春紀「パートナー」 (104)

悪魔のリドル 第5話辺りの妄想SSです。

エロ描写がありますのでご注意ください。

アニメとドラマCDを参考に作りました。

地の文が多いので読みにくいかもしれません。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422965101

春紀「伊介様ー。こっち手伝ってよ」

大きめのベニヤ板を運びたくて辺りを見回した時、目に付いたのは伊介の姿だった。

伊介「はぁ?なんで伊介が力仕事なんてやらなきゃなんないのよー」

小道具の入った箱に座っていた彼女は面倒くさそうに立ち上がり、春紀のそばへと歩み寄った。

ヒールを履いていない伊介は春紀よりもいくらか身長が低いくせに見下ろす視線が異様に上手い。

春紀「あー……。ネイル、傷になっちゃうか。じゃあ剣持か東にでも声かけてみるよ」

伊介の整えられた爪を見て、呼び付けておいて悪いなと思いながら春紀は遠慮する事にした。

一旦抱えた板を置いて身を翻し、手が空いていそうな人間がいないか体育館内に視線を巡らせる。


そう遠くない場所に兎角を見つけて、春紀は大きく息を吸った。

春紀「あず——」

兎角の名前を口にする前に、唐突に強い力で腕を掴まれた。

もちろんその手の主は伊介である。

伊介「待ちなさい♥もうちょっと食い下がらないの?」

春紀「頼んだら手伝ってくれんの?」

疑いのまなざしを向けると伊介はにっこりと満面の笑顔を作り、


伊介「い・や♥」

はっきりと否定した。

春紀「いや意味分かんねーし」

予想通りの答えに思わず半笑いでため息をつく。

伊介「しつこく頼み込んで来たところに、期待を持たせて断るのが楽しいんじゃない♥」

春紀「なんであたしが伊介様の妙な性癖に付き合ってやらにゃならんのよ」

呆れた声を出すと、すぐさま伊介は春紀の頬を強くひねり、威圧的に顔を近付けてきた。


伊介「性癖ってゆーな♥」

春紀は伊介の手を外し、ヒリヒリと痛む頬をさすった。

少しも手加減をする気のない容赦のなさに素直に感心する。

春紀「お前もやることあるんだろ?適当に暇そうなやつ捕まえてくるから大丈夫だよ」

背を向けて軽く手を振ると、伊介が不満げに息を吐いたのが聞こえた。

伊介「ったくもー……」

自分に素直な伊介が、不機嫌な顔をしながらも気にかけてくれている事が嬉しかった。

本当に我儘で、優しくないけど優しい。

春紀はそんな伊介の事が出会った当初から好きだった。


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舞台裏で針と糸を持つ伊介を見つけて、春紀はにやりと笑った。

春紀「衣装作り?似合わないね」

伊介「うっさい。殺すわよ♥」

口ではそんな事を言っているが、随分と真面目に進めている。

そのうち耐えられなくなって投げ出すんじゃないかと思い、わざと煽ってみたが、やっぱり頑張っているなら褒めてやりたい。

伊介が触っていない裾の辺りを持ち上げて縫い目を見てみる。

春紀「うまく出来てんじゃん。あたしは力ばっかでこんなの出来ないからさ、すごいと思うよ」


お世辞ではない。

本当に綺麗に縫えている。

家族想いなだけあって、家庭的な事が実は得意なのかもしれない。

一つ、伊介を知る事が出来た。

あとは根気がいつまで続くか、だろう。

伊介「こんなことで?まぁ、あんたはマニキュアの瓶を素手で割るくらいだから、細かい作業は向いてなさそうだものね♥」

春紀「仰る通りで……」


愛嬌たっぷりの笑顔が胸にグサグサと刺さる。

先日破壊したマニキュアを思い出すと弁解の言葉もなかった。

弁償はしたが、二人の入れ違いで買ってしまった同じマニキュアは交換という形でお互いの手元にある。

肩を落とす春紀を気にしてか、伊介はちらりと春紀を見て、すぐに手元の衣装に視線を戻した。

伊介「いいんじゃない?さっきあんたのおかげでセットを配置出来たって喜んでる子がいたと思うけど」

口調はため息混じりだったが、きっとそれが慰めではない本音だという事は分かっている。

伊介「伊介にはあーいうの出来ないしー」

春紀「伊介様……」


伊介の気遣いに口元がほころぶ。

春紀が穏やかな気持ちになると同時に伊介が顔を上げた。

そして得意の笑顔を向けてくる。

伊介「野蛮過ぎてって意味だけど♥」

春紀「そりゃどーも……」

軽い憎まれ口は照れ隠しだ。

分かってはいるが、春紀の顔には苦笑いが浮かんでいた。


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ちょっとばかり犬の散歩へ行ってきます。
今日は節分ですよ節分。
毎年太巻きが楽しみでしょうがないのです。
西日本の太巻きに対する情熱は尋常ではないのです。

