ユミル「ここはウォール・マリア西区」ベルトルト「愛の巣」(304)


ベルユミ。
ライクリ・アルアニ・エレミカ・コニサシャ要素あり。
マルコがユミルに好意を寄せているという設定あり。

エロあり。
13巻までのネタバレあり。

話を思いついた時点で、原作は53話(13巻収録)まで。
ので、後々出てくる王政府、及び中央憲兵は、捏造。
原作の設定とかけ離れていく可能性あり。

主要キャラのひとりが殺されて死ぬ展開あり。注意。

アニメ26話のCM前後の坑夫の話が少し入るが、
知らなくても読むのに支障はない。

追加。

直したいところがあったので、最初から投下する。
新しい部分は、明日以降。

あと、似たタイトルのSS(他筆者作品)とはまったく関係ない。
タイトル自体が伏線のひとつなので、変えるわけにはいかなかったんだ。すまんな。


現在

夜 ウォール・マリア西区 とある民家 寝室

───ギシッ!ギシッ!

ベルトルト「ユミル…、ユミル…!」グチュッヌチュ…

ユミル「あっ、ベルトルさ…、ん…。んぅっ! あぁっ!」

ベルトルト「好き、好きだっ、ユミルッ!」ズチュッヌグッ!

ユミル「私…も、好き…、ベルト…さんっ! もっと…ぉ…っ!」

ベルトルト「く…、出る…っ! また、出すよ…! ユミルの中に…っ!」ズブズプゥグチャッ!

ユミル「あ、待っ! 待って! いやっ、やああぁぁっ!」ビクッビクンッ!

ベルユミ「はぁ…」クッタリ…

ベルトルト「ねぇ、どうして嫌とか言うの? 本当は僕に抱かれるの嫌いなの?」スリスリ…

ユミル「…照れ隠しだって、いいかげん覚えろ」チュ…

ベルトルト「だって…」

ユミル「気持ちよすぎて身体がどうにかなっちまいそうで、怖いくらいなんだよ」

ユミル「私の身体の反応で、わかるだろ?」


ユミル「ていうかさ、本当は私が感じてるとわかってて、けど私が否定するのを聞きたくて、わざと毎回しつこく訊いてるだろ?」

ベルトルト「えへへ…」

ユミル「でっかいのに可愛くて、でも悪い子だな、ベルトルさんは。お仕置きが必要か? ん?」

キュウ…

ベルトルト「あ、締めないで! 気持ちよすぎてまた滅茶苦茶にしたくなるよ」

ユミル「いいぞ、ベルトルさん、もっと…」

ベルトルト「明日、辛くならない?」

ユミル「お前にされるんなら、なんでもイイ…」

ベルトルト「ユミル…、僕、こんなに幸せでいいのかな?」

ベルトルト「ユミルは怖くならない? こんなに幸せで?」

ユミル「私が怖いのは、お前に飽きられるかもしれないってことだけだ」

ベルトルト「そんなこと、天地がひっくり返ってもあり得ないよ。絶対」

ユミル「そうか…」ホッ…

ベルトルト「君を一生かけて愛するよ…。君を守るために僕は生きてるんだ…」


ユミル「私も愛してる。ずっとここにいる。な? もっと抱いてくれ」

ベルトルト「お安い御用…。僕はユミルの物だ…」

ユミル「私も…、ベルトルさんの物だ…」

ベルトルト「僕たち、ふたりきりで、ずっとここで暮らすんだ…。ね、ユミル?」

ユミル「今さら念を押す必要なんかない。私はここにいる。一生、ベルトルさんの側にいる」

ベルトルト「嬉しい…!」

ユミル「んぁっ! また…! 中で大きく…!」

ベルトルト「ごめんね、君に無理をさせないよう抑えようと思っても、負担をかけてばかりだ」

ユミル「私がもっと抱いてくれって言ったんだ。かまうな…よ。お前がどれだけ私を大切にしてくれてるか知ってるから…」

ベルトルト「ユミル…、愛してる…。愛しすぎて、頭が変になりそうだ…」ギュ…

ユミル「私も…。ベルトルさん、大好きだ…」ナデナデ

ユミル(だから、ずっとここにいてくれ…。私だけを、見ててくれ…)



過去(訓練兵時代)

ベルトルト(アニ、アニ? 大丈夫?)

ベルトルト(そんなに気を張り詰めて、いつか君がぽっきり折れそうで不安なんだ)

ベルトルト(君から秘密が漏れないかって)

ベルトルト(僕は自分の命が惜しい。大事な仲間だけど、僕は自分の心配だけだ。気を揉むばかりで何もしない。何もできない)

ベルトルト(そもそも僕たちのつながりを他人に知られちゃいけない)

ベルトルト(アニ、どうしてエレンに格闘術を教えるの?)

ベルトルト(よりにもよって、巨人を激しく憎んでるエレンなんかに。そんなに生き生きとした顔をして)

ベルトルト(壁内の人類に情を持つのは危険なんだ。そのくらいわかってるだろう?)

ベルトルト(僕の蹴り破った扉の破片が家を直撃して、エレンの母親はその瓦礫の下敷きになった)

ベルトルト(そうして、逃げることもできず巨人に喰われた。すまないと思った。…けど、)

ベルトルト(巨人を一匹残らず駆逐してやる、と繰り返し口にするエレンに恐怖を感じた)

ベルトルト(エレンと等しい怒りを、この壁内の数百万人が持ってるんだ)

ベルトルト(正体がバレたら、それらが一斉に僕に向けられる)


ベルトルト(僕は自分の命が惜しい。任務を果たして故郷へ帰らなきゃ捕まる。
      捕まって、悪魔の末裔たちに拷問されて実験されて解剖されて最後は惨たらしく殺される。
      僕を囲む憎しみに満ちた顔たちが、くたばってくれて清々したと満足気な表情に変わって、
      その真ん中で僕は死ぬ)

ベルトルト(僕の人生って何なんだろう? 人を殺すために生まれたわけじゃないはずなのに)

ベルトルト(退治されたら喜ばれる立場に置かれて。周りは敵だらけだ)

ベルトルト(僕も誰かに愛されたいよ…)



過去(訓練兵時代)
某日 巨人組密談場所のひとつ

ベルトルト「ライナー! どうして近頃、訓練に身を入れないんだ! そんなことじゃ、憲兵になれない!」

ライナー「それなんだがな、この際はっきり言うが、俺は憲兵になるつもりはない」

ベルトルト「なんだって?!」

ライナー「憲兵団は良い噂を聞かない。聞こえてくるのは汚職…、腐敗と堕落の話ばかりだ」

ライナー「あんなところへ入ったんじゃ、魂が腐る」

ライナー「実際、生え抜きの憲兵の教官と調査兵団出身の教官では、指導の熱の入れ方や人格に天と地ほどの開きがある」

ライナー「尊敬できる教官は、みんな調査兵団を経験している」

ライナー「俺も兵士としての本分をまっとうするには、調査兵団へ入って命を懸けるべきだと思うんだ。文字通り、人類に心臓を捧げるにはな」

ベルトルト「僕たちは、憲兵になるって誓い合ったじゃないか! アニもいっしょに!」

ベルトルト(そうして、この国の中枢に食い込んで、シーナのウォール教の奴らから『座標』を奪い取って故郷へ帰るんだ!)

ライナー「アニと? お前たち、いつの間にそんな約束をしたんだ? 話したことなんてないだろう?」

ベルトルト「え…?」

ライナー「いや、みなまでいうな。お前が以前からアニをじっと見ていたのは知ってる」


ベルトルト「何を言ってる? しっかりしてくれよ! ライナー!」

ライナー「つまり、将来を誓い合ったんだろ? 想いがやっと実ったと…」

ベルトルト「違うよ! そんなんじゃない!」

ベルトルト(アニと僕らの関係を忘れてる? 任務のことも、アニが僕らと同じ戦士であることも、すっぽり抜け落ちてるのか?!)

ライナー「ムキになって否定しなくてもいいぞ。そうか、奥手のお前にもやっと春が来たか」ニヤニヤ

ライナー「俺もクリスタと…、そんな仲になりたいしな。弟みたいなお前に先を越されちまったか」

ライナー「なあ、ベルトルト。俺たちは幼なじみで昔からいつも一緒だったが、大人になってそれぞれの道を歩んでもいい頃だ」

ライナー「いつまでも俺にくっついてちゃ、せっかく想いが通じたのに、アニに愛想を尽かされちまうぞ。『頼りない男は嫌い』ってな」

ベルトルト「だからそんなんじゃないんだ、僕たちは!」

ライナー「照れるな、照れるな。お前はアニと一緒に憲兵になれ」

ライナー「俺は調査兵団に入るつもりだ。クリスタが承知してくれれば、だが」

ベルトルト「だからって、訓練の手を抜く理由にはならないだろ?!」

ライナー「憲兵になる気がない以上、十位以内の枠は誰かに譲るべきだ。なりたい奴は大勢いるんだからな」

ベルトルト(人格が分裂しつつあるのは知ってたけどここまで進行してたなんて…。想像以上だった…。どうしよう…、どうしたら…)


ライナー「一体どうした? 顔を真っ青にして黙り込んじまって?」

ベルトルト「へ、平気、だ…」フラフラ

ライナー「おい、どこへ行く? ふらついてるぞ!」

ベルトルト「もう放っておいてくれ!」

ベルトルト(『兵士』としての責任と使命感に満ちた顔、とても見ていられない!)

ライナー「機嫌を損ねちまったかなぁ。だが、ここで突き放さないと、あいつも大人になれん」

ライナー「いいかげん、あいつも俺から離れて独り立ちしないとな」

ライナー「ん? 何か大事なことを忘れてるような気がするが、何だったかな…」



過去(訓練兵時代)
女子宿舎 ユミル、クリスタ、ハンナ、ミーナ、アニ、サシャ、ミカサ、他の部屋

ユミル(困った…。えらい事態だ。クリスタが訓練に手を抜き始めやがった)

ユミル(問いつめても『そんなことない、気のせいよ、少し調子が悪いだけ』とかなんとか、とにかくはぐらかしやがる)

ユミル(ちくしょう! クリスタを憲兵にするために頑張ってきた今までの苦労が無駄になっちまう!)

ユミル(クリスタが真剣に取り組まなくなったのは、ライナーの野郎が訓練に身を入れなくなってからだ)

ユミル(ライナーが関わってんのは間違いねぇ。そういえば、この間、教官に調査兵団について訊いてたな)

ユミル(クリスタを十位以内にねじ込んで、晴れてシーナの安全な内地に送り込んだとしても、中央はクリスタの敵だらけだ)

ユミル(そう思ったから、人望も実力も申し分ないライナーに白羽の矢を立てた)

ユミル(クリスタを守れるだけの力を備えた男…、託せるのはこいつしかいねぇと見込んで、)

ユミル(元々お互い好き合ってたのには感づいてたから、密かにくっつくよう誘導して、せっかくうまくいって成功したのに、)

ユミル(それが裏目に出るとはな。私としたことがしくじった)

ユミル(こいつらが惹かれ合った理由も、今思えばどっちも自己犠牲の精神が強いからかもな)


ユミル(みんなの兄貴分…。自分の損得を考えずに他人の面倒を見る頼れる兄貴…。時々身を削りすぎるきらいがあるとは思ってたが…)

ユミル(クリスタも人の役に立って死にたいといつも願ってるような奴だ)

ユミル(妙な共感や連帯感を感じていても不思議じゃない)

ユミル(クッソ! とんだ落とし穴だった! それに気づいてれば、くっつけようなんざ微塵も思わなかったのに!)

ユミル(ふたりして調査兵団に入るつもりだとしたら、冗談じゃねぇ!)

ユミル(このままじゃ、死に急ぎカップルの出来上がりだぞ! 駆逐馬鹿のエレンとは違った方向で!)

ユミル(実はやべぇ組み合わせだったんだな、あいつら。後悔してもしきれねぇ)

ユミル(引き離そうにも、今さら手遅れだ。もう、付き合ってないと思ってんのは本人たちだけってくらい深い仲になってる。周囲も公認同然だ)

ユミル(ああ、どうしたもんかな…。クリスタにまた十位以内を目指させるためには…)

ミーナ「ねぇねぇ! ハンナ! 一目惚れってどんな感じ? フランツとあなたって、そうなんでしょう?」

ミーナ「初めて出会った瞬間からじっと見つめ合ってたって、今でも有名よ!」

ミーナ「よく、電気が走るような、って聞くけど、あれって本当なの?」

ハンナ「それがね、フランツとは別にそんなことなかったの」

ハンナ「なんか前にどこかで会った気がする男の子がいるなー、って不思議に思っただけ」


ハンナ「フランツもそうだったみたいで、だから、つい、じーっと見つめ合う形になっちゃっただけで」

クリスタ「そうなの?」

ミーナ「なんかがっかり。さぞかし、めくるめくすごい何かがふたりの間で通じ合ってたと思ったのに」

ハンナ「期待を裏切って悪いけど、そんな劇的な物じゃないわよ。実際には、恋愛小説のようにはいかないわ」

ハンナ「でも、フランツも私も生まれた所から遠く離れた場所へ行ったことないし、お互いの故郷も離れているし、会ったことがあるわけないのよね」

ハンナ「ずっと不思議で、不思議だと思ってる間に、相手のことを知りたいと思うようになって、」

ハンナ「いつの間にかどんどん大切な存在になって、気が付いたら付き合ってたの」

ハンナ「会ったことがある、懐かしいと思ったら、それも惹かれてるってことなのかもね」

ミーナ「あ、聞いたことあるかも。初めて会った人に懐かしさを感じたら、それも好きの証って」

ハンナ「クリスタはライナーとは進んでるの?」

クリスタ「べ、別に私たち付き合ってないし、進むもなにもないよ」ゴニョゴニョ

ミーナ「またまたー。…って、告白もまだされてないの? 男らしい見た目の割に、けっこう奥手ねぇ、ライナーって」

クリスタ「告白するとか、されるとかいう仲じゃないし…」ゴニョゴニョ


ミーナ「それにしても、ユミルがクリスタとライナーの仲を認めるなんて意外よね。全力で反対すると思ってた」

ユミル「は? クリスタは私と結婚すんだぞ」

ユミル「純粋培養が過ぎて男にまったく免疫がないのはかえって危険だろうが。多少男慣れしてから返してもらうつもりなんだ」

クリスタ(そんなこと言って、密かにさりげなく応援してくれてたの知ってるんだから)

ユミル「未だに告白もできねぇヘタレ野郎にクリスタを取られてたまるかってんだ」

ユミル「ムキムキのでかい図体してるくせに、タマ付いてんのか、あいつは? それとも、ホモか?」

クリスタ「ちょっと! ユミル!」

ユミル「うん、きっとそうだ。クリスタ、お前、隠れ蓑にされてるかもしれねぇぞ。別れろ。お前は私が幸せにしてやる」キリッ!

クリスタ「ライナーのこと悪く言わないで! それから、女の子がそんな口の利き方しちゃ駄目!」

ユミル「おーおー、怒った顔も天使だな、私のクリスタ。ますますライナーの野郎に渡したくなくなったぜ」ニヤニヤ

クリスタ「もう! ふざけてばっかりなんだから!」プンスカ!

ユミル「ダハハハハハッ!」

過去(訓練兵時代)
休日 朝 図書室内カウンター

ユミル「」ウツラウツラ…

ガラガラ…

ベルトルト(ユミル、うたた寝してる…。ユミルが今日の図書当番だったんだ…)

ベルトルト(あれ? 昨日の夜の時点で、当番表では、別の人だったような気がしたけど? それにたったひとり?)

ベルトルト「やぁ、ユミル」

ユミル「」ハッ!

ユミル「ん…、ベルトルさんか…。何か用か?」

ベルトルト「調査兵団の最新報告書の写本が入ったって聞いたから、読みに来たんだ」

ユミル「それさ、いちいち私に声を掛ける必要あるか? 勝手に棚から取れよ!」ギロッ!

ベルトルト(うっ、なんか機嫌が悪い…? 気安く声を掛けたのがまずかった?)

ベルトルト「う、うん! そうするよっ!」アセアセ

ユミル(私の寝不足はお前のせいだろうが! 自覚ねぇのか!)

ユミル(同じくらい寝てないはずなのに、お前ばっかり機嫌良くて元気なのも腹が立つ! 体力バカがっ!)


ハンナ「ねぇねぇ、クリスタ、ユミルはマルコとはどうなの?」ヒソヒソ

ハンナ「マルコはユミルのこと好きだと思うのよね」ヒソヒソ

ミーナ「私も私も!」ヒソヒソ

クリスタ「うーん、ユミルって鋭いんだけど、自分に向けられる好意には鈍感なところがあるのよね」ヒソヒソ

クリスタ「その前に、自分が男子から女の子として見られるわけがないって決めてかかってるところがあるから…」ヒソヒソ

ミーナ「あらら…。マルコはマルコで、今のみんなの輪を崩したくない、って気遣いが先に立ってもう一歩踏み込めてないし、」ヒソヒソ

ミーナ「進展は望めそうにないわね。つまんないの」ヒソヒソ

ハンナ「もったいない! ユミルって、104期の女子の中でいちばんスタイルもいいし、」ヒソヒソ

ハンナ「顔立ちが綺麗だからお化粧も映えると思うし、彼氏ができればすごく女の子っぽくなると思うのよね」ヒソヒソ

クリスタ「そう思ってるの、私だけじゃなかったのね! よかった! 男子がユミルのことをブスブス言うたびにもう悔しかったの!」ヒソヒソ

クリスタ「私ね、いつかユミルに無理矢理お洒落させてやるんだって決めてるの! そのときは協力してくれる?」ヒソヒソ

ハンナ「もちろん! 楽しみね! 少しずつ準備しておくわ!」ヒソヒソ

ミーナ「私も! 時々ユミルの顔を無性にいじりたくなるわ! お化粧次第ですごい美人になると思う!」ヒソヒソ

ハンナ「そばかすを隠すお化粧の仕方なら任せて!」ヒソヒソ


ユミル「? お前ら、何こっち見てヒソヒソ話してんだよ?」

アニ「……」

サシャ「」モグモグモグモグ

ミカサ(エレンエレンエレン…)

ベルトルト「みんな、聞いてよ! ユミルが僕のこと好きなんだ!」クルクルッ!

ヒューヒュー!

クリスタ「すごい熱烈…。ベルトルトって本当はあんな人だったの?」唖然…

ライナー「おぉ…、あんなに感情をむき出したベルトルトは、俺も初めてだ…」唖然…

クリスタ「私も、あんなユミル、初めて! すっごく女の子な表情してる! よかった! ユミルにも春が来たのね!」キラキラ

クリスタ「ね、ライナー、私のほうも…」キュ…

ライナー(クリスタのほうから手をつながれた…!)ドキッ!

クリスタ「これからよろしくね」ニッコリ

ライナー「あ、あぁ…」テレテレ

コッチモデキアガッタミタイダゾー!
オマエラ、ヤットクッツイタカ! オメデトサン!
ヒューヒュー!



過去(訓練兵時代)
翌日 備品倉庫前廊下

ワイワイギャーギャー

ベルトルト(なんか倉庫の中が騒々しいな…。中にいるのは、コニーとユミル? また喧嘩してるのか?)

ユミル「ダハハハッ、その程度の高さも届かねぇのかよ、チビ!」

コニー「うーるーせーっ! チビチビチビチビうっせーんだよっ! 俺はこれからが成長期なんだよ! もうすぐ伸び出すんだよ!」

コニー「今に見てろ! お前の身長なんかすぐ抜かしてやんだから!」

ユミル「儚い期待だな。どれ、ユミル様が取ってやるよ。時間に遅れると教官にどやされちまう」

ユミル「よっと…、お? あれ?」

コニー「お前だって届いてねーじゃんか!」

ユミル「指先は触るんだが…。けっこう重くて引っぱれねぇ…」 

ユミル「くっ、もう少しなんだが…。…駄目だ、マルコだったら取れたなぁ、これ」

コニー「当番代わらないほうがよかったじゃねぇか! お節介が仇んなったな、ブス!」

ユミル「コニーよ、前にマルコに当番を代わってもらってただろ。いざマルコのときになったら知らないふりして逃げようってのはよくねぇぞ」

アニ「…私は、お父さんと故郷を見捨てる。嫌になるほど承知してるよ、自分の卑怯さを…」

アニ「さぁ、覚悟はできてるよ、ふたりとも。ユミルから本を預かったときから…」

ベルトルト「え…? な、何を言ってるの、アニ?」

アニ「始末してくれていい。裏切り者には当然の末路だよ…」

アニ「こんな気持ちを抱えたまま任務を遂行したところで、失敗するのは目に見えてる。どのみち死ぬのは同じ…」

ライナー(戦士)「お前を殺すなんて、できるわけがないだろうが…」

アニ「まだ仲間だと思ってくれてるのかい?」

ライナー(戦士)「これからだって、大事な仲間だ」

アニ「ありがとう…。任務を放棄しても、秘密は絶対に漏らさない」

アニ「壁を壊すのはあんたたちふたりだけでも可能だ」

アニ「中央は腐りきってる。ウォール・ローゼを破ってしまえば、養い切れなくなった人口を抱えて、自壊の道をたどるよ」

アニ「頃合いを見てシーナを壊せば、人類は『座標』の力を使わざるを得なくなる。
そこを奪えばいい」

ライナー(戦士)「その強硬策は、『座標』を壊してしまうおそれがある。他の策が全て駄目になったときのための最後の手段だ」

ライナー(戦士)「あるいは、時間に猶予がなくなったときのためのな」


コニー(だから、それが余計だったんだよ! マルコの奴、隠れてすっげぇしょんぼりしてたんだぞ!)

ユミル「よし! コニー、来い!」

コニー「あ?」

ユミル「持ち上げてやるから、お前が取れ」

コニー「バッ?! 女に持ち上げてもらうなんて冗談じゃねぇよ!」

ユミル「兵站行進訓練じゃ、100kg超えの装備を着けて何十kmも歩くんだ。お前みたいなチビくらい軽いもんだ」

コニー「俺だって同じ訓練、受けてんだ! 来いよ! 俺がお前を持ち上げてやるよ!」

ユミル「ほおぉ? そんなに私の身体に触りたいのか?」

コニー「そんなこと思ってねぇよ! ブース! ブース!」

コニー(お前が俺を持ち上げても、背中におっぱいが当たっちまう!)

ベルトルト(楽しそうにじゃれあって…。何の悩みもなさそうで、うらやましいなぁ…)

ユミル「真っ赤っかになって、まぁ…。サシャに知れたらどう思われるかなぁ?」ニヤニヤ

コニー「ああぁっ! どうして知ってんだよ?!」

ユミル「いやぁ、あんだけサシャのことガン見してりゃバレバレだぞ。ベルトルさんがアニ見てるのの次くらいに」


ユミル「まさか、バレてないと思ってたのか。さすが、馬鹿」

ベルトルト(…っ!)

コニー「あぁぁ…、よりにもよってお前に感付かれてるなんて…」

ユミル「頭抱えるほどのことじゃねぇよ。全員が知ってることなんて脅しのネタにも使えねぇから安心しろ」

ベルトルト(つまり、僕がアニを見てることも全員が知ってて、僕がアニに恋愛感情を持ってると思われてるってことか…)

コニー「うわぁ…、みんな知ってんのか…」

ユミル「気付いてないのはサシャ本人だけだ。まぁ、からかいのネタにはなるかな」ニヤニヤ

コニー「おい! 俺はいいけど、ベルトルトのことはうかつにからかうなよ!」 

ユミル「やらねぇよ。あんな無口な真面目くん、からかっても面白くなさそうだし」

コニー「ホントだな! 絶対にやるなよ!」

ユミル「自分のことよりベルトルさんの心配とは、なんかあるのか?」

コニー「あいつな、近頃ますます寝相がひどくなって、顔付きとかもなんかやべぇんだ」

ユミル「最近そのネタで天気予報しなくなったと思ったら、悪化してたのか。ずいぶん深刻そうだな。大丈夫なのか、ベルトルさん?」


コニー「こないだなんて、3日連続、2段ベッドの上から落下して、俺たち飛び起きたんだ」

ユミル「うわぁ…」

コニー「骨折どころか打ち身もなかったから、まぁ、ケガしないって部分だけは放っといても大丈夫みたいなんだけどさ」

ユミル「寝ながら受け身取ってんのか? そつがなさすぎるにもほどがある」

コニー「ベルトルトの寝相に関しちゃ、皆慣れすぎてあまり気にしなくなったんだが、やっぱり異常だよな?」

ユミル「それさ、じっくり医者に診てもらうレベルじゃねぇ?」

コニー「いちばん被害受けてんのが隣で寝てるライナーで、これまでも蹴られたり、小突かれたりしてたのが、」

コニー「今朝は上半身を寝台からはみ出させて、落とされそうになる寸前だった」

コニー「みんなまた大騒ぎだぜ」

ユミル(ライナーの野郎が訓練に集中してないのは、それも一因か…?)

ユミル「寝る場所を変えるわけにはいかないのか?」

コニー「ライナーとベルトルトは身体がでかくて、3人で寝るスペースを特別に2人だけで使わせてもらってるから、」

コニー「どうしてもあのふたりはセットになっちまうんだ。ライナーは兵団に入る前の開拓地以来だからもう慣れっこだっつってるけど」

ユミル「他の誰もベルトルさんの隣になりたくないだろうしなぁ…」


ユミル(寝不足に耐えて、原因のベルトルさんにも気を遣って…、ライナーもたいがいな忍耐体質だな…)

ユミル(ストレス貯めまくって、自滅するタイプか…)

コニー「だからさ、ベルトルトの神経を引っかき回すようなことは止めろよ!」

ユミル「しつけぇな! やらねぇって! 洒落ですまなくなりそうな奴に手を出すほど馬鹿じゃねぇよ!」

ベルトルト(コニー…、同室のみんな…、気を遣ってくれてたのか…)

ベルトルト(こんな良い人たちを僕たちは殺そうとしてる…)

ベルトルト(どんなことも、僕を追い詰める…)フラフラッ

コニー「あっ! ベルトルト!」

ベルトルト「この棚の上の荷物だね」ヒョイッ

ベルトルト「はい」ポスッ!

ユミル「」ビックリ

ユミル「お、おぉ…、余裕で届いたな。さすが訓練兵の中の超大型巨人」

コニー「だから、ベルトルトをからかうなってさっき言ったばっかだろ、ブス! あー、その、聞いてたか?」

ベルトルト「え? 何を? 僕、もう行くね。ふたりとも、集合に遅れないように来なよ」スタスタ


ベルトルト(思わず身体が動いて手を貸しちゃった。気付かれないよう、黙って通り過ぎようと思ってたのに…)

ベルトルト(皆が僕に気を遣ってくれてたことが嬉しくて、ついお礼をしたいって気持ちが出ちゃった…) 

ベルトルト(僕だって他人と関わりたいと望んでる。人類を滅ぼすなんて残酷な任務のために潜入するとか、こんな形でなく、皆と出会いたかった)

ベルトルト(それにしても、さっき一瞬、間近で見た、上目遣いで驚いたユミルの表情、初めてだった…)

ベルトルト(いつもふてぶてしいか、ひょうひょうとしてるか、クリスタにじゃれついてるかだから…。あんな表情、できるんだ…)

コニー「ベルトルトの奴、下手くそなごまかしして、聞いてたのがバレバレだっつーんだよ」

コニー「けど、取ってくれたんだ。怒ってたわけでもない…のか?」

ユミル「改めてよく見ると、顔色悪ぃなぁ、ベルトルさん…」

コニー「全然まともに寝れてないと思うぜ。なーんか、ヤバそうなんだよなぁ、精神的に」

コニー「成績だって常に上位キープしてんのに、何がそんなに悩みがあるんだか…」

ユミル「……」

ベルトルト「……えっ!?」バッ



ベルトルト「僕の…マフラーだ……」

クリスタ「マフラーは完成してるのに、手袋は片方だけ…」



ベルトルト「何でだよ!!?これも急がないって…」

ベルトルト「これじゃ本当に…永遠の別れみたいじゃないか!!」グスッ…



クリスタ「上手だね…ユミルが作ったの?こんな特技があるなんて今まで知らなかった…」


アニ「確かに上手だけど、赤と青の毛糸だけだと見た目がいまいちだね…そのマフラー」

アニ「白もあるんだからそれも使えばもっと見栄えがしたんじゃないか?手袋も…」



ベルトルト「わざと使わなかったんだ」


アニ「はぁ?」



現在
夕刻 ウォール・マリア西区 小麦畑

サワサワ…

ユミル「今年もよく実ったなぁ」

ベルトルト「今度の冬も安心だね」

ユミル「建物を壊して、石畳を剥いで、露出した地面を均して…。巨人の力があってもなかなか苦労したな」

ベルトルト「その後は手探りの連続だったね。この区内の本屋や図書館や役所とかは残しておいたけど、本で見るのと実際やってみるのは大違いだし」

ユミル「やったこともない農作業で、よくここまで実るようになったよ。何でもできるよな、ベルトルさんは」

ベルトルト「君の器用さがあってこそだよ。足りない物があっても、何かしらで代用してくれるから」

ユミル「うん、まぁ、昔、王都の貧民街にいた頃の知恵が役に立ったな」

ベルトルト「今年も豊作だし、もっと食べてよ。食料は充分にあるんだ。君、細すぎる」

ユミル「またその話か。余計な肉が付いて身体が重くなるなんざ、ごめんだな」

ベルトルト「でも食べて。男としての甲斐性の問題なんだ」

ユミル「ははっ、そんなこと気にしてんのか。充分すぎるほど働いてくれてるだろ。私のために」


ユミル「」ペタペタ

ベルトルト「なぁに?」

ユミル「胸板がずいぶん厚くなったなぁ、と。まぁ、前からたくましくて力もあったけど、背がでかい分、どうしてもひょろ長く見えた」

ベルトルト「栄養状態がいいもの。肉や乳製品も手に入るし、訓練兵だった頃とは考えられないくらい食料が豊かになって、農閑期には体力が余っちゃうよね」

ベルトルト「だから…」トサ…

ユミル「おいおい、またか」

ベルトルト「刈り入れの時期に入る前に、今のうちに…ね?」

ユミル「去年はそれでも毎日してた気がするがなぁ。…こら、風呂に入らせてくれ」

ベルトルト「君の汗の匂い、大好き。今夜は久しぶりにお風呂も一緒に入ろうよ」

ユミル「一緒に入っちゃ、風呂焚き役がいなくなるだろ。どんどん冷めてゆっくり入れないぞ」

ベルトルト「ユミルは長風呂好きだよね」

ユミル「ベルトルさんがカラスの行水すぎるんだ」

ユミル「それより、畑仕事の合間の休憩のためにこのベンチを作ったのに、あんまり本来の目的に使ってない気がするんだが」

ベルトルト「そうでもないよ。このためにわざわざ幅広に作ったんだ」モゾモゾ

ユミル「あまり外でやるのは好きじゃないんだがなぁ、明るすぎて。っておい、聞いてるか?」

ベルトルト「君から出して、左手の薬指」


ユミル「あぁ…分かった」




ベルトルト「…本当に…結婚、しちゃうからね。今ここで」

ユミル「式は後でちゃんと頼むな!」ニッ

ベルトルト「勿論!これから二人で結婚式の衣装も取りに行くんだから」ニコッ



ザワザワ… キャァ/// プロポーズガセイコウシタ! ヒソヒソ… ソワソワ……




ユミル スッ


ベルトルト「今から、君は僕のお嫁さんだよ!」ソッ 

グリッ キュッキュッ…


ベルトルト「」ゴソゴソ チュッチュ

ユミル「…なあ、ひとつ訊いていいか? 私のことを意識したの、いつだ?」

ベルトルト「君がクリスタとライナーを通して、よく眠れるようカモミールのお茶をくれたとき…」

ベルトルト「いや、倉庫で僕が荷物を取ってあげたときかな。あのときの君の表情が新鮮だった」

ユミル「あのときか」

ベルトルト「ねぇ、ユミルは…?」

ユミル「え…?」

ベルトルト「ユミルはいつ…? 僕のことを意識したの」

ユミル「…あ、私もあのときだな。お前の表情が本当におかしくて、なんとなく、放っておけない気がした…」

ベルトルト「あの瞬間、実は恋に落ちてたんだね」

ユミル「恥ずかしい台詞を平気で吐くなよ」プイッ!

ベルトルト「あの頃の僕は、色んなことに追い詰められていて本当におかしくなってた」

ベルトルト「まともに戻れたのも、今こうして生きていられるのも、ユミルのおかげだ…」

ユミル「私がやったことなんて、大したことない。微々たるもんだ」


ベルトルト「そんなことないよ。ユミルは僕の女神様だ」

ユミル「ここに来るまでも、来てからも、色々あったな」

ベルトルト「あ、照れて話をそらしたね」

ユミル「ベルトルさんがパン種を残しておくのを忘れたまま、パンを全部焼いちまって、」

ユミル「マリアん中に調査兵団の設置した補給拠点から酵母を取ってくるまで、」

ユミル「小麦粉を練って焼いただけの固いもん、我慢して食う羽目になったなぁ」

ベルトルト「またそれ言うの? もうけっこう前のことじゃないか」

ベルトルト「知らなかったんだよ、パンを柔らかくするために酵母っていうものが必要で、」

ベルトルト「そのために必ずパン種を少し残しておかなくちゃいけないって」

ベルトルト「けど、そんな失敗も懐かしいね。今はもうここから出る必要はなくなったもの」

ユミル「うん、そうだな…」

ユミル「ベルトルさん」

ベルトルト「うん?」

ユミル「太陽が眩しくなってきた」

ベルトルト「ああ、そうだね。外で君を抱きたかったけど、じゃあ、中に入ろうか…」チュ…



過去(訓練兵時代)

ユミル(数日だけだがベルトルさんの周辺を調べた結果、ありきたりな理由…、借金とか、誰かに脅されている可能性は薄かった)

ユミル(むしろ、ライナー以外の誰とも極力関わらないように神経を使ってるみたいだ)

ユミル(ほとんどライナーとしか話さないし、一人だけの行動も滅多にしない)

ユミル(他に、あの年頃の男が思い悩むとしたら恋煩いがいちばんありそうだが、)

ユミル(ベルトルさんとアニをくっつければ、ベルトルさんの不眠問題はひとまず解決…するのか?)

ユミル(あの憔悴っぷりはとてもそんな単純な悩みじゃなさそうだが、他のことと平行して、解決策の一つとして考えみる価値はある)

ユミル(クリスタとライナーの例もあるから慎重にやらねぇと…)

ユミル(ふられて余計傷ついたら、ますます悪化して厄介なことになりそうだ)

ユミル(まずはアニに当たって、ベルトルさんに少しは脈があるかどうか探りだけ入れてみるか…)



過去(訓練兵時代)
休日 朝食後 食堂

ワイワイガヤガヤ

アニ「だからさ、相手がうまくひっくり返らないのは、足を振り抜くスピードがまだまだなんだよ」

エレン「俺は力一杯やってるって! これ以上できねぇくらい!」

アニ「それだよ。むやみに脚力に頼るのがいけないんだ」

アニ「もっとこう…、足を振り子のように考えて、最速になった瞬間相手の足に当たるように、」

アニ「蹴る前から全部計算して、体勢をそこに持っていくんだ」

アニ「使うのは力でなく、頭だ。闘うときほど、常に頭を冷静に保つのが基本だよ」

ユミル(エレンに格闘術を教えてるアニは本当に楽しそうだな。いつものつまんなそうな顔が生き生きしてる)

ユミル(それにしても、エレンの奴、鼻息荒くして、まぁ…。何かあったか?)

エレン「冷静になんかしてられるか! 次の格闘術の時間に、ジャンの野郎を負かしてやるんだ!」

アニ「」ピクッ!

アニ「何だいそれ? 朝ご飯が終わって早々、わざわざ訊きに来たかと思えば、そんな理由かい? くだらないね。ガキのお守りはごめんだよ」


エレン「なんだと!」

アニ「熱くなった頭じゃ、さっき教えたことはとても実行できそうにないね」

アニ「私の格闘術は人を傷つけるもんじゃなく、自分より強く大きい相手から身を守るためのやり方なんだ」

アニ「勝ち負けなんてくだらないことにこだわってるあんたにはもう教えない」プイッ!

