男「貧乏神といる毎日」貧乏神「なのじゃ!」 (125)

男(ウチには、貧乏神が住み着いている)

貧乏神「にゃはははは!」バリバリ

男(今目の前でお気に入りの味噌煎餅を貪りながらケツ掻いてテレビ見ているのがそうだ)

貧乏神「いやー、空調の効いた部屋で煎餅食べながら見るテレビは最高じゃな!」

男(……)





男「こ の 穀 潰 し が」ギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーーー!!」




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男「お前いい加減にしろよ!?毎日毎日テレビの前で何してんだよ!?」

貧乏神「べ、別によいじゃろう!主様に迷惑をかけている訳ではないのじゃし……」

男「邪 魔 な ん だ よ」ゲシッゲシッ

貧乏神「足蹴にするなぁあああ!!」

男「こっちは今忙しいの!そういう扱いをされたくなかったら少しは表に出ろ!子供は子供らしくだな……」

貧乏神「ハッ、抜けた事を。お主の倍以上生きている私に子供らしくじゃと?ニャハハハハ!片腹痛いわ!!」

男「……」シュバッ

貧乏神「まて主様よ、話し合おう。獣王○心撃の構えを解くといい、今ならまだ間に合う」

男「俺からしてみりゃ撃ち込みたいのは獣王○恨撃の方だがな」

貧乏神「私は味方ですらないとな!?ええい!こうなりゃ電話で助けを呼んでやる!見ておれ主様よ!」


男(と、こんな感じに、生意気な小娘が俺の家に居ついてしまっている)

男(そもそも、事の発端は一月ほど前の事だ)

男(そう、俺があの何もない田舎に引っ越したあの日……)



―――
――――――


男「悪いな、突然部屋を紹介してくれなんて無茶な頼みを聞いてくれて」

友人「いいよ別にー。離れの使ってなかった場所だし」


男(まだ梅雨の雨足の残る月、大学の講義の予定も全てまっさらになる時期)

男(ごみごみとした都会を離れ、僅かな期間だがこの夏の一時……一か月ほど田舎に移り住んでみようと思い実行した)

男(幸い、アパートを経営している友人がいた為すんなりと事は運んでいった)


男「でもワザワザ改装してくれたんだろ?」

友人「誰か他に住人が入った時の為って思えば何てことねーよ」

友人「ともかくほい、鍵。前に言った通りだけど、何か出ても文句言うなよ?」

男「心霊とかそういうのか?俺はそっち系は明るくないんだけどな」

友人「自分が見ている日常が全てじゃない。ほんの少し視点を変える事で見えてくる非日常があるんだよ」

男「……哲学か何かか?」

友人「さーてな……」

男「妙に含んだ言い方するじゃねーか」

友人「とりあえず電気は通ってるし、風呂とトイレは外の共同のやつを使ってくれ」

友人「風呂が気に入らなきゃ歩いて10分で銭湯もあるからそこで済ませろ。トイレが気に入らなきゃ裏の山で野グソでもしてろ」

男「おう、分かった。最後の一言は余計だけどな」


……


男「ふぅ……やっと落ち着けるな」

男「ド田舎も度が過ぎてるだろ、見渡す限り畑と森林、遠くに山で建物がほぼ無いとか……」

男「オマケにバスが日に二本しか出ないって……流石としか言えんぞ」

男「やれやれ、遠出するときは気を付けないとな……おっと、アレが離れか。つーかこの家広いなオイ、アパートにしちまうだけの事はあるな」

男「……お、あまり期待してなかったけど、何だ随分と綺麗にしてあるじゃないか」

男「まずは掃除から始めようと思ったが、手間はかからなさそうだな」


ニャハハハハハハハ


男「……ん?なんだこの声……」ガラガラ


男「……」チラッ


貧乏神「にゃはははは!いやぁー、愉快愉快!テレビも冷暖房も完備で味噌煎餅も美味いと来た!」バリッ

貧乏神「ぬ?もう煎餅が無いではないか!おーい!誰かおらんかー!貧乏神様のおやつが無くなってしまったぞー!」


男「……」

男(誰だーーーーーーーーーッ!?)


貧乏神「んん?なんじゃ?誰か入ってきたのか?」

男「あの……」

貧乏神「……誰じゃお主は?」

男「誰って……こっちのセリフだ!ここ、俺が借りた部屋なんだけど!?」

貧乏神「……ほう!という事はお主が同居人という訳か!」

男「はぁ!?同居人!?ってかアンタ誰だよ!?」

貧乏神「ふむ、答えてやろう。私は貧乏神の時雨(しぐれ)、ヒトならざるものじゃ!」

男「……」

男「!!?!?!?」

貧乏神「まぁ、そういう反応取るわな、普通」


男「いや、ちょっとまって、理解が追いつかなんだけど……」

貧乏神「前に住んでおったところは、ちょいと出かけていた最中に取り壊しになってな……。で、知り合いが経営するアパートの一室に無理やr……無理言って言って住まわせてもらったという訳じゃ!」

貧乏神「あ、離れにいるからといって決して母屋から追い出された訳では断じてないぞ!!うん!そんなことはないぞ!!」

男(聞いてない聞いてない)

貧乏神「まぁ、私もタダで住まわせてもらっている身。同居人が出来たことくらいでは文句は言わんよ」

貧乏神「女の身ではあるが、なに。お主のような童(わっぱ)一人面倒見るくらいならお互い遠慮もすることはなかろうて。どれ、困った事があるのならこのお姉さんに何でも言ってみるといいい」フフン

男「そうか!わかった、じゃあ早速で悪いが……」

貧乏神「うむ!」







男「出て行け」

貧乏神「」


貧乏神「す、すまんな、最近耳が遠くて……今なんと……」

男「出 て 行 け」

貧乏神「……」

男「……」

貧乏神「……」

貧乏神「……」ジワッ

貧乏神「かようなか弱き乙女に出て行けと申すか……」プルプル

男「oh...」


――――――
―――



男「聞 い て な い ぞ」

友人「言ってなかったからな」

男「そうだよな言ってないよな!?あんな貧乏神だのなんだのを名乗る頭のぶっ飛んだ子供の事なんて一言も!?」

友人「あー……しばらく姿を見かけないと思ったら。離れに住み着いてたなんて知らなかったんだ、てっきりウチのに追い出されたのかと……」

男「認知はしてたんだな!?」

友人「まぁまぁ、あの娘も悪い子ではないから」


貧乏神「にゃはははは!最近のバラエティは面白いのぉ!」バリッ


男「電気ガンガン使ってるあのガキが悪い奴じゃないと!?支払いは俺だぞ!?」

友人「何も言えねぇ……」


男「で、こいつは一体何なんだよ」

友人「お前が聞いた通り、この娘は貧乏神って言ってな。まぁ神とか大層な名前が付いているけど立派な妖怪だ」

男「そんなようか……妖怪!?」

友人「そそ」

男「流石に冗談だろ……?」

貧乏神「ジョーダンなワケないじゃろう馬鹿者め。現にこうして私が目の前におろう」

男「生意気なガキにしか見えないのだが」

友人「無理に信じろとは言わないが……まぁ、代表例として一人連れてきたから。これ見て納得しろ」ヒョイ

男「あん?」


ニワトリ?「……」

男「……この汚いニワトリがなんだって?」

ニワトリ?「吠えたな小僧」

男「」

友人「このやたら渋い声のヒト(?)は地獄鳥って言ってな。妖怪なんだが……ま、ウチの非常食みたいなもんだ」

地獄鳥「坊主……お前そんな目で俺を見ていたのか」プルプル

友人「今更だろ」

地獄鳥「」

貧乏神(最古参なのに酷い扱いじゃな地獄鳥殿)


