エレン「仮面山荘?」(171)

東野圭吾氏の著作「仮面山荘殺人事件」のパロ

☆登場人物と設定☆

エレン 主人公 ミカサの婚約者
ミカサ エレンの婚約者だったが結婚式の4日前に死亡
リヴァイ ミカサの父 製薬会社の社長
ぺトラ ミカサの母
ジャン ミカサの兄
クリスタ ミカサの従妹
ライナー クリスタの父の主治医
ハンジ リヴァイの秘書
アニ ミカサの親友 小説家
ユミル 強盗犯
コニー 強盗犯
??? 強盗犯のボス
エルヴィン 警察官
アルミン 警察官

プロローグ

ミカサ「……夢みたい。 小さな教会で、結婚式を挙げる」

ミカサ「こんな幸せは、永遠に訪れないと思っていた」

エレン「何言ってんだよ、ミカサ」

ミカサ「私が今まで生きてこられたのは……エレン、あなたのおかげ」

エレン「……何言ってんだよ」

エレン(その日、俺はいつものように会社に出勤した)

ミーナ「イェーガ-さん! アッカーマン……奥さんのお母さまから電話ですよ」

トーマス「そら来た! こういうとき、花嫁の母親は落ち着かないもんなんだよ」

エレン「みんな、冷やかすなよ! ……もしもし」

ぺトラ「……エレン君?」

エレン「どうかしました? 何かあったんですか?」

ぺトラ「ミカサが……死んだって……」

エレン「えっ……」

ぺトラ「今、警察から連絡があって……車で崖から落ちたって……」グスグス

エレン「すみませんでした!!」ドゲザ

リヴァイ「……頭を上げろ、エレン」

エレン「俺のせいなんです……目撃者の話によると、ミカサはハンドル操作を誤ったというよりは……」

エレン「初めからハンドルを切る意思がなかったように見えたって……」

エレン「おそらく居眠り運転だった……俺は、式場の手配とかアイツにまかせっきりで……」

リヴァイ「もうよせ。そんなふうに考えるのはやめろ」

ぺトラ「エレン君……」

エレン「うぅ……」グスグス

エレン(ミカサが死んだなんて……信じられねえよ……)

第一幕―――――舞台

エレン(ここが……例の事故があったカーブ)

エレン(必要以上に慎重になっちまうな……)

エレン『別荘……ですか?』

リヴァイ『ああ。毎年夏になると行くことにしているんだ』

リヴァイ『……今年は、おまえもミカサの夫として参加するはずだった』

エレン『……』

リヴァイ『中止するつもりだったが、ミカサが待っている気がしてな……』

エレン『ぜひ行きます。参加させてください』

エレン(ミカサが死んでからも、俺とアッカーマン家の繋がりは切れていない)

エレン(俺と関わることで、ミカサがまだ生きているような気持ちになるんだろうか)

エレン「……着いたな」

ジャン「よう、着いたみたいだな」

エレン「ああ……ほかの人たちは?」

ジャン「親父たちは散歩に出かけた。ほかの連中はまだ着いていない」

エレン「あれ? じゃあ、この車は」

ジャン「ああ、ハンジさんの車だよ。新しい秘書だ」

エレン「へえ……それは初耳だな」

ジャン「とにかく、そんなところに突っ立ってないで早く入ってこいよ」

エレン「ああ……」スタスタ

ギィィ……

エレン(なんだ……ドアの上に仮面が並んでる……?)

エレン(なんとなく嫌な予感がするな……)

エレン(ベランダから湖が見渡せるのか)

エレン「今回この別荘には誰が来るんだ?」

ジャン「まず、従妹のクリスタだ。知ってるか?」

エレン「ああ。ミカサに紹介してもらって、何度か会ってる」

ジャン「そうか。あいつ、すげえ美人になったよな……」

エレン「……」

ジャン「クリスタが来るなら、ライナーもついてくるだろうな」

エレン「誰なんだ?」

ジャン「叔父の主治医だよ。それから、ミカサの親友だったアニはお前も知ってるだろ」

エレン「ああ……確か作家になったんだっけ……」

ぺトラ「エレン君。もう着いてたのね」ガチャ

エレン「ぺトラさん、リヴァイさん。そちらの方は、確か……」

リヴァイ「そうか、初対面だったな。紹介しよう、秘書のハンジだ」

ハンジ「よろしく、エレン君」ニカッ

エレン「あっ、はい……」

エレン(てっきり男の人だと思ってた……)

ぺトラ「エレン君は、一番東側の部屋を使ってね」

リヴァイ「……ミカサが使っていた部屋だ」

エレン「ああ……」

エレン「ミカサの部屋……」キョロキョロ

エレン「思い出の品で埋め尽くされてるかと思ったけど、きれいに掃除されてる)

エレン(まあ、それじゃ眠れないか……)

ブロロ……

エレン(誰か来たみたいだ。行ってみよう)

クリスタ「エレン、久しぶりだね」

エレン「ああ。一人で来たのか?」

クリスタ「いいえ、ライナーが運転してくれたの」

ライナー「エレン、だったか。……いろいろ大変だったな」

エレン「ああ……」

ぺトラ「クリスタの部屋は、階段を上がって一番右端よ」

ライナー「荷物は俺が持とう」

クリスタ「大丈夫。軽いから」

ぺトラ「ライナー君は、左から三番目の部屋ね」クスッ

ライナー「あっ、はい……」ショボーン

ジャン「あとはアニだけだな」

ピンポーン

リヴァイ「早速来たみたいだな」

エレン「俺が出ましょう」

ガチャッ

エルヴィン「すみません。こちらの別荘の方でしょうか?」

エレン(何だ? 警察……?)

エレン「持ち主ではありませんが、泊まっているものです」

エルヴィン「なるほど……では少しお伺いしたいことがあるのですが」

エレン「なんでしょう?」

アルミン「このあたりで、不審な人物を見かけませんでしたか?」

エレン「不審人物……? いえ、さっき来たばかりなので」

リヴァイ「どうした? 何かあったのか?」

アルミン「このあたりで不審人物を見かけませんでしたか?」

リヴァイ「さっき散歩に出たが、特に気づいたところはなかったな」

エルヴィン「そうですか……もし怪しい人物を見つけたら、すぐに通報してください」

エレン「わかりました」

バタン

クリスタ「どうしたの?」

エレン「このあたりを不審者がうろついているらしいんだ」

ジャン「痴漢の常習犯か何かだろ」

ライナー「戸締りには気を付けたほうが良いな」

ぺトラ「アニが心配ね」

ジャン「あいつなら大丈夫だろ」

ピンポーン

アニ「遅くなってごめんなさい」ペコリ

リヴァイ「これで、ようやく役者が揃ったな」

ぺトラ「みんな、たくさん食べてね」

エレン(ミカサの手料理と同じ味だ……)モグモグ

ジャン「それにしても、アニが作家になるなんてな」

ぺトラ「昔はミカサと一緒にバレエを習っていたのに、分からないものね」

アニ「バレエの才能がないことは自分でもわかっていましたから」

ぺトラ「……ミカサにしても、才能があったかどうかは分からないのよね」

ぺトラ「どこかで辞めさせておけば、また違った結果に……」

リヴァイ「……湿っぽい話はよせ」

ぺトラ「……ごめんなさい」

エレン「……」

エレン「……クリスタ、仕事はどうだ? 確か父親の会社の手伝いをやってるとか」

クリスタ「だいぶ慣れてきたわ。単なる事務だから」

ライナー「でも、経営とかいろいろ厳しいんじゃないのか。何だったらうちの病院に」

クリスタ「ありがとう。でも大丈夫」

ジャン「アニはポーカー強いな。全然勝てねえ」ハァ

クリスタ「本当、私なんかどうしても顔に出ちゃって……やっぱり臆病なのね」

アニ「クリスタが臆病だとは思わないね。いざとなったら、思い切ったことのできる人だよ」

クリスタ「そうかな……?」

ジャン「案外そうかもな」

ジャン「ミカサのほうが気は小さかったのかもしれない」

ジャン「バレエばっかやってたから、世間知らずだったし」

ジャン「そのくせ、猪突猛進に突っ走るところがあった」

ぺトラ「……だから、車の免許を取るって聞いた時には心配したわ」

ぺトラ「スピードを出しすぎるんじゃないかって……そうしたらやっぱり……」

リヴァイ「おい」

アニ「……ミカサは、車の運転には十分に気を付けていた」

一同「……!」

アニ「スピードを出しすぎるなんてことは絶対になかった」

アニ「以前あんな事故を起こして、その危険性は十分に理解していたはず」

エレン(俺とミカサが出会うきっかけになった事故か)

ジャン「だからどうだって言うんだよ」

ジャン「何を言ったってミカサが事故を起こしたことには変わりない」

ジャン「……そして、それが原因で死んだことも」

アニ「……私はあの事故に疑問を抱いているんだ」

ザワザワ

エレン「……どういうことだ?」

アニ「……ミカサは誰かに殺されたんじゃないかってことだよ」

一同「!!!」

ジャン「殺された……だと? 何の根拠があってそんな」

アニ「根拠ならたくさんある」

リヴァイ「待て。俺たちも出来るだけのことは疑った」

リヴァイ「車には細工をした形跡もなかったそうだ」

リヴァイ「他の車のあおりを受けたわけではないことも目撃者の証言から分かっている」

ぺトラ「あの子の車は、スピードを緩めずガードレールに激突したそうよ」

ぺトラ「だから、居眠り運転としか考えられないって警察の人も……」

エレン「あの頃、ミカサはとても疲れていたし……」

エレン(俺の責任だ……)

アニ「カーブが続く山道を登っている最中に眠気を催すとは考えにくい」

ジャン「分かんねえよ。緊張が続いて逆に気が抜けることってあるだろ」

アニ「例の事故を起こしてから、ミカサは二度と車に乗らないとまで言っていたのに……」

ぺトラ「それは分かってるけど……。車に乗らないとエレン君に迷惑をかけるからって」チラッ

エレン「……」

リヴァイ「確かにミカサの死には不審な点も多いが、状況は明らかに居眠り運転だと物語っている」

リヴァイ「それをどう説明するつもりだ?」

アニ「……睡眠薬」ボソッ

ザワザワッ

アニ「ミカサは、誰かに睡眠薬を飲まされたに違いない」

リヴァイ「……誰がどうやって飲ませたというんだ」

アニ「ミカサの服用する薬に混ぜるか、すり替えるか……」

ライナー「……仮に可能だったとしても、かなり不確かな手段だな」

ライナー「睡眠薬の効果は効き始めるまでに個人差がある」

ライナー「慎重な性格なら眠くなった時点で仮眠を取るだろうし」

ライナー「劇的に効くような薬なら車に乗る前に眠ってしまうはずだ」

エレン「……だそうだ。それについてはどう思う?」

アニ「……未必の故意、というものがあるんだよ」

エレン(やっぱりそうか)

アニ「犯人にとってこの計画は成功しても失敗しても良かった」

アニ「犯行が発覚する恐れはないし、失敗しても次の機会を狙えばいい」

ライナー「なるほど。さすが作家だな」

一同「……」

クリスタ「……でも、ミカサに見つからないように薬を仕掛けるなんて簡単にできるかな……?」オズオズ

アニ「それは……」

アニ「……いや、何でもないよ」

エレン(おそらく、アニはこう言おうとしたんだな)

エレン(ミカサと親しい人間ならそんなことも可能だ)

エレン(……つまり、犯人はこの中にいる)

リヴァイ「……もういいだろう」

ぺトラ「あの子が誰かに殺意を抱かれていたなんて、考えたくもないわ……」

アニ「……ごめんなさい」シュン

エレン(頭が痛くなってきた。ベランダにでも出るか)

エレン「……ん?」

ハンジ「……」カキカキ

エレン「こんな時まで仕事ですか?」

ハンジ「ああ、エレン君。別に仕事ってわけじゃないんだけどね。つい癖で」

エレン「癖?」

ハンジ「会話をメモすること。社長が色んな人と会うとき、いつもやってるんだよ」

エレン「じゃあ、今の会話も全部メモしたんですか?」オドロキ

ハンジ「無意識に手が動いちゃってね」テヘ

ジャン「……あんまりいい気分はしないっすね」

ハンジ「ああ、ごめんね。気に障るようなら処分するよ」

ジャン「いや、別にいいですよ。何かの記念になるかもしれないし……」

ジャン「それはともかく、チェスの続きやりません? 俺があんたのクイーンを取ったところからでしたっけ?」ニヤッ

ハンジ「いや、私があなたのナイトを取って、チェックをかけたところだったかな?」ニヤッ

エレン(ハンジさんか……変わった人だな)

エレン(風が気持ちいい……)ボー

クリスタ「コーヒー、飲む? ……隣いいかな?」スッ

エレン「クリスタ! ……ありがとう」

クリスタ「……本当なら、ここにいるのはミカサだったんだよね」

エレン「……」

クリスタ「ごっごめん! 余計な事……」ドギマギ

エレン「いや、いいんだ」

クリスタ「……さっきのことなんだけど」

エレン「ああ」

クリスタ「アニが突然あんなこと言い出して……」

クリスタ「今までそんなふうに考えた事無かったから、驚いちゃって」

エレン「……まあ普通はそうだろうな。そんなこと考えたくもないし」

クリスタ「普通は……ってことは、エレンも同じように考えたことが……?」

エレン「ああ……アニみたいに確信があるわけじゃないけど」

クリスタ「そうなんだ……」

クリスタ「……もしミカサが誰かに殺されたんだとしたら、エレンはどう思う?」

エレン(何でそんなことを訊くんだ?)

エレン「そいつを絶対に許さないだろうな。……でも、俺は殺人じゃないと信じたい」

クリスタ「……」

エレン「ところで、クリスタには誰かいい人とかいないのか? ライナーとか」

クリスタ「えっ? ライナーとは全然そんなのじゃないよ! いい人だけど……」

エレン「そうなのか……」

エレン(全然眠れないな……)

エレン(ミカサ……)

エレン(例の事故、か……)

エレン(ミカサの車はかなりスピードを出していて、俺のすぐ後ろまで詰めていた)

エレン(俺がサッカーボールが転がってくるのを見て急停止したときだった)

エレン(ミカサは俺の車に激突するのを避けようとして左にハンドルを切った)

エレン(そして、電話ボックスと電柱にぶつかったんだったな……)

エレン『……』コンコン

エレン(返事がないな……眠ってるのか?)

コトリ

エレン(物音!? 起きたのか……?)コンコン

エレン(……やっぱり返事がない。ちょっと気になるな……)カチャ

ミカサ『……』グッタリ

エレン(ナイフで手首を……! 自殺!?)ゾワッ

エレン『誰か!! 早く!! 看護師さんッ!!!』

ぺトラ『娘を救ってくださって、ありがとうございます』

リヴァイ『……いろいろ迷惑をかけてすまなかったな』

エレン『いえ……それより、何で自殺なんか……?』

ぺトラ『娘はバレエを習っていたんです。それが、事故の影響で……』

エレン『そうですか……。でも、治ればまた』

リヴァイ『……左足がつぶれてしまい、足首は切断せざるを得なかった』

エレン『えっ……』

リヴァイ『これからはまともに歩くことすら難しいそうだ』

エレン『そんな……』

エレン『……あの、アッカーマンさん』ガチャ

ミカサ『……』

エレン(最初、ミカサは生気のない目で俺を見ていた)

エレン(でも、俺がつまんねえ冗談を言ったりしてるうちに、だんだんと目に光が戻ってきた)

エレン(綺麗な目だと思った)

エレン『じゃあ、お大事に』

エレン(もう会うこともないだろうな……)

エレン(ところが、数日後)

ぺトラ『あの、イェーガーさん? ミカサがあなたに会いたいって……』

エレン『えっ……』ドキッ

エレン(それから、俺は何度もミカサを見舞った)

エレン(俺が帰ると言うと、『次はいつ来てくれる?』なんて聞いてくるんだ)

エレン(退院後のリハビリのお陰で、杖があればほとんど支障なく歩けるまでに回復した)

エレン(会社が休みのときは送迎を引き受けた)

エレン(俺は、ミカサの力になってやりたかったんだ)

ミカサ『エレンは、どうして私に優しくしてくれるの?』

エレン『……お前と一緒にいるのが楽しいから』

エレン『俺と、一緒にいてほしいんだ』

ミカサ『エレン……』ポッ

ミカサ『私は、こんな足なのに……』

エレン『何言ってんだよ。俺だってこんな悪人面だぞ』ニッ

ミカサ『ふふ。……ありがとう』

エレン(俺はプロポーズした。ミカサの両親も祝福してくれた)

エレン(ミカサの夢は、もう少しで叶うはずだったんだ)

エレン(足が不自由なミカサが機動力を発揮するためには車を使うしかない)

エレン(ミカサの運転は驚くほど慎重だった。スピードを出しすぎるなんて……)

エレン(睡眠薬……か)

エレン(誰かがミカサを殺そうとしたなんてありえるんだろうか……?)

