エレン「ドリフターズ?」 豊久「大将首二ツ目」(1000)

※原作ばりにスローペースで更新予定。
 時系列的にはドリフ側はドワーフ解放前。進撃側は女型編前くらいを想定。
 間違いあったら指摘してくださるとカルタゴが救われる。
 進撃の巨人15巻まで未読の方は超絶注意してくだちい。

前スレ:エレン「ドリフターズ?」
    エレン「ドリフターズ?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1376710578/)

 このスレで終わるよ。絶対終わるよ。早く終わらせたいよー。

※やあ。ついさっき帰ってきたよ。

 山梨に出張だったんだよ……ワインばっか飲んでたわ。俺いなくてもよくね? ってレベルの仕事だった。

 遊ぶところもねえしな。なんだあのド田舎は。若者はどこで遊んでんだよ。甲府駅前はキャバクラばっかだけど。

 うん、それでね。うん。書き溜まらなかったんだ、ごめんなさい。

 んで明日も仕事なんだ。多分木曜か金曜に代休取るからそこで。うん。マジで疲労困憊なんだ。すまん。

 すまんサスケ、これが最後だ……。



……
………


超大型「――――――(なんだ)」


 五体を掠め行く死線を、立体機動術を駆使し、踊るように躱していく。それはさながら熟年の兵士の如く軽やかな機動だ。

 飛び交う豊久に対し、ベルトルトは幾度拳を振るっただろう。

 幾度壁上を薙ぎ払い、砂礫をまき散らしただろう。

 その度に豊久は、紙一重のタイミングで体を躱す。

 しかし、いかに超大型巨人の動きが鈍重であれ、その腕力によって巻き上げられた石礫までは躱せない。

 島津豊久とて無傷ではいられず、全身には細かな擦過傷が目立ち、額からは一筋の血を流していた。

 かろうじて致命傷や行動不能となる怪我を避けてはいるものの、ガスが尽きればもはやそれまで。

 ベルトルトは確信する。

 ――――自分が有利だ。己が優勢だ、と。

 なのに。

 なのに。


 どうしてだ。

 ベルトルトは自問する。幾度となく自問する。

 返ってくる答えは同じだ―――――勝てる気が、しない。

 豊久に傷を与えるたび、焦燥感と苛立ちばかりが募っていく。


ベルトルト(こいつはなんだ。なんなんだ)


 ざらざらとして濡れている質感の壁を撫ぜたような不快な感覚が、ベルトルトの背に伝わる。

 一目見た時からそうだった。カラネス区で遠目に見た時から、この男が尋常ではないと理解していた。

 人一倍臆病なベルトルトだからこそ、島津豊久という化け物の恐ろしさを理解できた。


豊久「―――――――――――――くは」

ベルトルト(なぜこいつは、笑っている)


 島津豊久は、正気ではない。

 正気にして狂気のそれだ。異世界の価値観、異世界の時代、それがいかなるものであるかはベルトルトには想像もつかない。

 だが、彼が生粋の兵士であることは理解した。対巨人戦ではない。対人戦闘。人を殺すための技量のみを煮詰め続けてきた、真正の殺戮者。


豊久「は――――――はは、はははは」

ベルトルト(やめろ。その笑みをやめろ。悍ましい。忌々しい。不快だ。気に入らない)


 怒りと共に両腕を薙ぎ払う。掠るだけで人の四肢など根元から吹き飛ぶ威力の双腕は、やはり当たらない。

 ますます豊久の笑みは深まり、その瞳には蔑みが募っていく。

 嘲笑、だ。島津豊久は、ベルトルト・フーバーを見下している。憐れんでいる。

 獲るべき価値もない首だと。降り首以下の存在だと。


超大型「――――――――――――ッ」


 苛立ちが募る。

 なんだ。なんなのだおまえは。なんなのだおまえたち(ドリフターズ)は。

 何がそんなにも―――――。


豊久「―――――何が可笑しいか? とでも聞きたそうな顔じゃな、べるとると」

超大型「ッ…………!!」

豊久「なあに、お主があまりにも滑稽での。可笑しゅうて可笑しゅうて仕方ない」


超大型「……………?」

豊久「なんじゃ。お主ら『きょじんかのうりょくしゃ』も口ば利けぬのか。なあに、簡単なことぞべるとるとよ―――――お前はお前のきょじんとしての役目ば理解しておらぬ」

超大型「―――――」

豊久「それがあまりに可笑しゅうて、笑っておったのだ」


 ベルトルトは、自分の巨人化の特性というものを十全に把握している。

 ライナーの、鎧の巨人の耐久力は他の巨人たちと一線を画し、膂力に優れる。速度はさほどでもないが、その頑強さに物を云わせた突撃能力こそが持ち味である。

 アニの、女型の巨人の特性は、その万能さにある。敏捷性に優れ、皮膚を硬化し、奇行種を呼び寄せる。強襲制圧としてこれ以上の能力はない。

 しかし超大型ほどの巨体はなく、壁上に既に上ってしまった兵団員たちを殺す手段はない。

 超大型ならば壁上の連中を殺せるか? これも否。超大型はその60メートルを超える巨体と引き換えに、敏捷性は並の巨人以下である。

 全身から蒸気を吹きだすことによって兵士たちを近づかせないことは可能だろうが、それとて時間制限がある。


豊久「お主ん体はデカい。力も強か。そこにおるだけで脅威となる。ばってん、俺一人にかかずってどうとする?」

豊久「お主ん役目は『威』じゃ。そん馬鹿デカい巨体だけで兵子ん心根ば竦む。その腕ば揮うだけでん兵子ん肝ば縮む」

豊久「棒火矢ん一撃も、蒸気ば吹いちょる間は効かぬであろう。お主は『砦』じゃ。動く砦となって、他んきょじん共ん要ばなるべきであった」


超大型「……………」


 正論であった。怒りに我を忘れ、いかに脅威とはいえ唯一人である豊久一人を追撃し、己という砦を、戦力を遊ばせてしまった。

 それは間違いない。ベルトルトは一瞬だけ冷製を取り戻し―――――しかし、豊久がわざわざそれを己に告げた本意を想像した瞬間、思考が凍り付いた。

 何故、豊久は敵である己にそれを教えた?

 豊久は己の役目を理解している。

 超大型という砦を己一人に誘因し、巨人勢の力を分散させること。

 しかし真実を告げたということはつまり。

 もう、その必要がなくなったと言うこと。


超大型「ッ――――――!!!」


 振り返る。一も二もなく、敵である豊久に背を向ける形になったが、そんなことは埒外であった。

 そして気づく。


 遠くシガンシナ壁外南で戦っていたはずの女型の巨人が―――――アニの姿が、消えている。

誤字
×:ベルトルトは一瞬だけ冷製を取り戻し
○:ベルトルトは一瞬だけ冷静さを取り戻し


超大型「………ア………アイ」


 呂律の回らない巨人体の口を動かし、アニの名前を呼ぶ。

 何故アニがいない。どうして。どうして。

 アニが負けた? 捕らわれた? 死んだ? どちらだ。


豊久「ようやっと気づいたんか、間抜け。ついでにしがんしなの壁上を見やれ。面白いものば見れっど」


 思考の間隙に、豊久の愉悦の籠った声が滑り込む。

 自然と、豊久の言う壁上に視線が映り――――――。


ベルトルト(……………あ)


 ベルトルトは、いかに己が愚かであったかを悟った。



……
………


………
……



 獣の巨人は己の勝利を確信していた。

 なんのことはない。このまま時間が経過するだけで、勝手に調査兵団の面々は全滅する。

 ガス切れ、ブレード切れ、そして奇行種たちに食い殺され、後は屍が残るだけだ。

 鎧は『座標』を打ち倒した。彼がエレン・イェーガーという『座標』さえ確保できれば、後はどうとでもなる。

 否、獣の巨人にとって、『座標』を得て故郷へ戻るも、壁内人類を全滅させて故郷に戻るも、どちらでもよかった。

 女型がしくじったことについても、いかほどの痛痒も感じてはいない。死んでいようとしぶとく生き延びていようとどちらでも良かった。


 ―――――壁上の、その光景を目の当たりにするまでは。


獣の巨人「――――――――――あ、やべえ」


 壁の上を、三頭の馬が駆けている。

 最初は単なる伝令役かと捨て置いた。

 だが、そのうちの一頭を駆る人間が背負っている物がある。


 獣の巨人に備わった超常の視力が『それ』がなんであるか認識した瞬間―――――考えるより先に、獣の巨人は壁に向けて駆けていた。

 己に矢を射掛ける与一という脅威も埒外に、四足をもって大地を蹴る。まさしく『猿』そのものの機敏な動きで与一を追い越し、『それ』を運ぶ者達を亡き者にせんと、ひたすらに加速する。

 それは獣の巨人が想定していた状況の中、遥か斜め上を行く最悪の状況であった。
 
 よりにもよって。よりにもよって。



エルド「――――よし。やっこさん、こっちに気づいたみたいだぜ」

グンタ「オラッ! こっちだ獣野郎!! 俺らをどうにかしねえと、おまえら大変だぜ!」

オルオ「ぐ、ち、畜生。なんでオレがこいつを背負ってんだよ…………あっ、ち、血が付いた。くそ、くそ、くぶふぉっ!?」ガブッ

アニ「……………」グッタリ



 ―――――よりにもよって。

 アニ・レオンハートを捕獲したまま、この戦場を離脱しようとする輩がいるなどと!!!



……
………


………
……



信長『―――――えるどとぐんたに、内地へと伝令に向かわせる『フリ』をさせる。おるおはその護衛だな。ウォールマリアの壁上を東に戻るように進路を取らせよ。フリだけな。なんらかの動きを見せるやもしれんぞ?』

エルヴィン『アニ・レオンハートを連れて、か?』

信長『うむ』

リヴァイ「!! 成程、トヨヒサが西へ西へと超大型を『釣った』のは―――――」

信長『そこまで考えていたわけではなかろう。だがそうすべきだとは理解していたんだろうよ。まっこと恐ろしい奴。『釣るための『釣り』』というヤツか』

リヴァイ「そいつを真似ようってか」

エルヴィン『……妙手かもしれん。とっくに水晶球で内地で待機している調査兵には伝わってはいるが………『獣』と『女型』は通信用水晶球の存在を知らない。慌てて伝令役を追いかける可能性もある』



 例えどんなに美味しい木いちごが相手の手の内に在ろうとも、手の届く範囲であれば安心できる。

 しかし遠くある木いちごには手が届かない。

 このままアニを内地へと送還させてしまえば、仮にここの調査兵団たちを全滅させたところで、巨人側にとって状況は悪くなる。

 ライナーとベルトルトは顔が割れている。獣の巨人の能力や特性も報告されるだろう。


 何より、アニ・レオンハートという『巨人化能力者』を、壁内の誰かに『食われて』しまったら――――状況は五分か、それ以下か。

 棒火矢という兵器の有用性を知った人類は、これよりこぞってその兵器の力で巨人を絶滅せんとするだろうことは、想像に難くない。


リヴァイ「超大型は見ての通りのウスノロ、『鎧』も馬の速度には及ばず、壁上を走る馬を捕えられる術もない。となれば比較的速度に長ける『獣』が動く可能性は高い…………そうなれば儲けものだな」

エルヴィン『リヴァイ、そういう君も随分とノブナガの卑劣な考え方が染みついたようだな』

リヴァイ「やめろ。軽く死にたくなる」

信長『お主らアレだろ俺のこと嫌いだろ。無礼討ちにすんぞコラブッ殺すぞああ?』

リヴァイ「さておき試す価値はある。『獣』が釣れればしばらく奇行種の増援はなくなる。その間にヨイチらに奇行種共を全滅させ、鎧の排除に当たらせる」

ハンジ『これで一手は埋まった。だが残り一手―――――それを、どうするか。こうなれば、巨人どもは何が何でもエレンを確保しようと必死になるぞ』

信長『万事人事は尽くした。後は天命を待つのみ。なぁに、すぐよ。俺の経験上、必ず戦局は動く。

  桶狭間ん時みたいに、意外すぎるモンが噛みあって、意外なところから戦局は動く。必ず機は訪れる。

  足りぬ一手は、しびれを切らして勝手に向こうから手ェ伸ばしてくるだろうよ。必ずな。儂らはその機を逃さず突けばそれで良い』


 それに、と信長は告げる。


信長『――――案外、与一が『獣』をどうこうするかもしれん。あやつもこの二週間を遊んでいたわけではない。のう、メガネよ、お主らとなかなか怖いものを作っておったらしいではないか』

ハンジ『ああ、アレか。確かにアレはすごい。きっとヨイチにしか使いこなせないだろうけれど…………アレをうまく使えば、もしかしたら』


 ハンジ・ゾエは思う。

 壁内の技術力をもって生み出されたアレを、十全に用いることができたならば。

 それはいかに俊敏な巨人であれ。いかに強き巨人であれ。

 瞬きの間に、その命は奪われることだろう。


エルヴィン『だ、そうだがヨイチよ―――――どうだ。この埒を、君は思うがままに開けてくれるか?』


与一『―――――――――――――御意。『猿』を知らぬ壁内の皆々様方に、彼奴の断末魔を聞かせて御覧に入れましょう』


 そうして源氏の大英雄は、獣の巨人の死を予言した。



……
………


………
……


 獣の巨人は、しゃにむに走った。女型の巨人に勝るとも劣らぬ俊敏性で、見る見るうちにシガンシナの壁にまで迫る。

 その背を追う閃影が一ツ。

 馬を捨て立体機動装置を駆る、那須与一だ。

 その速度たるや、まさしく閃光。女型の巨人の最大速力にも匹敵する速度で虚空を踊る。

 次々とアンカーを射出し、地に石壁を生やし、なおも加速を続ける。


獣の巨人「しつこい奴だなあ………」


 獣の巨人もまた、それには気づいていた。

 だが、それは捨て置いた。

 いかに棒火矢の威力が巨人を殺戮せしめるものであっても、そして那須与一の弓術がいかに卓越していたとしても、己の速度に迫るほどの移動中に、安定した射撃を用いることは出来ぬ。

 それがもしもできるのならば――――それはもはや、人間を超えた存在だ。

 故にこそ、獣の巨人は思い至らなかった。否、知る由もない。

 那須与一が、その人間の限界を超えたからこそ『源氏の大英雄』に至ったということを。


与一「――――――――――そうだ。欲しかったのは、それだ。ようやく、貴様の『うなじ』が見えた」


 そうつぶやいた時、与一と獣の巨人との距離はおよそ200メートル。

 いかに那須与一といえど、矢が届くはずがない。否、届いたとて当たらぬ矢などいかほどの脅威であろう。

 射程距離外。かすりもしない。仮に届いたとしても、中りはしない。

 あの猿はそう高を括っている。


与一「弱点はうなじ下の「縦一めぇとるに、横十せんち」…………それをそぎ落とさば、巨人は絶命に至る」


 巨人の殺し方をハンジから教授された時、その弱点の大きさを僅かと捉えるか、大きくと捉えるか。与一は後者であった。

 かつて己が射抜いた扇と比べれば、なんと巨大な的であることか。

 しかし、そぎ落とすという点が問題であった。

 矢とは射抜くための武器だ。射抜いただけで巨人は死なぬ。棒火矢による爆発で吹き飛ばすこともできようが、棒火矢には限りがある。

 それ以前に―――――通常の矢では、巨人の目を貫くことはできても、肉の内へと届かない。単純な威力が不足しているのだ。

 故にこそ、壁内の技術において、与一が着眼した点は。

  
与一『―――――しかし良くしなる鉄でありますな、このぶれえどと云うものは』


 偏に、己の武装の『強化』であった。


与一『もぶりっと殿、はんじ殿。一つ、この与一の願いを聞き届け、骨を折ってくださいませぬか?』


 そして、与一は初めて、己の腕を十全に奮える武器を手に入れた。

 矢の射程距離など精々が数十メートル前後。

 百メートルを超えればもはや恐るるに足らず、二百ともなれば届きもしない。

 それが、今までの弓であれば。


モブリット「与一さん!!」

与一「―――――――――――忝し」


 立体機動の最中、モブリットがすれ違いざまに何かを与一に投げ渡す。

 それは超硬質ブレードの原料である黒金竹を束ねて造った、鋼の弓。

 常道を覆し、奇跡を成すための手段であった。


 かつて長篠で見せた火縄銃の運用法などが良い例である。戦の様相さえも一変させる発想力こそが信長最強の武器である。

 片や島津豊久は戦術的価値を重視した。

 石壁を射出台として用いる馬鹿げた考えや、石壁をアンカー射出の基点とするという戦のことしか頭にない豊久の恐ろしさはそこにある。

 個々の戦闘における必殺性を極限まで突き詰め、己の命すら度外視して戦闘力の使用方法を引きずり出す。

 しかし与一は、超硬化ブレードのしなりに、ガスの噴出によって放たれるアンカーの速度や威力に―――――その兵装に宿す技術にこそ着目した。

 己の不足を補うのではない。己の持ち味たる長所をより伸ばす。技術の革新は武器を進化させ、兵士の戦法の幅を広げる。

 木々や竹を削って生み出した弓を用いて戦に挑んでいた与一である。巨人の存在するこの壁内の文化に根付く、より強い弾力と剛性を備えた鉄鋼技術は、その知識に疎い与一すら唸らせた。


 ならば。己の限界を超えることができるのではないか?

 より効率よく、より長距離で、より正確に、射殺すための武器が作れるのではないか?


 壁内世界の技術を転用して生み出された、新たな与一の弓。

 古の時代、源氏と平氏が血で血を洗う争いを続けていた戦国の世に生まれ落ち、源氏の大英雄にまで至った弓の名手が、ついに巡り合った至高の魔弓。

 与一が矢を番える。


推奨BGM:https://www.youtube.com/watch?v=Tm2JGgGzik4


 指先に伝わる超硬質スチールを束ね鍛造された鋼弓のしなりが、かつてない威力と飛距離を予感させる。
 

与一「…………」
 

 それは刹那の瞬間である。与一は静かに瞳を閉じた。

 与一の脳裏に浮かぶのは、己のこれまでの生涯だ。

 指先に伝わるのは引き絞られていく弦の感触、この感触を一筋に生きた己の一生を想った。

 射るべき的を想った。

 身と心が、ただ一本の矢へとのめり込んでいく。


『―――――卑怯? 健気なことを言う』


 その思考に、一滴の濁りが生まれる。

 かつての主。

 九郎判官、義経。


『なあ、与一。なんだそれは? 卑怯? ひきょうって何?』

『おまえといい兄上といい、そこんところを勘違いしてるよ。

 士道だか源氏の栄だかなんだか知らんが、つまるところ―――――僕たちがやってることは合戦だ。

 いくさだ。人殺しだ。人殺しに正々堂々も何もあるものかよ。言うに事欠いて卑怯? 莫ッ迦じゃねえの?』


 己の主は気狂いの類だ。そう疑わなかった。

 だが。


『ああ、それともアレかな―――――正々堂々だったら、殺してもいいとでも? ああ、それはなかなかに面白い。面白いよ与一。最低で最悪の面白さだ』


 本当に、主は誤っていたのか。


『そいつは道理が通らないだろう、与一よ? 餓鬼一人納得させられないような理屈で、おまえは自分を誤魔化せるのかい?

 大義とか名分とか、建前に過ぎんだろう? まさかそんなモノがないと、おまえは誰も殺せないのか? 殺したくないのか?』


 主が誤っていたのならば、何故正せなかったのか。


『莫迦言うんじゃあないよ与一。人殺しなんて出来る輩は、須らくどうしようもない屑さ。然るに、人一倍そいつが得意なおまえは一際に際立ち、極みに極まった生粋の屑だよ』


 何故あの時、己は何も言い返せなかったのか。


『どうしたんだ、顔色が悪いぞ与一? …………なあんだ、自覚がなかったのかい? その無垢な蒙昧さは実に可愛らしいよ。ふふふ』


 五月蠅い。


『そいつを認めたくないんだろ? 武士の誇りやら正々堂々やら謳うことで己の所業が誇るべきものだと、己の心を納得させたいのだろ?』


 黙れ。


『甘っちょろいなあ。甘っちょろい上に浅ましいんだよ、与一。そんなくだらないものはさっさと捨てて開き直っちまえよ』


 言うな。


『いいじゃないか、卑怯だか卑劣だか何だか知らないが―――――楽しめよ、合戦をさ。殺しをさ。面白ければなんだっていいのさ。面白い方がいい。なんであれ面白い方が、面白いじゃあないか』


 やめて。


『………はは、なんだよその目は。怯えながら睨みつけたってなんの痛痒も感じないよ? ん?』


 許して。


『おまえは実に素晴らしい殺戮兵器だ。まるで的を射抜くようにばすばすと人を射殺してきたじゃあないか。なかなかできるものじゃあない。本当はおまえだって、好き好んで人を殺してんだろう? 受け入れちゃえよ。そっちの方がずっとずっと面白いぞ? ひどく面白い』


 ごめんなさい。


『それが無理だってんなら、おまえは僕の言うことに黙って従ってりゃあいいんだよ。おまえの言うところの『卑怯』な手段で、主の命だからと言い訳して、嫌々ながらに人を射殺せよ』


 やめて、やめて、やめて、やめて――――――。


『私は悪くないんですって、とても可哀想な人なんですって、涙を流しながら人を殺せよ。私の手柄になってくれてありがとうって念じながら弓を引けよ。あは、あはははは、はははははははははは!!!』


 心の内で獣が嗤う。

 傲岸不遜の四文字を体現したかのような、化け物のような男。

 化け物の方がより人間味があるとさえ思えた、おそろしい主が手招きしている。

 あの源九郎判官義経が、与一の心の内に巣食っている。


 忘れようと思った。

 忘れたいと願った。

 しかし無理だった。もはや与一の手は血に塗れていて、大勢の人を卑劣な手段で殺して、殺して、殺してしまった後だった。

 なんて様だ。どうしようもない男だ。そんな男が英雄? 源氏の雄? 那須与一?

 そうだ、認めていた。本当は、心の奥で認めていた。


与一「分かっていたさ。私のやっていることなど、所詮は薄汚い外道の所業だと。人殺しの人でなしで、人の皮を被った鬼に過ぎないのだと」


 源氏の大英雄。那須家三十六代目筆頭。全てはお家のために。源氏のために。武の誇りを。士道を。

 そんなものは虚飾だ。張りぼてだ。己を飾りたて、戦の真実から目をそらすために積み上げた瓦礫の山だ。

 誰よりも与一自身が、それを分かっていた。

 殺すべき人間を選ぶことは『差別』なのだ。

 生きるべき人間を選ぶことは『贔屓』なのだ。

 勇猛果敢に敵に挑むことは『勇気』ではない。

 正々堂々と戦い抜くことは『強さ』ではない。

誤字。ヨリニモヨッテェェエエエ

×:那須家三十六代目
○:那須家二代目


与一「だが―――――構わぬ!」


 甘っちょろいと言われても。

 理由がなければ人を殺せない半端者でも。

 それでも、与一は。


与一「ああ、そうだ。私は卑劣だ。私こそが卑怯なのだ。人が死ぬのはいやだ。殺すのはいやだ。だが主の命故にと、己の罪から目を逸らし続けてきた。ただあの方を怖がっていた。恐ろしかった」


 源義経と、向き合おうとしなかった。理解しようとしなかった。

 主の命だからと言い訳して、人を殺した。殺して殺して殺して殺して、最後は主に全てを押し付けた。

 それで結局この様だ。私も、私も主もこの様になった。なんて様だ。
 

与一「だが、だからといって、何もせずにはいられない。同胞を失いたくはない。ただ座して受け入れることはできぬ。それだけは。だから―――――構わぬ。悪鬼、外道、畜生、何であれ構わぬ」


 戦国の世に在り、人心は荒んでいた。武家の子息たちは武士然とした建前と面子を重んじ、平然と兵たちに死を命じた。

 与一には心許せる相手など、誰もいなかったのだ。


アルミン『僕にも弓術教えてください、ヨイチさん』

クリスタ『ゲンジバンザイ? って言えばいいんですか、ヨイチさん?』

ユミル『非力な坊ちゃんお嬢ちゃんには弓が最適かもな、なぁヨイチさんよ、あんたもそう思うだろ?』

コニー『おいブス、狩人バカにすんなよ! 弓矢はすっげえんだぞ、なあサシャ? ヨイチ!』

サシャ『そうです。私も弓は得意ですけど、ヨイチさんの弓術はホントすごいですよ! だから私に今夜のお肉をば』


 ふと、笑みがこぼれる。

 今は違う――――ああそうだ、今は違うのだ、と。

 己を慕うエルフたちがいる。ずっと遥か先の明日に死ぬため、今日に命を懸ける調査兵団の兵士たちがいる。

 勇敢なる輩だ。

 恐れを知らぬ尊敬すべき兵士たちだ。理不尽を憎悪し、正当なる怒りを胸に、命を懸けて大敵を討ち果たさんとする勇者たちだ。

 それは失いたくないものだ。

 失ってはならぬものだ。


 だから。


与一「私は悪鬼でいい。ただ命を射抜くための一矢でいい。五月雨の如く降りしきる矢でいい。慈悲もなく、容赦もなく、冷酷なる非情な一矢でいい」


 私の敵よ、私の心の安寧のために死ね。

 仲間のためにではない。仲間を失いたくないと思う、私のために死んでしまえ。

 私のために、殺されろ。

 私が選び、私が下す。

 黒白の両天秤を司り、羽根と心臓の重きを較べる。

 生き残るべき存在は私が決めて私が生かす。死ぬべき存在を私が決めて、私が狩る。

 それはきっと人に後ろ指をさされても致し方ない悪鬼の所業なのだろう。

 尊大で天上天下唯我独尊を地で往く、あの化け物のような主に勝るとも劣らぬ鬼畜なのだろう。

 後ろ指をさされ、石を投げつけられたとて、腹を立てる理屈はない。

 だが、それでいい。それで良かった。


 ―――――胸を張って、生きられる。


推奨BGM:https://www.youtube.com/watch?v=VkCOp7tM2N8


与一「もはや瞑目の時は過ぎた。私は私の殺意を以って、貴様を射殺そう」


 鷹の目が、獣の巨人の命を視る。


与一「慙愧懺悔六根罪障――――南無三宝日光権現。帰依三宝那須湯前明神。帰命頂礼八幡大菩薩。我が身命、我が魂魄、一筋の烈矢と罷り成る………この一矢、外させたもうな」


 数十間と離れた扇、しかも揺れる船舶の上という不安定な的にも拘わらず、その真中心を見事に射抜いた与一の魔技。

 その身が宙の只中にあれど、悪条件にも入らぬ。

 引き絞り、放つ。

 ひょうと甲高い音が鳴った次の瞬間。



 『獣の巨人』のうなじに、魔弾が深々と突き刺さった。



獣の巨人「……………え?」


 未だ見ぬ『獣の巨人』の内に潜む人物が、唖然とつぶやいた。

 胸の中心が熱を放っている。

 巨人の内部、見えぬ者の見えぬ心臓を、正確に射抜いていた。

 どくん、どくん、と。

 心臓の脈動と共に、温かな命の原液がどくりどくりと流れ出す。


獣の巨人「あ、ああ…………あり、えない」


 それが、絶命の言葉だった。

 本体の心臓を射抜いた棒火矢の火薬が炸裂する。中心にある心臓も、本体の肉体も、何もかもを木端微塵に吹き飛ばす。


与一「猿とて鳴かずば撃たれまいに。こともあろうに人様を下に見るとは言語道断。己が分を弁えぬ獣は、射殺されるが運命め(さだめ)――――――六道に彷徨い、畜生地獄へ堕ちよ」


 陰を背負い、陽へと挑む。

 それを人は英雄と呼ぶのだ。


……
………

※今日はここまで。多分。

 今日は与一のターンでしたネ………那須与一マジゲンジ。

 ゲンジ始まってるな。あいつらマジゲンジ。ゲンジって未来に生きてるよ。

 ゲンジのおかげで彼女もできたし病気は治るし宝くじにも当たって、ほんとゲンジ様々ですわー。

 ヘイケ? ウソー、マジー? ヘイケー?

 ヘイケとかマジ遅れてるっていうかー超ダサくね?

 ヘイケが許されるのは治承・寿永の乱までよねー。

 ゲンジバンザイ。ゲンジバンザイ。ゲンジバンザイ。

 続き? 知らぬ。マジで。やばい。今月もう休みねえんじゃねえかな。

※やあ。明日からまた出張さ。

 転職したのに出張族は変わらんね。中国がないってのはいいことだ。

 帰ってくるのは翌月1日の午前中の予定? そのままその日は休み? 多分。

 うーん、まだ仕事の状況次第で変わるので確約できませんが、

 多分来週の月曜か火曜日あたりに投下します。

 残る戦いはエレンVSライナーと、豊久VSベルトルトのみ? かな? 本当に?

 ガチで終わらせたいね、そろそろ。


………
……


 その時、壁の上から大きな歓声が上がった。

 獣の巨人が崩れ落ち、ぐずぐずと蒸気を上げて消えていく様は、壁上からでも確認は取れていた。


エルヴィン「ッ、ヨイチが、ヨイチがやった。獣をやったぞ!!」

ハンジ「これで形勢はこちらに傾い――――」


 最も厄介な知性巨人も、これで残るは二体。誰もが自軍の勝利を信じようとした矢先のことだった。


信長「否! 足りん! いささか遅かった」

ハンニバル「ウム、遅い。木いちごが、腐っちまった」


 額に汗を浮かべた信長とハンニバルが、苦渋に満ちた表情で吐き捨てた。


ミケ『ッ、どうなっている………!! 『獣』がくたばっても、こ、こいつらッ!!』

リヴァイ「クソが………『獣』の野郎、頑張りすぎだ。奇行種の数が多すぎる」


 猿の呼び寄せた奇行種を相手取っていたエルフ達の持つ棒火矢は、とうに尽きていた。

 遠距離支援を失った彼らに残る手段は、立体機動術による白兵戦のみだ。

 均衡を維持するために、ミケはエルフ達を一度下がらせ、入れ違いの形で調査兵団の兵士たちを送り込み、前線で奮闘していたが―――――それももはや限界だった。

 ガス切れを起こす者。

 ブレードが尽きた者。

 負傷者は数知れず。

 死者もまた同様であった。

 さながら地獄の様相を呈する壁外であったが、凶報は続く。


ハンジ「ッ!!? まずいよノブ!! 奇行種どもが! ウォールローゼ側からも呼び寄せられてる!! しかも、とんでもない数だ!」

信長「あの猿、そちら側からも―――――いや、まさか」

エルヴィン「アニ・レオンハート。女型! 彼女も同じ能力を備えていたとすれば………」

ハンジ「このままじゃシガンシナ区内に巨人が―――――エレン達が!! 鎧の巨人の足止めに精一杯の彼らが、この上で奇行種まで相手取ったら………!!」

信長「――――――――――――ッ」


 どうする、と自問自答する。


 既に答えは出ていた―――――これらの状況は、一度で解決することは不可能だ。

 壁を塞ぐには時間がかかる。現状で行うことはまず不可能。何より今、壁内には『鎧』が、壁外には『超大型』がいる。その気になれば瞬く間に打ち壊されてしまうことだろう。

 恃むべき味方は、この場にはエルヴィン率いる一隊と、満身創痍のリヴァイに、その部下である四人の精鋭。

 いかな精鋭とはいえ、壁外の奇行種は多勢に無勢。かといって鎧の巨人を討滅するには、先ほどのリヴァイが用いた『魔剣』に匹敵する条理外の武を必要とする。

 かといって彼らを真っ二つに分けて、『壁外』と『鎧』へと振り分けるのは悪手中の悪手。中途半端な戦力では、地獄に飲み込まれたまま帰らぬ者となるだろう。

 一分一秒が惜しい。目前の状況は刻一刻と悪化している。

 それでいてかつ要求されるものは、迅速にして正確な判断。

 信長は優先順位を定め、即断した。その間にも、兵士が死んでいくのだ。


信長「エルヴィン! 手勢を率い、チョボ髭の救援に向かえい! 補給隊だ! がすもぶれーどもありったけ持っていけ!! あのしょっぱい髭ヅラを俺の前に突き出させろ!」

エルヴィン「ッ、諒解だ!」

信長「リヴァイ! おまえの班の精鋭どもを呼び戻し、手分けして奇行種どもの足止め! 殺す必要はない。外壁の上に登っちまえばヤツらにゃ手は出せん!」

リヴァイ「わかった。お前の判断に従おう―――――ペトラ、聞いての通りだ。リヴァイ班の精鋭として戦ってこい! そして必ず帰って来い!!」

ペトラ「はっ!!」


信長「ハンジ! 偵察指示は全て俺がやる。エレンだけでも確保して壁上に連れて来い!!」

ハンジ「分かった! ケイジ! ニファ! 私についてこい!!」

ケイジ「諒解ッ」

ニファ「はいッ!!」

信長「最後に与一ッ! それともぶなんとか! おまえらは殿だ! 髭ヅラ配下の兵士どもとエルフ共を連れて、壁外まで登って来い!!」

与一『御意!』

モブリット『モブリットです!!』

信長「各々の務めを果たした後は、速やかに全勢力を以って鎧の巨人を討伐! 以上、方針!」


 各々の務めを果たすため、兵士たちが壁上から飛び降りていく。そうして壁上に一人きり―――――信長がひとりごちる。


信長「―――――後は鬼が出るか蛇が出るか。かかる一手を埋める鬼札はいずこぞや」


 魔王は神に祈らない。神仏悉くを絶滅せんと欲してきた織田信長が信ずるものは、いつだって己自身だった。



……
………


………
……



 元第104期訓練兵団出身の新兵達は今、地獄の窯に片足を突っ込んでいた。


ジャン「…………生きてるか、コニーよう。こっちゃガス切れだ」

コニー「おー……ガスは残ってるな。ブレードがねえ。そっちはどーだよ、サシャ、クリスタ、ブス」

ユミル「そっちより最悪だよ、チビ。石壁の符も、ガスも、ブレードも切れた」

クリスタ「石壁の符はいくらかある………ブレードとガスは、もう………」

サシャ「矢も、石壁の符も、ぜぇんぶスッカラカンです。私のお腹みたいに」

ジャン「じゃあコニー、ガス寄越せ。オレに」

コニー「うるせえ。おまえがブレード寄越せよ、おれに」

ジャン「なんでブレードいるんだよ」

コニー「おめーこそ、なんでガスいるんだよ」

ジャン「そりゃあれだ…………一匹でも巨人、ブッ殺さねえとな。こんなかじゃ一番立体機動成績のいいオレがやるのが妥当だろうが、第八位」

コニー「小回り効くおれの方がずっとアシストにゃ向いてるだろ。いいからブレード寄越せよ、エレンの次席」


ジャン「テ、テメー、言ってはならねえことを………っつーか、頭ッからダラッダラ血ィ流してるおまえが、今更何できるってんだよ」

コニー「ッグ………さあ、な。でも、剣は握れるし、トリガーだって引ける。だったら、まだ戦えんだろ。おめーこそなんだ、その脇腹。血で真っ赤じゃねえかよ。そんなんで剣振れんのかバカ馬」フラフラ

ジャン「ちょっとした腹痛だ。下痢っ腹に比べりゃ、どうってこた………ッ! グフッ、ねえ、よ」ヨロヨロ

クリスタ「だ、だめだよ二人とも! 立っちゃダメ! 動いちゃダメ! 死んじゃうよ、本当に死んじゃうよぉ!!」ポロポロ

サシャ「すいません………私の援護、遅れたせいで、こんな………」ボロボロ

クリスタ「サシャも動かないで!! 腕、折れちゃってるでしょう!?」ヒックヒック

ユミル「ガラにもねえことしたな、馬面、バカチビ。馬面がクリスタを守ったことだきゃ評価してもいいがよ………サシャはともかく、なんで私なんか助けたんだ、チビ?」

サシャ「そう、ですよ………私がヘマしたのに、どうして、どうし、て………」


 ユミルとサシャの問いに、コニーは心底驚いたように目を丸くし、


コニー「…………へ、へへ、へへへへ」


 次いで、血まみれの顔を笑みに歪めた。


ユミル「あ? なんだよ。なんでニヤついてんだ、てめえ」

コニー「おまえにゃバカバカ言われたけどよ、案外おめーこそモノを知らねえんじゃねえか、ブス?」


サシャ「何? 何を言って――――」

コニー「おれは男だ。男は女を守るもんだ。おれはそう両親から教わってきた。おれがおまえら守るのなんて、そんなの当たり前だろ、バーカ」


 虚勢ではない。満面の笑みを浮かべて、コニーはそう言い放った。


ユミル「…………ッ、そうかよ。それでてめえがくたばっちゃあ、何の意味もねえ。そうは思わねえのか? 家族はどうすんだよ、おまえの家族は!」

コニー「いいよ―――――おまえらがいる。おまえらがきっと、この先を戦ってくれる。壁内の人たちを、おれの家族を守ってくれるさ。

   それにまだあいつらちっちぇえけど、サニーがいる。マーティンがいる。あいつらも立派な兵士になりてえって、そう言ってた。だから、意味はあるんだよ。きっと、きっと、おれがここで戦って、おまえら守ったことは、意味があるんだ」

クリスタ「ッ…………コニー」

ジャン「は、はは………ホント、今日はいいこと言うな、コニー。全く同感だ。女を守れねえ男なんざ、男として認めねえよ」

コニー「へ、へへ。豊久が言ってたろ。女は、いい男捕まえてよ、丈夫な強い子産んでよ、強い兵士にするのが仕事だってさ。おまえら、強い女じゃん? きっと、強いガキができるって………それで、いい」グググッ

ジャン「クリスタよ………サシャとユミル連れて、逃げろ………お前らの側に、絶対に、巨人どもは、通さねえ………」グググッ

サシャ「こ、コニー………ジャン………いや、いやや。死なんといて………うちを置いてかないで………」ポロポロ

クリスタ「ッ、力が、あれば。私に、エレンみたいな力が、あれば! あんな奴等、あんな奴等!!」


ユミル「……………」


コニー「よ、う。ジャンよ、一つ、提案があんだ」

ジャン「なんだ? 手短にな。あんま余裕がねえ」フラフラ

コニー「おめーは剣を振れねえが、意識ははっきりしてんだろ。ガスやるから、そいつでおれを抱えて飛べよ。お前が立体機動の制御、おれが巨人のうなじをぶった切る。アレだ。役割分担ってヤツだな。合体だ。男のロマンってやつだ、うん」

ジャン「は、は。それしか、ねえか。コニー、おまえマジで冴えてんぞ。それで行こうぜ」

コニー「へ、へへ………やっぱおれって、天才かも」


クリスタ「あ、ああ、あああ………」


 死地へ向かう男二人の背に、クリスタは声をかけられずにいた。

 なんと言えばいい? 頑張って? それがいかほどの力となるだろう。

 行かないで? 共に無駄死にすることを強いるというのか?

 何もできない。

 ああ、やはり。


クリスタ(私には、何もできないんだ。死ぬことだってできない。何も、何も、何も―――――)


 悔しくて、情けなくて、涙がとめどなくこぼれた。

 そんな時だ。肉を殴打するような音が、二回響いた。


クリスタ「―――――え?」


 伏せた視線を上げて前を見る。そこには――――。


ユミル「なあ、クリスタ。そんなことねえよ。おまえは強いよ。いい女だ。幸せになれる」


 ジャンとコニーを殴り倒したと思われるユミルが、いつもの皮肉気な笑みを浮かべて立ち、こちらを見つめており、


ユミル「だから――――――おまえ、強く生きろよ」

クリスタ「…………え?」


 どこか慈愛に満ちた、優しさを秘めた瞳。

 それはいつか、どこかで、自分がもっとも欲していたものでなかったかと――――ヒストリア・レイスは、幼い頃の記憶を追想する。


……
………


 悔しくて、情けなくて、涙がとめどなくこぼれた。

 そんな時だ。肉を殴打するような音が、二回響いた。


クリスタ「―――――え?」


 伏せた視線を上げて前を見る。そこには――――。


ユミル「なあ、クリスタ。そんなことねえよ。おまえは強いよ。いい女だ。幸せになれる」


 ジャンとコニーを殴り倒したと思われるユミルが、いつもの皮肉気な笑みを浮かべて立ち、こちらを見つめており、


ユミル「だから――――――おまえ、強く生きろよ」

クリスタ「…………え?」


 どこか慈愛に満ちた、優しさを秘めた瞳。

 それはいつか、どこかで、自分がもっとも欲していたものでなかったかと――――ヒストリア・レイスは、幼い頃の記憶を追想する。


……
………

※月曜火曜は休みと言ったな。アレは会社の嘘だ。
マジで許すまじ。
今日も仕事ー、明日も仕事ー、ずっとずっと仕事ー。
今日は帰ってきてから必死こいて書いたけどこんなもんだったよー。
不完全燃焼じゃよー。
次? 次ィ? 次の休みはねェ! 12日の木曜だよォ! そうだよ三週間休みねえんだよバッカかおまえバッカじゃねえのか。
給料良くなかったら即退職届出すところである。
もうなんか意識がいろいろおかしいテンションもおかしい。完結までもうちょっとだから保守よろしくゲンジバンザイヘイケ滅びろ


 幼き頃、かつてヒストリア・レイスであった彼女は、愛情に飢えていた。

 物心がついて文字を覚えた頃、彼女は多くの本を読み、己が孤独であることを知る。

 自分自身を腫物扱いする祖父母や領民、牧場の労働者たち。

 血の繋がった母に至っては、まるで己に興味を示さない。

 動物たちと接する時だけが、彼女にとって安らぎであった。

 ヒストリアは思う。

 誰からも必要とされない己は、果たして生きる意味はあるのだろうか?

 誰にも聞けなかった。

 聞くことができなかった。

 それでもしも、必要ないと言われてしまったら―――――。


クリスタ「え………?」


 気づけば、そこには人のぬくもりがあった。

 ユミルが己の身体を引き寄せ、抱きしめている。


 回された腕に込められた力は強く、少し震えていた。
 

クリスタ「ユミル?」


 当惑するクリスタの耳元で、ユミルは静かに語りだした。


ユミル「クリスタ。なあクリスタ。クリスタよう。いっつも茶化して聞こえていたかもしれねえけどさ、私にとって、おまえは本当に天使だったんだ」

クリスタ「…………何、何を言っているの、ユミル?」

ユミル「おとついのミカサの言葉を覚えてるか? あいつを真似るわけじゃあないが………私はな、生き返ったんだ。ゆっくりと脳味噌の中身から腐っていくように死に続けていた私は、おまえのおかげで生き返った」


 その言葉に、クリスタはかつて訓練兵時代に、雪山で行われた訓練での出来事を思い出す。


クリスタ「覚えて、るよ。雪山で………だけど、どうして今、そんなことを」
 
ユミル「最後かもしれないからだ」

クリスタ「最後、って………」

ユミル「私には今や何もない。生まれ落ちた故郷も、帰るべき家も、迎えてくれる家族も、何もない。私には何もない。全て喪った。あるのはこの身一つだけだった」


ユミル「一日を生き延びるのに必死で、そんな日々を繰り返すうちに、どうして自分は生きてるんだって、そう考えるようになった」

クリスタ「け、けど、ユミルは強いでしょ? 雪山で、あの絶望的な状況で、ダズを救って見せた。運命を変えて見せた」


 それは、己にはない強さだと、クリスタは思う。

 第二の人生を、己の名を偽らず、己の生を偽らず、運命に抗うように生きるのだと。

 だが、ユミルは首を横に振る。



ユミル「………孤独ってさ、胸のここんところが痛くなるんだ。寂しいんだよ。どうしようもなく寒いんだ。強がって見せても、笑って見せても、結局は一人ぼっちなんだって思い知るだけなんだ。おまえも知ってるだろ、クリスタ」

クリスタ「…………ッ」

ユミル「そんな中で、おまえと出会えた。いつしかおまえと一緒に行動するようになって、おまえの生き方に触れて――――ああ、私はこのために、おまえに会うためだけに、あの日々を生き延びたんだと、そう思えた」

クリスタ「え………」


 それはきっと、クリスタが欲しかった言葉なのだろう。


ユミル「だから、もうそれだけでいい。おまえの優しさがあった。それだけで、私は立派に生きていける―――――ああそうだ、私はとうとう見つけた」


 なのに何故だろう、とクリスタは自問する。


ユミル「………おまえが、私の生きた証だ。胸を張って生きてくれ」


 どうして、涙が止まらないのだろう。締め付けるように胸が痛むのだろう。

 ユミルが抱擁を解き、背を向ける。

 その背を掴もうとクリスタが手を伸ばした瞬間―――――クリスタの周囲が、石壁によって覆われた。


クリスタ「え……あ、あれ?」

ユミル「はは―――――隙だらけだったな、クリスタ。悪いがコイツは私が貰っとく」


 壁の隙間から、ユミルの右手が見える。その手には、クリスタが所持していた石壁の符の束があった。

 クリスタは取り戻そうとなおも手を伸ばすが、ギリギリでユミルに届かない。

 気にした風もなくユミルが歩き出し、その背は少しずつ離れていく。


ジャン「て、てめえ………何、しやがんだ、オイ、こら。いきなりグーで殴る、とか、こ、殺す気か、クソが………」

ユミル「堪忍しろよ。私の天使を救うために――――いっちょやってやろうか。そういう話だよ。そのためにゃおまえらがいるとちょっくら邪魔なんだ」


 おちょくるように言いながら、ユミルはクリスタと同様に、サシャの四方も石壁の符で囲っていく。


サシャ「ユ、ミル? な、何を………」

コニー「お、おまえ、おれのはなし、きいて、なかったのか………役割が、ぎゃ、逆、だろ、バカ」

ユミル「バカはてめえだ、バカ。女がやってやろうっつってんだ。恥をかかすんじゃない。何、どうせおまえらはついでだ。クリスタのついでに助けてやるさ―――――女神様の真似事も、たまには悪くない」


 いつも通り、皮肉気に笑みを浮かべたユミルに、しかしジャンとコニーはなおも食い下がる。


ジャン「ッ、いい加減に、しろ! 無傷のてめえより、死に損なってるオレらが行くのが順当だ!」

コニー「とっととサシャとクリスタ連れて下がってろよ!! そいつはおれ達の仕事だ!!」


 瞳を血走らせ吼える両者は、全くの本気だった。

 ここに来て、クリスタはようやく理解した。

 ―――――ユミルは死ぬつもりなのだと。

 そしてコニーとジャンは、ここで死ぬべきは自分たちであって、決してユミルではないと怒っているのだと。


ユミル「なあ、ジャン。そういう男気見せるなら、好きな奴の前でやれよ。それとコニー? さっきのおまえ、結構カッコよかったぜ。少し見直した」


 言いながら、ユミルは二人の周囲を、壁で包み込む。


ユミル「即席だが、ないよかマシだろ。誰か助けに来るまで、そこで時間を潰してろ」


 ひらひらと手を振り、ユミルは一度だけ振り返った。


ユミル「ジャン、コニー。おまえら、いい男だよ。本当にいい男だ。頑張れよ。出世しろよ。家族を安心させてやるんだろう?」

ジャン「ッ………!」

コニー「お、おい、ブス………ユミル。やめろ。冗談、よせよ」

ユミル「サシャ。食い気もいいが、そればっかじゃ男が寄り付かん。少しは慎みってのを覚えろ。キースのジジイも言ってたろ?」

サシャ「い、やだ。いやや………あかんよ。それは、あかんよ、ユミル………」


 そして、ユミルはクリスタを見て、笑みを浮かべた。


クリスタ「あ…………」

ユミル「じゃあな。愛してるぜ、天使様」


 再び背を向ける。女性らしい細い背だ。だが、鋼のように冷たく、強い背だった。

 歩みを進める。向かう先は雲霞の如く迫りくる奇行種の群れ。


ユミル「私を食いたいか、巨人ども」

クリスタ「い、いやだ………いやだッ、ユミル!! 行かないで!! 置いていかないで!!!」


 クリスタにはユミルの言っていることの八割は理解できなかっただろう。

 だが、一つだけ確信できることがあった。

 このままユミルを行かせてはいけない。

 行かせてしまったらきっと、もう二度と―――――。


ユミル「私はな、正直な話、いつ死んだって良かった。大勢の人の幸せのために死んでやったあの日なら。六十年前のあの日なら、あの日なら」


 巨人たちを睨みつけたまま、ユミルは束ねた石壁の符を、背後の地面に叩きつける。

 直後、ユミルとクリスタらとを分断する壁が生まれた。

 それが境界線。

 生と死を分かつ狭間。
 

ユミル「お前たちに喰われてやっても良かった」


 生死のラインに立ち、ユミルは右手にナイフを添える。


ユミル「だが、もはや駄目だ」

クリスタ「だって、ユミル! 貴女、まだ―――――私の、私の本当の名前は――――――!!」


 その言葉は、迫りくる巨人たちの足音でかき消される。

 直後、ユミルが小さく呟いた。

 本当に小さい小さい呟き声。

 なのに、クリスタは。



ユミル「―――――そいつはできない相談だ。さようなら、ヒストリア」



 ユミルの、震えた泣き声が聞こえた気がした。

 ナイフが血の線を引き、直後、稲妻の如き閃光が放たれた。


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 かくして、第六の知性巨人が姿を現した。

 体躯は3メートル程度と小柄な巨人ではあったが、巨人化時の閃光は、エルヴィンと信長の目にも止まることとなった。


エルヴィン「!!!? ここに来てッ、新たな巨人だとッ!?」

信長「――――いや、待て。少し様子が違う」


 ガチガチと鋸状の歯を打ち鳴らしながら、他の巨人たちと相対するそれは、信長には人間たちを守ろうとしているように見えた。


ユミル(幸運の………女神、は………死せる勇者を………)


 四足獣のように両手両足を地に噛ませ、引き絞るように力を込める。


ユミル(――――――――――――助ける!!)


 弾くように大地を蹴り、ユミルは跳躍した。


ジャン「ッ、速い!!」

コニー「ユミルッ!!」


 爆散するような音と共に、ユミルから最も近い位置にいた巨人のうなじが一瞬にしてそぎ落とされる。

 
 その双眸は敵を射抜き。

 その挙動は疾風の如く。

 その爪は巨人の肉を引き裂き。

 その牙は巨人のうなじを抉る。


ユミル「――――ッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 理性の内に秘められた野性を爆発させるように、ユミルは吠えた。

 吼えたて、他の巨人たちを己に引き付ける。


クリスタ「だ、だめ! だめだ、ユミル!!」

サシャ「あかん! 逃げて、逃げてユミルゥッ!!」


 殺到する巨人たちを前に、小柄なユミルの巨人体は、あまりにも頼りない。

 確かにユミルの巨人体は俊敏性に優れてはいる。だが、反面パワーに欠けていた。

 一対多数の状況において、それは致命的だ。一度捕まれてしまえば、後は力押しで潰されてしまう。

 巨大樹の森といった障害物が多く存在する環境下において初めて、ユミルの巨人体は真価を発揮する。

 この場は平野。地の利においては他の巨人たちに分はあると言えよう。

 だが、その不利を、ユミルは覆す。


ユミル「ッシャアッ!!」

奇行種A「ガァッ!?」


 小柄であるということの有利は、何も素早いというだけではない。

 巨人体となったユミルの手指の間には、石壁の符が何十枚と挟み込まれている。


エルヴィン「石壁の符を足場に………!! あのサイズの巨人ならば、それも可能か!」

信長「ッ―――――石壁の符を使いこなしているな。成程、ありゃ他の巨人にゃマネできん」

ハンジ「感心してる場合じゃないよッ!! いや、あの巨人メッチャ解剖したいけど! どうすんの!? 捕まえるの? 倒すの? 援護するの!?」


エルヴィン「無論、援護だ。そうだろう、ノブナガ」

信長「―――――成程。そうか。これか。足りぬ一手はこれか。否、一手には届かぬ半手と言うべきか」

リヴァイ「オイ、てめえ一人で納得してないで、さっさと指示を出せ」

信長「うむ―――――オイ、チョボヒゲ!! エルフどもに命じろ!! そのハゲネズミっぽい巨人は味方だ!!」

ミケ『了解!! 総員ッ! 負傷者の搬送急げ! あの『爪牙』の巨人の援護だ!!』


 石壁を足場に、壁から壁へと跳躍しつつ、ヒットアンドアウェイの戦法で、ユミルは確実に巨人たちの数を減らしていく。

 だが、符の数には上限があり、未だ巨人の数は膨大だ。

 己の『詰み』が確約された戦いであることは、ユミルとて理解していた。

 風前の灯火の中、それでもユミルは―――――。



……
………

※みたいな? 感じ? じゃね?

 うん。まあ死亡フラグだよねー。ユミルさん、ガンバンナサイネー。

 続きはね、うん。やったね。今度の日曜だよ! 多分ね!



 ところで余談なんだけど、ついさっき、とんでもないことに気づいたよ。

 コニーって原作の方で裏切りフラグ立ってるよねってこと。

 だってエレンをコニーのかーちゃんに喰わしたら、コニー家族取り戻せるジャン?

 今のコニーの精神じゃやりかねないよね、ははは。



 …………やめてよね。

 いや、ホントやめてよね。諌山てんてー。

 やめてね? ほんと。まじで。ノーサンキュー。コニー好きなんだよ俺。ああいうキャラは報われて欲しいんだよ。ほんと。

おつ~
つーか、えっ?
コニーに裏切りフラグってえっ??

>>142
※原作の13巻から15巻読んでたらふとそんな考えが頭によぎってだな………

 15巻でエレン食ったら理性戻る可能性があるってことをコニーも知っちゃったわけですしおすし

 否定する要素もないんじゃね? とか思っちゃったりして?

 この手の嫌な予感って外れてくれると、それはとってもうれしいなって(まどか風)


………
……



 暗い。

 暗くて深い闇の中にいる。

 全身の感覚がない。ただ意識だけが暗闇にぼんやりと浮かんでいるような心地。


 俺は、俺はたしか……そうだ、鎧の巨人と……ライナーと闘っていて……。


 ――――負けた。


 負けた。負けた。負けた?

 本当に? 本当に負けたのか?


 …………立たなきゃ。立って、また、戦わなければ。


 なのに、身体がどこかへ行ってしまったみたいに言うことを聞かない。

 どうしたらいい? どうすれば――――。


 そんなことを考えていると、目の前の何も聞こえない空間の奥から、すすり泣くような声が聞こえる。

 悲しみを湛えた声だった。

 無力を嘆く弱者の声だった。

 絶望に屈した敗者の声だった。

 それは子供の泣き声だ。

 誰だ。そこで泣いているのは誰だ。




 ああ。

 あれは。


 俺だ。


 十歳の時分の、エレン・イェーガーだ。


 視界が開ける。無から有へ。闇は光に。

 映し出されるのは、五年前のあの日だ。

 覚えている。

 あの地獄を覚えている。

 ウォールマリアが陥落した日を。

 シガンシナが蹂躙された日を。



 ――――母を失った日を。



エレン(覚えて、いる)


 口の中に鉄の味が広がる。

 ああ、この味を知っている。そうだ。

 これは。


 後悔の味だ。


 エレンは覚えている。

 とてつもない無力感を覚えている。

 耐え難い屈辱を覚えている。

 死をも凌駕する後悔を覚えている。

 五体が引き裂かれるような悲痛を覚えている。

 だからこそ、もう二度と、と………そう誓ったのではなかったのか。


 …………なのに、負けた。


 だが、この現実はどうだ。

 いつだって俺は負けてばかりだ。

 母さんが何か叫んでいる。

 その声が聞こえない。

 その日、母さんが死んだ。

 噛み潰されて、食われた。

 母さんが死んだ。大好きだった、お母さん。かけがえのない人だった。





 ――――それだけじゃあないでしょう?




 粘つくような声音が心の内に響く。

 少女の声だ。聞いたこともない声だ。見たこともない少女。顔の輪郭がぼやけて、よく見えない。

 再び光景が移り変わる。

 涙を流す父が、俺を押さえつけて、片方の手には注射器があって………。

 そして思い出す。



 ああ―――――父さんを殺したのは、俺だ。


 父さんが叫ぶ。

 巨人化能力を使いこなさなくてはならないと。戦えと。

 その日、父さんが死んだ。

 俺が殺した。

 巨人になって、食って、殺した。

 父さんが死んだ。医者として多くの人から尊敬される、敬意を示すべき人。その大きな背中を覚えている。

 俺が殺した。

 殺して、食って、忘れていたんだ。

 母は巨人に喰われて。

 父は俺が巨人になって食い殺して。

 全部忘れて、俺は、一体、何になった?



 ああ、やはり。

 俺は正真正銘の人でなしで、真正の化け物だった。


………
……



ミカサ「エレンにッ、近づくなァアアアアアアアアッ!!」


 裂帛の咆哮と共に、ミカサの身体が宙を踊る。

 防御を固めた姿勢のままに動かぬ『鎧の巨人』の、関節部を狙って次々と斬撃を繰り出し、抉り、削ぎ、斬り落とす。

 だがうなじには届かない。


シャラ「ッくそ………あいつ、巨人の中で回復を待ってるんだ。最低限、俺たちがうなじをフッ飛ばせないように、地面を背に、丸まってやがる!」


 シャラの吐き捨てた言葉の通り、エレンの巨人体から受けた膝蹴りの衝撃は、ライナーの肉体に浅からぬ損傷を与えていた。

 いくつか内臓が潰れ、まともに呼吸すらできない。

 その回復を図るための防御である。

 それを見逃すエルフたちではない。既に棒火矢による集中砲火を敢行したものの、『鎧』の装甲は他の巨人と一線を画す。その装甲に罅を入れるところまでは出来ても、打ち壊すまで至らない。

 与一がいればその点を狙えただろうが、卓越したエルフたちにとっても与一の弓は別格どころか別次元のものだ。そんな芸当を可能とするほどの弓達者は、エルフにすらいない。

 爆発による衝撃も、内のライナーには届いていないだろう。


アルミン「落ち着くんだ、ミカサ!! 鎧の巨人が回復を図っているのは明白だ!! いたずらにガスとブレードを消費するな! 一度戻るんだ!!」

ミカサ「でも、エレンが………そうだ、エレンは!! エレンは無事なの、アルミンッ!!?」


 ミカサが振り返り、崩れ落ちたエレンの巨人体のうなじ付近に立つアルミンに問う。

 アルミンは高熱を発しながら溶けていく巨人体からエレンを引き剥がしつつ、

アルミン「無事だ!! だけど、だけど、意識がないんだ!! そ、それに――――エレンの下半身が、巨人体が吹き飛ばされた時に、建物の鉄骨の下敷きになって、抜けない!!」

ミカサ「そ、そんな………それは、まるで」


 ミカサは痛みをこらえるように、頭を片手で押さえた。

 五年前のことを覚えている。

 大好きだった義母さん。カルラ・イェーガーが死んだときの記憶が、嫌でも呼び起されるシチュエーションだった。


アルミン「これじゃ、エレンを動かせない…………!! この鉄骨を上げて、エレンを引きずり出さないと!!」

ミカサ「ッ、分かった!!」


 そういって、ミカサがエレンに駆け寄った時だ。

 不幸なニュースは続く。


アルミン「落ち着くんだ、ミカサ!! 鎧の巨人が回復を図っているのは明白だ!! いたずらにガスとブレードを消費するな! 一度戻るんだ!!」

ミカサ「でも、エレンが………そうだ、エレンは!! エレンは無事なの、アルミンッ!!?」


 ミカサが振り返り、崩れ落ちたエレンの巨人体のうなじ付近に立つアルミンに問う。

 アルミンは高熱を発しながら溶けていく巨人体からエレンを引き剥がしつつ、

アルミン「無事だ!! だけど、だけど、意識がないんだ!! そ、それに――――エレンの下半身が、巨人体が吹き飛ばされた時に、建物の鉄骨の下敷きになって、抜けない!!」

ミカサ「そ、そんな………それは、まるで」


 ミカサは痛みをこらえるように、頭を片手で押さえた。

 五年前のことを覚えている。

 大好きだった義母さん。カルラ・イェーガーが死んだときの記憶が、嫌でも呼び起されるシチュエーションだった。


アルミン「これじゃ、エレンを動かせない…………!! この鉄骨を上げて、エレンを引きずり出さないと!!」

ミカサ「ッ、分かった!!」


 そういって、ミカサがエレンに駆け寄った時だ。

 不幸なニュースは続く。


エルフA「ッ、北の内地側から、奇行種が多数接近!! 既にシガンシナに入り込んでるヤツもいるッ!!」

ミカサ「ッ―――――――!?」

アルミン「ッ…………エルフさんたち!! 残った棒火矢で、奇行種たちの足止めをお願いします!! 棒火矢が尽きたものは、すぐに壁上に離脱!」

シャラ「それしかないか! わかった!!」

ミカサ「調査兵の先輩方! 誰でもいい、エレンを引っ張り出す!! 力を貸して!!」

調査兵A「待ってろ! すぐ行く!!」

調査兵B「すぐに出してやるからな、エレン!!」

ミカサ「エレン!!」

アルミン「エレン!! 起きて! 目を覚ましてくれ!!」


 二人が必死に呼びかけるが、エレンの閉じた瞳は開かない。

 たゆたう夢を見ている彼には、囚われてしまった彼には、何も届かない。



……
………


………
……



 堕ちる。堕ちる。堕ちる。

 俺の世界が、崩れて落ちる。

 みんな死んだ。死んでしまった。

 俺が弱かったせいで、母さんが死んだ。

 父さんは、俺が食い殺した。

 なのに、立つ?

 立ち上がって、戦う?

 どうして―――――どうして、戦わなくてはならない?


エレン「俺にはもう、家族はいないんだな。は、はは、だれも。誰一人も。おれは一人ぼっちか。一人ぼっちで生きて、一人ぼっちで死ぬのか」


 違う、と心の内で誰かが叫ぶ。

 違う少女の声だ。聞き覚えのある声だ。だけど、誰の声だったのか名前が思い出せない。輪郭がぼやけて、顔が思い浮かばない。


 世界は戦いに満ち満ちている。

 誰もが皆戦っている。

 何かのために戦っている。

 俺には、何がある?

 守るべき家族を失い、帰るべき故郷を失い、もう何もない。

 なのに、人は戦う。それでも人は戦うのだ。

 なんのために戦う。

 なんのために。

 ライナー・ブラウンは、どんな目的で戦っているのだろう。

 アニ・レオンハートは、誰のために戦っているのだろう。

 ベルトルト・フーバーは、何のために戦っているのだろう。

 俺は間違っていない。正しいはずだ。向こうが悪で、こちらは正義のはずだ。

 なのに、勝てない。

 どうして、負ける。


 故郷に帰るため。家族を守るため。夢を叶えるため。

 そのためだ。そのために戦っている。彼らの言が正しいならば、その筈だ。


 ――――じゃあ、そのために戦う彼らは悪なのかしら?



 茶化すように、どこか優しげな少女の囁き声。

 過程や方法に差はあれど――――どちらも正しいとしたら。


 善と悪という二極の判断基準そのものが誤りであるとすれば。

 エレンは。


 エレンは。


 エレン・イェーガーという一人の人間の生は。


 ……ああ、そうか。そうだったのか。


 エレンは、一つの答えを得た。



 ―――――この世に、絶対の正義なんてない。


 どちらが正しい。どちらが悪い。

 私欲で動くことは悪なのか。

 大義を掲げれば何をしても善しとするのか。

 どんな理由があろうとも、人殺しは悪なのか。

 どんな手段を使おうとも、人助けは善なのか。

 大義など虚飾だ。

 全く人間とは度し難い。人を殺しておきながら、悪を討った正義の使者だと褒め称えられたいのだ。

 正義のための人殺しならば許されるのだと、言い訳を並べているのだ。


 ――――そうよ。みんなそうなの。誰もが己のために戦うの。


 くすくすと嘲るような少女の声。


 再び問う――――希望は勝てないの?