エレン「は? どうしてだよ! 俺が悪いってのか! 突っかかってくんのは、あいつのほうだ! アニも知ってるだろ!」

ユミル(激昂してやがるなぁ。ジャンも悪い奴じゃないんだが、ミカサが絡むとエレンに対して嫌み全開になるのがな)

ユミル(茶化すふりして割って入って、アニと話すきっかけにさせてもらうか)

ユミル「おーい、エレン、ジャンをのすより、お前自身が態度をはっきりさせるほうがいいぞ」ニヤニヤ

ユミル「それがいちばん手っ取り早い解決法だ。ダメージもでかい」ニヤニヤ

エレン「は? 何の態度だよ? いきなり横から首突っ込んできて、なにわけわかんねぇこと言ってんだ?!」

ユミル「あーんな美人の幼なじみに好かれて、いったい何が不満なんだよ? え? まぁ、私のクリスタの可愛さにはかなわねぇけどな」ニヤニヤ

エレン「うるせぇな! 関係ねぇだろ! なぁ、アニ、もっと教えてくれよ! 技とかよ!」

アニ「しつこいね!」

アルミン「エレン、よしなよ! アニの言うことはもっともだよ! おどけて言ってるけど、ユミルの言うこともね!」

エレン「止めんな! 金輪際ちょっかいかけてこれないよう、あの馬面をコテンパンにしてやんだ!」


アルミン「駄目だ! 気を落ち着けて、よく聞くんだ!」

エレン「う…」

アルミン「アニの格闘術は、お父さんから教わったものなんだろう? エレン自身がそう言ってたじゃないか!」

アルミン「アニにとっては、お父さんの形見みたいなものなんだ!」

アルミン「それをくだらないケンカに使われて、あまつさえ他人が傷付くのは、アニにとって嫌なことなんだ! そう思わないか?!」

エレン「あっ…!」

アニ「…!」

エレン「そうか…、そうだよな…。悪かったな、アニ。親父さんとの大事な思い出を汚すような真似をするところだった」

アニ「まぁ…、それはもういいよ。それにしても、アルミン、あんた口が立つね。私が言いたかったこと以上のこと、言ってくれたよ」

アルミン「ご、ごめん! 口はばったいことを、つい…! 迷惑…だったよね?」

アニ「いや、私は口下手だからさ。どうせ相手に伝わらないって最初から諦めて、口を噤んでしまうところがあるから…」

ユミル(アルミンもやるときはやるな。エレンを黙らせたときの迫力、なかなかのもんだ)

ユミル「おお、なんかいい雰囲気だな」ニヤニヤ

エレン「冷やかすなよ」

ユミル「」キョロキョロ


エレン「? 誰か探してんのか?」

ユミル「いや、ベルトルさんがこんなとこ見てちゃ大変なんじゃないかと思ってな。いっつもアニのこと見てるから」

アルミン「…!」キョロキョロ

アニ「だから何だっていうんだい、ユミル? ベルトルトなんて、興味ないね」

ユミル「けど、兵団に入って以来、ずーっと見てたんだろ? いくらなんでも、お前も気付いてるはずだ」

アニ「うじうじと見てるだけで何も言ってこない奴のことを、どうしてこっちから気にかけなきゃいけないんだい?」

ユミル「そこはそれ、無口な奴は無口なもん同士のほうが気が楽なんじゃないかと思い付いただけで、深い考えはねぇよ」

アルミン「そうかな? ベルトルトはそれほど無口でもないかもしれないよ」

ユミル「へえ? 意外だな」

アルミン「うん。兵団に入ったばかりの頃、聞いたことがあるんだ。ライナーとベルトルトの故郷の村が巨人に襲われたときの話で…」

ベルトルト『僕とライナーは、ウォール・マリア南東の山奥の村出身なんだ…』

………

ベルトルト『僕らは馬に乗ってウォール・シーナまで逃げた』

………

ベルトルト『臆病なところは僕も彼らと同じだ』


………

エレン「あー、思い出したぞ。こっちが訊いてもないこと、自分からペラペラよく喋ってくれたよな」

アルミン「ちょっと、エレン…」

エレン「そのとき、湖を見に行こうってわざわざ先に立って案内してくれてさ」

エレン「俺とアルミンとライナーで夜中抜け出して行ったんだ」

アルミン「たどり着いた丁度そのとき雲が切れて、月明かりが湖面に射してね。キラキラ反射して、本当に綺麗な風景だった」

ユミル「そんな場所があるのか。初耳だな。私もクリスタと行ってみるかな」

アルミン「立ち入り禁止の柵を乗り越えてかなり行った場所なんだ。たぶんおおっぴらに行くと叱られるよ」

アルミン「気軽に行ける距離でもないけどね。僕は体力がなくて、休日は身体を休めるのに精一杯で、あれ以来、一度も行ってないんだ」

エレン「俺もアルミンが行けないから行ってないなぁ。景色は良くても、ひとりで行くにはつまらない場所だしな」

アルミン「ミカサを連れて行けばいいじゃないか」

エレン「な、なんでそこにミカサが出てくるんだよっ?!」カァァッ!

ユミル(お、エレンが赤くなった。よかったな、ミカサ。お前には脈があるぞ)

アルミン「そういうことがあって、ベルトルトともいい友達になれそうだと思ったんだけど、」

アルミン「あの後、話しかけることがあっても、必要最低限の返事しかしてくれないようになっちゃってね」

過去(訓練兵時代)
夜 戸外

ユミル「…さん! …ルさん! ベルトルさん!」ピシャピシャ

ベルトルト「」ハッ!

ユミル「野外でうたた寝とは、いい度胸してんな。野犬どころか、今の時季は下手すりゃ森からのそのそ出てきた熊に襲われるぞ」

ベルトルト「ああ…、ユミル…。どうしてここに?」

ユミル「それはこっちの台詞だ。眠れないから抜け出して散歩してりゃ、」

ユミル「白くて変な動きをするでかい物体が闇夜にぼぉっと浮かび上がって。肝が冷えたぞ」

ベルトルト「変な動きって…」

ユミル「膝抱えてうずくまって、身体揺らしてこっくりこっくり舟漕いでるところがそう見えたんだよ」

ベルトルト「ああ、そう…」

ユミル「こんなところにいんのは、やっぱりよく寝れないからか?」

ベルトルト「うん…、コニーから僕の寝相のこと聞いたよね?」

ユミル「で、これ以上迷惑がかからないよう、自ら進んで退散してきたのか?」


エレン「何でだか、急によそよそしくなったよな」

アルミン「前はけっこうお喋りだったんじゃないかな。少なくとも元から無口だったわけじゃないと思う」

ユミル「ふぅん、内側にいろいろため込んでそうな奴だとは感じてたが…」

ユミル「ところでさ、ウォール・シーナまで逃げたって、確かにそう言ったのか?」

アルミン「あれ? そういえば、おかしいね。子供の体力で馬に乗って200kmも駆けるなんてできるはずないのに」

ユミル「それ以前に、避難民でごった返してるはずのトロスト区を馬に乗ったまま走り抜けるなんて無理すぎるだろ」

ユミル(できたとしても、シーナへたどり着く前に馬が潰れる。壁が破られた大混乱の最中、無我夢中の状態の子供が替え馬を確保できるはずもない)

アルミン「聞き間違えたかな?」

エレン「いや、そうだ、そうだ。確かにそう言った。俺も覚えてるぞ。『シーナ』で間違いない」

───ピリッ!

ユミル(なんだ? この感覚? 周囲の空気が強張った? 中心は…、アニか? 何がそんなに…?)

ユミル「まあ、『シーナ』と『ローゼ』。間を伸ばすところが同じだからうっかり間違えたんだろうなぁ」

アルミン「そうだろうね」

ユミル(…空気が緩んだ。アニの奴、今、あからさまにほっとしたな。アルミンも気付いてる)

ユミル(アニは根が正直な奴だ。何かを誤魔化したりするのがあまりうまくない…)


ユミル「それはともかくよ、アニ、後々を考えれば、ベルトルさんを選んだほうがお得じゃねぇか?」 

アニ「また、その話に戻るのかい? 呆れるね」

ユミル「真剣に考えてみる価値のある物件だぞ。ぬぼーっとしてても優秀だし将来有望だ」

アルミン「そうだね。ベルトルトは性格さえもう少し積極的なら非の打ち所がない兵士になれる。劣等生の僕なんかとは正反対でさ…」

アニ「そんなことないよ!」

エレアルユミ「」ビックリ

アニ「アルミン、あんたまで私がベルトルトとくっつけばいいと思ってるのかい?」

アルミン「そ、そんなわけじゃ…」

ユミル(おー、おっかねぇ顔になってまぁ…)

アニ「くだらないんだよ。見てるから、見られてるから、気があるとか、惚れたはれたの話なんて…」

アニ「それから、アルミン!」

アルミン「はいっ!」

アニ「そうやってすぐに自分をけなすの、止めな! 私、そういう奴を見ると、むかつくんだよ!」

アニ「あんたにはあんたのいいところがあるんだ。自分の足りないところにばかり目を向けてないで、それを素直に伸ばしなよ」


アニ「エレンが対人格闘術に目覚めたみたいにね」クルッ! ツカツカ…

アルミン「エ、エレン、どうしよう。アニを怒らせちゃったかな」ビクビク

エレン「びくびくすんなよ、男だろ!」

ユミル「……」

ユミル(アニはもしかしてアルミンに気があるのか?)

ユミル(そして、アルミンもおそらくは…)

ユミル(さっき、ミカサの名前を出して、アニがエレンに気があるかどうかうかがってたな)

ユミル(赤面したエレンをアニがどうとも思ってないみたいなのを見て取って、わずかに顔を緩ませてた)

ユミル(そう考えると、ベルトルさんとアニは無口同士で合うんじゃないかって私の発言を否定するために、いきなりあの話を持ち出したのか)

ユミル(アルミンもアニを気にかけてる…)

ユミル(とにかく、もう、ベルトルさんとアニをくっつけるって選択肢は絶対なしだ。肝心のアニにその気がない)

ユミル(何か他の方法を考えるか…。楽に解決できれば世話はない。わかっちゃいたけどよ)

ユミル(面倒だが、クリスタの命がかかってる。どんなことでもやれるだけやってみねぇと…)



過去(訓練兵時代)
夜 戸外

ユミル「…さん! …ルさん! ベルトルさん!」ピシャピシャ

ベルトルト「」ハッ!

ユミル「野外でうたた寝とは、いい度胸してんな。野犬どころか、今の時季は下手すりゃ森からのそのそ出てきた熊に襲われるぞ」

ベルトルト「ああ…、ユミル…。どうしてここに?」

ユミル「それはこっちの台詞だ。眠れないから抜け出して散歩してりゃ、」

ユミル「白くて変な動きをするでかい物体が闇夜にぼぉっと浮かび上がって。肝が冷えたぞ」

ベルトルト「変な動きって…」

ユミル「膝抱えてうずくまって、身体揺らしてこっくりこっくり舟漕いでるところがそう見えたんだよ」

ベルトルト「ああ、そう…」

ユミル「こんなところにいんのは、やっぱりよく寝れないからか?」

ベルトルト「うん…、コニーから僕の寝相のこと聞いたよね?」

ユミル「で、これ以上迷惑がかからないよう、自ら進んで退散してきたのか?」

ベルトルト「少なくとも、その間、他の皆は安眠できるし…」


ベルトルト「誰も僕のこと怒ったりしないし、出てけとも言われないから、かえって心苦しいんだよ」

ユミル「お前も色々大変だな。ところで、隣、いいか?」

ベルトルト「いいよ。今、脇にどくから」

ユミル「え?」

ベルトルト「どうかした? 座らないの? というか、どうしてそこで驚いた顔するの?」

ユミル「いや、なんとなくベルトルさんは私を警戒してると思ってたから、ちょっと意外だった」ストン

ベルトルト(やっぱり鋭いな…)

ベルトルト(訓練兵の中で観察眼が鋭くて人をよく見てるのは、アルミンとジャン…、そしてユミル)

ベルトルト(この3人にさえ疑われないよう振る舞えれば、他の人たちにも僕たちの正体がバレる可能性は低い。そう思って、特に警戒してたんだ)

ベルトルト「そりゃあ、君は目付き悪いし、言葉遣いは汚いし、いつもクリスタをかまってふざけていて、何を考えてるのか全然わからないし」

ユミル「言うねぇ、ベルトルさん」

ベルトルト「気を悪くした?」

ユミル「いいや、かえって新鮮だ。見直したよ。ただ無口で大人しいだけのつまらない奴かと思ってた」

ベルトルト(以前、エレンとアルミンに『ウォール・シーナまで逃げた』とうっかり口を滑らせて、後でライナーにぎちぎちに締め上げられた)

ベルトルト(それはしかたない。彼が激しく怒るのも当然のことだ。任務の失敗と生命の危険に、僕だけでなく仲間たちを晒したんだ)


ベルトルト(あの出来事があってから、また口を滑らせるんじゃないかと僕自身すっかり萎縮してしまって、)

ベルトルト(他人とは最低限の付き合いしかしないように自分に課した)

ベルトルト(元々はそれほど無口でも大人しくもなかった。ひたすら命が惜しい臆病者なだけだ…)

ユミル「で、そのがさつな女に対して、どうして警戒を解く気になった?」

ベルトルト「だって、君自身が僕のことはからかわないって言ったじゃないか。倉庫の中で」

ユミル「ああ、なるほどな」

ベルトルト(本当は、君が僕に向かって『超大型巨人』と言ったからなんだ…)

ベルトルト(入団当初は僕よりフランツのほうが背が高くて、頭を極端に短く刈り込んでるのもあって、超大型巨人とからかわれてた)

ベルトルト(僕の巨人、髪の毛ないから…。なんで僕だけ…。将来ハゲるのかな…)

ベルトルト(ともかく、その後、僕の背がぐんぐん伸びて、フランツを追い抜いて、僕のほうが超大型巨人と呼ばれるようになった)

ベルトルト(本当に僕の正体を見抜いてる人間は、絶対にそんなこと言わないはずだ)

ベルトルト(気が付いているならば、それをひた隠しにして、捕まえるために密かに準備を整えるはず)

ベルトルト(超大型巨人の僕を捕らえるには、二段構え三段構えの周到で大規模な罠が必要だから)

ベルトルト(けど、そんな準備は完全に秘密裏にできるものじゃない。時間も労力も関わる人間も大きすぎる)

ベルトルト(絶対に情報がどこかから漏れてくる。注意深く周囲に気を配っていればわかる)


ベルトルト(ユミルが『超大型巨人』と口にしたということは、今まで誰にも全く疑われていなかったということ。うかつに油断はできないけど)

ベルトルト(少なくとも、ユミルは僕を全然疑っていないのは確実だ。安心な人間なんだ)

ベルトルト(いっときのことけど、倉庫から出て明るいところへ出た瞬間、なんだか、すごく心が軽くなった…)

ベルトルト(…フランツで思い出した。彼と僕の後ろ姿をハンナが間違えて、抱きついてきたことがあったっけ)

ベルトルト(僕だと気付いて驚いたハンナが謝って去っていってからも、しばらくドキドキが収まらなかった)

ベルトルト(その後、僕には女の子とこういうことは絶対許されないんだって痛感して、悲しい気持ちになったっけ…)

ベルトルト(……)

ベルトルト(ユミルが近づいてきたのは、多分、ライナーとクリスタをなんとか別れさせたくて、ライナーの動向を僕から探り出そうとしてるんだろう)

ベルトルト(それに関しては、僕も賛成だ)

ベルトルト(クリスタと親しくなるほど、ライナーの『兵士』化にますます拍車がかかる。いつか完全に戻れなくなる)

ベルトルト(つまり、ユミルと話すこと自体に、何の障害も危険もない)

ベルトルト「ライナーはね、調査兵団に入りたいんだ。それが兵士としての本分をまっとうするのにいちばん良い方法だって」

ユミル「ちょっと待て。どうしていきなりライナーの話を始めた?」

ベルトルト「どうせクリスタ絡みの話なんだろう? クリスタが大事でライナーに取られたくない君は、ふたりを別れさせたい」

ベルトルト「そして、できることなら、可能な限り彼女を傷つけたくない。うまい手段をなんとか考え出さなくちゃならない」

過去(訓練兵時代)
朝 食堂へ向かう途上

ユミル「ふあ~ぁ…」ノビ~

ユミル(あれから毎晩ベルトルさんと話をするようになったが、毎度、話がなかなか終わらねぇ…)

ユミル(それどころか、日を追うごとにどんどん時間が延びて、こっちの睡眠時間が削られて、ひどく眠ぃ…)

ユミル(堰を切ったように喋りまくりやがって。根があそこまでおしゃべりだったとは思わなかった)

ユミル(正直、もう勘弁してほしい…)

コニー「でっけぇあくび。ブスな顔がますますブスになんぞ、ブス女」

クリスタ「コニー! ユミルをブスって言わないで!」

コニー「ブスに正直にブスって言って何が悪ぃんだよ!」

ユミル「丁度いい。コニーよ、近頃ベルトルさんの寝相はどうだ?」

コニー「おお、一時期よりだいぶましになったぞ。俺たちもたまに一回起こされるだけですむようになった」


ベルトルト「そのために、ライナーの情報を僕から引き出したい。眠れなくて散歩も嘘だ」

ベルトルト「おおかた、コニーあたりから僕が夜中に抜け出してることを聞き出して、僕を探してたんだろう?」

ベルトルト「まず真っ先に知りたいのは、誰もが不思議に思ってること。彼らしくもなく、訓練に手を抜くようになったのはいったい何故なのか。違わない?」

ユミル「ぬぼーっとしてるようで、頭の回転は悪くねぇな。さすが成績上位様。確かにそのとおりだ」

ユミル(ひとつ違うのは、私には必ずしも別れさせる気はないって点だ。私自身がくっつくよう画策してたとは知らないだろうから、その誤解も当然だが)

ユミル(気が変わってクリスタと一緒に憲兵になる道を選んでくれるなら、むしろ結びつきは強いほうがいい。命に代えても守ってくれるようにな)

ユミル(けど、そんなことをこいつに教える義理はねぇし。向こうから情報をくれるってんだ。ありがたくもらっておくとするか)

ベルトルト「じゃあ、話を戻すけど…」

ユミル「まだだ。そこまでわかっててどうして私に協力してくれる? 長年の親友に私ら訓練兵の中で最高に可愛い彼女ができるんだぞ?」

ユミル「普通に考えれば、めでたいことじゃないか? 一緒に喜んでやれないのか?」

ベルトルト「嫌なんだよ、とにかく」

ユミル「はぁ…、そりゃまたシンプルな理由だな。お前らやっぱりホ…」

ベルトルト「そのネタでいじられるの飽きてるから。からかう気なら、僕帰る」

ベルトルト「君だって、自分の親友に、男たちの中ではトップの実力と人望を持ってる、頼りがいのある彼氏ができるのを喜んでないじゃないか」

ユミル(喜んでるんだけどな、こっちの望んだ条件が満たされることが前提なら)

ユミル(効果はあったか。睡眠時間は短くても、その中でまずまず熟睡できるようになったみたいだな)

コニー「顔色良くなって、なんとなくいつも機嫌良さそうだしよ。相変わらず喋んねぇだけど、雰囲気が楽しそうっつーか」

ユミル(ベルトルさんの不眠問題は、あと少しで解決しそうだな)

ユミル(隣のライナーもまともに寝れるようになるだろ)

ユミル(あとは、ライナーのほうの問題…)

ユミル(ライナーの野郎は、いわゆる『大義』のために身を捧げたい。暑苦しいが、あいつらしくもある)

ユミル(その溢れる男気を、好きな女を守って安全で良い暮らしをさせてやるほうに向けられれば、あるいはうまくいくか…?)

ユミル(憲兵団の腐敗に対する嫌悪感も、愛しい女のためなら耐えられるだろう)

ユミル(まぁ、とりあえずは飯だ。寝不足の分、しっかり食わねぇと訓練でぶっ倒れちまう…)


ユミル(だが、あまり深く突っ込んで、情報を引き出しそびれるのは避けたい)

ユミル(ホモとかレズとか関係なく、誰だって親友に恋人ができるのは、複雑なもんだ)

ユミル(私も本音は、複雑だった…。クリスタのためだとわかっててもな)

ユミル「悪かった。もうからかったりしねぇから、続けてくれ」

ベルトルト「うん…。ライナーが言うには、憲兵になれる10位以内の枠を他の人に譲るべきだって」

ユミル「他の奴にチャンスをやろうってか。お優しいことだな」

ベルトルト「憲兵はいい噂を聞かないし、教官にしても、生え抜きの憲兵と調査兵団出身者とじゃ、指導の熱心さや人格に大きな差があるって」

ベルトルト「あんなところに入ったんじゃ、魂が腐るって、ライナーは言ってた」

ユミル「人の好いライナーさんにしちゃ珍しく、ずいぶん辛辣な批評だが、言ってることは的を得てるぜ」

ユミル「確かに、憲兵団の連中は最悪だ。噂のほうがまだましってレベルだ。本当に腐ってやがる」

ベルトルト「?」

ユミル「ああ、私は兵団に来る前は王都の貧民街にいて、憲兵どもの横暴を実際に見てきたんだ。親のねぇガキどもにも容赦ねぇぞ、あいつら」

ベルトルト「へぇ…。君も…、他の多くの人と同じように、壁が破られて家族を失ったの?」

ベルトルト(僕たちの被害者…?)

ユミル「いいや、私はマリアが破られる前からの孤児だ」


ユミル(本当はそのあたりの時期にいきなり人間に戻った元巨人です、なんて言えねぇしな)

ベルトルト「」ホッ…

ユミル「…って、私のことはどうでもいい。しかし、そういう理由で調査兵団を希望するようになったのか」

ユミル「正義感と責任感の塊みたいな堅物だもんな。昔からあんな感じか?」

ベルトルト「あんな感じだったね。いつでもリーダーで、みんなを引っ張ってた」

ユミル「そんで、実力も抜きんでてると。聞けば聞くほど、鼻につく野郎だな。かけっこも木登りもいつも一等賞ってか?」

ベルトルト「そうだけど、ライナーはその後いつも、それが苦手な子にどうすればできるようになるか教えてた」

ベルトルト「小さい子を担いで登って、木のてっぺんの風景を見せてあげたり、一緒に登りながらうまい登り方を教えたり」

ベルトルト「僕はふたりが落ちないようハラハラしながら後ろからついて行って、実際何回か危ないところを受け止めたよ」

ユミル「山猿の子3匹が目に見えるようだな」

ベルトルト「はははっ、実際そんな感じだったよ」

ユミル(アルミンの考えたとおり、ベルトルさんはけっこう喋るな)

ユミル(無理に押し込めてたのが一気に解放されたみたいに、嬉々として喋ってやがる)

ユミル(ここは情報を引き出しがてら、聞き役に徹して、鬱積したもんを吐き出させてやるか…)

過去(訓練兵時代)
休日 朝 図書室内カウンター

ユミル「」ウツラウツラ…

ガラガラ…

ベルトルト(ユミル、うたた寝してる…。ユミルが今日の図書当番だったんだ…)

ベルトルト(あれ? 昨日の夜の時点で、当番表では、別の人だったような気がしたけど? それにたったひとり?)

ベルトルト「やぁ、ユミル」

ユミル「」ハッ!

ユミル「ん…、ベルトルさんか…。何か用か?」

ベルトルト「調査兵団の最新報告書の写本が入ったって聞いたから、読みに来たんだ」

ユミル「それさ、いちいち私に声を掛ける必要あるか? 勝手に棚から取れよ!」ギロッ!

ベルトルト(うっ、なんか機嫌が悪い…? 気安く声を掛けたのがまずかった?)

ベルトルト「う、うん! そうするよっ!」アセアセ

ユミル(私の寝不足はお前のせいだろうが! 自覚ねぇのか!)

ユミル(同じくらい寝てないはずなのに、お前ばっかり機嫌良くて元気なのも腹が立つ! 体力バカがっ!)



過去(訓練兵時代)
朝 食堂へ向かう途上

ユミル「ふあ~ぁ…」ノビ~

ユミル(あれから毎晩ベルトルさんと話をするようになったが、毎度、話がなかなか終わらねぇ…)

ユミル(それどころか、日を追うごとにどんどん時間が延びて、こっちの睡眠時間が削られて、ひどく眠ぃ…)

ユミル(堰を切ったように喋りまくりやがって。根があそこまでおしゃべりだったとは思わなかった)

ユミル(正直、もう勘弁してほしい…)

コニー「でっけぇあくび。ブスな顔がますますブスになんぞ、ブス女」

クリスタ「コニー! ユミルをブスって言わないで!」

コニー「ブスに正直にブスって言って何が悪ぃんだよ!」

ユミル「丁度いい。コニーよ、近頃ベルトルさんの寝相はどうだ?」

コニー「おお、一時期よりだいぶましになったぞ。俺たちもたまに一回起こされるだけですむようになった」

ユミル(効果はあったか。睡眠時間は短くても、その中でまずまず熟睡できるようになったみたいだな)

コニー「顔色良くなって、なんとなくいつも機嫌良さそうだしよ。相変わらず喋んねぇだけど、雰囲気が楽しそうっつーか」

ユミル(ベルトルさんの不眠問題は、あと少しで解決しそうだな)


ユミル(隣のライナーもまともに寝れるようになるだろ)

ユミル(あとは、ライナーのほうの問題…)

ユミル(ライナーの野郎は、いわゆる『大義』のために身を捧げたい。暑苦しいが、あいつらしくもある)

ユミル(その溢れる男気を、好きな女を守って安全で良い暮らしをさせてやるほうに向けられれば、あるいはうまくいくか…?)

ユミル(憲兵団の腐敗に対する嫌悪感も、愛しい女のためなら耐えられるだろう)

ユミル(まぁ、とりあえずは飯だ。寝不足の分、しっかり食わねぇと訓練中にぶっ倒れちまう…)



過去(訓練兵時代)
休日 朝 図書室内カウンター

ユミル「」ウツラウツラ…

ガラガラ…

ベルトルト(ユミル、うたた寝してる…。ユミルが今日の図書当番だったんだ…)

ベルトルト(あれ? 昨日の夜の時点で、当番表では、別の人だったような気がしたけど? それにたったひとり?)

ベルトルト「やぁ、ユミル」

ユミル「」ハッ!

ユミル「ん…、ベルトルさんか…。何か用か?」

ベルトルト「調査兵団の最新報告書の写本が入ったって聞いたから、読みに来たんだ」

ユミル「それさ、いちいち私に声を掛ける必要あるか? 勝手に棚から取れよ!」ギロッ!

ベルトルト(うっ、なんか機嫌が悪い…? 気安く声を掛けたのがまずかった?)

ベルトルト「う、うん! そうするよっ!」アセアセ

ユミル(私の寝不足はお前のせいだろうが! 自覚ねぇのか!)


ユミル(同じくらい寝てないはずなのに、お前ばっかり機嫌良くて元気なのも腹が立つ! 体力バカがっ!)

ベルトルト(報告書の棚はここ…、だけど、ない? 順番からいって、ここにあるはずだけど…)

ユミル「」ウトウト…

ベルトルト「ユミル…」オズオズ…

ユミル パチッ!「あ? 今度はなんだ?」

ベルトルト「ないんだ」

ユミル「そうか、残念だったな。誰かに先を越されたな」

ベルトルト「そうじゃなくて、たぶん、カウンターの中に積まれた本の中にあると思う」

ユミル「は?」

ベルトルト「ほら、そこの、まだ貸し出せる状態になってない本の中に…」

ユミル「…待ってろ」ゴソゴソ

ユミル「……」ゴソゴソ

ユミル「これか?」

ベルトルト「これだよ、ありがとう」

ユミル「礼はいいから、寝かせておいてくれ。もう邪魔すんなよ!」ギロッ!


ベルトルト「う、うん!」

ベルトルト(なるべくユミルから離れた隅の席に座ろう…)

───カタン

ベルトルト(第33・34回壁外調査報告書…。ざっと通したところでは、特に目新しい情報はない)

ベルトルト(壁内の人類が、僕たちにとって何か不利になる事実を知ったか、)

ベルトルト(あるいは、世界の秘密の一端に気付いた可能性があるか、)

ベルトルト(それを探るために、写本が出るたびに一応確認してるんだよね)

ベルトルト(他には、ライナーと一緒に教官の手伝いを積極的にこなして、教官棟にいても怪しまれずに、ほぼ出入り自由の立場を手に入れた)

ベルトルト(そのおかげで、ウォール教の関係者が訓練所の敷地内にこっそり入り込んでうろうろしていても、なぜか教官たちが黙認している理由もわかった)

ベルトルト(クリスタを監視している連中を尾けたアニが覚えていた人相と、)

ベルトルト(あるとき僕たちが目撃した、教官と話し込む人物の人相を突き合わせて、同一人物だと確信した)

ベルトルト(かつて調査兵団の団長だったキース教官は、形だけは教官たちのトップでいるけれど、そういうことにあまりかかわり合いを持っていない)

ベルトルト(その手の暗い部分は、生え抜きの憲兵出身の教官に任せてるみたいだ)

ベルトルト(キース長官は快く思ってないみたいだけど、だからといって、不審人物を強硬に排除もできない)

ベルトルト(訓練兵団は、基本的に憲兵団の管轄だから。つまり、憲兵団とウォール教の結び付きは強い)


ベルトルト(憲兵団に入ることができれば、自然とウォール教にも近付きやすくなる…)

ベルトルト(…さて、これからもう一度注意深く読み込もう。何か見落とした些細な情報があるかもしれない)

ベルトルト(……)

ベルトルト(あれ? 報告書のこの部分、なんだかつながりが変だ)

ベルトルト(よく見ると、間のページが切り取られている…)

ベルトルト(報告者はリヴァイ兵士長…。人類最強といわれているリヴァイ兵長だ!)

ベルトルト(僕たちの任務達成の最大の障壁になるかもしれない人のひとり…)

ベルトルト(この本はまだ誰にも貸し出されたことがない。つまり訓練兵が切り取るのは、無理だ)

ベルトルト(じゃあ、憲兵の検閲に引っかかった何かがそこに書かれていたのか…)

ベルトルト(なんだろう? その情報の危険性を憲兵が承知していて、万人の目に触れさせたくない何か…)

ベルトルト(そう考えると、多分、今の体制にとって不都合なこと…)

───ガラガラガラ…

マルコ「ユミル」

ユミル パッ!「よぉ、マルコ」

マルコ「今日はひとりで図書当番?」


ユミル「そうなんだよ! あの新しく来た女教官、私のことを目の敵にしやがって!」

ユミル「あくびひとつの罰のために、一日中ひとりで当番しろとよ。せっかくの休みがパーだ」

ベルトルト(寝てたじゃないか。でも、そういうわけで通常ふたりひと組の当番を一人でやってるのか)

マルコ「そういえば、近頃眠そうにしてるね。何かあった?」

ユミル「ん…、まぁな…」

マルコ「あ、もしかして、そのカウンターの上に積んである大量の本全部、これから君がラベルを貼ってカードを付けるの?」

ユミル「それも言いつけられたが、最初からやるつもりねぇよ。今日は一日ここで居眠りするつもりだったんだ」

マルコ「それじゃあ、またユミルが責められちゃうよ。僕、手伝うよ。それで浮いた時間、寝てればいい。貸出し業務とかは僕がやるからさ」

ユミル「それは悪いだろ」

マルコ「どのみち、こんな天気のいい日に誰も来ないよ。レポート課題も出てないし」

ユミル「来そうなのは、104期生きっての本好き、『アルミン、マルコ、ベルトルさん』の3人か」

マルコ「ベルトルトはもう来てるから、あとはアルミンが来れば終わりだね」

ユミル「それでも、やっぱりいい。人に貸しを作るのは嫌いなんだ」

マルコ「じゃあ、シャツのボタンを付けてもらう権利3回でどう?」

ユミル「そんなんでいいのか?」


マルコ「僕不器用だし、自分でやると何度も指に針を刺しちゃうんだよ。やってもらえると、すごくありがたい」

ユミル「クリスタもよくちくちくやってるが、シャツ組ってすぐボタン取れるよな。面倒くさくねぇ?」

マルコ「立体機動装置の胸にかかるベルトが、ちょうどボタンに引っかかるんだよね。だから、どうしても取れやすいんだ」

ユミル「私みたいにボタンなしにすりゃ面倒ねぇのに」

マルコ「そうだね。…え? カウンターの中の床にも積んである?! これをひとりでやるなんて、どう考えても無理じゃないか!」

マルコ「何これ? 罰にしても、ひどすぎる!」

ユミル「やらなくてもいいんだぞ?」

マルコ「やるよ! 言った以上は!」

ユミル「まぁ、実際助かるが…。じゃあ、頼む」

ユミル(なんやかやと、あの女からこれ以上難癖を付けられて、クリスタと引き離された状態にされるのはなるべく避けたい)

ユミル(多分、今頃クリスタはライナーと一緒にまた誰かの世話焼いて過ごしてるんだろうが、)

ユミル(ライナーが調査兵団を希望してる今の状態で下手に仲が深まるのは危ねぇんだ…)

ユミル「ボタン付けの権利な、3回といわず、5回でもいいぞ」

マルコ「そう? じゃあ、そのときは遠慮なくお願いするよ」

ベルトルト(…僕の時は不機嫌だったのに、マルコとはあんなに楽しそうに話して…。この差は何だよ?!)


ベルトルト(あれ? あくびしたから罰当番? つまり僕のせい?)

ベルトルト(それはそうだよね。僕は体調も精神状態もぐっと良くなったけど、ユミルは睡眠時間を削られて、眠くてたまらないはずだ)

ベルトルト(本来は、僕が手伝いを申し出るべきだったのか?)

ベルトルト(いやいや、僕たちはライナーとクリスタを別れさせたいという利害が一致した者同士なだけで、そこまでする必要はない)

ベルトルト(ユミルだって僕から情報をもらってるんだ。貸し借りはなしのはずだ)

ベルトルト(いや、ライナーと関係ない話だってずいぶんした。というか、ほとんど僕が一方的に喋ってた) 

ベルトルト(2年も黙って過ごしてきた反動かな。だって、彼女、聞き上手で、つい…)

ベルトルト(さっきの冷たい態度も、そういう理由なら納得がいく。我慢してたのかな…。どうでもいい話まで聞かされて…)ズーン…

───ガラガラ…

ジャン「マルコ、ここだったか。って、お前何してんだよ?!」

マルコ「何って、ユミルの手伝い」

ジャン「そうなのか。…せっかく図書室まで来たついでだ。何か借りてくか」

ジャン「ちょっとだけこっちに来て、本選ぶの手伝ってくれ」スタスタ

マルコ「うん、いいよ」スタスタ

マルコ「で、何? ユミルに聞かせたくない話?」ヒソヒソ


ジャン「ああ、そうだ。よりにもよって、あんながさつな女、お前と合わねぇよ」ヒソヒソ

ジャン「やたら入れあげてるが、タイプが正反対すぎて新鮮に見えてるだけだ。目ぇ覚ませ」ヒソヒソ

ジャン「あんなキツイ女、しんどいだけだぞ」ヒソヒソ

マルコ「全然がさつじゃないよ。彼女はいつも誰かを励まして、強く生きろと叱咤してくれる。すごく優しくてお人好しなんだ」ヒソヒソ

マルコ「そりゃあ、言い方は厳しいし、遠回しで、わかりにくいけど」ヒソヒソ

ジャン「わかりやすく優しい女のほうが絶対いいだろうが。女は素直がいちばんだぞ」ヒソヒソ

ジャン「肘鉄食らって傷つく前に止めとけ!」ヒソヒソ

マルコ「やだよ!」ヒソヒソ

ジャン「『やだよ!』って、そんなガキみたいに…。お前、そんな奴じゃなかっただろ…」ヒソヒソ

マルコ「クリスタがライナーと仲良くなって、やっとユミルの隣が空いたんだ」ヒソヒソ

マルコ「あのふたりがうまくいかなかった場合、ユミルはクリスタを慰めて、僕の入り込む余地なんて少しもなくなる」ヒソヒソ

マルコ「そう思ったから、ライナーとクリスタが親密になり始めてもすぐにユミルに近付かずに、しばらく様子を見てたんだ」ヒソヒソ

マルコ「だけど、どうやらあのふたりの仲はこのままずっと続いていきそうだし」ヒソヒソ

マルコ「ていうか、ジャン、本当に何でここに来たの?」ビキビキ

ジャン「え…?」


マルコ「まあ、お邪魔虫はもうひとりいるし、ユミルはひどく眠くて辛そうだし、僕たちで手伝って早く終わらせてあげよう」ヒソヒソ

ジャン「ちょっ! おまっ?!」

マルコ「ユミル、ジャンも手伝ってくれるって」

ユミル「そうか? 悪ぃな」

ジャン(マルコが超恐ぇ…)

ベルトルト(ユミルから離れると、自然と僕のほうに近くなるわけで…。ほとんど全部聞こえちゃったよ、ふたりとも…)

ベルトルト(ユミルが優しくてお人好し…。そう考えたことはなかったけど、僕の話に辛抱強く付き合ってくれてるんだ。そうなのかも…。時々辛辣なつっこみも入るけど)

ベルトルト(マルコはユミルが好きなのか…)

ベルトルト(普通に恋愛できる、それが許される彼らはいいな…)

ベルトルト(あ、またハンナに抱きつかれたときの感触が背中によみがえって…、無性に悲しくなってきた…)ジワ…

───ガラ…

アルミン「」ソ~ キョロキョロ

ジャン「ん? 首だけ突っ込んで、何やってんだ?」

アルミン「」ビクッ!

