰も手を挙げようとしない。小鍛治も手を挙げずになんだかモジモジしている

なるほど、これはあれだ。誰も挙手しないから逆に挙げづらくなるアレだ

はあー……仕方ない

京太郎「ハイ!俺やります!」

担任「おっ、熊倉か。ありがとな。他にはいないかー」

すかさず小鍛治に視線を向ける。とまどいながらも何か決心したようだ

小鍛治「は、はい、私もやりましゅ…」

意図が伝わって良かった。しかし噛んだな。まったく世話のかかる…


でも未来の小鍛治プロはもう少しちゃんとしてたから、これから成長していったんだろうな

そう思うとなんだか無駄にじーんとしてしまった


とりあえず今日の日程は終わり解散となった

すると小鍛治の方からから話しかけてきた


小鍛治「さ、さっきはありがとう…」カァァ

小鍛治「それだけだから、じゃあ////」

それだけ言うと、挨拶するまもなく、早足で教室から出て行ってしまった

さて俺も帰りますか


_________

_____

__


京太郎「ただいまー」

トシ「おお、おかえりなさい。学校はどうだった?」

京太郎「うーん普通だったよ、二回目だしそりゃあね」

京太郎「ただ気になることが一つあったよ。元の時代で知ってる人がいたんだ」

京太郎「それも同じクラスの隣の席に」

まあ小鍛治"プロ"のことは話さないほうがいいだろう

京太郎「なにかあまりにもでき過ぎていて不自然じゃない?」

トシ「ふーむ、確かにねえ…ちなみにその子の名前は?」

京太郎「小鍛治健夜」

トシ「小鍛治さんちの子かねえ?」

京太郎「知ってるの?」


トシ「ああ、この家から徒歩で10分くらいのところの家なんだけどねえ」

京太郎「ふーん、ご近所さんかもしれないのか小鍛治のヤツ」

トシ「おや、もう呼び捨てかい。手が早いねえ」

京太郎「そんなんじゃないよ。なんだかほっとけないオーラがすごくてさ……」

トシ「ああ、なるほど…京太郎は世話焼きだもんねえ。偉いじゃないか」

トシ「しかし偶然にしては確かにでき過ぎてる…元の時代で面識とかなかったかい?」

京太郎「いや…無いはずなんだけどなあ…」

ただ、タイムリープ直前の記憶がないのでなんとも言えないが…

トシ「なんにせよ、仲良くしてあげなさい」

京太郎「もちろん」


小鍛治で思い出したが、そういや咲の奴は元気にしているだろうか?

タコスを作ってやれないで大丈夫だろうか?

母さん、カピに餌ちゃんとやってるだろうか?

いやそもそも向こうの時間って進んでるのか? 

なら大丈夫なのか?

分からん!




―4月中旬



入学式から1週間が経った。そろそろ、部活を決めるころだ。何にするかなあ

仮入部とか部活見学して決めるかな。まあ、麻雀部でもいいんだけどね

ガラガラガラ

京太郎「おはよー」

教室の扉を開けて挨拶する。男友達の何人かが挨拶してくれる

1週間もすればクラスの雰囲気にも慣れてくる。友達も何人かできた

小鍛治とも最初に比べれば打ち解けてきた、と思いたい…

そんな小鍛治は今日も一人でぽつんと読書をしている。いつものことだ

さて今日は何を読んでいるのかな?




『時をかける少女』筒○康隆著




うわーお…

でもこの時代だとまだアニメ映画はやってないんだよな

話題に出さないように気をつけねば


京太郎「おう、おはよう!」

小鍛治「う、うん。おはよう」

この1週間で挨拶くらいなら普通にできるようになったのだ

ときどき会話はたどたどしくなるけどな

京太郎「何の本読んでるんだ?」

小鍛治「『時をかける少女』っていう短編集」

京太郎「へぇー、どんな話があるんだ?」

小鍛治「うーんやっぱりメインはタイトルにもなってる『時をかける少女』かな」

小鍛治「他の短編も既にいくつか読んだけど、私はあんまりって感じだった」

京太郎「ふーん、どういう内容なんだ?」

小鍛治「主人公の女の子が偶然タイムリープできるようになって、その秘密に迫っていくんだ」

小鍛治「そしてその中で少年少女たちの淡い…その…こ、恋心を描いていくんだよ///」カァァ

乙女か!まあ乙女なんだけど

しかし趣味のことになるとなかなか饒舌になるな。小鍛治プロもかつては普通の女の子だったわけだ


小鍛治「ま、まあ、よくあるジュブナイル小説だよ」

小鍛治「京太郎くんはこういう話に興味あるの?」

京太郎「ああタイムトラベルものはけっこう好きかな」

なにせ自分で体験しているんでね


小鍛治「そ、そうなんだ。だったらこれよりも高○京一郎さんの『タイムリープ あしたはきのう』の方がおもしろいよ!」

小鍛治「『時をかける少女』はどちらかというと少年少女向けって感じだけど」

小鍛治「高畑さんのはタイムリープの現象を正面から扱ってるんだ」

小鍛治「だからSFとしてもちゃんと読めて、読み応えが全然違うんだよ!」

小鍛治「さらに主人公の相手役の男の子がいるんだけど、最初は『他人なんか興味ないぜ』って感じのクール系キャラなんだ」

小鍛治「だけど主人公とのやり取りを通じてだんだんと心を開いていくのがまたいいの!それに――」


京太郎「わ、分かったから、とりあえず落ち着いてくれ」

また一つこいつのことが分かった、興奮すると止まらなくなるタイプだ

小鍛治「あっ、ご、ごめんね、私調子に乗って…」アセアセ

京太郎「べつに気にしてないよ。誰だって自分の好きなことは話したくなるもんだろ?」

京太郎「だから今度その本貸してくれよ、小鍛治のこともっと知りたいし」

小鍛治「う、うん…///」



そんなやりとりをしていると先生が入ってきた。一日の始まりだ


次々と授業をこなしていく。一度習ったことを再び学ぶってのも悪くないなと最近思うようになった

まあほとんどの場合退屈なのだが。しかしその分俺はクラスでは勉強のできるやつと認識されるようになった


また授業を受けていて気づいたことがある

小鍛治のやつは運動が苦手で、勉強は得意なようだった。予想通りというかなんというか…こちらの期待を裏切らない


また昼食はいつも小鍛治ととるようにしている

一人で弁当をモソモソと食べていたので、見かねて小鍛治を誘って食べるようになったのだ

男子連中からは最初からかわれたが、今ではそれが当たり前になり誰も気にしない


別に小鍛治がいじめられてるとかじゃないが、クラスの皆はどう接していいのか良く分からないようだ

からかったりすると面白いんだけどなこいつ


授業、掃除が終わると皆は部活を見ていくようだ

俺もサッカー部とか野球部、陸上部などに一緒に行かないかと友達に誘われたが断った

小鍛治は文芸部に行くと言っていた

心の中で「君には誰にも負けない麻雀の才能があるのだよ」、なんて思ったが口には出さなかった

俺は結局麻雀部に見学に行くことにした。なんだかんだ言っても麻雀好きだしね



ここが麻雀部の部室か…

ガラガラガラ

京太郎「失礼しまーす!!」

第一印象が肝心なので元気よく挨拶する。中には女子生徒が4名いたが男子はいない

このパターンは清澄での雑用ルートを彷彿とさせるが…とりあえず入ってみる


部長?「おお見学かな?よく来てくれたね、ささ座って!」

いかにも部長という感じの利発そうな人だ。容姿も整っていて、なによりなかなかのおもちの持ち主だ。

久パイ+αといったところか

副部長?「さ、お茶どうぞ」

京太郎「あ、ありがとうございます」

この人もまた美人さんだが部長さん?に比べるとこちらは落ち着きのあるタイプと見た、自己主張しないタイプの

しかし目線を少し下に向けると、ものすごいものが自己主張していた。


なんなんだいったいこれは!!

ブレザーという名の拘束具がまったく役に立っていないではないか!

これはのどパイに匹敵するかあるいはそれ以上か……いやおもちに貴賎なし!!

みんな違ってみんないいのだ、当たり前のことだ……


今以上にタイムリープしてきて良かった思ったことはない、いやこれからもきっと!!!

お母さん、お父さん。俺を生んでくれてありがとう!

俺こっちの時代で幸せになるよ!


部員1?「おう!よろしくー。まあゆくっりしていってな」

元気娘といったところか、雰囲気は優希に似てる。おもちなし。はい次

部員2?「よ、よろしくお願いします」

ちょっと緊張してる。真面目そうな人だ。おもちは平均くらいかな、このくらいのもなかなかよいではないか

京太郎「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

京太郎「それで、今日は見学させていただいてもよろしいですか?」

部長?「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ」

部長?「まずは簡単に自己紹介しとくね、私が部長であのでかいのが副部長、そこの二人が部員1と部員2だね」

でかいのって…その通りだが、副部長さんが顔を赤らめてらっしゃる。セクハラとはいい趣味してる、ぐへへ

京太郎「はい、分かりました。僕は1年生の熊倉京太郎といいます」

部長「熊倉くんねえ……もしかして、熊倉トシさんのところに来ている孫というのは君のことかな?」

京太郎「祖母のこと知っているんですか?」

部長「ああ。知ってるかもしれないが、熊倉さんはここら辺の子達を集めて月に何度か麻雀教室をしてるんだ」

部長「で、私達もそれに参加しているんだが――先月だったかやけに嬉しそうにしていてね」

部長「それで聞いてみると長野から孫が来ているとおっしゃっていたんだ」

部長「とても嬉しそうに君の事を教えてくれたよ。あんなこと珍しいんじゃないかな、なあみんな」

「「うんうん」」


そんなことがあったのか。なんだか色々な感情がこみ上げてきて、胸にじーんと来る

今日の夕飯はうんとおいしいものしよう

京太郎「なんだか恥ずかしいですね……」

副部長「とういうことは、熊倉くん麻雀はもう打てるのかしら?」

京太郎「ややこしいので京太郎でいいですよ。麻雀は初心者に毛が生えた程度ですね、残念ながら」

部長「なあに、一年生なんだからこれからどんどん強くなっていけばいいのさ」

京太郎「はは、そうですね。ところで質問いいですか?男子部員の方はいないんでしょうか?」

部長「ああ、残念ながらね。だからこのまま京太郎くんが入部しても団体戦に出場するのは正直かなり厳しいと思う」

部員1「でも、それは私達も同じだよねー」

部員2「先輩達が卒業しちゃって、もう四人しかいないもんね…」ハァ

清澄や鶴賀みたいに部員で苦労してるとこは他にもあるんだな

あのときは咲がいたからよかったが……


いやまてよ、小鍛治がいるじゃないか

そもそも、小鍛治プロは高校生のころインターハイに出場していたと聞いたことがある

このまま行くと、小鍛治が麻雀をやらなくなって、もしかしたら未来が変わってしまうかも

…………よしっ!


京太郎「あの、それだったら心当たりがあるかもしれないです」

部長「えっ!?」

京太郎「うちのクラスの女子に麻雀に興味持ってそうなやつがいるんで、明日にでも誘ってみましょうか?」

部長「ぜひっ!といいたいところだが、やはり本人の意思が一番大事だからな。無理に誘う必要はないぞ」

部員1「相変わらずかたーい。ま、でもよろしく頼むよ新人くん。我が麻雀部の命運は君にかかっているのだ!」

京太郎「はい、了解です!!」


とりあえず初日はこんな感じだった

なんだかいつの間に俺の入部は決まっているかのような雰囲気だったが、俺もこの部が気に入ったので構わなかった

決しておもちで決めたわけじゃないよ?念のため

ちなみにその後皆と麻雀を打つことになって、とても盛り上がった。久々に麻雀を打てて楽しかったのもある

え、結果だって? もちろんラスばっかりだったよ(笑)


トシさーん、俺にも麻雀教えてくださーい!




――4月中旬 翌日の放課後



さて放課後だ。朝に言おうかと悩んだが、小鍛治みたいなタイプは時間をかけると逆効果になりかねない

よって速攻とその場の勢いを使う作戦を試みる

今教室には俺と小鍛治しかいない…絶好のチャンスだ!


ガシッ

京太郎「小鍛治大事な話があるんだ、聞いてくれないか?」キリッ

いきなり腕をつかむ。スキンシップには慣れていないだろうよ。さあどうだ

小鍛治「わっ、ひゃあ! どどどどどど、どうじたのさっ////!?」

効果はばつぐんだ!次いで肩をつかむ

京太郎「話は後だ!何も言わずに俺について来てくれ!」キリリッ

小鍛治「えっ!ででででででもなんで私なんかが――」

ここで決める!!

グイッ

京太郎「…なんかじゃない小鍛治、お前じゃなきゃダメなんだ」ミミモト

小鍛治「は、はひ…////////」ボンッ

アラフォー敗れたり。誰か俺に敗北を教えてくれ


というわけで
 
ガラガラガラ

京太郎「お届けものでーす!」

小鍛治「えっ、え、ここどこ? 麻雀部???」

正気に戻ったか、だがもう遅いぜ

部長「おおいらっしゃい京太郎くん、その子が昨日言っていた子かな?ささ座って」

京太郎「ありがとうございます。さ、小鍛治座ろうぜ」イケメンスマイル



ゴゴゴゴゴゴッ

小鍛治「京太郎くん…これはどういうことなのかな?」グギギ

イケメンスマイルでは誤魔化されんか…しかし、なんという圧力。咲以上か

京太郎「す、すまん小鍛治、騙したりして悪かった。だからカン(物理)だけはゆるしてくれー」ビクビク

小鍛治「カン(物理)ってなに!?私そんなことしたことないよねっ!?」

京太郎「はは、悪い悪い。いつもの癖でな…」トオイメ



小鍛治「はあ…もう分かったよ。で、話ってなに?」

京太郎「ああ実はな――」

先輩方が卒業して団体戦に出られないこと

なので俺が一肌ぬいで小鍛治の勧誘をしたこと

小鍛治の麻雀の実力がぜひ必要なこと

俺も入部してくれると嬉しいこと

などを一生懸命説明した


小鍛治「話は理解したけど、私が麻雀できること言ったっけ?」

やっべえ…そうだった、うまく誤魔化さんと

京太郎「ほ、ほらこの前小鍛治、色川○大の本読んでたじゃないか」

京太郎「そのとき阿佐○哲也の話になって、ついでに麻雀の話をしたじゃんか」

小鍛治「確かに阿○田哲也の話はしたけど……うーん?」

誤魔化しきれないか…


部長「おーい二人とも、話は終わったかい?」

ナイスタイミングです、部長!


健夜「!」ササッ

部長が再度話しかけてくると、小鍛治は俺の斜め後ろに隠れてしまった

てかこいつ今まで興奮してて部長達のこと忘れてたな

京太郎「はい、とりあえず終わりました」

部長「そうか、でもダメじゃないか。ちゃんと説明してから勧誘しないと」

京太郎「すみません」

部長「私じゃなくて、その子に謝るべきなんじゃないかな?」

京太郎「すまなかった小鍛治」ペコリ

京太郎「でもさっき説明したことは本当だし、小鍛治が入部すれば俺としても嬉しい」

京太郎「だから真剣に入部の件考えてくれないか?」

小鍛治「う、うん……考えておく…」

うーんこのテンションの落差、他に人がいるとこうも違うものか


部長「京太郎くんの責任は部を預かる私の責任でもある、嫌な思いをさせてすまなかった」ペコリ

小鍛治「い、いえ…そんなに怒っていないので…」

部長「そうか、だが君に入部してもらいたいというのは本当だ」

部長「だから今日は見学だけでもしていかないかな?」

副部長「そうそう、おいしいお茶もあるわよ」

京太郎「見学だけじゃつまんないし、一緒に打とうぜ。俺の実力見せてやるよ!」

部員1「京太郎の実力見せられても、反応に困るだけだって」ケラケラ

部員2「ちょっと本当のこと言うのやめなよ」

京太郎「ひどい!」

小鍛治「…ふふ」

京太郎「!」

小鍛治「分かりました。と、とりあえず見学させてもらいます//」

やっぱり笑ってる方がかわいいな


部活二日目はこんな感じだった

小鍛治のやつは終始ビクビクしたりどもったりしていたが、帰るころには多少和らいでいた

だが俺がサポートしてやらないと、まだうまくコミュニケーションを取れないようだった


意外だったのは、対局のときだ

俺は勝手に小鍛治は魔物クラスなのでは、と考えていたがこの頃はまだそこまでじゃないようだった

手加減をしているという可能性もあるが、あの誠実な部長相手に小鍛治がそんなことをするとは考え難い

確かに小鍛治は繊細で他人の気持ちに対して敏感だが、相手の思いを踏みにじるほど鈍感ではない

きっとこれからどんどん練習して強くなっていったに違いないのだ

そう思うと俺もやる気が湧いてくるというものだ


ちなみにその日初めて小鍛治と一緒に帰った

前にトシさんが言っていたことは本当だったようで、小鍛治の家とはわりと近かったのだ

なのでバス停から少しは一緒だった


京太郎「今日は悪かったな」

小鍛治「もう気にしてないよ」

京太郎「先輩達いい人だったろ?」

小鍛治「京太郎くんに比べるとずっとね」フン

京太郎「小鍛治にしては言うじゃないか」

小鍛治「さ、さっきのお返しだよ//」

小鍛治「あっ、私こっちの道だから」

京太郎「そうか」

なら、最後に一番聞きたかったことを聞こう

京太郎「また明日も来てくれるか?」

小鍛治「ふふ、考えておくよ。また明日ね!」

まったく…素直じゃないな

京太郎「ああ、また明日!」

また明日、か…いい言葉だな

さて、夕飯はなににしますかね




――4月下旬 体験入部終了後



あのあと体験入部の期間中、小鍛治は毎日麻雀部に顔を出してくれた

麻雀部が気に入ったのか、あるいは誘った俺に気をつかったのか…


なんにせよ、ありがたいことは確かだった

なぜなら俺達以外の一年生は結局一度も部室に姿を現さなかったから

これで小鍛治が入部してくれれば、とりあえず女子の団体戦の人数は集まる

部員は全員三年生なのでぜひ団体戦には出場して、悔いの残らないようにしてもらいたい


京太郎「おはよー」

小鍛治「うん、おはよう」

京太郎「今日は何を読んでるんだ?」

小鍛治「うん今日はね―――」

こうして小鍛治の読んでる本を尋ねるのがもはや日課になっている

こいつ意外と雑食で、いろんなジャンルのものを読むから聞いていて飽きないのだ

興奮した様子で本の内容を話してくれるので、楽しさも人一倍伝わってくる

このおかげか俺に対してはかなり打ち解けているといえるだろう。継続は力なり


京太郎「そういえば今日入部届けの提出日だろ、ちゃんと持ってきたか?」

小鍛治「もう!おかーさんみたいなこと言って、持ってきたよ!」

京太郎「おおそうか、えらいぞ」

小鍛治「えへへ、ありがと…じゃなくて、だから何!?」



京太郎「ええと、小鍛治さんはどこに入るのかなーと気になりまして…」

小鍛治「はあ…素直に麻雀部に入るか聞けばいいじゃん」

京太郎「そうは言ってもほとんど無理やり誘ったようなものですし…」

小鍛治「変なところで気をつかうんだから」

京太郎「うぅ、すみません…」

小鍛治「確かに最初のアレはどうかと思ったよ」

小鍛治「でもいくら私だって嫌ならそう何度も行かないからね?」

京太郎「それはつまり気に入ったから毎日来ていた、ってことでオーケー?」

小鍛治「ま、まあ、ありていに言えばそうなるかな…///」

この恥ずかしがり屋さんめ

小鍛治「みんなで何かするのって久しぶりだったし」ボソ

今のは聞かなかったことにしておこう



京太郎「で、結局入部届けにはなんて書いたんだ?」

小鍛治「はいっ!」

返事の変わりに入部届けを突き出してきたが、そこには――

京太郎「ゲスリング部……」

小鍛治「ちがうよね!?ほら、ちゃんと麻雀部って書いてあるじゃん!」

京太郎「すまんすまん、読み間違えた」

小鍛治「どうやって間違えるのさ!?一文字も合ってないよね!?第一ゲスリング部ってなに!?」

やはり小鍛治はいじってこそ、その真価を発揮する


担任「おーい時間だ席につけー」

担任「あとそこー、夫婦漫才はほどほどにしとけよー」

「すごいツッコミだったのよー」 

「ウチより目立っとるやないかい、なんとかせな」

「ダルい…」 

あのやりとりを見られていたとは…さすがにこれは少々はずかしい。小鍛治はというと

小鍛治「あ、穴があったら入りたい、うぅ…//」カァァァァ

下向いて顔を真っ赤にしていた、南無三


その後入部届けを回収し、いつも通り授業を受けた

ホームルームでの失態は確かに恥ずかしかったが、小鍛治がクラスの話題にのぼったのはよい傾向だと思う

このまま俺以外にも心を開いていけばすぐに友達なんかできるはずだ

俺以外にも、もっとその魅力を知ってほしいと思う…少々寂しい気もするが


さて放課後、我ら学生のもう一つの本分、部活動の始まりだ

京太郎「小鍛治ー、一緒に行こうぜ」

小鍛治「ふん」プイッ

あ、あれ!? もしかして朝の件、まだ怒ってらっしゃる…

京太郎「からかいすぎたのは悪かったって、何度も謝ったんだから許してくれよ…」

小鍛治「女の子に恥をかかせたんだから、当然の報いだよね」

恥をかかせた、って…聞きようによっては誤解を招きかねないぞ

「まーたはじまった」

「熊倉は責任を取るべきだね」

「最近の高校生は、わっかんねーな」 

おおう、またこのパターン





京太郎「さ、とりあえず行こうぜ」

小鍛治「う、うん、そうだね…///」

「ほな、またなー」

「小鍛治さーん、またなのよー」

京太郎「おう、みんなまた明日なー!」

京太郎「ほら、小鍛治も」ボソ

小鍛治「う、うん……じゃ、じゃあ、また…//」

みんな小鍛治との接し方を学習しつつあるな

さすが高校生、そういうとこは早い


ガラガラガラ

京太郎「こんにちはー」

小鍛治「こ、こんにちは」

部長「こんにちは、来てくれて嬉しいよ!」

京太郎「あれだけ毎日通っていたんですから、当然ですよ」

部長「はは、進入部員の名簿は先ほどもらっていたんだが、それでも来てくれるか不安でね…」


結局最後まで部長達は俺達に入部するのか聞いてこなかった

彼女達なりに配慮があったのだろう

ということは、今の今まで俺達が来るのを不安に感じていたに違いない


京太郎「でもこれで俺達も晴れて麻雀部員ですね。あらためてよろしくお願いします」ペコリ

小鍛治「…お願いします」ペコリ


部長「ああ、こちらこそよろしくな!」

部長「ではさっそく練――」

副部長「あだ名を決めないとね」

部員1「おっ、それいいね!」

部員2「えっ!? まずは歓迎会じゃないの?」

部長「練――」

部員1「歓迎会は部活終わった後だな」

副部長「あらそれなら駅前におしゃれな喫茶店できたから行ってみない?」

部員2「こんな田舎にそんなのできたんだ。でもいつものガ○トとかマ○クとかじゃ普通過ぎるもんね」

部長「れ――」

京太郎「俺まだ駅の方あまり行ったことないんで、ついでに駅周辺のこと教えてくださいよ」

部員1「そういうことなら私にまかせな。嫌になるほど案内してやるぜ!」

副部長「まあまあ、その話はまた後にしましょう」

部員2「そうだね、まずはあだ名決めないとね」



部長「r――」パクパク

小鍛治「ほ、ほら部長。練習なら二人でもできますから、ね、一緒にやりましょ」アセアセ

部長「うん」


部員1「まず京太郎はそのまま京太郎でいいだろ?」

副部長「そうね」

部員2「異議なし」

あっさりしすぎでは!?

京太郎「ま、まあ別にそれでいいですけど…」


部員2「小鍛治さんはどうするの?」

部員1「女の子だし名前そのままはかわいそうだよね、『こかっじ』とか?」

副部長「それなら私前から考えてたのよ」

部員1「へえ、どんなん?」

副部長「ずばり『すこやん』ね、かわいいでしょ!」

部員2「ありきたりだけど悪くはないね」


副部長「ね、どうかしら「すこやん」さん」

小鍛治「えっ、わ、私ですか!?」

隅っこで意気消沈した部長と練習をしていた(単に部長の愚痴を聞いていただけだが)小鍛治が反応する

小鍛治「え、えとですね…」アセアセ

案の定なかなか答えられないのでフォローする

京太郎「いいじゃないか小鍛治」

小鍛治「そ、そう…///」

京太郎「うん、小鍛治のポンコツっぷりが滲み出ていて初対面の人にも安心設計だな」

小鍛治「なにそれポンコツって!わたしそんなんじゃないよ!?」

部員1「小鍛治さんはポンコツだったかー」

部員2「確かに普段はちゃんとしてるけど、京太郎くんと話すとすぐボロが出るよね」

京太郎「部屋の掃除はお母さん任せだもんな」

小鍛治「えっ、えっ!?な、なんでそれを…///」

本当なのかよ……

小鍛治「あ!い、今のは違うんでひゅ。し、信じてください…」アセアセ

もうボロボロだよ小鍛治さん


部長「みんなもう止めないか」キリッ

あ、部長がいつの間にか立ち直ってる

部長「すまない、こいつらも悪気があるわけではないんだが…なかなか止まらなくてな」

小鍛治「い、いえ、嫌ではなかったですから…」

慣れてないだけだもんな

部長「そうか、でも愛称というものがあったほうがいいというのは私も同意する」

部長「だから君さえよければ、さっきのでかまわないかな?」

小鍛治「は、はい…私はそれでも//」

部長「そうかよろしくな、すこやん!」



その後は麻雀卓を囲み普通に練習した

小鍛治は、その「すこやん」という呼び名を最初こそ恥ずかしがってはいたが

だんだんと慣れてきたようで顔を赤らめることもなくなっていった

むしろ、そう呼ばれるたびに嬉しそうにしていたように思うのは俺だけだろうか?


ちなみ俺は未だに「小鍛治」と呼んでいる

だってなんだか男が「すこやん」って恥ずかしいじゃん?