 ――――勝てないわ。絶対に勝てない。大多数の絶望を糧に、一握りの希望が勝つ。欲望っていう名前の希望がね。

 ――――誰だってきれいごとが大好きよ。だけれども、理想だけじゃあ夢は叶わない。現実には敵わない。だから、いつかは必ず目を逸らすわ。不正を見逃して、己の利益を優先する。

 ――――光の陰で腐敗と汚濁は確かに存在する。誰もがその腐臭に蓋をして見ないようにしているだけなのよ。

 ――――己の思想や信念を尊いものだと信じて、目指す理想が眩いものだと信じて、誰も彼もが夢半ばで、絶望に塗れて死んでいくの。


 嫌だなぁ、そんなのは。


 ――――そうでしょう? 嫌でしょう? 貴方だってそうなりたくはないでしょう?

 そういって、少女は嗤う。ぼやけた輪郭が鮮明に浮かび上がってくる。

 闇に溶ける黒いドレスを身に纏う、美しい黒髪の少女は、言う。


 再び問う――――希望は勝てないの?


 ――――勝てないわ。絶対に勝てない。大多数の絶望を糧に、一握りの希望が勝つ。欲望っていう名前の希望がね。

 ――――誰だってきれいごとが大好きよ。だけれども、理想だけじゃあ夢は叶わない。現実には敵わない。だから、いつかは必ず目を逸らすわ。不正を見逃して、己の利益を優先する。

 ――――光の陰で腐敗と汚濁は確かに存在する。誰もがその腐臭に蓋をして見ないようにしているだけなのよ。

 ――――己の思想や信念を尊いものだと信じて、目指す理想が眩いものだと信じて、誰も彼もが夢半ばで、絶望に塗れて死んでいくの。


 嫌だなぁ、そんなのは。


 ――――そうでしょう? 嫌でしょう? 貴方だってそうなりたくはないでしょう?

 そういって、少女は嗤う。ぼやけた輪郭が鮮明に浮かび上がってくる。

 闇に溶ける黒いドレスを身に纏う、美しい黒髪の少女は、言う。


 EASYは、言う。


EASY「だから――――――――――――こちらにおいで。ミズガルズの兵士さん」

EASY「私が貴方を導いてあげる。この絶望に満ちた世界の果ての、希望の在処へ連れて行ってあげる」


 …………『そこ』に行けば、俺は夢をかなえられるの?


EASY「勿論。貴方が望んだだけの希望の数だけ、貴方の望みを叶えてあげる。私ならばそれができる」


 白魚のように白く艶やかな指先をこちらに伸ばしてくる。


EASY「掴みなさい―――――歓迎するわ、エレン・イェーガー」


 俺はいつの間にか感覚を取り戻していた身体に命じた。

 俺はゆっくりと、その手に向かって、手を伸ばして――――。



……
………


 EASYは、言う。


EASY「だから――――――――――――こちらにおいで。ミズガルズの兵士さん」

EASY「私が貴方を導いてあげる。この絶望に満ちた世界の果ての、希望の在処へ連れて行ってあげる」


 …………『そこ』に行けば、俺は夢をかなえられるの?


EASY「勿論。貴方が望んだだけの希望の数だけ、貴方の望みを叶えてあげる。私ならばそれができる」


 白魚のように白く艶やかな指先をこちらに伸ばしてくる。


EASY「掴みなさい―――――歓迎するわ、エレン・イェーガー」


 俺はいつの間にか感覚を取り戻していた身体に命じた。

 俺はゆっくりと、その手に向かって、手を伸ばして――――。



……
………

………
……


アルミン「ッなんとか、エレンを引っ張り出せた、けど………」

シャラ「四方を囲まれた!! 鎧の修復も、じきに終わる。このままじゃ………」


 絶望的な状況の中、ミカサは叫んだ。

 瞳を閉じてぴくりともしない少年に抱き付き、名を叫ぶ。


ミカサ「エレン! エレン! エレン!!!」


 幾度となく、彼の名を叫ぶ。

 彼女は何度だって、何度だって叫ぶ。

 かけがえのない家族の名を。

 最愛の男の名を。

 唯一無二の、自分だけの英雄の名を。


……
………

………
……



 戦え。戦え。誰もがみんな戦っている。

 国のため、仲間のため、家族のため、恋人のため、子供のため。

 欲望のため、理想のため、夢のため、復讐のため、自分のため。

 つまるところ、それは自己満足だ。過去未来を問わず、人の営みと共に永劫に続く螺旋の円環だ。誰かのためにと謳ったところで、行き着くところは結局それだ。

 行動したことの結果が多くの人の利益になったとしても、結局のところは自己満足だ。自己満足しか得られない。自己満足すら得られずに死ぬ。

 なんて馬鹿馬鹿しい人生だ。

 そんな人生なんて御免だ。誰だって楽な方へ楽な方へと生きていたい。そうに決まっている。

 そんな時だ。


 ――――エレン。


 また、少女の声が聞こえる。輪郭がぼやけて、誰なのかが分からない。

 だけど。その声は、とても澄んでいて、愛に満ちていて。

 いつまでも聞いていたくなるような、そんな声だった。


 気づけば俺は――――目の前の少女の、EASYの手を、打ち払っていた。


 EASY「え………?」

 エレン「――――な」

 EASY「何? 何を言っているの?」

 エレン「―――――俺に近寄るなと言ったんだ、売女(ばいた)」

 EASY「ッ………なぁッ!?」


 所詮は自己満足と人は言う。だが、自己満足で何が悪い。

 いつだって人は、広義としての目的は、己の心の平穏のために戦うのだ。

 己の目に映るちっぽけな世界のために、人は戦うのだ。

 世界を改変しようとする意思があれば、世界を維持しようとする意志がある。

 そこに善悪の観念の入り込む余地はない。

 どちらが尊い、どちらが劣るといった価値すらない。


 大切な十人を生かすために、どうでも良い一人を殺す。

 大切な一人を生かすために、どうでも良い十人を殺す。

 どちらも同じだ。同じ人殺しだ。己の価値観という自己満足を充足させるために行った行動に、善悪や尊厳は一切の介在はしない。

 だが、それでも。


エレン「雌狗が。臭いんだてめえは。負け犬の臭いだ。希望は絶対に絶望に勝てないと? 最後は必ず絶望が勝利すると?」

EASY「ッ、違うとでも? 貴方だって見てきたはずよ。人間は汚い。人間は悍ましい。人間は卑怯だ。

   理想を笑い、意志を嘲り、夢や希望よりも安穏な生活が大事と来てる。そんなヤツらが、絶望に打ち勝てるわけがあるとでも?」


 それでも、尊いものはあったのだ。

 エレンには後悔がある。

 たった一つの後悔は、今もその胸の奥深くで燃えている。

 尊いものを失った日のことを覚えている。


エレン(忘れるものか…………忘れるものかよ!!)


 五年前―――――エレンはたった一つの後悔を、シガンシナ区の生家に置いてきたままだった。


 覚えている。たった一つの拠り所すら奪われた時の喪失感を。


エレン「与えられるだけの希望に何の価値がある。てめえの手でつかみ取るから、それは尊いんだろうが!!」


 憶えている。忘れもしない。

 絶対に許してなるものか。

 正義も悪もない、残酷な世界で。


カルラ『エレン………生き延びるのよ!』


 只々、息子の命だけを案じ続けた人を、その尊さを知っている。

 失ってしまった物の重さを知っている。

 失うことの悲しみを知っている。




エレン「だから俺は、俺の力を、俺の信じた正義のために使って―――――――――戦う。そう決めたんだ」


 どれだけ母は恐ろしかっただろう。

 どれだけ母は心細かっただろう。

 どれだけ母は、助けて、行かないで、と叫びたかっただろう。

 どれだけ父の無念は大きかっただろうか。

 最愛の妻を失い、残った幼い我が子に全てを託し、何もかもを押し付けて死ぬことがどれだけ不本意だっただろうか。

 だが、それでも。

 俺は託されたのだ。父と、母に。

 戦えと、生きろと。

 だから。 


エレン「俺は絶対にてめえの手を取らない。いなくなってしまった人たちの意志を、踏みにじることはできない。それだけはできない。それだけは」

EASY「ふざけないでよ、この臆病者が。絶望を前に小便垂らしてびくびく戦い続けるだけの人生が、それほど高尚なものだっての?」

エレン「戦うことを放棄して絶望に尻尾を振った負け犬が、偉そうな講釈を垂れるな」

EASY「ッ………こ、このッ、ガキッ………」

エレン「俺は、何が何でも生き延びる。絶望の中だろうと関係ない。泥を啜っても、小便漏らすぐらい怖くてもだ。生きて、生きて、生きて、生きて、生きて―――――」


 どれだけ母は恐ろしかっただろう。

 どれだけ母は心細かっただろう。

 どれだけ母は、助けて、行かないで、と叫びたかっただろう。

 どれだけ父の無念は大きかっただろうか。

 最愛の妻を失い、残った幼い我が子に全てを託し、何もかもを押し付けて死ぬことがどれだけ不本意だっただろうか。

 だが、それでも。

 俺は託されたのだ。父と、母に。

 戦えと、生きろと。

 だから。 


エレン「俺は絶対にてめえの手を取らない。いなくなってしまった人たちの意志を、踏みにじることはできない。それだけはできない。それだけは」

EASY「ふざけないでよ、この臆病者が。絶望を前に小便垂らしてびくびく戦い続けるだけの人生が、それほど高尚なものだっての?」

エレン「戦うことを放棄して絶望に尻尾を振った負け犬が、偉そうな講釈を垂れるな」

EASY「ッ………こ、このッ、ガキッ………」

エレン「俺は、何が何でも生き延びる。絶望の中だろうと関係ない。泥を啜っても、小便漏らすぐらい怖くてもだ。生きて、生きて、生きて、生きて、生きて―――――」


 そうだ。生き抜いて、戦い抜いて、夢を叶えるのだ。

 例えそれが誰にも認められない異端であろうと。

 誰かに憎まれて、恨まれて、嘆かれて。

 だけど、それでも。


エレン「そうだろ、アルミン。俺は、俺たちは壁の外へ行くんだ。もう、すぐそこなんだよ」


 俺には、輝くような瞳で夢を語った親友がいる。

 俺は、己の命を投げ捨ててまで、俺に力を託してくれた人の気高さを知っている。

 喪われたことの苦しみは、未だ胸の内で疼痛を放っている。

 もうたくさんだ、と、そう思う。

 けれど。

 されど。

 それでもなお、失いたくないものが、未だその胸の中にあるのならば―――――。



 ―――――エレン。




 誰かが呼ぶ声がする。

 聞き慣れた声。しかし聞き飽きぬ声。いつまでも聞いていたいような心地になる、声。

 誰だ。お前は誰だ。




 ―――――エレン。




 ああ。

 なんだ、おまえか。

 いつだって俺を窘めて。

 いつだって俺の傍にいて。

 おまえは飽きないな。どうしてそう俺の世話を焼きたがるのか。



 ――――戦わなくては、勝てない。



 そうだ。その通りだ。

 覚えてたんだな。

 初めて会った時のことを。



ミカサ「エレン―――――だいすきだよ」



 なあ――――――ミカサ。



 ミカサ。

 ミカサ。ミカサ。ミカサ。

 おれの、かぞく。だいすきな、女の子。


 だから。だからこそ。いつだって俺は。


エレン「俺は死なない。死ぬわけにはいかない。だがそれ以上に、絶望に逃げる事なんざできるわけがない。それはもはや俺じゃあない。エレン・イェーガーではなくなっちまう」

EASY「ッ、お、おまえ、は………」

エレン「お呼びじゃあねえんだ………失せろ、絶望!! てめえなんざ、永劫の果ての明日で、ありもしない出番をいつまでも待っていやがれ!! その時は俺が引導を渡してやる!!」

EASY「―――――――――ッ」


 光が弾け、EASYの姿がその奔流に呑み込まれていく。

 そして俺は、かつての己を取り戻し――――。


ミカサ「エレン! 目を覚まして!!」

エレン「――――――――――ッ!!」



 獣を思わせる、黄金の瞳が見開かれた。



……
………

※次回、エレンvsライナー戦、クライマックス

 なーんかマウスの調子が悪くて連続投降してしまう不備が多発

 すまんの

 休み? 休みなんてないよ………誰か続き書けよ

 詰まんなかったらケツの穴にカラーコーンをねじこむがな

※アカン。抜けがある。>>162>>163の間にこれ


 尋ねてみる――――その先に希望はあるの?


 ――――あるわ。だけど、最後は必ず絶望が勝つの。いつだってそうやって世界は回ってきているのよ。

※いつも感想ありがとう

 次の更新は―、多分日曜日? じゃね?

 明日からの取引先次第? じゃね?

 経済的に豊かになろうと、何故か日常が楽にならない! 不思議!

 SS深夜VIP板のみんなー、オラに少しだけ休みを分けてくれー、頼むー

 そして今必殺のニート玉が炸裂する

 喰らった相手はニートになって社会的に死ぬ

 誰も彼も皆アビスの力によって死ぬがよい

 うしとらアニメ化決定が、今の俺を生かす原動力


ヤン「アニメ? なーにーちゃんにーちゃん、ヘルチングにアニメなんてあったのー?」

ルーク「ありません」

ヤン「本当に? OVAじゃないよ? アニメだよ?」

ルーク「ありません」

ヤン「そっかー。ところでヘルチングとトリニティブラッドって設定が似てるけどどっちがパク」

ルーク「おいバカやめろ」


『完』


………
……



エレン「―――――――――………」


 空ろな意識が、現実へ向かって浮上する。

 目を開いた瞬間に飛び込んできたのは、必死の形相で己の名を呼ぶ愛しい人だった。

 その向こうには、長年苦楽を共にしてきた幼馴染の親友の顔もある。


アルミン「ミカサ。エレンを担いで逃げて」

ミカサ「アルミン、それは」


 ついと視線を動かせば、瓦礫の街を闊歩する巨人たちの群れ。

 そして更にその向こう側に、今しがた完全に傷を修復した『鎧の巨人』の姿がある。

 エルフたちは大半が壁の上に一時的に退避しており、三人はほぼ孤立無援の状態にある。

 絶体絶命――――怖気がミカサの背筋を伝った。

 その状況で紡がれたアルミンの言葉が意味するところは、つまり。


アルミン「トロスト区防衛戦で、僕は、僕は何もできなかった。僕は、弱い。見ていることしかできなかった。僕は臆病で、どうしようもなく無力だ。一人じゃ何にもできない」


 ――――がちがちと歯を打ち鳴らしながら、アルミンはそう言った。

 その震える手に握られたグリップは、なかなかブレードを挟み込んでくれない。


アルミン「だけど、それじゃだめだ。そのままじゃ、だめだ。そのままでいたくない」

ミカサ「アルミン、貴方は………」

アルミン「死ぬのは、怖いよ。だけど、だけど、もっと、もっと怖いことがある。おトヨさんも、言ってただろう?」


 冷や汗の浮かんだ蒼白の顔色で、しかしアルミンは笑みを浮かべた。


アルミン「僕は、君たちの親友でいたいんだ。胸を張って、誇りを持って、そう言えるようになりたい。ここで逃げたら、僕はもう………もう二度と、エレンとミカサを親友だと言えなくなると思う」


 その恐怖を想った時、アルミンの手足の震えは、収まっていた。


アルミン「今度こそ、僕も戦うから。エレンを、君を、守って見せる。だから、逃げてミカサ…………持たすから。死ぬ気で三十秒………いや、一分持たすから。エレンを、お願い」


 その声には断固とした決意が宿っている。両手でブレードを引き抜き、構える。


ミカサ「ッ、駄目だ。駄目だ、駄目だ、駄目だ。それは、駄目だ!」


 殆ど悲鳴のようにミカサは叫んだ。

 ミカサは覚えている。

 両親を失った日を。

 新たな家族を失った日を。

 アルミンの両親が、祖父が、口減らしのために死地へ送られた日を。

 自分たち三人の、身寄りが無くなった時の心細さを知っている。

 同じ傷を抱えた者同士の傷の舐め合いで何が悪い。

 エレンとアルミンは、ミカサにとって特別だった。どちらも掛け替えのないものだ。

 それを失うことは、五体を裂かれることよりも痛い。

 己の命よりも、二人の生を。無償の愛を誓ったミカサにとって、それはどんな地獄にも勝る残酷な仕打ちだった。


ミカサ「私が、私が残る。エレンには、アルミンが必要だ!!」

アルミン「人の恋路を邪魔する趣味はないよ。客観的に見ても、君こそがこれからもエレンに必要だ。僕が残る」


 一刻の猶予もない状況で、なおも言い合いを続ける二人に、



エレン「五月蠅いぞ、ミカサ、アルミン!!」



 一喝する声がある。ミカサとアルミンが驚いて振り返ると、


エレン「ミカサ、おまえはいつもそうだ。危険なことに首を突っ込んで、いちいち物事をややこしくしやがって」

ミカサ「え、エレン………」

アルミン「ッ、気が付いたの、エレン!!」

エレン「ああ―――――最悪の気分だ。アルミンもだ。この意地っ張りめ。いちいち捨て鉢になろうとしやがって」


 吐き捨てながら上半身を起こす。全身をむしばむ激痛に高揚する。


エレン(ああクソ。左腕と右足が折れてんな………)


 エレンが目を開いた先に見える世界は、相も変わらずだった。


 美しく、儚く、移ろい易く。

 繊細で。残酷で。醜悪で。

 極僅かな希望の光と、どうしようもない絶望の闇に溢れている。



EASY『ね? だから言ったでしょ』


 少女の粘ついた声が、心の内に響く。

 極め付きの絶望という闇の中、一筋の光があったところでなんになる?

 希望?

 愛?

 絆?

 友情?

 勇気?

 それが―――――なんだというのだ?


 何の役に立つと言うのだ?


EASY『――――無駄よ。無駄なのよ。無為、無益、無意味、無価値。なんのこともありはしない。何をしたところで、結局は闇が勝つのだから』


 闇は消えない。どんな光の中でも闇は消えない。光ある限り闇はある。しかし、その逆は必ずしも真とはならない。

 光がなくても闇は存在する。光が消えたその時こそ、闇は全てを覆い隠してしまう。


エレン(それがどうした)


 それでもなお、エレンは否と断言する。


エレン(誰にだって侵されたくない領域ってのがある………自分の世界だ。残酷で、綺麗なものがある)


 動く右腕で体を動かし、左足を軸に、地を蹴る。

 少しずつ、エレンの身体が起き上がっていく。


エレン(そうだ、俺の見た世界は、残酷だったよ)


 その金色の瞳は、ただ敵を睨みつける。


エレン(だけど、美しいものがある。失いたくないものがあるなら、抗うだろ。そういうもんだろ。それの何が悪い)


 食いしばられた歯が、ギリギリと音を立てた。


エレン(ああ、全身が痛え。肋骨も折れてんのか………このまま眠ったらどれだけ楽だろう)


 僅かに身じろぎするだけで体が軋み、みしりと骨肉が悲鳴を上げた。


エレン(挫けそうってのは、こういう状況のことを言うんだろうな)


 それでも、口元に笑みが浮かぶ。


エレン(けど)


 耳をすませば、遠く巨人たちの咆哮と、兵士たちの声。

 悲鳴など一つもない。誰も彼もが、戦気に満ちた声を上げている。


エレン(みんな、戦ってんだよな)


 視線を遠くに向ける。

 西の壁の向こうには、超大型巨人の姿がある。

 南の壁の向こうから、巨人たちと闘う兵士たちの戦火の声が聞こえる。

 誰も彼もが戦っている。辛い現実と、残酷な世界と、戦っている。


エレン(じゃあ『ナイ』だろ。先に休むなんてのは)


 痛みを無視する。ただひたすらに一念に集中する。

 立つ。立つ。立つ。

 立つのだ。


信長「立て。立て。立て」


 遠目に戦況を判断する信長がつぶやく。


与一「立て。立つのだ。立ちなさい! エレン殿!!」


 壁上より、南の戦地を遠射で援護する与一が叫ぶ。


エレン(聞こえてる、よ…………安心しろって、俺は、立つから)


 第六天魔王と、源氏の大英雄。その鼓舞を背に受けているのだから。


豊久「――――――――――立てい、えれん。立つのだ! 立って戦え!」


 十文字を刻んだ赤い背中が、前へ前へと急かすから。気迫のこもった烈声が、まだこの胸の中に響いているから。


アルミン「エレン!」


 唯一無二の親友が、いつだって己の背中を押してくれるから。


ミカサ「エレン!!」


 大好きな女の子が、崩れそうな体を隣で支えてくれるから。


エレン(まだ立てるから)


 父と母がくれた命が、胸の中で熱を発しているから。


エレン(立ち上がれたから――――――挫けるのは、また次の機会だ)


 エレン・イェーガーは、あの時のように、


エレン(次の次の次の次の、ずっとずっと先の次の機会だ。戦わなくては、勝てない)


 ――――誰かのために戦うのだ。


エレン「…………行ってきます」


 行ってきます、母さん。

 行ってきます、父さん。


エレン「行くぞ。行くんだ。壁の外へ。あいつを倒して、俺は世界の果てに行く」


 昨日の自分を、誇れるように。

 明日の自分が、今日の自分を誉れとできるように。

 俺とみんなの明日のために。


 家族を、守るために戦います。


 ――――今日、戦います。


 そして立ち上がったエレンの背に、ミカサは何かを感じ取ったのか、微笑みを浮かべ、





ミカサ「行ってらっしゃい―――――エレン」




 そう、ぽつりと零したのだ。





エレン「そうじゃねえだろ、ミカサ」

ミカサ「え……?」


 エレンが振り返る。眼光は鋭いままに、口元を獰猛に引き攣らせ、


エレン「行こうぜ、ミカサ。一緒にだ」

ミカサ「――――――っ」


 ミカサが憧れ、焦がれ、どうしようもなく愛した少年の強い意志を秘めた瞳。

 この目だ。この目に、ミカサは惹かれた。

 世の絶対に抗う瞳。

 理不尽を打破する理不尽。

 もがきながらも前へと進む金色の輝き。

 本当の恐怖を知り、恐怖へと挑む者の目だ。

 いつだってエレンは、ミカサにとっての英雄だった。

 ミカサの全身が大きく震えた。

 彼女の感情を占めるのは、圧倒的な歓喜。

 世界中に叫びたい。これがエレンだ。これが、これがエレン・イェーガーだ。

 エレンが己と共に来いと言ってくれた。これほど嬉しいことが他にあるだろうか。


ミカサ「…………うんっ!!! 行こう、エレン。何処までも。何時までも!!」


 ブレードを両手に構え、ミカサは眼前の巨人たちをねめつける。

 そんな二人の背を見つめるアルミンは、


エレン「何ボサッとしてんだよ、アルミン。俺は手足。おまえが頭だ。いつだってそうやってきただろう、相棒」


 かけられた声に、思わず泣きそうになった。


アルミン「エレン!」

エレン「アルミン、おまえが案内役だ。世界を旅するんだろ。あの壁を越えて、先へ進むんだ」

アルミン「ッ―――――――ああ! そうだ、そうだとも!!」


 今度こそ涙が零れた。嬉しくて嬉しくて、どうしようもなく涙が溢れて止まらない。

 覚えていてくれた。いつかエレンと約束した。壁の外に出ると言う、途轍もない夢。

 誰もが異端だと、愚かだと蔑んだ己の夢を受け止めてくれたのは、エレンだけだった。

 今、その夢を叶えよう、と。ただそれだけで、恐れることは何もなくなった。


エレン「――――――ッァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 エレンは叫んでいた。

 赤熱するような咆哮。熱波を孕み、あらゆる音を掻き消して、その声は響き渡る。

 魂の底から、心の臓腑から、絞り出すかのような絶叫。

 それは、己たちに害意を向けるあらゆる存在に向けた、拒絶の声だ。

 不条理を、理不尽を、駆逐せしめる戦いの詩だ。

 荒唐無稽な御伽噺のように、己の存在を世界に指し示す、命の唄だ。


 かくしてその声は。


ライナー(ッ…………!!)ビッ

ベルトルト(っあ………)ビビッ

ユミル(ッ………そう、か。この、声………だから、ライナーとベルトルトは)ビリッ


 そして、御伽噺は実現する。

 誰にも消せぬ希望の光は顕現する。


信長「ッ…………どッ、どッ、どうなってんだ、こりゃあ………」

与一「これは、たまげましたなぁ………」


 壁上から一部始終を目撃していた信長と与一は、思わず呟いた。


 ――――壁内の奇行種たちが、同士討ちを始めている。


 異変は、壁内だけに留まらない。シガンシナ壁外の南戦場でも、極わずかな範囲であったが、同様の現象が発生していた。

 エレンの『叫び』が届かぬ範囲にいた大半の奇行種たちには無意味であったが、効果は劇的だった。

 100の巨人が90に減るだけではない。減った10が全て味方に回るようなものだ。


エルヴィン「これは………そうか」

リヴァイ「ッ―――――そういうことか」


 いち早く、エルヴィンとリヴァイは、ライナーとベルトルトを尋問した、地下での会話を思い出す。

 エレンの持つ『座標』――――絶対命令権。

 あらゆる無知性巨人を操り、支配し、従わせ、屈服させる。


ライナー(ッ、短期決戦だ。即座にエレンを確保し、ベルトルトと合流。すぐに外へと離脱する!)


 状況は逆転した。今度はライナーが追い込まれる立場となった。

 エルフ達は退いたが、壁上で棒火矢を補給すればすぐさま追い詰めてくるだろう。

 調査兵団の精鋭たちも、外の状況が鎮火すれば、超大型や鎧の討伐に駆り出されてくる。


ライナー(ッ最悪だ…………よりによって、ここか。この場面でッ………クソッタレ、てめえ、エレン………)


 鎧の巨人の内部から、憎悪を込めた視線でエレンを射抜く。

 全身から蒸気を上げる死に損ないは、それ以上の憎悪を以って、鎧の巨人を睨んでいた。


エレン「駆逐してやる………!!」

アルミン「この世から!!」

ミカサ「一匹ッ、残らずッ!!!」


 そして三名は。三位一体となった彼らは。

 『鎧の巨人』へと、挑む。


※推奨BGM:https://www.youtube.com/watch?v=xZ9LK6vsWbY


エレン「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

鎧の巨人「ッツァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 先ほどの焼き直しと言わんばかりの乱打、乱打、乱打の応酬。

 明らかに劣勢なのはエレンの側だった。

 エレンは再び巨人へとその身を変じさせてはいたが、体力の消耗と傷の影響もあるのだろう――――現れた巨人は、15メートル級に満たぬ大きさだった。

 むしろあの傷で巨人化を果たしたこと自体が、ライナーにとっては称賛に値すべき事態である。

 エレン・イェーガーでは、鎧の巨人に打ち勝てぬ。

 兵法、戦術、戦略の問題ではない。互いの巨人化能力のスペック、アビリティ、レベルの問題だ。

 鎧を打ち砕く膂力が、耐久が、エレンの巨人体にはない。



 だが、鎧の巨人は此度において、エレンの巨人体を打倒するに至らない。

 何故ならば。


アルミン「ミカサ!! 行って!!」

ミカサ「諒解ッ!!」


 エレンは独りではない。

 三人だ。

 強き精神力を備えたエレン・イェーガー。

 人類最強に迫る強さを誇るミカサ・アッカーマン。

 いかな難問であれ卓越した頭脳によって正解を導き出すアルミン・アルレルト。

 この三人ならば。

 三人が揃っているのならば。


ミカサ「おッ…………ッつぁらぁぁああああぁああああああッ!!!」


 那須与一のように。

 さながら迅雷。虚空に鋭角を描く立体機動術は、鎧の巨人にその影すら掴ませぬ。

 ひざ裏の靭帯を切り裂き、その体勢を大きく崩させる。


アルミン「―――――今」

ライナー(ッ!?)


 たたらを踏んだ鎧の巨人の足元で、地面が隆起する。

 完全に軸足を掬われた鎧の巨人の巨体が、仰向けにひっくり返った。

 そこを追撃せんとエレンが迫る。為す術もなく、鎧の巨人の首元へ横なぎの蹴りがブチ込まれた。

 根こそぎ首をへし折らんばかりの威力の籠った蹴りは、巨人の中でも大柄な部類に入る鎧の巨人の巨体を、一区画分ほども吹き飛ばす。

 内部のライナーはその衝撃のあまり意識が飛びそうになるのを、舌を噛んで踏みとどまる。

 ライナーの内心の動揺は著しい。

 ――――なんだ? 今、どうして足元が? 誰が? どうやって? いつの間に?

 巨人体を起こしながら、脳内はパニックを起こしていた。


アルミン「なんだ? 何を呆けてるんだい、ライナー」


 蔑んだ声の主を探せば、そこにアルミン・アルレルトが立っていた。


アルミン「僕がさっきみたいにお行儀よく傍観してやるとでも思ったのか? さっきまでのエレンとの戦いを、何も考えずに見ていただけだと思っていたのか?」


 アルミンはつぶさに状況を分析していた。なんの算段もなく、先ほど足止めの役割を買って出ようとしたわけではない。


アルミン「――――ライナー・ブラウン。君の、鎧の巨人の弱点は分かった。確かに君の鎧は脅威だ。棒火矢の威力を通さない強固な鎧に、並の巨人の数倍はあるだろう膂力。普通に戦ったんじゃあ勝てない。だから」

ライナー(ま、さか…………あ、あれ、は!)


 先ほど足元を掬われた場所の地面を見る。そこには、石壁の符によって顕現した壁があった。


アルミン「調査兵をはじめ、兵士が巨人との戦闘において防御面を捨てるのは、鎧を着こまない理由は、その機動性を重視するが故だ。

     君の巨人体は、力が強くて硬いが、その鎧の分、最高速に達するまでが極めて遅い。行動の『起こり』を見極めて、そこで石壁の符を起動させれば――――」


 パチンと指を鳴らすと、起き上がろうと地面を押していた鎧の巨人の右手が、再び『何か』に掬われる。

 起こしかけていた体が、再び仰向けに倒れる。


アルミン「こうなる。あまり人類を舐めるな」

ライナー(ッ、い、石壁の符の、え、遠隔操作ッ?! な、なんで、どうしておまえが、おまえにそんなことが――――)

アルミン「それを作ったのは誰だ。忘れたのか? オルミーヌさんと、クリスタと、この僕だ。ただ何も考えずにそれを作っていたとでも?

     矢で撃ち込まなきゃ使えないなんて、そんな『欠陥』を、僕が見逃すものか」


ライナー(―――――――――――)


 心の声を直接聞き分けたかのような冷たいアルミンの声に、ライナーは脳天に氷柱をブチ込まれたような寒気を覚えた。

 ライナーは歯噛みする。

 知らず、侮っていたのだろう。

 アルミンは兵士としては出来損ないの劣等生だと。

 それ故に忘れていたのだ――――その頭脳においては、次席である己はおろか、主席のミカサですら敵わなかったという事実を。


アルミン「後悔を噛みしめる余裕があるのかい? ちゃんと――――エレンを見てないとダメだろ」

ライナー(ッ、し、しまッ………)


 アルミンが言い切るのとほぼ同時、背後から迫っていたエレンの巨人体の蹴りが、うなじへ直撃する。

 一区画どころか、今度は二区画を転げまわることになった。

 先ほどの倍の威力。しかも直接うなじへと叩き込まれた。


ライナー(あ、が………い、いか、ん。ま、また、意識、が、と、途切れ………)


 外界へと繋がるシガンシナ区正門の前で停止した鎧の巨人は、よろよろと覚束ない足取りで立ち上がる。

 ライナーの精神力は、今まさに潰えようとしていた。

 だが、その一方で、


エレン(心臓が…………ば、爆発、しそう、だ)


 既に体力的にも限界を迎えていたエレンもまた、意識をつなぎとめることに精一杯であった。

 割れるような頭痛と吐き気、高鳴り続ける心臓と、足りない酸素。

 少しでも気を緩めれば、僅かでも集中を途切れさせれば、巨人としての本能に意識を乗っ取られる――――そんな恐ろしさがある。

 それは眠気にも似た誘惑だ。気怠く、甘く、揺り籠のような心地良さを感じさせる。


EASY『諦めろ。諦めろ。諦めろ。屈してしまえ。破れてしまえ』


 怨嗟の声もまた、エレンの心を侵すように響き渡る。


エレン(黙れって言っただろ、淫売が……)


 巨人体を鎧の巨人の元へと歩かせながら、心中で毒づく。


ライナー(ッ…………あの、足取り。アイツも、限界、か………?)


 エレンの巨人体の様子から、もはや走り寄るだけの体力すら残っていないことを、目ざとく察知する。


ライナー(だ、ったら………あと、一押し、だ。一押し、で………)


 ライナーは思い出す。

 そうだ。あと一押しだ。仲間たちと、約束した。

 故郷へ帰るのだ。そのために、戦士となったのだ。故郷へ帰るために。


ベルトルト『必ず帰ろう。僕たちの故郷に』

マルセル『ああ、絶対だ。四人で帰ろう』


 もう、三人になってしまったけれど。だけど、帰らなきゃ。『座標』を連れて。


アニ『帰ろう―――――――――――――――『オルテ』に』


 帰るのだ、故郷へ。懐かしの『オルテ』に。


 そして、エレンの巨人体が、鎧の巨人体の射程距離へと入った。

 それは同時に、エレンの巨人体の射程距離でもある。


エレン「――――――――――」

鎧の巨人「――――――――――」


 巨人体の体格面において、鎧の巨人がやや有利ではある。

 だが、これはもはや互いの巨人体を破壊する、しないの戦いではない。

 どちらが先に、相手の心を折るか――――そんな戦いだった。


エレン「ッ、ガアアアアアアアアアアアアアッ!」


 先に動いたのは、やはりエレン。

 巨人体に取らせた動作は、右上段蹴り。

 再び首筋へと叩き込み、今度こそライナーの意識を断つ狙いだ。


鎧の巨人「ッルォオオオオオオオオオオオオッ!」


 対するライナーは、右の正拳にて応対する。

 狙いは顔面。巨人体においてもうなじの次に核を担う頭部を破壊すれば、今度こそエレンは意識を刈り取られるだろう。

 このままであれば、後の先を取ったライナーが、僅かに早くエレンの巨人体の頭部を破壊することとなる。だが、


ミカサ「―――――――やらせない」

鎧の巨人「…………ッ!!!」


 既に壁側へと回り込んでいたミカサが、軸足となる左足の腱をそぎ落とす。


アルミン「駄目押しにもう一発!!」


 更にアルミンが右足の側面から石壁を隆起させ、壊滅的にバランスを殺しにかかる。

 結果、鎧の巨人の拳はエレンの巨人体の頭部を大きく逸れた。

 次の瞬間、渾身の力を込めた蹴りが、鎧の巨人の首筋を捉えた。


信長「―――――――決まった」


 直上の壁から目視していた信長ですら、決着を確信した。

 だが、


ライナー(――――――まダ、だ)

エレン「ッ…………!?」


 既に意識を失ったはずのライナーが、巨人体を動かす。

 空振りした右腕をエレンの巨人体の首に絡みつかせる。一戦目でエレンが見せた動きと同じ、首相撲の形。


ミカサ「ッ、エレ――――――っぐ」

アルミン「ミカサッ!?」


 そして、左手でミカサの立体機動装置のワイヤーを掴み、引き寄せる。

 もはやほとんどの力が残っていないとはいえ、巨人の力である。なすすべもなくミカサは壁へと叩きつけられ、地上へと落下する。


 更にそのままエレンの巨人体へと身体を預けるように寄りかかる。

 蹴り脚を引きもどしていないエレンの巨人体は、そのまま造作もなく倒れる―――――地面と衝突する。


ライナー(オワら、ナイ………おわル、もの、カ…………カエ、ルん、ダ…………コ、故郷、へ!!)

エレン(―――――――こ、こいつ)


 妄執。

 常軌を逸した集中力。もはやエレンに油断はない。だが、警戒してなお、その上を行く。

 恐るべきはライナー・ブラウンの執念であった。

 そして、両者の巨人体は蒸気となって解けて散る。


エレン「っ、は、ハァッ、はッ、はあッハッ………」

ライナー「ぜッ、ゼェッ、ゼッ、フゥッ、ハァッ………」


 対峙するは、生身の人間が二人。

 エレン・イェーガーと、ライナー・ブラウン。


ライナー「これでッ………終わり、だッ………!!」

エレン「ッ………!!」


 ライナーが拳を振り上げる。対するエレンは身動きが取れない。

 右腕と左足、そして肋骨が粉砕しているエレンにとって、立っていることすら奇跡に等しい。


エレン(ッ、ここで、終わるのか、ここで…………)


 呆然と己の顔面へと迫る拳に、何もできないまま立ち尽くす――――その刹那だった。

 エレンは聞いた。

 確かに、その声が聞こえた。

 ―――――使え、と。

 アルミンの声が。


エレン「――――――!」


 ほぼ無意識の、反射的な行動だった。


 巨人化を行うと立体機動装置が斫れてしまうエレンに残されたのは、隊服のポケットにある石壁の符のみ。

 左手で掴み、発動させる。

 ライナーと己の間を割断するように石壁が展開され、ライナーの拳が阻まれる。


ライナー「ッ!?(石壁の符!? 何故!? 今!? このタイミングで!? 狙いは!? 時間稼ぎ!?)」


 ライナーの思考が疑問で埋め尽くされ、その動きが一瞬硬直する。

 石壁の向こう、エレンはライナーの当惑を鋭敏に感じ取っていた。

 強く、右拳を握る。折れた右腕の骨が軋みを上げ、焼き鏝を当てられたような激痛を発する。


エレン(必要なのは、明確な意思)


 左手を口元へ。

 既に巨人へと変じるだけの体力は残っていない。

 しかし、エレンは覚えていた。


エレン(思い出せ。リヴァイ班の皆と過ごしたあの時のことを、ティースプーンを拾おうとした時のことを思い出せ)


 かつて巨人化の実験を行った際の事件が、思い起こされた。


エレン(いつだって俺の眼前には壁があった。壁、壁、壁、壁。勝手に打ち壊してくれやがって………)


 今もそうであった。石壁が眼前に在り、その向こうには巨人。そして――――。


エレン(ベルトルトの野郎がぶっ壊した、シガンシナ区の正門―――――外の、世界が)


 そこに、ある。

 だから今度こそ。

 今度こそは。



エレン「この壁をブチ砕いて、てめえをブン殴る!!」



 より明確な言葉として発し、左手を噛み切る。


 紫電に似た閃光がエレンの右腕から迸り、かくしてそこには巨腕が顕現した。


エレン「オラァァアアアッ!!」


 振りかぶり、放たれる一撃――――それはまさしくAttack on Titan(巨人への進撃)。

 壁が砕け、その向こうの怨敵へと突き刺さる。


ライナー「げッばッ…………!?」

エレン「消え失せろ!! 俺の故郷から!! 俺たちの世界から!!」


 振り抜く。紙屑のように、ライナーの身体が宙を飛んだ。

 鼻血と血反吐をまき散らしながら、壁の外へ、外へ、外へ向かって。


エレン「これがッ! この力がッ! 親父がくれた巨人のッ!! 母さんがくれた身体のッ!!」


 振り抜いた拳に確かな手ごたえを感じながら、その背に負う翼を想う。


エレン「ミカサとアルミンが届かせた………俺達の意志だァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 その叫びを背に、アルミンは落下したミカサの元へ駆けつけていた。


アルミン「ミカサ、無事!?」

ミカサ「ッ、う…………痛ッ…………アルミン、エレン、は」

アルミン「あまり動かないで! 頭を打ってない!? 骨は?」

ミカサ「だいじょう、ぶ………それより、エレンは? 戦いは、どう、なった?」


 壁に打ち付けられ、したたかに体を打ったミカサではあったが、当たり所が良かったのだろう。軽い打撲以外に目立った傷はない。

 それを確認し終ると、アルミンは満面の笑みを浮かべた。


アルミン「や、やった…………やった、やった!! やったぞ、エレン!! エレンが、勝った!!」

ミカサ「!!」


 全身で喜びを表現するアルミンの身体の向こう、シガンシナ正門の奥に、ミカサは見た。

 ライナーの身体は、シガンシナ区正門から十数メートル吹き飛んだ地点で止まっていた。

 もはやライナーは立ち上がらない。手足を痙攣させ、完全にその意識は飛んでいた。


ミカサ「やった、ね………アルミン。三人で、勝った。勝ったんだ………取り戻した、んだ。し、シガンシナ、を………ひぐッ………こ、故郷をッ」


 ぽろぽろと透明なしずくが、ミカサの両目からとめどなく溢れた。

 釣られるように、アルミンもまた滂沱の涙を溢す。


アルミン「う、う…………う゛ん゛ッ!! やっだッ! やったよぉッ!! ぼく、僕、やったよおッ!! おトヨさぁあああん!! ノブさぁああん!! ヨイチさぁあああん!! オルミーヌさぁああん!!」


 泣き声の二重奏が響く傍らで、


エレン「ウォオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 エレンは吼えた。ただ吼えたてた。

 後に、壁内世界に名を轟かせる英雄の産声。


 それはエレン・イェーガーの人生における、初めての勝鬨であった。



……
………

※と、こんな感じで決着。二転三転したな。面倒くさい奴等だ。

 ライナーとの決着方法はずっとこれに決めてたんだ。一年半も前から。

 なんでこんなに長引いちゃったんだろう

 あ、こっからベルトルトの処刑タイムに入るけど、そこからもまだ終わらないよ

 もうちょっとだけ続くんじゃ

 で、来週日曜投下予定ね ハッピーうれピーよろピクねー

 P.S.
 『実は私は』もアニメ化決定か 胸が熱くなるなぁ

※あ、誤字報告。というか誤記。

 エレンの骨折は右腕、左足、肋骨でつ。

 ごめんなさい 許して

 もし許してくれるのなら………



 お豊による閨講座を………(チラッ

※日曜は休みと言ったな

 また出張入った……日光というのが救いだけど、もぅマジムリ……

 しばらく休みの目途が立たないんで、決まり次第周知するー

次の日曜かな………明日早上がりできたら明日投下


………
……



ユミル(……………何体、殺したっけか。二十体から先、もう、わからねえや)


 『爪牙の巨人』ユミルは、不幸にもエレンの『叫び』の効果範囲外にいた。周囲の奇行種たちはなんら変わりなく、意気揚々とユミルを喰らわんと殺到してきていた。

 エルヴィンが率いる救援部隊が後背から駆けつけてきてはいるものの、ユミルの立つ場は最前線も最前線。

 迫る奇行種たちを殺しては、前へ。

 穿ち、削り、噛み、斬り、抉り、前進、前進、前進。

 それは一方通行の、片道切符だ。奇行種たちを己に引き付け、その背に負った者たちを守るための、儚く燃える流星の輝きだった。

 そして、流星はいつか燃え尽きる。

 その時が訪れようとしていた。


ユミル(やはりここか。私の終わりはここか)


 爪牙の巨人の周囲には、大小さまざまな奇行種たちの死骸が倒れ、蒸気を上げている。

 それでもまだ、殺した数の数倍もの巨人が、ユミルの眼前を覆い尽くしている。


ユミル(クリスタ………ヒストリア、無事かな。きっと大丈夫だろう。団長らがこっちに向かってくるのが遠目に見えた。そろそろ保護されてる筈)


 ついでに芋女と馬面とチビもな、とユミルは苦笑する。

 あいつら怒ってたな、と。

 そうして、ユミルは巨人体を動かす。

 その牙は折れ、爪は指ごと吹き飛んでいる。

 もはや何物を切り裂くことも、食いちぎることもできない。壊れかけのオンボロだった。

 それでも前へ。ただ前へ。前進する。進撃する。


ユミル(…………万策、尽きたな。石壁の符もゼロ。再生も、おっつかねえ)


 策などない。ただの足止めだ。捨て鉢になっていることは理解しても、


ユミル(ばいばい、ヒストリア。ばいばい、サシャ、ジャン…………コニー)


 あのコニーの言葉に、引っ張られている。家族を守ると、大事なものを守ると、何にも疑っていない目で、己に告げたコニーの瞳の輝きを覚えている。


 奇行種の一体が、爪牙の巨人の両足にしがみつく。

 身動きの取れなくなった爪牙の巨人に、ぞろぞろと奇行種たちがにじり寄る。


ユミル(…………いよいよか。やっぱこういう死に方か、私は。けど、ま。しょうがねえ。人間、早々は変われねえってことか。誰も彼もがエレンやトヨみてえにゃなれん)


 自嘲しながら目を閉じ――――――そして瞳を開いたとき、


ユミル(ッ――――――――――!?)


 眼前に、有り得ないものが見えた。

 扉だ。ゆっくりとそれは開いていく。

 そして、そこに果たして少女が立っていた。


ユミル(誰だ。おまえは、誰だ)

EASY『女神様』


 冗談めかして、少女は告げる。

 EASYは、告げる。


EASY『ねえ、ユミル。貴女はここで終わるの? こんなところで終わってしまうの? 元はと言えば、全てが全て人間のせいじゃない』


 少女の声は優しい。

 身のこなしが軽やかな曲芸師のように、するりと心の間隙に忍び寄る。


EASY『そんな自業自得の行き着く末に巻き込まれて、貴女もまた愚かで汚い残骸に成り果てるの?』


 少女の声は甘い。

 じっとりとひび割れた隙間に滲む甘露のように、心の闇を侵していく。


EASY『同じ廃棄物になるのならば、とことんよ。私の手を取りなさい。人の世の理を超越した黒の王と、貴方を引き合わせてあげる』


 どす黒い太陽のような、笑み。

 ゆっくりと伸ばされた指先が、爪牙の巨人の鼻先に突き付けられる。

 手を取れ、と。


ユミル(あ―――――――――)


 ユミルは思わず、手を伸ばしていた。

 己の半生を思い返す。

 糞のような人生だった。人に尽くして、人を信じて、裏切られ、憎まれ、存在そのものを否定された。

 どうしてこうなったと、幾度恨み言を想ったか。

 幾度人を恨んだか分からない。

 結局は、人間たちのために己は命を捧げ、死んでやった。

 されど。

 それでもなお、あきらめを踏破するのならば。

 その手段があるのならば―――――。


ユミル(私、は――――――)


 爪牙の巨人の千切れた指先と、EASYの指先が重なる――――。


 その寸前の事だった。


ユミル(え?)


 拘束されていた両足が軽くなる。

 直前に、金属をはつるような独特の音が――――ブレードによる切断音が、響く。

 連続して音は響く。己に迫っていた前方の巨人が、どずんどずんと地に倒れ伏し、死の蒸気となって消えていく。

 次いでどすんと、足が軽くなった分、頭に衝撃と重みが伝わる。

 何事かとユミルが視線を上に向ければ、


コニー「お…………追いついた、ぞ。この、糞女ァ………」


 頭に撒いた包帯に血を滲ませ、不機嫌そうな顔でこちらを睨みつける、馬鹿がいた。


ユミル(ば――――――――)


 うなじが裂け、その内部のユミルの顔が露出する。


ユミル「ば………馬鹿だ馬鹿だと思っちゃいたが、大馬鹿の類だったのかてめえ」

コニー「た、助けに来た奴に向かって大馬鹿たぁ………馬鹿が極まってんのは、てめえだろ」


 ざしゅ、とまた奇行種のうなじがそぎ落とされる音が響く。

 そこには、


ジャン「そうだぜ………馬鹿はてめえだ糞馬鹿ユミル。てめえみたいなのでも、女だろうが。女見捨てて生き残れだァ!? 目覚め悪ィんだよ、そういうのは! そういうのはどっか、オレの見えねえところでやれ!! そんなん許容すんのは、オレじゃねえんだ!!」


 腹部に撒いた包帯を真紅に染めた、最高に顔色の悪い、馬面がいた。


ユミル「じゃ、ジャン……?」


 ばつんばつんと水気のある球が弾ける音と、巨人たちの絶叫。

 そこには、


サシャ「んが、んぎぎぎぎぎぎ………」


 砕けた右腕に変わり、歯で矢を引き絞るバカ女がいた。


ユミル「サシャッ!?」


 ズガッ、ジャガッと、石壁の符が発動した際の独特の音が響く。


 かくして生み出された石壁のとっつきは、多くの巨人たちを転倒せしめる。

 そこには、


ヒストリア「生きてるだけで、幸せになんか、なれるもんか………ここであなたを見殺しにして、私はその後の人生を、どうやって胸張って生きられるのよ、ばか!! ばかユミルッ!!」


 くしゃくしゃに泣きはらした目で、鼻水垂らして、大声で叫ぶ天使がいた。


ユミル「クリス……ヒストリアッ!!


ユミル「ガスはどうした。ブレードどっから生み出した? いや、そんな、こと、より、この、馬鹿野郎!! 馬鹿野郎どもォ!! なんで、なんでエルヴィン団長らと一緒に、逃げなかった!!」

コニー「四の五の言ってるヒマなんざねえんだ。とりあえず逃げる、前にだ」


 コニーは思い切りのけぞり、


コニー「――――キツいの一発、喰らっとけ」


 うなじから露出したユミルの顔面に向かって、勢いよく頭突きを放った。


ユミル「がっ!?」


 痛みにユミルはのけぞった。鼻血も出てきた。

 だが、コニーの被害はそれ以上だ。ぱっくりと額の傷が開き、再びどくどくと顔が血に染まっていく。


ユミル「なんで、パチキくれやがった………なんで、逃げなかったんだ!!」

コニー「うるぜえ!! おまえは、仲間だろうが!!!!!」


 必死の表情で、心の底から全くの本気で、コニーは怒って、叫んだ。


コニー「仲間が戦ってんのに、ハイそれじゃあ見捨てて逃げましょう、なんてこと訓練兵団じゃ習っちゃいねえんだよ! 成績上位に入れなかったバカブス女にゃわからねえかもしれねえけどな!!」

ユミル「…………」

コニー「テメーはおれたちの同期で、同じ釜の飯を食った大事な仲間で、女で、それがたまたま巨人にもなれるってだけだろ!! 何が違うんだよ。おれは馬鹿だけど、何も違いやしねえだろうが!!」


 もはや理屈でも何でもない暴論に過ぎないそれに、ユミルは二の句を告げなかった。


コニー「おれは仲間を守る。同期も守る。女だったら絶対守る。こんだけ理由があんだろ。助けるに決まってんだろ。巨人だったら助けねえなんて、そんな理屈は理解できねえ! おれ、馬鹿だからな!! じゃあ、おまえはどうなんだよ!!」

ユミル「は? わ、私、私は………」


コニー「おまえは、厭味ったらしくて、皮肉屋で、ことあるごとにいちいち俺をチビだバカだと罵ってくる、気に入らねえ女だ。それだけだろうが! おまえはユミルだろうが!!」

ユミル「――――――――――――!!」

ジャン「だったら、助ける。当然だろ」

サシャ「そうや!! 捨て鉢はあかんよ、ユミル!!」

ヒストリア「勝手に、行かないで。そこは、そこは、貴方だけじゃないんだ。私たちも、行かなきゃいけない場所なんだ」


 この時、ユミルは、恐らく二度目。ありのままの己を受け入れてくれた者に、出会えた。

 そしてその衝撃は、やがて、


EASY『…………ユミル?」


 伸ばし、掴みかけた手だったが、ユミルはその手をゆっくりと下ろした。


ユミル「私は胸を張ってここに立っている。私は、ユミルはここにいる。これが私だ。これだけが、これだけが私なんだ。

    安っすいプライドにしがみついて、無様に生きてるのが私だ。てめえなんかいらねえよ、糞ビッチ」


 中指を立てて舌を出す。


EASY『ここで死ぬのに? 廃棄物となって死ぬのに? だったら、こちらの世界で、廃棄物として生きればいい』

ユミル「ハッ………私ともあろうものが、このユミル様ともあろうものが――――ちょっとばかし、おセンチになりすぎたか。満足? 冗談じゃあない」


 不敵で、皮肉で、凄絶で、凄惨な、笑み。


ユミル「臭ッせんだよ、おまえら巨人どもは。気の迷いだ。誰がてめえらなんぞに喰われてやるものかよ、汚らわしい」


 心の底で僅かにくすぶっていた火種が、再び燃え上がる。


ユミル「あの死に急ぎに引っ張られたかよ、あの馬鹿チビの暴論に、惹かれたってのか、この私が…………」


EASY『ッ、チ…………何よ、何よこいつら。どいつもこいつも目ぇキラキラさせて。どうせ死ぬのに。絶望は絶対に勝つのに』

ユミル「知ったことか!! この四人は助ける。私も生き残る。生き残って、帰るんだ。生き延びる。生き延びて見せるさ」


 気が付けば、爪も、牙も、万全だ。

 再生が完了し、体が自由に動く。いくらだって戦い続けられる心地だ。


ユミル「けど、ま」



 爪牙の巨人は素早い動きで、コニーを頭の上に乗せたまま、サシャ、ヒストリア、ジャンを手に掴んだ。


ジャン「ぐがっ、ちょ、き、傷が、ひ、開くっ!?」

サシャ「いだだだだだっ!? う、うで折れてんですよぉおおおおお!!」

ヒストリア「ユミル!?」

ユミル「―――――逃げんぞ」


 一転して脱兎のように、奇行種たちから背を向けて、遁走を開始した。

 爪牙の巨人の速度は、軍用馬の最高速をも遥か上回る。およそ120キロ以上の高速移動で、瞬く間に団長らの元へと辿り着いた。


エルヴィン「ッ、よくやってくれた。これで後は、壁の上に逃れる。奇行種たちは追ってくるだろうが、再びエレンの叫びで同士討ちをさせる。それで詰みだ」

ジャン「へ、へへ。それなら、もう、これ以上は」

サシャ「ええ。誰も、死なず、に」

コニー「済む、よな? なあ、ゆみ―――」


 コニーが振り返った先、うなじから上半身を露出したユミルは手を伸ばし、コニーの頭を掴み、そして


コニー「ンぶっ!?」

ユミル「ん……ちゅ」

ヒストリア「え? え? え、え、えええええ!?」


 激しく、深い、口付けを交わした。

 一方的にコニーの口中を舐り、吸い、舌先を絡める、情熱的なキスだった。


コニー「ん、な、な、ななな、なあな、なに」

ユミル「それじゃ足りねえだろ。あのヤローども数多すぎんだから。馬より早えのもいるんだぞ。壁にのぼれりゃいいんだろうが、まだ距離はある。おっつかれたら死ぬ奴出てくるだろ」


 赤面し、混乱するコニーをよそに、ユミルの身体が、再びうなじに埋没していく。ずぶずぶと、巨人へと変わっていく。


ユミル「おまえらだったら、私は嫌だ。見捨てるとか言うな。私は勝つさ。エルヴィン団長、こいつら、お願いします」

エルヴィン「…………分かった。必ず、必ず帰ってきてくれ。決して君を、ミケらを、新兵達を守ってくれた君を、悪いようにはしない」

サシャ「い、いやだ! いやだっ! うちも、ウチもいく!!」

ジャン「てめえユミル、このクソッタレ!! 一人でカッコつけやがって、何様だ! 女版エレンだてめえは!! どうしようもねえふざけた奴だ!!」

ヒストリア「ユミルっ!!」


ユミル「またな、だ。ヒストリア。足止めできて、ころあい見たら帰ってくるよ。ジャン、サシャ、てめえらは傷どうにかしろ。んで、コニー」

コニー「お、おう?」


 巨人体越しでも感じるどうにも熱を帯びた視線に、コニーは顔が熱くなる。


ユミル「さっきのキスは、そういうことだ。戻ったら続きだ。ヤるぞ」

コニー「や、やるって、何をだ」

ユミル「――――閨だよ。おまえの生きざまに、私が惚れた。おまえを好いた。おまえを愛してる。だから、後で抱けよ。私の男になれ。これでもファーストキスだ。責任取れ」

コニー「んなっ!? ちょ、ちょ、て、てめ、い、一方的に――――!!」

ユミル「もう決めた。ヒストリアは私の天使で、コニー、おまえは私の旦那にする。はっ、またな、コニー!!」


 巨人体の中で顔を真っ赤に染めたユミルは、そうして再び奇行種たちに躍りかかっていった。


 巨人体の中で顔を真っ赤に染めたユミルは、そうして再び奇行種たちに躍りかかっていった。

 全く人生最良の日だ、とユミルは笑う。戦って、戦って、勝って、生きて、帰る。そしたら天使と旦那様は、私のものだ。私だけのものだ。どちらも可愛がって、絶対に手放さない。

 斬り、抉り、割き、穿ち、潰し、繰り返し、前進、前進、進撃!!


コニー「ユミルゥ! やるんなら、絶対勝ってこい! 勝って、生きて帰って来いよ!! ちゃんと、おれに返事させろ!! いいな、おい!!」

ヒストリア「絶対戻ってきてよ! 言いたいこと、伝えたいこと、まだ、まだ、全然、いっぱい、あるんだから。伝えてないんだから!!」


 その声を聞くだけで、体が軽い。いくらでも切り裂ける。いくらでも食いちぎれる。


紫『――――――――――――――――――――素晴らしい』


 そして、調査兵の大半が壁上に戻った時。

 南側の奇行種らを足止めしていた爪牙の巨人の姿は、どこにもなかった。




……
………

※こんなところか。もうやだ疲れたよぉー

 さて、もう残すところは、あの腰巾着野郎だけですね

 しかも相手はあの島津。鬼島津。島津豊久ですよ。

 マジ震えてきやがった……あ、来週の日曜投下予定です。

えっ、呼んだー? オッス、オラ第六天ち○こ

なんかポート80がどうたらで投下できねんだけど
そがいなこつ俺が知るかあ
今日はむりぽ
後日に

test

test

来たぜ………ぬるりと


………
……


ハンジ「で………出遅れた」

ケイジ「奇行種多すぎだろ………一人頭6体ぐらい殺ったんじゃないですか?」

ニファ「死ぬかと………死ぬかと思ったのに………エレンら助けに来たら、なんか叫ぶわ巨人化するわ私ら来た方向に向かって逆走していくわ………また追いついたら、もう勝って終ってるとか………」


 エレンらを救出するために壁内へと先行したハンジらであったが、ケイジのごちた言葉通り、壁内の奇行種らの抵抗激しく、余計な時間を食ってしまっていた。

 奇行種らをようやく殲滅しておっとり刀でシガンシナ中央へと辿り着いた矢先、エレンが復活。鎧の巨人を正門の方向へと何度も蹴り飛ばし、再び距離が開く。

 ひいこら言いながらシガンシナ区正門へと駆けつけてみれば、煙を上げて倒れ伏す鎧の巨人の正体――――ライナー・ブラウンが瀕死の重傷で、門の外に横たわっていた。


ケイジ「生きてんのかなコレ」

ニファ「えい」ツンツン

ライナー「げ…………ぐぇ、が…………」ビクンッビクッ

ニファ「痙攣してますね」

ケイジ「超強烈なヤツで一発やられてんな。前歯全部折れてるし鼻も潰れてる。蒸気でてるし再生中? 内臓もあらかた滅茶苦茶んなってるけど、コレ助かるのか?」


ハンジ「これは貴重なサンプルだ! モブリット、すぐにスケッチだ! っていねえ!?」

ケイジ「モブリットなら壁外でてんやわんや中ですヨー」

ハンジ「チッ…………ま、いいか。ケイジ、ニファ。鎧の巨人、もといライナー・ブラウンを捕縛し、壁上で待機」

ケイジ「了解」

ニファ「了解です」

ハンジ「さて、私はエレンたちを保護………って、アレ?」


 ハンジ・ゾエ、ようやく異変に気付く。

 鎧の巨人を倒した張本人ら、エレン、ミカサ、アルミンの姿がどこにもない。

 右を見る。廃墟が広がっている。

 左を見る。廃墟が広がっている。

 前を見る。痙攣して横たわる男がいる。かなり理由のある暴力に襲われて虫の息にあるライナーのようだ。

 後ろを見る。廃墟が広がっている。

 上を見る。窒素しかない。


ハンジ「いないんだけど。いないんですけど?」


ケイジ「ハンジさん」

ハンジ「ん?」

ニファ「あそこ」


 つい、とニファが細い指先を伸ばし、示したのは斜め上。壁上の通路であった。

 体中の至る個所から再生の蒸気を噴きだしている少年を筆頭に、壁上を歩く三つの影がある。

 件のエレン、ミカサ、アルミンの三名であった。


ニファ「―――――超大型のところに向かってます。かなりガンバッちゃってる感じで程よく不審者チックですが」

ケイジ「ついでにその幼馴染のミカサとアルミンも同様です。さながら幽鬼の如き足取りで割と地味に怖ェー」

ハンジ「早く言えよぉおおおおおおおおおおおお!!! 止まれエレン! 止まって! エレンを止めるんだミカサ、アルミン!! 駄目ッ! 君らそっちいっちゃ駄目ッ!!」


エレン「――――――おいてけぇ………ベルトルトォ!! その首おいてけェェエエエッ!! 仇だッ!! 生け捕りなんぞ知ったことかァッ! てめえだけはこの手で縊り殺すッ!!」

ミカサ「ベルトルトォ………お前だ腰巾着野郎………お前に言っているんだッ!! ライナーの次はおまえの番だ! カルラおばさんの無念は、その首で晴らす!! 駆逐だ! 駆逐してやる!」

アルミン「野郎、ブッ殺してやる!! じわじわと嬲り殺しだ!! 両手両足縛って石壁の中に押し込めてやる!! 死んだ後にそっ首落として、シガンシナの壁に吊るして飾りにしてやる!!」


 ハンジの背筋に悪寒が走る。遠目に見てこれだ。近づいて見たならば、さながら血に飢えた悪鬼の様であろう。


ハンジ「わーい、あの子たちったら聞こえちゃいねえよ!! 一皮むけたね!」

ニファ「化けの皮が? なんか獣の本性剥き出しって感じなんですけど彼ら」コワイ

ケイジ「アレだ。なまじっか敗北続きの人生で急に転機が来て大勝ちしたもんだから、ちょっとハイになってんだろ。分からんでもねえ」ウンウン

ハンジ「冷静に言ってる場合かなあ!! さっさと止めて来い、バカ!!」

ニファ「ハーイ」バシュッ

ケイジ「ホーイ」バシュゥッ

ハンジ「全く………」


 叱責する部下が、しかしどこか浮ついた心地を隠し切れぬ様子でエレンらを留めに行く背を見送りながら、ハンジは少しばかりの不安を覚えた。


ハンジ(ケイジの言う通りかもしれない。エレンらだけに限らない。私たちは、調査兵団は、未だ勝ったことがない。敗北必至、敗色濃厚、絶体絶命が当たり前だった私たちが、ここに来て勝ちの目が見えている)


 死傷者は少なくない。しかし、誰も彼もが満足げに逝った。

 獣を弑し、女型を捕え、鎧を打ち砕いた。この戦果だけでも、今まで散っていた兵たちの無念は晴れるというものだろう。

 確実に前進している。

 だが、しかし。


ハンジ「勝っていない。そうだ、まだ勝っていないのだ。私たちは。我々は。まだ、超大型巨人が残っている」


 緩みかけた気を引き締めるために両頬を強く叩き、ハンジは両目を鋭く細めた。

 巨人の謎についても未だ解決していない。

 そのために、『巨人の中身』の捕獲は必須だった。ライナー・ブラウンも、アニ・レオンハートも、恐らくは巨人の謎について知っているのだろう。少なくとも調査兵団よりも、深く、広く。


エレン「止めるなァ!! 畜生、畜生、離せよッ! あいつブッ飛ばせねえだろうがッ!!」


 遠くからエレンの激しく抵抗する声が聞こえ、ハンジはふと我に返った。思いがけず意識を己の内に深く埋没させていたことに気づく。
 

ハンジ(いけないいけない。まずはやるべきことをやらなければ。ひとまずライナー・ブラウンは私が確保を―――――)


 そうして、ライナー・ブラウンが倒れ伏していた場所にちらと視線を向け、



ハンジ「―――――――――――――………は?」



 ハンジは、己の目を疑うものを見た。


 何もないはずの空間に、それは突如として現れた。
 

 ――――扉だ。


 地面から僅かに浮かび上がった扉がある。

 半開きの扉の隙間にずるずると吸い込まれていくのは、ライナー・ブラウン。

 あまりにも異様な光景に、ハンジの意識が真っ白に染まる。

 それは十秒か、あるいは一分か。

 その最中、確かにハンジは聞いた。



EASY『―――――――――――くす』


 扉の奥から、人を小馬鹿にしたような少女の嘲笑を。



……
………


………
……



 エレンが高らかに勝鬨を上げた瞬間、対峙する超大型巨人の相手もそこそこに、豊久は満面の笑みを浮かべた。


豊久「美事………美事!! よか! よかにせじゃ! 勝ち花咲かせたのう、えれん、みかさ、あるみん。よくぞ討ち果たした。よくぞ、よくぞ!! 俺の魂ば震えたぞ!!」


 人の成長に敗北は必至。だが勝利もまた人を変える。

 敗北は意識を塗り替えるが、勝利は己の力を自覚させる。

 豊久がまさにそうだった。初陣で敵の首を獲り、己を抱き上げて喜んだ父の気持ちが理解できた気がした。

 己が見守り、時に背を押した子らが、一人前の兵子となった。

 勝鬨を上げた。

 それがこれほどまでに嬉しいとは。


豊久「―――――幕じゃ。残るは、お前一人」


 故にこそ、己もまた示さなければならん、と。豊久はブレードをより強く握りしめる。


豊久「与一が殺り、りばいが捕え、三人は美事な勝ち花を咲かせた。なれば、次は俺の番じゃの。俺だけが手柄獲れなんだら、親っ父に顔向けできん」


 口元から笑みが消え、残るは特大特濃の殺意。

 ただただ威力のみを求めるように、左右のブレードを天高く振り上げ、構える。


豊久「そん首、俺の手柄とする――――存分に死合おうぞ」


 そうして、豊久は己の敵を見上げる。

 超大型巨人、ベルトルト・フーバーを。

 しかし、この時。




超大型「……………」



 ベルトルトは、己を見失っていた。否、失った己を取り戻さんと、自問を繰り返していた。

 状況を何度も何度も確認するが、答えは変わらない。

 ライナーが負けた。


 アニは捕えられた。

 『猿』は死んだ。

 残るは己一人。

 唯一人。

 そして、前の前には、満身創痍の敵が一人。



超大型「……………」



 なのに、体が動かない。

 どうしてただ一人の人間が殺せない。

 もはや島津豊久はボロボロだ。全身は擦過傷に塗れ、立体機動装置とていつ動作不良を起こすかも分からない状態だ。

 肩で息をしており、もはや体力も限界だろう。先ほどよりも動きに精彩が賭けているように見えた。

 それでも、豊久の瞳は死んでいない。

 口元は飢えた獣の如く歪み、まるで月無き闇夜の雲間に輝く星々のように、両目を爛々と輝かせている。


 ――――かかって来い、と。


 言葉よりも雄弁に、目が語っていた。

 時至っても、事が此処に到っても、ベルトルト・フーバーは、未だ己を見失っていた。

 『猿』は討死に、アニ・レオンハートは捕えられ、ライナー・ブラウンもまた程なくして敵の手に落ちるだろう。

 自分もまた捕えられるのだろうか? そんな弱腰な考えが脳裏をよぎる。

 ベルトルト・フーバーは戦士としては慎重な性格であり、悪く言えば臆病の誹りを免れぬ気質の持ち主であった。

 己を主張せず、ライナー・ブラウンの影に徹し、目立たぬよう目立たぬように訓練兵団で三年間を過ごしてきた。

 だが、決して愚鈍であるというわけではない。その思考が、一つの答えを導き出す。


 ―――――ああ、こいつは、シマヅトヨヒサは、僕を殺すつもりだ。


 もう、既に二人があちらに捕えられたのだ。二人もいるのだ。だったら、もう一人は?