エレン(あいつは皆に愛されていたのに……)

クリスタ「エレン……」コンコン

エレン「どうした?」カチャ

クリスタ「ええと、台所で水でも飲もうと思って下りて行ったんだけど……)

クリスタ「どこかで、人の声がしたの」

エレン「人の声……? 誰か起きてるんじゃないのか」

クリスタ「それが、聞いたことのない声で……」ブルッ

エレン「……分かった、見てくる。クリスタは危険だからここに残ってくれ」

クリスタ「私も行く……! 誰かと一緒じゃないと不安で……」

エレン「そうか。じゃあ行くぞ」

エレン「……」ヌキアシ

エレン「……誰もいないぞ?」

クリスタ「そんなはずは……あれ? 厨房の電気が点いてる」

エレン「勝手口の鍵はかかってるな」

クリスタ「……なんだか気味が悪い」ブルブル

エレン「でも泥棒が入ったんなら、その痕跡があるはず……」

エレン「とりあえず明かりを消しておこう」ポチ

ガシッ

エレン「――――――――っ!!?」ビクッ

ユミル「騒ぐな。静かにしろ」

エレン(なん、だ……こいつ……!?)



つづく

第二幕―――――侵入者

パッ

エレン「!? 眩しっ……」

エレン(懐中電灯と……ピストルを持っているのか!?)

エレン(もう一人が持っているのは……ライフルか!?)

エレン「お前ら何者だ!? 何しに来た!!」

ユミル「……この別荘に泊まっているのは何人だ?」

エレン「……」

クリスタ「きゃっ!! 離して!!」ジタバタ

コニー「こらっ! 暴れんなって!」

エレン「おいっ! 乱暴はするな!」

ユミル「質問に答えろ」

エレン「……泊まっているのは俺たちを入れて八人だ」

ユミル「……よし、分かった。歩け」

ユミル「全員を部屋の外に出させるぞ」

一同「……」ゾロゾロ

リヴァイ「お前らは何者だ? 俺に何か恨みでもあるのか」

ユミル「あんたらに恨みはないよ。潜むのに都合がいいだけさ」

ジャン「何かやって逃げてきたんだろ」

ユミル「それをあんたらに言う必要はない」

エレン「……昼間に警察が来た。ここだって安全じゃないはずだ」

コニー「警察!? やべえよ、ユミル」

ユミル「びびってんじゃねえよ。一度来たってことは、もう来ないかもしれねえ」

コニー「そっか」ホッ

リヴァイ「……いつまでここに居座る気だ」

ユミル「仲間が来るまでさ」

ユミル「ここで合流することになってたんだ。下見して、合鍵まで作ってな」チャラッ

エレン(それで鍵はかかってたのか)

リヴァイ「仲間はいつ来るんだ?」

ユミル「早ければ、明日の夜にも来るはずだ」

一同「……」ズーン

エレン(明日の夜までこの状態が続くのか……)

ユミル「都合のいい紐が見つからねえな。まあいい、このまま見張っておこう」

リヴァイ「……この近くの別荘には俺の知り合いも多い。誰かが訪ねてくるかもしれない」

ユミル「そんなウソに引っかかると思うのか? この近所の別荘はみんな法人の所有になってる」

リヴァイ「チッ……」

コニー「おいユミル、誰もいないって聞いてたのにいっぱいいるじゃねえか。どうすんだよ」

ユミル「今更計画を変えるわけにもいかねえだろ。ここを出たらこいつらが通報するに決まってるぜ」

ユミル「まあ、あんたらに危害は加えないから安心しなよ」

リヴァイ「信用できるのか?」

ユミル「当たり前だろ」

リヴァイ「お前らが出て行ってすぐ、俺たちが通報するとは思わないのか」

ユミル「それはできないね」

ユミル「まず全員の手足を縛って部屋に閉じ込める」

ユミル「だが一人だけは私たちと一緒に連れて行く」

ユミル「安全な場所まで逃げてからそいつを開放する」

ユミル「もしそれまでに警察に通報したら、人質の命はない」

リヴァイ「……なるほどな」

コニー「なあ、腹減ったんだけど」

ユミル「飯にするか。食料もあるし、コックにウェイトレスまでいるしな」ニヤッ

エレン(何とか隙を見てライフルを奪えないか……? あいつはあんまり頭がよくなさそうだし)

ユミル「女たちは全員厨房に来い。変なもん入れないよう見張っとくからな」

コニー「やった、久しぶりのごちそうだ」スタッ

エレン(ライフルを置いたまま……! やっぱり少し抜けてるんだ! 今だっ―――)

ジャン「動くな!!」チャキッ

ジャン「そこの女、ピストルを捨てろ」

ユミル「……何してやがる」

コニー「やべっ……」

ジャン「早く捨てないとこの男を撃つぞ」

ユミル「撃てるもんなら撃ってみろよ」ニヤリ

コニー「お、おいユミル!」アセアセ

ユミル「大丈夫、撃てやしないさ」

ジャン「本気だ。あんたを直接撃つ手だってあるんだぜ」

ユミル「……おたく、ライフルを撃ったことなんてあるのか?」

ジャン「引き金を引けばいいんだろ」

ユミル「狙いのことだよ。そんなところから撃ったら、女性陣に当たるかもしれないぜ」グイッ

ぺトラ「嫌っ!」

ジャン「ぐっ……」ギリッ

ユミル「コニーを撃ったら、私もこの女を撃つ。さぁライフルを渡せ」

ジャン「……分かったよ」スッ

ユミル「物わかりがよくて助かるよ」ドガッ

ジャン「うぐッ……」ゲホゲホ

ユミル「コニー、風呂場にタオルが何枚かあったろ? それでこいつを縛れ」

コニー「おう、分かった!」ダッ

ユミル「惜しかったな。あんたのミスは、さっさと撃たなかったことだよ」

ジャン「……次からは、そうする」

コニー「おとなしくしとけよ。……なぁユミル」

ユミル「なんだ?」

コニー「さっきの本気か? 俺を撃ちたいなら撃てって……」

ユミル「こいつに撃つ気がないのは分かってたからな。まぁうまいもんでも食って機嫌直してくれよ」

コニー「じゃあ、俺ステーキが食いたい」

ユミル「聞いたか、女性陣? 腕によりをかけて作ってやってくれ」

コニー「……」キョロキョロ

エレン(ライフルをしっかりと抱えてる……さすがにさっきのようなミスはもうしないか)

コニー「暇だな……おっ、なんだこれ」

リヴァイ「知恵の輪だ。蛇の輪から星を外すんだ」

コニー「輪っかより星のほうがでかいのに外れるわけないだろ」

リヴァイ「できる。……頭を使えばな」

コニー「よし、やってやる」ムッ

リヴァイ「……うまくいったな。おい、エレン」コソコソ

エレン「なんですか、リヴァイさん」コソコソ

リヴァイ「何とかして外に知らせる方法はないか」コソコソ

エレン「外に知らせる方法……ですか」コソコソ

リヴァイ「たとえば、火をつけるとか」コソコソ

エレン「えっ!? そんな危険な」

コニー「おい、何話してんだよ」

エレン(まずい! 気づかれたか……)

リヴァイ「パズルはもうやめたのか?」

コニー「あんなの外れるわけないだろ」ハァ

リヴァイ「ちょっと貸せ。……見ろ、外れた」カチャ

コニー「ええ!? どうやったんだよ」

リヴァイ「練習が必要だな」

コニー「……」ウーム

リヴァイ「……エレン、さっきの続きだが」ヒソヒソ

リヴァイ「奴らがここを離れるとき、人質を連れて行かれるのは避けたい」ヒソヒソ

リヴァイ「やすやすと解放してくれるとは思えんからな……」ヒソヒソ

エレン「おそらく、狙われるのはクリスタあたりでしょうね……」チラッ

リヴァイ「そう考えると、多少の危険を冒してでも外に知らせたほうがいい」ヒソヒソ

リヴァイ「問題は、それをどうやって実行するかだが……」チラッ

コニー「やった! 出来たぞ!」バンザーイ

エレン(……アホだ)

ユミル「おっ、なかなか美味そうじゃねえか。あんたらも食うだろ?」

ぺトラ「……」フラフラ

リヴァイ「ぺトラ! 大丈夫か」

ハンジ「貧血を起こしたみたいだね」

ぺトラ「大丈夫……すぐによくなるから」

リヴァイ「家内を休ませてやってくれ。俺も部屋に付き添う」

エレン(その隙に煙を起こすつもりか)

ユミル「本人が大丈夫って言ってんだからほっとけよ。飯食えば元気になるだろ」

一同「……」

ユミル「まぁ、明日の夜まで一緒に過ごすんだから仲良くしようぜ」

ユミル「あんたらは家族なのか?」

エレン「……全員というわけじゃない」

ユミル「そうか。さっきの二人はご夫婦で、さっき縛ったやつは息子だろ? 悪人面だし」

ユミル「それで、あんたら三人の中に娘がいるはずだが……」

アニハンジクリスタ「……」

リヴァイ「娘はいない」

ユミル「そりゃおかしいな。下見の際あんたら家族のことも調べたんだぞ」

リヴァイ「……死んだ。三か月前に」

ユミル「へえ……そりゃ気の毒にな。病気か?」

リヴァイ「交通事故だ」

ユミル「ふーん、おおかた技術もないくせにイキがって飛ばしてたんだろうな」

リヴァイ「あれは単なる事故じゃない」

一同「!!!」

エレン(リヴァイさん……!?)

リヴァイ「……いや、単なる不注意ではなかったという意味だ」

ユミル「へえ、なんか面白そうだな、その話」

ユミル「それに、全員の顔色が変わってるぜ」ニヤリ

一同「……」ウツムキ

ユミル「なあ、あんたら――」

ピンポーン

一同「!!」

コニー「誰だ!?」ダッ

コニー「……」ノゾキ

コニー「やべえ……警察だ」ガクブル

ユミル「チッ……おいあんた、応対に出てくれ」

エレン「なんで俺なんだ?」

ユミル「社長自らが出ていくのも変な話だろ? その次に落ち着いてそうなのがあんただからな」

エレン「実際そうでもないけどな……」フリムキ

一同「……」キタイ

エレン(何とかして警察にこの状況を知らせないと)

ユミル「言っとくけど、こっちは捕まるくらいなら死ぬつもりなんだ」

ユミル「妙な真似しやがったら全員道連れだぞ」チャキッ

エレン「ああ、分かってる」

エルヴィン「朝早くにすみません。皆さんお休みですか?」

エレン「いえ、朝食中です」

エルヴィン「そうですか。……昨日もお尋ねしましたが、何か変わったことはありませんか?」

エレン(不審人物がすぐ後ろにいるんですよ)

エレン「いえ……特に何も」

エレン「あの、何かあったのですか」

エルヴィン「ええ、実は昨日の夜、銀行強盗がありましてね」

エルヴィン「二人組で、ピストルとライフルを持って押し入ったそうです」

エルヴィン「犯人の車が、こちらに向かったという通報があったのですよ」

エレン(そいつは俺の後ろにいるんだ!!)クイックイッ

エルヴィン「危険ですから、あまり外を出歩かないようにお願いします」

エレン(なんで気づいてくれないんだ!?)イライラ

アルミン「すみません、白のプレリュードに乗っておられる方は……?」スタスタ

エレン(ハンジさんの車だ)

エレン「いますけど……それが何か」

アルミン「運転席側が半ドアになっていますよ。持ち主の方に教えてあげてください」

エレン(なんだ……そんなことか)

エルヴィン「それでは、どうもお邪魔しました。……あ、それと」

エレン「なんですか」

エルヴィン「なるべくカーテンを開けておいたほうがいいでしょうね」

エルヴィン「我々がパトロールする際にも、外から中が見えたほうが安全でしょうし。では」

バタン

ユミル「白のプレリュードに乗っているのは誰だ?」

ハンジ「私だけど?」

エレン「車が半ドアになってるそうです」

ハンジ「あちゃー、またやっちゃったか」

ユミル「すぐ直してこい。妙な気を起こすなよ。ちゃんと見張ってるからな」

ハンジ「はいはい」

ユミル「まだうろついてやがる。腹立つポリ公だな」イライラ

エレン(ハンジさん……地面に何か書いてる?)

エレン(後ろの奴は警官に気を取られて気付いてないみたいだ)

ハンジ「終わったよ」

ユミル「よし、ドアを閉めろ」

エレン(SOS……やるな、ハンジさん)

ユミル「全員食卓につけ。コニー、そいつの手足をほどいてやれ」

コニー「急にどうしたんだ、ユミル?」

ユミル「カーテンを閉めておくのも不自然だってことだよ」

コニー「でも、俺たちはどうすんだ?」

ユミル「窓の下にしゃがめ。ばれないようにな」

ユミル「よし、カーテンを開けろ」

シャッ

エレン(警官はメッセージに気づいていないのか!? 手洗いの窓の下に……)

エレン(だめだ……去って行った)ガックリ

コニー「あいつら行っちまったぞ。カーテン閉めようぜ」

ユミル「だめだ。何回も開けたり閉めたりしてたら怪しまれるだろ」

コニー「ええ? でも、このまんまじゃ窮屈だぞ」

ユミル「わかってる。いい手があるんだ」スタスタ

ユミル「二階の廊下の真ん中。吹き抜けになってるから、いい眺めだぜ」

コニー「人質はどうすんだ」

ユミル「私らの目の届く範囲なら自由にしてもらって構わない」

ユミル「だが、こいつらが変な気を起こさないよう人質をとっておく」

ユミル「……その女がいいな」チラッ

クリスタ「ひっ!」ビクッ

ライナー「やめろ! 彼女には手を出すな!」

コニー「おい、おとなしくしてろ!」ジャキッ

ライナー「くっ……」

ユミル「あんたらが何もしない限りは大丈夫だよ。行こう、お嬢さん」ガシッ

クリスタ「……」ブルブル

リヴァイ「お前らは、何の罪を犯してここにやってきた?」

ユミル「そいつに聞いてみろよ。よく知ってるはずだ」

エレン「……銀行強盗だそうです」

ザワザワッ

リヴァイ「なぜこんな所へ逃げてきた?」

ユミル「そういう計画だったからだよ。逃げるところを目撃されたのは間抜けだったけどな」

リヴァイ「もう一人仲間が来るという話だったな」

ユミル「ああ。そいつが私たちをここから逃がしてくれる」

ユミル「このあたりの地理にも詳しいし、警察の動きも掴んでる」

リヴァイ「どうしてすぐに来ないんだ?」

ユミル「それは……まあ、色々あるんだよ」

エレン(何かありそうだな)

リヴァイ「……その計画がどれほど完璧だったか知らないが」

リヴァイ「これだけ警察が嗅ぎまわっているんだ。じきに気づかれるだろう」

ユミル「奴らが気づいた時には私たちはもういないよ」

ユミル「警察がここにきて見つけるのは、猿轡をかまされ縛られたあんたたちの姿だ」

リヴァイ「本当に殺す気はないんだな」

ユミル「今のところはね」

リヴァイ「賢明な判断だな」

リヴァイ「誰か一人が殺されたら、俺はすぐ駆け出して警察に知らせる」

ユミル「あんたが駆け出す前に撃ち殺す手だってあるぞ」

ハンジ「その場合は私が行くよ」

アニ「私も」

エレン「俺もだ」

ユミル「へえ……なかなかのチームワークだな」

ユミル「よしわかった、お互いに損になることは避けよう」

第三幕―――――暗転

エレン(数時間たっても、状況は何も変わっていない……)

エレン(どころか、皆この状況に麻痺しはじめてるみたいだ)

エレン(知らない人間が外から覗いたら、別荘生活を楽しんでいるようにしか見えないだろう……)

ユミル「……退屈だな。コニー、ちょっと長い時間見張っててくれ」

コニー「なんだ? トイレか?」

ユミル「もっといいことだよ」ニヤッ

クリスタ「いやっ! 離して」シタバタ

エレン(なっ!? あいつガチレズだったのか!?)

