男「俺のちんこはこの世で最も強い」(397)

陰茎術。

それは日本古来より実在し、歴史を左右する大合戦の折、常にその陰で活躍して勝利を引き寄せた、古武術の一つである。

自らの陰茎を鍛え上げ、鋼の剣と化すその武術の鍛錬はまさに荒行、凄惨を極めた。

男として生まれ落ちたその時から、自らの陰茎にありとあらゆる苦痛を与える。

まだ精通どころか勃起すらできない陰茎に、有刺鉄線を巻きつけながら手淫をする鍛錬。

沸騰する熱湯と氷水の中、交互に陰茎を突き入れる鍛錬。

カリの部分に指輪をはめ、その指輪に鉄の重りを吊るす鍛錬。

何度も泣き叫び、苦痛にもだえ、陰茎を切り落としたいとまで願った。

だがすべての鍛錬を乗り越えた時、陰茎術を体得した時、この世に敵はいなくなる。

そんな最強の武術。



ときは平成、現代日本。

平和の水面下に陰湿な闇が蠢く時代。

そんな時代でも陰茎術の伝承者は―――まだ生き残っていた。

DQN「待ちなよ姉ちゃん」

女「やっ、やめてください!」

チャラ男「いいだろ? ちょっと遊ぼうよ」

サワサワ

女「きゃ! 大声だしますよ!」

DQN「へへ、誰もきやしねーよ」

チャラ男「ほら暴れんじゃねえ……きもちよくしてやっからさ!」

グイッ ビリビリィッ

女「きゃああああっ!」

DQN「へへへっいい夢みせてやるよおおお!!」

女(だれかっ、だれかたすけて……!)


「待ちな」

女「ッ……?」

DQN「あん?」

チャラ男「なんだテメーは」

男「嫌がってるだろ。やめてやれよ」

女(助けに来てくれた……?)

チャラ男「だからなんだテメーはって訊いてんの」

DQN「お前にゃ関係ねーだろが、どっか行けや、あぁ?」

男「あるね。俺も男だからな」

DQN「はぁ!?」

チャラ男「なに? 混ぜて欲しいわけ?」

女「っ……」ビクッ

男「……」

男「……」カチャカチャ

ジィィィィ

DQN「お、おいこいつズボン脱ぎ始めたぞ! はっはは、まじで参加する気かよ!」

チャラ男「まあどーでもいーや、とりあえず4Pけってー!!」

女「ひっ……そ、そんなっ」

DQN「あー、もう勃起してきたわ」

ぼろん

女「やっ、いや! きゃああ!!」

チャラ男「ちょっ、お前でかすぎだっつーの!」ギャハギャハ

DQN「こういうの久しぶりだからな! お前も楽しませてやるよ!!」

女「いやああああああああ!!」

男「それを勃起とは言わない」ボソ

DQN「っ……あ?」

チャラ男「なんか言ったか?」


DQN「え―――」

男「……これが勃起だ」

チャラ男「な――――」


ジャッキイィィィィイインン


DQN「ちんこが……ズボンのファスナーから出たちんこが……」

チャラ男「頭の高さまで反り返ってそびえ立っているだとぉぉ!!?」

DQN「でっけええええ!!!」

男「でかいだけじゃない」

ビュンッ

ゴシャッ!!

DQN「ごっはぁ!!」

女(おちんちんで頭を叩いた!?)

チャラ男「なっ……なにぃぃぃ!!?」


男「勃起した陰茎は自分の意思で上下に動かすことができる。知っているな」

男「本来ならばぴくぴくとした些細な動きだ」

男「だがそれは気の狂いそうな修練を得て、強力な打撃技となる」

男「肥大化、硬質化させた陰茎を上段に反り上げたまま」

男「瞬く間もなく相手の頭上に振り下ろす打撃」

DQN「っ……」ピクピク

男「この技をうちの武術じゃ――『勃ち鼎』と呼んでいる」

チャラ男「て、てめええええ!!」ブン

バシッ

チャラ男(ち、ちんこを盾にして俺の右ストレートを防いだ!?)

男「俺のちんこはお前の拳より速い、そして硬い」

チャラ男「くっそがああああ!!」

バシッ バシッ

バシバシィッ

女(すごい……攻撃を全部、おちんちんで受け止めている!!)

チャラ男「くそっ、くそっ!」

男「そろそろたまってきたか」

チャラ男「あぁっ!?」

男「おお振りに殴られる衝撃すらも俺にとっては豊かな乳房にちんこをこすりつけるに等しい甘美な刺激でしかない」

チャラ男「……なんだと」

男「感じている――と言ったんだ」

チャラ男「っ……!」ゾク

男「そして絶頂のときは近い」

チャラ男「くそがぁっっっ!!」ダッ

女(あっ、逃げ出した!!)

男(ちんぴらにしては正しい判断だ。力量差を感じ取ったか)

男(だがもう遅い)

男(お前は俺を見た瞬間から――違う)シコシコ

男(俺がお前を見た瞬間から……お前はこうなる運命だったッ!)シコシコ

男「お前は俺にかけられる運命だったッッ!!」シコシコシコシコ

ドッピュゥワッ!!!!

男「陰茎術最大の奥義……」

男「徒手格闘術、唯一の遠距離技」

男「最大限に膨張した陰茎からの射精それはもはや砲撃っ!」

男「花びらのように散れ!!!」

ドビチャビチャビチャァアッ!!!

チャラ男「アアアアアッーーーー!!!」

女「す、すごい」

男「ふぅ……」

女「あんなに怖そうな不良二人を……ものの数秒で」

男「この技をうちじゃ『乱れ牡丹』と呼んでいる」

女「あっ、あの!」

男「?」

女「ありがとうございました! 本当に怖かったんです!!」

男「いいんだ。はけ口を探していただけだから」

女「え?」

男「今の世の中、俺のようなスポーツではない古武術を追求する者は息苦しい」

男「だからこうして夜の街でチンピラ相手に武をぶつけているわけだ」

男「平和の裏で悪さをする悪党をこらしめる」

男「そういうと聞こえはいいがな」

女「で、でも……あなたに助けていただいたのは本当です」

男「感謝など」

女「本当に……ありがとうございました」

ペコリ

男「……夜風がしみるね」

女「すごくかっこよかったです、おつよいんですね?」

男「なんてことはないよ」

女「あのおちんちんで相手の頭を叩くのとか!」

男「勃ち鼎ね」

女「おちんちんを振って相手のジャブをガードしたやつとか!」

男「勃ち鼎の応用だね」

女「あとあと最後の精子かけるやつとか!」

男「乱れ牡丹というよ」

女「なんか正直見てるのもアレでしたけど、おちんちんなのにすごいですね!」

男(正直アレ?)

女「助けてもらってありがとうございました!」ペコッ

男「……」

女「では、おちんちん出したままだと警察に通報されかねないのでしまったほうがいいですよ!」

男「……」

女「じゃあまた! おちんちんのすごいひと! ばいばいちん!」

男「……」

男「……そうだよな」

男(結局おちんちんなんだよな……)


 現代に生き残る最強の古武術、陰茎術伝承者である男は、悩んでいた。


男(ちくしょう)

男(どれだけ強くなって全ての奥義を会得して)

男(どれだけかっこつけてチンピラから女の子を助けようとも)

男(結局俺のやってることはちんちん振り回してるだけなんだよな……)


 男はティーンエイジャー。自らが使う陰茎術を恥じる年頃になっていた。

男(子供の頃からずっと地獄のような鍛錬をつんできた)

男(陰茎術の鍛錬は凄まじい激痛をともなう)

男(あまりの激痛で失神、あまりの激痛で覚醒という恐怖の1セットを数秒間隔で繰り返すような鍛錬だった)

男(だが辛くはなかった)

男(何故ならこれが最強の武術だと信じていたから!!)

男(事実師匠でもある俺の父は強かった)

男(その身一つで中国マフィアやヤクザのアジトに乗り込み、日帰りで壊滅させるほどには強かった)

男(父が俺に対して与えた数々の試練と修行の日々は、はたから見れば虐待に等しかっただろう)

男(もう一度言おう。だが辛くはなかった!)

男(何故なら父は優しかったから!!)

男(だが、だが……)

男(いつも世間の闇と戦い、純粋におのが武術を極めんとしていた父は)

男(志半ばにして……)

男(公然わいせつの罪で逮捕された……!!)

『こんにちわー! あけてくださーい!』

ドンドンドン

父『息子よ。陰茎術はその1つ1つが秘技の塊だ』

男『オヤジ! 警察きてるよ!』

父『その性質上、不用意に使えばこういった事態も訪れる』

男『馬鹿野郎! 今そんな事言ってる場合かよ!』

『いるのはわかってるんですから! あけないなら突入しますよ!』

ドンドンドンドン!!

父『いいか息子よ!』ガシッ

男『っ!』

父『この時代、俺たち本物の武人の肩身は狭い……だが折れるな! 決して心を中折れさせるな!!』

男『オヤジ……』

父『いつかお前の武器が役に立つときがくる。必ず本番はやって来る』

男『……』

『あけろっつってんだろ! おい! ちんこ野郎!!』

男『でも俺オヤジなしじゃどうやって……この先強くなればいいんだ』

父『ふっ。いい加減親離れしろよ』

男『……』

父『武術も人生も、真の部分はお前がその手でつかむんだ。ペニスをつかむようにな』

男『……』

父『修行の日々は無駄ではない。やがてお前が磨き上げた陰茎捌きが、求められる時がくる、その時まで』

男『……ああ』

父『お前はもっと大きくなれ。2つの意味でな』

男『わかった……わかったよオヤジ』

父『それでこそ俺の弟子……いや息子だ』

『おらぁー!! 変態露出狂やろー! 観念しろ!』ドカァァ

父『じゃあ俺はちょっくらオナ禁してくるぜ』

男『お、オヤジ……!!』

『うわこいつチンコでかっ!!』

男「……俺はそれからもずっと修行をかかしてない」

男「陰茎を振り下ろす技、たち鼎でレンガを叩き割れるようにまでなった」

男「だが結局それはちんこをふっているだけだ……!!」

男「家にある陰茎術に関するありとあらゆる秘伝の巻物、文書を読みあさったが」

男「こんなもん人前でつかってられるかよ!!」

友「でも強いんだからいいだろ」

男「ばっきゃろー!!」

友「なんだよ、せっかく話きいてやってんのに!」

男「陰茎術をこのまま極めてなんになる!?」

友「そりゃまあ……どんどん強くなるんじゃないの?」

男「強くなってどうするんだよ!?」

友「……知らんよそんなん」

男「逮捕されんだよ!!!!!!」

男「友……ボクシングの高校生の大会で全国優勝したらしいな」

友「たいしたことないよ」

男「日本一の強さということだろ」

友「お前に比べたら俺なんて弱いよ」

男「うるせーーー!! 俺は一度も公式大会なんて出たことねーんだ!!」

友「そりゃお前の武術は知名度ないし」

男「あってたまるか! 秘術だぞ!!」

友「めんどくせーなじゃあもう何が言いたいんだよ!」

男「俺と勝負しろッッ!!」ヌギッ

友「うわっ、やめろちんこ出すな!!」

男「俺は俺が持つ最強の武術を無駄にしたくないんだ!!」

友「なんで勃起してんだよ! おい、やめろ!!」

男「ボクシングの『ストレート』より、陰茎術の『燕返し』のほうが強いとわからせてやる!!」

友「おまわりさーーーん!!!!」

男「……」ヘナン

友「あ……縮んだ」

男「陰茎術を極めたものなら何のスイッチもなく勃起と萎えを操作できる」

友「中学時代とか重宝しそうだな……授業中勃起した時とか」

男「そんなくだらない事にしか俺の技は使えないのか」

友「まぁ……」

男「友。俺は悔しいよ」

友「なにがだよ」

男「俺は強いんだ。誰よりも強い。武に人生の全てをかけてきたんだよ」

友「……」

男「この力を試せる機会がほしい……俺のちんちんが陽の目を見る日を迎えたい、こう考えるのはおかしいことなのか?」

友「……お前」

男「なんだ?」

友「パンツはけよ……」

――――――――


男「……」トボトボ

男(はぁ……無駄な人生)

男(むなしい放課後)

男(帰り道、すれ違う同級生たちのはしゃぎようが疎ましい)

男(俺は武術一筋に生きてきたから、漫画も知らないし芸能人もわからない)

男(友達もつくってこなかった。唯一の友達の友は、今日は女と遊びに出かけたらしい)

男(俺は一体なぜうまれてきたのだろう)

男(陰茎術の体得に身を捧げていなければ俺も今頃、彼女とかできてたんだろうか)

ドンッ

ヤクザ「いてっ」

男「あっ、ごめんなさい」

ヤクザ「おい、ごめんなさいじゃねぇだろ、おら」

男「……」

ヤクザ「いってぇな、クソガキ、お前殺すぞ? あぁ!?」

男「や、やめてください」

ヤクザ「やめてくださいじゃねぇだろ!!」

男「あ、おまわりさんだ! ちょうどいいところに!」

ヤクザ「はぁっ?」クルッ

男(敵が後ろを振り向いた隙に踏み込む)ザッ

陰茎術とは何も陰茎だけを強化する武術ではない。
『空手』が『手』以外も鍛えるように、当然陰茎術も全身を鍛える。
特に武術の性質上、下半身の鍛錬はかかさない。
鍛え上げたバネのような腰を軸にして、音もなく一瞬でヤクザの背後に回り、それと同時に両手は制服のズボンのチャックを下げる。
繰り出されるのは、敵が背後を向いている場合を想定した陰茎術の秘技。

男「陰茎術……『後ろやぐら』」

チャックの間から稲妻のように飛び出す硬く勃起した陰茎が、ヤクザの菊門をこじ開け、破壊した。
陰茎は菊門にとどまらず、そのまま大腸を突き刺す。
ヤクザが受けた初めての衝撃は、直接内蔵を攻撃する、陰茎術の真骨頂。

衝撃によって前のめりに崩れたヤクザは、アスファルトに顔面を打ち付け、一瞬静止したあと、声にならない悲鳴をあげた。
男はズボンのチャックをあげ、そそくさとその場を後にしようとした。

男は、
その一部始終を見られている事に気が付かなかった。

男「……ん?」

美少女「……」

男(可愛い女の子だ……なんでこっちを見ているんだろう)

美少女「……」ニコッ

男(……)

男(……)

男(……っ!!!)バッ

男(良かったチャックはちゃんと閉めてある)

美少女「すいません」

男「えっ? は、はい」

美少女「人を探してるんですけど、今ちょっとお時間よろしいですか?」

男「あぁ……うん」

美少女「よかった」

美少女「この人なんですけど」スッ

男(……携帯の写メ)

男(っ!?)

男「な、なんだ……これ」

男(友が)

男(ボコボコにされた友が!)

男(全裸で亀甲縛りされている!!)

美少女「しりませんか?」

男「なっ、なんだこの写真……こいつそんな趣味があったなんて!!」

美少女「違います。私達が無理やりやったんです」

男「……!」

美少女「あなたの友達なんでしょう」

男「……」

美少女「陰茎術の伝承者さん」

男「何でそれを知っている?」

美少女「ふふ」

男「友をどうした! お前は一体何者だ!? なんで亀甲縛りする必要があったんだ!!」

美少女「待って。落ち着いてください」

男「なんだと!?」

美少女「質問は一度に一つにしてもらわないと」

男「っ……」

美少女「ね?」

男「……」

美少女「……」

男「……」

美少女「……」

男「なんで亀甲縛りする必要があった……?」

美少女「それですか」

美少女「友さんは無事ですよ。まあ大人しくしててはもらってますが」

男「何のために。俺に用があるなら何故真っ先に俺に来ない」

美少女「有り体に言えば人質……ですかね」

男「……」

美少女「ふふ、男さん……私が探している人、というのは本当はあなたです」

男「……」

美少女「あなたに逃げられないようにするため」

男「俺を……」

美少女「はい?」

男「陰茎術を知っていてよく俺に目をつけたな……今すぐ友を開放しろ」

美少女「それはできません」

男「なんだと」

美少女「あなたには一緒についてきてもらいます」

男「ことわる」

美少女「それなら……貴方のお友達の命は保障しかねます」

男「なるほどな……」

美少女「……」

男「どういうわけかお前は俺を知り、俺を脅迫しているようだが」

美少女「……」

男「教えてやる。陰茎術は常に攻め。タチの1手。陰茎術伝承者にネコはいない」

美少女「ほう」

男「お前を逆に脅迫しよう。今すぐ友を開放しなければ」

男「俺の」

男「怒りでビキビキにいきり立った陰茎が」

男「お前の」

男「あらゆる穴という穴を突き崩す」

美少女「こわいですね」ジュン

男「三秒数えるうちに電話しな。俺は女だからって容赦しないぜ」

美少女「……」

男「……3」

美少女「……甘いですね」

男「2……なに?」

美少女「甘いと言っているんです」

男「……」

美少女「戦いはもう始まっているんですよ」

男「……ッ」

気づいた時には遅かった。
それは臭気。
強烈な臭気が、男の鼻を突き刺した。

くさい。そんなレベルではない。
痛い。鼻が痛い。
爆発的な、それでいてジメッとこびりつくような、不快な臭気が一瞬であたりに充満しているのだ。

男「うっわクサッ!!!」

美少女「陰の世界の古武術を使う人間はあなただけじゃない」

男「おえっ、おえぇぇぇっ、えっ!!!」

美少女「私は陰唇術の使い手……美少女」

男「くっっっっさ!!!!」

美少女「陰唇術秘技……『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』」

美少女「半径10メートル圏内に、自らの女性器の臭気を一瞬で振りまく秘技」

美少女「男性器は萎え、植物は枯れ、空気は濁る」

美少女「禁術のひとつです」

美少女「陰茎術と対をなす、もう一つの最強」

男「っ……まだ生き残りがいたのか!?」

美少女「あなたと同じく私が最後の一人です」

男「げほっ、おっ、おえっ!!」

美少女「ふふ……無様ですね」

男「ぐぅっ……ふ、ふふっ!」

美少女「?」

男「最強……だと? 書物で読んだよ」

男「陰唇術は大昔の戦争の裏、陰茎術伝承者の一派に大敗を喫している」

男「お前らが滅んだのは陰茎術に負けたからだ……」

男「陰茎術のほうが……はるかにつよい……おええっ」

美少女「なら立ち上がってください?」

男「っ……」

美少女「陰唇術はあなた達のように時代錯誤の流派ではありません」

美少女「あなた達に滅ぼされ……」

美少女「住む場所を追いやられ……尊厳を失い……陰唇術一派は、惨めにも海外へ逃げた」

美少女「そしてそこで得たのです」

美少女「米国美女の女性器の臭いをっ……!!」

男(下水道のザリガニと腐ったフライドチキンをミキサーでグチャグチャにした臭いっ……!!)

美少女「陰唇術は進化する! 負の歴史は私が塗り替える! もう敗者の武術とは言わせません!」

美少女「そのためにはっ!」

美少女「この時代に今なお生き残る陰茎術伝承者……!」

美少女「あなたを亡き者にしなければならないっ!!」

美少女「私の愛液と屈辱にまみれて死になさい!」

美少女「陰唇術秘技っ! 『ペニーロイヤルティー』!!」ジョバァッッ

男「っっ……!!」

その技は、片足をバレリーナのように高く振り上げ、相手に向かって股を開いた姿勢から繰り出される。
当然ミニスカートの中に下着はつけていない。
むき出しになった女性器から吹き出すのは潮である。

潮吹き。

女性が何故潮を吹くのか、潮の機能とは何なのか。
諸説あるが、真の所は現代医学を持ってしても未だ解き明かされていない。

一子相伝の古武術を使う一族、陰唇術一派に代々受け継がれる秘伝書にはこうある。

『川ノセセラギノ如シ愛液デハ、木ノ板ヲ穿ツコトモ敵ワヌ。
細ク鋭シ潮吹キナレバ、コレ岩ヲモ穿ツ、陰唇術ノ秘技ナリ』

陰唇術一派は潮吹きを、条件反射による本能的な反撃行動だと認識していた。
それを極めた先にあるものが陰唇術秘技『ペニーロイヤルティー』である。

さらに海外で修行を重ねた美少女の愛液には、生物を中毒死させる成分が含まれている。

その猛毒を吹き出す速度は秒速350メートル。これは銃弾の速度に匹敵する。
自然界にこの技を避ける事の出来る生物は存在しない。

かすれば最後、しかし避けることも許されない、最強の秘伝術。

その音速の牙が、臭気に悶える男に迫った。

男「『乱れ牡丹』っ……!!」ドピュッッ

ビチャッッッ!!!!

美少女「!!」

ビチャチャッ……

男「中距離技はお前らの専売特許じゃない……」ボロン

美少女「いつの間にイチモツを」

男「精液を、潮吹きに空中衝突させて分散させた。ぎりぎり間に合ったな。早打ちには自信があってね」

美少女「……」

男「この臭気の中、俺の陰茎は不能になると思っていたのだろうが」

男「甘いのはお前のほうだ」

男「陰茎術は自らの陰茎のすべてを操る」

男「たとえ本番の最中に女性器から、小学校の頃クラスで飼ってた金魚の水槽にシチューを混ぜたような臭いがしても萎えたりなんてしない」

美少女「ふふ。そうこなくては」ジュン

男(陰の武術を使う人間)ジリ

男(まさか自分と同じ境遇のやつと会えるとは思っていなかった)

男(友もボクシング全国一位の実力者だ……)

男(そう簡単にやられるわけがないと思っていたが……納得がいったよ)

美少女「……」ジリ

男(こいつは強い)

男(生半可な武術家じゃきっとかなわない)

男(だが……)

男(こんな時だが俺は燃えている)

男(おやじ……ついに来たぜ)

父『いつかお前の武器が役に立つときがくる。必ず本番はやって来る』

男(必ずやってくる本番)

男(それが今だ……ッ!!)

男「イクぞっ!」ジャキッ

美少女「かんじるッ!!」ジュンッ

誰かこんな感じの硬派な格闘バトルSS書いて

男(相手との距離は約3メートル)

男(踏み込んで瞬速のちん撃技『勃ち鼎』を浴びせるにはもう2メートルは近づく必要がある)

男(この臭気の中、長期戦は避けたい)

男(早く勝負を決めないと卒倒しそうだ)

男(さっきの技、吹き出る潮こそ目で追うことは出来ない、恐るべき速度だったが)

男(片足を大きく上げるあの予備動作)

男(攻撃を繰り出した後は完全に無防備になる……)

男(そこを狙う……狙いたいが)ジリ

美少女「……」ジュン

男(こいつには隙がない)

男(自分から仕掛けてこないつもりだな……このままにらみ合いを続けたほうがお前には有利だろうから)

男(うっ……)ウプ

男(ダメだ吐きそうだ……! 考えてる時間はもうない!)

男(この技でいく……!)ビンッ

男「陰茎術秘技っ……『流鏑馬』!!」

流鏑馬とは突き技である。

目標に向けて、陰茎の勃起と萎えを刹那の間で繰り返す事により、瞬間的に無数の突きを浴びせる。
それは合戦の際、雨のように振りかかる矢の如く、あらゆる標的を打ち滅ぼす高速の連撃。

流鏑馬は、上段から陰茎を振り下ろす勃ち鼎に比べて、一撃一撃の威力は劣る。
だがこの技の利点は、技を繰り出しながらゆっくりと前進できる点にある。
高速で伸縮する陰茎が風を斬りさくその音を引き連れて、男は悠々と美少女への距離をつめていった。

美少女「ふふ……なるほど」

男(笑ってる暇はない……あと2メートルのとこまで近づいたぞ……あと1メートルで俺の陰茎の射程圏内だ)

ババババババババッッ

男(仕掛けてこい……もう一度潮を吹いてみろ)

男(半歩、身を逸らして潮吹きを避け、勃ち鼎に移行する。隙だらけのお前に即尺させる)

男(そのまま何もしないのであればそれもいい)

男(俺の流鏑馬を……お前の毛穴の一つ一つにねじ込んでやる)

男(あと1メートル30センチ……!! ちんこ射程圏内まであと30センチだッ……!!)

美少女「だから甘いと……いってるんです」

男「なにっ!?」

美少女「今度こそくらってください」ババッ

男「っ!!」

男(来た……この至近距離で足を振り上げた!!)

男(潮吹きがくるっ!!)

男(潮は尿道から吹き出る!)

男(そして片足をあげているから、当然体重はもう一方の片足だけで支えている)

男(片足じゃ小さな方向転換もできないだろう……!)

美少女「『ペニーロイヤルティー』!!」ジョバィロッ!!

男(半歩、横によけるだけでこの技はかわせ……)ダンッ

ツルッッ

男(るッッ……)

男(……足がすべっ……)

ブシュッッ!!

男「ぐっ……ぁあ!!?」

美少女「あたった……!!」

男「ああっ……ぁっ!」ドサァッ

男「肩がっ……肩に穴があいたっ……!!」

美少女「辺りに立ち込める臭気と、私からの攻撃を警戒しすぎて、足元への注意を疎かにしていたようですね」

男「っ……な……」

男「なん……だ……あれは」

男(奴の足元の周りに水たまりがひろがっている……しかもうす汚い色の……)

男(あれで足をすべらせたのか……!!)

美少女「陰唇術秘技……『カム・アズ・ユー・アー 』」

美少女「私の陰唇から滝のように流れ落ちていく愛液は、地面に広がり、敵の足元をすくう罠となる」

美少女「陰唇術伝承者にとっての愛液とは、男性器を受け入れるための潤滑油ではありません」

美少女「迎え撃つための武器です」

男「っ……」

ドピュゥッ

男「っ……ふぅ」ヌリヌリ

美少女「自分の傷口に向けて射精した……?」

男「あぶなかった。これ毒があるんだろ」

美少女「書物をよんだんですか」

男「……ふ」

男「お前ら陰唇術は自らの武器に毒をこめるようだが」

男「俺達の陰茎術は逆でね……」

男「薬草や漢方をためた壺に向かって陰茎を突き刺す修行をするんだ」

美少女「まさか貴方の精液には毒消しの効果があるとでも……?」

男「お前らが何故俺たち陰茎術一派に敗れたのかがわかったよ」

美少女「っ……」

男「お前の持つ全ての技を破るすべが俺にはある」

美少女「ふっ……減らず口を!!」バッ

男「こいっ……全部撃ち落としてやる!!」

美少女「『ペニーロイヤルティー』!!」

ジョバィロッ!!!

男「『乱れ牡丹』!!」

ドビュッシィ!!!

ビチャチャッ!! ビチャビチャ!!

美少女「はぁぁぁぁぁぁ!!」

男「うぉぉぉぉおおお!!」

ビチャッ!!

ビシャシャッ!!

バシュッ!! バシュゥ!! ヌチャヌチャ!!


美少女(ふふっ……)

美少女(このまま撃ち合いを続けるつもりですか!?)

美少女(残念でしたね)

美少女(陰茎術は近距離戦を……陰唇術は中距離、遠距離を得意とする武術)

美少女(遠距離での撃ち合いならあなたの技より、私の技のほうが威力も連射力も弾数も上回っている!!)

バシュッ!! バババシュッ!!

男「おおおおおおお!!!」

美少女(私は負ける訳にはいかない!)

美少女(一族の屈辱を晴らすため……!)

美少女(ここで負けたら私は……私の人生は……)

美少女(全て無駄になるんですからっ!!!

――幼少期――


美少女『うぅっ……またニンニク?』

美少女母『食事の栄養価も緻密に計算されている。文句を言わずに食せ』

美少女『……やだ』

美少女母『やだではない! わがままを言うな!』

美少女『だって……くちゃくなるもん』

美少女母『なにがだ!!』

美少女『……あしょこ』モジモジ

美少女母『臭くするために食べるのだ! もっと硫黄化合物を、動物性蛋白質をとれ!!』

美少女『うぅ……やだぁ……やだよぉ』ジワッ

美少女母『やだではない!』ジョバィロッ!!

ビシャシャッ!!

美少女『ふえええっ!!』

美少女母『これだから貴様はいつまでたっても一本筋なのだ!! この未使用マンコめが!!』

美少女母『いいか、我ら陰唇術の使い手は敗北の歴史をたどってきた』

美少女『……グスン』

美少女母『にくき陰茎術に一族の大半を滅ぼされ……今はもう私とお前だけだ』

美少女『……うん』

美少女母『お前が私の技をすべて引き継げ』

美少女『……』

美少女母『復讐するのだ。お前には伝承者としての自覚が足りん』

美少女『……』

美少女母『気を引き締めろ、気のしまりが女性器のしまりに繋がる』

美少女『ふくしゅうして、どーなるの?』

美少女母『なに』

美少女『わたし、もっとふつーのおんなのこになりたい』ポロッ

美少女母『……』

美少女『クラスで、わたしのとなりの席のこ、机くっつけてくれないの……グスッ、くさいからだって』ポロポロ

美少女母『悲願を果たせ』

美少女『っ……グス』

美少女母『陰茎術伝承者は未だ滅んでいない。我らのように細々と、だが確実にどこかで息づいている』

美少女母『奴らを打ち滅ぼし、復讐を果たしたその時』

美少女母『我々は呪縛から開放されるのだ』

美少女『うぅ……』ポロポロ

美少女母『必ず見つけ出し、復讐する』

『復讐しろ』

『我らが積み上げた武の尊厳のために』

『必ず勝て』

『戦え』

『甘えた考えは捨てろ』

『濡れろ』

『もっと濡れろ』

シュン

男「っ……」ビッ

男(頬をかすめた……奴の潮の連射速度があがっていく……!!)

