女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」(100)

勇者「首都以降初めての町だね」

魔法「ゆっくり宿屋で休みたいわぁ」

勇者「稽古の方はどうします?」



戦士「……」ウーム

戦士「すまんが自主トレーニングで。俺は俺で鍛えなければならない」

勇者(何だろう……ちょっと寂しい)シュン

魔法「まーあれはあれで、勇者が攫われたのに相当堪えたみたいね」


勇者「首都以降初めての町だね」

魔法「ゆっくり宿屋で休みたいわぁ」

勇者「稽古の方はどうします?」

戦士「……」ウーム

戦士「すまんが自主トレーニングで。俺は俺で鍛えなければならない」

勇者(何だろう……ちょっと寂しい)シュン

魔法「まーあれはあれで、勇者が攫われたのに相当堪えたみたいね」

戦士「ふっ! たぁっ!」ズババン

魔物の群れ「ギィギィ」ワラワラ

戦士(従者の身であれば一撃で吹き飛ばせるものをっ!)

戦士「ど、っけぇぇぇ!!」ブォッ

魔物の群れ「ギッ」ドッ

魔物達「ギギィ」ワラ

戦士「はぁっはぁっ」

戦士(何だ……? 半数近くが叩き潰れたぞ?)

勇者「……」ビュビュビュン ビュッ

魔法「随分と様になってきたわねー」ズズー

勇者「うーん、でもまだまだだよなぁ……」

勇者「せめて戦士さんの足を引っ張らないレベルにならないと、役立たずなレベルだし」

魔法「それは言いすぎじゃないかしら?」

勇者「いやいや……正直あたし要らないよねぇ、と思っているくらいだし」

勇者「ぶっちゃければ出願者さえいれば、あたしでなくてもいいよね」

勇者「神様がどうたらとか抜きに、戦士さんクラスの人達が集まった方がよっぽど魔王を倒せる気がするし」

魔法「まーそれはそうでしょうね。けれども、それでも人はすがるものよ。諦めなさい」

勇者「え? や、逃げ出したい……訳じゃないけど勝率考えるとさー」

魔法「ふう……普通の食事はいいものね」モクモク

戦士「喜んで犬型の魔物肉を食べていたじゃないか」

勇者「いやーやっぱりこういう食事があると、こっちの方がいいですよねー」

戦士「でも外じゃあ魔物肉に食らいつく、と」

魔法「静かに食べたらどうなの?」

勇者「女の子にそういう事言っちゃダメですよ」

戦士「あれ、俺が悪いのか?」

戦士(うーん年頃の女の子の考える事は分からない)

戦士(そりゃあ周りに女性はいるが、従者と人間じゃあ価値観が変わってくるからなぁ)ドサ

戦士(にしても体が裂けるくらいに痛い……一人で魔物の群れと大立ち回りはやり過ぎか)ギスギス

戦士(もう休もう……明日に響、く)ウトウト


勇者「そういえば、戦士さんはどんな稽古していたんだろう?」

魔法「案外、一人で魔物と戦っていたりしてね」

勇者「ありえそうだから困る。なんだか疲れていたみたいだし大丈夫かなぁ?」

魔法「勇者が心配するほど柔じゃないでしょうに」

数日後
戦士「……」ヒュヒュン

魔物の群れ「」

勇者「戦士さんが異様に強くなっている気が」

魔法「異常な速度ね」

戦士(やはり素でも剣圧で敵を薙ぎ払えるようになっているな)

戦士(もしかして人間の肉体と言えど、限界値はかなり高く設定されているのか?)フーム

戦士「おー緑の壁が見えてきたな」

勇者「うわぁ……凄い。あれがグリーングランド」

魔法「樹海の国と言われるだけはあるわね。私達遭難しないわよね」

戦士「道ならちゃんとある、が」

勇者「が?!」

戦士「魔物侵攻の関係で何処が安全なのやら」

魔法「トラップとかがあるという事かしら?」

戦士「グリーングランドは樹海という地の利を生かして魔物を退けているらしい」

戦士「ともすれば樹海はトラップだらけだろう……」

勇者「どうするんです? 迂回でもしますか?」

戦士「それはそれで凄い時間がかかるんだよなぁ。近くに町があるはずだからそこで情報を集めて、かな」

宿
戦士「……」ウーム

勇者「あ、お帰りなさい」

魔法「どうだったかしら?」

戦士「予想以上に面倒だな……一応ルートは分かったが」ガサ

戦士「ここを入り口にこう行ってここを進んでここを登ってここを抜けるとグリーングランドの首都に着く」

戦士「樹海内部は首都と大きな町がいくつかあるだけだからな。途中で補給もできないし、二人にとっては歩きなれない地だ」

戦士「敵の事も考えて五日くらいかかると思ったほうがいいかもしれないな」

魔法「そんなに?」

戦士「地面は苔むしているからな。足を取られるだろうし起伏も激しいルートだ」

勇者「うわー疲れそう」

勇者「ひぃ! ひぃ!」

魔法「はぁ……なん、なのよ、これ」

戦士「だから言っただろう。ここを上りきれれば休めるぞ」

勇者「し、死ぬぅ~」

戦士「魔法使い手」

魔法「あ、ありがと……」ガッシ

勇者「」ゴァ

魔法「こっちは……ギリギリだから……そんな目しない、でぇ」

勇魔「」グッタリ

戦士「ふう……ここらの敵も粗方片付いたし」

戦士「こりゃあ五日でも着けるか分からないかもしれないな」

勇者「な、なんで戦士さんは余裕なんですか?」」

魔法「いくらなんでもおかしいわよ」

戦士「いや、そんなもんだろう」

魔法「蛇肉美味しいわ」

勇者「初めはうえぇなんて思ったけど、悪くないね」

戦士(野営マジックなんだけどな)