ライナー「やめろ! 危害は加えないという約束だっただろ!」

ユミル「危害? いいことをしようってんだぞ?」

エレン「クリスタを離せ。誰かに危害を加えたら、窓ガラスを割ってでも逃げ出す」

コニー「俺一人じゃカバーしきれねえよ!」

ユミル「ちっ、分かったよ」

エレン「……」ホッ

リヴァイ「ちょっと頼みがあるんだが」

ユミル「なんだよ?」

リヴァイ「家内が寒いというので、何か羽織るものを取ってきたい」

ユミル「コニー、ついてってやれ」

コニー「おう」

リヴァイ「……」スタスタ

ユミル「……あんた、この女の恋人か何かか?」

エレン「その人は、俺の婚約者の従妹だ。だから守る義務がある」

ユミル「ふーん。その婚約者ってのはどっちだ?」

アニハンジ「……」

エレン「……」

ジャン「……ミカサ。死んだ妹の婚約者だ」

ユミル「へえ……」

リヴァイ「……」ガチャ

ユミル「なああんた、さっきの話の続きをしてくれよ」

リヴァイ「さっきの話?」

ユミル「交通事故の話だよ。あんたの娘さんが死んだっていう」

ユミル「ただの事故じゃないって言ってたろ? その続きだよ」

リヴァイ「……少し取り乱しただけだ。続きなどない」

ユミル「そうか? あの時のあんたの様子は明らかにおかしかったぞ」

リヴァイ「なぜその話にこだわる?」

ユミル「単なる好奇心だよ。何しろ退屈なもんでね」

ハンジ「……」ヒソヒソ

コニー「おい、何話してんだよ」

リヴァイ「なるほどな。お前らの目的は、アッカーマン家の弱みを握ることか?」

ユミル「ぐっ……」ギリギリ

ユミル「……私らの狙いはともかく、あんたらだって娘さんの死には疑問を持っている風だったじゃないか」

ユミル「ここに集まったのも、それをはっきりさせる意味合いがあったんじゃないのか?」

一同「……」シーン

ユミル「ちっ、つまんねえな……」

アニ「リヴァイさんも、やはり私と同じ考えなんだね」

一同「!!!」

アニ「昨夜私が主張した時は反対してたけど、心のうちでは疑いを抱いていた」

リヴァイ「やめろ。今その話はしたくない」

アニ「いえ、今だからできるはず」

アニ「平和な生活に戻れたら、もうこんな暗い話は避けるはず……皆そうだろ?」

一同「……」

リヴァイ「避ければいいだろう」

アニ「それでいいんですか。……どこかにミカサを殺した犯人がいるかもしれないのに?」

ジャン「おいっ、アニ……!」

ユミル「おい、聞いたぞ。殺しだって? どうやら私たちは面白いところに忍び込んだみたいだな」

リヴァイ「娘を殺したところで誰も得をしない」

アニ「利益よりも、恨みや復讐のほうがより強いエネルギーになりえる」

リヴァイ「いったい誰が娘に恨みを抱いていたというんだ」

ユミル「いいねいいね。この際だから白黒はっきりさせようじゃないか」

ユミル「娘の死の真相がはっきりしないまま、私らがここを出て行ったら後味悪いだろ?」

リヴァイ「チッ……」

エレン(こいつらがもし捕まったら、ここでのことを白状するかもしれないな……)

アニ「私は警察の関係者から取材したことがある」

アニ「単なる事故死と断定された場合には解剖もされない、と」

アニ「だから、ミカサが睡眠薬を飲んだことを証明することはできない」

ユミル「へえ、睡眠薬か。それなら事故を起こさせることも可能だな」

リヴァイ「……」ギロッ

ジャン「お前は昨日からそんなこと言ってるけど、その自信はどっから来るんだよ?」

アニ「ピルケースだよ」

ジャン「ピルケース……? 薬入れのことか」

アニ「そう、彼女はペンダント型のピルケースを持っていた」

アニ「一度見せてもらったことがあるけど、中には白いカプセルが二錠入っていた」

アニ「生理痛がひどかったようで、医者に特別に調合してもらったと……」チラッ

ライナー「ああ、それなら覚えている。定期的に何錠か渡していたはずだ」

ぺトラ「私も知ってるわ……」

ジャン「お前も知ってたのか」

エレン「ああ」

エレン(いずれは話題に出すんじゃないかと思っていた)

ジャン「証人が続々出てきたな。けどそれがどうしたっていうんだよ」

アニ「仮にその薬にそっくりな睡眠薬があったとする」

アニ「ミカサがペンダントを外したすきにこっそりと中身をすり替えるんだ」

ジャン「なるほどな。でも、普通の鎮痛剤なんかにも眠くなる効果はあるんじゃないのか」

ライナー「運転できないのは困るということで、眠くならない薬を調合したんだ」

ぺトラ「でもミカサはあの日、薬を飲んでいないわ」

ぺトラ「私も真っ先に薬の影響を疑って、遺品を受け取ったときペンダントを調べたの」

ぺトラ「あの子はちょうど生理中だったから……」

ぺトラ「でも、ピルケースの中には薬が二錠入ったままだった」

ペトラ「だから、あの子は薬を飲んでいないはず」

アニ「余分に持っていたということは……」

ペトラ「それはないわ。一日二錠と決められていたし、そのためのピルケースなんだから」

リヴァイ「これで分かっただろう。仮に薬がすり替えられていたとしても、ミカサの死とは関係ない」

アニ「……ピルケースの中に薬が入っていたとしても、説明は成り立ちます」

ジャン「どんなふうにだ?」

アニ「遺品だといわれてピルケースを受け取ったとき、中には薬が二錠入っていた」

アニ「ということは――――」

リヴァイ「もういいだろう。屁理屈なら何とでもつけられる」

ジャン「何か理屈をつけられるなら聞いてみたい気もするがな」

リヴァイ「ならお前ひとりで聞け。俺はそんなもの聞きたくない」

ユミル「おいおい、せっかく盛り上がってきたのにもうおしまいかよ」ヤレヤレ

ユミル「続きはどうなるんだよ?」

リヴァイ「好きなように想像しろ」

エレン(不思議だ……)

エレン(ミカサの事故について議論している時だけは、皆人質だということを忘れてるみたいだ)

エレン(それだけミカサの死の真相に関心があるってことなんだろうな)

エレン(……あの日、俺もピルケースを調べた)

エレン(事故の知らせを受けてすぐ、俺は警察署に向かった)

エレン(すでにミカサの両親とクリスタ父子は到着していた)

エレン(担当の警官が遺品を机の上に並べ、リヴァイさんがそれを袋にしまった)

エレン(霊柩車を追いかける途中、休憩のためにパーキングエリアに寄った)

エレン(そこで、俺はピルケースの中身を調べた)

エレン(中には、見覚えのある薬が二錠入っていた)

エレン(ミカサはあの日、何の薬も飲んでいない。それだけは事実だ)

ユミル「五時過ぎか、そろそろカーテンを閉めてもいいだろう」

シャッ

ユミル「さて、これが最後のディナーだ。張り切って作ってくれよ」ニヤニヤ

ピンポーン

ユミル「ちっ、またあいつらか……」

エレン「俺が行く」スッ

エレン(SOSの文字を知らせなくちゃな)

ユミル「よし、今朝と同じ要領で頼むぜ」

ガチャッ

エルヴィン「何度もすみません。犯人がまだ捕まっていないとのことで……」

エルヴィン「ちょっと、お部屋の中を拝見してもよろしいでしょうか?」

エレン「はい。ご協力をお願いします。……少々お待ちください」

バタン

ユミル「おい! なんてことを言い出しやがる」アタフタ

エレン「どうする気だ?」

ユミル「……コニー、女どもを連れて二階に行け。どこかの部屋に入って鍵をかけろ」

ユミル「男連中は私らと一緒に来い」

ガチャッ

エレン「どうぞ、お入りください」

エルヴィン「おや、お泊りなのはあなたたちだけですか」

ユミル「いえ、私以外の女性陣は今自分の部屋にいるようでして」ニコッ

エルヴィン「ああ、そうですか。……失礼ですが、オーナーのアッカーマンさんですか?」

リヴァイ「……ああ。息子のジャン、娘の恋人のエレン、主治医のライナーだ。そして……」

ユミル「社長秘書のユミルです」ペコリ

エレン(ユミルっていうのは偽名なのか?)

エルヴィン「ははあ、家族ぐるみの付き合いというわけですね」

エルヴィン「……ところで、上の部屋を見せていただいてもよろしいですか?」

エレン「特に何もありませんよ。眠っている女性がいるかもしれないし……」

エルヴィン「ざっと見せていただくだけですよ」スタスタ

ユミル「……」チャキッ

エレン(いざとなれば警官を撃ち殺す気だな……)

エルヴィン「すみません」コンコン

エレン「……」ゴクリ

ハンジ「はい。なんですか?」ガチャ

エルヴィン「このあたりの見回りを行っているのですか、部屋の中を見せていただけませんか?」

ハンジ「それはまあ構いませんけど……」

ハンジ「でも私たち、明日に備えて水着検討会をやってるんです。だから全員ほとんど裸ですよ?」ニヤニヤ

エルヴィン「えっ、そ、それは……」シドロモドロ

ハンジ「どうしてもっていうなら入っていただいて構いませんけど~」ニヤニヤ

エルヴィン「いえ、ど、どうも失礼しました」アタフタ

エレン(さすがハンジさん)

エルヴィン「いやあ参りました。最近の女性は大胆ですね」

ユミル「中に入ってみるのも一興だったかもしれませんよ」

エルヴィン「とんでもない。では失礼します」

エレン「あっ、あの……」

エレン(まだ大事な用が残ってる!)

エレン(SOSの文字が……)

エレン{あれ……?)

エレン(文字が……消えてる……?)

エレン(地面に濡らしたような跡が……)

エレン(なんで……?)

エルヴィン「では、失礼します」

バタン

エレン(誰かが文字を消した……?)

エレン(確か、手洗い場の洗面台の横にビニールホースが置いてあったはず)

エレン(あれを使って小窓から水を流せば、文字を消すことは可能だ)

エレン(でも、いったい誰が何のために……?)

エレン(強盗犯たちだったら、黙っていないはずだ)

エレン(じゃあ、裏切者がいるのか……? この中に……?)

ジャン「なあ、俺にいい考えがあるんだ」

エレン「なんだ?」

ジャン「これから周囲はどんどん暗くなっていく」

ジャン「停電でもしたら、逃げ出すチャンスが生まれると思わないか?」

エレン(停電……そうか、その手があったか)

エレン「でもどうやって?」

ジャン「このラウンジや食堂の照明は、同じブレーカーから電気を取っているはずだ」

ジャン「だからそのブレーカーが落ちるように、どこかのコンセントをショートさせてやればいい」

ジャン「連中に見つからないように、トイレの洗面台のコンセントを使うんだ」

エレン「でも、急に暗くなってもパニックになるだろ」

ジャン「だから、あらかじめ時間を決めておくんだ。タイマーを使ってな」

ジャン「俺の部屋にタイマーがある。冬場、電気ストーブに付けて使ったりするんだ」

ジャン「あれを利用して、時間が来ればショートするようにセットすればいい」

エレン「でも、どうやってタイマーを取りに行くんだ?」

ジャン「任せとけよ」ドヤッ

ジャン「お前、パズルが好きなんだな」

コニー「んあ?」

ジャン「実は俺も一つ、面白いパズルを知ってるんだ」

コニー「どんな?」ワクテカ

ジャン「俺の部屋にある。取りに行かせてくれよ」

コニー「うーん……」

エレン(ユミルは晩御飯の支度をしてる女性陣を見張っている)

エレン(ジャンを一人で行かせるわけにもいかないし、ほかの男を見張らないわけにもいかない)

ジャン「全員を連れて行くのはどうだ? それなら安心だろ」

コニー「分かった。そうする」

男性陣「……」スタスタ

ジャン「俺がパズルを見つけたと言ったら、奴の気をそらしてくれ。十秒ほどでいい」ヒソヒソ

エレン「分かった」ヒソヒソ

コニー「早くしろよ」ガチャッ

ジャン「分かってるよ。えーと、確かこの棚の中に……」ガサゴソ

ジャン「あったあった」チラッ

エレン「うっ!! 急におなかが……」ウググ

ライナー「腹痛か?」

リヴァイ「どうした、エレン」

コニー「おい、何やってんだよ」

エレン「おかしいな……変なもんでも食ったか……?」チラッ

ジャン(あった。タイマーだ)スッ

ジャン「少し休めば楽になるだろ。ここんとこ緊張しっぱなしだからな」チラッ

エレン「ありがとう……もう大丈夫」

ジャン「さあ、もうこの部屋に用はないぜ」

コニー「分かった。降りろ」

男性陣「……」スタスタ

コニー「へえ、マッチ箱パズルか……」ワクワク

エレン(案の定コニーはパズルに夢中だ)

ジャン「よし、これで完成だ」コソコソ

ジャン「あとはコンセントに差し込むだけだな……」チラッ

ジャン「トイレに行かせてくれ。さっきみたいに全員を連れて行けばいいだろ」

コニー「……分かったよ」

エレン(おもちゃを与えられた子供みたいに素直な奴だ)

ジャン「七時ちょうどにセットした」ヒソヒソ

エレン「分かった」ヒソヒソ

エレン「俺もトイレ行っていいか?」

エレン「……」ガチャ

エレン(確かに、セットされてるな)

エレン(今は六時過ぎだから、あと一時間後に停電するのか……)


ユミル「おいコニー、何遊んでんだよ」

コニー「マッチ箱パズルだよ」

ユミル「ふーん。まあいいけど、あんま熱中しすぎるなよ」

ユミル「それがこいつらの狙いかもしれないんだからな」ギロッ

エレン(さすがに見抜かれてるな……)

ユミル「まあ、とにかく腹ごしらえだな」

エレン「……あの、ハンジさん。SOSの文字なんですけど……」

ハンジ「消されてた? 誰に?」

エレン「分かりません……でも、新しい仕掛けがあるんです」ヒソヒソ

ハンジ「なるほど……」

ジャン「……」ヒソヒソ

エレン(仕掛けのことは皆に伝わったみたいだな)

エレン(間もなく七時だ……どうやって行動を起こすか……)

エレン(窓ガラスを破るか? 危険だけど、奴らに追いつかれる前に……)

エレン(……)

エレン(もう七時だ……もうすぐ……)

エレン(……まだか?)

エレン(おかしいな……十分以上たったのに何も起こらない)

リヴァイ「……手洗いに行ってくる」

コニー「おい、待てって」

リヴァイ「……」

エレン(何かあったのか……?)

リヴァイ「……」ヒソヒソ

ジャン「!!」

エレン(なんなんだ……?)

アニ「……」ヒソヒソ

エレン「なっ……」

エレン(タイマーが壊されてるって……そう言ったのか!?)

エレン(やっぱり……裏切者がいるのか!? この中に……!!)

エレン(何者かが、この事件が解決するのを阻止しようとしている)

エレン(あの後、俺もタイマーの様子を確かめに行った)

エレン(タイマーのコードは引き抜かれ切断されていた)

エレン(時刻は六時三十四分)

エレン(その時間に席を立ったのは誰だったか……)

プルルルル

エレン「!! 電話か!?」

ユミル「出ろ。余計なこと喋るんじゃねえぞ」

ペトラ「……もしもし、アッカーマンです。はい、いつもお世話になっております……」

ペトラ「少々お待ちくださいませ。……あなた、オルオさん。緊急の用件ですって」

リヴァイ「うちの専務だ」

ユミル「よし、出ろ。なるべく早く切れよ」

リヴァイ「俺だ。何かあったのか? ああ、そのことか。ちょっと待ってくれ」

リヴァイ「……仕事のことで尋ねられている。部屋にある資料を取ってきたいんだが」

ユミル「しょうがねえな……二階に行って電話の続きをしろ。コニー、見張っとけ」

ユミル「世の中には大金を稼ぐ人間ってのがいるんだな」

ユミル「私たちが命がけで盗んだ金を湯水のように使いやがる」

ユミル「いったいどこからこういう差が生まれるもんなのかねえ」

エレン(リヴァイさん……このことを電話で伝えるのは無理か……)

ユミル「あんた、あの男の部下か?」

エレン「いや、違う。仕事の関係で世話になってはいるけど」

ユミル「ふーん。残念だったな。娘と結婚してたらあんたの生活もうまくいってただろう」

エレン「……そんな風には考えないようにしてるんだよ」

ユミル「いやあ、どうやったって考えちまうだろ。社長令嬢と結婚するわけだし」

エレン「……」

ユミル「なあ、教えてくれよ。その娘が死んじまって、どっちがあんたにとって惜しかったんだ?」

ユミル「娘の命か、それとも財産か?」

エレン「今度そんなことを言ったらお前の首を絞める。たとえ撃たれてもな」ギロッ

ユミル「……っ」タジッ

ユミル「……んな怖い顔すんなよ」

ユミル「電話が終わったみたいだな」

ユミル「おいコニー、あんま飲みすぎんなよ。とりあえず瓶持って歩くのやめろ」

コニー「へいへい」

エレン(それから三十分後、異変は起こった)

コニー「ふわあ……」ウツラウツラ

ユミル「コニー! どうした!?」

ユミル「お前ら……何か盛ったな!?」

ジャン「知らねえよ。飲みすぎなんじゃねえの」

コニー「zzz」

ユミル「くそっ、やりやがったな……」

ユミル「こうなったら、朝まで徹夜で見張ってやる」ギロッ

エレン(誰かが睡眠薬を飲ませたのか……?)