戻りましたー。

いつもお世話になっております。
見つけて下さってありがとうございます。

続けますね。


陰鬱な気分で大浴場から部屋に戻り、後ろ手で扉を閉めると大きなため息が出た。

春紀「あー……やっちゃった……」

扉に寄り掛かり、頭を抱える。

時間が経つほどに胸の奥の罪悪感が大きくなっていく。

伊介「ちょっとやめてよ、辛気臭い空気持ち込むの。廊下に叩き出されるのとベランダにつまみ出されるのどっちがいいか今すぐ選びなさい♥」

壁の向こうから頭を覗かせた伊介が、あからさまにイラついた口調で言葉を叩きつけてくる。

春紀「伊介様すごいね……。たった一言に対してよくそんなに口が回るよな」


春紀は言い返す気にもなれずにただ感心していた。

伊介「選べっつってんの♥」

春紀「選ぶもなにも、どっちにしても追い出されるじゃん」

半眼で睨むと、伊介は軽くため息をついて目を伏せた。

わざとらしくではなく、自然に出たため息。

それから二秒程経って伊介は顔を上げた。

伊介「で、なによ」


伊介はソファに座り、足を組んだ。

春紀「なにが?」

伊介「その辛気臭い顔の原因よ」

今の彼女の目はなかなか見ることの出来ない穏やかさで、いつもの高圧的な口調もなりを潜めていた。

そんな風に言われるなんて思ってもみなかった。

素直ではない世話焼きな一面が見えた気がする。

伊介の隣に座って、臆する事のない彼女の視線を受け止める。


春紀「聞く気あったんだ」

外に叩き出すと言っていた苛立ちは本気だったはず。

それでも気にかけてくれた事が嬉しくて口元が緩んでしまう。

そんな春紀の態度が気に入らないのか、伊介は口を尖らせて顎を少し上げた。

伊介「つまんなかったら殺すわよ♥」

春紀「辛気臭い空気を出してるやつから面白い話を聞き出す気なのかよ」

殺気の乗った声に春紀は苦笑した。


少し気遣いがあったかと思ったらすぐこれだ。

だがこちらの方が彼女らしいと思う。

伊介「別に笑わせろって言ってるわけじゃないのよ。楽しませろって言ってんの」

春紀「どっちも無理だろうけど……」

何か良い言い回しはないかと一瞬だけ考えたが、そんな雰囲気の内容でもない。

春紀「ちょっと1号室に絡んじゃってさ」

大浴場でのやり取りを思い出す。

今日はここまでにさせて頂きたいと思います。
また明日よろしくお願いします。

こんばんは。
見てくださってありがとうございます。
今日もよろしくお願いします。


とにかく陰鬱だった。

兎角のように挑発に乗ってくるならまだ良かった。

晴の笑顔が浮かんで、春紀は眉をひそめる。

伊介「へぇ?珍しいわね。いつもヘラヘラ仲良しごっこしてんのに♥」

春紀「もうちょっとマシな言い方ないのかよ」

余計な一言に口を尖らせて噛み付いてみる。

本当に怒ったわけではなくて、流れで言い返しただけだった。


伊介もそれに気を悪くした様子はない。

伊介「嫌がらせでもしたかったの?」

春紀「色々考えてたら、嫌な事ばっかり浮かぶんだよ」

家族を守りたい。

それだけを考えられたなら、どんなに楽かと何度も思い悩んだ。

殺したくて殺しているわけじゃない。

そんな言い訳がいつまでも引っ掛かっていて、割り切る事が出来ない。


伊介「ただの八つ当たり?子供っぽいとこあんのね」

春紀「伊介様が言う?」

伊介「文句あんの♥」

春紀「いやないけどさ……」

伊介の物言いは高圧的であっても腹は立たなかった。

彼女は口が悪く、嫌味も悪態も驚くほどにすらすらと言い表す。

それでも嫌な気持ちにならないのは、伊介が相手に執着せず、人と自分の区別をはっきりとつけているからだろう。


本当に大切なものと、それ以外を完全に隔離する覚悟は、きっと彼女の中だけにある心の闇なのだろうと、そう感じていた。

だから春紀は伊介に憧れた。

