櫻子「あかりちゃんが、泣いてた」 (48)

きっかけは、なんだったっけ。


入学して、初めて教室で姿を見た時?

初めて向こうから話しかけてきてくれた時?

初めて一緒に遊んだ時?


思い出せないのに、なんでこんなに好きなんだろう。


―――放課後の教室で、あかりは窓の外を眺めながら小さく息をついた。

ホームルームが終わり、クラスメイトたちはそれぞれの目的に散っていく。

今日は用事があるからと、ちなつにごらく部に顔を出せない旨を伝え、私も早々に帰るはずだった。

向日葵と共に帰路につき、こちらを見つけてバイバイ! と手を振る櫻子に出会わなければ、あのまま用事も何もない家に帰れたかもしれない。

……膨れ上がる気持ちを抑えられないと判断し、教室に戻って、こうして泣いてしまっている。

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あかり「櫻子ちゃん……」ぐすっ


初恋の相手に、櫻子を選んでしまった。


上手くいきっこない。だって、櫻子には向日葵がいるのだから。


こうして恋心を憶える前から、二人のことは充分わかっていた。向日葵は櫻子が大好きで、櫻子もまた、向日葵のことが大好き。

だからって、向日葵が憎いわけじゃない。最初から勝ち逃げされているようでずるいと思っているわけでもない。

向日葵のことは、私も大好きなのだ。

二人の関係を壊したくないという気持ちは確かに私の中にある。しかしその気持ちは、膨れ上がる櫻子への恋心に押されて、心のどこかへ消えてしまうのではないかと思っていた。

あかり(あかりは、櫻子ちゃんが好き……)

あかり(でもこの気持ちは……櫻子ちゃんにも、向日葵ちゃんにも、誰にも知られちゃだめなんだ……)


好きだという気持ちを伝えたら最後、もう三人がひとつになることはできなくなる。

気持ちを隠さなきゃ。押し殺さなきゃ。

なのに、隠そうと思えば思うほど、涙になって溢れていってしまうのだった。

目を閉じれば櫻子の笑顔が浮かんできて、優しく接してくれる姿が思い浮かんで、共に過ごした楽しい日々が頭を巡って、愛しいその声が今にも聞こえてきて……


「だーーれだっ♪」がばっ

あかり「っ!!!」


……聞こえてきたのは、本当にその人の声だった。唐突に後ろから視界を塞がれ、驚いて飛び上がる。


陽気なその声の主は、今一番会いたくない……いや、今一番会ってはいけないと思っていたその人であった。

あかり「さ、櫻子ちゃん……なんで……!///」

櫻子「いやー教室に忘れものしちゃってさ~…………あれ?」


櫻子は、あかりがいつもと違う様子であることにすぐに気づいた。

怪訝そうにこちらの顔を覗き込んでくる。目と目があってしまった。

今の私の赤く腫れた目は、きっと背後の薄い夕焼けよりも赤かっただろう。


櫻子「あかりちゃん……?」

あかり「ごっ、ごめん!!」だっ

櫻子「あっ、どうしたの!?」


私は、走って逃げ出した。

櫻子はすぐには動き出せなかったようだが、少し時間を置いて、私を走って追いかけてきた。

きっとその両手についた、涙を見てしまったからに違いない。



あかり「はっ―――はぁっ――――」たったったっ


自宅への帰路を一目散に走る。櫻子は足が速いから、足を止めたらきっとすぐに追いつかれてしまうだろう。

追いかけっこは得意ではないが、何が何でも逃げ切らなければならなかった。


「あら、赤座さん!」

あかり「あっ……!」


必死に走るあかりに少し驚いたような声で話しかけてきたのは、帰宅途中の向日葵だった。忘れものをした櫻子を待つために、道端で立ち止まっていたようだ。

顔を見られないように、前かがみで向日葵の前を通り過ぎる。


向日葵「そんなに慌ててどうしたんですの? あ、櫻子が教室に戻ったそうなんですけど、見ませんでした……?」

あかり「櫻子ちゃんなら、すぐに来るよっ……!」たたたっ

向日葵「あっ、ちょっと!?」


向日葵(……どうしたのかしら?)