美少女「はああぁぁぁ!!」

美少女(かすっただけでも! 私の潮が持つ毒性はあなたの体を侵食する!)

美少女(精液で消毒させる隙を与えない!)

美少女(あなたに、個人的に恨みはありませんが)

美少女(一族の無念のために私は貴方を……!!)

シュン!!シュン!!シュン!!!

男「っ……!」

ドピュドピュドピュピュ!!!

男(近づく必要がある)

男(金玉袋のこの感覚……自分の精液の残量が急激に減っていっているのがわかる)

男(俺は……)

男(俺は悔やんでいる)

男(さっき流鏑馬で牽制しながら近づいた時)

男(奴の罠に気づかず足をすべらせた)

男(潮で肩を射抜かれ、俺はひるみ、後ろに転がった)

男(あのとき動揺せず)

男(肩のひるみに耐え……)

男(そのまま距離を取らず攻めていればあの時点で勝負はついていた)

男(奴に至近距離での攻撃方法はないのだから)

男(これは試合ではない)

男(自分が待ち望んだ実戦であるにも関わらず……俺は恐れた)

男(致命傷の恐怖を前に、勝利より保身を優先してしまった)

男(だからあのまま攻め込めたのに……後ろに転がった)

男(俺は悔やんでいる)

男(あのまま攻めていれば……ひるまずに勃ち鼎で終わらせておけば)

男(この技を使わなくてすんだのに……!!)フッ

美少女「!!」

男が姿勢を変えた。
正確には男の陰茎の向きが変わった。

『乱れ牡丹』を敵の潮にぶつけて相殺させるため、絶え間なく精液を撃ちだすその陰茎は、常に前を向いている必要がある。

にも関わらずその陰茎が、美少女の不意をつき、地面に向かって唐突にうなだれたのだ。
まるで助けを懇願するかのように。
陰茎に先ほどまでの雄々しさはない。猛るような荒々しさはない。

こうべを垂れるように、陰茎は、ざらつくアスファルトにその鈴口でキスをした。

美少女「なにをっ」

美少女は一瞬躊躇した。
なにをしているんですかと言いかけた。降参のつもりか。決闘を途中で投げるつもりかと。
だがすぐにその思考はかき消え、今度は、しまったと思った。
それは男が、地面に向かって伸びる陰茎に股間でもたれかかるようにして、一気に前のめりになったのを見たから。
なにより男の目が語っていたから。

『お前を犯す』

アスファルトを砕く音が耳に届くと同時に、風が吹き抜け、男の姿が消えた。

男父『敵がもし飛び道具を持っていたら?』

男『そうだよ。陰茎術ってのは戦国時代からあったんだろ』

男父『うむ』

男『弓矢……銃とか……相手が飛び道具を使ってきたらどう対処していたんだよ』

男父『乱れ牡丹で応戦する』

男『ふーん』

男父『おい、なんだ不満か』

男『あれは威力はあるけど、いかんせん不便だろ。射精を繰り返していたら陰茎の硬度は維持できねえよ』

男『連射にも向かないしなにより』

男『射程距離……せいぜい10メートル』

男『俺が弓の使い手なら10メートル圏外をキープして、陰茎術の乱れ牡丹を完封する』

男父『まず言っておくが男。少し射精を繰り返して陰茎が萎えるようなら、まずお前が半ちん前なだけだ。修行がたりんな』

男『ぐっ』

男父『だがあるぞ』

男『お?』

男父『陰茎術には、遠距離にいる敵を倒す技が……乱れ牡丹以外にも』

男『ほんとか!』

男父『その技の名は「鶯の谷渡り」』

男『うぐいすの……たにわたり……』

男父『相手が遠距離からこちらを狙い、リーチの有利にあぐらをかいていた場合』

男父『間違いなくこれで勝てる』

男父『だが危険な技だ。使用者にとってのリスクも高い』

男『……オヤジ』

男父『なんだ息子よ』

男『俺は陰茎術を極める男だぜ……リスクはいいさ、教えてくれ!』

男父『ふ……』

男父『それでこそ我が息子だ』

美少女(ば、ばかなっ……!!)

美少女(さっきまで15メートルは距離があったのに……)

男「っ」ビュゥッッ!!

美少女(何故すぐ目の前まできているんですか……!!?)

男(鶯の谷渡り……それすなわち縮地法)

余力を残して少しだけ萎えさせ、脱力した状態で地面に密着させた陰茎を、瞬時に膨張させる。
そしてその陰茎で、地面を『突く』というより『押しだす』。
バネの原理で、それによって反対方向に自分の体を押し飛ばす荒業。

男(すなわち遠距離へ自分を吹き飛ばして、敵の懐に一気に詰め込む高速移動術!!)

男(ただし……自分を遠くへ飛ばすためにはちんこにもある程度の弾力……柔らかさが必要)

男(つまり完全に最高硬度まで勃起させたちんこでレンガを叩き割るのとはわけが違う)

男(勃起力7割程のちんこを固いアスファルトに強打させるということは)

男(いくら陰茎術の伝承者であっても危険なコト)

男(この技を使いすぎればちんこの寿命を縮めることになる)

男(だが今に全力をかけなければ俺にこの先はないッ!!)

美少女「っ……!!」

美少女(不覚っ……ここまで接近を許すとは……!)

美少女(接近戦になれば私に勝ち目はなくなる!!)

美少女(ま、負けるわけには!!)

美少女(負ける訳にはいかないッッ!!!!)

ザリッ

美少女(片足を軸に!!)

グルッ

美少女(フィギュアスケートのように全身を高速回転させるッッ!!)

ギュルルルルッッ!!

美少女「ペニーロイヤルティー全方位!!!」

ブシュンブシュンブシュンブシュン!!!!!

美少女(回転しながら360度全方向に向かって乱射される潮はあらゆる敵を寄せ付けない!!)

美少女(そして防御と共にっ……どこへ逃げても私の潮からは逃げられない)

美少女(私の奥義です!! これであなたもっ……)

ガガガガガガガガガ

美少女「!!?」

ガガガガガガガガガ

美少女(敵の姿が消えた!?)

美少女(いやっ……周りで)

ガガガガガガガガガッ!!!

美少女(回転する私の周りをさらに囲って周るようにして、アスファルトが砕けて散っていく)

美少女(まさか)

美少女(さっき、一瞬で距離を詰めたあの技で、私の目に見えない速さで)

美少女(潮を……避け続けている!?)

美少女(そんなばかな……)

美少女(弾丸に匹敵する速度の私の潮吹きを……!!??)

ガガガガガガガガガッ!!!!!!

美少女(そんなばかなっ、バカな事が……)

美少女(私の周りを彼は! 弾丸より速い速度で飛び回っている!! おちんちんで地面を叩いて!!!!)

美少女「どこにっ……!!」

ザザッ

男「うしろだよ」

美少女「!!」

男「これが鶯の谷渡りだ。直進だけじゃない、陰茎の向きを変えることで縦横無尽に瞬間移動を繰り返せる」

美少女(しまっ……背後をとられ)

男「人間には目で追う事もできない速度でだ」

ガシィッ!!

美少女「あっ!」

男「両手首を後ろにとらえた。お前にもうなすすべはない」

美少女「ぐっ……!」ジュンジュン

男「愛液を垂れ流しても無駄だよ」

美少女「ううっ……!!」

男「お前は強かった」

男「ここまで強いやつには出会ったことがない」

美少女「何を上から目線に……!」

男「俺は嬉しい」

美少女「はいっ!?」

男「まだまだ……俺には超えるべき相手がいるって事がわかった」

美少女「私はまだ戦えます!!」

男「いや、もう勝負はついてる」

美少女「ついてません!!」

男「ついてるよ。けつに感触を感じないのか」

美少女「え……」

スリスリ

美少女「か……かたいものが……あたっています」

男「あててんだよ」

男「終わらせるぞ」ガシッ

相手の両太ももを、背後から両手でそれぞれわしづかみにする。
それは逃げ場をなくすため。

次いで、硬く膨張させた陰茎を、相手の女性器へと深くねじ込ませる。
子宮を貫くほどに深く。

二人が完全に固定されたその時、太ももを掴む両の手と、下腹部を突き刺す陰茎によって、受け手の重心は攻め手にコントロールさ

れる。

レバーをおろすように陰茎を下に動かすと、美少女は体勢を維持できず地面に突っ伏した。

陰茎術伝承者の、陰茎の挿入を許したという事。
それは裸三角絞めにかけられるよりも、逃れることの出来ない絶対的な詰み。
たとえどんなに屈強な武人であろうと逆転不可能の状況。

美少女「ぎっ……!!」

だが美少女はあがいた。
それが無駄だと分かっていてもあがかずにはいられなかった。
しかし下半身に力が入らない。
人体内部深くに突き刺さる陰茎が、子宮を超え、丹田を刺激し、気の流れを掌握している。

もはやどうする事もできない。
そこから、陰茎術一族秘伝の技は繰り出される。

男「陰茎術秘奥義『千鳥』」

ジュポスジュポウスジュポシュシュシュ!!!

美少女「ひぎいいい!!!」ビクンビクンッッ!!

男「気分はどうだ……! 陰茎が体内で縦横無尽にのたうちまわっている、その気分は!」

男「まるで千の鳥が一斉に飛ぶように……!」

男「膣内のあらゆる点を捉えて同時にめった打ちされている気分はどうだ!!」

美少女「んほおおおおおおおおッ!!」

美少女「やっ、やめてええ! もうコレ以上いけっ、いぎっ、いぐぅ!! いきますうう!!!」

美少女「ンほっ! もっと、もっどしでぇ!!! おちんちんもっどしてええええ!!!! やめてえ! んひいい!!!!!」

男「終わりだ……陰唇術の女」

男「俺はこのままコンマ0秒間隔でお前に絶頂の悦楽を与え続ける」

男「脳はオーバーヒートして失神と覚醒を繰り返す」

男「秘部への攻撃を通じて、鍛えることの出来ない脳そのものを攻撃する技」

男「それが陰茎術秘奥義……千鳥」

男「うっ……終幕」ドピュピュン


美少女「あへっ……あへ」ビクビク

男「とどめは刺さないぜ」

美少女「んほ……」ビクビク

男「俺を狙った理由……一派の悲願のためと言っていたな」

男「俺が戦うときはそんな信念なんて持ってないんだ」

男「ただ……自分の武をひけらかしたいだけ。誇り高き自分の武術を」

男「お前のほうがよっぽど立派だ」

美少女「っ……」ビクビク

男「武術やめるなよ」カチャカチャ

男「お前強かったよ……」ジィィ

男「……」

男「あばよ陰唇術。俺は友を助けに行く」

スタスタ

美少女「……」

美少女「負けた……完膚なきまでに」

美少女「強かった」

美少女「私の積み上げてきたものが……今日で……終わった」

美少女「武術の鍛錬一筋に……友達も作れず生きてきたのに……」

美少女「私は……どう……すれば……」

美少女「……ん」

ドロォォ

美少女「中だしまでされて……」

美少女「……え?」

美少女「……」ヌチャァ

美少女「くさくない……」

美少女「お、おまんこのにおいが……なくなっている!?」

美少女「なんで……まさか」

男『お前ら陰唇術は自らの武器に毒をこめるようだが』

男『俺達の陰茎術は逆でね……』

男『薬草や漢方をためた壺に向かって陰茎を突き刺す修行をするんだ』

美少女「そんな……」

美少女「あの男の射精で……膣のにおいが……浄化されたというの」

美少女「ずっと消えなかった」

美少女「このにおいのせいで……彼氏はおろか友達すらできなかったのに」

美少女「……」

男『誇り高き自分の武術を』

美少女「ふふ」

美少女「やっぱり私の完敗ですね」

美少女「宿敵に敗れ、臭気という武器もひとつ奪われたというのに」

美少女「わたし……今」

美少女「とてもさわやかな気持ちです……」

深夜テンションでたてた糞スレがいまだに保守されてて草生えたから投下

スタスタ

男(さて……この戦い)

男(あいつ一人の計画じゃないな)

男(仲間がいるのは確実)

男(さっきの女の携帯は預かってきたが……用意周到なことだ)

男(電話帳も着信履歴も削除されてる)

男(お仲間の連絡先を知ることは出来ない)

男(俺と戦う前に携帯にのこる情報を自ら削除させたのだろう)

男(それはつまり)

男(女の仲間たちは、女が負ける可能性も十分踏まえていたということ)


男(向こうは俺をなめてない)

男(陰茎術を知っていて、そしてある程度警戒している)

男(今まで戦ってきた相手は、不良、格闘家、ヤクザ)

男(どいつにしても俺の力量がわからず油断していた)

男(陰茎術は意表をつく武術、そういう相手はたとえピストルを持っていようが初見殺しで秒殺できる)

男(だが今回の相手に油断はない)

男(そして……)

男(向こうは陰茎術と同じように)

男(裏の世界の武術を持っている可能性もある)

スッ

男(何故か亀甲縛りされている友の画像の背景は……古びた廃屋)

男(知ってる場所だ。地区の外れにある。寂れて使われてないマンション)

男(自転車で30分くらいかな)

男(子供の頃よくそこで遊んで、親に怒られたよ)

男(奴らは俺を狙って初めてこの街に来たのだろうが、俺にとっては地元)

男(だから陰唇術の女にはあえて友の場所を聞き出さなかった)

男(陰茎術は警戒していても……刺客がやられる事を想定していても)

男(自ら選んだアジトを画像一つで特定されようとは思うまい)

男(わかるはずがないだろうと油断している)

男(陰茎術は忍びの武術)

男(廃屋に忍び込んで……)

男(一人ずつ叩き潰してやる)

男(俺のちんこで……待ってろ友)

――――――――


ジタバタ ジタバタ

友「んー……んー……!」

友「んぅぅぅ……!!」

友「んーーーー!!!!」


「うるさいわね」


友「んぐぅ……!」

「うめいてもくわえてるギャグボールがヨダレまみれになるだけよ」

友「……っ」モガモガ

「わかったら大人しく亀甲縛りされてなさい」ナデナデ

友「……」

デブ男「ふふ……それでいいのよ」

デブ男「高校生日本一ボクサーの引き締まった裸体に、私の施した亀甲縛り」

デブ男「こんな芸術品、もがいて縄がほころんだら勿体無いわ」

友「フー……フー……」

友(ほころぶだと)

友(この縄、どれだけ動いても少しも緩まらないじゃねえか!!)

友(それどころか動けば動くほど)

友(キツく締めあげられるよ……)ギギギ

デブ男「それにしても美少女ちゃんからの連絡がないわね」

デブ男「戦い、やっぱり長引いているようね」

デブ男「ねえ……どう思う?」

巨乳女「そうだな」

巨乳女「長引いてるか、もしくは」

巨乳女「もう負けたか……」

巨乳女「だが美少女は臭気で徐々に相手のコンディションをさげる戦いを得意とする。持久戦にもつれ込むこともある」

デブ男「そうねえ。今絶賛戦闘中かもねぇ」

巨乳女「それに奴が負けるとも思えん」

デブ男「美少女ちゃんのこと?」

巨乳女「私は陰茎術の伝承者と戦ったことはないが」

巨乳女「陰唇術は強い。並みの武力では歯がたたない技を持っている」

巨乳女「一度奴と手合わせした事がある。美少女の力量は知っている」

デブ男「だわよねぇ」

デブ男「……」

デブ男「あんたはどう思うの?」クルッ

根暗女「……」

根暗女「油断……よくないよ」

根暗女「【あの人】も……陰茎術には気をつけろと言ってたし」

根暗女「そろそろ次は誰が行くかを決めた方がいい……」

デブ男「ふーん」

巨乳女「【あの人】がそう言うなら警戒するに越した事はないのだろうが、私は負ける気がしないな」

デブ男「じゃあ次は巨乳女ちゃんがイク?」

巨乳女「いいのか?」

根暗女「いいよ……陰茎術の伝承者が本当に強ければ……私にも番はまわってくるし」

巨乳女「ふ……礼を言うよ」タユン

巨乳女「美少女の奴は一派絡みの因縁があったようだから一番手は譲ったが」

巨乳女「陰茎術の使い手とは私も戦ってみたかった」

巨乳女「陰茎術などに因縁はない……ないが」

巨乳女「私の武術こそが最強だ」

巨乳女「たとえ【あの人】の命令でなくとも……この手でやつを倒し」

巨乳女「我が武の歴史にまたひとつ白星をつける」

巨乳女「あいにくだがお前らの出番はまわってこない」タユンッ

スタスタ タユンタユン

デブ男「燃えてるわねぇ」

根暗女「でも……まぁ……巨乳女が行ったら」

根暗女「どれだけ陰茎術の使い手が強かろうと……相手は負けるよ」

デブ男「【あの人】が来る前に事が終わりそうでよかったわぁ」

友(……)

友(こいつら……)

友(一体なんなんだ)

友(男の事を狙っているのは話を聞けばわかるが……)

友(くそっ)

友(何も出来ずに囚われている自分が情けない)

友(可愛い女の子に放課後呼び出されたかと思えば)

友(その美少女の強烈なマン臭で気を失って)

友(気づいたらこのザマだ……)

友(男のやってる……えぇと……陰茎術、こいつら知ってるんだな)

友(そしてどういうわけか男を狙ってる)

友(俺は人質か……)

友(男の助けを待っているだけじゃなく、出来ることなら抗戦したいけど)

友(こいつらのかもし出すオーラが尋常じゃない……!)

デブ男「……」

友(俺を亀甲縛りしやがってるデブと)

根暗女「……」

友(髪の毛がくそ長くて不気味なこの根暗女)

友(そしてさっき歩いてった巨乳女と、俺を呼び出したマンコが臭い女……!)

友(ふつーのチンピラ相手なら男なら勝てるだろうけど)

友(この四人……多分タダモンじゃねえ)

友(格闘技やってる俺にはわかる)

友(表世界の格闘選手とはちがうオーラがある……)

友(男とおなじだ……間違いない)

友(裏世界の陰の武術を使う奴らだ……!)

友(男……きをつけろ……!)

友(こいつらなんの目的があってお前を狙うかはわからねえけど)

友(四人とも……一人残らず強いぞ……!!)

デブ男「巨乳女ちゃんが戻るまで暇だわねぇ、記念にもう一枚写メっとこうかしら」

パシャパシャ

友(男ー!! 早くキてくれー!!)ジタバタ

デブ男「あとでTwitterにアップしよ」パシャパシャ

巨乳女「さて……」タユン

巨乳女「このあたりは本当に田舎だな」

巨乳女「潜伏先に選んだこの廃マンションもそうだが……」チラ

ガサッ

巨乳女「マンションの外に出れば、あたり一面雑木林だらけで歩くのも困難じゃないか」

ガサガサ タユンタユン

巨乳女「交戦中と思わしき場所まであるいていくか」

巨乳女「道場もない……開けた空き地もない」

巨乳女「こんな田舎に陰茎術伝承者が潜んでいたとはな」

ガサガサ

巨乳女「……」

巨乳女「…」

巨乳女「」

廃マンションの周りを囲む雑木林の中を、かき分けるように進んでいく巨乳女。
その巨乳女を見下ろす眼光がふたつ。
巨乳女の5メートル程上、高くそびえる木に実る、枝葉の中に潜むものがいた。
息を殺し、全開にしたズボンのチャックから陰茎を伸ばし、木の幹に突き刺して、滑り落ちぬよう体を固定している者がいた。


男「………………」


男(奴はこっちに気づいていない)

男(あの廃屋から出てきたということは、友をさらった奴らの仲間だろう)

男(見回りか? それとも帰ってこない美少女を心配して、俺に新たな刺客を送り込んだか)

男(俺が先手を打ってこの雑木林に潜んでいるとは思わなかったか)

男(部外者……)

男(じゃ……なさそうだ)

巨乳女「……」タユンタユン

男(強そうなオーラ感じるよ……相当な使い手だろうな……俺の睾丸が震えている)

男(奇襲……不意打ち)

男(これがスポーツならダーティーな行為と観客からブーイングも受けるだろうが)

男(実戦だ)

男(観客もルールブックもない)

男(そして俺の技は合戦や暗殺で使われた古武術)

男(自分に気づきもしていない相手を……真上……死角からの攻撃で倒すという行為でも)

男(友を人質にとったお前らに……)スゥ…

樹の幹に突き刺した陰茎の硬度を緩めていく。
徐々に体の重心が変わっていく。
やがて、するりと音もたてずに陰茎が樹の幹から抜け、男は重力に身を任せて、巨乳女めがけて落下した。

男(卑怯とは言わせないッ!!)ギュルンッ!!



ビュオオオオッ!!!

巨乳女「っ!! 何!!?」バッ

男(気づいたか!)

男(だが遅い……ッ)

男(空中から、全身を回転させながら、体のバネと遠心力そして重力……全てをのせた陰茎を振り下ろす!!)

男(陰茎術の48手ある秘技奥義のうちでも数少ない)

男(空中から繰り出す大振りの決め技っ)

ゴオッッ


巨乳女「きっさま……!!!」

男「陰茎術秘技ッ……『御所車』ッッ!!」ビュンッ!!


ドゴォォォォォォォ!!!!

男(決まった……!)

男(俺の振り下ろした陰茎は確実に直撃し……)

男「ッ!?」

メキメキ ミシミシ

「確かに」

ミシシィッ

「いい一撃だ」

男「なっ……!!」

「だが……」

ミシシ……メキメキ……

巨乳女「私には通じない」タユユン

男「ばかな!!」

男「肥大化した乳房で……!」

男「俺の陰茎を防いだだと……!!!!」

巨乳女「ふんっ!」タユンッ

ばいんっ

男「うおっ……!!」ザザァッ

男(乳房で跳ね飛ばされた……!)

男(俺の陰茎を受け止めるほど固いと思えば、弾き返すような、ゴムのような弾力にも切り替えられるのか!)

巨乳女「陰茎術の使い手だな」

男「っ……」

巨乳女「貴様がここにいるということは美少女は敗れたか」

男「返り討ちにしてやったよ……」

巨乳女「どうしてここがわかった?」

男「お前らの質問に答える義理はない。聞きたいことなら俺のほうがいっぱいある」

巨乳女「ほう。言ってみろ」

男「なぜ友を亀甲縛りにしているんだ」

巨乳女「それか……」

男「そもそもお前らなんの目的があって俺を狙う」

男「さっきの陰唇術の女は一派の事情だった……陰唇術総出で俺たちを目の敵にしているらしいから」

男「だがお前ら……陰唇術の手のものじゃないな」

男「お前らは何なんだ」

巨乳女「我らは自分の流派の因縁などに興味はない」

男「なに?」

巨乳女「貴様を狙う理由は2つだ」

巨乳女「ひとつはとある人の命令……」

巨乳女「もうひとつは……純粋に自ら個人の武の証明」

男「なるほどね……」

男(景気良く答えてくれるぜ。ある人の命令……黒幕の存在、そして)

男(我らは、と)

男(まだ下っ端仲間がいるということだ)

男(加勢を待ってやる必要はない、さっきの戦いと同じく早期戦で潰して廃マンションに突入する)キッ

巨乳女「私の後ろの廃屋が気になるか」

男「……」

巨乳女「囚われの友人が気になるか」

男「……」

巨乳女「だが心配するな。貴様をここでうちのめしたら、無事に解放してやる」

男「お前が打ちのめされたらの間違いだッ」バッ

ドンッッ!!

巨乳女「ほう」

ガガガガッガガッガガガガガガ!!!!

男(陰茎術秘技『鶯の谷渡り』……! 仲間がいるとわかった以上奥の手は出し惜しまない!!)

男(対象の周囲を縦横無尽に駆け回り、翻弄する!!)

男(目で追うことすらさせないままお前を倒す!!)

巨乳女「……」キョロ

男(後ろだッッ!!!!)バッッッ!!!!

巨乳女「後ろか」クルッ

男「!!」

バインッッ!!

男「なっに……また乳房ではじかれただと!!」

巨乳女「すばしっこい動きだが」

男「くっ……!!」

巨乳女「私の前では無意味だ」

乳房に弾き返された反動で、体勢を崩して、男は豪快に草木の上を滑り転げた。
枝や小石が体に食い込み、破れた衣服に血がにじみだす。
巨乳女はシャツのボタンを開け放ち、窮屈そうに自己主張していたそのたわわな乳房を外気に晒した。

巨乳女「私も貴様と同じく陰の武術を会得した者」

巨乳女「我が流派は『魔乳護身術』」

巨乳女「乳房の硬度、サイズ、あらゆる状態へと自在に変化させて、戦闘に用いる」

巨乳女「後の先を得意とする格闘技や武術は多々あるが」

巨乳女「『魔乳護身術』は後の後……相手の攻撃を完全に受けきるところから始まるカウンター特化の武術!」

巨乳女「極端なインファイトが必至である武術の性質上……」

巨乳女「反射神経をあげる訓練は欠かしたことがない」

巨乳女「それに加えて乳房の微細な揺れで周囲の状況を感知できる」

男「……」ヨロ

巨乳女「さっきのような高速の攻撃だろうと、突然の不意打ちだろうと私なら受けられる。一点の隙もない最強の武術だ」

男「……ふふ」

巨乳女「……」ピク

男「武術自慢が聞いて呆れるぜ」

巨乳女「なに?」

男「攻め手はないわけか」

男「カウンター特化の……護身術? それが武術?」

男「じゃあ乳を放り出してるお前を無視して俺は廃マンションに向かうよッ!!」

男(『鶯の谷渡り』の高速移動で!)

男(こいつの横を突っ切るッ!!)ビュッッ!!

巨乳女「……甘いな」

男「っ……!!」

男には一瞬何が起きたのか理解出来なかった。

『鶯の谷渡り』は人間の感知スピードを超えた高速移動。
そのあまりの移動速度に、術者本人ですら移動中、辺りの景色を確認することは出来ない。目が追いつかないのだ。
ゆえに、技を繰り出す時はあらかじめ到達する距離を決めてから、陰茎を撃ちだす。

それは要するに無敵の縮地術ではないという事。
コンマ数秒前と周囲の状況が変わっていたとしても、急な方向転換が出来ないという弱点をもっている。
急に目の前に『壁』が現れたとしても、術者自身の反射神経で咄嗟に躱す事は不可能なのである。

今、男の前に『壁』が現れた。

男「ッあ……!!?」

バインッッ!!

巨乳女「ここは通さない」

男(ばかなっ、こいつ!?)

男(何故俺のスピードに追いついたッ!?)

高速で衝突したがダメージはなかった。
柔らかい乳房がお互いの衝撃を吸収したのだろう。
だが、巨乳女が身じろぎもせず仁王立ちしているのに比べて、乳房の弾力を受けた男は宙高くに弾き飛ばされた。

男(まずいっ!!)

男(受けられた瞬間じゃないんだ……!!)

男(こいつは『受けられた後』がまずいッッ!!)

男は木々の間を吹き飛び、枝にその身を裂きながら、凄まじい速度で大木に背中から激突した。
肩の後ろで、黒人男性の男根のように太く立派な大木がミシミシと悲鳴をあげる。

巨乳女は男とぶつかるその瞬間、肥大させた乳房によってトランポリンのように衝撃を吸収した。
そして増幅し、倍増させ、跳ね返したのだ。

男「がっ……はぁ……!」

男(10メートルは飛んだぞ俺……っ!)

男(弾力を操作でき、瞬時にサイズもかえられるということはつまり)

男(そうか、あいつ……『鶯の谷渡り』と同じ原理で……高速移動できるのか)

ずるっ

男「ぐあっ……」ドサッ

巨乳女「驚いたか」

巨乳女「私の乳房はあらゆる衝撃を倍にして跳ね返す」

巨乳女「私にはどんな攻撃も通じない」

タユン タユン

男「くっ……」ジャキッ

巨乳女「っ」

男「『乱れ牡丹』!!」ドピュン!!

