志希「出来たよ! 理性を吹っ飛ばすクスリ!」 (20)

みく「その結果がアレにゃ」

P「プアアアアアアアアアア!!! ペンポロペンポロ!!!」ガンガン

晶葉「どうするんだ」

志希「出入り口側にバリケード作ったから窓から飛び出さない限りは
   外には被害でないよー!」

みく「室内がめちゃくちゃにゃ。あーあー、テレビがバラバラに……」

晶葉「解毒薬はないのか?」

志希「あるけどロッカーの中だから……」

みく「あの生き物の近くを通らないといけないってことにゃ」

P「ハァン!! ハァン!! ハァン!! ハァン!! ハァン!! ハァン!! ハァン!!」パンパン

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みく「そもそもなんでPチャン全裸で、その……興奮しているにゃ」

晶葉「生物の基本は食う寝る増えるだ。先ほどまで菓子を食って腹が膨れたようだし
   眠くもないから増えるためにあんな状態なんだろう」

志希「つまりぼっ」

みく「ストップ。志希チャンストップ。それ以上はいけない」

志希「理性吹っ飛ばしたら本能だけになりましたってことだねぇ」

みく「しみじみ言ってないでどうにかするにゃ」

晶葉「私はこんなのしかないぞ」ヒョイ

みく「スプレーにゃ」

晶葉「うむ。自衛用に作ったものだ」プシュー

みく「くっさ! うわくっさ! なんじゃこりゃくっさ!! くさすぎでしょ!!
   鼻ひん曲がるわ! くっさ! くっさ! つーかなんで吹きかけたの! くっさ!」

志希「」オロロロロ

みく「ああ、もうめちゃくちゃだよ」

晶葉「とはいっても一時的に怯ませる程度だしうまく当てないと効果も薄い」

志希「ゲホッゲホッ。で、でもあたし麻酔薬持ってるから……」

みく「なんでそんなの持ってるにゃ。でもでかしたにゃ!
   あれはもう人間じゃないから麻酔薬を……どうするにゃ」

志希「大丈夫だよ♪ ちゃんと使いやすいように吹き矢にしたからー」ヒョイ

みく「なぜ吹き矢にしたにゃ」

志希「乃々ちゃんから借りた少女漫画に吹き矢の作り方が書いてあったから作ってみたよー」

みく「吹き矢の作り方が載っている少女漫画……?」

志希「これでよーく狙って……」

晶葉「……」ゴクリ

みく(あ、先が読めた)

