男「選択のその先」 (19)

ボクは適当だった

適当に生きて適当な人生を送っていた

何故なら選択するのが嫌だったから

適当に流される方がよかったから

『後悔』なんてしたくなかったから

だからボクは正解も不正解もない『適当』を選んでいた


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だけど、

道端を歩いていた女の子に向かってトラックが突っ込もうとしている時、

考える時間も、ほんの一瞬行動を躊躇する瞬間でさえ許されない時、

何を選択すればいいのか
















ボクは迷わず『適当』を選んだ

すぐにベンチから立ち上がり

前に突き出した足を妨害するかのように膝上から落ちてきたノートパソコンを蹴り飛ばし

一直線に走って進んで

トラックと女の子の間に入って

女の子を覆った









ボクはその状況ですべき適当な事をした

















そして直後に目の奥が弾けとんだ

ような気がした

……

「おーい、生きてる」

さあ、ね

ボクはゆっくりとからだを起こした

と思う

「お、意識があるようだな」

どうやらそのようで

「今の状況わかる?」

死んで今天国にきてる、とか

「お前の回答に正否を付けるなら正解」

「とりあえず死んでることに違いはない」

トラックで?

「そう、トラックと女の子にサンドされてな」

へぇ……、

あ、そう言えば

女の子は無事かな

ボクが庇った女の子は

「勿論死にかけてるよ」

あれ

「当たり前だろ、お前みたいなもやしが間に入ったところで腹の中に紙入れて防弾チョッキ代わりにしてるようなもんだ」

ありゃま

「まあ、そのおかげで即死は免れたようだぜ」

……喜んでいいのかな

「さあ?とりあえずまだ死んではいないぜ」

少なくともボクの選択が無駄にはならなかったようだ

珍しく正解を選べた

「後2秒」

何が

「後2秒で女の子が死ぬ」

えっ

「ま、ここは時間が止まってるからその2秒はなかなか来ないけどな」

でも、

「うん、2秒後にお前が庇った女の子は死ぬ」

……なんとかならないかな

「なんとか、て?」

女の子の命を助けること

「普通は無理に決まってるだろ」

普通なら?

「そ、普通は無理」

喋ってるキミが神かどうか分からないけど、それならボクの今の存在を消して良いから女の子を助けくれよ

「何言ってんだ」

このまま女の子が死んだらボクは死に損じゃないか

あのまま轢かれていても女の子は死んでた訳で、ボクが死ぬ必要な事なんてこれっぽちもなかったじゃん

「……もしかして、お前、自分の選択に後悔してんのか?間違ったと思ってる?」

ああ、

だってこのまま女の子が死んだんじゃボクは完全に死に損で、誰がどうてみても選択ミスじゃないか

それなら、大人しく女の子が轢かれた後に警察とかに連絡する方が正しい選択じゃないか

失う必要がなかった命だったんだしね

「ふーん」

「じゃ、そんなお前に悲報」

「俺が、今この空間にいるお前を消してもあの女の子の命が助かることは無いぜ」

だろうね……

「……お前、面倒くさい奴だな」

はい?

「お前が選んで命捨ててんのにその結果が望んだものじゃなければ後悔するのか」

当たり前じゃないか、

普通はそうだろ?

自分がした行為が間違いであれば誰だって後悔するだろ

「間違い、て何?」

間違いは間違いでしょ

選ぶべきじゃなかったもの、不正解

選択問題で4番選んで、正解が2番ならボクの答えは違ったという事

間違えたという事

「でもよ、その4番選んで答えが外れたとする」

「その結果点数が低くてテンションが下がる」

「テンションが下がったことにより歩幅が短くなっていつもよりも歩くのが遅くなる」

「そして、1m前で交通事故」

「いつもの歩幅なら事故に遭遇していたかもしれないし、違ったかもしれない」

「でもよ、少なくともお前が選んだものが『正解』と呼ばれる枠組み以外だったことで命が助かった」

「『正解』した方が良かったのか?」

知らないよ

でも、1つ言わせて貰うならそれは結果論だ

確かにそれならボクが不正解だった方が良かった気もするけど、

結局はそれはその選択の副産物だろ?

ボクの『選択』そのものとは一切関係ないこと

こじつけじゃないか

「そうだ」

だよね

「んで、そんなお前が俺にさっき要求したのはそのこじつけだよな」

は?

「え、だってお前が選んだのは女の子を『庇う』ことだろ?」

「庇うことには出来てんじゃん」

「ちゃんと自分の選択通りになったのに何をお前は後悔してんだ?」

え、だって庇ったところで女の子が死んじゃったら庇った意味が無いじゃないか

「なら、庇わずに即死させてあげたい方が良かったんじゃないか?」

「今だって虫の息、正直言って見てるこっちが痛々しく思うぜ。こうなるぐらいならさっさと死んだ方が良かったんじゃないのか?」

だから、それってつまりボクの選択は間違っていたということだろ?