友人「つーわけだけど、事故に合ったと思って諦めてくれ」

男「追い出せよ!?管理責任はお前にあるんだぞ!?」

友人「そうは言っても、この娘に関しては俺も迂闊に決断を下せないんだよ」

貧乏神「うむうむ!そこの坊主はよく分かっておるな!」

友人「下手に連れ出そうとするとホラ、噛むしさ」

男「え!?噛むの!?」

貧乏神「……私ゃ犬畜生ではないぞ」


男「ああもういいよ、だったら他の部屋案内してくれ」

友人「すまん!他の部屋の準備とかも出来てなくてこの部屋しか空いてないんだ!」

男「……ハァ、荷物も郵送しちまってるし、今更帰る訳にもいかないからなぁ」

友人「部屋の融通が出来ないんだ!なんとかして持たせてくれ!」

男「わかったよ、格安で紹介してもらったんだ。このくらいの背負いものなら何とかするよ」

貧乏神「オイ、背負いものとは何だ背負いものとは!」

男「……コイツの処遇はどうすればいい?」

友人「煮るなり焼くなり売り飛ばすなり好きにしていいんじゃないか?」

貧乏神「」


……

男「そんなこんなで半ば押し付けられました」

貧乏神「にゃはははは!」バリバリ

男「……一か月か」

貧乏神「む?まーた味噌煎餅が切れおった。おい主様、早速で悪いがちと買ってきてくれんかの?」

男「主様?」

貧乏神「うむ、私と共同生活するという事は即ち、我が依り代となるという事じゃ」

貧乏神「ま、短い間じゃし形式上の物だから気にするほどでは無かろうて。ほれさっさと買いに行かんか」

男「……」

貧乏神「ほーれほれどうした?早く行かねば鉄拳制裁が……」

男「生意気言ってんじゃねぇクソガキ」ギリギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーーーーーーーー!!やめろ!!アイアンクローはやめるのじゃーーーーーー!!」


貧乏神「何をするこの空け者!!」

男「お前にどんな権限があるかは知らんが、俺が金払ってここに住む以上お前の好き勝手にゃさせないぞ!!」

貧乏神「ハッ!言ったな!この土地を治める五大妖怪と言われる私にそのような口を利くなどとは笑止千万!今こそこの貧乏神パゥワーでお主を……」

――――――
―――


ラッシャーセー

貧乏神「ごめんなしゃいもう生意気いいましぇん……うぐゅ……」

男「分かればよし」

貧乏神「こんなか弱い女子に武力行使なぞ男のする事ではないぞぉ……」

男「妹がいるからな、そういう事には一切躊躇はないぞ」


男「それで?味噌煎餅ってのはこれでいいのか?これで機嫌なおせ」ガサッ

貧乏神「わーい!これじゃこれじゃ!何だかんだで買ってくれるなんて、愛しているぞ主様ー!!でもよいのか?お金は……」

男「このくらいの出費は許容範囲内だ、気にすんな」

男(わざわざ結構遠くのスーパーまで足を運ぶことになったが……まったく、偉ぶっていても子供だな。妖怪だなんてにわかには信じられん)

男(これから不安もあるが……ま、妹だと思って接すればいいか)

貧乏神「買ってもらうばかりでは悪い、今日の晩飯は私が作ってやろう」

男「へぇ、料理出来るのか?」

貧乏神「当然!ではこれとこれとこれと……」

男「張り切ってるな」

男(こうやっていればまぁ可愛いもんだな)


貧乏神「おー味噌味噌味噌♪お味噌味噌ー♪」ガサッガサッ

男「……」

貧乏神「お味噌味噌味噌パラダイス~♪」ガサッガサッガサッ

男「入 れ 過 ぎ だ」ギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーーー!!何をするきさまーーーーーーー!!」

男「誰がそんなに味噌を消費するんだよ!?」

貧乏神「 私 だ 」

男「またぶちのめすぞ」

貧乏神「び、貧乏神というのは古来より味噌が好きというのが決まっておるのじゃ!このくらい許容せい!」


アッシター マタンオシヲー


ウィーン

貧乏神「あの若者は一体何語を話しておるのじゃろうか……」

男「ふぅ、随分買い込んだな」

貧乏神「そんなに飛ばして大丈夫か主様。この先財布の中身は持つのか?」

男「馬鹿言え、少し多めに手持ちは用意してあるし、無くなればATMで引き出せばいい話だろ」

貧乏神「いや、無理じゃ」

男「何でだよ、そんなに金遣いが荒らそうに見えるか?」

貧乏神「お主……私の名前を言ってみろ」

男「時雨?あ、いや……貧ぼ……う」

男「……」

男「」

貧乏神「気付くのが遅いわ、たわけ」


貧乏神「よいか?私が憑りついている以上は散財した分は基本的に手元に返ってくることはない」

男「ぐ、具体的には……」

貧乏神「今言った通り、最終的には無一文じゃ。すぐに財全てを失うという事は無いが、手放した財の補充は難しいと思え」

男「……」

貧乏神「あ、ああ、すまぬ主様よ。私も悪気があって黙っておった訳ではないのじゃ!既に知っておると思っていたのと何か対策を練っていると勘違いして……」

貧乏神「ま、まぁ私はお主の破産を助長するような事はせんからな!?これでも仲良くやっていこうとは思っておるからの!」

男「だ っ た ら 味 噌 な ん て 大 量 に 買 わ せ る な」ギリギリ

貧乏神「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーーーー!!やめてーーーーーーーー!!」


男「さ、財布の中身が突然消えているなんて事はないよな?」パカッ

貧乏神「イテテ……じゃから安心せいて、先も言ったがすぐに全てを失う訳ではない。ゆっくりと着実に時間をかけてだな……にゅふふふ……」

男「うるせぇよ!?ウイルスにでも感染したかのように言うなよ!?」ジリジリ

貧乏神「じょ、冗談じゃ!そんなつもりはないのじゃ!構えるな!!」

男「ぐっ、ともかく残り約一万円……これで乗り切らねばいけないのか」

貧乏神「ちと厳しいのう。そこから増やす事はまず出来んから遊ぶ事も出来ぬではないか。同情するのじゃ」

男「誰のせいだと思ってんだ!?」

貧乏神「知らぬ存ぜぬな!ニャハハハハハ!!」

男「」イラッ


――――――
―――



男「いいか?この資金難を乗り切る為にも、一か月は俺のいう事をしっかりと聞いてもらうぞ?」

貧乏神「前がみえねぇ……」メリッ

男「念の為最寄りのコンビニ(徒歩20分)で金を引き落とそうと思ったら案の定出来なかったわけだが」

貧乏神「都合よくATMが爆発したが、当然じゃ。余程その因果を捻じ曲げるような幸運や何らかの力が無ければ逃れることなど出来ぬぞ」

男「悔しいがその後財布を拾ってラッキーと思ってたら中身が空っぽだったり、落ちていたお金を拾おうとしたら先を越されたりしたが……」

貧乏神「主様、それは犯罪じゃぞ」

男「ともかくだ!生活費を少しでも浮かす為にお前にも協力してもらうぞ!」

貧乏神「えー」


男「簡単にリストにしておくからまずはこれだけは守っておいてくれ」

貧乏神「どれどれ……」


【一つ、自堕落な生活は控えるべし】


貧乏神「……なんじゃこれは?どの辺が節約につながるのじゃ?」

男「見ての通りだ」

貧乏神「いや、具体性皆無で何を伝えたいのやらサッパリ……」

男「いいか?朝から我慢してお前を見ていれば、やれ番組が面白いだつまらないだの画面に張り付きっぱなし」

男「たまにテレビの前から動いたと思ったら煎餅の補充!そしてまた定位置に戻り寝っ転がる!これを自堕落と言わずに何と言おうか!!」

貧乏神「うぐッ!」

男「テレビのつけっぱなしは電気代が嵩むんだこれは理解しろ」


貧乏神「よ、よかろう主様よ。依り代にしている以上は私もそんな尊大な態度を取るのは間違っているとも言えるな。か、改善はしようぞ」

男「次ッ!」


【二つ、冷房はお昼だけ!】


男「コイツも電気代関連!!」

貧乏神「ま、待つのじゃ主様!!死んでしまうぞ!!」

男「このド田舎なら朝方は涼しいし夕方は窓を開ければ十分だ!古来の妖怪がこんなもんに頼るな!」ピッ

貧乏神「ま、本気(マジ)に電源を切りおった!!ああ殺生な……」

男「まだまだ行くぞ!!」


【三つ、御煎餅は三時のおやつに1枚だけ】


貧乏神「……」

男「……」

貧乏神「ふざけんなあああああああああああああああああああああ!!」メキメキボギャー!!