伊介「いいんじゃないの。人間なんだし八つ当たりもわがままも裏切りも、何したって構わないのよ」

慰めを含まない伊介の言葉には妙な安心感があった。

何をしても構わない。

それは、何をされても構わない、と言っているようなものだった。

そして何かをされたなら彼女は容赦なく反撃をするのだろう。


大切な物以外に興味を示さない思い切りを、春紀は切望した。

春紀「……そっか。ありがとね、伊介様」

伊介からのアドバイスは、彼女が春紀を同等に思っている証拠だ。

それでも春紀には伊介の真似は出来ない。

大切なものはあっても、どこか自分を捨てきれない部分があって、春紀には全てを取るか失うかの極端な二択しかなかった。

自分のしている事が家族を守る為の犠牲だと自覚した時点で、無理をし続けている事は分かっていた。

伊介「なによ、気持ちわるっ」


笑いもせず、眉をしかめる伊介の姿が印象的だった。

そんな風に普段から思った事を顔に出せるなら、こんなに苦しむ事はなかったのかもしれない。

春紀「あたしさ、伊介様が好きだよ」

今までにないくらい穏やかな気持ちだった。

いつの間にか大浴場での事なんて頭から抜けて、伊介の事しか考えられなくなっていた。

伊介「は?なにそれ」

春紀「そういう自由なとこ、いいなって思うんだ」


何かが解決したわけではなかったが、春紀の気分を汲み取ったのか伊介は一瞬困ったように笑った。

そしてすぐに顎を上げて胸を張る。

伊介「ストレスは嫌いなんで♥」

春紀「あたしの事は?」

答えを分かっていて、わざとからかうように笑ってみせる。

伊介は優しくにっこりと笑い、愛想の良い高い声ではっきりと告げた。

伊介「ウザい♥」


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早めに目が覚めた。

いや。

実はうまく眠れなかったのかもしれない。

まだ登校時間までだいぶ時間がある。

春紀は眠っている伊介に気を遣ってゆっくりと起き上がった。

音を立てないよう、そのまま洗面所へ向かう。

そして扉を開く直前、

伊介「やるの?」

背後からの声にびくりと身を震わせた。


春紀「起きてたのか。驚かせるなよ」

大きくなった心臓の音を押さえ込み、平静を装ってゆっくりと振り返る。

驚いたのは伊介が起きていた事ではなく、これからの行動を見透かされていたからだった。

春紀「なんでそう思うの?」

表情が強張らないように注意を払い、意識しながら口元を緩める。

伊介「あんたの殺気で寝不足なんだけどぉー♥」

身を起こして春紀を見るその目は、軽い口調に反して少しも笑っていなかった。


そしてそれは春紀も同じだ。

無理をして笑顔を取り繕ったところで、自分には向いていないことくらい分かっている。

春紀「意外に鋭いんだな」

伊介「失礼ね♥普段から伊介は色んな事をちゃんと気にしてるもの」

口だけではない事は彼女の目が語っている。

隠しても誤魔化しても意味はない。

春紀「今日、やるよ」


覚悟は決めた。

苦しい想いはまだ残っているが、これが最後だと思って心を抑え込むように拳を握りしめる。

伊介「結構強いわよー、東兎角」

春紀「うん。準備はしてる」

兎角についての噂は聞いていた。

彼女の方がずっと強い事も分かっている。

我流の体術を使う春紀にとって、兎角は出来る限り戦いたくないタイプだ。


伊介「そう」

伊介は興味なさげに春紀から顔を逸らしたが、目を伏せた時に一瞬眉をしかめたのが見えた。

春紀「なぁ、伊介様」

ベッドに膝を乗せ、伊介の手首を掴むと力任せにぐっと引き寄せる。

伊介「こら近寄んな」

焦る様子はなく、ただ伊介は面倒臭そうに半眼で春紀を睨んだ。

春紀「嫌なら嫌でいいよ」


伊介「邪魔」

春紀「じゃあ殴っていいから」

冷たい言葉を無視して、春紀は伊介に顔を寄せた。

