ゾンビ「勇者に噛み付きました」勇者「ゾンビになりました」(392)

勇者「……」

ゾンビA「……」

ゾンビB「……」

勇者「おま……お前らホントマジでどうすんだよこれ」

ゾンビAB「サーセン」

勇者「つうかなんなんだよお前ら……ウーとかアーしか言えないのがゾンビじゃねえのかよ」

ゾンビA「やーそう言われましても」

ゾンビB「ほらここ、ちょっと腐ってるっす」

勇者「俺もそうなんのかよ……やだなぁ」

勇者「……? あれ? 俺心臓動いてないか? え? ゾンビで生きてるものなのか?」

ゾンビA「先輩はそれが普通だって」

ゾンビB「内臓とか潰されると死ぬっす。先輩、転落死したっす」

勇者「なにそのバリバリ生者な耐久性。ゾンビの利点ってなんだよ」

ゾンビA「え……さあ?」

ゾンビB「疲れにくいっす」

勇者「それ神経鈍ってるだけで借金背負ってるだけだよな」

勇者「普通のゾンビとは違うのか……お前ら食料どうしてんだ?」

ゾンビA「生前と変わらないかなぁ」

ゾンビB「ただ町にも行けないしサバイバル状態っす」

ゾンビA「とは言え獣も捕まえられないし魔物も襲い掛かってくるからから、木の実採ったり行商人襲ってます」

勇者「人の道踏み外しやがった……」

ゾンビB「ま、まだ人肉は食ってないっす!」

勇者「食う意欲はあるのかよ……」

ゾンビA「腹が減っては戦はできぬっ」

勇者「いいんだな。ただのゾンビでいいんだな」

ゾンビB「もう……もう食べたくない」

ゾンビA「未遂未遂」

勇者「というかお前、俺に噛み付いたよな」

ゾンビA「空腹が限界で危険が危ない」

ゾンビB「パン美味いっす。ありがとうございまっす」

勇者「……」イラッ

ゾンビAB「サーセン」

勇者「言ってくれりゃ食料ぐらい分けたってのに……ゾンビになり損じゃねえか」

ゾンビAB「サーセン」

勇者「とりあえずお前らの経緯を話してくれ」

ゾンビA「俺、盗賊やってました」

ゾンビB「商人っす」

盗賊「こいつが素材集めに行きたいってんで一応の護衛でついてきました」

商人「二人揃って崖から落ちたっす」

盗賊「そこに先輩……ゾンビになった元戦士が通りかかって俺達に噛み付いてくれました」

勇者「……? 一応は生者より生命力が上がるとかか?」

盗賊「あと傷の癒着がしやすくなるんだそうで」

勇者(腐肉がくっつくとかそんな感じか……?)

商人「見てくださいっす。この傷跡っす」

勇者「おいこらなんだその傷跡。普通に代謝してんじゃねえか」

勇者「しかも魔物にも襲われるってなんだよ……」

盗賊「先輩の先輩はオークに殺されたそうです」

勇者(やはり普通のゾンビとは違う……魔物ではなく別の要因か。聞いた事がないな)

商人「因みにこれ、先輩が持っていたゾンビの手がかりの本っす」

勇者「内容は?」

盗賊「この本の文字読めないんですよ」

勇者「なに? ああ、これ魔王軍で使われる文字だな」

商人「魔王……てか読めるんっすか?!」

勇者「勉強させられたんだよ」

盗賊「どうやって……いや何処でですか」

勇者「お城だよ。お前ら勇者ってものを知っているのか?」

商人「救世主?」

盗賊「神に選ばれたとか前世がどうのとか……?」

勇者「田舎者か……勇者は各国にいい加減に決められ称号を押し付けられた人間の事さ」

盗賊「何それドン引き」

商人「超ブラック」

勇者「ある程度の能力を見定め、国として死んでも困らない人間を起用してんのさ」

勇者「ただ褒賞はあるし、多少は特典がある」

勇者「まあ人相書きが各地に撒かれて、助けてくれる勇者様って広められるから頂くだけ頂いてトンズラはできないがな」

盗賊「すげえ囲い込み」

勇者「という訳で俺はある一国でババを引いちまった一人ってこった」

商人「ババ言い切った!」

勇者「んで、勇者だったり軍だったり。今までの戦闘で得られた物資の中に、魔王軍が記した書物が見つかり、更に解読にも成功」

勇者「旅をする中で相手が書き記したものの内容が分かれば力になる」

勇者「て事で勇者にさせられた者は、強制的に訓練を受けさせられる訳だ」

盗賊「うわぁ」

盗賊「因みに勇者さんの生前は?」

勇者「これ死んだって言えんのかなぁ……まあいいか」

勇者「俺はある剣術の一派に属していたんだ。呪術を絡めた剣術な」ペラ

商人「何それ怖い」

勇者「魔王登場以前は裏方で国の為に暗殺とかやっていたらしい、由緒があるような一派なんだよ」オペラ

盗賊「らしいだと由緒あるとは言わないですよ」

勇者「で、まあ段階的にやばい呪術も触れていくんだが、こっそり禁書を読み漁って飛び級で身につけたら」

勇者「こいつ才能あるけどダメだな、て事で破門食らった。で、そのまま勇者さ」ペラ

盗賊商人「ワー」

……
勇者「だいたいの内容は分かった。原理までは分からないがこりゃ呪術か病的なもんだな」

商人「マジっすか?!」

盗賊「治せるんですか?!」

勇者「治す方法は無いし、手がつけられなくなったから研究を放棄するって事で締めくくられている」

勇者「俺達のこの状態は魔王軍が研究していたもので、人間を生きたままこちらの戦力にする……」

勇者「まあ人工的なゾンビの生成が目的だったんだろうな」

勇者「が、出来上がったのは自我もあるし普通に動く。ちょっと痛みとか感じにくいだけのなんかよく分からんもの」

勇者「微妙に腐るのに生命力はちょっと上がって治癒力も少し上がる程度」

勇者「で、そいつらの体液で感染するしなんかメリットが無いって事だとよ。やっぱこれゾンビではねえのな」

盗賊「俺ら一生このままかぁ……」

商人「うへぁ」

勇者「ん? 俺の体はまだ腐ってる感じがしないな」

盗賊「徐々に徐々に腐ってきますよ」

勇者「へー……」

勇者「お、じゃあやってみるか」

商人「何をっすか」

勇者「ドラゴンの胆嚢とエビルシャークの膵臓を混ぜた溶液を剣に塗って……」

盗賊「えっ」

商人「ガチ呪いの気配」

勇者「封刻刃!」バババッ

盗賊「ぎゃあああ!」ザシュ

商人「ぬわーーー!」ブシュ

勇者「ぐっ……」ザンッ

盗賊「えーーー?!」

勇者「今のは相手の状態を固定するものだ。精神的や魔法的なものには滅法効くが、異物を摂取した事による毒などには効かない」

盗賊「使い道は……?」

勇者「例えば魔法で幻惑魔法を相手にかける。そこでこれを使えばその状態が維持される訳だ」

勇者「因みに胆嚢と膵臓を合わせる事で解呪しない限りそうは回復しない」

盗賊商人「えーーー?!」

盗賊「ひ、ひでぇ」

勇者「勘違いするな。これ以上の腐敗を食い止める為だ」

商人「俺達のこれって呪い的なもんなんすか?」

勇者「それが分かるのもしばらく先だな。まあ腐らなければ御の字ってとこだ」

盗賊「あのー……出血が」

勇者「おっとそうだった。回復の呪符」パッ

商人「おお……癒える」

盗賊「呪符って結構高価じゃ……」

勇者「俺は魔法が使えないんだよ」

商人「なーる」

勇者「さて行くか……お前達はどうする?」

盗賊「え? どうするも何も、勇者さんはどうするつもりなんですか?」

勇者「んなもん、魔王倒しに行くに決まってんだろ」

商人「マッジすか」

勇者「もしかしたら治す手立てが向こうにあるかもしれないしな」

勇者「仮に無くて魔王に挑んで負けそうになっても、魔王をゾンビ化してやりゃあ長い目で見た時には腐敗で弱体化するだろ」

勇者「まあ状態異常の早期回復や相手の能力上昇を早く切らす為に、効果促進みたいな呪術もある。それ使ってやるさ」

盗賊「結構ノリノリで勇者やってるんですね」

勇者「元々流れ者のところを師匠に拾われたからな……やる事も帰る場所もないのさ」

商人「いい話っぽいっすけどそれを裏切ったんすよね」

商人「勇者さんは他の勇者に会った事あるんすか?」

盗賊「あれ? そういえば俺のところには勇者似顔って見たこと無い……」

勇者「小さい町までは届かないだろうな」

勇者「因みに会ったのは9人。男5に女4」

商人「おほっ女性いるんすか」

勇者「うち7人は死亡。男3に女4。男女一人ずつは俺が遺体を見つけたよ」

盗賊商人「おわー!」

勇者「ま、国からしてみりゃ少し質がいいノーコストの捨て駒だからな。戦果なんてそんなもんだ」

勇者「俺はこれから魔王がいるとされる西に向う……というかずっと西に向っている」

勇者「道中、神器と呼ばれる装備とかも欲しいし、まあ色々寄り道をするつもりだ」

勇者「どうする? ついてくるか?」

盗賊「やる事ないんでついていきます」

商人「か弱いんでついていくっす」

勇者「死亡率格段に高くなるぞ? え? 商人は死ぬ気?」

それから一ヵ月後
女勇者「……」

戦士「おーい、どうした?」

女勇者「あ、ううん」

魔法「それ勇者の情報?」

僧侶「この前の勇者の方ですか?」

女勇者「……」

戦士「? どれ……なんだ? 一ヶ月以上、どこの町にも立ち寄ってないのか」

魔法「でもそれ、人相書きが届いていないような町だと記録されないものよね」

女勇者「そう、なんだけどさ……」

僧侶「最後に立ち寄ったのは……ここですか。流石に一ヶ月もあればそこそこの規模の町にも……」

戦士「あー……」

女勇者「……」

魔法「気持ちは分かるけども切り替えていきなさい」

戦士「俺らだって死に掛ける事はあるし、実際死んでるのを目の当たりにしてきただろ」

女勇者「そう、だけどさ……まだ、何もお礼すらできて……」

僧侶「勇者さん……」

女勇者「あたし……絶対に魔王を倒す……」グス

戦士「……おう」

魔法「勿論よ」

僧侶「お供します」

女勇者「……うん……うん……頑張る、から……あたし」

女勇者「……」

女勇者「よし! 西に向けて進むよ!」

戦士「おう!」

魔法「ええ!」

僧侶「はい!」

……ところ変わって
勇者「黒死炎!」ゴゥ

勇者「たあああ!」ザンッ

ワーウルフ「ひぎゃ」

オーク「ぷぎぃぃぃ!」

盗賊「厨二」

商人「厨二乙」

勇者「斬るぞ」ゴウゴウ

盗賊商人「サーセン」

盗賊「冗談はともかくそれすっごい強いですよね」

勇者「ぶっちゃけ強めの黒い炎まとって斬ってるだけなんだけどな」

商人「だけ? 呪術系じゃないんっすか」

勇者「斬りつけたダメージ以上に蝕んではくれるが、触媒無しだとそこまで凄くないんだ」

勇者「んで、触媒ってのがダークネスドラゴンの心臓とかさ……」

盗賊「超高級品っ」

勇者「ぶっちゃけそれあっても炎と毒付与ぐらいの効果なもんだ」

商人「でも今の炎単体でもそこそこ強いの考えたら……」

勇者「まーなー」

勇者「にしてもこの擬似ゾンビ体ってほんとメリットないな……」

盗賊「感染させても意味ないですし」

勇者「いや、多少は俺の呪術と親和性はあるかな」

商人「へ? どこがっすか」

勇者「相手の動きを止める。感染させる。で、封刻刃とは逆に、効果を促進させて早く切れるようにするという呪術を使う」

盗賊「目に見えて腐ってくれたらいいですけどね」

勇者「まあ、少しでも腐敗が始めればそこを突いてやるさ」

商人「鬼っす」

勇者「で、お前らの体はどうなんだよ」

盗賊「だいぶ治ってきましたね」

商人「薬草のちからってすげー」

勇者「腐敗した体が治る……どういう研究の仕方をしたらゾンビがこうなる」

商人「でもこの薬草結構高いやつっすよね」

勇者「そりゃ腐敗を治そうってんだからな」

盗賊「す、すみません……」

勇者「もし俺も腐敗が始まった時の対処両方の研究だ。気にすんなよ」

盗賊「あれ? でもこの状態を維持する呪術使いましたよね?」

勇者「あれ自体は薬草みたいな緩やかな作用だったら効果があるんだよ。良くも悪くも」

勇者「あと更に強化魔法を重ねようとしても効果が切れるな」

盗賊「強制力の差といったところですか」

勇者「ただ今回の場合、これ以上の腐敗を食い止めるだけに呪術がかかって、回復には関与していない」

勇者「という可能性もあるから判断つかねえんだよな」

勇者「まあ腐敗が始まったらまたかけ直せばいいさ」

盗賊「材料まだ残っているんですか?」

勇者「一応な。あと三回ってところか」

商人「結構あるんすね」

勇者「そうは調達できないから。手に入る時に思い切って買い貯めたんだ」

勇者「それよりそろそろ魔物の砦だ。お前達はどうする?」

盗賊「盗賊と言っても正面からガチでは戦えないし、お外で留守番してます」

商人「しがない商人が戦える訳ないっす。お外でお留守番してるっす」

勇者「はああああ!!」ザンザザンッ

オーク「こ、このに、人間? 人間強いぞ!」

オーク「囲め! 相手は一人だ!」

オーク「うおおお!!」ブン

勇者「と!」ガギィン

オーク「今だ! かかれ!!」

勇者「視奪与暗」スィ

オーク「!」

オーク「な、なんだ?! め、目が見えない!」

オーク「何が起こって……」

オーク「せめて奥の部屋に行かれる前に気付けば……味方が多くて中に入れねえ!」

オーク「何とか進め! 仲間が戦ってるんだぞ!」

女勇者「オーク! 覚悟!」

戦士「かかるぞ!」

魔法「あんたが指揮んなっ」

僧侶「攻撃に専念して下さい!」

勇者(他の勇者……! 不味いな、魔物扱いされて殺されちゃたまらない……だが出口は)シュルル

勇者(ロープ? 何処から垂れてきて……)