マルコ「やっぱりアルミン来たね。じゃあ、これで終わりだ」


アルミン「え? 何の話?」

ユミル「こっちの話だ。こんないい天気の日にわざわざ図書館に来る物好きは3人だけ」

ユミル「その読書家の真面目君たちが3人みんな来たから、今日ここにはもう誰も来ないだろうってさ。つまり、『終わり』ってことだ」

アルミン「ああ、なるほど。でも、ジャンが来てるのは?」

ユミル「ジャンの野郎は、マルコのおまけだ」

ジャン「おまけじゃねぇよ!」

ユミル「けど、マルコのこと追っかけてきたんだろ?」ニヤニヤ

ユミル「それに、マルコから頼まれると、面倒な手伝いも断れねぇじゃねぇか」ニヤニヤ

ジャン「それは違うんだ! 俺は手伝う気なんてちっとも…!」

マルコ「ジャン」

ジャン「う…」

アルミン「ベルトルトは自習?」

ユミル「調査兵団の新しい報告書が入ったから早速読みに来たんだと」

アルミン「僕、それ、待ってたんだ! やっと来たんだね!」パアァッ!

ジャン「顔輝かせて、嬉しそうだな」


アルミン「うん! 僕たちはまだ壁外に出ることはできないけど、外の世界を知る貴重な資料だもの!」

ジャン「そんなはしゃげるのは、お前とエレンくらいのもんだ」

ジャン「報告書を読んでレポートを書かされる課題、俺は嫌いだな」

アルミン「どうして? 壁外活動をシュミレーションしたり、効率的な進軍と兵站の関係を考えたり、すごく楽しいじゃないか!」

ジャン「俺は外の世界なんて死んでも行きたくねぇ。憲兵になって安全な内地で暮らすんだ。外の世界を知る必要なんてない」

ジャン「お前や、エレンみたいな死に急ぎ野郎の気が知れねぇな」

アルミン「……」

マルコ「ジャン、そういう言い方ってないよ」

アルミン「ううん、いいんだ、マルコ…。それが普通の人の当たり前な考え方だよね…」トボトボ…

ユミル(アルミン、しょんぼりしちまったな。ジャンも悪気がないとはいえ、敵を作りやすい物言いするところが、しょうがねぇガキだな)

アルミン「ベルトルト、それ読み終わるの、まだまだかかるかな?」

ベルトルト「うん、じっくり読み始めたばかりだから」

アルミン「熱心だね。君も外の世界に興味が?」

ベルトルト「レポートを書きやすい報告書は数が限られてて、訓練兵同士で奪い合いになるから。特に提出期限間近には」


ベルトルト「今のうちに読んでおけば、後々、慌てなくてすむと思って」

アルミン「ああ、そうか、ベルトルトも憲兵志望だったよね。…本を借りるのは、日を改めたほうがよさそうだね」

ベルトルト「ごめん、じっくり読み込みたいんだ」

アルミン「いいよ、気にしないで。ゆっくり勉強して」トボトボ…

ユミル(外の世界に興味がある仲間ができるかと思ったのに期待が裏切られて、さらにしょんぼりしちまったな、アルミンの奴…)

ユミル(大丈夫か?)

ユミル(…人の心配をするより、とりあえずは、この大量の本を片付けちまおう…)

【ジャンマルユミ作業中…】

ユミル(ん? アルミンが気になる動きしてるな。書棚の前で本を選ぶふりをしながら、だんだんと移動して…)

ユミル(あそこは人が滅多に近付かない統計資料の棚だ。あんなところで何をごそごそやってんだ?)

【ジャンマルユミ作業中…】



しばらく後

アルミン「貸出し、お願いします」

マルコ「はい、スタンプ」ペタ

アルミン「ありがとう。…カウンターの中にも本がいっぱいあるね。読むの楽しみだよ」

マルコ「アルミンも、よければ手伝ってくれないか? 4人でやればそんなに時間を取らないと思うんだ」

アルミン「ごめん、手伝いたいのはやまやまだけど、今日はエレンが待ってるから。じゃあ…」

ガラガラガラ…

(この暑いのに、上着を着て、その中に本を隠してたな。たぶん統計資料のところから持ち出したやつだ)

(まぁ、貸出手続きなしで持ってかれても、私には追いかけてまで咎める義務はねぇし…)

その後 夕方

ユミル「」グーグー

カラ…

ユミル(ん? 戸が開く音? 誰か来たのか? けど、頭を上げるのめんどくせぇ…)

ユミル(対応はマルコに任せりゃいいか…)


???「」ソ~

ユミル(気配を殺して静かに入ってきた…。様子がおかしいな。誰だ?)チラッ!

ユミル(アルミン?)

ユミル(真っ青な顔して、統計資料の棚に近付いて何かを隠した? 朝、あそこからこっそり持ち出した本か?)

ユミル(ベルトルさんはいつの間にかいなくなってる。マルコとジャンは棚の向こうで本を並べていて、アルミンには気付いてない)

アルミン「……」ソ~

ユミル(入ってきたときと同じようにこっそり出ていっちまった。あんなに読むのを楽しみにしてた報告書の写本が空いたってのに、全然気にかけずに…)

ユミル(まぁ、私には関係ねぇし、閉館時間に戸締まりするまでまた眠らせてもらうか…)

ユミル「」グーグー



その後 食堂

ザワザワザワッ!

ユミル(今日の飯は、なんだか騒がしいな…)パクパク…

マルコ「ユミル! 力を貸してほしいんだ!」

ジャン「止めろ! ユミルに相談したからって、どうなるもんでもねぇ!」

ユミル「お前が血相変えるなんて珍しいな」

ジャン「こんな狡猾な奴にわざわざアルミンの弱みを知らせるような真似、事態が悪化するだけだ!」

マルコ「ジャンは黙ってろよ!」

ユミル「とりあえず、お前らふたりとも落ち着け。マルコ、いったい何が起きたんだ?」

マルコ「ああ…、うん、まず冷静にならなきゃ。場所も変えよう。ここじゃまずい…」



その後 倉庫

マルコ「アルミンとエレンが営倉にぶちこまれたんだ!」

ユミル「ぶちこまれた?!」 

ユミル「マルコがそんな言葉遣いするとは、相当な事態だな。理由は何だ?」

マルコ「禁書を持っている疑いをかけられてる。壁の外の世界が書かれている本なんだ」

ジャン「ああ、言っちまった…。どうなっても知らねぇぞ…」

マルコ「アルミンとエレンが倉庫に隠れてその本を見ながら話していたのを、新しく来た教官が漏れ聞いたらしい。かなり断片的にだけど」

マルコ「そこで中に踏み込んだら、アルミンが本を抱えて逃げ出して、エレンが教官を転がしてから逃げ出して…」

ユミル「あのいけ好かない女を転がしてくれたか! そりゃ爽快だ!」ダハハハッ!

ジャン「笑いごとじゃねぇんだよ!」

ユミル「確かに笑いごとじゃねぇな。腹据えてかからねぇと。ジャン、入り口の近くに立って、誰も聞き耳を立ててねぇか、気を配っといてくれ」

ジャン「お、おう…」

ジャン(ユミルの奴、急にマジ顔になって、別人みてぇだ)

ユミル「で、アルミンの本がそんなやばいもんであることをどうしてお前らが知ってるんだ?」


マルコ「前に僕たちも見せてもらったことがあるんだ」

ジャン「燃える水に、氷の大地…。とにかく信じられないもんばっか載ってたな」

マルコ「アルミンのお祖父さんが隠し持っていたもので、アルミンにとってはとても大事な形見でもあるんだ」

ユミル(そんな危ねぇ本を他人に見せるなんて、アルミンにしちゃうかつすぎるだが、きっと外の世界を夢見る仲間が欲しかったんだろうな…)

ユミル(アルミンがこそこそ隠してたのは、その本か。木を隠すには森の中。で、図書室の本の中に紛れ込ませてた…)

ユミル「アルミンとエレンは今、どうしてる?」

マルコ「憲兵が数人呼ばれて、かなり厳しい尋問をされたらしい。けど、全然口を割らなくて、営倉に入れられたんだ」

ユミル(尋問と拷問のプロにかかっちゃ、ひとたまりもねぇな。時間との勝負か…)

ユミル「ジャン、秘蔵のエロ本、貸せ! 今すぐ宿舎へ戻って、取ってこい!」

ジャン「はあ?」

ユミル「マルコ、お前が今日一日図書室で過ごしたこと、あそこにいた人間以外に、誰か知ってるか?」

マルコ「えぇと、誰も知らないと思う」

マルコ(ユミルとふたりきりで過ごせるかもと思ったから、誰にも知らせず、気付かれないように行ったんだよね。ジャンは来ちゃったけど)

ユミル「そうか、ますます都合がいいな。ジャン、マルコを探してたまたま図書室へ来たお前も同じか?」

ジャン「そうだけど…、おい、ユミル、エロ本が何の関係があんだよ?!」


ユミル(ベルトルさんは、夕方アルミンが図書室に来たとき、もういなかった…)

ユミル(後は、アニ…。当番表によると、今日の飯当番だったな。当番は、夕飯を作るのに、夕方から厨房にこもりきりになる)

ユミル(つまり、アルミンが教官から逃げ出してから捕まるまでの間、絶対に接触できたはずがない人間だ)

ユミル「なんとかなるかもしれねぇ。ふたりとも私の言うとおりに動いてくれるか?」

マルコ「やるよ! 何でも言って!」

ジャン「待てよ! 俺はお前みたいな狡猾な奴、信用できねぇ。こんなことに手を貸しても、見返りなんかねぇだろ?!」

ユミル「見返りか…。そうだな、ざっと考えて4つもあるぞ」

ユミル「お前とマルコに手伝ってもらった借りをチャラにできる。あの女を転がしてくれたエレンを助けられる」

ユミル「あの女に吠え面かかせて悔しがらせてやれる。後は、今後、アルミンにレポートの課題でも何でもやってもらえる」

ユミル「何か不足か?」

ジャン「いや…、ねぇ…」

ユミル「なら、もたもたするな。ジャンはさっきも言ったようにエロ本を取ってこい。持ってる中でいちばんえぐいやつな」

ユミル「いや、待てよ。お前のことだ。きっと愛しのミカサ似の女が脱いでる本、持ってんだろ? そっちのほうがいいな」

ジャン「俺はそんなもん持ってねぇ!」


ユミル「うるせぇ! くだらねぇ体裁、取り繕ってる場合か!」

マルコ「そうだよ! 後で弁償してあげるから、すぐに取ってきなよ!」

ユミル「マルコは調べ物があると嘘をついて、教官から図書室の鍵を借りてこい」

マルコ「うん、今までにも何回かそうやって自習したことがあるから、怪しまれずにすむと思う」

ユミル「よし、そうしたら、ジャンから受け取ったエロ本をアルミンの本と交換しろ」

マルコ「え?」

ユミル「今日、アルミンが統計資料の棚のあたりでなんだかゴソゴソやってたんだ。おそらく、隠し場所はそこだ」

ユミル「持ち出したら、消灯時間の後、私と外で落ち合って渡してくれ」

ジャン「待てよ! マルコの所に長く置くのはやばくねぇか?」

ジャン「俺とマルコは、アルミンとエレンと同室なんだ。ふたりが口を割らないとなると、とりあえずは、同室のメンバー全員が家捜しされると思わねぇか?」

ユミル「その通りだな。…じゃあ、持ち出してすぐ、男子トイレの個室の中に置いとけ。後で私が回収する」

ユミル「それまでの間に他の誰かに発見される可能性もあるが、多少危ない橋を渡ることになっても、この際しかたねぇ」

ジャン「お前、入っていけるのかよ…。引くわ…」

マルコ「ジャン! さっきの指摘はありがたかったけど、いちいち邪魔するなら黙って!」


マルコ「その後は? ユミルが持ってるの?」

ユミル「いや、ふたりから本の在処を引き出せないとなると、憲兵が次に打つ手は、訓練兵全員への聞き取り調査だ」

ユミル「きっと、本を抱えて逃げ出したアルミンの足取りをつかもうとする」

ユミル「その途中、どこかに隠したか、あるいは、誰かに渡すかした、と考えるはずだ」

ユミル「通った場所、接触した可能性のある人間、全部くまなく調べられる」

ユミル「図書室へ寄ったことがバレた場合、当番でそこにいて接触する機会があった私はきっと疑われる」

ジャン「じゃあ、どうすんだ?」

ユミル「心配すんな。絶対安全な隠し場所に心当たりがある」

ユミル「それより、お前ら、聞き取り調査の時には嘘のアリバイいってうまくごまかせよ」

ユミル「森の中でチェスに熱中してたとか、何でもいいが、口裏をよく合わせておけ。個別に話を聞かれるぞ」

ジャン「ベルトルトが俺らが図書室にいたの知ってるぞ。そこを突っ込まれたらやばい」

マルコ「そうだね、どうしよう。ベルトルトに何か手を打つべきかな?」

ユミル「いや、余計なことはしねぇで、そこは、私の罰当番を手伝ったことがバレたら私が叱られると思った、と誤魔化しとけ」

ユミル「いいか、これは向こうから訊かれるまでは言う必要はねぇからな」

ジャンマル「「わかった」」コクリ


ユミル「ベルトルさんは、アルミンが本を戻しに来たときはいなかった。ベルトルさんが出て行った後に、お前らが出たことにしろ」

ユミル「それでベルトルさんの話との辻褄は合う」

ジャン「そううまくいくか? 図書室を閉める時間まで、俺らのことを誰も見てないんだぞ? 俺らが疑われる可能性は充分ある」

ユミル「疑われねぇよ」

ジャン「どうしてそう言い切れる?」

ユミル「憲兵団行きを強く希望してるお前らが、こんなことで危ない橋を渡って、将来を棒に振るか? 憲兵を敵に回すも同然のことをしでかして?」

ユミル「そんな馬鹿なこと、普通はしねぇ。まぁ、実際はとんでもねぇお人好しの馬鹿なんだが」

マルコ「ハハハ、確かにね」

ジャン「それだけじゃ根拠が弱ぇよ」

ユミル「お前、自分のことは見えてねぇみたいだな」

ジャン「あ? どういうことだ?」

ユミル「お前とエレンが犬猿の仲なのは皆知ってんだ。お前がエレンを助ける理由がない」

ユミル「陥れたい理由はあってもな。今はその絶好の機会だ。放っておけば、目障りな奴が勝手に消えてくれるんだ」

ユミル「お前だけは絶対にエレンを助けない。お前とずっと行動を共にしていたマルコには助ける機会がない。違わねぇか?」

ジャン「あ、そうか! エレンの野郎を助けることにもなっちまうのか! クソッ!」


マルコ「ジャン、もうさ、意地を張ってないで、これを機会にエレンと仲直りしなよ…」

ジャン「それはなんか釈然としねぇ…」

ユミル「エレンの未来を救ったっていうでかい恩が売れるぞ。今後、お前のほうが優位に立てると考えれば、得な取引だ」

ユミル「それに、エレンがいなくなっちまうと、ミカサもきっと兵団を辞めるぞ。もう会えなくなってもいいのか?」

ジャン「そうか! ミカサに会えなくなることに比べりゃ、エロ本の1冊や2冊、安いもんだ!」

マルコ「もう…。じゃあ、ユミルの言うとおり、早速始めよう! もたもたしてる暇はないよ!」



その夜 女子宿舎 空き部屋

アニ「わざわざこんなところに呼び出して、何の用? 部屋でできない内容の話をあんたとする必要はないと思うんだけど?」

ユミル「アルミンが困ってる。憲兵に連行されて投獄されちまうかもしれないんだ。いや、今だって拷問まがいの尋問されてる」

アニ「…!」

ユミル(とっさに動揺を隠した。やっぱりアニは、アルミンに気があるな)

ユミル「その理由は、お前も聞いてるな?」

アニ「禁書を隠し持ってたとか、皆が噂していたね。私はそれを耳に挟んだだけだ」

ユミル「その本は、今ここにある」ゴソ…

ユミル「これはアルミンのじいさんの形見なんだ。これを奪われたらアルミンはきっとひどく悲しむ」

ユミル「この件に関わっているのは、私の他は、マルコとジャンだ」

ユミル「アルミンとエレンさえ知らない」

アニ「捕まった当人さえ知らないから秘密が漏れる心配は少ない、…というわけだね」

ユミル「話が早くて助かる」

ユミル「隠し場所には、すり替えた囮の本が置いてある。憲兵には、それをつかませる」


ユミル「そうなれば、ひとまず解決だ。それまで、この本の存在を絶対に隠しておかなきゃならない」

アニ「囮の本?」

ユミル「なぁに、男なら誰でも興味がある類の本だ」

アニ「なるほどね、あんたらしい発想だよ」

アニ「あんたはどうして関わった?」

ユミル「マルコから頼まれた」

アニ「人助けなんてしそうにない顔して、宗旨替えしたのかい?」

ユミル「当然、見返りはマルコからもらうさ。無事に助け出せればアルミンからも」

ユミル「成績上位者と、座学トップ。利用価値は充分ある」

アニ「私をこの件にかませようとした理由は?」

ユミル「明確なアリバイがあることだ」

アニ「確かに食事当番は厨房にずっと詰めていて、どう逆さにしても、関われるわけがないね。実際、厨房から出るまで全く知らなかった」

アニ「…中を見てもいいかい?」

ユミル「もちろんだ。悪事の片棒担がせようって相手に、隠し事はなしだ」

アニ「すごく古い本だね…」パラパラパラ…


アニ「……」パラパラ…

アニ「これ、まさか?! 壁の外の世界のことが書いてあるのかい?!」

ユミル「その通りだ。やばさがわかったか?」

アニ「これは…、予想以上だったね…。体制に反対する思想書みたいなものだとばかり思ってたよ」

ユミル(本の内容を知って、やはりひどく葛藤してるな。普通、こんなでかすぎる面倒ごとには誰だって巻き込まれたくない)

ユミル(だが、私の目に狂いがなければ、アニはアルミンを助けたいと強く願っているはずだ)

アニ「ひとつ確かめさせてもらおうか」

ユミル「ああ、何でも訊けよ」

アニ「あんたが私を陥れないという保証は?」

アニ「ほいほいこの本を受け取った後に密告されて、隠し持っているところをまんまと発見されたら、私にはもう言い逃れできない」

ユミル「お前相手にそんな狡いことをする理由はない」

アニ「あるよ。10位以内の枠に空席を作るため…」

アニ「憲兵になりたくてたまらない誰かから依頼されているのかも」

アニ「あんたが関わったのも、マルコから頼まれたなんて理由より、そのほうがよほどしっくりくる」

ユミル「はっ! もっともな疑いだな! そんだけ頭が回ると知って、安心したよ。お前に預けておけば絶対に隠し通してくれるってな」


アニ「おだてていい気にさせてうやむやにしようとしても、私には通用しない。そうでないと証明できるかい?」

ユミル「できるさ。私を信用できないなら、今この場で大声を上げて人を呼べばいい」

ユミル「他人から信頼してもらえるほど上等な人間じゃないことは、自分がよくわかってる」

ユミル「そのために、少々危険を冒しても、壁一枚向こうに人がいるこの場所をわざわざ選んだんだ」

ユミル「この場に他人が踏み込めば、言い逃れできなくなるのは私のほうだ。どう言い繕おうが、」

ユミル「私とお前の言い分が食い違えば、普段から態度の悪い私より、成績優秀なお前のほうが確実に信用されるだろうさ」

ユミル「ただし、そうなった場合、アルミンとエレンもおしまいだ。きついお仕置きをされた後に、矯正施設にでも放り込まれるかもな」

ユミル「そして、一生憲兵の監視下に置かれて、もう二度と外に出られない。一度知っちまった知識を広められたらかなわねぇからな」

ユミル「外の世界に憧れて、壁の外を探検したいって夢をもってきつい訓練も頑張ってるアルミンには、何より辛いだろうな」

ユミル「この狭い壁の中より、さらに狭苦しい所に閉じ込められてよ」

アニ「……」

アニ「どうして私が引き受けると? こんな厄介事はごめんだと断る可能性を考えなかったのかい?」

アニ「むしろこの本と情報をそっくりそのまま教官に持っていく事態を考えないのかい?」

ユミル「お前は断らないさ」

アニ「どうして?」


ユミル「アルミンへの借りを返せるからだ。借りを作ったままは気持ち悪ぃだろ? そういう人間だとにらんだ」

ユミル「父親の形見を守ってもらったお前が、今度はアルミンのじいさんの形見を守る」

ユミル「これで、とんとんだ。シンプルですっきりする借りの返し方だろ? 違うか?」

アニ「……」

アニ「……」スゥー

ユミル(息を吸い込んだ…。大声で人を呼ぶためか、それとも…)

アニ「……」ハァー

アニ「…わかったよ」

ユミル「ありがてぇ」

アニ「肌身離さず持っていればいいのかい?」ギュッ…

ユミル(もうしっかりと胸に抱き抱えてる…。アルミンのために何でもすると、たった今決心したな)

ユミル「いや、私とお前は同じ部屋だ。万一、私が疑われた場合、部屋中、家捜しされる危険がある」

アニ「とりあえず、部屋の中は駄目ってことだね。承知したよ」

ユミル「隠し場所は、お前に任せる。私は、その場所を知らないほうがいい」

おぉ!ベルトルト「ここはウォールマリアの」ユミル「壁の上」の人か



翌日 夜 アルミンとエレン、それぞれの独房

エレン「アルミン、返事しろ…」

アルミン「……」

エレン(食いもんも水も与えられず、昼は憲兵たちにえんえん暴力を振るわれながら、あの女教官に尋問…)

エレン(アルミンは体力がないんだ。もう返事する気力も失ってる。ひょっとしたら気絶してるかも…)

エレン(アルミンが心配だが、あいつが意地を張ってる以上、俺が口を割るわけにはいかない)

エレン(アルミンのじいさんが大事に持ってた本…、家族の思い出そのものでもあるんだ)

エレン(俺にとっても、アルミンと外の世界に行こうと決心させてくれた大事な…)

───ガチャガチャッ!

エレン「」ハッ!

ユミル「よぉ、エレン。におうなぁ、ここ。鉄格子は錆だらけで手にくっつきやがるし、じめじめして最悪な場所だ」

ユミル「うわっ! ひっでぇ面! 腫れ上がって原型ねぇぞ! 相当ぶん殴られたな」

エレン「何の用だよ! また茶化しに来たのか?!」

ユミル「そんなことじゃねぇよ。格闘術に秀でたエレン様に礼を言いに来たんだよ。あのむかつく女を思いっきりすっころばせてくれたんだってな」


ユミル「どんな面してキーキー喚いたか、見てみたかったな。どうだった? 詳しく教えてくれよ」ニヤニヤ

エレン「帰れよ! みっともない格好を笑いに来たのか?! 馬鹿にされて大人しくしてるほどお人好しじゃねぇぞ!」

ユミル「鉄格子の中から何ができるってんだ。考えなしのお子様がよ。いいか、よく聞け。隠れてやべぇことをするときは、よく頭を使うんだよ」

アルミン「……」

ユミル「クリスタがかまってくれなくて、最近退屈でしょうがねぇんだ。ちょっと遊んでくれ」

エレン「……」

ユミル「黙り込んじまったか。おい? おーい、エレン、聞こえてるか?」

エレン「……」

ユミル「ちっ、つまんねぇ。ところで、お前らも強情だよなぁ。さっさと吐いちまえばいいのに。本の在処」

ユミル「ぶん殴られて、飯抜かれてまで意地張るほどのことか? あんなもんのために」

エレン「なに言ってんだよ? …おい、何を知ってんだ?」

ユミル「何って、年頃の男ふたりが隠れてコソコソ読む本なんて、決まりきってるだろ?」

エレン「あ?」

ユミル「エロ本だろ? 猥褻本。女の裸がいっぱいの。そりゃ恥ずかしいよなぁ」ニヤニヤ

ユミル「教官に自分の性癖が公開されちまうしよ。おまけに、こういうことは訓練兵の間にもすぐにパッと広まっちまう」


ユミル「見つかったのは災難だよなぁ。まぁ、次はせいぜいうまくやれよ!」ダハハハハッ!

エレン「おい、ユミル! あれは、そんなんじゃ…!」

エレン(俺とアルミンの大事な思い出を、こいつ…!)

アルミン「エレン! 黙って!」

エレン「アルミン!」

アルミン「大声を出されると頭が痛んでクラクラするんだ! とにかく黙って静かにしてくれ!」

ユミル「隠し場所をさっさと吐けよ。楽になるぞ。恥ずかしいのは一時だけだ」

ユミル「思春期まっさかりの男の生理ぐらい頭の固い憲兵様がたも許してくれるさ」

エレアル「……」

ユミル「ずいぶん頑固に口を割らねぇな。それとも、そこまでして隠したいほどえぐい本なのか?」

ユミル「ははーん、そうか、そういうことか。なるほどな」ニヤニヤ

エレン「なんだよ? ひとりでわかったふうな顔をしやがって」

ユミル「そのエロ本、ミカサに似た女の裸が載ってるんだな」

エレン「バッ!」

ユミル「いやー、いくら幼馴染ったって、あんな美人が側にいてムラムラしねぇなんておかしいと思ってたんだ」


ユミル「隠れて発散してたんだな。ようやく納得したわ」

ユミル「アルミンも可愛い顔して男だねぇ」ダハハハハッ!

ユミル「可愛すぎて実はオカマかもしれねぇと疑ってたんたが、ちゃんとタマ付いてたんだな」

アルミン「……」

エレン「女だろうが、後で殺してやる…。ミカサもアルミンも侮辱しやがって…」ギロッ!

ユミル「おお、恐ぇ」ニヤニヤ

ユミル(アルミンは気付いてくれたな。これで、ここに来た目的は果たした)ホッ…

ユミル(あと少し、本の中身の情報を渡して、からかってから戻るか。誰かが聞き耳を立ててるかも知れねぇし)

ユミル(アルミンが隠し場所を白状して、すり替えておいた偽の本を憲兵が発見すれば、ひとまずはそれで解決だ)

ユミル(釈放されたときには皆からあらぬ誤解を受ける羽目になるだろうが、まぁ、それはしょうがないと諦めてくれ)

ユミル(憲兵に逮捕されるよりかは、はるかにマシだ)

ユミル(しかし、ミカサがいないときを見計らってここに来るのがけっこう難しかったな)

ユミル(少しでも自分の身体が空いてる時間は、ほとんどここにいるからなぁ…)

ユミル(こいつらを馬鹿にしてるところなんか聞かれたら、ミカサに殺されちまう…)



さらに2日後 夜 食堂

マルコ「出てこれてよかった!」

アルミン「うん、みんなには僕たちのためにいっぱい心配かけちゃったみたいだね…」

アルミン「それから僕たちのために動いてくれたことも」

アルミン「本当にありがとう! 一生忘れないよ!」

ジャン「あれから2日も我慢したたぁ、根性あるなぁ、アルミン!」

ジャン「お前のことは、エレンとベタベタつるんでばっかで気持ち悪いって思ってたが見直したぜ!」バンバン!

アルミン「イタタッ! 痛いよ、ジャン! だって、あんまりあっさり吐くと、本が偽物だと疑われると思ったんだ」

ジャン「そこを意志の力で堪え忍んだのがすげぇよ! なよなよしてるようでも、男だな! 見上げた精神力だぜ!」

マルコ「本当、アルミンは強いよ。顔も身体も痣だらけなのに、よく頑張ったね」

アルミン「痛いといえば、仕方ないことだけど、エレンとふたりで隠れていかがわしい本を読んでたことになって…。身体より、女子の視線が痛いよ…」

ユミル「ダハハハハッ! 別にかまわねぇだろ。肝心の人間には特に悪く思われてねぇんだし」

ミカサ『エレンが健全な男の子と知って、安心した。でも、アルミン、私はあなたをそんな子に育てた覚えは無い』

ユミル(アニは真実を知ってるから、アルミンに悪印象を抱くわけねぇし)


アルミン「おまけにさ、独房に入ってる間に、結局男子宿舎全部の捜索がされて、いかがわしい本を没収された被害者が続出したとも聞いたよ」

アルミン「男子たちからの恨みの視線も辛いよ…」

ジャン「まあまあ、夜は安心して眠れるぞ。俺たちの部屋は、俺が前もって全員に警告を出しておいて無事だったからな」

マルコ「まったく見つからないのも変だからって、何冊か適当なのをわざと見つけさせたりしてね」

エレン「おぉい、アルミン、お前さっさとミカサから逃げやがって!」

ミカサ「エレン、待って!」

ジャン「チッ! いけ好かない奴が来ちまったか! せっかく楽しくやってたのによ!」

エレン「んだと?! この馬面っ! …いや、お前にも世話になったんだよな、ジャン」

ジャン「な、なんだよ? 調子狂うじゃねぇか…」ゴニョゴニョ

エレン「致命的になりかねねぇことに、お前が協力してくれたおかげで出てこれたんだ。ありがとうよ」

ジャン「もういい! わかった! それ以上喋んな! 蕁麻疹がでちまう!」

エレン「プッ、ハッ、ハハハ…」

ジャン「ハハハハ…、ボッコボコでひでぇ面だぜ、エレン…。まぁ、今夜だけは喧嘩しねぇで、出てこれて良かった…、と思っとくか」

マルコ「ふたりも仲直りできたみたいで良かったね」

エレン「ユミル、マルコから聞いた。いちばん骨を折ってくれたのはお前みたいだな」


エレン「独房の前まで来て馬鹿にしてったのも、織り交ぜてメッセージを伝えるためだったって、アルミンから説明してもらった」

エレン「俺は馬鹿でわかんなくて、お前のこと殺してやるとまで思っちまった。悪かった」

ミカサ「ユミル、私からもお礼を言う。本当にありがとう」

ユミル「私はほとんど何もしてねぇよ。いちばん動いてくれたのはマルコだし、」

ユミル「大切なもんを手放す羽目になったのはジャンだし、」

ユミル「やばいブツを隠し持って最も危険な役を引き受けてくれたのは、また別の奴だ」

ユミル「それから、私の意図を正確に察して、そこから2日も我慢してこっちの仕掛けに真実味を持たせてくれたのは、アルミンだ」

エレン「そうそう! 3日目に、ついに諦めて隠し場所を白状したように見せたときのアルミンの名演技、見せてやりたかったぜ!」

ミカサ「アルミンはその手の演技が本当にうまい。子供の頃から」

エレン「哀れを誘って、いじめっ子の攻撃を止めさせたりな! 何度もやってるうちに通用しなくなったけど」

アルミン「なんか、あんまり誉められてないようなのは、気のせい?」

エレン「気のせいだ」

ミカサ「きっと、気のせい」


アルミン「もう…。ところで、ユミル、僕の本はまだその人に預けてあるの?」

ユミル「ああ」

アルミン「不思議に思ってたんだけど、それ、誰? こんな危険な秘密を守ってくれる人なんて、どんなに考えても思い当たらなかったんだけど…」

ユミル「それは、後でお前にだけ教えてやるよ」ニヤッ!



過去(訓練兵時代)
その後 廊下

ジャン「なあ、マルコ、一瞬であそこまで考えたのには感心するけどよ、ユミルの奴は、右から左に渡しただけだ」

ジャン「あいつの言ったとおり、大したことはしてねぇと俺は思うな」

ジャン「お前が本をすり替える危険な役目をしたのは、言い出しっぺだから仕方ないとしてもよ」

ジャン「本を預かった奴にしても、そいつのとんでもない弱みでも握ってたんじゃねぇか?」

ジャン「そうでもなけりゃ、あんなやべぇもんを預けられる相手をすぐに思いつくわけがねぇ」

ジャン「俺らにはそいつの名前を明かさないのがその証拠だ」

ジャン「やっぱりいまいち信用できねぇんだよ、俺には」

マルコ「ジャン、ちょっとそこの物陰に入ろうか」

ジャン「な、なんだよ、恐ぇ顔して…」

マルコ「…ユミルはなんにも言わないけど、実は彼女、かなり教官に絞られたんだよね」

マルコ「もっとも、他の憲兵は偽の本の存在で納得したから、アルミンたちのように体罰まで受けて尋問されたわけじゃなかったけど」

ジャン「なんで知ってる?」

マルコ「今日の訓練、ユミルは教官に呼ばれて途中からいなくなってただろ?」


ジャン「ああ、お前も具合が悪くなったとか言って、医務室へ行ったな」

マルコ「そうやって、密かに後を尾けたんだ。で、窓の外から話を漏れ聞いた」

ジャン「お前…、大胆なことするなぁ。そんな奴じゃなかったのに」

マルコ「ハハッ、ユミルの大胆さが移ったのかもね」

マルコ「話を戻すけど、アルミンが隠した本をすり替えることができるとしたら、隠すところを見る機会があった彼女しかいないって責められてたよ」

マルコ「アルミンのためにそこまでするメリットがないのと、代わりの本が女の子がとっさに用意できる類の本でないことで放免されたけどね」

ジャン「実際にすり替えたお前はまったく疑われなかったのにな」

マルコ「僕の推測だけど、僕には、あの大量の本の中からアルミンの本を見つけられるわけがない、と思われたんじゃないかな」

マルコ「あとは…、やっぱり僕がただ真面目一辺倒な人間だからだろうな…。そんな大それたことをするなんて、誰も思いも寄らないと…」シュン…

ジャン「どうしてそこでしょぼくれた顔すんだよ? それがお前のいいところじゃねぇか」

マルコ「いくら真面目だって、アルミンとエレンは救えなかったよ。僕にはできなかった」

マルコ「とっさにユミルに助けを求めて、ユミルは断らなかった」

マルコ「僕は即座にああいうことができる彼女の賢さと強さが好きなんだ。憧れて、尊敬してもいる」

マルコ「必要とあれば、男子トイレにも躊躇なく入れる大胆さもね。もちろん、断らなかった優しさも。彼女の優しさは深いよ」

ジャン「今度のことで、お前がユミルに惚れた理由、ほんの少しだけどわかった」


マルコ「じゃあ、もう僕の前でユミルを悪く言わないでね」

ジャン「ああ、女に免疫のねぇ親友が、不良女に目を眩ませられたわけじゃないって納得して安心したよ」

マルコ「ハハハ、心配してくれてたんだ」

ジャン「うるせぇな!」プイッ!

マルコ「ジャンはさ、もう少し気持ちを素直に表に出したほうがいいよ。いい人なんだから」

ジャン「そうだな。こんなひねくれもんの俺に辛抱強く付き合ってくれてたお前がもうすぐ離れてくかもしれないもんな」

マルコ「ジャン…」

ジャン「いつまでもガキのまんまじゃいらんねぇってこった」

ジャン「頑張れよ、マルコ…」

マルコ「うん、頑張るよ」

ジャン「…ひとつ気がかりなのは、近頃ベルトルトがユミルをじっと見るようになったことだ。あのアニばっか見てた奴がよ」

ジャン「それが、アルミンとエレンが捕まって、お前が本をすり替えた日の翌日から、ずっとだ」

ジャン「何か知ってるか、感付いてるかもしれねぇ」

マルコ「それにはユミルも気付いてたよ。でも、まるで平気なんだ」

ユミル『ベルトルさんが何に気付いてようが、それを密告されようが、現物さえなけりゃ、たとえ卒業まで疑い続けたって、なにもできやしねぇよ』


ジャン「はぁ…、肝っ玉が太ぇな。さすが、ユミル…」

ジャン「付き合おうとするのはいいが、尻に敷かれないよう気を付けろよ、マルコ」

ジャン「あいつを知れば知るほど、お前が太刀打ちできる女じゃねぇって気がしてきた」

マルコ「う、うん…」



過去(訓練兵時代)
次の休日 湖畔の森

アルミン「でね、僕はいつか北へ冒険してみたいんだ!」

アニ「北? 巨人は南から来るのにかい?」

アルミン「もちろん、最初は南を目指すよ。巨人が発生する『元』を断てれば、そんなものがあればの話だけど」

アルミン「それを成し遂げられるのが何十年先になるかもわからないけど、絶対に行ってみたい!」

アニ「……」

アルミン「北には、氷の大地がどこまでも広がって、海には長い長い、自分の身体より長い角を持つ巨大な魚がいて、」

アルミン「でもそれは魚じゃなくて、陸を歩く獣と同じなんだって!」

アルミン「それから、ええっと、このページを見て! 北では、凍てつくような寒さの夜、空一面にカーテンがかかるんだって!」

アニ「『オーロラ』…。聞いたことのない響きの言葉だね…。どこからぶら下がってるんだい、このカーテン?」

アルミン「それはわからないけど、オーロラが出現するのは、太陽からの風が影響してるらしいって! 実際見に行けば、きっとわかるよ!」

アルミン「ほのかに光って、ゆっくりとゆらゆら揺れて…、神秘的な眺めなんだろうなぁ!」

アルミン「それからね、北には白夜っていう、一日中太陽が沈まない季節があるんだ! 不思議だよね! 何日もずっと夜が来ないなんて!」

アニ「……」


アルミン「あ…、ごめん。夢中になって僕ばっかり喋っちゃって…。退屈…だったよね?」 

アニ「…白夜と重なったらオーロラが見られないね。行くときは季節を間違えないように気を付けないと」

アルミン「え…? アニ?」

アニ「私も見てみたい! この目で、オーロラを!」

アルミン「行けるかな…? 夢物語みたいで、本当は途方もないことだと思っていたけど…」

アニ「きっと行ける! あんたは強いから! きっとやり遂げられるよ!」

アルミン「アニ…」

アニ「さあ、アルミン、行こう!」

アルミン「え? え? 行く…、ってどこへ?」ドキッ!