小鍛治は若干不満そうな顔をしていたが許して欲しい

男の子には譲ることのできない、チープでいて大事なプライドというものがあるのだ


そして練習が終わると、予定通り駅前の喫茶店に行くことになった


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カランカラン

店員「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

副部長「5人です」

店員「かしこまりました、ではこちらのお席にどうぞ」

確かになかなかこじゃれたお店だ、BGMには心地よい音楽が使われている

あ、ちなみに、注文するときに魔法のような専門用語を必要とするあのお店じゃない


京太郎「いいお店ですね」

副部長「そうね、この辺じゃあ珍しいくらいね」

これは持論だが喫茶店にもっとも必要なのはリラックスできる環境だ

たとえばド○ールや☆バックスなどはとにかく席が狭く居心地が悪い、もちろん店にもよるが

また隣の人との間隔も狭いため落ち着いて休むこともできやしないではないか

なので俺は都内の珈琲チェーン店が基本的に嫌いなのだが、唯一ル○アールだけはなかなか良いと思う

よく効いた冷暖房に落ち着いたBGM、そしてなんと言っても広々とした空間にフカフカの座席

さらに居眠りしていても起こされることはないし、メインの品の後には必ず緑茶が出される

ただ完全に分煙されていないのは改善してほしいが

多少値段が高かろうとも、そのことが分かっていない喫茶店など行く気にもならん


失礼、話がずれたがこのお店は少なくともそういうことを満たしているお店ということだ


さて、みんなの注文した品も届いたので歓迎会が始まる


部長「あらためて入部してくれてありがとう、二人とも」

部員2「これで今年も団体戦に出ることができるもんね」

京太郎「そういえば何か目標とかはないんですか?部としての」

部員1「やっぱ最後だからまた団体戦で全国行きたいなー」

小鍛治「個人戦はどうなんです?」

副部長「私と部長は去年個人戦で全国に行ったから、今年ももちろん狙うわ」

通りで二人とも強かったわけだ

部長「しかし何といっても団体戦はおもしろいからな、個人戦にはないものがあるよ」

部員1「そうそう、自分の結果がチームの勝敗を左右するからな、燃えるぜー」

部員2「去年は最後に捲られて順位下げてたけどね」

部員1「うるせー」


小鍛治「そ、それって私も出るんですよね?緊張します……」

部長「はは、県予選が6月で今は4月の後半に入ったところだよ。まだまだ時間はある」

副部長「そうね、それまでにゆっくり準備していけばいいわ」

京太郎「でもみんないいですね、俺も団体戦出たかったなー」

部長「来年にまたお得意の勧誘をすればいいさ」

それはそうなんだが……俺に来年なんてあるのか、この時代に?

部長「だから今年の目標は団体戦で全国出場、もちろん個人戦でも頑張って欲しい」

京太郎「じゃあ俺の目標はどうしましょう?」

部長「そうだな、今の実力を考慮に入れると6月の県予選で上位入賞ってところが妥当だろう」

京太郎「けっこうハードル高いですよねそれ…」

部員1「大丈夫、私達がみっちり教えてやるよ」

部員2「部活では私達に、家では熊倉さんに教えてもらうといいんじゃないかな」

けっこうスパルタですね

小鍛治「がんばればいけるよ、たぶん…」

たぶんかよ!?

あれ、女子5人プラス京太郎だから6人では


こうして部としての目標が決まり、歓迎会は進んでいった

どうやらこれからの俺の生活は麻雀が中心になってきそうだ


だが、さっきも少し考えたが俺はいつまでこの時代にいることができるのだろうか?

トシさんの情報待ちだが、さすがに1年もこちらにいるとは考えにくい

そんな短い時間しかこの人達と過ごせないのかと思うとなんだか……


こんなとこと考えていると心配そうな顔をした小鍛治が「どうかしたの?」と聞いてきた

俺は「なんでもない、小鍛治に心配されるなんて一生の不覚だよ」とごまかした


でも本当は悲しかった

いまこの時の思い出は恐らく未来にも、みんなの中に残るのだろう

しかし12年後のその時、俺が熊倉京太郎であることを信じてくれる人はいない

それがどうしようもなく寂しかったのだ



>>90
そうですね、間違えました
京太郎が原作での空気っぷりをここでも発揮してしまったとでもお考えください


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部長「ではこれで新入部員の歓迎会を終了とする」

「「おつかれさまでしたー!」」


副部長「じゃあ帰りましょうか」

部員2「うん


部員1「一緒に帰ろうぜー」

部長「分かった分かった、今日は寄り道は無しだぞ」


京太郎「んじゃ、俺達も行くか」

小鍛治「そうだね」

俺と小鍛治は他愛のない話をしながらバス停に向かい、バスに乗り込んだ

そこそこ混んでいたので車内ではほとんど会話はできなかった



小鍛治「けっこう混んでたね」

京太郎「ああそうだな、俺がいないときは痴漢に気をつけるんだぞ」

京太郎「…ま、でも、小鍛治に限ってその心配はないか」

小鍛治「そ、そんなことないよ!私だって東京の満員電車とか乗ったら、きっと痴漢されちゃうよ!?」

い、いや、そんなこと熱弁されましても…

京太郎「ハハ、ソウデスネー」

小鍛治「あからさまに棒読みだよね! わ、私だって大人になればもっとこう……」

まあ、小鍛治プロのを見る限りそうはならないんじゃないでしょうかねえ


そんな小鍛治も、12年も経てば俺のことを……


小鍛治「京太郎くん? どうかしたの?」

京太郎「い、いや、なんでもない」アセアセ

今日2回も小鍛治に心配かけちまった、なにやってんだ俺は。いつもは逆だろうが…

小鍛治「さっきも同じような顔してたよ、もしかしたら何か悩んでるんじゃない?」

京太郎「ほんとに何でもないんだよ、だから――」

小鍛治「うそだよ!入学式から今日までずっと京太郎くんといたんだよ。私にだってそれくらい分かるよ!」

いつになく語気が強い、でも話せないことなんだよ

京太郎「いやでも――」

小鍛治「いつも私に構うくせに、こういうときは関わらせてくれないの!?」

小鍛治「私たち、と、とも……同じ部員なんだから相談くらいしてくれてもいいじゃない!?」

そこでヘタれるんだ!? 

しかしあの小鍛治が勇気を振り絞って俺のために言ってくれたんだ

京太郎「わかったよ、すまん、ありがとう」

京太郎「正直小鍛治のこと見くびってた、見直したよ」

小鍛治「わ、分かればいいんだよ…///」




ほんとのことは言えないから何て言おうか

京太郎「…実はな、この生活を続けることに何か意味はあるのか、って悩んでいたんだよ」

なんだかこれだけ聞くと中二病のポエマーみたいだな…

小鍛治「それって中島○道的な、人生に生きる意味はあるのか、ってこと?」

中島○道って…チョイスが女子高校生じゃないよ小鍛治さん

京太郎「ま、まあ似たようなものかな?」

小鍛治「京太郎くんでもそういうこと考えるんだ、へえ…」


こんな突飛なこと馬鹿にされると思ったが、小鍛治は真剣に考えてくれているようだった

しばらく小鍛治はうーんとうなっていたが、突然しゃべり出した

小鍛治「身も蓋もないかもしれないけど、そんなの人それぞれなんじゃないかな」

小鍛治「そういうことって、本を読んだりしても書いてないでしょ?」

小鍛治「…いや、書いてあるにはあるけど、でもそれって結局その人ものでしかないわけで…」

京太郎「うん?」

小鍛治「例えば仏教の本を読んだ人みんなが悟りを開くってわけじゃないよね?」

小鍛治「それと同じで、私が京太郎くんにどうこう一般論を言っても意味なんてたぶんないんだよ」

京太郎「つまり?」

小鍛治「つまり生きる意味なんてものは、日々の生活の中で様々なもの…」

小鍛治「例えば楽しい事とか苦しい事とかを経験して、そのたびに一生懸命自分なりに考えていく…」

小鍛治「その過程にしかないってこと、かな?」


京太郎「うーん……なるほど」

小鍛治「ご、ごめんね、かっこつけて偉そうなこと言って。あまり参考にならないよね…///」アセアセ

なんとなく理解はできる

難しいこと言っていたが、つまり小鍛治は、そんなのは自分で考えるしかない

取りあえず今をがんばれ、と言っているのだ


なるほどその通りじゃないか。俺らしくなかったな

京太郎「いやそんなことない、なんとなく分かった気がするよ」

京太郎「俺のために考えてくれてありがとうな、小鍛治」ニコ

ナデナデ

小鍛治「ちちちちちょっとーーーー!!ななななななな、何してるのさ!!!?////」バッ

京太郎「あ、わるい。その、いつもの癖でな!?嫌だったろ、すまん!」

やべぇ、いつも咲にやってるみたいに同じことしちまった

というか、いきなり(相手が小鍛治とはいえ)女の子の頭なでるとかありえんだろ普通

小鍛治「い、いや。そ、そのびっくりしただけだから、そんなに嫌ではなかったっていうかそのー……//////」カァァ

京太郎「そ、そうか!?」

小鍛治「う、うん…///」


小鍛治「そういえば、さっきの…癖って言ってたけど、いつも女の子にあんなことしてるの?」ジトー

京太郎「い、いや、小鍛治さん!?誤解しないでほしいのですが、いつもってわけではないんですよ?」

小鍛治「じゃあどういうときにしてるのさ?」

京太郎「ええとそうだな…長野にいたとき仲の良い女の子がいたんだけど…その子がまた小鍛治に似てるんだよ」

京太郎「すぐ道に迷うわ、何もないところでこけるわ、コミュニケーションに不安があるわ……」

京太郎「まあ、小鍛治とは少し方向性がちがうかもしれんが」

小鍛治「へぇー、わたしより酷い人もいるんだね」

自覚がないって恐ろしい

京太郎「ま、まあとにかく世話のかかる子だったんだよ」

京太郎「で、そういう子がさ、いつもより頑張ったりするとするじゃん?」

京太郎「そうすると何かムラムラっときて思わず頭をなでたくなっちゃうんだよ」

小鍛治「ま、まあ分からなくはないけど…」

京太郎「だから父性っていうのかな…娘の頑張る姿を見守る父親の気持ちというか…」

京太郎「つまり決して小鍛治の想像するような、やましいものではないんだよ!」

小鍛治「そ、そうなんだ」

京太郎「おう、分かってくれて嬉しいよ」

小鍛治「…でもそれって私のこともそういう目で見てるってことじゃあ――」ジロ

変に追及される前にスタコラサッサだぜ

京太郎「おおっともうこんな所か!今日はありがとな小鍛治またなー!」ダッ

小鍛治「ちょ、ちょっと話はまだ―――」

小鍛治「もう!」


俺は小鍛治の追撃を見事かわし、無事自宅という名のトシさんの家に到着した


京太郎「ただいまー!」

トシ「おやおかえり、少し遅かったね」

京太郎「今日は麻雀部の歓迎会があったからね、駅前の方まで行ってたんだ」

トシ「おや、結局麻雀部に入ることにしたのかい?」

京太郎「まあその…いろいろあってね」

小鍛治を入部させるため、ってことが一つの理由だがこれはさすがに話せないな

トシ「…そうかい」

トシさんも何かを察しってくれたようだ

京太郎「それでなんだけど、改めてきちんと麻雀の指導をお願いしたいんだけどいいかな?」

トシ「それなら今でもやってるじゃないか」

京太郎「それはそうなんだけど…今まで以上に真剣に麻雀に取り組みたいんだ」

トシ「どういう心境の変化だい?」

俺の表情を見てトシさんも真面目に聞いてくる



京太郎「いつになるかわからないけど、俺は一年もしないうちに元の時代に帰ると思うんだ」

トシ「……」

京太郎「それでふと考えたんだ…ならこの時代での生活に何の意味があるのかなって」

京太郎「確かにこの時代の思い出は元の時代にまで残るのかもしれないよ」

京太郎「でも今の知り合いに、たとえ元の時代で会えたとしても誰も俺だとは信じてくれないと思うんだ」

京太郎「結局みんなにとって、熊倉京太郎と須賀京太郎は別人」

京太郎「そう考えると無性に寂しくなっちゃってさ…」

京太郎「それでこのことを、友達にに相談してみたんだ」

京太郎「そしたら、とりあえず今をがんばれ。意味は後からついてくる、って言われて…」

京太郎「だから、今できることを真剣に取り組みたいと思うようになったんだ」

トシ「……いい友達を持ったね」

京太郎「ちょっと頼りないけどね」



トシ「よし分かった。じゃあ今日からビシバシ行こうか」

京太郎「ありがとう!」

トシ「ただし、ひとつ条件を付けるよ」

京太郎「条件?」

トシ「私の指導を受けるときにはもう一人誰か連れて来なさい」

京太郎「誰かって?」

トシ「そうだね……例えばその『ちょっと頼りない友達』なんかいいんじゃないのかい」

ばれてたか…恐れ入りました

京太郎「了解です」


トシ「ああそれとね…さっきの話には一つ間違いがあるよ」

京太郎「えっ?」

トシ「私にとっては熊倉京太郎も須賀京太郎も同じさ」

トシ「たかが12年、私が自慢の孫を間違うはずないだろう?」

驚くほど優しく、自信たっぷりに、いくらか茶目っ気を込めて、そう言ってくれた




さすがにその日の特訓には小鍛治は呼ばなかった

トシさんの指導はそのセリフ通りなかなかビシバシと行われた

しかし麻雀がうまくなるためならと思うと不思議と苦痛ではなかった

トシさんのあの最後の言葉はとても印象に残った

誰かが自分のことを覚えていてくれる、そのことだけでいくらか救われた気持ちになった


――4月下旬 部活終了後



「「おつかれさまでしたー!」」

今日の部活終わりー。毎回やられっぱなしだと妙に疲れるぜ

この状況を打開するために家に帰ってトシさんと特訓なのだが…

さて小鍛治にはどうやって切り出そうか


小鍛治「相変わらずボロボロだったね」

京太郎「うるせー、こっちだって頑張ってんだ」

京太郎「……」

京太郎「そういや聞いたことなかったけど、小鍛治はどうやって強くなったんだ?」

小鍛治「わ、私はそんなに強くないよ。部長さんとかによく負けるし…」

小鍛治「でもルールなんかは本とか読んで知ったたし」

小鍛治「それに今時インターネットで麻雀できるからね」

この時代からネト麻って存在してたんだ…知らなかった


小鍛治「だから実践だって一人でできるから、そこそこ強くなることぐらいならできるよ」

京太郎「にしても俺より断然強いけどなー」

小鍛治「ま、まあね。才能の違いなんじゃないかなー、なんて///」ドヤァ

京太郎「……」

小鍛治「……」

京太郎「……」

小鍛治「な、なんか反応してよ!冗談なんだから//」アセアセ

京太郎「あー今の言葉傷ついたわー(棒)。なので謝罪と賠償を要求します!」

小鍛治「謝罪と賠償って……あ、でも麻雀を教えてあげることくらいならできるかも」

京太郎「ほー、そいつはありがたい」

小鍛治「だったらこの後――」ボソボソ

京太郎「でも残念! 俺には既に優秀な指導者が付いているのだ」

小鍛治「え、そ、そうなんだ…」シュン

京太郎「トシさんって言うんだけど…というか俺の祖母なんだけどね」

小鍛治「ああ、熊倉さん?」

京太郎「知ってるのか?」

小鍛治「うん、昔よく近所の子供とか集めて麻雀教室開いてたからね。私は参加したことないけど……」

小さい頃からコミュ障気味だったんだね、小鍛治さん…


京太郎「実はさ、トシさんからもう一人くらいなら指導できるって言われてるんだ」

京太郎「だから、良かったら俺と一緒にトシさんから教えてもらわないか?」

小鍛治「え、いいの?」

京太郎「おう、モチのロンだぜ」

小鍛治「め、迷惑じゃないかな」

京太郎「んなこたーない、むしろ小鍛治が来てくれるとトシさん喜ぶと思うぜ」

小鍛治「そ、そうかな?」

京太郎「そうとも」

小鍛治「……」ウーン

小鍛治「だ、だったらお願いしちゃおうかな」

京太郎「よしっ!では早速わが家に向かおうではないか」

小鍛治「え!?今からなの?」

京太郎「善は急げだぜ、小鍛治!」

小鍛治「で、でも菓子折りとか用意しなくちゃならないし。それに服装だって――」

京太郎「おまえは彼女の父親に挨拶に行く男か!そんなこといいからとっとと行く!」


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小鍛治「はぁー緊張してきたー…何か変なところない?」

京太郎「いつも通りきれいですよ、お嬢さん」

小鍛治「もうっ!そういうのはいいから!」

ガラガラガラ

京太郎「ただいまー!」

小鍛治「え、ちょっとまだ心の準備が――」

トシ「おかえりなさい。おや、今日はかわいらしいお嬢さんも一緒だね」

小鍛治「あ、あの初めまして、小鍛治健夜と申します!」ペコリ

トシ「ご丁寧にどうも、私は熊倉トシだよ。今日は遊びに来たのかい?」

小鍛治「い、いえ。そのー…」アセアセ

京太郎「俺が一緒に特訓しようって誘ったんだ」

小鍛治「そうなんです」

トシ「そうだったのかい、じゃあ今日からよろしくね」

小鍛治「は、はい、よろしくお願いします」ペコリ


京太郎「じゃあ俺は飲み物でも用意してくるよ、小鍛治は何がいい?」

小鍛治「うーんと、じゃあ紅茶お願いできるかな」

京太郎「はいよー」

小鍛治は俺に助けを求めるような顔をしていた

初対面のトシさんと二人でいるのに不安を感じていたのだろう

でもあえてここは心を鬼にしてそれを無視した

トシさんなら全く問題ないだろうと思ったのだ


俺は先に台所に向かい飲み物の準備をした

10分ほどしてから応接間に行くと二人の楽しそうに談笑する声が聞こえてきた

どうやらこの短時間に打ち解けることができたらしい

あの小鍛治相手にすごい。どうやらトシさんはコミュ力もカンストしているようだ


京太郎「二人とも楽しそうに何の話をしてるの?」

トシ「女性の会話には首を突っ込まないほうがいいよ」

小鍛治「…ひみつ」

さいですか…

トシ「では始めようかね」


この日も何事もなく順調にトシさんの指導が行われた

トシさんの指導にはあの小鍛治も何度も感心していた


何回か三麻をしたが小鍛治ですら相手にならなかった

しかしトシさんの指導の賜物か、俺もそこそこ上達してきたと思う


京太郎・小鍛治「ありがとうございましたー!」

トシ「こちらこそ楽しかったよ。健夜ちゃんは明日もくるのかい?」

小鍛治「とてもタメになったので、できれば毎日来たいくらいです」

小鍛治がこんなとと言うなんてかなり珍しい

トシ「そう言って貰えて嬉しいよ、ありがとう」

トシ「じゃあ平日部活が終わったら来なさい。休日は復習でもしてるといいんじゃないのかな」

小鍛治「はい!ぜひそうします」


京太郎「話はまとまった?時間の方は大丈夫か小鍛治?」

もう夜7時を少し過ぎている、良い子は帰る時間だ

トシ「なんだったら夕ご飯の用意もできるけど…」

小鍛治「いえ、そこまでして貰うわけにはいきません。今日は帰ります」

トシ「そうかい。じゃあまた明日ね」

トシ「京太郎、健夜ちゃんを送っておやり。最近は変質者だって出るんだから」

京太郎「え、歩いて10分くらいだし、それに小鍛治なんか襲うやつ――」

小鍛治「……」ギロリ

京太郎「送らせていただきます」

トシ「ふふ、いってらっしゃい」


とりあえず小鍛治を送ることになったので、二人で小鍛治の家に向かう


京太郎「今日はどうだった?トシさんすごいだろ」

小鍛治「京太郎くんのおばあさんにしておくには、勿体無いくらいね」フン

機嫌を損ねてらっっしゃる

京太郎「さっきのは悪かったって。実際こんな片田舎に変質者なんて現れないだろ?」

小鍛治「まあ、それはそうだけど…」

京太郎「でも驚いたよ、行く前は緊張しまくりだったのに10分そこらで仲良くなってるんだから」

小鍛治「うーん、それは私も不思議だったけど…でも実際すごくいい人だし」

まあ俺みたいのを住まわせてくれるくらいだからな

小鍛治「麻雀の腕も相当なものだよね、三麻やったときなんかたぶん全然本気出してないよ」

京太郎「まじで!」

小鍛治「うん、たぶんだけど私たちの実力を考えて最適なレベルで打ってたんだと思う」


そんな会話をしているとついに小鍛治の家に着いた

小鍛治の話によるとこれは借家らしい、だが十分立派なものだ

小鍛治「送ってくれてありがとうね、それに京太郎くん家も意外と楽しかったよ」

京太郎「意外とは余計だ。じゃあまた明日学校でな」

小鍛治「うん、また明日ね」





小鍛治を送り届けた後、家に戻ってきた

結局変質者なんか見かけなかったけど。あ、ちなみにタヌキはいました


トシ「おかえり、ありがとうね」

京太郎「どうってことないよ」

トシ「でも健夜ちゃんとてもいい子だったじゃないか。話に聞いていた以上だよ」

京太郎「あれで人見知りがなければいいんだけどね」

トシ「はは、それは京太郎がしっかり面倒見てあげるんだよ」

京太郎「うん、分かってる。それで麻雀の方はどうだった?」

トシ「健夜ちゃんのかい?」

京太郎「うん」

そういうとトシさんは少し考える素振りをした

指導中何度か小鍛治のことを気にしていたので、恐らく既にその才能には気付いているのだろう

なにせ将来は世界でもトップクラスの実力になるんだから

トシ「はっきり言ってとてつもない才能があるね、あの子は」

トシ「まだ開花はしてないがいずれ世界を舞台に戦うようになると思うよ」

さすがトシさん、先見の明がおありで


――4月下旬 



もう4月の最終週に入った。色々なことがあり時が経つのを早く感じる

最近気付いて驚いたのだが、この高校は文化祭を5月中にやってしまうらしい

いちおう進学校とのことで、受験のために学校行事は早めにすることになっているそうだ

で、今現在ホームルームでクラスでの出し物を決めているのだが


「ハイハイ!わたし演劇やりたい!」

「えー、無難に喫茶店とかでよくない?」

「お菓子食べたい…」ギュルギュル

「目立てればなんでも構いませんわ!」

「ダルいから動かなくていいもので…」

「タコスしかないじぇ!!」

「おもちもちもち、おもち喫茶だね!」ドヤァ

「わたしは衣装が作れればなんでもいいなぁー」


この通りみんな好き放題である。これでは一つに決まるわけがない


……いや待てよ、一見するとてんでバラバラな意見にも思えるが

しかし大別すれば、演劇などの非日常空間の演出と食べ物の提供の二つに分かれる

ならばこの二つの要求を満たしてやればいいではないか!


京太郎「安西先生!コスプレ喫茶がやりたいです!!」

けっして、おもち持ちの女子にきわどいコスプレさせたいなんて考えてない


「うーん、意外と面白そうじゃない?」

「それならわたし衣装作れそう」

「まあタコスを出すなら構わないじぇ」

「ダルい…けどまあいいかな」

「んほー!!えろい衣装きたーーー!!!!」


あれー、半分冗談だったのに意外と好感触?

小鍛治はというと

小鍛治「ふーん」

正直どうでもよさそうである

実行委員「ではここで多数決を採りたいと思います」


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結局その場のノリと勢いで、俺の意見が採用されコスプレ喫茶になってしまった

若さって時として恐ろしいね、うん


部員1「コスプレ喫茶って、意外と大変そうなの選んだなー」

京太郎「2年、3年になると受験とかあるじゃないですか。だから今のうちに大変なのをやっておこうかと」

もちろん嘘である

部長「うん、いい心がけじゃないか。しかし6月には県予選があるからな、練習の手は抜かないぞ」

副部長「でもなかなかおもしろそうじゃない。私必ず行くわ」

京太郎「ぜひ来てください!お客さんもコスプレできるようにしておきますから(ゲス顔)」

小鍛治「なんか悪い顔してる」ジー

京太郎「大丈夫、君には関係の無い話さ」キリッ

小鍛治「なんだか知らないけどバカされた!?」

いつも通りバカ話をしつつ、その日も部活をきちんと行った


――5月上旬 



5月に入りいよいよ文化祭の準備が始まった

俺と小鍛治は内装担当ということになっている

正直衣装作りをやりたかったのだが、なぜか小鍛治に全力で止められてしまった

ちょっぴり胸元の布面積が少ない衣装を提案しただけなのに……


京太郎「小鍛治ー、そこのセロハンテープ取ってくれないか?」

小鍛治「はいどうぞ、変態さん」フンッ

ごらんの有様である


しかしせっかくの文化祭の準備、小鍛治にとっても皆と仲良くなる絶好の機会なのだが

当の小鍛治は変態である俺のそばからなかなか離れようとしない、どうしたものか


「イタッ!針刺さったー!」

「ちょっと!そこ縫い間違えてるよ!」


小鍛治「……」チラチラ

京太郎「ん?」


「だれかー、ミシンが動かなくなっちゃたんだけど助けてー!」
 
「ごめん針落とした、動かないでー!」


小鍛治「……」ソワソワ

京太郎「…」


「あわわ、あわわわわわ…」

「だめだこいつら…」


小鍛治「……」ドキドキ

京太郎「ふむ…なるほど」


俺は持ち場を離れ、衣装作り班のところに向かう

京太郎「大変そうだから俺にも少し手伝わせてくれよ」

「えっ、熊倉君裁縫できるのー」

「教えて、教えて!」

小鍛治「えっ」

京太郎「裁縫はそんなに得意じゃないんだけどなー」ドヤァ

そう言って、針に糸を通し少々危なげに縫っていく

「意外とうまいじゃん!」

「私よりうまくできてる…」

小鍛治「……」ソワソワ

うーんまだか、ならば


持ち場を離れ、衣装作り班のところに向かう

京太郎「大変そうだから俺にも少し手伝わせてくれよ」

「えっ、熊倉君裁縫できるのー」

「教えて、教えて!」

小鍛治「えっ」

京太郎「裁縫はそんなに得意じゃないんだけどなー」ドヤァ

そう言って、針に糸を通し少々危なげに縫っていく

「意外とうまいじゃん!」

「私よりうまくできてる…」

小鍛治「……」ソワソワ

うーんまだか、ならば


今度はすそ上げしたところをわざと並縫いにしていく

「へ、へぇ意外とやるじゃない」

「女として負けた……」

京太郎「惚れてくれったって構わないんだぜ、お嬢さ――」

小鍛治「それじゃダメだよ!」

京太郎「へ?」

小鍛治「すそ上げには並縫いじゃななくてまつり縫いにしないとだめだよ、貸して」

そういうと小鍛治は慣れた手つきで素早く縫っていく

小鍛治「ほら、この縫い方なら表からほとんど糸が見えないから見栄えがいいんだ」

「小鍛治さんすごーい!!」

小鍛治「そ、そんなこと無いよ//」

「熊倉くんより全然うまいよ!私にもそれ教えて!」

小鍛治「えっ、で、でも私内装担当だし…」

「いいじゃん小鍛治さん、熊倉君に任せちゃえば」

「内装班って男ばっかりでむさいからこっちこようよ」

むさいは余計だ

小鍛治「いいの…?」チラ

京太郎「おう、こっちは任せとけ!」

「決まりね、じゃあ小鍛治さん借りてくから」


最初の方は小鍛治もオドオドしていたが、徐々にあの女子グループにも慣れていっているみたいだ

べ、別に小鍛治のことが気になって、こまめに様子を伺ったりしてたわけじゃないんだからね!


一方俺はというと…

「おう熊倉、暑いだろ?上着脱げよ、な!」

「なかなかいい筋肉してるじゃないか、触ってもいいか?」サワサワ

「飲み物買って来たよー、熊倉君はアイスティーでいいよね?」

「小鍛治がいなくなって寂しいんだろ?今夜俺の部屋来いよ、慰めてやるから」

身の危険を感じていた。なんかこの班分け偏ってません!?


――5月上旬 土曜日



え、土曜日は休みだって?