盗賊「勇者さーん、上上」

商人「他の人が来たから砦の裏側に隠れてたんっす。逃げるっすよ」

勇者「すまん、助かる」グッ

勇者「よ、ほっ、と、やっ」スイスイスイスイ

盗賊「盗賊連中顔負けの速さで登ってくる……」

商人「勇者さんマジすげぇ」

勇者「言ったろ。昔は暗殺していた流派だって」ガシ

勇者「こういう事もしっかり叩き込まれているんだよっと」バッ

盗賊「恐れ入りました」

商人「あの人達に見つかる前に行くっすよ」

勇者「ああ、そうだな」

勇者「……」

商人「どしたんっすか?」

勇者「何か引っかかったような……まあいいか」

オークの群れ「」

戦士「こんなもんか」

魔法「待って。中で既に戦っていた人がいたんじゃないの?!」

僧侶「そ、そういえば……何処にも見当たりませんね」

女勇者「……上の方に窓、か」

戦士「逃げたってのか? なんでまた」

女勇者「流石に分からないよ。もしかしたら豪胆な盗賊が魔物の砦で盗みでもしていたのかもね」

魔法「あたしら逃げる手伝いしちゃったって事?」

女勇者「根拠の無い妄想でしかないけどね」

……
女勇者「何か見つかったー?」

戦士「手がかり無し」

魔法「こっちも駄目ね」

僧侶「外れみたいです……」

女勇者「そうか……まあ、また頑張ればいいさ」

戦士「だな」

僧侶「魔王が奪った聖武器……手がかり一つ見つからないものですねー」

魔法「秘宝とされる装備、ね……わざわざ強奪するぐらいだし、魔王にとっても脅威でしょうね」

僧侶「でも……思ったんですけど、そんな危険とするものなら、盗られない様に魔王の根城に隠すんじゃないでしょうか?」

戦士「全て神々の祝福を受けているし、一部は神器だなんて言われてっからなー」

女勇者「憶測でしかないけど、聖なる力が強くて手元には置いておけないのではないだろうか」

女勇者「というのが各国の考え方。まあ……魔王軍にとってその武具が問題ないのであれば」

女勇者「自分達で装備して襲い掛かってくるだろうし。今のところこれが有力説かな」

戦士「最強の剣と謳われる破邪の剣、古代の水晶より生み出されたクリスタルソード」

戦士「神々から授かったと言う黄昏の鎧、あらゆる魔法に耐えうるオリハルコンの鎧」

戦士「冥界と現世の境にいる門番が持つという魂の盾、常に聖なる力を放つ光の盾」

魔法「2セット、ね」

僧侶「魂の盾に至っては、聖域の深部に納めていたというのに一体どうやって」

女勇者「流石に魔王と言えでも入れもしないだろうし、人間を誑かしたんだろうね」

魔法「恐ろしい話よね……」

……
盗賊「で、どうだったんですか?」

勇者「掛かってあった絵……一見デタラメのようだが、間違いなく地図だったな」

商人「ええ?! うわぁもったいな」

勇者「大まかには見れた」

勇者「印が二箇所あったが、一つは昔から腐敗の毒が貯まるという洞窟があるとされる辺り」

勇者「もう一つは入ったら最後出て来る事はできないと言われる帰れずの森」

商人「飽くまでその近辺っすよね?」

勇者「そうなんだよなぁ」

盗賊「けどなんでそんな印を……?」

勇者「魔王軍が奪ったとされる様々な武具の内いくつかのものは」

勇者「魔王ですら手が出せない場所に収められていたらしい」

商人「どういう事っすか?」

勇者「言ってしまえば聖域とかだな……最も本当にそこに手を出せないのかは不明だが」

勇者「仮にそう考えると、持ち出したのは人間という事になる」

盗賊「マジで言っています?」

勇者「魔王だぞ? 誑かすどころか悪魔の誘いや幻惑で操作する事なんて容易いだろ」

勇者「で、話を戻そう。何故、魔物達がそれを記す? オーク達はその武具を持っている様子ではなかった」

商人「???」

勇者「その印に武具があるんじゃないか?」

盗賊「言っている意味がよく分からないんですが」

勇者「例えば人間に持ち出させたものの、運んでいる途中に正気に戻ったとする」

勇者「そうしたらどうだ? 戻しに行くか? 立派な重罪人だ……無理だろう」

盗賊「魔物達でも入りにくい場所に持っていった?」

商人「それ戻しに行って捕まった方が生存率あるっすよね?」

勇者「もし、正気に戻ったのを気取られて魔物が襲い掛かってきたら?」

盗賊「無我夢中で……魔物の手を逃れられそうな場所に?」

商人「けどそれ、勇者さんがどうやって取ってくるんすか」

勇者「と、思うだろ?」

盗賊「秘策があるんですか?」

勇者「実はここ一週間ほど食事にそれなりの量の毒を盛っていた」

盗賊「は?」

商人「え?」

勇者「だが何とも無かった」

勇者「更に幻覚作用のある薬やら何やらも盛ってみた」

盗賊「盛りすぎ!」

商人「ひでぇ!」

勇者「だがそれも何とも無かった」

盗賊「……まさか」

勇者「何が起こるか分からない意味の無いゾンビ化を、魔王軍内で拡大するのを恐れたんだろう」

勇者「ろくにデータも取らずに潰しにかかった。て、ところか」

盗賊「勇者さんにはかなりメリットですね」

勇者「森はあれだが洞窟内の毒が、直接皮膚を焼け爛れるような作用でなければ……」

勇者「洞窟を探索するのは飛躍的に楽になるだろうな」

商人「おおっ!」

勇者「つーわけでそっちに向う。つまり敵も増える」

商人「おぉー……」

盗賊「しかし位置的におかしいですよね? 西から魔王城、探索地、砦って……」

勇者「多分、先遣隊って事じゃないかな……捨て駒として」

盗賊「……世知辛いですね」

勇者「まあ同情はしないがな」

この所々微妙な日本語…
Lv46剣士の人か

>>44
30レス程度ですら明らかにおかしいレベルなのか
流し読み程度じゃ気付けないほど語学力が低下しているようだし
しばらく熟読してくる

……
オーガコマンダーA「ガアアアア!!」ブォン

戦士「がっ!」ドガァン

僧侶「か、回復魔法!」パァ

魔法「火炎魔法!」

オーガコマンダーA「温いわぁっ!」ゴォォゥ

女勇者「たあああ!」ザンッ

オーガコマンダーB「効かんわ!」

オーがコマンダーB「死ねっ!!」ブォ

女勇者「っ!!」

戦士「勇者!」

女勇者「~~~~~!」

オーガコマンダーB「」ドザァッ

魔法「な、なに……」

女勇者「え……?」

オーガコマンダーA「な、何だ?!」

勇者「……」スゥッ

オーガコマンダーA「な、なんだその模様のついた剣は……」ゾク

女勇者「!」ゾクゾク

戦士「なんつう嫌な感じだよ」ゾゾォ

オーガコマンダーA「ぐ……くそがああああ!!」ブォ

勇者「……」ヒュン

オーガコマンダーA「あ? あぁぁあァァァ」ウゾウゾウゾ

魔法「な、なにあれ」ブル

戦士「剣の……模様じゃない。どっかの国の文字か……!」

僧侶「オーガの体に流れるように……」

オーガコマンダーA「ァ」ドザァン

女勇者「……」

女勇者「はっ! た、助け」

勇者「……」タタタタ

女勇者「えぇ?! ちょ」

女勇者「待って!」ガバッ

戦士「んだよ……宿屋じゃねえんだからうっせえなぁ」

僧侶「またあの夢ですか?」

女勇者「あ、ああ……」

女勇者「はあ……こんな事なら走ってでも追いかければよかった……」

魔法「本当ね……近くで叫ばれるこっちの身にもなってもらいたいわ」キンキン

女勇者「ご、ごめん」

戦士「ったく……ここがオーガ砦だったから思い出しちったか?」

女勇者「……」

魔法「そんな顔しないの」

戦士「ありゃ仕方ねえよ。俺の知る限り結構ヤバいところの流派だ」

戦士「なーんで勇者やってんのか知らねえが、逃げたのは後ろ指差されたくなかったからだろ」

女勇者「恐れられている剣術の一派、か……でも彼は」

戦士「そんな人かどうかはあれだけじゃあ分からねえよ」

女勇者「……」

僧侶「朝ごはんの用意できましたよー」

戦士「んで、次はどうするんだ?」

女勇者「一旦この先にある町に行こう。この砦で得た情報を伝えておけば、他の勇者も動いてくれるはず」

魔法「地図の印、ね」

僧侶「もしかしたらそこに重要なものが隠されている……」

女勇者「うん、可能性は低くないはず」

戦士「もしかすっと俺達側が把握すらしていない、凄い装備かもしれねえよな」

女勇者「あたしも似た様な事を考えていたよ。武具に限らず何か貴重な、ね」

魔法「それにしてもなんでこんな離れたところの魔物が地図を持っていたのかしら?」

戦士「どんな場所かしらねえが危険だから捨て駒使って様子見たかったんじゃねえの?」

女勇者「ま、憶測の範囲だしね。さあ、行くよ!」

……一方その頃
ヴェノムフラワー「……」モアァ

盗賊「ひぃ!」

商人「猛毒くるー!」

勇者「……」

勇者「ヴェノムフラワーの花粉は神経毒があり、相手の自由を奪う。そして動けなくなった者に更に花粉を吸わせる」

勇者「そして致死量を超えて息絶える。やがて土に還って養分となる、と言われるが」スラン

盗賊「あ、あれ……」

商人「動けるっす」

勇者(予想以上に凄いな。このゾンビ化は)

ヴェノムフラワー「」

勇者「……」ゴソゴソ

盗賊「あのー勇者さん?」

商人「何してるんっすか」

勇者「そりゃあお前ら、これの花粉に決まってるだろ」

盗賊「使うんですか……」

勇者「魔物にもよく効く毒薬だからな」

商人(気になってたけども。聞けなかったけども)

盗賊(この人が一人旅している理由ってやっぱり)

勇者「そういえば……盗賊は一応護衛だったんだよな?」ゴソゴソ

勇者「少しぐらいは戦えないのか?」

盗賊「ここらの魔物となんて戦えませんよ」

商人「俺達のいたところってもっと穏やかっす」

勇者「なんでこんなところにいるんだよ……」

盗賊「……安全な分、人も行き交うものでして」

商人「指名手配されたらさくっと討伐隊があっちこっち探し始めるっす」

勇者「なるほどな……それで人との遭遇率が少ない危険地帯へか。けどそれあんま意味無くないか?」

盗賊「基本的に魔物は隠密行動を取りませんからね。外では大抵隠密行動となる人間の方が厄介なんですよ」

勇者「お前らなりに苦労していたんだな……」ゴソ

商人「うっす……」

盗賊「俺一人ならもっと逃げるのも楽なのに……」

商人「と、盗賊……?」

盗賊「だから置いていっていないだろ。そんな顔するな気持ち悪い」

勇者「さて……こっちは済んだしそろそろ行くか」

勇者「洞窟まであと少しか……お」

盗賊「どうしました?」

勇者「あんな所に洞窟が!」

商人「え? は、はあ……」

勇者「ちょっと行ってくる」

盗賊「ゆ、勇者さん?!」


勇者「ただいま、死体があっただけだ。あ、使えそうな鋼の盾を持ってきたからどっちか使え」

盗賊商人「えー?!」


勇者「ふああ……そろそろ寝るか」

盗賊「ですね」

勇者「そういやお前らの体はどうだ?」

商人「完治したっす!」

盗賊「もう薬草がなくても平気ですね」

勇者「そりゃ良かったな。俺も異変は無いし」

盗賊「顔色はめっちゃ悪いですけどね。お互い」

勇者「そこだけ目を瞑れば超がつくほどの耐性が得られる。メリットあったな」

商人「でも町には行けないっすよね」

勇者「そこは仕方がねえよ」

盗賊「そういえば勇者さんって勇者の中ではどれだけ進んでいるんですか?」

勇者「どういう事だ?」

盗賊「進行具合というか何というか」

勇者「どうだかなぁ。四、五人くらいは俺より先の町にいたが後ろは覚えて……あ、最後に見た時に先の二人死んだってあったな」

商人「うわー……にしてもそれだと、他の勇者がどれくらいの距離にいるかって全く予想つかないっすね」

勇者「一ヶ月以上経ってるんだぞ。予想なんて意味が……そういや一人、結構近かったな。あ」

盗賊「どうしました?」

勇者「思い出した。もう一人会っている」

商人「そうなんすか?」

勇者「つっても、即死させる呪術使った後で効果が余っていたから、少し割り込んで斬って逃げたんだがな」

盗賊「え? 逃げた?」

勇者「見た目がアレな呪術だからドン引きされてるだろうからな」

商人「ああ、なるほどっす」

勇者「勇者の他に三人いたっけかなぁ。覚えていないな」

勇者「ま、達者でやってくれていればいいが、どうせあの世で会えるさ」

盗賊「最強のポジネガティブ……」

翌朝
勇者「おし、じゃあお前らはこの洞窟に隠れていろよ」

盗賊「危なくなったらこのお香を焚くと」

商人「うっす」

勇者「さあて毒の洞窟、どうなるかね」


勇者「ただ、いま……」ジュウジュウ

盗賊「勇者さん?!」

商人「や、薬草!」

商人「た、爛れ方半端ねえっす……」

盗賊「流石に駄目でしたか」

勇者「いや……そこは問題なかった」

商人「え?」

勇者「最深部に一人の遺体と光の盾と思しき盾があったんだ」

盗賊「お、おお……勇者さんの仮説どおりですね」

商人「でも手ぶら……まさか魔王来襲?!」

勇者「違う……盾が放つ光を浴びたらこの様だ」

勇者「どうやら俺らは聖なる力からは不浄なモノとして見られているようだ」

盗賊「そんな……」

商人「じゃあ勇者さんは行き損っすか」

勇者「通り易くはしておいた……"人間"の勇者が通る時はだいぶ楽なはずだ」

勇者「だがこいつは痛手だな……教会で祝福された武具ぐらいは使えるといいんだが」

盗賊「あー……」

勇者「とりあえず、もう少し動けるようになったら帰らずの森に行こう」

商人「そこ行っちゃうんですか」

勇者「ロープを張って少し様子を見る。帰れない由縁が幻覚作用とかであれば」

盗賊「あ、俺ら平気ですね」

勇者「そういう事だ」

一週間後 毒の洞窟
勇者A「ここが情報にあったところか」

騎士「そのようだな」

衛生兵「ですね」

呪術師「あ……やっぱり」

勇者A「どうした?」

呪術師「ここ、内部が毒で満たされてるところだよ」

騎士「なに? 参ったな」

衛生兵「どうするんですか?」

勇者A「俺が少し進む。問題なさそうならそのまま……」

騎士「いや危険過ぎるだろう」

呪術師「ロープってホント万能だな」キュッ

勇者A「ロープの動きがしばらく止まったら引っ張りあげてくれ。あまり抵抗が無いようならそのまま外まで」

騎士「何度も言わずとも分かっている。……毒が噴出すかもしれないな。お前は下がっていろ」

衛生兵「は、はい……」

勇者A「よし、行ってくる」

呪術師「頼んだよ」

勇者A「はぁ……はぁ……」

勇者A「なんて息苦しい……」

勇者A「様々な解毒剤を投与してきたとは言え……」ヌチャ

勇者A「ここの毒……摂取すると危険なタイプか」

勇者A「しかし、もっとこう浸されるくらいに毒があるのかと思ったがそうでもない……」

勇者A「これなら何とか……なんだ、光が」

勇者A「……」ザッザッ

騎士「無事か!」

衛生兵「まさか……それは」

勇者A「ああ……光の盾のようだ」

勇者A「深部で何者かの遺体もあった」

呪術師「他にも誰かが取りに……」

勇者A「分からないが勇者の風体ではなかったな」

勇者A「もしかすると魔王が狙っている事に気付いて、秘密裏にここへ移したのかもしれない」

騎士「しかし人でも奥にいけるぐらいなのだろ? 魔王がそれに臆するとは」

勇者A「……盾を手に入れたら苦しさが消えて余裕が出てきたから気付けたんだが」

勇者A「数多くの毒が噴出すのであろう穴があった。中でも大きなものは全て埋められていたんだ」

呪術師「どういう事だ?」

勇者A「分からない。何者かが通れるようにしたのだろうが、ならば何故盾をそのままに……」

衛生兵「自然現象で塞がった可能性は?」

勇者A「どうだろう。あまり古い感じでもなかったからなぁ」

騎士「とにかく魔王に奪われたと思われていた装備を一つ、取り戻すことに成功したんだ」

勇者A「ああ、これは大きいぞ」

勇者「おっ」

盗賊「どうしました?」

商人「死人っすね」

勇者「なんかめぼしいものあるかなぁ」

盗賊「え? ホントに死体漁り? この間の冗談じゃなかったんですか? 流石の俺でもドン引き」

勇者「そんな事を言っている余裕はないだろ……いい加減、剣も取り替えたかったしな」ゴソゴソ

商人「でも勇者さんの言う通りっすね」ゴソゴソ

盗賊「……」

盗賊「あ、短剣がある。ラッキー」ゴソ

勇者「おっし! 獲れた!」

盗賊「鹿ですか?」

商人「やったっす! でもどうやって……」

勇者「いや投石したら頭部に当たった」

商人「すごいっすね……」

勇者「よーし解体するから手伝ってくれ。上手く燻製も出来ればいいが……成功したら御の字ってところか」

パチチパチ
盗賊「はー……枝や葉で被せもの作って燻すんですか」

勇者「即席燻製器だ。よく失敗もする」

商人「そうっすか……」ジュゥゥ

勇者「お、そろそろ良い感じかな。じゃあ」

「「「いただきます」」」

商人「うっまそう!」ハグ

商人「……」

盗賊「うーん……なんとも言えない味」

盗賊「生臭いわけじゃないけど独特な臭みですね」

勇者「ちゃんと下拵えできればそれも消せるんだけどな。臭みも個体差が激しいしなぁ」

商人「結構ガツンとくる臭みっすね」

勇者「文句を言うな。お前らの所為で俺まで久々の肉なんだぞ」

盗賊「俺は文句言っていないですよ?」

勇者「じゃあ今後、商人の分の肉はいいか」

商人「ちょ」

商人「あー食ったっす……勇者さーん、また何かお話聞かせてくださいっすよ」

盗賊「子供かお前は」

勇者「よし、後味悪くなる話をしてやろう」

盗賊「なんでそういうチョイス」

勇者「今現在現れている魔王は遥か昔にも現れ、封印という形で討伐されたそうだ」

商人「え、それ結構凄い話じゃないっすか! でも後味悪い……?」

勇者「そして実は人間」

盗賊(凄い聞きたくない話の予感しかない)

勇者「それこそまだ人間が魔法を使えない時代、魔力を持っているのは魔物だけ」

勇者「そんな時代に魔王は膨大な魔力を持って生まれたそうだ」

勇者「当然、迫害されて世界に憎しみを向けるようになり、一人で魔物を研究し今日の魔法の基礎とも言える体系を築いた」

勇者「当時の人間は魔方陣を描く事で、自然界のエネルギーの素となる力を消費して術を行う、というものが主流であり」

勇者「力をつけつつある魔王に対して、魔方陣による力で封印したそうだ」

盗賊「うわー……」

商人「食あたりしそうっす」

勇者「魔王の影響なのか何なのか、その辺りから人間も魔力を持つ者が生まれるようになり」

勇者「魔王の研究を糧に魔方陣から詠唱による魔法へと移行していった。結果、魔方陣の類はほんの一握りを残し消滅って訳だ」

盗賊「俺、魔王応援したくなった」

商人「俺もっす」

勇者「俺は殺すけどな。こんな体にもなっちまったし、魔王の私怨なんぞ知らねえよ」

盗賊「……何と言うか」

商人「そういうところはホント……」

勇者「魔王はそういう生き方を選んだ。俺はこういう生き方を選んだ。それだけの事だ」

勇者「さ、そろそろ寝るか」

ホーホホー
商人「……」

盗賊「……」

勇者「……」

焚き火「」コウコウ

被せもの「」モウモウ

盗賊(めっちゃ燻製の匂い)

商人(ハムを軽く炙ってパンに乗せて食いたい)

勇者(もし生き残ったら山奥に小屋でも建ててのんびり暮らすのもいいなぁ……)

翌朝
女勇者B「ぅぅ……」

剣士「く……」

盗賊「どうするんです……これ」

商人「めっちゃ行き倒れてるっすね」

勇者「こいつらも運がいいな。丁度燻製肉があるこのタイミングで行き倒れてるとは」

盗賊「俺ら大丈夫ですかね」

勇者「少し回復したぐらいじゃ襲い掛かってこないだろうよ」

勇者「商人、お前はもっと堂々としていろよ。とりあえず男三人って事を分からせておけばリスクは減る」

商人「超無理っす」

女勇者B「このご恩、決して忘れませんっ」

剣士「かたじけないです」

盗賊「まあ手遅れじゃなくて良かったさ」

女勇者B「……」

剣士「……」

商人「そんなに見つめられると照れるっすよ~」

勇者「お前ら全員手遅れだけどな、て目してるけどな」

女勇者B「そ、そんな事は!」アセアセ

剣士「そのような無礼な事は!」タジタジ

女勇者B「あ、あの……経緯をお伺いしても?」

勇者「色々と省略すると魔王軍の実験に巻き込まれてこうなった」

盗賊「端折りすぎ!」

剣士「なんて恐ろしい……」

商人「まあぶっちゃけ肌の色以外、不便していないっすけどね」

盗賊(勇者さんのおかげで)

勇者(俺のおかげで)

女勇者B「このようなご馳走を頂き本当にありがとうございました」

剣士「何れ、このご恩は返させていただきます」

勇者「お互い生きてりゃな」

商人「あ、何なら俺がそっちに行ってお礼を」

盗賊「彼女達はあっち、俺らはこっち」ガシ

商人「アー」ズルズル

勇者「まあ達者でな」

女勇者B「はい、お三方もどうかご無事で」

剣士「魔王無き世で会いましょう」

商人「いやー話の分かる人達で良かったっすね」

盗賊「どうなるかと冷や冷やでしたよ」

勇者「そら次の冷や冷やだぞ。あそこに見えるのが帰らずの森だ」

商人「森だったら俺らも入れるっすかね?」

盗賊「試してみるか……」

勇者「俺がロープ持って先行する。特に問題無いようなら一旦戻ってお前達も連れて行くぞ」

勇者「また洞窟みたくなると移動が大変だしな……」

盗賊「あー……」

商人「しかも次も濃厚そうという」

帰らずの森
勇者「鬱蒼とした森だが他に特別な事はないな」

盗賊「帰り道の標もつけていますんで」

商人「少し珍しい薬草があるぐらいっすね」

勇者「だいぶ進んだが……お」ピリ

盗賊「な、なにか肌を刺すような」

商人「勇者さんの言っていたのってこんな感じだったんすか?」

勇者「いや、あれはもっと肌が焼けるような……これは恐らく」

破邪の剣「」ォォォォ

勇者「く……お……」ビリビリビリ

勇者「ひ、引っ張」クイクイ

盗賊「おーえす」ズルル

商人「おーえす」ズルウ

勇者「ぐあああ……痺れるぁ……」ズルズル

商人「大丈夫っすか?」

勇者「ああ、何とかな……」

勇者「やれやれ……やっぱり破邪の剣か」

盗賊「いやーこれどうするんですか? 他の人の手引きって難しいですよ」

商人「困ったっすね」

勇者「こればかりはどうしようもないだろう」

勇者「入り口近くまで引っ張る事は出来るが、それだと魔物に見つかる場合もあるしな」

勇者「諦めて進むとするか」

商人「これからどうすんっすか?」

勇者「目的は飽くまで魔王。道中に洞窟とか祠とかあったら探索」

盗賊「その祠、聖域系じゃないといいですね」

勇者「考えただけで震えてくるな」

勇者「お前達はどうするんだ? 本当にこのままついてくるのか?」

商人「あー……」

盗賊「……今なら何とか町でも暮らせる、のか? いやでも他の人に感染させたら嫌だしなぁ」

勇者「確実に死ぬぞ?」

商人「自分でそれ言っちゃうんっすか」

勇者「魔王だぞ? 生きて帰るどころか倒せるとすら思っちゃあいないさ」

盗賊「まあ……正直、俺達は諦めているところもありますしついていきますよ」

勇者「運が良ければ魔王討伐の協力者、か?」

商人「墓標に刻まれるって事っすかね?」

盗賊「違いないな」

勇者「残念だが俺も含めて何者かの遺体の残骸扱い……お、あそこに洞窟がある。行ってみるか」

盗賊「また始まってしまった」

商人「中々進まないっすね」

帰らずの森
勇者D「ここが帰らずの森……」

勇者C「鬱々としたところだな……いけるか?」

女勇者A「……」スィ

女勇者A「透視魔法!」クワッ

女勇者A「うん、いけそう……よし、剣らしきものも見えたわよ!」クルッ

女勇者A「……ほうほう、白と黒か」

勇者D「!」カァッ

勇者C「だから下着見んのやめてくんない?」

勇者D「ひああああ!」ガタガタ

勇者C「くそっ! これ本人のトラウマボーリングマシンかよ!」

女勇者A「あたしには普通の森に見えるんだけどなー」

勇者D「ていうかこれ! 魔物いないなら僕達ぃ!」

勇者C「出せ! この森から出してくれー!」

女勇者A「え、や、冗談抜きでとっくに半分超えてるんだけど」

勇者D「……」ガタガタ

勇者C「くっそ……なんで、くっそ……」

女勇者A「D君、お姉さんが添い寝してあげるからね」ピト

勇者C「いや、俺ら、この剣と、寝る」

勇者D「……」コクコク

女勇者A「ちっ。なんで破邪の剣だったのよ」

勇者C「いや、そこは、喜べよ」

二週間後
勇者「随分と物々しい塔だな……」

盗賊「確か、昔使われていた物ですよ」

商人「……」

勇者「行くか」

盗賊商人「ですよねー」


オークゾンビ「ガアアアア!!」ボトボトボト

勇者「おうし! 大当たりだ!」

盗賊商人(外で待ってれば良かった!)