バインッ

男(っ……跳ね返っ)

ドシュゥッ

男「があっ……!!」

巨乳女「通じないといったばかりなのに、愚かな男め」

巨乳女「やめておけ。私の乳房は」

巨乳女「ライフルだろうと反射する」

俺は大真面目に書いてる

巨乳女「ふんっ!」

巨乳女が大きく膨らませたその乳房は、一メートルほどのサイズの2つのゴム玉のように見えた。
そのまま前傾姿勢をとり、膨らませたゴム玉を地面に密着させる。
その光景を見た瞬間男は考えるより早く反射的にガード姿勢をとっていた。

想定通り、それは陰茎術の『鶯の谷渡り』と全く同じ姿勢。
あらゆるものを跳ね返すその乳房をクッションにして地面をバウンドする。
それが『魔乳護身術』の縮地法。

バイン、という何かが跳ね返るような音が響いた時にはもう、男のすぐそばに巨乳女がいた。

男(来たッ……!!)

巨乳女(『魔乳護身術』伝承者の持つ乳房はその弾力であらゆる物質を跳ね返す)

巨乳女(相手の運動エネルギーは問題ではない)

巨乳女(向こうが止まっているならこちらが高速でぶつかればいい)

巨乳女(そして乳房で相手を跳ね飛ばす)

巨乳女「もう一度森の中を吹き飛ぶがいい!!」タユンッ

男「くっ!!」

バインッ!!

男(跳ね……飛ばされたッ)

男(着地時に受け身をとることはできるが、ダメージを0に出来るわけじゃない!)

男(ちくしょうっ……!!)

ザザザザッッ!!!!

男「あぎっ……!」ゴロッゴロッ

男「がはっ、げほ!」

男「くそっ……!!」フラッ

男(極限まで鍛えあげられた反応スピード、絶対的な防御力)

男(そしてほぼ防御不可能といっていいこの攻撃方法)

男(デカ乳女……反則だろッ)

バインッ!! バインッ!!

男「っ!!」

目で追うことは出来ない。
巨乳女の姿は視界に映らないまま、あたりを音が跳ね返る。
木の葉が舞い、小石や泥だけが宙に飛び散っている。

男(どうやって攻略するッ……!!)

むにゅぅっ

男「ッ!?」

巨乳女「とべ」

背中に柔らかい感触を覚えたと思ったら、地面が遠ざかっていた。

男(いつの間に後ろに――)

高速移動で敵に何もさせぬまま背後をとる。
先ほどの戦いで、陰唇術の使い手相手に見せた戦法と全く同じ。
ただひとつ相違点は、今は自分がその手にやられているということ。

雑木林に立ち並ぶ木々の中、景色がめまぐるしい速度で回転していく。

男(体が遠心力に振り回されている)

男(受け身――いや――地面はどっちだ)

男(俺はどのくらいの――高さを)

男(とばされ――)

ゴシャッッ

男「ッッ……」

男はわけもわからぬままに、地面にたたきつけられた。
かろうじて受け身をとれたのは、日頃鍛錬を欠かしてこなかったその成果だ。
熱くほてる自分と対照的に、冷たく湿った土を握りしめ、体中のきしむような痛みをこらえる。

男「てめえっ……」ガバッ

巨乳女「遅いっ」

男「っ……!!」

バインッ

男「しまっ!! また吹き飛ば――」

ゴシャアッ

男「かはあっ……!」

バインッ

男「っ!!?」

ドシャアッ

男「がふっ!!」

バインッ

男「うぉわッッ!!」

男(まずい!!)

男(これはまずいパターンだ!!)

男(完全に奴のペースにのせられている!!)

男(吹っ飛ばされて、ぎりぎり受け身をとって着地したと思ったら、すでに背中に奴が待ち構えている)

男(そしてまた吹っ飛ばされて……繰り返し)

男(まるでサッカーボール……)

男(奴のペースを、崩す必要があるっ!!)

ゴシャァァァッ

男「がふっっ……!!」

巨乳女「もう一度だ」ザッ

男「いい加減にしやがれ!! 『流鏑馬』ぇ!!!!」バッッ

男(一撃一撃の威力は低いが、連続して打ち出せる突き技ッ、これならどうだッ)

バババババババッ!!

巨乳女「子供だましだな」

バインバインバインバインバインッ!!!!

男(乳を揺らしてっ……全弾防がれている……!!)

巨乳女「出会い頭お前が空中から見せたあの技、渾身の一撃だったのだろう?」

男「っ……!」

巨乳女「相手が隙だらけであり、一発は確実に入るとしたら、牽制するような技などまず打たない」

巨乳女「お前はあの一撃で決めるつもりだった」

巨乳女「それはつまりあれがお前の持つ技の中で最も高火力の大技ということ」

男「ハァ……ハァ……」

巨乳女「それが通じなかったのだ。もはやお前に為す術はない」

男「ハァ……どうかな」

男「決めつけはよくないぞ」

巨乳女「まだ奥の手があるのか?」

男(考えろ)

男(考えろ……!!)

男「お前は重大な勘違いをしている……!」

巨乳女「……なに」ピクッ

男「とても重大なことを見落としている、俺に関してな!」

男(何が目的だ? と尋ねたら素直に答えを教えてしまうような奴だ)

男(意味深な言葉を投げかければ攻撃の手を休めて話に集中するだろう)

男(その間だ……その間に対抗策を練らなければ)

男「ひとつ。何故俺がお前らのアジトを特定できたか」

巨乳女「それが貴様の奥の手と関係しているのか?」

男「大いにな。そもそもこの世には無関係な事なんて一つもないんだよ。地球上に俺たちが存在している限り」

巨乳女「どういう事だ」

男(あれ、考え事しながら喋ってたら何言ってるか自分でもわかんなくなってきた)

男「おっぱいは何故2つあると思う? 2つある必要性はあるのか?」

巨乳女「何をくだらん事を言っている」

男「くだらん事と切り捨てる所が甘いな……思慮深さが足りない」

巨乳女「なに?」

男「そもそも胸の大きな女性と知能指数の反比例関係についてNASAが述べた見解では……」

男(こいつには)

男(速さで攻めても、手数で攻めても、強力な一撃で攻めても)

男(全て防御される)

男(そしてヤツの高速移動術のほうが俺より上だ)

男(安易に『鶯の谷渡り』を仕掛ければ、手痛い反撃に合う)

男(一見俺のこの状況は詰み)

男(だが……)

男(奴にも決定的な弱点が存在する)

男(奴の防御範囲は前面だけということ)

男(前からの攻撃は頭から爪先にかけて一切の隙がない)

男(反射神経にくわえて、エアーバッグのように肥大化させた乳によって全てを跳ね返してくる)

男(後ろからだ)

男(背後から狙う。それしかない)

男(問題は……どうやって背後をとるか)

男「乳の大きな女性は乳の小さな女性に比べて圧倒的に偏差値が低いことが実験で明らかになっており」ブツブツ

巨乳女「っ……」ピキピキ

男(やるとするなら……ん?)

巨乳女「貴様言わせておけば根も葉もない戯言をダラダラとッ!!!!」

男(んん!?)

男(しまった考え事に夢中すぎて喋ってることがいいかげんすぎた!! 逆に怒らせた!!)

巨乳女「今すぐ潰す!!」バッ

男「落ち着け!! 『乱れ牡丹』!!」

ドピュピュンッ!!!!

巨乳女「無駄だぁ!!」

バインッ

男「ッ……」

バシュゥッッ!!

男「いてえっ……!!」

男「くっ……そっ!」

男「まだまだっ! 『乱れ牡丹』!! 連続精射ッ!!!!」

ドピュピュン!! ドピュン!! ドピュドピュピュ!!

巨乳女「血迷ったか!!」

バインバインバインバインバインッ

男「くっ……」バッ

相手に向けて強力な水圧の精液を飛ばす『乱れ牡丹』の連撃を繰り出しながら、跳ね返ってくる自らの精液もかわす。
まるでガンマンの銃撃戦のように、精液を撃ち、土の上を転がり避け、撃ち、転がり。
本来『乱れ牡丹』の威力はせいぜい打撲で相手を失神させる程度の威力である。
だが、巨乳女の乳房によって反射され、返ってきた『乱れ牡丹』は何倍にも威力が跳ね上がっている。
背後に並ぶ大木達に風穴が開いていき、今にも倒れそうにぎしぎしと音を鳴らした。

巨乳女「無駄だというのがわからないのか!」

男「うおおおおおおおっ!!」

ドピュドピュピュ!!

バインバインバインッ!!

男「っ……!!」バッ

ゴロゴロッ

男「まだ……まだだっ!!」

ドピュドピュピュ!!

巨乳女「おい、いい加減にしろ!!」

巨乳女「私の胸にそんな攻撃が通用すると!?」

巨乳女「数で押して打開できると思ったか……!! 哀れなやつだ!」

巨乳女「きてみろ!!」

男「おおおおおおおおお!!」

ドピュドピュピュ!!

バインバインバインッ!!

巨乳女「距離をとって時間稼ぎか!? 男らしく向かってこい!!」

男「そっちから向かってきてみろ! 出来ないだろうけどな!!」ゴロゴロ

巨乳女「なに!?」

ドピュドピュピュ!!

バインバインバインッ!!

男「お前は攻撃を受けている最中はさっきのような高速移動はできない……!」

巨乳女「……」

男「俺はお前の高速移動の原理を知っている!」

男「一度、前傾姿勢になって地面につけた乳に重心を預ける必要がある!」

男「この絶え間ない射撃の雨の中で、そんな姿勢を一秒でもとろうものなら、頭を俺の精液がぶちぬくぜ!」

ドピュドピュピュ!!

バインバインバインッ!!

男「おっと!」ゴロッ

ドシュドシュドシュゥ!!

巨乳女「……」

男「どうした……! 図星じゃないのか?」

巨乳女「ふふ」

男「……!」

巨乳女「貴様はやはり愚か者だ……!」

巨乳女「私が跳ぶのに一秒もいるか」

巨乳女「どんな連撃の中でもほんの一瞬あればお前の元へ行ける!!」

男「じゃあやってみろ!!!」

ドピュドピュピュ!!!!

巨乳女「甘く見るなよッ」フッ

バインッ――!

男「!!」

男(来た……!!)

男(なんて挑発にのせやすい女なんだ!!)

ビュォォォオオオオオオ!!!!

男(相変わらず早すぎて目では追えないッ! 一瞬で見失った!!)

男(だがプライドが高いお前の移動する位置はわかりきっている……!)

男(会って数分だが……拳を合わせると相手のことがわかるってのは本当らしいな)

男(少しでも自分の優位性を知らしめたい性格のお前はッ)

男(俺の背後に移動するッ……!!)

巨乳女(背後をとった!!)ビュウッ!!

巨乳女(もらった!!)

男「そこだ!!」バッ

巨乳女「なっ!?」

男「いくぜ……ッ」

巨乳女(何故私の速度に追いついた!?)

巨乳女(だが……まずはっ)

巨乳女(攻撃がくる……防がなければ!!)ボインッッ

彼女にとって男がこちらを振り向くのは完全な想定外だった。
スピード反射神経ともに自らが完全にまさっていると確信していたから。
想定外の事態ではあるが、鍛えあげられた反射神経はなんなく防御態勢をとる。
上半身が隠れるほど肥大化させた2つの乳房を押し出し、谷間の隙間から敵を睨みつけた。

巨乳女(こいっ……!!)

巨乳女(どんな攻撃だろうと私には通じない!!)

巨乳女(攻撃してみろ!!!!)


男「陰茎術秘技ッ……『菊一文字』」

とすっ。

巨乳女「っ」

硬く、鋭く、太く、勇ましく隆起するその凶暴な陰茎は、意外にも、ソフトタッチで巨乳女の乳房に触れた。
激しい攻撃であればあるほど威力を増幅させて跳ね返す巨乳女の乳房。
撫でるように接触してきたその弱々しい陰茎を跳ね返す事はない。
だが当然巨乳女にダメージもない。

巨乳女「……」

男「……」

巨乳女「……乳をつついて何になる?」

男「つつかないさ」

陰茎と乳房は密着している。弾力を確かめるように、陰茎は少しだけ乳房に沈んでいる。
男の陰茎がぴくりと動いた。
正確には、回った。
周囲の密着している肌も、陰茎の動きに合わせて少しだけ、シワをつくる。

男「ねじりあげるッッ!!!!」

ギュルルルルルルル!!!!

巨乳女「!!?」


男の陰茎が勢い良く回転し始めた。
陰茎で円を描くのではない。陰茎自身がドリルのように回転しているのだ。
柔らかく弾力性を持った巨乳女の乳房は、回転に巻き込まれて、菊花のようにうずを巻いた。

陰茎術秘技『菊一文字』とは、一切の衝撃を生み出さずに、相手の皮膚を巻取り、ねじ上げて攻撃する特異な性質の技である。


巨乳女「ッ……」

ギュルルルルル!!

男「お前が跳ね返せるのは衝撃」

男「この技は衝撃を生まない。陰茎が完全に相手と密着した0距離で繰り出す」

男「フォークでスパゲッティを巻くように、お前の乳房を巻き込んで離さない」

男「あらゆるモノを跳ね返す……弾力性を持ちつつも柔軟性を備えたお前の乳房」

男「この技をかけるにうってつけのようだぜ」

ギュルル……ルル……ル……!

巨乳女「ふふ……」

男「……」

ギギギ……ギギ……!

巨乳女「確かにな」

男「……」

巨乳女「こんな攻撃は今まで見た事がなかったよ」

男「……」

巨乳女「だが……どうした?」

男「……」

ギギッ……ギギギ……

巨乳女「それ以上陰茎は回らないのか?」

巨乳女「私の乳房は武器だ。どんな形にねじられようと痛みはない」

巨乳女「それよりもお前……動けないだろ?」

男「……」ググッ……

巨乳女「あいにくだが、からめとったのは私のほうらしいな」

男「……」

巨乳女「このまま膠着状態を続けるか」

男「……」

巨乳女「なんの意味がある……ふふ」

男「……」

巨乳女「……」

男「……」

巨乳女「……無駄なあがきはよせ」イラッ

巨乳女「お前はすでに詰んでいるというのがわからないのか!!」

巨乳女「時間稼ぎに意味は無い……!」

巨乳女「貴様も武人なら潔く散れッ!! 恥を晒すなッ!!」

男「意味ならある」

巨乳女「なにっ!?」

男「俺は狙って時間稼ぎをしているという事だ」

巨乳女「貴様に仲間がいない事は知っている!! こんな深い雑木林の中で助けを待つのは無駄だ!!」

男「助っ人ならくる」

巨乳女「戯言をッ……!!」

男「戯言じゃない」

ギギギ……ギギッ……

男「俺が」

男「俺が……さっき」

男「効きもしない、それどころか跳ね返される『乱れ牡丹』を」

男「何故連射したと思う」

男「挑発のためだけじゃない」

巨乳女「またそれかっ……くだらない御託を並べるのがお前の戦い方か」

男「今度は違う。くるぞ。助っ人が」

メキッ……

巨乳女「……なに?」

メキメキッ……メキッ……

巨乳女「なんだ……この音は」

男「俺の『乱れ牡丹』だけでアレを倒すのは無理があった」

巨乳女「なんの……つもりだ」

男「お前に跳ね返してもらって、威力を倍増させる必要があった」

メキッ……

バキキィッ メキメキメキィッ

バキバキィッ……

巨乳女「おいっ……何の話だ!! 私の後ろでなっているこのイヤな音はなんだッ!!」

男「後ろを振り向いてみろ。首くらい動かせるだろ」

巨乳女「まさか……!!」クルッ

バキッ!!!!

バキバキバキィッ!! メシシッ!!!

巨乳女「バカなッッ……!!!」

その音の発生源は巨乳女の背後、こちらに倒れたがっている大木。
幹にいくつも空いた風穴によって、バランスを崩し、自重によって徐々に角度を変えていく。
樹皮はバリバリと剥がれ落ち、こちらに向かって確実に傾いてきている。

巨乳女「貴様ッ……二人揃って大木に潰される気か!」

男「お前は俺より圧倒的に速い」

男「背後にしか死角がないにも関わらず、お前の背後をとることは不可能だ」

男「苦肉の策だが……コレしかなかった」

巨乳女「は、離せ……今すぐ陰茎を離せ!! 貴様もつぶれるんだぞ!!」

男「ことわる。『菊一文字』は痛みを与えるのが目的じゃない」

ギギギッ……ギギ……ギ!

男「最初からお前をこの場に固定するためだ……!!」

巨乳女「ぐっ、きっさま……離せっ! 離せぇぇぇぇぇ!!」

バキャッ。

乾いた音がはじけた。
大木を真っ直ぐと支える決定的な何かが、折れて砕けた音だと、巨乳女は理解した。
大木が加速する。

男「終わりだ」

二人もろとも下敷きにしようと、こちらへ倒れてくる。

巨乳女「くっそっ……!!」

巨乳女は、自らの乳房を変質化させた。
大木が倒れてくるその数瞬で、持ち前の反射神経を極限まで稼働させて。
弾力を捨て、硬度を捨て、柔らかく、プリンのような乳房へと変化させた。

絞るようにねじりあげていた陰茎から、乳房がほどける。
すかさず背後を向く。

巨乳女(すぐさまもう一度!!)

巨乳女(乳房を変質化させる!!)

巨乳女(硬度と弾力性を兼ね揃えた、たとえ大木だろうと跳ね返すような乳房にッ!!)

巨乳女(私なら間に合うッ!! 私なら防げるッ!!)

巨乳女(我が武術に隙はないッ!!!!)

バインッ。


「ッ……」

2つの、ゴム球のような乳房が、波打った。

大木はもと来た道を巻き戻り、一時的に直立したものの、勢いが死にきらず、向こう側に倒れて地響きをあげる。

巨乳女「ッ……」

巨乳女は防御に成功したのだ。
迫り来る大木は既に巨乳女のうなじ付近まで近づいていた。
にも関わらず振り返り、乳房の精密なコントロールを巧みに成し遂げ、巨大な木の幹を吹き飛ばしてみせた。

紛れも無い達人技だった。
『魔乳護身術』伝承者の中であっても、巨乳女以外でコレほどの身のこなしが出来る人間はいないだろう。
一点の無駄もない完壁な動きだった。

彼女の反射速度は本物だった。



巨乳女「……」

だが――――。


男「……前後同時の攻撃は」

巨乳女「……」

男「さすがのお前も受けきれなかったようだな」

巨乳女「きさ……」

動いていた。
『菊一文字』でねじ上げられた乳房をほどいた瞬間、男も巨乳女と同じく動いていた。
大木が迫り来る刹那、その選択が2人の運命を分けた。

膠着状態から解かれ、自由になった瞬間、巨乳女は防御のために動いた。
男はただ攻撃するために動いた。

流れるような速度で、何の迷いもなく、身の丈ほどもある陰茎を上段に振り上げ、攻撃態勢をとっていた。
繰り出されるのは陰茎術秘技のうち、最も基本となる、上段から振り下ろした陰茎で、相手の頭部を打ち砕く打撃技。
大木が跳ね返る瞬間と同時に、男の打撃は、自分に背を向けた巨乳女の、『隙だらけ』の頭部に届いていた。

巨乳女「」ドサッ


男「陰茎術秘技『勃ち鼎』」

男「……」

男「……」

男「……」

男「っ……」フラ

男「こ、こいつ……」ズサッ

男「強かった……陰唇術のあいつもだが……こいつはやばかった……!」

男「っ……」ズキン

男「ハァ……ハァ」

巨乳女「」

男「わるいな……デカ乳」

男「大木に潰されて共倒れなんて気はさらさらなかった」

男「お前が防いでくれるのを期待してたよ……ある意味じゃお前の防御性能を信頼してた」

男「チキンレースに勝ったってとこだ……」

フラフラッ

男「さてっ……と……」

男(まずい……)

男(『鶯の谷渡り』を……使いすぎた)

男(負担が大きい技なのに)

男(ちんこが痛い……体中あちこちが軋む)

男(こいつらの仲間はあと何人いる)

男(この状態で俺は勝てるのか……?)

男(もし仲間がいるとしたら、さっきのデカチチが最強クラスである事を願う)

男(こんなにかよ)

男(こんなに強い奴らがまだいたのか……)

男(井の中の蛙だった)

男(真っ向勝負で勝てないのは親父だけだと……過信していた)

男(俺はまだまだ弱い)

男(だけど)

男(だからこそ……)

男(俺は今たぎっているのも……確かだ)

男(海綿体が熱く充血している)

男(俺より強い奴がいるというなら超えてやる)

男(廃マンションはすぐ目の前だ)

男(あの中に……囚われた友と……まだ見ぬ敵がいる)

男(向かうしかない)

男(引き下がるつもりはない)

男(陰茎術は攻めの1手……)

男「ハァ……ハァ」

巨乳女「」プルン

男「ハァ……」

巨乳女「」

男「……」

男「チチ……」

男「放り出したまま失神してたら風邪ひくだろうから……」ヌギヌギ

男「上着……かしといてやるよ……」

バサァッ

巨乳女「」

男「なあ親父……見てろ」

男「何人仲間がいようが関係ねえ」

男「全員叩き潰して……俺は最強になる……!!」

乙、支援
ちんこがカーテンレールになるSS思い出した

>>130
なにそのマジキチSS読みたいんだが

>>131
男「ここがカーテンチポレールバトルロワイヤル世界大会会場か」
タイトルこれ、調べてくれ

>>132
こういうの好き
あとでゆっくり読む

デブ男「……」

根暗女「……」

デブ男「さっきの音きいた?」

根暗女「うん……音っていうか……衝撃」

デブ男「この建物のすぐ外ね」

根暗女「何か大きいものが倒れるような音……」

デブ男「なんの音か、だいたい検討はつくわ」

根暗女「きっと巨乳女が何かと交戦中……もしくは決着」


友(男……すぐそこまで来てるのか?)


デブ男「思ったよりやってくれるわね」

根暗女「うん……相手は間違いなく陰茎術」

デブ男「巨乳女が負けた可能性も考えなきゃね」

根暗女「……」

根暗女「【あの人】が……」

デブ男「……」

根暗女「何故あそこまで陰茎術を警戒しているか……わかった」

デブ男「……」

根暗女「何故私達四人を組ませたのか……その意味が」

デブ男「陰茎術使いが強者なら、【あの人】がじきじきに戦えばいいのにね」

根暗女「……デブ男」

デブ男「あら。彼の命令に口答えするつもりはないわよ?」

根暗女「確かに……【あの人】が自ら戦えば」

根暗女「どんな武術家相手でも……」

根暗女「間違いなく勝てるのに……とは思う」

デブ男「でしょ?」

根暗女「陰茎術の使い手は発展途上の高校生と聞く……【あの人】もまだきっと……実力を測りかねているんだ」

デブ男「美少女ちゃんが負けた。巨乳女ちゃんもまだ帰ってない」

根暗女「……」

デブ男「もし」

根暗女「……」

デブ男「もしも私達が負けたら」

根暗女「……」

デブ男「【あの人】は私達をどうする気かしらね」

根暗女「言うまでもない……」

デブ男「……」

根暗女「【あの人】は強者だけを求めている……弱者は必要とされない」

デブ男「……」

根暗女「おそらくは……というか……確実に」

根暗女「私達四人とも……」

根暗女「【あの人】に殺される」

デブ男「そうね」

デブ男「【あの人】は私達を拾ってくれたけど」

デブ男「何の感情もなく私達を殺せるでしょうねぇ」

デブ男「きっと親愛みたいなものも感じてない」

デブ男「【あの人】は何も感じない。何も感じないまま人を殺せる」

デブ男「残忍……冷酷……」

デブ男「恐ろしく……無表情で……無敵で……最強」

デブ男「敵に回したくないからこそ、ついていきたいと思う」

根暗女「そんな……」

根暗女「裏社会の武術家の中でも……ダントツに強く……恐れられている【あの人】が」

根暗女「唯一……『油断するな』と言った陰茎術」

デブ男「その伝承者が……すぐそばに潜んでいるってわけ」

根暗女「私達がやることはひとつ……」

友「っ……」モゴモゴ

友(おいおい)

友(こいつら何の話をしてるんだか、わからないけども)

友(【あの人】ってなんだ?)

友(そんなにヤバイやつが上にいるのか?)

友(こいつらは……そいつに命令されている)

友(こんな強いオーラをまとった奴らが)

友(【あの人】という存在に怯えている?)

友(殺されるだって!?)

友(おいおい、男……本気でやばいんじゃねーのか)

友(とてつもなくやばいやつに目をつけられたんじゃないのか……!!)

友(強者を求め、弱者は平気で殺す……)

友(【あの人】……?)

友(一体)

友(一体どんな奴なんだ……)

――――――――
――――――
――――
――



チュッ……チュパッ……

アムアム……

チュゥゥゥ……レロレロ……

風俗嬢「んっ……んっ……」レロレロ

【……】

風俗嬢「レロ……チュゥゥゥ……ぷっは」

【……】

風俗嬢「ご、ごめんねお客さん」

【……】

風俗嬢「私が下手だからかな……お客さんのおちんちん、勃起しないね」

【感じないんだ】

風俗嬢「え?」

【俺は不感症だから】

風俗嬢「え……ぁ」

【続けろ】

風俗嬢「う、うん……」

パクッ

チュッチュッ……チュパチュパ……

ジュルルッ……

風俗嬢「んっ、んっ」

【……】

風俗嬢「んっ、んっ」

【……】

風俗嬢「んっ、んっ」

【……来る】

ガチャッ!!

風俗嬢「えっ?」

【……】

ヤクザ1「おらぁ!! ここにいたか!!」

ヤクザ2「ようやく見つけたぞ……!!」

風俗嬢「え、えっ……?」

ヤクザ3「てめえはどいてろ売女!!」グイッ

風俗嬢「きゃっ……髪をつかまないでっ!!」

【……】

ヤクザ1「おい……てめぇ……!」

【遅かったな】

風俗嬢「なっ、なに! なんなの!?」

ヤクザ1「こんな田舎の風俗店に隠れてやがるとはなぁ!!」

【……】

ヤクザ2「うちの若頭を殺したのはテメーだな」

ヤクザ3「こいつが例の不感症の男か……」

ヤクザ1「ああ。【あの人】と呼ばれている男だ」スルッ

風俗嬢(っ……刃物を持ってる!?)

風俗嬢(なにが起きているの!?)

風俗嬢(この人達、その筋の人だろうけど)

風俗嬢(この店のしのぎとは関係ないはず……見たことがない顔だもの!)

風俗嬢(この3人がいる組の若頭を殺した!?)

風俗嬢(このお客さんが?)

ヤクザ2「てめえ、こら。何すました顔してんだ」

【……】

ヤクザ1「いっぺん事務所まで来てもらうが、その前にここでシメてやるからよ。ブルってみせろや」

【……何故だ】

【何故なんだ】

ヤクザ1「あぁ!!?」


【何故】

【何故に俺は】

【何も感じないんだ】


ヤクザ1「何をぶつくさと……」


【チンピラ三人に囲まれているのに】

【三人ともドスを持っていて、俺は素手……局部を露出したままの】

【この絶望的状況で何故俺は何も感じないんだ】


ヤクザ2「おいコイツ薬のきめすぎじゃねぇのか」

ヤクザ3「気ィぬくな……武闘派の若頭を素手で殺しやがった男だぞ」

【俺は感じない】

【危機感も焦燥感も……】

【お前らごときでは……何も感じない】

【俺は不感症なんだ】

【試してみてくれ】

【できることなら感じさせてくれ】

【俺は】

【命のやりとりの中でしか勃起できないんだ】

【頼むから】

【どんな手を使ってもいい……俺を感じさせてくれ】

ヤクザ1「このシャブキメ野郎がッ!!」

ヤクザ2「ゴタゴタ気持ち悪い事ほざいてんじゃねえ、てめえの命でッ」

ヤクザ3「落とし前つけさせたらぁ!!」ジャキッッ

風俗嬢「きゃっ!!」

風俗嬢は部屋の隅でただ震えている事しか出来なかった。
許容範囲を超えた恐怖は、風俗嬢に目をつむる事さえ許さなかった。
仕事上、暴力団の人間と接する機会もあった。客との流血沙汰のトラブルも少なくなかった。
風俗嬢が怯えているのは刃物を持っていた暴力団員ではない。

数秒で部屋は真っ赤に染まった。
血液とローションが混じった赤く粘りけのある水たまりに沈む、2人の暴力団員が何かをうめいている。
防刃チョッキを着ているのに何故だ。何故俺は横たわっている。
そうやって、か細くしきりにうめいている。

一方あと一人、立ち尽くしている暴力団員は無傷である。一切の外傷がない。
ただ口から垂れ流すヨダレを顎まで滴らせ、半開きの目で虚空を眺めて動かない。
魂を無くしたマネキンのように直立している。
天井に飛び散った鮮血と、その男の顎から滴り落ちる唾液が、一定のリズムを刻んで、静寂に水滴音を鳴らしている。

【やはり】
【お前らでは俺は感じなかった】

【時間潰しをしていても本命のほうから連絡はない】
【俺から向かおう。陰茎術伝承者の息子】

【お前は俺を感じさせてくれるだろうか】

繰り返す。
風俗嬢が怯えているのは刃物を持っていた暴力団員ではない。

――――――――


友「……」

友「……」

友「……」

ガタッ

友「っ」

男「友!」

友「おほこっ!」モゴモゴ

男「待たせて悪かったな!」ザッ

友「っ……」

男「しかし全裸で亀甲縛りされた挙句、天井から吊るしあげられているお前の姿なんて見たくなかったぜ」ヘヘヘ

友「んっ、んー……んんん!」モゴモゴ


男「なんだ?」

友「おほこっ、うひほら!」

男「ギャグボールかまされてて何言ってるかわかんねーよ。ド変態めが」

友「うひほらぁ!!」

男「ったく、そんなに助けが嬉しかったのか?」

友「ひはぅっ!!」

男「心配しなくても今とってやるからな」スッ

カポッ

友「ぷはっ……!」

男「まあお前が無事でなにより――」

友「違う!! 後ろだッッ!!」

男「?」

ドゴォォォッ!!!!