男「そこは怒るんだ!?」

貧乏神「主様よ!この私から生の唯一の楽しみを奪って楽しいか!?いや、お主は楽しいだろうな!幼女がもだえ苦しむ姿を見られるのじゃからな!!」

男「ないない」


貧乏神「これはあってはならぬ忌々しき事態じゃ……いや!よく考えたら高々同居人にここまで抑制されるのもおかしい話じゃ!!」

貧乏神「欲に塗れて何が悪いか!この地に生ける全ての者はみな欲求の下存在しておるのじゃ!感情は解放すべきじゃ!」

貧乏神「ハンッ、思えば憑りついているのなら主だ主だと媚びへつらう事も無いではないか!ええいならば、やはり貧乏神パゥワーで貴様を祝って……あいや!呪ってやろうか!」

男「この約束のどれか一つでも飲めないって言うのなら冷房もテレビも煎餅も全部引っ込めてもらうけどいいんだな?俺はそれでも構わないぞ」

貧乏神「……」ピタッ

男「……」

貧乏神「主様よ」

男「ん?」

貧乏神「……おやつの煎餅は2枚ではダメだろうか」シレッ

男(チョロイぞ貧乏神)


貧乏神「背に腹は代えられぬ。私とて今のラクチンな生活を手放したくはない」

男「オイ今なんつった」

貧乏神「よし、では約束通り味噌煎餅3枚で譲歩するとしようか。よっこらせっと」

男「増えてる増えてる」

貧乏神「では主様よ、そこの台所を借りるぞ」

男「話題を変えるな……って、台所を?」

貧乏神「約束したであろう、今日は私が料理を振る舞うと。エプロン借りるぞー」

男「そういやそうだったな……」


貧乏神「そこで待っておれ、今日の礼と詫びを込めた一品を作ってやろう」

男「……ま、反省してるって言うのならお言葉に甘えるよ」

貧乏神「にゃはは、素直でよろしい」

男(まったく、上手くはぐらかされた気もするけど、大人何だか子供何だかよく分からんな)

貧乏神「よぅし!!では、共同生活一日目という事でサービスサービスぅ!なのじゃ!!」

男(こうしてみると少しだけ大人びて見えるな……)

男「……はぁ、よく分からんな」

貧乏神「~~~♪」


―――数十分後


男「……」

貧乏神「……」

男「オエ……」

貧乏神「ん?入れ過ぎたかな?」

男「ほ ぼ 味 噌 だ け だ っ た じ ゃ ね ー か」ギリギリギリ

貧乏神「あだだだだだだだだ!?し、仕方なかろう!出来る限り食材は使わぬように節約料理を作るには味噌しかないと思ったのじゃ!!」

男「その味噌を大量に買わせて節約どころじゃなくしたのはお前だ!!」ギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーーーー!!」


貧乏神「これでも一生懸命作ったし、健康に気を使ったのじゃぞ!!」

男「その心遣いは嬉しいが、なんだ、うん……」

貧乏神「味噌ナス焼きに味噌汁にキュウリの味噌浸けに味噌豆腐に味噌スープ!!」

男「味噌汁二つなかったか!?つーかこれじゃあ健康になるどころか確実に近いうちに病むぞ!?」

貧乏神「むぅ……お味噌万能調味料説を唱える私が言うのだから間違いはないハズなのじゃ……」

男「限度があるだろ!?」


男「もういい!俺は寝るぞ!!」

貧乏神「風呂は入らんのか?汚いぞ主様よ」

男「うっさい!疲れた!」

貧乏神「やれやれ、やはり童か。この程度の事でへばるとはな」

男「その生意気な口はどうやったら閉じるんだろうな?」


貧乏神「しかし、主様が眠るのならば私も起きている理由が無いな。ではこちらも就寝させてもらうとしようか」

男「お前も風呂入らないんじゃねーか。着物なんて着てるからこの時期は臭いだろ」

貧乏神「女子によくもまぁデリカシーの欠片も無い事が言えるな……私はお主らと代謝が違うのじゃ、故に風呂もある程度なら入らんでもよい」

貧乏神「……ま、入れたらそれに越した事はないのじゃが」

男「母屋の風呂を借りてこればいいじゃないか。共同で使ってもいいんだろ?」

貧乏神「……ならぬ、特に私はな」

男「?」


貧乏神「ではもう眠るぞ。私も疲れた」スッ

男「お、おい……」

貧乏神「なんじゃ?添い寝でもしてほしいのか?フフン、可愛いやつめ」

男「いやそうじゃなくてだな……」





男「何 故 で 押 入 れ に 入 る」

貧乏神「貧乏神の寝床と言えば押入れじゃろうて」

男「知らんわ!お前はド○えもんか!!」

貧乏神「うるさい!○ラちゃんは関係ない!関係ないからの!!」

男「お前アニメに影響されてマネしたいだけだろ!?」


――――――
―――



男「つーことが初日にあったんだけどさ……」

友人「よかったじゃないか、楽しそうで。それで一週間経ってるんだから慣れってのは凄いと思うぞ」

男「……」

友人「すまん、睨むな」

男「押し付けておいてよう言う……」

友人「悪いとは思ってるよ。つーかお前も承諾しておいてまだグダグダ言うか」

男「……そうだ、一か月過ぎたらすぐ返すから今カネを!」

友人「お前は金をドブに捨てるような真似をするのか?」

男「てめぇ!!」


テトテト


男「ん?」

座敷童「……」

友人「お茶か、わざわざありがと」

座敷童「……」フルフル

男「あ、いつもありがとう、麗華ちゃん」

友人「ウチの土地の管理とか全部してもらってるからなぁ。こうやって客が来ても対応してくれるしいい娘だよ」

男「こんな小さい娘に管理させてんのかよ」

友人「いや、俺より年上だし。ここいら治める長の一人だし」

男「マ ジ か」


男「しかし座敷童ねぇ……この娘も妖怪なんだよなぁ」

友人「見た目こそ俺たちと大差無いけどな」

男「いいよなぁ、座敷童って幸福の象徴だろ?確か」

友人「ん、まぁ伝承的には」

男「……俺の部屋に居ついているのと交換してくれよ」

友人「や だ ね」

男「だ ろ う な」


座敷童「……?」

友人「ん?ああ、時雨ちゃんとは上手くやってるみたいだよ」

男「ずっと思ってたんだけど、喋ってないのに何で会話が出来てるんだよ」

友人「元々無口なんだ、いいだろ別に」

座敷童「……」

男(無口なんてレベルじゃないぞ!?)

男「あ、それよりさ。アイツ、母屋の方に来たがらなかったんだけど何か理由があるの?風呂もだけど、前に呼んでくれた時もアイツだけ来なかったし」

友人「そういえばあの娘、一度も家に上がってきた事が無いな……なぁ、お前は何か知ってるか?」

座敷童「……」フイッ

男「何だって?」

友人「見ての通り無言だよ」

男(終始無言なんですがそれは)


座敷童「……」テトテト

友人「あっ……行っちゃった」

男「何か訳ありって事なのかねぇ」

友人「さぁ、深入りはしない方がいいと思うけど?」

男「……ま、そうだな。俺が首突っ込むことでも無いか……」


……


男「ふー……まだ二週間あると思うと気が滅入るな」


ニャハハハハハ!

クソウッツギダッ!