何を言っているのかな皆さん、12年前はまだ半ドンが主流ですよ


さて、いよいよ文化祭の準備も本格的になってきた

それと共にあのなんとも言えない、非日常的な独特の雰囲気が辺りに充満するようになってきた

なので皆も授業中でありながら、どこかソワソワしているのを感じることができた

そんな時、珍しく小鍛治の方から話しかけてきた

小鍛治「きょ、京太郎君ちょっといいかな?」

京太郎「おう、どうした」

小鍛治「あのね、今共同で使ってるミシンが壊れちゃってね…」

京太郎「そりゃ大変だ、家庭科室行って借りてこうぜ」

小鍛治「いや、さっき行ったらもうストックが無いんだって」

小鍛治「だから、私の家から持っていこうかと思うんだけど…」

京太郎「けど?」

小鍛治「わ、私だけじゃちょっと持っていけそうないから、授業が終わったら一緒に運んでくれないかな?」

うーむ、まだ女子連中には頼めないか

京太郎「おう、いいぞ」


________

_____

__

 
午前中の授業も終わり、俺達は約束通り小鍛治の家の前までやってきた

ていうか中に入るのは初めてじゃね?あーなんだか少し緊張してきた

小鍛治「どうかしたの?」

京太郎「男の子は女の子の家に訪問するとき、緊張するもんなのですよ」

小鍛治「ふーん」

ガチャ

小鍛治「ただいまー」

小鍛治母「おかえり、今日は早いのね」

小鍛治「ううん、違うの。文化祭の準備で使うミシンを取りに来たんだ。持って行っていいでしょ?」

小鍛治母「それは構わないけど……」

小鍛治母「ん?あら、あらあらあらあらあら」

俺の姿を確認してなにやら嬉しそうな顔をしている

小鍛治母「ちょっと待ってね……もしかしてあなた熊倉京太郎くんじゃない?そうでしょ?」

京太郎「ええ、その通りですが…」


小鍛治母「健夜からいつも話しを聞いてるわー、お世話になってるみたいで」

小鍛治「もう、おかーさん。そういうの止めてよ!」

小鍛治母「あらいいじゃない。そうだ!せっかく来たんだからおばさんの世間話に付き合ってくれない?」

京太郎「おばさんなんてとんでもない!まだまだお綺麗ですよ」

これはお世辞でもなんでもない、十分綺麗だ

小鍛治母「あら、ありがとう。お世辞でもうれしいわ。さ、上がって」

小鍛治「はあ…、私は自分の部屋に行ってるから終わったら呼んでね」


小鍛治母「あなた熊倉さんとこのお孫さんね。こんな好青年だったなんて、うらやましいわ」

京太郎「そんなことないですよ。でもありがとうございます」

小鍛治母「こっちこそ、ありがとうと言いたいわ、小鍛治と仲良くなってくれて」

京太郎「いえ、そんな」

小鍛治母「ほらあの子かなりの人見知りじゃない?だから最初は友達できるか心配してたのよ」

小鍛治母「でも入学してすぐくらいだったかしら…健夜が珍しく学校での話をしてね」

小鍛治母「まあでも、ほとんどあなたの話ばかりだったけどね」フフ

小鍛治母「しかもいきなり麻雀部に入るって言い出したりしてね、これもあなたのおかげでしょ?」

京太郎「はは、ほとんど無理やり引き込んだようなものですけどね」

小鍛治母「でも本当に嫌だったら入部しなかったと思うわ、あの子意外と頑固なところあるし」

小鍛治母「きっとあなたがいたから、入るのを決めたんだと思うわ」

なんだか歯がゆいことを言ってくれる

京太郎「そうでしょうか?」

小鍛治母「ふふ、そうよ」ニコリ

その笑顔は小鍛治にそっくりだった


京太郎「すみません。そろそろ時間なんで行かないと…」

小鍛治母「あら、そうなの?引き止めてしまってごめんなさい」

小鍛治母「あとこれお詫びに貰ってくれないかしら」

そう言うと、なにやら水族館のチケットを手渡された

京太郎「いいんですか?」

小鍛治母「私が使うことなんてないからいいのよ、彼女とのデートにでも使ってちょうだい」

京太郎「彼女なんて生まれてこのかた、いたことなんてありませんよ」

小鍛治母「あらそうなの?なら尚更ね」ニコ

京太郎「?」

その言葉の意味はよく理解できなかったが、とりあえず頂くことにした

そして小鍛治を呼び、ミシンを携えて再び学校に向かう




小鍛治「結局お母さんと何の話をしてたの?」

京太郎「小鍛治が家でいかにゴロゴロしてるかとか、未だに服はお母さんに買ってきてもらっている事とか――」

小鍛治「えっ!う、嘘だからそんなこと!?信じたりしたらダメだからねっ!?」

小鍛治「もうおかーさんたら、帰ったら……」ブツブツ

あとは、如何に小鍛治のことを愛しているか、とかね――


――5月中旬 文化祭二日目



いろいろあったが無事文化祭を迎えることができた

(特定の)男友達からの執拗な攻撃に耐えることができたのは奇跡といってよいくらいだ

だって彼ら、自分の仕事は韋駄天の如き早さで終わらせてほとんど俺にセクハラしてたもん


衣装作りの方は小鍛治が加わったおかげか、何とか終わらせることができたみたいだ

初日は学内のみでの開催だったが、今日2日目は一般公開される日だ

なので今日が文化祭本番と言って差し支えないだろう

俺と小鍛治は午前中クラスの出し物を手伝い、午後は遊べることになっている


小鍛治「はぁー、何か緊張してきたよ…」

京太郎「昨日大丈夫だったんだから、今日も大丈夫だろ」

小鍛治は店員役はやらない、全力で拒んでたからね

小鍛治「それにしても…その衣装妙に似合ってるよね……」

俺はというと、上は工事済みで下は未工事の緑色の髪をしたキャラクターのコスプレをさせられている

最初は俺も慣れなかった。しかし時々男子の熱のこもった視線を浴びるうちになんだか…

京太郎「き、んきもぢいいぃぃ///」

小鍛治「どうしたの!?」

京太郎「すまん、少しトリップしてた」キリッ

小鍛治「そ、そう…」ドンビキ


アホなやりとりをしているといつの間に開始を告げる放送が流れ、ついに2日目が始まった

30分もするとお客さんがそこそこ入るようになってきて、忙しくなってきた

しかし俺はまったく別の意味ですごく忙しくしていたのだが…


「すみません、こっち向いてください!」パシャパシャ

「ポーズお願いします!そう、いいねっ!!」パシャパシャ


なぜか俺のみコスプレ撮影会が開催されていた…他にもいるじゃん!?

どうやら昨日の噂を嗅ぎ付けて、特殊な性癖をお持ちの大きなお友達がご来店してしまったようだ



でも止めてなんて言えない、だって気持ちいいだもの

ああ今ならアイドルとかレイヤーの方々の気持ちがよく分かる


だから…


「いいね、いいね!ほらもうちょっと裾上げてごらん、ほーら(ゲス顔)」


仕方が無く…


「ふおおおーーーきたああああーーー!!!!」

「ブヒーーー!!ブヒブヒブヒ!!!」


こんなことを…










小鍛治「て、だめでしょ!!!?」


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_____

__


京太郎「すまない小鍛治、迷惑をかけたな」キリッ

小鍛治「もう京太郎くんはコスプレ禁止!!分かった!?」

京太郎「はい…」

小鍛治の懸命の阻止もあり、撮影会は中止となった

男子のみんながネガの没収をしたが、その内何人かはそれをくすねようとしていた

さらにそれを発見した女子がそいつらに金的を食らわせていた、おおう…

そういうわけで俺は接客を外され主に料理を担当するようになっていた


「いらっしゃませー!」

小鍛治「あ、熊倉さんと……おかーさん!?」

小鍛治母「えへへ、きちゃった」テヘ

トシ「ちゃんとやっているかい、京太郎」

京太郎「まあね。来てくれてありがとう!さ、こっちに座って下さい二人とも」

そういって2人分の席を引いて着席を促す


京太郎「2人は知り合いなんですか?」

小鍛治母「そうよ。でも会ったのはたまたまなの」

トシ「学校の前で出くわしてね。聞いてみたら行き先は同じみたいだから一緒に来たのさ」

京太郎「なるほど」

小鍛治母「でも京太郎くんと健夜はコスプレしてないのね、楽しみにしていたのに」

京太郎「まあ、その、いろいろありましてね……」トオイメ

京太郎「代わりにといってはあれですけど、最高のものを振舞いますよ。なにします?」

トシ「私は京太郎にまかせるよ」

小鍛治母「私もそうしようかしら、京太郎くん料理得意みたいだし」

京太郎「かしこまりました、では少々お待ちくださいませ」ペコリ


母親が来てコソコソしていた小鍛治を呼ぶ

京太郎「せっかく来てもらったんだ、コソコソしてないで手伝ってくれ」

小鍛治「別にコソコソなんてしてないもん!」

京太郎「はいはい」

まあ小鍛治の気持ちも分からなくない

なんか知らないけど家族を友達に見せるのってちょっと恥ずかしいよね


しかしお二方が来るのは予想していたので、準備は万端だ。特別に食材も調達してある

まずは退屈させないように、食前の飲み物だ

さて頑張るか


__________

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小鍛治母「信じられないくらいおいしかったわ。まるで高級料理店のお料理みたい」

京太郎「そう言ってもらえて嬉しいです、作ったかいがありますよ」

小鍛治母「特にあの煮込み料理はよかったわ、作り方を教えて貰いたいくらいよ」

京太郎「それだったら、今度教えに行きましょうか?」

小鍛治母「いいの?ぜひ来て頂戴。ついでに健夜にも料理を教えてほしいくらい」

ちなみに小鍛治は全然料理できないみたいで、ほとんど雑用をしてもらった

小鍛治「私だってちゃんと手伝ったんだよ!?」

小鍛治母「あなた食材運んだり、レンジで温めたり…ほとんど雑用だったじゃない」

小鍛治「うっ…」

トシ「まあまあ、暇があれば私が教えてあげるから」

小鍛治「ほんとうですか!ありがとうございます」


俺達と会話を終えると2人は帰っていった

もともと俺達の様子を見に来たのだから当たり前だが

小鍛治のお母さんは、娘が思いの外がクラスに溶け込んでいて安心したようだ


午前の、俺達の店番が終わりに近づいた頃、麻雀部の先輩達が遊びにきた

副部長「遊びにきたわよー」

部員2「あら、2人はコスプレしてないんだ」

京太郎「いろいろありましてね…」

小鍛治「私は全力で拒否しました」

副部長「なら私が代わりにしようかしら、たしかできるんだったよね」

そのセリフ待ってましたよ副部長

京太郎「ええ、もちろんお客様にも貸し出ししてますよ」

京太郎「副部長には特別な衣装をご用意したんで、こちらで着替えてください(ゲス顔)」

部員2「うーん、なんか悪い予感するし私はいいや」


ちくしょう!だがまあいい、メインディッシュの副部長さえいればね、ククク

この時のためにどれだけ苦労したことか…

副部長のための衣装を作るために何度徹夜したことか…

さらにトシさんの高級一眼レフカメラも土下座して借りたのだ、抜かりは無い

小鍛治「京太郎くん、また変なこと考えてるでしょ」ジロリ

滅相も無い


しばらくすると副部長が俺が秘密裏に作成した衣装を身にまとい現れた

副部長「ど、どうかしら。なんだか少しスースーするけど////」カァァ

京太郎「すばらっ!すばらっ!!」パシャパシャ

小鍛治「やっぱり……」

部員2「うわあ……」ドンビキ


副部長「ちょっと恥ずかしいわね////」

京太郎「恥ずかしがることないです!これこそ長野スタイルなんですよ!!」パシャパシャ

京太郎「さあ、こちらの個室で記念撮影しますのでどうぞ」パシャパシャ

部員2「既にめちゃくちゃ撮ってるじゃん、それに個室ってなに!?」

京太郎「さあ、好きなポーズをとってー。はい、いい表情ですね!」パシャパシャ

副部長「そ、そうかしら////」

京太郎「素材がいいですからね!さあさあ前かがみになって!!」パシャパシャ

副部長「こ、こう///?」

京太郎「はあはあ///いいですよその調子です!さあ全てをさらけ出してっ!!!」パシャパシャ
 
副部長「///////」

京太郎「んほーーー!!すばっ!すばらーーー!!!!すばらすばら、す、すば――」ブヒブヒブヒブヒ










小鍛治「いいかげんにしようか」ニコリ



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京太郎「ハッ!?ドリームか……?」

京太郎「あれ!?副部長達は??」

小鍛治「2人とももう違うところに行ったよ」

京太郎「そうだっけ!?なんだか記憶が飛んでるような…」

小鍛治「これ、大切なものでしょ」ニコリ

小鍛治は手に持っていた俺のカメラを渡してくれた。あれなんで小鍛治が持ってるんだ?

それに何かとても大切なものを写真に納めた気がするのだが…気のせいだろうか

それになんだか顔がボコボコなんですけど……




いろいろとハプニングはあったものの、何とか自分達の仕事は全うできたと思う

午後の自由時間は小鍛治と一緒に部室で過ごすことにした


ちなみに初日には俺は男子連中と一緒に回った

小鍛治も、あの衣装作りをしていた何人かと一緒に回ったらしい。たいした進歩だと思う

小鍛治は普段しないようなことをこの2週間しっぱなしで疲れたのだろう

だから静かに過ごせるここを敢えて選んだ


小鍛治は本を読んでいたが、ふと顔を上げた

小鍛治「そういえば、これ返し忘れてたよ」

すると俺が作った長野スタイルの衣装を渡してきた

京太郎「ド、ドウシテコレヲ」ビクビク

小鍛治「どうせ副部長にでも着せようと思ってたんでしょ?」

京太郎「ナ、ナゼソレヲ」ダラダラ

小鍛治「はぁー、もういいよ、別に怒ってないから…」

京太郎「あ、ありがとうございます!小鍛治さまー」

小鍛治「調子いいんだから、まったく…」アキレ


小鍛治「あとこれ、すこしほつれてた所あったから直しておいたよ」

小鍛治「素人が作ったとは思えないほどきれいにできてたから、勿体ないしね」

京太郎「……そうか?まあ頑張って作ったからな」

小鍛治「裾上げの所のまつり縫いも、びっくりするくらいちゃんとできてたしね」

京太郎「……ふーん、そうだったか」

小鍛治「そうだよ。だから、そ、その……ありがとう////」

京太郎「ふふ、どういたしまして」

小鍛治「あーでも///よく考えたらこの服京太郎くんが持っていても仕方ないよね?」

小鍛治「だ、だからしばらく私が預かっておきます///」

京太郎「ひどい!」

その後もまったりと部室で過ごし、俺の高校生活始めての文化祭が終了した




――後日小鍛治家にて



小鍛治「あ、これ名前の刺繍までしてある…凝りすぎだよ京太郎くん……」

私、小鍛治健夜は今、京太郎くんの作った衣装を着ている

小鍛治「うわ、胸の部分ブカブカ…」

別に自分にも似合うかな?とか思って着たのではなく、単なる好奇心…ということにしておこう

だからちょっとポーズをとったりしたっておかしくなんか無い、ついでに笑顔になったりして

小鍛治「キャハっ!」グギギ

あ、だめだこれ


でもこの格好はあまりにもきわどすぎるよ!胸なんか角度しだいでは見えちゃうしね!

こんな痴女服着て外歩いたら一発で捕まっちゃうよ、犯罪だよ!?

だからこの服を世に出さないためにも、私が管理しないとダメだよね、うん


ふぅー、そろそろ着替えよう。こんなとこと誰かに見られたら変態だと思われるちゃうもんね


ガチャ

小鍛治母「健夜ー、さっきのことなんだけど――」

小鍛治「あ」

小鍛治母「」

小鍛治「……」

小鍛治母「……」

小鍛治「……」

小鍛治母「……」

小鍛治「…なんか言ってよ」

小鍛治母「ごめんね、今度からそういう服買ってくるわね」ニコリ

ガチャ




小鍛治「………」グスッ

小鍛治「ちがうよ!私の趣味じゃないよ!!」

小鍛治「お願い信じて!!おかーーさーーーん!!!!」


この後誤解が解けるのに2週間かかった

もう絶対あんな服着ない!そう心に誓った


――6月 県予選前日



文化祭も終わり、いよいよ明日から県予選が始まる

俺を含め部員全員が集中して部活に取り組んできた

俺もこの二ヶ月でだいぶ上達することができたと思う

だがそれと同時に他人との実力差を肌で感じることができるようになった

部長と副部長は全国区の選手だが、この2人には未だになかなか勝つことができない

だからこそ簡単に、自分が全国大会へ進めるとは正直思っていない

なので難しいことを考えず全力を尽くす、それだけだ


部長「今日はここまでにしよう、お疲れさま」

部長「いよいよ明日から県予選が始まる」

部長「日程はもう知っての通り、団体戦が先で個人戦は後だ」

部長「1年生は不慣れな部分もあると思う、なのでそこは3年生がしっかり面倒を見るように」

部長「細かいところはこのプリントにまとめてある、各自見ておくようにしてくれ」

部長「戦術、戦略はしっかり頭に叩き込んであると思う」

部長「実力だって、昨年と遜色ない…いやそれ以上だと私は考えている」

部長「だから今日はゆっくり休んで明日に備えてほしい」

部長「以上、解散!」


小鍛治「はぁー…緊張して今日は眠れなさそうだよ」

小鍛治「なんで部長は私を大将に置いたんだろう…ストレスで試合中吐くかもだよ……」

京太郎「たのむ、それだけはやめてくれ」

小鍛治「いいよね、京太郎くんは個人戦だけで」

小鍛治「一回団体戦に出て、この苦しみを味わった方がいいよ」

京太郎「はいはい分かりました。だから今日はゆっくりお休み」

小鍛治「もう!またおかーさんみたいなこと言って」


帰り道、分かれるまでずっと小鍛治の愚痴を聞かされた

まあいきなりの本番で試合のトリを勤めるのは大変だろう。小鍛治ならなおさら

ちなみに団体戦のオーダーは、部長、部員1、部員2、副部長、小鍛治の順番だ

さて、明日の初戦どうなることやら…


――6月 インターハイ県予選大会初日


俺達6人は会場に到着し、荷物を控え室に置き待機することになった

俺達は去年団体戦で全国に行ってるので、シード扱いだ

だから一回戦はお休みで二回戦からなのでけっこう余裕がある

それまで俺は観客席で他の試合と見ることにした

会場の雰囲気に慣れたかったし、他校の実力を知っておきたかったからだ

二回戦が始まる頃に控え室にもどると、小鍛治以外はほとんど緊張した様子はなかった


部長「じゃあそろそろ行くよ」

部員1「いってらー」


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結果だけ見れば圧勝だった。なにせ次鋒で決着がついてしまったからだ

部員1「ごめん、飛ばしちった」テヘ

部長「すこやんを試合に慣らすために抑えとけと言ったろうが、アホ」

小鍛治「べ、別に大丈夫ですって。雰囲気には慣れましたし」アセアセ

部員1「ほら、すこやんもそう言ってるからいいじゃん!」

部員1「それに、そういう部長さんだってかなり相手を削ってたような」ニヤリ

部長「うっ、それは部の代表としての威厳をだな――」クドクド


結局初日はこれだけで終わってしまった、あっけない


――6月 県予選2日目 



今日は団体戦の決勝だ

昨日の試合振りを見る限り大丈夫そうだが、最後まで何があるか分からない

部長も決して気を抜かないよう注意していた

部長「昨日はたまたま圧勝してしまったが、今日の決勝はそう簡単にはいかないだろう」

部長「なのでみんな気を抜かず、全力で試合に臨んで欲しい」

部長「特に小鍛治は昨日、誰かさんのせいで打てなかったから十分注意してくれ」

部長「他校の試合を見る限り、恐らく大将戦までには2位とそこそこ差をつけられると思う」

部長「だからと言っていきなりの決勝で緊張するなというのは無理だろう」

部長「なので状況しだいでは最初から守りに徹してしまっても構わない」

小鍛治「は、はい!がが、がんばりましゅ」

なんだか駄目そう……


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試合開始から順調だった

昨日ほどではないが火力のある先鋒、次鋒のふたりが点を取る

その後堅実なうち方を得意とする中堅、副将のふたりが確実に守る


結局小鍛治の大将戦までには、2位と約3万点の差をつけて1位だった

普通ならもうほとんど勝ちは決まったようなものだが、肝心の小鍛治がなあー

小鍛治「い、いいいいいってきます」ガクガク

はあー…


京太郎「うーん、なかかなあがりまで持っていけないですね」

部員2「あ、満貫」

副部長「まだ大丈夫だろうけど、緊張するわね…」

部長「当たり牌か、らしくない」

部員1「やばい追いつかれたぞ…」

副部長「ついにオーラスね…」

部員1「おっ、聴牌!」

「「…………」」

京太郎「うっしゃあーー!!ロンきたーーーー!!!!!」

部長「うるさい!」ポカ


小鍛治「た、ただいまです……」グッタリ

京太郎「おう!内容はともかく良くやったな、おめでとう!!」

部員1「2位のやつに追いつかれたときはさすがにやばかったけどな」

部長「まあいい、今日の試合は中身より結果が大事だった。勝ててよかったよ」

小鍛治「あ、ありがとうございます」グスッ

京太郎「お、おい!大丈夫か」

慌ててポケットからハンカチを取り出す

小鍛治「ち、違うの。追いつかれたとき、もうダメだって思って…それでも何とか勝つことができて――」

京太郎「そうか…わかったわかった」ナデナデ

小鍛治「うぅ…よかったよ~」ポロポロ


しかし普段あまり感情を表に出そうとしない小鍛治が人前で泣くなんて

相当のプレッシャーだったに違いない

そりゃそうだ、自分が負けてしまえば先輩達のインターハイが終わってしまうんだから

まあ今は落ち着くまで存分に泣かせてやりますか

ああもう、こんなに涙と鼻水が……制服、後で洗わないとな


京太郎「落ち着いたか?」

小鍛治「うん…」

先輩達には先に帰ってもらった

団体戦が終わったとはいえまだ個人戦があるし、それに小鍛治のこともあったから

先輩からは

部員1『すこやんのことよろしく頼むぞ、王子様!』ニヤニヤ

とからかわれたが…


京太郎「改めておめでとう、小鍛治」

京太郎「まあ、その…内容はなかなかひどいものだったが勝ててよかったじゃないか」

小鍛治「ひどいって……まあぐうの音も出ないよ」シュン

小鍛治「勝てたとはいえ悔しかったよ…自分が思っていた以上に」

京太郎「………なら次、それでもダメならまた次打って、俺にかっこいいとこ見せてくれ」

小鍛治「…前向きなんだね」

京太郎「それくらいしか取り柄がないからな。約束だぞ」

小鍛治「うん。今度は絶対先輩達の足手まといなんかにならない。本当の意味で勝ってみせるよ!」


――6月 県予選 個人戦


いよいよ俺の本番、個人戦だ

俺のいた時代とはルールが異なり、普通のトーナメント形式だ

ちなみに小鍛治は参加しない。小鍛治いわく


小鍛治『団体戦だけでもやばかったのに、個人戦なんて出たら絶対雀卓にリバースするよ!』


とのことだ。まあ昨日の決勝戦を見る限り、胃に穴が空いてもおかしくなかったからな


さて初日の午前の結果だが俺は見事三回戦を突破し、準決勝に駒を進めた

先輩達は部員1さんだけ三回戦で敗れたが、他3名は見事に1位通過をすることができた


そして、三回戦を終えた俺は、今まさに準決勝の真っ只中

ここで最低2位なれば、部長の言った目標である上位入賞が確実となり決勝に進める


「ツモ、3000・6000!」


っ…!終盤でこれはきつい。2位でも決勝に進めるが…なんとか凌いで

おっ、ツモった


京太郎「ツモのみ、1500・800」


よしっこれでいい!このまま無理せず2位通過を目指す!!

それにしても1位の人やけにあごが尖ってるような…




???「きたぜ。ぬるりと……」


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部員1「おう!どうだった大将!!」

部員2「なにそのノリは…」

京太郎「………」

小鍛治「ど、どうしたの?」

副部長「あまりよくない結果だったのかしら」ボソ

小鍛治「きょ、京太郎くん元気だしなよ。ほら準決勝までこれたんだし十分頑張ったじゃない」

京太郎「………」

部長「京太郎くん…?」

京太郎「………」

京太郎「や、やりましたよ俺!!2位通過ですけど決勝進出ですっ!!!」

部長「へ?…………やったじゃないか!!上位入賞を目標にしろとは言ったが、ここまでやるとは…」


副部長「やったわね、すごいわ京太郎くん!」ムニュムニュ

あ、ちょっ!たわわに実った果実の感触が……

京太郎「いやぁー…そ、そんなことないっすよー//」デレデレ

小鍛治「むっ…!まだ全国行きが決まったわけじゃないんだからデレデレしない!!」

そういうと無理やり副部長を引き剥がしてしまった、おのれ小鍛治!


京太郎「そういえば、先輩達はどうだったんですか?」

部長「残念ながら副部長のみ決勝進出だ」

京太郎「そう、なんですか」

部長「なに、気にすることはない。君は次の試合のことだけ考えていればいいんだ」

小鍛治「今度は私たちも応援するから、頑張って!」

京太郎「おう!」


そしてついに決勝戦

まさか自分がこの舞台に立てるとは入部当初は全く考えてなかった

最初の大会ではすぐに負けてしまって、悔しさを感じることもなかったように思う

だが今は違う。トシさん、小鍛治、部活のみんなに教えてもらって頑張ってここまで来たんだ

きっと負ければ泣きたくなるほど悔しくなるだろう。だからこそ負けられない!!

この人達に、俺は勝つ!!!























「狂気の沙汰ほど面白い………!」

「あンた、背中が煤けてるぜ…」

「御無礼」

>>126
母の2回目のセリフが変じゃないか?

>>182
そうですね。小鍛治→健夜で解釈してください
ご指摘ありがとうございます


____________

_______

___


京太郎「あわ…あわわわ、あわわわわわわわ……」

小鍛治「だ、大丈夫…?」

京太郎「な、なんだよあれ…部長達はおろかトシさんより強いじゃんか……」ブツブツ

小鍛治「おーい」

京太郎「ぜってー高校生じゃないよ……強くてニューゲーム何度もしてるよ………」ブツブツ

小鍛治「……」

京太郎「そんなん考慮しとらんよ…」



京太郎「」ブツブツ

小鍛治「いいかげんしなさいっ!」スパーン

京太郎「はっ…!俺はいったい何を…」

小鍛治「いつまでグチグチ、京太郎くんらしくない」

小鍛治「いくらあの人外みたいな人達にボコボコにされたからって」

京太郎「そうだな……ありがとう」

小鍛治「でも負けて、ちゃんと悔しかったんだよね?」

京太郎「そりゃあ、まあ、かなり…///」

小鍛治「なら大丈夫だよ。熊倉さんも言ってた、悔しさを感じるうちはまだまだ強くなれるって」

小鍛治「さ、先輩達のところに行こう」


???「ちょっと待ちな」

京太郎「あ、あなたは…アカギさん!」

アカギ「今日は酷い死合だったな…」

京太郎「っ……!!」

アガギ「だが…」

京太郎「?」

アカギ「だが、可能性は感じた…」

京太郎「!!」

アカギ「だから、また来い…!もう一度死線をくぐりに……!」

京太郎「は、はい!!」

アカギ「じゃあな」

>>190
すみません。上から5行目についてアガギ→アカギ、でお願いします


こうして、俺達の県予選は終了した


女子の決勝では見事副部長が1位になり全国大会出場が決まった

結果だけ見れば、女子は団体戦優勝、副部長は個人戦でも優勝、俺は決勝まで進むことができた

かなり上出来といえるのではないだろうか


しかし負けは負けだ、いくらあの決勝の相手が人外の化け物だったとしても悔しいのは変わらない

だから次こそは必ず、たとえ化け物相手だとしても、勝って全国に進んでやる!