そこからほんの1分も経たないうちに、曲がり角から櫻子が走って現れた。ひどく息を切らしている。


櫻子「向日葵! あかりちゃん来なかった!?」ぜぇぜぇ

向日葵「赤座さんなら、たった今向こうに走って行きましたけど……」


櫻子「何で止めないの!?」

向日葵「えっ」

櫻子「あかりちゃん泣いてたでしょ!!!」

向日葵「う、嘘っ!?///」



コンコン


あかね「あかり、お風呂は入ったの? もう寝る?」


「そうする……おやすみ、おねえちゃん」


あかね「ええ、おやすみ……」


あかね(まだ、8時にもなってない……)


―――妹の様子が、最近おかしい。


いつからか、あかりは以前より表情を出さなくなった。帰宅しても、何をするわけでもなく、やることをやって早めに寝てしまうことが多くなった。


あかね(あかり……)


あかねはひどく悩んでいる。あかりに元気がない。

何か嫌なことがあったのかと聞いても、あかりは「大丈夫」「気にしないで」といって、まともに答えてくれない。

悩みごとがあるのか、悲しいことがあるのか、嫌なことがあるのか、それすらも教えてもらえない。わかってあげられない。

しかし最近、ようやく手がかりを得た。

時折聞こえてくる悲しげな泣き声の中に、「櫻子ちゃん」という言葉が出てきたのを偶然聞いたのだ。


あかね(櫻子ちゃんは……確かあかりの友達の……)


泣いている原因がもしその櫻子だとすれば、なんとかしてあかりに内緒で、櫻子と話し合ってみたいと思い始めていた。


姉が首を突っ込むような問題じゃないのかもしれない。勝手に接触して、あかりが嫌な思いをするかもしれない。

しかし、感情を出さずに日々を過ごすあかりを見ているのが辛くて、あかねにも限界が来ていた。

悩みの相談もしてもらえない自分が情けなくて、動き出さずにはいられなかった。


あかね(連絡網の電話番号から……家がわかるかもしれないわね)



部屋の明かりを全て消した中で、あかりはベッドに小さく体育座りをしていた。


あかり(好きになる前に戻りたい……)

あかり(みんなとずっと一緒にいたいだけなのに……)


忘れなきゃ、忘れなきゃと思うほど、忘れられない思い出がたくさん蘇ってきて、また涙になってでてきてしまう。


あかり「うっ、うぅぅ…うぅ…………」ぽろぽろ


あかり(あかりは、明日からどうすれはいいの……?)


あかり(櫻子ちゃんに、なんて説明すればいいの?)


あかり(櫻子ちゃんの顔を見ても、泣かないでいられるの? 今まで通りのあかりでいられるの?)


あかり(そんなこと、できっこないよ……!)ぱたっ

小さく身を縮めて、あかりはベッドに横たわった。


サイレントマナーにしてある携帯電話は、今なお明るい光を灯しながら、静かに櫻子からの着信を訴えている。


あかり(やめて……やめてよ、櫻子ちゃん……)

あかり(あかりなんかに、構わないでよぉ…………!)


携帯の電源を切り、そのまま抱きしめるように縮こまって、あかりは泣きながら眠った。

心配してくれる櫻子が、電話をかけてきてくれる櫻子が大好きで、どうしようもなかった。


――――――
――――
――

櫻子(あかりちゃん……来るかな……)


翌日、櫻子は、あかりと会って話すためにいつもよりだいぶ早く学校に来た。

向日葵にはメールで、先に学校へ向かっている旨を伝えてある。


櫻子(突然すぎて、わからないことだらけだけど……)

櫻子(それでも聞きたいことが、たくさんあるよ……!)