戦士(にしてもあの上りが酷かっただけで結構安定した道だな)

戦士(これなら五日でつけそうだな)

勇者「にしても視界が遠くまで届かないってここまで辛いだなんて」

魔法「町が近いのか遠いのか……」

戦士「……」ザッザッ

勇者「ふぅ……ふぅ」ザッザッ

魔法「ひぃ……ひぃ」ザッザッ

勇者「せ、戦士さん……そろ、そろ」

戦士「……」キョロキョロ

戦士「もうちょいだな」ザッザッ

勇者「えぇー……」

魔法「ひぃ……まだぁ?」

戦士「……」ザッ ピリリ

勇者「止ま……?」ピタ

魔法「」ピタ

勇者「ま、魔法、使いちゃん……」ヒィヒィ

魔法「」ヒュー ヒュー

戦士(グリーングランドの最終防衛ラインか)ピリリ

戦士「こちらの少女は神より勇者の啓示を受けた者だ。魔王討伐の為旅をしている。こちらを通させていただきたい」

狩人「……」ガザ

戦士「流石にピリピリしているな」

狩人「ここまでやってくる魔物はいないが油断はできんからな」

狩人「それにしても……勇者様はこんな幼いとは」

勇者「ど、どうも……」ハーハー

狩人「我々は我々の国さえ守っていれば、勇者様が魔王を倒すだろうと思っていた」

狩人「だが……何て愚かで浅ましい考えだったか」

戦士「少しでも労わってくれるなら、先に進ませて宿」クイクイ

勇者「無理……無理」プルプルフルフル

魔法「」ゼェハァ

戦士「……休ませてくれないか?」

グリーングランド首都
魔法「美味しい」モクモクモク

勇者「凄い山菜鍋ですねー」パクパク

戦士「名物だからな」モグモグ

魔法「それにしてもこれからどうするの?」

戦士「ここから樹海の外に出る最短コースを案内してもらるとさ」

戦士「そこからは平地が続き……細く長い岬の先に魔王城がある」

戦士「魔物との戦闘も激化するだろうから、時間はかかるだろうが目と鼻の先だ」

勇者「き、緊張してきた」モグモグ

魔法「プレッシャーで胃がどうにかなりそうね」モクモク

戦士「どこがだ?」

……
戦士「で、だ。樹海を抜けた訳だが」

戦士「ここから南に町がある。一旦そこで休息を取った後、南東の岬に向かう」

戦士「その町が最後の町になるからな……ゆっくり休むとしようか」

魔法「ここからだとどのくらいかかるのかしら?」

戦士「そうだなぁ……四日ぐらいで着くか」

勇者「最後の町まで四日かぁ……」

戦士「ま、慌てる事はないさ。何せ魔物も強いのが現れるだろう。心していこうか」

魔物の群れ「グォォォォォン!」ドドド

戦士「おー牛型の魔物か」

勇者「うっわ強そう」

魔法「これは辛そうね。戦士、少し時間を稼いでくれないかしら?」

戦士「良しきた」バッ

勇者「赤いマントなんて何時から持っていたんですか?!」

戦士「元はただの布」

魔法「その赤って……」

戦士「うおおおおお!」ドドド

魔物の群れ「オオオォォォォン」ズドドド

魔法「……」キィーン

魔法「火炎魔法・中!」ゴッ ドアアアアア

戦士「うおおおおお?!」ゴォォォォォ

勇者「うわー……全てを灰塵とする勢いだぁー」ゴゴゴゴゴ

ヴェリー・ウェルダンな炭「」シュウウウ

戦士「おい、俺までちょっと焦げたぞ! というか俺ごと焼き殺す気か!」チリチリ

魔法「ご、ごめんなさい」

戦士「というかなんだあの威力……本当に火炎魔法・中か? 今まで撃っていた魔法はなんだったんだ」

勇者「魔法使いちゃんは先天的な大魔力の持ち主なんだよ」

勇者「ウェッブリバーに魔法を学びに行ったんだけども、一番の目的は制御しきれなくなって暴発する魔力をどうにかする為だったの」

戦士「暴発? そんな事あるのか?」

戦士(人間の器じゃ零れる量の魔力? そうそう無いぞ)

戦士「あーあれか? 勢い余って生活用魔法で人死に出したとか」ハハ

魔法「……」プルプル

戦士「……。え? ドンピシャ?」

勇者「近くに人がいなかったら怪我人一人出なかったんだけども家が廃屋に……あれにはあたしもびっくりしたなぁ」

戦士「え? マジで?」

魔法「お願い……その話だけは止めて……」トラウマ

戦士(なんだこの子……というか中であの威力って従者でもいないぞ?)

戦士「因みに……魔力的には残りはどんなもんだ?」

魔法「……? ……たかだか中一発撃ったぐらいじゃ、余裕だけども?」

戦士「強クラスも撃てるのか?」

魔法「一度だけなら撃った事はあるわ」

戦士「一度?」

魔法「……強が撃てる環境がないのよ」

戦士「」

戦士(おいおいこの子、人間の身で神様クラスの魔力なんじゃないか?)

戦士(死んだら一柱増えたりして。おわー天界で会いたくねぇー)

戦士(いや、落ち着け。冷静に考えればこれはとんでもない火力だぞ)

戦士(というか魔王城ごと消し炭にできるんじゃないか?)

戦士(あれ……勝ち戦?)