アニ「体力のないあんたが明日からの訓練に影響が出ないようにここからゆっくり帰るには、もう出発しないと」

アルミン「あ、そうだよね」

アルミン(一瞬、外の世界へ行くのかと思っちゃった…。なんだか、アニと一緒なら本当に行けそうな気がして…)

アルミン「それじゃ、帰る前に、この本を埋めないと。もう穴は掘ってあるのに、名残惜しくてついずるずると別れを引き延ばしちゃった」

アニ「面白い話だったよ。壁の外は私が考えるよりずっとずっと果てしなく広いと教えてくれて」

アルミン「そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ。エレン以外にこの気持ちをわかってくれる人はいなかったから」


アニ「自分でも驚いてるよ。自分がこんなに…、外の世界に興味があったなんて」

アルミン「僕も驚いたよ、本当に。ユミルから伝えられた場所に君が待っていたのを見たときには」

アニ「……」

ユミル『まあ、ほとんど心配ねぇだろうが、万にひとつ、後を尾けられる可能性を考えて、人気のない離れた場所で落ち合え』

ユミル『本はそいつが持っていく。そのほうが安全だ』

アルミン「油紙に包んで、箱に入れて…、と。これで、この本とも、しばらくお別れだ」

アニ「辛いかい? 形見と離れることになって?」

アルミン「……」

アルミン(…訓練が辛くてくじけそうになったとき、エレンと一緒にこの本を読んで、外の世界への憧れを燃え上がらせて、)

アルミン(いつか壁の外をどこまでも探検するんだ、って今まで頑張ってきた)

アルミン(危ないとわかっていても、ついつい引っ張り出して眺める誘惑に抵抗できなかった)

アルミン(だけど、それももうおしまいだ)

アルミン「ううん、僕は知らず知らずのうちにこの本に甘えていた。優しいじいちゃんがいて、」

アルミン「いじめっ子からひどい目に遭わされたりもしたけど、エレンやミカサが必ず助けに来てくれて、」

アルミン「3人で毎日遊んで、家の仕事を手伝って…、実はシガンシナ区での懐かしい記憶を反芻していただけだった」


アルミン「それが、今回のことでよくわかったよ。外に行こうとしながら、思い出の殻に閉じこもっていたんだ」

アルミン「それじゃいけない。きっぱり断ち切るべきなんだ。この本を眺めて空想に耽るだけじゃなく、実際に役立てる立場になるんだ」

アルミン「それから、世の中を変えて、禁書なんて馬鹿げた扱いから救う。この素晴らしい本を皆がいつでも読めるように」

アルミン「それが、ただの口減らしと承知で無謀な奪還作戦に志願して、僕のために死んでいったじいちゃんへの何よりの恩返しになると思う」

アニ「……」

ザクザクザクザク

アルミン「この樹の下に埋めるよ。…卒業して、一人前になったら、きっと取り戻しに来るからね」

ザクザクザクザク

アルミン「じいちゃん…、さよなら…」ジワ…

アニ「……」

アルミン「最後に君と本を見ながら話せて良かった。きっと壁の外へ行けるって、そう励ましてくれて、ありがとう」グスグス…

アルミン「こんなことに巻き込んで、とても危ない目に遭わせてごめんね。一歩間違えれば、君の将来も閉ざされるところだった」グスグス…

アニ「たいしたことじゃない。私は、当然のお返しをしているまでだよ」

アルミン「え…?」

アニ「アルミン、あんたはお父さんの形見を守ってくれた」ポロ…


アニ「私も、あんたのお祖父さんの形見を守るのに役立てて、良かったと思ってる」ポロポロ…

アルミン(アニが泣いてる…。気丈な彼女が…)

アルミン「たったあれだけのことで、ここまでしてくれるほどお父さんが大事なんだね。当然だよね。家族なんだもの」

アニ「そう…、大事だったよ…」ボロボロボロッ!

アルミン「僕も、会えるものならじいちゃんに会いたい」グスグス… ボロボロ…

アルミン「卒業できるかどうかもわからない落ちこぼれだけど、せめてじいちゃんがあの世で恥ずかしくないように、今度はそれを支えに頑張るよ」ボロボロ…

アニ「きっとできる!」

アルミン「…!」

アニ「あんたは強いよ…! 私なんかより、ずっと強い…!」ボロボロボロッ!



その後

アルミン(それから、僕とアニは、ふたりで泣きべそをかきながら湖から訓練所へ続く道を戻った)

アルミン(ずっと手をつないでいたのに気付いたのは、訓練所の敷地を囲む森の縁がもう間近になってからだった)



夜 ウォール・マリア西区 とある民家 寝室

───ハッ!ハッ!

ギシギシッ!ギシギシッ!

ユミル「ひぅ…っ! 激し…っ! 激しいよぉっ! あぁ、んっ! ベルトルさん…、熱い…っ!」ポロポロ…

ベルトルト「ユミル、ごめん! すごく可愛くて、腰止まらない…っ!」ズチュンッ!グッチュッ!

ユミル「あっ! もう少し、ゆっくりぃ…、すぐイッちゃ…からぁ…! あ、はぁ! あああああっ! もうイッちゃ…、やああぁっ!」

ベルトルト「僕もイクッ! 出すよ!」ズブズプグチャッ!

ユミル「あっ、来て、ベルトルさん…っ! いっぱい…っ! 中に出して…っ!」

ユミル「~~~~~ッ!!」ビクッビクンッ!

ベルトルト「く、すごい…締まって…、ユミル、最高…」ビュクッビュルルッ!

ベルユミ「」ハァハァ…

ベルユミ「……」ジィー…

ベルユミ「」チュ…


ベルトルト「ね、ユミル、身体起こして、僕に寄りかかって」ヒョイ!

ユミル「え…?」

ズグ…

ユミル「あんっ! この格好、やだ! 深い…ぃ…」ビクンッ!

ベルトルト「はぁ…、幸せ…」ギュ…

ユミル「馬鹿ぁ…」

ベルトルト「ねぇ、君、軽くなった? もともと細かったけど、近頃特に心配なんだ。もっと食べてよ」

ユミル「そりゃ…、訓練訓練に明け暮れてた頃より、筋肉が落ちた分、軽くもなるだろ」ハァフゥ…

ユミル「誰かさんはやたら甘やかしたがるし。私は身体が重くなるのは嫌なんだって、何度も言ってるっつーのに」

ベルトルト「心配いらない?」

ユミル「こっちのほうが好きだろ?」

ベルトルト「うん、柔らかくて、でもしなやかなのは変わらなくて、兵士だった頃と比べて、身体つきがすごく女の人らしくなった」

ベルトルト「鍛えられた強い君も好きだったけど」

ユミル「おっぱいも大きくなったし、…か? まったく、お前が遠慮もなく揉みまくるから」

ベルトルト「えへへ」フニュフニュ


ユミル「あ、こら! …んっ」ピクンッ!

ベルトルト「ユミル、ここに来てからずいぶん目元が柔らかくなった。性格も穏やかになったよね」 

ユミル「前の私がよっぽどつんけんしてたみたいじゃないか」

ベルトルト「もっと喧嘩しながらの生活になると思ったんだ。それが、考えてみると全然したことないんだもの」 

ユミル「拍子抜けしたか?」

ベルトルト「正直言うと、そう。あんなに気が強かったのに、どうして?」

ユミル「それまでが、気ぃ張って生きてたからな」

ベルトルト「巨人であることを隠したり?」

ユミル「バレればおそらく地下深くにとっ捕まって実験動物扱い。人間としてイカした人生なんて送れなくなる」

ユミル「だからといって、壁の外に逃亡したんじゃ、巨人から戻れなくなってた頃と変わらない」

ユミル「周囲は、どんないい奴でも、真実を知れば皆敵に回るかもしれねぇし。あ、クリスタは別だけどな。あいつのお人好しぶりだと、たぶん私が巨人と知っても許してただろうな」

ユミル「それでも、あいつの前でも心底から気を抜けたことはないな」

ユミル「隠す必要がなくなって、張ってた気も、毒気も抜けた。そういうこった」

ベルトルト「こっちが君の素だったんだね」

ユミル「自分の変わりように私がいちばん驚いてるよ。驚いたといえば、まさか恋人が巨人だったとはなぁ」


ベルトルト「あはは、僕のお嫁さんが巨人になるとはね。知ったときにはびっくりしたけど、むしろ運命だと思ったよ」

ユミル「…お前はいつまでも子供っぽさが抜けないな」ナデナデ

ユミル「でかいし、私をひょいひょい抱き上げて運べるほど力はあるし、何でもできるのに甘ったれで…。何でなんだろうな?」ナデナデ

ベルトルト「よく僕のこと子供っぽい子供っぽいっていうけど、」

ベルトルト「ユミルから合格点をもらえるほど大人になるってハードル高いと思う」ムゥ…

ユミル「そうか?」

ベルトルト「君、とても大人で、深い愛情を持ってるから」

ユミル「まぁ、年齢にプラス60年生きてるからな、実は」

ベルトルト「そういうことじゃなくて、たとえ200年生きたって、」

ベルトルト「あんな状況で僕を愛してると言えるのは、絶対できないと思う」

ベルトルト「あれで僕は救われたんだ。そして、君のためなら何でもできると思った」

ベルトルト「『心臓を捧げる』っていう意味がやっとわかった」

ベルトルト「嬉しくて嬉しくて、今、この瞬間死んでもいいと思いながら、大切な人に尽くしてどんな困難の中でも生き続ける覚悟を持てた」

ベルトルト「命が惜しいと怯えてばかりの僕が、ようやく変われたんだ…」

ユミル「ベルトルさん…」


ベルトルト「ユミル、愛してる」

ユミル「その想いを貫くために捨て去った物が大きすぎるだろ…」

ベルトルト「かまわないよ。僕は後悔してない。君のためなら僕は何でもできるんだ」

ユミル「ベルトルさん…、私も…、愛してる…。ずっとここにいような、ふたりだけの世界に…」ギュ…

ベルトルト「誓うよ。愛する君がいる限り、僕は死ぬまでここにいる。もう誰にも邪魔させない。一生一緒に暮らすんだ…」ギュ…



過去(訓練兵時代)
休日(アルアニ湖畔デートと同日) 昼 街 ティー・ショップ店内

クリスタ「どれがいいかな、ライナーへのプレゼント…」キョロキョロ…

ユミル「さっさと選べよ。お茶なんてどれも同じようなもんだろうがよ」

ユミル「お前がくれる物は、何でも嬉しいだろうよ、あいつは」

クリスタ「そうなんだけど、だからこそ迷うの…」キョロキョロ…

ユミル「あいつなんかのために頭を悩ませるより、私に何かプレゼントしてくれよ、女神様」

クリスタ「もちろん、ユミルにあげる物はちゃんと別に選んであるよ」ニコニコ

ユミル「へぇ、そりゃ楽しみだ…って、マジか?」

クリスタ「うん! 楽しみにしててね!」

ユミル「というか、こういう買い物には、ミーナやハンナを誘えよ」

クリスタ「いいじゃない、ユミルと来たかったの。それに、あれこれ悩んで選ぶのが楽しいの」

ユミル「そのために無駄な時間をかける女の気持ちはわからねぇなぁ…」

クリスタ「ユミルにもわかるときがくるよ」

ユミル「そういうもんかね…」


ユミル(今頃、アルミンはアニと落ち合って本を隠してる頃か…)

ユミル(一応、『私から返すか?』と聞いたが、アニは自分で渡すと断って、だからアルミンとの待ち合わせ場所を教えた)

ユミル(たぶんそうなるだろうとは思ってたが、アニもずいぶん乙女だ)

ユミル(仏頂面でいつもつまんなそうにして、誰とも深く関わらないように気を張ってた奴が男が絡むと変わるもんだな)

ユミル(いや、むしろ押し殺してたもんが解放されたってのが正しいか…)

ユミル(…変わったといえば、ベルトルさんもだ)

ユミル(憲兵たちからの無用な疑いを避けるために夜歩くのを自重していたら、じっとこっちを見るようになっちまった)

ユミル(この間の休日、アルミンとエレンが捕まった次の日からずっとだ)

ユミル(マルコは、私を疑ってるんじゃないかって心配してたが、あの縋りつくような目はたぶん話し相手がいなくなったからだ)

ユミル(わかりやすい奴…。うぜぇ…。だんだんと噂になってきたし、それでもおかまいなしとか、おかしいだろ)

ユミル(また憔悴してきたし、眠れてねぇんだろうな。逆戻りだ)

ユミル(私と話さなくてもぐっすり眠れるようにしねぇと…)

ユミル「クリスタ、このお茶もな、お前からだっつって、ライナーに渡しといてくれ」

クリスタ「カモミール・ティー? こんなにいっぱいひとりじゃ飲みきれないよ?」

ユミル「頼むよ」


ユミル(気休めにしかならないかもしれねぇが…)

クリスタ「あ…っ! う、うん! わかった!」

クリスタ(安眠に効果のあるお茶! この間、コニーにベルトルトの寝相のこと聞いてた!)

クリスタ(このことから導き出される答えは…!)キュピーン!

ユミル「あ、私の名前は出すなよ、絶対」

クリスタ「任せて!」



同日 夕方 男子宿舎前

クリスタ「…というわけで、これをベルトルトにユミルからだって渡してほしいの」

ライナー(兵士)「しかしなぁ、あいつにはアニが…」

ライナー(兵士)(あいつは照れて必死に否定していたが、将来の約束もしたみたいだし…)

ライナー(兵士)(そもそもユミルはマルコに好かれてるはずなのに、そっちには興味なしか?)

クリスタ「ベルトルトがアニのこと気になってるのは知ってるけど、」

クリスタ「ユミルにもチャンスをくれてもいいでしょ! ユミルが男の子に興味を持ったのよ!」

クリスタ「それに、近頃、ベルトルトもユミルを見てるみたいだし、意識してるのかも!」

ライナー(兵士)「だがなぁ、ベルトルトの奴、アニのほうは兵団に入って以来ずっと見てたんだぞ」

ライナー(兵士)「一時持ち直して寝相もマシになったのが、ユミルを見つめるようになってからまた憔悴しだして…」

ライナー(兵士)「なにか弱みでも握られたんじゃないか?」


クリスタ「もう! 何回も言ってるでしょ! ユミルは皆が思ってるほど悪い人じゃないよ!」

クリスタ「反対にすごく優しくて、お人好しなの! 厳しいことズバズバ言うから誤解されやすいけど、」

クリスタ「嫌われるとわかっていて、本当に人のためになることが言える人なの!」

クリスタ「私が自分に自信がなくて、とにかく人から嫌われるのが怖くて、そんな私を励ましてくれたの!」

クリスタ「厳しいことも言われて、すごく落ち込んだこともあったけど、そのおかげで私は変われたの!」

クリスタ(だから私、いつも頼りにされて、皆の中心にいるライナーに勇気を出して近付くことができたの!)

クリスタ「私も、ユミルのためなら何でもする!」

クリスタ「渡すだけだから! それだけでいいから! お願い、ライナー!」

ライナー(兵士)(必死な顔も可愛い。結婚しよ)



その後

ライナー(兵士)(ユミルがお人好しのいい奴…。にわかには信じがたいが、クリスタの言うことは信じたい)

ライナー(兵士)(クリスタは人の悪意に敏感だ。クリスタ自身が言ったように、確かに他人から嫌われるのを極度に怖れていた時期があった)

ライナー(兵士)(そのクリスタがあそこまで言うからには、確かに、根は悪い奴ではないんだろう)

ライナー(兵士)(だが、ベルトルトは気が弱い。その上、流されやすい)

ライナー(兵士)(ユミルのような気の強い女に押し切られて、好きでもないのに付き合うことになる可能性もある)

ライナー(兵士)(そうなった場合、アニから愛想を尽かされちまうんじゃないか?)

ライナー(兵士)(せっかく想いが通じたらしいのに、それは不憫だ。渡さずにおくべきか?)

ライナー(兵士)(いやいや、ベルトルトが本当に困る前に、俺が先回りして助けてやってどうする?)

ライナー(兵士)(あいつが自分できっぱり断るべきなんだ! うん、そうだ!)

ライナー(兵士)(ベルトルトには俺の後ろに隠れてばかりでなく、精神的に自立して、独り立ちしてもらわないとな)

ライナー(兵士)(俺がクリスタといい仲になるために)

ライナー(兵士)(これは一人前の男になるための試練だ、ベルトルト…!)



その後 男子宿舎内 ライナーとベルトルト、他の部屋

ベルトルト(ユミル、この前の休日の夜から来てくれない。寝不足なのを取り返すためかなと思って、数日は我慢したけど、)

ベルトルト(どれだけ待っても、ずっと来てくれない…)

ベルトルト(充分にライナーの情報を引き出したから、僕はもう用済みってこと?)

ベルトルト(わかっていたはずだけど、こんなにへこむなんて…。話したい。なんでもいいから…)

ライナー(兵士)「おい、ベルトルト、お前に届け物だ」ドサッ!

ベルトルト「何これ? …お茶の葉? カモミールの? こんなにいっぱい?」

ライナー(兵士)「クリスタから渡されたが、それな、ユミルからだぞ」

ベルトルト「えっ!」

ベルトルト「ユミルから…、わざわざ僕のために…?」ポー…

ライナー(兵士)(お? 意外な反応だな。満更でもないのか?)

ライナー(兵士)(まあ、本命がいても他の女から好かれるのは悪い気はしないものか…)



翌日 昼 巨大樹の森 立体機動訓練場

マルコ「すごいね、ユミル! さっきのはアニ顔負けの斬撃だったよ!」

ユミル「サポート役に徹してねぇで、もっと前に出ろよ。念願の憲兵の枠を逃がしちまうぞ」

マルコ「立体機動では君のほうが素早いし小回りが利くし、君が巨人を攻撃したほうが効率がいいよ」

ユミル「で、皆お前と同じ班になりたがって、お前に取り入ろうとするわけだ」

ユミル「人が好すぎる奴は、つけ込まれて利用されるぞ」

ユミル「特に伏魔殿の憲兵団行きを希望してるんだろ? そんなんじゃやってけねぇぞ。お前には強かさが全然足りねぇ」

マルコ「お、脅かさないでよ」

ユミル「脅かしてねぇよ。事実だ。こっちは憲兵の腐った面をガキのとき嫌ほど見てきたからな」

マルコ「ねぇ、ユミル、君も憲兵を目指さない? 君の能力は、余裕で十位以内に入れると思う」

ユミル「シーナん中で安全に快適な暮らしをすんのも悪くねぇとは思うが、」

ユミル「性に合わねぇよ。こちとら上等な人間でもねぇのに、他人様を取り締まるなんて」

ユミル「この間のアルミンたちの一件で、ますますそう思うようになったよ」

マルコ「そう? 無理にとは言わないけど、でも、ほら、えぇと、」


マルコ「憲兵になる気がなくても、自分の力を試す意味でさ、十位以内を目指すのもいいと思うよ」

ユミル(それは駄目だ。クリスタが十位以内から弾き出されちまう。本当にギリギリだからな)

ユミル(おまけに、今手を抜いてる分が、どれだけのマイナスになって後々響いてくるか…)

マルコ(何とかユミルに僕と同じ憲兵になってもらいたい。今のままじゃ、たとえ付き合えたとしても、1年後には卒業と同時にお別れだ)

マルコ(告白するのは、もっとユミルとの距離を縮めてから…)

マルコ(もし望みがなければ、今の居心地の良さを大切にしたい…)

ユミル「それより、お前、またボタンが取れかかってるぞ」

マルコ「え、あ、本当だ」

ユミル「後で付けてやるよ」

マルコ「でも、図書当番の仕事を手伝った分は、あの件でチャラになったんじゃ…」

ユミル「本を預かった奴の次に、お前が本をすり替える危ない役をやってくれて、」ヒソヒソ

ユミル「私は安全な立場にいられたわけだし、この1回だけ、付けてやるよ」ヒソヒソ

ユミル(クリスタが裁縫道具をくれたしな。マルコにボタンを付けてやるたびにクリスタに裁縫道具を借りるのもなんだから、)

ユミル(ちょうど良かったが、あいつ、やたら可愛いのをくれやがって)

ユミル(マルコ以外の男に見られたら笑われちまうだろうが)


マルコ(ユミル…、本当は疑われて責められたのに、そんなことおくびにも出さないで…。やっぱりすごく優しい人だ…)ジーン…

マルコ「じゃあ、お願いしようかな」

ユミル「ああ、遠慮すんな」

ベルトルト「……」ジィー

ベルトルト(ユミル、どうしてマルコと仲良くしてるの? あんなに楽しそうに話して…)ジィー

ベルトルト(マルコの耳元に口を近付けて、ひそひそ内緒話まで…)ジィー

ベルトルト(僕に眠れるお茶をプレゼントしてくれたのに…)ジィー

ベルトルト(どうして…?)ジィー

ジャン(ベルトルトの野郎、またユミルを見てやがる。疑ってるのか? あいつが何かに気付けたはずはねぇが)

ジャン(…心なしか、アニを見ていた目より熱っぽい感じがする)

ジャン(いや、まさかな…。気のせいだ、うん)



過去(訓練兵時代)
その夜 深夜 巨人組密談場所

ライナー「なぜ突然俺をここに連れてきた?」

ベルトルト「その前に質問に答えてくれ」

ベルトルト「君は今、どっちだ?」

ライナー(戦士)「…安心しろ、俺は戦士だ」

ベルトルト「……」

ベルトルト「…出てきてもいいよ、アニ」

アニ「……」ガサッ

アニ「私の勝手な都合で無理を言って、急に集まってもらって、悪かったね」

アニ「特に、ライナー、あんたは不安定な状態なのに」

ベルトルト(僕がライナーをここに連れてきて、彼が『戦士』であることを確認してから、アニと会わせる)

ベルトルト(こんな段取りを踏まざるを得ないのは、正義感に満ち満ちた『兵士』のライナーが、僕たちを人類の敵として告発しかねないからだ)

ベルトルト(『兵士』のライナーを、普段特に接点のないはずのアニが呼び出す…。そんな事態は、それだけで彼を混乱させるには充分だ)

ベルトルト(さっきも、どっちつかずの状態で、危なかった。僕の問いかけによってはじめて、『戦士』のほうに固定された…)


ベルトルト(完全に『戦士』のライナーならば、この場所に連れてきただけで僕たちの会合だと察したはずだ)

ベルトルト(ライナーは、『兵士』の状態でなくても、『戦士』でいることを無意識に忌避してるのかもしれない…)

アニ「でも、こんな煩わしい手順を踏むのも今回限りだよ。私は、もうこの集まりには来ない」

ライナー(戦士)「それは、俺のこの症状が収まるまでは危険だからしばらく遠ざかるということか。すまない、なるべく早く治す」

アニ「そうじゃない。私は任務から外れる。任務の一切を放棄する」

ライベル「!!」

ベルトルト「そっ、それってどういうこと…?!」

ライナー(戦士)「おい、アニ! 自分の言ってることがわかってるのか?!」

ライナー(戦士)「それは故郷を、お前の大事な父親を見捨てるということになるんだぞ!」

アニ「承知の上だ。あんたたちが驚くのももっともだよ。でも、いろいろ訊く前に、まずは私の話を聞いてほしい」

アニ「先日、アルミンとエレンが捕まって営倉に入れられる騒動があったね」

ライナー(戦士)「ああ、隠れて猥褻な本を読んでいたという話だったな」

アニ「あれは実はそうじゃなかった。憲兵は囮の本をつかませられたんだ」

アニ「本当のアルミンの本を持っていたのは、私だ。私も中を読んだ。外の世界のことが書かれた本だった」

ベルトルト「外の世界のこと…、って、没収だけじゃすまない! 所持していた人間も逮捕される、禁書中の禁書じゃないか!」


ライナー(戦士)「どうしてお前が関わることになった? そんな重大なことに?」

アニ「それは包み隠さず全部話す。あんたたちは大切な仲間だ」

アニ「私に本を預かってくれるよう話を持ってきたのは、ユミル。他に関わっていたのは、マルコとジャン」

アニ「ユミルは、マルコから、アルミンとエレンを助けるよう頼まれたらしい」

アニ「私は、マルコとジャンとは接触していない」

アニ「その2人には私の存在は知らせていないとユミルは言ってた」

アニ「私も、どういうふうにそのふたりが関わって、アルミンが隠した本をすり替えて入手したのか、よくは知らない」

アニ「本のすり替えは、アルミンとエレンさえ知らないことだ、とユミルは言った」

アニ「だから、憲兵に尋問されているふたりから秘密が漏れる心配はない、と私は考えた」

ライナー(戦士)「……」

アニ「ユミルが私を引き入れたのは、私に絶対のアリバイがあったからだ」

ベルトルト「ああ、あのとき、食事当番だったね。そうか、そういうことか」

アニ「私は夕方から厨房にこもりきりになる。アルミンから本を預かることも、あるいは、隠したところを見れたはずもない人間だ」

アニ「私の身は安全だと思った。本が見つからない限り」


アニ「実際、憲兵は当番で役割を持っていた人間を最初から除外していて、聞き取りされたときもまったく疑われず、あっさりと終わったよ」

ライナー(戦士)「だとしても、それは結果論だ! どれだけ危険なことだったか!」

ライナー(戦士)「だいいち、あの狡猾なユミルが何かの理由でお前を陥れようとしているとは考えなかったのか?」

アニ「私も少しはそう考えたさ。それをユミルに向かって指摘もした。だけど、ユミルはこう言ったんだ」

アニ「『自分を信用できないならば大声を上げて人を呼べばいい。この場に他人が踏み込めば、言い逃れできなくなるのは私のほうだ』ってね」

ライナー(戦士)「なんとまぁ…、度胸のいい…。なんて女だ…」

アニ「ユミルも捨て身だった。だから信用して、本を預かった」

ライナー(戦士)「それにしても、憲兵の捜索で見つかる可能性はゼロじゃなかった。やれやれ、お前にしてはうかつなことをしたもんだ」

ベルトルト「本当だよ。たまたま運が良かっただけじゃないか」

アニ「見つからないよ、絶対に。見つかるわけがない。どんなに探しても」

ライナー(戦士)「まさか…!」

アニ「そうさ、そのまさかだよ。私は巨人の力を使った。アルミンの本を隠す、ただそれだけのために」

ライベル「…!!」

アニ「人の力では絶対に動かせない岩の下に隠したんだ」

ライナー(戦士)「正気か?! その姿を誰かに見られていたら、大変なことになっていたんだぞ?!」


ベルトルト「そうだよ! 巨人化の衝撃と光で、誰かに気付かれたかもしれなかった!」

アニ「そこは上半身だけ巨人化したよ。大きさも、岩さえ動かせれば十分なだけの大きさにね」 

ライナー(戦士)「……」

ベルトルト「その本は?」

アニ「もうアルミンに返した。どこに隠したかは知らない」

ベルトルト「じゃあ、もうその件と君とのつながりは完全に切れたんだね! よかった! 任務を続けるのになんの支障もないじゃないか!」

ベルトルト「任務を放棄するなんて言わないで、頑張ろうよ、アニ! 君は、お父さんとの約束があるんだろう? 『必ず帰る』って!」

ライナー(戦士)「……」

アニ「いいや、私にはもう無理さ。ライナーはもうわかってる」

ベルトルト「ど、どうして?!」

アニ「それは私が…、私はアルミンを助けたいと思った!」

ベルトルト「何だって…?!」

アニ「そうなると充分わかっていて、自分だけでなく、あんたたち仲間を危険に晒すも同然のことをしたんだ!」

アニ「おかしいだろう? アルミンたちがどうなろうが、私たちが目的を遂げれば、壁の中の人類は全滅するんだ!」

アニ「アルミンが拷問されようが、一生檻の中に閉じ込められることになろうが、どうせアルミンは人類もろとも死んでしまう!」


アニ「なら、放っておけばよかったのに、私にはそれができなかった!」

ベルトルト「…!」

ライナー(戦士)「……」

アニ「それだけじゃない…」ジワ…

アニ「アルミンに本を返したときに少し話をして…」グス…

アニ「私は…、私はアルミンと壁の外をどこまでも探検したいと思ってしまった…」ポロポロ…

アニ「壁の外を知っている私が知っているよりも、世界はもっともっと広いんだ」ポロポロ…

アニ「目を輝かせて話すアルミンを見ていると、私も行ってみたいと…、そう願ってしまった…」ポロポロ…

ライナー(戦士)「アニ、お前が禁書を隠し持つ危険な役目に協力したのには、もっと何か理由があるな?」

アニ「さすが、『戦士』のあんたは鈍ってないね、ライナー」

ライナー(戦士)「全部話すとお前が言ったんだ。言いにくいことでも話してもらうぞ」

アニ「その本は、アルミンのお祖父さんの形見だった。奪われてしまったら、アルミンが悲しむと思った」

アニ「その前に、アルミンは私の父さんの形見を守ってくれた。父さんが教えてくれた格闘術を、」

アニ「エレンがジャンとの喧嘩に使うために無理に私から教わろうとして、そのとき、アルミンはエレンを止めてくれた」

アニ「喧嘩なんてくだらないことに使うこと、それで他人が傷つくのは私にとって嫌なことなんだって、そうエレンを説得してくれた」


アニ「それまで親しく話したこともない私のことを理解して、私の心を代弁してくれたんだ」

アニ「嬉しかった…。たまらなく、嬉しかったんだよ…。ずっとひとりで淋しかったから…」ボロボロ…

ベルトルト「それだけ? たったそれだけのために、アルミンを助けようとしたの?」

ライナー(戦士)「止めろ、ベルトルト!」

ベルトルト「でも…!」

ライナー(戦士)「アニ、お前は小さい頃からレオンハートのおじさんが大好きだったな…。口ではどう言っていても…」

ベルトルト「そうだよ! そんなに大事なお父さんとの約束は?! 必ず帰ってくるって約束したんだろう?」

アニ「アルミンのお祖父さんは死んだんだ!」

アニ「私たちが壁を破った後、王政府が企図した無謀な奪還作戦で…。私たちが殺したも同然だ!」

アニ「アルミンにとっては最後に残ったたったひとりの肉親だったのに!」

アニ「ただの口減らしの奪還作戦とわかっていて、アルミンのために…、アルミンの口に入る食べ物が少しでも多くなるようにと願って…」ボロボロ…

アニ「…私は、お父さんと故郷を見捨てる。嫌になるほど承知してるよ、自分の卑怯さを…」

アニ「さぁ、覚悟はできてるよ、ふたりとも。ユミルから本を預かったときから…」

ベルトルト「え…? な、何を言ってるの、アニ?」

アニ「始末してくれていい。裏切り者には当然の末路だよ…」


アニ「こんな気持ちを抱えたまま任務を遂行したところで、失敗するのは目に見えてる。どのみち死ぬのは同じ…」

ライナー(戦士)「お前を殺すなんて、できるわけがないだろうが…」

アニ「まだ仲間だと思ってくれてるのかい?」

ライナー(戦士)「これからだって、大事な仲間だ」

アニ「ありがとう…。だけど…」

アニ「……」

ライナー(戦士)「なぜ突然口をつぐむ? はっきり言え!」

アニ「だけどその優しさ甘さが命取りになる。徹底して非情になりきれない限り、任務の成功はないんだから」

ライナー(戦士)「ぐっ…!」

ベルトルト「う…っ!」

ベルトルト(確かにその通りだ…。アニを殺したくないと僕らが思った時点で、僕らはもうアルミンを救いたいと思ったアニと同じだ)

ベルトルト(でも、それでもやらなくちゃ…。ライナー…、ライナーが…、真っ青な顔してる…。僕はどうしたらいい…?)

アニ「これが仲間としてあんたたちに贈る最後の言葉だよ。ふたりとも、気を付けて。私は任務を放棄しても、秘密は絶対に漏らさない」

アニ「壁を壊すのはあんたたちふたりだけでも可能だ」

アニ「中央は腐りきってる。ウォール・ローゼを破ってしまえば、養い切れなくなった人口を抱えて、きっと自壊の道をたどるよ」


アニ「頃合いを見てシーナを壊せば、人類は『座標』の力を使わざるを得なくなる。そこを奪えばいい」

ライナー(戦士)「その強硬策は、『座標』を損なうおそれがある。他の策が全て駄目になったときのための最後の手段だ」

ライナー(戦士)「あるいは、時間に猶予がなくなったときのためのな」

ライナー(戦士)「そうならないように、3人で一緒に憲兵になって、ウォール教の奴らから『座標』を奪うと誓っただろう?!」

アニ「ライナー…、その誓いを忘れて、調査兵団に入ろうとしているあんたがそれを言うのかい?」

ライナー(戦士)「うっ…」

アニ「いや…、今のは意地の悪い言い方だった。私も人の事なんて言えないのに…」

アニ「とにかく、私は任務を放棄する。あんたたちが壁を破って世界が地獄と化しても私のことは気にしないで任務を果たして、」

アニ「そして故郷を救ってほしい」

ベルトルト「君はどうするの?」

アニ「私は…、地獄と化したこの世界に殉じるよ。故郷へ帰れるわけがない…。お父さんに合わす顔なんてない…」

アニ「アルミンのお祖父さんと、他の大勢の人間を殺した償いにちょうどいい…」

アニ「いいや、ぜんぜん釣り合わないね…、私なんかの命じゃ…」フッ…



過去(訓練兵時代)
翌日 夜 森の中

───ザッザッザッザッザッ!

ベルトルト(アニが任務から外れる…)

ベルトルト(アニの諜報能力は、僕たちにはなくてはならないものだったのに)

ベルトルト(身体が大きくて目立つ僕たちにはできないことだ)

ベルトルト(その彼女が任務から抜けてしまったら、任務の成功率はぐっと低くなる)

ベルトルト(僕たちは故郷へ帰れない。こんな敵だらけの場所に放り出されて、)

ベルトルト(正体がバレる恐怖に怯えながら、それでも空しい努力を続けなきゃいけないのか? 失敗するとわかっていて?)

ベルトルト(どうしたらいい? どうしたら…?)

ベルトルト(…眠れない)

ベルトルト(しばらく見なかったのに、久しぶりに見てしまった)

ベルトルト(マルセルを喰った巨人に追いかけられる夢…)

ベルトルト(尖った歯…、鉤爪…、黒く塗りつぶされた漆黒の眼…)


ベルトルト(真っ赤な血を噴き出しながら、巨人の口の中に飲み込まれていくマルセル…)

ベルトルト(今でも鮮明に思い出す、恐怖と絶望…、喪失感…)

ベルトルト(それ自体よりもっと恐ろしいのは、それを僕が、僕自身が多くの人たちに与えたこと…)

ベルトルト(僕が感じた血も凍る負の感情を、万人単位の人間に植え付けた事実…)

ベルトルト(当時は子供で、まだまだよくわかっていなかった。成長するとともに本当の恐ろしさがのしかかってきた)

ベルトルト(人類全部が恨んでくる…。当然の恨みをもって…。エレンのように…)

ベルトルト(罪悪感で押しつぶされそうだ…)

ベルトルト(逃げないと逃げないと! 足が止まらない! どこにも逃げ場はないのに!)

ベルトルト(こんなことをしても無駄だ、頭ではわかっているのに、身体が勝手に動いて、逃げなくちゃ逃げなくちゃ!)

ベルトルト(もう嫌だ! 僕は命が脅かされない、自分が死ぬなんてこと少しも考えずにすむ、安心して暮らせる場所が欲しいだけなのに!)

ベルトルト(皆持っているじゃないか! なのに、僕にはそれが、何百万人も犠牲にしなければ手に入らないなんて!)

ベルトルト(もうこんな残酷な世界なんていらな…)


???「ベルトルさん!」

───ドンッ!

ベルトルト(後ろから誰かが抱きついて…、ハンナ…? いや、違う、フランツじゃなく、僕の名前を呼んでくれた…)

ベルトルト「ユミル…!」

ユミル「ったく、何回呼びかけても、背中を叩いても、服を掴んでも、手ぇ握っても、気付かねぇで」ハァハァ…

ユミル「足を引っかけても転びそうで転ばねぇ。どんだけ器用なんだよ」ハァハァ…

ユミル「何しても無駄で、ずんずん歩いてって、同じようなところをぐるぐる回ってるかと思えば、いきなり別の方向に歩き出すし」ハァハァ…

ユミル「ふらふらしてんのに歩くのすげぇ速ぇし」ハァハァ…

ユミル「夢遊病かとびびったが、どうやらそうでもねぇみてぇだな」ハァハァ…

ベルトルト(ユミル、息が弾んでる…)

ユミル「見てみろ。膝の下がボロボロだぞ。血まで滲んでる。私が見つけるまで、どれだけさまよってた?」

ユミル(こいつ、昨夜はいつもの場所に来なかった。茶を飲んで眠れたのかと思って、それでも一応、今日も来てみたが…)

ユミル(こんなに追い詰められるとか、何があった? 何を抱えてる?)