伊介が逃げられるようにゆっくりと近付いて様子を窺うが、彼女は抵抗も逃げる事もしない。

そのまま春紀は伊介の唇にキスをした。

殴られてもいいと思っていたのに、伊介からは嫌悪する様子は伝わってこない。

春紀「伊介様……」

今日はここまででお願いします。
明日は朝早いので、犬の散歩行ってそのまま寝ます。
おやすみなさい。

こんばんは。
進みが遅くてすみません。
本日もよろしくお願いします。


確認するように伊介の名前を呼び、もう一度口付ける。

伊介の口からわずかに漏れる吐息が艶めかしくて、春紀の思考はそこで止まった。

伊介「んっ……」

春紀の唇は伊介の顎の下から首へと這い、手は腰を撫でていく。

首に舌を当てて軽く舐めた後、そこを強く吸うと伊介の体がびくっと震えた。

伊介「このっ……、がっつくなっ!」

体を突き放され、春紀の体がよろめく。


伊介が抵抗しないものだから、つい調子に乗りすぎてしまった。

伊介「もうちょっと相手の事考えなさいよ」

春紀「ごめん……」

申し訳なさに俯いていると、伊介が身を寄せてきた。

伊介「見える所に跡を付けるのはマナー違反よ?」

耳元で囁き、春紀の服の裾に手を差し込む。

春紀「い、伊介様……?」


緊張に体を強張らせていると唇をぺろりと舐められた。

顔が一気に熱くなるのを感じる。

何が起こっているのか、まだ状況が飲み込めていない。

春紀「……怒ってないの?」

恐る恐る尋ねると伊介はにっこりと笑った。

この人は笑っている時が一番怖い。

伊介「怒ってるわよ。首に跡付けんな♥」


春紀「それだけ?」

伊介「それだけって……。なによ、嫌がって欲しいわけ?」

春紀「そうじゃないけど……」

すんなり受け入れてもらえるなんて思っていなかったから拍子抜けをしてしまった。

戸惑いはあるものの、それでも欲求は自分の中で渦巻いていて、伊介の体から視線を外せないでいる。

伊介「続き、しないの?」

伊介の声に誘われて、春紀は彼女の太腿からスカートの中にかけて手を滑らせていった。


春紀「伊介様のお尻、かわいい……」

女性らしい体付きを楽しみながら、春紀はもう一度首に口付けた。

今度は跡を付けないようにそっと舌を這わせる。

伊介「あ……っ」

春紀「伊介様……」

興奮に息が上がっていく。

もっと伊介の体を見たい。


服を脱がしていくと、伊介も同じように春紀の服に手を掛けた。

伊介を押し倒して、愛撫を繰り返すうちにお互い纏うものはなくなっていた。

春紀「おっぱいでか……」

仰向けに寝た伊介を見下ろし、彼女の胸に触れる。

標準よりやや大きい春紀の手でも覆いきれない。

弾力で指が埋もれてしまいそうだった。

形のいいそれの先を口に含み、舌で押しつぶす。


伊介「ん……ふ……」

始めは柔らかかったその部分はすぐに硬くなって春紀の舌を押し返してきた。

伊介「あ……あっ、んっ」

段々と艶のかかった声が漏れてくる。

伊介の鼓動が伝わってきて、彼女が興奮している事を知ると春紀の胸も高鳴った。

いつもはそっけない伊介と心が繋がっている事が嬉しくて仕方がない。

どうしても何かを残したくて、伊介の胸を持ち上げると付け根にキスをして強く吸った。


伊介「んんっ……!」

この位置ならきっと簡単に見られる事はない。

春紀は伊介に馬乗りになって両手で胸を揉んだ。

少し強引に、次に優しく、根元から持ち上げて先まで撫で回した。

その度に伊介の表情が見える。

感じている姿が可愛くて、ずっと見ていたかった。

しかし、

伊介「……胸ばっ、か……触るな……っ!」

耳を引っ張られて春紀の体がよろめいた。


春紀「いたたた……っ」

伊介「あんた胸フェチ?」

耳をさすっていると蔑んだ目で見られた。

実はそんな視線にもときめいているなんて言ったらまた怒られるだろうか。

春紀「ずっと触ってられる自信がある」