男「……さて、俺の部屋から散々聞いた笑い声……と、+αが聞こえるが」

男「おーい、お前の主様とやらが帰ったぞー」ガチャ


貧乏神「にゃはははは!いやーこんな暑い日は朝からエアコンガンガン効かせまくった部屋でゲームをするに限るのう!煎餅も美味いし!!」セッカッコーハアアアアキィーン

地獄鳥「時雨嬢少しは手加減しろッ!!ああッ!」テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーン

貧乏神「また私の勝ちだな地獄鳥殿。じゃあ掛け金は貰うぞ」

地獄鳥「チィッ、次だ!こちらも同じキャラを……ッ!」

貧乏神「何回やっても同じじゃて、ニャハハハハ!」


貧乏神「ぬ?味噌煎餅がきれおったわ、ちょっと補充しに台所に……」

男「……」

貧乏神「あ」

地獄鳥「あ」

男「……」




男「……何をしているんだ?」ニコッ

貧乏神「あうあうあうあわわ……」ガクガクブルブル

地獄鳥「……さて、この辺でお暇しようかね」

男「逃 げ る な」コキャッ

地獄鳥「」


……


貧乏神「あ……暑い」

男「まだ昼前だ、日も天辺まで登ってないからそこまで気にならないな。窓の近くに来い、風が気持ちいいぞ」

貧乏神「ひ……暇じゃ……」

男「俗世を離れて読書ってのも乙なもんだ。ここはテレビの音も無く静かだから、心を落ち着かせて過ごせる」

貧乏神「み……味噌煎餅が……無いッ!!!!」

男「隠したからな」

貧乏神「ムッキーーーーーーーーー!!何故私がこんな仕打ちを受けねばならんのだ!!ちょっと誘惑に負けてしまっただけではないか!!」

男「そうだな、金が無いって言ってんのに空調を最低温度まで下げでPCとテレビ両方をつけっぱなしでさらにゲームまでセッティングして」

男「それに味噌煎餅の空いた袋がひぃふぅみぃ……四袋だ、ああ実に清々しいくらいに俺の言いつけを全部破りやがってクソガキが!!」

男「挙句賭け事とはいい御身分だな!?金の無い俺への当てつけかオラァ!!」



貧乏神「そ、それはもうさっきお叱りを受けたじゃろ!女子の尻を思い切り叩くとは何事じゃ変態!!訴えるぞ!!」

男「もうお前には容赦しないと決めた!慈悲の気持ちなんざまったく無いな!むしろその程度で終わった事に感謝しろ!」

貧乏神「うう……こんな童如きにぃ……自分が情けないわ……」

男「……」

男「……そろそろ昼前のおやつの時間だな」

貧乏神「ふん!それがどうした!!」

男「味噌煎餅開けるけど、食うか?」

貧乏神「ッ!よ、よいのか!?しかし……」

男「ま、さっき食った分は前借って事にしておいてやるよ」

貧乏神「わーい!!優しい主様は大好きなのじゃー!!」

男「フフ……」

男(うわー、コイツ本当にチョロ過ぎて逆に心配になるわー……)


貧乏神「はむはむ……ところで主様よ、地獄鳥はどうしたのじゃ?」バリッ

男「ん?ああ、あのニワトリな、埋めといた」

貧乏神「うわ……」






友人「……何で地面から生えてんの」

地獄鳥「」

座敷童「……」ツンツン

友人「こらやめなさい、汚い」

地獄鳥「」

地獄鳥「」ホロリ


貧乏神「あづー……ハァ、しかし主様よ、お主現代人にしてはちとアナログ過ぎやしないか?」

男「お前が現代かぶれ過ぎるんだよ」

貧乏神「テレビもエアコンも元から電源抜きおって。道具は使ってこそ意味を成すのだろうて」

男「節約だよ節約、誰かさんに勝手に使われないようにな」

貧乏神「物言わぬ八百万(やおよろず)の神が泣いておるわ」バリッ

男「心霊的な話をされても俺は全くついていけんぞ」

貧乏神「"心霊"ではない、"神道"じゃ。やーれやれ、これだから素人は」

男「何のだよ」


貧乏神「こんな田舎、娯楽も無くてつまらんじゃろう。何故主様はこんな場所へ来た」バリッ

男「日本人ってのは心のどこかでこういう場所に来たいって思ってるんだよ。一旦、世間から離れて静かに暮らしてみたいってな」

貧乏神「故郷でもないのにか?畑と山しかない場所にか?私はとっととここら辺をビル街にせよと進言しておるのじゃがな」

男「や、やめろよ……」

貧乏神「土地ばかり余っておるのじゃ、そっちの方が賢いやり方だ」

貧乏神「それに、妖怪も肩身が狭い。今は人間の生活に紛れ込んで生きている者がほとんどじゃ。ならばいっそ、人間と全てを同じにしてしまえばいい」バリッ

男「妖怪ってのは人を喰っているってイメージあるけど。まさかそんな事してるんじゃないだろうな?」

貧乏神「種族によりけりじゃ、とはいえ人喰いなぞ今時おらんよ。母屋の住人も、今日という日を食い抜く為に毎朝電車で出勤しておるものもおる」

男「生々しいなオイ」


男「お前は?見たところ働いているようには見えないが?」

貧乏神「先も言った通り、私はここいらの土地を治める5人の内の一人じゃ。収入は寝っ転がっていてもそこから出る」

男「半ニートじゃねーか」

貧乏神「うっさいボケ。政(まつりごと)の……主に経理を任されている故、月末や年度末は本気で忙しいがな」

男「貧乏神に金の管理させてるのかよ!?消滅しそうだな……」

貧乏神「失礼な!私が憑りつく者が富を得なくなるだけで私自身は何ともないわ!」バリッ

男「理不尽だな」


貧乏神「話が逸れたな。まーぶっちゃけお主の田舎に対する憧れなどどうでもよかろうなのだが」

男「失礼だなオイ」

貧乏神「主様よ、そろそろエアコンを復活させてもよいだろうか」

男「ん?もうこんな時間か……涼しいけどまぁいいだろ。本当は電気代抑えるためにつけたくはないんだけどな」

貧乏神「フン、金無しの男が生意気に。ちっとは稼いでから物を言わんか」ボソッ

男「金 が 無 い の は お 前 の せ い だ」ギリギリギリ

貧乏神「あだだだだだだだだだ!?聞こえんように言ったのにこの仕打ちは酷いじゃろ!?」バリッ

男「バッチリ聞こえてんだよ!あとお前いい加減煎餅食う手を止めろよ!?さっきからずっと喰い続けてるの知ってるぞ!?味噌煎餅の妖怪かお前は!?」

貧乏神「光栄じゃ」

男「ファッ!?」


――――――
―――



男「何なんだよあいつは!!今日も朝から隠れて俺のPC引っ張り出してゲーム三昧!ったく……」

友人「何なんだって言われても……貧乏神?」

男「いや、そうだけどさ……」

友人「そういや飯とか大丈夫か?そのくらいならこっちでも用意出来るけど」

男「そこは大丈夫だ、まとめて買ってきてある。それに台所も付いてるんだし使わなきゃな」

友人「持ち金見せてみ?」

男「……300円」

友人「……」

男「ハァ……そもそも憑りついてきた理由を教えてほしいんだけど」

座敷童「……」ズズー


座敷童「……」ポリポリ

男「……」

友人「どうした?」

男「同じようにお茶を飲んで煎餅を食べてるのに、どうしてお前の方はこう……何だ」

友人「上品」

男「そう!麗華ちゃんは上品!アイツは下品!俺がいる前でも屁こくからな!?」

友人「女の子としてどうなんだそれは……」

男「俺の妹と同じくらいに無防備な奴だ!まだ出会って十数日の男にそこまで気を許すかまったく……」ブツブツ

男「あ、そういや片付けもまだだったな。洗濯も!あれほど一緒に出しておけって言ったのに」ブツブツブツブツ

友人(たった数日で完全にお兄ちゃんになってるじゃねーか)


友人「で、時雨ちゃんはどこに行ったんだ?さっき出て行ったけど」

男「ああ、母屋の風呂は借りたくないからって銭湯に行っちまったよ。何日も風呂入らないのは不味いとさ」

友人「いや毎日入れよ」

男「流石は神を名乗るだけあってアイツ臭わないんだよなぁ。普通に女の子のかほりが……」

友人「おう、変態発言はやめろ」


男「でも何で母屋に来ないんだろうなホント」

友人「気になりだしたか?」

男「そりゃまぁ……俺は何度もこうやって足を運んでるのに、アイツがここに来た事は一度も無いからな」

座敷童「……」

男「何を意固地になってるのかは知らんが、少しは甘えればいいのにな」

友人「傍から見たらお前にめっちゃ甘えてるんだけどな」

男「うん、超困る」

友人「やっぱ貧乏神だからか?」

男「いや、まぁ……確かに福の神とかだったらよかったとは思うけどさ。それ以前に女の子だろ?だから、あんまり男の俺とじゃれ合うのもねぇ」

座敷童「……」


座敷童「そろそろ」

男「!?」

座敷童「迎えに行ってあげたら?暗くなる頃だし」

男(キエアアアアア シャベッタアアアアアア)

友人「そうだな、妖怪といっても女の子だし。行って来いよ保護者」

男「誰が保護者だ誰が」


座敷童「……」ズズー

男「……」

友人「ああ、気にするな。たまに喋るだけだから」

座敷童「……」コソコソ

友人「他意は無いんだとさ」

男「もうお前を介さずに普通に喋れよ。まぁいいや、それじゃあ心配だし迎えに行ってくるかねぇ」

友人(完全に保護者だな)

男「そんじゃ、おやすみなさい」

友人「おう、また明日な」

座敷童「……」フリフリ


友人「……で、何で突然あんなこと言ったのさ」

座敷童「あの娘と彼が仲良さそうだったから」

座敷童「あの娘がこの数日、ずっと楽しそうにしていたから。寂しい思いはさせたくない」

友人「だったら、お前が直接時雨ちゃんに会えばいいじゃん」

座敷童「私とあの娘が会ったら、また喧嘩になるからそれはダメ」

友人「よく分からないけど複雑なんだな」

座敷童「……」ズズー

友人「あらら、また喋らなくなっちまった。まぁいいや、そろそろ飯にするか。今日は俺が作るよ」

座敷童「……♪」


……


男「……」

男「……」

男「……」

男「……」

男(ヤベェここどこだーーーーーーーッ!!)