ユミル(人に干渉はしたくねぇが…)

ベルトルト「ユミル、僕のこと探して、見つけてくれたの?」ジワ…


ユミル「うわ、泣くなよ!」

ベルトルト ハッ!「泣いてないよ!」ゴシゴシッ!

ユミル「嘘吐け」

ベルトルト「泣いてなんかない!」

ユミル「はいはい、そういうことにしといてやるよ」ポンポン

ベルトルト(背中、あったかい…。ユミルに叩かれた所が…)

ベルトルト(こんなにも安心してる。けど、涙を見られたの、恥ずかしい…)

ユミル「ほら、いつもの所で腰掛けて話そうぜ。…と言いたいところだが、」

ユミル「お前を追いかけて止めるのに必死で、ここがどこだかまったくわからねぇな。まいった…」

ベルトルト「こっちだ」ギュッ!

ユミル「っと! いきなり引っ張るな!」

ベルトルト「……」ザッザッザッザッザッザッ…

ユミル(泣いたの誤魔化したがって、思いっきり引っ張ってやがるな。足長ぇし、速すぎる)

ユミル「おい! 行く方向わかってんのかよ! むやみに歩いてるだけじゃねぇだろうな?!」

ベルトルト「星の位置でだいたいの方角はわかるよ。たしかにけっこう遠くまで来たみたいだ。早く戻らないと」


ユミル「はぁ、そんなことまでできんのか。本当、器用な奴だな」

ベルトルト「山で暮らしてると、自然と身につくよ」

ユミル「神経が細いわりに、野生児みてぇに生き抜く術は心得てるな…」

ベルユミ「……」ザッザッザッザッザッザッ…

ベルトルト「着いた」

ユミル「とりあえず、座るか。付いてくのが精一杯で、疲れた…」ストン

ベルトルト「」ストン

ベルトルト「……」

ユミル「どうした? 話さないのか? 今日は口が重いな?」

ベルトルト「迷惑なんじゃないかと思って」

ユミル「は?」

ベルトルト「ほら、僕ばっかり喋って」

ユミル「今さらだな。この前の図書室でのこと、気にしてんのか?」

ベルトルト「うん…」

ユミル「まぁ、喋りまくられて、睡眠時間を削られたのは事実だな」


ユミル「人に頼りきりで、甘える一方。他人の都合を考えねぇ奴だとは思うがな」

ユミル「お前みてぇなでけぇガキにいつも寄りかかられて、ライナーの野郎も大変だ」ダハハ…

ベルトルト「僕、子供じゃないよ」

ベルトルト(世話がかかるのは、ライナーのほうだ)ムゥ…

ユミル「ガキだろ? それも相当に甘ったれた子供だ。そのむくれた面が証拠だ」

ベルトルト「むくれてなんかないよ」

ユミル「自覚ねぇのか。タチ悪ぃな。コニーより数段ガキの、わがままなお子様だ」

ユミル「でけぇ図体して、情けねぇ」

ベルトルト「そこまで言うことないじゃないか」

ユミル「人のことを目付きが悪いだ、言葉遣いが汚ねぇだ、と言ってくれたお返しだ」ダハハハッ!

ベルトルト「やっぱり、本当は怒ってた?」

ユミル「いいんだよ、それで。オブラートに包むより、はっきりいう奴のほうが好きだぞ、私は。遠回しは好きじゃない」

ユミル「まぁ、図書室ではあんまり眠くて、つい、つっけんどんな態度取っちまったけどな」

ユミル「私も大人げなかった。まぁ、でかいくせにとか言ったが、お前も好きでそんなにでかくなったわけじゃないよな」

ユミル「成長が早いと早く大人になることを要求されてるみたいで嫌だろ? その気持ちはなんとなくわかるよ。私も背が伸びるの早かったからな」


ベルトルト(許してくれるの?)

ユミル「さぁ、話してみろよ。お前が話したいこと、何でもでいいから」

ベルトルト「うん…」

ベルトルト(ねぇユミル、僕を助けて。アルミンとエレンみたいに。頭のいい君ならできるだろう?)

ベルトルト(なんて、無理だよね。いくら頭が回っても、ただの女の子に何を期待して…)

ベルトルト(女の子…、女の子なんだ…)ポー…

ベルトルト(そういえば、さっき勢いで手を握っちゃった…)

ベルトルト(それに関してはなんとも思ってないのかな? 少なくとも、怒ったり気持ち悪がったりはしていなさそうだ…)ホッ…

ベルトルト(ユミルと何を話そうか? …話せないことで頭がいっぱいで思いつかない)

ベルトルト(そうだ、湖を見つけたときも、今日のように不安でたまらなくなって、夜の森の中を闇雲に歩き回ったんだっけ)

ベルトルト(そうしたら、急に視界が開けて、明るい月が映したあの湖を見つけたんだっけ)

ベルトルト(あんまり綺麗でつい心を奪われて、いつの間にか心の中から恐怖も罪悪感もなくなってた…)

ベルトルト(あの綺麗な風景をユミルにも見せたいな。お茶のお礼に…)


ベルトルト「ねぇ、ユミル、これから湖を見に行かない?」

ユミル「はあ? 恋人同士でもないのに、なんでお前なんかとそんな所へ行かなきゃならねぇんだよ?」

ベルトルト「そ、そうだよね」

ユミル「寝ぼけたこといってねぇで、話だけなら聞いてやるからよ。せめて睡眠だけはちゃんと取れるようになれ」

ユミル「けど、ひとつだけ肝に命じとけ」

ユミル「悩みとはちゃんと向き合え」

ユミル「夜中にひたすら歩き回るとか、思考自体がすでに逃げ腰なんだよ」

ユミル「お前の悩みはお前が解決するしかないんだからな」

ベルトルト「でも、どうにもできないんだ。どれだけ考えても、八方塞がりで…」

ユミル「月並みなことしか言えねぇが、お前は一度、周りのことなんか考えねぇで、」

ユミル「自分だけの気持ちに正直になってみろ。勝手に振る舞ったほうが突破口につながることもある」

ベルトルト「それでうまくいく…?」

ユミル「意外とな、自分で気付いてないだけで、壁を自分で作り上げてる可能性だってあるもんだ。な? 試しにやってみろよ?」

ベルトルト「そんなこと言われたって、急にできないよ」

ベルトルト「僕には自分の意志が無いから」


ユミル「ああ…、そんな感じだな」

ユミル「なんでもそつなくこなせるし、体格も飛び抜けて恵まれてるくせに、」

ユミル「どうも印象がふわふわしてて捕らえどころがなくて、影が薄いのはそのせいか」

ユミル「お前のおしゃべりな一面を知ってもその印象が変わらないのは、そういうことだったんだな」

ユミル「ライナーがああしたから、ライナーがこう言ったから、ばかりで、まるで主体性がねぇんだ」

ユミル「ガキの頃の故郷の話では、そうでもねぇのに」

ベルトルト(それは、エレンとアルミンの前で、うっかり『シーナ』と口を滑らせてしまってから、自分の意志で行動するのが怖くなったからだ…)

ベルトルト(あれ以来、全部ライナーに任せてしまった…)

ユミル「どうあれ、お前は優秀なんだ。スペックは高いし、身長もバカ高い。もっと自分を出せよ。女にモテるぞ。もったいねぇ」

ベルトルト(モテたって、壁の中の女の子とは付き合えない…。君も含めて…)

ユミル「まぁ、話を聞いてくれる相手がいなくても、ちゃんと寝れるようになれよ」

ユミル「私だって、いつまでもお前の話を聞いてやれるわけじゃないんだ」ポンポン

ベルトルト(ユミル、いつか離れていっちゃうんだ…)

ベルトルト「そんなことは…、君に言われなくてもわかってるよ…」

ベルトルト(あれ? 口にした途端、胸にぽっかり穴が空いたみたいだ…)


ユミル「本当か?」

ベルトルト「本当だよ」

ベルトルト(空虚な感じがますます大きく…。やばい、また泣きそう…)ジワ…

ベルトルト「う…」ポロ…

ベルトルト(涙がこぼれちゃった…。ああ、みっともない…)

ユミル「少し星の見方を教えてくれ。私には、そういうのを教えてくれる大人がいなかったならな。少し羨ましいよ」

ベルトルト(ユミル、夜空を見上げて、僕の涙を見なかったふりをしてくれてる? この隙に拭こう…)ゴシ…

ベルトルト(マルコが言ったとおり、優しいんだ、ユミル…)

ベルトルト「そうだ、今までお礼を言い忘れてたけど、お茶ありがとう」

ユミル「あっ! クリスタの奴、私の名前を出したのか?!」

ベルトルト「え?」

ユミル「あんにゃろう、余計なことを…。出すなって言ったのに…」

ベルトルト(本当は名前を伏せるはずだったってことは、僕に好意があるとかじゃなく、)

ベルトルト(眠れない僕に憐れみの感情からお茶をくれただけだったのか)

ベルトルト(マルコと仲良くしてるからって、僕が不愉快に思う筋合いはなかったのか…)


ベルトルト(勝手な誤解をしてた。恥ずかしい…)

ベルトルト(男としては、何とも思われてない。そうだよね、ふわふわした影の薄い男なんて…)

ベルトルト(ユミルのようなはっきりした女の子にとって、僕みたいな男は、本当はイライラするだけなのかも…)

ベルトルト(今も我慢して、内心はしぶしぶ付き合ってくれてるのかな…?)

ベルトルト(…余計なことを考えるのは止めよう)

ベルトルト(今だけは、ユミルは僕の隣にいてくれる。大切な時間だ…)

ベルトルト(これ以上を期待するのは辛すぎる…)



付近の物陰

ライナー(??)「……」



過去(訓練兵時代)
翌日 夕刻 訓練場

キース「では、本日の訓練は以上だ! ご苦労! 解散!」

モブ「あー、終わった、終わったー」

モブ「ふぇ~、今日もきつかったー」

ユミル「マルコ、晩飯の後に、ちょっと顔貸してくれないか? 頼みたいことがあるんだ」

マルコ「うん、いいけど、僕でいいの?」

ユミル「お前にしか頼めない。ちょっと恥ずかしいことなんだ。飯の後に、空き教室に来てくれ」

マルコ(な、なんだろう? ユミルがこんな懇願するような顔で頼んでくるなんて)ドキドキ…

ジャン(おお、ユミルのほうから来たか! マルコがどんなにアプローチしても全然手応えなしだと愚痴ってたが、)

ジャン(ついにあいつもマルコの気持ちに気付いたか!)

ジャン(けど、ちょっとおおっぴらに話しすぎじゃねぇか? またベルトルトがガン見してんぞ。あれは聞こえてたな)

ジャン(他にも気付いてひそひそしてる奴らいるし)

ベルトルト(…ユミルが誰と付き合おうが口出しする権利はないけど、へこむ…)

ベルトルト(昨夜、男としては何とも思われてないって思い知らされたから、尚更…)


ベルトルト(とっさに、誰とも付き合わないで! って、喉まで出かかったよ…)

ベルトルト(もう夜に会いに来てくれなくなるかな。むしろ、マルコと会うようになるのかな…)ショボーン…

ベルトルト(僕と違って、恋人同士として会う…。当然、話だけで終わるわけないよね。キスしたり、身体を触ったり…)

ベルトルト(あの身体に…。あ、まずい、ユミルを無性に抱き締めたくなってきた…)ズクン…

ベルトルト(抱きつかれたときの感触や、握った手の感触を覚えてないのが悔しい…)

ベルトルト(せめてそれだけでも覚えていれば、彼女がマルコと付き合うことになってもなんとか我慢できるのに…)



その夜 消灯時間間際 ジャン、マルコ、コニー、ライナー、ベルトルト、他の部屋

マルコ「」ガチャ

コニー「うおぉいっ! マルコが帰ってきたぞ!」

モブ「こんな時間までユミルと何してたんだよ! 早く聞かせろ!」

マルコ「期待に添えなくて申し訳ないけど、何もなかったよ」ショボーン…

ジャン「それにしちゃ、時間がかかりすぎだ。何を頼まれたんだ?」

マルコ「字の綴りとか、読み方とか、意味とか、文法とか…」

ジャン「は?」

マルコ「そういうのを教えてほしいって」

コニー「どういうことなんだ? 俺、馬鹿だからわかんねぇ!」

マルコ「彼女、物心ついた時にはすでにみなし子で、兵団に入るまで、体系だった正規の教育を受けたことが全くないんだって」

マルコ「だから、初歩の初歩…、兵団の図書室に置いてある教科書にすら載ってない基本中の基本があやふやで、」

マルコ「だから僕に教えてほしかったんだって」

ジャン「そんなもん、クリスタから教えてもらえばいいだろうが」


マルコ「僕もそう訊いてみたよ。そしたら…」

ユミル『それが、クリスタの読み書きも細かいところが微妙に特殊なんだよな。妙に古めかしいっつーか、格式ばってるつーか」

ユミル『いったい、どんな奴に教わったんだか…』

ジャン「はぁ…。で、なんでお前はそこまでへこんでんだ? 距離を縮めることはできたんだろ?」

マルコ「ユミル、自分が女の子だって自覚が全然無いんだ」

マルコ「僕のことも、男だと思ってない。同性の友達と同じようなものだと思ってる」

マルコ(身体を隣にくっつけてきてドキドキしたけど、無自覚なせいだと悟った瞬間のショックは大きかった…)ショボーン…

ジャン「お、おう…。ま、まぁ、男女のあいつと付き合おうってんだ。そのくらいわかってたことじゃねぇか」

ジャン「まだまだこれからだ! 頑張れよ、マルコ!」

マルコ「ありがとう、ジャン…」

コニー「めげんなよ! マルコ! これからだって教える機会はあんだろ?」

マルコ「それがね、わからなかったことは全部訊いたからもう大丈夫だって。実際、彼女、すごく物覚え良くて…」

ジャン「まぁ、真面目に訓練受けてりゃ、十位以内確実だもんな。元々の頭の出来が良いんだろうな。性格はまったく兵士向きじゃねぇが」

マルコ「あっ! しまった!」

ジャン「どうした?」


マルコ「笑われるから黙っておいてくれって彼女に頼まれたことまで、つい喋っちゃった! 口止めされてたのに!」

コニー「そんなふうに思うわけねぇよ。そうかぁ、ブス女も色々苦労してんだなぁ…」シミジミ…

ベルトルト(読み書きを教わる…。そんな理由だったのか。よかったぁ…)ホォッ…

ライナー(??)「」ジィー…

ベルトルト(夜中に男の僕とふたりきりでもまるで平気なのも、自分が女の子だって自覚が薄いんだ)

ベルトルト(なんだか、すごくユミルらしいや…)クスッ!

ベルトルト(気持ちを伝えるには、ストレートに言うしかないのかな)

ベルトルト(…!! 僕はいったい何を考えてるんだ?!)フルフル!

ライナー(??)「……」



数日後 夕食時 食堂

ユミル「ていっ!」バシッ!

サシャ「ひどいですよ、ユミル! 思いっきり叩くなんて! うぅ、ひりひりします…」

ユミル「自業自得だ。私のクリスタの前で、お前の汚い食い意地をさらすな、芋女。天使の瞳が汚れる」

サシャ「私は、アルミンが残してるパンを食べてあげようと…」

ユミル「残してんじゃなく、まだ食わねぇだけなんだよ! 何度も言ってんだろ! 誰もがお前みてぇに食うのが早いと思うな!」

ユミル「頭ん中にまで芋が詰まってんじゃねぇのか!」

サシャ「芋はお腹の中だけでいいですよ。頭の中には、もっとおいしいものを詰め込みたいですぅ」

アルミン「ぼ、僕、いいよ。サシャ、どうぞ、食べて」

ユミル「アルミンよ、その貧弱な身体でいっちょ前に他人に施しをしてやろうなんて、ずいぶん慈悲深いねぇ」

アルミン「でも、そんなにお腹空いてないし…」

ユミル「毎日の訓練が終わるたびに、情けなくひぃひぃ鳴いてる奴がなに言ってんだ?」

ユミル「せめてちゃんと食え! そのもやしみてぇな身体が少しはマシになるようにな!」

アルミン「でも、僕は本当に食欲が無…」


ユミル「これ以上ぐだぐだ抜かしやがると、口に突っ込むぞ!」ギロッ!

アルミン「は、はい…っ!」パクパクッ!

ミカサ「アルミン、食べると体力がつく。それはとても良いこと。私のパンもあげよう」

エレン「アルミン、俺のパンも食え!」

ミカサ「エレンも食べないといけない。ので、エレンのパンは私と半分こしてほしい」

エレン「ちょっ?! 俺はアルミンにやるつもり…」

アルミン「さすがに3個も食べられないよ」

エレン「しょ、しょうがねぇな、ほらよ!」///

ミカサ「ありがとう。エレンのパンはとても美味しい…」///

ユミル「おー、エレンも素直になったもんだ。よかったな、ミカサ」ニカッ!

エレン「うっせぇよ!」プイッ!

ミカサ「こうしていられるのも、あなたのおかげ。ユミル、感謝する」

サシャ「あのですね、アルミン、そのミカサからもらったパン、よかったら半分…」

ユミル「お前はまだ懲りてねぇのか!」バシッ!

サシャ「あうぅ…」


アルミン「2個丸々食べるのはお腹いっぱいになりすぎるから、僕のパンを半分あげるよ」

サシャ「あ、ありがとうございますっ!」ペコッ!

ユミル「あーあ、甘やかすとろくなことねぇぞ、ったく…」



同時刻 食堂内 少し離れたテーブル

ジャン「あー…、ミカサが幸せそうだ…」ボソッ…

マルコ「あの一件以来、エレンとミカサの距離が縮まったよね。うらやましいかい?」

ジャン「うらやましくはあるが…、まぁ、しかたねぇさ」

ジャン「少しでも時間があれば独房に通って、エレンとアルミンを励まして、」

ジャン「教官に必死に嘆願してたミカサの姿を見せつけられて、すっぱり諦めたよ」

ジャン「エレンの野郎も人生が終わりかける経験して、少しは素直になって、」

ジャン「ミカサをむやみに突き放すような態度は取らなくなってるしな」

マルコ「そういえば、あの事件以降、エレンにきつく当たらなくなったね」

ジャン「そりゃなぁ、俺のほうが幸せにしてやれるのにどうしてエレンなんだ! って気持ちが大きかったんだ」

ジャン「エレンがミカサにつれなくて、ミカサが萎れてる姿を見るのが辛かった…」

ジャン「けど、そんな姿はもう見ずにすみそうだ。だから、エレンにもムカつかずにすむ」

ジャン「あのふたりは、やっと収まるべきところに収まったんだ。ミカサの隣が俺じゃ、周りもしっくりこねぇだろ?」


マルコ「ジャン、本当に大人になったんだね…。僕、嬉しいよ…」ジーン…

ジャン「おい、保護者面して感動すんな! お前は俺の母ちゃんか?!」

ジャン「…それより、こうしてよく見てると、ユミルの奴、サシャの躾役も買って出てるよな。面倒見のいい奴だ」

マルコ「うん、そういえば、ジャンにまだ話してなかったね。僕がユミルの優しさに気付いたのも、サシャに関係してるんだ」

ジャン「へぇ?」

マルコ「サシャは、兵団に入った当初は、なかなか友達ができなかったんだよね」

ジャン「そうか? あの衝撃的な芋事件で、かなり注目を集めてたと思ったがな」

マルコ「その後、サシャは自分の故郷の言葉を恥ずかしがって、せっかく話しかけられても、言葉少なに返すことしかできなかったんだ」

ジャン「で、だんだんと人が離れていった。…そういや、そうだったな」

マルコ「でも、ユミルが水当番を押しつけたり、無理矢理つるませたりしてるうちに、」

マルコ「ユミルにいじめられてると心配した娘たちが、またサシャに話しかけるようになったんだけど、」

マルコ「少し仲良くなった途端、サシャはその相手にパンをねだるようになっちゃったんだよね」

ジャン「あぁ、あいつらしいな…。胃袋底なしだもんな」

マルコ「率直にお願いされるとなかなか断れないものだろ?」

ジャン「本人に悪気はなくても、パン泥棒と同じか」


マルコ「そうなんだ。で、またサシャから人が離れ始めてね」

ジャン「そこを、ユミルが躾けたってわけか」

マルコ「叩いたり、ずいぶんきついことを言って、皆の前でサシャが泣いたりもして、それをクリスタがかばって…」

ジャン「きついこと言われた相手をクリスタがかばって慰めて、クリスタの印象も上がるってか」

マルコ「彼女は優しいんだよ。狡猾で自分本位のように見せかけて、その実、皆のことを考えてる」

ジャン「俺は、気に入らねぇな。自分が悪者になって周囲を丸く収めるなんざ」

ジャン「損をひっかぶり続けて、あいつの幸せはどこにある? 一部の奴らには今でもすげぇ毛嫌いされてんぞ」

マルコ「大丈夫、わかる人はちゃんとわかってるよ。サシャもなんのかんので、ユミルの近くにいつもいるじゃないか」



同時刻 食堂内 さらに離れたテーブル

ベルトルト(あ、また、サシャを叩いた…。今日もユミルはがさつだなぁ)ホンワカ

ベルトルト(可愛い女の子を見てほんわかした気分になるのはよくあることだけど、)

ベルトルト(僕はユミルががさつだと安心するようになっちゃった)ホンワカ

ライナー「……」ジィー…

ベルトルト(他の男を寄せ付けないよう、卒業までできればそのままでいてほしいな…)ホンワカ

ベルトルト(卒業まで…、あと1年くらいしかユミルを見ていられないのか…)

ベルトルト(そして、その後は…、考えたくもないことをしなくちゃならない…)ズーン… 

ライナー「」カチャリ

ライナー「食い終わったか?」

ベルトルト「う、うん。どうかした? 真剣な顔して?」

ライナー「時に、ベルトルト、お前、ユミルが好きなのか?」

ベルトルト「え? いきなり何の話をしてるんだ?」


ライナー「俺は今からクリスタに告白する。ユミルが好きならお前もしろ」

ベルトルト「!」

ベルトルト(このライナー、『兵士』なのか? それとも、『戦士』なのか?)

ライナー「これは真剣な話だ。好きなのか? どうなんだ? 答えろ!」

ベルトルト「それは、もちろん大好…、いやいや、そうじゃなくて、今の君はいったいどっちなんだ?!」

ライナー「安心しろ」ニヤッ!

ライナー「それより、このままだと、いずれ必ずマルコに取られるぞ。それでもいいのか?」

ベルトルト「それは嫌だっ!!」

ライナー「お、おう…」ビックリ


ベルトルト「あ、ええと…、だからって、皆の前で告白する必要はないじゃないか!」

ライナー「だからこそだ。公衆の面前でふられれば、すっぱり諦めもつく。よし、すぐに行くぞ!」ガタッ!

ベルトルト(どうしよう…。僕はどうするべきなんだ…?)

ライナー「ふたりが立ち上がった! 行くぞ、ベルトルト!」

ベルトルト「あ…、えぇっ?!」

ライナー「もたもたしてると、出て行っちまう! 早く来い!」

ライナー「勝負は今、ここで決める!」



食堂内 出入り口付近

ユミル「ふあ~ぁ、眠ぃなぁ、早く部屋に戻ろうぜ」

クリスタ「ユミル、夜中に抜け出して出歩くの止めたら? なかなか戻ってこないからいつも心配してるんだからね」

ユミル「私は強いから平気だ。野犬くらい蹴飛ばして撃退してやんよ」

クリスタ「そういうことじゃなくて、ユミルも女の子なの! わかってる?!」

ユミル「野郎に襲われるかもしれねぇってか? へーき、へーき、私でおっ勃つ男なんていねーから」ダハハッ!

クリスタ「ちょっと、ユミル! 女の子がそんな言葉遣いしちゃ駄目っ!」アタフタ

ユミル「けど、優しいなぁ、女神クリスタ様。卒業したら結婚してくれ!」キリッ!

サシャ(また始まりました…)

クリスタ「ふざけてないで、私の話をちゃんと聞いてよ!」

ユミル「本気だぞ! 私の気持ちを疑うのか? よし! 今すぐ式を挙げ…」


───ドカドカドカッ!

ライナー「クリスタ! 好きだ! 付き合ってくれ!」

ベルトルト「あっ、ええと、ユミルのこと、好きです! 付き合ってください! お願いします!」ペコッ

ユミクリ「」ポカーン

ザワザワッ! ドヨドヨッ!

マルコ「!」

ミーナ&ハンナ「」ワクテカ

アニ「……」

アルミン「ベルトルトはアニのことが好きなんじゃなかったの?」

モブ「ライナーがクリスタに…は、わかるとして、ベルトルトがユミルに…」

モブ「ベルトルトの奴、ついに精神やられてとち狂っちまったのか? ここんとこ良くなってきたと思ってたのに」ヒソヒソ

ジャン「ここしばらくアニよりユミルのことを見てたのは、疑ってたからじゃなかったのか…。なんてこった…」


コニー「あっ! ひょっとして、ベルトルトの寝相と顔色が良くなったのはユミルが何かしてやったからか?」

マルコ「コニー、何それ?」

コニー「しばらく前、ユミルが俺にベルトルトの寝相のこととか、よく訊いてきてたんだよ」

コニー「いやー、まさかこういうことだったなんてなー。全然気付かなかったぜ」

マルコ「そんな…」

ジャン「てめぇ、コニー! そういう重大情報は早く知らせろ!」

コニー「仕方ねぇじゃんか。気付かなかったんだから」

クリスタ「こここ、こんな人前で、私…、困るよ…。どうしよう、ユミル…」カァァァァッ!///

ライナー「クリスタ、お前のことはどんな危険からも絶対に俺が守ってやる! だから、卒業後は、俺と同じ…」

ユミル(この野郎! 告白ついでに一緒に調査兵団行きの約束を取り付けようったってそうはさせねぇぞ!)

ユミル(とりあえずは、クリスタが返事する前にこの場をうやむやにして、こいつから引き離さねぇと!)

ユミル「ちょっと待て、ライナーさんよ! 私のクリスタに向かって、よくも寝ぼけたことを抜かしてくれるじゃねぇか!」

ライナー「これは俺とクリスタの問題だ! クリスタ、返事を聞かせてくれ!」

クリスタ「え、えぇと…」オドオド


クリスタ(皆こっち見てるし、恥ずかしくて、何がなんだかわからないよ…!)///

ユミル「クリスタ! 世界でいちばんお前を愛してんのは私だぞ! さっきの続きだ! 結婚しよう!」

ライナー「女同士で結婚できるわけないだろうが! クリスタは俺が守る!」

ユミル「うるせぇっ! 愛があれば性別なんて関係ねぇっ! とにかく、天使をお前みてぇなむさい野郎に渡せるかっ!」

ギャーギャー!

ベルトルト「……」ムカッ!

───ガシッ!

ベルトルト「君に告白してるのは僕だ!」

ユミル「はあ? 邪魔すんな!」

ベルトルト「断るにしても、そうしてからそっちへ首を突っ込めよ!」グイッ!

ユミル「告白するのもひとりでできねぇヘタレが今さら凄み効かせたって、ぜんぜん怖かねぇよ! あっち行ってろ!」

ユミル「台詞だってほぼライナーのパクリじゃねぇか! 人をおちょくるつもりでも、こっちにはからかわれてやる気はねぇんだよ!」

ベルトルト「うっ…、それはいきなりだっただから考えてなかっただけで、でも気持ちは本物だ!」

ベルトルト「僕は君が好きなんだ! 返事は?!」

モブ「あの、いつもぬぼーっとしたベルトルトが怒鳴ってる…だと…?!」


サシャ「すごいっ! ベルトルトの貴重な激おこシーンですよ!」

モブ「でけぇ分、怒るとすっげぇ迫力…」

モブ「ああ、おっかねぇ…」

モブ「俺、あいつのこと内心馬鹿にしてたけど、止めるわ…」

モブ「俺も…。間近にあんなデカいのが迫って凄んできたら、ちびるわ…」

ユミル「離せ、デカブツ!」ゲシゲシッ!

サシャ「なんということでしょう! さすがユミル! 190超級巨人の迫力にもちっともびびりません! 竦むどころか、攻撃に転じました!」

ベルトルト「痛たた、痛いよ! この…っ!」ヒョイッ!

サシャ「あぁっ! ベルトルトがユミルを抱え上げました! 攻撃を無力化するためでしょうか?!」

ミーナ&ハンナ「キャーッ! 大胆…!」///

ユミル「降ろせっ! てめぇっ! 気安く人の身体に触ってんじゃねぇ!」ゲシゲシッ!

ベルトルト(返事を聞くまで離さないぞ!)ギュ…

ユミル(…あれ?)ゲシゲ…

ユミル(こうして見下ろしたこいつの顔、見覚えがある。私はいつだか確かに見てる…)

コニー「どうしたんだ? ユミルの奴、急に大人しくなって?」


サシャ「両手にベルトルトの顔を包み込んで、見つめ合ってますね」

ユミル(この時代に知り合いなんていない。60年も壁の外をさまよってたんだから、会ったことがあるはずがない)サラ…

モブ「おいおい、ベルトルトの髪をかき上げて、まじまじと見入ってるぞ」

モブ「ハエギワヤベェナ」ヒソヒソ

ユミル(だとしたら、なぜだ? …いつか、好きな男に対してそう感じるものだって聞いたことがある)

ユミル(たしか、ハンナがフランツにそう感じたと…)

ユミル(ってことは、私はこいつのことが好きなのか?)

ユミル(なんだか、無性に放っておけないと強く感じる。それは前からそうだったが…)

ユミル(待てよ? こいつ、さっき私のことが『好き』とか言ってなかったか?)

ユミル「あ…」カアァァァァッ!

ベルトルト(ユミルの顔が真っ赤に…! これって…!)

ベルトルト「僕のこと好き? そうなんだね?! 好きなんだね?!」クルクルッ!

ユミル「回るな! 危ねぇっ! 降ろせっ!」

ベルトルト「落とさないよ! こうして抱いてみると、君、細くて軽いもの! 毎晩のように会ってるのに、全然気付かなかった!」クルクルッ!

ドヨドヨッ?!


ユミル「言うなっ! 勘違いされるようなこと、言うなあぁっ! 止まれ!」

ベルトルト「嬉しくって、止まらないよ! 君の顔、真っ赤だし、身体、熱っついよ、ユミル!」クルクルッ!

ベルトルト「みんな、聞いてよ! ユミルが僕のこと好きなんだ!」クルクルッ!

ヒューヒュー!

クリスタ「すごい熱烈…。ベルトルトって本当はあんな人だったの?」唖然…

ライナー「おぉ…、あんなに感情をむき出したベルトルトは、俺も初めてだ…」呆然…

クリスタ「私も、あんなユミル、初めて! すっごく女の子な表情してる! よかった! ユミルにも春が来たのね!」キラキラ

クリスタ「ね、ライナー、私のほうも…」キュ…

ライナー(クリスタのほうから手をつながれた…!)ドキッ!

クリスタ「これからよろしくね」ニッコリ

ライナー「あ、あぁ…」テレテレ

コッチモデキアガッタミタイダゾー!
オマエラ、ヤットクッツイタカ! オメデトサン!
ヒューヒュー!



その後 食堂から続く廊下

ベルトルト「待ってよ、ユミル! みんな祝福してくれるのに、どうして出てきちゃったの?」

ユミル「あれ以上あの場にいたら、いつまでも騒ぎが収まらねぇで、聞きつけた教官がやって来るだろうが」

ユミル「説教くらうのはごめんだ」

ベルトルト「それもそうだね」

ユミル「もうあんな恥ずかしい真似はやめろよ。死ぬかと思った」

ベルトルト「うん、気を付けるよ」ニコニコ

ユミル「ほんとか?」 

ベルトルト「うん!」

ユミル(いまいち信じられねぇ…。へにゃんと目尻下げて、だらしねぇくらい顔を緩ませやがって…)

ベルトルト「ところで、ライナーとクリスタを別れさせるつもりじゃなかったの? それはいいの?」

ベルトルト「あっちもすごく祝福されてて、みんなに取り巻かれて、ふたりとも幸せそうだったけど」

ベルトルト「こうなると、もうそうそう別れさせられないよ?」

ユミル(あ、やべ…、そういうことにしておいたんだった。うまく誤魔化さねぇと)


ユミル「…その理由、口で言わなきゃわからないのか?」

ベルトルト「だって、あんなにクリスタを大切にしてたのに」

ユミル「そのクリスタより大切なものができたんだよ」

ベルトルト「?」

ユミル「わかるだろ?」

ベルトルト「あ…っ! ねぇ、それって僕のこと?!」パアァァァッ!

ユミル(うわ、すげぇ喜んでる…)

ベルトルト「」ガバッ!

ユミル「肩に担ぐな! おい! なんで食堂に戻るんだよ?!」

ベルトルト「」ダダダダダッ!

───バンッ!

ミンナキイテヨー ユミルガクリスタヨリボクノコトガタイセツナンダッテー

ウワアアアッ! オマエモウダマレー!

ユミルガカワイイ! ヤッター!

ウルセェ! ダマレッ! クタバレッ! シネェェェッ!


戸口から食堂内を覗くキース「………」

戸口から食堂内を覗くキース「愛の力か…」



再録ここまで。

主な変更点:
囮のエロ本をミカサ似の女ということにして、なかなか口を割らなかったという理由(フェイク)を補強。
ちなみに、ミカサ似であることは、憲兵たちが武士の情けで言いふらさずにおいてくれたので、訓練兵の間には広まっていない。

ライベルの甘さをアニが指摘する台詞を追加。


>>81
残念だが、ちがう。すまんな。



現在
夜 ウォール・マリア西区 とある民家 居間 暖炉前の揺り椅子

パチパチ…

ユミル「……」カサ…

ユミル「クリスタ…」ボソ…

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル、まだ起きてこっちにいたんだ?」

ユミル「もう風呂から上がったのか? あいかわらず、早いな」

ベルトルト「君が入った残り湯がまだ温かいうちに、さっと入ったからね」

ユミル「私も風呂焚きしてやるから、ゆっくり入れっていってるだろ。なのに、いつも断りやがって。疲れが取れねぇぞ」

ベルトルト「いいよ。僕、君ほど長風呂が好きじゃないし。湯上がりにこの寒い中、外に出てお風呂を焚いたら、君、」

ベルトルト「湯冷めして風邪引いちゃうよ」

ユミル「なんか…、過保護だなぁ」カァ…

ベルトルト「大事にされると照れるその表情、好きだな」

ユミル「慣れてないんだ、そういうのには」フイッ!