勇者「幻抱雑音」スイィィ

盗賊「剣から靄が……?」

勇者「よっと」スンッ

オークゾンビ「グフゥゥ」ブシュ

オークゾンビ「オグ? ゴフッ! ゴフッ!」

商人「何か様子が……」

勇者「幻に包まれ幻聴が鳴り響く。相手の目と耳を奪う呪術だ」

勇者「悪いがその首、刎ねさせてもらう」スラァ

勇者「いよいよ最上階か」..ン..ン

商人「? 何の音っすか?」.カン.カン

盗賊「! 下から誰かが!」

勇者「あー……そこに隠れてロープ用意。状況次第じゃ下に逃げるぞ」

商人「合点承知ぃ!」

盗賊「お、襲い掛かってこられたりしたら」ワナワナ

勇者B「おや……先客か」

闘士「待て! あれは……」

双剣使い「別の勇者……え? なんだあの肌の色……アンデッド?! くそ! 厄介な」

勇者「待て! 正気だ!」

勇者B「なに!?」

双剣「騙されるな! そんな訳が無い!」

闘士「ふむ……恨みは無いが騙まし討ちをくらう訳にはいかない」

勇者「こりゃあちと……」

勇者B「待て! 二人とも!」

双剣「はっ!」シュシュン

勇者「とっ!」ギィィン

闘士「はっ!」ゴォッ

勇者「がぁっ!」ドゴォ

闘士「せいっ!」ブォ

勇者B「止めろと言っているのだ!」ガギィン

闘士「む! 勇者B?!」グググ

双剣「もらったぁ!」

商人「勇者さんっ」

盗賊「オッケーですっ」

勇者「視奪与暗……」モゥ

双剣(?! やつの剣から黒い……)シュ

勇者「悪いな……」

双剣「くっ! この程度の傷……な、め、目が! くそ!」

闘士「そ、双剣?」

勇者「……」スッスッ

商人「! うっす」

盗賊「お先っ」

勇者「とうっ」バッ

闘士「待っ……! ……何故止めた?」

勇者B「お前にはあれが魔物に化したように見えたのか?」

双剣「だからって……」

勇者B「せめてもう少し話合いの場を持つべきだった」

双剣「……それで魔物の援軍を呼ばれていたらどうするんだ」

勇者B「そこに巨大なオークゾンビの死体が転がっているんだぞ」

闘士「既に別の勇者が倒し、あのゾンビ勇者が奇襲して死体をどうにかした後。かもしれないんだぞ」

勇者B「それは……そうだが」

闘士「何にせよ注意すべきだ。次の町では報告をあげるぞ」

双剣「謎の剣術も使っていたからね。未だに目が回復しない……厄介な相手だよ」

……一週間後
魔法「ちょ! ちょっと! これ見て!」

戦士「手配書か? どうしたー? 知り合いでも載ってたか?」

女勇者「呪術のような力を持つ、剣を装備した勇者……え?!」

僧侶「それってもしかして……」

女勇者「彼……なのか?」

戦士「なんて内容だ? ゾンビ化したものと思われる」

戦士「敵と見なし攻撃を行った為、意思疎通が可能かは不明……」

戦士「危険性がある為、各自注意されたし、か」

女勇者「……まだ、懸賞金はかかって、いない」ホッ


戦士「どうだろうな。そこらの冒険者より総資金は持っている」

戦士「悪巧みを考えている連中からしてみれば、略奪の大義名分ができたようなもんだ」

魔法「どうにか早く誤解を解かないと……」

女勇者「いや……それは難しいかもしれない」

僧侶「え? な、何がですか?」

女勇者「ここの特徴。青白い肌……少なくともあたし達が会った時はそうではなかった」

戦士「だな。意思があるかはどうあれ、何かしらの理由でアンデッドかなんかになっちまってんだろうよ」

魔法「ともすれば、接触自体が危険かもしれない、か」

女勇者「……」

僧侶「勇者さん」

戦士「まあでもチャンスがあれば会うんだろ」

女勇者「当然だ」

魔法「人ではなくなって孤独に生きる他無い彼に、ね。弱ったところを浸けこむとは中々の策士」

女勇者「そ、そういう言い方をするな!」

女勇者「と、とにかく方針は変わらない! 魔王を目指しつつ彼を探す」

女勇者「意思があるのなら共に戦い、彼の地位を何としてでも……」

僧侶「……最強乙女」

魔法「全くね」

戦士「だが、覚悟もしているんだろうな?」

女勇者「っ!」

僧侶「え? な、何をですか?」

戦士「そいつを見つけるという事は、魔物と変わらないゾンビに成り果てていた場合……」

魔法「……私達の手で?」

戦士「そりゃそうだ。見逃す訳にはいかんだろ」

女勇者「分かっている……分かっているよ」ギリ

女勇者(神様……もし本当におわすのならば、どうか彼をお救い下さい……)

戦士「とりあえず行こうぜ。さっさとしねえと今日中に峠を抜けられねえ」

女勇者「そう、だな……」カランカラン


一時間後
女勇者B「ふう……着いたぁ」

剣士「早く給金を頂いて宿屋で休もう」

女勇者B「そうだねぇ……」

剣士「時々思うのだが、君は他の者達の情報とか集めたりしないのか?」

女勇者B「いや調べても仕方が無いし」

剣士「何故?」

女勇者B「追いかけたら死体だったり、とっても強い魔物が置き土産になってたりするから、さ……」

剣士「そ、そうか……」

女勇者B「ああ、でもこうして剣士ちゃんに会えたから悪い事ばかりでもないか」

剣士「私の場合は特殊だろう。剣の腕を上げたいが為、勇者達に同行すべく追いかけていたのだからな」

女勇者B「で味方が全滅したあたしの前に現れてくれた、と……」シミジミ

剣士「もう半年前か」

女勇者B「うん、これからもよろしくね」

剣士「こちらこそだ」

女勇者B「……あ」

剣士「どうした?」

女勇者B「この間の人達、やっぱ名前ぐらい聞いておけばよかった……」

剣士「……勇者の帳簿の事すら失念していたのか」

女勇者B「……」

剣士「そのうち帳簿の方に特徴から探す事ができるようになるだろう」

女勇者B「そ、それはそれで困った事態になっているような……」

瘴気の森
勇者「ショートカットとはいえ、凄いルートを選んでしまったか……大丈夫か?」モァァ

商人「すっごい瘴気っすけど平気っす」

盗賊「……」

勇者「どうした?」

盗賊「いえ、俺達の体で少々気になる事が」

勇者「この瘴気じゃ魔物も嫌気が差すんだろうな。全く戦闘もねえし暇つぶしに話せ」

商人「え? それって暇つぶし扱いでいい事柄なんすか?」

盗賊「……俺達の体はとにかく状態異常に対して凄まじい耐性を持ちました」

勇者「そうだな」

盗賊「なら……勇者さんの呪術が俺達に効いたのは一体?」

商人「え? うん?」

盗賊「俺達の腐敗を食い止めるのに施したやつだよ……」

商人「あっ! あ、あれ? なんで?」

勇者「……短剣で自分を斬りつけてみたらしっかりと幻と幻聴に襲われた」

勇者「俺達の剣術は斬る事で、刃先から呪術を相手の体に流し込んでいるから、かもしれない」

商人「えーとつまり……毒針で刺されたら、俺らでも毒になるって事っすか?」

勇者「それがそういう訳でもないんだよなぁ」

商人「実験済みっすか」

盗賊「……それってもう勇者さんの剣術が特殊でいいような」

勇者「正直、俺も今はそれでいいかなと思っている」

商人「考察している割に投げやりっすね」

勇者「無茶を言うな基本情報がないし、そう検証もしちゃあいられねえ……」

勇者「とは言え、なんだかこの情報不足が足元を掬いそうで怖いんだよなぁ」

盗賊「あー……」

勇者「まあその時はその時だ。どうしようもなければ殺されて、俺達のようなゾンビは根絶やしって事で喜べ」

商人「そんなポジティブになれないっす」

勇者「うん? あれは?」

商人「この感覚……!」ゾク

盗賊「いや、何かがおかしい……」

勇者「行ってみるぞ」


赤黒い大剣「」

盗賊「これ絶対ヤバイやつだ」

商人「絶対呪われてるやつっす」

勇者(強そう)

勇者「刀身に文字が掘ってあるな」

盗賊「や、やめましょう! 読んだら死ぬ!」

商人「読み聞かされても死ぬっす!」

勇者「この刀身、万の首を刎ねた断頭台のもの」

勇者「生き血を啜り禍々しき力を得る事となる」

勇者「ここに武具とし残す。強大な何かを屠るというのであれば、己の命と共に摘み取る事だろう」

盗賊「自分も死ぬ前提!」

商人「怖っ! めっちゃ怖!」

勇者「……」ザコッ

商人「引っこ抜かないで!!」

盗賊「ま、まさか」

勇者「……何ともないな。よし、こいつは貰っていこう」

盗賊「マジですか?」

勇者「丁度いいだろ。断頭台の大剣ってところか。俺の首をくれてやる。だから魔王の首を落とせ」

商人「超心こもってるっす」

勇者「人外に成り果てた俺らにはお似合いのものだろ?」

盗賊「道連れ断頭はちょっとなぁ……」

勇者「!」ザァァァ

商人「瘴気が晴れていくっす!」

盗賊「まさかそれが……?」

商人「?? でもそれってつまり自分から人を遠ざけてた、って事っすよね?」

勇者「生き血を啜り、呪われた力を持ち……けれどもお前は、本当はそうなりたくなかったんだな」

勇者「……すまないな。堪えていてくれていたのに俺はお前を振るうよ」

盗賊「でもそれこそ遠慮なく使うつもりですよね?」

勇者「まあな」

骸骨砦
骸骨騎士「カーー!」ヒンッ

戦士「ぐぉ!」ザシュゥ

呪術師「影縛り!」

骸骨騎士「ガッ!」ビシッ

騎士「今だ!」

女勇者「たあ!」ザンッ

勇者A「うおおお!」スンッ

骸骨騎士「ガ、ア……」ズルゥ

骸骨騎士「」ガラガラガラ

魔法「まさかクリスタルソードを使われるだなんてね……」

女勇者「ありがとうございます。皆さんがいなかったら今頃あたし達は」ゾォ

勇者A「いやこちらもありがとう。君達が先に戦っていてくれなかったら恐らく……」

騎士「最前衛の私はばっさり切り捨てられていただろうな」

戦士「だろうな。俺の鎧もこの通りだ」バックリ

衛生兵「き、傷が深くなくて良かったですね」サァー

僧侶「あのーこの剣はどうしますか?」

勇者A「俺達は見ての通り光の盾を手に入れているからな。そちらで使ってくれ」

戦士「マジかよ。やったな」

女勇者「よ、よろしいんですか?」

騎士「こちらは構わないよ。何なら行動を共にしてくれれば、お互いにこれらの恩恵を受けられるが」

魔法「私達は少し北を目指すのだけれども」

魔術師「方角が違うか……しかしなんだって北に?」

女勇者「少し……人を探していまして」

勇者A「北……北……まさかゾンビの勇者を追っているのか」

女勇者「! ご存知なのですか?」

勇者A「いや、直近の目撃情報がこの北の方だと見たからね」

騎士「どうであれ、動向を知っておくに越した事は無いからな」

戦士「ああ、なるほどな」

衛生兵「とは言え、目撃したのは山に入っていた狩人との事ですし、目撃自体相当距離がありそうですね」

女勇者「……」

勇者A「知り合い、かい?」

女勇者「恐らく、以前助けてくださった方だと……」

呪術師「世知辛いな。恩人が明日には魔物化か」

騎士「呪術師! 確定していない、口が過ぎるぞ」

呪術師「……」ムスッ

女勇者「いえ、いいんです」

戦士「まあ、すっげえ青白いって事を考えると既に人ではねえもんな」

女勇者「……」

魔法「それでも、会うんでしょ。貴女がそんな顔でどうすんのよ」

女勇者「うん、ごめんね」

勇者A「では俺達はこれで」

騎士「お互い達者でな」

呪術師「まあ何れにせよ何時か死後で会えるさ」

衛生兵「呪術師さん!」

女勇者「そちらもどうかご無事で」

戦士「そのうちまた背中を任せっからよ」

魔法「その時は青白い勇者も一緒にいたりしてね」

僧侶「皆さん、お元気で」

勇者「……」ザッザッ

盗賊「……」ザッザッ

商人「……」ザッ ザッ


勇者D「あれ……ですよね。流石に見間違える事も無いですね……」

女勇者A「き、きもい……全員青白いじゃない」

勇者C「せめて一人でもまともな人間がいれば違ったが……」

勇者C「とてもじゃないが、あれに人としての意識があるとは思えない」

勇者C「犠牲者が出る前に食い止めるぞ」

勇者「!」ビク

盗賊「どうしました?」

勇者「お前達は逃げろ……くそ、気付くのが遅れた」

商人「敵?! ひいいい!」

盗賊「すみません、お願いします」


勇者D「あっ……」

女勇者A「どーすんの?」

勇者C「……仕方が無い。勇者っぽい方を仕留めるぞ」

勇者C「ゾンビの勇者だな。仲間を逃がすとは殊勝だが……討伐させてもらう」

勇者(なんだ……この感じは)ビリ

勇者「待て、確かにこんな成りだが俺は……」

勇者D「何だろう、この……!? な、なにあの剣!」ゾク

女勇者A「な……瘴気の塊だとでも言うの? ……あれを持っていられるなんて普通じゃないわ」

勇者(しまったぁぁ!)

勇者C「……正直に言えば迷っていない訳ではない。だがしかし」スラァ

勇者「ぐぁ! ぐううう!!」ビリビリビリ

勇者(な……破邪の剣!? あの森を踏破したのか!)

女勇者A「?」

勇者D「ま、まさか……破邪の剣に反応して?」

勇者C「……」

勇者C「理性があろうとそちらに堕ちたという事か! 覚悟しろ!」

勇者「ちょ、マジ、か」ビリビリ

勇者(戦うしかないのか!)ブォン

断頭台の大剣「」コォォォ

勇者C「くっ!」ゾォ

勇者C(なんて威圧感だ……やはり完全に魔物と化しているのか!)