友「うわっ……!!」


パラパラ……

デブ男「あらあらあらぁ~~~!?」ゴゴゴ

デブ男「ほんとに巨乳女ちゃんを倒したみたいねぇ!!」

デブ男「まさか自力でここを特定して、単身乗り込んでくるだなんて思いもしなかったわぁ!!」


ザザッ……

男「ぶん殴ったコンクリ床を粉々にするそのパンチ力……」

デブ男「あらぁ?」

男「相当な使い手だな」

デブ男「よく躱したわね? いい動きだわ」

男「お前が最後の1人か」

友「まだだ男ッ! まだもう一人いるッ!!」

シュン シュン シュン…

シュシュンッ!!


男「ッ」

男「なんッ……」

ズシャッ!!

男「ぐぁッ!?」

男(なんだ……腕が切り裂かれた!?)

男(なにで攻撃された!!?)

男「テメエかッ……!!」


根暗女「……」スッ

根暗女「ようこそ……陰茎術伝承者」

根暗女「あなたが相当の腕を持っていることは……あなたがここにいるという事実が証明している」

根暗女「最後は私とそこのデブ男……2人で相手をするよ……」

デブ男「そういう事。悪く思わないでね」

男「ッ……」ジャリッ

根暗女「私達は……陰の世界の武人……卑怯などという言葉は通じない」

男「へっ、同意見だよ」

友「男気をつけろ! そいつらもかなり強いはずだ!!」

男「わかってる」

男(二体一か……)

男(想定の範囲内……!)

男(陰唇術と魔乳護身術……俺が倒した2つの武術の共通点は陰の古武術ということ)

男(残りの仲間も陰の武術家で固めているというのは想像にかたくなかった)

男(そして陰の武術家は陰茎術しかり、ほとんどの流派が昔の時代で滅んでいる)

男(仲間が残っていても3人ほどだと推測していた)

男(二体一は……マシな状況)

男(まぁ勝てるかはどうかは別だけどな……)

男「そこで待ってろ友」

友「……!」

男「俺の本当の力を見せてやる……すぐに終わらせてやるからな」

根暗女「やってみなよ……」

根暗女「ん……」グググ

根暗女「っ……ぇろっ」

ベロォォォッ

男「舌……?」

根暗女「私は陰の古武術『舌拳』の使い手……」

根暗女「江戸時代前期から代々続く、自らの舌を武器とした暗殺拳……」

根暗女「一族が持つ特異体質と修行で手に入れた……伸縮自在の舌で」

根暗女「あなたをしゃぶりつくして……切り刻む……!!」ベロンッッ

シュバッッ!!!!

根暗女「舌技『連撃口淫斬』……!!」

男「『流鏑馬』ッッ!!」

バババババババッ!!!!

根暗女「!」

ガガガガガガガガガ!!!!!

根暗女「へぇ……私の舌の連撃を全て受け止めている……やるね」

ガガガガガガガガガ!!!!

男(こいつの舌……!)

男(同じ連打でも陰茎術のそれとは違う! 直線的な動きじゃない!)

男(不規則に、蛇のように宙を動きまわってやがる……!!)

デブ男「あらぁ、私の相手もしてくれなきゃダメよぉ?」

男「ッ!!」

デブ男「ほぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」メキメキメキィッ

バリバリバリィッ

男(なんだこのデブ! 服が破れて全裸になった!?)

デブ男「ふしゅゥぅ……!!」ムキムキィ

男(しかも自分の裸体に直接、荒縄を巻きつけている!)

男(自分で自分を縛っている!?)

男「なんて変態野郎だッ!!」

デブ男「私の流派は『緊縛拳法』ッ……」

デブ男「人体に存在する経絡を、的確に縄で締め付けて、気の流れを操作し、身体能力を強化させる技を持つ!!」

デブ男「特殊な緊縛方によって人間の限界を超えた腕力をとくと思い知りなさい!!」

デブ男「『菱縄剛撃』ッッ!!!!」ブンッッ

男「くそっ……!!」


ドグシャァァァアアアアッッ!!!!!


友「お、男ぉー!!」

友「くそっ……俺も加勢したい、したいがッ」

友「縛られてちゃ……動くことすらできねえ……!!」

ザザァッ

男「ッ……」

男(舌で戦う女は……スピードと手数!)

男(縄に縛られたデブは圧倒的な火力!)

男(この2人をまとめて相手にするのはキツイぜ……!)

根暗女「隙あり……!」

ビュンッッ

男「あがぁっ!?」ズシャァッ

根暗女「陰茎術……あなたはこのまま私が仕留める……」

男「みっ……『乱れ牡丹』ッ!!」ジャキッ

ドピュドピュドピュッ!!

根暗女「舌技『口淫旋風陣』……」

根暗女(プロペラのように、伸ばした自らの舌を回転させて、精液を弾き飛ばす……!)

バシバシバシバシィッ!!

男「くそっ!!」

デブ男「後ろよお」ガバッッ

男「このデブ……!」

デブ男「死になさいっ」

男「それはテメエだ『勃ち鼎』ッッ!!」ビュンッ

ガキィィィンッ

男「――――ッ」

デブ男「無駄よぉ!! 私のこのはちきれんばかりの筋肉と脂肪の前ではぁ!!」グググッ

男「正面から俺の打撃を受けきるだとぉ……!!」グググッ

デブ男「『強制緊縛』ッ!!」

シュルルッ

男(っ……ヤツの手から荒縄が伸びてくる!?)

ギュルルルッ……!

ギチ……ギチ……!

男(俺の右腕に……縄が絡みついた……!)グググッ

男(クソ……ほどかないと……)ググッ

男(っ……?)グッ…

デブ男「『強制緊縛・亀甲式』」

男「な、なんでだ……縛られている右腕から……力がぬけてゆく」

デブ男「人体の経絡を縛り上げ自らを強化する『緊縛拳法』」

デブ男「利用するのは人体強化のツボだけじゃあないわ」

デブ男「私の亀甲縛りは、その位置さえ微妙にずらせば、とらえたものの気の流れを乱し」

デブ男「身体機能を弱体化させる事も可能……」

男「な……んだ……と」ググ…

デブ男「食らって血反吐ぶちまけなぁ!!」

男「友を亀甲縛りしているのには理由があったのかッ……!!」

デブ男「人体強化による強烈な正拳『菱縄剛撃』ッッ!!!!」

ドグシャァァッ!!!!

男「ごふっ」

ビチャチャッ

男「っ……」

男(血……あれ……?)

男(この血……俺が吐いたのか……)

男(やばいイマ意識が一瞬とん)


根暗女「舌技『貫舌突き』」


ドスッッ

男「かッはァ……!!」

男(腹に……ヤツの舌が突き刺さッ……)

男(やばいっ、やば)

グラッ

男(あ、足がふらつくっ……こらえろ……)

デブ男「はああああああ!!」

ドゴォッ!!

男「がっはッ」

根暗女「っ…………!!」

ズシュゥゥッ!!

男「あぎッ」

ドゴッ バキャッ メキィッ

ズシャッ ザクザクッ ズンッ

男「ぎゃあっ……!!」

男「ぐがっ! がふっ!」

男「ぐああぁっ!!」

男(やばいッ……逃れるすべがないッ)

男(攻撃を受け続けている――)

男(『鶯の谷渡り』で仕切りなおすッ……!!)ジャキッ

ガッ……


デブ男「!?」

根暗女「!?」



男(――あ)

男(れ――?)

ドサァァッ


男(こけた……?)

男(つ、使いすぎたのか……?)

男(『鶯の谷渡り』は陰茎に大きく負担をかける移動方)

男(人を跳ね飛ばすような、硬さと柔軟さ、しなやかなバネのような陰茎は……この疲労度じゃ作れない)

男(ちくしょう……!)ググッ

デブ男「『強制緊縛・亀甲式』」

シュルルルルルルッ

ガシィッッ!!

男「あっ……」

男(全身を……荒縄で縛られた)

男(力がぬけていくのがわかる……)

男(長時間血の通わない体勢をとって、痺れて感覚のない足のような)

男(全身のちからがぬけて、しびれてゆく)

根暗女「舌技……」

シュルルッ

男(荒縄に縛られた上に……さらにヤツの舌が巻き付い……)

グンッッ!!

男「っ……」

根暗女「鍛え上げた舌の筋肉で、相手に巻きつき、空中に持ち上げて……叩き落とす」

根暗女「『口淫イズナ落とし』…………」

グイッッ――――

男「ッ――――」

グチャッッ!!!!

男「ごふっ……!!」

友「男ぉぉぉぉ―ッッ!!!!」

男「ヒュー……ヒュー……」

男「な……縄を……」

男「巻き付いた荒縄を……はずさな……ければ」

デブ男「無駄よ。一度巻き付いたらあなたの力でほどく事は無理」

根暗女「もう一度……天井まで持ち上げて……叩き落とす」

グググッ

男「あぁ……ッ」

男(地面がッ……地面が遠のいていく)

男(縄のせいで……力がぬけて受け身がとれない……)

ビュンッッッ

男「ッッ……!!」

ビュォォォオオオオッッ―――――

根暗女「『口淫イズナ落とし』ッ……!!」

ドグチャァァァァッ!!!!

男「がはァッ!!!!」

友「男ッ……」

男「ッ……」ピクッピクッ

友「お、おいお前らやめろぉ!!」

デブ男「なに?」

友「そこまでやる必要があるか! 死んじまうよ!!」

デブ男「命が惜しいなら黙ってなさい」

根暗女「あなたは部外者……偶然そこにいるだけ」

友「部外者だろうが関係あるかぁ!! 俺はボクサーだ!! こんな戦い俺は認めねえ!!」

友「二体一で勝って嬉しいのかこの卑怯者共ッ!!」

デブ男「二体一の状況を作ることも強さ、二体一で戦わざるをえない状況を作ってしまうのは弱さ」

友「はぁ!?」

根暗女「私達はそうやって教わってきた……【あの人】に」

友「……!」

デブ男「強さっていうのはね、ぼく? リングの上だけで決まるようなものではないの」

友「卑怯者の屁理屈だね! 男には一対一で勝てないから!」

根暗女「卑怯という言葉自体がもはや場違い……」

男「ハァ……ハァ」

根暗女「これは試合じゃないよ……点数もないし、判定もない……」

根暗女「達人同士の命のやりとり……」

根暗女「あなたみたいなスポーツマンにはきっと一生理解できない……」

友「ッ……」

ビュンッ

ドグチャァッッ!!!!

「ぐああああッ!!」


友(男……男……ッ!)

友(ちくしょう!!)

友(俺はなんのためにトレーニングしてきた!!)


ビュンッ

ゴシャアァァアッッ!!!!

「がはあっあぁぁ!!」


友(男が、親友が死んじまう……殺されそうなのに!!)

友(何もできずに見ていろってのかよ……!!!!)

友「ッ――」

―――――『またいじめられてたのか、友』―――――

『ま、もう大丈夫だ』

『いじめっこたちは俺が倒してやったかんな』

『え? あはは!』

『しんぱいすんな! 俺はつよい!』

『いんけーじゅつの使い手だから!』

『あ、でもあんまり他の人にはいっちゃだめだぞ?』

『ん……?』

『なんで男くんはそんなに強いの? って……』

『そりゃすごいしゅぎょーしてるからさ』

『小学校にあがるまえから、つよくなるために毎日しゅぎょーしてるんだ!』

『きついシュギョーだぞ~。お前なら泣いちゃうかもなぁ~』

『イヤじゃないのって?』

『んー……イヤじゃないなあ、辛い時もあるけどさ』

『強くなれたら誰だって嬉しいもんだろ?』

『俺はさいきょーをめざしてるからな!』

『さいきょーになってどうするの? って』

『そりゃどんどん強くなるんだよ!!』

『そしたら誰にもいじめられなくなるんだ』

『くやしかったらお前もつよくなれ!』

『え?』

『いやぁ……お前にいんけーじゅつは無理だろうなぁ』

『だって……そりゃ……まあ』

『で、でもあれだ、お前パンチ力とかあるから、あれだ』

『中学あがったらぼくしんぐとかさ、そういうの始めたら?』

『そんで強くなったら誰にもいじめられなくなるぜ!』

『お前のことをいじめる男子もいなくなるさ!!』

『友、お前は女だけど、だからって強くなっちゃいけないわけじゃないんだ』

グググッ

メキメキメキ メキキィッ

友「うっ……ぁぁぁ……!」

デブ男「無駄よ。その亀甲縛りは屈強なプロレスラーだろうとほどけない」

根暗女「まして女のあなたには……ね」

友「知るかテメエも女だろうが……!」グググ


男「……友……っ」


友「ハァッ……ハァ……!」

デブ男「経絡を完全に抑えてあるのよ。無理に動けば気の流れがめちゃくちゃになるわ」

友「知るか知るか知るかぁ……!!」グググググッッ

根暗女「廃人になる可能性もある……」

デブ男「ふふふ、若さね。死にたいならお好きにどうぞ」


男「やめろっ、友……俺が負けたら、お前は解放されるんだッ……」

男「お前は俺が巻き込んだ……無茶するな……やめろぉッ」

友「巻き込まれた? 知るかッ……!」

友「お前だってさんざん俺の問題に首つっこんできたくせに!」

男「っ……」

友「たのんでもいねえのに、俺を助けてくれたくせにぃ!!」

男「そんなのは……」

男「ガキの時の話じゃねぇか、バ……」

男「バカヤロぉ……!」ググッ……

友「ガキの時の話がどうした!!」

友「あの頃のお前の言葉で俺はいま高校生女子ボクシングチャンピオンやってんだ……!」

友「強さってのは……二体一で寄ってたかって相手をいたぶる事じゃねえ!!」

友「それがたとえ、ちんこを振り回して相手を引っ叩くような……ヘンテコな戦い方だろうとッ」

友「そこで横たわってるそいつみたいに! 何かを守るために使うものだ! それが強さだッ!! それが武術だッ!!」

友「お前らのそれは武力じゃねえッッ!!!! 暴力だッッ!!!!」ググッ

友「武術家の片隅にもおけねえ卑怯者共がぁぁぁぁぁぁぁ!!」ググググググッ!!!!

バラッ!!


デブ男「!!!!」

根暗女「ばっ……」


ズダンッ

友「ふぅぅぅぅうぅぅー……!!」


根暗女「ばかな…………」

デブ男「全身の経絡のツボを荒縄で的確に刺激して、弱体化させているはずなのに」

デブ男「指一本動かすので精一杯のはずなのに!」

デブ男「動くどころかッ! 力ずくで縄をぬけたッ!?」


友「うあああッッ!!」バッッ

友「男から離れろクソヤロォォォォォ!!」

ダッダッダッダッッッ!!

根暗女「でも……デブ男……」

デブ男「ええ、そうね」


友「ああああああああッ!!」ダダダダダッ


根暗女「強制緊縛から脱したその馬鹿力と……爆発力には恐るべきものがあるけれど」

デブ男「所詮表世界のスポーツ選手」

根暗女「…………」レロォォン

デブ男「私達裏の人間にとっては恐るに足らぬ相手」ムキムキ……


友「うおおおおおおおッ!!!!!!」バッッ


デブ男「一撃でその頭くだいてあげるわッッ!!!」

根暗女「私はその肢体を切り刻むッッ……!」

デブ男「『菱縄剛撃』ッッ!!!!!!」ゴォォォッ!!!

根暗女「舌技『連撃口淫斬』…………ッッ!!!!!!」ババババババゥッ!!!!

デブ男(死ね!! 死ね!! 死ね!!)

根暗女(死ね……死ね……死ね……!!)


友「ッ――――」


その刹那は、大量分泌する自身の脳内麻薬に引き伸ばされ、とてもゆっくりした時間に感じた。

前方2方向から突き刺すような殺意を向けられても、友はひるまない。
決して目をつむらない。
一度でも瞬きをすればその時には自分は見るも無残な骸へと変えられている。だから友はひるまない。

友は理解している。
悲しいほどに断絶する、その力量の彼我差を理解していた。
どれだけ自分が強くなっても男にはかなわなかったから。
手合わせをしたことこそないが、する必要もないほどに圧倒的な力の差があった。
そんな男をああしてズタボロに虐げている二人組に自分が勝てるわけはない。

だが、男をズタボロに虐げている事こそが、友が立ち向かう理由なのだ。

理屈では分かっていても堪えられない拳がある。
抑えてはいけない拳がある。
たとえ自分がここで命を失う事になったとしても――


友「これが俺の本望だッッッ!!!!!!!」

ガクンッッ

デブ男「ッ……!?」

ありえない事だった。
向かい来る友へとその凶悪な拳を振りぬかんとしている、デブ男が、何故か突然体勢を崩した。

グラッッ

根暗女「ッ……!!」

根暗女も同じだった。
デブ男に飛び込む友の身へ、八つ裂きにするべく鋭利に研ぎすませた舌を伸ばしているさなか、何故か体勢を崩した。
友を狙う拳と舌が、同時に軌道をそらしていく。

何故だ。
根暗女の繰り出す舌技の早業なら、たとえ体勢を崩そうとも友の喉元をえぐる事は可能だった。
だが、根暗女は思考してしまった。
何故自分は体勢を崩しているのだ、と。

(膝が熱い。攻撃を受けている。防御しなければ)

生物の本能が一瞬、そう考えてしまった。
気付いたら刹那のうちに、ぎょろりと回した目玉で、部屋中を見回している自分がいた。

陰茎術の男は確かに立ち上がっている。
こちらに向かってきている。
だが奴はまだ遠い。
奴が攻撃を繰り出してくるのは、これからだ。

陰茎術の男が何かをしてきた様子ではない。


じゃあ誰が――――。

――視界にちらりと映った影がある。

知らないシルエットではない。見慣れた姿だ。

何故お前がそこに――――。

根暗女は自分に攻撃を加えた人間の正体を理解した。
目の前には男が迫っている。0.2秒後には陰茎の打撃を浴びせられているだろう。防御は間に合わない。
友へと伸ばした舌が帰ってくるのは0.4秒後。

限界まで引き伸ばされた、その一瞬は終わる。

友「コークスクリュー・ブローォォォォオオオオ!!!!」

ドグシャッッ!!

デブ男「ぐぎゃぶッッ……!!!!」



男「陰茎術秘技『勃ち鼎』ッッッッ!!!!」

ズガンッッ!!

根暗女「あぎゃッッ……!!!!」



男と友の繰り出した渾身の一撃は、同時に敵へと届いていた。



デブ男「がふぅっ!!」ドサァッ

根暗女「うあッ……!!」ゴロゴロ

友「ハァッ、ハァッ……男!!」

男「バカヤロウ無茶しやがってテメエ!!」

友「知るか! 無茶してるのはお前のほうだろーが!!」

男「お前だ、お前のほうが無茶してた! 俺は全然余裕だけど!」

友「無茶してねーよ……へへへ」

男「な、なに笑ってるの気持ち悪い」

友「きもちわるくねえ!!」

男「それよりもさっき……」

友「え?」

男「気づかなかったのか?」

友「なにがだ?」

男(デブの足元に……)

男(白く、透明の水たまりが広がっている……)

根暗女「なッ……なんで……! なんであなたが邪魔をする……!!」

美少女「陰唇術秘技『カム・アズ・ユーアー』」

デブ男「美少女ォ……てめぇ……!!」

美少女「デブ男の足元に広がってる水たまりは私の愛液です。それで足を滑らせました」

根暗女「美少女……!!」

美少女「あなたの膝を撃ちぬいたのは陰唇術秘技『ペニーロイヤルティー』」

根暗女「ッッ……!!」ギリリ


友「や、奴はッ……!!」

男「美少女!!」

美少女「一時間ぶりですね男さん。そしてそのご友人」

友「男気をつけろ……あいつが俺を呼び出してッ」

男「い、いや」

友「……?」

美少女「友さん。すいませんでした」ペコッ

友「……は?」

男「……」

美少女「関係ないあなたを巻き込んで、怪我をさせ、許してもらおうとは思いません」

友「……」

美少女「ですが謝罪だけはさせてください」

友「え、いや……ええと」

美少女「本当に申し訳ございませんでした!!」ペコッ

友「っ……お、男?」

男「なるほど。こういう事か」

友「は?」

男「昨日の敵は今日のなんとかっていうだろ? 拳をまじえて打ち解ける事ってあるんだな」

美少女「正確には私と男さんがまじえたのは陰唇と陰茎です……本当にすいませんでした……!!」

友「は!!? おい男!!!??」

デブ男「なんでテメエが邪魔をするんだ、ああ!? 美少女ォ!!」

美少女「……目が覚めたからです」

デブ男「なんだと!?」

美少女「私は陰茎術の奥義の真髄で脳に直接ダメージを受けた」

美少女「そのとき憑き物がとれたんです」

美少女「【あの人】の洗脳から解放されたというべきですかね」

根暗女「逆らう気なの……許されないよ……」

デブ男「陰唇術一派の残党! お前の母親が死んでから誰がお前をそこまで強くしたと思ってる!! 【あの人】のおかげだ!!」

美少女「それでも私は男さんに救われた」

男「……」

美少女「私は気づきました」

美少女「私は武術に対する執着がない」

美少女「本当は小さい頃から普通の暮らしがしたかっただけ」

美少女「陰茎術を目の敵にしていたのも」

美少女「彼を破ることが出来た時、この因縁を脱して、普通の生活が送れる……そう信じていたから」

美少女「ただそれだけの事」

美少女「強さへの執着など最初から興味はありませんでした」

美少女「たとえ【あの人】に逆らうことになろうとも」

美少女「私はこれから自分のために戦う」

美少女「自分のしたいことをする……!」

デブ男「後悔するんじゃあねーぞ」

根暗女「あなたは裏切り者だ……仮に私達を倒しても……【あの人】を敵に回すことになる」

デブ男「お前は間違いなく殺される!!」

根暗女「あなたは今……自分の命をむざむざ捨てようとしている……」

美少女「ッ……」

男「お前ら聞いていればあの人あの人と」

美少女「男さん……」

男「そんなにソイツが怖いのか。武術家のくせに長いモノに巻かれて楽しいか」

デブ男「テメエには分からんさッ!!」

根暗女「【あの人】の戦いを少しでも見れば……そんな大口はたたけなくなる……!」

デブ男「【あの人】は陰の武術家の中でも最強の人!!」

根暗女「【あの人】にかかれば陰茎術伝承者……お前もその命を失うことになる……」

友「まるでカルトだぜ……」

男「……」

友「男?」

男「最強……か」

男「俺はガキの頃から常々考えていた事があった」

男「最強とはどうやって証明するのか」

男「スポーツ選手なら公式大会がある」

男「何度も何度も大会に勝ち続け、世界大会へ進出」

男「そこで勝てば最強の肩書は間違いないものになるだろう」

男「だが俺たち陰の武術家に大会はない」

男「目の前の敵をひた倒していても、本当の強者と巡り合わないうちに一生を終えるのは当然だ」

男「お前らの……」

男「お前らの言う【あの人】が」

男「【あの人】とやらの強さが本物なら」

男「本当にそいつが最強であるとしたなら」

男「こんなに手っ取り早い話はない」

デブ男「イカレ野郎がッ……」

根暗女「そうだよ……狂ってる……」

根暗女「命知らずにも程がある……」

男「命知らずじゃないさ」

デブ男「……」ググッ

友「……」ピク

デブ男「そんなに死にてえならこの場で俺が、殺してやる……!!」グググググッ

友「立ち上がれるならな」

デブ男「っ……」フラッ

友「全国一位の実力はダテじゃねえ」

友「俺の大振りのブローをまともに顎に受けたんだ」

友「脳は相当ゆれてると思うよ」

デブ男「くそっ、くそっ! くそがあああ!!!」グググッ

友「お前ら揃いも揃って陰の武術だかなんだか知らねえが」

友「表舞台の俺の」

友「お前らがスポーツマンとなめきった俺の」

友「何の変哲もないボクシングの一撃……」

友「効かないってんなら立ってみせろ」

デブ男「うごぉぉぉぉおおお……!!」グググ

男「友は強いよ。それは俺がよく知ってる」

友「っ」

男「お前らひょっとして友と一対一でやっても負けたんじゃねえか」

友「お……男」

男「強烈な悪臭さえなければお前らは友をとらえることも出来なかっただろうな」

美少女「……」

友「男。後ろで美少女が土下座してるから見てあげてくれ」グイグイ

根暗女「私もそれなりに経験を積んできた……だからこそわかる……」

根暗女「あなたは強い……きっとすごく強い……」

根暗女「私達四人のうちでは最も腕の立つ巨乳女をサシで倒したのだから……」

男「やっぱりあいつが最強クラスだったのか」

根暗女「でも……その巨乳女も【あの人】には遠く及ばない……!」

根暗女「次元が違う……」

根暗女「絶対に勝てない相手というのは……存在する……」

男「お前ら、デブと根暗」

男「お前ら2人と巨乳女で何故差がついたか今理解できたよ」

男「あいつは自分の武術が最強だと信じていた」

男「信念があった」

男「不意打ちを仕掛けた俺にも正々堂々一対一で向かってきた」

男「卑怯が悪とは俺も思わない。だがお前らは自分を信じていない」

デブ男「……」

根暗女「なにを……何を知ったような口を……!」

デブ男「根暗女ちゃん」

根暗女「っ……」

デブ男「何を言っても聞く耳持たないわ」

根暗女「…………!」

デブ男「こんなイカれた奴にはね……」

男「俺は狂人じゃない。武術家だ!」

友「ふふ」

美少女「……昔からこんな感じだったんですか? 男さんって」

友「何も変わってないよ」

男「俺なりのやり方で陰茎術の最強を証明しようとしているだけ」

男「心配しなくても【あの人】は俺が倒してやる」

男「そいつに打ち勝ったそのときが俺にとっての世界優勝だ!!」

友「昔から……武術バカで」

美少女「……」

友「無鉄砲……脳筋……」

美少女「はい……」

友「弱い者いじめがきらいで……まっすぐで」

友「つよくて」

友「信念があって」

友「一緒にいると楽しくて」

友「俺の……」

友「あこがれだった……」

美少女「……」クスッ

男「お前らがビビってるからはっきり言うぞ!!」

男「【あの人】とやらには!!」



デブ男「……」

根暗女「……」



男「俺が!!」



友「っ……」ニコッ

美少女「……」クス



男「最強を証明するためのッ!!」




男「指標になってもらうッッ!!!!」
















【よく言った】

デブ男「――」


根暗女「――」


美少女「――」


友「――」





男「――」

スレタイ出落ちの糞スレがまさかこんなに長くなると思ってなかった
こんなスレを最初から読んでくれてる数少ない変態達にはもう亀頭があがりません
ありがとうありがとう
もうちょっとだけ続くんじゃ

その男の風貌はみすぼらしかった。
衣服もずたぼろで汚い。ズボンの裾は擦り切れており、髪の毛は肩まで伸びきっている。
浮浪者と見まごうような身なりをしている。

うつろに見開いて焦点の定っていない瞳は、覗きこんだ者に、その濁った眼光の奥にたちまち引きずり込まれてしまいそうな得体のしれない不安感を覚えさせる。

靴は履いていない。
ドロで汚れている足は、よく見れば全て爪が完全に剥がれている。
長袖長ズボンの衣服に身を包んでいるが、服の外に出ている、顔、手、足、喉などは生傷だらけである。