ベルトルト「慣れてよ。ここに来て、もう何年も経ってるんだ」

ユミル「身に染み着いた習性みたいなもんで、なかなか抜けないんだよ」

ベルトルト「」ムゥ…

ユミル「また頬っぷたふくらませてむくれやがって…」ナデナデ

ベルトルト「付き合ってから、いいかげん、どのくらい経つと思ってるの? 僕、ずっと君のこと大事にしてきたよね?」

ベルトルト「その想いが伝わってないみたいで…、なんだか僕の愛情が足りないみたいじゃないか」

ユミル「そんなこと言ってないだろ? まったく、面倒なお子様だな。ほら、ちょっとかがめ」チュ…

ベルトルト「ん…」チュ…

ユミル「機嫌は直ったか?」

ベルトルト「うん。でも…、それ、クリスタからの手紙?」

ユミル「ああ、あいつも元気を取り戻してきたみたいだ。芯は強い奴だったが、よく立ち直ってくれたよ。今までかかったがな」

ベルトルト「そう、よかった。君と引き離して、気の毒したね。別れの言葉も交わせずに」

ユミル「……」ヒラ…

ボォッ… メラメラ…

ベルトルト「燃やしちゃってよかったの?」


ユミル「いいんだ、あいつは無事だ。文章にも翳りがねぇし、それがわかれば充分だ」

ベルトルト「でも、取っておいても…」

ユミル「必要ない。私には、お前以上に大切なものはない」

ベルトルト「ユミル、ありがとう」

ユミル「何を、突然礼を言うんだ?」

ベルトルト「ここに来たばかりの頃、巨人になれる君が、僕に黙って、壁を超えて出て行ってしまうんじゃないかって、いつも不安だった」

ユミル「マリアの中をうろうろしてる牛だの豚だの獲ってくるのに、よく乗り越えただろ」

ベルトルト「そういうときは僕と一緒だったじゃないか」

ベルトルト「だけど、その必要もなくなって、本当にここから出なくなってから、君、」

ベルトルト「ときどき遠くを見るような目をするようになったから。夜の湖みたいな瞳をして」

ユミル「…なあ、ベルトルさん、私が壁の中に戻ったとして、以前のように暮らせると思うか?」

ベルトルト「ううん…。そうなってしまったのは、僕のせいだ。ごめん。君は人の間で、イカした人生を送りたがってたのに」

ユミル「勘違いするなよ。私がここにいるのは、他に居場所がなくて仕方なく、じゃないぞ」

ユミル「放っておけない大きな子供がいるから、ここにいるんだ。今さらお前なしじゃ生きていけない」


ユミル「それにかなりイカしてると思うぞ。第一に、巨人だって厄介な秘密を隠さなくてすむ。第二に、食うに困ることがなくなった」

ユミル「みっつめは、狭苦しい兵舎と違って、ゆったり手足を伸ばせる広い家に住んで、」

ユミル「でかい暖炉には赤々と火が燃えてて、冬も凍える心配なく暖かく過ごせる」

ユミル「亭主は高スペック、高身長。働き者で、しかもなんでもそつなくこなせる男だしな」

ベルトルト「手先の器用さが必要なことは君のほうが上だよ。料理とか、髪を切るのとかね。いい奥さんもらったよ、僕」ニコニコ

ユミル「髪といえば、将来ハゲそうだったのが唯一の不安だったが、もうそんな心配なくなったな」ワシャワシャ

ベルトルト「いくら誉められるのが苦手で照れるの隠すためでも、ハゲそうだった頃の話は止めてよ」

ユミル「なら、あんまり恥ずかしいこと真顔でのたまうな」

ベルトルト「君が賛辞を素直に受け取ってくれればすむ話。ねぇ、君は素敵な女性だよ。僕は本気でそう思ってる。それを口にしてるだけだ」

ユミル「…そういえば、私と付き合い始めてから生え際にぽわぽわした産毛が生えてきて、」

ユミル「他の髪と同じ太さに生え揃うまで、ちょっと面白かったぞ」

ユミル「眠ってるお前の髪をかき上げて、それを見られるのは私だけの特権だったな…」サラ…

ベルトルト「ふふっ」

ユミル「なぁ、愛してるぞ、ベルトルさん」

ベルトルト「僕も愛してるよ、ユミル。最愛の相手を独り占めできるなんて、僕は幸せ者だ…」


ユミル「もっと独り占めさせてやるよ。ほら、寝室に連れていってくれ」

ベルトルト「でも、クリスタの手紙…、早く返事を書きたいんじゃない?」

ユミル「くどいな。そんなものはあとでいい。それより、私はそんなにお前を不安にさせてるか?」

ベルトルト「え…?」

ユミル「私はお前を愛してる。お前以外に何もいらない。さっきのお前の言葉じゃないが、ここに来て、もう何年も経ってるんだ」

ユミル「いいかげんに慣れろ。そろそろ機嫌が悪くなってくるぞ?」

ベルトルト「そ、そういうつもりじゃ…」

ユミル「なら、朝まで眠らせず、愛してくれ」

ベルトルト「そんなねだり方されたら、嬉しくて頑張りすぎちゃいそう」


ユミル「で、早朝の麦踏みはお前ひとりでやれ」

ベルトルト「それは、さすがに腰が辛すぎるよ…」

ユミル「冗談だ。私もやるさ。ふたりで終わらせてから、また寝ようぜ」

ユミル「昼までだらしなく寝てたって、ここには誰も文句を言う奴なんていないんだから」

ベルトルト「うん、ここには僕たちだけだ…」

ユミル「さぁ、ベッドへ連れていってくれよ、ベルトルさん。それとも、旦那様と呼んだほうがいいか?」

ベルトルト「呼んでよ…。ユミル、君と結婚できてよかった…」ギュ…

ユミル「…私の…旦那様…」ギュ…



その後 寝室

ユミル「息…、苦し…、ん、あ…」

ベルトルト「もっと口開けて。もっと足も開いて」

ユミル「がっつくな…よぉ…」

ベルトルト「無理。君可愛すぎるよ、ユミル…」

ユミル「その前に、あっ…、ちゃんと脱がせてくれよ…ぉ…」

───ビリッ!

ベルトルト「あ…、破れちゃった」

ユミル「またやったな…。このひらひらの寝間着、お前のお気に入りだったのに…」

ベルトルト「しょうがないよ。生地が薄くて華奢なんだもん。でも、いいや。君に似合う替えはたくさんあるし」ペロ…

ユミル「んん…っ、くすぐった…い…」

ベルトルト「お湯の匂いと石鹸とユミルの匂いが混じって、クラクラする」 

ベルトルト「ユミルが僕のために綺麗にしてくれる。綺麗になってくれる」

ベルトルト「ここに来て以来、どんどん女らしくなっていく君が嬉しい反面、ちょっと寂しくもあるけど、」


ベルトルト「でもやっぱりとっても嬉しいよ、僕のために変わっていく君が。クリスタだって見たことのない君だ…」

ユミル「……」

クチュッ!

ユミル「はっ、んぁ…っ!」

ベルトルト「あんまりいじってないのに、ここ、すごいぬるぬるしてる…」ニュルッ!ニチャッ!

ユミル「やぁ…っ! あぁ…っ!」ビクビクッ!

ベルトルト「ねぇ、クリスタの手紙を読んでる間も、期待してた?」クスクス

ユミル(…これから抱かれるために身体を手入れするのが、こんなに官能的だとは思ってもみなかった)

ユミル(すぐ外で風呂を焚いてるこいつに聞こえないように声を抑えて、いつのまにか念入りに手入れするようになっちまった)

ユミル(長風呂して身体のすみずみまで…)

ユミル(クリスタ…、ごめん…。お前からの手紙、燃やしちまって…)

ベルトルト「どうされたい? 何でもお願い聞くよ?」

ユミル「ベルトルさんの…、挿れて…」

ベルトルト「もう? 平気?」

ユミル「いい…から…! 挿れて…!」


ベルトルト「少し待って。すぐ…」ピト…

ズルンッ!

ユミル「はぁ…、んっ!」

ベルトルト「簡単に入っちゃったのに、く…、締まる… うぁ、良すぎるよ、ユミル…!」

ユミル「う…ぁ…! あああぁっ! 大っきい! 大っきいよぉ! ベルトルさん!」

ベルトルト「そんな大きな声だして。外まで聞こえちゃうよ」クスクス

ユミル「ん、いい! 聞かれてもいい! 好き! ベルトルさんっ! 好きっ!」

ベルトルト「ユミル、僕も愛してるよ! 僕だけのユミル!」グジュッ! ジュポッ!

ユミル「あっ、ダメッ! イク、も、イ…ク…」

ベルトルト「はやいよ、もう少し我慢して」ヌジュッ! ジュクジュグッ!

ユミル「いやあぁぁっ! イカせてっ! イカせてぇっ! おかしくなるっ!」

ベルトルト「その声、たまんない…! いいよっ! イッて!」グチュグチュッ! ズグッ!

ユミル「はぅっ! あ…、ベルトルさ…! ああっ! ああああぁぁぁっ!」ビクビクビクンッ!



本日はここまで。

気負いすぎてなかなか進まなくなったのもあって、これからは肩の力を抜いて書く。
それゆえに、いまいちな出来になると思う。



過去(訓練兵時代)
翌日 夕食時 食堂

ザワザワザワッ!

コニー「…密着だな」

サシャ「密着してますね。訓練中も一日ユミルの側にくっついて回ってましたが、今は密着です」

ベルトルト「」ニコニコ

ユミル「浮かれすぎで、処置なしだ。はぁ…」タメイキ

サシャ「全面降伏ですか。それも賢明かもしれません」 

サシャ「190超級巨人の進撃を止められるとは思えません」

コニー「おお、昨日のいきなりの告白もすごかったけど、戻ってきた後の喧嘩もすごかったよな。ベルトルト、お前、強ぇじゃん!」

サシャ「意外な好カードに、皆、目が釘付けでしたね!」

サシャ「激高するユミルの鋭い攻撃をベルトルトが全部いなして、まるで防御と受け流しのお手本のような立ち合いでした!」

ユミル「……」


サシャ「ところで、後ろから密着されたその格好のまま夕食を受け取ってきたんですか? 配膳係もびっくりです!」

コニー「邪魔じゃねぇ?」

ユミル「それがな…、例えばこう、いきなり後ろに後退するとするだろ?」スタスタスタ

ベルトルト「」スタスタスタ

ユミル「だしぬけにくるっと回っても」クルクル

ベルトルト「」クルクル

ユミル「どんな動きにもついてくるんだ」

コニー「おお、すげぇ! 曲芸してる!」

サシャ「トレイの上のスープも水も少しも揺れませんね。お金取れるレベルですよ!」

サシャ「そんなところにまでそつのなさを発揮するなんて、ベルトルト、すごいです!」

ユミル「人の心が読めるのかってレベルだ。気味が悪ぃだろ」

サシャ「息がぴったりですね」

コニー「フランツとハンナだってそこまでべったりしてねぇぞ」

サシャ「それにしても、ベルトルトがそうしてくっついているのを許してるのが意外です」

サシャ「ユミルはベタベタされるのうっとおしがりそうなのに」


ベルトルト「そうでもないよ。クリスタにはずっとベタベタしてたから」

サシャ「あっ! そういえば、そうですね!」

ベルトルト「するのもされるのも好きなんだよね、ユミル」 

サシャ「なるほど、元々スキンシップが好きなんですね! 納得しました!」

ベルトルト「クリスタより僕のほうが大切なんだもんね」スリスリ

ユミル「……」ウンザリ

ベルトルト「ね、そろそろ座って食べよう。あっちが空いてるよ」

ユミル「ああ…。じゃあな、サシャ、コニー」

サシャ「あ…、ユミル…! あぅ…」

コニー(なんかユミルが可哀想になってきたのは、俺が馬鹿だからか?)

サシャ(ユミルがかまってくれなくなってしまいました。一日一度は怒られないと調子が出ません…)

ミーナ「あのユミルがあんなにくっつくこと許すなんて、愛、ね!」ワクテカ

ハンナ「ウォール・ユミルが陥落したわね!」ワクテカ

フランツ「ハンナー、いいかげん、ご飯食べようよー」

フランツ(ミーナと恋バナばっかりしてないで、少しは僕を構ってよ…)


ザワザワヒソヒソ
ザワザワヒソヒソ

ユミル(いい具合に食堂の中が騒がしくなってきたな)

ユミル(今、ベルトルさんに密かに憧れてた女どもが食堂から出て行った。そろそろか…)

───ガラッ!

女教官「ユミル訓練兵! フーバー訓練兵! キース教官の部屋まで来なさい!」

ユミル(そら、来た…)




今日はここまで。

言い忘れてたが、前回投下分から第二部だ。

モチベーションを保つために、細切れでも毎日投下を目指す。
まとめて読みたい人は数日おきにチェックしてくれ。

>>1 乙 戻ってきてくれてありがとう まってた

まとめて読みたい人なので週末ごとにチェックを入れよう
根を詰め過ぎると書くのが楽しくなくなっちゃうから
疲れている時は無理をせずゆっくり休んでください
粗忽な読み手から応援の言葉を贈ります



その後
教官室

女教官「今日一日のあなたたちの態度に訓練兵としてあるまじき不適切なものがあると、他の訓練兵から報告がありました」

女教官「特に食堂では、人目を気にせずベタベタしていたそうね」
 
ベルトルト「あ、その…、それは…」

ユミル「……」

キース「……」

女教官「ユミル訓練兵!」

ユミル「はい」

女教官「裏でコソコソ何かを企んでるあなたらしい策略ね」

ユミル「なんのことでしょうか?」

女教官「うぶなフーバー訓練兵をたぶらかして、ゆくゆくは既成事実を作って、一生自分の面倒を見させる魂胆なのかしら?」

ベルトルト「…!!」

ユミル(おーお、ひでぇこと言ってくれるな。なぜだか私を目の敵にしやがって)


ユミル(ま、禁書所持者を逮捕して手柄を立てるはずだったのが、逆に大恥かかされたんだ)

ユミル(わざわざ王都から尋問に長けた憲兵を呼び寄せたのに、面目は丸潰れだ)

ユミル(外の世界について熱心に話し合うアルミンとエレンの会話を生で聞いてたんだろうし、)

ユミル(隠し場所からエロ本が出てこようが、当然、納得はしてねぇだろうな)

ユミル(私以外にどうにかできたはずがないと思い込んで、証拠がなくてもとにかく当たり散らしたいんだろう)

女教官「フーバー訓練兵は憲兵団を志望していたわね。優秀な彼なら、きっと叶うでしょう」

女教官「憲兵の妻となれば、苦労せずにシーナでの安全な生活が手に入るものねぇ?」

ユミル(むかつくな。誰が他人なんて不確かなもんに集って生きるかよ。私は、自分の力でイカした生活を手に入れる)

ユミル(だが、ここはとにかく大人しく殊勝な態度で意見を容れたふりをしてベルトルさんと別れ…)

ベルトルト「待ってください! 彼女に告白したのは、僕のほうからです!」

ベルトルト「彼女に甘えて一方的にベタベタしていたのも、僕のほうです!」

ベルトルト「どうしてユミルが悪者になるんですか?!」

ユミル「!」

女教官「フーバー訓練兵、私たちは、大人しい優等生のあなたがつけこまれて、」

女教官「彼女に無理矢理付き合わされているのではないかと憂慮しているのよ!」


ベルトルト「大きなお世話です!」

女教官「フーバー訓練兵! 教官に対する口のきき方をわきまえなさい!」

ベルトルト「先に、憶測だけで彼女を侮辱したのはあなたのほうです!」

女教官「な…、な…!」

ベルトルト「彼女が僕を好きな気持ちより、僕が彼女を大好きな想いのほうが絶対上です!」

ベルトルト「責められるべきは僕のほうです!」

ベルトルト「ユミルばかり責められるこの状況は納得できません!」

ベルトルト「だいたい、ライナーとクリスタにはどうして何も言わないんです! そっちは放置ですか!」

女教官「ブラウン訓練兵とレンズ訓練兵のことは今は関係ありません!」

ベルトルト「あのふたりが仲良くし出してからライナーの成績が下がっているのは明らかなのに、それはおかしいです!」

女教官「…! 黙りなさい!」

ベルトルト「彼だけじゃない! クリスタだって、訓練に手を抜きだして…」

ユミル「おい、ベルトルさん! そのへんで止めとけ!」

キース「もういい! 落ち着け、フーバー! …話は分かった」

ベルトルト「…はい」


キース「フーバー、日頃の態度に免じて、今回は不問とする。もちろん、ユミルにもなんの咎めもしない」

キース「ただし、これからは節度ある態度を心掛けろ。次は見過ごすことはできない」

キース「兵団内の風紀を乱したのは事実なのだからな!」

ベルトルト「はい!」

キース「では、行ってよし!」

ベルユミ「はっ! 失礼します!」

ギィッ、パタン…

女教官「どうして行かせてしまったんですか? 何の罰も課さずに?!」

キース「別にあのふたりが付き合うこと自体に悪いことなどあるまい」

キース「長いことフーバーに取り付いていた憔悴ぶりが劇的に回復したのだ。ユミルはフーバーに良い影響を与えている」

女教官「だから、それは適当な甘言にのせられて、一時的なことです!」

女教官「あの女と付き合っては、非常に有望な彼の将来を食いつぶされますよ!」

キース「問題が起これば、そのときに対処する」

女教官「それでは手遅れです! まだ気持ちの浅いうちに別れさせるべきです!」


キース「…君は生え抜きの憲兵出身だったな。最後に自分自身の命の危険を感じたのは、いつだ?」

女教官「え…?」

キース「彼らは訓練中に命を落とすこともある。子供たちは明日をも知れぬ身だ」

キース「4年前に壁が破られて以降、兵士を選んだ者のほとんどは短い生涯が決定したようなものだ」

キース「ブラウンから聞いた話によると、フーバーの憔悴ぶりが劇的に回復したのは、ユミルが密かに骨を折ってやっていたかららしい」

キース「そして、あの自己主張に乏しいフーバーが教官相手に臆することなくユミルをかばった」

キース「充分ではないか。本来、我々が口を出すことではない。差し出がましい口は控えるべきだ」

女教官「私のすることが気に入らないと!」


キース「私は元々、兵団敷地内に不審者を招き入れている君たち憲兵団が気に入らない。知っていると思ったがな」

キース「加えて、ユミルへの差別的な対応。それから、裏でコソコソと何かをしているのは君のほうではないか?」

女教官「ッ!! 失礼します!」

───バンッ!

キース「うむ…、愛の力か…」

キース「ところで、…」

───バン!

窓の外の104期生たち(やべっ!)

キース「動くな! 貴様ら、盗み聞きとはいい度胸だ!!」



本日はここまで。

超大型巨人、激おこ。


かなりどうでもいい女教官の設定。
表向きは憲兵団出身としているが、実は中央憲兵出身。
王の命令でクリスタの監視、というより実際は見守り役をしている。
クリスタがライナーと仲良くなり出したという報告を受けた王が、
教官として訓練兵団に送り込んだ。
娘がつつましく一生を過ごすのに、ライナーを最高のパートナーと見込んでのこと。
係累がなく、背景に有力貴族・豪商とのつながりがなく、娘が政治利用される心配がないから。
女教官本人もほのぼの健全カップルなライクリの様子に、個人的にも応援したい気持ちを抱いている。
そこで邪魔になる(ように見える)ユミルをなんとかクリスタから遠ざけようと常に
画策している。罰則などを課すのがそのひとつ。

図書館で罰当番をしているユミルの様子を確認しに来なかったのは、クリスタの監視のためでもあるが、
ユミルがさぼって抜け出せばまたそれを理由に罰則を課せるから。

ちなみに、隠れ場所を見つけながらクリスタを密かに監視していたので、倉庫に隠れて本を読んでいたアルミンとエレンを見つけたと。

ベルトルトと別れさせようとしているのは、男のほうの親友と恋人になることでライクリに影響を及ぼすのを憂慮してのこと。


女性にとってはどうか知らんが、ライナーは、おっさんが娘の婿にしたい男ナンバーワンだと思うんだ。
孤児だがその境遇にもめげず優秀な成績を残し、皆から頼られ、同期の人望も厚い。人類の敵だけど。

>>176-177
待っていてくれてありがとうな。期待に添えるかはわからんが、頑張るよ。



その後
外 教官棟出入り口付近

ユミル「お前、バカか?! 教官に口答えするなんざ! お咎めなしだったのはたまたま運が良かっただけだ!」

ユミル「ああいうときは黙って流しときゃいいんだ!」

ベルトルト「だって、恋人にあんなひどいこと言われて、黙ってられるわけないだろう!」

ユミル「う…」カァッ!

ユミル(こいつ、自分の意志がないとか大嘘だ。だが、待て、嬉しいとか考えるな。これから別れを切り出すんだから…)

ユミル「けどよ、あの女の言うことにも一理あると思わねぇか?」

ベルトルト「何それ? どういう意味?」

ユミル「自分で言うのもなんだが、私は評判最悪だぞ。こんな女と付き合って、周りからどう思われるか考えろ」

ユミル「率直に言うが、私との付き合いは考え直せ」

ユミル「それがお前の将来のためだと、私も思う」

ユミル「せっかくすげぇ優秀なんだ。自分から経歴に傷を付けることないだろうが」

ユミル「気づいてないかもしれないが、お前、優秀だし、背は高ぇし、実は相当もてるぞ」

ユミル「今までは暗くて近づきがたい雰囲気があって女どもが寄ってこなかっただけだ」


ユミル「それにさ、がさつなクソ女の私と優等生のお前とじゃ、性格が合わないと思わないか? 絶対もっと可愛い女のほうがいいって」

ベルトルト「そうやって、自分を貶めるようなことまで言って、僕のために身を引くの?」

ベルトルト「クリスタより僕が大切だって言ってくれたじゃないか!」

ユミル「それは…」

ベルトルト「嫌だ! 君のこと逃がさない! ずっと側にいてよ…」グス…

ユミル(ベルトルさんは、気が弱い、流されやすい。そういう人間だと思ったから、)

ユミル(いずれ教官に呼び出されて説教されるのを見越して、ベタベタしてくるのも拒否せず、したいようにさせてた)

ユミル(教官からきつく注意されれば私と別れるだろうと思って)

ユミル(だけど、教官に楯突いてまでかばってくれた。参ったな、優しくされるのには慣れてねぇんだよ。大事にされることにもな)

ユミル(依存体質で、距離なしで、重苦しいが、今のところ私が好きな気持ちは本物なんだろうな)

ユミル(ついこないだまでの憔悴ぶりと、アニばっか見てたのもあって、女どもは誰もベルトルさんに接近しようとはしなかった)

ユミル(けど、私がベルトルさんに告白されてからは、)

ユミル(話聞いて少し優しくしてやりゃ自分がベルトルさんと付き合えたんじゃないか、って女どもが考えるのも当然だ)

ユミル(別れさせるために教官にチクるのもな。そこまでは私の考えたとおりだったが、ベルトルさんが教官に刃向かうのは計算外だった)


ユミル(『クリスタより大事』。その場をごまかすための出まかせだったのに、あんな嘘を信じておまけに本当に喜んで…)ズキ…

ユミル(誠実に付き合ってみるか? こいつの視野が広がって他にいい女ができるまで…)

ユミル(憲兵になるこいつとは、長くてもどうせ卒業までの仲だ)ズキ…

ユミル(なんだ? 胸が痛い…? まただ。こいつのこと、ほうっておけない気がする…)

ユミル「ちょっとかがめ」

ベルトルト「? こう?」

ユミル「」チュ…

ユミル「さっきな、ちょっとかっこよかったぞ」プイッ!

ベルトルト「」ビックリ!

ユミル「……」マッカッカ!

ベルトルト「」プツンッ!

ガシッ!

「え? ちょっ?!」

「」ガシッ!


「待て! 待てったら! 待…!」

「」ブッチュウゥゥゥ!


───ドヤドヤ

モブ「あー、絞られたぁ。けど、キース教官が話の分かる人でよかったな。おっかねぇけど」

モブ「ベルトルト! こんなとこにいたか! って、うおぉっ!」

モブ「お前ら無事でよかったな! って、おい!」

ミーナ&ハンナ「キャーッ!」///

ライクリ「」///

ユミル「んー! んー!」(ベルトルさん! 皆、来てる! 来てるから、離せ!)

ベルトルト「」チュウウウウウ

ユミル(酸欠で頭が…! あぁ、もう駄目だ…)グッタリ

ベルトルト「ふぁ? わあぁっ?! ユミル、大丈夫?!」

ユミル「」クタッ


モブ「やるじゃねぇか! ベルトルト! お前が教官にはむかうなんてできるとはなぁ!」

モブ「お前も男だったんだな!」

ミーナ「ユミルが真っ赤っかになって、ベルトルトにしがみついてるわ!」キラキラ

ユミル(うっせぇ! そうでもなきゃ、立ってらんねぇんだよ!)

マルコ「」

ジャン「マ、マルコ、もう戻ろうぜ! な!」ポンポン

マルコ「」フラフラ

ワイワイガヤガヤ
オメデトウオメデトウ


サシャ「あうー、ユミルを完全にベルトルトに取られてしまいました」

コニー「口やかましいのがいなくなってよかったじゃねぇかよ」

サシャ「1日1回はユミルに叱られないと調子が出ないんですよ…」

コニー「あー、確かに俺も1日1回はからかわれないと何か物足りないなぁ」

コニー「……」

コニー「」ハッ!

コニー「お、俺が毎日叱ってやろうか?」ドキドキ

サシャ「お馬鹿なコニーに叱られたら、私、落ち込んでしまいます

コニー「俺は馬鹿じゃねぇ!」

サシャ「そう怒らないで。気持ちはわかってますよ。なぐさめてくれてるんですね。コニーは優しいですね」

サシャ「一緒に遊ぶことはできますよ。そうだ、私がコニーをからかえばいいんですよ! これから毎日!」



本日はここまで。

求められること、必要とされること、大事にされること、に慣れていないユミル。

翌朝には処女膜まで突破してそうな勢いの超大型巨人。


ほほう…この話のユミルは処女なのか
勢いで落ちそうだしとっとと美味しくいただいちゃえベルトルトw



その夜

ユミル『な、なんだよ。こんなところに呼び出して?』

ユミル『今日は、もうさんざん私に恥かかせただろ? まだ足りないってのか?』

ユミル『あっ! 何すんだ、やめろ! 力で敵わないって知ってて卑怯だぞ!』

ユミル『や、やだ! こんな無理矢理…、嫌だ! あああっ!』

ユミル『痛っ、痛い! 抜けよぉ…っ!』

ユミル『抜けっ、…ああぁっ! 熱…い…、中に…出てる…、こんなにいっぱい…』

ユミル『ひ、広げて見るな! 溢れて…、駄目だ、ダメェ…。そんなじっくり見るなぁ…』ボロボロ…

ユミル『ま、またするのか? 嫌だ! 痛いんだ! もう許してくれ!』シクシク…

ユミル『私にお前のこと嫌いにさせないでくれよ…』

ユミル『あっ! やだやだっ! 挿れるなっ! 入ってくるなっ!』

ユミル『もう本当に嫌だ! お前なんか、嫌いだ!』

───ガバッ!



翌朝 早朝
男子宿舎内洗面所

ジャバジャバ…

ベルトルト(ユミルとエッチする夢、見ちゃった…。きっと夕べ頭が真っ白になって、勢いでキスしたせいだ…)ザブザブ

ベルトルト(ものすごく興奮してたのに、嫌いだと言われた瞬間、一気に血の気が引いて目が覚めた)ザブザブ

ベルトルト(現実のユミルに嫌いなんて言われたら、死んじゃいそう…)ジャバジャバ

ベルトルト(パンツの中がとんでもない量の精子でドロドロだよ。どんだけ溜め込んでたんだ、僕…)ジャバジャバ…

ベルトルト(でも、気持ちよかった。まだ身体が熱っぽくて、頭の芯から腰にかけて痺れてる…)ポ~

ジャン「…早ぇな」

ベルトルト「ああ、ジャン、おはよう」

ジャン「それは…、あー、その、あれか?」

ベルトルト「うん、そう…」

ジャン「お前ってか、ライナーとお前さ、ノーマルだったんだな」

ベルトルト「?」


ジャン「憲兵が俺らの部屋を家捜しするとき、前もって俺が同室の奴らに警告してさ、」

ジャン「あんときお前らエロ本持ってないって言ってたよな?」

ベルトルト「うん」

ジャン「年頃の男ふたりが揃ってエロ本持ってない。しかもとびきり発育のいい奴らが。1冊も。普通じゃ考えらんねぇ」

ジャン「お前ら冗談抜きにマジでホモかと思った」チクチク

ベルトルト「女の子が好きだよ。僕も、ライナーも」

ベルトルト(いやらしい本に興味がないわけじゃない。一度は他の人のを見せてもらったこともある)

ベルトルト(だけど、僕はそこで大きな衝撃を受けてしまった)

ベルトルト(本の中で裸で扇情的なポーズを取って微笑む女の子。彼女がこんな境遇に身を落としたのは、)

ベルトルト(僕らが壁を破ったのが原因で、親も家も失って、貧しさから仕方なくやっているのかもしれない)

ベルトルト(生きるために、人並みの幸せを捨てて。偽りの笑顔を浮かべて)

ベルトルト(一度でもそう考えてしまったら、もう駄目だった。心が罪悪感でいっぱいになって、とてもそんな気分になれなかった)

ベルトルト(それは多分ライナーも同じ…)


ベルトルト(本能を不自然に押し込めているんだから、気がおかしくなるのも当然だ。僕ら、それが当たり前になっていて気付かなかった)

ベルトルト(今朝の夢精がめちゃくちゃ気持ちよかったのも、今まで抑圧してたものが一気に解放されたからかな…)

ベルトルト(夢の中のユミル、可愛かったな…)

ベルトルト「ユミル…」ポヤ~

ジャン(嫌みをスルーした上に、ユミルの名前を呟きやがった)イライラ

ジャン(こいつ、マルコがユミルに気があるのを知ってるくせに、見せつけるようにいちゃいちゃしやがって!)ムカムカ

ジャン「お前ら時々夜中に抜け出してどっか行くもんだから、抜き合いっこでもしてんのかと思ってたぜ」チクチク

ジャン「わざわざ時間ずらして出てって、帰ってくるときもそうだろ?」

ベルトルト「」ギクッ!

ベルトルト(それは、アニも一緒に3人で密談するためだ)

ベルトルト(抜け出してるのも、警戒して時間をずらしてるのも、知ってたのか。流石にジャンはよく見てるな。気を付けないと…)

ベルトルト「そういうときは、ふたりで故郷の山奥の村の思い出話をよくしてるんだ。ホームシック…、っていうのかな」

ジャン「そんな理由か。女々しい野郎だな」チクチク


ベルトルト「まぁね、そう思われたくないから隠れて行ってたんだ」

ベルトルト「故郷を失くしたことのない人にはわからないと思うよ」

ジャン「う…、すまん」

ベルトルト「じゃあ、洗い終わったし、僕は戻るよ」

ジャン「ああ…」

ジャン(あの存在感の希薄なベルトルトに、今、気圧されたのか、俺は…?)

ジャン(間近で上から凄まれると迫力あんな。それにしても、女ができただけで、ああまで変わんのか?)



本日は、本当にここまで。

以前ならばついキョドってびくびくしまう質問にも冷静に返せるようになった超大型巨人。

ところで、
二次性徴前に大量殺戮をして、その後性に目覚めても、
罪悪感から思春期に気軽に抜くこともできない。
そりゃ歪むわ、精神もやられるわ、と思ったゆえの産物。

そんなふたりにとって、壁が破られる前から不幸なユミクリは罪悪感を軽くしてくれる存在。

投下してから思ったが、この世界には写真技術はなさそうだ。

>>193
うん。処女じゃなかったら、奪った奴に嫉妬してぶちキレて壁壊しそうな奴だから。この話のベルトルトは。

すごくおもしろい
また見に来る



同日
昼 巨大樹の森 立体機動訓練場
訓練中

パシュッ! ガッ! キイィィィィッ! パシュッ! バシュッ!

ジャン「……」イライラモヤモヤムカムカ

マルコ「ジャン! 危ないっ!」

キース「キルシュタイン! ぶつかるぞ!」

ジャン「え? おわっ?! このっ!」

グインッ!

ジャン(ぐぅぇっ! 遠心力がきちぃ…)

パシュッ! ガッ!

マルコ(よかった。なんとか立て直した)ホッ…



訓練終了後

キース「キルシュタイン、あそこまで体勢が崩れてからの立て直しは見事だった」

キース「だが、注意力が散漫になっている。気を付けるように!」

ジャン「はい!」

キース「よし! では、全員解散! 午後からの訓練にも遅れないように!」

オワッタオワッタ キツカッタナー メシメシー
ワイワイ

マルコ「珍しいね。ジャンが立体機動訓練に集中できないなんて」

ジャン「朝からなんだかもやもやしてすっきりしねぇんだ」

マルコ「何かあったの? 話してみなよ」

ジャン「早朝にたまたまベルトルトと洗面所でばったり会ってな…」カクカクシカジカ

ジャン「…で、あのぼーっとした昼行灯ののっぽ野郎が去って以来、おかしくなったわけだ」

マルコ「ああー、それはねぇ…。うん、うん」

ジャン「ひとりで納得してねぇで、俺のこの苛立ちともやもやが何なのか、気付いたことがあんなら教えてくれ」


マルコ「じゃあ言うけど、冷静に、落ち着いて聞いてよ?」

ジャン「おう」

マルコ「それはね、無意識に見下してたベルトルトに威圧されて竦んでしまった自分にいらだってるんじゃないかな?」

ジャン「そんなことは、…あるか。あるな!」

ジャン「ああ、クソッ! そうだ! びびっちまったんだ! 認めたかねぇが!」

ジャン「だって、あんな! いつもいっつもライナーの後ろに隠れてた影の薄い根暗野郎に!」

ジャン「…止めるか。俺の性格が悪ぃのは自覚してたが、ここまでとはな。はぁ…」タメイキ

ジャン「知らずに見下してたか…。自分が嫌になるぜ…。なんだか、急に立場がひっくり返っちまったような気がしたんだな」

マルコ「苛立ちのほうは原因がわかったね。で、次のもやもやの解決策は…」

ジャン「まだあんのか?」

マルコ「こっちのほうが深刻だし、早いほうがいい。ベルトルトに謝るんだ。故郷を懐かしむ気持ちを女々しいって馬鹿にしたことを、ね」

ジャン「それに関しちゃ、もう謝ったぞ」

マルコ「気圧されて反射的に、だろ?」

マルコ「ジャンは根はいい人だけど、口がきつい」

ジャン「うるせぇ」


マルコ「でも根はいい人だから、きちんと反省して謝ったわけじゃないのが引っかかってるんだよ」

ジャン「……」

ジャン「つまり、謝りたいのと悔しさからくる反発心が拮抗して、感情の捌け口を自分からなくしちまったのが原因か」

マルコ「分析できたじゃないか」

ジャン(とにかくあいつに嫌みをぶつけてやりたくて、つい口をついてあんな台詞が出ちまったが、)

ジャン(俺も突然母ちゃんが死んでいなくなっちまったら、しかも生まれて育った場所に二度と帰れねぇとか、)

ジャン(リアルに想像するとしゃれになんねぇ)

ジャン(俺の生まれたトロスト区は訓練所から近くて、その気になれば日帰りでいつでも帰れる距離だ)

ジャン(そんな恵まれてる立場の俺が、家族も故郷も失った奴に追い打ちをかけた)

ジャン(改めて考えると、本当にひでぇこと言っちまった…)ズーン…

ジャン「マルコ、お前に相談してよかった。お前なしじゃ、ずっともやもやしてたとこだった」

マルコ「ジャンが、すっきりしてよかった。ところで、ベルトルトに対する嫌みは、もしかして僕のために怒ってくれたから?」

ジャン「う…、そうか? そうなのかも…」

マルコ「僕はもう平気」


ジャン「そういうが、お前は人が好すぎてときどき心配になんだよ」

ジャン(だから代わりに俺が怒ってやった…、そういうことか?)

ジャン「ユミルのことは本当にいいのかよ? そんなあっさり諦められるのか?」

マルコ「そりゃあ、ショックだったよ。でも、あれから一晩よく考えてみたんだ」

マルコ「僕は彼女が好きだった。もちろん付き合えれば嬉しかったけど、彼女が幸せな方がいい」

マルコ「彼女は、自分自身の幸せを求める気が希薄なような気がしたから、僕が何とかしないと、と思ってた」

マルコ「でも、こうなってみると、思い上がりと、自惚れだった気がするよ」

マルコ「ベルトルトのほうがぼくよりずっとずっと優秀だし、将来性もある」

マルコ「それに、引っ込み思案だった彼が、ユミルのために教官を相手にあそこまで言ったのを聞いては、ね」

マルコ「ユミルが彼を変えて、彼もそれに応えたんだ」

マルコ「もう僕の入り込む隙はないよ」

マルコ「僕も、ジャンのようにすっぱり諦めるよ。好きな女の子の幸せを願ってね」

ジャン「マルコ…」

ジャン「大丈夫だ。お前なら、もっといい女をつかまえられる」ポン!

マルコ「ハハッ、ユミルよりいい女の子なんて、そうそういないよ。ミカサよりいい女の子がそうそういないようにね」


ジャン「そうだな…」 

マルコ「けど、淋しいね…」

ジャン「おう、酒があれば飲みたい気分だ」

マルコ「駄目だよ、ジャン! 僕たちまだ未成年…」

ジャン「だーっ! もー、かてぇんだよ! マルコは!」



昼食後 昼休み

ジャン(さて、マルコの言ったとおり、今朝のこと、ベルトルトの奴に謝っとくか)

ジャン(あいつはどこだ?)キョロキョロ

ユミル「私はちょっと急いでんだよ! 離せ!」

ジャン(ベルトルトとユミル? 揉めてんのか? まずいとこに来合わせたか? ちょっと隠れて様子をうかがうか)

ユミル「だいたいおおっぴらにいちゃつくのは教官から駄目出しされてんだぞ! もう忘れたのか?! 夕飯の後まで待て!」

ベルトルト「だって、せっかくの休み時間だよ」

ユミル「ああ、もう、甘ったれが! ちょっとかがめ!」チュッ!

ベルトルト「」ポヤ~


ユミル「」カァァッ!

ベルトルト「」フニャ~

ジャン(うっわ! すっげぇ締まりのねぇ顔!)イラッ!

ユミル「いい子で待ってろ。な?」ナデナデ

ベルトルト「うん!」ニコニコ

ジャン「」クルッ! ズカズカズカ

ジャン(ちっくしょうっ! 絶対! 絶っ対っ! 謝んねぇっ!)



本日はここまで。

超大型犬と、リア充滅せよ! なジャン。


>>200
読んでくれて、感謝することしきり。
ベルユミも旬を越えた感があるが、レスをもらえると励みになる。


そして安定の目撃者体質のジャンも乙w
ベルユミ激減したから貴重なんで頑張ってくれ



その後
昼休み 兵舎裏

ユミル(ベルトルさんのせいで少し時間を取られちまった)

ユミル(顔が熱ぃ…)カァ…

ユミル「待たせたな、ライナーさんよ」

ライナー「おう、緊急の用事だとか…。おい、いったい何があった?! 顔が赤いぞ! またベルトルトか?!」

ユミル「まぁ、そんなところだ」プイッ!

ユミル(まともに目を合わせらんねぇ…。これから大事な話なのに、これじゃ締まらねぇ…)

ライナー「先にいっておくが、ベルトルトの暴走を何とかしてくれという話なら、俺は役に立たんぞ」

ライナー「昨夜は寝言でお前の名を呼んでいたほどだ」

ユミル「呼び出したのはそのことじゃない。超大型巨人の世話は私がみる」

ライナー「」ピクッ!