魔法「ああ……言い忘れたけども、今まで私が撃っていた魔法はそこそこ力込めた生活用魔法ね」

戦士「本来焚き火するのに火を起こす程度なのに、敵を燃してるってどういう事だ」

戦士「……とりあえず最後の町を過ぎたら強を撃ってもらいたいな」

勇者「あ、あたしも見てみたーい」

魔法「私にとってある意味深刻な話なのよ……」

魔法「年々魔力は増えるばかり……これから先どうしたらいいのか」

戦士「現在進行形か……」

戦士(なんか、神様が転生しているんじゃないかと疑いたくなるな)

戦士「ご馳走様でした」フゥ

勇者「あー美味しかったぁ」

魔法「私は一足先に部屋に戻るけれども、勇者はどうするの?」

勇者「うーん、ちょっと武器屋見てこようかな」

戦士「なんだ? 買い忘れか?」

勇者「いやーほら、魔法剣とかあったじゃん」ジュルリ

魔法「元はただの町娘なのに……」

戦士「頭の中まで剣士に育って……」

勇者「えっ」

戦士(最後の町に着いた訳だが)

戦士(この後どうしたものか……なんかもう魔王城ごと蒸発させてしまえばいいような)

戦士(障壁だってあれだけの威力を打ち込んだら破れるだろうし……)

戦士(そういえば対障壁兵器ってどうなったんだろう?)