男「お、おかしいな、こっちの道だと思ったんだが……」

男「つーかどこまで歩いても景色が変わらないから迷っても仕方ないだろコレ!?帰り道も分からんぞコレ!?」

男「あ、慌てるな俺!まだ俺は現代人だ、いざというときの為に携帯電話を所持している!普段電源を切っているが今がその時!!」


trrrr♪


男「だああ!?なんかかかってきた!?って、アイツだ!勝手に俺の携帯に番号登録してやがる!?いつ触ったんだよ!?ってかなんだよ登録名"時雨大明神"って!?」

男「ともかく天の助けだ!もしもし!」


貧乏神『おーう主様ー、今風呂から出たぞー。いや、久々の風呂も捨てたものではないな!にゃはははは!』

貧乏神『で、じゃ。早速でスマンが迎えに来てはくれんかのう?女子一人で歩くにはちと暗すぎる』

貧乏神『あいや!甘えておるわけではないぞ!英国紳士としての当然のエスコートの仕方をお主に教える為であってだな……』

男「(英国紳士……?)と、ともかくそれはいいや!ちょうどお前を迎えに行こうとしたんだが、助けてくれ!迷子になった!!」

貧乏神『……は?』

男「迷子になりましたすみません助けてください」ドゲザー

貧乏神『いや電話越しに土下座されても何も分からんぞ』

男「伝わってるじゃねーか」


貧乏神『まったく、これだから都会の素人は。まぁよい、何か辺りに目印になる物はないか?』

男「田 ん ぼ」

貧乏神『じ ゃ ろ う な』

男「……来た道を戻ってみます」

貧乏神『うむ、そうしろ。最悪そこらにあるバス停で拾ってもらえ。この時間なら最後のバスが出るハズじゃ』

男「お金足りるかな……」

貧乏神『確か300円持っておったじゃろ。最悪それで勘弁してもらえ、案外通じるハズじゃ』

男「りょ、了解です……」

貧乏神『では切るぞ。また何かあれば電話しろ』


ピッ

貧乏神「……ハァ、せっかく迎えに来てもらおうと思ったのに」

貧乏神「さ、寂しい訳ではないぞ!兄貴面する奴にちょいとばかし甘えてやろうとかそんな事を思ったわけでもないぞ!」

貧乏神「……ふむ、一人でこんな事してもつまらんな。さて、私も湯冷めしないうちに帰るかな……」


とぅるるるるる♪


貧乏神「ん?主様からじゃ、バスが見つかったかの?もしもし?」

男『バス停も見つからない。お金も残り180円、もうダメだ』

貧乏神「ジュース買ってんじゃねーよハゲ」


……


男「すまん!本当に助かった!!」

貧乏神「私も迎えに来させようとしてはおったが、やはり土地勘のない者が暗い時間に見知らぬ場所を出歩くでない。そもそも銭湯はあのアパートから真っ直ぐの所ではないか」

男「ぐうの音も出ません」

貧乏神「心配かけさせおって、まったく……」

貧乏神「あれ?何だか私、いつもと違ってお姉さんっぽい?」

男「ぐ……立場が逆転して何だか屈辱的だな」

貧乏神「フフン!ではホレ、感謝しているのならアレを貰おうか!」

男「ん?何をだ?」

貧乏神「何をもクソもあるか。謝礼じゃ、初日に買ってきた大量のお味噌の隠し場所を教える程度で済ませてやろう、にゅふふふふ!今晩は全部食すぞー!!」

男「調子に乗るな」ギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーー!助けに来たのにこの仕打ちーーーーーー!!」