――7月上旬



部員1「うい~、あっつー」パタパタ

県予選からしばらく経ち7月、かなり暑くなってきた

県予選を突破した俺達はインターハイに向けて猛練習を繰り返してきた

副部長「確かにここのところ妙に暑いわね~、なかなか集中できないわ」

汗でおブラが透けてますぜ、ぐへへ

小鍛治「こらっ!」スパーン

京太郎「いてっ!」

部員2「すこやんのツッコミも板についてきたね」

部長「ほら夫婦漫才はそこまでにして、対局に集中する」

小鍛治「め、夫婦なんかじゃありませんからっ///」

京太郎「その通りです。わたしはおもちにしか興味のない紳士ですから」キリッ

部員2「うわぁ…」


しかし暑い。クーラーは無いし、風もなかなか入ってこない。集中できないのも納得だ

部員1「ううーあちいよう~、集中できないよう~、やる気がおきなよう~」

部員2「うるさいなー、さっきから。なら一人で海でも行ってくれば?」

部員1「それだっ!!!」

部長「ダメに決まってるだろうが」

副部長「あらいいじゃない、県予選の打ち上げも結局しなかったし、ちょうどいいんじゃないかしら」

部長「いや、しかしだな…」

部員2「まあ、たまには息抜きも大事だと思うよ」

部長「うーむ」


京太郎「いいじゃないですか海!」

京太郎「照りつける太陽、砂浜を行く恋人達……はじける青春の象徴ですよ!!」

京太郎「先輩ッ!共に青春を謳歌しようぜっ!!」

部長「お、おう…」

ククク、見える見えるぞ!海=水着=ポロリ。完璧じゃあないかね、諸君

小鍛治「私は別にどっちでも――」

それは悪手じゃろ、小鍛治んコ

ちっ!仕方ねえ…

京太郎「アー、小鍛治ノ水着姿タノシミダナー。キットスゴク似合ウンダロウナー」

小鍛治「た、たたたた楽しみ///!?」

小鍛治「んんっ…実は私も行きたかったんですよねー」スットボケ

ちょろい


部長「んー、まあみんながそう言うなら、今週の日曜日にでも行くか?」

「「よっしゃーーーー!!!」」

部員2「私まだ水着買ってないんだよね、誰か一緒に買いに行かない?」

部員1「いくいくー!」

小鍛治「私も行っていいですか?実はそういうのよく分からなくて…」

副部長「なら私がいいの選んであげるわ」

部長「私も同行させてもらおうかな」


京太郎「私も行きますぅー。先輩にぃ似合うの選んであげるんだからっ!(裏声)」キャピッ

「「…………」」

京太郎「あげぽよ~(裏声)」

「「…………」」

よく考えたら、全国大会で16歳はやりんに会えるじゃないか!


部長「今日はもう終わりにしようか」

部員2「そうだね」

部員1「水着買いにいくのは土曜でいいよな?」

副部長「そうね、今から楽しみだわー」

小鍛治「どこに買いにいくんですか?」

副部長「えっとね駅前のデパートがやっぱり品揃えがいいわね。それに――」


ガラガラガラガラ







京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「ありえんてぃ~、まじウケるんですけど~(裏声)」キャピッ

京太郎「……意外とイケルなこれ」マガオ



>>205
はやりんって1年生のときに全国大会に出場してるんですか?
そんな描写ありましたっけ?

>>212
シノハユ見てないからわっかんね~
>>1のさじ加減でいいんじゃね?

シノハユも本編じゃそこまで行ってないけど
レジェンドすこやんの卓にはやりんとたぶんシノもいた
で、レジェンドが全国に行った年代は特定されてるから逆算してってことじゃないか

>>213
>>214
ご意見ありがとうございます
シノハユは読んでいないので、参考になります

原作と矛盾がないように細心の注意は払っていますが
原作の今後の展開しだいでは、そういうところも出てくるかもしれません


――7月上旬 日曜日



ピンポーン

トシ「はーい」

小鍛治「おはようございます」ペコリ

トシ「おはよう健夜ちゃん、今日はかわいらしい格好だね」

小鍛治「そ、そうですか//ありがとうございます」

小鍛治「ええと…京太郎くんお願いできますか?」

トシ「はいはい、分かってるよ。今呼んで来るからね」



--------------------



小鍛治「お、おはよう///」

めずらしく、というか小鍛治の私服を見るのは初めてかもしれない

京太郎「おうおはよう、待たせたな。さっそく行くか」

トシ「こら、女の子がおめかししてるんだから、何か言うことがあるんじゃないのかな?」

小鍛治「べ、別におめかしなんてしてませんから///」

と言いつつ顔を赤らめてるんだから世話無い


下からブラウンのサンダル、白~ベージュのロングスカート、紺色のシャツ

手にはさっきまで被っていたであろうキャスケットを持っている

まあ、正直言えば…

京太郎「かわいい」ボソ

小鍛治「え?」

京太郎「い、いやその…似合ってると思うぞ」

小鍛治「そ、そうかな//ありがと///」

京太郎「……」ジー

小鍛治「///」

トシ「……」

トシ「あーこほん、時間は大丈夫なのかい?」

京太郎「あ、そうだった早く行かなきゃ!じゃあ行ってきます」

小鍛治「い、行ってきます//」

トシ「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい」


その後先輩達と駅で合流し、そのまま近くの海水浴場まで向かった

長野には海がなかったので、こういう行為自体とても不思議に感じたものだ


そして俺は今、荷物番をしながら着替えに行った女性陣を待っているのだが…

京太郎「おうふ、緊張してきたでござる」

あー早く部長と副部長の水着姿を拝みたいものだぜ

なんたって今日のメインイベントにして、人生最高の瞬間が目の前に迫っているのだ

緊張しないということがあるだろうか、いやないっ!!


部員1「京太郎ー!またせたな」

部長「荷物番ありがとう」

副部長「ふふ、おまたせ」

部員2「ごめんね、荷物番させちゃって」

京太郎「……」


おお、神よ……トイレを我慢してるときにしか信じないけど、あの神よ

この機会を私に与えてくれたことを心より感謝しております

京太郎「エイメン…」

部長「どうした!?」



部長は黒を貴重としたビキニ、ビキニですよっ!?しかも紐!?

もともとモデル体系なので、そのシンプルさが逆にそのスタイルを際立たせている、実にけしからん

京太郎「ブラボー、ブラボー!!」

部長「頭大丈夫か?」


副部長もまたビキニなのだがこちらは明るい色が基本だ。だがなんといってもそのパレオ!

うーむ、エロいことこの上ない。その隙間から見える太ももがたまらんですたい

胸なんかこぼれそうになってるしね。支えてあげなきゃ(使命感)

京太郎「名前を付けて保存!名前を付けて保存!!」

副部長「大丈夫?日陰で休んできたら?」


部員2さんは控えめなワンピースタイプで、その性格と非常にマッチしている、うーん実にいい

なんかこういうの見るとおじさん脱がせたくなっちゃうよね、ぐへへ

京太郎「エクセレントッッ!」

部員2「うわ…きもっ!」


部員1さんは……まな板かな?


京太郎「そういえば小鍛治はどこ行ったんですか?」

部員1「あれ、私は!?ひどくね!」


すると先輩達の後ろからオズオズと小鍛治が姿を現した

京太郎「ってパーカーかよ!?」

副部長「どうしてもって言ってきかなくてねー」

小鍛治「あぅ…///////」モジモジ

まあ小鍛治らしいといえばその通りか…

はあー…


それからは全くの平和そのものだった

みんな思い思いの過ごし方をしていた

ビーチボールで遊んだり、泳いだり、砂遊びしたり、肌を焼いたり


決して、副部長がヤンキーに絡まれて困っているところを俺が颯爽と登場して解決したり…

部長が遊泳中に足をつって溺れかけてるところを俺が助けて、ついでに人工呼吸したり…

なんてことはございません、ポロリもございません

ただ、俺が作ってきた昼食をみんなに振舞ったらすごく喜ばれたのは素直に嬉しかった


そして日が沈み始めて、そろそろ帰ろうという頃に小鍛治が話かけてきた

小鍛治「ね、ねえ…」

京太郎「ん、どうした?」

小鍛治「ちょっとこっち来て////」グイッ


小鍛治に連れられて、歩いていく

すると人目のつかない岩場まで案内された

この状況は…ま、まさか!?


京太郎「やめて! 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!」

小鍛治「何言ってるの!?」

京太郎「すまん、言わなきゃいけない気がして…」

小鍛治「もうっ!」



京太郎「んで、どうしたんだ?」

小鍛治「ええと…さ、その…」モジモジ

京太郎「どうした?も、もしかして具合が悪いのか?」

京太郎「待ってろ、今先輩達呼んでくるから!」

小鍛治「いや、違くて……その…見たい…?」カァァ

京太郎「へ、何をだ?」

小鍛治「だ、だから!その……私の水着…姿//////」ゴニョゴニョ

京太郎「う゛ぇ!?そ、そりゃあ…まあ…できれば///」

なに正直に言ってるんだ俺のおバカ

小鍛治「わ、わかった///」

小鍛治「でもあくまで京太郎くんが見たいって言ったから!仕方なくなんだからね!」

京太郎「お、おう」


パーカーのジッパーを下ろし、恐る恐るといった感じで脱いでいく

なんだか知らんが、手汗がびっしりと出てきた。つまり俺も緊張している

脱ぎ終わると…

小鍛治「///////」モジモジ

白を基調としたシンプルなビキニだ

京太郎「意外、だな…」

小鍛治「せ、先輩達がこれがいいっていうから//」

京太郎「そ、そうか」

小鍛治「で、どう…かな?」

いつもならからかう場面だ

しかし、夕日を浴びたその姿は正直言ってとても…

京太郎「すごく、き――」










部員1「おーい、すこやんと京太郎ー!どこだー!帰るぞー!!」

小鍛治「ひゃ、ひゃい!?」

京太郎「Oh…」

タイミング良過ぎませんかねぇ、先輩…


その後、帰り支度をすぐに済ませ、帰途についた

先ほど先輩の邪魔(?)があったせいか、小鍛治とは気まづくなってしまっていた


駅で先輩達と別れ、今は小鍛治と一緒にバスが来るのを待っている

京太郎「今日は楽しかったな」

小鍛治「う、うん」

京太郎「いい気分転換になったし、これでインターハイに向けての練習に集中できるな!」

小鍛治「そう、だね」


京太郎「…なあ、あの時の水着姿だけど」

小鍛治「っ…!!さささささ、さっきあれは無し!!無しですっ!!」

小鍛治「京太郎くん忘れて!私も忘れるからっ!!そうっ、これでイーブンだから!!」

京太郎「お、おう」

なにがイーブンなのだ…

京太郎「あ、バスきた」


乗車すると俺達以外は誰もいなかった

この時間帯、それに加えて元々利用者が少ないから仕方ない

小鍛治はというと相当疲れたのかバスに乗るとすぐさま『寝て』しまった


京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「……」

京太郎「あー小鍛治、寝てるよな?」

小鍛治「……」ピク

京太郎「一回しか言わないからよく聞いておいて欲しいんだが…」

小鍛治「……」

京太郎「さっきは悪かった。せっかく勇気出して俺に見せてくれたのに感想も言えないなんて」

小鍛治「……」

京太郎「でもあのときすぐに言葉が出てこなかったのは、その…見とれてたからなんだ」

小鍛治「…//」

京太郎「すごく似合ってたよ。部長や副部長よりずっと」

小鍛治「…///」

京太郎「はい、恥ずかしい話おしまい。おれも寝るから着いたら起こしてくれ」







小鍛治「……ばか///」ボソ


――7月中旬 教室



7月中旬に差し掛かり、夏休みを期待するあの独特のゆるい雰囲気が学校を包むようになってきた

そして今は4限目の授業中

しかし先生のもその空気に当てられたのか、後半はほとんど雑談である


先生「おっ、もうこんな時間か。では授業は終わりにする」

教室を出て行く先生を見送っていると、見知った2人が廊下を歩いているのが見えた

その2人はなぜか俺のクラスメイトに話しかけている、何か用だろうか?

「熊倉くーん、お客さんだよー!」

部長「悪いがちょっと来てくれ」

副部長「ごめんね貴重なお昼の時間に」

「え、あれだれ?」

「なんちゅー胸しとるんや、うちへの当てつけか」

「ちっ、女かよ……」

流石我が部の美人二人組み。教室に現れただけでこの騒ぎようだ



京太郎「どうかしたんですか?」

「もしかして、熊倉君の彼女かな?」

「なに!?うちとは遊びやったんかー!」

「俺の方が絶対気持ちよくしてやれるのになあ」

なにやら一部物騒な言葉が聞こえたが、気にしない


部長「時間がもったいないから簡単に説明するな」

部長「実はインターハイに向けて一緒に合宿を行ってくれる高校を探していたんだが…」

副部長「今朝連絡があってね、やっと見つかったのよ」


部長「場所はうちの高校の合宿所を使う予定なんだが、色々買わないといけないものもあるんだ」

あー何だか嫌な予感がするぞ、雑用的な意味で

部長「そこでだ、ここに書いてあるものを買ってきて欲しいんだ」

ほらきたやっぱり

副部長「悪いとは思うんだけど、私たち他にもやらなきゃいけないことがあって…」

部長「重いものもあるから、他の者にも頼めないんだ」

京太郎「それなら宅配便を使えばいいのでは?」

部長「残念だがうちの高校はそこまでお金を出してくれないんだ」

うーむ別に構わないが

部長「だ、ダメか?///」ウワメヅカイ

京太郎「」キュン

副部長「ね、お願い///」ムニュ

おおおお、おも、おもちが、あたたたたたたたたたた

京太郎「……」

京太郎「はい!喜んで!!」イケメンスマイル

副部長「ほんとう!?ありがとう!」

京太郎「お二人のためなら何だってしちゃいますよ~」デレデレ


___________

_____________

___


ふぅー、危うく教室で昇天するとこだったぜ

しかし副部長のおもち柔らかかったなぁ、世界文化遺産に指定するべきだよあれは


「「………………」」

アレ?なんだかクラスの様子がおかしいぞ

京太郎「小鍛治ー、昼飯食べようぜ」

小鍛治「……」プイッ

あ、あれ、俺なにかしましたっけ?

「熊倉くん、あれはないんじゃないのかな」

京太郎「へっ?」


「小鍛治さんかわいそう…」

「彼女を放置して他の人とイチャイチャするなんて…」

京太郎「い、いや、小鍛治と俺はそんなんじゃ――」

「この、鬼、悪魔、京太郎!」

「胸か!?やっぱり胸が大事なんか!!このケダモノ!!」

京太郎「……」

「彼女と胸、どっちが大切なの!」

「変態!変態ッ!!変態ッッ!!!」

京太郎「……」

京太郎「ちくしょー!さっきから好き勝手言いやがって!だったら俺も言わせてもらうぜ!」

京太郎「貴様ら女子連中はおもちの何たるかを理解していない」

京太郎「おもちはただの脂肪の塊にあらず!!愛なんだよ愛!!愛そのもの!!」

京太郎「それを今から貴様ら凡俗にも分かるように説明してやる!!心して聴けい!!」

京太郎「まずは――」


_________

_____

__


20分後

京太郎「――というわけだ、分かったかっ!!」クドクド

女子「「……………」」


「小鍛治さん、こんな変態とお昼なんてやめて私たちと一緒に食べよ?」

小鍛治「え、いいの?」

「もちろんだよ、こっち来て」

「なんか近くによると妊娠しちゃいそうだしね」

小鍛治「う、うん、ありがと///」チラ

京太郎「……」

まーたこのパターンか……女子社会はきびしいや



「おー彼女取られちゃったか、ならこっちで俺達と食おうぜ!」

京太郎「だから小鍛治は彼女じゃねーって」

「まー知ってるけどね」

ちくしょう、こいつら

「…でさ、一つ聞きたいことあるんだけどいいか?」

京太郎「おう、なんだ?」

「さっきの胸の感触教えてくれ」

京太郎「しね」

久しぶりに男子と昼飯を食べた。女子からのキツイ眼差しも一緒だったけど

ま、でも



小鍛治『そ、そんなんじゃないって!』キャッキャッ

小鍛治が楽しそうだから良しとするか


――7月下旬 合宿初日



夏休みに入り、インターハイに向けて最終調整に入る――合宿だ

なにやら相手先は島根県の女子高らしい、遠路はるばるご苦労なこって

ちなみにその高校は県の代表校ではないらしいので、練習試合はオッケーだそうだ


副部長「あら、来たわね」

校門前で待っていると、10人ほどの集団が向こうからやってきた

部長「朝酌女子高校の方々ですね、遠いところからはるばるお越しいただきありがとうございます」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。3日間ですがどうぞよろしくお願いします」

互いに挨拶している間、他の部員を見てみた

とりあえず目に付いたのは3人だ

黒髪ロングの子、金髪のセミロングの子、やや幼い顔立ちの子

特に童顔の子は実にいい…なぜって?おもちが大きいからに決まってるだろう

童顔の子「」ニコッ

ゲスなことを考えてると微笑まれた、しにたい

まぁ、はやりんなら仕方ない


-----------------------



合宿所などの設備の案内が終わり、さっそく合同練習となった

まあ実戦形式で打つだけなんですけどね

しかし全く知らない人と打つのはなかなか勉強になる

そして確実に強くなってることが実感できる

もう飛ぶことなんてほとんどないし、隙あらば上位にだって食い込める

だけどこんなんじゃ足りない。もっと強くなりたい。誰よりも、もっと、もっと――








童顔の子「きみけっこう強いんだね」

京太郎「!!」

童顔の子「驚かせちゃったかな?」

京太郎「い、いえ…大丈夫です」

童顔の子「敬語はいいよ、同い年なんだから。ねっ、熊倉京太郎くん」

京太郎「よく覚えてるね」

さっき全体で簡単に自己紹介したのだが…俺はほとんど聞いていませんでした

童顔の子「たった一人の男子部員だったし、なんとなくね」

京太郎「ありがとう」



童顔の子「ふふ、どういたしまして。じゃあ私の名前は?」

京太郎「……ごめん、正直言って忘れてしまいました」

童顔の子「そうだろうと思った。私は朝酌女子高校1年の―」





童顔の子「瑞原はやり、だよ☆」






京太郎「」

京太郎「ほげっ!」

京太郎「……瑞原はやり(28)…さん?」

はやり(16)「なんで敬語なのかな?」

京太郎「あ、間違えた」

京太郎「……瑞原はやり(16)…さん?」

はやり(16)「なんで二回も!?」

京太郎「い、いや…だってねえ?」

はやりんってすこやんの一個上やない?

はやり(16) 7/13
健夜(15) 11/7
京太郎(15?) 2/2
だな

>>260
瑞原プロは小鍛治プロより誕生日が早いので、年齢が異なっていますが
同じ学年のはずです

若き日の雀鬼さんとかいないかね


確かにそうだ、どことなく雰囲気が瑞原プロに似ている

幼い顔立ちに、その自己主張するおもち…まだ発達段階だけど、間違いない


つーかこれって偶然か?

どちらにしろ、ここは慎重に対応したほうが良さそうだ

はやり(16)「どうしたの?」

京太郎「いや、なんでもないよ。それよりも一緒に打とうぜ」

はやり(16)「うん!」


__________

______

__


とりあえず今日の練習が終わった。あとは飯食って寝るだけだ

慣れない環境だったせいか思ったより疲れたが、勉強にもなった


小鍛治「おつかれさま」

京太郎「おう、おつかれさま」

小鍛治「えと…さっきさ、朝酌の子としゃべってたけど」

京太郎「ああ、瑞原さん?」

小鍛治「うん…それで、何の話をしてたのかなあって思って」

京太郎「ああ、簡単に自己紹介して一緒に打っただけだよ」

小鍛治「本当に?なんかちょっと…」

京太郎「ん?どうかしたのか」

小鍛治「…いや、なんでもない」シュン

京太郎「?」

小鍛治「それより夜ご飯の準備しよ」

京太郎「お、おう」


少し小鍛治の様子がおかしかったが、その後はいつも通りだった

ご飯を食べた後、皆お風呂に入ったが、お約束の覗きなんてしておりません

というか俺以外女子のこの環境で覗きがばれたりしたら村八分じゃすまないからね、仕方がない

で、今俺達は広間でくつろいでいるのだが、朝酌の子の何人かが俺に話しかけてきた

「ねえ、君。熊倉京太郎くんだっけ?ちょっとお話しようよ」

京太郎「はあ…いいですけど」

「ありがと。それでさ熊倉くんって彼女いるの?」


小鍛治『あわわわわ』ガクガクガク

部員2『どうしたの、すこやんの番だよ?』


京太郎「うぇっ!な、なんですかいきなり!?」

「えー?ほら私たち女子高だからさ、共学の男子ってどうなのかなーって気になって」

京太郎「はぁー、残念ながらいませんよ」

「そうなの!?熊倉くんってけっこうモテそうなのにー、もったいなーい」

京太郎「そうだったら良かったんですけどねえ…」

「じゃあさ、私と付き合ってみる?」


小鍛治『ぶほっ!』ビチャ

部員1『ちょ、きたな!』



京太郎「ほんとですか!」ガタッ

「うそでーす」テヘッ

京太郎「まあ、分かってましたけどね…」

京太郎「伊達に彼女いない歴=年齢じゃないですから」

「あっ、なんかごめん…」

「私は男子の好みとか聞いてみたいな、女子高にいるとそういうの分からないし」

京太郎「そのくらいなら構わないですけど、もうからかうのは無しですよ?」


小鍛治『うぅ…』チラチラ

部員2『すこやんも話しに加わればいいのに…』

そういえば慕も朝酌の制服きてたような……

>>266
桜井○一のことでしょうか?
さすがに実在の人物はちょっと書けないですね

>>273
そうらしいですね
ただ、私がシノハユを読んでいないこと、人物像がつかめないことなどから
書くのはやめました

阿佐田哲也は書いちゃってるけどね

ちなみに雀聖って呼ばれるようになる前は阿佐田哲也も雀鬼って呼ばれてた

>>277
申し訳ありません、書き方が曖昧でした
名前を書くくらいならいいのですが、その人物を物語の中で動かして
変な印象を植え付けたくない、という意味です
誤解を与えてすみませんでした


――7月下旬 合宿2日目



今日も昨日に引き続き、朝から麻雀、麻雀、麻雀だ

ただ朝酌の子と打つたびに、小鍛治がこちらをジロジロ見てきて少々やりずらかったが…


そして午後3時を過ぎ、練習も一通り終わった頃

副部長「ねえ、京太郎くん。悪いんだけどいいかしら?」

京太郎「ええ、なんでしょう?」

副部長「実はね、夜の食材なんだけど思った以上に減りが早くてね。追加の分を買ってきてもらいたいの」

京太郎「いいですよ。でも一人だと流石に持っていけないんで何人か欲しいんですが…」

副部長「そうねえ、だったら――」


小鍛治「ハイ、ハイ!なら私行きます!!」クワッ


あれ小鍛治さんいましたっけ!?


副部長「あらそう?ありがとうすこやん」

「そういうことなら、うちのを一人持っていっても構いませんよ」

向こうの部長さんだ

副部長「いいんですか?ありがとうございます」

「おっ!ちょうどいい、瑞原こっちに来てくれ」

はやり「はい、どうかしましたか?」

「食材の買出しに一緒に行って来てもらいたいんだが、いいか?」

はやり「部長の頼みとあらば!」

「そうか、よろしく頼むぞ」

はやり「はい!」

小鍛治「むぅ…」



とりあえず3人で駅前のスーパーに来た

というか駅前まで行かないと基本何もないからね、ここらへん


はやり「茨城ってけっこう栄えてるんだねー、こんなになってるの初めて見たよ」

京太郎「え、いたって普通だと思うけど」

はやり「そうなの?私の地元だと駅に行くにもひと苦労するくらいだしね」

京太郎「へえー。えっと確か瑞原さんって島根だっけ。島根ってそんなになにも無いの?」

はやり「まあ基本的にはなにも無いかなー、でもその代わり自然はほんとにきれいだけどね」

京太郎「やっぱりそんな感じなんだ」

はやり「そんな感じとは失礼な!」

京太郎「はは、ごめんごめん」

小鍛治「……」

京太郎「……ん?どうした小鍛治さっきから」

小鍛治「なんでもない、さっさと買い物済ませちゃおう!」プイッ

京太郎「あ、ああ」



はやり「……ふーむ、なるほどね」ボソ

まだ見てくれている方。中途半端ですが、疲れたので寝ますね
ではまた。おやすみなさい

ちなみに、やっと半分くらい投下できました
ほぼ完成しているとはいえ、少しずつ加筆修正をしながらなので
思った以上に時間がかかりますね

夜11時くらいにまた来ますので、そのとき投下します
ではまた


買い物を済ませるとかなりの量になったが3人もいれば割と余裕だ

時計を見るとまだ時間に少し余裕がある


はやり「まだ時間あるから、あそこのデパート見に行きたいんだけどいいかな?」

京太郎「いいんじゃないか、なあ小鍛治?」

小鍛治「わ、私は別にどっちでも…」ゴニョゴニョ

はやり「じゃあ行こう小鍛治さん、ほらっ!」グイッ

小鍛治「わわっ!引っ張らなくていいから!?」


~服飾店


はやり「どうどう?熊倉くん似合ってるかな?」

京太郎「ああ、なかなかいいんじゃなか」

はやり「ふふ、ありがと」

京太郎「でもそんな服、買うお金なんてあるのか?」

はやり「あるわけないじゃん、いわゆるウインドウショッピングだよ」

京太郎「ウインドウショッピングねえ……楽しいものなのか?」

はやり「熊倉くんは女の子の気持ちがよく分かってないみたいだね……」チラ

小鍛治「……」ハァ

京太郎「?」


はやり「小鍛治さん、こんなのどうかな?」

小鍛治「えっ!わ、私ですか?」

はやり「ほらほら敬語はいいから。きっと似合うよ」

小鍛治「で、でも、私…こんな派手なの着ないし…」

はやり「別に買うわけじゃないんだから、それに熊倉くんも見てみたいでしょ?」

京太郎「おお、まあ見てみたいかな」

小鍛治「そ、そう?//じゃあ着てみようかな…」

しばらくすると…

小鍛治「ど、どうかな///」

京太郎「うーむ」

小鍛治「///」

京太郎「意外と似合ってるんじゃないか」

はやり「うんうん」

小鍛治「意外とは余計だよっ!?」

はやり「じゃあ次はこんなのどう?」


~雑貨店


ひと通り服を見た後は雑貨店に来た

女の子ってこういうところ好きだよね。男の俺にはよく分からないけど


はやり「ねえねえ見てこれ、かわいー」

小鍛治「え、そう。私はこっちの方が好きかな」

はやり「ええー、熊倉くんはどう思う?」

京太郎「どちらともよろしいんではないかと」

はやり「適当だね」

小鍛治「京太郎くんに気の利いたセリフを期待するほうが間違いだよ」

京太郎「ひどい言われよう」





だいたいお店を見終わり、さあ帰ろうということになった

エスカレーターで1階まで降りてきたところで、突然瑞原さんが俺に荷物を預けてきた

はやり「あー、ちょっと待っててね」モジモジ

京太郎「え、どこ行くんだ?」

小鍛治「ばかっ」バシッ

京太郎「いてっ!何すんだよいきなり!」

小鍛治「さ、このアホは無視して早く行ってきて」

はやり「…ありがとう、小鍛治さん」

そう言うと瑞原さんはどこか行ってしまった


小鍛治「もう!京太郎くんはデリカシーないんだから」

京太郎「デリカシー?……ああ、そういことか」

小鍛治「今度から気をつけてね、まったく」

流石にアレだけじゃわかんねえよ。女子の空気を読む能力は異常


瑞原さんが戻るまでの間、特にすることもないので、周りの店を見回してみる

やはりというか…どこのデパートでも同じだと思うが、1階はやはり宝飾品など女性向けのものばかりだ

なんで出入り口である1階にこの手のお店を置くのだろう?