戦士(魔王城まで一本道になったんだけ)コンコン

戦士「どうかしたか?」ガチャ

騎士「夜分遅くに失礼するよ」

戦士「え、誰?」

騎士「私は風の女神の従者、グリーングランドの騎士だ」

戦士「ああ、そういう……俺は癒しの神の従者の戦士だ」

騎士「件のものを持ってきたぞ」ジャラ

戦士「なんだこれ……魔石か? こいつを魔王に当てれば障壁が消えるのか?」

騎士「強い衝撃がかかると割れて半径5,6m以内の魔法が消滅」

騎士「その範囲内であればしばらくの間は魔法そのものが使えなくなる」

戦士「ほー……効果時間はどのくらいだ?」

騎士「おおよそ10秒だ。可能であれば障壁消滅と共に攻撃し、10秒以内に張り直させられれば楽になるだろう」

戦士「障壁を封じられた、と思い込ませるか?」

戦士「にしても凄い量だな」ジャラ

騎士「此度の魔王は魔力に優れるものの、身体能力は非常に低いらしい」

騎士「インファイト限定だったら、人間の軍にも負けるレベルだそうだ」

戦士「ひ弱すぎるな」

騎士「全くだ。だというのに魔法学は滅法弱いらしい」

戦士「可哀想だな……」

騎士「全くだが魔力操作には長けている所為で、空を飛んだり障壁を張ったり出来るらしい。迷惑な話だ」

戦士「天は二物を与えない、か」

騎士「その癖、その魔力で魔法ゴリ押しで強いのだからな」

戦士「死ねばいいのに」

騎士「それと追加情報なのだが、魔王の側近は時を止める魔法というものを使えるらしい」

戦士「時を? どんな効果なんだ?」

騎士「それが詳しい事が分からないんだ。特定の対象なのか空間なのか。自己犠牲型なのか……すらな」

戦士「魔王はどうにかできそうだが……側近か。変なところからイレギュラーが現れたな」

騎士「魔王? お前、その体で一騎当千という訳にもいかんだろう?」

戦士「あー……あのさ、仲間の魔法使いがとんでもない魔力持ちなんだ」

戦士「従者でもトップクラス足り得るほどのなんだ。強クラスの魔法で魔王城が消し飛ぶんじゃないかってぐらい」

騎士「……神が降臨しているという話は聞いていないのだが」

戦士「それが人間なんだ……一週間前まで生活用魔法で援護されている事に気づかなかったよ」

騎士「……良かったな。その者とは天界で末永い付き合いができるだろう」

戦士「だろうな」

戦士「あーあと一騎当千ってのはいけるかもしれない」

騎士「?」

戦士「なんか鍛えていたら剣圧で魔物を薙ぎ払えるようになってさ」

騎士「そんな馬鹿な。いくら従者と言えどこの体は人間の肉体だぞ。多少、限界値が高めであっても、そこまではできまい」

騎士「……いや待て、少し調べさせろ」

戦士「調べる、てどうするつもりだ」

騎士「大人しくしてろ」ガチャガチャ

戦士「なにその機材怖い」

騎士「……」

戦士「で、診断結果は?」

騎士「お前を天界に送るべきか否か悩むところだ」

戦士「えっ」

騎士「お前の体が変質しつつある……既に人間の壁を超えている」

騎士「このままだと従者の肉体に近づいていくぞ」

戦士「聞こえはいいな」

騎士「人間からすれば人外になっていくのだぞ。何より変質が進んだ時、果たして天界に帰れるか否か」

戦士「あれ? かなり不味い状況か?」

騎士「仮住まいの肉体だからこそ、肉体の死や消滅でもって我々は天界に戻る。だと言うのに、器が定住できる形になってしまったらどうなる事か」

騎士「だがこんな事……何故?」

戦士「飽くまでこの体は容器だ。一度、それも神々が作った物がそう簡単に変質するだろうか? あ、この体不良品?」

騎士「人間として作られた体とは言え、人ではなくなった我々の精神と魂を入れるのだし、ある程度は力が発揮できるように作られているはずだが」

戦士「大き目の器って事か。うん? 待てよ? それだとリミッター解除なんて一度で肉体が破壊されかねないよな」

騎士「リミ……? 何の話だ?」

戦士「魔王討伐にあたって、五回までは一時的に出力を上げられるんだ」

戦士「通常が従者の体の二割に対し、リミッター解除をすると五分間だけ四割まで発揮できるとさ」

戦士「とは言えあれで筋力そのものが二倍なんて事は無いだろうし、飽くまで全能力を総合してって事だろうけど」

騎士「そんな力が?」

戦士「今回限りにして俺だけだろうがな。前回前々回と何にも無かったからな」

騎士「なるほど……恐らくはそれが原因だな」

戦士「どういう事だ?」

騎士「お前の器はそのリミッター解除ができるよう伸縮性を富んだものなのだろう」

騎士「違うとしたら何か、他にお前の力を膨らます要因が発生したか……」

騎士「何れにせよ癒しの女神様は六回でその伸縮が限界を来たし、弾けるだろうと予想していたのだろうな」

騎士「このままお前の力が膨らみ続けたらどうなるか」

戦士「単純に考えて、まるっと俺が納まるサイズまで膨らんで帰れなくなるか、いきなり弾け飛ぶか」

戦士「そうなると人間界に残る原理ってなんだ?」

騎士「我々には理解できない話らしいが、簡単に言ってしまうと普通の人間と同じ大きさになるまで魂を削ってしまうんだそうだ」

戦士「なにそれ怖い」

戦士「だからあんな慎重に話をしたのか。そりゃそうか人間界に残って一世紀程で天界に戻れるんなら、そこまで深刻な話じゃないだろうからな」

騎士「とにかくお前は気をつけろよ。帰れなくなるか弾け飛ぶか。どちらが先かは分からない」

戦士「ああ、気をつけるよ」

騎士「それでは私は失礼する」ガチャ

戦士「魔王は任せてくれ。他の連中は頼んだぞ」

騎士「心得ている」バタン

戦士「……」

戦士「ふぅ」ボフ

戦士「やっべえぇぇぇ天界帰れないとかマジないからぁぁ」ゴロゴロ

戦士「さて、しっかり休息も取ったし、そろそろ魔王城に殴りこむとするか」

勇者「いよいよなんですね」ゴクリ

魔法「でも魔王城まで距離換算で三日。戦闘を加味すれば五日、六日。そんなところかしら?」

戦士「まあ焦らずじっくり先に進もう。ここで敵を倒していけば、町への被害も少なくなるわけだしな」ザッ

勇者「ですね」ザッザッ

魔法「ゆっくりと休息が取れない以上、小まめにとるしかないものね」ザッザッ

軍隊「」ザッザッ

戦士「……」ザッザッ

勇者「……え、なん、え?」ダラダラ

魔法「訳が分からないわ」ダラダラ

兵士「我々は魔王城までの道中、勇者様方をお守りすべく馳せ参じた者です!」

兵士「魔王城まで我々がお守りいたします! どうぞご安心を!!」

勇者「ええ?! い、いいんですか?」

戦士「……というか必要だろうか?」

魔法「うーん、あら敵ね」

魔物の軍隊「オオオォォォォ!」ゾロゾロゾロ

軍隊「お控え下さい! ここは我々」

魔法「結構な数ね、やってみようかしら」キィィン

戦士「退避ぃ! 総員退避ぃぃ! 兵士ども、お前らもだ!!」

魔法「爆破魔法・強」カッッ

ゴゴゴゴゴ
戦士「……」

勇者「ゎー」

軍隊「」

魔法「あー久々に気持ちがいいわー!」ノビー

勇者「あたし、これ本で読んだ事があります。クレーターって言うんですよね」

戦士「じゃあ魔王城のところにもクレーターができるな」

軍隊「」

戦士「えーと、君ら。まだ付いてきたい?」

軍隊「ゆ、勇者様方の力を温存させるべく、以降の戦闘は我々が全」

魔法「物足りないわ……あと四十発は強が撃てるのに相手がいないだなんて」

軍隊「帰ります」

戦士「兵糧もタダじゃないからな」

戦士「というかお前、今までの魔力温存ってなんだったの?」

魔法「貴方が言い出したから従っただけよ。威力を抑えるのが面倒というのもあるけれども」

戦士「うん? なんだあの海」

勇者「何かが移動してますね? 巨大なイカダ?」

戦士「いや……あれは魔物か! なるほど、陸路では迎撃されるから泳げる魔物を大々的に出撃させたのか」

魔法「ふーん」キュィィン

勇者「あ、凄い魔力」

戦士「魔力100%チャージ。魔法使い砲……ってぇ!!」

魔法「落石魔法・強っ」カッ

戦士「……?」シーン

勇者「あれ? 不はt」ォォォオオ

ズゴゴゴゴ
勇者「い、隕石……」ゴクリ

戦士(あれーメテオって神様クラスの魔法じゃなかったけかなー)

勇者「あ、凄い、お城よりおっきい」ドゥン

戦士「あれ? これ俺達津波で死ぬんじゃないか?」ズドドドドド

魔法「そうね、危ないわね」キュィィィィィン

魔法「障壁魔法」カッ

勇者「おおおおお! 凄い!! 波が壁に当たったかのように押し戻されていく!」ドドドドド

魔法「しばらく波は引かないでしょうからこのままね」

戦士「そうだな……いや。町、いや」

勇者「建物が見えてきましたね」

戦士「やっとで魔王城か」

魔法「……」キュィィィィン

戦士「せめてしっかりと辿り着いてからにしてやれよ!」

魔法「それもそうね。海上にしておこうかしら。爆破魔法・強」カッ

戦士「何て酷い宣戦布告」ドッ オオオオォォン

勇者「わー涼しー」ゴオオオォォォ

戦士「で、魔王城が見えてきた訳だが」

魔法「……」キュィィィィン

戦士「……もう好きにしてくれ」

勇者「わーあたし何のためにいるんだろー」

魔法「火炎魔法・強!」ゴアアアァァ

戦士(これで終わりか……呆気ないが安全に片付くのだから喜ぶべきなんだろうな)チラ

勇者「……」サァー

戦士「どうした? そんな血の気の引いた顔をして」

勇者「あ、あれ……」

戦士「? なんだ? 魔王城は無傷だな。流石に対魔法用の障壁でも貼っているのか」

魔法「……」キュィィィィン

魔法「爆破魔法・強!」カッ プシュゥゥゥ

勇者「なん、で……? どうなっているの?」

戦士(閃光は見えたが爆発はしなかった……となると魔法そのものは正常に発動されたはず)

戦士(であればこれは……まさか)