ユミル「その代わり、頼みたいことがある」

ライナー「頼み?」


ユミル「今さらクリスタを返せとかいうことじゃない。むしろ、逆だ」ペコッ

ユミル「お前にあいつを…、クリスタを任せたいんだ」フカブカ

ライナー「!!」

ユミル(クリスタとこいつを別れさせようか、それとも逆にもっと絆が深めさせるべきか、)

ユミル(決めあぐねてもたもたしてる間に、一昨日の告白で先手を打たれた形になっちまった)

ユミル(事ここに至っちゃ、しょうがねぇ。こいつの男気を見込んで、正攻法でいく)

ユミル(クリスタに対するこいつの想いがどれだけ強いかに賭ける。もうそれしか方法がねぇ)

ライナー「頭を上げろ! お前らしくもない!」

ユミル「これからお前ほどの男に生き方を曲げてくれと頼むんだ。私なんかの頭で足りるならいくらでも下げてやる」

ライナー「どういうことだ?」

ユミル「ベルトルさんから、お前が調査兵団を希望してる理由を聞いた。暑苦しいがお前らしくて立派なことだと思う」

ユミル「だがな、大切な女に安全でいい暮らしをさせてやるのも男として立派なことだ」

ライナー「つまり、俺に…」

ユミル「そうだ、憲兵になってくれ! クリスタと一緒に憲兵になって、あいつを安全なシーナの中に連れていってくれ!」

ライナー「お前…」


ユミル「一昨日、どんな危険からも守ってやるってクリスタに言ってただろ!」

ユミル「惚れた女のためにエゴイストになってくれ!」

ユミル「どうか、クリスタを頼む!」

ライナー「クリスタのことをそこまで…。…お前が守ってやるわけにはいかないのか?」

ユミル「そんな選択肢は、はなっからなしだ。この厳しいご時世に、女二人で生きたって、余裕のある生活をさせてやれるわけねぇし」

ライナー「ユミル、お前は本当にクリスタが大事なんだな」

ユミル「ああ、大事だ。だからお前を見込んで任せたい! 悪いか!」

ライナー「……」

ユミル(腕組みして考え込んだか…)

ライナー「…言いたいことはわかった。しばらく猶予をくれ」

ユミル「憲兵になるとここで約束はできないか?」

ライナー「こっちにもいろいろ事情があるんだ」

ライナー「ただ、クリスタに今のように訓練の手を抜くなと必ず説得する。憲兵になれる可能性が残るように。それだけは約束する」

ライナー「クリスタがなぜそうしているか理由は知らないが、クリスタの実力で訓練に手を抜き続けていると命が危険だ」


ユミル(やっぱり、ライナーも知らなかったのか。そうだとは思った)

ユミル(こいつのおかたい性格からして、将来一緒に調査兵団へ入る約束を取り付けて、ふたりで示し合わせて訓練から手を抜くとしたら、)

ユミル(まずは先にプロポーズしてるはず…)

ユミル(つまり、クリスタが手を抜くことを思いついたのは、時系列からいって、ライナーがそうしているのを見て、なんだろうだが、)

ユミル(クリスタはライナーとは直接関係なく、独自の判断で手を抜いてるってことだ)

ユミル(そうなると、あそこまで頑なになるクリスタの理由は何だ…?)



本日はここまで。

補足:
ユミルが「超大型巨人」と言った際のライナーの動揺は、ユミルが目をそらしていたので気付かれていない。

実は、昨日からライナーは手を抜かずに訓練を受けているが、昨日一日ベルトルトにまとわりつかれていたユミルには、
それに気付く余裕がなかった。


次からはしばらく別方面の話になる。
クリスタの目的が明かされるのは、当分先だ。


>>210-211
一般人枠、常識人枠のジャンマル。マルコはぐう聖。
俺もベルユミ読みたいわ。



過去
3日後 兵站行進訓練道中
ライナー班

シトシトシトシト…

ザッザッザッザッ…

ライナー班の面々「」ハァハァ… ハァヒィ…

ライナー(全員辛そうだな。100kgの荷物を背負ってひたすら歩くこの訓練のたびに多くの脱落者が出るから、無理もない。おまけに、この雨…)

ライナー(行程ももう4分の3を過ぎた。ここまで順調に来たし、少しペースを落とすか…)

───ガサガサッ!

ライナー(何だ? いきなり脇の茂みから誰かが飛び出してきた?! 俺たちと同じフード付きの上着…、訓練兵か?)

ユミル「よう、ライナー」

ライナー「ユミル?!」

ユミル「しっ! 声がでけぇよ」ヒソヒソ

ライナー「お前はたしか、ふたつ前に出発した隊だろう? こんなところで何をしてる?」

ライナー「教官にバレたらどうする? ただじゃすまんぞ?」


ユミル「」チラッ

ユミル「後ろの奴ら、皆、疲れ切ってる。先頭を歩くお前の前に回り込んで私の顔をのぞき込む余裕のある奴なんかいねぇよ」

ユミル「誰だかわからなけりゃ、私を咎めることもできねぇ。だから、大丈夫だ」

ライナー「それを見越して、こんなときにわざわざ話をしに来たのか?」

ユミル「まぁな。わたしにとってはそのくらい重要な用件だ」

ユミル「で、その用件だが…、どういうこった?! ライナーさんよ!」

ユミル「お前が真面目に訓練に取り組むようになった。それはいい。お前が憲兵になる気になってくれたことはありがたい」

ユミル「だが、クリスタは相変わらず手を抜いてやがる!」

ライナー「知らん! 懸命に説得はしている。だが、聞き入れてくれんし、訳を教えてもくれん。本当に訳が分からないんだ」

ユミル「てめぇ、それでも彼氏か! そのくらい聞き出せ!」

ライナー「仕方ないだろう! お、お、おん、おん、」

ユミル「『おん』、なんだよ? はっきり喋れ!」

ライナー「『女の子の日だから』と言われてしまっては、俺にはそれ以上つっこんで聞けん」カアァッ!


ユミル「はあ? 精力むんむんな見た目のくせにえらい純情だな。まるで、茹…」

ユミル(あぶねぇ、思わず『茹でダコ』って言いそうになっちまった)

ユミル「あー…っと、そんなこっちゃ、いざクリスタとヤるとき、入れる前に目ぇ回して卒倒するんじゃねぇ?」

ライナー「女がそういうことを言うな!」カアァッ!

ユミル「ますます赤くなって、まぁ…。お前、色が白いからわかりやすいなぁ」

ライナー「……」プシュー…

ユミル「わかった。もう私のほうからあいつに直接問いただしてみる」

ライナー「できるのか? 今までにもさんざんはぐらかされてきたんだろう?」

ユミル「あいつ確かに頑固なところはあるが、今度ばかりは吐くまで眠らせねぇつもりで尋問してやる」

ユミル「じゃあな。私は戻る」

ライナー「今から間に合うのか?」

ユミル「同じ隊にダズがいるおかげで、私の隊は遅れ気味で、お前の隊はペースが早い。幸いにもそれほど離れてないんだ。これから急げば充分追いつける」

ライナー「女の足では無理だ。それより、俺たちと一緒にペースを守って行ったほうがいい。制限時間を越えた分、評価は下がるが…」

ユミル「心配してくれてありがてぇが、クリスタも同じ隊にいるんだ。あいつがわざと脱落して評価を下げないように見張ってなきゃなんねぇ」

ユミル「それじゃあな!」



本日はここまで。

多少話を入れ替えても大丈夫だと気付いたので、クリスタの目的は次回。

おつ!

100kgの荷物ってとこでライナーはともかく
軽量な訓練兵の方々が荷物に潰されてないか心配になったw
続き待ってるよ



訓練所帰還後
夕食前 戸外

ユミル(そんなこともあるかとぼんやり予想してたことが、現実になっちまった。クリスタの奴、わざと脱落しようとしやがった)

ユミル(後ろから追いついた私が気付いて急き立てなきゃ、多分そのまま本当に脱落するつもりだった)

ユミル(なんとかクリスタも、疲労困憊で遅れてたダズも、時間内にゴールさせて、クリスタ個人の評価も、班としての評価も、今回は傷が付かずにすんだ)

ユミル(クリスタの実力じゃ、これから努力してマイナス分を取り戻すにしても、もう一刻の猶予もない…)

ユミル「これから私が何を言いたいか、わかってるよな?」

クリスタ「うん…。ユミル、わかってる」

ユミル「今日こそは理由を聞かせてもらうぞ。どうして手を抜くのか。それでいて、訓練自体をまるまるサボるようなことはしない理由も」

ユミル「それから、以前のお前なら、遅れるダズを励ましてなんとか時間内にたどり着くように頑張ったはずだ」

ユミル「困ってる人間は見捨てられない、いい子ちゃんのお前がどうして…」

クリスタ「私はいい子じゃないよ。もう…、自分が幸せだと思う生き方を貫くことにしたの」

ユミル「だったら、なおさらライナーと憲兵になれ。あいつならお前を必ず幸せにしてくれる」

クリスタ「…やっぱり、口ではなんと言ってても、ライナーと私が付き合うのを望んでいたんだね」

ユミル「…ああ、そうだ」


クリスタ「今までずっと本心を隠して、私のために、自分に自信のない私がいつもみんなの中心にいるライナーと付き合えるように遠回しに励ましたり、」

クリスタ「ふたりで会えるようにしてくれてたんだ?」

ユミル「認めるよ」

クリスタ「そうなんだ。そうだったんだ。全部私のためだったんだ…。ユミルは優しすぎるよ…」

ユミル「なぁ、まだ間に合う。これから死にものぐるいで努力すりゃ10位内にもぐりこめる」

ユミル「ライナーだって、おまえのために主義を曲げてまた全力で訓練に取り組むようになったんだ」

ユミル「クリスタ、憲兵になれ。お前のことはライナーが守ってくれる」

ユミル「なのに、どうして手を抜くんだ?! どうしてだよ?!」

ユミル(やっぱり怖いのか? 中央へ行くことが? 命を狙われるかもしれないことが?)

クリスタ「その質問に答える前に、ユミルが答えて。ユミルはベルトルトのことが好きよね?」

ユミル「は? いったい、ベルトルさんに何の関係があるんだ?」

クリスタ「ねぇ、好きよね? 告白されたとき、あんなに真っ赤になって女の子の顔になってたんだもんね?」

クリスタ「嬉しかったんだよね? その後だってラブラブで、だから、憲兵を目指してるベルトルトと離れたくないよね?」

クリスタ「ずっと一緒にいたいよね? ね? 今のままだと、卒業と同時に離ればなれになっちゃうよ!」

ユミル「お前、まさか…」


クリスタ「ユミルも憲兵を目指してよ! ねぇ、いいでしょう? ユミルが本気を出せば、10位以内なんて簡単に入れるじゃない!」

クリスタ「そうしたら、私も…、私も憲兵になれるように頑張るから! ユミルとずっと一緒にいたいの!」

ユミル「そんな理由だったのかよ。別に私なんかいなくたって、お前にはライナーが…」

クリスタ「ライナーのことは大好きだけど、最悪離れることになっても諦めが付くもん! でも、ユミルとは絶対離れたくない!」

ユミル「くだらねぇ。んなことに将来を棒に振るかもしれねぇ賭けをするほどの価値があんのかよ」

クリスタ「くだらなくなんかないよ! とってもとっても大事なことなの!」

クリスタ「私はね! 私の命よりユミルが大事なの!」

クリスタ「それをわかってほしくて、あんなことしたの!」

ユミル「だとしても、遠回しすぎるわ…」

クリスタ「だって、憲兵になってとストレートにお願いしても、ユミルは聞いてくれなかったでしょう?」

ユミル「ああ、そりゃ、まぁ確かにな…」

ユミル(性に合わないとかなんとか適当な理由つけてごまかして、一蹴してたな…)

クリスタ「だから、私の覚悟を先に示さないと。でもどうやったらいいかずっとわからなかった」

クリスタ「そんなとき、ライナーが手を抜き始めて、その方法があったんだ! って思いついたの」

ユミル「で、うまくいかなかった場合は、私と一緒に調査兵団に入るつもりだったと?」


クリスタ「」コクン

ユミル「その計画には穴があるぞ。私は駐屯兵団に入る。誰が好き好んで命がいくつあっても足りねぇ調査兵団にいくかよ」

ユミル「駐屯兵団はどの区に配属されるかわからねぇんだ。お前も駐屯兵団を希望したって、分かれちまう確率のほうがずっと高いんだぞ」

ユミル「どっちにしろばらばらになるんだ。一緒にいられる方法はない。駄々こねてねぇで、お前は憲兵を目指せ」

クリスタ「まだ、方法はあるよ。そのときは、私、兵士を辞める。そして、ユミルが配属された区で仕事を探すもん!」

ユミル「馬鹿っ! そんなの認めねぇぞ!」

ユミル(みすみす不幸になりにいくようなもんだ…!)

ユミル「」ハッ!

ユミル(こいつ、それも含めて、捨て身になって、私を説得しようとしてんのか)

ユミル(そこまで私のことが大事なのかよ。こんなクソ女に…)カァ…

クリスタ「ユミル、顔赤いよ?」

ユミル「…お前の気持ちも覚悟もよくわかった」

クリスタ「じゃあ…」

ユミル「だが、その話は保留だ」


クリスタ「どうして? ユミルも憲兵になろうよ。約束してくれないの?」

ユミル(そう簡単じゃねぇんだよ。私が10位内に入っても、クリスタが弾き出されちまえば、これまでの苦労が水の泡だ)

ユミル「とにかく、お前は本気出して訓練に取り組め」

ユミル「これ以上ごねると、明日から口きいてやらねぇからな!」

クリスタ「」ムゥ~

ユミル(ふくれっつらしやがって。…クソ可愛い、天使だな)

クリスタ「わかった、明日から真面目に訓練を受ける。でも、ユミル、これだけは覚えておいて!」

クリスタ「私は、ユミルが幸せになるのを見届けるまで、絶対ユミルから離れるつもりはないんだからね!」



付近の物陰

女教官「……」



本日はここまで。

「ユミルを幸せにし隊」隊長なクリスタ。

>>221
担ぎ屋は200kgの荷物でも運んだそうで、兵士の訓練ならと思ったが、
力は足りてるとしても、成長期の身体には確かに悪そうだな。


待ってる人がいるかわからんが、今後の予定。

>>220で「話を多少入れ替えても大丈夫」が大丈夫じゃなかった。
ので、書き直して>>226の時点までを一気に投下する予定。

要するに、>>217以降をなかったものとしてくれ。

気を張りすぎてエタらないよう肩の力を抜いて取り組むつもりだったが、
そうすると納得いかない出来になって、かえってモチベーションが下がるのに気付いた。

まだ時間がかかる。


今後は、1日か2日前に投下予告をする。
ある程度の区切りまで完成させるとなると、自分でもどの程度かかるかわからんので。
後から付け足したくなってしまうんだよな。

というわけで、まだかかる。


1日か2日後に投下する。

正確には、48時間以内のまとまって時間が取れそうなときだ。
忙しい上に、大量投下なんで。

投下する。

>>215からの続きになる。

前にも書いたが、>>217-226はなかったことにしてくれ。



過去 訓練兵時代

翌日の休日
朝食後 食堂

ワイワイガヤガヤ…

アルアニ雑談中…
エレミカ勉強中…

アルミン「…で、壁の外の世界に行きたいって話すたびに、いじめっこたちに囲まれて、」

アルミン「『お前みたいなチビで弱い奴にそんなことできるわけない』って小突かれたり叩かれたりしてね」

アニ「本当に弱い奴ほどよく群れるもんだ。でも、大勢に圧されても自分を曲げないあんたはえらいよ。全然弱くなんかない」

アルミン「そ、そうかな?」テレテレ

ミカサ「エレン、そこはそうでなくて、こうなる。ので、こっちを選ぶ」

エレン「毎度毎度、お前の教え方わかりづれぇよ。もういい、アルミンに教えてもらう! お~い、アルミン!」

ミカサ「アルミンは駄目。アニと話してる。ので、邪魔をしてはいけない」

エレン「あ、そうか…」

アルミン「呼んだ?」


エレン「いやいや、なんでもねぇよ」

アルミン「そう? ごめんね、アニ。話を中断しちゃって」

アニ「ううん、気にしないでいいよ」

アルミン「でね、いつも僕がいじめられてるとエレンが飛んできて助けてくれるんだ」

アルミン「遠くからでも全速力で駆けつけてくれて、自分より大きい相手に躊躇なく立ち向かっていける。羨ましかったよ」

アルミン「まあ、半分以上はミカサがやっつけるんだけどね」

アルミン「ミカサは何でもできてすごくてね。僕らが通ってたシガンシナ区の学校でも…」

アニ「……」

ミカサ「アニ、聞いてるだけだけど、嬉しそう。あんな穏やかな表情、はじめて」ヒソヒソ

エレン「アルミンのやつ、この間の休みから、急にアニと親しくなったよな」ヒソヒソ

エレン「なぁ、アルミンの本を預かったのはアニだと思うか?」ヒソヒソ

ミカサ「私もそう思う。でも確かめようのないこと」ヒソヒソ

ミカサ「それに、エレン、アルミン以外に教えなかったユミルの気持ちを汲んで、」ヒソヒソ

ミカサ「これ以上この話をしてはいけない。誰が聞き耳を立てているかわからない」ヒソヒソ

エレン「ああ、いろんな奴にいっぱい迷惑かけちまったもんな。本当、あんときは命拾いしたぜ。ユミルに感謝だな」ヒソヒソ


エレン「それにしても今さらながら壊滅的な国語力だよな。お前、レポート課題とか大丈夫なのかよ?」

ミカサ「心配ない。話すのと書くのは別。書き言葉は時間をかけて推敲できる。ので、問題ない」

エレン「本当か?」

ミカサ「実は、兵団に入ってすぐのレポート課題は真っ赤に添削されて返ってきた」

ミカサ「ので、それからしばらく、アルミンに特訓してもらった」

エレン(あ、少し赤くなった…。こいつ、可愛い…)

エレン(ミカサは側にいて当たり前で、時にはうっとおしく感じちまうこともあったけど、)

エレン(俺たちが捕まったとき、独房に通って俺たちを励ましてくれた)

エレン(そうなんだよな。ミカサは何でもできて、思いやりがあって、美人で、すごい女なんだ)

エレン(あれ以来、かえって完璧超人すぎて側にいるのが俺なんかでいいのかと思うときもある)

エレン(けど、他の奴に渡したくないって気も同時にするんだ)

ミカサ「エレン?」

エレン「あ、あぁ、次の問題だったな。この状況でのガスを吹かすタイミングはどっちか」

ミカサ「それはA…。待って、男子と女子では耐G能力が違うからタイミングが少し異なる…、と習った気がする」

ミカサ「そうなると、男子の場合、B…。でも、確かでない」


エレン「へぇ、お前にもわからないことがあるんだな」

ミカサ「立体機動装置は細かい男女差がかなりたくさんある。成長期のベルトの締め方もそう」

エレン「男は急に背が伸びるもんな」

エレン「夜中に寝てるとさ、骨が急に伸びる成長痛で痛てぇ痛てぇ呻いてる奴とかいたな」

ミカサ「エレンが私の知らないところでそんな苦しみを…!」

エレン「俺はねぇよ! 目ぇ剥いて思い詰めた顔すんな!」

ミカサ「よかった。苦しんでるエレンはいなかった。安心した」

エレン「伸びねぇのかなぁ、俺」

ミカサ「イェーガー先生も背が高かった。きっとエレンは伸びる。これから」

エレン「ま、立体機動と対人格闘のためには今の体格がベストの気もするな」

エレン「立体機動はリヴァイ兵長のように小柄なほうが有利だし、対人格闘は相手の懐に潜り込みやすい利点があるし」

ミカサ「エレンはそのままでいい」

エレン「お前、俺次第でどっちでもいいんだろ!」

ミカサ「エレンがいちばんいいのが、いちばん正しいこと」

エレン「まったく、お前いつもそうだよな。…それより、さっきの問題は、結局わかんねぇんだな」


ミカサ「わからないことはアルミンに聞こう。アルミン、ちょっとこっちへ…」

エレン「何やってんだよ!! アルミンたちの邪魔はダメだって、自分で言ったのに忘れたのか?」

ミカサ「わ、私にもわからない。つい口から出てしまった」アセアセ

アルミン「どうかした?」

エレン「なんでもない。なんでもない」アタフタ

ミカサ「そう、なんでもない」アタフタ

アルミン「?」

エレン(あの冷静沈着なミカサがパニくってる。どうしたらいい?!)

ミカサ(ああ、エレンが心配してる。早く落ち着かなくては…。でも、この動揺がどうしてなのかわからない)

エレミカ((どうしよう、こんなときは…))

エレミカ「「アルミン!!」」

アルミン「え?!」ビックリ

アルミン「やっぱり、僕に何か用があるの? というか、ふたりして何か慌ててる感じだけど、大丈夫?」

エレン「いや、違う。大丈夫じゃないけど、こっちは大丈夫だ!」

ミカサ「そう! 大丈夫じゃないけど、問題ない!」


アルミン「言ってる意味がよくわからないよ」

エレン「とにかく大丈夫なんだ!」ガタッ!

ミカサ「そう、大丈夫!」ガタッ!

アルミン「え? ちょっと? ふたりとも、別々にどこ行くの?」

アルミン「あっという間に出て行っちゃった…。わけがわからないよ」

アニ「…ふぅ、アルミン、ふたりのところへ行ってやりな」

アルミン「えっ、あっ! ご、ごめん! なんか…」

アニ「気にすることないよ。気を悪くしたわけじゃない。今はふたりがあんたを必要としてるんだ。話を聞いてやりな」

アニ「私との話の続きはまた後で聞かせてくれればいい」

アルミン「う、うん、ごめん。また後できっと…」タタタ…

ユミル(あーあ、見てらんねぇな)



その後
食堂 出入り口付近

ユミル「よぅ、アニ。なんだか残念だったな。せっかくアルミンといい雰囲気だったのに」

アニ「別に…」

ユミル(平気そうなふりしてても、内心かなりしょぼくれてるな)

ユミル「エレンもミカサも、しょうがねぇな。いつまでもアルミンと3人で仲良しこよしのつもりでよ」

ユミル「せっかく可愛い彼女ができそうなのに、アルミンも迷惑なこった」

アニ「彼女なんて…。私はアルミンとそんな関係になる気はないよ」

ユミル「なんでだ? お前ら好き合ってんだろ?」

アニ「…アルミンもさ、自分のことを話していても、いつの間にかエレンとミカサの話になってるんだ。多分本人も気付かずに」

アニ「どれだけエレンが勇気があってすごいか、ミカサが強いか、って」

アニ「あのふたりのことを、まるで自分のことのように誇らしげに話すんだ」

アニ「あの3人の間に私が入り込む隙なんて元々ないんだよ」

アニ「私は…、今のままで十分満足だよ」

ユミル「それは勘違いだと思うぞ。むしろ、逆だ」


アニ「え?」

ユミル「あいつらは3人で精神のバランスを取ってんだ。シガンシナ区が破られて以来、肉親を亡くしてずっと支え合ってきた」

アニ「……」

ユミル「生半可な絆じゃねぇんだ。言ってみりゃ、3人でひとりの人間なんだ」

ユミル「けど、もう15だ。離れなきゃならねぇのは、皆薄々わかってるはずだ」

アニ「お前の存在は、きっかけにちょうどいいかもな」

ユミル「それにな、エレンも牢から解放されてから、ミカサを女として意識しだしてる。前ほどミカサを邪険にしなくなった」

ユミル「それでも、エレンがミカサと素直にくっつくのを躊躇してるのは、アルミンを仲間外れにするようで気が引けるんだろ」

ユミル「ミカサもそうだ。エレンとうまくいきそうになると、無意識にアルミンを引き入れて、以前と同じ関係を保とうとしてる」

ユミル「けど、アルミンがお前とうまくいくのを願ってもいるから、自分の気持ちが分裂したみたいに感じて、動揺したんだ」

ユミル「ことによっちゃ、ミカサのほうが深刻だな、ありゃ」

ユミル「な? もう少しだけ、待ってやれ。そうすりゃ、きっとうまくいく」

アニ「……」

アニ「…どうして、そこまで親身になってくれるんだい?」

ユミル「うん、まぁ、ぶっちゃけると下心あり、だ」


アニ「だと思ったよ。あんたが無償で何かをするとは思えないから。何を企んでるんだい?」

ユミル「理由は言う。別に隠すことでもねぇし。あー、つまりな…」

ユミル「ついこの間まで、ベルトルさんがお前を見てたから、さ。それも、入団以来ずっとだったろ?」

アニ「…はぁ?」

ユミル「もし、これから先、お前の気がベルトルさんに向いたら、私じゃとても敵わない」

ユミル「私は小さくも可愛くもないからな。地黒だし」

ユミル「というわけで、アルミンとくっついてほしいと。…まぁ、そういうわけだ」

アニ「つまり、ベルトルトを私に取られる可能性を無くすためってこと?!」

ユミル「身も蓋もなく言うと、そうなるな」

アニ「は、ははっ! 意外に乙女なんだね! ユミル! あんたが!」

アニ「あはははははっ!」

ザワザワッ!

ナンダナンダ?! アノアニガバクショウシテル?!

アニ「それじゃ、なに? この間ベルトルトをお得な物件だとかすすめてきたのは、私がベルトルトに気があるかどうか探ってたんだ!」


アニ「おかしいと思ってたんだ。あんたらしくもなく私とエレンの口ゲンカに首を突っ込んできたり、」

アニ「その後、変に恋愛話に持っていったり。それが目的だったんだね?!」

アニ「あんた、あの頃からベルトルトのことが好きだったのかい?」

ユミル(探ってたのは事実だが、理由は違う。…でも、まあ、いいか。ベルトルさんとはまじめに付き合ってみると決めたんだし、)

ユミル(端から見る分には、どのみち大差ねぇ)

ユミル「」コクン

ユミル(ヤベッ! うなずいてから、猛烈に恥ずかしくなってきた)カァァッ!///

アニ「そうなんだ!! あははははははっ! 顔、赤くしちゃって! あんたこそ可愛いよ! そんな心配する必要なんか、ちっともなかったのに!」

ユミル(よく考えると、これじゃまるで私がベルトルさんにぞっこんみたいじゃねぇか!?)マッカッカッ!

アニ「ああ、こんなに思い切り笑ったのは、何年ぶりだろ。おっかしいったら! あはっ、あはははははっ!」

アニ「止まらない! ああ、苦しいっ! あははははははははっ!」

ユミル(堰を切ったように笑ってる。やっぱアニの奴、元々無感動じゃなくて、感情を殺してたんだな)

ユミル(友達も作らねぇで女ひとり張り詰めて生きてたのがわかる)

モブ1「おいおい、アニってあんなに可愛かったか?」ヒソヒソ


モブ2「おお、クリスタにも引けを取らねぇぞ」ヒソヒソ

モブ3「アニタンカワイイ…」ポー…

モブ4「天使…」

アニ「あっははははははははははっ!」

ユミル(アニは笑ったほうが可愛い顔してる。周りの男ども、見蕩れてるな)

ユミル(いつもは仏頂面でも顔立ちは整ってるし、近寄りがたい雰囲気が消えれば、当然そうなるか)

ユミル(涙まで滲ませて笑って…)

アニ「あはは…、はぁ…、ユミル、ありがとう」

ユミル「いや、私は礼をされるほどのことはしてねぇよ」

アニ「いいんだ。言わせてよ」ニッコリ

ユミル(晴れやかな、いい表情だ。…マジ可愛い!)ドキッ!

アニ「それじゃ、あんたたちも頑張ってね」

ユミル「あ、ああ…、じゃあな」

ユミル(アニ、本当に可愛いなぁ。私、クリスタに限らず、金髪と青い瞳に弱ぇのかな…)

ユミル(さてと、次は幼なじみ組だ。アルミンはミカサを追ってったから、私はエレンのほうだな)



その後 戸外

ユミル「おーい、エレーン!」

エレン「なんだ、ユミルか。アルミンならよかったのに」プイッ!

ユミル「ひでぇ言いぐさだな。アルミンはミカサのほうに行ったから、私が来てやったってのに」

エレン「ああ、ちくしょうっ! また、『アルミン』!」

エレン「アルミン、アルミン、て。俺はどんだけ情けねぇんだよ!」

ユミル「そう荒れんな。膝抱えて頭かきむしってねぇで、少し落ち着け」

エレン「わけがわかんなくて、落ち着いてらんねぇよ! 俺も、ミカサも、アルミンに頼りっきりだ!」

エレン「パニくってるミカサにかける言葉ひとつ、自分じゃ考え出せねぇでよ!」

ユミル「エレンよ、アルミンに頼りっきりだったと自覚できただけでも進歩じゃねぇか」

エレン「そんなこといっても、自分が情けねぇんだよ!」

ユミル「そこはひとつずつ段階踏んで自立すりゃいい。いきなり大人になれる奴なんていねぇ」

ユミル「お前らはまだ15だが、もう15だろ?」

エレン「……」


ユミル「で、単刀直入に聞くが、どうなんだ? ミカサのことは?」

エレン「!! 俺がミカサをどう思ってるかなんて、お前に話す義務はねぇよ!」

ユミル「エレンよ、自分が思春期真っ盛りの小僧だってことをまず受け入れろ」

ユミル「その上で、ミカサとの関係が変わることも受け入れなきゃ、この先アルミンに頼りきりの状態は続くぞ」

ユミル「ガキのまんまの居心地のいい関係に浸っていたいってんなら、止めはしねぇけどな」

ユミル「実際、そうはいかねぇだろ? アルミンにはアニがいるんだ」

エレン「う…」

ユミル「どうなんだよ。ミカサをどう思ってるんだ?」

エレン「ミカサは俺の家族で…」

ユミル「そういうことはいい。女として、どう思ってんだ?」

エレン「それは…、他の女より形のいい顔とは思ってたけどさ」

ユミル「じゃあ、可愛いとは昔から思ってたんだな」

エレン「そうじゃないんだ。可愛いとか、綺麗だとか、大人たちからはよく誉められてたけど、」

エレン「シガンシナ区にいた頃は、俺らガキの間じゃそんな話題出なかったし、ミカサが可愛いってことが、最近までピンとこなかったんだ」

ユミル「はぁ? あんだけの美人前にして、ガキどもが騒がないなんてあるか?」


エレン「けど、そうだったんだよ」

ユミル「告ってきたり、手紙を渡そうとする奴なんかも?」

エレン「いなかった」

ユミル「そんなはず…。ああ、そうか、ミカサが自分たちより強いとわかると途端に引いちまうんだな?」

エレン「後から考えると、そうだったんだな。逆に悪態ばっか吐かれてたよ。ミカサは全然気にしてなかったけど」

ユミル「まったく、男ってのはどうしてそうくだらねぇプライド持ってるもんかね」

エレン「けど、ジャンだけは違ったんだ。あいつは、ミカサが強かろうが、自分より遙かに優秀だろうが、」

エレン「そんなミカサの全部を認めて、その上で好きだったんだな」

エレン「憲兵に掴ませた囮の本にミカサに似た女の裸が載ってるって知ったときは、」

エレン「俺の家族をいかがわしい目で見やがって! って頭がカーッときちまった。今でもぶん殴ってやりたいほど腹が立つ!」

エレン「けど、少し気持ちも分かるんだ」

エレン「そう考えると、あいつはあいつで大事なもんを俺とアルミンのために犠牲にしてくれたんだって思えるようになった」

ユミル「男としての部分で共感したんだな」

エレン「ミカサは強いから、男に相手にされない。だから、他の男に取られるわけねぇって、心のどこかで安心してた」

エレン「このままずっと家族のままでいられるって」


ユミル「ところが、ジャンの想いの深さを知って気持ちが穏やかでいられなくなったわけだ」

エレン「ああ…」

ユミル「けど、ジャンがミカサにアプローチし出したわけじゃなく、むしろ逆だろ。お前に譲るような態度取ってるぞ」

エレン「だからだよ。あいつが嫌みやつっかかってくんのを止めて、あからさまに俺にミカサを任せるって態度を取るようになってから、」

エレン「本当ならジャンのほうがミカサを大事にできたんじゃないか、」

エレン「そのジャンから任せられた分、俺は責任もってミカサを幸せにしてやる義務があるんじゃないかって考えるようになって…」

エレン「だけど俺は、死に急ぎ野郎なんて仇名されるような馬鹿で、壁の外への夢は捨てられない」

エレン「なのに、前みたいに世話を焼きすぎるミカサをうっとおしく思うことも邪険に突き放すこともできなくなってて…」

エレン「…俺はミカサと離れたくねぇんだ」

ユミル「それだけか?」

エレン「ずっと側にいてほしい…」カァァ…

ユミル「素直になったもんだ。ミカサにも聞かせてやれ、その台詞。きっと喜ぶぞ」

エレン「言えねぇよっ!」

ユミル「……」

エレン「壁の外なんかに連れ出したら、きっといつかミカサは俺のために死んじまう!」


エレン「俺をかばって、ひとことも俺を責めずに、文句も言わずに死んじまうんだ!」

エレン「自分の命が終わるときまで、俺のために我慢させるなんて、そんなのたまらなく嫌なんだよ」

エレン「母さんがそうだった! 俺を逃がすために、巨人と戦おうとするハンネスさんを止めて、喰われて死んでいったんだ!」

エレン「喚いて、泣き叫んで、生きたいって、助けてくれって、身も蓋もなく騒いでほしかったんだ!」

エレン「……」ハァハァ…

ユミル「…なぁ、エレン、そうは言ってもミカサはお前のために死ぬぞ」

エレン「そうだよ! 絶対そうするってわかってるからどうしたらいいのかわかんねぇんだよ!」

ユミル「お前がミカサをどうしたいかは関係ない。ミカサ自身がどうしたいかだろ?」

ユミル「ミカサにも自分の意思があるんだ」

ユミル「お前が、ジャンや他の奴らみてぇに命が惜しくて内地勤務の憲兵を目指すような奴じゃないように、」

ユミル「ミカサも自分の命惜しさにお前から離れるような女じゃねぇんだ」

ユミル「お前のためならどこにだって駆けつけるし、なんでもするだろうさ」

ユミル「お前らが捕まった独房に通い詰めて、お前とアルミンを励まし続けたり、」

ユミル「評価に傷が付くこともかまわずに教官たちに嘆願したようにな」

ユミル「ミカサの意思を尊重しろ。本当にミカサが大事ならな」


エレン「ミカサの意思…」

ユミル「それに、だ。外の世界に出たいお前の相手は、並の女じゃつとまらねぇ」

ユミル「広い世界を駆け回るには、ミカサは最高のパートナーだと思わねぇか?」

ユミル「なにより、大好きなミカサに、お前の知らないところでいつの間にか死なれるほうが嫌だろ?」

ユミル「ミカサが死ぬときは、お前のいちばん近くで死なせてやれ」

ユミル「お前が夢を諦められないなら、それがお互いにとって、いちばん悔いのない方法だ」

エレン「…ベルトルトが羨ましいな」

ユミル「は?」

エレン「好きとなったら、まっすぐでさ。食堂でお前に告って以来、それまでの自分なんか簡単に捨てちまった」

ユミル「いやいや、なんでベルトルさんの話になるんだよ?!」

エレン「飛び抜けてでかいのに影が薄くてさ、いつでもいるんだかいないんだかわかんない奴で、」

エレン「なんでもできるくせに、なんでもライナーがいないとひとりで決められなくて、」

エレン「ときどき何かの拍子にキョドったりしてて根が臆病な野郎だって、正直みくびってた」

エレン「そんな奴が、教官に盾ついて反論したりして」


ユミル「まぁ、あれには私も驚いた」

エレン「お前と付き合いだして以来、ついこの間まで病人一歩手前みたいに憔悴してたのが、」

エレン「別人みたいに堂々としだして、生き生きしてる」

エレン「寝相もマシになって、同じ部屋の俺たちも起こされることなくなったんだ」

ユミル「まさか、あそこまで変わるとはなぁ」

エレン「ユミル、お前だって変わったぞ」

ユミル「私が?」

エレン「クリスタ命で、男との色恋沙汰なんて鼻で笑い飛ばしそうな奴だったのに、」

エレン「なんのかんの口では言いながら、ベルトルトの全力を受け止めてさ」

エレン「好きとなるとお互いのためにそこまで変われるんだと思うと、羨ましいぜ」

ユミル(端から見てると、私はそんなにベルトルさんのことが好きそうに見えるのか)

ユミル(いや、見えるだけでなくて、きっとそうなんだろうな)

ユミル(これまで男を好きになった経験がないからわかんねぇだけで)

ユミル(理屈抜きでベルトルさんのことはなんだか放っておけねぇし、)

ユミル(わふわふじゃれついてくる人なつこい大型犬みたいな可愛いさがあるし)


ユミル(認めるべきなんだろうなぁ…)

エレン「そういえば、今日ベルトルトは?」

ユミル「ん? ああ、ベルトルさんはライナーとそろって教官の手伝いだ」

ユミル「なんでも人手が足りなくて、明日の立体機動訓練のために、訓練場に巨人の模型を設置するとかなんとか」

ユミル「ガタイが良くて力もあるもんだから、教官たちにいろいろ便利に使われてるみてぇだ」

ユミル「休みなのに、ご苦労なこった」

エレン「俺もせめてあいつらぐらいになりてぇな」

エレン「他の訓練兵に設置場所を漏らす心配がないって教官から信頼されてるわけだし、」

エレン「模型を仕留めるのを他の誰かに譲ったところで、あいつらの2位と3位は揺るがないってことだろ?」

ユミル「まぁ、アニを含めて、4位以上は飛び抜けてるからなぁ。人外に片足突っ込んでるレベルだ」

ユミル「お? 噂をすれば、あそこに見えるのはベルトルさんとライナーか。終わって帰ってきたんだな」

ベルトルト「ユミルー!!」

エレン「ベルトルトが飛ぶように走ってくるぞ。すっげぇ速えぇ…」

ユミル「手伝い、おつかれさん…、うわっ!」

ベルトルト「どうしてこんな人気のない場所にエレンとふたりっきりでいるんだよ?!」ヒョイ!