伊介「キモい♥」

春紀「伊介様のだけだよ」


伊介「……じゃあ許す」

怒るわけでも笑うわけでもなく、素のままの表情が新鮮だった。

春紀「伊介様……」

覆い被さって静かに名前を呼ぶ。

軽く唇を重ねると、続けて舌を差し入れる。

春紀のぎこちない舌使いに対して、伊介はそれを可愛がるように優しく舌を絡ませた。

手は腰や背中を撫で、脚を擦り合わせて春紀を誘う。


春紀の指先は伊介の思惑に沿って腿をなぞり、その根元へ触れた。

春紀「もうぬるぬるじゃん……」

粘りのある体液が指にまとわりつく。

伊介の体を確かめるように何度も入り口に指を這わせていると、彼女の腰が揺れた。

春紀「我慢できない?」

意地の悪い言い方をして伊介をからかい、焦らすつもりだった。

伊介「……早く……ぅ」


伊介の素直な言葉に、単純な春紀の心は簡単に呑まれてしまった。

心臓の音が大きくなり、息苦しくなる。

焦らす余裕もない。

春紀「入れるよ……」

興奮を抑えてゆっくりと指を差し込む。

伊介「あ……ぅ……」

飲み込まれるように指が奥へ進んでいく。


直接触れる粘膜は肌の体温よりずっと熱かった。

中指で伊介の中を探る。

春紀「すげー……、伊介様の中、気持ちいい……」

指を圧迫してくる肉壁をなぞり、伊介の反応を確認する。

伊介「は……、んっ」

頬を上気させて目を細める伊介はいつも以上に色気をまとっていて、春紀はこくりと喉を鳴らした。

春紀「痛かったら言ってくれよな……」


自分が不器用で遠慮のない馬鹿力だと自覚している。

伊介を傷付けないようにゆっくりと指を往復させていくと、彼女の腰がまた揺れた。

伊介「もっとぉ……っ」

胸の奥から一瞬で全身に血が駆け巡るような感覚。

伊介のたった一言で、春紀の欲望が表面化する。

春紀「あたし、結構我慢強いタイプのはずなんだけどな……」


ぽそりと呟き、春紀は指を強く突き入れた。

人差し指と中指で中をかき回す。

伊介「あぁんっ!……ァ、う……んっ!はぁ……っ!!」

春紀「ここ、一番声出てる……。イイの?」

伊介「ふぁっ!あっ!」

返事はなかったが、そこを攻め続けると中が狭くなってくるのを感じた。

空いた手で伊介の脚を広げ、さらに奥まで指を進めていく。


溢れた体液が股をぐっしょりと濡らしている。

感じてくれている事が嬉しくて、心が張り裂けそうだった。

しかしどうやってそれを発散したらいいかが分からない。

春紀「伊介様っ……!」

好きだと叫んで、キスをして、抱きしめたら、きっと幸せなんだろうと思う。

きっと伊介もそれに応えてくれるだろう。

しかしそうなったら今の目的を見失ってしまいそうだった。

何も考えず激しく指を動かし続ける。


伊介「ンんっ!ふぅ……っあ!あぅっ!」

伊介の嬌声と粘液が混ざる音が頭に強く響いた。

何度も名前を呼んで、その声と行為にただただ気持ちを乗せる。

指先にぐっと力を入れて伊介の奥を刺激すると、彼女の体が一瞬硬直した。

中が強く締まったかと思うと、緩くなって、またすぐに締まる。

ぐったりとする伊介を見て、彼女が達した事を悟った。

春紀「伊介様、大丈夫?」


顔を覗き込むと背中に手を回され、抱き寄せられた。

春紀「伊介様?」

声を掛けても伊介は何も言わないまま息を切らして春紀を抱きしめている。

心臓の音がとても温かい。

春紀は伊介の背中に手を回して、その温もりを逃さないようにぐっと抱きしめた。

体温も匂いも感情も、今全身で彼女を感じている。

このままずっと離れたくなかった。


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今日はここまでとさせていただきたいと思います。
あと2、3日で終わらせられると思います…たぶん。
また明日よろしくお願い致します。