男性客が入りづらくなるだけだと思うのは俺だけだろうか?


京太郎「あれ、小鍛治はどこ行った」

くだらないことを考えているうちに小鍛治もどこかに行ってしまった

辺りを見回すと、黒髪の女の子が宝飾品店の品物をじっくりと眺めている

何を見ているのか興味が湧いたので、後ろからこっそり覗いてみる


シルバーのチェーンに薄い青と透明の宝石(アクアマリンとダイアモンドか?)があしらわれている

シンプルだがなかなか綺麗なネックレスだ。ついでに値段はと……

京太郎「5万か……ちょっと高いな」ボソ


小鍛治「わっ、いたの!?」

京太郎「いたのとは失礼なやつだな」

小鍛治「ご、ごめん」

京太郎「…小鍛治もこういうの興味あるのか?」

小鍛治「私だって一応女の子だよ!?興味ぐらいあるよ」

京太郎「じゃあ、試着してみれば?」

小鍛治「え……いや、いいや。気に入ったらほんとに欲しくなっちゃうから」

京太郎「ふーん、そんなもんか」

小鍛治「そんなもんだよ」



はやり「ごめんお待たせー」

京太郎「お、来たか。じゃあ、帰ろうぜ」

小鍛治「…うん」


――7月下旬 合宿最終日



特に問題も無く最終日の練習を終了した

俺はインターハイに出場するわけではないけど、とても実りあるものだったと思う


そういや今気付いたけど、俺合宿するの始めてだったんだよな……

清澄での境遇に比べればここでの俺の扱いは、素晴らしいものといわざる得ない

元の時代に帰ったら部長はロッカーだな


部長「3日間練習にお付き合いいただきありがとうございました」

「いえ、こちらにしてもとてもためになりましたよ」

「インターハイぜひ頑張って下さい」

部長「ありがとうございます、気を付けて帰ってください」

「「ありがとうございましたー!!」」


一通り挨拶が済むと、瑞原さんがこっちにやってきた

どうしたのだろう?

はやり「熊倉くん、最後にちょっといいかな?」

京太郎「おう、なんだ」

はやり「えーとね…」

はやり「女の子の胸を見るのもいいけど、一番大事な子から目を離したらダメだぞっ☆」

はは、ばれてましたか…恐れ入りました

京太郎「ありがとう、肝に銘じておくよ」



京太郎「ついでに俺からも一ついいか」

はやり「なにかな?」

28になっても語尾に☆をつけることとか、あの年甲斐の無い衣装とか

一人称が「はやり」のこととか、うわ…このプロきついとか…

言いたいことはたくさんあったけど、ひとつだけ

京太郎「瑞原さんがたとえプロになっても、またいつか俺と麻雀打ってくれないか?」

はやり「はは、何それ。お安い御用だよ!」

京太郎「ありがとう、またな」

はやり「またね」


_________

_____

__


小鍛治「ねえ、京太郎くん。瑞原さんと最後何の話してたの?」

京太郎「……うーん、ちょっとした約束をしたんだよ」

小鍛治「約束?どんな?」

京太郎「ひ・み・つ」

小鍛治「うわぁ…きもちわる…」ドンビキ

京太郎「ひでえ!」

京太郎「でもそういう小鍛治だって、瑞原さんとなにか話してたじゃないか」

小鍛治「私はその……お、応援されただけだから//」

京太郎「瑞原さん偉いなあ…インターハイ頑張らなくちゃな!」

小鍛治「はあ…そうだね」タメイキ

京太郎「?」


――8月上旬 東京



部員1「とうちゃーく!」

部員2「田舎者丸出しだからやめてくれない?」

副部長「まあいいじゃない、久しぶりの都会なんだから」


ついにインターハイ出場のため東京までやってきた、実に約半年振りの東京だ

あらためて辺りを見回すと、以前来た時に比べて明らかにその風景が変わっている

さすが大都会東京、様変わりするのもかなりの速さだ


小鍛治「荷物持ちますよ」

トシ「ありがとう健夜ちゃん、それなら頼もうかねえ」

驚いたことに今回はトシさんが俺達と同行することになった

なにやら新しい人材の発掘、またそれとは別にやることが一つあるそうだ


部長「さあ、さっさと会場に行って抽選を済ませよう。なるべく早く休みたいからな」

いくら茨城県からとはいえ、電車で2時間近くかかったからな

部長の言うことももっともだ。正直俺も疲れたので早く休みたい


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抽選会が終わりトシさん以外皆くたくたで、予約していたホテルに入った

部屋割りは俺とトシさんが一緒の部屋で、それ以外がまた一部屋となった

夢も希望も無いね!

部屋では特にやることもなかったので、早々にベッドの中に入ってしまった

自分が出るわけでもないのに、緊張してなかなか寝付けなかったのは内緒だ







――8月上旬 インターハイ 団体戦一回戦



いよいよ、インターハイの幕開けとなる団体戦一回戦だ

各都道府県の代表がぶつかり合うのだ。県予選のときのようにすんなりいくとは思えない

実際県予選の時にみんなの間にあった、あのゆるい雰囲気は既になくなっている

小鍛治なんかはその雰囲気に当てられてか、あの時以上に緊張しているようだ

果たして大丈夫だろうか…


________

____

__


まあいつものように結果だけいうと、今日の初戦はなんとか大丈夫だった

いつも通り小鍛治に回るまでに1位になり、ある程度点差をつけたのだが、そこは全国大会

県予選のように3万点差というわけにもいかず約1万点つけるのがやっとだった

そして、案の定小鍛治は最初はガチガチに緊張して、ほとんど小鍛治銀行状態だった

しかし後半に入ると何とか調子を取り戻し、オーラスで2位に逆転することができた

見てるほうもラス前まで3位だったので心臓バックバクだった

頼むから劇場型クローザーみたいな真似はしないでもらいたいのだが…

だが跳満以上くらわないのは流石と言うべきかな



京太郎「お疲れ様、勝ててよかったな」

小鍛治「……うん、ありがと」

京太郎「前半はともかく後半の追い上げはすごかったじゃないか」

小鍛治「…そんなことない、ごめんね」

京太郎「小鍛治…」

小鍛治が俺に謝る理由は分かっていた

県予選が終わって、小鍛治が泣いた後にした俺との約束を果たせなかったからだ

もう足手まといにならない、俺にかっこいいところ見せる、って


――8月上旬 インターハイ 団体戦二回戦



今日は団体戦二回戦だ

昨年はここで敗退したとのことなので、みんないつも以上に緊張している

なにせ会場に向かう途中、誰も言葉を交わさなかったくらいだ

そして試合前のいつもの部長の言葉が始まる


部長「さて今日の試合だが、当然これまでより難しいものになると思う」

部長「なので全員気を引きしめて、試合に臨んで欲しい」

部長「……」

部長「というセリフを昨日言おうと考えていたのだが、今日は少し正直になろうと思う」

部長「もしかしたら私は、そこまで勝ちたいと思っていないのかもしれない」

部長「みんなと麻雀を打てればそれでいいじゃなかと最近思うようになった」

部長「でも、子供みたいだが、私はこの祭りをここで終らせたくないとも思ってる」

部長「だから特に言うこともない。みんな頑張ってくれ」


部員1「おっ!たまにはいいこと言うじゃん!」

部長「なにっ!?」

部員2「まあ、確かにいつものはありきたり過ぎてつまらないけどね」

部長「」

健夜「わ、私はいつものも良いと思いますよ?」

部長「疑問系!?」

副部長「さあ、みんな行きましょう!」

「「はい!!」」

部長「それ、わたしのセリフっ!!」

大事な試合なのに最後まで締まらない

まあ、俺達らしいといえばそうなのかな?

さあ、俺も頑張って応援するか



部長の演説の後、俺はトシさんに誘われて、控え室ではなく観客席から一緒に試合を見ている

さすが二回戦と言うべきか、部長と副部長ですらぎりぎりプラス収支がやっとで、他の2人はマイナスとなった

結果的に大将戦までに10万点を切る格好となってしまい、順位は現在3位だ


京太郎「トシさん、正直言ってどう思う?」

トシ「かなり厳しいね、2位との差は約2万、1位とは約3万。普通に考えれば無理だろうね」

トシ「最悪、4位のトビで終了…なんてこともあるかも」

京太郎「まあそうだよな…」


トシ「ただ――」

京太郎「ただ?」

トシ「…いやなんでもないよ。健夜ちゃんの応援、ちゃんとしてあげなさい」

京太郎「うん」


いよいよ、運命の大将戦が始まった

いつも通りとはいかないが今日は始めからちゃんと打ててる

だからといって2位との差はなかなかつけられない

俺の見立てでは、そもそもこの4人はほとんど実力差がない

よほどの強運に恵まれない限り追いつくのが難しいのは明らかだ


そして、点差を埋められないまま南入

小鍛治……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


―小鍛治健夜


この人たち強い…このままだと絶対に追いつけない

いや、追いつくことはおろか、4位になることさえ考えられるよ…


負ける?

ここで負けるの?


嫌だ…私だってもっとここで打ちたい

まだみんなに恩返しだってしていない



いままで生きてきて、ほとんどずっと一人ぼっちだった

いつも自分の席で本を読んで、周りから壁を一枚隔てて過ごしてきた

本と家族だけが、私にとっての世界そのものだった

高校に入っても変わるわけないって思ってた


けどそんな私みたいな人間に、興味をもって話しかけてくれる男の子がひとりいた

今までもそんな人は何人かいた。けど最後にはみんな私から離れていった


それでも彼は私をあきらめないでいてくれた


そして部活に誘われて、入部して……

初めて学校に自分の居場所ができた気がする

初めて文化祭を友達と回って、初めて他人に褒められて、初めて友達とお昼ご飯を食べた

いつの間にかあの分厚い壁がなくなっていた。世界がこんなにも綺麗なことを初めて知った


でも私は、まだ彼らになにもしていない。なにもできていない

こんなにも感謝してるのに…


だからここで先輩達の夢を終らせるわけにはいかない!

そして何より、京太郎くんとの約束は果たさないといけない!!


私のかっこいいところ、見せてやるんだっ!!!





























ゴッ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ビキッ

トシ「おや…」

京太郎「ど、どうしたの?モノクルが…急に……」

トシ「ああ、何ともないよ。久しぶりで驚いただけさ」ニヤ

京太郎「?」

トシ「ふふ、なるほどね…ここから先は1秒だって見逃したらだめだよ」

京太郎「えっ?」


小鍛治『ロン、6400』


京太郎「やった!」


トシ「いや、まだだよ」


小鍛治『ツモ、6000・3000』


京太郎「よっしゃあ!運が向いたきた、いけるぞ!」

トシ「運?それは違うよ」

京太郎「どういうことですか?」

トシ「あれが健夜ちゃんの本当の実力さ」

京太郎「ああ…」

そうか…なるほど。これが小鍛治の…いや小鍛治プロのオカルト能力


小鍛治『ツモ、4000オール』


京太郎「これで2位、後は耐えさえすれば…」


トシ「耐える…?」


小鍛治『カン』


トシ「その必要はないよ」


小鍛治『カン』


トシ「なにせ健夜ちゃんが狙っているのは」


小鍛治『カン』


トシ「1位になることだけだからね」


小鍛治『嶺上ツモ――』


京太郎「だ、大三元…役満。捲った…!」

トシ「これは本物だねえ」

京太郎「か、かっけえ…」


_________

_____

__


部長「なんと言っていいのか…とにかくありがとう」

部員1「あの状況から勝つなんてすごすぎだろ!シビれたよ」

部員2「こんな試合初めて見たよ、感動しちゃった」

副部長「ほんとすごかったわ!」

小鍛治「い、いえ、そんな…後半なんかほとんど何も覚えてなくて」テレテレ


ガチャ

京太郎「……」

小鍛治「あ、京太郎くん…」

小鍛治「どうだった、かな?」

京太郎「……」

京太郎「小鍛治ーー!!」ダキッ

小鍛治「ちょ、ちょっ…//」

京太郎「すっげーかっこよかった!!」

京太郎「最後の役満での和了りなんて、漫画の主人公みたいだったぞ!」

小鍛治「そ、そうかな///」

京太郎「あの絶望的な状況から捲くって1位とか、もう鳥肌もんだったぜ!!」

小鍛治「あ、ありがとう////」


小鍛治「……」

小鍛治「そ、それでさ…約束、守れたかな?」

京太郎「…ああ、最高にかっこよかったぞ」

小鍛治「よかったぁ…」グスッ

京太郎「お、おい!?」

小鍛治「ううん…大丈夫」ポロポロ

小鍛治「嬉しくても涙って出るものなんだね」ニコ


京太郎「小鍛治…」

小鍛治「京太郎くん…」









部員1「あーこの部屋なんか暑くない?」

副部長「あらあら」

部員2「ちょっと!今いいところなんだから邪魔しない」




京太郎「////」

健夜「/////////」カァァァ


部長「ほらっ!馬鹿やってないで帰るぞ」

部長「ただ…その、ふ、二人はまだここにいていいからな///」ドキドキ

部長「ご、ごゆっくりー!」ダッ



ガチャ

京太郎「」

小鍛治「////」

小鍛治「ね、ねえ…一ついいかな」

京太郎「お、おう、なんだ」

小鍛治「私さ、京太郎くんとの約束守れたよね?」

小鍛治「だからさ、その…一つお願いしてもいいかな?」

京太郎「まあ、俺のできる範囲でなら」


小鍛治「いいかげん私のこと、名前で呼んで欲しいかなー…なんて///」

京太郎「……」

小鍛治「い、いや…やっぱり今の無しで――」アタフタ

京太郎「……健夜」

小鍛治「えっ」

京太郎「健夜。これでいいか?」

健夜「うん!」

京太郎「帰るか」ギュ

健夜「うん///!」ギュ

今日はあまり投下できませんでしたが、疲れたので寝ますね
ではまた。おやすみなさい


1回戦で2位抜けしてるけど、1回戦は1位だけ勝ち進むんじゃなかったっけ
1位2位が勝ち進むのは2回戦からだったような

12年前だから競技人口の関係でまだルール改変ないとかだから…(震え声
だから昔は二位通過有とかりだから…(棒

この時代だと一発裏無し赤無しリンシャンツモの責任払い無しなのか?

かつ丼さんが長野県大会の解説のときに「去年は地味なルールだった」
みたいな発言してたし、開催する年ごとで若干変わってるんじゃね

>>366 >>367 >>369
すみません。完全に失念してました
咲の時代とはルールが異なることにしておいてください
ご指摘ありがとうございました

>>368
麻雀に関してはずぶの素人なので、あまり深く考えなくてよろしいかと
だからここでも、魔法の言葉を使いましょう
咲の時代とはルールが異なるのです

もし次に新しいssを書くことがあったら、もっと麻雀のことを勉強して
完成度を高めたいですね
ご指摘ありがとうございました

二位抜けしてても最終的に優勝すれば無敗扱いなん?

それとも国内無敗ってプロ入りしてからの話?

>>375
無敗の定義がよく分からないですね
1位にしかなったことないのか、あるいは最下位になったことことがないのか
団体戦はどう考えるのか…

原作、アニメの方でもそこら辺がしっかりしてなかったので
かなり書きにくい部分でもありました


__________

______

__


その後の試合については、正直言ってあまり言うべきことはない

負けてしまったからだ

副部長が3位で回ったところで他家が飛んで終了


あまりにもあっけなさ過ぎて、ほとんど実感がないのが本音だ

だけどみんなが意外とスッキリとした表情をしていたのが印象的だった


ともかく、俺達の団体戦はこれをもって終了となった



――8月上旬 インターハイ



団体戦は終ってしまったが、まだ副部長の個人戦がある

なのでまだ俺達は東京にいるのだが、何人かは観光に出かけたようだ

俺はというと今日はトシさんに誘われて、男子の試合観戦に来ていた

健夜も誘うおうかと思ったのだが、なぜかトシさんに断られてしまった

なにやら、俺だけに用があるようだ


京太郎「すごい張り詰めた雰囲気だね、こっちまで緊張してきそう」

トシ「全国から本物の怪物どもが集まってくるんだ。仕方ないよ」

京太郎「"怪物" ってのは流石にいいすぎじゃない?」

トシ「?知らないのかい」

京太郎「え、何を?」

トシ「まあ…見てれば分かるよ」

京太郎「?」

トシ「まだ、少し時間があるね」

トシ「ちょっと準備してくるから、ここで少し待っててくれるかい?」

京太郎「ま、まあいいけど…何してくるの?」

トシ「ひ・み・つ」

なかなかチャーミングだ


しばらくすると、試合が始まってしまった

まだトシさんが来ていないが、仕方がない


試合が始まると、さらに空気が張り詰める。なんだこの異様な圧力は…

あの咲も、強いオカルト能力者に近づくと気分を悪くしていたが…これはその比じゃない


『御無礼』


京太郎「っ…!」


『県予選のときのように、もう《ゴルゴダの枷》は必要ないな』

『最初から全力でいかせてもらうか』ボッ


京太郎「ぐ、はっ…!」


なんだこの試合は、常軌を逸している…

ま、まずい…このままだと…意識が


『……今の私の麻雀力は?』ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

『32768アーデルハイドです』


京太郎「ぐわあああああああ…!!」

だめだ…もう。ごめんみんな…俺…こんなところで……












ガシッ!

??「大丈夫かい?少し遅れちまったね」

京太郎「う……ぁ…」フラフラ

う、美しい……可憐だ…

京太郎「っ…」パクパク

??「喋らなくていい、そこでゆくっり休んでなさい」

??「まったく、酷い有様だねえ」


??「仕方がない……久しぶりに私の本気、見せてあげるよ!」ゴゴゴゴゴ


スゥー……


こ、この構えは……まさかッッ!



天地魔闘の構えッッッ!!!!



天は攻撃、地は防御、魔は魔力の使用を意味する

これら三つの動作を一瞬にして行う、大魔王でも全盛期にしか扱えぬという

まさに、最大の奥義ッッッ!!


しかし、これでは駄目だ…

天地魔闘の構えはカウンター技、自分に向かってくる攻撃に対処できるのみ……ッッ!

このままでは会場にいる観客は……



スゥー……バッ!



!!私としたことが、ぬかった…ッッ!

これは予備動作に過ぎんッッ!

ここから繰り出される技は……



超武技ッッ闇勁ッッッ!!!!




この会場に充満する"気"を奪い取る気かッッ!

だが奪い取ったその"気"、一体何に使うというのか小娘…ッッッ!!



むッ!なんだ、この光は…会場全体に広がって…

まさか、そのエネルギーを使っているとでもいうのか……

この会場にいる人々の意思の共鳴を…引き起こしているとでも言うのかッッ!!