彼が発した声に感情はこもっていない。
その低くも高くもない平坦な声色は、声と呼ぶより、喉と舌の稼動音と言ったほうがしっくりくるように感じる。

あらゆる部分が正体不明の不気味さをかもし出している。
だが、その場にかいする全員が背筋を凍らせた最もの理由は、その人物にこびりついているモノに対して。

全身がベットリと、血にまみれている。

男「お前が……【あの人】か」

誰に言われるまでもない。
男は、その人物が何者なのかを、瞬時に理解した。

【そういうお前は】

男「……」

【陰茎術伝承者の息子】

男「……」

【その背丈ほどにいきり立つ陰茎を見ればすぐ分かった】

男「……」

【当て馬を……】キョロ

デブ男「ッ……」ビク

根暗女「ッ……」ビク

【用意した甲斐があった】

男「当て馬?」

美少女「……」

【武術家とは儚い】

男「……」

【屈強な武術家などこの世には存在しえない】

男「……」

【儚いお前に】

男「……」

【実戦を知ってもらう必要があった】

男「何故お前がいまさら来た?」

【実るのを待っていた】

男「……」

【陰茎術伝承者唯一の生き残りのお前は貴重だ】

【未熟なまま……戦ったら】

【圧倒的に儚いお前を、何の感動もなく、すぐに殺してしまう】

男「自信満々だな。どこで陰茎術を知ったよ」

【……】

男「美少女はともかく」

男「こいつら他の3人が陰茎術を知っているのはお前の入れ知恵だろ」

男「それと。あえて揚げ足をとるけど俺は唯一の生き残りじゃない」

男「親父もまだ生きてる」

男「何故俺に目をつけた」

【陰茎術一派は俺の流派が壊滅させた】

男「……は?」

【お前の父親は生きてはいるが、武術家としては殺したといっていい】

男「なに……言っ」

【今日は】

【お前は当て馬との連戦で疲弊しすぎている】

【殺すのは次にとっておく。そのとき高揚感を覚えるかもしれない】フラ

男「お、おい待て!!」

【待たない】

フラフラ

男「陰茎術を壊滅させたのがお前の流派だとッ……」

男「というか親父とたたかったのか!?」

男「お前が!? おいッッ!!!!」

【……】

フラフラ

男「ッ……はは……」

男(なるほど……あるな)

男(確かに……得体の知れない不気味さは……ある)

男(あるが……)

男(こいつにはそれ以上何のオーラも感じない……)

バッッ

男「待てっつってんだろうがッ!!」ザザッ

【邪魔だ】

男「通さねえ! お前には聞きたい事がある!」

【父の事だろう】

男「お前ッ……」

【……】

男「親父が捕まる前に……」

【……】

男「親父と……最後に……戦った奴だな」

【……】

男「親父は何十年も生きてきて……何千回と戦ってきた」

男「陰茎術は今の時代、公の場所で使えばアウトさ」

男「だが親父は今の今まで捕まったことがなかった」

男「周囲の目に触れないように陰茎を扱うすべを熟知していたからな」

【……】

男「親父が捕まった時」

男「俺は近所の人たちに後ろ指を刺されたよ」

男「犯罪者の……変態の息子だと」

男「俺は親父が逮捕される瞬間に立ち会ったけど、情けないとは思わなかった」

【……】

男「こう思った」

男「人目につく場所で……一族秘伝の秘技を『使わざるを得ない状況』にあったんじゃないかと」

男「陰茎術の使い手が武器を晒すのは交戦している時だけだから」

男「俺の親父は誰かと戦っていたんだと」

男「どんな強者相手でも、誰の目にもつかない早業で敵を倒してきた親父が」

【……】

男「初めて苦戦させられた相手が」

【……】

男「いるのだと――――」

【……】



男「――それがお前だった」

【こういう時お前らは感動に打ち震えるのか?】



男「……は?」

【俺は不感症だから感じないんだ】

【お前の洞察力はまともだな】

【誰でもいい。俺の代わりに感動してやってくれないか】

男「……」

友「なんだコイツ……頭おかしいんじゃねえのか」

美少女「……」

デブ男「……」

根暗女「……」

【……】

フラフラ

【根暗女、デブ男、美少女】

根暗女「ッは、はい!!」ビクッ

デブ男「はいィッ!!」

美少女「ッ……」

【晴れてお前らの役目は終わった】

根暗女「え……ぁ……」

根暗女「ッッッッッ……………!!!!」ゾクゾクゾクッッ

デブ男「あ、あのッ……!!」

根暗女「ま、まだです!!」

【まだ?】

根暗女「まだ勝負はついていませんッ!!!!」

デブ男「そそっ、そうよ……私達まだ動けるものッ……!!!!」

根暗女「これからッ」

【……】

根暗女「これから本気で戦うところですからッッ!!!!」

デブ男「私達まだ戦えるわッ……だ、だからっ、だから!!!!」


男「……」

美少女「ッ……」ギュゥゥ

友「……必死だなアイツら」

【なくなった】

根暗女「ッ……」

デブ男「えッ……」

【お前たちの生きる価値は今さっき、なくなった】

根暗女「ッッ……」ジワッ

デブ男「お、おねがいしますッ……もう一度チャンスを」

【チャンスなら目の前にある】

デブ男「ッえ…………え?」

【死にたくないなら俺を殺してくれればいい】

デブ男「……!!」

根暗女「ッ……」ブルブル

【お前たちで】

【俺が感じる事はなさそうだが】

【でも万に一つという事もあるから】

根暗女「ッッ……ハァ、ハァ、ハァ!!」

デブ男「ッ……!!」

ドックン ドックン ドックン

根暗女「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!!」

デブ男「う、うっ……うっ……」

根暗女「ハァ……ハァッ……!!」

デブ男「ッ……!!!!!」

ドックン ドックン ドックン

ドックン ドックン ドックン

ドックン ドックン ドックン

ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン


【来ないなら俺が先手だ】

男「おいお前何する気だ!!」

【処理】

男「させねえぞ」

【なんで】

男「なんでってバカかよ……目の前で人殺しさせてたまるか」

【待ってくれ】

男「待ってくれじゃねえよテメエに待てって俺が言ってんだよ!!」

【お前を殺すのは早過ぎる】

男「殺してみろッ!!」

【……】

男「最強最強あの人あの人言ってて、実際のテメーはボソボソ小さい声でしゃべるだけの、ただの気持ち悪い奴じゃねえかよ」

【……】

男「俺はお前なんて怖くもなんともないよ、ほら、かかってこいよ」

【じゃあそうするか】

バインッ



男「ッ!?」

【あ】

男(跳ね飛ばされ……!!)



ザザザァッッ

男「わッ……とッ!?」



巨乳女「手を出すな陰茎術ッ!!」



男「お、お前……デカチチ!?」

デブ男「巨乳女ちゃんッ!?」

根暗女「あ……め、目を覚ましたの……?」

巨乳女「外でのびていたがなッ!!」

【お前も負けたのか】

巨乳女「【あなた】は……私が勝とうが負けようがもはや関係あるまい」

【うん】

巨乳女「十年間共に過ごした教え子を殺す時すら何も感じない。そういう人だ」

【不感症だからな】

巨乳女「ふ……」

スゥゥゥ

巨乳女「デブ男ッ!!!! 根暗女ッッ!!!!」

デブ男「ッ……」

根暗女「ッ……」

巨乳女「何を地べたに這いつくばっている!!」

デブ男「巨乳女ちゃんッ……」

巨乳女「戦うのだッッ!!!!」

巨乳女「正直に言おう」

巨乳女「私は、我らは……圧倒的に【あなた】に劣っているわけではない、と思っている」

巨乳女「1人ずつ戦っていけば勝ち目はなくとも!」

巨乳女「3対1なら!! 我らの力はあなたに届くッッ!!!!!」

【教えたとおりだ。それでいい】

根暗女「で、でも……巨乳女……」

デブ男「っ……」

巨乳女「怯えるな!! 相手はただの人間だ、私達と同じ人間でしかない!! 立ち上がれ……!!」

男「……」

巨乳女「私はこういう日を待っていたのかもしれない」

巨乳女「ずっと牙を研いできた……」

巨乳女「私の武力は誰かに従うために積み上げてきたわけじゃない……!!」

巨乳女「今ッ……【貴様】に下克上を果たすッ」

【俺もこういう日が来るのを待っていた】

巨乳女「デブ男……!」

デブ男「ッ……」

巨乳女「根暗女!!」

根暗女「ッ……」


美少女「……」


巨乳女「美少女……お前はそちら側についたのだな」

美少女「……」

巨乳女「お前がどこかくすぶっていたのは知っていた。驚きもしないさ」

美少女「……」

巨乳女「お前はお前の道を行け」

美少女「巨乳女……さん……」

男「デカチチ、俺も手を」

巨乳女「出すなとそう言ったはずだ」

男「だけどッ」

巨乳女「これは私達の宿命だ」

男「……」

巨乳女「一切関係がないお前に、宿敵といえど、師の首を渡したくはない」

男「……」

巨乳女「……これ」

男「?」

巨乳女「この上着……私の目が覚めたときかけられていたこれは」

男「俺のだな」

巨乳女「きさま……」

巨乳女「どういうつもりだ?」

巨乳女「こともあろうに敗者である私に情けをかけたのか」


巨乳女「と……言いたいところだが」

男「……」

巨乳女「……っ」キュッ

男「……」

巨乳女「や、優しくされるのは案外……悪くない」

男「巨乳女……」

巨乳女「礼は言わん。私はあの結果に納得していない」

男「ああ」

巨乳女「もう一度手合わせしてもらう」

巨乳女「【コイツ】を倒したら……その次はお前にリベンジする」

巨乳女「この上着はお前に勝って返す」

巨乳女「それが私なりの借りの返し方だ」

男「あはは、正直再戦はごめんだが……待ってるよ」

ザッ……

【……】

巨乳女「……」

【この俺が】

巨乳女「どうした」

【前哨戦扱いか】

巨乳女「そうだ。不満足か?」

【不満はないが満足感もない。不感症だからな】

巨乳女「安心するがいい」

【安心感もない】

巨乳女「違う」

巨乳女「【貴様】が今から覚えるのは無力感と敗北感」

巨乳女「その2つだ」

【2つも……】

デブ男「や……」

ガバッッ

デブ男「やってやるッ……!! やってわるわよッ!!」

巨乳女「デブ男……」

友(フラつきのダメージからもう回復したか)

デブ男「もう、こりごりだったわ、ええ……!!」

デブ男「【あんた】の滅茶苦茶なやり方にはッ!!」

デブ男「私も一緒に戦うわ巨乳女ちゃんッ……!!」

根暗女「……」

根暗女「……わっ」

根暗女「私も……! 私もッ、戦う……!!」

巨乳女「根暗女……」

根暗女「私だって……ぶ、武術家の端くれ……!!」

根暗女「いつまでも逃げ腰でいられないから……いたくないからッ……!!」

【もういいか?】

巨乳女「待たせたな……」タユン

デブ男「ッ……」ジリッ

根暗女「……」レロン

【そんなには待ってない】


巨乳女「【貴様】にあえて礼を言おう」

【礼?】

巨乳女「私達がここまで強くなれたのは【貴様】が恐ろしかったから」

巨乳女「【貴様】への恐怖がッ」

巨乳女「【貴様】を討ち取るまでの武力をくれたのだッッ!!!!」

【そうか。早く来い】

巨乳女「我が名は巨乳女!! 流派は『魔乳護身術』!!」

タユンッッ

根暗女「我が名は根暗女……流派は『舌拳』……!!」

ベロンッッ

デブ男「我が名はデブ男ッ、流派は『緊縛拳法』!!」

ムキムキィッッ

【……】

巨乳女「いざ推して参らんッッ!!!!」

ゴォォォォォッッ!!!!

根暗女「舌拳奥義『口淫矢の如し』ッッ…………!!!!」バッッ!!


シュンシュンシュンシュンシュンッッッ!!!!


デブ男「緊縛拳法奥義『強制緊縛・龍縛葬』ッッ!!!!!!!」ズアッッ!!


ゴォォォォォッッ!!!!


巨乳女「うおおおおおおおおッッ!!!!」バインッッ!!!!!


バインバインバインバインバインッッ!!!!!!!!



【……】

【……】

【……】




【俺の】


【俺の名は無い】


巨乳女。根暗女。デブ男。
まさしく三位一体、それぞれが一世一代に放つ、全身全霊。
文字通り命をかけた総攻撃。

それらを目前にして得体のしれない【男】は初めて構えた。
脱力させた手のひらをくにゃりと前に突き出し、もう片方の手は顎の位置に控えさせる。

冷えた視線の目つきも変えず、呼吸を整える。
息を小さく吐いて大きく吸う。繰り返す。
敵の攻撃がすぐ目の前に迫ってきていても焦燥感も危機感もない。

何も感じない。
己が磨きあげた弟子たちが強くなり、最も望ましい形で自らに挑んできている。
そんな状況に充実感もなければ不足感も覚えない。
【男】を動かすのは感情ではない。
体に染み付いた武の欲求。

全身の内功を、つきだした右手のひらへ集中させていく。


【我が流派は『不甲掌拳(ふかんしょうけん)』】

巨乳女「はああああああッッ!!!」

ボインッッッ

【ふんッ】



肥大化、硬質化させた巨乳女の乳房と【男】の右手の平が衝突した。



男(終わった……)

巨乳女と先ほど激戦を繰り広げた男は、疑いなくそう思った。
あの乳房はあらゆる物体を跳ね返す。そして巨乳女は高速移動によって【男】へと突進した。
この時相手の運動エネルギーは問題ではない。
愚かにも真正面から鉄壁の乳房にぶつかった【男】の手のひらは、巨乳女が突進してきた速度の倍以上の衝撃で、反対方向に跳ね返される。
少なくとも手首の骨折は免れないだろう。


巨乳女「ッッ……」

【……】


男は――――そう思っていた。

【失格だ】

巨乳女「――――ッ……」

【衝撃を跳ね返すのがお前の技だろう】

巨乳女「……」

【俺の掌底は外部からの衝撃で攻撃するわけじゃない】

巨乳女「……」

【勁を流し込み内部から破壊する】

巨乳女「……き……さ」


右掌が触れているのは左乳房だった。
【男】の内部で練り上げられた内功は右掌を辿って、接触する巨乳女へと伝わる。
そこから強烈な気功が波紋のように広がり、巨乳女の内部を駆け巡っていく。

放たれた勁はやがてそれを突き刺す。
皮膚を通りぬけ、筋肉を通りぬけ、骨を通りぬけ、直接、それを突き刺す。

右掌が触れているのは左乳房だった。


【不甲掌】

バックンッッッ!!!!


巨乳女「ッッ……ごふッ!!!!」


男「え――――」


【不甲掌拳はたとえ相手が鎧に身を包んでいようと関係ない】

【人体内部で練り上げた内功を掌底の発勁で送り込み】

【直接敵の内蔵を破壊する武術】

【甲(よろい)を不(うちけす)拳】

【それが不甲掌拳】


巨乳女「っ…………」ゴポッッ


巨乳女の脳裏を今までの自分の人生がフラッシュバックする。
厳しい鍛錬の数々。
師匠である親を早くに亡くし、残された秘伝書だけを頼りに『魔乳護身術』を磨いてきた事。

【あの人】に拾われた日の事。

くぐってきた修羅場の光景。絶体絶命の状況を打破した経験。
孤独だった少女時代。
デブ男、根暗女、美少女と共に繰り返した修行の日々。

最後に頭に思い浮かんだのはつい先程の事だった。


巨乳女「っ、っ……」パクパク

男「っ――」

巨乳女「っ、っ……っ」


離れた場所からこちらを見守る男に向かって、巨乳女は何かを喋りかけた。
声はでていなかった。ただ口を動かした。

巨乳女の顔は苦痛に歪んでおらず、場違いなほど、安らかなものに見えた。

【お前の仕事がまだある】グイッ

巨乳女「っ」


根暗女「あッ……!!」

デブ男「待っ……!!!!」


【男】はダランと力のぬけた巨乳女の乳房をそのまま鷲掴みにして、自分の前にかまえてみせた。
根暗女とデブ男にはもう攻撃を止める事はできない。
士気を鼓舞して先陣を切った巨乳女に続いて2人が放った一世一代、全身全霊の一撃は、その巨乳女の背中に命中した。


巨乳女「ッ―――――」ビクンッッ


巨乳女は最早うめき声もあげなかった。
ただその豊満な肉体を、人形のように大きくしならせ、血飛沫を吹き上げた。
【男】は皮肉を言うつもりもなく何の感情もこめないままでぼそりと呟いた。


【盾になれたな。背中でも】

男「ッッ……巨乳女……」

友「殺しッ……」

美少女「うッ……!!」


【来い。次だ】


デブ男「オッ……」

デブ男「おおッ……」

デブ男「おぉぉおぉぉ……!!」

デブ男「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

デブ男「よくも!!!!!」

デブ男「うわぁああああああ!!! よくもよくもよくもおおおおッッ!!!!」

デブ男「緊縛拳法ォォォォォォォォ!!!!」


バシュッッッ!!!!!!

ギュルルルルッ

ギチチィッ……!!

デブ男「捕らえたぁぁぁッッ!!」

【それでどうした】バッ

ダッダッダッダッッ!!

デブ男「はっ――!?」

デブ男「なんでッ」

デブ男「何故俺の荒縄が巻き付いているのに動けるッッ!!??」

デブ男「人体の経絡を縛っているのに!!!!!」

デブ男「走る力など湧き出ないはずなのにぃッッ!!!!!!」

デブ男「何故こっちへ向かって来れるゥゥゥ!!!???」

ダッダッダッダッッッ!!

【お前の『緊縛拳法』と俺の『不甲掌拳』は近い位置にある】

【双方がともに中国拳法をルーツとし、練功法に重点を置いた武術。人体の経絡を道具で刺激することで気を操作するのがお前の武術だが】

【俺は道具など必要ない】

バッッッ

デブ男「ッッ……」

【道具などなくても自らの内功を完全にコントロール出来る。外部からの干渉は関係ない】

【不干渉で、全身の肉体強化の経絡を、触れることなく刺激できる】

【お前とは練度が違う】

デブ男「ッ――――」

【失格】

根暗女「させないッッ…………!!」

ビュルルルルッッ

ガシッッッ!!!!


根暗女の打ち出した舌は難なく片手で掴み取られた。
高速で跳んでくる鋭利な刃を、まるで野球ボールをキャッチするかのように容易く。


根暗女「ッ……ぁっ」

【たとえ実力に倍の開きがあってもリーチの差は大きい】グググググ……

【なくそう】


ぶちぶちぶちっ。


筋肉が力ずくで引きちぎられる耳障りな音がした。
廃マンションの一室を断末魔が揺らす。
【男】は無表情で、手に握ったそれを床に投げ捨てた。

べちゃっという音と一緒に血が跳ねた。


根暗女「アァアッ、あがあぁあ……ああぁぁぁあ……」ボタボタ

根暗女「あああああ、あぁっ、あぁああぁぁ!」

根暗女「あぁぁっ……あああぁぁぁああぁ……!!」


デブ男「根暗女ッ……根暗女ッ、あぁぁ」

【そんなに悲しいか】

デブ男「はッ……!!?」

【不甲掌】

狼狽するデブ男の右頭部を【男】の左掌底が強く打った。
小気味いい音がパンとはじける。
【男】の内功がデブ男の頭部の奥を、駆け巡っていく。

それを見ていた美少女は思わず目を背けた。
想像したくもない光景が、目の前で広がっていると思ったから。
デブ男や根暗女と特別仲良くしていたわけではなかった。
だが、見慣れた人間の姿が崩れていくのを直視する事が出来なかった。



デブ男「あ……」



美少女(ッ……え?)

美少女(なんで……無傷?)

美少女(巨乳女さんは心臓を直接破壊され、口から大量の血を吹いた)

美少女(デブ男さんは頭を打たれて……)

美少女(脳を破壊されたのでは……なんで鼻血すら流れてない……?)


デブ男「あ……根暗女」


根暗女「はがっ、へふおほほ……あぁっ……」

根暗女「へふほほぉぉ……」ボタボタ


デブ男「舌がない……」

デブ男「根暗女の……舌がない」

デブ男「舌……舌がないわ」


美少女「……ッ?」


デブ男「あ……」

【攻撃したのは】

デブ男「攻撃……」

【脳の右半球】

【とりわけ情動を司る回路】

デブ男「そ……」

【仲間が痛い目にあっても悲壮感を覚えないだろう】

デブ男「かなしみ……」

デブ男「……」

デブ男「かな……しみ………」


【お前も不感症になったな】


デブ男「……あぁ……」


デブ男の顎からヨダレが滴り落ちていく。




【最後か】

根暗女「あっ、あがっ……ああぁぁぁ……」

根暗女「ああ、ああああ、あぁぁぁ」

根暗女「あぁぁぁぁあぁ……」


【舌のない舌使い。もう半分死んでるようなものだが】

【でもとりあえずキッカリ殺しておこう】

スタスタ……


根暗女(こないでッ……こないでッ)

根暗女(こないでッ! こないでッ!!)

根暗女(こっちに来ないで……!!)

【もうあがかないのか】

スタスタ

根暗女(おねがい……おねがいだからこっちに来ないで)

【あがく事もできないのか】

スタスタ

根暗女(こないで……たすけて……こないで……)

【完全に武術家として死んでいる】

スタスタ

根暗女「はふへへ……はふへへっ、は、はふへへ……」ボタボタ

【俺は日本語以外は聞き取れない】

根暗女「ほへはいひはふ……」

【うん】

根暗女「はふへへふははい……」

【ダメ】

ザッ

根暗女「っ……」

【……】

【何故だ】

男「そこまでだ」

【お前は何故立ちはだかる】

男「二度言わせるな。目の前で人殺しはさせない」

【巨乳女は死んだぞ。デブ男の脳ももう修復不可能だ】

男「あいつは手を出すなと言った。武人同士の決闘だから俺は見守る気だった」

【じゃあ何で】

男「こいつにもう戦う意志はない」

【ないのか?】チラッ

根暗女「っ、ひっ……ひぃっ」ブルブル

【ああ見えてまだやる気かもしれない】

男「テメエふざけるのもたいがいにしろ……」

【武術家同士、それも陰の武術家同士の戦いだ】

男「だからなんだ」

【嘘泣きをして命乞いして戦意喪失したフリをするというのは常套手段の戦法】

男「どっちにしてもこいつにもう武器はないんだぞ」

根暗女「っ……っ」

ボタボタ

男「お前が舌を引きちぎったから……仮にこれが演技だとしても……お前は足のないキックボクサーに負けるのか?」

【どうだろうか】

男「お前のそれは武力じゃなく暴力だ」

【なんだそれは?】

男「俺の親友の言葉だよ」

【連れて来い。それを殺してお前を矯正する】

男「ッ……もう……」







男「テメーと交わす言葉はねえッッ……!」

男「陰茎術秘技ッ……!」ジャキッッ

【……】ピク

美少女「男さん!!」




男「『勃ち鼎』ッッ!!」


ボッッッッッッ!!!!


【……これだ】


ガシィィィッ!!


男「ぐッ……!!」

男(掴まれた……!!)

ギリギリギリ……!!

男「くぅぅぅぅ……!!」

【お前の父親と戦った時】

男「っ……!」

【何かを感じかけた】

ギリギリギリ

ググッ……グググググッ……

【俺にとってその感覚は遥かに高い壁の向こうにあるもの】

男(なんて怪力だ……こいつッ)

男(びくともしない……!!)

男(ちくしょうッ……ちくしょう……!!!!)

グググググググッッ……

【結局お前の父親との戦いではその壁の向こう側にはたどり着けなかったが】

【逞しい陰茎だな】

【お前なら俺を連れて行ってくれるのか】

男「おおおおおお『流鏑馬』ッッ!!!!」

【それじゃ感じない】



バババババババッ!!!



美少女(陰茎の高速連打を素手で全部さばいている……)

友(ありえない……!!)

男「くっ……あぁぁぁあ!!」

バババババババッ!!

【壁の向こう側に連れて行ってくれる相手を探しているだけなんだ】

バババババババッ!!

男「1人でやってろこの変態インポ野郎……!」

【……】ババッ!!

男(こいつ……怪力だけじゃない!!)

男(同じ防御にしても)

男(巨乳女のように超人的な反射神経とは違う……!)

バババババババッ!!

男(読みきっている)

男(次の攻撃、次の次の攻撃、そのまた次の攻撃を)

男(事前に読みきってさばいている)

バババババババッ!!

男(相当な場数を踏んできた経験則から来るものだ)

男(簡単に出来る事じゃないというのは確かだが)

【……】

バババババババッ!!

男(構えを崩さず、急所を守り、最低限の接触で敵の攻撃をいなす)

男(珍プレー好プレーが続いたこの連戦の中において)

男(こいつが最も単純な格闘スタイルをとっている)

高速の連打を繰り出す陰茎術秘技『流鏑馬』。
その打撃の雨嵐の中でも【男】の表情は一切の変化がない。
うつろな視線は男と目を合わせたまま離さず、全ての攻撃を両手で受け流している。
それは鋭く突き出た陰茎が【男】の手のひらにあたった瞬間に起きた。


【発勁】

パァンッッ!!!!


男「ッッ……!?」グラッ

体勢を崩した。
高速連打の中、軽く触れられただけなのにも関わらず、陰茎は張り手をくらったかのようにガクッと横にそれた。
男が体勢を持ち直すよりも早く【男】は地面を蹴り飛ばし、懐に詰め寄る。


【男】の右掌が今まさに自分の左胸に触れようとしているその瞬間、巨乳女の姿が頭をよぎった。

男(こいつの手に触れられたら終わる――)

上体を左側にねじった。
【男】の右掌から1センチでも自分の左胸を遠ざけるため。
右足を軸に左足を後ろに引き、瞬時に右肩を前に出し、左半身をその後ろに隠すように引っ込める。
空を切った【男】の右掌を、自らの右掌底ではねのけた。

男(さばい――)

突如、腹部に稲妻がかける。

男(たッ――)

防御不可能の右掌ばかり警戒していた男は、下から迫り来る【男】の左膝に意識が向かなかった。
重たい膝蹴りが、男のアバラの隙間に突き刺さっていた。
内蔵を破壊する勁こそ流し込まれなかったが、たとえ間に肉を挟んでいても、肝臓への膝蹴りは生易しいものではない。

距離をとらなければ。
蹲らせようと命令する脳からの危険信号を無視して、男はバックステップを刻む。

【……】ダッッ

男(ッ……!!)

離れない。
男のバックステップに合わせて、全く同じ歩幅で【男】も前に進んだ。
2人の距離は一切離れない。

陰茎術は1メートル程の自らの陰茎を振って戦う武術。

その性質は素手の格闘技よりも、槍や棒術に似ている。
陰唇術などに比べれば遥かに近接戦闘向きではある。
だが完全な0距離での戦いなら陰茎術の分が悪いという事を2人が共に知っていた。


男(くそッ!)

バッ!!

【……】

バッ!!

バババッ!! ガガッ!!

男(攻めこまれている……!!)

【……】ババッ

男(陰茎で攻撃する暇がないッ……掌底をさばく事をやめた瞬間負ける!)バッ

【……】ババババッ

男(こ、こいつ!!)ガガッッ

男(陰茎術を特別視してる割に得意技をつかわせねえつもりか)

男(上等じゃねぇかッ)

男(正統派の戦法をとってくる奴には)

男(奇手で迎え撃つ!!)

男(勃起も肥大化もさせない最小サイズまで陰茎を萎縮させるッ)

【……】シュバッ

ガッ ガガガッ

男「ぐッ……!!」ババッ

男(そして……!!)

男(尿道を、敵めがけてじゃなく……地面に向けたままにして)

男「陰茎術秘技『乱れ牡丹』ッ!」

ドピュッッ!!!!

何年も使われていない廃マンションの床は、高水圧の精液が着弾した衝撃でガシャンと砕ける。
穴こそ開かないものの、亀裂が走って瓦礫がめくれ上がった。
予期せぬ足場の不安定化は【男】の無駄のない体運びに水を差し、リズムを狂わせる。

【あ】グラッ

男(そこだッッ……!!)