貧乏神「酷いのじゃ……」ヒリヒリ

男「ったく、まぁそういうと思ったよ。ホレ」

貧乏神「ぬ?これは……」

男「ジュース、お前の分。こんなところまで来て喉乾いただろ……ありがとな」

貧乏神「ふむ、可愛い所があるではないか。ツンデレさんめ」

男「ふん……」


貧乏神「……家に帰れば飲み物は他にもあっただろう。少ない金を使わせてしまって逆に申し訳なくおもうわ」グビグビ

男「とか言いつつしっかり飲むんだな。いや、大丈夫だまだ60円残ってる……5円チョコが12個買える……」

貧乏神「目が空ろ色をしておるぞ、無理をするな。しかしなぁ……」

男「ホント、気にするな。このくらいはしてやらないと恰好がつかないだろ?」

貧乏神「……そうじゃ、少し待っておれ。ぐぬぬぬぬ……」

男「どうした、突然力み始めて」


貧乏神「私本来の力をお見せしよう、と言ったところかのう。ぐぬぬぬぬ……」

男「本来って……俺を不幸のどん底に陥れる能力か何かか!?やめろォ!!」

貧乏神「違うわ!貧は転じて福となり、好き働きをした者へ貧はその善行に報いる」

貧乏神「……よし、辺りを少し散策してみよ。久々にこの力を使ったから上手くいっているかどうかは分からんが……」

男「散策て……ん?」

貧乏神「お、早速私のご利益があったみたいじゃな。拾ってみるといい」


男「……500円玉」

貧乏神「おほぉ!今日は調子が良いみたいじゃ!得したな主様!」

男「お、おい?お前貧乏神じゃなかったっけ?憑りつかれている間は俺は金とは縁が無くなるハズじゃ……」

貧乏神「先も言うたハズじゃ、貧は転じて福となる。表裏一体、貧乏神は福を呼ぶ力も持ち合わせておる」

男「……」

貧乏神「納得行っておらん顔じゃな?ほーれほれ、もっと私を崇めてもよいのじゃぞ?私を大切にして敬えばこれ以上にお金がガッポガッポ……」

男「も っ と 早 く に や れ」ギリギリギリ

貧乏神「あだだだだだだだだ!?酷くね!?」


男「ったく、こんなことが出来るのなら俺も金の心配なんてしなくてよかったじゃねーか」

貧乏神「そうは言ってものう、ホイホイと使える力ではないのだ」

男「調子が良くても500円……ハァ、まぁ無いよりはマシか」

貧乏神「お主も私に失礼な発言が多いようじゃが……ま、今回はこれでお相子と言ったところじゃな」

男「……帰るか」

貧乏神「そうじゃな、これ以上外にいたらせっかく風呂に入ったのにまた汗をかいてしまいそうじゃ」


男「……」

貧乏神「……」

男「なぁ、聞きたいことがあるんだけど」

貧乏神「スリーサイズか?にゃはははは!」

男「どうして俺に憑りついたりしたんだ?見た感じ誰かに憑りつく意味なんて無いように思えるんだけど」

貧乏神「無視ですかいそうですかい」


貧乏神「ふむ、それでは軽く妖怪の出生についての説明をするがよいかな?」

男「しまった、面倒くさそうな話題振っちまった」

貧乏神「まぁよい、聞け。ワシら妖怪は何とも曖昧な存在でな。その生まれ方は大きく分けて四つあるのじゃ」

貧乏神「一つは愛を育み母の腹から生まれ出(いずる)者、これはお主ら人間と同じじゃな」

貧乏神「二つ、物に心と魂が宿り生物として個を確立する者。八百万の神の具現した姿とも言われるが定かではない」

貧乏神「三つ、元いた生物が外的要因で妖怪化してしまう現象。今ではほとんど見られないな」

貧乏神「そして四つ、概念や人の持つイメージからこの世に生を受ける者。私はコレじゃな」

男「で、それが俺に憑りついたのに何の関係があるんだ?」

貧乏神「簡単に言おう、死にそうだったのじゃ」

男「……はい!?」


貧乏神「妖怪は人々の記憶から忘れ去られたときに本当の死を迎えると言われておる。まぁ実際私はそれを見た事が無いから真偽不明じゃが」

貧乏神「しかし、形無き場所から生まれた私はこれに近い。人の持つ感情を糧として存在する以上、それが必要不可欠なのじゃ」

貧乏神「じゃから、何も知らん主様をだまくらかして憑りついて延命を……よし、まて、構えるな!悪かった!!悪かったと思っているから今話しているのじゃ!!」

男「言いたいことはそれだけか!」

貧乏神「こ、こうして親しいと思えるからこそ打ち明けたのじゃ!大目に見てくれ!!」

男「まったく……そういう事なら素直に言ってくれれば俺だって覚悟して引き受けたのに」ギリギリギリ

貧乏神「お主は優しいのう。じゃからな?その手を早く頭から放してくれんか?なぁやめて!?痛い!!超痛い!?」


男「ていうか、死にそうな状況になるくらいならとっとと他に親しい奴に相談すればよかったじゃねーか」

貧乏神「親しい者は皆妖怪かくたばりかけ年寄りばかりじゃ。妖怪には憑りつけんし、爺婆はなんだか悪いじゃろ」

男「ん?そういや、前まで憑りついていた人間が居たって事だよな?その人は?」

貧乏神「居たには居たが……もう大昔に憑りつくのをやめた上に、少し前にその者は死におった」

貧乏神「訳あって……顔を合わせる事も出来んかったからな……死に目にも会えんかった」

貧乏神「そうして、それをズルズルと引きづり続け、人に憑りつく事も忘れて過ごしておったら死期が目の前にあったという訳じゃ」

男「ふーん……マヌケだな」

貧乏神「うるせぇよ!?感傷に浸っている女子に対してそれは無いじゃろ!?」

貧乏神「……誰かから離れてもダメ、力を使い過ぎてもダメ」

貧乏神「……正直のう、ギリギリなんじゃよ。今こうしている時も、私は消えてしまいそうで」

男「……」


男「ひょっとして、アパートの母屋に入ろうとしないのってそれが原因か?」

貧乏神「ギクリッ!き、気づいておったのか?」

男「もう半月立つんだぞ?流石に気が付くよ」

貧乏神「うむ、あの家の元の持ち主が私の前のそれでな。昔色々あってからに、あの座敷童と大喧嘩して出ていかざるを得なくなったのじゃ」

男(あの娘と仲悪かったのか……)

貧乏神「……決して、福の神と言えど幸運を与える訳ではないのじゃ」

男「……?」


貧乏神「まぁよい、とりあえずお主に憑りついた理由は話したぞ。暇は潰せたじゃろう」

男「おっと、もう家についたか」

貧乏神「にゅふふふ、主様よ、その500円大切にしろよ。滅多にない貧乏神の恩返しなのじゃから」

男「普段迷惑しかかけてない見返りがコレとか泣けてくるんだけど?」

貧乏神「にゃはははは!ならば私をもっと満足させてみぃ。さすればそのうちドデカい福でもくれてやるわ!」

男「ほう、じゃあ後の半月でどれだけ返してくれるのかな?」

貧乏神「……気持ちだけな」ボソッ

男「聞 こ え て い る ぞ」ギリギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーーーーー!!」



―――
――――――


「時雨……!時雨!!大丈夫か!?」

(……主……様?)

「よかった……無事で……」

(ッ!主様……そんな……その傷は……!!)

「俺は大丈夫だから……よかった……本当に……」

(私は……私は……ッ!!)


――――――
―――



貧乏神「あづー……」

男「お前さっきからホントそれしか言ってないな」

貧乏神「暑いものは暑いのじゃ……こればっかりはどうしようもない」

男「そうだな、前より相当暑くなったからな……しょうがない」

貧乏神「エアコンつけてもいいの!?」パァァ





男「ほい、団扇」

貧乏神「」

男「冗談だよ……エアコンつけていいぞ」

貧乏神「わーい!!」


貧乏神「いやー!やはり部屋が狭いと空調も効きがよいのぅ!」

男「エアコンの真下で仁王立ちするな、ハウスダストとかで喉やられるぞ」

貧乏神「私はそんなやわではないわ!そもそも私は夏が嫌いなのじゃ!時雨という名前がそれを物語っておるじゃろう!」

男「どうでもいいけどなー。さて、そろそろ昼飯にするかな」

貧乏神「何つくるのじゃ!?お味噌多めの麻婆茄子?それともお味噌焼き?わかった味噌カツじゃ!!」

男「味噌から頭を離せ!まったく、何で俺が毎日飯作ってやらなきゃならんのだ」

貧乏神「主様は私を養う義務があるのじゃ、こんな可愛い女子と一つ屋根の下で暮らしている以上はちゃんと全うしてもらわねば困るぞ」ハッ

男「さて、生意気なその口を閉ざしてやろうかな?」ジリジリ

貧乏神「にじり寄るな!!大体私の料理をお主が拒否するのが問題なのじゃろうが!これほどまでに良い味噌を使っておるのに!」

男「味噌三昧で生活習慣病一直線だよ!?」ギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーーーー!!」


貧乏神「いたたた……まぁ主様の作るご飯は美味しいから私も文句は言わんのじゃ」

男「言った瞬間今度は蹴り飛ばすがな」

貧乏神「ドメスティックバイオレンスめ……本当に妹がおる奴の行動とは思えんぞ!」

男「お前と同じくらい姦しいんだよ。ったく、アイツから逃れるためにこっちに来たようなもんなのに……」

貧乏神「前は日本人がどうとかほざいておったがそれが本心か」

男「お前にゃ関係ないだろー。それはいいから、早く手伝え」

貧乏神「はいはい」

男「さて、簡単に……そうだな、パスタでいいかな」


貧乏神「お味噌味噌味噌~♪」ガサガサ


男「や め ろ」


地獄鳥「悪い、邪魔するぞ!」ガラガラ

男「お!」

貧乏神「具材じゃ」

地獄鳥「」

地獄鳥「じゃなくてだな!!貧乏坊主!!お前携帯切っているのか!!」

男「貧乏坊主て……あ、ああ基本的に電話の電源は入れてないけど……」

地獄鳥「馬鹿が!母屋の電話でお前を呼んでいるぞ!妹さんに何かあったみたいだ!」

男「ッ!」

貧乏神「何!?」


……


男「はい、はい……すみません、はい……」



座敷童「……」

友人「妹さん、車にぶつかって大怪我しちまったんだって」

地獄鳥「……両親がいない二人暮らしだったんだと?」

友人「ああ、妹さんはしっかりしてるからって、あいつは一人でここに来たんだけど……ダメだな、こういう時に傍に居させなきゃいけないのに、俺も易々承諾しちまって」

地獄鳥「間が悪かっただけだ、気に病むな」

男「……ハァ」

友人「お、おい、容体は?」

男「大丈夫だ……とは言い切れんが、生きてはいる」

友人「よかった……」


男「安定はしているそうだが、まだ目は覚ましてはいないそうだ……出来ればすぐに帰ってやりたいけど」

座敷童「なら、私があの娘に直接言って貴方から引き剥がします。お金も渡せないから今は仕方がないと思う」

友人「緊急事態だやむを得ないだろう。車も出してやれないし、時雨ちゃんと話し合ってくれ」

男「……」




貧乏神「……正直のう、ギリギリなんじゃよ。今こうしている時も、私は消えてしまいそうで」




座敷童「……じゃあ今すぐにでも」

男「ま、まってくれ!すぐにじゃなくていいんだ!明日……の、朝に出発するよ。多分しばらく向こうにいると思うから準備も必要だし」

友人「そ、そうか?それでいいなら……なぁ?」

座敷童「……」

男「ありがとう、時雨と話をしてみるよ」



ガタッ

地獄鳥「……ん?」


地獄鳥「おい、時雨嬢、こんな表で何をしている」

貧乏神「ギクゥッ!し、シーじゃぞ地獄鳥殿!何でもないからな!何でもー!!」ピューン!!