すごい……外へ漏れようとしてした"気"が押し戻されていく



だが、恐怖は感じない。むしろ暖かくて、安心を感じるとは…



眠い……この安心感……だめだ…意識が――


~~~~~~~~~~~~~~~~~



??「ふぅー、疲れた」

??「とりあえず、大丈夫そうかね…」

??「しかし、全国大会の度に呼び出されるのはたまったもんじゃないねえ」

??「まあ、これも大人の努めか」


京太郎「……」

こうやってこの子を介抱するのも、これで二度目

??「まったく…世話のかかる子だよ」ナデナデ



~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はほとんど投下できませんでしたが、疲れたので寝ますね
ではまた。おやすみなさい

こういうのは期待してないかな

たしか男子のレベルってインハイ最高峰で泉レベルなんだよね?
てことは、泉もこれと同じようなことが出来るということで……更に、それに余裕で勝てる全中王者の和さんマジパネェっす

>>398 >>403
実はいきなりこういう突飛な内容にしたのには2つ理由があります

1つはこれから徐々に真面目な内容になるので、最後のネタとして
もうひとつは次の投下あたりで分かると思います

今度こそおやすみなさい


_________

_____

__


京太郎「ん…あ…」

トシ「気付いたかい、どこか痛むところは?」

京太郎「い、いや…大丈夫。なんともないよ」

トシ「そう?よかった」

京太郎「記憶があやふやなんだけど…なにかあったけ?」

トシ「さあ、なにも。夢でも見ていたんじゃないのかい?」

京太郎「そう…かなあ。あ!そういえばすごく綺麗な女性がいたんだけど、知らない?」

トシ「へえ…どのぐらい綺麗だったのかな?」

京太郎「いや、もう…今まで見た中で一番だよ!」

トシ「ふふ、そう?ありがとう」

京太郎「?」

トシ「さあ、試合見ようか。これも勉強の内だよ」

京太郎「はあ…」


トシさんに言われるまま、試合を眺める

流石全国から選りすぐりの選手が集まっているだけある、レベルが高い

いや高すぎるくらいだ、県予選で戦ったアカギさん達3人もすごかった

しかしここに集まっている選手達はそれと同等か、あるいはそれ以上の実力を持っている…

明らかに俺のいた時代とは一線を画している

まるで別の競技を眺めているような……


京太郎「あのートシさん、明らかに俺の時代とはレベルが違うんですが…」

トシ「そうなのかい?」

トシ「……あーなるほど、これを読んでごらん」

そういうと少し厚めの紙の束を渡された

トシ「こっちで少し会議に出席してね、そのときの資料の一部だよ」




京太郎「えーなになに…『男子麻雀界の二極化に伴う新たな競技の設置について』」

京太郎「そんなのあったんだ…」

京太郎「『近年、男子麻雀選手の実力が急速に二極化し――』」

京太郎「『新たな麻雀競技を設置することでその解決を図ることを――』」

京太郎「なにそれこわい」

京太郎「『テニス、バスケにおいては既に同様の試みがなされており――』」

京太郎「『特に"テニヌ"においては中学生が分身、五感の剥奪、光速移動――』」

京太郎「『最近の研究では、恐竜の絶滅の原因はある中学生にあると考えられ――』」

京太郎「なにそれもこわい」

トシ「その様子だと、どうやら知らないみたいだね」

トシ「将来的には男子麻雀は二つの競技に分かれることがほぼ決まってるんだよ」

トシ「女子は均等にバラけてるからいいんだが、男子はあまりにも差がありすぎてね」

トシ「でも、どうやら未来では"そっち側"の競技はあまり知られていないみたいだね」

なるほど。通りで俺の時代の男子のレベルが低いわけだよ…



なんとか無事に試合を見終わった

レベルの高いものを見ると本当に勉強になるな

まあ、一部人知を超えている方々もいたので、それは参考にならなかったが…

いつか俺もあの舞台で戦いたいと思うような……思わないような


京太郎「トシさんは結局、俺にこれを見せたかったの?」

トシ「まあそれもあるけどね」

京太郎「?」

トシ「……実はタイムリープについて知っている人をついに探し出してね」

京太郎「!!」

トシ「で、その人はこのインターハイである高校に同行してるんだ」

トシ「まあ、私が呼んだんだけど…」

トシ「その高校は永水女子高校」

トシ「そこの神代さんという人が、明後日京太郎と会ってくれるそうだ」

京太郎「そう…」


トシ「今まで黙っててごめんね。できるだけ普通に過ごしてもらいたかったんだ」

京太郎「そんなことないよ。ありがとう、トシさん」

京太郎「それで、どこに行けばいいのかな?」

トシ「それならここに地図があるから。ほら」

京太郎「…明後日ここに行けばいいんだね」

トシ「そうだね…ただ一つ忠告することが」

京太郎「?」

トシ「たとえどんなことを聞かされようと、最後は自分の心に素直にね」

京太郎「……うん」


いよいよらしい、ついに帰れるのだ

だが嬉しいと言う気持ちには到底なれなかった


――8月上旬 インターハイ



おそらくもう長い時間、ここにはいられないと分かると、いてもたってもいられなくなった

俺はこの短い時間をどう使うべきなのだろうか?

トシさんに話を聞かされてから、何度も何度も考えた

だが決まって俺の頭の中には、いつもあいつの顔が片隅あった

そうか。やはり、俺は……


京太郎「よしっ!」

京太郎「トシさんごめん。少し出かけてくるよ」

トシ「まあ部屋の中にいてもしょうがないしね。二人とも気をつけていってらっしゃい」

京太郎「!!ありがとう、行ってきます」


コンコン

京太郎「すいませーん!」

ガチャ

部長「おう、どうした?」

京太郎「すいません部長、健夜を呼んでもらっていいですか?」

部長「ん?あ、ああ、分かった。少し待っててくれ」

しばらくすると、いかにもらしい格好で現れた

京太郎「ちょ、おま…花の女子高生が学校のジャージはないだろう…」

健夜「ほ、ほっといてよ!」

京太郎「出鼻くじかれたが、まあいいや。健夜、今日は暇あるか?」

健夜「うん、まあ…でも、どうして?」

京太郎「ええと、その……だな」

健夜「どうしたの?京太郎くんらしくない。もっとはっきり言ってよ」

京太郎「あー、一緒に出掛けないか?」


健夜「え、まだ先輩の個人戦残ってるから、副部長は行けないよ?部長だって――」

京太郎「いや、違う違う。俺は健夜と二人で行きたいんだ」

健夜「えと、それって……ももも、もしかして///」

京太郎「どうだ?」

健夜「ええええとね///!?もももちろん嬉しいんだけど……こっこ、こころの準備というものがありまして」アタフタ





副部長「もちろんオッケーよ」

健夜「え!?」

部員2「京太郎くんは10時に駅に待ち合わせね」

京太郎「別にホテルの前でもよくないですか?」

部員1「よくないよ!」

部長「初デートなんだから、待ち合わせからちゃんとしないとダメだろうが」

健夜「ででででデートって!?///」

部員1「すこやんはおめかしに時間がかかるから、そのうちに京太郎はデートプランでも練っておきな」

京太郎「そうですね、皆さんありがとうございます。じゃあまた後でな健夜」

健夜「え!?ちょとみんな勝手に――」

ガチャ

先輩達のおかげで健夜を誘うことができた

本当に感謝してもしきれないな


―駅前


現在9時45分、ホテルから程近い有楽町駅前に俺はいる

流石コンクリートジャングル東京、この時間からもうかなり暑い

まあ元の時代の頃よりは幾分マシかもしれないが


??「お待たせ」

いきなり、かわいらしい女性に声を掛けられた

京太郎「えーと…どなたですか?」

??「私だよ!?」

帽子を取って、よく見てみると…

京太郎「…ああ、健夜か。ごめん気がつかなかった」

気付かないのも無理は無い。朝のあのジャージ姿とのギャップがあまりにあったからだ

京太郎「いいじゃん……」ボソ


健夜「ん、どうしたの?」

京太郎「いや、なんでもない。その服似合ってるなって思って」

健夜「そ、そう//?実は先輩達から少し貸してもらったんだ」

健夜「さすがにそんなに荷物持ってきてないからね。助かったー」

先輩グッジョブ!!

京太郎「さ、時間がもったいない。行こうか」

健夜「どこ行くの?」

京太郎「まずは日比谷に映画を見に行こうぜ」

健夜「うん!」


今日は世間では平日ということになっている

なのでそこまで混んでいなく、10分もすると映画館に着くことができた


健夜「何見よっか?」

京太郎「そうだなー」

えーと…この時間やっているのは


『千と千○の神隠し』『ダンサー・イ○・ザ・ダーク』『ファ○ナルファンタジー』


なんか偏ってるなーこの映画館…

健夜「この『ダンサー・○ン・ザ・ダーク』っていいんじゃなかな?」

健夜「『弱視の女性と息子との日常を描いたほのぼの感動作!!』らしいよ」

京太郎「それだけはいけない」

健夜「え?」


京太郎「それだけはいけない」

健夜「う、うん。分かった…」

健夜「じゃあこれは、『ファイ○ルファンタジー』」

健夜「『制作費1億3,700万ドルの超大作!世界初のフルCG映画をご覧あれ!!』だってさ、どう?」

京太郎「だめだだったんだ…」

健夜「なにが!?」

京太郎「回収できなかったんだよ…」

健夜「そ、そう…」

京太郎「健夜『千と○尋』にしよう、これはもう運命なんだ」

健夜「ま、まあ、京太郎くんがそこまでいうなら…」


_________

_____

__


いやー、やっぱりいい映画は何度見ても楽しめる

今見ても最新の映画と遜色ないどころか、むしろ新しい発見があるくらいだ


京太郎「どうだった?」

健夜「うーん、すごい良かったよ」

健夜「主人公の成長が軸になってるけど、脇役の活躍も欠かせない」

健夜「ジブリ独特の煌びやかな装飾とか、素朴でいて安心できる自然の風景も素晴らしかったし」

健夜「そして最後は千尋の成長からカタルシスを感じることができる」

健夜「とてもいい映画だったんじゃないかな」

京太郎「実に女子高生らしくないレビューをありがとう」

健夜「ふんっ!どーせ私は女の子らしくないですよ!」プイッ

京太郎「怒るなって」



健夜「…でも」

京太郎「ん?」

健夜「あの後、千尋とハクはまた会えたのかな?京太郎くんはどう思う?」

京太郎「そうだな……」

健夜「?」

京太郎「俺はまた会えると思う」

健夜「どうして?」

京太郎「俺だったらまた会いたいと思うから」

健夜「京太郎くん、意外とロマンチストなんだね」

京太郎「男の子はいつでもロマンを求めている生き物なのさ」キリッ




健夜「うわっ……」

京太郎「うわっ、とはなんだ。うわっ、とは…」

京太郎「そういう健夜だって、最後の方ちょっと泣いてたじゃねえか」

健夜「き、気のせいだから!」

京太郎「はいはい、そうですね」

健夜「バカにしてるっ!?」

京太郎「いいえ、滅相もございません。健夜お嬢様」

健夜「……今度は何?」ジー

京太郎「なんでもございません。さ、時間も時間ですしお昼にいたしましょうか」

健夜「それ続けるんだ!?」


お昼は近くで済ませてしまった

少し歩けばほとんど何でも揃ってしまう。東京とは恐ろしい街だぜ、まったく

そして俺達が次に来たところは…


健夜「見て見て!この通りにあるのほとんど本屋さんなんだって!!」

そう本好きは避けては通れない町、神保町だ

だが本だけではない。御茶ノ水の方に行けば楽器屋、スポーツ用品店が立ち並び

さらに少し歩いて秋葉原まで行けば電子部品から同人誌までそろってしまう

いわば、ここら一帯はマニア・オタクの聖地と言えるかもしれない

健夜「すごい!ネットでしか見たことがないような本がこんなにいっぱい!!」

健夜「うわー、ここに住みたいくらいだよ~」

健夜「ねえねえ、京太郎くん。もしかしてあれが噂の書泉グランデかな?」

京太郎「あ、ああ。そうなんじゃないかな…」

健夜「行ってみようよ!ほらっ!!」

京太郎「はいはい」


健夜「このエレベーターはね、R.○.Dっていうアニメにも出てくる場所なんだ」

健夜「それだと地下に行けるようになってるんだけど、流石に無理みたいだね」

京太郎「確かに、エレベーターの底が見えちゃってるもんな」

健夜「あの読子・リードマンもこのエレベーターに乗ったのかと思うと…」

健夜「うぅ~、感動だよ!」

健夜「あ、書泉の本棚って大型店にしては珍しく、いまだに木製の本棚なんだ」

健夜「なんだかレトロでかっこいいね」


健夜「さ、次は神保町のランドマーク、三省堂に行くよ!」

京太郎「りょーかい」

健夜「こ、これはすごいね…驚いたよ」

健夜「このビル全部に本が詰まってるんだよ?まさに本の山だよ!!」

健夜「雑誌、新刊、小説、漫画、理系専門書からさらに洋書まで扱ってるなんて…」

健夜「すごすぎるよ、感動だよ!」

健夜「聞くところによると、池袋にはジュンク堂というラストダンジョンまであるんだから……」

健夜「東京は本当に恐ろしい所だよ…」

京太郎「さいですか」


神保町に着いてから、実に一時間以上はしゃぎっぱなしだった

まあ楽しんで貰えたようでなによりだ

流石に真夏の移動で疲れたので、近くの喫茶店で少し休むことにした


健夜「ご、ごめんね…ちょっと買いすぎちゃった」

京太郎「気にすんな、荷物持ちなら慣れてるから」

健夜「それってどうなの…」

京太郎「それに、デート中女の子に荷物持たせるわけにはいかないだろ?」

健夜「そ、そうかもね///」


健夜「でも、なんでこういう場所をを選んだの?」

健夜「京太郎くんなら、ディ○ニーランドとか行くのかなー、とか勝手に思ってたんだけど…」

京太郎「おいおい健夜…ディ○ニーランドに行きたかったのか?」

健夜「ムリムリ!絶対無理!!あんなキャピキャピした空間なんて絶えられないよ!」

健夜「最悪、穴という穴から砂糖吐いて気絶するよ!!」

京太郎「何その気持ち悪い妄想……」

京太郎「まあ、でもそうだろ?だから敢えて落ち着いた場所を選んだんだよ」

京太郎「それに本好きなのは前から分かってたしな」

健夜「私のことちゃんと考えてくれてたんだ……ありがとう」

京太郎「どういたしまして」

京太郎「さ、十分休んだし、最後にもう一つだけ行こうぜ」


健夜「ここは?」

京太郎「上野恩賜公園――いわゆる上野公園だな」

健夜「へえー…あ、見て、かえるの噴水がある。かわい~」


まずは基本に沿って、交番横の入り口から入る

そのまま左側を真っ直ぐ進んでいく

人がまばらなので非常に快適だ

健夜「うわー、大都会のど真ん中にこんなに緑がたくさんあるなんて…すごい不思議」

京太郎「たしかにそう考えるとすごいよな」



ちなみにここは、1873年に日本初の公園に指定された歴史的な公園だ

ボードウィン博士という人がこの場所を公園として残すように働きかけたのがきっかけだそうだ

実際にボードウィン博士の銅像は噴水池の横にある

俺達がここでデートをすることができるのもこの人のおかげなのだ。感謝しないとな


健夜「すごい数の桜の木だね、春に来れたらもっと綺麗だったかも」

うーむ、確かにその通りかもしれないが、決しておすすめはできないだろう

何しろあの時期のここら辺はまさに人、人、人のどんちゃん騒ぎ

酒飲みの人間や至るところに散ったごみ等見るに耐えない





健夜「ふうー、やっと桜並木を抜けたね。ん、あれは何の建物かな?」

京太郎「正面にあるのは東京国立博物館だな」

健夜「へえー、ここから見ると左右対称になってて綺麗だね」

健夜「それに荘厳というか、趣を感じるよ」

東京国立博物館もまた日本最古の博物館である

健夜の言っていた建物は本館で、和洋折衷の様式となっている

主に日本及び東洋の文化財を取り扱っているのが特徴だ

歴史好きにはたまらないかもしれないが、そうでない人にとってその展示は退屈なものかもしれない

しかし本館については均整の取れた非常に美しい構造をしていて、思わずため息がこぼれる

これだけでも見る価値があるかもしれない

また、アニメ映画『時をかける少女』ではここが舞台の一つとなっている

魔女おばさんこと芳山和子はここに勤めていることになっているのだ

そして間宮千昭が見に来たと言う「白梅ニ椿菊図(はくばいにつばききくず)」はここのものだった

もちろんこの絵は実在しないものだが



健夜「あ!あれが上野動物園なんだ」

京太郎「そうらしいな、行きたいか?」

健夜「うーん、動物園なら茨城にもあるし、せっかくだから別のがいいな」

京太郎「そうか。なら博物館と美術館だったらどっちがいい?」

健夜「それだったら美術館かな、博物館の展示ってなんだか苦手なんだよね」

京太郎「それは分かる、歴史とか好きならまた変わってくるのかもしれないけどなー」

健夜「で、どこにあるのかな?」


太郎「あっちだな」

健夜「ああ、あの四角い建物だね。変わった形してるんだ」

健夜「あ!あれってもしかして有名な『考える人』かな」

京太郎「そうだな、オーギュスト・ロダンの彫刻だな」

健夜「あれ?でも前にテレビで見たのは別の場所だったような…」

京太郎「ああ、ロダンの『考える人』は世界中にたくさんあってその一つがこれなんだよ」

健夜「へえー、一つじゃなかったんだ」

京太郎「そゆこと。しかし暑いな、さっさと中入ろうぜ」

健夜「そうだね」

>>460
1行目 太郎→京太郎 でお願いします


建物の中に入ると、その無機質な外観と相まってかとても涼しい

さっそく受付で常設展のチケットを購入し、展示を見ていく


健夜「すごい繊細…布と肌の質感が本物かそれより綺麗に見えるよ」

京太郎「ドルチの『悲しみの聖母』だな」

京太郎「この美術館の絵画の中でも特に人気の高い作品だ」

京太郎「実際一目でその美しさは分かるし、何度でも見たくなるよ」

健夜「ふーん、そうなんだ」

健夜「私さ、こういう分かりやすいというか、一目で綺麗ってわかる絵のよさは理解できるんだけどさ」

健夜「宗教画の楽しみ方がよく分からないんだけど…」

京太郎「宗教画かー……うーん」

京太郎「俺もよく分からないだよな、宗教画」

健夜「そうなの?」


京太郎「ぶっちゃけて言えばさ、宗教画って聖書の二次創作だろう?」

京太郎「分からなくても無理ないと思う」

健夜「あはは、ひどい言い様」

京太郎「それだったら、俺はこっちのルノワールとかモネの作品が好きだな」

健夜「この女の人の絵は見たことあるよ、名前は知らないけど」

京太郎「『帽子の女』だな。光の描き方がすごいよな」

京太郎「ルノワールはかなり親しみやすい画風なんで、世界的に人気の画家だ」

京太郎「んでこっちのがモネの作品だ」

京太郎「モネもルノワールも同じ印象派だけど、それぞれ個性があっておもしろいよな」

健夜「そうだね、でもどちらかというと私は――」


そんな他愛の無い会話をしていると、あっという間に時間が経っていった

展示物も大体見終わったので外に出ると、もう日が落ちてかなり暗くなっていた


京太郎「そろそろ帰るか」

健夜「うん、そうだね」

健夜「あ、見て!噴水がライトアップされてるよ、綺麗…」

京太郎「…せっかくだから見ていこうぜ」

健夜「いいの?ありがとう」



噴水の近くにベンチが備え付けてあったので、二人でそこに腰掛ける


健夜「今日はありがとう、とても楽しかったよ」

京太郎「どういたしまして。でもこういうの実は初めてだったからさ、正直緊張したよ」

健夜「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ初めて同士だね///」

京太郎「そういうことになるのかな//」

健夜「///」

京太郎「はは…」ポリポリ


健夜「私…」

京太郎「ん?」

健夜「私、京太郎くんには本当に感謝してるんだ」

京太郎「どうした、いきなり」

健夜「いきなりじゃないよ、いつもそう思ってるんだ」

健夜「入学式の日、京太郎くん、私に話しかけてくれたでしょ?」

健夜「正直あの時は、「金髪不良少年が私になんの用!?」って思ったよ」

京太郎「金髪…はその通りだけど、不良少年っておい!」

健夜「はは、ごめんごめん」


健夜「でも誰も私に話しかけない中、京太郎くんは何度も私にかまってくれたよね」

健夜「少しずつだけど、京太郎くんとも普通に話せるようになって…」

健夜「家族以外でそんな仲になったのは初めてだったんだよ?」

京太郎「……」

健夜「そんな時、麻雀部に誘われて、先輩達もいい人ばかりで…」

健夜「学校の中に居場所があると、登校するのがとても楽しくなるんだね。初めて知ったよ」

京太郎「……」

健夜「文化祭なんて、今までの私にとってはただの苦痛な行事の一つだったんだ」

健夜「でも真面目に参加して、皆と一緒に準備すると、楽しいものになるんだって気付いたよ」

健夜「京太郎くんのおかげで、クラスの女の子達とも仲良くなれたしね」

京太郎「…俺は何もしてないよ。健夜には魅力があって、誰かがその事に気付いただけさ」

健夜「ううん、そんなことない」


健夜「その後は大会に出たり、海に遊びに行ったり、合宿したり、色んなことがあったね」

健夜「そして今は、京太郎くんとここにいる」

健夜「なんだか、この何ヶ月かは私にとってはずっとジェットコースターに乗ってる気分だったよ」

健夜「京太郎くんがいなかったら、絶対こんなことになってなかったと思う」

健夜「だから、本当に心から感謝してるんだ。ありがとう」

健夜「えへへ……なんだかこういうのって恥ずかしいね///」

京太郎「そうだな」

健夜「京太郎くん…」

京太郎「健夜…」


健夜の手に、自分の手を重ねる。暖かい


だんだんと二人の距離が近づいてゆく、そして―――
























「あれは何をやっているのでしょう、マム」

「ノーウェイノーウェイ、あなたにはまだ早いわ」

「それにしても最近の高校生は進んでるのね~、ママとパパなんか――」

>>471
すみません、ミスです


京太郎・健夜「!!」バッ

京太郎「……」

健夜「……」

京太郎「か、帰るか//」

健夜「そ、そそそそうだね//////」


京太郎・健夜「はぁー…」


健夜「ね、ねえ、京太郎くん」

京太郎「なんだ?」

健夜「来年もまた、一緒にここに来ようね」

京太郎「……そうだな」

健夜「?」


上野駅から電車に乗り、宿泊先のホテル近くの駅まで戻ってきた

京太郎「ふうー、結構疲れたな」

健夜「一日中動き回ってたからねー」

京太郎「この荷物のせいじゃないんですかねえ…」

健夜「そ、それは悪いと思ってるよ!」

京太郎「はいはい」

健夜「もうっ!」

健夜「あ、そうだ。ちょっと買わなきゃいけないものがあるんだった」

京太郎「そうなのか?だったら付き合うよ」

健夜「いいよ、もうホテルまですぐそこだし。一人で大丈夫」

京太郎「そうか?」

健夜「うん、今日はありがとうね、とても楽しかった。またね明日ね」

京太郎「おう、また明日」


そう言って、健夜は向かいの交差点を歩いて渡って行く

信号は青、人はまばら、夏の日差しが道路を照らしている



えっ?夏の日差し?

今は夜だったよな?

あれっ?


なんだこの映像


いや、この光景……前にも…どこかで


そうだ……この後……確か…車が来て…それで…













「あぶなーいっ!!!!」


京太郎「ッ!!」

荷物を捨てる、全力で走る

健夜を抱き寄せ――歩道に倒れこんだ


京太郎「大丈夫か!!」

健夜「ッ!?え?え!?」

混乱しているようだが、見たところ目立った外傷は無いようだ

よかった、本当によかった…


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____


京太郎「落ち着いたか?」

健夜「うん、なんとか……」

結局、信号無視した車は俺達のとなりを通り過ぎ、ガードレールにぶつかって停止した

その後、救急車とパトカーが来て一時辺りは騒然となった

俺達は警察の人に事情を説明し、救急隊員の人にも簡単に診てもらった


京太郎「ごめんな、健夜の本ばら撒いちまって」

健夜「ううん、そんなのいいよ。それに本はきれいにすればまた読めるしね」

京太郎「そうだな…」

京太郎「歩けそうか?」

健夜「うん、余裕だよ!!」ガクガクガク

京太郎「いや、だめだろ!?生まれたての小鹿みたいになってるぞ」




京太郎「ほら」

健夜「なに、その格好は?」

京太郎「ホテルまでおんぶしてやるから、乗れ」

健夜「い、いや、いいって。恥ずかしいし…」

京太郎「それで転んで怪我したら大変だろ?な、頼む」

健夜「う、うん…そうだね。じゃあお願いしようかな」

京太郎「よっこいしょ、っと」

健夜「ど、どうかな」

京太郎「どう、って?」


健夜「その……重くないかな?」

京太郎「いや、全く。むしろ軽すぎるくらいだな」

京太郎「それに幸いなことに、背中にあたるものがないから気を遣わなくていいしな」

健夜「」グイッ

京太郎「ちょ、やめ!しまってる、しまってるからっ!!」

健夜「まったく、京太郎くんはいちいち他人をからかわないと死んじゃう人なのかな!?」

京太郎「まあな、でも健夜限定だぞ?」

健夜「余計性質が悪いよね!?」

京太郎「冗談だよ」

健夜「もうっ!」


健夜「でも……」

健夜「さっきはありがとう。とってもかっこよかったよ」

京太郎「う、なんだか照れるな//」

健夜「でも、あんな危険な真似もうしないでね?」

健夜「京太郎くんがいなくなったら、私……」

京太郎「……安心しろ、俺はちょっとやそっとじゃ死なないから」

京太郎「それに、そんな約束はできないな」

健夜「え」

京太郎「健夜のピンチは、俺が必ず助けるから」

京太郎「だからどんな時間にどんな場所にいようと、跳んで助けにいくよ。必ず」

健夜「よ、よく、そんな恥ずかしいセリフを……///」カァァ

健夜「で、でも…ありがとう。覚えておくよ…///」ボソボソ

京太郎「ああ、そうしてくれ」



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京太郎「……」

京太郎「……」

健夜「…zzz」スースー

京太郎「寝たか…」

まあ、無理もない。ただでさえ疲れていたのに、あんなことがあったのだ

京太郎「……」

京太郎「なあ、健夜。俺思い出したよ」

京太郎「あの日、あの時、何があったのか」


――8月上旬 インターハイ 神代さんとの面会日



京太郎「ここか…」

トシさんに渡された地図を頼りに、神代さんが待つ旅館に到着した

東京のど真ん中にもこんな立派なものがあるんだなあ


受付の人に名前を告げると、すぐに部屋まで案内された。話は通っていたのだろう


京太郎「失礼します」

中に入ると、40代くらいの男性が座っていた

もっと厳しい雰囲気の人を想像していたが、この人からそういうのは感じられない

京太郎「こんにちは、神代さんですね。今日はよろしくお願いします」

神代「こんにちは、よく来てくれたね。ささ、座りなさい」


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神代「うーむ、何から話そうかねえ」

神代「まあ、まずはタイムリープとはどういうものなのか話そうかな」

神代「熊倉さんから聞いてるかもしれないけど、これは自体は別に珍しくはないよ」

神代「私の経験から言うと、若い人に多いと言えるかな」

神代「ほら、君も若いでしょ。ま、理由はよく分からないけど」

神代「で、タイムリープの現象はね、トンネルを考えると分かりやすいかなあ」

京太郎「トンネルですか?」

神代「そそ。でも普通のトンネルじゃないよ、ある時空を別の時空を結ぶトンネル」

神代「君はそのトンネルを通ってきたってわけ」

京太郎「そのトンネルはどうやってできるんですか?」

神代「うーむ、実はトンネルには2種類あってね」

神代「一つは元々そこにあるもの、けどこれは普通の場所にはないんだ」

神代「少なくとも、君みたいな高校生が行くようなところには無いと考えていい」

神代「もう一つは、突発的に新しくトンネルができるタイプのものだね」

神代「原因は様々で、人によるもの、自然現象によるもの、あとはオカルトとかかな」


京太郎「……人によるもの、って例えばどんなのですか?」

神代「そうだねえ、突発的に感情が大きく変化するのが原因であることが多いかな」

神代「例えば、生命の危機に直面するような事故に遭遇したときとかね」

神代「ほら、映画とか小説でよくあるような」

神代「さらに言うと、オカルト持ちの人がそういう目に会うとなりやすいと思うよ」

京太郎「逆に言えば、オカルト持ちでなければタイムリープはしにくいと?」

神代「あくまでそういう傾向にあるだけだけどね」

神代「でも君は今のところは、オカルト能力を持っていないだろう?」

神代「だから君の場合は、他の人間のオカルト能力が関係している可能性は高いね」

なるほど

神代「まあ君の場合、12年も跳躍したんだ。相当強力なオカルト能力者が関係しているのかも」


京太郎「あの、それで…肝心の帰り方なんですけど」

神代「そうだったね、それが一番重要だよね」

神代「でも、その答えはすごく簡単だよ。あるものを持っているだけでいいんだ」

京太郎「あるもの?」

神代「"心の底から帰りたいたいという気持ち"。要は気分しだい…」

神代「逆に言うとね、京太郎くん、君は心の底では帰りたくないと思っている」

神代「そうなんじゃないかな?」

京太郎「そう……かもしれません」

神代「まあ、君にも事情があるのだろう。詳しくは聞かないよ」

神代「ただね、だからといって未来を変えようとはしてはいけないよ」

京太郎「なぜです?」

神代「これも熊倉さんから聞いてるかもしれないけどね、歴史を変えるのにはリスクが伴う」

神代「そして、たとえ改変がうまくいったとしてもその埋め合わせはいつか必ず来るよ」

神代「どういう形で、とまでは分からないけどね」


やはり、未来を変えるのはだめみたいだな

ならば、自分の力でなんとかするしかない


神代「あと、なるべく早いうちに帰ったほうがいいね」

神代「この時代にいればいるほど、君のこの時代での存在が大きくなる」

神代「そうすれば、未来での不確定性もどんどん増していくだろう」

京太郎「どういう意味ですか?」

神代「うーん、例えば熊倉さんは、未来では君のことを知らなかったのだろう?」

神代「だが、この時代では既に君のことを知ってしまっている」

神代「つまり、君の知っている未来とこの時代が辿る未来には明らかに矛盾が生じてしまっている」

神代「このくらいのごくごく小さな矛盾ならまだいいんだけどね」

神代「だけど、君がここで過ごば過ごすほど、その矛盾は看過できなほど大きくになってくる」

京太郎「そうなるとどうなるんですか?」

神代「分からない…だけどそれが善いものであるとはとても思えないね」

京太郎「……」

神代「もしかしたら、ドクの言ってたみたいに銀河が消滅しちゃうかも。なーんて」

京太郎「??」

神代「あ、ごめん。分からないよね」

神代「これがジェネレーションギャップかあ、歳はとりたくないものだねまったく」

京太郎「はあ…」


神代「聞きたいことはもうないかな?」

京太郎「そうですね……何か、向こうに持っていけるものはないんですか?」

神代「それは無理だね。来たときの格好でしか帰れないから」

京太郎「そうですか…なら、帰る時間と場所は選択できるんでしょうか?」

神代「それも無理。SFみたいにそんなに便利なものでもないんだよね」

神代「だから、タイムリープした瞬間にしか戻れないよ」

京太郎「そう…ですか。ありがとうございました」

神代「……じゃあ最後におじさんから一つアドバイス」

神代「君みたいな悩み多き青少年には、時としてどうしていいか分からないときがあると思う」

神代「そういう時、自分の頭で考えることは何よりも重要だろう」

神代「だが、考えすぎて、理屈を優先して、自分の気持ちを忘れてはいけない」

神代「だから、最後の最後は自分の気持ちに素直になってみるといい」

トシさんも、同じこと言ってたな

京太郎「そうですね、ありがとうございます」

神代「さ、若者はとっとと帰った帰った!」

神代「年寄りの説教ほど、聞くに堪えないものはないから」


――8月上旬 インターハイ


女子の個人戦が終了した

結果は副部長が三回戦敗退、本人は楽しかったと喜んでいた

ついに俺達の夏が終ったのだ

祭りの後はいつも寂しい、でもこの祭りはとても楽しかった

またいつか今度こそ、俺も参加してやろう

そうすれば、咲や部長も喜ぶだろう

そのときは健夜も喜んでくれるだろうか?


――8月中旬 部活



インターハイが終ったとはいえ、部活動自体は続いている

先輩達は事実上引退なのだが、それでも部活には顔出してくれる

まあ、先輩達がいなくなると俺と健夜だけになるから助かるんだけどね


部員1「ふぃー、終った終わった。このままどこか遊びにいかねー」

部長「アホ、受験に備えて勉強するべきだろうが」

部員2「といいながら、未だに部活に来ている部長であった」

部長「うっ!それは、その…たまには息抜きも必要であってだな…」オロオロ

部員1「おしっ!なら遊びに行こう、そうしよう」

部員1「すこやんも行くよな!?」

健夜「はい、せっかくだから」


副部長「京太郎くんはどうかしら?」

京太郎「えーと、実はちょっと用事がありまして……」

健夜「えっ!?」

副部長「あら、そうなの?」

部員2「この前もそんなこと言ってたよね」

部員1「私たちに隠して何を企んでいるのやら…」

京太郎「そ、そんなんじゃありませんよ」

部員1「ほんとかな~」

京太郎「あっ!もうこんな時間だー(棒)お先に失礼します!」ダッ

健夜「……」

ガラガラガラ


ふうー、危ない危ない。あんまり追求されるとボロが出かねないな

さて、家に帰って着替えて、さっさと行かないとな


―次の部活の日


健夜「一緒にかえ――」

京太郎「銀河の歴史がまた1ページ」ダッ


―次の次の部活の日


健夜「今日は大丈――」

京太郎「それでは次週をご期待ください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ…」ダッ


―次の次の次の部活の日


健夜「……」

京太郎「次回も健夜といっしょにレリーズ!」ダッ






ガシッ

健夜「ちょっと待とうか」ニコ


京太郎「ナ、ナニカナ、スコヤサン…」

健夜「最近何かコソコソしてるみたいだけど、どこで何をしてるのかな」ニコニコ

京太郎「エ、イヤ、ソノデスネ…」

健夜「もしかして私に言えない様な事なのかな」ニコニコ

京太郎「ソウイウワケデハ…」

健夜「別にね、京太郎くんのこと信用してないわけじゃないんだよ?」ニコニコ

健夜「でもね、もうすこし私のこと信用してほしいかなー、なんて」ニコニコ

京太郎「オッシャルトオリデ…」

健夜「だいだいね――」クドクド


部長「あ、あれがいわゆる修羅場ってやつなのか?」ドキドキ

部員2「ちょっと一方的だけどね」

部員1「すこやんは意外と尻に敷くタイプだね、ありゃあ」

副部長「愛が深いのも考え物ねえ」














京太郎「」

健夜「」


健夜「んん…//で、結局何をしてるの?」

京太郎「すまん、今はちょっと言えないんだ。でもじきにに分かると思う」

京太郎「それまで待ってもらえるか?」

健夜「うん…」

京太郎「お詫びじゃないけどさ、今度また二人で遊びに行かないか?」

健夜「え、いいの?最近忙しいんじゃない?」

京太郎「大丈夫大丈夫!俺も健夜と一緒に出掛けたかったからな」

健夜「そ、そうなんだ…だったらいいよ///」

京太郎「じゃあ、来週の水曜日はどうだ?」

健夜「うん、その日なら大丈夫」

京太郎「よかった。詳しいことはまた後でな。もう行かなきゃ」

健夜「うん、分かった。いってらっしゃい」

京太郎「ああ、行ってきます」








部長「まるで夫婦だな」クス


――8月下旬 デート前日



京太郎「うーん、どうするか…」

デート前日だというのに、未だに俺はどこに行くのか迷っていた

京太郎「だいたい茨城県民って、どこにデートに行くんだよ…」

京太郎「何も無いじゃん、何も無いじゃん!」


ついには考えあぐねて、机の整理をし始めてしまった

これはあれだ、テスト前に部屋の掃除をしたくなってしまう例の…

パラ…

京太郎「ん?何だ、これ」


『アクアワールド 前売り券』


京太郎「これは、確か…」

以前、健夜のお母さんから頂いたものだ

京太郎「はは、なるほどね…」

もし…仮に、運命と云うものがあるとしたら、こういうことをいうのかもしれない

京太郎「決まりだな」


――8月下旬 デート当日



さて、服装オッケー、財布オッケー、ハンカチとティッシュは持った

えーと後は……


あっ!危ない危ない、大事なものを忘れるところだった

これを忘れると、この2週間の努力が水の泡になってしまうからな


京太郎「じゃあ、行ってくるよ」

トシ「ああ、気をつけてね」

京太郎「あー……トシさん」

トシ「ん?」

京太郎「いつも、ありがとう」

トシ「ふふ、こちらこそ」

トシ「さあ、行ってらっしゃい」


待ち合わせ場所の駅前に向かう

そこには既に、かわいらしい姿をした女の子がベンチに座っていた


京太郎「おはよう」

健夜「あ、おはよう!」

京太郎「すまん、待たせちまったみたいだな」

健夜「ううん、私も今来たところだから…………ハッ!!」

京太郎「……」

健夜「……」

健夜「普通逆だよね」

京太郎「だな」

京太郎「でも、俺の『人生で一度は体験したみたい事』第6位を経験できたからいいや」

健夜「なにそれっ!?ていうか1位から5位はどうなってるのそれ!?」

京太郎「さ、早く行こうぜ。電車に乗り遅れちまう」

健夜「え、ちょっと待ってよ。すごく気になるんだけど!?」