勇者(息苦しさが……? そうか、こいつの瘴気が破邪の力に対抗しているのか)

勇者(何とか隙を見て逃げ出さなくちゃあな……)

勇者「たあああ!!」ガギィィン

勇者C「ぐうう! 重……!」グググ

勇者C(ここまで剣のウェイト差があると、強度と威力の差で押される! 頼みの綱は……)

勇者D「幻惑魔法!」ォォ

勇者(大丈夫……この程度でどうにかなる体じゃない)スゥ

女勇者A「火炎魔法!」ゴォォォ

勇者「ふん!」ブォォン

勇者C「大剣の薙ぎ払いで炎を……」

勇者(とは言え、流石に隙が無……)ヒュン

勇者C「! D! 避けろ!」ヒュン

勇者D「!? たあっ!」スン

蜘蛛の糸玉「」スパッ

女勇者A「きゃあ!」ネトォ

勇者D「うわああ!?」ヌタァ

勇者C「な!?」

勇者(! 逃げるならば)バッ

勇者C「ま、待て……くそ!!」

勇者「はっ……はっ……」タタタタ

盗賊「大丈夫でしたか?」

勇者「蜘蛛の糸玉を投げたのはお前達だったか」

商人「ううう勇者さーーん!」

勇者「泣くなみっともない。とは言え助かった。よくやった」

盗賊「一人でも足止めになると思ったんですが」

勇者「良い具合に切り払ってくれたもんだな」

勇者「しかし俺らの心象は悪化の一途を辿るってところか」

勇者「悪いな。多分、俺達は人間に殺されるわ」

盗賊「まあ……覚悟はしていましたよ」

商人「正直死にたくないっす」

勇者「一蓮托生だ。あの世までな」

盗賊「元はといえば俺達が勇者さんを巻き込んでしまったわけですし、何処までもついていきますよ」

商人「正直死にたくないっす」

勇者「お前は他に何か言えねえのかよ」

……町
女勇者「……」ワナワナ

僧侶「ど、どうしました?」

戦士「どれどれ……瘴気を放つ剣を携えた、ゾンビのような勇者……」

戦士「あー……」

魔法「勇者……」

女勇者「……ぐっ」ジワ

戦士「しっかし、あんまり情報出てねえな。本人のも」

戦士「あん時逃げた事も考えるとこいつ、ろくに他人と付き合いも無いまま単身で行動していたんだろうな」

戦士「せめて、お前が討ってやれよ」

女勇者「分かってる……分かってるよ」グズ


僧侶「……女勇者さん」

魔法「流石に……見ていられないわね」

僧侶「ああいう時、無神経な戦士さんが羨ましいです」

魔法「まあ分からないでもないわね。あの子は戦士に任せて私達は買い物したりしておくわよ」

僧侶「はい」

女勇者B「今日中に着けて良かった……」カランカラン

剣士「まさか沼に嵌るとは……」

戦士「お、別PTって珍しいな」

女勇者「……こんにちは」

女勇者B「こんにちはー……」

剣士「こんにちは。そういえば君と行動を共にしてから半年と少し、一組しか会っていなかったな」

女勇者B「だね」

女勇者「……」

女勇者「あの、勇者の帳簿は見てらっしゃいますか?」

女勇者B「あ……すみません、まったく」

剣士「何かあったのだろうか?」

女勇者「……この、ゾンビのような勇者なのですが」

女勇者B「ああっ!」

剣士「思いの他、情報が早いな」

戦士「あんたら知っているのか?」

女勇者B「お、お恥ずかしい話、行き倒れている所を助けて頂きました」

剣士「九死に一生を得るとはまさにこの事……」

女勇者「ええ!?」

女勇者「な、何故その事を報告しない!」

女勇者B「は? へ?」

戦士「落ち着け」

女勇者「あ、ああ……。彼は人と、普通の人間と変わらなかっただろうか?」

剣士「肌の色を除けばな。よくして頂いたよ」

女勇者「……そう、か。は、はは! そうだ! 疑う余地なんてなかったんだ! あはははは!」

女勇者B「……??」

戦士「俺らも助けられた側でよ。礼を返す前にこんな事になっちまってよ」

剣士「なるほど……しかし迂闊だったな、ちゃんと情報提供をしようか。私達の命の恩人がすれ違いで討伐されるなどあってはならない」

女勇者B「い、今すぐしてくる!」サァッ

……別の町にて
女勇者A「一応、報告しておいたわよ」

勇者D「あの人達……一体」

勇者C「ちゃんと報告しておいたんだろうな?」

女勇者A「馬鹿じゃあないんだからちゃんと第三者の視点で簡潔明瞭に報告したわよ」

勇者C「……どう見ても人では無かったが彼に敵意は無かった」

女勇者A「あの状態、彼が本気だったら殺されていたものね」

勇者D「や、やっぱりちゃんと話し合うべきです!」

勇者C「あのゾンビ状態がどんなものか分からないからなぁ」ハァ

女勇者A「それじゃあたしはそろそろ寝るわね」

勇者C「なあ……いい加減別の部屋にしないか? お前おかしくないか?」

女勇者A「D君ウエルカム!」

勇者D「ひ、一人で寝れます!」カァ

勇者C「はあ……」


勇者D「すう……すう……」

勇者C「……」ムク

女勇者A「……」ムク

勇者C「……」クイ

女勇者A「……」コク

テラス
勇者C「あん時はビビったよ……。お前も頼むぜ」

女勇者A「悪かったわね」

勇者C「つってもゾンビ勇者に立ち向かっていった俺も悪かったわな。俺達の本懐はあいつのお守りだからな」ガリガリ

女勇者A「仕方ないわよ。あれが敵なら奇襲するチャンスを逃すのは後々尾を引くもの」

勇者C「実際、敵かは怪しいがな」

女勇者A「ええ……」

……
国王『二人にはあの子の護衛を兼ねて魔王討伐を行ってもらう』

勇者C『おいおい……ただの子供じゃねえの』

側近『演習場の大穴は見ましたか?』

女勇者A『とてつもない魔法よね、あれ。魔王でも攻めてきたのかしら?』

国王『あれはあの子が放った魔法だ』

勇者C『な……おーぃ、それもう護衛要らないだろ』

国王『だが、その魔法は連続してなど撃てはしない。他の能力はやや優れている程度』

側近『飽くまで年相応の域を出ない訳です』

女勇者A『なるほど……ですがあの子、そのように大事に扱ってもいいのでしょうか?』

女勇者A『少なくとも、魔王討伐の任に燃えています。下手に大切に扱えば士気が下がりますよ?』

国王『そこでお前達だ。あの子は自身の魔法に誇りを持たず、剣に誇りを持とうとする』

勇者C『面倒くせえなおい』

女勇者A『あんたに憧れてんのよ』

側近『あの子を前衛として戦わせます。そしてお二人も戦い、それとなくあの子をサポートして下さい』

国王『だがまあ、あの子の中のイメージもある。勇者C、しっかりと先導してくれたまえ』

国王『魔王を倒すのにその魔法が必要であるというのは十分に理解はさせている。その局面でも剣に頼る事はあるまい』

側近『力で押しつぶされる時は盾に。魔法で押しつぶされる時は……これをお使い下さい』

勇者C『随分と投資してくれんのな』

女勇者A『マジックアイテム?』

国王『他の国とは違い、我々は本気だ』

側近『それはマジックバキュームというものです。一度しか使えませんが周囲に存在する攻撃魔法を全て吸収します』

勇者C『結局は盾の役割か』

女勇者A『あたし達自身が使い捨ての、ね』

国王『……すまない』

勇者C『構わないさ、やってやるよ。あんたも本気だしな。だが帰ってきたらその座から蹴落とすからな、親父殿』ハッ

女勇者A『政が下手で申し訳ありませんでしたが、それ故に臨んだこの道。この任、必ずや王族として果たしてまいります』


勇者C『お前よかったのかよ? 隣国の王子がご執心だったんじゃねえのか?』

女勇者A『あの子と二人旅、あの子と二人旅、あの子と二人旅、あの子と二人……』ウットリ

勇者C『うっわ……心配して損した、真性かよ。ていうか俺もいるからな?』

勇者C「……」カラカラ

マジックバキューム「」カラ

勇者C「なんだかんだでここまで来れたんだ。必ず生きて帰るぞ」ギュ

女勇者A「言われるまでも無いわ」

女勇者A「そしてD君と祝言を挙げる!」クワッ

勇者C「あ、そこまで本気だったのか……もうなんか尊敬してくるわ」

女勇者A「あんたはいないの? 侍女とか好きそう」

勇者C「いねえよ、どういうイメージなんだよ俺は」

女勇者A「悪い意味じゃないわよ。一番身近な異性であり、階級とか地位を考えないあんたなら、て思ってね」

勇者C「そいつはどうも。ホメ言葉としてとっておくよ」

……山
鹿「!」ヒョコヒョコ

勇者「……」

盗賊「今の鹿、動き変でしたね」

商人「怪我っすかね?」

勇者「いや、腿に矢が刺さっていた」

盗賊「あちゃー。どっかの狩人ですかね」

勇者「にしては静か過ぎる……ここらにはいないようだな」

勇者「少し探索するぞ」

盗賊「な……」

勇者「血の跡追って、終わった周囲を探してみればまた血の跡か……」

商人「どういう事っすか?」

勇者「鹿に集中しすぎて他の何かに襲われたってところか」

盗賊「……狩人が流したであろう血を追うんですか? 助けるつもりですか?」

勇者「一応な」

商人「死んでいたら物資補給っすか」

勇者「一応な」

盗賊「一気にゲスくなった」

狩人「はぁ……はぁ……」

勇者「生きているか?」

狩人「な……! あ、あんたらは……? 助、かった……?」

勇者「傷、見せてもらえるか?」

狩人「ああ……あんたら、肌が青白く見えるな」

盗賊商人「……」ギクッ

狩人「血を、流しすぎたか……? やはり、駄目か……」

勇者「まだまだ血色良い肌して何言ってんだよ」

狩人「いや、それ、よりも……逃げて、くれ」

勇者「何がだよ? とりあえずお前の手当てが先だ」

狩人「貴重な薬草を……すまない」

勇者「悪いがしてやれるのはここまでだ」

勇者「そっちはどうだ?」

盗賊「オッケーです」

商人「ちょっと盗賊、少しは手伝ってっす!」

盗賊「いや、これもうちゃんと火がついているから風送んなくていいんだよ」

商人「えー!? もっと早く言ってくれてもよくないっすか!」

勇者(……何やってんだあいつら)

勇者「……狼煙用の木材、悪いが使わせてもらったぞ」

勇者「後は助けが来る事を祈っていてくれ」

狩人「分かった……平和になったら、麓の町に来て、くれ……」

狩人「俺の墓が立ってなければ、持て成すよ……」

勇者「そりゃあいい。必ず寄るから是非とも生きていてくれ」

狩人「だが、気をつけてくれ……人型の、何かに、襲われた」ボソボソ

勇者「……」

盗賊「今の人、大丈夫でしょうか」

勇者「今日中に助けがくれば無事だろうが、明日になったら分からないな」

商人「日没まであと5,6時間っすか」

勇者「山慣れした連中で組んでりゃ平気だと思うがな」

盗賊「最後まで付き合えないのは何とも言えませんね」

勇者「死活問題だしな」

商人「けど良かったんすか?」

勇者「何もせずに見捨てられたか?」

商人「気付いたら無理っすよね……」

盗賊「下心はあったりします?」

勇者「まあ、な。これで俺達は害意が無いって伝わってくれればとは思うが」

勇者「相手も少し意識が朦朧としているだろうし、不正確情報として扱われるだろうな」

商人「でも意識がはっきりとしていたとするっすよ?」

盗賊「素直に俺達を受け入れられてくれるか否か」

勇者「まあ俺なら警戒するまでも無く戦闘態勢だな」

盗賊「ですよねー」

商人「っすよねー」

勇者「という事で手が届く範囲をするって訳だ。そら、また上り坂だ。商人、ヘバんなよ」

勇者「……」ザッザッ

盗賊「……」ソワソワ

商人「ひぃ……ひぃ……」

盗賊「あの……」

勇者「分かってるよ」

勇者「出て来いよ。まさか本当にこっちについて来てくれるとは思っていなかったがな」

商人「ひぃ……ひぃ……?」

山賊ABCD「……」ゾロゾロ

山賊A「あの弓野郎に逃げられて困っていたが、まさか勇者御一行に出会えるとはな」

山賊B「しかもその姿、へっへへ、殺ってもお咎め無しだよなぁ」

商人「ひあああ! ちょ! これ!」

勇者「あいつの傷は明らかに刃物だったからな。つーか撒かれたとか情けねえなお前ら」

盗賊「しかもあれだけ手負いの相手に……」

勇者「人型の何か……人間かすら判断できない錯乱状態で無我夢中に逃げたにしたってな」

山賊C「うるせえ! あんにゃろう、上手い事血を隠して逃げやがって!」

盗賊(見つけた血痕は現場からかなり離れていたのか……ああ、鹿の血で撹乱させる為に近いところで……)

盗賊「って、狼煙まで焚いたのにわざわざこっちを狙ってきた?!」

山賊D「っは! 弓野郎はあんたらぶち殺してからゆっくり奪ってやんよ」

勇者(うだうだうっせえが……こいつらお守りして四人相手か。面倒だし触媒無しでガッツリいくか)

勇者「命滅蝕気」スィ

断頭台の大剣「」ウゾウゾウゾ

商人「きもっ!」

盗賊「刀身に紋様……いや、何処かの文字?」

山賊D「お、おい……あれなんかやばくねえか……」

山賊A「こっちは四人だ! 一気に袋にすりゃあいいだろ!」ダッ

山賊B「おお、ぶっ殺してやるぁ!」

山賊C「身ぐるみ頂くぜ!」

山賊A「あがっ! あがっ!」ビクンビクン

山賊B「」

山賊C「うぶぅー……うー」ブル ブル

山賊D「」

勇者「流石に触媒無しじゃ全員死なねえか」スッ

山賊A「カヒュッ」ブシュ

山賊C「ヒゥッ」ズッ

商人「え、エグイ……」

盗賊「なんだったんですか、それ」

勇者「触媒を使えば斬った相手を確実に死に至らす呪術だ。前話しただろ」

盗賊「納得のドン引きです……」

商人「ていうか勇者さん、ふっつーに殺したっすね」

勇者「当たり前だろ馬鹿。敵に人も魔物もあるか」

盗賊「そういうところ、本当にブレがありませんよね」

勇者「自分の命かかってんのにブレてどうすんだよ」

商人「でもそんな勇者さんから一本……ひと噛みした盗賊凄い」

盗賊「そういえば……反す剣で首が飛んでいってもおかしく……」ガタガタ

勇者「山賊には見えなかったからな。特に商人。お前らがいるのは気付いていたが瞬く間も無く襲われるとは思わなかったんだよ」

勇者「とは言え急所狙ってきていたら、確実に受け止めて斬りつけていたんだけどな」

盗賊「ああ……手に噛み付いてくるなんて、勇者さんにとって意表をついていたから助かったのか……」ブルル

勇者「こいつらの遺品漁りを兼ねて少し休憩にするか……」

商人「ろくな物持ってなさそうっすね」

盗賊「死体漁りもなれたものだけど……まさか殺した相手のを漁る日が来るとは」

商人「あ、そういえば……話変わるんっすけど勇者さんって呪術使う時、なんか手を動かしているっすよね」

勇者「ああ、陣を描いてんだよ。それで呪術としてんだ」

商人「へええ……でもさらに触媒が必要……え? まさかそれって生贄的な?」

勇者「いや、魔物によって魔力の性質っていうかな。若干違うんだよ」

勇者「その魔力と陣によって呪術を行使している。無い時は術者の魔力だが、まあ違う性質の魔力だからな」

勇者「恐怖の呪術も四人に効果及ばずって訳だ。まったく呪術ってのはグルメな連中だ」ハッ

盗賊「あ、あの……勇者さんの呪術ってまさか」

勇者「流石に商人ほどのバカじゃなけりゃ気付くか。そうだよ、現在に残る魔方陣による魔法の一種だ」ニヤ

勇者「だが特性自体、今の魔法とは違うからな。あとはまあ……一部じゃ今でも魔方陣に関しては忌むべきものと見られるんだ」

勇者「魔王誕生時代を思い出すとかでな。思い出すわけねえだろ馬鹿が。いくつだよ手前らは、て話なんだが」

勇者「ま、そこら辺の配慮があってな。効果も効果だし名称を呪術、魔方陣の事も印を切る、て言い換えられているんだよ」

商人「へぁ~……凄いっすね。あ、その印の切り方覚えたら、俺らも使えるんっすかね?」

勇者「無理だな。前提として呪術の仕組み特性、行使する呪術をよく理解する必要がある。他にも訓練が必要だ」

盗賊「飛び級で上位の呪術を会得したんですよね……勇者さんって何気に勉強家ですか?」

勇者「得手不得手ってだけだ」

勇者「さあて……これが片付いたらまた進むぞ。そら、お前らも手を動かせ」

数日後
勇者「お、塔だ! 見たところ当たらしいし魔王側か」

盗賊「待って下さい。やたらと魔物の死体が」

勇者「というか戦闘している音が聞こえるからな」

商人「ど、どうするんっすか?」

勇者「隠れるに決まってんだろ。おら、もっと坂を上るぞ」

商人「えええ?」

盗賊「うーん流石にこの距離、見つかりますかね?」

勇者「俺の剣でバレるわ」

盗賊「あー……」

勇者B闘士双剣士「」ゾロゾロ


勇者「あいつらか……」

盗賊「しかもあの勇者の鎧、めっちゃ輝いている……」

勇者「神器、黄昏の鎧だな」

商人「あそこ守っていた魔物達も地獄だったんじゃないっすかね?」

勇者「だろうなぁ……同情はしてやれんが」

盗賊「破邪の剣に黄昏鎧……少しずつ戦力が伸びてますね」

勇者「それは俺も思っている。良い事だ」

勇者「向う先は……あっちか。俺達は少し南下するぞ」

商人「南ってもっと険しい……」

盗賊「死にたくはないだろ?」

商人「ううぅ……」

勇者「そら行くぞ」

商人「うっす……」

商人「ひぃ……ひぃ……」

盗賊「頑張れ、あと少しだ」

勇者「ここを超えたらしばらくは下りだな」

盗賊「上で休憩ですかね?」

勇者「まあそんなもんかな」

盗賊「じゃあ俺らは先に」

勇者「だな」

商人「ちょ、ひぃ……酷、ひぃ……」

商人「ふへーーー!」ドザァ

勇者「お、登りきったか」

盗賊「良い景色だぞ」

商人「へぇ……はぁ……あ?」

商人「なん、すか……あの、影」

勇者「魔王城だ。ここから見えるとはな」

盗賊「結構な大きさですよね。周囲の様子から見るに城壁もしっかりしてそうですし」

勇者「そろそろ俺らも召される時かもな……」

商人「不吉な事言わないで下さいっす」

勇者「ん? お! あの辺り洞窟か?!」

盗賊「みたいですね。なんか周りの地面の色、変じゃないですか?」

勇者「毒かな? おっし、明日にはあのあたりにつくようにするぞ」

商人「えー……」

盗賊「まあこの距離なら無理しなくてもつけるって」

商人「や、そう意味じゃないっす」

洞窟内部
勇者「……」カツーン

勇者「これだけ音が響いているのに物音はしないのか……」

勇者「生き物すらろくにいない……大気中に毒素が含まれているとかか?」

勇者「いや、これは……」ゾク

勇者(今回はどうやら……)

地獄の鎧「」


勇者「戻ったぞ」

盗賊「禍々しさ超アップ」

商人「勇者さん、もう討伐される気マンマンっすね」

盗賊「いくらなんでも我が道を行きすぎですよ……」

勇者「結局、聖なる武具は使えないし、そうなってくると強力な武具は……なあ」

商人「そりゃあそうかもしれないっすけども」

盗賊「というか今更ですけど勇者さんって両手剣でも戦えるんですね。暗殺学ぶのに一切触れなさそうなのに」

勇者「いざという時如何なる武具も、て事で教わるからな」

勇者「さ、行くぞ」

盗賊「もうすぐ魔王城……」

商人「見えたといっても小高い山からっすからね。まだまだ距離あるっすよ」


勇者B「そろそろ町も少なくなってきたな」

闘士「最前線の町まであと少しか……」

双剣「いよいよって感じだな……」

勇者B「いい加減、近い味方を探して合流すべきか?」

闘士「流石にこんな所にいて魔王を倒すつもりが無いというのもそうはいるまいしな」

双剣「……え? ああ!」

勇者B「どうした?」

双剣「見ろ! これ! ゾンビのやつのだ!」

……
勇者B「……ほら見ろ! やはり彼はまともじゃないか!」

闘士「そうは言ってもあの時は分からんかっただろう」

双剣「そうだそうだ!」

勇者B「だがお前の目を奪っても追撃無しに逃げたじゃないか! やはり敵意の無い現われだ!」

闘士「だからそれも話し合っただろうに」

双剣「戦力を減らすよりも、視力を失った俺の介抱をさせて足止めにするつもりだったかもって言っただろう」

勇者B「……だ、だがこれで彼とは争う必要が無いのは分かっただろう。次、出会ったら謝るぞ」

闘士「どうだろうかな」

勇者B「なんだ……これだけ情報があってまだ疑うのか?」

双剣「闘士、俺もよく分かんないんだけど、何か危険要素があるの?」

闘士「彼の肌の色は完全にゾンビの類のものだった。あの時や今出ている情報がまともでも」

闘士「これから先、理性を失わない理由にはならん」

勇者B「むぐ……」

闘士「何より、知性を失わずに理性を失われたら危険すぎる」

双剣「??」

闘士「正常な様子で近づいてくる、騙まし討ちを食らうという訳だ」

勇者B「ぐぬぬ……」

闘士「とは言え、一先ずは正常であるとも証明されたようなもの」

闘士「一概に敵意を向ける訳にもいかない……サジ加減が難しいところだ」

勇者B「会ったら話し合おう!」

双剣「いやだから闘士が言ったような状況ならそれ意味がないんだって」

闘士「近づかない、が一番賢明なのかもしれないな」

勇者B「……」

双剣「ねえ、なんであいつにそんな執着してんのさ」

勇者B「彼も俺と同じだからだ。背負わされた人間だからだ」

双剣「押し付けの同情かよ……」

勇者B「その果て、彼は人ですらなくなっているんだぞ……?」

闘士「……少し考えが軽率だった。だがこちらの身を脅かしてまで同情すべきではない。その事は肝に銘じていてくれ」

勇者B「……分かった」

……
リザードマンA「シャアッ!」

勇者「よっと」ヒラリ

勇者「はあああ!」ブォン

リザードマンB「ぐおおお!」ガギィン

リザードマンA「あんな大物を振り回すとは……」

リザードマンB「気をつけろ、ただの人間ではないぞ」ムク

勇者(流石にこれを二体同時はキツイな……)