あかりに電話をかけている間も、全然寝付けない昨日の晩も、櫻子はあかりに何を尋ねるかを考えていた。

あかりはいつも、皆より早めに登校する。

なのでホームルームが始まるまでに、できればこの問題を解決してしまいたいと思っていた。


そして期待通り、しおらしい二つのお団子頭が、廊下の向こうからやってきた。


あかり「あっ……!」びくっ

櫻子「あ、あかりちゃん!!」

あかり「っ……!」だっ

櫻子「ちょっ! 待って! どうして逃げるの!?」


あかり(櫻子ちゃん……やっぱり……!)たったっ

櫻子「待ってよ! あかりちゃん!!」


まだ生徒の少ない廊下を走り抜けていく二人。

しかし荷物を持っていないぶん、櫻子の方が早かった。



櫻子「待ってってば!!」ぎゅっ

あかり「きゃーーっ!!」


必死に走って、別校舎の廊下でやっと追いついた。

話しているところを誰にも見られたくないだろうと思い、近くの空き教室にあかりを連れ込む。


櫻子「はぁ、はぁ……大丈夫、この時間はここ、誰もこないから……」

あかり「…………」

あかりは息を整えながらも、俯いて顔を見せない。


手近にあった椅子にあかりを座らせ、冷え切ったその手を両手で包み、櫻子は優しく尋ねた。


櫻子「あかりちゃん……なんで昨日、泣いてたの? 何があったの?」

櫻子「どうして私から逃げるの……なんで電話に出てくれないの?」


あかり「…………めて……」ぼそっ

櫻子「えっ……」


あかり「……や、めて……櫻子ちゃん。なんにも、ないから……」にこっ


あかりはいつものように、にっこりと笑ってみせた。

しかしその目には、大粒の涙が溜まっている。

櫻子「うっ……嘘じゃん、泣いてるじゃん! 何にもないことないでしょ?」

あかり「なんにも、ないの……」

櫻子「なんにもなかったら、こんなに走って逃げないよ! 電話にも出てくれるでしょ!?」

あかり「…………」



櫻子「私の……せいなの?」

あかり「えっ……?」


櫻子「だってあかりちゃん、確実に私から逃げてるもん……! 私と目を合わせてくれないもん! ねえ何かした!? 何かしたなら謝るから……!」ぎゅっ

あかり「ち、違う……櫻子ちゃんは何も……!」

櫻子「違くないよ! あかりちゃん、なんで……!」


ぎゅっ

櫻子(!)

問い詰める櫻子を、あかりは強く抱きしめた。

握られていた手はそのままに、櫻子の胸に飛び込んで、泣き声を漏らした。


あかり「うっ……ぁっ…………あああぁぁあああぁ……」ぽろぽろ

櫻子「え……」


あかり「櫻子ちゃん、さくらこ、ちゃああん……!///」ぎゅーっ


櫻子(な、なに……?)



櫻子には何もわからない。

さっきまであんなに逃げていた人が、どうしてこんなにも強く自分を抱きしめるのか?

あかりが大泣きするところを見るのは初めてだった。

その涙を見ただけで、つられて櫻子も泣いてしまう。

どうしてあげればいいかわからない櫻子は、あかりの泣き声が止むまで一緒にいてあげることしかできなかった。


櫻子「大丈夫、あかりちゃん……私はずっとここにいるよ……!」ぽんぽん

あかり「んんっ、ぅぅぁぁ……」


ホームルームが始まる前のチャイムがなるまで、二人はずっと泣き合っていた。

あかりは少しだけ持ち直したようだが、そこでは結局、何も教えてはもらえなかった。



授業の合間ごとの休み時間も、櫻子はしつこくあかりの席にやってきた。

あかりの手を握り、瞳を見据え、時折質問しを繰り返した。その優しい声を必死に聞かないようにして、あかりはみんなの前で泣かないように頑張っていた。

向日葵はもちろん、ちなつもあかりが普通の状態ではないことにとっくに気づいているだろう。


昼休み、朝と同じ誰も来ない空き教室へあかりを誘った櫻子は、あかりを抱きしめながら優しく声をかけた。


櫻子「ほら、大丈夫だから。絶対誰にも言わないから……私に相談して?」

あかり「……櫻子ちゃん、もう……いいよ……」

櫻子「な、なに?」


あかり「もういい、あかりのことはもういいから……」



あかり「向日葵ちゃんのところに、行ってあげて……」


櫻子(えっ……)



櫻子「ちょっと……それ、どういうこと? なんで向日葵の名前が……向日葵が関係あるの?」

あかり「いいから早く、向日葵ちゃんのところに行ってよぉ……」

櫻子「い、行かないよ! 私はあかりちゃんが心配だからこうしてここにいるんだよ?」

あかり「もうやめて……! なんで、なんであかりなんかのことを構うの?」

櫻子「だから言ってるじゃん! あかりちゃんのことが心配だからだよ! あかりちゃんのことが大事だからだよ!」

あかり「…………」


櫻子「なんで、何にも教えてくれないの? 私はどうすればいいの?」


櫻子「言ってくれなきゃ、私わかんないよ……!!」ぎゅっ


あかり「だから、言ってるでしょ……」



あかり「あかりに構わないで……どこかへ行って欲しいの……」


櫻子(っ……)