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電車で水族館近くの駅まで来て、今はバスに乗っている

天気は見事な晴れ。海の景色も素晴らしい


健夜「ここの水族館来るの久しぶりだよ。小学生のとき以来かなー」

京太郎「俺も水族館なんて、学校の遠足で行ったきりだと思う」

健夜「へえ、確か京太郎くんて長野出身なんだよね?」

健夜「長野県に水族館なんてあるの?」

京太郎「失礼な、一応あるぞ。そんなに大きくなかったけどな」

京太郎「それより、冬になると遠足でよくスキーをしに行ったりしたなあ」

健夜「いいなあ、私の所なんか普通に近くの公園に行ったりしただけだったもん」

京太郎「まあそれは雪国の特権ということで…」



京太郎「でも、雪ってそんなにいいものでもないぞ?」

京太郎「道路だけじゃなく、屋根に上って雪を落とさなきゃならんし」

京太郎「子供のころは雪のせいでよく転んだし」

京太郎「近くに買い物に行くにも一苦労だし…」

京太郎「でも、小さい頃は雪が降るとそれだけではしゃいだりしてたっけか…」

京太郎「今では、雪が降ると『めんどくせー』としか思わないのにな」

健夜「あはは、そうかもね」



健夜「でもそのおかげで、スキーとか滑れるようになったんでしょ?」

京太郎「まあな」

健夜「じゃあ、いつか私に教えてよ。実はまだしたことないんだ」

京太郎「……」

健夜「京太郎くん?」

京太郎「…そうだな、いつか必ず」

健夜「?」

京太郎「おっ、見えてきたな。あれがそうなんじゃないか」

健夜「あの大きい建物?前に来たときと違う気がするんだけど…」

京太郎「ああ、なんだか今年リニューアルオープンしたらしいぞ」

健夜「そうなんだ、楽しみだね!」


_________

_____

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京太郎「どうする健夜、微妙な時間だし先にお昼ごはん食べないか?」

健夜「う、うん。そうだね…」

京太郎「中にフードコートあるし、行こうぜ」

健夜「……」

京太郎「どうかしたか?さっきから口数少ないけど」

健夜「え、えーとね……その…」

京太郎「?」

健夜「こ、これっ!!」ズイッ


京太郎「ん?見ていいのか……お弁当じゃん!」

健夜「……」コクコク

京太郎「これ、健夜が自分で作ったのか?」

健夜「うん。いちおう…」

京太郎「俺の分もあるのか?」

健夜「も、もちろんだよ//」

健夜「というより、京太郎くんのために作ったというか……」ボソボソ

京太郎「?」

健夜「さ、向こうに机と椅子あるし行こっ!」グイッ

京太郎「お、おう」


早速健夜の作ったお昼ごはんを机の上に広げる

主食とおかずがバランス良く敷き詰められている

さらにフルーツまで用意してあり、盛り付けもなかなか綺麗だ


京太郎「おお、意外とうまそうじゃん!!」

健夜「意外とは余計だよ!?」

健夜「でも京太郎くんの舌には合わないかも…」

京太郎「え、なんでだ?」

健夜「ほら、京太郎くんってお料理得意でしょ?それに比べて私はヘタクソだし……」

京太郎「あはは、それはそうかもな」

健夜「ひどいっ!」


京太郎「でもいいんだ、健夜の作ったご飯を食べられるだけで」

健夜「そ、そう///」

京太郎「さ、食べようぜ」

健夜「うん」


モグモグ


健夜「どうかな…」ジー

京太郎「うん、10段階評価でいうと4ってところだな」

健夜「それは喜んでいいのかな…」

京太郎「なに、これからどんどん上手くなっていけばいいさ」

京太郎「それより俺は、健夜の作ったものを食べられるだけで嬉しいから」

健夜「うっ…あ、ありがと//」


京太郎「うーん、でもこの味付けどこかで……健夜、これお母さんに手伝ってもらったろ?」

健夜「な、なぜそれを…」

京太郎「この煮物の味付けなんて健夜のお母さんのにそっくりだし、こっちの照り焼きだって――」

健夜「え、え、なんでそんなこと知ってるの?」

京太郎「ああ、言ってなかったけ?」

京太郎「実はな…文化祭の後意気投合しちゃってさ、何度かおじゃまして料理について教えあったり」

京太郎「今どこのスーパーでどの品物が安いのか、とか話しながらお茶したり――とかしてたしな」

健夜「主婦の会話!?お母さんと仲良すぎない!?それに私そんなこと知らないんだけど!?」



京太郎「えー、だって健夜って土日はお昼過ぎまで寝てるじゃん?」

京太郎「俺その時間にしかいなかったからなあ」

健夜「」

京太郎「ん?どうした」

健夜「乙女の秘密を暴いてそんなに平然としてるなんて……」

京太郎「乙女て……」

健夜「もう、知らない!勝手に食べれば!!」ガツガツ

京太郎「はいはい、すいませんでした」


昼食を食べ終わり、少し休憩をとると、いよいよ水族館に入場した

さすがリニューアルしたばかりなので、清潔感があっていい感じだ


健夜「見て見て、すごい大きな水槽…」

京太郎「ほんとにな。イワシの大群がすごいキラキラしてるな」


健夜「あはは、あそこで泳いでる亀見て!」

京太郎「魚に纏わりつかれてる、何してるんだろう?」

健夜「さあ、分からないけど、なんだかかわいいね…」


京太郎「すごいな、サメも一緒に泳いでるんだな……他の魚食べないのかな?」

健夜「水族館の魚は餌は足りてるから、基本的に襲ったりしないらしいよ」

京太郎「基本的には?」

健夜「うん、だからたまに襲ったりすることもあるんだって」

京太郎「へえー、他の魚からしたらたまったもんじゃないなそれ…」

健夜「ふふ、そうだね」


京太郎「しかし、水族館に来ると腹が減ってこないか?」

健夜「えー、ならないよ。なんで?」

京太郎「俺よく料理はするからさ、食材を見ると完成品が思い浮かんじゃって…」

健夜「食材って…」

京太郎「ほら、あそこのイワシなんてうまそうだろ?たたきにすると最高なんじゃないか」

健夜「うっ……確かに」

京太郎「あのブリなんかいいじゃないか、脂身が多そうだから照り焼きにするか鍋にするか…」

健夜「うぅ…」ゴクリ

京太郎「向こうの水槽の大きなエビはシンプルに刺身にしようかな。頭は鍋のダシにしよう」

健夜「……もうやめて!お腹空いてきちゃうよ!?」


京太郎「やっぱりなったじゃないか」

健夜「京太郎くんのせいだからね!?」

健夜「うー、もうまともな目で展示見れないよ…」

京太郎「はは、わるいわるい!」


京太郎「じゃあ、あまり食材っぽくないあっちの展示を見ようぜ」

健夜「えー、なになに……サメと…マンボウだね!」

健夜「確かに、これならお料理は想像しにくいもんね」

京太郎「ちなみにサメの肉は鶏肉に似ていて、マンボウも意外と全国各地で食べられ――」

健夜「もうやめてっ!?」


_________

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健夜「すごいサメの数だね…それに何種類もいるみたい」

京太郎「なんでも、この水族館の一押しがサメとマンボウらしいぞ」

健夜「へえー、言うだけあって確かにすごい数…」

健夜「あ!あのサメかっこよくない?」

京太郎「どれどれ……ふーむ、メジロザメっていうのか。確かにかっこいいな」

健夜「でしょ!」

京太郎「なんというか、ロシアの諜報機関に所属していて暗殺とかやってそうな顔をしてるな」

健夜「やけに具体的だね…」

京太郎「そうだな、例えるならサメ界のプ○チンといったところか…」

健夜「それはいけない」

京太郎「おっと、そうだったな」

健夜・京太郎「……」


健夜「あ、あれなんかどうかな」

京太郎「えーと、レモンザメか。名前はかわいらしいが……目がイッちゃってるな」

健夜「…うん、そうだね。あんなの海で見かけたら間違いなくパニックになる自信があるよ」

京太郎「こっちはあれだな、シリアルキラータイプだな」

京太郎「さっきのは計画的に殺人を犯すのに対して、こっちは特に理由も無く犯行に及ぶに違いない」

健夜「ひどい言い様だね…まあ、分からなくもないけど」


京太郎「おい、またすごいのを発見したぞ、あれ!」

健夜「うわっ!すごい強面…歯がむき出しになっててこわっ!」

京太郎「あれは…シロワニっていうのか。サメなのにワニって…ひょっとしてギャグで言っているのか!?」

健夜「へえ、見た目はあんなのなのに、おとなしい性格で人もめったに襲わないんだって…」

京太郎「嘘付け!あの顔は絶対中南米のマフィアのボスをやってて、麻薬取引で金稼いでる顔だよ!!」

健夜「ああ…確かにそんな感じ」


_________

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健夜「想像してたのと違う…」

京太郎「え、何が?」

健夜「なんていうか、もっとこう『かわい~!』とか『すご~い!』とか」

健夜「水族館てそういう楽しみ方をするものだと思ってたよ…」

京太郎「そうか?楽しいならいいじゃん」

健夜「私たち水族館に来て、料理の話とサメの犯罪者顔の話しかしてないよ!?」

京太郎「わがままだなー。じゃああっち行こうぜ」

健夜「えーと『愛くるしい海獣たちが待ってます』…か。よさそうじゃん!」


京太郎「おお、いたいた。アザラシにラッコかあ」

健夜「……」

京太郎「ん、どうした?」

健夜「かわい~!これだよ、これ!!私が求めてたのは!!」

京太郎「そうですか」


健夜「あのラッコかわい~!」

京太郎「二匹が手を繋いでるな。かわいいけど、なんでだ?」

健夜「ラッコはね、海面に浮いたまま寝るんだ」

健夜「で、そのとき離れ離れにならなないように手を繋いで寝るんだよ」

京太郎「なんだよそれ、可愛すぎるだろ…反則じゃねえか」

健夜「でしょ~」


京太郎「あっちにいるアザラシもかわいいな」

健夜「正確にはゴマフアザラシだね。少年アシベの『ゴマちゃん』と同じアザラシ」

京太郎「ゴマ、ちゃん…?」

健夜「少年アシベのゴマちゃんだよ、さすがに知ってるでしょ?」

京太郎「アア、アレネ。イマオモイダシタヨ…」

知らないとは言えない…これがジェネレーションギャップというものか……

健夜「すごいムニュムニュしてそう、家に持ち帰って抱き枕にしたいくらいだよ」

京太郎「それは、あのアザラシがかわいそうだから止めた方が…」

健夜「ちょっとそれ、どういう意味っ!?」



健夜「向こうにいる鳥?なんだろう」

京太郎「えーと、なになに……エトピリカ、だと…」

健夜「知ってるの?」

京太郎「ん、まあな。エトペンのモデルになった鳥だろ?」

健夜「京太郎くん、エトペンなんか知ってるんだ…以外」

京太郎「ふふ、まあな…なにせ、世界一幸せなペンギンだからな」

健夜「どういう意味?」

京太郎「俺と代われっ!!と毎日思っていたってことさ…」トオイメ

健夜「?」


_________

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京太郎「そろそろ時間だし、帰るか」

健夜「うん、そうだね」

京太郎「…なあ、今日は楽しかったか?」

健夜「うん、もちろん!」

京太郎「そうか、よかった。本当に…」

健夜「?」



京太郎「なあ、その……帰る前に少し話したいことがあるんだが」

健夜「帰り道の途中じゃだめなの?」

京太郎「ああ、大事な話なんだ」

健夜「!!」

健夜「そ、それって、ももももしかして…///」

京太郎「……あそこならゆっくり話せそうだな」

健夜「う、うん…//」ドキドキ



健夜「で、なにかな//」

京太郎「……」

京太郎「この4ヶ月いろいろあったよな」

健夜「なに、突然?まあ、そうだけど…」

京太郎「最初健夜と会ったときなんか、すげえビクビクしててさ」

京太郎「俺、こいつと付き合っていけるのか?って思ったもんだよ」

健夜「ひどい!そんなこと考えてたんだ」

京太郎「はは、すまんすまん」


京太郎「そういや、出会ってすぐの頃はよく本の話をしたっけか」

京太郎「健夜、普通に話すときはビクビクしてるくせに、本の事となると途端に饒舌になってたよな」

健夜「や、やめてよ…なんだか恥ずかしいから///」

京太郎「いろいろ健夜から本を借りて…結構読んだなあ。楽しかったよ、すごく」

健夜「そ、そう?ありがとう//」

京太郎「その後は、半ば無理やり麻雀部に誘ったけ」

京太郎「正直あのときのことは反省している、後悔はしていない」

健夜「後悔もしてよ、もう!」

健夜「ま、でも、そのおかげで色々な事が経験できたんだけどね…」

京太郎「そうだな、短い間だったけどすごい密度だったような気がするよ」

健夜「そうだね」


京太郎「他にもたくさんあったなあ」

京太郎「トシさんに弟子入りしたり、文化祭で馬鹿やったり」

京太郎「初めて大会で勝ち進んで、合宿で思いっきり練習もして」

京太郎「みんなで海水浴に行ったのも楽しかったなあ」

京太郎「あの時の健夜の水着姿、ほんとに可愛かったぞ」

健夜「あぅ…///」

京太郎「東京に行って、インターハイで応援して」

京太郎「健夜、ぜんぜん実力を出せなくて、めちゃくちゃ落ち込んでたよな」

京太郎「でも、最後の対局はほんとかっこよかったよ。びっくりするくらい」



京太郎「また、ああいうのを見てみたかったんだけどな……」



健夜「……え、それってどういう――」


京太郎「健夜、よく聞いてくれ」

京太郎「俺、転校しなきゃいけないんだ」




















健夜「え?」


健夜「い、いきなり何言ってるの?」

健夜「あ!そうだ、またいつものくだらない冗談だね!」

京太郎「健夜……」

健夜「もう、京太郎くんは…さあ、帰るんでしょ?行こうよ」

京太郎「健夜…すまない。本当は最初から分かっていたことなんだ。いつかは帰らないといけないって」

健夜「もう、いいよ。そういう冗談は……だからやめて」

京太郎「でも、気付いたらあまりにもみんなと仲良くなっちまって、言い出せなかったんだ」

健夜「お願いだから…」

京太郎「すまない」


健夜「……なんでなの」

京太郎「すまん、それだけは言えない」

健夜「私にも?」

京太郎「健夜だからこそ、だ」

健夜「意味わかんないよ」

京太郎「だろうな」


健夜「……でも、転校しても、またすぐ会えるんだよね?」

京太郎「いや、もう会えないかもしれない」

健夜「~~ッ!!なにそれっ!意味わかんないよ、さっきからっ!!!」

京太郎「……」

健夜「……」


健夜「ねえ、今日さ…いつかスキーを教えてくれるって約束してくれたよね?」

京太郎「そうだな」

健夜「東京で、あの公園で…」

健夜「来年もまた、一緒にここに来ようって約束してくれたよね?」

京太郎「ああ」

健夜「あの事故の後……私がピンチのときは必ず助けてくれるって言ってくれたよね!?」

京太郎「……」

健夜「あれも全部嘘だったの!?」

京太郎「そうだ」

健夜「っ…!!」

健夜「馬鹿っ!!」ダッ

京太郎「……」


泣いてたな……大事な人を泣かせるなんて、我ながら最低だ

京太郎「いや、これで良かったのかもな」



……ああ、結局渡せなかった、これ


_________

_____

__


京太郎「ただいま」

トシ「おや、おかえり。案外早かったんだね」

京太郎「…うん」

トシ「……」

トシ「どうしたんだい?」

京太郎「単刀直入に言うよ、トシさん。俺帰ることにしたんだ」

トシ「……そうかい。だから今日健夜ちゃんと…」


トシ「きちんとお別れはできたのかい?」

京太郎「どうだろう、正直よく分からないや」

トシ「京太郎のことだ、自分に対して未練が残らないように、冷たくあしらったんだろう?」

トシ「違うかい?」

京太郎「はは、トシさんには適わないな……ほんとに」


トシ「京太郎こっちにおいで」

京太郎「どうしたの、急に」

トシ「いいから、ほらっ」ギュ


トシ「半年も一緒にいるのに、こうするのはこれが初めてだね」

京太郎「うん、そうだね」

トシ「京太郎、この半年間本当にありがとう」

京太郎「お礼を言うのは俺の方だよ」

トシ「そんなことないよ。あんたからは色んなもの貰ったんだから」

京太郎「それを言うなら、俺だってトシさんから色んなもの貰ったよ」

トシ「お互い様だね」

京太郎「そうだね」

京太郎「…いろいろ言うべきことがあった気がするんだけど、出てこないや」

トシ「ふふ、私もだよ」

京太郎「しばらく、このままでいい?」

トシ「うん」


その後、自分の部屋に戻り、荷物の整理をした

だけど、それもあっけなく終ってしまった

まあ、半年程度ならこんなものなんだろう


結局、麻雀部の先輩やクラスメイトにはお別れを言わなかった

たとえ言ったとしても、理由を聞かれて、返答に窮するだけだ

寂しいが、仕方がないのかもしれない

半年振りに清澄の制服に袖を通し、玄関に向かう


トシ「なかなかきまっているじゃないか、似合ってるよ」

京太郎「ありがとう、なんだか照れるね」


京太郎「あー、あと悪いんだけど、これを健夜に渡しておいてくれないかな」

京太郎「本当は最後に渡すつもりだったんだけど」

トシ「これは……分かったよ、必ず」




京太郎「学校のこととか、色々と後始末をしてもらうのは申し訳ないんだけど…」

トシ「何言ってるのさ、大人に迷惑をかけるのも子供の仕事の内だよ」

京太郎「そう言ってもらえると助かるよ、ありがとう」

京太郎「あと、これ。トシさんにも」

トシ「なんだい?やけに大きいね……あらっ?」

京太郎「料理の練習でだいぶ磨耗しちゃったから、新しい調理器具を買ったんだ」

京太郎「どうかな…なるべく良さそうなのを選んだんだけど」

トシ「うれいしいよ、ありがとう京太郎。でも高かったろうに…」

京太郎「今月短期のバイトで稼いだからね、どうってことないよ」

京太郎「それより、俺がいなくなってからもカップラーメンは控えてほしいかな」

トシ「ふふ、善処するよ」

京太郎「もうっ」


トシ「……」

京太郎「……」

トシ「行くのかい?」

京太郎「うん」

トシ「帰りは?」

京太郎「少し遅くなるよ」

トシ「そうかい、いってらっしゃい京太郎」

京太郎「いってきます」


京太郎「ばあちゃん」



この半年間、色んなことがあった。本当に楽しかった

だからできれば、ずっとここで過ごしたいくらいだ

だが、そういうわけにもいかない

ついに帰るときが来たのだ


トシさん、麻雀部の先輩方、クラスメイト、そして健夜…

みんなと別れるのは寂しいが、彼らのおかげでとても楽しい日々を過ごすことができた

伝えることはできないが、本当にありがとう


京太郎「さて…」

おあつらえ向きの下り坂が見えてきた

だから、助走を付ける


タンッ!


みんなの顔がフラッシュバックする


タンッ!!


この半年の出来事が一挙に頭の中を駆け巡る…健夜


タンッ!!!


健夜……本当はあの時俺は…








京太郎「いっけええええええええええ!!!」

今日はそこそこ投下できましたね。疲れたので寝ます
たぶん明日には全部いけると思います
ではまた。おやすみなさい

夜11時ごろ投下します
ではまた


――8月下旬 



健夜「やっぱり、このままじゃダメだよね……」

あれから、2日たったけど私はいまだに行動できずにいた

でも、このまま分かれの挨拶すらもできないのは、もっとダメだ

よしっ!


健夜「おかーさん、ちょっと出掛けてくる」


_________

_____

__


健夜「つ、着いてしまった…」

あー、勢いで来たものの、なんて言えばいいんだろう?

あんな別れ方したし、会うのは気まずいよ…



健夜「はぁー…」

トシ「おや、健夜ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」

健夜「あ、熊倉さん。えと、その…京太郎くんいますか?」

トシ「……まあ、上がりなさい」

健夜「?はあ…」


玄関に上がると、以前とは異なる違和感を感じる、なんだろう?

それになんだか、物が減ってるような

もしかして…


トシ「さて、今日はどうしたんだい?」

健夜「えと、熊倉さんも知ってますよね?京太郎くんが転校すること…」

健夜「だから、その…最後の挨拶に……」

トシ「そうかい、ありがとう健夜ちゃん」

トシ「でも、残念だけど、京太郎はもう行ってしまってね。ここにはいないんだ」


健夜「そう…ですか……」

やっぱり、感じた違和感はそういうことだったのだ

トシ「健夜ちゃん……」

健夜「はは、少し遅かったみたいですね……」

トシ「京太郎のこと、恨まないであげて。あの子にも事情があって――」

健夜「分かってます!!分かってますけど…」

トシ「……」

トシ「これ、京太郎から健夜ちゃんにって」


_________

_____

__


健夜「ただいま」

健夜母「あら、おかえり。早かったわね」

健夜「うん……ごめん部屋行くね」

健夜母「ちょっと、健夜!?」


バタン

はは…バカみたい。別れの挨拶すらできないなんて

あの時…きちんと話を聞いてあげればよかった


熊倉さんから渡された、箱を見る

開ける気にはどうしてもなれなかったけど、それでもなんとか包装を解いていく


現れたのは、シルバーのチェーンに薄い青と透明の宝石があしらわれている――

健夜「これは、あの時の…」

間違いない。合宿のとき、京太郎くんと瑞原さんと行ったデパートで見つけた、あの時のネックレスだ

そういえば最近、京太郎くん忙しそうにしてた。きっとこのためにアルバイトしてたんだ

健夜「覚えててくれたんだ……」

健夜「馬鹿……」

こんな物より、私は京太郎くんがいてくれさえすれば、それで……


――9月上旬 二学期始め



二学期が始まった

朝のホームルームで先生が京太郎くんの転校のことを伝えると、クラスがざわめいた

その後なぜか、何人ものクラスメイトが私を慰めてくれた

中学生の頃の私だったら考えられないことだったので、素直に嬉しかった

でも正直、何を言われても心に響いてくることはなかった


今日は特に授業などもなかったので、早めに終ってしまった

なので、荷物を持って早々部室に向かう


ガラガラガラ

健夜「失礼します」

シーン…

健夜「…まあ、誰もいないんだけどね」

さすがに2学期ともなると、先輩達もほとんど顔を出せなくなる

だから、今日からは本当にひとりぼっち



健夜「……一人で麻雀なんかできるわけないじゃん」

健夜「馬鹿……京太郎くんの馬鹿」

することもないので、仕方なく持ってきていた文庫本を読む


健夜「……」ペラペラペラ


健夜「……」ペラペラ


健夜「……」ペラ…


健夜「はぁ……」


だめだ、なんだか集中できない

以前なら2時間でも3時間でも、いや1日中、本の世界に没頭することができたのに


いつからだろう?どうして変わってしまったんだろう?

そんなのは分かりきっている、京太郎くんと出会ったからだ

京太郎くんが私の世界を広げてくれたから、私の興味を外に向けてくれたから…





本当はもっと京太郎くんと過ごしたかった

他愛のない、いつものバカ話をずっとしていたかった

二人で大会に出て、また全国に行きたかった

2年生になったら、新しい部員が来てもっと部活が盛り上がるはずだった

3年生になったら、部活も引退して進路について二人で真剣に語り合うはすだった


どうして、転校なんかしたの?どうして、最後の挨拶もさせてくれなかったの?

どうして、急にいなくなっちゃうの?どうして、ちゃんと理由を教えてくれなかったの?

どうして?ねえ、どうしてなの、京太郎くん。お願いだから答えてよ……


分かれることを知っていたなら、どうしてあの時私に話しかけてきたの?

私が一人だったから、同情して付き合ってくれていたの?

私のこと、本当はどうでもいいって思ってたの?


こんなに辛い気持ちになるくらいなら、ずっとひとりぼっちの方がマシだったよ


健夜「馬鹿……」ポロポロ

馬鹿……馬鹿!……馬鹿!!




麻雀なんて…もう辞め――





















コンコン

健夜「!!」ゴシゴシ

コンコン!

健夜「は、はい。どうぞ」


ガラガラガラ

「失礼しまーす」

健夜「は、はい」

「ここ、麻雀部であってますよね?」

健夜「はい、そうですけど…えーと何か用ですか」

「えーと、実は…」

コンコン

健夜「!!」

「失礼します」

健夜「え、また!?」

コンコン

「しつれいしまーす」

健夜「」


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結局、その後来たのは計4人。いずれも1年生の女の子だ


健夜「えーと、皆さんどういったご用件で…」

「あはは、敬語はいいよ。同い年なんだし」

健夜「う、うん…」

健夜「で、なんの用なのかな?」

「はい、これ」

健夜「えーとなになに……入部届かあ。なるほどなるほど」

健夜「……」

健夜「うえ゛!?」


健夜「入部届っ!?入部届って、あの入部届っ!?」

「それ以外になにかあったけ?」

「ないと思うけど」

健夜「ということはつまり…四人とも麻雀部の入部希望者ってことっ?」

「「うん!」」

健夜「そう、なんだ」

健夜「でも、どうして急に…?」




「熊倉君が誘ってくれたんだよねー」




健夜「えっ」



「8月の中頃くらいかなー。いきなり電話してきてさ」

ちょうどインターハイが終って、先輩達が引退した頃だ

「そうなの?私なんかいきなり家まで来たからびっくりしちゃったよ」

健夜「……」

「でも、すごい熱心ていうかさ…鬼気迫るかんじだったよね」

健夜「……」

「何度もお願いされたからね、最後にはオーケーしちゃったもん」

「私の時なんか――」



健夜「……」

健夜「……」

健夜「……」

健夜「……」ポロポロ


馬鹿は…馬鹿は私だ。私、自分のことしか考えてなかった

京太郎くんはこんなにも私のこと考えていてくれたのに


「えっ、え、えちちtちょっといきなりどうしたの?だだだ大丈夫?」

「落ち着け!どこか痛いところでもあるの?」

健夜「ううん…違うの……ただ、自分が…情けなくて、それで…」ポロポロ

「うん、大丈夫。大丈夫だから」ポンポン

健夜「ありがとう……来てくれて…ありがとう…」ポロポロ

「うん、うん…」

生まれたての赤ちゃんのように、その後もずっと泣き続けた


_________

_____

__


ピンポーン

トシ「おや、健夜ちゃん」

健夜「熊倉さん、お願いがあります!」

トシ「どうしたんだい、急に」

健夜「私に麻雀を教えてください!!」

トシ「…今も教えてると思うけど」

健夜「違うんです!もっと全国で……いや世界で戦えるくらい強くなりたいんです!」

トシ「……世界とは大きく出たね。どういう心境の変化だい」

健夜「京太郎くんがどこに行ったのかは知りません」

健夜「けど、私がもっと麻雀で強くなって、もっと有名になれば」

健夜「きっと、京太郎くんも見ていてくれるから……」

健夜「だから、強くならなくちゃいけないんです!」


トシ「それは自分のためかい?」

健夜「正直分かりません」

健夜「でも、私の麻雀をまた見たいって言ってくれたんです」

トシ「……」

健夜「京太郎くんからは、とても多くのものを貰いました」

健夜「信じられないほど、たくさん」

健夜「だから、ほんの少しでも、私からあげられるものがあるなら」

健夜「自分のためと言われても、構いません!」


トシ「ふふ…」

トシ「まったく、二人ともそっくりなんだから……」

健夜「?」

トシ「いいよ、明日から毎日おいで。みっちりしごいてあげるから」

健夜「あっ、ありがとうございます!!」

トシ「さあ!さっさと、京太郎に追いつかなきゃね。時間がなくなっちゃうよ」


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その後は早かった

1年生が終るまで、私は熊倉さんの指導を徹底的に受けた

団体戦では残念ながら、全国に行くことはできなかった

しかし、最後の大会では県で2位に食い込むことができた

私たちの最初の実力からすれば、相当成長できたのは確かだろう


私はこのままこのメンバーで、2年生になってもやっていくんだとばかり思っていた

だけど、1年生での終わりに突然お父さんの転勤が決まり、転校することになった

同じ茨城県だったが、新しい家から通うには少し遠すぎたのだ


新しい高校の名前は『土浦女子高校』

制服はブレザーではなく、丸襟にグレーのリボンのものに変わった

初めてできた友達や部活の仲間、熊倉さんと分かれるのは辛かった

きっと京太郎くんもあの時、こんな気持ちになったのだろう


引越しの後気付いたけど、京太郎くんから預かっていた文化祭の衣装がいつの間にかなくなっていた

京太郎くんとの数少ない思い出だったから、必死になって探したけど見つからなかった

もし誰かの手に渡っているなら、せめて大事に扱っていてほしい


熊倉さんも程なくして、福岡の麻雀の実業団で監督をするため引越しをしたそうだ


転校してからも麻雀はずっと続けた、何ものにも優先して

そのせいか、3年生の全国大会では団体戦優勝を果たすことができた

京太郎くんは見ていてくれたのだろうか?そうだと嬉しい


高校を卒業してからは、ありがたいことにプロのオファーがあった

私は飛びついた

それからも、私はひたすら麻雀をし続けた

まるで、最初の目的を忘れてしまったかのように


そして……


――12年後 東京 インターハイ会場




恒子「すこやん、お疲れー!」

健夜「お疲れ様、こーこちゃん」

恒子「いやー今日もアラサーらしく、年季の入った名解説でしたな」

健夜「アラフォーだよ!!」

恒子「……」

健夜「間違えちゃったじゃん!何言わせるの!!」

恒子「いや~、今のはさすがにすこやんが悪いと思うんだけど」

健夜「もうっ、まったく!こーこちゃんは!」

恒子「はいはい、悪うございました…」


恒子「ん、あれっ?すこやんにしては珍しく、ネックレスなんて着けてるんだね」

恒子「どうしたの、若作り?」

健夜「私まだ20代だからね!?そのくらいのファッションはするよ!」

恒子「へぇー、アクアマリンとダイアモンドかあ。デザインは若い人向けみたいだけど、大丈夫?」

健夜「大丈夫ってなに!?」

恒子「でも、すこやんにしてはいいセンスしてるじゃん。なんでいつもは着けないの?」

健夜「うーん…なんでだろ?」

健夜「なんだか今まで、どうしてもそういう気分になれなかったんだよね……」


恒子「ふーん……さては男ですな?」

健夜「ななな、なんで分かるの!?」

恒子「ふふふ、女がアンニュイな表情をしたら、それ即ち男が関係していると相場が決まっているのだよ」

健夜「へえ、こーこちゃんすごいんだね」

恒子「それほどでもあるよ!」フフン

恒子「……もしかして彼氏からのプレゼントとか?」

健夜「彼氏か…そうだったら良かったんだけどね…」

恒子「"だった"ってことは、昔の?」

健夜「うん、学生時代にちょっとね」


恒子「へえ、行かず後家四天王の一角と呼ばれたすこやんにも、そんな時代があったんだねえ」

健夜「行かず後家なんてよく知ってるね!?ていうか、そんなの初めて聞いたよっ!?」

恒子「初めて言ったからね」

健夜「……ちなみに他の三人は?」

恒子「えーと、野依プロと瑞原プロと、あと一人誰にしようか?」

健夜「こーこちゃん、そのネタその二人には絶対に言わないほうがいいよ。命に関わるから」

恒子「命って、そんなー」

健夜「……」

恒子「……肝に銘じます」


恒子「しかし、すこやんにもそんなことがあったんだねー。その子とは結局?」

健夜「うん、転校しちゃってそれっきり」

恒子「ははー、まるで一昔前の少女漫画みたいな展開だね」

恒子「でも、その子はすこやんのことをとても大切に思ってたみたいだね」

健夜「……どうして?」

恒子「だって、このネックレス高校生が買うにしてはかなり高いもん」

恒子「5万か6万くらいはしたんじゃないのかな?」

恒子「好きな娘以外にそんなプレゼント、普通はしないよ」


健夜「……」

恒子「すこやんは、その男の子のことどう思ってたの?」

健夜「……分かんない、忘れちゃった」

恒子「そう」

恒子「……」

恒子「さあ!明日で仕事が一区切りするから、その後飲みに行くぜー!!ね、すこやん」

健夜「うん、そうだね。ありがとう、こーこちゃん」


さて、今日は解説の仕事は終ったからホテルに帰ろう

なんだか疲れちゃった。きっと昔の話をしたからだ


あれから12年が経った

私は強くなり続けた…と思う

体も成長した。む、胸だってほらっ!?

……ごめんなさい、嘘つきました。ほとんど変わってません


プロになって、色んな大会に出た。そして勝ち続けた

気付いたら、いつの間にか世界ランキングが2位になっていたこともある


ねえ、京太郎くん。見てよこれ、私のカード

『国内では無敗』『永世称号七冠』『恵比寿時代は毎年リーグMVP』

だってさ。この『Grandmaster』なんて仰々しいの、私には似合ってないよね

私強くなったんだよ?銀メダルだってとったことあるんだから

その時の私、見ていてくれた?その時の私、かっこよかった?

京太郎くんがあの時言ってくれたみたいに

少しでも恩返しできたのかな、私…


ねえ、京太郎くん。私、疲れちゃったよ。少し頑張りすぎたからかな

こーこちゃんにはああ言ったけど、私はあの時から……いや今でもあなたのことを…


健夜「会いたい……」


もし、もう一度出会えたら…あの時言えなかったことを―――




















「あぶなーいっ!!!」


健夜「へ?」


横を見る。横断歩道に猛スピード迫ってくるワゴン車。距離は20メートルくらい


健夜「あ」


これは助からないな。こうどうしようもないと、案外冷静になるものなんだ

ここで、私死んじゃうんだ。あっけない

ああ、私の人生ってなんだったんだろう?

でも、今にして思えば案外幸せだった言えるのかもしれない

仲の良い友達も何人かいるし、他人から見れば麻雀選手として大成功を収めたといえる


あれ?あと、何かあったけ?

まあ、いっか。どうせここで終ってしまうんだから


でも…前にもこんなことが






ドンッ




健夜「え」

すごい衝撃が伝わる

でもこれは、車というより、人の

振り向くと、そこには金髪の男の子が



健夜「あ、きょうた――」



グシャ



肉の潰れる嫌な音がした

今度こそ、私は気を失った


________

_____

__


―病院



「ハイ、いいですよ。お疲れ様」

健夜「ありがとうございました」

「特に異常は見当たりませんね。気になるところがあれば、またいらして下さい」

健夜「はい。あの…あの男の子は今」

「まだ、手術中ですね」

健夜「そう、ですか」


「……私の見たところ、頭からの出血は多いようでしたが、それほど深いものではないようです」

「肋骨にひびが入っていますが、中に以上はないようでした」

「左足は骨折していますが、それほど酷いものではないので、将来障害が残る心配はありません」

「追突する直前、車が横にそれたので、正面衝突を避けられたのが良かったのかもしれませんね」

健夜「そう…ですね」

「自分の命を顧みず、他人を助けることのできる素晴らしい青年です」

「うちのスタッフが全力で取り組んでいるので、安心してください」

「じきに手術も終るでしょう……彼のこと、待ちますか?」

健夜「はい」


事故のとき、私はもう助からないと思った

しかし、周りにいた人達の証言によると、男の子が飛び出してきて私を突き飛ばしてくれたらしい

私は歩道に逃れたが、その子は……

警察の人によると、車は70~80キロ近くスピードを出していたらしい

それで、あの怪我で済んだのは奇跡的とのことだ

それでも、あのような酷い怪我を負ってしまった

私はすぐに気を失ってしまったので、その後の出来事は詳しくは知らない

気付いたら病院にいて、よく分からない検査を受けていた


そして今、彼の眠るベッドの横で、私は座っている


健夜「……」

健夜「ありがとう。あなたのおかげで、私助かったよ」

健夜「ねえ、あなたは誰なの?金髪のそっくりさん」

健夜「ん?なんだろこれ……学生証?」

健夜「……」

健夜「名前だけ、名前だけならセーフだよねっ?」

健夜「苗字は『須賀』、名前は……」



健夜「『京太郎』……かあ」


健夜「……」

健夜「……」

健夜「えっ?え、ええええっ…え?!??」

ここここれは、どういうこと?もしかして本当に、京太郎くん本人?

いや、この子も京太郎くんなんだけどね!?

でででも、顔とか体つきとかはほとんど同じに見えるし

いや、でもあれから12年経ってるし、同じってありえないよね!?


はっ!もしかして、この子京太郎くんの息子さんとか……

ということは、もう他の誰かと結婚してて……

健夜「うぅ……」キリキリ

やめよう、秒速5センチメートルみたいな妄想は。私の胃に優しくない

第一、自分の息子に同じ名前をつける親がどこにいる!


健夜「はあー……」

傍からみたら、私ただの変質者だね、これ

健夜「ねえ、早く目を覚ましてよ『京太郎』くん……」



恒子「すすすこやーん!!」バーン



健夜「あ、こーこちゃん」

恒子「事故にあったって聞いて、だだだ大丈夫!?」

健夜「落ち着いて、こーこちゃん。私は何ともないから」

恒子「そ、そうなの!?よ…よかったあ」ヘナヘナ

健夜「心配してくれたんだね。ありがとう」

恒子「あれ?……この子はどうしたの?」

健夜「この子が私を助けてくれたの。でも代わりに…」

恒子「そう、なんだ」

健夜「幸いそこまで酷い怪我じゃないらしいけど、まだ意識が戻らないんだ」

恒子「そう……すこやんのことありがとね、少年」