リヴァイ「……取引を提案したい」

ユミル「なんだと?」

リヴァイ「皆を各自の部屋に戻せ。俺が一人ここに残る」

ユミル「なんだと……!?」

リヴァイ「お前も一人で全員を見張るのは大変だろう」

ユミル「くっ……」

リヴァイ「俺以外の全員を部屋に入れてしまえば、あとは俺と各部屋の入り口を見張るだけでいい」

リヴァイ「トイレは各部屋にもあるから出入りする必要はない」

ユミル「窓から逃げるかもしれねーじゃねーか」

リヴァイ「自殺行為だな……心配なら、窓に鍵をかければいい」

ユミル「鍵?」

リヴァイ「窓は二重になっていて、外扉は内側から小さな閂を下ろすようになっている」

リヴァイ「その閂には小さな穴が開いていて、錠前をつければ施錠することもできるはずだ」

ユミル「錠前はどこにある?」

リヴァイ「物置だ」

ユミル「よし、全員立て」

エレン(錠前は、全部で七つ)

ユミル「一人ずつ部屋に入れ。窓の鍵は私が預かっておく」

ユミル「ようやくゆっくりできるな、お嬢さん」ニヤッ

クリスタ「……」ホッ

ユミル「……さて。旦那さんには部屋に入ってもらおうか」

リヴァイ「……なんだと?」

ユミル「見るからに強そうなあんたを人質にするほど、私もお人よしじゃないんでね」

ユミル「代わりに、奥さんのほうに残ってもらう」

リヴァイ「家内は弱っている。俺にしろ」

ペトラ「いいの、あなた。私なら大丈夫」

ユミル「奥さんが言うんじゃしょうがないよな」

ユミル「あと、この部屋には電話があったな。それも預かっておく」

リヴァイ「チッ……」

ユミル「下の電話は繋いでおくから、かかってきたら教えてやるよ」

ユミル「誰も出なかったら怪しまれるしな」

ペトラ「おやすみなさい、エレン君」

エレン「ペトラさん……大丈夫なんですか」

ユミル「心配しなくても、風邪を引かしたりしねえよ」

エレン「そう願いたいね」ギロッ

バタン

エレン(窓の鍵はかなり頑丈だな)

エレン(仮にどうにかできたとしても、脱出しようとは思わないな……)

エレン(……今日起こったことを整理してみよう)

エレン(ハンジさんのSOS。タイマーの仕掛け。これらを邪魔したのは誰だ?)

エレン(強盗が居座り続ける限り、誰もここから出られない)

エレン(それで何かメリットがあるのか……?)

エレン(とにかく、今日は疲れた……)

エレン「zzz……」

ユミル「おい、起きろ」ドンドン

エレン「ああ……もう朝か」ガチャ

ユミル「ぐっすり眠れたようだな。おかげでこっちは一睡もせずだ」

エレン「ああ、そうかよ」

ユミル「とりあえず降りろ」

エレン「……」スタスタ

エレン(コニーも起きてるな。能天気な奴だ)

ユミル「……一人足りないな」

アニ「クリスタがいない」

ユミル「お嬢さん育ちで朝が弱いのかもしれないな。コニー、見てこい」

コニー「おーい」ドンドン

コニー「返事がないぞ」

ユミル「まさか逃げられたのか!?」

ライナー「クリスタが!?」

コニー「だめだ、開かねえ。こじ開けるぞ」

一同「せーの!」ドンッ

一同「……」

ライナー「クリスタ……?」

エレン「そんな……」

エレン(それはあまりにも衝撃的な光景だった)

エレン(俺はしばらくその場から動くことができなかった)

エレン(クリスタはベッドにいた)

エレン(だがその背中にはナイフが刺さり、血が滲んでいた)

第四幕―――――惨劇

ユミル「動くな!! そのまま全員じっとしてろ!!」

エレン(そんなこと言われるまでもなく、誰も動こうとはしなかった)

ライナー「クリスタ……どうしてこんなことに」

ユミル「……お前たしか医者だったな。まだ助かるかもしれねえ。診てこい」

ライナー「ああ……」フラフラ

ライナー「……」

ユミル「どうだ? 助かりそうか?」

ライナー「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」ガバッ

ユミル「なっ!! おい、やめろ!! 離せよ!」

ライナー「お前が!! お前がクリスタを殺したんだな!? そうだろう!?」

ユミル「おいコニー! 突っ立ってないで何とかしろ!!」

コニー「あっ、ああ……こらお前っ! ユミルから離れろ!」ドガッ

ユミル「どけ、この野郎!!」ガスッ

ライナー「ハァ……ハァ……」

ジャン「おい、ライナー! 落ち着けよ……無理だろうけどな」ガシッ

ライナー「くそッ……」ギリギリ

ユミル「この女を殺したのは誰だ!? 正直に答えろ!」チャキッ

ペトラ「ああ、なんてこと……私が招待しなければこんなことには……」オロオロ

ユミル「うるさい! 喚くな! 誰がやったんだ!?」イライラ

エレン「お前以外にだれがいるんだ……!?」ギロッ

ユミル「私じゃない」ブンブン

エレン「嘘だ! お前は夜中にクリスタの部屋に忍びこんで、抵抗されたから―――」ズイッ

ジャン「落ち着けよ、エレン! 相手がピストルを持ってることを忘れたか!?」ガシッ

エレン「離せ!!」ジタバタ

ジャン「まあ待てよ、こいつらがやったかどうかは調べればすぐにわかる」

エレン「……分かった。こいつがやったということを証明してやる」

ユミル「お前ら、何か勘違いしてるみたいだが……」

ユミル「私にはこの女を殺す理由なんてない」

リヴァイ「……だがこの状況で罪もないクリスタを殺すといえば、お前ら二人以外には考えられない」

コニー「俺は何もしてないぞ!」

ユミル「私もだ。お前らの中に犯人がいるはずだ」

ライナー「とぼけるな」ギロッ

ユミル「埒があかねえな……とにかく全員部屋から出ろ」

ユミル「……おいそこのお前、何してる?」

アニ「ベッドの下に何か落ちてる」

ユミル「……日記帳か。これを書いている途中で殺されたらしいな」

アニ「犯人のことが書いてあるかもしれないね」

ユミル「あとでゆっくり見させてもらう。とりあえず全員出ろ」

ユミル「なあ、頼むから白状してくれよ」

ライナー「お前たちがやったんだろう」

コニー「だから俺は寝てたって」

ユミル「ああ、それは知ってるよ。お前はこの肝心な時にずっと寝てたな」

コニー「ああそうだよ、俺は寝てたんだ!」ムスッ

ユミル「ハァ……」

リヴァイ「ペトラ、お前はずっと寝てたのか?」

ペトラ「ちゃんと眠った覚えはないけど、時々うつらうつらした記憶は……」

ジャン「そういうのは案外眠ってるもんなんだよ」

ジャン「だから母さんが寝てる隙に誰かさんがクリスタの部屋に侵入したってのも――」チラッ

ユミル「冗談はよせ」

ユミル「こっちだって命懸けでやってるんだ。こんな時くらい抑制するさ」

ライナー「お前は昨日もクリスタを部屋に連れ込もうとしてただろう」ギロッ

ユミル「あの時とは状況が違う。昨日は私一人で見張ってたんだ」

ユミル「それに肝心なことを忘れてるな。部屋には鍵がかかってたんだ」

ライナー「脅して開けさせたんだ」

ユミル「開けなきゃ殺す、ってか? それでおとなしく開けるやつがいると思うのか」

ライナー「くっ……」

ユミル「私に言わせれば、部屋に入れるのは親しい人間だけだ」

ユミル「要するに、あんたたちのほうがずっと怪しいってことだよ」

エレン「変なことを言うな」

ユミル「そうか? 私はむしろ妥当だと思うね」

ユミル「本当は気付いてるんじゃないのか? 私たちが犯人ではありえないって」

ユミル「私たちを疑っている間は、そちらの人間関係は壊れずに済む」

ユミル「でも、そういう芝居にも限界があるだろ」

ユミル「みんな善人面をしているが、誰か一人は仮面を被っている」

ユミル「あの女を殺したのは、あんたたちの中の誰かなんだ」

一同「……」シーン

エレン(悔しいけど、こいつの言うとおりだ)

エレン(みんな、口に出すのが怖いだけで本当は……)

ハンジ「ここからだと、ほとんどすべての部屋を見渡すことができるね」

エレン(ハンジさん……?)

ハンジ「見えないのは、一番端のクリスタさんの部屋だけ」

ハンジ「つまり、誰かがここを出てクリスタさんの部屋に行こうとした場合」

ハンジ「必ずその姿をここにいる人間に見られることになる」

一同「……」

リヴァイ「ペトラ、お前は何も見なかったんだろう?」

ペトラ「ええ……。でも、何度かうとうとしたから、その時は……」

ジャン「あんたはどうなんだよ」

ユミル「誰かが部屋を出るのを見かけたら黙ってるわけないだろ」

ユミル「……でも、トイレに行ってる時ならチャンスはあったかもな」

エレン「トイレに行ったのか」

エレン(くそっ、一晩中でも見張っていれば……)

ユミル「ああ。人質も連れてな。……確か明け方の五時ごろだったかな」

ペトラ「それであってると思うわ」

リヴァイ「そのほかにここを離れたことは?」

ユミル「ないね」

ハンジ「じゃあ、誰かが殺人を実行する機会はその時以外になかったってことだね」

一同「……」コクッ

リヴァイ「誰だか知らないが、なぜこんな時に殺人を……?」

ユミル「それはこっちのセリフだよ。そういうのは私たちが消えてからやってくれよ」ハァ

ペトラ「自殺したという可能性は……?」

ライナー「背中を刺されていた。まず不可能だろう」

エレン「あのナイフはどういうものなんですか?」

リヴァイ「見たことのないものだったな」

アニ「犯人が持ってきたと考えるのが自然だろうね」

ユミル「まあ、警察が来れば分かるだろうよ」

ユミル「私たちが出て行ったら通報するんだろ? 指紋なり調べれば案外簡単にわかるかもな」

ユミル「これ以上のごたごたは、頼むから私たちが出て行ってからにしてくれ」

エレン(こいつも相当こたえてるみたいだ)

コニー「腹減った」

ユミル「こんな時にかよ。……おい女性陣、頼んだ」

ライナー「俺は何もいらない」

リヴァイ「俺もだ」

コニー「……」キョロキョロ

エレン(昨日たっぷり寝たからか、生き生きしてるな)

エレン(これじゃ前みたいに内緒話をするのも無理そうだ)

エレン(この中に犯人がいるかもしれないのに、そんな気にもなれないか……)

エレン(そういえば、あいつが寝たのは睡眠薬を飲まされたからじゃないのか……?)

エレン(見張りがユミル一人になれば犯行のチャンスも生まれるだろう)

エレン(それに、裏切者のこともある)

エレン(その裏切り者がクリスタを殺したんだとしたら……)

エレン(強盗犯がここにいる限りは警察に通報できない)

エレン(時間がたつほど手がかりは失われていくし)

エレン(殺人の罪をあいつらになすりつけることも出来る)

エレン(犯人は強盗がやってきたという状況を利用した……?)

エレン(やはり、犯人はこの中にいるんだ)

エレン(リヴァイさん、ペトラさん、ジャン、アニ、ライナー、ハンジさん)

エレン(いったい誰がクリスタを……?)

エレン「……」モグモグ

エレン(こんな時でも腹は減るもんだな……)

ライナー「こんなことになるなら、別荘なんか来るんじゃなかった」ハァ

ジャン「夏になるとこの別荘に来るのは毎年のことだぜ」

ジャン「お前は勝手に引っ付いてきただけだろ」

ライナー「だから余計に悔しいんだ。俺がついていながら……」

ジャン「お前が悔やむ必要はない」

ジャン「お前はクリスタの婚約者気取りだったらしいが」

ジャン「クリスタにその気があったかどうかは―――」

エレン「おい、ジャン」

ライナー「……家を出るとき、彼女のことをよろしくと頼まれたんだ」

ライナー「俺はクリスタを殺した犯人を絶対に許さない」

エレン「……」

ジャン「……」

ジャン「……ちょっと聞きたいんだが」

コニー「なんだよ?」

ジャン「お前らの仲間はいつ来るんだ?」

コニー「今日来る」

ジャン「……前聞いた話だと、昨日の夜にでも来るとか言ってたが」

コニー「今日、来る。絶対に来る」

ジャン「早いとこ来てもらいたいな。こうなった以上、一刻も早く警察に連絡したい」

コニー「分かってるよ」

ユミル「……」パラパラ

ライナー「おい、勝手に読むなよ」

ユミル「本人は死んじまってるから問題ないだろ。この日記に何かヒントが書かれてるかもしれないし」

ユミル「……つっても、私たちが来た以降のことは書いてないみたいだな」

リヴァイ「それどころじゃなかったんだろう」

ユミル「私のことをどんなふうに書いてるか楽しみだったんだけどな」

ユミル「あれ? 途中のページが抜けてる」

ジャン「抜けてる? どういうことだ?」

ユミル「破られてる箇所があるんだよ」

ペトラ「書き損じたから破ったとか……?」

アニ「それはないと思います。クリスタの性格上」

エレン(確かに)

アニ「おそらく、人に知られたくない秘密が書かれていたんだと思う」

アニ「死ぬ直前にそれを破り捨てた……」

ジャン「そんな元気があるなら助けを呼んでるはずだろ」

ジャン「犯人が持ち去ったと考えるのが自然だろうな」

ジャン「犯人にとって都合の悪いことが、そこには書かれてあったんだ」

アニ「でも―――」

ユミル「よしわかった。コニー、見てこい」

ユミル「もしあの女自身が破ったものなら、その破片がどこかに落ちてるはずだ」

コニー「えっ!? 死体のある部屋なんか行きたくねえよ!」ガクブル

エレン(死体……)ゾッ

エレン(そうだ、クリスタは死んだんだ。もう生き返らない)

ユミル「ったく、男のくせにだらしねえな」ハァ

ジャン「俺が行ってもいいぜ。破られたページのことは気になるからな」

ユミル「だめだ。あんたが犯人じゃないという証拠はない」

ユミル「見つかっても、何もなかったといってとぼける手もある」

ジャン「それはお前らも同じだろ」

ユミル「私は犯人じゃない。それは私が一番よく知っている」

ユミル「コニー、死体が怖いなら生きてるほうを頼む」

ユミル「……こっちのほうがよっぽど怖いと思うけどな」スタスタ

アニ「……犯人が破ったわけではないと思う」

アニ「仮に日記に犯人にとって都合の悪いことが書かれていたとしても」

アニ「犯人がそれを知るはずがない」

アニ「クリスタが日記を他人に見せるなんて真似すると思うかい?」

ジャン「犯人はクリスタが日記をつけていることを知っていたのかもしれないぜ」

ジャン「念のために調べてみたところ、そこには不都合なことが書かれていたので処分した」

アニ「もしそうなら、日記を無造作に捨てていったりはしないはず」

アニ「あれじゃどうぞ見てくださいと言ってるようなもんだろ」

ジャン「肝心のページを破った後なら見られても構わないと思ったのかもな」

アニジャン「……」バチバチ

リヴァイ「破られていたのはいつごろの日付だ?」

コニー「四月九日まで書いてて、その次が破られてる」

コニー「四月十二日まで飛んでるな」

ジャン「ってことは、四月十日と十一日が抜けてるのか……」ハッ

ペトラ「四月十日……ミカサの命日」ブルブル

一同「……」

エレン(やはり、クリスタの事件にはミカサの死が関わっている……)

ユミル「いろいろ探したが見つからなかった。やっぱり犯人が持って行ったんだな」スタスタ

ユミル「おい、どうした?」

コニー「かくかくしかじか」

ユミル「ほう、面白くなってきたじゃねえか」

ユミル「結局、例の娘さん殺しにつながるというわけか」

エレン(ミカサの死に犯人は何か関係していたのか……?)

エレン(クリスタの日記にそのことが書かれてて、それを知られるのを恐れて犯人は――)

ユミル「あ、そうだ。日記の切れ端は見つからなかったが、代わりに面白いものを見つけたぜ」スッ

ユミル「細かくちぎれた紙片。ごみ箱に捨ててあったんだ」

ユミル「最初は日記の一部かと思ったが、材質からして違うらしい」

コニー「パズルみたいだな」イキイキ

ユミル「それにしても人間ってやつは恐ろしいね」

ユミル「あんたら、どう見ても普通の人々にしか見えないのに」

ユミル「この中に殺人犯が混ざってるんだもんな」

ユミル「私らなんかより、よっぽど不気味だよ」

一同「……」

コニー「ピースが全然足りないぞ」

ユミル「焦げ跡があったし、最初は燃やそうとしたんだろうな」

ユミル「灰を持ってきてもつなげようがないだろ」

コニー「うーん、ここまでだな」

ユミル「なになに? あとで行く……ドアの鍵を開けて……ははあ、そういうことか」ニヤリ

ジャン「なんでこんなメモが……」

アニ「犯人がクリスタに渡したんだね」

アニ「クリスタは指示通りドアの鍵を開けておく」

アニ「そうすれば犯人はいつでも侵入できる」

ユミル「これではっきりしたな。犯人はあの女が相当気を許してる相手だってことが」

エレン(いったいこの中の誰がそんなことを……?)

ハンジ「でも、仮にこのメモを渡されたとして、クリスタさんはどう思ったのかな?」

ハンジ「こんな状況だし、部屋を行き来するのは危険だとわかってたはず」

ハンジ「それに、何のために自分の部屋に来ると思ったんだろう?」

ジャン「この状況から逃れるための打開策の一環だと思ったんだろうな」

ジャン「つまりそれだけ気を許してる相手だったということだ」

エレン「でも、そんなものを渡す暇があったのか?」

ハンジ「昨日各自の部屋に入るとき、全員で移動したよね」

ハンジ「隙を見てメモを置くのは誰にでもできるはず」

エレン(誰か不審な行動をとった人物はいなかったか……?)