 僕は?

 ぼくは。

 ボクハ。


 それは無意識か、本能か定かではなかった。

 ――――超大型巨人は、豊久から逃げるように、一歩を退いた。ただの一歩である。

 しかし機を見るに敏。こと戦闘においては絶人の域に身を置く島津豊久は、ベルトルトの心中の乱れを容易に感じ取り、


ベルトルト(―――――――――――――ひっ)


 ベルトルトもまた、悟る。

 それは、それだけは、絶対にやってはいけない行為であったことを、今更ながらに悟る。



豊久「――――――――おい、貴様。こんだけのことを、こんだけのことを仕出かしておきながら、まだ己が命ば惜しいんか」



 震える声で、射殺さんばかりの怒気を秘めた視線を超大型巨人に向ける。



豊久「ふざけるなよ、手前。おっ死ぬのは嫌か。弱く小さか民草は殺せても、牙持つ兵子には尻を捲るのか。畜生め。狗畜生めが。いらん。いらねえ。てめえの首なんざいるか」


 豊久の怒りに呼応したように、直下の壁の左右から、与一率いるエルフ隊が、超大型を目指して登ってくる。


超大型「ヒ…………ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 とうとう、ベルトルトは叫んだ。

 戦意向上の叫びではない。ただの悲鳴だ。

 上ってくる与一やエルフの目を見てしまった。

 誰も彼もが、豊久と同じ目をしている。

 それは怒りではない。憎しみでもない。殺意ですらない。

 それはきっと、原初の感情だ。

 未だ言語が確立していなかった時代の、コロシタイとかニクイとかネタマシイとかケシサリタイとかシンデシマエとかココカライナクナレとか。

 そんな言葉すら存在しなかった遥か古代の、敵に抱く感情。



 ―――――純粋無垢な、悪意。



 己の全てを否定する、悪意。


豊久「命だけおいてけ。鴨撃ちぞ。戦ではなか。狩りじゃ。殺せ!! 彼奴を射殺せ、与一!! えるふ共!!」


 超大型は、しゃにむに逃げた。全身から蒸気を噴きだし、右も左も分からぬままに逃げる。

 蒸気に守られているとはいえ、己の周囲からどぉん、どぉんと、火薬の炸裂する音が響くのが、ベルトルトにはただただ恐ろしかった。

 懸命に巨人体に命じ、逃げる。逃げる。逃げる。


 ―――――何処へ? と。そんな声が聞こえた気がした。


アルミン「逃げるなぁあああああああああッ!! 卑怯者ッ! 逃げずに戦え! 戦って死ね!!」


 アルミンの罵声が聞こえる。悪意に満ちていた。


ミカサ「逃げるなァ! ふざけるなよ、貴様!! 首おいていけ! 首おいていけッ、ベルトルトォ!! 首おいていけェエエエエエエエエエエエエ!!」


 ミカサの怒号が聞こえる。悪意に満ちていた。


ベルトルト(来るな………こっちに、こっちに、来るなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!)


 ここでベルトルトは、虎の子を切る。超大型巨人の切り札、巨人体の炸裂。

 超大型巨人を構成する肉体全てを一気に蒸気と化して炸裂させる、一回こっきりの自爆技だ。


 ベルトルトにとって幸運であったのは、ただ真っ直ぐに超大型巨人を目指していた兵たちの多くがその爆風によって吹き飛ばされ気を失ったことだろう。 

 しかし、ベルトルトの表情は、未だ泣きだす寸前の子供の様だった。


ベルトルト「はッ、はッ、はぁッ、はッ………」


 ただの人間体へと戻ったベルトルトは、壁の上をただひた走る。

 逃げる。脇目も振らず逃げる。

 何処へ?

 何処へ逃げる?

 分からぬままに、壁を走る。

 走って、走って、走って、走って、走って。

 息が尽き、足が棒のようになって、もう歩くこともやっとになるほど、絞り出して。


エレン「――――――――――気は済んだかよ」


 なのに、目の前には彼がいた。


ベルトルト「え、レン…………ああ、エレン。そうだ、君が、キミが、いれば」


 そうだ。逃げるのだ。帰るのだ、故郷へ。

 懐かしのオルテへ。

 よく分からない口ひげの小男に踊らされた人間どもに支配され、巨人らデミヒューマンたちを奴隷化し、或いは遠くへ追いやった。

 あの世界に帰るのだ。故郷を取り戻すために。

 座標がいるのだ。座標さえあれば、巨人族を統制し、軍を編成し、戦うことが出来る。人の意志だって思いのままだ。

 故郷を取り戻して、僕は。僕は。

 英雄に、なるんだ。

 エレンは強敵だ。だが、もはや敵ではない。ボロボロだ。豊久以上にボロボロで、傷だらけで、立っていることさえやっとの様子だ。

 簡単に捕えられる。奪える。座標を。

 ベルトルトの口元がいびつに歪んだ時、エレンは静かに指を立てて、言った。


エレン「…………俺がトヨヒサに教わったことの一つ。それが、おまえには足りない。ハッキリ足りない」

ベルトルト「…………?」


 ベルトルトには、エレンが何を言っているのか分からなかった。ただ嬉しかった。

 これで帰れる。帰れるんだ。胸を張って帰れる。

 そしてエレンに向かってゆっくりと伸ばした腕が、


エレン「ただただひたすらに、目標へ向かって前進すること。それを成す意志だ。断固たる意志―――――プライドが、おまえには欠けてる」

ベルトルト「―――――――――――」


 エレンの侮蔑によって、止まる。


エレン「おまえはクズだ。よりにもよって逃げるとは思わなかった。おまえのようなものと同期であったことを、仲間だと思っていたことを、ただ恥ずかしく思うよ」

ベルトルト「な、な、に………?」

エレン「どこへ逃げる。どこに帰る。故郷とか言ってたよな。そこに帰って、何があるんだ? 家族がいるのか? 恋人がいるのか? 俺を連れ帰ったら、なんらかの栄誉でも授かれるってか」

ベルトルト「き、君は、何を―――――」


エレン「それはおまえが慕っていた仲間の、ライナーよりも、ひょっとしたらアニよりも、大事なものなのか?」


 その言葉で、ベルトルトの心は、完全に罅割れた。


 意識が一瞬で冷え、次いで灼熱の如き感情が腹の内から沸き上がってくる。

 図星を突かれたことを、今更否定するつもりはない。

 だが、やり場のない怒りがある。己に向けるべきそれを、しかしベルトルトは、


ベルトルト「お、まえに………おまえに、何が分かる!! 好き好んで、僕らが、君たちを殺してたとでも、思うのかよ!!」

エレン「嫌々だったら、許してくれると?」

ベルトルト「ッ、そんなことは、言ってない!! 僕は、僕の罪を、分かってる!! 人から後ろ指をさされることをしたんだってこと、分かってるんだよ!!」

エレン「罪を自覚して反省してるからいいだろうっていう、開き直りか? それは?」

ベルトルト「ち、ちが、ちがう………き、気の毒では、あった、けど………でも、でも、それは」

エレン「自分のやったことは酷いことだけど、世界のためには必要で、仕方のないことだったんです? その理屈は、おまえが殺してきた人に言えるのか? 俺の母さんに、言えるのか?」

ベルトルト「あ、あ、あ………あぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 エレンの言葉は、粗目のヤスリのようにベルトルトの心を削る。痛みに耐えかね、ベルトルトは拳を振り上げた。

 八つ当たりだった。それはかつてアルミンが幼い頃に言った言葉―――――言葉で否定できないから、安直に暴力に頼る、弱虫そのものであった。

 しかし、振り下ろした拳は、エレンには当たらない。

 エレンの眼前、それを受け止める男の背中がある。


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 紅の衣。十字の家紋。腰の二振りの刀に、黒髪から覗く強い双眸。その名を、


エレン「――――――――遅ぇぞ、トヨヒサ」

豊久「応。じゃっどん、間に合うた」


 島津 内務少輔 豊久。

 泣く子も震え上がる薩摩隼人である。


ベルトルト「あ…………」


 もはや、ベルトルトは命運が尽きたことを悟った。

 もう二度と、エレンには届くまい。問答を仕掛けたエレンを無視して捕えていれば。

 有無を言わさず気絶させ、攫ってしまえば。そんな後悔は、


豊久「運否天賦もまた戦の常ぞ。もはやここまでぞ―――――降れ。殺すなと、えるびぃんから説き伏せられた」


 この男の前では、何一つ役立たないことを、身に染みて理解している。


ベルトルト「なん、でだよぉっ………あと、ちょっとなのにっ………あとちょっとで、故郷に、帰れるのにっ………」

豊久「知らぬ」

ベルトルト「なんで、なんの関係もない、貴様ら、貴様らがァッ………!!」

豊久「知らぬ」


 ぎちり、とベルトルトの拳が悲鳴を上げる。肉が潰れるほどに握りしめ、振り上げる。


ベルトルト「き、きさま、さえ………ドリフターズッ………貴様らさえ、シマヅトヨヒサァッ! 貴様さえいなければッ………っあああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

豊久「知らぬ!! くどい!!」


 突進して殴りかかるベルトルトを、左手で喉を掴み、握りしめる。

 190センチを超えるベルトルトが、片腕だけでその動きを止められた。


ベルトルト「が、は………」

豊久「そがいなこつ、俺が知るかあ!! 貴様らの事情など知ったことではなか!!」

ベルトルト「シマヅッ……トヨヒサぁあああああああああああああああ!!!」


 なおも暴れ、掴み掛ろうとするベルトルトに対し、豊久は左腕を更に絞る。


ベルトルト「ぃぎゅっ!?」


 呼気が止まったところで、


豊久「ジィッ!!」


 右の掌底による、金的の突き上げ。


ベルトルト「ッッッ~~~~~~~~!?」


 強烈な衝撃が全身を貫くほどの激痛を受けたとき、人体は前のめりに背を丸める。

 その丸見えになった後頭部に――――


豊久「逝けい」


 豊久は、全体重を乗せた肘を打ち下ろした。


 ベルトルトの巨体が沈み、うつ伏せに倒れ伏す。


信長「―――――組手甲冑術……! タイ捨の『雷』かよ。相もかわらずえっげつねぇな」


 豊久の用いる組手甲冑術は、後の世、アメリカ軍隊で用いられるCQCにも似た外道戦法である。

 さらに追撃の一撃を加えんと、豊久が腰の刀に手をかけるが、


エルヴィン「ッ! そ、そこまでだ、トヨヒサ!! 彼は殺すな! 聞き出したいことが山ほどある!!!」

豊久「首ば獲らんのか?」

ミカサ「…………死体がどうやって喋るの?」

豊久「おお、成程。うっかりしておった」ポン

ベルトルト「………ぐぁ、げ、が………ぁ」ビクンビクン

ミカサ(やっぱりこの人はおそろしい。何がおそろしいって、本気で生け捕り忘れて殺そうとしてた)プルプル

アルミン(エレンが成長したらおトヨさんみたいになっちゃうのかなぁ)ガクガク

豊久「いかぬ。頭蓋ば割れちょる。いかぬ。死ぬるぞこれは」

ミカサ(怖いよ………冷静になれた今だから言えるけど、やっぱりトヨヒサはこわい)ビクビク


 倒れたベルトルトの外傷は、一言で致命傷であった。

 股間からは血の混じった小便が滲みだしている。何よりも最後の肘打ちが決まった後頭部。罅割れ、白い何かが覗き見えていた。


アルミン(非道い………股間が真っ赤に………ということは、ベルトルトの『アレ』は………)ゾッ

豊久「どうせ死ぬるんなら首ば獲っても良かか?」ソワソワ

ミカサ「だめ」

豊久「ぐぬぬ」プクーッ

モブリット「いい年した男がそんな顔して、よりにもよって首なんかねだらないでくれます? 純粋に怖いから、ほんと。やめてください?」

リヴァイ「どんだけ首欲しいんだよこの妖怪首おいてけが………今回ばかりは巨人の再生能力とやらに期待だな。割れた頭蓋が治らなきゃ死ぬだけだ」

豊久「おお、そうだった。ではりばい、みかさよ、後は頼む………不甲斐ない話じゃが、俺も限界じゃ。疲れた。立てぬ」バッタリ

ミカサ「わ、わかった」

リヴァイ「ああ。安心して休んでろ………」

ミカサ(頭蓋骨が割れて………その中身がちょっぴり見えている………いくら再生能力があるとはいえ、コレ助かるのだろうか?)ゾッ

アルミン(これ、もう手遅れなんじゃ………)ビクビク

ベルトルト「ぉ…………て、に」


 ベルトルトがうわ言のようにつぶやく。


ベルトルト「ォル、テ、に………かえ………らい、なー、あに………まる、せる………」


 それはきっと現実に敗北した、夢の残滓だった。




……
………

※あー、しんど。こういうあっさりした終わりもたまにはありかなーって

 ライナー最後に持ってきた方が燃えたけど、人間臭さのあるベルトルトを最後に持ってきたよ

 しかし豊久ったらマジ島津。あいつらヤバいよ

 さて、これからエンディングに向かっていきます

 もうちょっと続くんじゃ

 見捨てずお付き合いしてくだせえ

乙です!更新ありがとうございます!!

流石は鬼島津。
戦国最強クラスのバトルマシーン…。

豊久「逝けい」

タイ捨流組手甲冑術「雷」。
後のCQCにも似た外道戦法(殺法か)。

これには笑っちゃいましたが、ホントにえげつないです。
首はいらんが、タマよこせという…。

これなら首取られた方がマシだと思いました…。

とにかく面白かったです。

ちんこまん、バンザイ!!

ゲンジバンザイ!!

ゆっくりと休んでくださいませ…。

次回も楽しみにしています。

首持ってけは叔父上やで…
今日か明日あたり投下。ゴールデンウィーク中には終わるやろ…きっとな


………
……



 後に『シガンシナの奇跡』と謳われる、調査兵団の最初にして最大最高の戦果と、最大最悪の戦火をもたらした戦は終わった。

 
 調査兵団の三百余名の内、百余名を失うほどの大打撃を受ける一方で、実質シガンシナを含むウォールマリア全域の奪還を果たす。

 25万人を投入してなお果たせなかった悲願のウォールマリア奪還作戦は、四年の時を経て達成されたのだ。

 だが、一方でこの遠征において、調査兵団はただ一点、まさに画竜点睛を欠く失態が存在した。

 後の歴史家たちが揃って首をかしげるその失態は、どのようにして起こったのか。

 それを正しく知る者は、誰もいない。

 誰も。


アニ「…………う、あ」


 アニが目覚めたとき、そこは暗い闇の底だった。

 恐らくは地下に閉じ込められているのだろう。状況を把握したくとも、全身が鉛のように重く、動かない。


 千切れた両手両足の感覚は、戻っていた。だが、ピクリとも動かない。

 肌に食い込む冷たい金属の感触から推測するに、全裸に剥かれたうえで縛られている。呆れた念の入れようだった。

 そうして状況を把握した瞬間、アニの希望は一瞬にして絶望へと変わった。


アニ「ひ、ひっぐ…………ひっ、ひっ、ひぃッ」


 喉の奥から、呼気と共にせり上がってくる嗚咽。目頭が熱を持ち、涙が止まらない。

 戦士としての彼女は、もはや再起不能だった。あの悪魔のような兵長によって、彼女の誇りは根底から破壊された。

 残ったのは、ただのか弱い少女としての彼女だった。


アニ「私は、戦ったのに」


 世界のために、戦ったのに。


アニ「故郷のために、父さんにまた会うために、頑張ったのに。ここまで来たのに」


 ――――もう、終わりなの?


 因果応報だ、と心の奥で、もう一人の自分が嘲笑う。全くその通りだ。負けたのだ。負けた方は全てを失う道理だ。

 『精一杯頑張ったのだから、君にも栄誉を』なんて甘い世界ではない。

 そうしてアニは闇の底に沈む。敗者としての責務を果たした後に、しかるべき報いを受けて終わっていく。

 その筈だった。それ故に。


EASY『やっほ』


 その闇を見逃す、EASYではない。


アニ「あ…………あんた、あんた、は」

EASY「おいで―――――取り残されし君。任務は終わりよ。この『巨人の養殖場』は破棄する。廃棄物にすらなれない産廃以下のゴミ世界」


 白魚のような指先を伸ばし、ドブ川の腐ったような視線で嗤う。


EASY「貴女のお仲間の二人も、こっちで待ってる」



……
………


………
……



 正史に曰く。

 調査兵団は『超大型』『鎧』『女型』『獣』の内、『獣』を弑し、残る三体を打ち倒し、捕えた。しかし、その三体の巨人化能力者を取り逃した。

 捕えたはずのアニ・レオンハート、そしてベルトルト・フーバー。

 無力化した後に縛り上げ、廃墟と化したシガンシナでも比較的状態が保たれていた建物の地下に放り込んでいた筈の彼と彼女は、忽然と姿を消していた。

 ハンジ・ゾエは述懐する。

 未だ彼女自身も、自分が何を見たのか、見てしまったのか、理解に及んでいないのだろう。己の記憶すら疑っている。

 白昼夢を見たような頼りない声で、ハンジは言った。


 ―――――突然、空間に扉が現れ、そこから何者かがライナー・ブラウンを連れ去った、と。


 アニとベルトルトが消えたのも、恐らく同じ下手人の仕業だろう、と。

 報告を聞いたハンジと付き合いの長いエルヴィンとリヴァイ、そしてミケも、流石にハンジの正気を疑う。

 荒唐無稽すぎる、と。


 しかし一方で、豊久、与一、信長の三名は、その話を信じた。あまりにも心当たりがありすぎる話だ。あの異世界に最初に放り込まれた時に開いた扉と、そこから延々と続く長い廊下。

 そして、眼鏡をかけた男。


信長「あのデカブツを引っ張り込んだ奴の姿は見たか? 眼鏡をかけた男ではなかったか?」


 信長の問いに、ハンジは力なく首を左右に振る。

 むぅ、と眉根を寄せる信長たちドリフターズだったが、


エレン「―――――女の声が、しませんでしたか。若い、俺らと同じぐらいの年頃の、女の声」


 意外なところから、意見が上がった。

 傷が治りきらず、未だ寝台の上で横になっているエレンに視線が集中する中、ハンジはハッとしたように俯いた顔を上げて、こくこくと首を縦に振った。


エレン「黒いドレスを着た、長い黒髪の女では」

ハンジ「す、姿は、見てない。けれど、そうだ………声は聞こえた。確かに、女の子の声だった。間違いない」

エレン「チッ………やっぱり売女の類か。誰彼かまわずか、あの女郎(めろう)」


 舌打ちを一つ。エレンは只々、怒りにその身を焦がす。


豊久「あの………長い通路ん男ではない、女子の下手人か。信、与一よ、どう思う?」

与一「あの男に誘われた我らが、全て漂流物(ドリフターズ)であることを考えれば、その女子が手引きするは、つまり」

信長「廃棄物(エンズ)か。えれん、お主が此処にいるってことは、盛大に振ってやったのか」

エレン「当たり前だ。あんな性根の腐ったドブスなんぞ、食指も動きゃしねえ」

信長「ふん、言いよる。だがどうする。察するに、巨人の三名は、恐らくエルフらの浮世におる。あ奴らがこちらを好き放題行ったり来たりできるのならば、またこちらへ来るかもしれんぞ?」


 決して、有り得ない話ではなかった。

 信長の問いに、エレン、そしてリヴァイ、エルヴィン、ハンジ、ミケ、そして多くの調査兵たちが、口をそろえて言った。


「「「是非に及ばず」」」


エレン「次は殺す………必ず、殺す」

リヴァイ「捕えられんのなら、殺す。巨人から引きずり出して、巨人どもに喰わせてやる」


 あれほどの戦いの後であるというのに、未だ彼らの戦意は衰えず、戦の焔が燻っている。


豊久「……………よか! ほんのこつ、良き顔ばするようになったのう、お主ら」


 そして調査兵団と、ドリフターズらは、戦後の処理に入った。

 まずは壁の内外に存在する巨人らを、エレンの『叫び』によって遠くへと追いやりつつ、オルミーヌ主導によるシガンシナ内外の壁の封鎖作業が再開された。

 既に夜半に差し掛かってはいたが、その作業は夜を徹して行われる。

 一方で、一時的とはいえ巨人の脅威が無力化された『叫び』の圏内で、調査兵とエルフらによる、生存者の捜索と、遺体の回収作業が行われた。

 今までは失われた命を、亡骸をそのままに見捨てるしかなかった調査兵にとって、その作業に従事できることは望外の喜びであったと言う。誰もが涙を流しながら、遺体を回収した。

 肉片と成り果て、原型をとどめない死体もあった。

 だが、首が残っている死体もある。確かな遺品が残っている。遺族に亡骸を届けることができる。とびっきりの戦果の話を手土産に、決して無駄死にではなかったのだと、胸を張って持ち帰ることが出来る。

 集め、清められた遺骸や遺品を前にした、豊久、信長、与一は、静かに手を合わせ、拝んだ。


豊久「まことの益荒男よ。異世界の兵子どもよ。惑うことなく逝くことば願う」

信長「…………見事。武人とは、兵士とは、かくのごとく在りたいものよ」

与一「願わくば、生き延びた彼らを見守り、支え、後の戦いを共に戦い抜いてくれることを………祈りまする。生ある兵子らの、御剣とならんことを」


 それに倣うように、エルフ、そして調査兵の多くが手を合わせ、同様に拝んだ。彼らにとってなじみのない風習であったが、それがとても神聖なものであることが理解できたのだ。


 新兵の多くは、浮かない表情だった。

 エレン、ミカサ、アルミンの三名は、取り逃がした裏切り者たちを想う。

 エレンは殺意に身を焦がし。

 ミカサは静かに決意を胸に秘め。

 アルミンは、己の往くべき道を定める。

 思いは異なれど、方向性は一致していた。

 ――――次は、しくじらない、と。


 ヒストリア、サシャ、ジャンは、泣いていた。

 集められた遺骸、そして僅かに残った生存者の中に―――――ユミルが、いない。

 いないのだ。

 ヒストリアとサシャは、大声で泣き喚いた。ジャンもまた悲痛な声を上げて、しゃくりあげるように泣いた。

 きっと、欠片も残さず食われてしまったのだ、と。

 しかし、一方でコニーは、笑みを浮かべていた。

 きっと、生きている。どこかでまた、逢える。不思議と、そう思えたのだ。


 夜が明け、日が昇り、再び日が沈んだ頃。


オルミーヌ「お、終わった…………完璧。絶対。もう二度と、巨人なんぞに、この壁は、破れない、はず」


 オルミーヌによる壁の修繕作業が完了した。

 その過程で、壁内の巨大巨人らの存在が発覚したり、符の枚数が絶対的に足りず、突貫作業で製作する破目になった石壁の符の数、およそ五千枚。

 オルミーヌの疲労は、極地に達していた。

 オルミーヌだけではない。重傷者を除く誰も彼もが夜通し、そして昼を通し、ほぼ二徹で作業を行っていた。


信長「終わった?」

オルミーヌ「終わった」

信長「ほんとぉ? ほんとぉに終わったのぉ? ほんとぉにぃ?」クネクネ

オルミーヌ「く、くどい………終わった。終わったんです。もう、私の仕事は終わり。まじで。ほんと」

信長「で、あるか。ならば寝て良し」

オルミーヌ「」フラッ


 崩れ落ちるように、オルミーヌはその場に倒れ伏した。


オルミーヌ「Zzzzzzzz」

ミカサ「限界だったのね」


 そもそも兵士ではない彼女は、他の者達と違い、絶対的に体力不足だ。すぴすぴと寝息を立てる彼女に、近づく影が一つ。

 魔王である。


信長「見よエレン。このオッパイスゲーぞ、あおむけでも横にこぼれんのだ。摩訶不思議。流石はオッパイーヌ。凄まじい乳じゃ」モミモミ

エレン「疲れすぎて脳味噌やられたのか? オイ、誰かあの色情魔を止めろ」

信長「触ってもいいのよ?」モミモミ

エレン「止めんかァーーーーーッ!! このふしだら魔王!」

コニー「おー、すげー。ぽよんぽよんだー」モミモミ

ジャン「ちょ、おま………つ、次オレと代われよ」ドキドキ

アルミン「あっ、そ、その次、僕だからね!」ワクワク

エレン「!?」


 誰もが脳味噌をやられるほどの、疲労であった。

 巨人化能力者であり、傷の回復のために一夜を回復に努めていたエレンだけが、正気を保っていた。


サシャ「こ、これはスゴいですね………おいしそう」プリンプリン

ヒストリア「わー、あやかりたいなぁ。すっごい……ぷるんぷるんしてる」プニプニ

ニファ「うっわなにこのオッパイ鞠玉? 何食ったらこんなんなるの?」モミンモミン

ミカサ「ほうほう………なるほど、なるほどー、なるほどー」ムニムニ

ペトラ「あっ、次私ね。………うわっ、なにこれ羨ましい。ご利益ご利益」ポヨンポヨン

エレン「どいつもこいつもチクショウ!!」


 エレンは叫んだ。そして周囲を見渡す。誰か、誰かこの現状を何とかしてくれる人はいないのか。

 そして悟る――――世界は、残酷だ。


与一「ハーイ男性陣は有料ですヨー。こっち並んでくださーい、最後尾はこっちですヨー。一もみ十銅貨からですヨー」フリフリ

エルド「やあやあ、ありがたやありがたや」ゾロゾロ

グンタ「カラネス区の方から来ますた」ゾロゾロ


オルオ「ぱいぱいー、パイパーイ、パイパイバンザイー。オッパイバンザイー」ゾロゾロリ

ゲルガー「パイオツの間に酒を注ぐんだッ! オッパイ酒だッ! オッパイ酒だろうがッ!」シャガッ

ミケ「…………」スンスン

モブリット「お願いします」チャリン

ハンジ「はい、十銀貨だから十もみね。おまけで二もみサービスだよ」

モブリット「いつもすいません、ハンジさん……」ニコリ

ハンジ「やだなぁ、私と君の仲じゃないか」ニコリ

エレン「商売が成り立ってる………」ドンビキ


 エレンは涙目だった。誰でもいい、誰か、誰か、正気を保っている人間はいないのか。

 かくして、エレンは当てのつく人間をその視界に捉える。


エレン「だ、団長! 兵長!!」クルッ

エルヴィン「―――――まあ、良い。特にこちらの懐が痛むこともなく、兵士たちの士気も上がる。オッパイーヌさんのオッパイは犠牲になったのだ………」

リヴァイ「ああ。犠牲になったな。尊い犠牲だ。兵士が猛り勇猛になるのであれば………クソが畜生なんというかもうアレだどうでもいい早く帰って風呂入りたい」トオイメ

エレン「ッ………!!!(だ、団長がゲス化してる………兵長がすげえ投げやりに…………ノブナガのせいだ!!)」ウワァ

 そこでエレンは気付く。


エレン「あ、あれ? トヨヒサは? トヨヒサが、いねえ」


 周囲を見渡す。あの薩摩隼人ならば、この狂気に満ちたサバトを打ち砕いてくれると信じたが、どこにもいない。


豊久「ぬ? なんじゃ、こん騒ぎは」

エレン「おお、トヨヒサ!! いいところ、に…………?」


 背後からかけられた声に、エレンは笑顔で振り返るが、豊久が手に持つものに、頬をひくつかせる。


エレン「トヨヒサ、その手にあるもの、なんだ?」

豊久「生簀」

エレン「中身は?」

豊久「無論、魚じゃ。流石は人ん手がとんと入っておらぬ川じゃの。大漁大漁」

エレン「……………」

豊久「食うが?」

エレン「…………なんか、もう、いい。こういうノリも、まぁ、たまには、アリ、か?」


 エレンがある種のあきらめの境地を理解したとき、豊久の来た方向から、更にドタバタと誰かが向かってきた。


リーネ「トヨヒサさーん! 少量だけど塩もあったよー!」

ヘニング「火ィ起こしときました!」

豊久「うむ。塩焼きぞ! 久方ぶりに旨か飯(まま)んありつける」

ケイジ「おぉーい、トヨヒサさーん、酒もあったぞー!」

ナナバ「駐屯兵団の詰所に大量にストックがあったよ。しかも中身は無事。極上品まである。流石は五年前以前のものだね」

ゲルガー「マジでッ!?」

ハンニバル「きいちごは?」

エルフ「あるよ、おじいちゃん」

豊久「うむ、でかした! 宴じゃ!! 飯(まま)じゃ、飯じゃ!! 酒(ささ)じゃ!」


 かくして、宴会が行われる。

 その夜だけは全てを忘れた。

 これまでのことも。失った者も。これからのことも。


 悲しみはある。

 だけど、ただ静かに送るよりは、笑って送りたい。

 そう思い――――誰もが酒を飲み、魚を食った。



……
………


………
……



 深夜の壁上。

 宴の喧騒が過ぎ去り、誰もが寝静まった頃―――――リヴァイは独り、壁上から月を見上げていた。


リヴァイ「……………」


 ツキアカリだけが地上を照らし、リヴァイのこれからを指し示す。

 これからのこと、これまでのこと。

 リヴァイはゆっくりと、思いを馳せていた。

 そこに、水を差す存在が現れる。


豊久「―――――こがいなところで、一人か」

リヴァイ「…………トヨヒサか」


 ややあって、リヴァイは振り返る。

 眉根を寄せた不機嫌そうな表情に、豊久はむぅと表情を曇らせる。


豊久「すまぬ、邪魔じゃったか?」

リヴァイ「いや………元からこんな顔だ。別に邪魔しちゃいねえよ」

豊久「そうが。されば」


 どすん、と無遠慮にリヴァイの横に腰掛ける。

 リヴァイと同様に、壁上からの月を眺めた。


豊久「…………」

リヴァイ「…………」


 互いに言葉はない。中天に瞬く月が、静かに地上を照らすように。

 語るべきことは、ない。ただ、この光景に浸っていたかった。


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リヴァイ「オイ、トヨヒサ。おまえ飲めるか?」


 唐突に、リヴァイがそんな提案をした。リヴァイ自身、どうしてそんな提案をしたのかすら分からない。

 故に豊久の驚愕はそれ以上だっただろう。一瞬だけきょとんと目を丸くし、次いで童子のように笑み、目を輝かせた。


豊久「酒(ささ)か? 飯(まま)ほど飲んど」

リヴァイ「なら付き合え………ああ、そういやおまえ、歳いくつだ?」

豊久「三十」

リヴァイ「!! 同い年か………」

豊久「ほう? 見えんな。どうにもせいようじんとやらん年ばちくと分からん。いささか老けで見える」

リヴァイ「東洋人はどうにも年若く見えるな。おまえもいいとこ二十の半ばぐらいにしか見えねえ。ヨイチに至っては新兵共と同年代………十代半ばぐらいか?」

豊久「あやつは十九じゃそうな。うむ………どげんかして威厳ばつけんといかん! ヒゲば生やせばそれなりに見えとうが?」

リヴァイ「よせ、おまえにゃ似合わん」

豊久「ぐぬぬ」


 むくれながらも、豊久は酒を用意する。

 日本の酒と違い、強く、胸を焼くような壁内の蒸留酒だ。


豊久「肴ば用意せんのか」

リヴァイ「夕餉の献立から察して貰いたいもんだ。シガンシナの食糧庫には大漁の酒と、後はショボい缶詰ぐらいしか残ってねえ。今から魚釣りって気分でもねえだろ………」

豊久「仕方ないのう。とっときじゃぞ?」ゴソゴソ

リヴァイ「ん?」グビ

豊久「馬ん干し肉じゃ」

リヴァイ「」ブーッ

豊久「汚い」

リヴァイ「馬? ウマつったかてめえ」

豊久「デカか声で話すな。さしゃがどこやらで聞き耳立てとるかわからぬ」


 一方、新兵達が雑魚寝する廃墟の一軒家の寝室で、


サシャ「!! なんだかとても惜しいもとい美味しいものを食べ損ねた気がします」

ジャン「うるせえ、寝ろ」

コニー「次うるさくしたら壁から吊り下げんぞ」

クリスタ「すやすや」クゥクゥ


リヴァイ「おまえんトコの国………世界じゃ、馬を食うのか」

豊久「薩州でん馬ん肉や獣肉ばよく食うど。俺の最後ん兵糧じゃ。特別じゃぞ」

リヴァイ「すげえな異世界。こっちじゃ牛や豚すら食う機会がほとんどねえんだ。馬なんて今やほとんどが軍馬だしな。一般的な民の年収に匹敵するんだぞ」

豊久「うむ。あんだけよか馬ば薩州でん見たこともなか。デカくて速い。あれは食ってはいかぬ馬じゃ。戦んための馬ぞ。大事にせんといかん」


 ※戦国時代の馬はみんなポニーのように小柄であまり速度も出なかったそうな。


豊久「冬ん時期に塩に漬けで干したもんじゃ。風味づけに味噌ん上澄みば使っておる。極上モンじゃぞ」

リヴァイ「こっちじゃ塩すら貴重品だ」

豊久「しみったれておるな。それとこいつと、こいつじゃ」

リヴァイ「ん………? なんだ、これは? これも食いものか? 塩のついた黒い帯と、カサカサのこれは果実を干したものか?」

豊久「昆布と梅干しじゃ。昆布っちゅうんは海ん中に生えとる草ば干したもんじゃ。これまた旨い。梅干しは梅ちう木の実を塩で漬けた保存食じゃ。酸いがウマい。俺の虎の子んもう一つじゃ」

リヴァイ「昆布………う、海だと…………?」


 豊久にとっては当たり前にそこにある食べ物であったが、リヴァイにとっては完全に未知の食物である。この世界に存在するかもわからないものだ。


リヴァイ「要はクソでけえ塩の湖か。ンなところに食材があんのか」

豊久「応、薩州でん昆布ば良く食う。ぬ? そういや此処ん壁ん中には海ばなかか? りばい、お主もしや海ば知らんのか?」

リヴァイ「…………知らん(ひょっとして俺は今、王どころか人類が誰も食ったことのないものを目の前にしているんじゃあないか?)」

豊久「ぬぅ、そうか…………ええい、仕方ないのう。とっておきのなかのとっておきじゃ」ゴソゴソ、ゴロン

リヴァイ「…………今度は何だ? ……待て、マジでなんだこれは。一つが栗だってのは分かるが、こっちのビロビロした奴はなんなんだ。見たことねえぞ」

豊久「勝ち栗と打ち鮑じゃ。鮑は海ん中で採れる貝じゃな」

リヴァイ「………ひでえ頭痛がしてきた」

豊久「四方膳と言う。戦国ん将は合戦の前と後ばこれらと昆布を食し、酒ば飲む。戦に『打ち』『勝』ち、『よろこぶ』っちゅう験を担いだもんじゃ。めでたきもんじゃぞ」

リヴァイ「それを俺に食わせていいのか。とっておきってことは、お前がお前の世界で勝った時に食うためのモンだろうが」

豊久「よか。あの浮世でん海ばある。いずこかで調達すればよか」


 一方、新兵達が雑魚寝する廃墟の一軒家の寝室で、


サシャ「あかん! やっぱりウチを誰かが呼んどる!!! 行かねば! 行って食わねば!! きっとウチは死ぬほど後悔する!!」ガバッ

ジャン「寝ろっつってんだろ!! こちとら死にかけの重傷なんだよオラァ!!」ドガッ

コニー「死ね芋女死ね!!」ゲシッ

サシャ「あわび!」イタイ

クリスタ「ん………むにゃ、ん………」スヤスヤ


リヴァイ「しかし馬にしろそのコンブとやらにしろ、食うのは初めてだぞ」

豊久「馬肉ば精がつぐ上、真に美味じゃ。昆布も噛めば噛むほど良か旨みがすっど。たもれ(食べろ)」

リヴァイ「肴としては上等すぎる……ありがたくいただこう」

豊久「おう。たんと食もれ。うんと飲め。壁ん上から外ん世界ば見下ろして、馬肉に梅に昆布に勝ち栗、そんで打ち鮑ば肴に酒盛りじゃ」

リヴァイ「そりゃ王にもできねえ贅沢だな」


 指で干し肉をつまみ、口に放り込む。


リヴァイ「…………旨いな。噛めば噛むほど旨みが出てくる。馬ってのはこんなにも旨いものだったのか」

豊久「よかもんじゃろ」

リヴァイ「ああ、実にいい。旨いな、これは………」

豊久「違う。りばいよ、肉んことではなか。つまみは極上、酒も極上、旨いんは当たり前じゃ。じゃがの、いっとう旨い酒っちゅうもんばある」

リヴァイ「?」

豊久「これが―――――勝利ん美酒っちゅうもんじゃ」

リヴァイ「―――――――――」


豊久「俺たちは、勝ったど」


 いつも不機嫌そうな表情を崩さないリヴァイだったが、その言葉には思わず目頭が熱くなった。

 それはいつの日のことか。リヴァイは己の本心を芥子粒よりも小さい箱に押し詰めて、胸の奥底に封じ込めた。

 巨人を必ず全滅させる。そう誓った時には、気付けばそれは存在していた。

 部下が命を落とす度、その箱の中に感情を押し込め続けた。

イザベル『兄貴』

ファーラン『リヴァイ』

 懐かしい声が、聞こえた気がした。確かに、聞こえた。

 誤魔化すように、グラスに注いだ酒を一気に煽る。

 いつものドブの水を飲んでいるような味はしなかった。

 その味は、きっと、


リヴァイ「そう。そうだな…………ああ、そうか、これが」


 きっとこれに勝る酒はない。


豊久「よかもんじゃろ」

リヴァイ「……………悪くない」

豊久「ここん飯はマズイが、酒はよか。喉が燃えるような強か酒じゃ。旨い。勝ち戦の後ともなれば、尚更じゃな」カハハハハ


 リヴァイの内心の葛藤など知ったことかと言わんばかりに、豊久は笑う。

 その空気を読まない豊久が、今のリヴァイには有難かった。


豊久「えれんは俺にこう言うた。世界を冒険するのだと」

リヴァイ「………フン、そんなことを言ったか、エレンが」

豊久「巨人めらを殺しつくして、世界の果てを見るのじゃと。知っどおか? 世界ば丸くできておること」

リヴァイ「ああ、ノブナガに聞いた。クソメガネがやったら食いついて根掘り葉掘り聞きだしてた」

豊久「山を登り、谷を渡り、海ば越えて、何処へ至る。何を求める」

リヴァイ「…………最初はな、ただの契約みてえなもんだった。ケチのつけ始めは、部下を持つようになってからか、あいつらが死んだときからか…………空っぽだった両手にも収まりきらねえほど、沢山のものを背負っちまった」

豊久「将ん責務ば負った者、誰でん背負う宿命じゃ。いなくなった者たちん夢ば一緒に背負って、戦ば望む。お前もそうであろう、りばい」

リヴァイ「そうだ。そいつらと約束した。必ずや俺が、巨人を全滅させると」

豊久「ならば進め。進んだ先で、戦い、戦い、戦い、必ずや勝て。またこの酒ん味を味わうがよか」


リヴァイ「そうだな。ああ、そうだ……そうだとも」


 グラスに半分ほど残った酒を、一気に煽る。

 かちん、と壁上の床にグラスを置き、


リヴァイ「格別だった。トヨヒサ、おまえと再びこの酒を飲む『次』があることを期待してる」

豊久「おう。いつでん来い。『次』は薩摩ん酒ば馳走してやっど」

リヴァイ「――――――――――はは」


 リヴァイは、堪え切れず笑みを浮かべた。

 顔から険の取れた子供のような笑み。遊び疲れて満足して笑う子供の笑みだった。


リヴァイ「分かった。そん時ゃ付き合え」

豊久「おう。浴びるほど飲むど」

リヴァイ「こっちも極上物を用意しておこう。ああ、いずれ海だって見つけてやる。アワビだろうがコンブだろうが、いくらだって用意してやる。その時は飲み比べだな」

豊久「負けぬぞ」

リヴァイ「負けねえよ」


 負けない。

 それはどちらの話か? などと野暮なことは両者とも聞かなかった。

 リヴァイはこの時の酒の味を、終生忘れなかったという。

 島津豊久もまた、異世界の兵子・リヴァイの名をその胸に刻んだ。




 そして、夜が明ける。

 朝が来る。

 始まりの朝が。

 終わりの朝が。

 漂流物との、別れの朝が。





……
………

※んだば、こんな感じ。

 料理やらが妙に凝ったのが出てくるのが私のSS流、といっていいのかどうか

 ウマいものは正義だよね。塩振って炙っただけの川魚。なんであんなにウマいもんかね。日本酒と合う

 ちなみに現在草津で療養しつつ、夜書いてる。酒が美味い。魚も肉も旨い

 明日、続き投下します

※おお、仕事仕事

 もうちょっとだけかかるんじゃ

※ごめん、お待たせ
 ドイツ行ってたんよ
 今朝方帰ってきたんさ
 書き溜めないから、以前書く言った閨講座上げるね


エレン「エレンとー」

豊久「お豊のー」


エレン豊久「「らぶらぶちゅっちゅリア充閨講座ー」」



※とは銘打ってみたものの、前提として言っておくが、武家における初夜の心得とかそういうのって私の知る限りでは文献で存在してねーっつーか、あるとしても読んだことない

 一部想像っつーか「お豊ならこうかなあ」という妄想ぶっぱするよ

 それでもおkなら読み進めるがよか


※時系列:ライナー・ベルトルトを捕縛してシガンシナ区へと向かう壁上道中。

 壁の上に仮設したテントでのお話。


○ウォールマリア壁上・男性テント仮宿舎


エレン「…………し、失礼します。エレン・イェーガーです」

豊久「む? おお、えれんか。閨ん話ば聞ぎん来たか。入れ入れ」

エレン「お、おう。あれ? ヨイチとノブナガは?」

豊久「うむ。えるびぃんらと話をしとる」

エレン「そ、そっか。そんじゃ、えと、その」

豊久「そうしゃっちこばるでない。うむ、では作法ば教えっど――――――お前らも聞きん来たか」

エレン「…………なんでおまえらまでいるんだよ。ゾロゾロついてきやがってよ」

アルミン「えへへ、やっぱり僕も男だし。そう、参考にというか………」テレッ

ジャン「うるせえ!! うらやましい!!」

コニー「いいじゃんか。おれらだって興味あるぞ」


エレン「だ、だからってなあ………!」

アルミン「まあまあ。だけど君のためでもあるんだよ?」

エレン「何がだよ?」

アルミン「君ってあんまり座学の成績良くないじゃないか。僕が後で要点纏めてあげたほうが、後々失敗しなくても済むだろう?」

エレン「ぐぬ…………悔しいけど、そうかも」

豊久「ぬ? いかんぞえれん。軍略、戦術ば深く学べい」

エレン「うわー、トヨヒサに言われるとなんかスゲー納得いかねえー」

ジャン「い、いいから、ホレ、閨講座だ。本題からズレてんぞ」

コニー「そーだー。閨講座だー」

豊久「それもそうじゃな。良か、では始めるど」


 居住まいを整え、正座でエレン達と対峙する豊久。ごくり、と童貞たちが生唾を飲む。



豊久「廓ん女郎(要は遊女。現代で言う風俗のソープ嬢のこと)が如き粗雑な扱いばできぬ」


豊久「お前らは女子ん肌膚(きふ)に触れたことばあるか?」

エレン「む………ガキん頃とか。後は格闘訓練の時? とか?」

豊久「違うぞ。乳や尻ん肉を揉んだことばあるか、ときいちょる」

エレン「ブッ………ねえよ、そんなもん!!」

豊久「ではそこからじゃの。柔肌(はだ)に触れる時はそっとじゃ。乱暴にしてはいかぬ。優しゅうしてやれ。女子(おなご)の体は男子とは違うとる。きめ細かく柔い。割れ物ば扱うが如きものと心得よ」

エレン「や、柔らかい………」ゴクリ

ジャン(ミカサの肌ミカサの肌ミカサの肌ミカサの肌)ブッッシュゥウウウウウ

コニー「きぃいゃああああああああ!? きたねええええええ!!?」

アルミン「ああっ!? コニーがまるでかま○たちの夜の登場人物のように赤く染まって!?」

豊久「己ん指や腕を見よ。女子とは違かろ? 太く、節張っちょる。力いっぱいに肌に触れようもんなら、容易く肌は腫れ、血が滲む」

ジャン「ミカサの肌が赤くはれて血が滲む!? コロス! エレンコロス!!」

エレン「おまえもう帰れ!! 近づくなよ怖いんだよ、鼻血吹けよ! 血がついちゃうだろ!!」

アルミン「ジャンうるさいよ。ほんとにつまみ出してもらうよ」

コニー「そーだそーだ」


豊久「うむ。じゃん、喧しい。帷幕ん外に出ておれ」ポイッ

ジャン「」


 ピシャリとテントの入り口を締め切る。すすり泣くような声がテントの外から聞こえたが、豊久は無視した。


豊久「互いに初夜ともなれば、身体は強張り、反して丹田が熱く燃えるように滾る。焦がれるようにじゃ。その焦れの赴くままん振る舞っては、女子は痛いだけじゃろう」

エレン「? どういうことだ、アルミン」

アルミン「えーっと、要は互いにセックスの経験がない男女だとお互い緊張してるけどこれからエッチなことをするっていう興奮で、暴走しちゃいがちだから抑えましょうって話かな?」

豊久「うむ、流石じゃあるみん。強いて言うならば、逸らぬことじゃ。急いては事ば仕損じると言うど」

エレン「焦らないこと………」メモメモ

豊久「言うなれば、閨は男子と女子の合戦………否、合戦とは真逆じゃの。力押しでは勝てぬ。腹の内ば読め。戦場ん時はただひたすら敵が嫌がることばすれば良か、閨は真逆じゃ。相手の反応ば見つつ、何が嫌で何を欲しておるか察せい」

エレン「相手の様子をよく観察して………してほしいこと、してほしくないことを見極める」メモメモ

アルミン「心理戦ということか………冷静さと観察力、洞察力がモノをいうね」メモメモ

コニー「なるほど、わからん」

豊久「女子の肌に優しゅう触れて、気を昂ぶらせ。襦袢ば脱がせた後は、女陰(ほと)をしとどん濡らしておく。濡れぬままに怒張を突き込んでは痛がらせてしまうど」

エレン「じゅばん? ほと? アルミン、解説」


アルミン「えっと、じゅばんっていうのは多分着物かな? 要は裸に脱がせた後、緊張をほぐしてあげつつ、その、ミカサの………女の子の、女性器、を、良く濡らさないとダメってこと、かな」ドキドキ

エレン「ッ、そ、そうか。分かった」ドキドキ

コニー「えっちぃなー。なんかドキドキしてきた」ドキドキ

豊久「後は、そうじゃの。終始優しゅう導いてやればよか。まあえれん、お前なら心配なかろ。ありのままでん良か」

エレン「はあ? なんかいい加減じゃねえか、それって」

豊久「いい加減などではなか。みかさは良か女子じゃ。お前を好いちょうがよう分かる。優しか、強か女子じゃ。お前はただ優しゅうしてやることだけ覚えておればよか。みかさはお前を受け入れてくれよう」

エレン「む………」

豊久「幼馴染なのじゃろ? 互いを良く知り、好いちょう同士ならば、自然となるようんなるもんじゃ」

エレン「わ、わかった。頑張ってみるよ………さんきゅな、トヨヒサ」

豊久「さんきゅ?」

エレン「ありがとうって意味だ」

アルミン(うーん。なんだか分かったような分からないような。………あれ? テントの外、人影が………ミカサ!? それに、同期の子たちも! どこへ行くつもりだろう?)



……
………


………
……


○一方その頃、女性兵士の寝泊りするテントにて


ハンジ「…………あの、ミカサ? それとチミタチ? 今、なんて言ったの?」


ミカサ「お、女の子の、その、そのぅ……………ね、閨の作法というものは、その、ど、どんなもの、でしょう………」

サシャ「私も是非知りたいです!! 将来的に恥をかきたくないですし!」

クリスタ「えっと、その………経験豊富な先輩方なら、きっと知ってると思って、それで」

ユミル「おいクリスタ。その言い方は聞きようによっちゃすげえ暴言だぞ」


 ミカサがただ座して閨の日を待つだろうか。否、否である。

 万が一にもエレンとの初夜に粗相をするわけにはいかぬ。

 なれば、その作法を知らねばならない。しかしミカサは年若く男性経験がない。

 他の同期達も同様であると思われた。

 ―――ならば先輩の女性兵士に聞こう。そういうことになった。


ハンジ「………」

ペトラ「………」

ナナバ「………」

リーネ「………」

ニファ「………」

オルミーヌ「………」

ミカサ「?」

ハンジ(ぬ、抜かったァーーーーー!? よ、よもやこの手の質問をされるとはッ………!!)←恋愛は投げ捨てるものな処女

ペトラ(し、知らぬ存ぜぬで通すか!? 無理!! 先輩としての尊厳がッ………!!)←優等生として生きてきたが故の処女

ナナバ(…………立ち去らなければ。一刻も早くここから立ち去らなければ)←クールなお姉さまキャラが祟って耳年増なだけの処女

リーネ(そうよそうよどうせ行き遅れよ行き遅れどころかこの歳まで恋人の一人も……)←気が付いたらまだ処女

ニファ(あうあう………どうしよ、どうしよ、どうすれば。男の人とお付き合いしたことなんてないよぉ)←人見知り処女

オルミーヌ(来る日も来る日も石壁の符書いては修行修行の日々に、出張してはドリフの監視ばっかり。たまにいるヤローどももおっぱいっぱいばっかで男の人とお付き合いしたことなかったっけなぁ)←オッパイ処女

ユミル(コイツらのこの反応……ははん)←鋭い


○現在公開可能な(独自設定)情報

 変人奇人の巣窟である調査兵団の女性兵士は良くも悪くも一途で純粋な者が多く、行動がやや偏向気味になりがちである。

 恋愛経験が豊富? リア充? だったら調査兵団なんか入らねーよksが。

 いつ死ぬともわからぬ兵団に好んで入団する女性など、そりゃ女棄ててますわガチで。

 娯楽の少ない文化圏ではあるが女性の貞操観念はそれなりに高く、婚約を前提としていない婚前交渉は不貞とみなされる


 そんな質問をしたミカサだったが、あれこれ言い訳されてトントン拍子に宿舎を追い出されてしまったのだ。


ミカサ「…………」トボトボ


 自分たちのテントへと戻るミカサの足取りは重い。

 ミカサは泣きだしたい気分だった。このままじゃ、エレンとの閨が上手くいかない。傷つけてしまうかもしれない。

 傷つけられるのはいい。怒られるのもいい。だけど、嫌われてしまうかもしれない。それだけは耐えられない。

 エレンは私に失望して、私を捨ててしまう―――――そう思うと、自然と涙が零れた。


ミカサ「う、うっ、う………」ポロポロ

サシャ「!? ミ、ミカサ! 大丈夫ですよ、まだまだ先の事ですし、ほら! トロスト区なりローゼに帰ったら、一緒に調べればいいんですよ!」

クリスタ「そうだよ! え、えっちのやり方の一つや二つ、絶対分かるって!」

ユミル「はぁ…………泣くほどかよ。しょうがねえなあ。私が教えてやるよ」

ミカサ「っ!?」

サシャ「ユ、ユミル? その言い方ですと、貴女ひょっとして………」

ユミル「アホかっ。これでも清い体だっつーの。作法だ何だと堅苦しい上に難しく考えるから混乱すんだよ。常識的な範疇でやりゃいいんだ」


ミカサ「じょ、常識的と言われても、私にはそういった知識はないから、その………困っている」

ユミル「やれやれ…………しょうがねえな。テント戻ったら教えてやるよ」

サシャ「私も!」

クリスタ「わ、私も!!」

ユミル「ただしクリスタ。てめーはダメだ。まだ早い」

クリスタ「は、早くないもん! 私だってもう十五歳だよ! あ、赤ちゃんだって産めるんだから!」


 閑話休題。テントへと辿り着き、それぞれの就寝場所である簡易ベッドに横たわる。


ユミル「いいか。まずは前提だ。そこを押さえりゃ自然と何をすればいいかは見えてくる」

ミカサ「前提?」

ユミル「前提だ。閨、つまりセックスだな。裸になって肌を合わせるってことの意味を考えろ」

ミカサ「う、うん」

ユミル「まずは衛生面だな。基本的なところからだ。コトに及ぶとなったら、まずは前準備として身綺麗にしておく必要がある。要は体と髪を洗え。入念にな。臭いとか汚いとか、男女関係なくフツーに嫌だろうが」

ミカサ「!! そ、そうだ。そのとおりだった」メモメモ

クリスタ「おお、基本だね」カリカリ


サシャ「ふむふむ」メモメモ

ユミル「肌の手入れもしとけ。米ぬかとかで洗うと肌がしっとりツルツルになっていいぞ。爪も綺麗にな。きちんと切りそろえてヤスリかけてピカピカにしとけ。抱き付いたとき相手の肌切っちまったら気まずいだろ?」

ミカサ「ッ、こんな基本的なところを見落としていたとは」カリカリカリカリ

クリスタ「なんてことなの………そうだよ、エチケットだよ!」メモメモメモメモ

ユミル「んで、まあおまえらは体毛薄いからあんまり参考にならんだろうが、ムダ毛があるなら処理しとけ。脇とかすねとか、眉の形整えるとか。抜くなり剃るなりやり方は色々あんだろ。鼻毛とか出てたら萎えるだろ。ちゃんと抜くなり切るなりしろよ」

ミカサ「手抜かりなくチェックする」メモメモ

ユミル「んで、体臭とか気になるなら香水つけるのもいいな。あまりキツいと嫌がられるかもしれんから、微かに香る程度でいい。っつっても、これまたおまえら体臭薄いし、さして気にするほどでもねえだろ」

ミカサ「成程、なるほどー」メモメモ

ユミル「そうそう、必ず忘れず歯も磨け。あとハーブとか噛んどけ。口が臭いとか思われたらイヤだろ?」

ミカサ「!! それもそうだ」メモメモ

サシャ「お肉の臭いとかしてたらイヤですかね? 私はむしろすごくいい感じで」

クリスタ「少数派すぎるからきちんと歯を磨こうねサシャ」

ユミル「あとは身に着ける下着だな」

ミカサ「清潔感のあるものをつければいい?」

ユミル「そりゃ最低条件だな。だがそれだけだとちと弱い。兵団から支給されてる色気もひったくれもねえ下着じゃ、男がガッカリするかもしれねえだろ?」


ミカサ「そういうものなの?」

ユミル「………しゃあねえな。まあ、無事に壁内戻れたら、下着から服からいろいろ見てやるよ。おまえの勝負服、勝負下着ってヤツだ。金使うからありったけ持って来いよ」

ミカサ「しょ、勝負………そうか。これは戦い。戦いには事前の入念な準備が肝要。戦わねば勝てない………」ブツブツ

ユミル「お、おう」

ミカサ「ありがとう。私はユミルのことを少し誤解していたかもしれない。貴女は優しい人だ」

ユミル「よ、よせや、こっぱずかしい。単なる気まぐれだ、気まぐれ」ヘッ

サシャ「そ、それで? 基本の次はどうすればいいですか! その、いざ男の人とするってときは!」ドキドキ

クリスタ「う、うん! どうすればいいの?」ドキドキ

ミカサ「ッ………」ドキドキ

ユミル「そうだな。心構えとしちゃ、さほど気負う必要はない。ノブナガの言うセリフじゃねえが、万全に万全を期したなら、後は果報を待てってな」

ミカサ「ぐ、具体的には?」



ユミル「―――――極力何もするな。以上」



 想定の遥か向こう側の意見に、ミカサ、サシャ、クリスタは口を半開きのままに呆けていた。


クリスタ「え? 何も? 何もしないって、え?」

ユミル「言い間違えちゃいねえよ。何もしない。これが最上の手段だ。少なくともエレンとミカサがヤるってんなら、それがベストだろうよ」

サシャ「えーっと、それは、何を根拠に?」

ユミル「男なんてモンは基本的にプライドだけで生きてるよーな連中だ。明日のおまんまより体面が大事だ。自己満足に生きて自己満足に死ぬのが男だ。分かるか? エレンみたいなヤツなら、基本は受け身でオッケーだろ」

ミカサ「………思い当たる節はある」

ユミル「基本的に連中は自分主導だ。そういうタイプじゃあないのもいるし、女に尽くしてほしいってヤツもいる。が、エレンは前者だ。つーかそのまんまの典型だ。何もかも自分でやりたいのさ。トヨヒサも言ってたろ、男が導いてやらねばならぬーとかなんとか。ありゃ男の自分本位な勘違いだ」

クリスタ「そ、そうなの?」

ユミル「そうだ。当たり前だろ。私たちだって人間だ。同じ人間だ。趣味嗜好が違うんだ。男が受け身じゃ腑抜けか? 女がリードしたいと思ったら淫乱か? ひでえ差別だ。けどまぁ、エレンの野郎を見る限り、自分が上手くやりてえって気持ちは強いだろうな」

クリスタ(だよね。エレンだもん)

サシャ(ですよね。エレンですもの)


 納得のエレン・イェーガーである。男性上位に立ちたい、というミカサへの歪んだ劣等感もあるのだろう。



ユミル「けど、そいつは男の単なる我儘に過ぎないってワケじゃねえんだ。不器用なりの男の優しさなんだが、男にとってそれはある種のプレッシャーだ。上手くやりたい。相手に嫌われたくない。拒絶されたくない。

    まあ、男にしろ女にしろ少なからずそういうのはあるんだが………男の場合そいつが強い。そいつはプレッシャーだ」


クリスタ「なるほど、なるほど」フムフム

サシャ「奥が深い……」ウムウム

ミカサ「ほう、ほうほう。でも私はエレンを嫌ったりしない。エレンがしてくれること、ちゃんと受け入れられる」コクコク

ユミル「それでも、だ。エレンだってミカサ、おまえを傷つけたくないんだ。おまえがエレンを傷つけたくない嫌われたくないと思うようにだ」

ミカサ「む、う……」

ミカサ「だからな、おまえはいざコトを起こそうって時、エレンがそういうプレッシャーを感じていたなら、そいつをほぐしてやれ」

ミカサ「ほぐすって………それは、どうやって?」

ユミル「笑顔の一つでも向けて、エレンのやることを受け入れてやりゃいいのさ。男を立てるってのは、そういうことだ。何も全部が全部好きにやらせろってワケじゃない。本気で嫌だったら抵抗してもいい」

ミカサ「エレンを拒絶しろ、と?」

ユミル「だーかーらー、そういう極端でややこしい考え方をすんなっつってんだアホッ。相手の嫌なことはせず、嫌なことは嫌と伝える。簡単だろ? そんなもんだ。難しく考えなきゃあっさり上手くいくんじゃねえの?」

ミカサ「な、なるほど………説得力がある」メモメモ

ユミル「で、だ。それでもおまえがエレンに何かしてやりたいっていうなら、そうだな…………触ってやれ」

ミカサ「! さ、触る!? 何を!?」

ユミル「どこでもいいさ。抱き付いて背中を撫でてもいいし、頭を撫でてやったっていい。腕をさすってやってもいい、頬擦りしたっていい、首筋にキスの一つでもしてやったっていい」

サシャ「お、おお………あだるてぃですね!」ワクワク

あ、一部ユミルがミカサで表記されてるので脳内変換よろ。

×ミカサ「だからな、おまえはいざコトを起こそうって時、エレンがそういうプレッシャーを感じていたなら、そいつをほぐしてやれ」
○ユミル「だからな、おまえはいざコトを起こそうって時、エレンがそういうプレッシャーを感じていたなら、そいつをほぐしてやれ」


ユミル「人肌ってのは気持ちいいもんだ。それが好きな人のモンならなおのことだろ。相手が嫌がらないところを触ってやりゃいい。こうやってな」

クリスタ「わぷっ」


 そういってユミルはクリスタの頭へと手を伸ばした。ゆるゆると優しく指先を動かし、クリスタの髪を梳る。

 「いきなりしないでよ、びっくりするでしょ」とクリスタは文句を言うが、まんざらでもなさそうな表情で行為を受け入れている。


ミカサ「でも、エレンが嫌がったりしないだろうか………」

ユミル「嫌がりゃしねえだろ。まあ、照れ隠しで嫌がるフリはするかもな。ま、恥ずかしがってるか本気で嫌がってるかは、おまえが判断しろよ。死に急ぎ野郎とは、おまえが一番付き合い長いんだろうが」

ミカサ「う、うん」

ユミル「あんニャロウがテレて拒むようなら、こう、上目遣いで「私がこうしたいの、駄目?」とでもキャワイイ感じに言ってやれ。好き好きってアピールしろ。そんだけで大抵の男なんぞ落ちるわ」

サシャ「おぉー………想像したらすっごくドキドキしますね! ミカサってキレイですから!」

ユミル「おまえがしてやりたいこと、してやれよ。アブノーマルな性癖があるわけでもねえんだろ、主席殿?」ケケケ

ミカサ「そ、そんな特殊な性癖はない………と思う」


 そうして、夜は更けていった。二時間が立ち、日付が変わったころ、ユミルが大きな欠伸を一つ。


ユミル「ふぁあ…………ま、こんなトコだろ。明日も早えし、私はもう寝る」ネムイ


ミカサ「ええ。改めてありがとう、ユミル。なんだか、少し気持ちが軽くなった」

サシャ「ふわぁあ………なんだか少しオトナになっちゃった気がします」

クリスタ「すごいねユミル。私、感心しちゃった」

ユミル「応。貸し一つな。ま、どんなモンだったか、エレンとヤッたら教えてくれや」ニヤニヤ

ミカサ「ッ………ぜ、善処する」カァァア

ユミル「ケケケ、期待してんぜ? んじゃま、オヤスミ」ゴロン




【ユミルお姉さんの閨講座:完】

※まあこんなところで閨講座終わり。蓋を開けてみたらユミルの方が二枚も三枚も上手だったというお話。っていうか女の子の方が上手? みたいな?