ユミル「人を軽々しく持ち上げるな! おろせよ、もう!」

ベルトルト「だって、軽いから。大丈夫だよ、教官は見てないよ」

ユミル「そういう問題じゃねぇ!」ジタバタ!

ベルトルト「それより、エレン、ユミルと何してたの?」

エレン「ミカサのこと相談してたんだ。聞いてもらって頭の整理がついたし、いろいろぶちまけてすっきりした」

ベルトルト「そうなんだ。頑張ってね。あ、ミカサとうまくいかなくても、ユミルはあげないよ」

───ゾクッ!

エレン(何だ…? 背すじがブルッた…? 今、凄まれたのか?)

ユミル「ていっ!」ペシッ!

ベルトルト「痛た…。なんで突然叩くの?」

ユミル「お前さ、ただでさえ、でけぇんだ。近頃、前と比べて少しはシャンとしてる分、無駄に威圧感も増してんだぞ」

ベルトルト「僕、そんなつもりないよ…」

ユミル「そのつもりがなくても、凄んでるように見えるんだよ! さっきみたいにな!」

ユミル「自覚がないなら、余計に気を付けろ! このままじゃ無駄に敵を作んぞ!」


ユミル「ほらみろ、エレンだってびびって…。おい、エレン! 棒立ちになっちまって、大丈夫か? 顔面が白いぞ!」

ベルトルト「ごめん! 本当に悪気はなかったんだ。ほんの少し釘を差すつもりだっただけで」アタフタ

ユミル「やっぱり凄んでたじゃねぇか! 二度とするなよな!」ペシッ!

ベルトルト「それほど睨んだりしてないよ! それほどは!」

エレン「いや、そんなびびってねぇから、気にすんな」

エレン(…嘘だ。この感じは、前にもあった…)

エレン「ユ…ミル…、お前…」

エレン(そいつの傍にいて平気なのか? …どうして、こんな言葉が浮かぶ?)

エレン(駄目だ。急に喉が乾いてくっついちまって、うまく声が出ねぇ)

ユミル「他の奴にもやってねぇだろうな!」

ベルトルト「う…、実は前にジャンに…」

ユミル「やったのか?!」

ベルトルト「だって、僕とライナーがホモだって当てこすってくるから、つい!」

ベルトルト「もうしない! 二度としない! 誓うよ!」

ユミル「本当か?!」


ベルトルト「うん、僕のこと心配して言ってくれてるんだよね?」ヘニャ

ユミル「まぁ…、な」

ユミル(また、締まりのねぇ笑顔で恥ずかしいことを平気で言うんだ、こいつは…)

ベルトルト「目つきの悪さでかなり損してるユミルがいうとすごく説得力がある」

ユミル「おいっ!」

ベルトルト「でも、大丈夫だよ。僕は君が可愛いの知ってるし」

ユミル「だから、そういうのも止めろって!」

───ポン!

ライナー「エレン」

エレン ハッ!「ああ、ライナー。いたのか」

ライナー「俺は今やっと追いついたところだ」

ライナー「ベルトルトもユミルも、教官がいなくても、人前でじゃれつくのはほどほどにしろ。エレンも呆れて物が言えなくなってるぞ」

ユミル「私はじゃれてなんかいねぇよ!」カァァッ!///

アカクナッテテレテルユミルカワイイ!カワイイ!

ウルセー!!


エレン「……」

アルミン「エレーン!!」

エレン「アルミン! ミカサ!」ホッ…

アルミン「ここにいたんだ。少し探しちゃったよ」

ミカサ「エレン…」

エレン(ミカサの顔を見ただけでこんなにも安心する。やっぱり俺にはこいつが必要なんだな)

エレン(巨人だらけの外の世界を探検するのにも、こいつ以上に心強い奴なんていない。確かにユミルの言うとおりだ)

エレン(というか、少し赤くなってて、瞳がうるんでて…。こんなに可愛かったか?)ドキドキ

ユミル「…さーて、お前ら、あとは本人たちに任せて、邪魔者は退散しようぜ」

ベルトルト「うん」

ライナー「おう」

ユミル「アルミンも行くぞ。ここはふたりにだけにしておけ」

アルミン「でも、まだちょっと心配だし…」

ユミル「お前には他に行くべきところがあるだろ?」

アルミン ハッ!「うん!」



3日後 兵站行進訓練道中
ライナー班

シトシトシトシト…

ザッザッザッザッ…

ライナー班の面々「」ハァハァ… ハァヒィ…

ライナー(全員辛そうだな。100kgの荷物を背負ってひたすら歩くこの訓練のたびに多くの脱落者が出るから、無理もない。おまけに、この雨…)

ライナー(行程ももう4分の3を過ぎた。ここまで順調に来たし、少しペースを落とすか…)

───ガサガサッ!

ライナー(何だ? いきなり脇の茂みから誰かが飛び出してきた?! 俺たちと同じフード付きの上着…、訓練兵か?)

ユミル「よう、ライナー」

ライナー「ユミル?!」

ユミル「しっ! 声がでけぇよ」ヒソヒソ

ライナー「お前はたしか、ふたつ前に出発した隊だろう? こんなところで何をしてる?」

ライナー「教官にバレたらどうする? ただじゃすまんぞ?」

ユミル「」チラッ


ユミル「後ろの奴ら、皆、疲れ切ってる。先頭を歩くお前の前に回り込んで私の顔をのぞき込む余裕のある奴なんかいねぇよ」

ユミル「誰だかわからなけりゃ、私を咎めることもできねぇ。だから、大丈夫だ」

ライナー「それを見越して、こんなときにわざわざ話をしに来たのか?」

ユミル「まぁな。わたしにとってはそのくらい重要な用件だ」

ユミル「で、その用件だが…、どういうこった?! ライナーさんよ!」

ユミル「お前が真面目に訓練に取り組むようになった。それはいい。お前が憲兵になる気になってくれたことはありがたい」

ユミル「だが、クリスタは相変わらず手を抜いてやがる!」

ライナー「知らん! 懸命に説得はしている。だが、聞き入れてくれんし、訳を教えてもくれん。本当に訳が分からないんだ!」

ユミル「てめぇ、それでも彼氏か! そのくらい聞き出せ!」

ライナー「仕方ないだろう! お、お、おん、おん、」

ユミル「『おん』、なんだよ? はっきり喋れ!」

ライナー「『女の子の日だから』と言われてしまっては、俺にはそれ以上つっこんで聞けん」カアァッ!

ユミル「はあ? 精力ムンムンな見た目のくせにえらい純情野郎だな。まるで、茹…」

ユミル(あぶねぇ、思わず『茹でダコ』って言いそうになっちまった)

ユミル「あー…っと、そんなこっちゃ、いざクリスタとヤるとき、入れる前に目ぇ回して卒倒するんじゃねぇ?」


ライナー「女がそういうことを言うな!」カアァッ!

ユミル「ますます赤くなって、まぁ…。お前、色が白いからわかりやすいなぁ」

ライナー「……」プシュー…

ユミル「わかった。もう私のほうからあいつに直接問いただしてみる」

ライナー「できるのか? 今までにもさんざんはぐらかされてきたんだろう?」

ユミル「あいつ確かに頑固なところはあるが、今度ばかりは吐くまで眠らせねぇつもりで尋問してやる」

ユミル「じゃあな。私は戻る」

ライナー「今から間に合うのか?」

ユミル「同じ隊にダズがいるおかげで、私の隊は遅れ気味で、お前の隊はペースが早い」

ユミル「都合のいいことに、それほど離れてないんだ。これから急げば充分追いつける」

ライナー「女の足では無理だ。それより、俺たちと一緒にペースを守って行ったほうがいい。制限時間を越えた分、評価は下がるが…」

ユミル「心配してくれてありがてぇが、クリスタも同じ隊にいるんだ。あいつがわざと脱落して評価を下げないように見張ってなきゃなんねぇ」

ユミル「それじゃあな!」



訓練所帰還後
夕食前 戸外

ユミル(そんなこともあるかとぼんやり予想してたことが、現実になっちまった。クリスタの奴、わざと脱落しようとしやがった)

ユミル(後ろから追いついた私が気付いて急き立てなきゃ、多分そのまま本当に脱落するつもりだった)

ユミル(なんとかクリスタも、疲労困憊で遅れてたダズも、時間内にゴールさせて、クリスタ個人の評価も、班としての評価も、今回は傷が付かずにすんだ)

ユミル(クリスタの実力じゃ、これから努力してマイナス分を取り戻すにしても、もう一刻の猶予もない…)

ユミル「これから私が何を言いたいか、わかってるよな?」

クリスタ「うん…。ユミル、わかってる」

ユミル「今日こそは理由を聞かせてもらうぞ。どうして手を抜くのか。それでいて、訓練自体をまるまるサボるようなことは絶対しない理由も」

ユミル(そうだ、手の抜き方も中途半端で不自然なんだ…)

ユミル「それから、以前のお前なら、遅れるダズを励ましてなんとか時間内にたどり着くように頑張ったはずだ」

ユミル「困ってる人間は見捨てられない、いい子ちゃんのお前がどうして…」

クリスタ「私はいい子じゃないよ。もう…、自分が幸せだと思う生き方を貫くことにしたの」

ユミル「だったら、なおさらライナーと憲兵になれ。あいつならお前を必ず幸せにしてくれる」

クリスタ「…やっぱり、口ではなんと言ってても、ライナーと私が付き合うのを望んでいたんだね」


ユミル「…ああ、そうだ」

クリスタ「今までずっと本心を隠して、私のために、自分に自信のない私がいつもみんなの中心にいるライナーと付き合えるように遠回しに励ましたり、」

クリスタ「ふたりで会えるようにしてくれてたんだ?」

ユミル「認めるよ」

クリスタ「そうなんだ。そうだったんだ。全部私のためだったんだ…。ユミルは優しすぎるよ…」

ユミル「なぁ、まだ間に合う。これから死にものぐるいで努力すりゃ10位内にもぐりこめる」

ユミル「ライナーだって、おまえのために主義を曲げてまた全力で訓練に取り組むようになったんだ」

ユミル「クリスタ、憲兵になれ。お前のことはライナーが守ってくれる」

ユミル「なのに、どうして手を抜くんだ?! どうしてだよ?!」

ユミル(やっぱり怖いのか? 中央へ行くことが? 命を狙われるかもしれないことが?)

クリスタ「その質問に答える前に、ユミルが答えて。ユミルはベルトルトのことが好きよね?」

ユミル「は? いったい、ベルトルさんに何の関係があるんだよ?」

クリスタ「ねぇ、好きよね? 告白されたとき、あんなに真っ赤になって女の子の顔になってたんだもんね?」

クリスタ「嬉しかったんだよね? その後だってラブラブで、だから、憲兵を目指してるベルトルトと離れたくないよね?」

クリスタ「ずっと一緒にいたいよね? ね? 今のままだと、卒業と同時に離ればなれになっちゃうよ!」


ユミル「お前、まさか…」

クリスタ「ユミルも憲兵を目指してよ! ねぇ、いいでしょう? ユミルが本気を出せば、10位以内なんて簡単に入れるじゃない!」

クリスタ「そうしたら、私も…、私も憲兵になれるように頑張るから! ユミルとずっと一緒にいたいの!」

ユミル「そんな理由だったのかよ。別に私なんかいなくたって、お前にはライナーが…」

クリスタ「ライナーのことは大好きだけど、最悪離れることになっても諦めが付くもん! でも、ユミルとは絶対離れたくない!」

ユミル「くだらねぇ。んなことに将来を棒に振るかもしれねぇ賭けをするほどの価値があんのかよ」

ユミル「こんな女と別れたくないってためだけに」

クリスタ「くだらなくなんかないよ! とってもとっても大事なことなの!」

クリスタ「だいたい、ユミルはいつもそう! どこか自分のことなんかどうでもいいって突き放してる!」

クリスタ「もっと自分のこと大事にしてよ! コニーにブスって言われても平気な顔してると、私悲しくなるの!」

ユミル「それは、私もコニーをチビチビからかってるし、おあいこ…」

クリスタ「私が嫌なの! 私が許せないの!」

クリスタ「私はね! 私の命よりユミルが大事なの!」

クリスタ「それをわかってほしくて、あんなことしたの!」

ユミル「だとしても、遠回しすぎるわ…」


クリスタ「だって、憲兵になってってストレートにお願いしても、ユミルは聞いてくれなかったでしょう?」

ユミル「ああ、そりゃ、まぁ確かにな…」

ユミル(性に合わないとかなんとか適当な理由つけてごまかして、一蹴してたな…)

クリスタ「だから、私の覚悟を先に示さないと。でもどうしたらいいかずっとわからなかった」

クリスタ「そんなとき、ライナーが手を抜き始めて、その方法があったんだ! って思いついたの」

ユミル「で、うまくいかなかった場合は、私と一緒に調査兵団に入るつもりだったと?」

クリスタ「」コクン

ユミル「その計画には穴があるぞ。私は駐屯兵団に入る。誰が好き好んで命がいくつあっても足りねぇ調査兵団にいくかよ」

ユミル「駐屯兵団はどの区に配属されるかわからねぇんだ。お前も駐屯兵団を希望したって、分かれちまう確率のほうがずっと高いんだぞ」

ユミル「どっちにしろばらばらになるんだ。一緒にいられる方法はない。駄々こねてねぇで、お前は憲兵を目指せ」

クリスタ「まだ方法はあるよ。そのときは、私、兵士を辞める。そして、ユミルが配属された区で仕事を探すもん!」

ユミル「馬鹿っ! そんなの許さねぇぞ!」

ユミル(わざわざ自分から不幸になりにいくようなもんだ…!)

ユミル「」ハッ!

ユミル(こいつ、それも含めて、捨て身になって、私を説得しようとしてんのか)


ユミル(そこまで私のことが大事なのかよ。こんなクソ女相手にそこまで…)カァ…

クリスタ「ユミル、顔赤いよ?」

ユミル「…お前の気持ちも覚悟もよくわかった」

クリスタ「じゃあ…」

ユミル「だが、その話は保留だ」

クリスタ「どうして? ユミルも憲兵になろうよ。約束してくれないの?」

ユミル(そう簡単じゃねぇんだよ。私が10位内に入っても、クリスタが弾き出されちまえば、これまでの苦労が水の泡だ)

ユミル「とにかく、お前は本気出して訓練に取り組め」

ユミル「これ以上ごねると、明日から口きいてやらねぇからな!」

クリスタ「」ムゥ~

ユミル(ふくれっつらしやがって。…クソ可愛い、この天使め)

クリスタ「わかった、明日から真面目に訓練を受ける。でも、ユミル、これだけは覚えておいて!」

クリスタ「私は、ユミルを置いて、自分だけ幸せになるなんてできないの! 私の幸せには、ユミルが幸せになることも含まれるの!」

クリスタ「だから、ユミルがなんと言おうと、私はユミルが幸せになるのを見届けるまで、絶対にユミルから離れるつもりはないんだからね!」



付近の物陰

女教官「……」



本日はここまで。


補足:
ユミルがアニとエレンと絡んでいた休日、クリスタはミーナとハンナとともに
「どうやってユミルにおしゃれをさせるか」の作戦会議中。


保守がてら投下。
短いのでsage。



過去(訓練兵時代)
その夜 森の中

ユミル(クリスタの奴、寝ぼけたことぬかしやがって。甘やかしすぎたか)

ユミル(憲兵になって中央のどろどろした貴族どもの思惑の中に入っていくってのにそれじゃあ、先が思いやられる)

ユミル(あいつが望むと望まざるとに関わらず、否応なくあいつの家の事情に巻き込まれる…、)

ユミル(いや、引きずり込まれる可能性が高いってのに! そこんとこ、わかってんのか、あいつは!)

ユミル(あいつ自身がしっかりしてくれねぇと困るんだ)

ユミル(なのに、私といつまでも仲良しこよしするためなら、将来を棒に振ってもかまわねぇだと?!)

ユミル(ガキか! まったく! いや、ガキか…。あいつまだ14だもんなぁ…)

ユミル(いやいや、ならなおのこと、初彼ができた恋する乙女らしく、さっさとライナーのことだけ考えるようになりゃいいんだ!)

ユミル(あいつはいい男だぞ! 暑苦しいゴリラだけど!)

ユミル(そうだ、あいつに任せれば、どんな苦境に陥ってもクリスタを守ってくれるはず…)

クリスタ『私は、ユミルを置いて、自分だけ幸せになるなんてできないの! 私の幸せには、ユミルが幸せになることも含まれるの!』

クリスタ『だから、ユミルがなんと言おうと、私はユミルが幸せになるのを見届けるまで、絶対にユミルから離れるつもりはないんだからね!』


ユミル(…だが、私と一緒にいたいと真剣に訴えるクリスタの気持ちを素直に嬉しいと思っちまった)

ユミル(私もたいがい、丸くなったな…)

ユミル(…『私の幸せ』か。自分の幸せなんて考えたこともなかったな…)

───モゾ…

ベルトルト「なんだか上の空だね。やっぱり眠いの?」

ユミル「ん、そんなことねぇよ、ベルトルさん」

ユミル(こいつと話してたが、いつのまにかクリスタのことで頭がいっぱいになってたか)

ベルトルト「今日の兵站行進訓練すごくきつかったよね。みんな疲れ切って熟睡してる」

ベルトルト「でも、君は外に出てきた。女子の宿舎の近くで君の姿を見つけたときは嬉しかったなぁ。僕に会いに来るつもりだったんだよね?」

ユミル「ああ」

ユミル(実はクリスタがあれ以来、無言の圧力をかけてきて、消灯してからも真っ暗い中、)

ユミル(隣の寝床から視線を感じて、眠れなくて抜け出してきたなんて言えねぇ…)

ユミル「なぁ、ベルトルさん、私のこと好きか?」

ベルトルト「大好きだよ、ユミル」

ユミル「そうか…」クスッ


ユミル(躊躇ねぇなぁ…。それに、そんなに嬉しそうな顔するなよ、もう…)

ユミル「私も好きだぞ、ベルトルさん」

ベルトルト「」ドキッ!

ユミル(あ…、背中に当たるこいつの胸を通して、心臓が跳ね上がったのが伝わってくる)

ベルトルト「わぁ、今まで全然言ってくれなかったから、嬉しい!」ギュッ!

ユミル「そうだったか?」

ベルトルト「うん! すごく嬉しい! こうして抱きしめたり、キスしたりは、割とすぐ許してくれたけど、」

ベルトルト「やっぱり言葉で表してくれるのは特別だよ」

ユミル「そうなのか?」

ベルトルト「うん!」スリスリ

ユミル(なんかこいつに頬ずりされるの、くすぐったくて心地いいな…。サシャの言ったとおり、私、スキンシップが好きなのかな)

ユミル(それと、やっぱり私はこいつのことが好きなんだろうな…)

ユミル ハッ!(そうだ! ごたごた続きですっかり忘れてたが、マルコに借りを返さねぇと!)

ユミル(私のこと馬鹿にしねぇで懇切丁寧に教えてくれたのに。どうすれば礼になるかな…?)

ユミル(それから、クリスタにわざと手を抜いてた分の遅れを取り戻させるよう、みっちり教え込まねぇと…)


ユミル(ライナーの野郎にも協力させて、そのための相談もしないとな)

ユミル(当面差し迫った問題は、クリスタの成績だ。マルコのことはまた後回しになっちまうが、しょうがねぇ)

ベルトルト(ユミル、また黙り込んじゃった。照れてる? それと、やっぱり、疲れてもいるんだろうな…)

ベルトルト(さっきも途中から黙って考え込み始めて、その隙に乗じて、)

ベルトルト(そっと後ろから抱き締めてみたけど、嫌がられなかった)

ベルトルト(僕のこと好きなんだよね? こうして身体を預けてくれてるんだし…)

ベルトルト(おかしいな、僕。さっき好きだって言ってもらったばかりじゃないか)

ベルトルト(不安に思うことなんて何もないはず…)

ベルトルト(それにしても、ユミル、細い。湯上がりでいい匂いがする。あったかくて、柔らかいや…)ウトウト…

ベルトルト(どうして、こんなに安心できるんだろう…?)

ベルトルト(ユミルがいれば、ユミルさえいれば、よく眠れそう…。他に何も…いらな…い…)スヤスヤ…



現在
夜 ウォール・マリア西区 とある民家 寝室

ベルトルト「……」ギュ…

ユミル「どうした? 人を抱きしめたままちっとも動かねぇで。今日はしないのか?」

ベルトルト「今の生活があんまり幸せで、君がどんどん綺麗になるから…」

ユミル「から?」

ベルトルト「不安なんだ。たぶん、それがいちばん近いんだ。なにも心配することなんてないのに」

ベルトルト「ここでの生活は夢のようで、そのうえ、君まで現実離れしたみたいに美しくなって…」

ベルトルト「儚くて、いつか僕の手の届かない存在になりそうで…」 

ユミル「こらこら、人のことを儚いとか寝ぼけたこと抜かすな。私だって元兵士だぞ? どれだけ頑丈かは知ってるだろ?」

ベルトルト「だって、この身体、前よりずっとずっと柔らかくなって…」

ユミル「それは、兵士並に鍛える必要がなくなったからだって」

ユミル「女の身体ってのは、本来このくらい柔らかいもんだ」

ベルトルト「本当に?」

ユミル「信じられないのか?」


ベルトルト「僕、君以外の女の人知らないからわからないよ…」

ユミル「本当だって! 安心したか?」

ベルトルト「あんまり食べないし…」

ユミル「男と女の食欲を比べるなよ」

ユミル「儚そうに見えるのだって、お前の好みでやたらひらひらした服を着せるからだろうが。興奮しすぎると力の加減ができなくなるくせに」

ユミル「この薄手のネグリジェ、うっかり破いて何枚無駄にしたよ?」

ベルトルト「でも…、消えてしまいそうだよ…」

ユミル「ずいぶんと、納得できないみたいだな。…ちょっと、仰向けになれ」

ギシ…

ベルトルト「こう?」

ユミル「動くなよ?」モゾモゾ

───ブルンッ!

ユミル「ん…」チュッ! ハプ…

ベルトルト「ちょっ?! ちょっと待って! 君にそんなことさせられないよ!」アタフタ!

ユミル「お前が私のことをいつまでも女神様みたいにまつり上げてふざけてるからだ」


ベルトルト「ふざけてなんかないよ! 君は僕を救ってくれたんだ! 僕の女神様だ!」

ユミル「それがふざけてるんだ。よく見ろ。私はただの女だ。おまえを愛してる…、な」

ベルトルト「ユミル…」

ユミル「口でするのが初めてじゃあるまいし、いまさら慌てるな。こんな淫らな女神様は…、ん…、いないだろ…?」ハプ…ジュル…

ベルトルト「あ…ぅ…、気持ち良すぎるよ…」ハァ…

ユミル「完全に勃つと本当、大きい…な…。先端しか…、口に入らない…。しかたないな…」シュル…

ベルトルト(ユミル、ネグリジェの胸のリボンを外した? まさか…)

───ムニュッ!

ベルトルト「ひゃ…、あ…! 胸、柔らかい…」

ユミル「ん…、ん…、ん…」ムニュ、ムニュ、ジュプ、グチュ、チュッ、チュッ

ベルトルト「う…、ん…」ビクッ!ビクッ!

ユミル プハッ!「あんまり腰を跳ねさせるな。おとなしくしてろ。やりにくい」

ベルトルト「一方的にされるのは、恥ずかしいよ…。ね、腰…、こっちに…。僕もユミルのアソコ、口でするから」

ユミル「それ、恥ずかしすぎ…る」

ベルトルト「駄目?」


ユミル「……」ギシ…

ベルトルト「そう、僕の顔跨いで。腰を落として」

ユミル「ん、こうでいいか?」

ベルトルト「うん。ネグリジェ、めくってもいい?」

ユミル「いちいち許可取らないでいい…から…、早く…」

ベルトルト「ごめん」ピラッ 

ベルトルト「履いてない、ね…」

ユミル「だって、お前のこと待ってたんだから…」

ベルトルト「もう濡れてる…」クチュッ!

ユミル「ひぅっ…! だから、お前のことずっと待って…」

ベルトルト「ごめん、つまらないことで悩んで。焦らしちゃってたんだね。もう、とろとろになってるのに…」ペロッ…

ユミル「んあぁっ!」

ベルトルト「ちょっと舐めただけなのに、洪水みたいだ…」ジュルルッジュプッ

ユミル「いつも思うけど、ソコ…、あ…、舐めるの好きだよな…。ど、して…?」

ベルトルト「自分でもちょっと変態すぎると思う。でも、どうしようもなく、したいんだ…」ペロッ…チュ、チュ…


ベルトルト「頭がおかしくなりそうなほどいい匂いがして、ユミルもとっても気持ちよさそうにしてくれるし」ズプンッ!

ユミル「ひゃ…っ…! いきなり、3本も挿れるな…ぁ…」ビクンビクッ!

ベルトルト「大丈夫。毎日してるから、すごく柔らかいよ…。あ、でもここはすごく硬くなってるね。敏感な突起…」ジュルッジュルッ…!

ユミル「そこ、吸いつくの…だめ…ぇ…。あ、あ、ああぁっ!」

ベルトルト「指で中の突起もいじってあげる…。あ、すごく締まってきた…」ジュプズプジュポ

ユミル「2カ所は駄目っ! 感じすぎ…、嫌ぁっ! イクッ! イッちゃう! ベルトルさん!」

ベルトルト「」ジュル…チュウゥ…カリ…

ユミル「噛んじゃ…! あ、あ、あ、いやああああああああっ!」

───プシャアアァッ!

ベルトルト「」プハッ!

ユミル「あ…、あぁ…」ビクンビク…ヒク…

ベルトルト「いっぱい潮噴いたね」

ユミル「ふぁ…」グッタリ…

ベルトルト「へたばっちゃったね。動ける? 大丈夫?」

ユミル「なん…だよ。今日は私がするつもりだったのに結局…、私だけ…イカされて…」ハァハァ…


ベルトルト「僕もイキそうだよ。君の潮吹き、顔にかかっただけでもう…」

ユミル「このまま出したいか?」

ベルトルト「君の唇もいいけど、やっぱり中に出したい」

ユミル「私も…、ベルトルさんのいちばん硬くて太いのが欲しい…」

ユミル「そのまま、動くなよ。今夜は私が上…だ…」ギシ…

ベルトルト「挿れるところ、ネグリジェ持ち上げてよく見せて」

ユミル「変態…」ヒラ…クチュ…

───ズブゥッ!

ユミル「ん、あああああぁぁっ!」

ベルトルト「締まる…っ…! も、出ちゃう…っ!」

ユミル「まだ…、あんっ…、イクなよ。私もすぐイクから一緒、に…っ!」ジュプジュブッグボッ!

ベルトルト「イカされるとかえって敏感になるんだっけ。立て続けにイッちゃうユミル、可愛い…」チュッ!

ユミル「やっ、は…っ! イイ…ッ! イクッ…! あぁっ! あぁっ!」ヌジュッグチュッジュポッ!

ベルトルト ハァハァ…!「激し…! ユミル! 出したいっ! 出してもいい?!」

ユミル「来て! ベルトルさん! 中に…っ! 早く…! あ、あっ! 駄目、もう…!」グジュプッジュポッグチュッ!


ユミル「ああああああああああああああああああっ!」ビクビクビクンッ!

ベルトルト「出すよっ! 全部、ユミルのアソコに…!」ビュクンッ!ビュルルッ!

ユミル「ひぁ…、熱い…ぃ…! 嫌ぁっ! あん…、あ…」ヒクン!

ベルトルト「」ドクッドクンッ!

ユミル「や、まだ…、出て…、は…ぁ…、う…」ハァハァ…

ベルトルト「……」

───ボフッ!

ユミル「あ…?」

ベルトルト「僕、やっぱり自分で動いて君のこと抱きたい」

ユミル「待って…! 嫌っ、ベルトルさんっ! 少しだけ待っ…!」 

ベルトルト「ごめん、待てない…っ!」ズブッ!

ユミル「やあああああああああっ!」

ベルトルト「気持ちいい…! その叫ぶ声も、その表情も、君、最高…!」ジュプンッ!グジュグジュッ!

ユミル「あぁっ! 奥…、ダメ…! カリが引っかかってっ! あっ! ああっ!」

ベルトルト「アソコの中が痙攣してて…、いやらしい…っ! 雁首とろけそう…!」ズブッズブッズブッ!


ユミル「言うな…、言わないで…! いやぁっ! 嫌ぁっ! ああぁっ!」

ベルトルト「嫌って言われても、手加減できそうにないよ。ごめん、君のこと傷つけたくないのに…」ジュブゥッ!グチュチュッ!

───ギュッ!

ベルトルト「ユミル…?」

ユミル「もっと…して…」

ユミル「もっと強く…、あ…、もっと激しくしてっ!」

ユミル「私は壊れたりしない。確かめてくれ、お前の全力だって受け止められるって」

ユミル「消えそうなほど儚くなんかない。確かにお前の腕の中にいるって」 

ベルトルト「ユミル! 好き! 愛してる!」グチュッジュプッゴポッ!

ユミル「あああぁっ! う…、私も…、愛してる! ベルトルさん!」

ベルトルト「思いっきり感じて! 僕、君のためなら何でもする!」ジュブブッグジョッ!

ユミル「はぁっ! ああ、んっ! 身体、おかし…! 気持ち良すぎ…! いやあああっ!」


ベルトルト「僕も…、君が良すぎて…! おかしくなりそう…!」ヌジュゥッ!ジュポッ!

ユミル「あ、あ、あっ! イ、イク…! はぁ、ん…っ! う…、あああっ!」

ベルトルト「僕もイク…!」ズブゥッ!グリッ!

ユミル「ひゃう…っ! 奥、えぐらな…、あっ! ああああああああああああああああっ!」ビュクンッ!ビクビクッ!

ベルトルト「くっ…!」ビュルッ!ドプッドプッ!



数分後

ユミル「」ハァハァ…

ベルトルト「結局、また破いちゃった…。ごめん。夢中になりすぎて、ずたずたに裂けちゃったね」

ユミル「今夜のお前は謝ってばかりだな。もういい、どうせ代わりはいくらでもあるんだから」

ユミル「お前にはいくら言っても無駄みたいだし」

ベルトルト「う、ごめん…」

ユミル「もう謝るな。それより、私はここにいるって、わかったか?」

ユミル「どこにも行かない。ずっとお前とふたりだけでここにいるから、安心しろ」グス…

ベルトルト「ユミル、涙がいっぱい出てる。どこか痛かった? 無理させすぎた?」

ユミル「これはそんなんじゃない。幸せすぎても、嬉しすぎても、涙は出るもんだ」

ベルトルト「うん…。僕も幸せ…。泣きたいくらい…」グス…

ユミル「愛してるぞ、ベルトルさん」

ベルトルト「うん…、うん…、僕も愛してる…。ずっとずっと、永遠に愛してるよ…」

ベルトルト(僕の女神様…)




本日はここまで。

夏の暑さやパソコンが壊れたなどあって大幅に遅れてしまってすまん。
間は空くだろうが、完成させる気はあるので、気長に付き合ってくれ。


ごく短い。

書き忘れたが、兵站行進訓練の翌日は休日。



過去(訓練兵時代)
休日が明け、それから一週間…

ユミル「クリスタ、そうじゃない! こうだ!」
ユミル「おい、ライナー! クリスタのことなんだが…」
ユミル「そこまでは私が教えたから、お前はここから教えてやってくれ。任せたぞ」


ユミル「クリスタの調子はどうだ? ライナー」

ライナー「うーん、まずまず…と言いたいところだが、10位以内に入れるかは正直微妙だ」

ユミル「だろうなぁ。11位から30位までの奴ら、実力もほとんど変わらねぇ団子状態だからな」

ライナー「当然、あいつらも憲兵を目指して必死に努力している。クリスタには難しいな」

ユミル「その中の誰が10位内に入ってもおかしくねぇわけだ」

ライナー「ところで、クリスタは座学で稼いでると思っていたが、その…」

ユミル「あー、あいつ、けっこう馬鹿なんだ」

ユミル「そんなところが可愛いんだけどな!」

ライナー「それには全面的に同意する」

ユミル「あ、てめっ!」


ライナー「そういきるな。逆にクリスタの得意なものはなんだ?」

ユミル「体力」

ライナー「は?」

ユミル「他の良いところのレベルが不足してるから、あえて挙げるとそれになるんだよ」

ユミル「だが、なかなか馬鹿にできねぇぞ。あいつ、根性あるから。もちろん、お前とは比べものにならねぇけど」

ユミル「あとは馬術か。馬の扱いだけは抜群にうまいぞ」

ライナー「馬術なぁ…。調査兵団では必須だが、憲兵では特に重要視されないな。うーむ、馬の扱いか…」

ライナー「……」

ユミル「よからぬ想像をするなよ」

ライナー「するか! …ところで、座学だが、俺からアルミンに頼んでみるか?」

ユミル「それはやめといてくれ。アルミンじゃ、クリスタに教えるのにはよくない」

ライナー「なぜだ?」

ユミル「あいつ、馬鹿だけど、本当の馬鹿じゃねぇから」

ユミル「ちょっと難しいことは1回じゃすぐ覚えられないだけで、3回教えれば忘れないんだ」


ライナー(なんだその可愛い生き物…。結婚しよ!)

ユミル「そんなわけで、大事なのは繰り返し根気よく教えることでな」

ユミル「アルミンは頭が良すぎて、クリスタのようなタイプに教えるのには向かない、と私は思う」

ライナー「そこまでクリスタのことを理解してるお前が教えるわけにはいかないのか?」

ユミル「私も駄目だ。どうしても、ついついイライラしちまう。だから、座学に関しては諦めてたんだが、お前なら適任だと思う」

ユミル「あのコニーの馬鹿の勉強に付き合ってやれる根気があるんだからな」

ライナー「わかった。座学の面倒は俺がみよう。あと、大きく改善できそうなのは、対人格闘だが…」

ユミル「それに関しちゃ、ミカサに話をつけてある」

ライナー「え?」

ユミル「どうして意外そうな顔するんだよ。まさかお前が教えるつもりだったのか?」

ライナー「いや、その…」

ユミル「力も体格の差もありすぎて、クリスタには全然参考にならないだろ」

ライナー「そうでなくて、格闘術を教えるならアニのほうが…」

ユミル「アニにはこんな頼みを聞く筋合いがないだろ」


ユミル(あの禁書事件で秘密を共有する間柄ではあるが、私とアニの間には貸し借りがあるわけじゃねぇしな)

ユミル(それに、あの事件とアニとの関わりは絶対の秘密にしておきたい。からくりがバレるとしたら、そこが急所だ)

ユミル(そのために、私との接点は誰にも知られたくない)

ライナー「ミカサにもないだろう?」

ユミル「ミカサには、ちょっとした借りがあるんだ。快く承知してくれたぞ」

ユミル(最初は助けた借りを返してもらうつもりでエレンに頼んだんだが、それを横で聞いてたミカサが名乗りをあげたんだよな)

ミカサ『エレンの命の恩人は、私にとっても恩人。ユミル、クリスタには私が教えよう。女子の中で3番目に強くしてみせよう』ゴゴゴゴゴ…

ユミル(あいつ、エレンが他の女と関わるの嫌がるからなぁ…)

ユミル「それとも、お前のほうでアニに何かツテがあるのか? 正直、アニが教えてくれれば最高にありがたいと私も思うんだが」

ライナー「いや…、ない」

ユミル「なんだ? いまいちすっきりしねぇみたいだな。ははーん、愛しのクリスタに手取り足取りできなくて残念か?」


ライナー「茶化すな! …だが、まぁ、そんなところだ」

ユミル「気持ちはわからなくもねぇが、我慢してくれよ。クリスタのためだ」

ライナー「そこまでお膳立てしてあるなら文句はないさ。俺もできるかぎり全力で協力する」

ユミル「本当、頼んだぞ。いくら努力しても安心できねぇからな、クリスタの成績じゃ」

ライナー「おう!」

ベルトルト「……」



本日はここまで。

蚊帳の外にされて疎外感を味わう超大型巨人。

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