ジャン「直接渡したんじゃなければ、親しい人間でなくてもいいわけだな」チラッ

ユミル「やめろよ」

ハンジ「少なくとも署名はあったはずだよ。そしてその名前は、クリスタが信用していた人物のものだった」

一同「……」

ジャン「例の日記帳のページは見つからなかったんだな?」

ユミル「ああ。そのために死体を動かしてベッドの中まで調べたからな」

ジャン「ご苦労さん。じゃあ、やっぱり犯人が持ち去ったってことだな」チラッ

アニ「……」グヌヌ

ジャン「日記の日付から考えて、破られたページにはミカサの死のことが書いてあったはずだ」

ジャン「それが犯人にとってどう都合が悪かったのか?」

一同「……」

リヴァイ「……ミカサの死には何の秘密もない」

ジャン「もうそんなこと言ってる場合じゃないぜ。日記が破られた以上は――」

ユミル「あー、ちょっと待ってくれ」スッ

ユミル「私は部外者だけど、ひとつ言ってもいいかな?」

ジャン「なんだよ」ゲンナリ

ユミル「あんたの力説したいこともわかるけどさ、ひとつ大事な可能性を忘れてないか?」

ジャン「可能性?」

ユミル「犯人は、娘さんの死とは全然関係のない人物だってことだよ」

ユミル「あんたたちはその事件にこだわってる。犯人はそれを利用したんだ」

ユミル「日記から例のページが破られてたら、嫌でもそこに注意が向くからな」

ユミル「実際には秘密なんてものはなかった」

アニ「それは絶対にない。あのページにはミカサの死の秘密が書かれていた」

一同「……」ジーッ

アニ「……と思う」

リヴァイ「一理あるかもしれないな。皆ミカサの死にこだわりすぎている」

ユミル「実際そうだとしたら大したもんだよな。どれだけ議論しても犯人にはたどり着かない」

エレン「その場合の動機はなんだ?」

ユミル「さあな。衝動的なもんだろ」

エレン「衝動的……? それならメモを渡したのは」

ユミル「最初は殺すつもりはなかったのかもしれない」

ユミル「当初の目的は、単にあの女の部屋に行くことだった」

ユミル「そして、夜中に女の部屋に忍び込む理由といえば一つしかないわな」ニヤニヤ

ジャン「自分のことを言ってるんじゃないのか?」ギロッ

ユミル「私のことはもういいんだよ。それより、この中に一人くらいはあの女に好意を持ってるやつがいるはずだ」

ユミル「……なかなかいい女だったしな」

エレン(やっぱりガチレズか……)

一同「……」ジーッ

ライナー「な、なんで俺を見るんだ」アセアセ

ジャン「お前はクリスタに結婚しよとかほざいてたらしいな」

ライナー「お前、なぜそれを」

ライナー「確かに俺は彼女のことが好きだった」

ライナー「だが、いくらなんでもこんな時にそんなことを考えたりはしない」

ユミル「こんなときだからこそ、付けこむチャンスだと考えたのかもしれないぜ?」

ライナー「お前ら、こんな奴の言うことを信じるのか!?」

ジャン「クリスタにしても、緊張が続きすぎて誰かに頼りたくなってた頃だろうしな」

ジャン「そこで忍び込み、慰めるふりをして彼女に迫った」

ジャン「だが拒まれたので衝動的に―――」

ライナー「やめろ! 俺はそんなことするはずがない! 何か証拠でもあるのか!?」

ユミル「ねえよ、そんなもの」

ユミル「そういう可能性もあるんじゃないかって話をしてるだけだ」

ライナー「まともじゃないな。この状況でそんなことを考えられるとは思えない」

ユミル「下半身は状況を考えて動くわけじゃないぜ。だから男は苦労するんだな」

コニー「お前ほんとに女かよ!?」

ライナー「とにかく、まずはミカサの死について議論すべきだ」

ジャン「そういうお前には何か考えがあるのか?」

ライナー「……ミカサとクリスタを殺した人物は同一じゃないか?」

ライナー「クリスタはミカサの死の真相を知っていて、それを日記に書いた」

ライナー「それを知った犯人がクリスタを殺し、日記も処分した」

ジャン「なるほど、筋は通ってるな」

ジャン「もしライナーの推理を採用するとしたら」

ジャン「少なくともアッカーマン家の三人は犯人候補から除外してほしいな」

ジャン「俺たちはミカサの肉親に当たるわけだし」

ペトラ「それから、エレン君も」

ペトラ「私たちの身内のようなものだし……」

ユミル「ほう、すると容疑者は三人に絞られるわけだな」

エレン「……いや、やはり俺も含まれるべきだ」

エレン「家族同然といっても、血のつながりはないから」

ユミル「オッケー。容疑者は四人だな」

エレン(なんかこいつ楽しそうだな)

ライナー「ハンジさんあたりは外してもいいんじゃないのか? ほとんど関わりはないし」

ハンジ「いやいや、どこでどうつながってるか分かんないもんだよ~」

リヴァイ「……仮に殺人だったとして、誰にどんな動機があるというんだ」

ライナー「率直に言っていいか?」

ジャン「ああ。今更遠慮も何もないだろ」

ライナー「この場で最もミカサを殺す動機があり得るのは、お前だと思う」

アニ「私が?」

エレン「ちょっと待てよ。アニが最初にミカサの死に疑問があるって言ったんだぞ」

エレン「もし犯人だったらそんなことをする理由がないだろ」

ライナー「それはお人よしが過ぎるな。そう思わせるためにわざと言ったとも考えられる」

アニ「……あんたの意見を聞かせてもらおうか」

ライナー「クリスタから聞いたことだが、お前はミカサのことを本にするつもりだったそうだな」

エレン「!? それホントなのか!?」

アニ「……」ギリッ

ライナー「ところが、ぎりぎりの段階になったところでミカサが出版を見合わせてほしいと頼んだ」

ライナー「結婚を控えていて、過去のことで騒がれたくないという気持ちもあったのかもしれない」

ライナー「本人の許可がなければ出版はできない。そこでついに思い余って―――」

アニ「私はそんなことで親友を殺したりはしない」

アニ「それに、もうあの本は出版しないことに決めたんだ」

ライナー「機会をうかがっているのかもしれない」

アニ「あんたは何もわかってないみたいだね。あんなにクリスタを―――」ハッ

ジャン「クリスタがどうしたっていうんだ?」

アニ「いや、何でもない」

ジャン「何でもないってことはないだろ」

ジャン「さっきから気になってたが、お前は何か隠してるな」

ジャン「この際だからハッキリ言ってくれ」

アニ「……分かったよ」

アニ「私は、ミカサを殺した犯人について一つの仮説を持っている」

ザワザワッ

リヴァイ「犯人が誰だか分かっているというのか?」

アニ「……証拠はありませんけれど」

一同「誰なんだ!?」

アニ「ミカサを殺したのは……クリスタだよ」

エレン「なんだって……?」

ライナー「馬鹿な。クリスタがそんなことするはずがないだろう」

ペトラ「ええ……あんな優しい子が」

リヴァイ「何か根拠があって言っているんだな?」

アニ「はい」コクッ

ジャン「聞かせてもらおうか。疑いを逃れるために作った嘘にしては大胆すぎるしな」

アニ「私がクリスタを疑うのは、ミカサが死ぬ直前に彼女と会っている可能性に気づいたから」

エレン「二人が……どこで?」

アニ「教会の近くだよ。……失礼ながら、あの日の皆の行動を調べさせてもらった」

アニ「クリスタは父親の仕事の関係であの近くに来ていたことが分かった」

ペトラ「近くといっても、二十キロは離れているはずよ」

ペトラ「あの子の父親が、そこにある大学に用があって来ていたらしいわ」

ペトラ「それを知っていたから、事故の知らせを聞いたときその大学に連絡したの」

エレン(それで俺が到着した時に父子はすでに警察署にいたのか)

アニ「二十キロは車を使えば三十分ほどの距離」

アニ「それに私が調べたところでは、父親が大学の教授と話している時に……」

アニ「クリスタは景色を見てくるから撮って席を外していたらしい」

アニ「約三時間。それだけの時間があれば、ミカサと待ち合わせることは十分可能だよ」

エレン(ミカサがクリスタと会っていた……?)

エレン(それにしても、アニはどうやってこれだけのことを調べたんだ?)

エレン「ミカサは、そんなことは一言も言わなかった」

アニ「ミカサの車には電話が付いていたから、車内で電話を受けたのかもしれない」

ライナー「それだけのことでクリスタを疑うのか!?」

ハンジ「まあまあ、まだ彼女の話は終わってないよ」

アニ「その通り。むしろここからが本番なんだ」

一同「……」ゴクッ

アニ「何度か話した、睡眠薬の話」

アニ「ミカサに睡眠薬を飲ませられる最有力候補がクリスタだった」

アニ「……でもそれを証明する方法がなかった」

アニ「本人の前で口にするのもはばかられて、曖昧な言い方に終始してしまったけれど……」

エレン(薬の問題に固執してたのはそういう理由だったんか)

リヴァイ「そのことに関しては何度も議論しただろう」

リヴァイ「ピルケースには薬が二錠入っていた。ミカサは薬を飲んでいない」

アニ「それについても説明できるといったはずです」

アニ「ミカサの生理痛はかなりひどいものだったそうですね、ペトラさん」

ペトラ「ええ、二、三日は薬を服用していたはず……」

アニ「あの時もミカサは生理中だった」

アニ「それなのに、なぜ鎮痛剤を飲まなかったのか?」

一同「……」ハッ!

アニ「本来ならば、薬が入っているほうがおかしいんだ」

リヴァイ「おかしいといっても、事実俺がこの目で見ている」

アニ「あの日に限って薬を飲まなかったというのはあまりにも不自然だと思いませんか」

リヴァイ「……」

アニ「そこで私はこう考えた」

アニ「ミカサはあの日、誰かから別の鎮痛剤をもらって飲んだ」

アニ「だからピルケースの中には薬が入ったままだった」

ジャン「その誰かがクリスタだって言うのか?」

ジャン「でも自分が薬を持ってるのに、わざわざ人から知らない薬をもらって飲むか?」

エレン(確かに、ジャンの意見はもっともだが……)

アニ「ミカサの薬はライナーが調合したものだったね」チラッ

ライナー「ああ、そうだ」

アニ「だったら、クリスタが同じ薬を持っててもおかしくないはずだ」

ライナー「……確かに、クリスタにもその薬を渡したことがある」

ザワザワッ

エレン「いや……でも、それがどうしたって言うんだ?」

エレン「同じ鎮痛剤をすり替えても何の問題もないだろ」

アニ「そのカプセルとよく似た睡眠薬があったらどうする?」

ジャン「そんなもんが本当にあるのか?」

ライナー「……似たものならあるかもしれないな」

ペトラ「でも、自分の薬があるのにわざわざ人から貰ったものを飲むなんて……」

アニ「ミカサはクリスタがそんな恐ろしいことをするとは夢にも思っていなかったはず」

アニ「それに自分が普段飲んでいる薬を正確に記憶していることはまれだと思う」

ジャン「……まあ、お前の推理が正しいとしよう」

ジャン「動機についてはどうなんだ?」

アニ「心当たりはあるけど……」

ユミル「お聞かせ願いたいね」

アニ「……クリスタは、ミカサからエレンを奪おうとした」

一同「……」

エレン「な……」

ジャン「何言ってんだ、お前?」

アニ「クリスタはエレンのことが好きだった」

アニ「その思いが抑えられなくなって犯行に及んだ。そうとしか考えられない」

リヴァイ「クリスタが従姉の婚約者に手を出すような女だと言いたいのか」

アニ「……何を隠そう、ミカサから直接聞いたんです、リヴァイさん」

リヴァイ「なんだと……?」

アニ「ミカサはクリスタのことをひどく心配していた。このままじゃエレンを取られるのではないかと」

ペトラ「あの子、そんなことは一言も……」

アニ「誰にも言わないでほしいと頼まれたものですから」

アニ「ミカサにしても、従妹をそんな目で見ることに罪悪感を抱いていたようです」

エレン(ミカサならそうだろうな……)

アニ「クリスタは魅力的な女性で、アプローチをかければエレンの心も揺らぐかもしれない」

アニ「それに比べて自分は……」

ジャン「片足のない女だから……か」

一同「……」シーン

ライナー「クリスタが……エレンを好き、だった……?」ポカーン

ユミル「まあ、とりあえず涙吹けよ」ポンッ

コニー(やべえ話に全然ついていけねえ)

ジャン「エレン、お前はどうなんだ? 自覚はしてたのか?」

エレン「俺は……よく分からないけど」

ユミル「そういうことは自分の口からは言いにくいよな」ニヤニヤ

エレン「くっ……」ギロッ

エレン「クリスタが自分のことを嫌いじゃないんじゃないかと思ったことならある」

全員「……」

リヴァイ「仮にそうだったとしても、クリスタにミカサを殺す理由はないはずだ」

リヴァイ「本気でアプローチをかければ、エレンも……」チラッ

エレン「それは絶対にありえません」

エレン「クリスタがどう思っていたにせよ、俺とミカサとの関係に変化はなかったはずです」

全員「……」

ペトラ「ええ、そうでしょうね……」グスッ

アニ「おそらく、クリスタも同じように考えたはず」

アニ「ミカサがこの世から消えない限り、エレンの心は自分には向かない」

ライナー「クリスタがそんな恐ろしいことを……」

ユミル「恋は盲目っていうからねえ」ニヤニヤ

コニー「お前もう黙ってろよ……」

リヴァイ「……言いたいことは分かった。だが証拠がないな」

アニ「それを掴むためにここへやってきたんです」

リヴァイ「何か収穫はあったか?」

アニ「……クリスタが殺されたことで、私の推理が全くの的外れではないという確信を持ちました」

アニ「それに……」チラッ

アニ「クリスタがエレンに好意を抱いていたことも確認できた」

エレン(もう逃げ出したい……)

リヴァイ「仮にこの推理が正しいとして、なぜクリスタは殺されることになったと思う?」

リヴァイ「……まあ、聞かなくても想像はつくがな」

アニ「おそらくご想像の通りです」

アニ「……復讐。犯人はミカサの復讐のためにクリスタを殺した」

ジャン「まあ、そうなるだろうな……」

アニ「私以外に、ミカサの死の真相に気づいた人間がいるということになる」

ライナー「自分が犯人ではないと言いたいわけだな」

アニ「……ミカサを愛していた人全員が犯人候補ということになるだろうね」

ジャン「そうなるとさっきと逆だな。ミカサと関係の深い人ほど容疑が濃くなる」

アニ「……」ジッ

エレン「分かってる。俺も犯人候補だと言いたいんだろ? むしろ一番怪しいかもしれない」

アニ「……すまないね」

エレン(本気で疑ってるんだろうな……)

ライナー「俺にはどうも信じられない。クリスタが人殺しなんて」

ライナー「それに証拠もないしな」

エレン「証拠はないにしろ、十分に筋の通った推理だったとは思う」

ライナー「……」グヌヌ

エレン(同一犯人説か、クリスタ犯人説か……)

エレン(要するに、容疑者は全然絞れてないってことだな)

ユミル「なんだよ、黙りこんじまって。せっかく盛り上がってきたのにもう終わりか?」

ジャン「終わりじゃねえよ。これから始まるんだ」

つづく

第五幕―――――探偵役

エレン(クリスタが俺のことを好きだった……)

エレン(俺がそのことを確信したのは、バレンタインデーの翌日だった)

エレン(仕事を終えて帰ろうとしたとき、事務所にクリスタが訪ねてきた)

エレン(近所の喫茶店で……)

クリスタ『結婚式まであと二か月だね』

エレン『ああ』

クリスタ『最近のミカサ、すごく幸せそう』

エレン『まあ、この時期は誰でも浮かれるもんだよな。まぁ実際どうなるかは分からないけどな』テレテレ

クリスタ『そんなことないよ。二人の結婚は、必ず最高の幸せにつながるはず』グッ

クリスタ『初めてエレンを紹介してもらったとき、ミカサは本当にいい人を見つけたんだなって……』

エレン『クリスタにもいい人が見つかるだろ、きっと』

クリスタ『私なんか全然……。ミカサが羨ましい』ポツリ

エレン『クリスタ……?』

クリスタ『あっ、ごめんね……変なこと』

クリスタ『今まで、何度か食事や買い物に付き合ってくれたよね……ありがとう、楽しかった』

エレン『ああ、いつでも呼んでくれよ』

クリスタ『ううん、もういいの。……断ち切ってしまいたいから』

エレン『断ち切る……?』

クリスタ『あっ……、今のは何でもないの』

クリスタ『それより、これ私が作ったの。よかったら食べてね』スッ

エレン『なんだ、これ?』

クリスタ『それは開けてからのお楽しみだよ』ニコッ

エレン『ふーん……』

エレン(少し考えれば、中身の想像はつくはずだった)

クリスタ『……エレン』

エレン『なんだ?』

クリスタ『どうか、ミカサを幸せにしてあげてね』

クリスタ『もう二度と、彼女が悲しむことの無いように』

エレン『ああ。約束する』

クリスタ『約束だよ』ニコッ

エレン(クリスタは話すべきことは全部話したという感じで)

エレン(その後は何を言っても上の空だった)

エレン(クリスタが帰った後、俺は紙包みを開けた)

クリスタ『バレンタインには遅すぎたね』

エレン『……!』ハッ

エレン(そうか……クリスタは吹っ切るためにここへ来たのか)

エレン(チョコレートは甘かった。でも、苦かった)

エレン(その後、クリスタと二人きりで会うことはなかった)

エレン(そもそも、顔を合わせること自体ほとんどなかった)

エレン(クリスタは俺を諦めようとしていたんだ)

エレン(それなのにミカサを……?)