戦士「魔法使い、落石魔法を撃ってくれ」

魔法「え、ええ、分かったわ」キュィィィン

魔法「落石魔法・強!」カッ

勇者「そうか! 炎も爆発も効かなかったけど、この物理威力の魔法なら!」ズゴゴゴゴ

戦士「いや……恐らく」ゴゴゴ シュゥン

魔法「そんな……落石も消えた?」

戦士(参ったな……状況はより深刻だったのか)

戦士(魔王の障壁は対物じゃないんだ。全てに対して防御しきるものなのだろう)

戦士(ああ、だからか……だから魔王の魔力が直撃した石からこの兵器が生まれたのか)

戦士(一切の物理を通さなかったように、魔法さえも障壁に接触した瞬間に消滅させてしまうとんでも障壁)

戦士(落石魔法は元ある岩を飛ばすんじゃない。魔力を元に岩を上空に生成しているだけだ)

戦士(だから魔法の効力を消滅させれば岩も消える……いや、そもそも魔法の中で)

戦士(魔法単体で何かに働きかけ、その何かで相手にどうこうする魔法は無い……実質、策を講じなければ魔王の障壁は魔法に対しても無敵な訳か)

戦士「恐らくは魔王が障壁を張っているのだろうな」

勇者「ええ?! 魔法使いちゃんの魔法も弾くほどの?!」

戦士「噂には聞いていたが凄まじいな」

魔法「知っていたの……?」

戦士「勿論だ……そしてその上で託されたものもある」ジャラ

魔法「……宝石かしら?」

戦士「あの障壁を消し去る石だ。こいつを魔王に当てれば効果が発揮されるが、恐らくしばらくの間、お互い魔法が使えなくなるだろう」

魔法「……魔法の効果を打ち消す、みたいなものかしら」

勇者「ええと……つまり魔王倒すには普通に戦わなくちゃいけなくて、結局魔王城には乗り込まないといけないの?」

戦士「そういう事だ。腹括って行くとするか」

魔王城
戦士「魔物がいないな……」シーン

勇者「今までの戦いで全戦力を投入していたとか?」

魔法「それでも右腕に当たる戦力はまだいそうね」

戦士「城に残っているのはそうだろうな」

戦士「兵士クラスじゃあ勝てないと踏んでるだろう。避難させた国々への侵略に向けて進軍させたか……」

戦士「何れにせよ、ここで戦う事になるだろう相手は一筋縄じゃいかないだろうな」

勇者「……」ゴクリ

魔法「……」キィィィン

戦士「早い早い」

戦士「……」ギィ

「不意打ちなどせん。中に入るがいい」

勇者「うわー絶対戦闘のパターンだよ」

魔法「この状況で戦闘じゃない方がおかしいでしょうに」

戦士「……四人、四天王か?」

四天王a「そんなところだ」

b「貴様らを我が主の下へ行かせる訳にはいかぬ」

c「大人しくここで死んで頂戴」

d「盛大に葬儀を行ってやろう」

戦士「二人は先に行け。魔法使いの魔力は温存したい」

勇者「せ、戦士さん?!」

戦士「なーに、すぐに追いつくさ」

a「愚かな……我々の足止めを一人で? その間にその二人が魔王様を討つと?」

b「下らんな。貴様らも如何なる魔法も効かぬ魔王様を見たのだろう」

c「もしかして、あの障壁は城に張られたものだと思っているのかしら?」

魔法(こちらには石がある……その殆どは私が預かっているし、最悪魔王と交戦する事になっても)

戦士「二人とも、行け!」スラン

勇者「必ず、必ず追い着いて下さい!」バッ

魔法「任せたわよ」バッ

a「三人は二人を仕留めて来い」

戦士「おや? 四人がかりじゃ、俺を瞬殺できないと踏んだか」ザッ

b「……この男を始末してから向かえばよかろう」

c「挑発してくる辺り、何かあるんじゃないかしら?」

d「だが、なめられたままというのも気分が悪いな」

a「……仕方がない。一撃で終わらすぞ」ゴォ

戦士(これでなら力が出せるな……)

戦士(乱用はしたくないが、五分でこいつらを片付けられるのならば)

戦士(屋内に入った以上、魔法使いも派手な魔法は使えないからぐいぐいと進む事はできないだろうし)

戦士(後は魔王の間までに俺が追いつき、魔石を使い魔王の障壁を消滅させて魔法使いに魔法を撃たせれば終わりだ)

戦士(……)

戦士(待て、その状況だと魔法使いは魔法を撃てないぞ! 何の為の温存だ?!)ゴァ

戦士(あ、向こう戦闘態勢に入った、やるっきゃねぇ!)

勇者「うぅ……戦士さんがいないと不安だ……」

魔法「用心するに越した事は無いけど、そこまで心配する事ないんじゃないかしら?」

勇者「だってこんな場所じゃ魔法使いちゃんも全力で魔法は撃てないだろうし……あたしが頑張らないと!」

魔法「あら、別にここでも使える魔法はあるわよ」キィィン

魔法「電撃魔法・強!!」ビシャアァァ

勇者「ゎー……狭い通路を稲妻が駆け巡っていった」

魔法「一撃必殺ではないでしょうけども、よほどの耐性が無い限り麻痺はするでしょうね。さ、行くわよ」

黒焦げの何か「」ブスブス

勇者「何がないだろうって?」

魔法「戦士、遅いわね」スタスタ

勇者「戦士さん……」スタスタ

魔法(考えてみれば大半の石を私に預けた事を考えると彼は……)