 っつーか、基本スペックとしてのIQが絶対高いよねユミルって。

 男とか女とかの性差の垣根じゃあなくて、その人間の本質を見極めて、相対する際の対応方針を決めるのが抜群に上手い印象がある。これについてはアルミン以上じゃないかな。

 クリスタ絡むと盲目になりがちなのはチャームポイント。

 ユミルって原作でも人の心の機微とかに鋭いし、観察力も並はずれて高い。コニー気遣ったりとかライベルの表情目ざとく見てたり。

 その気になったら男を立てるとかすげえ得意そう。基本的にドSそうだけどね。

 男ってチョロいわー、みたいな。悪女にも聖女にもなれる女だね。

 こういう女の子を嫁にすると尻に敷かれるだろうし財布のひもも握られちゃうだろうけど、毎日がきっと楽しそう。


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│    /⌒\
│電柱│ ち )

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│   │*゚ー゚|  ジーッ
│   │つ つ





※来週、完結予定


………
……



 雲一つない蒼天の下、向かい合う二つの軍集団がある。

 一ツは黒白の双翼の紋章を背に刻んだ軍――――調査兵団。

 一ツは赤地に白抜きの轡十字の旗の下に集った軍――――ドリフターズ。

 互いに言葉はない。静かに向かい合っている。多くの者はどこか寂しげに眉をよせていた。

 別れが訪れるのだ。


信長「――――――良いのか、エルヴィンよ。エレンの実家の地下室の調査、我らが同伴せんでも」

エルヴィン「ああ。これ以上は厚かましいというものだ。返しきれないほどの恩を貰った…………この通信水晶球十個………本当に我々に?」

晴明『正味な話をすると、そこのアルミンとクリスタの適性は凄まじい。が、磨かれていない原石に過ぎない。作り方の詳細についてはオルミーヌに纏めさせたから、後で熟読するといい。これからの精進次第でなんとでもなるだろう』

オルミーヌ「目が覚めたらオッパイがやたら痛かった上に大師匠様からレポート作成を命じられた。解せぬ」

アルミン「僕らじゃ多分、一月に二個作れるかどうかってところです」

クリスタ「しかもほぼ不眠不休で。石壁の符はもうバッチリですけど」


オルミーヌ「まあ、二人ともすっごく筋がいいです。石壁しか出せない私みたいな偏重型じゃなくて応用もできるし、もう一人前だね」ニコニコ

アルミン「オ、オルミーヌさん……(やばいよすごく綺麗な笑顔なんだけど凄まじい罪悪感だよ。オッパイ揉んでごめんなさいごめんなさい)」

クリスタ「オルミーヌさぁん……(どうかしてた。本当にごめんなさい生きててすいません)」

エルヴィン「………いいのか、本当に?」

信長「しゃーねーだろーが。俺らにゃ晴明がおるでな、これから増やせるが、『これから』に備えて早急に数がいるのはテメーらだろが。そこのアルミンとクリスタに一応作り方は教えたらしーが、何分ここの淫乱オッパイほどの技量はない」

オルミーヌ「いつも貞淑なオルミーヌです。もはや原型すらねえよ」

信長「ま、こっちも立体機動装置の図面と材料、がすの予備もこんだけ貰ってんだしな。そういう約定の下、同盟を結んだのだ。問題なかろう」

与一「私も良き弓を手に入れましたしね」

シャラ「シガンシナの弾薬庫にあった火薬もいただけたし」

豊久「うむ。ドワーフば解放ん行くに十分じゃろ」

オルミーヌ「氷瀑石や黒金竹に変わる資源は『こちら』にもあります。ドワーフさえ味方に付けば、立体機動装置の量産も不可能ではないかと」

信長「と、言うわけだ。手切れと思っておけ」


 からかうように言い切ると、信長は一転して表情を真剣なものに切り替え、右手で水晶球を投げる。


信長「分かってるだろうがな、ヅラッパゲ。コイツは使い方次第じゃ、数の優位なんぞ容易く覆せる。――――数において圧倒的に劣る貴様らがこれを奪われれば、詰みじゃ」

エルヴィン「ああ。運用には細心の注意を払う」

リヴァイ「精々気張ってやるさ。国を獲るのはあくまで手段だ。巨人を殺しつくすためのな」

豊久「お主らの国獲りじゃの、りばい。俺らとの国獲りとどちらが速いか、競争じゃな」

リヴァイ「ああ、負けた方が奢りだ。忘れるなよ、トヨヒサ」

豊久「かはは」

リヴァイ「ふふ」


 笑いあう両者に、正確には笑うリヴァイに、兵団の人員たちは―――――特にリヴァイ班の面々は驚いた。


オルオ「わ、笑った………? 兵長が?」

ペトラ「嘘、初めて見た」

エルド「どういう心境の変化だよ………いつもああいう笑い方ならいいのに」

グンタ「あのフルボッコは夢に見るよな………」

エレン「へ、兵長、笑えたんですね」

リヴァイ「馬鹿言え。俺は結構笑う………」

リヴァイ班(嘘だ絶対嘘だ)


信長「寡兵にて国を獲るには、まず頭を潰せ。それと明確な大義を広く風聞として流すための手段を確保。後はおまえの軍団指揮の腕前次第じゃがなー。でもなー、おまえら全然なってねーしなー」プークスクス

エルヴィン「」イラッ

ハンジ「そろそろ殴ってもいい? いいよねぇ? これで最後かもしれないし!」ニコリ

リヴァイ「やれ。というか殺ってやる」

エルヴィン「ぶちころしてやるです」

豊久「加勢じゃ。行くぞ与一」

与一「下剋上はまかせろー」

信長「な、何をするきさまらーーーーー! ここは逃げの一手」

オルミーヌ「石壁どーん」バシュッ

信長「ギャーッ!? う、裏切ったな、裏切ったなオッパイーヌ! 勝家と同じで裏切ったな! 俺の気持ちを裏切ったんだ!」

オルミーヌ「うるせえ死ね」


 阿鼻叫喚である。

 いつの間にか信長を殴りにかかる首脳陣に、他の調査兵団が加わり、エルフたちまで巻き込んでいく。

 先ほどのしんみりとした空気はあっという間に霧散した。


 そんな時だ。

 信長に一発いいのを入れてご満悦の与一の元に、歩み寄る影がある。


与一「ん? 御用ですかな?」

サシャ「は、はいっ! あ、あのう、そのう………」


 サシャ・ブラウスであった。

 頬は紅潮し、瞳がうるんでいる。

 傍にいたエルフ達の耳がぴくりと震える。

 明らかにあれは、恋する乙女の目だ。

 すわ告白か、と耳を澄ませる彼らであったが、


サシャ「ヨイチさん。あのっ、ヨイチさんの弓、す、すごかったです。躍っているみたいに綺麗で、カッコよくて」

与一「はは、お褒めに与り恐悦至極。貴方のように可愛らしい方に言われるのは、悪い気はしません」

サシャ「その、わ、私もいつか、ヨイチさんみたいに――――なれるかなあ。私も、ヨイチさんみたいになれるかなあ」

与一「…………ふむ」


 血生臭い戦場に生きた、忌むべき技術を、無邪気に凄いと、綺麗だと。

 与一の心境は複雑であったが、心にじんわりと温かなものが広がるのを感じた。

 守りたかった人々に、守った民草に、恐怖の視線を向けられることが常であった彼にとって――――己を眩しいものを見るように見つめてくるサシャこそが、眩く見えた。


与一「弓兵の心得は、心の清澄にこそあり。一矢に己の命を懸け、全身全霊で弦を引き、相手の命を奪う。殺しの業」

サシャ「ッ、はい。私も、私は元々狩人です。命を奪うことの意味は、分かっています」

与一「それが人でも。射てますか?」


 与一の表情から笑みが消え、鷹の瞳でサシャを見る。

 並大抵の者ならば畏れて目を逸らすだろう。だが、


サシャ「―――――怖くないと言えば、嘘になります。だけど、だけど」


 怖いと言いながらも、震えながらも、サシャは与一から視線を逸らさなかった。


サシャ「巨人をいっぱいやっつけるヨイチさんを綺麗だと思った。この気持ちは本当です。私が弓を引いて守れる命があるのなら、私は全霊でそれをやり通して見せたいと、そう思います」

 
 言葉に偽りはない。まっすぐに挑むように、与一の視線を真正面から受け止めて、そう言った。


与一「なれば、貴方は道を過つことはないでしょう―――――サシャ殿は、筋がよろしい」

サシャ「ほっ、本当ですか!」

シャラ「世辞は言わない人だよ。本当だ。君は筋がいい。耳短かにしておくのがもったいないぐらいだ」ポンッ

サシャ「ふひゃっ」

エルフC「へへ、ガンバレよ。きっとすげえ弓手になるぜ、君ならな」

サシャ「は、はいッ!」

エルフA「えっへへぇ、サシャちゃん。きいちごあげる」

エルフB「おいしいよ?」

ハンニバル「ウムッ、苦しゅうない。おまえにはきいちごを食う権利をやろう」モチャモチャ

サシャ「あ、ありがどう、ございまず…………ざ、ざようなら、みなざん。わだ、わだじ、ぜ、ぜっだい、わずれまぜんがら………みんなのごど、わずれまぜんがらっ………」ポロポロ

エルフA「泣かないで、サシャちゃん」

エルフB「きっとまた会えるよ。その時はまた、おいしいきいちご食べよ?」


 ぼろぼろと涙を溢し、しゃくりあげながら、サシャはきいちごを食べた。

 今まで食べたものの中で、こんなに美味しいものはなかったと、サシャはそう思った。


信長「ち、チクショー、あいつら本気でブン殴ってきやがった………この恨みはらさで置くべきか。焼き討ちじゃ。鴨撃ちじゃ」ブツブツ


 ようやく殴り合いの輪から抜け出してきた信長がぶつぶつと怨嗟の言葉を吐き出していると、


コニー「あー、その、な、えっと、ええと、その」

信長「あん? なんだ、サルじゃねーか。何用か。お主も俺を殴りに来たか」


 信長が身構えるが、当のコニーは何か言い辛そうに、まごついている。


信長「どうした? 文句の一つでも言いに来たのではないのか」

コニー「ちげえっての。むしろ逆で」

信長「逆?」

コニー「その…………あんがとな、オヤカタ様」


 恥ずかしげに頬を掻き、コニーは頭を下げた。

 信長は唖然、と下げられたコニーの頭を見る。


信長「は? いや、いやいやこらサル。御館様っておまえ」


コニー「? エライ軍人のこと、そっちじゃトノサマとかオヤカタ様っていうんだろ? トヨヒサから聞いたぞ? じゃあノブナガはオヤカタ様だろ?」

信長「――――――――」


 ふと、信長はコニーの笑みに、かつて己の臣下として、他の誰よりも働き抜いた男の面影を見た。

 目端が利き、人たらしの農民出身の男の姿。


信長「―――――聞いたぞ、猿。前線で美事な啖呵を切り、士気を上げたそうではないか」

コニー「お、おれは、まだ、まだまだなんだ。もっともっとできることがあった筈なんだよ。強くなりてえ………強くなって、家族も、国も、仲間も、アイツも、守れるようになりてえ」

信長「どうにもお主を見ておると、あのハゲネズミを思い出す。目端が利き、やることなすこと小賢しく忌々しいが………どの家臣よりも懸命に勤める、どうにも憎めぬ、あの猿を」

コニー「? よく分かんねえけど、その人はその人だろ。おれはおれだ。やれるだけやってみる」

信長「く、は―――――そうだな。そうじゃな。コニー・スプリンガー。大義であった。これからも精進し、良く皆を助けい。出世しろよ。やらねばならんことが増えるが、その分出来ることが増える」

コニー「!」



信長「バカと呼ばれようと、良いではないか。俺とてしょっちゅう尾張の大うつけと呼ばれておった。言わせておけよ。腐るな。それこそバカを見る」

コニー「オヤカタ様ッ」

信長「頭が足りんと言われるなら、他の十倍、二十倍に考えろ。失敗しようと構わん。誰よりも反省し、誰よりも次へ活かせ。そこへ至るまでに何を為しておくべきかを考え、準備せよ」

コニー「ッ………はっ!!」バッ

信長「応。じゃあな、コニー。壮健でな。佳き武将となれば使ってやる。佳き軍師となれば、共に天下布武の計、世へ敷くための形について、語り合おうではないか」

コニー「オヤカタ様も、お、お達者、でっ………」ポロポロ



 泣くことは恥ではない。

 己のために流す涙は恥だが、他者のために流すそれは美しい。

 強き背を惜しみ嘆くコニーの流すそれは、熱い男の涙だった。


エレン「!!! トヨヒサ!!」

ミカサ「トヨヒサ!!!」

アルミン「トヨさん!!」


 そして、ドリフターズの総大将と、此度の戦の第一論功たる鎧の巨人を討ち果たした三人が向かい合う。

 別れの言葉だ。三人は言葉に詰まっていた。伝えたい言葉が多すぎる。涙を目いっぱいに瞳に溜めて、ミカサは今にも泣きだしそうだった。


豊久「あるみん」

アルミン「はいっ!!」

豊久「力押しばかりが戦ではなかぞ。搦め手も必要な時、お前の力が役に立つ」

アルミン「え………?」

豊久「お前は賢い。武将たる器ばなかとも、お前は軍神ん大器ば持つ男じゃ。良く気が付き、機転ば利く。突っ込むばかりの俺やえれんとは違か。良く学び、良く考え、良くえれんを助けい。友達、なのじゃろ?」

アルミン「ッ………う、う、う、は、はいっ………はいっ、おトヨさん」

豊久「ただしあそこんうつけのようにはなるな。アレはクズじゃ。駄目の見本市じゃ。ああはなるな。なってくれるな」

信長「え? 呼んだー? オッス、オラ第六天魔王。いっちょ殺ってみっか比叡山焼き討ち。女子供もみなごろし」ウフフ

アルミン「あ、は…………はっ、はははっ。やっぱり、おトヨさんは、ズズッ、すごいや」


ミカサ「おトヨさん………」

豊久「お前は良か女子じゃ。よく気づき、よくえれんを助けい。夫婦とは斯様なものじゃ。お家ば守れ。えれんとのお家じゃ。えれんが最後に帰る居場所じゃ。それを守るんが嫁子の務めよ。よう励み、丈夫な子ば産め」

ミカサ「っ、う、うんっ………う゛んっ………い、いままで、あ、ありが、あり、りがどう、ございまじだっ………」ポロポロ

豊久「おうおう、泣くでない。別嬪が台無しじゃ」

ミカサ「だ、だっでッ、ざ、ざびじ………ざびじぃ、よ………いっぱい、いっぱい、良くじで、ぐれだのにッ………まだ、何も、何もッ……」

コニー「ミカサがあんなに泣いてんの、トロスト区防衛戦以来だな。なんつーか意外だ」

エレン「そうか? 案外ミカサは、よく泣くぞ」

豊久「女だてらに見事な武者ぶり。それに加えて、お前はまっこと情に厚か女子じゃの。良き母となろうぞ」

サシャ「やりましたね、ミカサ。トヨヒサさんのお墨付きですよ」

豊久「さしゃ、お前はもそっと慎みば覚えい。そがいなこつだら、嫁ん貰い手が無かぞ」

サシャ「トヨヒサさんまで!?」

クリスタ「あはは、言われちゃったねサシャ」

豊久「くりすた。いや、ひすとりあじゃったか、お前もじゃ。何というか、お前はこう、幸が薄う見える」

ヒストリア「え゛ッ」

※ちからつきた

 あすこうしんする

 さんれんきゅうなんだ。なんとかなるよ


豊久「そも女だてらに兵子なんぞやっちょうもんなぞ、間違いなく嫁ん行きそびれッど。うむ、間違いない」

サシャ「そんなぁあああああああ!!」ビエエエエエッ

ヒストリア「ひどぃひぃいいいいいいいいい!!」ウェエエエエン

ハンジ「んー、まあ、私たちも、ねえ? 調査兵団ってホラ、死傷率アレだし。そりゃ婚期も逃すッつーか、エレンとミカサが例外っていうかむしろもげろっていうか」オホホ

ペトラ「やめてください一緒にしないでください私まだそこまで女捨ててませんから。ホラ、なんせ私ピッチピチなもんで」ギリギリギリギリ

オルオ「ピッチピチとか言う奴が若いわけねぇだびゅふっ!?」ガブッ

ペトラ「死ね。オルオ死ね。舌おいてけ! 舌噛み切って死ね!」バキッグシャッ

エルド「まぁおっかないこと。俺、無事に家に帰ったら彼女と結婚するんだ」ウフフ

グンタ「死ね。奇行種に喰われて死ね」ペッ


 自然と、豊久の周囲には人が集まった。もはや別れを悲しむ空気はない。『次』に会う時のことを語るものまでいる。


ゲルガー「おトヨさん。そっちの酒、いつか飲ませてくださいよ」

豊久「おう。浴びるほど飲んど、げるがー。おんしの呑みっぷりば実に美事じゃったぞ」

ナナバ「そちらにあるという、ええと、『チャドー』でしたか? 私はそちらに興味があります。そちらも是非」

豊久「うむ、そい言うならば『さどう』じゃな、ななばよ。茶の湯ちうヤツはどうにもこうにも作法作法と喧しく、俺にはようわがんね。が、あれはあれでよかものじゃと、おじ上が好いちょった」


モブリット「お元気で、トヨヒサさん、ノブナガさん、ヨイチさん。私の作った弓、役立ててくださいね」

信長「おう」

与一「痛み入る、モブリット殿」

リーネ「忘れられない一月でした。ゲンジバンザイ」

ヘニング「新兵を導いてくれたこと、有難く思うよ」

ケイジ「じゃあ、達者でな」

ニファ「ご武運を」

豊久「うむ。お前らも壮健での」


 各々が別れの言葉を告げる中、エレンは、


エレン「あ…………」


 唯一人、別れを告げずにいた。その胸には語りつくせぬ思いがあった。

 感謝がある。尊敬がある。憧れがある。悲しみがある。

 一月足らずの日々に、確かな思い出があった。駆け抜けた日々を思い返す度に胸が熱くなり、喉が詰まり、言葉が出なくなる。


ハンニバル「うー、うー、ぐ、ぐぬー、ぐぬぬー、おのれスキピオー、イベリアをよくもー。クソッタレのアフリカ被れめがぁー」グヌヌ

ハンジ「すっごいお爺ちゃんだけど基本ボケてんだよなあ。でもありがとうね、お爺ちゃん。貴方のおかげで『獣』を倒せたんだから」

ハンニバル「うん? うん、凄いじゃろワシ? そう凄いんじゃよワシは。よろしいオッパイを揉む権利をやろう」モニュッ

オルミーヌ「揉むなッ!! ジジイッ! てめッ、あっ、やめっ、ちょっ、やだこのジジイ無駄に巧いんですけどッ!? やめてくれるッ、マジッ、マジでェーッ!」ヒィイイイッ

シャラ「おい、きいちご持って来い。収拾がつかない」

エルフC「ほーい。お爺ちゃん、新しいきいちごよー」

エルフD「これで元気100バイだよー」

リヴァイ「うまいか、ジィさん?」

ハンニバル「んまい。オッパイとかこの味に比べたらクソだなマジで」モチャモチャ

オルミーヌ「ぶっころしてえ」


 呆れるような馬鹿騒ぎも、これが最後かもしれない。

 だから、何か言わないと――――そう思うのに、言葉が出ない。


エレン「う、あ………」


 そして無情にも、その時は訪れた。


晴明『―――――お三方。そろそろです。『門』が開きます』

信長「おう」

与一「ええ」

豊久「うむ」


 晴明が告げた次の瞬間だった。

 シガンシナ区の中央に位置する空間が歪曲し、にわかに光り輝きだす。

 ――――別れの時だった。


エレン「あ…………」


 待って、と。言えなかった。行かないで、と。言えなかった。

 彼らには戦うべき場所がある。エレンにも戦うべき場所がある。

 そしてそれは、同じではない。文字通りに、世界が違うのだ。

 赤い背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。


エレン「ッ、トヨヒサッ!!」


 ―――何か、語るべき言葉を思いついたわけではない。

 だけど、何かを告げなければという焦燥にも似た思いが、エレンにその名を叫ばせた。


豊久「――――――」


 果たしてその言葉は届き、ゆるりと豊久が振り返り、エレンの元へと歩み寄る。


エレン「っ、う………」

豊久「…………」


 ややエレンが見上げる形で、両者は向き合った。


エレン「う、うう………」


 ここに至ってなお、エレンは言葉を紡げない。

 後に悔いを残さぬために何を言えばいいのか、エレンには分からなかった。


 待てど暮らせど語らぬエレンに、豊久は眉根を寄せて腕を組み、大きくため息をついた。


豊久「しょうのない奴じゃ。武士ば呼び止めておいてだんまりとはの。薩州ん領で斯様な無礼を働かば、無礼打ちにされても仕方なかぞ」

エレン「…………」

豊久「呆れた奴じゃ。鎧ば打ち倒した時んお前は、それはそれは美事であったが、まるで今は借りてきた猫じゃの」


 エレンはもう恥ずかしさに涙が出そうだった。

 恩人に礼の一つも言えない。笑顔で別れを告げることもできない。


豊久「…………なれば、手を出せい」

エレン「え………?」


 反射的に両腕を出す。その両掌に、ずしりと重い何かが乗った。

 目を瞬かせてみれば、それは―――――。


エレン「こ、これ、は………」


 それは刀だった。轡十字と呼ばれる島津家の家紋の入った脇差である。豊久の腰を彩る大小二本のうちの小の一振り。


豊久「―――――お前に貸してやる」

エレン「これを、俺に………?」


 武士が刀を預ける。

 その意味は分からなかったが、とても重要なことであることは理解できた。

 遠目に二人の様子を見守る信長と与一が瞠目していることからも、それは明らかだった。


エレン「ッ―――――」


 手が、足が、全身が戦慄く。その脇差はあまりにも、今のエレンにとって重かった。

 取り落としそうになる震えを堪え、ぎゅうと握りしめる。

 力のこもったその両肩に、豊久の両手が添えられる。

 震えが、止まった。


豊久「たかだかひと月にも届かぬ日々じゃったが――――俺が、島津豊久が、確かにこん浮世に在ったことん証じゃ。謹んで拝領せい」

エレン「ッ…………!!」


 受け取れない、と突っ返すことは、それで不可能となった。

 返すことは、豊久が此処にいたと言う事実を否定することだと、エレンにも容易く理解できた。


豊久「これは俺じゃ。いつでんお前を見張っちょる。お前がこれよりお前の志ば裏切るならば、それで腹を掻っ捌いて死ぬがよか」

エレン「腹を、切る………」

豊久「されど」

エレン「え?」

豊久「―――――お前は言うたな。誓ったはずだ。そん臓腑ん底から、志ば叫んだじゃろう。魂じゃ。そん魂ば裏切らず、己が道ば突き抜けたならば」




 豊久は、笑みを浮かべた。

 人懐っこい悪戯小僧のように笑い、



           ・・
豊久「そん時は、返せ。もはやお前にそれは必要ないということじゃ―――――」

エレン「っ、あ」


 その言葉の意味を理解した瞬間、エレンは知らず、刀を抱きしめていた。

 宝物を抱くように。強く。


豊久「お前ん国じゃ。お前が獲り返せ。自由が欲しいか、翼が欲しいか。ならば己が手で掴めい」

エレン「トヨ、ヒサ………」

豊久「ここまでじゃ、えれん。俺らがしてやれることは、ここまでじゃ。餓鬼んように強請るだけでは、何もその手ん掴めぬ。此処より先は、お前がやれ」

エレン「あ、ああ、ああああ………」

豊久「語るべき言葉が見つからなんだら、また今度じゃ。これからお前が歩む道程、何を為したか。そいば返す時に、ゆるりと聞かせてもらうど」


 それで語るべきことは語ったということなのだろう。

 豊久は再び背を向けた。

 赤い背中が遠ざかる。きっともう二度と振り返らないだろう。

 泣いても、叫んでも、何をしても、その歩みが止まることはないだろう。


 だから。


エレン「俺、俺は………俺はぁ!!」


 滂沱の涙を溢しながら、エレンは叫んだ。

 歪む視界の中に、確かに轡十字を捉えながら、


エレン「俺、もう二度と負けねえから! 絶対、一匹残らず巨人を駆逐してやるから!!」


 決意を叫んだ。生まれて初めて、心の底から尊敬した英雄に。

 魂の底からしぼり出た言葉を、叩きつけるように喚く。

 その『叫び』は力となって、波濤となって、豊久の背を押した。


エレン「そしたら、また会おうぜ!! 必ず、この刀を返しに行くから! 戦って、戦って、戦い抜いて、絶対に勝つ! だから、トヨヒサも負けるな!! 死ぬな!! 絶対だ!! 約束だかんな!! 破ったら許さないからな、トヨヒサ!! トヨヒサぁ!!」

豊久「! ――――――く、はッ」


 歪みと光が交錯する極点へと辿り着く直前、豊久は噴きだした。

 あまりにも似通った、どこかで聞いた叫びであった。


豊久(全く………おじ上と同じ言葉抜かしおる)


 しかし、と豊久は鼻息を一つ、


豊久「男子(おのこ)が泣ぐな、うつけが」


 一言に伏し、しかしと告げて、


豊久「ぬしが死んでも、友が死んでも、ぬしらの意志ば継ぐ者がおればよか」


豊久「子を成せ。何十年何百年かかるかは知らぬ。じゃっどん必ずぬしば意志を継いじょう者がやり遂げる」


豊久「主らの子が、必ず滅ぼす。全てのだいだらぼっちを。だいだらぼっちのうなじば、全て斬りおとせ。誉ば積み上げい。お家を守れ」



 振り返らず、拳を天へ向かって突き上げる。



豊久「えれん! えれん・いぇーがー! 異なる浮世の隼人(はやと)よ! 然らば!!」


豊久「そして兵子どもよ!! 実に美事な兵子ぶりじゃったぞ。いずれまた戦場で。然らば!! お然らばじゃ!」


 豊久の訣別の叫びに呼応したように、兵団から爆発したように歓声が上がった。


ミカサ「さようなら、おトヨさん。さようなら、さようなら! また、必ず会おう!!」

アルミン「百の言葉でも、千でも万でも足りないけれど!! ありがとう! 必ず、必ず、僕は恩を返しに行くから!!」

与一「源氏の勇名は一生語り継ぐように。特にさしゃ殿は筋が良い。私の次に優秀な射手となれることでしょう。何、精進を怠らず、口を開く前と後にゲンジバンザイとつければすぐです。とりあえず立体機動しながらオーギ落としてください」

サシャ「は、はいっ! ウチ、メッチャがんばるから!! ゲンジバンザーイ!!」

モブリット「バンザーイ!!」

ハンジ「ばんじゃーい!!」ヒャッホー

ジャン「無茶振りすぎだろゲンジバンザイ」


コニー「またな、オヤカタ様!!」

信長「おう、オルテが終わったら次はテメーらの国な。天下布武の理の元、侵略しに来てやっからよ。精々この土地肥やしておけよ」ヒヒヒ

エルヴィン「抜かせノブナガ。その時こそ、君が目を剥くような策で肝をつぶしてやる」

リヴァイ「てめえが死に際に何をホザくか今から楽しみだ」

信長「人生五十年?」

リヴァイ「今言うんじゃねえよ糞馬鹿………」

ハンニバル「クク、奇天烈にして痛快な日々だったな。また逢う日を心待ちにしているぞ、調査兵団。そして共にローマを滅ぼさん」ククク

オルミーヌ「えッ!? お爺ちゃん、ボケが治ったの!?」

ハンニバル「おちっこ」ジョボボボボボボブリュッ

オルミーヌ「」

シャラ「う○こ出てるぞ爺さん!」

ペトラ「は、ははっ、締まらないなぁ………」

オルオ「それはアレかう○こだけにケツのあびゅあっ!?」ガブッ

エルド「学習能力がねえのかそんだけ舌噛んで痛みを感じて」

グンタ「オルオだからね。ちかたないね」


ミケ「じゃあな、ドリフターズ。また戦場で」

エルフA「その時はまた、肩を並べて戦いましょう」

ヒストリア「みんな、みんな、お元気で! 私、貴方たちの事、ずっと、ずっと忘れないから!!」

エルフB「おー、耳短かの別嬪さんも元気でな!」


 確信があってのことではない。

 しかし誰もが、これを今生の別れとは思っていなかった。

 会える。

 必ず会える。

 一月前の出会いが奇跡だったのならば。

 再び奇跡が起こることは、不思議ではないのだから。


 そして喧騒は消え去り。

 後には荒廃したシガンシナ区と、調査兵団の人員だけが残った。


……
………


………
……



 ――――オルテ国・ドワーフを解放しに向かう道中。

 次元と光の狭間を抜けた先、ドリフターズ達は再びそこへ舞い戻っていた。


信長「しっかしよぉ、豊久」

豊久「ぬ?」

信長「オメー、エレンに脇差くれてやってたが、いいのか? ありゃ小脇差っつっても、島津の家紋入りじゃねーか。そんなモン渡すとはな。いいのか、アレ相当な業物だろ」

与一「平安の宗近あたりと鑑ましたが。本当にいいものです」

豊久「よか。島津ん御家において、脇差とは腹ば召す時に用いるもんじゃ。俺は薩摩に帰るまで、死ぬつもりはなか」

信長「ンな自害刀をやったのかお主は………」

豊久「違う」



 豊久は口元を笑みに歪め、



豊久「俺は、『返せ』ち言うた。腹ば召しては返せん。そういう刀じゃ」





信長「―――――………へっ」

豊久「…………くは」

与一「ははッ」


 三者ともに笑い、示し合わせたように拳を突き出し、打ち鳴らす。


信長「さって――――そんじゃあもう一仕事だ。俺達は俺達の国盗りを始める」

与一「ええ」

豊久「うむ、敵ん城址ば見えてきたど」

シャラ「エルフ弓隊、配置整いました」

与一「よろしい。では手筈通りに」

信長「よし。んじゃあ豊久。号令だ」


 飛び交う棒火矢。炸裂する火薬に、粉塵と血飛沫が舞う。

 悲鳴に次ぐ怒号。阿鼻叫喚の地獄絵図を体現する、戦場という名の地獄。

 誰も彼もがしっちゃかめっちゃかな騒ぎの中で我を失う。

 しかし、鉄火場の最前線に島津の英傑はただ一人。



豊久「征くぞ兵子ども!! ひっ飛べ!!」



 吼えたて、猛り、刀を担ぎ、誰よりも先を奔り。

 狂ったように叫ぶのだ。





豊久「―――――首おいてけ!! 大将首だ!! 大将首だろう!? なあ、大将首だろうおまえ!!」





【完?】

※やあ、うん、そうなんだよ、【完?】ってなんだよって感じだよな


 そう――――後日談があるんだ。終わりじゃないんだよ。


 なんでこんなプロット組んじまったんだオイラ………明日完結な

 だ、大丈夫、きっと、多分、結構長い後日談だけど、きっと終わらせられる、明日中に

 ち○こまんの根気が完結させることを信じて

 終わらなかったらごめんよ、そうなったら今度の日曜日だよ


 ――――その男の背中の力強さを、今でも鮮明に覚えている。


 その男は決して振り返らない。

 人類の怨敵にして天敵たる巨人を前に、彼は一度として退くことはなかった。


 ついて来いと、

 本当に恐ろしいことはなんなのかを教えてくれたその背中は、まだ遠い。

 十年以上の時を経ても色褪せず、変わらず己の前に立っている。


 その背中に憧れた。

 ああなりたいと願い、鍛え、戦って。生きた。


 生きることは、苦痛と困難の連続だ。


 そうして辿り着いた。


 世界への第一歩に。


………
……


 ウォールシーナ・エルミハ区――――調査兵団の支部として宛がわれた石造りの建造物の一室。

 そこは見事なまでに書類仕事を行うためだけの機能美が備わった部屋だった。

 殺風景な部屋だ。出入り口の扉の左右の壁は本棚。向かって正面には作業机と、背後には飾り気のない木枠をはめ込んだ窓に、灰色の遮光カーテンがぴくりともせずに頭を垂れている。

 木製の机の上には花瓶のひとつもなく、その木目が分からないほどの書類がうずたかく積まれている。

 床も同様だ。足の踏み場もないほどに散らかっている。持ち主の激務が容易に想像できるほどの煩雑振りである。

 椅子にぐったりを背を預けて、死んだように眠っている人物がいる。三十代に差し掛かった年代の男性だ。

 すぅ、と静かな呼息、はぁ、と吐息が一定のリズムを刻んで、断続的に静謐な部屋の中に響く。

 その安眠と静謐を妨げるノイズが一つ。コンコン、と打ち鳴らされるノックの音だ。

 最初は静かに、しかし部屋の主の反応がないことを焦るように、次第に強く激しく、音は次第に大きくなっていく。

 そしてとうとうしびれを切らしたのか―――――扉は蹴破られる。

 吹き飛んだ扉が盛大な音を立てて床を転がるが、部屋の主はそれでもなお眠りから覚める気配がない。

 よほど疲労がたまっているのだろう。静かに胸が上下するだけで、僅かな身じろぎもない。


「おい、乱暴だぞ。上官に対する態度じゃあない」

「うるさい。あんたがそうやって甘やかすからコイツがつけあがる。さっさと起こして用件伝えて出るわよ」


 無遠慮に部屋に押し入る女性を、強い語調で咎めながらも続く男性。共に三十代といった年頃だ。

 それからしばし口論する両者だったが、早々に男性が折れる。

 眠る男性の元に静かに近づき、その肩に手を置き、



マルロ「―――――――――団長。起きろ、団長」

ヒッチ「いい加減起きてよ、ジャン団長」

ジャン「…………んが?」


 調査兵団十五代団長、ジャン・キルシュタインは、そうしておよそ五十六時間ぶりの惰眠から目覚めた。


ジャン「ん、くぁ…………悪ィ。どうした。なんかあったか」


 あくび混じりに放たれた言葉に、マルロ・フロイデンベルクと、ヒッチ・フロイデンベルクは大きくため息をつき、


マルロ「―――――緊急招集だ。トロスト区に向かうぞ」


 帰ってきた返答に、ジャンの瞳が剣呑な光を帯びた。


ジャン「………穏やかじゃあねえな。詳細は?」

ヒッチ「馬車の中で話す。どうも一刻を争うみたいよ、アルレルト司令長官直々の通信だったし」

ジャン「そうか。準備は出来てんだろ? じゃ、行くぞ」


 椅子から立ち上がり、大きく伸びをしながら、


ジャン「………ま、大方予想はつくがな」

マルロ「む?」

ヒッチ「え?」

ジャン「馬車で話す――――待機中の部隊にも召集かけろ。歩兵、弓兵、騎馬兵、高速機動部隊も完全装備でだ。武器庫からありったけ火薬を出せ。符術部隊にも人員を出させろ。可哀想だが、しばらく休暇はないかもしれん」

マルロ「諒解」

ヒッチ「だっる………」

ジャン「うるせえ。しょうがねえだろ。仕事なんだから。ブツクサ言ってねえで動け、ホレ」


ヒッチ「分かってるよ、うっさいな………」

マルロ「だからお前はもっとこう目上に敬意をだな………」

ヒッチ「うっさいうっさいうっさい」


 馬車へ乗り込むまで、彼と彼女の口論は続いた。

 それを眠気覚ましに見やりながら、ジャンはひとりごちる。


ジャン「―――――いよいよか」


 廊下の窓から、遠く南の空を見る。

 シーナの壁を越え、ローゼを渡り、思いはマリアの南端へと、遥かに。



……
………


………
……



 ウォールマリア・東突出区―――――クィンタ区の正門の外れに設立された弓兵の練兵場。

 そこで弓を構える女性がいる。引き絞る弦に番えた矢の先に狙い澄ますは、巨人の形に切り抜かれた巨大な木製のモニュメント。

 棒火矢によってうなじを狙い撃つことは、十年以上前から巨人殺しの一つの手段として確立された、今やオーソドックスな戦法の一つだ。

 弓兵を目指す者は皆、日夜この訓練に明け暮れる。

 しかし、女性の鍛錬法――――的への距離が異常であった。

 およそ三百メートル。常道の理からすれば届かない。距離が届いたとしても決して中りはしない。そんな距離。


 しかし、



サシャ「ゲンジバンザイ」



 ぽつりとつぶやき、放たれた矢は、数秒の間断の後、スコンと的へ命中する。それも寸分たがわず、巨人のうなじへと。


サシャ「よし!! ゲンジバンザァァアアイ!!」


 グッとガッツポーズを取る背後、感嘆しながら拍手を送るのは、サシャ率いる弓兵隊の部下たちだ。


モブA「なー、サシャ弓兵長がいつも叫んでるアレってなんなんだ?」

モブB「知らねえ。けどなんかアレ叫んで射ると弓の威力と命中率が三割増しになって、滅茶苦茶気合が入るらしいぜ」

モブC「そ、そうなのか?」


 やんややんやと騒ぐ兵たちに、サシャは手を打ち鳴らし、


サシャ「ハイ。このように狙って射てばサックリ当たります。皆も精進するように。口を開くときに前と後ろにゲンジバンザイとつけると修行の効率が良くなります。叫ぶように。愛を込めて」

モブA「絶対ウソだゲンジバンザイ」

モブB「それができるのはサシャ弓兵長だけですゲンジバンザイ」

モブC「そもそもゲンジバンザイってなんだよゲンジバンザイ」


 サシャはゲンジバンザイと祈りを込めて叫び、矢を番え、射る。

 それを一日三千本。十年以上もの間、それを日課として繰り返している。もはや狂気の沙汰を繰り返した末に、狂人の魔技を手に入れつつあった。


モブA「アレがなきゃ美人なのになぁ、サシャ弓兵長」

モブB「オッパイでかいのに。美人なのに。もったいねえ」

モブC「未だ独身のフリーで、男の影もねえらしい」

サシャ「ははは聞こえましたよ。クィンタ区の壁沿いを十週してきなさい。駆け足で」


 ギャーと断末魔の叫びをあげる三人だったが、こうべを垂れてしぶしぶと走り込みに向かう。

 やれやれとため息をついて、再び的に向かい、矢を番えようとするサシャだったが、



「おー、精が出るなぁサシャ。サシャ・ブラウス弓兵長」



 かけられた声に振り返る。

 声の持ち主は、サシャと同年代の男性だ。180に届くかという身長に、丈夫で分厚い兵士服の上からでも分かる鍛え上げられた肉体。

 胸元に輝くのは調査兵団所属を示す自由の翼の紋章と、色とりどりの胸章。

 精悍な顔立ちに人懐っこい笑みを浮かべ、「よっ」と気楽に手を上げると、サシャも笑みを浮かべて手を振り返し、


サシャ「おや、調査兵団ウォールマリア東部司令」

コニー「よせよ、こっぱずかしい。色々足りねえ今の俺には分不相応にも過ぎる肩書だ。ただのコニーでいい」


 灰色掛かった短髪を撫で上げ、照れくさそうにコニーは笑った。

 今やストヘス区、カラネス区、そしてここクィンタ区を含む東側領土の調査兵団の総責任者とは思えぬほどの飄々とした態度だった。


サシャ「せやな。長いわ。ホンマ面倒くさい」

コニー「おい………まいいか。しっかし腕上がったなぁ………全部が巨人のうなじブチ抜いてるじゃねえか」

サシャ「えっへへぇ、でも、まだまだです。使える技はヨイチさんから教えてもらった半分程度ですし、まだ立体機動中にオーギ落とすの五回に二回ぐらいしか成功しませんし、継ぎ矢(射って的に刺さった矢に次射が『継ぐ』ように命中すること)も二十五が限界です」

コニー「謙虚って言葉の意味はなんだったっけ」

サシャ「コニーは相変わらずおばかさんですねぇ」


 確実に馬鹿はサシャである。しかもクレイジーである。彼女の弓の腕は、既に地雷原でタップダンス踊っている領域に突入していた。


コニー「ハッ、全くでけえ目標だよな………お互いによ。歳食うごとに遠くなってる気がしやがる」

サシャ「けど、きっと近づいています。追いつくことは無理かもしれません。だけど、追うことを諦めなければきっと、その背中を見失うことはない。そうでしょう?」

コニー「違いねえ。俺は一生懸命勉強したけど、オヤカタ様にゃあなれそうにもねえ。けど、その力にはなれんだろ。背中ぐらい押せるだろ、なあ」


サシャ「ふふ、そうですね。しかしコニー、ホント出世しましたねー」

コニー「ん? そうか? んー………そうだな。でもアルミンの方が凄いぞ? 司令長官だぜ? 俺の上司だ」


 軽く言ってのけるが、サシャはあまりにも謙虚が過ぎると、内心で思った。

 今やコニーよりも階級が上の人間は、五本の指で数えられるほどしかいないのだ。


コニー「まあ、自分でもびっくりだ。俺にしちゃ出来過ぎだよ」

サシャ「あー、でも頑張ってましたもんね」

コニー「アルミンからもらった宿題片づけて訓練して実戦出て帰ってきたらメシ食って宿題やって寝て起きてメシ食って実戦出て宿題やって………気づいたらこうなってたしなぁ。アルミン様様だぜ」

サシャ「はは………(アルミンは自分以外にも苦労を押し付けられる役割を増やしたかっただけに見えたけどな。目の色がババ色やったし)」

コニー「ん? どうかしたか、サシャ?」

サシャ「い、いいえ、何も。そ、そういえばコニー? 今更ですけど、本当に背が伸びましたねえ」

コニー「へへ………俺とアルミンがあの後すんげえ伸びたもんな。今やあのブスだって見下ろせるぜ。もー二度とチビなんて呼ばせねー」

サシャ「はぁ………まだブスとか言ってるんですか? 遠回りな自虐かなんかですか? ブス専ですか?」

コニー「あ? あ、あー、そりゃアレだ。あいつがあんまりヒドいブスだからアワレに思ってだな。どうせあいつもまだ独身だろーし、その、俺が貰ってやらねえと、あいつずっと独り身だろ。家族もいねーし、寂しいだろ、そういうの」ゴニョゴニョ

サシャ「ふーん? らぶらぶですねえ。羨ましい」ニヨニヨ


コニー「うぎぎ………そ、そういうテメーは相手いねえのかよ。俺とおまえとジャンとアルミンと………その、えっと、あのやんごとなき人ぐらいだぞ、同期で未婚なの」ギリギリギリギリ

サシャ「むぅ………私も早いとこ善い人見つけないと。おいちいモノ毎日食べさせてくれる人がいいナー。もう三十一ですよ三十一。年齢じゃあヨイチさんはおろか、おトヨさんまで追い抜いちゃいましたね」ウフフ

コニー「もー余り者同士、ジャンとくっついちまえよ。あいつ出世したぞ。今や団長だぞ。出世頭のアルミンほどじゃねーとしても、イイモン毎日食えるぞきっと。おまえの食いっぷりにドン引きしねえフリーの男っつったらあいつぐれーだろ」

サシャ「イヤです。だってジャンですよ、あのジャン。未だに未練がましくミカサミカサ言うとる人とか、もうどーしよーもねーでしょう」

コニー「じゃあアルミンは?」

サシャ「いやいや、ないない。絶対ないですあんな腹黒。むしろアルミンとまかり間違って結婚できたら、私ゼッタイ謀殺されます」

コニー「地味にひでえなおまえ…………事実だけどよ。うん、俺が悪かった」

サシャ「でしょ?」

コニー「しかしアルミンといえば、意外だよなー。俺ァ絶対くっつくと思ってたんだけどな、あの二人」

サシャ「あー、確かに。アレは未だに語り草ですよね。まさかアルミンが―――――」


「何の話をしてるの?」


サシャ「」

コニー「」


 背後、それも近距離から響いてきたその声に、歴戦の猛者である二人は金縛りにあったように動けなかった。

 司令と弓兵長というメンツの会話である。割り込めるのは極少数に限られ、普通ならば不敬に当たるが―――――この人物だけは例外である。

 コニーを顎で使える、壁内で数少ない者の一人にして、最上位。 


ヒストリア「楽しそうだね。混ぜてくれないかな? ん? 結婚がどうとかアルミンがどうとか、『余り者』がどうとか」


 この言葉を跳ねのけられる者は、刎頸レベルの不敬者である。あるいは勇者か死に急ぎ野郎である。


サシャ「ひ、ヒストリア・レイス女王陛下………」

コニー「ぎ…………じょ、女王陛下におかれましては、本日もご機嫌麗しゅう」

ヒストリア「気分がいいように見える?」

コニー「すいません見えません。殺さないでください」ガタガタ



 ――――もう十年ほど前の話になる。


 ヒストリア・レイスが女王として即位したその日、彼女はエルヴィン・スミスの養子として迎えられたアルミン・アルレルト・スミスに告白した。


 十五年前、まだ彼女がクリスタ・レンズを名乗り、ドリフターズを迎え、石壁の符を作るようになってから、アルミンと彼女の仲は急接近した。

 それまで壁内には存在しなかった文明の一つ、『魔術』は今でこそある程度浸透したものの、当時は受け入れがたい異端の魔技として蔑視を受けた。

 調査兵団が敵対する組織の一つ、ウォール教などはこぞってそれを弾劾の槍玉として用い、人々の不信を煽った。

 それに特別適性の高いアルミンとヒストリアは、度々暗殺という危険にさらされた。ましてヒストリアは正当なる王家の血筋であるレイスの血を引くものだ。

 狙われる理由は一つや二つでは足りない。

 しかし、それら暗殺者や刺客を悉く返り討ちにしたのが、アルミンであった。

 時に策を用い、罠に嵌め、時には己が身を挺してまでヒストリアを守り抜いた。

 その傍らでより調査兵団の戦力を増強せんと、石壁の符の強化や応用に着手したり、魔術に適正の高い人材を集め、今でいうところの魔術兵隊を設立するなど、あらゆる方面で調査兵団の発展へと尽力したのだ。


ヒストリア「そうだよ………そんなの惚れるよ………好きになるに決まってるじゃない。好きにならなかったらそっちの方がおかしいよ。そうだよね?」

コニー「まあ」

サシャ「それについては完全に同意します。だからこそ告白のお膳立てについては、皆がみんなノリノリでしたもんね」

ヒストリア「うん…………ごめんね。ほんとごめん。私、自意識過剰だったんだよね。ふ、ふふ、ふふふふ」


 もうお分かりだろう―――――彼女はフラれた。


 年の頃、アルミン、ヒストリア、共に二十歳。

 二次成長期を経てぐんぐんと背を伸ばし、180に届くかという美しい青年へ成長したアルミンを、ヒストリアは紅潮した顔で見上げながら、



ヒストリア「す、好きです、アルミン。わ、私とお付き合いをしてください!」

アルミン「ごめん、ヒストリア。それ無理」



 ヒストリアの告白から即答である。シークタイムゼロセコンド、脊髄反射でお断りのお返事であった。

 なおアルミンは同期の男連中から身の程知らずとしてフルボッコの刑にあうところだったが、無駄に狡すっからい頭脳を発揮して返り討ちにした。驚愕である。

 アルミンへの仕置きメンバーにはエレンやミカサといった幼馴染、挙句に人類最強リヴァイ兵長まで参加していたのだから、その本気度は押して知れるだろう。

 その仕置きから逃げ切るどころか返り討ちにしたアルミンの恐ろしさと、あまりの空気の読めなさに、話を聞いた全調査兵団兵士がドン引きしたという。



ヒストリア「ふ、ふ。そうだよ、思い返してみれば、アルミンってばオルミーヌさんに気があったっぽいよね。うん? なんだろ? 何が悪いんだろ、私の」ブツブツ

サシャ「あ、あのー?」

コニー「お、おーい?」


ヒストリア「なんだろうなあ。私の何がいけなかったんだろうなあ。お料理だって覚えたし、オルミーヌさんみたいに眼鏡もかけたし、ちょっとはしたないけど、生足出してみたり、いろいろやったのになあ」

サシャ「え、えっと…………?」

ヒストリア「ねえ、コニー? 何が違うの? 私とオルミーヌさん、何が違うの?」

コニー「そ、それは、えー、それはですね、そのー………」


 コニーに罪はない。しかし悪手はあった。男としての、悲しいサガだ。

 無意識の領域で、コニーは少しだけ目線を下げたのだ――――ヒストリアの顔から、やや下へと。

 その視線を目ざとく見切ったヒストリアは、激昂した。


ヒストリア「ああ、そうだよ!! お っ ぱ い だよ!! おっぱいに魂を惹かれた俗物がッ!!」


 キャラ崩壊の危機に瀕する者がいた。というか、もはや原型が残っていなかった。というかヒストリアだった。この国の女王である。大丈夫か現王政。


ヒストリア「神よッ! 貴方は何故ッ! 何故ッ………私を、私の胸をッ………ことさら貧しくお創り賜うた………」


 膝をつき、滝のように涙を流して呻くヒストリアさん(30歳・処女・ギリギリBカップ)である。需要はあってもアルミンにとって需要がなければ、彼女にとって意味がない。あえて言えばカスであった。


ヒストリア「ちくしょう、ちくしょう、神は死んだッ………なにがマリアだローゼだ、女神なんていないんだよ。巨人にカパカパ破られる腐れビッチのくせにわたしをばかにしやがって。あっ、でもシーナは私と同じだね。穢れ無き身体だもんね」ブツブツ

サシャ(うわぁ、男ッ気のない私よりヒドいかもしれない)ヒキッ

コニー(喪女ってヤツか。超コエー)ヒキッ


ヒストリア「こうかいさせてやる。わたしをふったことをこうかいさせてやるぞあるみん。ちくしょう、ちくしょう、うひひちくしょう」ブツブツ

サシャ(こ、このままじゃせっかく纏まりかけてる国が内部分裂ですよ。王軍と司令軍みたいな感じに真ッ二つ)ヒソヒソ

コニー(どっちにつく? 心情的にはヒストリアだけど、アルミンはデビルの末裔だし、勝てる気しねーんだけどマジで)ヒソヒソ

サシャ(何無駄に計算高いこと考えてんですかッ!? どうにかこうにか話を逸らさなきゃでしょッ!?)ヒソヒソ

コニー(そ、そうだな。えっと、そ、そうだ。こう言え、こう)ヒソヒソ


 コニーがサシャに早口で耳打ちすると、


サシャ「ッ、と、ところでヒストリア女王陛下? 弓練場にお越しになるなんて珍しいですが、私に何の御用だったんですかね?」

ヒストリア「あ、忘れてた」


 何事もなかったかのように、ケロリとヒストリアは立ち上がり、ニコリと笑みを浮かべた。

 どこからどう見ても完全無欠の美しい女王陛下の姿があった。綺麗な顔してるだろ。処女で三十路なんだぜこいつ。


ヒストリア「コニー、サシャ。部下全員に召集をかけて―――――トロスト区へ行くよ」


 兵士の召集に、場所がトロスト区―――――コニーとサシャの目の色が変わる。


コニー「………変事か? 例の?」

ヒストリア「ええ。厩からあるだけ馬引いて全力で走らせて。装備はジャンが用意するよ」

サシャ「了解しました。ではコニー、私は手筈を整えますから、貴方も準備を整えて先に馬車、で………って」


 ばきり、という破砕音が響いた。サシャが振り返った先、それまでそこにいたはずのコニーの姿は、何処にもなかった。


ヒストリア「――――行っちゃった。ああいうところは昔っから変わらないねえ、コニーって」

サシャ「また護衛の一人も付けずに………仕方ないですねえ。コニーの装備は私が持っていきます」


 ちらり、とコニーが先ほどまで立っていた石畳の地面を見る。

 そこにはぬかるみに打ち付けた蹄鉄の跡のように、人の足型が石畳を打ち砕き、くっきりと残っていた。



……
………


………
……



 調査兵団西方支部―――――ウォールローゼ・クロルバ区に所属する調査兵団の訓練場。

 百を超える調査兵たちが、一人残らず地に転がっている。

 その全員が全身で呼吸をするほどの疲労困憊に陥っており、中には盛大に吐瀉物を吐き出している者までいた。

 異様な光景である。倒れ伏す者たちの中には、訓練兵上がりの、ここ数年で調査兵団入りとなった新人も多数いるが、彼らとて誰もが壁外実戦経験者だ。

 その彼らが、精鋭たる彼らが、立ち上がることすらできない。

 それを成したのは、ただ一人の人物であった。

 彼らを睥睨するように見下ろし、腕を組む小柄な男性。

 その背後から、声をかける女性がいる。


ペトラ「―――――リヴァイ教導隊長。例の変事が。トロスト区でアルレルト司令長官がお呼びです」

リヴァイ「ああ、もうそんな時期か。そろそろだとは思っていたが」


 タイ捨の術理を立体機動術に組み込んだ刀法・兵法を叩き込む、教導隊の隊長となった、人類最強である。


 再び倒れ伏す調査兵たちを、まるで汚いものを見るような目で見下しながら、


リヴァイ「コイツらは連れていけんな」

ペトラ「疲労困憊で動けませんしね」

リヴァイ「どちらにせよだ。全然なってない。訓練兵からやり直せ。それで兵士のつもりか。十五年前の地獄に比べれば、この訓練こそ生ぬるいぞ」


 罵倒が飛ぶ。しかし反骨を見せようとする人物は誰一人――――否。


「だ、大丈夫、です。まだ、まだやれます」


 フラフラではあったが、立ち上がる者は一人いた。

 小柄な少女だ。強い意志を秘めた鋭い目つきに、長い黒髪。

 がくがくと笑った膝を叱咤するように拳で叩き、視線だけは挑むようにリヴァイを睨みつけている。


ペトラ「流石。あの二人の娘だけはありますね――――レヴィ・アッカーマン。十三歳で繰り上がって調査兵団入りしただけのことはあります」

レヴィ「私は、父さんの、リヴァイ教導隊長と、ハンジ研究室長の、娘ですから」

リヴァイ「おまえとオルオの息子はまだ訓練兵だったか。成績はどんな感じだ?」


ペトラ「私に似て賢い子ですよ。立体機動の適性も高く、座学でもなかなかの成績です。来年には調査兵団入りしますし、レヴィとはいいライバルになれそうです」

レヴィ「望む、ところ、です………それより、変事、なんでしょう? 父さん、私も――――」

リヴァイ「任務中はそれにふさわしい呼び方をしろ、そういった筈だ」

レヴィ「う………」

リヴァイ「軍律を守れず、足もフラフラ。そんな役立たずは巨人の餌にしかなれん。おまえはコイツらと共に待機だ。年の防衛任務に付け」

レヴィ「で、でも―――――」


 なおも食い下がらんとするレヴィの脳天に、拳の衝撃が走る。リヴァイの拳骨だ。


レヴィ「ッッ~~~~~!? いっ、たあ………!!」

リヴァイ「命令違反は感心せんな。母親共々、聞き分けがなってない」

レヴィ「は、はい………了解、しました」

リヴァイ「ペトラ。行くぞ」

ペトラ「あ、は、はい。でも、いいんですか? レヴィちゃん、泣いてますよ」

リヴァイ「放っておけ」

ペトラ「で、ですがせめてフォローぐらいは」


 振り返って見やれば、レヴィは両目いっぱいに涙をためて、声を押し殺すように泣いていた。

 不甲斐ない、と。

 あの伝説の兵長である父と共に戦える機会なのに、足が動かない。こんなに悔しいことはない、と。

 リヴァイはため息を一つ、再びレヴィの元に歩み寄り、拳を振り上げる。


レヴィ「ひっ………」


 また殴られる――――そう思って反射的に目を閉じたレヴィだったが、頭頂部を押そうと思われた衝撃は、思いのほか優しい。

 ガシガシと、酷く乱暴に頭を撫でつけてくるのは、リヴァイの手だった。


リヴァイ「俺は待機しろといった。ここがお前の戦場だ。クロルバ区を守れ。家を守れ。母さんを守れ。兵士だろう? レヴィ。俺の娘ならば、必ずやり遂げられるはずだ」


 そういって、柔らかな笑みを向ける。兵士としての時には決して見せない、愛娘に対する笑み。

 程なくして、レヴィもまた、笑みを浮かべた。


レヴィ「行ってらっしゃい、父さん」

リヴァイ「ああ」


 今度こそリヴァイは振り返らず、馬車へと乗り込んだ。

 道中、リヴァイは馬車の背もたれに深く寄りかかり、十五年前に思いを馳せる。


リヴァイ「――――――――――いよいよだ。ここからだ。人類の進撃、反逆、そして、巨人の絶滅は」


 酒を酌み交わすことの約束を覚えている。だからいつだって、リヴァイの持ち歩く鞄の中には、旨い酒のつまみが入っている。

 それを取り出す日がいつになるかは分からないが――――確実に、それが近づいていることを、肌で感じた。





……
………

※やっぱ今日中は無理だァッ! 眠いんだよ死ぬよ

 いろいろこの展開に言いたいことはあるだろうし、クリちゃん(隠語。つーか淫語)ファンは完全に敵に回した自覚はある

 けど 僕は 謝らない

 僕は悪くない

 日曜日だッ! 日曜日だろう! なあ、次の投下日曜日だろ

※やっちまった……本日朝飯調理中に左手の甲をざっくり

 十針縫いました。全治3週間くらい

 腱は奇跡的に切れてませんが静脈がぶっつり逝きました

 しばらく安静とのことで、仕事も出来んがSSも書きづれえ

 ちょこちょこ上げてきます






 ふぅ………右手だったら趣味のち○こいじりに支障が出るところだった

おいおい剣呑だな…どんな包丁使ってんだ
ちゃんと安静にしてろよ。傷の塞がりが悪いと後に響くぞ

>>516
 ボブクレイマーのダマスカス三徳

 流石の切れ味をまさに身を以って知ったわ

 朝からキャベツ千切りなんぞするんじゃなかった

※へ、へへ。元気イッパイダゼ………七割がたできたけど残り三割が膨大過ぎる泣ける

※ごめん、遅くなった。
 明日あたり投下します。遅れた理由なんだけどさ。




 艦これ始めたら思いのほか面白くて(震え声)


………
……


 ウォールローゼ南突出区、トロスト区。

 十五年の歳月を経て、今やシーナ王都に勝るとも劣らぬ活気を見せていた。

 道行く人達や子供の顔には笑顔があふれ、市場では職人や商人たちが景気の良い声を張り上げる。

 それをトロスト区の中央に聳え立つ駐屯兵団旗下の詰所の執務室の窓から、頬をほころばせて眺める人物がいる。

 元ウォールローゼ責任者にして、駐屯兵団を束ねる司令だった男、現壁内王政に使え、二大宰相の一人として今も活躍するドット・ピクシス宰相。

 そしてその隣で同じように街並みを眺めるのは、かつて三兵団を束ねる総統ダリス・ザックレー。今はピクシスと同じく、ヒストリア・レイスを女王とした王政に仕えるもう一人の宰相だ。

 かつて超大型巨人によって壊滅的打撃を受けた市街も今は昔、巨人の進行を受けた市街地とは思えぬほどの繁栄に、誰よりも喜んだのはピクシスだろう。

 マリア領域へと繋がる正門は未だに大岩によって塞がれてはいるものの、トロスト区のシンボルとして受け入れられ、人々の心の中では思い出に変わりつつある。


ピクシス「いずれあの大岩も撤去せにゃならん日が来るのかのー」

ダリス「私たちが生きている間に、壁もぜぇーんぶなくなってくれりゃせいせいするんだがな」

「壁はともかく、あの岩はもうとっぱらっちまえよ。マリア圏内の巨人は掃滅したんだろーが」


 平穏な空気の中で談笑する二人の背後から声をかけるのは、縁の長い帽子を被った長身の初老の男性だ。


「――――茶が入ったぜ、ジジィども。天下のアッカーマンが入れた茶だ。マジクリエイティブな味だぜ」


 両手にティーカップを持ち、西武のガンマンのように構えて立つ不審人物極まりない男。

 誰が知ろう。彼こそは今は解体されたかつて中央第一憲兵団の「対人制圧部隊」で隊長を務めた、ケニー・アッカーマンである。


ピクシス「茶に創造的なモンは求めておらんのじゃがなァ。おいダリス、おまえのめ」

ダリス「いやいや案外こういったものから新たなインスピレーションが生まれたりするんだぞ。というわけでおまえがのめ」


 茶を構える男の前で言い争う爺が二人というカオスな構図だった。

 結局言い争うのは無益だとどちらからともなく察した二人は揃って茶を啜り、同時に噴きだした。


ピクシス「ぶふぉエエエ、茶に肉汁入れる馬鹿がどこにおるか。せめて酒にしろ酒に」

ダリス「アホかおまえバッカじゃねえのか」

ケニー「嫌がらせだよ。言わせんな恥ずかしい」


 現在ケニーは両宰相の護衛として、二人の身辺警護を行う近衛兵の隊長を務めている。憲兵として好き勝手やっていた昔と比べ凄い落ちぶれ振りであった。


ケニー「この俺様にこんなにもつまらん仕事をやらせるとは、ロッド・レイスより極悪だよおまえら」

ピクシス「じゃったらロッド・レイスと共に逃げりゃよかったじゃろうが。かつて切り裂きケニーと呼ばれるほどの手練れ。老いたとはいえ未だ健在じゃろ」

ダリス「そうそう、意外と言えばおまえのことだ、ケニー。おまえはロッド・レイス………いや、クシェル・レイス王に義理を果たすものと思っていたが」

ケニー「馬鹿言え。義理なんぞとっくに果たしたさ。俺はなれもしねえ王様の夢見て滑稽に踊っていただけだ」

ピクシス「とはいえ、ワシらの側に付くとは思い切ったのォ。どういう心境の変化じゃ」

ケニー「さあな………ただ、夢も希望もねえ糞みてえな王様よりは、面白いロマンのある方を選んだつもりだ。ああ、そうだ。そっちの方が面白い」


 帽子を目深に被りなおし、ケニーは十数年前に思いを馳せる。

 ――――調査兵団がウォールマリア・シガンシナ区を奪還し、壁の穴を封鎖することに成功したという一報は、三日を待たず壁内全土を駆け巡った。

 そして彼らを勝利へと導いたという謎の東洋人と耳長の集団―――――ドリフターズ。

 すぐにケニーにも調査の命令が届き、ケニーは彼らを彼らを直接見聞きし、空気に触れたカラネス区の住民たちに話を聞いて回った。

 一人、二人と聞いて回り、気が付けば百人、二百人と。住民たちは口々にドリフターズを語る。聞いていなくても、勝手にしゃべってくれる。

 調査兵団の報告の真偽などそっちのけで、出てくるのはドリフ、ドリフ、ドリフターズ、そればかりだ。

 ドリフターズを語る彼らの瞳は一様に、星々のように輝いていた。

 ドブの底よりも腐った匂いのする壁の中で、どこかそこだけが清涼であるような錯覚を覚えるほどに、彼らを語る民の表情は感情に溢れ、美しかった。

※ミス。クシェルは妹だったよ。

×クシェル
○ウーリ

※ミス。クシェルは妹だったよ。

×クシェル
○ウーリ


 ケニー・アッカーマンは、仕事で調査していただけの『ドリフターズ』に、個人的興味を惹かれた。

 しかし調べても調べても、彼らがどこへ消えたのか、全く行方が知れない。壁の外へと出て行ったという調査兵団の報告を真に受けるほど阿呆ではなかった。

 だが『ドリフターズ』は見つからない。存在していたことは間違いないのに、影も形もなく、雲のようにつかめない。調査が難航する最中、ケニーの元に部下から一報が届く。

 調査兵団がシガンシナ区、エレン・イェーガーの生家地下室より情報を持ち帰っておきながら、王政に秘匿していた『巨人の情報』が存在すると言う、そんな一報だ。

 真偽が入り乱れた情報が交錯する中、ケニーは秘かにその情報を己の元に留め、リヴァイとコンタクトを取った。

 ロッド・レイスにも無断での、独断行動だった。無性にリヴァイの顔が見たくなったのだ。

 どうしてそんな行動に出たのか―――――当初は壁の秘密や巨人の真実、それらを洗いざらい聞きだしたら拉致する腹であったことは間違いない。

 そうだ。最初はリヴァイこそを王政側に引き込むつもりだった。

 その筈だったのに。


ケニー(反則だぜ。あいつ………笑うんだもんよ。民衆と同じような目で、生まれて初めて見たものを喜ぶガキみたいな目で………)


 あのリヴァイさえもが、ドリフターズを語るのだ。言葉の端々に嬉々を滲ませて。嬉しそうに。

 その瞬間だったのだろう。ケニー・アッカーマンは、ここで確定的に道が分かれたことを理解する。

 ともすれば、彼こそが誰よりもドリフターズに会いたいと思っていた人物なのかもしれない。

 調査兵団による記録と、民衆たちが口々に語る彼らの風貌や言葉。彼らのことは知る由もない。だが、


ケニー(『壁ん中で怯えていることが、本当に生か。それはただ、息をしておるのと同じぞ』か)


 見たこともない紅の服と鎧をまとったドリフターズの男が、兵や民衆に向かってそう叫んだことを知ったとき、ケニーの中で久しく忘れていた好奇心が疼いた。

 そして、それを語るリヴァイの表情が、今でも忘れられない。


ケニー(あの不愛想で無礼なガキが………一丁前に笑うとはよ)


 いつからだろう。


ケニー(寿命が尽きるまで息してるのが、生きることかと。俺と同じことを考えているヤツが、東洋人にいるんだなあ)


 そして自問する。


 ………俺はいつから、こんな詰まらねえ生き方をするようになっちまったんだ?