あいつは何も言わずに出て行った。

せっかくアドバイスをしてやったのに。

イライラするのは無視をされたからだと考えながら、落ち着きのない動作で時計を見た。

そろそろ23時になろうとしている。

気分転換だと自分に言い聞かせて、伊介は寮の外へと向かった。

確実な目的地があるわけではなくて、なんとなく気になる場所へと足が向いた。

その途中、向かい側から人が歩いてくる気配を感じて立ち止まる。


両足に均等に体重を預け、利き手を少し引いて相手の動きを見張った。

鳰「おぉおおっ!?伊介さん何してるっスか!」

暗がりの向こうから姿を見せたのは裁定者だった。

わざとらしく驚いたような仕草。

そういう態度にたまらなく苛立ったが、今はそんな事はどうでも良い。

伊介「たまたま通りかかったのよ。あいつは?」

鳰が歩いてきた方へと目を向ける。


街灯の建ち並ぶ道の向こう。

その先には体育館がある。

春紀が舞台のセットに色々と関わっていたから、準備というのはそのセットへの細工だと予想は付いていた。

それに彼女自身楽しそうに作業をしていたから、あの場所には暗殺以外にも思う事があったはずだ。

鳰「こんな時間にたまたまっスか……まぁいいっス。春紀さんは失敗したっスよ」

伊介「そんな事は分かってるわよ。あのバカはどうなったって聞いてんの」

鳰の態度を見るまでもなく、始めから暗殺が成功するとは思っていない。


むしろ成功しない方がいいと考えていた。

春紀が今後さらに苦しむ事が分かっていたからだ。

鳰「あちこち裂傷や骨折があるっスけど命に別状はないっス。さっき病院に運ばれたっスよ」

伊介「そう」

鳰には悟られないよう心の中で安堵の息を吐く。

東兎角なら春紀にとどめを刺すような事はしないだろうが、春紀自身が無茶をするんじゃないかと思っていた。

生きているならそれでいい。


伊介は体育館へは向かわず、鳰に背を向けた。

鳰「どこの病院か聞かないんですか?」

伊介「聞いてどうすんのよ。お見舞いにでも行けって?バカじゃないの♥」

顔だけ鳰に振り返り、思い切り嫌味に笑ってみせる。

そんな事で鳰を不愉快にさせる事は出来ないだろうが、威嚇くらいはしておかないと気が済まない。

鳰「それもそうっスね。さぁ、次は誰かなー」

尖った歯を見せて笑う姿に嫌悪を覚えて、伊介は歩き出した。


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こんばんは。
少し空いてしまってすみません。
出来れば今日中に仕上げたいと思っています。
よろしくお願いします。