勇者「魔法使いちゃん?」

魔法「何でもないわ……物々しい扉ね」

勇者「ここに魔王が……」

魔法「……ここで待っていて不意打ちを食らう訳にもいかないわ。行くわよ」

勇者「……戦士さん」クル

勇者「うん……行こうっ」ギィ

魔王「ふっ。仲間を捨石にしてまで来たか」

魔王「だが貴様達二人で何が出来る?」

側近「……」チャキン

魔王「良い、人間二人程度で構える事もあるまい。下がれ」

側近「……畏まりました」スッ

勇者「……魔法使いちゃん」

魔法「電撃魔法・強!」ビシャアァァ

魔王「……」バシュゥゥ

魔王「ほう……大した魔力だ。これほどの魔力、魔王でさえ持っている者はそうはいないだろう」

魔法「それでも攻撃が通らない。それが貴方の魔力の障壁……」

魔王「知っていて尚立ち向かうか。健気な者だ」

魔法「そうね……だけども無策ではないわ」ジリ

勇者「……」チャキン

魔法「受けなさい!」ヒュンッ

勇者「!」バッ

魔王(なんだ? 周囲の魔力が消失していく?)ギュワァァ

勇者「たあああ!!」ビュォ

魔王「っぐ!」ガキィン

側近「魔王様?!」

魔王「なるほど……確かに無策ではないな」グググ

勇者(……あれ?)

魔王「側近よ、手を出すな。ここまで来たのだ。我一人で相手をするのが道理であろう」ガッ

勇者(魔王って……まさか)ズザァ

魔法(3……2……)

ここって支援いるの?

魔王(大気中の魔力が?)

魔法「電撃魔法・強!」ビシャアァァ

勇者「流石魔法使いちゃん! 完全なタイミング!!」ブシュゥゥ

魔王「なるほど、持続時間は10秒か……」ゥゥゥ

勇者「なっ!」

魔法「直撃する直前に障壁を張ったのね」

魔王「少し焦げたがな……だが手の内を知ってしまえば、その魔力も恐れるに足らん」

魔王「残るはそこの少女の剣と我の剣だけだ」

勇者「……」ゴクリ

戦士「くそ……天界の薬二つでやっと普通に動けるとは」タタタ

戦士「そこか!」バァン

勇者「せ、戦士さん?!」

魔王「……なんと、四人を倒したのか」

戦士「お前ら! なんでここまで来てんだ!」

魔法「もうダメかと思ったのよ」

戦士「すぐ追いつくって言っただろう!」

勇者(だってそれ死亡フラグですし)

魔法(それで本当に追いつくと思う奴の方が少ないわ)

魔王「一人増えたところでどうとなると言う」チャキン

戦士「石は?」

魔法「まだまだ」ジャラ

戦士「おっし」バッ

魔王(早い!)ガキン

戦士「なんだ? 魔王という割には力が弱いな。吹っ飛ばされるかと思ったぞ」ギリギリ

魔王「吠えるだけの力はあるという事か」ググ ガキン

戦士「勇者! 回りこめ!」

勇者「了解です!」バッ

側近「魔王様!」バッ

魔王「我の顔に泥を塗るつもりかっ!!」

側近「ぐ……」ビタッ

魔王「人間二人如きで! 我が押されるなど!」キィンキィィン

戦士(隙を見てリミッター解除すれば勝てるな……計三回か。意外と楽にいけそうだな)ガギィン

魔王「ぐぬぅ!」

勇者「たあ!」ギィィン

魔王(この二人……一人は勇者だろうが、この男は!)キィィンギィン

魔王(全力でない。この力で全力でないというのか? 人間ではない……?)ギィン

戦士「考え事か? 余裕だな!!」ガッギィィィン

魔王「ぬぁっ!?」.ィン ガラァン

戦士(このタイミングだろう!)キュィン

戦士「魔法使い!」

魔法「ええ!」パキィン

戦士「この10秒で終わりだ、魔王!」


側近「お許し下さい、魔王様」

側近「魔王様にとって屈辱な事でしょうが」キィィィン

魔法「なに、この反応は?!」

戦士「魔力、じゃない……」

魔王「ここまで来て……また地を這い生き延びねばならんか……」

魔王「思うようにはならんものだな」

勇者「せ、戦士さん!」

戦士「二人とも下がれ!!」

戦士(まさかこれは……術式? 魔界ではいまだに残っていたのか!)

側近「憎たらしい人間ども……次はお前達のいない世だ。後悔して生きろ」カッ

戦士「……」

勇者「消え、た?」

魔法「どうなっているの?」

戦士「……町に戻ろう」


「突如魔物達が消えたんだ!」
「勇者様が魔王を倒したのだ!」
「勇者様万歳! 勇者様万歳!」

勇者「な、なんで……?」

戦士「……」

戦士(あれは……なるほど。魔法ではないが確かに時を止めるものだな)

戦士(俺が生きていた時代であっても幻に近い術式だが……魔界ではまだ残っていたのか)

戦士(何より全ての魔物達と契りを交わし眷属にしていたとは……)

戦士(対象者とその下に続く繋がり、部下丸ごとに作用する。発動すればその者は世界から消滅し)

戦士(遥か未来にてまた現れる……封印魔法の最上位の術式)

戦士(やはり魔族は恐ろしいな……人間だったら一流の術士十人が命を張ってもできないだろうに、たった一人それも生きたままやってくれて)