 ――――それを自覚してからの行動は速かった。

 調査兵団が近々内乱を画策していることは部下の報告から知っていた。

 ケニーはそれを黙認した。否、それどころか手引きさえした。これはただそれだけの話だった。


ケニー(で、その功績が認められて、今まで憲兵団でやってた悪行や、それ以前の憲兵殺しの罪は減免。以後は調査兵団監視の下という名目で、ジジィ二人のおもりとはな。

    ――――ああやだやだ。武家の名門アッカーマンの名が泣くぜ)


 そう自嘲しつつも、ケニーは己の行動を後悔しない。

 ただ、歳を経るたびに膨れ上がる思いがある。

 リヴァイに紹介されて会った、一人の小僧。

 金色の目をした少年の語る夢。

 その夢が、ケニーにそれまでの夢を忘れさせた。


ケニー(………当てられてんな俺も。壁の外に、出てみてえ)


 思いにふけるケニーに対し、爺二人は怪訝そうに顔を見合わせ、


ピクシス「なんじゃー。なんなんじゃー。こんなゲテモノ汁を人に飲ませて笑ってるぞコイツマジ許すまじち○こをもぐ」

ダリス「我らを宰相と知っての狼藉か。上等だよコンチクショウ、私の芸術の礎になってもらおう。おまえこれから永久機関な!」

ケニー「ハッ、いやなに………こういうのも悪くねえとそう思っただけだ。それより――――」


 何やらとんでもないことを抜かしている爺二人に背を向ける。

 ケニーの視線の先には、執務室の会議卓にうずたかく積み上がった本と資料の山に埋もれるように、文字の海に没頭する一人の男性がいる。

 流麗な金髪を後頭部で束ねた、中性的な面立ちの、細身の男だ。

 眼鏡の奥には、確かな知性の光を帯びた青い瞳が輝いている。

 ついと視線をその横に向ければ、壮年の男性がいる。

 堀の深い顔立ちにがっしりとした体型は、中年の域にある衰えを感じさせない力強さがある。

 その男性もまた、隣の細身の男と同様に、書物を読みふけっていた。

 ケニーの視線に気づいた様子もない二人に、ため息をつきながら、


ケニー「そんなことしてていいのかい、総統、そして司令長官殿。そろそろ招集した奴らも会議室で待ちかねてる頃合いだぞ」


 かけられた言葉に、壮年の男性――――エルヴィン・スミス総統が視線を上げる。


エルヴィン「もうそんな時間か。そろそろ行こう、アルミン」

アルミン「はい。義父さん」


 次いで細身の男性――――アルミン・アルレルト・スミス司令長官もまた、本を閉じて立ち上がる。


ピクシス「全く、教えたことはすぐ覚え、矢継ぎ早に質問や改善点を上げてくる。ワシなんぞよりよっぽど司令としての適性があったの、お主は」


 塔のように積み上がった書物で埋め尽くされた机を見ながら、呆れたようにピクシスが言う。アルミンは薄く笑いながら、


アルミン「剣を振るい弓を引き銃火を交えるばかりが兵士ではない。私はドリフターズからそれを教わりました。研鑽を重ねてこの十五年間を戦い続けてきたのですから。兵士には兵士の、民草には民草の戦場がある。そしてここが私の戦場です」

エルヴィン「アルミン。君はそういう顔をすると、本当にノブナガにそっくりだ」

ピクシス「逢ってみたかったのォ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成果を上げ続ける、アルミン・A・スミスをして稀代の傑物と言わしめるその男に」

ダリス「私もだ。だが想像はつくぞ? そのドリフターズらとは面識はないが………成程、君がノブナガとやらに似ているのならば、相当な悪人顔だったらしい」


 意地の悪い笑みを浮かべるダリスに、アルミンは苦笑する。


アルミン「褒め言葉として受け取っておきましょう。彼らの薫陶は、生き様は、大きな背中は、いつだって僕たちの目標として、今も目の前に見えています」

エルヴィン「いずれ代替わりは起こる。次の総統は君だ、アルミン・アルレルト・スミス。我が義息」

ダリス「私の後にエルヴィンが続き、そして君が受け継ぐ。もはや日常に潤いはないぞ」

ピクシス「老いさらばえたとはいえ、ただ萎びて死ぬつもりは毛頭ない。存分にワシらを使いこなせ」

アルミン「はっ」

※今日はここまでー。

 今回ヒヒジジーとクソジジーとジジー・アッカーマンとハゲとメガネしか出てなくね?

 ジジー率高いし男率100%だしイヤになるね。艦これやろ。

 続きは明日ー。会議は踊る。

ドリフの世界に時間換算するとどのくらいなんだろ。オルテ陥落以降かな?

>>553
ドワーフ解放前
ちゃんと読めよ

>>554
多分>>553が言いたいことは、後日談時点でドリフたちの世界ではどのくらい時間が経過してるのかって話だと思う

壁内世界では15年が経過してますが、ドリフ世界ではおよそ1年半ぐらい経過しています

時間の流れが違うからちかたないね

※ごめんよーごめんよー、明日には更新するよ

 ここ二週間で家業の決算処理とか事故処理とか相続とか贈与とかいろいろあったんだが




 だいたい艦これが悪い

 正直すまんかった

 だって加賀と飛龍が来るんだもの……

>>561
お疲れさまです。
そして加賀さん沈めてそのショックから叢雲に持ってる空母や戦艦をみんな喰わせるんですね!!

待ってる
実写石原さとみん記念でハンジ室長出してくれー


………
……


 会議室の長机には、十数人の年代もバラバラ、男女が入り乱れたメンツが居並んでいる。

 唯一人、この国の女王を除き、彼らに共通するのは、軍属、それもトップに限りなく近い面々であるという点だ。


ジャン「――――しかしまあ、そうそうたるメンツだな。年に一度顔を合わせるかどうかってぐらいの豪華さだ。なあ、コニーよ」


 会議卓の一席に深く腰掛けたジャンは、気安い口調で机を挟んだ対面に座る男、コニーに話しかけた。


コニー「おう、久しいなジャン。嫁さん見つかったか?」

ジャン「ハッ、てめえよかはまだ希望がある。隣の芋女に比べれば輝かしくて目もくらむぐらいには」


 小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ジャンは吐き捨てた。


サシャ「ああ゛?」

ヒストリア「コラッ、ジャン! その言い方は何ですか! 二人に謝りなさい!!」

ジャン「………ますますウチのおふくろに似た性格になってきたなコイツ」


ヒストリア「なにか!?」

ジャン「へーへー、女王陛下ぁすいませェん。悪うございましたよぉー。ごめんなこにぃー、ごめんなぁーさしゃー、ごめんなぁー?」


 鼻をほじりながらというコケにしくさった態度で謝るジャンに、サシャ額に青筋を立てる。

 しかしコニーは余裕の微笑すら浮かべ、


コニー「いいよ、気にしちゃいねえ。未だミカサミカサ言ってるヤツが希望とかむしろ笑えるくらいだ」

サシャ「ブフーーーーッ! た、確かに」フーッ

ヒストリア「コラッ、コニー、サシャ! 本当の事でも人を傷つけるって、何度言ったら分かるの!?」

ジャン「て、てめえら……」


 強烈なカウンターを受けて激怒するジャンだったが、その首元に生暖かい吐息がかかる。


ミケ「スン………スン………」

ジャン「ギャーーーーーー!!」

ナナバ「やあ、みんな。君たちは相変わらず仲良しだねえ。元気そうで何よりだよ」


ヒストリア「ナナバさん! ミケさん!!」

ミケ「ハッ、総統補佐官ミケ・ザカリアス、参上いたしました」

ナナバ「同じく補佐官ナナバ・ザカリアス、まかり越しました。女王陛下。私どもごときに敬称など無用でございます」

ヒストリア「むっ、何言ってるの? 私にとっていつだってミケさんもナナバさんも、尊敬する先輩だよ!」

ナナバ「勿体なきお言葉です………ジャン団長? 夫が失礼しました」

ミケ「フッ」プスー

ジャン「ドヤ顔やめさせてもらえませんかねえ……相変わらずですか、ミケ補佐官は」

ナナバ「悪いクセだって言ってるんだけれどねえ。言って聞く人でもないし。この歳で好き嫌いも多いしだらしないしもー」

ジャン「そりゃまあ贅沢なお悩みで。そういえば、お子さんももう訓練兵団に?」

ナナバ「そうなんだけどねえ、どうにもミケに似ちゃったみたいで所構わずスンスンスンスン鼻鳴らしてあの子ったらもー」

サシャ「ナナバさんそこまでです。女王がしちゃアカン感じの顔になっとるんで」

ヒストリア「ギギギ。ナチュラルにノロケとかあれか不敬罪かよろしいならば斬首――――」

コニー「そ、それより、司令長官と総統はどちらに?」

サシャ「コニーナイスです」

ミケ「あ、ああ。今しがたアッカーマン近衛隊長が呼びに行った。間もなくここに――――」


 その瞬間、静かな木擦れの音と共に、会議室の扉が開かれる。

 アルミンとエルヴィンだ。その背後からは気配も音も臭いもなく、静かにケニーが続く。彼らが入室すると、会議室内のどこか弛緩した空気が一気に引き締まった。


エルヴィン「リヴァイ以外は揃っているようだな。楽にしてくれ、諸君」


 一堂に会した面々を一人一人見回し、厳かに告げると、長机の終端の席に座す。

 中央にヒストリア・レイス。左隣にエルヴィンが座し、ヒストリアの右隣にアルミンが座る。

 三名とも、会議室の全体を見回せる最上位の位置取りだ。ケニーはその彼らの背後で、静かに会議室の面々を腕を組んで監視する。



エルヴィン「時間が惜しい。リヴァイには私が後で通達する。アルミン、会議の司会を頼む」

アルミン「はっ。さて―――――エルヴィン総統に代わり、私、司令長官アルミン・A・アルレルトが此度の事案に対する通達を行う」

ジャン「……待て。……通達? 俺の耳が腐ったか。ここは会議を行う場だったと記憶しているが」


 アルミンの凛とした声を、早速ジャンが遮った。

 通達と会議ではまるで意味が違う。行動方針を定めるために会議がある。

 それを飛び越えての通達ということは――――有無を言わさぬ命令である。

※ごめんね誤字・誤記・抜けが多くてごめんね
×アルミン・A・アルレルト
○アルミン・A・スミス


アルミン「君の記憶の通りだ、ジャン・キルシュタイン調査兵団団長。その通達に対する作戦に対する質疑応答を、この会議で行う」

ジャン「ハッ、やることは決まってるから細部は俺らで纏めろってか。相も変わらず手回しがいいことだ」

キッツ「く、くくく、口が過ぎるぞ、ジャン・キルシュタイン団長! いかに貴殿が司令長官殿と同期の間柄とはいえ、立場を弁えられよ! 礼を失している!」


 バンと机を叩き、口角を飛ばすのは、キッツ・ヴェールマン駐屯兵団長だ。相変わらずプルプルと震えている小鹿の如きアトモスフィアである。


アルミン「キッツ駐屯兵団長。御心遣いは有難い。しかし私は彼にそれを許している。私の命で動き、時に私の命で死ぬ者達だ。同期のみならず、現場の人間には私に対し遠慮無用と伝えてある」

キッツ「し、しかし、それでは軍の規律が」

アルミン「立てるべき場では私を立ててもらうが、この場はそうではない。大勢の部下がいる前でもなし、忌憚のない意見を言い合える者は、私にとって貴重だ」

キッツ「む………そ、そうおっしゃるならば」

ジャン「…………アルミン。おまえやっぱ意地が悪いな。こんな因縁のある輩を部下に置いてんのか。キッツ団長はさぞかし毎日胃痛に悩まされているものと見える」

アルミン「妙な勘繰りはやめてもらいたい。そしてその言葉は撤回したまえ。確かにキッツ・ヴェールマン駐屯兵団団長の有事の兵団指示はお粗末だが、微に入り細を穿つ書面でのやり取りについては、私の部下の中でも一二を争うほどに、無駄なぐらいに優れた人物だ」

ジャン「くはは、モノは言いようだ。ビクビク震えて考えることを放棄する、そんな疑心暗鬼に容易く陥る輩を、区の防備の要たる駐屯兵の指揮に充てるとはな」

アルミン「遠慮深謀と言ってもらいたい。無策で敵陣へ突撃を繰り返す猪武者では務まらん役目だ。任務を放棄して壁内に逃げ出したりする人物とか特に務まらん」

ジャン「そういう類の阿呆は駐屯兵団どころか調査兵団にもいらん。囮にもなれん。臆病者も種類によるが………まあ、あまり欲しいとは思えん人材だな。使っても巨人の餌だなあ」


 ジャンの視線には明らかな侮蔑が含まれている。十五年という歳月を経てなお、彼の抜身の性格に変化は見られないようだ。

 間に挟まれる形となったキッツ・ヴェールマンは汗を滝のように流しながら、居心地が悪そうに身を縮めるばかりだ。プルプルと小鹿のように震えている。

 そんな状況で、サシャは気づいた―――――そんな様子を見て、アルミンとジャンは非常に楽しそうに見えた。目が笑っている。

 明らかにキッツを苛めて楽しんでいる風であった。


サシャ「………実はこの人たち、上に立つ資格など全くないのではないでしょうか」

コニー「かなりの高確率でな」


 ぽつりとつぶやかれたサシャの言葉に同意するコニー、二人の意見こそがまさしく真実であった。


アルミン「さておき。本題に入ろうか―――――」


 アルミンは静かに会議室内の面々の顔を一つ一つ眺めた後、切り出した。


アルミン「ロッド・レイスが反旗を翻した。現王政に反感を持つ没落貴族や、権勢を削られた極貧貴族、ウォール教徒、元憲兵などを率い、シガンシナを占拠して立てこもっている――――三日前の情報だ」


キッツ「ッ、な………!!」


ジャン「連中の要求は?」


 司令官クラスの面々が一部動揺するなか、ジャンは冷静そのものといった様子で、シガンシナの状況を尋ねた。


アルミン「ありきたりなものだ。シガンシナ住民を人質に、対価として正統なる王の力を奪ったエレン・イェーガーの身柄の引き渡しを要求している」

ジャン「呆れたな。呑めると思ってるのか」

コニー「まあ、あいつらからすればエレンさえ確保できりゃ、ロッドがエレンを喰って『叫び』でどうにかできる。とはいえ、なりふり構わねえにしても限度がある。あんなんでも一応は正統なる王の血筋に連なる者らしいからな。鷹も時には鴉とか鳶を生むって典型だな」

サシャ「その鳶だか鴉だか分からん人も、ヒストリアっていう鷹を生めるんだから世の中分かりませんねえ」

ヒストリア「ごめんサシャやめてくれる? すっごい微妙な気分」


 ヒストリアはげんなりとした表情でサシャを半目で睨んだ。

 ヒストリアにとって、親とはロッド・レイスではない。調査兵団時代に己に親身になってくれたエルヴィンやミケ、ハンジやナナバを指す。

 庶人の子として生まれ育ち、いきなり王の血筋を引くなんて理由で殺されかけ、目の前で母を殺された上に親の都合で生かされる。そんな父を父と思うはずもない。


ジャン「…………アルレルト司令長官」


 ザワつく会議室の中、明らかに緊の雰囲気を持った固い声が通った。


アルミン「言いたいことは分かる。少数精鋭によるロッド・レイスの暗殺こそ妥当だと、そう言いたいのだろう? 所詮烏合の衆だ。頭を失えば散り散りだ」

ジャン「ならば何故だ。おまえは先ほど『通達』といった。つまり既に手段は決定しているということだ―――何故俺達と『軍』を召集した?」


 ジャンの疑問はそこだ。サシャが呼ばれるのならば分かる。彼女の狙撃術ならば、標的が外に出た瞬間に殺せる。サシャにとっては七面鳥を射殺すより容易い作業だろう。

 立場を考えないのであれば、コニーが呼ばれたのであれば、それも納得できた。十五年前ならばいざ知らず、今のコニーならばどんな厳重な警備であろうと、鎧袖一触で蹴散らせるだろう。


アルミン「ならば? 言うまでもなく、軍による包囲殲滅を行うが故だ」


 さも当然と言いたげに告げられた言葉に、ジャンは目を剥いて叫んだ。


ジャン「正気か!? 王の正当なる血筋は既にロッド・レイスとヒストリア女王陛下だけだ。ロッド・レイスさえ殺せば、奴らの目的は土台からして瓦解する」

アルミン「それでは共犯者が、貴族どもの多くを取り残す。彼奴等は自己保身にかけて右に出る者がいない。それは百年の大計を為さんとする我らにとって、内に毒を孕むことになる」

ジャン「民の命と天秤にかけるまでもないことだ。シガンシナの住人はどうなる! あそこにはおまえの幼馴染が! ミカサもいるんだぞ!!」

アルミン「民といったな、キルシュタイン団長。それは一体いつの民だ。今ここに生きる民だろう? ミカサも含め民は民だ。幼馴染だからといって、私は差別も区別もするつもりはない」

ジャン「ッ、テメエ」

アルミン「撒き散らすな、餓鬼め。十年後、五十年後の世界を考えろ。尊い犠牲などと綺麗事を言うつもりはない」


 アルミンが眉ひとつ動かさずに言い切った後、ジャンや他の反対派の司令が反論しようと口を開いた瞬間、轟音が鳴り響き、木片が部屋に飛び散った。

 コニーの放った蹴りが、会議卓の一部を粉々に破砕した音だ。そのあまりの衝撃音とコニーの鬼気迫る表情に、ジャンを含め、誰もが開いた口を黙って閉じるしかなかった。


コニー「………言いたいことは分かる。だが気に入らねえ。気に入らねえぞ、アルミン・アルレルト・スミスよ」


 振り上げた蹴り脚を戻しながら、コニーは脅しつけるようにアルミンを睨みつける。アルミンは静かにそれを受け止めながら、コニーの怒りは正当だと頭の隅で考えていた。

 現王政は民から好意的に受け止められている。土地や財の再分割を行い、かつての憲兵による汚職や利権簒奪の問題をあらかた解決し、過剰な貴族特権を排除した。

 地区の開発をある程度民間に任せ、技術の発展の阻害や禁書の類を制限する悪法を排除し、思想の自由を認めた。

 壁内は限りなく自由を尊重する文化へと変わりつつある。

 無論、以前の体勢において権勢を振るっていた貴族や有権者にとって面白いものではない。そうした反乱分子を一掃することは今の調査兵団にとって赤子の手をひねるよりも容易い。

 だが、民を犠牲にしての殲滅となれば、民からの無用な反感を買う。やはり此度の王政も、かつての王政と変わりないと。強権を奮い、いつかは民を食いつぶそうとすると。

 それでも、だ。それでもアルミンは、否、だからこそアルミンは、コニーの民を巻き添えとすることを善しとしない義憤を否定する。


アルミン「気に入らなかろうが、我々には大義がいる。彼奴らには明確に『現王政』に対する反逆者になってもらわねばならない。なればこそ皆殺しという残虐に肯定がなされる」

コニー「そこじゃあねえ。違うだろう。何が皆殺しだ。気に入らねえ、気に入らねえんだよ。あんな畜生でも、ヒストリアにとって親は親だ。

    実の娘の前で、『皆殺し』なんてクソみてえな単語の内の一人に平然と加えやがるてめえの性根が気に入らんと言ってんだ。親からどういう教育受けたんだテメエ」


ヒストリア「コ、コニー」


 ヒストリアが宥めるも、コニーは静かに激昂していた。立ち上がり、今にも飛びかからんとする威を放っている。

 誰よりも情に厚く、家族や友を大事にするのがコニー・スプリンガーという男の芯であった。

 最前線から引いて司令職に就いた彼は、未だに多くの現役兵士たちから慕われている。階級の隔てなく人に接し、部下に悩みがあれば親身になって話をする。

 ともに酒を飲み、笑い、泣き、歌い、叫ぶ。そんな愚直な男になった。

 軍人としては甘いのだろう。だがその甘さとひたむきさが、とりわけ変人やスレた性根の者が多い調査兵たちを惹きつけた。惹きつけてやまなかった。

 コニーが司令となれたのも、彼らがコニーを上に上にと押し上げた故だ。この男にこそ上に立ってほしいという願いの元に、コニーは出世した。

 とりわけ親兄弟を失った身寄りのない者たちこそが、コニーを兄や父のように敬っている。

 そんなコニーが、親を殺すと、よりにもよってヒストリアの前で、更に言えば彼女が愛するアルミン・A・アルレルトが抜かすことに、我慢がならなかった。

 とはいえ、コニーとてロッド・レイスは殺すしかないことは分かっている。

 国家反逆罪は情状酌量の余地なく死罪が適応される。ようやくウォールマリア内から全ての巨人を駆除し、緩やかではあるが経済が右肩上がりに回り始めた昨今において、無用な騒乱をもたらす存在は民の反感を買う。

 皆殺しになったとしても、表立って反感を示すものは極少数であり、その少数もすぐに殺された者たちの自業自得であることに気づくだろう。

 だが、それでもだ。人として越えてはならない一線というものがある。血生臭い軍属でも、一定の礼節というものは存在していなければならない、そうコニーは信じている。

 しかし、烈火の如き怒りを叩きつけるコニーに対し、アルミンもまた確固たる冷たさを秘めた瞳で相対する。


アルミン「一切の訂正はない。我々に今必要なのは世論だ。それさえ味方につければ、天地人の全てを味方につけることになる。ヒストリアの前で言ったことについても、私は謝らない」

コニー「ああ?」

アルミン「どれだけ言い繕おうが、そうするしかないからだ。親からの教育よりも雄弁に、経験と歴史から学んだ、私の誠意だ。

     これは曲げられない。決して。言葉を濁すことは簡単だろう。だがそれは誠実ではない。誠実であるべき相手に誠実でないことは、裏切りだ。私は裏切り者にだけはなりたくない」

コニー「…………」


 しばし沈黙し、両者はにらみ合う。

 程なくして、コニーはため息をついて、椅子に深く腰を下ろした。


コニー「…………チッ、致し方ねえ。これも政治ってヤツか」


 緊張感に満たされていた会議室の空気が、ようやく弛緩する。なおキッツは最初の蹴りの段階で、ショックのあまり気絶していた模様。


ジャン「ビックリさせんな。まあ、おまえが納得するなら、俺ももう文句はねえよ」

コニー「納得しちゃいねえよ………あーああーあーあー、やっぱエレンの言うとおり、根切りにしておくべきだったか? 十年前のあの時に」

エルヴィン「過去を振り返るな。あの時点ではあれが最善だ。根切りは効果的だが反発も大きく、やったらやったで別の問題が生まれただろう」


ジャン「エルヴィン総統の仰る通りだ。過ぎたことは教訓としてのみ脳に刻め。今問題なのは、占拠されたのがよりにもよってウォールマリア突出区であるということだ。

    それもシガンシナ区。二十年前の地獄を覚えている住人は少なくない。民子の心の安寧のためにも、一刻も早くシガンシナを奪還する必要がある」

アルミン「ああ。追い詰められた馬鹿は何をやらかすか分からない。トチ狂ってせっかく塞いだ外界への門をこじ開けるぐらいはやるだろう。

     そうなれば最悪だ。全部ご破算だ。私達が命がけで刻んだ時代の針を、845年に逆戻りにさせる事態だ。可及的速やかに対処せねばならん」

ジャン「で? その話のオチは? どういう方針で行く?」

エルヴィン「愚問だな、ジャン――――シガンシナ住民に極力被害を出すことなく、反乱貴族の首魁はもちろん、その一党諸々だけを皆殺しにする。そんな策で行く」

コニー「あるのかよ、そんな策」


 胡乱な瞳でエルヴィンとアルミンを見やるが、二人とも不敵な笑みを浮かべ、


アルミン「そのためのこの十五年だ」

エルヴィン「国家の大事だ。我々兵士が動かねば誰が動くと言う」


 それに、とアルミンが前置いて、


アルミン「見方を変えればそう悲観的なものでもない」

ジャン「ほう? どんな見方だ?」


アルミン「よりにもよって敵はシガンシナを選んだ。誰もがシガンシナ・アレルギーとでも言うべきあの地区にだ。あそこは我々の『逆鱗』だというのに。

     東洋には『虎の尾を踏む』という格言があるらしいが、奴らの行動はまさしくそれだ。

     民意は我々に在り、彼我の戦力差は歴然の一言―――――つまりだ。我々は我々現体制への反抗組織と、国に寄生する蛆虫どもを諸共に駆除できる機会を得たという訳だ。

     奮うだろう? 各員はその武威を遺憾なく発揮せよ。理解には痛みを伴うだろう。激痛を伴うだろう。しかし、どれだけの痛みに悲鳴を上げようと、決して我々はやめはしない。

     当然だ―――――豚の痛みなど、我々には知ったことではない。

     丁半の天秤にて生死を境とする我々が、今此処に『歴戦』たる理由を骨の髄まで叩き込んでくれ」


 冷徹な瞳を喜悦に歪ませるアルミンに、会議室の者の多くが蒼褪め、その背筋が凍り付いた。

 そして確信する。きっと、誰よりもシガンシナを占領されたことに怒りを覚えているのは、アルミン・A・アルレルトなのだと。

 アルミンの静かな怒りに同意するように、コニーが叫ぶ。


コニー「当たり前だ。よくもやってくれやがった。よくも、オヤカタ様たちドリフターズと俺達調査兵団が、『あいつ』が! 命がけで取り戻したシガンシナを、よくも。俺達のシガンシナをよくも!」

ジャン(アルミンとコニーが日に日に怖くなってく。いけすかねえ貴族どもだが、こいつらの怒りを買ったオマエラを心の底から同情する。もう死ぬしかねえわ)

サシャ(おなかいっぱいおいも食べたい)キュルル


 凍り付いた会議室の空気に、誰か何とかしろよと思い始めた頃、再び会議室のドアが開かれた。

※死にたい
×アルミン・A・アルレルト
○アルミン・A・スミス


リヴァイ「どうした。掃き溜めのクソみてえな匂いがするぞ、この会議室」

ケニー「リヴァ――――」ガタッ

エルヴィン「ケニー近衛隊長、ステイ」

ケニー「………」ショボン

アルミン「ようやくお越しですか、リヴァイ教導隊長。いや――――リヴァイ・アッカーマン元兵士長とお呼びした方が?」

リヴァイ「教導隊長と呼べ。兵長の肩書はそれに相応しい兵士に譲った。引退した俺まで引っ張り出すとはな。アルレルト司令長官は、随分と無茶を通す方らしい」

アルミン「ふふ、望むところ、でしょう? それとも後進の育成にかまけて、腕が落ちましたか?」

リヴァイ「は………あの可愛らしいガキが、ひねた野郎になったもんだ」

アルミン「行くのか、行かないのか。どちらです、リヴァイ・アッカーマン教導隊長」

リヴァイ「他の地区ならば、おまえらに任せただろう。だがあの地区は、シガンシナだけは駄目だ」


 そういってリヴァイは遠くを見つめるように、視線を上げた。赤い背中の男が、脳裏に過る。


リヴァイ「シガンシナは、シガンシナだけは駄目だ。俺達の勝利に糞を塗りたくるが如き所業、絶対に許しておくものか―――――是非もなし。反逆者どもは後悔にまみれて死んでもらう」

アルミン「御助力、感謝します。千の兵を得た心地です」


 そうして会議の決定はなし崩し的に収束していくかに見えた。

 そんな時、ふとジャンが疑問を口にした。


ジャン「オイ。話は変わるんだが………ウチの最大戦力はどうした。姿が見えんが………あれ、あいつどこで任務に当たってたっけ。俺のところにはいないぞ?」


 会議室内が静まり返り、司令官たちが顔を見合わせる。

 うちじゃないぞ。うちでもない。おまえのところは? いや、違う。

 そして最終的に、視線が一点に集中する。

 アルミン・A・スミスにだ。


アルミン「………彼ならば、ウォールマリア北端。北突出区だ」

サシャ「うわ、シガンシナからいっちゃん遠いところじゃないですか。といっても伝令がつつがなく行っているなら、今日の昼頃にはトロスト区には着くでしょう!」


 サシャが明るくそう言ってのけると、アルミンは通夜のような面持ちで、言った。


アルミン「いいや―――――彼は来ない。彼が北突出区へ発ったのは昨日だ」


 今度こそ、会議室の空気が死んだ。


ジャン「………は? ちょっと待て。俺達に招集連絡が入ったのは、一昨日の朝だろ」

サシャ「ほえ? なして?」

アルミン「…………」

コニー「おい………アルミン、おまえまさか………さてはワザとあいつを北の僻地に追いやったな」

サシャ「きたないですね、さすがアルミンきたない」

アルミン「…………彼を待っている時間はない。馬を乗り継いでローゼ・シーナの各突出区を最短全速で突っ切ってシガンシナへ直接向かっているとしても、逆算してあと丸二日はかかるだろう。

     ――――よってこの作戦には不参加だ。不参加であってほしい」


 会議室の面々は目を丸くした。誰もが『何言ってんだこいつ』という視線をアルミンに向けている。流石のアルミンもこれには小鹿のようにプルプル震えて汗を流す。


コニー「おまッ、わざとか!! どんだけ参加させたくねえんだよ気持ちは分かるけど!! ハブにされたと知ったら後が怖いぞマジで!!」

サシャ「バカですかアンタバッカじゃないですか!?」

ヒストリア「ねえ、ころされるよアルミン………?」


 ワリとマジでヒストリアがアルミンの命を心配する。

 アルミンの顔色が青と赤と土気色にテンポ良く変化する。

ジャン「あと二日か。アルミンの命日は――――俺が司令になる日も近いな」

コニー「おめでとうジャン・キルシュタイン司令」

サシャ「おめでとうございます。お祝いに肉奢ってください」

エルヴィン「おめでとう、ジャン」

リヴァイ「てめえの差配を見る限り、司令職ぐらいはこなせるだろうよ」

ジャン「ありがとうございます」


 歓声と拍手が会議室内に鳴り響く。これにて大団円といった雰囲気だった。アルミン以外は。


アルミン「縁起でもないことを言うな馬野郎ッ、い、一応、さっき水晶球で通達したんだッ………作戦開始に間に合わなかったとしても事後報告じゃないんだッ!

     け、決してハブにしたわけじゃあないッ! 私は悪くないッ、私は怒られないッ、私は死なないぞ………絶対に、絶対にだ」

ジャン「そんな理屈が通じる相手じゃねえって分かっててなんでそういうことやらかすかなこのボケは。何年幼馴染やってんだよ」

アルミン「もう二十年以上だよ。未だに彼の思考はわからない」

コニー「んー……いや? なんやかんや俺は来ると思うね。賭けるか?」

リヴァイ「………八年前の対巨人掃滅大規模演習の悲劇を覚えてるか?」


 静かにリヴァイがそう問いを投げると、誰もが沈痛な面持ちで俯いた。

 最初に立ち直ったのはエルヴィンだ。どこか気恥ずかしげに頬を掻きながら、


エルヴィン「うーむ、対巨人用の訓練として彼以上の適材はいなかったんだが、逆に熟練兵士はおろか新人兵士の自信を喪失させる結果になったからなアレは。反省しなければな」

ジャン「アイツ1人バーサス当時の調査兵団正規兵の精鋭100名で、こっちゃ実弾実剣のフル装備、当時司令だったエルヴィン総統の指揮下で動いたのに完敗だったな。何アレ? 大砲を噛んで受け止めるとかなんなのアイツマジで」

サシャ「ですよねー。誤解を恐れず言えば―――――化け物ですもん。弓が刺さらないんですけどあの人マジで」

コニー「あの時は常識が糞尿まき散らして命乞いしながら逃げだしたな。大半の兵士が恐慌状態になるわウチの弟と妹に至っては空中でまき散らしてトラウマ抱えるし散々だった。素のままで当時の俺と同じ速度で走ってたんだけどアイツマジで」

アルミン「個の極地があるとすれば彼だ。指揮とか作戦とか策とか、全部ご破算にしてくれやがったね。石壁とかフツーに割るし落とし穴は避けるし大砲の集中砲火を拳でパーリングしながら近づいてくるし、足や腕を削ごうとしても『石槍』通らないんだけど彼マジで」

リヴァイ「だが追いついて殺す。そういう類の化け物だ。ウチのオルオとペトラもあいつに鷲掴みにされて、恐怖のあまりまた汚ねえモン漏らしやがったしな。しかもでけえ方を。俺も『飛燕』のブレードが通らないときは流石にビビッた」

ダリス「うっわなんだそれバケモンかよ」


 部屋の隅に座するダリス・ザックレーに視線が集中する。誰もが『いたのかアンタ』って目で見ている。


エルヴィン「というか初耳だぞリヴァイ。あっさり殺そうとしているんじゃあない」

リヴァイ「いや、両手足だけ削いで引きずり出そうとしたんだが、刃が通りゃしねえ」

サシャ「しかも途中からミカサがあっち側で参戦してもう阿鼻叫喚の地獄絵図」

アルミン「ぶっちゃけ来てほしくない。だってある意味じゃこの作戦、彼一人だけで足りるもの」

ジャン「冗談言うな。好き放題でやらせたら今度こそシガンシナは更地だ。ヘタすりゃ壁ごとなくなる。あいつは徹底的にやりすぎる。民意を失いかねん」


 思い出は恐怖や悲しみを風化させるというが、思い切って話してしまった後は、彼らの表情は明るかった。

 そこにリヴァイが手を打ち合わせて、注目を集めると、


リヴァイ「さて、思いのたけを洗いざらい吐き出した後で申し訳ないんだが、アルレルト司令長官よ。衝撃のニュースがひとつある。聞くか?」


 え? 何が? と言いたげなアルミンに対し、リヴァイは懐に手を入れる。

 そこから取り出されたのは、今や調査兵団ではおなじみとなった通信手段の媒体。そう、それは――――。



リヴァイ「―――――――――ここにひとつ水晶球があるだろ? ちなみに通信中だ。誰に繋がってると思う?」



アルミン「オーライクソッタレ、オチが見えた」

ジャン「」←笑いで悶絶中

エルヴィン「」←鼻水が止まらないレベルで笑っている

サシャ「」←笑いすぎて呼吸困難

コニー「」←臨死体験レベルで割腹絶倒。死んだ祖母に会う。

リヴァイ「さて、どうだ『兵長』。感想は?」

 
 
 それはまるで、地獄の底から響く唄のよう。




『――――――――俺がシガンシナに辿り着くまでに有象無象を片付けておけ。出来なかったらグッチャグチャにして喰ってや』




 そこで通信は途切れた。逆に恐ろしい。会議室内の空気が駆逐された瞬間だった。



アルミン「」

ヒストリア「あ、アルミン? だ、大丈夫だよ。私、説得するから! 話せば分かってくれるよ! その、半殺しぐらいで!」



 ヒストリアの必死の慰めにも反応せず、アルミンはその後、幽鬼のような面立ちで、全軍に出撃命令を出した。

 ともかく、そういう段取りになった。



……
………

※今日はここまでよン

 あんま話が進んでないね

 皆の精神的な変化とか描写したかったからこうなったけど、正直やりすぎた感がパネェ


>>562
加賀さんより赤城さんが好みやねん

ところで『艦これ』に駆逐艦・エレンと戦艦・ミカサ、司令艦・アルミン、正規空母・サシャ、鬼畜艦・ZOE、卑劣艦・ロッド、変態艦・ダリス、痴艦・ピクシス、潜水艦・伊1(イワン)が実装されるのはいつですか?

あ、リヴァイ兵長はリヴァイ船長になるんですねって馬鹿野郎

>>563
赤城「実写化? ………いえ、知らない子ですね」


台詞のセンスいいなしかし。15m級なら100km/h以上出せそうではあるよな
調査兵団の馬に追いついてるアニも恐らく80km/hを超過する速度で走ってると思われるしな
壁が真円かどうかわからんから単純に王都中心からシガンシナまでの距離×2の計算で
北端-シガンシナ間を960km程度としてえーと諸々わからん
エレンの現在位置によっては無茶でもないっていうか割とありえる感じか?

>>588
馬での計算は以下の通り。
馬スペック:体高160cm、重量450 – 500kgほど
       最高時速は75 〜 80kmに達し、巡航時では35km

距離:北端-南端(シガンシナ区)までの距離は960km(最短)

北突出区から真っ直ぐ50km/hの速度で南下して、各ローゼ・シーナ・ローゼ突出区で馬を乗り換えた場合
乗馬は長時間行うと非常に体力を使うため、温存しつつ途中で睡眠や食事の休憩を取ることを考えると、ざっくり二日ぐらいかなーというアルミンの楽観思想

注意:あくまでもアルミンの計算。エレンはその斜め上を行く

※生きてんよ
 シンプルに忙しくて上げる暇がないんだ、ごめんね
 盆休みで道路スゴいね。明日明後日の土日は地獄だなこれは

永野護「許された」

高屋良樹「あー描く描く続き描くよ、そのうちな」

※早けりゃ今度の日曜か、遅けりゃそん次の日曜あたりで


 できれば最終回(多分無理)

 ボリュームが……保守ありがとうねえ。頑張って面白くするよ

※やっぱ書き切れん。明日にッ


………
……



 シガンシナ奪還のため、アルミン達がシガンシナへと軍を派兵を開始――――その到着までおよそ一時間を残す頃、シガンシナ区においては死闘が繰り広げられていた。

 シガンシナ区内数か所で同時に勃発した元憲兵たちによる現国家体制に対する蜂起――――反乱軍と、シガンシナ区に常勤する駐屯兵たちの戦いだ。

 幸いにしてシガンシナ区民に、現在死傷者は出ていない。しかし、戦況は駐屯兵団の劣勢にあった。これはシガンシナ区を預かる駐屯兵団団長ハンネスによる指示によるところが大きい。

 ハンネスに落ち度があったわけではない。

 歴戦の調査兵と比して戦闘能力と経験に劣る彼らではあるが、内地で惰眠を貪り酒色に溺れる日々を過ごし、それを当然の権利であると甘受し続けてきた元憲兵たちに劣るわけもない。

 敵の主力は軒並みが三十代を超える人員だが、とても兵とは思えぬでっぷりと肥えた腹の持ち主が大半だ。中には既に老年の域にある者もいる。十年前の政権交代の際で、既に退役していた憲兵も含まれているのだろう。

 所詮は元兵士を寄せ集めた烏合の衆。兵の練度も比べるべくもなし。

 しかし、闘いは数だ。シガンシナ区に常勤する駐屯兵は、今や千を超える。それを上回る三千もの敵の軍勢に、劣勢を強いられていた。

 また、駐屯兵たちが異変を察知した際には、既に区内へと侵入を許してしまったことが仇となった。人数の差から、元憲兵たちを制圧するための人員を適切に割り振ることが難しかった。

 しかし、この事態はある意味で必然であった。

 二十年前の超大型巨人らによるシガンシナ陥落より、兵たちの巨人に対する危機意識こそは高まったものの、内側の敵に対しての警戒は未だ緩慢であったことを再認識させられる事態であった。

 十年前の政権交代においては、調査兵団主力による王都制圧という電撃戦法を採用しており、内紛・内戦、各地における反乱などがロクに起こらなかったことが、兵たちのテロに対する危機意識を低下させていた。


ハンネス「ッ………区民たちの避難を最優先だ」

駐屯兵「はッ……し、しかし、それではみすみす奴らに、軍事施設を……」


 駐屯兵たちの反対を押し切り、ハンネスは指示を厳命した。その指示の元、駐屯兵たちはシガンシナ区民の避難誘導を最優先とした。

 結果、駐屯兵団の拠点である兵舎を始め、火薬庫や武器庫などの制圧を許すことになった。

 繰り返すが、駐屯兵の兵としての練度は、決して低くはない。勤務態度も良好で、日々訓練に励み、待ちの治安維持のためのパトロールをかかさず行う。区民たちからの評判も上々だ。

 何を取っても二十年前と比べれば雲泥と言っていいほどの差があり、そのほとんどが町のゴロツキ程度ならば鎧袖一触出来るだけの戦闘能力を持っている。

 彼らが反乱軍たちと正面切って戦えば、死傷者こそ出るものの勝利することは不可能ではなかっただろう。

 しかし、紛いなりにも敵は元憲兵――――と言えばある意味で聞こえはいいが――――『中途半端』に統率が取れた軍集団である。それ故に質が悪い。その実態は、腐敗や怠慢を許し特権に溺れた者の成れの果てだ。まして職権を乱用し、民から過剰なまでに税を絞り、財を不当に押収する者達である。


ハンネス「あのクズどもは金や土地は無論、家財だろうがなんだろうが余さず残さず持っていく。人を人として見ちゃいねえ。女だろうが子供だろうが見境なしだ。やくざな連中にモラルを求めちゃいけねえ」


 此度の決起の理由が政権の奪取であることを考えれば、民への攻撃など悪手中の悪手であったが、民たちへの暴虐も厭わぬ狂犬の類が、大人しく駐屯兵のみを狙うなどあり得ない。

 ハンネスは迷った末にそう判断し、決断した。その決定を臆病と笑うものは、駐屯兵たちの中には一人もいなかった。


駐屯兵「ッ………」

ハンネス「悔しいか。俺もだよクソッタレ。この判断が正しかったと、後で酒の席で笑って話せるようにオチつけてくれよ………アルミンよう」


 結果的に民たちに怪我人こそ出たものの、死者は出なかった。

 その代わりに、駐屯兵からは幾人も死傷者が出た。死者の中には、つい先日職務の不備を叱った兵がいた。笑って話した兵がいた。嫌いな者も、好ましい者も、あまり見知らぬ者も、十年来の付き合いの者も、大勢いた。

 誰もが、ハンネスの部下だ。


ハンネス「―――キツいなあ、こいつはよ。先に死ぬんなら俺みたいな老いぼれだろうがよ」


 ハンネスは奥歯が砕けるほど歯を食いしばりながら、速やかに王都へと此度の反乱についての詳細を水晶球によって伝達した。

 アルミンならば、この事態をどうにかしてくれる。そう一縷の望みを託し、祈るように、吼えるように、呻くように。

 ―――そして、もう一人。


 ハンネスが伝達を行った者が、もう一人いる。

 かつて、その精神力の強さを褒め称えた一人の少年――――今や兵士の中の兵士とまで呼ばれるまでに成長した、一人の兵士の水晶球へと。


『どうした、ハンネスさん』


 親しみのある少年だった頃の面影を僅かに残した、しかし今や威厳すら感じさせる落ち着き払った声。


ハンネス「シガンシナが……シガンシナが、襲われてる」

『―――巨人か』


 その声が、鉄の冷たさを持つ。


ハンネス「巨人だったら、まだ良かったよ……人間だ。同じ、同じ人間だよ。あいつら、同じ人間なのか。俺は信じたくねえよ……」

『何があった』

ハンネス「憲兵だよ。元憲兵どもだ。あいつら、いきなり街中で銃をぶっぱなして、剣を抜いて、王権の奪取だとか国家転覆だとか、わけのわからねえことを」

『………』

ハンネス「安心しろ、ミカサは無事だ。他の区民たちもだ。内地側の避難所に、みんな逃げ込んでる。お前の娘も、カルラもだ」

『………』

ハンネス「俺は、自分が情けねえ。けど、区民たちに何かあっちゃいけねえって、人死にを出しちゃいけねえって、必死で皆を逃がしたよ。けど、けど、死んじまった。俺の仲間が、死んじまったよ」

『………』


 返答はない。だが、目に見えぬ圧力が、水晶球の向こう側から、一秒ごとに肥大化していくのを感じた。


ハンネス「気のいい奴等もいた。気が合わねえ奴らもいた。けど、俺の部下だ。全員俺の部下なんだ。俺は、あいつらに死ねと命じた。結果的にそうなっちまった。あいつらの家族にどう詫びればいい。どうすりゃいい。頭の中、もうぐちゃぐちゃだ」

『それで?』


 冷たい声だった。だがハンネスには、その声が逆に有難かった。


ハンネス「昨日、一緒に呑んだ奴もいた。十年以上の付き合いで、今度の長期休暇には、一緒に釣りに行こうって約束してたんだ。約束、してたんだ……」

『それで?』

ハンネス「大嫌いな奴もいたよ。いっつもやることなすこと適当で、作る書類には不備がねえ方がすくねえ。まだ二十になったばかりの若造で、何度拳骨をくれてやったかわかんねえ。けど、今度ガキが生まれるって嬉しそうに話してた。美人の嫁さんが自慢だって、いつも笑ってた。嫌いだけど、悪い奴だった。良い奴だったんだ」

『それで?』


 その声は冷たい。だが、ハンネスを非難するような声音ではなかった。

 ただ、待っていた。

 注文(オーダー)を待つ職人が焦れるように。

 食い物を前に待てを命じられた番犬のように。


『それで―――――俺はどうすればいい。ハンネスさん』


 冷たい声だった。同情はない。軽蔑もない。

 冷徹な兵士の声だった。


『俺は兵士だ。兵士には死ぬことも仕事に含まれる。民の安寧のために、平穏のために、命を燃やし、命を尽くす。民を守って死んだ兵士達は、正しいよ』

ハンネス「………ッ」

『あんたの命令は正しかった。兵より先に民が死ぬなんてことがあっちゃいけない。そうだろう』

ハンネス「そう、だ。そうだッ……けど、けどッ!!」

『だけど、あんたはそれを許せねえ。俺に連絡をしてきたってことは、そういうことだ。アルミンに伝えりゃそれで済む話だろう。だから―――――』


 不意に、巌の如き兵士の冷徹が解ける。


『言えよ、ハンネスさん。あんたは俺に、どうして欲しいんだ』



 冷たい声ではなかった。

 むしろ暖かく、安らぎすら感じさせる声だった。


 ハンネスの瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。

 血を吐くような声で、ハンネスは言った。


ハンネス「あ、あッ………あいつら、あいつらァッ………俺の、おれの部下を、可愛い部下共を、殺しやがった。許せねえ。許したくねえ。許せるわけがねえ。助けてくれ、頼む……頼むよ」


 涙と鼻水で、顔をぐしゃぐしゃにしながら、ハンネスは懇願するように言った。


ハンネス「ちくしょう、ちくしょお………あいつら、ゴミみてえに、俺の部下を、殺しやがった………頼む………あいつら、やっつけてくれ。頼む。頼むよ、エレン」


 その返答には殺意のみが籠っていた。


エレン『諒解だ。駐屯兵団団長殿。これより任務を遂行する』


 理不尽を壊す理不尽が、破滅の足音と共に南下する。



……
………


………
……



 反乱軍によるシガンシナ区占拠の報が届いてより、丸二日半ほどが経過した頃、アルミン・A・スミス率いる調査兵団は、シガンシナ区北一キロ付近に陣を形成していた。


アルミン「いいかッ、必ず、必ずッ、今から一両日以内にシガンシナを奪還するぞッ………それ以上かかったら、あいつが来るッ………血染めの十字がやってくるッ………」ギリギリギリギリ

サシャ「アルミン必死すぎ引くわー」

コニー「つーかシガンシナ区占拠の報から既に二日だろ? おっとり刀で駆けつけた、とか言われたら反論の余地がねえぞ。初動が遅え」

アルミン「問題ないッ………こうした内紛による市民への被害防止のため、突出区は無論、各地に避難用のシェルターを建造してある」


 なお、シェルターは石壁の符の応用によって作成された堅牢なもので、鎧の巨人の突進にすら数度耐えるほどの強度を持つ。


アルミン「シガンシナの全区民はそのシェルター内に避難済みとの報があった。備蓄している食糧は、一万の民を十日持たせるだけの量がある。我々がすべきは、絶対確実に彼らを包囲し殲滅することだ」

サシャ「つまり、到着したらシェルター外にいる人間は」

アルミン「皆殺――――」

コニー「おい。誰か遠見を寄越せ」


 コニーの固い声に、少し弛緩していた上層部内の空気が緊の色に染まる。


コニー「――――壁の上に、誰かいる。いや――――戦っている」

アルミン「何?」


 遠見のレンズを絞り、その人物を見やる。

 そこには、意外な人物がいた。



……
………


………
……



 一日ばかり時間は前後する。

 反乱軍首魁――――ロッド・レイスは焦っていた。

 シガンシナ区の占拠に関しては、手持ちの兵をさほど消費することなく成しえることが出来た。ここまではいい。

 だが、なんだあのシェルターは。

 駐屯兵団から奪った武器・火薬庫から得た大砲を幾度となく撃ち払っても、打ち破るどころか傷一つ入らない。

 占拠より一両日が経過した今、幾度試行錯誤を繰り返しても、その要塞を打ち破ることが出来ないのだ。

 こんなことは想定外だった。ロッド・レイスの目的は、『叫び』の力を継承したエレン・イェーガーそのものだ。

 故に彼の家族を人質に、調査兵団と交渉を進める目論見があったが、その第一歩目からして頓挫している現状に、焦りを禁じ得なかった。

 ロッド・レイスの焦りは加速する。移動手段の最速が馬という点を考えても、そろそろ軍が動き始める頃と踏んでいた。

 ――――と、ロッドは市民を庇い怪我をした駐屯兵を、捕虜として数十名ほど捕まえていることを思い出す。

 ―――-いささか質は劣るが、彼らを人質に交渉をすればよい。

 そう部下に命じ、手はずを整えようとした矢先―――――捕虜を監禁していた兵舎の地下牢獄に、襲撃があった。


憲兵「て、て、敵襲ですッ………!!」

ロッド「分かっておるわ! 敵襲の規模は、被害は!」

憲兵「ちゅ、駐屯兵団どもですッ……ほ、捕虜たちは、全て奪還され、西の街道を北上中。おそらく、あのシェルターに」

ロッド「阻止しろッ!! 必ず生かして捕えるんだ。人質がなくては交渉一つ出来はしない」


 人質を取る王などそもそも民が認めはしない。しかし、叫びの力さえあれば、そうした記憶すら書き換えることが出来る。

 記憶にないのならば何をしてもかまわない――――その時点で王たる資質がないことに、ロッドは気づけない。


憲兵「はっ! 人質四十名を奪還されたとはいえ、怪我人。足の遅い連中です。現状、二百の兵で追撃、包囲して」

憲兵2「も、申し上げますッ!」

ロッド「今度は何だ!?」

「あ、その、そのう、人質と共に駐屯兵団精鋭二十名の包囲、完了しま、しております、で、ですが……」

ロッド「簡潔に言え!」

憲兵2「と、突破されそうですッ!!」

ロッド「何!? 二百で包囲しているのだろうが! 押さえつけてまた牢獄にブチ込めば済む話だろう!!」


 そう。数は力だ。力に勝っていても、技量で勝っていても、数の暴力には勝てない。

 だが、ロッドは失念していた。

 その数の暴力すら覆す、一族が、壁内には存在していることを。


 一方的な搾取を行う者達を、

 理不尽をもたらす者達を、

 それを許さぬ者がいることを。


「―――――知らぬ者がいるようだから教えておいてやる」


 すれ違いざまに、憲兵の首を四つも跳ねたエプロン姿の女性。

 長い黒髪をなびかせて、その両手には鉄製の片刃の剣――――どこか刀に似た二振りが握られている。


ミカサ「私の特技は………肉を、削ぎ落とすことだ。水も溜らぬ刃味というものを知りたい者から、前へ出ろ」


 ミカサ・アッカーマン―――――否、ミカサ・イェーガー元班長、その人である。

 結婚と妊娠を期に引退し、十四年が経つ今をしてなお、その戦闘能力は現役の調査兵団の精鋭すら霞む。


 誰もがその引退を惜しむ一方で安堵したと言う、『戦鬼』として畏れられた異名持ちの、精鋭中の精鋭だ。

 そしてミカサの背後から、少し小さな影が飛び出し、同様に二つの首を刎ねた少女がいる。

 訓練兵団の隊服を身に着けた、黒髪の美しい可憐な少女だ。


カルラ「―――同じく。私の特技は、肉を削ぐこと。そのそっ首落として、家の壁に飾りつけてやる」


 カルラ・イェーガー。エレンとミカサの間に生まれた長女である。

 シガンシナ区訓練兵団に所属する未だ訓練兵ではあるが、母方の遺伝子が濃く現れた結果、訓練兵当時のミカサ・アッカーマンと遜色なき戦闘能力を誇る。

 訓練兵の立場でありながら、次代の調査兵団の期待の星との呼び声高い少女である。



ミカサ「カルラ。貴方はこの人たちを避難所へ」

カルラ「母さんは?」

ミカサ「足止めと、貴方たちの道中の安全確保。幸いここは高所の無い開いた一本道だ。挟撃の可能性はあっても、包囲はない。一点を槍のように貫けば穴ができる」


 しかし、その指示はいささか遅かった。

 大砲を携えた元憲兵たちが、ミカサ・カルラらが守る負傷兵たちを挟撃した。砲門は、こちらへと向けられている。

※だめーつかれたーもぉー。

 今週中にはもっかい投下しますぅー

あれ、ハンネスさんと小鹿さん役職被ってる?
どっちも駐屯兵団団長になってるけど?