何もする事がなくて病室の窓からぼーっと外を眺めていると、コツコツと偉そうなヒールの音が聞こえた。

今まではヒールの音といえば、仕事の出来る大人の女というイメージだった。

しかし人によって足音は大きく違って、ヒールはヒールでも踵を擦るような疲れた音が混じったり、つま先から着地して濁った音を立てている事も多い。

こんな音が気になってしまうのは伊介のせいだった。

今聞こえる姿勢の良さそうな、堂々としたヒールの音は彼女を連想してしまう。

伊介「結構いい部屋じゃない♥」

春紀「うわ本人だ」


開きっぱなしの個室の扉の方から入ってきたのは伊介だった。

伊介「挨拶もなしになによその態度」

春紀「伊介様こそ挨拶してないじゃん」

高圧的な態度が懐かしくて呆れながらも嬉しさが顔に出てしまう。

暗殺に失敗してから一週間。

伊介の事を考えない日はなかった。

伊介は扉を閉めると、春紀のそばに寄ってきた。


伊介「あんた、伊介があげたマニキュア置いてったでしょ。信じらんない♥」

以前交換したマニキュアをバッグから取り出してサイドテーブルに置く。

春紀「それは……」

荷物の事は何も考えていなかった。

荷物に限らず、後の事はどうでもいいと思っていたから。

伊介「死ぬつもりだったなんて言い出したら殺すわよ」

春紀「……ごめん」


本気で怒っている伊介を見て肩をすくめる。

それと同時に無性に嬉しくなった。

長女の春紀にとって上から叱られるのは新鮮だった。

伊介「馬鹿正直ね。適当に否定しとけばいいのに」

大きくため息をついて、伊介は春紀のベッドに腰掛けた。

椅子もあるのにわざわざここに座るのが伊介らしくて笑みがこぼれる。

さっきから嬉しくなってばかりだった。


春紀「でもなんでここが分かったんだ?」

伊介「ミョウジョウ学園に繋がってる病院なんてちょっと調べればすぐ分かるわよ」

ミョウジョウ学園は政治家や大企業との繋がりも深い。

不審な事故、事件に関しての対応をする施設は各所にある。

春紀がいる病院もその一つだった。

春紀「部屋は?」

伊介「貧乏には分かんないでしょうけど、そういうのは大体お金で解決できるの」


春紀「あたしのためにお金を使ったのか?」

伊介「そうよ。感謝してよね♥」

挑発するように伊介の指が顎にかかる。

伊介にとっての金銭は、家族への愛情の表れだった。

期待してしまいそうになる気持ちを必死で抑え込む。

春紀「かっこ悪い姿見られて、なんで感謝しなきゃならんのよ」

伊介「ほんと。完膚無きまでにやられたわね」


伊介は骨折した腕や、あちこちに巻かれた包帯に視線を移した。

打ち身や捻挫もあるから実はあまり動けない。

春紀「全くだよ。完敗」

伊介「すっきりした顔しちゃってさー。なんなのよ、ウザっ♥」

苛ついたような態度だったが、一瞬目を細めたのが見えた。

それだけで胸がいっぱいになる。

春紀「吹っ切れたっていうか、もう頑張るしかねーんだなって思ったんだよ」


伊介「仕事続けるの?」

春紀「いや。暗殺はやめる」

もう限界だった。

相手が誰であったとしても、もはや屍を踏み台にして立ち続ける堅忍さは春紀にはなかった。

伊介「あんた、まともな仕事であの人数を養って行けると思ってんの?」

春紀「まぁ……その辺も頑張るしか……」

伊介「あんただけが犠牲になるっていうところは全く変わらないって事ね?」


春紀「はい……」

伊介の一言一言が胸に痛い。

気持ちの整理はついたものの、現実的な問題は何一つ解決していない。

母親の治療費の工面だってまだ出来ていないのだから状況はより切迫している。

伊介「じゃあ伊介が仕事を紹介してあげるわ♥」

伊介はベッドから立ち上がり、わざわざ胸を張って春紀をさらに高い位置から見下ろした。

春紀「あたしはもう暗殺は……」


どんなに追い詰められても暗殺はしたくなかった。

危険な仕事でも、体を使った仕事でもいいから人を殺すのだけは心が追い付けない。

しかし春紀の言葉を無視して伊介は続けた。

伊介「伊介ね?暗殺以上に好きじゃない仕事があるの♥ママからやれって言われるからしょうがなくやってきたんだけどどうにも性に合わなくてさぁ♥大体クライアントと喧嘩するのよねー」