男の陰茎が瞬時に突出した。
その方向はまたしても敵めがけてではない。
【男】の両足の間をするりと抜けて、陰茎は【男】の向こう側の地面に突き刺さる。


男「陰茎術秘技『松葉くずし』」

それはまるでコンパスのような動きをしている。
敵の股下を抜いて向こう側に突き刺さった陰茎は、地面に固定して軸となる針の役目を果たす。

姿勢をかがめ、右足で地面を蹴り飛ばし、陰茎に全体重を預けることで、男は時計回りの半円を描いて移動した。

『松葉くずし』とは、相手の股下に通した陰茎を軸に、自身が素早く半円移動する事によって、相手の右足を陰茎で刈り上げつつ同時に背後をとる、陰茎術秘伝の足払いである。

だが【男】は右足を上げて難なくこれをかわす。

陰茎術秘伝の奇手も読まれていた。



男(問題ない)

足払いこそ通じなかったが問題ない。
むしろ男もそれを読んでいた。
こいつなら避けるだろうという確信すらあった。

男(この位置が欲しかった)

敵と1メートル程の間合いがある上に背後という絶好の位置。

『松葉くずし』の際、地面に突き刺した陰茎を抜き放つ。
【男】が振り向く。
それとほぼ同時に、即座に陰茎を前へ突き出し、また股下に通した。

男「もう一度だッ『松葉くずし』!!」

出す気のない技の名を力いっぱい叫んだ。
今度は地面に突き刺すことはしない。
股下からそのまま切り上げる。
その先は人体の急所である金的。

一度目の『松葉くずし』を避ける際にあげた右足を【男】はまだ地面につけていない。
【男】はハッタリには引っかからなかった。
そう来るだろうなと言わんばかりに、金的を防ぐため、上げたままの右足の裏を急上昇する陰茎に向けて勢い良く振り下ろした。

自然な発想だった。

男はそれを見た時、心の中でこう呟いた。

かかった。

【男】の振り下ろした右足と、男の切り上げた陰茎が、衝突する直前だった。
陰茎がわずかに収縮したのだ。
振り上げる勢いは一切変えぬまま20センチほどその長さだけを縮ませた。
【男】の振り下ろした右足と、男の切り上げた陰茎は、衝突する事をやめた。

お互いの勢いは止まっていない。
片一方は来るはずの衝撃が急に無くなったから。右足は陰茎と紙一重にすれ違い、地面を踏み砕いた。
片一方はその先の技を放つため。
長さが足りない陰茎は右足と交差し、金的を素通りし、速度を落とさず上へと跳ね上がる。

陰茎が【男】の頭部を見下ろす最上段まで届いた時。
収縮した陰茎は元の長さに戻った。標的に届く長さを取り戻した。
そして切り返す。
一瞬のうちに急降下する。

男(ある部位を打つと見せかけて空振りし)

男(切り返した陰茎で別の部位を打つ)

男(敵の意表をついて本命をとらえる)

その技を陰茎術一族が使い始めたのは江戸時代初期まで遡る。

岩流佐々木小次郎が編み出した画期的な剣法を、陰茎術が取り入れ、独自に変化させた二段攻撃。




男「陰茎術奥義『燕返し』」

ゴガッッッ!!!!!


【かッ……】


鉄の塊のように硬く太くいきり立つ陰茎がその【男】の頭部に炸裂した。
血液の雫が2,3滴、男の頬に飛び散った。
2人の『男』は視線を切らない。
目を合わせたまま【男】は徐々に視線を上げていき、男は徐々に視線を下げていく。
やがてガシャンと音がする。
それは足元のひび割れた瓦礫に、【男】が両膝をついた音だった。

友「入った……」

美少女「男さんッ!!」



男「ふぅぅぅ……」

【……】

男「っ……」ズキン

【……】

男「ふぅ……ふぅ……っはぁ」

男「はぁっ、はぁっ、はぁ……!!」

男(必殺技……)

男(武術家は軽々しく『必殺技』などとは曰わない)

男(放てば……当たれば)

男(確実に……間違いなく)

男(『必』ず)

男(『殺』す)

男(『技』など……)

男(そう多くは存在しないし……そう簡単に口に出来るものじゃない)

【……】

男(だがこいつは違う)

男(1手1手が必殺……ほんとうの意味での必殺技)

男(『死』そのものが……ジャブのように軽々しく連発される)

男(精神力が……この戦い)

男(長引けば精神力がもたない……)

【何故だ】

男「……」

【何故……攻撃の手を休めるんだ】

男「……」

【膝をついた俺の頭部は今……お前の股間と同じ高さにあるのに】

男「立ち上がれ」

【何故追撃しない】

男「いいから立ち上がれ」

【何故だ……】

男「……」

【もっと……もっと傷めつけてくれ】

【こんなものじゃ足りない】

【もっとだ、俺に有無を言わせず、もっと】

【よこせ……】

【絶望感を】

【無力感を……】

【挫折感】

【敗北感を】

【不幸感を……屈辱感を】

【……俺が】

【生きているという】スッ


男(来る……!!)


【多幸感をよこせッ……】バンッ

膝をつく【男】がその両の手も地面に叩きつけた。
惨めなものだった。
とても武術家のとるポーズではなかった。

しかし、まるで土下座のようなその構えから、その技は放たれる。
降伏を象徴する姿勢から、『不甲掌拳』の殺意は暴れだす。



【不甲双掌烈波】



ドンッッ!!!!!!

男「――――ッ」

友「ぅわッッ!!」

美少女「きゃあっ!!」

その場にいたもの全員が、技の影響を受けた。
足場がぐらつく。
直下型の地震のような振動を感じた。

廃マンションのその一室、床全体がひび割れて砕け、凄まじい轟音と共に【男】の手によって崩壊を始めたのだ。

ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!!
バキバキバキッ……!!
ベキャッ!! ズゴゴゴゴ……!!


男(馬鹿なッッ!!!!)

【お前はさっき陰茎術の技で足元を砕いてみせたが】

【足場を砕くとは】

【俺ならこうやる】

男(床全体を破壊するだとッ……)


ガラガラッッ……!!

友「部屋全体が崩れていくッ!? うわッ!?」

グラッ……

美少女「友さん危ないッ!!」ガシッ

友「す、すまねえ……!!」


ガラガラガラガラッ……!!

ビキビキビキッ!!


友「ッ……」

コンクリートの床が砕けて落ちていく。
美少女に肩をかされて避難しようとする途中、友は、壁にまで走る亀裂を見た。
何年も使われておらず老朽化した廃マンションは、【男】によって受けたダメージを床だけにおさめる耐久性はなかった。

友「く、崩れるぞ……!」

美少女「えっ!?」

友「男ぉ!! 一旦離れろ!!」

男「……」

友「建物全体が崩れる!! 崩壊に巻き込まれちまうよ!!」


男(悪いな友……避難させてくれそうにない)

【お前が後ろを振り向いた瞬間に不甲掌を打ちこんで殺す】

男「発勁を床全体に流して……こんな事まで出来るのか……」


ゴゴゴッ……ビシビシ……

友「男ォォ!!」

男「お前らは先に避難しろ!! 俺も追いつく!!」

友「ッ……そんなッ」

美少女「友さんッ!!」グイッ

友「いやだッ……!!」

美少女「もう私達がどうにか出来る状況じゃありません!!」

ガラガラガラッ!!

友「ッ!!」

美少女「はやく!!!」

友「くそ……くそッ!!」

美少女「ッ……」

美少女(こんな技は今まで見たことがなかった)

美少女(【あの人】は私達の前でも実力を隠して振舞っていた)

美少女(その実力が今……男さん1人に向けられている……)

美少女(男さん……どうかご無事でッ!!)

ガラガラッッ……!!

メキキッ……ベキベキッ……

グラグラ……ビキキ……


【……】スッ

【男】がゆらりと立ち上がる。
自分の足場も安全ではない。今にも崩れ落ちそうにコンクリートがビキビキと悲鳴をあげているのだ。
それをものともせずに構えをとる。
その無表情さは、建物が崩れゆく周囲の背景とあまりにも場違いで、コラージュ写真のような違和感がある。

男「……」スッ

友や美少女が避難したのを、背中で感じ取りながら、男も構えた。
良かった。
戦闘の最中に、彼女らの安否を確認して気がそれるのは危険すぎる。
ただでさえこの戦いは精神力を著しく擦り減らす。
今は目の前の標的だけに集中する必要がある。


【強さとは全てを総括した評価であると俺は思う】

男「……」

【多対一を可能にする狡猾さと人脈も強さ、倒れた相手を容赦なく踏み殺す非情さも強さ】

【自分に有利な戦場をつくる事も強さだ】

男「それは自画自賛か?」

【今この状況じゃない。お前の父親と戦った時の話をしている】

男「……何?」

【陰茎術は陰の武術……】

男「……」

【人前に晒すことは出来ないし……今の時代……晒せば失うものもある】

男「……」

【特にお前の父親には守るべきものが多かった】

男「……」

【世間体。表で生きるための社会的地位。代々続く自身の流派を絶えないようにという願い】

男「……」

【それらは全てお前という息子の存在のためだ】

男「……」

【それを守るためお前の父親は頑なだった。公共の場で陰茎術を晒そうとはしなかった】

【そこを狙った】

【陰茎術伝承者が生き残っているという事実を知った時】

【お前の父親を発見した時】

【ただちに決闘を挑んでも……奴は戦おうとしないだろう】

【公共の場だった】

【周りには家族連れがたくさんいた】

【俺は】

【近くにいた】

【手頃な人間を殺した】

男「……」

【お前と同じ年くらいの高校生だった】

【奴は向かってきた】

【衆人環視の中だ……自らの秘術を満足に使うことも出来ないのに】

【そしてお前の父親は俺と戦い、あっけなく敗れた】


男(お前のやりたい事はわかってる)

男(挑発したいんだろ)

男(お前はさっきフェイントの二度がけにまんまとかかった)

男(親父を侮辱するような話をして俺を逆上させ、攻撃の軌道を短絡化させたいんだ)

男(お前にとってそのほうが読みやすいからな)

男(馬鹿野郎が……)

ゴゴゴゴゴ……
メキメキ……ガラガラ……

男「ふふ……卑怯者とは言わないけどな」

男「強者を求める戦闘狂のような口ぶりをしているくせに」

男「やっている事は案外搦め手ばかりなんだな」

【実戦ではそれらを含めて全力だ】

【お前の父親が俺との戦いで全力を出しきれなかったのは弱さだ】

【俺と比べて武への信念に劣ったからだ】


男(乗らない)

男は平静を保っていた。
いや、平静を保っているつもりだった。
冷静に状況を分析しているつもりでいた。

【お前の父親はあらゆる点で甘かった】

男(安い挑発には乗らない)

事実その構えに隙はない。
話の最中、唐突に【男】が不意打ちをしかけてきても、冷静に捌ける自信があった。
全神経は目の前の【男】に集中していた。
【男】の眼光から呼吸音、指先のピクリとした動きまで何一つ見逃さない。


だがそれこそが【男】の狙い通りだったのだ。


戦いの最中に長話を持ちかけたのは、挑発のためだけではない。
時間稼ぎのため。
刻一刻と2人を取り巻く周囲の状況は変化している。
天井から降り注ぐ小さな瓦礫、1人でに崩れ落ちて大穴を開ける壁面。

そして足元。

(ミシミシ……)

男の足元の床が小さく軋んでいる。
小さなヒビは枝分かれに枝分かれを重ねて、やがて大きな亀裂となっていく。

それは男の足場も程なくして崩壊するという確かな予兆。

しかし男の全神経は目の前の標的に集中している。
足元の変化に気付かない。
どんな方向から攻撃が来ても対処できるように、標的から一切意識を逸らさない。

【男】が挑発をしかけたのは、足場が崩れるまでの時間稼ぎと、もう一つ意味がある。
男の意識を自身に集中させること。
1手ごとの必殺を持つ敵を目の前にして、男の精神力はスポーツ選手が稀に達するゾーンの域に達していた。
周囲の音が一切耳に入らない状態だった。

【男】はそれだけでは不十分と考えた。
廃屋が崩壊する原因を作った大技『不甲双掌烈波』を繰り出した後、男の足場の状況に気付いた時、いかにその場から離れさせないかを思

考した。
そして長話を仕掛けた。自分の言葉に集中させるため。
挑発には乗らないと考えて、目の前の敵に集中するという行為こそが【男】の術中だった。
亀裂が亀裂を生み、床のコンクリートが支えを無くし、その時はやってくる。


【武術家は儚い】

男「その台詞はもう――」

【落ちるぞ】

ガラガラッッ……!!

男(ッッ――――?)グラッ

男(なにが)

男(起きて――)

【不甲掌】

その隙をめがけて【男】は踏み込み、繰り出した。

男(とんでくる)

『必殺』がとんでくる。

かわさなければ。
足に力が入らない。何故だ。
片足の先に地面がない。
崩れ落ちている。

男(やられたッ――――)

瞬間的に【男】の意図を理解した。
その時にはもう遅い。
避ける時間はない。一度重心を失った姿勢はすぐに元には戻らない。
目の前に迫る『必殺』を前にして、あろうことか自分の体は転ぼうとしているのだ。

――――避ける時間はない。

パァンッッ!!!!



男「ッ……」



男は寸前で防いでみせた。
内蔵を破壊する右掌底をぎりぎりで防ぐことが出来たのは、巨乳女とデブ男の最後を見ていたから。
【男】が動いた瞬間にはもう、どこを攻撃されるかの予想がついていたから。

だが重心を失った体では、前のように上体をねじって体運びで回避する事は不可能だ。

不意に足場が崩れ、目の前に『必殺』が迫る状況の中で男がとったのは、瞬時に頭の前に左腕を構え、左胸の前に右腕を置く事。
【男】の右掌底は予想通り、自分の左胸に伸びた。
だから、心臓を破裂させられるという最悪のダメージを回避できた。

『不甲掌拳』は防御不可能の攻撃。
苦肉の策だが、この状況ではこうする他なかった。
これが最善の策だった。


【右腕を捨てたか】



男「あがぁッ……!!」

掌底を正面から受け止めた男の右腕は、針を刺された水風船のように割れた。

ガラガラガラッ!!
ベキベキッ……ガシャンッ……!!


男(足場が完全に砕けたッ!!)


ガラガラッ……!


男(落ちるッ……!)

男(いやッ)

男(落ちていい……)

男(こいつから離れられるなら……!!)

男(一度距離をとるべきだッ……!!)


血管や筋肉を破壊され、裂けた皮膚から血液を吹き出す右腕を抱えながら、男は瓦礫と共に落下した。

ガシャンッッ……!!



男「がっはッぁ……!!」



男「ハァッ……ハァッ」

男「ハァッ……!」

男「さっきまでいたフロアは4階……」

男「ここは……3階か」

男「あいつは……ッ」

上を見上げたが、天井に空いた穴から【男】の姿は見えない。

男「ッ……」

男「ハァッ、はぁっ……はぁッ」

男「右腕……ちくしょう……!」

男「動かない事はないか……はぁっ、ハァ……やりやがって……」

ガラガラ……


男「ハァ……ハァ」

男「ハァ……」

男(血液を失うのはまずい……止血しないと)

男(陰茎の硬度を維持できなくなる)

男(だが……どうする)

男(……あ)

男(あれは……)

男(巨乳女……)

巨乳女「」

男(お前も……足場が崩れてここまで落ちてきていたのか)

男(巨乳女)

男(お前は【あいつ】には勝てなかったけど……借りは返してもらうよ)

男(貸した上着……もらってくな)グイッ

グルグル……ギュッ

男「うッ……」ズキン

男(止血はッ……出来た)

男(痛みがひくわけじゃないが)

男(こうなったら持久戦も覚悟するべきだ)

男(精神力も……体ももう限界だが)

男(それは退く理由にならない)

男(友が俺を守るため立ち向かったように)

男(巨乳女達が自らの信念のために戦ったように)

男(俺は【お前】を倒す)

ガラガラ……
ピシッ……メキメキ……

男(降りてこい『不甲掌拳』)

男(ここが決戦場だ)

ミシシッ……
ガラガラ……パラパラ……
メキメキ……


【……】

【……】

【……】スタスタ


男が落ちた床の大穴から、自分も降りようとは思わなかった。
待ち構えているのは明らかだと思ったから。
飛び降りて、落下している最中に攻撃を受けたら対処は難しい。
陰茎術には遠距離射撃技『乱れ牡丹』もある。

【男】は徐々に崩壊していく終末的なフロアの中を、マイペースにふらふらと歩きながら、階下へ続く階段に向かった。

敵は連戦で疲労している。
深い傷も多い。右腕も破壊した。
もともと実力的にも経験的にも【自分】のリードは大きい。
だがまだ勝っていないのだ。

【男】は油断していない。慢心もない。
確実に殺すまでが決闘であると思っている。
それが例え一人歩きを覚えたばかりの子供相手であっても確実に殺す。それで勝利とする。
特に信念に燃えている若き武術家を相手取った場合、それ以外の決着はない。

【欠落感だ】

自分が唯一覚える感情。
何をしていても、どんな事をしていても、脳裏にこびりつく感情。
それ以外は空っぽであるのに、空っぽであるからこそ、欠落感だけは離れない。
階段へ向かいながら【男】は考えていた。

【俺は欠けている】

いつから感情を失ったのかはもう思い出せない。
古武術の鍛錬に傾向していた自身の父親との暮らしを思い出していた。
父の修行は厳しかった。血反吐を吐くまで毎日殴られた。
逃げ出すたびに足の爪を剥がされた。

反対に母は優しかった。
厳しい虐待を受けていても、母親のぬくもりが自分を救ってくれていた。
他者から唯一受けた愛情だった。

だがそんな優しかった母親は幼い頃に他界した。
学校から帰った時だった。
食卓で包丁を持ったまま倒れていた。
医師はその死因を『急性心筋梗塞による心破裂』であると診断した。

父は『母親の事は残念だが悔しければ強くなれ』と言った。
母親が病死でない事など知っていた。
何故なら自分が今教えられている武術が、外傷を与えずして内蔵を破壊する技だったから。

母親は自分を守るために父親に包丁を突きつけ、殺されたのだと思った。

【俺は欠けている】

それがいつからなのかは分からない。
最早それを知るすべはない。
昔の事など遠い記憶の彼方である。

母親が死んだ時からなのか。
父親に強制されて初めて人を殺した時からなのか。
はたまた自らの意志で人を傷つけた時。
もしくはその父親すらも殺した時か。

【俺は欠けている】

気付いた時には自らが持つものは武力だけになっていた。
それも最愛の母を殺した武術。
しかしもう悲しみを覚える事もない。
ああ、欠けてしまったんだなと他人事のように思った。
幼い頃から知っているのは他人の壊し方だけなのだ。
それしか教えられてこなかった
今となっての自分は、ただ戦う事を途方もなく繰り返す、感情の無い機械だ。

【俺は欠けている】

この果て無き欠落感を埋めるにはどうすればよいのか。
ずっと人間の交尾を思い描いていた。雌の欠けた部分に、雄の棒を差し込んで、ぴったりと塞ぐ光景を想像していた。
穴を塞がれた雌は満足そうに喘ぐのだ。
いつしか雌をよがらせる雄の姿を、陰茎術伝承者に重ねあわせていた。
鍛錬の途中に読み漁った古文書の中で、不甲掌拳が打ち破ったとされる陰茎術の、その風変わりな戦法は、自分と相まみえる相手として、不思議と最もシックリ来る相手のように感じた。

【陰茎術伝承者……お前がただ一人、俺の欠落を埋める】

男(降りてこない……)

男(警戒しているのか)

男(階段から降りてくるつもりか)

男(俺も移動……いや……いいか)

ガラガラガラ……
ピシピシッ……ガラガラ……
ズズズズ……

男(天井も足場もぐらついてる)

男(この建物はそう長くもたない)

男(のん気してる時間はないけど)

男(陰茎の疲労を回復できる時間は貴重だ)

男(俺はここでこのまま待つ……)

ドクン ドクン ドクン

男「ふぅ……ふぅ」

男(頻脈だ……脈拍数が増加している……アドレナリンのせいか)

男(連戦続きだったからな……冷や汗がとまらない)

男(今の時点で限界が近い)

男(既に体はぼろぼろだが意識はハッキリしている)

男(俺の『燕返し』も確実に【奴】の頭部をとらえた)

男(一撃だけだが……)

男(それでもほとんど衝撃が逸れずに直撃させた)

男(あの一撃はかなり効いたはず)

男(大きいダメージを与えてるんだ)

男(【あいつ】も元気なわけじゃない)

男(本当の限界まで気をぬくな)

男(一気に畳み掛けてやる……!)

ドゴォォォッッ!!!!


男「ッ……!」


その破壊音は大穴の下で構える男と正反対の場所で響いた。
フロア反対側の壁面が吹き飛び、瓦礫と共に【男】がフロア内に転がり込んでくる。
【男】は待ちぶせを警戒して階段を使うことをやめていた。床に空いた大穴も利用しなかった。
廃マンションの外壁を伝って4階から3階までを移動していたのだ。


男「来たか……!!」

【陰茎術ッ……】ダッッ


【男】は今までのふらふらとした足取りと打って変わって、全速力でこちらに走ってくる。


男(奴に遠距離攻撃はない!!)

男(近付くまでに少しでもダメージをッ……)

男「『乱れ牡丹』ッッ!!」

ギャグのつもりだったのに
殺人インポマン出すこと考えたらシリアスになってしまった……

【発勁ッ】

パァァァンッッ!!!
ビシャシャッッ……!!

高水圧の精液を掌底で弾き飛ばす。
走り来る勢いは一切変わらない。
男もそれに構うことなく連射した。

男「おおおおおおお『乱れ牡丹』ッ!!」

ドピュンッッッ!!

【発勁ッ】

パァァァンッ!!

男「もう一度だッ!!」

【発勁ッ……】

パァァァンッ!!!

男「もう一度ッ……!!」

【無駄だッッ】

パァァァンッ!!!!

『乱れ牡丹』による攻撃は足止めにすらならず、2人の距離が僅か5メートル程までに縮まった時、男は射撃する事をやめた。

男(距離がッ……)


【縮まったッ……】バッッ


男(ここから遠距離攻撃を続けることは危険だ)

男(至近距離の攻防に備える……!)

ジリッッ……

男(触れられたら即死――ではあるが)

男(奴の手のひらから毒針が伸びてるわけでも、魔法が使えるわけでもない)

男(『不甲掌拳』は太極拳の応用)

男(とすればその精密な内臓破壊も、筋群の連動から生まれる作用に過ぎない)

男(要するに)

男(その腕を骨折させれば【お前】の一撃必殺は封じられるという事……!)

男(問題はそれをどうやるかだッ)


【不甲掌ッ……】

男「ッ……」

必殺の掌底を放つべく突き迫る【男】の右手首に、男は左掌底を合わせて軌道を逸らした。
【男】は弾かれた右手を引かず、そのまま踏み込んで右肘打ちに移行する。
男も同じように、伸ばしたままの左腕の肘関節を上に向けて曲げ、お互いの肘鉄砲をぶつけ合う形でこの攻撃をいなした。

肘がぶつかり合うと同時に、自身の右脇腹にめがけて潜りこむように【男】の左掌底が迫っている。
男は上体を今度は右側にねじった。
左肘を突き上げて相手の右肘を跳ね上げながら、落としこむような右肘で【男】の左手首を打ち落とす。
先ほど破壊された男の右腕であるが、指先こそ動かないものの、肩と肘を稼働させるぶんの障害には至らなかった。

男(ここまではッ……)

【読み通りだ】

男(ここからッ)

男が即座に陰茎を突出させた。
それは【男】の鳩尾を狙った角度であったが、【男】は左前に体を倒してこれを躱した。
そのまま右膝が上がり、【男】の右中段蹴りが流水のように放たれる。

0距離の攻防の中ならばいつか来るであろうその中段蹴りを、男はあえて防御しない選択で読みを進めていた。
当然腹部への蹴りも警戒すべき危険な攻撃ではあるが、足技は一撃必殺の内臓破壊ではない。
この敵に関してはどうやっても、肉を切らして骨を断つという戦法を取らざるを得ない事は覚悟の上だった。

【男】が中段蹴りに移ったと同じく、男の左手は【男】の右手首を掴んでいた。

中段蹴りが腹筋をえぐる。

ズドッッッ!!!!

男「がふッッ……」

男(蹴り技の威力も並みじゃないッ)

男(呼吸がとまるッッ!!)

男(だがッ……)

ググッ……!!

男「ふぅっ……」

【……】

男「掴んだぞ……一撃必殺……!」

【片方が自由だが】

男「やってみろ……【お前】の動きは見切った」

【男】の右手首を自身の左手で抑えている。【男】は空いている左手からまだ『必殺技』を打てる。
自分の右手は動かない事はないが指は使えない。【男】の左手首を掴む事は出来ない。
最小の長さまで戻した陰茎の角度を上に向けた。

ハッタリが通じないことは知っている。『見切った』と言いのけたのは策略でも虚栄心でもなく、自身への鼓舞だった。
ここからは一瞬の選択が即死に繋がる。


男(この際もう右腕は完全に捨てる)

男(右腕はハリボテだ、奴の左掌底を防ぐための肉で出来たハリボテだ。筋肉が完全に剥げ落ちるまで働いてもらう)

男(痛みはあるが堪えるほかない)

男(奴の左掌底は、上段に来れば捨て身の右腕で止める)

男(中段下段は角度を上に向けた陰茎を突き上げてさばく)

男(この場所で戦うことが重要だ……移動させるな)


グググッ……ググッ


【最初からこの体勢を狙っていたのか】

男「へし折ってやる……お前の骨」

【反応速度の成長が著しいな】

男「感動したか?」

【感動はない。不感症だからな】

男「感じさせてやるよ」

【よく言った……だが】

【不甲掌】

【男】の左手がピクリと動く。
男は、それを見て即座に右手へ意識を集中させた。
この位置からなら上段、【男】の狙いは脳であると推測した。

男(来るッ――)

ズドンッッ!!!!

男(――――ッ!?)

しかし今度は【男】がハッタリを見せた。
防御不可能の掌底ではない。
先程見せた中段蹴りが再度、男の腹部に突き刺さっている。
強烈な悪寒と息苦しさに身をよじった。
体内で何かが逆流するのを感じた。

男「かッは……!!」

【俺の左掌底をさばくために、後手の防御にまわらなければならない】

男「あッッ……ぐッ」

【この体勢はお前にとってかえって悪手だ】

男「ッ……ッ……!!」ググッ

男(絶対に離すなッ……!)

男(死んでも奴の右手首を離すなッ!!)

ズドンッッ!!!!

男「がふッッ!!」

【何の意味がある】

ズドンッッ!!!!

男「あぎッッ……」

【掴んでいれば俺の手首を握りつぶせるのか?】

ズドンッッ!!!!

ズドンッッ!!!!

ズドンッッ!!!!

強烈な中段蹴りが、幾度も男の腹に炸裂している。
そのたびに全身をこわばらせる。
普段ならこちらも膝をあげて応戦する、もしくは得意の陰茎術で対応するが、攻撃に転じた途端に左掌底を向けられた場合、対処出来ない可能性がある。
それは渡るにはあまりにも危険すぎる橋。
肉を切らせて骨をたつ以前に、骨どころか心臓や脳を破壊されるのだから。

男(たえろッ……たえろッ……時間を稼げ!!)

【失望させるな】

ズドンッッ!!!!

男「ッッ……ごふッ」

ビチャチャッ……

【これがお前の全力か。お前の実力か】

男の吹いた血飛沫が顔を濡らしても、【男】の表情は変わらない。
その奥に何の意志も感じさせない目をうつろに見開いたまま、中段蹴りを続ける。

【失望させるな。陰茎術】

ズドンッッ!!!!

男「はッ……ァッ」

【失望させないでくれ】

ズドンッッ!!!!

男「がはああッ!!」

【お前は俺の欠落を埋めなければならないッ】

ズドンッッ!!!!

【……】

男「かはッ……けほ……」

【腕を掴んで離さないのは子供の抵抗か】

男「ッ……ハァ、ハァ」

【お前ならもっと他の戦法を思いつくだろ】

男「か……買いかぶりも……いいとこ」

ズドンッッ!!!!

男「ッッ――――!!」

【くだらない意地で死ぬ気か】

男「っ……ハァッ、はぁっ、げほッ!!」

【俺の右手首を離して次の策に移行しろ】

男「ハァ……ハァ……うっ」

【それとも】

男「ハァ……ハァ」

【天井の崩落を待っているのか】

男「ッ――――」

【お前はここから動こうとしなかった。距離を取らずに何故か、お前にとっては分の悪い0距離の攻防を受け入れた】

男「……!!」

【それはこの場所の天井が、お前が落ちた大穴付近だから】

男(バレてるじゃねえか……!!)

【先程崩れ落ちた場所だ】

【時間稼ぎをしていれば、周囲のコンクリート片が自然に崩落しても不思議ではない】

【それを狙っていたか】

男「……きづいてたのか」

【瓦礫など掌底で破壊できるがこの零距離なら確かにそれは隙になる】

グイッッ

男「ッッ……!!」

【男】が掴まれたままの右手を肩側に振りぬき、引き抜こうとした。

男(離すかッ……!!)ググッ

細身に見える【男】の肉体とは不釣り合いな程の怪力を感じたが、男は手首を離さない。
その時、ずっと動こうとしなかった【男】の左手が動いているのも把握していた。
5本の指をピンと伸ばし、掌底の構えをとったのが確かに見えていた。

男(ッ……)

男(違うッ……打ってこない)

男(この左掌底はフェイントだッ)

男(だがッ……!!)

例えフェイントだという確信があっても万が一に備えなければならない。
それが『必殺技』の恐ろしさ。防ぐためには徹底する必要がある。
男は右腕の脇を閉じた。肘で胸を守り手のひらで顔を守って掌底に備えた。そうするしかない。

読み通り男は左掌底を打たない。
放たれたのは頭突き。頭蓋骨と頭蓋骨の衝突。
男はそれでも身じろぎ1つしなかったが、次いで左足首に命中していた【男】の右下段蹴りで、自らの重心が簡単に揺らいでしまった事に気付く。

掴まれた右手を強く引き抜きながら【男】はバックステップを刻む。
男にはそれを踏ん張る重心はない。

出来る事は、掌底を警戒しながら【男】の後退に合わせて前進するだけ。


ザザァァッ……!!