※今週中は無理になりました。そう、またなんだ

 畜生。来週のち○こまんに期待してください


………
……



 ―――オルテ帝国・北方の城に逗留するサンジェルミ伯は焦っていた。



サンジェルミ「ヤッベ。ヤッベ、詰みかけてるわーこの状況ー」



 オルテ帝国に先はなしと見切りをつけた後、ドリフターズと合流したサンジェルミ伯であったが、それからが大変であった。

 自身を第六天と嘯くうつけを見誤っていた。正直、ここまでヤバいとは思っていなかった。

 やれグ・ビンネン通商ギルド連合と和平交渉結べとか、物資寄越せとか、地方の有力者から銭徴収してこいとか、あれやこれやと難題ばかりが押し付けられる。

 そして―――――ついに黒王軍との大決戦を前に、過去最大の難題が彼を悩ませていた。


オルミーヌ「大師匠様ぁあああああ! 援軍はまだですかぁああああああ!!」

サンジェルミ「うっせえわよそこのオッパイの化け物! 泣きたいのはこっちだっつーの!」


 サンジェルミの傍らで半泣きで水晶球に叫びかけるオルミーヌを疎ましそうに睨む。

晴明『今しばし持ちこたえてくれ。援軍はそちらに向かってはいるが――――日程的にはかなりギリギリだ。なるべく豊久たちと黒王軍が会敵する時期を先延ばしにしてもらいたい』


 できるものなら頭を抱えていねーッつーの、と叫びたい気分だったが、晴明の言うことが正しい。正しく、言葉で言うのは簡単だ。だが、現実には敵わない。

 何せ黒王軍は数が違う。何よりも質が違う。多くのデミヒューマンをまとめ上げ、巨人や竜を始めとした化け物どもの軍集団。

 豊久たちはオルテ帝国を乗っ取ったとはいえ、あくまでもオルテは人の国だ。人的資源はあれど、化け物の資源はない。

 ドリフターズたちがもたらした技術的な革新、そして豊久たちが『異世界』から持ち込んだ武装などによってなんとか互角の勝負に持っていけているこの現状。

 兵站維持や作戦の立案、グ・ビンネンに対する政略に、国庫の財布としての貴族たちのまとめ上げ、サンジェルミ伯と言えど、そのキャパシティを遥かに越えるオーバーワークだ。


サンジェルミ「グ・ビンネンのド腐れ放蕩息子がぁあああああ!! もっと早く送っとけよ援軍ッ! どんだけ援軍送ったところでッ、先にこっちが全滅しちまったら意味ないっつぅーの!!」


 山のようにうずたかく積み上げられた書類という名の牢獄の中、サンジェルミは遠く離れた地で胡散臭い笑みを浮かべているだろう、褐色肌の男に向かって罵声を吐いた。




……
………


………
……


 オルテ帝国よりおよそ数百キロ離れた洋上。

 鉄で出来た船の上に、およそ似つかわしくない男が二人、デッキブラシを握りしめて、甲板を磨き上げていた。

 一人はかのワイルドバンチ強盗団のリーダー、ブッチ・キャシディ。

 一人はブッチの相棒であるザ・サンダンス・キッドである。


ブッチ「クソが、なんでオレらがこんなことせにゃなんねーのかね」

キッド「全くだ。つーか戦争なんだろうが。こんな掃除やってるヒマあんのかよ。つーか、いつになったらオルテに着くんだよ」

???「うるせぇぞ腐れアメ公。ハワイよかちけえよ。黙って働け」


 悪態をつく二人の背後に立つ人物が、二人を叱責する。

 初老の男だ。年相応に腹が出っ張ってはいるが、異様なまでの威厳のある面立ちであった。


ブッチ「どこだよそこ」

???「黙れッてんだよ。油脂焼夷弾に括り付けて諸共に爆死させんぞ。重慶のようにな」


キッド「いや、だからどこだよそこ。なんだジュウケイって」

???「―――――おい、菅野くんや。あのアメ公撃て」

菅野「諒解」バキューン

ブッチ「ギャーーーー!?」

キッド「ブッチィ!? おい、掠った! 掠ったぞ!? 信じらんねえこいつら!!」


 拳銃を構える菅野の右前に立つのは、初老の男である。

 日本帝国海軍の制服と軍帽が似合うその男こそは、


山口「何が信じられんというのだ。私が貴様らを生かしている理由なんざ片手で足りる。

   貴様らが戦前の時代の連中で『大戦』となんら関係がねえというのが一つ。

   貴様らの射撃術が猫の手借りるよりはいくらかマシで、現状『飛龍』の『九七』と『九九』繰るヤツがいねえというのが一つ。

   そして何よりも――――あの『黒王』とか嘯くアホどもが共通の敵だからという点。これがでかい」


 人殺し多聞の異名で畏れられた、かの山口多聞中将、その人である。


ブッチ「ほぉー? じゃあ殺す理由は山ほどあるってか?」

山口「阿呆、貴様らがアメ公だということ、殺す理由なんぞ一つッきりだそれに尽きる。それだけで万死に値する。『飛龍』の艦載機と人手が十分なら、零戦に火薬満載して諸共射出してるところだ。有難く思え」

キッド「ありがたみって言葉の意味なんだっけぇ」

山口「ンなことも知らんのかこれだからアメ公は。いいか? 有難いというのはな――――今日も元気にメシ食って死ぬほど働けると言うことだ。理解したらキリキリ働け、糞米英」

菅野「………と、山口中将は申しておられる!! 特攻やってみるかコノヤロウ誉れだぞ一番先に行けるんだぞバーカ!! ふにゃちん米兵にゃできんだろバカヤロウコノヤロウ」プークスクス

ブッチ「あの腐れジャップ二匹、ブッ殺していいか? いいよな? 答えは訊いてねえ」ジャキッ

キッド「顔の平ったい奴等はあんなんばっかかチクショウやる気がなえる」


 ブッチとキッドは山口多聞旗下の軍属に成り下がり――――成り上がっていた。もともと強盗団だ。定職すらないロクデナシに職が与えられれば成り上がりと言えるだろう。

 そんな彼らは整備員兼パイロット兼小間使いとして、この第二航空部隊旗艦『飛龍』のクルーとして、オルテの援軍に向かう航海に同伴している。

 一方、菅野は第二航空隊の隊長として我が世の春が来たとばかりのうかれとんちきっぷりを発揮していた。


山口「やあ、任務ご苦労。次は当ててくれ」

菅野「陸の上ではいささか当たりづらいものですな」

山口「はは、海と空を往く男は言うことが違う。イイ面構えじゃあないか、菅野くん。ウチの二航戦の歴戦と比べても遜色ないどころか、友永と並ぶぞ。前上方背面垂直攻撃だったか、ありゃあすごい。自慢していいぞ」

菅野「ハッ! 畏れ入ります、山口中将殿! 中将閣下指揮下の元で航空隊を率いること、身が引き締まる思いであります!!」


山口「そうしゃっちこばるな。褒めている。面倒見もいいし、きっぷもいい、糞度胸もある。しっかし菅野くんよ、私は不満が一つある」

菅野「ハッ、大食い多聞丸中将の胃袋をご満足させられないことにつきましては、戦時ゆえご理解いただきたく!」

山口「ああ、二つだった。まあ先回りされたら口にも出せんな。不満ってなぁ別だよ」


 山口中将は菅野の肩をぽんぽんと叩き、悪戯小僧のように笑みを浮かべた。


山口「君の齢(とし)だよ。君がもうちっとばかし早く任官してりゃあなあ。任官がおれと飛龍がマジでくたばる五日前とか、そりゃあないだろう。おれが手ずから訓練させたかったがよう」

菅野「お褒めに与り光栄であります! しかし、なんの、中将殿! 今ここでこうして、あの『飛龍』に乗り! 共に戦える! 小官にはただそれで十分!」

山口「カッ、ハ、はははは!! そうだろ、いいだろおい、この『飛龍』はよ! それにやっぱいいな、この『紫電改』も。いいな、零戦よかいいな。おい菅野くんよ、ちょっとあそこの龍を百頭ばかし落としてこい。龍はウチの飛龍だけで十分だ。いいね?」

菅野「諒解! ワレ菅野! 菅野一番!! 菅野直! 紫電改、出撃するぞコノヤロウ!!」バルバルバルバルバル

キッド「メッチャクチャだこいつら」


 そうして彼らはオルテへと進んでいく。

 迫りくる決戦の時を、騒がしくも確かに感じながら。



……
………

※みじけえけど今日はここまで。

 BGMはマクロスのドッグ・ファイターか、私の彼はパイロットで。

 山口多聞中将に敬礼

飛龍「た、多聞丸ぅうううううううう!!!」∠(ToT)

五十鈴「や、山口提督ぅううううう!!」∠(T⌓T)

伊勢「お会いしとうございましたぁあああ!!」∠(TAT)

長門「おおッ! 出世したなぁ、山口提督!」∠(`・ω・´)

由良「久しぶり。由良のこと覚えてる?」∠(≧ω≦)

山口「誰だよ貴様ら」


超乙。たぎるわ

※残念、明日だ

 先週はちと身内に不幸があっての


………
……



 豊久らが籠城するオルテの北部にある居城では、同じく籠城する兵たちが戦支度を急いでいた。

 西の城壁の上に登り、眼下を見下ろすは島津豊久と織田信長、そして那須与一の三名である。

 未だ遠目に僅かに見えるばかりであるが――――遠目にも分かるその威容。

 巨人だ。それも一体や二体ではない、何百・何千という巨人の軍集団だ。

 鎧を着こんだ重武装の巨人の軍団。


豊久「――――――まさかのう。こちらん浮世にも、だいだらぼっちばおるとはな」

与一「それも重武装が山ほどとは。隊列を乱さず進軍しているところから、どれもこれも知性持ちのようで」

信長「立体機動装置は役に立たんとは言わんが、大規模火力による殲滅の方が安全に行ける――――山口という将は?」


 呼べば、彼らの背後に音も気配もなく、安倍晴明が立っている。


晴明「今しばし。およそ四半刻(2時間半)は必要となりましょう」


信長「この場では足を停めんにも、退くにしろ、どうしようもないのう。しばしは籠城して増援まで立てこも―――――あっ」

豊久「もはや退き口はなか。正念場ぞ……ノブ?」

与一「背水の陣――――背水の城でありますな。全く、厄介な―――――信長様?」


 見れば、信長が血相を変えて、城壁の最上段に立ち、ねめつけるように城下を睨みつけていた。


信長「一度ならず二度までも………腐れ金柑がぁあああああああ!!」

豊久「ほう! ではあれに見えるが噂ん聞ぐ惟任(これとう)か」

与一「ああ、信長さまの現世の怨敵ですか」


 城壁の上に立つは、第六天魔王・織田信長。

 見下ろす先には黒王の軍勢。デミヒューマンたちを武装化した化け物の軍集団、その陣頭に立つ者が一人。

 惟任(これとう)日向守(ひゅうがのかみ)―――――明智光秀である。


信長「はははははは―――――光秀ェ……わざわざ首ィ獲られるために参じるとは、是非もなし。ここへ来やれ。手ずからそっ首落としてやろう」シャガッ

光秀「うつけめ。一度や二度死んだところで、そのいかれは治らぬらしい。貴様こそここへ降りて来やれ。殺してデミどもの餌にしてくれる。死ぬまで殺してやるぞ。死ね。虚け(うつけ)め。死ね。死ね。死ぬがいい」

信長「っざけんなボケ! テメーが死ね! この根暗! 金柑野郎! 謀反人が! おめーのかーちゃんじんめんそ!」

光秀「」ピキピキ

信長「」ブチッピキィッ

豊久「分かっどったが、仲悪いんじゃの」

与一「まあ。そうでしょう―――――怨敵ですから。分かりますとも」

豊久「与一?」

与一「私も私の怨敵を――――見つけ申した」


 惟任のやや後方、牛車の引く二台の上にごろりと寝転がった、およそ戦争とは縁のなさそうな線の細い美少年。

 ――――源九郎判官義経が、笑みを浮かべて与一を眺めていた。


与一「―――――義経様、一つばかりの問答を」

義経「………ほう? 与一、少しばかり見違えたぞ。目に曇りが無くなったように見える。なんぞ、良いことでもあったのかい?」


与一「懊悩と煩悶と難渋の末、この那須資隆与一、一つの答えを得申した―――――」

義経「どのようなものかな? 面白いのかな? 面白い方がいいな」

与一「武家の誇り、源氏の誇り、成程、大事でありましょう。されど―――――それは欺瞞だ。人殺しを正当化するための言い訳に過ぎない。それを痛感し申した」

義経「………」

与一「なれば、私は武士として卑怯の誹りは甘んじて受けましょう。源氏の名を貶める愚か者と笑う者は笑わせておけばよろしかろう」

義経「ようやくその心境にまで至ったか。だが――――」

与一「されど!」


 それだけでは足りぬ、と告げようとした義経の口が、そのまま固まる。


与一「されど、私の誇りはここにある。民を、友を、主を、彼らに害を為す者は、決して許さぬ。その辱めだけは許容できませぬ。私の誇りは、彼らにこそ在り」

義経「……へえ?」


与一「故に義経様―――――源九郎義経。おまえは敵だ。我らに害なす怨敵よ。貴様は私が、この与一が必ず射殺す」


義経「―――ひ、は。ははははは。良いぞ、与一。おっかねえなあ、その眼! 敵に回すとこれだけおっかねえのかおまえは。ようやくか、生のままの感情で、己の意志で、僕を殺すとそう抜かせたか!!」



 嬉しそうに。無邪気な子供のように。


義経「全く、この忠義者め―――――実に僕好みの、面白おかしい奴になった。それでこそ殺しがいがあると言うもの」


 義経は、与一の殺意を、笑みを以って肯定する。


義経「そうだろう、なあ――――土方。君もそう思うだろう」

土方「………」

豊久「おう、土方か」

土方「島津ッ……」


 殺意で人が死ぬのならば百度は殺せているだろう怨念の籠った土方の視線を、豊久は狂気の籠る笑みにて受け止める。

 激戦は間近にまで迫っていた。

 だが、未だすべての役者は舞台に揃わず。


……
………

※短い? 短い。

 色々ありすぎたんだ。スマン。書き溜めがない。

 明日明後日当たり仕事ヒマそーなので、時間があったら夜にでも。

 遅くても土日に。では。

※ごめんなさい

 ありのまま起こったことを話す

 明日から出張だから今日投下しようと思っていたら、俺は今日から出張に行くことになった

 何を言っているのかわからねえと思うが、俺も何が起こっているのか分からない

 超スピードとかトリックとか世界が一巡したとかチャチなもんじゃあ断じてねえ




 とにかく意味分かんねえ

※いい感じにまとまった。

 明日の夜に投下予定でございます。

 えー、ち○こまんのぉー仕事ぉー?

 簡単だよぉー。エリートなんかじゃないよぉー。

 事務と総務と経理と人事を兼任しつつ日本各地の常駐先現場や支部の管理者やってぇー。

 たまに一作業者として駆り出されたりしてぇー、あっちこっち飛び回っては進捗管理やって人員割り当てたりぃー。

 下請け会社呼び込んでおらどうにかせんかとハッパかけたり、納期が遅れる宜しいならば追徴金だ違約金だ払えと笑顔で告げたりぃー。

 納期見積ったり報酬見積もりの交渉やったり、後からゴネるアホのケツを叩いては違約金ちょっぱったりするだけの





 地獄のようなお仕事です(エレンが死んだと告げられた時のミカサのような顔で)


………
……



 ミカサ、カルラの二名、そして彼女らが率いる負傷兵たちは、百名からなる憲兵たちに挟撃を受けていた。

 横道の無い一本道で前後を挟まれ、巨人に向けられるための兵器である榴弾砲が、彼らに照準を向けている。

 十数メートルの距離を置いたまま、両軍は硬直した状態となっていた。

 状況のまずさに舌打ちをしつつ、ミカサとカルラは冷静に己の兵装を確認する。

 ブレードの残数はそれぞれ示し合わせたかのように、現在握っている二本のみだ。カルラのみが立体機動装置を装備してはいるが、ガスの残量が心許ない。

 二十人かそこらを斬っただけで、もうそれだけの兵装しか残っていない。

 それは両者の技量の問題ではない。そも超硬化ブレードは対巨人用の兵装だ。斬れば血肉が蒸発し、跡形も残らぬ巨人とは違い、脂が混ざり消えもしない人間の血肉に染まったブレードは、二三人も切れば使い物にならなくなるため、消耗が激しい。


ミカサ「自宅に戻れば複製したカタナがあるのだが、ちょっと取りに戻らせてもらえないだろうか」

カルラ「そりゃあまあ、あたしだってカタナがあったほうがいいけれど。この挟撃を突破できるなら、そもそも取りに行く必要性がないと思う」

ミカサ「………誠心誠意説得すればなんとかなるのではないだろうか」

カルラ「冗談言ってる場合かなあ、母さん」


 相も変わらずマイペースな母親に、カルラは嘆息を一つ。

 そも逃げられるような状況ではない。後背には二十名もの負傷者が追従している状況だ。

 強引に突破を試みれば、己やミカサはともかく、背後の兵たちは確実に死ぬだろう。

 その認識は、彼女らを挟撃する憲兵たちも理解したのだろう――――下卑た笑みを浮かべた憲兵が一人、前に出る。


憲兵「投降しろ。いかな腕が立とうと、この包囲網は突破できんぞ」


 勝利を確信したように、そう告げる。

 しかし――――それを告げた彼は、告げられた側から、望んだ反応は得られなかった。

 カルラは一瞬、目を丸くした。

 戦いの場に在って戦いを忘れたような、年相応の無防備な表情だ。

 しかし、それも一瞬だ。


カルラ「は――――ははっ」


 ―――――口元に、笑みを浮かべる。


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 鈴を鳴らしたような、ころころとした笑い声が響く。

 カルラ・イェーガーが腹を抱えて笑っている。

 心底可笑しそうに。

 哀れむように。

 それは嘲笑だ。


憲兵「何が、何を笑うッ……何が可笑しいんだ、小むす――――」


 激した憲兵の罵声は、そこで尻切れた。

 いぶかる憲兵たちが言葉を切った彼を見やり――――瞬時に距離を取った。

 理由は明白だ。

 その喉元には折れたブレードの破片が突き刺さり、首の反対側から突き出ている。もはや言葉にもならない滑りを帯びた呼気だけが、彼の穴の開いた喉から、鮮血と共に漏れ出していた。

 そしてその音すら掻き消すように響き渡るくつくつという笑い声に、意識を戻す。

 彼を『こう』したであろう下手人たるカルラは、隠そうともせずにブレードを投げた姿勢のままに、微笑んでいる。


カルラ「どうした。お前らは正義を騙るんだろう。正義を謳うのだろう。ならば戦え。恐れず戦え。正しいのならば死なない。死ぬはずがない。敵はここにいるぞ。カルラ・イェーガーはここにいる」


 その眼光を狂気に血走らせ、カルラ・イェーガーはブレードを軽く振るった。

 かかって来いよ、と。

 その圧だけで、最前列の憲兵たちが軒並み一歩後ずさりをする。

 明らかに怯えていた。

 たった一人の少女に、怯えを隠せずにいた。


カルラ「そら、どうした。女子供二人を前に震えて、大の大人が誰も前に出てこれず、遠巻きに叫ぶばかりで手も足も出ない。こんなものが兵士? 兵士ですって?」


 ゆるゆると、見せつけるようにカルラは一歩ずつ歩みを進める。

 その歩みと共に、憲兵たちがその進みに倍する距離を交代する。傍観者からすればまるで冗談のような光景だった。


カルラ「本当は分かっているんでしょう? 後ろめたいことがあるから前に出られない。こんな馬鹿げたことで死ぬなんて御免だと、全員の顔に書いてあるわ」

憲兵2「う、動くな!! 分かっているのか!? 榴弾が、榴弾をブチ込むぞ!? し、死にたいのか貴様!?」

カルラ「死にたくはないが、死ぬより恐ろしくおぞましい虜囚の身はごめんだ。兵士ならばそうだ。そうでなくてはならんのだ。そんなことも知らないのか、あんたたちは。親からどういう教育受けてんだ」

×:距離を交代する。
○:距離を後退する。


ミカサ(少なくとも貴女の親である私はそんな教育した覚えはないのだけれど………)


 悲痛なミカサの内心は誰にも届かなかった。

 どちらにせよ、カルラ・イェーガーはあらゆる意味で規格外だった。

 話が通じているようで、通じていない。


カルラ「なんなんだあんたらは。誰一人死ぬ程度の覚悟すらしていない。ただなんとなく此処に立っているだけの愚図ばかり。

    死ぬのが嫌か! あくまでも自分の手は綺麗でいたいか! 何一つ捨てられず、だが欲しいものは欲しいと喚き散らすのか。それほどに価値があるのか、貴様ら如きの命が!

    ならば貴様らは戦う者ではない。狗だ。薄汚い主に命じられるがままに、嫌々ながらに命令を果たそうとするだけの薄汚い狗だ。そんな狗が我々に、イェーガー家に、降伏しろと? 武器を捨てろと? これを笑わずして何を笑えと言う」

憲兵2「ッ、き、貴様……人質としての価値があるからと、図に乗るのもいい加減にしろ! 人質は一人でも構わんのだぞ!?」

カルラ「あら、今度は言い訳? 仮にも権威ある憲兵サマが人質に取ることを堂々とのたまうわけだ。やはり笑い話だよ、反逆者共」

憲兵2「ッ………!!」


 ぐうの音も出ないとはこのことだろう。

 カルラの言はこの上なく正しい。彼らに正義がないことなど、彼ら自身が最もよく理解している。

 後ろめたいのだ。そのために死ぬなどまっぴらごめんだった。ただ楽に生きたい。贅沢をしたい。苦労をしたくない。自堕落に染まった彼らには、かつてそれがまかり通っていた―――それが当然だったからこそ、それをまた再びと、思ってしまうのだ。


 それはカルラにとって堕落だ。最も唾棄すべき邪悪だ。

 己の理想とする父とは真逆の、何よりもおぞましい存在だ。この世に存在してはいけないものだ。

 だから。


カルラ「馬鹿な貴様らにも分かりやすく言ってやる――――ぐだぐだ抜かしてねえでかかって来いよ、発情期の雄狗ども。一匹残らず去勢してやるから」

ミカサ(我が娘ながら誰に似たのだろう)


 ミカサの悲しげな内心はやはり誰にも届かないが、届いたとしても誰もが呆れ混じりでこう言うだろう。

       ち ち お や
 ――――絶対巨人殺すマンに似たんだろうよ、と。


憲兵2「ッ………諦めろと言っているんだッ! 貴様が大立ち回りをしたところで、どうなるというのだ!? この状況が覆せるのか!? 絶望的なこの状況が!!」


 もはや悲鳴に近い声に、次はミカサが反応した。


ミカサ「――――諦めろ? この程度の状況で? 成程、憲兵らしい言葉だ。内地に引きこもり続け、戦う意志すら見せずに巨人に尻を向けたお前たちの言葉は、心に響くものがない」


 静かな、しかし確かな怒気を込めた声だった。刺すような殺気の籠るカルラの威とは違う、真綿で首を絞めつけるような息苦しさを感じる圧力だ。


ミカサ「本物の死線というものを知らないお前たちが、何を以って投降を促す。目の前の脅威から目を背け続け、家畜のように安寧を貪ってきたお前たちには分からない」


 ブレードを十字に構え、カルラの横に並ぶ。紛れもなき、戦闘続行の意志が明らかな、示威行為であった。


ミカサ「戦わなくては勝てない。戦い続けるからこそ、その生に価値が生まれる」


 それはミカサの人生哲学だ。彼女の最も大切な存在が、その行動と意志で教えてくれた世界の真理だ。


ミカサ「私は家畜じゃあない。人間だ。凄く、凄く強い人間だ。人間なんだ。お前たちとは違う。弱い、弱いおまえたちとは。来い、家畜共―――――削ぎ落としてやる」


 その威は憲兵たちの戦意を削ぐとともに、その背を見る負傷兵たちの萎えた戦意をも奮い立たせた。

 ――――ここで足手まといになるくらいならば、いっそ一人でも多くの敵を。

 その覚悟と共に踏み出された一歩に、憲兵たちがさらに動揺を見せる。それは皮肉にも、憲兵たちにもある種の覚悟を決めさせてしまう一歩であった。


憲兵2「ッ、やむを、えん………人質は、一人残せ。背後の負傷兵たちを狙って、榴弾を――――」

カルラ「ところで知っていた? 糞憲兵ども」


 殺害を決意した憲兵の言葉を遮るように、再びカルラが謳う。


 殺害を決意した憲兵の言葉を遮るように、再びカルラが謳う。


 告げられるカルラの言葉の意味を、何名が瞬時に理解しただろうか。



              ・ ・ ・ ・
カルラ「イェーガー家は『四人家族』よ」




 その宣言と同時、挟撃する憲兵たちの後背より、立て続けに空気の破裂する音が響き渡った。二十発か。三十発か。

 弾ける空気の音の数に倍する、およそ五十名以上の数の憲兵たちが、次々に脳漿を石畳にブチ撒けながら倒れ伏している。

 ――――銃撃だ。

 誰も彼もが正確に脳天を一撃で打ち抜かれ、即死している。


憲兵2「ッ、こ、これは、中央憲兵のッ………た、対人立体機動装置、かッ!? これは、これはまさかッ、ケニー・アッカーマンのッ……!?」


 その手際。その練度。その存在を知る憲兵は、ケニー・アッカーマンの襲撃を予想した。

 その予想の半分は正しい。誤っている半分は、下手人の正体。それはそう――――。


推奨BGM:https://www.youtube.com/watch?v=8tlXlJyXnHs


???「――――お初にお目にかかります」


 少し幼さを残す高い声は、憲兵たちが密集する陣の、中央から聞こえた。

 黒髪に、金の瞳。見るものが見れば、誰もがある人物を想起するであろう容貌。

 しかし件の彼にはない銀縁の眼鏡をかけた、訓練兵団の隊服を纏う少年は、言う。


グリシャ「――――ウォールマリア・シガンシナ区第120期訓練兵団所属、主席、第二十六班班長、グリシャ・イェーガーです」


 その両手に、全弾装填が完了した大口径の回転式連装銃(リボルバー)を構え、


グリシャ「出会って早々さようなら」


 撃ち放つ。

 秒間で六連装の弾丸、左右で十二発が瞬時に撃ち尽くされる。

 貫通性の極めて高い被覆鋼弾は正確に彼らの脳漿をブチ抜き、更にはその背後の憲兵すらをも撃ち抜き、瞬時に三十余名の憲兵たちが即死する。


 あまりにもあまりな蹂躙劇に、しばし憲兵たちはおろか、負傷兵たちすら呆然自失と立ち尽くす。仮に正気を保っていたとしても、何ができただろうか。

 その数秒に満たぬ僅かな間隙にも、グリシャは動いており――――銃弾を再装填(リロード)―――――残る憲兵たちを一人残らず撃ち殺した。


グリシャ「やはり憲兵はのろい。これでは的当てと大差ないな」

カルラ「―――――遅いわよ、愚弟」


 酷く無感動に呟くグリシャに、姉のカルラは辛らつな言葉で歓迎する。


グリシャ「やあ愚姉。ハンネス爺さんがどうにも喧しく引き留めるもので。それにお二人の獲物を回収してたので、少し遅れました」

カルラ「言い訳なんて聞いてない。いいから予備のガスと、あたしの愛刀寄越せ。ホラさっさと」

グリシャ「アイサー、人使いの荒い姉上」ポイッ

カルラ「投げるなァ!? あたしの愛刀ーーーー!!?」


 まるでゴミを投げるように刀とガスをブン投げる弟に、カルラは涙目で抗議するも、グリシャは養豚場の豚を見るような目付きでカルラを見る。

 この姉弟、とても仲が悪いことで知られている。というより、一方的にカルラがグリシャに喰ってかかり、グリシャがカルラを適当にあしらうという図であった。


ミカサ「グリシャ、私にも。カタナを」

グリシャ「イェッサ、いつも華麗にして優美なるお母様」スッ

ミカサ「グリシャは本当にいい子に育った。私の誇り」ナデナデ

グリシャ「感謝の極み」

カルラ「この扱いの差はなんだッ………!?」


 恭しく献上するように膝をつき、刀を掲げるグリシャにミカサご満悦。カルラご不満。その涙腺は決壊寸前であった。


 さておき。


ミカサ「さて。装備も充実したところで」

グリシャ「家畜狩りの時間ですね」

カルラ「イェーガーの家名が伊達じゃあないことを見せてあげる」


 挟撃する憲兵の一方が文字通り壊滅したため――――後背を突く形で陣取る憲兵たちは、銃弾と剣撃の地獄で踊り死ぬこととなった。


……
………


○現在公開可能な(独自設定)情報


【カルラ・イェーガー】

 イェーガー家の二卵性双生児の姉の方。亡きエレンの母から名前を継いだ。通称『ミカサの皮被ったエレン』。13歳。

 ミカサ並の身体能力とエレンの残念なオツムがジョグレス合体したことで見事な狂戦士となったがどこもおかしくない。なお肉体100パーセントコントロールはまだできないもよう。

 対人格闘・斬撃・立体機動術はブッチギリでトップ、他の成績もほぼ上位だが、座学の成績は最下位レベル。小賢しい座学なんぞどうでも良かろうなのだ。

 駆逐系男子(パパ)大好きっ子。巨人はとりあえず殺さなきゃと思っている。

 超好戦的な絶対駆逐するマンの思想に染まったリトルミカサと思えばよし。

 うなじを削ぎ落としていい相手は、巨人どもと家畜共だけです。己の血筋をすごく誇りに思っており、子供の頃から寝物語に聞かされる『トヨヒサ・シマヅ』を英雄視する。


○現在公開可能な(独自設定)情報

【グリシャ・イェーガー】

 イェーガー家の二卵性双生児の弟の方。亡きエレンの父から名前を継いだ。通称『エレンの皮被ったおぞましいなにか』。13歳。

 エレンの父のグリシャの聡明さが隔世遺伝した結果、親戚筋のケニーの戦闘スタイルを採用。座学・射撃は同期でトップ。なお肉体100パーセントコントロールは余裕で出来るもよう。

 立体機動術もカルラと並んでツートップという好成績だが、対人格闘と斬撃は最低クラス。というより本人にジャンレベルでやる気がないだけでその気になれば全科目トップ獲れる舐めプ状態。カルラ涙目。

 キルレシオ重視のガンスリンガースタイルで戦うイェーガー家の最後の良心枠。

 鬼母(ママ)大好きっ子。基本的に平穏が一番だと思っている。

 ただし家畜をブッ殺すことに欠片も躊躇がないどころか笑顔で憲兵撃てるところからして、紛れもなくイェーガーの血筋である。憲兵はのろいから当てるのがベリーイージー。

 ブレードとか格闘技とか超野蛮。どこの蛮族ですか? もっとスマートに爆裂焼夷弾でうなじごとフッ飛ばせばいいんです。返り血もつかないし、狙って撃てばいいだけですよ。

 なおグリシャの銃弾を切れさせると流石に肉体言語に物を云わせる(逆に戦闘能力がアップする)のでそこからが本当の地獄。

※続きは明日。

 書き溜めあるんだけど、PC調子悪くてどうにも投下速度が遅かったので時間切れ。

 すまんこ。略してま○こ。

 私の相方となりうるま○こまんってどこにいるんだろうだろうね。

※ま た 新 潟 か

 今から行ってくる。 今 か ら だ 。

 何やらかしたか知らんがただじゃおかねえ

信じらんねえよ。今からだぞ? 頭おかしいんじゃねえの。
日付変わっちまうわ
ファックファック

最近そこにアシハラの呪いも追加されそうだぞ

※事務兼任でな。年の瀬は地獄めいて忙しい。
 来週辺りになるかなぁ。忘年会はいらなければ

久々にコメ返し
>>663
 ハンネスさんはシガンシナ区の駐屯兵団の統括責任者として団長
 小鹿はトロスト区の駐屯兵団団長兼任アルミンのストレス解消役

>>737
 あれ、私首がストレートネック気味で慢性頭痛と肩こり持ちって言ったっけ?
 ニュータイプ? ニュータイプなの?

 それとみんな、保守ありがとうねえ。
 仕事で疲れてても、楽しんでくれると思うと嬉しいよ
 ここが変とか、ここはどうなん? っていうのはバンバン下さい
 残念ながら絶対採用ってわけにはいかないけど、より面白いモンかけると俺も嬉しいし読む人も嬉しい

※オレノカラダハドボドボダ!
 明日投下ねー
 年内に終わるといいなあ ち○こまんだもの ち○こ


………
……


コニー「………戦ってんの、グリシャじゃん」


 呆れたようなコニーの声に、驚いたアルミンが同様に単眼鏡で確認してみれば、遠見に映るのは、若き日の親友に瓜二つの外見をした少年兵が敵の首を刎ねたところだった。


アルミン「あ、あの××××一家が………引きこもってろって指示しただろうがッ……!! おおい、ハンネスさん! どういう状況ですかッ……!!」


 怒鳴りつけるように水晶球に呼びかけると、数秒の後に返答が返る――――それは予想外の人物だった。


ミカサ『アルミン?』

アルミン「ミカサ!? ちょ、君の息子何やってんの? 何やってくれちゃってんの!?」

ジャン「なんで壁の上で憲兵相手に大立ち回りやってんだよ、おまえの息子!」

ミカサ『私とカルラ、そしてグリシャで捕虜の奪還に向かった。が、無事に捕虜を救出できたものの、追手が多勢に無勢だった……ので、グリシャを置いてきた』

アルミン「いみわかんねえ」


 アルミンが理解できないのだ。その場の誰もが理解できなかっただろう。


ミカサ『つまり、こういうこと』


 ミカサ「てきのぞうえんだ」

 カルラ「すごくおおいわ」

 グリシャ「こっちは多くの負傷兵を抱えています。ここはひとつ諦めて僕たちだけでもシェルターに」

 ミカサ「ぐりしゃ、ここにのこっててきのあしどめをなさい」

 グリシャ「ファッ!?」

 カルラ「いぇーがーけのちゃくなんたるもの、このぐらいのくきょうはゆうきとがっつでなんとかしなさい」

 グリシャ「ハァッ!?」

 ミカサ「だいじょうぶ。わたしやあなたたちのおとうさんのくぐってきたしゅらばは、このぐらいじゃぬるい。あなたはつよい。すごくつよい……ので、きっとなんとかできる。なんとかしなさい」

 カルラ「じゃ、あとはがんばんなさいねー、ぐてい。しんでもいいのよ? ほまれよ?」

 グリシャ「」


ミカサ『……ということ』


 一同は絶句した。当然である。


アルミン「つまりアレか? 単騎での制圧力に優れるグリシャを殿(しんがり)に、シェルターに戻った、と?」

ミカサ『おかげで捕虜になった人たちは全員無事』フンス

サシャ「鬼ですかアンタ。流石にゲンジもドン引きするレベルですよ」

ジャン「グリシャの野郎、不憫すぎる……!!」

コニー「言ってる場合かッ……! 見る限りグリシャの動きが悪い! さっさと助けに行くぞ!」

リヴァイ「そうだな。幸か不幸か、グリシャの奮闘は敵の注目を一身に引き付ける囮としての役割を担ってる。この隙に、一気に壁への距離を詰める。あわよくばそのまま壁上に陣取るぞ」


 リヴァイが言うが早いか、シガンシナ区へ向かって兵たちが走り始める。

 後に『百人切り』という異名にて畏れられるグリシャのデビュー戦は、あまりにも悲壮漂うものであった。


……
………


………
……


https://www.youtube.com/watch?v=1n1ShqUSqdM


 グリシャが壁の上に登ったのは、追い詰められたが故のことではない。

 壁の上にいる限り、地上に張り付いたままの憲兵たちからの狙撃の心配はなく、決して広いとは言えない壁上にいる敵にのみ意識を集中させることができる。

 立体機動装置のガスをいたずらに消費することもなく、戦い続けることができる。

 されど、それは所詮は机上の空論に過ぎない。 あまりにも多勢に無勢。

 戦力比が500:1000ならば、突破の浮き目もあろう。

 しかしそれが200:1000ならば? それどころか、100:1000ならば?

 まして、1:1000ならば?

 前者に勝ち目はないだろう。弄りに嬲られ殺されるのが常道の理である。

 だが――――。


グリシャ「それを覆せてしまうのが、母方のアッカーマンの血ですかね。我ながら怖い怖い」


 グリシャの保有する弾薬が尽き、グリシャが銃を投げ捨てた瞬間、彼を包囲する憲兵は心底安堵しただろう。既に何十人という憲兵が、グリシャの銃弾の前に倒れているのだ。

 これで、人質を確保できる、と。

 ――――とんだ勘違いもいい所である。


グリシャ「弾薬(たまぐすり)が尽きたか。では、後は肉体言語で語るのみ」ボキッゴキッ

憲兵「え?」


 イェーガー家子息の卑劣な方の弾薬が尽きたら用心しろ、とは、訓練兵団での語り草になっていることを、憲兵たちが知る由もない。


 ――――悪夢の始まりであった。


 銃火の海を、殺した憲兵の肉でもって防ぎ、接近し、首の骨を捩じり、殺す。

 敵の銃を奪い、撃ち、殺す。

 敵の剣を奪い、振るい、殺す。

 交差する剣は、甲高い音を鳴り響かせることはなくすれ違う。鳴り爆ぜるは、肉を切り裂き骨を断つ、奪命の響きのみだった。


グリシャ「落ちろ、カトンボ!」

憲兵「ぎゃああああああ」


 時に憲兵たちを壁外へと蹴り落とすさまは、さながら地獄の窯に亡者を突き落とす鬼の様相であったと言う。

 半ば恐慌状態に陥り、躍りかかってくる憲兵の刃を滑るような歩法で躱し、すれ違いざまに撫ぜるように首を落とす。

 銃を持つ者からは銃を奪い、即座に狙って引鉄を引く。額の風通しが抜群に良くなると各憲兵から断末魔という絶賛が雨あられであった。

 ただただ正確にそれを繰り返す。

 機械的に簡略化した、最適の行動を最適のタイミングで最速の速度にて繰り出す。

 肉体を百パーセントの精度でコントロールできる武家の名門アッカーマン、その傍系とはいえ、女子よりも体力・筋力共に優れる男児たるグリシャ・イェーガーならではの魔技であった。

 次第に憲兵たちは、グリシャを中心に十数メートル以上の距離を取り、誰も近づくことができないようになった。

 近づけば、切られる。

 銃で撃っても死体を盾に突っ込んでくる。

 砲で撃ち殺そうにも、壁上に陣取られては砲台の準備もままならない。そもそもそのような準備をさせてくれるような甘さが、グリシャにはない。


憲兵「こ、こんなもの、こんなもの、どうやって人質にしろってんだッ!?」

 誰も答えようがない悲鳴染みた疑問に、しかし、答える声があった。


ジャン「――――そんなものがありゃ、オレが聞きたい」

憲兵「え?」


 振り返った先、憲兵たちが見たものは、


コニー「あの世があったら、神様とやらに聞いてこいや」

サシャ「まあ、尤も? それが聞けたところで、貴方達が戻って報告できるかが問題ですけど」


 長大な鋼の剣の切っ先と、鷹の目の殺意に満ち満ちた嚆矢の煌き。そして、


アルミン「どいつもこいつも串刺しだ」


 石槍が、そこかしこの壁上の床から生まれ出で、己の肉を貫く凄惨な結末。

 それが、彼らの観た最後の現世の光景だった。


……
………


………
……



グリシャ「ッ、はッ………はぁッはあッ………お、そッ、はぁッ、ゲホッ………おッそいんですよ、司令長官!!」


 調査兵団たちが――――正しくはアルミン・A・スミスが―――――壁上の憲兵たちを一掃したことを確認した直後、グリシャは糸が切れたように膝をついた。

 呼吸は激しく乱れ、大量の汗で疲労困憊の状態だ。


アルミン「そうか。それは悪かった。待機命令を無視した君らの軍令違反と相殺してチャラとしよう」

グリシャ「クソったれやっぱりそう来ますか! だからイヤだっつったのにッ! あの馬鹿姉は聞きゃーしやがらねえッ!」


 悪態をつくグリシャに、アルミンは苦笑しつつ、その頭を撫ぜる。


アルミン「――――よく持ちこたえてくれた。後は、私たちに任せろ」

グリシャ「ッ………はい」


 柔らかな笑みを象る口元に反し――――アルミンの瞳には、地獄の業火を思わせる昏い光が灯っているように見えた。


https://www.youtube.com/watch?v=D2uqpqrYmMY


 憲兵たちは、仰ぎ見る。

 壁上を覆い隠すように、居並ぶ調査兵団の兵たちを。

 そして、内地側の門の直上――――そこに居並び、己たちを見下ろす者達の姿を。

 彼らは、今や三兵団中で最大の兵力を有し、粒揃いの調査兵団はおろか、壁内世界すべての人類を含めても指折りの精鋭中の精鋭、その五名だった。


 調査兵団十五代団長『遠慮深謀』ジャン・キルシュタイン。

 調査兵団弓兵長『魔弾の射手』サシャ・ブラウス。

 元調査兵団兵長『人類最強』リヴァイ・アッカーマン。

 元調査兵団高速機動部隊長『人類最速』コニー・スプリンガー。

 そして――――かつて、調査兵団十四代団長であり、現司令長官たる――――。


「ア、あ、あッ、アルッ、アルレルト………アルレルトが、いるぞ………」


 その人物を確認した誰かが、震えた声で叫ぶ。


「『死神』アルレルトがいるぞォオオオオオオオオオオッ!?」


 それは、まぎれもなく悲鳴であった。


「ほ、本当だッ……あの金髪に眼鏡……冷たい目、アルミン・アルレルト・スミスだッ!!」

「あッ、あの、『串刺し』かッ!? 百を超える巨人どもを、軒並み石槍で串刺しにして回ったっていう!?」

「聞いたことがあるぞ……現王政の最初期の、千名からなる反乱軍を、怪しげな術で捕えて、巨人の餌にした悪魔かッ!」


 悲鳴は人づてに伝播し、恐慌という波紋を広げていく。


リヴァイ「大人気だな、死神殿?」

ジャン「プ、クク、死神……よりにもよって、おめーが死神とかな……」

コニー「間違っちゃいねえ。間違っちゃいねえんだけどよ。あ、ごめん、笑うわ。ぶわははははははは!」

サシャ「プギャーーーー!」

アルミン「解せぬ」


 『死神』アルミン・A・アルレルト。石壁の符を『改良』し、実戦投入した試験部隊『魔術兵隊』の初代隊長でもある。

※×:『死神』アルミン・A・アルレルト。
 〇:『死神』アルミン・A・スミス。

 許せサスケェ……これで最後だァ……。


 完全に調査兵団に包囲された状況。

 人質は一人も確保できず、交渉すらままならない。

 ならば、どうする。


ロッド「………憲兵団長を呼べ」

憲兵団長「は、はッ! ここに!」

ロッド「………交渉の準備だ。おまえが彼奴等に呼びかけろ」

憲兵団長「は………は? わ、私が、でありますか?」

ロッド「そうだ」

憲兵団長「ッ………か、かしこまりました」


 小物ではあるが、愚物というほどでもない憲兵団長は、ロッドの狙いを悟る。

 ―――己に時間を稼がせ、逃げる算段をつけるつもりか、と。

 内側で怒りの感情を抑え込みつつ、しかし冷静な部分では、どのみちそれしか方法がないと感じてもいた。

 戦力差は明白。まして相手は精鋭中の精鋭。戦って勝てる相手ではないことは目に見えている。

 ロッド・レイスと同様、憲兵団長もまた明確な『詰み』を感じていた。

 ―――ならば、交渉を持ちかけると見せかけ、ロッド・レイスを生贄に、己を含めた憲兵たちの助命を嘆願する方が利口か。

 内心で今後の算段を立てつつ、彼は内地側の門の前へと馬を走らせる。



 ――――そんな『今後』など、最初から存在しないことを、考えもせずに。



……
………


………
……



 眼下の門前に、憲兵の長を示す隊服を来た人物が馬に乗って現れるのを確認したリヴァイは、滅多に人前で見せることのない笑みを――――苦笑を浮かべた。


リヴァイ「く………どうやら奴等、叛徒の分際で問答がお望みのようだ」

ジャン「どうする、アルミン。問答ならオレかおまえが――――」

アルミン「馬鹿め、と言ってやれ」

ジャン「何?」

アルミン「馬鹿めだ。サシャ、やれ」

サシャ「諒解。司令長官殿」


 口元を弧月の形に裂けた笑みに彩らせ、サシャ・ブラウスは、


憲兵団長「―――――申し上げる! 私は憲兵団の長の」


 その『獲物』に、躊躇なく弓を引く。

 ストンと、乾いた音が響いた。


憲兵団長「………あ?」


 己の胸元、左胸の位置に、矢が突き刺さっている。

 思えば――――思い返してみれば、この心臓を捧げた王は、王とは、本当に王たる器を持つ人物であっただろうか。

 そんな思考も、すぐに薄れていく。

 ばちばちと火花を散らせる導火線から発せられる火薬の匂いが疑問を打ち消し、そして。



サシャ「ゲンジバンザァアアアアイッ!!」



 ――――炸裂する。

 憲兵団長を中心に、護衛として控えていた憲兵たち十数名を巻き込み、盛大な肉の花火が飛び散った。


アルミン「サシャめ………馬鹿めと言えと言っただろうに」


 轟音の後、一瞬だけ静寂に包まれた壁内に、呆れたようなアルミンの声がよく通った。


アルミン「どうした。何を呆けている、憲兵ども」


 冷たい、鋼の声でアルミンは語る。


アルミン「一体いつからここが、シガンシナが、私たちの故郷が、貴様らの領土になった。

     ここを取り戻したのは断じて貴様らではない。

     調査兵団(わたしたち)と、漂流物(ドリフターズ)だ。

     我々の戦果だ。土足で踏み入ってきた強盗や強姦魔どもの話を聞いてやる道理があるのか?」


 否、とは言えなかった。言わせぬと、アルミンの瞳が語っていた。


アルミン「貴様らはいつもそうだ。我先にとばかりに権益という蜜に群がり下品な音を立てて啜る。家畜どころか、まるで虫けらだな。

     貴族や憲兵の流儀(マナー)というのはいつもそうだ。それを躾(しつけ)に来たのが私たちだ」

コニー「その通り。けどな? お行儀よく説教しに来たわけじゃあねえ。

    物の道理を知らんまま糞餓鬼から無駄に歳食っただけの連中に物を分からせるのに、最も手っ取り早い方法が一つある」


 コニーが、左腕を天に掲げる。


 背後に控えた、西洋鎧の具足にも似た装甲で、両手足を覆う兵達――――高速機動部隊が、抜剣する。


サシャ「痛みです。この上ない激痛を贈って差し上げましょう」


 サシャが右手を掲げる。

 背後に控えた弓兵隊が、一斉に矢を引き絞った。

 ―――事此処に到り、憲兵たちの誰もが悟った。


アルミン「いくら脳味噌が退化した貴様らでも、己の腐った臓物が腹から零れ落ちる様を目の当たりにすれば、少しは反省というものを覚えてくれるだろう? ――――その反省は」


 これは、降伏勧告ではない。

 もはや、その段階にはない。


リヴァイ「来世で活かせ。腐った脳味噌が詰まった頭を支えている――――その首だけをおいていけ」


 これは――――ここは、『処刑場』なのだと。


サシャ「貴族の椅子の座り心地というのはそんなにいいものですか?」

アルミン「何、もっと単純な話だ。肥え太った尻が納まる椅子なんぞ、貴族用の特注品ぐらいしかない」

コニー「なるほど。じゃあ少しばかり納まりが良くなるように、ダイエットのお手伝いをしてやるわけだ」

リヴァイ「そうだな、地獄の窯に落とす前に、縁でつっかえそうな腹とケツの肉を削ぐ命がけのダイエットだ」


 上層陣は非常に怖い会話をしている。

 それをやや距離を取った位置で見る人物がいる。ジャン・キルシュタインだ。


ジャン(前略オフクロ様。ジャンです。内地で元気にやってますか? お陰様で今年で調査兵団の団長になってから早三年が経ちました。

    仕送りから察していただけるように給料はいいです。十五年前当時の憲兵団師団長より高給取りです。

    ――――だけど、相変わらず部下も上司も狂人だらけで中間管理職としての寿命がマッハ。生きてるのが凄くツラい。

    あとミカサが振り向いてくれません。エレンはいつか事故死させる)

黒髪美少女副官モブ「ジャンさん? どうしたんですか、そんな遠い目で」

ジャン「帰りたい。ベッドでひたすら膝を抱えていたい」

黒髪美少女副官モブ「敵の前で何をヌカシてんですかアンタ」


 アルミンの両手が天に掲げられる。

 その手が振り下ろされた瞬間、粛清という名の虐殺が起こる、その直前だった。


ロッド「そこまでだ。調査兵団」

アルミン「――――ほう。裸の王様がやってきたぞ」


 ロッド・レイスが、門の元へと訪れた。


ロッド「直ちに兵を引け。あくまで徹底抗戦の姿勢を崩さぬと言うのであれば、こちらにも考えがある」

アルミン「本能で動く豚に考えなどという上等な文化があるとは思えんが、どんな愚考かな。言うだけ言ってみたまえ」

ロッド「――――外界側の門に、ありったけの爆薬を仕掛けている。私の合図一つで、門は吹き飛ぶぞ」

アルミン「やはり愚考だったな。あの門は特別製だ。今や超大型巨人の蹴りにすら数発耐える強度を持つ。貴様らの持つ火薬程度では傷一つ付かん」

ロッド「そう思うのならば、その両手を下ろしてみるか」

アルミン「―――――――」

ロッド「――――――」


 アルミンは十中八九それは『ない』と踏んでいる。

 だが、十中の一か二はそれが『ある』可能性を否定できなかった。

 石壁の符を数十層重ね、十数年にわたって補強を繰り返してきた門だ。

 ここ数年はアルミン自身の立場もあり、壁の補強工事は魔術兵隊の部下に一任している。


 ――――仮に強度的に脆い箇所を正確に爆破したならば?

 ――――仮に劣化した箇所に集中して爆薬を設置したならば?


 その疑問がぬぐえない。

 それこそがロッド・レイスの策に嵌っているのだと、理解しつつも可能性自体は否定できない。

 故に、アルミンは思考する。仮に壁が爆破された際の被害、流入してくる巨人らを再度排除するリスクなどを。


 ――――だからこそ、『それを考えることで生まれる隙』までもが、ロッド・レイスの策であると、見抜けない。


 ロッド・レイスが徐々に徐々に、内地側の門へと距離を詰めている事実に、気づけない。

 そんな時だった。破滅のタイミングは、いつも唐突にやってくる。


 外界側の壁に立っていた一人の兵士が、背後からの異音を察知した。

 否―――正しくは、あまりにも『静かすぎる』が故に、その音に気付いたのだ。


兵士A「おい、どうした?」

兵士B「………嘘だろ? 見てみろ」

兵士A「何がだ? いつもの壁外だろうが?」

兵士B「どこがだよ? そりゃ、いくらか数は減っても――――」


 おさらいをしよう。

 二十年前、超大型巨人らに生存圏を奪われたウォールマリアは、十五年前に奪還され、再び人類の領土となった。

 壁内の巨人は悉く駆逐され、今や巨人がいるのは外界のみだ。

 『最前線』たるシガンシナ区の外には巨人がいる。

 それが、人類の共通認識だ。しかし。


兵士B「――――なんで、壁の外に巨人が一匹もいねえんだよ。最前線だぞ、ここは」


 そして兵士らは、外界側の門を見下ろし、それを見た。

 破滅の音を響かせる、その元凶を。


兵士A「あ………!!」

兵士B「ああ………!!」


 それを見た兵士は、声を上げた。


 ――――歓喜の、声だ。


 故にこそ心せよ。改革を否定する豚たちよ。

 破滅の謳い手は勤勉で、愚直で、悪因悪果の概念を体現する者であり。

 惰性を貪る豚を、誰よりも嫌う―――理性持つ化物である。

 そして思い出せ。巨人を殺す餓狼たちよ。

 此処に二十年の長い悪夢を終わらせる、誰にも消せない『進撃』の詩を歌う者がいることを。 


 ――――全ての巨人が、人類に敵対するとは限らないことを。


 ――――内地側へも、その音が届き始めた頃、真っ先に異変を察知したのはジャン・キルシュタインだった。

 そして、その異変の原因すらも。


ジャン「ッ………き、来たか。来ちまったか、ウチの最終兵器が」

黒髪美少女副官モブ「え? 最終兵器! なんかスゴそうじゃないですか………って、なんで顔色悪いんですジャン団長。なんなんですかその最終兵器って」

ジャン「誤った運用をすれば最悪の場合世界が終る兵器、略して最終兵器だ」

黒髪美少女副官モブ「ぽんぽん痛いのでおうちに帰っていいですか」

ジャン「俺も胃が破れそうだ……ぶっちゃけ一緒に逃げるか? 死ぬときは一緒だぜ」

黒髪美少女副官モブ「そーゆーのは、もうちょっとムードのある時に言って欲しかったです、ジャンさん」

ジャン「は?」

黒髪美少女副官モブ「…………なんでもないですよ」

ヒストリア(ラブ臭い。おのれ、ジャン。フラグ立ててたのか。私に断りもなく? もげろ。いや、もぐ。もごう)ガタッ

リヴァイ「座ってろ。お前の出番はまだ早い」ガシッ

ヒストリア「あぅ」


 リヴァイが壁上の隅でこっそり控えていた女王陛下を押さえ付けた、その瞬間だった。


 破滅の音は、明確な叫びとなり――――物理的な衝撃を伴った、爆音を炸裂させた。


ロッド「な――――」

アルミン「何―――――」


 ロッド・レイスは振り返り――――それがなんであるか理解する前に、いち早く『それ』の進行方向からの全力離脱を行った。

 間一髪、『それ』は再びの轟音を掻き鳴らしながら、内地側への門へと激突する。

 パラパラと降り注ぐ石片や砂埃を浴びて、薄汚れたロッド・レイスには、何が起こったのか理解できない。

 アルミン・アルレルト・スミスは――――否、最初から外界側の門へと対峙していた彼と、兵達は、全てを見ていた。


アルミン「が、外界側の門が―――――」

サシャ「内地側の門に、吹っ飛んできた………」

コニー「だ、ダルマおとしにしちゃ、ちょっとパワーが強すぎねえか? すんげえ火薬だな」

ジャン「馬鹿野郎、そんなわけあるか………こんな馬鹿げたこと、思いついて実行する馬鹿は、あの野郎しかいねえよ……!!」


 ジャンが睨みつける先、進行上の全てを薙ぎ払った外界側の門が吹っ飛んできた始点――――砂埃が舞う入り口に立つ、人物のシルエットが浮かび上がる。

 いびつなシルエットだ。

 人型のそれであるのに、『右腕』だけが異様に大きい。

 人型そのものは一般的な成人男性より高めの身長のそれだが腕は、肉体の数十倍はあろうかという長大さ。

 さながら巨人の――――否、それは巨人そのものであった。

 そしてそれは人型からトカゲの尻尾のように切り離され、蒸気を上げて消えていく。

 そこで、コニーとサシャも、そしてすべての兵士が気づいた。

 アルミンは吐血した。
 

コニー「ッ、来たか! 出待ちか兵長! 狙いすましたようなタイミングで着やがってよう!」

「――――ああ、済まねえな司令。どこぞの性根の腐った腹黒野郎の姦計に嵌ってな」

ジャン「ッへ。そのまま北の僻地でぼんやりしてても良かったんだぜ。おめーの嫁さんはオレが慰めてやっから」

「……? そうか。まあ、なんだ。ガンバレ」

ジャン「」ピキピキ


 砂埃と蒸気の幕から、少しずつその人物の姿が浮かび上がってくる。

 そして、兵士たちの歓声また、少しずつその音量を上げていった。


「―――――また壁が壊れたか」


 ぽつりと、呟く。


「全く、何が絶対に壊れないだ。オパイーヌの嘘つきめ。存外脆い―――――また内地側の門が無くなってしまったぞ。

 まあ結果的に外壁側の厚みが二倍になって防御力アップだな。ならばよし」

サシャ「いや、そのりくつはおかしい。内門から外門まで二キロはあんですよ!?」

「全く最悪の気分だ」

エルヴィン「おや、これは珍しい。壁内最恐の片割れが弱音を吐くなんて、明日は槍でも降るかね」

「言うぜ、総統。愚痴の一つも吐きたくなる、これを見ろ。酷い様だ。もう十五年だ。あれから十五年も経って、未だこんなところで足止めか。

 同じ人類と思いたくもない連中に足を引っ張られ、その尻拭いを俺にやれとは、アルレルト司令をはじめ、総統閣下は実にいいご趣味を御持ちでいらっしゃる」


 調査兵団の隊服の上から、背に調査兵団のシンボルマークである『自由の翼』を背負う外套を羽織っている。腰には使い込まれた、少し傷の目立つ立体機動装置が装備されていた。


 そこまでは調査兵団の兵士としては標準的な装備であった。


憲兵「あ、あ、あ………」


 調査兵団の兵士の歓声が高まると同時に、憲兵たちの絶望の声が、一秒ごとに高まってくる。


「つくづく俺たちは故郷が鬼門になる」


 彼の人物が身に着ける外套の左胸――――心臓の位置には、『轡十字』の刺繍。

 裾から覗く左腰に、同様に轡十字の家紋の入った刀―――壁内で現在生産されている『カタナ』のオリジナル『宗近(むねちか)』―――を帯びている。

 宗近の語呂から『胸に誓う』と掛け、彼は左胸にその刺繍を施している。

 胸に誓うは、兵士の誇り。そして己の夢。


「因果なものだ。全く度し難い残酷物語だ。飽き飽きだ。だから」


 砂埃と蒸気が完全に晴れ、彼の姿は白日のもと、完全に晒された。


「これは単なる八つ当たりだ。二十年分のストレス発散だ――――だから」


https://www.youtube.com/watch?v=thTQEYdcYMI

 歓声が爆発した。

 兵長。

 兵長。

 兵長殿。

 波紋のように調査兵団の兵たちが、軍靴を鳴らし、彼の者の名を叫ぶ。


 兵長と呼ばれた彼の口元が三日月に裂け、笑みを象る。


「加勢してやる。続け兵士共、家畜狩りの時間だ」


 悲鳴が上がる。

 兵長。

 兵長。

 あの、調査兵団の兵長が。 人類最強の後継が。

 区内の貴族たちが青ざめた顔で現実を嘆き、彼の者の名を叫ぶ。


「首切り兵長」

「憲兵殺し」

「金眼の獣」

「不死者」

「鉄血の変革者」

「轡十字」

「――――――――――進撃の巨人!」


 黒髪に金色の瞳。 十五年前よりも遥かにたくましく成長した姿は、歴戦の戦士としての威厳すら滲ませていた。


「「「「エレン・イェーガー!!!」」」」


 居並ぶ憲兵たちの叫びに、エレンは、


エレン「五月蠅い。家畜が喋るな」


 一言に臥す。

※今日はここまで

 ねむいんじゃよ

※明けましておめでとうございます
 今年もエレン「ドリフターズ?」をよろしくね!(そして今年で終わるといいなあ)
 今日か明日あたりに投下予定です

※お年玉? ンモー、しょうがないな。
 久々に安価の時間だオラァ!

1.ある日のイェーガー家
2.女神クリスタからのお告げ
3.山奥組の悲嘆

 どれでもえらべどれかをえらべ
 なお、どのみち本編終わったらおまけ投下しようとしていたものの抜粋なので、先行投下というやつです

 ↓10まで多数決。同数票の場合は早い者勝ちで

※ことよろ!

 じゃあ2の女神クリスタからのお告げね。

 あたりを引いたね

 1番は短め、3番は地雷。やっぱハッキリわかんだね

 21時ごろから投下開始予定


【おまけ~女神クリスタからのお告げ~】


 アルミン・アルレルト、改め、アルミン・アルレルト・スミスは精子、否、生死の瀬戸際に立っていた。

 ある意味で精子で正しいが笑えないことに生死でも正しいのだ。

 王宮の一室。

 天蓋付きキングサイズのベッドと一枚の羽毛布団、そして二つの枕だけが存在する空間。

 そのベッドの上に、アルミン・アルレルト・スミスは横たわっている。


 ――――半裸のヒストリア・レイスにのしかかられながら。


 うっすらと笑みを浮かべたヒストリアは美しかった。しかしアルミンの股間の榴弾頭は、ヒストリアの白魚の如き細指に絡めとられており、それに見惚れるどころではない。

 潰すも可愛がるも、ヒストリア次第という、まさに精子と生死を賭けた闘争の真っ只中である。

 要は「僕は彼女に逆らうことができない。ち○こを握られている!」状態であった。


アルミン「バナナ! じゃなくて、罠だ! これはヒストリアが僕と既成事実を作るための罠だ!」


 実際その通りであった。


ヒストリア「んふふ………あーるみん。子作り、しましょ?」

アルミン「ヒ、ヒストリア、さん?」


 ゆるゆるとソフトタッチをするヒストリアの手つきは、不慣れながらも中々の手際であり、アルミンとしても満更ではなかったが、

 そのテンションに流されれば今後の人生は決定してしまうのは確定的に明らかであった。

 どうしてこうなった。

 どうしてこうなった!