勇者「せ、戦士さん……あたし、どうしたら」

戦士「……一度、シルバースノウに戻ろう。今日の事については、宿で話し合おう」

魔法「自らを封印……そんな馬鹿げた事を?」

戦士「あれはそういうものなんだ……何十年、何百年かは分からないが」

戦士「遠い未来の果てに封印が解ける。それまでは魔王による被害は起こらない。聞こえだけならいいものだな」フゥ

勇者「あの……すこし思ったのですが、あの魔王って実は凄い弱いんじゃ?」

魔法「そうね……一太刀で私達を吹き飛ばすぐらいできると思っていたけども」

戦士「俺の与り知るところでは……あの魔王は巨大な魔力と魔力操作が突出しているだけらしい」

戦士「だからああして障壁を張っていたのだろう。そして魔力の大きさだけを武器に魔法を撃つ戦い方をしていたらしい」

戦士「何処かの鉱山では魔王と鉢合わせしてしまい、為す術無く全滅した軍の部隊がいたと聞く」

勇者「そんな……」

魔法「……」

戦士「表向き魔王は死んだ事にすべきか、一時的な封印とすべきか。それは俺にも判断がつかない」

戦士「今回の魔王討伐の命令はシルバースノウの国王だ。戻って相談する他ないだろうな」

勇者「えぇー王様に相談かぁ」

魔法「あら? 勇者はあの王様嫌いだったかしら?」

勇者「いやいや、凄いあたし達人々の事を考えてくれるから大好きだけど、謁見だけでも凄い緊張したのに」

戦士「現国王……というよりも歴史的に見てもシルバースノウの王は良き王だ」

戦士「魔王を討った国、などという下らない名誉の為に、思慮の足らない行動はしないだろう」

勇者「そこは……うん、信頼できるけどさー」

戦士「それと早馬を用意してもらえるようだ。帰り道はぐっと楽になるな」

勇者「魔物の襲撃も恐れなくていんですもんね」

戦士「というか二人は馬に乗れるのか?」

魔法「これでも私達は子供の頃から乗馬経験があるわよ」

戦士「意外だな。シルバースノウでどうやってまた」

勇者「行商の方達が乗ってくる馬に乗せてもらっていたんですよ」

戦士(俺の時代はそもそも馬が洞窟を抜けられなかったからなぁ。ジェネレーションギャップ酷すぎるな)

魔法「……むしろ戦士は乗れるの?」

戦士「何とかなるだろ」

シルバースノウ
勇者「魔王は封印された、って線で各国に発表するってさ」

戦士「そうか……まあそうなるよなぁ」

魔法「この石の作り方は? 早めに作り方が確立していれば、未来の役に立つわ」

戦士「それは……分からないんだ」

勇者「……そもそもこれ、一体何処で手に入れたんですか?」

戦士「夢で貰った」

魔法「……は?」

戦士「ローブを着た初老の男だ。氷の塔の賢者と名乗ったよ……」

勇者「そんな……御伽噺じゃあるまいし」

魔法「何百年と語られこそすれど誰一人目にした者はいない氷の塔……本当にここシルバースノウにあるのかしら」

戦士「さあな。魔王が復活した時にまた力を貸してくれるだろう……」

戦士(シルバースノウ大好き。伝承の氷の塔ガーとか最高の言い訳)

戦士「祭りは一時間後か……」

勇者「あ、あたし……演説させられる」ガタガタ

魔法「頑張ってね」

戦士「頑張れよー」

勇者「かわ、変わって下」ガタガタ

戦士「俺らじゃあな」

魔法「私に至っては五年ぶりの里帰りだし」

戦士「もうちょい帰ってきてやれよ……」

魔法「結構お金がかかるのよ……子供の時なら行商の人達も簡単に相乗りさせてくれたけども」

勇者「あたし! 今はあたしの事のが大事!」

戦士「いや、どうしようもないだろう」

戦士(祭りまでは勇者は準備、魔法使いはその付き添いか)ザッザッ

戦士(シルバースノウの外れに住んでいたからなぁ……故郷を拝む事はできないが)

魔獣による犠牲者の慰霊碑

戦士(何だかんだでこの地には縁があるな……ん?)ガサ

戦士(手紙か……)カサカサ

戦士(あと四時間で天界に帰還か……)

戦士(きっと今回の件は女神様が無理を通したのだろう……)

戦士(勇者の事を、知っていたのだろうな)ガササ

戦士(俺は……)

勇者「あーいたいた!」

戦士「演説、頑張ったな」

勇者「え? 何の事かワッカラナーイ」

魔法「途中完全に真っ白になっていたわね」

戦士「誰がどう見ても話す内容を忘れたって顔だったな」

勇者「もう止めてっ」

魔法「……私はちょっと食べる物をとってくるわね」

戦士「おう。にしても意外と早く来れたな」

勇者「ええ?! 何処が! もうお祭りが始まって二時間は経っているよ!」

戦士「早い早い。もっとこうもみくちゃにされて質問攻めだったりなんだったりするもんだろ」

勇者「あー……そこは王様が気を利かせてくれてさ」

戦士「そりゃ良かったな」ナデナデ

勇者「……♪」

勇者「戦士さん……あたし、戦士さんにずっと言いたかった事があるんです」

戦士「なんだ? 言ってみろ」

勇者「……」ジッ

戦士「……」

勇者「あたし、戦士さんの事が好きです。ずっと、ずっと貴方の事を慕っていました」

勇者「戦士さんさえ良ければ……あたしとお付き合いして下さい」

戦士「……」グッ

戦士「……すまない、それはできないんだ」

勇者「」ビクッ

勇者「は、はは……そうですよね」

戦士「違う、そう意味では」

勇者「分かっています。戦士さん、神様の遣いの方、ですもんね……」

戦士「何故、それを……」

勇者「盗み聞きする気じゃなかったんです……でも、その別の方と話しているのを」

戦士「……そうか」

勇者「あ、あたしの傍に来てくれたのも、あたしの事を見ていてくれたのも、全部使命なんですよね」ハハ

勇者「あたし一人で舞い上がって……戦士さんはその」

戦士「違う!」

勇者「!」ビクッ

戦士「俺は……俺は」

戦士「違うんだ……そうじゃない……」ギュウ

勇者「戦士、さん?」

戦士(俺はどうしたい……何を望む……)