あのまま撥ねられておけば痛みなんてほんの一瞬で、すぐに楽になれたのに

「でも、今虫の息とは生きているから、この女の子の親はこの子とまだ一緒に居られる」

……

「間違っていたのか?」

「お前の選択は」

……知らないよ

「お前の選択が『助ける』ことだったら、それは失敗なんだろうな」

「でも、間違ってはいない」

「あのまま、そこにいてすぐに警察やらに連絡しておいても良かったかもしれない」

「それなら救急車も早く来てあの女の子は助かったかもしれない」

「でも、やっぱり死んだかもしれない」

「まあ、でもこの選択を選ばなかった事は間違ってはいない」

「少なくとも、どれを選んでも『選んだ事に間違えは無い』」

……

「例え、その選択の結果、望んでいた結果がなくてもだ」

「結果は副産物だ」

「選択の『結果』として後悔をすることはある、だが、その選択そのものが間違えだとは限らない」

「あれだ、見方を変えれば成功的な」

……

「選択の名称として『正解』『不正解』の括りがあるかもしれない」

「だが、『正解』を選ぶ事がそのままイコールで正解なのか」

……

「選択の先にはその選択がある」

「選択すれば先の選択へと繋がる」

「なあ、お前の選択は間違っていたのか?」

……さあ、

そんなの分かんないよ

ただ、1つ思うことがあるなら、

ボクは選ぶことをしてこなかった

適当にしていた

そのことは間違っていたかもしれない

「『適当』を選んでいたのなら別に間違いじゃないさ」

「結局は選択しない事を選択しているんだからな」

……あれか、キミはポジティブに生きろとか言ってるのか

「別にそういうことじゃないさ、ただ俺は、お前の選択は間違ってない」

「そう言ってるだけだ」

ま、いっか、どうせもう死んでるんだしね

心残りはあるけど、

今はあの選択に後悔はしていない

変に野垂れ死ぬよりかはマシ、そう考えよう

「で、これからお前はどうするんだ?」

さあ?

困ったことに選択肢が無いから、どうもしようもないんだ

「はい」

……この黒い穴は?

「どうする」

入ったら何かあるのかい?

「選択肢が生まれる」

「後は知らん」

なら、入るしかなさそうだね

「それがお前の選択なら」

そっか、なら、

じゃあね















ボクの意識は真っ暗になった

































ボクは何故か幼い頃から医者になりたかった

そして、紆余曲折を経て医者になった

この紆余曲折の中は1スレでは語れない程いろいろあったけど、取り敢えずボクは紆余曲折を経て医者になった

少し夢見ていたのはとは違うけど

「先生!先ほど少し離れたところで人身事故があって重傷者2名!」

「分かった、2人ともすぐに緊急治療室に」

「はい!」

まさか外科医になるとは思わなかったな……

どうやらトラックがこの2人を撥ねたらしい

運ばれてきた1人は幼い女の子、そしてもう1人は大学生らしき男

どうやら男が女の子をかばった形らしい

まあ、とは言っても女の子は既に虫の息

本当にギリギリ生きている感じだ

男の方は既に……、心臓が止まりかけている

さて、どうすべきか、

まだ、女の子の方は助かる見込みはほぼないが、もしかしたら助かるかもしれない

この男を見捨てて治療してあげれば

……、

横目で男を見た






「ボ ク ノ セ ン タ ク ハ マ チ ガ ッ テ ナ イ」







男から目を逸らしボクは女の子の治療に取り掛かった

何故かは分からないけど、そうするべきだと思った

その後男の死亡を確認し、女の子の治療に彼の臓器を使わせて貰った

勿論ボクの独断

医者としては最低の行為かもしれない、

でも、ボクはそうしないといけない気がした

女の子は無事に一命を取り留めた

だが、その代償に両足と腸の一部を失った

恐らく、あの女の子は自分が描いたような未来を歩む事は出来ないだろう

もしかしたら、あの時死んでおけば良かったと思うかもしれない

それでも、ボクは選択した

選んだ

……これが正解だったかは分からない

それでも、1つ言える確かな事は

ボクは間違ってない

そして、彼も間違ってない

彼の選択がボクの選択に繋がった

彼は果たしてその選択を後悔してるだろうか

それを確かめる事はもうできない

それでも、ボクと彼の選択は間違ってない


















その選択に正解なんてないから

お終い

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