櫻子「…………私がどこかにいけば、あかりちゃんは泣き止むの?」

あかり「…………」

櫻子「…………わかった。私、あかりちゃんのことしばらく見ないようにするから」


櫻子「その代わり、あかりちゃんが直ったら、絶対私のところに来てね……!」


櫻子は一歩離れ、くるりと振り返り、あかりにとびっきりの笑顔を贈った。


あかり「んうぅ……うっうっ……」


あかりはまた弱々しく、櫻子の背中を抱いて泣いた。どこかへ行って欲しいという思いとうらはらに、その腕の力は強かった。

櫻子はそこから何も言わずに、少しの間あかりを強く抱きしめ返すと、教室へ戻っていった。


あかり(これで……いいの……)


遠ざかる櫻子の足音を、耳を塞いでシャットアウトし、あかりはそのままチャイムがなるまで、広い空き教室に縮こまっていた。

その教室の外に、立ち聞きしていた向日葵がいたことは、あかりは気づかなかった。



あかり(早く帰ろう……ごらく部には、しばらく行けないや……)


放課後、櫻子と顔を合わせるのが怖いあかりは、人の少ない出口から学校を出ようと、普段あまり使われない校門の方に来ていた。


しかし、


「赤座さん」

あかり「!」


向日葵「赤座さん……お話がありますわ」すっ

あかり「向日葵、ちゃん……」


いつの間にか先回りしていた向日葵に捕まり、あかりは誰もこない校舎の陰に連れて来られた。

あかり「…………」

向日葵「…………」


向日葵はあかりの目をじっと見ている。しばらくの無言の後、向日葵はゆっくりと喋り始めた。


向日葵「赤座さんは……私とは目を合わせてくれるんですのね」

あかり「えっ……」


向日葵「櫻子が言っていましたわ。今日はまだ一回も、赤座さんと目を合わせてもらえてないって」

あかり「…………」


向日葵「一体何があったか……教えてもらえませんか? 櫻子に相談できないなら、私が……」


あかり「いいよ……向日葵ちゃん。なんともないから……」


あかり「早く、櫻子ちゃんのところに行ってあげて?」

向日葵「…………」

向日葵「……なんで、櫻子のところに行かなきゃいけませんの? 私は赤座さんと話すために、櫻子を先に帰らせて、こうしてここにいるのに」


あかり「そんなことしなくていいよ……」


あかり「二人は、あかりのことなんか気にかけちゃだめだよ……」


向日葵(二人は……?)