男「ッ……」

【移動できたな】

男「くそ……くそッ……!」

【この位置なら天井はまだ安定している】

【不意に崩れることはない】

【技を仕掛けた俺だ。お前よりもどの場所が安定していて、どの場所が不安定かは把握している】

男「くそッ……」

【策はつきたのか】

男「巨乳女と戦った時も似たような手を使った……その時は成功したんだけどな」

【奴と同じ手が俺に通用すると思うとは】

ズドンッッ!!!!

男「ごぷ……ッ」

【俺を感じさせてくれるんじゃなかったのか】

ズドンッッ!!!!

男「ッ……」

男(体中の力が抜けていく)

男(【奴】の右手首を掴むこの左手だけは絶対に緩めない)

男(だが……限界が近い……)

男(陰茎さばきは……腹筋を酷使する)

男(幼いころより腹部を鍛えていた俺だからまだ立ってられるんだ)

男(同じダメージを胸部に食らっていたらとっくに倒れてる)

男(親父……)

男(腹筋トレーニングは地味だったから……俺はめんどくさがってた)

男(助けられてるよ……親父、親父ッ)

ズドンッッ

男「ッッ……」

【おい】

男「……」

ダラン

【この程度か】

男「う……」

【お前もこの程度なのか】

男(死ぬ)

男(死が目前に近づいている)

男(まだだ……こらえろ)

【陰茎術】

ズドンッッ

男「かふッ――」

男(視界がかすんでいく)

男(ぼやけて……思考に霧がかかる)

男(死……)

男(まだ手はある……)

ズドンッッ!!!!

男(ッ)

男(一瞬だけでいい)

男(一瞬でもお前に隙をつくる事ができたら反撃に出る)

男(だがこいつは、中段蹴りをやめようとはしない、このままじゃ)

ズドンッッ!!!!

男(ッ……)

男(壊された右腕……から血がしたたってる)

男(上着を巻きつけて止血してあるから……致死量の出血じゃないが)

男(血がもったいないな……)

男(上着に染みこんで……ビショビショに滴り落ちてる)

ズドンッッ!!!!

男(ッ……何を、考えてるッ)

男(だめだ、意識が……だめだ……意識を強くもて)

男(親父だ……親父は強かった)

男(間違いなく強かった)

男(修行をつけてくれている時、いつも俺を心配してくれていた)

男(決して強制された事などなかった)

男(応えたかった)

男(鍛え上げた自分の強さを誰かに見てもらいたかった)

男(例えそれが自らの恥部そのものであっても)

男(最近になって、陰茎術が恥ずかしく思う時期もあったが)

ズドンッッ

男(――――)

男(今の……俺に……恥はない)

男(親父がくれた陰茎術だ……)

男(誰よりも強い……この武術を……誇りに思う)

男(俺が……陰茎術を……最強に……)

男(す…………る……)

ズドンッッ!!!!


男「ッッ――――」ガクンッ


【……俺は欠けている】

男「――」

【本来なら今は悲しみを覚えるべきなのだ】

男「――」

【だが悲しみはない。不感症だから】

男「――」

【陰茎術伝承者唯一最後の生き残りも今ここで死ぬ】

男「――」

【結局お前も】

男「――」

【俺に何の興奮も与えなかったな】

俺はかけている。

【お前を殺す】

男「――」

【何の感情もなくお前を殺す】

男「――」

【あるのは無限の欠落感……それだけだ】

男「――」

【俺はお前を殺したら外にいる奴らも全員殺す】

男「――」

【それでも何も感じないだろう】

男「――」

【俺は不感症だから、これからも、ずっと、死ぬまで】

男「――」

【何も感じないぞ】グッッ……

男「――」


俺は、かけている。

【不甲掌】


男「――――」


【男】は、確実に殺すまでが決闘だと思っている。


『もう半分死んでいるようなものだが、でもとりあえずきっかり殺しておこう』。

『こいつにもう戦う意志はない』『ないのか?』『ああ見えてまだやる気かもしれない』。

『嘘泣きをして命乞いして戦意喪失したフリをするというのは常套手段の戦法』。


それが命ではなく、脳を攻撃して廃人にさせるという事でも同義だろう。
相手を必ず仕留めようとする。
その際は掌底を繰り出す可能性が高い。『不甲掌』を打ち込むために。

実際にそうやって仕留めたところをこの目で見たのは二度だけだった。
必ずと言い切れるほどの根拠にはなり得ない。
だがその少ない可能性にかけるしかなかった。

男(俺はかけていた)

混濁した意識の中で、【男】が自分にとどめを刺そうと、掌底を繰り出す事に賭けていた。

男(――右腕を)

男(振り上げるッ……)


【何ッ――――】


パァァァンッ!!!!


繰り出された左掌底は男の左胸には届かなかった。
【男】の左掌底を、ボロボロの右腕で受け止めていた。
二度も掌底を受け止めた男の右腕の状態は、止血のために巻きつけた上着で見えないが筋肉が裂けて骨が露出している。
その右腕を勢いにまかせて振り切った。
巻きつけた上着からなおも飛び散る血飛沫が【男】の目にかかったが、【男】は寸前で目をつむることにより目潰しを逃れた。

男(目をつむる――だけでいい)

絶好のチャンスの中にあって、男の陰茎は下を向いていた。
ダランとうなだれている。
それは決して降伏しているからではない。

むしろ陰茎の疲労は徐々に回復し始めていた。
脱力した陰茎をそのまま下に伸ばし、先端を地面に密着させる。

男(柔と剛の性質を併せ持つ……しなるバネのような硬度に)

【陰茎術ッ……お前まだ】

男(残っている力を一回の移動に全てふりしぼれッッ!!!!)

男「陰茎術秘技『鶯の谷渡り』ッッ!!!!」

【ッッッ】


ドンッッッ!!!!


男(床を移動する低空飛行じゃない)

男(上に跳ぶッ)

男(【お前】の発勁には、【お前】の一撃必殺には)

男(重心が必要だろッ!!)

男(殺してみろよ……!)

男(空中を高速で吹っ飛ぶ中で、俺に一撃必殺を放ってみろッッ!!!!)

【ッ……】


男はまだ【男】の右手首を掴んでいる。
決して離さない。
引っ張られて、【男】も一緒に超高速で宙を舞っている。

真上に跳ぶ2人は、やがて天井に突き当たる。
そのとき男は、掴んでいる【男】の右手首をめいっぱい上に掲げていた。

天井をぶち破り、先程戦っていた4階フロアの空中まで吹き飛んで、2人の上昇は止まる。
一瞬の無重力があった。
天井を突き抜けた時に巻き上げた小さな瓦礫や砂埃が2人の周りを浮いている。

その時やっと男は手を離した。
だが自由になった【男】の右手首は反対方向に折れ曲がっている。
言うまでもなく、高速で天井に突き当たった際の衝撃が原因だった。

男「もう片腕も――狙うぞ」

重心のない空中ではどんな攻撃も出来ない。
それは『不甲掌拳』も例外ではない。ただ地面に落ちるのを待つしか無い。
だが陰茎術は違う。

陰茎の伸縮は重心を必要としない。


男「折られたくなけりゃ防いでみろ」

【お前……】


一瞬の無重力の中で【男】は左腕の前に右腕を構えた。手首の折れた右腕で左腕をかばった。
空中では踏ん張りも効かなければ、受け流す事もできない。
地上なら何の事はない攻撃だろうと全てが致命傷になりかねない。
咄嗟に左腕が攻撃を受ける事を避けようとした。


男(やっとハッタリにかかったな)

男「狙い通りだッッ!!!!」


陰茎が凄まじい勢いで真っ直ぐ突出した。
陰茎の突き出る先は左腕ではない。それを守ろうとする右腕でもない。
【男】は顎を下げている。急所である喉を貫くことは角度的に難しかった。
狙うべき的は、そうして両の手を構えている【男】のその腕の僅か上部分、顎で隠れる喉の下部分にある。


【なッ……】


左鎖骨。
強烈な勢いで突出する、レンガを貫く程に硬化された陰茎が【男】の左鎖骨に直撃し、砕いた。
3階フロアの地面から『鶯の谷渡り』による高速の上昇で天井を突き破り、今に至るまでの時間はわずか一秒半の攻防。
一秒半の攻防の中で、【男】は右手首を脱臼させられ、左鎖骨を砕かれた。

両手が使えなくなったという事はすなわち『不甲掌拳』を封じられたという事。
形勢を逆転させた一瞬が終わる。
浮力を失った2人は重力にその身をまかせて落下する。

薄いガラス板のように脆くなった4階フロアの床を突き破って、3階まで落ちていく。

男は着地の瞬間に受け身を取り、床を転がって衝撃を分散させてみせた。
一方【男】に受け身をとる余裕はなかった。
背中から叩きつけられ、衝撃は一切散ることがなく、【男】の全身を襲った。


元いた場所に戻ってきたが、2人の状況は完全に異なっていた。

男「ハァッ、ハァッ……ハァッ」

男「ハァッ……!」

男「一泡吹かせてやったぞ……!」

【う……】

男(それが出来たのは偶然かもしれない)

男(【奴】が左掌底を繰り出してくれたから)

男(あのままジリジリと中段蹴りでなぶり殺しにされたら為す術がなかった)

男(天井の崩落を狙っていた事が見ぬかれていた時)

男(自らの右腕から血液が滴っていたのを見た時)

男(【奴】に不意をつくるにはもうあの手しかないと思った)

男(掌底を防ぐ事、血糊を飛ばして隙をつくる事を、腕を振り上げるという一つの動作におさめられたから)

男(うまく行かなきゃ俺は死んでいた)

【……】

【っ……】ググッ

【陰茎術……】フラッ

4階から落下して床に叩きつけられた時に頭を打ち付けたのだろう、額から多量の血を流しながら【男】は立った。
立ちながら、自分の右手首を右鎖骨と顎で固定して力をこめる。
ガコッという関節音が鳴った。

男(ッ……嘘だろ……!)

【動くぞ】

男「痛いだろ……ハァ、ハァ、それ……」

【痛みはない。不感症だから】

男(骨を入れなおしたとはいえ、脱臼した右手首で掌底がはなてるのか)

男(必殺はまだ……生きている、か)

男「だが……鎖骨はどうにもならないだろ」

男「【お前】は左腕を……動かせない」

男「万一動かせたとしても……筋群の精密な連動による……発勁など打てない」ハァハァ

【……】

男「仕切り直しだ」

【……】

【陰茎術……】

フロアの壁に空いた穴から吹きすさぶ風が冷たい。
違う。自分が熱く火照っているのだ。
頭部からドクドクと溢れる血液は熱く、自らの血液で皮膚が焼けただれるような感覚を覚えた。

感覚?

【感覚か】

思い出していた。
父親に受けた虐待と修行の日々を。
この内臓が煮えたぎるような感覚はあの時以来だ。
この熱は機械が稼働する時の放熱によるものではない。
動物が興奮状態にある時のものだ。

【お前は聞かされてないのか】

男「なんだ」

【お前の父親を武術家として殺したといった、その意味だ。それはお前の父親の陰茎を不能にさせたということ】

男「……」

【俺の掌底は臓器を破壊するだけじゃなく、微細な神経や回路も攻撃できる、お前の父親はもう】

男「つまり天井だろ」

不意に上で何かが砕ける音がした。
それを合図に2人の『男』は同時に距離をつめる。
【男】は、天井から崩れ落ちる瓦礫に男が気を取られた隙を狙うつもりだった。

男(その手はもう食わない……左手は完全に封じてある)

男(右手、警戒すべきは右手だけ)

男(それなら攻撃するのは上半身じゃない)

ジャキッッ

男(右手のカバーが追いつかない【奴】の足の甲へ……陰茎を突出)

ドズッッッ!!!

【っ……】ガクンッ

男(体勢を崩して前のめりになる【お前の】)

男(顔面にッ)

男(飛び膝蹴りを合わせるッッ!!!!)

メシャッッ……!!

【ぶッ……】

飛び膝蹴りはすんなり入った。
鼻骨を砕かれた【男】はもんどり打って倒れこむ。
2人の直ぐ側で天井から崩落した瓦礫が潰れて煙を巻き上げていた。

男「はぁ、ハァ……【お前】」

【……】

男「打たれ……弱いだろ」

【……】

男「なまじ先を読む洞察力と経験則があるから……」

男「ハァ……ハァ……必殺の一撃があるから」

男「泥仕合にもつれこむと……弱いんだ」

【……】

男「初めて【お前】を見た時、その生傷を見た時は、泥仕合もなんのそのなタフな敵かと思ったけどな」

【……】

この生傷は全て幼いころ父親につけられたものだった。

男「【お前】は最強じゃない」

【……】

男「強く恐ろしい相手だが……最強なんかじゃない」

【……】

男「立てよ……『不甲掌拳』」

【……】

男「……俺はまだ……生きている」

【陰茎術……】

【……】

【……】フラッ

自らの体が感覚を覚え始めているのに意識は混濁している。
感覚の世界に足を踏み入れたのに、その景色は霞んでいる。

【お前に目をつけてよかった】

男「だが正々堂々戦うべきじゃなかったな」

男「俺の親父とまともにやりあっていても……【お前】は負けていた」

その言葉を受けて【男】は陰茎術伝承者の父親との戦いを思い出していた。
彼も同じく強かった。
高校生の息子を持つ年齢であり全盛期からは劣るであろうその武力が、予想以上に高かった。

周囲に人がいない状況なら結果は違っていたかもしれない。
陰茎術伝承者のその父親が、人目につかない場所、全く力をセーブされない状態での決闘であればおそらく【自分】はもっと苦戦していただろう。
そしてその時に感覚の扉を開けることが出来たかもしれない。

【それも強さだ】

しかし【男】はどんな搦め手も実力の内と考えている。
相手に決定的な弱点があるのに、そこを狙わないのは『手加減』であるとすら考えている。
足の不自由な人間の車椅子を蹴飛ばして容赦なく頭を踏みつけるのも強さだ。
逆に足の不自由な人間がハンデを逆手にとり周囲を味方に取り巻いて、多勢の利を手にしたならそれがその人間の強さだ。

陰茎術伝承者の父親には完全なる実力で【自分】が勝った。
そこに疑いはない。

【……】

ひっかかっているのはそこではない。
感情の扉を開けた今になって引っかかることがひとつだけある。
【俺】は何故こいつの父親に決定的なトドメを刺さなかったのか。

――――――――


ザワザワ ガヤガヤ

『あの2人何やってるんだ!?』

『なにかのパフォーマンス?』

『なんか血でてない!?』


父『ちっ……』

【ズボンから一瞬出した陰茎で】

【攻撃直後に、周囲の目が追いつかない速さで収縮させ、またズボンにおさめる】

【その戦法で俺を倒すことは出来ない】

父『あいにく俺は世間体を気にするたちでね』

父『公衆の面前でイチモツ晒すわけにはいかんよ』

父『どれだけ苦戦しようとな……』

【そうか。じゃあ死ね】

パァァァンッ!!!!

【不甲掌】

父『ッッ――――』

【陰茎に掌底を打ち込んだ】

父『……しまったな』

ボロン

父『伸縮速度が遅まって……ズボンの中へ戻すのが遅れちまったか』

『きゃー!!』

『あのオッサンちんこ出してるぞ―!!』

『通報だー!! 警察に通報しろー!!』

【複雑な陰茎折症もつくれる……お前の陰茎はもう二度とたたない】

父『見られちまったか……警察をよばれるな』

【……】

父『息子に悪いぜ……』

【息子がいるのか】

父『いるとも。独身に見えたか?』

【お前の息子は強いのか】

父『強い。まだ実戦経験に劣るがね』

【お前のような父親を薄情者と言うのか?】

父『あんだと?』

【子供がいるという事を知らせるべきとは思わない。俺はお前の子供を殺す】

父『なんで自慢の息子を隠す必要がある?』

【自慢?】

父『あいつは、男は……俺の誇りよ』

父『俺から陰茎術の極意を全て教えてある』

父『俺は奴に技を教えるとき、必ず言うんだ』

父『いいのかと。危険な技だぞと』

父『あいつはなんて返すと思う?』

父『俺は陰茎術を極める男だと』

父『リスクはいいから教えてくれと』

父『俺はあいつがガキの頃から修行を強制した事なんざ一度もない』

父『ただでさえこんな特殊な武術だ』

父『だがあいつはついてきた……ずっと俺の背中を見ていた』

父『俺はそんなあいつを誇りに思っている』

【……】

父『警察がくるぜ』

【俺は欠けている】

父『見ればわかる。そうだろうな』

【そいつを殺せば俺は感じるものがあると思うか?】

父『殺せんさ』

父『だが……戦いたいなら好きにしろ』

父『俺の誇りはお前に負けない』

――――――――


【……】

男「ハァ……ハァ、ハァ」

【……】

男「……?」

必ず殺す事。もしくは脳を破壊する事。
そのどれでもない決着のままあの時【自分】がその場を後にした理由が今になってわかる。
陰茎術伝承者の父親の姿に、自身の父の姿を見ていたのだ。
そして虚しくも重なりあう事はなかった。

【……】

似ても似つかない親子関係だった。
似ても似つかない師弟関係だった。
トドメを刺さなかった事、それは一体どんな感情を抱いていたからなのか、機械だった自分には分からない。
だが心の底、意識の範囲外で、確かにその時なにかを感じていた。

【やはりだ】

【父親ではない。やはりお前と戦う事に意味があった】

【陰茎術伝承者……その息子】


【俺は】

男「あ……?」

【運命を感じている】

男「ッハァ……なにが」

【お前と戦っている今この状況に】

男「ハァ……ハァ」

【お前はやはり俺を感じさせてくれた……最高に気持ちが良いぞ……わかるか?】

男「ッ……変態野郎」

【感動しているよ】

【これは達成感か……高揚感もなくはない】

【陶酔感……あと充足感……満足感】

男「ハァッ……ハァッ……ハァッ」フラッ

【……恍惚感か……】

男「御託はいい……かかってこい」

【あくまで後手にまわりたいのか】

男「ハァッ……はぁ、ハァ」

【そんなに俺の掌底を警戒しているのか】

男「ッ……ハァ」

【それとも】

男「フゥ……フゥゥ……」

【もう攻める力がないのか?】

男「ッ…………」

【さっきから呼吸が荒いぞ】

男「ハァッ……ハァッ……はぁっ」

ドクン ドクン ドクン

【それに顔も青白い……どうした】

どうしたんだ陰茎術――。

感情を取り戻した事によって【男】が初めて浮かべてみせた笑みは、不気味でいやらしく死霊のようにおぞましかった。

男「ハァッ……ハァッ、ハァッ……!」

男「ッ……なんだ……!!」

男(陰茎の硬度が……ッ)

男(維持……できない)

グググ……ググ……

グニャァ……

男「はあっ、ハァッ……ハァッ……あっ!?」

【萎えたぞ。どうするんだ?】

男「ハァッ、ハァッ……何でだよおい……クソっ! なんでだッ……!?」

【お前に教えてやる】

男「……!?」

【『不甲掌拳』伝承者の掌底は命中した時、確実に何かを破壊するんだ】

男「ハァ……ハァ、ハァ」

【掌底を当てた瞬間、敵のいずれかの臓器もしくは神経を必ず破壊するようにと、幼い頃からの常軌を逸した虐待によって脳裏に刷り込まれている】

【なにか……ひっかからないのか】

男(汗が……止まらない)

男(なんだ、何が起こっている)

男(俺の体に何が起こってやがる……ッ)

男(陰茎が萎えるのは)

男(血液だ……血液が不足しているからだ)

男(だが右腕は止血してある……何故だ……何故今になって)


【おかしいと思わなかったのか】


男「なッ……」

男「なに言ってやがる……」

男「ひっかかる……ハァッ、ハァ……見落とす?」

男「【お前】ッ」

男「何を言ってるッッ……!?」


【俺は既にお前の内部を破壊している】

男「ッ……!?」

【おかしいと思わなかったのか】

男「なにをッ……」

男「て、てめぇ、ハァッ……」

男「なにをッ……言ってんだ」

【壊したのは右腕だけじゃない】

男「俺は受けてないッ……」

男「掴まれた事はあってもッ……それ以外……掌底なんか」

男(一体なにを……いつだ)

男(いつ……こいつは)

男(っ……)

男(――――あ)

――――――――――――――――――――――――――――――――
『それは鋭く突き出た陰茎が【男】の手のひらにあたった瞬間に起きた』。
『発勁』パァンッ!!
男『ッッ……!?』グラッ
――――――――――――――――――――――――――――――――

男(あの時かッ……!!)

男(『流鏑馬』による牽制の際)

男(俺は【奴】の掌底で連打を弾かれていた……そのときしかない……!!)

その際の攻防の最中においても男は確かに違和感を覚えていた。
掌底を受けたのに何故自分の陰茎は破壊されていなかったのか、かすかな違和感を覚えていた。
だが無意識下で辻褄を合わせてしまっていた。

『流鏑馬』は高速で陰茎を伸縮させる連打だ。
【男】の掌底が触れたのはほんの一瞬で、十分に力をこめられるような時間はなかったのだろうと推測出来た。
だから弾き飛ばされこそしたが、内部を破壊されるまでには至らなかったのだと。
意識の外でそう解釈していた。

男「何故だッ……」

【……】

男「何故、いまに……なってッ……!!」

【今になってじゃない】

【俺が破壊したのは陰茎そのものじゃないから】

男「ッ……なに?」

【そうする事も出来た】

【お前らにとって最大の武器である陰茎そのものを不能にすれば……戦況を圧倒的に有利に進めることも出来たかもしれない】

【だが……それはしなかった】

【何故か?】

【お前がまだ十分に動けて、なおかつ思考能力もある、早期の段階で武器を奪ったとしたら】

【若く知恵のあるお前に策をたてる余地を与えてしまうから】

男「ハァッ……はぁっ」

【だから違う臓器を破壊した……あの一瞬の接触では心臓までは届かなかったが……これで十分だろう】

【憔悴し……体捌きも思考能力も衰えた時……お前はやっと気付く】

【そして気付いた時にはどんな対策も取れない】

【決定打は序盤で既に打ち込んだ。俺の勁は陰茎を伝い……下腹部をつたい……それを破壊した】

【後はそれが来るのを……待つだけだった】























【俺が攻撃したのは肝臓】

【沈黙の臓器と呼ばれている肝臓には、知覚神経がない】

男「!!!!」

【だからお前はそのダメージに気付けなかった】

男「ハァッ……ハァッ……!」

【前触れがあったはずだ】

【発汗……頻脈……連戦続きの疲労のせいだと思っていたのか?】

【今のお前を見たところ血圧低下、呼吸促迫】

男「ハァッ……ハァッ、ハァッ」

【肝臓破裂による出血性ショックに陥っている】

男「はぁっ、ハァッ……ハァッ、はぁっ!」

【人体の血液の2割以上が失われている状態で陰茎の勃起を保つことなど不可能だろ】

【それどころか】

【お前は肝臓を破裂させてから動きすぎた……ダメージを受けすぎ、長引かせすぎた】

【放っておいてもお前はじきに死ぬ】

男(諦めるなッッ……!!!!)

男(まだだッ……まだ手はある)

男(陰茎は使えなくとも、まだ手はある……ッ)

男(瓦礫……)

男(目眩まし……不意打ち……)

【無駄だ】

男「はぁッ、ハァッ、ハあッ……!」

【出血性ショックに陥った場合……意識は混濁する】

男(うそつけッ……)

男(てめーが決めるんじゃねえ……!)

男(まだあるッ……まだあるんだッ)

【血液が足らずハッキリしない思考で策は練れない】

男「だ……黙れッ……」

【俺は感謝している】

【俺は紛れも無い全力だった】

【今あるものを全て利用した】

【お前は肉迫し……食い下がり】

【俺に一矢報いた】

【惜しみない拍手を贈ろう】

【連戦続きでお前が疲弊していた事も敗北の一因だろうが】

【それも含めて実力だ】

男「ハァッ……はぁっ、ハァッ」

【今になって1つ自分の疑問が紐解けた】

【お前の父親を殺さなかったのは情ではない】

【息子であるお前を殺したかったから……】

【これは俺にとっての復讐戦だった】

【憎き『父親』という存在への復讐】

【奴が誇りとまで言った、お前を殺してそれを成す】

男「うるせェっ……ハァハァ」

男「俺はッ……死なない……」

男「お前なんかには、やられ……ないッ」

ド根性。正義の信念。武への執念。
肉体の限界を超える意志の力というものは必ず存在する。
男にもそれはある。
未だに衰えもせずに熱く燃えたぎっている。

男「ハァッ、ハァッ……はぁっ、はぁ……!」

そしてそのような意志の力が通じない壁というものも存在する。
絶対的な壁。
それはどんな強固な意志の力も及ばない本当の意味での限界『肉体の果て』。
その完全なる限界が男に近付いている。

男(奴が使えるのは右手だけだ……ッ)

男(左鎖骨も砕いてある……頭部へのダメージも……)

男(4階から3階に落ちた時あいつは受け身をとれなかった……ボロボロなのは同じだッ)

男(ダメージは与えてある……勝利はすぐそこにあるッ……!!)

だが有効な打開策が見つからない。
出血性ショックによる意識の混濁が、晴れることのないヘドロのような霧となって、脳の活動にモヤをかけている。

【終わりだ】

男(諦めるな……ッ)

【お前にはもう打つすべはない】

男(諦めるなッ! 勝負を捨てるな……!)

【俺が感じているのは】

【帰属感】

【俺はやっと俺に帰ることが出来た】

男(手がある……)

男(絶対になにか手があるッ……俺はお前に勝つんだ……)

男(俺は……こんなところで)

【息絶えろ陰茎術】

【お前はここで死ぬ】

【俺の手によって……】バッッ

男「く、くそッッ!!!!」

【不甲掌】

「陰唇術秘技『ペニーロイヤルティー』ッッ!!!!」



ドシュンッッ!!!!



【ッ】

男「!?」

【発勁ッ……】バッ


パァァァンッ!!!!


トドメを刺そうと男に手を伸ばしたその瞬間だった。
背後から訪れた不意の遠距離攻撃に【男】は左掌底を合わせて防御、弾き飛ばした。



【……お前は】



美少女「男さんは殺させませんッ……!!」

キュッ……
キュキュッ、キュキュキュッ……!!


「っ」

【……何?】

「うおおおおッ!!!!」


その独特なステップの音と共に、もう1人の女が近づいて来る。


【お前は】

友「ガゼルパンチッッ!!!!」

ヴンッッッ!!!!



フックともアッパーともつかないその強烈なブローを、【男】は飛びのいて回避し、空を切らせた。



友「それ以上男に近付くんじゃあねえッッ!!!!」

男「なんッ……で」

【羽虫共】

男「ば、馬鹿野郎……何で来やがった」

友「止めてくれるなよ男」

男「やめろ……ッ」

ジリッッ

美少女「……」

【美少女か】

美少女「【あなた】は多対一をつくる事も強さだと言いましたね」

【言った】

美少女「ならばこれが男さんの力です」

【……】

美少女「窮地における助っ人など、【あなた】のように破壊する事しかしてこなかった人間にはいない」

美少女「守るという事、助けるという事が生んだ」

美少女「男さんが私に見せてくれた武道の、その力です」

【なるほど一理ある】

男「やめ……やめろ」

【陰茎術。お前へのトドメは後にまわす】

男「ハァッ、はぁ……や、やめろぉッ!!」

【まずは処理だ】

友「言ってくれるじゃねーか」

【お前のその戦い方はボクシングか】

友「簡単に倒せると思うなよ」

友「俺は全国大会の優勝ベルトを持ってる」

友「判定はない、全ての試合をKOで勝ってきた……俺のパンチをお前が耐えられるかな」

【ベルトなど強さの指標にはならない】

【多対一は受け入れよう】

【だがお前らじゃ役者不足だ】

【たった2人では烏合の衆とすら呼べない】

男「バカヤロウが……!」

男「そいつは根暗女やデブ男とは違うッ」

男「殺されるぞッ……」

男「これは俺の戦いだ、やめろッ……手を出すなッ」

友「男」

男「友ッ……」

友「俺は格闘家である前にお前の友達だ」

男「ッハァ……はぁ」

友「何度でも助けるさ!」

友「友達が殺されそうなのに指をくわえて見てるなんて出来ねえからな!!」

友「たとえ相手が誰だろうが関係ねえ!!」

男「はぁっ……はぁ」

男(違う……ちがうッ)

男(ちがうんだ……)

友「俺は【テメー】をぶっ飛ばして男を病院につれていく!!」

美少女「もう人殺しはさせませんッ!!」

【弱さだ】

【お前らの死因は】

【身の程を知れないという……弱さだ】

【死ね羽虫共】


スッ……


男「お前らッッ!!!! 絶対に手をだすなッ!!!!」

友「ッ……男」

美少女「何言ってるんですか……その傷ではもう」

男「違うッ……そういう問題じゃない」

男「俺が負けようが死のうがッ」

男「絶対に手をだすな……加勢することだけは」

男「絶対にッ……しないで、くれ」

男「うッ……!!」フラッ

友「ッ」

友「そんな事言ってる場合じゃねーだろっ!!」

美少女「そうですよっ、もう勝ち目なんて!!」

男「ハァッ……はぁ」

男「勝ち目なら……ある……」

男「いや、たとえ……なくても」

男「ハァ、ハァ……はぁ」チラッ

【……】

男「こいつとだけは」

男「絶対に……一対一で戦わなければ、いけない気がする」

男「じゃなきゃ、意味が……無いんだ」

男「こいつと戦う、意味がなくなってしまう……それで勝っても……俺は一生後悔するッ」

【虚勢だ】

男「ハァッ、ハァ……どうとでも言え」

ゴゴゴゴ……
メシメシ……ガラガラ……


男「お前らがこの、崩壊しかけのマンションに戻ってきてくれた事」

男「こいつ相手に、俺のために立ち向かってくれた事」

男「俺の『力』になってくれた事には」

男「感謝してる……してもしきれない」

友「ッ……」

美少女「男……さん」

男「だがッ……!」

男「これは俺にとっての指標なんだ」

男「こいつに勝つことがッ、一対一で勝つ事が」

男「最強への道標ッ……」

男「俺の言葉に二言はない……信念を、裏切りたくない」

男「友、美少女……ありがとう」

男「そして……出来れば見届けてくれ」

友「ッ……」

友は動けなかった。
男の懇願を無視して【男】に殴りかかりたかった。
決闘などどうでもいい。
それより何より親友を助けたかった。

友は動けなかった。
廃マンションは今もまさに響きをあげながら崩壊を続けている。
この建物と同じように親友の命が今まさに目の前で終わりに近付いている。
なのに動けない。

男「ハァッ、はぁ……はぁっ」

友「男……」

それはこれが男にとっての最後の懇願であると思ったから。
その、悲痛だが力強く、確固としているのに風前の灯のような、男の言葉に気圧されてしまっていた。
美少女も同じだった。

美少女「ッ……」

美少女「男さん……ッ」

美少女「うッ……ぅッ……」ジワッ

武術家の最期は常に儚い。
自らのしがらみを断ち切ってくれた武術家のその最期の姿に、美少女は知らずのうち涙を流していた。

友「ッ……くそ……!!」

美少女「うっ……ううッ……」


男「ハァ、ハァ……」

男「ハァ……ごめんな」

男「あと……ありがとう……」

【お前は愚かな事をした】

【奴らが2人かかってこようが足止めにしかならないが】

【それでもお前は……自分が助かるための】

【万が一の可能性を今潰した】

男「ハァ……ハァッ」

男「ふ……ッ」

男「もう俺に勝った気でいるのか」

【違うのか?】

男「俺はまだやれるよ」

スタスタ


【もうどう足掻いても無駄だ】

【お前の体内で大量の血液が臓器の外にあふれ出している】

【鋼のような陰茎もそのザマだ】

【出血性ショックの中で陰茎を勃起させる事は不可能】

【お前の武器はなくなった】

【お前がたどる運命は】

【絶対に揺らがない】


【男】は崩壊への足音を刻むそのマンションのフロアを、悠々と闊歩して男への距離をつめていった。


男「ハァ……ハァッ」

男「ハァ……」

男「……」

男(――ある)

男(まだ手は残されている)

男(俺なら出来る……陰茎術伝承者なら)

男(例え大出血をしていようが陰茎を隆起させる方法はあるんだ)

男(だが……)

男(それを今この状況でやれば)

男(たとえこの勝負に勝ったとしても)


男(俺は九割以上の確率で死ぬ)


男(……)

男(友と美少女……親友と……旧敵)

男(俺の意地のせいでお前らにはイヤな思いをさせたかもしれないが)

男(でも駆けつけてくれた事は本当に嬉しいんだよ)

男(だから……決めた)

男(俺は命をかける)

スタスタ

【陰茎術……俺の人生は】

男「ハァッ……ハァ」

スタスタ

【お前の死をもって完成する】

男(命をかけるんだ)

男(後のことなんて一切考えるな)

男(【お前】は……戦闘能力を奪った時、その人間を武術家として殺したと言うが)

男(俺はそうは思わない)

ダッ……!!

【俺はッ……真の多幸感を得る】

男「ッ……」ザッ

男(武術家が死ぬ時、それは脳が止まった時でも、心臓が止まった時でもない)

男(信念を折られた時だ)

男(俺の信念はたとえ肉体が朽ちようと折れないッ……)

【俺は生の喜びに勃起しているッ……俺はもう不感症ではないッッ】

男「それを勃起とはいわないッ……」


【男】が踏み込んで右腕を振り上げる。

それを受けて、男も同じく右腕を前に出した。


友「男ッッ!!!!」

美少女「男さんッ……!!!!」


それが決着をつける最期の衝突であると、誰もが理解した。

【……】

【男】は勝利を確信していた。
満身創痍の男が、半身にかまえて右腕を前に突き出した時、その勝利への確信はさらに決定的なものとなった。
男のやろうとしている事は分かりきっている。

【(既に破壊されボロ雑巾のようなその右腕で、再度俺の掌底を防ぎ)】

【(控えさせた左手で反撃……か)】

【(だろうな。それしかない)】

【(お前の最大の武器である陰茎はもう使えないのだ)】

【(もう素早く動くことも出来ない)】

【(必殺の掌底を前にして……自分の体勢を崩しやすい足技の攻めはないだろう)】


【男】は、勝利を確信していた。


【(残念ながら、今から繰り出す俺の掌底を、その右腕で受け止めても『防御は出来ない』)】

【(お前は死んだ)】

【(無駄なあがきだったな)】

――――『不甲掌拳』伝承者は、勁の爆発点を自在に操作出来る。


つまり、掌底を入れた打撃点から必ずしも真っ直ぐ奥の場所を破壊させるわけではないという事。
陰茎に掌底を当てて肝臓を破壊出来たのだ。
敵の内部に放った気功を、かなりの距離移動させる事が可能である。

では何故、男に右腕で掌底を受けられた時【男】は爆発点を操作しなかったのか。
1メートル程の長さの陰茎の先端に触れて肝臓までの範囲の移動が可能なら、右腕に掌底を当てて心臓を破壊する事など造作も無い筈。


その理由は、操作しなかったのではなく『操作出来なかった』。
『不甲掌』は事前に、自分の勁が敵体内を移動するその距離を緻密に計算してから打ち込む必要があるから。


男が右腕で掌底を防いだのは2回である。
その2回共が【男】にとっては予想外となる防御の際だった。

左胸に当てて心臓を破壊するために『打撃点から15cm程内部を破壊する』と決めて繰り出した掌底だった。
その時不意に打撃点が左胸から右腕に変わっても、事前に計算していた爆発点を瞬時に変更する事は出来ない。
よって臓器は破壊されずダメージは右腕にとどまった。


しかし今この時、男が右腕で防御する事は事前に分かりきっている。
予想外の防御ではない。


【男】は勁が進む道のりの計算を終えている。

【(お前が愚かにも右腕で防御した瞬間だ)】

【俺の発勁は皮膚をぬけ、橈側手根骨筋から上腕二頭筋に伝わり)】

【(三角筋でカーブし、一瞬で大胸筋まで突き進む)】

【(当然破壊するのは筋肉じゃない)】

【(その奥まで伝達させる)】

【(心臓を潰してやる)】

【(これが復讐だ)】

【(母を奪った『父親』という存在への)】

【(復讐だッッ)】


男「とめるッッ……!!」バッッ


【(消毒するッ)】

【(過去の全てを精算するッッ)】

【死ねッッ……】

【不甲掌ッッ】




パァァァンッッ!!!!



友「ッッ――――」


美少女「あっ――――」



ビシャァッ……!!



男「っ――――」



ビチャチャッ……

【……】

男「――」


ポタポタ……


友「えっ」

美少女「なっ……」



【っ……ばッ】

男「――」

【バカな】

男「ッ――――」


接触の瞬間に男は、身を乗り出していた。
そのせいで打撃点がズレた。
【男】の放った掌底が命中したのは、右腕ではなかった。


【俺の掌底をッ……】

男は必殺の掌底を、自らの額で受けていた。


男「ハァッ、はぁっ、ハァッ!!」


【頭で受け止めるだと―――】


男「ッあぁ……!」

男「あぁぁあぁああッッ!!!」

【ッッ……】


ガシッッ……!!


怒号を上げて残り少ない力を振り絞り、またしても【男】の右手首を左手で強く掴みあげた。
男の背中から血が吹き出している。
右腕を打撃点と想定した頸が、予期せぬ変更によって道のりが大きく狂った結果、背中周辺で行き詰まり爆発したのだろう。

男は読んでいた。辿り着いていた。
混濁とした意識の中でもハッキリと刻みつけられた、肝臓を破裂させられたというその痛手によって学んでいた。

『不甲掌拳』の持つ内部破壊の絡繰に辿り着いていた。

男「げほッッ!!」ビチャチャッ


友「男ッ……そんな、まさか」

美少女「あ、ありえない……」


【お前ッ……気付いて】


――――いたのか、と言うより早く男の足刀が【自分】の足の甲を踏み潰していた。

それは先程陰茎によって攻撃された部分と寸分違わぬ位置であり、蓄積されたダメージによって【男】の舟状骨は粉砕、破壊された。

痛みこそなかったが【男】の思考には今まで覚えた事のないざわめきが走っている。
覚えたての感情たちが濁流のごとく押し寄せて、自己精神をかき乱している。

(気付いたとしてそんな策がとれるのか)
(体内で暴走する勁がどこで爆発するのかもわからないのに)
(そもそも俺が単純に右腕を破壊するつもりだったら即死していたのに)
(穴だらけの……運任せの)


(こんな策に命をかけるのか)


男「距離はとらせない……ゲホッ、ゲホ……掌底も封じた……決着だッ」

【ッ……】

【―――だがッ】

【だが武器がないのはお前もおなじだろうッ……】

【近距離でもう一度膝蹴りをあびせて殺してや――】


男「同じじゃない」



【る―――――】



ドゴォォォォォォォッッ!!!!!



【ッッッ――――!!!??】


男「……」

【ッ……かッ、ふッ】

【なん、でッ……】

【なんでッッ…………】

男の股間から稲妻の如く突き出た陰茎が【男】の鳩尾に深く突き刺さっていた。
陰茎は硬く太く、その一撃は重い。
まるで先端の丸まった槍で力任せに貫かれたような感覚を覚えさせた。


大出血を起こし血液不足の中、男の陰茎ははちきれんばかりに勃起している。


【ごぷッッ】

ビチャチャッ……

男「……」

【なんッ……で、勃起、できるッ……】

男「勃起する原理は血液の充血」

【ッ……】

男「人間が勃起する時は……脾臓という臓器からその血が流入される」

男「つまり、脾臓に血液がまわらないような失血状態にある時は、陰茎にも血がまわらないようになってる」

男「それが普通の人間の話だ」

【……陰茎術】

男「そうだ、俺たちは違う」

男「幼い頃から続く……内臓が変わるほどの過酷な修練の効果で」

男「脾臓だけじゃない……」

男「全身の血液を陰茎に集中させる事が出来るッッ!!」

男「心臓や脳にまわるはずの血液までも……たとえ失血状態にあろうと!!」

男「それが陰茎術伝承者……最期の奥の手」

男「切り札だ……!」

陰茎の硬度を上げて武器にするという事はすなわち血流を操れるという事。
深刻な出血状態に陥っていてなお、ここまで動けるのもその血流操作によるものであると【男】は理解した。
破壊された肝臓や右腕を切り捨て、そこに血を流さないようにコントロールしていたのか。
完全に意のまま1滴も血を漏らさないというわけではないが、陰茎術伝承者以外であれば貧血でとうに倒れているダメージを、血流操作で切り抜けていた。

だが――――。

【そんな事をして、無事でいられる、はずがないッ……命を捨てているのかッ】

男「捨ててるわけじゃない……かけてる」

【ッ……】

男「【お前】を超えるためにッ……! 最強を目指すためにッ!! それくらい出来なきゃやってられるかよッ!!!!」

【お前ッッ陰茎じゅ――――】

男「陰茎術秘技『勃ち鼎』ッッッッ!!!!」



ゴシャァァァァアアッッッ!!!!!



【かッッ――――――】



男「これが勃起だッ……」

【がっ……は】

男「……」

【はっ、ァ……あ】

男「……」

【あ……っ】フラッ

男「……」

【――】

足の甲の骨が砕け、鎖骨を折られ、腕を掴まれた状態で【男】にそれを防ぐすべはなかった。

至近距離から繰り出された『勃ち鼎』が頭に炸裂する瞬間、目の前に火花が広がるのを感じた。
ぷつんと何かが切れる音がした。
痛みはなかった。

足の力が抜け落ちて倒れゆく瞬間は無重力のような浮遊感を覚えた。
その中で自身の母の姿を思い出していた。生きていた頃ではない。
食卓で倒れていた時の姿だ。
次いで忌まわしい父親の姿も思い出した。
脳と心臓を破壊して殺した、父親の姿を思い出した。


――――俺はこの親子に嫉妬していたのか。


目の前の青年に自分が負けたのだと理解した頃には、廃マンションのフロアの床に頭を叩きつけていた。

『不甲掌拳』伝承者の自分が陰茎術に敗れたと知ったらあの父親は何を思うだろうか。
きっと悔しがるだろう。いい気味だ。
胸中は敗北感ではなく充足感に満ちている。



多幸感に満ちあふれている。

――】


男「ハァ、はぁ……ハァ」


友「男……」

美少女「う、うそ……でしょ」

友「男っ……」

美少女「し、しんじられ、ませんっ」ジワッ


男「ハァッ……ハァッ」


友「男ッ……!!」

美少女「【あの人】を、た……倒して、しまう、なんてッ」


男「ハァ……はぁっ」

男「で……ベルトはどこにあるの……」

友「男ぉぉーーーッッ!!!!」ダッ

友「俺はずっと信じてたからな!! お前が勝つって!!」

美少女「男さんっ、すごい……すごいですッ!!」

男「はぁ、はぁ……へへっ」

友「文句なしにお前が最強だよ!! 男ぉ!!」

美少女「ほんとうに、すごい……っあんなに、強い人をっ」ポロポロ

男「ははは……」

男「あ……ッ」

男「っ――」フラッ

どさっ

友「お、おい男っ!?」

美少女「っ……」

友「男っ、おい、大丈夫か!!」

美少女「無理もありません……目では見えませんが体内で相当出血しているはず」

友「おい、まさか、死んじゃわないだろうな……!!」

美少女「ええ、今すぐ病院につれていきましょう!」

友「男っ……」グイッ

男「――」

友「っ、がんばったな……」

男「――」

友「お前、すげーよ、ほんとにっ」

友「最強って言われてる奴を倒したんだからっ、だから」

友「絶対こんなとこで死ぬなよな……!!」

美少女「友さんこっちです! こっちに階段がッ!!」

友「わかった!!」

友「男っ、しっかりしてくれよ」

友「俺が病院につれていってやる……! 死なせないから……!!」


ガラガラガラ……
メシメシメシ……バキキ……
ガラガラガラッ……!!

ガシャァァァンッ!!!


友「!!」

美少女「!!」

友「が、瓦礫が……」

美少女「落ちてきた瓦礫で階段への道がふさがれたッ……!!」

バキャ……ッ!!

友「うおっ!!」フラッ

美少女「このフロアもとうとう……いえ、建物全体がっ……」

友「お、おいおい……まてよ」

友「敵は倒したのにッ……」

友「男があれだけ命をかけて敵を倒したってのに、マンションの崩壊と一緒に生き埋めかよ!?」

ガラガラガラ……
ズズズズズ……!!
ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

美少女「ッ……ど、どうすれば……!!」

美少女「ここは3階……男さんを抱えて飛び降りるには高すぎる……!」

友「階段以外で降りる場所なんてねーぞ!! エレベーターもとまってんだから!!」

美少女「なにかッ……なにか」

美少女(なにか、何かして脱出しないと……!!)

ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

友「男ッ、ちきしょう!! なんでっ!!」

美少女「友さん床が崩れていきます!! こっちに!!」

友「はぁっ、はぁ、男ぉ!!」グイッ

美少女「だめ……もう時間がない……!!」

友「男っ、大丈夫だ、心配するなッ」

友「生きて帰るんだ、お前は勝ったんだから!!」

友「建物が崩れても、俺が、上にかぶさって、なんとか……!!」

ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

美少女「だめです友さんッ……もうどうしようも!!」

友「っ……!!」

グルルルルルッッ……!!

友「っ」

美少女「キャッ!?」

根暗女「攻撃する気はない……安心して」

友「お、お前は……」

美少女「根暗女さん!?」

根暗女「舌を巻きつかせた……建物の外までおろしてあげる」

友「お前舌、ちぎられた、はずじゃ」

根暗女「縫合する時間があればだけど……『舌拳』伝承者の舌は容易に組織がつながるから」

美少女「根暗女さん、助けてくれるんですか」

根暗女「……」

男「――」

根暗女「……同じ事をやるだけ」

友「お前っ……」

根暗女「借りをつくったままはいやだから」

シュルルルルッ……
トサッ

友「あ、ありがとう!!」

美少女「こんな、簡単に外に……」

友「お前も早く降りてこい!!」

根暗女「……」

ゴゴゴゴゴゴッッ
ガラガラガラッ
メキメキメキ……メキメキッ

根暗女「……」キョロ

【――】

根暗女「……」

友「おい!! どうした、早くこないと崩れちまうぞ!!」

根暗女「……」

【――】

根暗女「……私はいいよ」

美少女「根暗女さん……」

根暗女「残る……【この人】の最期を見届ける」

根暗女「美少女は……元気にやってね」

根暗女「きっと……あなたなら表の世界でも生きていける」

美少女「……」

ゴゴゴゴゴゴッッ
ガラガラガラッ……!!
ガシャァァァンッ……!!

美少女「行きましょう友さん」

友「えっ、あいつ……いいのかよっ」

美少女「急がないと男さんが手遅れになってしまいます」

友「っ……」

美少女「根暗女さんの決めたことです」

友「……あぁ……」

男「――」

友「男っ、もうちょっとの辛抱だからな……!」グイッ

ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!


根暗女「……」

【――】

根暗女「【あなた】についてきたこと……」

【――】

根暗女「後悔してないよ……」

【――】

根暗女「どっちみち……私に表で生きる事できそうになかったし」

【――】

根暗女「過去に縛られて……惨めに固執して」

根暗女「感情を取り戻した瞬間……あっけなく敗けて」

根暗女「ずっと……思ってたけど」

【――】

根暗女「【あなた】……可哀想だね」

壁に空いた大穴から顔をのぞかせていた根暗女は、フロアの奥へと姿を消した。

轟音をたてて崩れゆく廃マンションを背に2人は雑木林を駆ける。

しばらくして友が背中越しに振り返った時、マンションは原型を失い、ガレキの山となっていた。



古き時代の戦争や暗殺において活躍し、時代の流れにともない壊滅していった陰の古武術。

現代社会にいまだ生ける、その武術の伝承者達による戦いが幕を閉じた。

人々に認知されぬまま牙を研ぎ、知られざる力をぶつけあい、そして人知れず散っていった。



崩れ落ちたマンションが、まるで戦国時代に攻め落とされた城のように見えた。

――――――――
―――――――
――――――
―――――














――――陰茎術と不甲掌拳の戦いから一ヶ月後。

スタスタ

友「……」

美少女「あ、友さん」

友「美少女。先に来てたのか!」

美少女「はいっ、ボクシングの試合帰りですか?」

友「うん。何発かいいのもらっちまってさ、いてぇんだよ」

美少女「顔はれてますからね……」

友「こんなんじゃまだまだだよなぁ」

美少女「テレビでてたのに」

友「何でチェックしてるんだよ、恥ずかしいから見ないでほしいんだけど」

美少女「知り合いがテレビでてるんだから見るでしょう普通!」

友「こんなんじゃこいつには絶対追いつけない」

美少女「……」


男「――」


友「あの日病院で……緊急開腹手術を受けてから」

美少女「今日でもう一ヶ月ですね」

友「……」

美少女「生きているのが奇跡と言われましたけど」

友「でも男はまだ一度も目を覚ましてない」

美少女「……」

友「そりゃ命が助かったって聞いた時は嬉しかったけどな」

美少女「……」


男「――」

友「俺は諦めてないよ」

美少女「……はい」

友「俺の親友は丈夫なんだ」

友「……」

友「いつか、絶対……目を覚ます」

美少女「……」

美少女「待ちましょう」

美少女「私もちゃんとしたお礼をしたいですから」

友「……」

美少女「……」


男「――」


友「男……」

美少女「……男さん」

男「――」


ピクッ


友「っえ?」

美少女「どうしました?」

友「今……布団が」

美少女「え……?」


男「――」


友「……」

美少女「……友さん?」

友「いや……気のせいかな」

美少女「……今日は休まれたほうがいいと思います」

友「はは、疲れてるからな」

男「――」


ピクッ


友「じゃあ俺今日は帰るよ」

美少女「ええ……私も今日はこのあたりで」

友「また来るのは来週くらいか?」

美少女「そうですね、家も遠いですし」

友「あんまり無理すんなよ」

美少女「友さんこそ毎日通ってるんですよね?」

友「まあ……家近いからな」



男「――」



ピクッ―――

友「じゃあな美少女」

美少女「はいっ。友さんもお元気で」

友「またね」

美少女「はい……またこの病室で」




男「っ――」



モゾッ



友「……ん?」

美少女「……え?」

友「なッ……!!!!」

美少女「あっ」

男「う……」


朝起ち。
正式にはその現象は『夜間陰茎勃起現象』と称される。
レム睡眠中に発生する生理現象であり、陰茎が正しく勃起出来うるか否かの無意識なメンテナンス運動とされている。

朝起ちによって1メートル程にいきり立つそれは、自らの身体にかかっている掛け布団をめくり上げ、悠然とその存在を誇示していた。


友「……っ!!」

美少女「お、男さんのあれがっ!!」

男「ん……」

友「お、男っ……!!」



男「……んん?」パチッ

友「男ぉぉぉッ!!!!!」ガバッッ

ダキッッ

男「うわっっ!!!! なんだ!!!?」

友「男ぉぉぉっ……お、お前っ、目をっ! 目をさましたのかよぉっ!!」ギュゥゥゥ

男「なんだっ、なんだ!?」

美少女「男さんっ……あぁあっ」ジワッ

男「えっ、えっ?」

友「男っ、ば、ばっきゃろー!!」ギュゥゥゥゥ

男「えっ!?」

友「し、心配なんてっ、し、しでねえがらなぁっ、グスッ!!」

美少女「男さんっ、うっ、ううっ! うああああ!!」ポロポロ

男「……」

男「え……?」

男「えっと……なんだ……何この状況」

友「ぐすんっ、グスンッ! 男ぉぉぉぉおお!!」ギュゥゥゥゥゥ

男「あと友お前が抱きついてんの俺のちんこだし」

美少女「ぐすっ、男さん……よかった、よかったですぅ」ナデナデ

男「だからそれ俺のちんこ」

グスングスンッ ズビズビッ


男「えー……と」

男「あ、あはは……お前ら鼻水やばいぞ……ここは病室か」

男「俺は……あいつと戦ってて」

友「いっかげづ……一ヶ月もっ、ね、ねむっだまんまだったんだがらなぁ」ポロポロ

男「え?」

美少女「ぐすっ、もう目覚めないかもしれないっで、おいしゃざんにいわれでっ」

男「え?」

友「よがっだ、よかっだ……グスッ、うあぁぁぁあぁ」

男「そん……なに」

男「……」

男「そうか……俺生きてるのか」

美少女「あ、あだりまえですよっ! いぎてますよっ!!」

男「……『不甲掌拳』は」

友「グスッ、あ……【あいつ】は」

美少女「マンションの倒壊に、巻き込まれて……そこからはわかりません」

男「……」

友「根暗女がたすけてくれたんだ、それで脱出できたんだけど」

美少女「根暗女さんも一緒に……」

男「……そっか」

友「男っ」

ガシッ

友「お前……勝ったんだよ、【あいつ】にっ、やったんだよ!」

男「友……」

友「よかった……グスン、お前が、生きててくれて」

男「……」

友「帰ってきてくれて、本当によかったよ……男」

男「お前が掴んでるの俺のちんこ」

――――――――


スタスタ


男「……」

男父「もう出歩いて大丈夫なのか」

男「っ……」

男父「よう」

男「親父ッ……出てきてたのか!!」

男父「病室にいなかったから探したが屋上にいるとは……気取り屋だな、ふふふ」

男「親父こそもう大丈夫なのかよ!!」

男父「お前が倒れてる間に俺は釈放よ」

男「よ……よかった……!」

男父「……迷惑かけたな」

男父「倒したんだってな」

男「……あぁ」

男父「【あいつ】はどうだった」

男「……」

男父「裏の世界でも名の知れてる野郎だ。実力は本物」

男「【あいつ】は強かったよ」

男父「だろうな」

男「でもさ……」

男「なんだろうな」

男「必死な感じでさ」

男父「……」

男「最強の武術家って感じはしなかったんだ」

男父「ふっ。言うようになったなオイ」

男「い、いや……」

男父「まあお前は俺よりも強くなったよ」

男「嘘つけよ」

男父「俺は【あの人】に負けてるんだぜ」

男「知ってるよ。全力出せない状態でだろ」

男父「きいてたのか」

男「親父……俺はさ」

男父「……」

男「その……なんていうか……誇りに思ってるよ」

男父「……」

男「親父のくれたこの武術」

男父「……」

男「使いあぐねてたし……最近は恥ずかしさもあった」

男「でもこの戦いでより確かになったんだ」

男「俺は『陰茎術』を最強にしたい」

男父「お前なら出来る」

男「……」

男父「ここは冷えるぞ。中に入れよ」

男「そうだな」

男父「あと母さんが海外出張から帰ってきてるぞ」

男「えっ?」

男父「久々に家族団らんで飯でも食おうぜ」

男「う、うん!」

男父「じゃあまたな。息子よ」

男「おうっ!」



男父(お前が俺の誇りだよ)

――――――――


陰茎術。

それは日本古来より実在し、歴史を左右する大合戦の折、常にその陰で活躍して勝利を引き寄せた、古武術の一つである。


チンピラ「おらっ!!」

学生「ひぃっ!!」

チンピラ「いいから金だせっつってんだろ」

学生「す、すいませんすいませんっ」

チンピラ「ったく大人しく金さえ出しときゃぁ殴られずに済んだんだよ」

学生「っ……」ブルブル


自らの陰茎を鍛え上げ、鋼の剣と化すその武術の鍛錬はまさに荒行、凄惨を極めた。
男として生まれ落ちたその時から、自らの陰茎にありとあらゆる苦痛を与える。
まだ精通どころか勃起すらできない陰茎に、有刺鉄線を巻きつけながら手淫をする鍛錬。

男「そこまでだぜ」

チンピラ「……あぁ?」

学生「っ……?」

男「そこまでにしとけって言ってんだよ」

チンピラ「……」

沸騰する熱湯と氷水の中、交互に陰茎を突き入れる鍛錬。
カリの部分に指輪をはめ、その指輪に鉄の重りを吊るす鍛錬。
何度も泣き叫び、苦痛にもだえ、陰茎を切り落としたいとまで願った。

チンピラ「ちっ、正義ぶったバカってたまにいるんだよなぁ」

学生「……」ブルブル

チンピラ「おい、てめえ」

男「なんだ?」

チンピラ「お前も財布出せよ。まあどっちみち先にボコるけどな」

男「やってみろ」

だがすべての鍛錬を乗り越えた時、陰茎術を体得した時、この世に敵はいなくなる。
そんな最強の武術。

チンピラ「泣いて後悔すんなやっ!!」ブンッ


男「……ふっ」


ときは平成、現代日本。

平和の水面下に陰湿な闇が蠢く時代。

そんな時代でも陰茎術の伝承者は―――まだ生き残っており


男「後悔するのはどっちだろうな」


まだ見ぬ敵を倒すため


真の最強を目指すべく


今日も人知れず、陰に身を隠し


戦い続ける



男「陰茎術秘技――――――」

おわりちんちん

1乙感動した
しかしガゼルパンチはただの踏み込みアッパーでフックともアッパーともつかないパンチはスマッシュだと突っ込ませてくれ
陰茎術だけに

>>392
ありがとう
ちんこの構造調べる前にはじめの一歩読み返しとけばよかった

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