戦士「構わない……君になら……全てを」

勇者「え? え?」

戦士「俺は癒しの女神の従者だ……生前はシルバースノウで生き、三百年前の魔獣の暴走で死んだ」

勇者「百年前に討伐された……?」

戦士「そうだ。そして君は……君は」ギュウ

戦士「当時、唯一の肉親だった俺の……妹の生まれ変わりなんだ」

勇者「……」

勇者「戦士さんは……あたしを通して妹さんを」

戦士「ああ……だが違う」

戦士「初めこそはそうだった。だが分かりきった事だ。君はあの子じゃない」

戦士「例えその魂の本質的な部分が同じだったとしても君は君だ」

戦士「それでも尚、俺は君を想わずにはいられなかったっ……」ギュウ

勇者「戦士さん……」

戦士「俺には……従者には人間界に降臨し、使命を果たした際に人間界に留まる選択肢が与えられる」

戦士「だが俺にはこれが奇跡に思えてならないんだ……死して尚、こうして大切な人の生まれ変わりと出会えた事」

戦士「従者だからこそ得られた神々の奇跡を受けて尚、人智を超えた奇跡を授かる事など……俺には出来ない」

戦士「それに俺はもう……人間に戻るには長く生き過ぎた」

戦士「すまない……勇者。俺と出会えた奇跡だけで、許してくれ」ギュ

勇者「いいんです。覚悟はしていましたから……ただどうしても、伝えたかったんです」ポロポロ

勇者「それに……幸せでした。戦士さんと過ごせたこの数ヶ月が」

勇者「全てが新鮮で……時には色々な事を教えてくれて」

勇者「少しでも戦士さんが見てきた世界を一緒に見れて楽しかったです」ギュウ

魔法「あら、お帰り……目が真っ赤ね」

勇者「えへへ……やっぱりね」

戦士「……」

魔法「何処かで座らないかしら。もうすぐこの通りにもパレードが来るわ」

戦士「じゃああそこにするか」

勇者「ちょっと離れているけども、よく見えそうですね」

魔法「そうね」

勇者「……そういえば」

勇者「***って……妹さんの名前なんですか?」

戦士「なんだ……寝ぼけて言ってしまっただけなのに、まだ覚えていたのか」

魔法「あら、妹だったの。てっきり故郷に残した想い人かと思ったわ」

戦士「……魔法使いは俺の事を勇者から聞いているのか」

魔法「そりゃあね……」

戦士「そうか……」

戦士「死んで神の従者となって、これまでに数度降臨したが」

戦士「死後、名乗るのは二人が最初で最後だろう」

戦士「俺の名前は*****だ」

勇者「……*****さん」

戦士「なんだ?」

勇者「ふふ、名前を呼びたかっただけです」

魔法「*****」

戦士「えっ?!」

勇者「おお」

魔法「なによ? 私が貴方を真名で呼んじゃいけないかしら?」

戦士「いや、以外というか……」

勇者「ほら、デレデレだって言ったじゃん」

戦士「そんな素振り一度も無かったのになぁ」

魔法「ま、私の知る男の中で貴方が一番まともだってだけよ」

戦士「そりゃあどうも」

勇者「……*****さんは、何時天界に戻るんですか?」

戦士「内緒だ。俺自身名残惜しくなってしまうからな。静かに去るとするよ」

魔法「……そう」

~♪ ~♪
勇者「パレード、来ましたね」

戦士「やはり……故郷の楽器の音は沁みるな」

魔法「……そうね。十年も離れていないけど、私もそう思うわ」

勇者「……♪」

戦士「……」ボロ

戦;";,`;. . ブァ

;`:."ありが う;`; , `

勇者「*****さん? *****さん?!」バッ

勇者「そんな……早すぎるよ。あたしもっと、貴方と……」

勇者「う、うう……うあああ、うああああぁぁん!」

魔法「*****……そう、さようなら」

従者「……」バシャバシャ

従者(目が赤いのはどうにもならないか。仕方もあるまい)

従者「ただいま戻りました」

女神「ぅぅ……こんな」

従者a「ひぐっえぐ」

従者b「うぅ、こんな事……」

従者c「ぐす、ぐす……」ビー

従者「なんだこの状況」

酒場
従者(大した謁見も無かったのは有り難いか)カラン

女神「珍しいですね。こちらにいるだなんて」

従者「そういう時の気分もあるんですよ」

女神「……」

従者「……」カラン

女神「私のした事は貴方にとって正しかったのでしょうか?」

従者「苦しい決断を迫られました」

女神「……」

従者「それでも……俺にとっては身に余る奇跡です。本当にありがとうございました」

女神「……私は貴方に恨まれてもいいぐらいなのに」

従者「そんな事はありませんよ」

従者「体が弱かったあの子があの時に願った事、世界を旅する姿を見る事ができたんです」

従者「幸せな……事ですよ」

女神「……無理に堪える必要はないのですよ」

従者「……」ボロ

従者「……う、ぐっ」ボロボロ

従者「見苦しいどごろをお見ぜじまじだ」ズビズビ

女神「貴方には私の前で無理をしなくて結構ですよ」

従者「それでも無理を通そうとするのが男なのですよ」

女神「もう大丈夫そうですね」

従者「そうですね十数分後には何時でもぶり返せるようになっているでしょうが」

女神「……そうですか」

従者「思った以上にきつくって」

女神「ですが自棄酒というものは従者の身でも良くはありませんよ」

従者「大丈夫ですよ。ちゃんと限度を見て飲んでます」

従者「それにそろそろ休みますよ」

女神「そうですか……ではその前に」

従者「流石に今、人間界に何かを取って来いってのはナシで」

女神「まさか。最後に一杯付き合いなさい」フフ

従者「……それでしたら喜んで」カラン



      女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」   終

乙!!

乙、面白かった!

乙乙

乙であります。



お疲れさま

あいかわらずのクオリティ
もっと見たいよー


流石だった

面白かったよ、お疲れ様!

過去作全部くれ

おもろかった


乙!!!



お疲れ様でした



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