地獄鳥「お、おいおい……行っちまった」

地獄鳥「やれやれ、素直に母屋に入ってこればいいものを……」

地獄鳥「……ん」

地獄鳥「雲行きが怪しくなってきたな」


……


貧乏神「な、なぁ主様よ!どうかな、私の味付けは?ちょいと薄味噌味にしてみたのじゃが……」

男「それでも十分濃いぞ」

貧乏神「そッ!!……んなことあるかもしれんな。ふ、ふむ、精進しよう」

男「……」

貧乏神「ああ!主様よ!せっかくじゃ、マッサージでもしてやろうか?こんなカワユイ女子が体中を触りまくるのじゃ、そりゃもう天国に昇っちまうような……」

男「なぁ」

貧乏神「ひゃいっ!!」

男「どうしたんだよお前」

貧乏神「な、なんでもないわ!!ただちょーっとだけな?ちょっとだけお主に優しくしてやろうかなーと思っただけで……」


男「……」

貧乏神「……」

男「一つ、聞いてもいいか?」

貧乏神「うむ」

男「貧乏神ってのは、不幸を呼ぶものなのか?」

貧乏神「ッ……」

男「あ、ああ気を悪くしたなら謝る!ただ、気になっただけで……」

貧乏神「そういった伝承は……存在しない」

男「そうか……」


貧乏神「我々貧乏神は貧困を司り、そしてその者を取り巻く幸と不幸も同時に失わせる」

貧乏神「つまり、平穏を与えるとも言われておるのじゃ……」

貧乏神「じゃが……私はどうも、人の不幸に出くわす体質らしい」

男「……話、聞いたのか」

貧乏神「スマヌ、盗み聴きをしてしまった」

男「話が早い。それで、だ」

貧乏神「言わずとも分かっておるよ、主様。今すぐお主の前から姿を消そう……」

男「いや、その必要もない」

貧乏神「なっ!?」

男「容体は安定している。だからまだ俺はここにいてもいい」


貧乏神「馬鹿を言うな!お主は実の妹を!家族を見殺しにするつもりか!!」

男「いやいや、まだ全然死なないから……ただ、意識が戻ってないだけ」

貧乏神「同じことじゃ!!私は……私を取り巻くものの後悔など見たくはない!!」

男「……」

貧乏神「後悔するやもしれん、愛する者の傍にいられなかった時も……失った時も、どちらも……」

貧乏神「アレは……辛いぞ?」


男「でも……」

貧乏神「安心せい、ちぃとばかしお主から剥がれたところですぐに消えたりはせん」

貧乏神「それに、新しい依り代なぞ他にすぐ見つかる。私の妖怪ネットワークを舐めるでないわ!」

男「……俺の友人は」

貧乏神「奴はダメじゃ。既に多くの妖怪に憑りつかれておる……これ以上負担をかけるのはマズイ」

男「マジすか」

貧乏神「……私は大丈夫だから……な?」

男「……ありがとう」

貧乏神「うむうむ!素直でよろしいのじゃ!早く準備をせい!朝一番に出るのじゃろう?」

男「ああ!」


男「えっと、着替え持って……パソコンもって……」

貧乏神「あと携帯電話も電源をつけておけ。お主から連絡の意志が無ければ連絡出来んのは不便じゃぞ」

男「あ、ああ、そうだったな!」

男「あれとこれと……」

貧乏神「味噌もってけ」

男「い ら ん」


貧乏神「……」


貧乏神「……少しだけ、昔ばなしをしてもよいか」

男「準備に差支えなければ」

貧乏神「前に話したここの家の主の話じゃ」

貧乏神「私の……私たちの名付け親、私達にとって本当の親も同然じゃった」

男「……」

貧乏神「手が休んでおるぞ」

男「わざわざ聞いてやる体制になったのになぜお叱りを受けた」


貧乏神「ある日な、開拓に主を付き合わせて山へ出向いたのじゃ」

貧乏神「正直、無理を言ってついてこさせたから、他の者から私が反発を受けたわ」

貧乏神「あの座敷童が一番イラついておったの、主にべったりじゃったからな」

貧乏神「……しっかりと雲行きを見ておけば、あんなことにはならなかったのじゃがな」

男「?」

貧乏神「紅葉が散る秋の日、突然にも強い嵐となったのじゃ」

貧乏神「皮肉じゃな、私の名前と同じ、"時雨"だ」


貧乏神「木々は倒れ、山は滑り、私達が居た場所も立っているのがやっとだった」

貧乏神「そして突然、薙ぎ倒された木が泥津波と共に我らを襲った」

貧乏神「……目が覚めた時には暗く硬い場所。そして、私を庇うように覆いかぶさっていたのは」

男「主さんか」

貧乏神「……主は酷い怪我を負ってな。その日以来、足を患い上手く歩けんようになってしまった」

男「……」


貧乏神「……主は気にするなと言ったが、周りはそうはいかない」

貧乏神「私を庇う者と責める者で大喧嘩となってしまい、この家にいた五人の妖怪は皆散り散りになってしまった」

男「その五人ってのは前に言ってた連中か?」

貧乏神「うむ。この土地を管理する者達だ。一人は本当にいなくなってしまったが……仲違いはすれど、今は皆協力しておるよ。また喧嘩が始まるから顔こそ合わせんが」

貧乏神「結局、私もこの家を出た。そして、主は少し前に亡くなった」

貧乏神「私は後悔しておる。死に目に会うどころか、葬式にも顔を出せんかった……故に、私はもうこの家の敷居を跨ぐ事は決して許されない」

男「離れには居つく癖にか」

貧乏神「茶々を入れるな!そもそもここは元々私が建てた場所だ!私がお主を住まわせてやっているのじゃぞ!」ドヤァ

男「お、おう……そうなのか」


貧乏神「主様よ、お主には……まぁ、短い付き合いだから上手くは言えんが、そういう思いをしてほしくはない」

貧乏神「私への態度を見るに、妹君とは喧嘩が絶えなさそうじゃから、こういう時くらいは……優しくしてやってくれ」

男「……うん」

貧乏神「よぅし!!ならばこの味噌煎餅も持って行くといい!!精がつくぞぉ!にゅふふふふ!!」

男「い ら ん わ」ギリギリギリ

貧乏神「あだだだだだだだ!?布教失敗とな!?」


……


貧乏神「……」

貧乏神「……まぁ、潮時じゃな」

座敷童「……」

貧乏神「……ヒトがせっかく一人で夜空を眺めて黄昏ているというのに。邪魔をするな、麗華」

座敷童「ウチの敷居を跨ぐな、疫病神」

貧乏神「キツっ!?私は疫病神ではないわ!!……まぁいい、喧嘩を売りに来たのならとっとと引くぞ!ま、私は大人じゃからな。折れてやる事も出来ん事も無い」

座敷童「ハァ……口に出している時点で」

貧乏神「やっかましぃわドチビが!!」

座敷童「……」


座敷童「……"今の貴女"に、後悔は無い?」

貧乏神「……無いと言えば嘘になる、じゃが」

貧乏神「目の前の、私に付き合ってくれたお節介な人間に後悔はさせたくはない。私の最期を飾るには、ちょうどいいわ」

座敷童「……」

貧乏神「そんな目をしないでくれ……」

座敷童「……」

座敷童「やっと私の目の前から消えてくれると思うと涙が……」ホロリ

貧乏神「おおおおおおおおおおおおい!?」


座敷童「……」キュッ

貧乏神「ん……」

座敷童「泣いてもいいよ、誰も見てないから」

貧乏神「……」


貧乏神(もう……本当にギリギリだったのじゃな、私の身体は)

貧乏神(主様から離れれば、他の依り代を探す前に……恐らく……)


――――――
―――



座敷童「……」

友人「マズったな……」

地獄鳥「チッ、ここまでとは……」

男「なんちゅう嵐だ……」


小鬼「おーい!バスは今日出られないみたいだヨ!」

雪女「うわ!テレビ映らなくなった!誰かアンテナ直してきてよー!」チラッ

吸血鬼「これじゃあ台風情報見れないですね……」チラッ

垢舐め「俺を見るなよ……」

蜘蛛男「情け無用の嵐に咽び泣く男ッ!」

猫又『にゃあああああ!!中に入れてくれええええええ!!』バンバンッ


男「……これ、何の集まりだよ。ってか一人外にいるんだけど」

友人「ゴメン、変なの混ざってるけどコレ全員ウチの住人」


男「……仕方ない、嵐が過ぎるまで待つしかないか」

友人「今日中に出るのは難しそうだな」

地獄鳥「こういう時に限ってこんな天候が崩れるか……フン」

男「……ん、電話だ。これはアイツの……ッ!?もしもし!?」

男「え……そんな……」

友人「ど、どうした!?」

男「……妹の友達から連絡が入った……様態が……急変したらしい」

友人「ッ!!」


男「……決断が遅かったか!!クソッ!!」

友人「な……どうすれば」

地獄鳥「……」

地獄鳥「おい、貧乏坊主」

男「……なんだよ」

地獄鳥「超高速で雨粒が顔面にぶつかっても耐えきれる自信はあるか?」

男「はい?」


地獄鳥「表に出てこい。乗せて行ってやる」

男「アンタ、何ふざけた事言って……」


地獄鳥「ぬぅん!!」バサッ


男「なっ!?」

友人「うわッ!?デッかくなった!?でも、この姿ってまるで……」

地獄鳥「俺のことなんざどうでもいい、早く乗りな。最悪お前も大怪我するかもしれんが」


男「……助かる!」ドサッ

地獄鳥「よし……出来るだけ雲の上を飛ぶことにする。それまでしっかり掴まっていろ!」

友人「しょ、正気か!?こんな暴風の中……」

男「……後悔したくはないんだ……飛んでくれ」

地獄鳥「おうよ」ブワッ


……

貧乏神「……」

貧乏神「……もう行ったかのう」

貧乏神(今生の別れともなると、辛いものがあるな)