勇者「黒死炎」ゴゥ

リザードマンA「なっ?!」

リザードマンB「こ、これは……!」

リザードマンAB「」

盗賊「お疲れ様です」

商人「お疲れ様っす」

勇者「ふう……一先ずここを離れてどっかで休憩とするか」

商人「そっすね」

盗賊「にしても随分と森と山が続きますね」

商人「魔王城の周りってもっと荒れてるかと思ったっす」

勇者「まあ向こうも生きている以上、食わなくちゃいけないって事なんじゃないか?」

盗賊「ああ……なるほど」

勇者「今日はここらでいいか」

商人「流石に魔物も多いっすね」

盗賊「迂闊に火もおこせないな……」

勇者「お、随分な巨木……見ろ! このうろ、人が入れるぞ!」

盗賊「勇者さんはそこで寝て下さいよ。俺らはそこらで寝ますから」

商人「勇者さんが疲れたら俺らも死ぬっすからね」

勇者「そうかい。じゃ遠慮なく独占させてもらうぜ」

盗賊「……」ムシムシ

商人「……」ムシムシ

勇者「……」ムシムシ

商人「うぅ……生野草きついっす」

勇者盗賊「我慢しろ」

商人「そしてこの腹の膨れ具合で寝るとかきついっす」

勇者盗賊「我慢しろ」

商人「そういえば昔はこんな生活だったんすか?」

勇者「は? あー……流れ者っつったっけか。まあ期間的には短いがな」

盗賊「どういう事です?」

勇者「孤児院育ちなんだよ。ま、牧師っていう役職だけのクズ野郎だったけどな。あれは」

勇者「中々劣悪な環境だった。逃げ出しこっそり忍び込んだ牛小屋が豪華に見えるぐらいだな」

盗賊「うわぁ……」

勇者「道端の雑草で飢えを凌ぎ、小汚いと罵られ追い立てられ、そうして流派の師匠の目に留まって拾われた訳だ」

商人「か、感動する話じゃないっすか」

盗賊(でも規則破って破門されたんだよなぁこの人)

盗賊「結構な人生送っている割に、凶悪な犯罪者にはならないんですね」

勇者「どんな因果だよそりゃ」

勇者「悪人でも敵でもない相手に手を出しても後味悪いだろ」

商人「あ、既に悪人に手を出した感」

勇者「ある町の極悪領主をちょちょいと捻って懐暖めた事ぐらいなもんだ」

盗賊「勇者さんの捻るだと、相手が投了しているようにしか聞こえないんですか」

勇者「多少なりとも一生要介護になるかならないかで済ませたさ」

商人「それ逆に優しくないっすよね」

盗賊「本当に凄いな……ギリギリ踏み越えた価値基準で一応まっとうに生きている」

商人「温情ぎりぎりっすね」

勇者「そいつらのさばらしておくよか、よっぽどいいだろうが」

商人「ここまで悪人風義賊っていないっすね」

盗賊「義賊活動が殺人傷害のみだけどな……」

勇者「命救ったりはしてんぞ」

商人「た、確かに見捨てていない……」

盗賊「凄い判断に困る人だなこれ……」

勇者「はあ……アホな事言ってないでそろそろ寝るぞ」

勇者「……」

「な……た……な……も……」

勇者「……?」ムク

勇者(今……声がしたような。つっても二人はそんな近くじゃないし)

勇者(けど……かなり近くから声がしたような。怪談か? 斬れない相手は苦手なんだがなぁ)

勇者「……」シーン

勇者(気のせいか? 寝なおそ……)モゾ

「……」

……翌朝
勇者「……」パチ

勇者「ふあ……」ムク

勇者「うん? 日が落ちかけていたから気付かなかったがあれは砦か?」

勇者「広めの巡回があったら危なかったな……」

盗賊「すぅ……すぅ……」

商人「うぅ、生野草はやだ……赤い傘に白いイボのキノコ美味しそう」

勇者(ベニテングタケじゃねのかそれ……?)

商人「うう、塩茹で野草がこんなに美味しく」

盗賊「このくらいで泣くなよ……」

勇者「砦を見かけたらからそっちに寄るからな」

盗賊「もうお約束ですね」

商人「定番っすね」

勇者「なんか良い物あるとありがたいんだがな」

デビルウィザード「ホッホッホッ! ここでくたばるがいい!」

エビルマージ「ヒッヒッヒッ!」

アークマージ「フッフッフッ!」

勇者A「ここが正念場だ!」

騎士「分かっている!」

呪術師「魔法型3か……」

衛生兵「回復薬はまだまだあります!」

エビルウィザード「さあぁぁ行くぞぉ!」キィィン

騎士「魔力の高まりが……これほどまでに感じられるだなんて」

勇者A「下がれ!」

エビルマージ「盾になるか? 勇ましい勇ましい」

アークマージ「待て……あの男の盾は!」

エビルウィザード「ダークネスカオス!」ゴァァ

勇者A「ぐ!」ズアアアア

勇者A「ふん!」ブァッ

エビルマージ「掻き消えた!?」

アークマージ「やはり光の盾! 取り返されていたか!」

衛生兵「凄い……」

呪術師「これで完封」ニヤニヤ

勇者A「距離をつめるぞ」

騎士「ああ!」

アークマージ「ふん! 愚かしい!」コァ

勇者A「無駄だ!」スッ

アークマージ「エアバレット!」ゴゥッ

勇者A「うおっ!」ブァッ

騎士「なっ!」ビュァァッ

呪術師「しま!」ゴゥゥゥ

衛生兵「きゃああ!」ビュゥゥゥ

アークマージ「やはり殺傷性の無い魔法には反応しないのだな」ニタァ

勇者A「! 皆!」

騎士「転倒しただけだが……これでは!」

エビルマージ「盾はもうないぞ?」ニヤニヤ

デビルウィザード「まずは小娘、お前は目障りだ」

衛生兵「ひぃっ!」ゾクゾクゾク

呪術師「く……カース!」

デビルウィザード「効かぬ……死ね、カースオブデス」ズォッ

勇者A「逃げろ!」

衛生兵「~~~!!」ガタガタガタ

衛生兵「~~~~!!」ブルブルブル

衛生兵「……?」

勇者「……」ズオオォォォ

勇者A「な……?」

騎士「この者は……まさか……」

デビルウィザード「馬鹿な……」

エビルマージ「即死魔法が、効いていない?!」

アークマージ「あ、ありえない……」

勇者「はぁっ!」ズァッ

勇者(賭けだったが即死魔法でさえ耐えたか)ガシャ

「な……た……う……に……る」

勇者「!?」ビタッ

勇者(な?! 今の声! それより体、いや、鎧が動かない!?)

アークマージ「な、なんだ……?」

エビルマージ「! ヘルフレイム!!」ゴォォォ

勇者「ぐぅっ!」ジュウウウ

勇者(鎧の所為で動けなかったが……この鎧がなければ今頃黒焦げだったな)ジリジリジリ

勇者(凄まじい攻撃魔法耐性だな……悪くない)ニタリ

デビルウィザード「ぐ! ブリザード!」ビュォッ

勇者「とっ!」バッ

勇者(よし、動く! ならば)ヒンッ

アークマージ「ぎゃああっ!」ザシュゥ

勇者A「はっ! 俺達も!」

騎士「たああ!」

エビルマージ「こ、の! フレイムボム!」

勇者A「無駄だ!」ボボボォン

エビルマージ「ひ、光の盾……」ギリギリ

勇者「はっ!」

エビルマージ「あ……」ザンッ

デビルウィザード「ぐ、ぐぐぐ……」

呪術師「よっと」ズォズォズォ

デビルウィザード「!? これは……か、影縛り?! しま」ザシュッ

勇者A「ふう……」ヒュン

騎士「……助かった、と言いたいが」

呪術師「……どう見てもお尋ね者だよな」

衛生兵「で、でも私の事を身を挺して……」オロオロ

勇者「……」

勇者A「君は……」

勇者「たぁっ!」パンッ

呪術師「え?! な!」モウモウ

騎士「煙幕?! 逃げるつもりか!」バッ

勇者A「よせ」

衛生兵「ゆ、勇者Aさん?」

勇者A「これほどの煙幕ではもう逃げられているさ」

勇者A「……それに彼についての情報は少なすぎる。彼の思惑が俺達にどう転ぶものなのか……」

騎士「しかしだな……」

勇者A「何れ分かるさ、お互い生きていれば。それにもう一度、町で彼の情報をしっかりと見てもいいんだし」

呪術師「……ま、それもそうだね」

勇者「ふう……ふう……」タタタタ

勇者(追いかけられたらと思ったが見逃されたか)

商人「おかえりっすー」

盗賊「どうでした?」

勇者「他のグループが戦っていたから加勢した。即死魔法に耐えたぞ、この体」

商人「チャレンジャーっすね、ホント」

盗賊「? 勇者さん、怪我してますよ」

勇者「火傷は薬草使っておいたんだがな」

盗賊「いえ、首のところです。鎧、脱いで下さいよ」

勇者「おお、悪いな」ガシャガシャ

盗賊「!」

商人「え?! こ、これって……」

勇者「どうかしたか?」

盗賊「これは……傷ではなく腐っています」

勇者「な……そうか」

勇者「お前達は?」

盗賊「あれからは」

商人「何ともないっす」

勇者(俺だけか。戦っている分、体を動かすから代謝が高まっているから?)

勇者(だがそれだと根本的に呪術の影響が謎だ。とするなら別の要因を見るべきか?)

勇者(……)

勇者(武具やら何やら思い当たる節が多いな……)

勇者(そういえばこの鎧……やはり何かを呟いている? 呪いの言葉か? それに反応している?)

盗賊「あの、薬草の用意が」

勇者「ああ悪い、考え事だ。すまないが塗ってくれ」

商人「了解っす」

勇者A「これは……」

騎士「オリハルコンの鎧か」

呪術師「すっご……」

衛生兵「……防具ばかり集まりますね」

勇者A「これは騎士が着ていてくれ」

騎士「最悪、分散して盾になるように、か」

勇者A「そういう事だ」

……
女勇者「……ふう」

戦士「結局会わねえな」

魔法「もうここが最後の町ね。彼の情報は?」

女勇者「他にも人を助けた話だけで、目新しい位置情報はないかな」

僧侶「……魔王城がもうすぐ」

戦士「仕方ねえよ。資金ぶち込んで準備して行こうぜ」

ガヤガヤガヤガヤ
魔法「にしてもここ、町というより要塞ね」

女勇者「最前線だからね。今となっては魔王軍への牽制や監視も兼ねた軍事施設化しているよ」

戦士「待たせたな」

僧侶「こっちは済みましたー」

女勇者「それじゃあそろそろ……あ! おーい!」

戦士「なんだぁ?」

女勇者B「? あっ! お久しぶりです!」

剣士「お互い生きていたようだな」

魔法「生きて二度出会えるなんて……死ぬのかしらね。運の無駄遣いだわ」

僧侶「ま、魔法使いさん!」

女勇者B「! あのー……もしよろしければ同行してもいいでしょうか?」

女勇者「なるほど……これから魔王城に向うのですがよろしいでしょうか?」

剣士「元よりこちらもそのつもりではあるが……まあこんな訳で」

戦士「ま、戦力増えてくれんのはありがたいぜ、なあ」

魔法「そうねぇ……戦士が突っ走って後衛に攻撃来る事も減るだろうし」

女勇者B「は、はは……」ヒクヒク

剣士(猪突猛進な味方が原因で味方が全員死んだと言っていたな……)

女勇者B「そういえばあれからどうでしたか? 会えましたか?」

女勇者「いや残念ながら。とは言えお互い生きていれば何時かは会える」グッ

戦士「少し前までクヨクヨしていたくせによ」ケッ

女勇者「う、うるさい! 言うな!」

女勇者B「でもいいなぁ……あたしもそんな一目惚れしてみたいっ」

女勇者「ひ、一目、ち、違うぞ! そういう目的ではない!」

魔法僧侶「えっ」

戦士「いや無理だからな?」

女勇者「うぐぐ!」カァ

女勇者B「剣士ちゃんはそういうのないの?」

剣士「私は私を超える剣の使い手に出会い追い抜く、ただそれだけの人生だ」

剣士「だが、強いて言えばやはり私より強い者か」

魔法「戦士、手合わせ願いなよ」ニヤニヤ

戦士「お断りだな。負ける試合なんぞ頼んでするもんじゃねえだろ」

僧侶「えっ?!」

戦士「多分というか確実に勝てねえよ。立ち振る舞いからして隙がねえし」

剣士「しかし、剣を向き合った環境ではその程度で勝負が決まるものでもないだろう?」

戦士「あんたの事、情報流れてんぞ。仲間にしたら超強力ってな。知る限り誇張で二割増しだったとしても勝てねえよ」

僧侶「でもそれほどの方とご一緒できるとなるとより安心ですね」

女勇者「向う先が向う先だからね。油断は禁物」

戦士「だな」

女勇者B「うう、緊張してきた」

魔法「ええ?! 早っ!」

剣士「こちらは先ほど着いたばかりなので、これで休ませてもらう」

戦士「晩飯でも一緒にするか?」

女勇者B「あ、はい」

女勇者「今後の事もあるしね」

……森の中
勇者「さあて……いよいよ魔王城突入だな」

商人「気ぃ早いっす」

盗賊「ただ、戦闘が激化するという意味では佳境に入ったも同然」ブルル

勇者「お前ら、本当についてくるのか? これ以上進めば、お前らだけで引き返すとか到底叶わないと思うぞ」

盗賊商人「……」

盗賊「いえ、ついて行きますよ」

商人「うっす」

勇者「そうかい、面白いもんはねえと思うがな」

盗賊「最後まで付き合いますよ」

商人「一連托生っす」

勇者「物好きだな、お前ら。後日の最後がいい? 一期の最期がいい?」

盗賊「で、出切れば前者で」

商人「後日の方がいいっす」

勇者「任せろよ、きっちり後者に当て込んでやる」

盗賊「それ当て込まなくてもなりますよね?!」

商人「頑張らない宣言っすか?!」

数日後
勇者「意外と魔物いねえな」

商人「普通っすね」

盗賊「魔王城周囲に戦力を集中させているとか?」

勇者「もうちょい慎重に探りながら進む必要があるな」



勇者「なんかねえかな?」

商人「敵陣地の砦に入るのって慎重かなぁ?」

盗賊「さあな……」

勇者「げっ」カチ

盗賊「トラップ?! 伏せろ!」バッ

商人「ひぃ!」バッ

勇者「ぐっ……」ゴゥッ

勇者「うぐぐぐ!」ォゥォゥ

勇者「っぷはぁ!」ジュゥゥ

盗賊「ど、どうなって……?」

商人「だ、大丈夫っすか?」

勇者「精神を蝕む類の魔法トラップだな……」

盗賊「耐えたんですか……」

商人「相変わらず凄いっす」

勇者「……?」ジワ

勇者「……」ガチャガチャ

盗賊「え? 鎧脱ぎ始めてどうしました?」

勇者「……」ジワワァ

商人「え? 腐っ、ええ?!」

勇者「やはりこういう事か」

盗賊「な、何がです?」

商人「や、薬草どこっ!」ゴソゴソ

勇者「俺達のこの状態異常耐性は身体の腐敗とのトレードオフになっていたんだ」

盗賊「その言い方だと良い風に聞こえます……」

勇者「意味は伝わるだろ?」

盗賊「ええ、まあ」

商人「あったっす!」

商人「よ、ほっ、とう」グルグルグル

勇者「ある程度の力を浴びると、呪術でさえ抑えきれず体が腐り始めるってところか?」

勇者「しかし呪術は切れている様子は無いし……足が出た分腐る、か?」

盗賊「このゾンビ化と呪術の親和性が高いんですかね」

勇者「もしかしたら、ゾンビ化の根底に魔方陣による魔法の技術が使われているのかもな」

勇者「実際どんなもんかは知らなかったが、大昔のネクロマンサーはこれだって話らしいし」

商人「包帯完成っす! にしてもネクロマンサーなんて単語、まともに聞くの初めてっす」

勇者「そうなんだよな……今の魔法だと、その真似事すら派生しないんだよなぁ」

勇者「ま、そこまで考えても仕方が無いか。ここから先はトラップも多くなんだろ。お前達も体の様子見ながら行けよ」

最上階
勇者「なんもねえな……」

盗賊「!」

盗賊「……」ゴソゴソ

盗賊「お、出てきた」

商人「相変わらずのお宝センサーっすね」

盗賊「宝石? でしょうか」

勇者「こりゃ魔石の欠片だな」

勇者「ちっせえなぁ……まあ貰っておくか」

盗賊「でも勇者さんって魔法使えませんよね?」

勇者「触媒の話の時に言ったよな。魔物の毎に魔力が違うって」

勇者「こういう天然物の魔石は大地や大気に含まれる魔力でな」

勇者「その魔力は何にでも使えんのさ。言わば無色、無属性の魔力だな」

商人「おぉ……じゃあ勇者さんの呪術の場合お宝っすね」

勇者「オールマイティな分、変換効率は悪いがな。オーガを触媒とする呪術を行使するとしよう」

勇者「オーガの目玉で魔力100の場合、術にはその100が当てられるが、100の魔石では80ぐらいしか当てられない」

商人「なるほど……」

盗賊(商人が聞き返すよりも先に解説してる……)

