爺「鶴が罠にかかっている、助けてあげよう」男「ふざけんな!」(15)

男「勝手に他人の獲物逃がそうとしてんじゃねぇよ!」

爺「もともと鶴用の罠じゃないでしょうが」

男「うるせえ!鶴の羽は高く売れるらしいし、肉も食べれないことはないだろ。とにかくこいつは俺が持って帰る!」

爺「でも可哀想ですし……」

男「あんただっては普段は兎なり雉なり殺して食ってるだろうが!ごちゃごちゃ言うならぶっ飛ばすぞ!」

爺「ひっ……!お助け!」タタッ

男「ったく……どうしようもないボケ老人だ」

鶴「……」ジッ

男「……何だよ。仕方ねえだろ、俺だって食わなきゃ死んじまうんだ」

鶴「……」ジッ

男「そんなに見るじゃねえよ。助けないからな」

鶴「……」ジッ

男「少しは鳥らしく暴れたりしたらどうだ?」

鶴「……」ジッ

男「……ッチ。分かった!分かった!逃がせばいいんだろ、逃がせば」ガチャガチャ

鶴「……」バサッ バサッ

男「二度と捕まるんじゃねえぞ!バカ鳥!」

その夜

コンコンッ

男「……誰だ」

娘「旅の者ですがこの吹雪で参ってしまいまして……一晩泊めていただけないでしょうか?」

ガラッ

男「……早く入りな、暖かい空気が逃げちまう」

娘「すみません」

男「待ってろ、今お茶いれてやるからな」

娘「ありがとうございます」

男「あんた、こんな夜遅くにこんな所で何してたんだ?」コポポ

娘「両親が他界してしまい、親戚の家に厄介になることになりまして……」

男「そうか、そいつは悪いことを聞いたな。その親戚ってのはどこの人だい?」

娘「あの山の向こうに住んでいます」

男「ん?もしかしたらあんた、履き物屋のおやっさんの姪っ子か?」

娘「え?」

男「そういえば、近い内に来るって話してたな。そうだろ?」

娘「え……ええ、叔父をご存じなんですね」

男「ああ、そうと分かればどうぞ寛いでくれよ、おやっさんには色々世話になってるからな」スッ

娘「ありがとうございます」ゴクッ

娘「……?このお茶なんだが味が……」クラッ

娘「」バタッ

翌朝

娘「……ぅう」

男「お、お目覚めか」

娘「私どうして……あれ?」ギチギチ

男「縛らせてもらったぞ。用心しといて正解だったな」

娘「な、何をするんですか!?」

男「山の向こうには履き物屋なんてないんだぜ?」

娘「!?」

男「何者だか知らねえが……初対面で嘘吐いてくるような奴に録なのはいねえ。このまま村長の所までついてきてもらうぞ」

娘「ま、待ってください!私は昨日、あなたに逃がしてもらった鶴です!」

男「ほう?化けて出たってか?」

娘「あなたに恩返しがしたくて……」

男「ふーん……で、だから?」

娘「だから私を解放してください!恩返ししますから!」

男「そいつはできないな、第一あんたが鶴って証拠が無いんだから、鶴になってくれたら解放するよ」

娘「それは無理です、鶴の姿を見せると私はここにいられなくなってしまいます」

男「じゃあ、解放してやれねえな」

娘「それなら、せめて動けるくらいにしてください。腕の縄はほどかなくていいので」

男「仕方ねえな」シュルシュル

娘「ありがとうございます。早速恩返しとして家事でもやらせて下さい」

『こうして、男と娘の奇妙な同姓生活は始まった。』

『最初は怪しんでいた男も娘が逃げ出す素振りを一向に見せないので次第に信用し始めたそうな。』

『いつしか二人は夫婦となり幸せな家庭を築いたという。しかし腕の縄は相変わらずそのままだった。』

『男の罠に二度も嵌まった鶴はそのまま人として生涯を男の側で暮らしましたとさ。めでたしめでたし。』

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