貧乏神(確かに辛いこともあった、じゃが楽しいことも沢山あった)

貧乏神(そして最後に、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるお節介とも出会えた)

貧乏神(……もうじき、そちらに行こう……主よ)


ブワッ


貧乏神「……ん?」


男「ぐあっ!!は、早く行ってくれよ!雨粒が……コレヤベェ!!」

地獄鳥「悪いな、コレは想像以上に……キツイな!」

地獄鳥(チィ!予想以上に厳しいな……年取ったな、俺も)


貧乏神「ンなッ!?何をしておるのじゃあの連中は!?」

友人「時雨ちゃん!」

貧乏神「どういう状況じゃこれは!?」

友人「この嵐でバスが全部出なくなったんだ。多分電車も……それで!」

貧乏神「ならば日を改めればよかろう!?何故あんな無茶を!」

友人「妹さんの容体が急変したんだ!だから!」

貧乏神「ッ!」


貧乏神「……」

貧乏神「ええい!!どうせ尽きる身じゃ!最後にドでかい花を咲かせてやろうぞ!」バッ

友人「え、ええ!?アンタまで何屋根の上昇ってんの!?ちょっと……」

座敷童「止めちゃダメ!!」バッ

友人「えぇ……そんな滅茶苦茶な……」

座敷童「……あの娘の覚悟を、止めちゃダメ」


男「は……え!?は!?」

地獄鳥「どうした!?」

男「見ろ!アイツ屋根の上で何やってんだ!?」

地獄鳥「ん?チッ、心配事を増やしやがって!」



貧乏神「福が転じて貧となり、金を貪り蓄え続け」

貧乏神「貧は転じて福となる!我に尽くした恩の数、全てをここで捧げよう!!」

貧乏神「今一度!昔の姿に戻ろうぞ!!」パァァァ


男「え?……これは!」

地獄鳥「よし!!突っ切るぞ!!」

男「俺たちの所だけ……晴れた!!」



福の神「行って来い主様よ!!決して後悔せぬように!!」



男「……うん!」

地獄鳥「飛ばすぞ!!」バッ!!

男(ありがとう……時雨!)


福の神「……よし」

座敷童「……」

福の神「……なんじゃ、消えゆく私の為に泣きに来たのか?」

友人「貧乏神と福の神は表裏一体。貧乏神から福の神に昇華するって伝承も確かにあるが……」

福の神「博識じゃのう、流石は我が主の孫じゃ」

座敷童「……」

福の神「私は自らの愚行を悔いて、福の力を捨て貧乏神へと姿を変えた」

福の神「福の神を名乗っておったにも関わらず、憑りついていた主に消えない傷を負わせてしまったのじゃ。そんな者が福天(ふくでん)を名乗っていいはずがない」

座敷童「でも、またその力を手にした」

福の神「特例中の特例じゃ……もう……誰にも見せる事の無い……私が持つには、贅沢すぎる力じゃ……」


福の神「……力を使い過ぎたな、少し眠くなったわ。膝を貸してくれ、麗華……」

座敷童「うん……」

友人「時雨ちゃん……」

福の神「フフ……昔のままじゃな……麗華は」

福の神「ちょいと疲れたわ……少しだけ……眠る……」

友人「ッ!」

座敷童「……おやすみなさい、"時雨姉さん"……私の大切な……義姉さん」


――――――
―――



男(……で、冒頭部分に戻るのだが)


貧乏神「にゃーーーーっはっはっは!もしもし?聞いておるのか麗華よ!私はこっちで元気しておるよ、うむ、もう少しこちらに……」

男「……」

貧乏神「ん?なんじゃ?何か言いたげじゃな主様よ」


男(あの嵐の日、この貧乏神は最後の力を振り絞り、活路を切り開いてくれた)

男(……切り拓いてくれたのはいいのだが、契約を破棄せず俺に憑りついたままだったらしく、俺からごっそりと精力を根こそぎ奪い取りのうのうと、そして普通に生きながらえていた)

男(そして、病院に着いた今にも力尽きそうなフラフラな俺を待ち構えていたのはあまりにも惨い惨状だった)



―――
――――――


妹「あれ?お兄ちゃん本気にしちゃったの?」

妹「にゃっははははは!流石に冗談だって!友達にそれっぽく電話してもらっただけー!驚いた?ねぇ驚いた?にゃははははは!」

妹「ちょ、ちょっとまって。冗談だから、ねぇ、流石に悪いかなーとは思ったけどさ、ほら私も寂しかったから?」

妹「ね?だからさ、ホントに昨日の夜中までは目が覚めなかったんだし病み上がりだからまだそういう事はちょーっと辛いかなーってやめてごめんなさいアイアンクローはダメだって!マジで頭とか打ってるから!?」



ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあだだだだだだだだだだ!!



地獄鳥「俺の……頑張りは……何だったんだ……」ガクッ

――――――
―――



男「……思い出したら腹立ってきた」

貧乏神「妹さんの退院はそろそろかのう?」バリッ

男「あ?まぁ骨とか折ってるけどあとはリハビリくらいか……本人は家に帰りたいって言ってるし」

男「……で、お前はいつ帰るんだよ。ここ俺ん家なんだけど、いつまで居座るんだよ、もう一か月経ってるぞ、地獄鳥はとっとと帰ったぞ」

貧乏神「うるさいのう何を言っておるか、まだ私の方の回復も時間がかかる。あと延長一か月と言ったところじゃろうな、でなければまた消えてしまいそうになる」

男「……ハァ、もういいよそれで」

貧乏神「にゃはははは!素直でよろしい!これからも私に全身全霊で尽くすがいい!!」

男「……」ギリギリギリギリ

貧乏神「ギャーーーーーーー!!とうとう無言で絞めだしたーーーーーーー!!」


男(事が落ち着いたらコイツは堂々とウチに転がり込んできやがった)

男(幸い、コイツの力が弱まったおかげて金の補充が出来た事が救いか)

男(……福の神としての力も弱まっているせいでご利益も何もないとの事だが)

男(結果、コイツに対する出費が増えているため実質的にマイナスである)


男「まったく……妹になんて説明すべきかな。金の事も……」

貧乏神「よいではないか、嫁を連れてきたと言っておけば。そうすれば出費も致し方なしと思ってくれるじゃろう」

男「ロリコン扱いされるわボケ。友人からペットを預かったって言っておけばいいか……」

貧乏神「何それ酷い」

男「……妹が一人増えたと思えばまだ……気が楽か?」

貧乏神「にゅふふふ、早く妹君と合流したいのう!女子同士会話に花を咲かせたいわ」

男「やっぱダメだ、マジで、お前らホント性格似てるから俺の精神が死ぬ!もう勘弁してくれ!!」

貧乏神「勘弁してほしくば今日の晩飯は味噌づくめにするといい!私に対して善行を積むのじゃ!」

男「調子に乗るな!」


男(わけのわからん非日常が、常に隣にいるのも……まぁ、悪くはないかな)


貧乏神「にゃはははは!」




男「貧乏神といる毎日」貧乏神「なのじゃ!」

おわり

終わった
超久しぶりにSS書いたのと超久しぶりに妖怪話書いたのでダブルパンチで内容がちょっとアレ

もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作
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読んでると座敷童と友人の事がちょろっと分かる程度なので基本読まなくてもいいです

つーか前のSSから1年以上経ってたのかこのシリーズ
自分で書いておいてこう言うのも変だけどマジでいつ終わるんだ……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月18日 (火) 09:40:41   ID: k-oSm4bW

ぶっちゃけまだ続けてほしい。
とても面白い

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