 時はロッド・レイスを誅殺してから、およそ数週間後。

 世に平穏が戻り始めた頃、つまりアルミンが油断した頃を狙いすましたかのように、特大の厄ネタがやってきた。


 さて、現在絶賛大ピンチ中のアルミンがち○こをにぎにぎされる一週間ほど前へと時は遡る。



……
………


………
……



ヒストリア「私は………激おこだよ!」


 クリスタ・レンズ改め、ヒストリア・レイスは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐の司令長官と既成事実を作らねばならぬと決意した。

 ヒストリアは政治が分からぬ。しかし彼女は女王で、最高の血統と最大の権力を同時に保有し、しかも軍権すら意のままにできる時の権力者である。優秀な宰相たるダリス・ザックレーやドット・ピクシスといったエロジジイが補佐をしてくれるため、現王政は民からも歓迎されている。

 その胸囲はいささか貧弱だったが、未だ十代と見まがわれるほどの美貌は確かであり、彼女を伴侶にと望む男性たちは数知れず、幾度となくプロポーズを受けたこともあった。

 そこまではいい。百歩譲っていいとしよう。


 だがしかし、ヒストリアは未だにおぼこであった。


 未通女。性交渉の経験がない女性のことである。ヒストリアのそれは筋金入りで、キスどころか異性と手をつないだこともないピッカピカのバージンだった。需要があるのかこんなもの。少なくともち○こまんのち〇こはぴくりともしない。

 今はまだお見合いや婚約の申し出がひっきりなしではあるものの、実は年々その数が少しずつではあるが、確実に減ってきている。

 いつの世も女性が男性からちやほやされるのは美貌を保てる間だけのことであり、それ以降に擦り寄ってくる男は財産や権力目当てのハイエナであることは万国共通、世界が変わっても通用する常識である。

※あ、ごめん。

 なんか地の文に俺のコメントはいっちゃってた。あまり気にせんといて


 生憎とヒストリア・レイスは女王だった。反抗勢力を叩きつぶし、不当に富を搾取していた貴族を廃した結果、壁内で一番の金持ちである。

 ヒストリア自身が政略結婚をかたくなに拒む以上、選べる男は自ずと限られてくる。だというのに絶世の美貌まで生来持ち合わせていたのが、ある意味の不幸である。

 何より、ヒストリア・レイスはかの天魔鬼神の司令長官に御執心である。今更別の男に靡けるほど、彼女の心は柔軟でもなければ移り気でもなかった。ヤンデレ気味なのに目をつぶれば普通にいい女じゃね? ち○こまんのち〇こがやや力を取り戻す。

 しかし、そんな美貌のヒストリア・レイス(三十歳おぼこ)も、あと十年もすれば発酵臭を醸し出すようになるだろう。

 綺麗に膜が残っているが、蜘蛛の巣が張るのも時間の問題。三十路になればもう十年後などあっという間だ。熟れ切った果実は、もはや腐れ落ちるのを待つばかりである。


ヒストリア「大きなお世話だ! ミサトさんディスってんじゃねーぞ!」


 とうとう地の文にすら突っ込むようになり、喪女街道を絶賛邁進中の女王(処女)である。あとミサトさんは非処女だからリア充だよディスってねーよ。

 処女で三十路突入という女としての消費期限が間近に迫る今日この頃、ヒストリアは、傍目に分かるほど焦っていた。

 朝の日課であるモーニング・ビューティー・タイム(※1)にも、いささか陰りが見えるほどである。


○現在公開可能な(独自設定)情報

 【モーニング・ビューティ・タイム】

 放課後ティータイムや強姦後ティータイムの亜種。

 全身を映せる姿見の前で全裸になって紅茶を片手にポージングをしつつ、鏡に対して以下のような例の一人芝居を行う。

 ヒストリア『鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのはだぁれ?』

 鏡(ヒストリア)『それはヒストリア様、貴女でございます(裏声)』

 ヒストリア『えへへ、そうよね!』

 鏡(ヒストリア)『……今はまだ、ね(愉悦)』

 ヒストリア『叩き割るぞてめえ』

 これを行うことで心の平安を保ちつつ、自虐ネタを挟むことで現状への危機感をキープするという、見た者の心に一生涯に渡って消えぬ傷を刻む概念を秘めた儀式魔術の一つである。

 どの道、この儀式を見た者は故意・過失の是非を問わず元調査兵団の精鋭だった現近衛兵(20歳女性。彼氏持ちで翌年結婚予定)にケジメされる。

 なお、近衛兵(ほぼ女性オンリー。全員彼氏・夫持ち。ルックスもイケメンだ)は女王から酷く冷遇されている。

 が、彼女らはその原因が未だにわからず、むしろ至らぬ自分たちをより奮起させようと女王陛下は心を鬼にされているのだと前向きに勘違いをした結果、忠誠心は天井知らずに上がりまくっていた。


 かなり情緒不安定で御乱心気味の様子は、臣下たちにも一目瞭然であった。

 補佐官のミケ・ザカリアスとナナバ・ザカリアス(夫婦。子持ち。未だにラブラブ)の悩みの種であるが、

 ヒストリアの前で空気読まずにイチャラブを繰り返す自身らがその奇行に拍車をかけている最大の要因であることには気づいていなかった。

 大丈夫かこの王政。あ、この女王、何気に天然もののパイパンである。股ぐらがいきりたつ。


ヒストリア「ちょっと!? 私のモーニング・ビューティ・タイムを邪魔しないで! それと実況するな! 金取るぞ! 国家予算クラスで!」


 残念ながらこの女王、そのサーモンピンクの乳首ほど綺麗な色をした性格ではないようだ。股ぐらが萎えてきた。

 ヒストリアは、王の末裔にして女王である。しかしかなり悲惨な幼少期を過ごし、兵士として人生を歩んできた。

 けれども男っ気に対しては、人一倍に無縁であった。三十路にして処女である。


ヒストリア「三十路三十路うるさいよ! 何度も何度も嫌味かバカヤロウ!」


 嫌味ではなく事実であった。

 ヒストリアはアルミン・アルレルト・スミスに恋をしている。もう十年以上も想い続けている――――もはや恋というより妄執とか怨念に近いんですがそれは。

 なのになぜだ。なぜかあの男は、あの傍若無人の司令長官は、ヒストリアには靡かないのだ――――主に女王という立場が原因だとヒストリアは未だに気づかない。


 そういう訳で。


ヒストリア「こうなったら、一つ策を使うよ……!」


 どうせロクでもねえ愚策であろう。

 とにかくそういうことになったのだ。



……
………


………
……



 そして一週間後、ウォールシーナの王都、その中央に聳え立つヒストリア・レイスの居城、通称【魔城・ガッデム】には、調査兵団の重鎮たち(とその家族)が勢ぞろいしていた。


ヒストリア「という訳で、結婚、戦略ー!」

アルミン「何がという訳で、なんです?」

エルヴィン「調査兵団の上層部を召集したかと思えば、一体なんだと言うのです」

ダリス「ち○こ痒い」ポリポリ

ピクシス「酒池肉林と聞いて、トロスト区からきますた」


 ヒストリアの策はやはり愚策であった。

 とりあえず兵団の主要どころを集めて、なし崩し的に女王の強権使って無理やり結婚してしまおうというものである。

 アルミンのヒストリアを見る目が養豚場の豚を見るそれになっていることについて、ヒストリアは気が付いていない。


ヒストリア「私、ヒストリア・レイスは、アルミンと結婚する! したい! するの! だからみんな、私に協力して! あ、勅命だから逆らったら罪なので罰としてち〇こをもぐ」


 凄く良い笑顔で言う女王だったが、その眼には漆黒の意志に目覚めたジョニィ・ジョースターの如き黒い炎が灯っている。ガチであった。かなり必死である。


アルミン「ハハ、どこのアルミンですかそれ。物好きな豚もいたものですね。ところでお茶のお代わりいただけますか、メイドさん」

傍付きメイド「は、はい。アルレルト司令長官」

ヒストリア「対応がセメントすぎやだぁ!! っていうかメイドォ、誰の男に色目使ってやがる頬染めてんじゃねーよ一族郎党粛清すッぞ!?」

アルミン「結婚結婚って、了承すらしていない本人を前で何を世迷言を。そも僕は貴方のプロポーズは断った筈ですが。なおこれで覚えている限り、今年に入ってから二十二回目です」

ヒストリア「やだやだやだやだ! そんな他人行儀な話し方ヤダ! いつもみたいに優しく話しかけてよ! 耳元で甘くささやいてよ! そのままお姫様だっこでベッドに運んでよ!」

アルミン「正気じゃねえなアンタ」


 間違いなく御乱心中である。


エレン「――――帰る。シガンシナ帰って巨人百体ほどブッ殺してから風呂入ってミカサのメシ食って寝る」

ミカサ「不毛………今日の晩御飯は豪勢に牛ひき肉を使ったチーハンにするから、楽しみにしていてね」

カルラ「やった! 私は剣術の稽古しーようっと」

グリシャ「僕は射撃を」

エレン「巨人化してダッシュで帰っていいか? 長官」

アルミン「普段ならダメだというが、今回は許可する」

エレン「よし、明日の朝には到着できるぞ」


 全身に殺意を漲らせ、真っ先に席を立つのは壁内一の武闘派、今や武家の名門一家の仲間入りをしたイェーガー家であった。

 嫡男を除き政治には疎い者ばかりだが、この一家の反感を買うとロクな目に合わないとは地獄行きとなった貴族たちの言である。


サシャ「王宮に呼ばれたからきっと凄く美味しいディナーのご招待だと思って張り切ってドレスでバッチリ決めて来たのにまさかのお悩み相談ですか。

    訴訟も辞さない覚悟です。ご飯出せオラァ! ご飯出すなら早くしろ! 出さないなら帰る!」

コニー「徹頭徹尾ブレねえなおまえ」


 次に席を立つのは、ウォールマリア東部司令部の司令・コニー・スプリンガーとその嚆矢たるサシャ・ブラウス弓兵長。

 ばっちりおめかししたサシャに対し、コニーもまたスーツにコートという正装だ。

 どちらもルックスは悪くないため、並んで立つと普通に美男美女カップルに見える。ヒストリアのしっと力(ちから)がメーターを振り切るいきおいで上昇していく。

 しかしそこは抑える。愚策ばかりのヒストリアの政治ではあったが、そこはそれ、優秀なサポーターは二人いる。エロジジイでとにかく人間的には許せんが優秀で変態な二人のジジイが。


ヒストリア「エレン。というかイェーガー『夫妻』(殺気を込めて)。貴方達には以前依頼していた品が出来てるわよ。

      サシャ、美味しいものは後で出すから座って。

      コニー、東方司令部の来年の予算を減らされたくないなら座れ」


 その言葉に、背を向けて立ち去ろうとして者たちの脚が止まる。


ヒストリア「ケニーさん!」

ケニー「あいよ」


 呼ばれたケニーが、横長のケースを二丁、エレンとミカサが再び席に着いた前のテーブルの上に置かれ、開かれる。


エレン「!」

ミカサ「こ、これは、まぎれもなく……」


 ケースには、それぞれ一振りの【刀】が納まっていた。


ヒストリア「おトヨさんが用いていた『ニホントウ』の最新式。おトヨさんから聞いた製造法は所詮口頭での問答だったし、当初は模造しても粗さが目立っていた。

      とはいえ、エレンには本物があるからね。今までの粗悪品や数打ちと違って、エレンの持つ『ワキザシ』を解析した『カタナ』造りを専門として十年研究を続けてきた職人に打たせた一品物よ」

ハンジ「なお私監修。切れ味、耐久度、刀身に溢れる品格、全て既製品とは一線を画すよ」

エレン「肥だめの糞のように発酵した思考回路を持つとはいえ、女王は女王。その前で刀を抜いても?」

ミカサ「脳味噌パッパラパーの喪女とはいえ、女王は女王。目の前で抜いても良いものか」

ヒストリア「あーこの夫妻殺してえ。いいよ。鑑てごらんなさい」


 額に血管を浮かせた女王の許しを得た二人は、緊張した面持ちで刀を抜き放つ。


ジャン「―――――ほう」

リヴァイ「む――――これは」


 傍で見ていたジャンとリヴァイも、露わになったその刀身の美しさに、息を呑んだ。


エレン「ほう―――刃渡り70センチほど(二尺三寸ほど)か。黒い地金に、純白の直刃……これは確かに、トヨヒサの用いていたカタナに似ている」

ミカサ「なんて美しい反り……無骨な刃物なのに、カタナとはどうしてこうも美しいのか」

カルラ「あー、お父さんとお母さん、いいなぁ。いいなあ」

グリシャ「僕は銃使いですが、ちょっと浮気したくなるほどの美しさは否定できませんね」

エレン「試し切りをしても?」

ハンジ「そう言うと思って、普通の竹に濡らした藁を撒いたものを用意したから、ご夫婦でどうぞ」

エレン「では」

ミカサ「いざ」


 申し合わせたかのように、二人が同時に刀を担ぐ。

 前方五メートルほどの距離に設置された巻き藁に、惜しみない殺意を注ぎ。


エレン「ッツア!」

ミカサ「チェアッ!」


 駆け出したのもまた同時。


エレン「ッチィリァアアアアアアア!」

ミカサ「ッシャアアアアアアアッ!」


 エレンは真一文字に刀を振り払い――――大体首のある位置を正確に跳ね飛ばす。

 ミカサは唐竹に刀を振り落とし――――人体ならば脳天から股下まで真っ二つに両断する。

 両者ともに、刀の試しを終えて、感嘆したようにため息をつく。


エレン「成程、ワザモノだな」

ミカサ「すばらしい切れ味だ」


エレン「これならば『飛燕』を使わずとも、『鎧』を切り裂けるだろう」

ミカサ「ええ」


 ご満悦のイェーガー夫妻である。

 その様子に、ヒストリアは女王というより女性がしてはいけない類の笑みを浮かべ、アルミンは露骨に顔色を悪くする。

 イェーガー夫妻はこれだけのものを貰えるのならば、女王の我儘一つ叶えるのはさして労苦でもない――――そう判断したのだろう。

 このままではヒストリアの策に無条件で賛同する可能性は極めて高かった。


リヴァイ(カタナか………しかも数打ちではない一品物か。悪くないな、あれ。ちょっと欲しいぞ)ジーッ

ハンジ「ちゃんと貴方の分もあるよ、リヴァイ」

ケニー「ほらよ、リヴァイ。大事に使えよ」

リヴァイ「そうか………ありがとう(やったぜ)」

ハンジ(素直に笑えばいいのに)クスリ

ケニー「………」ホッコリ

モブリット「そこのアッカーマン家、申し訳ないんですがアットホームな空気はよそでお願いします。最近、女王見境がないので」


 憧れのホームドラマめいた暖かい空気に触れ、にわかに膨れ上がる女王の殺意。

 歴戦の殺し屋たるケニーも、流石にその殺意にはのんきしてる場合ではなく普通にビビッた。


レヴィ「ケニーおじさま、レヴィもあれ、欲しいです」

ケニー「ッ………!!」


 だが大天使には通じない。父親に似たのか、小柄な体躯で上目遣いにケニーの顔を覗き込みながら、袖をくいくいと引っ張りおねだりする姿に、ケニーは鼻から愛情が吹き出しそうになったが、表面上は苦笑しつつ、視線でハンジとリヴァイに了承を求める。


リヴァイ「いいんじゃねえか?(いいぞーこれ。悪くないどころか、すごくいいぞーこれ)」

レヴィ「えっ、ほんとう? やったぁー」エヘヘ

ハンジ「ふふふ、もう、親子そろって夢中なんだから、しょうがないねえ」

ケニー「おいモブキャラとやら。この光景を見て何も思わねえのか。超クリエイティブにスケッチしろ。はよ」

モブリット「モブリットです! でもスケッチしますね、なんですかこの可愛い生き物は。同じ人間?」カキカキ


 ヒストリアは良くわからない敗北感に満たされていたが、おおむね満足した。これでアッカーマン家も手中に堕ちたも同然だからだ。


 そして、サシャに至っては、既に陥落したも同然。何故ならば。


サシャ「前菜は?」

傍付きメイド「スプーン料理五種……狩人風パテ・マスタードソース、チェリートマトのカプレーゼ、一口冷製バジリコリゾット、生ハムとグリッシーニ、鴨と野菜のラザニア・トマトゼリー添えでございます」

サシャ「スープは?」

傍付きメイド「カブのポタージュ カプチーノ仕立て・スライストリュフ添え、そして焼きたてのパンでございます」

サシャ「魚料理か? 肉料理か?」

傍付きメイド「どちらも取り揃えております。魚料理はニジマスのポワレ 赤ワインソース・マトロート仕立て。肉料理は牛頬肉の煮込み、秋のキノコとフォアグラソースでございます」

サシャ「チーズは? フルーツはあるんでしょうね? 当然デザートも」

傍付きメイド「お好みのチーズにワイン、そして新鮮なフルーツは各種、デザートは勿論、食後のコーヒーと本日のプチフール・ラム酒のアフォガートまで万事整っております」

サシャ「――――パーフェクトです、メイドさん」

傍付きメイド「感謝の極み」ズパッ


 銀髪を瀟洒に編み込んだメイド服の少女は、優雅に礼をする。そのうちヒストリアは吸血鬼になる運命なのかもしれない。


コニー「あ、いいなそれ。うまそう。俺と弟たちにもくれよ」

アルミン「!?」

傍付きメイド「勿論でございます。スプリンガー司令、そしてご家族の弟様、妹様も」ニコリ

コニー「さんきゅ! うぉ、うンめえなぁ、これ!!」ハグハグ

マーティン「マジうめーこれ。あ、メイドさん。なんか容器に詰めてもらってもいいッス? 実家のかーちゃんととーちゃんにも食べさせてやりたいッス」

サニー「ちょっとちぃにーちゃん、浅ましいよそういうの!」

傍付きメイド「お気になさらず。城の者にあとで届けさせますわ。シェフごと」

マーティン「あざッス! 言ってみるもんッスね」モグモグ

サニー「もー……でも、ありがと、メイドさん」

傍付きメイド「いいえ。お客様のお喜びになることは、侍女の本望でございますれば」

コニー「うめー!」ガツガツ

サシャ「し、しあわせぇ~~~~!」モグモグ


 そして棚ボタ的にコニー・スプリンガーも落ちた。そもコニーは普段からヒストリア寄りで、ヒストリアの味方をしてくれることが多いのだ。


アルミン(―――――いかぬ)


 アルミンは己の不利をここで自覚した。ケツにツララをブチ込まれたような悍ましさと悪寒を感じ、こめかみに冷や汗を流す。

 壁内でも有数の軍権を持つコニー・スプリンガーが堕ち、しかもイェーガー家に、アッカーマン家まで。

 特に後者の二家がヤバい。スプリンガー家は強権を振るうことをそもそも良しとしない。現場の兵士側に立つことを頑なに守り続けたが故に、その立場を強くした。

 故に強行的な手段を好まないが、イェーガー家とコウショウとか面倒くさいからとりあえず殴る、切る、抉る、撃つ、もしくは殺す。そういう蛮族の類だ。

 アッカーマン家はそこまで野蛮ではないが、理性的であるが故に恐ろしい。暗殺とか毒殺とか囲ってボコるとかコウショウ=ジツ(脅迫)とかを得手とする汚いニンジャの類だ。

 敵に回すとメチャクチャ恐ろしいが、味方でも厄介という、両家共に液体状態のニトログリセリンの如き扱い辛さである。

 それがいま、明確にヒストリア側に着いた。これはよくない。非常に宜しくない。

 今や、アルミンにとって頼みの綱となるのは、まだヒストリア側に付いていない有権者であるが―――。


ジャン「………」

エルヴィン「………」

アルミン(ア カ ン)


 つっかえねえ―――――アルミンは内心でヒドい暴言を吐いた。


ヒストリア「はーい! じゃあ多数決取りまーす! 私とアルミンの結婚に賛成する人ー! あ、反対する人は何故か事故死する予感がするよ! なんか壁の女神からお告げが来たよ!」

アルミン(何がお告げだよウソ付けボケェエエエ!! 事故死という名の粛清っつーんだよそれェエエエエ!? つーかおまえ親父と大差ねえなクソッ! 妾、妾、妾の子! やることなすことビッチ臭い!)


 スターリンやプーチンもにっこりな腹黒具合である。


エレン「イェーガー家として、異議はない」

ミカサ「めでたきこと」

カルラ「私にもカタナくれれば祝福しちゃう!」

グリシャ「(酷い茶番ですね。まあこれも政治というものですか)―――目出度い」ニタァ…


 イェーガー家は全員が賛成。約一名、心にもない言葉と共に黒い笑みを浮かべていたことに、アルミンだけは気づいた。


コニー「さんせ―。つーかもういい加減に覚悟決めろよアルミン」

マーティン「賛成に決まってるッス! こんな素敵なメイドさんが忠誠を誓う女王様ッス! 凄く良い人に決まってるッス!」

サニー「そうね。きっとそうよ! だから賛成!」


 スプリンガー家も賛同する。家族そろって馬鹿である。いい意味で馬鹿だ。だから兵士達から慕われるのであろうが、アルミンは呪い殺してやりたい気分だった。


サシャ「ハムッ、ハフッ、ハフハフッ!」


 そしてひたすら食い続ける芋女が一人。どの道、挙手するか否か迫られれば手を上げるだろうから、アルミンは無視した。


リヴァイ「アッカーマン家としても悪くないっつーかイヤいいなこれホントいいなおい」シュバッシュバッ

レヴィ「すっごく切れます!」スパッスパッ

ハンジ「おもちゃを手にした子供かい君ら。まあ、いいんじゃね? つーか結婚相手として、司令長官なら申し分ないんじゃないかなあ」

ケニー「どうでもいいわ。気持ちいいことしてろよ」


 アッカーマン家はカタナの試し切りに忙しく、どうでも良さげに賛同した。どうでもいいならとりあえず反対しろよとアルミンは毒づく。


ジャン「反対する理由がねえ」スッ

エルヴィン「まあ、いいのでは?」スッ

キッツ「………あ、あの、賛成、します」プルプル


 そしてジャンと義父たるエルヴィンもまた、にっこり笑顔で賛成の意を表す挙手をした。

 その影になる位置から、小鹿の如く震える男が挙手をした。っていうか、キッツ・ヴェールマンだった。アルミンは戦慄する――――いたのかお前、と。そんなんだから兵士から慕われないことに、アルミンは気づかない。

※ちょいお風呂入って休憩


ヒストリア「――――満場一致、だね。というわけでアルミン? この書類一式にサインしてね!」


 邪悪の化身みたいな黒いオーラを纏ったヒストリアが、アルミンに書類を差し出す。紛れもない結婚届であった。


アルミン「………あの。いつから結婚って本人同士の同意を無視して行われるものになったんですかね?」


 アルミンにしては陳腐な悪あがきであった。実際無意味な。


ヒストリア「あー、今更それを言う? じゃあ聞くけどさ――――」


 ヒストリアは居住まいを正し、真っ直ぐにアルミンを見つめながら、


ヒストリア「十年前――――どうして、私を振ったの? うぬぼれじゃなければ、アルミンとは両想いだって思ってたよ」


 核心に迫る、もう絶対に引き返せない問いを発した。


アルミン「ッ、それは………」


 言いよどむ。それはアルミンにとって、一つの後悔だった。


 言いよどむ。それはアルミンにとって、一つの後悔だった。


アルミン「………」

ヒストリア「また、だんまり? 十年前もそうだったよね。ねえ、私のこと嫌い?」

アルミン「そんな………嫌いなわけがない」

ヒストリア「それも十年前と同じ。じゃあ、私のこと、どうでもいい? 興味なんて欠片もないの? それとも、女として見てくれてない? 可哀想だから守ってくれたの? 私を哀れんでた?」

アルミン「そんなことは、ない。君は、君は、十年前も、十五年前も、初めて出会った十八年前から、ずっとずっと魅力的な女性だ……ずっとずっと、君に憧れてた」

ヒストリア「あはは、そこも十年前と同じだよ………やめてよ、もう。そういうの。期待しちゃうじゃない。まだ芽はあるかなって、思っちゃうじゃない……」


 一筋の涙が、ヒストリアの両目から零れた。

 泣くつもりはなかった。なのに、言葉を吐き出したとたん、溢れだす。一度堰を切ったものは、もう止まらない。

 会議室に集まる者たちは、誰もが居心地悪そうに黙りこくった。芋女ですら空気読んで食べる手を止めている。


エレン「………頑固者が」

ミカサ「? エレン?」

エレン「ん? どうした?」


ヒストリア「ごめんね、こういう手段とっちゃって。でもね、私ももう、立場を考えなきゃいけない」

ピクシス「―――女王陛下、それは」

ヒストリア「いいんです。ねえ、アルミン。ずっと貴方を好きでいたかった。結婚したいって、今も想ってる。けど、私は女王だから。

      そんな我儘言ってられないって、分かってるから――――ハッキリさせてほしいんだ。駄目なら駄目って、諦めさせてほしいの」

アルミン「ッ、だ、だから、それは………」


 アルミンは考える――――どう言いくるめるかを。

 だが一方で、良心が囁く。誠実なる者には誠実たれ。アルミンの信念だ。

 ヒストリアの想いは、痛いほど知っている。己もまた、ヒストリアに惹かれていることも自覚している。

 ヒストリアが、別の男と結婚してしまう。あの綺麗な目が、己以外の男を映し、瑞々しい唇が、別の男の名前を呼ぶ。

 想像するだけで、腹の底から汚泥の如き色をした灼熱が沸き上がってくる。

 だが、それでもだ。

 それでも、その申し出を受け入れるわけにはいかない。

 彼女に誠実であれば、アルミンは己の親友に対して不義理を――――裏切りを成すことになる。

 その葛藤は、十年以上の間、アルミンを悩ませ続けていた。


ミカサ「……」ジッ

エレン「だからなんだ、ミカサ」

ミカサ「エレン。ひょっとして、アルミンが頑なにヒストリアの求婚を拒む理由を知って――――いや、心当たりがあるの?」


 思いのほか大きかったミカサの声に、部屋の中の大多数の人物の視線が、ミカサとエレンに集中する。


エレン「む………」

アルミン「エレン……?」

エレン「――――ま。おおよそは心当たりがある。つーか、お前も無関係じゃねえぞ、ミカサ」

ミカサ「私も? ………まさか、アルミン。貴方は」

ヒストリア「どういうこと?」

アルミン「あ、いや。それは、その――――」


コニー「――――壁の外を冒険する。そういう夢をな、約束をな、三人でしてんだよ」


 コニーの発言に、アルミンは目を見開いた。何故それを、と。


コニー「訓練兵団の解散式の時によ、ンなこと言ってたろ。それにな、アルミン。おまえは覚えちゃいねえだろうが、十年前にお前がヒストリアを振った時、サシで呑んだろ。そん時に、酔った勢いで俺にぶちまけてたぞ」

アルミン「ッ~~~~~~~~!!」

エレン「ああ、やっぱそれか。頑固者め。俺に一言いえば済むだろうに」

アルミン「――――いえるか、そんなこと」


 アルミンの声は、震えていた。そのアルミンにエレンが近づき、肩を掴む。


アルミン「言い出しっぺは僕だ。当てなんてない、果てなんてあるのかもわからない。そんな夢想染みたバカな夢を抱いたのは僕だ。その馬鹿に本気になってくれたのは、君が初めてなんだエレン」

エレン「………」

アルミン「そして、君は夢の欠片を集めてくれた。僕自身が忘れかけていた夢を、君が思い出させてくれた。僕は、そんな君を、僕の夢を、思い出させてくれた君を、裏切ることはできない。絶対にできない」

エレン「だから、ヒストリアは裏切ると」

アルミン「ッ、それ、は」

エレン「だからおまえは頑固者だと言う」

アルミン「ッ、じゃあ、どうしろというんだ!!」


 アルミンは語気を荒げて、エレンの胸ぐらをつかみ上げた。


アルミン「ヒストリアと結婚しろと!? 王族になるってことだぞ、それは!!」

エレン「だから、なんだ」

アルミン「立場が邪魔をすると言っているんだ! どれだけヒストリアに焦がれても、欲しくても、彼女を手に入れれば、僕はもう、君と一緒にいられない! 外の世界を旅なんて、できなくなる!!」

エレン「だから、なんだ」

アルミン「だからなんだとは、なんだよ!? 王が、王族が、そんな危険な場所に率先して出向くような王族に、民が、兵士が、安心していられるか!?」

エレン「………腹に力を入れろ」

アルミン「ッ!?」


 いつの間にか、アルミンの腹に添えられているエレンの左拳が腰の回転によって突き出され、みぞおちに深く突き刺さった。

 アルミンは思わず掴み上げた胸倉を手放し、腹を抱えるように背を丸める。


エレン「―――――――んで、歯を食いしばれ」


 そこに追撃として、左の掌底が顎に向かって突き上げられ、アルミンの視界が下から上へと急上昇――――仰向けに倒れる。 


リヴァイ(タイ捨の『逆槌(サカヅチ)』か。よく鍛錬している)


ミカサ(お見事。あの速度じゃ、私でも避けられるかどうか)

カルラ(ふ、不覚! 父さんの動きが見えなかった……何やったの今)

グリシャ(うわぁ、手加減であの威力。あんなん全力で喰らったらゲロの海に沈む上に一週間の流動食は不可避)

レヴィ(ッ、凄い。流石は父さんの後継……不意打ちとはいえあの一瞬で二撃を撃ち込んだ)


 倒れたアルミンは、しかし意識はハッキリしているようだ。

 その顔を覗き込むように、しゃがんだエレンがジト目でアルミンを見下ろす。


エレン「馬鹿かおまえは――――いいじゃねえか。民と兵士、そいつらにも夢を見せてやれよ。俺がお前の夢に憧れたようにだ」

アルミン「は――――は?」

エレン「外で率先して戦う王様がいたっていいだろ。そう言っている」

アルミン「な、は――――ば」


 馬鹿な、と言う前に、エレンが続けて言葉をかぶせる。


エレン「どうしようもなく焦がれた。今でもこの胸に燃えているのは、壁の外の光景だ。壁にさえぎられることのない、西の大地へ沈んでいく太陽の輝きは、どうだった」


エルヴィン「綺麗だったな。涙が出そうになったよ」


 エルヴィンが同意する。


エレン「世界は丸くできていて、数多くの大地が海に浮かんでいると言う。大地の果てがどこにあるのか、探してみたくはないか」

コニー「突拍子もねえ話だよな。確認するにも難儀だ。だからこそ、やりがいがある」

サシャ「美味しいものがいっぱいいっぱい見つかるなら、私だって行きますよ」


 コニーが笑みを浮かべ、サシャも無邪気に同意する。


エレン「同じように巨人の脅威に苦しむ人たちがいるのかもしれない。夢すら見れない地獄にいるのかもしれない。この平和を、勝つことの喜びを、夢を抱ける希望を、共有したいと思わないか」

リヴァイ「勝利の美酒の味もな」


 カタナを満足げに担ぎ、リヴァイが頷く。


エレン「一人より二人。二人より三人。多けりゃ多いほど夢を叶えるのは容易いぞ――――その夢を、壁内の全てに魅せてやろうぜ」

アルミン「あ、わ、私は………ぼ、僕は………」


 アルミンは、胸の奥に疼痛にも似た軋みを感じた。

 目の前が歪んで、良く見えなくなる。

 なおも言いよどむアルミンに業を煮やしたのか、頭を手でかき回しながら、


ジャン「チッ、しゃーねえなあ………いいから兵士を増やせよ。何千何万だろうと、たとえそれが何十万だろうと何百万だろうと、俺がきっちり面倒見てやるよ。その代り、給料上げろよ」

アルミン「ジャン……」

キッツ「あ、あの、私は、私は、無能な男です。土壇場で、逃げ出してしまう、どうしようもない男です。きっと、兵士としては失格なのでしょう。足手まといなのでしょう。だけど、それでも、貴方の夢を押せる一助になれるんじゃないかと………力に、なりたいです」

ミカサ「アルミン」

アルミン「キッツ団長……それにミカサ……君も、同じか?」

ミカサ「いつだって、貴方は自分を押し殺すことを強いられていた。生き辛い、残酷な世界だったと思う。だけど――――大丈夫だよ」


 貴方は一人ではないから。

 寒さの日に、手を握ってくれる人がいるのなら。

 マフラーを巻いてくれる人がいるのなら。

 隣で微笑んでくれる人がいるのなら。


 私にとってのエレンのように。


ヒストリア「アルミン……」


 ヒストリアがアルミンの傍らに膝をつき、アルミンの手を握りしめた。

 兵士として一線を退いたためか、それはとても細くて、柔らかくて、温かな手だった。


アルミン「あ………」


 貴方の傍らに、ヒストリアがいてくれるなら。

 旅立つ先に何があっても。

 帰る場所に、ヒストリアがいてくれるなら。

 その指の震えを、優しく握って止めてくれる。

 温かな安らぎを与えてくれる。

 ならば。


ミカサ「―――――きっと、もう寒さに凍える事なんて、ないはずだから」


 その言葉を受けて、アルミンの目に活力が戻った。

 まだ体に力は戻らない故に、寝ころんだままだったが、強くヒストリアの手を握り返す。


ヒストリア「ひゃっ」

アルミン「ッ………ヒストリア。聞いてくれるかい?」

ヒストリア「う、うん」

アルミン「私は、最低の男だ。君を十年も待たせた」

ヒストリア「………うん」

アルミン「私は、壁の外で、夢を見たい。夢を見続けていたい。そんな男だ」

ヒストリア「うん」

アルミン「君と結ばれても、きっと悲しませるだろう。辛くて寂しい思いをさせるだろう。十年を待たせて、更にだ。酷い男だろう。度し難い男だ」

ヒストリア「うん」

アルミン「―――――そんな男はきっと、君に相応しくないんだろう」

ヒストリア「………そんなこと、ないよ」

アルミン「だから、言うよ。ヒストリア――――」


ヒストリア「うん。アルミン」


 ぎゅ、と。ヒストリアも強く、アルミンの手を握り返し、そして、









アルミン「――――ごめんなさい。やっぱり僕、独り身でいるよ」


ヒストリア「喜んで! ……………え?」









 そんな有り得ない言葉に、ヒストリア・レイスの思考は凍り付いた。


エレン「なん……」

ミカサ「だと……」

コニー「えっ」

サシャ「ふぁ?」

ジャン「ファッ?」

エルヴィン「ひょ?」

リヴァイ「は?」

ハンジ「はァ!?」

ピクシス&ダリス「「はァア!?」」


 ヒストリアだけではない。周囲にいる『イイハナシダナー』とうんうん頷きながら聞いていた連中もまた、凍り付いていた。訓練兵の子供たちに至っては目が点になっている。

 土壇場で卓袱台どころか建築物の土台ごとひっくり返す、それがアルミン・アルレルト・スミスの恐ろしく悍ましいところである。そして凍り付いた思考を急速に解凍する、アルミンの追撃が、部屋の中に虚しく響いた。


アルミン「ヒストリアにはもっと相応しい男がいるはずだ。壁の外を自由気ままに旅し、巨人と対峙し、日夜命を賭ける――――そんな者が王になってみろ。

     ――――民草はもちろん、兵士たちは不安のどん底だ」


エレン「…………」

ミカサ「…………」


 正論だった。完膚なきまでに正論だった。元々大して頭の良くないエレンにしろミカサにしろ、返す言葉が見つからない。

 異世界には戦う王もいるだろう。織田信長などはそうだろう。だが最前線に出て、しかも旅する王様などいない。

 いないのだ。

 いたとしても、それはアルミンの言葉の通りだ。民草と兵士たちは不安のどん底だろう。

 何せ戦死でもされた日には、一体誰が責任を取るのだ?


アルミン「子供を作ればいいとでも思っているのか。父親もなしにか。自由気ままに旅する王様を父に持った子は、どういう王様になるんだろうな」

エルヴィン「………」

ピクシス&ダリス「………」


 頭脳派三名も、これには苦笑い。

 教育上、非常に宜しくない王様だろう。父のようになるなとは教えられない。クーデターが即座に勃発するだろう。再び壁内で内紛が起こることは必至だ。

 かと言って子供が出来なかったら? それこそ王は壁内に拘束されるだろう。世継ぎの無いまま戦死、行方不明などになったら、王家の命脈はどうなる?

※うーん、あまりに文量が多いな

 明日続き投下。時間帯は未明。朝からでもいいかな?


アルミン「大体考えてもみろ。兵の土台は兵站にある。兵を増やすにせよ段階的にだ。いきなり兵士を増やしたところで、食糧難に陥ることは目に見えているんだぞ。

     兵士ばかりの文明は、他国を侵略してこそ発展する。侵略できる他国が都合よく近くにあるとでも? ハハッナイスジョーク」

コニー「………」

サシャ「………」


 ぐうの音も出ないとはこのことである。

 いつまでも若いままではないのだ。兵士はいつだってツラい現実と向き合って、冷静に対処せねばならないのだ。


アルミン「急いては事を仕損じるというが、性急に事を急げばそれこそ破滅だ。壁の外に行くと言っても、未だに巨人はうようよいる。人員、物資、食糧、その補給線はどうする?

     それに、今まで一般人だったものが、今日明日で兵士になれるものか。何のための訓練兵団だ。ウォールマリア奪還という名の人減らしで、一体何人死んだと思う?」

リヴァイ「………」

ハンジ「………」


 リヴァイとハンジも、異論はなかった。概ねその通りだと認識していた。

 むしろなんか若い頃のノリや勢いに任せたテンションで同意してしまったことが、妙に恥ずかしく思えてきた。


アルミン「よろしい。では改めて多数決といこう。私、アルミン・アルレルト・スミスと、ヒストリア・レイス女王の婚約に『反対』の方は挙手を願う。なお賛成する者は悉く不幸な事故で死ぬ予感がする。私にも壁の女神のお告げが聞こえるようになったらしい」

ヒストリア(何がお告げだよウソ付けボケェエエエ!! 不幸な事故という名の暗殺っていうんだよそれェエエエエ!? つーか貴方ってばノブさんにますます似てきたなクソッ! 鬼、悪魔、第六天魔王! やることなすこと天魔外道!)


 レーニンやフルシチョフもニッコリの暗黒政治であった。


エレン「………イェーガー家としては、反対だ」

ミカサ「実に不毛」

カルラ「どうでもいいからカタナ頂戴!」

グリシャ「(これもまた政治か………)―――当然、反対で」ニタァ…


 イェーガー家は全員が反対に回った。約一名、吐き気を催す邪悪めいた笑みを浮かべていることに、ヒストリアは気づいた。


コニー「しゃあねえ。こりゃ反対するしかねえなあ、司令としての立場で考えてみりゃ、承認できん」

マーティン「良くわかんないッスけど、兄貴が反対なら反対ッス!」

サニー「そうね。きっとそうよ! だから反対!」


 スプリンガー家も反対する。家族そろって馬鹿である。悪い意味でも馬鹿だ。だから兵士達から慕われるのだろうが、ヒストリアは縊り殺してやりたい気分だった。


サシャ「モニュ、ハム、ハグ………メロ……」


 そして食事を再開する芋女が一人。どの道、挙手するか否か迫られれば手を上げるだろうから、ヒストリアは無視した。


リヴァイ「アッカーマン家としては反対するそいつはよろしくないしかし実に良いなこのカタナは」シュバッシュバッ

レヴィ「すっごく切れます!」スパッスパッ

ハンジ「遊びに夢中な子供かい君ら。まあ、ダメなんじゃね? つーか結婚相手として、とりあえず身分的にしっかりしてれば別でもいいわけだし」

ケニー「どうでもいいわ。気持ちいいことしてろよ」


 アッカーマン家はカタナの試し切りに忙しく、どうでも良さげに反対した。どうでもいいならとりあえず賛成しろよとヒストリアは毒づく。


ジャン「賛成する理由がねえ」スッ

エルヴィン「まあ、ダメなのでは?」スッ

キッツ「………あ、あの、反対、します」プルプル


 そしてジャンとエルヴィンもまた、にっこり笑顔で反対の意を表す挙手をした。

 その影になる位置から、小鹿の如く震える男が挙手をした。っていうか、キッツ・ヴェールマンだった。ヒストリアは戦慄する――――誰よアンタ、と。そんなんだからアルミンと結婚できないことに、ヒストリアは気づかない。


アルミン「――――満場一致だ。すまない、ヒストリア。私との結婚は諦めてくれ」


 ドス黒い悪意に満ちた笑みを浮かべるアルミンが、ヒストリアから受け取った婚姻届を破り捨てる。婚約破棄であった。


ヒストリア「う、裏切るの? 私の気持ちを裏切るのね!? 父さんと一緒で裏切るのね!! 私の気持ちを裏切るんだ!!」


 癇癪を起して身を床に投げ出し、ヒストリアはバタバタと手足を振る。信じられるか、こいつ三十路で処女なんだぜ。


アルミン「私は、私の夢を裏切らない――――それだけだ」


 妙なキメ顔でアルミンは淡々と告げる。その瞬間、


ヒストリア「」ブチッ


 ヒストリアの中で、切れた。何か、決定的な何かが。


ヒストリア「………もぐ」

アルミン「え?」

ヒストリア「ち○こを、もぐ」

アルミン「」


 ヒストリアはヤンデレ=プラグインを導入した全自動ち○こもぎ取りマシーンへと進化した。これも王家の血が成せる業だろう。

 他の女に盗られるぐらいなら大本を断ってしまえばよい。なんという残虐、なんという冷酷。

 暴君の気質も十分そうで、戦費は充実しそうだなあ、とエレンはどこか嬉しげだ。もうやだこの王政。

 幽鬼の如き奇怪な動きで少しずつ、しかし確実にアルミンとの距離を詰めていく。


エレン「自業自得だ。煽りすぎだ。ガキの頃からおまえそればっかな。悪餓鬼相手に正論説いて言い返せるなら言い返してみろとか、傍目には煽ってるようにしか見えん」

ミカサ「アルミンは時々本当に残念な子。詰めろ逃れの詰めろを掛けられるなんて、本当に甘い。

    いい加減に百の言葉で相手を説得するよりも、一発の拳や刃や弾丸の方が圧倒的に速くて強いコウショウ=ジツであることを理解すべき。私はがっかり」

アルミン「話し合うより殴ったり撃ったり切った方が速いとか、野盗染みた発想だといい加減に分かれこの脳筋バカ夫婦!」

ヒストリア「…………あいしてるわ、あいしてるわ、あいしてるわあいしてるわあいしてるわ」


アルミン「ウ、ウワァーーーッ!? マズい! エレン、ミカサ、このままじゃ私死ぬ。男として死ぬ! それは人類にとって大損失だ。具体的に言うと人類一億に匹敵する。

     可及的速やかにその蛮族的コウショウ=ジツを用いて私を助けて差し上げるんだ」


 アルミンはどこまで行ってもアルミンである――――司令長官殿には人の心が分からない。


ミカサ「何なのその超上から目線。言ってることは分からなくもないが、貴方の態度が気に入らない」

リヴァイ「助けんでいいぞ。死人に口なしらしいからな。精々英霊として奉ってやるから安心して逝け」

エレン「だそうだ。ガンバレアルミン。死神なんて不名誉な二つ名より、軍神のほうがいいだろ。逝け逝け。誉れだ」

ミカサ「ガンバッテ」

グリシャ「さようなら、さようなら、司令長官」

カルラ「カタナくれないならバイバイ、アルミンおじさん! じゃなくて、司令長官殿!」

アルミン「」


 イェーガー家は頼りにならないことを悟る。誰か別の援軍はないのかと周囲に目を配って見るものの、


ジャン「速報、ジャン・キルシュタイン新司令官・爆☆誕」

コニー「おめでとう。これからは同じ司令官同士、人類の発展のため頑張ってこーぜ、ジャン!」←素

ジャン「おう。アルミン司令長官(故)を失ったのはまことに残念でならない。

    だがきっと多くの民はくよくよせず、むしろ偉大なことが起こったとすぐさま大歓声を上げてくれることだろう。

    んでクリーンな兵士運用を行う新司令官、つまり俺によってアルミンは三日足らずで存在を忘れられる」

サシャ「素晴らしいですね。感動的ですらありま、あっ、このチーズうまっ」←どうでもいい

ヒストリア「さようなら、さようならアルミン、大好きでした……」

アルミン「過去形で言うのやめてくれないかなあ!? クソがァ! 右を見ても左を見てもどいつもこいつもムホンモノばっかりだ!!」

エレン「オラオラどうした。言葉を用いたコウショウ=ジツとやらで俺らにやる気を出させてみろよ」


 壁の中には巨人が棲むの。

 頼れる仲間は皆目が死んでる。

 調査兵団に賭けた青春、でもみんな目が死んでる。


アルミン「オィイイイイイ!! 今なら向こう一年間君らの給料三割アップを確約する!! だから助けなさい!! なんとかしなさい!」

エレン「訊いたかオイ」

ジャン「ああ、アルミンの職権乱用の件か。今度こそ尻尾を掴んだな。これを機に内部告発して更迭してやるわ。んで空いた司令の席には俺が座る」

エレン「そんなものはどうでもいい。いずれ手痛いしっぺ返し喰らうと俺の勘が告げてるし。それよりも俺らの給料上げると、ハッキリ言ったことこそ重要だ!

    後でアルミンが反故にしねえようちゃんと覚えておけよ。あの野郎、口約束だからって後になってシラ切ること多いからな」

ジャン「アルミンといいおまえといい、ホント日々加速度的に最低になってくな! いつになったら底が見えんのか俺は恐ろしくてならねえよ!!」

ミカサ「ジャンは黙ってて。子供の養育費を始め、イェーガー家にはまだまだお金が必要。独身の貴方には分からないかもしれないけれど」


 ジャンは盛大に吐血した。が、倒れることはなく踏みとどまる。意外とメンタル強いなこいつ。


ジャン「ひでぶぅ! ………ぎ、ぎぎ、ま、まだだ。この程度の精神的ダメージでは、このジャン・キルシュタイン、倒れはせん。倒れはせんぞ」

リヴァイ「養育費については同意だな。それに加えてウチもクソメガネの研究費がバカにならんし、たまには娘に贅沢もさせたいしな。まあ………独身でしかも童貞に話しても仕方のない話だが。なぁ? キルシュタイン(さくらんぼ石)?」

ジャン「グアァアアアアアア!!」ガハッ

エルヴィン「ジャ、ジャンダイーン!」


 今度こそ血の海に倒れ伏した。流石にこれは致命傷かもしれない。


黒髪美少女モブ「し、しっかりしてください、ジャン団長!」


 そしてどこからか駆けつけるジャンの副官である黒髪美少女モブ。きっと出待ちしていたのだろう。妙にキューティクルと唇がツヤツヤしている。


ジャン「グフッ、だ、だめだ。おれはもう、だめだ……童貞で生まれて、童貞のまま死ぬのか……ジーザス……」

黒髪美少女モブ「その………大丈夫です! わ、わたしもその、そういう経験は、えと、な、なぃ……ですから」

エルヴィン「死ね!」

リヴァイ「年々キャラがブレてきてるなエルヴィンよ」

コニー「独身で童貞の何が悪いってんだよォオオオオ!!」

マーティン「ああっ、兄貴に飛び火したッス!」

サシャ「行き遅れの処女の何が悪いっていうんですかァアアアア!!」

サニー「サシャの姉貴にも!?」

ヒストリア「畜生がぁあああああ!! リア充は死ね!! きええええええええええええええええええ」

リヴァイ「しまった。一番の喪女にも聞かれていたか!」


 場内は混沌の坩堝と化した。魔城・ガッデムの名に恥じぬ混迷っぷりである。


エレン「流れ弾があんなところにも、っておい女王強いな。コニーやサシャが相手になってねえぞ」

ミカサ「烈火の勢いで味方達が殲滅されていく。でもここで私たちがヒストリアを制圧できれば、戦果としては大きい………ので、良しとしよう」

アルミン「はは、君たちは夫婦だしね。持たざる者の心は分からないよ。逆もまた然りだ。で、いつになったら助けてくれるの? ねえ、もう胃が破れそうなんだけど?」

エレン「そうだな。ところでアルミン、今の童貞やら行き遅れやら独身やらの会話を聞いておまえが精神的ダメージ受けてない件について、女王サマが凄い目で見てるけど。弁解しなくていいのか?」

アルミン「え?」


ヒストリア「<●><●>」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


エレン「まさに女王って感じに。養豚場の豚を見る目でお前の事見てるぞ。トヨヒサばりの殺気だな」

ミカサ「不覚にも少し気圧されるレベル。私も鈍ったか。一昨年前に結婚したエルヴィン総統はともかく、童貞云々に関して貴方が反応なかったことについてみんな気になってるみたい」

ヒストリア「<●><●>」ジーッ

アルミン「」

ヒストリア「…………アルミン? 私は正直なところあまり頭がよくない。だから単刀直入に聞くよ―――――あなた、童貞じゃないの?」

アルミン「―――――何を言うんだヒストリア。このアルミン・A・スミス、正式に調査兵になってより仕事一筋十五年。僕が君という可憐な花を袖にしておきながら他の女にうつつを抜かすような、そんな軽薄な男に見えるのかい?」

ヒストリア「う………そ、そうだよね。ごめん、私、ちょっと神経質になってた。アルミンは冷静だし、そういうの気にしないもんね」


アルミン「理解してくれて嬉し――――」

エレン「十年くらい前か………ハニートラップを逆に手籠めにして二重スパイとして飼いならすのも司令としての必須技能なのじゃーとかいう名目で、ピクシス司令と一緒にコッソリ娼館通ってたの、俺知ってるぞ?」

アルミン「!?」

ヒストリア「<●><●>」クワッ

ピクシス「あ、ヤベ」コソコソ

エレン「どこへいくチョボ髭。あんたは後で巨人の餌だ」

ピクシス「」

ダリス「全くも―この変態はしょーがねーなーこれだから芸術を解さぬものはイカンイカンよイカンねじゃあ私はこれで」コソコソ

エレン「そこの共犯の変態。奇行種と通常種、どちらの胃袋に転居するかぐらいは選ばせてやるぞ」

ダリス「」


 エレンは誰であろうと基本的に容赦というものがない。

 主成分はクチクミンとレイコックス、ブッコロシタイン、そしてナサケモヨウシャモアリャセニンが大半を占め、十年前にシマヅミンとサツマッコス、クビオイテケックスを摂取したことで凶暴性が極大化した。

 テゴコロミンやナサケミン、ヨウシャリンが絶望的に不足気味である。

 そして微量のミカサに対する癒し成分となるエレニウムを含有する摩訶不思議な生物がエレン・イェーガーを構築している。


エレン「それに何度か執務室でも致していただろう?」

アルミン「あ、あの、エレン? エレンくん?」

エレン「ン? 俺が給料の件で何度お前の執務室に文句言いに行ったと思ってる。ブッキングしたことは二度や三度じゃねえぞ。

    たまに執務室から女の甘ったるい声が聞こえたり、中に入ったら香水とアレの混ざった匂いがしたりするし」

ミカサ「不埒な」

リヴァイ「つーかあの爺、お盛んにも程がある。十年前はいくつだった?」

ジャン「…………ほう?」ムクリ


 ジャン・キルシュタイン、奇跡的に生還を果たす。黒髪美少女モブの膝枕が効果覿面だったのだろう。


ミカサ「ジャン、無事で何より。ところで私にも心当たりがある」

アルミン「ッ…………何、を、言っているんだ、ミカサ? 冗談は」

ヒストリア「おい司令長官、黙れ。その口縫い合わせるぞ。王権舐めんなよ」

アルミン「アッハイ」


 今のヒストリアに逆らえるものは、イェーガーぐらいのものであった。


ミカサ「では続ける。アルミンがまだ調査兵団の団長をやってた頃、彼がシガンシナに視察に来たことがあった。

    シガンシナ全域にわたる改装工事を実施していた頃だから……うん。丁度十年前だろうか」

エルヴィン「ああ。確かにその頃はアルミンに団長職を譲った。そして彼を私の養子としたが……ミカサ、君はその頃はもう、兵士を引退していたのでは?」

ミカサ「ええ、そうですエルヴィン総統。私は確かに兵団を引退していた。でも、シガンシナに視察に来ていたアルミンに差し入れにと思って、アルミンに、好物のきのこパイを持って行った」

ジャン「あの時かぁあああああ!! 覚えてるよ! 確か夜だったな! ミカサを顔パスで中入れたの俺だよ!!」

ミカサ「そうそう、その時の当直責任者が確かジャンだった、そうだった」

アルミン「嘘でしょ!? その時期にシガンシナを視察した覚えは確かにある! けどミカサからパイを差し入れてもらった記憶なんてないけど!?」

ミカサ「『あんなもの』を見た後で何事もなかったかのようにパイを渡せるほど私の面の皮は厚くないし、器用ではない。ので、パイはジャンにあげた」

ジャン「あんときのパイは掛け値なしに旨かったミカサありがとう。生地がサックサクで中身はトロットロでよ。機会があったらまた食わせてくれ」

ミカサ「ええ、もちろん」

アルミン「ミカサの料理は絶品だもんね。結婚してからますます腕も上がって」

ヒストリア「私は黙れと言ったぞ司令。話を逸らすんじゃあない。ミカサ、続きを。特にミカサが見た「あんなもの」という点を詳しく」


アルミン(ファック、話が逸らせなかった…………落ち着け、素数を数えろ……思い出せ……確かその日は……ッッ!?)


ミカサ「そうだった。それで、アルミンの執務室に向かっていた私だったが、最後の曲がり角をまがったところで、執務室から若い女性が出てきたので、とっさに物陰に隠れて様子を窺った」

アルミン(あ、ヤベ)

エレン「なんで隠れたんだ?」

ミカサ「時間は日付も変わる深夜帯。間者の可能性もあったし、アルミンを害する存在という可能性を考えての行動だったが、それは杞憂だとすぐにわかった」

エレン「何故だ?」

ミカサ「私の位置からは見えなかったが、その女性は部屋の中にいる人物とドア枠ごしに談笑しているようだった。

    それもかなり親しげに。部屋の主はアルミンだから、きっと相手はアルミンだろう」

ヒストリア「ギルティ。罪状! 裏切り。判決! ち○こをもぐ。素手で!」

コニー(ヒストリアのこの手が真っ赤に染まる)

サシャ(ち○こをもぎれと轟き叫ぶ)

ジャン(必殺! レイシング・フィンガー! ヒートエンド!(男としての尊厳と子孫的な意味で))

アルミン「まて待てマテ!! 女王がち○ことか言うな! 別の意味の女王に聞こえる!! っていうかその女性は私の秘書官だ! 間違いないぞ! 仕事終わりで私の部屋から退室する時にちょっと談笑しただけだ! 下種な勘繰りはやめてくれ!!」

ミカサ「ええ、それは私も遠目だったがすぐに気づいた。確かにあの子は当時のアルミンの秘書官の子だった」

アルミン「ほ、ほら。ミカサもそう言ってるじゃないか」


ヒストリア「…………ミカサ。その子の歳は? 容姿は美人?」

ミカサ「とても可愛らしい、十代後半ぐらいの子だっただろうか。私たちより一期か二期ぐらい下の子」

ヒストリア「死刑、死刑、死刑死刑死刑死刑死刑死刑! 死刑だッ!! 絶対に許さないんだからーーーーッ!!」

アルミン「待てと言うに!! 悪いのか! 日々の激務でまともに睡眠も取れない私が!

     せめて目の保養にと若くて見目麗しい女性を秘書に宛がうのは悪いことなのか!? しかも彼女かなり有能だったし!」

エレン「アルミン必死だな」

リヴァイ「不覚にも笑いが止まらねえ」

ハンジ「」ビクンビクン

モブリット「誰か紙袋持ってきて! ハンジさんが嗤いすぎで過呼吸起こしてるの!」

レヴィ「ママーーーッ!?」


 混沌は加速する一方である。


ミカサ「とはいえ………確かにアルミンの激務についていくには容姿だけの子では無理。相応の事務処理能力が必要不可欠」

ジャン「不本意だがそれについては同意だ。何度も手伝ったことがあるが、ありゃ地獄だ」


コニー「まあ、な? 三徹がデフォで、四日目からはもう記憶が飛ぶ。そりゃキレイどころぐらい手元に置いて目の保養はしてえよな」

アルミン「分かってくれたかい!! そう、つまりは全てはミカサの誤解なんだよ!」

ヒストリア「…………ミカサ?」

ミカサ「誤解? ほう、誤解と?」




ミカサ「――――かなり腰砕けで、髪と服装にも乱れがあり、顔も紅潮していた子が、

    猫なで声で『愛してます』とか『とても素敵でした』とか『出来ちゃったら責任取ってくださいね』とか、そんな生々しいことを話していたのに?

    会話の合間にたくさんキスとかしてたようだけれど? しかも深いヤツ」




アルミン「」

ヒストリア「………」



 アルミンの命運が決まった瞬間のことである。この時、部屋の中にいる誰もが、歴史が動く音を聞いたと言う。


ミカサ「なんというか、かなり事後の雰囲気だった。それでも何もなかったと? だとすれば私の勘違いも大したものだ。随分と平和ボケしていたらし。

    ふふふ――――そんなわけがあるか、ブチ殺すぞ司令長官」

ジャン「ギルティ」

コニー「ギルティ」

サシャ「真っ黒じゃないですか」

エレン「むしろピンクな。あいつの頭ン中」

リヴァイ「カオス」


ミカサ「しかもその子、思い返してみれば銀髪巨乳にメガネ属性だった。ちょっとオルミーヌさんに似てたところがなんていうかもう、戦慄するしかない」


 ミカサによる追撃のグランド・ヴァイパーが炸裂。それはちからをためているヒストリアを再起動させる引き金となった。


ヒストリア「<◎><◎>」シャガッ

アルミン「」


エルヴィン「おい、義息子。どういうことかね。君はアレだ、クロルバ区の商会の娘さんと良い仲じゃなかったのか? お義父さん許しませんよ」

アルミン「」


 ここでまさかの義父による裏切り。このタイミングで言いだすところからして、色々悪意に満ちている。


リヴァイ「エルヴィン、業火の中に榴弾ブチ込んでどうする。ところでこれは独り言だが、俺はシーナ北の大地主の娘とねんごろという噂を聞いたことがあるぞ」

アルミン「」


 リヴァイの言う噂、もはやそれが真実であるかどうかは、どうでもいい。アルミン・アルレルト・スミスが女っ垂らしであることに、今更疑いの余地はないのだ。



ヒストリア「<○><○>」プツン



 https://www.youtube.com/watch?v=up0t2ZDfX7E



 そしてBGMが鳴り響く。

 まぎれもなく処刑用BGMであった。


ヒストリア「あ、あ、ああ、あッ……………■■■■■■■■■■!!」


 ヤンデレの果てにあるもの、それはベルセルク化である。

 もはやヒストリアは喪女でもヤンデレもない、その目に映るアルミンを破壊するだけの、魔王と化した。

 そこでおっとり刀でようやく異変をかぎつけた近衛兵ほか、部屋の前で待機していた兵士たちが、部屋の中へと突入を開始する。

 まさに暴れようとしたその瞬間、六人がかりでヒストリアの矮躯を羽交い絞めにする。


ペトラ「やめて! やめてくださいッ、女王陛下!! スゲー分かりますッ! チョー分かりますッ! ですがここは抑えて!! 御身はこの国のッ、この国の女王陛下ですッ! だからッ、前線突撃だけは勘弁ですッ!!」

オルオ「落ち着いてください女王陛下ッ…………女王陛下?」

ミケ「あの、女王? 女王陛下!? ヒストリアさん?」


ヒストリア「可愛さ余って憎さ億兆倍とはまさにこのことよ……そこを動くなアルミン。生きたまま心臓を抉りだして喰ってやる。貴様を思い出に変えてやる……」ズリッ、ズリリッ


エルド「すごいちからだ!」

グンタ「こ、これが正統なる王の、レイス家のちからだというのか!」

ゲルガー「ウソだろ六人がかりで羽交い絞めにしてんのにズルズル引きずられんぞ、っちょなんだこれバケモンかよ」


 アルミンは激昂した。多分、ベルトルトが逃げたとき以来のブチ切れっぷりであった。


アルミン「揃いも揃ってェエエエ! なんでバラすかなぁああ!! 裏切ったなッ! 僕の気持ちを裏切ったなッ! ライナーたちと同じで裏切ったんだッ! エレン!! ミカサァッ!!」

エレン「ははははははは」

ミカサ「…………ふふ」

アルミン「何笑ってんだよ!!」

エレン「あ? なんだ? 笑っちゃいけないのか―――――人がせっかく、俺抜きでシガンシナに向かったことを笑いごとで済ませてやろうと思っていたのになァ」シャガッ

ミカサ「ええ。私はともかく、私の夫をないがしろにする、そんな輩がまだ兵団にいたとは。

    貞淑な妻として通っている私としては見ても聞いてもいないことにしたかったけれど、我慢しなくていいというなら、そうするが」シャガッ

アルミン「」

エレン「<○><○>」シャガッ

ミカサ「<●><●>」シャガッ

アルミン(漏れそうにござる……)


 ここでアルミン、本編におけるフラグを見事に回収した。


 金の獣と黒い戦鬼の、温度の無い一睨みによって、アルミンの膀胱は一瞬にして決壊寸前にまで追い込まれた。

 前門の駆逐一家、後門のアルミン専用全自動ち○こもぎ取りベルセルクである。


エレン「そうか。俺はもう笑わなくていいのか………じゃあ、俺をのけ者にしてシガンシナ攻略を進めた糞野郎のことについて詳しく聞いてもいいんだな? ちなみにジャンやコニー、エルヴィン総統じゃないことは、知っている」ジャキン

アルミン「ッッッ………(先回りされたら口にも出せん)」

ミカサ「アルミン、貴方は………貴様は調子に乗りすぎた。しかるべき報いが下されるだろう。今、ここで、私が」シャガッ

アルミン「う、うぁ、うわぁあ……」


 ――――しかし、アルミンはこの状況を打破する一手を、ふたつ持っている。

 一つはヒストリアとの婚約を承諾すること。恐らく結婚すると叫んだ瞬間、驚きのデトックス効果でヒストリアは綺麗な女王に元通りだろう。

 だが、アルミンはそれは避けたい。

 となれば―――目の前の獣と鬼を説得するしかない。そしてその手段はある。

 しかし、それは。

 それは。


エレン「さあ、どうする。どうするんだ司令長官! 死神! アルミン・アルレルト・スミス!」



アルミン「こ、今年度の年棒………二倍で、どうでしょう………」


 単純なことだ。買収である。シンプルだが最も効果的。かつてのエレンらには効かなかっただろう。しかし今や家庭を持つ者。

 その効果は絶大である。

 だが。


エレン「聞こえんな」

アルミン「」


 意訳すれば『足りない』である。駆け引きのやり方を学んだイェーガー兵長は、搾り取る時はとことんだ。足元見過ぎであった。


アルミン「さ、三倍……?」

ミカサ「それが貴方の命の値段ということでいい?」

アルミン「」


 追撃は致命傷だった。これを妻の内助の功と言い張るのだから、アッカーマンの血筋の女は恐ろしい。




アルミン「―――――じゅっ、十倍だあああああああああああ!!!」



エレン「よろしい。ではお仕事の時間だ」

ミカサ「いきましょう、エレン。何時までも、何処までも!」


 ――――後は別に語ることはない。

 やる気になったイェーガー夫妻の本気は、今や壁内随一である。

 瞬く間にヒストリアに当身を決め、事態を収束させた。

 気絶したヒストリアを見下ろし、エレンは呟く。


エレン「憎しみ、怒り、悲しみ………強い感情は人を強くする。俺がそうだった」

ミカサ「エレンのキメ顔は今日も凛々しくて素敵」

カルラ「うん! 私も父さんみたいな人と結婚したい!」

グリシャ(僕、ウチの家系の女性陣の黒目って腐ったが故の色だと思うんですよね)


アルミン「くっそ想定外だこんな出費どうすんだどうすんだよ僕畜生がなまじコイツら成果だすし今までは恩賞とか手当とか勲章でゴマかしてたけどこれ以上給料上げたくないぞ……。

     あっそうだいい具合に生贄がいるじゃないかあいつだあいつえっと名前なんて言ったっけまあいいやあいつに何もかも擦り付けて私財没収しよう。

     そうしようそれで上ッパネを使って損害を補填だいいぞいいぞ悪くないではないかハハッなんだこいつ小鹿みたいにプルプル震えやがって」ブツブツ

キッツ「ッ………」プルプル

ジャン「クズが」

コニー「ゲスめ」

サシャ「女の敵」

ヒストリア「ぎぎぎぎぎぎ、でも好き」ギリギリギリギリ

ミカサ(並々ならぬ葛藤をヒストリアから感じる)


 かくしてこの物語は終焉を迎える。

 そう思われた。

 だが。だが。だが。

 そうだ。まだだ。

 まだ終わってなどいない。


ヒストリア「グッ……み、ミカサ、そしてエレン? 最後の、最後の頼みが、あるの」

エレン「なんだ、女王」

ミカサ「なに、女王」



ヒストリア「アルミンを昏倒させて私のベッドルームに運んでくれれば………十倍になった年棒の、更に倍を」

アルミン「」



 金で雇われる者は、金によって反旗を翻す。

 そして冒頭の伏線――――ヒストリア・レイスは王国内で一番の金持ち、そのフラグが回収される時が来た。

 そうだ。つまりは。


エレン「イエスユアマジェスティ」ニタァ

ミカサ「ヤポール、ヤポール・ヘルコマンダン」ニヤァ


 アルミンは最初から、詰んでいたのだ。



アルミン「ちょ、おまッ、ふ、ふざけんなッ、こんなひでえオチは近年稀にッ…………ぎゃあああああああああああ」


エレン「おやすみ、アルミン。さようなら」

ミカサ「さようなら、さようならアルミン」

コニー「さようなら司令長官」

サシャ「さようなら」

ジャン「じゃあな、アルミン」




……
………


………
……



 かくして場面は冒頭へと戻り、抵抗虚しくアルミンは、ヒストリア・レイスと既成事実な×××の姦計、否、関係となった。

 これからアルミンは一月に渡って寝室に監禁され、睡眠と食事と風呂と排泄以外は、全て子作りのために時間を費やすのだ。

 食事は悉く精のつくものばかりで(しかも媚薬入り)あり、ヒストリアの容姿はぶっちゃけアルミンのモロタイプで意外とベッドではエロく鳴くため、男の悲しいサガでおったってしまうのだ。

 泣いても叫んでも喚いても、ヒストリアはアルミンのち〇こを握って離そうとしないし、なんやかんや二人の身体の相性は最高だったし、何よりも、


ヒストリア「ねえ、アルミン」

アルミン「なんだい、ヒストリア」

ヒストリア「えっと、その、ね? 私………赤ちゃんできちゃった!」

アルミン「」


 女神様からそんなお告げもあったので――――そのうちアルミンは、王様をやることに決めた。


【おまけ~女神クリスタからのお告げ~ 姦】

※長いんだよ!!

 あ? エロシーン? ヤツならキングクリムゾンに始末されたよ

 あいつは無駄に脳内の思考スペースを食う癖に、賢者タイムに入ったとたん消えちまうからな

※いいね、おうどん食べたいよ

 ところで今日は有休だったんだが




 艦これの安価SSを書いて暇潰していたのは俺です
 許してくれ。週末にはこっち投下するから

※讃岐うどん、君に決めた。

 投下開始! >>754からの続きです


 エレンのそのただ一言だ。一言で、誰もが口をつぐんだ。

 夜の帳が降りた市場の如く、物音一つ、吐息一つ立てる者はない。

 憲兵も、貴族も、そして調査兵団の誰も彼もが、黙ってエレンを注視する。怯えた豚の目と、厳命を待つ兵士の目―――それはあまりにも両極端であった。


 その注目のエレンが、不意に立体機動に移った。

 己が先ほど打ち破ったシガンシナ区の外門の上に移動し、静まり返った憲兵らに向けて、エレンは叫ぶ。



エレン「調査兵団所属、エレン・イェーガー兵士長が、叛徒共に告げる」



 その厳かさすら感じさせる声に、ジャンとアルミンは内心で驚愕しつつも、エレンの声に殺意が籠っていない点にどこか安堵する。


アルミン(降伏勧告だよね? そうだよね? そうであってくれ頼む。楽だから。事後処理がスッゲえ楽になるからッ……!!
     命は保証するよって言いつつ裏で事故死してもらえばいいだけだからッ……ちょっと三千人弱まとめて死亡してもらうだけだからッ!!)

ジャン(煽るなよッ………絶対に煽るなよッ……てめえが来た時点で、もうアイツら完全に戦意喪失してんだッ………これ以上煽ったら、窮鼠が猫を噛みかねんッ……!!)


 人、それをフラグという。アルミンは後々痛い目に遭うと良い。


エレン「兵とはッ!! 民草を守る盾であり、人に仇なす害獣を、駆逐するものだッ!!」


 誇り高い声だった。己の職務を誇りに思う者が出せる声だった。

 調査兵団の新兵達など、無意識のうちに心臓を捧げる敬礼の姿勢を取っていた。


エレン「しかし我々は、貴様ら人類という種族に掠りもしない豚と見まがう汚物どもの処理業者になった覚えはない!!