勇者「そんな訳だから目玉だの臓器だのってのは絶対じゃあねえのさ」

商人「ええ?!」

盗賊「膵臓とか恐ろしい事言ってたりしましたよね……」

勇者「魔物によって魔力が豊富にある部位が違うんだよ」

勇者「一番貯まる部位だったり、入手し易さと実用量からだったりと大まかに決められてんのさ」

盗賊「ああ、そういう……え、膵臓は? ……ああ、他の部位だと大量に必要とかか」

商人「因みにその魔石は実用的っすか?」

勇者「んな訳ねーだろ。まあ補助ぐらいにはなるってぐらいだ」

勇者「これ以上は何も無さそうだし、そろそろ戻るか」

二週間後
盗賊「戻りました」ガサガサ

商人「おかえーりー」

勇者「どうだった?」

盗賊「屋内は分かりませんが城壁周辺には大して魔物はいませんね」

勇者「じゃああの城はデコイか?」

盗賊「どうでしょう。門番らしき魔物もいましたからね」

勇者「どっか裏口を探して入るか」

二週間後
盗賊「戻りました」ガサガサ

商人「おかえーりー」

勇者「どうだった?」

盗賊「屋内は分かりませんが城壁周辺には大して魔物はいませんね」

勇者「じゃああの城はデコイか?」

盗賊「どうでしょう。門番らしき魔物もいましたからね」

勇者「どっか裏口を探して入るか」

勇者「お、これ見よがしに洞窟があんぞ」

盗賊「魔王城目前で何という……」

商人「行くんすか」

勇者「あたぼうよ。おら、行くぞ」

盗賊「……風が流れてくる」

商人「どっかに通じてるんっすかね」

勇者「魔王城だったりしてな」

盗賊「そりゃあ楽でいいですね」

商人「この洞窟、ジメジメして嫌っす……」

勇者「そうだな。つー事でキリキリ歩け」

商人「戻るって選択肢は無いんっすね」

……
勇者「な、なげえ」

盗賊「確実に進んでいるはずなんですけどね」

商人「この洞窟ってなんなんっすかね」

勇者「さあな……」

勇者「腹減ったな。今日はここらで休むか」

盗賊「出口はまだ先みたいですしね」

商人「げぇ……」

盗賊「にしてもいよいよ魔王かぁ……秘策とかあるんですか?」

商人「あ、即死技! 道具あるんすか?」

勇者「触媒はあるが無理だろうな。そうそう易々と接近できねえだろうし、触媒を使うと発動までに時間がかかる」

盗賊「じゃあどうするんですか?」

勇者「喰奪反機という呪術がある。こいつは良くも悪くも相手の状態異常を奪う」

商人「どういう事っすか?」

勇者「相手が防御増加魔法を使い、こちらが俊敏減少魔法を使う。その状態でこれを放つと」

勇者「俺は防御増加魔法と俊敏減少魔法の効果を相手から奪い取る事になる。これがこの呪術だ」

盗賊「骨折とか物理的な異常は?」

勇者「無理に決まってんだろ」

商人「じゃあ勇者さんは魔王のなんかそういう力奪って削るのが目的になるんすか」

勇者「現状打てる手でいいのはそれくらいだろ」

盗賊「た、確かに」

勇者「それでも成功する可能性は望み薄だがな」

勇者「もしかしたら明日には魔王と対決だ。お前らももう寝ろよ」

盗賊「あ、はい。お休みなさい」

商人「お休みなさいっす」

夜 魔王城城門
勇者B「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

鎧の門番A「」
鎧の門番B「」

闘士「勝てた、か」

双剣「なあ、こいつの盾って」

勇者B「ああ、間違いない。奪われていた魂の盾、か」

闘士「なるほど、この鎧の魔物はゴーレムか」

双剣「魔の者の魂を吸い寄せるだっけか。魔王も上手い事考えて使ってるんだな」

勇者B「さあ、突入するぞ!」

勇者B「魔王城はあまりにも大きい。何度か休憩を挟まなくては奥まで進めないだろうな」

双剣「一番奥に分かり易ーくいてくれればいいんだけどな」

闘士「そんな訳があるか」

双剣「ですよねー……」

勇者B「南側から進んでいくぞ」

闘士「了解だ」

双剣「オッケー」

魔王城門
女勇者「これは……」

女勇者B「既に誰かが通ったんですかね」

戦士「うかうかしてると後の祭りに参加だな」

剣士「それは嫌だな。急がないか?」

魔法「どの道、この広さだもの。しっかりと調べていかないとまともに進めないわ」

僧侶「そうですね……」

女勇者「中央を通っていくよ」

戦士「おいおい、馬鹿かお前は」

魔法「待って。逆にいいかも……」

女勇者B「なるほど……逆転の発想」

剣士「納得するのが早すぎる」ピシャリ

女勇者B「あう……」

僧侶「というかこのお城、しっかり警備するほど魔物がいるんでしょうか」

剣士「城内に入り込まれる前に始末をした方が断然楽なはずだが、周辺の警備は手薄だったところを見るに……」

女勇者「うん。もしかしたら、恐れるほどの戦力は残っていないのかもしれない。様子を探りつつ最短ルートを探すよ」

戦士「まーそういう事なら納得したしいいか……」

魔王城城門
勇者A「既に始まってしまったか……」

騎士「まさか既に二組の勇者が向ったとは」

呪術師「完全に出遅れたけどどうする? 帰る?」

衛生兵「か、帰りませんよ!」

勇者C「お、良いタイミングで来れたか。俺らも戦うぞ」

女勇者A「門番は既に倒した後のようね……」

勇者D「こ、こんばんはです」

勇者A「いや、俺達も今来たところだ。要塞化している町で二組の勇者が出発したというのを聞いて急いできたんだ」

勇者C「そうなのか? あっちを通ってこなかったからな……下手したらもう魔王も討伐されていたりとかか?」

騎士「それはまだ分からない。我々はこのまま進むつもりだがどうする?」

女勇者A「当然一緒に行くわよ」

衛生兵「そうと決まれば急ぎましょう」

呪術師「にしてもでっかい城。どうすんのさ、中も相当広いんじゃないの」

勇者A「北から重点的に進むつもりだ」

勇者C「二手に分かれるか?」

騎士「それは魔王のいる間にでも行かない限り合流は出来ないのではないか……?」

勇者A「同時探索よりも一箇所を短時間で進むようにする。その方針で」

勇者D「分かりました! 頑張ります!」

勇者B「はぁっ! はぁっ!」

ゴーレムAC「オオ」

ゴーレムAL「ゴオ」

ゴーレムBA「オォ」

闘士「数が多過ぎる……」

双剣「二人とも先に行けよ」

勇者B「な、馬鹿を言うな」

双剣「このままここで手間取っていると援軍が来るかもしれない」

双剣「俺ならこいつらの攻撃なんて当たらないから足止めには打ってつけだ」

双剣「しばらくしたら追いかける、それでいいだろ」

闘士「……」

勇者B「……分かった10分だ。援軍が来なければ10分後にここを離れろ」

双剣「あいよ」

ゴーレムAP「ゴオオ!」ブォン

双剣「よいっと」ヒラリ

双剣「全く鈍重なやつばかりで飽き飽きするよ」

双剣「まあ……その後に精鋭だったり高速型が待ち構えていたりするもんなんだろうけど」ザンッ

ゴーレムAM「ォォ」ズズゥゥン

アイアンゴーレム「オオオ!」ドドン

ブロンズゴーレム「ゴオオン!」ドンッ

スチールゴーレム「ゴゴゴ」ズドドド

双剣「遅かったね。もう二人は行った後だし、是非ともゆっくりしていってよ」バッ

勇者「……」カツカツカツ

勇者「!」ビタッ

盗賊「勇者さん?」

「な……たた……にを……る」

商人「な、な、なんすかこの声!」

勇者「ぐ、ふっんんん」グググ

「……ぜた……う……まも……」

勇者「どりゃああ!」バッ ガシャン

勇者「はー! ふぅ……」

商人「が、ガチ呪い鎧」

勇者「うっせえよ。行くぞ」

盗賊「えぇ……そんな平然と。大丈夫……お、風が」

商人「? あ、なんか変わった気がするっす」

勇者「そろそろ出口か。だが……」

デスナイト「……」チリン

商人「な、なんなんすかあの黒い鎧に大鎌……厨二っす!」

勇者「俺への当てつけか?」ギリギリ

商人「ちょ、冗談言ってる場合じゃないっす!」ギリギリ

盗賊(黒い呪い鎧に赤黒い大剣……)

デスナイト「……」バッ

勇者「よっと」ガギィィン

デスナイト「……」グググ

勇者「そら!」ガンッ

デスナイト「!」ズザァ

盗賊「おお、押し返した」

商人「けど離れると不利なんじゃ……」

デスナイト「……」ダッ

デスナイト「!」ダガッ

商人「?!」

盗賊「か、兜の隙間に……小さい柄?」

勇者「……」カチャチャ

勇者「そらおかわりだ」シュシュ

デスナイト「」ドズドッドシュ

商人「ナイフ投げはえええ!」

盗賊「ぜ、全部、兜の隙間に」

勇者「だぁから言ってんだろ、そういう事してた流派で訓練も受けてるって」

商人(人型どころか……規格外の大きさや小さいもの以外、生き物なら)ヒソヒソ

盗賊(あとは苦戦するとしたらゴーレムや魔力で動く空っぽの鎧系だろうな……)ヒソヒソ

勇者「? この兜……魔力を帯びてるな」グイグイ

盗賊「チャレンジャー過ぎて万物を置いてった」

商人「めっちゃ禍々しい意匠なんすけど。っていうかナイフで逆ハリネズミにした兜をっすか?!」

勇者「お、取れた」ガポ

盗賊「しかも中身まさかのオーガ系!」

勇者「……」ジャボジャボフキフキ ガポ

商人「平然と洗って拭いてかぶってるっす!」

勇者「使えるもんは何でも使うんだよ。俺らはこれから死ぬんだぞ?」

勇者「しっかし、こんなところに番人を置いておくという事は……」ギィ

盗賊「必然的にこの場所は……」

商人「……」ゴクリ


魔王城B1F 南西
勇者「モロに城内かよ……どこら辺だ」

盗賊「そもそも魔王がいるところって一体……」

商人「え? あ……これから探すんっすよね……」ブルル

勇者「にしても随分と静かだな……警備とかいねえのか」

勇者(階段か……構造もさっぱりだし、上から全体像を把握しておいた方がいいのかねぇ)

盗賊「……あの、勇者さん?」

勇者「どうした?」

盗賊「多分気付いているとは思いますが、ところどころにその……」

商人「何かあったっすか?」

勇者「あー血の臭いだろ。もしかしたら既に誰かが魔王を倒しているかもな」

商人「マジっすか! やったあ!」

勇者「もしかしたらだ馬鹿。返り討ちにあって死んでんのかもしれねえんだぞ」

1F南西
大量のゴーレム「」

アイアンゴーレム「」

ブロンズゴーレム「」

双剣「……」

盗賊「これは……」

勇者「こいつ……」

双剣「……ぅ」

商人「! 息あるみたいっす!」

勇者「大丈夫か?」

双剣「ぁ……? は、お前、かよ……あの時は、悪かったな」

勇者「意識があるのが分かれば十分だ。もう喋るな」

商人「噛むっすよ!」

勇者「待て」

盗賊「や、薬草ですか? あ、呪符呪符」ゴソゴソ

勇者「要らん」

商人「え?」

盗賊「ゆ、勇者さん?」

勇者「手遅れだ……内臓破裂どころか腹から漏れてやがる。肋骨の具合といい……随分といいのを食らったな」

勇者「致命傷に魔法は効かない。どれほど魔力があろうとなかろうと、な」

双剣「そういう……訳だ」

商人「で、でもゾンビ化すればまだ!」

勇者「致命傷だ……いやもう死んでいてもおかしくない。俺らみたくなったところで無理だな」

勇者「すまないが俺らにしてやれる事は無い。せめて、人間のまま逝ってくれ」

双剣「そりゃ、どうも……こいつを」ゴソ

勇者「短剣……? いや魔石が埋め……なんだこの魔力」

双剣「分かる、のか……すごいな、お前」

双剣「一度だけ、魔石に、溜め込まれた魔力を、放てる……温存して、この様だが、な」

勇者「……重苦しい形見を押し付けやがって」

双剣「へ、へ……魔王を……」

盗賊「……」

商人「……? あの?」

勇者「……事切れたようだな。俺らも死にに行くぞ」

商人「そんな……」

盗賊「勇者さん、なんで無理だと諦めたか。せめて説明してもらえますよね?」

勇者「調べちゃいたんだよ。この体の傷の治り、確かに早いんだがある程度の傷や怪我にしか意味が無いんだよ」

勇者「なんて言えば分かり易いか。擦りむいた傷口の出血が止まる、傷口が完治するってのには有効だが」

勇者「ヒビ程度なら分からんが、完全に折れている骨や内臓の損傷。そこらへんには大きな治癒能力がねえんだろうな」

勇者「まだ想像の段階だがちょっとした代謝や免疫が優れていると考えている」

勇者「……その分、絶えず身体には負担がかかり腐敗という形で症状が現れる」

勇者「こんだけ止血が早いってのに血栓は出来ている様子がねえ」

勇者「異常を察知する能力が高いのか、過剰に固まったなら今度は解かす作用が強く出してバランスとってんのか」

勇者「ま、でたらめな体だ。ケースバイケースで過剰な働きをしつつバランスをとる。恐らくこれが、この体の特徴なんだろうよ」

商人「それ、勇者さんとの呪術との繋がりがおかしくないっすか?」

勇者「想像の段階だって言ってんだろうが。そこまで暇じゃねえよ」

盗賊「だとしても可能性があるのに……」

勇者「お前らゾンビになった時、初めはどうだったんだよ。ショックじゃなかったのか?」

盗賊「……」

商人「……先輩に当たっちゃったっす」

勇者「普通はそうなんだよ。俺みたいに帰る場所もやりたい事も無い空っぽな人間じゃなけりゃな」

勇者「人でなくなった挙句死んだらお前らどうだ? 化けて出るだろ? んな度胸はねえだろうが」

盗賊「……まあ、恨みますよね」

商人「正直に言えばっす」

勇者「最善なんてものはねえけどよ、少なくともあいつは納得していたろ。本人度外視でごちゃごちゃ言っても仕方ねえだろ」

盗賊「……そうかも、しれませんが」

勇者「……」フゥ

勇者「あんまさ、俺に求めんな。俺なんて何者にもなれないしょうもない存在だ」

勇者「期待するだけ損だぞ」

商人「そ、そんな事ないっす! 当たり前のように人の命救ったりするじゃないっすか!」

勇者「気分次第だがな」

盗賊「……それでも、勇者さんは勇者さんですよ。俺らにとって勇気ある者、なんですよ」

勇者「面倒くせえなぁ……ま、思うだけならタダだ。勝手にしろ」

勇者「とっとと行くぞ。こいつの仲間が先に行っているかもしれない」

勇者「生存率上げたきゃ合流するしか」ゾク

盗賊「な!」ゾゾォ

商人「ひあ!」ゾクゾク

勇者「これほどの魔力……しかも今まで感じたものとは……まさか魔王と戦闘を?」

勇者「だがこれなら道が分かり易いな……急ぐぞ!」

盗賊「はい!」

商人「了解っす!」

魔王の間
勇者A「たああ!」ヒン

魔王「……」ガギギギギ

魔法「アイシングピアース!」ドドドン

魔王「……」ギギギン

勇者C「せやああ!」ガギギギ

女勇者「やあああ!」ガギギギ

闘士「はっ!」ガガギ

戦士「くそ! 魔力の障壁で攻撃が通らねえ……」

騎士「これでは我々が消耗するだけだ……」

魔王「なるほど……貴様達にはもう、私に抗う術はないという事か」

呪術師「そいつはどうかな」コォン

魔王「なんだそれは……?」

衛生兵「呪術師さんっ」

呪術師「あ、あれ……最高位の束縛系だったんだけどなぁ」タジ

魔王「そうか。では死ね……エクスプロージョン」

勇者A「く!」カッ

勇者B「容赦ないな!」ッドォォォン

勇者B「光の盾にオリハルコンの鎧、黄昏の鎧で壁になってもこれほど、か……」ジュウウ

勇者A「圧倒的な魔力の差か……苦しいな……」ジュウジュウ

僧侶「オールヒーリング!」パァァ

衛生兵「耐火剤いきます!」パァッ

魔王「抗え抗え……虫けらの如く……そして息絶えろ」

魔王「……む?」ピリ

呪術師「くそ……これでも駄目か」コォォン

魔王「少々、指先が痺れるぐらいだな。呆れ果てるわ」スッ

魔王「なぬ!?」ガギン ガギギ ガギンガギン

剣士「っは!」ヒュンヒンフォン

勇者D「す、凄い連撃!」

女勇者B「コールド!」

地面「」バキキキ

剣士「ふっはっ! とうっ!」ヒヒン ダッ

魔王「ほう……私を釘付けにして」ガギギガギン

魔王「地面を走らせた冷凍系魔法で狙う、か。だがそれでも届かん」ギギギギ

女勇者B「盾型だと思ったけど……全身が魔力の障壁で覆われてる?」

剣士「徹底した引き篭もりだな。足すらあれなら背後も同様だろうな」

女勇者A「ファイアタワー!」ゴゴォォン

魔王「それも効かんなぁ」ギギギギ

女勇者A「みたいね」フゥ

女勇者(破邪の剣でもクリスタルソードでもダメージが与えられない……魔法も同じ)

勇者A(どこかに打開策はあるはずだが……)

女勇者A(こんなんどうしろっていうのよ……)

勇者B(大昔封印という決着をつけたのはまさか……)

勇者C(嫌な感じだな……まさかな)

女勇者(まさか……絶対に倒せないから封印した?)