エレン「……」ボーッ

ハンジ「ミカサさんのことを考えてるの? それとも、クリスタさんのこと?」

エレン「!? ハンジさん!」ビクッ

エレン(鋭い人だな)

エレン「この場にいるたいていの人は、そうだと思いますよ」

ハンジ「そっか。でも私は何の知識もないから、ほかのことを考えるしかないね」

エレン「ほかのこと?」

ハンジ「SOSや停電作戦が失敗したこと」

エレン「ああ……それがクリスタを殺した犯人なのかもしれませんね」

ハンジ「そうだね。でもそれが誰なのか……」

エレン「俺にわかってるのは、あなたじゃないってことだけです」

ハンジ「何事にも思い込みは禁物だよ」ニッ

エレン(不思議な人だな)

ハンジ「ところで、エレン君に聞きたいことがあるんだ」

エレン「なんですか?」

ハンジ「ピルケースのこと」

エレン「ピルケース……」ザワッ

ハンジ「奥さんの話だと、ミカサさんの遺体を引き取りに行ったとき」

ハンジ「ピルケースにはカプセルが二錠入っていたそうだね」

ハンジ「エレン君もそれを見たのかな?」

エレン「ああ、俺はサービスエリアに寄った時に見たんです」

ハンジ「じゃあ、エレン君がそれを見たのはずいぶん後なんだね」

ハンジ「……じゃあ、遺体を引き取りに行った時の様子を、詳しく教えてくれるかな?」ニコッ

ユミル「ハァ……ボスはまだこねぇのか」

プルルルル

一同「!!!」

ユミル「おい、出ろ。余計な真似はするなよ」

ペトラ「分かってます。……あら、止まった」

プルルルル

ペトラ「また……」スッ

ユミル「ちょっと待った」チラッ

ユミル「……六時過ぎか」

ユミル「受話器は私が取る。場合によっては代わるからそこで待ってろ」

ユミル「……もしもし」

ユミル「ああ、実はこっちもトラブってるんだ」

エレン(仲間からの連絡か……?)

コニー「おい、どうしたんだユミル」

ユミル「とにかく、どうしようもないんだ。何かいい手はないか?」

ユミル「ああ、分かってる。手を出しちゃいないさ」

ユミル「……やっぱりその手しかないか。オーケー、準備しておく」ガチャ

ユミル「あんたらに朗報だ。私たちの出発時間が決まった」

エレン「いつ出て行ってくれるんだ?」

ユミル「明日の夜明け前だ」

リヴァイ「まだ12時間近くあるぞ。それまでこんなことを続けるつもりか?」

ユミル「しょうがないだろ、人目についちゃまずいんだ」

ユミル「こっちにも事情があるんだよ。相棒の来るのが夜中になりそうなもんでね」

ジャン「もっと早く来るように言えばいいだろ」

ユミル「それはできねえんだよ」

ジャン「なんでだよ?」

ユミル「……あんたらには関係ない」

ハンジ「私の考えだと、その人物は警察の目が厳しい中にいるんじゃないかな?」

ハンジ「だから夜中にならないと自由に行動できない」

ジャン「そうか、分かったぜ。そいつは銀行内部の人間なんだ」

ジャン「お前たちを手引きしたんじゃないかと警察から疑われている」

コニー「そ、そんなわけないだろ!!」アセアセ

リヴァイ「なるほど、銀行内部に仲間がいたってわけか」

ユミル「チッ……」ギロッ

コニー「悪かったよ!」

ユミル「まあいいさ。銀行内部の人間なんてたくさんいる」

ユミル「要はあんたたちに姿を見られなければいい」

ユミル「とにかく、あと少しの付き合いだ。それまで仲良くやろうぜ」

ユミル「あの女を殺したのが誰なのか、私も気になってるんだ」ニヤニヤ

エレン(十時過ぎか……)

プルルルル

ユミル「私だ。ああ……人質は一か所に集めてる」

ユミル「今のところ変な考えは持っていないみたいだ」

ユミル「……そうか。とにかくやってみよう」ガチャ

ユミル「コニー、二階からシーツを二、三枚取ってこい」

コニー「何に使うんだ?」

ユミル「いいから取ってこいよ」

コニー「分かったよ」ダッ

ユミル「もうすぐ私たちのボスが来る。歓迎の準備をしなきゃな」

ジャン「シャンパンでも開けろってか?」

ユミル「それも悪くないが、その前にすべきことがある」

ユミル「何しろ、私たちのボスはひどく恥ずかしがりときているんでね」ニヤッ

コニー「ほらよ。取ってきたぞ」

ユミル「よし、それでこいつらを縛れ」

リヴァイ「縛ってどうするつもりだ」

ユミル「人質ってのは本来縛られてるもんなんだよ」

ユミル「今までは大目に見てきたがね」

ユミル「安心しな、耳や口までは塞がないからさ」

エレン(目隠しされるのか……)

ユミル「よし、これで出来上がりだな」

エレン(何も見えない。不安だ……)

リヴァイ「俺たちをどうするつもりだ?」

ユミル「何もしないよ。ただそこでじっとしてればいい」

ユミル「今は連れて行く人質をだれにするか考えているところだ」

リヴァイ「俺にしろ。ほかの者には手を出すな」

ユミル「オーナーとしての責任感か? やめとけよ、そういうのは」ハハッ

エレン(こいつらが選ぶのはペトラさんだろうな……)

ブロロロロ

ユミル「おっ、来たみたいだな」

ガチャッ

エレン(この足音……一人じゃないな)

ユミル「誰にも見られなかったか?」

ユミル「そうか。まあボスのことだから、そんなヘマはしないか」

ユミル「まったく、こんなに人がいるとは思わなかったよ」

ユミル「おかげですっかり計画が狂っちまった」

ユミル「……いや、ボスの計画に不備があったわけじゃないんだよ」

ユミル「こいつらがいつこの別荘を使うかなんてことは、さすがのボスでも読めないだろ?」

コニー「それに殺人事件まで起きた」

ユミル「そうそう、いったい何考えてやがんだか、こんな時に人殺しなんかやりやがったやつがいるんだ」

ユミル「死体はまだ部屋だよ。犯人は分からない。議論はしちゃいるが……」

ユミル「……ああ、そうだな。私たちには関係のないことだし、早くここを出よう」

ユミル「人質は誰にする? やっぱり女がいいよな」

リヴァイ「ボスとやらに話がある」

ユミル「なんだよ? 自分を人質に選べってんなら無駄だぞ」

リヴァイ「俺はボスに話している」

ユミル「……ちゃんと聞いてるよ。要件を話せ」

リヴァイ「人質を取るのが得策だとは思えない。動きづらくなるだろう」

ユミル「あんたらに心配される筋合いはない」

リヴァイ「取引をしないか? もっといい手がある」

ユミル「……言ってみろ」

リヴァイ「ここにいる人間を人質として連れて行くのはやめてほしい」

ユミル「はあ? そんなの聞き入れるとでも思って――」

リヴァイ「代わりに、クリスタを連れて行け」

一同「!!?」

ユミル「はあ? あんた正気か?」アキレ

ユミル「死体を連れて行ってどうすんだよ?」

リヴァイ「お前らの目的は俺たちの通報を遅らせることだろう?」

リヴァイ「その目的なら十分に果たせる」

リヴァイ「とりあえず。こういうことにしておくんだ」

リヴァイ「お前たちが連れて行ったのは生きているクリスタだった」

リヴァイ「だが逃走中に秘密を知られ、殺してしまった。そして死体を捨てた」

ユミル「おいおい、殺人の罪を私らになすりつけようってか?」

リヴァイ「話を最後まで聞け」

リヴァイ「これまでのやり取りから、クリスタ殺しの犯人は俺たちの中にいる可能性が高い」

リヴァイ「だがそれが明るみに出れば、アッカーマン家の信用にかかわる」

リヴァイ「できれば内密に処理してしまいたい。そのためには、さっき言った方法が最も合理的だ」

ユミル「あんたらは良くても、私たちは良くないぜ」

リヴァイ「そうすれば、俺たちもお前らが安全な場所に逃げるまで通報はしないと約束しよう」

リヴァイ「分かるか? こういう状況では、こちらとしてもお前らに捕まってもらうのは困る」

エレン(なるほど、考えましたねリヴァイさん)

アニ「私は反対です。何としてでも真実を突き止めるべきです」

リヴァイ「世間からは隠したうえで、俺たちだけで真相を追求すればいい」

アニ「でも……」

リヴァイ「お前にはわからないかもしれないが、俺には守るべきものが多くある」

ユミル「……確かに悪い考えじゃないが、手放しで賛成するわけにはいかないな」

ユミル「途中であんたたちの気が変わらないとも限らない」

リヴァイ「……お前らにとって必要なのは、こちらの弱みを握ることだ」

ユミル「ああ。だから人質を連れて行くんだ」

リヴァイ「だが、いずれはその人質もお前らの手を離れることになる」

ユミル「……何が言いたい」

リヴァイ「その時点で、こちらはお前らに何の弱みも握られていないことになる」

ユミル「……だったらどうする」

リヴァイ「こちらの知っていることをすべて警察に話す」

ユミル「それがどうしたっていうんだ? 当然ながら偽名だぞ」

リヴァイ「……犯人の一人が銀行内部の人間だということも」

???「―――!!!」ガタッ

ユミル「いやボス、私が喋ったわけじゃない。こいつらが勝手に―――」コソコソ

ジャン「おい親父、本気か?」

リヴァイ「もちろんだ。お前にも協力してもらう」

ジャン「でも警察が調べたら、ここでクリスタが殺されたなんてことはすぐばれるんじゃ」

リヴァイ「それはないな。こんな状況下で殺人が起こったと言って信じるやつがいると思うか?」

ジャン「……いないだろうな」

スタスタ……

リヴァイ「どうだ、取引に応じる気になったか?」

ユミル「残念ながら、それは無理だ。より良い方法を選ぶことにしたのさ」

エレン(まさか……)ゾワッ

ユミル「あんたたち全員を殺すという方法だ」

一同「……」

エレン「冗談だろ?」

ユミル「残念ながら本気だ。悪く思わないでくれ」

エレン「万一捕まったら、あんたら三人とも死刑だぞ」

ユミル「捕まりはしないさ。そのために殺すんだからな」

ペトラ「狂ってる。あんたたち人間じゃないわ」

ピシッ

ペトラ「きゃっ!!」

ユミル「騒ぐなよ。ボスを怒らせるな」

ジャン「殺すって、いったいどうするつもりだ?」

ユミル「心配するな、みんな一緒に葬ってやるよ」

ユミル「おいコニー、ボスの車にガソリンが積んである。取ってこい」

ジャン「ガソリン……燃やす気か」

ライナー「リヴァイさん、あんたが変なことを言い出すから……!」

ジャン「なあ待ってくれよ、もう一度考え直してくれ。悪い話じゃないだろ?」

ユミル「だめだ、信用できない。信用するだけの根拠がないと言っているんだ」

エレン(ボス……なんて残忍な奴なんだ)

コニー「なあ、どんなふうに撒けばいい?」

ユミル「まずはこの部屋をぐるっと一周。そのあと全員にぶっかけてやれ」

ゴポゴポ

エレン(うっ……臭い)

ジャン「ちょっと待った、待ってくれ。俺に提案がある」

ユミル「なんだよ?」

ジャン「警察に嘘をつくんだ。犯人はひげ面の男だったとか、とにかくあんたらにとって都合のいい嘘を」

ユミル「ちょっと待ってろ」ヒソヒソ

アニ「こんな目に遭わされて、奴らをかばうって言うのかい?」

ジャン「しょうがねえだろ。背に腹は代えられねえ」

ユミル「……せっかくだが、今の状態じゃその条件を飲むわけにはいかないな」

ユミル「今回の殺しについて、私たちは何も分かってないんだ」

ユミル「そんな死体を持って歩いて良いことがあるとは思えない」

ジャン「でも俺たちが事件を隠したがってるのは分かるだろ?」

ユミル「そりゃそうだが、犯人が誰かもわからないままじゃ、弱みを握ったことにはならないな」

ジャン「くっ……」ギリギリ

ユミル「だが、犯人が誰なのかはっきりさせられるというなら、考えてやらないこともない」

リヴァイ「こんな状況でどうしろというんだ」

ユミル「一時間やる。その間に犯人を明らかにしろ」

ユミル「できなかった場合には全員死んでもらう。いいな」

ペトラ「待って。犯人が分かれば助けてくれるのね?」

ユミル「まあ、結果次第だがな」

ペトラ「分かりました。犯人は私です」

リヴァイ「なんだと?」

ジャン「何を言い出すんだ!?」

ペトラ「私が……その、クリスタを殺しました」

エレン(嘘だ。ペトラさんは俺たちを助けるために……)

ユミル「嘘は良くないな、奥さん」

ペトラ「いいえ本当よ、信じて」

ユミル「じゃあ、破いた日記のページをどこへやった?」

ペトラ「細かくちぎって、お手洗いに流したわ」

ユミル「そこには何が書いてあった?」

ペトラ「だから、その、クリスタがミカサを殺したということよ」

ユミル「ふうん、つまり復讐というわけだ」

ユミル「じゃあ聞くが、クリスタを殺して日記を見る前に、あんたはそのことをどうやって知ったんだ?」

ペトラ「えっ……それは……」シドロモドロ

ユミル「それが答えられないのはおかしいな。だからあんたは犯人じゃない」

ユミル「よく考えろ。時間はあと五十五分だぞ」

一同「……」

ジャン「こうなっちまった以上は仕方がない」

ジャン「誰がクリスタを殺したんだ? 正直に言ってくれ」

一同「……」

ジャン「……だんまりか」

アニ「消去法でいこう。まず、ペトラさんは容疑から外せると思う」

エレン「俺も同感だ。ずっとユミルと一緒にいたしな」

ジャン「だがそれ以外には消去できないな。動機についてもほぼ全員が容疑者だろ」

エレン「ハンジさんを外してもいいんじゃないか?」

ハンジ「それは論理的じゃないね」

ハンジ「消去できる材料なら、ほかにもあるよ。落ち着いて考えればね」

ジャン「へえ、部外者であるあんたからそんな自信たっぷりに言われるとはな」

ハンジ「まず、ここで監禁されてからのことを思い出す必要がある」

ハンジ「私やエレン君たちは、いろんな方法でこのことを外に知らせようとした」

ハンジ「SOSの文字、停電計画……」

ユミル「なんだと、そんなことしてやがったのか」

ハンジ「でも全部失敗した。誰かが妨害していたんだ」

ユミル「言っとくけど、私らじゃないよ」

ハンジ「問題は、誰がそんなことをしたか」

ハンジ「最初は意味が分からなかったけど、クリスタさんが殺されたとき、その理由が分かった」

エレン「妨害したのはクリスタを殺した犯人で、すべては犯行の準備だったということですね」

ハンジ「その通り。罪を強盗になすりつけようとしたんだね」

ハンジ「そのためには、強盗がここに留まっている必要があった」」

エレン「さらに、死体発見を遅らせる狙いもあったと思います」

ジャン「ということは、犯人を絞る二つの材料があったわけだな」

ジャン「SOSの文字を消せたのは誰か、タイマーを壊すことができたのは誰か」

ハンジ「まずはSOSの文字からだね。エレン君はこのことを誰かに話した?」

エレン「話してません」

リヴァイ「それなら、犯人は偶然見つけたということになるな」

リヴァイ「トイレの窓から見たのかもしれない」

ハンジ「他にあの文字のことを知っている人はいないかな?」

一同「……」

ジャン「この局面で犯人が名乗り出ることはないだろうな」

ジャン「もっとも、ハンジさんやエレンが犯人なら話は別だが」

ハンジ「そうだろうね。じゃあ次の質問に移るよ」

ハンジ「タイマーによる停電計画は、みんな知っていたと思う」

ハンジ「昨夜の七時に停電になる予定だったけど、タイマーは壊されていた」

ハンジ「その前にトイレに行った人が怪しいということになる」

ハンジ「この計画を聞いてからトイレに行った人は名乗り出てほしい」

ペトラ「私、行きました。でも機械は苦手で、タイマーには触りもしませんでした」

リヴァイ「俺は六時ごろに行ったが、特に異状はなかったな」

アニ「私も行きました。機械には詳しくないけれど、特に問題はないようでした」

ライナー「俺も行ったが、タイマーの具合まではチェックしなかったな……」

ジャン「トイレに行ったのはこれだけか? もっといたような気がするんだけどな」

リヴァイ「どうもうまく絞れないようだな。時間もないし次に移ったほうがいいんじゃないのか」

ハンジ「それじゃあ、次の質問だ。今回、睡眠薬を持ってきた人はいるかな?」

ジャン「睡眠薬?」

ペトラ「それなら、少し持ってきましたけど。旅行があると眠れないことがあるので」

ライナー「一応カバンの中に入れてるが……それがどうしたというんですか?」

ハンジ「それは後で説明するよ。二人とも、誰にもその薬を渡してはいないんだね」

リヴァイ「これはどういう趣旨の質問だ?」

ハンジ「あとで説明しますよ、社長」

エレン(ハンジさんは何を考えているんだ?)