    幸い貴様らは手足が生えた珍妙な汚物もとい糞袋のようだし、幾ばくか猶予をくれてやるから………」


 エレンは己の背後にある、壁の外の世界を指さし、


エレン「今すぐ壁の外に出て巨人どもと戯れて来い。その汚いなりだ。巨人らとて貴様らを人とは認識しないだろうよ。このエレン・イェーガーが保証してやる!」


 覇気の籠った通る声が、壁中に響き渡る。


アルミン「」

ジャン「」

黒髪美少女モブ(あっ、これアカンやつだ)


 アルミンとジャン、そしてジャンの副官の黒髪美少女は絶句していた。ドン引きである。

 エレンの視線は、まさしく汚物を見るものだった。

 汚物に殺意を覚える者はいない――――それは既に生物ではないのだから、殺意など抱くわけもなく。


エレン「―――故にだ。万が一、巨人らが貴様らを喰うようならその時は素直に謝罪の意を表し、国家反逆罪による刎頸の罰を、巨人に捕食される死刑に減免してやろう」


 憲兵と貴族たちの顔色が、赤から土気色を通り越し、蒼白に染まる。


サシャ「どういう意味ですかね? コニー、翻訳お願いします」

コニー「…………要は死ねって言ってんだよアイツ」

サシャ「なるほど! もう、エレンったら本当にシマヅなんですから! 怖い! ゲンジもドン引きですね!」

コニー「………準備しとくか」


 ぼそりと呟く。コニーはエレンの言葉で交戦は不可避と判断したのだ。

 コニー・スプリンガー元機動部隊長がアップを開始したようです。

※アッ、ごめん。>>784からの続きでした


 なにせエレンの言っていることを要約すると、こうだ。

 貴様らは汚物だ、二足歩行する汚物はキモいから自発的に壁の外に出ろ。

 巨人が喰わなかったら汚物なのでそのまま壁外退去という名の死刑。

 巨人に襲われれば人間だが罪は罪なので罰として巨人に捕食される死刑。

 中世ヨーロッパにおける魔女裁判も真っ青な弾劾であり、事実上の抹殺宣告であった。


貴族「ふっ、ふざけるなあ!! こ、このッ、気狂いが!! 私は貴族だぞッ!? 貴様のようなノラ犬にッ、そのような、そのような扱いを受ける謂れなどないわッ!!」


 ――――当然、こういう反応が返る。便乗して、他の貴族も口汚く騒ぎ出す。

 しかし、エレンは眉ひとつ動かさず――――というより最初からこれ以上はないというほど不機嫌な顔だったが――――その貴族らに視線を向け、


エレン「黙れ」


 再び、一言に臥す。完全に人殺しの声だった。今度こそ殺意が籠っていた。貴族たちに明確な死を予感させるほどに、凄絶な声だった。

 ただそれだけで、貴族たちは口を噤んだ。

 ――――おかしいよな、これ『叫び』の力を使ってないんだぜと、ジャンは後に述懐するのはまた別の話。


エレン「次は貴族と来たか。姿見で己の体を見たことがないのか? 鍛錬や研鑽とは最も縁遠いその醜い姿形(ナリ)で、何を以って貴様らは貴いモノだという。

    毒虫を煮溶かして人型に固めたところで貴様等ほど醜悪なものは他にあるまい。それに酷い臭いだ。ここまで臭ってくるぞ。糞便でも喰らって生きてきたのか貴様ら。

    そもそも人類のつもりか? ふざけるなよ―――――名乗るのならばより相応しく『豚』だろうが。鏡を見ろ鏡を」


 そして、エレンは次いで憲兵にも目を向け、


エレン「憲兵および貴族を自称する豚ども。ただただ餌を貪り肥え太った家畜には相応の末路がある。己が身を食肉として提供するのが家畜の法(さだめ)だ………しかし」


 口端をゆがめた―――――失笑である。


エレン「はン。とても食えそうにない。なるほど、先ほど貴様らを豚と呼んだことについては訂正しよう。この糞袋共が」


 まぎれもない、挑発行為である。

 流石にこの行動で、誰もが戦の予感を感じた。ノンキしていたサシャも黒色火薬をふんだんに使った棒火矢を番える。


サシャ(なんたる罵詈雑言ですか……挑発上手くなったなーエレン。うわあ、怒りがとぐろを巻いてるのが分かる。貴族なんてのは純粋な誇りの塊みたいな生き物ですし)

コニー(誇りばっかで実がねえから全部図星だけどな。にしたってひでえ口上だ。あんなん言われたら俺だってキレる)


 そして、呆然としていたジャンもまた、覚悟を決める。


ジャン「――――歩兵隊。総員、抜け」


 抜剣、と告げようとしたジャンの口元を、掌が遮る。

 アルミンの手だ。

 不快そうにアルミンの手を払いつつ、ジャンは眉をひそめて睨みつける。


アルミン「――――まだ早い。私が先手で一気に奴らの足並みを乱した後だ。その後のタイミングは任せる」

ジャン「ちょ、てめ―――――」


 ジャンが文句を言うよりも早く、アルミンは一歩を踏み出した。

 壁の上から―――ダイブする。

 この中で、エレンの意図を、真の意図を正しく理解していたのは、アルミンだけだった。

 誰もがエレンを注視するそのタイミング――――つまり、先刻まで注視されていたアルミン達に、誰もが目を向けていない。


 ――――『死神』の異名を得るまでに畏れられた者から目を逸らすことの意味を、彼らは数秒後に理解することになる。


 一人の憲兵が何事かと振り向こうとして――――その首はずるりと、上半身から泣き別れる。


 次いで血飛沫が舞う音と、司令塔を失った亡骸がどうと倒れる音が響く。

 その音に気付き、更に十名の憲兵が振り向いた。


アルミン「悪人は死ねば地獄へ行く。閻魔という名の裁判官が、生前の罪を断ずるという――――東洋ではそうらしい」


 言いながら、アルミンは彼らの足元へ『符』を投げる。

 符はその効力を遺憾なく惜しむことなく、主の意図のままにその効果を発揮し、


アルミン「貴様らの悪因に相応しき悪果をここに齎そう。ここを地獄に変える。貴様らは一人残らず串刺しにする」


 残るは、地面から生える、大の大人が一抱えするほどもある太さの石槍に串刺され、絶命する十名の憲兵のみ。

 その惨劇は、すぐさま数百名という憲兵たちの知るところとなった。エレンのみに注視されていた視線が、今度は一斉にアルミンに対して向けられる。


憲兵「敵陣にただ一人突っ込んできた馬鹿が何をほざくかッ! こいつを殺せッ!!」


 それぞれが手に持つ銃を構え、アルミンに対し掃射する。


アルミン「雑多な火器だなぁ、ええ? おい」


 四方八方から掃射される弾丸を前に、アルミンは嗤う。誰もがそれでアルミンが絶命するものと思っただろう――――調査兵団の兵士以外は。


憲兵「な、あッ………?」


 最前列にいた憲兵は見た。放たれた数百の弾丸は、アルミンの足元から生えた石壁によって阻まれていた。

 石壁に着弾する度に、粉塵が巻き起こり、アルミンの姿を目視することが難しくなっていった。


憲兵「撃ち方やめ! やめッ!!」

アルミン「もう遅い! ここに私が来た瞬間から、既に遅いのだ!!」


 粉塵に紛れた数千枚の符が、アルミンの周囲を旋回する。

 指揮者のようにアルミンが指先を動かすと、それらは憲兵たちの足元へと、弾丸よりも速く舞い、『石畳』の床へと付着する。


憲兵「え? な――――なんだ、これは?」

アルミン「莫迦め、気づかないのか。貴様らが一体どこに立っているのか。どこに立ってしまっているのか。ここは貴様らの処刑台だ」


 罵倒と共に指を鳴らすと、その『符』は石畳に溶けた。

 瞬刻の暇すらなく、それは『石槍』へと姿を変え――――。


憲兵「が」


 百名余りもの憲兵たちを、文字通りに『串刺し』にした。

 内地側への門に続く通りは、奇怪なオブジェによって占領される死の領域と化した。


グリシャ「ッ、な、あ………!?」


 凄まじい光景に、新兵達をはじめ、訓練兵たるグリシャが瞠目する。

 石壁の符の存在こそ彼らは知っている。兵団の重要機密として扱われるそれは、訓練兵の必修科目として、訓練兵であれば今や誰もが知る技術である。

 しかし、『あんなもの』は、訓練兵団では教わっていない。


アルミン「百舌の早贄といったところか。巨人にすら見向きもされんだろうがなあ」


 一瞬にして百人余りの憲兵を絶命させた当の本人は、薄ら寒い笑みを浮かべて眼鏡をかけ直した。


グリシャ「な、んだ、アレは………『石壁の符』が、『槍』にッ………!! なんだ、なんなんですか、アレはッ!!」


 その悍ましい光景に、しかし感動を抑えきれないといった声を上げるのは、グリシャ・イェーガー。

 苦笑し、ジャンがその疑問の声に答える。


ジャン「発生する石壁の反動で人を射出するのは訓練兵団でも習ったろ?」

グリシャ「ああ、あのチョー野蛮な発想ですね」


 ジャンの苦笑が引き攣る―――――コイツは一体誰に似たんだろう、と。


ジャン「(コイツ、トヨヒサとは超相性悪いだろうな)………なら、最初から鋭利な槍状に変化させて発生させれば、人ひとりぐらいブチ抜けるんじゃねーのっつーオゾマシー発想から来た、アルミンの野郎が造った独自の石符だ」

グリシャ「あれが、『死神』や『串刺し』の異名の…………欲しい!! あれ、欲しい!!」


 ジャンの引き攣った笑みがますます引き攣る――――ああ、エレンの子だなぁ、と。


ジャン「………石壁の符自体の製法自体が調査兵団の機密として秘匿されているが――――どのみち製法が分かったところで、あの『石槍』はアルミン以外にゃ使えんぞ」

グリシャ「なんでですかッ!?」


 あんまりだ、と言わんばかりに叫ぶグリシャに、ジャンは頭痛を堪えるような顔で、


ジャン「あの野郎、製法と発動方法は完ッ全に秘密にしてやがんだよ………あまりにもおっかねえ技術だから、流出したらヤベーとかアレコレ理由付けて、独占してやがんだ」


 アルミンの悍ましいほどの出世速度の理由の一端がそれである。その答えに、グリシャは案外納得したような顔で頷き、


グリシャ「………まあ、そうですね。僕でもそうするだろうし」

ジャン(こいつやだー……二年後にはコイツも俺の部下になるんだよなー………それまでに司令になってオサラバしたいなー………)


 調査兵団団長のジャンの切実な願いだった。

 そうこうしている間にも、憲兵たちとアルミンの戦闘は続く。

 と言っても、一方的に憲兵が串刺しにされていくばかりで、アルミンの表情は涼しいものだ。


貴族「こ、こんなッ、こんな、馬鹿なッ………!」


 貴族の一人が、蒼褪めた顔で叫ぶ。憲兵たちがどんどんと殺されていく。どんどんと、貴族たちに近づいてくる。

 『死神』が。壁内で最も冷酷と言われる男が、周囲を静かにしながら、確実に、自分たちに近づいてくる。


 耳ざとく、その絶望の声をアルミンは拾ったのか――――美しい口元を吊り上げた。


アルミン「馬鹿は貴様らだ。十五年だぞ? ここシガンシナは幾度となく改修されている石造りの街だ。

     建物も、道路も、橋も、そのほとんどが石で作られている。

     全て私の指示だ。私の領域だ。ようこそ、私の王国へ」


 両手を広げ、酷薄な笑みを浮かべる。

 音曲は悲鳴。

 彩るは臓物と鮮血。

 通った所に残るのは、串刺しとなった遺骸のみ。

 さながら戦場を棲み処とする、魔王の行進であった。


ジャン「アルミンがやたらカッコつけてるが内心の必死さが目に見えるようだぜ」

サシャ「なんせここで戦果上げないとエレンにコロされますからね」

ヒストリア「そうだね。こう、首がコロッとね」ヒョコッ

モブリット「女王陛下! 笑えません! っていうか何気に前線に出てこないで! お願いですから! なんでもしますから!」


ジャン「そうだぞ………と、そろそろ頃合いだ。アルミンがすんげえ意地の悪いヒントをあいつらにくれてやったしな」

モブリット「え? どういうことです?」

ジャン「ああいうことですよ」


 モブリットの疑問に対し、ジャンが遠くを指さす。

 指先を追っていくと、そこには。


貴族「ひっ、ひぃッ、ひぃいいい………」


 石畳の上は危険と踏んだのだろう――――肥え太った貴族が、必死に街路樹にしがみ付こうと、もがいているところだった。

 よく見れば、そこかしこで木の上や、水の中に飛び込んで、『串刺し』の脅威から逃れようとする者たちがいた。

 貴族も、そして憲兵ですらも。

 それこそが、アルミンがジャンに示唆した『タイミング』であるとも知らず。


ジャン「あの通り、豚も焦れば木に登ろうとする―――弓兵長!」

サシャ「はい」


 我が意を得たり、とばかりにサシャが力強く返事をし、


ジャン「――――豚が分不相応にも鴨の扱いを受けたいそうだ。望み通りに鴨撃ちにしてやれ」


 ジャンが殲滅の命を下すと同時、サシャ以下弓兵たちは一斉に矢を番え、



サシャ「帰命頂礼八幡大菩薩―――――我、御矢と罷り成る………放てぃ!!」



 サシャの号令に応じて――――斉射する。

 矢の雨は違わず木々に群がる憲兵も、川に飛び込む貴族も、差別することなく降り注いだ。

 木々は鮮血に塗れ、川は朱く染まる。

 残るものは、


サシャ「ああ、やはり――――鴨撃ちにされたところで、豚は豚ですねえ」


 物言わぬ躯と化した、死体だけだった。


 矢の斉射をかろうじて逃れた者たちは、しかし、もはや戦意など欠片も残っておらず、


憲兵A「あ、ああッ、あああッ………」


 這う這うの体で、逃亡を図ろうとするものが、多数を占めていた。

 出口は、この地獄の出口は、内地側へと続く門しかない。

 内門から外門へ向かって、アルミンはゆるりと前進を続ける――――正面に出れば串刺しにされる。

 壁の上には調査兵たちが未だずらりと並んでいる――――壁の上に登ったら斬り殺される。

 矢の雨は次々に降り注ぐ――――足を止めたら、死ぬ。

 魔王の行進を回り込むように、矢の雨を必死に掻い潜り、住宅地の隙間を縫って、数十名ほどが門の前へと辿り着いていた。


憲兵A「にッ、逃げなきゃ、逃げなきゃッ、こ、こ、ここ、コッ、殺されるッ………!!」

憲兵B「あ、開けろッ! 早く! 誰か、ここを開けろッ!」

憲兵C「押すなッ、慌てるなァ!! 誰か、開閉機構を早く操作しろ!!」


 我先にと内門へ殺到する憲兵たち。もはやほとんどの貴族が死に絶えている中で、彼らは未だに己の命を一番に考えていた。


サシャ「…………」


 それを見逃すほど、魔弾の射手の鷹の目は節穴ではない。

 己の真下にある内門へ殺到する豚の中心で炸裂させ、諸共に吹き飛ばしてくれよう、と―――棒火矢を準備する。

 その直前、火種を導火線に付ける前に、サシャの手が止まる。


ジャン「どうした? 吹き飛ばすのか? 門への損傷は最低限にしておけよ?」

サシャ「いえ、その」

ジャン「なんだ?」


 口ごもるサシャに、ジャンが当惑したような疑問文を返す。すると、



サシャ「―――――コニー、どこ行きました?」

ジャン「は?」


 思わぬ解答に、ジャンは口を開いて固まった。


 まさか、と恐る恐る、先ほどまで自分の右手側にいたはずのコニーの姿を追うと、


ジャン「―――――」


 そこにいなかった。


サシャ「―――――どこ、行きました?」


 問いには答えず、ジャンはまずコニーが立っていた足元を見た――――石造りの床材が、見事に足の形に粉砕しているのを見て、ジャンは確信する。


ジャン「あ、あの馬鹿野郎! おい、まさかッ!! おいッ、司令官!! てめえ司令官だろうが!! アルミンの真似か!? ふっざけんなァアアアア!!」


 後、続けざまに内門の前に視線を向ける。

 案の定であった。


 内門の前に、血の花が咲く。


 憲兵たちがまとめて三名――――その胴体を撫で斬りにされ、臓物をまき散らしながら倒れていく。


 鮮血の華が開いた中心に降り立ったのは、灰色の髪をオールバックに撫で上げた、大柄な男だ。

 見ただけでそれと分かるほどに巨大で重厚な両刃の剣を、左右の手に一本ずつ構えている。


憲兵D「な、な………な、何者だ、貴様ッ!!」

コニー「――――そいつを知ったら何か変わんのか? 例えばお前らが本日ブチ殺される運命とか。あ、お前は今すぐにだけど」


 言いながら、コニーは右手の剣を振り下ろす。憲兵は脳天から股下までが爆発したかのような、酷い肉塊となって果てた。

 周囲の憲兵たちは、本日幾度となるかもはや数える事すら馬鹿馬鹿しくなる驚きで、硬直した。

 その硬直の間にも、コニーは左右の剣を振るい、更に肉塊を量産していく。


コニー「俺を知らねえ? 超有名人の俺を知らんとか、どんなド田舎に住んでんだ? 壁内のどんな田舎だろうと俺の名前ぐらいは響いてる自負はあったんだけどなあ。ああ、ならばどっちみち――――」


 もはや髪の色すら分からなくなるほどに、その全身を真紅に染めたコニーは剣を担ぎ、


コニー「お前らはやっぱ死ぬしかねえわな。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。敵を知らない貴様らの勝機は、那由他の彼方にすら一片もねえってワケだ」


 振り下ろし、薙ぎ払い、抉り、突き、死体に死体を積み重ね、ミンチ肉にミンチ肉を混ぜ合わせ、次々と次々と次々と。


 恐怖を超えた恐慌に駆られた憲兵の一人が、祈るように叫んだ。


憲兵E「こいつは、一体なんなんだぁあああああああああッ!?」


 親切なコニーはその声の持ち主に向かって、よくぞ大声で聞いてくれたとばかりに笑顔で振り返り、


コニー「調査兵団所属、高速機動部隊初代隊長、コニー・スプリンガー!!! 今やなんとウォールマリア東部司令だ!!

    よぉく聞いたな!? ――――聞いたら死ねよ」


 高らかに名乗りを上げて、終わりを告げる。

 紅に紅を重ね塗り合わせ、戦場という名のキャンパスに、赤い花を咲かせ続けるのだ。


ジャン「ッ、スカかてめえはァ!? アルミンみてえに確実な防御方法も持ってねえ癖して、司令官のてめえが前線に出るたァどういう悪夢だボケェ!!?」


 ジャンは絶叫する――――ごく自然の反応だった。

 少しだけバツの悪そうな顔で――――傍目には血に塗れているため、悪鬼そのものである――――コニーはジャンを見上げ、


コニー「遠くへ行きてえんだよ」


 その一言は、多くの者達には――――調査兵団の兵を含めても――――理解の追いつかぬ言葉だっただろう。しかし、


ジャン「ッ………無茶しやがる」


 ジャンは苦虫を噛み潰したように表情をゆがめ、烈火の如き怒りを引っこめた。


コニー「悪いな、団長。俺にもさぁ、このシガンシナは特別なんだよ――――思い出が多すぎる」


 穏やかに告げた後、視線を切る。

 前を向いたコニーは、再び鬼人と化した。

 内門へと殺到する憲兵たちを、斬って斬って、斬りまくる。

 次第に冷静さを取り戻した兵たちは、コニーを取り囲むように、一定の距離を保った包囲網を形成するが、



カルラ「――――酷いわ、コニーおじさま。正式な任官もまだなのに、こんな刺激的な光景、御預けなんて耐えられない」



 その包囲も、戦の匂いに惹かれてシェルターから飛び出した、小さな東洋の戦鬼が再び切り崩す。


 どこかの憲兵と、どこかの弟が叫んだ――――お願い、耐えてよ!? と。無理な相談である。


マーティン「さすが! 俺達の! 兄貴! ッス!」

サニー「馬鹿だ。どうしようもない馬鹿兄貴だ!!」


 カルラの登場とほぼ同時に、ロクに指示も出されないせいで待機していた現在の高速機動部隊隊長と副隊長――――コニーの弟と妹である、マーティン・スプリンガーとサニー・スプリンガーが合流する。

 更にその背後からは、


グリシャ「………すいません愚姉で。サポートするので、ご叱責はこちらの愚姉だけにどうか」

ミカサ「――――その、司令。その、なんと言えばいいのか………ごめんなさい」


 その保護者と弟までもが、申し訳なさいっぱいの顔でやってきた。器用にも憲兵の首を刎ねたり、脳天撃ち抜いたりしつつである。


コニー「………なんか、苦労してんなあ、おまえらも。まあ、いいけどよ………遅れんなよ?」


 血と脂で切れ味の落ちた剣を捨て、代わりの剣を部下から受け取りながら、コニーは不敵にほほ笑んだ。


カルラ「はいッ! 喜んでお供しますッ!!」

グリシャ「嫌々ながらお供します……」

ミカサ「どこで教育を誤ったのだろう……」

コニー「よっしゃ、いくぞ!!」

マーティン「はいッス!!」

サニー「行くなッ! 司令官が最前線にッ、しかもその先頭に立つなッ! 何キョロキョロしてんだよてめーだよ馬鹿!! 馬鹿っつったらコニーの兄貴てめーだよてめーしかいねえよッ!!」


 妹の悲痛な叫びもどこ吹く風で、コニーは最前線に立つ。

 しかも、ゆるりと歩きながらだ。

 もはや手の込んだ自殺のように見えただろう。

 むしろ的に近いようにも見えた――――歪ながらも隊列を何とか整え、横列に銃を構える憲兵達には。


 ――――コニーの四肢は、鋼で覆われている。腰には少し形状が歪な、より先鋭的な形状となった立体機動装置がある。

 外見は、さながら胴体部分のプレートを排除した、堅牢なる西洋甲冑。

 速力を得るためには、軽量化を至上とする立体機動術において、その重量は文字通りの足枷となるだろう――――――ただ一人の例外を除いて。


 ――――余談ではあるが。

 出世頭のアルミンに次ぐ出世街道を歩んだコニーであるが、人一倍伸び悩んだのもまた彼であった。

 成長期の訪れによる身長の増大は、膂力や筋力の増加を意味したが、同時にコニーの持ち味をスポイルする結果となった。

 体重の増加である。元来身軽な体躯を生かした小回りの利く立体機動術を得意としていたコニーにとって、成長はむしろ悩みの種であった。

 一月前には問題なくできていた宙返りができない。

 初動が遅れ、思うような機動を取れない。

 重力と慣性を利用することで最高速度は上がったものの、加速力と緩急に難が出る。


コニー「あいつが、待ってる。もたもたしてっと追いつけねえんだ」


 ただひたすら頑丈に、切るというよりは抉り潰すような無骨な剣が二振り、コニーの両手に握られている。

 重厚な双剣だ。とても巨人には歯が立たぬだろう――――当然のこと。それは対巨人用ではなく、対人装備。

 巨人を切るためではなく、人を殺すための剣。


憲兵F「何をゴチャゴチャと―――!! 総員、先頭のあのバカを――――」


https://www.youtube.com/watch?v=WeocNEXP1i8


 軽量化を最上とする調査兵団において、重装備に身を包むことが、何を意味するのか。

 銃が撃ち払われるその直前、硬質な物質が爆ぜ砕ける、甲高い音が地を震わせ、


憲兵F「撃―――――え?」


 壁内に存在する誰もが―――鷹の目を持つサシャでさえもが――――コニーの姿を見失った。


コニー「邪魔するなら――――――」


 憲兵はその声を、己の背後より聞いた。

 そして、


コニー「殺すぞ」


 血風を纏った死の暴虐が、敵の銃士隊の中心にて荒れ狂う。


 憲兵たちの前方、およそ二十メートルは離れていたであろうコニー・スプリンガーは、あろうことか、彼らの陣中にて剣を振るっている。


憲兵G「うっ、う、ううう撃てッ! 撃ちまくれぇッ!!」


 反撃に転じようとする憲兵の、何十もの銃口がコニーを追う。しかし実像は捉えられず、弾丸は尾を引いた血霞を虚しく素通りするばかりだ。


カルラ「なにあれ、すごい。訓練兵団じゃあんなのなかった。ちょっとグリシャ。あれ欲しい。ギッてきて」


 憲兵の腸を掻きまわしながら、弟におねだりするシュールな姉がいた。――――僕の姉なんだよなぁ、とグリシャは血を吐くような表情で俯いた。


グリシャ「黙ってください愚姉。しかし凄まじい。あれがコニー・スプリンガー。あれが人類最速の男。不覚にも動きが見えなかった」

ミカサ「………速い。私の全盛期でも、とても追いつけない。これが、今のコニーか。多分、あのチビでも、捉えきれないだろう」


 ミカサをしてそう言わしめるコニーのスピードは、桁違いだった。

 肉が弾け斫れる破裂音が、コニーの通った道に後から響く。秒速200mという狂気の世界。

 コニーの身体が掠めるだけで、憲兵の肉が千切れ骨が砕ける。

 もはやその姿すら捉えられない。


 血を帯びた風が、彼の奔った軌跡を示すばかりだ。


アルミン「――――うん?」


 その頃、アルミンは憲兵たちを串刺しにしていくだけの簡単なお仕事に夢中になっていたが、背後から立て続けに上がってくる絶叫と、断続的にこだまする独特の破砕音に振り返る。

 遠目ではあったが、何が起こっているのかを悟り、その笑みを深めた。


アルミン「流石は高速機動部隊の初代隊長。寝食を惜しんだ難渋の末、辿り着いたのがアレとは、私でも考え付かなかった」


 懐かしげに頷くと、再び視線を前に戻し―――飛びかかってきた憲兵を串刺しにする。隙などないわ馬鹿めと言わんばかりに笑顔である。


アルミン「―――石壁の符を小規模化した『石突』の符。最初は失敗作と思っていたが………コニーがそれを成功にした。あれは本当に儲けものだった」


 コニーの尋常ならざる速度の秘密は、そこにあった。コニーの左右の靴底の踵に仕込まれた一万枚もの『石突』の符は、地を蹴る際に発動し、大地を石突で叩き、推進力へと変換する。


アルミン「―――――効果は劇的。されど劇的故に劇薬」


 全てはアルミンの石壁の符の魔改造に端を発している。要は、大体の出来事はアルミンが悪い。


 遠く、未だ壁の上にて戦況を見守るリヴァイとエルヴィンもまた、コニーの動きに改めて戦慄と、どこか懐かしさを覚えていた。


リヴァイ「立体機動装置には構造上の欠点がある………目標を定め、ワイヤーを射出し、目標に命中させ、そこからトリガーを引いてガスを蒸かし、推進力を得る。

     問題は、四段階の過程で生じるタイムラグにある」

エルヴィン「歴戦はその工程を短縮化する。より早く目標を定め、アンカーの命中と安定を即座に確認し、適切な量のガスを蒸かせる。

      だが、特に地に足をつけた状態からでは、どうしても初速が遅い。

      既に速力を得ていたとしても、狙い・撃ち出し・命中・ガストリガーを引く、四段階にかかるロスは飛んでからも変わらん。

      熟練者はそれを短縮するが、ゼロにはならん。その間はどうしても無防備となり、既に肉体に作用する慣性によって方向転換ができん」


 それは立体機動装置を扱う者ならば――――むしろ技量が熟練すればするほどに陥る、大きな悩みであった。


リヴァイ「かと言ってガスを大量に蒸けば方向転換は不可能ではないが、一方でガスの消耗が激しい。ガスの大容量化を図れば今度は重量が増えて速度が落ちる。両立は出来ん」


 だからこそ、戦慄する。コニーの発想は、まさに天才と馬鹿の紙一重であった。


リヴァイ「コニーは逆の発想から着眼点を得た。初速が遅いのならば、それを補うものがあればよい。

     攻撃・回避に転じるまでのロスがあるのならば、そのものを攻撃としてしまえばよい」


 そのために、コニーは己の装備を変えるところから始めた。


リヴァイ「コニーの立体機動装置の巻取り機構は、通常の兵士が使うそれとは違う。

     ワイヤーで自身の身体を牽引させるのではなく、ワイヤーで刺した対象を己の元へ牽引する。アイツのガタイなら大抵の人間は引き込める。

     まして―――戦う訳でもねえくせに、軽量化を最上とするただの立体機動装置を装備した憲兵なんぞ手玉だ」


 事実、憲兵の誰もがコニーに対応できない。

 弾丸はその速度を捉えきれず。

 立体機動装置で逃げようと、追いつかれて斬り落とされる。
 

リヴァイ「特にコニーはアレの適性が高かった。一踏み目から立体機動装置のトップスピード以上の加速力を得る。『人類最速』の異名は誇張も掛け値もなしだ」

エルヴィン「懐かしい呼び名と光景だ。切り込み隊長としての腕に―――――あの俊足にいささかの衰えもない。

      今はまだ『石突』のみだが、コニーが立体機動装置まで使い始めたら、あの速度を維持したままに三次元の軌道を取る。

      そうなればもう手に負えん。弾丸だろうがなんだろうが、誰にももう捉えられない」

※力尽きた

 来週ぐらいになるよ

 あとコニー魔改造については異論は認める。正直、すまんかった。コニー好きだからさあ

 ぶっちゃけ、超厨二で書いてて楽しかったです

 こんなのコニーじゃないわ! ガル茂とガッツの合いの子よ! ってご意見は御尤もです

 堪忍してつかあさい。


 石突の符に、更に立体機動装置による加速・巡航――――ガスを大量に消費する問題を、空気抵抗を低減するために立体機動装置の機構そのものをリファイン。

 より単位当たりのガス消費量を速度へと効率的に変換できる立体機動装置が完成し、コニーの速度は倍増したといっていい。

 それによって、コニーは速度を取り戻した。かつて備えていた速度よりも遥かに速い速度をだ。

 しかし、それをいざ実戦に用いる段となって問題となったのが、コニーの速度だったと言うのが皮肉だ。

 石突の符はコニー以外でも用いることができる。だが、誰もコニーの速度についていけない。

 連携行動が取れないというふざけた事態には、アルミンが一計を案じて対応した。

 コニーの圧倒的な機動力は一切スポイルさせることなく、かろうじてコニーについていけるだけの速度を得た者達で班を作り、水晶球を用いた通信によって立て続けに遊撃任務を与える。

 ――――即ち戦場全てを駆け抜け、いかなる局面においても誰よりも速く救援に駆け付け、討伐補助、もしくは討伐を行っては次の敵へと疾走する。

 この役割は調査兵団の壁外調査活動において有用となる新たな戦術を示し、高速機動部隊の戦術が確立するきっかけとなった。


ジャン「高速機動歩兵部隊、前へ。お前たちの大先輩に、高速機動の極意がなんたるか、一つ手本を見せてもらえ」


 ジャンが指し示す先、コニーは飛ぶように、踊るように敵を切り裂き、叩き潰し、そして駆け抜けている。

 血の帯を纏って、血の風を纏って。

 機動部隊員たちはその光景に、震える。胸の奥から滾りが抑えきれないほどに沸き上がってきていた。


 あれが、自分たちの目指すところであると。

 速度の到達点だと。あれを越えねば、隊長にはなれないのだと。
 
 機動部隊隊長は、最速の人間が襲名するという倣いが出来ている。

 初代は言うに及ばずコニー・スプリンガー。

 次代がその弟にして、コニーに勝るとも劣らぬ速度を誇るマーティン・スプリンガー。

 視線に気づいたのだろう。高速機動部隊の後輩たちに向けて、コニーは高らかに問いを叫ぶ。

 
コニー「野郎ども、俺達の仕事は何だ!!」

マーティン「兄……司令! 止まらないでください! 敵の銃撃が!!」


 立ち止まったコニーをガス切れと判断、好機と見た銃士が立て続けに銃を放つが、


コニー「負け犬共の弾なんぞ何千何万何億何兆撃たれようが当たらねえよ」

憲兵「なんでッ、なんでッ!? なんで、棒立ちの野郎に、当たらないッ!?」


 コニーに当たりそうで当たらない。コニーの顔の数センチ横を素通りする。


コニー「ヘタなんだよ。それにな、こういうのは後ろ暗い気持ちのあるヤツから当たる――――こんな風に」


 そう言って、コニーが懐から取り出したのは、単筒の銃だ。


コニー「俺の下手な射撃でも」チャッ

憲兵「ヒッ!?」


 コニーの引いた引鉄が、激烈たる銃火の音波を響かせる。

 瞬刻の後、コニーを狙っていた憲兵は、額の風通しを良くしてどうと倒れ伏した。


コニー「―――ほれ?」

サニー「ほれ? じゃないわ……ですよ!! スプリンガー司令!! 御身の立場を弁えて―――!」

コニー「俺は正しいから、銃弾なんか当たらない」

マーティン「メッチャクチャッスよ司令!?」

コニー「馬鹿言ってんじゃねえよ、マーティン、サニー。それでも俺の兄弟か。命張ってる連中の後ろでふんぞり返るのが司令の仕事じゃあねえ。司令の仕事は、兵士らの往く道を作ってやることだ」

コニー「おまえらを死なせないためにどうすりゃいい。俺は何をすればいい。簡単だ。おまえら殺そうとするヤツを俺がぶっとばしちまえばいい」

サニー「馬鹿だやっぱ私の兄貴凄く馬鹿だ」


マーティン「なんでこの人が司令官なんッスか」


 その問いに、コニーは照れ臭そうに頭を掻き、


コニー「あのなあ――――お前らが死んだら、誰が俺を守るってんだよ。俺より先におまえら死んだら、俺が死んじまうだろう」



 その言葉に、弟と妹の二人は、目頭が熱くなった。

 彼らが新兵だった頃、いつだってこのバカな兄は、自分たちを守ってくれていた。

 その兄が、頼れる兄が、自分たちを頼っていると――――守ってくれと言ってくれた。


サニー「ッ、この、馬鹿、馬鹿兄がッ………少なくともッ、言われなくたってッ! あたしはあんたより長生きするわよ!」

マーティン「全くクソッタレ、だけどチクショー! この兄貴が司令でホント良かったなあ!!」

コニー「おう、それが順序ってもんだ。だからそれでいい――――だから聞けよ、兵士達。俺の可愛い後輩たち。高速機動部隊の精鋭たちよ」


 集合しつつある機動部隊に向けて、コニーは吼える。


コニー「聞いての通りだ。俺たちの仕事は地ならしだ。後から続く者達が安心してついてこれるように、俺達は地に這う有象無象を踏みつぶす。一切合財、何もかも、真ッ平らに整地するのが俺達の仕事だ」


 それが仕事。それを誰もが誇らしく思った。


コニー「誰よりも愚直に、誰よりも果敢に、誰よりも迅速に会敵する。――――誰よりも勇気がいる。それが俺達の仕事だ。誇れ!」


 それはもっとも危険な仕事だ。だが、だからこそ多くの仲間を助けられる最高の仕事だ。


コニー「打ち倒した敵も、打ち滅ぼされた味方も、諸共に踏破し、粉砕し、道を拓く。それが―――俺達の仕事だ。兵団の魁だ。一番槍だ。誇れ!」


 誰よりも誰よりも速く、多くの敵と会敵することは、機動部隊の勇である。滾らずにはいられない。


コニー「求める物は前にしかない。守りたい者は後ろにいるだろう。なればこそ恐れず進め。誰よりも速く、誰よりも雄々しくだ。故にこそ、誇れ!!」


 守りたいものを守るために、遠ざかる――――遠方の敵を撃ち滅ぼし、故郷に平和を成すからこそに。


コニー「亡者の群れを突ッ走り、魔天を開くは魔王の従僕の勤め。我らはこれより血風を纏う修羅となるぞ!!」


 歓声がついに爆発した。この上なく高まった士気の元、機動部隊が始動する。未だかつてなき速度の予感に、誰もが口元に笑みを浮かべ、武者震いに震えた。


コニー「蹂躙せよッッ!! 敵は恐慌(おそれ)ている! 敵を真っ直ぐに真っ二つだ! 俺の背に向かって突ッ走れ!! 天下布武だオラァ!!」

 極限にまで高鳴り、叫び声を上げて突撃する、コニーを筆頭とした高速機動部隊は、鎧袖一触で憲兵や貴族たちをボロ屑へと変えていく。

 踏みつけ、潰し、地ならしのように。

 飛び、滑空し、壁を蹴り、更に速く、速く、速く。

 先頭に立つコニーの背を、誰もが追いかける。

 誰もがコニーのようになりたいと、機動部隊員たちは想い。

 思うだけでは追いつけぬと研鑽を重ねてきた。

 今はまだ届かない。現役の機動部隊でも、コニーの速度は二つの壁を感じるほどに隔絶している。

 いつか絶対に、あの背に追いつくのだと。

 誰もが、それに憧れた。


アルミン「ギギギ、なんであんな馬鹿に人気が集まるんだッ………理解できんッ」


 なおアルミンはコニーの人気にヘイト値をぐんぐん高めている。

 そのあたりがアルミンの限界であろう。

※今日は短いごめん
多分来週辺り?


 後背でコニーら高速機動部隊が暴れまくる中、アルミンは串刺し散歩を終えて、外の世界へと繋がる――――先ほどエレンがブッ壊した――――門の前へと立つ。


アルミン「とりあえず塞がないとな、と」パラララッ


 石符が踊る。何千何万という石壁の符が飛び、穴の開いた箇所を補修するように張り付き、


アルミン「――――――よっ」パチン


 指を弾いたとたん、その穴が石壁によって埋まる。

 いささか荒くはあるが、並の巨人では傷一つ付けられないほどには補修が完了する。


アルミン「石壁は生み出されるんじゃなくて、周囲の石を削って作るんだから……だいぶ石畳が薄くなってしまったか。

     ――――全く、符を一枚作る手間も、ハンコとはいえ馬鹿にならないってのに」

エレン「――――俺が此処に来るまでに費やした体力はそれこそバカにならないんだがな」


 アルミンが修復を終えてひとりごちる――――それとほぼ同時に、エレンもまた壁から地に降り立った。


アルミン「あ、あはは………ごめん」


エレン「いずれその件については話がある。逃げられると思うなよ司令長官」

アルミン「」


 この件が原因で、アルミンは後にものすごく痛い目に遭うが、それはまた別の話である。

 言い訳しようとアルミンが口を開こうとした瞬間、視界に入った「もの」が原因で、口元が引き締まる。


ロッド「や、やめさせろ………!! 今すぐ、あの虐殺をやめさせるんだッ!!」

アルミン「ロッド・レイス……」

エレン「………」


 ここまでいかにして辿り着いたのか、ロッド・レイスが単身、エレンとアルミンの前方10メートルほどの位置に立っていた。

 アルミンとエレンを、呪い殺さんとばかりに睨みつけている。

 対するアルミンは小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべ。

 エレンは無言で懐に手を入れ――――それにロッド・レイスが反応するが――――水晶球を取り出した。

 ロッドは、一瞬だがそれに安堵した。その通信用水晶球の存在は知っている。故に信じてしまったのだ。

 愚かにも、あのエレン・イェーガーが、停戦を打診してくれる可能性が僅かにでも存在する、そんなありえない未来を。


エレン「通信繋げ。ジャン」


 返答は即だった。


ジャン「エレンか! 見えているぞ! そっちにロッド・レイスが行ったな!?」

エレン「――――そんなことはどうでもいい。戦果は」

憲兵『こ、こッ、降伏する! 撃つな! 撃たないでくれ!!』

ジャン「………聞こえただろう? ひでえもんだ」

エレン「うん? アルミン、何か聞こえたか?」

アルミン「うん? 何のことかな。戦場の声はどうにも聞こえ辛いものでね。まあ――――豚の悲鳴ならばひっきりなしに聞こえているよ?」

ジャン『ッ………!!』

エレン「成程道理でイラつくわけだ。では通信繋げ、弓兵隊、銃士隊、掃滅するまでやれ。撃って、射って、殺し続けろ。耳障りな鳴き声が消えるまでだ」

ジャン『ッ、だろうよ。おまえらならそういうと思ったよ!! むかつくのはそうするのが一番いいってことだよ、クソッタレが!! トヨヒサだったらキレるぞ!?」

エレン「いいや。降り首を討つのは恥だが、追い詰められて初めて尻尾を振り、腹を見せて擦り寄ろうとする獣の命乞いなど言語道断だ。

    まして奴らは民草ではなく、ただの国家反逆者だ。どうせ死ぬのならここでさっくり死なせてやった方が慈悲というものだろう。トヨヒサとて同じことを言うだろうよ」

ジャン(やべえ。言うわアイツなら。ゼッテー言うわ)


エレン「通信繋げ、サシャ、コニー。鴨撃ちだ。根切りだ。銃弾で蜂の巣だ。刀剣にて撫で斬りだ。死体は便所の土とかき混ぜて火薬にしてやる。奴等には墓も残さん」

サシャ『御意! ゲンジバンザイ!』

コニー『応よ。ダイロクテンマオウバンザイ!』


 そうして通信を切り、エレンは無表情にロッドを見やり、アルミンは心底楽しそうにロッドを睥睨する。

 ――――ロッドは、視線で人が殺せるのなら、二人を八つ裂きにできるほどに怒り狂っていた。


ロッド「こッ、このような無道ッ………民に知れ渡れば民意を失うぞッ!?」


 口角を飛ばしながら喚く。だがアルミンは肩をすくめるばかりだ。


アルミン「無道? 何がだ。我々調査兵団は反乱軍と交戦。捕虜となったものをシーナ地下へと連行し、処刑する。どうなろうと、結局はそういうことになる」

ロッド「な、なに………?」

アルミン「ここのどこに目撃者がいる? ここの住民はシェルターに退避済みだ。中から聞こえる? いいや? あのシェルターは地下で地続きになっていてな。とっくにシガンシナ区民はマリア圏内に避難済みで、いるのは駆逐一家だけだ」

エレン(後で殺す。絶対殺す)


 ナチュラルに死亡フラグを立てていくアルミンであった。


アルミン「避難した区民たちは口々に言うだろう。憲兵たちが、貴族たちが、そしてかつての王が、自分たちを殺そうとしたと。貴様らが明確に国家に反逆したという事実を知る生き証人たちだ」

ロッド「ッ………!!」

アルミン「そしてここにいるのは我ら調査兵団旗下の兵士と、おまえらだけ。お前らがここで皆殺しに遭おうが十数名程度生き延びようが、どの道死ぬのが遅いか早いかだ」


 何を当然のことを、とでも言いたげに語るアルミンを、ロッド・レイスは唖然と見つめるしかなかった。


アルミン「理解しているのか? 先ほども口上で述べた気がするんだが。貴様らがやったことは、現王政に対する明確な反逆――――国家反逆罪だ。当然死刑だ。裁判など行わない。行う理由がない。言い訳を繕う自由も時間も抗弁の権利も与えない。シーナの市中を引き回しの上、銃殺刑が妥当だ」

ロッド「わ、私はロッド・レイスだ! 正統なる王の直系の一族だ!! 私こそが王だ! それを引き回しにして銃殺だと!? 反逆者はお前たちだ!!」

アルミン「ヒストリアがいる。シナリオとしてはこうだ。かつて貴様は己の王権をヒストリアに継承した。いかに我々という武力を背景に脅されたとはいえ、それは紛れもない事実」

エルヴィン『しかし権力の味を忘れられない前王ロッド・レイスは、ヒストリアに不当に権勢を奪われたことを不当とし憤っていた。しかし既に王権は継承済み。世論も民衆もヒストリアの味方だ。さて、困ったぞ』

ロッド「ッ、この声は、え、エルヴィン・スミスか!? だ、だが、それは、ま、まさか………」

エルヴィン『そこで貴様は現政府に反抗的な貴族たちを集め、再び己の身に王としての権力を取り戻さんとシガンシナを制圧。しかし調査兵団の働きによりシガンシナは瞬く間に奪還され、裸の王様とそれに付き従った馬鹿どもは哀れ地獄行きとなりましたとさ――――私の義息は性格が悪くてね』


 そういうシナリオだ。最初からそういう決定事項だった。それを心底ロッドは思い知らされた。


アルミン「女王陛下とて胸が痛ましい事件だろう。仮にも血縁者、それも父親を処刑せねばならないのだ。なんとおいたわしい。しかし女王の評判はますます上がるだろう。あのようなクズの父親相手にも心を痛めるだなんて、なんとお優しい方なのだろう」

ロッド「ッッ、き、きッ、キッ、キサマッ………」


アルミン「―――――と、こんなところか。つまりだ。これで貴様らを誰に気遣うこともなく絶滅できるということだ。

     十五年前から煮詰めていた計画だが、十五年前の時点で、私の脳裏にはこの絵がほぼ出来ていた」

ロッド「十五年前………ッ、シガンシナの、イェーガー家の地下かッ!? グリシャ・イェーガーの遺産かッ!!」

エルヴィン『いろんなものが手に入ったよ。偽りの王族、正統なる王族レイス家。そして巨人化薬がわんさかとね』

アルミン「あの時点で根切りにしておきたかったのはやまやまだったんだが、いかな暴虐を働いた貴族たちとはいえ、一方的に虐殺し掃滅しては、民の不安と不信を煽る。

     憲兵から調査兵に変わっただけで、政(まつりごと)は何も変わらないのではないかとな。どうしたところで不穏分子は残るものだ。

     この壁内という限定された土地柄を考慮すれば、どう考えても根切りは悪手だった」


 故に、と前置きし、アルミンはロッド・レイスを指さす。


アルミン「そこで貴様だ。どうしてこの十五年間、貴様のようなものを生かしておいてやったと思っている。分かりやすい神輿があると、人はそれを担ぎたがるだろう?」

ロッド「…………」

アルミン「利権に縋る蠅共を誘導するのは実に容易かったよ。貴様という悪臭放つ糞がいまだ健在となれば、それを盛り立てて正当性を主張するに決まっている。まさに糞にたかる蠅とはこのことだ! はははははははは!!」


 ひとしきり笑ったのち、アルミンはまさしく虫けらを見るような不快気な顔で、ロッドを見下し、


アルミン「さて。では用済みの糞は蠅と共に片づけてしまうとしよう。土間の土と混ぜて火薬にして、有効活用してやる。無道がどうとか行ってたが、安心したまえ。君らを踏みつぶして我らはそれを道とする」


 もうどっちが悪だか分からない始末である。

 水晶球の向こうで拝聴している隊長クラスたちは、誰もが苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


エルヴィン(もうやだ。こんな部下嫌だ。使い辛い。うんざりだ。さっさと総統の立場譲って退役したい)

リヴァイ(ますますノブの野郎に似てきやがったあのガキ………邪悪さではそれ以上かもしれん。今のうちに殺っちまうか………いや、だがあの忌々しくも優れた脳味噌は惜しい。糞が、性根が腐ってて有能とは、全く殺しづれぇ野郎だ)チッ

サシャ(私らもいずれハメられて死んじゃったりするのかなーなんて疑いたくなっちゃいますよねー……)

コニー(あー、ひょっとしてオヤカタ様って、こういう部下の不信感を重ねて裏切られたのかな)


 何気にコニーが限りなく正解に近いことを考えていると、

 ――――外門の前に、閃光が迸る。


ジャン「!? 巨人化時の、光!?」

サシャ「ッ、エレン、じゃ、ない………あれは」

コニー「………持ってたのかよ、まだ」


 隠し持っていた巨人化薬を注射した、ロッド・レイスの変貌した姿――――超大型巨人を超える体躯の、巨人が、生まれ出でようとしていた。


 ロッド・レイスが注射器を取り出した瞬間、エレンは動いていた。

 ロッド・レイスに向かってではなく、逆だ。アルミンの首根っこをひっつかみ、再び壁の上へと立体機動で移動する。

 壁にアンカーが突き刺さり、ガスを蒸かした瞬間に、閃光と爆風が壁内に吹き荒れた。

 ほこりまみれになってむせるアルミンを壁の上に下ろした後、エレンは心底嫌そうな表情で、変身中のロッドを見やり、


エレン「チッ、なんて図体だ。どこかの腰巾着野郎を彷彿とさせやがる」

ミカサ『ここからも見えるわ。同感。心底不快だ』

エレン「ミカサ。聞いてたのか。怪我はしてないか。ちゃんと俺のいない間にメシ食ってたか。貯金はまだ大丈夫か。ガキどもは訓練兵団できちんとやってるか」

ミカサ『全部大丈夫、私はできる嫁』

エレン「流石だミカサ」

ミカサ『うん』

アルミン「冷静に夫婦漫才してる場合かなァ!? ちょっと僕らの故郷が大ピンチなんだけど!?」


 煽りすぎたアルミンのせいじゃないか、とエレンは一瞬考えたが、煽らなくてもどのみちロッドは巨人化薬を使っただろうと当たりを付ける。


エレン「なんにしても、仕事だな。あのぐらいにデカい首なら、トヨヒサにも自慢できそうだ」バキリ


 不快気な顔を、好戦的な笑みに変え、エレンは両手の骨を鳴らす。

 ロッド・レイスの巨人は変身を終えて、その身をゆっくりと起こそうとしているところだった。


エレン「通信繋げ――――サシャ。あのデカブツの足元に一発見舞ってやれ。そしたら後は俺が仕留める。いつでも構わん」

サシャ『諒解、兵長殿』

コニー『――――しょうがねえ。おまえの故郷だ。手柄は譲ってやるよ』

リヴァイ『兵長はてめえだ。存分にやれ』

エレン「アルミン。トヨヒサがやったっつーアレだ。やるぞ。合図と同時に打ち出せ。丁度頭上に落ちるようにだ。できるな?」

アルミン「ッ、了解だ―――――いつでもいいよ!!」


 石壁の符をエレンの足元へと配置。

 その後、凄まじい勢いで射出された棒火矢が、巨人の足元に炸裂する。

 ロッド・レイスの巨人が体勢を崩し――――うつ伏せに、うなじが丸見えとなる。


エレン「今だ、やれい、アルミン!!」


アルミン「っつ!!」パチンッ


 石畳がすさまじい勢いで生成。その上に乗るエレンもまた、猛烈な勢いで中空へと躍り出る。


エレン「ッおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」バシュウウウウッ


 すぐさまガスを蒸かし、体勢を整え、眼下を見下ろす。

 自由落下が開始され、エレンは頭から落下していく。


エレン「この一発で、二十年の屈辱はチャラにしてやる――――だから」


 高速で落下する中、エレンは口元に左手を噛みしめる。



 黄金色の稲光が発せられ――――エレンの右腕から先に、硬質化した巨人の腕が顕現し、



エレン「俺は、外の世界を冒険するんだよ―――――あの世でヒストリアの母親に詫びて来い……!!」



 振り下ろす。小彗星の如き凄まじい一撃は、寸分たがわずロッド・レイスの巨人のうなじを、首ごとすり潰した。 



 

……
………


………
……



 その後、十数分で戦いは終わった。

 元々趨勢が決していた戦いだ。否、戦いですらない粛清。ごく数名の憲兵が捕えられたものの、その数は十名にも満たない。貴族に至っては全滅している。

 数日後にはアルミンの言葉通り、シーナで銃殺刑が待つだけの身だ。

 しかも厳重に裸に剥かれて鎖でぐるぐる巻きの上、半殺しにされている。巨人化能力者でもない限り、夜に凍死する可能性が高いと思われたが、それならばそれでいいと考えている当たり、調査兵団の兵士たちは未だに怒り心頭であった。

 そんな中、今回は美味しいところだけを持っていきやがったとジャンの怒りの矛先になっている、第一論功のエレンであるが――――。


エレン「しまった。勢いがつき過ぎたな――――――うなじの中の糞袋の胴体がフッ飛んで、失敗したチーハン風味になってしまったぞ。首(てがら)はどこにすっ飛んだ?」キョロキョロ


 クレーターとガレキの山だらけになった外門の入り口で、エレンはあちこちに散らばった石畳やバラバラになった建築材を漁る。

 どこだー、ここかー? と嬉々として瓦礫をひっくり返す男性(30)がいた。

 おっかねえだろ。兵長なんだぜこいつ。


サシャ(ミンチよりひどい)

コニー(即死だな、間違いなく。痛みを感じる暇もなかったろ)


 そも多くの衆目の中でロッド・レイスの巨人を打ち破ったのだから、首がなくとも問題ないのだが、そんな理屈は駆逐一家の、それも家長には通らない。

 シシ●ミの森のシ●ガミ並に首を追い求める様は、さながら妖怪。


リヴァイ(妖怪首おいてけが増えたか……)

ジャン(もういやだ………疲れた、俺は……)


 ジャンの背中は異様に煤けていた。そこがいい、と恋する乙女の視線を向ける黒髪美少女モブ副官は、きっと目が腐っている。


エレン「!! あった! ロッド・レイスの首、エレン・イェーガーが獲ったぞ!! ヤッター誉れだ! また特別手当と恩賞だ!」

ミカサ「おめでとう、エレン」

カルラ「やったね父さん! 明日はチーハンだ!」


 首を抱えてはしゃぐ子持ち男性(30)に駆け寄り、その労をねぎらうその妻(30)と娘(13)。

 これには同僚や部下達、そして息子(13)も苦笑いのはるか上空をカッ飛んでドン引きであった。


エレン「ええと、腰に髪縛って括り付けて………ってハゲじゃねえか。糞」

ミカサ「エレン。千切れたワイヤーがある。これで括り付けるといい」


エレン「おお、気が利くな。よーし、口ン中にワイヤー突っ込んで首から出して………よし、これで縛れたぞ。サンキューミカサ!」

ミカサ「ううん。これも妻のナイジョノコウっておトヨさんが言ってた」

カルラ「流石は母さん! 壁内一のNADESHIKO! 私も見習わなくては!」

エレン「はっはっは、ガンバレカルラ。まずは巨人のうなじを一回の遠征で100落とせるようになってからだな!」

ミカサ「肉体のコントロール法も覚えよう。大丈夫、私とエレンの娘ならばできる」

カルラ「はいっ! がんばります!」


グリシャ(だめだこいつら……もうどうにもならない……)


 グリシャは早くもポストジャンになりそうだった。今後の苦労が忍ばれる。


コニー「つーかヒストリアの内心に少し配慮しろ」

エレン「立場を配慮してる。反逆者は反逆者だろう」

コニー「おまえ嫌な意味でスレたよな」


 何にしても怖い家族である。

 この一家が『怪物一家』とか『シガンシナの火薬庫』とか『シガンシナの歩く逆鱗』とか呼ばれ畏れられると同時に尊敬されているのは、当の本人たち以外は誰もが知ってる公然の秘密である。


アルミン「エレン」


 そんな一家に近づいていったのは、アルミンだった。


エレン「ん………アルミンか」

ミカサ「アルミン、お疲れさま」

アルミン「………」クイクイ

エレン「ん。ミカサ」チョイチョイ

ミカサ「うん。カルラ、グリシャ、ちょっとここで待っていなさい」ギュッ


 アルミンは黙ったまま、指先を動かして壁の上を示す。応じてエレンがミカサを呼び、ミカサがエレンに抱き付く。

 阿吽の呼吸で、三人は連れ立って、壁の上へと立体機動装置で登っていった。


ジャン「」ゴブッゲフゥッ

黒髪美少女モブ「!? ジャ、ジャンさん!!」ダキッ


 そしてその光景を見たジャンの吐血。そして駆け寄る黒髪美少女モブ副官。もう恒例であり、もはや日常だ。彼が吐血しない日はそれだけで非日常となりつつある。


 三人は壁の縁に座り、外の世界を眺める。

 エレンは楽しげに。

 アルミンは、どこか寂しげに。

 ミカサは、どちらともつかない表情で。

 外の世界に、想いを馳せる。


エレン「いよいよだ。もう待たん。二十年前に始まり、十五年前から待った。十五年ずっとだ。俺は外へ打って出る」


 口火を切ったのはエレンだ。それにアルミンもまた頷く。


アルミン「止めはしない。随分待たせてしまったが、これで壁内の憂いは消えた。後は混乱する民草を慰め、シガンシナ区を復興。そうだな……二月後には、大規模な壁外遠征ができるだろう」

エレン「後二ヶ月、か」

ミカサ「長いと感じる?」

エレン「まさか。永遠と思えるぐらいに永かったこの十五年に比べりゃ、二ヶ月なんてすぐだ」


 エレンが、真っ直ぐに手を伸ばす。地平線に向かって。壁にさえぎられることなく、天と地の交わる場所へ手を伸ばす。


 その手が、銃口のように象られ、


エレン「―――――あの先へ、行くぞ」

ミカサ「ええ」

アルミン「楽しみだね」


 何が待ち受けているのだろう。

 困難がないとは言えないだろう。少なくとも楽しいだけではないはずだ。

 だが――――三人にとっては、楽しいことの方が多いと、そう思えた。


エレン「まずは海だろう」

ミカサ「私は山。溶岩を見てみたい」

アルミン「熱いのはイヤだね。僕は断然海だ」

エレン「二対一だな、海に決定だ」

ミカサ「む………二人して私を苛めようとするのね」

アルミン「あははっ、しょうがないじゃないか。多数決は重要だもの」


ミカサ「む……じゃあ、その次は砂の雪原、砂漠に行こう」

アルミン「だから暑いを通り超えた熱いのは嫌いだって。それは最後にして南極に行こうよ」

エレン「南なのに寒いって不思議な感覚だが、寒いのは俺もミカサも嫌いだ。次に行くのは砂漠だな」

ミカサ「二対一だ。氷の大地―――南極に行こう」

アルミン「なっ、二人して結託するなんて卑怯だよ!」

エレン「しょうがねえだろ。多数決は重要らしいしな」


 誰の目にも届かないこの壁上だけで、彼らは幼馴染に戻る。

 まるで子供のように無邪気に笑って、夢を語るのだ。


エレン「ははっ、はははははっ」

アルミン「ふはっ、あははは」

ミカサ「ふふっ、はははっ」


 外の世界を見たいという――――もうすぐ掴めそうな、その夢を。


【ドリフターズ:始】

【後日談・真】


 壁外への大規模遠征は、二ヶ月後に決定した。

 その間に起こったことは様々だ。

 アルミンとヒストリアの婚約騒動。アルミンが王となり、ヒストリアが懐妊した。

 事実上のアルミン・レイス王政の誕生であり、市民はブーイングと共に―――しかし女王が愛されていたため、形式だけの―――受け入れられたのだ。

 ヒストリアは幸せの絶頂であった。

 ジャンは念願かなって司令官へと出世した。

 そして多くの人を驚かせたのが――――コニー・スプリンガーの降格。

 本来ならば誰もが納得しないそれは、否応なしに納得された。

 降格は一時的なものである。その理由は――――。


コニー「現役復帰だ。しばらくは高速機動部隊に戻るぜ」


 高速機動部隊隊長・コニー・スプリンガーの復活。

 事実上の現役復帰宣言である。これには現役の高速機動部隊から歓迎の声が上がった。

 あの強さ、あの速さ、あの剣技、それを間近で見聞きし、モノにできるチャンス。


 しかし、何故コニーが復帰しようと思ったのか、その理由を、コニーは多くを語らない。

 ただ、遠くに行きたいと。遠くに行かないと、アイツに合えないのだと、それだけを語った。

 ミカサ・アッカーマンは、未だ現役復帰の宣言をしなかった。

 未だ子供たちは訓練兵であるし、家を早々に開けるわけにもいかない。

 家を守る。トヨヒサの教えだ。それを頑なに守り続けている。


ミカサ「少なくとも、息子と娘が私を越えるまでは、家を守る。その後だ。私が遠くへ行くのは」


 そう、エレンをはじめ、グリシャとカルラに語った。

 これにはカルラはもちろん、グリシャも真剣だった。

 両親が十五年も前から夢見てきたこと。それを息子と娘である自分たちの未熟故に阻まれるなど、あってはならないと。


カルラ「すぐに、強くなります。母さんより。いつかは、父さんより」

グリシャ「精進します。必ずや、強くなってみせます」


 力強い子供たちの言葉に、エレンもミカサも嬉しそうに微笑んだ。


 サシャはいままでと変わらない。弓の腕に関しては、未だに憧れた源氏の大英雄には届かない。

 彼女にも夢はある。あの弓の頂に追いつくこと。そして、外の世界で美味しいものを食べたいという、俗な夢だ。

 だが、それでいいと、多くの人は思った。サシャ・ブラウスは、弓を引いているときが、最高に格好良くて、綺麗なのだ、と。

 ――――何気に、サシャに好意を抱く男性は多いことに、サシャ自身はまだ気づいていないのが最大のネックではあったが。


 そしてリヴァイ・アッカーマン。彼もまた現役復帰した。

 歳を重ね、体力の衰えは否定できない。だが、技量にかけては壁内随一であり、コニーやエレンも教えを乞う側である。

 しかし兵長の座は、最強の座。それを過去の威光でエレンから捥ぎ取るつもりはない、とリヴァイは言う。

 ただの兵士で構わない、と。

 リヴァイもまた、夢を見ている。遠くの地で戦う友がいる。彼とまた共に戦場を駆け抜けたい。

 そして勝つのだ。勝って、旨い酒を呑む――――その約束は、壁の中で待っていてはいつまでたっても果たせない。

 だから行くのだ。壁の外へ。戦いの最中へ。


リヴァイ「――――勝利の美酒は、命を賭けるに値する旨さだった」


 真顔で言ってのけるリヴァイを笑えるものは、一人もいなかった。

 いつだって――――遠くへ行きたかった。


 コニー・スプリンガー。


コニー「………ッ、なんだ、これは」


 アルミン・レイス。


アルミン「まさか……いや、そうか」


 リヴァイ・アッカーマン。


リヴァイ「………何者だ、てめえ」


 サシャ・ブラウス。


サシャ「え、ええええええええええええッ!?」


 だからこそ――――それは必然であったのだろう。


コニー「ッ!?」

アルミン「う、うわっ!?」

リヴァイ「くぅ――――!?」

サシャ「あーーれぇえええええ!?」


 五者五様―――――彼らの前に、扉が現れたのは。



エレン「ッ………!?!」



 彼らの前に、彼が現れることは、必然だったのだろう。



紫「…………」



 紫と言う名の、眼鏡の男。


 延々と続く廊下のど真ん中に事務机を構えて座る男は、じっとエレンを両の眼で見据えている。


エレン「なん………だ。おい! ここはどこだ!! お前は何者だ!!」

紫「――――――」チラリ


 エレンの覇気をするりと受け流し、手元の書類に目を落とす。


【『魔弾の射手』:サシャ・ブラウス】

【『人類最強』:リヴァイ・アッカーマン】

【『人類最速』:コニー・スプリンガー】

【『死神』:アルミン・A ・スミス】

【『進撃の巨人』:エレン・イェーガー】


 そして、もう一枚。


【『調査兵団』の主力兵士:2000名】


紫「――――フム」


 紫はペンを取り出し、アルミンの書類を一部訂正―――否、更新する。


【『死神王』:アルミン・レイス】


 そのマイペースでどこ吹く風といった様子に、エレンが更に怒気を込めて吼える。


エレン「野郎ッ………答えろ! どこだここは!! 俺は帰るんだ!! シガンシナにッ!!」

紫「………」


 いつもの紫ならば―――ここで「次」とだけ告げ、彼らを送り込む。それだけだ。しかし。

 いつもの紫では、なかった。


紫「………私は君たちにドリフを『貸した』。借りたものは返してもらう。利子をつけたうえでだ。その『結果』をもって返却とする」


エレン「何ッ……!? まさか、てめえがノブの言ってた――――!!」

紫「――――次」


 話は終わりとばかりに告げると、エレンの身体が廊下の底抜けに暗い扉の縁へと呑み込まれていく。


エレン「ッ、上等だ………なんだってやってやるから、終わったら俺を、シガンシナに戻せ!! いいなっ、てめえ――――!!」


 最後まで言い切った後、エレンは闇深くへと落ちていった。

 一人きりになった廊下で、紫は語る。


紫「世界を廻せ。ドリフターズ」


 どこか、期待を込めて。


紫「かくして、因果の帳尻は合うのだ」



……
………

※次回、マジで最終回

 その後番外編。なお番外編の方が先に書き終わっているもよう

※そろそろアレなんで次スレ立てました

 エレン「ドリフターズ!」 豊久「首三ツ目おいてけ!」
 エレン「ドリフターズ!」 豊久「首三ツ目おいてけ!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1454856759/)

※あ、ミス発見。>>964のミカサの台詞修正

×:ミカサ「二対一だ。氷の大地―――南極に行こう」
○:ミカサ「二対一だ。砂の雪原―――砂漠に行こう」

今週はくるかなちんこまん。どっちに投下するんだろ?

※すまんが来週なんだ……毎度のことながらホントごめん

 ところで「どっち」って……>>980ッ! 貴様ッ! 見ているなッ!?

※明日投下します
 今度こそ最終回でー

※ 出 張 再 び 
 仙台まで逝ってきます
 アレだ。きっとこのスレは終わらないんだ
 終わりの無いのがおわr

仙台なら彦いちという甘味処のずんだ餅がうまかった

喜久水庵のクリーム大福旨いよ

仙台土産なら、牛タンの味噌漬けとゴマ蜜団子だなw

仙台駅から少し行ったとこに安くてうまい牛タンの店があるらしいぞ

※帰宅。

 明日代休なんで明日にでも。

 今日は艦これゴフンゴフン書き溜めやらなきゃ(使命感)

※無事に帰宅できたので※返し

>>986
若干遠くて寄れんかった

>>988
南仙台駅あたりに寄る機会があったので行ってきました。(゚д゚)ウマー

>>989
それ某フィンガーフェチの殺人鬼のいる杜王町が一巡した世界にあるでしょ
ゴマ摺り団子は確か岩手
あれ濃厚でウマいよね

>>990-992
利久行きたかったけど行けんかってん
焼き肉牛魔王ってところで宴会してきた

※ごめん、書き切れない。想定外すぎるほど長くなっちまった
 度々ホントごめんやけど、週末纏めて行きます
 も、もう出張なんてないんだから!(震え声)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月03日 (火) 22:12:31   ID: 3Ji9aOju

マジで俺得です!!むちゃくちゃ面白くて30回は見返しています!!
仕事頑張って下さい!!!!

2 :  このSS好きの774さん   2015年04月15日 (水) 17:31:09   ID: jTXS3Z5S

笑わせられたり、ゾクゾクしたり、ぶわっ(泣)ときたり、高揚したり…。色々読むが、これに優る物、並ぶ物無し!
更新されるのが待ち遠しいです。

3 :  SS好きの774さん   2015年05月31日 (日) 10:37:40   ID: AWT9_1y_

あとがきの臭さがヒラコーレベルじゃねえよ
やめてくれ

4 :  ドリフ好きの耳短族   2015年07月07日 (火) 22:02:49   ID: LZ9CNPNH

後日談キタァァァァァァァァァァ!!!
まさか貴方は神ですか!?
最後まで頑張ってください!!

5 :  SS好きの774さん   2016年01月08日 (金) 01:09:38   ID: 6hHsCulo

完結してると思ったらまだ続いてるのか…
のんびり楽しみにしてます!

6 :  ドイツSS   2016年01月24日 (日) 14:14:58   ID: pFIT_-OD

スレ3つ目いくんじゃね?
まあそれでも長く見れるからいいがな!
頑張って書けよ!!

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