志希「フッ!」ポトリ

みく「やる気あるの!?」

志希「……テヘペロッ♪」

みく「テヘペロじゃないでしょ! もー!!」

晶葉「万策尽きたな」

みく「そういえば他のアイドルはどうしたにゃ」

晶葉「ああ、近くのファミレスに避難してるぞ」

みく「というか警察呼べばいいにゃ!」

晶葉「待つんだ! みく!」

志希「警察を呼んだら……あの人捕まるよ?」

晶葉「捕まったらもうアイドル出来ないんだぞ」

みく「現状もうアイドル出来ないにゃ。じゃあちひろさんは!」

晶葉「今日は社外に出てて帰宅は六時だそうだ」

みく「つまり最低でもあと二時間耐えれば大丈夫というわけにゃ……」

晶葉「二時間……持つだろうか」

志希「大丈夫♪ クスリは持つから!」

みく「こんなクスリなんで作ったにゃ!」

志希「某リボンの人に依頼されてー作ってー試してーこうなった!」

みく「む? それならリボンの人はいずこに?」

晶葉「助手が暴走したときに真っ先に突撃して、真っ先に服を破られて
   速攻でトイレに避難してそのまま」

みく「なんてひどい……」

P「キョウキョウキョウキョウキョウ……」ピタ

晶葉「む、動きが止まったぞ」

志希「次なる段階へとステップアップ?」

みく「え、なにそれこわい」

P「プロロロロロロロ」ギョロ

晶葉「こっち見てないか?」

志希「気付かれたー!」

みく「今更すぎるにゃ。知能まで低下してるにゃ」

P「ペヨ、ペヨ、ペヨ」ヒタヒタ

志希「近づいてくるよ!」

晶葉「く、こうなったら私がスプレーで……!」

みく「いや、みくが行くにゃ!」

晶葉「なんだと、どうして!」

みく「スプレーを寄越すにゃ!
   部屋に引きこもって開発してる人の身体能力と元凶なんて信用できないにゃ!
   二人は逃げるにゃ!」バッ

晶葉「みく……!」

志希「麻酔薬拾って来てくれた援護するよ! 頑張って!」


P「グエェ」

みく「左手にスプレーを持って……麻酔薬はPチャンの足元……」チラ

P「……」キョロキョロ

みく「チャンスは一度っきり……」ゴクリ

P「……クエ」スゥ

みく「今にゃ!」ダッ

P「キョエ!!」バシッ

みく「なっ、麻酔薬を蹴ったにゃ! まさか視線の動きでこちらの行動を!」

P「キョエエエエ!!」バッ

この時。みくは考えた。
左手のスプレーを吹きかけ、麻酔薬を取りに行ったとして
果たして一ノ瀬志希の援護は期待出来るのだろうか、と。
答えは否。先ほどの失敗が全てを現している。
ならばここでどうすべきなのか。
スプレーを吹きかけて、撤退。部屋に閉じ込めて救援を待つ。
あるいは全てを諦めて警察を呼ぶ。
これが正しいのだ。みくはそう理解していた。
だが彼女のもう一つの本性がそれを阻害した。
みくのもう一つの本性。それはつまり。

「ネコパンチ☆」

動くものに対する反射的行動。誰も猫アイドルである彼女を攻めることはできない。
だが同時にそのネコパンチは今まで冗談で放っていたそれとは全く違う物になっていた。
普段「やったなーこいつー」ぐらいで済むのは彼女が意識的に力をセーブして放っているからだ。
今回の場合、彼女は身の危険を感じた上に反射的に行動を起こした。
そこに力を抑える要因はなく、普段家でさりげなく「ネコパンチ☆」という名のジャブ練習を
していた彼女のパンチはおそらく生涯で一度だけであろう全てのアイドルの一撃を凌駕する
物となった。
即ち成人男性であろうと顔面に食らえばタダではすまない必殺の一撃。

だがこれを。

「ヒョォ!」

避けた。
普段なら反応出来ないであろうスピードの攻撃は獣と化したプロデューサーには避けられる
ものになってしまったのだ。一撃を屈んで避けた獣はそのままみくに体当たりをした。
格闘技の素人であるみくに当然避けれるはずもなく、腹部に強烈なタックルを食らい
倒れ込む。肺の空気が抜けて、苦しげな悲鳴を短く上げるが獣は容赦しない。
馬乗り状態になった獣は彼女の豊満なバストに目をつけた。
彼女のワイシャツを乱暴に破き、可愛らしい下着が露出する。
悲鳴が響き渡り、隠れていた二人も思わず飛び出したそのとき。
一人の影が修羅場と化した事務所に入ってきた。
そのときの様子を池袋晶葉はこう語る。

「馬乗りになった時、私は近くに武器となるものを探していた。
 だがアレが服を破いた瞬間、志希と我が身を省みず飛び出した。
 正直自分を恥じたよ。彼女が勇気を出して前に出ているのになぜ自分は
 こんなところで隠れているのかと。きっと志希も同じ気持ちだったはずだ。
 勝算なんてない。少しでも彼女の被害を救えればいい。無謀とも言える行動だった。
 だから事務所のドアが開く音なんて聞こえなかった。あの人が飛び出した私達の
 横をすり抜けて、一閃が放たれて、獣が悲鳴を上げるまで誰が来たのかすら
 わからなかったんだ」

