咲「あなたと過ごす時間」 (59)

咲(暑い・・・)


月に一度の全校集会は、直射日光が満開のグラウンドで行われる。

咲は流れてくる汗と一緒に少し伸びた前髪をかきあげた。

髪の毛をつまんだ手は、紅色に染まった頬に比べるとひんやりして心地よい。


『続いては、校長先生のお話です』


ここからがまた長いんだよね、とため息をはきそうになりながらも。

咲の視線は朝礼台の上に立っている一人の人物に注がれていた。

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清澄高校 学生議会副会長。

最近付き合いはじめた咲の恋人。

遠くで誰かがしている雑談も、

目の前で校長が話している世界情勢も、

風の音すら耳に入らない。

彼がまばたきする、その瞬間だけに耳を澄ましていたい。

頭上には雲ひとつない真っ青な空が広がっている。

一度そちらに視線を転じて、咲はもう一度前方を見つめた。


一太(・・・!)

咲(あ、気付いた)


ふっと彼がこちらを見やって、唇だけで笑ったのが分かった。

見えすぎるくらいに見える。

その一瞬で余計なフィルターが吹っ飛んで、

まるで2人しかいないような錯覚を覚える。

咲(おはようございます)


声に出さず、口の形だけでそう告げた。

それを見た彼が全開の笑顔でうなずく。

上気した頬がさらに少し赤くなった気がする。

彼の反応が嬉しくて、何かリアクションを起こしたくて。

両手の指を動かしたが行き場もなくて。

もう一度前髪をかきあげた。


咲(早く直接話したいな・・・)


胸からあふれ出る想いが灼熱の太陽を焦がす。

『続いて、学生議会からのお話です』


会長である久は欠席のため、副会長の彼が中央に立った。

途端に彼の視線は自分だけのものではなくなってしまう。

それでも咲は視線をそらさない。

髪を風に舞い上げて、白いシャツで姿勢よく立った彼が話し出す。

話の内容はほとんど頭に入らなかった。

ただ、彼のその姿だけを目に焼き付ける。

朝一緒に登校するとき。

お昼を一緒に食べるとき。

放課後に二人で下校するとき。

そのぐらいしか、彼とともにいる時間はない。

それでも彼と過ごす時間は咲にとって大切なものだから。

今は耳に心地よく響く彼の声に、ただ聞き入った。

咲(あれ・・・何だかすごく、暑い・・・)

酷く眩暈がした。

それでも視線は前に残す。

と、驚いたことに彼もこちらを見ていた。

咲(・・・?)

声は明朗としている。

けれどその視線がとても不安な色を映していた。

咲(あ、れ・・・)

咲(一太さんが、見えな・・・い・・・)


突然ぐらぐらと視界が揺れた。

さっきまで鮮明だった彼の表情がただの縞模様になって。

空が。

さかさまになった。


――――――――――――――――

――――――――――――

――――――――

――――

全校生徒のうち、副会長の話に熱心に耳を傾けていた8割の生徒が驚いた。

彼は話の途中で突然叫んだのだ。


一太「生活のリズムを崩さないよう――――咲ちゃん!?」


叫んだのみならず、そのまま朝礼台を飛び降りて。

一年生の並ぶ列へと駆け出した。

自然と副会長が駆けていった方へ生徒たちの視線も集まる。

列の真ん中で、華奢な少女がうつぶせに倒れていた。

一太「咲ちゃん!!」


心配げに見やるクラスメイトたちを掻き分けて咲に手を伸ばし。

そのまま彼女をひょいと抱きかかえた。


一太「軽い日射病のようです。保健室に運びます」


先ほどと同じくよく通る声で。

ただし視線は心配そうに少女に向けられたまま。

彼は前で唖然としている教師たちに告げた。

一太「遠めで見ても具合が悪そうだったから、ずっと気が気じゃなかったよ」

腕の中で荒い息をしている咲にだけ聞こえるように。

そっと囁くと、咲はふっと笑った。

咲「あは・・・分かっちゃいましたか・・・」

一太「体調が悪い時くらい学校を休んでいいのに」

薄れゆく意識のなかで彼の体温を感じて胸が温かくなる。

咲「だって・・・毎日でも一太さんに会いたいから」

ぼそりと呟かれた言葉に、彼が嬉しそうに微笑むから。


咲(だいすき)

口には出さず、囁いた。

誰より先に、私を見つけてくれて。

だから今日は休みたくなかったの。

私以外の誰かが

あなたのこと熱心に見つめてたら嫌だから。


微笑む彼に視線を返しながら。

咲はそっと、目をとじた。

後日。


『副会長にとって宮永さんはかなり重要な存在』

『麻雀部期待のルーキーだから目をかけているのかも』


などと正しいような間違っているような話題が囁かれたが。

2人の関係を知る麻雀部員や学生議会議員たち、

そして当の本人たちもあえて誤りを訂正しようとはしなかった。


ごく内輪だけ、その事実は語られた。


『別に咲が麻雀部でなくても、副会長は同じ行動をとっただろうね』と。


カン

こういうSSって京太郎カプが嫌いな奴が嫌がらせに書いてる印象
内容も糞だしな

>>25
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とかはそんな感じだよね

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