春紀「誰とでも喧嘩しそうだから今更驚きもしないけど……」

いつも上からの目線で、口を開けば嫌味が出てくるのだから怒る相手だって少なくはないだろう。

伊介が悪いとは言わないが、少しくらい慎ましくあったっていいんじゃないかという思いもある。


伊介「向いてないのよ。護衛とか警護って」

春紀「あー……そりゃ向いてなさそうだね……」

思い出すように宙を見ながら腹立たしげに口を尖らせていた伊介が、ふと表情を変えて春紀を見た。

そしてにっこりと笑い、肩を掴んでくる。

伊介「だから、あんたがやってよ♥」

春紀「はい?」

伊介「あんたは向いてんでしょ。そういうの」


何となく話の流れからそうなんじゃないかとは思っていた。

護衛だからといって人を殺さなくて済むわけではないかもしれない。

それでも殺す事が目的ではないなら、十分に救いはあった。

そして今まで助けてくれる人がいなかった中で、本当に自分を想ってくれる人がいた事が、春紀にとっては何よりの救いだった。

春紀「ありがとな」

伊介「うっさいわね。伊介は伊介の嫌いな仕事を押し付けただけ」

春紀「それでも助かるよ」


少しは照れるかなと思っていたのに、相変わらず伊介は不機嫌な顔をして冷たい態度を取る。

もしかしたら怒って誤魔化しているだけかもしれないと思って、今の伊介の顔は大事に心の中に留めておく事にした。

春紀「それにさ、これからも一緒にいられるならそれが一番嬉しいよ」

伊介「なにそれ。バカじゃないの♥」

春紀「バカじゃねーよ。あたし、伊介様と一緒にいるの好きなんだ」

ずっと伊介が好きだった。

自由で、高慢で、我儘で、家族想いの伊介にずっと憧れていた。


この人のそばにいられるならこんなに幸せな事はない。

伊介「ふーん……。伊介は別にどうでもいいんだけど~」

伊介は視線を逸らして呆れたようにため息をついた。

いつもと変わらない態度に見えたが、手の動きに落ち着きがない。

頬を掻いたかと思ったら首元をさすったり、爪の様子を見ていたり。

春紀「照れてんの?」

意地の悪い笑みを浮かべると、伊介の表情が一気に崩れた。


伊介「っ——!照れてないっ」

牙をむくように威嚇してくるが少しも迫力がない。

春紀「顔赤いじゃん」

首まで赤くなる伊介が可愛くてさらに突っ込んでみると、彼女の目が途端に鋭くなった。

伊介「春紀!殺すわよ!」

キレた。

襟首を乱暴に掴んでくる伊介の剣幕に、春紀は思わず両手を挙げた。


春紀「びょ、病院で物騒なこと叫ばないで!?」

伊介「あんたが変なからかい方するからよ!!」

掴んだ時と同じ勢いで春紀を投げ出すと、伊介はまた不機嫌に口を尖らせた。

笑ったり怒ったり忙しい人だ。

その割にきっと感情の起伏は激しくない。

伊介「とりあえず今日は帰るから。それと、あんたの家にお金送っておいたから仕事で返しなさいよ♥」

春紀「えっ……えぇぇっぁぐっ!?」


手加減なしに頭を叩かれて軽く舌を噛む。

けが人に対しても容赦がない辺りはさすがだと思う。

伊介「病院で大声を出すな♥」

春紀「伊介様、ありが——」

伊介「ただの前貸しよ。実質はあんたの金なんだから礼なんかいらないわ。さっさと治して働け♥」

春紀の言葉を遮り、伊介は背を向けた。

そしてそのまま扉へと向かって歩き出した。


春紀「また来てくれる?」

伊介「辛気臭いところは嫌いなの♥」

即答する伊介の背中からは名残惜しさが見えた。

ちらりと春紀を見やるその視線を受け止め、春紀は満面の笑みを向ける。

きっと次に伊介は素直ではない言葉を紡ぐはずだ。

伊介「気が、向いたらね」

この想いは自惚れではないと確信している。

勢いで名前を呼んだ彼女の声を心の大事な部分にしまい込む。

次に会える日を楽しみに思う事が、今の春紀の幸せだった。


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春紀「だからって翌日に来るとは思わないじゃん」

伊介「うっさい。嫌なら帰るわよ♥」

笑いながら睨んでみるが今の春紀には通用しそうにもない。

春紀の緩みっぱなしの頬を見れば、伊介がここへ来た事をバカみたいに喜んでいる事は分かっている。

伊介「気が向いたのが今日だったのよ」

別に理由などない。

驚かせようと思って続けて来てみたのに、春紀が隠そうともせずに喜ぶものだから伊介の悪戯心は引っ込んでしまった。


あんな風に屈託無く笑われたら、こちらだって嬉しい気持ちにくらいはなる。

春紀「明日も気が向く?」

調子に乗り始めた。

しかし彼女は実のところはきっと期待なんてしていない。

していても半分。

春紀は自分自身の欲に関して、いつも一歩引いた所から見ている気がした。

自分のために生きる事を我慢している子。


伊介「どうかしら。あたしがそんなに暇に見える?」

わざと気を持たせた言い方をする。

諦められるのではなく、諦めさせるように仕向けるのは得意だった。

春紀「暇じゃないのに来てくれたならもっと嬉しいよ」

しかし捻くれた伊介の発言は春紀には通用しない。

春紀の犬みたいにストレートな愛情表現は嫌いではなかった。

素直に笑う姿を見ていると嫌味や悪態は野暮だと思う。


伊介「……考えとくわ」

結局心を動かされたのは伊介の方だった。

春紀に背を向け、ベッドに腰を掛ける。

こうして近付くだけで春紀の体温が伝わってくる気がした。

春紀「伊介様……」

真剣な声に少しだけどきりと胸が高鳴る。

伊介「なによ」


それを隠したくて春紀を見ないまま低めに返事をした。

春紀「あたしさ……」

シーツを撫でる音が聞こえる。

動作に落ち着きがない。

迷いの吐息が微かに耳に届いて、もどかしい気持ちになった。

伊介「さっさと言え♥」

耐えられずに催促をする。

すると春紀が軽く息を吸ったのが聞こえた。


伊介は振り返って穏やかに笑う春紀と目を合わせる。

春紀「なんでもない」

彼女はまた我慢をした。

それはいつもの誰かのための我慢ではない。

前を向いてその先を考えられるようになったのなら、伊介はそれで良かった。

伊介「そう」

春紀「うん……」

春紀が言いかけた言葉は分かっている。


そしてその返事も用意してある。

伊介「言えるようになったら言いなさいよ」

春紀「うん」

伊介はベッドにそっと手を置いた。

すぐ隣には春紀の手がある。

ほんの数センチ。

この距離はまだ埋まらない。



終わり



以上となります。

お付き合い頂きましてありがとうございました。
2号室は難しくて、好き勝手書いてしまったのでしっくりこない部分も大いにあると思います。
春紀さんも伊介様も大好きなんで、また何か書けたらいいなと思っています。
見てくださった方、本当にありがとうございました

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