ユミル「探偵さんの聞き込みはそこまでかい?」

ジャン「ちょっと待てよ。まだ何も分かってないだろ」

ユミル「あんたはそうでも、名探偵さんはそうじゃないみたいだぜ」

ハンジ「うん、全部わかったよ。私の推理通りだ」

ジャン「これだけのやり取りで犯人が分かったんですか?」

ユミル「犯人は誰なんだ?」

ハンジ「……その前に、目隠しを外してくれないかな?」

エレン(……眩しいな)チカチカ

エレン「ボスはどこへ行ったんだ?」

ユミル「二階だよ。顔を見られるわけにはいかないからな」

ジャン「見たとしても警察には言ったりしねえよ」

ユミル「どうだかな。さあ、それより早く始めてくれ」

ハンジ「……私がある人に疑いを抱いたきっかけは、例のSOSの文字を消されたことからなんだ」

ハンジ「手洗いの窓からホースで水を流すだけのことだから、誰にでもできるといえる」

ハンジ「でも、犯人はどうやってそのことを知ったのか?」

ユミル「だから窓から覗いて見つけたんだろ?」ジレッタイ

ハンジ「それはないね。あんたたちに見つからないよう、窓の真下に書いたんだから」

エレン(そうだったのか)

ジャン「じゃあ……」チラッ

ハンジ「いや、エレン君じゃないよ。文字が消されているのを教えてくれたのは彼だからね」

ハンジ「彼が犯人だったら黙ってればいいことだ」

ジャン「でも、文字のことを知ってるやつは他にはいなかったんだろ?」

ハンジ「だから、何かのきっかけで見つけたんだよ」

ユミル「どうやって? 中からは見えねえだろ」

ハンジ「二階の窓からなら見えると思うよ」

ユミル「二階? そりゃおかしいな」

ユミル「今聞いた話だと、SOSがどうこうやってる間は全員ここにいたはずだ」

ユミル「二階に上がったやつなんて一人も―――」

ハンジ「それがいるんだよ」

ユミル「誰だ?」

ハンジ「それは――――」

ハンジ「リヴァイ社長」

一同「!!??」

ジャン「そんな、まさか……」

リヴァイ「……」

ハンジ「覚えてるかな? 社長が奥さんのために、なにか羽織るものを取りに行きたいと言ったこと」

ハンジ「そのとき、二階の窓からSOSの文字を見たんだ」

コニー「あっ、思い出した。確かに窓から外を見てたぞ」

リヴァイ「……それだけのことで俺を犯人扱いするつもりか?」

ハンジ「それだけじゃないんだよ」

ハンジ「タイマーが壊された状況から考えても、社長しか犯人はあり得ないんだ」

エレン「どういうことですか」

ハンジ「タイマーがセットされてから何人かがトイレに行ったね」

ハンジ「じゃあ犯人はその時にタイマーを壊したのか?」

ハンジ「いや、それはとても危険だ。自分がトイレから出た後、誰かが入らないとも限らない」

ハンジ「その人がタイマーが壊れているのを発見した場合、自分が真っ先に疑われるからね」

ユミル「なるほどなあ」

コニー「うんうん(全然わからん)」

アニ「じゃあ、犯人はいつタイマーを壊したんですか?」

ハンジ「とりあえず、トイレに入った時に犯人はタイマーのメモリを進めておいたんだ」

ハンジ「だから時間になっても停電は起こらなかった」

ハンジ「そして様子を見に行くと言って、タイマーを壊す」

ハンジ「そしてみんなに言うんだ。タイマーが壊されてたってね」

一同「……」

ハンジ「さて、あの時様子を見に行ったのは誰かな?」

エレン「まさか、本当に……」ウタガイ

リヴァイ「……」

ハンジ「社長が行った準備はもう一つある」

ハンジ「コニー君に睡眠薬を飲ませたことだね」

エレン(そうだ、あれが偶然とは思えない)

ハンジ「奥さんが羽織るものを取りに行ったとき、バッグから睡眠薬を抜き取っておいた」

ハンジ「そして隙を見てコニー君の酒瓶に混ぜた」

ハンジ「それから色々と口実をつけて、各自が自分の部屋で休めるよう提案したんだ」

ジャン「そうか、考えてみりゃ簡単なことだ」

ジャン「一人一人が部屋に入らなければ、今回の殺しは起こらなかった」

ジャン「つまり、それを提案した人間が一番怪しいってことだ」

リヴァイ「……動機は何だ?」

ハンジ「アニさんの言ったとおりだよ。クリスタがミカサを殺した。その復讐のためだ」

ハンジ「皆をここに集めたのもそれが目的だったんだね」

ハンジ「たまたま強盗が現れたので、それを利用することを思いついたんだ」

リヴァイ「俺はミカサの死は事故だったと思っている」

ハンジ「いや……社長はご存じだったはずだよ」

ハンジ「最初にピルケースを見たとき、中が空だったことをね」

エレン「空だった!?」

リヴァイ「……」

ハンジ「でも社長もその時はまだ不審に思わなかったはず」

ハンジ「疑いを抱いたのは、次に奥さんがピルケースを開け、中に薬が入ってるのを見たとき」

ハンジ「社長は遺品を奥さんに見せる前に、クリスタに預けたんだったね、エレン君?」

エレン「はい」

ハンジ「空のピルケースに薬を補充したのはクリスタだった。ではなぜそんなことをしたのか?」

アニ「ミカサが薬を飲んだという事実を隠すため……」

アニ「クリスタはミカサのピルケースの中身を睡眠薬とすり替えた」

アニ「でも一つ心配なことがあった。それは警察が疑いを持って、遺体を解剖すること」

アニ「そうすればミカサが睡眠薬を飲んだとばれてしまう」

アニ「それを防ぐために、ピルケースの中身を補充した」

ハンジ「おそらくそうだろうね。そして社長もそのことに気づいた」

ハンジ「だからいずれクリスタに復讐するつもりだった―――」

リヴァイ「……もういい」

ペトラ「あなた……」

ジャン「親父、本当なのかよ」

ライナー「リヴァイさん、どうしてそんなことを……」ギロッ

リヴァイ「……」スッ

エレン(リヴァイさん、いつの間に足の戒めを外して……?)

ダダダダッ

一同「!!!」

ユミル「あっ! おい、待てよ!」

エレン(あの方向、ベランダ!? まさか―――)

ペトラ「いやああああああ!!!!!!」

エレン(ペトラさんが叫んだ直後、何かが湖に落ちた音がした)

つづく

第六幕―――――悪夢

ユミル「だめだな、浮かんでこない。残念ながら助かる見込みはなさそうだ」

一同「……」

エレン(まさか、リヴァイさんがクリスタを……)

ペトラ「何も死ななくても。まだほかに方法があったかもしれないのに……」グスグス

ハンジ「……」

エレン(ハンジさん、リヴァイさんを追い込んだ責任を感じてるんだろうか……)

ユミル「コニー、見張っとけ。ボスと相談してくる」スタスタ

エレン(ボスは俺の部屋にいるのか)

ヒソヒソ……ガチャ

ユミル「……あんたたちに朗報だよ。殺すのはやめにした」

一同「……」ホッ

ユミル「私らは明日の夜明け前に出ていくが、その時に死体を連れてってやる」

ユミル「警察には人質に取られたと言え」

ユミル「あの女は、逃げようとしてベランダから飛び降りたということにしておこう」

ジャン「他に警察に言うことはないか?」

ユミル「強盗たちは森の奥に潜むつもりだと言え」

ユミル「そうすれば警察の動きを狂わせることができる」

ジャン「分かった、そうする」

エレン(クリスタ殺しの犯人がリヴァイ社長だということはアッカーマン家にとって絶対に隠したい秘密のはず)

エレン(こいつらもその重要性が分かっているから条件を飲む気になったんだな)

ユミル「ところで、奥さんと息子の二人はともかく、ほかの連中も協力してくれるんだろうな?」

ジャン「大丈夫だ、俺が説得するから」

エレン(説得なんかされなくても、俺はこのことを警察に言うつもりなんかない)

エレン(アニはミカサの仇を討ったということでリヴァイさんに同情的だし)

エレン(ライナーもクリスタがミカサを殺したなんて表ざたにしたくはないだろう)

エレン(ハンジさんだって、上司が殺人犯だと知れたら今後の信用にかかわるはずだ)

ユミル「じゃあ、私は出発まで眠らせてもらうことにするよ。コニー、見張り頼んだ」

コニー「俺は寝られないのかよ」ムスッ

ユミル「昨日さんざん寝ただろうが」

コニー「それは薬のせいだろ」

ユミル「ぐっすり寝たことに変わりはないさ。よろしく頼むよ」

コニー「こんなに大勢を一人で見張れって言うのかよ」

ユミル「縛ってあるじゃねえか」

コニー「でもトイレなんかに連れて行かなきゃなんねえだろ」

ユミル「しょうがねえなあ……ボスに相談してくる」スタスタ

ヒソヒソ……ガチャ

ユミル「じゃあ、こうしよう。人質をそれぞれの部屋に入れたうえで、外からドアを板と釘で固定する」

ユミル「明日の朝もそのままにしておけば、仮にこいつらが取引を反故にするつもりでも通報は遅れるだろ」

コニー「分かった」

ユミル「ただし一人だけ残ってもらう。何かあったとき、この別荘の人間がいないというのはまずいからな」

コニー「誰にするんだ?」

ユミル「そうだな……あんたにしよう。警察が来たときにも出てもらったしな」ニヤッ

エレン「ああ、分かったよ」ギロッ

ユミル「……よし、全員部屋に入ったな」

ユミル「しっかり固定しとけよ、コニー」

コニー「分かったよ」トントン

ユミル「まあ心配すんなよ、人間ってのはそう簡単に飢え死にしないもんだ」

ユミル「何日も連絡がつかなきゃ、家族か同僚が様子を見に来るだろうし」

ユミル「……さて、あんたには少々不自由な思いをしてもらう」

エレン「……」

ユミル「といってもそんなに長い時間じゃない」

ユミル「私たちが出ていくときには、みんなと同じように部屋に入ってもらうよ」

ギュウギュウ

エレン(いってえな……)

エレン「……ひとつだけ聞いていいか」

ユミル「なんだ?」

エレン「銀行からいくら盗んだ?」

ユミル「確か、三億くらいだったかな。それがどうした?」

エレン「三億のために人を殺してもいいと思ったのか?」

ユミル「金額の問題じゃないな」

ユミル「人間だれしも、ここで一発命がけの勝負をするって時があるんだよ」

ユミル「そんなときは人殺しだってできちまう。なああんた、そう思わないか?」

エレン「……」

ユミル「さてと、これで出来上がりだ」

ユミル「芋虫みたいな恰好させちまって悪いけどさ、夜明けまでの辛抱だよ」

ユミル「まあ恨まないでくれ。さっきも言ったように、私たちは人殺しだってする覚悟だった」

ユミル「それが今じゃ、一人も殺さずに済んでホッとしてるよ」

ユミル「……二人死んだけど、それは私たちのせいじゃないしな」

スタスタ……

エレン(静かだ……今何時だろう?)

エレン(この二日間、いろんなことがあったな……)

エレン(強盗に監禁されたこともショックだったけど)

エレン(それ以上に、クリスタがミカサを……そしてリヴァイさんがクリスタを……)

エレン(クリスタがピルケースの中身をすり替えた)

エレン(そんなことあり得るのか? でも空だったケースの中身は補充されていた)

エレン(そしてそれが出来たのはクリスタしかいない)

エレン(でもクリスタに人殺しなんてできるのか……?)

エレン(あの日、クリスタがミカサと会ったのは事実だった。ということは……)

エレン(……待てよ)

エレン(……そう考えると、今回の事件の意味はまったく変わってくる)

エレン(落ち着け……もう一度整理しなおすんだ……)

エレン(いや……まさか……そんなことが……)ガクブル

コトリ

エレン「!?」

ギシ……ギシ……

エレン(なんだ……?)

カチャッ

エレン(風だ……ベランダのほうから?)

ミシッ

エレン(!? 誰か……いるのか……?)

エレン(コニーか? いや違う、ベランダに何の用があるんだ)

エレン(あれ……? そもそもあいつは俺を見張ってるはずじゃ? どこに行ったんだ……?)

ミシッ

エレン(誰なんだ!?)

エレン(畜生、猿轡をかまされてるから声が出ねえ)

エレン「うっ……」ジタバタ

リヴァイ「……静かにしろ」

エレン(この声……リヴァイさん!!? 生きてたのか……!!)

リヴァイ「ひでえ有様だな。待ってろ、今外してやる」


エレン「……無事だったんですか」

エレン(コニーはどこにもいない。しかも真っ暗だ……)キョロキョロ

リヴァイ「何とかな。死ぬつもりだったが、死ねなかった」

エレン「どうして戻ってきたんですか?」

リヴァイ「最初は戻ってくる気はなかった」

リヴァイ「だが、あることに気が付いた」

エレン「あること?」

リヴァイ「俺が、とんでもない過ちを犯したということにだ」

エレン「クリスタを殺したことですか?」

リヴァイ「ああ。だが、復讐自体を後悔しているわけじゃない」

リヴァイ「それは相手が誰であろうとやらなければならないことだ」

リヴァイ「俺が誤ったのは、復讐する相手だ」

エレン「……どういうことですか」

リヴァイ「まず最初から説明するべきだろうな」

リヴァイ「真相は大体ハンジの言ったとおりだ。あいつは見た目はああだが中々出来る」

エレン「彼女の話では、リヴァイさん最初から復讐が目的で今回の旅行を計画したとのことですが」

リヴァイ「その通りだ」

リヴァイ「クリスタに疑いを抱いたきっかけは、さっきハンジが説明したとおりだ」

リヴァイ「それが確信に変わったのは、ミカサの日記を見つけた時だ」

リヴァイ「それを読んでみると、クリスタにお前を取られるのではないかと心配していたのがよく分かる」

リヴァイ「ミカサを殺す動機が、クリスタにはあったというわけだ」

エレン「でもすぐには復讐しなかったんですね」

リヴァイ「たんに殺すだけでは気が済まない。ミカサが死んだこの地で葬るつもりだった」

エレン「でも警察だって動き出すわけだし、容疑者は絞られるしで危険だとは思わなかったんですか?」

リヴァイ「方法はいくつか考えてあった」

リヴァイ「自殺に見せかけるのが一番理想的だった」

リヴァイ「ミカサを殺した罪の重さに耐えかねて、湖に身を投げる」

リヴァイ「それがうまくいかない場合は、外部犯の仕業に見せかけて殺す」

リヴァイ「クリスタが誰からも愛されていたことを警察が知れば、まさか内部に犯人がいるとは思わないだろう」

エレン「なるほど……でも、予想だにしないアクシデントがあった」

リヴァイ「ああ。さすがに強盗が押し掛けてくることまでは想定していなかった」

リヴァイ「この状況で人が死ねば強盗のせいにできると踏んだが、俺はどうかしていたな」

リヴァイ「結果的に外部犯の可能性が皆無になってしまったのは失敗だった」

エレン「それでも一応目的は達したわけですね」

リヴァイ「一応……な」

エレン「何か問題があったんですか? 復讐すべき相手は別にいるとか……」

リヴァイ「そのことなんだが、まずクリスタを殺した時のことを話す必要がある」

リヴァイ「例のドアの鍵を外しておくようにというメモには、お前の署名をしておいた」

エレン「俺の?」

リヴァイ「ああ。クリスタが最も信用している相手だと思ったからだ」

リヴァイ「そしてその読みは的中した」

リヴァイ「俺は一晩中ドアの隙間からユミルの様子をうかがっていた」

リヴァイ「手洗いに行く隙を見逃さないためにな」

リヴァイ「奴が消えた瞬間俺は自分の部屋を出てクリスタの部屋に向かった」

リヴァイ「入ってきたのが俺だと知ると、意外さと失望の入り混じった表情をした」

リヴァイ「俺は聞いた。『ピルケースの薬を補充したのはお前か?』 と」

エレン「それで……?」

リヴァイ「クリスタは目を見開いて言った。『ええ。でも、これにはわけがあるんです』」

リヴァイ「わけを聞く気はなかった。その反応だけで十分だったからな」

リヴァイ「俺は背後に回り、ためらうことなくナイフを刺した」

リヴァイ「クリスタは一言だけ言った。『違うんです。でも同罪ですね』と」

エレン「同罪……?」

リヴァイ「ああ、確かにそう言った」

リヴァイ「つまりピルケースに薬を補充したのは認めるが、殺そうとしたのは自分ではない」

リヴァイ「そう言いたかったのかもしれないが、その時点ではそこまで考える余裕はなかった」

リヴァイ「メモを処分し、ユミルがまだ戻ってきていないのを確かめると、すぐに部屋を出ようとした」

リヴァイ「その時、背後で物音がした」

エレン「何があったんですか」

リヴァイ「クリスタが日記帳を破っているところだった」

エレン「自分で破ったんですか? でもそのページは……」

リヴァイ「……自分の口の中に押し込んだ」

エレン「口の中!?」

リヴァイ「何としてでも見られたくない秘密がそこには書いてあったに違いない」

リヴァイ「ミカサを殺したことが書かれているのだろうと俺は考えた。そして部屋を出た」

リヴァイ「……だが冷静になってみると、全く違う可能性が考えられることに気づいた」

エレン「別の可能性……とは?」

リヴァイ「クリスタが誰かをかばっているという可能性だ」

エレン「ああ……」

リヴァイ「そこで例の『同罪ですね』という言葉が意味を持ってくる」

リヴァイ「俺はこう考えた。まず真犯人をXとする」

リヴァイ「Xはミカサの命を狙っており、薬をすり替えることを思いついた」

リヴァイ「何も知らないミカサはその日、睡眠薬をピルケースに入れて教会へ行き、クリスタと会った」

リヴァイ「偶然会ったのか待ち合わせをしたのかは不明だ」

エレン(待ち合わせ、だろうな。偶然にしてはできすぎてる)

リヴァイ「ミカサはクリスタの目の前で睡眠薬を飲んだ」

リヴァイ「その時、クリスタはそれが睡眠薬であることに気づいた」

リヴァイ「さらに、誰かがミカサの命を狙っていること―――」

リヴァイ「そしてそれが誰であるかも瞬時に悟った」

エレン「なんで気づいたんでしょうか?」

リヴァイ「それは分からない。―――とにかく」

リヴァイ「Xはクリスタにとって非常に大切な人物だった」

リヴァイ「だからミカサの死を知った時に、クリスタはXに疑いが向かないよう行動をとった」

リヴァイ「その行動が、薬の補充だったというわけだ」

エレン「それで、同罪というわけですか」

エレン(そうだったのか……俺は今まで、とんでもない思い違いをしていた……!!)