~~~~~~~~~~~~~~~~




良子「少々遅れましたが、どうやら無事なようですね」

えり「そうですね」

はやり「まったく、心配したんだから…」

咏「まったくだねぃ」

野依「よかったっ!!」

靖子「まあ、無事でよかったよ。ほんと」

はやり「……」

良子「どうかしました?」


はやり「うーん、あの子…」

良子「あの金髪の子ですね?どうやら、彼が小鍛治さんを助けてくれたようですが」

はやり「うん、そうなんだけど。あの男の子、どこかで会ったことがあるような……」

野依「……」

野依「痴呆っ!!」

はやり「あ゛、今なんつった」


ビクッ!!


野依「難聴っ!!」


咏「これは、やばいねぃ…」ヒソヒソ

良子「Oh……」


はやり「久しぶりに切れちゃった☆……雀荘行こうか☆」

野依「望むところっ!!」

はやり「でも、二人じゃ麻雀できないからなあ…☆」チラ

咏・良子「」ビクッ!!

咏「あー!私このあと雑誌の取材があって――」

良子「実は解説の仕事が残っていまして――」

はやり・野依「ん?」ニコニコ

咏・良子「……お供させていただきます」

みさき「あれ?そういえば藤田プロがいませんね、さっきまでここにいたのに」

咏・良子(あのカツ丼、逃げやがったな…)

はやり「じゃあ行こうか☆二度と麻雀のできない身体にしてあげるよ☆」

野依「こっちの台詞っ!!」




~~~~~~~~~~~~~~~~



健夜「なんだか、外が騒がしいね。何かあったのかな?」

恒子「さあ?お年寄りが世間話でもしてるんじゃない?」

健夜「病院なんだから静かにして欲しいよね、まったく」


健夜「……京太郎くん」ギュ

恒子「すこやん…」

恒子「すこやん、もしかしてその子のこと知ってるの?」

健夜「分かんない…」

恒子「え、それってどういう」

コンコン

健夜「は、はい、どうぞ」

??「失礼します、こちらに須賀くんがいると聞いて」

健夜「は、はい。こちらです」


健夜「えと、あなた達は?」

??「申し遅れました、私は清澄高校麻雀部の部長の竹井と申します」

久「それとこちらが、部員の染谷、宮永、片岡、原村です」

久「私たち、須賀くんと同じ部員なんです」

健夜「そう、だったんだ」

咲「京ちゃん!!京ちゃん!!」

優希「イヌ…なにやってんだじぇ」

和「須賀くん…」

まこ「それで、容態のほうは?」

健夜「手術は成功したんだけど、まだ意識の方が…」

まこ「そう、なんか…」

久「…私のせいだわ、あの時買出しなんか行かせなければ……」

まこ「あほ、単なる偶然じゃ。自分のせいにしたって何にもならんぞ」

久「……そうね、その通りだわ。ありがとう、まこ」

久「それで、その…事故の詳しいこと聞いてもいいですか?」

健夜「はい」



__________

______

__


久「そうですか、ありがとうございました」

健夜「い、いや、お礼を言うのはこっちの方だから」

咲「でも、京ちゃんらしいね」

優希「いつも、他人ことばっかり。少しは自分のことも考えろ…ばか」


健夜「……あの、良かったらこの子のこともっと教えてくれませんか?」

久「敬語はいいですよ、小鍛治プロ」

健夜「え、ばれてたの!?」

和「麻雀やってる人で、小鍛治プロのことを知らない人なんていませんよ」


まこ「それに、福与アナもおるしな」

恒子「あれっ、分かっちゃた?私も有名になったもんだね~」

久「小鍛治プロからの頼みとあらば仕方ないですね。悪いけど、咲お願いね」

咲「え、私ですか?」ビクッ

久「この中なら、あなたが一番須賀くんと付き合いが長いわ。よろしくね」

咲「は、はあ」

久「私達は先に帰るわね。たくさんいても邪魔になるし」

恒子「なら、私も帰るよ。咲ちゃん、すこやんのことお願いね」

健夜「普通逆じゃない!?」


その後、咲ちゃんから色々な話を聞いた

中学時代どんなことがあったのか、どんな会話をして、どう思ったのか

高校に入ってからこと、大会のこと、そして今日のこと

咲「いつも、自分のことは後回し。他の人のことを第一に考えてるんです」

咲「まったく…バカなんだから」

健夜「…そうだね、昔からそうだったんだよね」

咲「?」

健夜「ありがとう、咲ちゃん。私の頼みなんか聞いてくれて」

健夜「明日も試合でしょう?早く帰って休んだほうがいいよ」

咲「…そうですね、そうします」

咲「小鍛治さんはこの後…」

健夜「もう少しだけ、ここにいるよ。一人じゃ寂しいもんね」


――???




~~~~~~~~~~~~~


「う……ぁ…」

何をしてるんだい?

「いえ…何もできないんです」

本当かい?

「ほら、見てください。包帯でグルグル巻きでしょう?」

「これじゃあ、動けませんよ」

なんで包帯なんかしてるんだい?

「えーと…なんででしょう?怪我でもしたかなあ…」



いいや、怪我なんかしてないはずだよ。ほらっ!

「ちょっと、止めてくださいよ。痛いじゃないですか!」

本当に?

「あれっ?痛くない…?なんで…」

怪我してるわけでもないのに、そんな包帯を巻いているから身動きが取れなくなるのさ


さ、起きなさい。私と彼が言った、同じ言葉があるだろう?

それを思い出すんだ

「え、もしかして…あなたは――」



~~~~~~~~~~~~~~~


――事故から三日後



京太郎「うぅ……」

うあ、体がだるい。つか左足全く動かねえ…どうなってんだ

なんか後頭部もジンジンするし、最悪だな


あれ?俺何してたんだっけ?

たしかこっち戻ってきてそれで……

京太郎「た、助かったのか…俺!?」

まじかよ…絶対ダメかと思ってたのに


京太郎「よっしゃーーーーーっっ!!!!」

京太郎「って、痛っ…!声出しただけで、ハンパなくいてぇ…」

はあ、てことはここ病院か

そういえば、肝心の健夜は無事だったのだろうか?

歩道に押したまでは確認したんだが、それ以上覚えてねえ


コンコン

「失礼します」

ん、誰だ?とういかこの声、最近まで聞いてような――やべっ!


ガチャ

健夜「『京太郎』くん、起きてる?わけないよね…」

無事だったかあ、よかった……本当によかった

健夜「今日もお見舞いの品、持ってきたんだけど。既にいっぱいだね」

健夜「ねえ、今日の試合、咲ちゃんたち勝ったみたいだよ。よかったね」

健夜「解説のとき、こーこちゃんたら酷いんだよ。全国放送でアラサーネタ連発するし」

健夜「自分だって、もうすぐアラサーなのにね」

健夜「……」


健夜「ねえ、『京太郎』くん。早く目を覚まして。本当のこと教えて」

健夜「あなたは、あの京太郎くんなんでしょう?」

健夜「咲ちゃんから聞いたよ、いろんなこと」

健夜「昔から、変わってないんだね。私、びっくりしちゃった」

京太郎「……」

健夜「私あれから、すごく強くなったんだよ?」

健夜「なにせ、元世界ランク2位なんだからね。すごいでしょ?」

健夜「銀メダルだって取ったんだから…」

京太郎「……」

健夜「……」

健夜「私…あなたに、頑張った、って。それだけでいいの……だから…」ポロポロ

健夜「京太郎くん……」ポロポロ



言うべきなのだろうか?

正直言うと、助かったときのことは全く考えていなかった

だが、俺のことをいまさら言ったところでどうなるというのか

もしかしたら、既に健夜には付き合っている男性がいるかもしれない

そんなところに、12年前の俺が現れたらどうだろう?

そんなことしたって、健夜を困らせるだけだ

いや、たとえ彼氏がいなくたって同じようなものか…

それに、そもそもタイムリープなんて荒唐無稽なこと信じてもらえるはずがない

なら言わないほうがいい

それが健夜のため

だけど……






『自分の気持ちに素直にね』







……ありがとう、トシさん


健夜「……じゃあ、もう行くね」ゴシゴシ




京太郎「……待った」

健夜「え」

京太郎「久しぶり、健夜」

健夜「えっ!あ…え、え?」パクパク

健夜「きょ、京太郎くんなの?あの…」

京太郎「そう、あの京太郎だ」



健夜「…なんとも、ないの?」

京太郎「言ったろ、ちょっとやそっとじゃ死なないって」

健夜「で、でも、まだ高校生なんでしょ!?」

京太郎「まあ…その……いろいろあったんだ」

京太郎「詳しいことはまた後で話すよ。それでも信じてくれるか?」

健夜「……私、ひと目見て分かったもん…京太郎くんだって」

健夜「違うかもしれないって思ったよ?けど、苗字は違ったけど名前も顔も一緒で…」

健夜「変だって思った。そんなのありえないって…」

健夜「でも、咲ちゃんからあなたの話を聞いて分かったの」

健夜「この人は間違いなく京太郎くんなんだって」


健夜「昔から全然変わってなくて、びっくりしたんだから…」

京太郎「そういう健夜だって、あの頃と全然変わってないじゃないか」

健夜「そ、そんなことない!あの後、いろんなこと…いっぱいあって……それで…」ジワァ

京太郎「……」

健夜「ばか~~っ!!勝手にいなくなって…」

健夜「急に現れたと思ったら…今度は事故で!」

健夜「すごく、すっごく!心配したんだからっ!!」

京太郎「す、すまん」

健夜「もう起きないかもって何度も何度も思って……それで…」

健夜「バカ、アホ、トンチンカン!!」

健夜「ヘンタイ!ドスケベ!他の人の胸ばっかり見てっ!!」

健夜「バカバカバカバカバカバカバカばかばかばかばかーーーーー!!!」

京太郎「そこまで言わなくても…」


京太郎「どうしたら許してくれる?」

健夜「許さないもん!」

京太郎「もん、って……じゃあ、どうしたいい?」

健夜「えと…その、あのー……」

健夜「………!!」

健夜「ききききキス、してくれたら許してあげないこともない…かも/////」モジモジ

乙女か!いや、もう乙女じゃないのか?

京太郎「えっ!?そのー、聞きにくいことなんだが……彼氏とかいないのか?」

健夜「」

健夜「……」

健夜「いたことないもん…」ボソ

京太郎「え?」

健夜「今まで、一人もいたことないって言ったの!わるいっ!!」

京太郎「い、いや悪くないです。むしろ嬉しい…かな」

健夜「そ、そう、なんだ…///」

京太郎「ああ」


健夜「じゃあ、その……する?」

京太郎「いやその前に、ちょっと待ってくれ」

京太郎「最後分かれたとき、本当に言いたかったこと、言わせてくれ」

健夜「うん」

京太郎「好きだ」

健夜「私も。あの頃からずっと」

京太郎「健夜…」

健夜「京太郎くん…」


健夜の手に、自分の手を重ねる。暖かい


だんだんと二人の距離が近づいてゆく、そして―――



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



トシ「どうやら、うまくいったみたいだね」

トシ「……あらあら、年寄りはとっとと退散しようか」

トシ「確かこういう時は、こう言うんだったかな」



















トシ「二人は幸せなキスをして終了」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――5年後



京太郎「うー、緊張してきた…」

健夜「大丈夫だよ、なんたって私が教えてきたんだから」

京太郎「そうだな、いつもありがとう」

チュ

健夜「…えへへ」

恒子「おー、暑い暑い!暖房効きすぎかなあ、この部屋は」

健夜「こーこちゃん!?」

健夜「…もしかして、見てた!?」

恒子「いんやあ、見てないよ」


健夜「よかったあ」

恒子「二人が熱ぅ~いキスをしてることろなんてね」

健夜「も、もうっ!見てたんじゃん!?早く実況に戻りなよ!」

恒子「はいはい……あと京太郎くん、タイトル戦頑張んなさい」

京太郎「はい!」

健夜「もうっ、こーこちゃんは…」

京太郎「…福与さん、いい人だなあ」

健夜「えっ!うわ、浮気!?」

京太郎「そんなことしないよ…」

京太郎「福与さん、俺が初のタイトル戦で緊張してるから、わざとああ言ってくれたんだよ」

健夜「そ、そうだったんだ。後で感謝しなくちゃだね」


はやり(3×)「おーい、京太郎くん!」

京太郎「あ!お久しぶりです、瑞原プロ」

はやり(3×)「久しぶり。今日はよろしくね」

健夜「ちょっ…!すごい格好してるね、それ」

健夜「痴女…というより、もはや露出狂だよその服!?」

はやり(3×)「えー、最近流行ってるんだよこの服、ほらこれ見てよ」

健夜「なにスマホまで出して…なになに」


『茨城在住のあるデザイナーは、スランプに陥っていた』

『あるとき、茨城で開かれていたフリーマーケットを覗くと、そこにはとんでもない服が』

『これにインスピレーションを受けた彼は、次々と新作を発表してゆく』

『最初は麻雀界隈の一部のみで流行っていたものの、今ではその茨城スタイルは世界的なものになりつつある』

『そのブランドの名前は、彼がフリーマーケットで発見した服に付いていた文字からとった』

『K.K、と』


はやり「ねっ!」

京太郎・健夜「Oh…」

K.K=Kumakura Kyoutaro です…本当にありがとうございました


トシ「ほら、試合はじまるよ。早く行きな、二人とも」

京太郎「監督!」

京太郎「そうですね、行ってきます」

トシ「ああ、いってらっしゃい」


________

_____

__


京太郎「今日は負けませんよ、嫁と娘が見てるんです」

はやり「まだまだ、新人君には負けないよ」

アカギ「久しぶりだな、京ちゃん……だが、勝つのは俺だぜ……!」

野依「負けないっ!!」



京太郎「あー、そういえば…」

はやり「ん?」

京太郎「……約束、守ってくれましたね」

はやり「なんのこと?」

京太郎「いえ、何でもありません。さあ、いきますよ!!」











京太郎「カンッ!!」

これにて終了です

すみません質問なんですが、HTML化の依頼ってすぐにしたほうがいいんでしょうか?

SS書くのはおろか、スレ立ても初めてだったのでよく分からないのですが

1の判断でしていいんですよ

でも、後日談に期待してたり(チラッ

>>714
HTML化のタイミングは基本的に>>1の判断ですよ
この後なにか短編等を書いたり質問に答えてから依頼というのも>>1の自由ですー

>>716 >>717
ありがとうございます
今日は眠いので、また明日にHTML化の依頼をしようかと思います

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました
ではまた。さようなら

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月12日 (月) 02:10:40   ID: yN1P0iGH

これはいいね。

2 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 23:37:22   ID: 7LJt_zLT

これ好きだわ

3 :  SS好きの774さん   2016年01月31日 (日) 09:57:31   ID: gYYLbdGm

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