あかりは俯いたまま、声を絞り出した。

3mほどあった二人の距離を一歩詰めて、向日葵は少し尖った口調で言った。


向日葵「昼休みの赤座さんと櫻子の話を少し聞かせてもらいましたけど……そのときも赤座さんは、櫻子を遠ざけていましたわね」

あかり「っ……!」

向日葵「櫻子も、わたくしも遠ざけようとして……私にだけは、しっかりと目を合わせて……」



向日葵「赤座さん……もしかして、櫻子のことが好きなんですの?」

あかり「!!!!」

絶対に言われたくないことを言われ、あかりは目を見開いて大きな反応を示してしまった。

純粋なあかりは、図星を突かれても演技でごまかせる器用さなど持ち合わせていなかった。


あかり「あ……あ……」ふるふる


向日葵「櫻子に……告白したんですの? 気持ちは伝えたんですの?」


背の大きな向日葵が、俯くあかりの顔を覗き込むようにして、優しく聞いた。

なぜそんなことを聞いてくるのか、あかりにはわからない。

向日葵の優しげな瞳と目が合い、あかりは何故か泣き出してしまった。

あかり「い、いいんだよ……向日葵ちゃんっ……!」


あかり「もう、このきもちは、いいのっ!」


向日葵「いいって……まだ何も……!」



あかり「だって、向日葵ちゃんには、絶対に勝てないもんっ!!!」

向日葵「…………!!!」



握られていた手を強く握り返し、あかりは大きな声で叫んだ。

一瞬の静寂の後、向日葵は少し怒ったように質問を続けた。


向日葵「ちょっと……それ、どういう意味ですの!? 私に勝てないって……!」

あかり「そのままの意味だよ! あかりなんかじゃ、向日葵ちゃんには到底敵わない!」


あかり「向日葵ちゃんは、櫻子ちゃんが大好きで、今までもずっと、ずーーっと一緒で……!!」


あかり「櫻子ちゃんだってきっと……向日葵ちゃんが大好きなんだよ……!!!」


あかり「うふっ、う、ああぁぁん…………」ぽろぽろ

向日葵「っ…………」


かねてから溜まっていた想いを全部ぶつけるかのように、あかりは強く向日葵の目を見据えて叫んだ。そして崩れ落ちるように泣き、倒れかかるようにして向日葵の胸へ顔をうずめた。

しかし、向日葵はそんなあかりの両肩を掴んで、しゃんと立たせて言い放った。


向日葵「言えばいいじゃない……伝えればいいじゃないっ!!」

あかり「ぇ……」


向日葵「櫻子のことが好きなんだったら、好きだって言えばいいじゃない!! だってこんなに泣いてしまうほど好きなんでしょう!?」

向日葵「好きな人に好きって言うのが、どうしていけないんですの!?」


あかりは初めて、声を荒げる向日葵を見た。今にも掴みかかりそうな勢いで、怒ったような目であかりに言葉をぶつける。

向日葵「私のせいで気持ちを伝えられないなんて、言わないでくださいな!」

あかり「あっ、あかりの気持ちなんて、向日葵ちゃんにはわからないよぉ!!」

向日葵「赤座さん!!///」ドンッ

あかり「きゃあっ!!」


向日葵はあかりの片手を掴み、そのまま校舎の壁と挟むようにしてあかりを両の腕で逃げられないようにした。


いつの間にか、向日葵も泣いていた。

向日葵「どうして櫻子が、今日赤座さんのことをずっと追いかけていたか、わからないんですの!?」


向日葵「櫻子だって、赤座さんのことが好きですわ!!」


あかり「でも櫻子ちゃんは、向日葵ちゃんの方が好きだもん!!」


向日葵「だからって気持ちを伝えないで、そうやって泣いて、逃げるのが良いことなんですの!?」


向日葵「そうやって泣いて、櫻子の気を引こうなんて……そんなの卑怯ですわよ!!!///」ぽろぽろ


あかり「そっ、そんなつもりじゃ、ないもん……!!」

あかり「あかりが、気持ちを、伝えたら……」


あかり「あかりが、好きだって言っちゃったら……」


あかり「もう櫻子ちゃんとも向日葵ちゃんとも、一緒にいられなくなっちゃうんだもん!!!」


向日葵「!!!」



あかり「あかり、そんなの嫌だ……いやなんだよおぉぉ!!」


あかり「うわあああぁぁぁん……あああぁぁぁ…………」ぺたん



赤子のようにへたりこんで、あかりは大きな声で泣いた。

こんなことを言ってしまったら、もう向日葵とも今までのように一緒にいることはできないだろう。

向日葵はもうそこからは何も言わず、泣きながら、あかりを抱きしめていた。



二人が泣き疲れる頃には、もうあたりは真っ暗になっていた。


向日葵がかける言葉に迷っていると、あかりはその胸にもう一度顔をうずめ、走ってどこかへ行ってしまった。


家に帰りながら携帯を開くと、櫻子からのメールが来ている。


「あかりちゃんとはどうなったの?」

「帰りが遅いけど、大丈夫?」


向日葵はとりあえず、あったことをすべて伝えるために櫻子の家に行くことにした。



コンコン

向日葵「櫻子」ガチャ

櫻子「あっ……どうだった!?」


向日葵「…………」


櫻子「向日葵……泣いてるの……?」


櫻子はまだ制服から着替えずに、向日葵の帰りを待っていたようだった。

櫻子の横に座り、ゆっくりと話す。


向日葵「赤座さんが泣いていた意味が、わかりましたわ……」

櫻子「えっ!!」


向日葵「櫻子、よく聞いて。赤座さんは……」


向日葵「赤座さんは、あなたのことが好きだから泣いていたんですのよ」


櫻子「それは……どういうこと? 私が好きって……」

向日葵「…………こんなことを言うのは恥ずかしいですけど、赤座さんは私に気を遣ってくれていたんですわ……」

櫻子「向日葵に……?」


向日葵「赤座さんは櫻子のことが大好きなのに、私に櫻子を譲ってくれてたんですのよ!!」


櫻子「え……」


向日葵「あなたにはわからないでしょう! 私も櫻子のことが好きなんですの! でも赤座さんは、櫻子との付き合いが長い私には勝てないからって、あなたを諦めようとしていたんですのよ!!」

向日葵「それでもあなたのことが好きだから、赤座さんはあなたを諦められないんですわ! あなたの顔を見る度に、赤座さんはどんどん苦しくなっていくんですの!」

向日葵「そうして泣いている現場をあなたに見られてしまって、逃げることしかできなくなってしまったんですわ! あなたに心配されているときも、必死にあなたを忘れようとして、だから “どこかへ行って欲しい” と言っていた……!!」

櫻子は目を丸くして、泣きながら全てを伝える向日葵を見ていた。


急にこんなことを言われて、ただただ混乱するばかりだろう。いきなり舞い込んでくる事実と、それに対する対処もわからず、向日葵の手を握って聞くことしかできなかった。

向日葵は焦るように続ける。


向日葵「赤座さんは……溜まっていくあなたへの気持ちを、自分の中で全部押し殺そうとしているんですわ……!」

櫻子「それは、どういうこと……?」

向日葵「あなたへの想いを溜め込み続けて、このままでは、赤座さんの心は壊れてしまうんですのよ!!」

櫻子「!!!」


櫻子「じゃ、じゃあ私はどうすれば……っ!」



ピンポーン

櫻子「あっ……」

向日葵(だ、誰……?)

突然チャイムが鳴った。

櫻子はすぐに玄関へ向かう。向日葵も泣き顔を整えて、玄関へ駆けて行った。



「夜分遅くに、どうもごめんなさい」

櫻子「あっ、あかりちゃんのお姉さん……!」

向日葵「!!」


息を切らしてやってきたのは、あかねだった。

その顔は今にも泣きそうで、今日ずっと泣いていたあかりと、とてもよく似ていた。


あかね「櫻子ちゃん、お願いっ! 今すぐ私の家に来て欲しいの!!」ぐっ

櫻子「えっ!?」


あかね「あかりが、帰ってきてからずっと……あなたの名前を呼び続けながら、泣いているのよ……! あかりを助けてあげられるのは、あなたしかいないんだわ!!」

櫻子・向日葵「!!!」

櫻子の肩を掴んで、あかねは強く言った。何事かと様子を見に来た撫子も花子も、泣きながら訴えるあかねに圧倒されていた。


向日葵「櫻子、赤座さんが……!」


櫻子「っ……!!」だっ

向日葵「あっ、櫻子!!」


櫻子は暗闇の中に飛び出していった。向日葵は撫子に行き先を告げると、あかねと共に急いで赤座家へ向かった。


早くしなければ、

気持ちを解き放ってあげなければ、

あかりの心が壊れてしまう……


櫻子は日の落ち切った暗い道を、全力で駆け抜けた。



櫻子「あかりちゃん!!」バン

あかり「あっ……!!」


部屋のドアを開け放ち、櫻子は縮こまっているあかりを抱きしめた。



櫻子「あかりちゃん、だめだよ!! 気持ちを閉じ込めちゃだめ!!」

あかり「さ、櫻子ちゃ……!」


櫻子「外に出さずに溜め込み続けたら、あかりちゃんの心が壊れちゃうんだよ……!」

あかり「だって、だってえぇぇぇ……」ぽろぽろ


後から追いついた向日葵も、あかりの背中を支えるように抱きしめた。忘れよう忘れようと思っていた2人に抱きしめられて、あかりはまた泣き出してしまった。

子供のように泣き続けるあかりに、櫻子は背中をぽんぽんと叩きながら、言って聞かせた。


櫻子「……良いんだよ。言って良いんだよ!」

あかり「いやっ、いやああぁっ!」ぶんぶん

櫻子「自分の気持ちを閉じ込めないで、あかりちゃん!!」

向日葵「赤座さん!!」


櫻子「あかりちゃんが好きだから!! だから私来たんだよ!!」


櫻子「向日葵だってそう! あかりちゃんのことが好きだから来てくれたの!」


櫻子「あかりちゃんだってそうでしょ! 私のことも、向日葵のことも好きなんでしょ! なのに、なのになんで言ってくれないの!?」


あかり「…………!!」

櫻子「好きなものは、好きでいいんだよ……!」


櫻子「好きになっちゃいけないなんて、そんなの誰にも、ないんだよぉー!!///」ぽろぽろ


向日葵「ううっ……んぅぅ……!」



三人は泣きあった。身を寄せ合い、声を上げて泣いた。

あかりは二人の抱擁に身をゆだね、溜まっていたものが全て流れ落ちるようにわんわんと泣いた。


あかねも妹の部屋の前で、静かに涙を流していた。


あかりの心が壊れる前に、二人が気持ちを解き放ってくれた。



櫻子ちゃんは、誰にでも優しくて。


困っているときには、必ず助けてくれて。


泣いている人を、放っておくことができなくて。


一緒にいるだけで、すごく楽しくて。


世界一の女の子だと思った。


向日葵ちゃんは、同級生とは思えないくらい大人っぽくて。


お勉強もお料理も、なんでも上手にこなして。


優しい言葉をかけられただけで、心があたたかくなって。


あかりの、一番の理想の人。

そんな二人は、いつも意地を張り合っているけど


仲が良いからなんだって、すごい羨ましくて。


この人たちと友達になれて、本当に幸せだと思った。


忘れられるわけ、ないんだよね。


あかりが初めて、好きになった人なんだもん。


嫌なこと、いっぱい言っちゃってごめんなさい。


本当はずっと隣にいて欲しいのに、どこかへ行ってなんて言ってごめんなさい。


こんなひどいことをしたのに、二人はあかりのためにずっと動いていてくれたね。

すき。


櫻子ちゃんが、好き。


向日葵ちゃんも、好き。


あかりは、世界一の幸せ者だよ。


世界一の女の子と、一番の憧れの人から、


好きって言ってもらえたんだもん。


最後にもういくつか、あかりのわがままを聞いてください。


このままずっと、二人のことを好きでいさせてください。


このままずっと、二人の側に居させてください。


櫻子「そんなの、当たり前じゃんか……///」


向日葵「赤座さん……もうどこにも行かないでくださいね……!///」


――――――
――――
――

あかり「みんな、おはよ~♪」

櫻子「あ、あかりちゃん来た!」

向日葵「おはようございます、赤座さん」

ちなつ「おはよーあかりちゃんっ」


―――それからの日々、櫻子と向日葵は、あかりに積極的に接するようになった。

櫻子はあかりをリードするようになり、向日葵はあかりを支えるようになった。



あかり(好きなものは、好きでいいんだ)


あかり(好きなものには、好きって言った方がいいんだ)


あかり(だって好きっていうだけで、二人ともっと仲良くなれたんだもの!)

櫻子「あかりちゃん早くぅー!」

あかり「うん! ほら向日葵ちゃん、行こっ?」

向日葵「ええ。あ、でもまだ吉川さんが……」


ちなつ「ちょっと三人とも待って~!? 私のいない所で何かあったでしょ~!!///」ぱたぱた

櫻子「あはははははは!!」



あかりはもう、 “好き” を隠さない。

あかりはもう、自分の気持ちに嘘はつかない。



櫻子ちゃん、向日葵ちゃん、ありがとう。

あかりはこれからもずっとずっと、二人のことが大好きだよ。



~fin~

ありがとうございました。

                     /                    / \
                   '          |          |  _ / /ヽ\
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                    / /     :| |`ヽ、.| |__  |  || __| メ-' ∨   /
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              |:::ノ  / ./ / | ヾc:二ソ      ゝ─'c '::::|:. \_

              l´ ̄ ̄ .ノ / ::: | ||    ///,///   || |: |::::.   、`ヽ
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         ヽミ彡ノr '´ .:::/ 4  マ:. l:...||   /`′ ̄ `ヽ   ||'::|:} ∧  /    ィ     イイハナシダー!
             ぃ  ::::人ヾ   ヽ:|≦(、  乂 ___ ノ  /"::〃  } ゝ‐ 彡'
                ぃ ∨:::::::> 、  `ヾ、`  、       イ//≧イ  ノ ト、 ヽ
           \___`) ヽイ////ヽ、   )   `  7 |//_ァ 、イ ,ィス:: / マ'
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