リヴァイ「……俺は警察に自首する」

エレン「そんな……強盗に罪をなすりつけることも出来ます。家族にも迷惑が……」

リヴァイ「それでは俺の気が済まない。クリスタがミカサ殺しの犯人だったらそうしてもいいと思っていたが」

エレン「でも、本当にクリスタがミカサを殺したのかもしれないじゃないですか」

リヴァイ「それはありえない」

リヴァイ「今になって考えてみれば、クリスタに人殺しができるとは思えない」

リヴァイ「……何にしても、例の日記帳の破片を見ればわかることだ」

リヴァイ「俺がここに戻ってきた最大の目的はそこにある」スタスタ

ガシッ

エレン「待ってください。連中に気づかれますよ」

リヴァイ「気づかれても構わない。事情を話すつもりだからな」

リヴァイ「……手を離してくれ」

エレン「……いいえ」

エレン「離すわけにはいきません」ニタァ

リヴァイ「……なんだと?」

エレン(……ミカサのことが嫌いになったわけじゃない)

エレン(けど、結婚にはためらいを感じ始めていた)

エレン(俺がそう思うようになったのは、あの日)

エレン(バレンタインの翌日にクリスタと会ってからだ)

エレン(初めて会ったとき、俺はクリスタに強く惹かれた)

エレン(でも、自覚しないようにしてきた)

エレン(そんな時、クリスタの俺に対する気持ちを知った)

エレン{ミカサを幸せにしてほしいとクリスタは言った)

エレン(でも俺は、それを聞いて逆に燃えあがってしまったんだ)

エレン(何とかしてクリスタと結ばれたい)

エレン(そして、ミカサとの関係を清算したいと思うようになった……)

エレン(婚約を解消するのが不可能だったわけじゃない)

エレン(でも、二つの理由でそれはできなかった)

エレン(一つは、ミカサとの婚約を解消してクリスタと結ばれるのはまず不可能だということ)

エレン(周りが許さないだろうし、何よりクリスタの性格からして受け入れないだろう)

エレン(もう一つは、俺の勤めてる会社はアッカーマン家の世話になっている)

エレン(今ここでリヴァイ社長に見放されれば、先行きはかなり苦しくなる)

エレン(俺は焦った。結婚式の日は近づいてくる。もう後戻りはできない)

エレン(そんな時、俺は仕事関係の知人から睡眠薬を入手した)

エレン(俺が夜眠れないと言ったときにくれたものだ)

エレン(……その時、俺の頭に不吉な考えが浮かんだ)

エレン(その薬はミカサが常用している鎮痛剤によく似ていた)

エレン(すり替えても気づかれないんじゃないか?)

エレン(そして、俺はそれを実行した)

エレン(ミカサを見送った後、俺は激しく後悔した)

エレン(ミカサはあの薬を飲むだろうか? 運転中に事故を起こすだろうか?)

エレン(自分が恐ろしいことをしてしまったんだとようやく気づいたんだ)

エレン(でも、飲んだからって死ぬとは限らない)

エレン(眠くなったらどこかで仮眠をとるはずだ)

エレン(大丈夫、死んだりはしないさ)

エレン(その反面、うまいこと事故を起こしてくれないかとも考えていた)

エレン(そして、ミカサの死を知らせる電話があった)

エレン(信じられなかった。自分がミカサを殺したということが)

エレン(その一方、これからうまくいくんじゃないかという希望が湧いてきた)

エレン(それでも、警察署に向かう車を運転している途中)

エレン(俺の頭の中はミカサのことでいっぱいだった)

エレン(俺は、取り返しのつかないことをしてしまったんだ)

エレン(俺は念のためピルケースを確認した)

エレン(ところが、中には薬が二つ入っていた)

エレン(ミカサは薬を飲んでなかった)

エレン(そうか、本当にただの事故だったんだ)

エレン(俺のすり替えた薬のせいで死んだんじゃない)

エレン(俺のせいで死んだんじゃない)

エレン(俺は悪くない)

エレン(俺の罪悪感はだんだんと薄れていった)

エレン(薬をすり替えたのは悪いことだが、それが原因で死んだわけじゃないんだ)

エレン(だから俺は、この別荘に来てアニが推理を始めた時も冷静でいられた)

エレン(自分には関係のないことだから)

エレン(でも薬が補充されていたと知って俺は激しく動揺した)

エレン(クリスタは何のためにそんなことを?)

エレン(そして、リヴァイさんの話を聞いてすべてが分かった)

エレン(教会の近くでミカサと会ったとき、クリスタは薬のすり替えに気づいたんだ)

エレン(そしてそれを仕掛けたのが俺だということにも気づいた)

エレン(だからクリスタは俺をかばうため、遺品に触れた時にピルケースの中身を補充した)

エレン(そんなことがクリスタの日記には書いてあるんだろう)

エレン(何としても守らなければならない秘密。それを隠すために飲み込んだ)

エレン「許してください、リヴァイさん」ギリギリ……

エレン(俺だってこんなことしたくない)

エレン(でもリヴァイさんがすべてを明らかにすれば、俺の犯行だとばれてしまう)

エレン(そのためには死んでもらうしかないんだ)

リヴァイ「……」

エレン(そんな目で俺を見ないでくれ)

パッ

エレン「!!?}

エレン(何だ!? 急に明かりが……眩しい)クラッ

一同「……」

エレン「!?」

エレン(みんな……なんでここに?)

エレン(部屋に入ったんじゃないのか? 廊下に並んで俺たちを見下ろして……)

ペトラ「……」ジー

エレン(ペトラさん?)

ジャン「……」ジー

エレン(ジャン?)

アニ「……」ジー

エレン(アニ?)

エレン(なんで……、こんな、冷めた目で俺を)

リヴァイ「……」ガスッ

エレン「うぐッ!?」ドサッ

ペトラ「あなた、大丈夫!?」ダッ

リヴァイ「ああ。人間そう簡単に死ぬもんじゃねえ」

エレン「……」ボウゼン

リヴァイ「やはりお前がミカサを殺したんだな」

エレン「あ……いえ」

アニ「正直に言って。あんたが睡眠薬を仕掛けたんだろ? そしてミカサは……」ギリッ

エレン「いや、その、違うんだ」アタフタ

ジャン「何が違うんだ。親父まで殺そうとしたくせに」

エレン「だから、あの……いや、本当に違うんですよ、ジャンさん」ハハハ

エレン「これは、えーと……何というかその、ちょっとした事故です、ええ」

エレン「なんか、トラブルで……いやその、何でもないんですよ」

ジャン「何言ってんだお前? じゃあなんで親父を殺そうとしたんだよ」

エレン「だから、それは、あのですねえ……」キョロキョロ

エレン「大体皆さんのほうこそなんなんですか? 僕とリヴァイさんとのやりとりを聞いてたんですか?」

エレン「強盗の皆さんまで。見張ってなくていいんですか?」

ユミル「……白状しなよ。エレン=イェーガー」

ユミル「あんたが薬をすり替えたんだろ? ミカサを殺してクリスタと結婚しよって考えたんだろ?」

エレン「なっ……!? お前らいったい何者だ!?」

ジャン「質問してるのはこっちだ。薬をすり替えたんだろ? 答えろよ」

エレン「知らねえよ、知りません! 何言ってんのか全然……」

ジャン「案外しぶといな。コニー、頼んだ」

コニー「おーい、もう出てきていいぞ」コンコン

ガチャ

エレン「―――――――っ!!?」

エレン「な、なんでお前がここにいるんだ……」

エレン「クリスタ!!!」

クリスタ「……」

クリスタ「お願い、エレン。本当のことを言って」

エレン「……」ポカーン

リヴァイ「もう分かっただろう」

リヴァイ「この別荘での出来事は、すべて作り物。芝居だったんだ」

リヴァイ「強盗が来たことも、殺人事件もな」

エレン「何でそんなことを……!?」

リヴァイ「お前の殺意を証明するためだ」

エレン「殺意……」

リヴァイ「そうだ。そのためにこれだけの大芝居を計画した」

一同「……」ゾロゾロ

リヴァイ「最初はミカサの事故死が信じられないという、親なら当然抱く思いが出発点だった」

リヴァイ「俺たちはそこで様々な調査をし、その結果重大な情報を得た」

リヴァイ「ミカサの車は転落する少し前、事故地点付近で止まっていたという目撃証言だ」

リヴァイ「つまりミカサは車を停止させた後、改めて崖に向かって走ったことになる」

リヴァイ「これは居眠り運転とは考えにくい。どう見ても自殺だ」

エレン「自殺……」

リヴァイ「そうだ。だが動機が分からない」

リヴァイ「俺たちはその後、事故当日にミカサがクリスタと会っていたという話を聞いた」

リヴァイ「そこでクリスタに問いただした。あの日ミカサに変な様子は見られなかったかと」

リヴァイ「最初は何も知らないと言っていたが、何度も問い詰めるうちついに白状した」

リヴァイ「ピルケースの話をな」

エレン「……」チラッ

クリスタ「……」

クリスタ「あの日私はミカサと教会の近くで待ち合わせをしたの」

クリスタ「会ってからも、彼女はなかなか本題に入ろうとはしなかった」

クリスタ「そのうち薬を飲まなきゃと言って、ケースから薬を取り出した」

クリスタ「私は何気なくその薬を見ていて、すごく驚いたわ」

クリスタ「それは鎮痛剤じゃなかった。よく似てるけど、明らかに違ってたの」

クリスタ「私がそのことを言うと、ミカサはひどく驚いてた」

クリスタ「そのあと、無理に笑ったような顔でこう言ったの」

ミカサ『本当、どこかで間違えたみたい。最近疲れてるから……』

クリスタ「結局、ミカサはその薬を飲まなかった」

クリスタ「私がたまたま同じ薬を持ってたから、二錠だけあげたんだけど」

クリスタ「その後、ミカサはずっと上の空だった」

クリスタ「別れ際、結局何の用だったのって聞いたんだけど、何でもないって言われたわ」

エレン(飲まなかった? ミカサは睡眠薬を飲まなかったのか……)

ペトラ「その話を聞いたとき、私はぴんときたわ」

ペトラ「あの子は自分の薬がすり替えられたことに気づいたのよ」

ペトラ「それから、その犯人もわかっていた。エレン君、あなたでしょう?」

エレン「……」

ペトラ「この期に及んでまだ白を切るつもり?」ジトッ

ペトラ「かわいそうにあの子は、この世で最も大切な人から殺されようとしたのよ」

ペトラ「それを知ったときのあの子のショックがどれほど大きかったか……」

ペトラ「エレン君、あなたに分かる?」

ペトラ「あの子は生きる希望を失って、自殺したのよ」

エレン(そうだったのか……)

エレン(ピルケースに薬が入っていたのは、誰が補充したのでもない)

エレン(やっぱりミカサは何も飲まなかったんだ)

ジャン「お前は、俺たちの大切なミカサを奪った」メラメラ

ジャン「何とかして復讐してやりたかった。だが……」

リヴァイ「どこにも証拠がない。何より、ミカサは殺されたのではなく自殺だ」

リヴァイ「お前に殺されたに等しいとはいえな」ギロッ

エレン「それでこういう芝居を……」

リヴァイ「お前がミカサに殺意を抱いていたかどうか確かめるためには」

リヴァイ「ミカサの死の秘密を守るために、再び殺意を抱くかどうかを見るしかなかった」

リヴァイ「すべてはそのための芝居だったわけだ」

ジャン「いつばれないかヒヤヒヤしたぜ」

ジャン「ユミル、コニー、ライナー、ハンジさんはプロの役者だからともかく……」

ユミル「私の可愛いクリスタ! 怖くなかったか?」ガバッ

クリスタ「ユミル、悪役の芝居上手すぎだよ……」ウルウル

ライナー(結婚しよ)

コニー「ユミルの蹴り、痛そうだったな」

ジャン「あの女、マジで蹴ることはねえだろうが……」

エレン「……」ボーゼン

エレン「じゃ、じゃあ、あの警官は……」

リヴァイ「あいつらも役者だ」

ハンジ「ボス役をしたり、電話を掛けたり、飛び降りた社長を助けたのはあの二人だよ」

ライナー「アニの脚本もなかなかだったぞ」

アニ「……どうも」

エレン(これは……? 現実か? それとも悪夢か?)

エレン(分かるのは、俺がすべてを失ったということだけだ)

リヴァイ「俺はさっき、証拠がないと言った」

リヴァイ「今、お前にはひとつ疑問に思うことがあるんじゃねえか?」

リヴァイ「例のピルケースの中身だ」

リヴァイ「ミカサが薬を飲んでいないなら、睡眠薬がそのまま残っている」

リヴァイ「決定的な証拠とはいえんが、殺意の証明にはなるはずだ」

リヴァイ「俺たちはなぜそれを警察に提出しなかったのか?」

エレン(そういえばそうだ。あの薬はどうなったんだ?)

リヴァイ「違ったんだ」

エレン「えっ?」

リヴァイ「あのピルケースに入っていたのは正真正銘の鎮痛剤だった」

リヴァイ「ミカサはクリスタから貰ったほうをピルケースに入れ、睡眠薬のほうは捨てた」

リヴァイ「なぜそんなことをしたのか分かるか?」

エレン「……」フルフル

リヴァイ「……お前にはわからないだろうな」

リヴァイ「ミカサは、お前に殺人の容疑がかからないようにした」

リヴァイ「あれだけの仕打ちを受けてなお、お前を愛し、庇おうとした」

リヴァイ「お前が殺そうとしたミカサは、そういう娘だった」

エレン「うっ……」

エレン(俺は……俺は……)

リヴァイ「お前の殺意の証明はこれで終わりだ。同時に俺たちの復讐もな」

一同「……」ゾロゾロ

エレン「……」ポツーン

ジャン「悪いけどお前の部屋はないからな、エレン」ギロッ

リヴァイ「荷物は玄関にある。夜明けまでに姿を消せ」

リヴァイ「そして、二度と俺たちの目の前に現れるな」

バタン

エレン「……」

クリスタ「……」

クリスタ「……どうして」

クリスタ「ミカサを幸せにしてあげてって、約束したのに……」グスッ

エレン「……もう幕だろ? 役者も観客も、退場の時間だ……」フラフラ

クリスタ「エレン……」

エレン「……」スタスタ

クルッ

エレン「……誰もいねえ」

ギィィ……

エレン「……あれ? 仮面が……」

エレン「一つもない。……取り外されてる」

ユミル『みんな善人面をしているが、誰か一人は仮面を被っている』

エレン「……一人どころじゃねえ」

エレン「どいつも、こいつも……仮面を……」

エレン「……ははッ」

エレン「あッはははっははっははははははhhっはははっはっはははhっははははは!!!!!!!!!!!

おしまい

やっと終わった
クズエレンにして申し訳ない

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年10月21日 (日) 17:13:27   ID: aVN5h4AG

すごい!

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