大きな悲鳴を上げながら、みくから離れていく獣。
そこに立っていたのは――。

「ざ、財前さん?」
「引きなさい。みく。志希、晶葉。みくを避難させなさい。安全なところにね」

財前時子。氷のごとく冷たい眼差しが今は怒りに満ちている。
手に持った鞭は既に一回分の仕事を終えて、彼女の手元で次の攻撃を待つ。

「危ないにゃ! アレはもう……Pチャンじゃないにゃ!」
「アァン? 当たり前でしょ。てめぇのアイドルに手を出す奴なんざ
 プロデューサーの資格はないわ。事情はどうあれお仕置きはするわ」

部屋の隅でこちらを睨む獣の上半身には左わき腹が右肩にかけて赤い腫れが
出ている。彼女の鞭は決してそういった場所で使うような代物ではない、あくまで
おもちゃなのだがそれでも本気で振るえばこの程度の威力は出る。
志希が白衣をみくに着させて、晶葉と一緒に肩を支えて安全な場所へ運ぶ。
それを見ていた獣は獲物を盗られたと思い、隅から再び彼女たちのほうへと寄って来た。

「帰ってきたら豚が猿になっているなんて思わなかったわ。安心しなさい。
 所詮獣の類なんざどれも扱いは同じよ。泣いて許しを乞うなら考えなくないけど」

獣は叫び声を上げて、跳ねている。威嚇のつもりだろうか。獣に目覚めてから彼の行動を
遮るものは今までいなかった。受けた痛みと本能的な恐怖心は彼女を自らの上を行く初めての
敵である事を示していた。しかし獣は僅かながらに残っていた知性でその言葉を理解してしまった。

「最近二本足で歩くようになった獣に言っても仕方ないわね」

侮蔑の言葉に激昂し、時子に襲いかかる。それを読んでいた時子が鞭を横に振るう。
時子は知らなかった。獣の反射神経と運動神経が上がっていることを。さきほどみくが
どのようにやられたかを。だから彼女は獣の頭を狙って、横に振るってしまったのだ。
鋭い空を切る音。時子の表情が僅かに驚きの色を見せ、獣の顔が歪んだ笑みを見せる。
再び低い体勢に入った獣。見ていた三人はこの後起きるであろう惨事が頭を過ぎる。
体当たりをされて、地面に倒されて、馬乗りにされて、そして。
晶葉は飛び出そうとした。これ以上の惨劇を繰り返さないために。
だが彼女たちの予測は裏切られることになった。

「ガァッ!」

低い体勢から繰り出された体当たりに対して時子は膝を上げたのだ。
顔面から直撃して鼻を押さえながら仰け反る獣。笑みを浮かべる時子。
もしも彼女がアイドルをやらず、普通の人生を送っていたらおそらくはここまで膝は
上がらなかっただろう。突撃されても体勢を崩さなかったことも含めダンスレッスンの賜物である。
体勢の崩れた獣にすかさず鞭の一撃が飛ぶ。事務所に肉が叩かれる音と悲鳴が響く。
獣が睨み付けるように時子を見る。痛みによる怒りが目に宿っている。
だが。

「反抗的な目ね。その目……いつまで持つかしら?」

他の者から見ればそれは既に勝敗が決していた。
数分間に渡る鞭打ちにより、獣は頭を抱え床で丸くなって震えるようになった。
時子は唾でも吐き変えようかと口の中で練ったが、さすがにやりすぎかと思い飲みこんだ。

その後、事の顛末を聞いた時子はまゆを叱り、志希にお仕置きをした。
結果、志希は蕩けた表情と口調で「時子おねぇしゃまぁ~」と言いながら時子の足に縋りつく
ようになった。
まゆとみくは最初はショックが大きかったが、すぐに落ち着きを取り戻し
立派なアイドルとして輝くステージに戻った。
晶葉はこれをきっかけにひ弱な女の子でも確実に身を守れる防犯グッズの開発に着手した。
プロデューサーはちひろによって作り直された。
今はみな平和で楽しくアイドルをしている。

以上

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