勇者D(ど、どうしたら、どうしたら……)オドオド

勇者D(……僕が……僕も頑張らないと!)クワッ

勇者D「……っ!」グッ

勇者C「! 馬鹿! まだよせ!」

勇者D「ライジングショット!!」カッ

魔王「な!?」バギィィン

勇者A「障壁が……! 今だ!」

魔王(一直線に光の筋が……? ライジングだと? これは既に高出力の光ではないか)ジ ジジ

魔王「エアバレット」ビュァァァッ

勇者B「うお!」

女勇者「近づけさせないつもりか!」

魔法「サンダーボルト!」

魔王「障壁が無くとも、この程度の魔法など」バヂヂヂ

戦士「剣ならどう、だ!」ブォン

魔王「同じ事よ、この程度」ガギィィン

戦士「うお……」ギン

魔王「出来ぬようでどうする!」ザンッ

戦士「ぐお!」ザシュッ

魔法「戦士!」

僧侶「ヒーリ」

魔王「アイシングピアース」

戦士「が、ぁっ!」ズドドド

僧侶「ング……え……?」シィン

魔法「戦、士……?」

戦士「」

女勇者「……な……嘘……」

勇者A「……」ギリ

魔王「何を動揺している……」

魔王「私を殺しに来たのだろう……よもや自分達が殺される覚悟は無いとでも?」

女勇者A「フレイムカノン!」ドンッ

魔王「……もう少し早く撃たんか」ガギ

女勇者B「何時の間に障壁が……」

騎士「しかし……あの障壁、破れぬ訳ではない」

闘士「勝機あるならば、な」

女勇者(落ち着け落ち着け落ち着け)ギリギリ

魔王「ふむ……意外と冷静か……。流石にここまで生き残っただけはあるのだな」

魔王「そろそろ私も本気で戦うとしよう」

勇者C「おいおい……そりゃあ……俺の影に隠れて魔力回復に専念しろ」

勇者D「う、うん……」

魔王「ヘルライジング」カッ


ドゴゴゴゴゴン
盗賊「おわあ!」

商人「なんなんすか今の?! 地震?! 絶対地震じゃない!」

勇者「だいぶ近いんだろうが……こんな威力あるもんがぶっ放されたんかよ。魔王がやったんじゃねえといいなぁ」

盗賊「これ……魔王だったらどうするんです?」

商人「あ、あの短剣の魔力でどうにか!」

勇者「出来るレベルじゃあねえな。よくて多少は反らせる位だろ。もったいねえな」

勇者「いくら大量の魔力を保有している魔石つっても、この程度を防御に回さなきゃ戦えねえのなら端から勝負になんねえよ」

盗賊「彼は何故……使わなかったんでしょうか」

勇者「魔法が使えなきゃ魔力放って防御に使うしかねえからな。物理特化ばかりのゴーレム相手じゃ無駄だろ」

勇者「魔王の間もそろそろか? 気合いれていくか」

商人「おぉ……」

盗賊「勇者さんが本気だ……」

しまった
一旦ここまで
今日再開するか未定

魔王の間
魔王「ふぅ……ふぅ……少々やり過ぎたか」ガラガラガラ

魔王「これでは人間など……む?」

勇者A「……な、何故生きて……」ォォ

女勇者「い、生きてる……?」オンオン

勇者B「馬鹿な……こんな事があるのか?」オォ

騎士「ま、まさか……身代わりの」バッ

衛生兵「~~、呪術師さん!」ォォォ

呪術師「……」

呪術師「……」ニッ

:';:;・;;,`;.;',., :. ボファッ

衛生兵「あ……」ジワ

魔王「そうか……ここにいる者の全てのダメージを一人で引き受けたか」

魔王「あれだけの力が一人に集中したのだ。肉体が粉々に散ったか……。中々覚悟のある事よ。敵ながら見上げたものだな」

勇者B「貴様ぁ!!」ブン

魔王「今度は激昂しているのか」ガギギギ

魔王「犠牲無く私を倒せるだけの力が無かった。それだけだ……いやまだ倒す事もままならぬ可能性があるのだったな」ギギン

女勇者「皆! 集中攻撃!」

騎士「な、何?」

女勇者「殺す気なのにさっきの魔法をすぐに撃ってこない……連続で撃てないんだ!」

魔王「この状況で素晴らしい分析だ……だが撃てる魔法が一つという訳ではない」スッ

勇者B「はっ!」ガギギギギ

魔王「む……」ギギギ

勇者B「もう一つ……障壁に接触されている間は魔法を撃たない!」ギギギギ

勇者B「お前が魔法を撃つ時は何時も、障壁から衝撃を発して俺達を退けた後だ! この状況下じゃ魔法が撃てないんだな!」ギギギギ

魔王「ほう……そこまで……なるほど、少し侮っていたようだが」ギギギン

勇者B「くっ!」ズザァ

魔王「それを維持できぬのであれば意味が無」ザンッ

魔王「な……に?」ブシュァァ

剣士「……」スラァン

騎士「障壁を切り裂いた?!」

魔王「ア、アイシングピアース!」ドドド

剣士「ふっ!」ザザザン

勇者A「魔法を切り落とした?!」

勇者B「すっげ……」

魔法「ヘルフレイム!」ゴオォォ

剣士「ぁぁぁいやぁっ!」ヒンッ

魔王「な……馬鹿な……炎をも?」

剣士「魔法により生み出される物は全て本当のものではない……魔力の奔流を見極め的確に切り払えば雷撃さえも掻き消える」

魔王「く……ふ、ふふっ」

魔王(この者は己の技量だけでここまで昇華させたというのか……素晴らしい、美しい)

闘士(注意が削がれた!)ダッ

魔王「! フレイムショット!」ボンッ

闘士「……っ!」ボシュッ

勇者B「闘士っ!」

闘士(まだだ……まだ倒れられん、双剣士に顔向けできん!)クワッ

闘士「かぁっ!!」ッドン

魔王「ご、っか、はぁっ!」メキメキメキ

闘士「報いた、ぞ」ドザァ

僧侶「ヒーリング!」シィン

勇者B「……いい! 胸に穴が空いる……致命傷は、治せない」ギリ

騎士「たああああ!」

魔王「げほっ! ごほっ! ごほっ!」ガギギギ

騎士「く! 既に障壁を……」ギギギギ

魔王「はぁっ! はぁっ! 捨身、とは……吹き飛ば、されて、いなければ……!」ギギン

魔王「追撃に……やられていたところか」フゥ

勇者「こりゃまた凄い状態だな……」

盗賊「か、隠れてます」

商人「早くも後悔っす!」

魔王「な、なに……?」

剣士「……」ピク

女勇者「え? あ……」

勇者A「君は……!」

女勇者B「勇者さん!」

剣士「……」ダッ

魔王「! この……」

女勇者B「ブリザード!」ビュアアァ

魔王「フレイムウォール!」ボボォ

女勇者B「防いだっ?!」

剣士(障壁の作用で攻撃できぬ状態であってくれた方がよかったが……致し方ない)

剣士(奴の迎撃を掻い潜り障壁ごと斬る!)

魔王「ライジング……ブラスター!」ドゥッ

剣士(な……これは……)ゴォォォォ

剣士「ぐ……」ッドン

女勇者B「え……」

剣士(あれほどの速度と魔力……見極めようが無いな……まだまだ甘いな、私も)

剣士(片腹が吹き飛んだか……だが、あと五歩……!)ギンッ

魔王「!!」ゾゾォ

魔王「ボム!」

剣士「かっ!」ボンッ

剣士「が、あ……」ドザァ

女勇者B「剣士、ちゃん……」ワナワナ

剣士(ああ……すまない……また君を一人にさせてしまう)

剣士(私ならばそんな思い、させはしまいと思っていたが……)

剣士(すまない、女勇者B……)

剣士(一年にも満たないが……)

剣士(とても……楽しい日々だったよ……)フッ

剣士(世界は広いな……私では歯が立たない相手がいるとは……)

剣士(出切れば……それをも……乗り越え……)スゥ

魔王「はぁっ! はぁっ!」

勇者「ふっ」ブォン

魔王「くお!」ガギギギギギン

勇者「こいつは……凄い障壁だな」ズザァァァ

魔王「ふう……ふう……この、私が死を予感しただと……馬鹿な」ワナワナ

女勇者B「剣士ちゃん! 剣士ちゃん! お願い! 目を開けて!」

盗賊「け、剣士さん……」

商人「う、あ……そん、な……」ワナワナ

勇者「……」

戦士「」

闘士「」

勇者「……」

剣士「」

女勇者B「剣士ちゃん……剣士、ちゃん……」ユサ ユサ

勇者「随分とまあ……派手にやっているな」ガチャ

魔王「! 貴様は……構わん! 殺してやる!」ゴォ

勇者「え? なんだ? なんか怒った?」

魔王「ライジングボルト!」

勇者「ぐ!」ズガガガガ

女勇者「勇者さん!」

僧侶「ヒーリング!」パァ

勇者「お、おお……回復魔法は効くのか。あ、呪符も効いたな」

勇者A「まさか……君と共闘する日が来るとは」

勇者B「……出来れば、仲間達に先日の謝罪をさせたかったが……」

勇者C「まさかなぁ……」

女勇者A「あんたがこんな所に来るだなんてね……」

魔王「フレイムウェーブ!」

勇者「お喋りはこいつを倒した死後でだな!」ゴァァァ

勇者(この様子からするとあの障壁、ある程度の力をぶつければ消えるのか?)

勇者(つっても俺の上段大振りも耐えたしなぁ)ダッ

勇者「ぐ!」ビタッ

魔王「?! アイシングピアース!」ドドド

女勇者A「フレイムボルト!」ドドドン

「な……たたか……な……をまも……」

勇者「うっぜえぇ! こんな時までうっせぇぇぇ!」ググググ

勇者A「? 呪いか……! 頼むぞ!」

勇者B「早く復活してくれよ!」ガギギギ

勇者「ぐぐぐ!」グググ

「何故……かう……を守……」

勇者「あぁ?!」グググ

「何故戦う……何を守る……」

勇者「呪いの装備が聞く事かよ! 俺なんぞに聞いてんじゃねーよ!」グググ

勇者「何もない空っぽの……何者にもなれない俺なんぞが答える質問じゃあねーんだよ! いいから動かせろ!」グググ

「それでも尚、死ぬかもしれぬ戦いに身を投じるというのか」

勇者「知るかよ! 案外好きだからじゃねーの! この世界が! 何かの目的の為に生きるのが!」ググググ

「変わった者だ……これほど不定形でありながら、芯が通るものなのだろうか」

「何者でもないが故に何者からも束縛されぬという事か……」

勇者「はあ?!」グググ

地獄の鎧「だが……良いだろう。死を恐れぬ覚悟ならば、その灯火を削りて戦うといい」

地獄の鎧「我が力の全てを我が主に託そう……如何なる力も遮る盾の力を」ズオオォォォ

勇者「ぐ!」ズォォォグジュ

勇者(腐敗?! どんな力が知らねえがとんでもなさそうだな)

女勇者「ゆ、勇者さん……?」ゾク

勇者A「君は一体……」

魔王「……貴様、地獄の鎧!」

魔王「邪魔立てするか! 欠陥品の分際がぁ!」

地獄の鎧「異な事を言う……神器黄昏の鎧に憧れ、禍々しき力を持つ我を生み出したのは貴様ではないか」

勇者(んだよそりゃ……ゾンビ化といいつくづく縁があるな)

地獄の鎧「喜ぶといい。貴様が望むとおりに我が仕えるべき者が我の前に現れたぞ」

魔王「欠陥品風情がほざくなぁ!!」

魔王「何故だ! 何故私はこうなのだ!」

魔王「何故、貴様は人の道を歩もうとする! 貴様とて私のように理不尽な迫害を受けたのではないのか!」

勇者「ハッ。下らねえ、マッチポンプかよ……」

魔王「認めん……認めんぞ! 世界が我を憎んだように、貴様は人間どもから疎まれる存在となった」

魔王「なのに何故! 光ある道を歩き続けられる! 歩こうとする! 何故、貴様の周りに人間が寄り添う!」

勇者A「魔王とは……」

勇者B「そうか……そうだったな……だが」

勇者C「ただ一人の加害者でないにせよ、お前のやった事は大きな過ちだったんだよ」

魔王「黙れ黙れ黙れ!」

勇者「うっせえよ」ブォン

魔王「ぐ!」ガギギギギ

勇者「お前の言っている事は下らねえな」ギギギ

魔王「何故だ! 何故分からぬ! 一方的な迫害と差別!」ギギギ

勇者「だからうっせえての!」ギギン

魔王「!? 私が弾かれた?!」

勇者「世界は不平等と差別で成り立ってんだよ。それでも探しゃあ慈愛も落ちてんだ。当たり前だろうが」

勇者「手前はそれをウジウジと考える生き方を選んだ。俺は俺のやりたいように生きる生き方を選んだ」

勇者「それだけの事だ」

魔王「~~~~~!! ヘルライジング!!」

勇者B「ま、不味い……」ゾォ

勇者「この感覚、まさか」ビリビリ

魔王「滅べ!!」カッ


ゴゴゴ..ゴゴ..
女勇者「……ま、また、生きてる?」ガララ

勇者A「ど、どうなっているんだ?」

勇者「……」シュウウウ

勇者(今の魔法を受けてこの程度か……腐敗速度は笑えないが、攻撃魔法の耐性は凄まじい事になったな)

地獄の鎧「愚かな……よもやこの程度で我が折れると思っておるまい」

魔王「欠陥品風情が我を阻むか!」

地獄の鎧「我が主よ……我が作り主に引導を渡してやって貰いたい」

勇者「言われなくても分かってんだがよ、意外と決定打が決められねえんだよ」

魔王「アーススパイク!」

勇者「ぐっ!」ドガガガ

勇者「ふう……並の鎧だったらと思うとぞっとするぜ」

盗賊「回復の呪符!」パァ

勇者「お、悪いな」

商人「最後くらい近くにいるからしっかり支援するっす!」

魔法「フレイムボム!」ドドン

女勇者「たああ!」ガギギギ

魔王「小賢しい!」ギン

女勇者「く……」ズザァァ

勇者C「おい……こちらに合わせてくれ」

勇者「ああ、頼んだぞ」

勇者C「……」バッ

女勇者A「ロックシューター!」ドドド

魔王「無駄だと言うのが分からんか!」ガギギギン

勇者D「……」コォォ

魔王「!」

勇者D「ライジングショット!」カッ

ゴゴゴゴ パラパラ パラ
勇者「……」ダッ

勇者A「行くぞ!」

勇者B「うおおお!」タ

騎士「!? 待て!!」ズザァァ

戦士「」プラプラ

魔王「……」シュウウゥゥ

魔王「流石にここまで来た装備ともなれば、障壁を打ち抜くほどの威力も削がれるようだな」

戦士下半身「」ジュウウウウ

魔法「あ、あぁ……」

女勇者「ああああああ!!」ガギギギギ

魔王「なんだ? どうしたというのだ……?」

女勇者「ふざけるな! 死者を、死者を冒涜するつもりか!!」

魔王「馬鹿な事を……貴様らは生きている者さえ足蹴にしておいて死者は丁重に扱うと?」

勇者「……」タタタ

魔王「! ふん!」ギン

女勇者「きゃあ!」ズザァ

魔王「フランベ!」

勇者「ぐ……!」ゴオオォォ

盗賊「届け!」スッ

勇者「おっし!」シュウウウ

商人「回復の呪符、残り5枚っす」

勇者「使うタイミングは任せるぞ」スッ

魔王「いい加減……いい加減に目障りだ! フレイムアロー!」

魔法「アイスシールド!」ズドド

女勇者A「ハリケーン!」ガガガ

魔王「スネークファイア!」

勇者A「な、なんだこれはっ」シュルル

勇者B「避け、ぐあああ!」ボボボボォ

騎士「止める!」バッ

魔王「エクスプロージョン!」カッ

騎士「な!」ッドォォン

魔王「滅べ……カオスオブフレイム」コォォォ

勇者「この魔力の高まり……やべえな」

地獄の鎧「気をつけろ、我が主よ……この空間全てが炎に包まれ、灰となるぞ」

勇者「おいおい、俺はいいがあいつらの神器は防げんのか……?」

地獄の鎧「発動までに僅かな時間がある。止めるも逃げるも主次第だが……私なら耐えられるぞ」

勇者「なら決まってんだろ!」ダッ

勇者A「たあああ!」ブン

魔王「エアバレット」ゴァァァ

勇者「くおっ!」ビュアアァァ

勇者A「ま、まずい……これは」カッ

勇者C(こりゃあ……全滅だな)

勇者C(そういう訳にもいかねえよなぁやっぱ)

勇者C(これ以上他の連中に死なれても困るしな)カラカラ

勇者C(出切れば……もっと生きたかったんだが、仕方ないよな。自分で選んだんだから)

勇者C(後悔なんて、出来ねえよな!)

勇者C「マジックバキューム!」ギュォォッ

ジュウウウゥゥゥ
魔王「っはぁ! はぁ! な、にが!?」シュウウゥゥ

騎士「吹き出た炎が、消えた……?」

女勇者A「今の……まさか!」バッ

勇者D「ゆ、ゆう、勇者C、さん……」ガタガタガタ

■■■「」

,',,:,.':;;;,`;.;',., :. ボサァッ

勇者B「また……俺達の身代わりに……?」

衛生兵「こ、こんなのって……」

勇者D「うあああああ!」ゴォッ

魔王「! ぐ、くそ!」

魔王(今の反動で魔法が撃てない! これではやつのあの魔法を……!)

女勇者A「駄目よ! 無理に使えばあなたの体に!」

勇者D「ライジングショット!」カッ

魔王「があ!!」ボフッ

騎士「貫通、した?!」

勇者(怒り任せの一撃か……不謹慎だがありがたい!)ダッ

勇者D「勇者C、さん……」フラ

女勇者A「D君!」バッ

勇者A「たああ!」ガギィィン

勇者B「はっ!」ギィン

魔王「ぐ……く!」グググ

女勇者「二人がかりを止めるだなんて」ジリ

騎士「退け! 私が!」

勇者「……」タタタ

魔王「! エアバレット!」ゴァッ

勇者A「なに?!」

勇者B「真下に?!」

魔王「ぐぉっ!」ビュァァァ

勇者A「くあっ!」

勇者B「体が、浮く!」

騎士「な、何を……?」

勇者(距離を取った? これは……くそ! 間に合え!)ダッ

勇者「たああ!」ブォン

魔王「プロテクトウォール!」シュィン

勇者「!」ガァン

勇者(シールド、じゃない? こっちに伝わらなかったシールドの上位魔法か?!)

勇者(このやろう……初めから俺対策に、自分ごと吹き飛ばして距離を取ったのか。読み違えたな)

ちょっくら休憩
にしても戦士
盾にされて体が裂けてるように見えなくてワロタ

魔王「はぁっ! はぁっ!」

魔王(あの時点で使っておけば、障壁を剥がされる事も無かったものを愚かな事をした!)

魔王(ただでさえ魔力の消費が激しい魔法をここで使うとは……せめてこの男は今排除せねば!)

魔王「アイシングピアース! フレイムショット! サンダーボルト!」ドドド

勇者「ぐあああ!」ドドドド

魔王「マジックインパクト!」ドゴォン

勇者「か、っはぁ」パァァァ

勇者A「たあああ!」

魔王「スパーク!」

勇者A「がああああ!」バヂヂヂ

僧侶「ヒ、ヒーリングオール!」

魔法「スプレッドボム!」

魔王「く!」ボボボボン

魔王「エアシザーズ!」

勇者「があっ!」ザンッ

勇者「ぐ、あ……」ヨロ

地獄の鎧「……すまない、我が主よ」

勇者「こん、な時、に……なんだ、よ」パァァァ

魔王「ヘルフレイム!」ゴオォォォ

勇者「ぐ!」ボオオオ

地獄の鎧「流石は我が作り主、その猛攻に耐える事はできんようだ」

勇者「な……まさか」

地獄の鎧「すまない、別れの時のようだ」ビシ バキ

勇者B「させん!」ヒン

魔王「く……」ガギギギ

勇者B「また、障壁か……臆病者め!」

魔王「多勢に無勢の貴様らが吠えるか! ブリザード!」

勇者B「ぐうう!」ビュァァァ

勇者A「はあ!」ガギギギギ

騎士「たあ!」ガギギ

魔王「うっとおしい羽虫どもが!」

盗賊「回復の呪符、あと二枚!」パァ

商人「耐魔薬っす!」パァッ

勇者「はあ……はあ……」シュウウ

地獄の鎧「我が主よ……出切れば、あの者に引導を……あの、哀れな者に」ビキビキビキ

勇者「うるせえな……言われなくたって分かってんだよ」

地獄の鎧「最後に仕えたのが……我が主でよかった……」ビキバキン

勇者「……」

盗賊「ゆ、勇者さん……」

勇者(鎧としての形は残っている……今までの超耐性が無くなっただけだ)

勇者(まだ、戦えるな)

勇者「げほっごほっ!」

勇者「! 血……」

盗賊「回復の呪符!」パァァ

勇者「……」ゼェ

勇者(体の重さも取れない……これは、内臓もきてるな)

勇者A「はぁ……はぁ……」

魔王「ぐうう……!」

勇者B(流石に、あの僧侶の子の魔力も減ってきたか。回復のテンポがギリギリになってきている)


勇者(効果が切れて消滅するのが先か……一太刀入れるのが先か……)サラサラ

勇者(全体的に余裕は無い……勝負するならここだな……)スッススッスッ

勇者(一世一代、人生最大の大博打だな)スー

盗賊「! そ、それって」

商人「まさかのまさかっす……」

勇者「命滅蝕気」ゴァッ

断頭台の大剣「」ズズズ

魔王「!」ゾク

勇者A「なんだ?!」

女勇者「この感じは……まさか」

勇者B(! 注意が削がれたな!)ダッ

魔王「フレイムスネーク!」

勇者A「く!」ボォォ

勇者B「ぐああ!」ゴオオ

勇者「っ!」ボオオオ

女勇者B「……っ!」キッ

女勇者B「フローズンビーム!!」カッ

魔王「効かんわ!」ガギギギ

魔王(だ、だがこれでは視界が……まさか)シュゥゥ

勇者「たあああ!」

魔王「しま、ぐ!」ギギギギ

魔王(いかん! 押し返せない! むしろこの私が押されるなど!)

魔王(それにこの男の大剣……馬鹿な、この魔法が完成していたなどと!)

女勇者「あ、あの剣は……」

魔法「でも魔王に模様が移らないわ……直接斬らなきゃいけないようね」

僧侶「ヒーリング!」パァァァ

勇者A「援護するぞ!」

勇者B「ああ!」

女勇者「待って! 今のあの剣で斬られたら死んでしまう!」

騎士「な、なんだと……」

女勇者A「迂闊に近づいて巻き込まれる訳にはいかないわね……」

勇者「……」ギギギギ

魔王(ぐ! 押される……っ! 壁?! 馬鹿な……押しやられていただと!)ドン

勇者「ふぅぅ……」ギギギギ

魔王「!? 左手を離した……? な、何をするつもりだ……」

勇者A「彼は何を……」

勇者B「腰の……あれは……」

商人「……? うん? あれって……」

盗賊「印を切ってる。でも一体どうするつもりなんだろう」

勇者(何処までやってくれるか分からねえがここまで連れてきたんだ)

勇者(お前も戦えよ……戦わせてやるよ)

勇者「喰奪反機!」

短剣「」コォォ

大剣「」ズオォォォ

魔王(! こ、この男は何者なのだ! 全てあの当時の……!)ゾゾ

魔王(駄目だ……! 魔法を撃てない……防ぐ事が……!)

勇者(似ているな……あの孤児院に居た他のガキどもに)

勇者(怯えて暴れてそれでも適わなくて……怯えた目をしてそれでも抗おうとした一部のガキどもに)

勇者(もうちっと踏みとどまっていりゃあ、今の俺なら手を差し伸べるぐらいできたんだがな)

勇者(だからせめて……)

勇者「受け取れよ!」ブン

魔王「や、止め!」

短剣「」ガッ

障壁「」ギギギ

障壁「」ボファッ

魔王「~~~!!」

魔王(喰われた! 我が魔力が、障壁がこの……)ザンッ

勇者「……」グッ

魔王「う、が……」ウゾウゾウゾ

騎士「障壁が消えて……!」

女勇者「決まった……!」

勇者A「!」

勇者B「な、なんだあれ」

女勇者A「……あれ、本当に人間よね」

女勇者B(ありがとう、ございます……あたしは絶対に、剣士ちゃんの仇は、とれなかったから……)ポロポロ

勇者「うっしゃ」ボファッ

勇者(奪った障壁が消えた? 俺では維持できないからか?)

勇者(あんだけの障壁だ。発動条件にある程度の魔力の保有も入っていたんだろうな)

魔王「ぐぅぅぅぅ」ウゾウゾウゾ

勇者「おぉ、おいおい……」

勇者(いくら魔王つっても耐えるとか言わないでくれよ……マジで)

魔王「ふ、は……ふはは……結局、私は……あの者達を追い抜くことなど……」

魔王「ならばっ!」ダッ

勇者「く……!」

勇者(やべえ! 思った以上に体に負担が……)ヨロ

勇者「ぐう!」ドズッ

魔法「まだ動けるの?!」

女勇者「勇者さん!」

魔王「下らぬと言ったな……ならば貴様が真なる悪意に、晒されるといい」ズォ

勇者「がっ」ドクン

魔王「……貴様が、世界を……壊せ」ヨロ

魔王「……」ドザァ

勇者「……」

盗賊「ラスト、回復の呪符!」パァァ

商人「大丈夫っすか!?」

勇者「あ、ああ……」

勇者A「倒した、のか? 俺達は勝ったのか?」

魔王「」

女勇者A「生き、残った。生き残れた……」

勇者D「すぅ……すぅ……」

勇者B「けれども……」

騎士「ああ……素直には、喜べないな」

女勇者B「……」

女勇者「いや……喜ぶべきなんだ。喜ばないといけない……皆がいてくれたからこそ……倒せた。勝つ事ができた」

勇者「そうだな……そっちが消耗させていてくれてなければ、俺もとっくに死んでいただろうよ」ドザッ

勇者B「あの短剣……彼の、最期を看取ってくれたんだな」

勇者「ああ、この場にはいないが、間違いなく功労者だよな」ニヤ

女勇者A「あんた……その魔力は」

魔法「そうよね……どう見ても」

勇者「やっぱ気付いたか。こいつ、俺に自分の魔力を全て送ってきやがった」

勇者「しかもこれは、魔力を使い切ってもまた回復するんだろうな。完全に魔王と同じようになったわけだ」

盗賊「……でも、勇者さんって魔法は使えないんですよね」

商人「じゃなきゃ回復が薬草や呪符頼みじゃなかったもんっすね。マジ宝の持ち腐れ」

勇者「まあな」

勇者「だが……得て分かるよ。魔王は本当に馬鹿な奴だな」

勇者A「? それだけの力があればどうにでもできた?」

勇者「それもあるがこの魔力、生き物が持つ魔力じゃない」

勇者「大気や大地……自然界に流れる魔力だ」

女勇者A「……? え? 待ってそれって……」

魔法「あ、ありえないわ……そんなの生きる天然魔石じゃない」

勇者「だからこそ魔法の体系を完成させられたとも言えるな」

勇者「こいつは……これほどまでに神々に寵愛されてきたってのに」

勇者「それが分からず、踏み外しちまったんだな」

騎士「……だが、魔王一人に責任を求める事は」

勇者A「知っていたし、更に胸中も知ってしまった」

勇者「それでも決断は自身でするもんだ。今となっちゃあどうでもいいがな」

女勇者「で、でもこれからどうしたら……」

盗賊「……別に不都合が無い気がする」

商人「勇者さん困るっすか?」

勇者「別に困らねえだろ。どの道、町で暮らすとかねえし」

盗賊商人「ですよねー」

勇者B「だ、だが何かの弾みに討伐隊が組まれる可能性も」

勇者「困らねえだろ。逃げるか殺すかすりゃあいいし」

女勇者A「えっ」

盗賊商人「ですよねー」

女勇者B「あ、あのでもこれから先、その魔王が言っていたように迫害とか……」

勇者「襲い掛かってくりゃあ斬る。口煩いならシカトする。そんだけだ」

勇者A「……タフだな、君は」

騎士「その体になっても、あの時平然と助けてくれた理由が分かった気がする」

勇者B「だが、全ての者が納得する訳じゃあ……」

勇者「だからそんだけだって言ってんだろ」

盗賊「流石だよな」

商人「うんうん」

盗賊「ま、俺らはそんな勇者さんが好きですけどね」

商人「ついていくっす」

勇者「お前ら……」

勇者「正直言っていらねえし気持ちわりいからやめろ」ゾォ

盗賊「あーこれだようん。この気遣いも本心もバッサリいく感じ」

商人「うんうんこれだよこれ、こういうのが勇者さんっすよ」

僧侶「今の結構な暴言な気がするんですが……」

魔法「この二人、順応している……」

勇者「さて、犠牲者がいるとは言え、今のままじゃどうしようもないし一旦は凱旋か?」

勇者A「……そうだな」

勇者B「せめて処置はしてやらないとだな」

騎士「戻っている間に彼らが腐っていくなど耐え難いな」

女勇者A「ちょっとだけ羨ましいわ……連れて帰れる人がね」

勇者A「はは……確かに、な」

女勇者B「……」ジワァ

勇者「さて、俺も一つ仕事をするか……」

盗賊「!? 人命でもなんでもない作業を手伝うんですか?!」

商人「勇者さんがっすか?!」

勇者「ちげーよ、馬鹿。他にやる事があんだよ。これだけの魔力ありゃあな」

女勇者「え? あ、あれ? 否定はしてない?」

勇者A「掴みどころがないな……」

騎士「あ、ああ……」

勇者「喰奪反機……」コォォ

盗賊「え?」

商人「勇者さん……?」

勇者「……」ヒュヒュン

盗賊「ぐぁ!」ザン

商人「ぎゃあ!」ザシュゥ

女勇者「!?」

魔法「まさか、魔王の意識が彼の中に?!」

僧侶「も、もう魔力が無いです!」

衛生兵「わ、私が……!」

騎士「止せ! 不用意に近づくな!」バッ

勇者「……」

商人「うぅ……」

盗賊「ぐ……」

女勇者A「こんな最後の最後に……」ギリッ

勇者「悪いな……そこまで深く切らなきゃ取りきれなさそうだったからよ」

商人「え……あっ!」

盗賊「ま、まさか……勇者さん! 駄目です! こんな……」

女勇者B「え?」

勇者A「! 二人の肌の色が」

女勇者「戻り始めている……」

衛生兵「傷の手当をします!」

騎士「あ、ああ……」

商人「魔王のその魔力を使って……俺らのゾンビ化を吸い上げた……」

盗賊「一人で……一人で生きていくつもりですか!」

勇者「おう、そうだよ。お前らの面倒まで見てられっか」

勇者「ちと自給自足してのんびり暮らしてみたいと思ってたんだよ」

勇者「それに内臓の腐敗も始まっている……どの道長くはもたんさ」

商人「そんな……勇者さん……嫌っす」ポロポロ

盗賊「俺も……俺らもついていかせて下さい!」ジワァ

勇者「きたねえな……鼻水垂らしてんじゃねえよ。近寄んなよ?」

盗賊商人「……」

女勇者「……あ、あたしは、その……」

女勇者「あ、貴方に助けて頂いたお礼もできていません!」

魔法(この期に及んでまだそういう……)

僧侶(……戦士が草葉の影で呆れてるのを感じる気がします)

商人(ああ、この人が勇者さんが助けて逃げたっていう)

盗賊(この人、勇者さんの事……)

女勇者「一人で行くなんて……孤独に生きるだなんて……そんな」

勇者「……?」ボリボリ

勇者「!」

盗賊(お、気付いた! 考え改めて!)

勇者「俺にはもう表立って行動する事は叶わない。君がどうしても俺に礼をしたいというのなら」

勇者「これからの世の事を、君に任せたい……いいだろうか」

女勇者「……! く……はい、分かりました」ポロポロ

魔法「女勇者……」

勇者A「君はなんだかんだで……」フッ

勇者B「なんで……こんな事に……」ポロポロ

商人(うわー絶対するつもりの無い事を丸投げしたっす)

盗賊(微塵もする気がない事を押し付けた……しかも良い話っぽくなってるし、俺らの感動も底冷えするわ)サー

勇者「……」スゥ

勇者A「それは……ま、待て! せめてもう少し」

勇者「たぁっ!」パンッ

騎士「また煙幕か!?」モウモウ

商人「ゆ、勇者さん……!」

盗賊「本当に行ってしまうんですね」

勇者「お前達は俺と違って帰る場所とかあんだろ」

勇者「俺はいいんだよ。ま、久々に師匠の所へ顔を出すのも面白いか?」ケラケラ

勇者「だから……お前達は生きろ」

商人「ゆ、ゆうじゃざあぁぁん」ボロボロボロ

盗賊「ぐ、う……い、今まで、あり、ありが」ズズ

勇者「い、いや、マジでホントそういうのやめろよ。動くなよ、絶対に動くなよ? マジできたねえな……おい」

魔法「え? えぇ……?」

僧侶「す、凄い辛辣……て、照れ隠し、に聞こえない……」

盗賊(あーこういう人だよな……ホントこの人は……)スー

商人(うんうんこれだよこれこれ、こういうのでいいんっすよ)

勇者「達者でやれよ。他の勇者も後処理が丸投げで悪いが頼むぜ。じゃあな」


スゥゥゥ
勇者A「……本当にいない」

騎士「嵐のような男だったな」

衛生兵「あの時もそうでしたね……」

勇者B「……俺達もすべき事を済ませて行くとするか。二人も俺の仲間が何処にいたのか見たか?」

盗賊「ああ、短剣の人ですね……。南西の階段の近くです」

勇者B「……あの馬鹿、ずっと戦っていたんだな……逃げればよかったのに」フッ

女勇者「……」グス

魔法「気持ちは分かるけどやる事をしましょ」

僧侶「戦士さん……」

女勇者「分かっている。分かっているよ……」

女勇者A「こっちは大してする事が無いから手伝うわ」

商人「と言ってもどうするんっすか」

盗賊「荼毘に付すしかないだろうな……防腐剤なんて持っている人いませんよね」

勇者A「こんなところまで持っていたら怖いだろうに」

女勇者B「……ごめんね、剣士ちゃん、本当にごめんね」サス

盗賊「……剣士さん、最後笑っていましたよ」

商人「多分、女勇者Bさんと旅が出来て楽しかったんだと思うっす」

女勇者B「うん、あたしも楽しかった……ありがとう、剣士ちゃん」

……それから一ヵ月後
盗賊「おぉ……女勇者さんが山賊団を壊滅させたって」

商人「他の人達も頑張ってるっすね……すげぇ」

盗賊「俺達からして見ればあの人達全員、凄い高みにいる英雄だからなぁ」

商人「一応褒美は貰えたけどぶっちゃけ何もしていないっすからね」

盗賊「勇者さんをゾンビにしたぐらいか……」

商人「呪い装備が使えるようになったっすね」

盗賊「あーうん、そういう考えもできるか」

盗賊「ところで気になる情報があるんだけど」

商人「何すか。またトレジャーっすか」

盗賊「いやこれさ」

商人「謎の魔物出現。威風堂々とした立ち振る舞いのスケルトン……スケルトンキング?」

盗賊「容姿見てみろ」

商人「黒い鎧に禍々しい兜……巨大な赤黒い大剣?!」

商人「これ絶対……でも骸骨って一体?」

盗賊「三人分だしな……腐敗が進んで骨になったんだろうな……」

商人「で、魔王の魔力の所為で更におかしくなった?」

盗賊「じゃないかな……」

行商人A「や、やべえ……この霧、おかしいぞ」

行商人B「こ、これどっちに行けば……というかここどこだ」シャ...ガシャ...

行商人A「よ、鎧の、音……? 馬鹿な、こんなところで……」ガシャ..ガシャ

骸骨王「……」ガシャ

行商人B「あ、あばばばば!」

骸骨王「……」サッ

行商人A「な、なんだ……そ、そっちに行けっていうのか……」

骸骨王「……」

行商人B「……」ゴクリ

行商人A「い、行こう……殺されるよりはマシだ」

少女「た、助けて!」

狼A「グルルル!」

狼B「ガウガウ!」

骸骨王「……」ガシャ

狼A「!」ビク

狼B「グルルル」

骸骨王「……」

狼A「ヒーヒー……」クル

狼B「キュゥゥン」スタスタスタ

幼女「ねーねー、はい木のみ」

骸骨王「いらねえよ、食わねえよ。食えねえよ」

幼女「ふーんそーなんだ。リンゴもたべちゃうよ?」

骸骨王「食いたくても食えねえっつってんだろうが抓るぞ」

幼女「ホネのおじちゃんおこったー」キャー

骸骨王「おじちゃんじゃねえよ」

骸骨王「つうかお前、山賊から助けてやったんだからとっとと町に帰れよ」

幼女「ないよ。もやされちゃったもん」

骸骨王「家族は?」

幼女「もっとまえに、マモノにころされちゃった……」シュン

骸骨王「うっわ……めんどくせえ」ガリガリ

骸骨王「つっても、こんな成りでどっかの町に届けるわけにもいかねえしな」

骸骨王「しょうがねえな、くそ。面倒見てやるっきゃねえか」

幼女「?」シャクシャク

骸骨王「良い感じに近づける町を見つけたら放り出してやる」

骸骨王「それまでは面倒見てやるよ」

幼女「いっしょにいてくれるの?」

骸骨王「そうだよ。最も、お前がこんな魔物と一緒に居るのが嫌なら……」

幼女「やったぁ! ホネのおじちゃんありがとぉ!」

骸骨王「お、おう……?」

幼女「えへへ……嬉しいなぁ」ニコニコ

骸骨王「……」

骸骨王「ちっ……面倒くせえな」ガリガリ

数ヵ月後
商人「盗賊ー。北の方に生える薬草を取りに行こうと思うんっすけど」

盗賊「俺ら本当に生活変わらないなぁ」

商人「褒美を全額貯蓄に当てた人が言う言葉じゃないっすよね」

盗賊「お前もな」

商人「結局俺ら、モブってやつって事っすよね」

盗賊「何者にもなれない、か。やっぱりそれでも勇者さんは英雄だよなぁ。で、俺らこそ何者でもないモブは慎ましく生きるとするか」

商人「準備しておいてっすよ」

雪山
盗賊「本当にこんなところに生えているのか?」

商人「そうっすよー。お、アレっすアレっす! よおし採るぞぉ」

盗賊「は? ば、馬鹿! 止めろ! 滅茶苦茶斜面だろうが!」ガシ

商人「平気っすよーこのくらぁれ?」ズル

盗賊「あっ」ズル




盗賊(あ……これ死んだな……あの時思い出す死んだな……致命傷じゃないけど緩やかに死ぬ)ドクドクドク

商人(これなら平気っす、平気っすね。でも足逝っててここ出られないっす絶望的っす凍死するっす)

少女「すごいおとー」

骸骨王「お、お前ら……」

盗賊商人「あっ」


      ゾンビ「勇者に噛み付きました」勇者「ゾンビになりました」   終

>>365




盗賊「無事、下山に成功……」

商人「野犬の群れを追い払う……」

盗賊「あの人らしい」
商人「あの人らしいっす……」

盗賊「やっぱりというか何と言うか元気そう……」

商人「しかも骸骨化してるから食事も必要なさそうっす……完全に人じゃないんじゃないっすか?」

盗賊「だとしても気にしてなさそうだけどな」

商人「してないっすね」




>>366

最後の最後で1レス飛ばしていたとかホントクソ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月24日 (火) 16:17:36   ID: w5-_og69

最高。

2 :  SS好きの774さん   2015年05月10日 (日) 17:51:07   ID: DzpLzj0W

久々に面白かった

3 :  SS好きの774さん   2015年06月16日 (火) 22:51:30   ID: bwl-iYNH

最高におもしれえ

4 :  SS好きの774さん   2016年03月25日 (金) 23:05:23   ID: 9KezVsfh

久しぶりに面白いの見た

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom